(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-09-07
(54)【発明の名称】炭素含有供給ガスから炭素を分離するための改良二相膜および該膜を使用した分離方法
(51)【国際特許分類】
B01D 69/00 20060101AFI20230831BHJP
B01D 53/22 20060101ALI20230831BHJP
B01D 61/38 20060101ALI20230831BHJP
B01D 71/02 20060101ALI20230831BHJP
【FI】
B01D69/00 500
B01D53/22
B01D61/38
B01D71/02 500
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023512199
(86)(22)【出願日】2021-08-20
(85)【翻訳文提出日】2023-03-17
(86)【国際出願番号】 US2021046842
(87)【国際公開番号】W WO2022040500
(87)【国際公開日】2022-02-24
(32)【優先日】2020-08-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】507194497
【氏名又は名称】ルナ イノベーションズ インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】LUNA INNOVATIONS INC.
【住所又は居所原語表記】301 1st Street SW,Suite 200,Roanoke,Virginia 24011,U.S.A
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(72)【発明者】
【氏名】メリル、マシュー
(72)【発明者】
【氏名】ケリー、ジェシー
【テーマコード(参考)】
4D006
【Fターム(参考)】
4D006GA41
4D006KA16
4D006KA33
4D006KD30
4D006KE16R
4D006MC87
4D006PA01
4D006PB19
4D006PB64
(57)【要約】
二相膜は、連結細孔のマトリックスを有する固相を備える多孔質支持体と、多孔質支持体の細孔内の液化可能なイオン輸送相とを含む。イオン輸送相は、少なくとも1種のアルカリ金属水酸化物と、ホウ酸イオン、硝酸イオン、リン酸イオン、バナジン酸イオン、ニオブ酸イオン、または硫酸イオンからなる群から選択されるイオン源をもたらす少なくとも1種の酸化物イオン輸送剤とで形成されている。少なくとも1種のアルカリ金属水酸化物は、NaOH、KOH、LiOH、RbOH、CsOHおよびそれらの混合物からなる群から選択されてもよい。酸化物イオン輸送剤は、好ましくは、約1~約30モル%の量でイオン輸送相に存在する。膜が供給ガスからCO2を分離するために使用される場合、実質的に低い操作温度を実現することができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
二相分離膜であって、
連結細孔のマトリックスを有する固相を備える多孔質支持体と、
前記多孔質支持体の前記細孔内の液化可能なイオン輸送相とを含み、前記イオン輸送相が、
(i)少なくとも1種のアルカリ金属水酸化物と、
(ii)ホウ酸塩、硝酸塩、リン酸塩、バナジン酸塩、ニオブ酸塩、および硫酸塩からなる群から選択されるイオン源をもたらす少なくとも1種の酸化物イオン輸送剤とを含む、二相分離膜。
【請求項2】
前記少なくとも1種の酸化物イオン輸送剤が、メタ、オルト、ピロまたはポリ状態の化合物である、請求項1に記載の二相膜。
【請求項3】
前記少なくとも1種の酸化物イオン輸送剤が、ホウ酸塩、硝酸塩、リン酸塩、バナジン酸塩、ニオブ酸塩または硫酸塩であるアルカリまたはアルカリ土類金属塩である、請求項1に記載の二相膜。
【請求項4】
前記少なくとも1種のアルカリ金属水酸化物が、NaOH、KOH、LiOH、RbOH、CsOHおよびそれらの混合物からなる群から選択される、請求項1に記載の二相膜。
【請求項5】
前記イオン輸送相が、前記膜の操作温度を約100℃以上に低下させるのに十分なモル量の溶融温度低下成分を含む、請求項1に記載の二相膜。
【請求項6】
前記溶融温度低下成分が、少なくとも1種のアルカリ土類金属水酸化物、少なくとも1種のアルカリ金属硝酸塩および/または少なくとも1種のアルカリ土類金属硝酸塩を含む、請求項5に記載の二相膜。
【請求項7】
前記溶融温度低下成分が、Be(OH)
2、Mg(OH)
2、Ca(OH)
2、Sr(OH)
2、Ba(OH)
2、LiNO
3、NaNO
3、KNO
3、RbNO
3、CsNO
3、Be(NO
3)
2、Mg(NO
3)
2、Ca(NO
3)
2、Sr(NO
3)
2、Ba(NO
3)
2およびこれらの混合物からなる群から選択される少なくとも1種の化合物を含む、請求項6に記載の二相膜。
【請求項8】
前記膜の操作温度が約100℃~約500℃の範囲である、請求項1に記載の二相膜。
【請求項9】
前記酸化物イオン輸送剤が、約1~約30モル%の量で前記イオン輸送相に存在する、請求項1に記載の二相膜。
【請求項10】
前記多孔質支持体が、金属またはセラミック材料で構成される、請求項1に記載の二相膜。
【請求項11】
前記多孔質支持体が、ニッケル-クロム系合金、ステンレス鋼、酸化ジルコニウム、酸化セリウム、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、酸化ランタン、酸化サマリウム、酸化ガドリニウム、酸化鉄、炭酸カルシウム、酸化ケイ素および炭化ケイ素からなる群から選択される少なくとも1種の材料で構成される、請求項10に記載の二相膜。
【請求項12】
前記細孔が、約10nm~約1mmの平均細孔径を有する、請求項1に記載の二相膜。
【請求項13】
供給ガスからガス種を分離する方法であって、
(a)前記イオン輸送相を溶融させるのに十分な操作温度で、請求項1に記載の二相膜の表面を、分離するガス種を含有する供給ガスに接触させること;および
(b)前記ガス種を、前記溶融イオン輸送相を通過させて前記膜の反対側の表面に輸送することを含む、方法。
【請求項14】
前記供給ガスがCO
2をある濃度で含む、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記膜の前記反対側の表面をスイープガスに接触させることをさらに含む、請求項13に記載の方法。
【請求項16】
前記スイープガスが蒸気である、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記蒸気スイープガスにより、前記膜を出る前記蒸気スイープガス中のCO
2濃度が、前記供給ガス中のCO
2濃度より大きくなる、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記少なくとも1種の酸化物イオン輸送剤が、メタ、オルト、ピロまたはポリ状態の化合物である、請求項13に記載の方法。
【請求項19】
前記少なくとも1種の酸化物イオン輸送剤が、ホウ酸塩、硝酸塩、リン酸塩、バナジン酸塩、ニオブ酸塩または硫酸塩であるアルカリまたはアルカリ土類金属塩である、請求項13に記載の方法。
【請求項20】
前記少なくとも1種のアルカリ金属水酸化物が、NaOH、KOH、LiOH、RbOH、CsOHおよびそれらの混合物からなる群から選択される、請求項13に記載の方法。
【請求項21】
工程(a)および(b)が、約100℃~約500℃の範囲の操作温度で実施される、請求項13に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【分野】
【0001】
関連出願の相互参照
[0001]本出願は、2020年8月20日に出願された米国特許仮出願第63/068,081号(代理人案件番号4271-0575)に基づき、その優先権の利益を主張し、その内容全体は、参照により本明細書に明示的に組み込まれる。
政府の権利
[0002]本発明は、以下の政府からの請負により、政府の支援を受けてなされた:エネルギー省請負番号DE-SC0017124。政府は、本発明に対して一定の権利を有する。
【0002】
[0003]ここで開示される態様は、一般に、供給ガス(たとえば、産業施設の排ガス)から炭素を高性能に回収および分離するための二相分離膜の使用に関する。ここで記載される特定の態様は、より高い性能を可能にする、および/またはガス分離膜を操作するために適用される温度範囲を広げるために、二相膜のイオン液体(たとえば、溶融塩)分離相の組成物に酸化物イオン輸送剤(たとえば、ホウ酸塩、硝酸塩、リン酸塩、バナジン酸塩、ニオブ酸塩および/または硫酸塩)を組み込むことに関する。
【背景】
【0003】
[0004]炭素の回収および分離による温室効果ガスの削減は、依然として化学、石油、および発電産業、ならびに低炭素世界経済にとって重要な課題である。任意の混合ガスからの、二酸化炭素(CO2)の費用対効果に優れた回収および分離により、回収された二酸化炭素の使用または隔離による温室効果ガス排出の削減という利点が可能になると予想される。
【0004】
[0005]従来技術、たとえばポリマー膜や溶媒系溶液を使用した炭素の回収および分離の経済的およびエネルギーコストは多くの場合高すぎるため、費用対効果の高いCO2の回収を広く適用できない。化学、石油、および発電所を含むさまざまな工業処理の一部として発生し得る混合ガスからCO2を分離するための新しい技術が望まれている。たとえば、化石燃料発電所の排ガスから炭素を回収する技術として、従来のポリマー膜に基づく技術が適用されることがある。二相膜は、通常550℃以上の温度で、溶融炭酸塩相によりCO2を回収することができる代替技術である(Rui,Zら、「Ionic conducting ceramic and carbonate dual phase membranes for carbon dioxide separation」、J.Memb.Sci.417-418、174-182(2012)、その全内容は、参照により本明細書に明示的に組み込まれる)。
【0005】
[0006]CO2透過速度を増加させ、操作温度を400℃以上に低下させるように、最近、溶融水酸化物がイオン分離相に導入されている(Ceron,M.R.ら、「Surpassing the Conventional Limitations of CO2 Separation Membranes with Hydroxide/Ceramic Dual-Phase Membranes」、J.Memb.Sci.567、191-198(2018)参照、その全内容は、参照により本明細書に明示的に組み込まれる)。例として、米国特許第10,464,015号(その全体は、参照により本明細書に明示的に組み込まれる)において、使用時に、固体多孔質支持構造の細孔内に配置された少なくとも1種の溶融アルカリ金属水酸化物を備える分離膜の提供が提案されている。したがって、溶融分離相は、適切な濃度のNaOH、KOH、LiOH、RbOH、CsOHおよびそれらの混合物を含んでもよい。排ガスからCO2を分離するための三成分混合物として使用する場合、溶融アルカリ金属水酸化物のこのような三成分混合物は、それによって、膜内に、混合物に含まれる特定の水酸化物種に依存する、KOH、NaOH、LiOH、K2CO3、Na2CO3および/またはLi2CO3の平均濃度を有する溶融分離相を提供することになる。
【0006】
[0007]しかしながら、燃焼後炭素回収および排ガス用途の領域において二相膜を使用する全体的な処理効率は、125~300℃の低い温度でさえも操作できることによって大いに利益をもたらすであろう。したがって、ここで開示される態様は、排ガスからのCO2の二相膜分離にそのような改良、たとえば、より低い操作温度をもたらすことを対象とする。
【概要】
【0007】
[0008]一般に、ここで開示される発明の態様は、連結開気孔の多孔質固体マトリックスを備える固体多孔質支持相と、固体多孔質支持相の細孔内に含有される溶融塩相とを必ず含む、供給ガスからCO2を分離するための改良二相膜であって、液相は、使用時に少なくとも1種の溶融アルカリ金属水酸化物と、アルカリ金属水酸化物全体に分散した1種以上の酸化物輸送剤とを含む、改良二相膜を対象とする。これに関して、これらの酸化物イオン輸送剤は、液相において、酸化物イオン輸送触媒としてガス吸着反応に影響を与える、または酸化物イオンの酸/塩基平衡を制御するように機能することができる。さらに、これらの酸化物イオン輸送剤により、供給ガスからの二酸化炭素の透過と蒸気スイープの水蒸気とを化学的に結合させ、能動輸送膜機構を可能にすることもできる。したがって、この能動輸送機構により、膜によるガス分離の促進を二酸化炭素の濃度勾配のみに依存するのではなく、水蒸気の大きな濃度勾配(分圧)を利用して二酸化炭素の分離を促進することができる。したがって、このような方法で、ここに記載される二相能動膜の態様により、関連する適用温度および他の操作条件の比較的広い範囲にわたって、供給ガスからのCO2の高性能分離が可能になる。
【0008】
[0009]特定の態様によれば、二相膜は、連結細孔のマトリックスを有する固相を備える多孔質支持体と、多孔質支持体の細孔内の液化可能なイオン輸送相とを含み、イオン輸送相は、少なくとも1種のアルカリ金属水酸化物と、ホウ酸イオン、リン酸イオン、バナジン酸イオンおよびニオブ酸イオンからなる群から選択されるイオン源をもたらす少なくとも1種の酸化物イオン輸送剤とで形成されている。少なくとも1種のアルカリ金属水酸化物は、NaOH、KOH、LiOH、RbOH、CsOHおよびそれらの混合物からなる群から選択されてもよい。酸化物イオン輸送剤は、好ましくは、約1~約30モル%(molar %)の量でイオン輸送相に存在する。
【0009】
[0010]いくつかの態様におけるイオン輸送相は、膜の操作温度を約100℃以上、たとえば約100℃~約500℃、たとえば約125℃~約300℃に低下させるのに十分なモル量の溶融温度低下成分を含んでもよい。溶融温度低下成分は、少なくとも1種のアルカリ土類金属水酸化物、少なくとも1種のアルカリ金属硝酸塩、および/または少なくとも1種のアルカリ土類金属硝酸塩、たとえば、Be(OH)2、Mg(OH)2、Ca(OH)2、Sr(OH)2、Ba(OH)2、LiNO3、NaNO3、KNO3、RbNO3、CsNO3、Be(NO3)2、Mg(NO3)2、Ca(NO3)2、Sr(NO3)2、Ba(NO3)2、およびこれらの混合物からなる群から選択される少なくとも1種の化合物で構成されてもよい。
【0010】
[0011]多孔質支持体は、金属またはセラミック材料、たとえばニッケル-クロム系合金、ステンレス鋼、酸化ジルコニウム、酸化セリウム、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、酸化ランタン、酸化サマリウム、酸化ガドリニウム、酸化鉄、炭酸カルシウム、酸化ケイ素および炭化ケイ素で構成されてもよい。多孔質支持体の細孔は、約10nm~約1mmの平均細孔径を有してもよい。
【0011】
[0012]供給ガスからガス種(たとえば、CO2)を分離するように使用する場合、イオン輸送相を溶融させるのに十分な操作温度で、二相膜の表面を、分離するガス種を含有する供給ガスに接触させ、ガス種を、溶融イオン輸送相を通過させて膜の反対側の表面に輸送してもよい。スイープガス、たとえば蒸気で膜の反対側の表面。特定の態様において、蒸気スイープガス中のCO2濃度は、供給ガス中のCO2濃度より大きくてもよい。
【0012】
[0013]本発明のこれらおよび他の側面は、現在好ましい例示的態様の、以下の詳細な説明を慎重に検討した後に、より明確になるであろう。
【0013】
[0014]添付の図面が参照される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】[0015]
図1は、ここで記載される本発明の態様に従う二相能動分離膜の非常に概略的な断面図である。
【
図2】[0016]
図2は、先行技術に従う(比較例)、および以下の例に記載されるような本発明の具体的な特定の態様に従うさまざまな液相を使用して、二相膜を通過するCO
2透過率(mol/m・s・Pa)を温度(℃)に対してプロットしたグラフである。
【詳細な説明】
【0015】
[0017]本明細書および添付の特許請求の範囲で使用される場合、「二相膜」という用語は、膜の操作温度において固相と液相とを必ず含むガス分離膜を意味する。
図1に示すように、二相膜10は、膜10の操作温度において、固相12および液相14を備える。したがって、固相12は、膜に構造的フォームファクタを付与し、機械的な支持を提供し、毛細管現象で液相を保持する連続的な細孔構造をもたらす。液相14は、吸収、拡散/伝導、および脱着過程を通じて、膜の一方の側10a(供給ガスまたは未透過物側)から膜の他方の側10b(スイープガスまたは透過物側)にガスを選択的に輸送する、膜の操作温度において不揮発性の液体である。これにより、膜12の供給ガス側10aに接触して流れる供給ガス(矢印A
F)中の二酸化炭素(CO
2)は、炭酸塩(CO
3
2-)、重炭酸塩(HCO
3
-)、または関連イオン種として膜12の液相14を透過し、膜12のスイープガス側10bに接触して流れるスイープガス(矢印A
S)、通常は蒸気に回収される。
【0016】
[0018]固相および液相の具体的な内容は、以下においてより詳細に説明される。
A.多孔質支持体/固相
[0019]ここで開示される態様による二相膜の多孔質支持体または固相12は、その操作温度および圧力条件において固相/液相膜に利用することができる、実質的に任意の固体多孔質構造であってもよい。したがって、たとえば、多孔質支持体または固相12は、二相膜が使用されるシステムにおける操作温度および圧力勾配(たとえば、約700℃までの温度)に耐えることができる適切な金属またはセラミック材料で形成されてもよい。たとえば、多孔質支持体または固相12は、Inconel(登録商標)ニッケル-クロム系超合金、ステンレス鋼(たとえば、グレード316SS)などで形成された、またはこれらを含む多孔質金属または金属エアロゲルを含んでもよく、酸化ジルコニウム、酸化セリウム、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、酸化ランタン、酸化サマリウム、酸化ガドリニウム、酸化鉄、炭酸カルシウムおよび酸化ケイ素または炭化ケイ素で形成された、またはこれらを含む多孔質セラミックまたはセラミックエアロゲルを含んでもよい。
【0017】
[0020]固相12を形成する材料に関係なく、固相12は、多数の連結したオープンセル細孔を画定し、それによって固相12の一方の側または面10aから他方の反対側または面10bへと連続した蛇行経路をもたらす。細孔は、固相の厚さ全体にわたって実質的に同じ平均直径を有してもよい。あるいは、細孔は、固相12の断面厚さ全体にわたって異なる細孔径を有してもよい。たとえば、細孔径勾配を利用する態様については、相対的に大きい細孔径を有する細孔が2つの外側面10a、10bのうちの1つに近接した固相12の領域に位置し、相対的に小さい細孔径を有する細孔が反対側の面に位置してもよい。
【0018】
[0021]利用される特定の細孔径は重要ではなく、任意の具体的な細孔径の選択は、使用中に利用される操作温度条件および圧力勾配(もしあれば)を含む、当業者によく知られている多くの操作因子に依存し、該操作因子によって固相に応力が付与されることになる。したがって、固相は、有利には、約1nm~約100μm、たとえば、約3nm~約10μm、または約10nm~約1μm、あるいは約30nm~約300nmの範囲の細孔径を備えてもよい。
【0019】
[0022]固相12の厚さ、ひいては膜の厚さは、同様に、使用中の膜の温度および圧力条件に耐え、膜を通過する物質輸送を促進するように選択することができる。したがって、固相(ひいては膜自体)は、約30μm~約1cm、有利には約100μm~約3mm、たとえば、約300μm~約1mmの厚さを有することができる。
B.イオン輸送(液化可能)相
[0023]先に述べたように、イオン輸送相14は、固体多孔質支持相12の細孔内に含有される。ここで開示される態様によれば、イオン輸送相14は、膜10の操作温度条件、たとえば100℃以上の温度、通常125℃以上の温度で必ず溶融(液化)される。したがって、使用時に、イオン輸送相14は、少なくとも1種の溶融アルカリ金属水酸化物と、アルカリ金属水酸化物全体に分散された1種以上の酸化物輸送剤とを含む。
【0020】
[0024]溶融アルカリ金属水酸化物は、実際には、NaOH、KOH、LiOH、RbOH、CsOHおよびそれらの混合物からなる群から選択される1種以上の溶融アルカリ金属水酸化物でであってもよい。好ましくは、アルカリ金属水酸化物の混合物は、関係する種について可能な全ての混合比にわたって、異なる条件、たとえば温度および圧力下において可能な限り低い溶融温度で個々の成分が個別に溶融するのとは対照的に、混合物全体が全体として溶融するように共融である。
【0021】
[0025]溶媒和または希釈効果によって溶融温度を下げる溶融温度低下成分をイオン輸送相14へ添加することによって、膜10の操作温度をさらに、たとえば、約125℃まで、あるいは約100℃まで下げてもよい。そのような好ましい溶融温度低下成分は、たとえば、アルカリ土類金属水酸化物、たとえばBe(OH)2、Mg(OH)2、Ca(OH)2、Sr(OH)2、Ba(OH)2およびこれらの混合物であってもよい。さらに、アルカリおよびアルカリ土類金属硝酸塩、たとえばLiNO3、NaNO3、KNO3、RbNO3、CsNO3、Be(NO3)2、Mg(NO3)2、Ca(NO3)2、Sr(NO3)2、Ba(NO3)2およびこれらの混合物もイオン輸送相14の溶融アルカリ金属水酸化物に添加して、CO2用の低溶融温度溶融液体をもたらすことができる。
【0022】
[0026]約125℃~約300℃の低温でCO2分離を達成するための1つの技術的課題は、イオン輸送相14の溶融水酸化物によるCO2吸収に関連する。しかしながら、CO2吸収による、アルカリおよびアルカリ土類金属水酸化物のアルカリおよびアルカリ土類金属炭酸塩への変換は、熱力学的に非常に起こりやすい。したがって、ここで開示される態様の特徴的機能は、炭酸塩に基づく種として膜10のイオン輸送相14を通過する輸送のための、CO2の吸収、拡散、および脱着に関連する酸化物イオン輸送反応を触媒または緩衝する酸化物イオン輸送剤を含むことである。
【0023】
[0027]したがって、ここで開示される態様は、溶融アルカリ金属水酸化物および/または溶融アルカリ金属水酸化物-硝酸塩を主成分とする液相に加え、そのような酸化物イオン輸送剤も必ず含む。したがって、酸化物イオン輸送剤は、使用時にホウ酸イオン、硝酸イオン、リン酸イオン、バナジン酸イオン、ニオブ酸イオンおよび/または硫酸イオンからなる群から選択されるアニオン源をもたらす実質的に任意の化合物によって提供されてもよい。したがって、好ましい酸化物イオン輸送剤は、アルカリ金属ホウ酸塩、硝酸塩、リン酸塩、バナジン酸塩、ニオブ酸塩および/または硫酸塩であってもよい。したがって、ここで利用される酸化物イオン輸送剤は、妥当な低温での好ましい溶解性、O2-イオンに関する適切なラックス-フラッド酸/塩基化学的性質、CO2吸収および脱着の触媒効果、ならびにCO2透過速度を高める他の効果を有する。一般に、これらの酸化物イオン輸送剤は、液相全体に分散される。
【0024】
[0028]ホウ酸塩、硝酸塩、リン酸塩、バナジン酸塩、ニオブ酸塩および/または硫酸塩の酸化物イオン輸送剤は、通常約1~約30モル%、通常約4~約20モル%、最も好ましくは約8モル~約16モル%のモル量でイオン輸送(液化可能)相に存在する。
C.分離方法
[0029]上記で簡単に説明したように、液相の溶融塩は、標的ガスを選択的に収着し、膜10を横切って輸送する。たとえば、混合ガスから二酸化炭素を分離する場合、CO2は一般にCO2+O2-→CO3
2-を通じてCO3
2-イオンとして吸収されるが、ポリカーボネート、重炭酸塩、および炭酸塩状態に関するその他の種も、さまざまな条件下で存在してもよい。CO3
2-が膜10の一方の側10aから他方の側10bに輸送され、CO2として脱着する際に、膜10を挟んで質量および電荷バランスを保つために、何らかの機構でO2-イオンが逆方向に輸送される必要がある。
【0025】
[0030]水酸化物および炭酸塩を主成分とする溶融塩は、所定の温度で凝縮(固体または液体)相を通過するイオンの最速伝導体の1つであるため、二相膜は、当技術分野における他の全ての現在知られている膜案と比較して、透過率および選択性の面で著しく改善された分離特性を達成することができるようになった。ここで開示される態様に従って適切に設計、準備、および操作された二相膜は、比較的不活性なガス、たとえば窒素(N2)、酸素(O2)、およびアルゴン(Ar)に対し、1,000を超えるCO2選択性を達成することができる。
【0026】
[0031]ここで開示される態様に従う二相膜10の操作は、有利には蒸気スイープと組み合わせて使用してもよい。蒸気は、膜10の透過物側10bからCO2を押し流すために使用され、透過物中のCO2濃度を低下させることによって、さらなるCO2透過を促進させる。場合によっては、H2Oの存在は、化学的効果によりCO2透過を増進させることができる。二相膜が、K2CO3+H2O⇔2KOH+CO2の平衡反応によるCO3
2-およびOH-の向流輸送に依存している場合、蒸気は、液相中のCO3
2-またはOH-濃度の何れも、低すぎて分離速度を著しく制限しないように、炭酸塩対水酸化物の比を均衡させるのに役立つことがある。場合によっては、CO2およびH2Oガス吸収とCO3
2-およびOH-輸送の組み合わせにより、新たに開示される能動輸送膜機構への進展を可能にし得る。膜の能動輸送機構では、高濃度種(蒸気のH2O)の共役輸送を使用して、低濃度種(排ガスのCO2)の膜分離を熱力学的に強制または加速させる。
【0027】
[0032]熱力学では、理論的には、蒸気スイープ中のH2Oに対するCO2の比が、供給ガス中のH2Oに対するCO2の比に一致するまでCO2透過が推進され得るが、この比は実際にはより低くてもよい。たとえば、ほぼ完全な天然ガス燃焼の排気は、2H2Oあたり約1CO2の比を有するため、蒸気スイープの組成は2H2Oあたり1CO2の比に近づく可能性がある。最低でも、蒸気スイープ中の任意のCO2濃度が供給ガス中のCO2濃度より高ければ、能動輸送機構の存在を示すのに十分である。CO2リッチな蒸気スイープの温度を低くして、蒸気を凝縮して水にすることによるその後のCO2とH2Oの分離を誘導することができる。ここで開示されるような二相膜および蒸気スイープが発電所または他のCO2源にどのように統合されるかに応じて、炭素を、技術水準の炭素回収技術よりも著しく低い資本および操作(たとえば、エネルギー)コストで回収することが可能である。
【0028】
[0033]上で簡単に述べたように、炭素を回収するための、従来の二相膜の操作温度は、固体酸化物イオン伝導の熱要件のため、最初は550℃以上の温度に制限されていた。アルカリ金属水酸化物の組み込みおよび蒸気スイープにより、操作温度は400℃以上に下がる。これは一般に、電解質の水酸化物が炭酸塩に完全に変換される際に(Li43.5Na31.5K25)2CO3の三成分共融が凝固する温度に相当する。液相が部分的または完全に凝固し、液相を通過する物質輸送が阻害される場合、二相膜は妥当なレベルで機能する。水酸化物が炭酸塩に変換される量を制限することによって、液相温度を操作温度より低く維持するために、ラックス-フラッドの酸/塩基平衡を、低温で緩衝させるか、または他の方法で制御しなければならない。
【0029】
[0034]目標とする高い透過性能と低い操作温度は、アルカリ金属(Li+、Na+、K+、Rb+、Cs+)水酸化物の他の組み合わせのみでは達成できなかった。上述のように、場合によっては、アルカリ土類金属(Be2+、Mg2+、Ca2+、Sr2+、およびBa2+)水酸化物を、アルカリ金属水酸化物およびアルカリ金属水酸化物-硝酸塩混合物に組み込み混合して、操作温度を下げることができる。たとえば、バリウム、ナトリウム、およびカリウムの混合物を主成分とする液相により、300℃以上の膜操作温度が可能になる場合がある。このような場合、O2-イオン触媒により、低い操作温度でCO2吸収の速度論的障壁を回避することで、ガス分離速度を改善することができる。炭酸塩濃度が、速いCO2透過速度を補助するのに十分大きいが、液相温度が操作温度より高くなるほど大きくならないように、ラックス-フラッド酸/塩基平衡により水酸化物が炭酸塩へ変換する程度を制御するため、O2-イオン緩衝剤が必要である。適切なO2-イオン緩衝剤は、溶融水酸化物および水酸化物-硝酸塩系に数モル%以上の濃度で溶解し、液相温度を著しく上昇させることがなければ、触媒的O2-イオン輸送効果も発揮し得る。
【0030】
[0035]O2-輸送を触媒し、所定の操作温度においてラックス-フラッド酸/塩基平衡を適合させるために、液相成分および添加剤のより高度な補足(compliment)が必要である。したがって、ここで開示される態様は、さまざまな炭素回収用途に適した電解質組成の関連範囲を包含する。先に議論したように、性能または機能を改善するため、ホウ酸塩、硝酸塩、リン酸塩、バナジン酸塩、ニオブ酸塩、および硫酸塩からなる群から選択されるイオン源をもたらす化合物を、酸化物イオン輸送剤として二相膜のイオン輸送(液)相に添加してもよい。したがって、液相は、操作または使用の過程で炭酸塩をある濃度で含む溶融水酸化物および/または硝酸塩の溶媒を主成分とする。
【0031】
[0036]液相はまた、窒素酸化物または硫黄酸化物ガスも含む供給ガスにさらされる際に、調合を通じてまたは使用を通じての何れかにおいて、著しい濃度の硝酸塩または硫酸塩も含んでもよい。液相溶融温度および酸/塩基効果を管理するためのアルカリ金属およびアルカリ土類金属カチオンの使用とは別に、CO2+O2-⇔CO3
2-を介する最適なCO2収着のためのO2-触媒効果およびラックス-フラッド酸/塩基平衡を制御するために、ホウ酸塩、硝酸塩、リン酸塩、バナジン酸塩、ニオブ酸塩および/または硫酸塩のアニオンが添加されている。これらの成分は、溶融水酸化物および硝酸塩溶媒に十分に溶解し、メタ、オルト、およびピロ(または関連するポリ)状態を通じて酸化物イオンの輸送および平衡に影響を与える。たとえば、メタリン酸塩(PO3
-)が酸化物イオンを受容して、PO3
-+O2-⇔PO4
3-および2PO4
3-⇔P2O7
4-+O2-により、オルトリン酸塩(PO4
3-)またはピロリン酸塩(P2O7
4-)をそれぞれ形成する。バナジン酸塩およびニオブ酸塩では、やや酸性の度合いが強い条件下で、リン酸塩と同じ反応が起こる。ホウ素では、メタホウ酸塩(BO2
-)が酸化物イオンを受容して、BO2
-+O2-⇔BO3
3-および2BO3
3-⇔B2O5
4-+O2-により、オルトホウ酸塩(BO3
3-)またはピロホウ酸塩(B2O5
4-)を形成する類似の反応がそれぞれ起こる。膜の性能は、通常、2種の触媒が同程度の濃度で対になっている場合に改善される。この結果は、一方の触媒がCO2吸着を促進し、他方の触媒がCO2脱着を促進していることを示し得る。あるいは、この改良は、2種の触媒の相互作用、たとえばPO4
3-+VO4
3-⇔PVO7
4-+O2-によって起こってもよい。これらの反応は代表的なものと考えるべきであり、溶融相にCO2およびH2Oが実際に存在することによって、より複雑になってもよい。
【0032】
[0037]酸化物イオン輸送剤は、最終調合物においてメタ、オルト、およびピロ(または関連するポリ)状態を得るために、成分のさまざまな組み合わせにより液相調合に組み込むことができる。成分の選択は、商業的入手性、コスト、カチオンとのペア形成、または他の要因に依存してもよい。たとえば、ホウ酸ナトリウムはメタホウ酸ナトリウム、NaBO2、およびホウ砂、Na2B4O7・10H2Oとして市販されている。これらのホウ酸塩は、NaBO2+2NaOH⇔Na3BO3+H2OまたはNa2B4O7・10H2O+10NaOH⇔4Na3BO3+15H2Oの代表反応により、調合物中の水酸化物と反応して、オルトホウ酸ナトリウムNa3BO3を形成することができる。同様に、オルトリン酸三ナトリウム、Na3PO4は、初期成分であってもよく、またはNaH2PO4+2NaOH⇔Na3PO4+2H2OまたはNa2HPO4+NaOH⇔Na3PO4+H2Oの代表反応により、オルトリン酸一ナトリウム、NaH2PO4、またはオルトリン酸二ナトリウム、Na2HPO4を調合物中の過剰水酸化物と反応させることにより形成してもよい。あるいは、NaH2PO4⇔NaPO3+H2Oによるオルトリン酸一ナトリウムの脱水によりメタリン酸ナトリウム、NaPO3を形成してもよい。バナジン酸塩、ニオブ酸塩、および硝酸塩では、リン酸塩について説明したのと同じまたは類似の反応が起こると予想される。これらの反応は、調合物の具体的な組成および濃度、液相が処理された温度、および他の要因に依存するであろう。
【0033】
[0038]本発明の態様のさらなる利点および側面は、以下の非限定的な例を検討した後に、より明確になるであろう。
【0034】
[例]
[0039]下記の表1で特定されるいくつかの液化可能なイオン輸送相組成物を調合し、ナノ多孔質ジルコニアセラミック管からなる多孔質固相に組み込んだ。多孔質ジルコニアセラミック管は、壁厚約1mm、内径約5mm、約25~35%の気孔率、および100nm付近の粒子径分布を有するものであり、ペンシルベニア州ピッツバーグのMedia and Process Technology Inc.から入手した。
【0035】
【0036】
[0040]上の表1で特定されるCE2およびE1~E6液相組成を有する膜を、流量200sccmの、CO
2 5vol%とN
2 95vol%で構成される供給ガス、および流量200sccmの、H
2O 50vol%とAr 50vol%で構成されるスイープガスにさらした。供給ガスとスイープガスは両方、周囲気圧に近い0~3PSIGの圧力、200~500℃の範囲の温度で使用された。上で引用された出版物(J.Memb.Sci.417-418、174-182(2012))でRui,Z.らによって試験されたCE1膜の条件は、該文献内に詳細に記載されている。CO
2透過率(mol/m・s・Pa)は、定常状態下で、CO2meter.comからの非分散型赤外線(NDIR)センサーを使用してスイープガス中のCO
2濃度を測定し、膜表面積、膜厚、ならびにスイープガスから凝縮により水を除去した後にCO
2センサーに供給されるスイープガスの温度(15~17℃)および圧力(0.3PSIG)を加味して決定した。CO
2透過率の結果は、さまざまな異なる膜操作温度の関数として
図2に示されている。
【0037】
[0041]
図2に見られるように、酸化物イオン輸送剤、たとえば、硝酸塩、リン酸塩、バナジン酸塩、ホウ酸塩、およびニオブ酸塩が、1種以上のアルカリ金属水酸化物と組み合わせて存在すると、膜のCO
2透過速度が著しく改善され、同時に操作温度の範囲も著しく低くなる。
【0038】
[0042]成分の異なる組み合わせが液相の同じ最終モル組成をもたらし得るという点で、特定の液相成分は縮退していることが、当業者には理解されよう。たとえば、水酸化ナトリウム(NaOH)1モルと硝酸カリウム(KNO3)1モルを均質に混合すると、水酸化カリウム(KOH)1モルと硝酸ナトリウム(NaNO3)1モルを混合するのと全く同じ液相組成が得られる。表1には、ここで提供される例の液化可能相調合物を調製するために使用される代表的な成分が記載されているが、このような成分は例示的であることのみを意図しており、したがってここで開示される態様に限定されない。したがって、ここで開示される態様は、混合調合物に関し、それによって、純調合物を得ることができる表1で特定される代表的な成分一覧のみに限定されないことが理解されよう。
【0039】
[0043]本発明は、現在最も実用的で好ましい態様と考えられるものに関連して説明されてきたが、本発明は開示される態様に限定されるものではなく、逆に、その精神および範囲内に含まれるさまざまな変更および同等の配置を含むことが意図されていることが理解されよう。
【国際調査報告】