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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-09-07
(54)【発明の名称】ポリエステル原糸及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08G 63/85 20060101AFI20230831BHJP
   C08G 63/183 20060101ALI20230831BHJP
   D01F 6/62 20060101ALI20230831BHJP
【FI】
C08G63/85
C08G63/183
D01F6/62 301K
D01F6/62 303F
D01F6/62 306F
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023512234
(86)(22)【出願日】2021-08-18
(85)【翻訳文提出日】2023-02-17
(86)【国際出願番号】 KR2021010933
(87)【国際公開番号】W WO2022039483
(87)【国際公開日】2022-02-24
(31)【優先権主張番号】10-2020-0103812
(32)【優先日】2020-08-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(31)【優先権主張番号】10-2021-0108267
(32)【優先日】2021-08-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】319001455
【氏名又は名称】ヒョスン ティエヌシー コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】110002066
【氏名又は名称】弁理士法人筒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】キム,チョン キ
(72)【発明者】
【氏名】キム,モ ソン
(72)【発明者】
【氏名】キム,ジュン ヨル
(72)【発明者】
【氏名】パク,ミ ソ
【テーマコード(参考)】
4J029
4L035
【Fターム(参考)】
4J029AA03
4J029AB04
4J029AD01
4J029AE02
4J029BA02
4J029BA03
4J029BA04
4J029BA05
4J029BA07
4J029BA08
4J029BA09
4J029BA10
4J029BD02
4J029BD03A
4J029BD05A
4J029BD06A
4J029BF09
4J029BF18
4J029BF25
4J029CA01
4J029CA02
4J029CA03
4J029CA04
4J029CA05
4J029CA06
4J029CB05A
4J029CB05B
4J029CB06A
4J029CB06B
4J029CB10A
4J029CC05A
4J029CC06A
4J029CD03
4J029CD07
4J029CH02
4J029DB02
4J029FC03
4J029GA14
4J029JA091
4J029JA261
4J029JB131
4J029JB171
4J029JF022
4J029JF032
4J029JF042
4J029JF371
4J029KD02
4J029KD07
4J029KE02
4J029KE05
4L035AA05
4L035BB31
4L035DD02
4L035FF08
4L035GG02
(57)【要約】
本発明は無機錫化合物触媒の存在下で重合して得られるポリエステルを含むポリエステル原糸及びその製造方法に関し、本発明の無機錫化合物を含むポリエステル原糸は、アンチモン触媒の残留による問題を克服することができ、優れた整経性を有する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機錫化合物触媒の存在下で重合して得られるポリエステルを含む、
ポリエステル原糸。
【請求項2】
前記無機錫化合物触媒は、無機第1錫化合物(stannous tin compound)または無機第2錫化合物(stannic tin compound)である、
請求項1に記載のポリエステル原糸。
【請求項3】
前記無機第1錫化合物は、酸化第1錫、ピロリン酸第1錫、リン酸第1錫、酒石酸第1錫、酢酸第1錫、シュウ酸第1錫、ステアリン酸第1錫、オレイン酸第1錫、グルコン酸第1錫、クエン酸第1錫、2-エチルヘキサノン酸第1錫、エトキシド第1錫、アセチルアセネート第1錫、及びグリコール酸第1錫からなる群より選択されるものである、
請求項2に記載のポリエステル原糸。
【請求項4】
前記無機第2錫化合物は、酸化第2錫、ピロリン酸第2錫、リン酸第2錫、酒石酸第2錫、酢酸第2錫、シュウ酸第2錫、ステアリン酸第2錫、オレイン酸第2錫、グルコン酸第2錫、クエン酸第2錫、2-エチルヘキサノン酸第2錫、エトキシド第2錫、アセチルアセネート第2錫、及びグリコール酸第2錫からなる群より選択されるものである、
請求項2に記載のポリエステル原糸。
【請求項5】
前記ポリエステル原糸は、ポリエチレンテレフタレートとポリブチレンテレフタレートを含み、無機錫化合物の残渣を10ppm乃至200ppm含む、
請求項1に記載のポリエステル原糸。
【請求項6】
前記ポリエステル重合体がポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリテトラメチレンテレフタレート、及びポリブチレンテレフタレートの単独または2種以上から選択される、
請求項1に記載のポリエステル原糸。
【請求項7】
前記ポリエステル原糸は芯鞘(core-sheath)型複合繊維であり、前記ポリエステルが芯鞘型複合繊維の鞘部に配置されてなされる、
請求項1に記載のポリエステル原糸。
【請求項8】
前記ポリエステル原糸が異形断面糸である、
請求項1に記載のポリエステル原糸。
【請求項9】
前記ポリエステル原糸が仮撚捲縮加工糸である、
請求項1に記載のポリエステル原糸。
【請求項10】
ジカルボン酸成分とグリコール成分のエステル化物からなる重合出発原料を無機錫化合物触媒の存在下で重合してポリエステル重合物を収得した後、溶融紡糸してポリエステル原糸を製造する、
ポリエステル原糸の製造方法。
【請求項11】
前記無機錫化合物触媒をエステル化反応前のスラリ調製の際に投入するか、エステル化反応に投入するか、またはエステル化反応後の重縮合ステップに投入する、
請求項10に記載のポリエステル原糸の製造方法。
【請求項12】
前記方法は、無機錫化合物を含むポリエステル重合触媒をポリエステル工程に粉末状で添加するか、または触媒溶液状で投入する、
請求項10に記載のポリエステル原糸の製造方法。
【請求項13】
前記方法は、無機錫化合物を含むポリエステル重合触媒をエチレングリコール溶液に調製して投入するステップを含むが、前記ステップは、エチレングリコール溶液と前記無機錫化合物を反応させてグリコール酸錫の形態に調製して投入するステップである、
請求項10に記載のポリエステル原糸の製造方法。
【請求項14】
最終的に生産されるポリエステルの質量に対し、前記無機錫化合物触媒に含まれた錫元素の含量を基準に、無機錫化合物触媒を10ppm乃至200ppm添加する、
請求項10に記載のポリエステル原糸の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポリエステル原糸及びその製造方法に関し、より詳しくは、アンチモン系触媒の残留による問題を解消しながら、優れた整経性を有するポリエステル原糸及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエチレンテレフタレートで代表さえるポリエステルは、機械的特性及び化学的特性に優れ、従来から飲料容器、医療用品、衣料用品、包装材、シート、フィルム、タイヤコード、自動車用成形品などの多様な分野で広範囲に活用されている。
【0003】
特に、ポリエステル原糸は、ナイロン繊維に比べ安価でありながらも強度が強く、耐摩耗性、耐薬品性、形態安定性、ドレープ性、洗浄性、縫製性など衣類用素材に適合とした様々な優れた性質を有しており、衣料用、産業用、医療用などに幅広く使用されている。
【0004】
ポリエステル原糸の製造に使用されるポリエステルの重合触媒として商業的に最も成功した触媒はアンチモン系触媒である。しかし、アンチモン系触媒で作られた製品の場合、重合過程で大量のアンチモンを使用すべきであって、金属自体の毒性のため長期間使用しアンチモンが流出されて生体内に流入されたら、胎児の成長阻害、発がん性などのような疾病の誘発と環境問題を引き起こしている(Anal.Bioanal.Chem.2006,385,821)。
【0005】
例えば、高濃度のアンチモン触媒を使用して製造されたポリエステルポリマーで製造した繊維は、製糸過程で糸切りや他の欠点が発生する恐れがある。
【0006】
また、アンチモン触媒はポリエステル重合反応に使用する際、投入量対比約10~15%水準で触媒還元物が発生するようになってポリエステル原糸のカラーのL値を低くし、口金の汚染、与圧の上昇、糸切りなどの工程上の問題を引き起こすこともある。
特許文献1では、代表的な環境にやさしい金属であるチタンを触媒として使用してポリエステルを製造する技術が開示されている。
【0007】
しかし、チタン触媒は樹脂の黄変化程度が大きくて樹脂の色調が優秀ではなく、熱安定性が優秀ではなく、オリゴマーの含量が多いという問題点があった。このような短所のため、チタン触媒は金属自体の活性が優秀であるにもかかわらず、ポリエステルの製造に商業的に適用することが難しいという限界がある。
【0008】
一方、特許文献2では、環境にやさしい金属であるゲルマニウム、アルミニウム、ジルコニウムを混合使用してポリエステルを製造することに関する内容が開示されている。しかし、ゲルマニウム化合物触媒自体は高い活性を有するが、ゲルマニウム触媒は重合に使用される量が多ければ触媒の高い価格のため商業化への適用が難しいという限界がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】米国公開特許 第2010-0184916号
【特許文献2】米国登録特許 第6,365,659号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は上述したような従来技術の問題点を解決するためのものであって、本発明の一目的は、人体及び環境に有害なアンチモン系触媒を使用しないことで、アンチモンの溶出量がないポリエステル原糸を提供することである。
【0011】
本発明の他の目的は、健康及び環境に問題を引き起こすアンチモン系触媒を使用せず、整経性に優れたポリエステル原糸を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上述した技術的課題を解決するための本発明の1つの様相は、
無機錫化合物触媒の存在下で重合して得られるポリエステルを含むポリエステル原糸に関する。
【0013】
前記無機錫化合物触媒は、無機第1錫化合物(stannous tin compound)または無機第2錫化合物(stannic tin compound)である。
【0014】
前記無機第1錫化合物の非制限的な例としては、酸化第1錫、ピロリン酸第1錫、リン酸第1錫、酒石酸第1錫、酢酸第1錫、シュウ酸第1錫、ステアリン酸第1錫、オレイン酸第1錫、グルコン酸第1錫、クエン酸第1錫、2-エチルヘキサノン酸第1錫、エトキシド第1錫、アセチルアセネート第1錫、及びグリコール酸第1錫からなる群より選択される。
【0015】
前記無機第2錫化合物の非制限的な例としては、酸化第2錫、ピロリン酸第2錫、リン酸第2錫、酒石酸第2錫、酢酸第2錫、シュウ酸第2錫、ステアリン酸第2錫、オレイン酸第2錫、グルコン酸第2錫、クエン酸第2錫、2-エチルヘキサノン酸第2錫、エトキシド第2錫、アセチルアセネート第2錫、及びグリコール酸第2錫からなる群より選択される。
【0016】
前記無機錫化合物触媒は、多種類を複合化してもよく、従来知られている触媒と混合して使用する。
【0017】
前記ポリエステル原糸は、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリテトラメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートの単独または2種以上を含み、そのうち無機錫化合物の残渣を10ppm乃至200ppm含む。
【0018】
前記ポリエステル原糸は芯鞘型複合繊維であり、前記ポリエステルが芯鞘型複合繊維の鞘部に配置されてなされる。
【0019】
本発明のポリエステル原糸は、異形断面糸であるか仮撚捲縮加工糸である。
【0020】
上述した技術的課題を解決するための本発明の他の様相は、
ジカルボン酸成分とグリコール成分のエステル化物からなる重合出発原料を無機錫化合物触媒の存在下で重合してポリエステル重合物を収得した後、溶融紡糸してポリエステル原糸を製造することを特徴とするポリエステル原糸の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0021】
本発明によると、人体及び環境に有害な重金属を含まない触媒を使用することで、環境汚染及び人体に有害な成分を含まないポリエステル原糸を製造することができる。
【0022】
本発明の無機錫化合物からなるポリエステル重合触媒は、環境にやさしいだけでなく、触媒活性が高いため、従来のアンチモン触媒対比触媒投入量を1/5水準に下げることができ、ポリエステルの熱分解物を50%以上改善することができる。
【0023】
本発明のポリエステル原糸は、製糸過程で糸切りや欠陥の発生が少ないため工程性が向上され、人体に有害なアンチモンが溶出されないと共に、優れた整経性を確保することができる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下では、本発明についてより詳細に説明する。
【0025】
本発明を説明するに当たって、関連する公知技術に関する具体的な説明が本発明の要旨を不明確にする恐れがあると判断される場合、その詳細な説明を省略する。本願明細書において、ある部分がある構成要素(成分)を「含む」という際、これは特に反対する記載がない限り、他の構成要素(成分)を除くのではなく、他の構成要素を更に含むことを意味する。
【0026】
本発明の一実施例のポリエステル原糸は、無機錫化合物触媒の存在下で重合して得られるポリエステルを含むことを特徴とする。
【0027】
無機錫化合物触媒は単独に使用してもよく、2種以上を組み合わせるか、または従来知られている触媒と複合して使用してもよい。
【0028】
有機錫化合物触媒は本発明で使用している無機錫化合物に比べ強力な環境規制対象物質であるため、本発明では除外する。
【0029】
本発明で使用される無機錫化合物の場合、従来使用されているアンチモン(Sb)触媒に比べ標準還元電位(redox potential energy)の値が低く、ポリエステル重合反応及び紡糸工程の際に容易に還元されないという著しい利点がある。
【0030】
本発明で使用された無機錫化合物触媒は、重合反応の途中に容易に還元されて活性が低下するか、還元物のため重合反応器内に触媒の残渣物が残るという問題点がなく、紡糸工程の際の圧出器のフィルタ圧力の上昇、及びノズル異物の発生が少ないため、工程性が向上されるという結果が得られる。
【0031】
【0032】
標準還元電位は、その値が大きいほど還元性が大きく、小さいほど還元性が低くなることを意味する。ポリエステルの重合で従来主に使用されていたアンチモン(Sb)は、触媒活性を有する酸化数3または5の状態で標準還元電位が正(+)の値で還元力を有する。
【0033】
それに対し、本発明で使用された無機錫化合物触媒(Inorganic tin compound)は、酸化数2状態で還元されることが非自発的な状態なるため(R.P.Eが負の値)触媒活性を維持し、ポリエステル重合及び圧出工程の際、発生する還元物(触媒残渣物)を減らすことができる。
【0034】
前記無機錫化合物は、特にシュウ酸錫、酢酸錫、またはグリコール酸錫であることが好ましい。
【0035】
前記無機錫化合物は、無機第1錫化合物または無機第2錫化合物である。
【0036】
前記無機第1錫化合物は、酸化第1錫、ピロリン酸第1錫、リン酸第1錫、酒石酸第1錫、酢酸第1錫、シュウ酸第1錫、ステアリン酸第1錫、オレイン酸第1錫、グルコン酸第1錫、クエン酸第1錫、2-エチルヘキサノン酸第1錫、エトキシド第1錫、アセチルアセネート第1錫、及びグリコール酸第1錫からなる群より選択されるものである。
【0037】
前記無機第2錫化合物は、酸化第2錫、ピロリン酸第2錫、リン酸第2錫、酒石酸第2錫、酢酸第2錫、シュウ酸第2錫、ステアリン酸第2錫、オレイン酸第2錫、グルコン酸第2錫、クエン酸第2錫、2-エチルヘキサノン酸第2錫、エトキシド第2錫、アセチルアセネート第2錫、及びグリコール酸第2錫からなる群より選択されるものである。
【0038】
本発明の無機錫化合物触媒は、ポリエステル重合の際にいずれのステップでも投入可能である。例えば、エステル化反応ステップ前のスラリ製造の際(EG/TPA混合物)にのみ投入するか、エステル化反応ステップにのみ投入するか、エステル化反応ステップの重縮合ステップにのみ投入するか、エステル化反応ステップ前のスラリ製造の際、エステル化反応ステップ、及び重縮合ステップのいずれにも投入される。但し、ジカルボン酸成分及びグリコール成分をエステル化反応させた後、反応物を重縮合してポリエステルを製造する場合、前記無機錫化合物触媒はエステル化反応物の重縮合ステップに添加することが好ましい。
【0039】
前記無機錫化合物触媒は、触媒自体をポリエステル工程に粉末で添加するか、または触媒溶液の状態に投入する方式と、触媒をエチレングリコール溶液に調製して投入する方式のいずれも使用可能である。但し、触媒をエチレングリコール溶液に調製して投入する際、好ましくは、エチレングリコール溶液と前記無機錫化合物を反応させてグリコール酸錫の形に調製して投入する。
【0040】
通常のポリエステル重合触媒として使用されるアンチモン系触媒は触媒活性が低く、ポリエステルを基準に50ppm乃至500ppm(Sb元素量基準)を使用している。
【0041】
それに対し、本発明で新規に適用される無機錫化合物触媒の場合、10ppm乃至200ppm、好ましくは10ppm乃至100ppm(Sn元素量)の少量でも同等な重縮合反応性を十分に確保することができる。
【0042】
このような低い触媒含量によってポリエステルの触媒異物が改善され、触媒還元物による紡糸工程における異物の発生が低いため、ダイ異物が改善されるという効果が得られる。
【0043】
本発明の無機錫化合物触媒は、アンチモン系触媒とは異なって金属自体の毒性が相対的に低くて人と環境に問題を引き起こす恐れが低く、アンチモンを排出しない。
他の非アンチモン触媒であるチタン化合物触媒を使用したポリエステル原糸はアンチモンが溶出されないが、整経性がよくないという問題があるのに対し、無機錫化合物触媒を使用した本発明のポリエステル原糸はアンチモンが溶出されないながらも優れた整経性を有する。
【0044】
本発明で使用されるポリエステル重合物は最小限85%のエチレンテレフタレート単位を含むが、好ましくはエチレンテレフタレート単位のみからなる。選択的に、前記ポリエステルはエチレングリコール及び芳香族ジカルボン酸、或いはこれらの誘導体以外の1つまたはそれ以上のエステル形成成分から誘導される少量の単位を共重合体単位として編入する。
【0045】
エチレンテレフタレート単位と共重合可能な他のエステル形成成分の例としては、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオールなどのようなグリコールと、テレフタル酸、イソフタル酸、ヘキサヒドロテレフタル酸、スチルベンジカルボン酸、ビベンゾ酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼラ酸のようなジカルボン酸を含む。
【0046】
前記ポリエステル原糸において、短繊維の断面形状は特に限らない。また、このようなポリエステル原糸には通常の空気加工、仮撚捲縮加工、撚糸が実施されていてもかまわない。
本発明によるポリエステル原糸の強度は3.0g/d以上であることが好ましいが、3.0g/d未満であれば強度が低下し、原反として製造する際に引裂強度が低下するため好ましくない。
【0047】
本発明のポリエステル原糸は、織物、編物、不織布のような布帛に加工される。例えば、織物の織としては平織、斜文織、朱子織などの3元組織、変化組織、変化斜文織などの変化組織、経二重織、緯二重織などの平二重織組織、経ビロード、タオル、ベロアなどの経パイル織、綿ビロード、緯ビロード、ベルベット、コーデュロイなどの緯パイル織などが挙げられる。また、これらの織組織を有する織物はレピア織機やエアジェット織機などの通常の織機を利用して通常の方法によって製織される。
【0048】
層数も特に限らず、単層であってもよく、2層以上の多層構造を有する織物であってもよい。
【0049】
また、編物の種類としては緯編物であってもよく、経編物であってもよい。緯編組織としては平編、ゴム編、両面編、パール編、タック編み、浮編(float stitch)、ハーフカーディガン編、レース編、プレーティング編などが好ましく挙げられ、経編組織としてはシングルデンビー(denbigh)編、シングルアトラス(atlas)編、ダブルコード編、ハーフトリコット編、フリーシー(fleecy)編、ジャカード編などが好ましく挙げられる。
【0050】
また、製編は、丸編機、横編機、トリコット編機、ラッセル編機などの通常の編機を利用して通常の方法によって製編する。層数も特に限らず、単層であってもよく、2層以上の多層構造を有する編物であってもよい。
【0051】
次に、本発明の繊維製品は、前記布帛を利用してなされ、スポーツウェア、アウトドアウェア、レインコート、かさ地、紳士衣服、夫人衣服、作業服、防護服、人工皮革、靴、かばん、カーテン、防水シート、テント、カーシートの群より選択されるいずれか1つの繊維製品である。
【0052】
本発明の他の様相は、ポリエステル原糸の製造方法に関する。本発明の方法では、ジカルボン酸成分とグリコール成分のエステル化物からなる重合出発原料を無機錫化合物触媒の存在下で重合してポリエステル重合物を収得した後、溶融紡糸してポリエステル原糸を製造する。
【0053】
ポリエステル重合物を製造する際には、無機錫化合物を含む触媒組成物の存在下、ジカルボン酸成分及びグリコール成分を重合する。
【0054】
ジカルボン酸成分及びグリコール成分を重合するステップは、前記ジカルボン酸成分とグリコール成分をエステル化反応するステップと、前記エステル化反応の反応物を重縮合するステップと、を含む。前記エステル化反応ステップでは、エステル交換反応によって低重合体を得た後、有機高分子粒子、また各種添加物を加え、重縮合触媒として無機錫化合物を加えて重縮合反応を実施して、高分子量のポリエステルを得る。
【0055】
より詳しくは、まずジカルボン酸成分とグリコール成分をエステル反応させる。本発明の一実施例によると、前記ジカルボン酸成分としては、例えば、テレフタル酸、シュウ酸、マロン酸、アゼラ酸、フマル酸、ピメリン酸、スベリン酸、イソフタル酸、ドデカンジカルボン酸、ナフタレンジカルボン酸、ビフェニルジカルボン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、1,3-シクロヘキサンジカルボン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、セバシン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、1,2-ノルボルナンジカルボン酸、1,3-シクロヘキサンジカルボン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、1,3-シクロブタンジカルボン酸、1,4-シクロブタンジカルボン酸、5-ナトリウムスルホイソフタル酸、5-カリウムスルホイソフタル酸、5-リチウムスルホイソフタル酸、または2-ナトリウムスルホテレフタル酸などが挙げられるが、特にこれに限らない。
【0056】
上述したジカルボン酸以外に、本発明の目的を阻害しない範囲内で、前記で例示していない他のジカルボン酸を使用してもよい。
【0057】
本発明の一実施例によると、前記ジカルボン酸成分としてテレフタル酸を使用する。
本発明の一実施例によると、前記グリコール成分としては、例えば、エチレングリコール、1,2-プロピレングリコール、1,2-ブチレングリコール、1,3-ブチレングリコール、2,3-ブチレングリコール、1,4-ブチレングリコール、1.5-ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,3-プロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,2-シクロヘキサンジオール、1,3-シクロヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジオール、プロパンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、テトラメチルシクロブタンジオール、1,4-シクロヘキサンジエタノール、1,10-デカメチレングリコール、1,12-ドデカンジオール、ポリオキシエチレングリコール、ポリオキシメチレングリコール、ポリオキシテトラメチレングリコール、またはグリセロールなどが挙げられるが、特にこれに限らず、その他に本発明の目的を阻害しない範囲内で他のグリコールを使用してもよい。
【0058】
好ましくは、前記グリコール成分としてエチレングリコールを使用する。
【0059】
本発明の一例によると、前記ジカルボン酸成分及びグリコール成分をエステル化反応するステップは、約200℃乃至約300℃、好ましくは、約230℃乃至約280℃の温度で約1乃至6時間半の間、好ましくは、約2乃至5時間の間反応することで行われる。
【0060】
次に、前記エステル化反応の反応物を重縮合する。前記エステル化反応の反応物を重縮合するステップは、約200℃乃至約300℃、好ましくは、約260℃乃至約290℃の温度、及び約0.1乃至約1torrの減圧条件で、約1乃至約3時間の間、好ましくは、約1時間30分乃至2時間30分の間反応させることで行う。
【0061】
本発明の無機錫化合物触媒は、エステル化反応前のスラリ製造の際、またはエステル化反応に、そして、エステル化反応後の重縮合ステップの前に投入される。
【0062】
但し、本発明の無機錫化合物触媒をエステル化反応に投入したらエステル化反応が改善される効果があるが、重縮合時間の改善効果が少なく、エステル化反応のうち副反応物であるジエチレングリコール(DEG)の含量が多少増加するという問題が発生する恐れがあるため、本発明では前記エステル化反応後の反応物を重縮合するステップに投入することが好ましい。このようにすることで、従来の触媒を使用する場合より、重縮合時間を大幅に短縮して生産性を上げることができる。
【0063】
本発明のポリエステル原糸の製造方法において、前記無機錫化合物触媒の場合、最終的に生産されるポリエステルの質量に対して前記無機錫化合物触媒に含まれた錫元素の含量を基準に約200ppm以下、例えば、約10乃至約200ppm、好ましくは、約10ppm乃至100ppmを使用する。
【0064】
本発明において、無機錫化合物触媒の量が10ppmより少なければ、重合反応速度が遅くなって粘度が低い重合物になり原糸製造の際の物性が低く、紡糸作業性が落ちて生産性が落ちるようになる。無機錫化合物触媒の量が200ppmより多ければ、必要以上の無機錫化合物が異物として作用して紡糸及び延伸の作業性を低下させる恐れがあり、整経性が落ちるようになる。
【0065】
本発明によると、無機錫化合物を使用することで触媒を少量使用しても重合物反応を行うことができる。また、短い反応時間で高い粘度の生成物を収得することができる。このように触媒の使用量を減らすことができるため、重合後に生成されるポリエステル重合物の黒化(greyish)現象を減らし、従来の低い粘度を上げることができるため、商業的に非常に有利である。
【0066】
本発明のポリエステル原糸の製造方法によると、前記ポリエステルは液状重合によって形成されるが、この際に形成されたポリエステルは固有粘度が約0.50乃至0.75dl/gの範囲を有する。
【0067】
ポリエステルの固有粘度が0.50dl/gより小さければ、ポリエステル原糸の引張強度が低下する恐れがある。逆に、ポリエステルの固有粘度が0.75dl/gより大きければ、ポリエステル原糸を製造する際に生産性が低下する恐れがある。
【0068】
ポリエステル重合物の紡糸方法としては通常の溶融紡糸法によって繊維を製造するが、紡糸・延伸を2ステップで実施する方法及び1ステップで実施するステップを採用する。
【0069】
紡糸過程ではポリエステルチップを280~320℃の温度で溶融し圧出して紡糸した後、急冷固化する。冷却ステップで冷却空気を吹き入れる方法によって、オープン冷却(open quenching)法、円形密閉冷却(circular closed quenching)法、紡糸型アウトフロー冷却(radial outflow quenching)法、及び紡糸型インフロー冷却(radial in flow quenching)法などを適用する。
【0070】
一般に、冷却空気の温度は20~50℃に調節される。冷却を経て固化した放出糸を油剤付与装置によってオイリングする。
【0071】
以下、本発明による実施例を参照して、本発明をより詳細に説明する。但し、このような実施例は発明の例示として提示されたものに過ぎず、それによって本発明の権利範囲が限定されることはない。
【0072】
実施例
実施例1
触媒溶液の製造
下記表1に記載の無機錫化合物触媒5gを総質量が2kgになるようにエチレングリコールに希釈し、撹拌速度400rpmで撹拌して、無機錫化合物触媒をエチレングリコールに0.25%の濃度で調製した。次に、反応温度160~180℃で2時間還流可能な反応器で反応させ、無機錫化合物触媒を生成した。
【0073】
ポリエステルチップの製造
テレフタル酸(TPA)7.8kgとエチレングリコール(EG)3.3kgでスラリを調製(EG/TPAモル比=1.13)し、エステル化反応器にセミ-バッチ方式で投入して、窒素雰囲気の常圧反応で反応温度が265℃になるまで反応し、ポリエステルオリゴマーを製造した。
【0074】
この際、エステル化反応温度はスラリ投入温度235℃、最終エステル化反応終了温度は265℃で、反応時間は3時間30分程度である。エステル化反応器で作られたPETオリゴマーを重縮合反応器に移送し、酸化錫触媒を最終収得されるPETを基準に200ppm入れ、約2時間30分にかけて高真空減圧下、反応温度が288℃に至るまで重縮合を実施した。重縮合反応終了後、冷却水を利用して固体化し、固有粘度(IV)0.60~0.65dl/g水準のポリエチレンテレフタレート重合物を収得した。
【0075】
ポリエステル原糸の製造
製造されたチップは圧出器を使用して290℃の温度で溶融紡糸し、次に、放出糸をノズル直下長さ60mmの加熱区域(雰囲気温度340℃)、長さ500mmの冷却区域(20℃、0.5m/秒の風速を有する冷却空気を吹き入れる)を通過させて固化した後、紡糸油剤(パラピンオイル成分70%含有)でオイリングした。これを下記4,500m/minの紡糸速度で、延伸比2.25で巻き取って、50d/24fの最終ポリエステル原糸を製造した。
【0076】
実施例2~100
触媒として下記表1乃至表5に示した無機錫化合物を10~200ppm使用して製造されたポリエステルチップを使用したことを除いては、実施例1と同じく実施してポリエステル原糸を製造した。
【0077】
比較例1
触媒を使用していないことを除いては、実施例1と同じく実施してポリエステル原糸を製造した。
【0078】
比較例2
アンチモン化合物40gを総質量が2kgになるようにエチレングリコールに溶解し、400rpmで撹拌して触媒溶液を製造した。還流可能な反応器で反応温度180~190℃で2時間反応させ、アンチモングリコレート溶液を生成した。収得されたアンチモン化合物触媒溶液を使用して重合されたポリエステルを使用したことを除いては、実施例1と同じく実施してポリエステル原糸を製造した。
【0079】
比較例3~9
触媒として下記表1に示したアンチモン触媒を使用して製造されたポリエステル重合物を使用したことを除いては、実施例1と同じく実施してポリエステル原糸を製造した。
【0080】
比較例10
チタン化合物40gを総質量が2kgになるようにエチレングリコールに溶解し、400rpmで撹拌して触媒溶液を製造した。還流可能な反応器で反応温度180~190℃で2時間反応させ、チタングリコレート溶液を生成した。収得されたチタン触媒溶液を使用して重合されたポリエステルを使用したことを除いては、実施例1と同じく実施してポリエステル原糸を製造した。
【0081】
比較例11~17
触媒として下記表1に示したチタン化合物触媒を使用して製造されたポリエステル重合物を使用したことを除いては、実施例1と同じく実施してポリエステル原糸を製造した。
【0082】
比較例18~77
触媒として下記表1乃至表5に示した無機錫化合物を1ppmまたは8ppmまたは500ppm使用して製造されたポリエステル重合物を使用したことを除いては、実施例1と同じく実施してポリエステル原糸を製造した。
【0083】
試験例
前記実施例1~100及び比較例1~77によって製造されたポリエステル原糸に対する物性を以下の方法で評価し、その結果を下記表1乃至表5に示した。
【0084】
(1)原糸の強伸度の測定方法
原糸を標準状態の条件、つまり、温度25℃と相対湿度65%の恒温恒湿室で24時間放置した後、ASTM 2256方法で試料を引張試験機によって測定する。
【0085】
(2)紡糸工程の糸切りの数
8pos.の紡糸機で24時間紡糸する際の糸切りの回数を記録する。
糸切り数(ea/pos./日)=糸切り数/8pos.×24時間/生産時間
【0086】
(3)整経性
整経機(Beamer)に原糸を入れて整経される原糸の作業中断の数(糸切りによる作業中断をセンサによって感知)を記録し、千万m当たりの作業中断の数と表示する。整経性は使用者によって異なるが、通常0.5ea/千万m以上であれば不良に当たり、1.0ea/千万m以上であれば原反として作れない水準である。
【0087】
(4)アンチモンの溶出量
アンチモンの溶出量はDIN EN 16711-2(2016)方法で測定する。
【0088】
【表1】
【0089】
【表2】
【0090】
【表3】
【0091】
【表4】
【0092】
【表5】
【0093】
前記表1乃至表5を参照すると、実施例1~100の場合、生成されたポリエチレンテレフタレート原糸の物理的性質がアンチモン触媒を使用した比較例2~9に比べ同等以上に優れており、アンチモンの溶出量が発生していないことを確認した。また、チタン化合物を使用した比較例10~17の場合、アンチモンは溶出されなかったが、整経性が高く原糸として使用するには負適合していることを確認した。
【産業上の利用可能性】
【0094】
本発明によると、優れた製造工程性を有するポリエステル原糸が提供される。前記ポリエステル原糸は殆ど毛羽が立たないため整経性に優れ、アンチモンが溶出されない非常に高品質の衣料用原糸の製造を可能にする。本発明のポリエステル原糸は、有利には高品質の衣類、インテリア用の織物材料として利用される。
【0095】
これまで本発明はたとえ限定された実施例によって説明されたが、本発明はそれによって限定されず、本発明の属する技術分野における通常の知識を有する者に本発明の技術思想と多様な修正及び変形が可能なことはもちろんである。
【0096】
よって、本発明の真の保護範囲は以下に記載の特許請求の範囲及びそれと均等な範囲に決められるべきである。
【国際調査報告】