(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-09-07
(54)【発明の名称】気道疾患の治療に使用するための(1R,3S)-3-((5-シアノ-4-フェニルチアゾール-2-イル)カルバモイル)シクロペンタン-1-カルボン酸およびその誘導体
(51)【国際特許分類】
C07D 277/56 20060101AFI20230831BHJP
A61K 31/426 20060101ALI20230831BHJP
A61P 11/00 20060101ALI20230831BHJP
A61P 11/06 20060101ALI20230831BHJP
A61P 11/02 20060101ALI20230831BHJP
A61P 37/08 20060101ALI20230831BHJP
A61K 31/573 20060101ALI20230831BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20230831BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20230831BHJP
A61K 31/137 20060101ALI20230831BHJP
A61K 31/4418 20060101ALI20230831BHJP
【FI】
C07D277/56 CSP
A61K31/426
A61P11/00
A61P11/06
A61P11/02
A61P37/08
A61K31/573
A61P43/00 121
A61K39/395 N
A61K31/137
A61K31/4418
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023512647
(86)(22)【出願日】2021-08-20
(85)【翻訳文提出日】2023-04-14
(86)【国際出願番号】 EP2021073133
(87)【国際公開番号】W WO2022038261
(87)【国際公開日】2022-02-24
(32)【優先日】2020-08-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】515201268
【氏名又は名称】パロビオファルマ、ソシエダッド、リミターダ
【氏名又は名称原語表記】PALOBIOFARMA S.L
(74)【代理人】
【識別番号】110003421
【氏名又は名称】弁理士法人フィールズ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】フリオ、カストロ、パロミノ、ラリア
(72)【発明者】
【氏名】フアン、カマーチョ、ゴメス
(72)【発明者】
【氏名】ナオミ、カストロ、パロミノ、ラリア
(72)【発明者】
【氏名】アリーナ、アリオサ、アルバレス
【テーマコード(参考)】
4C085
4C086
4C206
【Fターム(参考)】
4C085AA14
4C085BB11
4C085EE01
4C085EE03
4C086AA01
4C086AA02
4C086BC82
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4C086ZB13
4C086ZC75
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4C206ZA59
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4C206ZB13
4C206ZC75
(57)【要約】
本発明は、末梢血好酸球レベルが上昇している対象においてとりわけアレルギー性喘息、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、特発性肺線維症(IPF)、閉塞性睡眠時無呼吸、アレルギー性鼻炎などの気道疾患の治療に使用するための(1R,3S)-3-((5-シアノ-4-フェニルチアゾール-2-イル)カルバモイル)シクロペンタン-1-カルボン酸、その薬学上許容される塩およびその共結晶および前記化合物を含む医薬組成物、末梢血好酸球レベルが上昇している対象におけるとりわけアレルギー性喘息、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、特発性肺線維症(IPF)、閉塞性睡眠時無呼吸、アレルギー性鼻炎などの気道疾患の治療のための薬剤の製造のための前記化合物の使用、ならびに前記化合物を投与することによる末梢血好酸球レベルが上昇している対象のとりわけアレルギー性喘息、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、特発性肺線維症(IPF)、閉塞性睡眠時無呼吸、アレルギー性鼻炎などの気道疾患の治療方法に関する。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
治療前の末梢血好酸球レベルが300個/μL以上であるヒト対象において、気道疾患の治療に使用するための、式(I):
【化1】
の化合物であって、前記治療が前記対象に治療上有効な量の前記化合物を投与することを含む、化合物。
【請求項2】
好酸球性気道疾患が、アレルギー性喘息、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、特発性肺線維症(IPF)、閉塞性睡眠時無呼吸およびアレルギー性鼻炎から選択される、請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
アレルギー性喘息が、軽度、中等度および重度喘息から選択される、請求項2に記載の化合物。
【請求項4】
経口経路により投与される、請求項1~3のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項5】
1日1回または1日2回投与される、請求項1~4のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項6】
1日1回投与される、請求項5に記載の化合物。
【請求項7】
5~40mgの用量で投与される、請求項1~6のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項8】
5~20mgの用量で投与される、請求項7に記載の化合物。
【請求項9】
化合物(I)の投与が末梢血好酸球レベルをベースラインから5%~30%低下させる、請求項1~8のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項10】
化合物(I)の投与がトラフFEV1を110~200mL増加させる、請求項1~9のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項11】
化合物(I)が、式(I)の化合物またはその薬学上許容される塩もしくは共結晶と、ブデソニド、フルチカゾン、ベクロメタゾン、モメタゾンなどのコルチコステロイド、サルメテロールおよびフォルモテロールなどの気管支拡張薬、ならびにデュピルマブ、レスリズマブ、メポリズマブ、イマチニブ、レブリキズマブ、AK002、ベンラリズマブ、トラロキヌバムから選択される生物製剤、ならびにピルフェニドンおよびニンテダニブなどの抗線維化薬からなる群から選択される1以上の薬剤とを含む組合せ製剤中に存在する、請求項1に記載の化合物。
【請求項12】
治療前の末梢血好酸球レベルが300個/μL以上であるヒト対象における気道疾患の治療のための薬剤の製造のための式(I):
【化2】
の化合物の使用であって、前記治療が前記対象に治療上有効な量の前記化合物を投与することを含む、使用。
【請求項13】
好酸球性気道疾患が、アレルギー性喘息、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、特発性肺線維症(IPF)、閉塞性睡眠時無呼吸およびアレルギー性鼻炎から選択される、請求項12に記載の使用。
【請求項14】
前記アレルギー性喘息が、軽度、中等度および重度喘息から選択される、請求項13に記載の使用。
【請求項15】
前記化合物が経口経路により投与される、請求項12~14のいずれか一項に記載の使用。
【請求項16】
前記化合物が1日1回または1日2回投与される、請求項12~15のいずれか一項に記載の使用。
【請求項17】
前記化合物が1日1回投与される、請求項16に記載の使用。
【請求項18】
前記化合物が5~40mgの用量で投与される、請求項12~17のいずれか一項に記載の使用。
【請求項19】
前記化合物が5~20mgの用量で投与される、請求項18に記載の使用。
【請求項20】
化合物(I)の投与が末梢血好酸球レベルをベースラインから5%~30%低下させる、請求項12~19のいずれか一項に記載の使用。
【請求項21】
化合物(I)の投与がトラフFEV1を110~200mL増加させる、請求項12~20のいずれか一項に記載の使用。
【請求項22】
化合物(I)が、式(I)の化合物またはその薬学上許容される塩もしくは共結晶と、ブデソニド、フルチカゾン、ベクロメタゾン、モメタゾンなどのコルチコステロイド、サルメテロールおよびフォルモテロールなどの気管支拡張薬、ならびにデュピルマブ、レスリズマブ、メポリズマブ、イマチニブ、レブリキズマブ、AK002、ベンラリズマブ、トラロキヌバムから選択される生物製剤、ならびにピルフェニドンおよびニンテダニブなどの抗線維化薬からなる群から選択される1以上の薬剤とを含む組合せ製剤中に存在する、請求項12に記載の使用。
【請求項23】
治療前の末梢血好酸球レベルが300個/μL以上であるヒト対象の気道疾患の治療方法であって、前記対象に治療上有効な量の式(I):
【化3】
の化合物を投与することを含む、方法。
【請求項24】
好酸球性気道疾患が、アレルギー性喘息、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、特発性肺線維症(IPF)、閉塞性睡眠時無呼吸およびアレルギー性鼻炎から選択される、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記アレルギー性喘息が、軽度、中等度および重度喘息から選択される、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記化合物が経口経路により投与される、請求項23~25のいずれか一項に記載の方法。
【請求項27】
前記化合物が1日1回または1日2回投与される、請求項23~26のいずれか一項に記載の方法。
【請求項28】
前記化合物が1日1回投与される、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
前記化合物が5~40mgの用量で投与される、請求項23~28のいずれか一項に記載の方法。
【請求項30】
前記化合物が5~20mgの用量で投与される、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
化合物(I)の投与が末梢血好酸球レベルをベースラインから5%~30%低下させる、請求項23~30のいずれか一項に記載の方法。
【請求項32】
化合物(I)の投与がトラフFEV1を110~200mL増加させる、請求項23~31のいずれか一項に記載の方法。
【請求項33】
化合物(I)が、式(I)の化合物またはその薬学上許容される塩もしくは共結晶と、ブデソニド、フルチカゾン、ベクロメタゾン、モメタゾンなどのコルチコステロイド、サルメテロールおよびフォルモテロールなどの気管支拡張薬、ならびにデュピルマブ、レスリズマブ、メポリズマブ、イマチニブ、レブリキズマブ、AK002、ベンラリズマブ、トラロキヌバムから選択される生物製剤、ならびにピルフェニドンおよびニンテダニブなどの抗線維化薬からなる群から選択される1以上の薬剤とを含む組合せ製剤中に存在する、請求項1に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、末梢血好酸球レベルが上昇している対象におけるとりわけアレルギー性喘息、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、特発性肺線維症(IPF)、閉塞性睡眠時無呼吸、アレルギー性鼻炎などの気道疾患の治療に使用するための(1R,3S)-3-((5-シアノ-4-フェニルチアゾール-2-イル)カルバモイル)シクロペンタン-1-カルボン酸、その薬学上許容される塩およびその共結晶ならびに前記化合物を含む医薬組成物に関する。
【0002】
本発明の他の目的は、末梢血好酸球レベルが上昇している対象への式(I)の化合物の投与による、または式(I)の化合物を含む医薬組成物もしくは組合せ製剤の投与による、疾患の治療のための方法を提供することである。
【背景技術】
【0003】
好酸球増多症は、喘息、COPD、アレルギー性鼻炎などの気道疾患に関連して起こることがある障害である。これらの疾患の多くは、コルチコステロイド(局所用または全身)で治療され、好酸球と、誘因となる細胞集団である可能性のあるリンパ球などの他の免疫細胞の両方を標的とする(Kuang, F. L, Approach to Patients with Eosinophilia, Med Clin N Am 104 (2020) 1-14)。
【0004】
特に、血中好酸球は、特定の対象の喘息およびCOPD表現型の特徴である気道炎症の潜在的代替バイオマーカーとして広く記載されている。近年、気管支および/または肺の炎症の代替マーカーとして、末梢血球中の同時期の好酸球の測定が検討されている。ほとんどの研究では、喘息患者を好酸球性喘息と分類するための血中好酸球のカットオフ値は300個/μLとされている(Kostikas, K et al, Blood Eosinophils as Biomarkers to Drive Treatment Choices in Asthma and COPD, Curr Drug Targets. 2018 Dec; 19(16): 1882-1896)。
【0005】
現在、好酸球を標的とした療法は、疾患のフレイルを軽減することが示されており、そのいくつかは重症好酸球性喘息および多発血管炎を伴う好酸球性肉芽腫症で国の承認を得ている。上記の療法は、モノクローナル抗体のような生物製剤の使用に関連するものである。好酸球に関連する様々な症状で評価されている低分子薬はほとんどない(Klion, A. D et al, Contributions of Eosinophils to Human Health and Disease, Annu. Rev. Pathol. Mech. Dis. 2020.15:179-209)。
【0006】
好酸球の違いは広範であるが、一般に集団にアトピーの頻度が高いため、アトピーに続発する血中好酸球増多がよくみられる。組織好酸球は、喘息および好酸球性胃腸障害などの疾患において、制御不能なアトピー性炎症における末端臓器の線維化および損傷に寄与していると考えられている。軽度から中等度の末梢好酸球増多は、アトピー性疾患においてよく見られる所見であるが、アトピー性障害における好酸球は、通常、アトピー性障害によって主に影響を受ける組織以外の組織には浸潤していない。末梢血好酸球数は、いくつかのアトピー性障害において疾患活動性と相関する可能性のあるバイオマーカーとして使用できる可能性があるという証拠が増えてきている(Cafone, J et al, The Role of Eosinophils in Immunotherapy, Current Allergy and Asthma Reports (2020) 20:1)。
【0007】
喘息
喘息は、通常、慢性の気道炎症を特徴とする異質な疾患である。喘息は、呼気流量制限の変動とともに、時間および強度によって変化する喘鳴、息切れ、胸部圧迫感および咳などの呼吸器症状の既往歴により定義される。これらのバリエーションは、アレルゲンまたは刺激物への暴露、ウイルス性呼吸器感染症、運動または天候の変化などの要因によって引き起こされることが多い。
【0008】
アレルギー性喘息の別の治療として、特異的免疫療法に基づき、すなわち、アレルゲンの用量を増加させながら繰り返し投与することにより感受性低下を誘導し、従って、当該アレルゲンに再度曝露した際に症状を軽減させる。免疫療法の効果は、なお限定的であり、患者によって大きく異なることが知られている。
【0009】
アレルギー性喘息のさらに別の治療は、モノクローナル抗体などの生物製剤の使用に関し、ほとんどの場合、非経口/静脈内投与される。抗体自体はタンパク質なので、投与することでアレルギー反応または標的とする抗原に関連した他の副作用を引き起こすことがある。また、それらは高コストであり、投与および管理が複雑で、世界中で広く使われているわけではない。
【0010】
最近、管理されていない喘息の治療として承認された抗体の1つとして、中等度から重度の好酸球性喘息(通常はコルチコステロイドまたは別の薬物を使用)の治療のための抗IL5抗体であるレスリズマブがある。レスリズマブは、好酸球の増殖および/または産生を遮断する。特許出願WO2016/040007A1は、血中好酸球レベルが上昇した(>400個/μL)喘息患者に対する治療を開示し、この抗体の有効性がベースラインの血中好酸球レベルに関連することを実証した(400個/μL未満では統計的に有意な有効性を示さなかった)。
【0011】
最近承認されたもう一つの抗体としてデュピルマブがあり、これはインターロイキン-4(IL-4)受容体α拮抗薬である。これはIL-4およびIL-13受容体複合体が共通に有するIL-4受容体αサブユニットに特異的に結合することによってIL-4およびインターロイキン-13(IL-13)のシグナル伝達を阻害する免疫グロブリンG4サブクラスのヒトモノクローナル抗体である。しかしながら、好酸球を標的とする他の生物製剤とは異なり、デュピルマブの有効性は、300個/μl以上の患者サブグループのみならず、全集団でも好酸球数300個/μl未満のサブグループでも、重症増悪の減少、FEV1および患者が報告した転帰の改善の数値的および/または有意な減少が観察された(Kostikas K. et al, Blood Eosinophils as Biomarkers to Drive Treatment Choices in Asthma and COPD, Curr Drug Targets . 2018;19(16):1882-1896)。
【0012】
低分子化合物に関して、テオフィリンはキサンチン誘導体であり、60年以上喘息の治療に使用されているが、気管支拡張に必要な用量では重大な副作用が示されている。テオフィリンは、弱い非選択性のアデノシン拮抗薬であり、さらに様々なホスホジエステラーゼのファミリーの阻害剤でもある。従って、テオフィリンは低い治療指数を示し、薬物濃度を厳密に監視しなければならない(Scheiff A. B. et al, 2-Amino-5-benzoyl-4-phenylthiazoles: Development of potent and selective adenosine A1 receptor antagonists, Bioorg. Med. Chem. 18 (2010) 2195-2203)。
【0013】
いくつかのアデノシンA1受容体拮抗薬化合物は、選択的で非キサンチン誘導体であり、ヒトにおいて心不全および腎機能不全などの適応症に関しての臨床開発の段階に達しているが、前記治療の有効性が確認されたものはない。その他、肝線維症/脂肪沈着症、敗血症、神経変性疾患および運動障害などの他の適応症で同クラスの他の化合物が提案されているが(A2A/A1二重活性拮抗性を有する化合物)、臨床開発段階には至っていない(Giorg I et al, Adenosine A1 modulators: a patent update (2008 to present), Expert Opin. Ther. Patents (2013) 23(9))。
【0014】
L-97-1は、数年前に記載されたアデノシンA1受容体拮抗薬であるが、臨床開発段階には至っていない。当該化合物は、ハウスダストダニ(HDM)抗原投与後の初期および後期のアレルギー反応、ならびにヒスタミンに対する気管支の過敏性および気道炎症を評価するために、アレルギー性ウサギ喘息モデルで研究された。当該試験において、L-97-1は、HDM抗原投与の6時間後までしか、動物の気管支肺胞洗浄液(BALF)中の好酸球数を減少させなかった(Nadeem A. et al, Adenosine A1 receptor antagonist versus montelukast on airway reactivity and inflammation, European Journal of Pharmacology 551 (2006) 116-124)。この参考文献には、L-97-01の血中好酸球レベルを低下させる可能性についての開示も示唆もない。
【0015】
COPD
好酸球性気道炎症、例えば、慢性閉塞性肺疾患(COPD)を有する患者の一部に伴うことがある他の慢性肺疾患も存在する。2つの観察研究では、血中好酸球数は、喀痰好酸球数の上昇とプレドニゾロンへの陽性応答を伴うCOPDの増悪の顕著なバイオマーカーであることが示されている(Pavord, I. D., Blood Eosinophil-directed Management of Airway Disease: The Past, Present and Future, AJRCCM Articles in Press. Published May 01, 2020)。
【0016】
慢性閉塞性肺疾患(COPD)において、国際的な診断・治療ガイドラインは、アレルギーの治療に関する推奨を組み込んでいない。このように推奨されていないのは、主として、COPDの病態および転帰におけるアトピーの役割について十分な知見が得られていないためである。しかしながら、COPD患者の18%前後がアトピーであり、アトピーはCOPD発症の潜在的リスク因子であることが報告されている。そのため、アトピーとCOPDの関連性、およびこの疾患の転帰に及ぼす影響を見出すことに関心が高まっている。
【0017】
欧州慢性閉塞性肺疾患学会(European Respiratory Society on Chronic Obstructive Pulmonary Disease)(EUROSCOP)は、喫煙COPD患者において、3年間の吸入ブデソニド治療が肺機能低下に及ぼす影響を評価する大規模多施設研究を実施し、COPD患者にはアトピーが存在し、呼吸器症状の高い有病率と発生率が伴うと結論付けた。この研究は、COPDの慣例の精密検査において、アトピーの状態を忘れてはならないことを指摘している(Fattahi, F. et al, Atopy is a risk factor for respiratory symptoms in COPD patients: results from the EUROSCOP study, Respiratory Research 2013, 14:10)。
【0018】
特許出願US2015/0104447A1は、IL5-受容体α鎖を標的とするヒト化、アフコシル化モノクローナル抗体であるベンラリズマブを開示している。ベンラリズマブは、活性化されたナチュラルキラー細胞によって誘導される好酸球のアポトーシスを介した抗体依存性、細胞媒介性の細胞傷害性によって好酸球を枯渇させる。
【0019】
ベースライン喀痰好酸球が高い(≧3%)COPD患者において抗IL5R抗体ベンラリズマブを用いた最初の試験では、増悪率、SGRQ-Cおよび自記式慢性呼吸器質問票(CRQ-SAS)得点、およびFEV1に数値的改善を示したが、これらの改善は統計的に有意なものではなかった(Kostikas K. et al, Blood Eosinophils as Biomarkers to Drive Treatment Choices in Asthma and COPD, Current Drug Targets, 2018, 19, 1882-1896)。
【0020】
同様に、別の抗IL-5モノクローナル抗体であるメポリズマブは、ベースライン好酸球が高いCOPD患者において、プラセボと比較して喀痰および血中好酸球数を有意に減少させたが、この場合にもこれらの違いは、肺機能パラメータ、増悪率、および健康関連の生活の質の群間の有意差には表れなかった(Kostikas K. et al, Blood Eosinophils as Biomarkers to Drive Treatment Choices in Asthma and COPD, Current Drug Targets, 2018, 19, 1882-1896)。
【0021】
低分子化合物では、長時間作用型の経口PDE-4阻害剤であるRロフルミラストが好酸球および好中球による生じる炎症、気道リモデリング、および気管支収縮に大きな効果を示し、COPDおよび喘息患者の治療に良好な成績を収めた(Zhang X. et al, Pharmacological mechanism of roflumilast in the treatment of asthma-COPD overlap, Drug Des Devel Ther. 2018; 12: 2371-2379)。
【0022】
ロフルミラストの経口投与による抗炎症能を評価するための研究では、ブラウンノルウェーラットの気管支肺胞洗浄液中の抗原誘発性の細胞浸潤、総タンパク質、およびTNFα濃度を測定した。ロフルミラストは、ラットの気管支肺胞洗浄液(BALF)の好酸球増加を抑制し、リポ多糖(LPS)誘発性の循環TNFαを無効化したことから、喘息および慢性閉塞性肺疾患の治療のための新しい薬物となる可能性があることが示唆された。しかし、この場合にも、ロフルミラストの血中好酸球レベルの減少の可能性を示すものはない(BUNDSCHUH D. S. et al, In Vivo Efficacy in Airway Disease Models of Roflumilast, a Novel Orally Active PDE4 Inhibitor, The Journal of Pharmacology and Experimental Therapeutics (JPET) 297:280-290, 2001)。
【0023】
しかしながら、ROBERT(Roflumilast Biopsy European Research Trial;NCT01509677)試験では、喀痰および気管支生検サンプル中の好酸球が有意に減少したが、血中好酸球は減少せず、肺好酸球数の調節を介してのみ作用するという証拠が示された(Rabe K. F. et al, Anti-inflammatory effects of roflumilast in chronic obstructive pulmonary disease (ROBERT): a 16-week, randomised, placebo-controlled trial, The Lancet: Respiratory Medicine, Volume 6, Issue 11, November 2018, Pages 827-836)。
【0024】
IPF
特発性肺線維症(IPF)は、間質性肺疾患の一群を包含し、世界中で相当な数の人々の死因となっている。喀痰好酸球増多と特発性肺線維症の関連性については、発表されている研究はわずかである。喀痰好酸球の平均的な割合は、正常者(0.3%;p<0.001)と比較してIPF患者では高い(2.1%)が、COPD患者のレベルと同等であることを示した研究がある。また、好酸性カチオンタンパク質は正常者(0.2mg/ml)よりIPFで高く(1.1mg/ml)、COPD(0.4mg/ml)よりさらに高いことが判明し、炎症が活発であることを示唆し、IPFの好酸性炎症と咳の関係の可能性を示す。他の研究では、好酸球は進行性IPFにおいて重要であり、不利な転帰と相関していると報告されている(Eltboli O. et al, Eosinophils as diagnostic tools in chronic lung disease, Expert Rev. Respir. Med. 7(1), (2013)。
【0025】
アレルギー性鼻炎
アレルギー性鼻炎は、軽度の末梢好酸球増多を呈することがある。このコホートでは、粘膜疾患の予測において末梢好酸球が総IgEレベルよりも優れており、陽性予測値は89%、陰性予測値は99%であった(Cafone, J et al, The Role of Eosinophils in Immunotherapy, Current Allergy and Asthma Reports (2020) 20:1)。
【0026】
閉塞性睡眠時無呼吸
閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSA)とは、睡眠中に呼吸をしようと努力し続けているにもかかわらず、呼吸が停止するエピソードが繰り返されることを指す。臨床的には、OSAは、日中の過度の眠気、破壊的ないびき、および夜間低酸素血症を特徴とする。この病態は、先進国の中年男性の約4.0%、女性の約2.0%が罹患する、一般的な睡眠呼吸障害である。多くの研究により、OSAは罹患率および死亡率の重要な原因であることが示され、主に心血管および脳血管系を侵す深刻な健康被害と関連する。アレルギー性鼻炎に関連する炎症が閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSA)の重症度を悪化させる可能性があることを示す研究がある(Gadi, G et al, The prevalence of allergic rhinitis and atopic markers in obstructive sleep apnea, Journal of Epidemiology and Global Health Volume 7, Issue 1, March 2017, Pages 37-44)。
【0027】
末梢血中の好酸球レベルが上昇している対象の気道疾患に対する有効かつ安全であって、前記対象群におけるこれらの疾患の制御、前記患者の臨床状態およびその生活の質の改善を保証し、全てが簡単な投与手順を伴う治療法を得るという、アンメット・メディカル・ニーズ(いまだ満たされていない医療ニーズ)が存在する。このためには、経口治療と最小限の1日用量が望ましい選択肢であると考えられる。
【0028】
WO2009/044250A1は、アデノシンA1受容体のアンタゴニストとしての5-シアノチアゾール-2-イルアセトアミド誘導体群と、前記アデノシン受容体の拮抗によって改善を受け得る状態または疾患の治療におけるそれらの使用を開示している。末梢血中の好酸球のレベルが上昇している対象の気道疾患の治療は、WO2009/044250A1には特に記載されていない。
【0029】
以上のことから、専門家は、生物製剤と低分子は、強力かつ明確な生化学的、薬理学的、および臨床的に有効な特徴、ならびに治療性能を制限する特性を有しており、これらを併用することで強力な組合せが作り出せると考えている。
【0030】
さらに、いくつかの化合物は、おそらく表現型に基づく患者選択の欠如のために、後の開発段階で失敗していることから、患者の層別化は標的アプローチの成功の必須条件として認識されている(Franziska Roth-Walter et al, Comparing biologicals and small molecule drug therapies for chronic respiratory diseases: An EAACI Taskforce on Immunopharmacology position paper, Allergy. 2019;74:432-448)。
【0031】
以上の全てを分析すると、喘息やCOPDのような複雑な疾患において、低分子が特定の標的の作用機序に及ぼす影響を予測することは不可能である。動物モデルで得られた結果は決定的ではなく、ヒト集団における効果を予測することはできず、ましてや、不適切なまたは効果のない治療を行わないために必要な患者の層別化に関する情報を提供するものではない。
【0032】
現在、選択的アデノシンA1受容体リガンドは市場認可を得ていない。さらに、とりわけアレルギー性喘息、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、特発性肺線維症(IPF)、閉塞性睡眠時無呼吸症候群、アレルギー性鼻炎などの気道疾患の治療のためのヒト臨床試験で試験されたものは全くない。しかしながら、ロロフィリン(CAS番号136199-02-5)、トナポフィリン(CAS番号340021-17-2)またはアデントリ(CAS番号166374-48-7)としてのいくつかのアデノシンA1拮抗薬は、慢性または急性心不全および腎不全などの心血管および腎臓適応症の治療のためにヒトで試験されている。本発明者らの知る限り、前記アデノシンA1拮抗薬の治療により血中好酸球に生じる影響または副作用を示す報告はない。
【0033】
現況技術において、アデノシンA1アンタゴニスト、ましてや式(I)の化合物による治療が、末梢血中の好酸球のレベルが300個/μL以上である喘息などの気道疾患を患うヒト対象の血中好酸球数を著しく減少させる、または肺機能を著しく改善することを示唆する先例はない。
【0034】
アデノシンA1拮抗薬L-97-1による治療が、アレルギーウサギの気管支肺胞洗浄液中の好酸球を減少させたという先例があるが(Nadeem A. et al, Adenosine A1 receptor antagonist versus montelukast on airway reactivity and inflammation, European Journal of Pharmacology 551 (2006) 116-124)、ロフルミラストで行った研究(Rabe K. F. et al, Anti-influmatory effects of roflumilast in chronic obstructive pulmonary disease (ROBERT): a 16-week, randomised, placebo-control trial, The Lancet: Respiratory Medicine, Volume 6, Issue 11, November 2018, Pages 827-836)により、気管支肺胞洗浄液中の好酸球が減少しても、必ずしも血中好酸球の減少を意味しないことが明確に示された。
【0035】
さらに、Nadeem A.らは、ある特定のアデノシンA1拮抗薬(L-97-1)が気管支肺胞洗浄液(BALF)中の好酸球数を減少させる能力があることを示しているだけで、専門家がL-97-1の効果を、アデノシンA1拮抗薬のクラス全体に外挿できると考える根拠は何もない。実は、同じ論文に、アデノシンA1拮抗薬ではなくロイコトリエン受容体拮抗薬のモンテルカストもBALF中の好酸球数を減少させる能力があることが報告されており、この気管支肺胞洗浄液中の好酸球数を減少させる能力は、必ずしもアデノシンA1拮抗薬と関連していないことが示されている。
【0036】
本特許出願の発明者らは、気道疾患、特に軽度から中等度のアレルギー性喘息患者の治療における化合物(I)の有効性を研究し、15日間の試験で、化合物(I)で処置したヒト対象が、末梢血好酸球数の著しい減少、およびトラフ強制呼気量(トラフFEV1)および対応するFEV1 AUC30min-23h 30minの著しい増加とともに、喘息コントロール質問票7(ACQ-7)得点の改善が見られたという意外な所見を得た。この改善は、末梢血好酸球レベルが高い、特に、末梢血好酸球レベルが300個/μLである患者において特に顕著であった。
【0037】
従って、気道疾患の治療レジメンをさらに簡素化し、患者のコンプライアンスを向上させるために、1日1回投与の経口薬の開発に関心が高まっている。
【0038】
本発明の発明者らは、今般、意外にも、式(I)
【化1】
の(1R,3S)-3-((5-シアノ-4-フェニルチアゾール-2-イル)カルバモイル)シクロペンタン-1-カルボン酸が気道疾患の治療に特に有効であり、前記治療前の末梢血好酸球レベルが高い、特に、末梢血好酸球レベルが300個/μLであるヒト対象において、末梢血好酸球数に顕著な減少をもたらすことを見出した。
【0039】
一側面において、本発明は、治療前の末梢血好酸球レベルが300個/μL以上であるヒト対象において気道疾患の治療に使用するための式(I)の(1R,3S)-3-((5-シアノ-4-フェニルチアゾール-2-イル)カルバモイル)シクロペンタン-1-カルボン酸、その薬学上許容される塩およびその共結晶を提供する。式(I)の化合物には、血液好酸球数を減少させる能力がある。別の利点は、コルチコイドおよび生物製剤としての気道好酸球性疾患の治療のための他の薬剤ならびに現況技術で既知の他のアデノシンA1拮抗薬と比較して、ヒトで試験された前記化合物の優れた毒性プロファイルによって与えられる。もう1つの相違点は、経口投与が可能であることである。
【発明の概要】
【0040】
本発明は、(1R,3S)-3-((5-シアノ-4-フェニルチアゾール-2-イル)カルバモイル)シクロペンタン-1-カルボン酸、その薬学上許容される塩およびその共結晶、前記化合物を含む医薬組成物、ならびに治療前の末梢血好酸球レベルが高い、特に、末梢血好酸球レベルが300個/μLであるヒト対象において、前記化合物ととりわけアレルギー性喘息、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、特発性肺線維症(IPF)、閉塞性睡眠時無呼吸、アレルギー性鼻炎などの気道疾患の治療おいて有用な1以上の薬剤との組合せに関する。
【発明の具体的説明】
【0041】
一側面において、本発明は、治療前の末梢血好酸球レベルが300個/μL以上であるヒト対象において、アレルギー性喘息、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、特発性肺線維症(IPF)、閉塞性睡眠時無呼吸、アレルギー性鼻炎などの気道疾患の治療に使用するための、式(I)
【化2】
の(1R,3S)-3-((5-シアノ-4-フェニルチアゾール-2-イル)カルバモイル)シクロペンタン-1-カルボン酸(化合物(I))、その薬学上許容される塩またはその共結晶に関する。
【0042】
別の側面において、本発明は、治療前の末梢血好酸球レベルが300個/μL以上であるヒト対象におけるアレルギー性喘息、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、特発性肺線維症(IPF)、閉塞性睡眠時無呼吸、アレルギー性鼻炎などの気道疾患の治療のための薬剤の製造のための式(I)の(1R,3S)-3-((5-シアノ-4-フェニルチアゾール-2-イル)カルバモイル)シクロペンタン-1-カルボン酸(化合物(I)、その薬学上許容される塩またはその共結晶に関する。
【0043】
さらに別の側面では、本発明は、治療前の末梢血好酸球レベルが300個/μL以上であるヒト対象におけるアレルギー性喘息、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、特発性肺線維症(IPF)、閉塞性睡眠時無呼吸、アレルギー性鼻炎などの気道疾患の治療に使用するための式(I)の(1R,3S)-3-((5-シアノ-4-フェニルチアゾール-2-イル)カルバモイル)シクロペンタン-1-カルボン酸、その薬学上許容される塩またはその共結晶を含む医薬組成物の使用に関する。
【0044】
さらに別の側面において、本発明は、式(I)の(1R,3S)-3-((5-シアノ-4-フェニルチアゾール-2-イル)カルバモイル)シクロペンタン-1-カルボン酸、その薬学上許容される塩またはその共結晶および治療前の末梢血好酸球レベルが300個/μL以上であるヒト対象におけるアレルギー性喘息、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、特発性肺線維症(IPF)、閉塞性睡眠時無呼吸、アレルギー性鼻炎などの気道疾患の治療に有用な1以上の薬剤を含む組合せ製剤に関する。
【0045】
さらに別の側面では、本発明は、治療前の末梢血好酸球レベルが300個/μL以上であるヒト対象におけるアレルギー性喘息、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、特発性肺線維症(IPF)、閉塞性睡眠時無呼吸、アレルギー性鼻炎などの気道疾患の治療に使用するための前段に記載されるような組合せに関する。
【0046】
さらに別の側面では、本発明は、治療前の末梢血好酸球レベルが300個/μL以上であるヒト対象に
式(I)の化合物またはその薬学上許容される塩または共結晶、あるいは
式(I)の化合物を含む医薬組成物、あるいは
その薬学上許容される塩またはその共結晶、あるいは
式(I)の化合物またはその薬学上許容される塩もしく共結晶を含む組合せ製剤を投与することによる、アレルギー性喘息、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、特発性肺線維症(IPF)、閉塞性睡眠時無呼吸、アレルギー性鼻炎などの気道疾患の治療のための方法に関する。
【0047】
前述したように、本発明の式(I)の化合物は、アレルギー性喘息、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、特発性肺線維症(IPF)、閉塞性睡眠時無呼吸、アレルギー性鼻炎などの気道疾患の治療に有用である。
【0048】
よって、本発明の式(I)の化合物およびその薬学上許容される塩またはその共結晶、このような化合物および/またはその塩もしくは共結晶を含む医薬組成物、ならびにそのような化合物、その塩または共結晶を含む組合せ製剤は、前記治療を必要とする治療前の末梢血好酸球レベルが300個/μL以上であるヒト対象に有効量の本発明の式(I)の化合物またはその薬学上許容される塩もしくは共結晶を投与することを含む、アレルギー性喘息、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、特発性肺線維症(IPF)、閉塞性睡眠時無呼吸、アレルギー性鼻炎などの気道疾患の治療方法において使用可能である。
【0049】
好ましい実施形態では、式(I)の(1R,3S)-3-((5-シアノ-4-フェニルチアゾール-2-イル)カルバモイル)シクロペンタン-1-カルボン酸、その薬学上許容される塩またはその共結晶、前記化合物と治療前の末梢血好酸球レベルが300個/μL以上であるヒト対象におけるアレルギー性喘息、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、特発性肺線維症(IPF)、閉塞性睡眠時無呼吸、アレルギー性鼻炎などの気道疾患の治療に有用な1以上の薬剤とを含む組合せ。
【0050】
好ましい実施形態では、式(I)の(1R,3S)-3-((5-シアノ-4-フェニルチアゾール-2-イル)カルバモイル)シクロペンタン-1-カルボン酸は、アレルギー性喘息、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、特発性肺線維症(IPF)、閉塞性睡眠時無呼吸、アレルギー性鼻炎などの気道疾患の治療のために、治療上有効な量で、治療前の末梢血好酸球レベルが300個/μL以上であるヒト対象に投与され、投与後に血中好酸球レベルを低下させる。
【0051】
いくつかの実施形態は、必要とするヒト対象に治療上有効な量の式(I)の(1R,3S)-3-((5-シアノ-4-フェニルチアゾール-2-イル)カルバモイル)シクロペンタン-1-カルボン酸またはその薬学上許容される塩を投与することを含む、ヒト対象における末梢好酸球レベルの上昇を特徴とする病態を治療する方法を対象とし、血中好酸球レベルを低下させる。
【0052】
好ましい実施形態では、式(I)の(1R,3S)-3-((5-シアノ-4-フェニルチアゾール-2-イル)カルバモイル)シクロペンタン-1-カルボン酸は、血中好酸球レベルの上昇を特徴とする病態の治療のために投与される。より好ましい実施形態では、好酸球性疾患は、末梢血好酸球レベルの300細胞/μL以上への上昇を特徴とする。
【0053】
ある実施形態では、本発明の方法は、治療開始から4週間以内に、好ましくは2週間以内に患者の末梢好酸球数に5%~30%の低下を達成するような治療効果を提供する。
【0054】
好ましい実施形態では、気道疾患は、アトピー性喘息、アレルギー性喘息、軽度喘息、中等度喘息、重度喘息、好酸球性喘息およびそれらの組合せから選択される喘息である。好ましい実施形態では、式(I)の化合物または薬学上許容される塩もしくはその共結晶は喘息の治療のためのものであり、ここで、アレルギー性喘息は、軽度、中等度および重度喘息から選択される。
【0055】
好ましい実施形態では、病態はCOPDである。
【0056】
好ましい実施形態では、病態はIPFである。
【0057】
好ましい実施形態では、気道疾患の治療に使用するための式(I)の化合物または薬学上許容される塩もしくはその共結晶は、経口経路による投与のためのものである。
【0058】
好ましい実施形態では、アレルギー性喘息の治療に使用するための式(I)の化合物または薬学上許容される塩もしくはその共結晶は、1日1回または1日2回投与される。より好ましい実施形態では、式(I)の化合物は、1日1回投与される。
【0059】
好ましい実施形態では、気道疾患の治療における式(I)の化合物または薬学上許容される塩もしくはその共結晶は、5mg~40mgの用量で投与される。より好ましい実施形態では、式(I)の化合物は、5mg~20mgの用量で投与される。
【0060】
好ましい実施形態では、医薬組成物は、有効量の式(I)の化合物またはその薬学上許容される塩もしくは共結晶および薬学上許容されるビヒクルまたは担体を含む。
【0061】
好ましい実施形態では、組合せ製剤は、式(I)の化合物またはその薬学上許容される塩もしくは共結晶と、ブデソニド、フルチカゾン、ベクロメタゾン、モメタゾンなどのコルチコステロイド、サルメテロールおよびフォルモテロールなどの気管支拡張薬、ならびにデュピルマブ、レスリズマブ、メポリズマブ、イマチニブ、レブリキズマブ、AK002、ベンラリズマブ、トラロキヌバムから選択される生物製剤、ならびにピルフェニドンおよびニンテダニブなどの抗線維化薬からなる群から選択される1以上の薬剤とを含む。組合せ製剤の成分は、同じ製剤または別の製剤である。
【0062】
本発明の一実施形態では、式(I)の化合物、その薬学上許容されるまたはその共結晶およびアレルギー性喘息の治療に有用な薬剤は、同じ組成物の一部を形成する。
【0063】
本発明の別の実施形態では、式(I)の化合物、その薬学上許容される塩またはその共結晶およびアレルギー性喘息の治療に有用な薬剤は、同時にまたは逐次に投与するための別の組成物の一部を形成する。
【0064】
好ましい実施形態では、アレルギー性喘息の治療方法は、末梢好酸球数および1秒間トラフ努力呼気容量(FEV1)から選択される、任意の適切な測定基準によって測定され得る効果を有する。末梢好酸球数およびトラフFEV1の測定方法は、当技術分野で公知である。患者に対する治療の効果を決定するこれらの方法およびその他の方法は、単独でまたは組み合わせて使用することができる。
【0065】
好酸球数 末梢血好酸球数は、この研究に参加している全ての施設で行われた標準的な全血球数から得られたものである。例えば、Beckman Coulter社のLHシリーズ分析器で標準化された方法の使用による(Beckman Coulter Ltd, Brea, CA, USA), Negewo, N. A. et al, Peripheral blood eosinophils: a surrogate marker for airway eosinophilia in stable COPD, Int J Chron Obstruct Pulmon Dis. 2016; 11: 1495-1504)。
【0066】
S.I.単位(109/L)の好酸球は、1×109/L=1000個/μLの換算係数で個/μLに換算される。プロトコール集団ごとの主要評価項目は、血液学的検査による訪問V1時の好酸球(個/μL)値に基づいて2つのサブグループに層別化した(低<300個/μL、および高≧300個/μL)。16日目(+4日の余裕)のトラフFEV1は、治療群およびV1時点の好酸球値で要約された。16日目(投与後23時間15分および23時間45分)のFEV1測定値を、治療群および好酸球層を固定効果とし、場所をランダム効果とし、訪問V5のベースラインFEV1を共変量とした混合モデルを当てはめた。
【0067】
FEV1 簡単に述べれば、スパイロメトリー測定は、ATS/ERS基準の最小性能推奨を満たすかそれを超えるスパイロメトリー機器を使用して実施する(Miller M. R et al, Standardisation of spirometry, Eur Respir J 2005; 26: 319-338)。校正および品質管理は、施設開始前に実施する必要がある:
a.スパイロメーターの精度を確認するために3Lシリンジを使用する。
b.シリンジの精度は過去12か月以内に認証されたもので、±15mlの精度を有するものとする。
c.使用前に、シリンジをスパイロメーターと同じ温度に保ち、容量の安定性を確保すること。
d.容量式スパイロメーターの場合、製造者のガイドラインに従って、各検査セッションの前に較正と漏れのチェックを行う必要がある。ガイドラインの遵守を確認するために、施設の原資料として保存されている較正レポートが必要とされる。試験で使用したスパイロメトリー機器の例:Jaeger and ERT Spirosphere
【0068】
本発明は、ヒト対象において使用される。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【
図1】試験計画。本試験は、スクリーニング訪問(V1)、喘息維持療法のための離脱プロトコール(訪問2~V4)、2群間治療期間(訪問V5~V7、V5は無作為化訪問R)、およびフォローアップ訪問(V8、FU)を含む。被験者はスクリーニングに入り、試験参加時の喘息治療薬に応じて3つの別経路(A、BまたはC)から喘息治療の離脱期に入る。a1、b1およびc1:それぞれ経路A、BおよびCで訪問V1。中用量ICSとさらに少なくとも1種類の喘息制御薬を併用する被験者は、以下のステップで経路Aから離脱期に入る。(a2)訪問V2に非ICS薬(LABA、LTRA)の休薬、(a3)訪問V3にICSの低用量への減量、および(a4)訪問V4に低用量ICSの休薬。低用量ICSとさらに少なくとも1種類の喘息制御薬を併用する被験者、または中用量ICSを喘息単剤療法とする被験者は、以下のように経路Bに入る。(b2)非ICS薬(LABA、LTRA)の休薬、または該当する場合にはICS単剤療法の中用量から低用量への減量、および(b3)低用量ICSの休薬。これらの被験者は訪問V4をとばし、V3(ステップb3)から直接ランダム化へ進む。低用量ICS単剤療法で試験に入った被験者は、訪問V2でICSを休薬する(シングルステップc2)を経て、訪問V3およびV4をとばして無作為化に進む経路Cをとる。鼻炎/鼻副鼻腔炎の鼻腔内投与は、該当する場合、全ての被験者の訪問V2で中止される。無作為化(R)前の期間は、訪問間の期間を意味する。訪問V5(無作為化)、V6およびV7については、正確な訪問日とその余裕を示した(
*訪問V5の待ち時間:経路Aでは訪問V4後、経路BではV3後、経路CではV2後7日(±2日)以内に訪問V5を指定しなければならない)。スパイロメトリックの登録基準No.10を満たさない被験者については、訪問V5の手続きを中断し、最大7日以内に予定外の訪問を指定してスパイロメトリックのフォローアップを行うことができる。最初のV5中断から最大14日後まで、最低1回のフォローアップ訪問を挟んで、完全な訪問V5を再予定することができる。訪問V7からV8(FU、フォローアップ)までの期間もまた、中止日以降のPSW(早期被験者中止)訪問に適用可能である。経路A:中用量ICSとさらに少なくとも1種類の喘息制御薬(例えば、LABAまたはLTRA)を服用して試験に参加する被験者。全ての離脱訪問:V1→V4。経路B:低用量ICSとさらに少なくとも1種類の喘息制御薬、または中用量ICSの単剤両方で試験に参加する被験者。離脱訪問V1→V3(V4なし)。経路C:喘息単剤療法として低用量ICSで試験に参加する被験者。訪問V2時にICSを離脱(V3、V4なし)。救済薬:全試験期間中に被験者に短時間作用型β2アドレナリン作動性救済用気管支拡張薬を使用できる。
【
図2】好酸球数に対する化合物(I)投与の効果。V5/D0:訪問5、0日目。V7/D15:訪問7、15日目。V8/FU:訪問8、フォローアップ。
【
図3】15日の化合物(I)/プラセボ処置(一連のスピロメトリー)後のベースラインに対するFEV1の差。
【
図5】化合物(I)/プラセボ処置後のベースラインに対するACQ-7得点の差。
【
図6-1】患者(安全性集団)ごとの器官系の種類および基本語ワーストグレードによる関連有害事象の概要。
【
図6-2】患者(安全性集団)ごとの器官系の種類および基本語ワーストグレードによる関連有害事象の概要(
図6-1のつづき)。
【0070】
本明細書で使用する場合、アレルギー性喘息という用語は、特定の誘因(アレルゲン)の周りにいるときに症状を引き起こす喘息の一種を示すために使用される。これらのアレルゲンは、肺に影響を与える免疫系の応答を引き起こし、呼吸を困難とする。(https://www.medicalnewstoday.com/articles/324476)
【0071】
本明細書で使用する場合、アトピー性喘息という用語は、アレルギー性喘息と同様に、一般に、吸入したアレルゲンに対する免疫応答の亢進と関連している。
【0072】
本明細書で使用する場合、軽度喘息という用語は、喘息症状の軽減、喘息に関連する増悪、入院および死亡のリスクの低減に有効である、必要に応じてSABAを用いる低用量ICSによる治療を毎日定期的に行う治療によって十分に管理されるが、ICSとのアドヒアランスが悪い喘息を指して使用される。また、成人および青年期の軽症喘息患者において、必要に応じて低用量ICS-フォルモテロールを用いる治療により、SABAのみの治療と比較して重度増悪のリスクが約3分の2に減少し、重度増悪に対しては毎日の低用量ICSに劣っていない(Global Strategy for Asthma Management and Prevention. 2020. www.ginasthma.orgから入手可能)。
【0073】
本明細書で使用する場合、中等度喘息という用語は、維持療法としての低用量ICS-LABAによる治療と救済薬として必要に応じたSABA、ならびに維持療法および救済療法の両方としての低用量ICS-フォルモテロールによる治療で管理できる喘息を指して使用される。また、中等度喘息の別の治療法として、中用量ICSと必要に応じたSABA、またはICS-LABAの低用量組合せと必要に応じたSABAも含まれる(Global Strategy for Asthma Management and Prevention. 2020. www.ginasthma.orgから入手可能)。
【0074】
本明細書で使用する場合、重度喘息という用語は、GINAステップ4または5治療にもかかわらず管理できない喘息、または良好な症状管理を維持し増悪を抑えるためにそのような治療を必要とする喘息を指して使用される。喘息患者の約3~10%が重度喘息である(Global Strategy for Asthma Management and Prevention. 2020. www.ginasthma.orgから入手可能)。
【0075】
本明細書で使用する場合、薬学上許容される塩という用語は、水酸化アルカリ金属(例えば、ナトリウムまたはカリウム)、水酸化アルカリ土類金属(例えば、カルシウムまたはマグネシウム)、および有機塩基、例えば、アルキルアミン、アリールアルキルアミンおよび複素環式アミンなどの薬学上許容される塩基との塩を指して使用される。
【0076】
本発明による他の好ましい塩は、アニオン(X-)の等価物がN原子の正電荷と関連している第4級アンモニウム化合物である。X-は、例えば塩化物、臭化物、ヨウ化物、硫酸塩、硝酸塩、リン酸塩などの種々の鉱酸のアニオン、または例えば酢酸塩、マレイン酸塩、フマル酸塩、クエン酸塩、シュウ酸塩、硫酸塩、酒石酸塩、リンゴ酸塩、マンデル酸塩、トリフルオロ酢酸塩、メタンスルホン酸塩およびp-トルエンスルホン酸塩などの有機酸のアニオンであってもよい。X-は、好ましくは、塩化物、臭化物、ヨウ化物、硫酸塩、硝酸塩、酢酸塩、マレイン酸塩、シュウ酸塩、コハク酸塩またはトリフルオロ酢酸塩から選択されるアニオンである。
【0077】
本明細書で使用する場合、共結晶という用語は、同じ結晶格子内の2つ以上の分子からなる結晶材料、より詳細には、式(I)の(1R,3S)-3-((5-シアノ-4-フェニルチアゾール-2-イル)カルバモイル)シクロペンタン-1-カルボン酸の分子、および薬学上許容される配座異性体によって形成される共結晶を指して使用される。
【実施例】
【0078】
例1:軽度~中等度持続性アトピー性喘息患者の1秒間努力呼気容量(FEV1)に対するアデノシンA
1
受容体拮抗薬(1R,3S)-3-((5-シアノ-4-フェニルチアゾール-2-イル)カルバモイル)シクロペンタン-1-カルボン酸の効果を調べるための試験
目的
本試験は、軽度~中等度持続性アトピー性喘息を有する被験者で、化合物(I)10mgを1日1回、15日間投与した際の安全性、忍容性、および有効性を評価することを目的とした探索的試験である。探索的有効性に関しては、本試験の主な目的は、プラセボと比較して化合物(I)がFEV1を改善するかどうかを判断すること、ならびにこの喘息患者集団から安全性データを比較提供することである。また、本試験で得られた測定値は、本治療法が喘息管理および肺機能に関連する他の変数を改善するかどうかを確認するために使用される。
【0079】
登録基準
1.試験評価を行う前に、書面によるインフォームドコンセントを取得しなければならない。被験者は、治験の要件を理解し遵守することができるよう、治験責任医師およびスタッフと十分コミュニケーションをとることができなければならない。
2.18~70歳の男性および女性被験者。
3.GINA2017ガイドラインに従って診断された軽度~中等度持続性アレルギー性喘息の既往歴を有し、維持療法として、治療ステップ2~3が低用量/中用量に制限されたICS、またはステップ4が中用量のICSとLABAおよび/またはロイコトリエン拮抗薬に制限されている被験者。喘息維持療法は、本試験に参加する前に少なくとも3か月間安定している必要がある。アレルギー性鼻炎または慢性鼻副鼻腔炎で鼻ポリープ症を伴うまたは伴わない鼻腔内投薬を受けている被験者の治験参加は許可される。アレルギー性鼻炎の救済薬としての経口抗ヒスタミン剤の使用は、プロトコールで設定されたウォッシュアウト期間を経て許可される。
4.ハウスダストダニ、樹木または草の花粉、ペットのふけ、またはゴキブリ抗原などの空中アレルゲンに対する皮膚プリックテストまたは特異的血清IgEが陽性であること。さらに、国/地域に特有のあらゆるアレルゲンを含めることができる。過去12か月以内に特異的免疫療法を受けた被験者(除外基準No.18参照)を除き、スクリーニング前 12か月以内の皮膚プリックテストまたは血清IgEの既往歴があればよい(出典で裏付けられていること)。このような被験者の場合、訪問V1に空中アレルゲン皮膚プリックテストまたは特異的血清IgEが陽性であること。
5.妊娠可能な女性は、外科的に不妊である場合(すなわち、両側卵管結紮、両側卵管切除、または子宮全摘出)、閉経後少なくとも2年経過している場合、または禁欲している場合を除き、訪問1からFU訪問まで有効な避妊をすることに同意しなければならない。許容される避妊法は、経口、経皮、または埋め込み型避妊薬、子宮内避妊具、殺精子剤付き女性用コンドーム、殺精子剤付きダイアフラム、または性的パートナーによる殺精子剤付きコンドームの使用である。外科的不妊手術を受けた女性被験者は、試験薬の初回投与の少なくとも6か月前に手術を受けている必要がある。外科的不妊手術は、治験依頼者が利用できる臨床文書の裏付けが必要である。
6.全て女性被験者は、スクリーニングおよびベースライン時に妊娠検査結果が陰性であること。
7.男性被験者は、全試験期間中および試験終了時の訪問までの間、2種類の許容される避妊方法(例えば、殺精子ジェルとコンドーム)を使用し、最後の試験薬投与後3か月以内に父親となることを控えることに同意すること。周期的禁欲および断薬は避妊方法として許容されない。
8.被験者は体重少なくとも45kg、体格指数(BMI)≧17kg/m2であること。
9.被験者が合計400μgのサルブタモールを吸入した後30分以内にFEV1に気管支拡張前の値より12%以上かつ200mL以上の増加を示すこと(可逆性試験)。可逆性は、スクリーニング時または訪問V5までの離脱期間中に決定することができる。あるいは、「可逆性試験」が陽性を示さなかったが、気管支拡張前のFEV1が訪問V1のベースラインFEV1から200mL以上低下している被験者も同様に対象とする。
10.訪問V5において、喘息維持療法の離脱完了時に、被験者はLABAおよびICSの離脱完了時に、気管支拡張前FEV1が予測正常値の60%以上90%以下でなければならない。あるいは、訪問V5において気管支拡張前FEV1が90%以上を示す被験者は、訪問V1において気管支拡張前FEV1が基礎FEV1から200mL以上減少していなければならない。
11.被験者は、訪問V5でのLABAおよびICSの離脱完了時にACQ-7得点が1.5以上でなければならない。
12.被験者は、喘息維持療法の離脱期間中(すなわち、訪問V2から訪問V5まで)、朝夕の電子/PEF計記録で80%以上のコンプライアンスを満たさなければならない。
13.喘息維持療法の離脱(すなわち、訪問V2から訪問V5まで)。
【0080】
除外基準
1.登録時、または登録30日以内もしくは5半減期以内のいずれか長い方の期間、他の治験薬を使用すること。
2.試験薬または類似の化学クラスの薬物(A1アデノシン受容体拮抗薬)に対して過敏症の既往歴がある。
3.臨床的に重大なECG異常の既往歴、または自律神経機能障害(例えば、失神、不整脈の再発など)の最近の既往歴があること。
4.処置または非処置にかかわらず、過去5年以内に何らかの臓器系の悪性腫瘍(限局性皮膚基底細胞癌を除く)の既往歴があること。
5.妊娠中または授乳中の女性。
6.過去6か月以内の喫煙、または10箱/年を超える喫煙歴(1箱/年は、1年間1日に20本(1箱)相当の喫煙と定義する)。
7.GINA2017ガイドラインに従い、GINA治療ステップ4(包含基準3の制限的許容量を除く)または5で管理されている重度持続性喘息の被験者。この基準には、高用量ICS、全身性コルチコステロイド、チオトロピウムブロミド、テオフィリンまたはオマリズマブ、メポリズマブ、レスリズマブなどのモノクローナル抗体に基づく生物学的療法で治療されている被験者が含まれる。免疫抑制薬による治療を受けている被験者、または喘息以外の病態に対して全身性コルチコステロイドによる治療を受けている被験者は除外される。また、抗ヒスタミン薬の日常的な使用を必要とする被験者も除外される。
8.現在または過去に喘息治療のために生物製剤(例えば、モノクローナル抗体)を使用したことがある。過去6か月以内に他の病態に対して生物製剤を使用したことがある。
9.訪問V1前4週間以内に喘息増悪または他の病態の治療のために全身性コルチコステロイドを使用した場合。
10.挿管を必要とした、かつ/または高炭酸症、呼吸停止および/もしくは低酸素発作をともなった喘息エピソードと定義される生命を脅かす喘息の既往歴。訪問1前5年以内に、病棟入院または48時間以上の救急室滞在を必要とした喘息増悪の既往歴。
11.試験期間中に全身性コルチコステロイドの使用を必要とする可能性のある喘息以外の疾患または疾病。
12.治験期間中に喘息症状を増悪させる可能性のあるアレルゲン/刺激物への職業的曝露。
13.訪問V1前4週間以内に抗生物質の使用を必要とする呼吸器感染症、または訪問V1前6か月以内に肺炎。
14.訪問V1前4週間以内に治療を必要とする喘息増悪、または何らかの医療資源の使用。これには、被験者の通常の喘息維持療法の一過性の増量で管理された喘息増悪、および「行動計画」を使用して自己管理された増悪が含まれる。
15.安全性を損なう可能性のある、または有効性の転帰に干渉する可能性のあるその他の基礎疾患(例えば、結核、臨床的に関連する気管支拡張症、びまん性肺間質性疾患、肺高血圧症、肺気腫、慢性気管支炎、α1-アンチトリプシン欠損、全身性免疫駆動性疾患)を有する被験者。
16.処方薬または市販薬の使用は、プロトコ-ルで定められた制限を受ける(非許可薬)。
17.薬物の吸収、分布、代謝、または排泄を著しく変化させる可能性のある、または本試験に参加した場合に被験者を危険にさらす可能性のある外科的もしくは内科的病態疾患。治験責任医師は、被験者の病歴および/または次の病態の臨床的若しくは検査的エビデンスを考慮してこれを判断しなければならない:限定されるものではないが、炎症性腸疾患、消化管潰瘍、消化管または直腸出血、胃切除または腸切除などの主要消化管手術、膵臓損傷または膵炎、SGOT(AST)、SGPT(ALT)、γ-GTまたはアルカリホスファターゼなどの肝機能分析値異常により示される肝疾患または肝傷害。
18.特殊な免疫療法を受けている、または過去5年以内に受けたことのある被験者。
【0081】
試験計画
軽度~中等度持続性アトピー性喘息患者における、1秒間努力呼気容量(FEV1)に対するアデノシンA1受容体拮抗薬化合物(I)の効果を検討するための第II相、二重盲検、無作為化、並行群間、プラセボ対照多施設試験。
【0082】
主要目的は、試験開始時にGINA治療ステップ2~3(高用量吸入コルチコステロイド(ICS)の使用を除く)またはステップ4で管理されており、維持療法として中用量ICSと長時間作用性β2-作用薬(LABA)気管支拡張薬および/またはロイコトリエン受容体拮抗薬(LTRA)に限定されている軽度~中等度喘息患者に化合物(I)を15日間投与した際にトラフFEV1がプラセボと比べて向上することを実証することである。副次的目的としては、FEV1曲線下面積(AUC)の決定、気管支拡張薬剤投与前後のFEV1評価、喘息コントロール質問票-7(ACQ-7)および標準喘息QOL質問票(AQLQ(S))を含む患者報告転帰(PRO)を含む。
【0083】
本試験は、(i)被験者の臨床的安定性と試験に対する総合的適格性を評価する最低5日間のスクリーニング期間、(ii)喘息薬の段階的に漸減を7日間で行う離脱期間、(iii)無作為化並行群間治療期間、および(iv)試験終了後のフォローアップ訪問からなる。喘息薬離脱期間は、試験開始時の各被験者の喘息療法を調整するため、3通りの訪問経路からなる。本試験は、目的に応じて記載されているように管理され、全ての包含基準と除外基準がないことを満たし、主要変数に関する完全かつ有効なデータセットを完成させた58名の安定した喘息患者の主要解析集団を含む。
図1に試験計画を示す。
【0084】
データ解析 主要有効性変数と副次的転帰の分布は、必要に応じて反復測定モデルを用いて治療により解析する。その他の解析は、ベースライン特性および安全性評価、薬物動態、ならびにベースラインおよび臨床共変量が主要変数に及ぼす影響を評価するための任意の解析から生成されるデータセットを含む。適応データ解析計画に従って、因子に合わせたサブ解析が実施可能である。
【0085】
結果
スクリーニングを受けた107名の被験者のうち、63名(58.9%)が適格基準を満たし、無作為化された。無作為化された63名の患者のうち、63名(100%)が試験を完了した(化合物(I)群およびプラセボ群それぞれ32名と31名)。中止に関する有害事象はなかった。安全性集団には63名(プラセボ:n=31、化合物(I):n=32)を含んだ。結果はプロトコール集団ごとに基づく(プラセボ:n=27、化合物(I):n=31)。
【0086】
安全性集団の患者人口統計とベースラインの特徴を表1にまとめる。
【0087】
【0088】
-血中好酸球数のベースラインからの変化
15日の治療後の血中好酸球数(10
9/L)のベースラインからの総合変化では、プラセボと比較して化合物(I)群の治療差(血中好酸球数の減少)が示された。表2および
図2。
【0089】
【0090】
上記の表からわかるように、化合物(I)で治療された被験者における好酸球数の減少は、統計的にも臨床的にも有意であり、試験中の臨床転帰の改善と関連していた。
【0091】
化合物(I)の投与は、末梢血好酸球レベルをベースラインから5%~30%低下させた。
【0092】
患者のサブグループによる末梢血好酸球レベルの解析
【0093】
【0094】
【0095】
表4からわかるように、V1の好酸球レベルが高い患者(≧300個/μL以上)では、対応するプラセボと比較してトラフFEV1の統計的に有意な改善を示した(0.38L;p=0.0164)。一方、V1の好酸球レベルが低い患者(<300個/μL)では、本治療により、対応するプラセボと比較して、トラフFEV1に0.04L(p=0.7778)の非統計的に有意な改善が見られる。
【0096】
-トラフFEV1のベースラインからの変化
主要有効性の変数である15日投与のトラフFEV1のベースラインからの総合的変化の解析では、プラセボ群と比較して化合物(I)群の患者で有意な改善(増加)を示した(表5および
図3)。与16日目(投与後23時間15分および23時間45分)のFEV1測定値を伴い、治療群を固定効果として、場所をランダム効果として、訪問V5のベースラインFEV1を共変量として含む混合モデルを当てはめた。治療効果は、プラセボ群に比べ化合物(I)群で大きく、FEV1が180mL増加した(p=0.0816)。
【0097】
【0098】
具体的には、化合物(I)の投与は、トラフFEV1を110~200mL増加させる。
【0099】
15~16日の投与後FEV1 AUC
30min-23h30minのベースラインからの変化
副次的有効性変数である処置後15~16日の投与後FEV1 AUC
30min-23h30minのベースラインからの総合的変化の解析では、プラセボ群と比較して化合物(I)群の患者の有意な改善(増加)が示された(表6および
図4)。
【0100】
【0101】
-喘息コントロール質問票-7(ACQ-7)のベースラインからの変化
15日の投与におけるACQ-7得点のベースラインからの総合的平均変化の解析では、プラセボ群に比べて化合物(I)群の患者の改善(減少)が示された(p=0.0430)。表7および
図5。共変量として訪問と試験群
*訪問を比較した場合にも同様の傾向が見られた。
【0102】
【0103】
-安全性プロファイル
上記のデータに関連して、化合物(I)はアレルギー性/アトピー性喘息患者において極めて良好な安全性プロファイルを示す。このデータは、アデノシンA
1受容体拮抗薬である化合物(I)の有望な経口喘息治療薬としての可能性を強調している。
図6参照。安全性セットには、少なくとも1回の試験薬投与を受けた全無作為化患者を含んだ。
【0104】
全体的に見れば、63名の患者が試験を完了し(安全性集団)、非遵守被験者を除いた58名がプロトコール通りの(pp)集団として評価された。pp集団では、末梢好酸球数、1秒間トラフ努力呼気容量(FEV1)および喘息コントロール質問票-7(ACQ-7)に関して、化合物(I)とプラセボに有意差が認められた。化合物(I)で治療した患者ではプラセボに比べてトラフFEV1に有意な改善が認められ、15日の治療で血中好酸球の顕著な減少がもたらされた。
【0105】
ほとんどの有害事象(AE)は両群とも軽度/中等度であり、重度のAEは報告されていない。化合物(I)は、アレルギー性/アトピー性喘息患者において、極めて優れた安全性プロファイルを示した。
【国際調査報告】