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特表2023-538479炭素被覆リン酸鉄リチウム正極活物質、その製造方法、それを含む正極シート及びリチウムイオン電池
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  • 特表-炭素被覆リン酸鉄リチウム正極活物質、その製造方法、それを含む正極シート及びリチウムイオン電池 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-09-08
(54)【発明の名称】炭素被覆リン酸鉄リチウム正極活物質、その製造方法、それを含む正極シート及びリチウムイオン電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/58 20100101AFI20230901BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20230901BHJP
   H01M 4/136 20100101ALI20230901BHJP
【FI】
H01M4/58
H01M4/36 C
H01M4/136
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023501317
(86)(22)【出願日】2021-08-23
(85)【翻訳文提出日】2023-01-06
(86)【国際出願番号】 CN2021114071
(87)【国際公開番号】W WO2023023894
(87)【国際公開日】2023-03-02
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】513196256
【氏名又は名称】寧徳時代新能源科技股▲分▼有限公司
【氏名又は名称原語表記】Contemporary Amperex Technology Co., Limited
【住所又は居所原語表記】No.2,Xingang Road,Zhangwan Town,Jiaocheng District,Ningde City,Fujian Province,P.R.China 352100
(74)【代理人】
【識別番号】100106220
【弁理士】
【氏名又は名称】大竹 正悟
(72)【発明者】
【氏名】劉 宏宇
(72)【発明者】
【氏名】別 常峰
(72)【発明者】
【氏名】冷 雪
(72)【発明者】
【氏名】柳 娜
【テーマコード(参考)】
5H050
【Fターム(参考)】
5H050AA02
5H050AA07
5H050AA19
5H050BA17
5H050CA01
5H050DA09
5H050FA17
5H050FA18
5H050GA16
5H050HA01
5H050HA02
5H050HA04
5H050HA05
5H050HA07
5H050HA08
5H050HA17
(57)【要約】
本願は、炭素被覆リン酸鉄リチウム正極活物質を提供する。炭素被覆リン酸鉄リチウム材料の表層における微視的形態の異なる炭素構造の比表面積の相対的割合を調整することにより、本願の炭素被覆リン酸鉄リチウム正極活物質が得られる。本願の炭素被覆リン酸鉄リチウム正極活物質は、炭素被覆因子ηを有し、且つ前記ηが0.81≦η≦0.95を満たす場合、リン酸鉄リチウム正極活物質は、高品質の炭素被覆を有し、リン酸鉄リチウム正極活物質の容量発揮に寄与し、シート脱水効率を顕著に改善し、製造されたリチウムイオン電池が優れたエネルギー密度、サイクル特性及び優れた加工性を兼ね備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素被覆リン酸鉄リチウム正極活物質であって、
前記正極活物質は、リン酸鉄リチウム基材及び前記基材の表面に位置する炭素被覆層を含み、前記リン酸鉄リチウム基材は、一般構造式LiFe1-aPOを有し、Mは、Cu、Mn、Cr、Zn、Pb、Ca、Co、Ni、Sr、Nb、Tiのうちの1つ以上から選択され、0≦a≦0.01であり、
炭素被覆リン酸鉄リチウム材料の炭素被覆因子
であり、BET1は、炭素被覆リン酸鉄リチウムにおけるメソ孔及びマクロ孔構造の比表面積であり、BET2は、炭素被覆リン酸鉄リチウムの総比表面積であり、ηは、0.81≦η≦0.95を満たすことを特徴とする炭素被覆リン酸鉄リチウム正極活物質。
【請求項2】
ηは、選択的に0.85≦η≦0.93であり、更に選択的に0.88≦η≦0.92であることを特徴とする請求項1に記載の正極活物質。
【請求項3】
BET1の数値範囲は、5.5~9.5m/gであり、BET2の数値範囲は、6.0~11.5m/gであることを特徴とする請求項1又は2に記載の正極活物質。
【請求項4】
炭素成分は、炭素被覆リン酸鉄リチウムの総質量の0.7%~1.3%を占め、選択的に0.9%~1.3%であり、より選択的に0.9%~1.1%であることを特徴とする請求項1~3の何れか一項に記載の正極活物質。
【請求項5】
炭素被覆層の厚さHと炭素被覆リン酸鉄リチウムの平均粒径Dの比H/Dは、0.01~0.04であることを特徴とする請求項1~4の何れか一項に記載の正極活物質。
【請求項6】
炭素被覆リン酸鉄リチウムの体積平均粒径Dv50は、840nm≦Dv50≦3570nmを満たし、選択的に1170nm≦Dv50≦1820nmであることを特徴とする請求項1~5の何れか一項に記載の正極活物質。
【請求項7】
炭素被覆リン酸鉄リチウムの粉体圧縮密度は、2.4g/cm以上であり、選択的に2.5g/cmであり、より選択的に2.6g/cmであることを特徴とする請求項1~6の何れか一項に記載の正極活物質。
【請求項8】
炭素被覆リン酸鉄リチウムの黒鉛化度は、0.15~0.32であり、選択的に0.19~0.26であることを特徴とする請求項1~7の何れか一項に記載の正極活物質。
【請求項9】
炭素被覆リン酸鉄リチウムの粉体抵抗率は、60Ω・mを超えず、選択的に30Ω・mを超えず、より選択的に20Ω・mを超えないことを特徴とする請求項1~8の何れか一項に記載の正極活物質。
【請求項10】
前記リン酸鉄リチウム基材に、炭素元素、選択的にリン酸鉄リチウム基材の質量に基づいて0.1%~0.5%の炭素元素がドープされていることを特徴とする請求項1に記載の正極活物質。
【請求項11】
リン酸鉄リチウム基材を提供するステップと、
前記リン酸鉄リチウム基材に炭素被覆を行い、炭素被覆リン酸鉄リチウム正極活物質を得るステップと、を含み、
前記正極活物質は、リン酸鉄リチウム基材及び前記基材の表面に位置する炭素被覆層を含み、前記リン酸鉄リチウム基材は、一般構造式LiFe1-aPOを有し、Mは、Cu、Mn、Cr、Zn、Pb、Ca、Co、Ni、Sr、Nb、Tiのうちの1つ以上から選択され、0≦a≦0.01であり、
炭素被覆リン酸鉄リチウム材料の炭素被覆因子
であり、BET1は、炭素被覆リン酸鉄リチウムにおけるメソ孔及びマクロ孔構造の比表面積であり、BET2は、炭素被覆リン酸鉄リチウムの総比表面積であり、ηは、0.81≦η≦0.95を満たすことを特徴とする請求項1に記載の正極活物質の製造方法。
【請求項12】
前記リン酸鉄リチウム基材に、炭素元素、選択的にリン酸鉄リチウム基材の質量に基づいて0.1%~0.5%の炭素元素がドープされていることを特徴とする請求項11に記載の方法。
【請求項13】
正極集電体及び前記正極集電体の少なくとも1つの表面に設けられる正極活物質を含み、前記正極活物質は、請求項1~10の何れか一項に記載の正極活物質又は請求項11~12の何れか一項に記載の方法により製造された正極活物質であるリチウムイオン電池の正極シート。
【請求項14】
前記正極シートの25℃、45%の相対湿度における飽和含水量は、500ppmを超えない請求項13に記載の正極シート。
【請求項15】
正極シート及び負極シートを含むリチウムイオン電池において、
前記正極シートは、正極集電体及び前記正極集電体の少なくとも1つの表面に設けられる正極活物質を含み、前記正極活物質は、請求項1~10の何れか一項に記載の正極活物質又は請求項11~12の何れか一項に記載の方法により製造された正極活物質であることを特徴とするリチウムイオン電池。
【請求項16】
前記正極シートのシート圧縮密度は、2.35g/cm以上であり、前記負極シートのシート圧縮密度は、1.6g/cm以上であり、前記負極シートにおける負極活物質は、非晶質炭素で被覆された黒鉛であることを特徴とする請求項15に記載のリチウムイオン電池。
【請求項17】
請求項15又は16に記載のリチウムイオン電池を含むことを特徴とする電池モジュール。
【請求項18】
請求項15又は16に記載のリチウムイオン電池又は請求項17に記載の電池モジュールを含むことを特徴とする電池パック。
【請求項19】
請求項15又は16に記載のリチウムイオン電池、請求項17に記載の電池モジュール又は請求項18に記載の電池パックを含む電力消費装置であって、前記リチウムイオン電池又は前記電池モジュール又は前記電池パックは、前記電力消費装置の電源又は前記電力消費装置のエネルギー貯蔵ユニットとして用いられることを特徴とする電力消費装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、電気化学の分野に関し、特に炭素被覆リン酸鉄リチウム正極活物質、その製造方法、それを含む正極シート、リチウムイオン電池、電池モジュール、電池パック及び電力消費装置に関する。
【背景技術】
【0002】
新エネルギー分野の急速な発展に伴い、リチウムイオン電池は、電気化学的特性に優れ、メモリ効果がなく、環境汚染が少ないなどの利点を有することにより、種々の大型動力装置、エネルギー貯蔵システム及び種々の消費者製品に広く適用されており、特に二次電池式電気自動車、ハイブリッド電気自動車などの新エネルギー自動車分野に広く適用されている。
【0003】
リチウムイオン電池によく用いられる正極活物質において、リン酸鉄リチウムは、現在の工業用リチウムイオン電池に最も広く使用されている正極活物質の1つである。しかし、リン酸鉄リチウムの1グラム当たりの容量が三元系材料よりも低いため、近年、主にリン酸鉄リチウムの容量発揮の向上を研究開発のホットスポットとしてきた。しかし、リン酸鉄リチウムの容量特性の向上のみに着目すると、例えばサイクル特性、加工性などの電池の他の特性を不可避的に失うことになる。
【0004】
従って、高エネルギー密度、高サイクル特性及び優れた加工性を兼ね備えるリチウムイオン電池を設計することが望まれている。
【発明の概要】
【0005】
従来技術に存在する問題に鑑み、本願は、容量発揮が高く、圧縮密度が高く、シートが脱水しやすいため、リチウムイオン電池が優れたエネルギー密度、サイクル特性及び優れた加工性を兼ね備え、且つ電池の生産効率を顕著に向上させ、電池の生産コストを削減することができる炭素被覆リン酸鉄リチウム正極活物質を提供することを目的とする。
【0006】
本願の第1の態様は、炭素被覆リン酸鉄リチウム正極活物質を提供し、前記正極活物質は、リン酸鉄リチウム基材及び前記基材の表面に位置する炭素被覆層を含み、前記リン酸鉄リチウム基材は、一般構造式LiFe1-aPOを有し、Mは、Cu、Mn、Cr、Zn、Pb、Ca、Co、Ni、Sr、Nb、Tiのうちの1つ以上から選択され、0≦a≦0.01であり、前記炭素被覆リン酸鉄リチウム材料の炭素被覆因子
であり、BET1は、前記炭素被覆リン酸鉄リチウムにおけるメソ孔及びマクロ孔構造の比表面積であり、BET2は、前記炭素被覆リン酸鉄リチウムの総比表面積であり、ηは、0.81≦η≦0.95を満たす。
【0007】
任意の実施形態において、前記ηは、選択的に0.85≦η≦0.93であり、更に選択的に0.88≦η≦0.92である。
【0008】
任意の実施形態において、前記BET1の数値範囲は、5.5~9.5m/gであり、前記BET2の数値範囲は、6.0~11.5m/gである。
【0009】
任意の実施形態において、炭素被覆層の厚さHと前記炭素被覆リン酸鉄リチウムの平均粒径Dの比H/Dは、0.01~0.04である。
【0010】
任意の実施形態において、炭素被覆層における炭素成分は、前記リン酸鉄リチウム正極活物質の総質量の0.7%~1.3%を占め、選択的に0.9%~1.3%であり、より選択的に0.9%~1.1%である。
【0011】
任意の実施形態において、前記炭素被覆リン酸鉄リチウムの体積平均粒径Dv50は、840nm≦Dv50≦3570nmを満たし、選択的に1170nm≦Dv50≦1820nmである。
【0012】
任意の実施形態において、前記炭素被覆リン酸鉄リチウムの粉体圧縮密度は、2.4g/cm以上であり、選択的に2.5g/cmであり、より選択的に2.6g/cmである。
【0013】
任意の実施形態において、前記炭素被覆リン酸鉄リチウムの黒鉛化度は、0.15~0.32であり、選択的に0.19~0.26である。
【0014】
任意の実施形態において、前記炭素被覆リン酸鉄リチウムの粉体抵抗率は、60Ω・mを超えず、選択的に30Ω・mを超えず、より選択的に20Ω・mを超えない。
【0015】
本願の第2の態様は、本願の第1の態様に記載の正極活物質の製造方法を提供し、前記方法は、
リン酸鉄リチウム基材を提供するステップと、
前記リン酸鉄リチウム基材に炭素被覆を行い、前記正極活物質を得るステップと、を含み、前記正極活物質は、リン酸鉄リチウム基材及び前記基材の表面に位置する炭素被覆層を含み、リン酸鉄リチウム基材は、一般構造式LiFe1-aPOを有し、Mは、Cu、Mn、Cr、Zn、Pb、Ca、Co、Ni、Sr、Nb、Tiのうちの1つ以上から選択され、0≦a≦0.01であり、前記炭素被覆リン酸鉄リチウム材料の炭素被覆因子
であり、BET1は、前記炭素被覆リン酸鉄リチウムにおけるメソ孔及びマクロ孔構造の比表面積であり、BET2は、前記炭素被覆リン酸鉄リチウムの総比表面積であり、ηは、0.81≦η≦0.95を満たす。
【0016】
任意の実施形態において、前記正極活物質の製造方法は、
(1)リン酸鉄リチウム基材を提供し、Fe源、Li源、M源及び/又はP源の原料と、還元剤及び炭素源としての試薬とを混合し、得られた混合物を不活性雰囲気において高温で処理し、リン酸鉄リチウム基材を得るステップと、
(2)前記リン酸鉄リチウム基材に炭素被覆を行い、リン酸鉄リチウム基材を不活性雰囲気において高温で処理しながら、炭素源を噴霧し、化学気相成長によって炭素被覆リン酸鉄リチウム材料を得るステップと、を含む。
【0017】
Fe源は、FeSO、FePO、FeCl、FeC、Feから選択される1つ又は複数であってもよい。
【0018】
Li源は、LiCO、LiHPO、LiPOから選択される1つ又は複数であってもよい。
【0019】
P源は、NHPO、HPOから選択される1つ又は複数であってもよい。M源は、Cu、Mn、Cr、Zn、Pb、Ca、Co、Ni、Sr、Nb又はTiから選択される元素を含む。
【0020】
ステップ(1)における還元剤及び炭素源としての試薬は、C、CH、グルコース、ポリエチレングリコール、スクロース、澱粉、H、COから選択される1つ又は複数であってもよい。選択的に、前記還元剤及び炭素源としての試薬の投入量は、原料の総質量の4%~8%を占め、選択的に6%である。
【0021】
ステップ(2)における炭素源は、アセトンなどの材料であってもよい。
【0022】
ステップ(1)又は(2)における処理温度は、例えば500~800℃のような広い範囲内で変化することができる。
【0023】
本願の第3の態様は、リチウムイオン電池の正極シートを提供し、前記正極シートは、正極集電体及び前記正極集電体の少なくとも1つの表面に設けられる正極活物質を含み、前記正極活物質は、本願の第1の態様に記載の正極活物質又は本願の第2の態様に記載の方法により製造された正極活物質である。
【0024】
任意の実施形態において、前記正極シートの25℃、45%の相対湿度における飽和含水量は、500ppmを超えない。
【0025】
本願の第4の態様は、リチウムイオン電池を提供し、前記リチウムイオン電池は、正極シート及び負極シートを含み、前記正極シートは、正極集電体及び前記正極集電体の少なくとも1つの表面に設けられる正極活物質を含み、前記正極活物質は、本願の第1の態様に記載の正極活物質又は本願の第2の態様に記載の方法により製造された正極活物質であり、前記正極シートの25℃、45%の相対湿度における飽和含水量は、500ppmを超えない。
【0026】
任意の実施形態において、前記正極シートのシート圧縮密度は、2.35g/cm以上であり、前記負極シートのシート圧縮密度は、1.6g/cm以上であり、前記負極シートにおける負極活物質は、非晶質炭素で被覆された黒鉛である。
【0027】
本願の第5の態様は、本願の第4の態様のリチウムイオン電池を含む電池モジュールを提供する。電池モジュールの製造には、従来技術における既知の電池モジュールの製造方法を採用することができる。
【0028】
本願の第6の態様は、本願の第4の態様のリチウムイオン電池又は本願の第5の態様の電池モジュールを含む電池パックを提供する。電池パックの製造には、従来技術における既知の電池パックの製造方法を採用することができる。
【0029】
本願の第7の態様は、電力消費装置を提供し、前記電力消費装置は、本願の第4の態様のリチウムイオン電池、本願の第5の態様の電池モジュール、又は本願の第6の態様の電池パックを含み、前記リチウムイオン電池又は前記電池モジュール又は前記電池パックは、前記電力消費装置の電源又は前記電力消費装置のエネルギー貯蔵ユニットとして用いられる。電力消費装置の製造には、従来技術における既知の電力消費装置の製造方法を採用することができる。
【発明の効果】
【0030】
本願は、炭素被覆リン酸鉄リチウム材料の表層における微視的形態の異なる炭素構造の比表面積の相対的割合を調整することにより、本願の正極活物質が得られる。本願の炭素被覆リン酸鉄リチウム材料は、炭素被覆因子ηを有し、且つ前記ηが0.81≦η≦0.95を満たす場合、炭素被覆リン酸鉄リチウムは、高品質の炭素被覆を有し、シートが脱水しにくいというプロセスのボトルネックを顕著に改善することができ、製造されたリチウムイオン電池は、優れたエネルギー密度、サイクル特性及び優れた加工性を兼ね備える。
【0031】
本願の電池モジュール、電池パック及び電力消費装置は、本願により提供されるリチウムイオン電池を含むため、少なくとも前記リチウムイオン電池と同じ利点を有する。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1】本願の一実施形態による炭素被覆リン酸鉄リチウム正極活物質の異なる倍率でのTEM図である。
図2】本願の一実施形態によるリチウムイオン電池の概略図である。
図3図2に示される本願の一実施形態によるリチウムイオン電池の分解図である。
図4】本願の一実施形態による電池モジュールの概略図である。
図5】本願の一実施形態による電池パックの概略図である。
図6図5に示される本願の一実施形態による電池パックの分解図である。
図7】本願の一実施形態による電力消費装置の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、図面を参照しながら詳細に説明し、具体的に本願の炭素被覆リン酸鉄リチウム正極活物質及びその製造方法、それを含む正極シート、リチウムイオン電池、電池モジュール、電池パック並びに電力消費装置を開示するが、不必要な詳細説明を省略する場合がある。例えば、周知の事項に対する詳細な説明、実質的に同じ構造に対する重複説明を省略する場合があり、これは、以下の説明が不必要に冗長になることを回避し、当業者が容易に理解できるようにするためである。また、図面及び以下の説明は、当業者が本願を十分に理解するために提供され、特許請求の範囲に記載の主旨を限定することを意図しない。
【0034】
簡潔にするために、本願は、幾つかの数値範囲を具体的に開示し、各種の数値範囲は、互いに組み合わせることで、対応する実施形態を形成することができる。任意の下限は、任意の上限と組み合わせて本願の範囲を形成することができ、任意の下限は、他の下限と組み合わせて本願の範囲を形成することができ、同様に、任意の上限は、任意の他の上限と組み合わせて本願の範囲を形成することができる。また、個別に開示された点又は単一の数値自体は、下限又は上限として任意の他の点又は単一の数値と組み合わせて、或いは他の下限又は上限と組み合わせて本願の範囲を形成することができる。
【0035】
別途説明されていない限り、本願で使用される用語は、当業者が一般的に理解している周知の意味を有する。本願において、別途説明されていない限り、「以上」、「以下」は、その数値自体を含み、例えば「a及びbのうちの1つ以上」とは、a及びbのうちの少なくとも1つ、例えばa、b、又はa及びbを指す。同様に、「1つ又は複数」とは、少なくとも1つを含むことを意味する。本明細書の説明において、別途説明されていない限り、「又は(or)」という用語は、包括的なものであり、つまり、「A又は(or)B」という語句は、「A、B、又はA及びBの両者」を表す。
【0036】
「炭素被覆層」という用語は、リン酸鉄リチウム基材に被覆されている部分を指し、前記部分は、リン酸鉄リチウム基材を被覆してよいが、必ずしも完全に被覆するとは限らず、「炭素被覆層」という用語は、単に説明しやすくするために使用され、本願を制限することを意図しないことを説明しておく。同様に、「炭素被覆層の厚さ」という用語は、リン酸鉄リチウム基材に被覆されている前記部分の最も大きい厚さを指す。
【0037】
本願の発明者は、リン酸鉄リチウム正極活物質を研究することにより、純相のリン酸鉄リチウム正極活物質(炭素を含まない)の電子伝導性及びイオン伝導性が低いため、リン酸鉄リチウム正極活物質の容量発揮を悪化させ、リン酸鉄リチウムを正極活物質とするリチウムイオン電池のエネルギー密度が三元系リチウムイオン電池と大きく異なることを発見した。
【0038】
リン酸鉄リチウム正極活物質の電子伝導性及びイオン伝導性が低いという問題を解決するために、材料に炭素被覆処理及びナノ化処理を行うことができる。しかし、本願の発明者は、炭素被覆処理でもナノ化処理でも電池の他の性能、特に電池のサイクル特性及び加工性を不可避的に悪化させてしまうことを発見した。
【0039】
特に、発明者は、実際の作業において、炭素被覆処理後のリン酸鉄リチウム材料について、異なる炭素被覆プロセスにより、正極活物質に微視的形態の異なる孔路構造、例えば、マイクロ孔構造(2nm以下の孔を有する網目構造)、メソ孔構造(2nm~50nmの孔を有する網目構造)、マクロ孔構造(50nmを超える孔を有する網目構造)、及び例えば層状の炭素構造などの明らかな孔路のない他の構造が存在することを発見した。発明者は、大量の実験を重ねた結果、炭素被覆後のリン酸鉄リチウム材料について、表層における各種の孔構造の非合理的な組み合わせが、リン酸鉄リチウム正極活物質の電子伝導性及びイオン伝導性の改善に対して明らかな作用を持たないだけでなく、リン酸鉄リチウム正極活物質で製造されたシートの脱水難易度を顕著に増加させてしまうため、製造されたシートにおける水分を長時間脱水処理しても、脱水率が電池の製造要求を満たすようにならず、特に、電池のエネルギー密度を大きくするために正極活物質層の塗布厚さを大きくする場合に、シートの脱水率がより要求を満たし難いことを発見した。
【0040】
特に、発明者は、実際の作業において、ナノ化処理もシートの脱水難易度を増加させ、電池のサイクル特性を悪化させることを更に発見した。また、ナノ化処理によって、更にリン酸鉄リチウム正極活物質の粉体圧縮密度が低下するため、電子伝導性及びイオン伝導性の向上により寄与するエネルギー密度が大幅に低下する。
【0041】
シートに含まれる水の含有量が高すぎるため、シートにおける正極膜層が脱落しやすく、構造及び化学的特性が不安定になるなどの問題を引き起こし、最終的に電池のサイクル特性に影響を与える一方、電池製造中の不良品のリスクを高め、コストを増加させながら電池の生産効率にも影響を与える。
【0042】
以上を纏めると、高容量発揮、高圧縮密度、シートの脱水容易性を兼ね備える正極活物質を開発し、更に高エネルギー密度、高サイクル特性及び優れた加工性を兼ね備えるリチウムイオン電池を設計することが望まれる。
【0043】
大量の実験及び研究を重ねた結果、本願の発明者は、リチウムイオン電池が優れたエネルギー密度、サイクル特性及び優れた加工性を兼ね備えるようにし、電池の生産効率を顕著に向上させ、電池の生産コストを削減することができる、リン酸鉄リチウム正極活物質が高容量発揮、高圧縮密度、シートの脱水容易性を兼ね備えるようにする技術的解決手段を発見した。
【0044】
[炭素被覆リン酸鉄リチウム正極活物質]
【0045】
本願は、炭素被覆リン酸鉄リチウム正極活物質を提供し、前記正極活物質は、リン酸鉄リチウム基材及び前記基材の表面に位置する炭素被覆層を含み、前記リン酸鉄リチウム基材は、一般構造式LiFe1-aPOを有し、Mは、Cu、Mn、Cr、Zn、Pb、Ca、Co、Ni、Sr、Nb、Tiのうちの1つ以上から選択され、0≦a≦0.01である。
【0046】
前記炭素被覆リン酸鉄リチウム材料の炭素被覆因子
であり、BET1は、前記炭素被覆リン酸鉄リチウムにおけるメソ孔及びマクロ孔構造の比表面積であり、BET2は、前記炭素被覆リン酸鉄リチウムの総比表面積であり、ηは、0.81≦η≦0.95を満たす。
【0047】
基材は、一般構造式LiFe1-aPOを有し、Mは、Cu、Mn、Cr、Zn、Pb、Ca、Co、Ni、Sr、Nb、Tiのうちの1つ又は複数から選択され、0≦a≦0.01である。元素Mをドープすることでリン酸鉄リチウム基材の構造的安定性を向上させ、複数回の充放電サイクル後におけるリン酸鉄リチウム正極活物質の構造崩壊を防止することに寄与する。
【0048】
炭素被覆層は、電子伝導率及びイオン伝導率を向上させ、電池のエネルギー密度を向上させることができる。しかし、炭素被覆層は、炭素で構成された多孔構造として、リン酸鉄リチウム正極活物質の総比表面エネルギーを顕著に増加させ、更にリン酸鉄リチウム正極活物質の吸水能力を顕著に向上させる。本願の発明者は、大量の実験により検証したところ、炭素被覆リン酸鉄リチウム材料が
、0.81≦η≦0.95を満たす場合、前記炭素被覆リン酸鉄リチウムが高容量発揮を満たすと共に、合理的な比表面エネルギーを有することにより、炭素被覆リン酸鉄リチウム正極活物質で製造されたシートの総比表面エネルギーを顕著に低下させ、シートの脱水効率を明らかに向上させ、シートが脱水しにくいというプロセスのボトルネックを明らかに改善することができることを発見した。従って、0.81≦η≦0.95の炭素被覆リン酸鉄リチウム正極活物質で製造された電池は、優れたエネルギー密度、サイクル特性及び優れた加工性を兼ね備える。
【0049】
本願において、炭素被覆因子ηは、実際に炭素被覆後のリン酸鉄リチウム材料における、微視的形態の異なる細孔構造による比表面積の相対的割合を特徴付け、全ての孔路による比表面積に対する、表面エネルギーに大きく寄与するマイクロ孔構造の比表面積の割合の大きさを反映することができ、その大きさは、リン酸鉄リチウムに対する炭素層被覆の有効性を反映する。大量の実験と検討及び長期にわたる正極材料の製造経験により、発明者は、0.81≦η≦0.95の場合、緻密且つ効率的な炭素被覆層がリン酸鉄リチウム正極活物質の容量発揮を顕著に向上させることができると共に、リン酸鉄リチウム正極活物質の表面エネルギーを顕著に低下させることができ、それにより、リチウムイオン電池が優れたエネルギー密度を有すると共に、電池のサイクル特性及び加工性も顕著に改善されることを発見した。
【0050】
大量の実験と検討により、発明者は、炭素被覆因子ηが0.85≦η≦0.93の範囲である場合、表層における微視的形態の異なる細孔の相対的割合がより合理的な範囲にあり、リン酸鉄リチウムが高品質の炭素被覆を有し、リン酸鉄リチウム正極活物質の容量発揮に寄与し、シートの吸水量を顕著に低下させ、製造されたリチウムイオン電池が優れたエネルギー密度、サイクル特性及び優れた加工性を兼ね備えることを発見した。
【0051】
幾つかの実施形態において、選択的に、ηの範囲は0.88≦η≦0.92であり、リチウムイオン電池の電気化学的特性及び加工性がより優れている。
【0052】
以上を纏めると、本願は、炭素被覆リン酸鉄リチウム材料の表層における微視的形態の異なる炭素構造の比表面積の相対的割合を調整することにより、本願の炭素被覆リン酸鉄リチウム正極活物質が得られる。本願の炭素被覆リン酸鉄リチウム材料の炭素被覆因子ηが0.81≦η≦0.95を満たす場合、リン酸鉄リチウム材料は、高品質の炭素被覆を有し、シート脱水効率の顕著な改善に寄与し、製造されたリチウムイオン電池が優れたエネルギー密度、サイクル特性及び優れた加工性を兼ね備える。具体的には表1を参照する。
【0053】
選択的に、前記ηの値は、0.811、0.836、0.862、0.894、0.915、0.922、0.928、0.939であってもよく、又は、その数値は、上記した任意の2つの値で構成された数値範囲内にある。
【0054】
幾つかの実施形態において、選択的に、BET1の数値範囲は、5.5~9.5m/gであり、BET2の数値範囲は、6.0~11.5m/gであり、この場合、表層における微視的形態の異なる炭素構造の相対的割合がより合理的な範囲にあり、シートがより吸水しにくく、電池のエネルギー密度及びサイクル特性の改善に一層寄与する。
【0055】
選択的に、前記BET1は、9.08、8.86、7.05、6.68、6.93、6.46、5.95、5.82であってもよく、又は、その数値は、上記した任意の2つの値で構成された数値範囲内にある。前記BET2は、11.2、10.6、8.19、7.48、7.16、7.01、6.40、6.20であってもよく、又は、その数値は、上記した任意の2つの値で構成された数値範囲内にある。
【0056】
幾つかの実施形態において、選択的に、本願の正極活物質において、前記炭素被覆層の厚さHと前記炭素被覆リン酸鉄リチウムの平均粒径Dの比H/Dは、0.01~0.04である。
【0057】
炭素被覆層の厚さと前記炭素被覆リン酸鉄リチウムの平均粒径の比が0.01~0.04である場合、リン酸鉄リチウム材料の表面にある炭素被覆層の完全性及び電子伝導能力が良好であり、材料が高い電子伝導率を有し、また、粒子全体の寸法に対する炭素被覆層の厚さの割合が合理的な範囲内にあり、リン酸鉄リチウム材料が高い粉体圧縮密度を兼ね備えるため、リチウムイオン電池のエネルギー密度及びサイクル特性が良好になる。合理的な炭素被覆層の厚さは、更にリン酸鉄リチウム材料で製造されたシートの脱水難易度を低下させ、加工性の向上に寄与する。
【0058】
幾つかの実施形態において、選択的に、炭素成分は、前記炭素被覆リン酸鉄リチウムの総質量の0.7%~1.3%を占め、選択的に0.9%~1.3%であり、より選択的に0.8%~1.1%である。
【0059】
炭素含有量が低すぎると、リン酸鉄リチウム材料の表面にある炭素被覆層の完全性が低く、材料の動力学特性が悪いため、電池のエネルギー密度が低くなる。炭素含有量が高すぎると、単一粒子の焼結中における成長を阻害し、更にリン酸鉄リチウム材料が多くの小粒子で形成された二次粒子を形成する傾向となり、更に、炭素成分は、電池の容量に寄与しないため、同様にリチウムイオン電池のエネルギー密度を低くする。本願において、炭素被覆リン酸鉄リチウムの総質量に基づき、炭素含有量は、0.7%≦C≦1.3%を満たし、選択的に0.9%≦C≦1.3%であり、より選択的に0.8%≦C≦1.1%である。具体的には表2を参照する。
【0060】
選択的に、炭素被覆リン酸鉄リチウムの総質量に基づき、前記炭素成分の含有量は、0.70%、0.82%、0.95%、1.12%、1.3%であってもよく、又は、その数値は、上記した任意の2つの値で構成された数値範囲内にある。
【0061】
幾つかの実施形態において、選択的に、本願の炭素被覆リン酸鉄リチウムの体積平均粒径Dv50は、840nm≦Dv50≦3570nmを満たし、選択的に1170nm≦Dv50≦1820nmである。
【0062】
本願の発明者は、リン酸鉄リチウム正極活物質の電子伝導性及びイオン伝導性が低いという問題を解決するために、材料にナノ化処理を行えばよいことを発見した。しかし、大量の実践により、ナノ化処理は、同様にリン酸鉄リチウム正極活物質の表面エネルギーを大きくし、シートの吸水能力を高めて脱水しにくくし、最終的に電池のサイクル特性及び加工性を悪化させることを発見した。また、ナノ化処理は、更にリン酸鉄リチウム正極活物質の粉体圧縮密度を低下させるため、電子伝導性及びイオン伝導性の向上により寄与したエネルギー密度が大幅に低下する。
【0063】
実験により、0.81≦η≦0.95を満たす範囲で、炭素被覆リン酸鉄リチウムが更に体積平均粒径840nm≦Dv50≦3570nm、選択的に1170nm≦Dv50≦1820nmを満たす場合、前記炭素被覆リン酸鉄リチウムの粉体圧縮密度は、最も大きくて2.64g/cmに達することができ、シート圧縮密度は、最も大きくて2.64g/cmに達することができる。本願において、体積平均粒径Dv50の増加に伴い、粉体圧縮密度及びシート圧縮密度がいずれも低下傾向を呈し、電池のエネルギー密度が徐々に低くなる。しかし、Dv50の増加に伴い、シート脱水効率が向上し、それに対応してリチウムイオン電池のサイクル特性が向上する。具体的には表4を参照する。
【0064】
選択的に、前記Dv50は、840、1170、1430、1820、3520であってもよく、又は、その数値は、上記した任意の2つの値で構成された数値範囲内にある。
【0065】
幾つかの実施形態において、選択的に、本願の炭素被覆リン酸鉄リチウムの黒鉛化度は、0.15~0.32である。本願の炭素被覆リン酸鉄リチウム材料の炭素被覆因子が0.81≦η≦0.95であり、炭素被覆リン酸鉄リチウムの黒鉛化度が0.15~0.32である場合、リン酸鉄リチウム材料の容量発揮に寄与するだけでなく、リン酸鉄リチウム材料の粉体抵抗率を改善し、電池のエネルギー密度を向上させることに一層寄与する。具体的には表5を参照する。
【0066】
炭素被覆リン酸鉄リチウムの「黒鉛化度」とは、炭素成分の黒鉛化度合いを指し、本願の炭素被覆リン酸鉄リチウムにおける、特に炭素被覆層における黒鉛結晶構造の完全度、即ち黒鉛構造における炭素原子の配列規則度を反映する。
【0067】
選択的に、前記黒鉛化度は、0.155、0.197、0.255、0.245、0.312であってもよく、又は、その数値は、上記した任意の2つの値で構成された数値範囲内にある。
【0068】
幾つかの実施形態において、前記リン酸鉄リチウム基材に、炭素元素、選択的にリン酸鉄リチウム基材の質量に基づいて0.1%~0.5%の炭素元素がドープされている。
【0069】
幾つかの実施形態において、選択的に、本願の炭素被覆リン酸鉄リチウムの粉体抵抗率は、60Ω・mを超えず、選択的に30Ω・mを超えず、より選択的に20Ω・mを超えない。
【0070】
幾つかの実施形態において、選択的に、本願の正極活物質は、前記炭素被覆リン酸鉄リチウムの他、例えば他のオリビン型構造のリチウム含有リン酸塩、リチウム遷移金属酸化物及びその各々の変性化合物などの当分野における従来の正極活物質を更に含む。しかし、本願は、これらの材料に限定されず、電池の正極活物質として使用できる他の従来の材料を使用してもよい。これらの正極活物質は、1つを単独で使用してもよく、2つ以上を組み合わせて使用してもよい。リチウム遷移金属酸化物の例として、リチウムコバルト酸化物(例えばLiCoO)、リチウムニッケル酸化物(例えばLiNiO)、リチウムマンガン酸化物(例えばLiMnO、LiMn)、リチウムニッケルコバルト酸化物、リチウムマンガンコバルト酸化物、リチウムニッケルマンガン酸化物、リチウムニッケルコバルトマンガン酸化物(例えばLiNi1/3Co1/3Mn1/3(NCM333と略称されてもよい)、LiNi0.5Co0.2Mn0.3(NCM523と略称されてもよい)、LiNi0.5Co0.25Mn0.25(NCM211と略称されてもよい)、LiNi0.6Co0.2Mn0.2(NCM622と略称されてもよい)、LiNi0.8Co0.1Mn0.1(NCM811と略称されてもよい)、リチウムニッケルコバルトアルミニウム酸化物(例えばLiNi0.85Co0.15Al0.05)及びその変性化合物などのうちの少なくとも1つを含むことができるが、これらに限定されない。他のオリビン型構造のリチウム含有リン酸塩の例として、リン酸マンガンリチウム(例えばLiMnPO)、リン酸マンガンリチウムと炭素の複合材料、リン酸マンガン鉄リチウム、リン酸マンガン鉄リチウムと炭素の複合材料のうちの少なくとも1つを含むことができるが、これらに限定されない。
【0071】
[正極シート]
【0072】
本願は、正極集電体及び前記正極集電体の少なくとも1つの表面に設けられる正極活物質を含む正極シートを提供し、前記正極活物質は、本願の一態様による炭素被覆リン酸鉄リチウムである。
【0073】
本願のリチウムイオン電池は、正極シート及び負極シートを含み、前記正極シートは、本願に記載の炭素被覆リン酸鉄リチウム正極活物質を含み、前記正極シートの25℃、45%の相対湿度における飽和含水量は、500ppmを超えない。従来技術において、得られたリン酸鉄リチウム正極活物質が通常の炭素で被覆され、それにより製造されたシートの25℃、45%の相対湿度における飽和含水量は、1000ppmに達することができ、本願の炭素被覆リン酸鉄リチウム正極活物質で製造されたシートの吸水量よりも顕著に高い。
【0074】
幾つかの実施形態において、選択的に、本願の正極シートのシート圧縮密度は、最も大きくて2.65g/cmに達することができ、前記負極シートのシート圧縮密度は、1.6g/cm以上であり、前記負極シートにおける負極活物質は、非晶質炭素で被覆された黒鉛である。
【0075】
本願において、本願の高容量発揮のリン酸鉄リチウム正極活物質に適合するために、容量発揮が350mAh/g以上であり、シート圧縮密度が1.6g/cm以上である黒鉛負極を提供し、また、黒鉛表面に非晶質炭素被覆層を有し、本願の正極に適合するリチウムイオン挿入能力及び高い充電ウィンドウ(異なるSOCで充電時に負極の電位が0Vに達したときのそれぞれの充電レートである)を有する。
【0076】
幾つかの実施形態において、選択的に、本願の正極シートの正極膜層において、炭素被覆リン酸鉄リチウム正極活物質は、正極膜層全体の質量の90%~98%を占める。本願の炭素被覆リン酸鉄リチウム正極活物質は、微視的形態の異なる炭素構造により寄与した合理的な比表面積を有するため、結着剤含有量が同じである場合、より多くのリン酸鉄リチウム正極活物質を結着することができる。正極膜層に2%のPVDFが適用される場合、塗布量≧300mg/mmであり、量産時の塗布速度が60m/minに達することができ、実際の作業における加工効率が顕著に向上し、電池のエネルギー密度も顕著に向上する。
【0077】
正極シートは、正極集電体及び正極集電体の少なくとも1つの表面に設けられる正極材料を含む。例として、正極集電体は、それ自体の厚さ方向に対向する2つの表面を有し、正極材料は、正極集電体の対向する2つの表面のいずれか一方又は両方に設けられる。
【0078】
本願のリチウムイオン電池において、前記正極集電体としては、金属箔又は複合集電体を採用することができる。例えば、金属箔としては、アルミニウム箔を採用することができる。複合集電体は、高分子材料基層及び高分子材料基層の少なくとも1つの表面に形成される金属層を含むことができる。複合集電体は、金属材料(アルミニウム、アルミニウム合金、ニッケル、ニッケル合金、チタン、チタン合金、銀及び銀合金など)を高分子材料基材(例えば、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、1,3-プロパンスルトン(PS)、ポリエチレン(PE)などの基材)に形成することで形成可能であるが、本願においてこれらの材料に限定されない。
【0079】
前記正極材料は、選択的に導電剤を更に含む。導電剤の種類は、具体的に限定されず、当業者は、実際の要求に応じて選択することができる。例として、正極材料に使用される導電剤は、超伝導カーボン、アセチレンブラック、カーボンブラック、ケッチェンブラック、カーボンドット、カーボンナノチューブ、グラフェン及びカーボンナノファイバーのうちの1つ以上から選択されてもよい。
【0080】
本願において、当分野における既知の方法に従って正極シートを製造することができる。例として、本願の正極活物質、導電剤及び結着剤を溶剤(例えば、N-メチルピロリドン(NMP))に分散させ、均一な正極スラリーを形成する。正極スラリーを正極集電体に塗布し、乾燥、冷間プレスなどの工程を経た後、正極シートを得ることができる。
【0081】
[負極シート]
【0082】
負極シートは、負極集電体及び負極集電体の少なくとも1つの表面に設けられる負極膜層を含み、前記負極膜層は、負極活物質を含む。
【0083】
例として、負極集電体は、それ自体の厚さ方向に対向する2つの表面を有し、負極膜層は、負極集電極の対向する2つの表面のうちのいずれか一方又は両方に設けられる。
【0084】
幾つかの実施形態において、選択的に、本願の正極シートのシート圧縮密度は、2.35g/cm以上であり、前記負極シートのシート圧縮密度は、1.6g/cm以上であり、前記負極シートにおける負極活物質は、非晶質炭素で被覆された黒鉛である。
【0085】
本願において、本願の高容量のリン酸鉄リチウム正極活物質に適合するために、容量発揮が350mAh/g以上であり、シート圧縮密度が1.6g/cm以上である黒鉛負極を提供し、また、黒鉛表面に非晶質炭素被覆層を有し、本願の正極に適合するリチウムイオン挿入能力及び高い充電ウィンドウを有する。
【0086】
本願のリチウムイオン電池において、前記負極集電体としては、金属箔又は複合集電体を採用することができる。例えば、金属箔としては、銅箔を採用することができる。複合集電体は、高分子材料基層及び高分子材料基層の少なくとも1つの表面に形成される金属層を含むことができる。複合集電体は、金属材料(銅、銅合金、ニッケル、ニッケル合金、チタン、チタン合金、銀及び銀合金など)を高分子材料基材(例えば、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリスチレン(PS)、ポリエチレン(PE)などの基材)に形成することで形成可能であるが、本願においてこれらの材料に限定されない。
【0087】
本願の負極シートにおいて、前記負極膜層は、通常、負極活物質及び選択的な結着剤、選択的な導電剤及び他の選択的な助剤を含み、通常、負極スラリーを塗布して乾燥してなる。負極スラリーは、通常、負極活物質、選択的な導電剤及び結着剤などを溶剤に分散させると共に均一に撹拌して形成される。溶剤は、N-メチルピロリドン(NMP)又は脱イオン水であってもよい。
【0088】
例として、導電剤は、超伝導カーボン、アセチレンブラック、カーボンブラック、ケッチェンブラック、カーボンドット、カーボンナノチューブ、グラフェン及びカーボンナノファイバーのうちの1つ以上から選択されてもよい。
【0089】
本願の負極シートにおいて、前記負極膜層は、負極活物質の他、選択的によく用いられる他の負極活物質を更に含み、例えば、よく用いられる他の負極活物質として、人造黒鉛、天然黒鉛、ソフトカーボン、ハードカーボン、シリコンベース材、スズベース材及びチタン酸リチウムなどが挙げられる。前記シリコンベース材は、シリコン単体、シリコン酸化物、シリコン炭素複合体、シリコン窒素複合体及びシリコン合金のうちの1つ以上から選択されてもよい。前記スズベース材は、スズ単体、酸化スズ化合物及びスズ合金のうちの1つ以上から選択されてもよい。
【0090】
[電解質]
【0091】
電解質は、正極シートと負極シートの間でイオンを伝導する役割を果たす。本願において、電解質の種類は具体的に制限されず、必要に応じて選択することができる。例えば、電解質は、固体電解質及び液体電解質(即ち、電解液)の少なくとも1つから選択されてもよい。
【0092】
幾つかの実施形態において、前記電解質は、電解液を採用する。前記電解液は、電解質塩及び溶剤を含む。
【0093】
幾つかの実施形態において、電解質塩は、六フッ化リン酸リチウム(LiPF)、四フッ化ホウ酸リチウム(LiBF)、過塩素酸リチウム(LiClO)、六フッ化ヒ酸リチウム(LiAsF)、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiFSI)、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiTFSI)、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム(LiTFS)、リチウムジフルオロオキサラトボレート(LiDFOB)、リチウムビスオキサラトボレート(LiBOB)、ジフルオロリン酸リチウム(LiPO)、リチウムジフルオロジオキサラトホスフェート(LiDFOP)及びリチウムテトラフルオロオキサラトホスフェート(LiTFOP)のうちの1つ以上から選択されてもよい。
【0094】
幾つかの実施形態において、溶剤は、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)、ジプロピルカーボネート(DPC)、メチルプロピルカーボネート(MPC)、エチルプロピルカーボネート(EPC)、ブチレンカーボネート(BC)、フルオロエチレンカーボネート(FEC)、ギ酸メチル(MF)、酢酸メチル(MA)、酢酸エチル(EA)、酢酸プロピル(PA)、プロピオン酸メチル(MP)、プロピオン酸エチル(EP)、プロピオン酸プロピル(PP)、ブタン酸メチル(MB)、ブタン酸エチル(EB)、1,4-ブチロラクトン(GBL)、スルホラン(SF)、ジメチルスルホン(MSM)、エチルメチルスルホン(EMS)及びジエチルスルホン(ESE)のうちの1つ以上から選択されてもよい。
【0095】
幾つかの実施形態において、前記電解液には、選択的に添加剤を更に含む。例えば、添加剤は、負極成膜用添加剤を含んでもよく、正極成膜用添加剤を含んでもよく、電池の幾つかの性能を改善できる添加剤、例えば、電池の過充電性能を改善できる添加剤、電池の高温性能を改善できる添加剤、及び電池の低温性能を改善できる添加剤などを含んでもよい。
【0096】
幾つかの実施形態において、選択的に、本願の電解液は、本願の正極シート、負極シートに適合するように、電気伝導率が13mS/cm以上の電解液である。
【0097】
[セパレータ]
【0098】
電解液を採用するリチウムイオン電池、及び固体電解質を採用する幾つかのリチウムイオン電池において、セパレータを更に含む。セパレータは、正極シートと負極シートの間に設けられ、絶縁の役割を果たす。本願において、セパレータの種類は特に限定されず、良好な化学的安定性及び機械的安定性を有する任意の周知の多孔構造セパレータを選択してもよい。幾つかの実施形態において、セパレータの材質は、ガラス繊維、不織布、ポリエチレン、ポリプロピレン及びポリフッ化ビニリデンのうちの1つ以上から選択されてもよい。セパレータは、単層フィルムであってもよく、多層複合フィルムであってもよく、特に限定されない。セパレータが多層複合フィルムである場合、各層の材料は、同じであってもよく、又は異なってもよく、特に限定されない。
【0099】
[リチウムイオン電池]
【0100】
幾つかの実施形態において、正極シート、負極シート及びセパレータは、巻き取りプロセス又は積層プロセスによって電極組立体に製造されてもよく、前記正極シートは、本願の炭素被覆リン酸鉄リチウムを含む。
【0101】
幾つかの実施形態において、リチウムイオン電池は、外装体を含んでもよい。当該外装体は、上記電極組立体及び電解質を封入するために使用することができる。
【0102】
幾つかの実施形態において、リチウムイオン電池の外装体は、例えば硬質プラスチックケース、アルミニウム製ケース、鋼製ケースなどの硬質ケースであってもよい。リチウムイオン電池の外装体は、例えば袋式ソフトパックなどのソフトパックであってもよい。ソフトパックの材質は、プラスチックであってもよく、プラスチックとして、ポリプロピレン(PP)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)及びポリブチレンサクシネート(PBS)などが挙げられる。
【0103】
本願において、リチウムイオン電池の形状は、特に限定されず、円柱形、方形又は他の任意の形状であってもよい。例えば、図2は、一例としての方形構造を有するリチウムイオン電池5である。
【0104】
幾つかの実施形態において、図3を参照し、外装体は、ケース51及びトップカバー組立体53を含むことができる。ケース51は、底板及び底板に接続される側板を含むことができ、底板と側板は収容室を形成するように囲まれている。ケース51は、収容室に連通する開口を有し、トップカバー組立体53は、前記収容室を密閉するように、前記開口を覆うことができる。正極シート、負極シート及びセパレータは、巻き取りプロセス又は積層プロセスによって電極組立体52を形成することができる。電極組立体52は、前記収容室に封入される。電解液は、電極組立体52に浸潤する。リチウムイオン電池5に含まれる電極組立体52の数は、1つ又は複数であってもよく、当業者は、具体的な要求に応じて選択することができる。
【0105】
[電池モジュール]
【0106】
幾つかの実施形態において、リチウムイオン電池は、電池モジュールに組み立てることができ、電池モジュールに含まれるリチウムイオン電池の数は、1つ又は複数であってもよく、具体的な数は、電池モジュールの適用及び容量に応じて当業者によって選択することができる。
【0107】
図4は、一例としての電池モジュール4である。図4を参照し、電池モジュール4において、複数のリチウムイオン電池5は、電池モジュール4の長手方向に沿って順に配列されて設置されてよい。当然のことながら、他の任意の形態で配列されてもよい。更に、締結部材によって当該複数のリチウムイオン電池5を固定してもよい。
【0108】
選択的に、電池モジュール4は、収容空間を有するハウジングを更に含んでもよく、複数のリチウムイオン電池5は、当該収容空間に収容される。
【0109】
[電池パック]
【0110】
幾つかの実施形態において、上記電池モジュールは、更に電池パックに組み立てることができ、電池パックに含まれる電池モジュールの数は、電池パックの適用及び容量に応じて当業者によって選択することができる。
【0111】
図5及び図6は、一例としての電池パック1である。図5及び図6を参照し、電池パック1には、電池ボックス及び電池ボックスに設けられる複数の電池モジュール4を含むことができる。電池ボックスは、上部ボックス2及び下部ボックス3を含み、上部ボックス2は、下部ボックス3を覆い、電池モジュール4を収容するための密閉空間を形成することができる。複数の電池モジュール4は、任意の方法に応じて電池ボックスに配列することができる。
【0112】
[電力消費装置]
【0113】
また、本願は、本願により提供されるリチウムイオン電池、電池モジュール、又は電池パックのうちの1つ以上を含む電力消費装置を更に提供する。前記リチウムイオン電池、電池モジュール、又は電池パックは、前記装置の電源として使用されてもよく、前記装置のエネルギー貯蔵ユニットとして用いられてもよい。前記装置は、移動機器(例えば、携帯電話、ノートブックコンピュータなど)、電動車両(例えば、二次電池式電気自動車、ハイブリッド電気自動車、プラグインハイブリッド電気自動車、電動自転車、電動スクータ、電動ゴルフカート、電動トラックなど)、電気車、船舶及び衛星、エネルギー貯蔵システムなどであってもよいが、これらに限定されない。
【0114】
前記電力消費装置として、その使用上の需要に応じてリチウムイオン電池、電池モジュール又は電池パックを選択することができる。
【0115】
図7は、一例としての装置である。当該装置は、二次電池式電気自動車、ハイブリッド電気自動車、又はプラグインハイブリッド電気自動車などである。当該装置のリチウムイオン電池に対する高出力及び高エネルギー密度の要求を満たすために、電池パック又は電池モジュールを採用することができる。
【0116】
別の一例としての装置は、携帯電話、タブレットコンピュータ、ノートブックコンピュータなどであってもよい。当該装置は、通常、薄型化が求められ、リチウムイオン電池を電源として採用することができる。
【0117】
[実施例]
【0118】
以下、本願の実施例を説明する。以下に説明される実施例は、例示的なものであり、単に本願を解釈するためのものであり、本願を制限するものとして理解してはいけない。実施例に具体的な技術又は条件が明記されていない場合、当分野の文献に記載の技術又は条件に応じて、又は製品仕様書に応じて行われる。使用される試薬又は機器についてメーカーが明記されていない場合、いずれも当分野でよく使用される商業的に入手可能な従来の製品である。特に断りがない限り、本願の実施例における各成分の含有量は、いずれも質量に基づくものである。
【0119】
[実施例]
[実施例1-1]
[正極活物質としての炭素被覆リン酸鉄リチウムの製造]
【0120】
リン酸鉄リチウム基材の製造:リン酸鉄、炭酸リチウム、酸化チタンを原料として、モル比FePO:LiCO:TiO=0.996:0.498:0.004の化学量論比で、リン酸鉄、炭酸リチウム、酸化チタンを混合すると共に、炭素源及び還元剤としてのグルコース及びポリエチレングリコール(グルコースとポリエチレングリコールの質量比が1:1であり、炭素源投入量が原料の総質量の6%を占める)を加えた後、溶剤としての水を加えて湿式粉砕を行い、混合スラリーを得る。得られたスラリーを噴霧乾燥した後、乾燥後の生成物をローラーハース炉に入れて500℃で空気を遮断して20h焼結し、材料温度<80℃まで自然冷却させた後に排出し、焼成材料を得る。焼成材料に破碎、篩い分け、磁性除去を行い、リン酸鉄リチウム基材LiFe0.998Ti0.002POを得て、それに約0.3%の炭素元素をドープした。
【0121】
炭素被覆:上記基材をローラーハース炉に入れて窒素雰囲気で焼結しながら、焼結炉に炭素源であるアセトン溶液を噴霧し、770℃で10h恒温焼結する。材料を温度<80℃に自然冷却させた後に排出する。更にジェットミルによって粉砕した後、実施例1-1の炭素被覆リン酸鉄リチウムを得た。
【0122】
[正極シート]
上記炭素被覆リン酸鉄リチウム正極活物質、結着剤としてのポリビニリデンフロライド(PVDF)、導電剤としてのアセチレンブラックを96.5:2.0:1.5の質量比で混合した後、N-メチルピロリドン(NMP)溶剤を加えて均一な正極スラリーを形成する。このスラリーを厚さが13μmのカーボンコートアルミニウム箔に塗布し、塗布面密度が26mg/cmであり、乾燥、冷間プレス、分断を経た後、本願の実施例1-1の正極シートを得た。
【0123】
[負極シート]
負極活物質としての黒鉛、増粘剤としてのカルボキシメチルセルロースナトリウム、結着剤としてのスチレンブタジエンゴム、導電剤としてのアセチレンブラックを質量比97:1:1:1で混合し、脱イオン水を加え、真空ミキサーによって負極スラリーを得る。負極スラリーを厚さが8μmの銅箔に均一に塗布する。乾燥後に冷間プレス、分断を経て負極シートを得て、本願の実施例1-1の負極シートを得た。
【0124】
[電解液]
溶剤としてのエチレンカーボネート(EC)及びジメチルカーボネート(DMC)を30:70の質量比で混合し、完全に溶解した後、LiPFを加え、その後、ビニレンカーボネート(VC)及びフルオロエチレンカーボネート(FEC)を加え、均一に混合した後、LiPFの濃度が1mol/Lで、ビニレンカーボネート(VC)及びフルオロエチレンカーボネート(FEC)の質量含有量がそれぞれ3%の電解液を得た。
【0125】
[セパレータ]
厚さが12μmのポリプロピレンセパレータを選択した。
【0126】
[リチウムイオン電池の製造]
シートを110℃の高温オーブンに入れて7h焼成し、シート中の水分を除去し、正極シート、セパレータ、負極シートを順に積層し、セパレータを正極シートと負極シートの間に介在させて絶縁の役割を果たし、更に方形のベアセルに巻き取った後、アルミニウムプラスチックフィルムに入れ、対応する非水電解液を注入し、封口し、静置、熱間/冷間プレス、化学形成、治具取り付け、容量分割などの工程を経た後、本願の実施例1-1のリチウムイオン電池を得た。
【0127】
[実施例1-2]
【0128】
「炭素被覆」ステップにおける恒温焼結温度を780℃とする以外に、他のステップは、実施例1-1と同じである。
【0129】
[実施例1-3]
【0130】
「炭素被覆」ステップ以外に、他のステップは、実施例1-1と同じである。
【0131】
実施例1-3の「炭素被覆」ステップは、以下の通りである。実施例1-3のリン酸鉄リチウム基材を窒素雰囲気のローラーハース炉に入れて焼結しながら、アセトン溶液を噴霧し、550℃で10h恒温焼結し、材料を温度<80℃まで自然冷却させた後に排出し、粉碎、篩い分け後、更に材料をローラーハース炉に入れ、再びアセトン溶液を噴霧し、770℃で10h恒温焼結し、材料を温度<80℃まで自然冷却させた後に排出する。2回目の焼結後の生成物をジェット粉砕した後、実施例1-3の炭素被覆リン酸鉄リチウムを得た。
【0132】
[実施例1-4]
【0133】
「炭素被覆」ステップにおける2回目の恒温焼結温度を780℃とする以外に、他のステップは、実施例1-3と同じである。
【0134】
[実施例1-5]
【0135】
「炭素被覆」ステップにおける2回目の恒温焼結温度を790℃とする以外に、他のステップは、実施例1-3と同じである。
【0136】
[実施例1-6]
【0137】
「炭素被覆」ステップにおける1回目の恒温焼結温度を600℃とし、2回目の恒温焼結温度を770℃とする以外に、他のステップは、実施例1-3と同じである。
【0138】
[実施例1-7]
【0139】
「炭素被覆」ステップにおける2回目の恒温焼結温度を780℃とする以外に、他のステップは、実施例1-6と同じである。
【0140】
[実施例1-8]
【0141】
「炭素被覆」ステップにおける2回目の恒温焼結温度を790℃とする以外に、他のステップは、実施例1-6と同じである。
【0142】
[比較例1]
【0143】
「炭素被覆」ステップにおける恒温焼結温度を750℃とする以外に、他のステップは、実施例1-1と同じである。
【0144】
[比較例2]
【0145】
従来の焼結:リン酸鉄、炭酸リチウム、酸化チタンを原料として、モル比FePO:LiCO:TiO=0.996:0.498:0.004の化学量論比で、リン酸鉄、炭酸リチウム、酸化チタンを混合すると共に、炭素源としてのグルコース及びポリエチレングリコール(グルコースとポリエチレングリコールの質量比が1:1であり、炭素源投入量が原料の総質量の6%を占める)を加えた後、溶剤としての水を加えて湿式粉砕を行い、混合スラリーを得る。得られたスラリーを噴霧乾燥した後、乾燥後の生成物をローラーハース炉に入れて750℃で空気を遮断して10h焼結し、材料温度<80℃まで自然冷却させた後に排出し、焼成材料を得る。焼成材料に破碎、篩い分け、磁性除去を行い、比較例2のリン酸鉄リチウムを得た。
【0146】
[比較例3]
【0147】
「炭素被覆」ステップにおける1回目の恒温焼結温度を650℃とし、2回目の恒温焼結温度を830℃とする以外に、他のステップは、実施例1-6と同じである。
【0148】
[実施例2-1]
【0149】
「基材の製造」ステップにおける炭素源投入量を原料の総質量の4%まで減少させ、「炭素被覆」ステップにおける恒温焼結温度を800℃とし、恒温焼結時間を13hとする以外に、他のステップは、実施例1-1と同じである。基材には約0.15%の炭素元素をドープした。
【0150】
[実施例2-2]
【0151】
「基材の製造」ステップにおける炭素源投入量を原料の総質量の5%まで減少させ、「炭素被覆」ステップにおける1回目の恒温焼結温度を600℃とし、2回目の恒温焼結温度を800℃とする以外に、他のステップは、実施例1-3と同じである。
【0152】
[実施例2-3]
【0153】
「基材の製造」ステップにおける炭素源投入量を原料の総質量の6%とし、「炭素被覆」ステップにおける1回目の恒温焼結温度を600℃とし、2回目の恒温焼結温度を780℃とする以外に、他のステップは、実施例2-2と同じである。
【0154】
[実施例2-4]
【0155】
「基材の製造」ステップにおける炭素源投入量を原料の総質量の7%まで増加させ、「炭素被覆」ステップにおける1回目の恒温焼結温度を550℃とし、2回目の恒温焼結温度を800℃とする以外に、他のステップは、実施例2-3と同じである。
【0156】
[実施例2-5]
【0157】
「基材の製造」ステップにおける炭素源投入量を原料の総質量の8%まで増加させ、「炭素被覆」ステップにおける1回目の恒温焼結温度を550℃とし、2回目の恒温焼結温度を780℃とする以外に、他のステップは、実施例2-4と同じである。
【0158】
[比較例4]
【0159】
「基材の製造」ステップにおける炭素源投入量を原料の総質量の3%まで減少させ、恒温焼結温度を830℃とし、恒温焼結時間を15h以外とする以外に、他のステップは、実施例2-1と同じである。
【0160】
[比較例5]
【0161】
「基材の製造」ステップにおける炭素源投入量を原料の総質量の10%まで増加させ、「炭素被覆」ステップにおける1回目の恒温焼結温度を550℃とし、2回目の恒温焼結温度を770℃とする以外に、他のステップは、実施例2-5と同じである。
【0162】
[比較例6]
【0163】
「基材の製造」ステップにおける炭素源投入量を原料の総質量の15%まで増加させる以外に、他のステップは、比較例5と同じである。
【0164】
[実施例3-1]
【0165】
「基材の製造」ステップにおける炭素源投入量を原料の総質量の5%とし、「炭素被覆」ステップにおける1回目の恒温焼結温度を620℃(恒温焼結時間12h)とし、2回目の恒温焼結温度を820℃(恒温焼結時間12h)とする以外に、他のステップは、実施例2-5と同じである。
【0166】
[実施例3-2]
【0167】
「基材の製造」ステップにおける炭素源投入量を原料の総質量の6%とし、「炭素被覆」ステップにおける1回目の恒温焼結温度を600℃(恒温焼結時間10h)とし、2回目の恒温焼結温度を780℃(恒温焼結時間10h)とする以外に、他のステップは、実施例3-1と同じである。
【0168】
[実施例3-3]
【0169】
「基材の製造」ステップにおける炭素源投入量を原料の総質量の8%とし、「炭素被覆」ステップにおける1回目の恒温焼結温度を600℃(恒温焼結時間10h)とし、2回目の恒温焼結温度を780℃(恒温焼結時間10h)とする以外に、他のステップは、実施例3-2と同じである。
【0170】
[比較例7]
【0171】
「基材の製造」ステップにおける炭素源投入量を原料の総質量の3%とし、「炭素被覆」ステップにおける1回目の恒温焼結温度を650℃(恒温焼結時間10h)とし、2回目の恒温焼結温度を830℃(恒温焼結時間10h)とする以外に、他のステップは、実施例3-1と同じである。
【0172】
[比較例8]
【0173】
「基材の製造」ステップにおける炭素源投入量を原料の総質量の12%とし、「炭素被覆」ステップにおける1回目の恒温焼結温度を600℃(恒温焼結時間10h)とし、2回目の恒温焼結温度を780℃(恒温焼結時間10h)とする以外に、他のステップは、実施例7と同じである。
【0174】
[実施例4-1]
【0175】
「炭素被覆」ステップにおける1回目の恒温焼結温度を550℃(恒温焼結時間10h)とし、2回目の恒温焼結温度を790℃(恒温焼結時間15h)とする以外に、他のステップは、実施例2-3と同じである。実施例4-1で最終的に得られた炭素被覆リン酸鉄リチウム正極活物質の体積平均粒径Dv50は530nmである。
【0176】
[実施例4-2~実施例4-7]
【0177】
最終的に得られた炭素被覆リン酸鉄リチウム正極活物質の体積平均粒径Dv50は、それぞれ840nm、1170nm、1430nm、1820nm、3520nm、5070nmであり、ジェットミルの分級周波数を調節することにより、Dv50が異なるリン酸鉄リチウム正極活物質を得る。
【0178】
[比較例9]
【0179】
常温で焼結し、恒温焼結温度を750℃とする以外に、他のステップは、実施例1-1と同じである。
【0180】
[実施例5-1]
【0181】
「基材の製造」ステップにおける炭素源投入量を原料の総質量の8%とし、「炭素被覆」ステップにおける恒温焼結温度を750℃(恒温焼結時間10h)とする以外に、他のステップは、実施例1-1と同じである。
【0182】
[実施例5-2]
【0183】
「基材の製造」ステップにおける炭素源投入量を原料の総質量の6%とし、「炭素被覆」ステップにおける1回目の恒温焼結温度を550℃(恒温焼結時間10h)とし、2回目の恒温焼結温度を790℃(恒温焼結時間10h)とする以外に、他のステップは、実施例2-2と同じである。
【0184】
[実施例5-3]
【0185】
「基材の製造」ステップにおける炭素源投入量を原料の総質量の5%とし、「炭素被覆」ステップにおける1回目の恒温焼結温度を600℃(恒温焼結時間10h)とし、2回目の恒温焼結温度を830℃(恒温焼結時間14h)とする以外に、他のステップは、実施例5-3と同じである。
【0186】
[比較例10]
【0187】
「基材の製造」ステップは、比較例7と同じであり、相違点は「炭素被覆」ステップである。「炭素被覆」ステップは、具体的に以下の通りである。
【0188】
比較例10のリン酸鉄リチウム基材を窒素雰囲気のローラーハース炉に入れて焼結しながら、アセトン溶液を噴霧し、600℃で10h恒温焼結し、材料を温度<80℃まで自然冷却させた後に排出し、粉碎、篩い分け後、更に材料をローラーハース炉に入れ、再びアセトン溶液を噴霧し、650℃で10h恒温焼結し、材料を温度<80℃まで自然冷却させた後に排出し、粉碎、篩い分け後、更に材料をローラーハース炉に入れ、3回目にアセトン溶液を噴霧し、830℃で10h恒温焼結し、材料を温度<80℃まで自然冷却させた後に排出する。3回目に焼結された生成物をジェット粉砕した後、比較例10のリン酸鉄リチウム正極活物質を得た。
【0189】
以上の実施例及び比較例のリン酸鉄リチウム正極活物質の比表面積、体積平均粒径Dv50、炭素含有量、シート脱水効率、粉体圧縮密度、及びシート圧縮密度、電池のエネルギー密度、電池のサイクル維持率などのデータは、具体的に表1~表5を参照する。
【0190】
[リン酸鉄リチウム正極活物質の関連パラメータ試験]
【0191】
1、平均粒径D
本願で使用されるX線粉末回折計は、米国のX’pert PROである。平均粒径Dの詳細な試験過程は、以下の通りである。
【0192】
1)被検試料の実測幅Bmの測定
機器の走査速度を2度/分に設定し、被検試料のXRDスペクトルを得る。ソフトウェアJADEによってCu Kα2バックグラウンドを除去し、各回折ピークのBmを得る。
【0193】
2)機器によるブローデニングBsの測定
被検試料と同じ物質で、結晶粒度が5~20μmの標準試料を利用し、被検試料と同じ実験条件で、標準試料のXRDスペクトルを測定し、スペクトルからBsを得る。
【0194】
3)半価幅Bの計算
B=Bm-Bsである(注記:計算されたBの単位が角度である場合、弧度に変換する必要がある)。
【0195】
4)平均粒径Dの計算
シェラーの式D=Kλ/Bcosθを利用し、そのうち、Kが0.89であり、θが回折角であり、λ=0.154056nmであり、Bを代入すれば、単一の回折ピークに代表される結晶面法線方向の結晶粒の厚さD’を得ることができる。複数の回折ピークに対してそれぞれD’を計算し、平均値を求めた後に粒子の平均粒径Dを得る。
【0196】
2、走査型電子顕微鏡SEM(Scanning Electron Microscope)
全ての実施例及び比較例のリン酸鉄リチウム正極活物質を走査型電子顕微鏡ZEISS sigma 300によって試験した後、標準JY/T010-1996を参照しながら試験し、試料の外観を観察する。
【0197】
ここで、本願の基材としてのリン酸鉄リチウム基材は、形状が必ずしも完璧な球状であるとは限らず、不規則である可能性もあり、一次粒子であることを指摘しておく。更に、本願により製造された炭素被覆リン酸鉄リチウム正極活物質の形状も、必ずしも球状であるとは限らず、不規則である可能性もあることを指摘しておく。
【0198】
3、透過型電子顕微鏡TEM(Transmission Electron Microscope)
全ての実施例及び比較例のリン酸鉄リチウム正極活物質を透過型電子顕微鏡JEOL2010によって試験する。試験標準はGB/T 34002-2017である。
【0199】
4、粉体圧縮密度
全ての実施例及び比較例における1gのリン酸鉄リチウム正極活物質をそれぞれ秤量し、円柱形金型に加え、金型円孔の断面積がSである。金型内の粉体に3tの圧力を印加し、30s保圧し、粉体厚さをtとして記録する。全ての実施例及び全ての比較例のそれぞれに対応するリン酸鉄リチウム正極活物質の粉体圧縮密度ρは、下記式によって計算することができる。
ρ=m/(S×t)
【0200】
5、シート圧縮密度
実施例及び比較例のシートを長さが1000mmの膜シートに裁断し、シートを所定の圧力で圧延し、アルミニウム箔が延性を有するため、その膜シートの長さを1006mmにする。その後、膜シートに1540.25mmの小円形片を打ち抜き、小円形片の重量M及び厚さLを測定する。純粋なアルミニウム箔を1540.25mmの小円形片に打ち抜き、空のアルミニウム箔の質量M0を秤量し、全ての実施例及び全ての比較例のそれぞれに対応する正極シート圧縮密度は、下記式によって計算することができる。
PD=(M-M0)/1.54025/2/L
【0201】
6、炭素含有量の測定
上記の全ての実施例及び比較例における正極活物質を高周波誘導炉により燃焼させた後に赤外線吸収法によって炭素含有量を測定し、具体的な測定過程としては、標準GB/T 20123-2006/ISO 15350:2000『鋼鉄における炭素硫黄総含有量の測定 高周波誘導炉により燃焼させた後に赤外線吸収法を使用する』に従い、徳凱のHCS赤外線炭素硫黄分析計のような炭素硫黄分析計によって容易に測定する。
【0202】
7、比表面積の測定
実施例及び比較例に関連する比表面積パラメータは、米国マイクロメリティックス社製の3Flex比表面積測定装置によって測定される。本願において、T-Plot法によってフィッティングして孔径が0.5nm~100nmの孔構造の比表面積BET2を得て、リン酸鉄リチウム材料におけるマイクロ孔、メソ孔、マクロ孔の表面積の総和を反映する。BET1は、T-Plot方法により得られた孔径が2.0nm以上100nm以下のメソ孔及びマクロ孔構造の比表面積である。
【0203】
8、粉体抵抗率
上記の全ての実施例及び比較例の正極活物質の粉体抵抗率は、標準GB/T 30835-2014に従い、粉体抵抗率測定装置(ST2722)によって測定される。
【0204】
9、シート脱水効率
それぞれ実施例及び比較例のリン酸鉄リチウム正極活物質、結着剤としてのポリビニリデンフロライド(PVDF)、導電剤としてのアセチレンブラックを質量比96.5:2.0:1.5で混合し、適量のN-メチルピロリドン(NMP)溶剤を加え、均一な正極スラリーを形成するように、十分に撹拌して混合する。このスラリーを正極集電体の厚さが13μmのカーボンコートアルミニウム箔に塗布し、塗布面密度が26mg/cmであり、その後、乾燥と冷間プレスを行い、分断して使用に備え、正極シートを得る。シート皿を水含有率が50%の湿度環境に置き、飽和に近い状態になるまで24h静置して吸水し、打ち抜き機器を利用し、直径が1.4cmの小円形片を打ち抜き、約0.5cm×0.5cmの小塊に裁断し、水分測定機器に入れ、その水含有量がAppmであると測定する。その後、残りのシートを真空オーブンに入れ、この過程でプラスチック袋により密封し、シートが水分を吸脱着することを回避し、110℃、7hの条件下で乾燥した後、同様に小円形片に打ち抜きして裁断した後にその水含有量がBppmであると測定し、材料脱水速度W=(A-B)/420ppm/minである。
【0205】
10、体積平均粒径Dv50
粒子群において、直径があるD値よりも大きい粒子が総体積の50%を占め、また直径がこのD値よりも小さい粒子が総体積の50%を占める場合、このD値は、粒子のメジアン粒径である。
【0206】
機器の型番がマルバーン2000(MasterSizer 2000)レーザ粒度計であり、標準手順GB/T19077-2016/ISO 13320:2009を参照し、具体的な測定手順としては、実施例及び比較例のリン酸鉄リチウム正極活物質を適量取り、20mlの脱イオン水(試料濃度が8~12%の遮光度を保証すればよい)を加え、5min(53KHz/120W)超音波分散し、試料が完全に分散するように確保した後、GB/T19077-2016/ISO 13320:2009標準に従ってそれぞれ実施例及び比較例の試料を測定する。測定データに基づいて粒径体積分布図及び粒径数分布図をプロットする。当該分布図から分かるように、直径があるD値よりも大きい粒子が総体積の50%を占め、また直径がこのD値よりも小さい粒子が総体積の50%を占める場合、このD値が粒子のメジアン粒径である。
【0207】
11、黒鉛化度
黒鉛化度の測定は、ラマン分光計によって特徴付けられる。使用されるラマン分光計は、フランスHORIBA Jobin Yvonの新世代の高分解能ラマン分光計であり、型番がLabRAM HR Evolutionであり、使用される光源の波長が532nmである。750~2000cm-1の範囲内のスペクトルを切り取り、バックグラウンドを除去した後に以下のガウス関数を利用してフィッティングする。Ai、vi及びwiは、それぞれピーク強度、ピーク位置及びピーク幅である。炭素被覆層に対応する2つのピークは、4つのピークを用いてフィッティングすることができ、対応するピーク強度は、それぞれD2、D1、D3及びGと記され、黒鉛化度はG/(D3+G)である。
【0208】
[電池性能試験]
【0209】
1、エネルギー密度の試験方法
全ての実施例及び比較例のリチウムイオン電池を25℃のオーブンに入れ、2h静置した後、充放電試験を行う。1サイクルの充放電過程としては、1Cの電流で3.65Vまで定電流充電し、引き続き定電圧充電し、充電電流が0.05Cよりも小さくなるまで停止し、5min休止し、1Cの電流で2.0Vまで定電流放電し、5min休止する。以上は、電池の1サイクルの充放電である。電池セルの質量エネルギー密度(Wh/kg)=3回目の放電のエネルギー/電池におけるリン酸鉄リチウム材料活物質の質量。
【0210】
2、サイクル特性試験
全ての実施例及び比較例のリチウムイオン電池を60℃のオーブンに入れ、2h静置した後、充放電試験を行う。1サイクルの充放電過程としては、1Cの電流で3.65Vまで定電流充電し、引き続き定電圧充電し、充電電流が0.05Cよりも小さくなるまで停止し、5min休止し、1Cの電流で2.5Vまで定電流放電し、5min休止する。以上は、電池の1サイクルの充放電であり、電池の容量が初期値の80%に減衰するまで連続的に繰り返し、サイクル数を記録する。
【0211】
【0212】
【0213】
【0214】
【0215】
【0216】
表1によれば、S1-1~S1-8、及びD1~D3を総合的に比較し、ηが0.81~0.95(S1-1~S1-8)である場合、対応するシート脱水率は、全体としてD1~D3よりも顕著に優れ、同時に、対応するリチウムイオン電池は、優れたサイクル容量維持率及び高エネルギー密度を更に兼ね備える。更に、ηが0.82~0.93(S1-2~S1-7)である場合、対応するシート脱水率がより優れ、同時に、対応するリチウムイオン電池のサイクル特性及びエネルギー密度もより優れている。更に、ηが0.88~0.92(S1-4~S1-6)である場合、対応するシート脱水率がより優れ、同時に、対応するリチウムイオン電池のサイクル特性及びエネルギー密度もより優れ、リチウムイオン電池の総合性能が優れている。しかし、比較例D1~D3は、いずれも良好なシート脱水率、高いサイクル容量維持率及び高いエネルギー密度を同時に兼ね備えることができない。
【0217】
表2によれば、S2-1~S2-5及びD4~D6を総合的に比較し、0.81≦η≦0.95であり、炭素含有量が0.82%~1.3%である場合、リチウムイオン電池は、良好なシート脱水率、優れたサイクル容量維持率及び高いエネルギー密度を兼ね備える。更に、炭素含有量が0.9%~1.3%である場合、対応するシート脱水率がより優れ、同時に、対応するリチウムイオン電池のサイクル特性及びエネルギー密度もより優れている。更に、炭素含有量が0.9%~1.1%である場合、対応するシート脱水率がより優れ、同時に、対応するリチウムイオン電池のサイクル特性及びエネルギー密度もより優れ、リチウムイオン電池の総合性能がより優れている。しかし、D4~D6は、いずれも良好なシート脱水率、高いサイクル容量維持率及び高いエネルギー密度を同時に兼ね備えることができない。
【0218】
表3によれば、S3-1~S3-3及びD7~D8を総合的に比較し、0.81≦η≦0.95であり、H/Dが0.01~0.04である場合、リチウムイオン電池は、良好なシート脱水率、優れたサイクル容量維持率及び高いエネルギー密度を兼ね備える。しかし、D7~D8は、いずれも良好なシート脱水率、高いサイクル容量維持率及び高いエネルギー密度を同時に兼ね備えることができない。
【0219】
表4によれば、S4-1~S4-7を総合的に比較し、0.81≦η≦0.95であり、530nm≦Dv50≦5070nmである場合、リチウムイオン電池は、良好なシート脱水率、優れたサイクル容量維持率及び高いエネルギー密度を兼ね備える。更に、1170nm≦Dv50≦1820nmである場合、対応するシート脱水率がより優れ、同時に、対応するリチウムイオン電池のサイクル特性及びエネルギー密度もより優れ、リチウムイオン電池の総合性能がより優れている。
【0220】
表5によれば、S5-1~S5-3及びD9~D10を総合的に比較し、正極活物質の黒鉛化度が0.15~0.32である場合、リチウムイオン電池は、良好なシート脱水率、優れたサイクル容量維持率及び高いエネルギー密度を兼ね備える。更に、炭素被覆層の黒鉛化度が0.19~0.26である場合、対応するシート脱水率がより優れ、同時に、対応するリチウムイオン電池のサイクル特性及びエネルギー密度もより優れ、リチウムイオン電池の総合性能がより優れている。しかし、比較例D9~D10は、いずれも良好なシート脱水率、高いサイクル容量維持率及び高いエネルギー密度を同時に兼ね備えることができない。
【0221】
本願は、上記実施形態に限定されないことを説明しておく。上記実施形態は、単に例示的なものであり、本願の技術的解決手段の範囲内に技術思想と実質的に同じ構成を有し、同じ作用効果を発揮する実施形態は、いずれも本願の技術範囲内に含まれる。なお、本願の主旨から逸脱しない限り、実施形態に当業者が想到できる種々の変形を加え、実施形態の一部の構成要素を組み合わせて構成された他の形態も本願の範囲内に含まれる。
【符号の説明】
【0222】
1 電池パック
2 上部ボックス
3 下部ボックス
4 電池モジュール
5 リチウムイオン電池
51 ケース
52 電極組立体
53 トップカバー組立体
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
【国際調査報告】