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特表2023-538495心不全治療のための転写因子のコンビナトリアル阻害
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-09-08
(54)【発明の名称】心不全治療のための転写因子のコンビナトリアル阻害
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/7105 20060101AFI20230901BHJP
   A61K 31/712 20060101ALI20230901BHJP
   A61K 31/7125 20060101ALI20230901BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20230901BHJP
   A61K 9/127 20060101ALI20230901BHJP
   A61K 9/51 20060101ALI20230901BHJP
   A61P 9/00 20060101ALI20230901BHJP
   A61P 9/04 20060101ALI20230901BHJP
   C12N 15/113 20100101ALI20230901BHJP
   C12N 15/85 20060101ALI20230901BHJP
   C12N 15/88 20060101ALI20230901BHJP
【FI】
A61K31/7105 ZNA
A61K31/712
A61K31/7125
A61K48/00
A61K9/127
A61K9/51
A61P9/00
A61P9/04
C12N15/113 Z
C12N15/85 Z
C12N15/88 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023504531
(86)(22)【出願日】2021-07-23
(85)【翻訳文提出日】2023-02-21
(86)【国際出願番号】 EP2021070690
(87)【国際公開番号】W WO2022018266
(87)【国際公開日】2022-01-27
(31)【優先権主張番号】20187306.4
(32)【優先日】2020-07-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(31)【優先権主張番号】21152752.8
(32)【優先日】2021-01-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】519417610
【氏名又は名称】ヨハン ヴォルフガング ゲーテ-ウニヴェルズィテート フランクフルト
(74)【代理人】
【識別番号】100149032
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 敏明
(74)【代理人】
【識別番号】100181906
【弁理士】
【氏名又は名称】河村 一乃
(72)【発明者】
【氏名】クリシュナン,ジャヤ
(72)【発明者】
【氏名】ユアン,ティング
【テーマコード(参考)】
4C076
4C084
4C086
【Fターム(参考)】
4C076AA06
4C076AA09
4C076AA12
4C076AA19
4C076AA24
4C076AA65
4C076BB01
4C076BB13
4C076BB15
4C076BB16
4C076BB22
4C076BB25
4C076BB29
4C076BB31
4C076CC11
4C084AA13
4C084MA02
4C084MA24
4C084NA14
4C084ZA36
4C084ZC75
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA16
4C086MA02
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZA36
4C086ZC75
(57)【要約】
本発明は、心不全の治療のための転写因子の組み合わせを標的とする阻害性核酸剤の組み合わせに関する。阻害される転写因子の組み合わせは、RARa、TCF7L2、E2F6及びLEF1、又はRARa、TCF7L2、E2F7及びNFYbから選択される群のうちの1つを含む。これらの転写因子のコンビナトリアル阻害(combinatorial inhibition)は、心筋細胞の増殖を増大させることが示されている。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
心臓病の治療又は予防における使用のための核酸剤の組み合わせであって、
前記核酸剤の各々が標的タンパク質の発現を特異的に阻害することができ、それによって、前記核酸剤の組み合わせが細胞内の標的タンパク質の組み合わせの発現を阻害することができ、
前記標的タンパク質の組み合わせは、
a. RARa、及び
b. TCF7L2、及び
c. E2F6及びLEF1、又は
E2F7及びNFYb
である、
前記核酸剤の組み合わせ。
【請求項2】
前記標的タンパク質の組み合わせは、
a. RARa、及び
b. TCF7L2、及び
c. E2F6、及び
d. LEF1
である、
請求項1に記載の心臓病の治療又は予防における使用のための核酸剤の組み合わせ。
【請求項3】
各核酸剤は、ヌクレオチドのハイブリダイズ配列を含むか、又はそれから本質的になり、前記ヌクレオチドのハイブリダイズ配列は、前記標的タンパク質をコードするmRNAとハイブリッドを形成することができる、請求項1又は2に記載の心臓病の治療又は予防における使用のための核酸剤の組み合わせ。
【請求項4】
各核酸剤は、独立して、アンチセンスオリゴヌクレオチド、siRNA、shRNA、sgRNA、及びmiRNAから選択され、特に各核酸剤は、siRNAである、請求項1~3のいずれか一項に記載の心臓病の治療又は予防における使用のための核酸剤の組み合わせ。
【請求項5】
前記核酸剤の1つ若しくは2つ、又は各核酸剤は、ヌクレオシドアナログを含むか、又はそれからなる、請求項1~4のいずれか一項に記載の心臓病の治療又は予防における使用のための核酸剤の組み合わせ。
【請求項6】
各核酸剤は、配列番号165~188の配列から選択される配列を含むか、又はそれから本質的になる、請求項1~5のいずれか一項に記載の心臓病の治療又は予防における使用のための核酸剤の組み合わせ。
【請求項7】
前記核酸剤のうちの1つは、
1つ又は複数のロック核酸(LNA)部分及び/又はペプチド核酸(PNA)部分、
を含むか、又はそれから本質的になり、
特に、前記核酸剤のすべては、
1つ又は複数のロック核酸(LNA)部分及び/又はペプチド核酸(PNA)部分、
を含むか、又はそれから本質的になり、
特に、前記核酸剤は、ロック核酸(LNA)部分から本質的になる、
請求項1~6のいずれか一項に記載の心臓病の治療又は予防における使用のための核酸剤の組み合わせ。
【請求項8】
前記核酸剤のうちの1つは、
1つ又は複数のチオリン酸結合を含み、
特に、前記核酸剤のすべては、
1つ又は複数のチオリン酸結合を含む、
請求項1~7のいずれか一項に記載の心臓病の治療又は予防における使用のための核酸剤の組み合わせ。
【請求項9】
前記核酸剤のうちの1つは、チオリン酸結合により隣接物に接続されたLNA部分を含み、
特に、前記核酸剤のうちの1つは、前記核酸剤のいずれかの末端でチオリン酸結合により接続された2、3又は4個のLNA部分を含む、請求項5又は6に記載の心臓病の治療又は予防における使用のための核酸剤の組み合わせ。
【請求項10】
前記核酸剤のうちの1つが、
ヒト心筋細胞において作動可能なプロモーターの制御下でヌクレオチドのハイブリダイズ配列をコードする配列を含む外来性(導入遺伝子)発現コンストラクトにより細胞内で発現し、
特に、前記核酸剤のすべてが、
ヒト心筋細胞において作動可能なプロモーターの制御下でヌクレオチドのハイブリダイズ配列をコードする配列を含む外来性(導入遺伝子)発現コンストラクトにより細胞内で発現する、
請求項1~9のいずれか一項に記載の心臓病の治療又は予防における使用のための核酸剤の組み合わせ。
【請求項11】
ヒト心筋細胞において作動可能なプロモーターの制御下で、核酸剤の組み合わせをコードする、心臓病の治療又は予防における使用のための、発現コンストラクト、又は複数の発現コンストラクトであって、
前記核酸剤の各々は、標的タンパク質の発現を特異的に阻害することができ、それによって標的タンパク質の組み合わせの発現を阻害することができ、
前記標的タンパク質の組み合わせは、
a. RARa、及び
b. TCF7L2、及び
c. E2F6及びLEF1、又は
E2F7及びNFYb
である、
前記発現コンストラクト、又は前記複数の発現コンストラクト。
【請求項12】
前記発現コンストラクトの各々及びすべては、単一の核酸分子内に含まれる、請求項11に記載の心臓病の治療又は予防における使用のための複数の発現コンストラクト。
【請求項13】
前記核酸剤又は前記発現コンストラクトは、ナノ粒子に結合しているか、又はウイルス及びリポソームから選択される粒子構造体によってカプセル化されている、請求項1~12のいずれか一項に記載の心臓病の治療又は予防における使用のための、核酸剤の組み合わせ、又は複数の発現コンストラクト。
【請求項14】
前記ナノ粒子、又は前記粒子構造体は、心筋細胞への前記ナノ粒子又は前記粒子構造体の送達又は侵入を促進するリガンドを含む、請求項13に記載の心臓病の治療又は予防における使用のための、核酸剤の組み合わせ、又は複数の発現コンストラクト。
【請求項15】
前記プロモーターは、心臓組織特異的RNAポリメラーゼ2プロモーターであり、特にミオシン軽鎖2v(MLC2v)プロモーター、心臓トロポニンT(cTnT)プロモーター、ミオシン重鎖α(MHCa)プロモーター、及びタイチン(Ttn)プロモーターから選択されるプロモーターである、請求項11~14のいずれか一項に記載の心臓病の治療又は予防における使用のための、発現コンストラクト、又は複数の発現コンストラクト。
【請求項16】
前記心臓病は、心筋細胞の損失によって特徴付けられ、特に前記心臓病は、心筋細胞の損失によって特徴付けられる心不全であり、より特に前記心不全は、心筋の梗塞、狭窄、先天性疾患、炎症及び/又は敗血症の結果である、請求項1~15のいずれか一項に記載の心臓病の治療又は予防における使用のための、核酸剤の組み合わせ、又は複数の発現コンストラクト。
【請求項17】
前記心臓病は、心筋細胞の低酸素状態(低酸素症)によって特徴付けられる、請求項1~16のいずれか一項に記載の心臓病の治療又は予防における使用のための、核酸剤の組み合わせ、又は複数の発現コンストラクト。
【請求項18】
請求項1~17のいずれか一項に記載の、前記核酸剤の組み合わせ、又は前記複数の発現コンストラクトを含む、心臓病の治療又は予防における使用のための医薬組成物。
【請求項19】
前記医薬組成物は、心臓へ投与される、請求項18に記載の心臓病の治療又は予防における使用のための医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、心不全の治療のための転写因子の組み合わせを対象とする(標的とする)阻害性核酸剤の組み合わせに関するものである。阻害する転写因子の組み合わせは、RARa、TCF7L2、E2F6及びLEF1、又はRARa、TCF7L2、E2F7及びNFYbから選択される群のうちの1つを含む。これらの転写因子のコンビナトリアル阻害(combinatorial inhibition)により、心筋細胞の増殖が増大することが示されている。
【背景技術】
【0002】
心血管疾患は現在、世界の主要な死因となっている。特に心不全は、世界中で6,400万人が罹患しており、心血管疾患の罹患率と死亡率の主な要因となっている。急性心筋梗塞(AMI:acute myocardial infarction)の間に、大量の心筋細胞死が発生し、残りの心筋細胞は、損傷した組織を回復するための再生能力が非常に限られているため、心臓線維症及び心不全をもたらす。したがって、心臓再生療法は、心不全、虚血再灌流、及び心筋梗塞などの心臓の病状を治癒するための次善の策となり得る。したがって、心不全の新規の治療法を確立するためには、心筋細胞増殖を誘導するメカニズムを理解することが不可欠である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上述の技術水準に基づいて、本発明の目的は、心不全を治療するための手段及び方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
この目的は、本明細書の独立請求項の主題によって達成される。
【図面の簡単な説明】
【0005】
図1図1は、in vitroでの新生児ラット心筋細胞の増殖について示す。新生児ラット心筋細胞をグルコース(0mM、2mM、3mM、5.5mM)で2日間処理し、その後心筋細胞増殖を5-エチニル-2’-デオキシウリジン(5-ethynyl-2’-deoxyuridine)(EdU)取り込み及びAurora B染色によって解析した。(A)は心筋細胞のEdUの代表的な免疫蛍光画像である。EdUは増殖細胞(緑)を標識する;心筋細胞特異的α-アクチニン(赤)及びDAPI(青)。(B)はEdU心筋細胞の割合の定量化を示す。(C)は心筋細胞のAurora Bの代表的な免疫蛍光画像を示す。Aurora Bは増殖細胞(緑)を標識する;心筋細胞特異的α-アクチニン(赤)、DAPI(青)。(D)はAurora B心筋細胞の割合の定量を示す。データは平均値±SEMで示す。P<0.05、**P<0.01。統計解析は両側スチューデントのt検定で行った。
図2-1】図2はシグナルレポーターアッセイについて示す。新生児ラット心筋細胞に、転写因子応答性ホタルルシフェラーゼレポーター及び構成的に発現するウミシイタケ(Renilla)コンストラクトの混合物をトランスフェクトし、次いで翌日、この細胞をグルコース(0mM、2mM、3mM)で2日間処理した。ルシフェラーゼ活性は、Dual-Gloルシフェラーゼアッセイシステムを用いて評価した。ヒートマップは、レポーター活性によって示されるとおり、18のシグナル伝達経路がダウンレギュレートされていることを示す。
図2-2】18のシグナル伝達経路の中から、本発明者らは以下の実験について34の転写因子を候補として選択した。
図3-1】図3は、EdUスクリーニングによる候補の転写因子の絞り込みについて示す。本発明者らは、心筋細胞増殖を増大させる因子の候補として34遺伝子を選択し、この選択した転写因子をON-TARGETplus SMARTpool siRNAでノックダウンした。新生児ラット心筋細胞に、この34のsiRNAのプールから個々の因子を除いたものをトランスフェクトし、一方で対照(A)として細胞に34のsiRNAを共にトランスフェクトした。3日間トランスフェクション後、DNA合成(EdU)をEdU(緑)とα-アクチニン(赤)の二重染色で解析した(B、C)。(D)遺伝子発現量をqRT-PCRで解析した。データは平均値±SEMで示す。P<0.05、**P<0.01。統計解析は両側スチューデントのt検定で行った。
図3-2】図3は、EdUスクリーニングによる候補の転写因子の絞り込みについて示す。本発明者らは、心筋細胞増殖を増大させる因子の候補として34遺伝子を選択し、この選択した転写因子をON-TARGETplus SMARTpool siRNAでノックダウンした。新生児ラット心筋細胞に、この34のsiRNAのプールから個々の因子を除いたものをトランスフェクトし、一方で対照(A)として細胞に34のsiRNAを共にトランスフェクトした。3日間トランスフェクション後、DNA合成(EdU)をEdU(緑)とα-アクチニン(赤)の二重染色で解析した(B、C)。(D)遺伝子発現量をqRT-PCRで解析した。データは平均値±SEMで示す。P<0.05、**P<0.01。統計解析は両側スチューデントのt検定で行った。
図4図4は、Aurora Bによる候補の転写因子の絞り込みについて示す。EdUスクリーニングに基づき、発明者らは、DNA合成に必要な12遺伝子を選択した後、細胞質分裂の別の読み出しとしてAurora Bを使用した。新生児ラット心筋細胞に、この12のsiRNAのプールから個々の因子を除いたものをトランスフェクトし、一方で対照として細胞に12のsiRNAを共にトランスフェクトした。3日間トランスフェクション後、心筋細胞の増殖をAurora B(緑)、α-アクチニン(赤)、DAPI(青)の三重染色で解析した(A、B)。(C)遺伝子発現量は、qRT-PCRで解析した。データは平均値±SEMで示す。P<0.05、**P<0.01。統計解析は両側スチューデントのt検定で行った。
図5-1】図5はin vitroでのラット心筋細胞の細胞増殖について示す。EdU及びAurora Bのスクリーニングに基づき、発明者らはDNA合成と細胞質分裂とに必要な6遺伝子を選択した。最適なコンビナトリアル因子を同定するため、すべてのコンビナトリアルsiRNAを1日齢(A、B)及び7日齢(C、D)のラット心筋細胞にトランスフェクトし、その後、Aurora B(緑)、α-アクチニン(赤)及びDAPI(青)の三重染色により心筋細胞の増殖を解析した。その結果、本発明者らは、心筋細胞の増殖を増大するのに最も適した2つの組み合わせを選択した。
図5-2】図5はin vitroでのラット心筋細胞の細胞増殖について示す。EdU及びAurora Bのスクリーニングに基づき、発明者らはDNA合成と細胞質分裂とに必要な6遺伝子を選択した。最適なコンビナトリアル因子を同定するため、すべてのコンビナトリアルsiRNAを1日齢(A、B)及び7日齢(C、D)のラット心筋細胞にトランスフェクトし、その後、Aurora B(緑)、α-アクチニン(赤)及びDAPI(青)の三重染色により心筋細胞の増殖を解析した。その結果、本発明者らは、心筋細胞の増殖を増大するのに最も適した2つの組み合わせを選択した。
【表1】
図6-1】図6はE2F6/RARa/TCF7L2/LEF1若しくはE2F7/NFYb/RARa/TCF7L2のノックダウン時のラット心筋細胞の増殖について示す。ラット心筋細胞(P1)にsiE2F6、siRARa、siTCF7L2、及びsiLEF1;siE2F7、siNFYb、siRARa及びsiTCF7L2、又は対照のスクランブルsiRNA(siScr)を3日間トランスフェクションし、心筋細胞の増殖をAurora B(緑)、a-アクチニン(赤)及びDAPI(青)の三重染色により分析及び定量した(A、B)。(C、D)それぞれの遺伝子発現量をqRT-PCRで解析した。
図6-2】(E、F)P7ラット心筋細胞にsiE2F6、siRARa、siTCF7L2及びsiLEF1;siE2F7、siNFYb、siRARa及びsiTCF7L2、又は対照のスクランブルsiRNA(siScr)を3日間トランスフェクションし、その後心筋細胞の増殖をEdU(緑)、α-アクチニン(赤)及びDAPI(青)の三重染色により解析及び定量した。(G、H)P7ラット心筋細胞にsiE2F6、siRARa、siTCF7L2及びsiLEF1;siE2F7、siNFYb、siRARa、及びsiTCF7L2、又は対照のスクランブルsiRNA(siScr)を3日間トランスフェクションし、その後、心筋細胞の増殖をAurora B(緑)、α-アクチニン(赤)、及びDAPI(青)の三重染色により解析及び定量した。データは平均値±SEMで示す。P<0.05、**P<0.01。統計解析は両側スチューデントのt検定で行った。
図7図7はE2F6/RARa/TCF7L2/LEF1、又はE2F7/NFYb/RARa/TCF7L2のノックダウン時のヒトiPSC細胞由来心筋細胞(iPSC-CM:iPSC-derived cardiomyocytes)増殖について示す。ヒトiPSC-CMにsiE2F6、siRARa、siTCF7L2及びsiLEF1;siE2F7、siNFYb、siRARa及びsiTCF7L2、又は対照のスクランブルsiRNA(siScr)をトランスフェクトし、その後、酸素正常状態(20% O)又は心筋梗塞(MI)のin vitroモデルとして低酸素状態(3% O)に2日間暴露した。心筋細胞の増殖は、Aurora B(緑)、α-アクチニン(赤)、及びDAPI(青)の三重染色で解析及び定量した(A、B)。(C、D)それぞれの遺伝子発現量をqRT-PCRで解析した。データは平均値±SEMで示す。P<0.05、**P<0.01。統計解析は両側スチューデントのt検定で行った。
図8図8はE2F6/RARa/TCF7L2/LEF1のノックダウン時のマウス心筋細胞の増殖について示す。マウスHL1細胞を、E2F6、RARA、TCF7L2、及びLEF1を標的とするGapmeR、又は対照のGapmeR-controlのいずれかで処理した後、細胞を酸素正常状態(20% O)又は低酸素状態に(3% O)に2日間曝露した。(A)RNAの発現量をqRT-PCRで解析した。(B)EdU心筋細胞の割合の定量を示す。(C)Ki67心筋細胞の割合の定量を示す。(D)Aurora B心筋細胞の割合の定量を示す。データは平均±SEMで示す。p<0.05、**p<0.01。
【発明を実施するための形態】
【0006】
発明の概要
本発明の第1の態様は、心臓病の治療又は予防における使用のための核酸剤の組み合わせに関するものである。前記核酸剤のそれぞれは、標的タンパク質の発現を特異的に阻害することが可能である。核酸剤の組み合わせは、細胞内の標的タンパク質(転写因子)の組み合わせの発現を阻害することが可能である。
標的タンパク質の組み合わせは、
a. RARa、及び
b. TCF7L2、及び
c. E2F6及びLEF1、又は
E2F7及びNFYb
である。
【0007】
本発明の第2の態様は、ヒト心筋細胞において作動可能なプロモーターの制御下で、心臓病の治療又は予防における使用のための核酸剤の組み合わせをコードする、発現コンストラクト、又は複数の発現コンストラクトに関するものである。各核酸剤は、標的タンパク質の発現を特異的に阻害することが可能であり、それにより、標的タンパク質(転写因子)の組み合わせの発現を阻害することが可能である。標的タンパク質の組み合わせは、
a. RARa、及び
b. TCF7L2、及び
c. E2F6及びLEF1、又は
E2F7及びNFYb
である。
【0008】
本発明の第3の態様は、第1の態様による核酸剤の組み合わせ、又は第2の態様による複数の発現コンストラクトを含む、心臓病の治療又は予防における使用のための医薬組成物に関するものである。
【0009】
別の実施形態では、本発明は、少なくとも1つの本発明の化合物又はその薬学的に許容される塩と、少なくとも1つの薬学的に許容される担体、希釈剤、又は賦形剤とを含む医薬組成物に関するものである。
【0010】
発明の詳細な説明
用語と定義
本明細書を解釈する目的で、以下の定義が適用され、適切な場合、単数形で使用される用語は複数形も含み、その逆も同様である。以下に記載されているいずれの定義が、参照により本明細書に組み込まれている文書と矛盾する場合は、この記載されている定義が優先されるものとする。
【0011】
本明細書で使用される用語「含む(comprising)」、「有する(having)」、「含有する(containing)」、「含む(including)」、及び他の同様の形態、並びにそれらの文法的に同等な用語は、意味において同等であること、及びこれらの単語のいずれか1つに続く1つ又は複数の項目が、係る1つ又は複数の項目を網羅的にリストするものではない、又はリストした1つ又は複数の項目のみに限定するものではないことにおいてオープンエンドとすることを意図している。例えば、成分A、B及びCを「含む(comprising)」品目は、成分A、B及びCからなる(すなわち、成分A、B及びCのみを含有する)こともでき、又は成分A、B及びCのみならず、1つ又は複数の他の成分を含むこともできる。そのため、「含む(comprise)」及びその同様の形態、並びにその文法的に同等な用語には、「から本質的になる(consisting essentially of)」又は「からなる(consisting of)」の実施形態の開示が含まれることが意図及び理解されている。
【0012】
値の範囲が与えられている場合、文脈上明確に別段の指示がない限り、その範囲の上限と下限の間の下限の単位の10分の1までの介在値、及びその記載の範囲内のいずれの他の記載値又は介在値のそれぞれは、記載の範囲内で具体的に除外される限界に従って、本開示内に包含されると理解される。記載された範囲が限界値の一方又は両方を含む場合、それらの含まれる限界値の一方又は両方を除いた範囲もまた開示に含まれる。
【0013】
本明細書において、ある値又はパラメータに関する「約」の言及は、その値又はパラメータそれ自体を対象とする変化形を含む(及び記述する)。例えば、「約X」に言及する記述は、「X」の記述を含む。
【0014】
添付の特許請求の範囲を含み、本明細書で使用されるとおり、単数形の「a」、「or(又は)」及び「the」は、文脈によって明らかに指示されない限り、複数の指示対象を含む。
【0015】
他に定義されない限り、本明細書で使用されるすべての技術的及び科学的用語は、当業者(例えば、細胞培養、分子遺伝学、核酸化学、ハイブリダイゼーション技術、及び生化学における当業者)により一般的に理解されるものと同じ意味を有する。分子、遺伝、生化学的手法(一般に、Sambrookら,Molecular Cloning:A Laboratory Manual,第4編(2012)Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,N.Y.及びAusubelら,Short Protocols in Molecular Biology(2002)第5編,John Wiley & Sons,Inc.)及び化学的手法には、標準的な技術を使用する。
【0016】
本明細書の文脈における「ハイブリッド又はハイブリダイズ配列を形成することができる」という用語は、哺乳類細胞のサイトゾル内に存在する条件下で、標的配列に選択的に結合できる配列に関するものである。このようなハイブリダイズ配列は、標的配列と連続的に逆相補的であってもよいし、又はギャップ、ミスマッチ、又はさらにノンマッチングのヌクレオチドを含んでいてもよい。ハイブリッドを形成可能な配列の最小長は、骨格化学及びその組成に依存し、C又はGのヌクレオチドはA又はT/Uのヌクレオチドよりも多く結合エネルギーに寄与する。
【0017】
本明細書の文脈における「ヌクレオチド」という用語は、核酸又は核酸アナログの構成単位に関するもので、それらのオリゴマーは、塩基対形成に基づいてRNAオリゴマー又はDNAオリゴマーと選択的ハイブリッドを形成することが可能である。この文脈での「ヌクレオチド」という用語は、古典的なリボヌクレオチドの構成単位であるアデノシン、グアノシン、ウリジン(及びリボシルチミン)、シチジン、古典的なデオキシリボヌクレオチドであるデオキシアデノシン、デオキシグアノシン、チミジン、デオキシウリジン、及びデオキシシチジンが含まれる。さらに、ホスホチオエート、2’O-メチルホスホチオエート、ペプチド核酸(PNA;N-(2-アミノエチル)-グリシン単位をペプチド結合でつなぎ、グリシンのα炭素に核酸塩基が結合したもの)又はロック核酸(LNA;2’O,4’Cメチレン架橋RNA構成単位)などの核酸のアナログが含まれる。本明細書において、「ハイブリダイズ配列」に言及する場合、係るハイブリダイズ配列は、上記のヌクレオチドのいずれか、又はそれらの混合物から構成することができる。
【0018】
本明細書の文脈における「siRNA(低分子/短鎖干渉RNA)」という用語は、RNA干渉と呼ばれるプロセスにおいて、siRNAの配列に相補的又はハイブリダイズする核酸配列を含む遺伝子の発現を干渉すること(言い換えれば、発現を抑制又は阻止すること)ができるRNA分子に関する。「siRNA」という用語は、一本鎖siRNAと二本鎖siRNAとの両方を包含することを意味する。siRNAは通常、17~24ヌクレオチド長を特徴とする。二本鎖siRNAは、より長い二本鎖RNA分子(dsRNA:double stranded RNA)から誘導することができる。有力な説によれば、この長い方の二本鎖RNAは、エンド・リボヌクレアーゼ(Dicerと呼ばれる)によって切断され二本鎖siRNAを形成するとされる。核タンパク質複合体(RISCと呼ばれる)において、二本鎖siRNAが巻き戻され一本鎖siRNAが形成される。RNA干渉は、相補的な配列を持つmRNA分子にsiRNA分子が結合し、mRNAの分解をもたらすことで機能することが多い。RNA干渉は、細胞の核内にあるプレmRNA(未熟な、スプライシングされていないmRNA)のイントロン配列にsiRNA分子が結合し、プレmRNAの分解を引き起こすことによっても可能である。
【0019】
本明細書の文脈における「shRNA(small hairpin RNA)」という用語は、RNA干渉(RNAi:RNA interference)を介して標的遺伝子の発現をサイレンシングするために用いることができるタイトなヘアピンターン持つ人工RNA分子に関するものである。
【0020】
本明細書の文脈における「sgRNA(single guide RNA)」という用語は、CRISPR(clustered regularly interspaced short palindrom repeat:クラスター化した規則的な配置の短い回文配列リピート)機構を介して遺伝子発現を配列特異的に抑制することができるRNA分子に関する。
【0021】
本明細書の文脈における「miRNA(microRNA)」という用語は、RNAサイレンシング及び遺伝子発現の転写後調節において機能する低分子非コードRNA(約22ヌクレオチド含有)に関するものである。
【0022】
本明細書の文脈における「アンチセンスオリゴヌクレオチド」という用語は、RNAと実質的に相補的で、かつRNAとハイブリダイズすることができる配列を有するオリゴヌクレオチドに関するものである。このようなRNAに対するアンチセンス作用により、RNAの生物学的作用が調節され、特に阻害又は抑制されることになる。このRNAがmRNAである場合、得られる遺伝子産物の発現が阻害又は抑制される。アンチセンスオリゴヌクレオチドは、DNA、RNA、ヌクレオチドアナログ及び/又はそれらの混合物からなることが可能である。当業者は、所与の標的に対する理論的に最適なアンチセンス配列を計算処理するための様々な商業的及び非商業的な供給元を知っている。最適化は、核酸塩基配列と骨格(リボ、デオキシリボ、アナログ)組成との両方の観点から行うことができる。実際の物理的なオリゴヌクレオチドを送達する供給元は多数存在し、これらは一般的には固体合成によって合成される。本発明のアンチセンスオリゴヌクレオチドの例としては、DNAからできるアンチセンスオリゴマー、骨格にホスホロチオエート修飾結合を有するDNA、リボヌクレオチドオリゴマー、架橋ヌクレオチド又はロックヌクレオチドを含むRNA(特に、リボース環が2’-O原子と4’-C原子との間のメチレン架橋によって連結されるもの)、骨格にホスホロチオエート修飾結合を有するRNA、又はオリゴマーとしてのデオキシリボヌクレオチド塩基とリボヌクレオチド塩基との任意の混合物が挙げられる。
【0023】
特定の実施形態では、本発明のアンチセンスオリゴヌクレオチドは、ホスホチオエート、2’O-メチルホスホチオエート、ペプチド核酸(PNA;N-(2-アミノエチル)-グリシン単位がペプチド結合によって連結され、核酸塩基がグリシンのα炭素に結合しているもの)又はロック核酸(LNA;2’O,4’Cメチレン架橋RNA構成単位)などの核酸のアナログを含む。アンチセンス配列は、上記の核酸アナログのいずれかで部分的に構成され、残りのヌクレオチドは自然界に存在する「天然」リボヌクレオチドであってもよいし、又は異なるアナログの混合物であってもよいし、又は1種類のアナログで完全に構成されてもよい。
【0024】
本明細書の文脈における「核酸発現ベクター」という用語は、プラスミド又はウイルスゲノムに関し、プラスミド又はウイルスゲノムは目的の特定の遺伝子を標的細胞に導入(トランスフェクト)(プラスミドの場合)又は形質導入(ウイルスゲノムの場合)するために使用される。目的の遺伝子はプロモーター配列の制御下にあり、プロモーター配列は標的細胞内で作動可能なため、目的の遺伝子は構成的に、あるいは刺激に応答して、あるいは細胞の状態に依存してのいずれかで転写される。特定の実施形態では、ウイルスゲノムはカプシドに封入され、ウイルスベクターとなり、標的細胞に形質導入することができる。
【0025】
本明細書に開示される配列と類似又は相同(例えば、少なくとも約70%の配列同一性)の配列もまた、本発明の一部である。核酸レベルにて、配列同一性は約70%、75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%又はそれ以上とすることができる。あるいは、核酸セグメントが選択的なハイブリダイゼーション条件(例えば、非常に高いストリンジェントなハイブリダイゼーション条件)下で、鎖の相補体にハイブリダイズする場合に実質的な同一性が存在する。核酸は、全細胞、細胞溶解物、又は部分的に精製された若しくは実質的に純粋な形態で存在することができる。
【0026】
本明細書の文脈において、「配列同一性」及び「配列同一性の割合(パーセンテージ)」という用語は、整列させる2つの配列を位置ごとに比較することで決定される配列の比較結果を表す単一の定量的パラメータを意味する。比較用の配列のアライメント方法は、当技術分野でよく知られている。比較の配列アラインメントは、Smith及びWatermanのローカルホモロジーアルゴリズム,Adv.Appl.Math.2:482(1981)、Needleman及びWunschのグローバルアライメントアルゴリズム,J.Mol.Biol.48:443(1970)、Pearson及びLipmanの類似性検索法,Proc.Nat.Acad.Sci.85:2444(1988)、又はこれらのアルゴリズムのコンピュータ化された実装によって実行され、CLUSTAL、GAP、BESTFIT、BLAST、FASTA及びTFASTAを含むがこれらに限定されない。BLAST分析を行うためのソフトウェアは、例えば、アメリカ国立生物工学情報センター(http://blast.ncbi.nlm.nih.gov/)を通じて公的に入手可能である。
【0027】
核酸配列の比較についての一例としては、BLASTNアルゴリズムがあり、デフォルト設定を使用する:Expect threshold:10;Word size:28;Max matches in a query range:0;Match/Mismatch Scores:1.-2;Gap costs:Linear。他に記載がない限り、本明細書で提供される配列同一性の値は、BLAST一連のプログラム(Altschulら,J.Mol.Biol.215:403-410(1990))を用いて、それぞれタンパク質及び核酸の比較のために上記で特定されるデフォルトパラメータを使用して得られた値を指す。
【0028】
パーセンテージの値の指定なしに同一配列に言及する場合、100%同一の配列(つまり、同じ配列)を意味する。
【0029】
本明細書の文脈において、「ハイブリダイズ配列(hybridizing sequence)」という用語は、RNA(リボヌクレオチド)、DNA(デオキシリボヌクレオチド)、ホスホチオエートデオキシリボヌクレオチド、2’-O-メチル修飾ホスホチオエートリボヌクレオチド、LNA及び/又はPNAヌクレオチドアナログを含むか、又はそれから本質的になるポリヌクレオチド配列を包含する。
【0030】
本明細書で使用されるとおり、「医薬組成物」という用語は、少なくとも1つの薬学的に許容される担体を伴う本発明の化合物又はその薬学的に許容される塩を指す。特定の実施形態では、本発明による医薬組成物は、局所、非経口、又は注入投与に適した形態で提供される。
【0031】
本明細書で使用されるとおり、「薬学的に許容される担体」という用語には、当業者に知られているとおり、任意の溶媒、分散媒質、コーティング、界面活性剤、抗酸化剤、保存剤(例えば、抗菌剤、抗真菌剤)、等張剤、吸収遅延剤、塩、保存剤、薬物、薬物安定剤、結合剤、賦形剤、崩壊剤、潤滑剤、甘味剤、香味剤、染料など、並びにそれらの組み合わせを含む(例えば、Remington:the Science and Practice of Pharmacy、ISBN 0857110624を参照)。
【0032】
本明細書で使用されるとおり、任意の疾患又は障害(例えば、がん)を「治療する」又はその「治療」という用語は、一実施形態では、疾患又は障害を改善すること(例えば、疾患又はその臨床症状の少なくとも1つの発生を遅らせること、停止させること、又は低減させること)を指す。別の実施形態では、「治療する」又は「治療」は、患者が識別できない可能性のあるものを含む少なくとも1つの身体的パラメータを緩和すること又は改善することを指す。さらに別の実施形態では、「治療する」又は「治療」は、身体的に(例えば、識別可能な症状の安定化)、生理学的に(例えば、身体的パラメータの安定化)、又はその両方のいずれかで、疾患又は障害を調節することを指す。疾患の治療及び/又は予防を評価する方法は、以下に特に記載しない限り、当該技術分野において一般的に知られているものである。
【0033】
本明細書の文脈における「RARa」という用語は、レチノイン酸受容体αに関するものである。
【0034】
ホモ・サピエンスRARa:遺伝子ID:5914;ドブネズミ(Rattus norvegicus)RARa:遺伝子ID:24705;ハツカネズミ(Mus musculus)RARa:遺伝子ID:19401。
【0035】
本明細書の文脈における「TCF7L2」は、転写因子7様2に関するものである。
【0036】
ホモ・サピエンスTCF7L2:遺伝子ID:6934;ドブネズミTCF7L2:遺伝子ID:679869;ハツカネズミTCF7L2:遺伝子ID:21416。
【0037】
本明細書の文脈における「E2F6」という用語は、E2F転写因子6に関するものである。
【0038】
ホモ・サピエンスE2F6:遺伝子ID:1876;ドブネズミE2F6:遺伝子ID:313978;ハツカネズミE2F6:遺伝子ID:50496。
【0039】
本明細書の文脈における「LEF1」という用語は、リンパ系エンハンサー結合因子1に関するものである。
【0040】
ホモ・サピエンスLEF1:遺伝子ID:51176;ドブネズミLEF1:遺伝子ID:16842;ハツカネズミLEF1:遺伝子ID:161452。
【0041】
本明細書の文脈における「E2F7」という用語は、E2F転写因子7に関するものである。
【0042】
ホモ・サピエンスE2F7:遺伝子ID:144455;ドブネズミE2F7:遺伝子ID:52679;ハツカネズミE2F7:遺伝子ID:314818。
【0043】
本明細書の文脈における「NFYb」という用語は、核転写因子Yサブユニットβに関するものである。
【0044】
ホモ・サピエンスNFYb:遺伝子ID:4801;ドブネズミNFYb:遺伝子ID:18045;ハツカネズミNFYb:遺伝子ID:25336。
【0045】
本発明の第1の態様は、心臓病の治療又は予防における使用のための核酸剤の組み合わせに関するものである。前記核酸剤のそれぞれは、標的タンパク質の発現を特異的に阻害することが可能である。核酸剤の組み合わせは、細胞内の標的タンパク質(転写因子)の組み合わせの発現を阻害することが可能である。
【0046】
標的タンパク質の組み合わせは、
a. RARa、及び
b. TCF7L2、及び
c. E2F6及びLEF1、又は
E2F7及びNFYb
である。
【0047】
特定の実施形態では、標的タンパク質の組み合わせは、
a. RARa、及び
b. TCF7L2、及び
c. E2F6、及び
d. LEF1
である。
【0048】
核酸剤の組み合わせは、細胞分裂が停止したP7ラットの心筋細胞で試験した(図5)。この状況は、心不全の治療の状態に最も似ており、なぜなら心不全の治療の状態でも心筋細胞の細胞分裂が停止しているからである。本発明者らは、RARa、TCF7L2、E2F6、及びLEF1の組み合わせが、分裂終期の心筋細胞のパーセンテージとして測定される細胞分裂率を最も高く誘導することを見出した(図5)。
【0049】
特定の実施形態では、各核酸剤はヌクレオチドのハイブリダイズ配列を含み、このヌクレオチドのハイブリダイズ配列は、標的タンパク質をコードするそれぞれのmRNAとハイブリッドを形成することが可能である。特定の実施形態では、各核酸剤は、ヌクレオチドのハイブリダイズ配列から本質的になり、前記ヌクレオチドのハイブリダイズ配列は、標的タンパク質をコードするそれぞれのmRNAとハイブリッドを形成することが可能である。
【0050】
特定の実施形態では、各核酸剤は、独立して、アンチセンスオリゴヌクレオチド、siRNA、shRNA、sgRNA、及びmiRNAから選択される。特定の実施形態では、各核酸剤は、siRNAである。
【0051】
特定の実施形態では、センス鎖は、RISCとの相互作用を妨げ、かつアンチセンス鎖の取り込みを有利にするように改変されている。特定の実施形態では、アンチセンス鎖のシード領域は、オフターゲット活性を不安定化し、かつ標的特異性を高めるように改変されている。
【0052】
特定の実施形態では、前記核酸剤の1つ又は2つ、又は各核酸剤は、ヌクレオシドアナログを含むか、又はヌクレオシドアナログからなる。
【0053】
特定の実施形態では、各核酸剤は、配列番号165~188の配列から選択される(異なる)配列を含む。特定の実施形態では、各核酸剤は、配列番号165~188の配列から選択される(異なる)配列から本質的になる。
【0054】
特定の実施形態では、前記核酸剤のうちの1つは、1つ又は複数のロック核酸(LNA)部分及び/又はペプチド核酸(PNA)部分を含む。特定の実施形態では、前記核酸剤のうちの1つは、1つ又は複数のロック核酸(LNA)部分及び/又はペプチド核酸(PNA)部分から本質的になる。
【0055】
特定の実施形態では、複数又はすべての前記核酸剤は、1つ又は複数のロック核酸(LNA)部分及び/又はペプチド核酸(PNA)部分を含む。特定の実施形態では、複数又はすべての前記核酸剤は、1つ又は複数のロック核酸(LNA)部分及び/又はペプチド核酸(PNA)部分から本質的になる。
【0056】
特定の実施形態では、核酸剤は、ロック核酸(LNA)部分から本質的になる。
【0057】
特定の実施形態では、核酸剤のうちの1つは、隣接する(デオキシ)リボヌクレオシド部分又はリボヌクレオチドアナログ部分を接続する1つ又は複数のチオリン酸結合を含む。特定の実施形態では、複数又はすべての核酸剤は、隣接する(デオキシ)リボヌクレオシド部分又はリボヌクレオチドアナログ部分を接続する1つ又は複数のチオリン酸結合を含む。
【0058】
特定の実施形態では、前記核酸剤のうちの1つは、チオリン酸結合によって隣接するリボヌクレオシド部分又はリボヌクレオチドアナログ部分に接続されるLNA部分を含む。特定の実施形態では、前記核酸剤のうちの1つは、その核酸剤のいずれかの末端にチオリン酸結合で接続された2、3又は4個のLNA部分を含む。
【0059】
特定の実施形態では、複数又はすべての核酸剤は、チオリン酸結合によって隣接するリボヌクレオシド部分又はリボヌクレオチドアナログ部分に接続されたLNA部分を含む。特定の実施形態では、複数又はすべての核酸剤は、その核酸剤のいずれかの末端にチオリン酸結合で接続された2、3又は4個のLNA部分を含む。
【0060】
特定の実施形態では、前記核酸剤のうちの1つは、ヒト心筋細胞において作動可能なプロモーターの制御下でヌクレオチドのハイブリダイズ配列をコードする配列を含む外来性(導入遺伝子)発現コンストラクトにより細胞内で発現される。
【0061】
特定の実施形態では、前記複数又はすべての核酸剤は、ヒト心筋細胞において作動可能なプロモーターの制御下でヌクレオチドのハイブリダイズ配列をコードする配列を含む外来性(導入遺伝子)発現コンストラクトにより細胞内で発現される。
【0062】
本発明の第2の態様は、ヒト心筋細胞において作動可能なプロモーターの制御下で、心臓病の治療又は予防における使用のための核酸剤の組み合わせをコードする、発現コンストラクト、又は複数の発現コンストラクトに関する。各核酸剤は、標的タンパク質の発現を特異的に阻害することが可能であり、それにより、標的タンパク質(転写因子)の組み合わせの発現を阻害することが可能である。標的タンパク質の組み合わせは、
a. RARa、及び
b. TCF7L2、及び
c. E2F6及びLEF1、又は
E2F7及びNFYb
である。
【0063】
特定の実施形態では、標的タンパク質の組み合わせは、
a. RARa、及び
b. TCF7L2、及び
c. E2F6、及び
d. LEF1
である。
【0064】
特定の実施形態では、前記発現コンストラクトの各々及びすべては、単一の核酸分子内に含まれる。
【0065】
特定の実施形態では、すべての発現コンストラクトを含む単一の核酸分子は、本発明の核酸剤の組み合わせについてそれぞれ1つずつの、複数のオープンリーディングフレームを有する多シストロン性コンストラクトである。
【0066】
特定の実施形態では、前記核酸剤又は前記発現コンストラクトは、ナノ粒子に結合しているか、又はウイルス及びリポソームから選択される粒子構造体によってカプセル化されている。
【0067】
リポソームは、少なくとも1つの脂質二重層を持つ球状の小胞である。リポソームは、生体膜を破壊する(超音波処理など)ことにより調製することができる。リポソームの主な種類には、多層膜小胞(MLV(multilamellar vesicle)、複数のラメラ相脂質二重層を含む)、小型単層リポソーム小胞(SUV(small unilamellar liposome vesicle)、1層の脂質二重層を含む)、大型単層小胞(LUV(large unilamellar vesicle))、及び渦巻状小胞がある。
【0068】
ナノ粒子は、直径1~100ナノメートル(nm)の間の粒子状物質である。特定の実施形態では、ナノ粒子は、銀、金、ヒドロキシアパタイト、クレイ、二酸化チタン、二酸化ケイ素、二酸化ジルコニウム、炭素、ダイヤモンド、酸化アルミニウム、及び三フッ化イッテルビウム(ytterbium trifluoride)から選択される材料から構成されている。
【0069】
特定の実施形態では、ウイルスは、レトロウイルス、レンチウイルス、アデノウイルス、及びアデノ随伴ウイルス、又は前述のもののハイブリッドから選択される。特定の実施形態では、ウイルスは、心筋細胞を選択的に形質導入する。
【0070】
特定の実施形態では、ナノ粒子、又は粒子構造体は、心筋細胞へのナノ粒子又は粒子構造体の送達又は進入を促進するリガンドを含む。特定の実施形態では、リガンドは、抗CD71 Fab断片及び抗cTnI Fab断片から選択される。これらのリガンドは、標的送達を行うために、心筋細胞に特異的な細胞表面受容体を標的することによって機能する。
【0071】
特定の実施形態では、プロモーターは、前記核酸剤の心臓特異的な発現を可能にする。特定の実施形態では、プロモーターは、心臓組織特異的RNAポリメラーゼ2プロモーターである。特定の実施形態では、プロモーターは、ミオシン軽鎖2v(Myosin Light Chain 2v)(MLC2v)プロモーター、心臓トロポニンT(cardiac Troponin T)(cTnT)プロモーター、ミオシン重鎖α(Myosin Heavy Chain alpha)(MHCa)プロモーター、及びタイチン(Titin)(Ttn)プロモーターから選択される。
【0072】
特定の実施形態では、心臓病は、心筋細胞の損失によって特徴付けられる。特定の実施形態では、心臓病は、心筋細胞の損失によって特徴付けられる心不全である。特定の実施形態では、心不全は、心筋の梗塞、狭窄、先天性疾患、炎症及び/又は敗血症の結果である。
【0073】
特定の実施形態では、心臓病は、心筋細胞の低酸素状態(低酸素症)によって特徴付けられる。
【0074】
心不全(HF:Heart failure)は、心臓が身体の必要量を満たす血流を維持するのに十分なポンプ機能を果たせない場合に発生し、治療しなければ死に至る。心不全(HF)は、冠動脈疾患、虚血性心疾患、大動脈弁狭窄症、高血圧症、及び代謝性疾患などの症状における疾患進行の結末にある。心不全は、心筋細胞の損失によって引き起こされ得る。心筋細胞は、酸素の供給不足(低酸素症(状態))により失われることが多い。本発明の核酸剤の組み合わせを使用することで、残った心筋細胞が分裂し、失われた心筋細胞を置き換えることがもたらされる。
【0075】
本発明の第3の態様は、第1の態様による核酸剤の組み合わせ、又は第2の態様による複数の発現コンストラクトを含む、心臓病の治療又は予防における使用のための医薬組成物に関するものである。
【0076】
特定の実施形態では、本医薬組成物は、心臓に投与される。
【0077】
医療、剤形、及び塩類
同様に、本発明の範囲内には、上記の核酸配列を患者に投与することを含む、それを必要とする患者の心臓病を治療すること、又はその方法が含まれる。
【0078】
同様に、本発明の上記いずれかの態様又は実施形態によるアンチセンス分子を含む、心臓病の予防又は治療のための剤形が提供される。
【0079】
当業者は、いずれの具体的に言及された薬物が、該薬物の薬学的に許容される塩として存在し得ることを認識している。薬学的に許容される塩には、イオン化された薬物及び逆荷電の対イオンが含まれる。薬学的に許容されるアニオン性塩形態の非限定的な例としては、酢酸塩、安息香酸塩、ベシル酸塩、酒石酸水素塩(bitatrate)、臭化物、炭酸塩、塩化物、クエン酸塩、エデト酸塩、エジシル酸塩、エンボン酸塩、エストール酸塩、フマル酸塩、グルセプト酸塩、グルコン酸塩、臭化水素酸塩、塩酸塩、ヨウ化物、乳酸塩、ラクトビオン酸塩、リンゴ酸塩、マレイン酸塩、マンデル酸塩、メシル酸塩、臭化メチル、硫酸メチル、ムチン酸塩、ナプシル酸塩、硝酸塩、パモ酸塩、リン酸塩、二リン酸塩、サリチル酸塩、ジサリチル酸塩、ステアリン酸塩、コハク酸塩、硫酸塩、酒石酸塩、トシル酸塩、トリエチオジド、及び吉草酸塩が挙げられる。薬学的に許容されるカチオン塩形態の非限定的な例としては、アルミニウム、ベンザチン、カルシウム、エチレンジアミン、リジン、マグネシウム、メグルミン、カリウム、プロカイン、ナトリウム、トロメタミン、及び亜鉛が挙げられる。
【0080】
剤形は、鼻腔、口腔、直腸、経皮、若しくは経口投与などの経腸投与用、又は吸入剤若しくは坐剤とすることができる。あるいは、皮下、静脈内、肝内、若しくは筋肉内の注入形態などの非経口投与が用いられてもよい。任意に、薬学的に許容される担体及び/又は賦形剤が存在してもよい。
【0081】
局所投与もまた、本発明の有利な使用の範囲内である。当業者は、以下の内容によって例示されるとおり局所製剤を提供するための可能な広い範囲の処方について理解している:Benson及びWatkinson(編),Topical and Transdermal Drug Delivery:Principles and Practice(第1編,Wiley 2011,ISBN-13:978-0470450291);及びGuy及びHandcraft:Transdermal Drug Delivery Systems:Revised and Expanded(第2編,CRC Press 2002,ISBN-13:978-0824708610);Osborne及びAmann(編):Topical Drug Delivery Formulations(第1編,CRC Press 1989;ISBN-13:978-0824781835)。
【0082】
医薬組成物及び投与
本発明の別の態様は、本発明の化合物、又はその薬学的に許容される塩、及び薬学的に許容される担体を含む医薬組成物に関する。さらなる実施形態では、該組成物は、本明細書に記載されるものなどの少なくとも2つの薬学的に許容される担体を含む。
【0083】
本発明の特定の実施形態では、本発明の化合物は、典型的には、薬物の容易に制御可能な投与量を提供し、かつ患者に簡潔かつ容易に取り扱い可能な製品を付与するような薬学的剤形に製剤化される。
【0084】
本発明の化合物の局所的使用に関する本発明の実施形態では、医薬組成物は、水溶液、懸濁液、軟膏、クリーム、ゲル又は噴霧可能な製剤、例えばエアゾール等による送達用のものなど、局所投与に適した方法で製剤化され、活性成分を当業者に知られている1つ又は複数の可溶化剤、安定剤、等張化増強剤、緩衝液及び防腐剤と共に含んでいる。
【0085】
医薬組成物は、経口投与、非経口投与、又は直腸投与用に製剤化することができる。さらに、本発明の医薬組成物は、固体形態(限定されないが、カプセル、錠剤、丸薬、顆粒、粉末又は坐剤を含む)、又は液体形態(限定されないが、溶液、懸濁液、又は乳濁液を含む)において構成することができる。
【0086】
本発明の化合物の投与レジメンは、特定の薬剤の薬力学的特性及びその投与様式及び投与経路などの既知の要因:レシピエントの種、年齢、性別、健康状態、病状、及び体重;症状の性質と程度;同時治療の種類;治療の頻度;投与経路、患者の腎機能及び肝機能、並びに所望の効果、に応じて変化するであろう。特定の実施形態では、本発明の化合物は、1日1回の用量で投与されてもよいし、又は1日の総用量が、1日2回、3回、又は4回に分割した用量で投与されてもよい。
【0087】
特定の実施形態では、本発明の医薬組成物又は組み合わせは、約50~70kgの対象に対して約1~1000mgの活性成分(複数可)の単位用量であり得る。化合物、医薬組成物、又はそれらの組み合わせの治療上有効な投与量は、対象の種、体重、年齢及び個人の症状、治療される障害又は疾患又はその重篤度に依存する。通常の技術を有する医師、臨床医、又は獣医師であれば、障害又は疾患の予防、治療、又は進行抑制に必要な各有効成分の有効量を容易に決定することができる。
【0088】
本発明の医薬組成物は、滅菌などの従来の医薬操作にかけることができ、及び/又は従来の不活性な希釈剤、潤滑剤、又は緩衝剤、並びに保存剤、安定剤、湿潤剤、乳化剤及び緩衝剤などのアジュバントを含有することができる。これらは、標準的なプロセス、例えば、従来の混合、造粒、溶解、又は凍結乾燥プロセスによって製造することができる。医薬組成物を調製するための多くのそのような手順及び方法は、当技術分野で知られており、例えば、L.Lachmanら,The Theory and Practice of Industrial Pharmacy,第4編,2013(ISBN 8123922892)を参照されたい。
【0089】
本発明は、以下の実施例及び図によってさらに説明され、そこからさらなる実施形態及び利点を引き出すことができる。これらの実施例は、本発明を説明するためのものであり、その範囲を限定するものではない。
【実施例
【0090】
実施例1:in vitroでの新生児ラット心筋細胞の増殖
心筋細胞の増殖を制御する転写因子(TF:transcription factor)を同定するため、本発明者らは最初に新生児ラット心筋細胞をグルコース(Glc)濃度を変化させたもので培養し(図1A~1D)、心筋細胞増殖の誘導におけるGlcレベルの変化の効果を測定した。その際、本発明者らは、Glc濃度が0mMと2mM以上とでは、顕著な差があることを観察した(図1A~1D)。本発明者らは、0mM Glcと2mM Glc(及びそれ以上)との間のTF活性の差が、心筋細胞の増殖を誘導する上で重要であると証明できるであろうと考えた。シグナル転写因子レポーターアッセイ(Qiagen)を使用して、本発明者らは、0mM Glcと2mM及び3mM Glcとの間で別個に活性化される多数のTF経路を同定した(図2)。
【0091】
実施例2:心筋細胞の増殖を促進するTF阻害のスクリーニング
それぞれのTF経路は、多数の個々のTF及びTFアイソフォームを包含している。心筋細胞に関連かつ活性な特異的TFを同定するために、本発明者らは、同定したTF経路内に含まれる個々のTFを、公的データベース及びリポジトリ(NCBI GEO、UCSC Genome Browserなどを含む)のゲノムワイドなRNA配列及び単一細胞RNA配列のデータセットと相互参照した。そのようにして本発明者らは、図3A及び図3Bに示すとおり心臓関連TFを同定した。ラット心筋細胞におけるこれらのTFをノックダウンするために、ON-TARGET SMARTプール siRNAをこの調査に使用した。
【0092】
これまでの研究では、特異的TFによるダウンレギュレーション又はアップレギュレーションを介して心筋細胞の細胞周期の再突入を誘導することが試みられてきた。しかしながら、このようなアプローチでは、心筋細胞の増殖に穏やかな変化しかもたらさないことがほとんどであった。これは、心筋細胞が細胞質分裂と娘細胞の形成とを完了するために(主に心筋細胞の有糸分裂後状態及び末期分化状態に関わる)多くの物理的、形態的、及び構造的な障壁を乗り越える必要があることに大きく起因する。これらの障壁を克服するためには、多くの異なるシグナル伝達経路の協調的かつ共同的な作用が必要であることから、本発明者らは、多能性誘導TFの同定にYamanakaらが採用したアプローチを採用した(Takahashiら,Cell,vol.131(5),P861-872,2007)。Takahashiらは、成体細胞の多能性誘導には、複数のシグナル伝達経路のコンビナトリアルかつ協調的な作用が同様に必要であることから、コンビナトリアルTFの機能の同定のためのスクリーニング方法を確立した。
【0093】
本発明者らは、同様の戦略で、34のTF候補のうちどのTFが心筋細胞の増殖に重要であるかを同定した。新生児ラット心筋細胞(neonatal rat cardiomyocyte)(NRC、P1)に、対照として、それぞれのTFを標的とする34のsiRNAをすべて共にトランスフェクトし、34のsiRNAのプールから1つずつのsiRNAを引き出した場合の心筋細胞の増殖をEdU(5-エチニル-2’-デオキシウリジン)取り込み法により調査した(図3A、3B、及び3C)。EdUの初期評価はトランスフェクション後3日以内に行い、ラット心筋細胞はサルコメアα-アクチニンで標識した。LEF1、TCF7L2、RARb、RARa、Myc、IRF1、Gli1、HSF1、NFYB、E2F7、E2F6、又はE2F5を標的とする個々のsiRNAを除去すると、図3B及び3Cに示すとおり、S期の心筋細胞数の減少がもたらされた。RNAの発現量を定量的リアルタイムPCRにより検出した(図3D)。これらの結果は、LEF1、TCF7L2、RARb、RARa、Myc、IRF1、Gli1、HSF1、NFYB、E2F7、E2F6、及びE2F5がラット心筋細胞におけるDNA合成に重要な役割を担っていることを示している。
【0094】
12種のTFのうちどのTFが心筋細胞の細胞質分裂に重要であるかを調べるために、本発明者らはAurora Bをマーカーとして使用した。単離した新生児ラット心筋細胞(NRC)に、対照としてそれぞれのTFを標的とする12種のsiRNAをすべて一緒にトランスフェクトし、12種のsiRNAのプールからそれぞれsiRNAを抜いた際の心筋細胞の増殖をAurora Bを用いて調査した(図4A及び図4B)。図4A及び図4Bに示すとおり、LEF1、TCF7L2、RARa、NFYB、E2F7、E2F6を標的とする個々のsiRNAを除去した結果、心筋細胞の細胞質分裂の数が減少した。RNAの発現量を定量的リアルタイムPCRにより検出した(図4C)。これらの結果は、LEF1、TCF7L2、RARa、NFYB、E2F7、及びE2F6がラット心筋細胞の細胞質分裂に重要な役割を担っていることを示している。
【0095】
実施例3:E2F6/RARa/TCF7L2/LEF1、又はE2F7/NFYb/RARa/TCF7L2の組み合わせのノックダウンがラット心筋細胞における心筋細胞増殖を誘導する。
どの組み合わせが細胞質分裂を増強するか調査するために、LEF1、TCF7L2、RARa、NFYB、E2F7、及びE2F6を標的とする6種のsiRNAの候補の組み合わせに相当する63通りの条件を1日齢(P1)と7日齢(P7)のラット心筋細胞において試験した。心筋細胞増殖を、P1ラット心筋細胞(図5A及び図5B)及びP7ラット心筋細胞(図5C及び図5D)の細胞質分裂中の細胞を標識するために、サルコメアα-アクチニンとの収縮環及び中心体のAurora B染色による共局在化によって評価した。これらの結果から、3種の組み合わせ(siE2F6、siRARa、siTCF7L2及びsiLEF1;siE2F7、siNFYb、siRARa及びsiTCF7L2;siE2F6、siE2F7、siRARa、siTCF7L2及びsiLEF1)は、分裂終期の心筋細胞数が他の組み合わせよりも多くなることが示された。本発明者らは、siE2F6、siRARa、siTCF7L2及びsiLEF1;並びにsiE2F7、siNFYb、siRARa及びsiTCF7L2の特定の組み合わせを選択した。図6A及び図6Bに示すとおり、E2F6/RARa/TCF7L2/LEF1、又はE2F7/NFYb/RARa/TCF7L2のノックダウンは、分裂終期のAurora B陽性心筋細胞が有意に増加することによって心筋細胞の増殖を顕著に増加させた。その遺伝子発現量を図6C及び図6Dに示した。さらに、図6E及び図6Fに示すとおり、siE2F6、siRARa、siTCF7L2及びsiLEF1;又はsiE2F7、siNFYb、siRARa及びsiTCF7L2の組み合わせにより、P7ラット心筋細胞の分裂終期のAurora B心筋細胞が増加した。その遺伝子発現量を図6G及び図6Hに示した。
【0096】
実施例4:E2F6/RARa/TCF7L2/LEF1又はE2F7/NFYb/RARa/TCF7L2の組み合わせのノックダウンがhiPSC-CMの心筋細胞増殖を誘導する。
ヒト心筋細胞における組み合わせを試験するために、本発明者らは、E2F6/RARa/TCF7L2/LEF1若しくはE2F7/NFYb/RARa/TCF7L2を標的とするsiRNA、又は対照のスクランブルsiRNA(siScr)を、分裂後40日齢のヒト人工多能性幹細胞由来心筋細胞(hiPSC-CM:human induced pluripotent stem cell-derived cardiomyocyte)にトランスフェクトし、その後、hiPSC-CMを正常酸素状態(20% O)又は低酸素状態(3% O)に2日間暴露した。さらに、図7A及び図7Bに示すとおり、siE2F6、siRARa、siTCF7L2及びsiLEF1;又はsiE2F7、siNFYb、siRARa及びsiTCF7L2の組み合わせは、hiPSC-CMの分裂終期におけるAurora B心筋細胞を増加させた。その遺伝子発現量をqRT-PCRで検出した(図7C及び図7D)。これらの結果は、E2F6/RARa/TCF7L2/LEF1、又はE2F7/NFYb/RARa/TCF7L2の組み合わせのノックダウンがhiPSC-CMの心筋細胞の増殖を誘導することを示している。
【0097】
実施例5:E2F6/RARa/TCF7L2/LEF1の組み合わせのノックダウンがHL-1細胞の心筋細胞の増殖を誘導する
次に、本発明者らは、HL-1細胞において、E2F6/RARa/TCF7L2/LEF1の組み合わせのノックダウンがマウス心筋細胞の増殖を誘導するか否かを調査した。HL-1細胞をE2F6/RARa/TCF7L2/LEF1を標的とするGapmeR又は対照のGapmeR-controlのいずれかで治療し、次いでこの細胞を酸素正常状態(20% O)又は低酸素状態(3% O)に2日間曝露した。その遺伝子発現量をqRT-PCRで検出した(図8A)。図8B図8C、及び図8Dに示すとおり、E2F6/RARa/TCF7L2/LEF1の組み合わせのノックダウンにより、EdU、Ki67、及びAurora B心筋細胞の増加によって決定されるように心筋細胞の増殖が増大した。これらのデータは、E2F6/RARa/TCF7L2/LEF1の組み合わせのノックダウンが、HL-1細胞のマウス心筋細胞の増殖を増大させることを示すものである。
【0098】
材料と方法
siRNA
すべてのsiRNAはDharmacon社から購入した。ON-TARGETplus SMARTプールsiRNAの混合物は以下の配列を標的とする:ラットE2F6(313978)配列 UGACAAAGAAAACGAAAGA(配列番号009)、CCGGAAGAGGCGUGUGUAU(配列番号010)、GGAUAGGAUCUGACCUGAA(配列番号011)、GACGAGUUGAUUAAAGAUU(配列番号012);ラットE2F7(314818)配列 GCAUCUAUGACAUCGUAAA(配列番号017)、AGAAGAGCGAGGCCGCAAA(配列番号018)、CAACGGAGACAUCGGGAGA(配列番号019)、GGAUAAAUGUAUAUACGUG(配列番号020);ラットNFYb(253336)配列 AAUAAGUAGCUGUAACGUA(配列番号021)、GCAUGGUAACUUAGCCGAA(配列番号022)、AAUCUUGUGUACAUCGUAA(配列番号023)、CAUCGGAGGAAGUCAUUAU(配列番号024);ラットRARa(24705)配列 GCAAGUACACUACGAACAA(配列番号001)、CGAAUCUGCACGCGGUACA(配列番号002)、AAGACAAGUCAUCCGGCUA(配列番号003)、GCUCAAACCACUCCAUCGA(配列番号004);ラットTCF7L2(679869)配列 GCACUUACCAGCUGACGUA(配列番号005)、GGAGAGGGAUUUAGCCGAU(配列番号006)、GCACACAUCGUUUCGAACA(配列番号007)、CAAAACAGCUCCUCCGAUU(配列番号008);ラットLEF1(161452)配列 GGGCGAAUGUCGUAGCCGA(配列番号013)、CGUCACACAUCCCGUCAGA(配列番号014)、CGAAGAGGAGGGCGACUUA(配列番号015)、CAAUAUGAAUAGCGACCCA(配列番号016);
ヒトE2F6(1876)配列 CAACGGACCUAUCGAUGUC(配列番号165)、UAGCAUAUGUGACCUAUCA(配列番号166)、GUAAGCAACUGAUGGCAUU(配列番号167)、GAACAGAUCGUCAUUGCAG(配列番号168);ヒトE2F7(144455)配列 GCACACAUCGUGAGACGUU(配列番号169)、UGACUAACCUGCCGCUUUG(配列番号170)、CAAGGACGAUGCAUUUACA(配列番号171)、GGACUAUUCCGACCCAUUG(配列番号172);ヒトNFYb(4801)配列 GAUAUUCUCUUUGCUAUGC(配列番号173)、GUAAGUGAGUUCAUCAGUU(配列番号174)、GAAUGUGUCAGGUGCAUAA(配列番号175)、UAUGCAAGCUCCAUGUUA(配列番号176);ヒトRARa(5914)配列 GCAAAUACACUACGAACAA(配列番号177)、CCAAGGAGUCUGUGAGAAA(配列番号178)、GAGCAGCAGUUCUGAAGAG(配列番号179)、GAACAACGUGUCUCUCUGC(配列番号180);ヒトTCF7L2(6934)配列 CAGCGAAUGUUUCCUAAAU(配列番号181)、CGAGACAAAUCCCGGGAAA(配列番号182);ACACUUACCAGCCGACGUA(配列番号183)、GAUGUCGGCUCACUCCAUA(配列番号184);ヒトLEF1(51176)配列 GCAAGAGACAAUUAUGGUA(配列番号185)、UGCCAAAUAUGAAUAACGA(配列番号186)、CGAUUUAGCUGACAUCAAG(配列番号187)、CGUCACACAUCCCAUCAGA(配列番号188);Dharmacon社製のON-TARGETplus非標的siRNAプールは対照として機能する。
【0099】
新生児ラット初代心筋細胞の単離と維持
Sprague Dawleyの雌の交配ラットはJanvier社(ル・ジュネスト=サン=ティスル、フランス)から入手した。製造元の指示に従って、新生児心臓解離キット(Miltenyi Biotec)及びgentleMACS解離装置を使用して、初代新生児ラット心筋細胞(NRC:Primary neonatal rat cardiomyocyte)をP1及びP7の仔ラットから単離した。単離した細胞を、以前の記載のとおり線維芽細胞を除くために加湿雰囲気で37℃及び5% COで10cmの細胞培養ディッシュ(Nunc)において1.5時間、プレーティング培地(DMEM 高グルコース、M199 EBS(BioConcept)、10% ウマ血清、5% ウシ胎児血清、2% L-グルタミン及び1% ペニシリン/ストレプトマイシン)に事前プレーティングした。NRCを、プレーティング培地中のディッシュ、又はI型ウシコラーゲンコーティング(Advanced Biomatrix)プレートにプレーティングした。NRCの単離の24時間後、プレーティング培地を維持培地(DMEM 高グルコース、M199 EBS、1% ウマ血清、2% L-グルタミン、及び1% ペニシリン/ストレプトマイシン)に変更した。
【0100】
ヒトiPSC-CMの調製と維持
ヒト人工多能性幹細胞(hiPSC)はCellular Dynamics International社(CMC-100-010-001)から購入し、製造元の推奨の方法で培養した。ヒトiPSC由来心筋細胞(hiPSC-CM)を、STEMdiff(商標)心筋細胞分化キット(STEMCELL Technologies)を用いて、製造元のプロトコルに従って再プログラム化した。簡潔には、5uM ROCK阻害剤(Y-27632、STEMCELL Technologies)を添加したmTeSR(商標)培地を用いて、ヒトiPS細胞を、マトリゲルをコーティングした12ウェルプレートに3.5×10細胞/ウェルの細胞密度で24時間プレーティングした。1日後(-1)、この培地を新しいTeSR(商標)培地に交換した。心筋分化を誘導するため、TeSR(商標)培地を0日目に培地A(サプリメントAを含有するSTEMdiff(商標)心筋細胞分化基礎培地)、2日目に培地B(サプリメントBを含有するSTEMdiff(商標)心筋細胞分化基礎培地)、4日目及び6日目に培地C(サプリメントCを含有するSTEMdiff(商標)心筋細胞分化基礎培地)に交換した。8日目に培地をSTEMdiff(商標)心筋細胞維持培地に切り替え、2日ごとに培地を全量交換し、成熟心筋細胞への分化をさらに促進させた。すべての実験は、40日目のhiPSC-CMで行った。低酸素チャンバーを用いて低酸素状態を作り出し、hiPSC-CMを3% O下で2日間培養した。
【0101】
RNAの単離、逆転写及びqRT-PCR
試料はQIAzol Lysis試薬(QIAGEN)で採取し、miRNA miniキット(QIAGEN)を用いて製造元のプロトコルに従って総miRNA及び総mRNAを単離した。200ngの総RNAをQuantiTect逆転写キット(QIAGEN)を用いて、製造元のプロトコルに従ってcDNAに逆転写した。Fast SYBR(登録商標)Greenマスターミックス(Thermo Fisher Scientific)を用いてApplied Biosystems社のStepOnePlusリアルタイムPCRシステム(Applied Biosystems、カリフォルニア州、米国)を分析に使用した。遺伝子発現量を、ハウスキーピング遺伝子HPRT1に対して正規化した。以下のqRT-PCR用プライマーを使用した:ラット:E2F6:5’ GTGGAGAACCTACTGCCATCA 3’(配列番号137)、及び5’ GTGGCAACCTTGTTTAGGTCA’(配列番号138);E2F7:5’ TCGCTATCCAAGCTACCCCT 3’(配列番号139)、及び5’ CCGACCATGCCAACCATACT 3’(配列番号140);RARa:5’ TGGCTCAAACCACTCCATCG 3’(配列番号141)、及び5’ CGTCGGAAGAAGCCCTTACA 3’(配列番号142);NFYb:5’ CTCTCGGCTTCGACAGCTAC 3’(配列番号143)、及び5’ TCCATCTGTAGCAGACACGG 3’(配列番号144);TCF7L2:5’ CGCACTTACCAGCTGACGTA 3’(配列番号145)、及び5’ GTACACAGGCTGACCTTGCT 3’(配列番号146);LEF1:5’ GGGACACTTCCATGTCCAGG 3’(配列番号147)、及び5’ TTCACGTGCATTAGGTCGCT 3’(配列番号148);HPRT:5’ CCTCCTCCGCCAGCTT 3’(配列番号149)、及び5’ GTCATAACCTGGTTCATCATCACT(配列番号150)3’;ヒト:E2F6:5’ GGAGCACCAACGGACCTATC 3’(配列番号151)、及び5’ CAGGGCCTTCTGGATGAGTG 3’(配列番号152);E2F7:5’ CAGGCAGCCCAGACTAGATT 3’(配列番号153)、及び5’ TATTGGAGTCTTCGGGGCCA 3’(配列番号154);RARa:5’ CCTATGCTGGGTGGACTCTC 3’ (配列番号155)、及び5’ AGCAAGGCTTGTAGATGCGG 3’(配列番号156);NFYb:5’ ATGCCATACCTCAAACGGGA 3’(配列番号157)、及び5’ CCGTTTCTCTTGATGGCACCT 3’(配列番号158);TCF7L2:5’ GGCAAGATGGAGGGCTCTTT 3’(配列番号159)、及び5’ CGCAGAGTAATGTGTGCTGC 3’(配列番号160);LEF1:5’ TATCCAGGCTGGTCTGCAAG 3’(配列番号161)、及び5’ GCAGCTGTCATTCTTGGACC 3’(配列番号162);HPRT5’ CCTGGCGTCGTGATTAGTGAT 3’(配列番号163)、及び5’ AGACGTTCAGTCCTGTCCATAA 3’(配列番号164)。
【0102】
免疫蛍光染色
NRCを4% パラホルムアルデヒド(PFA)/PBSで固定化し、細胞を透過処理し、2%(v/v)HS/PBSで希釈したAurora B(Abcam)、サルコメアα-アクチニンに対する一次抗体(Sigma Aldrich)と4℃で一晩インキュベートした。5分間PBSで3回洗浄した後、細胞を4’,6-ジアミノ-2-フェニルインドール(DAPI;Thermo Fisher Scientific)、AlexaFluor 555抗マウス(Thermo Fisher Scientific)及びAlexaFluor 488抗ウサギ(Thermo Fisher Scientific)二次抗体と室温にて1時間インキュベートした。ディッシュをProLong褪色防止剤(Thermo Fisher Scientific)を滴下してスライドグラス(Fisher Scientific)に取り付けた。蛍光画像はSP8共焦点顕微鏡(Leica)を用い、40倍の倍率で取得した。
【0103】
統計解析
データは平均値で表し、エラーバーは平均値の標準誤差(SEM)を示す。両側の対応のないスチューデントのt検定(Excel)又は一元配置分散分析に続いてDunnettの多重比較後検定(単一対照との多重比較)又はBonferroni補正(異なる群間の多重比較)を、それぞれの図の凡例に示されるとおり使用した。n.s.=有意ではない;p<0.05;**p<0.01。
【0104】
【表2】
図1
図2-1】
図2-2】
図3-1】
図3-2】
図4
図5-1】
図5-2】
図6-1】
図6-2】
図7
図8
【配列表】
2023538495000001.app
【国際調査報告】