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特表2023-538564軌道ホール効果によるスピン流及び磁気抵抗
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  • 特表-軌道ホール効果によるスピン流及び磁気抵抗 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-09-08
(54)【発明の名称】軌道ホール効果によるスピン流及び磁気抵抗
(51)【国際特許分類】
   H01L 29/82 20060101AFI20230901BHJP
   H10N 50/20 20230101ALI20230901BHJP
   H10B 61/00 20230101ALI20230901BHJP
   H10N 50/80 20230101ALI20230901BHJP
   H10N 50/10 20230101ALI20230901BHJP
【FI】
H01L29/82 Z
H10N50/20
H10B61/00
H10N50/80 D
H10N50/10 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023511908
(86)(22)【出願日】2021-08-19
(85)【翻訳文提出日】2023-03-03
(86)【国際出願番号】 IL2021051014
(87)【国際公開番号】W WO2022038611
(87)【国際公開日】2022-02-24
(31)【優先権主張番号】276842
(32)【優先日】2020-08-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IL
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】500018608
【氏名又は名称】イエダ リサーチ アンド ディベロップメント カンパニー リミテッド
【住所又は居所原語表記】at the Weizmann Institute of Science,PO Box 95,7610002 Rehovot,Israel
(74)【代理人】
【識別番号】110001379
【氏名又は名称】弁理士法人大島特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ヤン、ビンハイ
(72)【発明者】
【氏名】シャオ、ジーウェン
【テーマコード(参考)】
4M119
5F092
【Fターム(参考)】
4M119AA17
4M119AA20
4M119BB01
4M119CC05
4M119CC10
4M119DD17
4M119EE01
4M119EE03
5F092AA15
5F092AA20
5F092AB01
5F092AB06
5F092AC12
5F092AC26
5F092AD23
5F092AD24
5F092AD25
5F092AD30
5F092BB33
5F092BC03
5F092BE23
5F092BE27
5F092FA08
(57)【要約】
重金属のスピンホール効果(SHE)に依存しないスピン流相互作用に基づく磁場検知及び操作デバイスを提供する。普通金属では、軌道ホール効果(OHE)から生じる面外軌道電流の変換により、スピン流が発生する。軌道電流からスピン流への変換は、重金属の薄層(数原子分の層の厚さ)で行われるため、重金属を普通金属に置き換えることで、重金属の所要量を大幅に低減することが可能となる。デバイスの用途としては、磁場を検出・測定する磁気抵抗センサや、磁気トンネル接合データストレージユニットなどが挙げられる。
【選択図】図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
スピン流を生成するデバイスであって、
5d電子殻を有しない普通金属で実質的に構成され、それ自身内に面内電荷電流の軌道ホール効果(OHE)を介して面外軌道流を生成する平板状コンポーネントと、
5d電子殻を有し、前記面外軌道流を面外スピン流に変換するために、前記平板状コンポーネントに電気的に接触している重金属層とを備える、デバイス。
【請求項2】
前記普通金属が銅及びアルミニウムを含む群から選択される、請求項1に記載のデイバス。
【請求項3】
前記重金属が白金、タングステン、及びタンタルを含む群から選択される、請求項1に記載のデバイス。
【請求項4】
前記重金属層の上部に配置された強磁性体コンポーネントと、
前記平板状コンポーネントの異なる側部に接続された2つの電気端子と、
前記2つの電気端子の間に接続された電気抵抗測定装置とを備え、
前記強磁性体コンポーネントの磁場を回転させる外部磁場を検出し測定するように動作する、請求項1に記載のデバイス。
【請求項5】
前記重金属層の上部に設けられ、参照層及び前記重金属層に電気的に接続された自由層を備えることにより、1ビットのデータを記憶するように動作する磁気トンネル接合と、
前記磁気トンネル接合の前記参照層に接続された第1の電気端子と、
前記平板状コンポーネントの一方の側に接続された第2の電気端子と、
前記平板状コンポーネントの他方の側に接続された第3の電気端子と、
前記第2の電気端子及び前記第3の電気端子の間に接続され、前記平板状コンポーネント内に電荷電流を注入することによりデータのビットを書き込むように動作する双方向電源と、
前記第1の電気端子、並びに前記第2の電気端子及び前記第3の電気端子の一方の間に接続され、前記磁気トンネル接合の導電状態を判定するよう動作する導電度検出器とをさらに備える、請求項1に記載のデバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スピン輸送エレクトロニクスの分野に関し、特に、軌道ホール効果(Orbital Hall Effect)に伴う軌道流(orbital current)のスピン流への変換に関する。
【背景技術】
【0002】
スピン輸送エレクトロニクス(スピンエレクトロニクスまたはスピントロニクスともいう)の分野は、多くの実用的な用途があり、その非限定的な例としては、磁気的にエンコードされたデータ記憶媒体を読み取るための磁気抵抗デバイス、及びコンピュータ用の磁気抵抗ランダムアクセスメモリがある。
【0003】
スピンホール効果(SHE)は、電子スピンを電気的に操作することにより、様々なスピントロニクスの応用例に利用されている。スピン流は、固有の電子スピン配列を含んでおり、固有の配向を有する。強いSHE挙動を示す材料として注目されているのは、重金属である。
【0004】
現在、スピンホール効果デバイスは、スピン流を提供するために重金属を多用している。しかしながら、場合によっては、普通金属を利用してデバイスにスピン流を供給することにより、重金属への依存度を低減しつつ、重金属が必要とされる場面を縮小することが望ましい。この目的は、本発明の実施形態によって達成される。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の実施形態は、重金属のスピンホール効果(SHE)に依存しないスピン流相互作用に基づいて磁場(磁化)を検知し、かつ操作するためのデバイスを提供するものである。本発明の様々な実施形態によれば、スピン流は、普通金属の軌道ホール効果(OHE)から生じる面外(out-of-plane)軌道流の変換によって生成される。OHEはスピン軌道相互作用に依存しないため、普通金属で軌道流が発生する。
【0006】
本明細書における「重金属」とは、5d電子殻を有する金属元素を意味し、特にこれらに限定されないが、白金(Pt)、タングステン(W)、及びタンタル(Ta)を含む。その一方で、本明細書における「普通金属」という語は、5d電子殻を有さず、最大で3dもしくは3d/4d電子殻を有するか、またはd副殻を全く有しない金属元素を指す。普通金属としては、特にこれらに限定されるものではないが、銅(Cu)及びアルミニウム(Al)が挙げられる。重金属は強いスピン軌道結合(SOC)を示すが、普通金属は弱いスピン軌道結合を示す。
【0007】
軌道流は原子電子の軌道運動のアライメントを伴うものであり、電子の固有スピンとは異なる。軌道流は固有の配向を有する。本発明の実施形態は、普通金属平板状コンポーネントを覆う、とりわけ数原子層(ナノメートル領域)の厚さの重金属の薄層を介して軌道流からスピン流への変換を提供し、それによって重金属の大部分を普通金属で置き換えることにより、重金属への依存度を大幅に低減させることができる。本明細書における「覆う(capping)」とは、金属平板状コンポーネントの表面に薄層が隣接し、それと電気的に接触していることを意味する。本明細書に開示されているように、本発明によるデバイスの非限定的な用途としては磁場を検出及び測定するための磁気抵抗センサ、並びに、磁気トンネル接合データストレージが挙げられる。
【0008】
ここで「電荷電流」とは、通常の電気回路で発生するような、導体内の電荷の流れを指す。
【0009】
このように、本発明の実施形態は、普通金属を用いて軌道流を提供し、その後、最小量の重金属を用いて軌道流をスピン流に変換することによって、重金属への依存度を実質的に低減する。
【0010】
したがって、本発明の実施形態では、以下を備えるスピン流を生成するためのデバイスを提供する。(a)平板状コンポーネント内の面内電荷電流の流れの軌道ホール効果(OHE)を介して面外軌道流を生成するための平板状コンポーネントであって、(b)該平板状コンポーネントは、5d電子殻を有しない普通金属によって実質的に構成されており、(c)面外軌道流を面外スピン流に変換するために、平板状コンポーネントの面と電気的に接触する重金属の層を備え、(d)該重金属は5d電子殻を有する。
【0011】
開示された主題は、添付の図面と共に読まれるとき、以下の詳細な説明を参照することにより最もよく理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】面内電荷電流から面外スピン電流を供給するための重金属平板状コンポーネントを利用する先行技術のデバイス構成を模式的に示す図である。
図2】重金属の範囲を大幅に縮小し、面外スピン流を供給するための金属平板状コンポーネントを、面内電荷電流が流れる普通金属で実質的に構成した、本発明の実施形態によるデバイスコンポーネント構成を模式的に示す図である。
図3】面内電荷電流から面外スピン電流を供給するための重金属平板状コンポーネントを利用する先行技術のデバイス構成を模式的に示す図である。
図4】重金属平板状コンポーネントから供給される面外スピン流によって切り替えられる先行技術の磁気トンネル接合デバイスを模式的に示す図である。
図5】外部磁場による永久磁石の磁場の回転を検出・測定するための本発明の実施形態に係る磁場検出装置を模式的に示す図である。
図6A】本発明の実施形態によるデバイスによって永久磁石に第1の配向を有する磁場を確立することを概念的に示す図である。
図6B】本発明の実施形態による、図6Aのデバイスの永久磁石に第2の配向を有する磁場を確立することを模式的に示す図である。
図7】本発明の実施形態による面外軌道流-スピン流変換によってスイッチングされる磁気トンネル接合素子を模式的に示す図である。
【0013】
説明を簡単かつ明確にする目的で、図に示す物品は必ずしも一定の縮尺で描かれているとは限らず、一部の物品の寸法は他の物品よりも誇張されている場合がある。さらに、対応するまたは類似の物品を示すために、図面間で参照番号が繰り返される場合がある。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1は、重金属平板状コンポーネント101を通って流れる面内電荷電流102から面外スピン流103を生成するために重金属平板状コンポーネント101を利用する従来技術のデバイス構成100を模式的に示す図である。上述したように、白金、タングステン、及びタンタルは、平板状コンポーネント101の重金属としてしばしば用いられる。
【0015】
本明細書における用語「平板状コンポーネント」は、実質的に平板状の形態であり、他のコンポーネントの対応する面に隣接するために十分な表面積を有する少なくとも1つの面を有する三次元コンポーネントを意味する。平板状コンポーネントは、コンポーネントの内側にあり、面の表面に平行な方向を向く「面内」軸と、少なくとも一部がコンポーネントの外側にあり、かつ面の表面に垂直な方向を向く「面外(面直)」軸とを有する。平板状コンポーネント内の電荷電流の流れる方向は、本明細書において、平板状コンポーネントの面内軸を基準とする。スピン流の向き及び軌道流の向きは、本明細書では、平板状コンポーネントの面外軸を指す。
【0016】
図2は、本発明の一実施形態によるデバイスコンポーネント200を模式的に示す図であり、重金属の範囲が実質的に薄層201に減少している。金属平板状コンポーネント251は、普通金属から作製されており、層201が平板状コンポーネント251の上面と電気的に接触するように、デバイス200の大部分を構成する。本発明によれば、普通金属251を流れる面内電荷電流202は、軌道ホール効果(OHE)を介して面外軌道流205を生成し、薄層201は、スピン軌道結合を介して面外軌道流205を面外スピン流203に変換する。関連する実施形態において、重金属層201は、実際には、数原子分の厚さしかない1ナノメートルの総厚さで十分である(上述したように、図面は縮尺を意図したものではなく、薄層201は、明瞭化のために図面では大きさが誇張されている)。このように、本発明の実施形態は、電荷電流202の導出に普通金属を利用することにより、面外スピン流の生成に必要な重金属の量の大幅な削減を実現する。他の実施形態では、普通金属251として銅及びアルミニウムを用いる。
【0017】
図3は、図1に示すように、面内電荷電流202から面外スピン流203を提供するために重金属平板状コンポーネント101を用いる従来技術のデバイス構成300を模式的に示す図である。この実施形態では、面外スピン流203は、重金属平板状コンポーネント101の上部に配置された永久磁石301の磁場配向302を制御する。
【0018】
図4は、従来技術の3端子磁気トンネル接合デバイス400を模式的に示す図である。磁気トンネル接合410(MTJ)には、薄い絶縁層412の上部に強磁性参照層411が組み込まれ、下部に強磁性自由層413が設けられている。絶縁層412は、通常、数ナノメートルの厚さしかないため、電子は絶縁層412をトンネリングし、参照層411及び自由層413の間を行き交うことができる。参照層411は方向431に磁化されたままであるが、自由層413の磁場は方向432(方向431に平行)と方向433(方向431に反平行)との間で切り替えることができる。自由層413が方向431に平行な方向432へと磁化されると、電子は絶縁層412を横断して高い統計的確率でトンネリングし、それにより参照層411と自由層413との間に低抵抗の導電経路が確立される。しかしながら、自由層413が方向431とは反平行になると、電子が絶縁層412を横断してトンネリングする統計的確率は低いため、参照層411と自由層413との間に高い電気抵抗が確立される。このように、自由層413の磁場方向を切り替えることで、MTJ410を、導電状態及び実質的な非導電状態の間で効果的に切り替えることができる。デバイス400において、自由層413の磁場方向の切り替えは、スピンホール効果への応答により、重金属平板状コンポーネント401を介して注入される面内電荷電流がもたらす面外スピン流422を切り替えることによって達成される。電荷電流の流れ420の方向は、面外スピン流422の方向を支配し、それゆえに、MTJ410の導電状態を制御する。第1の電気端子T402は参照層411に接続する。第2の電気端子T403は、重金属平板状コンポーネント401の一方の側に接続する。第3の電気端子T404は、重金属平板状コンポーネント401の他方の側に接続する。したがって、面内電荷電流420の大きさ及び方向は、端子T403及び端子T404の間を流れる電流によって提供される。MTJ410の導電状態は、端子T402、及び端子T403または端子T404のいずれかとの間の電気抵抗を検知することにより、外部から検知することが可能である。デバイス400の非限定的な用途は、MTJ410の導電状態によって単一ビットのデータを表すことができるデータストレージである。ビットの書き込みは、端子T403及び端子T404の間に、書き込むべき所望のビット値に応じて左右方向に電流パルスを流すことにより行い、ビットの読み出しは、端子T402、及び端子T403または端子T404のいずれかの間の電気抵抗を検知することにより行う。
【0019】
図5は、本発明の一実施形態による、外部磁場510による強磁性材料501の永久磁石の磁場502の回転を検出及び測定するための2端子デバイス500を模式的に示す図である。非限定的な例では、外部磁場510は磁気データ記憶媒体の状態に対応し、図5に示され、本明細書で説明されるデバイスは、磁気データ記憶媒体からデータを読み取る。
【0020】
この実施形態は、以下のように説明される磁気センサを提供する。図2に示され、本明細書で上に開示されているように、普通金属の平板状コンポーネント251は、重金属の薄層201(わずか数原子層の厚さ)で覆われている。図5では、面内電荷電流505が平板状コンポーネント251の普通金属を通過して面外軌道流506を確立するときに平板状コンポーネント251の電気抵抗を検知できる、平板状コンポーネント251の一方の側に接続された第1の電気端子T503及び平板状コンポーネント251の他方の側に接続された第2の電気端子T504を示している。層201の高いスピン軌道結合のために、軌道流506は面外スピン流507に結合される。スピン流507は回転磁場502の影響を受け、このことが結合軌道流506に影響し、このことが面内電荷電流505に影響する。面内電荷電流505への影響は、電気抵抗測定デバイス520などを用いて、端子T503とT504との間のオーム(Ω)単位の電気抵抗を測定することによって検出及び測定される。磁場502の回転は外部磁場510の強さと配向の関数であるため、外部磁場510の強さと配向は、端子T503及びT504を横断する電気抵抗の観点から(例えば、デバイス520を用いて)測定することもでき、それゆえ、図5のデバイスは磁気センサを提供する。
【0021】
図6Aは、本発明の実施形態によるデバイス600によって永久磁石601に上向きの配向を有する磁場602を確立することを模式的に示す図である。面内電荷電流605が普通金属平板状コンポーネント251を左右方向に流れると、重金属層201を通って上方に向かう面外軌道流606が確立される。重金属層201は、軌道流606を、同じく上方に向かう面外スピン流607に変換する。面外スピン流607は、次いで、同様に上方向に配向した磁場602を生成する。
【0022】
図6Bは、同様の実施形態によるデバイス600により、永久磁石601に下向きの配向を有する磁場612が確立される様子を模式的に示す図である。面内電荷電流615が普通金属平板状コンポーネント251を右から左方向に流れると、重金属層201を下方に向かう面外軌道流616が確立される。重金属層201は、軌道流616を、同じく下向きの面外スピン流617に変換する。面外スピン流617は、同様に下向きに配向する磁場612を生成する。
【0023】
図7は、本発明の実施形態による面外軌道流-スピン流変換によって切り替わる磁気トンネル接合素子700を模式的に示す図である。MJT710は、薄い絶縁層712の上に強磁性参照層711を組み込み、その下部に強磁性自由層713を設けている。絶縁層712は通常、わずか数ナノメートルの厚さであるため、電子は参照層711及び自由層713の間を横断してトンネリングできるようにする。参照層711は方向731に磁化されたままであるが、自由層713の磁場は方向732(方向731に平行)と方向733(方向731に反平行)との間で切り替え可能である。自由層713が方向731と平行な方向732に磁化されると、電子は絶縁層712を横断して高い統計的確率でトンネリングするため、参照層711と自由層713との間に低抵抗の導電経路が確立される。しかしながら、自由層713が方向731と反平行な方向733に磁化されると、電子が絶縁層712を横断してトンネリングする統計的確率は低いため、参照層711と自由層713との間に高い電気抵抗が確立される。このように、自由層713の磁場方向を切り替えることで、MTJ710を、導電状態及び実質的な非導電状態の間で効果的に切り替えることが可能である。
【0024】
本発明の本実施形態による、図7に示されかつ本明細書に記載されるようなデバイス700は、図7の切り替え機構が薄い重金属層701によって覆われた普通金属平板状コンポーネント751を含む点、及び注入された電荷電流720が重金属ではなく普通金属を実質的に流れ、それにより重金属を普通金属で実質的に置き換える点において図4の同様のデバイス400と顕著な違いが見られる。デバイス400がスピン流422の生成について重金属平板状コンポーネント401のスピンホール効果に依存しているのに対し、デバイス700はスピンホール効果に依存せず、普通金属平板状コンポーネント751の軌道ホール効果を利用し、それによって得られた面外軌道流705を薄い重金属層701を介して面外スピン流722に変換している。
【0025】
デバイス700の非限定的な用途は、MTJ710の導電状態によって単一ビットのデータを表すことができるデータ記憶に用いるものである。
【0026】
第1の電気端子T702は参照層711に接続され、第2の電気端子T703は普通金属平板状コンポーネント751の一方の面に接続され、第3の電気端子T704は普通金属平板状コンポーネント751の他方の面に接続されている。したがって、面内電荷の流れ720の大きさ及び方向は、双方向電源731から流れる電流のような、端子T703及び端子T704の間を流れる電流によって制御され、電流の方向を変えることにより、0または1のデータビット値を選択的に書き込む。MTJ710の導電状態は、端子T702、及び端子T703または端子T704のいずれかとの間の導電度を、データビット値を検出する導電度検出器741などにより、外部から検出することが可能である。単一ビットの書き込みは、端子T703及び端子T704の間に、書き込むべき所望のビット値に応じて左右方向に電流パルスを流すことにより行い、単一ビットの読み出しは、端子T702、及び端子T703または端子T704のいずれかの間の電気抵抗を検知するなど、MTJ710の電気伝導状態を判定することにより行うことができる。
【0027】
導電状態へのビット値の割り当ては任意であり、ビット値1は、MTJ導電状態またはMTJ非導電状態のいずれかに論理的に割り当て可能であることに留意されたい。図7に示されるビット値は、例示のみを目的としており、限定するものではない。
図1
図2
図3
図4
図5
図6A
図6B
図7
【手続補正書】
【提出日】2023-04-19
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
スピン流を生成するデバイスであって、
5d電子殻を有しない普通金属で実質的に構成され、それ自身内に面内電荷電流の軌道ホール効果(OHE)を介して面外軌道流を生成する平板状コンポーネントと、
5d電子殻を有し、面外軌道流を面外スピン流に変換するために、前記平板状コンポーネントに電気的に接触している重金属層と
前記重金属層の上部に配置された強磁性体コンポーネントと、
前記平板状コンポーネントの異なる側部に接続された2つの電気端子と、
前記2つの電気端子の間に接続された電気抵抗測定装置とを備える、デバイス。
【請求項2】
前記普通金属が銅及びアルミニウムを含む群から選択される、請求項1に記載のデイバス。
【請求項3】
前記重金属が白金、タングステン、及びタンタルを含む群から選択される、請求項1に記載のデバイス。
【請求項4】
前記強磁性体コンポーネントの磁場を回転させる外部磁場を検出し測定するように動作する、請求項1に記載のデバイス。
【請求項5】
前記重金属層の上部に設けられ、参照層及び前記重金属層に電気的に接続された自由層を備えることにより、1ビットのデータを記憶するように動作する磁気トンネル接合と、
前記磁気トンネル接合の前記参照層に接続された第1の電気端子と、
前記平板状コンポーネントの一方の側に接続された第2の電気端子と、
前記平板状コンポーネントの他方の側に接続された第3の電気端子と、
前記第2の電気端子及び前記第3の電気端子の間に接続され、前記平板状コンポーネント内に電荷電流を注入することによりデータのビットを書き込むように動作する双方向電源と、
前記第1の電気端子、並びに前記第2の電気端子及び前記第3の電気端子の一方の間に接続され、前記磁気トンネル接合の導電状態を判定するよう動作する導電度検出器とをさらに備える、請求項1に記載のデバイス。
1
【国際調査報告】