(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-09-08
(54)【発明の名称】細胞培養プロセス
(51)【国際特許分類】
C12P 21/02 20060101AFI20230901BHJP
C07K 14/475 20060101ALI20230901BHJP
C07K 14/52 20060101ALI20230901BHJP
C07K 14/575 20060101ALI20230901BHJP
C07K 16/00 20060101ALI20230901BHJP
C12P 21/08 20060101ALI20230901BHJP
C07K 19/00 20060101ALI20230901BHJP
C12N 5/10 20060101ALN20230901BHJP
【FI】
C12P21/02 C
C07K14/475
C07K14/52
C07K14/575
C07K16/00
C12P21/08
C12P21/02 H
C12P21/02 K
C07K19/00
C12N5/10
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023512002
(86)(22)【出願日】2021-08-19
(85)【翻訳文提出日】2023-02-16
(86)【国際出願番号】 EP2021073094
(87)【国際公開番号】W WO2022038250
(87)【国際公開日】2022-02-24
(32)【優先日】2020-08-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】514232085
【氏名又は名称】ユーシービー バイオファルマ エスアールエル
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ベン ヤヒア、バッセム
(72)【発明者】
【氏名】ピエノワール、アントワーヌ フィリップ トマス
【テーマコード(参考)】
4B064
4B065
4H045
【Fターム(参考)】
4B064AG02
4B064AG13
4B064AG15
4B064AG27
4B064CA10
4B064CA19
4B064CC03
4B064CC07
4B064CC24
4B064CC30
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4B065AA90X
4B065AA90Y
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA01
4B065BB31
4B065BC02
4B065BC20
4B065CA24
4B065CA25
4B065CA44
4H045AA10
4H045AA20
4H045BA41
4H045CA40
4H045DA01
4H045DA45
4H045DA76
4H045EA20
4H045FA74
(57)【要約】
本発明は、組換えタンパク質、特に抗体などのタンパク質の製造の分野に属する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
組換えタンパク質を発現する哺乳類細胞を培養するためのプロセスであって、このプロセスが、哺乳類細胞を培養培地中で培養するステップと、生産段階の間に細胞培養物に少なくとも1つのフィード培地を補充するステップとを含み、この少なくとも1つのフィード培地のpHが、約5.0~約6.3である、上記プロセス。
【請求項2】
組換えタンパク質を製造するためのプロセスであって、前記組換えタンパク質を発現する哺乳類細胞を培養培地中で培養するステップと、生産段階の間に細胞培養物に少なくとも1つのフィード培地を補充するステップとを含み、この少なくとも1つのフィード培地のpHが約5.0~約6.3である、上記プロセス。
【請求項3】
フィード培地中の沈殿を低減又は防止するためのプロセスであって、このプロセスが、組換えタンパク質を発現する哺乳類細胞を培養培地中で培養するステップと、生産段階の間に細胞培養物に少なくとも1つのフィード培地を補充するステップとを含み、この少なくとも1つのフィード培地のpHが約5.0~約6.3である、上記プロセス。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載のプロセスで使用するためのフィード培地であって、この少なくとも1つのフィード培地のpHが約5.0~約6.3である、上記フィード培地。
【請求項5】
少なくとも1つのフィード培地が、濃縮されたメインフィード培地などのメインフィード培地である、請求項1から3までのいずれか1項に記載のプロセス、又は請求項4に記載のフィード培地。
【請求項6】
pHが約5.2~約6.2である、請求項1~3及び5のいずれか1項に記載のプロセス、又は請求項4若しくは請求項5に記載のフィード培地。
【請求項7】
プロセスがフェドバッチプロセスである、請求項1~3、5又は6のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項8】
フィード培地が遊離アミノ酸であるCys及びTyrのいずれも含まない、請求項1~3又は5~7のいずれか1項に記載のプロセス、又は請求項4~6のいずれか1項に記載のフィード培地。
【請求項9】
フィード培地が、遊離アミノ酸であるCys、Tyr及びTrpのいずれも含まない、請求項1~3又は5~7のいずれか1項に記載のプロセス、又は請求項4~6のいずれか1項に記載のフィード培地。
【請求項10】
哺乳類細胞がチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞である、請求項1~3又は5~9のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項11】
組換えタンパク質が、サイトカイン、成長因子、ホルモン、抗体又は融合タンパク質である、請求項1~3又は5~10のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項12】
抗体が、キメラ抗体、ヒト化抗体又は完全ヒト抗体である、請求項11に記載のプロセス。
【請求項13】
抗体が、IgG1、IgG2、IgG3又はIgG4である、請求項11又は請求項12に記載のプロセス。
【請求項14】
請求項1~3又は5~10のいずれかに記載のプロセスにより製造された組換えタンパク質。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、組換えタンパク質、特に抗体などのタンパク質の製造の分野に属する。
【背景技術】
【0002】
組換えタンパク質を治療用抗体などの治療用タンパク質として開発するためには、組換えタンパク質を工業的規模で生産することが必要である。そのためには、原核生物系と真核生物系という異なる発現系が採用されることがある。しかし、過去20年間、承認された治療用タンパク質の大部分は哺乳類細胞培養によって製造されており、このような系は、ヒトに使用する組換えタンパク質を大量に生産するための好ましい発現系であり続けている。
【0003】
培地組成(Kshirsagar R.,et al.,2012;US20130281355;WO2013158275)などの細胞培養条件、pHや温度などの培養条件(WO2011134919)は、治療用タンパク質の収量や品質属性に影響を与えることが示されてきた。過去30年間、細胞培養、培地、及び組換えタンパク質発現の基本パラメータを確立するために多くの努力が払われ、細胞培養培地の組成の変更(例えば、Hecklau Cら、2016;Zang L.ら、(2011)参照)、操作条件及び大型バイオリアクターの開発を通じて最適な細胞増殖に達することに研究の多くの焦点が当てられている。
【0004】
フィード培地(供給培地、feed media)中に高濃度で存在するいくつかの成分は、保存中(前記培地がバイオリアクターに加えられるまで)、特に前記培地のpHが中性付近である場合に沈殿する傾向がある。使用前のこのような沈殿は望ましくない。実際、それは培地の正確な組成に影響を与える可能性がある(溶液中/沈殿物中の成分の量が不明となるため)。化学的に濃縮されたフィード培地(10倍から100倍の間)に関するWO2008013809は、塩が典型的にはあるpH値、例えば5.8以上のpHで一緒に溶解すると沈殿すること、あるいは葉酸などの他の成分が可溶化のために8.6のpHを必要とすることを開示している。WO2008141207は、システイン、チロシン及び任意にシスチンを含み、さらに高濃度で可溶化することが困難な成分(チロシン又はシステインなど)に対する安定剤としてピルビン酸(pyruvate)を含む安定なフィード培地を提供している。WO2011133902は、前記フィードの沈殿のリスクを制限するために、2~6個のアミノ酸を有する小ペプチド(アラニルチロシン及び/又はアラニルシステイン及び/又はアラニルシスチン二量体など)を濃厚フィード培地(供給培地、feed medium)に補充することを提案している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、収量やタンパク質の不均一性への影響を最小限に抑えながら、治療用タンパク質を生産するための細胞培養プロセスにおいて使用される、さらに改良されたフィード培地を提供する必要性が残されている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の態様において、本発明は、組換えタンパク質を発現する哺乳類細胞を培養するためのプロセスを提供し、このプロセスは、哺乳類細胞を培養培地中で培養するステップと、生産段階の間にこの細胞培養物に少なくとも1つのフィード培地(供給培地、feed medium)を補充するステップとを含み、この少なくとも1つのフィード培地のpHが約5.0から約6.3である。
【0007】
第2の態様において、本発明は、組換えタンパク質を製造するためのプロセスを提供し、このプロセスは、培養培地中で前記組換えタンパク質を発現する哺乳類細胞を培養するステップと、生産段階の間に、この細胞培養物に少なくとも1つのフィード培地を補充するステップとを含み、この少なくとも1つのフィード培地のpHが約5.0から約6.3である。
第3の態様において、本発明は、フィード培地中の沈殿を低減又は防止するためのプロセスを提供し、このプロセスは、組換えタンパク質を発現する哺乳類細胞を培養培地中で培養するステップと、生産段階の間に細胞培養物を少なくとも1つのフィード培地で補充するステップとを含み、この少なくとも1つのフィード培地のpHは約5.0~約6.3である。
【0008】
第4の態様において、本発明は、本明細書に記載のいずれかのプロセスにおいて使用するためのフィード培地に関し、この少なくとも1つのフィード培地のpHは、約5.0~約6.3である。
【0009】
第5の態様において、本発明は、本発明によるプロセスのいずれか1つによって製造された組換えタンパク質を説明する。これらの態様のいずれか1つの文脈において、フィード培地は、濃縮されたメインフィード培地などのメインフィード培地(main feed medium)である。
【0010】
定義
不一致がある場合は、定義を含めて本明細書の記載が優先される。他に定義されない限り、本明細書で使用されるすべての技術用語及び科学用語は、本明細書の主題が属する技術分野の当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。本明細書で使用される場合、本発明の理解を容易にするために、以下の定義が提供される。
本明細書及び特許請求の範囲で使用されるように、本明細書において「A及び/又はB」などのフレーズで使用される「及び/又は」という用語は、「A及びB」、「A又はB」、「A」、及び「B」を含むことを意図している。
【0011】
本明細書及び特許請求の範囲で使用されるように、用語「細胞培養」又は「培養」は、in vitro、すなわち生物又は組織の外での細胞の増殖、繁殖及び/又は維持を意味する。哺乳類細胞の適切な培養条件は、当技術分野で知られており、例えば、Cell Culture Technology for Pharmaceutical and Cell‐Based Therapies(2005年)に教示されているとおりである。哺乳類細胞は、懸濁液中で培養されてもよいし、固体基質に付着した状態で培養されてもよい。
【0012】
用語「細胞培養培地」、「培養培地」、「培地」、及びそれらの任意の複数形は、任意の種類の細胞を培養することができる任意の培地を意味する。「基礎培地」とは、細胞の代謝に有用な必須成分をすべて含む細胞培養培地を意味する。例えば、アミノ酸、脂質、炭素源、ビタミン類、ミネラル塩類などが含まれる。DMEM(Dulbeccos’ Modified Eagles Medium)、RPMI(Roswell Park Memorial Institute Medium)又はF12培地(Ham’s F12 medium)は、市販の基礎培地の一例である。他の好適な培地は、例えば、WO9808934及びUS20060148074(いずれも、その全体が本明細書に組み込まれる)に記載されている。さらに好適な市販の培地としては、AmpliCHO CD培地、Dynamis(商標)培地、EX‐CELL(登録商標)Advanced(商標) CHOフェドバッチ系(Fed‐batch System)、CD FortiCHO(商標)培地、CP OptiCHO(商標)培地、最小必須培地(MEM)、BalanCD(登録商標)CHO Growth A培地、ActiPro(商標)培地、DMEM‐ダルベッコ変法イーグル培地及びRPMI‐1640培地などがあるが、これらだけに制限されるものではない。あるいは、前記基礎培地は、本明細書では「化学的に定義された培地」又は「化学的に定義された培養培地」とも呼ばれる、すべての成分が化学式で記述でき、特定の濃度で存在する、独自の培地であり得る。培養培地は、好ましくは、タンパク質を含まず、血清を含まないものであり、培養中の細胞の必要性に応じて、アミノ酸、塩、糖、ビタミン、ホルモン、成長因子などの任意の追加化合物(複数可)によって補充することができる。
【0013】
用語「フィード培地」又は「フィード」(及びその複数形)は、消費される栄養素を補充するために培養中に添加される培地を指す。フィード培地は、市販のフィード培地又は独自のフィード培地(本明細書では、「定義されたフィード培地」又は「化学的に定義されたフィード培地」と代替的に命名される)であり得る。好適な市販のフィード培地は、Cell Boost(商標)サプリメント、EfficientFeed(商標)サプリメント、ExpiCHO(商標)フィードを含むが、これらに限定されるものではない。あるいは、前記フィード培地は、成分の全てが化学式で記述され得、特定の濃度で存在する独自のフィード培地であり得る。フィード培地は、培養の最終体積を高いレベルに増加させないために、基礎培地と比較して、典型的には濃縮される。このようなフィード培地は、細胞培養培地の成分のほとんどを、例えば、基礎培地における通常の量の約1.5倍、2倍、5倍、6倍、7倍、8倍、9倍、10倍、12倍、14倍、16倍、20X、30X、50X、100X、200X、あるいは500Xで含むことが可能である。独自のフィード培地は、通常、粉末状である。市販のフィードは、液体か粉末のどちらかである。フィードがすでに液状である場合は、説明書に従いそのままで使用する。粉末のフィードは、使用前に水などで可溶化する必要がある。フィードは所定の量の水で可溶化されることになっている(例えば、100gを1Lの水に溶かす、
図1A参照)。しかし、粉末のフィードは、さらに濃縮することができる。その場合、通常必要な量よりも少ない量の液体で可溶化される(例えば、
図1Bに示すように、1Lの水に200gのように)。標準的なプロトコルに従って調製された液体市販フィード又は粉末のフィードは、本明細書では「通常の」フィードとも呼ばれる。濃縮プロセスに従って調製される液体市販フィード又は粉末のフィードは、本明細書では「濃縮フィード」と呼ばれる。
【0014】
異なる組成の異なるフィード培地を、培養プロセスを通じて添加することができる。例えば、同じプロセス中に3つの異なるフィード培地を使用することができる:炭素源(例えばグルコース)からなる1つのフィード培地、消費される栄養素の大部分を含む1つのフィード培地(このフィードは、本明細書において、「メインフィード」、「メインフィード培地」又は「少なくとも1つのフィード培地」とも呼ばれる)、及び例えばこの栄養素が凝集/安定性問題を呈する場合(例えばシステイン及び/又はシスチン及び/又はチロシンなど)いくつかのさらなる栄養素を含むさらなるフィード培地は、同じプロセス中に使用することができる。
【0015】
用語「バイオリアクター」とは、細胞を培養することができるあらゆる系を指す。フラスコ、静止フラスコ、スピナーフラスコ、チューブ、シェイクチューブ、シェイクボトル、ウェーブバッグ、バイオリアクター、ファイバーバイオリアクター、及びマイクロキャリアを有する又は有しない撹拌槽型バイオリアクターが含まれるが、それらに限定されない。あるいは、この用語は、マイクロタイタープレート、キャピラリー又はマルチウェルプレートをも含む。バイオリアクターのサイズは問わないが、例えば、1ミリリットル(1mL、超小型)から20000リットル(20000L又は20KL、超大型)、例えば、0.1mL、0.5mL、1mL、5mL、0.01L、0.1L、1L、2L、5L、10L、50L、100L、500L、1000L(1KL)、2000L(2KL)、5000L(5KL)、10000L(10KL)、15000L(15KL)又は20000L(20KL)である。
【0016】
「フェドバッチ培養」(fed‐batch culture)という用語は、細胞を成長させるプロセスであって、消費される栄養素を補充するために、ボーラス(又は数ボーラス)投与で又は連続的にフィード培地(feed medium又はfeed media)が添加される(「添加」は、本発明の文脈では「補充」とも名付けられることに注意)、いかなる培地の除去も伴わないものをいう。フィードは、例えば、毎日、2日に1回、3日に1回など、あらかじめ決められたスケジュールに従って添加することができる。また、連続的にフィード(供給)する場合は、フィード量を培養中に変化させることも可能である。この細胞培養技術は、培地の配合、細胞株、他の細胞増殖条件にもよるが、10×106~30×106細胞/mlを超えるオーダーの高い細胞密度を得る可能性を有する。二相性培養条件は、様々なフィード戦略や培地処方によって作り出すことができ、維持することができる。
【0017】
本発明のプロセス及び/又は細胞培養技術を使用する場合、哺乳類細胞において、組換えタンパク質は一般に培養培地中に直接分泌される。前記タンパク質が培地中に分泌されると、目的のタンパク質の単離を開始し、精製及び製剤化する前に濃縮するために、そのような発現系からの上清を最初に採取し、清澄化することができる。
【0018】
本発明による「生産段階」という用語は、組換えタンパク質の製造プロセスにおける細胞培養のうち、細胞が組換えポリペプチドを発現(すなわち、生産)する段階を包含する。生産段階は、通常、所望の組換えタンパク質の力価が上昇した時点及び/又は細胞の増殖が実質的に終了した時点で始まり、組換えタンパク質の生産が実質的に終了した時点で細胞(又は細胞培養液若しくは上清)を採取することで終了する。細胞は、所望の細胞密度又は所望の組換えタンパク質力価に達するまで、生産段階に維持されてもよい。例えば、細胞は、組換えタンパク質の力価が最大になるまで、引き続き生産段階で維持される。あるいは、当業者の生産要件又は細胞自体の必要性に応じて、この時点より前に培養物を採取することもできる。典型的には、生産段階の始めに、細胞培養物を生産前容器(N‐1容器)からバイオリアクターのような生産容器(N容器)に移す。N‐1容器では、細胞は、灌流モード、バッチモード、フェドバッチモードなど、当技術分野の任意の技術に従って増殖させることができる。収穫は、組換えタンパク質、例えば組換え抗体を、後続のステップで回収及び精製するために、細胞培養液を生産容器から除去するステップである。
【0019】
本明細書で使用される場合、「細胞濃度」(「細胞密度」としても知られる)は、所定の体積の培養培地中の細胞数を意味する。「生細胞濃度」(又は「VCC」)は、所与の体積の培養培地中の生細胞の数を意味する。これは標準的な生存率測定法によって決定される。
「生存率」、又は「細胞生存率」という用語は、生存している細胞の総数と培養中の細胞の総数との間の比率を意味する。生存率は培養開始時と比較して60%の閾値を下回らなければ通常許容されるが、許容される閾値はケースバイケースで決定することが可能である。生存率は、しばしば収穫の時期を決定するために使用される。例えば、フェドバッチ培養では、生存率が60%に達した時点、又は培養後約14日(通常14日±1日)経過した時点で収穫を行うことが可能である。
【0020】
用語「力価」とは、溶液中の目的の組換えタンパク質の濃度を意味する。これは、実施例の項で使用したCEDEX又はプロテインA高圧液体クロマトグラフィー(HPLC)、Biacore C(登録商標)又はForteBIO Octet(登録商標)法による検出方法(比色法、クロマトグラフィーなど)と組み合わせた連続希釈などの標準タイヤアッセイによって決定される。
【0021】
「より高い力価」又は「より高い生産性」及びこれと同等の用語は、対照培養条件と比較した場合に、力価又は生産性が少なくとも10%増加することを意味する。対照の培養条件と比較して、力価又は比生産性が-10%~10%の範囲であれば、維持されているとみなされる。「低い力価」又は「低い生産性」及びこれと同等の用語は、力価又は生産性が対照培養条件と比較して少なくとも10%減少していることを意味する。
【0022】
フィード培地を構成する要素の沈殿(本発明の文脈では、フィードの沈殿とも呼ばれる)は、調製又は/及び貯蔵工程の後に発生することがある。沈殿は、溶液中の小さな固体粒子(溶液中及び/又は容器の底に粒子として沈殿している)として視覚的に評価することができる。当該評価は、当業者の知識の範囲内である。「沈殿の低減」という用語は、例えば視覚的に評価されるように、対照条件下で観察された沈殿と比較した場合の、フィード培地中の沈殿した沈殿物又は/及び沈殿物の減少として理解されるべきである。「沈殿の防止」という用語は、例えば視覚的に評価されるように、フィード培地中に沈殿した沈殿物又は/及び沈殿物が存在しないこととして理解されるべきである。
【0023】
本明細書で使用する「不均一性」という用語は、同じ製造プロセスによって、又は同じ製造バッチ内で製造された分子の集団における、個々の分子、例えば組換えタンパク質間の差異を指す。不均一性は、例えばポリペプチドの翻訳後修飾に起因する、又は転写若しくは翻訳中の誤組み込みに起因する、組換えポリペプチドの不完全な又は不均一な修飾に起因し得る。翻訳後修飾は、例えば、脱アミノ化反応及び/又は酸化反応及び/又は糖化反応及び/又は異性化反応及び/又は断片化反応及び/又は他の反応等の小分子の共有結合付加の結果であり、また糖化パターンに関するバリエーションを含むことができる。このような不均一性の化学物理的な発現は、得られる組換えポリペプチド調製物における様々な特性をもたらし、これには、電荷バリアントプロファイル、色又は色強度及び分子量プロファイルが含まれるが、これらに限定されるものではない。
【0024】
組換えタンパク質のアイソフォームを測定する場合、主電荷種の他に、酸性アイソフォーム(APG)、塩基性アイソフォーム(BPG)も測定される。主電荷種は、得たい組換えタンパク質のアイソフォームを表す。
【0025】
用語「組換えタンパク質」は、組換え技術によって生産されたタンパク質を意味する。組換え技術は、当業者の知識の範囲内にある(例えば、Sambrookら、1989、及びアップデートを参照のこと)。「タンパク質」という用語は、例えば、サイトカイン、成長因子、ホルモン、抗体、又は抗体のドメイン若しくは他の断片を含む融合タンパク質であり得る。
【0026】
本明細書で使用される用語「抗体」は、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、及び当該技術分野で知られているように組換え技術によって生成される組換え抗体を含むが、これらに限定されるものではない。「抗体」は、任意の種、特に哺乳類種の抗体を含み;例えば、IgG1、IgG2a、IgG2b、IgG3、IgG4、IgE、IgDを含む任意のアイソタイプのヒト抗体、及びIgGA1、IgGA2、又はIgM及びその修飾変種などの五量体を含むこの基本構造のダイマーとして生成される抗体;非ヒト霊長類抗体、例えば、チンパンジー、ヒヒ、アカゲザル又はカニクイザルからの抗体;げっ歯類抗体、例えば、マウス、又はラットからの抗体;ウサギ、ヤギ又はウマ抗体;ラクダ類抗体(例えば、Nanobodies(商標)などのラクダ又はラマからの抗体)及びその誘導体;ニワトリ抗体などの鳥類の抗体;又はサメ抗体などの魚類の抗体など。「抗体」という用語は、少なくとも1つの重鎖及び/又は軽鎖抗体配列の第1の部分が第1の種に由来し、重鎖及び/又は軽鎖抗体配列の第2の部分が第2の種に由来する「キメラ」抗体にも言及する。本明細書で関心のあるキメラ抗体には、非ヒト霊長類(例えば、ヒヒ、アカゲザル又はカニクイザルなどの旧世界ザル)由来の可変ドメイン抗原結合配列とヒト定常領域配列とを含む「霊長類化」(primatized)抗体が含まれる。「ヒト化」抗体は、非ヒト抗体由来の配列を含むキメラ抗体である。ほとんどの場合、ヒト化抗体は、レシピエントの超可変領域からの残基が、マウス、ラット、ウサギ、ニワトリ又は非ヒト霊長類のような非ヒト種(ドナー抗体)の超可変領域[又は相補性決定領域(CDR)]からの残基で置き換えられたヒト抗体(レシピエント抗体)であり、望ましい特異性、親和性及び活性を有している。ほとんどの場合、CDRの外側、すなわちフレームワーク領域(FR)のヒト(レシピエント)抗体の残基は、対応する非ヒト残基で追加的に置換される。さらに、ヒト化抗体は、レシピエント抗体にもドナー抗体にも存在しない残基を含んでいてもよい。これらの修飾は、抗体の特性をさらに洗練させるために行われる。ヒト化により、非ヒト抗体のヒトにおける免疫原性が低下するため、ヒトの疾病治療への抗体の応用が容易になる。ヒト化抗体及びそれを作製するためのいくつかの異なる技術は、当技術分野でよく知られている。また、「抗体」という用語は、ヒト化する代わりに生成することができるヒト抗体も指す。例えば、内在性マウス抗体の産生がない場合に、免疫化により、ヒト抗体の完全なレパートリーを産生することができるトランスジェニック動物(例えば、マウス)を作製することが可能である。ヒト抗体/抗体断片をin vitroで得る他の方法は、ファージディスプレイ又はリボソームディスプレイ技術などのディスプレイ技術に基づいており、少なくとも部分的に人工的に生成された、又はドナーの免疫グロブリン可変(V)ドメイン遺伝子レパートリーからの組換えDNAライブラリーが使用されている。ヒト抗体を作製するためのファージ及びリボソームディスプレイ技術は、当技術分野でよく知られている。ヒト抗体はまた、目的の抗原でex vivo免疫され、その後融合してハイブリドーマを生成し、最適なヒト抗体についてスクリーニングすることができる単離ヒトB細胞から生成することもできる。用語「抗体」は、グリコシル化抗体及びアグリコシル化(aglycosylated)抗体の両方を指す。さらに、本明細書で使用される用語「抗体」は、完全長抗体だけでなく、抗体断片、特に抗原結合断片も指す。抗体の断片は、当該技術分野で知られているように、少なくとも1つの重鎖又は軽鎖免疫グロブリンドメインを含み、1つ又は複数の抗原に結合する。本発明による抗体断片の例には、Fab、改変Fab、Fab’、改変Fab’、F(ab’)2、Fv、Fab‐Fv、Fab‐dsFv、Fab‐Fv‐Fv、scFv及びBis‐scFv断片が含まれる。前記フラグメントはまた、ダイアボディ、トリボディ、トリアボディ、テトラボディ、ミニボディ、sdAbなどの単一ドメイン抗体(dAb)、VL、VH、VHH又はラクダ科抗体(例えば、Nanobody(商標)などのラクダ又はラマからの)及びVNARフラグメントであり得る。本発明による抗原結合断片はまた、1つ又は2つのscFv又はdsscFvに連結されたFabを含み得、各scFv又はdsscFvは、同じ又は異なる標的(例えば、治療標的を結合する一つのscFv又はdsscFv及び、例えば、アルブミンに結合して半減期を増加する一つのscFv又はdsscFv)を結合させる。そのような抗体断片の例示は、FabdsscFv(BYbe(登録商標)とも呼ばれる)又はFab‐(dsscFv)2(TrYbe(登録商標)とも呼ばれる、例えばWO2015197772を参照)である。上記で定義されたような抗体断片は、当技術分野で既知である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
発明の詳細な説明
一般に、水性フィード溶液は、生産プロセスの開始前に調製され(液体中で予想される濃度に達するまで粉末を溶解する;pHを目標値に調整する;
図1参照)、生産バイオリアクターに添加されるまで容器(例えば、バッグ又はフィードタンク)内に貯蔵される。バッグやタンクが生産バイオリアクターに接続されるまでは、低温(例えば2~8℃)で保管することができる。この瞬間から、貯蔵は通常、室温で行われる。生産プロセスは通常約14日間続くので、メインフィードは最長14日間、培養開始前に十分に準備されていればそれ以上保存されることが理解される。容器内(バッグやタンク内など)でのフィード培地の沈殿は、通常、目視観察で確認されている。
【0028】
本発明は、一般に、哺乳類細胞における組換えタンパク質の産生プロセスに関する。特に、本発明は、フェドバッチプロセスの枠内で添加されるメインフィードのpHを下げることにより、全体のプロセス性能(例えば、VCC又は力価の観点から評価される)に影響を与えることなく、培養プロセスを通して前記メインフィードの沈殿を回避するか、少なくとも低減することが可能であるという本発明者らの発見に基づくものである。
【0029】
別の実施形態では、本発明は、組換えタンパク質を発現する哺乳類細胞を培養するためのプロセスを提供し、このプロセスは、培養培地中で哺乳類細胞を培養するステップと、生産段階の間に細胞培養物に少なくとも1つのフィード培地を補充するステップとを含み、この少なくとも1つのフィード培地のpHが、約5.0~約6.3である。
別の実施形態では、本発明は、組換えタンパク質を製造するためのプロセスを提供し、このプロセスは、前記組換えタンパク質を発現する哺乳類細胞を培養培地中で培養するステップと、生産段階の間に細胞培養物に少なくとも1つのフィード培地を補充するステップとを含み、この少なくとも1つのフィード培地のpHが約5.0から約6.3である。
【0030】
さらなる実施形態において、本明細書では、フィード培地中の沈殿を低減又は防止するためのプロセスであって、組換えタンパク質を発現する哺乳類細胞を培養物中で培養するステップと、生産段階の間に細胞培養物に少なくとも1つのフィード培地を補充するステップとを含み、この少なくとも1つのフィード培地のpHが約5.0から約6.3であるプロセスが説明される。
【0031】
本発明全体の文脈において、組換えタンパク質を製造するための、組換えタンパク質を発現する哺乳類細胞を培養するための、又はフィード培地中の沈殿を低減若しくは防止するためのプロセスは、以下の主要ステップを含む:
(i)バイオリアクター(生産バイオリアクターなど)中の培養培地(基礎培地など)中に哺乳類細胞を接種するステップ、
(ii)組換えタンパク質が哺乳類細胞によって生産される生産段階を通じて培養を進行させるステップであって、前記生産段階の間に、細胞培養が少なくとも1つのフィード培地で補充される、ステップ、
ここで、この少なくとも1つのフィード培地のpHは、特定の範囲内で定義される。前記フィード培地は、好ましくはメインフィード培地であり、濃縮フィード培地(例えば、濃縮メインフィード培地)であることができる。
【0032】
別の実施形態では、本発明は、本明細書に記載のいずれかのプロセスで使用するためのフィード培地に関し、この少なくとも1つのフィード培地のpHは、約5.0~約6.3である。組換えタンパク質を生産するため、組換えタンパク質を発現する哺乳類細胞を培養するため、又はフィード培地中の沈殿を低減若しくは防止するために用いられる全体戦略に応じて、本発明によるフィード培地(すなわち、約5.0~約6.3のpHを有する)は、生産段階に先立つ段階中、例えばN‐1ステージ中に用いることも可能である。
さらなる態様において、本発明は、本発明によるプロセスのいずれか1つによって生産される組換えタンパク質を記載する。
【0033】
本発明全体の観点から、培養開始時(ステップ(i))の培養培地は、好ましくはタンパク質及び血清を含まない培養培地である。前記タンパク質及び血清を含まない培養培地は、市販のものであっても、化学的に定義された培地であってもよい。
【0034】
本発明全体の文脈では、少なくとも1つのフィード培地(本明細書ではメインフィード培地ともいう)は、好ましくはタンパク質及び血清を含まないフィード培地であり、必須元素のすべて又はほとんどを含んでいる。少なくとも1つのフィード培地に含まれない場合、炭素源は、別のフィードを介してもたらされ得る。(少なくとも1つの)フィード培地は、(
図1Aに開示されているように)標準プロトコルに従って調製及び使用される「通常のフィード」であることができ、又は濃縮フィード培地(例えば、
図1Bに開示されているように定義された濃縮メインフィード培地、又は市販の濃縮フィード培地)であることができる。あるいはまた、全体としての本発明の文脈において、(少なくとも1つの)フィード培地(本明細書ではメインフィード培地とも呼ばれる)は、好ましくはタンパク質及び血清を含まないフィード培地であり、必須要素の全て又はほとんどを含むが、遊離アミノ酸:システイン及び/又はシスチン(共にCysと呼ばれる)及びチロシン(Tyr)のいずれも含まない。これらのアミノ酸は可溶化しにくく、約8.0よりも低いpHで安定化しにくいことが知られているからである。Cys及びTyrと同様に炭素源も、炭素源からなる1つのフィード、及び1)Cys、Tyrからなる1つのフィード、又は2)Cys及びTyrからそれぞれなる2つの異なるフィードなどの異なるフィードを介してもたらされることが可能である。全体としての本発明の文脈において、少なくとも1つのフィード培地は、(
図1Aに開示されているように)標準プロトコルに従って調製及び使用される「通常のフィード」であることができ、又は濃縮フィード培地(例えば、
図1Bに開示されているように定義された濃縮メインフィード培地、又は市販の濃縮フィード培地)であることも可能である。さらに別の代替案では、また全体として本発明の文脈において、(少なくとも1つの)フィード培地(本明細書ではメインフィード培地とも呼ばれる)は、好ましくはタンパク質及び血清を含まないフィード培地であり、必須要素のすべて又はほとんどを含むが、遊離アミノ酸:システイン及び/又はシスチン(ともにCysと呼ばれる)、トリプトファン(Trp)及びチロシン(Tyr)のいずれも含まない。炭素源並びにCys、Tyr、Trpは、炭素源からなる1つのフィードと、1)Cys、Tyr、Trpからなる1つのフィード、2)Cys、Tyr、Trpから選択された任意の2つのアミノ酸の組み合わせからなる2つのフィード、第3のアミノ酸は別のフィードで加えられる、又は3)Cys、Tyr及びTrpからそれぞれなる3つの異なるフィードなどの異なるフィードを介してもたらすことが可能である。全体としての本発明の文脈において、少なくとも1つのフィード培地は、(
図1Aに開示されているように)標準プロトコルに従って調製され使用される「通常のフィード」であることができ、又は濃縮フィード培地(例えば、
図1Bに開示されているように定義された濃縮メインフィード培地、又は市販の濃縮フィード培地)であることができる。
【0035】
本発明全体の文脈では、(少なくとも1つの)フィード培地のpHは、約5.0~約6.3、好ましくは約5.2~約6.2である。pH範囲の下限は、例えば、5.20、5.25、5.30、5.35、5.40、5.45、5.50、5.55、5.60、5.65、5.70、5.75、5.80又は5.85のいずれか一つから選択することができる。pH範囲の上限は、例えば、6.00、6.05、6.10、6.15又は6.20のいずれか1つから選択することができる。本発明によるフィード培地のpHは、例えば、5.20、5.25、5.30、5.35、5.40、5.45、5.50、5.55、5.60、5.65、5.70、5.75、5.80、5.85、5.90、5.95、6.00、6.05、6.10、6.15又は6.20とすることができる。
【0036】
本発明全体の文脈では、(少なくとも1つの)フィード培地のpHを下げるおかげで、全体のプロセス性能に影響を与えることなく、培養プロセスを通してメインフィードの沈殿を回避するか、少なくとも低減することが可能であった。
【0037】
本発明の文脈において、生産段階は、好ましくは50L以上、100L以上、500L以上、1000L以上、2000L以上、5000L以上、10000L以上、20000L以上の容積のバイオリアクター(生産バイオリアクターなど)において実施される。すなわち、組換えタンパク質を産生する哺乳類細胞は、バイオリアクター(生産バイオリアクターなど)において培養され、好ましくは、50L以上、100L以上、500L以上、1,000L以上、2,000L以上、5,000L以上、10,000L以上又は20,000L以上の容積を有するものである。
【0038】
本発明全体の文脈において、好適な哺乳類宿主細胞(哺乳類細胞とも称する)には、チャイニーズハムスター卵巣(CHO細胞)、リンパ球系細胞株、例えばNSOミエローマ細胞及びSP2細胞、COS細胞、ミエローマ細胞又はハイブリドーマ細胞などが含まれる。好ましい実施形態では、哺乳類細胞はCHOである。好適なタイプのCHO細胞は、CHO‐DG44細胞及びCHO‐DXB11細胞などのdhfr‐CHO細胞を含み、DHFR選択可能マーカーと共に用いてもよいCHO及びCHO‐K1細胞、又はグルタミン合成酵素選択可能マーカーと共に用いてもよいCHOK1‐SV細胞を含むことができる。宿主細胞は、好ましくは、目的の組換えタンパク質をコードする発現ベクターで安定的に形質転換又はトランスフェクションされる。
【0039】
本発明全体の文脈では、組換えタンパク質は、サイトカイン、成長因子、ホルモン、融合タンパク質(抗体のドメイン又は他の断片を含むタンパク質等)、抗体であってもよい。タンパク質が抗体である場合、好ましくは、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4などのIgGである。
【0040】
本発明のプロセスは、任意に、好ましくは生産(収穫ステップ)の最後に、細胞培養培地から組換えタンパク質を回収するステップをさらに含む。収穫の後、組換えタンパク質は、例えばタンパク質が抗体である場合、プロテインAクロマトグラフィーを用いて精製されてもよい。プロセスはさらに任意選択で、精製された組換えタンパク質を、例えば10mg/ml以上、例えば50mg/ml以上、例えば100mg/ml以上、例えば150mg/ml以上の濃度のような高いタンパク質濃度で製剤化するステップを含んでいる。特に限定されないが、製剤は、液体製剤、凍結乾燥製剤、又は噴霧乾燥製剤であり得る。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【
図1】A)粉末からの「通常の」フィードの調製。B)粉末からの「濃縮」フィードの調製
【
図2】mAb1を発現する細胞の生存細胞濃度プロファイル
【
図4】mAb1を発現する細胞の生存細胞濃度プロファイル
【
図6】mAb2を発現する細胞の生存細胞濃度プロファイル
【
図8】mAb3を発現する細胞の生存細胞濃度プロファイル
【
図10】mAb4を発現する細胞の生存細胞濃度プロファイル
【実施例】
【0042】
例
細胞株、細胞培養、及び実験手順
CHO‐DG44細胞株を使用した。細胞は、マルチ発酵制御システム(MFCS、Sartorius Stedim Biotech)により制御された供給塔(C‐DCUII、Sartorius Stedim Biotech)を有する2L撹拌槽ガラスバイオリアクター(STR)又はシェークフラスコで培養された。mAb1、mAb2、mAb3、又はmAb4をそれぞれ生産する4つの異なる生産細胞株を使用した。mAb1とmAb3はそれぞれpIが8.3~8.7と7.70~7.90のIgG4抗体である。mAb2とmAb4はTrybe(登録商標)抗体でpIが8.7~9.2である。
【0043】
リアクターには3分割ブレードインペラーを装備した。培養開始量は、培養終了量が最適となるように調整した。生産バイオリアクターは、基礎の化学的に定義された培地に目標播種密度(TSD)で播種された。生産バイオリアクターのpH制御は7.0に設定し、デッドバンドを0.2とした(pH7.0±0.2)。pO2は40~60%空気飽和を目標に設定し、標準的な方法で制御した。温度は36.8℃、デッドバンド0.2で制御した(36.8℃±0.2)。
【0044】
例1~3及び5には、濃縮されたメインフィードを使用した。このメインフィード(水性)は、メインフィード粉末を、液体中で所望の濃度(この粉末の標準プロトコルと比較して約2倍に濃縮)に達するまで溶解することによって調製し、pHを目標pHに調整した。例4で使用した非濃縮フィードは、この粉末の標準プロトコルに従ってメインフィード粉末を溶解することによって調製し(x1の濃度に達するように)、pHを目標pHに調整した。メインフィードを入れたバッグは、培養の全プロセスで室温に保った。接種から48時間後、所定の速度で連続栄養補給(濃厚フィードを使用、「メインフィード」と命名)を開始した。グルコースボーラスフィードを、必要に応じて、すなわちグルコース濃度が所定の閾値未満に落ちたときに追加した(グルコース濃度は毎日測定した)。メインフィードにはCys、Tyr、Trpのいずれも含まれていないため、これらのアミノ酸は別々に添加した。
【0045】
生産は、供給実験モードで14日間、室温で操作された。この間、モノクローナル抗体(mAb)は培地中に分泌される。VCD、生存率、オフラインpH、pCO2、オスモル濃度、グルコース‐乳酸濃度、アミノ酸濃度、及びmAb濃度を測定するために、毎日サンプルを採取した。アミノ酸分析用のサンプルは、フィード添加前に採取した。
【0046】
分析方法
VI‐CELL(登録商標)XR(Beckman‐Coulter,Inc.,Brea,CA)自動細胞計数装置を用い、トリパンブルー排除法に基づく操作により細胞を計数した。培養培地中のグルコース及び乳酸濃度は,Cedex Bio HT(Roche社製)を用いて測定した。オスモル濃度(osmolality)の測定にはmodel 2020凝固点浸透圧計(Advanced Instruments,Inc.,Norwood,MA)を使用した。オフラインでのガス及びpH測定は、model BioProfile pHOx(登録商標)血液ガス分析装置(Nova Biomedical Corporation、Waltham、MA)を用いて行った。代謝物濃度もCedexBioHTシステム(Roche)を用いて毎日測定している。生成物の力価分析は、分析前に-80℃で保存した細胞培養上清サンプルを用いて、CEDEX又はプロテインA高圧液体クロマトグラフィー(HPLC)により実施した。細胞培養上清サンプルは、AKTA XpressシステムでプロテインA精製を行ったものである。精製されたmAbの主要なアイソフォームの相対割合は、Imaged Capillary Electrophoresis (ProteinSimple iCE3)によって決定される。統計解析は、SASソフトウェアJMP 11(著作権)を使用して行った。
【0047】
例1‐低フィードpHは生産ステージ(Nステージ)の細胞培養性能を維持したまま、フィード沈殿を低減する。
この実験では、2Lのバイオリアクターに、mAb1を産生するCHO細胞を播種密度3.75x106細胞/mLで接種した。両バイオリアクターの接種液は、同じN‐1バイオリアクターに由来した。この実験では、上記の実験手順で説明したように、3つの条件をフェドバッチモードでテストした。バイオリアクターID1、2及び3は、同じ供給(フィード)戦略をとったが、2つの異なるpH:それぞれ6.5、6.0及び5.5を有するメインフィードを供給した。
【0048】
図2は、メインフィードの3つのpHで同様の傾向を示している。さらに、
図3で報告されているように、メインフィードのpHが低くても、mAb力価に悪影響を与えなかった。いずれの試験条件(すなわち、pH5.5、6.0、6.5)で培養した細胞も、収穫日(13日目又は14日目)にかかわらず、同様のmAb1力価を示す。
【0049】
メインフィードの沈殿に大きな影響が観察された。表1に示すように、pH6.5のメインフィードでは沈殿が発生したが、よりpHの低いメインフィード(pH6.0及び5.5)では沈殿が発生しなかった。Nステージの終了時(バイオリアクター1/2/3からメインフィードボトルを取り外した後;図示せず)に目視で確認した。pH6.5では、沈殿したメインフィード溶液の白濁が観察された。逆に、pH6.0以下では、メインフィード溶液の透明/澄明な溶液が観察された。
【0050】
表1:Nステージの補充に使用したメインフィードボトル内の沈殿の発生状況(Yes=沈殿の発生、No=沈殿の発生がない)。
【表1】
【0051】
なお、より低いpHのメインフィードを使用した場合、培養のpHはほとんど影響を受けず、目標pH7.0の±0.2の目標範囲に保たれていることがわかった。
【0052】
結論
例1は、プロセス性能(VCC及び力価測定による評価)において、すべての条件下で差がないことを示す。生産プロセス中に、(その標準的なpH、すなわちpH6.5と比較して)低いpHのメインフィードを培養物に補充することは、プロセス性能に影響を与えず、メインフィード補充中及び/又は補充後の沈殿を低減及び/又は回避し得ると結論付けられた。
【0053】
例2‐mAb1を生産するための大規模な低pHのメインフィードによる補充
この実験では、2L及び2000Lのバイオリアクターに、mAb1を産生するCHO細胞を接種した。2Lのバイオリアクターには3.75x106細胞/mLの播種密度で、2000Lのバイオリアクターには3.40x106細胞/mLの播種密度で植え付けを行った。各バイオリアクターの植菌は、3種類のN‐1バイオリアクターに由来した。上記の実験手順で説明したように、異なるスケールで2つの実験条件をフェドバッチプロセスでテストした。バイオリアクターID/4/5/6は、同じ供給戦略をとったが、2つの異なるpH:それぞれ6.5及び6.0を有するメインフィードを供給した(表2参照)。
【0054】
【0055】
細胞増殖のプロフィールを
図4に示す。バイオリアクターID4と5の細胞増殖は、同様の傾向を示した。バイオリアクターID6(大規模)は、小規模の条件と比較して、わずかに良好な細胞増殖を示した。さらに、バイオリアクターID6は、他の条件と比較して、より良い力価を示した(13日目と14日目)(
図5を参照)。この結果から、2Lスケールで作成したデータと比較して、ラージスケールでのプロセスがより優れたmAb1生産につながることが確認された。さらに、メインフィードをより低いpHで補充しても、全体のmAb1生産量に悪影響はないことが確認された。例1と同様に、pH6.5では、沈殿したメインフィード溶液の白濁が観察された。逆に、生産規模に関わらず、pH6.0ではメインフィード溶液の透明/澄明な溶液が観察された。
【0056】
表3 メインフィードボトル内の沈殿発生状況(14日目時点)
【表3】
【0057】
結論 例2は、例1の知見を確認し、標準的なpH(すなわちpH6.5)と比較して低いpHのメインフィードを、全体のプロセス性能に悪影響を及ぼすことなく抗体を生成するための小規模及び大規模プロセスの両方で細胞培養に添加できることを強調するものである。驚くべきことに、大規模なプロセスでは、小規模なプロセスで得られたデータと比較して、細胞の増殖と最終的な力価の向上が確認されている。
【0058】
例3‐mAb2を生産するための低pHでのメインフィードの補充
この実験では、2L及び200Lのバイオリアクターに、mAb2を産生するCHO細胞を2.25x106細胞/mLの播種密度で植え付けた。本実験では、上記の実験手順で説明したように、異なるスケールで2つの実験条件をフェドバッチプロセスでテストした。バイオリアクターID7/8/9は、同じ供給戦略をとったが、2つの異なるpH:それぞれ6.5と6.0を有するメインフィードを供給した(表4参照)。
【0059】
【0060】
細胞増殖のプロフィールを
図6に示す。両条件、両スケールの細胞増殖は、13日目まで同様の傾向を示した。バイオリアクターID9も、バイオリアクター7及び8のものと同等の力価を(13日目及び14日目に)示した(
図7参照)。この結果から、どのようなスケールであっても、より低いpHのメインフィードを添加しても、全体のmAb2生産に悪影響はなく、少なくとも濃縮メインフィードの沈殿を低減するという利点があることが確認された。
【0061】
結論 例3は、例1及び2の知見を確認し、標準的なpH(すなわち、pH6.5)と比較して低いpHのメインフィードは、全体のプロセス性能に悪影響を及ぼすことなく、抗体を生成する大規模プロセス中に細胞培養物に添加することができ、全体の培養プロセス中にメインフィードの沈殿を低減及び/又は回避できることが強調されている。
【0062】
例4‐mAb3を生産するための低pHでの非濃縮メインフィードの補充
この実験では、2Lバイオリアクターに、0.35x106細胞/mLの播種密度でmAb3を産生するCHO細胞を植え付けた。本実験では、上記の実験手順で説明したように、2Lスケールのフェドバッチプロセスで2つの実験条件をテストした。バイオリアクターID10/11は、同じ供給戦略に従ったが、2つの異なるpH:それぞれ6.5及び5.5で非濃縮メインフィードを供給した(表5参照)。
【0063】
【0064】
細胞増殖のプロファイルを
図8に示す。両条件とも、14日目まで同様の細胞増殖傾向を示した。バイオリアクターID10と11は、同等の力価を示した(14日目)(
図9参照)。この結果から、より低いpHの非濃縮メインフィードの添加は、全体のmAb3産生に悪影響を及ぼさないことが確認された。Nステージの終わり(バイオリアクター10/11からメインフィードボトルを取り外した後;図示せず)に、目視検査を行った。pH6.5では、沈殿した非濃縮メインフィードの溶液の白濁が観察された。逆に、pH5.5では、非濃縮メインフィードの溶液は、透明/澄明の溶液が観察された。
【0065】
表6:Nステージにおける補充用メインフィードボトル内の沈殿発生状況(Yes=沈殿の発生、No=沈殿の発生なし)。
【表6】
【0066】
結論 例4は、例1、2、3の知見を確認し、標準pH(すなわち、pH6.5)と比較して低いpHのメインフィードを、全体的なプロセス性能に悪影響を及ぼすことなく抗体を生成するために細胞培養に添加できることを強調するものである。例4は、非濃縮フィードのpHを下げることで、培養プロセス全体における非濃縮メインフィードの沈殿を低減及び/又は回避できることを強調している。
【0067】
例5‐mAb4を生産するための低pHでのメインフィードの補充
この実験のために、2Lバイオリアクターに、mAb4を産生するCHO細胞を7.5x106細胞/mLの播種密度で接種した。この実験では、上記の実験手順で説明したように、2Lスケールのフェドバッチプロセスで2つの実験条件をテストした。バイオリアクターID12/13は、同じ供給戦略をとったが、2つの異なるpH:それぞれ6.0及び5.5を有する濃縮メインフィードを供給した(表7を参照)。
【0068】
【0069】
バイオリアクター13は、バイオリアクターID12と比較して、細胞増殖がやや低いものの(
図10参照)、同等の力価を示した(14日目)(
図11参照)。この結果から、より低いpHのメインフィードを添加しても、全体のmAb4産生に悪影響はないことが確認された。
【0070】
目視検査は、Nステージの終了時(バイオリアクター12/13からメインフィードボトルを取り外した後;図示せず)に行った。pH6.0及びpH5.5において、メインフィード溶液は透明/澄明の溶液が観察された。
【0071】
表8:Nステージにおける補充用メインフィードボトル内の沈殿の発生状況(Yes=沈殿の発生、No=沈殿の発生なし)。
【表8】
【0072】
結論 例5は、例1、2、3及び4の知見を確認し、全体的なプロセス性能に有害な影響を及ぼすことなく、抗体を産生するためにより低いpHのメインフィードを細胞培養に添加できることを強調するものである。pHを0.5pH単位で下げる(すなわち、pH6.0のメインフィードに対してpH5.5のメインフィード)ことで、細胞増殖への影響が最小限に抑えられるようである。例5では、14日間にわたる細胞培養において、メインフィードに低pHを補充することの実行可能性が強調されている。
参考文献
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