(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-09-08
(54)【発明の名称】修飾単糖化合物を使用して多細胞生物由来の真核細胞を標識する方法及びキット並びにそのような細胞を含む医薬組成物
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/04 20060101AFI20230901BHJP
C12N 5/0775 20100101ALI20230901BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20230901BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20230901BHJP
A61K 47/54 20170101ALI20230901BHJP
G01N 33/48 20060101ALI20230901BHJP
【FI】
C12Q1/04
C12N5/0775
A61P35/00
A61K45/00
A61K47/54
G01N33/48 P
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023512182
(86)(22)【出願日】2021-08-18
(85)【翻訳文提出日】2023-04-11
(86)【国際出願番号】 EP2021072963
(87)【国際公開番号】W WO2022038196
(87)【国際公開日】2022-02-24
(32)【優先日】2020-08-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522500158
【氏名又は名称】セラオンコ
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】サム・デュカン
【テーマコード(参考)】
2G045
4B063
4B065
4C076
4C084
【Fターム(参考)】
2G045AA26
2G045BA13
2G045BB60
2G045CB01
2G045FB12
2G045GC15
4B063QA01
4B063QA19
4B063QQ02
4B063QQ03
4B063QQ08
4B063QQ89
4B063QR44
4B063QR50
4B063QS36
4B063QX01
4B065AA93X
4B065BD36
4B065CA44
4B065CA46
4C076AA95
4C076CC27
4C076DD67
4C084AA17
4C084NA13
4C084ZB261
4C084ZB262
(57)【要約】
多細胞生物由来の真核細胞を標識及び/又は検出するための、ペントースリン酸経路のクリックケミストリー用修飾単糖化合物、例えばリボース、リブロース、アラビニトール、キシルロース、キシロース、又はキシリトールを使用する方法。本発明は、癌細胞を同定若しくは分離するため、癌を診断するため、又は細胞治療のための方法において提供されるそのような修飾単糖化合物にも関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
多細胞生物由来の真核細胞を標識又は検出又は標的化するためのin vitro方法であって、
(a)真核細胞を含む試料と、アラビノースを除く、ペントースリン酸経路の少なくとも1種の修飾単糖化合物とを接触させる工程と、
(b)工程(a)の試料と、第1の反応性基を有する化合物とを、任意選択で銅の存在下で、接触させる工程と、
(c)任意選択で、工程(a)の単糖に結合した工程(b)の化合物を検出して、真核細胞を検出する工程と
を含み、
前記ペントースリン酸経路の少なくとも1種の修飾単糖化合物は、第2の反応性基と呼ばれる反応性基Xを含み、第1及び第2の反応性基は、クリックケミストリー反応において一緒に反応して、前記単糖に結合した工程(b)の化合物を得ることができる、方法。
【請求項2】
第2の反応性基Xはアジド基(-N
3)であり、第1の反応性基はアルキン基である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ペントースリン酸経路の少なくとも1種の修飾単糖化合物は、リボース、D-リボース、L-リボース、リボース5-P、D-リボース5-P、D-リボース1-P、D-リボース1,5-P、リブロース、リブロース5-P、L-リブロース、L-リブロース5-P、D-リブロース、D-リブロース5-P、アラビニトール、L-アラビニトール、キシルロース、キシルロース-5-P、D-キシルロース、D-キシルロース-5-P、L-キシルロース、キシロース、D-キシロース、L-キシロース、及びキシリトールからなる群において選択される、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記ペントースリン酸経路の少なくとも1種の修飾単糖化合物は、リボース、D-リボース、L-リボース、リボース5-P、D-リボース5-P、D-リボース1-P、D-リボース1,5-P、リブロース、リブロース5-P、L-リブロース、L-リブロース5-P、D-リブロース、及びD-リブロース5-Pからなる群において選択され、より具体的には、前記化合物が、リボース、D-リボース、及びL-リボースからなる群において選択される、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
癌細胞を同定又は分離するためのin vitro又はex vivoの方法であって、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法を実施する工程を含む、方法。
【請求項6】
対象の癌を診断するためのin vitro又はex vivoの方法であって、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法を実施する工程を含む、方法。
【請求項7】
標識を検出し、任意選択で標識を参照レベルと比較し、次いで標識の測定に基づいて、癌細胞を同定する又は癌を診断する工程を更に含む、請求項5又は6に記載の方法。
【請求項8】
工程(a)の試料は対象由来の生物学的試料であり、前記対象は癌に罹患している又は罹患していることが疑われる、請求項5から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
請求項1から7のいずれか一項に記載の真核細胞を標識又は検出又は標的化する方法を実施するためのキットであって、
請求項1から7のいずれか一項に規定のペントースリン酸経路の修飾単糖化合物と、
第1の反応性基を有する化合物と
を含む、キット。
【請求項10】
任意選択で、抗癌剤又は抗癌剤を含む粒子に作動可能に連結されている又は作動可能に連結されていない、請求項1から7のいずれか一項に規定のペントースリン酸経路の少なくとも1種の修飾単糖化合物を表面上に提示する真核細胞を含む医薬組成物。
【請求項11】
抗癌剤が、好ましくは化学療法剤、抗癌抗体、ホルモン療法、免疫療法、及びキナーゼ阻害剤からなる群より選択される抗腫瘍薬である、請求項10に記載の医薬組成物。
【請求項12】
細胞が、単離された非癌細胞、好ましくはMSCである、請求項10又は11に記載の医薬組成物。
【請求項13】
癌の治療に使用するための、請求項12に記載の医薬組成物。
【請求項14】
癌の診断に使用するための、請求項12に記載の医薬組成物。
【請求項15】
癌が、直腸癌、大腸癌、胃癌、頭頸部癌、甲状腺癌、子宮頸癌、子宮癌、乳癌、卵巣癌、脳腫瘍、肺癌、皮膚癌、膀胱癌、血液癌、腎臓癌、肝癌、前立腺癌、多発性骨髄腫、及び子宮内膜癌から選択される、請求項5に記載の癌を診断するための方法又は請求項13に記載の医薬組成物。
【請求項16】
医用イメージング又は診断のための、好ましくは癌の医用イメージング又は診断のための、請求項1から4のいずれか一項に規定の修飾単糖化合物又はその前駆体の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医薬分野、特に腫瘍学に関する。本発明は、多細胞生物由来の真核細胞を標識及び/又は検出及び/又は標的化するための方法において提供される修飾単糖化合物に関する。本発明はまた、癌細胞を同定若しくは分離するため、癌を診断するため、又は細胞治療のための方法において提供されるそのような修飾単糖化合物にも関する。
【背景技術】
【0002】
炭水化物は、シグナル伝達分子として、及び細胞認識事象にとって重要である。実際、それらは、炭水化物認識タンパク質(CRP)と多価相互作用を生じさせることができ、生物のプローブとして使用できる。したがって、炭水化物は、疾患診断及び治療において多くの機会を提供する。結果として、炭水化物に基づく生物活性化合物及びセンサーの開発は活発な研究領域である。機能的炭水化物誘導体を調製するための有効かつモジュール式の合成アプローチは、クリックケミストリーである。治療及び診断のためにCuAAC(Cu触媒アジド-アルキン1,3-双極子付加環化)クリックケミストリーによって調製される一部の炭水化物誘導体は、He et al. (Carbohydrate Research 429 (2016) 1-22)の総説において報告されている。歪み促進アジド-アルキン環化付加反応を使用する銅フリークリックケミストリーも、癌細胞について記載されている。クリック可能な基(例えば、トリアセチルN-アジドアセチルマンノサミン(Ac3ManNAz)類似体)を提示する特定の糖は、特異的な過剰発現酵素により切断可能な糖類似体のために、癌細胞によって代謝される。したがって、前記糖は代謝され、癌細胞膜に特異的に取り込まれる。
【0003】
様々な炭水化物/単糖クリックケミストリーが治療及び診断のために記載されているとしても、これらのクリックケミストリー方法及びそこで使用される化合物は、細胞毒性があり及び/又は特定の細胞、例えば癌細胞に対して選択的ではないようである。これらの化合物の細胞毒性は、それらの有効性が低下する低い非毒性濃度の使用を意味する。
【0004】
WO2013/1077559は、生存微生物を特異的に標識するための方法において、修飾単糖化合物、例えば特定の化合物、8-アジド-3,8-ジデオキシ-D-マンノ-オクツロソン酸(本明細書では「KDO-N3」とも呼ばれる)を記載している。標識された生存微生物は、単細胞原核微生物(細菌)に限定されている。
【0005】
WO2016/177712は、生存微生物を特異的に標識するための方法において、修飾単糖化合物、例えば特定の化合物5-アジド-5-デオキシ-D-アラビノフラノース(本明細書において「Ara-N3」とも呼ばれる)についても記載している。標識された生存微生物は、単細胞原核微生物(細菌)及び単細胞真核微生物(酵母、真菌及びアメーバ)に限定されている。
【0006】
しかしながら、これまでのところ、前記単糖化合物が前記微生物の細胞膜によってどのように、どこで同化されるかについては説明されていない。
【0007】
特に多細胞生物由来の真核細胞を標識及び検出するための新しい候補を発見及び開発し、癌細胞を同定又は分離するための方法を提供し、特に癌分野における診断又は細胞治療の方法を提供する必要性が常にある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】WO2013/1077559
【特許文献2】WO2016/177712
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】He et al. (Carbohydrate Research 429 (2016) 1-22)
【非特許文献2】Mujaji B. W., "the pentose phosphate pathway revised" in Biochemical education, 8(3) 1980, pp 76-78,
【非特許文献3】Jin and Zhou: Pentose Phosphate Pathway In Cancer - Oncology Letters 17: 4213-4221 (2019 DOI: 10.3892/ol.2 019.10112)
【非特許文献4】Hennenfent&Govindan(2006,Annals of Oncology,17,735-749)
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、アラビノースを除く、ペントースリン酸経路の単糖化合物に基づき、ここで、前記化合物は、反応性基Xを更に含み、反応性基Xが、クリックケミストリー反応を介して、標識、抗癌剤又は抗癌剤を含む粒子等の更なる化合物と共有結合することを可能にする。したがって、形成された複合体は、多細胞生物由来の真核生物細胞を標識又は検出するための方法、癌細胞を同定又は分離するための方法、或いは癌を治療するための方法において提供し得る。
【0011】
より詳細には、本発明者らは、そのような修飾単糖の同化が、多細胞生物由来の真核細胞で起こることを見出した。本発明者らは、腫瘍性真核細胞におけるこのような同化が、非腫瘍性真核細胞とは異なるとともに、非腫瘍細胞と比較してより重要であることも見出した(特に、非癌細胞と比較して、膀胱癌、血液癌、皮膚癌、膵臓癌、脳腫瘍、肝臓癌、腎臓癌、肺癌、筋肉癌、リンパ球癌、前立腺癌、胃癌、乳癌において)。そこで、単糖類化合物は、癌細胞を同定、分離又は標的化するため、及び/又は対象における癌を診断するために有用となり得る癌プローブ及び癌マーカーとしても使用できる。
【0012】
したがって、本発明の一態様は、多細胞生物由来の真核細胞を標識又は検出又は標的化するための方法、好ましくはin vitro方法であって、
(a)真核細胞を含む試料と、アラビノースを除く、ペントースリン酸経路の少なくとも1種の修飾単糖化合物とを、接触させる工程と、
(b)工程(a)の前記試料と、第1の反応性基を有する化合物とを、任意選択で銅の存在下で、接触させる工程と、
(c)任意選択で、工程(a)の単糖に結合した工程(b)の化合物を検出して、真核細胞を検出する工程と
を含み、
前記ペントースリン酸経路の少なくとも1種の修飾単糖化合物は、第2の反応性基と呼ばれる反応性基Xを含み、第1及び第2の反応性基は、クリックケミストリー反応において一緒に反応して、前記単糖に結合した工程(b)の化合物を得ることができる、方法である。好ましい実施形態において、第1の反応性基はアルキン基であり、第2の反応性基Xはアジド基(-N3)である。
【0013】
本発明の更なる態様は、本明細書で規定される真核細胞を標識、検出又は標的化するための方法を実施するためのキットであって、
アラビノースを除く、ペントースリン酸経路の修飾単糖化合物であって、ここで、前記単糖は、本明細書で規定される第2の反応性基と呼ばれる反応性基Xを含む、修飾単糖化合物と、
本明細書で規定される第1の反応性基を有する化合物と
を含む。
【0014】
本発明の更なる態様は、癌細胞を同定若しくは分離するための方法、又は対象における癌を診断するための方法であって、前記対象からの、好ましくは前記対象からの生体試料中の、本明細書で規定されるような、多細胞生物からの真核細胞を標識、検出、又は標的化するための方法を実施することを含む、方法である。
【0015】
本発明の更なる態様は、抗癌剤又は少なくとも1つの抗癌剤を含む粒子に作動可能に連結された又は作動可能に連結されていない、ペントースリン酸経路の少なくとも1種の修飾単糖化合物(アラビノースを除く)を表面上に提示する真核細胞を含む組成物である。別の態様は、そのような細胞を含む医薬組成物である。別の態様は、特に細胞に基づく治療法による癌の治療において使用するための、そのような医薬組成物である。別の態様は、癌の診断に使用するための、そのような医薬組成物である。
【0016】
本発明の別の態様は、必要とする対象において癌を治療する方法であって、本明細書で規定された、組成物の有効量を、前記対象に投与する工程を含み、前記組成物は、抗癌剤又は少なくとも1種の抗癌剤を含む粒子に作動可能に連結され、本明細書で規定された、ペントースリン酸経路の少なくとも1種の修飾単糖化合物(アラビノースを除く)を表面上に提示する真核細胞を含む方法である。
【0017】
本発明の更なる態様は、本明細書で規定された、ペントースリン酸経路の修飾単糖化合物(アラビノースを除く)の使用であって、医用イメージング又は診断のための、好ましくは癌を診断するため使用であり、任意選択で第1の反応性基を有する化合物を伴う使用である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
(定義)
【0019】
本発明において、以下の用語は以下の意味を有する。
【0020】
「多細胞生物」は、1個以上の細胞を含む任意の生物を含む。多細胞生物は、例えば、植物又は動物、好ましくは哺乳動物、より好ましくはヒトに由来する、又はそれらである。
【0021】
本明細書で使用される場合、用語「患者」及び用語「対象」は、互換的に使用でき、ヒト及び動物の両方、より具体的にはヒトを含む。
【0022】
「多細胞生物由来の真核細胞」は、原核生物とは異なり、膜内に核を有し、動物又は植物細胞等の多細胞生物に由来する細胞である。動物及び植物細胞は、多細胞生物由来の最もよく知られた真核生物細胞である。本発明の文脈において、「真核細胞」は、癌細胞又は正常細胞(又は非腫瘍細胞及び腫瘍細胞)を含む。
【0023】
癌細胞は、絶え間なく分裂し、固形腫瘍を形成する、又は異常細胞で血液をあふれさせる細胞である。したがって、それは、固形癌又はリンパ腫若しくは白血病等の造血癌であり得る。
【0024】
本明細書で使用される用語「癌」又は用語「腫瘍」は、制御されない増殖、不死性、転移能、急速な成長及び増殖速度、並びにある種の特徴的な形態学的特徴等の、癌を引き起こす細胞に典型的な特徴を有する細胞の存在を指す。この用語は、任意のタイプの悪性腫瘍(原発性又は転移性)を指す。典型的な癌は、乳癌、脳腫瘍、胃癌、肝臓癌、皮膚癌、前立腺癌、膵臓癌、食道癌、肉腫、卵巣癌、子宮内膜癌、膀胱癌、子宮頸癌、直腸癌、結腸癌、腎臓癌、肺癌又は口腔癌、小児腫瘍(神経芽細胞種、多形性膠芽腫)、リンパ腫、癌腫、神経膠芽腫、肝芽腫、白血病、骨髄腫、精上皮腫、ホジキン又は血液悪性血液疾患等の固形癌又は造血系癌である。
【0025】
本発明によれば、用語「含む(comprise(s))」又は「含んでいる(comprising)」(及び他の同等の用語、例えば、「含有する(containing)」及び「含む(including)」)は、「オープンエンド(open-ended)」であり、一般に、具体的に言及された特徴及び任意選択の追加の不特定の特徴のすべてが含まれるように解釈できる。特定の実施形態によれば、別段の記載がない限り、「から本質的になる(consisting essentially of)」という句は、特許請求の範囲に記載された発明の基本的及び新規な特徴(複数可)に実質的に影響を及ぼさない特定の特徴及び任意選択の、追加の、及び特定されていない特徴が含まれると解釈でき、又は「からなる(consisting of)」という句は、特定の特徴のみが含まれると解釈できる。
【0026】
本発明は、本明細書に開示される化合物の全ての立体異性体及び異性体形態をその範囲内に含み、全てのジアステレオマー異性体、ラセミ体、エナンチオマー及びそれらの混合物を含む。本発明の化合物は、シス及びトランス異性体としても知られるE及びZ異性体として存在してもよいと理解される。したがって、本開示は、例えば、化合物のE、Z、シス、トランス、(R)、(S)、(L)、(D)、(+)、及び/又は(-)形態を、それぞれの場合において適切に含むと理解されるべきである。構造が特定の立体異性を示さない場合、ありとあらゆる可能な異性体が包含されると理解されるべきである。本発明の化合物は、全ての配座異性体を包含する。本発明の化合物は、単一の互変異性体及び互変異性体の混合物の両方を含む、1種又は複数種の互変異性形態でも存在する可能性がある。本明細書に開示される化合物のすべての多形及び結晶形も、本発明の範囲に含まれる。
【0027】
百分率は、特に明記しない限り、本明細書では質量で表される。
【0028】
本発明は、多細胞生物由来の真核細胞を標識又は検出又は標的化するための方法であって、
(a)真核細胞を含む試料と、アラビノースを除く、ペントースリン酸経路の少なくとも1種の修飾単糖化合物とを、接触させる工程と、
(b)工程(a)の前記試料と、第1の反応性基を有する化合物とを、任意選択で銅の存在下で、接触させる工程と、
(c)任意選択で、工程(a)の単糖に結合した工程(b)の化合物を検出する工程を含み、
前記ペントースリン酸経路の少なくとも1種の修飾単糖化合物(アラビノースを除く)は、第2の反応性基と呼ばれる反応性基Xを含み、前記第1及び第2の反応性基は、クリックケミストリー反応において一緒に反応して、前記単糖に結合した工程(b)の化合物を得ることができる、方法に関する。第1の反応性基と第2の反応性基との間の反応は、工程(b)の化合物がペントースリン酸経路の修飾単糖化合物に結合することを可能にする。
【0029】
クリックケミストリーは、当業者には周知の方法であり、目的のプローブ又は基質を特定の生体分子、例えば本発明による修飾単糖化合物等に結合させる。アジドアルキン環化付加は、周知のいわゆるクリックケミストリー反応であり、銅触媒の存在下又は非存在下で、アジド基がアルキン基と反応してトリアゾールを与える。アルキン基は歪んでいても、いなくてもよい。
【0030】
そのようなアジドアルキン環化付加は、銅触媒条件下で、リガンド、好ましくはTGTA(トリス((1-(β-D-グルコピラノシル)-1[1,2,3]-トリアゾール-4-イル)メチル)アミン)又はTBTA(トリス-[(1-ベンジル-1H-1,2,3-トリアゾール-4-イル)メチル]アミン)等のトリス-トリアゾールリガンドの存在下、実行できる。頻繁に使用される他の適切なリガンドは、トリス(3-ヒドロキシプロピルトリアゾリルメチル)アミン(THPTA)、2-(4-((ビス((1-tert-ブチル1H-1,2,3-トリアゾール-4-イル)メチル)アミノ)メチル)-1H-1,2,3-トリアゾール-1-イル)エタンスルホン酸(BTTES)、トリス((1-(((エチル)カルボキシメチル)-(1,2,3-トリアゾール-4-イル))メチル)アミン、バソフェナントロリンジスルホネート、又はトリス(2-ベンズイミダゾリルメチル)アミンである。
【0031】
代わりに、アザジベンゾシクロオクチン(ADIBO、DIBAC又はDBCO)又はテトラメトキシジベンゾシクロオクチン(TMDIBO)等の歪んだアルキンが使用される場合、アジドアルキン環化付加は、銅の非存在下で実行できる。銅フリー反応に頻繁に使用される他の適切な歪みアルキンとしては、シクロオクチン(OCT)、アリールレスシクロオクチン(ALO)、モノフルオロシクロオクチン(MOFO)、ジフルオロシクロオクチン(DIFO)、ジベンゾシクロオクチン(DIBO)、ジメトキシアザシクロオクチン(DIMAC)、ビアリールアザシクロオクチノン(BARAC)、ビシクロノニン(BCN)、テトラメチルチエピニウム (TMTI、TMTH)、ジフルオロベンゾシクロオクチン(DIFBO)、オキサ-ジベンゾシクロオクチン(ODIBO)、カルボキシメチルモノベンゾシクロオクチン(COMBO)、又はベンゾシクロノニンが挙げられる。
【0032】
他の反応性基及び他の反応は、クリックケミストリーのために可能であり、例えば、Staudinger連結反応(第1の反応性基=アジド及び第2の反応性基=ホスフィン)、銅フリーのクリックケミストリー(第1の反応性基=アジド及び第2の反応性基=制約されたアルキン(環内アルキン))、カルボニル縮合(第1の反応性基=アルデヒド又はケトン及び第2の反応性基=ヒドラジド又はオキシアミン)、チオール-エンクリックケミストリー(第1の反応性基=チオール及び第2の反応性基=アルケン)、ニトリルオキサイド-エンクリックケミストリー(第1の反応性基=ニトリルオキサイド又はアルデヒド、オキシム、又は塩化ヒドロキシモイル又はクロロオキシム及び第2の反応性基=アルケン又はアルキン)、ニトリルイミン-エンクリックケミストリー(第1の反応性基=ニトリルイミン、アルデヒド、ヒドラゾン、塩化ヒドラゾノイル又はクロロヒドラゾン及び第2の反応性基=アルケン又はアルキン)、逆電子需要ディールスアルダー連結反応(第1の反応性基=アルケン及び第2の反応性基=テトラジン)、イソニトリル-テトラジンクリックケミストリー(第1の反応性基=イソニトリル及び第2の反応性基=テトラジン)、Suzuki-Miyauraカップリング(第1の反応性基=ハロゲン化アリール及び第2の反応性基=ボロン酸アリール)、His-tag(第1の反応性基=オリゴ-ヒスチジン及び第2の反応性基=ニッケル錯体又はニッケルリガンド)である。
【0033】
ペントースリン酸経路の単糖化合物
【0034】
ペントースリン酸経路は、多くの総説、Mujaji B. W., "the pentose phosphate pathway revised" in Biochemical education, 8(3) 1980, pp 76-78,又は Jin and Zhou: Pentose Phosphate Pathway In Cancer - Oncology Letters 17: 4213-4221 (2019 DOI: 10.3892/ol.2 019.10112)に記載されている。本発明の化合物は、アラビノースを除く、ペントースリン酸経路の中から選択される。
【0035】
特定の実施形態において、本発明において使用されるペントースリン酸経路の化合物は、リボース、D-リボース、L-リボース、リボース5-P、D-リボース5-P、D-リボース1-P、D-リボース1,5-P、リブロース、リブロース5-P、L-リブロース、L-リブロース5-P、D-リブロース、D-リブロース5-P、アラビニトール、L-アラビニトール、キシルロース、キシルロース-5-P、D-キシルロース、D-キシルロース-5-P、L-キシルロース、キシロース、D-キシロース、L-キシロース、及びキシリトールからなる群において選択される。より特定の実施形態では、本発明で使用されるペントースリン酸経路の化合物は、リボース、D-リボース、L-リボース、リボース5-P、D-リボース5-P、D-リボース1-P、D-リボース1,5-P、リブロース、リブロース5-P、L-リブロース、L-リブロース5-P、D-リブロース、及びD-リブロース5-Pからなる群において選択される。別の特定の実施形態では、本発明で使用されるペントースリン酸経路の化合物は、リボース、D-リボース、及びL-リボースからなる群において選択される。更なる実施形態において、本発明において使用されるペントースリン酸経路の化合物は、D-リボース及びL-リボースからなる群において選択される。更に別の特定の実施形態において、本発明で使用されるペントースリン酸経路の化合物は、キシロース、D-キシロース、及びL-キシロースからなる群において選択される。更なる特定の実施形態において、本発明において使用されるペントースリン酸経路の化合物は、D-リボース及びD-キシロースからなる群において選択される。
【0036】
本発明によれば、アラビノースを除く、ペントースリン酸経路の修飾単糖化合物は、クリックケミストリー反応、好ましくはアジドアルキン環化付加反応に適した反応性基X(第2の反応性基)を含む。したがって、Xは、上記で規定された反応性基等のクリックケミストリー反応によって、更なる反応性基と反応できる任意の反応性基を含む。特定の実施形態において、Xは、アジド基(-N3)からなる又はそれを有する任意の基、及び歪んでいるか又は歪んでいないアルキン基(-C≡C-)からなる又はそれを有する任意の基を含む。好ましい実施形態において、Xはアジド基(-N3)である。
【0037】
特定の実施形態によれば、本発明で使用されるペントースリン酸経路の修飾化合物は、以下からなる群より選択される。
【0038】
【0039】
ペントースリン酸経路の修飾単糖化合物は、細胞に対して毒性を示さないので、本発明に従って任意の濃度で使用できる。特定の実施形態によれば、ペントースリン酸経路の単糖化合物の濃度は、10μM~100mM、好ましくは1mM~50mM、より好ましくは1mM~20mMで変化可能である。
【0040】
第1の反応性基を有する化合物
【0041】
第1の反応性基を有する化合物は、直接検出可能な部分を含む、若しくは直接検出可能な部分である、又は間接検出可能な部分を含む、若しくは間接検出可能な部分である。いかなる理論にも束縛されることはないが、細胞は、工程(a)で細胞膜によって同化された工程(a)の単糖の第2の反応性基とのクリック反応により、第1の反応性基を有する化合物に結合される。検出可能な部分(又は標識)は、すなわち蛍光、比色分析又は発光等の当業者に公知の技術によって検出できる部分である。したがって、イメージング技術は、蛍光、磁気共鳴又はコンピュータ断層撮影であってもよい。
【0042】
一実施形態によれば、前記化合物は、検出可能な部分、すなわち検出可能な物質(又は標識)からなる部分又はそれを有する部分を含む又はであってよく、より具体的には、物質は蛍光、比色分析又は発光等の当業者に公知の技術によって検出可能である。
【0043】
別の実施形態によれば、第1の反応性基を有する前記化合物は、間接的に検出可能な部分を含む、又はそれであり、間接的に検出可能な部分は第1のリガンド(又はより具体的には前記第1の反応性基を有する第1の結合タンパク質)であり、以下に詳述するように、工程(c)における検出及び/又は固定化は、前記第1のリガンド(又はより具体的には第1の結合タンパク質)に結合した前記真核細胞と、前記第1のリガンド(又はより具体的には第1の結合タンパク質)に特異的に反応又は結合する第2のリガンド(又は第2の結合タンパク質)とを、接触させることによって生じさせることができる。
【0044】
より具体的には、前記化合物は、前記第1の反応性基を有する第1のリガンド、好ましくはビオチンであり、工程(c)において、前記第1のリガンドに結合した前記真核細胞は、前記真核細胞と前記第1のリガンドに特異的な抗体又は別のタンパク質との反応によって検出され、前記抗体は、検出可能な物質又は部分、好ましくは蛍光色素又は発光分子又は酵素を有する。
【0045】
検出可能な物質又は部分は、色素、放射性標識及び親和性タグの中から選択できる。特に、色素は、蛍光、発光又はリン光色素、好ましくはダンシル、フルオレセイン、アクリジン、ローダミン、クマリン、ボディパイ及びシアニン色素からなる群より選択できる。より具体的には、蛍光色素は、Alexa Fluor dye、Pacific dye若しくはTexas Red等のThermo Fisherによって市販されている色素、又は他の提供者によって市販されているシアニン3、5及び7色素の中より選択できる。特に、CuAACのためのアジドを有する色素は、Alexa Fluor(登録商標)488、55、594及び647、並びにTAMRA(テトラメチルローダミン)が市販されている。第2の態様において、検出可能な物質又は部分(又は標識)は、親和性タグであってもよい。そのような親和性タグは、例えば、ビオチン、Hisタグ、Flagタグ、strepタグ、糖、脂質、ステロール、PEGリンカー、及び補因子からなる群より選択できる。特定の実施形態において、検出可能な物質はビオチン化標識である。アジドに結合したビオチンは市販されている(ビオチンアジド)。好ましい実施形態において、標識は蛍光標識である。
【0046】
本発明によれば、第1の反応性基を有する化合物は、第1の反応性基を含み、第1の反応性基は、クリックケミストリー反応、好ましくはアジドアルキン環化付加において一緒に反応するため、上記規定の第2の反応性基Xと相補的である。特定の実施形態では、化合物の第1の反応性基は、アジド基(-N3)からなる又はそれを有する任意の基、及び歪みアルキン基若しくは非歪みアルキン基(-C≡C-)からなる又はそれを有する基を含む。
【0047】
反応に関与する基の上記の列挙において、第1の反応性基及び第2の反応性基Xは順序を変えてもよい。全ての上記化学反応は、共有結合を生じる。例えば、Xがアジド基(-N3)又はアジド基を有する基である場合、第1の反応性基はアルキン基又はアルキン基を有する基である。Xがアルキン基又はアルキン基を有する基である場合、第1の反応性基はアジド基(-N3)又はアジド基を有する基である。本発明の好ましい実施形態では、第2の反応性基Xはアジド基(-N3)であり、第1の反応性基はアルキン基(-C≡C-)である。
【0048】
標識、検出又は標的化のための方法
【0049】
多細胞生物由来の真核細胞を標識、検出又は標的化するための方法における工程(a)は、真核細胞を含む試料と、反応性基又は官能基Xを含む、上記規定のペントースリン酸経路の少なくとも1種の修飾単糖化合物とを接触させる工程を含む。このような接触工程(a)は、多細胞生物由来の前記真核細胞の膜、より具体的には前記細胞の表面上への少なくとも1種の修飾単糖化合物の取り込みを可能にする。そのようなプロセスは、前記真核細胞によるペントースリン酸経路の少なくとも1種の修飾単糖化合物の同化に対応できる。したがって、前記細胞は、その表面又は膜上にペントースリン酸経路の少なくとも1種の修飾単糖化合物を提示する。
【0050】
工程(b)は、工程(a)(ペントースリン酸経路の少なくとも1種の修飾単糖化合物が真核細胞の膜に組み込まれている)の試料と、上記規定の第1の反応性基を含む化合物とを接触させる工程を含む。そのような工程(b)は、化合物の第1の反応性基とペントースリン酸経路の少なくとも1種の修飾単糖化合物の第2の反応性基Xとの間でクリック化学反応を生じさせることを可能にし、それによって、標識若しくは標的化された、又はその後に標識若しくは標的化される(上記詳述したように)、多細胞生物由来のカップリングされた真核細胞を提供する。
【0051】
本発明の好ましい実施形態は、多細胞生物由来の真核細胞を標識、検出又は標的化するための方法であり、この方法は以下の工程を含む:
(a)真核細胞を含む試料と、上記規定のようなペントースリン酸経路の少なくとも1種の化合物、より具体的には、リボース、D-リボース、L-リボース、リブロース、D-リブロース、及びL-リブロースからなる群において選択される化合物とを接触させる工程であって、アジド基を更に含む工程と、
(b)前記試料と、第1の反応性基を含む化合物とを、任意選択で銅の存在下で、接触させる工程。
【0052】
当業者は、工程(a)又は(b)をどのように実施するかを知っている。特定の実施形態によれば、前記工程(a)及び/又は(b)は、真核細胞を含む試料の増殖を可能にする、好ましくは前記真核細胞の増殖に特異的な培養液又はインキュベーション培地中で行われる。
【0053】
より具体的には、工程(a)又は(b)の培養条件(時間及び細胞培養培地を含む)は、標識、検出又は標的化される真核細胞に合わせることができる。細胞の倍加及び/又は細胞の表面又は膜上でのペントースリン酸経路の修飾単糖化合物の同化を増強又は刺激する任意の化合物を、細胞培養培地に追加できる。
【0054】
特定の実施形態によれば、工程(a)の持続時間は、前記真核細胞の膜におけるペントースリン酸の少なくとも1種の単糖化合物の取り込みを可能にする。より具体的には、工程(a)の持続時間は、標識、検出又は標的化される真核細胞の少なくとも倍加時間である。より具体的には、工程(a)の持続時間は、標識、検出又は標的化される真核細胞の倍加時間の5倍未満である。特定の実施形態によれば、工程(a)の持続時間は、標識、検出又は標的化される真核細胞の1倍加時間又は2倍加時間に相当する。
【0055】
特定の実施形態によれば、前記工程(a)及び/又は(b)は、前記第1の反応性基と前記第2の反応性基との反応を生じさせるための反応試剤及び/又は触媒を伴って行われる。
【0056】
本発明に従って使用されるペントースリン酸経路の単糖化合物は、細胞に対して低い毒性を示す、又は毒性を示さないので、その使用量は広い範囲で変動できることに留意することは興味深い。真核細胞を標識、同定又は検出するのに十分であるように、その量は当業者によって決定される。
【0057】
本方法は、任意の試料、通常は対象の生物学的試料、例えば、血液、血漿、血清、尿、脳脊髄液の試料等の液体、又は対象の組織若しくはその一部からの試料により実施され得る。本発明は、癌に罹患している又は罹患していることが疑われる任意のヒト患者を含む、任意の対象由来の試料により実施され得る。本方法は、通常、前処理された血液試料等の血液、血清又は血漿の試料、又はそれらに由来する試料に対して実施される。試料は、本発明において使用される前に処理されてもよい(例えば、希釈、濃縮、分離、部分精製、凍結等)。特定の実施形態によれば、本方法の工程(a)で使用される各試料は、好ましくは細胞選別によって、特にフローサイトメトリーによって得られる細胞集団又は好ましくは個々の細胞を含む。この方法がin vivoで実施される場合、この方法は、対象の全身又はその一部に対して実施されてもよい。これに関連して、本発明に従って使用される単糖化合物及び任意選択で第1の反応性基を有する化合物は、経腸的に(経口を含む)又は非経口的に(静脈内又は筋肉内を含む)投与できる。
【0058】
結合した真核細胞を多細胞生物から検出するために、本方法は、工程(a)の単糖に結合した工程(b)の化合物を検出することを含む工程(c)を更に含む。
【0059】
有利には、本発明は、真核細胞が工程(b)の第1の反応性基を有する化合物と結合しているかどうかを検出する際に、及び/又は第1の反応性基を有する化合物と結合した真核細胞を固体基材上に固定化する際に、真核細胞を検出する更なる工程(c)を含み、ここで、第1の反応性基を有する前記化合物は、検出可能な物質を含む部分若しくは分子である、又は検出可能な物質と反応若しくは結合できる、又は好ましくは第1の反応性基を有する前記化合物は、第2の分子及び/又は固体基材と反応若しくは結合できる第1の分子であり、好ましくは前記第2の分子は検出可能な物質を含む及び/又は前記第2の分子は前記固体基材に結合されている若しくは結合することができる。
【0060】
したがって、本発明は、多細胞生物由来の真核細胞の標識、真核細胞の数え上げ又は検出、及び任意選択で固体支持体上に固定化された真核細胞の濃縮及び/又は分離を可能にし、特に前記第1の反応性基を有する磁気ビーズから構成される固体支持体を使用して可能にする。
【0061】
より詳細には、第1の反応性基を有する前記化合物は、第2の分子及び/又は固体基質と反応又は結合できる第1の分子であり、好ましくは前記第2の分子は検出可能な物質を含み、前記方法は、前記真核細胞が前記真核細胞に結合した前記検出可能な分子又は部分を含むかどうかを検出する際に真核細胞を検出する工程(c)を含む。
【0062】
本発明の方法によれば、標識又は検出がない場合、提供された試料は、多細胞生物由来の真核細胞を全く含まないと結論付けることができる。
【0063】
前記検出工程(c)は、液体媒体中又は固体基材上で行うことができる。
【0064】
好ましくは、多細胞生物由来の真核細胞を標識又は検出又は標的化する方法は、in vitro法である。
【0065】
特定の実施形態によれば、本発明の方法は、1回又は複数回の洗浄工程を更に含むことができる。
【0066】
特定の実施形態によれば、本発明による方法は、例えばマイクロウェルプレートを使用して、1個又は複数個の試料について同時に実施できる。マイクロプレートは、典型的には、6、12、24、48、96、384又は1536個の試料ウェルを有する。前記特定の実施形態によれば、本方法の工程(a)で使用される各試料ウェルは、好ましくは細胞集団又は好ましくは個々の細胞を含み、より好ましくは細胞選別によって、特にフローサイトメトリーによって得られる。
【0067】
したがって、本発明の更なる目的は、多細胞生物由来の真核細胞を標識又は検出するための、アラビノースを除く、ペントースリン酸経路の少なくとも1種の修飾単糖化合物のin vitroでの使用であり、好ましくは第1の反応性基を含む化合物、及び任意選択で第2の分子及び/又は固体基質を用い、好ましくは前記第2の分子は検出可能な物質を含む。
【0068】
本発明の更なる目的は、本明細書で規定されるような多細胞生物由来の真核細胞を標識又は検出するための方法を実施するためのキットであって、
上記規定のペントースリン酸経路の修飾単糖化合物と、
上記規定の第1の反応性基を有する化合物と
を含む。
【0069】
特定の実施形態によれば、キットは、上記規定の第2の分子及び/又は固体基材を更に含むことができ、好ましくは、前記第2の分子又は固体基材は検出可能な物質を含み、第1の反応性基を有する化合物は、第2の分子及び/又は固体基材と反応又は結合できる第1の分子である。
【0070】
更なる目的は、本明細書で規定される多細胞生物由来の真核細胞を標識又は検出するための方法を実施するための、上記規定のキットの使用である。
【0071】
特定の実施形態によれば、多細胞生物由来の真核細胞は、癌又は腫瘍細胞になりやすい細胞である。したがって、本発明による方法及びキットは、標識の検出によって癌又は腫瘍細胞を同定するのに有用である。
【0072】
癌細胞の同定若しくは分離又は癌の診断方法
【0073】
本発明は、対象における癌細胞を同定若しくは分離するための方法、又は癌を診断するための方法、好ましくはin vitro若しくはex vivoの方法に更に関し、本明細書で規定される、前記対象の又は前記対象由来の生物学的試料の真核細胞を標識又は検出するための方法を実施する工程を含む。好ましい実施形態において、癌細胞を同定若しくは分離するための、又は対象における癌を診断するための方法は、標識を検出する工程、及び任意選択で参照レベルと比較する工程を更に含む。
【0074】
対象由来の生物学的サンプルは、上で規定された通りであり、好ましくは、サンプルは、癌に罹患するか又は罹患していることが疑われるヒト患者由来のサンプルである。特定の実施形態によれば、工程(a)で使用される各試料は、好ましくは細胞選別によって、特にフローサイトメトリーによって得られた細胞集団又は好ましくは個々の細胞を含む。
【0075】
試料は、より具体的には癌細胞を含むことが疑われる。
【0076】
そのような試料の例としては、血液、血漿、唾液、尿及び精液試料等の流体、並びに生検、器官、組織又は細胞試料が挙げられる。試料は、その使用前に処理されてもよい。
【0077】
本発明に従って同定又は分離される癌細胞は、任意のタイプであってよい。それらは、固形腫瘍又は造血性癌に由来してもよい。癌細胞には、循環又は非循環腫瘍細胞を含む。循環腫瘍細胞(CTC)は、原発腫瘍から血管系又はリンパ管に流れ込み、血液循環で体内に運ばれる細胞である。CTCは、遠隔器官における追加の腫瘍のその後の増殖(転移)のための種子を構成し、癌関連死の大部分の原因となる機構を構成する。
【0078】
本発明による癌細胞の検出及び分析は、患者の早期予後を支援し、適切なテーラード治療を決定できる。疾患の進行を経時的に監視する能力は、患者の治療に対する適切な修正を促進し、患者の予後及び生活の質を改善する可能性がある。循環腫瘍細胞の検出及び分析の場合、本方法は、癌、特に転移の早期検出を可能にできる。この点において、本発明による試料は血液流体である。血液検査は、実施が容易かつ安全であり、複数の試料を経時的に採取できる。疾患の将来の進行を予知する能力の重要な態様は、反復CTC数が低くて増加しない場合、手術の必要性の(少なくとも一時的な)排除であって、手術を回避する明らかな利点は、癌手術の先天性腫瘍形成性に関連するリスクを回避することを含む。この目的のために、転移性疾患を患う患者においてCTCを検出するために必要な感度及び再現性を有する本発明のような技術は、非常に興味深い。
【0079】
本明細書で使用される場合、表現「標識を検出する」は、多細胞生物からの標識された真核細胞の存在を可視化若しくは検出すること、又はそのような標識を測定することを含んでもよい。このような標識、例えば、蛍光の測定は、任意選択で標識を参照レベルと比較することによって、癌細胞を検出、同定又は分離することを可能にする。
【0080】
本明細書において、癌細胞におけるペントースリン酸経路の修飾単糖化合物の同化は、非癌細胞とは異なること、より具体的には、非癌細胞(例えば、参照レベル又は対照試料)と比較して高いことが見出された。例えば、蛍光強度は、非癌細胞と比較して癌細胞の方が高い(1回又は2回の細胞倍加時間後にそうなることが可能である)。
【0081】
したがって、本発明は、癌細胞を同定若しくは分離するための、又は対象における癌を診断するための方法であって、
本明細書に記載される、前記対象由来の試料の真核細胞を標識するための方法を実施する工程と、
標識のための前記方法を実施した後に、標識を検出して、任意選択で標識を参照レベルと比較する工程と、次いで、
前記標識の測定に基づいて、癌細胞を同定する、又は癌を診断する工程と
を含む方法に関する。
【0082】
癌細胞を同定若しくは分離するための、又は癌を診断するための方法は、1細胞周期期間内に有利に実施できる。標識の検出は、標識のための前記方法を実施した後、より具体的には上記詳述の工程(a)を実施した後、好ましくは10時間~40時間、より好ましくは16~24、25、又は36時間までに行われる。
【0083】
本方法は、参照レベル、より具体的には対照試料又は参照との比較を任意選択で含むことができる。参照レベルは、正常細胞(例えば、非癌細胞)及び/又は既知の癌細胞において測定される標識(蛍光等)の強度であってよい。好ましくは、参照細胞は、研究される細胞に最も近いものであり、好ましくは、同じ細胞株、同じ器官及び/又は同じタイプからの細胞である。本方法は、対象由来の腫瘍試料及び組織学的に適合した正常組織を準備する前工程を含んでもよい。
【0084】
特定の実施形態によれば、試料の標識の測定値が、非癌試料である対照試料の標識の測定値よりも高い場合に、癌細胞が同定される、又は癌が診断される。「より高い測定値」とは、非癌試料に対する試料の標識比が、1.3、1.4、1.5、1.6、1.7、1.8、1.9、2.0、2.1、2.2、2.3、2.4、2.5、又は3.0を超えることを意味する。より具体的には、非癌試料に対する試料の標識比が、1.5、1.6、1.7、1.8、1.9、2.0、2.1、2.2、2.3、2.4、2.5、又は3.0を超える。
【0085】
特定の実施形態によれば、診断される癌は、直腸癌、大腸癌、胃癌、頭頸部癌、甲状腺癌、子宮頸癌、子宮癌、乳癌、卵巣癌、脳腫瘍、肺癌、皮膚癌、膀胱癌、血液癌、腎臓癌、肝臓癌、前立腺癌、多発性骨髄腫、及び子宮内膜癌の中から選択される。より具体的には、診断される癌は、膀胱癌、血液癌、皮膚癌、膵臓癌、脳腫瘍、肝臓癌、腎臓癌、肺癌、筋肉癌、リンパ球癌、前立腺癌、胃癌、及び乳癌からなる群より選択される。より特定の実施形態によれば、診断される癌は、膀胱癌、血液癌、結腸癌、胃癌、乳癌、肺癌、皮膚癌、及び膵臓癌からなる群より選択される。
【0086】
特定の実施形態によれば、同定又は分離される癌細胞は、上記列挙した癌に由来する癌細胞である。
【0087】
医薬組成物及びその使用
【0088】
本発明は、抗癌剤又は少なくとも1種の抗癌剤を含む粒子に作動可能に連結されている又は連結されていない、上記規定された、ペントースリン酸経路における少なくとも1種の修飾単糖化合物を表面に提示する真核細胞を含む組成物に関する。
【0089】
特定の一態様において、抗癌剤又は少なくとも1種の抗癌剤を含む粒子に作動可能に連結されている又は連結されていない上記で規定されたペントースリン酸経路の少なくとも1種の修飾単糖化合物をその表面上に提示する細胞は、本発明の本方法において上記のように調製できる。
【0090】
本発明による組成物は、以下の工程を含む方法によって調製できる:
(a)多細胞生物由来の真核細胞を含む組成物と、上記規定のペントースリン酸経路の少なくとも1種の修飾単糖化合物とを接触させる工程と、
(b)工程(a)の組成物と、第1の反応性基を有し、作動可能に連結された抗癌剤又は少なくとも1種の抗癌剤を含む粒子を任意選択で含む化合物とを、任意選択で銅の存在下で、接触させる工程。
【0091】
前記工程は、上記詳述したものと同様である。工程(a)は、前記細胞が、その表面又は膜上に、ペントースリン酸経路の少なくとも1種の修飾単糖化合物を提示することを可能にする。工程(b)は、上記規定のように、化合物の第1の反応性基と、ペントースリン酸経路の少なくとも1種の修飾単糖化合物の第2の反応性基Xとの間にクリックケミストリー反応を生じさせることを可能にする。
【0092】
一実施形態によれば、第1の反応性基を有する化合物は、作動可能に連結された抗癌剤又は前記化合物に結合された少なくとも1種の抗癌剤を含む粒子を含む、又はそれらであってもよく、したがって、工程(b)は、抗癌剤又は抗癌剤を含む粒子と結合された、多細胞生物からの真核細胞を産生することを可能にする。
【0093】
本方法は、上記詳述のクリックケミストリー反応によって、複合体を調製することを可能にし、その複合体において、上記規定のペントースリン酸経路の修飾単糖化合物と抗癌剤又はそれを含む粒子とが作動可能に連結されており、真核細胞はその表面上に前記複合体を提示する。特定の実施形態において、複合体は、アルキン基を含む抗癌剤又は表面にアルキン基を提示する粒子と、アジド基を含むペントースリン酸経路の修飾単糖化合物との間のクリックケミストリー反応によって調製される。
【0094】
別の実施形態によれば、第1の反応性基を有する化合物は、抗癌剤である第2のリガンド(又はより具体的には第2の結合タンパク質)と反応又は結合できる第1のリガンド(又はより具体的には第1の結合タンパク質)である。そのような実施形態によれば、本方法は、上記詳述のクリックケミストリー反応によって、複合体を調製することを可能にし、この複合体において、ペントースリン酸経路の修飾単糖化合物は、抗癌剤である第2のリガンドと反応又は結合できる第1のリガンドに連結されており、真核細胞は表面上に前記複合体を提示する。特定の実施形態では、複合体は、上記詳述のクリックケミストリー反応によって調製される。
【0095】
本明細書中で使用される場合、「抗癌剤」は、癌治療において現在使用されている任意の薬物、例えば、抗腫瘍薬に相当する。好ましい実施形態において、抗癌剤は、化学療法剤、抗癌抗体、ホルモン療法、免疫療法、及びキナーゼ阻害剤からなる群より選択される。
【0096】
用語「作動可能に連結された抗癌剤」は、連結されている、好ましくは共有結合的に連結されているが、その治療効果は示すことができる抗癌剤を指す。
【0097】
少なくとも1種の抗癌剤を含む粒子は、上記規定の第1の反応性基を有する抗癌剤含有粒子、好ましくはナノ粒子である。粒子は、例えば、ビシクロ[6.1.0]ノニン修飾グリコールキトサンナノ粒子(BCN-CNPs)であってよい。CNPは、高い適合性で虫歯薬物をカプセル化できることが知られており、薬物送達に広く使用されている。
【0098】
化学療法は、トポイソメラーゼI又はIIの阻害剤、DNA架橋剤、DNAアルキル化剤、代謝拮抗剤及び/又は有糸分裂紡錘体の阻害剤を含んでもよい。
【0099】
トポイソメラーゼI及び/又はIIの阻害剤としては、エトポシド、トポテカン、カンプトテシン、イリノテカン、アムサクリン、イントプリシン、アントラサイクリン類、例えばドキソルビシン、エピルビシン、ダウノルビシン、イダルビシン及びミトザントロンが挙げられるが、これらに限定されない。トポイソメラーゼI及びIIの阻害剤としては、イントプレシンが挙げられるが、これに限定されない。
【0100】
DNA架橋剤としては、シスプラチン、カルボプラチン及びオキサリプラチンが挙げられるが、これらに限定されない。
【0101】
代謝拮抗剤は、核酸合成に関与する酵素を遮断する、又はDNAに組み込まれることにより、誤った遺伝子コードを産生し、アポトーシスをもたらす。その非網羅的な例としては、葉酸アンタゴニスト、ピリミジン類似体、プリン類似体及びアデノシンデアミナーゼ阻害剤、より具体的にはメトトレキサート、フロクスウリジン、シタラビン、6-メルカプトプリン、6-チオグアニン、リン酸フルダラビン、ペントスタチン、5-フルオロウラシル、ゲムシタビン及びカペシタビンが挙げられるが、これらに限定されない。
【0102】
アルキル化剤としては、ナイトロジェンマスタード類、エチレンイミン誘導体類、スルホン酸アルキル類、ニトロソ尿素類、金属塩及びトリアゼン類が挙げられるが、これらに限定されない。その非網羅的な例としては、ウラシルマスタード、クロルメチン、シクロホスファミド(CYTOXAN(登録商標))、イホスファミド、メルファラン、クロラムブシル、ピポブロマン、トリエチレンメラミン、トリエチレンチオホスホラミン、ブスルファン、カルムスチン、ロムスチン、ホテムスチン、シスプラチン、カルボプラチン、オキサリプラチン、チオテパ、ストレプトゾシン、ダカルバジン、及びテモゾロミドが挙げられる。
【0103】
有糸分裂紡錘体の阻害剤としては、パクリタキセル、ドセタキセル、ビノレルビン、ラロタキセル(XRP9881とも呼ばれる;サノフィ・アベンティス社)、XRP6258(サノフィ・アベンティス社)、BMS-184476(ブリストル・マイヤーズ スクイブ社)、BMS-188797(ブリストル・マイヤーズ スクイブ社)、BMS-275183(ブリストル・マイヤーズ スクイブ社)、オルタタキセル(IDN 5109、BAY 59-8862 又は SB-T-101131とも呼ばれる;ブリストル・マイヤーズ スクイブ社)、RPR 109881A (ブリストル・マイヤーズ スクイブ社)、RPR 116258 (ブリストル・マイヤーズ スクイブ社)、 NBT-287 (タペストリー社)、PG-パクリタキセル(CT-2103、PPX、パクリタキセルポリグルメックス、パクリタキセルポリグルタメート又はXyotax(商標)とも呼ばれる)、ABRAXANE(登録商標)(Nab-パクリタキセルとも呼ばれる;ABRAXIS BIOSCIENCE社)、テセタキセル(DJ-927とも呼ばれる)、IDN 5390(インデナ社)、タキソプレキシン(ドコサヘキサン酸パクリタキセルとも呼ばれる;プロタガ社)、DHA-パクリタキセル(Taxoprexin(登録商標)とも呼ばれる)、及びMAC-321(WYETH社)が挙げられるが、これらに限定されない。また、Hennenfent&Govindan(2006,Annals of Oncology,17,735-749)の総説も参照のこと。
【0104】
免疫チェックポイント阻害剤は、イピリムマブ等の抗CT LA-4(細胞傷害性 T リンパ球関連タンパク質4)療法、ニボルマブ、ペムブロリズマブ、若しくはBGB-A317等のPD-1(プログラム細胞死タンパク質1)阻害剤、アテゾリズマブ、アベルマブ、若しくはデュルバルマブ等のPDL1(プログラム細胞死リガンド)阻害剤、BMS-986016等のLAG-3(リンパ球活性化遺伝子3)阻害剤、TIM-3(T細胞免疫グロブリン及びムチンドメイン含有3)阻害剤、TIGIT(Ig及びITIMドメインを有するT細胞免疫受容体)阻害剤、BLTA(B及びTリンパ球アテニュエーター)阻害剤、エパカドスタット等のIDO1阻害剤、又はそれらの組み合わせからなる群より選択できる。
【0105】
ホルモン療法は、例えば、タモキシフェン、フェアストン、アリミデックス、アロマシン、フェマーラ、ゾラデックス/ルプロン、メガセ、及びハロテスチンを含む。
【0106】
本発明による組成物の多細胞生物由来の真核細胞は、好ましくは単離された非癌細胞である。細胞は、好ましくは単離された多能性幹細胞である。細胞は、好ましくは間葉系幹細胞(MSC)である。MSCは、全身、好ましくは脂肪組織、骨髄、臓器を支持する組織、並びに骨、軟骨及び筋肉等に見出すことができる。本発明による真核細胞は、T細胞であってよい。
【0107】
細胞は、同種細胞又は好ましくは自己細胞(すなわち、対象又は患者自身由来の細胞)のいずれかである。
【0108】
特定の実施形態によれば、組成物は、上記で規定されたペントースリン酸経路の少なくとも1種の修飾単糖化合物を表面に提示するMSCを含む。このような組成物は、例えば、上記で詳述したように、第1の反応性基を含む化合物によって直接的又は間接的に検出される単糖の特性を使用することによって、癌細胞若しくは腫瘍を同定するため、又は癌を診断するために有用となり得る。このような組成物は、造血移植をモニターするための治療においても有用となり得る。
【0109】
別の特定の実施形態によれば、組成物は、抗癌剤又は少なくとも1種の抗癌剤を含む粒子に作動可能に連結され、化合物に結合される、上記規定のペントースリン酸経路の少なくとも1種の修飾単糖化合物を表面に提示するMSCを含む。このような組成物は、治療において、特に癌の治療においても有用となり得る。
【0110】
本発明の組成物は、好ましくは医薬組成物である。
【0111】
本明細書で熟慮される医薬組成物は、上記で詳述したような抗癌剤を提示する細胞に加えて、薬学的に許容可能な担体を含む。用語「薬学的に許容可能な担体」は、細胞の生物学的活性の有効性を妨害せず、及びそれが投与される宿主に対して毒性がない任意の担体(例えば、支持体、物質、溶媒等)を包含することを意味する。例えば、非経口投与のために、活性化合物(複数可)は、生理食塩水、デキストロース溶液、血清アルブミン及びリンガー溶液等のビヒクル中で注射用の単位剤形に製剤化してもよい。薬学的組成物は、薬学的に適合性のある溶媒中の溶液として、又は適切な薬学的溶媒若しくはビヒクル中の乳剤、懸濁液若しくは分散液として、又は当技術分野で公知の方法で固体ビヒクルを含有する丸剤、錠剤若しくはカプセル剤として製剤化できる。非経口投与に適した製剤は、好ましくはレシピエントの血液と等張である、活性成分の滅菌した油性又は水性調製物を好都合に含む。
【0112】
担体は、製剤の他の成分と適合性があり、レシピエントに有害でないという意味で「許容可能」でなければならない。医薬組成物は、適切な滅菌溶液の注射又は静脈内注入によって有利に適用される。これらの化学療法剤のほとんどを安全かつ有効に投与する方法は、当業者に公知である。加えて、それらの投与は、標準的な文献に記載されている。
【0113】
本発明の医薬組成物は、癌治療において、より具体的には癌細胞治療において使用できる。
【0114】
本発明の好ましい実施形態は、上記で規定された癌を治療するために使用するための、本明細書で規定される医薬組成物である。
【0115】
更に好ましい実施形態は、必要とする対象において癌を治療する方法であって、有効量の本明細書で規定される医薬組成物を投与する工程を含む方法である。
【0116】
更に好ましい実施形態は、癌の治療のための医薬の製造のための、本明細書で規定される医薬組成物の使用である。
【0117】
イメージング及び診断
【0118】
上記詳述したように、ペントースリン酸経路の修飾単糖化合物は、標識、好ましくは蛍光標識を用いて、特にクリックケミストリー反応によって検出可能な実体を形成するのに適している。
【0119】
したがって、本発明は、本明細書に開示されるペントースリン酸経路の修飾単糖化合物の、多細胞生物から真核細胞を検出するための研究ツールとしての使用、より具体的には癌細胞を同定又は分離するための使用に関する。本発明は、医用イメージング又は診断のための、好ましくは癌の診断のための、本明細書に開示されるペントースリン酸経路の修飾単糖化合物に更に関する。
【0120】
本発明の更なる態様及び利点を以下の実施例で説明するが、これらの実施例は例示的なものであり、限定するものではないとみなすべきである。
【実施例】
【0121】
(実施例1)
キシロース-N3の合成
【0122】
薄層クロマトグラフィーは、Merck 60 F254上で行い、UV、及び/又は硫酸、KMnO4若しくはリンモリブデン酸溶液による炭化によって検出した。シリカゲル60 40~63Mmをフラッシュカラムクロマトグラフィーに使用した。
【0123】
残留プロトン化溶媒を内部標準として使用して、Bruker Avance 300又は500MHz分光計でNMRスペクトルを得た。化学シフトδは100万分の1 (ppm)で示し、結合定数はヘルツ(Hz)として報告する。分裂パターンは、シングレット(s)、ダブレット(d)、トリプレット(t)、ダブレットのダブレット(dd)、ダブレットのダブレットのダブレット(ddd)として示す。解釈又は容易に視覚化できなかった分裂パターンを多重線(m)と指定する。
【0124】
質量スペクトルは、Waters LCT Premier XE(ToF)において、正(ESI+)又は負(ESI-)の検出モードでエレクトロスプレーイオン化によって測定した。
【0125】
IR-FTスペクトルをPerkin Elmer Spectrum 100分光計で記録した。特徴的な吸収をcm-1で報告する。
【0126】
比旋光度は、20℃及び589nmで10cmセルにおいてアントンパールMCP 300旋光計を用いて20℃で測定した。
【0127】
全ての生物学的試薬及び化学試薬は、分析グレード又は細胞培養グレードのものであり、商業的供給源から入手し、更に精製することなく使用した。
【0128】
乾燥ピリジン(90mL)中のD-キシロース(4.00g、26.6mmol、1.0当量)の溶液に、メトキシアミン塩酸塩(2.72g、32.0mmol、1.2当量)を加え、混合物を室温で15時間撹拌した。減圧下で溶媒を除去し、残留物をトルエンと3回共蒸発させた。2,2-ジメトキシプロパン(100mL)に残留物を再懸濁し、7-トルエンスルホン酸(1.01g、5.33mmol、0.2当量)を加え、懸濁液を4時間加熱還流した後、室温で更に15時間撹拌した。反応混合物をCelite(登録商標)で濾過して、溶媒を蒸発させた。残留物を酢酸エチル(200mL)に溶解し、飽和NaCl水溶液で洗浄した(2×150mL)。シリカフラッシュカラムクロマトグラフィー(シクロヘキサン/酢酸エチル9:1)による精製により、異性体2:3,4:5-ジイソプロピリデン-D-キシロースΟ-メチルオキシム(IIE/IIZ)及び未知の不純物(NMR比6:1:0.4、5.83g)の混合物が、無色油状物として得られる。この混合物は更に精製することなく、次の工程で使用した。第2のフラッシュカラムクロマトグラフィー(ジクロロメタン/MTBE 98:2)によって、純粋な(2E)の一定分量を得て、特性決定した。
【0129】
80%(v/v)酢酸水溶液(30mL)中の2:3,4:5-ジイソプロピリデン-D-キシロースΟ-メチルオキシム(II)(IIE/IIZ)及び不純物(1.50g)の溶液を、ロータリーエバポレーター上で200mbarの圧力で40℃に加熱した。2.5時間後、溶媒を減圧下で除去し、残留物をトルエンと共蒸発させた。シリカゲルフラッシュカラムクロマトグラフィー(シクロヘキサン/酢酸エチル1:1)の後、異性体2:3-イソプロピリデン-D-キシロースΟ-メチルオキシム(IIIE/IIIZ)の混合物(NMR比4:1、876mg、3工程で58%)を無色油状物として得た。NMRによる純度は95%を超えていた。
【0130】
-20℃の乾燥ピリジン(2.0mL)中の2:3-イソプロピリデン-D-キシロースΟ-メチルオキシム(III)(IIIE/IIIZ)(100mg、0.46mmol、1.0当量)の溶液に、塩化メシル(0.10mL、1.37mmol、3.0当量)を加え、反応混合物を-20℃で1.5時間撹拌した。反応をCH3OH(0.3mL)でクエンチした後、溶媒を真空下で除去した。得られた残留物をシリカフラッシュカラムクロマトグラフィー(シクロヘキサン/酢酸エチル6:4)により精製して、2:3-イソプロピリデン-5-Ο-メタンスルホニル-D-キシロースΟ-メチルオキシム(IVE/IVZ)の混合物(NMR比4:1、110mg、81%)を無色油状物として得た。フラッシュカラムクロマトグラフィー(ジクロロメタン/ジエチルエーテル9:1)によって純粋な(IVE)異性体の一定分量を得て、特性決定した。NMRによる純度は95%を超えていた。
【0131】
N,N-ジメチルホルムアミド(30.0mL、0.10M)中の(IVE/IVZ)(810mg、2.72mmol、1.0当量)の溶液に、アジ化ナトリウム(531mg、8.17mmol、3.0当量)を加え、反応混合物を80℃で15時間加熱した。次いで、溶媒を減圧下で除去して、残留物をフラッシュカラムクロマトグラフィー(シクロヘキサン/酢酸エチル9:1)によって精製し、5-アジド-5-デオキシ-2:3-イソプロピリデン-D-キシロースΟ-メチルオキシム(VE/VZ)の混合物(NMR比7:3、637mg、96%)を黄色がかった油として得た。特性決定のために、フラッシュカラムクロマトグラフィー(ジクロロメタン/MTBE 97:3)によって、(VE)の画分を単離した。NMRによる純度は95%を超えていた。
【0132】
80%(v/v)酢酸水溶液(120mL)中の(VE/VZ)(820mg、3.36mmol、1.0当量)の溶液に、ホルムアルデヒド(0.8mL)を加え、反応混合物を室温で1時間撹拌した。溶媒を減圧下で除去し、トルエンとの共蒸発を行って、酢酸の完全な除去を確実にした。粗化合物5-アジド-5-デオキシ-2:3-イソプロピリデン-D-キシロース(VI)(682mg)を得た。
【0133】
AcOH/H2O(8mL:5mL)の混合物中の5-アジド-5-デオキシ-2:3-イソプロピリデン-D-キシロース(VI)(100mg)の溶液を100℃で1時間撹拌した。反応媒体を濃縮し、トルエンで5回共蒸発させて褐色油状物を得た。
【0134】
シリカフラッシュカラムクロマトグラフィー(SiO2、12g、固体残留物、ジクロロメタン/メタノール;100:0~50:50)で粗残留物を精製して、5-アジド-5-デオキシ-キシロース(キシロース-N3)を無色油状物として得た。NMRによる純度は85%を超えていた。
【0135】
(実施例2)
リボース-N3の合成
【0136】
ピリジン(66mL)中のD-リボース(10.0g、65.9mmol、1.0当量)の溶液を、100℃で2時間加熱した。室温に冷却した後、塩化トシル(1.1当量、13.8g、72.5mmol)を加え、反応媒体を27時間撹拌した。無水酢酸(5.33当量、33mL、351mmol)を加え、反応媒体を43時間撹拌した後、真空下で濃縮し、次いでトルエンと共蒸発させて、黒色油状物を得た。残留物をアルゴン雰囲気下でDMF(164mL)に再懸濁し、次いでアジ化ナトリウム(2当量、8.57g、131mmol)を加えた。懸濁液を80℃で19時間加熱した。水を加え、水相をAcOEtで抽出した。混ぜ合わせた有機相を水で2回、飽和NaCl溶液で2回洗浄し、Na2SO4で乾燥させ、濾過して、濃縮し、16.6gの黒色油状物を得た。
【0137】
シリカフラッシュカラムクロマトグラフィー(SiO2、CH2Cl2中で液体析出、シクロヘキサン/AcOEt;95:5~70:30)で粗生成物を精製して、化合物(2b)の2つの画分(2.28g)を得た。
【0138】
【0139】
MeONaの溶液(0.1当量、MeOH中で5.4M、37μL、0.199mmol)を化合物(2b)(1当量、600mg、1.99mmol)の溶液に加えた。反応媒体を室温で1時間撹拌し、アンバーライト IR-120[H+]樹脂を加えることによりpH 5に中和した。混合物を綿で濾過し、低圧下で濃縮した。シリカフラッシュカラムクロマトグラフィー(固体沈殿物、CH2Cl2/MeOH 100:0~50:50)で生成物を精製して、リボース-N3を無色油状物として得た。同じ手順に従って2つのバッチを調製し、水に可溶化し、凍結乾燥した。
【0140】
(実施例3)
細胞の標識化
材料及び方法:
細胞培養:
【0141】
10%ウシ胎児血清(FBS)(VWR international S.A.S社)を補充した適切な培地中で、細胞株を増殖させた。培養培地は2日毎に交換した。細胞の継代は、Tryp-LE express 1x(Gibco社)を使用して行った。細胞生存率は、トリパンブルー色素排除試験法を使用して推定した。
【0142】
キシロース-N3又はリボース-N3プローブへの細胞曝露:
【0143】
5×104細胞/ウェルの密度で、細胞を24ウェルプレートに播種した。次に、細胞を37℃、5%CO2で24時間インキュベートした。培養培地を試験細胞に適合させ、10%ウシ胎児血清(FBS)を補充した。インキュベーション時間は、試験した細胞の1倍加時間に対応した。癌/非癌の蛍光シグナルの比は、癌細胞及び対応する非癌細胞に対して試験したキシロース-N3又はリボース-N3で得られた蛍光強度に基づいて計算した。
【0144】
抗ビオチン抗体による標識:
【0145】
キシロース-N3又はリボース-N3プローブの蛍光同化を、スルホ-DBCO-ビオチン(1mM)を使用する銅フリークリックケミストリーによって可視化し、続いてマウス抗ビオチンAlexa Fluor 488抗体コンジュゲート(0.62mg/mlストック、Jackson ImmunoResearch社、希釈1/10)で標識した。クリック反応を以下のように実施した。24時間のインキュベーション時間で、培養培地を除去し、付着細胞をPBSで2回洗浄した。細胞をTryp-LEで剥離し、PBSで2回洗浄し、380gで2分間遠心分離した。細胞ペレットを10μLのスルホ-DBCO-ビオチンで再懸濁し、暗所、37℃で30分間インキュベートした。その後、細胞をPBSで2回洗浄して、遠心分離し、細胞ペレットを10μLのマウス抗ビオチン抗体溶液で再懸濁した後、暗所、室温でインキュベートした。その後、細胞をPBSで2回洗浄し、小さな細胞懸濁スポット(5μL)をpolysine(登録商標)接着スライド(VWR international S.A.S社)に入れ、暗室で乾燥するまで(20分)置いておいた。スポットを4%パラホルムアルデヒドで20分間、暗所、室温で固定した。次いで、スライドをPBSで2回洗浄した後、グリセロール封入剤(Dako社)を使用して、正方形のカバーガラス(VWR international S.A.S社)で再び覆い、暗室内、4℃で保存した。
【0146】
蛍光顕微鏡法:
【0147】
60X/1.3デジタル開口/1.4SRI(シリコーン屈折指数)対物レンズ、及び109nm/ピクセル較正ピクセルサイズを有するHamamatsu orcaフラッシュ4 LTカメラを備えたOlympus Microscopy IX83(Olympus Life Science社)を使用して、蛍光取得を記録した。励起光は、AT 535/30 X励起フィルタを使用して、X-CITE 120 LEDによって放射され、信号は、AT 180/40m放射フィルタを使用して監視された。緑色光曝露時間は600msであり、白色光曝露時間はDIC法によって340msに決定された。Cellsens dimension V1.16ソフトウェアによって分析された取得領域サイズは、スポットに含まれる細胞数に応じて異なっていた。
【0148】
画像処理及び蛍光定量化:
【0149】
Cellsens dimension V1.16ソフトウェアの計数単位及び測定単位を使用して、画像を処理した。バックグラウンドノイズを以下のように削除した:まず、画像のバックグラウンドにおけるROIを決めて、平均ピクセル強度を計算した。こうして得られた値を画像の全画素から減算した。各細胞の蛍光強度を、3030の値に設定された閾値から決定した。3030未満の強度を有する全てのピクセルは計数しなかった。
【0150】
結果:
【0151】
結果を以下に示す(Table 1(表1))。結果は、対応する非癌細胞株と比較して、試験した癌細胞株についてより高い蛍光強度を示す(比は1より高い)。
【0152】
【国際調査報告】