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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-09-08
(54)【発明の名称】広帯域増幅器線形化技術
(51)【国際特許分類】
   H03F 1/32 20060101AFI20230901BHJP
   H03F 3/24 20060101ALI20230901BHJP
   H03F 3/45 20060101ALI20230901BHJP
   H03F 3/68 20060101ALI20230901BHJP
【FI】
H03F1/32
H03F3/24
H03F3/45
H03F3/68 220
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023512195
(86)(22)【出願日】2021-08-19
(85)【翻訳文提出日】2023-04-10
(86)【国際出願番号】 US2021046782
(87)【国際公開番号】W WO2022040476
(87)【国際公開日】2022-02-24
(31)【優先権主張番号】63/067,499
(32)【優先日】2020-08-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】17/406,585
(32)【優先日】2021-08-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】317005044
【氏名又は名称】キョウセラ インターナショナル インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ウー,クン-ロン
(72)【発明者】
【氏名】ワン,ジェームズ ジュン-ミン
【テーマコード(参考)】
5J500
【Fターム(参考)】
5J500AA01
5J500AA12
5J500AA21
5J500AA41
5J500AC05
5J500AC21
5J500AC62
5J500AC81
5J500AF10
5J500AF15
5J500AH10
5J500AH16
5J500AK02
5J500AK12
5J500AK29
5J500AS14
5J500AT01
5J500AT07
5J500DN04
5J500DN22
5J500DN23
5J500DP02
5J500NG01
(57)【要約】
広帯域電力増幅器(Power Amplifier:PA)線形化技術を提案する。電力増幅器を広帯域で線形化するための電流補間技術を提案する。広帯域電力増幅器線形化技術は、サブミクロンCMOS差動電力増幅器に対して広帯域にわたって3次相互変調を改善する電流補間技術を用いた、新しいトランスコンダクタンスGmリニアライザーを採用している。逆位相の差動ペアに少量の補償バイアスを使用することで、広帯域での線形化を実現し、補償バイアスを調整することで最適化できる。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
線形化差動電力増幅器(Power Amplifier:PA)であって、
MN1ゲートとMN2ゲートが入力ノードに結合され、MN1ドレインとMN2ドレインが出力ノードに正結合されているMN1とMN2の第1の差動トランジスター対と、
MN3ゲートとMN4ゲートが前記入力ノードに結合され、MN3ドレインとMN4ドレインが前記出力ノードに負結合されているMN3とMN4の第2の差動トランジスター対と、
前記第1の差動トランジスター対に動作バイアス電流を供給するための第1の正常テールバイアストランジスターMB1と、
前記第2の差動トランジスター対に補償バイアス電流を供給するための第2の補償テールバイアストランジスターMB2と、を備え、
前記補償バイアス電流は、PAを線形化するために前記動作バイアス電流から減算される、PA。
【請求項2】
MB1は、前記第1の差動トランジスター対の前記動作バイアス電流が前記補償バイアス電流よりも高くなるように、小さいチャネル抵抗を有する、請求項1に記載のPA。
【請求項3】
MB2は、前記第2の差動トランジスター対の前記補償バイアス電流が前記動作バイアス電流より低くなるように、大きなチャネル抵抗を有する、請求項1に記載のPA。
【請求項4】
MN1とMN2の前記第1の差動トランジスター対は、前記PAに対して+Δ/2の正の利得を生成する、請求項1に記載のPA。
【請求項5】
MN3とMN4の前記第2の差動トランジスター対は、前記PAに対して-Δ/2の負の利得を生成する、請求項1に記載のPA。
【請求項6】
前記第2の差動トランジスター対に第2の動作バイアス電流を供給するための第3の正常テールバイアストランジスターMB3と、
前記第1の差動トランジスター対に第2の補償バイアス電流を供給するための第4の補償テールバイアストランジスターMB4と、をさらに備え、
前記第2の補償バイアス電流は、前記PAを線形化するために前記第2の動作バイアス電流から減算される、請求項1に記載のPA。
【請求項7】
前記第2の動作バイアス電流が前記第2の補償バイアス電流より高くなるように、MB3は小さなチャネル抵抗を有し、MB4は大きなチャネル抵抗を有する、請求項6に記載のPA。
【請求項8】
制御信号が、前記PAの正の電力利得+Δ/2のためにMB1とMB2をオンにしMB3とMB4をオフにし、制御信号が、前記PAの負の電力利得-Δ/2のためにMB1とMB2をオフにし、MB3とMB4をオンにする、請求項6に記載のPA。
【請求項9】
入力信号を受信する前記入力ノードに結合された入力整合ネットワークと、
増幅された出力信号を生成する前記出力ノードに結合された出力整合ネットワークと、をさらに備える、請求項1に記載のPA。
【請求項10】
前記線形化されたPAは、広帯域にわたって低減された3次相互変調(Third-order Intermodulation:IM3)を有する、請求項1に記載のPA。
【請求項11】
線形化された電力増幅器(Power Amplifier:PA)によって実行される方法であって、
MN1ゲートとMN2ゲートが入力ノードに結合され、MN1ドレインとMN2ドレインが出力ノードに正結合されている、MN1とMN2の第1の差動トランジスター対によって入力信号を受信する工程と、
MN3ゲートとMN4ゲートが前記入力ノードに結合され、MN3ドレインとMN4ドレインが前記出力ノードに負結合されている、MN3とMN4の第2の差動トランジスター対によって前記入力信号を受信する工程と、
第1の正常テールバイアストランジスターMB1によって前記第1の差動トランジスター対に動作バイアス電流を供給する工程と、
第2の補償テールバイアストランジスターMB2によって前記第2の差動トランジスター対に補償バイアス電流を供給する工程と、を含み、
前記補償バイアス電流は前記PAを線形化するために前記動作バイアス電流から差し引かれる、方法。
【請求項12】
MB1は、前記第1の差動トランジスター対の前記動作バイアス電流が前記補償バイアス電流よりも高くなるように、小さなチャネル抵抗を有する、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
MB2は、前記第2の差動トランジスター対の前記補償バイアス電流が前記動作バイアス電流より低くなるように、大きなチャネル抵抗を有する、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
MN1とMN2の前記第1の差動トランジスター対は、前記入力信号に対して+Δ/2の正の利得を生成する、請求項11に記載の方法。
【請求項15】
MN3とMN4の前記第2の差動トランジスター対は、前記入力信号に対して-Δ/2の負の利得を生成する、請求項11に記載の方法。
【請求項16】
第3の正常テールバイアストランジスターMB3によって、前記第2の差動トランジスター対に第2の動作バイアス電流を供給する工程と、
第4の補償テールバイアストランジスターMB4によって、前記第1の差動トランジスター対に第2の補償バイアス電流を供給する工程と、をさらに含み、
前記第2の補償バイアス電流は、前記PAを線形化するために前記第2の動作バイアス電流から減算される、請求項11に記載の方法。
【請求項17】
前記第2の動作バイアス電流が前記第2の補償バイアス電流より高くなるように、MB3は小さなチャネル抵抗を有し、MB4は大きなチャネル抵抗を有する、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
制御信号が、前記PAの正の電力利得+Δ/2のためにMB1とMB2をオンにしMB3とMB4をオフにし、制御信号が、前記PAの負の電力利得-Δ/2のためにMB1とMB2をオフにし、MB3とMB4をオンにする、請求項16に記載の方法。
【請求項19】
前記入力信号は入力整合ネットワーク(Input Matching Network:IMN)に受信され、出力信号が出力整合ネットワーク(Output Matching Network:OMN)から生成される、請求項11に記載の方法。
【請求項20】
前記線形化されたPAは、広帯域にわたって低減された3次相互変調(Third-order Intermodulation:IM3)を有する、請求項11に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
ウー・クンロン
ジェームズ・ジュンミン・ワン
関連出願との相互参照
本出願は、2020年8月19日に出願された「Wideband Amplifier Linearization Techniques」と題する米国仮出願番号63/067,499からの35 U.S.C §119に基づく優先権を主張しており、その主題は参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
開示される実施形態は、一般的に電力増幅器に関し、より詳細には、無線周波数(Radio Frequency:RF)増幅器線形化技術に関する。
【背景技術】
【0003】
移動体通信システムの基本コンポーネントは電力増幅器(Power Amplifier:PA)である。電力増幅器は移動体通信システムに不可欠な部品であり、基本的に非線形である。非線形性を低減するために、電力増幅器をその動作曲線の線形部分内で動作するようにバックオフすることができる。電力増幅器の線形性を損なわずにその効率を向上させるためには、電力増幅器の線形性が不可欠である。移動体通信システムにおける線形化および電力効率化のために、電力増幅器の様々な線形化技術が用いられている。
【0004】
図1(先行技術)は、低バイアス条件でバイアスされたNMOS電力増幅器PA100を示す。効率化と高出力を実現するために、通常電力増幅器はAB級、B級と呼ばれる低バイアス条件で使用される。しかし、このようなバイアス条件では、特に高出力時に非線形な静電容量変動が発生する。Cgsの非線形静電容量は、主にAB級の電力増幅器の性能を制限している。AB級は通常、高効率化のためにB級に対して閉じられた、深いAB級にバイアスがかかっている。しかし図1に示すとおり、M1のCgs変動は高出力時に大きくなる。
【0005】
Cgsの非線形静電容量によって、入力大信号が歪められる。AM-AM歪は、供給電圧とRF出力電圧の包絡線の差である。AM-PM歪は、供給電圧の変調によってRF出力キャリアに不要な位相変調が生じることである。相互変調歪は、2つ以上の信号が非線形増幅器を介して混合されたときに発生しうる。その音は互いに作用して、変化した(あるいは変調された)振幅を生じる。したがって、高調波周波数間であるため相互変調歪と呼ばれている。
【0006】
サブミクロンCMOSトランジスターの供給電圧は、1ボルト以下に近づいている。よって、増幅器の設計上、線形出力は著しく制限され、3次相互変調(Third-order Intermodulation:IM3)は劣化する。増幅器の線形性が劣化すると、相互変調積または誤りベクトル度(Error Vector Magnitude:EVM)で測定されるように、信号品質およびダイナミックレンジが損なわれる。WiFiまたは携帯電話ネットワークで使用されるOFDM信号の場合、RF信号は狭い周波数間隔で多数のサブキャリアから構成され、信号帯域は20MHzからギガヘルツにわたる。信号全体の品質を確保するためには、このような広帯域にわたって増幅器の線形性を維持する必要がある。しかし、既存の線形化技術の多くは狭い帯域幅でしか機能しないという問題がある。
【0007】
広帯域電力増幅器の線形化技術が求められている。
【発明の概要】
【0008】
広帯域電力増幅器(Power Amplifier:PA)線形化技術を提案する。電力増幅器を広帯域で線形化するための電流補間技術を提案する。広帯域電力増幅器線形化技術は、サブミクロンCMOS差動電力増幅器に対して広帯域にわたって3次相互変調を改善する電流補間技術を用いた、新しいトランスコンダクタンスGmリニアライザーを採用している。逆位相の差動ペアに少量の補償バイアスを使用することで、広帯域での線形化を実現し、補償バイアスを調整することで最適化できる。
【0009】
一実施形態において、電力増幅器は、MN1とMN2の第1の差動トランジスター対によって入力信号を受信する。MN1ゲートとMN2ゲートは入力ノードに結合され、MN1ドレインとMN2ドレインは出力ノードに正結合されている。PAは、MN3とMN4の第2の差動トランジスター対によって入力信号を受信する。MN3ゲートとMN4ゲートは入力ノードに結合され,MN3ドレインとMN4ドレインは出力ノードに負結合されている。第1の正常テールバイアストランジスターMB1は、第1の差動トランジスター対に動作バイアス電流を供給する。第2の補償テールバイアストランジスターMB2は、第2の差動トランジスター対に補償バイアス電流を供給する。補償バイアス電流は、PAを線形化するために動作バイアス電流から差し引かれる必要がある。
【0010】
他の実施形態および利点は、以下の詳細な説明に記述されている。発明の概要は、本発明を定義するものではない。本発明は特許請求の範囲によって定義される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1(先行技術)は、低バイアス条件でバイアスされたNMOS電力増幅器PAを示す。
図2図2は、一新規態様に係る、トランスコンダクタンスGmリニアライザーを有するCMOS差動電力増幅器PAを示す。
図3A図3Aは、一新規態様に係る、正の位相利得を供給する線形化電力増幅器の一実施形態を示す。
図3B図3Bは、一新規態様に係る、負の位相利得を供給する線形化電力増幅器の別の実施形態を示す。
図4図4Aから4Dは、一新規態様に係る、65nmCMOSプロセスにおける差動増幅器のトランスコンダクタンスのシミュレーション結果を示す。
図5図5Aから5Dは、一新規態様に係る、65nmCMOSプロセスにおける差動増幅器のツートーンシミュレーション結果を示す。
図6図6は、一新規態様に係る、電流補間を用いた電力増幅器線形化方法のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明のいくつかの実施形態について詳細に言及し、その例を添付図面に示す。
【0013】
図2は、一新規態様に係る、トランスコンダクタンスGmリニアライザーを有するCMOS差動電力増幅器PA200を示す。NMOSは、n型酸化金属-半導体電界効果トランジスター(Metal Oxide Silicon Field Effect Transistor:MOSFET)である。NMOSトランジスターは、n型のソースとドレイン、p型の基板で構成される。電圧をゲートに印加すると、ボディー(p型基板)内の正孔がゲートから離れるように駆動される。これにより、ソースとドレインの間にn型チャネルが形成され、誘導されたn型チャネルを介してソースからドレインへ電子から電流が伝導される。PMOSはp型MOSFETである。PMOSトランジスターは、p型のソースとドレイン、n型の基板で構成される。ソース-ゲート間に正の電圧(ゲート-ソース間は負の電圧)を印加すると、ソース-ドレイン間に逆極性のp型チャネルが形成される。p型誘導チャネルを通じて、ソースからドレインに正孔を介して電流が通電される。CMOS技術は、NMOSとPMOSを組み合わせた技術である。
【0014】
図2において、CMOS電力増幅器PA200は、入力整合ネットワーク(Input Matching Network:IMN)、出力整合ネットワーク(Output Matching Network:OMN)、第1の差動NMOSトランジスター対MN1、MN2、第2の差動NMOSトランジスター対MN3、MN4で構成される。さらに、第1のNMOS対は2つのテールバイアストランジスターMB1とMB4に接続され、第2のNMOS対は2つのテールバイアストランジスターMB3とMB2にも接続されている。CMOSトランジスターの電流-電圧(I-V)特性曲線が非線形であるため、電力増幅器は基本的に非線形である。この非線形性は望ましくない入力-出力歪みを引き起こす。AM-AM歪は、供給電圧とRF出力電圧の包絡線の差である。AM-PM歪は、供給電圧の変調によってRF出力キャリアに不要な位相変調が生じることである。相互変調歪は、2つ以上の信号が非線形増幅器を介して混合されたときに発生しうる。その音は互いに作用して、変化した(あるいは変調された)振幅を生じる。したがって、高調波周波数間であるため相互変調歪と呼ばれている。
【0015】
電力増幅器の線形性を損なわずにその効率を向上させるためには、電力増幅器の線形性が不可欠である。しかし、サブミクロンCMOSトランジスターの供給電圧は1V以下に近づいている。よって増幅器の設計上、線形出力が著しく制限され、3次相互変調(Third-order Intermodulation:IM3)は劣化する。増幅器の線形性が劣化すると、相互変調積またはEVMで測定されるように、信号品質およびダイナミックレンジが損なわれる。WiFiまたは携帯電話ネットワークで使用されるOFDM信号の場合、RF信号は狭い周波数間隔で多数のサブキャリアから構成され、信号帯域は20MHzからギガヘルツにわたる。信号全体の品質を確保するためには、このような広帯域にわたって増幅器の線形性を維持する必要がある。しかし、既存の線形化技術の多くは狭い帯域幅でしか機能しないという問題がある。
【0016】
一新規態様によれば、サブミクロンCMOS差動増幅器に対して広帯域にわたって3次相互変調を改善する新しいトランスコンダクタンスGmリニアライザーを採用した、広帯域増幅器線形化技術が提案されている。PA200は2組の差動トランスコンダクタンストランジスター対で構成され、それぞれにバイアス電流が供給される。一方の対には正常の動作バイアス電流が、相補型の対には逆位相の補償バイアス電流が供給される。補償電流源の概念は、主電流源から正相の正常動作バイアス電流を差し引いた負相の補償バイアス電流を生成することである。これを電流補間という。一般的に補償バイアス電流は正常動作バイアス電流より小さく、増幅器の利得を著しく低下させることなくトランジスターGmを線形化することを目的とする。
【0017】
図2の例では、PA200は2組の差動トランスコンダクタンストランジスター対で構成される。第1の対(MN1、MN2)は、トランジスターのドレイン端子から出力負荷整合ネットワークに正接続される。第2の対(MN3、MN4)は、トランジスターのドレインから出力整合ネットワークへ負接続される。なお、2組の相補型トランジスター対に均等にバイアスがかかっていれば、増幅器に正相利得Δ/2または負相利得-Δ/2を与えるためにこの相補接続(正負)が使用される。従来の実装では、固定利得増幅器の場合、差動トランスコンダクタンストランジスター対の1つのみをオンにする。
【0018】
異なる利得調整量+/-Δ/2、+/-Δ/2等を有する相補型差動トランスコンダクタンストランジスター対を複数組、同一の入力整合ネットワークと出力整合ネットワークの間で並列接続することにより、可変利得増幅器を形成することができる。複数組の相補型差動トランスコンダクタンストランジスター対のうち、正接続されている組は電流の加算に、負接続されている組は電流の減算に寄与するように作動される。増幅器の利得は、正接続されて作動している組と、負接続されて作動する組の組み合わせによって決定される。
【0019】
なお、差動トランスコンダクタンストランジスター対の電流バイアスは、テールバイアストランジスターにより、差動トランジスター対の共通ソース端子とグランド間に供給される。提案された発明では、各差動トランスコンダクタンストランジスター対の共通ソース端子とグランドに、2つのテールバイアストランジスターが取り付けられている。例えば、テールバイアストランジスターMB1およびMB4は、第1の差動トランジスター対(MN1およびMN2)の共通ソース端子に取り付けられており、テールバイアストランジスターMB3およびMB2は、第2の差動トランジスター対(MN3およびMN4)の共通ソース端子に取り付けられている。テールバイアストランジスターMB1、MB2を1対とし、テールバイアストランジスターMB3、MB4をもう1つの対とする。各組のうち、第1のテールバイアストランジスターを正常テールバイアストランジスター(MB1、MB3など)、第2のテールバイアストランジスターを補償テールバイアストランジスター(MB2、MB4など)と称する。
【0020】
各テールバイアストランジスター対は、第1の正常テールバイアストランジスターが増幅器の正常動作バイアス電流を供給し、第2の補償テールトランジスターが補償型(逆相)差動トランスコンダクタンストランジスター対に補償バイアス電流を供給して、異なるバイアス電流量をトランスコンダクタンストランジスター対に供給する。例えば、正位相利得の場合、MB1は第1の対(MN1、MN2)に正常動作バイアス電流を供給し、MB2は第2の対(MN3、MN4)に補償バイアス電流を供給する。同様に、負の位相利得の場合、MB3は第2の対(MN3、MN4)に正常動作バイアス電流を供給し、MB4は第1の対(MN1、MN2)に補償バイアス電流を供給する。一般的に補償バイアス電流は正常動作バイアス電流より小さく、増幅器の利得を著しく低下させることなくトランジスターGmを線形化することを目的とする。
【0021】
2組のテールバイアストランジスター対を制御するために、「フェーズスイッチ」と呼ばれる制御信号を用いる。この制御信号により、正接続された差動トランスコンダクタンストランジスター対の正常テールバイアストランジスターをオンにして正利得Δ/2を決定するか、負接続された差動トランスコンダクタンストランジスター対の正常テールバイアストランジスターをオンにして負利得-Δ/2を決定する。また、この制御信号により、相補型差動トランスコンダクタンストランジスター対の補償テールバイアストランジスターがオンになり、線形化が実現される。
【0022】
図3Aは、一新規態様に係る、正の位相利得を供給する線形化電力増幅器200の一実施形態を示す。正の位相利得Δ/2の場合、制御信号により、正常テールバイアストランジスターMB1と正接続の差動トランスコンダクタンストランジスター対(MN1、MN2)がオンになる。また、この制御信号により、相補型差動トランスコンダクタンストランジスター対(MN3、MN4)の補償テールバイアストランジスターMB2がオンになり、線形化が実現される。
【0023】
図3Bは、一新規態様に係る負の位相利得を供給する線形化電力増幅器200の別の実施形態を示す。負の位相利得-Δ/2の場合、制御信号により、正常テールバイアストランジスターMB3と負接続された差動トランスコンダクタンストランジスター対(MN3、MN4)がオンになる。また、この制御信号により、相補型差動トランスコンダクタンストランジスター対(MN1、MN2)の補償テールバイアストランジスターMB4がオンになり、線形化が実現される。
【0024】
電流補間の概念は、主電流源からの正相電流を差し引いた負相電流を生成することによって主電流源を補償することである。テールバイアストランジスターのサイズを調整することで、正常動作バイアス電流と補償バイアス電流を制御できる。好ましい実施形態において、正常テールバイアストランジスターMB1およびMB3はサイズが小さく、補償テールバイアストランジスターMB2およびMB4はサイズが大きく、そのため補償バイアス電流は一般的に正常動作バイアス電流よりも小さくなり、線形化が実現される。重要な点は、差動増幅器のソース端子において異なるターンオンチャネル抵抗Rchを利用して、差動増幅器バイアス電流Idを調整することである。
【数1】

- Id0はRchを含まない増幅器ドレイン電流
- Vovはトランジスターオーバードライブ電圧
- Rchはトランジスターチャネル抵抗
- Wはトランジスターチャネル幅(サイズ)
【0025】
トランジスターチャネル抵抗Rchは、トランジスターのチャネル幅Wに反比例していることがわかる。その結果、チャネル幅が大きい(例えば、トランジスターサイズが大きい)とRchが下がり、続いて増幅器のドレイン電流が下がる。同様に、チャネル幅が小さい(例えば、トランジスターサイズが小さい)とRchが上がり、続いて増幅器のドレイン電流が上がる。
【0026】
図3Aに示す正位相増幅器の場合、正接続された差動対(MN1、MN2)には比較的高い正常動作バイアス電流でバイアスがかかる。このため、正常テールバイアストランジスターMB1のチャネル抵抗はできるだけ小さく設計されている。同時に、負接続された差動対(MN3、MN4)は相補対となり、比較的低い補償バイアス電流でバイアスがかかる。このため、補償テールバイアストランジスターMB2のチャネル抵抗は、正常テールバイアストランジスターMB1のチャネル抵抗より高く設計されている。
【0027】
図3Bに示す負性位相増幅器の場合、負接続された差動ペア(MN3、MN4)には比較的高い正常動作バイアス電流でバイアスがかかる。このため、正常テールバイアストランジスターMB3のチャネル抵抗はできるだけ小さく設計されている。同時に、正接続された差動対(MN1、MN2)は相補ペアとなり、比較的低い補償バイアス電流でバイアスがかかる。このため、補償テールバイアストランジスターMB4のチャネル抵抗は、正常テールバイアストランジスターMB3のチャネル抵抗より高く設計されている。
【0028】
図4Aから4Dは、一新規態様に係る、65nmCMOSプロセスにおける差動増幅器のトランスコンダクタンスGmのシミュレーション結果を示す。大信号操作の場合、増幅器にはトランスコンダクタンス(Gm)の非線形性の問題がある。図4(a)から図3(d)において、X軸のデルタは入力電圧Vinの差(例えばデルタ)であり、点線の曲線は線形化なし、実線の曲線は線形化ありである。図4(a)は、トランスコンダクタンスGmの曲線を示す。図4(b)は、トランスコンダクタンス(Gm2)の1次導出の曲線を示す。図4(c)は、トランスコンダクタンス(Gm3)の2次導出の曲線を示す。図4(d)は、Gmの2次導出の平均値を示す。
【0029】
図4(a)に示すように、デルタ入力電圧Vinの差が-0.2Vから0.2Vまで変化すると、差動対のトランスコンダクタンスは0.125から0.135A/Vまで変化する。提案された線形化技術を適用した場合、Gmは0.115から0.118Aに変化する。線形化しない場合に比べて、Gmの変化は著しく小さい。一連のGmの導出を行って、Gmの非線形性によって発生する異なる高調波成分をさらに観察することができる。例えば、Gmの1次導出は、図4(b)に示すとおりIM2と関連があり、Gmの2次導出は、図4(c)に示すとおりIM3と関連がある。図4(d)に示すように線形化すると、-0.2Vから0.2VデルタのGm3の平均値が低くなっていることがわかる。線形化により、Gm3の大きさに比例するIM3は低くなる。
【0030】
図5Aから5Dは、一新規態様に係る、65nmCMOSプロセスにおける差動増幅器のツートーンシミュレーション結果を示す。図5(a)と図5(b)では、入力電力(例えばPower_IF)を-34dBmから-14dBmまで掃引する。実線の曲線は線形化ありを示し、点線の曲線は線形化なしを示す。図5(a)は、200MHzのトーン間隔での1次および3次相互変調を示す。図5(b)は、100kから200MHzのトーン間隔での1次および3次相互変調を示す。図5(c)は、増幅器の電力利得を示す。図5(d)は、100kから200MHzのトーン間隔における3次相互変調の平均値を示す。
【0031】
図5(a)は、線形化した場合の低IM3の期待値を検証したものである。図5(a)は、特定のツートーン間隔周波数200MHzに基づくシミュレーション結果である。線形化増幅器の広帯域性能を確認するために、図5(b)に示すとおり間隔周波数を100kから200MHzまで掃引する。線形化したIM3は全て線形化なしの場合を下回っている。広帯域信号においてトーン間隔が間隔周波数に均等に分布している場合、図5(d)に示すとおり、IM3全体の改善量は100kから200MHzでのIM3の平均値となる。図5(d)は、線形化増幅器がIM3を10dB改善できることを示す。一方、図5(c)に示すように、電力利得は1.5dBしか低下していない。
【0032】
図6は、一新規態様に係る、電流補間を用いた電力増幅器線形化方法のフローチャートである。ステップ601において、電力増幅器は、MN1およびMN2の第1の差動トランジスター対によって入力信号を受信する。MN1ゲートとMN2ゲートは入力ノードに結合され、MN1ドレインとMN2ドレインは出力ノードに正結合されている。ステップ602において、PAは、MN3とMN4の第2の差動トランジスター対によって入力信号を受信する。MN3ゲートとMN4ゲートは入力ノードに結合され,MN3ドレインとMN4ドレインは出力ノードに負結合されている。ステップ603において、第1の正常テールバイアストランジスターMB1は、第1の差動トランジスター対に動作バイアス電流を供給する。ステップ604では、第2の補償テールバイアストランジスターMB2は、第2の差動トランジスター対に補償バイアス電流を供給する。補償バイアス電流は、PAを線形化するために動作バイアス電流から差し引かれる必要がある。
【0033】
本発明は、説明のために特定の具体的な実施形態に関連して説明されてきたが、本発明はこれに限定されるものではない。したがって、記載された実施形態の様々な特徴の様々な修正、適応、および組み合わせは、特許請求の範囲に規定される本発明の範囲から逸脱することなく実施され得る。
図1
図2
図3A
図3B
図4
図5
図6
【国際調査報告】