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特表2023-538665トコフェロール含有スクアレンエマルションアジュバントを有するCOVID-19ワクチン
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-09-08
(54)【発明の名称】トコフェロール含有スクアレンエマルションアジュバントを有するCOVID-19ワクチン
(51)【国際特許分類】
   A61K 39/215 20060101AFI20230901BHJP
   A61P 31/14 20060101ALI20230901BHJP
   A61K 9/107 20060101ALI20230901BHJP
   A61K 47/22 20060101ALI20230901BHJP
   A61K 47/06 20060101ALI20230901BHJP
   A61K 47/26 20060101ALI20230901BHJP
   C12N 15/866 20060101ALI20230901BHJP
   C12N 15/50 20060101ALI20230901BHJP
【FI】
A61K39/215
A61P31/14
A61K9/107
A61K47/22
A61K47/06
A61K47/26
C12N15/866 Z ZNA
C12N15/50
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023513099
(86)(22)【出願日】2021-08-23
(85)【翻訳文提出日】2023-04-14
(86)【国際出願番号】 US2021047149
(87)【国際公開番号】W WO2022046633
(87)【国際公開日】2022-03-03
(31)【優先権主張番号】63/069,171
(32)【優先日】2020-08-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】63/184,155
(32)【優先日】2021-05-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】63/189,044
(32)【優先日】2021-05-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】63/215,092
(32)【優先日】2021-06-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】517055195
【氏名又は名称】サノフィ パスツール インコーポレイテッド
(71)【出願人】
【識別番号】305060279
【氏名又は名称】グラクソスミスクライン バイオロジカルズ ソシエテ アノニム
(74)【代理人】
【識別番号】100127926
【弁理士】
【氏名又は名称】結田 純次
(74)【代理人】
【識別番号】100140132
【弁理士】
【氏名又は名称】竹林 則幸
(74)【代理人】
【識別番号】100216105
【弁理士】
【氏名又は名称】守安 智
(72)【発明者】
【氏名】ナタリー・アノソバ
(72)【発明者】
【氏名】サルバドール・フェルナンド・オウサル
(72)【発明者】
【氏名】キャサリン・ベリー
(72)【発明者】
【氏名】フローレンス・ブデ
(72)【発明者】
【氏名】トーマス・ブロイアー
(72)【発明者】
【氏名】ダニロ・カシミロ
(72)【発明者】
【氏名】ローマン・エム・チックス
(72)【発明者】
【氏名】グスタボ・ダヤン
(72)【発明者】
【氏名】ガイ・デ・ブライン
(72)【発明者】
【氏名】カルロス・ダイアズグラナドーズ
(72)【発明者】
【氏名】トン-ミン・フー
(72)【発明者】
【氏名】マリー・ギャリノ
(72)【発明者】
【氏名】ロリー・グレイディ
(72)【発明者】
【氏名】サンジェイ・グルナタン
(72)【発明者】
【氏名】キリル・カルニン
(72)【発明者】
【氏名】ニコライ・クラムツォーフ
(72)【発明者】
【氏名】ヴァレリー・ルキュリエ
(72)【発明者】
【氏名】ナウシーン・ラフマーン
(72)【発明者】
【氏名】ソフィー・ルイス
(72)【発明者】
【氏名】スティーヴン・サバリーノ
(72)【発明者】
【氏名】サランヤ・シュリダー
(72)【発明者】
【氏名】インドレッス・ケー・スリヴァスターヴァ
(72)【発明者】
【氏名】ジェームズ・タルタリア
(72)【発明者】
【氏名】ティモシー・ティベッツ
【テーマコード(参考)】
4C076
4C085
【Fターム(参考)】
4C076AA17
4C076BB15
4C076CC06
4C076DD08F
4C076DD23
4C076DD26
4C076DD34
4C076DD59
4C076FF11
4C085AA03
4C085BA71
4C085BB11
4C085CC08
4C085DD62
4C085FF11
4C085GG03
(57)【要約】
SARS-CoV-2感染症およびCOVID-19の予防的処置のための新規ワクチン、ならびにそのワクチンを作製する方法が提供され、ここで、ワクチンは、トコフェロールおよびスクアレンを含む水中油型エマルションを含有する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
免疫原性組成物であって、
(a)1つ、2つ、3つ、またはそれ以上の組換えSARS-CoV-2タンパク質であって、1つまたはそれ以上のタンパク質は、N末端からC末端へと、
(i)配列番号10の残基19~1243と少なくとも95%同一であり、配列番号10の687~690位における残基GSAS(配列番号6)と配列番号10の991位および992位における残基PPとが維持されている配列;ならびに
(ii)配列番号7を含む三量体化ドメイン
を含むポリペプチドの三量体である、組換えSARS-CoV-2タンパク質;ならびに
(b)トコフェロールおよびスクアレンを含む水中油型エマルションであるアジュバント
を含む、免疫原性組成物。
【請求項2】
免疫原性組成物であって、
(a)1つ、2つ、3つ、またはそれ以上の組換えSARS-CoV-2 Sタンパク質であって、それぞれは、
N末端からC末端へと、(i)昆虫またはバキュロウイルスタンパク質に由来するシグナルペプチド、(ii)配列番号10の残基19~1243と少なくとも95%同一であり、配列番号10の687~690位における残基GSAS(配列番号6)と配列番号10の991位および992位における残基PPとが維持されている配列;ならびに(iii)配列番号7を含む三量体化ドメインを含むポリペプチドを発現させるために、昆虫細胞にバキュロウイルスベクターを導入する工程、
ポリペプチドの発現および三量体化を可能にする条件下で昆虫細胞を培養する工程、ならびに
組換えSARS-CoV-2 Sタンパク質を培養物から単離する工程であって、組換えSARS-CoV-2 Sタンパク質はシグナル配列を有しないポリペプチドの三量体である、工程
を含む方法によって産生される、組換えSARS-CoV-2 Sタンパク質;ならびに
(b)トコフェロールおよびスクアレンを含む水中油型エマルションであるアジュバント
を含む、免疫原性組成物。
【請求項3】
バキュロウイルスベクターは、ポリペプチドのコード配列に作動可能に連結したポリヘドリンプロモーターを含む、請求項2に記載の免疫原性組成物。
【請求項4】
昆虫またはバキュロウイルスタンパク質はキチナーゼである、請求項2または3に記載の免疫原性組成物。
【請求項5】
シグナルペプチドは配列番号3を含む、請求項4に記載の免疫原性組成物。
【請求項6】
(i)配列番号10の残基19~1243と同一の配列を含むかもしくは有するポリペプチドの三量体である組換えSARS-CoV-2タンパク質、
(ii)配列番号13の残基19~1240と同一の配列を含むかもしくは有するポリペプチドの三量体である組換えSARS-CoV-2タンパク質、または
(iii)場合により等量の(i)と(ii)の両方
を含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の免疫原性組成物。
【請求項7】
組成物0.5mLごとまたは組成物の各用量について:
(i)それぞれの組換えSARS-CoV-2 Sタンパク質を約2μg~約50μg、場合により約2.5μg~約50μgまたは約5μg~約50μg含む抗原構成成分;ならびに
(ii)水中油型エマルションアジュバントであって、
a)場合により表9に示され、さらに場合によりアジュバントが0.25mLで提供される、リン酸緩衝生理食塩水中スクアレン10.69mg、ポリソルベート80 4.86mg、およびα-トコフェロール11.86mg、
b)場合により表9に示され、さらに場合によりアジュバントが0.25mLで提供される、リン酸緩衝生理食塩水中スクアレン5.35mg、ポリソルベート80 2.43mg、およびα-トコフェロール5.93mg、
c)場合により表9に示され、さらに場合によりアジュバントが0.25mLで提供される、リン酸緩衝生理食塩水中スクアレン2.67mg、ポリソルベート80 1.22mg、およびα-トコフェロール2.97mg、または
d)場合により表9に示され、さらに場合によりアジュバントが0.25mLで提供される、リン酸緩衝生理食塩水中スクアレン1.34mg、ポリソルベート80 0.61mg、およびα-トコフェロール1.48mg
を含むか、またはそれらを混合することによって調製される、水中油型エマルションアジュバント
を含むか、またはそれらを混合することによって調製される、請求項1~6のいずれか1項に記載の免疫原性組成物。
【請求項8】
組成物0.5mLごとまたは組成物の各用量について、それぞれの組換えSARS-CoV-2 Sタンパク質を2.5、5、10、15、または45μg含む、請求項7に記載の免疫原性組成物。
【請求項9】
抗原構成成分は:
リン酸一ナトリウム一水和物0.097mg、
無水リン酸二水素ナトリウム0.26mg、
塩化ナトリウム2.2mg、
ポリソルベート20 550μg、および
水約0.25mL
を含むか、またはそれらを混合することによって調製される、請求項7または8に記載の免疫原性組成物。
【請求項10】
組成物0.5mLごとまたは組成物の各用量について、組換えSARS-CoV-2 Sタンパク質を合計で5μg含み、場合により、2つの異なる組換えSARS-CoV-2 Sタンパク質を等量で含む、請求項1~9のいずれか1項に記載の免疫原性組成物。
【請求項11】
組成物0.5mLごとまたは組成物の各用量について、組換えSARS-CoV-2 Sタンパク質を合計で10μg含み、場合により、2つの異なる組換えSARS-CoV-2 Sタンパク質を等量で含む、請求項1~9のいずれか1項に記載の免疫原性組成物。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか1項に記載の免疫原性組成物を含有する容器。
【請求項13】
バイアルまたはシリンジである、請求項12に記載の容器。
【請求項14】
単回用量の免疫原性組成物を含有し、場合により、単回用量は0.5mLの容量である、請求項12または13に記載の容器。
【請求項15】
複数回用量の免疫原性組成物を含有し、場合により、用量のそれぞれは0.5mLの容量である、請求項12または13に記載の容器。
【請求項16】
筋肉内ワクチン接種のためのキットであって、2つの容器を含み、
(a)第1の容器は、1つ、2つ、3つ、またはそれ以上の組換えSARS-CoV-2 Sタンパク質であって、1つまたはそれ以上のタンパク質は、N末端からC末端へと、
(i)(A)配列番号10の687~690位における残基GSAS(配列番号6)と配列番号10の991位および992位における残基PPとが配列に維持されている、配列番号10の残基19~1243、または
(B)配列番号13の684~687位における残基GSAS(配列番号6)と配列番号13の988位および989位における残基PPとが配列に維持されている、配列番号13の残基19~1240
と少なくとも95%同一である配列;ならびに
(ii)配列番号7を含む三量体化ドメイン
を含むポリペプチドの三量体である、組換えSARS-CoV-2 Sタンパク質を含む医薬組成物を含有し;
(b)第2の容器は、トコフェロールおよびスクアレンを含む水中油型アジュバントを含有する、
キット。
【請求項17】
第1の容器は、
(i)配列番号10の残基19~1243と同一の配列を含むかもしくは有するポリペプチドの三量体である組換えSARS-CoV-2タンパク質、
(ii)配列番号13の残基19~1240と同一の配列を含むかもしくは有するポリペプチドの三量体である組換えSARS-CoV-2タンパク質、または
(iii)場合により等量の(i)と(ii)の両方
を含む、請求項16に記載のキット。
【請求項18】
第1の容器は、1回またはそれ以上の用量の組換えSARS-CoV-2 Sタンパク質を含み、タンパク質の各用量は、合計で約2.5~45、場合により5~45μgであり、場合により表A、表8、または表12に示されるようにリン酸緩衝生理食塩水0.25mLにおいて提供される、請求項16または17に記載のキット。
【請求項19】
タンパク質の各用量は、合計で2.5、5、10、15、または45μgである、請求項18に記載のキット。
【請求項20】
第2の容器は、1回またはそれ以上の用量のアジュバントを含み、アジュバントの各用量は、0.25mLの容量であり、
(a)場合により表9に示されるように、リン酸緩衝生理食塩水中スクアレン10.69mg、
ポリソルベート80 4.86mg、および
α-トコフェロール11.86mg、
(b)場合により表9に示されるように、リン酸緩衝生理食塩水中スクアレン5.35mg、
ポリソルベート80 2.43mg、および
α-トコフェロール5.93mg、
(c)場合により表9に示されるように、リン酸緩衝生理食塩水中スクアレン2.67mg、
ポリソルベート80 1.22mg、および
α-トコフェロール2.97mg、または
(d)場合により表9に示されるように、リン酸緩衝生理食塩水中スクアレン1.34mg、
ポリソルベート80 0.61mg、および
α-トコフェロール1.48mg
を含む、請求項16~19のいずれか1項に記載のキット。
【請求項21】
ワクチンキットを作製する方法であって:
請求項1~11のいずれか1項に記載の免疫原性組成物の組換えSタンパク質およびアジュバントを提供する工程、ならびに
タンパク質およびアジュバントを別個の滅菌容器に包装する工程
を含む、方法。
【請求項22】
それを必要とする対象においてCOVID-19を防止または改善する方法であって、対象に、請求項1~11のいずれか1項に記載の予防有効量の免疫原性組成物を投与する工程を含む、方法。
【請求項23】
それを必要とする対象においてCOVID-19を防止または改善する方法であって、対象に、請求項1~11のいずれか1項に記載の予防有効量の免疫原性組成物を投与する工程を含み、投与する工程の前に、対象は、SARS-CoV-2に感染したことがあるか、または第1のCOVID-19ワクチンを接種されたことがある、方法。
【請求項24】
投与する工程の前に、対象は、遺伝子、サブユニット、または死滅ワクチンを接種されたことがある、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
対象は、組換えSARS-CoV-2 S抗原をコードするmRNAを含む遺伝子ワクチンを接種されたことがある、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
投与する工程は、感染から、または対象が第1のCOVID-19ワクチンを接種されてから4週間、1か月、2か月、3か月、4か月、5か月、6か月、7か月、8か月、9か月、10か月、11か月、1年、またはそれ以上後、場合により4~10か月後、さらに場合により8か月後に行われ、場合により、免疫原性組成物は、それぞれの組換えSARS-CoV-2 Sタンパク質を2.5または5μg含み、さらに場合により、免疫原性組成物は一価または多価である、請求項23~25のいずれか1項に記載の方法。
【請求項27】
免疫原性組成物は、1用量当たり約5~約50μg、または約2.5~約50μg、場合により2.5、5、10、15、または45μgの組換えSARS-CoV-2 Sタンパク質で対象に筋肉内投与される、請求項22~26のいずれか1項に記載の方法。
【請求項28】
予防有効量は単回用量または2回もしくはそれ以上の用量で、場合により筋肉内に投与される、請求項22~27のいずれか1項に記載の方法。
【請求項29】
2用量の免疫原性組成物を約2週間~約3または4か月の間隔で対象に投与する工程を含み、免疫原性組成物の各用量は、組換えSARS-CoV-2 Sタンパク質を合計で2.5、5、または10μg含む、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
間隔は、約3週間もしくは約21日、または約4週間もしくは約28日、または約1か月である、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
対象はヒト対象であり、場合により、ヒト対象は、小児、成人、または高齢者である、請求項22~30のいずれか1項に記載の方法。
【請求項32】
場合により請求項22~31のいずれか1項に記載の方法における、COVID-19の予防的処置における使用のための、請求項1~11のいずれか1項に記載の免疫原性組成物。
【請求項33】
場合により請求項22~31のいずれか1項に記載の方法における、COVID-19の予防的処置のための医薬の製造のための、請求項1~11のいずれか1項に記載の免疫原性組成物の使用。
【請求項34】
トコフェロールは、アルファ-トコフェロール、場合によりD,L-アルファ-トコフェロールである、請求項1~33のいずれか1項に記載の免疫原性組成物、使用のための免疫原性組成物、容器、キット、方法、または使用。
【請求項35】
アジュバントは1μm未満の平均液滴サイズを有し、場合により、平均液滴サイズは、500nm未満、200nm未満、50~200nm、120~180nm、または140~180nmである、請求項1~34のいずれか1項に記載の免疫原性組成物、使用のための免疫原性組成物、容器、キット、方法、または使用。
【請求項36】
アジュバントは、0.2またはそれ以下のような、0.5もしくはそれ以下、または0.3もしくはそれ以下の多分散指数を有する、請求項1~35のいずれか1項に記載の免疫原性組成物、使用のための免疫原性組成物、容器、キット、方法、または使用。
【請求項37】
アジュバントは、ポロキサマー401、ポロキサマー188、ポリソルベート80、トリオレイン酸ソルビタン、モノオレイン酸ソルビタン、およびポリオキシエチレン12セチル/ステアリルエーテルから選択される界面活性剤を、単独、または互いとの組合せ、または他の界面活性剤との組合せのいずれかで含む、請求項1~36のいずれか1項に記載の免疫原性組成物、使用のための免疫原性組成物、容器、キット、方法、または使用。
【請求項38】
アジュバントは、ポリソルベート80、トリオレイン酸ソルビタン、モノオレイン酸ソルビタン、およびポリオキシエチレン12セチル/ステアリルエーテルから選択される界面活性剤を、単独または互いとの組合せのいずれかで含む、請求項1~37のいずれか1項に記載の免疫原性組成物、使用のための免疫原性組成物、容器、キット、方法、または使用。
【請求項39】
アジュバントはポリソルベート80を含む、請求項1~38のいずれか1項に記載の免疫原性組成物、使用のための免疫原性組成物、容器、キット、方法、または使用。
【請求項40】
アジュバントは1種、2種、または3種の界面活性剤を含む、請求項1~39のいずれか1項に記載の免疫原性組成物、使用のための免疫原性組成物、容器、キット、方法、または使用。
【請求項41】
アジュバントにおけるスクアレンのトコフェロールに対する重量比は、0.1~10、場合により0.2~5、0.3~3、0.4~2、0.72~1.136、0.8~1、0.85~0.95、または0.9である、請求項1~40のいずれか1項に記載の免疫原性組成物、使用のための免疫原性組成物、容器、キット、方法、または使用。
【請求項42】
アジュバントにおけるスクアレンの界面活性剤に対する重量比は、0.73~6.6、場合により1~5、1.2~4、1.71~2.8、2~2.4、2.1~2.3、または2.2である、請求項1~41のいずれか1項に記載の免疫原性組成物、使用のための免疫原性組成物、容器、キット、方法、または使用。
【請求項43】
単回用量のアジュバントにおけるスクアレンの量は、少なくとも1.2mg、場合により1.2~20mg、1.2~15mg、1.2~2mg、1.21~1.52mg、2~4mg、2.43~3.03mg、4~8mg、4.87~6.05mg、8~12.1mg、または9.75~12.1mgである、請求項1~42のいずれか1項に記載の免疫原性組成物、使用のための免疫原性組成物、容器、キット、方法、または使用。
【請求項44】
単回用量のアジュバントにおけるトコフェロールの量は、少なくとも1.3mg、場合により1.3~22mg、1.3~16.6mg、1.3~2mg、1.33~1.69mg、2~4mg、2.66~3.39mg、4~8mg、5.32~6.77mg、8~13.6mg、または10.65~13.53mgである、請求項1~43のいずれか1項に記載の免疫原性組成物、使用のための免疫原性組成物、容器、キット、方法、または使用。
【請求項45】
単回用量のアジュバントにおける界面活性剤の量は、少なくとも0.4mg、場合により0.4~9.5mg、0.4~7mg、0.4~1mg、0.54~0.71mg、1~2mg、1.08~1.42mg、2~4mg、2.16~2.84mg、4~7mg、または4.32~5.68mgである、請求項1~44のいずれか1項に記載の免疫原性組成物、使用のための免疫原性組成物、容器、キット、方法、または使用。
【請求項46】
アジュバントは、
スクアレン、
トコフェロール、場合によりD,L-アルファ-トコフェロール
界面活性剤、場合によりポリソルベート80、および

を含むかまたはそれから本質的になる、請求項1~45のいずれか1項に記載の免疫原性組成物、使用のための免疫原性組成物、容器、キット、方法、または使用。
【請求項47】
筋肉内注射のための単回用量の容量は、0.05~1mL、場合により0.1~0.6mL、0.2~0.3mL、0.25mL、0.4~0.6mL、または0.5mLである、請求項1~46のいずれか1項に記載の免疫原性組成物、使用のための免疫原性組成物、容器、キット、方法、または使用。
【請求項48】
免疫原性組成物、または第1および第2の容器の内容物の混合物は、4~9、場合により5~8.5、5.5~8、または6.5~7.4のpHを有する、請求項1~47のいずれか1項に記載の免疫原性組成物、使用のための免疫原性組成物、容器、キット、方法、または使用。
【請求項49】
免疫原性組成物、または第1および第2の容器の内容物の混合物は、250~750mOsm/kg、場合により250~550mOsm/kg、270~500mOsm/kg、または270~400mOsm/kgの重量モル浸透圧濃度を有する、請求項1~48のいずれか1項に記載の免疫原性組成物、使用のための免疫原性組成物、容器、キット、方法、または使用。
【請求項50】
免疫原性組成物、または第1および第2の容器の内容物の混合物は、スクアレンを1mL当たり0.8~100mg、場合により1mL当たり1.2~48.4mg、1mL当たり10~30mg、または1mL当たり21.38mg含む、請求項1~49のいずれか1項に記載の免疫原性組成物、使用のための免疫原性組成物、容器、キット、方法、または使用。
【請求項51】
筋肉内注射のための単回用量のアジュバントの容量は、組換えSタンパク質との混合前に、0.05mL~1mL、場合により0.1~0.6mL、0.2~0.3mL、0.25mL、0.4~0.6mL、または0.5mLである、請求項1~50のいずれか1項に記載の免疫原性組成物、使用のための免疫原性組成物、容器、キット、方法、または使用。
【請求項52】
アジュバントは、組換えSタンパク質との混合前に、
4~9、場合により5~8.5、5.5~8、または6.5~7.4のpHを有し、
250~750mOsm/kg、場合により250~550mOsm/kg、270~500mOsm/kg、または270~400mOsm/kgの重量モル浸透圧濃度を有し、
場合により表9に示されるように、緩衝剤および/または浸透圧調整剤、場合により改変リン酸緩衝生理食塩水を含み、
1mL当たり0.8~100mg、場合により1mL当たり1.2~48.4mgのスクアレン濃度を有し、
0.05mL~1mL、場合により0.1~0.6mLの単回用量の容量を有する、
請求項1~51のいずれか1項に記載の免疫原性組成物、使用のための免疫原性組成物、容器、キット、方法、または使用。
【請求項53】
組換えSタンパク質は、アジュバントとの混合前に、
0.2~0.3mL、場合により0.25mL、0.4~0.6mL、または0.5mLの単回用量の容量、
4~9、場合により5~8.5、5.5~8、または6.5~7.4のpH、および
250~750mOsm/kg、場合により250~550mOsm/kg、270~500mOsm/kg、または270~400mOsm/kgの重量モル浸透圧濃度
を有する水性液体溶液で提供される、請求項1~52のいずれか1項に記載の免疫原性組成物、使用のための免疫原性組成物、容器、キット、方法、または使用。
【請求項54】
SARS-CoV-2に感染していない対象を処置するための、請求項1~53のいずれか1項に記載の免疫原性組成物、使用のための免疫原性組成物、容器、キット、方法、または使用。
【請求項55】
それを必要とするヒト対象において、
1つもしくはそれ以上のCOVID-19症状の重症度および/もしくは1つもしくはそれ以上のCOVID-19症状が対象によって経験される時間を部分的もしくは完全に低下させる、
チャレンジ後に、確立された感染症を発症する可能性を低下させる、
疾病の進行を遅らせ、場合により生存を延長させる、
SARS-CoV-2に対する中和抗体を産生させる、ならびに/または
SARS-CoV-2 Sタンパク質特異的T細胞応答である
免疫応答を誘発するための、請求項1~54のいずれか1項に記載の免疫原性組成物、使用のための免疫原性組成物、容器、キット、方法、または使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2020年8月24日に出願された米国仮出願第63/069,171号;2021年5月4日に出願された同第63/184,155号;2021年5月14日に出願された同第63/189,044号;および2021年6月25日に出願された同第63/215,092号の優先権を主張する。上述の優先権出願の開示は、それらの全体が参照によって本明細書に組み入れられる。
【0002】
連邦政府による資金提供を受けた研究開発
本発明は、米国保健福祉省およびASPR-BARDAによって授与されたHHSO100201600005I;ならびに米国陸軍契約司令部ACC-NJによって交付され、米国保健福祉省および国防総省の共同ミッションとして授与された他の取引契約(OTA)W15QKN-16-9-1002の下、政府支援を受けてなされた。政府は本発明に一定の権利を有する。
【0003】
配列表
本出願は、ASCIIフォーマットで電子的に提出され、その全体が参照によって本明細書に組み入れられる配列表を含有する。2021年8月10日に作成された配列表の電子コピーは、025532_WO005_SL.txtという名称で、48,845バイトのサイズである。
【背景技術】
【0004】
コロナウイルスは、多種多様な哺乳動物種およびトリ種に感染するエンベローププラス鎖一本鎖RNAウイルスのファミリーである。そのウイルスゲノムは、ウイルスヌクレオカプシド(N)タンパク質で構成され脂質エンベロープによって囲まれているカプシドに包まれている。脂質エンベロープには、膜(M)タンパク質、エンベロープ低分子膜(E)タンパク質、ヘマグルチニンエステラーゼ(HE)、およびスパイク(S)タンパク質が包埋されている。Sタンパク質はウイルスの細胞への付着および侵入を媒介する。
【0005】
ヒトコロナウイルス(hCoV)は呼吸器疾患を引き起こす。低病原性hCoVは、上気道に感染し、軽度の感冒を引き起こす。高病原性hCoVは、主に下気道に感染し、重症急性呼吸器症候群(SARS-CoV)および中東呼吸器症候群(MERS-CoV)などの重度で死に至る場合もある肺炎を引き起こし得る。hCoVによって引き起こされる重度の肺炎は、典型的には、急速なウイルス複製、大規模な炎症細胞浸潤、ならびに炎症誘発性サイトカインおよびケモカインの上昇に関連し、急性肺損傷および急性呼吸窮迫症候群をもたらす(例えば、非特許文献1を参照のこと)。
【0006】
2019年新型コロナウイルス(2019-nCoV)としても公知の重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)は、HCoV-229E、HCoV-NL63、HCoV-OC43、HCoV-HKU1、MERS-CoV、および最初のSARS-CoVに次いで7番目に知られた、ヒトに感染するコロナウイルスである(非特許文献2)。2003年のSARSの大流行に関与したSARS関連コロナウイルス株と同様、SARS-CoV-2はサルベコウイルス亜属のメンバーである(ベータ-CoV B系統)。SARS-CoV-2は進行中の2019~21年のコロナウイルス疾患(COVID-19)の原因である(非特許文献3;非特許文献4;GenBank:MN908947.3;非特許文献5)。ヒトからヒトへの伝播は主として呼吸器液滴およびエアロゾルを介して行われる。
【0007】
COVID-19の臨床プロファイルは多様である。大部分の症例では、感染した個人は無症候性であり得るかまたは軽度の症状を有し得る。症状を有する個人において、典型的に現れる症状としては、発熱、咳、息切れ、嗅覚脱失、および疲労が挙げられる。より重度の所見としては、急性呼吸窮迫症候群、脳卒中、およびサイトカイン放出症候群が挙げられ、これらは場合によっては死に至る。重度の疾病は、いかなる年齢の健康な個人にも生じる可能性があるが、主に高齢であるかまたは基礎疾患を有する成人において生じる。老年者は、最も一般的に冒され、高い死亡率を有する。重度の疾病および死亡に関連する併存疾患および他の状態としては、慢性腎疾患、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、免疫不全状態、肥満、重篤な心臓病(例えば、心不全、冠動脈疾患、または心ミオパチー)、鎌状赤血球症、糖尿病、高血圧症、肝疾患、および肺線維症が挙げられる。COVID-19のリスクは、国ごと、および世界中の国の中の地域ごとでも異なる(例えば、非特許文献6;非特許文献7を参照のこと)。
【0008】
SARS-CoV-2は、細胞表面タンパク質のアンジオテンシン変換酵素2(ACE2)への結合を介して細胞に感染する(非特許文献8;非特許文献9)。ウイルスはSタンパク質を介して宿主細胞への侵入を達成する。Sタンパク質は、クラスI融合タンパク質であり、ウイルスが免疫監視機構を逃れるのに役立つ多糖で厚くコーティングされている。このタンパク質は前駆体Sポリペプチドのプロセシングにより産生される。前駆体ポリペプチドは、グリコシル化、シグナルペプチドの除去、および残基685と686との間でのプロタンパク質転換酵素フーリンによる切断を受けて、2つのサブユニットS1およびS2を生じる。S1およびS2はプロトマーとして会合したままである。Sタンパク質は、プロトマーの三量体であり、準安定な融合前立体構造で存在する。S1サブユニットが宿主細胞受容体に結合すると、S1サブユニットはタンパク質から放出される。残りのS2サブユニットは高度に安定な融合後立体構造に移行し、ウイルスと宿主細胞との間での膜融合、したがってウイルスの細胞への侵入を容易にする(例えば、非特許文献10;非特許文献11を参照のこと)。
【0009】
Sタンパク質はワクチン開発において重要な標的である。このタンパク質は、融合前立体構造において、中和感受性が最も高いエピトープを提示すると予期される(例えば、非特許文献10、前出を参照のこと)。首尾よい免疫化戦略は安定な抗原を必要とし、SARS-CoV-2 Sタンパク質を融合前立体構造で安定化させる試みは記載されている(例えば、非特許文献12を参照のこと)。
【0010】
COVID-19によって引き起こされた公衆衛生危機は、とりわけ開発途上国においては依然として収まっていない。SARS-CoV-2の変異株は出現し続けている。継続するCOVID-19の脅威と戦うのに役立ち得る有効なワクチンを開発する緊急の必要性は依然として存在する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Channappanavar and Perlman、Semin Immunopathol(2017)39(5):529~39
【非特許文献2】Zhuら、N Eng Med.(2020)382(8):727~33
【非特許文献3】Chanら、Lancet(2020)395(10223):514~23
【非特許文献4】Xuら、Lancet Respir Med.(2020)doi:10.1016/S2213-2600(20)30076-X
【非特許文献5】Gorbalenyaら、bioRxiv(2020)doi:10.1101/2020.02.07.937862
【非特許文献6】de Souza、Nat Hum Behav.(2020)4:856~865
【非特許文献7】Chen、Cell Death Dis.(2020)11:438
【非特許文献8】Hoffmannら、Cell(2020)181(2):271~80
【非特許文献9】Wallsら、Cell(2020)181(2):281~92
【非特許文献10】Wrappら、Science(2020)10.1126/science.abb2507
【非特許文献11】Shangら、PNAS(2020)117(21):11727~34
【非特許文献12】Xiongら、Nat Struct Mol Biol.(2020)doi.org/10.1038/s41594-020-0478-5
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0012】
本開示は、免疫原性組成物であって、(a)1つ、2つ、3つ、またはそれ以上の組換えSARS-CoV-2タンパク質であって、1つまたはそれ以上のタンパク質は、N末端からC末端へと、(i)(1)配列番号10の残基19~1243または(2)配列番号13の残基19~1240と少なくとも94%、例えば少なくとも95%(例えば、少なくとも96、97、98、または99%)同一であり、配列番号10の687~690位(および配列番号13における対応する位置)における残基GSAS(配列番号6)と配列番号10の991位および992位(および配列番号13における対応する位置)における残基PPとが維持されている配列;ならびに(ii)配列番号7を含む三量体化ドメインを含むポリペプチドの三量体である、組換えSARS-CoV-2タンパク質;ならびに(b)トコフェロールおよびスクアレンを含む水中油型エマルションであるアジュバントを含む、免疫原性組成物を提供する。組成物が2つまたはそれ以上のタンパク質を有すると記載される場合、これらのタンパク質は互いに異なることが意図されている。
【0013】
別の態様では、本開示は、免疫原性組成物であって、(a)1つ、2つ、3つ、またはそれ以上の組換えSARS-CoV-2 Sタンパク質であって、それぞれは、N末端からC末端へと、(i)昆虫またはバキュロウイルスタンパク質(例えば、キチナーゼ)に由来するシグナルペプチド、(ii)(1)配列番号10の残基19~1243または(2)配列番号13の残基19~1240と少なくとも95%(例えば、少なくとも96、97、98、または99%)同一であり、配列番号10の687~690位(および配列番号13における対応する位置)における残基GSAS(配列番号6)と配列番号10の991位および992位(および配列番号13における対応する位置)における残基PPとが維持されている配列;ならびに(iii)配列番号7を含む三量体化ドメインを含むポリペプチドを発現させるために、昆虫細胞にバキュロウイルスベクターを導入する工程、ポリペプチドの発現および三量体化を可能にする条件下で昆虫細胞を培養する工程、ならびに組換えSARS-CoV-2 Sタンパク質を培養物から単離する工程であって、組換えSARS-CoV-2 Sタンパク質はシグナル配列を有しないポリペプチドの三量体である、工程を含む方法によって取得可能である、組換えSARS-CoV-2 Sタンパク質;ならびに(b)トコフェロールおよびスクアレンを含む水中油型エマルションであるアジュバントを含む、免疫原性組成物を提供する。一部の実施形態では、バキュロウイルス発現ベクターは、ポリペプチドのコード配列に作動可能に連結したポリヘドリンプロモーターを含む。一部の実施形態では、シグナルペプチドは昆虫またはバキュロウイルスキチナーゼに由来する。一部の実施形態では、シグナルペプチドは配列番号3を含む。
【0014】
一部の実施形態では、免疫原性組成物は、1つ(一価)またはそれ以上(多価)の異なる組換えSARS-CoV-2 Sタンパク質を含む。例えば、組成物は、2つ(二価)、3つ(三価)、または4つ(四価)の異なる組換えSARS-CoV-2 Sタンパク質を含む。
【0015】
一部の実施形態では、組換えポリペプチドは、(i)配列番号10の残基19~1243または(ii)配列番号13の残基19~1240と同一の配列を含むかまたは有する。一部の実施形態では、組成物は二価であり、配列番号10の残基19~1243と同一の配列を含むかまたは有する組換えポリペプチドの三量体である組換えタンパク質、および配列番号13の残基19~1240と同一の配列を含むかまたは有する組換えポリペプチドの三量体を、場合により等量で含む。
【0016】
一部の実施形態では、各用量(例えば、約0.2、0.25、0.3、0.4、0.5、0.6、または0.7mLにおける)の免疫原性組成物は:(i)それぞれの組換えSARS-CoV-2 Sタンパク質を約2μg~約50μg、場合により約2.5μg~約50μgまたは約5μg~約50μg含む抗原構成成分;ならびに(ii)水中油型エマルションアジュバントであって、a)場合により表9に示され、さらに場合によりアジュバントが0.25mLで提供される、リン酸緩衝生理食塩水中スクアレン10.69mg、ポリソルベート80 4.86mg、およびα-トコフェロール11.86mg、b)場合により表9に示され、さらに場合によりアジュバントが0.25mLで提供される、リン酸緩衝生理食塩水中スクアレン5.34mg、ポリソルベート80 2.43mg、およびα-トコフェロール5.93mg、c)場合により表9に示され、さらに場合によりアジュバントが0.25mLで提供される、リン酸緩衝生理食塩水中スクアレン2.67mg、ポリソルベート80 1.22mg、およびα-トコフェロール2.97mg、またはd)場合により表9に示され、さらに場合によりアジュバントが0.25mLで提供される、リン酸緩衝生理食塩水中スクアレン1.34mg、ポリソルベート80 0.61mg、およびα-トコフェロール1.48mgを含む、水中油型エマルションアジュバントを含むか、またはそれらを混合することによって調製される。あるいは、上述のタンパク質量は、組成物における総タンパク質量である。
【0017】
一部の実施形態では、各用量(例えば、約0.5mLにおける)の免疫原性組成物は、抗原構成成分0.25mLとAS03アジュバント(AS03)0.25mLとを混合することによって調製される。抗原構成成分0.25mLは、リン酸二水素ナトリウム一水和物0.0975mg、リン酸水素ナトリウム十二水和物0.65mg(無水リン酸水素二ナトリウム0.26mgに相当)、塩化ナトリウム2.2mg、ポリソルベート20 50~600(例えば、55または550)μg、および水約0.25mL(q.s.0.25mLまで)を含むことができるか、またはそれらを混合することによって調製することができる。ある特定の実施形態では、抗原構成成分0.25mLまたは最終免疫原性組成物(アジュバント含有)0.5mLは、それぞれの組換えSARS-CoV-2 Sタンパク質を2.5μg含み、場合により、組成物は、2つの異なる組換えSARS-CoV-2 Sタンパク質を等量で含み;組成物が一価である場合、それは組換えSタンパク質を2.5μg含む。ある特定の実施形態では、抗原構成成分0.25mLまたは最終免疫原性組成物(アジュバント含有)0.5mLは、それぞれの組換えSARS-CoV-2 Sタンパク質を5μg含み、場合により、組成物は、2つの異なる組換えSARS-CoV-2 Sタンパク質を等量で含み;組成物が一価である場合、それは組換えSタンパク質を5μg含む。ある特定の実施形態では、抗原構成成分0.25mLまたは最終免疫原性組成物(アジュバント含有)0.5mLは、それぞれの組換えSARS-CoV-2 Sタンパク質を10μg含み、場合により、組成物は、2つの異なる組換えSARS-CoV-2 Sタンパク質を等量で含み;組成物が一価である場合、それは組換えSタンパク質を10μg含む。あるいは、上述のタンパク質量は、組成物における各タンパク質のタンパク質量ではなく、組成物における総タンパク質量である。
【0018】
別の態様では、本開示は、単回用量または複数回用量の本明細書に記載される免疫原性組成物を含有する容器であって、各用量が例えば約0.25または約0.5mLの容量である、容器を提供する。一部の実施形態では、容器はバイアルまたはシリンジである。
【0019】
別の態様では、本開示は、筋肉内ワクチン接種のためのキットであって、2つの容器を含み、(a)第1の容器は、1つ、2つ、3つ、またはそれ以上の組換えSARS-CoV-2 Sタンパク質であって、1つまたはそれ以上のタンパク質は、N末端からC末端へと、(i)(A)配列番号10の687~690位における残基GSAS(配列番号6)と配列番号10の991位および992位における残基PPとが配列に維持されている、配列番号10の残基19~1243、または(B)配列番号13の684~687位における残基GSAS(配列番号6)と配列番号13の988位および989位における残基PPとが配列に維持されている、配列番号13の残基19~1240と少なくとも94%、例えば少なくとも95%(例えば、少なくとも96、97、98、または99%)同一である配列;ならびに(ii)配列番号7を含む三量体化ドメインを含むポリペプチドの三量体である、組換えSARS-CoV-2 Sタンパク質を含む医薬組成物を含有し;(b)第2の容器は、トコフェロールおよびスクアレンを含む水中油型アジュバントを含有する、キットを提供する。一部の実施形態では、ポリペプチドは、(i)配列番号10の残基19~1243または(ii)配列番号13の残基19~1240と同一の配列を含むかまたは有する。さらなる実施形態では、容器は2つの異なる組換えSタンパク質を含有し、それぞれは上述の配列のうちの1つを有する。一部の実施形態では、第1の容器は、場合により表A、表8、または表12に示されるようにリン酸緩衝生理食塩水において提供される1回またはそれ以上の用量の組換えSARS-CoV-2 Sタンパク質を含み、各用量(0.25mLの容量)は、組換えSタンパク質を(合計でまたは別個に)約2.5μg~45μg、場合により5μg~45μg(例えば、2.5、5、10、15、または45μg)有する。一部の実施形態では、第2の容器は、1回またはそれ以上の用量のアジュバントを含み、アジュバントの各用量は、0.25mLの容量であり、a)場合により表9に示されるように、リン酸緩衝生理食塩水中スクアレン10.69mg、ポリソルベート80 4.86mg、およびα-トコフェロール11.86mg、b)場合により表9に示されるように、リン酸緩衝生理食塩水中スクアレン5.35mg、ポリソルベート80 2.43mg、およびα-トコフェロール5.93mg、c)場合により表9に示されるように、リン酸緩衝生理食塩水中スクアレン2.67mg、ポリソルベート80 1.22mg、およびα-トコフェロール2.97mg、またはd)場合により表9に示されるように、リン酸緩衝生理食塩水中スクアレン1.34mg、ポリソルベート80 0.61mg、およびα-トコフェロール1.48mgを含む。
【0020】
本開示はまた、ワクチンキットを作製する方法であって、免疫原性組成物の組換えSタンパク質およびアジュバントを提供する工程、ならびにタンパク質およびアジュバントを別個の滅菌容器に包装する工程を含む、方法を提供する。
【0021】
本開示は、それを必要とする対象においてCOVID-19を防止または改善する方法であって、対象に、本明細書における予防有効量の免疫原性組成物を投与する工程を含む、方法をさらに提供する。一部の実施形態では、予防有効量は単回用量または2回もしくはそれ以上の用量で投与される。一部の実施形態では、予防有効量は、1用量当たり約5~約50μg、場合により1用量当たり5、10、15、または45μgの、単回用量または2回もしくはそれ以上の用量で筋肉内投与される組換えSARS-CoV-2 Sタンパク質である。一部の実施形態では、2回またはそれ以上の用量の免疫原性組成物は、約2週間~約3か月(例えば、約3週間または約21日)の間隔で投与され、免疫原性組成物の各用量は、組換えSARS-CoV-2 Sタンパク質を5μgまたは10μg含む。一部の実施形態では、対象は、下記の表Bにおけるレジメン1、10、11、または12に従って、本明細書における免疫原性組成物を投与される。
【0022】
一部の実施形態では、本免疫原性組成物は、例えばCOVID-19を防止または改善するためのブースターワクチンとして、過去にSARS-CoV-2に感染した対象または同じかもしくは異なるウイルス株に対するCOVID-19ワクチンを接種されたことがある対象に使用される。第1のCOVID-19ワクチンは、死滅ワクチン、サブユニットワクチン、または遺伝子ワクチン(例えば、mRNAもしくはウイルスベクターワクチン)であり得る。ある特定の実施形態では、対象は、組換えSARS-CoV-2 S抗原をコードするmRNAを含む遺伝子ワクチンを接種されたことがある。ある特定の実施形態では、本免疫原性組成物は、感染から、または対象が第1のCOVID-19ワクチンを接種されてから約4週間、約1か月、約3か月、約6か月、約4~10か月、または約1年後に対象に投与され、場合により、免疫原性組成物は、組換えSARS-COV-2タンパク質を2.5μgまたは5μg含み、さらに場合により、免疫原性組成物は一価または多価である。さらなる実施形態では、ブースター接種は、第1のCOVID-19ワクチン接種の終了から約8か月後に行われる。一部の実施形態では、遺伝子ワクチンは、組換えSARS-CoV-2 S抗原をコードするmRNAを含み、場合により、組換えSARS-CoV-2 Sタンパク質は、配列番号1、4、10、13、もしくは14、またはその抗原性断片を含む。ある特定の実施形態では、本明細書におけるブースター免疫原性組成物は、組換えSARS-CoV-2 Sタンパク質を1用量当たり2.5または5μg含む。ある特定の実施形態では、ブースター免疫原性組成物は一価(例えば、シグナル配列を有しない配列番号10または13を含む組換えSタンパク質を含む)または二価(例えば、シグナル配列を有しない配列番号10を含む第1の組換えSタンパク質と、シグナル配列を有しない配列番号13を含む第2の組換えSタンパク質とを含む)である。一部の実施形態では、対象は、下記の表Bにおけるレジメン2、3、4、5、6、7、8、または9に従って、本明細書における免疫原性組成物を投与される。
【0023】
本開示はまた、COVID-19の予防的処置における使用のための、本明細書に記載される免疫原性組成物を提供する。
【0024】
本開示は、COVID-19の予防的処置のための医薬の製造のための、本明細書に記載される免疫原性組成物の使用をさらに提供する。予防的処置は、本明細書に記載される、それを必要とする対象においてCOVID-19を防止または改善し得る。
【0025】
ある特定の実施形態では、本明細書に記載される免疫原性組成物において、組換えSタンパク質は、本明細書におけるトコフェロール含有スクアレンエマルションアジュバントと共にCOVID-19の予防的処置において使用され;本明細書に記載されるトコフェロール含有スクアレンエマルションアジュバントは、組換えSタンパク質と共にCOVID-19の予防的処置において使用され;COVID-19の予防的処置における使用のための、製造物品(例えばワクチン接種キット、例えば、筋肉内注射のためのワクチン接種キット)の製造のための組換えSタンパク質およびアジュバントの使用。
【0026】
以下の実施形態は、(i)本明細書に記載される免疫原性組成物、(ii)そのあらゆる使用、(iii)本明細書に記載される容器キット、(iv)免疫原性組成物および容器キットの予防および治療上の使用、ならびに(v)本明細書に記載される、それを必要とする対象においてCOVID-19を防止または改善する方法に適用される。
【0027】
ある特定の実施形態では、トコフェロールは、アルファ-トコフェロール、場合によりD/L-アルファ-トコフェロールである。
【0028】
ある特定の実施形態では、アジュバントは1μm未満の平均液滴サイズを有し、場合により、平均液滴サイズは、500nm未満、200nm未満、50~200nm、120~180nm、または140~180nmである。
【0029】
ある特定の実施形態では、アジュバントは、0.3もしくはそれ以下、または0.2もしくはそれ以下のような、0.5またはそれ以下の多分散指数を有する。
【0030】
ある特定の実施形態では、アジュバントは、ポロキサマー401、ポロキサマー188、ポリソルベート80、トリオレイン酸ソルビタン、モノオレイン酸ソルビタン、およびポリオキシエチレン12セチル/ステアリルエーテルから選択される界面活性剤を、単独、または互いとの組合せ、または他の界面活性剤との組合せのいずれかで含む。
【0031】
ある特定の実施形態では、アジュバントは、ポリソルベート80、トリオレイン酸ソルビタン、モノオレイン酸ソルビタン、およびポリオキシエチレン12セチル/ステアリルエーテルから選択される界面活性剤を、単独または互いとの組合せのいずれかで含む。
【0032】
ある特定の実施形態では、アジュバントはポリソルベート80を含む。
【0033】
ある特定の実施形態では、アジュバントは1種、2種、または3種の界面活性剤を含む。
【0034】
ある特定の実施形態では、アジュバントにおけるスクアレンのトコフェロールに対する重量比は、0.1~10、場合により0.2~5、0.3~3、0.4~2、0.72~1.136、0.8~1、0.85~0.95、または0.9である。
【0035】
ある特定の実施形態では、アジュバントにおけるスクアレンの界面活性剤に対する重量比は、0.73~6.6、場合により1~5、1.2~4、1.71~2.8、2~2.4、2.1~2.3、または2.2である。
【0036】
ある特定の実施形態では、ヒト対象は、小児、成人、または高齢者である。
【0037】
ある特定の実施形態では、単回用量のアジュバントにおけるスクアレンの量は、少なくとも1.2mg、場合により1.2~20mg、1.2~15mg、1.2~2mg、1.21~1.52mg、2~4mg、2.43~3.03mg、4~8mg、4.87~6.05mg、8~12.1mg、または9.75~12.1mgである。
【0038】
ある特定の実施形態では、単回用量のアジュバントにおけるトコフェロールの量は、少なくとも1.3mg、場合により1.3~22mg、1.3~16.6mg、1.3~2mg、1.33~1.69mg、2~4mg、2.66~3.39mg、4~8mg、5.32~6.77mg、8~13.6mg、または10.65~13.53mgである。
【0039】
ある特定の実施形態では、単回用量のアジュバントにおける界面活性剤の量は、少なくとも0.4mg、場合により0.4~9.5mg、0.4~7mg、0.4~1mg、0.54~0.71mg、1~2mg、1.08~1.42mg、2~4mg、2.16~2.84mg、4~7mg、または4.32~5.68mgである。
【0040】
ある特定の実施形態では、アジュバントは、スクアレン;トコフェロール、場合によりD/L-アルファ-トコフェロール;界面活性剤、場合によりポリソルベート80;および水を含むかまたはそれから本質的になる。
【0041】
ある特定の実施形態では、筋肉内注射のための単回用量の免疫原性組成物の容量は、0.05mL~1mL、場合により0.1~0.6mL、0.2~0.3mL、0.25mL、0.4~0.6mL、または0.5mLである。
【0042】
ある特定の実施形態では、免疫原性組成物、または第1および第2の容器の内容物の混合物は、4~9、場合により5~8.5、5.5~8、または6.5~7.4のpHを有する。
【0043】
ある特定の実施形態では、免疫原性組成物、または第1および第2の容器の内容物の混合物は、250~750mOsm/kg、場合により250~550mOsm/kg、270~500mOsm/kg、または270~400mOsm/kgの重量モル浸透圧濃度を有する。
【0044】
ある特定の実施形態では、免疫原性組成物、または第1および第2の容器の内容物の混合物は、スクアレンを1mL当たり0.8~100mg、場合により1mL当たり1.2~48.4mg、1mL当たり10~30mg、または1mL当たり21.38mg含む。
【0045】
ある特定の実施形態では、筋肉内注射のための単回用量のアジュバントの容量は、組換えSタンパク質との混合前に、0.05mL~1mL、場合により0.1~0.6mL、0.2~0.3mL、0.25mL、0.4~0.6mL、または0.5mLである。
【0046】
ある特定の実施形態では、アジュバントは、組換えSタンパク質との混合前に、4~9、場合により5~8.5、5.5~8、または6.5~7.4のpHを有し;250~750mOsm/kg、場合により250~550mOsm/kg、270~500mOsm/kg、または270~400mOsm/kgの重量モル浸透圧濃度を有し;緩衝剤および/または浸透圧調整剤、場合により改変リン酸緩衝生理食塩水を含み;1mL当たり0.8~100mg、場合により1ml当たり1.2~48.4mgのスクアレン濃度を有し;0.05mL~1mL、場合により0.1~0.6mLの単回用量の容量を有する。
【0047】
ある特定の実施形態では、組換えSタンパク質は、アジュバントとの混合前に、0.2~0.3mL、場合により0.25mL、0.4~0.6mL、または0.5mlの単回用量の容量;4~9、場合により5~8.5、5.5~8、または6.5~7.4のpH;および250~750mOsm/kg、場合により250~550mOsm/kg、270~500mOsm/kg、または270~400mOsm/kgの重量モル浸透圧濃度を有する水性液体溶液で提供される。
【0048】
本開示の実施形態は、SARS-CoV-2に感染していない対象を処置するのに好適である。本開示の実施形態は、それを必要とするヒト対象において、1つもしくはそれ以上の症状の重症度および/もしくは1つもしくはそれ以上の症状が対象によって経験される時間を部分的もしくは完全に低下させる、チャレンジ後に、確立された感染症を発症する可能性を低下させる、疾病の進行を遅らせ、場合により生存を延長させる、SARS-CoV-2に対する中和抗体を産生させる、ならびに/またはSARS-CoV-2 Sタンパク質特異的T細胞応答である免疫応答を誘発するのに好適である。
【0049】
本発明の他の構成、目的、および利点は、以下の詳細な説明において明らかである。しかしながら、詳細な説明は、本発明の実施形態および態様を示しているが、限定としてではなく例示としてのみ与えられていることが理解されるべきである。本発明の範囲内の様々な変更および修正は、詳細な説明から当業者に明らかとなるだろう。
【図面の簡単な説明】
【0050】
図1】組換えSARS-CoV-2 Sタンパク質のバキュロウイルス発現カセットを含有する構築物1の設計を示す図である。発現カセットは、ポリヘドリンプロモーターと、キチナーゼシグナル配列(「ss」)およびSARS-CoV-2 Sタンパク質外部ドメインを含有するポリペプチドのコード配列とを含み、SARS-CoV-2 Sタンパク質外部ドメインは、S1/S2接合部の推定フーリン切断部位に突然変異、およびS2サブユニットに二重プロリン置換を含有する。
図2A】合成されたgBlock断片を有するSapI消化pPSC12DB-LICトランスファープラスミドの構築を示す概略図である。SapI線状化トランスファープラスミドは灰色で示し、ポリヘドリンプロモーターは緑色の矢印で示し、gBlock断片は、黄色、青色、および橙色で示し、各重複配列を同一の色で示す(上段のパネル)。preS dTM遺伝子を含有する最終トランスファープラスミドを下段のパネルに示す。
図2B】gBlock断片の5’および3’末端配列を示す図である(記載順に、それぞれ配列番号14~23)。
図3】組換えSARS-CoV-2 Sタンパク質を発現させるためのバキュロウイルス構築物を生成するプロセスを示す図である。MV:マスターウイルス。
図4】0日目/21日目にアジュバントを含有しないpreS dTMおよびS dTMを注射したマウスにおける21日目および36日目の血清S特異的IgGレベルを示すプロットである。力価はOD=0.2の希釈倍率の逆数として表す。EU:ELISA単位。preS dTM:膜貫通および細胞質ドメインを欠失した組換え安定化融合前SARS-CoV-2 Sタンパク質(配列番号10)。S dTM:膜貫通および細胞質ドメインを欠失した組換え非安定化SARS-CoV-2 Sタンパク質。
図5】注射したマウスにおける21日目および36日目の、アジュバントAS03のS特異的IgGレベルに対する効果を示すプロットである。力価はOD=0.2の希釈倍率の逆数として表す。薄い灰色の四角および三角:21日目。濃い灰色の四角および三角:36日目。
図6A】36日目に免疫化マウスから得た血清抗体のPRNT50力価を示すプロットである。下方の水平破線は、出発希釈倍率の1/2である定量下限値(LLOQ)を示す。
図6B図6Aと同じ研究由来の、SARS-CoV-2 Sタンパク質を呈するIntegral Molecular SARS-CoV-2 S偽ウイルスに対する中和性抗体の50%阻害濃度(IC50)力価を示す図である。
図7】AS03アジュバントpreS dTM群およびナイーブ対照群における、S1ペプチドプールでの刺激に応答してIFN-γ、TNF-α、IL-2、IL-4、およびIL-5サイトカインを発現するCD4T細胞の百分率のプロットである(バー=平均%)。
図8】標的とした15μgのAS03アジュバント含有または非含有preS dTMを用いて免疫化したアカゲザルにおける、SARS-CoV-2融合前Sタンパク質に対する血清IgGのレベルを示すプロットである。IgGレベルは、0日目、21日目、および28日目に測定した。X軸における「-」はビヒクル対照を示す。Y軸はEUの対数スケールを表す。
図9図8と同じ研究由来の、SARS-CoV-2 Sタンパク質を呈するIntegral Molecular SARS-CoV-2 S偽ウイルスに対する中和性抗体の50%阻害濃度(IC50)力価を示すプロットである。Y軸はIC50力価のLog10値を表す。「Conv」:ヒトSARS-CoV-2回復期血清(高力価)。
図10図8と同じ研究由来の、野生型SARS-CoV-2ウイルスに対する中和性抗体の50%マイクロ中和(MN50)価を示すプロットである。Y軸はマイクロ中和(MN)アッセイにおけるMN50価のLog10値を表す。
図11】2.25μgの標的用量のアジュバント含有もしくは非含有preS dTMまたはプラセボを用いて1回または2回のいずれかで免疫化したハムスターにおける、SARS-CoV-2融合前Sタンパク質に対する血清IgGのレベルを示すプロットである。IgGレベルは、35日目(1回投与コホートの場合は投与1の14日後、2回投与コホートの場合は投与2の14日後)に測定した。力価はOD=0.2の希釈倍率の逆数として表す。下方の水平破線は試験を行った最低希釈倍率の逆数を示す。Y軸はEUのLog10スケールを表す。
図12】2.25μgの標的用量のアジュバント含有もしくは非含有preS dTMまたはプラセボを用いて1回または2回のいずれかで免疫化したハムスターにおける、SARS-CoV-2 Sタンパク質を呈するIntegral Molecular SARS-CoV-2 S偽ウイルスに対する中和性抗体のID50力価を示すグラフである。偽ウイルス中和性抗体レベルは、35日目(1回投与コホートの場合は投与1の14日後、2回投与コホートの場合は投与2の14日後)に測定した。下方の水平破線は試験を行った最低希釈倍率の逆数を示す。技術的な問題のために、プラセボ群の1匹のハムスターを解析から除外した。
図13】2.25μgの標的用量のAS03アジュバント含有もしくは非含有preS dTMまたはプラセボを用いて1回(1回投与コホート、左側のプロット)または2回(2回投与コホート、右側のプロット)のいずれかで免疫化したハムスターにおける、SARS-CoV-2 USA/WA1/2020(P2)株でのチャレンジ後0~4日目の体重変化パーセントを示す1組のプロットである。
図14】2.25μgの標的用量のアジュバント含有もしくは非含有preS dTMまたはプラセボを用いて免疫化し、次いで、最後の免疫化の35日後に2.3E4 PFUのSARS-CoV-2 USA/WA1/2020株でチャレンジしたハムスターの2回投与コホートにおける、肺(左側のプロット)および鼻孔(右側のプロット)の総ウイルス量を示す1組のプロットである。Y軸は、チャレンジ後4日目および7日目におけるゲノムコピー/グラムをLog10スケールで示す。
図15】2.25μgの標的用量のアジュバント含有もしくは非含有preS dTMまたはプラセボを用いて免疫化し、次いで、最後の免疫化の35日後に2.3E4 PFUのSARS-CoV-2 USA/WA1/2020株でチャレンジしたハムスターの2回投与コホートにおける、肺(左側のプロット)および鼻孔(右側のプロット)のサブゲノムウイルス量を示す1組のプロットである。Y軸は、チャレンジ後4日目および7日目におけるゲノムコピー/グラムをLog10スケールで示す。
図16A】2.25μgの標的用量のアジュバント含有もしくは非含有preS dTMまたはプラセボを用いて免疫化し、次いで、最後の免疫化の35日後にSARS-CoV-2 USA/WA1/2020株でチャレンジしたハムスターにおける肺病態のスコアリングを示す1組のプロットである。各点は単一のハムスターを表す。Y軸は肺病態スコアを0(正常)~3(重度)の尺度で示す。バーは群の中央値を表す。
図16B】ベータ変異株でのチャレンジ後のナイーブおよび組換えS免疫化ハムスターにおける個々の毎日の体重減少(%)を示すプロットである。記号は個々のデータを表し、線は群の平均を表す。
図17】全ての年齢群における、いずれかの用量のpreS dTM後の非自発的(solicited)反応の発生率を示す棒グラフである。
図18】年齢群ごとの、いずれかの用量のpreS dTM後の非自発的反応の発生率を示す1組の棒グラフである。
図19】注射2の後(「PD2」)における、preS dTMの3つの用量(5、10、および15μg)の反応原性を示す棒グラフである。VAT02:第II相臨床試験。
図20】CoV2-06_NHP研究由来のカニクイザルにおける、5週目にVSV-PsV(Nexelis、左側のパネル)またはレンチウイルス-PsV(SP REI、右側のパネル)中和化アッセイを使用して測定した個々のD614偽ビリオン(PsV)中和抗体(Nab)価(Log10)を示す1組のグラフである。太いバーは群の平均を表し、点線は試験を行った最低希釈倍率の逆数であり、VSV-PsVアッセイのLLOQは1.5Log10である。3つ全ての用量レベルを合わせた場合の倍率変化をグラフの下に示す。
図21】カニクイザルにおける、5週目時点の懸念される変異株に対する個々のレンチウイルス-PsV NAb価(Log10)を示すグラフである。点線は試験を行った最低希釈倍率の逆数を表す。CoV2 preS dTM-AS03:本明細書に記載される、AS03と共に製剤化した武漢株(D614)および/またはB.1.351(南アフリカ)変異型株に由来する組換えSタンパク質。
図22】mRNAプライミングマカク(左側のパネル)、サブユニットプライミングマカク(中央のパネル)、およびヒト回復期血清(右側のパネル)における、ブースター免疫化前後の個々のS結合IgG価(Log10EU)を示す1組のグラフである。線およびバーは群の平均を表し、水平点線は試験を行った最低希釈倍率の逆数を表す。
図23-1】mRNAプライミング(左側のパネル)およびサブユニットプライミング(中央のパネル)マカクにおけるブースター免疫化前後の個々のD614G(上)およびB.1.351(下)PsV NAb価(Log10)を、ヒト回復期血清(右側のパネル)におけるD614 PsV NAb価と比較して示すグラフのパネルである。線およびバーは群の平均を表し、水平点線は試験を行った最低希釈倍率の逆数を表す。
図23-2】図23-1の続き。
図24】mRNAプライミング(左側のパネル)およびサブユニットプライミング(右側のパネル)マカクにおける、ブースター免疫化後の懸念される変異株およびSARS-CoV-1に対する個々のPsV NAb価を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0051】
本開示は、COVID-19に対する防御となる免疫原性組成物を提供する。組成物は、SARS-CoV-2 Sタンパク質に由来し、バキュロウイルス/昆虫細胞発現系において発現する組換えタンパク質を含む。組換えタンパク質は、Sタンパク質の膜貫通および細胞質ドメインの全部または一部を欠く一方で、Sタンパク質の細胞外部分(例えば、Sタンパク質外部ドメインの全体または一部)を含み得る。組換えタンパク質は、3つの同一のサブユニットポリペプチドで構成することができ(すなわち、ホモ三量体)、それぞれは、安定化した天然型融合前三量体配置における3つのサブユニットポリペプチドの三量体化を容易にするバキュロウイルス/昆虫細胞系での発現に最適化された三量体化モチーフを含有する。免疫原性組成物は、トコフェロール含有スクアレンエマルションアジュバントをさらに含む。
【0052】
本明細書における免疫原性組成物は、SARS-CoV-2ナイーブヒト対象における症候性COVID-19の防止、中等度~重度のCOVID-19の防止(例えば、入院の防止)、無症候性感染の防止のために使用することができ、同種適合株に対する免疫原性、ウイルス負荷の減少、および/または流行している変異型株に対する防御を誘発することができる。別段の指示がない限り、SARS-CoV-2「変異株」とは、Sタンパク質における1つまたはそれ以上のアミノ酸が、起源である武漢株(配列番号1)と異なるSARS-CoV-2株を指す。
【0053】
本明細書で使用する場合、「免疫原性組成物」、「ワクチン」、および「ワクチン組成物」という用語は、交換可能であり、COVID-19症状の緩和ならびに疾患からの回復および生存の向上を含むSARS-CoV-2感染症に対する予防的防御を誘発することができる構成成分を含有する組成物を指す。
【0054】
本明細書で使用する場合、2つのアミノ酸配列の間の同一性パーセントとは、問合せ配列と参照配列とを最大の同一性を求めてアラインメントした場合における、参照配列の残基と同一である問合せ配列におけるアミノ酸残基の百分率を指す。相同配列は、参照配列と同じ長さであっても、それより短くても(例えば、参照配列の少なくとも90%(例えば、少なくとも91、92、93、94、95、96、97、98、または99%)の長さであっても)よい。
【0055】
I.免疫原性組成物の抗原構成成分
本開示の免疫原性組成物は組換えSARS-CoV-2 Sタンパク質を含む。組換えタンパク質は、ウイルスエンベロープにおいて天然型融合前三量体立体構造を維持するために安定化される。
【0056】
SARS-CoV-2 Sタンパク質は1273個のアミノ酸残基を有する。Sタンパク質のアミノ酸配列は、NCBI受託番号YP_009724390において入手可能である。配列を以下に示す。シグナル配列は四角で囲み(MFVFLVLLPLVSS(配列番号2))、膜貫通および細胞内ドメインは下線で示す。S1およびS2接合部は残基685と686との間にあり、これらの残基は太字かつ下線で示す。
【0057】
【化1】
【0058】
本明細書における組換えSタンパク質は、3つの同一のポリペプチド(本明細書では「組換えSポリペプチド」)で構成される。成熟前、各組換えSポリペプチドは、昆虫細胞におけるタンパク質発現に好適なシグナル配列を含んでもよい。例えば、シグナル配列は昆虫またはバキュロウイルスタンパク質に由来する。シグナル配列はまた、人工シグナル配列であり得る。一部の実施形態では、シグナル配列は、キチナーゼおよびGP64などの昆虫またはバキュロウイルスタンパク質に由来する。例示的なキチナーゼシグナル配列は、野生型キチナーゼシグナル配列
MLYKLLNVLW LVAVSNA(配列番号11)
または突然変異キチナーゼシグナル配列
MPLYKLLNVL WLVAVSNA(配列番号3)
である。このキチナーゼシグナル配列と相同(例えば、少なくとも95、96、97、98、または99%同一)である配列もまた、シグナルペプチド機能が保持されている限り、使用することができる。米国特許第8,541,003号もまた参照のこと。
【0059】
本明細書における組換えSタンパク質は、SARS-CoV-2 Sタンパク質外部ドメイン配列、例えば、配列番号1の残基14~1,211に対応する配列を含む。例示的なSARS-CoV-2 Sタンパク質外部ドメイン配列は以下のように示される:
【化2】
【0060】
一部の実施形態では、組換えSタンパク質は、本明細書にさらに記載されるある特定のアミノ酸置換を除いては配列番号4の配列を含むことができ、配列番号4と少なくとも99%(例えば、少なくとも99.5、99.6、99.7、99.8、99.9%)同一である。さらなる実施形態では、配列番号4の669~672位における残基(太字)は残基GSAS(配列番号6)に変更される、ならびに/または配列番号4の973位および74位における残基(下線)は残基PPに変更される。
【0061】
一部の実施形態では、組換えSタンパク質は、COVID-19パンデミックにおいて流行している変異株に見出される1つまたはそれ以上の共通の突然変異を含む。そのような突然変異の1つは、現在の世界中でのCOVID-19罹患の大部分に関連するD614G突然変異(配列番号1に従った番号付け)である。組換えSタンパク質に含まれる場合がある他の突然変異は、W152C、K417T/N、N440K、V445I、G446A/S、L452R、Y453F、L455F、F456L、A475V、G476S、T478I/K/A、V483A/F/I、E484Q/K/D/A、F490S/L、Q493L/R、S494P/L、Y495N、G496L、P499H、N501Y、V503F/I、Y505W/H、Q506H/K、およびP681H突然変異(配列番号1に従った番号付け)のうちの1つまたはそれ以上であり得る。一部の実施形態では、組換えSタンパク質は、突然変異N440K、T479I/K/A、およびD614Gのうちの1つまたはそれ以上を含み得る。
【0062】
一部の実施形態では、組換えSタンパク質は、B.1.1.7(イギリスまたはアルファ変異株;例えば、N501Y/P681H/H69/V70の欠失)、B.1.351(南アフリカまたはベータ変異株;例えば、K417N/E484K/N501Y)、B1.617(インドまたはデルタ変異株;例えば、L452R/E484Q突然変異)、P.1(ブラジルまたはガンマ変異株;例えば、K417T/E484K/N501Y)、およびCAL.20C株(aka.B.1.429;カリフォルニアまたはイプシロン変異株;例えば、W152C/L452R)などのSARS-CoV-2変異株に見出される1つまたはそれ以上の突然変異を含む。
【0063】
組換えSタンパク質における外部ドメイン配列は、宿主細胞(例えば、昆虫細胞)におけるタンパク質の発現および産生タンパク質の安定性を向上させるために改変してもよい。一部の実施形態では、S外部ドメイン配列は、S1サブユニットとS2サブユニットとの接合部におけるプロタンパク質転換酵素(PPC)モチーフ(フーリン切断部位)を除去する突然変異を含有する。例えば、フーリン切断部位における配列RRAR(配列番号5;配列番号1の残基682~685に対応)は、GSAS(配列番号6)に変更される。そのような突然変異は、未変性Sタンパク質の融合前立体構造を保存するのに役立つ。
【0064】
一部の実施形態では、外部ドメイン配列は、中和応答を生じる可能性がより高い融合前エピトープの抗原提示を容易にするために、組換えSタンパク質をより安定な立体構造に維持するのに役立つ他の突然変異を含有する。例えば、配列番号1の残基986および987に対応するアミノ酸(KV)はPPに突然変異される(例えば、Wrapp、前出;Kirchdoerferら、Sci Rep.(2018)8:15701;Xiong、前出を参照のこと)。
【0065】
本明細書における組換えSタンパク質は、バキュロウイルス/昆虫細胞発現系での発現に最適化された三量体化ドメインをC末端領域に含み、その結果、Sタンパク質は未変性Sタンパク質の安定化した融合前立体構造をとることができる。フォルドンドメインコード配列は、S外部ドメインコード配列の最後のコドンと停止コドンとの間に挿入することができる。一部の実施形態では、三量体化ドメインは、T4ファージのフィブリチンのフォルドンドメインに由来する(例えば、Meierら、J Mol Biol.(2004)344(4):1051~69;国際公開第2018/081318号を参照のこと)。例示的なフォルドン配列を以下に示す:
GYIPEAPRDG QAYVRKDGEW VFLSTFL(配列番号7)。
【0066】
一部の実施形態では、フォルドン配列は、宿主細胞における組換えタンパク質の発現を増強するように最適化してもよい。例えば、昆虫細胞(例えば、スポドプテラ(Spodoptera)属の細胞)における組換えタンパク質の発現を増強するために、フォルドン配列をコードする配列をコドン最適化してもよい。以下は、フォルドンドメインの天然のコード配列(上)およびコドン最適化型(下)を示す(ヌクレオチド点突然変異はアスタリスクによって示される):
【化3】
【0067】
組換えSタンパク質は、精製を容易にするためにタグ(例えば、Hisタグ、FLAGタグ、HAタグ、Mycタグ、またはV5タグ)を含んでもよい。
【0068】
一部の実施形態では、組換えSタンパク質は、以下の配列を有するが、プロセシングされて構築された後はシグナル配列を有しない、ポリペプチドの三量体であり得る。以下の配列において、シグナル配列は下線(残基1~18)、フォルドン配列は二重下線(残基1217~1243)で示し、野生型配列に対する突然変異(人工的に導入した)は太字かつ下線で示す(残基687~690および991~992)。このタンパク質は、本明細書において「preS dTM」または「D614 preS dTM」とも称される。
【0069】
【化4】
【0070】
配列番号10と相同である配列もまた使用することができる。例えば、配列が配列番号10と少なくとも95%(例えば、少なくとも96、97、98、または99%)同一である組換えSポリペプチドが使用可能である。相同配列は、配列番号10と同じ長さであっても、配列番号10より10%以下(例えば、9、8、7、6、5、4、3、2、または1%以下)だけ短いかまたは長くてもよい。さらなる実施形態では、配列番号10の687~690位における残基GSAS(配列番号6)ならびに/または配列番号10の991位および992位における残基PPは、そのような相同配列に維持される。2つのアミノ酸配列の同一性パーセントは、例えば、初期パラメータを使用するBLAST(登録商標)(米国立医学図書館の米国立生物工学情報センターのウェブサイトにおいて利用可能)によって得ることができる。
【0071】
一部の実施形態では、preS dTMの変異株(本明細書ではまた「preS dTM変異株」)、すなわち、配列番号10と異なるアミノ酸を(例えば、シグナル配列領域の外側に)1つまたはそれ以上含有する組換えSタンパク質が使用される。さらなる実施形態では、組換えSタンパク質は南アフリカまたはベータ変異株B.1.351に由来する。この変異株は、以下の突然変異(武漢株または配列番号1に対する):(i)NTDドメインにおける:L18F、D80A、D215G、L242del、A243del、およびL244del;(ii)RBDドメインにおける:K417N、E484K、N501Y;(iii)S1ドメインにおける:D614G;ならびに(iv)A701Vを含有する。Sタンパク質は、プロセシングされて産生細胞から分泌された後はシグナル配列(下線;残基1~18)を有しない以下の配列(配列番号13)を含み得る。T4フォルドン配列は二重下線で示し(残基1214~1240);配列番号10からの変異は四角で囲んで太字で示し;人工的に導入された突然変異(残基684~687および残基988~989)は下線かつ太字で示す。武漢株に由来するSタンパク質と比較して、このタンパク質は、以下の243~246位における「FQTL」の直後に3個の残基「LAL」の欠失も有する。
【0072】
【化5】
【0073】
一部の実施形態では、本免疫原性組成物は多価(例えば、二価、三価、または四価)である。すなわち、組成物は、複数(例えば、2つ、3つ、または4つの)異なる組換えSタンパク質を含む。多価組成物における1つまたはそれ以上の組換えSタンパク質は、D614GなどのSARS-CoV-2変異株に見出される1つまたはそれ以上の突然変異、ならびに新たに出現した変異型株、例えば、B.1.1.7、B.1.351、B.1.617、P.1、およびCAL.20Cに見出される突然変異を含み得る。
【0074】
一部の実施形態では、本免疫原性組成物は二価である。さらなる実施形態では、二価組成物は、武漢株に由来する第1の組換えSタンパク質と、南アフリカ株に由来する第2の組換えSタンパク質とを含む。ある特定の実施形態では、二価組成物は、シグナル配列を有しない配列番号10を含む組換えSタンパク質と、シグナル配列を有しない配列番号13を含む組換えSタンパク質とを含む。
【0075】
II.免疫原性組成物のアジュバント構成成分
本免疫原性組成物は、薬学的に許容される成分を有するトコフェロール含有スクアレンベース水中油型(O/W)エマルションアジュバントを含む。トコフェロール含有スクアレンエマルションアジュバントとも称されるそのようなアジュバントは、組換えSタンパク質に対する免疫応答の規模および/または質を増強する。
【0076】
スクアレンは、化学式[(CHC[=CHCHCHC(CH)]2=CHCH-](すなわち、C3050;CAS登録番号7683-64-9)を有する分枝鎖の不飽和テルペノイドである。これは、2,6,10,15,19,23-ヘキサメチル-2,6,10,14,18,22-テトラコサヘキサエンとしても公知である。スクアレンは良好な生物適合性を示し、容易に代謝される。
【0077】
トコフェロール含有スクアレンエマルションアジュバントは、1種またはそれ以上のトコフェロールを含有する。α、β、γ、δ、ε、および/またはξトコフェロールのいずれも使用可能であるが、典型的にはα-トコフェロール(またはアルファ-トコフェロール)が使用される。D-アルファ-トコフェロールおよびD/L-アルファ-トコフェロールはいずれも使用可能である。一部の実施形態では、トコフェロール含有スクアレンエマルションアジュバントは、アルファ-トコフェロール、例えば、D/L-アルファ-トコフェロールを含有する。
【0078】
トコフェロール含有スクアレンエマルションアジュバントは、典型的にはサブミクロン(1μm未満)の液滴サイズを有し得る。一部の実施形態では、液滴は平均して500nm未満、例えば、200nm未満である。200nm未満の液滴サイズは、濾過による滅菌を容易にすることができるという点で有益である。80~200nmの範囲の液滴サイズが、効力、製造の一貫性、および安定性の理由で目的のものであるという証拠が存在する(Kluckerら、J Pharm Sci.(2012)101(12):4490~500;Shahら、Nanomedicine(Lond)(2014)9:2671~81;Shahら、J Pharm Sci.(2015)104:1352~61;Shahら、Scientific Reports(2019)9:11520)。一部の実施形態では、アジュバントは、少なくとも50nm、少なくとも80nm、または少なくとも100nm(例えば、少なくとも120nm)の平均液滴サイズを有する。例えば、アジュバントは、50~200nm(例えば、80~200nm)、120~180nm、または140~180nm、例えば約160nmの平均液滴サイズを有し得る。
【0079】
液滴サイズの均一性は望ましい。0.7よりも大きい多分散指数(PdI)は、サンプルが非常に幅広いサイズ分布を有することを示し、0の報告値は、サイズの差異が存在しないことを意味する。好適には、トコフェロール含有スクアレンエマルションアジュバントは、0.5もしくはそれ以下、または0.3もしくはそれ以下、例えば0.2またはそれ以下のPdIを有する。
【0080】
液滴サイズとは、本明細書で使用する場合、エマルションにおける油滴の平均直径を意味し、様々な手段で、例えば、Particle Sizing Systems(Santa Barbara、USA)から入手可能なAccusizer(商標)およびNicomp(商標)シリーズの機器、Malvern Instruments(UK)製のZetasizer(商標)機器、または堀場製作所(日本、京都)製の粒度分布測定装置などの装置を用いる動的光散乱法および/または単一粒子光学検知法の技法を使用して決定することができる(Schartl、Light Scattering from Polymer Solutions and Nanoparticle Dispersions(2007))。動的光散乱法(DLS)とは、液滴サイズを決定する方法である。平均液滴直径を定めるための方法は、Z平均、すなわち、DLSによって測定した液滴のアンサンブル集合の流体力学的サイズの強度加重平均である。Z平均は、単一粒径(液滴直径)を想定し、単一の指数関数フィッティングを自己相関関数に適用する、測定した相関曲線のキュムラント解析に由来する。したがって、本明細書における平均液滴サイズへの言及は強度加重平均、理想的にはZ平均として考えられるべきである。PdI値は、平均直径を測定する同じ計装によって容易に求められる。
【0081】
安定なサブミクロンのエマルションを維持するために、1種またはそれ以上の乳化剤(すなわち、界面活性剤)が概して必要とされる。界面活性剤は、「HLB」(グリフィンの親水性/親油性バランス)によって分類することができ、一般に、1~10の範囲のHLBは界面活性剤が水よりも油に可溶であることを意味し、10~20の範囲のHLBは界面活性剤が油よりも水に可溶であることを意味する。多くの目的の界面活性剤のHLB値は、容易に入手可能であるかまたは実験的に決定することができ、例えば、ポリソルベート80は15.0のHLBを有し、TPGSは13~13.2のHLBを有する。トリオレイン酸ソルビタンは1.8のHLBを有する。2種またはそれ以上の界面活性剤がブレンドされる場合、得られるブレンドのHLBは典型的には加重平均によって算出される。例えば、ポリソルベート80とTPGSとの70/30重量%混合物は、(15.0×0.70)+(13×0.30)、すなわち14.4のHLBを有する。ポリソルベート80とトリオレイン酸ソルビタンとの70/30重量%混合物は、(15.0×0.70)+(1.8×0.30)、すなわち11.04のHLBを有する。
【0082】
界面活性剤は、典型的には代謝可能(生分解性)かつ生体適合性で、医薬品としての使用に好適であり得る。界面活性剤としては、イオン性(カチオン性、アニオン性、もしくは双性イオン性)および/または非イオン性界面活性剤を挙げることができる。非イオン性界面活性剤のみの使用は、例えばpH非依存性のために望ましい。したがって、本発明は:(i)ポリオキシエチレンソルビタンエステル界面活性剤(一般的にTweenもしくはポリソルベートと称される)、例えばポリソルベート20およびポリソルベート80;(ii)DOWFAX(商標)、Pluronic(商標)(例えば、F68、F127、もしくはL121グレード)もしくはSynperonic(商標)の商品名で販売されている、エチレンオキシド(EO)、プロピレンオキシド(PO)、および/もしくはブチレンオキシド(BO)のコポリマー、例えば線状EO/POブロックコポリマー、例えばポロキサマー407、ポロキサマー401、およびポロキサマー188;(iii)オクトキシノール-9(トリトンX100、もしくはt-オクチルフェノキシポリエトキシエタノール)が目的のものである、繰り返しエトキシ(オキシ-1,2-エタンジイル)基の数が様々であり得るオクトキシノール;(iv)(オクチルフェノキシ)ポリエトキシエタノール(IGEPAL CA-630/NP-40);(v)リン脂質、例えばホスファチジルコリン(レシチン);(vi)ラウリル、セチル、ステアリル、およびオレイルアルコールに由来するポリオキシエチレン脂肪族エーテル(Brij(登録商標)界面活性剤として公知)、例えばポリオキシエチレン-4-ラウリルエーテル(Brij(登録商標)30、Emulgin(登録商標)104P)、ポリオキシエチレン-9-ラウリルエーテル、およびポリオキシエチレン12セチル/ステアリルエーテル(Eumulgin(登録商標)B1、セテアレス-12、もしくはポリオキシエチレンセトステアリルエーテル);(vii)ソルビタンエステル(一般的にSpanとして公知)、例えば、トリオレイン酸ソルビタン(Span(登録商標)85)、モノオレイン酸ソルビタン(Span(登録商標)80)、およびモノラウリン酸ソルビタン(Span(登録商標)20);または(viii)トコフェロール誘導体界面活性剤、例えばアルファ-トコフェロール-ポリエチレングリコールコハク酸(TPGS)を含むがこれらに限定されない界面活性剤を使用することができる。薬学的に許容される界面活性剤の多くの例は当技術分野で公知である。例えば、Handbook of Pharmaceutical Excipients(2009年、第6版)を参照のこと。スクアレンエマルションアジュバントにおいて使用する界面活性剤の選択を最適化するための方法は、Kluckerら、J Pharm Sci.(2012)101(12):4490~500に例示されている。
【0083】
概して、界面活性剤構成成分は、10~18の間、例えば12~17の間(例えば、13~16)のHLBを有する。これは、典型的には単一の界面活性剤を使用して、または一部の実施形態では、界面活性剤の混合物を使用して達成することができる。目的の界面活性剤としては:単独、互いとの組合せ、または他の界面活性剤との組合せのいずれかにおけるポロキサマー401、ポロキサマー188、ポリソルベート80、トリオレイン酸ソルビタン、モノオレイン酸ソルビタン、およびポリオキシエチレン12セチル/ステアリルエーテルを挙げることができる。単独または互いとの組合せのいずれかにおけるポリソルベート80、トリオレイン酸ソルビタン、モノオレイン酸ソルビタン、およびポリオキシエチレン12セチル/ステアリルエーテルが目的のものである。目的の界面活性剤はポリソルベート80である。目的の界面活性剤の組合せは、ポリソルベート80とトリオレイン酸ソルビタンである。目的の界面活性剤のさらなる組合せは、モノオレイン酸ソルビタンとポリオキシエチレンセトステアリルエーテルである。
【0084】
ある特定の実施形態では、トコフェロール含有スクアレンエマルションアジュバントは、ポリソルベート80などの1種の界面活性剤を含む。一部の実施形態では、トコフェロール含有スクアレンエマルションアジュバントは、ポリソルベート80とトリオレイン酸ソルビタン、またはモノオレイン酸ソルビタンとポリオキシエチレンセトステアリルエーテルなどの2種の界面活性剤を含む。他の実施形態では、トコフェロール含有スクアレンエマルションアジュバントは、3種の界面活性剤などの3種またはそれ以上の界面活性剤を含む。
【0085】
望ましくは、スクアレンのトコフェロールに対する重量比は、20またはそれ以下(すなわち、トコフェロール1重量単位当たりスクアレン20重量単位もしくはそれ以下、または、別の言い方をすると、スクアレン20重量単位当たりトコフェロール少なくとも1重量単位)、例えば10またはそれ以下である。好適には、スクアレンのトコフェロールに対する重量比は、0.1またはそれ以上である。典型的には、スクアレンのトコフェロールに対する重量比は、0.1~10、0.2~5、または0.3~3、例えば0.4~2である。好適には、スクアレンのトコフェロールに対する重量比は、0.72~1.136、0.8~1、または0.85~0.95、例えば0.9である。
【0086】
典型的には、スクアレンの界面活性剤に対する重量比は、0.73~6.6、1~5、または1.2~4である。好適には、スクアレンの界面活性剤に対する重量比は、1.71~2.8、2~2.4、または2.1~2.3、例えば2.2である。
【0087】
単回ヒト用量などの単回用量のトコフェロール含有スクアレンエマルションアジュバントにおけるスクアレンの量は、典型的には少なくとも1.2mgである。概して、単回ヒト用量などの単回用量のトコフェロール含有スクアレンエマルションアジュバントにおけるスクアレンの量は、50mgまたはそれ以下である。単回ヒト用量などの単回用量のトコフェロール含有スクアレンエマルションアジュバントにおけるスクアレンの量は、1.2~20mg(例えば、1.2~15mg)であり得る。単回ヒト用量などの単回用量のトコフェロール含有スクアレンエマルションアジュバントにおけるスクアレンの量は、1.2~2mg、2~4mg、4~8mg、または8~12.1mgであり得る。例えば、単回ヒト用量などの単回用量のトコフェロール含有スクアレンエマルションアジュバントにおけるスクアレンの量は、1.21~1.52mg、2.43~3.03mg、4.87~6.05mg、または9.75~12.1mgであり得る。
【0088】
単回ヒト用量などの単回用量のトコフェロール含有スクアレンエマルションアジュバントにおけるトコフェロールの量は、典型的には少なくとも1.3mgである。概して、単回ヒト用量などの単回用量のトコフェロール含有スクアレンエマルションアジュバントにおけるトコフェロールの量は、55mgまたはそれ以下である。単回ヒト用量などの単回用量のトコフェロール含有スクアレンエマルションアジュバントにおけるトコフェロールの量は、1.3~22mg(例えば、1.3~16.6mg)であり得る。単回ヒト用量などの単回用量のトコフェロール含有スクアレンエマルションアジュバントにおけるトコフェロールの量は、1.3~2mg、2~4mg、4~8mg、または8~13.6mgであり得る。例えば、単回ヒト用量などの単回用量のトコフェロール含有スクアレンエマルションアジュバントにおけるトコフェロールの量は、1.33~1.69mg、2.66~3.39mg、5.32~6.77mg、または10.65~13.53mgであり得る。
【0089】
単回ヒト用量などの単回用量のトコフェロール含有スクアレンエマルションアジュバントにおける界面活性剤の量は、典型的には少なくとも0.4mgである。概して、単回ヒト用量などの単回用量のトコフェロール含有スクアレンエマルションアジュバントにおける界面活性剤の量は、18mgまたはそれ以下である。単回ヒト用量などの単回用量のトコフェロール含有スクアレンエマルションアジュバントにおける界面活性剤の量は、0.4~9.5mg(例えば、0.4~7mg)であり得る。単回ヒト用量などの単回用量のトコフェロール含有スクアレンエマルションアジュバントにおける界面活性剤の量は、0.4~1mg、1~2mg、2~4mg、または4~7mgであり得る。例えば、単回ヒト用量などの単回用量のトコフェロール含有スクアレンエマルションアジュバントにおける界面活性剤の量は、0.54~0.71mg、1.08~1.42mg、2.16~2.84mg、または4.32~5.68mgであり得る。
【0090】
ある特定の実施形態では、トコフェロール含有スクアレンエマルションアジュバントは、スクアレン、トコフェロール、界面活性剤、および水を含み得るかまたはそれから本質的になり得る。例えば、スクアレン、トコフェロール、界面活性剤、および水に加えて、トコフェロール含有スクアレンエマルションアジュバントは、緩衝剤および/または浸透圧調整剤、例えば、改変リン酸緩衝生理食塩水(リン酸二ナトリウム、二リン酸カリウム、塩化ナトリウム、および塩化カリウム)などの、所期の最終生成物およびワクチン接種戦略に応じて所望されるかまたは必要とされる追加の構成成分を含有してもよい。
【0091】
均一に小さい液滴サイズおよび長期安定性を有するトコフェロール含有スクアレンエマルションアジュバントを得るために、高圧ホモジナイゼーション(HPHまたはマイクロフルイダイゼーション)を適用することができる(例えば、欧州特許第0868918(B1)号および国際公開第2006/100109号を参照のこと)。簡潔に述べると、スクアレンおよびトコフェロールから構成される油相を窒素雰囲気下で作製することができる。典型的には注射用水またはリン酸緩衝生理食塩水およびポリソルベート80から構成される水相は別個に調製する。油相および水相を例えば1:9の比(油相の容量対水相の容量)で合わせ、その後、例えばインラインホモジナイザーによる1パス処理およびマイクロフルイダイザー(おおよそ15000psi)による3パス処理によってホモジナイゼーションおよびマイクロフルイダイゼーションを行う。次いで、得られたエマルションを、例えば重なった2枚の0.5/0.2μmフィルターに2回連続(すなわち、0.5/0.2/0.5/0.2)で通すことによって滅菌濾過することができる、(例えば、国際公開第2011/154444号を参照のこと)。操作は、望ましくは不活性雰囲気、例えば窒素下で行われる。正圧を印加してもよい(例えば、国際公開第2011/154443号を参照のこと)。
【0092】
国際特許出願第2020/160080号およびLodayaら(J Control Release(2019)316:12~21)は、自己乳化アジュバントシステム(SEAS)であるトコフェロール含有スクアレンエマルションアジュバントおよびその製造を記載している。
【0093】
一部の実施形態では、トコフェロール含有スクアレンエマルションアジュバントはAS03アジュバントである。例えば、国際公開第2006/100109号;Garconら、Expert Rev Vaccines(2012)11:349~66;Cohetら、Vaccine(2019)37(23):3006~21を参照のこと。このアジュバントには、スクアレン、アルファ-トコフェロール、およびポリソルベート80が含まれる。ヒト成人への使用において、アジュバント(AS03とも称される)の単回総用量は、スクアレン10.69mg、アルファ-トコフェロール11.86mg、およびポリソルベート80 4.86mgと、PBSとを含有する水中油型エマルション0.25mLである(Fox、Molecules(2009)14:3286~312;Morelら、Vaccine(2011)29:2461~73)。以下の表9もまた参照のこと。
【0094】
ある特定の低減用量のAS03もまた記載されており(国際公開第2008/043774号)、例えばAS03(1/2用量)、AS03(1/4用量)、およびAS03(1/8用量)が挙げられる(Carmona Martinezら、Hum Vaccin Immunother.(2014)10(7):1959~68)。したがって、所望される場合、水中油型エマルションアジュバントは、AS03としての(単回)用量当たりわずか1/2、1/4、または1/8の量のスクアレン、アルファ-トコフェロール、およびポリソルベート80を含有する。これらの低減用量、例えばAS03またはAS03は、低下された反応原性が望ましい場合、例えば小児対象において有用となり得る。例えば、単回アジュバント用量は:(i)スクアレン5.34mg、アルファ-トコフェロール5.93mg、およびポリソルベート80 2.43mg(例えば、AS03;以下の表9に示す水中油型エマルション125μL);(ii)スクアレン2.67mg、アルファ-トコフェロール2.97mg、およびポリソルベート80 1.22mg(例えば、AS03;以下の表9に示す水中油型エマルション62.5μL);または(iii)スクアレン1.34mg、アルファ-トコフェロール1.48mg、およびポリソルベート80 0.61mg(例えば、AS03;すなわち、以下の表9に示す水中油型エマルション31.25μL)を含有し得る。典型的には、単回用量のAS03アジュバントの最終容量は0.25mLまたは0.5mLである。したがって、上記の所望の量のスクアレン、アルファ-トコフェロール、およびポリソルベート80と調和させるために必要な濃縮水中油型エマルションバルク(例えば、以下の表9の水中油型エマルション)の容量が0.25mL未満または0.5mL未満である場合は、リン酸緩衝生理食塩水を用いて、そのような容量を所望の容量(0.25mLまたは0.5mL)にしてもよい。
【0095】
望ましくない分解を制限するために、トコフェロール含有スクアレンエマルションは概して、例えば限定的なヘッドスペースを有する容器においておよび/または窒素下での保存によって、酸素への曝露を制限して保存すべきである。
【0096】
コロナウイルスワクチンに関する潜在的な安全性の問題は、野生型ウイルスへの曝露時にワクチン由来の免疫病態が増強し得ることである(Smattiら、Front Microbiol.(2018)9:2991)。ウイルス感染の抗体依存性増強または免疫増強と称されるこの現象の分子機構は依然として完全には理解されていない。コロナウイルス感染症の文脈では、様々な因子がこの現象に潜在的に寄与すると示唆されている。これらの因子としては、標的となるエピトープ、抗原の送達方法、免疫応答の規模、結合抗体と機能抗体とのバランス、特定のFc受容体との結合などの機能的特徴を有する抗体の誘発、およびヘルパーT細胞応答の性質が挙げられる(Tsengら、PLoS One(2012)7(4);Yasuiら、J Immunol.(2008)181(9):6337~48;Czubら、Vaccine(2005)23(17~18):2273~9)。AS03などのアジュバントを含むアジュバント製剤を含めることは、中和抗体応答の規模をさらに増強し、それによって、大半が非中和抗体によって媒介されると考えられるウイルス感染の抗体依存性増強を緩和すると予想される。
【0097】
III.組換えSタンパク質の作製
本免疫原性組成物のウイルス抗原構成成分は、組換え技術によって、オートグラファ・カリフォルニカ核多角体病ウイルス(AcMNPV:Autographa californica multiple nucleopolyhedrovirus)に由来するものなどのバキュロウイルス発現ベクターによって形質導入された昆虫細胞(例えば、ショウジョウバエ(Drosophila)S2細胞、ツマジロクサヨトウ(Spodoptera frugiperda)細胞、Sf9細胞、Sf21、High Five細胞、またはexpresSF+細胞)において産生することができる。AcMNPVなどのバキュロウイルスは、大きなタンパク質の結晶性包埋体を感染細胞の核内に形成し、ポリヘドリンと称される単一ポリペプチドがそのタンパク質塊のおよそ95%を占める。ポリヘドリンの遺伝子は、単一コピーとしてバキュロウイルスゲノムに存在し、培養細胞におけるウイルス複製に必須ではないため、外来遺伝子と容易に置き換えることができる。組換えSポリペプチドなどの外来遺伝子を発現する組換えバキュロウイルスは、バキュロウイルスゲノムDNAと外来遺伝子を含有するトランスファープラスミドとの間での相同組換えによって構築される。
【0098】
ある特定の実施形態では、トランスファープラスミドは組換えSポリペプチドの発現カセットを含有し、発現カセットは、AcMNPVにおいてポリヘドリン座位に天然に隣接する配列に隣接する(図1)。トランスファープラスミドはバキュロウイルスゲノムDNAと同時に宿主細胞にトランスフェクトされる。バキュロウイルスゲノムDNAは、ポリヘドリン遺伝子とポリヘドリン座位の下流にある必須遺伝子の一部とを除去する酵素(例えば、Bsu36I)で線状化されており、そのため親ウイルスDNA分子は複製することができず、ゲノムDNAは非感染性となっているが;必須遺伝子のこの部分はトランスファープラスミドに存在する。同時トランスフェクション後、トランスファープラスミドと線状化ゲノムDNAとの間での相同組換えにより、ゲノムウイルスDNAは再び環状化し、その複製能を回復する。線状化前の本来のバキュロウイルスゲノムDNAはポリヘドリン遺伝子を含有するため、非組換えウイルスによって形成されたプラークは濁っている(感染細胞における結晶性包埋体のため)が、組換えウイルスによって形成されたプラークは透明である。
【0099】
バキュロウイルス発現ベクターは、組換えタンパク質の収量を増加するように操作してもよい。一部の実施形態では、バキュロウイルスベクターは1つまたはそれ以上の遺伝子がノックアウトされる。バキュロウイルスゲノムは、細胞培養におけるウイルス複製および組換えタンパク質の発現に必須ではない遺伝子を含有している。そのような遺伝子の欠失は、不要な遺伝的荷重を取り除き、より安定なバキュロウイルス発現ベクターを生成するのに役立ち、昆虫細胞感染の確立に必要な時間を減少し、結果として組換えタンパク質のより効率的な発現をもたらし得る。一部の実施形態では、ポリヘドリンプロモーターは、2コピー以上のバースト配列をポリヘドリンプロモーターに含めることによって改変され;例えば、プロモーターは、ヌクレオチド配列CTGTTTTCGTAACAGTTTTGTAATAAAAAAACCTATAAATA(配列番号12)の2つの反復を含有する「二重バースト」(DB)プロモーターを生じる2つのバースト配列を含むように操作してもよい。例えば、Manoharら、Biotechnol Bioeng.(2010)107:909~16を参照のこと。ウイルス抗原コード配列をバキュロウイルス発現ベクターに組み込むために、コード配列を有するトランスファープラスミドを、バキュロウイルスゲノムをコードするDNAに相同組換えによって組み込んでもよい。ウイルス同一性は、例えば、精製されたバキュロウイルスDNA由来のSタンパク質コード配列挿入断片のサザンブロットまたはサンガー配列決定解析、および感染昆虫細胞において産生された組換えタンパク質のウェスタンブロット解析によって確認することができる。例えば、米国特許第6,245,532号および同第8,541,003号を参照のこと。
【0100】
ウイルス抗原発現構築物を含有する宿主細胞は、バイオリアクター(例えば、45L、60L、459L、2000L、または20,000L)において、例えば、バッチ法または流加法で培養される。産生されたSタンパク質は、例えばカラムクロマトグラフィーによって、フロースルーモードまたは結合-溶出モードのいずれかで細胞培養物から単離することができる。例としては、レンズマメレクチンセファロースなどのイオン交換樹脂および親和性樹脂、ならびに混合モードカチオン交換疎水性相互作用カラム(CEX-HIC)である。タンパク質は、濃縮しても、限外濾過によって緩衝液交換してもよく、限外濾過の保持液は、0.22μmフィルターにより濾過してもよい。例えば、Sunil Thomas(編)、Vaccine Design:Methods and Protocols:Volume 1:Vaccines for Human Diseases、Methods in Molecular Biology、Springer、New York、2016におけるMcPhersonら、「Development of a SARS Coronavirus Vaccine from Recombinant Spike Protein Plus Delta Inulin Adjuvant」、第4章を参照のこと。米国特許第5,762,939号もまた参照のこと。
【0101】
バキュロウイルス発現ベクター系(BEVS)は、理想的なサブユニットワクチンの開発のための優れた方法を提供する。組換えタンパク質はそのような系によっておよそ8週間で作製可能である。迅速な作製は、パンデミックの脅威が存在する場合にはとりわけ重要である。さらに、バキュロウイルスは、分類学的に関連する数種類の昆虫種に限定される狭い宿主範囲のために安全であり、哺乳動物細胞において複製することが観察されていない。加えて、昆虫細胞と哺乳動物細胞の両方で複製可能であることが公知の微生物はほとんど存在せず;したがって、昆虫細胞によって産生される臨床産物における外来性感染性因子汚染の可能性は非常に低い。さらに、バキュロウイルスの天然宿主である昆虫は非刺咬性であるため、ヒトは概してこれらの昆虫由来のタンパク質に対する既存の免疫を有しておらず;したがって、BEV系において産生される臨床産物に対するアレルギー反応は起こらないと考えられる。さらに、昆虫細胞においてタンパク質に付加される炭水化物部分は、哺乳動物細胞において発現される対応物におけるものほど複雑ではないと考えられるが、昆虫細胞発現糖タンパク質の免疫原性と哺乳動物細胞発現糖タンパク質の免疫原性とは同等であると考えられる。バキュロウイルス系において発現される全長タンパク質は、通例、自己組織化して、通常では界面活性剤濃度を調節することによって天然タンパク質がとる、より高次の構造になる。最後に、BEVS系は、ポリヘドリンプロモーターの極度に高い活性のために非常に効率的であり、高レベルの組換えタンパク質の産生を著しく低いコストで可能にする。
【0102】
IV.ワクチンの製剤化および包装
組換えSタンパク質およびトコフェロール含有スクアレンエマルションアジュバントは、筋肉内または皮下投与などの非経口を含む様々な好適な経路を介して投与することができる。免疫原性組成物は、上に記載したように一価であっても多価であってもよい。好適には、組換えSタンパク質およびトコフェロール含有スクアレンエマルションアジュバントは筋肉内(IM)注射用に製剤化される。組換えSタンパク質およびトコフェロール含有スクアレンエマルションアジュバントは、例えば対象の上腕の三角筋へのIM注射によって、混合物として対象に投与してもよい。あるいは、組換えSタンパク質およびトコフェロール含有スクアレンエマルションアジュバントは、同じかまたは異なる経路によって、同じかまたは異なる場所に、同じかまたは異なる時間に別個に投与してもよい。
【0103】
別個の製剤として投与される場合、組換えSタンパク質およびトコフェロール含有スクアレンエマルションアジュバントは、望ましくは、アジュバント効果が十分に維持されるように、空間的に十分に近接した場所に投与される。例えば、空間的近接は、同じ場所に投与した場合に見られるアジュバント効果の少なくとも50%、少なくとも75%、または少なくとも90%を維持するのに十分である。同じ場所に投与した場合に見られるアジュバント効果とは、組換えSタンパク質単独の投与と比較した、組換えSタンパク質およびトコフェロール含有スクアレンエマルションアジュバントの同じ場所への投与の結果として観察される増加のレベルとして定義される。組換えSタンパク質およびトコフェロール含有スクアレンエマルションアジュバントは、望ましくは、同じ手足または同じ筋肉などの、同じリンパ節に流入する場所に投与される。好適には、組換えSタンパク質およびトコフェロール含有スクアレンエマルションアジュバントは同じ筋肉に筋肉内投与される。ある特定の実施形態では、組換えSタンパク質およびトコフェロール含有スクアレンエマルションアジュバントは同じ場所に投与される。投与の場所の空間的距離は、少なくとも5mm、例えば少なくとも1cmであり得る。投与の場所の空間的距離は、10cm未満、例えば5cm未満離れている場合がある。
【0104】
別個の製剤として投与される場合、組換えSタンパク質およびトコフェロール含有スクアレンエマルションアジュバントは、望ましくは、アジュバント効果が十分に維持されるように、時間的に十分に近接して投与される。例えば、時間的近接は、同時に投与した場合に見られるアジュバント効果の少なくとも50%、少なくとも75%、または少なくとも90%を維持するのに十分である。同時に投与した場合に見られるアジュバント効果とは、トコフェロール含有スクアレンエマルションアジュバントを伴わない組換えSタンパク質の投与と比較した、(本質的に)同じ時間での投与の結果として観察される増加のレベルとして定義される。別個の製剤として投与される場合、組換えSタンパク質およびトコフェロール含有スクアレンエマルションアジュバントは、12時間以内に投与される。好適には、組換えSタンパク質およびトコフェロール含有スクアレンエマルションアジュバントは、6時間以内、2時間以内、または1時間以内、例えば30分以内または15分以内(例えば、5分以内)に投与される。組換えSタンパク質の投与とトコフェロール含有スクアレンエマルションアジュバントの投与との間の時間は、少なくとも5秒(例えば、10秒)または少なくとも30秒であり得る。別個の製剤として投与される場合において、組換えSタンパク質とトコフェロール含有スクアレンエマルションアジュバントとが時間を空けて投与される場合、組換えSタンパク質が最初に投与され、次にトコフェロール含有スクアレンエマルションアジュバントが投与される。あるいは、トコフェロール含有スクアレンエマルションアジュバントが最初に投与され、次に組換えSタンパク質が投与される。適切な時間的近接は投与の順番に依存し得る。望ましくは、組換えSタンパク質とトコフェロール含有スクアレンエマルションアジュバントとは、意図的な遅延(複数回投与の実際性を考慮)を伴わずに投与される。
【0105】
組換えSタンパク質およびトコフェロール含有スクアレンエマルションアジュバントの直接投与のための配合剤としての形状または別個の製剤としての形状に加えて、組換えSタンパク質およびトコフェロール含有スクアレンエマルションアジュバントは、初めに、製造、保存、および流通を容易にする様々な形態で提供することができる。例えば、ある特定の構成成分は液体形態では限定的な安定性を有する場合があり、ある特定の構成成分は乾燥に適していない場合があり、ある特定の構成成分は混合した場合に配合禁忌となる場合がある(短期的または長期的のいずれか)。組換えSタンパク質およびトコフェロール含有スクアレンエマルションは、投与時に配合されるか否かにかかわらず、内容物が後に合わせられる別個の容器において提供することができる。組換えSタンパク質は液体または乾燥(例えば凍結乾燥)形態で提供することができ;選択される形態は、組換えSタンパク質の詳細な性質、例えば、組換えSタンパク質が乾燥に適しているか否か、または存在し得る他の構成成分などの因子に依存し得る。トコフェロール含有スクアレンエマルションアジュバントは、典型的には液体形態で提供される。
【0106】
免疫原性組成物は、抗原とアジュバントとが使用直前または使用時に接触する、即時製剤の形態であり得る。例えば、抗原は注射前にアジュバント(エマルション)と同容量で混合することができる。したがって、本開示は、本免疫原性組成物の抗原構成成分とアジュバントとを別個の容器(例えば、予め処理したガラスバイアルまたはアンプル)において提供するキットなどの製造物品を提供し、アジュバントと抗原構成成分とは注射前に混合され;一部の実施形態では、存在する場合、凍結乾燥構成成分の再懸濁に必要な溶液が物品中に提供される。あるいは、抗原構成成分とアジュバントとは同じ容器において混合および提供され、組成物はワクチン接種を必要とする対象に直接投与することができる。製造物品は使用のための説明書も含み得る。場合によっては、各容器の内容物は、第1および第2の製剤としての別個の投与が意図されている。
【0107】
一部の実施形態では、組換えSタンパク質は乾燥形態であり得、トコフェロール含有スクアレンエマルションアジュバントは液体形態であり得る。そのような場合、第1および第2の容器の内容物は、投与のための配合剤を得るために組み合わせることが意図されている。あるいは、組換えSタンパク質は、各容器の内容物を第1および第2の製剤としての別個の投与のために使用する前に再構成することが意図されている。
【0108】
再構成のために使用される液体の詳細な組成は、再構成される容器の内容物と、その後の再構成された内容物の使用、例えば、それらは直接投与されることが意図されているのか、または投与前に他の構成成分と組み合わされる場合があるのかということと、の両方に依存し得る。投与前に他の構成成分と組み合わせることが意図されている組成物(例えば組換えSタンパク質またはトコフェロール含有スクアレンエマルションアジュバントを含有するもの)は、それ自体が生理学的に許容されるpHを有する必要も生理学的に許容される浸透圧を有する必要もなく;投与が意図されている製剤は、生理学的に許容されるpHを有するべきであり、生理学的に許容される重量モル浸透圧濃度を有するべきである。
【0109】
液体調製物のpHは、組成物の構成成分とヒト対象への投与に必要な適合性とを考慮して調整される。製剤のpHは、概して少なくとも4、少なくとも5、または少なくとも5.5、例えば少なくとも6である。製剤のpHは、概して9もしくはそれ以下、8.5もしくはそれ以下、または8もしくはそれ以下、例えば7.5またはそれ以下である。製剤のpHは、4~9、5~8.5、または5.5~8、例えば6.5~7.4(例えば、6.5~7.1、例えば約6.8)であり得る。
【0110】
非経口投与の場合、溶液は、過剰な細胞の歪みまたは溶解を回避するために、生理学的に許容される重量モル浸透圧濃度を有するべきである。生理学的に許容される重量モル浸透圧濃度とは、概して、溶液がほぼ等張性であるかまたはわずかに高張性である重量モル浸透圧濃度を有し得ることを意味する。好適には、投与のための製剤は、250~750mOsm/kg、250~550mOsm/kg、または270~500mOsm/kg、例えば270~400mOsm/kg(例えば、約280mOsm/kg)の重量モル浸透圧濃度を有し得る。重量モル浸透圧濃度は、当技術分野で公知の技法に従って、例えば、市販の浸透圧計、例えばAdvanced Instruments Inc.(USA)から入手可能なAdvanced(登録商標)モデル2020の使用によって測定することができる。
【0111】
再構成のために使用される液体は、例えば注射用水、リン酸緩衝生理食塩水など、実質的に水性であり得る。上述したように、緩衝剤および/または浸透圧調整剤に関する要件は、再構成される容器の内容物と、その後の再構成された内容物の使用の両方に依存し得る。緩衝剤は、酢酸塩、クエン酸塩、ヒスチジン、マレイン酸塩、リン酸塩、コハク酸塩、酒石酸塩、およびTRISから選択することができる。緩衝剤は、Na/NaPO、Na/KPO、またはK/KPOなどのリン酸緩衝液であり得る。好適な緩衝剤は改変リン酸緩衝生理食塩水である。
【0112】
好適には、本発明において使用される製剤は、0.05mL~1mLの間、例えば0.1~0.6mLの間の1用量の容量を有するか、または0.45~0.55mL、例えば0.5mLの1用量の容量を有する。使用される組成物の容量は、対象、送達経路および場所に依存する場合があり、より少ない用量は、皮内経路によって投与されるか、または組換えSタンパク質とトコフェロール含有スクアレンエマルションアジュバントの両方が同じ場所に送達される場合に投与される。筋肉内などの経路による投与のための典型的なヒト用量は200μl~750μl、例えば400~600μlの範囲であるか、または約500μlである。
【0113】
組換えSタンパク質が液体形態であり、トコフェロール含有スクアレンエマルションアジュバントが液体形態である場合において、2つの液体が例えば配合剤とするために組み合わせることが意図される場合、各液体の容量は同じであっても異なっていてもよい。組み合わされる容量は、典型的には10:1~1:10、例えば2:1~1:2の範囲であり得る。好適には、各液体の容量は、実質的に同じ、例えば同じであり得る。例えば、液体形態の組換えSタンパク質の容量250μlを液体形態のトコフェロール含有スクアレンエマルションアジュバントの容量250μlと組み合わせて、500μlの容量の配合剤用量を得ることができ、組換えSタンパク質およびトコフェロール含有スクアレンエマルションアジュバントのそれぞれは、組み合わせている間に2倍に希釈される。
【0114】
したがって、トコフェロール含有スクアレンエマルションアジュバントは、投与前に液体組換えSタンパク質含有組成物によって希釈されることを予期して、濃縮物として調製することができる。例えば、トコフェロール含有スクアレンエマルションアジュバントは、投与前に等容量の組換えSタンパク質含有組成物によって希釈されることを予期して、2倍濃度で調製することができる。
【0115】
スクアレンの投与時の濃度は1mL当たり0.8~100mg(例えば、1ml当たり1.2~48.4mg)の範囲であり得る。
【0116】
組換えSタンパク質とトコフェロール含有スクアレンエマルションアジュバントとは、配合剤が意図されているか別個の製剤が意図されているかにかかわらず、バイアルまたは充填済みシリンジなどの様々な物理的容器の形態において提供することができる。
【0117】
一部の実施形態では、組換えSタンパク質、トコフェロール含有スクアレンエマルションアジュバント、または組換えSタンパク質とトコフェロール含有スクアレンエマルションアジュバントとを含むキットは、単回用量の形態で提供される。他の実施形態では、組換えSタンパク質、トコフェロール含有スクアレンエマルションアジュバント、または組換えSタンパク質とトコフェロール含有スクアレンエマルションアジュバントとを含むキットは、例えば2、5、または10用量を含有する多回用量形態で提供される。10用量を含むものなどの多回用量形態は、一方の部分(例えば、組換えSタンパク質)の単回用量を有する複数の容器と、第2の部分(例えば、トコフェロール含有スクアレンエマルションアジュバント)の複数回用量を有する単一の容器との形態において提供することも、一方の部分(組換えSタンパク質)の複数回用量を有する単一の容器と、第2の部分(トコフェロール含有スクアレンエマルションアジュバント)の複数回用量を有する単一の容器との形態において提供することもできる。
【0118】
液体が容器間で、例えばバイアルからシリンジへ移されることが意図されている場合、必要とされる全容量を簡便に移すことができることを保証する「増し仕込み」を設定することが一般的である。必要とされる増し仕込みのレベルは状況に依存し得るが、過剰な増し仕込みは廃棄量を削減するために回避するべきであり、不十分な増し仕込みは実際上の困難を引き起こすおそれがある。増し仕込みは、1用量当たり20~100μl程度、例えば30μlまたは50μlであり得る。例えば、2倍濃縮トコフェロール含有スクアレンエマルションアジュバント(1用量当たり250μl)の典型的な10用量容器は、トコフェロール含有スクアレンエマルションアジュバントをおおよそ2.85~3.25mL含有し得る。
【0119】
安定剤または保存剤が存在してもよい。これらは、多回用量容器が提供される場合は、複数用量の最終製剤がある期間にわたり対象に投与される場合があるため、有用となり得る。そのような安定剤/保存剤としては、限定されないが、パラベン、チメロサール、クロロブタノール、塩化ベンザルコニウム、およびキレート剤(例えば、EDTA)が挙げられる。
【0120】
液体形態の組換えSタンパク質およびトコフェロール含有スクアレンエマルションアジュバントは、マルチチャンバーシリンジの形態において提供することができる。マルチチャンバーシリンジの使用は、組換えSタンパク質およびトコフェロール含有スクアレンエマルションアジュバントの別個の逐次投与に簡便な方法を実現する。マルチチャンバーシリンジは、組換えSタンパク質およびトコフェロール含有スクアレンエマルションアジュバントの同時だが別個の送達を実現するように構成することも、逐次送達(いずれの順番でも)を実現するように構成することも、組合せ投与前の混合を容易にするように構成することもできる。マルチチャンバーシリンジの他の構成では、組換えSタンパク質は、一方のチャンバーに乾燥形態(例えば、フリーズドライ)で提供され、他方のチャンバーに含有されるトコフェロール含有スクアレンエマルションアジュバントによって再構成された後、投与することができる。マルチチャンバーシリンジの例は、国際公開第2016/172396号などの開示に見出すことができるが、様々な他の構成も可能である。
【0121】
一部の実施形態では、単位投薬量は、1用量当たり0.25mLまたは0.5mLで提供される組換えSタンパク質1~50または5~50(例えば、2.5、5、10、15、30、または45)μgである。
【0122】
一部の実施形態では、単位投薬量(すなわち、単回用量)は、保存剤も抗生物質も含有しない0.2%Tween20(登録商標)の濃度のリン酸緩衝生理食塩水(q.s.0.25mL)において製剤化された組換えSタンパク質5または10μgに対応する。抗原単位投薬量は多回用量バイアルで供給することができる。これらは、使用前に単回用量のAS03アジュバント(例えば、AS03、AS03、またはAS03)と混合される場合がある。
【0123】
一部の実施形態では、1単位投薬量は以下の表Aに示す成分を含有する。
【0124】
【表1】
【0125】
一部の実施形態では、IM注射によるヒトワクチン接種ごとに、滅菌無色透明PBS溶液0.25mL中preS dTMまたは変異株2.5μg(例えば、表A、以下の表8または表12を参照のこと)を、注射前にAS03(AS03;例えば表9を参照のこと)0.25mLと同容量で混合して、最終注射容量0.5mLを達成する。さらなる実施形態では、変異株はベータ変異株(例えば、シグナル配列を有しない配列番号13)である。他の実施形態では、抗原溶液と混合するためのAS03アジュバントの用量は、表9に示す0.25mLのエマルションの2分の1(AS03)、4分の1(AS03)、または8分の1(AS03)であり;そのような実施形態では、場合によりリン酸緩衝生理食塩水をAS03エマルションに添加して、アジュバント用量の最終容量である0.25mLを達成してもよい(例えば、表9を参照のこと)。
【0126】
一部の実施形態では、IM注射によるヒトワクチン接種ごとに、滅菌無色透明PBS溶液0.25mL中preS dTMまたは変異株5μg(例えば、表A、以下の表8または表12を参照のこと)を、注射前にAS03(AS03)0.25mLと同容量で混合して、最終注射容量0.5mLを達成する。さらなる実施形態では、変異株はベータ変異株(例えば、シグナル配列を有しない配列番号13)である。他の実施形態では、抗原溶液と混合するためのAS03アジュバントの用量は、表9に示す0.25mLのエマルションの2分の1(AS03)、4分の1(AS03)、または8分の1(AS03)であり;そのような実施形態では、場合によりリン酸緩衝生理食塩水をAS03エマルションに添加して、アジュバント用量の最終容量である0.25mLを達成してもよい(例えば、表9を参照のこと)。
【0127】
一部の実施形態では、IM注射によるヒトワクチン接種ごとに、滅菌無色透明PBS溶液0.25mL中preS dTMまたは変異株10μg(例えば、表A、以下の表8または表12を参照のこと)を、注射前にAS03(AS03)0.25mLと同容量で混合して、最終注射容量0.5mLを達成する。さらなる実施形態では、変異株はベータ変異株(例えば、シグナル配列を有しない配列番号13)である。他の実施形態では、抗原溶液と混合するためのAS03アジュバントの用量は、表9に示す0.25mLのエマルションの2分の1(AS03)、4分の1(AS03)、または8分の1(AS03)であり;そのような実施形態では、場合によりリン酸緩衝生理食塩水をAS03エマルションに添加して、アジュバント用量の最終容量である0.25mLを達成してもよい(例えば、表9を参照のこと)。
【0128】
一部の実施形態では、IM注射によるヒトワクチン接種ごとに、滅菌無色透明PBS溶液0.25mL中preS dTMまたは変異株15μg(例えば、表A、以下の表8または表12を参照のこと)を、注射前にAS03(AS03)0.25mLと同容量で混合して、最終注射容量0.5mLを達成する。さらなる実施形態では、変異株はベータ変異株(例えば、シグナル配列を有しない配列番号13)である。他の実施形態では、抗原溶液と混合するためのAS03アジュバントの用量は、表9に示す0.25mLのエマルションの2分の1(AS03)、4分の1(AS03)、または8分の1(AS03)であり;そのような実施形態では、場合によりリン酸緩衝生理食塩水をAS03エマルションに添加して、アジュバント用量の最終容量である0.25mLを達成してもよい(例えば、表9を参照のこと)。
【0129】
一部の実施形態では、IM注射によるヒトワクチン接種ごとに、滅菌無色透明PBS溶液0.25mL中preS dTMまたは変異株45μg(例えば、表A、以下の表8または表12を参照のこと)を、注射前にAS03(AS03)0.25mLと同容量で混合して、最終注射容量0.5mLを達成する。さらなる実施形態では、変異株はベータ変異株(例えば、シグナル配列を有しない配列番号13)である。他の実施形態では、抗原溶液と混合するためのAS03アジュバントの用量は、表9に示す0.25mLのエマルションの2分の1(AS03)、4分の1(AS03)、または8分の1(AS03)であり;そのような実施形態では、場合によりリン酸緩衝生理食塩水をAS03エマルションに添加して、アジュバント用量の最終容量である0.25mLを達成してもよい(例えば、表9を参照のこと)。
【0130】
一部の実施形態では、IM注射によるヒトワクチン接種ごとに、滅菌無色透明PBS溶液0.25mL中、2つの異なる組換えSタンパク質合計10μg(例えば、preS dTMまたはB.1.351に由来するものなどの変異株(例えば、シグナル配列を有しない配列番号13);各5μg)(例えば、表A、以下の表8または表12を参照のこと)を、注射前にAS03(AS03)0.25mLと同容量で混合して、最終注射容量0.5mLを達成する。他の実施形態では、抗原溶液と混合するためのAS03アジュバントの用量は、表9に示す0.25mLのエマルションの2分の1(AS03)、4分の1(AS03)、または8分の1(AS03)であり;そのような実施形態では、場合によりリン酸緩衝生理食塩水をAS03エマルションに添加して、アジュバント用量の最終容量である0.25mLを達成してもよい(例えば、表9を参照のこと)。
【0131】
一部の実施形態では、免疫原性組成物は、一価であり、単一組換えSタンパク質(例えば、preS dTMまたはpreS dTM変異株)を1用量当たり10μg含有する。注射用組成物はAS03アジュバントを含む(例えば、表9を参照のこと)。さらなる実施形態では、変異株はベータ変異株(例えば、シグナル配列を有しない配列番号13)である。
【0132】
一部の実施形態では、免疫原性組成物は、二価であり、2つの異なる組換えSタンパク質(例えば、preS dTMおよびpreS dTM変異株)を1用量当たりそれぞれ5μg含有する。注射用組成物はAS03アジュバントを含む(例えば、表9を参照のこと)。さらなる実施形態では、変異株はベータ変異株(例えば、シグナル配列を有しない配列番号13)である。
【0133】
一部の実施形態では、免疫原性組成物は、三価であり、3つの異なる組換えSタンパク質(例えば、preS dTMおよび2つのpreS dTM変異株)を1用量当たりそれぞれ3.3μg含有する。注射用組成物はAS03アジュバントを含む(例えば、表9を参照のこと)。さらなる実施形態では、変異株のうちの一方はベータ変異株(例えば、シグナル配列を有しない配列番号13)である。
【0134】
一部の実施形態では、免疫原性組成物は、一価であり、組換えSタンパク質(例えば、preS dTM)を1用量当たり2.5μg含有する。注射用組成物はAS03アジュバントを含む(例えば、表9を参照のこと)。
【0135】
一部の実施形態では、本開示のワクチン製品は2~8℃で保存される。
【0136】
V.ワクチンの使用
本発明は概して、哺乳動物対象、例えばヒト対象が意図されている。
【0137】
対象は任意の年齢であり得る。一実施形態では、対象はヒト乳児(最大12か月齢)である。一実施形態では、対象はヒト小児(18歳未満)である。一実施形態では、対象はヒト成人(18~59歳)である。一実施形態では、対象は老年のヒト(60歳またはそれ以上)である。12歳未満などの若年の小児に投与される用量は、成人等価用量に対して、例えば50%低減してもよい。一部の実施形態では、2.5μg用量の抗原が投与される。一部の実施形態では、5μg用量の抗原が投与される。一部の実施形態では、10μg用量の抗原が投与される。一部の実施形態では、15μg用量の抗原が投与される。一部の実施形態では、45μg用量の抗原が投与される。
【0138】
好適には、対象はSARS-CoV-2に感染していない。ある特定の実施形態では、対象は過去にSARS-CoV-2に感染したことがない。他の実施形態では、対象は過去にSARS-CoV-2に感染した(例えば、COVID-19を発症した)ことがある。
【0139】
本開示のワクチン組成物によるワクチン接種に好適な対象としては、SARS-CoV-2感染症に感受性のヒトが挙げられる。対象に投与されるワクチンの量は、使用されるアジュバントの種類、投与経路、ならびに対象の年齢および体重を含む当業者に周知の標準的な技法に従って決定することができる。一部の実施形態では、トコフェロール含有スクアレンエマルションアジュバントと混合された2.5μg用量の抗原が投与される。一部の実施形態では、トコフェロール含有スクアレンエマルションアジュバントと混合された5μg用量の抗原が投与される。一部の実施形態では、トコフェロール含有スクアレンエマルションアジュバントと混合された10μg用量の抗原が投与される。一部の実施形態では、トコフェロール含有スクアレンエマルションアジュバントと混合された15μg用量の抗原が投与される。一部の実施形態では、トコフェロール含有スクアレンエマルションアジュバントと混合された45μg用量の抗原が投与される。
【0140】
組成物は、単回用量または一連の用量(例えば、その後の「ブースター」用量を含む1~3回の一次用量)で投与することができる。一部の実施形態では、第1の用量と第2の用量とは約14日(または約2週間)~約6か月空けられる。例えば、用量の間隔は、14~35日(例えば、約21もしくは28日)、または約2~5週間(例えば、約3もしくは4週間)、または約1か月空けてもよい。
【0141】
一部の実施形態では、単回用量は、表A、表8、または表12に示す抗原組成物約0.25mL(組換えSタンパク質5または10μgを含有)とAS03アジュバント(例えば、AS03、AS03、またはAS03)との混合物である。さらなる実施形態では、対象はそのような用量を2回投与され、各用量は21日または3週間空けられる。他のさらなる実施形態では、対象はそのような用量を2回投与され、各用量は28日もしくは4週間または1か月空けられる。
【0142】
ワクチン組成物は予防有効量で対象に提供され、これは単回用量で投与しても一連の用量で投与してもよい。「予防有効量」とは、COVID-19の1つまたはそれ以上の症状の発現を防止もしくは遅延する、ならびに/またはその頻度および/もしくは重症度を低下させるのに十分な免疫応答を誘導するために必要とされる量を指す。一部の実施形態では、上記量は、1つもしくはそれ以上の症状の重症度および/もしくは1つもしくはそれ以上の症状が対象によって経験される時間を部分的もしくは完全に低下させる、チャレンジ後に、確立された感染症を発症する可能性を低下させる、疾病の進行を遅らせ、場合により生存を延長させる、SARS-CoV-2に対する中和抗体を産生させる、ならびにSARS-CoV-2 Sタンパク質特異的T細胞応答である免疫応答を誘発する。
【0143】
一部の実施形態では、本開示は、以下の表Bに示すようなワクチン接種レジメンを提供する。レジメンは、COVID-19、例えばその症状のうちの1つもしくはそれ以上を防止もしくは改善するか、またはCOVID-19に関連する入院もしくは死亡のリスクを防止もしくは低下する。あるレジメンでは、COVID-19ナイーブまたは未ワクチン接種対象に、水性抗原構成成分0.25mLとAS03アジュバント(例えば、必要に応じてPBSを用いて容量を0.25mLにしてもよい、AS03、AS03、またはAS03)0.25mLとを混合することによって調製された免疫原性組成物をIMでワクチン接種する。水性抗原構成成分0.25mLは、一価(MV)であり得、表Aに示すようにPBSにおいて製剤化されたD614 preS dTMまたはB.1.351(ベータ)preS dTM 10μgを含む。あるいは、水性抗原構成成分は、二価(BV)であり、表Aに示すようにPBSにおいて製剤化されたD614 preS dTM 5μgおよびベータpreS dTM 5μgを含む。上記レジメンでは、対象は免疫原性組成物を2回、3週間または4週間空けて投与される。
【0144】
VI.ブースターとしてのワクチンの使用
本ワクチン組成物は、汎用ブースターとして使用することができる。本ワクチン組成物は、以前に投与されたCOVID-19ワクチンのブースターとして、すなわち、プライム-ブーストワクチン接種レジメン、例えば異種または同種プライム-ブーストワクチン接種レジメンの一部として使用することができる。レジメンにおけるプライム用量(すなわち、一次ワクチン)は、mRNA、DNA、ウイルスベクター(例えば、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、レンチウイルスベクター、水疱性口内炎ウイルスベクター、ワクシニアウイルスベクター、または麻疹ウイルスベクター)、ペプチドまたはタンパク質、ウイルス様粒子(VLP)、カプシド様粒子(CLP)、弱毒生ウイルス、不活化ウイルス(死滅ワクチン)などに基づくワクチンであり得る。一部の実施形態では、一次ワクチンはブースターワクチンと同じ抗原を含有する(すなわち、同種プライム-ブーストワクチン接種レジメン)。プライム-ブーストレジメンは、部分的には、とりわけプライムのウイルスベクターの再利用、ならびにブーストによってもたらされる定性的および定量的に異なる免疫プロファイルのために好都合であり得る。そのようなレジメンは、ワクチン接種された対象における抗ウイルス免疫の幅、効力、および持続性の点で向上した転帰をもたらすと予期される。
【0145】
体内においてSARS-CoV-2抗原(例えば、Sタンパク質抗原)を発現させるための遺伝子材料(例えば、mRNA、DNA、またはウイルスベクター)を含むワクチンは、まとめて「遺伝子ワクチン」と称される。例えば、遺伝子ワクチンとしては、化学修飾またはヌクレオチド類似体を有するかまたは有しないmRNAを含むものが挙げられる。mRNAは、封入(例えば、脂質ナノ粒子(LNP)に)されても、担体またはアジュバント(例えば、プロタミンまたはサポニン)と複合体を形成してもよい。mRNAは、自己複製型であっても自己複製型でなくてもよい。本ワクチン組成物は、遺伝子ワクチンのブースターとして有用であるが、その理由は、遺伝子ワクチンは、ワクチン接種された対象において、その後の同じワクチンの用量の効能を損なわせる、したがって低下させる抗薬物免疫応答を誘発し得るためである。そのような場合、遺伝子ワクチンは同じ対象に繰り返し(例えば、季節ごとに)投与することができない。
【0146】
本プライム-ブーストレジメンの一部の実施形態では、プライム用量は、SARS-CoV-2 Sタンパク質の外部ドメインを含み得る組換えSタンパク質をコードする遺伝子ワクチンであり得る。一部の実施形態では、組換えSタンパク質は、SARS-CoV-2外部ドメインまたは受容体結合ドメイン(RBD)由来の配列および三量体化配列(例えば、天然のSARS-CoV-2 S三量体化ドメイン)を含むポリペプチドの三量体である。一部の実施形態では、コードされる組換えSタンパク質は、ワクチン接種された対象における産生細胞からの組換えSタンパク質の分泌を容易にするシグナルペプチド配列(例えば、Sタンパク質などのSARS-CoV-2由来のシグナルペプチド)を含み得る。
【0147】
一部の実施形態では、遺伝子ワクチンは、特異的設計を目的として、参照(例えば、天然に存在する)Sタンパク質と比較して1つまたはそれ以上の突然変異を有するSタンパク質またはその抗原性部分をコードする。例えば、コードされるSタンパク質は、(i)フーリン切断を防止するためのフーリン切断部位における突然変異(例えば、「GSAS」(配列番号6)突然変異)、(ii)小胞体(ER)保留を変更する突然変異、(iii)推定グリコシル化を抑制する突然変異、(iv)代替シグナルペプチドを導入する突然変異、および/または(v)Sポリペプチドの融合前立体構造を安定化する突然変異(例えば、「PP」突然変異)を含有し得る。
【0148】
一部の実施形態では、遺伝子ワクチンによってコードされるSタンパク質は、D614G突然変異などの天然に存在する突然変異および本明細書に記載される他の突然変異を含み得る。ある特定の実施形態では、遺伝子ワクチンは、上に記載したものなどのSARS-Cov-2変異株に由来する組換えSタンパク質をコードする。
【0149】
一部の実施形態では、遺伝子ワクチンは、Moderna COVID-19ワクチン(mRNA-1273)、Pfizer-BioNTech COVID-19ワクチン(BNT162b2)、Janssen COVID-19ワクチン(Ad26.CoV2.S)、およびVaxzevria(以前はCOVID-19ワクチンAstraZeneca)である。
【0150】
本プライム-ブーストレジメンの一部の実施形態では、プライム用量は、Sinovac-CoronaVacおよびSinopharm BIBPワクチンなどの死滅ワクチンである。
【0151】
プライム-ブーストレジメンは、一次ワクチン(例えば、遺伝子ワクチンまたはサブユニットワクチン)と、その後の本タンパク質ワクチンを用いる1回またはそれ以上のブースター用量を用いるワクチン接種を含む。一部の実施形態では、一次ワクチンは、ワクチンの1回の投与(例えば、筋肉内、皮下、皮内、または鼻腔内投与)、またはある期間(例えば、約2、3、4、5、6、7、8、9、もしくは10週間、またはそれ以上)空けたワクチンの2回の投与を伴う。
【0152】
一部の実施形態では、本組換えタンパク質を用いるブースター用量は、一次ワクチン接種の少なくとも2週間(例えば、4週間、1か月、2か月、3か月、4か月、5か月、6か月、7か月、8か月、9か月、10か月、11か月、1年、1年半、2年、3年、4年、5年、またはそれ以上)後に投与することができる。例えば、遺伝子ワクチン(例えば、mRNAもしくはアデノウイルスに基づくワクチン)またはサブユニットワクチンが投与された後、本タンパク質ワクチンを用いるブースター用量は、毎年または半年ごとに対象に投与することができる。便宜のために、ブースターワクチンは、毎年、インフルエンザワクチンと同時に投与してもよい(例えば、別個の製剤または配合剤として)。
【0153】
一部の実施形態では、ブースターは、アジュバントと共にまたはアジュバントを伴わずに使用される、本明細書に記載される一価または多価免疫原性組成物である。一部の実施形態では、ブースターは一価免疫原性組成物(例えば、武漢株または南アフリカ変異株に由来する組換えSタンパク質を含有するもの)である。他の実施形態では、ブースターは二価免疫原性組成物(例えば、武漢株に由来する組換えSタンパク質と南アフリカ変異株に由来する組換えSタンパク質とを含有するもの)である。
【0154】
ある特定の実施形態では、ブースター用量は、注射前に滅菌無色透明PBS溶液0.25mL中preS dTM 5μgおよび/または変異株5μg(例えば、表A、以下の表8または表12を参照のこと)をAS03(AS03)0.25mLと同容量で混合することから作製される0.5mL免疫原性組成物であり得る。さらなる実施形態では、変異株はベータ変異株(例えば、シグナル配列を有する配列番号13)である。抗原溶液と混合するためのAS03アジュバントの用量はまた、以下の表9に示す0.25mLのエマルションの2分の1(AS03)、4分の1(AS03)、または8分の1(AS03)であってもよい。そのような実施形態では、場合によりリン酸緩衝生理食塩水をAS03エマルションに添加して、アジュバント用量の最終容量である0.25mLを達成してもよい(例えば、表9を参照のこと)。
【0155】
ある特定の実施形態では、ブースター用量は、注射前に滅菌無色透明PBS溶液0.25mL中preS dTM 2.5μgおよび/または変異株2.5μg(例えば、表A、以下の表8または表12を参照のこと)をAS03(AS03)0.25mLと同容量で混合することから作製される0.5mL免疫原性組成物であり得る。さらなる実施形態では、変異株はベータ変異株(例えば、シグナル配列を有する配列番号13)である。抗原溶液と混合するためのAS03アジュバントの用量はまた、表9に示す0.25mLのエマルションの2分の1(AS03)、4分の1(AS03)、または8分の1(AS03)であってもよく;そのような実施形態では、場合によりリン酸緩衝生理食塩水をAS03エマルションに添加して、アジュバント用量の最終容量である0.25mLを達成してもよい(例えば、表9を参照のこと)。
【0156】
ある特定の実施形態では、一次ワクチン接種は組換えSタンパク質を含むサブユニットワクチンを用いて行われ、ブースターワクチンは、一次(非ブースター)ワクチン接種のために使用したワクチンよりも少ない量の組換えSタンパク質を含有する。例えば、一次ワクチン接種は、接種1回当たり組換えSタンパク質10μgを用いる、間隔(例えば、2、3、4、5、6、7、8週間、またはそれ以上;14~35日の間隔)を空けた2回の接種を伴い、ブースター接種は、組換えSタンパク質をわずか2.5または5μg含有し得る。
【0157】
一部の実施形態では、一次ワクチン接種は、注射前に滅菌無色透明PBS溶液0.25mL中preS dTMまたは変異株10μg(または二価ワクチンの場合、preS dTM 5μgと変異株、例えば、ベータ変異株5μg)(例えば、表A、以下の表8または表12を参照のこと)をAS03(AS03)0.25mLと同容量で混合することによって調製される0.5mL免疫原性組成物の2回の接種を伴い、2回の接種の間には間隔(例えば、3、4、5、6、7、8週間、またはそれ以上の間隔)が設けられる。抗原溶液と混合するためのAS03アジュバントの用量はまた、表9に示す0.25mLのエマルションの2分の1(AS03)、4分の1(AS03)、または8分の1(AS03)であってもよく;そのような実施形態では、場合によりリン酸緩衝生理食塩水をAS03エマルションに添加して、アジュバント用量の最終容量である0.25mLを達成してもよい(例えば、表9を参照のこと)。次いで、対象は後の時点(例えば、一次ワクチン接種の2回目の接種の少なくとも3、6、7、9、または12か月後)においてブースターワクチンを投与され、ここで、ブースターワクチンは、注射前に滅菌無色透明PBS溶液0.25mL中preS dTMまたは変異株(例えば、ベータ変異株)2.5または5μg(例えば、表A、表8、または表12を参照のこと)をAS03(AS03)0.25mLと同容量で混合することから作製される0.5mL免疫原性組成物であり得る。抗原溶液と混合するためのAS03アジュバントの用量はまた、表9に示す0.25mLのエマルションの2分の1(AS03)、4分の1(AS03)、または8分の1(AS03)であってもよく;そのような実施形態では、場合によりリン酸緩衝生理食塩水をAS03エマルションに添加して、アジュバント用量の最終容量である0.25mLを達成してもよい(例えば、表9を参照のこと)。
【0158】
一部の実施形態では、本開示のワクチン接種レジメンは、以下の表Bに記載されるレジメンから選択される:
【0159】
【表2】
【0160】
上の表Bにおいて、レジメン2~9は本開示の例示的なプライム-ブーストレジメンである。レジメンは、COVID-19、例えばその症状のうちの1つもしくはそれ以上を防止もしくは改善するか、または入院もしくは死亡のリスクを防止もしくは低下する。
【0161】
一部の実施形態では、COVID-19から回復したかまたはCOVID-19ワクチンを接種されたことがある対象は、そのような回復またはワクチン接種の例えば3、4、5、6、7、8、9、10、11、12か月後、またはそれ以上後にブースターを投与される。さらなる実施形態では、ブースターの時期はそのような回復またはワクチン接種の約4~約10か月後である。ある特定の実施形態では、ブースターの時期はそのような回復またはワクチン接種の約8か月後である。この対象は、水性抗原構成成分0.25mLとAS03アジュバント(例えば、AS03またはAS03(その容量は、必要である場合、PBSによって0.25mLにしてもよい))とを混合することによって調製された免疫原性組成物をIMによって投与される。一実施形態では、水性抗原構成成分0.25mLは、一価(MV)であり得、表Aに示すようにPBSにおいて製剤化されたD614 preS dTMまたはベータpreS dTM 2.5μgを含み、AS03アジュバントは、AS03またはAS03(その容量は、必要である場合、PBSによって0.25mLにしてもよい)である。一実施形態では、水性抗原構成成分0.25mLは、一価(MV)であり得、表Aに示すようにPBSにおいて製剤化されたD614 preS dTMまたはベータpreS dTM 5μgを含み、AS03アジュバントは、AS03またはAS03(その容量は、必要である場合、PBSによって0.25mLにしてもよい)である。一実施形態では、水性抗原構成成分は、二価(BV)であり、表Aに示すようにPBSにおいて製剤化されたD614 preS dTM 2.5μgおよびベータpreS dTM 2.5μgを含み、AS03アジュバントはAS03またはAS03(その容量は、必要である場合、PBSによって0.25mLにしてもよい)である。
【0162】
本明細書に別段の定義がない限り、本発明に関連して使用される科学用語および技術用語は、当業者によって一般的に理解される意味を有するものとする。例示的な方法および材料は以下に記載されるが、本明細書に記載されるものと類似または同等の方法および材料もまた本発明の実施または試験において使用することができる。矛盾する場合は、定義を含む本明細書が優先する。概して、本明細書に記載される、細胞および組織培養、分子生物学、ウイルス学、免疫学、微生物学、遺伝子学、分析化学、合成有機化学、医薬品および創薬化学、ならびにタンパク質および核酸化学、ならびにハイブリダイゼーションに関連して使用される命名法ならびにこれらの技法は、当技術分野において周知であり一般的に使用されるものである。酵素反応および精製技法は、当技術分野において一般的に遂行されるようにまたは本明細書に記載されるように、製造業者の仕様書に従って実施される。さらに、文脈上別段の要件がない限り、単数形の用語は複数形を含むものとし、複数形の用語は単数形を含むものとする。本明細書および実施形態全体にわたって、「有する(have)」および「含む(comprise)」という単語、または「有する(has)」、「有する(having)」、「含む(comprises)」、もしくは「含む(comprising)」などの活用形は、記載された整数または整数群を含むが、任意の他の整数も整数群も除外するものではないということを含意していると理解されるだろう。本明細書で言及される全ての刊行物および他の参考文献は、それらの全体が参照によって組み入れられる。いくつかの文書が本明細書に引用されるが、この引用は、これらの文書のいずれかが当技術分野における通常の一般的知識の一部を形成することを承認するものではない。
【0163】
本明細書で使用する場合、1つまたはそれ以上の目的の値に適用される「およそ」または「約」という用語は、記載された参照値と類似した値を指す。ある特定の実施形態では、この用語は、別段の記載がなく、別段のことが文脈から明白でもない限り、記載される参照値のいずれかの方向(より大きいかまたはより小さい)の10%、9%、8%、7%、6%、5%、4%、3%、2%、1%、またはそれ以下に収まる値の範囲を指す。
【0164】
本発明がより良好に理解されるように、以下の実施例を記載する。これらの実施例は例示のみを目的としており、いかなる点においても、本発明の範囲を限定するものとして解釈されるべきではない。
【0165】
実施例1
SARS-CoV-2 Sコード配列のバキュロウイルストランスファープラスミドへのクローニング
ギブソン・アセンブリ(GA)を使用して、ゲノム分離株Wuhan-Hu-1 GenBank NC045512由来のSARS-CoV-2スパイク糖タンパク質YP_009724390.1から改変された適応SARS-CoV-2スパイク糖タンパク質を保持するトランスファープラスミドを生成した。構築物ごとに3つの遺伝子断片(gBlock)を、線状化SapI pPSC12 DBトランスファーベクターへのクローニングのために設計した。gBlock遺伝子断片は、接合部位に40bpの重複配列を有し、gBlock断片1および3のそれぞれ5’および3’にpPSC12と重複する配列を有する。gBlockはIntegrated DNA Technologies(IDT)によって合成された。ギブソン・アセンブリ反応の描写を(図2Aおよび2B)に示す。最終トランスファープラスミドはEurofins Genomicsによってサンガー配列決定により確認された。部位特異的突然変異導入もまた、変異タンパク質を生成するために使用することができる。
【0166】
実施例2
組換えSタンパク質の作製および精製
ポリヘドリンプロモーターの制御下のpreS dTMをコードする配列を含有する組換えバキュロウイルスを使用して、ツマジロクサヨトウ細胞に感染させた。細胞をPSFM培地(SAFC)において27℃で2.5×10個/mLの密度まで増殖し、2%(容量/容量)の組換えバキュロウイルスを感染させた。細胞を、感染の72時間後に3,400×gでの15分間の遠心分離によって回収した。上清を組換えSタンパク質の精製のために使用した。
【0167】
1つの精製プロセスにおいて、分泌された組換えSARS-CoV-2スパイクタンパク質を含有する上清を、SUPRACAP100二層K250P/KS50P 5”フィルター(Pall、#NP5LPDG41)を使用して深層濾過した。深層濾液を、100kDa Sartoconスライスカセット、0.1m、15psiにおいて200mL/分の流量を使用して10倍に濃縮し、続いて、20mMトリス;50mM NaCl、pH7.4を用いて5倍ダイアフィルトレーションを行った。SARS-CoV-2スパイクタンパク質を含有するダイアフィルトレーション濾液を、捕捉工程精製として、Capto(商標)レンズマメレクチン(Cytiva)クロマトグラフィーによって精製した。Capto(商標)レンズマメレクチンカラムを、20mMトリス;50mM NaCl;10mMメチル-α-D-マンノピラノシド、pH7.4を用いて平衡化した。これらの条件下において、SARS-CoV-2スパイクタンパク質はCapto(商標)レンズマメレクチン樹脂に結合し、夾雑物はカラムを通過した。カラムを、20mMトリス;50mM NaCl;10mMメチル-α-D-マンノピラノシド、pH7.4を用いて洗浄して、未結合タンパク質を除去した。SARS-CoV-2スパイクタンパク質を、20mMトリス;500mMメチル-α-D-マンノピラノシド、pH7.4を含有する溶出緩衝液を用いてCapto(商標)レンズマメレクチンカラムから溶出した。
【0168】
Capto(商標)レンズマメレクチン溶出液を、最終精製工程として、Phenyl Sepharose(商標)HP疎水性相互作用クロマトグラフィー樹脂(Cytiva)によってさらに精製した。Capto(商標)レンズマメレクチン溶出液を750mM硫酸アンモニウム濃度、0.01%トリトンX-100濃度に調整し、50mMリン酸ナトリウム;750mM硫酸アンモニウム;0.01%v/vトリトンX-100、pH7.0を含有する緩衝液を用いて平衡化したPhenyl Sepharose HPカラムに充填した。充填後、Phenyl Sepharose HPカラムを、50mMリン酸ナトリウム;750mM硫酸アンモニウム;0.01%v/vトリトンX-100、pH7.0を用いて洗浄して、未結合夾雑物を除去した。SARS-CoV2スパイクタンパク質を、50mMリン酸ナトリウム;300mM硫酸アンモニウム;0.01%v/vトリトンX-100、pH7.0を含有するPhenyl Sepharose HPカラム溶出緩衝液から溶出した。
【0169】
Phenyl Sepharose HP溶出液を蒸留水で3.25倍に希釈し、単一Mustang Q XT Acrodiscフィルター(Pall、#MSTGXT25Q16)を使用してQ膜濾過を実施した。Q膜濾過後、Sartoconスライス50(Sartorius Stedim、#3D91465050ELLPU)を使用してTFFを実施した。Q濾液を0.25mg/mLに濃縮し、次いで、10mMリン酸ナトリウム緩衝液、pH6.8~7.2を用いて10倍ダイアフィルトレーションを行った。SARS-CoV-2スパイクタンパク質を含有するTFF保持液を0.005%Tween20と共に製剤化し、0.2μmフィルターを使用して滅菌濾過し、使用まで4℃で保存した。
【0170】
代替的な精製プロセスはCEX-HICを使用する。回収は、深層濾過(最初の遠心分離工程を伴うかまたは伴わない)によって達成してもよい。次いで、捕捉された組換えタンパク質は、限外濾過/ダイアフィルトレーション工程によってさらに精製してもよい。
【0171】
実施例3
エマルションアジュバント製造
スクアレンおよびD/L-アルファトコフェロールから構成される油相を窒素雰囲気下で作製した。改変リン酸緩衝生理食塩水およびポリソルベート80から構成される水相を別個に調製した。油相および水相を1:9の比(油相の容量対水相の容量)で合わせ、その後、ホモジナイゼーションおよびマイクロフルイダイゼーション(おおよそ15,000psiのマイクロフルイダイザーによる3パス処理)を行った。得られたエマルションを、重なった2枚の0.5/0.2μmフィルターに2回連続(すなわち、0.5/0.2/0.5/0.2)で通すことによって滅菌濾過した。
【0172】
スクアレン42.76mg/mL、トコフェロール47.44mg/mL、およびポリソルベート80 19.44mg/mLの最終含量を標的とした(表9を参照のこと)。
【0173】
粒径および多分散性はDLSによって、それぞれ、140~180nmの範囲内および0.2未満であることが決定された。スクアレンおよびトコフェロール含量はHPLC、ポリソルベート80含量は分光測光法によって、規格の範囲内であることが確認された。
【0174】
実施例4
中枢的マウス研究
この実施例は、SARS-CoV-2組換えタンパク質ワクチン製剤のマウスにおける研究を記載する。ワクチン製剤は、膜貫通および細胞質領域が欠失したSARS-CoV-2融合前安定化Sタンパク質(preS dTM)を含有した。ワクチンはAS03アジュバントを含有した。このワクチン研究では、液性免疫と細胞性免疫の両方に対する用量反応およびアジュバント効果を検討した。この研究ではまた、非安定化S外部ドメイン(膜貫通および細胞質領域を欠失;「S dTM」)とpreS dTMとの間で効果を比較した。S dTMは、Hisタグを有するSARS-CoV-2スパイクタンパク質ECD S1およびS2領域(Protein Sciences)を含有した。
【0175】
ここで使用したマウスは、6~8週齢の非近交系雌Swiss Websterマウスであった。これらにワクチン製剤50μL(抗原溶液25μLおよびAS03 25μL)を0日目および21日目に筋肉内注射した。
【0176】
以下のデータは、標的抗原用量と実際の抗原用量とを示す。実験を行った後、SARS-CoV-2 preSタンパク質を検出するために使用した重要なポリクローナル抗体試薬は、グリコシル化宿主細胞タンパク質(HCP)も認識することが認められた。結果として、標的の純度およびHCPレベルは不正確であり、製剤化ワクチン製品におけるSARS-CoV-2 preSタンパク質の濃度は計画よりも有意に低いものであった。表1は投薬レジメンを示し、表2は以下の通りに再度算出した場合の実際の用量を示す。
【0177】
【表3】
【0178】
【表4】
【0179】
新たな定量アッセイに基づいた投薬調整のため、実際の用量は0日目および21日目の注射において異なっていた。一貫性のため、本文および図面には標的用量のみを示す。
【0180】
血液を-4日目、21日目、および36日目に動物から採取した。S特異的IgG、IgG1、およびIgG2aレベルを、S1およびS2領域を含有するスパイクECD(S dTM;Sino Biological)でプレートをコーティングしたELISAによって測定した。力価は0.2よりも大きいOD値をもたらす最終希釈倍率の逆数として報告した。OD=0.2という値は、アッセイバックグラウンドの少なくとも2倍であることを表す。初めに、血清抗体の生ウイルスを中和する能力を、BSL3におけるプラーク減少中和試験(PRNT)においてSARS-CoV-2 USA/WA1/2020株のウイルスを使用して評価した。簡潔に述べると、血清サンプルを56℃で30分間熱失活させ、希釈剤(DMEM/2%FBS)に希釈した。希釈した血清サンプルを、1ウェル当たり30PFUを含有するように希釈した等容量のSARS-CoV-2と混合し、37℃で1時間インキュベートした。コンフルエントのVero E6細胞のプレートに血清-ウイルス混合物を播種し、37℃で1時間インキュベートした。インキュベーション後、プレートに0.5%メチルセルロース培地1mLを重層し、37℃/5%COで3日間インキュベートした。次いで、プレートを洗浄し、氷冷メタノールで固定し、0.2%クリスタルバイオレットで染色した。次いで、プレートを洗浄し、乾燥し、中和抗体価を、試験においてウイルスプラークの数を50%またはそれ以上減少した最も高い血清希釈倍率として決定した。
【0181】
preS dTMワクチンによって誘発された機能的抗体応答を、偽ウイルス中和アッセイを使用して評価した。血清サンプルを希釈し、56℃で30分間熱失活させた。希釈した血清サンプルを、1ウェル当たり300個の感染性粒子を含有するように希釈したある容量のレポーターウイルス粒子(RVP)-GFP(Integral Molecular)と混合し、37℃で1時間インキュベートした。50%コンフルエントの293T-hsACE2クローナル細胞の96ウェルプレートに血清+ウイルス混合物を播種し、37℃で72時間インキュベートした。プレートをハイコンテントイメージング装置において走査し、個々のGFP発現細胞を計数した。中和抗体価を、試験においてウイルスプラークの数を50%減少した希釈倍率の逆数として報告した。
【0182】
アジュバントを含有しない場合、1または2回投与後の非常に低いかまたは存在しないIgGおよび中和抗体応答によって実証されたように、preS dTMおよびS dTMは免疫原性ではなかった。血清S特異的IgGレベルは2つの抗原間で類似しており、21日目~36日目に統計的に有意な力価変化は存在しなかった(図4)。対照的に、トコフェロール含有スクアレンエマルションアジュバントpreS dTMワクチンは、試験を行った全ての用量にわたって、1回投与(21日目)後に高いIgG応答を誘発した(平均は、異なるワクチン用量群において4.1~4.6Log10ELISA単位(EU)の範囲であった)。応答は、2回目の注射(36日目)によってさらに増大し、IgG平均はワクチン用量次第では5.1~5.5Log10EUに達した。アジュバント効果(増加倍率およびP値)とブースター効果の両方が実証された。IgG応答に関して中程度の用量効果が1回投与後(1.5倍、p値<0.05)および2回投与後に観察された。したがって、トコフェロール含有スクアレンエマルションアジュバントは、21日目と36日目の両方において、preS dTMを用いた免疫化によって誘導された動物におけるS特異的IgG価を有意に増加させ、36日目は21日目よりも高い力価を示した(図5)。トコフェロール含有スクアレンエマルションアジュバントを用いて得られた力価は、アジュバントを含有しない場合に得られたものよりも有意に高かった。要約すると、トコフェロール含有スクアレンエマルションアジュバント含有ワクチン製剤の用量反応性効果はp<0.05で統計的に有意であった。しかしながら、非アジュバント製剤の用量反応効果は統計的に有意ではなかった(p=0.7866)。手短に述べると、いかなる用量を使用したとしても、有意なαトコフェロール含有スクアレンエマルションアジュバント効果が示され、全ての投薬量は0.001未満のp値を有した。
【0183】
IgG応答と一致して、α-トコフェロール含有スクアレンエマルションアジュバントワクチンは2回投与後に強固な中和抗体応答を誘発した。PRNT50力価は、最低用量群(0.167および0.5μg)の2匹のマウスを除く全てのマウスにおいて検出された。中和平均は、最低ワクチン用量群(0.167μg)における2.5Log10から最高ワクチン用量群(4.5μg)における3.5Log10の範囲であった。
【0184】
PRNT50アッセイと一致して、偽ウイルス中和力価は、0.5ug群の1匹を除く全てのαトコフェロール含有スクアレンエマルションAS03アジュバントpreS dTM免疫化マウスにおいて検出された。平均中和価は、2.6Log10から最高ワクチン用量群(4.5ug)における3.6Log10の範囲であった。したがって、アジュバント製剤を用いて免疫化した動物は、36日目までに有意に高い量のSARS-CoV-2中和抗体を用量依存的に生成した(図6Aおよび6B)。
【0185】
実施例5
補助マウス研究
この実施例は、SARS-CoV-2組換えタンパク質ワクチン製剤のマウスにおける第2の研究を記載する。この研究は、免疫化マウスにおける細胞性免疫(CMI)を評価することに焦点を当てた。ここで使用したマウスは6~8週齢の近交系雌BALB/cマウスであった。これらにワクチン製剤50μLを0日目および14日目に筋肉内注射した。1群当たりマウス5匹として、投薬レジメンを以下に示す。注射したpreS dTMは、トコフェロール含有スクアレンエマルションアジュバントの有無にかかわらず、4.5μgを標的とした。一貫性のため、本文および図面には標的用量のみを示す。
【0186】
【表5】
【0187】
血液を0日目、14日目、および24日目に動物から採取した。脾臓を24日目にCMI解析のために回収し、脾臓細胞を、11アミノ酸の重複を有するS1+S2 15マーペプチドプール(JPT)で刺激した。細胞の表現型をフローサイトメトリー手法によって決定し、サイトカイン産生を細胞内サイトカイン染色(ICS)によって評価した。評価したバイオマーカーパネルを以下に示す。
【0188】
【表6】
【0189】
細胞内染色(ICS)を実施するために、脾臓をホモジナイズし、赤血球を溶血させ、細胞を37℃および5%COで1時間静置した。次いで、脾細胞を計数し、2×10個の細胞をGolgi Plug(BD Biosciences)と共に37℃および5%COで6時間、4つの条件:ペプチド刺激なし(培地のみの対照)、陽性対照刺激、および2つの個々のスパイクペプチドプール(JPT製品PM-WCPV-S-1)での刺激の下でインキュベートした。個々の各動物からの細胞を、陽性対照としてブレフェルジンA含有細胞活性化カクテル(Biolegend)で刺激した。刺激後、細胞を洗浄し、Mouse BD Fc Block(商標)(クローン2.4G2)に4℃で10分間再懸濁した。次いで、細胞を遠心沈降し、Fc blockを除去し、細胞を、以下:CD4(RM4-5)PerCP-Cy5.5(Biolegend)、CD8(53-6.7)AF700(BD Biosciences)、CD45R/B220(RA3-6B2)PE/Cy7(BD Biosciences)、CD14(Sa14-2)PE/Cy7(Biolegend)、およびLIVE/DEAD Fixable Near-IR Dead Cell Stain Kit(Invitrogen)を染色緩衝液(FBS)(BD Biosciences)に含有する抗体カクテルを用いて4℃で30分間、表面染色および生/死染色した。表面染色後、細胞を洗浄し、Cytofix/Cytoperm溶液(BD Biosciences)を用いて4℃で30分間固定および透過処理した。次いで、細胞を、1倍Perm/Wash溶液(BD Biosciences)を用いて洗浄し、続いて以下:CD3e(17A2)BUV395(BD Biosciences)、IFN-γ(XMG1.2)FITC(BD Biosciences)、TNF-α(MP6-XT22)Pacific Blue(Biolegend)、IL-2(JES6-5H4)BV605(BD Biosciences)、IL-4(11B11)APC(Biolegend)、およびIL-5(TRFK5)PE(Biolegend)を1倍Perm/Wash緩衝液に含有するカクテルを用いて、遮光して4℃で30分間、細胞内染色した。次いで、細胞を洗浄し、FACS緩衝液に再懸濁した。サンプルをLSR Fortessaフローサイトメーター(BD Biosciences)にかけ、解析をFlowJoソフトウェア(バージョン10.6.1)において行った。
【0190】
ICS解析は、AS03アジュバントワクチン免疫化マウスにおいて、S1ペプチドプールとS2ペプチドプールの両方での脾細胞刺激後のS特異的CD4T細胞が存在しないかまたは少ないことを示した。アジュバント単独免疫化マウスにおいて検出された非特異的シグナルの範囲である0.05%未満という、類似したCD4T細胞応答がS1およびS2ペプチドプールにおいて観察されたため;S1刺激の結果のみを示す。S特異的CD8T細胞応答は検出されなかった。S特異的CD4T細胞は、αトコフェロール含有スクアレンエマルションアジュバントワクチン免疫化マウスにおいて、TNF-α分泌細胞(おおよそ0.1%)、および一部のIL-5分泌細胞(おおよそ0.05%)が主に検出された。組換え抗原に基づくワクチンに関して予期された通り、S特異的CD8T細胞応答は検出されなかった。サイトカインプロファイルは、Th1/Th2混合応答がトコフェロール含有スクアレンエマルションアジュバントpreS dTMワクチンによって誘導されたことを示唆する。サイトカインプロファイルは、BALB/cマウスにおいて、Th1/Th2混合応答がAS03アジュバントpreS dTMワクチンによって誘導されたことを示唆する(図7)。
【0191】
実施例6
非ヒト霊長類研究
この実施例は、液性免疫およびCMIを評価する非ヒト霊長類(NHP)における研究を記載する。ここで使用した動物は4~12歳齢のアカゲザルであった。NHPに、15μgの標的用量のα-トコフェロール含有スクアレンエマルションアジュバントと混合したpreS dTMを0.5mLの容量で0日目および21日目に筋肉内注射した。血清を4日目、21日目、28日目、および35日目に採取した。一貫性のため、本文および図面には標的用量のみを示す。
【0192】
【表7】
【0193】
S特異的IgGレベルを、GCN4融合前形態のスパイクタンパク質(GeneArt)でプレートをコーティングしたELISAによって測定した。
【0194】
preS dTMを用いたマウスにおいて観察された抗体応答と一致して、アジュバントの非存在下では応答は検出されなかったかまたは非常に低い応答が検出された(図8)。しかしながら、AS03アジュバントにおいて製剤化した場合、15μg preS dTMワクチンは全ての免疫化サルにおいて、早ければ投与1の2週間後に、融合前Sタンパク質に結合する高レベルのIgGを誘発した(3.7Log10EUの平均価)。2回目の免疫化は28日目におけるIgG価を強力に増加させた(5.1Log10EUの平均価)。
【0195】
preS dTMワクチンによって誘発された機能的抗体応答を、偽ウイルス中和アッセイを使用して評価した。血清サンプルを希釈し、56℃で30分間熱失活させた。希釈した血清サンプルを、1ウェル当たり300個の感染性粒子を含有するように希釈したある容量のレポーターウイルス粒子(RVP)-GFP(Integral Molecular)と混合し、37℃で1時間インキュベートした。50%コンフルエントの293T-hsACE2クローナル細胞の96ウェルプレートに血清+ウイルス混合物を播種し、37℃で72時間インキュベートした。プレートをハイコンテントイメージング装置において走査し、個々のGFP発現細胞を計数した。中和抗体価を、試験においてウイルスプラークの数を50%減少した希釈倍率の逆数として報告した。
【0196】
投与1の3週間後では、偽ウイルス中和価はいずれの群においても検出されなかった。しかしながら、2回目の注射後では、偽ウイルス中和力価は、αトコフェロール含有スクアレンエマルションアジュバントによるアジュバントpreS dTMを用いて免疫化したマカクにおいて、1匹を除いて検出された(2.1Log10IC50の平均価)。免疫化アカゲザルの中和力価は、ヒト回復期(Conv.)血清のパネルにおいて観察された力価と同等であった(図9)。マイクロ中和(MN)アッセイのデータもまた、AS03が野生型SARS-CoV-2ウイルスに対する中和性抗体価を有意に増加させたことを示す(図10)。
【0197】
実施例7.1
ハムスター研究1
これまでの研究は、ハムスターが、SARS-CoV-2でチャレンジした後、嗜眠、被毛の乱れ、呼吸促迫、著しい体重の減少(体重の最大20%)、および2日目~14日目の、ヒトにおけるSARS-CoV-2肺炎に典型的な、肺におけるびまん性肺胞傷害を含む臨床徴候を一貫して発症することを示している。したがって、ハムスターはCOVIDワクチンを研究するのに好適な動物モデルである。この実施例は、SARS-CoV-2組換えタンパク質ワクチン製剤の免疫原性およびSARS-CoV-2ウイルスチャレンジ後の効能を評価するハムスターにおける研究を記載する。ワクチン製剤はpreS dTMとAS03アジュバントとを含有した。この研究では、ワクチンの1回投与と2回投与との特異的抗体応答および効能、ならびに液性応答に対するアジュバント効果を検討した。
【0198】
ここで使用した動物は6~8週齢のゴールデンシリアンハムスターであった。これらにワクチン製剤75μL(抗原溶液37.5μLおよびAS03 37.5μL)を1回投与および2回投与コホートにおいて、0日目(2回投与コホート)および21日目(1および2回投与コホート)に筋肉内注射した。投薬量を以下に示す。
【0199】
【表8】
【0200】
血液を1回目の注射の前(ベースライン)および35日目に動物から採取した。
【0201】
S特異的IgGレベルを、融合前スパイク抗原(GCN4安定化)(GeneArt)でプレートをコーティングしたELISAによって測定した。力価は、0.2に等しいOD値をもたらす希釈倍率の逆数として報告した(図11)。OD=0.2という値は、ELISA単位(EU)で表される希釈倍率の逆数である。
【0202】
非アジュバントpreS dTMを用いて免疫化した1匹のハムスターを除き、全てのワクチン接種ハムスターは1回の免疫化後にS特異的IgG応答を示した。AS03アジュバントpreS dTMワクチン(2.25μgの標的用量)は、2.25μgの標的用量の非アジュバントpreS dTMワクチンと比較して高いS特異的IgG価を、1回の注射後(平均で3.8Log10EU対3.3Log10EU)または2回の注射後(平均で5.2Log10EU対4.8Log10EU)に誘導した。非アジュバントおよびAS03アジュバントワクチンにおいて、2回投与ワクチンレジメンと1回投与ワクチンレジメンとの間で有意差が観察され、S特異的IgG価はそれぞれ32および25倍増加した(p値<0.001)。
【0203】
AS03含有および非含有preS dTMワクチンによって誘発された機能的抗体応答を、偽ウイルス中和アッセイを使用して評価した(1回投与コホートと2回投与コホートの両方)。偽ウイルス中和アッセイを以下の通りに実施した:血清サンプルを希釈し、56℃で30分間熱失活させた。さらに2倍段階希釈した熱失活させた血清サンプルを、1ウェル当たり300個の感染性粒子を含有するように希釈したある容量のレポーターウイルス粒子(RVP)-GFP(Integral Molecular)と混合し、次いで37℃で1時間インキュベートした。50%コンフルエントの293T-hsACE2クローナル細胞の96ウェルプレートに血清+ウイルス混合物を播種し、37℃で72時間インキュベートした。プレートをハイコンテントイメージング装置において走査し、個々のGFP発現細胞を計数した。偽ウイルス中和抗体価を、試験においてウイルスプラークの数を50%減少した希釈倍率の逆数として報告した(ID50、ここでID50=IC50)。
【0204】
偽ウイルス中和抗体応答は、非常に低い力価であったAS03アジュバントpreS dTM群の1匹のハムスターを除き、1回の注射後(1回投与コホート)では測定されなかった(図12)。非アジュバントpreS dTMおよびAS03アジュバントワクチンは、2回の注射後(2回投与コホート)では有意な偽ウイルス中和抗体応答を誘発し、それぞれ2.4Log10および3.1Log10の平均価であった。偽ウイルス中和抗体価は、AS03アジュバントワクチンを用いて免疫化した全てのハムスターにおいて検出されたが、非アジュバントワクチン群では、力価はより不均一であり、7/8匹のハムスターにおいて検出された。AS03の中程度だが有意なアジュバント効果が観察された(4.6倍の増加;p=0.014)。
【0205】
ワクチン効能を評価するために、ハムスターを2.3×10PFUのSARS-CoV-2(USA-WA1/2020株)で、100μl鼻腔内投与を介してチャレンジした。臨床徴候(体重減少、全身の外観、呼吸数)をチャレンジ後に毎日モニタリングした。剖検時(チャレンジ後4日目(n=4)またはチャレンジ後7日目(n=7)のいずれか)に、鼻孔および肺を、qRT-PCRを使用するウイルス量評価のために採取し、肺病態解析を実施した。体重減少を、1回投与コホートではチャレンジの3日後まで、2回投与コホートではチャレンジの4日後までモニタリングした。対照群は、チャレンジの4日後に約3~4%の予期せぬわずかな体重減少を示した(図13)。少ない体重減少は、動物のチャレンジのために使用した低病原性ウイルス感染ストックによって説明することができる。体重の減少における変化量が小さいために、対照、非アジュバント、またはAS03アジュバントpreS dTMワクチン群の間におけるチャレンジ後の体重減少の差は、免疫化の回数にかかわらず観察することができなかった。
【0206】
鼻孔および肺におけるウイルス量の内容を、2回投与コホートにおいてのみ、SARS CoV-2総RNAまたはサブゲノム(sg)RNAを測定するqRT-PCRを使用してチャレンジの4または7日後に評価した。注目すべきことに、sgRNAは活発なウイルス複製に特異的であり、総ウイルスRNAはウイルス投与量と活発な複製の両方を説明する。
【0207】
限定的な体重減少にもかかわらず、対照群は4日目に肺および鼻孔において高いsgRNA力価を呈し(それぞれ9.0および7.6Log10コピー/グラムの平均力価)、これは7日目においても4匹中3匹のハムスターにおいて依然として検出された(それぞれ5.4および4.5Log10コピー/グラムの平均力価)(図15)。対照群と比較した場合、肺におけるウイルス量(図14)およびウイルス複製(図15)の強力な低下が、両方のワクチン群(非アジュバントおよびAS03アジュバント)において、チャレンジ後4日目および7日目に観察された。4日目では、ウイルス複製は、非アジュバントワクチン群の4匹中2匹の動物においてのみ検出され、AS03アジュバントワクチンハムスターにおいては検出されず、肺においてAS03アジュバントワクチンによる完全な防御を示した。ワクチン群の肺におけるウイルス複製の低下は、チャレンジの7日後では陽性動物がいなかったためにより一層明白となったが、対照群は依然として5.4Log10sgRNAコピー/グラムの平均力価を呈した。鼻孔では、ワクチン群において、対照群と比較してある程度のウイルス量およびウイルス複製の低下がチャレンジ後4日目および7日目に観察された。4日目では、sgRNA平均力価は、ワクチン群の方が約2Log10低く、7日目では、全てのワクチン接種動物が陰性であり、急速なウイルス排除を示した。これらのデータは、非アジュバントpreS dTMおよびAS03アジュバントワクチンを用いた免疫化の、肺および鼻孔におけるウイルス複製に対する明確な防御効果を示唆し、全てのワクチン群において測定された中和抗体応答と矛盾しなかった。
【0208】
肺病態を、1および2回投与コホートの1群当たり4匹のハムスターについて、チャレンジ後4日目または7日目に解析した。この解析により、全てのワクチン製剤において7日目に肺病変の明確な縮小が存在し、これが2.25μg/AS03用量においてより一層明白であること、および肺実質においてウイルスタンパク質発現の強力な低下が存在したことが認められた。表7は組織病理学のために使用した基準を示す。
【0209】
対照群は、チャレンジ後4日目および7日目に採取した全てのハムスターの肺において、肺の50%超が重度の病変を有することを表す、3という高い病態スコアを呈した。(図16A)。1回投与コホートにおいては、1回免疫化した非アジュバントpreS dTM群は、チャレンジ後4日目に1~3の異なる病態スコアを呈し、チャレンジ後7日目では全てのハムスターが3であった。しかしながら、1回免疫化したAS03アジュバント群では、全ての病態スコアが4日目に2に低下し、7日目ではばらつきがあり(1~3の間)、非アジュバントpreS dTM群および対照群と比較して肺病態がより小さいことを示した。2回投与コホートにおいては、対照群と比較して小さい肺病態が、非アジュバントpreS dTMおよびAS03アジュバントpreS dTM群において、とりわけ7日目に観察された(4日目のスコアは両方の群において1~3の範囲であり、7日目のスコアは、非アジュバント群では1~2、AS03アジュバント群では0~1の範囲であった)。AS03アジュバントpreS dTM群における4日目から7日目の病態スコアの減少は、肺病態の急速な回復を示す。
【0210】
【表9】
【0211】
実施例7.2
ハムスター研究2
この実施例は、SARS-CoV-2組換えタンパク質ワクチン製剤の免疫原性および効能を評価するハムスターにおける別の研究を記載する。この研究において使用したワクチン製剤は、一価(本来のD614 preS dTM(配列番号10)またはB.1.351 preS dTM変異株(配列番号13)を含有する)または二価(本来のD614 preS dTMとB.1.351 preS dTM変異株とを含有する)のいずれかであり、どちらもAS03アジュバントと共に製剤化した。2種類の懸念される変異株、すなわちアルファ(B.1.1.7)およびベータ(B.1.351)に対するワクチンの効能をハムスターにおいて免疫化の3週間後に評価した。
【0212】
この研究では、8匹の6~8週齢の雌シリアンゴールデンハムスターからなる群を、組換えタンパク質構成成分1つ当たり1μgの用量の3種類のワクチン製剤を用いて、0日目および21日目にIMで免疫化した。血液サンプルを、免疫化前、21日目、35日目、およびチャレンジ前に採取して、スパイク結合IgGおよび中和抗体応答を解析した(表7.1)。2回目の投与の4週間後、全てのハムスターに3種類のSARS-CoV-2株(D614G、B.1.351(ベータ)、またはB.1.1.7(アルファ))を、100%の動物を感染させ、チャレンジ後の最初の7日の間に10%~20%の間の体重減少を誘導することが以前に決定された用量においてIMで接種した。
【0213】
【表10】
【0214】
臨床徴候(体重減少、全身の外観、および呼吸数)をチャレンジ後7日間にわたり毎日モニタリングした。1群当たり4匹の動物をチャレンジ後4日目、残りの4匹をチャレンジ後7日目に屠殺して、肺および鼻甲介(または鼻孔)を採取した。ウイルスゲノムRNAおよびサブゲノムウイルスRNAをqRT-PCRによって定量した。肺の組織病理学をチャレンジ後4日目および7日目に評価した。
【0215】
体重を免疫化およびナイーブハムスターにおいて、ベータ(B.1.351)変異株ウイルスでのチャレンジ後に毎日測定した。各ハムスターについて、0日目と比較した体重の変化をチャレンジ後7日目(最終剖検時)まで毎日算出した。体重変化パーセントを図16Bに示す。結果は、ナイーブハムスターにおいて明白な体重減少を示し、増殖性感染および病態を示したが、免疫化ハムスターはベータ変異株でのチャレンジ後にいかなる体重減少も経験しなかった。これらのデータは、試験を行った3種類のワクチン製剤、すなわちCoV2 preS dTM-AS03(D614)、(B.1.351)、および(D614+B.1.351)が、ハムスターモデルにおいて、ベータ変異株によって誘導された感染症および関連する病態に対する強力な防御を付与したことを示す。
【0216】
実施例8
臨床研究
この実施例は、本開示のワクチン組成物の安全性および効能を評価するための第I/II相臨床プロトコルを記載する。参加者、転帰評価者、治験責任医師、検査技師、および治験依頼者の大部分の研究スタッフ(ESDRおよび関心を持たれた参加者に関与する者のみ除く)はワクチン群割付け群に対して盲検化され(製剤およびアジュバント;注射スケジュールは非盲検化される。研究介入を準備/管理する者はワクチン群割付けに対して非盲検化される。参加者は無作為化され、年齢によって層別化される。
【0217】
組成物は、アジュバントを含有するかまたは含有しないpreS dTM(シグナルペプチドを有しない配列番号10のポリペプチドの三量体)を含む。ワクチン組成物は2つの有効性成分含量:それぞれ5μg(低用量)または15μg(高用量)のpreS dTM抗原を含有する製剤1および2で提供される。抗原組成物を以下に示す:
【0218】
【表11】
【0219】
アジュバントの効果を評価するために、水中油型エマルションであるAS03を使用する。アジュバント研究群の単位活性成分含量はpreS dTM 5μgおよび15μgである。スクアレンベースαトコフェロール含有スクアレンエマルションアジュバントの各単回用量バイアルは以下に示す成分を含有する。このエマルションは、スクアレンおよびD,L-α-トコフェロールを含有する油相と;改変PBSおよびポリソルベート80を含有する水相とを有する。以下に示す成分の量はAS03バルクエマルション250μL(すなわち、AS03)に対応する。
【0220】
【表12】
【0221】
抗原組成物とアジュバント組成物とを使用前に混合し、0.5mLの総容量にする。プラセボは1用量当たり0.5mLの0.9%生理食塩水である。
【0222】
投与経路は、上腕の三角筋への筋肉内注射である。
【0223】
各研究介入は、個々の箱において提供する(抗原およびアジュバント、または抗原および希釈剤(PBS)を2バイアル箱に入れて1つのキットにする)。
【0224】
参加者は、18歳以上の健康な個人であり、複数の年齢群に無作為化される。18~49歳の参加者から構成される小規模センチネルコホート(コホート1)は単回用量を投与される。コホート1における09日目までの安全性データおよび臨床検査値が非盲検データ審査に基づいて許容されるとみなされる場合、コホート1の残っている参加者およびコホート2の全ての参加者を登録する。全ての参加者は、01日目に、治験ワクチン製剤またはプラセボ対照のいずれか一方の1回の注射を受ける(ワクチン接種[VAC]1)。コホート2の参加者は、22日目に、研究ワクチン製剤またはプラセボの2回目の注射を受ける(VAC2)。各参加者の研究への参加期間は、最後の注射からおよそ365日である。
【0225】
COVID-19様疾病は、能動的および受動的サーベイランスによる効能目的の一部である。この研究のために選択したSARS-CoV-2候補抗原の設計は、結合抗体を超える強力な中和抗体の生成を促進すると予想される。アジュバント製剤を含めることは、中和抗体応答の規模をさらに増強し、バランスのとれたTh1/Th-2ヘルパーT細胞応答を誘導すると予想される。総合すると、これらの戦略は、ウイルス感染の免疫増強の理論上のリスクを設計によって軽減する。重度のCOVID-19のリスクの増大に関連すると考えられる慢性合併症を有する個人は除外する。
【0226】
本研究の主要目的は、01日目、22日目、および36日目における中和抗体のレベルおよびプロファイルを記載することによってワクチン組成物の免疫原性を評価することである。中和抗体価は、中和アッセイを用いて測定する。22日目および36日目におけるワクチン接種後の血清抗体中和価は01日目に対して約2~4倍増加すると予期される。中和抗体の抗体陽転の発生は、ベースライン時に定量下限(LLOQ)未満の値、かつ22日目および36日目にアッセイLLOQを超える検出可能な中和価として定義される。
【0227】
本研究の副次的目的は、各研究介入群の01日目、22日目、36日目、および181日目(コホート1)または202日目(コホート2)、および366日目(コホート1)または387日目(コホート2)における結合抗体プロファイルを記載すること、ならびに各研究介入群の181日目(コホート1)または202日目(コホート2)、および366日目(コホート1)または387日目(コホート2)における中和抗体プロファイルを記載することによってワクチン組成物の免疫原性を評価することである。全長SARS-CoV-2スパイクタンパク質に対する結合抗体価は、酵素連結免疫吸着アッセイ(ELISA)法を用いて研究介入群ごとに測定する。抗S抗体濃度の上昇倍率[後/前]は、22日目、36日目、181日目(コホート1)または202日目(コホート2)、および366日目(コホート1)または387日目(コホート2)において2もしくはそれ以上、または4もしくはそれ以上になると予期される。中和抗体価は、中和アッセイを用いて測定する。181日目(コホート1)または202日目(コホート2)、および366日目(コホート1)または387日目(コホート2)における、01日目に対するワクチン接種後の血清中和価の上昇倍率は、2もしくはそれ以上、または4もしくはそれ以上になると予期される。中和抗体の抗体陽転の発生は、ベースライン時にLLOQ未満のベースライン値、かつ181日目(コホート1)または202日目(コホート2)、および366日目(コホート1)または387日目(コホート2)にアッセイ定量下限を超える検出可能な中和価として定義される。
【0228】
本研究の別の副次的な目的は、ウイルス学的に確認されたCOVID-19様疾病および血清学的に確認されたSARS-CoV-2感染症の発生を記載すること、ならびにSARS-CoV-2組換えタンパク質に対する抗体応答とCOVID-19様疾病および/または血清学的に確認されたSARS-CoV-2感染症のリスクとの間の相関性/関連性を評価することによって効能を評価することである。ウイルス学的に確認されたCOVID-19様疾病は、規定の臨床症状および徴候によって定義され、核アッセイウイルス検出アッセイによって確認される。血清学的に確認されたSARS-CoV-2感染症は、非S ELISAにおけるSARS-CoV-2特異的抗体の検出によって定義される。リスク/防御相関は、上で定義されたウイルス学的に確認されたCOVID-19様疾病および/または血清学的に確認されたSARS-CoV-2感染症を考慮してウイルス中和またはELISAを使用して評価されるSARS-CoV-2に対する抗体応答に基づく。
【0229】
本研究の探索的目的は、コホート2の各研究介入群の22日目および36日目における細胞免疫応答プロファイルを記載すること、ならびに中和抗体と結合抗体との比を記載することによって免疫原性を評価することである。全長Sタンパク質および/またはS抗原ペプチドのプールでの刺激後、Th1およびTh2サイトカインを全血および/または凍結保存PBMCにおいて測定する。結合抗体(ELISA)濃度と中和抗体価との比を算出する。
【0230】
SARS-CoV-2中和抗体評価
SARS-CoV-2中和抗体を、中和アッセイを使用して測定する。このアッセイでは、血清サンプルを一定濃度のSARS-CoV2ウイルスと混合する。血清サンプルに存在する抗体による中和に起因するウイルス感染力(ウイルス抗原産生)の低下はELISAによって検出することができる。洗浄および固定後、細胞におけるSARS-CoV-2抗原産生は、抗SARS-CoV-2特異的抗体、HRP IgGコンジュゲート、および発色基質との連続インキュベーションによって検出することができる。得られた光学密度を、マイクロプレートリーダーを使用して測定する。ウイルス対照ウェルにおけるものと比較したSARS-CoV-2感染力の低下は、血清サンプルにおける中和抗体の存在を示す陽性中和反応とみなされる。
【0231】
SARS-CoV-2スパイクタンパク質抗体血清IgG ELISA
SARS-CoV-2抗Sタンパク質IgG抗体を、ELISAを使用して測定する。マイクロタイタープレートを、最適濃度までコーティング緩衝液に希釈したSARS-CoV-2融合前形態のスパイクタンパク質抗原でコーティングする。ブロッキング緩衝液の全てのウェルへの添加、および定義された期間のインキュベーションによってプレートをブロッキングしてもよい。インキュベーション後、プレートを洗浄する。全ての対照、参照、およびサンプルを、希釈緩衝液を用いて予め希釈する。次いで、予め希釈した対照、参照、およびサンプルを、コーティングした試験プレートのウェルにおいてさらに段階希釈する。プレートを定義された期間インキュベートする。インキュベーション後、プレートを洗浄し、最適化された希釈倍率のヤギ抗ヒトIgG酵素コンジュゲートを全てのウェルに添加し、プレートをさらにインキュベートする。このインキュベーション後、プレートを洗浄し、酵素基質溶液を全てのウェルに添加する。プレートを定義された期間インキュベートして、基質を発色させる。基質の発色を、各ウェルへの停止溶液の添加によって停止する。ELISAマイクロタイタープレートリーダーを使用し、アッセイ特異的SoftMax Proテンプレートを使用して試験プレートを読み取る。プレートのブランクの平均光学密度(OD)値を各プレートにおける全てのODから減算する。試行における各アッセイプレートに含まれるブランク、対照、および参照の標準曲線の測定値を使用してサンプル力価を導出する。
【0232】
細胞性の免疫(全血および/またはPBMCを使用)
全長Sタンパク質および/またはS抗原ペプチドのプールでの刺激後、サイトカインを全血および/または凍結保存PBMCにおいて測定する。
【0233】
COVID-19様疾病
COVID-19様疾病は、(i)以下のうちのいずれか1つ(少なくとも12時間にわたって持続するか、もしくは12時間以内に再発する):咳(乾性もしくは湿性);発熱;嗅覚脱失;味覚消失;嗅覚脱失;凍瘡(COVID足指);呼吸困難もしくは息切れ;臨床上もしくはX線検査上の肺炎の証拠;ならびに脳卒中、心筋炎、心筋梗塞、血栓塞栓性事象(例えば、肺塞栓症、深部静脈血栓症、および脳卒中)、および/もしくは電撃性紫斑病の臨床診断を伴う任意の入院;または(ii)以下のうちのいずれか2つ(少なくとも12時間にわたって持続するか、もしくは12時間以内に再発する):咽頭炎;悪寒;筋肉痛;頭痛;鼻漏;腹痛;ならびに悪心、下痢、および嘔吐のうちの少なくとも1つとして定義される。
【0234】
ウイルス学的に確認されたCOVID-19疾病
ウイルス学的に確認されたCOVID-19疾病は、COVID-19様疾病との関連における、呼吸器サンプルに対する核酸増幅検査(NAAT)によるSARS-CoV-2の陽性結果として定義される。
【0235】
血清学的に確認されたSARS-CoV-2感染症
血清学的に確認されたSARS-CoV-2感染症は、血清における、ELISAによって検出されたSARS-CoV-2の非スパイクタンパク質に特異的な抗体の存在の陽性結果として定義される。
【0236】
SARS-CoV-2核タンパク質抗体血清IgG ELISA
SARS-CoV-2抗核タンパク質抗体を、ELISAを使用して測定する。マイクロタイタープレートを、最適濃度までコーティング緩衝液に希釈したSARS-CoV-2核タンパク質抗原でコーティングする。ブロッキング緩衝液の全てのウェルへの添加、および定義された期間のインキュベーションによってプレートをブロッキングしてもよい。インキュベーション後、プレートを洗浄する。全ての対照、参照、およびサンプルを、希釈緩衝液を用いて予め希釈する。次いで、予め希釈した対照、参照、およびサンプルを、コーティングした試験プレートのウェルにおいてさらに段階希釈する。プレートを定義された期間インキュベートする。インキュベーション後、プレートを洗浄し、最適化された希釈倍率のヤギ抗ヒトIgG酵素コンジュゲートを全てのウェルに添加し、プレートをさらにインキュベートする。このインキュベーション後、プレートを洗浄し、酵素基質溶液を全てのウェルに添加する。プレートを定義された期間インキュベートして、基質を発色させる。基質の発色を、各ウェルへの停止溶液の添加によって停止する。ELISAマイクロタイタープレートリーダーを使用し、アッセイ特異的SoftMax Proテンプレートを使用して試験プレートを読み取る。プレートのブランクの平均OD値を各プレートにおける全てのODから減算する。試行における各アッセイプレートに含まれるブランク、対照、および参照の標準曲線の測定値を使用してサンプル力価を導出する。
【0237】
COVID-19症例検出のための核酸増幅検査(NAAT)
アッセイにおいて、呼吸器サンプルを採取し、RNAを抽出する。次いで、精製された鋳型を、SARS-CoV-2標的を特異的に増幅するSARS-CoV-2特異的プライマーを使用するNAATによって評価する。
【0238】
実施例9
18歳以上の成人におけるAS03アジュバントを含有するSARS-CoV-2組換えタンパク質ワクチンの免疫原性および安全性
この実施例は、18歳以上の成人において行った、筋肉内(IM)経路によって投与されたpreS dTM/AS03アジュバントワクチン(「CoV2 preS dTM-AS03」とも称される)の2回注射の安全性、反応原性、および免疫原性を評価するための第II相、無作為化、修正二重盲検、多施設、用量設定研究のプロトコルを記載する。この研究(VAT00002)では、固定用量のAS03アジュバント(AS03)を含有する3つの異なる抗原用量(preS dTM 5μg、10μg、および15μgの有効用量)を評価する。21日空けて投与される用量を伴う2回注射スケジュールをこの研究において利用する。
【0239】
反応原性を、各ワクチン接種後7日間にわたる非自発的有害事象(AE)、および最後のワクチン接種後21日間にわたる自発的AEを収集することによって全ての参加者において評価する。全ての参加者は、研究期間にわたる重篤なAE、診療を要したAE(MAAE)、および特に注目すべき有害事象(AESI)に関する情報を提供する。中和および結合抗体を、研究期間にわたって複数の時点で全ての参加者において評価する。細胞および粘膜応答を参加者のサブセットにおいて評価する。加えて、COVID-19の全てのエピソードを研究期間にわたって収集する。
【0240】
この第II相研究の安全性、反応原性、および免疫原性中間データを使用して、第III相に進むか否か、および第III相に進める抗原用量製剤の選択を決定する。この中間解析は、全ての参加者における、注射2の最大21日後の反応原性データ、および注射2の14日後の中和抗体応答を入手した後に行われる。
【0241】
参加者を、これまでのSARS-CoV-2感染に基づいて、血清学的(Roche抗NイムノアッセイおよびRoche抗Sイムノアッセイ)またはウイルス学的(核酸増幅検査[NAAT])に決定したナイーブ(過去に感染していない)および非ナイーブ(過去の感染の証拠がある)に分類する。ナイーブの個人(これまでのSARS-CoV-2感染の証拠がない)は、登録時点において血清サンプルの抗Nイムノアッセイおよび抗Sイムノアッセイで陰性であり、かつ呼吸器検体でNAAT陰性であると定義され、非ナイーブの個人(これまでのSARS-CoV-2感染の証拠がある)は、登録時点において血清サンプルの抗Nイムノアッセイまたは抗Sイムノアッセイで陽性であり、かつ呼吸器検体でNAAT陽性であると定義される。
【0242】
目的および評価項目
主要安全性
各年齢群および各研究介入群における全ての参加者の安全性プロファイルを評価するために、以下のパラメータを検査する:
- 各ワクチン接種から30分以内に報告された自発的全身性AEの存在;
- 各ワクチン接種の7日後までに発生した非自発的(参加者の日誌カード[DC]および[電子]症例報告書[CRF]に予め記載の)注射部位反応および全身反応の存在;
- 最後のワクチン接種の21日後までに報告された自発的AEの存在;
- 研究全体にわたる重篤な有害事象(SAE)の存在;
- 研究全体にわたるAESIの存在;ならびに
- 研究全体にわたるMAAEの存在。
【0243】
主要免疫原性
各研究介入群のSARS-CoV-2-ナイーブ成人における、最後のワクチン接種の14日後(36日目)の中和抗体プロファイルを評価するために、D614G変異株に対する中和抗体価をSARS-CoV-2-ナイーブ参加者において研究介入群ごとに測定し、これには以下を評価することが含まれる:
- 01日目および36日目における個々の血清中和力価;
- 36日目における、01日目に対するワクチン接種後の個々の血清中和価上昇倍率;
- 36日目における、01日目に対する血清中和価の2倍の上昇および4倍の上昇[後/前](上昇倍率≧2および≧4);ならびに
- 定量下限(LLOQ)未満のベースライン値を有し、かつ36日目にアッセイLLOQを超える定量可能な中和価を有する参加者として定義される、SARS-CoV-2ナイーブにおける応答者。
【0244】
副次的免疫原性
本研究の副次的目的には、(1)各研究介入群におけるSARS-CoV-2ナイーブ成人の、22日目、78日目、134日目、202日目、292日目、および387日目における中和抗体プロファイル;(2)各研究介入群におけるSARS-CoV-2非ナイーブ参加者の、01日目、22日目、36日目、78日目、134日目、202日目、292日目、および387日目における中和抗体プロファイル;ならびに(3)各研究介入群におけるSARS-CoV-2ナイーブおよび非ナイーブ参加者の、01日目、22日目、36日目、78日目、134日目、202日目、292日目、および387日目における結合抗体プロファイルを評価することが含まれる。
【0245】
副次的免疫原性目的(1)および(2)の評価項目は、各研究介入群の参加者におけるD614G変異株に対する中和抗体価であり、以下を評価することが含まれる:
- 予め定義された各時点における個々の血清中和力価;
- 予め定義された各時点における、01日目に対するワクチン接種後の個々の血清中和価上昇倍率;
- 予め定義されたワクチン接種後の各時点における血清中和価の2倍の上昇および4倍の上昇[後/前](上昇倍率≧2および≧4);ならびに
- LLOQ未満のベースライン値を有し、かつ予め定義されたワクチン接種後の各時点でアッセイLLOQを超える定量可能な中和価を有する参加者、およびLLOQを超えるベースライン値を有し、かつ予め定義されたワクチン接種後の各時点で中和抗体価が4倍増加した参加者として定義される応答者。
【0246】
副次的免疫原性目的(3)の評価項目は、各研究介入群の参加者におけるD614G変異株に対する結合抗体濃度であり、以下を評価することが含まれる:
- 予め定義された各時点における個々の抗体濃度;
- 予め定義されたワクチン接種後の各時点における、01日目に対するワクチン接種後の個々の抗体上昇倍率;
- 予め定義されたワクチン接種後の各時点における2倍の上昇および4倍の上昇(抗体濃度の上昇倍率[後/前]≧2および≧4);ならびに
- LLOQ未満のベースライン値を有し、かつ予め定義されたワクチン接種後の時点でアッセイLLOQを超える定量可能な抗体濃度を有する参加者、およびLLOQを超えるベースライン値を有し、かつ予め定義されたワクチン接種後の各時点で結合抗体濃度が4倍増加した参加者として定義される応答者。
【0247】
副次的安全性
本研究の副次的目的には、(1)各研究介入群の全ての参加者における、検査により確認された症候性COVID-19の発生、および(2)各研究介入群における、血清学的に確認されたSARS-CoV-2感染症の発生を記載することも含まれる。
【0248】
副次的安全性目的(1)の評価項目は:
- 検査により確認された症候性COVID-19の発生(各施設で確認されたかまたはプロトコルにより定義されたNAATに基づく);
- 入院を伴う症候性COVID-19エピソードの発生;
- 重度の症候性COVID-19の発生;および
- 症候性COVID-19に関連する死亡
である。
【0249】
副次的安全性目的(2)の評価項目は、血清学的に確認されたSARS-CoV-2感染症の発生である。
【0250】
探索的免疫原性
本研究の探索的目的には、(1)中和抗体と結合抗体との比を記載すること;(2)参加者のサブセットの、01日目、22日目、および36日目におけるT細胞サイトカインプロファイルを評価すること;(3)参加者のサブセットの、01日目、22日目、36日目、134日目、および387日目における細胞免疫応答をさらに評価すること;(4)参加者のサブセットの、01日目、22日目、36日目、および134日目における粘膜抗体応答を評価すること;ならびに(5)出現したSARS-CoV-2変異型株に対する中和抗体応答を記載することが含まれる。
【0251】
探索的免疫原性目的(1)の評価項目は、結合抗体(酵素連結免疫吸着アッセイ[ELISA])濃度と中和抗体価との比である。
【0252】
探索的免疫原性目的(2)の評価項目は、01日目、22日目、および36日目に全長Sタンパク質での刺激後の全血で測定されるTh1およびTh2サイトカインである。
【0253】
探索的免疫原性目的(3)の評価項目は、細胞内サイトカイン染色または/および酵素連結免疫スポット(ELISpot)アッセイによって実施することができる他の細胞性免疫(CMI)評価である。
【0254】
探索的免疫原性目的(5)の評価項目は、研究介入群ごとの参加者において測定される出現した変異型株に対する中和抗体応答であり、以下を評価することが含まれる:
- 予め定義された各時点における個々の血清中和力価;
- 予め定義された各時点における、01日目に対するワクチン接種後の個々の血清中和価上昇倍率;
- 予め定義されたワクチン接種後の各時点における血清中和価の2倍の上昇および4倍の上昇[後/前](上昇倍率≧2および≧4);ならびに
- LLOQ未満のベースライン値を有し、かつ予め定義されたワクチン接種後の各時点でアッセイLLOQを超える定量可能な中和価を有する参加者、およびLLOQを超えるベースライン値を有し、かつ予め定義されたワクチン接種後の各時点で中和抗体価が4倍増加した参加者として定義される応答者。
【0255】
全体のデザイン
研究の全体のデザインを表10に示す。
【0256】
【表13】
【0257】
合計で720名の参加者を登録することを計画する。年齢群(18~59歳および60歳以上)、ベースラインSARS-CoV-2迅速血清診断検査陽性(陽性/陰性[登録時に決定])、ならびに高リスクの医学的状態(あり/なし)による層別化後、参加者を研究群に無作為に割り付ける。
【0258】
全ての研究群について、参加者の半分は18~59歳とし、参加者の半分は60歳以上とする。加えて、各研究群の最大20%の参加者は、登録時の迅速血清診断検査において検査結果が陽性であり得る。年齢群によって層別化された120名の迅速診断検査陰性の参加者の無作為化サブセット(20名/研究群/年齢群)は、細胞免疫応答および粘膜抗体評価のためのサンプルを提供する。
【0259】
介入群および継続期間
介入群および継続期間を以下の表11に要約する。使用したpreS dTM抗原の量を発明群ごとに示す。
【0260】
【表14】
【0261】
全ての参加者は、3週間空けて投与される2回のワクチン注射を受ける:1回目の注射は01日目(ワクチン接種[VAC]1)であり、2回目の注射は22日目(VAC2)である。血液サンプルを、各注射前、最後の注射の14日、2か月、4か月、6か月、9か月、および12か月後に全ての参加者から採取する。全ての参加者から採取した血液サンプルを本研究の血清学的評価のために使用する。全血、末梢血単核細胞(PBMC)、および唾液サンプルを参加者のサブセットから採取して、細胞免疫応答および粘膜抗体応答を評価する。
【0262】
研究中の任意の時点でCOVID-19様疾病の症状/状態を経験した場合に現場に連絡するように参加者が指示される受動的サーベイランスを通じてCOVID-19の発生を捕捉するために、全ての参加者を試験期間にわたり追跡する。加えて、43日目の連絡から起算して2週間ごとに1回、COVID-19様疾病の発症について尋ねるために全ての参加者に連絡する能動的サーベイランスを全ての参加者に対して行う。
【0263】
各参加者の研究への参加期間は、注射2からおよそ365日(すなわち、合計でおよそ386日)である。
【0264】
解析対象集団
01日目の時点または01日目と22日目の両方の時点においてSARS-CoV-2ナイーブおよび非ナイーブの以下の亜群の定義を、全ての無作為化参加者に適用する:
【0265】
参加者解析対象集団は:
1.ベースライン時にSARS-CoV-2ナイーブ(ナイーブ-D01)
- 01日目の血清サンプルに対する抗Sイムノアッセイ(Roche Elecsys)で陰性、
- 01日目の血清サンプルに対する抗Nイムノアッセイで陰性、および
- 01日目に採取した呼吸器サンプルにおいて、SARS-CoV-2についてNAAT陰性。
2.ベースライン時にSARS-CoV-2非ナイーブ(非ナイーブ-D01)
- 01日目の血清サンプルに対する抗Sイムノアッセイ(Roche Elecsys)で陽性、
- 01日目の血清サンプルに対する抗Nイムノアッセイで陽性、または
- 01日目に採取した呼吸器サンプルにおいて、SARS-CoV-2についてNAAT陽性。
3.2回目の注射時にSARS-CoV-2ナイーブ(ナイーブ-D01+D22)
- 01日目の血清サンプルに対する抗Sイムノアッセイ(Roche Elecsys)で陰性、
- 01日目および22日目の血清サンプルに対する抗Nイムノアッセイで陰性、ならびに
- 01日目および22日目に採取した呼吸器サンプルにおいて、SARS-CoV-2についてNAAT陰性。
4.2回目の注射時にSARS-CoV-2非ナイーブ(非ナイーブ-D01/D22)
- 01日目の血清サンプルに対する抗Sイムノアッセイ(Roche Elecsys)で陽性、
- 01日目もしくは22日目の血清サンプルに対する抗Nイムノアッセイで陽性、または
- 01日目もしくは22日目に採取した呼吸器サンプルにおいて、SARS-CoV-2についてNAAT陽性。
【0266】
定義された集団としては以下が挙げられる:
1.最大の解析対象集団(FAS):少なくとも1回の研究注射を受ける全ての無作為化参加者;参加者は、無作為化された介入に応じて解析される。
2.プロトコル適合解析対象集団(PPAS):FASのサブセット;以下の基準のうちの少なくとも1つを示す参加者はPPASから除外される:
- 参加者がプロトコルに明記された選択基準の全てを満たすことがなかったか、またはプロトコルに明記された除外基準のうちの少なくとも1つを満たした、
- 参加者が2回の注射を受けなかった、
- 参加者が無作為化されて受けるもの以外のワクチンを受けた、
- ワクチンの調製および/または投与がプロトコルに従って行われなかった、
- 参加者が適切な時間枠内でワクチンを受けなかった、
- 01日目または36日目の血液サンプルを採取しなかった参加者、
- 参加者が、決定的な禁忌基準のいずれかを満たすにもかかわらず、2回目の注射を受けた、ならびに
- 参加者が認可/承認されたCOVID-19ワクチンを36日目の前に受ける。
【0267】
実施例10
第II相データ
上記実施例に記載されているプロトコルに従って実施した第II相臨床研究のデータは、CoV2 preS dTM AS03が720名のボランティアの全ての成人年齢群にわたって強力な免疫応答を成功裏に実証することを示す。
【0268】
本研究では、CoV2 preS dTMをリン酸緩衝生理食塩水(PBS)水溶液において提供した。各用量の抗原(5、10、または15μg)を0.25mLの溶液において提供し、AS03 0.25mLとベッドサイドで混合した。混合後の各ワクチン接種用量は表12に示す組成を有した。抗原溶液およびアジュバントは2バイアル箱中の別個のバイアルで提供した。バイアルは2~8℃で保存した。
【0269】
【表15】
【0270】
安全性データは、3つの処置群(5、10、または15μg抗原+AS03)について類似した安全性プロファイルを実証する。本研究では、2つの即時型の関連反応が存在したが;特に注目すべき有害事象(AESI)、重篤な有害事象(SAE)、および研究の中止に至る有害事象(AE)は、本研究において存在しなかった。グレード3の自発的な関連反応および関連する診療を要した有害事象(MAAE)の数は限定的であった。反応原性は全ての処置群において類似した(図17)。18~59歳群では60歳以上群と比較して高い頻度および強度の非自発的反応が存在した(図18)。また、非自発的反応の頻度および強度は注射2の後に増加した(図19)。
【0271】
免疫原性データは、若年者と老年者の両方において高い抗体陽転率および応答率を示す。プロトコル適合解析対象集団(PPAS)-ナイーブD1+D22における投与2の後(36日目)の応答は、若年者および老年者において95%を超える抗体陽転率および応答率を示し、3つの処置群間で差を示さなかった(表13;CI=信頼区間)。
【0272】
【表16】
【0273】
PPAS-ナイーブD1+D22のMonogram PsVNアッセイにおける投与2の後の中和抗体価によって示される全ての処置群の抗体応答データを以下の表14に示す(「GMT」:幾何平均価)。探索的解析において、ヒト回復期血清サンプルのパネルにおける中和抗体価を測定した。回復期サンプルは79名のドナーから、COVID-19のPCR陽性診断の17~47日後の間に得た。ドナーは、サンプル採取時点では回復しており(臨床重症度は軽度~重度の範囲であった)、無症候性であった。
【0274】
データは、低用量群において、参加者が回復期血清で観察されたものと類似した中和抗体価に達したことを示す。18~59歳の年齢群において、GMTは回復期血清群のほぼ2倍であった。
【0275】
【表17】
【0276】
上記データは、ナイーブ参加者において、抗体陽転率が若年者と老年者の両方で95%超であったこと、および処置群間で差が観察されなかったことを示す。抗体価の規模は、60歳以上と比較して18~59歳でより高かった。規模の増大は、60歳以上群の処置群においても、18歳以上の処置群においても観察されなかった。増大は、18~59歳群において、より高い抗原用量と共に観察された。
【0277】
CoV2 preS dTM AS03組成物を非ナイーブ参加者においても評価した。表15のデータは、低用量群の参加者が1回のみの注射後に中和抗体の著しい増加(Monogram PsVNアッセイにおいて測定)を有したことを、22日目における35,275のGMTにおいて示す。このGMTは表14に示す回復期血清群の15倍超である。
【0278】
【表18】
【0279】
非ナイーブ参加者のデータは、抗体価の規模が単回注射後の18~59歳と60歳以上の年齢群の両方で5,000以上であったことを示す。処置群間で差は観察されなかった。
【0280】
これらの結果は、CoV2 preS dTM AS03が、60歳以上の者およびこれまでに感染した者を含む全ての成人年齢群において高い中和抗体応答を惹起したことを示す。免疫原性組成物は、安全性に対する懸念を示さず、3つ全ての試験用量レベルにおいて、安全性プロファイルについて良好な忍容性を示した。第II相研究は、全ての年齢群および全ての用量において2回目の注射後に95%~100%の抗体陽転率を示した。過去のSARS-CoV-2感染の証拠がある参加者では、有意に高い抗体応答が単回ワクチン用量後に生じ、ブースターワクチンとしての開発について強力な可能性を示唆した。
【0281】
ブースターワクチンの必要性だけでなく、多数のワクチンが、とりわけ変異株が出現し続ける場合には必要とされることは十分に認識されているため、第2相データからは、CoV2 preS dTM AS03免疫原性組成物の、世界規模の公衆衛生危機に対処する役割を果たす可能性が確認される。これらの良好な第2相の結果に基づいて、10μg用量レベルが、35,000名を超える参加者の世界規模の第3相研究においてさらに評価されるだろう。
【0282】
実施例11
非ヒト霊長類における変異株一価(B.1.351)および二価(D614+B.1.351)ワクチンの免疫原性
免疫原性研究(CoV2-06_NHP)をナイーブ非ヒト霊長類(NHP)において実施して、変異株一価ワクチン(B.1.351)の免疫原性、および二価製剤においてD614 preS dTM抗原と組み合わせた場合(D614+B.1.351)の潜在的な負の干渉をAS03の存在下で評価した。抗体応答のピーク時(34日目)に、2種類のウイルス(D614およびベータ)、ならびに他の懸念される変異株(VoC)、すなわち、アルファ、ガンマ、およびデルタに対する中和抗体価を測定した。D614株に対する中和価(NexelisのVSV-偽ウイルス定量アッセイにおいて得られる)を一価製剤と二価製剤との間で比較して、二価製剤における各構成成分の、他の構成成分の免疫原性に対する影響を評価した。
【0283】
研究デザイン
54匹の2~8歳齢の成体モーリシャス産カニクイザル(雄および雌)を年齢、体重、および性別に関して無作為化した。6匹のマカクからなる9つの群を、AS03の存在下で構成成分1つ当たり2.5、5、および10μgの用量の3種類のワクチン製剤(D614、B.1.351、および二価)を用いて免疫化した(表16)。3週間空けた2回の注射を、いずれの投与も同じ側の三角筋にIM経路によって0.5mL用量未満で投与した。
【0284】
【表19】
【0285】
動物を研究全体にわたって有害事象の任意の臨床徴候についてモニタリングした。血液サンプルを、研究前、ならびに2日目、21日目、23日目、および34日目に血液細胞数および化学パラメータのために採取した。血液サンプルを、21日目および34日目に抗体滴定のために採取した。GCN4-スパイクタンパク質に対する結合IgGレベルをELISAにおいて測定し、D614、D614G、アルファ、ベータ、ガンマ、およびデルタ変異株に対する中和性抗体を、PsV中和化アッセイ(SP REI Cambridge)を使用して34日目に測定した。並行して、サンプルを定量D614 PsV中和アッセイ(Nexelis)において滴定して、D614価に対する干渉を定量化した。使用した2種類の中和アッセイの特徴を以下の表17に示す。
【0286】
【表20】
【0287】
結果
研究中に臨床徴候は観察されず、血液学および臨床化学パラメータならびに体温はいかなる安全性に関するシグナルも示さなかった。1回目の注射の3週間後(21日目)、2.5μg B.1.351一価ワクチン群の1匹のマカクを除き、全てのマカクはELISAによって測定されたS結合抗体を増大した。平均ELISA価は3.5~4.1Log10EUの範囲であった(データは示していない)。2回目の注射の2週間後(34日目)、S結合抗体価は全ての群において21日目と比較して増加し、4.9~5.4Log10EUの範囲であった。ELISA価について、用量間およびワクチン製剤間で統計的有意差は見られなかった。
【0288】
2回目の注射の2週間後(34日目)に、親株D614に対する中和抗体(NAb)を両方の中和アッセイ(定量VSV-PsVおよびレンチウイルス-PsV)において(図20)、ならびに親株D614G、アルファ、ベータ、ガンマ、およびデルタ変異株に対する中和抗体(NAb)をレンチウイルス-PsVアッセイにおいて(図21)測定した。
【0289】
D614 VSV-PsV NAb価は、34日目に全てのマカクにおいて、ワクチン製剤に応じて様々なレベルで検出された。用量効果は、構成成分1つ当たり2.5~10μgの3種類の製剤(一価D614およびB.1.351製剤、ならびに二価D614+B.1.351製剤)において観察されなかった。D614 VSV-PsV中和力価は、一価D614ワクチン群が3つ全ての用量レベルの平均価が3.6Log10で最も高く、B.1.351一価群が2.5Log10の平均価で最も低く、二価ワクチン群が3.1Log10の平均価で中間であった。二価および一価D614ワクチンを構成成分1つ当たりの同じ用量で比較した場合、D614 NAb価に関する差は2.5μg用量レベル(一価D614 2.5μgおよび二価2.5μg+2.5μg)において統計的に有意であった(5.4倍、p値<0.001)。この差は、他の2つの用量レベル(D614構成成分5μgおよび10μg)ではより小さく(2倍)、統計的に有意ではなかった。
【0290】
対照的に、一価B.1.351ワクチンと比較した二価ワクチンにおけるD614 VSV-PsV NAb価の増加は、全ての用量レベルにおいて統計的に有意であった(3.6~5.3倍、p値<0.05)。3つ全ての用量レベルを比較した場合、二価ワクチンにおいて観察されたD614 VSV-PsV中和力価は、一価D614ワクチン群の力価と比較して3分の1倍であった(p値<0.001)が、一価B.1.351ワクチンによって誘導された力価の4.1倍であった(p値<0.001)。
【0291】
VSV-PsVアッセイにおいて観察された、二価ワクチンを一価D614ワクチンと比較した場合のD614 NAb価に関する中等度の減少は、レンチウイルス-PsV中和アッセイでは、2.5μg用量レベルにおいて(3.8倍、p値<0.01)、および3つ全ての用量を合わせた場合(2.3倍、p値<0.005)に確認された。VSV-PsVアッセイの結果と同様に、一価B.1.351ワクチンと比較したD614 NAb価の増加は、レンチウイルス-PsVアッセイでは、3つ全ての用量レベルにおいて(2.9~5.3倍、p値<0.01)、および3つ全ての用量を合わせた場合(4.3倍、p値<0.001)に確認された。一価B.1.351 5μg群の1匹の動物は、検出不能なD614 NAb価を有し、この同じ動物は、VSV-PsVアッセイにおいてD614に対して低い力価、ならびにD614Gおよび全てのVoCに対して低い力価を有した。
【0292】
ベータ変異株ならびに他の公知のVoC(アルファ、ガンマ、およびデルタ)の中和もまたレンチウイルス-PsV中和化アッセイにおいて評価した。アルファおよびデルタ変異株に対するNAb価は、各ワクチン製剤において、D614Gに対するものと同じパターンを取り:一価D614ワクチンにおいて最も高く、一価B.1.351ワクチンにおいて最も低く、二価ワクチンにおいて中間であった。アルファおよびデルタ変異株に対する力価はD614G株に対するものよりもごくわずかに低かった(それぞれ、類似~2.5分の1倍、および1.2分の1~4.9分の1倍)。ベータおよびガンマ変異株に対する力価は一価D614ワクチンにおいて最も低く、一価B.1.351ワクチンにおいて最も高かった。二価ワクチンは、一価B.1.351ワクチンと同じレベルのベータおよびガンマNAb価を誘導した。
【0293】
全体的に、一価D614ワクチンと比較した場合、二価ワクチンは、親株に対するわずかに低いNAb価(アッセイに応じて2分の1~3分の1倍)、ベータおよびガンマ変異株に対するはるかに高い力価、ならびに2種類の最も広く流行している変異株アルファおよびデルタの同等の中和を誘導した。一価B.1.351ワクチンと比較した場合、二価ワクチンは、親D614株およびD614G株、ならびにアルファおよびデルタ変異株に対するはるかに高いNAb価を誘導した(表18)。
【0294】
【表21】
【0295】
結論として、ナイーブNHPにおいて生成されたこれらのデータは、今日までに公知の全ての懸念される変異株のバランスのとれた中和を示した。二価ワクチン(D614+B.1.351)は、高度に動的な疫学を考慮すると、ワクチン逃避のリスクを軽減し得るため、一次ワクチン接種のためのさらなる臨床治験を正当化する。実際、ワクチン接種ならびにアルファおよびデルタ変異株への自然感染によりD614様スパイクの血清有病率は高まっているため、今後はベータおよびガンマなどのワクチン逃避変異株が、とりわけ、抗体逃避と関連する突然変異(E484Kなど)がデルタ変異株に存在するような伝播性の増加と関連する突然変異と組み合わされる場合は、優性となり得る。
【0296】
実施例12
NHP変異株ブースター研究
この実施例は、異なるワクチンプラットフォームにおける、一価および二価CoV2 preS dTM-AS03ワクチン(D614、B.1.351、またはD614+B.1.351)の一次ワクチン接種後のブースターとしての使用を評価した研究(CoV2-07_NHPおよびCoV2-08_NHP)を記載する。強固な免疫応答を誘導するAS03の利益は一次ワクチン接種において明確に実証されたが、ここでは、AS03の免疫応答を増強する役割を評価して、アジュバントがブースターレジメンに有用となり得るか否かを決定した。
【0297】
ブースター免疫化を、COVID-19 mRNA-LNPワクチン候補を用いて免疫化したカニクイザル(CoV2-07_NHP、mRNAプライミングコホート)、およびCoV2 preS dTM-AS03ワクチンを用いて免疫化したアカゲザル(CoV2-08_NHP、サブユニットプライミングコホート;武漢株)において評価した。両方のコホートは一次ワクチン接種の約7か月後にブースター注射を受けた。
【0298】
研究デザイン
CoV2-07_NHP研究では、COVID-19 mRNA-LNPワクチン候補(Kalninら、NPJ Vaccines(2021)6(1):61)を以前にワクチン接種された16匹のモーリシャス産カニクイザル(8匹の雄および8匹の雌、4~10歳齢)を、4匹のマカクからなる4つの群に無作為化した。一次ワクチン接種の2週間後(35日目)に親D614ウイルスに対する中和抗体応答を示した動物のみを本研究のために選択した。
【0299】
CoV2-08-NHP研究では、CoV2 preS dTM-AS03(武漢株)を用いて以前に免疫化された24匹のインド産アカゲザル(雄、2.7~4歳齢)を、4~5匹のマカクからなる5つの群に無作為化した。
【0300】
両方のコホートにおいて、無作為化は、ベースライン特徴(性別および年齢)、ならびに一次免疫化後およびブースターワクチン接種の1か月前の中和応答に基づいた。表19に記載されるように、種々の群がCoV2 preS dTMワクチン製剤の1回投与を受けた。
【0301】
【表22】
【0302】
動物を研究全体にわたって有害事象の任意の臨床徴候についてモニタリングした。血液サンプルを、ブースター注射前、注射後の2日目、7日目、14日目、21日目、および28日目に血液細胞数および化学パラメータのために採取した。血液サンプルを、7日目、14日目、21日目、および28日目に、SARS-CoV-2 D614G、アルファ、ベータ、ガンマ、およびデルタ変異株に対する結合およびレンチウイルス-PsV中和抗体滴定のために採取した。
【0303】
結果
研究中に臨床徴候は観察されず、血液学および臨床化学パラメータならびに体温はいかなる安全性に関するシグナルも示さなかった。
【0304】
S結合IgG価ならびにD614G株およびB.1.351変異株に対するNAb価をブースター後4週間にわたり毎週測定し、一次ワクチン接種後(35日目)またはベースライン時、すなわち、一次免疫化の7か月後(それぞれ、mRNAプライミングコホートでは205日目、サブユニットプライミングコホートでは196日目)のピーク力価と比較した。S結合IgG価を図22に示し、D614GおよびB.1.351 NAb価を図23に示す。ヒト回復期血清において測定したS結合およびD614 NAb価を対応する図に表す。
【0305】
一次ワクチン接種の7か月後(205日目または196日目、ベースラインを表す)、S結合価は、両方のコホートで低下していたが、依然として大半の動物において検出された。ブースター免疫化は、ワクチン製剤とは無関係に、早くも7日目に全ての動物においてS結合価を増加した。この増加は、AS03の存在下ではより顕著であった(mRNAプライミングコホートでは3.5倍で統計的に有意ではなく、サブユニットプライミングコホートでは5.7倍、p<0.05)。高いIgG価は、7日目から解析の最終時点である28日目の間で安定であった。
【0306】
S結合価と一致して、D614G NAb価は、一次ワクチン接種の7か月後(205日目または196日目)に両方のコホートで低下しており、mRNAプライミングコホートの一部の動物は陰性力価を有した。この時点において、B.1.351 NAb価は、mRNAプライミングコホートでは全て検出不能であり、サブユニットプライミングコホートでは検出不能であったかまたは低かった。
【0307】
ブースターの1週間後、NAb価は、AS03アジュバント一価D614を用いてブーストしたmRNAプライミングコホートの1匹の動物(B.1.351 NAb価は14日目にのみ検出され、D614G NAb価は他の動物と同じ範囲であった)を除き、両方のコホートの全てのワクチン接種群において、両方の株(D614GおよびB.1.351)に対して強力に増加した。重要なことに、この増加は全ての群および両方のコホートにおいて少なくとも4週間(試験の最終時点)安定であった。
【0308】
中和応答の幅を探索するために、他の公知のVoC(アルファ、ガンマ、およびデルタ)ならびにSARS-CoV-1に対するNAb価をブースターの2週間後に解析し、同時点のD614GおよびB.1.351に対するNAb価と比較した(図24)。2種類の原型株(D614GおよびB.1.351)に関する結果を裏付けるように、全てのワクチン製剤において、ブースター免疫化後に他の変異株に対する高いNAb価が測定された。
【0309】
データは、ワクチンプライミングマカクにおいて、様々なワクチン製剤(アジュバントを有しない一価B.1.351、AS03アジュバント一価D614もしくはB.1.351、または二価)による3回目の注射が、親D614株に対する初期NAb応答の強力なリコールを誘導し、ベータ変異株ならびに全ての他の公知のVoC(アルファ、ガンマ、およびデルタ)ならびにSARS-CoV-1に対する中和を延長したことを示す。
【0310】
AS03アジュバント製剤は、アジュバントを有しない一価と比較して高いNAb価を誘導した(ベースラインに対するD614G NAb価の増加に関して統計的に有意-mRNAプライミングコホートおよびサブユニットプライミングコホートにおいてそれぞれ6.5倍および8.1倍)。
【0311】
ベータおよびガンマ変異株に対するより高い応答傾向が、B.1.351 S抗原を含有するワクチン(一価または二価)において観察され、VoCに対する平均NAb価は、ブースターの2週間後の両方のコホートにおいて3.5Log10よりも大きく、D614Gに対する平均NAb価は、4.0Log10よりも大きかった。NAb応答に対する干渉(負または正)は、二価ワクチンにおいて、一価D614またはB.1.351のいずれと比較した場合においても観察されなかった。
【0312】
重要なことに、ブースター後に毎週測定したAb価(S結合ならびにD614Gおよびベータに対するNAb)は、7日目~28日目で安定であるようであり、早くも7日目には定常に達したことを示唆する。この観察結果は、ブースター時点で変異株に対して低~検出不能なNAb応答であったにもかかわらず、異なるワクチンプラットフォーム(mRNAおよびサブユニット)を用いて免疫化したマカクにおいて再現された。
【0313】
配列表
【表23】
図1
図2A
図2B
図3
図4
図5
図6A
図6B
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16A
図16B
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23-1】
図23-2】
図24
【配列表】
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【国際調査報告】