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特表2023-538680超高降伏比を有するギガパスカル級ベイナイト鋼およびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-09-08
(54)【発明の名称】超高降伏比を有するギガパスカル級ベイナイト鋼およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20230901BHJP
   C22C 38/38 20060101ALI20230901BHJP
   C22C 38/58 20060101ALI20230901BHJP
   C21D 9/46 20060101ALI20230901BHJP
   C21D 1/26 20060101ALI20230901BHJP
   C21D 8/02 20060101ALI20230901BHJP
【FI】
C22C38/00 301S
C22C38/38
C22C38/58
C21D9/46 G
C21D1/26 D
C21D8/02 A
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023513194
(86)(22)【出願日】2021-08-26
(85)【翻訳文提出日】2023-02-22
(86)【国際出願番号】 CN2021114658
(87)【国際公開番号】W WO2022042622
(87)【国際公開日】2022-03-03
(31)【優先権主張番号】202010879001.3
(32)【優先日】2020-08-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】302022474
【氏名又は名称】宝山鋼鉄股▲分▼有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】張 瀚 龍
(72)【発明者】
【氏名】張 玉 龍
(72)【発明者】
【氏名】劉 春 粟
(72)【発明者】
【氏名】金 ▲シン▼ ▲イェン▼
【テーマコード(参考)】
4K032
4K037
【Fターム(参考)】
4K032AA01
4K032AA02
4K032AA05
4K032AA11
4K032AA14
4K032AA16
4K032AA19
4K032AA22
4K032AA23
4K032AA27
4K032AA29
4K032AA31
4K032AA35
4K032AA36
4K032AA40
4K032BA01
4K032CA02
4K032CA03
4K032CC04
4K032CD03
4K032CE01
4K032CG02
4K032CH01
4K032CH04
4K032CH05
4K032CJ02
4K032CJ03
4K032CJ06
4K037EA01
4K037EA02
4K037EA06
4K037EA11
4K037EA13
4K037EA15
4K037EA17
4K037EA19
4K037EA20
4K037EA23
4K037EA25
4K037EA27
4K037EA31
4K037EA32
4K037EA36
4K037EB05
4K037FA02
4K037FA03
4K037FB00
4K037FC04
4K037FD04
4K037FE01
4K037FE02
4K037FG00
4K037FJ01
4K037FJ05
4K037FJ06
4K037FK02
4K037FK03
4K037FK05
4K037FK08
(57)【要約】
本発明は、Fe以外に、さらに質量パーセント含有量で下記の化学元素:C:0.12~0.24%;Si:0.2~0.5%;Mn:1.3~2.0%;B:0.001~0.004%;Cr、Nb、TiおよびMoの少なくとも1つ、ただしCr≦0.4%、Nb≦0.06%、Ti≦0.1%、Mo≦0.4%を含有する、超高降伏比を有するギガパスカル級ベイナイト鋼を開示した。また本発明はさらに、上述の鋼に使用する製造方法および焼鈍プロセスを開示した。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Feおよび不可避的不純物以外に、さらに質量パーセント含有量で以下の各化学元素:
C:0.12~0.24%;
Si:0.2~0.5%;
Mn:1.3~2.0%;
B:0.001~0.004%;
Al:0.01~0.05%;
Cr、Nb、Ti、Moの少なくとも一つ、ただしCr≦0.4%、Nb≦0.06%、Ti≦0.1%、Mo≦0.4%
を含むことを特徴とする、超高降伏比を有するギガパスカル級ベイナイト鋼。
【請求項2】
各化学元素の質量パーセント含有量は、
C:0.12~0.24%;
Si:0.2~0.5%;
Mn:1.3~2.0%;
B:0.001~0.004%;
Al:0.01~0.05%;
Cr、Nb、Ti、Moの少なくとも一つ、ただしCr≦0.4%、Nb≦0.06%、Ti≦0.1%、Mo≦0.4%であり;
残部がFeおよびその他の不可避的不純物である、
ことを特徴とする、請求項1に記載の超高降伏比を有するギガパスカル級ベイナイト鋼。
【請求項3】
各化学元素の質量パーセント含有量が、下記各項:
C:0.15~0.20%、
Mn:1.6~2.0%
の少なくとも一つを満たすことを特徴とする、請求項1または2に記載の超高降伏比を有するギガパスカル級ベイナイト鋼。
【請求項4】
その他の不可避的不純物において、P≦0.015%且つ/またはS≦0.004%であることを特徴とする、請求項1または2に記載の超高降伏比を有するギガパスカル級ベイナイト鋼。
【請求項5】
下記化学元素:
0<Cu≦0.2%、0<Ni≦0.2%、0<V≦0.2%、0<Ce≦0.2%
の少なくとも一つを含むことを特徴とする、請求項1または2に記載の超高降伏比を有するギガパスカル級ベイナイト鋼。
【請求項6】
0.18≦M≦0.27
(ただしM=Cr/2.5+Ti+V/5+Nb/1.7+Mo/1.7、ただしCr、V、Nb、TiおよびMoは各化学元素の質量パーセント含有量のパーセント記号の前の数値を表す)
且つ/または、
0.20≦C≦0.27
(ただし等価ベイナイト炭素元素の含有量C=C-(Mo+Nb)/8-(Ti+V)/4-Cr/12+Ni/10+Mn/20+B×10、式中における各元素は、いずれもこの元素の質量パーセント含有量のパーセント記号の前の数値を表す)
を満たすことを特徴とする、請求項5に記載の超高降伏比を有するギガパスカル級ベイナイト鋼。
【請求項7】
顕微組織は主に針状下部ベイナイトであり、針状下部ベイナイトの相比例は90%以上であることを特徴とする、請求項1または2に記載の超高降伏比を有するギガパスカル級ベイナイト鋼。
【請求項8】
顕微組織はさらに分散析出したナノオーダー、サブマイクロオーダーもしくはマイクロオーダーの粒状炭化物析出相を含有し、粒状炭化物析出相+針状ベイナイトの相比例の合計は99%以上であり;好ましくは、最大の粒状炭化物析出相の直径は2μm以下であることを特徴とする、請求項7に記載の超高降伏比を有するギガパスカル級ベイナイト鋼。
【請求項9】
引張強度≧980MPa、降伏強度≧900MPa、降伏比≧0.9、穴広げ率≧55%であり;好ましくは、降伏強度≧950MPa、降伏比≧0.95であることを特徴とする、請求項1に記載の超高降伏比を有するギガパスカル級ベイナイト鋼。
【請求項10】
以下のステップを含むことを特徴とする、請求項1-9のいずれか一項に記載の超高降伏比を有するギガパスカル級ベイナイト鋼に使用する焼鈍プロセス。
(a)加熱段階で、50℃/s以下の加熱速度で均熱温度Tsまで加熱し、ただし、Tsは840~900℃である;
(b)均熱段階で、温度Tsで5min以下保温する;
(c)徐冷段階で、15℃/s以下の第一冷却速度で(Ts-80)~(Ts-140)℃まで冷却する;
(d)急冷段階では、(130-Q)℃/s以上の第二冷却速度で(Ts-490)~(Ts-440)℃まで冷却する;
(e)自己復帰温度制御冷却段階で、第三冷却速度で10~40s冷却し、ただし、[(Q-80)/12]≦第三冷却速度≦[(Q-80)/8];
(f)最後に、空冷段階で、帯鋼を室温まで空冷する;
ただし、Q=C×180+Si×10+Mn×30+Ni×50+Cr×15+Mo×15+B×2000。
【請求項11】
以下のステップ:
(1)製錬および鋳造;
(2)熱間圧延;
(3)圧延後冷却および巻取;
(4)酸洗いと冷間圧延;
(5)請求項13に記載の焼鈍プロセス
を含むことを特徴とする、超高降伏比を有するギガパスカル級ベイナイト鋼の製造方法。
【請求項12】
ステップ(2)において、加熱温度を1150~1260℃とする;仕上げ圧延開始温度を1100~1220℃とし、仕上げ圧延終了温度を900~950℃とすることを特徴とする、請求項11に記載の製造方法。
【請求項13】
ステップ(3)において、冷却速度を30~150℃/sとし、卷取温度を450~580℃とすることを特徴とする、請求項11に記載の製造方法。
【請求項14】
ステップ(4)において、冷間圧延圧下率を50%以上とすることを特徴とする、請求項11に記載の製造方法。
【請求項15】
前記超高降伏比を有するギガパスカル級ベイナイト鋼が、請求項1-9のいずれか一項に記載されるとおりであることを特徴とする、請求項11に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一鋼種およびその製造方法、特にギガパスカル級ベイナイト鋼およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
「グリーン-安全」という新時代の理念下で、自動車の構造部材および安全部材の強度に対する要求が日々高まるにつれ、ギガパスカル級高強度鋼は、各大手自動車メーカが最も注目する自動車構造材の一つになりつつある。
【0003】
近年,自動車の正常使用および乗客の安全を確保するため、サービス期限内に「ゼロ変形」が求められる自動車構造部材(例えばボディとフレーム系の部品)が多くなるため、材料の性能が高く求められ、その降伏強度もしくは降伏比が高いほど好ましい。現在、高降伏強度もしくは高降伏比の材料がますます自動車メーカに注目され、高降伏強度もしくは高降伏比のギガパスカル鋼への市場需要も日々大きくなる。
【0004】
従来の発明特許に記載されるギガパスカル級高強度鋼は、降伏比が一般的に高くなく、ギガパスカル級自動車高強度鋼の市場シェアの90%を占める二相鋼の降伏強度はわずか0.6~0.75である。マルテンサイト鋼、焼入れ配分鋼(Q&P鋼)、多相鋼などのその他の一部製品も、降伏比がわずかに高まったものの、0.75~0.85程度しかない。
【0005】
例えば:中国特許文献(特許公開CN103361577A、開示日2013年10月23日、題名「加工性に優れた高降伏比高強度鋼板」)は、高降伏比高強度鋼板を開示し、その顕微組織が主にフェライト、マルテンサイト、焼き戻しマルテンサイトおよびベイナイトからなり、引張強度が980MPa以上に達せるものの、降伏比がわずか≧0.68、高降伏比ギガパスカル級鋼板に対する自動車部品市場の最新要求を依然として満たさない。
【0006】
また、例えば:中国特許文献(特許公開CN106170574A、開示日2016年11月30日、題名「高降伏比高強度冷間圧延鋼板およびその製造方法」)は、高降伏比高強度冷間圧延鋼板およびその製造方法を開示し、鋼板組織が主にフェライト、残留オーステナイト、マルテンサイトおよび微量のベイナイトと焼き戻しフェライトを含み、その引張強度が980MPa以上に達せるものの、降伏比がわずか≧0.75、高くても0.8を超えないため、降伏比が0.9以上のギガパスカル級高強度鋼に対する市場の需要を依然として満たさない。
【0007】
一方、一部の特許文献は降伏比が0.9以上の高降伏比鋼板およびその製造方法を開示したものの、これらの特許文献に記載の鋼板の引張強度はいずれも980MPa級に達せない。
【0008】
例えば:中国特許文献(特許公開CN102719736A、開示日2012年10月10日、題名「降伏比が0.9以上の超微細結晶粒滑走道用鋼およびその生産方法」)は、超微細結晶粒組織を利用して得られる降伏比が0.9以上の鋼板を開示したが、その引張強度はわずか700MPa級である。
【0009】
このように、現段階では、鋼板の引張強度がギガパスカル級に達することと、降伏比が0.9以上であることとは、相互に矛盾する二つの技術指標である。この矛盾の背後にある技術問題は、0.9以上の超高降伏比を実現するための組織制御技術が非常に困難であることにある。
【0010】
まず、高降伏比を実現するために、鋼板内のマトリックス組織が相対的に均一的である必要があり、例えばマトリックスが単一的なベイナイトもしくは単一的なマルテンサイトからなる。多相もしくは複相のマトリックス組織、例えばマトリックス組織がフェライト、残留オーステナイト、焼き戻しマルテンサイトおよびマルテンサイトを同時に含有する鋼板は、高降伏比が得られにくい。鋼板の強度がギガパスカル級に達するために、多相組織の相互配合が必要で、例えば典型的なフェライト/マルテンサイト二相鋼、およびTRIP効果が導入された残留オーステナイトを含む先端高強度鋼である。これが、第一層の技術矛盾である。
【0011】
たとえ単一的なベイナイトもしくは単一的なマルテンサイト組織であっても、加工歪みによる転移移動や加工硬化のため、鋼板の降伏比が0.9以上になりにくく、通常では、単一的なマルテンサイトもしくはベイナイトマトリックスの鋼板の降伏比は約0.8~0.9である。
【0012】
そのため、超高降伏比の鋼板をさらに獲得するため、材料の降伏強度を高めるために、転移の移動を阻止するための複雑な成分プロセス設計が必要である。例えば:中国特許文献(特許公開CN101910436A、開示日2010年12月8日、題名「優れた耐候性を有する高強度冷間圧延鋼板およびその作製方法」は、高価な固溶合金Cr、Zr、Co、Wなどを大量に導入することで材料の降伏強度を高める方法を開示した。しかし、従来のギガパスカル級超高強度鋼における複雑な作製プロセスおよび相対的に高すぎる合金添加量を考慮する上、降伏比をさらに高めるための上述の複雑なプロセス技術もしくは高価な合金の添加が、従来の組織がすでに極めて複雑であるギガパスカル級超高強度鋼への導入に適合するかどうかについて、疑問が存在する。これが、第二層の技術矛盾である。
【0013】
そのため、降伏比が0.9以上のギガパスカル級超高強度鋼を獲得するために、上述の第一層の技術矛盾および第二層の技術矛盾など数多くの技術難点を克服する必要があるため、従来の特許技術においてはまだ実現されていない。
【0014】
これに基づき、上述の問題を解決するために、超高降伏比を有するギガパスカル級ベイナイト鋼が期待されており、このギガパスカル級ベイナイト鋼は、超高降伏比、超高強度および優れた穴広げ性能および湾曲性能を同時に備え、自動車構造部材の製造に使用し、自動車の「グリーン-安全」という新設計理念を実現させることができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明の一つの目的は、超高降伏比を有するギガパスカル級ベイナイト鋼を提供することである。本発明は、合理的な化学成分設計により、超高降伏比を有するギガパスカル級ベイナイト鋼を得ることができ、このギガパスカル級ベイナイト鋼は、引張強度≧980MPa、降伏強度≧900MPa、降伏比≧0.9、穴広げ率≧55%であり、超高降伏比、超高強度、優れた穴広げ性能および湾曲性能を同時に備えるため、自動車構造部材の作製に使用でき、良好な汎用展望および応用価値を有する。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上述の目的を実現するため、本発明は、Feおよび不可避的不純物以外に、さらに質量パーセント含有量で下記各化学元素を含有する、超高降伏比を有するギガパスカル級ベイナイト鋼を提案する:
C:0.12~0.24%;
Si:0.2~0.5%;
Mn:1.3~2.0%;
B:0.001~0.004%;
Al:0.01~0.05%;
Cr、Nb、Ti、Moの少なくとも一つ、ただしCr≦0.4%、Nb≦0.06%、Ti≦0.1%、Mo≦0.4%。
【0017】
さらに、本発明による超高降伏比を有するギガパスカル級ベイナイト鋼において、その各化学元素の質量パーセント含有量は:
C:0.12~0.24%;
Si:0.2~0.5%;
Mn:1.3~2.0%;
B:0.001~0.004%;
Al:0.01~0.05%;
Cr、Nb、Ti、Moの少なくとも一つ、ただしCr≦0.4%、Nb≦0.06%、Ti≦0.1%、Mo≦0.4%であり;
残部がFeおよびその他の不可避的不純物である。
【0018】
本発明による技術案において、具体的に、各化学元素の設計原理は以下の通りである。
C:本発明による超高降伏比を有するギガパスカル級ベイナイト鋼において、C元素は、炭素鋼中の組織相転移の制御に対する重要な元素の一つである。同時に、C元素は、鋼板強度にも大きな影響を持つ。C元素は、他の合金元素と共に合金炭化物を形成し、鋼板の強度を高めることができる。鋼中のC元素含有量が0.12%未満であると、鋼の強度が目標の要求を満たさない;また、鋼中のC元素含有量が0.24%を超えると、マルテンサイト組織と粗大なセメンタイトが生成されやすく、鋼板の性能が悪化する。これに基づき、本発明による超高降伏比を有するギガパスカル級ベイナイト鋼において、Cの質量パーセントは、0.12~0.24%の間とする。
【0019】
もちろん、いくつかの好ましい実施形態では、より良い実施効果を得るために、C元素の質量パーセントは、0.15~0.20%の間にしてもいい。
【0020】
Si:本発明による超高降伏比を有するギガパスカル級ベイナイト鋼において、Si元素は、製鋼における脱酸素での必要元素であり、それが一定の固溶強化作用を有するだけでなく、ベイナイトの形成にも一定の影響を有する(鋼中のB元素含有量が高いほど、無炭素ベイナイトが形成されやすい)。説明しなければならないが、鋼中のSi元素含有量が0.2%未満であると、十分な脱酸素効果が得られにくい;また、鋼中のSi元素含有量が0.5%を超えると、酸化鉄皮膜またはトラ模様の色差が形成されやすく、自動車用鋼板の表面品質には不利である。これに基づき、本発明による超高降伏比を有するギガパスカル級ベイナイト鋼において、Siの質量パーセントは、0.2~0.5%の間とする。
【0021】
Mn:本発明による超高降伏比を有するギガパスカル級ベイナイト鋼において、Mn元素は主要な添加元素であり、鋼中の組織相転移の制御に対する重要な元素の一つである。説明しなければならないが、Mn元素はコストが低いため、鋼の強度を高めるための有効な元素であるだけでなく、相対的に重要な固溶強化元素でもある。ただし、注意する必要があるが、鋼中のMn元素含有量が高すぎないほうが良い。鋼中のMn元素含有量が高すぎると、耐腐食性能や溶接性能が悪化し、同時に結晶粒が粗化する傾向があり、鋼の可塑性と靱性が低下する。これに基づき、本発明による超高降伏比を有するギガパスカル級ベイナイト鋼において、Mnの質量パーセントは、1.3~2.0%の間とする。
【0022】
もちろん、いくつかの好ましい実施形態では、より良い実施効果を得るために、Mn元素の質量パーセントは、1.6~2.0%の間にしてもいい。
【0023】
B:本発明による超高降伏比を有するギガパスカル級ベイナイト鋼において、B元素は、鋼中のベイナイトの形成に有利であるだけでなく、それが鋼板の強度や硬度にも大きな影響を持つ。注意する必要があるが、鋼中のB元素の含有量が0.001%未満であると、鋼の強度が目標の要求を満たさない;また、鋼中のB元素の含有量が0.004%を超えると、脆性のホウ化物が生成されやすく、鋼板の穴広げ性能および湾曲性能が影響される。これに基づき、本発明による超高降伏比を有するギガパスカル級ベイナイト鋼において、Bの質量パーセントは、0.001~0.004%の間とする。
【0024】
Al:本発明による超高降伏比を有するギガパスカル級ベイナイト鋼において、Al元素はただ脱酸素元素として鋼中に添加され、それが鋼中のO元素を除去し、鋼の性能および品質を確保できる。そのため、本発明による超高降伏比を有するギガパスカル級ベイナイト鋼において、Alの質量パーセントは、0.01~0.05%の間とする。従来技術では、固溶強化をもたらすためにAl元素をフェライト形成元素および炭化物析出の抑制元素として鋼中に大量(≧0.1%)に添加するか、Alの添加によって相転移温度、ベイナイト形成動態学および炭化物析出動態学を変えることで鋼材の相転移を変え、残留オーステナイトまたは無炭素ベイナイトを形成し、最終的に鋼材強度を高めるが、本発明の成分制御およびプロセス調節はすでに超高降伏比を有するギガパスカル級ベイナイト鋼を獲得できるため、Al元素を大量に添加する必要がなくなり、コスト上昇や製鋼製造の難しさの大幅な増加が回避できる。
【0025】
Ti、Cr、Nb及びMo:本発明による超高降伏比を有するギガパスカル級ベイナイト鋼において、Ti、Cr、Nb及びMoは、任意選択的な合金元素として鋼中に添加し、微細且つ分散した炭化物第二相の析出を形成し、さらに鋼板の強度および降伏比を高めることができる。また、説明しなければならないが、CrとMo元素は、CCT曲線中のパーライトとフェライトの育成期を長引き、パーライトのフェライトの形成を抑制することができるため、冷却時にベイナイト組織が得られやすく、鋼の穴広げ率が高められやすい。
【0026】
このように、上述の四種の合金元素は、鋼板の組織制御およびそれに相応な焼鈍プロセスに影響があり、それが炭化物の形成に対する影響要素が炭化物の形成比例および形態を直接に影響する。これに基づき、本発明による超高降伏比を有するギガパスカル級ベイナイト鋼において、Cr、Nb、Ti及びMoの質量パーセントは、それぞれCr≦0.4%、Nb≦0.06%、Ti≦0.1%、Mo≦0.4%とする。
【0027】
また、上記合金元素の添加によって、材料のコストが増加するため、性能とコスト管理を総合的に考慮する上、本発明による技術案は、好ましく、Cr、Nb、Ti、Moの少なくとも一つを鋼中に添加してもいい。いくつかの好ましい実施形態において、本発明による超高降伏比を有するギガパスカル級ベイナイト鋼は、少なくとも0.1-0.4%のCrを含有する。いくつかの好ましい実施形態において、本発明による超高降伏比を有するギガパスカル級ベイナイト鋼は、少なくとも0.1-0.4%のMoを含有する。いくつかの好ましい実施形態において、本発明による超高降伏比を有するギガパスカル級ベイナイト鋼は、少なくともCrとMoの一方または両方を含有する。いくつかの好ましい実施形態において、本発明による超高降伏比を有するギガパスカル級ベイナイト鋼は、少なくとも0.1-0.4%のCrと0.1-0.4%のMoを含有する。
【0028】
さらに、本発明による超高降伏比を有するギガパスカル級ベイナイト鋼において、各化学元素の質量パーセントは、以下各項の少なくとも一つを満たす:
C:0.15~0.20%、
Mn:1.6~2.0%。
【0029】
さらに、本発明による超高降伏比を有するギガパスカル級ベイナイト鋼において、その他の不可避的不純物の中でも、P≦0.015%且つ/またはS≦0.004%である。
【0030】
上述の技術案において、PとSはいずれも鋼中の不純物元素であり、技術上可能である限り、より良い性能およびより優れた品質を有する調質鋼を得るために、鋼中の不純物元素の含有量をできるだけ減らすべきである。
【0031】
さらに、本発明による超高降伏比を有するギガパスカル級ベイナイト鋼において、下記の化学元素の少なくとも一つがさらに含有される:
0<Cu≦0.2%、0<Ni≦0.2%、0<V≦0.2%、0<Ce≦0.2%。
【0032】
本発明による技術案において、上述のCu、Ni、VおよびCe元素は、いずれも本発明による超高降伏比を有するギガパスカル級ベイナイト鋼の性能をさらに向上させることができる。
【0033】
さらに、本発明による超高降伏比を有するギガパスカル級ベイナイト鋼は、0.18≦M≦0.27を満たし、ただしM=Cr/2.5+Ti+V/5+Nb/1.7+Mo/1.7であり、ただしCr、V、Nb、Ti及びMoは、各化学元素の質量パーセント含有量のパーセント記号の前の数値を表す。
【0034】
上述の技術案において、説明しなければならないが、本発明による超高降伏比を有するギガパスカル級ベイナイト鋼において、単一的な化学元素の質量パーセントを制御する上で、より優れた性能および品質を有するギガパスカル級ベイナイト鋼を得るために、好ましく、Mを0.18≦M≦0.27としてもいい。ただし、M=Cr/2.5+Ti+V/5+Nb/1.7+Mo/1.7であり、Cr、V、Nb、Ti及びMoは、各化学元素の質量パーセント含有量のパーセント記号の前の数値を表す。
【0035】
説明しなければならないが、本発明において、Mが高すぎると、粗大な炭化物が形成されやすく、鋼の穴広げ率と湾曲性能が悪化する;また、Mが低すぎると、十分な炭化物析出相が形成できず、鋼の強度と降伏比が足りなくなる。そのため、本発明において、鋼中にナノオーダー、サブマイクロオーダーもしくはマイクロオーダーの粒状炭化物が分散して析出し、最大の粒状炭化物析出相の直径サイズを確保するために、Mを0.18≦M≦0.27としてもいい。
【0036】
さらに、本発明による超高降伏比を有するギガパスカル級ベイナイト鋼は、0.20≦C≦0.27を満たし、ただし等価ベイナイト炭素元素の含有量C=C-(Mo+Nb)/8-(Ti+V)/4-Cr/12+Ni/10+Mn/20+B×10であり、式中における各元素は、いずれもこの元素の質量パーセント含有量のパーセント記号の前の数値を表す。
【0037】
上述の技術案において、本発明による超高降伏比を有するギガパスカル級ベイナイト鋼では、合金元素とM値が炭化物の析出に影響を与えるため、鋼中の等価ベイナイト炭素元素の含有量Cを間接に影響する。説明しなければならないが、本発明において、Cが低すぎると、十分な単一ベイナイトマトリックス組織が形成できない;また、Cが高すぎると、ベイナイトの硬度が大きくなりすぎて、鋼の湾曲および穴広げ性能が悪化する。そのため、本発明において、単一化学元素の質量パーセントを制御する上、鋼中の針状下部ベイナイトの相比例が90%以上であることを効果的に確保するため、好ましく、Cを0.20≦C≦0.27としてもいい。
【0038】
さらに、本発明による超高降伏比を有するギガパスカル級ベイナイト鋼において、その顕微組織は主に針状下部ベイナイトであり、針状下部ベイナイトの相比例が90%以上である。
【0039】
さらに、本発明による超高降伏比を有するギガパスカル級ベイナイト鋼において、その顕微組織がさらに分散析出したナノオーダー、サブマイクロオーダーもしくはマイクロオーダーの粒状炭化物の析出相を含有し、粒状炭化物の析出相+針状下部ベイナイトの相比例の合計は99%以上である。
【0040】
さらに、本発明による超高降伏比を有するギガパスカル級ベイナイト鋼において、最大の粒状炭化物の析出相の直径は2μm以下である。
【0041】
さらに、本発明所述的超高降伏比を有するギガパスカル級ベイナイト鋼は、引張強度が≧980MPa、好ましくは≧1000MPa、降伏強度が≧900MPa、好ましくは≧950MPa、降伏比が≧0.9、好ましくは≧0.95、穴広げ率が≧55%、好ましくは≧60%である。好ましい実施形態において、本発明による超高降伏比を有するギガパスカル級ベイナイト鋼では、その引張強度≧1000MPa、降伏強度≧910MPa、降伏比≧0.9、穴広げ率≧55%である。
【0042】
さらに、本発明による超高降伏比を有するギガパスカル級ベイナイト鋼は、降伏強度≧950MPa、降伏比≧0.95であり;より好ましくは、その引張強度≧1000MPa、穴広げ率≧60%である。
【0043】
さらに、本発明による超高降伏比を有するギガパスカル級ベイナイト鋼は、伸び率が≧9.0%である。また、本発明のもう一つの目的は、上述の超高降伏比を有するギガパスカル級ベイナイト鋼の焼鈍プロセスを提供することである。この焼鈍プロセスは、鋼の性能に対し重要な作用があり、それが合理的なプロセス設計および関連のプロセスパラメータの制御によって、超高降伏比を有するギガパスカル級ベイナイト鋼を得ることができる。
【0044】
上述の目的を実現するために、本発明は以下のステップを含む、上述の超高降伏比を有するギガパスカル級ベイナイト鋼の焼鈍プロセスを提案する:
(a)加熱段階で、50℃/s以下の加熱速度で均熱温度Tsまで加熱する。ただし、Tsは840~900℃である;
(b)均熱段階で、温度Tsで5min以下保温する;
(c)徐冷段階で、15℃/s以下の第一冷却速度で(Ts-80)~(Ts-140)℃まで冷却する;
(d)急冷段階で、(130-Q)℃/s以下の第二冷却速度で(Ts-490)~(Ts-440)℃まで冷却する;ただしQ=C×180+Si×10+Mn×30+Ni×50+Cr×15+Mo×15+B×2000、式中の各元素は、いずれもこの元素の質量パーセント含有量のパーセント記号の前の数値を表す;
(e)自己復帰温度制御冷却段階で、第三冷却速度で10~40s冷却する。ただし、[(Q-80)/12]≦第三冷却速度≦[(Q-80)/8];
(f)最後に、空冷段階で、帯鋼を室温まで空冷する。
【0045】
本発明による技術案において、説明しなければならないが、上述の焼鈍プロセスは、加熱段階、均熱段階、徐冷段階、急冷段階、自己復帰温度制御冷却段階および空冷段階を含み、それが本発明によるギガパスカル級ベイナイト鋼の性能に対し重要な役割を果たす。
【0046】
ステップ(a)において、加熱段階では、50℃/s以下の加熱速率で均熱温度Ts:840~900℃まで加熱し、好ましくは均熱温度840-870℃まで加熱する必要がある。ただし、加熱段階での加熱速度は高すぎないほうが良い。そうでないと、帯鋼組織の均一性が下がる。また、説明しなければならないが、均熱温度Tsが上述の均熱設計温度範囲より低いと、帯鋼には90%以上の針状下部ベイナイト組織が得られない;また、均熱温度Tsが上述の均熱設計温度範囲を超えると、帯鋼の結晶粒が粗大化し、鋼の成形性能が悪化する。いくつかの実施形態において、ステップ(a)の加熱速率は5-45℃/sである。
【0047】
ステップ(b)において、好ましく、保温時間は1分間以上である。例えば、保温時間は1分間~4.5分間である。
【0048】
ステップ(c)において、徐冷段階では、15℃/s以下の第一冷却速度で(Ts-80)~(Ts-140)℃まで冷却する必要がある。ただし、徐冷段階での第一冷却速度が高すぎないほうが良い。そうでないと、エネルギーの浪費だけでなく、帯鋼組織が不均一になってしまう。また、説明しなければならないが、徐冷温度が上述の徐冷設計温度範囲より低いと、帯鋼には90%以上のベイナイト組織が得られない;また、徐冷温度が上述の徐冷設計温度範囲より高いと、後続の急冷段階ではより高い冷却能力およびより高い温度精度制御能力が求められるため、冷却能力もしくは温度精度制御能力の不足による帯鋼の組織均一性の悪化が生じやすく、製品の性能が悪化する。好ましくは、ステップ(c)での第一冷却速度は5-15℃/s、好ましくは5-12℃/sである。
【0049】
ステップ(d)において、急冷段階では、(130-Q)℃/s以上の第二冷却速度で(Ts-490)~(Ts-440)℃まで冷却する必要がある;ただし、Q=C×180+Si×10+Mn×30+Ni×50+Cr×15+Mo×15+B×2000。ただし、急冷段階での第二冷却速度が不足であり、もしくは冷却温度が(Ts-440)℃を超えると、ベイナイトの相転移が予定より前に発生し、高温ベイナイト組織(例えば上ベイナイトもしくは等軸ベイナイト)が生成されるため、鋼中の針状下部ベイナイトの相比例が90%以上であることを確保できないだけでなく、相転移の潜熱が大幅に下がり、後続の自己復帰温度制御冷却が実現できず、材料組織が異常となり、鋼板と鋼帯には超高降伏比が得られなくなる。また、急冷段階での冷却温度が(Ts-490)℃未満であると、マルテンサイト組織が生成され、鋼の穴広げ率と湾曲性能が下がる。
【0050】
ステップ(e)において、自己復帰温度制御冷却段階では、帯鋼が急冷段階で設計パラメータ通りに実行されると、帯鋼の相転移の潜熱の大量放出によって温度の自己復帰現象が実現され、自己復帰温度により、帯鋼の温度が快速、均一、且つ効率的に50~120℃上昇できるため、炭化物の均一、分散した析出が促進される。炭化物を十分析出させ、析出サイズを細かく保つため、帯鋼温度を制御し、第三冷却速度で10~40s冷却する必要があり、ただし[(Q-80)/12]≦第三冷却速度≦[(Q-80)/8]。
【0051】
説明しなければならないが、自己復帰温度制御冷却段階での第三冷却速度が低すぎ、もしくは制御冷却の時間が長すぎ、本発明の上述の設計要求を満たさないと、炭化物析出が粗化しやすく、穴広げ率と湾曲性能が悪化する;また、第三冷却速度が高すぎ、もしくは制御冷却の時間が短すぎると、炭化物析出が不充分になりやすく、鋼には降伏比0.9以上の超高降伏比性能が得られない。
【0052】
また、本発明のもう一つの目的は、上述の超高降伏比を有するギガパスカル級ベイナイト鋼の製造方法を提供することである。この製造方法によれば、本発明による超高降伏比を有するギガパスカル級ベイナイト鋼を効果的に作製できる。
【0053】
上述の目的を実現するために、本発明は以下のステップを含む、超高降伏比を有するギガパスカル級ベイナイト鋼の製造方法を提案する:
(1)製錬および鋳造;
(2)熱間圧延;
(3)圧延後冷却および巻取;
(4)酸洗いと冷間圧延;
(5)上述の焼鈍プロセス。
【0054】
本発明による技術案において、上述の製造方法では、焼鈍前プロセスのステップ(1)-ステップ(4)における操作ステップは、主に成分および初期組織が均一である鋼板もしくは鋼帯を得て、後続の焼鈍プロセスの実施時に組織および性能の均一且つ安定を図るためになされたものであり、鋼板の性能に対し重要な作用をもたらすのはステップ(5)での焼鈍プロセスである。
【0055】
さらに、本発明による製造方法において、ステップ(2)では、加熱温度を1150~1260℃とする;仕上げ圧延開始温度を1100~1220℃とし、仕上げ圧延終了温度を900~950℃とする。
【0056】
さらに、本発明による製造方法において、ステップ(3)では、冷却速度を30~150℃/sとし、卷取温度を450~580℃とする。
【0057】
さらに、本発明による製造方法において、ステップ(4)では、冷間圧延圧下率を50%以下とする。
【0058】
さらに、本発明による製造方法において、前記超高降伏比を有するギガパスカル級ベイナイト鋼は本文のいずれか一つの実施形態による超高降伏比を有するギガパスカル級ベイナイト鋼である。
【発明の効果】
【0059】
本発明による超高降伏比を有するギガパスカル級ベイナイト鋼およびその製造方法は、従来技術と比較して、以下の利点及び有益な効果を有する:
本発明は、化学元素成分およびプロセスが相対的に簡単且つ制御可能であることを前提とし、合金元素の最適配合および焼鈍プロセスの革新的な調節によって、鋼板のマトリックス組織が簡単且つ単一的なベイナイト組織であることを確保する上、相転移の潜熱の放出を導入して鋼帯の自己復帰温度を実現し、エネルギー消費を減少するだけでなく、快速、均一、且つ効率的な帯鋼の復帰温度制御を実現し、細かい第二相分散析出を誘発し、超高降伏比および良好な成形性能を有するギガパスカル級ベイナイト鋼を得ることができる。
【0060】
本発明は、合理的な化学成分設計により、引張強度≧980MPa、降伏強度≧900MPa、降伏比≧0.9、穴広げ率≧55%である超高降伏比を有するギガパスカル級ベイナイト鋼を得ることができる。このギガパスカル級ベイナイト鋼は、超高降伏比、超高強度、優れた穴広げ性能および湾曲性能を同時に兼備し、自動車構造部材の作製に使用でき、自動車の「グリーン-安全」という新設計理念を満たし、良好な汎用展望および応用価値を有する。
【0061】
本発明による焼鈍プロセスは、鋼の性能に対し重要な作用をもたらす。この焼鈍プロセスは、加熱段階、均熱段階、徐冷段階、急冷段階、自己復帰温度制御冷却段階および空冷段階を含み、それが合理的なプロセス設計および関連のプロセスパラメータの制御により、超高降伏比を有するギガパスカル級ベイナイト鋼を獲得できる。
【0062】
また、本発明による製造方法の生産プロセスは独特であり、それが上述の焼鈍プロセスを採用することで、得られるギガパスカル級ベイナイト鋼の性能を確保する。得られるギガパスカル級ベイナイト鋼は、超高の強度および降伏比を有するだけでなく、優れた穴広げ性能および湾曲性能も有する。
【図面の簡単な説明】
【0063】
図1図1は実施例1のギガパスカル級ベイナイト鋼を3000倍拡大した顕微組織写真である。
図2図2は比較例7の比較鋼を3000倍拡大した顕微組織写真である。
図3図2は比較例8の比較鋼を1000倍拡大した顕微組織写真である。
【発明を実施するための形態】
【0064】
以下では、図面および具体的な実施例に基づき、本発明による超高降伏比を有するギガパスカル級ベイナイト鋼およびその製造方法をさらに詳しく解釈し、説明するが、その解釈及び説明は本発明の技術案を不適切に限定するものではない。
【0065】
実施例1-14および比較例1-10
実施例1-14の超高降伏比を有するギガパスカル級ベイナイト鋼は、以下のステップで作製された:
(1)表1に示される化学成分で製錬、鋳造を行った。
【0066】
(2)熱間圧延:加熱温度を1150~1260℃とした;仕上げ圧延開始温度を1100~1220℃とし、仕上げ圧延終了温度を900~950℃とした。
【0067】
(3)圧延後冷却と卷取:冷却速度を30~150℃/sとし、卷取温度を450~580℃とした。
【0068】
(4)酸洗いと冷間圧延:冷間圧延圧下率を50%以上とした。
(5)焼鈍。
【0069】
説明しなければならないが、ステップ(5)において、焼鈍プロセスは、以下のステップを含む:
(a)加熱段階で、50℃/s以下の加熱速度で均熱温度Tsまで加熱した。ただし、Tsは840~900℃とした。
【0070】
(b)均熱段階で、温度Tsで5min以下保温した。
(c)徐冷段階で、15℃/s以下の第一冷却速度で(Ts-80)~(Ts-140)℃まで冷却した。
【0071】
(d)急冷段階では、(130-Q)℃/s以上の第二冷却速度で(Ts-490)~(Ts-440)℃まで冷却した;ただし、Q=C×180+Si×10+Mn×30+Ni×50+Cr×15+Mo×15+B×2000。
【0072】
(e)自己復帰温度制御冷却段階で、第三冷却速度で10~40s冷却した。ただし、[(Q-80)/12]≦第三冷却速度≦[(Q-80)/8]。
【0073】
(f)最後に、空冷段階で、帯鋼を室温まで空冷した。
また、注意する必要があるが、本発明による実施例1-14の超高降伏比を有するギガパスカル級ベイナイト鋼は、いずれも上記ステップで作製され、その化学成分および関連のプロセスパラメータがいずれも本発明の設計規範制御要求を満たしている。
【0074】
また、比較例1-10の比較鋼も同様に製錬と鋳造、熱間圧延、圧延後冷却と卷取、酸洗いと冷間圧延、および焼鈍を採用したステップで作製された。ただし、比較例1-6の化学成分および関連のプロセスパラメータは、いずれも本発明に設計される要求のパラメータを満たさない;比較例7-14の化学成分は、本発明の設計要求を満たすものの、いずれも本発明の設計要求を満たさないプロセスパラメータが存在する。
【0075】
ただし、本発明の実施例および比較例において、比較例7と実施例1の化学元素成分が同じであり、比較例8と実施例2の化学元素成分が同じであり、比較例9と実施例6の化学元素成分が同じであり、比較例10と実施例11の化学元素成分が同じである。
【0076】
表1は、実施例1-14の超高降伏比を有するギガパスカル級ベイナイト鋼および比較例1-10の比較鋼の各化学元素の質量パーセント配合比例(%)を示す。
【0077】
【表1】
【0078】
注:上表において、Cb=C-(Mo+Nb)/8-(Ti+V)/4-Cr/12+Ni/10+Mn/20+B×10、式中における各元素は、いずれもこの元素の質量パーセント含有量のパーセント記号の前の数値を表す;M=Cr/2.5+Ti+V/5+Nb/1.7+Mo/1.7、ただし、Cr、V、Nb、TiおよびMoは、各化学元素の質量パーセント含有量のパーセント記号の前の数値を表す。
【0079】
表2-1と表2-2は、実施例1-14の超高降伏比を有するギガパスカル級ベイナイト鋼および比較例1-10の比較鋼の具体的なプロセスパラメータを示す。
【0080】
【表2-1】
【0081】
【表2-2】
【0082】
(表2-2のつづき)
【0083】
注:上表において、Q=C×180+Si×10+Mn×30+Ni×50+Cr×15+Mo×15+B×2000、式中における各元素は、いずれもこの元素の質量パーセント含有量のパーセント記号の前の数値を表す。
【0084】
実施例1-14の超高降伏比を有するギガパスカル級ベイナイト鋼および比較例1-10の比較鋼に対し、関連の機械的性能測定を行い、得られる各実施例と比較例の機械的性能測定結果は表3に挙げられる。関連の性能測定手段は以下の通りである。
【0085】
得られる実施例1-14の超高降伏比を有するギガパスカル級ベイナイト鋼および比較例1-10の比較鋼に対し、それぞれサンプルをとり、横方向に沿うJIS 5#引張サンプルで鋼の降伏強度および引張強度を測定し、板の中部領域で鋼の穴広げ率および湾曲性能を測定した。
【0086】
ただし、鋼の穴広げ率は穴広げ試験で測定し、雄型で中心部に穴を有するサンプルを雌型に押入れ、板穴の縁部にネッキングもしくは貫通割れが現れるまでサンプルの中心穴を拡大させた。サンプル中心部の初期穴の作成方法および対応する初期穴縁部の品質が穴広げ率の測定結果に対し大きな影響を持つため、試験および測定方法はISO/DIS16630基準で定められた穴広げ率測定方法で実行し、中心初期穴はパンチ穴形式(初期穴縁部の品質が一番悪い加工方式に対応する)を採用した。180°湾曲試験はGB/T232-2010基準で定められた湾曲性能の測定方法で実行した(湾曲直径d=1a)。
【0087】
表3は、実施例1-14の超高降伏比を有するギガパスカル級ベイナイト鋼および比較例1-10の比較鋼の機械的性能の測定結果を示す。
【0088】
【表3】
【0089】
表3からわかるように、比較例1-10の比較鋼に比べれば、本発明の実施例1-14の超高降伏比を有するギガパスカル級ベイナイト鋼は、機械的性能が明らかに優れている。
【0090】
本発明の実施例1-14の超高降伏比を有するギガパスカル級ベイナイト鋼は、超高降伏比、超高強度、優れた穴広げ性能および湾曲性能を同時に兼備し、その引張強度がいずれも≧980MPa、降伏強度がいずれも≧900MPa、降伏比がいずれも≧0.9、穴広げ率がいずれも≧55%である。
【0091】
個別の好ましい実施形態において、例えば実施例1において、実施例1の超高降伏比を有するギガパスカル級ベイナイト鋼は、降伏強度≧950MPa、降伏比≧0.95であり、超高の降伏比および超高の降伏強度を有する。
【0092】
図1は実施例1のギガパスカル級ベイナイト鋼を3000倍拡大した顕微組織写真である。
【0093】
図1に示されるとおり、実施例1のギガパスカル級ベイナイト鋼は、急冷段階で十分速い冷却速度(第二冷速が発明要求を満たす)で下部ベイナイト相領域(急冷冷却温度が発明要求を満たす)まで冷却したため、その顕微組織のマトリックスは針状下部ベイナイトであり、且つ自己復帰温度制御冷却段階での冷却速度が適切(第三冷却速度が発明要求を満たす)であるため、組織には微細且つ分散析出のナノオーダー、サブマイクロオーダーもしくはマイクロオーダーの粒状炭化物析出相が含まれる。ただし、針状下部ベイナイトの相比例は90%以上、粒状炭化物析出相+針状下部ベイナイトの相比例の合計は99%以上、最大の粒状炭化物析出相の直径は2μm以下である。
【0094】
図2は比較例7の比較鋼を3000倍拡大した顕微組織写真である。
図2に示されるとおり、比較例7の比較鋼は、急冷段階冷却時の冷却速度が不足(第二冷却速度が発明要求を満たさない)であるため、比較鋼は、下部ベイナイト相領域まで冷却し切れてない時に、つまり相対的に高い温度でベイナイト相転移が発生し、最終的に適切な下部ベイナイト相領域温度まで冷却したものの、顕微組織中にはバルク状の等軸ベイナイトが主に存在し、針状下部ベイナイトがほとんど含まれていなく、炭化物析出も十分微細、均一的ではない。
【0095】
図3は比較例8の比較鋼を1000倍拡大した顕微組織写真である。
図3に示されるとおり、比較例8の比較鋼は、急冷段階冷却時の冷却速度が適切(第二冷却速度が発明要求を満たす)であるが、急冷冷却温度が高すぎる(急冷段階での冷却温度が発明要求を満たさない)ため、顕微組織がほとんど全部バルク状の等軸ベイナイト組織であり、針状下部ベイナイトがほとんど含まれず、炭化物析出も十分微細、均一的ではない。
【0096】
上述の内容からわかるように、本発明は、合理的な化学成分設計により、引張強度≧980MPa、降伏強度≧900MPa、降伏比≧0.9、穴広げ率≧55%である超高降伏比を有するギガパスカル級ベイナイト鋼を得ることができる。このギガパスカル級ベイナイト鋼は、超高降伏比、超高強度、優れた穴広げ性能および湾曲性能を同時に兼備し、自動車構造部材の作製に使用でき、自動車の「グリーン-安全」という新設計理念を満たし、良好な汎用展望および応用価値を有する。
【0097】
本発明による焼鈍プロセスは、鋼の性能に対し重要な作用をもたらす。この焼鈍プロセスは、加熱段階、均熱段階、徐冷段階、急冷段階、自己復帰温度制御冷却段階および空冷段階を含み、それが合理的なプロセス設計および関連のプロセスパラメータの制御により、超高降伏比を有するギガパスカル級ベイナイト鋼を獲得できる。
【0098】
また、本発明による製造方法の生産プロセスは独特であり、それが上述の焼鈍プロセスを採用することで、得られるギガパスカル級ベイナイト鋼の性能を確保する。得られるギガパスカル級ベイナイト鋼は、超高の強度および降伏比を有するだけでなく、優れた穴広げ性能および湾曲性能も有する。
【0099】
また、本願における各技術特徴の組み合わせ方式は、本願請求項に記載の組み合わせ方式もしくは具体的な実施例に記載の組み合わせ方式に限定するものではなく、本願に記載の全ての技術特徴は、お互いに矛盾しない限り、いかなる方式で自由に組み合わせもしくは結合してもいい。
【0100】
さらに、注意しなければならないが、以上に挙げられた実施例は、本発明の具体的な実施例でしかない。本発明は以上の実施例に限定されなく、その類似変化や変形は、本発明の開示内容から当業者によって直接得られ、もしくは容易に想起されるものであるため、本発明の保護範囲に属すことが言うまでもない。
図1
図2
図3
【国際調査報告】