(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-09-08
(54)【発明の名称】分散機能を有する重合体、油井セメント用分散剤、その製造方法及び使用
(51)【国際特許分類】
C08F 210/14 20060101AFI20230901BHJP
C04B 28/02 20060101ALI20230901BHJP
C04B 24/26 20060101ALI20230901BHJP
C04B 24/40 20060101ALI20230901BHJP
C04B 24/22 20060101ALI20230901BHJP
【FI】
C08F210/14
C04B28/02
C04B24/26 B
C04B24/26 E
C04B24/40
C04B24/22 E
C04B24/26 H
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023534240
(86)(22)【出願日】2021-08-13
(85)【翻訳文提出日】2023-02-14
(86)【国際出願番号】 CN2021112593
(87)【国際公開番号】W WO2022033588
(87)【国際公開日】2022-02-17
(31)【優先権主張番号】202010820725.0
(32)【優先日】2020-08-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】515078501
【氏名又は名称】チャイナ ペトロレウム アンド ケミカル コーポレーション
【氏名又は名称原語表記】CHINA PETROLEUM & CHEMICAL CORPORATION
【住所又は居所原語表記】No.22 Chaoyangmen North Street, Chaoyang District, Beijing, 100728 China
(71)【出願人】
【識別番号】523052649
【氏名又は名称】シノペック ペトロレウム エンジニアリング テクノロジー リサーチ インスティテュート カンパニー, リミテッド
【氏名又は名称原語表記】SINOPEC PETROLEUM ENGINEERING TECHNOLOGY RESEARCH INSTITUTE CO., LTD
【住所又は居所原語表記】SINOPEC Science and Technology Research Center, No.197 Baisha Road, Changping District, Beijing 102206, China
(74)【代理人】
【識別番号】100103034
【氏名又は名称】野河 信久
(74)【代理人】
【識別番号】100159385
【氏名又は名称】甲斐 伸二
(74)【代理人】
【識別番号】100163407
【氏名又は名称】金子 裕輔
(74)【代理人】
【識別番号】100166936
【氏名又は名称】稲本 潔
(74)【代理人】
【識別番号】100174883
【氏名又は名称】冨田 雅己
(74)【代理人】
【識別番号】100189429
【氏名又は名称】保田 英樹
(74)【代理人】
【識別番号】100213849
【氏名又は名称】澄川 広司
(72)【発明者】
【氏名】ヂョウ,シーミン
(72)【発明者】
【氏名】ミャオ,シァ
(72)【発明者】
【氏名】ヤン,グァングォ
(72)【発明者】
【氏名】ウェイ,ハオグァン
(72)【発明者】
【氏名】ルー,ペイチン
(72)【発明者】
【氏名】シァォ,ジンナン
(72)【発明者】
【氏名】ヤン,ホンチー
(72)【発明者】
【氏名】リュウ,ロングァン
(72)【発明者】
【氏名】チェン,レイ
(72)【発明者】
【氏名】ワン,リーシュアン
(72)【発明者】
【氏名】サン,ライユー
(72)【発明者】
【氏名】ヂャン,ジンカイ
(72)【発明者】
【氏名】チュ,ヨンタオ
【テーマコード(参考)】
4G112
4J100
【Fターム(参考)】
4G112MD02
4G112MD03
4G112MD04
4G112MD05
4G112PB24
4G112PB29
4G112PB31
4G112PB32
4G112PB41
4J100AA15P
4J100AA15S
4J100AB07R
4J100AJ02Q
4J100BA03P
4J100BA04P
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4J100BA21P
4J100BA56R
4J100BA77S
4J100CA06
4J100DA01
4J100EA03
4J100FA03
4J100FA19
4J100JA67
(57)【要約】
本発明は、分散機能を有する重合体、その製造方法及びセメント分散剤としての使用を提供する。前記重合体は、構造単位aと、構造単位bと、構造単位cと、構造単位dと、を含有し、前記構造単位aは不飽和ポリエーテル及び/又はポリエステルに由来し、前記構造単位bは不飽和カルボン酸又はその酸無水物又はその塩に由来し、前記構造単位cは重合性基を含有するシラン及び/又はシロキサンに由来し、前記構造単位dは不飽和スルホン酸又はその塩に由来し、構造単位aと構造単位dとのモル比が1:(5~15)、好ましくは1:(6~10)であり、該重合体の重量平均分子量が2万~12万である。本発明の重合体は油井セメント分散剤として使用され、使用されるときに、該分散剤は、セメントスラリーの流動性能の課題を解決するに加えて、スラリーの沈降安定性を改善させ、添加剤とよく配合しているとともに、マイクロシリカ、ラテックスなどの混和材に対して良好な配合性や分散性を持ち、中低温セメンチングのステップに適用でき、油井セメント分散剤の実用的なニーズを満たす。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
分散機能を有する重合体であって、
構造単位aと、構造単位bと、構造単位cと、構造単位dと、を含有し、
前記構造単位aは不飽和ポリエーテル及び/又はポリエステルに由来し、前記構造単位bは不飽和カルボン酸又はその酸無水物又はその塩に由来し、前記構造単位cは重合性基を含有するシラン及び/又はシロキサンに由来し、前記構造単位dは不飽和スルホン酸及び/又はその塩に由来し、
構造単位aと構造単位dとのモル比が1:(5~15)であり、
前記重合体の重量平均分子量が2万~12万であることを特徴とする分散機能を有する重合体。
【請求項2】
構造単位aと構造単位dとのモル比が1:(6~10)である請求項1に記載の重合体。
【請求項3】
構造単位a:構造単位b:構造単位cのモル比が1:(0.5~6):(0.01~4)、好ましくは1:(1~4):(0.1~1)である請求項1又は2に記載の重合体。
【請求項4】
前記不飽和ポリエステルは式(I)で表される構造を有し、前記不飽和ポリエーテルは式(II)で表される構造を有する請求項1~3のいずれか1項に記載の重合体。
【化1】
(式(I)中、
Aは炭素数2~4のアルキレン基を表し、
BはA以外の炭素数2~4のアルキレン基を表し、
R
1及びR
2は、それぞれ独立して、H又は炭素数1~5のアルキル基、好ましくはメチル基を表し、
R
3は炭素数1~4のアルキル基を表し、
Xは炭素数1~5のアルキレン基を表し、
mは0~200の整数、好ましくは20~140を表し、
nは0~200の整数、好ましくは20~140を表し、
m+n>10好ましくはm+n≧40である。)
【化2】
(式(II)中、
Eは炭素数2~4のアルキレン基を表し、
FはE以外の炭素数2~4のアルキレン基を表し、
R
4及びR
5は、それぞれ独立して、H又は炭素数1~5のアルキル基、好ましくはメチル基を表し、
R
6は炭素数1~4のアルキル基を表し、
Yは炭素数1~5のアルキレン基を表し、
pは0~200の整数、好ましくは20~140を表し、
qは0~200の整数、好ましくは20~140を表し、
p+q>10好ましくはp+q≧40である。)
【請求項5】
前記不飽和カルボン酸は、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、フマル酸及びマレイン酸から選択される1種又は複数種を含むが、これらに限定されない請求項1~4のいずれか1項に記載の重合体。
【請求項6】
前記不飽和スルホン酸又はその塩は置換又は非置換のベンゼン環若しくはアミド基を含有し、好ましくは、前記不飽和スルホン酸及び/又はその塩は、式(IIIA)~式(IIID)のいずれかで表される構造を含むが、これらに限定されなく、
及び/又は、前記不飽和スルホン酸又はその塩は、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸塩、p-スチレンスルホン酸、p-スチレンスルホン酸塩、メチルp-スチレンスルホン酸、メチルp-スチレンスルホン酸塩、アリルスルホン酸及びアリルスルホン酸塩から選択される1種又は複数種である請求項1~5のいずれか1項に記載の重合体。
【化3】
(式IIIA、式IIIB及び式IIIC中、R
1、R
2、R
3及びR
4は、それぞれ独立して、水素、ハロゲン、C1~C6アルキル基及びC1~C6アルコキシ基から選択され、Xは(CH
2)
nであり、nは0~6の整数であり、Mは水素又は金属イオン、例えばアルカリ金属イオン、好ましくはリチウムイオン、ナトリウムイオン又はカリウムイオンであり、
式IIID中、R
1、R
2及びR
3は、それぞれ独立して、水素及びC1~C6アルキル基から選択され、Xは(CH
2)
nであり、nは0~6の整数であり、Mは水素又は金属イオン、例えばアルカリ金属イオン、好ましくはリチウムイオン、ナトリウムイオン又はカリウムイオンである。)
【請求項7】
前記重合性基を含有するシラン及び/又はシロキサンは炭素数が5以上、好ましくは8~25であり、前記重合性基は炭素-炭素二重結合、炭素-炭素三重結合、エポキシ基のうちの1種又は複数種であり、好ましくは、前記シランカップリング剤は式(IV)で表される構造を有し、
好ましくは、前記シラン及び/又はシロキサンは7-オクテニルトリメトキシシラン、ビニルオクタデシルトリメトキシシラン、ビニルヘキサデシルトリメトキシシラン、ビニルドデシルトリメトキシシランのうちの少なくとも1種である請求項1~6のいずれか1項に記載の重合体。
【化4】
(式(IV)中、R
1、R
2、R
3、R
1’、及びR
2’は、それぞれ独立して、H、C1~C4のアルキル基から選択され、R
a、R
b及びR
cは、それぞれ独立して、H、C1~C4のアルキル基又はアルコキシ基から選択され、nは5~25、好ましくは8~18の整数である。)
【請求項8】
溶液重合の条件で、開始剤の存在下、モノマー混合物を水にて重合反応させるステップを含む分散剤の製造方法であって、
前記モノマー混合物はモノマーAと、モノマーBと、モノマーCと、モノマーDと、を含有し、前記モノマーAは不飽和ポリエーテル及び/又はポリエステルであり、前記モノマーBは不飽和カルボン酸及び/又はその酸無水物及び/又はその塩であり、前記モノマーCは重合性基を含有するシラン及び/又はシロキサンであり、前記モノマーDは不飽和スルホン酸及び/又はその塩であり、モノマーA:モノマーB:モノマーC:モノマーDのモル比が1:(0.5~6):(0.01~4):(5~15)、好ましくは1:(1~4):(0.1~1):(6~10)であり、重合条件は得られた重合体の重量平均分子量を2万~12万にすることを特徴とする分散剤の製造方法。
【請求項9】
前記不飽和ポリエステルは式(I)で表される構造を有し、
前記不飽和ポリエーテルは式(II)で表される構造を有し、
及び/又は、前記不飽和カルボン酸は、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、フマル酸及びマレイン酸から選択される1種又は複数種を含むが、これらに限定されない請求項8に記載の方法。
【化5】
(式(I)中、Aは炭素数2~4のアルキレン基を表し、
BはA以外の炭素数2~4のアルキレン基を表し、
R
1及びR
2は、それぞれ独立して、H又は炭素数1~5のアルキル基、好ましくはメチル基を表し、
R
3は炭素数1~4のアルキル基を表し、
Xは炭素数1~5のアルキレン基を表し、
mは0~200の整数、好ましくは20~140を表し、
nは0~200の整数、好ましくは20~140を表し、
m+n>10好ましくはm+n≧40である。)
【化6】
(式(II)中、
Eは炭素数2~4のアルキレン基を表し、
FはE以外の炭素数2~4のアルキレン基を表し、
R
4及びR
5は、それぞれ独立して、H又は炭素数1~5のアルキル基、好ましくはメチル基を表し、
R
6は炭素数1~4のアルキル基を表し、
Yは炭素数1~5のアルキレン基を表し、
pは0~200の整数、好ましくは20~140を表し、
qは0~200の整数、好ましくは20~140を表し、
p+q>10好ましくはp+q≧40である。)
【請求項10】
前記不飽和スルホン酸又はその塩は置換又は非置換のベンゼン環若しくはアミド基を含有し、好ましくは、前記不飽和スルホン酸及び/又はその塩は式(IIIA)~式(IIID)のいずれかで表される構造を含むが、これらに限定されなく、
及び/又は、前記不飽和スルホン酸又はその塩は置換又は非置換のベンゼン環若しくはアミド基を含有し、好ましくは、前記不飽和スルホン酸又はその塩は、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸塩、p-スチレンスルホン酸、p-スチレンスルホン酸塩、アリルスルホン酸及びアリルスルホン酸塩から選択される1種又は複数種である請求項8又は9に記載の方法。
【化7】
(式IIIA、式IIIB及び式IIIC中、R
1、R
2、R
3及びR
4は、それぞれ独立して、水素、ハロゲン、C1~C6アルキル基及びC1~C6アルコキシ基から選択され、Xは(CH
2)
nであり、nは0~6の整数であり、Mは水素又は金属イオン、例えばアルカリ金属イオン、好ましくはリチウムイオン、ナトリウムイオン又はカリウムイオンであり、
式IIID中、R
1、R
2及びR
3は、それぞれ独立して、水素及びC1~C6アルキル基から選択され、Xは(CH
2)
nであり、nは0~6の整数であり、Mは水素又は金属イオン、例えばアルカリ金属イオン、好ましくはリチウムイオン、ナトリウムイオン又はカリウムイオンである。)
【請求項11】
前記重合性基を含有するシラン及び/又はシロキサンは炭素数が5以上、好ましくは8~25であり、前記重合性基は炭素-炭素二重結合、炭素-炭素三重結合、エポキシ基のうちの1種又は複数種であり、好ましくは、前記シランカップリング剤は式(IV)で表される構造を有し、
好ましくは、前記シラン及び/又はシロキサンは7-オクテニルトリメトキシシラン、ビニルオクタデシルトリメトキシシラン、ビニルヘキサデシルトリメトキシシラン、ビニルドデシルトリメトキシシランのうちの少なくとも1種である請求項8~10のいずれか1項に記載の方法。
【化8】
(式(IV)中、R
1、R
2、R
3、R
1’、及びR
2’は、それぞれ独立して、H、C1~C4のアルキル基から選択され、R
a、R
b及びR
cは、それぞれ独立して、H、C1~C4のアルキル基又はアルコキシ基から選択され、nは5~25、好ましくは8~18の整数である。)
【請求項12】
前記重合反応は連鎖移動剤の存在下で行われ、前記重合反応条件は、温度が50~80℃、好ましくは60~70℃であること、時間が2~10時間、好ましくは3~5時間であることを含む請求項8~11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
請求項8~12のいずれか1項に記載の方法で製造される分散剤。
【請求項14】
セメントと、分散剤として請求項1~7のいずれか1項に記載の重合体又は請求項13に記載の分散剤と、を含有し、好ましくは、セメント組成物の全量を基準にして、前記分散剤の使用量は0.05~5重量%、好ましくは0.1~1重量%であるセメント組成物。
【請求項15】
逸水防止剤をさらに含有し、好ましくは、前記逸水防止剤は、セルロース系逸水防止剤、ポリビニルアルコール系逸水防止剤及びAMPS系逸水防止剤から選択される1種又は複数種、好ましくは、AMPS系逸水防止剤から選択される請求項14に記載のセメント組成物。
【請求項16】
請求項1~7のいずれか1項に記載の重合体、請求項13に記載の分散剤、請求項14又は15に記載のセメント組成物の、油井セメント又は油井施工における使用であって、好ましくは、前記油井施工は20~120℃で行われる使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は2020年08月14日に提出された中国特許出願202010820725.0の利益を主張しており、当該出願の内容は引用によりここに組み込まれている。
【0002】
技術分野
本発明は油井セメントに適している重合体、油井セメント分散剤、その製造方法及び使用に関する。
【背景技術】
【0003】
セメンチングは石油探査・開発に欠かせない工程であり、ケーシングと立坑の間の環状空間にセメントスラリーを圧送する必要がある。油井セメントの種類が次々と現れるセメンチング施工状況及び高いセメンチング品質の要件を満たすために、セメントスラリーに各種添加剤を添加してセメントスラリーの総合的性能を調整することがセメンチングのキーポイント技術となっている。
【0004】
従来のセメント添加剤には、逸水抑制剤、凝結調整剤(凝結遅延剤、凝結促進剤)、分散剤、密度低下剤、密度向上剤などがある。逸水抑制剤は、セメントスラリーの逸水量を低減し、セメントスラリーの脱水を防止する役割を有する。凝結遅延剤と凝結促進剤はセメントスラリーの凝結時間を調節するためのものであり、凝結促進剤の中でもセメント硬化体の初期強度を高めるものもある。これらの添加剤の添加により、スラリーの流動性が低下し、圧送が困難になることが多い。そのため、セメントスラリーの流動性能を向上させるために分散剤を添加する必要がある。
【0005】
スルホン化ケトンアルデヒド重縮合物系分散剤は90年代初期に開発された分散剤製品であり、現在、中国国内外の油井セメントに最も広く使用されている分散剤の1つである。このような分散剤は、原料の供給源が広く、価格が適切で、ナフタレン系製品よりも耐高温性に優れており、多くの油井セメントに適している。しかし、探査・開発が進行し、環境保全要件が日増しに厳しくなるにつれて、スルホン化アルデヒドケトン重縮合物分散剤の欠点も明らかになってきた。1)原材料の毒性や汚染性により、生産や使用が環境に悪く、毒性や副作用が大きい。2)分散能力が低く、配合量が多い。3)複雑な系に対してシリカフューム、ラテックスなどを配合しているが、分散能力が不十分である。4)他の新規添加剤との配合性が悪い。
【0006】
建築業界でよく使われる分散剤はポリカルボン酸系分散剤であり、通常、このようなポリカルボン酸系分散剤はアクリル酸、マレイン酸、イタコン酸などの不飽和酸系モノマーと、メタクリルアルコールポリオキシエチレン/ポリオキシプロピレンエーテル、イソペンテノールポリオキシエチレンエーテルなどのポリエーテルマクロモノマーとをラジカル重合することによって形成されるものであり、櫛状分子構造を有する。このような分散剤は、酸エーテル比、側鎖長、密度などを変えることにより、様々なセメントスラリー系に使用することができ、良好な分散効果を有する。しかし、研究から、建築用のポリカルボン酸系分散剤は高温に弱く、70℃以上では分解しやすく、セメントスラリーの凝結が遅延し、さらには超遅延するため、このポリカルボン酸系分散剤を油井セメントに直接適用すると、セメンチングのニーズを満たすことができないことが明らかになった。ポリカルボン酸系分散剤は分子構造中のカルボン酸基がセメント粒子の表面に吸着し、静電反発力によって分散効果を発揮し、したがって、一般的には、分子構造中の酸エーテル比が高い(すなわちカルボン酸含有量が高い)ほど吸着性能が高く、分散効果が高いが、これはセメントの水和を大幅に抑制し、特に30~120℃の中低温でのセメンチング工事では、凝結時間が長く、早期強度が低く、凝結遅延や超凝結遅延を引き起こすなどの問題がある。さらに、このような従来のポリカルボン酸系分散剤は、油井セメントに常用されている逸水抑制剤や凝結遅延剤などと併用すると分散効果が低く、配合性などの問題がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
セメンチング施工の施工技術は添加剤や混和材が多いなどの特徴があるため、セメンチング用油井セメント分散剤に対して求められる要件は建築セメントより多く、主に以下の3つがある。1、高分散性であること、例えば高密度セメントスラリー、低密度セメントスラリー、ラテックスセメントスラリー、液体シリコンセメントスラリーなど、通常のセメントスラリー以外の特殊なセメントスラリー系に対しても良い分散作用を持つ。2、セメントの水和を遅延させず、かつ早期強度に影響しないこと、すなわち、凝結遅延は油井セメント分散剤に不利であり、セメントスラリーの硬化中にガスチャネリングが発生する危険性が高くなり、セメントリングの低温部分の凝結に影響し、凝結時間が長くなり、工期に影響し、深刻な場合、超凝結遅延の工事事故を引き起こし、一方、ポリカルボン酸系分散剤に対して凝結促進剤や早強剤を添加することは、ポリカルボン酸の強い吸着作用により凝結効果が不十分である傾向があり、しかも工事のリスクをもたらす。3、多種類の添加剤と配合すること、現在のポリカルボン酸の多くは他の油井セメント添加剤、特に新型ポリマー系凝結遅延剤、逸水抑制剤との配合性には問題が存在し、逸水抑制ができなかったり、分散剤が機能できなかったりするなどの問題が存在し、早急に解決する必要がある。
【0008】
油井セメント分散剤の現在の問題と技術的難点については、本発明者らは、カルボン酸の一部に代えて多量のスルホン酸を導入し、スルホン酸が主な吸着作用を果たすことにより、ポリマーの櫛状構造の立体障害による高分散性を確保しつつ、カルボン酸基による遅延性をなくし、凝結時間を効果的に短縮し、また、ポリマーに長鎖シランを導入することにより、分散剤はシリル基とセメント粒子及び水和生成物表面との縮合作用により化学的アンカー作用を実現しており、セメント系材料粒子の表面への分散剤の吸着作用を高め、従来のポリカルボン酸系分散剤を他の添加剤(例えば、凝結遅延剤、逸水抑制剤)と配合して使用する場合のように、これらの添加剤もカルボン酸やスルホン酸などの電荷吸着基を持っているので、競合吸着が生じて、分散剤の故障が発生することを回避し、分散剤と他の添加剤との配合性が向上する一方、長鎖基の疎水性により、分散剤中のポリエーテルセグメントの櫛歯構造に沿ってセメント粒子表面に形成された厚い水和膜が破壊され、水和膜がもたらす凝結遅延性が破壊され、凝結遅延性を低下させる作用が得られる。また、好適な形態では、ベンゼン環を有するスルホン酸を用いることにより、ベンゼン環の疎水化作用と長鎖シランの疎水化作用が相乗効果を発揮し、分散剤がセメント粒子の表面に吸着したときに、櫛状ポリマーの櫛歯方向に沿って形成される厚い水和膜に疎水性の領域が生じ、水和膜構造の完全性が内部から破壊され、これは水和膜を破壊するのに役立ち、これにより、厚い水和膜による凝結遅延性をさらに低下させ、セメントの早期強度を向上させることができる。そのため、従来の分散剤と異なり、この分散剤はポリカルボン酸櫛状分散剤の高分散性を持つと同時に、メカニズムの角度からその凝結遅延の副作用を解決し、これはセメンチング工事にとって極めて重要であり、セメントスラリーのレオロジー性能を確保すると同時に、その適時の凝結を確保し、漏れやチャンネリングの防止に有利であり、安全な工事を確保しつつ工期を短縮させる。これにより、本発明を完成させるに至った。本発明によるポリマー及びセメント分散剤は良好な分散効果を有し、凝結時間が短く、早期強度が高く、特に30℃~120℃の中低温セメンチング工事への使用に適している。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の第1態様は、
分散機能を有する重合体であって、
構造単位aと、構造単位bと、構造単位cと、構造単位dと、を含有し、
前記構造単位aは不飽和ポリエーテル及び/又はポリエステルに由来し、前記構造単位bは不飽和カルボン酸及び/又はその酸無水物及び/又はその塩に由来し、前記構造単位cは重合性基を含有するシラン及び/又はシロキサンに由来し、前記構造単位dは不飽和スルホン酸及び/又はその塩に由来し、構造単位aと構造単位dとのモル比が1:(5~15)、好ましくは1:(6~10)であり、該重合体の重量平均分子量が2万~12万である重合体を提供する。
【0010】
本発明のいくつかの実施形態によれば、構造単位a:構造単位b:構造単位cのモル比が1:(0.5~6):(0.01~4)、好ましくは1:(1~4):(0.05~2)、より好ましくは1:(1~4):(0.1~1)である。
【0011】
本発明のいくつかの実施形態によれば、構造単位bと構造単位dとのモル比が1:(2~8)である。
【0012】
本発明のいくつかの実施形態によれば、前記不飽和ポリエステルは式(I)で表される構造を有し、
前記不飽和ポリエーテルは式(II)で表される構造を有する。
【化1】
(式(I)中、
Aは炭素数2~4のアルキレン基を表し、
BはA以外の炭素数2~4のアルキレン基を表し、
R
1及びR
2は、それぞれ独立して、H又は炭素数1~5のアルキル基、好ましくはメチル基を表し、
R
3は炭素数1~4のアルキル基を表し、
Xは炭素数1~5のアルキレン基を表し、
mは0~200の整数、好ましくは20~140を表し、
nは0~200の整数、好ましくは20~140を表し、
m+n>10好ましくはm+n≧40である。)
【化2】
(式(II)中、
Eは炭素数2~4のアルキレン基を表し、
FはE以外の炭素数2~4のアルキレン基を表し、
R
4及びR
5は、それぞれ独立して、H又は炭素数1~5のアルキル基、好ましくはメチル基を表し、
R
6は炭素数1~4のアルキル基を表し、
Yは炭素数1~5のアルキレン基を表し、
pは0~200の整数、好ましくは20~140を表し、
qは0~200の整数、好ましくは20~140を表し、
p+q>10好ましくはp+q≧40である。)
【0013】
本発明では、「不飽和酸及び/又はその塩及び/又はその酸無水物」とは、不飽和酸、不飽和酸のナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩、及び不飽和酸の酸無水物のうちの1種又は複数種である。
【0014】
本発明のいくつかの実施形態によれば、前記不飽和カルボン酸は式(1)で表される構造を有する。
【化3】
(式(1)中、R
1、R
2及びR
3は、それぞれ独立して、水素、C1~C6アルキル基及び-COOHから選択され、Xは(CH
2)
nであり、nは0、1、2、3、4、5又は6である。)
【0015】
本発明のいくつかの実施形態によれば、前記不飽和カルボン酸及び/又はその酸無水物及び/又はその塩は、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、フマル酸、マレイン酸及びこれらの酸無水物又はその塩から選択される1種又は複数種である。
【0016】
本発明のいくつかの実施形態によれば、前記不飽和スルホン酸及び/又はその塩は置換又は非置換のベンゼン環又はアミド基を含有し、好ましくは、前記不飽和スルホン酸又はその塩は式(IIIA)~式(IIID)のいずれかで表される構造を有する。
【化4】
(式IIIA、式IIIB及び式IIIC中、R
1、R
2、R
3及びR
4は、それぞれ独立して、水素、ハロゲン、C1~C6アルキル基及びC1~C6アルコキシ基から選択され、Xは(CH
2)
nであり、nは0~6の整数であり、Mは水素又は金属イオン、例えばアルカリ金属イオン、好ましくはリチウムイオン、ナトリウムイオン又はカリウムイオンであり、
式IIID中、R
1、R
2及びR
3は、それぞれ独立して、水素及びC1~C6アルキル基から選択され、Xは(CH
2)
nであり、nは0~6の整数であり、Mは水素又は金属イオン、例えばアルカリ金属イオン、好ましくはリチウムイオン、ナトリウムイオン又はカリウムイオンである。)
【0017】
本発明のいくつかの実施形態によれば、前記不飽和スルホン酸又はその塩は、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸塩、p-スチレンスルホン酸、p-スチレンスルホン酸塩、メチルp-スチレンスルホン酸、メチルp-スチレンスルホン酸塩、p-スチレンスルホン酸塩、アリルスルホン酸及びアリルスルホン酸塩から選択される1種又は複数種である。
【0018】
本発明では、前記重合性基は、所望の条件で他のモノマーと結合反応を起こし得る各種の基、例えば炭素-炭素二重結合、炭素-炭素三重結合及びエポキシ基のうちの1種又は複数種であってもよい。
【0019】
本発明に使用されるシラン及び/又はシロキサンは、好ましくはケイ素原子と重合性基との間の直鎖の炭素数が5以上、好ましくは7以上、より好ましくは8~25、さらに好ましくは8~18のシラン及び/又はシロキサンであり、ここで、nは8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24又は25であってもよい。
【0020】
好ましくは、本発明のいくつかの実施形態によれば、前記シラン及び/又はシロキサンは式(IV)で表される構造を有する。
【化5】
(式(IV)中、R
1、R
2、R
3、R
1’、及びR
2’は、それぞれ独立して、H、C1~C4のアルキル基から選択され、R
a、R
b及びR
cは、それぞれ独立して、H、C1~C4のアルキル基又はアルコキシ基から選択され、nは5~25の整数、好ましくは8~18の整数である。)
【0021】
本発明では、重合性基とケイ素原子との間の直鎖の炭素数とは、重合性基とケイ素原子との間にある骨格炭素鎖の炭素数を意味し、上記の式(IV)のnは重合性基とケイ素原子との間の直鎖の炭素数である。
【0022】
本発明では、C1~C4のアルキル基はメチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、t-ブチル基であってもよい。
【0023】
本発明では、C1~C4のアルコキシ基はメトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、イソプロポキシ基、n-ブトキシ基、イソブトキシ基、t-ブトキシ基であってもよい。
【0024】
本発明に使用されるシラン及び/又はシロキサンは、例えば、ビニルオクタデシルトリメトキシシラン(すなわち、式(I)中、nは18、下同)、ビニルヘキサデシルトリメトキシシラン、ビニルテトラデシルトリメトキシシラン、ビニルドデシルトリメトキシシラン、ビニルデシルジメトキシシラン、ビニルオクチルジメトキシシラン、7-オクテニルトリメトキシシラン、ビニルヘキシルジメトキシシラン、ビニルオクタデシルジメトキシシラン、ビニルヘキサデシルジメトキシシラン、ビニルテトラデシルジメトキシシラン、ビニルドデシルジメトキシシラン、ビニルデシルジメトキシシラン、ビニルオクチルジメトキシシラン、ビニルヘキシルジメトキシシラン、ビニルオクタデシルトリメチルシラン、ビニルヘキサデシルトリメチルシラン、ビニルテトラデシルトリメチルシラン、ビニルドデシルトリメチルシラン、ビニルデシルトリメチルシラン、ビニルオクチルトリメチルシラン、ビニルヘキシルトリメチルシラン、ビニルオクタデシルジメチルシラン、ビニルヘキサデシルジメチルシラン、ビニルテトラデシルジメチルシラン、ビニルドデシルジメチルシラン、ビニルデシルジメチルシラン、ビニルオクチルジメチルシラン、ビニルヘキシルジメチルシラン、プロペニルオクタデシルトリメトキシシラン、プロペニルヘキサデシルトリメトキシシラン、プロペニルテトラデシルトリメトキシシラン、プロペニルドデシルトリメトキシシラン、プロペニルデシルジメトキシシラン、プロペニルオクチルジメトキシシラン、プロペニルヘキシルジメトキシシラン、プロペニルオクタデシルジメトキシシラン、プロペニルヘキサデシルジメトキシシラン、プロペニルテトラデシルジメトキシシラン、プロペニルドデシルジメトキシシラン、プロペニルデシルジメトキシシラン、プロペニルオクチルジメトキシシラン、プロペニルヘキシルジメトキシシラン、プロペニルオクタデシルトリメチルシラン、プロペニルヘキサデシルトリメチルシラン、プロペニルテトラデシルトリメチルシラン、プロペニルドデシルトリメチルシラン、プロペニルデシルトリメチルシラン、プロペニルオクチルトリメチルシラン、プロペニルヘキシルトリメチルシラン、プロペニルオクタデシルジメチルシラン、プロペニルヘキサデシルジメチルシラン、プロペニルテトラデシルジメチルシラン、プロペニルドデシルジメチルシラン、プロペニルデシルジメチルシラン、プロペニルオクチルジメチルシラン、プロペニルヘキシルジメチルシランのうちの1種又は複数種であってもよい。
【0025】
本発明では、前記重合性基を含有するシラン及び/又はシロキサン(特に長鎖シラン)は市販品として入手してもよく、本分野における常法によって製造されてもよい。例えば、まず、式(IV’)で表される構造を有するグリニャール試薬とテトラクロロシランとを反応させて長鎖クロロシランを得て、次に、得た長鎖クロロシランをアルコール分解して、本発明のシランカップリング剤を得る。ここでは、シランカップリング剤の製造条件は特に限定がなく、本発明のニーズを満たせばよい。
【化6】
式(IV’)中、R
1、R
2、R
3、R
1’、R
2’、R
a、R
b、R
c及びnは式(IV)の定義と同じである。又は、長鎖クロロシランとグリニャール試薬とを反応させ、グリニャール試薬(グリニャール試薬は、Grignard reagentとも呼ばれ、炭化水素基ハロゲン化マグネシウム(R-MgX)である)とハロゲン化アルキルとの作用によりカップリング作用を果たして炭化水素を生成し、例えばビニルへプタデシルジメチルシランはヘキサデシルジメチルクロロシランとアリルマグネシウムクロリドとを反応させることにより得られ、反応式は以下のとおりである。Cl(CH
2)
16SiH(CH
3)
2+H
2C=CH-CH
2MgCl→H
2C=CH-CH
2-(CH
2)
16SiH(CH
3)
2+MgCl
2
【0026】
具体的な反応条件は当業者にとって公知のことであるため、ここでは詳しく説明しない。特に断らない限り、本発明の以下の実施例におけるシラン/シロキサンは上記の方法により製造される。
【0027】
本発明では、前記構造単位a、構造単位b、構造単位c及び構造単位dの存在やこれらのモル含有量は赤外分光法と1H-NMRとを組み合わせた方法によって測定され得る。
【0028】
本発明のいくつかの実施形態によれば、前記重合体は櫛状構造を有する。櫛状構造とは、炭素-炭素二重結合が重合してなる構造を骨格構造とし、各構造単位と炭素-炭素二重結合とが連結された構造が櫛歯のような垂れ下がり構造となるものである。
【0029】
本発明のいくつかの実施形態によれば、前記重合体はランダム共重合体である。本発明の重合体がランダム共重合体であることは該重合体のDSCが単ピークであることにより確認できる。
【0030】
本発明の第2態様は、溶液重合の条件で、開始剤の存在下、モノマー混合物を水にて重合反応させるステップを含む分散剤の製造方法であって、前記モノマー混合物はモノマーAと、モノマーBと、モノマーCと、モノマーDと、を含有し、前記モノマーAは不飽和ポリエーテル及び/又はポリエステルであり、前記モノマーBは不飽和カルボン酸及び/又はその酸無水物及び/又はその塩であり、前記モノマーCは重合性基を含有するシラン及び/又はシロキサンであり、前記モノマーDは不飽和スルホン酸及び/又はその塩であり、モノマーA:モノマーB:モノマーC:モノマーDのモル比が1:(0.5~6):(0.01~4):(5~15)、好ましくは1:(1~4):(0.1~1):(6~10)であり、重合条件は得られた重合体の重量平均分子量を2万~12万にすることを特徴とする分散剤の製造方法を提供する。
【0031】
本発明のいくつかの実施形態によれば、前記重合反応条件は、温度が50~80℃、好ましくは60~70℃であること、時間が2~10時間、好ましくは3~5時間であることを含む。
【0032】
本発明のいくつかの好ましい実施形態によれば、重合反応に先立って、モノマー混合物は予備酸化され、前記予備酸化は過酸化水素(オキシドール)の存在下で行われる。好ましくは、モノマーA 60gに対して、前記過酸化水素の使用量は0.1~1gである。前記過酸化水素は、好ましくは、溶質の質量百分率が20~40重量%の溶液の形態で存在する。予備酸化時間は5~30分間である。
【0033】
本発明のいくつかの実施形態によれば、前記開始剤は、オキシドール-アスコルビン酸(酸化剤-還元剤)、オキシドール-ビタミンC、亜硫酸水素ナトリウム、ホルムアルデヒドスルホキシル酸ナトリウム及び亜ジチオン酸ナトリウムから選択される少なくとも1種であり、前記酸化剤は、オキシドール、過酢酸、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム及び過硫酸カリウムから選択される少なくとも1種である。好ましくは、前記オキシドールの濃度が25~35重量%である。
【0034】
好ましくは、前記開始剤は、オキシドール-ビタミンC及び/又は亜硫酸水素ナトリウムから選択される。
【0035】
本発明のいくつかの実施形態によれば、前記重合反応は連鎖移動剤の存在下で行われる。
【0036】
好ましくは、前記連鎖移動剤は、メルカプトプロピオン酸、チオグリコール酸、アルキルメルカプタン及びイソプロピルアルコールから選択される少なくとも1種である。
【0037】
溶媒の使用量は、好ましくは、重合により得られた生成物(前記分散剤)の固形分を15~50重量%にする。
【0038】
本発明のいくつかの実施形態によれば、前記方法は、
(1)50~70℃で、前記モノマーAを予備酸化して、予備酸化後の材料を得るステップと、
(2)水をモノマーB、モノマーC、モノマーDと第1混合し、第1混合物を得るステップと、
(3)水を連鎖移動剤と開始剤と第2混合し、第2混合物を得るステップと、
(4)第1混合物と第2混合物を、ステップ(1)における予備酸化後の材料に加えて、重合反応を行うステップと、を含む。
【0039】
本発明では、ステップ(1)において、前記予備酸化は水の存在下で行われ、モノマーA 60gに対して、水の使用量は50~110gである。
【0040】
本発明では、前記予備酸化は過酸化水素の存在下で行われ、モノマーA 60gに対して、前記過酸化水素の使用量は0.1~1gである。前記過酸化水素は、好ましくは、溶質の質量百分率が20~40重量%の溶液の形態で存在する。予備酸化時間は5~30分間である。
【0041】
本発明では、ステップ(2)において、水の使用量(重量)はモノマーB、モノマーC、モノマーDの総使用量(重量)の2~3.5倍である。
【0042】
ステップ(3)において、水の使用量(重量)は連鎖移動剤と開始剤との総使用量(重量)の50~150倍である。
【0043】
ステップ(4)において、自己重合及び爆発的重合を防止し、櫛状構造をより均一且つ規則的にするために、好ましくは、第1混合物と第2混合物を同時滴下方式でステップ(1)における予備酸化後の材料に加える。滴下方式を採用する場合、上記の重合反応時間は滴下時間を含み、つまり、重合反応時間は滴下開始から起算する。好ましくは、重合をより十分に行うために、材料の滴下が完了した後、保温反応を0.5~1.5時間持続する。
【0044】
本発明では、前記重合反応後、さらなる後処理を行わずに、重合後の材料(溶媒含有)をそのままセメントスラリー分散剤に用いることができる。ただし、関連する構造の特徴付けを行うときに、特徴付けの要件に応じて重合体について対応する精製処理を施してもよい。
【0045】
本発明では、重合体中の各モノマー構造の含有量及び重合体の構造特徴は従来技術における常法によって測定されてもよく、特徴付けは例えば赤外分光法、核磁気、ゲルクロマトグラフィー、TGA-DSCなどによって行われる。具体的には、例えば、赤外分光分析法では、3550cm-1での吸収ピークは不飽和酸の-OHに対応し、3442cm-1及び1110cm-1での吸収ピークは不飽和ポリエーテルモノマー(例えばTPEG)の-OH及び-C-O-C-に対応し、3030cm-1はベンゼン環の=CHに対応し、1650cm-1~1450cm-1及び900cm-1~650cm-1の複数の吸収ピークは全てベンゼン環に対応し、1593cm-1は不飽和酸(例えばアクリル酸)の-COO-に対応し、1461cm-1及び2882cm-1は長直鎖シラン及び/又はシロキサンの長鎖中のCH2に対応し、1347cm-1は-Si-C-に対応し、1100cm-1は-C-O-又は-Si-O-に対応し、1190cm-1、1068cm-1、620cm-1、530cm-1の吸収ピークはスルホン酸基に対応し、また、スチレン中のC-C二重結合は1660cm-1に特徴吸収ピークを有し、二重結合が開かれるので、このピークには特徴吸収ピークがなく、同様に、1645~1620cm-1の間に吸収ピークがないことは、残りのオレフィンの「-C=C-」が残っていないことを示す。
【0046】
重合体の分子量及びその分布はゲルクロマトグラフィー(GPC)によって測定される。
【0047】
上記の方法により得られる重合生成物は分離精製ステップを必要とせずに、そのままセメント分散剤として使用することができる。
【0048】
本発明の第3態様は、前述分散剤とセメントを含み、好ましくは、セメント組成物の全量を基準にして、前記分散剤の含有量が0.05~5重量%、好ましくは0.1~1重量%であるセメント組成物を提供する。
【0049】
本発明では、分散剤の含有量は分散剤中の溶媒の量を含む。
【0050】
本発明のいくつかの実施形態によれば、前記組成物は逸水防止剤をさらに含み、好ましくは、前記逸水防止剤は、セルロース系、ポリビニルアルコール系及びAMPS系逸水防止剤から選択される1種又は複数種であり、より好ましくは、前記逸水防止剤はAMPS系逸水防止剤から選択される。
【0051】
逸水防止剤の使用量は一般的にはセメント組成物の全量の1~10重量%である。
【0052】
本発明の第4態様は、前述重合体、前述分散剤又は前述セメント組成物の、油井セメント又は油井施工における使用を提供し、好ましくは、前記油井施工は20℃~120℃で行われる。
【0053】
本発明の重合体は油井セメント分散剤として使用され、一般的な分散剤の20~120℃での強い水和抑制作用を解消し、カルボキシ基の含有量を減少させ、スルホン酸基を増加させることにより、水和抑制作用を低減させ、凝結遅延性を低下させ、また、長鎖シランがセメント及び水和生成物に化学結合を介して連結されるので、吸着性が向上し、スルホン酸と配合して分散性に影響を与えずにセメントの凝結遅延性を効果的に調整することができ、使用する際には、該分散剤は、セメントスラリーの流動性能の課題を解決するに加えて、スラリーの沈降安定性を改善させ、添加剤とよく適合しているとともに、マイクロシリカ、ラテックスなどの混和材に対して良好な適合性や分散性を持ち、中低温セメンチングのステップに適用でき、油井セメント分散剤の実用的なニーズを満たす。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【
図1】実施例1で製造された重合体のゲルクロマトグラフィー分析図である。
【発明を実施するための形態】
【0055】
以下、実施例を参照して本発明を詳細に説明するが、本発明は下記の実施例によって限定されない。
【0056】
実施例及び比較例に使用される原料は、特に断らない限り、市販品として入手するか、又は従来技術の方法によって製造される。
【0057】
以下の実施例及び比較例では、重合体中の各構造単位の含有量はモノマーの投入量によって決定され、具体的には、重合に実際に関与する各モノマーの投入比は未反応モノマーの含有量を測定することにより決定され、さらに重合体中の各構造単位の含有量は決定され、固形分は投入量から算出されるものであり、すなわち、固形分=溶媒を除く投入量(重量)/溶媒を含む投入量(重量)*100%である。実施例では、重合体のDSCスペクトルにおいて単ピークだけが出現することから、重合体は全てランダム共重合体であることが明らかとなっている。
【0058】
実施例1
水101gとイソペンテノールポリオキシエチレンエーテル(TPEG、重量平均分子量2400)60g(0.025mol)を秤量し、均一に溶解して混合し、恒温水浴鍋内の三つ口フラスコに入れて、撹拌羽根によって200rpmの回転数で等速撹拌し、65℃に昇温し、質量濃度が30%のH
2O
2 0.52gを秤量して三つ口フラスコに加えた。アクリル酸(AA)3.6g、p-スチレンスルホン酸36.8g、ビニルオクタデシルトリメトキシシラン3g及び水100gを均一に混合して、滴下液Aを調製し、メルカプトプロピオン酸0.48g、ビタミンC 0.21g及び水45gを均一に混合して、滴下液Bを調製した。滴下液Aと滴下液Bを蠕動ポンプによって三つ口フラスコに等速滴下して、滴下液Aの滴下時間を3h、滴下液Bの滴下時間を3.5hとした。滴下完了後、1h保温した。得られたサンプルの実際の固形分は30.0重量%であった。ゲルクロマトグラフィー分析(
図1)の結果、重合体の重量平均分子量は50280であった。
【0059】
実施例2
水98gとイソペンテノールポリオキシエチレンエーテル(TPEG、重量平均分子量2400)60g(0.025mol)を秤量し、均一に溶解して混合し、恒温水浴鍋内の三つ口フラスコに入れて、撹拌羽根によって200rpmの回転数で等速撹拌し、65℃に昇温し、質量濃度が30%のH2O2 0.52gを秤量して三つ口フラスコに加えた。アクリル酸(AA)7.2g、p-スチレンスルホン酸27.6g、7-オクテニルトリメトキシシラン5.81g及び水100gを均一に混合して、滴下液Aを調製し、メルカプトプロピオン酸0.48g、ビタミンC 0.21g及び水45gを均一に混合して、滴下液Bを調製した。滴下液Aと滴下液Bを蠕動ポンプによって三つ口フラスコに等速滴下して、滴下液Aの滴下時間を3h、滴下液Bの滴下時間を3.5hとした。滴下完了後、1h保温した。得られたサンプルの実際の固形分は30.1重量%であった。重合体の重量平均分子量は52000であった。
【0060】
実施例3
水103gとイソペンテノールポリオキシエチレンエーテル(TPEG、重量平均分子量2400)60g(0.025mol)を秤量し、均一に溶解して混合し、恒温水浴鍋内の三つ口フラスコに入れて、撹拌羽根によって200rpmの回転数で等速撹拌し、65℃に昇温し、質量濃度が30%のH2O2 0.52gを秤量して三つ口フラスコに加えた。イタコン酸(IA)3.25g、p-スチレンスルホン酸46g、ビニルドデシルトリメトキシシラン3.95g及び水100gを均一に混合して、滴下液Aを調製し、メルカプトプロピオン酸0.55g、ビタミンC 0.24g及び水65gを均一に混合して、滴下液Bを調製した。滴下液Aと滴下液Bを蠕動ポンプによって三つ口フラスコに等速滴下して、滴下液Aの滴下時間を3h、滴下液Bの滴下時間を3.5hとした。滴下完了後、1h保温した。得られたサンプルの実際の固形分は29.9重量%であった。重合体の重量平均分子量は53890であった。
【0061】
実施例4
p-スチレンスルホン酸36.8gを同モル量の2-アクリルアミド-2プロパンスルホン酸(AMPS)41.4gに変更した以外、実施例1の方法と同様にして重合反応を行った。得られたサンプルの実際の固形分は29.7重量%であり、重合体の重量平均分子量は54130であった。
【0062】
実施例5
ビニルオクタデシルトリメトキシシラン3gを同モル量のγ-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン1.86gに変更した以外、実施例1の方法と同様にして重合反応を行った。得られたサンプルの実際の固形分は30.2重量%であり、重合体の重量平均分子量は51768であった。
【0063】
実施例6
p-スチレンスルホン酸36.8gを同モル量の2-アクリルアミド-2プロパンスルホン酸(AMPS)、ビニルオクタデシルトリメトキシシラン3gを同モル量のγ-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシランに変更した以外、実施例1の方法と同様にして重合反応を行った。得られたサンプルの実際の固形分は30.1重量%であり、重合体の重量平均分子量は50354であった。
【0064】
実施例7
TPEG:アクリル酸(AA):スルホン酸のモル比が1:5:5である以外、実施例1の方法と同様にして重合反応を行った、実施例1の方法と同様にして重合反応を行った。得られたサンプルの実際の固形分は29.8重量%であり、重合体の重量平均分子量は50211であった。
【0065】
実施例8
水70gとHPEG 60gを秤量し、均一に溶解して混合し、恒温水浴鍋内の三つ口フラスコに入れて、撹拌羽根によって200rpmの回転数で等速撹拌し、65℃に昇温し、質量濃度が30%のH2O2を0.52g秤量して三つ口フラスコに加えた。AA 3.6g、AMPS 31.1g、KH570 0.62g及び水100gを均一に混合して、滴下液Aを調製し、メルカプトプロピオン酸0.48g、ビタミンC 0.21g及び水45gを均一に混合して、滴下液Bを調製した。滴下液Aと滴下液Bを蠕動ポンプによって三つ口フラスコに等速滴下して、滴下液Aの滴下時間を3h、滴下液Bの滴下時間を3.5hとした。滴下完了後、1h保温した。実際の固形分は30.2重量%であり、重合体の重量平均分子量は51070であった。
【0066】
実施例9
水70gとTPEG 60gを秤量し、均一に溶解して混合し、恒温水浴鍋内の三つ口フラスコに入れて、撹拌羽根によって200rpmの回転数で等速撹拌し、65℃に昇温し、質量濃度が30%のH2O2を0.58g秤量して三つ口フラスコに加えた。IA 9.76g、AMPS 31.1g、KH570 1.24g及び水100gを均一に混合して、滴下液Aを調製し、メルカプトプロピオン酸0.54g、ビタミンC 0.23g及び水60gを均一に混合して、滴下液Bを調製した。滴下液Aと滴下液Bを蠕動ポンプによって三つ口フラスコに等速滴下して、滴下液Aの滴下時間を3.5h、滴下液Bの滴下時間を4hとした。滴下完了後、1.5h保温した。実際の固形分は30.3重量%であり、重合体の重量平均分子量は50911であった。
【0067】
比較例1
p-スチレンスルホン酸36.8gを同モル量のアクリル酸(AA)14.4gに変更した以外、実施例1の方法と同様にして重合反応を行った。得られたサンプルの実際の固形分は29.5重量%であり、重合体の重量平均分子量は43627であった。
【0068】
比較例2
ビニルオクタデシルトリメトキシシランを加えない以外、比較例1の方法と同様にして重合反応を行った。得られたサンプルの実際の固形分は29.9重量%であり、重合体の重量平均分子量は51397であった。
【0069】
比較例3
CN108250370Aの実施例15と同様にして重合反応を行った。得られたサンプルの実際の固形分は29.6重量%であり、重合体の重量平均分子量は50280であった。
【0070】
比較例4
TPEG、AA及びビニルオクタデシルトリメトキシシランを加えない以外、実施例1の方法と同様にして重合反応を行った。得られたサンプルの実際の固形分は29.1重量%であり、得られた重合体の重量平均分子量は71583であった。
【0071】
性能測定:
(1)GB/T 19139-2003標準に準じてセメントスラリーを製造し、レオロジー性能、凝結時間を評価した。使用されるセメントは四川嘉華社製のG級セメントであり、ペースト1の配合はセメント100重量部+水40重量部であり、比較例1~4及び実施例1~7の分散剤(重合により得られる混合物)の添加量はセメントの質量の0.4%を占める。その検出結果を表1に示す。
【0072】
【0073】
表1から分かるように、本発明で製造された分散剤は、スルホン酸の使用量が高い場合、良好な分散性を確保しつつ、凝結遅延性を低くする。
【0074】
(2)GB/T 19139-2003基準に準じてセメントスラリーを製造し、レオロジー性能、凝結時間、圧縮強度を評価した。ペースト2の配合はセメント100重量部+逸水抑制剤4重量部+水44重量部であり、分散剤の添加量はセメントの質量の0.7%である。逸水抑制剤は中国石化石油工程技術研究院製のSCF-180L逸水抑制剤であり、残りは配合1における由来と同じである。その検出結果を表2に示す。
【0075】
【0076】
表2から分かるように、逸水抑制剤と配合する場合、本発明の分散剤は、分散効果が顕著であり、凝結時間への影響が小さく、セメント硬化体の圧縮強度を下げることがない。
【0077】
(3)GB/T 19139-2003基準に準じてセメントスラリーを製造し、レオロジー性能、凝結時間、圧縮強度を評価した。ペースト3の配合はセメント450g+シリコン粉末225g+密度向上材料であるマンガン微粉末225g+逸水抑制剤31.5g+ナノ液体シリコン27g+ラテックス27g+凝結遅延剤14g+分散剤2g+現場の水200gである。逸水抑制剤は中国石化石油工程技術研究院製のSCF-180L逸水抑制剤(AMPS系逸水抑制剤)、凝結遅延剤は中国石化石油工程技術研究院製のSCR-3凝結遅延剤(酸系凝結遅延剤)であり、残りは配合1における由来と同じである。その検出結果を表3に示す。
【0078】
【0079】
配合3は現在よく使用されているセメンチングセメントスラリー配合である。表3から分かるように、本発明の分散剤は、セメントスラリーの他の助剤との配合性に優れ、分散効果が顕著であり、凝結時間への影響が小さく、セメント硬化体の圧縮強度を下げることがない。一方、比較例1及び比較例3は、凝結遅延剤と配合して使用される場合、いずれの分散性も影響を受け、分散能力が本発明の分散剤よりも低く、しかも、凝結遅延時間が大幅に長くなる。
【0080】
本発明は詳細に説明されたが、当業者にとっては、本発明の趣旨及び範囲内の修正が明らかなことである。なお、本発明に記載の各態様、各特定実施形態の各部分や挙げられた各特徴は組み合わせられたり、全部又は部分的に交換したりすることができる。上記の各特定実施形態では、別の特定実施形態を参照とした実施形態は他の実施形態と適宜組み合わせられてもよいことは、当業者によって理解される。さらに、当業者が理解できるように、以上は例示的な形態に過ぎず、本発明を限定するものではない。
【国際調査報告】