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▶ トヨタ モーター エンジニアリング アンド マニュファクチャリング ノース アメリカ,インコーポレイティドの特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-09-11
(54)【発明の名称】近赤外線透過性酸化銅ナノ粒子
(51)【国際特許分類】
   C09C 1/00 20060101AFI20230904BHJP
   C09C 3/06 20060101ALI20230904BHJP
   C09D 7/62 20180101ALI20230904BHJP
   C09D 201/00 20060101ALI20230904BHJP
   C01G 3/02 20060101ALI20230904BHJP
【FI】
C09C1/00
C09C3/06
C09D7/62
C09D201/00
C01G3/02
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023502794
(86)(22)【出願日】2021-07-14
(85)【翻訳文提出日】2023-03-10
(86)【国際出願番号】 US2021041571
(87)【国際公開番号】W WO2022015815
(87)【国際公開日】2022-01-20
(31)【優先権主張番号】16/929,414
(32)【優先日】2020-07-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】507342261
【氏名又は名称】トヨタ モーター エンジニアリング アンド マニュファクチャリング ノース アメリカ,インコーポレイティド
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100092624
【弁理士】
【氏名又は名称】鶴田 準一
(74)【代理人】
【識別番号】100147555
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 公一
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 宣夫
(74)【代理人】
【識別番号】100133835
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 努
(72)【発明者】
【氏名】ウー ソンタオ
(72)【発明者】
【氏名】デバシシュ バナージー
(72)【発明者】
【氏名】クリシュナ グヌグヌリ
【テーマコード(参考)】
4J037
4J038
【Fターム(参考)】
4J037AA18
4J037AA25
4J037AA26
4J037CA03
4J037CA09
4J037CA16
4J037DD05
4J037EE03
4J037EE11
4J037EE25
4J037EE43
4J037FF02
4J038CG141
4J038DG001
4J038KA08
4J038KA20
4J038NA19
(57)【要約】
LiDAR応答性ブラックコーティングを形成することができる、IR反射性又は透過性の黒色顔料であって、顔料が非IR反射性カーボンブラックと同様の黒色度M値を示す。この近IR透過特性及び/又は反射特性を有する黒色顔料は、最大寸法が18nm以下の複数のCuO結晶を有し、(-111)/(111)強度比が1.2未満である。CuO結晶子の形成方法は、CuCO又はCuCO/Cu(OH)を沈殿させ、沈殿物を約300℃~約400℃の温度で焼成することを含む。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
近赤外線透過特性及び/又は反射特性を有する黒色顔料であって、18nm以下の最大寸法及び1.2未満の(-111)/(111)強度比を有する複数のCuO結晶子を含む、黒色顔料。
【請求項2】
前記CuO結晶子は、粒子の外表面の少なくとも一部に存在し、
前記粒子の直径寸法は、約50nm~約10μmである、
請求項1に記載の黒色顔料。
【請求項3】
前記粒子が、マイカ、合成マイカ、ガラス、石英、又はアルミナのうちの1種を含むコア部分を含む、請求項2に記載の黒色顔料。
【請求項4】
CuOを含む前記外表面の前記部分が約50nm未満の厚さを有する、請求項3に記載の黒色顔料。
【請求項5】
CuOを含む前記外表面の前記部分が、前記コア上の連続的又は非連続的なシェルである、請求項3に記載の黒色顔料。
【請求項6】
前記結晶子が15nm以下の最大寸法を有する、請求項1に記載の黒色顔料。
【請求項7】
前記黒色顔料が約1.7eV以下のバンドギャップを示す、請求項1に記載の黒色顔料。
【請求項8】
流体ビヒクルと、
前記流体ビヒクル中に懸濁された近赤外線透過特性及び/又は反射特性を有する黒色顔料と、
を含むコーティング組成物であって、前記黒色顔料は、18nm以下の最大寸法及び1.2未満の(-111)/(111)強度比を有するCuO結晶子を含む、コーティング組成物。
【請求項9】
前記CuO結晶子は、粒子の外表面の少なくとも一部に存在し、及び
前記粒子は断面が50nm~10μmである、
請求項8に記載のコーティング組成物。
【請求項10】
前記粒子が、マイカ、合成マイカ、ガラス、石英、又はアルミナのうちの1種を含むコア部分を含む、請求項9に記載のコーティング組成物。
【請求項11】
CuOを含む前記外表面の前記部分が約50nm未満の厚さを有する、請求項10に記載のコーティング組成物。
【請求項12】
前記結晶子が15nm以下の最大寸法を有する、請求項8に記載のコーティング組成物。
【請求項13】
前記コーティング組成物中の前記黒色顔料が、少なくとも132の黒色度M値を示す、請求項8に記載のコーティング組成物。
【請求項14】
前記コーティング組成物が約1.7eV以下のバンドギャップを示す、請求項8記載のコーティング組成物。
【請求項15】
以下を含む、近赤外線反射性又は透過性CuO結晶子を形成する方法:
水溶性Cu(II)塩を含む溶液又は懸濁液を提供すること;
アルカリ金属炭酸塩を含む沈殿剤溶液を、前記溶液又は懸濁液に添加して、CuCOを含む沈殿物を形成すること;
前記沈殿物を水で洗浄すること;
前記沈殿物を単離すること;及び
前記沈殿物を約300~約400℃の温度で焼成して、近赤外線反射性又は透過性CuO結晶子を形成すること、ここで、前記CuO結晶子は、18nm以下の最大寸法及び1.2未満の(-111)/(111)強度比を有する。
【請求項16】
前記水溶性Cu(II)塩がCu(NOを含む、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記懸濁液がコア形成粒子の懸濁液を含み、前記沈殿物が前記コア形成粒子上にシェルを含む、請求項15に記載の方法。
【請求項18】
前記コア形成粒子が、マイカ、合成マイカ、ガラス、石英、又はアルミナのうちの少なくとも1種を含む、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記沈殿物を単離するステップが、前記沈殿物を濾過又は遠心分離することを含み、前記方法が、さらに、単離後に前記沈殿物を乾燥させて乾燥沈殿物を形成することを含む、請求項15に記載の方法。
【請求項20】
さらに、前記沈殿物を摩砕することを含む、請求項15に記載の方法。
【請求項21】
さらに、前記近赤外線反射性又は透過性CuO結晶子を摩砕することを含む、請求項15に記載の方法。
【請求項22】
前記CuO結晶子が約1.7eV以下のバンドギャップを示す、請求項15に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2020年7月15日に出願された「Near Infrared Transmitting Copper Oxide Nanoparticles(近赤外線透過性酸化銅ナノ粒子)」というタイトルの米国特許出願シリアル番号第16/929,414号の利益及び優先権を主張し、その内容は参照によりその全体が本開示に援用される。
【0002】
技術分野
本開示は、概して、近赤外線(近IR)による光検出及び測距(LiDAR)用途に使用するための、近赤外線透過率及び/又は反射率によって特徴付けられる、コーティング配合物のための酸化銅ベースの顔料及び顔料組成物に関する。
【背景技術】
【0003】
本明細書で提供される背景の説明は、本開示の文脈を概括的に提示する目的のためのものである。本発明者の研究は、この背景技術の項目に記載されている限りにおいて、、本出願時における先行技術とはみなされないであろう本明細書の態様において、明示的にも暗示的にも本技術に対する先行技術としては認められない。
【0004】
近IR、典型的には905nm又は1550nmのLiDAR光は、自律走行車によって物体を検出するために使用される。図1に示されるように、白色及び他の多くの色は近IR反射率を示すが、塗料及びコーティングに使用される従来の黒色顔料(一般的にカーボンブラックに基づく)は、近IR周波数を吸収する。このため、一般的に、従来の黒色顔料を含むコーティングを有する物体は、LiDARセンサーに事実上探知されなくなる。図2に示されるような方法で近IRを反射する黒色及び暗色塗料を車両や交通でよく遭遇する他の物体に対して使用することは、自動運転車の開発において望ましいことである。酸化クロム鉄(及びその誘導体)をベースとする現在入手可能な暗色の近IR反射顔料は、図3に示されるように、現在入手可能な黒色車両塗料の美観を達成しない。改良された黒色顔料が必要とされている。
【0005】
酸化銅(II)(CuO)の使用が、黒色顔料として探求されており、セラミック釉薬用の暗色顔料として使用されてきた。コーティング顔料は、一般的に、3ミクロン未満の均一な粒子を必要とする。CuO粉末は、その製造方法に依存して種々の形態及び特性を示す。一般的に、商業的な方法では、大きな粒子や微粒子の凝集体が得られるため、コーティング用の顔料として直ちに有用なCuO粒子は得られない。典型的な沈殿法は、10ミクロンを超える平均粒径を有するCuOをもたらすが、3未満の狭い粒度分布を有する10ミクロン未満の粒子は、ミリングによって製造されてきた。例えば、米国特許第9,683,107号は、純度少なくとも99%のCuOを480℃超で加熱しミリングして、19nmを超える結晶子サイズを有する約1~3ミクロンの粒子を生成させることにより製造される赤外線反射性「黒色」顔料に向けられているが、CIE-LAB値が約28、0.5及び-0.3であるため、この「黒色」顔料はむしろ茶色の外観である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
LiDARアプリケーションを実施するために、可視スペクトルを吸収し、LiDAR活性な近IR波長を透過するには、700nm(又は1.77eV)未満のバンド端で約1.2eV~1.7eVのバンドギャップが必要である。典型的なバルクCuOは、1.3eV~1.7eVの範囲外のバンドギャップと、1.77eVを超えるバンドエッジを有するため、この要件を満たすことはできない。カーボンブラックの黒色度に近い黒色度を示し、近IR放射線、特にLiDAR技術を用いた自律走行車による物体検出に採用される905nm及び/又は1550nmの波長を選択的に反射するように構成された、適切な寸法及び組成のCuO顔料が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この項目は、本開示の一般的な要約を提供するものであり、その全範囲又は全特徴の包括的な開示ではない。
【0008】
様々な態様において、本教示は、粒子の外表面の少なくとも一部にCuOを有する近IR透過性及び/又は反射性粒子を含む黒色顔料を提供する。当該粒子は、約15nm未満の結晶サイズを有し、X線回折分析(XRD)による(-111)面/(111)面の相対強度は約1.2以下である。当該粒子は、約10nm未満から約10μmを超える直径を有することができる。当該粒子は、物体検出のための905nm及び/又は1550nmにおけるLiDAR放射線の反射を可能にし、1.2~1.7eVのバンドギャップ及び少なくとも約132の黒色度M値を示す。
【0009】
他の態様において、本教示は、粒子の外表面の少なくとも一部に配置されたCuOを有する近IR透過性及び/又は反射性粒子を含む黒色顔料とともに流体媒体を含むコーティング組成物を提供する。このコーティング組成物は、黒色塗料又はコーティングとして使用することができる。
【0010】
さらに他の態様において、本教示は、粒子の少なくとも表面上にCuOを有する近IR透過性及び/又は反射性粒子を製造する方法を提供する。この方法は、アルカリ金属炭酸塩と水溶性銅(II)塩との反応による水溶液からのCuCO又はCuCO/Cu(OH)の生成及び沈殿を含む。水溶液がナノ粒子又はマイクロ粒子のいずれかの懸濁粒子を有する場合、沈殿は、支持粒子(supporting particles)上へのCuCOの堆積を伴うことがある。支持粒子は、CuOを含む粒子のコア粒子であり得、300nm未満の断面から1.5μmより大きい断面を有することができる。堆積が別の組成の粒子に対して行われる場合、粒子のCuO部分は50nm以下である。CuCO/Cu(OH)が形成されたナノ粒子又はマイクロ粒子は、洗浄され、ろ過され、乾燥され、約300~400℃の温度に焼成される。
【0011】
さらなる態様において、本教示は、LiDAR技術による検出を可能にするために、車両又は他の物体の外面に塗布するための黒色塗料を提供する。例えば、LiDAR技術は、LiDAR技術用の近赤外レーザーから送信された905nm及び/又は1550nmの波長の反射率を検出することにより、自律走行車の様々な機能を支援することができる。本技術の黒色顔料は、少なくとも約132の黒色度M値を示すことができ、この黒色度値は、カーボンブラック顔料の美的品質を与え、また、赤外線の良好な反射を提供する。
【0012】
さらなる応用可能な領域及び上記カップリング技術を強化する様々な方法は、本開示で提供される説明から明らかになるであろう。本概要における説明及び具体例は、説明のみを目的としており、本開示の範囲を限定することを意図していない。
【0013】
本教示は、詳細な説明及び添付の図面からより完全に理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、車両に使用される現行の白色塗料及び黒色塗料の反射率のプロットを示し、このプロットは、近IRの反射率がカーボンブラックをベースとする従来の黒色塗料では不十分であることを示している。
【0015】
図2図2は、目標とするIR反射性黒色塗料対現行の黒色塗料の反射率のプロットを示し、ここで、目標は、現行の塗料のような黒色度を達成することの他に、905nm及び/又は1550nmの近IRでの反射率を達成することである。
【0016】
図3図3は、現行の自動車標準カーボンブラック顔料及び様々な市販の酸化クロム鉄ベースの近IR反射性顔料の「黒色度」のグラフを示す。
【0017】
図4A-4C】図4A~4Cは、本技術の一態様によるIR反射性CuO粒子の透過型電子顕微鏡写真を示し、6μm超の凝集粒子(図4A)、約40nm未満の凝集粒子(図4B)、及び主に約20nmの粒子(図4C)である。
【0018】
図5図5は、黒色タッチアップ塗料、カーボンブラック、CuOベースのIR反射性塗料(クールブラック(Cool Black)0912)、市販のCuOバリエーション、並びに様々な沈殿剤及び焼成温度による沈殿され焼成されたCuO粒子(本技術の一態様による粒子を含む)の黒色度M値のプロットを示す図である。
【0019】
図6A-6E】図6A図6Eは、左側から右側へ、カーボンブラック(図6A);本技術の一態様による300℃で焼成されたNaCO沈殿CuO(図6B);300℃で焼成された(NHCO沈殿CuO(図6C);300℃で焼成されたNaOH沈殿CuO(図6D);及び市販のCuO粉末(図6E)の写真である。
【0020】
図7A-7C】図7A図7Cは、本技術の一態様による、300℃で焼成されたNaOH沈殿CuO(図7A);300℃で焼成された(NHCO沈殿CuO(図7B);及び300℃で焼成されたNaCO沈殿CuOのX線顕微鏡画像である(図7C、寸法バーは1μmの長さを有する。)。
【0021】
図8図8は、そこに示されているように、異なる沈殿剤で形成され、異なる温度で焼成されたCuO粒子についての(-111)/(111)反射の相対強度を示すプロットである。
【0022】
図9A-9D】図9A図9Dは、左側から右側へ、カーボンブラック(図9A);本技術の一態様による300℃で焼成されたNaCO沈殿CuO(図9B);本技術の一態様による400℃で焼成されたNaCO沈殿CuO(図9C);及び500℃で焼成されたNaCO沈殿CuO(図9D)である、種々の摩砕顔料の写真である。
【0023】
図10図10は、300℃、400℃、500℃及び600℃の温度で焼成されたNaCO沈殿CuOの(-111)/(111)相対強度対結晶子サイズのプロットである。
【0024】
図11図11は、カーボンブラック、市販のCuO、一般的な市販のNIR反射性コーティング、及び一実施形態によるNIR反射性CuOを含む種々のコーティングの混成反射率スペクトルである。
【0025】
図12図12は、典型的な層状の、塗装された基材の概略の断面である。
【0026】
図13図13は、ミラー、赤色顔料、緑色顔料及び本技術の一態様による黒色顔料のLiDAR検出のための反射強度対回転角のプロットである。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本開示に記載された図は、特定の態様の説明を目的として、本技術のもののうち、方法、アルゴリズム、及びデバイスの概要を例示することを意図していることに留意されたい。これらの図は、任意の所与の態様の特徴を正確に反映していないことがあり、必ずしも本技術の範囲内で特定の実施形態を定義又は制限することを意図していない。さらに、特定の態様は、図の組み合わせからの特徴を取り入れることができる。
【0028】
本技術は、一般的に、粒子の外側の(すなわち、露出した)表面の少なくとも一部に配置されたCuOを有する近IR透過性及び/又は反射性粒子を含む黒色顔料を提供する。粒子全体がCuOであってもよい。CuOは、可視スペクトルの大部分にわたって可視光の強い吸収を提供するが、近IRにおいて著しい反射率を示す。様々な態様において、(-111)反射の大きさによって示される結晶サイズは、約18nm未満の最大寸法を備えることができ、(-1,1,1)面/(1,1,1)面の相対強度は約1.2以下である。当該粒子は、約40nm未満の直径寸法を有することができる。粒子は、物体検出のための905nm及び/又は1550nmのLiDAR放射線の反射を可能にし、当該粒子は、1.2~1.7eVのバンドギャップを示し、少なくとも約132の黒色度M値を示す。当該粒子は、40nm未満のナノメートル寸法から10μmを超えるマイクロメートル寸法を有することができる。CuO粒子の小さな結晶サイズは、可視光の著しい反射のない近IR透過率又は反射率を提供し、当該近IR透過率又は反射率は、それから得られる黒色顔料を特徴付ける。905nm及び/又は1550nmのLiDAR放射線の反射率は、粒子の検出において使用することができる。
【0029】
本技術の一態様では、黒色顔料は、表面に適用された場合に組成物が黒色顔料の近IR反射を保持、提供又は強化するように、コーティング組成物に組み込まれる。黒色顔料は、約132以上の黒色度M値を示すことができ、その結果、IRを反射又は透過する能力を欠くコーティングである、カーボンブラックをベースとする従来の黒色コーティングにより提供されるものと同様の黒色品質(black quality)を有する黒色コーティングをもたらす。コーティング組成物は、所望の表面上で所望の美観を達成する粒子配合量で黒色顔料を適用するための流体媒体を含んでもよい。流体媒体は、好ましくは、例えば吹付け(spraying)又はディップコーティングなどの一般的な技術によるコーティングを可能にする流体である。
【0030】
別の態様において、本教示は、少なくとも粒子表面にCuOを有する近IR透過性及び/又は反射性粒子を製造する方法を提供する。この方法は、アルカリ金属炭酸塩と水溶性銅(II)塩、例えば硝酸銅(II)などとの反応による水溶液からのCuCOの形成及び沈殿を含む。沈殿は、支持粒子上へのCuCOの堆積を伴ってもよい。支持粒子は、マイカ、合成マイカ、ガラス、石英、アルミナのナノ粒子、あるいは、黒色顔料の美観を保持しつつIR放射線の反射及び/又は透過を高める他の任意の粒子であることができる。粒子は、断面が300nm未満のものであることができ、ここで、粒子のCuO部分は50nm以下である。粒子は、粒子の凝集体としての形態をとることができ、粒子の凝集体は、ミリングされて、例えば300nm未満の粒子であるナノ粒子又は凝集ナノ粒子を形成することができるものである。ミリングとしては、ボールミリング、ジェットミリング、又は所望の寸法の粒子の形成に寄与する任意の他の方法が挙げられる。粒子は、一般的に、例えば約15nm以下の小さな結晶サイズを保持しつつ、300nm未満であるか、又は10μmを超えるものであることができる。
【0031】
本明細書で詳述するように、本教示は、コーティング組成物における黒色顔料の開発にだけ向けられたものでなく、LiDAR技術による検出を可能にするために、車両、又は他の物体の外面上に硬化した塗料としてコーティング組成物を適用及び使用することに向けられたものでもある。LiDAR検出は、コーティング組成物がカーボンブラックIR吸収性顔料に起因する典型的な黒色度を保持しつつ、LiDAR技術用の近赤外レーザーから送信された905nm及び/又は1050nmの波長の反射率を検出することによって、自律走行車の適切な機能を可能にすることができる。
【0032】
本技術の一態様では、ナノ粒子のCuO部分は50nm以下であることができ、バンドギャップは1.7eV未満、例えば1.2~1.6eV未満である。このサイズは、CuCO又はCuCO/Cu(OH)ナノ粒子の沈殿と、その後、約300~約400℃の温度での粒子の乾燥及びその後の焼成によって、CuCO又はCuCO/Cu(OH)ナノ粒子を分解し、断面40nm未満から断面10μm超のCuOナノ粒子とすることによる、ナノ粒子の合成からもたらされる。例示的なCuOナノ粒子は、凝集粒子が6μm超(4A)、凝集ナノ粒子が約40nm未満(4B)、及び主に約20nmの粒子(4C)である、図4A~4CのTEM画像に示されている。
【0033】
本技術の別の態様では、ナノ粒子の製造方法は、Cu(NO、又は他の高溶解性Cu(II)塩、例えばCuBr、CuCl、Cu(ClO又はCuSOのなどの水溶液が、NaCO、KCO、LiCO、RbCO、CsCO、FrCO、又はそれらの任意の組み合わせであることができる沈殿剤の水溶液と組み合わされる、沈殿法によって行われる。pHが9~10のレベルに達するまで、塩基性沈殿剤をCu(NO溶液に添加することができる。得られた沈殿物のその後の単離及び水による洗浄によって、硝酸アルカリ及び炭酸アルカリフリーの懸濁固体CuCO又はCuCO/Cu(OH)粒子を効果的にもたらす。CuCO/Cu(OH)粒子は、マラカイトと同様に、CuCO、Cu(OH)、CO -2及びOHを含む混合アニオン銅塩を含むものである。濾過及び乾燥後、凝集CuCO粒子を摩砕してコーティング組成物の配合に適した微粉末にし、約300~約400℃の温度で粒子を焼成して黒色CuO粒子を形成する。
【0034】
洗浄したCuCO粒子又はCuCO/Cu(OH)を乾燥させる。乾燥は、空気中、窒素、不活性雰囲気、酸素リッチ雰囲気又は真空下で行うことができる。乾燥は、乾燥中に採用される圧力に依存して、周囲温度から約120℃までの温度で行うことができる。乾燥したCuCO含有粒子は、微粉末又は超微粉末に摩砕することができる。摩砕は、材料の硬度に適した任意のミルで実施することができる。例えば、ミルは、ボールミル、ジェットミル、高圧縮ロールミル、ロールミル、又はユニバーサルミルであることができるが、これらに限定されない。その後、乾燥した粒子を約300~400℃の温度で焼成して、CuCO含有粒子を、約1.7eV以下のバンドギャップを示すCuO含有粒子に変換する。沈殿による粒子の調製の代わりに、CuO粒子は、例えば、CuCO-Cu(OH)(Sigma)を用いて、摩砕されたマラカイトから形成することができ、ここで、焼成は、同様の特性のLIDAR活性黒顔料を得るためにNaCO沈殿粒子について上記した方法で実施される。したがって、適切な焼成温度及び前駆体組成によって、得られる黒色顔料は、約132を超える黒色度M値を示すことができる。
【0035】
本技術の様々な態様による沈殿法は、堆積沈殿法であることができる。Cu(NOの溶液を、コア材料としてのナノ粒子、例えば、マイカ、合成マイカ、ガラス、石英又はアルミナと組み合わせて、懸濁液を形成し、その上に沈殿剤との反応によりCuCOを堆積させてシェルを形成することができる。シェルは連続的又は不連続的であることができ、例えば、コア粒子上のCuOの島部(islands)として提供される。洗浄及び焼成の際、コアシェルナノ粒子は、CuOシェルにより覆われた又はCuOシェルが施されたコアを有するものである。一態様では、コアは断面が10μm以下であり、シェルは厚さが50nm未満であり、連続的又は不連続的なシェルであることができる。別の態様では、コア粒子は、断面が300nm以下であることができ、CuO表面フィーチャーの寸法は50nm未満である。
【0036】
沈殿法又は堆積沈殿法は、沈殿剤溶液とCu(NOを含む溶液又は懸濁液との組み合わせの場合にバッチ又は連続プロセスとして実施することができる。塩基性沈殿剤溶液のゆっくりとした添加は、少なくとも1つの滴下漏斗、又はその等価物、あるいは少なくとも1つのポンプを使用して実施することができ、ここで添加のプロファイルは、沈殿したCuCO含有粒子の品質及びスループットを最適化できるように、望ましい速度に維持され、ここで、速度は、一定、加速又は減速であることができる。適切な撹拌は、少なくとも1つの撹拌機又は他の混合機によって提供することができる。ループを通る懸濁液の流れで、少なくとも1つの能動的又は受動的インラインミキサーを採用して、連続混合ループを構築することができる。代替的又は追加的に、混合は、超音波、圧電又は他の手段によって促進され得るキャビテーションによって実行又は増強することができる。
【0037】
沈殿したCuCO又はCuCO/Cu(OH)含有粒子の形成後、得られた粒子からの水溶液の除去は、濾過又は遠心分離によって実施することができる。濾過は、フィルターの粒子近位側を加圧したり、フィルターの粒子遠位側を減圧したりすることにより行うことができる。その後、水溶性塩を除去するために粒子を洗浄する。洗浄は、バッチ方式で実施することができ、粒子を精製水中に懸濁させ、再濾過又は再遠心分離するか、あるいは、フィルターベッド又は遠心分離ベッドに水を流すことによって粒子を連続方式で洗浄する。必要に応じて、水は、蒸留水、イオン交換水、又は逆浸透精製水であることができる。
【0038】
沈殿剤としてのアルカリ金属炭酸塩の使用は、炭酸塩/水酸化物粒子をCuO粒子に変換するために行われる焼成が約300~400℃の温度で行われた場合に、約18nm未満の小さな結晶子サイズ及び好ましい(-111)/(111)比とともに、著しい可視光反射のない優れた黒色度をもたらす。他の沈殿剤は、図5に示されるように、高品質の黒色IR反射性顔料をもたらさず、ミリングや粒径を小さくする他の手段も高品質の黒色IR反射性顔料をもたらさない。図5のM値から分かるように、非IR反射性タッチアップ塗料のようにカーボンブラックの黒色度と同化するために必要な黒色度は、ミリングによる又はCuOからナノ粒子として形成された市販のCuOから達成することはできない。本発明の黒色顔料を得るために採用した沈殿法では、沈殿剤としてNaCOを用いると、300℃での焼成で十分な黒色度を達成するが、450℃ではそうではなく、沈殿剤として炭酸アンモニウムを用いると、300℃で焼成された場合に十分な値をもたらすが、450℃ではそうではなく、沈殿剤としてのNaOHの使用は、十分な黒色度を可能にしない。図6A~6Eに示すように、入手可能な市販のCuO(6E)は、300℃で焼成したNaOH沈殿Cu(OH)(6D)と同様に、不十分な黒色度を与える。一方、炭酸ナトリウム(6B)又は炭酸アンモニウム(6C)の沈殿と300℃での焼成からCuCOを使用して形成された黒色顔料は、カーボンブラック(6A)に似た黒色顔料を与えるが、炭酸アンモニウム由来のCuOは若干赤色の色相を有する。
【0039】
CuCO又はCu(OH)の沈殿によって形成されたCuOは、図7A~7Cに示すように、使用した沈殿剤によって異なる形態及び凝集体サイズを示し、Cu(OH)のNaOH沈殿から形成されたものは凝集伸張フィブリルを示し(7A)、炭酸塩からCuOの離散したほぼ球形の粒子が形成されるが、炭酸アンモニウムからのもの(7B)は炭酸ナトリウムからのもの(7C)より小さい寸法を有する。炭酸アンモニウムから生成したCuCOがわずかに赤色の色相を示すことに着目し、相対的な(-111)/(111)強度の差と(-111)ピークから求めた結晶子サイズから、最良の黒色は、両特徴の値がより小さいものであることが判明した。図8に示すように、優れた黒色顔料は、(-111)サイズと相対的な(-111)/(111)強度についてより小さい値を示したCuOから形成され、それぞれが約150Åと約1.2を超える粒子では十分な黒色度が得られなかった。
【0040】
焼成温度は、図9A~9Dに示すように、CuCO/Cu(OH)を400℃で焼成した場合には、低温ではほぼ黒色のCuOが残るが、500℃で焼成すると、より褐色のCuOを形成できる。相対強度(-111)/(111)は低いままであり、300℃で焼成したものの最高値から減少するが、(-111)のサイズで求められる結晶子サイズは、図10に示すように、400℃で焼成した場合の約15nmから600℃で焼成した場合のおよそ40nmまで増加する。
【0041】
近IR反射性CuO含有粒子は、図11に示されるようなスペクトル特徴を有するコーティング組成物に配合することができる。これらの粒子は、水性又は油性配合物、例えば水性アクリルポリウレタンエナメルベースコートなどに含めることができる。この黒色近IR反射性コーティング組成物は、図12に示されるように、それが適用された完成したボディパネルのプライマーとクリアコートの間に位置するベースコートとして使用することができる。図13に示されるように、一実施形態による黒色コーティングを有するLiDAR表面の検出のための回転角は、開発済みの緑色及び赤色LiDARコーティングよりも低く、容易に検出される。
【0042】
上記の説明は、本質的に単なる例示であり、決して本開示、その適用、又は使用を制限することを意図するものではない。本明細書で使用される場合、A、B及びCのうちの少なくとも1つという表現は、非排他的な論理的「又は」を用いて、論理的な(A又はB又はC)を意味すると解釈されるべきである。ある方法における様々なステップは、本開示の原理を変更することなく、異なる順序で実行され得ることを理解されたい。範囲の開示は、全範囲及び全範囲内の細分化された範囲の開示を含むものとする。
【0043】
本明細書で使用される見出し(「背景技術」及び「発明の概要」など)及び小見出しは、本開示内のトピックを一般的に整理することのみを目的としており、本技術又はその任意の態様の開示を制限することを意図していない。記載された特徴を有する複数の実施形態の記載は、追加の特徴を有する他の実施形態、又は記載された特徴の異なる組み合わせを組み込んだ他の実施形態を除外することを意図していない。
【0044】
本明細書で使用されるように、用語「含む(comprise)」及び「含む(include)」並びにそれらの変形は、それに続く項目又はリストの記載が、本技術のデバイス及び方法においても有用であり得る他の同様の項目を除外するものではないように、非限定的であることを意図している。同様に、用語「できる」及び「してもよい」並びにそれらの変形は、ある実施形態が特定の要素又は特徴を含むことができる又は含んでもよいという記載が、それらの要素又は特徴を含まない本技術の他の実施形態を排除するものではないように、非限定的であることを意図している
【0045】
本開示の広範な教示は、様々な形態で実施することができる。したがって、本開示は特定の例を含むが、本明細書及び以下の特許請求の範囲の検討により、他の変更が当業者に明らかになるであろうから、本開示の真の範囲は本開示の教示に限定されるべきではない。本明細書において、1つの態様、又は様々な態様への言及は、実施形態又は特定のシステムに関連して説明される特定の特徴、構造又は特性が、少なくとも1つの実施形態又は態様に含まれることを意味する。「1つの態様において」(又はその変形)というフレーズの出現は、必ずしも同じ態様又は実施形態に言及しているわけではない。また、本明細書で議論される様々な方法ステップは、記載したものと同じ順序で実施される必要はなく、各方法ステップが各態様又は実施形態で必要とされるわけではないことを理解されたい。
【0046】
実施形態の前述の説明は、例示及び説明の目的で提供されたものである。それは、網羅的であること、又は本開示を制限することを意図していない。特定の実施形態の個々の要素又は特徴は、一般に、その特定の実施形態に限定されないが、該当する場合、交換可能であり、特に図示又は説明されていない場合でも、選択した実施形態で使用することができる。また、同じものを多くの方法で変化させることができる。かかる変形は、本開示からの逸脱とみなされるべきではなく、あらゆるかかる変形は、本開示の範囲内に含まれることが意図されている。
図1
図2
図3
図4A
図4B
図4C
図5
図6A
図6B
図6C
図6D
図6E
図7A-7C】
図8
図9A-9D】
図10
図11
図12
図13
【国際調査報告】