(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-09-11
(54)【発明の名称】生物学的培養のためのデバイス
(51)【国際特許分類】
C12M 3/04 20060101AFI20230904BHJP
C12M 3/00 20060101ALI20230904BHJP
【FI】
C12M3/04 Z
C12M3/00 A
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023513080
(86)(22)【出願日】2021-08-13
(85)【翻訳文提出日】2023-04-20
(86)【国際出願番号】 IB2021057468
(87)【国際公開番号】W WO2022043815
(87)【国際公開日】2022-03-03
(31)【優先権主張番号】102020000020410
(32)【優先日】2020-08-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IT
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】501193001
【氏名又は名称】ポリテクニコ ディ ミラノ
【氏名又は名称原語表記】POLITECNICO DI MILANO
【住所又は居所原語表記】Piazza Leonardo da Vinci,3220133 MILANO-Italy
(71)【出願人】
【識別番号】514194370
【氏名又は名称】オスペダーレ サン ラファエレ エス.アール.エル
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】フィオーレ ジャンフランコ ベニャミーノ
(72)【発明者】
【氏名】ソンチーニ モニカ
(72)【発明者】
【氏名】ピオラ マルコ
(72)【発明者】
【氏名】コッパドーロ ロレンツォ ピエトロ
(72)【発明者】
【氏名】フォーリエーニ キアラ
(72)【発明者】
【氏名】ロンバルディ マリア
【テーマコード(参考)】
4B029
【Fターム(参考)】
4B029AA01
4B029AA08
4B029BB11
4B029CC02
4B029GB01
4B029GB06
4B029GB09
(57)【要約】
本発明は、生体試料(58)を収容するように適合されたカートリッジ(6)に関する。カートリッジは、重なり合う層(2、3、4、5)を含み、層は、疎水性が高く、不活性でかつ生体適合性の材料からなる疎水性層(2、5);任意の両面接着材料層(3、4)を含む。両面接着材料層(3、4)が存在しない場合、重なり合う層は、化学的および/または物理的結合によって互いに接続される。重なり合う層(2、3、4、5)は、内部孔(7)を有し、内部孔(7)は、層(2、3、4、5)が互いに重なり合うときに透過性である。内部孔(7)は生体試料(58)によって閉じられる。本発明はさらに、流体デバイス(200、500)および上記カートリッジを含む流体デバイス支持ステーション複合体(600)に関するものであり、静的および/または動的な生物学的培養におけるその使用に関する。
【選択図】
図5AB
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの生体試料(58)をその中に収容するように適合されたカートリッジ(6)であって、
カートリッジが少なくとも2つの重なり合う層(2、3、4、5)を含み、
当該層が、
- Θ
c≧90°の接触角を有し、疎水性が高く、不活性でかつ生体適合性の材料からなる少なくとも1つの層、つまり疎水性層(2、5)、
- 任意の少なくとも1つの両面接着材料層(3、4)を含み、
少なくとも1つの両面接着材料層(3、4)が存在しない場合、重なり合う層は、化学的および/または物理的結合によって互いに接続され、
重なり合う層(2、3、4、5)の各々は、少なくとも1つの内部孔(7)を有し、
少なくとも1つの内部孔(7)は、層(2、3、4、5)が互いに重なり合うときに透過性であり、
少なくとも1つの内部孔(7)は、カートリッジ(6)に装填された少なくとも1つの生体試料(58)によって閉じられる、カートリッジ。
【請求項2】
少なくとも1つの生体試料(58)を支持するように適合された少なくとも1つの膜をさらに含む、請求項1に記載のカートリッジ。
【請求項3】
少なくとも4つの重なり合う層を含み、2つの疎水性層(2、5)は、2つの両面接着材料層(3、4)を囲み、生体試料(58)は、存在する場合、2つの両面接着材料層(3、4)の間に収容される、請求項1または2に記載のカートリッジ。
【請求項4】
静的および/または動的生物学的培養のための流体デバイス(200、500)であって、下記のものを含む流体デバイス:
- 請求項1~3のいずれか1項に記載の少なくとも1つのカートリッジ(6)、
- 支持体(20、50)であって、支持体は、上部ポケット(18a、36a)と任意の下部ポケット(18b、36b)とを備え、2つのポケットは、少なくとも1つの上部剛性部材および少なくとも1つの下部剛性部材からなる少なくとも2つの剛性部材(9、27、17、33)の間に封入される、支持体、
ここで、少なくとも1つのカートリッジ(6)は、下部ポケットが存在する場合には、上部ポケット(18a、36a)と下部ポケット(18b、36b)の間に、または下部ポケットが存在しない場合には、上部ポケット(18a、36a)と少なくとも1つの下部剛性部材との間に挟まれ、
少なくとも1つのカートリッジ(6)、上部ポケット(18a、36a)、下部ポケット(18b、36b)、および剛性部材(9、27、17、33)は、少なくとも1つの内部孔(7)によって交差され、
剛性部材(9、27、17、33)は、内側部分(23、49)および外側クラウン(22、48)を識別する弱化ノッチ(21、42)を有し、
カートリッジ(6)によって占められる領域は、内側部分(23、49)として識別される領域に含まれる。
【請求項5】
上部ポケット(18a、36a)が、疎水性支持層として定義される、疎水性が高く、不活性でかつ生体適合性の材料の層と、両面接着支持層として定義される、任意の両面接着材料の層とを備え、下部ポケット(18b、36b)が、存在する場合、疎水性支持層と、任意の両面接着支持層とを備え、その疎水性支持層が、上部ポケットの疎水性支持層に対向し、両面接着材料層が1つも存在しない場合、上記層は、化学的および/または物理的結合によって互いに接続される、請求項4に記載の流体デバイス。
【請求項6】
支持体(20、50)が、少なくとも1つのカートリッジ(6)を収容するように適合されたシート(51)を有する両面接着フレーム(16、32)をさらに備える、請求項4または5に記載の流体デバイス。
【請求項7】
静的培養デバイス(200)であって、下記のものを含む請求項4~6のいずれか1項に記載の流体デバイス:
- カートリッジ(6)、
- 下記のものを含む支持体(20)、
- 2つの剛性部材(9、17)であって、剛性部材がそれぞれ、デバイスの内側に向く内面とデバイスの外側に向く外面とを有する、剛性部材、
- 疎水性支持層(13)として定義される、疎水性が高く、不活性でかつ生体適合性の材料の層と、両面接着支持層(12)として定義される、両面接着材料の層とを含む、上部ポケット(18a)、
- 疎水性支持層(14)と、両面接着支持層(15)とを備え、疎水性支持層(14)が上部ポケット(18a)の疎水性支持層(13)に対向する、下部ポケット(18b)、
- カートリッジ(6)を収容するシート(51)を有する両面接着フレーム(16)。
【請求項8】
支持体(20)が、遠位端(10)および近位端(11)を有するウェル(8)をさらに備え、近位端(11)において開口し、任意に遠位端(10)において開口し、ウェル(8)が、上部(9)および/または下部(17)の2つの剛性部材の少なくとも1つの外面上に密封して配置され、および、ウェル(8)が、ウェル(8)の開口が少なくとも1つの内部孔(7)に対応するように支持体(20)上に配置される、請求項7に記載の流体デバイス。
【請求項9】
動的培養のための流体デバイス(500)であって、下記のものを含む請求項4~6のいずれか1項に記載の流体デバイス:
- カートリッジ(6)、
- 外側から内側に向かってサンドイッチ状に下記のものを含む支持体(50)、
- カートリッジ(6)内に収容されたときに、外部環境から少なくとも1つの生体試料(58)へのアクセスを閉じる、2つのカバースリップ(25、35)、
- 2つの両面接着材料層(26、34)、
- 2つの剛性部材(27、33)、
- 両面接着支持層(28)と、疎水性支持層(29)とを含む上部ポケット(36a)、
- 両面接着支持層(31)と、疎水性支持層(30)とを含む下部ポケット(36b)、
- カートリッジ(6)を収容するシート(51)を有する両面接着フレーム(32)。
【請求項10】
カートリッジ(6)内に収容されたときに、生体試料(58)を外部環境と接触させる入口-出口アクセスをさらに備える、請求項9に記載の流体デバイス。
【請求項11】
請求項10に記載の流体デバイスであって、アクセスが、2つの側方入口および/または出口のアクセス(37、38)と、2つの対応する側方入口および/または出口のアクセス(39、40)とからなる4つであり、入口-出口アクセスが、第1のチャネル(41)および/または第2のチャネル(43)によって接続されて互いに結合され、第1および/または第2のチャネルが両面接着層(26、34)の厚さで得られ、第1および第2のチャネルが、カートリッジ(6)に収容されたときに生体試料(58)のみを介して互いに流体連通している、流体デバイス。
【請求項12】
コネクタを利用する液圧接続部を有し、コネクタが、流体デバイスの外側で入口および/または出口アクセス(37、38、39、40)に密封して配置される、請求項4~11のいずれか1項に記載の流体デバイス。
【請求項13】
下記のものを含む流体デバイス支持ステーション複合体(600):
- 請求項4~12のいずれか1項に記載の少なくとも1つの流体デバイス、
- 支持ステーション(65、265)、
ここで、支持ステーションは下記の特徴を有する、
- 2つの剛性部材(66、71)であって、任意にカバースリップである剛性部材がそれぞれ、支持ステーションの内側に向く内面と、支持ステーションの外側に向く外面とを有する、剛性部材、
- 2つの剛性部材(66、71)の間に挟まれたフレーム(69)であって、流体デバイス(200、500)のうちの1つを収容するようにそれぞれ適合された形状およびサイズを有する複数のシート(86)を備えたフレーム(69)、
かつ、複数のシート(86)のそれぞれにおいて、
- 疎水性支持層(68a)と任意の両面接着支持層(67a)とを含む上部ポケット(70a)が、シート(86)と剛性部材(66)との間に収容され、
- 疎水性支持層(68b)と任意の両面接着支持層(67b)とを含む任意の下部ポケット(70b)が、シート(86)と剛性部材(71)との間に収容され、
ここで、疎水性支持層(68a)および(68b)はシート(86)に対向する。
【請求項14】
バイコンパートメント静的培養における請求項8に記載の流体デバイス(200)の使用であって、
少なくとも1つの生体試料(58)が流体デバイス(200)内に収容され、
流体デバイスが、細胞培養のための容器内に配置され、ウェル(8)によって規定される上部チャンバ(63)と、下部チャンバ(64)とを画定し、
下部チャンバおよび上部チャンバが、少なくとも1つの生体試料(58)を通してのみ互いに流体連通している、使用。
【請求項15】
少なくとも1つの生体試料(58)が流体デバイス(500)内に収容され、流体デバイス(500)内には、2つのチャンバ、上部チャンバ(59)および下部チャンバ(60)が画定される、バイコンパートメント動的培養における請求項9~12のいずれか1項に記載の流体デバイス(500)の使用。
【請求項16】
請求項4~12のいずれか1項に記載の流体デバイス(200、500)の使用であって、その使用が、弱化ノッチに沿った支持体(20、50)の制御された破壊と、少なくとも1つのカートリッジ(6)およびその中に収容された少なくとも1つの生体試料(58)のその後の回収とを含む、使用。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
細胞および組織の挙動の研究は、生物学、医薬、薬理学などの多くの分野において重要である。
【0002】
細胞および組織の機能は一連の関係を含み、生理学的および/または病理学的機能にできるだけ近い状況での研究を可能にするシステムを有することが重要であり、これらはまた、安価でモジュール式であり、少量の試薬を使用することを可能にする。
【0003】
細胞の顕微鏡分析は、従来、単一もしくはマルチウェルの顕微鏡スライド上で、または単一もしくはマルチウェルのペトリ皿中で実施される。従来技術のシステムの強力な制限はモジュール性が乏しいことに関連しており、例えば、細胞が一旦、添加剤もしくは機械的処理で処理されるかまたは他のもので処理されると、ただ1つのタイプの分析(顕微鏡下での分析など)を受けることはできるが、それ以上使用することはできない。例えば、同じ試料についてマーカー発現およびその後の遊走研究を行うことは不可能である。
【発明の概要】
【0004】
本発明の目的は、従来技術のものよりも高いモジュール性を有する、静的および/または動的な生物学的培養のための流体デバイスを提供することである。さらなる目的は、同じ試料の両側の顕微鏡分析、免疫生化学による分析、および分子生物学的方法において使用されるように適合された流体デバイスを提供することであり、これらの分析は、さらなる研究および/または分析のために利用可能であるように、経時の研究および/または異なる処理への曝露後でも、試料を回収することによって実施され得る。
【図面の簡単な説明】
【0005】
【
図1】
図1:(A、B、C)カートリッジの実施形態:(A)カートリッジに埋め込まれた2つの層の斜視図;(B)カートリッジに埋め込まれかつ生体試料が装填された2つの層の垂直断面図;(C)組み立てられたカートリッジの斜視図。(D、E、F)カートリッジの第2の実施形態:(D)カートリッジに埋め込まれた3つの層の斜視図;(E)生体試料が装填された3つの層の垂直断面図;(F)組み立てられたカートリッジの斜視図。(G、H、I)カートリッジの第3の実施形態:(G)カートリッジ内に埋め込まれた4つの層の斜視図;(H)カートリッジに埋め込まれかつ生体試料が装填された4つの層の垂直断面図;(I)組み立てられたカートリッジの斜視図;(J、K、L)第3の実施形態におけるカートリッジ:(J)カートリッジに埋め込まれ、かつ膜上に支持された生体試料が装填された4つの層の垂直断面図および平面図;(K)カートリッジ内に埋め込まれ、かつ第1および第2の膜上に支持された2つの生体試料が装填された4つの層の垂直断面図および平面図;(L)カートリッジ内に埋め込まれかつ自立型生体試料が装填された4つの層の垂直断面図および平面図;(M)疎水性層、両面接着層、膜、自立型生体試料のためのカラーキーを有する斜視図および断面図。
【
図2】
図2:カートリッジが支持体に挿入された、本発明による流体デバイスの一実施形態。(A)カートリッジの位置決めを伴う分解垂直断面図、(B)分解斜視図、(C)カートリッジを挿入した分解斜視図。
【
図3】
図3:支持体に挿入されたカートリッジおよびウェルを備えた本発明による流体デバイスの一実施形態。(A)カートリッジの位置決めを伴う分解垂直断面図、(B)分解斜視図、(C)カートリッジを挿入した分解斜視図。
【
図4】
図4: 弱化ノッチ(weakening notches)に沿って破断した後の流体デバイス。(A)上面図;(B)分解斜視図およびカートリッジ抽出。
【
図5】
図5:カートリッジが支持体に挿入された、本発明による流体デバイスの一実施形態。(A)カートリッジの位置決めを伴う分解垂直断面図;(B)カートリッジ挿入を伴う分解斜視図。チャネルが両面接着層および剛性部材の両方で作製される、本発明による流体デバイスのさらなる実施形態:(C)カートリッジ挿入を伴う分解斜視図。チャネルが剛性部材内に作製される、本発明による流体デバイスのさらなる実施形態:(D)カートリッジ挿入を伴う分解斜視図。
【
図6】
図6:カートリッジが支持体に挿入された、本発明による流体デバイスの一実施形態。(A)カートリッジが挿入された部分分解斜視図、(B)コンパクトな斜視図、(C)弱化ノッチに沿って破断した後の上面図。(D)弱化ノッチに沿って破断した後のカートリッジの取り出しを伴う分解斜視図。
【
図7】
図7:(A)可逆的に取り外し可能な支持体上のルアーコネクタ、(B)可逆的に取り外し可能な支持体上のルアーコネクタであって、
図4に示される実施形態の流体デバイスに接続されたルアーコネクタ、(C、D)デバイスの断面上に作製されたコネクタを有する流体デバイスの一実施形態、斜視図。
【
図8】
図8:使用時の静的培養のための流体デバイスの一実施形態の概略垂直断面図。
【
図9】
図9:使用時に顕微鏡上に配置された動的培養のための流体デバイスの一実施形態の概略垂直断面図。
【
図10】
図10:制御された破断後に開いた動的培養のための流体デバイスの一実施形態の概略垂直断面図。
【
図11】
図11:(A)インターカレート剤アクリジンオレンジ(AO)を用いた核のバイタル染色によって同定された、本発明による流体デバイスにおける培養中の良好な細胞生存状態を表す画像:Caco-2腸上皮細胞(左)、EA.hy926内皮細胞(中央)、および内胸動脈(IMASMC、右)由来の初代ヒト平滑筋細胞;(B)細胞の極性化/分化および表現型保存を表す画像。ヒト上皮抗原(HEA)を標識したCaco-2の共焦点顕微鏡によって得られた断面(x、y;x、z;y、z、40Xレンズ、x2ズーム)を左側に示す。中央は、CD31を標識したEA.hy926の20X倍率フィールドでの代表的な免疫蛍光画像を示し、右は、平滑筋アクチンαアイソフォーム(血管アイソフォーム)を標識したIMASMCのフィールドである。Bの画像では、核はDAPIで染色されている。(C)本発明による流体デバイスにおいて3ヶ月間の培養後のEA.hy926内皮細胞の異なる空間的組織を代理する共焦点顕微鏡でZシリーズ画像から得られた三次元レンダリングであり、それぞれ、膜前処理の非存在下、またはフィブロネクチン、ゼラチンもしくはゼラチン-フィブロネクチンによる膜前処理後である;(D)Caco-2(左)およびEA.hy926(右)についての転写因子p53をコードする遺伝子発現(TP53)のヒストグラム。各試料をqRT-PCRで3回繰り返して実行し、値をΔCT対ベータ-アクチン基準遺伝子として示した。
【
図12】
図12:流体デバイス支持ステーション複合体の一実施形態。(A)分解斜視図。挿入図(B)は分解垂直断面図である。
【
図13】
図13:流体デバイス支持ステーション複合体の一実施形態。(A)上面図;挿入図(B)は、垂直断面での分解図;(C)分解斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0006】
定義
本発明の目的のために疎水性の高い材料は、その接触角Θcが90°よりもかなり大きく、好ましくは100°よりも大きく、さらにより好ましくは105°よりも大きい材料を意味する。
【0007】
疎水性の高い材料は例えば、ポリイソブチレン(PIB、Θc=112.1°)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE、テフロン、Θc=109.2°)、またはポリジメチルシロキサン(PDMS、Θc=107.2°)である。疎水性が高いことに加えて、例示された材料はまた、不活性かつ生体適合性である。
【0008】
あるいは、疎水性の高い材料は、そのような目的を達成するように適合された表面処理によって高度に疎水性にされた任意の材料を意味する。
【0009】
本明細書において、両面接着材料は、少なくとも1つの接着物質で両面がコーティングされたフィルム、または少なくとも1つの接着物質で全体が作製された層、またはやはり、その面が、材料自体または別の材料に対する材料の表面親和性を選択または調整することによって接着性であるという特徴を有するフィルムを意味する。
【0010】
少なくとも1つの両面接着材料層を含まない実施形態では、層間の必要な接続機能は化学的および/または物理的結合によって得られる。
【0011】
本明細書では、磁性部品は、鉄、コバルト、ニッケル、Mn-Bi、Nd-Fe-Bなどの合金、NiFe2O3、Fe3O4などの化合物から選択された材料からなる部品であり、場合によって保護層で覆われる。
【0012】
本明細書において、静的および/または動的生物学的培養は、単なる例として、2種類以上の細胞の共培養、単培養、および膜上または3次元マトリックスに組み込まれた3次元共培養、組織培養、工学的組織培養を意味する。
【0013】
本明細書において、生体試料は、ヒト、動植物の生物学的起源の材料を意味する。例として、市販の系統細胞、生体組織から単離された初代細胞、細胞構築物および/または人工の機能的組織構築物、ならびに動物もしくは植物モデルから採取された、または患者の外科的生検から得られた器官および組織片が、生体試料を形成する。
【0014】
本明細書において、膜は、生体試料を支持するように適合された膜を意味する。例として、上記膜は、微孔性、ナノ多孔性もしくは非多孔性であるが、透過性、選択的透過性もしくは完全非透過性であり、または変形性の膜である。
【0015】
本明細書において、カバースリップは、光学的アクセス、任意でガス交換を確保するような材料で作られた小型で非常に薄い板を意味する。好ましい実施形態では、それは古典的なガラスカバースリップである。
【0016】
発明の説明
本発明は、まず、少なくとも1つの生体試料58を収容するように構成されたカートリッジ6に関する。
【0017】
図1を参照すると、カートリッジ6は、少なくとも2つの重なり合う層を含み、これは下記のものを含む:
- 疎水性が高く、不活性でかつ生体適合性の材料からなる少なくとも1つの層、この層は本明細書では疎水性層という用語を用いて言及される;
- 任意の、両面接着材料からなる少なくとも1つの層。
【0018】
少なくとも1つの両面接着材料層を含まない実施形態では、接着機能は化学的および/または物理的結合によって得られる。
【0019】
好ましくは、少なくとも2つの重なり合う層は、ほぼ正方形の形状を有する。少なくとも2つの重なり合う層は、少なくとも1つの内部孔を有する。2つの層が互いに重なり合ってカートリッジを形成するとき、層の各々の少なくとも1つの内部孔は、カートリッジに少なくとも1つの内部孔を同様に有するようにさせる。一実施形態では1つの内部孔があり、それはカートリッジ6上のほぼ中央の位置に配置される。
【0020】
カートリッジ6は、少なくとも1つの膜1上に任意に支持された少なくとも1つの生体試料58を収容するように適合される。
【0021】
カートリッジ6内に収容されるとき、少なくとも1つの生体試料58の少なくとも1つの部分は、全体的にまたは部分的に内部孔を占める。
【0022】
図1Mは、疎水性層2、5、両面接着材料層3、4、膜1、1bis、自立型生体試料58に使用される色基準を示す。
【0023】
図1A、1B、1Cを参照すると、ある実施形態ではカートリッジ6は、ほぼ正方形の形状の2つの重なり合う層2、3を備える:
- 疎水性層2、
- 両面接着材料層3。
【0024】
2つの重なり合う層2、3は、内部孔7を有する。
【0025】
この実施形態では、生体試料58は、膜1上に支持された両面接着材料層3上に収容される。
【0026】
生体試料は、生体試料および/またはそれを支持する膜の一部が、それを定位置に保持する両面接着材料層3と完全に重なり合うさらなる層を形成するように、カートリッジ内に収容され、生体試料および/またはそれを支持する膜の残りの部分は、少なくとも1つの内部孔7を占めるようになる。
【0027】
第2の実施形態(
図1D、1E、1F)では、生体試料58は、生体試料および/またはそれを支持する膜が、それを適所に保持する両面接着材料層3を部分的にのみ占めるように、両面接着材料層3と重なるカートリッジ6内に収容される。この実施形態では、第2の疎水性層5は、層3の接着面を外部に露出させないように、両面接着材料層3の残りの部分を占める。
【0028】
第3の実施形態(
図1G、1H、1I)では、カートリッジ6は、4つの重なり合う層を含む。
図1Gの外側には、2つの疎水性層2、5がある。2つの疎水性層2、5の間には、2つの両面接着材料層3、4がある。4つの重なり合う層2、3、4、5は、内部孔7を有する。4つの層が互いに重なり合ってカートリッジを形成すると、各層上の内部孔7は、カートリッジ自体に内部孔7を有するようにさせる。少なくとも1つの生体試料58は、任意に膜1上に支持された2つの両面接着材料層3、4の間に収容される(
図1H、1I)。
【0029】
少なくとも1つの生体試料は、少なくとも1つの生体試料58(
図1L)および/またはそれを支持する少なくとも1つの膜1(
図1J、1K)の一部が、それを定位置に保持する2つの両面接着材料層3、4の間にさらなる層を形成し、生体試料および/またはそれを支持する膜の残りの部分が、少なくとも1つの内部孔7を占めるように、カートリッジ内に収容される。
【0030】
一実施形態では
図1Jを参照すると、生体試料は膜1上に支持される。例として、生体試料58は、膜1上で培養された細胞を含む。
【0031】
あるいは、
図1Kを参照すると、少なくとも1つの生体試料58は2つの膜、すなわち第1の膜1および第2の膜1bis上に支持される。例として、第1の生体試料58は第1の膜1上にあり、第2の生体試料58は第2の膜1bis上にある。
【0032】
さらなる実施形態では、
図1Lを参照すると、生体試料58は自立型である。この実施形態では、生体試料58は、生存可能な生体組織、脱細胞化生体組織、細胞化三次元スキャフォールド、細胞化ヒドロゲルである。この実施形態では少なくとも1つの膜1は必要とされず、生体試料58は両面接着材料層3、4の間に収容される。
【0033】
一実施形態では、カートリッジ6は2つの別個の生体試料58を収容し、その両方が自立型である。第1の自立型生体試料は、両面接着材料の第1の層上に置かれ、第2の自立型生体試料は、2つの生体試料が相互作用するように、両面接着材料の第2の層上に置かれる。
【0034】
一実施形態では、カートリッジ6は、2つの別個の生体試料58、第1の自立型生体試料、および少なくとも1つの膜上に置かれた第2の生体試料を収容する。
【0035】
第2に、本発明は、支持体20、50に挿入された少なくとも1つのカートリッジ6を含む、静的および/または動的生物学的培養のための流体デバイス200、500に関する。
【0036】
図2、3、4、5、6を参照すると、流体デバイス200、500は、下記のものを含み、
- 少なくとも1つのカートリッジ6、
- 支持体20、50であって、支持体は、上部ポケットと任意の下部ポケットとを備え、2つのポケットは、少なくとも1つの上部剛性部材および少なくとも1つの下部剛性部材からなる少なくとも2つの剛性部材の間に封入される、支持体、
少なくとも1つのカートリッジ(6)は、下部ポケットが存在する場合には、上部ポケットと下部ポケットの間に、または下部ポケットが存在しない場合には、上部ポケットと下部剛性部材との間に挟まれ、
それらの剛性部材は、内側部分および外側クラウンを識別する弱化ノッチを有し、
少なくとも1つのカートリッジ6によって占有される領域が、内側部分として識別される領域に含まれることを特徴とする。
【0037】
上部ポケットは、疎水性支持層として定義される、疎水性が高く、不活性でかつ生体適合性の材料の層と、任意に、両面接着支持層として定義される両面接着材料層とを含む。
【0038】
下部ポケットは、疎水性支持層と、任意の両面接着支持層とを含み、疎水性支持層は、上部ポケットの疎水性支持層に対向する。
【0039】
少なくとも1つの両面接着材料層を含まない実施形態では、層間の接続機能は化学的および/または物理的結合によって得られる。
【0040】
一実施形態では支持体20、50は、少なくとも1つのカートリッジ6を収容するように適合されたシート51を有する両面接着フレーム16、32をさらに備える。
【0041】
一実施形態では
図2、
図3を参照すると、流体デバイスは静的培養のための流体デバイス200である。
【0042】
さらなる実施形態では
図4、
図5、
図6を参照すると、流体デバイスは動的培養のための流体デバイス500である。
【0043】
静的培養のための流体デバイス200において、支持体は下記のものを含む:
- 2つの剛性部材であって、剛性部材がそれぞれ、デバイスの内側に向く内面とデバイスの外側に向く外面とを有する、剛性部材、
- 疎水性支持層と、任意の両面接着支持層とを含む上部ポケット、
- 疎水性支持層と、任意の両面接着支持層とを含む任意の下部ポケットであって、下部ポケットの疎水性支持層が上部ポケットの疎水性支持層に対向する、下部ポケット、
- 少なくとも1つのカートリッジ6を収容するように適合された両面接着フレーム。
【0044】
1つ以上の両面接着材料層を含まない実施形態では、層間の接続機能は化学的および/または物理的結合によって得られる。
【0045】
一実施形態では
図2を参照すると、静的培養のための流体デバイス200はカートリッジ6および支持体20を備える。支持体20は、外側から内側に向かって下記のものを含む:
- 2つの剛性部材9、17であって、剛性部材がそれぞれ、デバイスの内側に向く内面とデバイスの外側に向く外面とを有する、剛性部材、
- 疎水性支持層13として定義される、疎水性が高く、不活性でかつ生体適合性の材料の層と、両面接着支持層12として定義される、両面接着材料の層とを含む、上部ポケット18a、
- 疎水性支持層14と、両面接着支持層15とを備え、疎水性支持層14が上部ポケット18aの疎水性支持層13に対向する、下部ポケット18b、
- 少なくとも1つのカートリッジ6を収容するように適合された形状およびサイズのシート51を有する両面接着フレーム16。
【0046】
2つの上部ポケット18aおよび下部ポケット18bは、カートリッジ6に埋め込まれた層の形状とほぼ同様の形状を有し、また、少なくとも1つの内部孔7を有する。カートリッジ6は、上部および下部ポケット18a、18bの間に挟まれ、疎水性支持層13、14は内側に、すなわちカートリッジ6側に面しており、2つの両面接着支持材料層12、15は外側に、すなわち2つの剛性部材、上部剛性部材9および下部剛性部材17側に面している。
【0047】
好ましくは上部9および下部17の剛性部材は、レーザー切断、チップ除去、ミリング、打抜き、成型、成形、鋳造などの従来の方法によって処理することができるポリマー材料で作られているか、またはこれらは、3D印刷などの追加の方法によって得ることができ、制御された厚さを有する。
【0048】
支持体20は
図2A、2B、2Cに示されるように、上部9および下部17の剛性部材が弱化ノッチ21を有することを特徴とする。弱化ノッチ21は、上部9および下部17の剛性部材の周囲に沿って延び、上部9および下部17の剛性部材における内側部分23および外側クラウン22を識別する。有利には、内側部分23の領域は、カートリッジ6を形成する層の領域を含むようなものである。
【0049】
したがって、
図2の実施形態では、支持体20は、上部9および下部17の2つの剛性部材の間に挟まれた、少なくとも1つの内部孔7を有する上部18aおよび下部18bのポケットを備える。支持体20は、カートリッジ6を、上部ポケット18aと下部ポケット18bとの間に収容し、少なくとも1つの内部孔7は、カートリッジ6およびポケット18a、18bを通過する少なくとも1つの内部孔である。
【0050】
一実施形態では、上部9および下部17の剛性部材は、少なくとも1つの内部孔7も有する。この実施形態では、支持体20およびカートリッジ6を含む静的培養のための流体デバイス200(
図2A、2B、2C)は、少なくとも1つの内部孔7によって横断される。
【0051】
静的培養のための流体デバイス200に少なくとも1つの生体試料58が装填されると、少なくとも1つの内部孔7は、生体試料58によって閉じられ、任意に少なくとも1つの膜1上に支持される。
【0052】
図3A、3B、3Cに示されるさらなる実施形態では、支持体20は、遠位端10および近位端11を有するウェル8をさらに備え、近位端11において開口し、任意に遠位端10において開口し、ウェル8は、少なくとも1つの内部孔7も有する上部9および/または下部17の2つの剛性部材の少なくとも1つの外面上に密封して配置される。
【0053】
ウェル8は、ウェルの開口部が、流体デバイス200を通過する少なくとも1つの内部孔7であるように、配置される。
【0054】
一実施形態では、ウェル8は、可逆的に取り外し可能な結合手段によって、上部9および/または下部17の剛性部材の少なくとも1つの外面上に密封して配置される。
【0055】
一実施形態では、ウェル8は、両面接着材料によって、上部9および/または下部17の剛性部材の少なくとも1つの外面上に密封して配置される。
【0056】
一実施形態では、ウェル8は、接着結合、例えば、材料自体または別の材料に対する材料の表面親和性の選択または調節によって得られる表面特徴に基づく接着結合の手段によって、上部9および/または下部17の剛性部材の少なくとも1つの外面上に密封して配置される。
【0057】
一実施形態では、ウェル8は、機械的結合、例えば、インターロック結合、締まり嵌め結合、プレスフィット結合または円錐結合の手段によって、上部9および/または下部17の剛性部材の少なくとも1つの外面上に密封して配置される。
【0058】
好ましい実施形態では、ウェル8は、磁性部品によって、上部9および/または下部17の剛性部材の少なくとも1つの外面上に密封して配置される。この実施形態では、上部剛性部材および/または下部剛性部材の少なくとも1つの外面は、磁性部品が収容されるシートを有し、好ましくは、シートは少なくとも1つの内部孔7の周囲を占める。同様に、磁性部品は、開口ウェル8に埋め込まれる。磁性部品は、剛性支持体およびウェル8を形成する材料に完全に埋め込まれることが必須である。実際、完全に埋め込まれていない場合、磁性部品は、支持体20に挿入された生体試料を妨害する可能性がある。
【0059】
ウェル8の遠位端10が開いているさらなる実施形態では、ウェル8がそれを閉じるように遠位端10上に配置されたキャップを備える。
【0060】
上部18aと下部18bのポケットの間に介在するカートリッジ6は、両面接着材料16のフレームにより上部9と下部17の剛性部材が接着できるように、フレーム16に受容される。
【0061】
図4A、4Bに示されるように、流体デバイス200は、弱化ノッチ21に沿った支持体20の制御された破断によって容易に開かれ、その結果、その中に含まれるカートリッジ6は損傷されることなく回収され得る。
【0062】
動的培養のための流体デバイス500において、支持体は、外側から内側に向かってサンドイッチ状に下記のものを含む多層である:
- 2つのカバースリップ、
- 任意の2つの両面接着材料層、
- 2つの剛性部材、
- 任意の両面接着支持層と、疎水性支持層とを含む上部ポケット、
- 任意の両面接着支持層と、疎水性支持層とを含む任意の下部ポケット、
- 少なくとも1つのカートリッジを収容するように適合された両面接着フレーム。
【0063】
1つ以上の両面接着材料層を含まない実施形態では、層間の接続機能は化学的および/または物理的結合によって得られる。
【0064】
図5A、5B、5C、5Dを参照すると、動的培養のための流体デバイス500は、カートリッジ6および支持体50を備える。
【0065】
支持体50は、外側から内側に向かってサンドイッチ状に下記のものを含む多層である:
- 2つのカバースリップ25、35、
- 2つの両面接着材料層26、34、
- 2つの剛性部材27、33、
- 両面接着層28と、疎水性支持層29と呼ばれる、疎水性が高く、不活性でかつ生体適合性の材料の層とを含む上部ポケット36a、
- 両面接着層31と、疎水性支持層30とを含む下部ポケット36b、
- 少なくとも1つのカートリッジ6を収容するように適合された形状およびサイズのシート51を有する両面接着フレーム32。
【0066】
剛性部材27、33および両面接着層26、34はそれぞれ、少なくとも1つの内部孔7を有する。
【0067】
カバースリップ25および35は、カートリッジ内に収容されたときに、外部からの試料へのアクセスを閉じる。
【0068】
カバースリップ25、35によって、カートリッジ内に収容されたときに外部から試料へのアクセスを閉じながら、制御された物理的および化学的条件下での生物学的培養の維持および処理が可能となる。一実施形態では、カバースリップは、制御された化学的条件下での生物学的培養の進行を可能にするように、周囲環境に存在する気体または他の化学物質に対して本質的に不透過性である材料から作製され、微小環境の化学的-物理的特徴および/または生体試料と接触する培養培地のみが利用される。あるいは、カバースリップは、周囲環境下で1つ以上の化学種の拡散バランスを利用するように適合された材料から作製される。例として、カバースリップは、酸素および二酸化炭素などの気体に対して高度に透過性である材料から作製され、例えば、それらは、セルロースアセテートブチレートまたはポリジメチルシロキサンから作製される。
【0069】
この実施形態では、流体デバイスは、好ましくは一連の入口-出口アクセスを備え、カートリッジ内に収容されたとき、生体試料を外部環境と接触させる。そのアクセスは、流体デバイスの上面および/もしくは下面から、ならびに/または流体デバイスの側縁から、流体デバイスの外側に面している。1、2、3、4、5、6、7、8個またはそれ以上のアクセスがある。特に好ましい実施形態では、2、3、4、5または6個である。アクセスは、入口および/または出口である。一実施形態ではアクセスは、互いに流体接続され、例えば、それらは2つずつ結合され、すなわち、入口アクセスは出口アクセスと流体接続される。流体接続は、チャネルを介して得られ、チャネルは例えば、1つ以上の両面接着層の厚さおよび/または1つ以上の剛性部材の厚さで得られる。
【0070】
例として、
図5A、5Bの実施形態は、4つのアクセス、つまり、2つの側方入口および/または出口37、38、ならびに2つの対応する側方入口および/または出口39、40のアクセスを備える。アクセスは、デバイスの上面および/または下面から流体デバイスの外側に面している。入口-出口アクセスは、互いに結合され、第1および/または第2のチャネル41および/または43によって接続され、第1および/または第2のチャネル41、43は両面接着層26および34の厚さでそれぞれ得られる。第1および第2のチャネルは、少なくとも1つの内部孔7を占める少なくとも1つの生体試料58を外部環境と接触させる。例として、
図5A、5Bの実施形態の流体デバイスでは、アクセスが2つの対、すなわち第1の対37、40、第2の対38、39を形成する。第1の対37、40は、両面接着層26で得られた第1のチャネル41にアクセスする。第2の対38、39は、両面接着層34で得られた第2のチャネル43にアクセスする。この実施形態では、第1のチャネル41および第2のチャネル43は、少なくとも1つの内部孔7を占める少なくとも1つの生体試料58のみを介して互いに流体連通している。実際に、第1のチャネル41および第2のチャネル43は両方とも、少なくとも1つの生体試料58に到達し、第1のチャネルは一方の側から、第2のチャネルは反対側から到達する。したがって、第1のチャネルと第2のチャネルとの間の流体連通は必然的に、少なくとも1つの生体試料を通過する。
【0071】
入口-出口アクセス、チャネル、および孔の相対配置のこれらのおよび他の実施形態は、キャビティの形状、サイズ、位置、配向、および数のすべての可能な組み合わせを利用することによって得ることができる。
【0072】
図5Cを参照すると、さらなる実施形態では、チャネル41および/または43は、剛性部材27および/または33の厚さと、両面接着層26および/または34との両方に形成される。
【0073】
別の実施形態では
図5Dを参照すると、チャネル41および/または43は、剛性部材27および/または33の厚さで得られ、その厚さ全体または厚さの一部のみを占める。この実施形態では、カバースリップ25および/または35と剛性部材27および/または33との間の安定した接着は、都合がよいと考えられる場合、代替的に、化学的および/または物理的結合によって得ることができ、したがって、両面接着層26および/または34の介在を回避することができる。
【0074】
さらなる実施形態では
図7C、7Dに概略的に示されるように、入口-出口は、デバイス自体の側縁部から流体デバイスの外側に面している。この実施形態では入口-出口アクセスは、それらが連通する内側チャネルと本質的に同一平面上にあり、チャネルは、接着剤層および/または剛性部材および/またはカバースリップの厚さで都合よく形成される。
【0075】
入口-出口アクセスおよびチャネルからなる複合体は、アクセスチャネル複合体と呼ばれ、カートリッジ内に収容された生体試料が外部環境と接触することを可能にし、動的培養の発達に相関する異なる複数の機能の実施を可能にする。これらの機能のいくつかを以下に列挙するが、この列挙は、得ることができる全ての可能な機能を網羅すること、および/または当業者が動的培養の進歩の目的のために類似または異なる機能をどのように組み合わせることができるかを網羅することを主張するものではない。
【0076】
アクセスチャネル複合体は、外部環境から生体試料に向かって流体を導き、および/または生体試料から外部環境に向かって流体を導く第1の機能を実行することができる。例えば、アクセスチャネル複合体を介して、細胞がロードされた培養培地を、生体試料を収容するように指定された領域に向けて搬送し、支持膜上に細胞を播種することができる。例えば、アクセスチャネル複合体を介して、新鮮な培養培地をシステムに導入することができ、および/または使い尽くされた培養培地を除去することができ、したがって、生体試料が相互作用する培養微小環境の更新を可能にする。例えば、アクセスチャネル複合体を介して、所望の濃度の培地中の溶液または懸濁液中の物質を、例えば微小環境を調整するために、生体試料に向かう対流輸送によって運ぶことができる。例えば、アクセスチャネル複合体を介して、生体試料が相互作用する培養微小環境の一部である培養培地を外部に運ぶことができ、例えば、その特徴を分析するか、または生体試料の生物学的活性によって産生される物質を抽出することができる。例えば、アクセスチャネル複合体を介して、粒子が装填された、または細胞が装填された、または生物学的薬剤が装填された培養培地を生体試料に向けて運び、そのような粒子、細胞、生物学的薬剤と生体試料との間の相互作用を研究することができる。
【0077】
アクセスチャネル複合体は、外部環境から生体試料に向けて信号を伝導する、および/または生体試料から外部環境に向けて信号を伝導するというさらなる機能を果たすことができる。例えば、アクセスチャネル複合体を介して電気信号を伝導することができる。この性質のシグナルは、そのようなシグナルを伝導することができる適切な手段がチャネルに沿って配置された場合、チャネルを通って移動する(例えば、培養培地自体などの電気伝導性液体、または、チャネル自体をあるいは部分的に充填する別の伝導性または半導体物質、例えば1つ以上の金属ワイヤ)。例えば、可視スペクトルに含まれない光信号または同様の電磁信号、例えば赤外線または紫外線信号を、アクセスチャネル複合体を介して伝導することができる。この性質のシグナルは、光ファイバの効果を利用してそのようなシグナルを伝導することができる適切な手段がチャネルに沿って配置された場合、チャネルを通って進む。例えば、振動信号、例えば、音または超音波信号は、アクセスチャネル複合体を介して伝導され得る。この性質のシグナルは、そのようなシグナルを伝導することができる適切な手段がチャネルに沿って配置された場合、チャネルを通って移動する(例えば、流体デバイスを形成する物質の音響インピーダンスとは著しく異なった音響インピーダンスを有する流体)。
【0078】
アクセスチャネル複合体は、生体試料に機械的応力を誘発するさらなる機能を果たすことができる。例えば、圧力ストレスは、アクセスチャネル複合体を介して生体試料に印加され得る。このような応力は、アクセスチャネル複合体に含まれる流体を加圧することによって得ることができる。例えば、壁せん断応力としても知られている表面せん断応力を、アクセスチャネル複合体を介して生体試料に適用することができる。そのような応力は、例えば流体の粘度に起因して、生体試料の表面上に制御された接線応力を誘導するように適切に設計された運動の法則に従って、アクセスチャネル複合体に含まれる流体を移動させることによって得ることができる。
【0079】
動的培養のこれらおよび他の特徴的な機能は、生体試料の下面と相互作用するアクセスチャネル複合体に対して、生体試料の上面と相互作用するアクセスチャネル複合体を異なる配置にすることよって、生体試料の2つの面上で異なる方法で実行可能である。
【0080】
実施形態50における支持体は、
図6A、6Bに示されるように弱化ノッチ42によって特徴付けられる。弱化ノッチ42は、剛性部材27、33上、両面接着層26、34上、およびカバースリップ25、35上にあり、支持体内の内側部分49および外側クラウン48を識別する。有利には、内側部分49の領域は、少なくとも1つのカートリッジ6を収容する領域を包含するようなものである。
図6Cに示されるように、支持体50は、弱化ノッチ42に沿った支持体50の制御された破断によって容易に開かれる。
図6C、6Dに概略的に示されるように、破壊の瞬間に、少なくとも1つのカートリッジ6は、それを伴わず、その無菌性を変更する操作を必要とせず、かつ、その中に収容された少なくとも1つの生体試料58を損傷させることなく、回収される。
【0081】
実際、弱化ノッチは、所定の線に沿って、手動で、または研究所のピンセット、市販の破断プライヤ、または目的のために特別に作られた他の付属工具など、目的に適した工具を用いて、制御された破断を行うことを可能にする。
【0082】
一実施形態では流体デバイス(200、500)は、コネクタを利用する液圧接続部を有し、コネクタは、流体デバイスの外側で入口および/または出口(37、38、39、40)に好都合に密封して配置される。一例として、コネクタは、ルアー型コネクタなどの標準的なコネクタとすることができる。
【0083】
一実施形態では、コネクタは、可逆的結合の手段によって、支持体20、50の少なくとも1つの外面上に密封して配置される。
【0084】
好ましい実施形態では、コネクタは、磁性部品によって、支持体20、50の少なくとも1つの外面上に密封して配置される。例えば、
図7Aを参照すると、ルアーコネクタ53は、ポリマー支持体54上に配置されている。磁気リング55は、ポリマー支持体54の内部に埋め込まれている。この実施形態では、ポリマー支持体54は、ポリマー支持体57上に好都合に配置され、その内部にさらなる磁気リング56が埋め込まれる。
図7Bは、ポリマー支持体57が支持体50に不可逆的に拘束され、ルアーコネクタ53を入口および/または出口ポート37、38、39、40に導く様子を示す(
図7B)。
【0085】
一実施形態では流体デバイス200、500のうちの少なくとも1つは、支持ステーション65内に都合よく収容され、流体デバイス支持ステーション複合体600を形成する。
【0086】
図12を参照すると、支持ステーション65は、外側から内側に向かってサンドイッチ状に下記のものを含む多層である:
- 2つの剛性部材66、71であって、任意にカバースリップである剛性部材はそれぞれ、支持ステーションの内側に向く内面と、支持ステーションの外側に向く外面とを有する、剛性部材、
- 2つの剛性部材66、71の間に挟まれたフレーム69であって、流体デバイス200、500のうちの1つを収容するようにそれぞれ適合された形状およびサイズを有する複数のシート86を備えたフレーム69、
かつ、複数のシート86のそれぞれにおいて、
- 疎水性支持層68aと任意の両面接着支持層67aとを含む上部ポケット70aが、シート86と剛性部材66との間に収容され、
- 疎水性支持層68bと任意の両面接着支持層67bとを含む任意の下部ポケット70bが、シート86と剛性部材71との間に収容され、
ここで、疎水性支持層68aおよび68bはシート86に対向する。
【0087】
1つ以上の両面接着材料層67a、67bを含まない実施形態では、層間の接続機能は化学的および/または物理的結合によって得られる。
【0088】
さらなる実施形態では
図13B、
図13Cを参照すると、支持ステーション265は、外側から内側に向かってサンドイッチ状に下記のものを含む多層である:
- 任意にカバースリップである2つの剛性部材266、271、
- 2つの両面接着材料層275、279、
- 2つの剛性材料層276、278、
- 2つの両面接着材料層277、280、
- 2つの剛性材料層276、278の間に挟まれたフレーム269であって、流体デバイス200のうちの1つを収容するようにそれぞれ適合された形状およびサイズを有する複数のシート286を備えたフレーム、
かつ、複数のシート286のそれぞれにおいて、
- 任意の両面接着支持層267aと、疎水性支持層268aである、疎水性が高く、不活性でかつ生体適合性の材料の層とを含む上部ポケット270aは、シート286と剛性材料層276との間に収容され、
- 任意の両面接着支持層267bと、疎水性支持層268bである、疎水性が高く、不活性でかつ生体適合性の材料の層とを含む任意の下部ポケット270bは、シート286と剛性材料層277との間に収容され、
剛性材料層276、278および両面接着層277、280はそれぞれ、少なくとも1つの内部孔287を有する。
【0089】
一実施形態では、カバースリップ66、71、266、271は、カバースリップ25、35について説明したように、すなわち、周囲環境に存在する気体または他の化学物質を本質的に透過しない材料で作製される。デバイスステーション複合体600は、好ましくは一連の入口-出口アクセスを備え、これは、流体システム200に収容されたときに、生体試料を外部環境と接触せる。
【0090】
図12Aに概略的に示されるように、アクセスは、デバイスステーション複合体600の上面および/または下面および/または側方縁部から流体デバイスの外側に面している。1、2、3、4、5、6、7、8個またはそれ以上のアクセスがある。アクセスは、入口および/または出口アクセスであり、外部環境との流体接続を可能にする。流体接続は、チャネルを介して得られ、チャネルは例えば、1つ以上の両面接着層の厚さおよび/または1つ以上の剛性部材の厚さで得られる。
【0091】
例として、
図13Aの実施形態は、4つのアクセス、つまり、2つの入口および/または出口274、288、1つの入口284、および1つの出口283を備える。入口-出口アクセスは、互いに結合され、第1のチャネル289および第2のチャネル273によってそれぞれ接続され、第1および/または第2のチャネル289および273は、両面接着層275、279の厚さおよび/または剛性部材276、278の厚さで得られる。第1および第2のチャネルは、複合体600内に配置された流体デバイス200内に収容されたカートリッジ内に挿入された少なくとも1つの生体試料(図示せず)を、外部環境と接触する少なくとも1つの内部孔207を占有する。この実施形態では、第1のチャネル289および第2のチャネル273は、少なくとも1つの生体試料を介してのみ互いに流体連通している。第1のチャネル273および第2のチャネル289は両方とも、少なくとも1つの生体試料に到達し、第1のチャネルは一方の面から、第2のチャネルは反対側の面から到達する。したがって、第1のチャネルと第2のチャネルとの間の流体連通は必然的に、少なくとも1つの生体試料を通過する。
図13Aでは、複合体は、丸で囲まれた番号1、2、3、4で示される4つの流体デバイスを収容する。チャネル内の流体の移動は、マイクロポンプ282によって好都合に許容される。
図13Aの実施形態では、少なくとも1つのマイクロポンプ282が複合体600内に収容される。
【0092】
支持ステーションを備える実施形態は、有利にはユーザによって実行される手動手順を最小限に抑え、単純な「プラグアンドプレイ」システムを利用可能にする。さらに、
図13に記載される実施形態を参照すると、この解決手段により、
- 生体試料の少なくとも1つの表面への光学的アクセスが可能となる、
- 支持ステーション内部の流体システム200、500の容易な組み立てを保証できる、
- システムの区画化の維持を確保し、それで、生体試料の2つの露出表面のそれぞれについて、制御された任意の異なる処理を可能にする、
- 使用中の無菌性を維持でき、これにより汚染を回避できる、
- 複数の流体システム200、500を独立して活性化することができる。
【0093】
入口-出口アクセス、チャネル、および孔の相対配置のこれらのおよび他の実施形態は、キャビティの形状、サイズ、位置、配向、および数のすべての可能な組み合わせを利用することによって得ることができる。本発明はさらに、本発明による流体デバイスを製造するための方法に関する。
【0094】
第1の実施形態では、少なくとも1つの膜を含むカートリッジ6が利用可能にされる。次いで、カートリッジは、支持体20、50内に収容される。生体試料は、膜上に配置される。この実施形態によれば、膜はカートリッジ内で予め延伸されており、したがって、手順は、生体試料の保存および配置に影響を及ぼさない。
【0095】
第2の実施形態では、少なくとも1つの膜を含むまたは含まないカートリッジ6が利用可能にされ、カートリッジには生体試料が予め装填され、その後、カートリッジ6は支持体20、50内に収容される。生体試料が膜に支持されるこの代替実施形態は、生体試料が膜に支持されない唯一の可能な実施形態となる。この第2の実施形態では、カートリッジの組み立てステップ中に、生体試料が、カートリッジ内に挿入され、その結果、2つの層3、4の両面接着材料の間の所定の位置に保持される。
【0096】
本発明に係る流体デバイスは、その実施形態において、モノまたはバイコンパートメント(mono or bicompartmental)モデルにおいて、静的および/または動的な生物学的培養に便利に使用される。
【0097】
例として、
図8は、バイコンパートメントモデルにおける静的培養における一実施形態による流体デバイスの使用を図式的に示す。この使用例では、静的培養のための流体デバイスは、ペトリ皿またはマルチウェルプレートのウェルである従来のシステムの内部に配置される。
【0098】
図8は、静的培養のための流体デバイスが挿入される従来のシステムの内容積と連続して、ウェル8によって画定される上部チャンバ63および下部チャンバ64という、生成される2つのチャンバを示す。上部チャンバ63は、好適な器具の手段によって液体媒体で満たされ、例えば、器具は、オートマチックピペッタであってもよい。下部チャンバ64は、好適な器具の手段によって液体媒体で満たされ、例えば、器具は、オートマチックピペッタであってもよい。この実施形態ではチャンバ63、64は、流体デバイス上に装填された試料を通ることを除いて、互いに流体連通していない。
【0099】
例として、
図9は、2コンパートメントモデルにおける動的培養における本発明による流体デバイスの使用を図式的に示す。特定の場合、細胞を含む生体試料58は例えば、カートリッジ6の内部に配置された微孔性膜である膜1上で培養され、カートリッジ6は、支持体50内に収容される。生成される2つのチャンバ、すなわち上部チャンバ59および下部チャンバ60が示されている。上部チャンバ59は、第1のチャネル41を通過する液体媒体の流れによって横断される。下部チャンバ60は、第2のチャネル43を通過する液体媒体の流れによって横断される。
【0100】
流体デバイスは、レンズ61、62によって
図9に示される、直立顕微鏡および倒立顕微鏡の両方の上に適切に配置され、分析され得る。
【0101】
図10は、弱化ノッチ42に続いて開かれた後の、
図9と同じ流体デバイスを示し、外側に向かって上部チャンバおよび下部チャンバを開き、その後の調査のために生体試料58を含むカートリッジ6の回収を可能にする。
【0102】
本発明による流体デバイスは、その様々な実施形態において、実験セクションでより強調されるように、生物学的培養において首尾よく使用できる。
【0103】
以下の実施例は、本発明をより良く特定するという唯一の目的を有し、本発明を限定するものとして理解されるべきではなく、本発明の保護範囲は、特許請求の範囲によって定義される。
【実施例】
【0104】
細胞培養実験例
細胞培養実験を行うために、
図3に示される実施形態における静的培養のための流体デバイス200を使用した。腸上皮細胞、Caco-2細胞(結腸直腸腺癌由来の不均一細胞の連続株、ATCC(登録商標)HTB-37(商標))、EA.hy926内皮細胞(A549/8癌細胞との融合による臍帯静脈の初代内皮細胞の安定化から得られたハイブリッド株、ATCC(登録商標)CRL-2922(商標))、およびヒト内胸動脈片から得られた初代平滑筋細胞(IMASMC、冠動脈バイパス移植を受けた患者から排出された外科的廃棄物)を用いて、システムの機能性、特にカートリッジ6と静止支持体20の機能を確認した。
【0105】
膜1をエチレンオキシドで滅菌してまたはアルコールベースの溶液で前処理して、膜自体に存在する可能性のある残留毒性元素を除去し、次いで、播種まで水和状態に保ち、腸上皮細胞(Caco-2)、内皮細胞(EA.hy926)および平滑筋細胞(IMASMC)を、膜1上に播種・培養した。試験された細胞型はモデルとして認知されており、特定の応用分野、例えば腸管バリア、血管内腔および動脈壁の内皮バリアの研究における生物学研究の「ゴールドスタンダード」として広く使用されている。したがって、それらを実施例として用いて、(i)細胞培養物における使用のためのシステムの適合性、および(ii)本発明のシステムの汎用性を実証した。
【0106】
3つの細胞型について、本発明者らは以下のように進行した。システムを挿入する前に、十分な量の培養培地をマルチウェルプレートのウェルに導入した。次いで、膜の下に空気を捕捉しないように注意しながら、システムを挿入し、次いで、細胞を、カートリッジ6に既に挿入された前処理された膜1に播種し、次に、静止支持体20に挿入し、組み立て、マルチウェルプレートのウェルに挿入した。また、培養培地をウェル8に添加し、そこで細胞を播種し、支持体に組み込んで、それらを含む区画を調整した。
【0107】
次いで、生体試料(膜上に支持された細胞)を装填した流体デバイスを、37℃および5%CO2の標準インキュベーター中で保持して培養し、2~3培養日毎に、細胞コンフルエンスに達するまで顕微鏡によって確認した。Caco-2を用いた実験は少なくとも15日間継続したが、EA.hy926を用いた実験は少なくとも8日間、多くとも3ヶ月間継続した。
【0108】
培養中、生細胞を染色し蛍光で可視化できる、細胞生存率に適合した異染性核インターカレーターであるアクリジンオレンジ(コード318337、シグマ-アルドリッチ社、ミズーリ州セントルイス、米国)を用いて、流体デバイス内の細胞単層分布の生存率、コンフルエンス、および均質性を定期的に確認した。
図11Aは、静的培養のために流体デバイス200に挿入されたCaco-2細胞(左)およびEA.hy926細胞(中央)についてアクリジンオレンジを用いて得られた画像を示し、ライブイメージング観察のための本発明による流体デバイスの妥当性を実証している。アクリジンオレンジを用いた場合、サブコンフルエントのIMASMC細胞は、血管の平滑筋細胞の典型的な体外での「丘と谷」の分布を示し、培養中の細胞の形態保存を可能にする本発明によるデバイスの適切さが確認された(
図11A、右)。
【0109】
培養の最後に、
図4に示されるように、試料の放出を目的とする制御された破壊機構を用いて、静的培養のための流体デバイス200を開放し、生体試料58を抽出するために生体試料58を操作または変更する必要なしに、生体試料58を含むカートリッジ6を静止支持体20から無傷で取り出した。
【0110】
流体デバイスから抽出された膜支持生体試料のいくつかは、細胞分化を評価するために、特定の固定後染色を実施するために使用された。蛍光核インターカレーター、DAPI(コードD9542、シグマ-アルドリッチ社、ミズーリ州セントルイス、米国)による核の対比染色を、免疫蛍光染色に常時加えた。代わりに、他の試料をリアルタイムポリメラーゼ連鎖反応(qRT-PCR)定量分析のために処理した。
【0111】
蛍光色素FITC(フルオレセインイソチオシアネート)に直接コンジュゲートした抗HEAモノクローナル抗体(クローンBer-EP4、DAKO社、グロストルプ、デンマーク)を用いて、Caco-2におけるヒト上皮抗原(HEA)の発現および分布を評価した。この抗体は、EpCAMとしても知られ、上皮細胞間の接着を媒介する膜貫通糖タンパク質を特異的に認識する(
図11B、左)。共焦点顕微鏡で得られた画像は、細胞が狭い単層に配置され、分化した上皮細胞に典型的な「ブリック(brick)」形態を有することを示す。HEAマーカーは、Caco-2細胞の分極の成功を支持する細胞接合部の位置を強調する。
【0112】
EA.hy926細胞の表現型は、血小板結合を媒介する内皮細胞表面タンパク質である抗CD31/PECAM1モノクローナル抗体(クローンJC70A、DAKO社、グロストルプ、デンマーク)で細胞を染色することによって確認した。二次抗マウスIgG-AlexaFluor488抗体(カタログ番号A-11001、インビトロゲン・モレキュラープローブ社、オレゴン州ユージーン、米国)を検出のために使用した。蛍光顕微鏡で得られた
図11B(中央)の画像は、CD31陽性を示す。平滑筋細胞骨格の特異的分子、すなわち平滑筋アクチンのαアイソフォームを認識する抗体により、IMASMC細胞の表現型を可視化した(
図11B、右)。これらの確認は、静的培養のために流体デバイス200内で成長させた細胞の表現型の保全を支持する。
【0113】
培養の終わりに支持体20から抽出したCaco-2およびEA.hy926のいくつかの細胞試料を処理してqRT-PCRを実施した。トリプシンを用いた標準的な酵素手順を適用することによって、膜1から細胞を分離した。RNAを細胞から単離し、cDNAに逆転写し、次いでcDNAをqRT-PCRによる遺伝子発現分析に使用した。純粋に実現可能性のチェックとして、試験された両方の細胞株について、細胞周期を調節しかつ細胞に遍在的に発現されるタンパク質p53(腫瘍タンパク質53)をコードする蛍光を発するレポーター(Hs01034249_m1;アプライドバイオシステムズ社、カリフォルニア州フォスター・シティ、米国)にコンジュゲートされた特異的プローブを用いて、転写因子TP53の遺伝子発現を評価した。
図11Cは、Caco-2上皮細胞(左)およびEA.hy926内皮細胞(右)における遺伝子TP53の発現を示す。分析された生体試料は、次の異なる特徴を有する静的デバイスに由来する:
- 標準的なウェル(cTop n)を有するデバイス、すなわち、流体デバイスは、両面接着材料によって密封して位置決めされたウェルを有する支持体を備える;
- 磁性ウェル(cTop m)を有するデバイス、すなわち、流体デバイスは、磁性部品によって密封して位置決めされたウェルを有する支持体を備える;
- 共培養を可能にする2つの膜の存在、その2つの膜を別々に分析した(cTop up、cTop down);
- 分析を実施するための1つまたは2つのプールされた試料の使用(cTop1膜、cTop2膜)。
【0114】
得られた結果は、調査された異なる条件について定量的な差異を示さず、磁気閉鎖が細胞状態に有意に影響しないことをさらに実証する。
【符号の説明】
【0115】
1 膜
2、5 疎水性層
3、4 両面接着材料層
6 カートリッジ
7 内部孔
9、17 剛性部材
12、15 両面接着支持層
13、14 疎水性支持層
18a、36a 上部ポケット
18b、36b 下部ポケット
20、50 支持体
21、42 弱化ノッチ
25、35 カバースリップ
29、30 疎水性支持層
41、43 チャネル
51、86 シート
58 生体試料
59、63 上部チャンバ
60、64 下部チャンバ
65、265 支持ステーション
69 フレーム
200、500 流体デバイス
600 流体デバイス支持ステーション複合体
【国際調査報告】