(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-09-12
(54)【発明の名称】ラムダ-カラギーナンを含む個人用潤滑剤
(51)【国際特許分類】
A61K 31/731 20060101AFI20230905BHJP
A61P 31/14 20060101ALI20230905BHJP
A61P 31/22 20060101ALI20230905BHJP
A61P 31/20 20060101ALI20230905BHJP
A61K 9/08 20060101ALI20230905BHJP
A61K 47/10 20170101ALI20230905BHJP
A61F 6/04 20060101ALI20230905BHJP
A61F 6/08 20060101ALI20230905BHJP
A61J 1/05 20060101ALI20230905BHJP
【FI】
A61K31/731
A61P31/14
A61P31/22
A61P31/20
A61K9/08
A61K47/10
A61F6/04
A61F6/08
A61J1/05
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022580078
(86)(22)【出願日】2020-06-22
(85)【翻訳文提出日】2023-01-05
(86)【国際出願番号】 US2020038991
(87)【国際公開番号】W WO2021262141
(87)【国際公開日】2021-12-30
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522497423
【氏名又は名称】トレンブレイ、マリオ エルメン
(74)【代理人】
【識別番号】100094640
【氏名又は名称】紺野 昭男
(74)【代理人】
【識別番号】100103447
【氏名又は名称】井波 実
(74)【代理人】
【識別番号】100111730
【氏名又は名称】伊藤 武泰
(74)【代理人】
【識別番号】100180873
【氏名又は名称】田村 慶政
(72)【発明者】
【氏名】トレンブレイ、マリオ エルメン
【テーマコード(参考)】
4C047
4C076
4C086
4C098
【Fターム(参考)】
4C047AA01
4C047AA05
4C047AA27
4C047BB11
4C047BB26
4C047CC03
4C076AA12
4C076BB31
4C076CC18
4C076CC35
4C076DD38
4C076FF57
4C076FF70
4C086AA01
4C086AA10
4C086EA26
4C086MA63
4C086NA14
4C086ZA89
4C086ZB33
4C098AA05
4C098DD14
4C098EE11
4C098EE22
(57)【要約】
性感染症ウイルス及び呼吸器系ウイルスを挙げることができるがこれらに限定されないウイルスから保護するための抗ウイルス剤としてラムダ-カラギーナンを含む注入可能な非毒性潤滑組成物、及び潤滑組成物を非油性の擬塑性潤滑製品として使用し、性行為中のHPVを含む性感染症ウイルスの増殖を低減するためのカラギーナンを投与する方法。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)ラムダ-カラギーナンを約90重量%及びカッパ-カラギーナンを約10重量%有するカラギーナン0.1重量%~3重量%;
(b)ポリオール0.1重量%~8重量%;
(c)1以上のpH調整剤0.01重量%~1重量%;及び
(d)任意の0.5重量%までの1以上の甘味料及び1重量%までの1以上の防腐剤;
を有する抗ウイルス性潤滑組成物であって、
(i)抗ウイルス潤滑組成物は、濁度が約25ネフェロメトリック濁度単位(NTU)以下である均一な水溶液であり;
(ii)抗ウイルス潤滑組成物は半透明であり;
(iii)抗ウイルス性潤滑組成物は、粘度が500cP~10,000cPであり;且つ
(iv)抗ウイルス性潤滑組成物のpHが3.5~7.0である、
抗ウイルス性潤滑組成物。
【請求項2】
抗ウイルス性潤滑組成物は、カラギーナンを1.5~1.7重量%及びプロピレングリコールを4.0~4.5重量%有し、その粘度が2,000cP~3,000cPである請求項1に記載の抗ウイルス性潤滑組成物。
【請求項3】
抗ウイルス性潤滑組成物は、その重量モル浸透圧濃度が200mOsmol/kg~1400mOsmol/kgである、請求項1に記載の抗ウイルス性潤滑組成物。
【請求項4】
前記抗ウイルス性潤滑性組成物が、カラギーナンを1.5重量%~1.7重量%;プロピレングリコールを4.0重量%~4.5重量%;1以上のpH調整剤を0.01重量%~1重量%;1以上の甘味料を0.5重量%まで;及び1以上の防腐剤を1重量%まで;から本質的になり、前記抗ウイルス性潤滑組成物のpHが5.5~7.0であり;前記抗ウイルス性潤滑組成物の粘度が2,000cP~3,000cPであり;且つ前記抗ウイルス潤滑組成物の重量モル浸透圧濃度が650mOsmol/kg~850mOsmol/kgである請求項1~3のいずれか一項に記載の抗ウイルス性潤滑組成物。
【請求項5】
組成物がオルソミクソウイルス科(Orthomyxoviridae)、パラミクソウイルス科(paramyxoviridae)、ニューモウイルス科(pneumoviridae)、コロナウイルス科(coronaviridae)、レトロウイルス科(retroviridae)、ヘルペスウイルス科(herpesviridae)、パピローマウイルス科(papillomaviridae)、ピコルナウイルス科(picornaviridae)、レオウイルス科(reoviridae)、及びアデノウイルス科(adenoviridae)、並びにそれらの組合せからなる群から選択される分類学的科に由来するウイルスの伝染を低減するか、阻害するか、又は改善するのに有効である請求項1に記載の抗ウイルス潤滑組成物。
【請求項6】
組成物がヒトパピローマウイルス(HPV)の伝染を低減するか、阻害するか、又は改善するのに有効である請求項5に記載の抗ウイルス潤滑組成物。
【請求項7】
組成物が重症急性呼吸器症候群(SARS)ウイルス1株及びSARS2株からなる群から選択されるウイルスの伝染を低減するか、阻害するか、又は改善するのに有効である請求項5に記載の抗ウイルス潤滑組成物。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか一項に記載の注入可能な抗ウイルス潤滑組成物で潤滑化する少なくとも1つの皮膚接触面を有する潤滑化基材であって、抗ウイルス潤滑組成物を皮膚接触面からヒトの皮膚又は上皮組織に移すのに有用である潤滑化基材。
【請求項9】
前記潤滑化基材がコンドームである請求項8に記載の潤滑化基材。
【請求項10】
前記潤滑化基材が、大人のおもちゃ、ディルド、バイブレータ、リング、及びビーズからなる群から選択される性的付属品装置である請求項8に記載の潤滑化基材。
【請求項11】
前記潤滑化基材が、人の体腔内の上皮組織に接触するように構成される皮膚接触面を有する内部アプリケータであり、該内部アプリケータがスワブ;細長いスティック又はロッド;ウェラブルインサート;インジェクタ;シリンジ;カニューレ;及びピペットからなる群から選ばれる請求項9に記載の潤滑化基材。
【請求項12】
前記潤滑化基材がスワブである請求項11に記載の潤滑化基材。
【請求項13】
請求項1~7のいずれか一項に記載の抗ウイルス性潤滑組成物のいずれかを形成する方法であって、
(a)カラギーナンを有するカラギーナン粉末を提供する工程であって、該カラギーナンがラムダ-カラギーナンを90重量%及びカッパ-カラギーナンを10重量%有する工程;
(b)カラギーナン粉末をポリオールを有する溶液と混合し、カラギーナン水性懸濁液を形成する工程;
(c)カラギーナン水性懸濁液を少なくとも70℃から75℃までの温度まで加熱する工程;
(d)濁度が約25ネフェロメトリック濁度単位(NTU)以下である均一な水溶液を形成するのに十分な時間、加熱されたカラギーナン水性懸濁液を混合する工程;
(e)該均一な水溶液を約30℃未満の温度に冷却する工程;及び
(f)抗ウイルス潤滑組成物をpH3.5~7.0の範囲に調整するのに十分な量で1以上のpH調整剤を混合し、それによって抗ウイルス潤滑組成物を形成する工程;
を有する、上記方法。
【請求項14】
カラギーナンが抗ウイルス性潤滑組成物のうち0.1重量%~3重量%有し;
ポリオールがプロピレングリコールであり、該プロピレングリコールが抗ウイルス性潤滑組成物のうち0.1重量%~8重量%有し;
抗ウイルス性潤滑組成物の粘度が500cP~10,000cPであり;
抗ウイルス性潤滑組成物の重量モル浸透圧濃度が200mOsmol/kg~1400mOsmol/kgである請求項13に記載の方法。
【請求項15】
カラギーナンが抗ウイルス性潤滑組成物のうち1.5重量%~1.7重量%有し;
プロピレングリコールが抗ウイルス性潤滑組成物のうち4.0重量%~4.5重量%有し;
抗ウイルス性潤滑組成物のpHが5.5~7.0の範囲であり;
抗ウイルス性潤滑組成物の粘度が2,000cP~3,000cPであり;
抗ウイルス潤滑組成物の重量モル浸透圧濃度が650mOsmol/kg~850mOsmol/kgである請求項14に記載の方法。
【請求項16】
冷却された均一な水溶液に1以上のpH調整剤が添加され混合される請求項13~15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記方法が、約0.5重量%までの1以上の甘味料を混合しながら添加する工程;及び約1重量%までの1以上の防腐剤を混合しながら添加する工程をさらに有する請求項13~15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
1以上の甘味料がカラギーナン水性懸濁液に添加され、1以上の防腐剤が冷却された均一な水性溶液に添加される請求項17に記載の方法。
【請求項19】
工程(b)が、
(A)湿潤カラギーナン混合物を形成するのに十分な時間、カラギーナン粉末をある量のプロピレングリコールと混合するサブ工程であって、プロピレングリコールの量とカラギーナン粉末との重量比が約1:1~約10:1であるサブ工程;及び
(B)カラギーナン水性懸濁液を形成するのに十分な時間、混合しながら、湿潤カラギーナン混合物を水溶液と合わせるサブ工程であって、水溶液と湿潤カラギーナン混合物との体積比が約45:1~約8:1であるサブ工程;
を有する請求項13~15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
湿潤カラギーナン混合物を形成し、カラギーナン水性懸濁液を形成し、均一な水性溶液を形成し、抗ウイルス潤滑組成物を形成するための総混合時間が約3時間以下である請求項19に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、性行為中のパートナー間のヒトパピローマウイルスの伝染を低減するか又は阻害するのに有用な個人用潤滑剤組成物の製造方法に関する。
【発明の背景】
【0002】
世界保健機関(WHO)によると、ヒトパピローマウイルス(HPV)は世界で最も一般的な性感染症(STI)であり、毎年1400万人以上が新たな感染症にかかっている。米国だけでも、18歳から59歳までの人々の42%以上がHPVに感染しており、男性の9人に1人が経口HPVに感染している。さらに、HPVは本質的にすべての子宮頸ガンの根本原因であり、年齢標準化された発生率で世界中の女性で2番目に多いガンであり、年間約500,000人の死亡につながっている。子宮頸ガンによる死亡の85%以上は発展途上国にあり、女性のガン全体の13%を占めている。WHOはまた、HPVが肛門ガンの90%を引き起こすと推定している。HPVと咽頭ガンに関する別の研究では、AECOMは、口の中にHPV型が存在すると、頭頸部ガンを発症する確率が22倍になることを見出した。HPVは、すべての生殖器疣贅の根本的な原因でもある。
【0003】
HPVは、皮膚と皮膚の接触から拡散し、最も一般的に性行為中に性器、肛門、及び口に伝染する。その結果、コンドームはHPVの伝染を防ぐのにわずかな効果しかない。HPVにはいくつかの治療オプションがあるが、実際には150を超えるHPV株が存在し、そのうち約30株がガンや生殖器疣贅を引き起こすことが示されている。ワクチンは開発されており、有用である可能性があるが、現在米国で入手可能な最高のHPVワクチンは、150を超えるHPV株のうち9株に対してしか抗ウイルス活性を示さず、少数の人々にしか効果がない。2015年、CDCは、HPVワクチンの青少年の摂取率が40%にすぎず、一般に、あらゆる年齢のアフリカ系アメリカ人女性と同様に、26歳以上の人には効果がないと報告した。さらに、CDCは、以前にHPVにさらされたことがある場合、ワクチンも無効であると報告している。さらに、HPVワクチンは一般的に高価で、複数回の治療や注射が必要であり、発展途上国の人々にはほとんど利用できない。その結果、多くの人が予防接種を受けておらず、HPVに対する唯一の防御手段としてコンドームに頼っている。
【0004】
インビトロ(in vitro)(Buck, CB, et al., (2006) PLoS Pathogens 2(7):671-680) を参照) 及びインビボ(in vivo)マウス(Roberts, J. N., et al., (2007) Nature Medicine 13 (7):857-861、及びMaguire, R. A., et al., (1998) Sexually Transmitted Diseases 25 (9):494-500を参照)での様々なウイルスの伝染を低減又は阻害するための、カラギーナン製剤、特にカラギーナンのラムダ型を含有する製剤の使用について、いくつかの有望な研究が行われている。いくつかの他の特許及び特許公開公報も同様に、抗微生物又は抗ウイルス化合物としての医薬品内でのカラギーナンの使用について論じている(米国特許第5,208,031号及び同第8,367,098号、並びに米国特許公開第2005/0171053号、同2005/0239742号、同2005/0261240号、同2006/0127340号、同2008/0227749号、同2009/0088405号、及び同2011/0229446号を参照のこと。これらの開示は参照によりその全体が組み込まれる)。
【0005】
より最近では、ヒトにおけるインビボ研究により、ラムダ-カラギーナン製剤を利用して性行為中のHPVの伝染を阻害できることが示された(Magnan, S., et al., (2019) Clin. Microbiol. Infect. 25(2):210-216を参照のこと。その開示はその全体が参照により組み込まれる)。しかし、カラギーナンは性行為中に使用するのに適した形に加工するのが非常に難しいため、カラギーナンを含む市販の個人用潤滑剤はほとんどない。カラギーナンは大きく柔軟な多糖類であり、ほとんどが少なくとも2つ、通常は3つの異なる形態:カッパ-カラギーナン、イオタ-カラギーナン、及びラムダ-カラギーナンの複雑な混合物として得られ、それらは硫酸化の度合いが異なる。カラギーナンのカッパ型及びイオタ型は、分子あたりの硫酸エステル基の数が最も少なく、ほとんどのカラギーナン混合物を支配し、通常、食品又は化粧品業界でゲル化剤又は増粘剤として使用される。一方、ラムダ-カラギーナンは、多糖あたりの硫酸エステル基の数が最も多く、ゲルを全く形成することができない。ラムダ-カラギーナンの場合、硫酸エステルレベルが増加すると、一般に水中での溶解温度が低下し、ゲル強度の低下又はゲル形成の阻害と密接に関連する。存在する場合、組成物中のカラギーナンの総濃度の関数として、カラギーナンのカッパ、イオタ、及びラムダ型のすべての組み合わせは、組成物の粘度に指数関数的な影響を与える。これにより、組成物が性的な潤滑剤として使用される場合、レオロジー、触覚性、パフォーマンス上の利点を損失させる可能性がある。特に、カラギーナンベースの配合物は、塗布後にすぐに乾燥する傾向があり、そもそも個人用潤滑剤を使用する目的を無効にする粘着性の非潤滑性残留物をもたらす。さらに、特定のカラギーナン含有組成物の粘度は、組成物内のカッパ、イオタ、及びラムダ型の正確な割合に非常に敏感である。したがって、50%ラムダ-カラギーナン及び50%カッパ-カラギーナンを含む組成物は、70%ラムダ-カラギーナン及び30%カッパ-カラギーナンを含む組成物とは、双方の組成物におけるカラギーナンの全濃度が同一であっても、異なる粘度を有するであろう。この効果は、カラギーナンの3つの形態すべてを含む組成物で悪化する。その結果、カラギーナン含有組成物の粘度は、カラギーナンの全濃度が同じであっても、カッパ、イオタ、及びラムダ型の割合が異なる場合、組成物ごとに一般的に予測できない。
【0006】
さらに、カラギーナン含有組成物を製造するために使用される加工工程自体が、性的潤滑剤としての粘度及び性能に影響を及ぼす可能性がある。例えば、成分が混合される温度は、特に混合物中のカラギーナンの各形態の比の関数として、カラギーナン含有製品の粘度に劇的な影響を与える。未処理のカラギーナン混合物を水性溶媒に入れ加熱すると、混合物内の個々の多糖類が水和し始め、他の多糖類と分子間相互作用し始め、組成物の粘度を増大させる。温度をさらに上昇させると、分子間相互作用が破壊され、カラギーナンが均質化され、水溶液相に含まれ、全体の粘度を開始レベル近くまで下げる。しかし、組成物内に含まれるカラギーナンの各型の割合は、冷却時に何が起こるかに影響を与える可能性がある。主な型がカッパ-又はイオタ-カラギーナンである場合、冷却された組成物はゲルを形成するが、主な型がラムダ-カラギーナンである場合、冷却された組成物はゲルを形成しない。それにもかかわらず、組成物内のカッパ-カラギーナン及びイオタ-カラギーナンの相対的比率は、ゲル化しないラムダ-カラギーナン含有組成物の粘度に影響を与える。
【0007】
一方、カラギーナン含有組成物を過度に加熱すると、隣接する糖単位内の分子内結合を切断する効果があり、カラギーナン分子に有意な変化を効果的に引き起こし、それらの平均分子量を減少させる。これにより、得られる組成物の粘度がさらに低下する可能性があるが、組成物が適用されると、組成物がさらに急速に乾燥するというトレードオフを伴う。同様に、カラギーナン含有混合物を高速又は高剪断条件下で長時間混合すると、組成物内のカラギーナン分子の分子内及び分子間関係が崩壊する可能性がある。
【0008】
したがって、ラムダ-カラギーナンを含有し、男性と女性の両方が快適で目立たない方法でHPV感染から身を守ることを可能にする性的潤滑剤としても十分に機能する製剤の必要性が依然として存在する。潤滑剤の処方は、性行為中に個人用潤滑剤を使用することによって得られる粘度、触覚性、及びパフォーマンスの向上を維持しながら、HPVに対する有効性のバランスを取る必要がある。また、性行為中、特に2人以上の男性が関与する場合に、HPV、HIV、及びヘルペスに感染するリスクを低減する、コンドーム又はその他の性的付属品と組み合わせて使用できる製品の必要性も残っている。
【発明の概要】
【0009】
本発明は、ラムダ-カラギーナンを含み、性感染ウイルス及び分類学的科に由来する他の病原性ウイルスを含むがこれに限定されない、ウイルスによって引き起こされる伝染、持続性、又は症状を低減するか、阻害するか、又は改善するのに有用な、低粘度の抗ウイルス性潤滑組成物の製造方法を提供する。分類学的科に由来する他の病原性ウイルスは、オルソミクソウイルス科(Orthomyxoviridae)、パラミクソウイルス科(paramyxoviridae)、ニューモウイルス科(pneumoviridae)、コロナウイルス科(coronaviridae)、レトロウイルス科(retroviridae)、ヘルペスウイルス科(herpesviridae)、パピローマウイルス科(papillomaviridae)、ピコルナウイルス科(picornaviridae)、レオウイルス科(reoviridae)、及びアデノウイルス科(adenoviridae)、並びにそれらの組合せのいずれか1種とすることができるか、又は、それらからなる群から選択することができる。開示されたプロセスに従って作製された抗ウイルス性潤滑組成物は、子宮頸部、外陰部、膣、クリトリス、陰茎、肛門、口、鼻、鼻腔、又は喉の内又は上の組織を含む、ウイルスが存在するか、又は広がる可能性のある上皮又は皮膚組織に適用することができる。
【0010】
様々な態様において、本発明の方法によって作製される抗ウイルス潤滑組成物は、性行為と併せて使用することができる。本明細書で使用される場合、「性行為」という用語には、1人、2人、又はそれ以上の性的パートナーの子宮頸部、外陰部、膣、クリトリス、陰茎、肛門、口、又は喉の中又は上の皮膚又は上皮組織との親密な又は性的接触が含まれる。ある態様において、本発明の抗ウイルス潤滑組成物の適用は、ラムダ-カラギーナンを含まないプラセボ組成物と比較して、ヒトにおける性感染症ウイルスの伝染を減少させるのに効果的であり、その非限定的な例にはヒトパピローマウイルス(HPV)、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、及び単純ヘルペスウイルス(HSV)が挙げられる。さらなる態様において、抗ウイルス潤滑組成物は、男性と女性の性的出会い、男性と男性の性的出会い、及び女性と女性の性的出会いの間に発生する可能性がある、ガンを引き起こすことが知られているHPV株を含むがこれに限定されないHPVの伝染に対する保護を提供する。よりさらなる態様において、抗ウイルス性潤滑組成物は、HPVの少なくとも1つの株に既に感染している者を含む、リスクの高い性的パートナーの間でのHPVの伝染に対する保護を提供することができる。
【0011】
様々な態様において、本明細書に記載の抗ウイルス潤滑組成物はいずれも、ある性的パートナーから別の性的パートナーへのHPVの伝染を予防的に阻害するために、性行為前に1人以上の性的パートナーの皮膚又は上皮組織、特に膣、肛門、口、又は陰茎のうちの少なくとも1つの上又は内部に位置する皮膚又は上皮組織と接触させることができる。そのような態様において、抗ウイルス性潤滑組成物は、性的パートナーの1人以上の皮膚と、性行為の8時間未満前、例えば、4時間未満前、2時間未満前、1時間未満前、30分未満前、15分未満前、5分未満前、1分未満前、又は30秒前から、1秒未満までで接触させることができる。他の態様において、抗ウイルス性潤滑組成物は、HPVが伝染した後、細胞から細胞へのHPVの拡散を減らすために、性行為後に、1人以上の性的パートナーの皮膚又は上皮組織、特に膣、肛門、口、又は陰茎の少なくとも1つの上又は内部に位置する皮膚又は上皮組織と接触することができる。そのような態様において、抗ウイルス性潤滑組成物は、性行為後8時間以内に、例えば4時間未満、2時間未満、1時間未満、30分未満、15分後未満、5分未満、1分未満、又は30秒未満などで性行為後1秒未満までに、1人以上の性的パートナーの皮膚又は上皮組織と接触させることができる。
【0012】
様々な態様において、本発明の方法によって作製される抗ウイルス潤滑組成物は、性行為とは無関係に人の皮膚又は上皮組織に適用することができる。ある態様において、抗ウイルス潤滑組成物は、コロナウイルス、レオウイルス、アデノウイルス、オルソミクソウイルス、パラミクソウイルス、ニューモウイルス、ピコルナウイルス、並びに非性感染症レトロウイルス及びヘルペスウイルスなどを挙げることができるがこれらに限定されない非性感染症ウイルスの伝染又は影響を低減するか、阻害するか、又は改善するのに適用することができる。そのようなウイルスによって引き起こされる疾患の非限定的な例として、重症急性呼吸器疾患(SARS)、COVID-19、インフルエンザ、麻疹、おたふくかぜ、水痘、エンテロウイルス、ライノウイルス、ポリオ、アデノウイルス、及びロタウイルスを挙げることができるが、これらに限定されない。ある態様において、抗ウイルス性潤滑組成物は、上記のウイルス科又は型のいずれかによって引き起こされるウイルスによって引き起こされる疾患からの感染症を有する動物に適用することができる。抗ウイルス性潤滑組成物を適用して、ヒト又は動物におけるそのような状態の治療又は影響の軽減を助けるための方法及び基材は、以下にさらに詳述する。
【0013】
他の態様において、抗ウイルス性潤滑組成物は、膣保湿剤、膣脱臭剤、及び膣臭除去剤としてを含むがこれらに限定されない目的のために、生理用品と併せて利用することができる。
【0014】
別の態様において、抗ウイルス性潤滑組成物は、機械的歪みに応答して組成物の粘度をさらに低下させるチキソトロピックせん断減粘を受ける非ニュートン擬塑性流体である。非限定的な例として、そのような機械的歪みは、1人、2人以上の人が、男性と女性の性的パートナー、2人以上の男性の性的パートナー、2人以上の女性の性的パートナー、及びそれらの組合せでの性行為を含む性行為に携わるとき、生じる可能性がある。
【0015】
別の態様において、抗ウイルス性潤滑組成物は、乾燥した抗ウイルス性潤滑性組成物に水又は他の体液を添加する際に、皮膚上の乾燥抗ウイルス性潤滑性組成物の潤滑性が保持できるレオロジープロファイルを有する。体液の非限定的な例には、唾液及び膣分泌物(vaginal secretions or discharge)が含まれる。さらなる態様において、水又は体液を乾燥した抗ウイルス潤滑組成物に添加する際に、抗ウイルス潤滑組成物は、HPVに対するものを含む、その抗ウイルス活性を保持する。
【0016】
様々な態様において、本発明の抗ウイルス性潤滑組成物は、オイル、特にシリコーンオイル;セルロース;及びポリクオタニウム(polyquaternium)を挙げることができるがそれらに限定されない商業上入手可能な個人用潤滑剤に典型的に利用される成分を実質的に含まずに調製することができる。様々な態様において、抗ウイルス潤滑組成物は、商業上入手可能な個人用潤滑剤にもしばしば存在するノノキシノール-9などの殺精子剤を実質的に含まないように調製することができる。しかし、他の態様において、抗ウイルス潤滑組成物は、オイル、セルロース、ポリクオタニウム、及び/又はノノキシノール-9を含むように調製することができる。
【0017】
別の態様において、本発明の抗ウイルス性潤滑組成物を形成する方法は、(a)カラギーナンを有するカラギーナン粉末を提供する工程であって、該カラギーナンがラムダ-カラギーナンを少なくとも80重量%及びイオタ-カラギーナン及びカッパ-カラギーナン並びにこれらの組合せを含むものからなる群から選択される第2級カラギーナンを10重量%まで、好ましくはカッパ-カラギーナンを10重量%有する工程;(b)混合しながら、カラギーナン粉末をある量のポリオールを有する水溶液と合わせて、カラギーナン水性懸濁液を形成する工程;(c)該カラギーナン水性懸濁液を少なくとも60℃の温度まで加熱する工程;(d)加熱したカラギーナン水溶液懸濁液を均一な水溶液に変換するのに十分な時間混合する工程;(e)均一な水溶液を50℃未満の温度に冷却する工程;及び(f)冷却した均一な水溶液に1以上のpH調整剤を混合し、それによって抗ウイルス性潤滑組成物を形成する工程;を有することができる。
【0018】
様々な態様において、カラギーナン懸濁液は濁っている。カラギーナン懸濁液中の実質的にすべての多糖類が加熱及び混合により均質化されると、カラギーナン懸濁液は透明になり、得られる均一な溶液は半透明になる。別の態様において、抗ウイルス性カラギーナン懸濁液は、均一な溶液の形成時に透明になり、透明のままである。別の態様において、抗ウイルス性潤滑組成物内に目に見える微粒子、凝集体、又は凝集物は実質的にゼロである。
【0019】
様々な態様において、本明細書に開示される混合物、懸濁液、又は抗ウイルス潤滑組成物のいずれかの濁度は、ホルマジン比濁単位(Formazin Nephelometric Units、FNU)、ジャクソン濁度単位(Jackson Turbidity Units、JTU)、及び比濁濁度単位(NTU)を挙げることができるがこれに限定されない、試料中の懸濁粒子の濃度を測定する方法に基づいて定量的に記載することができる。別の態様において、本明細書に記載の混合物、懸濁液、又は抗ウイルス潤滑組成物のいずれかの濁度は、NTUの関数として特徴付けられる。別の態様において、水溶液にカラギーナンを添加したときのカラギーナン懸濁液の濁度は、少なくとも100NTUであり、少なくとも200NTU、300NTU、400NTU、500NTU、600NTU、700NTU、800NTU、900NTU、1000NTU、2000NTU、又は3000NTUを含み、少なくとも4000NTUまでである。別の態様において、均一化抗ウイルス性潤滑組成物の濁度は、25NTU未満であり、20NTU未満、15NTU未満、10NTU未満、8NTU未満、6NTU未満、5NTU未満、4NTU未満、NTU未満3、又は2NTU未満であり、1NTU未満までで、好ましくは5NTU以下であり、より好ましくは飲料水の濁度とほぼ同じであるのがよい。
【0020】
様々な態様において、カラギーナン粉末を水溶液と混合しながら合わせる工程は、(A):湿潤カラギーナン混合物を形成するのに十分な時間、カラギーナン粉末をポリオールと混合するサブ工程、及び(B)混合しながら、カラギーナン水性懸濁液を形成するのに十分な時間、湿潤カラギーナン混合物を水溶液と合わせるサブ工程;を有する。様々な態様において、湿潤カラギーナン混合物中のポリオールとカラギーナンとの重量比は、少なくとも1:10であり、少なくとも1:5、1:1、2:1、4:1、6:1、8:1、10:1、20:1、30:1、又は40:1であり、少なくとも50:1までを挙げることができる。さらなる態様において、ポリオールとカラギーナンとの重量比は、1:1~10:1である。様々な態様において、カラギーナン懸濁液を形成するための水溶液と混合する湿潤カラギーナン混合物との重量比は、3:1~60:1である。よりさらなる態様において、カラギーナン懸濁液を形成するための水溶液と混合する湿潤カラギーナン混合物との重量比は、8:1~45:1である。
【0021】
様々な態様において、湿潤カラギーナン混合物を水溶液と混合する工程は、湿潤カラギーナン混合物に含まれるカラギーナンを水溶液内に分散させる工程を有する。さらなる態様において、分散工程は、分散ミキサーを用いて、カラギーナンを水溶液中に均質化するのに十分な時間、カラギーナン粉末をポリオールと十分にせん断混合することを有し、同時に各カラギーナン多糖類内の糖残基間の分子内結合の切断を最小限に抑える。
【0022】
様々な態様において、湿潤カラギーナン混合物、カラギーナン水性懸濁液、及び/又は抗ウイルス性潤滑組成物のうちの1以上を加熱することにより、水中でのカラギーナンの可溶化及び均質化が可能になる。様々な態様において、湿潤カラギーナン混合物、カラギーナン水性懸濁液、及び/又は抗ウイルス性潤滑組成物のうちの1つ以上を、少なくとも60℃、例えば少なくとも65℃、70℃、75℃、80℃、85℃、又は90℃の温度に加熱し、任意に少なくとも95℃まで加熱する。様々な態様において、カラギーナン水性懸濁液を少なくとも70℃、最大75℃まで加熱する。
【0023】
様々な態様において、他の粉末、固体、又は液体のアジュバントを水溶液に混合する工程は、十分なせん断混合下で、組成的に均一な溶液を形成するのに十分な時間、水溶液内でアジュバントを攪拌することを有する。
【0024】
様々な態様において、ラムダ-カラギーナンを有するカラギーナン粉末は、海藻、特に紅藻であるコンドルス・クリスパス(Chondrus crispus)からの乾燥抽出物である。様々な態様において、ラムダ-カラギーナンは、海藻抽出物のうち少なくとも80重量%、例えば少なくとも85重量%、90重量%、又は95重量%有する。様々な態様において、ラムダ-カラギーナンは、海藻抽出物のうち最大100重量%、例えば最大95重量%、90重量%、又は85重量%有する。様々な態様において、ラムダ-カラギーナンは、海藻抽出物のうち90重量%有する。
【0025】
様々な態様において、カラギーナン粉末は、粉末形態のカラギーナンのみからなる。別の態様において、カラギーナン粉末は、粉末形態のカラギーナンのみから本質的になる。
【0026】
様々な態様において、カラギーナン粉末は、粉末形態のカラギーナン及び追加の粉末成分を有することができる。追加の粉末成分の非限定的な例として、pH調整剤、消毒剤、防腐剤、甘味料、及び塩を挙げることができ、これらはすべて、以下でさらに詳述する。
【0027】
様々な態様において、ラムダ-カラギーナンを有するカラギーナン粉末内で、残りのカラギーナン種は、カッパ-カラギーナン、イオタ-カラギーナン、又はカッパ-カラギーナンとイオタ-カラギーナンの組合せを有することができる。様々な態様において、カッパ-カラギーナン及びイオタ-カラギーナンのいずれか又は両方は、カラギーナン粉末のうち最大20重量%、例えばカラギーナン粉末のうち最大15重量%、10重量%、8重量%、6重量%、4重量%、2重量%、又は1重量%有することができる。様々な態様において、存在する場合、カッパ-カラギーナン及びイオタ-カラギーナンは合わせて、カラギーナン粉末のうち、少なくとも1重量%、例えば2重量%、4重量%、6重量%、8重量%、又は10重量%、及び少なくとも15重量%まで有する。様々な態様において、ラムダ-カラギーナンは、カラギーナン粉末のうち90重量%有することができ、カッパ-カラギーナンとイオタ-カラギーナンを合わせて、カラギーナン粉末のうち10重量%有する。様々な態様において、ラムダ-カラギーナンは、カラギーナン粉末のうち90重量%有することができ、カッパ-カラギーナンは、カラギーナン粉末のうち10重量%有する。様々な態様において、ラムダ-カラギーナンはカラギーナン粉末のうち90重量%有することができ、ラムダ-カラギーナンはカラギーナン粉末のうち10重量%有する。
【0028】
様々な態様において、抗ウイルス潤滑組成物は、カラギーナンを少なくとも0.001重量%、例えば少なくとも0.01重量%、0.1重量%、0.5重量%、0.75重量%、1.0重量%、1.2重量%、1.4重量%、1.6重量%、1.8重量%、2.0重量%、2.2重量%、2.4重量%、2.5重量%、又は3重量%有し、任意に少なくとも5重量%まで有する。他の態様において、抗ウイルス潤滑組成物は、カラギーナンを5重量%未満、例えば3重量%未満、2.5重量%未満、2.4重量%未満、2.2重量%未満、2重量%未満、1.8重量%未満、1.6重量%未満、1.4重量%未満、1.2重量%未満、1.0重量%未満、0.75重量%未満、0.5重量%未満、0.1重量%未満、0.01重量%未満、又は0.001重量%未満、有する。さらなる態様において、抗ウイルス潤滑組成物は、カラギーナンを0.2重量%~2.3重量%有する。よりさらなる態様において、抗ウイルス潤滑組成物は、カラギーナンを0.8重量%~2重量%有する。またさらなる態様において、抗ウイルス潤滑組成物は、カラギーナンを1.5重量%~1.7重量%有する。
【0029】
様々な態様において、カラギーナン粉末へ1つ以上のポリオールを添加することにより、粉末内のカラギーナン多糖類を部分的に解きほぐし、水溶液の添加の際に相互作用するために追加の分極性接点を利用可能にする。他の態様において、抗ウイルス性潤滑組成物内にポリオールが存在することにより、性行為中に着用者又はそのパートナーが経験する感覚、触覚性、及び/又は潤滑性を高める。さらなる態様において、少なくとも1つのポリオールは、グリセロール;プロピレングリコール(1,2-プロパンジオール);1,3-プロパンジオール;1,3-ブタンジオール;1,4-ブタンジオール;2,3-ブタンジオール;キシリトール;ソルビトール;エリスリトール;イソマルト(isomalt);ラクチトール;マルチトール;マンニトール;ポリエチレングリコール;及びポリプロピレングリコール;並びにそれらの組合せをからなる群から選択することができる。よりさらなる態様において、抗ウイルス性潤滑組成物は、抗ウイルス性潤滑組成物のうちポリオールを50重量%未満、例えば25重量%未満、15重量%未満、10重量%未満、9重量%未満、8重量%未満、7重量%未満、6重量%未満、5重量%未満、4重量%未満、3重量%未満、2重量%未満、1重量%未満、0.5重量%未満、又は0.1重量%未満有する。他の態様において、抗ウイルス潤滑組成物は、ポリオールを少なくとも0.1重量%、例えばポリオールを少なくとも0.5重量%、1重量%、2重量%、3重量%、4重量%、5重量%、6重量%、7重量%、8重量%、9重量%、10重量%、15重量%、25重量%、又は35重量%有する。またさらなる態様において、抗ウイルス潤滑組成物は、ポリオールを10重量%未満有する。よりまたさらなる態様において、抗ウイルス性潤滑組成物は、ポリオールを0.5重量%~5重量%有する。他のなおさらなる態様において、抗ウイルス潤滑組成物は、ポリオールを4重量%~4.5重量%有する。ある態様において、ポリオールはプロピレングリコールである。ある態様において、ポリオールは1,3-プロパンジオールである。
【0030】
様々な態様において、抗ウイルス潤滑組成物は、粘度が10,000cP未満、例えば8,000cP未満、6,000cP未満、5,000cP未満、4,000cP未満、3,000cP未満、2,000cP未満又は1,000cP未満である注入可能な組成物である。他の態様において、抗ウイルス潤滑組成物は、粘度が少なくとも500cP、例えば少なくとも1,000cP、2,000cP、3,000cP、4,000cP、5,000cP、6,0000cP、又は8,000cPである。さらなる態様において、抗ウイルス潤滑組成物は、粘度が500cP~8,000cP、より特に1,000cP~4,000cP、さらにより特に2,000cP~3,000cPである。ある態様において、抗ウイルス潤滑組成物は、粘度が1,500cP~2,500cPである。ある態様において、抗ウイルス潤滑組成物は、粘度が2,000cPである。
【0031】
様々な態様において、抗ウイルス性潤滑組成物は、開いた容器から注ぐことを可能にする粘度を有するが、適用時に傾斜面、傾いた面、曲面、又は反形曲面に留まる。表面の非限定的な例として、子宮頸部、外陰部、膣、陰核、陰茎、肛門、鼻、鼻腔、口、及び喉などの皮膚又は上皮組織を挙げることができる。抗ウイルス性潤滑組成物を適用できる表面の他の非限定的な例として、大人のおもちゃ(sex toy)、バイブレータ、リング、又はビーズなどの性的アクセサリー又はデバイス、又はスワブ(swab);細長いスティック又はロッド(elongate stick or rod)、ウェラブルインサート(wearable insert)、インジェクタ(injector)、シリンジ(syringe)、 カニューレ、ピペットなどの内部アプリケータを挙げることができる。
【0032】
様々な態様において、性行為中に一般的に適用されるように、適用される抗ウイルス潤滑組成物を含む表面に1つ以上のせん断力を加えるか、又はその表面を使用すると、抗ウイルス潤滑組成物の粘度は非ニュートン様式で減少する。さらなる態様において、粘度は、5,000cP未満、例えば4,000cP未満、3,000cP未満、2,500cP未満、2,000cP未満、1,500cP未満、1,000cP未満、800cP未満、600cP未満、500cP未満、400cP未満、又は300cP未満に低下し、及び任意に200cP未満に低下する。他の態様において、抗ウイルス性潤滑組成物の潤滑性は、少なくとも15秒間、例えば少なくとも30秒間、1分間、2分間、3分間、4分間、5分間、10分間、15分間、20分間、30分間、又は45分間、任意に少なくとも1時間まで連続的に剪断力を加えた際に保持される。
【0033】
様々な態様において、抗ウイルス性潤滑組成物内のカラギーナンの総濃度を増加させると、組成物の粘度が指数関数的に増加する。さらなる態様において、カラギーナンのカッパ、イオタ、及びラムダ型の相対濃度は、抗ウイルス潤滑組成物の粘度の指数関数的成長速度に異なる影響を与える。よりさらなる態様において、抗ウイルス性潤滑組成物は、ラムダ-カラギーナンを90%及びカッパ-カラギーナン又はイオタ-カラギーナンの一方又は双方を10%有する。さらに別の態様において、抗ウイルス性潤滑組成物は、ラムダ-カラギーナンを90%及びカッパ-カラギーナンを10%有する。よりまたさらなる態様において、抗ウイルス性潤滑組成物は、ラムダ-カラギーナンを90%及びイオタ-カラギーナンを10%有する。
【0034】
様々な態様において、混合ローターのタイプ及び混合速度を最適化して、得られる抗ウイルス潤滑組成物の粘度を制御することができる。ある態様において、混合は、カラギーナン含有組成物を均質化するのに十分なせん断条件下で行う一方、各カラギーナン多糖類の長さを維持し、組成物を皮膚又は上皮組織に適用する前に、特に性行為の前又は同時に、その潤滑性を維持することができる。
【0035】
様々な態様において、撹拌工程又は分散工程を含む本発明の混合工程を実施するための装置は、意図された用途のための任意の従来の混合装置を有することができる。混合装置の非限定的な一例は、パドルミキサーである。パドルミキサーの一例は、少なくとも1つの折り畳みインペラーブレードを備えるミキサーである。パドルミキサーの特定の例の1つは、2つの折り畳み式インペラーブレードを備えるMixer Direct R-AD665工業用ガロンパドルミキサーである。よりさらなる態様において、パドルミキサーは、抗ウイルス性潤滑組成物を形成するための混合工程のそれぞれに使用される。他のよりさらなる態様において、各混合工程は、500回転/分(RPM)以下の回転速度で動作する低速ミキサーで実施される。またさらなる態様において、水溶液内のカラギーナンを均質化した後の抗ウイルス性潤滑組成物の混合は、250RPM以下の速度で行うことができる。
【0036】
様々な態様において、本発明の方法によって形成される抗ウイルス潤滑組成物は、皮膚又は上皮組織、特に膣又は直腸内の上皮組織が健康な血漿水電解質バランスを維持することを可能にする重量モル浸透圧濃度を有する。さらなる態様において、抗ウイルス性潤滑組成物の重量モル浸透圧濃度は、1200mOsmol/kg未満、例えば1000mOsmol/kg未満、900mOsmol/kg未満、800mOsmol/kg未満、700mOsmol/kg未満、600mOsmol/kg未満、500mOsmol/kg未満、400mOsmol/kg未満、300mOsmol/kg未満、又は200mOsmol/kg未満であり、任意に100mOsmol/kg未満である。よりさらなる態様において、抗ウイルス性潤滑組成物の重量モル浸透圧濃度は、650mOsmol/kg~800mOsmol/kgである。他のよりさらなる態様において、抗ウイルス潤滑組成物の重量モル浸透圧濃度は、ヒト精液の通常の重量モル浸透圧濃度と等浸透圧であり、250mOsmol/kg~380mOsmol/kgである。またさらなる態様において、抗ウイルス潤滑組成物の重量モル浸透圧濃度は、膣分泌物の通常の重量モル浸透圧濃度と等浸透圧であり、260mOsmol/kg~290mOsmol/kgである。
【0037】
様々な態様において、本発明の抗ウイルス潤滑組成物は、酸、特に有機酸、より特にクエン酸を有する1つ以上のpH調整剤をさらに有することができる。他の態様において、1つ以上のpH調整剤は、弱酸及びその共役塩基を含み、緩衝液を生成することができる。非限定的な一例として、抗ウイルス性潤滑組成物へのクエン酸塩の添加は、クエン酸及びクエン酸ナトリウム又はクエン酸マグネシウムなどのクエン酸塩の双方を添加することにより達成することができる。
【0038】
様々な態様において、抗ウイルス性潤滑組成物のpHは、9.0未満、例えば8.0未満、7.0未満、6.5未満、6.0未満、5.5未満、5.0未満、4.5未満、又は4.0未満であり、場合により3.5未満である。他のさらなる態様において、抗ウイルス性潤滑組成物のpHは、少なくとも3.5、例えば少なくとも4.0、4.5、5.0、5.5、6.0、6.5、7.0又は8.0であり、場合により少なくとも9.0である。よりさらなる態様において、抗ウイルス性潤滑組成物のpHは5.5~7.0である。またさらなる態様において、抗ウイルス性潤滑組成物のpHは、膣に直接適用されるか、又は性行為中に膣に接触するように最適化することができる。そのような態様において、抗ウイルス性潤滑組成物のpHは3.5~5.5であり、特に4.5である。
【0039】
様々な態様において、抗ウイルス性潤滑組成物のpHは、カラギーナンが均質化され、得られた抗ウイルス性潤滑性組成物が冷却された後に調整される。さらなる態様において、抗ウイルス性潤滑組成物は、50℃未満、例えば45℃未満、40℃未満、35℃未満、30℃未満、又は25℃未満、任意に20℃未満に冷却することができる。よりさらなる態様において、組成物のpHを調整する前に、抗ウイルス性潤滑組成物を30℃未満に冷却する。
【0040】
様々な態様において、pH調整された抗ウイルス潤滑組成物中の1以上のpH調整剤の濃度は、抗ウイルス潤滑組成物のうち1重量%未満、有し、例えば抗ウイルス性潤滑組成物のうち0.5重量%未満、0.25重量%未満、0.1重量%未満、又は0.05重量%未満、任意に0.01重量%未満、有する。さらなる態様において、pH調整された抗ウイルス潤滑組成物中の1以上のpH調整剤の濃度は、0.1重量%以下である。よりさらなる態様において、pH調整された抗ウイルス潤滑組成物中の1以上のpH調整剤の重量は0.05重量%以下である。pH調整剤は、ポリオールが加えられるカラギーナン粉末の成分として組成物に、カラギーナン懸濁液に、又はカラギーナンが均質化された後に抗ウイルス性潤滑組成物に加えることができる。
【0041】
様々な態様において、抗ウイルス性潤滑組成物を形成する方法は、1つ以上の甘味料及び/又は1つ以上の防腐剤を、カラギーナン粉末、カラギーナン水性懸濁液、又は冷却された均一な水溶液のいずれかに混合する工程をさらに有することができる。様々な態様において、1つ以上の甘味料がカラギーナン水性懸濁液に添加される。様々な態様において、1つ以上の防腐剤が、1つ以上のpH調整剤と共に均一な水溶液に添加される。様々な態様において、上記の甘味料及び防腐剤、ならびに塩及び/又は芳香剤などの追加成分のそれぞれを抗ウイルス潤滑剤組成物内に含めて、その抗ウイルス活性を補い、皮膚又は上皮組織への適用を助け、及び/又は性行為の際のその性能を高めることができる。
【0042】
様々な態様において、本発明の抗ウイルス潤滑組成物は、抗ウイルス潤滑組成物のうち1つ以上の甘味料、特にサッカリンを0.01重量%~1重量%、特に抗ウイルス潤滑組成物のうち0.1重量%~0.5重量%、さらに有することができる。別の態様において、抗ウイルス潤滑組成物中のサッカリンの濃度は最大0.5重量%である。別の態様において、抗ウイルス潤滑組成物中のサッカリンの濃度は0.125重量%である。
【0043】
様々な態様において、サッカリンは、濃縮原液からのアリコートとして、カラギーナン混合物又はカラギーナン懸濁液に添加することができる。さらなる態様において、カラギーナン混合物又は抗ウイルス潤滑組成物に添加されるサッカリン原液の総重量は、完成した抗ウイルス潤滑組成物のうち1重量%~10重量%、有する。よりさらなる態様において、サッカリン原液は、水中2.5重量%のサッカリンである。またさらなる態様において、カラギーナン混合物に添加される2.5重量%サッカリン原液の量は、抗ウイルス潤滑組成物の5重量%に等しく、抗ウイルス潤滑組成物中のサッカリンの最終濃度は0.125重量%である。よりまたさらなる態様において、サッカリンはサッカリンナトリウムとして提供される。
【0044】
様々な態様において、本発明の抗ウイルス性潤滑組成物は、1以上の防腐剤、特に2-フェノキシルエタノール、クロルフェネシン、及びデヒドロ酢酸ナトリウム、並びにそれらの組合せからなる群から選択される1以上の防腐剤を0.01重量%~1.0重量%さらに有することができる。
【0045】
様々な態様において、本発明の抗ウイルス性潤滑組成物は、組成物に心地よい芳香効果を与えるように設計された1つ以上の芳香剤を任意にさらに有することができる。芳香剤は、精油、又は匂いを与えることができる精油内の成分化合物を含むことができる。そのような芳香剤によって提供され得る芳香の非限定的な例として、柑橘類、レモン、ベリー、又はペパーミントの芳香を挙げることができる。ある態様において、芳香剤は、抗ウイルス潤滑組成物の0.01重量%~5重量%、特に抗ウイルス潤滑組成物の0.1重量%~2.5重量%、有することができる。
【0046】
様々な態様において、本発明の抗ウイルス性潤滑組成物は、塩、特にナトリウム塩又は亜鉛塩、より特に亜鉛塩をさらに有することができ、それを用いて組成物のイオン強度を増加させることができる一方、組成物のレオロジー特性又は抗ウイルス活性のいずれか又は双方を支持するか又は補完することができる。塩は、ポリオールが添加されるカラギーナン粉末の成分として組成物に、カラギーナン懸濁液に、又はカラギーナンが均質化された後に抗ウイルス潤滑組成物に添加することができる。
【0047】
様々な態様において、本発明の均質化抗ウイルス潤滑組成物を形成する方法は、12時間未満、例えば10時間未満、8時間未満、6時間未満、4時間未満、又は3時間未満、及び任意に2.5時間未満で完了することができる。さらなる態様において、本発明の均質化抗ウイルス潤滑組成物を形成する方法は、2~3時間で完了する。
【0048】
別の態様において、抗ウイルス潤滑組成物を形成する方法は、(a)カラギーナンを有するカラギーナン粉末を提供する工程であって、該カラギーナンがラムダ-カラギーナンを90重量%及びカッパ-カラギーナンを10重量%有する工程;(b)混合しながら、カラギーナン粉末をプロピレングリコールを含む水溶液と合わせて、カラギーナン水性懸濁液を形成する工程;(c)1つ以上の甘味料をカラギーナン水性懸濁液に添加する工程;(d)カラギーナン水性懸濁液を少なくとも70℃から75℃までの温度まで加熱する工程;(e)均一な水溶液を形成するのに十分な時間、加熱したカラギーナン水性懸濁液を混合する工程;(f)均一な水溶液を30℃未満の温度に冷却する工程;(g)抗ウイルス潤滑組成物を3.5~7.0のpHに調整するのに十分な、1つ以上のpH調整剤及び1つ以上の防腐剤を冷却均一水溶液に混合し、それによって抗ウイルス潤滑組成物を形成する工程;を有することができる。別の態様において、上記方法によって形成される抗ウイルス性潤滑組成物は、カラギーナンを1.5重量%~1.7重量%、プロピレングリコールを4.0重量%~4.5重量%、1つ以上の甘味料を0.5重量%まで、1つ以上の防腐剤を1重量%まで、及び1つ以上のpH調整剤を0.01重量%~1重量%、バランスとして水から本質的になることができる。さらなる態様において、上記方法によって形成される抗ウイルス性潤滑組成物は、半透明とすることができ、粘度が少なくとも2,000cP、最大3,000cPであり、及び濁度が25NTU以下、好ましくは5NTU以下とすることができる。よりさらなる態様において、上記方法によって形成される抗ウイルス性潤滑組成物は、重量モル浸透圧濃度を少なくとも650mOsmol/kg~850mOsmol/kgまでの範囲とすることができる。またさらなる態様において、上記方法によって形成される抗ウイルス潤滑組成物のpHは3.5~5.5である。他のまたさらなる態様において、上記方法によって形成される抗ウイルス性潤滑組成物のpHは5.5~7.0である。よりまたさらなる態様において、上記方法によって形成される抗ウイルス潤滑組成物は、HPVの伝染を低減するか、阻害するか、又は改善するのに有効である。他のよりまたさらなる態様において、上記方法によって形成される抗ウイルス潤滑組成物は、COVID-19の伝染を低減するか、阻害するか、又は改善するのに有効である。
【0049】
別の態様において、本発明の抗ウイルス性潤滑組成物を形成する方法は、(a)カラギーナンを有するカラギーナン粉末を提供する工程であって、該カラギーナンがラムダ-カラギーナンを90重量%及びカッパ-カラギーナンを10重量%まで有する工程;(b)カラギーナン粉末をポリオールと混合する工程であって、カラギーナン粉末とポリオールとを、湿潤カラギーナン混合物を形成するのに十分な時間攪拌又は攪拌することを含み、グリコールとカラギーナンとの重量比が1:1~10:1である工程;(c)濁ったカラギーナン懸濁液を形成するのに十分な時間、湿潤カラギーナン混合物をせん断混合下で水溶液に分散させる工程であって、水溶液とカラギーナンとの重量比が45:1~8:1である工程;(d)濁ったカラギーナン懸濁液を撹拌しながら、濁ったカラギーナン懸濁液に1つ以上の甘味料を添加する工程であって、甘味料が、完成した抗ウイルス潤滑組成物の0.5重量%までを有する工程;(e)濁ったカラギーナン懸濁液を、100分までを含む十分な時間、せん断混合下で、70℃の温度まで加熱し、濁ったカラギーナン懸濁液を清澄化された均一な溶液に変換し、それによって抗ウイルス潤滑組成物を形成する工程;(f)抗ウイルス性潤滑組成物の温度が30℃未満になるまで、均質化抗ウイルス性潤滑性組成物を冷却する工程;(g)抗ウイルス性潤滑組成物をpH3.5~7.0に調整するのに十分な重量で、1つ以上のpH調整剤を撹拌下で冷却した抗ウイルス性潤滑性組成物に添加する工程;(h)抗ウイルス潤滑組成物の1重量%までの1つ以上の防腐剤を濁ったカラギーナン懸濁液又は冷却した抗ウイルス潤滑組成物に撹拌下で添加する工程;を有することができ、(i)抗ウイルス潤滑組成物は、カラギーナンを0.2重量%~2.3重量%、及びポリオールを10重量%まで有し、(ii)抗ウイルス性潤滑組成物は、粘度が5,000cP未満であり;(iii)抗ウイルス潤滑組成物は半透明であり、(iv)抗ウイルス潤滑組成物は、ヒトパピローマウイルス(HPV)の伝染を低減するか、阻害するか、又は改善するのに有効である。さらなる態様において、抗ウイルス性潤滑組成物は、カラギーナンを1.5重量%~1.7重量%;1,2-プロパンジオールを4重量%~4.5重量%有し;粘度が2,000cP~3,000cPであり;重量モル浸透圧濃度が650mOsmol/kg~850mOsmol/kgであり;pHが6.25~6.75である。よりさらなる態様において、カラギーナンは、ラムダ-カラギーナンを90重量%及びカッパ-カラギーナンを約10重量%有する。よりまたさらなる態様において、上記方法によって形成される抗ウイルス潤滑組成物は、HPVの伝染を低減するか、阻害するか、又は改善するのに有効である。他のよりまたさらなる態様において、上記方法によって形成される抗ウイルス潤滑組成物は、COVID-19の伝染を低減するか、阻害するか、又は改善するのに有効である。
【0050】
他の面において、本発明はまた、ウイルス感染の伝染、症状、又は影響を低減するか、阻害するか、又は改善する方法であって、(a)上記の抗ウイルス潤滑組成物のいずれかを提供する工程;(b)抗ウイルス性潤滑組成物を、1人以上のパートナーの皮膚又は上皮組織と接触させる工程;を有する方法を記載する。抗ウイルス潤滑組成物を適用できる皮膚又は上皮組織の非限定的な例として、皮膚、子宮頸部、陰門、膣、陰核、陰茎、肛門、鼻、鼻腔、口、及び喉を挙げることができる。別の態様において、抗ウイルス潤滑組成物は、ウイルス感染が存在することが知られている内部又は外部の任意の皮膚又は上皮組織に適用することができる。
【0051】
さまざまな態様において、ウイルス感染の伝染、症状、又は影響を低減するか、阻害するか、又は改善する方法は、(a)1つ以上の皮膚接触面を有する基材を提供する工程であって、該基材が皮膚又は上皮組織に接触するように、及び/又は1つ以上の体腔に挿入するように構成されている工程;(b)基材の1つ以上の皮膚接触面を抗ウイルス性潤滑組成物で潤滑化し、それによって潤滑化基材を製造する工程;(c)潤滑化基材を皮膚又は上皮組織と接触させる工程;及び(d)抗ウイルス性潤滑組成物を潤滑化基材から皮膚又は上皮組織に移す工程;を有することができる。
【0052】
様々な態様において、性行為に携わる2人以上のパートナー間のHPV、HIV、及びHSVを含むがこれらに限定されない性感染ウイルスの伝染を低減するか、阻害するか、又は改善する方法は、(a)上記の抗ウイルス性潤滑組成物のいずれかを提供する工程;及び(b)抗ウイルス性潤滑性組成物を1人以上のパートナーの皮膚又は上皮組織と接触させる工程であって、皮膚又は上皮組織が少なくとも膣、肛門、口、陰茎のいずれかである工程;を有することができる。さらなる態様において、少なくとも1人のパートナーが男性であり、少なくとも1人のパートナーが女性である。他のさらなる態様において、少なくとも2人のパートナーが男性である。また別のさらなる態様において、少なくとも2人のパートナーが女性である。さらに別の態様において、男性又は女性の任意の組合せで構成される3人以上の性的パートナーである。
【0053】
様々な態様において、性行為に携わるパートナー間で、HPV、HIV、及びHSVを含むがこれらに限定されない性感染ウイルスの伝染を低減するか、阻害するか、改善するか、又は防止する方法は、(a)1つ以上の皮膚接触面を含む基材を提供する工程であって、基材は、膣、口、又は肛門からなる群から選択される1つ又は複数の体腔に挿入するように構成されている工程;(b)基材の1つ以上の皮膚接触面を抗ウイルス性潤滑組成物で潤滑化し、それによって潤滑化基材を製造する工程;(c)潤滑化基材を、1人以上のパートナーの膣、肛門、口、又は陰茎の少なくとも1つの上又は内部に位置する皮膚又は上皮組織と接触させる工程;及び(d)抗ウイルス性潤滑組成物を潤滑化基材から皮膚又は上皮組織に移す工程;を有することができる。
【0054】
様々な態様において、基材はコンドームである。さらなる態様において、コンドームはラテックスを有する。他のさらなる態様において、コンドームは、ポリウレタン及び/又は他の合成材料を有する。また他のさらなる態様において、コンドームは油性個人用潤滑剤と適合しない。さらに別の態様において、コンドームは、男性用コンドーム及び女性用コンドームからなる群から選択される。
【0055】
コンドームが基材である様々な態様において、性行為に携わるパートナー間のHPV、HIV、及びHSVを含むがこれらに限定されない性感染ウイルスの伝染を低減するか、阻害するか、改善するか、又は防止する方法は、コンドームの皮膚接触面を潤滑化する工程;1人以上のパートナーの口、膣、又は肛門内の皮膚又は上皮組織を、コンドームの潤滑化皮膚接触面と接触させる工程;及びコンドームの潤滑化皮膚接触面から抗ウイルス性潤滑組成物を皮膚又は上皮組織に移す工程をさらに有する。
【0056】
コンドームが基材である様々な態様において、性行為に携わるパートナー間のHPV、HIV、及びHSVを含むがこれらに限定されない性感染ウイルスの伝染を低減するか、阻害するか、改善するか、又は防止する方法は、一方のパートナーの指又は陰茎にコンドームを装着する工程;コンドームの外面を抗ウイルス性潤滑組成物で潤滑化する工程;コンドームの潤滑化外面を用いて、1人以上の追加のパートナーの口、膣、又は肛門内の皮膚又は上皮組織に接触する工程;及びコンドームの潤滑化外面から皮膚又は上皮組織に抗ウイルス潤滑組成物を移す工程;をさらに有する。
【0057】
コンドームが基材である様々な態様において、性行為に携わるパートナー間のHPV、HIV、及びHSVを含むがこれらに限定されない性感染症ウイルスの伝染を低減するか、阻害するか、改善するか、又は防止するための方法は、コンドームを潤滑化する工程;潤滑化コンドームをパッケージ内に密封する工程;潤滑化コンドームをパッケージ内に保管する工程;パッケージから潤滑化コンドームを取り出す工程;性的パートナーの1人の指又は陰茎に潤滑化コンドームを適用する工程;潤滑化コンドームを用いて、1人以上の追加のパートナーの口、膣、又は肛門内の皮膚又は上皮組織に接触する工程;及び抗ウイルス性潤滑組成物を潤滑化コンドームから皮膚又は上皮組織に移す工程をさらに有する。
【0058】
様々な態様において、基材は、大人のおもちゃ、ディルド(dildo)、バイブレータ、リング、又はビーズを含むがこれらに限定されない性的付属品デバイスである。さらなる態様において、この方法は、性的付属品デバイスをパッケージ内に密封する工程、潤滑化性的付属品デバイスをパッケージング内に保管する工程、及び1人以上のパートナーの皮膚又は上皮組織に接触する前に潤滑化性的付属品デバイスをパッケージから取り出す工程をさらに有する。抗ウイルス潤滑組成物は、典型的には1人以上の性的パートナーの皮膚と接触する前に、特に膣、肛門、又は口に挿入する前に、性的付属品デバイスの任意の皮膚接触面に適用することができる。
【0059】
様々な態様において、本発明の抗ウイルス性潤滑組成物のいずれかによって潤滑化したコンドームを、潤滑化していない性的付属品デバイスに適用し、性行為中に使用するための潤滑性を提供することができる。他の態様において、潤滑化していないコンドームを、本発明の抗ウイルス潤滑組成物のいずれかによって潤滑化した性的付属品デバイスに適用することができる。さらに他の態様において、潤滑化していないコンドームを潤滑化していない性的付属品装置に適用し、その後、本発明の抗ウイルス潤滑組成物のいずれかによって潤滑化することができる。
【0060】
様々な態様において、基材は、膣、直腸、口、又は鼻に挿入するように構成する内部アプリケータであり、内部アプリケータは、スワブ、細長いスティック又はロッド、ウェアラブルデバイス、インジェクタ、シリンジ、 カニューレ、又はピペットからなる群から選択される。さらなる態様において、内部アプリケータは、人の体腔内、特に膣、鼻、口、又は直腸内の上皮組織に接触するように構成される皮膚接触面を備える。他のさらなる態様において、内部アプリケータは、抗ウイルス潤滑組成物をヒトの体腔、特に膣、鼻、口、又は直腸内の上皮組織に移す前に、抗ウイルス潤滑組成物を収容又は含有するように構成する容器を有する。
【0061】
様々な態様において、基材は、喉を含む鼻腔又は口腔内の上皮組織に接触するために、口又は鼻に挿入するのに十分な長さのスワブである。様々な態様において、潤滑化スワブを鼻又は口に挿入して、鼻腔又は口腔内の上皮組織に接触させ、非限定的な例としてのSARS、COVID-19、中東呼吸器症候群(MERS)、及びアデノウイルスなどのウイルス性呼吸器感染症の伝染、症状、又は影響を低減するか、阻害するか、又は改善することができる。
【0062】
本発明はまた、性行為に携わるパートナー間のHPV、HIV、及びHSVを含むがこれらに限定されない性感染ウイルスの伝染を低減するか、阻害するか、又は改善するためのキットを提供し、該キットは、上述の抗ウイルス潤滑組成物、及び抗ウイルス潤滑組成物を1人以上のパートナーの皮膚と接触させる、上記に開示された方法のいずれかを説明する説明書を有する。キットは、コンドーム、性的付属品デバイス、及び/又は内部アプリケータを含む、上記の基材のいずれかをさらに有することができる。
本発明のこれら及び他の態様は、以下の詳細な説明から当業者には明らかであろう。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【
図1】
図1は、カラギーナンの濃度の関数としての抗ウイルス潤滑組成物の粘度のプロットを示す。
【
図2】
図2は、1,2-プロパンジオール濃度の関数としての抗ウイルス潤滑組成物の重量モル浸透圧濃度のプロットを示す。
【発明の詳細な説明】
【0064】
例示的な態様を参照し、それらを説明するために特定の用語を使用しているが、本発明の範囲を限定する意図はないことを理解されたい。本明細書に記載された方法のさらなる修正、ならびに記載された本発明の原理の追加の適用は、関連技術の当業者であり、本開示を所有する者に想起されるであろうが、本発明の範囲内であるとみなされるべきである。さらに、別段の定義がない限り、本明細書で使用されるすべての技術用語及び科学用語は、この特定の発明の態様が関係する当業者によって一般に理解されるのと同じ意味を有する。使用される用語は、それらの態様を説明することのみを目的としており、また、そのように指定されていない限り、用語は限定的なものではない。見出しは、便宜上のみ提供されており、本発明を決して限定するものと解釈すべきではない。さらに、明細書及び特許請求の範囲を通じて、所与の化学式又は名称は、すべての光学異性体及び立体異性体、ならびにそのような異性体及び混合物が存在するラセミ混合物を包含するものとする。
【0065】
本開示は、コロナウイルス科及びパピローマウイルス科の一方又は両方を含むがこれらに限定されない、いくつかの異なる分類学的科(taxonomic family)に対して抗ウイルス活性を有し、性行為中に個人用潤滑剤として利用できる水性組成物を含む。抗ウイルス性潤滑組成物は、ウイルス感染が体の内側又は外側に存在することが知られている皮膚又は上皮組織、又は性行為中に一般的に潤滑される、子宮頸部、外陰部、膣、陰核、陰茎、肛門、鼻、鼻腔、口、喉を含むがこれらに限定されない領域に接触することができる。抗ウイルス性潤滑組成物は、男性と女性、男性と男性、女性と女性の性的パートナーシップを含む性的パートナー間のヒトパピローマウイルス(HPV)、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、又は単純ヘルペスウイルス(HSV)を含む性感染症ウイルスの伝染及び/又は持続を低減するか、阻害するか、改善するか、又は防止することができる。
【0066】
ラムダ-カラギーナン含有組成物
本発明の抗ウイルス性潤滑組成物の抗ウイルス活性は、カラギーナン、特にラムダ-カラギーナンの存在に起因する。カラギーナンは、広範囲の海藻類、特に米国の大西洋岸で見られる紅海藻であるコンドルス・クリスパスから抽出される、天然に存在する硫酸化多糖類の広いファミリーの総称である。抽出したカラギーナンは通常、硫酸化含有量、各多糖内の硫酸化位置、及び酸/塩基特性の点で異なる10の型のいずれかで取得できる。カッパ-カラギーナン、イオタ-カラギーナン、ラムダ-カラギーナンの3つの型は、食品及び製薬業界で使用される組成物内で特に一般的である。カッパ-カラギーナン、イオタ-カラギーナン、及びラムダ-カラギーナンの構造を以下に示す。
【0067】
【0068】
上記のように、カッパ-カラギーナン、イオタ-カラギーナン、及びラムダ-カラギーナンはガラクトース単位の繰り返しを含む。特に、カッパ-カラギーナン及びイオタ-カラギーナンは、D-ガラクトース及び3,6-アンヒドロ-ガラクトース(3,6-AG)の交互単位を有するが、ラムダ-カラギーナンは3,6-AGを有しない。各型は、二糖あたりの硫酸基の数が異なり、カッパ-カラギーナン、イオタ-カラギーナン、及びラムダ-カラギーナンは、交互単位ごとにそれぞれ1つ、2つ、又は3つの硫酸基を有する。多糖類内の硫酸基の数が増加すると、特定の型のカラギーナンは、ゲルを生成する能力が低下する。同様に、カッパ型、イオタ型、ラムダ型のカラギーナンはすべて、水溶液に可溶化する能力がある。ただし、特定の型が可溶化する温度は、相対的な硫酸塩含有量の関数でもある。したがって、ラムダ-カラギーナンの純粋なサンプルは、カッパ-カラギーナンの純粋なサンプルよりも低い温度で水中に可溶化することができる。
【0069】
カラギーナンは、増粘剤及び/又はゲル化剤として、食品及び製薬業界で一般的に使用されている。カラギーナンが水性組成物内で水和されると、それらは膨潤し始め、全カラギーナン濃度の関数として指数関数的に組成物の粘度を上昇させる。ただし、指数関数的増加率は、カラギーナンの各形態内の硫酸塩含有量に反比例するため、カッパ-カラギーナンは、それ自体がラムダ-カラギーナンよりも粘度に大きな影響を与えるイオタ-カラギーナンよりも粘度の指数関数的増加を引き起こす。なお、カッパ-カラギーナン及びイオタ-カラギーナンを有する加熱した組成物は、特に陽イオンの存在下で、多糖類が二重らせん準結晶ネットワークを形成するため、冷却時にゲルネットワークを形成することができる。しかしながら、組成物内にラムダ-カラギーナンが存在すると、ゲル形成が部分的に阻害され、ラムダ-カラギーナンが最も豊富な組成物では、ゲル形成が完全に妨げられる。特定の理論に拘束されるわけではないが、ラムダ-カラギーナン内の3,6-AG基の欠如がゲル阻害を促進すると考えられている。
【0070】
組成物の粘度に対するカラギーナンのカッパ、イオタ、ラムダ型の相対的な効果は知られているが、粘度の指数関数的成長率は一般に、ある組成物から別の組成物へと予測することはできない。特にカッパ、イオタ、及びラムダ-カラギーナンの比が組成によって異なるとき、予測することができない。また、カラギーナン及び他の成分を加工する方法も、得られる組成物の粘度に劇的な影響を与える。最終製品の粘度に関連する要因として、加熱温度、せん断条件、ローターのタイプ、混合速度、混合時間、及び組成物にも追加される追加の成分を挙げることができるが、これらに限定されない。その結果、全カラギーナン濃度の関数としての粘度は、カラギーナンの各型の比率が一定であり、それ以外の処理ステップは同じである場合にのみモデル化することができる。
【0071】
カッパ型及びイオタ型のカラギーナンを主に含むカラギーナン組成物が組成物又はゲルを増粘するのに有用である一方、それらはHPVに対して不活性である。一方、ラムダ-カラギーナン型は、インビトロ(上記Buck, et al.を参照)及びインビボの双方でHPVに対して活性であることが示されている。同様に、いくつかの特許及び特許公開公報が、抗微生物又は抗ウイルス化合物としての医薬品内でのカラギーナンの使用について議論している(米国特許第5,208,031号及び同第8,367,098号、並びに米国特許公開第2005/0171053号、同第2005/0239742号、同第2005/0261240号、同第2006/0127340号、同第2008/0227749号、同第2009/0088405号、及び同第2011/0229446号を参照のこと、これらの開示は参照によりその全体が組み込まれる)。特定の理論に縛られるものではないが、ラムダ-カラギーナンは、多糖類がウイルスを引き寄せ、ウイルスのキャプシドと相互作用し、ウイルスの複製を停止又は防止し、さらにウイルスの活動を阻害する「錠と鍵」タイプのメカニズムを利用する。これにより、ウイルス、特に性的に活発な男性と女性のHPVの伝染と持続を大幅に減少することとなる。
【0072】
ある研究において、性行為中にHPVにかかるか及び/又は感染する危険性が高い性的に活発な女性に、ラムダ-カラギーナン含有ゲルが与えられた(Marais, D., et al., (2011) Antiviral Therapy 16: 1219-1226、及び米国特許第 8,367,098号を参照のこと。これらの開示は、その全体が参照として組み込まれる)。試験した組成物Carraguard(登録商標)は、カッパ-カラギーナン及びラムダ-カラギーナンの混合物を3重量%有し、粘度が30,000~40,000cPである。研究参加者は、膣性交と併せてゲルを塗布するように指示された。3年間の研究にわたって、著者らは、「ゲルの使用に対する遵守率が比較的高い」女性のうち、ラムダ-カラギーナン含有ゲルを与えられた女性は、HPV陽性に分類される可能性がわずか62%であると判断した。
【0073】
しかしながら、上記のように、(任意の型の)カラギーナンは、組成物の粘度を指数関数的に増加させるため、歴史的に増粘剤として使用されてきたが、個人用潤滑剤配合物では一般に好ましくない。特に、カッパ-カラギーナン及び/又は大量のイオタ-カラギーナンを含むゲル組成物は典型的に非常に粘稠であり、皮膚又は上皮組織に適用されるとすぐに乾燥する傾向があり、粘着性の残留物を形成し、潤滑性を失う原因となる。その結果、米国特許第8,367,098号の関連組成物と共に、Marais, et al.で研究されたものを含む、最も局所的なカラギーナン含有組成物は典型的に、ゲル又はクリームである。これらのカラギーナン含有組成物の粘度を文脈に入れるために、一般的な組成物のいくつかと比較したCarraguard(登録商標)の粘度を以下の表1に示す。
【0074】
【0075】
表1に示すように、Maraisの研究で利用されたCarraguard(登録商標)ゲルの粘度は、チョコレートの粘度とケチャップの粘度との間の範囲にある。チョコレートとケチャップはどちらもせん断減粘特性を有し、特にチョコレートは性行為中に利用できる食用組成物を有することができるが、両方の組成物の粘度が高いため、個人的及び性的潤滑剤としての機能を低下させる。
【0076】
対照的に、個人用潤滑剤として一般的に使用され、カラギーナンを含まない組成物は典型的に、Maraisの研究で使用され’098特許に記載されているゲルよりも粘性が5~10倍低い。理想的には、個人用潤滑剤組成物は、容器から注ぐか、軽く絞ることができ、塗布後に皮膚に残り、性行為中などの応力に応答するずり減粘(shear thinning)を生じるような粘度を有すべきである。個人用潤滑剤に一般的に見られる材料として、オイル、特にシリコーンオイル、ガム、セルロース、グリセリン、ポリオール類、グリコール類、グリカン類、ポリクオテミウム類、及びその他のポリマーを挙げることができるがこれらに限定されない。しかしながら、これらの潤滑剤は性行為中に心地よい結果をもたらすが、HPVに対する保護は提供しない。
【0077】
別のヒトのインビボ研究(上記Magnan, et al.を参照のこと)は、抗HPV活性のためのラムダ-カラギーナンを含む粘性の低い個人用組成物の使用を調査した。上記Maraisの研究と同様に、女性はプラセボ又はラムダ-カラギーナンを有する市販の組成物、Divine 9(登録商標)を無作為に割り当てられ、性行為と併せて組成物を適用するように言われた。試験組成物は、ラムダ-カラギーナン及びイオタ-カラギーナンを有するカラギーナン混合物を1.4重量%、プロピレングリコールを37重量%、有し、粘度が1,000~4,000cPであった(下記実施例1を参照のこと)。Magnan研究は、Marais 研究と同様のHPV発生率の低下を示したが、そのような高濃度のプロピレングリコールの存在により、組成物の重量モル浸透圧濃度は5,000mOsm/kgを超え、そのレベルは、その組成物を用いる人々に潜在的に危険を及ぼし、ある人々には、HPVにかかる可能性を増大させるかもしれない。
【0078】
性的健康に関する世界保健機関(WHO)の報告書に示されている結果によると(「男性及び女性のコンドームのための追加の潤滑剤の使用及び調達:WHO/UNFPA/FHI360 Advisory Note」世界保健機関、ジュネーブ スイス、(2012) を参照のこと、参照によりその全体が組み込まれる)、調査によると、重量モル浸透圧濃度の高い潤滑剤は膣及び肛門上皮の損傷を引き起こし、HPV、HIV、及びその他の性感染症による感染のリスクを高める可能性がある。WHOは、特定の個人用潤滑剤の重量モル浸透圧濃度を決定する主な要因が組成物内のグリコールの存在であることも発見した。一般に「ポリオール」としても知られるグリコールは最も一般的に、グリセロール、1,2-プロパンジオール、及び1,3-プロパンジオールを有し、上皮細胞内の水-電解質のバランスを乱す可能性がある。WHOは、ほとんどの市販の潤滑剤が、通常の膣分泌物の重量モル浸透圧濃度(260~290mOsmol/kg)及び精液の重量モル浸透圧濃度(250~380mOsmol/kg)をはるかに超える重量モル浸透圧濃度を有することを示し、企業が市販の個人用潤滑剤組成物の重量モル浸透圧濃度を、膣分泌物及び/又は精液と可能な限り等浸透圧(250~400mOsmol/kgの間)であることを目標として、1,200mOsmol/kg以下に調整することを推奨している。
【0079】
本発明の抗ウイルス潤滑組成物
本発明は、ラムダ-カラギーナンを含み、HPVを含むウイルスに対して活性であり、カラギーナンを含まない市販の潤滑剤と同様の粘度を有する、いくつかの新規な抗ウイルス潤滑組成物を提供する。別の態様において、抗ウイルス性潤滑組成物は、組成物が適用されると数時間その水分及び潤滑性を保持することを可能にし、性行為に携わる人々に心地よい体験を提供するレオロジープロファイルを有する。さらなる態様において、抗ウイルス潤滑剤組成物は、特に性行為中に、機械的歪みに応答してずり減粘を受ける擬塑性非ニュートン流体組成物である。よりさらなる態様において、本発明の抗ウイルス性潤滑剤組成物は、容器から直接、絞る必要もなければ手で取り出す必要もなく、容器から直接注ぐことができる。他のよりさらなる態様において、抗ウイルス性潤滑組成物はゲルネットワークを実質的に含まない。
【0080】
上記のように、すべての型のカラギーナンは、海藻抽出物から、典型的にはカラギーナンの2つ、3つ、又はそれ以上の型の混合物として得ることができる。カラギーナン混合物は、生の抽出物として入手することも、粉末として入手することもできる。さらなる態様において、抗ウイルス潤滑組成物内で利用されるカラギーナンは、カラギーナン粉末として得られる。市販のカラギーナン粉末の非限定的な例には、Viscarin(登録商標)PC109、Viscarin(登録商標)PC209、Viscarin(登録商標)PC515、Gelcarin(登録商標)PC379、及びGelcarin(登録商標)PC911が含まれる。よりさらなる態様において、カラギーナン粉末はViscarin(登録商標)PC209である。
【0081】
別の態様において、カラギーナン粉末は、ラムダ-カラギーナンを少なくとも約90重量%を含む、ラムダ-カラギーナンを少なくとも約85重量%有する。
別の態様において、カッパ-カラギーナン及びイオタ-カラギーナンは合わせて、カラギーナン粉末の最大約15重量%、10重量%、8重量%、6重量%、4重量%、2重量%を含む約20重量%まで有することができ、又はカラギーナン粉末の約1重量%まで有することができる。他の態様において、存在する場合、カッパ-カラギーナン及びイオタ-カラギーナンは合わせて、カラギーナン粉末の少なくとも約1重量%有し、カラギーナン粉末の少なくとも約2重量%、4重量%、6重量%、8重量%、又は10重量%、少なくとも約15重量%まで有することができる。
【0082】
別の態様において、カラギーナン粉末は、ラムダ-カラギーナンを少なくとも約90重量%及びイオタ-カラギーナンを最大約10重量%有する。さらなる態様において、カラギーナン粉末は、ラムダ-カラギーナンを約90重量%及びイオタ-カラギーナンを約10重量%有する。
【0083】
別の態様において、カラギーナン粉末は、ラムダ-カラギーナンを少なくとも約90重量%及びカッパ-カラギーナンを最大約10重量%有する。さらなる態様において、カラギーナン粉末は、ラムダ-カラギーナンを約90重量%及びカッパ-カラギーナンを約10重量%有する。
【0084】
別の態様において、ラムダ-カラギーナンを有するカラギーナン混合物は、抗ウイルス性潤滑組成物内で実質的に均質化され、組成物内のカラギーナン多糖類の大部分は、水性溶媒内に遊離分子として存在する。さらなる態様において、カラギーナン混合物は、抗ウイルス潤滑組成物内で完全に均質化される。あるよりさらなる態様において、均一な抗ウイルス潤滑組成物は、実質的に均一な外観及び密度を有する。他のよりさらなる態様において、抗ウイルス性潤滑組成物は、カラギーナンと溶媒との比率が実質的に均一である溶液である。また他のよりさらなる態様において、抗ウイルス潤滑組成物は、肉眼及び/又は顕微鏡下で10倍の倍率で見える、粒子、凝集物、塊、又はその他の固体を実質的に含まない。またさらなる態様において、抗ウイルス潤滑組成物は半透明である。よりまたさらなる態様において、抗ウイルス潤滑組成物は透明である。
【0085】
別の態様において、カラギーナンは、抗ウイルス潤滑組成物のうち、少なくとも約0.01重量%、0.1重量%、0.5重量%、1重量%、2重量%、2.5重量%、又は3重量%から少なくとも約5重量%までを含む、抗ウイルス潤滑組成物のうち、少なくとも約0.001重量%有する。さらなる態様において、カラギーナンは、抗ウイルス潤滑組成物のうち、0.5重量%~約2.3重量%有する。よりさらなる態様において、カラギーナンは、抗ウイルス組成物のうち、0.8重量%~約2.0重量%有する。またさらなる態様において、カラギーナンは、抗ウイルス潤滑組成物のうち、1.5重量%~約1.7重量%有する。
【0086】
同様に、ラムダ-カラギーナン含有抗ウイルス潤滑組成物の粘度、レオロジー、感覚、及び全体的な性能は、抗ウイルス潤滑組成物に少量のポリマー、特にポリオールを添加することによって制御することができる。上記のように、ポリオール類は、増量剤、風味保持剤/マスキング剤、保湿剤、安定剤、結晶化防止剤として、また全身及び口腔の健康上の利点のために、市販の製品に一般的に見られる化合物の1つの種類である。ポリオール類は通常、市販の個人用潤滑剤製品に存在する可能性のある他のポリマーの溶解性を高めるために添加されるが、ポリオール類を本発明の抗ウイルス潤滑組成物に少量添加し、粘度を低下させ、刺激を軽減し、潤滑性の二次的な供給源を提供し、及び/又は性行為中にユーザにしばしば喜ばれる刺激的な「暖かさ」又は「うずき」感を提供することができる。
【0087】
添加できるポリオール類の非限定的な例として、グリセロール;プロピレングリコール(1,2-プロパンジオール);1,3-プロパンジオール;1,3-ブタンジオール;1,4-ブタンジオール;2,3-ブタンジオール;キシリトール;ソルビトール;エリスリトール;イソマルト;ラクチトール;マルチトール;マンニトール;ポリエチレングリコール;及びポリプロピレングリコール;並びにそれらの組み合わせを挙げることができる。一般に、抗ウイルス潤滑組成物に含まれるポリオール(類)の同一性及び濃度は、所望の特性を得るために制御することができる。例えば、マンニトールとキシリトールは特別な食事の必要性のための食品添加物として規制されているが、ポリオール類はそれ以外では「一般に安全と見なされている」(GRAS)。キシリトールは口腔予防にも使用されており、マンニトールは尿路感染症の予防薬としても使用されている。1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、2,3-ブタンジオールは、軟膏、クリーム、及びゲル組成物の局所適用における刺激を軽減することが示されている。砂糖ベースのポリオール類はある甘味を提供できるが、マルチトールは食用製品の脂肪の質感を模倣することができる。
【0088】
別の態様において、ポリオールは、抗ウイルス潤滑組成物の約50重量%未満、有することができ、抗ウイルス潤滑組成物の約25重量%未満、15重量%未満、10重量%未満、9重量%未満、8重量%未満、7重量%未満、6重量%未満、5重量%未満、4重量%未満、3重量%未満、又は2重量%未満を含み、抗ウイルス性潤滑組成物の約1重量%未満まで、有することができる。他のさらなる態様において、抗ウイルス潤滑組成物は、ポリオールを少なくとも約2重量%、3重量%、4重量%、5重量%、6重量%、7重量%、8重量%、9重量%、10重量%、15重量%、又は25重量%を含む、また、少なくとも約35重量%を含む、少なくとも約1重量%、有する。よりさらなる態様において、ポリオールは、抗ウイルス性潤滑組成物の約~約10重量%、有する。
【0089】
別の態様において、ポリオールはプロピレングリコール(1,2-プロパンジオール)である。さらなる態様において、抗ウイルス潤滑組成物は、プロピレングリコールを最大8重量%有する。よりさらなる態様において、抗ウイルス潤滑組成物は、プロピレングリコールを0.5重量%から約5重量%有する。またさらなる態様において、抗ウイルス潤滑組成物は、プロピレングリコールを約4重量%~約5重量%有する。ある態様において、抗ウイルス潤滑組成物は、プロピレングリコールを約4.0重量%~約4.5重量%有する。なおまたさらなる態様において、抗ウイルス潤滑組成物は、プロピレングリコールを約2.0重量%~約2.5重量%有する。
【0090】
別の態様において、ポリオールの存在により、市販の個人用潤滑剤の性的性能の利益の全てを維持するため、既知の個人用潤滑剤組成物よりも優れた抗ウイルス潤滑組成物が得られる一方、HPVの伝染及び/又は持続を阻害する能力を有する。また、抗ウイルス性潤滑組成物は、個人用潤滑剤組成物の触覚上の利点を提供するのに十分な薄さであると同時に、性的接触を開始する前に皮膚又は上皮組織、特に膣、肛門、陰茎、又は口に留まるのに十分な厚さでもある。ある態様において、個人用潤滑剤組成物は、粘度が約10,000cP未満、約8,000cP未満、6,000cP未満、4,000cP未満、又は2,000cP未満~約1,000cP未満までである。他の態様において、抗ウイルス性潤滑組成物は、粘度が少なくとも約500cPであり、少なくとも約1,000cP、2,000cP、4,000cP、又は6,000cPから少なくとも約8,000cPまでである。さらなる態様において、抗ウイルス潤滑組成物は、粘度が約500cP~約8,000cP、特に約1,000cP~約4,000cP、より特に約2,000cP~約3,000cPの粘度である。ある態様において、抗ウイルス潤滑組成物は、粘度が約1,500cP~2,500cPである。ある態様において、抗ウイルス潤滑組成物は、粘度が約2,000cPである。
【0091】
別の態様において、WHOが推奨するレベル内の重量モル浸透圧濃度を提供するために、抗ウイルス潤滑組成物内のポリオールの量が制限される。他の態様において、抗ウイルス性潤滑組成物は、重量モル浸透圧濃度が約1,200mOsm/kg未満であり、約1,000mOsm/kg未満、900mOsm/kg未満、800mOsm/kg未満、700mOsm/kg未満、600mOsm/kg未満、500mOsm/kg未満、400mOsm/kg未満、300mOsm/kg未満、又は200mOsmol/kg未満であり、約100mOsmol/kg未満までである。さらなる態様において、抗ウイルス潤滑組成物の重量モル浸透圧濃度は、約250~約800mOsmol/kgである。他のさらなる態様において、抗ウイルス潤滑組成物の重量モル浸透圧濃度は、約650~約850mOsmol/kgである。
【0092】
別の態様において、抗ウイルス潤滑組成物の重量モル浸透圧濃度は、ヒト血漿の重量モル浸透圧濃度と等浸透圧である。さらなる態様において、抗ウイルス潤滑組成物は、精液と等浸透圧である。他のさらなる態様において、抗ウイルス潤滑組成物は、膣分泌物と等浸透圧である。また他のさらなる態様において、抗ウイルス性潤滑組成物の重量モル浸透圧濃度は、約250mOsmol/kg~約400mOsmol/kgである。
【0093】
また、別の態様において、いくつかの補足成分を抗ウイルス潤滑組成物に添加して、組成物の抗ウイルス活性を補完するか、及び/又はセックス中の組成物の性能を高めることができる。いくつかの態様において、pH調整剤を添加することによって抗ウイルス潤滑組成物のpHを制御することができる。カラギーナンが水に可溶化すると、組成物のpHは典型的に約7~9である。しかしながら、抗ウイルス性潤滑組成物の有効性は、組成物のpHを制御して、組成物を塗布する標的表面に一致させるか又は類似するようにすることによって補うことができる。例えば、健康な膣のpHは通常、約3.5~約5.5の範囲ですが、他の上皮細胞のpHは、直腸内に位置するものを含め、中性pHに近い。したがって、いくつかの態様において、pH調整剤は、意図する上皮表面に相補的な範囲、特に約7.0未満、6.5未満、6.0未満、5.5未満、5.0未満、4.5未満、又は4.0未満を含み、約3.5未満までを含む約8.0未満のpHまでpHを低下させることができる酸である。他の態様において、抗ウイルス潤滑組成物のpHは、少なくとも約3.5であり、少なくとも約4.0、4.5、5.0、5.5、6.0、6.5、又は7.0を含み、少なくとも約8.0までである。さらなる態様において、抗ウイルス潤滑組成物のpHは、約3.5~約5.5、特に約4.5である。他のさらなる態様において、抗ウイルス潤滑組成物のpHは、約5.5~約7.0である。また他のさらなる態様において、抗ウイルス潤滑組成物のpHは、約6.25~約6.75である。
【0094】
いくつかの態様において、pH調整剤は、塩酸又は硫酸を含むがこれらに限定されない強酸である。しかしながら、他の態様において、pH調整剤は、緩衝抗ウイルス潤滑組成物を作り出すため、弱酸である。弱酸は、緩衝能、pKa、及び可用性に基づいて選択することができる。pH調整剤として利用できる弱酸の非限定的な例として、クエン酸、乳酸、及び酢酸を挙げることができる。さらなる態様において、抗ウイルス潤滑組成物は、pH調整剤を約0.01重量%~約1.0重量%、特に約0.04重量%~約0.06重量%有する。よりさらなる態様において、pH調整剤はクエン酸である。
【0095】
いくつかの態様において、抗ウイルス潤滑組成物は、保存中の抗ウイルス潤滑組成物内の微生物増殖を防止するために添加することができる、1つ以上の防腐剤を任意にさらに有することができる。1つ以上の防腐剤のいずれかは、当業者に既知の防腐剤から選択することができ、メチルパラベン、安息香酸、サリチル酸、ソルビン酸、プロピルパラベン、及びデヒドロ酢酸ナトリウム、並びにそれらの組合せの1以上をあげることができるがこれらに限定されない。防腐剤は、本発明の組成物のうち、約1重量%までの量で該組成物中に存在するのがよい。
【0096】
いくつかの態様において、抗ウイルス潤滑組成物は、人の口と接触したときに組成物の風味を高める1つ以上の甘味料を任意にさらに含むことができる。いくつかの態様において、甘味料は人工甘味料であり、その存在は保存中の抗ウイルス潤滑組成物内の細菌増殖を阻害することもできる。人工甘味料の非限定的な例として、アスパルテーム、サッカリン、スクラロース、ネオテーム、及びアセスルファムカリウムを挙げることができるが、これらに限定されない。さらなる態様において、甘味料はサッカリンである。よりさらなる態様において、抗ウイルス性潤滑組成物は、サッカリンを約0.005重量%まで、さらに有する。またさらなる態様において、抗ウイルス潤滑組成物は、サッカリンを約0.125%有する。
【0097】
甘味料に加えて、又は甘味料の代わりに、抗ウイルス潤滑組成物は、組成物自体の香り、又は抗ウイルス潤滑組成物が適用される皮膚もしくは上皮組織のいずれかをマスクすることができる他の芳香剤(aromatic agent)又はフレグランス(flegrance)を任意にさらに有することができる。そのようなフレグランスの非限定的な例として、任意のエッセンシャルオイルベースのフレグランスを選択できるが、バニラ、ラベンダー、オレガノ、タイム、レモングラス、レモン類、オレンジ類、アニス、クローブ、アニスの実、シナモン、ゼラニウム類、バラ類、ミント、ペパーミント、シトロネラ、ユーカリ、サンダルウッド、スギ、ロスマリン、マツ、バーベインノミグラス、又はラタンヒエ、もしくはそれらの組合せを挙げることができる。他の態様において、抗ウイルス潤滑組成物は、エッセンシャルオイルベースのフレグランスに含まれる匂いやフレグランスの原因となる、1つ以上の化学的な、芳香発生化合物を任意に、さらに有することができる。抗ウイルス潤滑組成物のいずれかに有することができる化学的芳香発生化合物の非限定的な例として、カルバクロール、オイゲノール、リナロール、チモール、p-シメン、ミルセン、ボルネオール、カンファー、カリオフィリン、シンナムアルデヒド、ゲラニオール、ネロール、シトロネロール、及びメントール、並びにそれらの組合せを挙げることができる。
【0098】
いくつかの態様において、抗ウイルス潤滑組成物は、1つ以上の金属塩を任意にさらに有することができる。金属塩を添加することにより、組成物のイオン強度の制御、その抗菌活性又は抗ウイルス活性の増強、又は1つ以上の成分の可溶化への添加を含む、いくつかの効果をもたらすことができる。添加できる金属塩として、亜鉛、銀、銅、アルカリ金属塩、又はアルカリ土類金属塩を挙げることができるが、これらに限定されない。さらなる態様において、金属塩は亜鉛塩又はナトリウム塩である。
【0099】
いくつかの態様において、抗ウイルス潤滑組成物は、1つ以上の薬学的抗ウイルス、抗真菌、又は抗菌化合物を任意にさらに有することができる。
【0100】
また、本発明はまた、以下に記載する方法によって製造される抗ウイルス性潤滑組成物を使用して、性行為に携わる2人以上のパートナー間でのHPV、HIV、及びHSVを含むがこれらに限定されない性感染ウイルスの伝染を低減するか、阻害するか、又は改善するいくつかの方法を提供する。第1の態様において、該方法は、抗ウイルス性潤滑組成物を1人以上のパートナーの皮膚又は上皮組織と接触させる工程であって、該皮膚又は上皮組織は膣、肛門、口、又は陰茎のうちの少なくとも1つの上又は内部に位置する工程を有する。本明細書で用いるとき、「膣」という用語は、膣自体及び/又は外陰部、陰唇、クリトリス、膣口、及び子宮頸部を含むがこれらに限定されない、膣を取り囲む皮膚又は上皮組織を含む。さらなる態様において、少なくとも1人のパートナーが男性であり、少なくとも1人のパートナーが女性である。他のさらなる態様において、少なくとも2人のパートナーが男性である。さらに別の態様において、少なくとも2人のパートナーが女性である。
【0101】
別の態様において、抗ウイルス性潤滑組成物は、性行為前に、性的パートナーのうちの1人以上の皮膚、特に膣、肛門、口、又は陰茎のうちの少なくとも1つの上又は内部に位置する皮膚と接触させ、ある性的パートナーから別の性的パートナーへの、HPV、HIV、及びHSVを含むがこれらに限定されない性感染ウイルスの伝染を予防的に阻害することができる。そのような態様において、抗ウイルス潤滑組成物は、性行為前の約8時間未満、4時間未満、2時間未満、1時間未満、30分未満、15分未満、5分未満、1分未満、又は約30秒未満に、また性行為前の約1秒未満までに、1人以上の性的パートナーの皮膚に接触させることができる。他の態様において、抗ウイルス性潤滑組成物は、性行為前の、少なくとも約30秒、1分、5分、15分、30分、1時間、2時間、4時間、又は約8時間に、1人以上の性的パートナーの皮膚と接触させることができる。
【0102】
別の態様において、抗ウイルス性潤滑組成物は、性行為後に、性的パートナーのうちの1人以上の皮膚、特に膣、肛門、口、又は陰茎のうちの少なくとも1つの上又は内部に位置する皮膚と接触させ、HPVが皮膚と皮膚の接触によって感染した後、HPV、HIV、及びHSVを含むがこれらに限定されない性感染ウイルスの細胞から細胞への拡散を低減することができる。そのような態様において、抗ウイルス潤滑組成物は、性行為後、約8時間未満、4時間未満、2時間未満、1時間未満、30分未満、15分未満、5分未満、1分未満、又は約30秒未満、約1秒未満までに、性的パートナーのうちの1人以上の皮膚と接触されることができる。他の態様において、抗ウイルス性潤滑組成物は、性行為後、少なくとも約30秒、1分、5分、15分、30分、1時間、2時間、4時間、又は約8時間に、1人以上の性的パートナーの皮膚と接触させることができる。
【0103】
別の態様において、性行為に携わる2人以上のパートナー間でのHPV、HIV、及びHSVを含むがこれらに限定されない性感染ウイルスの伝染を低減するか、阻害するか、又は改善する方法は、1つ以上の皮膚接触面を有する基材を提供する工程であって、該基材が、膣、口、又は肛門からなる群から選択される1つ以上の体腔に挿入するように構成される工程;基材の1つ以上の皮膚接触面を抗ウイルス性潤滑組成物で潤滑化し、それによって潤滑化基材を製造する工程;潤滑化基材を、1人以上のパートナーの膣、肛門、口、又は陰茎の少なくとも1つの上又は内部に位置する皮膚又は上皮組織と接触させる工程;及び抗ウイルス性潤滑組成物を潤滑化基材から皮膚又は上皮組織に移す工程をさらに有する。いくつかのさらなる態様において、性行為中に基材を用いるのは、男性又は女性のいずれかの一人だけである。他のさらなる態様において、基材を使用する2人以上のパートナーが存在し、性的パートナーのいずれは男性又は女性のいずれかであってもよい。
【0104】
本発明の方法と組み合わせて使用するのに適した基材として、性行為中に膣、肛門、口、又は陰茎の上又は内部の内面又は外面に接触するのに使用できる任意の物体、デバイス、又は付属品を挙げることができる。本発明の方法に従って利用できる基材の非限定的な例として、ゴム、ラテックス、プラスチック、木材、及び/又は金属を含むがこれらに限定されない材料を有するコンドーム;大人のおもちゃ、ディルド、バイブレータ、リング、ビーズなどの性的な付属品;及び内部アプリケータが挙げられる。そのような例は、米国特許第6,983,751号及び同第9,119,763号;米国意匠特許第D599486号;及び米国特許公開第2006/0178602号に記載され、これらの開示は、参照によりその全体が含まれる。当業者は、性行為中に利用することができ、本発明の抗ウイルス性潤滑組成物を適用することができる、商業上入手可能であり即興で、性的テーマであるかどうかにかかわらず、基材の無数の他の例があることを理解するであろう。
【0105】
別の態様において、基材はコンドームである。本願で用いるとき、「コンドーム」という用語は、男性又は女性により陰茎、膣、肛門、又は指の内部又は上に装着するように設計されるデバイスを含む。コンドームは、以下に説明する性的な付属品の上に装着することもできる。抗ウイルス性潤滑組成物は、コンドームを陰茎、指、膣、肛門、口、又はその他の体の一部又は物体の上又は中に配置する前に、又はその後に、コンドームの内面又はコンドームの外面の少なくとも一方に位置する皮膚接触面に塗布することができる。さらなる態様において、本発明の抗ウイルス性潤滑性化合物のいずれかで予め潤滑化したコンドームは、潤滑化コンドームを封入し、パッケージの外側の外部環境から密閉するパッケージで提供することができる。よりさらなる態様において、パッケージは水密シールを含み、それにより、パッケージを開け、陰茎又は類似の性的付属品装置の上に予め潤滑化したコンドームを適用し、性行為に携わる前に、抗ウイルス潤滑組成物の損失を防止する。性行為中に使用する前にコンドームを外部環境から保護するようにコンドームを潤滑化し、それらをパッケージする方法は、当業界で周知である。
【0106】
コンドームが基材であるいくつかの態様において、性行為に携わるパートナー間でのHPV、HIV、及びHSVを含むがこれらに限定されない性感染症ウイルスの伝染を軽減するか、阻害するか、改善するか、又は防止する方法は、コンドームの皮膚接触面を潤滑化する工程;1人以上のパートナーの口、膣、又は肛門内の皮膚又は上皮組織をコンドームの潤滑化皮膚接触面と接触させる工程;及びコンドームの潤滑化皮膚接触面から皮膚又は上皮組織に抗ウイルス性潤滑組成物を移す工程;をさらに有する。
【0107】
基材がコンドームであるさらなる態様において、性行為に携わる2人以上のパートナー間でのHPV、HIV、及びHSVを含むがこれらに限定されない性感染症ウイルスの伝染を軽減するか、阻害するか、又は改善する方法は、1人のパートナーの指又は陰茎にコンドームを装着する工程;コンドームの外面を抗ウイルス性潤滑組成物で潤滑化する工程;コンドームの潤滑化外面を用いて、1人以上のさらなるパートナーの口、膣、又は肛門内の皮膚又は上皮組織に接触させる工程;及びコンドームの潤滑化外面から皮膚又は上皮組織に抗ウイルス潤滑組成物を移す工程;をさらに有する。
【0108】
基材がコンドームである他のさらなる態様において、性行為に携わる2人以上のパートナー間でのHPV、HIV、及びHSVを含むがこれらに限定されない性感染性ウイルスの伝染を低減するか、阻害するか、又は改善する方法は、コンドームを潤滑化する工程;潤滑化コンドームをパッケージ内に密封する工程;潤滑化コンドームをパッケージ内に保管する工程;パッケージから潤滑化コンドームを取り出す工程;1人の性的パートナーの指又は陰茎に潤滑化コンドームを適用する工程;潤滑化コンドームを用して、1人以上のさらなるパートナーの口、膣、又は肛門内の皮膚又は上皮組織に接触させる工程;及び潤滑化コンドームから抗ウイルス性潤滑組成物を皮膚又は上皮組織に移す工程;をさらに有する。
【0109】
別の態様において、基材は内部アプリケータである。本発明の方法と組み合わせて使用するのに適した内部アプリケータは、人の体腔に挿入されるように構成することができ、抗ウイルス潤滑組成物を人の体腔内の上皮組織に移すことができる任意の物体、装置、又は付属品を含むことができる。本発明の方法に従って利用できる内部アプリケータの非限定的な例として、ゴム、ラテックス、プラスチック、木材、及び/又は金属を挙げることができるがそれらに限定されない材料を有するシリンジ、ピペット、スワブ、カニューレ、細長いスティック又はロッド、及びウェラブルインサートが挙げられる。そのような例は、米国特許第2,546,754号、同第4,557,720号、同第4,808,166号、同第6,503,220号、同第6,537,260号、同第7,442,179号、同第7,591,808号、同第9,290,551号、同第9,757,549号、及び同第9,884,173号に記載され、これらの開示は参照によりその全体が含まれる。当業者は、本発明の抗ウイルス性潤滑組成物を塗布し、皮膚と接触させるか又は体腔内に挿入し、抗ウイルス潤滑組成物を体腔内の上皮組織に移すことができる市販及び即席の体内アプリケータの無数の他の例があることを理解するであろう。
【0110】
別の態様において、内部アプリケータは、人の体腔内、特に膣又は直腸内の上皮組織に接触するように構成される皮膚接触面を備える。他の態様において、内部アプリケータは、抗ウイルス潤滑組成物をヒトの体腔内の上皮組織に移す前に、抗ウイルス潤滑組成物を収容するか又は含むように構成される容器を有する。いずれの場合も、内部アプリケータは、抗ウイルス性潤滑組成物を含むか含まないパッケージで提供することができる。さらなる態様において、内部アプリケータを抗ウイルス潤滑組成物で予め潤滑化し、パッケージ内に密封し、潤滑化内部アプリケータを外部環境から保護し、人の体腔内の上皮組織に移す前に抗ウイルス潤滑組成物の損失を防ぐ。潤滑剤又は治療物質を内部アプリケータに適用し、それらをパッケージする方法は、当業界で周知である。
【0111】
別の態様において、本発明は、性行為に関連しないウイルスの伝染、症状、又は影響を低減するか、阻害するか、又は改善する方法も提供する。方法は、(a)上記の抗ウイルス性潤滑組成物のいずれかを提供する工程、及び(b)ウイルス感染が知られているか、又は存在すると推定される皮膚又は上皮組織に、体の内側又は外側のいずれかで接触する工程、を含む。抗ウイルス性潤滑組成物は、指又は上記のアプリケータのいずれかを用いて、皮膚又は上皮組織に適用することができる。別の態様において、潤滑化スワブ、スティック、又はロッドを口及び鼻を含む上記の体腔のいずれかに挿入し、鼻腔又は喉の内側の上皮組織に接触させることができる。
【0112】
本発明の抗ウイルス性潤滑組成物のいずれかで処置することができるウイルス分類学的科の非限定的な例として、オルソミクソウイルス科、パラミクソウイルス科、ニューモウイルス科、コロナウイルス科、レトロウイルス科、ヘルペスウイルス科、パドロマウイルス科、ピコルナウイルス科、レオウイルス科、及びアデノウイルス科、ならびにそれらの組合せが挙げられる。これらの分類学的科内のそのようなウイルスとして、重症急性呼吸器疾患(SARS)1株及び2株(COVID-19);インフルエンザA、B、及びC;エンテロウイルス、ライノウイルス、ポリオウイルス、アデノウイルス、ロタウイルス、及びはしか、おたふくかぜ、水痘の原因となるウイルスを挙げることができるが、これらに限定されない。別の態様において、抗ウイルス潤滑組成物を、ウイルス感染を有するヒトの皮膚又は上皮に、又はウイルス感染を受けるのを予防するための予防として適用することができる。別の態様において、抗ウイルス潤滑組成物をウイルス感染を有する動物の皮膚又は上皮に、又はウイルス感染を受けるのを予防するための予防として適用することができる。
【0113】
抗ウイルス潤滑組成物の処理
本発明の方法によって製造される抗ウイルス性潤滑組成物は、HPV、HIV、及びHSVなどの性感染症ウイルスのウイルス活性を含むウイルス活性を阻害する能力を有し、性行為中の潤滑剤としてその性能を高める最適化された粘度、潤滑性、及び感覚を有する一方、同時に、該組成物の重量モル浸透圧濃度を最小限に抑える点で独特である。本発明のある態様において、本発明の抗ウイルス性潤滑組成物を形成する方法は、(a)カラギーナンを有するカラギーナン粉末を提供する工程であって、該カラギーナンがラムダ-カラギーナンを少なくとも約90重量%及びイオタ-カラギーナンを約10重量%まで有する工程;(b)混合しながらカラギーナン粉末をポリオールを有する水溶液と合わせて、濁ったカラギーナン懸濁液を形成する工程;及び(c)濁ったカラギーナン懸濁液を少なくとも60℃の温度まで加熱し、濁ったカラギーナン懸濁液を清澄化した均一な溶液に変換するのに十分な時間混合し、それによって抗ウイルス潤滑組成物を形成する工程;を有することができ、(i)該抗ウイルス潤滑組成物がカラギーナンを約0.5重量%~約2.3重量%、及びポリオールを約10重量%まで有し;(ii)抗ウイルス性潤滑組成物は粘度が約5,000cP未満であり;(iii)抗ウイルス潤滑組成物は半透明であり;(iv)抗ウイルス潤滑組成物は、濁度が25ネフェロメトリック濁度単位(NTU)未満である。
【0114】
別の態様において、本発明の抗ウイルス性潤滑組成物を形成する方法は、まずカラギーナン粉末及びポリオールを合わせて、カラギーナン及びポリオールを有する湿潤カラギーナン混合物を形成する予備混合工程をさらに有することができる。特定の理論に拘束されるものではないが、水を添加する前にカラギーナン粉末をポリオール内で予備混合及び分散させると、カラギーナン多糖類を部分的に解きほぐし、水溶液の添加時に相互作用する追加の分極性接触が利用可能になると考えられる。予備混合には、低速及び低せん断条件下での混合;水溶液中のカラギーナンを均質化するための低温での加熱;各混合工程、特に水溶液内のカラギーナンを均質化するための混合の能率促進;及び個人用潤滑剤としての組成物の粘度と性能に悪影響を与える可能性があるカラギーナン多糖類をより小さなセグメントに分解されないように保護すること;といういくつかの利点があると考えられるが、これらに限定されない(下記参照)。さらなる態様において、本発明の抗ウイルス性潤滑組成物を形成する方法は、(a)カラギーナンを有するカラギーナン粉末を提供する工程であって、該カラギーナンがラムダ-カラギーナンを約90重量%及びイオタ-カラギーナンを約10重量%まで有する工程;(b)カラギーナン粉末をポリオールと混合して湿潤カラギーナン混合物を形成する工程であって、グリコールとカラギーナンとの重量比が約1:1~約10:1である工程;(c)混合しながら、湿潤カラギーナン混合物を水溶液と合わせて、濁ったカラギーナン懸濁液を形成する工程であって、水溶液とカラギーナンとの体積比が約45:1~約8:1である工程;(d)濁ったカラギーナン懸濁液を少なくとも60℃の温度まで加熱し、濁ったカラギーナン懸濁液を清澄な均質溶液に変換するのに十分な時間混合し、それによって抗ウイルス潤滑組成物を形成する工程;を有することができ、(i)抗ウイルス潤滑組成物がカラギーナンを約0.5重量%~約2.3重量%、及びポリオールを約10重量%まで有し、(ii)抗ウイルス性潤滑組成物は、粘度が約5,000cP未満であり;(iii)抗ウイルス潤滑組成物が半透明であり;且つ(iv)抗ウイルス潤滑組成物は、濁度が25NTU未満である。
【0115】
特に、抗ウイルス性潤滑組成物の粘度は、性行為と併せて使用できる個人用潤滑剤としてのその性能における重要な要素である。理想的には、個人用潤滑剤は、皮膚又は上皮組織に塗布して性行為が開始されるまでそこに留まるのに十分な粘性を持ち、同時に組成物からの潤滑性と水分が性行為の全期間を通じて保持されるレオロジープロファイルも有する。組成物中のカラギーナンの存在は、組成物の粘度がカラギーナン濃度の関数として指数関数的に増加するため、性的な潤滑剤の性能とは正反対である(下記の実施例3を参照のこと)。
【0116】
同様に、抗ウイルス性潤滑組成物の粘度は、総カラギーナン濃度に加えて、カラギーナンのカッパ-、イオタ-、及びラムダ型の同一性及び相対濃度;追加成分、特にポリオール類の濃度と同一性;及びポリオールが存在する場合のカラギーナンとポリオールとの重量比を含むがこれらに限定されない、いくつかの要因のバランスに敏感である。また、粘度は、湿潤カラギーナン混合物、カラギーナン懸濁液、及び/又は抗ウイルス性潤滑組成物の1以上の加熱;組成物の任意の成分の添加率;混合工程の速度と継続時間;及び混合に用いるローターのタイプを含むがこれらに限定されない、処理工程自体にも依存する。要するに、性行為中の抗ウイルス潤滑剤組成物の性能を最適化するには、上記要因を全て調整する必要がある。
【0117】
別の態様において、抗ウイルス性潤滑組成物の粘度は、総カラギーナン濃度だけでなく、抗ウイルス潤滑組成物の粘度の指数関数的な増加率に異なる影響を与えるカラギーナンのカッパ、イオタ、及びラムダ形態の相対濃度にも依存する。一例として、カッパ-カラギーナンが存在し、その濃度が高まると、組成物の粘度に急激な増加を引き起こすが、イオタ-カラギーナンの存在及び濃度の増加によって引き起こされる指数関数的成長率は、カッパ-カラギーナンの率よりも小さい。ラムダ-カラギーナンの存在と濃度の増加によって引き起こされる指数関数的成長率は、カッパ-カラギーナンとイオタ-カラギーナンの両方よりも小さい。したがって、主にラムダ-カラギーナンである組成物は、主にカッパ-カラギーナン及び/又はイオタ-カラギーナンである組成物よりも低い粘度を有する。その結果、上記のように、本発明の抗ウイルス潤滑組成物は、ラムダ-カラギーナンを約90%以上、及びカッパ-カラギーナン又はイオタ-カラギーナンの一方又は両方を約10%まで有することができる。よりさらなる態様において、抗ウイルス性潤滑組成物は、ラムダ-カラギーナンを約90%及びカッパ-カラギーナンを約10%有する。他のよりさらなる態様において、抗ウイルス性潤滑組成物は、ラムダ-カラギーナンを約90%及びラムダ-カラギーナンを約10%有する。
【0118】
また、カラギーナン混合物が得られる物理的形態もまた、それらがどのように処理されなければならないかに影響を与える。カラギーナンが生の抽出物として得られるとき、それらはすでに主に液状である。しかしながら、生のカラギーナン抽出物の貯蔵寿命は通常、固形粉末に比べて短く、カラギーナン抽出物には望ましくない成分や有害な成分が含まれている可能性がある。その結果、食品又は製薬業界で使用するために粉末状の乾燥カラギーナンを入手するのが一般的であるが、液体組成物で使用するにはカラギーナンを再可溶化する必要があるというトレードオフが伴う。
【0119】
カラギーナンを最終的に増粘剤として使用する用途において、カラギーナン粉末は、しばしば積極的な加熱条件下でも、長時間にわたる高せん断及び高速混合条件によって簡単に可溶化することができる。しかしながら、カラギーナン粉末は、本発明の抗ウイルス性潤滑組成物を製造するために同じ方法で処理することはできない。なぜなら、そのような条件は、特に性行為中に生じるせん断減粘応力を受けると、得られる組成物が経時的にその潤滑性を失う原因となるからである。特定の理論に拘束されるわけではないが、カラギーナン多糖類の長さは、得られる組成物の潤滑性及び水分と直接相関すると考えられる。多糖類の平均長が長くなるにつれて、組成物の潤滑性も向上する。他方、高剪断及び高応力条件下でカラギーナン粉末を可溶化すると、得られる組成物が早期に乾燥する。
【0120】
別の態様において、カラギーナン粉末の可溶化は、粉末をポリオールに添加することによって補助することができる。上述のように、ポリオール類は、それらの存在が性行為中に提供する心地よい特性のために、一般に個人用潤滑剤組成物に含まれる。各ポリオール分子の複数のヒドロキシル基は、より大きなカラギーナン多糖内の個々の糖が溶液中で相互作用できる分子間接触を提供するため、追加の利点がある。別の理論に制限されるものではないが、湿潤カラギーナン混合物を形成するためにカラギーナン粉末と混合されるポリオールの量が増加するにつれて、水性溶媒と相互作用して可溶化するために利用可能になる各カラギーナン多糖内の極性官能基の数も増加し、抗ウイルス潤滑組成物の粘度の同時増加を起こす。
【0121】
ラムダ-カラギーナン潤滑剤組成物と共にポリオールを含む従来の抗ウイルス性潤滑組成物は、37重量%を超えるプロピレングリコールを含むバルク溶媒にカラギーナン粉末を単純に添加することによって合成されている(以下の実施例1を参照)。この濃度において、プロピレングリコール濃度は、組成物の重量モル浸透圧濃度の危険な増加を引き起こす。しかしながら、溶媒中のポリオール濃度を単純に下げるだけでは、75℃まで加熱してもカラギーナン粉末を完全に均質化することはできないことがわかった。代わりに、水を加えても透過できない半水和カラギーナン分子に囲まれた乾燥カラギーナン粉末を含む複数の「ハイドロシールされた」塊が形成された。水を含む大気条件にさらされただけの乾燥粉末でも同様であり、同様の現象が’098特許(上記)で観察された。
【0122】
いくつかの態様において、本発明の抗ウイルス性潤滑組成物を形成する方法は、カラギーナンの添加前に、最初にカラギーナン粉末を少なくとも1つのポリオールと混合して湿潤カラギーナン混合物を形成する工程を含むことができる。さらなる態様において、最初にカラギーナン粉末をポリオールに可溶化することにより、抗ウイルス潤滑組成物内のカラギーナン多糖類の完全な均質化が促進される。
【0123】
また、ポリオールの同一性及びポリオールとカラギーナンとの重量比も、抗ウイルス性潤滑組成物の粘度に影響を与える。非限定的な例として、1,2-プロパンジオールは粘性が水より約50倍高いが、グリセロールは粘性が1,2-プロパンジオールより約23倍高い。したがって、抗ウイルス潤滑組成物は、同じ粘度を有しながら、グリセロールを含む第2の組成物よりもはるかに高い濃度の1,2-プロパンジオールを有することができる。その結果、別の態様において、湿潤カラギーナン混合物中のポリオールとカラギーナンとの重量比は、少なくとも1:10であり、少なくとも1:5、1:1、2:1、4:1、6:1、8:1、10:1、20:1、30:1、又は40:1、少なくとも50:1までである。さらなる態様において、ポリオールとカラギーナンとの重量比は、約1:1~約10:1である。よりさらなる態様において、ポリオールは1,2-プロパンジオールである。
【0124】
同様に、湿潤カラギーナン混合物と混合してカラギーナン懸濁液を形成する水溶液の重量比も、抗ウイルス性潤滑組成物の粘度に影響を与える。いくつかの態様において、湿潤カラギーナン混合物に対する水溶液の重量比が増加するにつれて、抗ウイルス潤滑組成物の粘度が低下する。さらなる態様において、カラギーナン懸濁液を形成するために湿潤カラギーナン混合物と混合する水溶液の重量比は約3:1~約60:1である。よりさらなる態様において、湿潤カラギーナン混合物と混合してカラギーナン懸濁液を形成する水溶液の重量比は約8:1~約45:1である。
【0125】
別の態様において、湿潤カラギーナン混合物、カラギーナン懸濁液、及び/又は抗ウイルス潤滑組成物の1つ又は複数を加熱することにより、水中でのカラギーナンの可溶化及び均質化が可能になる。特定の理論に拘束されるものではないが、カラギーナンを加熱すると、各カラギーナン多糖類の少なくとも部分的なアンフォールディングと、多糖類間の分子間相互作用の破壊が引き起こされ、どちらも組成物の粘度が上昇すると考えられている。加熱を続けると、カラギーナン多糖類が水溶液内で可溶化し始め、粘度が低下し、均一な抗ウイルス潤滑組成物が形成される。しかしながら、全てのカラギーナンが均質化された後も組成物を加熱し続けると、組成物の粘度は低下し続ける可能性があり、多糖類自体が分子量と鎖長の小さいオリゴ糖にどんどん解離する可能性がある。さらなる態様において、粘度が約5,000cP未満である抗ウイルス潤滑組成物が形成されるまで、カラギーナン懸濁液を加熱する。よりさらなる態様において、粘度が約1,000cP~約4,000cPである抗ウイルス性潤滑組成物が形成されるまで、カラギーナン懸濁液を加熱する。
【0126】
均質化されていないカラギーナン懸濁液などのカラギーナンを含む組成物は典型的には、曇っているか、かすんでいるか、又は濁っており、肉眼で見える多数のカラギーナン粒子を有する。特定の理論に拘束されるものではないが、カラギーナン懸濁液の濁りは、2つ以上のカラギーナン多糖類が完全にほどかれ、水性溶媒にさらされる前に凝集体が形成されたために生じると考えられる。別の態様において、半透明の抗ウイルス潤滑組成物が形成されるまでカラギーナン懸濁液を加熱する。さらなる態様において、透明な抗ウイルス潤滑組成物が形成されるまでカラギーナン懸濁液を加熱する。そのような態様において、抗ウイルス性潤滑組成物の半透明及び/又は透明特性は、長期間にわたるパッケージ及び/又は貯蔵の後でも維持される。よりさらなる態様において、抗ウイルス性潤滑組成物内に目に見える粒子、凝集物、又は凝集物は実質的にゼロである。またさらなる態様において、十分に均質な抗ウイルス性潤滑組成物は溶液である。
【0127】
本明細書に開示される混合物、懸濁液、又は抗ウイルス性潤滑組成物のいずれかの濁度は、サンプル中の懸濁粒子の濃度を決定する方法に基づいて定量的に説明することができ、これにはホルマジン比濁単位(FNU)、ジャクソン濁度単位(JTU)、NTU、光学密度、ヘルム単位(Helm Units)、100万分の1(PPM)などが含まれるが、これらに限定されない。FNUとNTUは、小さな粒子が均一に分布する組成物の濁度を表すために広く使用され、入射光線に対して90度で散乱する光の量を測定することによって測定する。特に、NTUは入射光ビームとして通常、約400nm~約680nmの可視光を使用して測定するが、FNUは入射光ビームとして通常、約780nm~約900nmの赤外光を使用して測定する。
【0128】
別の態様において、本明細書に記載の混合物、懸濁液、又は抗ウイルス潤滑組成物のいずれかの濁度は、NTUの関数として特徴付けられる。よりさらなる態様において、カラギーナンを水溶液に添加したときのカラギーナン懸濁液の濁度は、少なくとも約100NTUであり、少なくとも約200NTU、300NTU、400NTU、500NTU、600NTU、700NTU、800NTU、900NTU、1000NTU、2000NTU、又は3000NTUを含み、少なくとも約4000NTUまでを含む。他のよりさらなる態様において、均質化抗ウイルス潤滑組成物の濁度は、約25NTU未満であり、約20NTU未満、15NTU未満、10NTU未満、8NTU未満、6NTU未満、5NTU未満、4NTU未満、3NTU未満、又は2NTU未満を含み、約1NTU未満までである。またさらなる態様において、均質化した抗ウイルス潤滑組成物の濁度は、約5NTU以下である。
【0129】
他の態様において、本発明の方法により作製された、抗ウイルス潤滑組成物、特に性行為中に口と接触する可能性がある抗ウイルス潤滑組成物は、飲料水の濁度とほぼ同等である濁度を有するまで、均質化することができる。政府、保健機関、及びその他の規制機関は、ポリマー類及びその他の高分子;不溶性小分子;及び細菌及びその他の微生物;を含むがそれらに限定されない、溶液の濁度を高める薬剤による潜在的に危険な健康状態から人や動物を保護するための安全基準について説明する。飲料水は5NTUを超えてはならず、理想的には1NTU未満にすべきであるとWHOは判断した。米国では、従来のろ過方法又は直接ろ過方法を利用するシステムは、飲料水の濁度を1NTU未満に下げる必要があり、いくつかの地域では濁度レベル0.1NTU未満を達成しようと努力している。
【0130】
別の態様において、混合装置のタイプ、回転速度、及び混合時間を最適化し、得られる抗ウイルス性潤滑組成物の粘度を制御し、カラギーナンを水溶液中に分散及び均質化することができる。いくつかの態様において、組成物を皮膚又は上皮組織に適用する前に、特に性行為前に又は性行為に関連して、各カラギーナン多糖類の長さを維持し、それらの潤滑性を維持しながら、組成物を均質化するのに十分な時間、低剪断条件下で混合を行うことができる。対照的に、及び他の態様において、混合は高剪断条件下で最小限の時間行うことができるが、最小限の時間を超えて混合すると、カラギーナン多糖類が回復不能に破壊し、組成物の粘度を低下させ、性行為中の潤滑剤としての組成物の性能を低下させる可能性がある。ミキサーの非限定的な例として、スクリューミキサー、タンブルミキサー、リボンミキサー、及びパドルミキサーが挙げられるが、これらに限定されない。よりさらなる態様において、抗ウイルス性潤滑組成物を形成するための混合工程のそれぞれにパドルミキサーを用いることができる。同様に、比較的低速で混合しても、各多糖の構造的完全性が保持される。他のよりさらなる態様において、各混合工程を約500RPM以下の混合速度で実施する。またさらなる態様において、水溶液内でカラギーナンを均質化した後の抗ウイルス性潤滑組成物の混合は、約250RPM以下の速度で行うことができる。
【0131】
別の態様において、抗ウイルス潤滑組成物を形成する方法は、(e)抗ウイルス潤滑組成物の温度が約30℃未満になるまで、均質化した抗ウイルス潤滑組成物を冷却する工程;(f)抗ウイルス性潤滑組成物を約3.5~約7.0のpHに調整するのに十分な重量で、1つ以上のpH調整剤を冷却した抗ウイルス性潤滑性組成物に混合する工程;(g)任意選択で、1つ以上甘味料を抗ウイルス潤滑組成物の最大0.5重量%でカラギーナン懸濁液又は冷却した抗ウイルス潤滑組成物に混合する工程;(h)任意選択で、カラギーナン懸濁液又は冷却した抗ウイルス潤滑組成物に、1つ以上の防腐剤を抗ウイルス潤滑組成物の1重量%までで混合する工程;を含む、いくつかの工程をさらに有することができる。さらなる態様において、上記のpH調整剤、甘味料、及び防腐剤、ならびに塩及び/又は芳香剤などの追加成分のそれぞれを抗ウイルス潤滑剤組成物内に含めて、その抗HPV活性を補うか、及び/又は性行為中のパフォーマンスを向上させることができる。pH調整剤、甘味料、及び防腐剤を添加した結果としての組成物特性は、上述した。
【0132】
別の態様において、上記方法を利用して、異なるラムダ、カッパ、及びイオタ-カラギーナン比を有するカラギーナン混合物を任意の所望の粘度で水性溶媒に均質化することができる。いくつかの態様において、ラムダ-カラギーナンは、カラギーナン粉末の少なくとも約60又は70重量%、最大約80重量%を含む、カラギーナン粉末のうち少なくとも約50重量%有する。他の態様において、ラムダ-カラギーナンは、カラギーナン粉末のうち約85重量%未満、80重量%未満、又は70重量%未満から約60重量%未満まで有する。そのような態様において、カッパ及びイオタ-カラギーナンの量を、存在する場合、カッパ-カラギーナン及びイオタ-カラギーナンが合わせてカラギーナン粉末のうち約50重量%まで、例えば40重量%まで、30重量%まで、20重量%まで、有するように、増やすことができる。
【0133】
本発明の特定の態様を説明してきたが、本発明は、本開示の精神及び範囲内でさらに修正することができる。当業者は、日常的な実験のみを使用して、本明細書に記載の特定の手順、態様、特許請求の範囲、及び例に対する多数の均等物を認識又は確認することができる。したがって、そのような等価物は本発明の範囲内にあるとみなされ、したがって、本願は、その一般原則を使用して、本発明のあらゆる変形、使用、又は適応をカバーすることを意図している。また、本発明は、本発明が関係し、添付の特許請求の範囲に含まれる当技術分野における既知又は慣例の範囲内にあるような、本開示からの逸脱をカバーすることを意図している。
【0134】
明確にするために、別個の態様の文脈で説明される本発明の特定の特徴は、単一の態様において組み合わせて提供されてもよいことが理解される。逆に、簡潔にするために、単一の態様の文脈で説明されている本発明の様々な特徴は、別個に、又は任意の適切なサブコンビネーションで、又は本発明の任意の他の説明された態様で適切に提供されてもよい。態様がそれらの要素なしでは機能しない場合を除き、様々な態様の文脈で説明される特定の特徴は、それらの態様の必須の特徴とみなすべきではない。
【0135】
本明細書で言及されるすべての参考文献、特許、及び特許出願の内容は、参考として本明細書に組み込まれ、そのような参考文献が本発明の先行技術として利用可能であることを認めるものと解釈すべきではない。本明細書に組み入れられた刊行物及び特許出願のすべては、本発明が関係する当業者のレベルを示しており、あたかも個々の刊行物又は特許出願が具体的に示され、参照によって個々に示されているかのように、同程度に組み込まれる。
【0136】
本発明を、以下の実施例及び予言的実施例によってさらに説明するが、いずれも本発明を限定するものと解釈すべきではない。さらに、セクションの見出しが使用されている限りにおいて、それらは必ずしも限定的であると解釈すべきではない。建設的又は予言的であると示された例を説明するために過去時制を使用することは、建設的又は予言的な例が実際に実行されたことを反映することを意図したものではない。
【実施例】
【0137】
以下の実施例及び予言的実施例は、現在最もよく知られている本発明の態様を例示する。しかし、以下は、本発明の原理の適用の単なる例示又は説明であることを理解されたい。当業者は、本発明の精神及び範囲から逸脱することなく、多数の修正及び代替の組成物、方法、及びシステムを考案することができる。したがって、本発明を詳細に説明してきたが、以下の実施例は、本発明の最も実用的で好ましい態様であると現在考えられるものに関してさらなる詳細を提供する。
【0138】
実施例
実施例1:高重量モル浸透圧濃度個人用潤滑剤組成物の調製
以下の抗ウイルス性潤滑組成物を、ラムダ-カラギーナンベースの個人用潤滑剤であるDivine 9(登録商標)の市販の調製に使用される手順に従って調製した。
成分
55.70%(w/w) 脱イオン水
37.40%(w/w) プロピレングリコール
5.00%(w/w) 2.5%(w/v)サッカリンナトリウムの脱イオン水溶液
1.40%(w/w) Viscarin(登録商標)PC209 カラギーナン粉末
0.04%(w/w) クエン酸
0.01%(w/w) 水酸化ナトリウム
0.95%(w/w) GeoGard ECT防腐剤(Lonza Consumer Care)
0.03%(w/w) GeoGard 111 - デヒドロ酢酸ナトリウム防腐剤(Lonza Consumer Care)
【0139】
Viscarin(登録商標)PC209カラギーナン粉末を除くすべての成分を合わせ、完全に一緒に混合した。絶えず混合しながら、組成物を徐々に75℃まで加熱した。組成物が50℃に達したとき、ビスカリン(Viscarin)(登録商標)PC209カラギーナン粉末を、カラギーナン粉末のすべてが添加されるまで徐々に混ぜ合わせた。ビスカリン(Viscarin)(登録商標)PC209カラギーナン粉末がすべて溶解するまで、約2時間、組成物を75℃で混合し続けた。カラギーナン粉末が溶解したら、混合を停止し、組成物を急速に冷却した。組成物の温度が30℃に達したら、クエン酸を加えてpHを約6.5±0.25にした。
【0140】
実施例2:低重量モル浸透圧濃度抗ウイルス潤滑組成物の調製
以下の抗ウイルス潤滑組成物を、本発明の態様及び以下の手順に従って調製した。
成分
88.49%(w/w) 脱イオン水
4.40%(w/w) 1,2-プロパンジオール
5%(w/w) 2.5%(w/v)サッカリンナトリウムの脱イオン水溶液
1.60%(w/w) Viscarin(登録商標)PC 209 カラギーナン粉末
0.05%(w/w) クエン酸
0.32%(w/w) 2-フェノキシエタノール
0.11%(w/w) クロルフェネシン
0.03%(w/w) GeoGard 111-デヒドロ酢酸ナトリウム防腐剤(Lonza Consumer Care)
【0141】
Viscarin(登録商標)PC 209カラギーナン粉末及び1,2-プロパンジオールを約10分間混合し、500RPMで動作する2つの折りたたみ式インペラーブレードを備えたMixer Direct R-AD665工業用ガロンパドルミキサーを使用して湿潤カラギーナン混合物を形成した。10分後、湿潤カラギーナン混合物中に粉末の凝集粒子は観察されなかった。混合を続けながら、湿潤カラギーナン混合物に約90容量%の水と全サッカリンをさらに5分間かけて加え、濁ったカラギーナン懸濁液を形成した。カラギーナン懸濁液を70℃に加熱し、カラギーナン粉末が水中で完全に均質化されるまで、同じ混合条件下で混合した。約90分後、濁った懸濁液から清澄な溶液への移行時に均質化が達成された。均質化を行った後、混合をさらに10分間続けた。ミキサーを一時停止し、組成物を30℃未満に冷却した。冷却したら、防腐剤、クエン酸、及び残りの水を組成物に加え、250RPMで20分間混合した。得られた抗ウイルス潤滑組成物は半透明であり、pHは約6.5±0.25であった。
【0142】
実施例3:組成物粘度に対するカラギーナン濃度の指数関数的影響
抗ウイルス性潤滑組成物の粘度に対するカラギーナンの効果を評価するために、いくつかの組成物を様々なカラギーナン濃度で配合した。第1のサンプルであるサンプルVIは、実施例1の組成物と同じ成分仕様及び手順に従って調製した。実施例2の手順を使用して、異なる濃度のカラギーナンを含む追加の抗ウイルス潤滑組成物(サンプルV2~V5)を調製した。加える水の量は必要に応じて調整した。各サンプル組成の最終容量200mL。カラギーナンの濃度及び各サンプルの粘度を以下の表2に示す。
【0143】
【0144】
粘度測定の各々は、器具に付属の説明書に従って、毎分12回転での#2スピンドルを用いるブルックフィールドLVFダイアルリーディング粘度計(Brookfield LVF Dial Reading Viscometer)を使用して行った。カラギーナン濃度の関数としての抗ウイルス潤滑組成物の粘度の関係を
図1に示す。データをMicrosoft Excelを用いる指数関数モデルに合致させることにより、R
2値が0.994の近似曲線が得られ、データとモデルの間に強い相関関係があることがわかる。
【0145】
実施例4:組成の重量モル浸透圧濃度に対する1,2-プロパンジオールの線形効果
抗ウイルス性潤滑組成物の重量モル浸透圧濃度に対する1,2-プロパンジオールの効果を評価するために、1,2-プロパンジオールの濃度を変化させていくつかの組成物を処方した。第1のサンプルであるサンプルO1は、実施例1の組成物と同じ成分仕様及び手順に従って調製した。実施例2の手順を使用して、濃度が異なる1,2-プロパンジオールを有する追加の抗ウイルス潤滑組成物(サンプルO2~O5)を調整した。水の添加量は必要に応じて調整した。各サンプル組成の最終容量:50mL。1,2-プロパンジオールの濃度と各サンプルの重量オスモル濃度を以下の表3に示す。
【0146】
【0147】
重量モル浸透圧濃度測定の各々は、米国薬局方条約標準プロトコル(USP<785>、Osmolarity and Osmolarity, 2017を参照)に従って、凝固点降下を測定できる浸透圧計で実施した。1,2-プロパンジオール濃度の関数としての抗ウイルス性潤滑組成物の重量モル浸透圧濃度の関係を
図2に示す。Microsoft Excelを用いてデータを線形モデルに適合させると、R
2値が0.9974の近似線が得られ、データとモデルの間に強い相関関係があることがわかる。
【0148】
予言的実施例
実施例5:抗ウイルス性潤滑組成物の二糖含有量の特徴
カラギーナンの一次形態は各々、異なる反復二糖構造を有する-イオタ-カラギーナンは、D-ガラクトース-4-硫酸及び2-スルホ-3,6-無水-D-ガラクトースの交互二糖を有し;カッパ-カラギーナンは、D-ガラクトース-4-硫酸及び3,6-無水-D-ガラクトースの交互二糖を有し;ラムダ-カラギーナンは、D-ガラクトース-2-硫酸(1-3結合)及びD-ガラクトース-2,6-二硫酸(1,4結合)の交互二糖を有する。その結果、ラムダ-カラギーナンは通常、ポリマーあたりより多くの硫酸基を含み、イオタ-カラギーナン及びカッパ-カラギーナンで一般的に見られる無水ガラクトース残基は実質的にほとんどない。したがって、抗ウイルス性潤滑組成物中のラムダ-とイオタ-とカッパ-カラギーナンの相対比は、赤外分光法(IR)、核磁気共鳴(NMR)分光法(de Araujo, C.A., et al., (2013) Carbohydrate Polymers 91:483-491を参照のこと)、及び質量分析法と結合した液体クロマトグラフィ(LC-MS)(インターネットhttp://abstracts.aaps.org/Verify/AAPS2017/PosterSubmissions/M8109.pdf on May 3, 2018から入手できる、Diez, F., et al., (2017) “Development of an Analytical Method to Determine the amount of e Carrageenan in HPMC Capsules by LCMS,” American Association of Pharmaceutical Scientists Poster Submissionを参照のこと)を含むがこれらに限定されないいくつかの分析技術によって測定することができる。
【0149】
特に、抗ウイルス性潤滑組成物のIRスペクトルを利用して、他のラムダ-カラギーナン含有組成物と比較することができる組成物のプロファイル、並びに組成物内のラムダ-、イオタ-及びカッパ-カラギーナン型の相対モル比の双方を測定することができる(Volery, P., et al., (2004) J. Agric. Food Chem. 52 (25):7457-7463を参照のこと)。典型的なIRスペクトルのフィンガープリント領域(約800cm-1~約1250cm-1)内で、カラギーナンは、各ポリマー内で一般的に見られる残基又は官能基に対していくつかの強くて広い吸収帯を有し、且つ約1065cm-1~約1020cm-1、特に約1050cm-1に強い吸収最大値を有する。1050cm-1での主要な吸収バンドの強度を比較して、残基又は官能基に対応する特定のバンドの吸光度の強度を用いて、IRサンプルでカラギーナンの特定の形態の相対存在量を測定することができる。特徴的な吸収バンドと、1050cm-1での主要な吸収バンドに対するそれらの強度を、以下の表4に示す。
【0150】
【0151】
本発明の原理に従って研究を行い、抗ウイルス性潤滑組成物のサンプル内のカラギーナンを特徴付ける。抗ウイルス性潤滑組成物のサンプルを、国際連合食糧農業機関/世界保健機関の食品添加物の仕様の共同概要(“Carrageenan, Compendium of Food Additive Specifications FAO JEFCA Monographs 16; FAO/WHO Publications; Rome, Italy; pp. 7-12を参照のこと)に記載されている手順に従って、IR分光分析に付する。本発明の抗ウイルス性潤滑組成物は、ラムダ-カラギーナンを含む他の組成物と比較することができる独特且つ特徴的なIRスペクトルを有することが期待される。抗ウイルス性潤滑組成物のIRスペクトルは、810cm-1~820cm-1並びに825cm-1~830cm-1にピークを有することが期待され、これは抗ウイルス潤滑組成物内のラムダ-カラギーナンの存在を示している。さらに、抗ウイルス性潤滑組成物中のラムダ-カラギーナンのモル比は、カッパ-カラギーナン及びイオタ-カラギーナンのモル比よりも大きいこともまた予想される。
【0152】
実施例6:ヒト被験者における呼吸器ウイルスに対する抗ウイルス性潤滑組成物の抗ウイルス効果
本発明の原理に従って研究を行い、COVID-19などの活動性ウイルス性呼吸器感染症を有するヒト対象、又は活動性ウイルス性呼吸器感染症を有する者と密接に接触しているヒト対象における抗ウイルス潤滑組成物の有効性を測定する。参加者は、実施例2の抗ウイルス潤滑組成物をスワブの先端に塗布し、スワブを鼻を通して、鼻及び鼻腔内の上皮組織と接触するまで挿入するように求められる。あるいは、参加者は、ある量の抗ウイルス潤滑組成物を口に分配し、飲み込む前に口内で組成物をすするか、渦巻くか、又はうがいをするように求められる。いずれかの方法で投与される組成物の容量は、0.1mL~5mLの間である。実施例2の抗ウイルス潤滑組成物は、そのままの形態で、又は投与前に希釈して投与することができる。参加者は、抗ウイルス性潤滑組成物を鼻腔に1日1~4回投与するよう求められる。また、参加者は、別の人と密接に接触するか又は公の場に出る前及び/又は後に組成物を投与するように求められ得る。活動性感染症の場合、症状の進行は、用量依存的に、完全に排除されるまで和らぐか又は軽減されると予想される。また、病気ではないが、病気の患者と密接に接触している被験者に伝染するウイルスのウイルス量は、遅延するか、減少するか、又は排除されると予想される。
【国際調査報告】