(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-09-12
(54)【発明の名称】高帯域幅浸漬格子のための方法およびシステム
(51)【国際特許分類】
G02B 5/18 20060101AFI20230905BHJP
G02B 5/04 20060101ALI20230905BHJP
【FI】
G02B5/18
G02B5/04 F
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023509378
(86)(22)【出願日】2021-08-09
(85)【翻訳文提出日】2023-04-07
(86)【国際出願番号】 US2021045247
(87)【国際公開番号】W WO2022032234
(87)【国際公開日】2022-02-10
(32)【優先日】2020-08-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523043072
【氏名又は名称】ラム フォトニクス インダストリアル エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】100137969
【氏名又は名称】岡部 憲昭
(74)【代理人】
【識別番号】100104824
【氏名又は名称】穐場 仁
(74)【代理人】
【識別番号】100121463
【氏名又は名称】矢口 哲也
(72)【発明者】
【氏名】マルシアンテ,ジョン アール.
(72)【発明者】
【氏名】ライドネル,ジョーダン ピー.
【テーマコード(参考)】
2H042
2H249
【Fターム(参考)】
2H042CA17
2H249AA07
2H249AA13
2H249AA44
(57)【要約】
浸漬格子は、入射光面と、入射光面に対向する第2の面とを有する誘電体基板を含む。誘電体基板は、基板屈折率によって特徴付けられる。浸漬格子はまた、誘電体基板の第2の面に結合された少なくとも1つの誘電体層を含む。少なくとも1つの誘電体層は、基板屈折率より大きい層屈折率によって特徴付けられる。浸漬格子は、少なくとも1つの誘電体層内に形成された周期構造をさらに含む。浸漬格子は、1041nm~1066nmの波長範囲にわたって99%より大きい回折効率によって特徴付けられる。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
浸漬格子であって、
入射光面と、前記入射光面に対向する第2の面とを有する誘電体基板であって、前記誘電体基板が基板屈折率によって特徴付けられる、誘電体基板と、
前記誘電体基板の前記第2の面に結合された少なくとも1つの誘電体層であって、前記少なくとも1つの誘電体層が、前記基板屈折率より大きい層屈折率によって特徴付けられる、少なくとも1つの誘電体層と、
前記少なくとも1つの誘電体層内に形成された周期構造であって、前記浸漬格子が、1041nm~1066nmの波長範囲にわたって99%より大きい回折効率によって特徴付けられる、周期構造と
を備える、浸漬格子。
【請求項2】
周囲環境をさらに備え、前記周期構造が前記周囲環境内で浸漬される、請求項1に記載の浸漬格子。
【請求項3】
前記少なくとも1つの誘電体層内に形成された前記周期構造と前記周囲環境との間に材料が存在しない、請求項2に記載の浸漬格子。
【請求項4】
前記少なくとも1つの誘電体層から前記周期構造に光ビームが入射する、請求項1に記載の浸漬格子。
【請求項5】
前記少なくとも1つの誘電体層が金属を含まない、請求項1に記載の浸漬格子。
【請求項6】
前記浸漬格子が反射次数のみをサポートする、請求項1に記載の浸漬格子。
【請求項7】
前記周期構造が一次元で測定された周期を含む、請求項1に記載の浸漬格子。
【請求項8】
前記周期構造が一次元回折格子を備える、請求項7に記載の浸漬格子。
【請求項9】
前記浸漬格子が、m=0およびm=-1の回折次数のみを生成するように構成される、請求項8に記載の浸漬格子。
【請求項10】
前記誘電体基板が溶融シリカを含む、請求項1に記載の浸漬格子。
【請求項11】
前記少なくとも1つの誘電体層が、0.55μm~0.7μmの厚さによって特徴付けられる、請求項1に記載の浸漬格子。
【請求項12】
前記層屈折率が、1030nm~1080nmの波長範囲にわたって1.9~2.2の範囲である、請求項1に記載の浸漬格子。
【請求項13】
前記少なくとも1つの誘電体層が、五酸化タンタルまたは酸化ハフニウムのうちの少なくとも1つを含む、請求項1に記載の浸漬格子。
【請求項14】
前記少なくとも1つの誘電体層の厚さが、0.45μm~0.85μmである、請求項1に記載の浸漬格子。
【請求項15】
前記周期構造が、0.25μm~0.35μmのエッチング深さによって特徴付けられる、請求項1に記載の浸漬格子。
【請求項16】
前記周期構造が、0.20~0.35のデューティサイクルによって特徴付けられる、請求項1に記載の浸漬格子。
【請求項17】
浸漬格子プリズムであって、
入射光面と、光学面と、第3の面とを有するプリズムであって、前記プリズムがプリズム屈折率によって特徴付けられる、プリズムと、
前記光学面に結合された少なくとも1つの誘電体層であって、前記少なくとも1つの誘電体層が、前記プリズム屈折率より大きい層屈折率によって特徴付けられる、少なくとも1つの誘電体層と、
前記少なくとも1つの誘電体層内に形成された周期構造であって、前記浸漬格子プリズムが、1041nm~1066nmの波長範囲にわたって99%より大きい回折効率によって特徴付けられる、周期構造と
を備える、浸漬格子プリズム。
【請求項18】
前記周期構造が、前記入射光面を通過する回折次数を生成するように構成される、請求項17に記載の浸漬格子プリズム。
【請求項19】
前記回折次数が前記m=-1次数である、請求項18に記載の浸漬格子プリズム。
【請求項20】
前記少なくとも1つの誘電体層が、五酸化タンタルまたは酸化ハフニウムのうちの少なくとも1つを含む、請求項17に記載の浸漬格子プリズム。
【請求項21】
前記周期構造に隣接する周囲環境をさらに備え、前記周期構造と前記周囲環境との間に材料が存在しない、請求項20に記載の浸漬格子プリズム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
[0001]本出願は、その内容があらゆる目的のために全体として参照により本明細書に組み込まれる、2020年8月7日に出願された米国仮出願第63/062,773号の優先権を主張する。
【背景技術】
【0002】
[0002]回折格子は、通常、2つの材料間の界面に存在する周期構造であり、2つの材料のうちの1つは空気であることが多い。格子は、単一のビームが構造に入射すると、複数の(次数と呼ばれる)回折ビームを生成する。次数の角度放射は、下記
【数1】
式1
に示された格子方程式(式1)で与えられ、ここで、θ
iは入射角であり、n
iは入射媒体の屈折率であり、θ
0は所与の次数mの出力角であり、n
0は(入射媒体と同じであり得る)光が回折される出力媒体の屈折率であり、λは光波長であり、Λは格子周期である。一般的に言えば、格子は、透過次数(入射光と反対側の周期構造から回折する次数)および反射次数(入射光と同じ側の周期構造から回折する次数)の両方をもたらすことができる。式1に示されたパラメータの関係は、どの次数が存在できるかを決定するが、入射電力のどの程度が各次数に回折されるかを計算するために、格子プロファイルの物理的詳細(周期構造の単位セルのサイズおよび形状)が必要とされる。
【0003】
[0003]式1に関連して、入射角および回折次数の角度は、所与の波長および格子周期性について互いに関連していることに留意されたい。回折次数は、それぞれ、反射次数および透過次数に対応して、媒体の内側または媒体の外側のいずれかに存在することができる。それに応じて、媒体内外の回折次数がnsin(θ)によって連結される。透過次数が抑制される実施形態では、反射次数は、全内部反射(TIR)条件によって支配される。
【0004】
[0004]
図1Aは、空気とガラスとの間に存在する周期格子を示す簡略図である。ガラス810内から入射する光は、スネルの法則(式1)によって支配される反射次数および透過次数を生成する。空気中の角度は、ガラス内の角度より面法線に対して大きい。また、sin(θ
0)が1より大きくなるため、式(1)によって透過角を生成することができないので、m=-3の次数はガラス内にのみ存在することに留意されたい。これは、全内部反射の兆候である。より高い分散格子の場合、
図1Bに描写されたように、ガラス内のすべての角度を全内部反射させることができる。このようにして、透過次数は、全内部反射(TIR)を介して抑制されると考えられる。
【0005】
[0005]従来の回折格子は、その上に周期構造を製造するための面を必要とする。格子を製造するための一般的な方法は、基板、例えばガラスのプレートを選び、エッチング、堆積、複製、または当業者に知られた方法の他のものによってその上に周期構造を製造することである。格子からの高効率回折を提供するために金属がコーティングとして使用されるとき、光は空気中から入射し、金属格子構造から反射的に回折し、ガラス基板と相互作用することはない。これは、例えば分光計で使用される回折格子の最も一般的な構成のうちの1つである。しかしながら、例えばフォトリソグラフィにおいて、格子に入射する光が透過次数に回折する透過格子を製造することがしばしば有用である。透過格子では、光は、透過格子によって回折される前または後のいずれかに基板を通過しなければならない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
[0006]回折格子の製造および使用においてなされた進歩にもかかわらず、回折格子に関連する改善された方法およびシステムが当技術分野において必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
[0007]本開示は、一般に、回折格子に関連する方法およびシステムに関する。より詳細には、本発明の実施形態は、高スペクトル帯域幅によって特徴付けられる浸漬格子のための方法およびシステムを提供する。本明細書に記載された浸漬格子は、浸漬格子プリズムを提供するためにプリズム構成で実装することができる。本開示は、光学およびオプトエレクトロニクスにおける様々な用途に適用可能である。
【0008】
[0008]本発明の一実施形態によれば、浸漬格子が提供される。浸漬格子は、支持面に対向する入射光面および光学面を有する基板を含む。溶融シリカであり得る基板は、1020nm~1100nmの波長範囲にわたって1.45より大きい屈折率を有する。浸漬格子は、光学面内に形成された回折格子も含む。回折格子は、入射光面に入射する光を受光するように構成される。浸漬格子は、回折格子に近接する周囲環境をさらに含む。
【0009】
[0009]一実施形態では、周囲環境は金属を含まない。一例として、光学面内に形成された回折格子と周囲環境との間に材料は存在することができない。回折格子は、受光した光をm=0次数およびm=-1次数のみに回折するように構成することができる。回折格子は、一次元周期構造、例えば、2000ライン/mm以上の周期を有する一次元周期構造であり得る。いくつかの実施形態では、入射光面および光学面は、100ÅRMS以下の面粗さを有する400nm以下の平坦度のPVによって画定された光学面である。一例として、基板の屈折率は、1020nm~1100nmの波長範囲にわたって1.8以上であり得る。回折格子は、1.0ラジアン/μm以下の分散、例えば0.7ラジアン/μm以下の分散によって特徴付けることができる。光学スペクトルの中心は、リトロー条件の5°以内、例えばリトロー条件の3°以内で回折され得る。
【0010】
[0010]本発明の別の実施形態によれば、浸漬格子が提供される。浸漬格子は、入射光面および第2の面を有する誘電体基板を含み、第2の面は入射光面に平行であってもなくてもよく、入射面に対向する。誘電体基板は、基板屈折率によって特徴付けられる。浸漬格子はまた、誘電体基板の第2の面に結合された少なくとも1つの誘電体層を含む。少なくとも1つの誘電体層は、基板屈折率より大きい層屈折率によって特徴付けられる。浸漬格子は、少なくとも1つの誘電体層内に形成された周期構造をさらに含む。
【0011】
[0011]一実施形態では、少なくとも1つの誘電体層は、100nm以上の厚さ、例えば、250nm以上750nm以下の厚さによって特徴付けられる。周期構造は、少なくとも1つの誘電体層を通って少なくとも部分的に延在することができる。あるいは、周期構造は、少なくとも1つの誘電体層を通って誘電体基板内に延在することができる。周期構造は、2000ライン/mm以上の周期を有することができる。リトローにおける格子の分散は、2.0ラジアン/μm以下、例えば1.4ラジアン/μm以下であり得る。光学スペクトルの中心は、リトロー条件の5°以内、例えばリトロー条件の3°以内で回折され得る。
【0012】
[0012]本発明の特有の実施形態によれば、浸漬格子プリズムが提供される。浸漬格子プリズムは、入射光面と、光学面と、第3の面とを有する基板を含む。プリズムは、プリズム屈折率によって特徴付けられる。浸漬格子プリズムはまた、光学面に結合された少なくとも1つの誘電体層を含む。少なくとも1つの誘電体層は、プリズム屈折率より大きい層屈折率によって特徴付けられる。浸漬格子プリズムは、少なくとも1つの誘電体層内に形成された周期構造をさらに含む。
【0013】
[0013]本発明の特定の実施形態によれば、回折次数を形成する方法が提供される。方法は、入射光面と、入射面に対向する第2の面とを有する誘電体基板を有する浸漬格子を提供することを含む。誘電体基板は、基板屈折率によって特徴付けられる。浸漬格子はまた、誘電体基板の第2の面に結合された少なくとも1つの誘電体層を含む。少なくとも1つの誘電体層は、基板屈折率より大きい層屈折率によって特徴付けられる。浸漬格子は、少なくとも1つの誘電体層内に形成された周期構造をさらに含む。
【0014】
[0014]方法はまた、誘電体基板の入射光面に入射するように光ビームを誘導することと、少なくとも1つの誘電体層を通って光ビームを伝搬させることとを含む。方法は、光ビームを回折して反射次数を形成することと、少なくとも1つの誘電体層を通って反射次数を伝搬させることとをさらに含む。
【0015】
[0015]一実施形態では、方法はまた、誘電体基板の入射光面を通って反射次数を伝搬させることを含む。反射次数はm=-1次数であり得る。方法はまた、浸漬格子を周囲環境内に配置することを含むことができる。周期構造は一次元回折格子であり得る。一実施形態では、反射次数は唯一の回折次数である。
【0016】
[0016]従来の技法と比べて、本開示によって多数の利点が実現される。例えば、本開示の実施形態は、従来の手法と比較して高スペクトル帯域幅を提供する。一実施形態では、基板に結合された高屈折率材料内に格子が形成され、分散の減少およびスペクトル帯域幅の増加によって特徴付けられる浸漬格子の製造を可能にする。低い光学損失、高い透明性、および高フルエンスのサポート可能によって特徴付けられる光学材料は、本発明の実施形態と連携して使用することに適している。その利点および特徴の多くとともに本開示のこれらおよび他の実施形態は、以下の本文および対応する図とともにより詳細に記載される。
【0017】
[0017]ここで、本開示の態様は、添付の図面を参照して以下でより完全に記載され、添付の図面は、この概要、詳細な説明、ならびに具体的に説明またはその他の方法で開示された任意の好ましく、かつ/または特定の実施形態の両方とともに読まれることが意図されている。しかしながら、様々な態様は、多くの異なる形態で具現化されてもよく、本明細書に記載された実施形態に限定されると解釈されるべきではなく、むしろ、これらの実施形態は実例としてのみ提供されているので、本開示は完璧かつ完全であり、当業者に全範囲を完全に伝える。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1A】空気とガラスとの間に存在する周期格子を示す簡略図である。
【
図1B】格子が存在するときの全内部反射を示す簡略図である。
【
図1C】本発明の一実施形態による、浸漬格子の簡略断面図である。
【
図2A】第1の分散を有する浸漬格子に対するTE偏光およびTM偏光についてのスペクトル回折効率のプロットである。
【
図2B】第2の分散を有する浸漬格子に対するTE偏光およびTM偏光についてのスペクトル回折効率のプロットである。
【
図2C】第3の分散を有する浸漬格子に対するTE偏光およびTM偏光についてのスペクトル回折効率のプロットである。
【
図3A】第1の屈折率を有する基板を使用する浸漬格子についてのスペクトル回折効率を示すプロットである。
【
図3B】第2の屈折率を有する基板を使用する浸漬格子についてのスペクトル回折効率を示すプロットである。
【
図4】本発明の一実施形態による、浸漬格子を示す簡略断面図である。
【
図5A】
図4に示された浸漬格子についてのスペクトル回折効率を示すプロットである。
【
図5B】本発明の一実施形態による、異なる屈折率を有する誘電体層を有する浸漬格子についての格子特性を示すプロットである。
【
図5C】本発明の一実施形態による、異なる屈折率を有する誘電体層を有する浸漬格子についてのスペクトル回折効率を示すプロットである。
【
図5D】
図5Cに示された浸漬格子について99%より高いスペクトル回折効率を示すプロットである。
【
図5E】本発明の一実施形態による、限定された波長範囲にわたって異なる屈折率を有する誘電体層を有する浸漬格子についてのスペクトル回折効率を示すプロットである。
【
図5F】
図5Eに示された浸漬格子について99%より高いスペクトル回折効率を示すプロットである。
【
図6】本発明の一実施形態による、浸漬格子プリズムを示す簡略断面図である。
【
図7】本発明の一実施形態による、浸漬格子を動作させる方法を示す簡略フローチャートである。
【
図8】本発明の一実施形態による、浸漬格子を利用する高出力レーザシステムを示す簡略概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
[0036]本発明の実施形態は、回折格子に関連する方法およびシステムに関する。より詳細には、本発明の実施形態は、高スペクトル帯域幅によって特徴付けられる浸漬格子のための方法およびシステムを提供する。本明細書に記載された浸漬格子は、浸漬格子プリズムを提供するためにプリズム構成で実装することができる。本開示は、光学およびオプトエレクトロニクスにおける様々な用途に適用可能である。
【0020】
[0037]浸漬格子は、通常、反射回折次数を使用する目的で、光が基板内から格子に入射する特殊なクラスの格子である。この場合、入射次数および所望の反射次数の両方が基板材料内に含まれる。いくつかの実装形態では、反射次数への反射の効率を高めるために、格子の空気側に金属コーティングが使用される。しかしながら、いかなる金属コーティングも、それに入射するある程度の光を吸収する。最も薄い金属層の場合でも、吸収された光電力は、入射光電力が十分に高い場合、格子性能に望ましくない熱的に誘発された変化を生じさせるか、または格子を壊滅的に破壊するのにさえ十分であり得る。
【0021】
[0038]特定のタイプの浸漬格子は誘電体材料のみから作られ、必ずしも金属コーティングを利用せず、むしろ格子方程式によって記述された浸漬格子の材料に依存して、透過次数を禁止する。具体的には、格子分散が十分に高い場合、すべての透過次数を抑制することができる。この場合、透過次数の抑制に関連付けられた入射角は、式1を使用して算出される。
【0022】
[0039]
図1Cは、本発明の一実施形態による、浸漬格子の簡略断面図である。
図1Cに示された浸漬格子の場合、基板媒体110はシリカガラスであり、格子歯プロファイル120はバイナリである。当業者は、この特定の基板材料もこの特定の格子歯プロファイルも、反射のみの浸漬格子には必要とされないことを諒解されよう。反対に、様々な基板材料および格子歯プロファイルを使用することができ、それらは本発明の範囲内に含まれる。
【0023】
[0040]
図1Cを参照すると、本発明のいくつかの実施形態は、鏡面反射(m=0次数)および最初の回折次数(m=-1)の2つの次数のみを有する反射のみの浸漬格子を利用する。鏡面反射次数は、m=0を設定することによって式1から理解され得るように、スペクトル分散を含まず、この場合、単に波長依存性がなく、したがって所望のスペクトル分散がない。言い換えれば、m=0(鏡面)次数は、従来のミラーとして機能する。したがって、格子からの分散を利用するために、m≠0の回折次数を使用しなければならない。所望の回折次数の効率の最適化は、格子パラメータの適切な選択によって実現される。これは、式1の格子周期および入射角を含むが、それは格子歯プロファイルの追加のパラメータも含む。多くの格子歯プロファイルは、それらの形状タイプ、例えばバイナリ、正弦波、または台形によってパラメータ化することができる。
図1Cに示されたバイナリ格子歯形状では、格子歯プロファイルパラメータは深さおよびデューティサイクルである。対照的に、正弦波形状は深さのみによって特徴付けられる。台形は、深さ、デューティサイクル、および側壁勾配によって特徴付けられる。当業者は、多くの変形形態、修正形態、および代替形態を認識されよう。
【0024】
[0041]
図1Cに示されたように、浸漬格子の材料、例えば溶融シリカと、周囲環境、例えば空気との間の界面は金属を含まない。すなわち、格子歯プロファイル120は金属化されず、浸漬格子の材料によって形成される。したがって、
図1Cに示された実施形態は、光学面に形成された回折格子と周囲環境との間に材料が存在しないので、無金属格子と呼ぶことができる。
【0025】
[0042]多くの用途では、高効率回折のスペクトル帯域幅が重要である。従来の反射のみの浸漬格子を実装する際の課題の1つは、高効率を得ることができる光学帯域幅である。格子の分散は、反射のみの条件を維持するために十分に高くなる必要があり、高分散格子は、通常、より低い帯域幅を有し、本発明者らは、通常、それが浸漬格子に適用可能であると判断した。
【0026】
[0043]
図2Aは、第1の分散を有する浸漬格子に対するTE偏光およびTM偏光についてのスペクトル回折効率のプロットである。
図2Bは、第2の分散を有する浸漬格子に対するTE偏光およびTM偏光についてのスペクトル回折効率のプロットである。
図2Cは、第3の分散を有する浸漬格子に対するTE偏光およびTM偏光についてのスペクトル回折効率のプロットである。
図2A~
図2Cに示されたように、異なる分散によって特徴付けられる反射のみの浸漬格子の回折効率は、TE偏光とTM偏光の両方について波長の関数としてプロットされる。
【0027】
[0044]
図2A~
図2Cの検討によって決定され得るように、浸漬格子は、回折効率のスペクトル帯域幅と分散との間の反比例関係、すなわち、分散が減少するにつれて帯域幅が増加することによって特徴付けられる。したがって、このデータは、帯域幅を最大化するために、可能な限り低い分散を使用するべきであることを示す。しかしながら、高効率の反射のみの動作が望まれる場合、最も低い分散は式1によって制限される。具体的には、高効率の反射のみの動作を達成するために利用される物理学は、使用可能な分散範囲に下限を設け、したがって、実現可能なスペクトル帯域幅に上限を設ける。
【0028】
[0045]格子の分散Dは、式1から導出することができる。m=-1次数の出力角が入射角に等しい条件として定義されるリトロー条件では、分散は、
【数2】
式2
のように定義され、ここで、θ
Lはリトロー角であり、λ
cは入射光スペクトルの中心波長である。この式は、回折角および入射角が同一であるリトロー条件に適しているが、回折角および入射角が異なる他の条件についても分散を算出することができる。
【0029】
[0046]反射のみの浸漬格子からより広いスペクトル帯域幅を取得することは、
図2A~
図2Cによって証明されるように、より低い分散を意味する。所与の光スペクトルの場合、tan(θ)は0度と90度との間のθの単調増加関数であるため、分散を減少させることは、(式2を介して)入射角を減少させることを意味する。
【0030】
[0047]しかしながら、所望のように角度を単に小さくすることはできない。反射のみの浸漬格子の条件は、式1から
【数3】
式3
のように導出することができ、ここで、n
iは入射およびすべての反射回折次数を含む浸漬媒体の屈折率であり、θ
jはすべての反射回折次数の入射角または回折角であり、n
tは透過次数が禁止される浸漬格子の外側の媒体の屈折率である。典型的な反射のみの浸漬格子では、最も頻繁に使用される材料は空気であるため、n
t=1.0である。式3によって与えられる条件は、透過次数を防止し、したがって高効率反射回折を可能にするために、すべての入射回折次数および反射回折次数によって満たされなければならない。
【0031】
[0048]sin(θ)も、0度と90度との間のθの単調増加関数であることに留意されたい。したがって、式3は、入射角がどれだけ小さくなり得るかに制限を設け、したがって、式2を介して達成可能なスペクトル帯域幅に上限を設ける。言い換えれば、広いスペクトル帯域幅を達成することは、高効率の反射のみの回折で動作するために課される要件によって物理的に制限される。
【0032】
[0049]本発明者らは、光帯域幅を増加させる解決策を開発するために、式3の解析からの洞察を使用することができると判断した。浸漬格子を利用する従来の自由空間光学系は、通常、1.44~1.58の範囲の屈折率を有するガラスの基板を使用する。しかしながら、本発明者らは、浸漬材料(すなわち、入射光が伝搬している材料)が増加した屈折率を有する場合、分散を低減することができると判断した。
【0033】
[0050]
図3Aは、第1の屈折率を有する基板を使用する浸漬格子についてのスペクトル回折効率を示すプロットである。
図3Bは、第2の屈折率を有する基板を使用する浸漬格子についてのスペクトル回折効率を示すプロットである。
図3Aおよび
図3Bでは、反射のみの浸漬格子の回折効率は、TE偏光とTM偏光の両方について波長の関数としてプロットされる。これらの浸漬格子の場合、回折素子(例えば、回折格子線)が形成される基板は、屈折率によって特徴付けられる。
図3Aおよび
図3Bのプロットに対応する浸漬格子に対する分散は、それぞれ、2.7ラジアン/μmおよび1.2ラジアン/μmに等しかった。
【0034】
[0051]
図3Aは、基板が(溶融シリカガラスと同様の)屈折率n=1.45を有する浸漬格子に対応するプロットであり、
図3Bは、基板が屈折率n=2.00を有する浸漬格子に対応するプロットである。n=1.45の屈折率は、1040nm~1080nmの波長範囲、1030nm~1090nmの波長範囲、または1020nm~1100nmの波長範囲にわたる浸漬格子の特性である。これらのプロットは、基板の屈折率を増加させると、一定の格子周期性に対して、分散の増加、したがってより広いスペクトル帯域幅が生じることを示す。したがって、1.45の屈折率を有する基板の場合、2.7ラジアン/μmの分散が得られ、98%を超える高効率でわずか12nmの偏光平均スペクトル帯域幅が生じる。基板屈折率が2.00の屈折率に増加すると、分散は1.2ラジアン/μmに減少し、偏光平均スペクトル帯域幅は36nmに増加する。
【0035】
[0052]TIRの臨界角度は、(基板/空気界面が与えられると)基板屈折率が増加するにつれて減少するので、基板/空気屈折率の比の増加は、より小さいTIR角をもたらす。より広い帯域幅は、より小さいTIR角によって許容されるより小さい入射角を使用することから生じる。したがって、これは、式(2)によって決定されるように、より低い分散格子を表す。
【0036】
[0053]
図3Bは、浸漬格子に使用される基板の屈折率の増加がスペクトル帯域幅を増加させることを示すが、より高い屈折率の材料は、常に正しい光学特性で容易に利用できるとは限らない。例えば、より高い屈折率のバルク材料は高い光学品質をもたない場合があり、その結果、それらを通過するビームが異常になる。その上、より高い屈折率のバルク材料は十分に低い吸収をもたない場合があり、その結果、それらを通過するビームは電力を失い、熱収差を発生させる。一例として、シリコンは電気通信帯域(1550nm)での吸収が低く、したがって浸漬格子用の基板材料向けの適切な候補であり得るが、これらの光波長での極めて高い吸収のために可視またはIR(1000nm)帯域では使用することができない。さらに、シリコンの薄い層は高い光学品質の層であるが、浸漬格子は、通常、浸漬基板のためにかなりの量のバルク材料(1~10mmの範囲の厚さ)を必要とする。そのようなバルク材料は、自由空間ビーム伝搬に十分な光学品質をもたない場合がある。
【0037】
[0054]反射のみの浸漬格子では、それらは格子面に平行ではない界面を介した基板媒体への間接的な光学的進入を必要とするので、これらの要件は厳しい。これは、式3を解析することによって理解することができ、式3を満たす任意の入射角は、空気を透過することができない。当業者は、逆もまた真であることを認識する:空気から入射するビームは、界面または界面に平行な面を通って媒体に透過することができない。このため、反射のみの浸漬格子がプリズムの表面上に形成されることが多く、それにより、プリズムの一方の側に光が入射し、プリズムの他方の側に形成された格子を介して回折することが可能になる。入射光がかなりの量の材料を通過するという事実は、浸漬格子の基板に使用される格子材料の屈折率を増加させることにより、浸漬格子のスペクトル帯域幅を増加させるために使用することができる材料の数を著しく制限する。
【0038】
[0055]
図4は、本発明の一実施形態による、浸漬格子を示す簡略断面図である。
図4に示された浸漬格子400では、基板410は、格子歯プロファイル422が形成された誘電体層420を支持する。浸漬格子は、空気によって
図4に示された周囲環境430によって1つまたは複数の側面上で囲まれている。カバー層と呼ぶことができるこの周囲環境は、誘電体層より低い屈折率を提供し、空気であり得、本明細書でより詳細に記載されるように、格子歯プロファイル、または低屈折率固体材料を含む他の材料に誘電体/空気界面をもたらす。
【0039】
[0056]
図4に示されたように、基板410は、低い光学損失および高い光学品質によって特徴付けられる材料を利用して、入射ビームの伝搬をサポートする。一例として、基板410は、溶融シリカ、ホウケイ酸ガラス、多成分ケイ酸ガラス、または対象の波長での高い光学品質によって特徴付けられる他の材料を使用して製造することができる。上述されたように、浸漬格子のパラメータの設計は、次数m=0およびm=-1のみが許容されるような設計であり、結果として周囲大気430内に禁止された透過ゾーンが生じる。したがって、浸漬格子400は、示された入射角に対して、鏡面反射次数(m=0)および単一回折次数(m=-1)のみを生成する。したがって、いくつかの実施形態では、単一の次数(すなわち、m=-1)のみが浸漬格子によって支持され、m=+1次数、ならびにm=-2次数が浸漬格子によって生成されないように、分散が(例えば、低レベルで)選択される。
図4は単一の次数(すなわち、m=-1)の使用を示しているが、本発明は単一の次数の使用に限定されず、他の実施形態は、より高い次数、例えばm=-2次数の使用を含む、より大きい数の次数を使用することができる。一例として、m=-2次数を利用するいくつかの実施形態では、m=-1次数を抑制することができる。当業者は、多くの変形形態、修正形態、および代替形態を認識されよう。
【0040】
[0057]当業者には明らかなように、浸漬格子によってサポートされる次数の数を低減することにより、低減された数の次数のうちの1つに光を優先的に向ける格子設計技法の使用が可能になる。一例として、
図4を参照すると、浸漬格子によってサポートされる次数は2つしかないので、深さ、デューティサイクルなどを含む格子パラメータは、回折光に存在する電力の大部分をm=-1次数に回折するために利用することができ、m=0次数に存在する電力はより少ない。一例として、回折された電力の90%以上がm=-1次数に存在することができるように、格子歯プロファイル422を設計することができる。他の実施形態では、m=-1次数の回折された電力の割合は、91%超、92%超、93%超、94%超、95%超、96%超、97%超、98%超、または99%超であり得る。
【0041】
[0058]
図4に示された浸漬格子/空気界面に高屈折率材料を提供するために、誘電体層420は、高い光学品質および基板410より高い屈折率によって特徴付けられる。したがって、本発明の実施形態は、基板410と浸漬格子400を取り囲む周囲環境との間に配置された高屈折率を利用する。例として、誘電体層420は、五酸化タンタル、酸化ハフニウム、酸化スカンジウム、酸化チタニア、および対象の波長で基板より大きい屈折率によって特徴付けられる他の材料を使用して製造することができ、50~1,000nmの範囲の厚さDを有することができる。1052nmの波長範囲において、五酸化タンタルの屈折率は約2.1であり、酸化ハフニウムの屈折率は約2.1である。
図4に示された実施形態では、周囲環境は空気である。
図4に示されたように、誘電体層420に利用される高屈折率材料は、入射光線を(スネルの法則を介して)垂直入射により近く曲げ、格子がより低い入射角で調べられることを可能にする。式2に関連して説明されたように、入射角が小さいほど、浸漬格子の分散が減少する。次に、
図2A~
図2Cに関連して説明されたように、分散の減少はスペクトル帯域幅の増加をもたらす。
【0042】
[0059]したがって、本発明の実施形態は、それを通って入射光および回折光が伝搬する基板410に利用される材料に固有の低損失特性を保持しながら、誘電体層420の形態の高屈折率材料を使用することによって低分散浸漬格子を可能にする。
図4は、所定の深さおよび周期のバイナリ格子、および2.0の屈折率を有する誘電体層を示しているが、本発明の実施形態はこの示された例に限定されないことに留意されたい。実際、本発明の実施形態は、格子歯プロファイルまたは深さ、誘電体層420の屈折率、誘電体層420の厚さなどに関する任意の特定の要件によって限定されない。当業者は、特定の格子歯プロファイルおよび/または誘電体層420の設計が、効率、帯域幅などに対して最適化され得ることを認識されよう。
【0043】
[0060]m=-1次数が回折される角度は、回折が
図1Cに示された基板/空気界面に起因するか、
図4に示された誘電体層/空気界面に起因するかにかかわらず、基板内で同じである。所与の格子周期性に対して、この同じ基板回折角度は、基板/誘電体層界面での光の屈折および結果として生じる誘電体層/空気界面での入射角の減少から生じる。当業者は、多くの変形形態、修正形態、および代替形態を認識されよう。
【0044】
[0061]
図4には単一の誘電体層420が示されているが、本発明の実施形態は単一の層に限定されない。他の実施形態では、複数の誘電体層が基板410に結合され、各層の屈折率は基板からの距離とともに増加する。一例として、基板の近位にあり、1.8の屈折率を有する第1の誘電体は、基板の遠位にあり、2.1の屈折率を有する第2の誘電体層とともに利用することができる。この例では、次いで、格子歯プロファイルが第2の誘電体層内に形成されるはずである。3つ以上の誘電体層を基板に結合することができる。実施形態は、層に関連して本明細書に記載されているが、層という用語は、副層、傾斜組成物層などを含むことができることが諒解されよう。当業者は、多くの変形形態、修正形態、および代替形態を認識されよう。その上、ブレージングがないバイナリプロファイルを有する格子歯プロファイルが示されているが、マルチレベル格子、正弦波格子、鋸歯格子、台形格子、ブレーズド格子、ナノ構造、メタ面などを含む、任意の適切な格子プロファイルを利用できることが諒解されよう。
図4(およびいくつかの他の格子形状)に示されたバイナリ格子によって提供される利点は、格子歯の深さが格子の周期(すなわち、デューティサイクル)とは無関係に修正できることである。当業者には明らかなように、製造プロセスから生じる非垂直格子歯によって特徴付けられるバイナリ格子は、本発明の範囲内に含まれる。
【0045】
[0062]
図5Aは、
図4に示された浸漬格子についてのスペクトル回折効率を示すプロットである。
図5Aは、
図4に示された浸漬格子用のパラメータの1つの特定の構成に関するデータを提示するが、浸漬格子パラメータのばらつきは、
図5Aに示されたプロットの変化をもたらす場合があることが諒解されよう。
【0046】
[0063]
図5Aを参照すると、TEモードとTMモードの両方に対する高い回折効率は、図に示された1040nm~1080nmの波長範囲にわたって実質的に等しい。特に、TEモードとTMモードの両方に対する回折効率は、1040nm~1080nmの波長範囲にわたって99%より大きい。
図5Aは、1040nm~1080nmの波長範囲を示しているが、本発明の実施形態は、1030nm~1090nmの波長範囲ならびに1020nm~1100nmの波長範囲に適用可能である。さらに、赤外波長が
図5Aに示されているが、本発明は赤外波長に限定されず、本発明の実施形態は、可視波長を含む紫外波長から赤外波長をカバーする広い波長範囲にわたる使用に適している。シリカガラス(すなわち、溶融シリカ)を使用して製造された基板410と同様の屈折率n=1.45を有する基板を使用する浸漬格子についてのスペクトル回折効率を示すプロットである
図3Aと比較して、
図4に示されたように、浸漬格子/空気界面で誘電体層420として高屈折率材料を使用すると、回折効率が1040nm~1080nmの波長の多くで増加するので、スペクトル帯域幅が大幅に改善される。光は基板410(例えば、n=1.45の屈折率を有するシリカガラス)に入射するが、スペクトル帯域幅は、
図3Bに示されたプロットが対応する屈折率n=2.00を有するバルク材料とほぼ同じ幅であることにも留意されたい。高出力レーザ用途では、高い回折効率(すなわち、動作波長で99%より大きい回折効率)は、回折効率が低い(すなわち、99%より小さい回折効率)場合には不可能であった動作を可能にする。いくつかの実施形態では、高い効率(すなわち、98%より大きいTEモードとTMモードの両方に対する回折効率)は、1040~1080nm、例えば1041~1066nmの波長範囲にわたって存在する。
【0047】
[0064]高出力レーザ用途では回折効率が重要であるだけでなく、浸漬格子に利用される材料の透明性により、光学部品に損傷を与えることなく高出力動作が可能になる。
【0048】
[0065]
図1Cと
図4を比較すると、同じ基板および格子パラメータが利用され、
図4に示された浸漬格子は高屈折率誘電体層420を組み込んでいる。
図3Aに対応する2.7ラジアン/μmの分散を
図5Aに対応する1.2ラジアン/μmの分散と比較すると、格子が形成された高屈折率誘電体層の追加は、
図3Aの12nmから
図5Aの44nmまで偏光平均98%効率のスペクトル帯域幅を増加させた。したがって、格子/周囲環境界面における屈折率を増加させることにより、光学素子の大部分は変化しないが、分散の減少およびスペクトル帯域幅の増加が実現される。
【0049】
[0066]
図5Aは、従来の手法と比較して、本発明の実施形態によって提供されるスペクトル帯域幅の増加を立証しているが、この特定のデータは、本発明の範囲を限定するものではない。むしろ、
図5Aに示されたスペクトル帯域幅の増加は、本発明の実施形態に従って提供される構造が
図5Aに示された構造と同様の利点を提供することを示し、
図5Aは、本発明の実施形態によって実現され得るスペクトル帯域幅の増加の単なる例示である。
【0050】
[0067]本明細書において提供される図および説明のいくつかでは、浸漬格子が配置される周囲環境は空気である(例えば、
図4を参照)。しかしながら、本発明の実施形態はこの特定の周囲大気によって限定されず、それは単に例示的な方式で利用される。周囲大気として使用することができる他の気体は、真空および/または不活性ガス、窒素、アルゴン、もしくは他の希ガスなどの代替ガス、低屈折率ポリマー、エアロゲルなどの低屈折率材料、もしくは水などの低屈折率液体などを含み、式3に従って使用することができる。したがって、周囲環境は気体に限定されず、必要に応じて固体を含むことができる。当業者は、多くの変形形態、修正形態、および代替形態を認識されよう。
【0051】
[0068]
図5Bは、本発明の一実施形態による、異なる屈折率を有する誘電体層を有する浸漬格子についての格子特性を示すプロットである。
図5Bに示されたように、回折効率が(ナノメートルで)99%より大きい波長スパンは、
図4に示された誘電体層420の屈折率の関数として左縦軸にプロットされている。回折効率は、TEモードの回折効率およびTMモードの回折効率の低い方の値として算出される。波長スパンは、0.1だけ増分した屈折率値でのみプロットされるが、より細かい増分でプロットされた場合滑らかな曲線をもたらす可能性が高い。当業者は、多くの変形形態、修正形態、および代替形態を認識されよう。
【0052】
[0069]
図4を参照すると、
図5Bに示されたように、1.7の屈折率を有する誘電体層420を有する浸漬格子の場合、回折効率が99%より大きい波長スパンはわずか13nmである。誘電体層の屈折率が1.9に増加すると、99%より大きい回折効率に関連付けられた帯域幅が著しく増加し、1.7の屈折率を有する誘電体層を有する浸漬格子に関連付けられた帯域幅の約2倍である25nm~26nmの波長範囲が得られる。1.9~2.2の屈折率値の範囲では、回折効率はこの高いレベルのままであり、回折効率が99%を超える25nm~26nmの波長範囲を提供する。結果として、これらの高い回折効率を有する浸漬格子は、様々な高出力レーザ用途に適用可能である。
【0053】
[0070]再び
図5Bを参照すると、誘電体層の屈折率が2.6にさらに増加するにつれて、回折効率が99%より大きい波長スパンは減少し、2.6の屈折率に対して18nmの波長範囲に低下する。したがって、本発明者らは、狭い範囲の屈折率が高い回折効率(すなわち、>99%)、具体的には、1.9~2.2の屈折率を有する誘電体層を有する浸漬格子向けの大きい波長範囲のプラトーに関連付けられると判断した。
【0054】
[0071]誘電体層の屈折率の関数として高い回折効率が実現される波長スパンのばらつきに加えて、浸漬格子の他のパラメータは誘電体層の屈折率とともに変化する。右縦軸に示されたように、層厚と呼ばれる誘電体層420の厚さ(μm単位)、ならびに同じくミクロン単位で測定される誘電体層内に画定された格子に関連付けられたエッチング深さは、屈折率とともに変化する。層厚は、1.7の屈折率に対する約0.8μmから2.6の屈折率に対する約0.45μmまで変化する。同様に、格子を画定する周期構造のエッチング深さは、1.7の屈折率の約0.35μmから2.6の屈折率の約0.25μmまで変化する。したがって、1.9の屈折率を実現するために、約0.7μmの層厚および約0.3μmのエッチング深さを利用することができる。2.2の屈折率を実現するために、約0.58μmの層厚および約0.27μmのエッチング深さを利用することができる。1.9~2.2の屈折率は、これらの値の間の層厚およびエッチング深さを使用することによって実現することができる。
【0055】
[0072]層厚およびエッチング深さに加えて、右縦軸は、エッチング率と呼ばれる、格子を形成するためにエッチングされた誘電体層の部分、および格子のデューティサイクルを表すために使用され、両方ともパーセンテージとして測定される。エッチング率は、1.7の屈折率に対する約40%から2.6の屈折率に対する約50%まで変化する。同様に、デューティサイクルは、1.7の屈折率に対する約0.35から2.6の屈折率に対する約0.2まで変化する。したがって、1.9の屈折率を実現するために、約45%のエッチング率および約27%のデューティサイクルを利用することができる。2.2の屈折率を実現するために、約46%のエッチング率および約25%のデューティサイクルを利用することができる。1.9~2.2の屈折率は、これらの値の間のエッチング率およびデューティサイクルを使用することによって実現することができる。
【0056】
[0073]
図5Cは、本発明の一実施形態による、異なる屈折率を有する誘電体層を有する浸漬格子についてのスペクトル回折効率を示すプロットである。
図5Cでは、
図4に示されたのと同様の浸漬格子の回折効率が、それぞれ、1.7、1.9、2.2、および2.6の屈折率を有する誘電体層420を有する浸漬格子についてプロットされている。
図5Cに示されたように、1.7の屈折率を有する誘電体層420を使用すると、約13nmの狭い波長範囲にわたって回折効率は99%を超える。誘電体層の屈折率が1.9および2.2に増加すると、99%より大きい回折効率に関連付けられた帯域幅が著しく増加し、1.7の屈折率を有する誘電体層を有する浸漬格子に関連付けられた帯域幅の約2倍である約25nmの波長範囲が得られる。誘電体層の屈折率が2.6までさらに増加すると、帯域幅は約18nmに減少する。したがって、
図5Bに関連して説明されたように、狭い範囲の屈折率が高い回折効率(すなわち、>99%)に関連付けられる。
【0057】
[0074]
図5Cを参照すると、1.7の屈折率を有する誘電体層を有する浸漬格子の場合、回折効率は、1030nmでの約96%から、1040nmで約98.5%に達するだけで、1075nmでの約96%までの範囲である。この特定の浸漬格子の場合、99%より大きい狭い範囲の回折効率は、1030nm~1075nmの範囲の大部分にわたって99%より小さい回折効率をもたらす。1.7の屈折率を有する誘電体層に関連付けられた低い効率は、高出力レーザ用途において不十分な性能をもたらす。
【0058】
[0075]
図5Dは、
図5Cに示された浸漬格子について99%より高いスペクトル回折効率を示すプロットである。
図5Dでは、
図5Cに提示された同じデータが示されているが、99%~1.0のより狭い回折効率範囲にわたる。
図5Dに示されたように、1.9および2.2の屈折率を有する誘電体層を有する浸漬格子の場合、回折効率は、約1040nm~約1065nmの波長範囲にわたって99%を超える。
【0059】
[0076]
図5Eは、本発明の一実施形態による、限定された波長範囲にわたって異なる屈折率を有する誘電体層を有する浸漬格子についてのスペクトル回折効率を示すプロットである。1030nm~1075nmの波長範囲をカバーする
図5Cと比較して、
図5Eは1041nm~1065nmの波長範囲のみをカバーし、回折効率のスペクトル特性のさらなる解析を可能にする。
図5Eでは、
図4に示されたのと同様の浸漬格子の回折効率が、それぞれ、1.7、1.9、2.2、および2.6の屈折率を有する誘電体層420を有する浸漬格子についてプロットされている。
図5Eに示されたように、1.7の屈折率を有する誘電体層420を使用すると、約1044nmから約1057nmまで延在する約13nmの狭い波長範囲にわたって回折効率は99%を超える。誘電体層の屈折率が1.9および2.2に増加すると、99%より大きい回折効率に関連付けられた帯域幅が著しく増加し、1.7の屈折率を有する誘電体層を有する浸漬格子に関連付けられた帯域幅の約2倍である、1041nmから1066nmまでのプロット範囲全体にわたって実質的に延在する約25nmの波長範囲が得られる。誘電体層の屈折率が2.6までさらに増加すると、帯域幅は、約1043nmから約1061nmまで延在する約18nmまで減少する。
【0060】
[0077]
図5Fは、
図5Eに示された浸漬格子について99%より高いスペクトル回折効率を示すプロットである。
図5Fでは、
図5Eに提示された同じデータが示されているが、99%~100%のより狭い回折効率範囲にわたる。
図5Fに示されたように、1.9および2.2の屈折率を有する誘電体層を有する浸漬格子の場合、回折効率は、約1041nm~約1066nmの波長範囲にわたって99%を超える。
【0061】
[0078]したがって、本発明者らは、
図4に示された設計に基づき、かつ1.9~2.2の屈折率を有する誘電体層420用の材料を利用する浸漬格子が、1041nm~1066nmの波長範囲にわたって高い回折効率(すなわち、99%より大きい回折効率)を提供すると判断した。
【0062】
[0079]本発明者らは、例えば、1μm、すなわち1041nm~1066nmの範囲の酸化ハフニウムまたは五酸化タンタルを使用する誘電体層に関連付けられた高い屈折率が、例えば、1μm、すなわち1041nm~1066nmの範囲の酸化ハフニウムまたは五酸化タンタルを使用する誘電体層の低い吸収率と相まって、高出力レーザ用途にとって重要な高回折効率と低損失の両方を可能にすると判断した。
【0063】
[0080]
図6は、本発明の一実施形態による、浸漬格子プリズム600を示す簡略断面図である。
図6に示されたように、入射光ビーム640は、入射光面605と、光学面607と、第3の面609とを含むプリズム610の入射光面605に入射する。プリズムは、プリズム屈折率によって特徴付けられる。入射光ビーム640は、入射光面605を通過し、光学面607に向かって伝搬する。少なくとも1つの誘電体層620は光学面607に結合される。
図4に関連して説明されたように、少なくとも1つの誘電体層620は、プリズム屈折率より大きい層屈折率によって特徴付けられる。
【0064】
[0081]
図6に示されたように、少なくとも1つの誘電体層620内に周期構造630が形成される。周期構造630は、少なくとも1つの誘電体層620と周囲環境635との間の界面を画定する。
図4に関連して説明されたように、周期構造、例えば回折格子は、入射光ビーム640内の光を、第3の面609を通って伝搬するm=0次数642、および入射光面640を通って伝搬するように回折されたm=-1次数644に回折する。このように、入射光と反射次数(すなわち、m=-1次数644)の両方が入射光面605を通過し、入射光として入射光面を通過した入射光ビームがプリズムに入り、反射次数として入射光面を通過した反射次数(すなわち、m=-1次数644)がプリズムから出る。
図6に示された実施形態では、周囲環境635を密閉して、例えば気密シールを形成するために、カバー650が設けられる。他の実施形態では、カバー650は任意選択である。
【0065】
[0082]当業者には明らかなように、浸漬格子プリズム600は、
図4に示された浸漬格子400と共通の要素を共有し、
図4に関連して提供された説明は、必要に応じて浸漬格子プリズム600に適用可能である。当業者は、多くの変形形態、修正形態、および代替形態を認識されよう。
【0066】
[0083]
図6に示された浸漬格子を利用して、入力ビーム640によって表されるコリメートされた入力ビームは、反射ビーム642によって示されたようにm=0次数で反射される。単一の回折次数(すなわち、m=-1次数)は、回折ビーム644によって表されたように回折される。いくつかの実施形態では、入力ビーム640はリトロー条件(例えば、リトロー5度以内またはリトロー3度以内)に近く、m=-1次数の回折ビーム644は入力ビーム640に実質的に平行(例えば、5度以内の平行または3度以内の平行)である。
【0067】
[0084]
図7は、本発明の一実施形態による、浸漬格子を動作させる方法を示す簡略フローチャートである。方法700は回折次数を形成し、入射光面と、入射面に対向する第2の面とを有する誘電体基板を有する浸漬格子を設けること(710)を含む。誘電体基板は、基板屈折率によって特徴付けられる。浸漬格子はまた、誘電体基板の第2の面に結合された少なくとも1つの誘電体層を含む。少なくとも1つの誘電体層は、基板屈折率より大きい層屈折率によって特徴付けられる。浸漬格子は、少なくとも1つの誘電体層内に形成された周期構造をさらに含む。周期構造は一次元回折格子として形成することができる。
【0068】
[0085]方法はまた、誘電体基板の入射光面に入射するように光ビームを誘導すること(712)と、少なくとも1つの誘電体層を通って光ビームを伝搬させること(714)とを含む。
図4に示された実施形態では、入射光は、基板410および誘電体層420を通って伝搬する。方法は、光ビームを回折して反射次数を形成すること(716)と、少なくとも1つの誘電体層を通って反射次数を伝搬させること(718)とをさらに含む。
図4に示されたように、反射次数はm=-1次数を含む。いくつかの実施形態では、反射次数は唯一の回折次数である。
【0069】
[0086]いくつかの実施形態では、方法は、
図4に示されたように、誘電体基板の入射光面を通って反射次数を伝搬させることをさらに含む。浸漬格子は、例えば、
図6に示されたカバー650と同様のカバーを使用して、保護され得る周囲大気内に配置することができる。
【0070】
[0087]
図7に示された具体的なステップは、本発明の一実施形態による、浸漬格子を動作させる特定の方法を提供することを諒解されたい。代替の実施形態に従って、ステップの他のシーケンスも実行されてもよい。例えば、本発明の代替の実施形態は、上記で概説されたステップを異なる順序で実行することができる。その上、
図7に示された個々のステップは、個々のステップに適切な様々な順番で実行され得る複数のサブステップを含んでもよい。さらに、特定の用途に応じて、さらなるステップが追加または削除されてもよい。当業者は、多くの変形形態、修正形態、および代替形態を認識されよう。
【0071】
[0088]
図8は、本発明の一実施形態による、浸漬格子を利用する高出力レーザシステムを示す簡略概略図である。
図8に示されたように、高出力レーザシステム800は、浸漬格子820に入射する光を放射する高出力レーザ810を含む。放射光ビームは、入射ビーム812によって表される。m=-1次数の浸漬格子820からの回折は、回折ビーム822をもたらす。本明細書に記載されたように、本発明の実施形態を使用すると、回折ビーム822が回折される回折効率は、1041~1066の波長範囲にわたって99%を超え、その結果、入射ビーム812内に存在する電力の99%が回折ビーム822内に存在することになる。反射ビーム824は、入射ビーム812の電力の1%未満を損失した電力を含む。TE偏光とTM偏光の両方における回折効率は、高出力レーザが望ましくない偏光状態で動作している場合に、m=0次数に存在する反射損失がシステム構成要素、例えば反射損失を吸収する構成要素に損傷を与えないことを保証するために、浸漬格子の設計において考慮される。
【0072】
[0089]本明細書に記載された浸漬格子に適したスペクトルビーム結合用途では、入射電力は100kW~500kW程度である。これらの用途では、所望により回折されない電力が失われることになる。この失われた電力は、通常、いくつかの方法のうちの1つで捕捉され、放散される。結果として、本明細書に記載された所定の波長範囲にわたって99%の回折効率で動作する浸漬格子の場合、1%の電力損失は、捕捉され放散されなければならない1KW~5kWのレーザ出力になる。失われた電力に関連付けられたこれらの高電力レベルに起因して、本発明の実施形態によって提供された高効率浸漬格子は、より低い効率、特に99%より小さい効率で動作する格子によって満足することができない用途を可能にする。当業者は、多くの変形形態、修正形態、および代替形態を認識されよう。
【0073】
[0090]また、本明細書に記載された例および実施形態は説明目的のためにすぎず、その観点から様々な修正または変更が当業者に示唆され、本出願の趣旨および範囲ならびに添付の特許請求の範囲内に含まれるべきであることを理解されたい。
【国際調査報告】