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特表2023-538855カルボキシル官能基およびフェノール性官能基含有分析物のためのフェナシルブロミドベースの質量タグ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-09-12
(54)【発明の名称】カルボキシル官能基およびフェノール性官能基含有分析物のためのフェナシルブロミドベースの質量タグ
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/50 20060101AFI20230905BHJP
   G01N 27/62 20210101ALI20230905BHJP
【FI】
G01N33/50 D
G01N33/50 Z
G01N27/62 V
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023509689
(86)(22)【出願日】2021-08-11
(85)【翻訳文提出日】2023-02-28
(86)【国際出願番号】 IB2021057423
(87)【国際公開番号】W WO2022034528
(87)【国際公開日】2022-02-17
(31)【優先権主張番号】63/064,710
(32)【優先日】2020-08-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】510075457
【氏名又は名称】ディーエイチ テクノロジーズ デベロップメント プライベート リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【弁護士】
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】ダニエルズ, スコット
(72)【発明者】
【氏名】デイ, スブハカール
(72)【発明者】
【氏名】プルカヤスタ, サブハシシュ
【テーマコード(参考)】
2G041
2G045
【Fターム(参考)】
2G041CA01
2G041EA04
2G041EA12
2G041FA10
2G041GA09
2G041JA04
2G041JA05
2G041LA08
2G041LA09
2G045CA25
2G045CA26
2G045CB01
2G045CB03
2G045CB07
2G045CB16
2G045CB30
2G045DA02
2G045DA07
2G045DA35
2G045DA59
2G045DA80
2G045FA36
2G045FB07
(57)【要約】
誘導体化試薬、誘導体化試薬のセット、および誘導体化技術が、旧来のイオン化技術を使用する質量分析法を介して分析することが困難であり得る分析物を含むカルボキシル官能基および/またはフェノール性官能基を含む分析物の相対的定量化、絶対的定量化、または両方に関して本明細書で提供される。非限定的な例によれば、このような分析物としては、脂肪酸、カルニチン、エイコサノイド、およびエストロゲンが挙げられ得る。上記誘導体化試薬を生成する方法がまた、開示される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
サンプルを分析する方法であって、前記方法は、
カルボキシル官能基およびフェノール性官能基のうちの少なくとも一方を有する1もしくはこれより多くの分析物を含むかまたは含むと疑われるサンプルと、誘導体化薬剤とを反応させて、1もしくはこれより多くの誘導体化された分析物を生成する工程であって、ここで前記誘導体化薬剤は、置換されたかもしくは置換されていないフェナシルブロミド(PAB)およびその誘導体を含む工程;
前記1もしくはこれより多くの誘導体化された分析物を分析する工程、
を包含する方法。
【請求項2】
前記サンプルは、少なくとも1個のカルボキシル官能基を有する1もしくはこれより多くの分析物を含むかまたは含むと疑われる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
少なくとも1個のカルボキシル官能基を有する前記1もしくはこれより多くの分析物は、脂肪酸、胆汁酸、アミノ酸、およびカルニチンのうちの1もしくはこれより多くのものを含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
少なくとも1個のカルボキシル官能基を有する前記1もしくはこれより多くの分析物は、少なくとも1個のエイコサノイドを含む、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記少なくとも1個のエイコサノイドは、プロスタグランジン、トロンボキサン、EpETE、HETE、HODE、およびHpETEのうちの1またはこれより多くのものを含む、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記サンプルは、少なくとも1個のフェノール性官能基を有する1もしくはこれより多くの分析物を含むかまたは含むと疑われる、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
少なくとも1個のフェノール性官能基を有する前記1もしくはこれより多くの分析物は、少なくとも1種のホルモンを含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記少なくとも1種のホルモンは、1種もしくはこれより多くのエストロゲンを含み、必要に応じてここで前記1種もしくはこれより多くのエストロゲンは、エストロン、エストラジオール、およびエストリオールからなる群より選択される、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記サンプルは、生物学的サンプルであり、必要に応じてここで前記生物学的サンプルは、血液、血漿、血清、尿、唾液、脳液、組織、毛、または体液から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記誘導体化薬剤は、以下の式:
【化17】
またはその重原子誘導体のものであり、ここでXは、水素またはピロリジン基である、請求項1~9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記誘導体化薬剤は、以下の式の置換されていないPAB:
【化18】
またはその重原子誘導体である、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記誘導体化薬剤は、以下の式の置換されたPAB:
【化19】
またはその重原子誘導体を含む、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
前記誘導体化薬剤は、以下の式:
【化20】
のものであり、ここで
Xは、水素またはピロリジン基であり、そして
Yは、酸素またはNO-(CH-(NRもしくはその重原子誘導体であり、nは1~20であり、各Rは、独立して、水素または環式、分枝状もしくは直鎖状のC-C18アルキル、C-C18アルケン、もしくはC-C18アルキンである、
請求項1~9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
前記誘導体化薬剤は、以下の式:
【化21】
またはその重原子誘導体のものである、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記誘導体化薬剤は、以下の式:
【化22】
またはその重原子誘導体のものである、請求項13に記載の方法。
【請求項16】
前記誘導体化された分析物を分析する工程は、質量分析計によって行われ、必要に応じてここで前記誘導体化された分析物は、前記質量分析計を使用する前に、陽イオンモードでイオン化される、請求項1~15のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
方法であって、前記方法は、
置換されたかもしくは置換されていないフェナシルブロミドと、四級アミンまたはその重原子誘導体を有するアミノオキシ化合物と反応させて、誘導体化試薬を形成する工程であって、必要に応じてここで前記アミノオキシ化合物は、式HNO-(CH-(NRまたはその重原子誘導体のものであり、nは1~20であり、各Rは、独立して、水素または環式、分枝状のもしくは直鎖状のC-C18アルキル、C-C18アルケン、もしくはC-C18アルキンである工程、
を包含する方法。
【請求項18】
組成物であって、
置換されたかもしくは置換されていないフェナシルブロミドと、四級アミンを有するアミノオキシ化合物との反応生成物、
を含む組成物。
【請求項19】
前記アミノオキシ化合物は、式HNO-(CH-(NRまたはその重原子誘導体であり、ここでnは、1~20であり、各Rは、独立して、水素または環式、分枝状もしくは直鎖状のC-C18アルキル、C-C18アルケン、もしくはC-C18アルキンである、請求項18に記載の組成物。
【請求項20】
前記組成物は、以下の式:
【化23】
のものであり、ここで
Xは、水素またはピロリジン基であり、
Yは、NO-(CH-(NHまたはその重原子誘導体である、請求項18に記載の組成物。
【請求項21】
カルボキシル官能基およびフェノール性官能基のうちの少なくとも一方を有する1もしくはこれより多くの分析物の質量分析計による分析のためのキットであって、前記キットは、
請求項18~20のいずれかに記載の組成物、
を含むキット。
【請求項22】
カルボキシル官能基およびフェノール性官能基のうちの少なくとも一方を有する1もしくはこれより多くの分析物の質量分析計による分析のためのキットであって、前記キットは、以下の式の組成物:
【化24】
を含み、ここで
Xは、水素またはピロリジン基であり、
Yは、酸素またはNO-(CH-(NRもしくはその重原子誘導体であり、nは、1~20であり、各Rは、独立して、水素または環式、分枝状もしくは直鎖状のC-C18アルキル、C-C18アルケン、もしくはC-C18アルキンである、
キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連米国出願
本出願は、2020年8月12日出願の発明の名称「Phenacylbromide-Based Mass Tags for Carboxyl and Phenolic Functional Group Containing Analytes」という米国仮特許出願第63/064,710号(その全内容は、参考として援用される)の優先権の利益を主張する。
【0002】
分野
本教示は、一般に、質量分析法に、およびより詳細には、質量分析法に有用なタグ化試薬に関する。
【背景技術】
【0003】
緒言
質量分析法(MS)は、定性的適用および定量的適用の両方を有する、試験物質の元素組成を決定するための分析技術である。MSは、未知の化合物を特定する、分子中の元素の同位体組成を決定する、特定の化合物の構造を、その断片化を観察することによって決定する、およびサンプル中の特定の化合物の量を定量するために有用であり得る。その感度および選択性を考慮すれば、MSは、生命科学応用において特に重要である。
【0004】
末端カルボキシル基を含む酸含有化合物の正確な分析および定量化は、ますます重要になりつつある。例えば、生理学的サンプル中の酸含有化合物(例えば、脂肪酸およびエイコサノイド)の量は、種々の疾患状態に関する診断情報を提供し得る。同様に、フェノール性OH基を含む化合物(例えば、ホルモン)の分析は、臨床上重要である。例えば、エストロゲンおよびエストロゲン様化合物の定量化は、エストロゲン関連疾患(例えば、乳がん)の管理の一助になる。
【0005】
質量分析計は、イオンのような化学的実体を検出することから、分析されるべき化合物を、荷電したイオンへと変換することは、サンプル処理の間に起こらなければならない。しかし、これらのカルボキシル官能基およびフェノール性官能基を含む化合物の質量分析法による分析は、上記化合物のイオン化効率が低いことに起因して、例えば、これらの化合物のうちの多くがイオン化可能な基を含まないことから、難題を呈してきた。結果として、サンプル内の、および特に生物学的マトリクスを含むサンプル内で低濃度にある場合のこのような分析物の定量化は、困難であり得る。
【0006】
従って、これらの欠点を克服する、カルボキシル官能基またはフェノール性官能基を含むこのような分析物を定量するための改善された技術のニーズが存在する。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
要旨
本教示の種々の局面は、カルボキシル官能基またはフェノール性官能基を含む分析物の分析(例えば、相対的定量化、絶対的定量化、または両方)のための標識試薬、標識試薬のセット、および標識技術を提供する。このような分析物は、旧来のイオン化技術を使用する質量分析法を介して分析することが困難である場合があり、種々の疾患に関する診断において有用である例えば、脂肪酸、胆汁酸、カルニチン、エイコサノイド、およびエストロゲン(例えば、エストロン、エストラジオール、エストリオール)を含み得る。上記標識試薬を生成する方法がまた開示され、質量分析法におけるそれらの使用のための方法も開示される。
【0008】
本教示の種々の局面によれば、サンプルを分析する方法であって、上記方法は、カルボキシル官能基およびフェノール性官能基のうちの少なくとも一方を有する1もしくはこれより多くの分析物を含むかまたは含むと疑われるサンプルと、誘導体化薬剤とを反応させて、1もしくはこれより多くの誘導体化された分析物を生成する工程であって、ここで上記誘導体化薬剤は、置換されたかもしくは置換されていないフェナシルブロミド(PAB)およびその誘導体を含む工程を包含する方法が提供される。上記方法は、上記1もしくはこれより多くの誘導体化された分析物を分析する工程をさらに包含する。
【0009】
いくつかの局面において、上記サンプルは、少なくとも1個のカルボキシル官能基を有する1もしくはこれより多くの分析物を含むかまたは含むと疑われる。例えば、いくつかの局面において、少なくとも1個のカルボキシル官能基を有する上記1もしくはこれより多くの分析物は、脂肪酸、胆汁酸、アミノ酸、およびカルニチンのうちの1種もしくはこれより多くのものを含み得る。別の例によれば、少なくとも1個のカルボキシル官能基を有する上記1もしくはこれより多くの分析物は、少なくとも1個のエイコサノイドを含み得る。幾つかの関連する局面において、上記少なくとも1個のエイコサノイドは、プロスタグランジン、トロンボキサン、EpETE(エポキシエイコサテトラエン酸)、HETE(ヒドロキシエイコサテトラエン酸)、HODE(ヒドロキシオクタデカジエン酸)、およびHpETE(ヒドロペルオキシエイコサテトラエン酸)のうちの1種もしくはこれより多くのものを含み得る。
【0010】
いくつかの局面において、上記サンプルは、少なくとも1個のフェノール性官能基を有する1もしくはこれより多くの分析物を含むかまたは含むと疑われる。例えば、いくつかの局面において、少なくとも1個のフェノール性官能基を有する上記1もしくはこれより多くの分析物は、少なくとも1種のホルモンを含み得る。種々の局面において、上記ホルモンは、1種もしくはこれより多くのエストロゲンであり得る。例によれば、上記1種もしくはこれより多くのエストロゲンは、エストロン、エストラジオール、およびエストリオールからなる群より選択され得る。
【0011】
種々の局面において、上記サンプルは、生物学的サンプルであり得る。例によれば、上記生物学的サンプルは、血液、血漿、血清、尿、唾液、脳液、組織、毛、または体液のうちの1つであり得る。
【0012】
種々の実施形態によれば、上記誘導体化薬剤は、以下の式:
【化1】
またはその重原子誘導体のものであり得、ここでXは、水素またはピロリジン基である。例えば、ある特定の局面において、上記誘導体化薬剤は、以下の式の置換されていないPAB:
【化2】
またはその重原子誘導体であり得る。いくつかの代替の局面において、上記誘導体化薬剤は、以下の式の置換されたPAB:
【化3】
またはその重原子誘導体を含み得る。
【0013】
種々の実施形態によれば、上記誘導体化薬剤は、以下の式:
【化4】

であって、ここでXは、水素もしくはピロリジン基であり、Yは、酸素またはNO-(CH-(NRもしくはその重原子誘導体であり、nは、1~20であり、各Rは、独立して、水素または環式、分枝状、もしくは直鎖状のC-C18アルキル、C-C18アルケン、もしくはC-C18アルキンであるものであり得る。例えば、ある特定の局面において、上記誘導体化薬剤は、以下の式:
【化5】
またはその重原子誘導体であるものであり得る。いくつかの代替の局面において、上記誘導体化薬剤は、以下の式:
【化6】
またはその重原子誘導体であるものである。
【0014】
上記誘導体化された分析物は、種々の様式で分析され得る。例えば、種々の局面において、上記誘導体化された分析物の分析は、質量分析計によって行われ得る。いくつかの局面において、例えば、上記誘導体化された分析物は、質量分析計を使用する前に、陽イオンモードにおいてイオン化され得る。
【0015】
上で注記されるように、上記標識試薬を生成する方法がまた、開示され、質量分析法におけるそれらの使用のための方法も同様に開示される。
【0016】
本明細書で開示される種々の誘導体化薬剤を生成する方法がまた、本明細書で記載される。例えば、本教示に従う方法の種々の実施形態が、置換されたかもしくは置換されていないフェナシルブロミドと、四級アミンを有するアミノオキシ化合物と反応させて、誘導体化薬剤を形成する工程を包含する。いくつかの局面において、例えば、上記アミノオキシ化合物は、式HNO-(CH-(NRまたはその重原子誘導体であって、ここでnは、1~20であり、各Rは、独立して、水素または環式、分枝状もしくは直鎖状のC-C18アルキル、C-C18アルケン、もしくはC-C18アルキンであるものであり得る。
【0017】
本教示の種々の局面によれば、組成物であって、上記組成物は、置換されたかもしくは置換されていないフェナシルブロミドと四級アミンを有するアミノオキシ化合物との反応生成物を含む組成物が提供される。例えば、上記アミノオキシ化合物は、式HNO-(CH-(NRまたはその重原子誘導体であって、ここでnは1~20であり、各Rは、独立して、水素または環式、分枝状のもしくは直鎖状のC-C18アルキル、C-C18アルケン、もしくはC-C18アルキンであるものであり得る。例によれば、種々の局面において、上記組成物は、以下の式:
【化7】
であって、ここでXは、水素またはピロリジン基であり、Yは、NO-(CH-(NHまたはその重原子誘導体であるものであり得る。
【0018】
本教示はまた、カルボキシル官能基およびフェノール性官能基のうちの少なくとも一方を有する1もしくはこれより多くの分析物の質量分析計による分析のためのキットを提供する。いくつかの例示的な実施形態において、上記キットは、置換されたかもしくは置換されていないフェナシルブロミドと、四級アミンを有するアミノオキシ化合物との反応生成物を含み得る。非限定的な例によれば、上記キットは、以下の式:
【化8】
であって、ここで、
Xは、水素またはピロリジン基であり、
Yは、酸素またはNO-(CH-(NRもしくはその重原子誘導体であり、nは1~20であり、各Rは、独立して、水素または環式、分枝状もしくは直鎖状のC-C18アルキル、C-C18アルケン、もしくはC-C18アルキンであるものの組成物を含み得る。
【0019】
出願人の教示のこれらおよび他の特徴は、本明細書で示される。
【0020】
当業者は、以下に記載される図面が例証目的に過ぎないことを理解する。図面は、いずれにせよ、出願人の教示の範囲を限定するとは意図されない。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1図1は、カルボキシル基を含む酸と、出願人の教示の種々の局面に従うPABベースの誘導体化薬剤との例示的反応を示す。
【0022】
図2A図2Aは、アラキドン酸と、出願人の教示の種々の局面に従うPABベースの誘導体化薬剤の例示的実施形態との反応を示す。
【0023】
図2B図2Bは、標識されていないアラキドン酸を含むサンプルの質量スペクトルを示す。
【0024】
図2C図2Cは、図2Aに示されるPABベースの誘導体化薬剤で誘導体化されたアラキドン酸の質量スペクトルを示す。
【0025】
図3図3は、フェノール基を含む分析物と、出願人の教示の種々の局面に従うPABベースの誘導体化薬剤との例示的反応を示す。
【0026】
図4図4は、エストラジオールと、出願人の教示の種々の局面に従うPABベースの誘導体化薬剤の例示的実施形態との反応を示す。
【0027】
図5図5は、図2Aに示されるPABベースの誘導体化薬剤で誘導体化されたステロイドのパネルの例示的なクロマトグラムを示す。
【0028】
図6A図6Aは、図2Aに示されるPABベースの誘導体化薬剤で誘導体化された血漿サンプル調製物の例示的なクロマトグラムを示す。カルニチンおよびアセチルカルニチンのXICが示される。
【0029】
図6B図6Bは、図2Aに示されるPABベースの誘導体化薬剤で誘導体化されたカルニチンおよびアセチルカルニチンの標準的混合物の例示的なクロマトグラムを示す。
【0030】
図7図7A~Cは、出願人の教示の種々の局面に従う例示的なPABベースの誘導体化薬剤の合成を示す。
【0031】
図8図8A~Cは、出願人の教示の種々の局面に従う他の例示的なPABベースの誘導体化薬剤の合成を示す。
【0032】
図9図9は、出願人の教示の種々の局面に従う4種のPABベースの誘導体化薬剤の例示的なセットを示す。
【発明を実施するための形態】
【0033】
詳細な説明
明瞭性のために、以下の考察が、出願人の教示の実施形態の種々の局面を詳細に説明すると同時に、そうすることが好都合または適切である場合には常に、ある特定の具体的詳細を省略することは、理解される。例えば、代替の実施形態における同様のまたは類似の特徴の考察は、いくぶん省略され得る。周知の着想または概念はまた、簡潔さのためにそれほど詳細に考察しない場合もある。当業者は、出願人の教示のいくつかの実施形態が、あらゆる実行において、実施形態の完全な理解を提供するためにのみ示される、具体的に記載される詳細のある特定のものを必要としなくてもよいことを認識する。同様に、その記載される実施形態が、本開示の範囲から逸脱することなく、一般的常識に従って変化またはバリエーションが可能であり得ることは、明らかである。実施形態の以下の詳細な説明は、出願人の教示の範囲を限定するとはいかなる方法であっても見做されるべきではない。
【0034】
いくつかの実施形態によれば、サンプル中で少なくとも1個のカルボキシル官能基またはフェノール性官能基を有する1もしくはこれより多くの分析物の存在を検出するおよび/またはその分析物を定量する方法が、提供される。
【0035】
カルボキシル含有分析物は、カルボキシル基:
【化9】
を含む。
【0036】
いくつかの実施形態において、カルボキシル含有分析物は、中性であり得る。いくつかの実施形態において、上記カルボキシル含有分析物は、イオンである。ある特定の実施形態において、カルボキシル含有分析物は、約50~1000g/molの範囲の分子量を有し得る。いくつかの実施形態において、上記カルボキシル含有分析物は、約100~400g/molの範囲の分子量を有し得る。いくつかの実施形態において、上記カルボキシル含有分析物は、2個、3個、またはより多くのカルボキシル-(C(=O)OH)部分を有する。
【0037】
カルボキシル官能基を含む分析物の例としては、脂肪酸、胆汁酸、アミノ酸、カルニチン、およびエイコサノイドが挙げられるが、これらに限定されない。本教示に従って分析され得るカルボキシル含有化合物のこれらのクラスの各々の非限定的な例は、以下の表1に示される。
【表1-1】

【表1-2】
【0038】
一般には、脂肪酸は、脂肪族の鎖を有するカルボン酸であり、細胞にとって重要な構造的構成要素である。さらなる非限定的な例によれば、カルボキシル官能基を含む脂肪酸分析物は、短鎖脂肪酸(例えば、ギ酸、酢酸、プロピオン酸)、中鎖脂肪酸(例えば、カプロン酸、カプリル酸、カプリン酸)、長鎖脂肪酸(例えば、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキジン酸)、超長鎖脂肪酸(例えば、ドコサン酸、テトラコサン酸、およびヘキサコサン酸)、分枝鎖脂肪酸(例えば、フィタン酸、プリスタン酸)、飽和脂肪酸(プロパン酸、酪酸、吉草酸)、一価不飽和脂肪酸(例えば、ミリストレイン酸、パルミトレイン酸、バクセン酸(vassenic acid))、および多価不飽和脂肪酸(例えば、リノレン酸、エイコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸)を含み得る。
【0039】
一般には、胆汁酸は、肝臓で一般に合成されるステロイド酸(一級胆汁酸)か、または結腸における細菌の活動から生じ得るステロイド酸(二級胆汁酸)である。さらなる例によれば、種々の実施形態によれば、カルボキシル官能基を含む上記胆汁酸は、一級胆汁酸(例えば、コール酸、ケノデオキシコール酸)および二級胆汁酸(例えば、デオキシコール酸、リトコール酸)を含み得る。
【0040】
一般に、アミノ酸は、アミンおよびカルボキシル官能基の両方を含み、タンパク質の構築ブロックとして、神経伝達物質として、および生合成において広範な生物学的機能を有する。さらなる例によれば、種々の実施形態によれば、カルボキシル官能基を含むアミノ酸は、標準的アミノ酸(例えば、リジン、アスパラギン、スレオニンなど)およびこれらの立体異性体、ならびにこのようなアミノ酸の誘導体(例えば、ホスホセリン(PSER)、アルギノコハク酸(ASA)、ヒドロキシプロリンおよびカルニチン(例えば、リジンから得られ得るD-およびL-カルニチン))を含み得る。
【0041】
一般に、エイコサノイドは、多価不飽和脂肪酸前駆体(例えば、アラキドン酸、アドレン酸、エイコサペンタエン酸、ジホモ-γ-リノレン酸、およびミード酸)の代謝生成物である。上で示されるそれらの例に対するエイコサノイドのさらなる非限定的な例としては、EpETE、HETE、HODE、およびHpETEが挙げられる。
【0042】
フェノール性含有分析物は、フェノール基:
【化10】
を含む。
【0043】
いくつかの実施形態において、フェノール性含有分析物は、中性であり得る。いくつかの実施形態において、上記フェノール性含有分析物は、イオンである。ある特定の実施形態において、フェノール性含有分析物は、約50~1000g/molの範囲の分子量を有し得る。いくつかの実施形態において、上記フェノール性含有分析物は、約100~400g/molの範囲の分子量を有し得る。いくつかの実施形態において、上記フェノール性含有分析物は、2個、3個、またはより多くのフェノール性OH部分を有する。
【0044】
本教示に従って分析され得るフェノール性官能基を含む分析物の例としては、ホルモンが挙げられるが、これらに限定されない。ホルモンの例は、以下の表2に示される。
【表2】
【0045】
さらなる例によれば、種々の実施形態によれば、フェノール性官能基を含む上記分析物は、1種もしくはこれより多くのステロイド、ステロイド様化合物、エストロゲン、エストロゲン様化合物、エストロン(E1)、エストラジオール(E2)、17α-エストラジオール、17β-エストラジオール(1713-estradiol)、エストリオール(E3)、16-エピエストリオール、17-エピエストリオール、および16,17-エピエストリオール、ならびに/またはこれらの代謝産物を含み得る。種々の実施形態において、上記代謝産物は、例えば、エストリオール、16-エピエストリオール(16-エピE3)、17-エピエストリオール(17-エピE3)、16,17-エピエストリオール(16,17-エピE3)、16-ケトエストラジオール(16-ケトE2)、16α-ヒドロキシエストロン(16α-OHE1)、2-メトキシエストロン(2-MeOE1)、4-メトキシエストロン(4-MeOE1)、2-ヒドロキシエストロン-3-メチルエーテル(3-MeOE1)、2-メトキシエストラジオール(2-MeOE2)、4-メトキシエストラジオール(4-MeOE2)、2-ヒドロキシエストロン(20HE1)、4-ヒドロキシエストロン(4-OHE1)、2-ヒドロキシエストラジオール(2-OHE2)、エストロン(E1)、硫酸エストロン(E1s)、17α-エストラジオール(E2a)、17β-エストラジオール(E2b)、硫酸エストラジオール(E2s)、エクイリン(EQ)、17α-ジヒドロエクイリン(EQa)、17β-ジヒドロエクイリン(EQb)、エクイレニン(Eqilenin)(EN)、17α-ジヒドロエクイレニン(ENa)、17β-ジヒドロエクイレニン(ENb)、Δ8,9-デヒドロエストロン(dE1)、Δ8,9-デヒドロエストロンスルフェート(dE1s)であり得る。いくつかの実施形態において、上記フェノール含有分析物は、ステロイド、またはsp混成であるA環およびA環の3位においてOH基を有するステロイド様化合物であり得る。
【0046】
種々の実施形態において、本教示に従う方法は、カルボキシル官能基またはフェノール性官能基を有する1もしくはこれより多くの目的の分析物と、フェナシルブロミドベースの(PABベースの)誘導体化薬剤とを、サンプル中に存在する上記目的の分析物(あるとすれば)を誘導体化するために十分な条件下で反応させる工程を包含する。従って、上記誘導体化された分析物は、本明細書で別段考察されるように、分析され得る(例えば、検出され得る、定量され得る)。
【0047】
本教示に従うPABベースの誘導体化薬剤は、一般に、置換されたかもしくは置換されていないフェナシルブロミド(PAB)およびその誘導体(例えば、置換されていないPABまたは置換されたPABの重原子誘導体)を含む。置換されていないPAB(CAS番号70-11-1)は、以下の式Iを有する化合物である。
【化11】
【0048】
種々の実施形態において、式Iの置換されていないPABベースの誘導体化薬剤は、PABの重原子誘導体であり得る。本明細書で使用される場合、用語「重原子(heavy atom)」とは、天然の存在量が最も多い同位体と同一のプロトンおよび電子の数を有するが、少なくとも1個のさらなる中性子を有し、それによって、元素の分子量を1種もしくはこれより多くの質量ユニット程度増大させる元素の同位体をいう。従って、本明細書で使用される場合、用語「その重原子誘導体」が化合物に言及する場合、その用語は、化合物の原子のうちの1種もしくはこれより多くのものが、上記元素の重原子同位体で置き換えられていることを意味する。例えば、式IのPABの重原子誘導体において、その水素原子のうちの1種もしくはこれより多くのものが、重水素であり得る。12C炭素原子のうちの1種もしくはこれより多くのが、13Cであり得る、および/または16O酸素原子は、17Oもしくは18Oであり得る。同様に、窒素含有化合物の重原子誘導体は、1種もしくはこれより多くの14N窒素原子を、より重い15Nで置き換え得る。
【0049】
PABおよびその重原子誘導体に加えて、本教示に従うPABベースの誘導体化薬剤は、PABのうちの1個もしくはこれより多くの位置においてさらに置換され得る。例によれば、本教示に従うPABベースの誘導体化薬剤は、一般に、式IIの構造(その重原子誘導体を含む):
【化12】
を有し得、ここでXは、水素またはピロリジン基であり、Yは、酸素またはNO-(CH-(NRであり、nは1~20であり、各Rは、独立して、水素または環式、分枝状もしくは直鎖状のC-C18アルキル、C-C18アルケン、もしくはC-C18アルキンである。
【0050】
Xが水素であり、Yが酸素である場合、上記の式IIは、置換されていないPABを表すことが理解される。従って、種々の実施形態において、上記PAB誘導体化薬剤は、置換を有しないPAB(すなわち、上の式IIにおいてX=水素、Y=酸素である)、Xにおいてのみ置換を有するPAB(例えば、以下の式IIIにあるように、X=ピロリジン基、Y=酸素)、Yにおいて置換を有するPAB(例えば、以下の式IVにあるように、X=水素、Y=NO-(CH-(NR)、またはXおよびYの両方において置換を有するPAB(例えば、以下の式Vにあるように、X=ピロリジン基、Y=NO-(CH-(NR)、ならびにこれらの重原子誘導体であり得る。
【化13】
【0051】
上で注記されるように、式IIのYにおける置換は、NO-(CH-(NRまたはその重原子誘導体であり得、ここでnは1~20であり、各Rは、独立して、水素または環式、分枝状もしくは直鎖状のC-C18アルキル、C-C18アルケン、もしくはC-C18アルキンである。いくつかの特定の例示的な実施形態において、nは3であり、各Rは水素であり、その結果、式IVおよびVのPABベースの誘導体化薬剤は、それぞれ、式VIおよびVIIの構造(およびその重原子誘導体)を有する:
【化14】
【0052】
本教示に従う方法は、カルボキシル官能基またはフェノール性官能基を有する1もしくはこれより多くの目的の分析物と、PABベースの誘導体化薬剤とを、上記サンプル中に存在する目的の分析物を誘導体化するために十分な条件下で反応させる工程を包含し得る。図1は、カルボキシル基を含む酸と、上の式IIのPABベースの誘導体化薬剤との、塩基の存在下での例示的な反応を示す。例示的反応において示されるように、PABベースの誘導体化薬剤の臭素は、脱離基として機能し、それによって、誘導体化された酸を生じる。
【0053】
図1の反応の特定の例として、図2Aは、式IIIのPABベースの誘導体化薬剤とアラキドン酸(これは、細胞シグナル伝達に関与する多価不飽和脂肪酸(PUFA)である)との反応を示す。当業者によって理解されるように、アラキドン酸はまた、広い範囲のエイコサノイドへの前駆体であり、生物学的におよび臨床上関連するその代謝産物である。図2Bは、10ミルモル濃度(mM)の非標識アラキドン酸を含むサンプルのMSスペクトルを示す。図2Cは、他方で、本教示の種々の局面に従う、図2Aに示されるとおりのPABベースの誘導体化薬剤で誘導体化された50マイクロモル濃度(μM)のアラキドン酸を含むサンプルのMSスペクトルを示す。特に、アラキドン酸は、アセトニトリル中の0.75M トリエタノールアミンの中で式IIIのPABベースの誘導体化薬剤と反応させ、60℃において1時間加熱した。上記溶液を、Turbo Spray源を有するSCIEX 3200 QTRAPへと注入した。その生成物イオンピークのフラグメント化を示す。図2Cのイオン化およびMS条件は、図2BのMSスペクトルを生成するために使用したものと同一であった。顕著なことには、図2Cのサンプル中の誘導体化されたアラキドン酸の濃度に対して、図2Bのサンプル中の非標識アラキドン酸の濃度が200倍大きかったにもかかわらず、誘導体化されたサンプルのMS分析は、検出された最大強度において20×超の増大を示した(1.3×10 cps 対 5.8×10 cps)。それによって、実質的に増大した感度は、本教示の種々の局面に従うカルボキシル含有PUFAのPABベースの誘導体化から生じることが示された。いかなる特定の理論によっても拘束されることなく、MSシグナルにおけるこの実質的な増大は、負に荷電した非標識アラキドン酸のものに対して、上記誘導体化された分析物の改善されたイオン化効率から生じたと考えられる。非誘導体化アラキドン酸のフラグメント化は、図2Bの質量スペクトルにおいて多くのピークを生じ、シグナルの全体的な希釈を生じるのに対して、図2Cに示されるとおりの誘導体化されたアラキドン酸ではわずか数個の高い強度ピークが生じる。
【0054】
ここで図3を参照すると、フェノール含有化合物と、式IIのPABベースの誘導体化薬剤との例示的な反応が示される。示されるように、PABベースの誘導体化薬剤の臭素は、また、塩基の存在下でフェノール含有化合物と反応される場合には脱離基として機能し、それによって、誘導体化されたフェノールを形成する。図3の反応の特定の例として、図4は、式IIIのPABベースの誘導体化薬剤とエストラジオールとの反応を示す。
【0055】
少なくとも1個のカルボキシル官能基またはフェノール性官能基を有する分析物は、天然または合成であり得、上記サンプルは、分析に適したサンプルの任意のタイプであり得る(例えば、生物学的サンプルが挙げられるが、これに限定されない)。分析物を含むサンプルの非限定的な例としては、細胞または組織およびその培養物(または継代培養物)、粗製または処理された細胞溶解物(全細胞溶解物を含む)、体液、組織抽出物または細胞抽出物が挙げられるが、これらに限定されない。サンプルのなお他の非限定的な例としては、クロマトグラフィーによる分離または電気泳動による分離のような分離プロセスからの画分が挙げられるが、これらに限定されない。体液としては、血液、尿、糞便、脊髄液、脳液、羊水、リンパ液または腺分泌物からの液が挙げられるが、これらに限定されない。処理された細胞溶解物によって、本発明者らは、上記細胞を溶解するために必要とされる処理に加えて、それによって、集められた物質のさらなる処理を行うために、細胞溶解物が処理されていることを意味する。例えば、上記サンプルは、タンパク質分解酵素での、それによって前駆タンパク質またはタンパク質を消化するために、粗製細胞溶解物の全タンパク質構成要素の処理によって形成されるペプチドである1もしくはこれより多くの分析物を含む細胞溶解物であり得る。
【0056】
種々の実施形態によれば、少なくとも1個のカルボキシル官能基またはフェノール性官能基を有する1もしくはこれより多くの分析物を含むサンプルは、分析の前に種々の方法によって富化され得る。例示的な富化方法は、タンパク質沈殿、液液抽出、固液抽出、アフィニティー捕捉/放出、抗体媒介性富化および精製を含み得るが、これらに限定されない。他の富化方法、または2もしくはこれより多くの富化方法の組み合わせが使用され得る。
【0057】
上で注記されるように、種々の実施形態において、本明細書で提供される方法は、上記誘導体化された分析物を分析する(例えば、検出する、定量する)工程を包含し得る。本教示に照らして当業者によって理解されるように、非限定的な例によれば、質量分析法またはUV/VIS分光光度法を含む誘導体化された分析物を分析するための種々の分析方法が使用され得る。
【0058】
いくつかの例示的な実施形態において、上記分析する工程は、上記誘導体化された分析物およびその1種もしくはこれより多くのフラグメントのうちのいずれかと関連する多くの質量シグナルのうちの1個を検出する工程を包含する。質量シグナルの検出は、任意の標準的な質量分析計(例えば、QTRAP(登録商標)5500質量分析計が挙げられるが、これに限定されない)とともに使用され得る。一般に、具体的質量分析計および作動モードは、重要ではないが、本明細書中の教示は、陽イオンモードにおいて作動するイオン源を使用して、誘導体化された分析物のイオン化を可能にするにあたって特に有益であり得る。多くのカルボキシル官能基およびフェノール性官能基含有化合物は、陽モード質量分析技術を使用して分析することが以前は困難であったが、本教示に従う誘導体化方法は、陽イオンモードにおけるイオン化効率を実質的に改善し得る。
【0059】
いくつかの実施形態において、上記方法は、サンプル中のカルボキシルまたはフェノール性含有分析物の量を定量する工程を包含する。定量する工程は、例えば、質量スペクトルと標準とを比較することによって行われ得る。上記標準は、内部標準または分析物標準であり得る。例えば、重原子標識分析物が使用され得る。上記重原子標識分析物は、重原子誘導体化されたカルボキシルまたはフェノール性含有分析物(例えば、本明細書で記載されるもの)であり得る。
【0060】
図5は、式IIIの置換されたPAB化合物で誘導体化された脂肪酸のパネルのLC/MS/MSクロマトグラムを示す。上記パネルは、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミトレイン酸、cis-10-ヘプタデセン酸、パルミチン酸(palmic acid)、オレイン酸、およびステアリン酸からなった。これらの脂肪酸の各々の10μMの溶液を、アセトニトリル中の0.75M トリエタノールアミンの中で式IIIのPABベースの誘導体化薬剤と反応させ、60℃で1時間加熱した。その反応混合物を、LC/MS-MS(Turbo Spray源およびAgilent 1200 LCを備えたSCIEX 3200 QTRAP)に注入し、C13カラムを使用して分離した。図は、誘導体化した脂肪酸(ラウリン酸 388.3/206.2、ミリスチン酸 416.3/206.2、パルミトレイン酸 442.3/206.2、cis-10-ヘプタデセン酸 456.3/206.2、パルミチン酸(palmic acid) 444.3/206.2、オレイン酸 470.4/206.2、およびステアリン酸 472.4/206.2)のMRMトランジションを使用する抽出されたイオンクロマトグラムを示す。
【0061】
図6Aは、本教示に従うPABベースの誘導体化薬剤で誘導体化されたL-カルニチンおよびアセチル-L-カルニチンの標準のLC/MSクロマトグラムを示す。カルニチンおよびアセチルカルニチンの溶液を、アセトニトリル中の0.75M トリエタノールアミンの中で式IIIのPABベースの誘導体化薬剤と反応させ、60℃で1時間加熱した。その反応混合物を、LC/MS-MS(Turbo Spray源およびAgilent 1200 LCを備えたSCIEX 3200 QTRAP)に注入し、C13カラムを使用して分離した。図は、誘導体化したカルニチン(349.2/160.3)およびアセチルカルニチン(391.2/160.3)のMRMトランジションを使用する抽出されたイオンクロマトグラムを示す。
【0062】
図6Bは、カルボキシル含有分析物が式IIIのPABベースの誘導体化薬剤で誘導体化された血漿サンプルのLC/MS クロマトグラムを示す。特に、200μLの、アセトニトリルを、50μLの血漿サンプルに添加して、そのサンプル中のタンパク質を沈殿させ、そのサンプルを遠心分離して、タンパク質をペレット化した。50μLの上清を取り出し、乾燥させた。その乾燥させた上清を、20μLの、アセトニトリル中の0.75M トリエタノールアミンで再構成し、次いで、これを、20μLの、アセトニトリル中の式IIIのPABベースの誘導体化薬剤(20mg/mL)と混合し、60℃で1時間加熱した。次いで、60μLの、水中の2% ギ酸を添加し、2μLを、LC/MS-MS(Turbo Spray源およびAgilent 1200 LCを備えたSCIEX 3200 QTRAP)に注入し、C13カラムを使用して分離した。図は、誘導体化したカルニチン(349.2/160.3)およびアセチルカルニチン(391.2/160.3)のMRMトランジションを使用する抽出されたイオンクロマトグラムを示す。
【0063】
本教示の種々の局面によれば、種々のPABベースの誘導体化薬剤を合成する方法が、本明細書で提供され、上記方法は、置換されたかもしくは置換されていないPABと1種もしくはこれより多くのさらなる化合物(例えば、アミノオキシ試薬)とを反応させて、上記PABベースの誘導体化薬剤を形成する工程を包含し得る。例えば、いくつかの局面において、本教示の種々の局面に従うPABベースの誘導体化薬剤は、置換されたかもしくは置換されていないPABと、四級アミンまたはその置換基を有するアミノオキシ化合物(アミノオキシ化合物の重原子誘導体を含む)とを反応させることによって精製され得る。このようなアミノオキシ化合物の例は、以下の構造を有得:
【化15】
ここでnは1~20、1~15、1~10、1~5、または2~4であり、Rは、四級アミンまたは以下の構造を有する置換基:
【化16】
であり、ここで各Rは、独立して、Hまたは環式、分枝状もしくは直鎖状のC-C18アルキル、C-C18アルケン、もしくはC-C18アルキンであり、ここでmは、1~20の間の整数であり、Xは、アニオンである。
【0064】
このようなアミノオキシ化合物の特定の例としては、HNO-(CH-(NR(またはその重原子誘導体)(ここでnは1~20であり、各Rは、独立して、水素または環式、分枝状もしくは直鎖状のC-C18アルキル、C-C18アルケン、またはC-C18アルキンである)が挙げられる。化合物 HNO-(CH-(NHは、このようなアミノオキシ試薬の一例である。
【0065】
図7Aを参照すると、式Iの置換されていないPAB化合物(Sigma Aldrichから得た。CAS 70-11-1)を、5当量のアミノオキシ化合物 HNO-(CH-(NH(Amplifex Keto Reagent)と、5% 酢酸/メタノール中で反応させ、周囲温度において12時間撹拌して、式VIのPABベースの誘導体化薬剤を形成した。その生成物を、C18フラッシュクロマトグラフィーによって精製した。さらに、上で注記されるように、本明細書で記載される種々の化合物の重原子誘導体を、例えば、非限定的な例によれば、重水素原子(HまたはD)、13C、17O、18O、および15Nのうちの1種もしくはこれより多くのものを組み込むことによって、さらに使用した。例えば、図7Bは、式IのPABと重原子誘導体HNO-(CD-(NHとの反応を示す一方で、図7Cは、重原子誘導体 HNO-(13CH-(NHとの反応を示す。
【0066】
図8Aを参照すると、式IIIの置換されたPAB化合物(Alfa Aesarから得た2-ブロモ-4’-(1-ピロリジニル)アセトフェノン、CAS番号216144-18-2)を、5当量のアミノオキシ化合物HNO-(CH-(NH(Amplifex Keto Reagent)と5%酢酸/メタノール中で反応させ、周囲温度で12時間撹拌して、式VIIのPABベースの誘導体化薬剤を形成した。その生成物を、C18フラッシュクロマトグラフィーによって精製した。図8Bは、式IIIのPABと、重原子誘導体HNO-(CD-(NHとの反応を示す一方で、図8Cは、重原子誘導体 HNO-(13CH-(NHとの反応を示す。
【0067】
いくつかの実施形態によれば、PABベースの誘導体化薬剤の1種もしくはこれより多くの重原子誘導体は、1もしくはこれより多くのサンプル実行において内部標準として使用され得る。さらにまたは代わりに、PABベースの誘導体化薬剤およびその重原子誘導体のうちの1種もしくはこれより多くのものは、多重アッセイにおいて、例えば、相対的または絶対的定量化においてセットとして使用され得る。例えば、PABベースの誘導体化薬剤の種々の重原子誘導体のセットは、二重、三重、四重、および他の多重アッセイのために使用され得る。非限定的な例によれば、図9は、本教示の種々の実施形態に従う四重アッセイにおいて使用される式VIの4種のPABベースの誘導体化薬剤の例示的セットを示す。示されるように、その示されるPABベースの誘導体化薬剤の各々は、アミノオキシ化合物 HNO-(CH-(NHの異なる重同位体バージョンと反応させた式Iの置換されていないPAB化合物を含む。
【0068】
いくつかの実施形態によれば、キットがまた、提供される。いくつかの実施形態において、上記キットは、PABベースの誘導体化試薬(例えば、本明細書で記載されるものが挙げられるが、これらに限定されない)を含む。いくつかの実施形態において、上記PABベースの誘導体化薬剤は、式IIの化合物またはその重原子誘導体である。種々の実施形態によれば、上記キットは、緩衝液、1種もしくはこれより多くのクロマトグラフィーカラム、および必要に応じて上記方法またはアッセイを行うに当たって有用な他の試薬および/または構成要素を含み得る。いくつかの実施形態において、上記キットは、例えば、ユーザーがサンプルを添加することのみを必要とするような均質アッセイを含み得る。いくつかの実施形態において、上記キットは、較正または正規化試薬または標準を含み得る。アッセイを行い得るまたは行うために使用されるべき機器設定に関する情報はまた、キットの中に含まれ得る。いくつかの実施形態において、サンプル調製、操作条件、容積、温度設定などに関する情報は、キットとともに含まれ得る。上記キットは、1個もしくはこれより多くの試薬容器および適切な説明書を含む密閉容器の中にパッケージされ得る。1種もしくはこれより多くのアッセイ、測定値、トランジション対、操作説明書、操作を行うためのソフトウェア、これらの組み合わせなどに関する電子情報が格納されている電子媒体は、キットの中に含められ得る。種々の実施形態によれば、上記PABベースの誘導体化試薬およびその中間体の合成のための方法が提供され得る。いくつかの実施形態において、上記キットは、既知のフェノールまたはカルボキシル含有分析物(例えば、目的の分析物)の既知の濃度を含む少なくとも1種の標準を含み得る。いくつかの実施形態によれば、キットは、フェノールまたはカルボキシル含有分析物を誘導体化、定量、および検出するための説明書を含み得る。
【0069】
本明細書で使用される節の見出しは、体系化する目的に過ぎず、限定として解釈されるべきではない。出願人の教示は、種々の実施形態とともに記載されるが、出願人の教示がこのような実施形態に限定されることは意図されない。反対に、出願人の教示は、当業者によって理解されるように、種々の代替、改変、および均等物を包含する。
【0070】
以下が特許請求される。
図1
図2A
図2B
図2C
図3
図4
図5
図6A
図6B
図7
図8
図9
【国際調査報告】