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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-09-12
(54)【発明の名称】CD25偏向抗IL-2抗体
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/13 20060101AFI20230905BHJP
   C07K 16/24 20060101ALI20230905BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20230905BHJP
   A61K 38/20 20060101ALI20230905BHJP
   A61P 37/02 20060101ALI20230905BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20230905BHJP
   A61P 37/08 20060101ALI20230905BHJP
   A61P 3/00 20060101ALI20230905BHJP
   A61P 19/02 20060101ALI20230905BHJP
   A61P 19/08 20060101ALI20230905BHJP
   A61P 1/16 20060101ALI20230905BHJP
   A61P 21/00 20060101ALI20230905BHJP
   A61P 3/10 20060101ALI20230905BHJP
   A61P 9/10 20060101ALI20230905BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20230905BHJP
   A61P 21/04 20060101ALI20230905BHJP
   A61P 17/14 20060101ALI20230905BHJP
   A61P 17/06 20060101ALI20230905BHJP
   A61P 1/04 20060101ALI20230905BHJP
   A61P 37/06 20060101ALI20230905BHJP
   A61K 47/68 20170101ALI20230905BHJP
【FI】
C12N15/13 ZNA
C07K16/24
A61K39/395 N
A61K38/20
A61P37/02
A61P29/00
A61P37/08
A61P3/00
A61P19/02
A61P19/08
A61P1/16
A61P21/00
A61P3/10
A61P9/10 101
A61P25/00
A61P21/04
A61P17/14
A61P17/06
A61P1/04
A61P37/06
A61K47/68
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023512084
(86)(22)【出願日】2021-08-18
(85)【翻訳文提出日】2023-04-14
(86)【国際出願番号】 EP2021072960
(87)【国際公開番号】W WO2022038193
(87)【国際公開日】2022-02-24
(31)【優先権主張番号】20191635.0
(32)【優先日】2020-08-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(31)【優先権主張番号】20195863.4
(32)【優先日】2020-09-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(31)【優先権主張番号】20191638.4
(32)【優先日】2020-08-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】515098691
【氏名又は名称】ウニヴェルズィテート チューリッヒ
(74)【代理人】
【識別番号】100149032
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 敏明
(74)【代理人】
【識別番号】100181906
【弁理士】
【氏名又は名称】河村 一乃
(72)【発明者】
【氏名】ボーイマン,オヌール
(72)【発明者】
【氏名】カラカス,ウフク
(72)【発明者】
【氏名】レイバー,ミロ
(72)【発明者】
【氏名】メレディン,ローマン
(72)【発明者】
【氏名】マカ,ロバート
【テーマコード(参考)】
4C076
4C084
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4C076AA95
4C076CC07
4C076CC41
4C076EE41
4C076EE59
4C076FF70
4C084AA02
4C084BA44
4C084DA14
4C084MA02
4C084NA05
4C084NA13
4C084NA14
4C084ZA02
4C084ZA45
4C084ZA68
4C084ZA75
4C084ZA89
4C084ZA92
4C084ZA94
4C084ZA96
4C084ZB07
4C084ZB08
4C084ZB11
4C084ZB13
4C084ZC21
4C084ZC35
4C085AA14
4C085AA25
4C085BB11
4C085BB31
4C085DD62
4C085EE01
4H045AA11
4H045AA30
4H045BA10
4H045DA76
4H045EA22
4H045FA74
(57)【要約】
本発明は、ヒトIL-2(hIL-2)特異的モノクローナル抗体を提供し、ここでhIL-2と前記モノクローナル抗体との複合体は、CD25及び三量体IL-2Rを介して優先的にIL-2シグナル伝達を誘導する。本発明は、炎症性疾患を治療する使用のための、hIL-2及び前記hIL-2-mAbを含む医薬組成物をさらに提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒトインターロイキン-2(hIL-2)特異的モノクローナル抗体(mAb)、又はその抗原結合断片であって、前記hIL-2特異的mAbは、エピトープを提供するhIL-2のアミノ酸残基と相互作用し、かつ
前記エピトープは、前記hIL-2残基の:
- H16、D20、
- Q57、E60、E61、L63、K64、E67、E68、及び
- L80、R81、R83、D84、I86、S87、N88、N90、V91、L94、E95、K97、T101、T102、M104、
を含み、
前記hIL-2特異的mAb、又はその抗原結合断片は、V相補性決定領域CDR1、CDR2、及びCDR3を含む重鎖可変(V)領域と、V相補性決定領域CDR1、CDR2、及びCDR3を含む可変軽鎖(V)領域とを含み、かつここで
a. CDR1は、配列番号001を含むか、又はそれと同一であり;及び
b. CDR2は、配列番号002を含むか、又はそれと同一であり;及び
c. CDR3は、配列番号003を含むか、又はそれと同一であり;及び
d. CDR1は、配列番号004を含むか、又はそれと同一であり;及び
e. CDR2は、配列番号005を含むか、又はそれと同一であり;及び
f. CDR3は、配列番号006を含むか、又はそれと同一である、
前記ヒトインターロイキン-2(hIL-2)特異的モノクローナル抗体(mAb)、又はその抗原結合断片。
【請求項2】
前記hIL-2特異的mAbのhIL-2への結合は:
- (≦)4.3×10-9以下の解離定数(K)、特に(≦)5.13×10-9以下のK
- (≧)4.12×10Ms-1以上のオンレート(Kon)、特に(≧)4.66×10Ms-1以上のKon、及び
- (≦)2.20×10-3-1以下のオフレート(Koff)、特に(≦)2.39×10-3-1以下のKoff
によって特徴づけられる、
請求項1に記載のhIL-2特異的mAb、又はその抗原結合断片。
【請求項3】
前記hIL-2特異的mAbとhIL-2とを、2:1~1:2の間の比率で組み合わせた複合体、特に1:1の比率で組み合わせた複合体は:
- 中間親和性hIL-2受容体と比較した、高親和性hIL-2受容体への結合の比率は、20~121の間であること、特に比率は71~121の間であること、及び/又は
- 中間親和性hIL-2受容体と比較した、CD25単独の結合親和性の比率は、277~483の間であること、特に比率は380~483の間であること、及び/又は
- 高親和性hIL-2受容体への複合体の結合におけるhIL-2からのhIL-2 mAbの解離、及び/又は
- ヒトCD3CD4CD127lowFoxp3reg細胞をEC50が(≦)0.154以下で、かつヒトCD8T細胞をEC50が(≧)442.9以上で活性化させること、
によって特徴づけられる、請求項1又は2に記載のhIL-2特異的mAb、又はその抗原結合断片。
【請求項4】
hIL-2特異的mAb、又はその抗原結合断片であって、V相補性決定領域CDR1、CDR2、及びCDR3を含む重鎖可変(V)領域と、V相補性決定領域CDR1、CDR2、及びCDR3を含む可変軽鎖(V)領域とを含み、かつここで
a. CDR1は、配列番号001を含むか、又はそれと同一であり;及び
b. CDR2は、配列番号002を含むか、又はそれと同一であり;及び
c. CDR3は、配列番号003を含むか、又はそれと同一であり;及び
d. CDR1は、配列番号004を含むか、又はそれと同一であり;及び
e. CDR2は、配列番号005を含むか、又はそれと同一であり;及び
f. CDR3は、配列番号006を含むか、又はそれと同一である、
前記hIL-2特異的mAb、又はその抗原結合断片。
【請求項5】
a. 前記CDR1、CDR2、及びCDR3は、配列番号007、配列番号008、配列番号009、配列番号010、配列番号011、配列番号012、配列番号013、及び配列番号014から選択されるV配列に含まれ、特に前記CDRは、配列番号007に含まれ、かつ
b. 前記CDR1、CDR2、及びCDR3は、配列番号015、及び配列番号016から選択されるV配列に含まれ、特に前記CDRは、配列番号015に含まれる、
請求項1~4のいずれか一項に記載のhIL-2特異的mAb、又はその抗原結合断片。
【請求項6】
a.
- 74位及び/又は84位がセリンであり、及び/又は
- 93位がメチオニンであり、及び/又は
- 122位がアラニンである;
配列番号007と(≧)96%以上同一であるV領域配列、
及び
b.
- 69位がイソロイシンである、
配列番号015と(≧)99%以上同一であるV領域配列、
を含む、
hIL-2特異的mAb、又はその抗原結合断片、特に請求項1~5のいずれか一項に記載のhIL-2特異的mAb。
【請求項7】
a. V領域は、配列番号007、配列番号008、配列番号009、配列番号010、配列番号011、配列番号012、配列番号013、及び配列番号014から選択される配列、又は以下に示す置換規則によってこれらの参照配列のいずれか1つから導かれる機能的に類似する配列を含み;かつ
b. V領域は、配列番号015及び配列番号016から選択される配列、又は以下に示す置換規則によってこれらの参照配列のいずれか1つから導かれる機能的に類似する配列を含み、
ここで、それぞれの参照配列から機能的に類似する配列を導く前記置換規則は:
i. グリシン(G)とアラニン(A)とは入れ替え可能であり;バリン(V)と、ロイシン(L)と、イソロイシン(I)とは入れ替え可能であり、AとVとは入れ替え可能であり;
ii. トリプトファン(W)とフェニルアラニン(F)とは入れ替え可能であり、チロシン(Y)とFとは入れ替え可能であり;
iii. セリン(S)とスレオニン(T)とは入れ替え可能であり;
iv. アスパラギン酸(D)とグルタミン酸(E)とは入れ替え可能であり;
v. アスパラギン(N)とグルタミン(Q)とは入れ替え可能であり、NとSとは入れ替え可能であり、NとDとは入れ替え可能であり、EとQとは入れ替え可能であり;
vi. メチオニン(M)とQとは入れ替え可能であり;
vii. システイン(C)と、Aと、Sとは入れ替え可能であり;
viii. プロリン(P)と、Gと、Aとは入れ替え可能であり;
ix. アルギニン(R)とリジン(K)とは入れ替え可能であり;
特に、上記の置換規則によって、多くとも2つのアミノ酸が交換され、より特に多くとも1つのアミノ酸が交換される、
hIL-2特異的mAb、又はその抗原結合断片、特に請求項1~5のいずれか一項に記載のhIL-2特異的mAb。
【請求項8】
a. 配列番号007、配列番号008、配列番号009、配列番号010、配列番号011、配列番号012、配列番号013、配列番号014、及び配列番号017のうちの少なくとも1つと(≧)90%以上同一の第1の配列、特に(≧)94%以上、(≧)96%以上、又はさらに(≧)98%以上同一の第1の配列;及び
b. 配列番号015、配列番号016、及び配列番号018のうちの少なくとも1つと(≧)90%以上同一の第2の配列、特に(≧)94%以上、(≧)96%以上、又はさらに(≧)98%以上同一の第2の配列、
をさらに含む、
請求項1~3のいずれか一項に記載の特徴を有する、
hIL-2特異的mAb、又はその抗原結合断片。
【請求項9】
前記hIL-2特異的mAbは:
a. 重鎖であり、配列番号017を含むか、又はそれからなる前記重鎖;及び
b. 軽鎖であり、配列番号018を含むか、又はそれからなる前記軽鎖、
を含む、
請求項1~8のいずれか一項に記載のhIL-2特異的mAb。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか一項に記載の、hIL-2特異的mAb、又はその抗原結合断片をコードする核酸分子。
【請求項11】
c. 請求項1~9のいずれか一項に記載のhIL-2特異的mAb、又はその抗原結合断片、及び
d. hIL-2、
を含む、医薬品としての使用のための医薬組成物、特にIL-2免疫療法に適している免疫介在性疾患の治療における使用のための医薬組成物、より特に同種移植関連障害、慢性炎症、アレルギー、自己免疫疾患、及び代謝性疾患から選択される、免疫介在性疾患の治療における使用のための医薬組成物。
【請求項12】
前記IL-2と前記hIL-2特異的mAbとが共有結合的に会合している、請求項11に記載の使用のための医薬組成物。
【請求項13】
前記自己免疫疾患は、全身性エリテマトーデス、関節リウマチ、強直性脊椎炎、自己免疫肝炎、筋萎縮性側索硬化症、1型真性糖尿病、2型真性糖尿病、動脈硬化症、多発性硬化症、炎症性及び自己免疫性ミオパシー、円形脱毛症、乾癬、又は炎症性腸疾患から選択される、請求項11又は12に記載の使用のためのhIL-2特異的mAbを含む医薬組成物。
【請求項14】
前記同種移植片関連障害は、固形臓器移植処置を受ける患者において診断される、請求項11~13のいずれか一項に記載の使用のためのhIL-2特異的mAbを含む医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、IL-2の効果を、CD122介在性免疫反応ではなく寛容原性CD25介在性免疫反応に偏らせる(偏向させる(biasing))ことができる、ヒトIL-2に特異的に反応する抗体に関する。本発明は、本発明の抗体を用いた特異的な医薬組成物及び治療法をさらに提供する。
【背景技術】
【0002】
インターロイキン2(IL-2)は、15.5kDaの4-α-ヘリックスバンドルのサイトカインであり、重要なT細胞成長因子であり、特異的なIL-2受容体(IL-2R)を介してシグナルを伝達する。IL-2-IL-2Rの結合により、ヤヌスキナーゼ(Janus kinase)シグナル伝達物質及び転写活性化因子(STAT)、ホスホイノシチド3-キナーゼ(PI3K)-AKT、及び分裂促進因子活性化タンパク質キナーゼ(MAPK:mitogen-activated protein kinase)経路を含む下流のシグナル伝達経路が開始される(Arenas-Ramirez,Trends Immunol.2015,36:763)。シグナル伝達が可能なIL-2Rには、二量体IL-2Rと三量体IL-2Rとの2種類がある(Ross,Annu.Rev.Immunol.2018,36:411)。二量体IL-2Rは、IL-2Rβ(CD122)と共通γ鎖(γc;CD132)とから形成され、IL-2に対して中間の親和性を示す(解離定数[K]≒10-9M)。三量体IL-2Rは、CD122、CD132、及びIL-2Rα(CD25)からなり、CD25はIL-2Rの親和性をさらに100倍高める役割を果たし、そのため三量体IL-2R(K≒10-11M)は高親和性IL-2Rとも呼ばれる(Arenas-Ramirez、2015)。その結果、フォークヘッドボックスp3(Foxp3)CD25highCD4制御性T(Treg)細胞など、高レベルの三量体IL-2Rを強固に発現する細胞は、CD25細胞に対して競争優位性を持ち、ただし、両細胞サブセットがCD122とCD132とを同様に発現していることが条件となる。しかしながら、IL-2免疫療法を複雑にする、CD4reg細胞は高レベルのCD25を保持するが、CD122のレベルは低から中程度にとどまり、一方で、抗原経験性(記憶性)CD8T細胞及びナチュラルキラー(NK)細胞は、定常状態にて、高レベルのCD122を発現するが、CD25はバックグラウンドレベルにとどまる。したがって、CD4reg細胞、CD8T細胞及びNK細胞は、IL-2免疫療法時にIL-2について競合する可能性がある(Arenas-Ramirez、Sci.Transl.Med.2016,8:367;Raeber,Immunol.Rev.2018,283:176)。
【0003】
免疫抑制性Treg細胞と免疫刺激性エフェクター免疫細胞との両方に対するIL-2の多面的な作用は、その治療的使用を困難なものにする。IL-2の治療特性を改善するために、複数のアプローチが追求されてきた。IL-2に変異を導入すること(IL-2変異タンパク質とも呼ばれる)、又は特異的な部位でIL-2をPEG化すること、又はIL-2/抗-IL-2モノクローナル抗体(mAb)複合体(簡潔には、IL-2cx)を用いることによって、IL-2は二量体又は三量体のIL-2Rに偏ること(偏向すること)が可能である。抗マウスIL-2特異的mAbクローンJES6-1は、この目的のために開発されたプロトタイプ抗体である。組換え野生型(WT:wild-type)マウスIL-2とJES6-1とを複合化することで、IL-2/JES6-1cxが得られ、これは、in vivoでCD25highreg細胞を強力に刺激するが、一方で、静止CD8T細胞及びNK細胞はこのIL-2cxによる影響をほとんど受けない(Boyman,Science 2006,311:1924;Letourneau,PNAS 2010,107:2171)。それらのin vivoでの効果から、IL-2/JES6-1cx及び同様のIL-2cxは、CD25指向(CD25-directed)又はCD25偏向(CD25-biased)IL-2cxと呼ばれている。
【0004】
CD25偏向IL-2cxは、マウスにおいて、固形同種移植片の移植の複数のモデル、並びに自己免疫性糖尿病、実験的自己免疫性脳脊髄炎(多発性硬化症のモデル)、コラーゲン誘発関節炎、炎症性大腸炎、及び全身性エリテマトーデス様症候群を含む慢性炎症疾患及び自己免疫疾患で評価されてきた(Tang,Immunity 2008,28:687;Webster,J.Exp.Med.2009,206:751;Lee,Immunol.2012,137:305;Spangler,Immunity 2015,42:815;Yan,Kidney Int.2017,91:603)。IL-2cxの受容体偏向機能は、高親和性又は中間親和性の受容体のいずれかのIL-2結合部位をmAbが覆い隠すことによって達成されると考えられていた。IL-2/JES6-1cxの構造解析により、JES6-1はIL-2のCD132への結合を立体的に阻害し、さらにIL-2の構造に軽度のアロステリックな変化を起こしてIL-2とCD25との相互作用に影響を与えることが示唆された(Spangler,Immunity,2015)。逆に、抗ヒトIL-2 mAb F5111.2で作られたCD25偏向ヒトIL-2cxでは、エピトープはCD122結合部位に係属するF5111.2により覆われ、CD25エピトープの穏やかなアロステリック変化を誘導した(Trotta,Nat.Med.2018,24:1005)。IL-2がCD122-CD132二量体に結合してシグナル伝達を開始するためには、CD25偏向性抗IL-2 mAbが、CD25に結合したIL-2cxから解離する必要があるのかどうかは知られていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Arenas-Ramirez,Trends Immunol.2015,36:763
【非特許文献2】Ross,Annu.Rev.Immunol.2018,36:411
【非特許文献3】Arenas-Ramirez、Sci.Transl.Med.2016,8:367
【非特許文献4】Raeber,Immunol.Rev.2018,283:176
【非特許文献5】Boyman,Science 2006,311:1924
【非特許文献6】Letourneau,PNAS 2010,107:2171
【非特許文献7】Tang,Immunity 2008,28:687
【非特許文献8】Webster,J.Exp.Med.2009,206:751
【非特許文献9】Lee,Immunol.2012,137:305
【非特許文献10】Spangler,Immunity 2015,42:815
【非特許文献11】Yan,Kidney Int.2017,91:603
【非特許文献12】Trotta,Nat.Med.2018,24:1005
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記の技術水準に基づいて、本発明の目的は、炎症を阻害するために、IL-2シグナルを高親和性IL-2受容体、特にTreg上に発現する前記受容体に偏向させる、改善された手段及び方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この目的は、本明細書の独立請求項の主題によって達成される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1A図1(A)in vivoでアゴニスティックな特性を持つIL-2受容体(IL-2R)偏向性抗hIL-2mAbを同定するためのスクリーニング設計について示す。CD25、CD122+CD132、又はCD25+CD122+CD132を発現する細胞を、それらの蛍光の「バーコード」に基づいてゲーティングした細胞ベースのIL-2R結合アッセイ及びフローサイトメトリープロットである。CD25-CyPet、CD122-YPet、CD132-RFPの発光スペクトルを、それぞれAF488、BV421、APCのチャネルで検出した。IL-2複合体(IL-2cx)結合は、ラット抗マウスIgG-BV605を用いてBV605チャネルで記録した。ヒストグラム(右)は、IL-2/抗IL-2mAbCD25(中)、IL-2/抗IL-2mAbCD122(下)及び陰性対照(上)の結合を示す。
図1BC図1(B)は、(A)と同様にIL-2cx結合を定量した。リードアウトは、CD25(白棒)又はCD122+CD132(灰色棒)を発現する細胞にて定量したBV605の幾何平均蛍光強度(gMFI)であり、各抗IL-2 mAbについて個別にプロットした。3~4回の実験から得られたプールデータ±SEM。gMFIバックグラウンドは差し引いた。対応のない両側t検定。図1(C)は、(A)と同様にゲーティングしたCD25-CyPet、CD122-YPet+CD132RFP、又はCD25-CyPet+CD122-YPet+CD132-RFPを発現するHEK293T細胞へのIL-2Rhod(PEチャネル)と抗IL-2 mAb(ラット抗マウスIgG-BB605)との結合に対するフローサイトメトリーの定量である。対照細胞は、IL-2Rhodなしでインキュベートした。棒グラフは、IL-2Rhod陽性画分(色なし)又はIL-2Rhod/抗IL-2 mAbの二重陽性画分(色あり)の頻度±SEMを示す。3~4回の実験から得られたデータをプールした。
図1DEFGH図1(D)は、CD25(Y軸)又はCD122+CD132(X軸)(左プロット)、及びCD25(Y軸)又はCD25+CD122+CD132(X軸)(右プロット)への結合に基づいてクラスタ化したIL-2Rhod/抗IL-2 mAb複合体のマトリックスを示す。IL-2Rhod/抗IL-2 mAb複合体の陽性集団の平均パーセンテージは(C)で得た。図1(E)は、三量体高親和性IL-2Rを発現する細胞とのインキュベーション時における複合型IL-2Rhodと遊離型IL-2Rhodの比較を示す。IL-2Rhod対IL-2Rhod/抗IL-2mAb複合体の陽性集団の平均パーセンテージは(C)で得た。図1(F)は、記載の抗IL-2 mAbクローンの「CD25偏向」と「IL-2送達」のマトリックスを示す。クラスタは、CD25結合に対するIL-2Rhod/抗IL-2 mAb複合体の結合(Y軸)対CD25+CD122+CD132に対する遊離IL-2Rhod結合(X軸)を示している。(C)で得たIL-2Rhod/抗IL-2 mAb複合体の陽性集団とIL-2Rhod陽性集団の平均パーセンテージを表示する。図1(G)は、IL-2Rhod/抗IL-2複合体のCD25と、CD25+CD122+CD132とへの結合の差又は比率により、抗IL-2 mAb放出を示す。図1(H)は、試験した抗IL-2 mAbクローンの概要を示す。
図2ABC図2(A)は、C57BL/6マウスにIL-2(1.5μg又は30μg)及びIL-2/抗IL-2複合体(1.5μg/15μg)を0、1、2日目に注入して4日目に安楽死させ、フローサイトメトリーを用いてリンパ節(LN)及び脾臓におけるCD4CD25Foxp3T細胞及びCD8CD44hiCD122T細胞の頻度分析を行った。(A)4日目に定量した脾臓及びLNにおけるCD4CD25Foxp3T細胞の頻度とカウント数を示す。2~3の実験の平均値±SEMが示され、IL-2(30μg)及びUFKA-50についてはn=2;IL-2(1.5μg)、UFKA-10、UFKA-30、UFKA-40、NARA1についてはn=5;PBS及びUFKA-20についてはn=6。対応のない両側t検定。(B)脾臓からのCD4CD25Foxp3T細胞、CD8CD44hiCD122T細胞、及びCD3NK1.1CD122の平均細胞数をPBS治療マウスに対する倍率変化として示す。(C)脾臓のCD4CD25Foxp3T細胞及びCD8CD44hiCD122T細胞のカウント数の比率をプロットした。平均値±SEM。対応のない両側t検定。赤の破線は、IL-2(1.5μg)治療済み動物から得られた平均値を示す。
図3AB図3は、野生型(WT:Wild-type)C57BL/6マウスに、0、1、2日目にIL-2(1.5μg又は30μg)及びIL-2/抗IL-2複合体(1.5μg/15μg)を注入し、4日目に安楽死させてフローサイトメトリーによりリンパ節及び脾臓の細胞サブセット頻度を測定したものを示す。(A)4日目のリンパ節及び脾臓におけるCD8CD44hiCD122T細胞の頻度を示す。(B)脾臓CD3NK1.1CD122NK細胞の頻度を示す。2~3の実験の平均値±SEMであり、IL-2(30μg)及びUFKA-50についてはn=2;IL-2(1.5μg)、UFKA-10、UFKA-30、UFKA-40、及びNARA1についてはn=5;PBS及びUFKA-20についてはn=6。赤の破線はIL-2(1.5μg)治療済み動物で得られた平均値を示す。
図4AB図4は、IL-2(1μg又は30μg)又はIL-2/UFKA-20複合体(1μg/10μg)をC57BL/6に単回注入した。(A)マウスを安楽死させ、脾臓CD4CD25、CD8T細胞及びNK細胞のうちリン酸化STAT5(pSTAT5)細胞の頻度をフローサイトメトリーで、2時間後(2hr)に、PBS(灰色)、IL-2(1μg、白)、IL-2(30μg、黒)又はIL-2/UFKA-20複合体(濃い灰色)を注入後1日目(d1)、2日目(d2)、4日目(d4)及び8日目(d8)に測定した。データは3回の独立した実験の平均値±SEMで示し、1群あたりn=5マウスである。一元配置分散分析とテューキ多重比較検定。(D)脾臓一元配置分散分析T細胞及びNK細胞の細胞数をPBSに対する倍率変化で表した。データは3回の独立した実験の平均値±SEMで示し、1群あたりn=5マウスである。一元配置分散分析とテューキの多重比較検定。
図5図5は、野生型(WT)C57BL/6マウスに、IL-2(1.5μg;色なしシンボル)、IL-2/UFKA-20複合体(IL-2/UFKA-20cx;黒シンボル)又はIL-2/UFKA-22複合体(IL-2/UFKA-22cx;赤シンボル)を単回注入した。IL-2/UFKA-20cx及びIL-2/UFKA-22cxは、ヒトIL-2(1.5μg)とそれぞれUFKA-20(15μg)、UFKA-22(15μg)を1:1のモル比で複合化することにより生成した。注入後、指示された時点(時間単位:hr)で血液試料を採取し、サンドイッチ酵素結合免疫吸着法(ELISA)を用いて血清中のヒトIL-2を検出した。半減期(t1/2)値は、指数関数的な一相減衰曲線に適合させて算出した。IL-2はn=7の平均値、IL-2/UFKA-20cxはn=9の平均値、IL-2/UFKA-22cxはn=3の平均値で示している。
図6図6は、フローサイトメトリーで測定したCD4CD127lowFoxp3reg細胞及びCD8T細胞におけるpSTAT5のIL-2複合体の刺激の定量を示す。100ng/ml IL-2をUFKA-20又はUFKA-22と1:1モル比で複合化した。滴定したIL-2(左グラフ)、IL-2/UFKA-20cx(中グラフ)、IL-2/UFKA-22cx(右グラフ)に応答する、表示のヒトT細胞サブセットのpSTAT5レベルを示す。CD4CD127lowFoxp3reg細胞(色なしシンボル)及びCD8T細胞(色ありシンボル)の両方において、半数最大効果濃度(EC50)を各条件で算出した。適合した用量反応曲線は線で示す。データは3回の独立した実験の平均値±SEMで示す。
図7AB図7(A)は図2に記載のとおりの実験設定を示す。マウスは、PBS、IL-2(1μg)単独又はキメラUFKA-20 mAb(chUFKA-20)又はヒト化UFKA-20バリアントUFKA-22-00(UFKA-22と呼ぶ)、UFKA-22-02及びUFKA-22-07との複合体(1:1モル比)の注入を3回受けた。マウスは4日目に安楽死させ、CD4CD25Foxp3T細胞及びCD8CD44hiCD122T細胞の頻度をフローサイトメトリーにより脾臓で分析した。4日目に脾臓CD4CD25Foxp3T細胞の頻度と数を定量した。(B)脾臓CD4CD25Foxp3T細胞及びCD8CD44hiCD122T細胞の数の比率をプロットした。3回の実験による平均値±SEMを示し、PBS、IL-2、及びUFKA-22-07はn=3であり、UFKA-20、chUFKA-20、UFKA-22-02、及びUFKA-22-07はn=5である。
図8A図8(A)は、アカゲザルに、6日目までIL-2を毎日注入するか、又は0日目と3日目にIL-2/UFKA-22複合体又はUFKA-22 mAbのみを2回注入した。血液を採取し、表示の時点で分析した。IL-2及びIL-2/UFKA-22複合体治療群は、低用量(LD:low-dose)又は高用量(HD:high-dose)治療を受ける2つの群に細分化され、これは、それぞれ10μg/kg又は33μg/kgのIL-2に対応しており、一方で、UFKA-22 mAb単独は330μg/kgの用量で注入した。ヒトIL-2及びアカゲザルIL-2に対するUFKA-20(左表)及びUFKA-22(右表)のEC50は、IL-2サンドイッチELISAを使用して測定した。
図8B図8(B)は、血中CD4CD25T細胞及びCD8CD25T細胞におけるpSTAT5細胞の代表的なフローサイトメトリープロットを示す。-8日目に測定したベースラインでのpSTAT5レベル(上)、及び1日目にLD IL-2(中)及びLD IL-2/UFKA-22(下)治療時のpSTAT5レベルのヒストグラムであり、各群につきn=3である。
図8C図8(C)は、フローサイトメトリーで測定した試験期間中の血液中のCD4CD25Foxp3T細胞及びCD4CD25T細胞の集団の頻度を示す。
図8DE図8(D)は、フローサイトメトリーで測定した血液中の示された時点のCD4CD25T細胞におけるFoxp3、CTLA-4及びKi-67のgMFIを示す。(C)及び(D)については、平均値±SEMを白色点(IL-2治療群)、灰色点(IL-2/UFKA-22複合体治療群)、及び濃灰色点(UFKA-22 mAb治療群)でプロットした。有意性は、6日目に対応のないt検定(両側)で判定した。nsは、有意性なし(not significant)を表す。図8(E)は、6日目のCD8T細胞、NK細胞、B細胞の数に対するTreg(CD4CD25Foxp3CD4 T)細胞の比率を示す。平均値±SEM及び個々の値をプロットする。有意性は一元配置分散分析、ダネットの多重比較により判定した。nsは、有意性なし(not significant)を示す。
図9A図9(A)は、IL-2(紫)、CD25(IL-2Rα、薄橙)、CD122(IL-2Rβ、白)、及びCD132(IL-2Rγ、灰色)から構成されるヒト四元IL-2R複合体に重ねられるIL-2/抗IL-2 mAb複合体構造の正面及び90°回転した側面図を示す。IL-2-IL-2R複合体(PDB:2B5I);IL-2/UFKA-20複合体(PDB:6YE3);IL-2/F5111複合体(PDB:5UTZ);IL-2/JES6-1複合体(PDB:4YQX);IL-2/NARA1複合体(PDB:5LQB)での比較を示す。
図9B-1】図9(B)は、IL-2/抗IL-2複合体とのIL-2-IL-2R結合エピトープのオーバーラップの平衡表面プラズモン共鳴(SPR)定量を示す。CD25結合部位、CD122結合部位、及びCD132結合部位。棒グラフは、PDBePISAを用いて埋没表面積(Å)に基づいて算出した、抗体と受容体エピトープとの相対的なオーバーラップを示す。
図9B-2】図9(B)は、IL-2/抗IL-2複合体とのIL-2-IL-2R結合エピトープのオーバーラップの平衡表面プラズモン共鳴(SPR)定量を示す。CD25結合部位、CD122結合部位、及びCD132結合部位。棒グラフは、PDBePISAを用いて埋没表面積(Å)に基づいて算出した、抗体と受容体エピトープとの相対的なオーバーラップを示す。
図9B-3】図9(B)は、IL-2/抗IL-2複合体とのIL-2-IL-2R結合エピトープのオーバーラップの平衡表面プラズモン共鳴(SPR)定量を示す。CD25結合部位、CD122結合部位、及びCD132結合部位。棒グラフは、PDBePISAを用いて埋没表面積(Å)に基づいて算出した、抗体と受容体エピトープとの相対的なオーバーラップを示す。
図9CD図9(C)は、示されるとおりの、固定化したUFKA-20又はNARA1によって捕捉されたIL-2上のCD25及びCD122のSPR滴定を示す。データは3回の実験の代表値である。RUは、レゾナンスユニットを示す。図9(D)は、UFKA-20及びCD25発現、CD122+CD132発現及びCD25+CD122+CD132発現のHEK293T細胞の間のIL-2の競合を示す。一定の濃度のIL-2Rhod(0.2μg/ml)を滴定量のUFKA-20と混合し、IL-2R発現HEK293T細胞と共にインキュベートした。2回の実験の平均値±SEMをプロットする。
図10-1】図10は、ヒトIL-2と、CD25、CD122、CD132、UFKA-20-00、F5111、及びNARA1との間の埋没表面積(BSA)を平方オングストローム(Å)で示す。PDBePISAサーバーを使用し、IL-2-IL-2R四元複合体(PDB:2B5I)、IL-2/UFKA-20-00複合体(PDB:6YE3)、及びIL-2/F5111複合体(PDB:5UTZ)の結晶構造を使用して計算した。ヘリックスA、A’、B、B’、C、及びDの注釈付きのヒト IL-2タンパク質配列の3文字アミノ酸コード(Arenas-Ramirezら,2015)。ヒトIL-2及びそのリガンド(CD25、CD122、CD132、UFKA-20-00、F5111、NARA1)のアミノ酸残基のBSA値(0.00Å超過)を示す。さらに、作用を受けるアミノ酸残基の1文字アミノ酸コードも表示する。
図10-2】図10は、ヒトIL-2と、CD25、CD122、CD132、UFKA-20-00、F5111、及びNARA1との間の埋没表面積(BSA)を平方オングストローム(Å)で示す。PDBePISAサーバーを使用し、IL-2-IL-2R四元複合体(PDB:2B5I)、IL-2/UFKA-20-00複合体(PDB:6YE3)、及びIL-2/F5111複合体(PDB:5UTZ)の結晶構造を使用して計算した。ヘリックスA、A’、B、B’、C、及びDの注釈付きのヒト IL-2タンパク質配列の3文字アミノ酸コード(Arenas-Ramirezら,2015)。ヒトIL-2及びそのリガンド(CD25、CD122、CD132、UFKA-20-00、F5111、NARA1)のアミノ酸残基のBSA値(0.00Å超過)を示す。さらに、作用を受けるアミノ酸残基の1文字アミノ酸コードも表示する。
図10-3】図10は、ヒトIL-2と、CD25、CD122、CD132、UFKA-20-00、F5111、及びNARA1との間の埋没表面積(BSA)を平方オングストローム(Å)で示す。PDBePISAサーバーを使用し、IL-2-IL-2R四元複合体(PDB:2B5I)、IL-2/UFKA-20-00複合体(PDB:6YE3)、及びIL-2/F5111複合体(PDB:5UTZ)の結晶構造を使用して計算した。ヘリックスA、A’、B、B’、C、及びDの注釈付きのヒト IL-2タンパク質配列の3文字アミノ酸コード(Arenas-Ramirezら,2015)。ヒトIL-2及びそのリガンド(CD25、CD122、CD132、UFKA-20-00、F5111、NARA1)のアミノ酸残基のBSA値(0.00Å超過)を示す。さらに、作用を受けるアミノ酸残基の1文字アミノ酸コードも表示する。
図11図11は、hIL-2上の予測されるUFKA20結合部位を示す平方オングストローム(Å)の埋没表面積の予測を示す。
図12ABC図12は、最適なUFKA-20の親和性が、in vivoでのCD25Foxp3reg細胞を刺激する能力に影響を与えることを示している。(A)標記のUFKA-20バリアントの結合親和性解離定数(K)をシングルサイクル表面プラズモン共鳴(SPR)測定により測定した。(B)C57BL/6野生型マウスは、IL-2/抗IL-2cx(1μg IL-2:10μg UFKA-20バリアント)の単回注入を受けた。脾臓におけるCD4CD25Foxp3reg細胞の頻度の平均値±SDは、4日目にフローサイトメトリーで測定した。点線はPBS治療マウスによる平均値を示す。(C)抗体のKとCD4CD25Foxp3reg細胞を誘導する能力との相関を示す(CD4CD25Foxp3の頻度の平均値±SD)。
図13ABCD図13は、PyMOLソフトウェアを使ってオングストローム(Å)で測定した、IL-2のカルボキシ(C)末端とUFKA-20の可変重鎖(vH)又は可変軽鎖(vL)のアミノ(N)末端との間の距離を示す。(A)IL-2/UFKA-20 Fab複合体の結晶構造(PDB:6YE3)。(B)IL-2のC末端とUFKA-20 vH(上段)及びUFKA-20 vL(下段)のN末端との間の距離(黒点線)。UFKA-20 vHは黒で示し、UFKA-20 vLは灰色で示し、IL-2は白で示す。(C)IL-2/UFKA-22融合タンパク質(FP:fusion protein)の模式図であり、ここでIL-2はUFKA-22軽鎖又は重鎖にN末端で結合している。(D)2つの異なる状態でのUFKA-22FP vL(GS)を示す。(左)IL-2はUFKA-22の結合ポケットに会合していないか、又はIL-2はUFKA-22の結合ポケットに会合している(右)。
図14ABCD図14は、マウスのin vivoでのIL-2/UFKA-22とUFKA-22FPとの比較を示す。(A)実験設計:C57BL/6マウスに、0、1、2日目にIL-2/UFKA-22cx(12μg[2μg IL-2及び10μg UFKA-22])、UFKA-22FP vH(GS)(12μg又は24μg)及びUFKA-22FP vL(GS)(12μg又は24μg)を注入した。マウスは4日目に安楽死させ、脾臓におけるCD4CD25Foxp3Treg細胞及びCD8CD122CD44hiT細胞の頻度をフローサイトメトリーで分析した。(B)CD4T細胞中のCD25Foxp3、(C)CD25Foxp3Treg細胞上のKi-67、及び(D)PBS、IL-2/UFKA-22及びUFKA-22FP治療マウスの、(A)と同様の脾臓におけるCD8+T細胞の頻度を示し、平均値±SEMである。P値は一元配置分散分析とテューキの多重比較検定を用いて算出した;nsは有意ではないことを示す。
図15ABCD図15は、(A)形質細胞様DC(pDC)及び従来のI型及びII型DC(cDC1及びcDC2)を含むマウス脾臓DCサブセットに対するフローサイトメトリーゲーティング戦略を示す。(B)IL-2、CD25偏向IL-2/5344複合体、又はCD122偏向IL-2cx(IL-2/NARA1複合体)で治療したマウスからの脾臓cDCの増大を示す(1群あたりn=7~9マウス)。(C)は、(B)で示した治療を受けたマウスの脾臓cDCの増殖を、3日間のBrdU取り込みで測定した(1群あたりn=7~9マウス)。(D)未治療及びIL-2cx治療(IL-2/NARA1複合体)のマウスの脾臓cDC上のCD40、CD80、CD86、MHC-I及びMHC-IIの存在量を代表的なヒストグラム(左パネル)で示し、未治療に正規化したgMFIの倍数変化(右パネル)を示した。データは平均+/-SEMで示される(1群あたりn=9マウス)。
図16AB図16(A)は、150万国際単位(IU)のアルデスロイキンを5日間連続で毎日皮下注入し、アルデスロイキン注入前後に採血を行う試験である治験責任医師主導型(investigator-initiated)臨床試験の試験設計(上段)を示す。ヒトcDCサブセットの対応するゲーティング戦略は、CD141cDC1及びCD1ccDC2を同定する(下段)。図16(B)は、アルデスロイキン治療前後の患者の末梢血におけるKi67増殖型cDC1(n=8)及びcDC2(n=10)のパーセンテージを示す。
図17ABCD図17(A)は、抑制性IL-2cx(IL-2/UFKA-20複合体)で連続3日間治療した後の脾臓cDCの定量を示す。図17(B)は、3日間のBrdU取り込みによって測定される(A)のマウスの脾臓cDCの増殖を示す。データは平均+/-SEM(1群あたりn=7マウス)である。cDC上の(C)MHC-II、及び(D)CD80のUFKA-20複合体による表面発現を、未治療及び(A)のとおりのUFKA-20複合体治療のマウスの脾臓cDCについてフローサイトメトリーにより測定し、未治療に対して正規化した幾何平均蛍光強度(gMFI)の倍数変化として表示する。データは平均+/-SEMで示される(1群あたりn=5~8マウス)。
図17E図17(E)のとおりの3日間のUFKA-20複合体治療後1日にマウスから単離した、選別された従来型DC(cDC)のRNAシーケンシングである。UFKA-20複合体治療マウスで濃縮された遺伝子が右側であり、未治療マウスで濃縮された遺伝子が左側である、差次的発現遺伝子のボルケーノプロットを示す。各ドットは単一の遺伝子を表し、明るい灰色は未治療と比較して変化が有意でない遺伝子を表示し、黒いドットは未治療と比較して有意差(P<0.05)を示す遺伝子を表示する。代表的な炎症促進タンパク質又は抗炎症タンパク質をコードする遺伝子を示す。カットオフはlog2比が0.5とした。Tgfbi,トランスフォーミング成長因子β誘導型;Il1rn,インターロイキン1受容体アンタゴニスト;Tab1,TGF-β活性化キナーゼ1/MAP3K7結合タンパク質1;Il6st,インターロイキン6シグナルトランスデューサー;Ltb,リンパトキシンβ;Tnfsf14,腫瘍壊死因子(リガンド)スーパーファミリー、メンバー14;Csf1,コロニー刺激因子1;Fas,TNF受容体のスーパーファミリーメンバー6。
【発明を実施するための形態】
【0009】
表1は、既報の抗IL-2 mAb JES6-1、F5111、NARA1との比較における、抗IL-2 mAb UFKA-20、UFKA-22-00(略称:UFKA-22)、UFKA-22-02、及びUFKA-22-07のSPR解析である。
【0010】
表2は、表面プラズモン共鳴(SPR)で測定したフレームワーク変異を持つUFKA-22バリアントのIL-2結合特性を示す。
【0011】
表3は、UFKA-20バリアントにおけるVH(配列番号019)及びVL(配列番号020)の改変を示す。
【0012】
表4は、表3によるUFKA20バリアントのアミノ酸置換の予測される規則を示す。
【0013】
発明の概要
本発明は、IL-2cx形成性IL-2抗体のCD25への結合に基づく選択と、その後のCD122-CD132二量体IL-2RへのIL-2の送達とを可能にする新規の細胞ベースのin vitroスクリーニング法の結果に基づき、高い存在量のCD25(IL-2Rαとも呼ぶ)を発現する細胞へのIL-2の送達において特に有効な、抗ヒトIL-2(hIL-2)mAbを提供する:ここで、これらの細胞は、細胞内シグナル伝達経路を開始するために、CD122(IL-2Rβとも呼ばれる)及びCD132(IL-2Rγとも呼ばれる)もまた保持している必要がある。ヒトインターロイキン-2(hIL-2)特異的モノクローナル抗体(mAb)との複合体であるヒトIL-2の投与は、マウス及びサル(macaque)のin vivoでのTreg細胞の優先的な増大をもたらす。
【0014】
本発明の第1の態様は、hIL-2分子の規定のアミノ酸残基を含むが、他の残基はカバーしていないままであるエピトープに特異的な、抗hIL-2 mAb、又は抗体断片である。特定の実施形態では、抗hIL-2 mAbのhIL-2への結合は、解離定数(K)≦5.51×10-9、特に≦5.13×10-9、結合速度(オンレート)(Kon)≧4.12×10Lmol-1-1、特に≧4.66×10Lmol-1-1及び解離速度(オフレート)(Koff)≦2.83×10-3-1、特に≦2.39×10-3-1によって特徴づけられるか、又は本発明による抗hIL-2 mAbとhIL-2との複合体は、CD122と比較してCD25に優先的に結合し、かつ前記複合体が、CD122及びCD132を発現することに加えてCD25を高い存在量で発現する細胞と相互作用する場合に、前記抗hIL-2 mAbはIL-2から解離する。これらの特徴により、hIL-2と結合する際に、IL-2Rα+Tregに、EC50が0.154ng/mlで結合するが、IL-2Rβ+CD8CD44hiCD122T細胞には、EC50が442.9ng/mlで結合する、複合体を形成する抗hIL-2 mAbが提供される。
【0015】
本発明の別の態様は、V相補性決定領域CDR1、CDR2、及びCDR3を含む重鎖可変(V)領域、及びV相補性決定領域CDR1、CDR2、及びCDR3を含む可変軽鎖(V)領域を有する、抗hIL-2 mAbであり、特に、本発明の第1の態様による特徴を有する抗hIL-2 mAbであり、ここで、前記CDR1、CDR2、CDR3、CDR1、CDR2、及びCDR3は、配列番号001、配列番号002、配列番号003、配列番号004、配列番号005、及び配列番号006をそれぞれ含むか、又はそれと同一である。いくつかの実施形態では、CDRは、配列番号007のV配列に、及び配列番号015のV配列に、又は特定の機能的に類似した配列に含まれる。
【0016】
本発明の別の態様は、hIL-2タンパク質ドメイン、及びペプチドリンカー、特に約30アミノ酸長のペプチドリンカーによって結合された抗hIL-2 mAbドメインを含むhIL-2融合タンパク質である。
【0017】
さらなる態様は、本発明による抗hIL-2 mAb、若しくはその抗体断片、又はhIL-2融合タンパク質をコードする核酸分子、又は前記核酸分子を含むベクター、又は本発明による抗hIL-2 mAb又は融合タンパク質を含むか、又は産生することができる細胞又はハイブリドーマ株を提供する。
【0018】
本発明のさらなる態様は、医薬品として、特に同種移植関連性疾患、慢性炎症、アレルギー、又は自己免疫などの免疫炎症を治療するための医薬品として、hIL-2と共に、任意に非共有結合で会合した、hIL-2特異的mAb、又は抗原結合断片を含む医薬組成物に関する。抗hIL-2 mAbを含む医薬組成物はまた、さらなる免疫抑制剤、又は薬学的に許容される担体を含んでもよい。
【0019】
本発明の別の別個の態様は、IL-2複合体を含む、樹状細胞(DC)機能の強化から恩恵を受ける症状の患者において使用するための医薬組成物である。前記IL-2複合体は、ヒトIL-2(hIL-2)ポリペプチドと、hIL-2特異的モノクローナル抗体(mAb)との両方を含む。適切なhIL-2特異的mAbの例は、米国特許出願公開第20170114130号(A1)に開示されるものであり、その内容は参照により本明細書に組み込まれるものであるか、又は上記の態様及び実施形態のいずれか1つによるhIL-2特異的mAbである。本発明のこの態様によるIL-2複合体は、CD122及びCD132を含む中間親和性IL-2Rと比較して、CD25に、及び/又はCD122、CD132及びCD25を含む高親和性IL-2受容体に優先的に結合する。
【0020】
発明の詳細な説明
用語と定義
本明細書の解釈のために、以下の定義が適用され、適切な場合には、単数形で使用される用語は複数形も含み、その逆もまた然りである。以下に定める定義が、参照により本書に組み込まれた文書と矛盾する場合、定められた定義が優先されるものとする。
【0021】
本明細書で使用される用語「含む(comprising)」、「有する(having)」、「含有する(containing)」、「含む(including)」、及び他の同様の形態、並びにそれらの文法的に同等な用語は、意味において同等であること、及びこれらの単語のいずれか1つに続く1つ又は複数の項目が、係る1つ又は複数の項目を網羅的にリストするものではない、又はリストした1つ又は複数の項目のみに限定するものではないことにおいてオープンエンドとすることを意図している。例えば、成分A、B及びCを「含む(comprising)」品目は、成分A、B及びCからなる(すなわち、成分A、B及びCのみを含有する)こともできるし、又は成分A、B及びCのみならず、1つ又は複数の他の成分を含むこともできる。そのため、「含む(comprise)」及びその類似の形態、並びにその文法的に同等な用語には、「から本質的になる(consisting essentially of)」又は「からなる(consisting of)」の実施形態の開示が含まれることが意図及び理解されている。
【0022】
値の範囲が提供されている場合、文脈上明確に別段の指示がない限り、その範囲の上限と下限の間の下限の単位の10分の1までの各介在値、及びその記載の範囲内の他の記載値又は介在値のそれぞれは、記載の範囲内で具体的に除外される限界に従って、本開示内に包含されると理解される。記載された範囲が限界値の一方又は両方を含む場合、それらの含まれる限界値の一方又は両方を除いた範囲もまた開示に含まれる。
【0023】
本明細書において、ある値又はパラメーターに関する「約」の言及は、その値又はパラメーターそれ自体を対象とする変化形を含む(及び記述する)。例えば、「約X」に言及する記述は、「X」の記述を含む。
【0024】
添付の特許請求の範囲を含み、本明細書で使用されるとおり、単数形の「a」、「又は(or)」及び「the」は、文脈によって明らかに指示されない限り、複数の参照語を含む。
【0025】
他に定義されない限り、本明細書で使用されるすべての技術的及び科学的用語は、当業者(例えば、細胞培養、分子遺伝学、核酸化学、ハイブリダイゼーション技術及び生化学)により一般的に理解されるものと同じ意味を有する。分子、遺伝、生化学的手法(一般に、Sambrookら,Molecular Cloning:A Laboratory Manual,第4編.(2012)Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,N.Y.及びAusubelら,Short Protocols in Molecular Biology(2002)第5編,John Wiley & Sons,Inc.)及び化学的手法には、標準的な技術を使用する。
【0026】
本明細書において、「陽性」という用語は、マーカーの発現の文脈で使用される場合、蛍光標識抗体によってアッセイされる抗原の発現を指し、「陽性」とされる構造(例えば、細胞)上の標識の蛍光は、同じ標的に特異的に結合しないアイソタイプが一致する蛍光標識抗体で染色した場合と比較して、蛍光強度の中央値が少なくとも30%高く(≧30%)、特に≧50%又は≧80%である。マーカーのこのような発現は、例えばCD25のようにマーカーの名前の後に上付き文字「プラス」()で表示される。
【0027】
本明細書において、「陰性」という用語は、マーカーの発現の文脈で使用される場合、蛍光標識抗体によってアッセイされた抗原の発現を指し、蛍光強度の中央値が、同じ標的に特異的に結合しないアイソタイプ一致抗体の蛍光強度の中央値よりも、30%未満、特に15%未満で高い。マーカーのこのような発現は、マーカーの名前の後に上付き文字の「マイナス」()で示され、例えばCD25である。
【0028】
マーカーの高発現、例えばCD25の高発現は、細胞あたりのより低い蛍光強度を特徴とする他の集団と比較して細胞あたりの最高の蛍光強度を示すFACSによって検出された明確に区別可能な細胞集団におけるそのようなマーカーの発現レベルを指す。高発現は、例えばCD44highのように、マーカー名の後に上付き文字で「high」又は「hi」と表示される。「高く発現される」という用語は、同じ特性に関する。
【0029】
マーカーの低発現、例えばCD25の低発現は、細胞あたりの蛍光強度がより高いことを特徴とする他の集団と比較して、細胞あたりの蛍光強度が最も低いことを示すFACSによって検出された明確に区別可能な細胞集団におけるそのようなマーカーの発現レベルを指す。低発現は、例えばCD25lowのようにマーカーの名前の後に上付き文字「low」又は「lo」で表示される。「低く発現される」という用語は、同じ特性に関する。
【0030】
マーカーの発現は、蛍光顕微鏡、フローサイトメトリー、ELISPOT、ELISA、又はマルチプレックス分析などの技術を介して評価することができる。
【0031】
アミノ酸残基の配列はアミノ末端からカルボキシル末端へ記載される。配列位置の大文字は、1文字コードのL-アミノ酸を指す(Stryer,Biochemistry,第3編.p.21)。アミノ酸配列の位置を示す小文字は、対応するD-又は(2R)-アミノ酸を意味する。配列はアミノ末端からカルボキシ末端に向かって左から右に記載される。標準的な命名法に従い、アミノ酸残基の配列は、以下のように3文字又は1文字のコードのいずれかで表記される。アラニン(Ala、A)、アルギニン(Arg、R)、アスパラギン(Asn、N)、アスパラギン酸(Asp、D)、システイン(Cys、C)、グルタミン(Gln、Q)、グルタミン酸(Glu、E)、グリシン(Gly、G)、ヒスチジン(His、H)、イソロイシン(Ile、I)、ロイシン(Leu、L)、リジン(Lys、K)、メチオニン(Met、M)、フェニルアラニン(Phe、F)、プロリン(Pro、P)、セリン(Ser、S)、スレオニン(Thr、T)、トリプトファン(Trp、W)、チロシン(Tyr、Y)及びバリン(Val、V)。
【0032】
「遺伝子」という用語は、転写され翻訳された後に特定のポリペプチド又はタンパク質をコードすることができる、少なくとも1つのオープンリーディングフレーム(ORF)を含有するポリヌクレオチドを指す。ポリヌクレオチド配列は、それらが会合する遺伝子のより大きな断片又は完全長のコード配列を同定するために使用することができる。より大きな断片の配列を単離する方法は、当業者に知られている。
【0033】
「遺伝子発現」又は「発現」という用語、あるいは「遺伝子産物」という用語は、核酸(RNA)の生成又はペプチド又はポリペプチドの生成のプロセス-及びその産物-のいずれか、又は両方を指す場合があり、それぞれ転写及び翻訳とも呼ばれ、又は遺伝情報のプロセシングを調節してポリペプチド産物をもたらす中間プロセスのいずれかを指す。「遺伝子発現」という用語は、RNA遺伝子産物、例えば制御RNA又は構造(例えば、リボソーム)RNAの転写及びプロセッシングにも適用されてもよい。発現したポリヌクレオチドがゲノムDNAに由来する場合、発現には、真核細胞におけるmRNAのスプライシングを含むことができる。発現は、転写と翻訳、すなわち、mRNA及び/又はタンパク質産物の両方のレベルで評価することができる。
【0034】
本明細書の文脈における「ヌクレオチド」という用語は、核酸又は核酸アナログの構成単位に関するもので、そのオリゴマーは、塩基対形成に基づいてRNAオリゴマー又はDNAオリゴマーと選択的ハイブリッドを形成することが可能である。この文脈での「ヌクレオチド」という用語は、古典的なリボヌクレオチドの構成単位であるアデノシン、グアノシン、ウリジン(及びリボシルチミン)、シチジン、古典的なデオキシリボヌクレオチドのデオキシアデノシン、デオキシグアノシン、チミジン、デオキシウリジン、及びデオキシシチジンが挙げられる。さらに、ホスホチオエート、2’O-メチルホスホチオエート、ペプチド核酸(PNA;グリシンのα炭素に核酸塩基を結合した、N-(2-アミノエチル)-グリシン単位をペプチド結合で連結したもの)又はロック核酸(LNA;2’O,4’Cメチレン架橋RNA構成単位)などの核酸のアナログが含まれる。
【0035】
本明細書に開示される配列と類似又は相同(例えば、少なくとも約70%の配列同一性)の配列もまた、本発明の一部である。いくつかの実施形態において、アミノ酸レベルでの配列同一性は、約80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%又はそれ以上であり得る。核酸レベルでは、配列同一性は約70%、75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%又はそれ以上とすることができる。あるいは、核酸セグメントが選択的なハイブリダイゼーション条件(例えば、非常に高いストリンジェンシーな(厳密な)ハイブリダイゼーション条件)下で、鎖の相補体にハイブリダイズする場合には、実質的な同一性が存在する。核酸は、全細胞、細胞溶解物、又は部分的に精製された若しくは実質的に純粋な形態で存在することができる。
【0036】
本明細書の文脈において、「配列同一性」及び「配列同一性の割合」という用語は、整列した2つの配列を位置ごとに比較して決定される配列比較の結果を表す1つの定量的パラメーターを意味する。比較用の配列アライメントの方法は、当技術分野でよく知られている。比較用の配列アラインメントは、Smith及びWatermanのローカルホモロジーアルゴリズム,Adv.Appl.Math.2:482(1981)、Needleman及びWunschのグローバルアライメントアルゴリズム、J.Mol.Biol.48:443(1970)、Pearson及びLipmanの類似性検索法、Proc.Nat.Acad.Sci.85:2444(1988)、又はこれらのアルゴリズムのコンピュータ化された実装によって実行され、CLUSTAL、GAP、BESTFIT、BLAST、FASTA及びTFASTAを含むが、これらに限定されない。BLAST分析を行うためのソフトウェアは、例えば、アメリカ国立生物工学情報センター(http://blast.ncbi.nlm.nih.gov/)を通じて公的に入手可能である。
【0037】
アミノ酸配列の比較の一例として、デフォルトの設定を使用するBLASTPアルゴリズムがある:Expect threshold:10;Word size:3;Max matches in a query range:0;Matrix:BLOSUM62;Gap Costs:Existence 11,Extension 1;Compositional adjustments:Conditional compositional score matrix adjustment。核酸配列の比較のためのそのような例の1つは、デフォルトの設定を使用するBLASTNアルゴリズムである:Expect threshold:10;Word size:28;Max matches in a query range:0;Match/Mismatch Scores:1.-2;Gap costs:Linear。特に断らない限り、本明細書で提供される配列同一性値は、それぞれタンパク質及び核酸の比較のための上記で特定されたデフォルトパラメータを使用して、BLASTのプログラム群を用いて得られた値を指す(Altschul,J.Mol.Biol.215:403-410(1990))。
【0038】
パーセンテージ値を指定せずに同一の配列を参照する場合、100%同一の配列(つまり、同じ配列)を意味する。
【0039】
本明細書の文脈では、「抗体」という用語は、免疫グロブリンG型(IgG)、A型(IgA)、D型(IgD)、E型(IgE)又はM型(IgM)、その任意の抗原結合断片又は単鎖、及び関連又は由来の構築物を含むがこれに限定されない全抗体に関する。全抗体は、少なくとも2本の重鎖(H)と2本の軽鎖(L)がジスルフィド結合によって相互接続された糖タンパク質である。各重鎖は、重鎖可変領域(V)と重鎖定常領域(C)とで構成されている。IgGの重鎖定常領域は、C1、C2、C3の3つのドメインで構成されている。各軽鎖は、軽鎖可変領域(本明細書ではVと略記)と軽鎖定常領域(C)で構成されている。軽鎖定常領域は、1つのドメインであるCから構成されている。重鎖と軽鎖との可変領域には、抗原と相互作用する結合ドメインを含有している。抗体の定常領域は、免疫系のさまざまな細胞(例えば、エフェクター細胞)及び古典的補体系の第1成分など、宿主組織又は因子への免疫グロブリンの結合を媒介し得る。「抗体」という用語はまた、「抗体様分子」を指す場合もある。
【0040】
同様に、「抗原結合抗体断片」又は「抗原結合断片」という用語は、抗原結合能を保持する抗体分子の一部を包含し、例えば、一価又は二価の抗体断片(それぞれF(ab)又はF(ab))、いわゆるナノボディ又は単一ドメイン抗体、又はVとVを含む1つ又はいくつかの単一モノマー可変抗体ドメインからなる抗体断片から選択されるが、これらに限定されない。
【0041】
本明細書の文脈において、「ヒト化抗体」とは、元は非ヒト種の免疫細胞によって産生された抗体であって、そのタンパク質配列がヒトで自然に産生される抗体バリアントとの類似性を高めるように改変されたものを指す。本明細書で使用するとおりの「ヒト化抗体」という用語は、マウスなどの別の哺乳類種の生殖細胞系列に由来するCDR配列が、ヒトフレームワーク配列に移植された抗体を含む。ヒトフレームワーク配列内だけでなく、別の哺乳類種の生殖細胞系列に由来するCDR配列内でも、さらなるフレームワーク領域の改変がなされてもよい。
【0042】
本明細書の文脈での「抗体様分子」という用語は、別の分子又は標的に高い親和性/Kd≦10E-8mol/lで特異的に結合できる分子を指す。抗体様分子は、抗体の特異的な結合と同様にその標的に結合する。「抗体様分子」という用語には、リピートタンパク質を包含し、例えば、設計されたアンキリンリピートタンパク質(Molecular Partners,Zurich)、高特異性及び高親和性の標的タンパク質結合を示す改変抗体模倣タンパク質(米国特許出願公開第2012/142611号、米国特許出願公開第2016/250341号、米国特許出願公開第2016/075767号及び米国特許出願公開第2015/368302号を参照。これらすべては参照により本書に組み込まれる)などがある。抗体様分子という用語は、さらに、アルマジロリピートタンパク質由来のポリペプチド、ロイシンリッチリピートタンパク質由来のポリペプチド、及びテトラトリコペプチドリピートタンパク質由来のポリペプチドを包含するが、これらに限定されない。
【0043】
「抗体様分子」という用語は、以下から誘導される特異的結合ポリペプチドをさらに包含する:
- プロテインAドメイン、
- フィブロネクチンドメイン FN3、
- コンセンサスフィブロネクチンドメイン、
- リポカリン(Skerra,Biochim.Biophys.Acta 2000,1482(1-2):337-50)、
- ジンクフィンガータンパク質由来のポリペプチド(Kwan,Structure 2003,11(7):803-813)、
- Srcホモロジードメイン2(SH2)又はSrcホモロジードメイン3(SH3)、
- PDZドメイン、
- γ-クリスタリン、
- ユビキチン、
- システインノットポリペプチド又はノッティン、
- シスタチン、
- Sac7d、
- 三重らせんコイルドコイル(アルファボディ(alphabody)とも呼ばれる)、
- クニッツドメイン又はクニッツ型プロテアーゼ阻害剤、及び
- 炭水化物結合モジュール32-2。
【0044】
「プロテインAドメイン由来ポリペプチド」という用語は、プロテインAの誘導体であり、免疫グロブリンのFc領域とFab領域とを特異的に結合することができる分子を指す。
【0045】
「アルマジロリピートタンパク質」という用語は、少なくとも1つのアルマジロリピートを含むポリペプチドを指し、アルマジロリピートは、ヘアピン構造を形成する一対のαヘリックスによって特徴づけられるものである。
【0046】
本明細書の文脈における「ヒト化ラクダ抗体」という用語は、重鎖のみ又は重鎖の可変ドメイン(VHHドメイン)からなり、かつそのアミノ酸配列はヒトで自然に産生される抗体との類似性が増大するように改変され、その結果、ヒトに投与した場合に免疫原性の低下を示す抗体を指す。ラクダ抗体をヒト化するための一般的な戦略は、以下に示されている:Vinckeら、「General strategy to humanize a camelid single-domain antibody and identification of a universal humanized nanobody scaffold」J Biol Chem.2009年1月30日;284(5):3273-3284、及び米国特許出願公開第2011165621号(A1)。
【0047】
本発明の文脈における「特異的結合」という用語は、リガンドの特性を指し、リガンドは、ある親和性及び標的特異性でその標的に結合するものである。このようなリガンドの親和性は、リガンドの解離定数によって示される。特異的に反応するリガンドは、その標的に結合した際の解離定数が10-7mol/L以下であるが、標的と化学組成が全体的に同じであるが立体構造が異なる分子との相互作用では、少なくとも3桁高い解離定数を持つ。
【0048】
本明細書の文脈において、「解離定数(KD)」という用語は、化学及び物理の技術分野で知られている意味で使用される:[主に2つの]異なる成分からなる複合体が、可逆的にその(2つの)構成成分に解離する傾向を測定する、平衡定数を意味する。この複合体は、例えば、抗体Abと抗原Agからなる抗体抗原複合体AbAgとすることができる。Kは、モル濃度[mol/l]で表され、[Ag]の結合部位の半分が占有される[Ab]の濃度に相当し、言い換えれば、未結合の[Ab]の濃度が[AbAg]複合体の濃度と等しいことに相当する。解離定数は、以下の式により算出することができる:
【数1】
[Ab]:抗体の濃度、[Ag]:抗原の濃度、[AbAg]:抗体抗原複合体の濃度
【0049】
本明細書の文脈において、オフレート(解離速度)(Koff;[1/秒])及びオンレート(結合速度)(Kon;[L/秒mol])という用語は、化学及び物理の技術分野で知られている意味で使用される:これらは、抗体とその標的抗原との解離(Koff)又は会合(Kon)を測定する速度定数を指す。KoffとKonは、当技術分野で十分に確立された方法を用いて実験的に決定することができる。抗体のKoffとKonとを測定する方法には、表面プラズモン共鳴が採用される。これは、Biacore(登録商標)又はProteOn(登録商標)システムなどのバイオセンサーシステムにおける原理となっている。これらはまた、以下の式を用いて解離定数Kを求めるために使用することができる:
【数2】
オンレートKonの自然の上限は、10L/秒molである。
【0050】
本明細書で使用されるとおり、「医薬組成物」という用語は、少なくとも1つの薬学的に許容される担体を伴う、本発明の化合物又はその薬学的に許容される塩を指す。特定の実施形態では、本発明による医薬組成物は、局所、非経口又は注入投与に適した形態で提供される。
【0051】
本明細書で使用されるとおり、「薬学的に許容される担体」という用語には、当業者に知られているとおり、任意の溶媒、分散媒質、コーティング、界面活性剤、抗酸化剤、保存剤(例えば、抗菌剤、抗真菌剤)、等張剤、吸収遅延剤、塩、保存剤、薬物、薬物安定剤、結合剤、賦形剤、崩壊剤、潤滑剤、甘味剤、香味剤、染料など、及びそれらの組み合わせを含む(例えば、Remington:the Science and Practice of Pharmacy、ISBN 0857110624を参照)。
【0052】
本明細書で使用されるとおり、任意の疾患又は障害(例えば、がん)の「治療」又はそれを「治療する」という用語は、一実施形態において、疾患又は障害を改善すること(例えば、疾患又はその臨床症状の少なくとも1つの発生を遅らせること、停止させること、又は低減させること)を指す。別の実施形態では、「治療」又は「治療する」は、患者が識別できない可能性のあるものを含む少なくとも1つの身体的パラメーターを緩和すること又は改善することを指す。さらに別の実施形態では、「治療」又は「治療する」は、身体的に(例えば、識別可能な症状の安定化)、生理学的に(例えば、身体的パラメーターの安定化)、又はその両方のいずれかで、疾患又は障害を調節することを指す。疾患の治療及び/又は予防を評価する方法は、以下に特に記載しない限り、当該技術分野において一般的に知られているものである。
【0053】
本明細書で提供する複合体の文脈における「インターロイキン-2」、「IL-2」、又は「hIL-2」という用語は、特に指示しない限り、ヒトIL-2ポリペプチドを指す。全体を通してのヒトIL-2残基の番号付けは、図10(UniProt P60568)で示されたものを指す。この用語には、物質であるテセロイキン(0094218-75-4)、アルデスロイキン(CAS 110942-02-4)、又はそのバリアントBAY 50-4798などの組換え産生IL-2タンパク質を包含する。核磁気共鳴分光法では、IL-2タンパク質は4つの主要なヘリックス(A~D)を含み、両側に2つの短いヘリックスが配置されていることが示唆されている(Arkin M.Rら、PNAS 2003,100:1603-1608)。
【0054】
本明細書の文脈で使用する「三量体IL-2受容体」、又は「高親和性IL-2受容体」という用語は、CD122(IL-2Rα)、CD132、及びCD25(IL-2Rα)から構成される多量体受容体を指す。CD25が存在すると、IL-2RのIL-2との親和性が二量体のIL-2Rに比べて100倍に増大するため、三量体のIL-2R(K≒10-11M)は高親和性IL-2Rとも呼ばれる。
【0055】
本明細書の文脈における「中間親和性IL-2受容体」又は「二量体IL-2受容体」という用語は、CD122(IL-2Rβ)及び共通γ鎖(γc;CD132)を含むIL-2受容体を指す。この二量体IL-2Rは、IL-2に対して、約10-9Mの解離定数[K]を有する中間的な親和性を示すが、これは、本発明による抗hIL-2 mAbとの複合体の状況でIL-2が受容体と相互作用する場合、IL-2の結合部位と結合した抗体の立体障害により減少する。
【0056】
本明細書の文脈において、「ペプチドリンカー」という用語は、1本鎖ポリペプチドを生成するために、2本のポリペプチドを接続するために使用される長さが可変のポリペプチドを指す。本明細書で規定する発明の実施に有用なリンカーの例示的な実施形態は、30、40又は50個のアミノ酸からなるオリゴペプチド鎖である。
【0057】
本明細書の文脈における「T制御細胞」、及び「Treg」という用語は、特に、免疫抑制機能又は調節機能を有するCD3CD4CD25免疫細胞を指す。Tregのマスター転写因子であるフォークヘッドボックス P3(Foxp3)の細胞内発現は、免疫抑制機能を持つT細胞を識別する。Treg細胞に会合するさらなる表面マーカー及び細胞内マーカーは、当技術分野で知られている(Miyara M.ら、Autoimmun Rev 2011,10:744)。また、細胞表面のTregマーカーの発現を測定するのではなく、抑制機能を測定することで、試料中のTregの数を推定することも可能である。この目的に有用な抑制アッセイには、Treg含有試料を活性免疫細胞試料、特にCD8T細胞と組み合わせること、及び細胞死、増殖、又はグランザイム、パーフォリン、インターフェロンγ(IFN)又は腫瘍壊死因子(TNF)から選択されるがこれらに限らないエフェクター分子の産生という点からその機能の抑制を測定することを含む。
【0058】
本発明の第1の態様は、hIL-2 mAb、又はhIL-2結合抗体断片を提供することであり、ここで、前記hIL-2特異的mAbは、以下を含むhIL-2アミノ酸残基の特定のエピトープと相互作用する:
- αヘリックスのH16、D20;
- B及びB’ヘリックスのQ57、E60、E61、L63、K64、E67、E68;及び
- CヘリックスとC-DループのL80、R81、R83、D84、I86、S87、N88、N90、V91、L94、E95、K97、T101、T102、M104。
【0059】
結晶構造解析により、この2つの分子が会合している際に、hIL-2特異的mAb抗体により覆われている、以下のrhIL-2残基が、(>)5A超過である:
- H16、D20;
- Q57、E60、E61、L63、K64、E67、E68;及び
- L80、R81、R83、D84、I86、S87、N88、N90、V91、L94、E95、K97、T101、T102、M104。
【0060】
この2つの分子が会合している際に、hIL-2特異的mAb抗体によって覆われている、以下のrhIL-2残基は、(>)15A超過であるため、以下に概説するような抗体の特徴である重要な生物学的エフェクター機能を媒介する可能性が非常に高くなる:
- H16;
- Q57、E60、E61、K64、及び
- L80、R81、R83、D84、I86、S87、N88、N90、V91、L94、K97、T101、M104。
【0061】
実施例で提供されたデータは、本発明による抗体のエピトープがhIL-2残基のM23、G27、N71、Q74、S75、K76、N77、F78、P82を含んでいないため、本発明によるhIL-2特異的mAbは、以前の記載のIL-2 mAb F5111.2クローンとは異なることを示唆している。
【0062】
実施例で提供される結晶構造解析は、抗hIL-2 mAbとこれらの特異的残基との間の相互作用が、IL-2と、CD122及びCD132からなる中間親和性IL-2受容体との間の相互作用部位をブロックするか、又は中断することを示している。抗hIL-2 mAbとIL-2ポリペプチドとの複合体は、CD25と、又はCD25、CD122、及びCD132からなる高親和性の三量体IL-2Rと優先的に又は偏向的に会合し、その結果、Tregなどのこの受容体を有する細胞においてIL-2シグナル伝達が増大する。本発明による抗hIL-2 mAbエピトープは、hIL-2残基のQ57、E60、E61、L64、及びK64を含む。本明細書(及び実施例の図9及び図10に要約)で提供される抗hIL-2 mAbエピトープによって得られるIL-2のCD25結合の6.3%のオーバーラップは、抗hIL-2 mAb複合体からIL-2を放出し、妨げられずに受容体に送達する一助となり、これによりエピトープにこれらの残基を含んでいない他の抗体クローンに比べてIL-2シグナル伝達を改善する結果となる。
【0063】
本発明の文脈におけるhIL-2の「エピトープ」とは、本発明によるhIL-2特異的mAb、又は抗体断片が特異的に結合するか、又は付着する、hIL-2ポリペプチドのアミノ酸残基を指す。hIL-2エピトープは、親マウス抗体UFKA-20のFabバリアントと複合体として結晶化したhIL-2の構造解析によって定義され、そのCDRを、ヒト化UFKA-22クローンと本発明による他のhIL-2特異的mAbとを生成するために使用した(表1、図9図10図11)。固定化したUFKA-20に捕捉されたIL-2について平衡表面プラズモン共鳴(SPR)を行い、複合体の結晶構造を決定した。本発明によるエピトープを含むアミノ酸残基は、ソフトウェアPDBePISA(Krissinel,J Mol Biol 2007 372,774-797)を用いて計算した埋没表面積(平方オングストローム又はÅで測定)が0超過のものと定義される。言い換えれば、hIL-2エピトープは、UFKA-20抗体の重鎖及び軽鎖ポリペプチド、特に相補的決定領域(CDR)が、接触する、相互作用する、カバーする(覆う)、又はオーバーラップするIL-2アミノ酸を含むか、又はそれからなるだけでなく、抗体がカバーしない、又は受容体相互作用の妨げとならない残基もまた含むか、又はそれからなる。
【0064】
実施例のデータは、三量体IL-2RへのhIL-2シグナル伝達を増大させるhIL-2との複合体を形成するための、上記で特定したhIL-2エピトープを有する完全な抗体分子の有用性を実証する。以前の研究において、抗体のFc部分を欠いたF(ab’)2抗体断片も、特異的なシグナル伝達の偏向を有するhIL-2/mAb複合体を形成できることが示されたが、しかし、これらの断片の半減期が短いため、より頻繁に投与する必要がある。IL-2単独ではなく、IL-2を伴うIL-2特異的F(ab’)2複合体を繰り返し注入したところ、IL-2/mAb CD122標的複合体の強力な活性を模倣できたことから、特異的に結合する抗IL-2 mAbのCDR含有部分がin vivo活性に重要であることが示された(Letourneau,PNAS 2010,107(5):2171)。さらに、本発明者らは、IL-7/抗IL-7(クローンM25)mAb複合体を用いた関連研究において、F(ab’)2抗体断片が、全抗体分子と同様に機能することを示した(Boyman,J Immunol 2008,180(11):7265)。したがって、Fc部分を欠いた抗体断片、例えばFab及びF(ab’)2断片、並びにscFv断片は、本発明による「抗体」、又は「抗体断片」という用語に包含される。
【0065】
本発明の第2の態様は、抗hIL-2抗体とhIL-2ポリペプチドとの相互作用の特徴によって定義される抗hIL-2 mAb、又は抗原結合抗体断片である。本発明のこの態様は、抗hIL-2 mAb、又はhIL-2結合抗体断片を提供し、ここで、前記hIL-2特異的mAbのhIL-2への結合は、以下のように特徴づけられる:
- 解離定数(K)≦5.51×10-9molL-1、特にK≦5.13×10-9molL -1(クローンUFKA-22-00のK);
- オンレート(Kon)≧4.12×10Lmol-1-1(クローンUFKA-22-02のKon)、特にKon≧4.66×10Lmol-1-1(クローンUFKA-22-00のKon);
- オフレート(Koff)≦2.83×10-3-1(クローンUFKA-22-10のKoff)、特にKoff≦2.39×10-3-1(クローンUFKA-22-00のKoff)。
【0066】
本発明のこの態様によるhIL-2 mAbは、K値≦5.51×10-9molL-1を有し、これは、同様のhIL-2結合特性を有し、かつ同じCDR配列を共有することが実証されたUFKA-20由来のクローンの選択における抗hIL-2 mAb UFKA-22-02の最大のKD値である。特定の実施形態において、本発明による抗hIL-2 mAbは、K値≦5.13×10-9molL-1を有するものであり、このhIL-2特異的クローンUFKA-22-00のK値は、医薬品の成分としてこのmAbを投与される患者で免疫応答を生成する可能性のあるマウスのフレームワーク領域への復帰突然変異を有さない。第2に、本発明のこの態様による抗hIL-2 mAbは、Kon値が(≧)4.12×10Lmol-1-1以上であり(クローンUFKA-22-02由来)、特にKon値が(≧)4.66×10Lmol-1-1以上(UFKA-22-00由来)である。最後に、本発明のこの態様による抗hIL-2 mAbは、Koff≦2.83×10-3-1(クローンUFKA-22-05由来)により、特にKoff≦2.39×10-3-1(UFKA-22-00のKoff)により特徴づけられる。本発明者らは、上記で概説した特徴を有するIL-2に結合する抗体が、実施例の前臨床試験で使用したマウスUFKA-20クローン(HCの配列番号019及びLCの配列番号020)と同様のIL-2結合及び受容体送達の動力学を有することを見出した。hIL-2と複合体を形成した上記の特徴を有する抗体は、IL-2シグナルを高親和性IL-2Rに優先的に送達するであろう。重要なことは、抗体による立体障害なしに、妨げのない最適なシグナル伝達刺激の送達を可能にするために、受容体への結合時に、抗体はまた、複合体から解離し、換言すれば、IL-2ポリペプチドから分離するであろう。
【0067】
他の実施形態では、hIL-2と本発明によるhIL-2 mAb、又はその断片との相互作用は、K≦5.51×10-9molL-1、特にK≦5.13×10-9molL-1によって特徴づけられ、これはまた1.856-10の親和性上限を超過するものである。IL-2に最も高い親和性で結合する変異重鎖及び軽鎖の5+9抗体では、in vivo活性の低下がCD4CD25Foxp3reg細胞の刺激に関して観察された。特定の実施形態において、前記相互作用のKは、約10-10Mである。
【0068】
いくつかの実施形態において、本発明による抗hIL-2 mAbは、in vitro又はin vivoの実験方法によって測定される、hIL-2と抗hIL-2 mAbとの間の複合体の生物学的機能によって特徴づけられる。本発明によるhIL-2と抗hIL-2 mAbとの複合体は、本発明による抗hIL-2 mAbと非共有結合的に会合した、hIL-2ポリペプチドが含まれる。これらのhIL-2 mAb複合体は、これらの要素を2:1の比率で組み合わせた場合(Boyman,Science 2006,311:1924;Krieg,PNAS 2010,107:11906;Arenas-Ramirez,Sci Transl Med 2016,8,:367ra166)、又は1:1の比率で組み合わせた場合(Letourneau,PNAS 2010,107:11906;Arenas-Ramirez,Sci Transl Med 2016,8,:367ra1660)に有効に機能すると実証されている。複合体の2成分の結合(組み合わせ)は、溶液中で行われ、この組み合わせ手順の時間、温度、及び条件は、本発明によって特に限定されない。複合体は、例えば、hIL-2と抗hIL-2 mAbとをリン酸緩衝生理食塩水などの生理的溶液中で室温で15分間、結合することにより形成することができる。IL-2シグナル伝達をIL-2Rα又はIL-2Rβの方へ偏向させ、したがってTreg又はCD8T細胞におけるSTAT5リン酸化を増加させる他のmAbを用いたIL-2 mAb複合体の調製及び活性が実現されている(Letourneau,PNAS 2010,107:11906;Krieg,PNAS 2010,107:11906,;Trotta,Nat Med 2018,24:1005)。
【0069】
特定の実施形態において、hIL-2と本発明による抗hIL-2 mAbとの複合体は、CD25、CD122及びCD132からなる高親和性IL-2Rに対する結合親和性が、CD122及びCD132からなる中間親和性IL-2Rに対する結合親和性と比較して増大したことを示す。換言すれば、高親和性受容体への結合の比率が、中間親和性IL-2Rへの結合と比較して、1より大きい。特に、この比率は、2、4、又はさらに8よりも大きい。より特に、高親和性受容体への結合は、中間親和性受容体への結合よりも20倍~121倍大きく、なおさらに特に71倍大きい。受容体とhIL-2複合体との相互作用を評価した実施例のデータは、倍率変化が71で異なり、誤差範囲は±50であった。
【0070】
特定の実施形態において、本発明によるhIL-2と抗hIL-2 mAbの複合体は、中間親和性受容体と比較して、CD25単独に対する結合親和性の増大を示し、特に親和性の倍率変化がCD25について277倍~483倍の間で高く、より特に中間親和性受容体よりも380倍高い。受容体とhIL-2複合体との相互作用を評価した実施例のデータは、倍率変化が380で異なり、誤差範囲は±103であった。
【0071】
実施例に示したデータでは、IL-2Rhod/UFKA-20cxはCD25と優先的に会合し、測定された相互作用の約3分の2はIL-2Rhod/UFKA20cxによってなされ、一方、IL-2Rhod単独ではCD25で検出されたのは3分の1未満である。IL-2Rhod/UFKA-20cxのCD122+CD132への結合は、IL-2Rhodに比べてUFKA-20の存在によって不利になり(図1D)、これによりUFKA-20がIL-2Rhodに「CD25偏向性」を付与することが実証された。
【0072】
抗hIL-2 mAbの特定の実施形態では、複合体が高親和性hIL-2受容体に結合すると、hIL-2と抗hIL-2 mAbの複合体から抗hIL-2 mAbは解離する。換言すれば、受容体に結合する前にこの2つの成分が会合し、結合時に遊離hIL-2が放出され、受容体を介した最適なシグナル伝達が可能になる。
【0073】
実施例の図1Dにおいて、CD25偏向及び抗hIL-2 mAbのhIL-2からの解離は、各成分が蛍光標識されるフローサイトメトリーを用いて観察されるとおり、HEK細胞によって発現されるCD25/CD122/CD132、又はCD25へ複合体を偏向送達し、受容体に結合するIL-2をその場に残すことによって実施される。hIL-2Rhod/UFKA-20cxは、三量体CD25+CD122+CD132と相互作用すると急速に解離し、これは、この相互作用は、ILRhod/UFKA-20cxにより形成される相互作用が8.4%未満であり、複合体でない遊離IL-2RhodがCD25+CD122+CD132に結合するものが91.6%となったことから明らかである(図1D~1F)。「送達」とは、本発明による抗hIL-2 mAbとのhIL-2の複合体で送達した場合に、遊離IL2ローダミンがCD25/CD122/CD132細胞の40%を超えて結合することを指す。UFKA-30とUFKA-40は、IL-2RhodのCD25への偏向を強くしたが、IL-2を三量体IL-2Rに解離又は送達することができなかった(図1DからH)。
【0074】
特定の実施形態において、本発明による抗hIL-2 mAbは、hIL-2との複合体で細胞に送達された場合、EC50<0.154ng/mlでヒトCD3CD4Foxp3reg細胞を活性化し、かつEC50>442.9ng/mlでヒトCD8T細胞を活性化する。複合体のEC50を算出するために、Treg又はCD8T細胞の活性化を測定する方法論は、本発明により特に限定されない。本明細書にて実施例に示されるデータでは、抗hIL-2 mAbとのhIL-2複合体によるTreg活性化は、細胞培養後にフローサイトメトリーで測定した図6のヒトT細胞で誘導されるリン酸化STAT5(pSTAT5)レベルによって測定されているが、増殖、又はエフェクターサイトカイン産生などの他の活性化特徴によって測定してもよい。
【0075】
あるいは、抗hIL-2 mAbの他の実施形態において、Treg増殖の優先的促進は、複合体による治療後のCD8CD44hiCD122メモリーT細胞に対するCD3CD4CD25reg細胞の比率を確認することにより決定される。実施例では、この治療により、サルの脾臓又はリンパ節(図8)、又はin vitroで培養したヒト細胞(図6)におけるCD8メモリーT細胞の増加に比べて、Tregが2~3倍大きく増加する結果となった。言い換えれば、本発明による抗hIL-2 mAbをIL-2との複合体でヒト又はサルの細胞に送達した場合、CD8CD44hiCD122T細胞の増加率と比較したTreg細胞の増加率の比率は、未治療、又は前治療の試料のいずれと比較して1よりも大きい。このTreg活性化の比率は、代替的に、次に限定されないが、CD8T細胞、ナチュラルキラー細胞、及び/又はB細胞などのIL2Rα-細胞の総数又は割合と比較し計算することができる。
【0076】
本発明の第3の態様は、CDR1、CDR2及びCDR3により特徴づけられるV領域と、CDR1、CDR2及びCDR3を含む軽鎖可変領域、特にカッパ軽鎖(V)領域とを含む、hIL-2特異的mAb又はその抗原結合抗体断片である。本発明のこの態様によれば、CDR1、CDR2、CDR3、CDR1、CDR2及びCDR3は、それぞれ配列番号001、配列番号002、配列番号003、配列番号004、配列番号005、及び配列番号006を含むか、又はこれと同一である。本発明のこの態様による抗hIL-2 mAbは、任意に、本発明の前記の態様のいずれかによるエピトープ又は結合特性によって特徴づけられてもよい。
【0077】
別の実施形態では、本発明による抗hIL-2 mAb、又はその抗原結合断片、特に、前記の態様のいずれかによって特徴づけられる抗体は、以下によって特徴づけられる:
a. 配列番号007、配列番号008、配列番号009、配列番号010、配列番号011、配列番号012、配列番号013、又は配列番号014から選択されるV配列に含まれるCDR1,CDR2、及びCDR3、並びに、
b. 配列番号015、又は配列番号016から選択されるV配列に含まれるCDR1,CDR2、及びCDR3。特にここで、前記CDRは、配列番号015に含まれる。
【0078】
実施例に示されるデータにおいて、表2では、上記配列に対応する一連のhIL-2抗体において同様のKoff、Kon、K値が示され、これらが機能的な代替物であることを実証している。これらの生化学的な値は、本発明の前記の態様で記載した他のin vitro又はin vivoの測定による機能及び性能の予測可能な指標である。配列番号007の重鎖と配列番号015の軽鎖を持つUFKA-22-00クローンは、他の選択肢がマウスIg分子に似ている「復帰」変異を含み、かつヒト患者において抗薬物免疫を生成するリスクがより高い可能性がある場合にのみ、最も望ましいと考えられる。
【0079】
本発明によるhIL-2特異的mAb、特に前記いずれかの態様によるhIL-2特異的mAbの第4の態様は、配列番号007と(≧)96%以上同一のV領域配列によって特徴づけられる抗hIL-2 mAbであり、特に、
- 74位及び/又は84位がセリンであり、及び/又は
- 93位がメチオニンであり、及び/又は
- 122位がアラニンである、
配列番号007と(≧)96%以上同一のV領域配列によって特徴づけられる抗hIL-2 mAbである。
【0080】
さらに、本発明のこの態様によるmAbは、配列番号015と(≧)99%以上同一のV領域によって特徴づけられ、特に、
- 69位はイソロイシンである、
配列番号015と(≧)99%以上同一のV領域により特徴づけられる。
【0081】
実施例の表2のデータは、最も大きい範囲の機能アッセイで試験された、必須CDR領域と、一次の重鎖配列及び軽鎖配列の配列番号007及び配列番号015と同様のhIL-2との相互作用を有するさらなるフレームワーク変異を有するクローンを示す。a.に記載した重鎖のすべての位置が異なる場合、配列は、配列番号007とは5.74%異なり、言い換えれば、配列番号007と96%超過同一である。軽鎖の69位をイソロイシンに交換する場合、得られる配列番号016の配列は、親の配列番号15の配列と0.88%異なり、言い換えれば、配列番号015と99%超過同一である。
【0082】
hIL-2特異的mAb、又はその抗原結合断片、特に本発明の任意の前記の態様又は実施形態によって特徴づけられるものの第5の態様は、多くとも2つ、又は特に1つの、保存的アミノ酸置換を有するV配列又はV配列を有する抗hIL-2 mAbである。換言すれば、抗hIL-2 mAbのV領域は、配列番号007(V1)、配列番号008(V2)、配列番号009(V3)、配列番号010(V4)、配列番号011(V5)、配列番号012(V6)、配列番号013(V7)、又は配列番号014(V8)、又はこれらの参照配列のいずれか1つから以下に示す置換規則により導かれる機能的に類似の配列、から選択される配列を含む。さらに、抗hIL-2 mAbのV領域は、配列番号015(V1)、配列番号016(V2)、又はこれらの参照配列から置換規則に従って導かれる機能的に類似の配列、から選択される配列を含む。この可能な保存的アミノ酸変化をもたらすための規則により、交換されることが可能であり、かつそれぞれの参照配列と機能的に類似の配列に結果としてなる、同様の生化学的特性を持つアミノ酸が記載される。この置換規則は:
I. グリシン(G)とアラニン(A)とは入れ替え可能であり;バリン(V)、ロイシン(L)、及びイソロイシン(I)は入れ替え可能であり、AとVとは入れ替え可能であり;
II. トリプトファン(W)とフェニルアラニン(F)とは入れ替え可能であり、チロシン(Y)とFとは入れ替え可能であり;
III. セリン(S)とスレオニン(T)とは入れ替え可能であり;
IV. アスパラギン酸(D)とグルタミン酸(E)とは入れ替え可能であり;
V. アスパラギン(N)とグルタミン(Q)とは入れ替え可能であり、NとSとは入れ替え可能であり、NとDとは入れ替え可能であり、EとQとは入れ替え可能であり;
VI. メチオニン(M)とQとは入れ替え可能であり;
VII. システイン(C)、A、及びSは入れ替え可能であり;
VIII. プロリン(P)、G、及びAは入れ替え可能であり;
IX. アルギニン(R)とリジン(K)とは入れ替え可能である;
【0083】
本発明のさらなる態様は、抗hIL-2 mAbを提供することであり、ここで、前記抗体又は抗体断片は、本発明の第1の態様によるエピトープによって特徴づけられるか、又は本発明の第2の態様によって提供される特徴でhIL-2に結合し、かつ以下を含む:
a. 配列番号007(V1)、配列番号008(V2)、配列番号009(V3)、配列番号010(V4)、配列番号011(V5)、配列番号012(V6)、配列番号013(V7)、配列番号014(V8)、又は配列番号017(HC)、のうちの少なくとも1つと、(≧)90%以上同一、特に(≧)94%以上、(≧)96%以上、又はさらに(≧)98%以上同一である、第1の配列;及び
b. 配列番号015(V1)、配列番号016(V2)、又は配列番号018(LC)、のうちの少なくとも1つと、(≧)90%以上同一、特に(≧)94%以上、(≧)96%以上、又はさらに(≧)98%以上同一である第2の配列。
【0084】
抗hIL-2モノクローナル抗体の特定の実施形態では、前記抗体は、配列番号018に指定された配列の軽鎖と会合する、配列番号017に指定された配列を有する重鎖からなる。
【0085】
本発明の次の態様は、本明細書の本発明のいずれか1つの態様によるhIL-2特異的mAbと、hIL-2ポリペプチドとを含み、これら2つの構成要素がペプチドリンカーによって結合されている、hIL-2融合タンパク質を提供する。
【0086】
hIL-2融合タンパク質は、N末端とC末端とを有する抗体重鎖と、N末端とC末端を有する抗体軽鎖とから構成されるhIL-2特異的mAbを含む。前記抗体重鎖は、N末端からC末端へ、それぞれ、配列番号001、配列番号002、配列番号003と指定された配列を有する、CDR1、CDR2、及びCDR3を含む。特定の実施形態では、これらのCDRは、配列番号007、配列番号008、配列番号009、配列番号010、配列番号011、配列番号012、配列番号013、又は配列番号014、から選択されるV配列に含まれる。より特定の実施形態において、この3つのCDRは、配列番号007に含まれる。同様に、抗体軽鎖は、それぞれ、配列番号004、配列番号005、配列番号006の配列を有する相補的決定領域CDR1、CDR2、及びCDR3を含む。特定の実施形態では、これらは、配列番号015、又は配列番号016から選択されるV配列に含まれる。より特定の実施形態では、これらのCDRは、配列番号015に含まれる。
【0087】
本発明によるhIL-2融合タンパク質のhIL-2ポリペプチド部分はまた、N末端とC末端とを有して、任意の天然IL-2ポリペプチド、又はテセロイキン又はアルデスロイキンなどの組換えIL-2タンパク質であってもよい。特定の実施形態において、融合タンパク質のhIL-2部分のポリペプチド配列は、hIL-2タンパク質P60568の配列である。
【0088】
本発明による融合タンパク質のIL-2部分に抗体を接合するペプチドリンカーは、好ましくは30~50個の間のアミノ酸長である。特定の実施形態では、ペプチドリンカーは、30~40個のアミノ酸長である。より特定の実施形態では、ペプチドリンカーは、30~35個の間のアミノ酸長である。さらにより特定の実施形態では、ペプチドリンカーは、約30個のアミノ酸長である。特定の実施形態において、本発明によるhIL-2融合タンパク質のペプチドリンカーは、hIL-2ポリペプチドのC末端を抗体重鎖のN末端、又は抗体軽鎖のN末端のいずれかに接合する。より特定の実施形態では、ペプチドリンカーは、配列番号028に指定したhIL-2融合タンパク質mAbのLC成分の実施形態で示されるように、hIL-2ポリペプチドのC末端を抗体軽鎖のN末端に接合する。
【0089】
本発明によるhIL-2融合タンパク質の特定の実施形態では、ペプチドリンカーは、約85%のグリシン及び約15%のセリンのアミノ酸残基から構成されており、これらが免疫原性の低下をもたらす残基であるためである。hIL-2融合タンパク質の特定の実施形態では、ペプチドリンカーは、配列番号027の配列を有する。なおさらに特定の実施形態では、hIL-2融合タンパク質は、各重鎖、又は各軽鎖が、独立して前記ペプチドリンカーによってhIL-2に融合される、二価の分子である。他の実施形態において、hIL-2融合タンパク質は、組換えタンパク質の分泌を許容するシグナルペプチド、例えば、配列番号027の配列を有するシグナルペプチドを含む。なおさらなる特定の実施形態において、hIL-2融合タンパク質は、V鎖の配列番号017にさらに会合する、配列番号028と指定される配列を提供するhIL-2に融合したLCからなる。
【0090】
本発明の次の態様は、上記で規定した前記の態様又は実施形態のいずれか1つに記載の、hIL-2特異的mAb、又は抗原結合抗体断片をコードする核酸分子を提供する。本発明の別の態様は、本発明によるhIL-2融合タンパク質をコードする核酸分子に関する。本発明の別の態様は、前記核酸を含むベクターを提供し、一方で、さらなる態様は、本発明の上記態様に記載の説明に従った、抗hIL-2 mAb又はその断片、hIL-2融合タンパク質、核酸、又はベクターを含む、細胞、又はモノクローナル抗体産生ハイブリドーマ株を提供する。
【0091】
本発明の別の態様は、医薬品として使用するための医薬製剤であり、特に有害な免疫介在性炎症、より特に同種移植関連障害、血管炎などの慢性炎症、又はアレルギー、又は自己免疫疾患に由来する有害な免疫介在性浸潤を有する患者の治療に用いるための医薬製剤である。本発明のこの態様による医薬製剤は、少なくとも2つの成分:
a. 上記の本発明の態様又は実施形態のいずれか1つに記載のhIL-2特異的mAb、又はその抗原結合断片、及び
b. hIL-2、
を含む。
【0092】
本発明者らは、hIL-2ポリペプチドと複合した本発明によるIL-2特異的mAbによって送達される改善されたIL-2Rα偏向が、現在のIL-2投与アプローチによって治療され得る医療適応において治療効果の改善を提供することが可能であると考えている。IL-2免疫療法は、ヒト臨床試験において、関節リウマチ、強直性脊椎炎、乾癬、炎症性腸疾患、自己免疫性肝炎、筋萎縮性側索硬化症、HCV関連血管炎、I型糖尿病、慢性移植片対宿主病(GVHD:graft-versus-host disease)、ループス、円形脱毛症、及び全身性エリテマトーデスの緩和、及び肝移植プロトコルの改善が示されている(Ye,Signal Transduct Target Ther 2018,3:2;Sharabi,Nat.Rev.Drug Discov.2018,17:823)。ヒト疾患のマウスモデルは、IL-2Rαシグナル伝達を改善するIL-2ベースの免疫療法が、多発性硬化症、炎症性又は自己免疫性ミオパシー、炎症性大腸炎、ループス、異種GVHD、アレルギー性喘息、I型及びII型糖尿病を特徴づける肥満関連炎症及びインスリン抵抗性などの代謝疾患、並びにアテローム性硬化症及びデュシェンヌ型筋ジストロフィーの臨床特徴を改善できることを示している(Arenas-Ramirez,Trends Immunol 2015,36:763,Tang,Immunity 2008,28:687;Webster,J.Exp.Med.2009,206:751;Lee,Immunol.2012,137:305;Spangler,Immunity 2015,42:815;Yan,Kidney Int.2017,91:603,Trotta,Nat Med 2018,24:1005)。
【0093】
例えば、低用量IL-2、組換えIL-2分子、又はIL-2含有医薬製剤によって達成される、IL-2強化免疫療法により臨床結果が改善された免疫介在性病状も、本発明によるhIL-2 mAb及びhIL-2複合体による治療を検討することができる。このような免疫介在性の医療適応には、例えば、IL-2免疫療法に適応可能な慢性炎症疾患、アレルギー、又は自己免疫疾患、及び代謝性疾患などが含まれる。さらに、同種移植関連障害の治療は、例えば、全臓器移植、組織移植、又は骨髄移植を包含し、調整アプローチとして移植処置の前及び/又は移植処置の後に、IL-2と会合するIL-2特異的mAbの適用を含み得る。特定の実施形態において、同種移植関連障害は、臓器全体の移植、例えば、腎臓移植、又は肺移植である。
【0094】
実施例で提供されるデータでは、in vivoで医薬品として使用される抗hIL-2 mAbとIL-2とは、1:1の比率で会合し、実質的に遊離hIL-2を含まないが、成分を組み合わせる比率は異なってよく、例えば、2:1、1:1、あるいはさらに1:2であってもよい。この種類の複合体を非経口的に、あるいは局所的に注入することで、炎症細胞に対してTregの比率を高め、アレルギー、感染症、又は自己免疫疾患において有害な組織病理を引き起こす免疫活性化を抑制する。
【0095】
いくつかの実施形態では、本医薬製剤に含まれるhIL-2及び抗hIL-2 mAbは、共有結合で会合している。実施例のデータは、抗hIL-2mAbからのIL-2の解離が本発明によるmAbの際立つ特徴であることを示唆しており、本実施形態によるhIL-2とhIL-2mAbとの間のいかなる連結も、高親和性IL-2Rを介して最適なシグナルを送達するhIL-2の能力を阻害してはならないことを示唆している。特定の実施形態において、共有結合的に会合したhIL-2及び抗hIL-2 mAbは、本発明によるhIL-2融合タンパク質の形態を有する。
【0096】
他の実施形態では、本発明の前記の態様によるhIL-2含有医薬組成物は、以下のものをさらに含む複合医薬である:
- mTOR阻害剤、特にラパマイシン(シロリムス)、エベロリムスから選択されるmTOR阻害剤、
- 抗炎症性mAb、特に抗TNF、抗IL-6、又は抗OX40L遮断剤から選択されるmAb、
- コルチコステロイド薬、
- スフィンゴシン-1-リン酸(S1P)経路阻害剤、特にFTY720又はS1P受容体遮断剤から選択されるS1P経路阻害剤、
- 抗炎症性抗酸化薬、特にメトホルミン又はN-アセチルシステインから選択される抗炎症性抗酸化薬、
- カルモジュリンキナーゼII型又はIV型阻害剤、
- PI3K阻害剤、又はピラゾピラミジン誘導体、
- HDAC6などのTreg細胞特異的ヒストン脱アセチル化酵素、
- Treg細胞療法、例えば、キメラ抗原受容体又はトランスジェニックT細胞受容体Treg療法、及び/又は
- 低用量IL-2、Ig融合IL-2、又はペグ化IL-2。
【0097】
本発明によるhIL-2及び抗hIL-2 mAbの複合体と上記の医薬品との相乗効果は、IL-2生物学及び腫瘍学の分野の専門家からのレビュー(Sharabi A.ら,Nat.Rev.Drug Discov.2018,17:823)によればそれらの補完作用メカニズムに起因する。
【0098】
本発明の別の態様は、免疫性炎症を治療する方法であり、前記方法は以下を含む:
i. 有害な炎症、特に同種移植関連障害、慢性炎症、アレルギー、又は自己免疫、によって特徴づけられる症状であると診断された患者を選択すること、及び
ii. 請求項1~8のいずれか一項に記載の抗hIL-2 mAbと、hIL-2とを、2:1又は1:2の複合体、特に1:1の割合で組み合わせた複合体で投与すること。
【0099】
さらなる態様は、免疫介在性疾患の治療、特に同種移植関連疾患、慢性炎症、アレルギー、又は自己免疫疾患の治療に使用するための医薬の製造における、本発明の前記の態様のいずれかによるhIL-2特異的mAb、又は抗原結合断片、又はhIL-2融合タンパク質の使用を提供する。
【0100】
本発明の別の態様は、hIL-2残基H16、D20、Q57、E60、E61、L63、K64、E67、E68、L80、R81、R83、D84、I86、S87、N88、N90、V91、L94、E95、K97、T101、T102、M104を含み、hIL-2残基M23、G27、N71、Q74、S75、K76、N77、F78、P82は除く、hIL-2エピトープに結合する単離抗体又はその抗原結合断片を提供する。
【0101】
本発明の最後の態様は、上記に提供された説明のいずれかによる抗体又は分子と同等のエピトープ認識特性を有する抗原認識表面を含む、単離抗体又はその抗原結合断片を提供する。
【0102】
医療、剤形、及び塩
同様に、本発明の範囲内には、上記の説明によるhIL-2及び抗hIL-2 mAbを含む医薬組成物を患者に投与することを含む、それを必要とする患者における炎症性障害を治療すること、又はその方法が含まれる。
【0103】
特定の実施形態では、抗hIL-2 mAbは、抗体、抗体断片、抗体様分子、又はプロテインAドメイン由来ポリペプチドである。
【0104】
いくつかの実施形態において、抗hIL-2 mAbは、2つの重鎖及び2つの軽鎖からなる免疫グロブリンである。いくつかの実施形態において、抗hIL-2 mAbは、重鎖又は軽鎖から単離された可変ドメインからなる単一ドメイン抗体である。
【0105】
特定の実施形態では、抗hIL-2 mAbは、抗体断片である。特定の実施形態において、抗hIL-2 mAbは、Fab断片、すなわち、抗体の抗原結合断片、又は単鎖可変断片、すなわち、抗体の重鎖及び軽鎖の可変領域がペプチドリンカーで接続された融合タンパク質である。抗原特異性が同じか、又は異なる複数の単鎖可変断片を、2つ以上の個別のエピトープ結合領域を形成する多量体フォーマットに結合してもよい。
【0106】
他の実施形態では、組成物は、共有結合的に連結されたhIL-2及び抗hIL-2 mAbを含む。特定の実施形態では、前記組成物は、hIL-2融合タンパク質を含む。
【0107】
同様に、本発明の上記態様又は実施形態のいずれかによる抗hIL-2 mAb及びIL-2の複合体を含む、炎症症状の予防又は治療のための剤形が提供される。
【0108】
当業者は、いずれの具体的に言及された薬物が、該薬物の薬学的に許容される塩として存在し得ることを認識している。薬学的に許容される塩には、イオン化された薬物及び逆荷電の対イオンが含まれる。薬学的に許容されるアニオン性塩形態の非限定的な例としては、酢酸塩、安息香酸塩、ベシル酸塩、酒石酸水素塩(bitatrate)、臭化物、炭酸塩、塩化物、クエン酸塩、エデト酸塩、エジシル酸塩、エンボン酸塩、エストール酸塩、フマル酸塩、グルセプト酸塩、グルコン酸塩、臭化水素酸塩、塩酸塩、ヨウ化物、乳酸塩、ラクトビオン酸塩、リンゴ酸塩、マレイン酸塩、マンデル酸塩、メシル酸塩、臭化メチル、硫酸メチル、ムチン酸塩、ナプシル酸塩、硝酸塩、パモ酸塩、リン酸塩、二リン酸塩、サリチル酸塩、ジサリチル酸塩、ステアリン酸塩、コハク酸塩、硫酸塩、酒石酸塩、トシル酸塩、トリエチオジド及び吉草酸塩が挙げられる。薬学的に許容されるカチオン塩形態の非限定的な例としては、アルミニウム、ベンザチン、カルシウム、エチレンジアミン、リジン、マグネシウム、メグルミン、カリウム、プロカイン、ナトリウム、トロメタミン及び亜鉛が挙げられる。
【0109】
Il-2複合体は、実験モデルにおいて皮下、静脈内、及び腹腔内の経路での適用が成功しており、それ故、皮下、静脈内、肝内、又は筋肉内の注入形態など、非経口投与を用いることができる。しかし、本発明者らは、局所投与、又は鼻腔、口腔、直腸、経皮、又は経口投与などの経腸投与の剤形を予測している。あるいは吸入形態又は座薬としての投与形態も、望ましい生理学的結果をもたらし得る。任意に、薬学的に許容される担体及び/又は賦形剤が存在してもよい。
【0110】
局所投与もまた、本発明の有利な用途の範囲内である。当業者は、以下の内容によって例示されるように、局所製剤を提供するための可能な広い範囲の処方について理解している:Benson及びWatkinson(編),Topical and Transdermal Drug Delivery:Principles and Practice(第1編,Wiley 2011,ISBN-13:978-0470450291);及びGuy及びHandcraft:Transdermal Drug Delivery Systems:Revised and Expanded(第2編,CRC Press 2002,ISBN-13:978-0824708610);Osborne及びAmann(編):Topical Drug Delivery Formulations(第1編,CRC Press 1989;ISBN-13:978-0824781835)。
【0111】
医薬組成物及び投与
本発明の別の態様は、本発明の化合物、又はその薬学的に許容される塩、及び薬学的に許容される担体を含む医薬組成物に関する。さらなる実施形態では、該組成物は、本明細書に記載されるものなどの少なくとも2つの薬学的に許容される担体を含む。
【0112】
本発明の特定の実施形態において、本発明の化合物は、典型的には、薬物の制御された投与量を提供するために、医薬用剤形に製剤化される。
【0113】
本発明の化合物の局所的使用に関する本発明の実施形態では、医薬組成物は、水溶液、懸濁液、軟膏、クリーム、ゲル又は噴霧可能な製剤、例えばエアゾール等による送達用のものなど、局所投与に適した方法で製剤化され、活性成分を、当業者に知られている1つ又は複数の可溶化剤、安定剤、等張化増強剤、緩衝液及び防腐剤と共に含んでいる。
【0114】
医薬組成物は、経口投与、非経口投与、又は直腸投与用に製剤化することができる。さらに、本発明の医薬組成物は、固体形態(限定されないが、カプセル、錠剤、丸薬、顆粒、粉末又は坐剤を含む)、又は液体形態(限定されないが、溶液、懸濁液又は乳濁液を含む)において構成することができる。
【0115】
本発明の化合物の投与計画は、特定の薬剤の薬力学的特性及びその投与の様式及び経路などの既知の要因:レシピエントの種、年齢、性別、健康状態、病状、及び体重;症状の性質と程度;同時治療の種類;治療の頻度;投与経路、患者の腎機能及び肝機能、並びに所望の効果、に応じて変化するであろう。特定の実施形態において、本発明の化合物は、1日1回の用量で投与されてもよいし、又は1日の総用量が、1日2回、3回、又は4回に分割した用量で投与されてもよい。
【0116】
特定の実施形態では、本発明の医薬組成物又は組み合わせは、約50~70kgの対象に対して約1~1000mgの活性成分(複数可)の単位用量であり得る。化合物、医薬組成物、又はそれらの組み合わせの治療上有効な投与量は、対象の種、体重、年齢及び個人の状態、治療される障害又は疾患又はその重篤度に依存する。通常の技術を有する医師、臨床医又は獣医師であれば、障害又は疾患の予防、治療又は進行抑制に必要な各有効成分の有効量を容易に決定することができる。
【0117】
本発明の医薬組成物は、滅菌などの従来の医薬操作にかけることができ、及び/又は従来の不活性希釈剤、潤滑剤、又は緩衝剤、並びに保存剤、安定剤、湿潤剤、乳化剤及び緩衝剤などのアジュバントを含有することができる。これらは、標準的なプロセス、例えば、従来の混合、造粒、溶解又は凍結乾燥プロセスによって製造することができる。医薬組成物を調製するための多くのそのような手順及び方法は、当技術分野で知られており、例えば、L.Lachmanら、The Theory and Practice of Industrial Pharmacy,第4編,2013(ISBN 8123922892)を参照されたい。
【0118】
本明細書において、例えばアイソタイプタンパク質又はコード配列、リガンドの種類又は医療適応などの単一の分離可能な特徴の代替形態が「実施形態」として記載されている場合、そのような代替形態は自由に組み合わせて、本明細書に開示した発明の別個の実施形態を形成してもよいと理解されたい。したがって、抗体に関する代替的な実施形態のいずれもが、本明細書に記載される任意の医学的適応と組み合わされ得る。
【0119】
本発明は、さらに以下の項目を包含する:
項目1. ヒトインターロイキン-2(hIL-2)特異的モノクローナル抗体(mAb)、又はその抗原結合断片であって、前記hIL-2特異的mAbは、エピトープを提供するhIL-2のアミノ酸残基と相互作用し、かつ
前記エピトープは、hIL-2残基の:
- H16、D20、
- Q57、E60、E61、L63、K64、E67、E68、及び
- L80、R81、R83、D84、I86、S87、N88、N90、V91、L94、E95、K97、T101、T102、M104、
を含む、
前記ヒトインターロイキン-2(hIL-2)特異的モノクローナル抗体(mAb)、又はその抗原結合断片。
項目2. 前記hIL-2特異的mAbのhIL-2への結合は:
- 解離定数(K)は、(≦)4.3×10-9以下であり、特にKは(≦)5.13×10-9以下であること、
- オンレート(結合速度)(Kon)は、(≧)4.12×10Ms-1以上であり、特にKonは、(≧)4.66×10Ms-1以上であること、及び
- オフレート(解離速度)(Koff)は、(≦)2.20×10-3-1以下であり、特にKoffは、(≦)2.39×10-3-1以下であること、
によって特徴づけられる、
hIL-2特異的mAb、又はその抗原結合断片、特に項目1に記載のhIL-2特異的mAb、又はその抗原結合断片。
項目3. 前記hIL-2特異的mAbとhIL-2とを、2:1~1:2の間の比率で組み合わせた複合体、特に1:1の比率で組み合わせた複合体は:
- 中間親和性hIL-2受容体と比較した高親和性hIL-2受容体への結合の比率は、20~121の間であること、特に比率は71~121の間であること、及び/又は
- 中間親和性hIL-2受容体と比較したCD25単独の結合親和性の比率は、277~483の間であること、特に比率は380~483の間であること、及び/又は
- 高親和性hIL-2受容体への複合体の結合におけるhIL-2からのhIL-2 mAbの解離、及び/又は
- ヒトCD3CD4CD127lowFoxp3reg細胞を、EC50が(≦)0.154以下で、かつヒトCD8T細胞を、EC50が(≧)442.9以上で活性化させること、
によって特徴づけられる、項目1又は2に記載のhIL-2特異的mAb、又はその抗原結合断片。
項目4. V相補性決定領域CDR1、CDR2、及びCDR3を含む重鎖可変(V)領域と、V相補性決定領域CDR1、CDR2、及びCDR3を含む可変軽鎖(V)領域とを含み、かつここで
a. CDR1は、配列番号001を含むか、又はそれと同一であり;及び
b. CDR2は、配列番号002を含むか、又はそれと同一であり、及び
c. CDR3は、配列番号003を含むか、又はそれと同一であり;及び
d. CDR1は、配列番号004を含むか、又はそれと同一であり;及び
e. CDR2は、配列番号005を含むか、又はそれと同一であり;及び
f. CDR3は、配列番号006を含むか、又はそれと同一である、
hIL-2特異的mAb、又はその抗原結合断片、特に項目1~3のいずれか一項に記載の前記hIL-2特異的mAb。
項目5.
a. CDR1、CDR2、及びCDR3は、配列番号007、配列番号008、配列番号009、配列番号010、配列番号011、配列番号012、配列番号013、及び配列番号014から選択されるV配列に含まれ、特に前記CDRは、配列番号007に含まれ、かつ
b. CDR1、CDR2、及びCDR3は、配列番号015、及び配列番号016から選択されるV配列に含まれ、特に前記CDRは、配列番号015に含まれる、
hIL-2特異的mAb、又はその抗原結合断片、特に項目1~4のいずれか一項に記載のhIL-2特異的mAb。
項目6.
a.
- 74位及び/又は84位がセリンであり、及び/又は
- 93位がメチオニンであり、及び/又は
- 122位がアラニンである;
配列番号007と(≧)96%以上同一であるV領域配列、
及び
b.
- 69位がイソロイシンである、
配列番号015と(≧)99%以上同一であるV領域、
を含む、
hIL-2特異的mAb、又はその抗原結合断片、特に項目1~5のいずれか一項に記載のhIL-2特異的mAb。
項目7.
a. V領域は、配列番号007、配列番号008、配列番号009、配列番号010、配列番号011、配列番号012、配列番号013、及び配列番号014から選択される配列、又は以下に示す置換規則によってこれらの参照配列のいずれか1つから導かれる機能的に類似する配列を含み;かつ
b. V領域は、配列番号015及び配列番号016から選択される配列、又は以下に示す置換規則によってこれらの参照配列のいずれか1つから導かれる機能的に類似する配列を含み、
それぞれの参照配列から機能的に類似する配列を導く前記置換規則は:
i. グリシン(G)とアラニン(A)とは入れ替え可能であり;バリン(V)と、ロイシン(L)と、イソロイシン(I)とは入れ替え可能であり、AとVとは入れ替え可能であり;
ii. トリプトファン(W)とフェニルアラニン(F)とは入れ替え可能であり、チロシン(Y)とFとは入れ替え可能であり;
iii. セリン(S)とスレオニン(T)とは入れ替え可能であり;
iv. アスパラギン酸(D)とグルタミン酸(E)とは入れ替え可能であり;
v. アスパラギン(N)とグルタミン(Q)とは入れ替え可能であり、NとSとは入れ替え可能であり、NとDとは入れ替え可能であり、EとQとは入れ替え可能であり;
vi. メチオニン(M)とQとは入れ替え可能であり;
vii. システイン(C)と、Aと、Sとは入れ替え可能であり;
viii. プロリン(P)と、Gと、Aとは入れ替え可能であり;
ix. アルギニン(R)とリジン(K)とは入れ替え可能であり;
特に、上記の置換規則によって多くとも2つのアミノ酸が交換され、より特に多くとも1つのアミノ酸が交換される、
hIL-2特異的mAb、又はその抗原結合断片、特に項目1~5のいずれか一項に記載のhIL-2特異的mAb。
項目8.
a. 配列番号007、配列番号008、配列番号009、配列番号010、配列番号011、配列番号012、配列番号013、配列番号014、及び配列番号017のうちの少なくとも1つと(≧)90%以上同一、特に(≧)94%以上、(≧)96%以上、又はさらに(≧)98%以上同一の第1の配列;及び
b. 配列番号015、配列番号016、及び配列番号018のうちの少なくとも1つに(≧)90%以上同一、特に(≧)94%以上、(≧)96%以上、又はさらに(≧)98%以上同一である第2の配列、
をさらに含む、項目1~3のいずれか一項に記載の特徴を有する、
hIL-2特異的mAb、又はその抗原結合断片。
項目9. 前記hIL-2特異的mAbは:
a. 重鎖であり、配列番号017を含むか、又はそれからなる前記重鎖;及び
b. 軽鎖であり、配列番号018を含むか、又はそれからなる前記軽鎖、
を含む、
項目1~8のいずれか一項に記載のhIL-2特異的mAb。
項目10. hIL-2融合タンパク質であって:
a.
i. 抗体重鎖;及び
ii. 抗体軽鎖;
を含むか、それからなる項目1~9のいずれか一項に記載のヒトインターロイキン-2(hIL-2)特異的モノクローナル抗体(mAb);及び
b. hIL-2ポリペプチド;
c. 25~50の間のアミノ酸長のペプチドリンカー、特に25~35アミノ酸長、より特に30アミノ酸長のペプチドリンカー、
を含む、hIL-2融合タンパク質であって、
前記ペプチドリンカーは、前記hIL-2ポリペプチドのC末端を前記抗体重鎖のN末端、又は前記抗体軽鎖のN末端のいずれかに接合しており、特に前記ペプチドリンカーは、前記hIL-2ポリペプチドのC末端を前記抗体軽鎖のN末端に接合している、
前記hIL-2融合タンパク質。
項目11. 前記ペプチドリンカーは、約85%のグリシン及び約15%のセリンから構成され、特に前記ペプチドリンカーは、配列番号026の配列を有する、項目10に記載のhIL-2融合タンパク質。
項目12. 請求項1~9のいずれか一項に記載のhIL-2特異的mAb、又はその抗原結合断片、あるいは項目10又は11に記載のhIL-2融合タンパク質、をコードする核酸分子。
項目13.
a. 項目1~9のいずれか一項に記載のhIL-2特異的mAb、又はその抗原結合断片、及び
b. hIL-2、
を含む、医薬品としての使用のための医薬組成物、特にIL-2免疫療法に適している免疫介在性疾患の治療における使用のための医薬組成物、より特に同種移植関連障害、慢性炎症、アレルギー、自己免疫性及び代謝性疾患から選択される、免疫介在性疾患の治療における使用のための医薬組成物。
項目14. 前記IL-2及び前記hIL-2特異的mAbが共有結合的に会合しており、特に項目10又は11に記載のhIL-2融合タンパク質内に前記IL-2及び前記hIL-2特異的mAbが含まれている、項目13に記載の使用のための医薬組成物。
項目15. 前記自己免疫性疾患は、全身性エリテマトーデス、関節リウマチ、強直性脊椎炎、自己免疫肝炎、筋萎縮性側索硬化症、1型真性糖尿病、2型真性糖尿病、動脈硬化症、多発性硬化症、炎症性及び自己免疫性ミオパシー、円形脱毛症、乾癬、又は炎症性腸疾患から選択される、項目13又は14に記載の使用のためのhIL-2特異的mAbを含む医薬組成物。
項目16. 前記同種移植片関連障害は、固形臓器移植処置を受ける(受けている)患者において診断される、項目13~15のいずれか一項に記載の使用のためのhIL-2特異的mAbを含む医薬組成物。
項目17. hIL-2残基のH16、D20、Q57、E60、E61、L63、K64、E67、E68 L80、R81、R83、D84、I86、S87、N88、N90、V91、L94、E95、K97、T101、T102、M104を含むhIL-2エピトープに結合する、単離抗体、又はその抗原結合断片であって、前記エピトープは、hIL-2残基のM23、G27、N71、Q74、S75、K76、N77、F78、P82を含まない、前記単離抗体、又はその抗原結合断片。
項目18. 項目1~11のいずれか一項に記載の抗体又は分子と同等のエピトープ認識特性を有する抗原認識表面を含む、単離抗体、又はその抗原結合断片。
【0120】
IL-2による樹状細胞刺激の技術背景
樹状細胞(DC:Dendritic cell)は、細胞内病原体及び腫瘍に対するT細胞応答の編成に不可欠と考えられている、プロフェッショナル抗原提示細胞の亜群である(Mildner A.ら,Immunity,2014,30:1;Durei V.及びMurphy K.M.Immunity 2014,40:642)。ヒトの血中DCは従来、従来型DC(cDC:conventional DC)と形質細胞様DC(pDC:plasmacytoid DC)に細分化されていたが、単細胞RNA及びタンパク質解析の結果、マウスとヒトにおいてインターフェロン調節因子8(IRF8:interferon-regulatory factor 8)と塩基性ロイシンジッパー転写因子ATF様3(BATF3:basic leucine zipper transcriptional factor ATF-like 3)によって制御されている1型cDC(cDC1)とIRF4によって制御されている2型cDC(cDC2)への分化が特定された(Villani A.C.ら、Science 2017,356:6335;Dutertre C.A.ら、Immunity 2019,51:573,Schraml B.U.及びReis e Souse C.Curr Opin Immunol 2015,32:13)。腫瘍微小環境(TME)を含む非リンパ系組織におけるDCサブセットは、表現型及び機能的特性の点で非常に異なる(Worbs T.ら,Nat.Rev.Immunol 2017,17:30;Broz M.L.ら,Cancer Cell 2014,26:638)。しかし、抗腫瘍反応におけるcDCの必要に応じた生成及び増大を促進する上流の分子及び細胞の因子は未解明である。
【0121】
2つの研究では、NK細胞が、腫瘍でのDC浸潤を促進し、ヒトの生存期間の延長と相関することを含意している(Bottcher J.P.ら,Cell 2018,172:1022;Barry K.C.ら,Nat Med 2018,24:1178)。NK細胞はリンパ系細胞であり、その生存及び恒常性(ホメオスタシス)は、Il2rgがコードする共通のγ鎖サイトカイン受容体(γc、CD132とも呼ばれる)を介して介在されるシグナルに依存する。このCD132サイトカインファミリーのメンバーには、IL-2、IL-4、IL-7、IL-9、IL-15、及びIL-21が含まれる(Raeber M.E.ら,Immunol Rev 2018,283:176)。IL-2は、IL-2Rβ(CD122)とCD132で構成される中間親和性の二量体IL-2R、又はIL-2Rα(CD25)をさらに含む三量体IL-2Rのいずれかを介してシグナルを伝達する。この二量体の受容体は主にメモリーCD8T細胞及びNK細胞に存在するが、一方で三量体受容体は定常状態では主にTreg細胞に存在し、直近に活性化したエフェクターT細胞で一過性に発現がアップレギュレーションされる(Arenas-Ramirez J.ら,Trends Immunol 2015,36:763)。T細胞及びNK細胞に対する作用に加えて、IL-2はまた、自然リンパ球(ILC:innate lymphoid cell)、特に2型ILC(ILC2)、NKT細胞、及び活性化B細胞、並びに特定の非免疫細胞も刺激することができる(Malek R.T及びCastro I.Immunity 2010,33:153);Abbas A.K.ら,Sci Immunol 2018,3(25):eaat1482)。しかし、IL-2はin vivoでのDCの恒常性に影響を与えることは知られていない。
【0122】
hIL-2 mAb組成物による樹状細胞刺激の概要
実施例5は、免疫寛容を誘導するためにIL-2療法を受ける全身性エリテマトーデス患者の免疫応答を研究する臨床試験に関するもので、本発明者らは、複数のDCサブセットの顕著な増加を観察したことは予想外であった。マウスとヒトとの両方で行われたIL-2免疫療法の研究では、IL-2と、三量体IL-2R偏向mAb若しくはIL-2Rα偏向mAbとを含む複合体によるDCの増大及び活性化が実証された。この経路はIL-2によって駆動され、DC集団とDCプロセスとの両方の増大を刺激する。
【0123】
本発明の第1の態様は、樹状細胞機能の強化を必要とする患者における使用のためのIL-2複合体医薬組成物であって、前記IL-2複合体は、ヒトhIL-2とhIL-2特異的mAbとの両方を含み、かつ前記IL-2複合体は、中間親和性IL-2Rよりもむしろ高親和性IL-2R又はCD25に優先的に結合する。
【0124】
いくつかの実施形態において、使用のための医薬組成物は、V相補性決定領域CDR1、CDR2及びCDR3を有する重鎖可変(V)領域と、V相補性決定領域CDR1、CDR2及びCDR3を有する可変軽鎖(V)領域とを含むhIL-2特異性mAbを含み、ここで前記CDR1、CDR2、CDR3、CDR1、CDR2、及びCDR3が、それぞれ配列番号001、配列番号002、配列番号003、配列番号004、配列番号005、及び配列番号006を含むか、又はそれと同一である。さらなる実施形態では、前記CDRは、配列番号007のV配列及び配列番号015のV配列に、又は機能的に類似する配列に含まれる。他の実施形態では、DC機能を高めるために患者に使用するための医薬組成物は、Tregの活性化の増加に偏向しており、患者におけるDCの活性化又は増殖を促進する。
【0125】
本発明はさらに、自己免疫疾患又は炎症性疾患と診断された患者を、本発明によるIL-2複合体を用いて治療する方法を提供する。
【0126】
hIL-2 mAb組成物による樹状細胞刺激の詳細な説明
本明細書の解釈にあたっては、「用語と定義」の項に記載された定義が引き続き適用され、適宜、単数形で使用される用語は複数形も含み、逆もまた然りである。
【0127】
本発明の第1の態様は、DC機能の強化により恩恵を受ける症状を有する患者で使用するための医薬組成物であって、前記医薬組成物は、ヒトIL-2(hIL-2)ポリペプチド、及びhIL-2特異的モノクローナル抗体(mAb)の両方を含むIL-2複合体自体を含む。適切なhIL-2特異的mAbの例は、米国特許出願公開第2017/0114130号(A1)に開示されており、その内容は、参照により本明細書に組み込まれる。本発明のこの態様によるIL-2複合体は、CD122及びCD132を含む中間親和性IL-2Rと比較して、CD25に、及び/又はCD122、CD132及びCD25を含む高親和性IL-2受容体に、優先的に結合する。
【0128】
実施例の図15及び図17のデータは、市販のCD25偏向抗IL-2抗体クローン5344、又は本明細書に記載のUKFA-20クローンの両方を、IL-2と複合化した状態で、CD122偏向抗IL-2 NARA1クローンを用いて調製したIL-2複合体と同等のレベルで脾臓のDC総数を拡大できることを実証している。このデータは、医薬組成物が、寛容原性な表現型を持つDCの数を増やすことによって、炎症性疾患又は自己免疫疾患と診断された患者に有益であることを示唆している。
【0129】
CD25偏向mAbを含むIL-2複合体は、IL-10及びトランスフォーミング成長因子βなどの免疫寛容原性(tolerogenic)分子を分泌するTregなどのCD25を豊富に発現する細胞に優先的にIL-2シグナルを送達するであろう。したがって、本医薬組成物は、免疫寛容原性DC機能の強化により恩恵を受ける疾患と診断された患者において特に使用することが期待される。寛容原性DCは、例えば、以下の遺伝子又はその産物の発現を含む免疫寛容原性シグネチャーによって同定することができる:CD274、PDCD1LG2、CD200、CD205、FAS、ALDH1A2、SOCS1、SOCS2、IL4R、IL4I1、IL10、CCL17、CCL22、TNFRSF4、及びBCL2L1(Maier,Nature 2020,580:257)。
【0130】
特定の実施形態では、本発明によるhIL-2と抗hIL-2 mAbとの複合体は、本発明による抗hIL-2 mAbと非共有結合的に会合した、hIL-2ポリペプチドが含まれる。本発明によれば、IL-2複合体に含まれるhIL-2及びhIL-2特異的mAbを組み合わせる比率は特に限定されない。これらのhIL-2 mAb複合体は、要素を2:1の比率で組み合わせた場合(Boyman,Science 2006,311:1924;Krieg,PNAS 2010,107:11906;Arenas-Ramirez,Sci Transl Med 2016,8,:367ra166)、又は1:1の比率で組み合わせた場合(Letourneau,PNAS 2010,107:11906;Arenas-Ramirez,Sci Transl Med 2016,8,:367ra1660)に有効に機能すると実証されている。複合体のこの2成分の結合(組み合わせ)は、溶液中で行われ、この組み合わせ手順の時間、温度、及び条件はまた、本発明によって特に限定されない。複合体は、例えば、hIL-2と抗hIL-2 mAbとをリン酸緩衝生理食塩水などの生理的溶液中で室温で15分間、結合することにより形成することができる。IL-2シグナル伝達をIL-2Rα又はIL-2Rβへ偏向させ、したがってTreg又はCD8T細胞におけるSTAT5リン酸化を増大させるmAbを用いたIL-2 mAb複合体の調製及び活性が実施されてきた(Letourneau,PNAS 2010,107:11906;Krieg,PNAS 2010,107:11906,;Trotta,Nat Med 2018,24:1005)。他の実施形態では、本発明による医薬組成物のhIL-2と抗hIL-2 mAbとは、共有結合的に会合し、特にペプチドリンカーによって接合されている。
【0131】
使用のためのIL-2複合体を含む医薬組成物の特定の実施形態では、例えばSTAT5リン酸化によって測定される活性化、及び/又は増殖を、CD8T細胞よりも制御性T(Treg)細胞において大幅に増加させる。特定の実施形態では、上記で規定された使用のための医薬組成物は、ヒト、又は霊長類の免疫細胞に適用された場合、CD8T細胞、ナチュラルキラー(NK)細胞、自然リンパ球(ILC)、及び/又はB細胞に対するTreg細胞の比率を増加させる。
【0132】
本発明者らは、新規のhIL-2特異的mAbであるUFKA-20及びそのヒト化誘導体であるUFKA-22を開発した。mAbを用いて形成されたIL-2複合体は、CD25を発現するT細胞を高効率かつ特異的に刺激する。本発明者らは、本発明のこの態様によるhIL-2特異的mAbが、以前に記載の他のCD122標的抗体クローンと比較して、免疫寛容原性のDC集団を効率的に増大することを実証している。特定の実施形態では、患者に使用するためのIL-2複合体医薬組成物のhIL-2特異的mAbは、CDR1、CDR2及びCDR3を含むV領域、並びにCDR1、CDR2及びCDR3を含むV領域を含む。本実施形態によれば:
CDR1は、配列番号001を含むか、又はそれと同一であり;及び
CDR2は、配列番号002を含むか、又はそれと同一であり;及び
CDR3は、配列番号003を含むか、又はそれと同一であり;及び
CDR1は、配列番号004を含むか、又はそれと同一であり;及び
CDR2は、配列番号005を含むか、又はそれと同一であり;及び
CDR3は、配列番号006を含むか、又はそれと同一である。
【0133】
別の実施形態では、DC増強を必要とする患者に使用するためのIL-2複合体医薬複合体に含まれるhIL-2 mAbのCDR1、CDR2及びCDR3は、配列番号007、配列番号008、配列番号009、配列番号010、配列番号011、配列番号012、配列番号013、又は配列番号014、又は配列番号017から選択される少なくとも1つのVH配列に含まれ、特に前記CDRは、配列番号007に含まれる。また、hIL-2 mAbのCDR1、CDR2、及びCDR3は、配列番号015、配列番号016、又は配列番号0018から選択される少なくとも1つのVL配列に含まれており、特に前記CDRは、配列番号015に含まれる。本発明のこの態様による単離された抗体hIL-2特異的抗体又はその抗原結合断片は、hIL-2残基 H16、D20、Q57、E60、E61、L63、K64、E67、E68、L80、R81、R83、D84、I86、S87、N88、N90、V91、L94、E95、K97、T101、T102、M104を含むが、hIL-2残基 M23、G27、N71、Q74、S75、K76、N77、F78、P82は除く、hIL-2エピトープに結合する。hIL-2と複合体を形成した上記の特徴を有する抗体は、IL-2シグナルを高親和性IL-2Rに優先的に送達するであろう。重要なことは、抗体による立体障害なしに、妨げられずに最適なシグナル伝達刺激の送達を可能にするために、受容体への結合時に、抗体はまた、複合体から解離し、換言すれば、IL-2ポリペプチドから分離するであろう。
【0134】
別の実施形態によれば、本発明による使用のためのIL-2複合体を含む医薬組成物は、患者のDCの増殖及び/又は活性化を促進する。DCの増殖は、Brdu、7AADなどの検出可能なDNA挿入剤の取り込み、あるいは経時的な数の増加、あるいはKi67などの細胞周期への進入を示す表面マーカーのアップレギュレーションによって測定することができる。活性化とは、MHC又は共刺激分子など、成熟した樹状細胞が産生する因子の測定値の上昇と定義することができる。あるいは、活性化は、実施例において樹状細胞の活性化及び増殖を駆動することが示されている分子、特に腫瘍壊死因子(TNF、TNFA、TNFSF2、UniProt P01375)、Fms関連チロシンキナーゼ3リガンド(Flt3l、UniProt P49771)及び顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(CSF2、UniProt P04141)の増加によって定義してもよい。
【0135】
図15及び図17に示すデータは、CD25偏向抗体を含むIL-2複合体の非経口投与により、マウスのレシピエントの脾臓のDC集団が増大することを実証し、IL-2複合体刺激により、BrdU組み込みにより測定される成熟樹状細胞の増殖と、活性マーカーの調節によって測定される抑制性へのDC前駆体の成熟の両方が誘導される(図15及び図17参照)。
【0136】
本発明による使用のためのIL-2複合体を含む医薬組成物の特定の実施形態では、組成物は、免疫介在性疾患と診断された患者に投与される。DCベースの治療が患者に利益をもたらすことが可能な自己免疫疾患及び自己炎症性疾患には、全身性エリテマトーデス、関節リウマチ、シェーグレン病、I型糖尿病、乾癬、白斑、炎症性腸疾患、多発性硬化症、血球貪食性リンパ組織球症が含まれるが、これらに限定されない。さらに、T細胞応答のプライミング及び持続において樹状細胞が重要であることは、喘息又はアトピー性皮膚炎などのアレルギー性又はアトピー性疾患と診断された患者もまた、本発明によるIL-2複合体を含む医薬組成物の投与から利益を得る可能性があることを示唆している。
【0137】
別の実施形態では、本発明による使用のためのIL-2複合体を含む医薬組成物は、同種移植関連障害(例えば、急性及び慢性の移植片対宿主病、又は多発血管炎を伴う肉芽腫症などの血管炎)と診断された患者に投与される。さらに、移植において将来の同種移植片の受け入れを促すために投与されてもよい。IL-2複合体を含む医薬組成物の投与は、したがって、同種組織移植片若しくは臓器移植処置の前、若しくは同時に、あるいは患者が以前に組織移植片若しくは臓器移植処置を受けた後に行われてもよい。
【0138】
実施例の図16は、アルデスロイキンを用いたIL-2免疫療法が、ヒト全身性エリテマトーデス患者の樹状細胞を増大させ、特にcDC1及びcDC2の数を増強することを実証するものである。図15及び図17は、NARA1を含むIL-2複合体、又は本発明によるIL-2複合体を含むCD25偏向医薬組成物による治療が、マウスにおいて同様の急性DC増大を達成することを示す。さらに、本発明によって提供されるIL-2複合体は、有効性、副作用の低減、及び応答の寿命の点で、IL-2免疫療法よりも優れていることが知られている(Arenas-Ramirez J.ら,Trends Immunol 2015,36:763)。CD25偏向hIL-2特異的mAb複合体は、CD80とMHC IIの発現が減少し、チェックポイント阻害分子のPD-1ファミリーの発現が上昇することにより特徴づけられる免疫寛容原性の表現型を持つDCを増強することが実証された。
【0139】
本発明のさらなる態様は、DC機能の増強を必要とする患者、例えば、がん、又は自己免疫性、炎症性若しくは同種移植片関連の症状を治療する方法であり、前記方法は、本発明の明細書による有効量のhIL-2特異的mAbと会合したhIL-2ポリペプチドを含む医薬組成物を投与することを含む。
【0140】
本発明は、以下のさらなる項目をさらに包含する:
項目A. 樹状細胞(DC)機能の強化により恩恵を受ける症状を有する患者における使用のための、IL-2複合体を含む医薬組成物であって、
前記IL-2複合体は、hIL-2特異的モノクローナル抗体(mAb)に会合したヒトIL-2(hIL-2)ポリペプチドを含み、かつ
前記IL-2複合体は、CD25に、及び/又はCD122、CD132及びCD25を含む高親和性IL-2受容体に、CD122及びCD132を含む中間親和性IL-2受容体と比較して、優先的に結合する、
前記医薬組成物。
項目B. 前記IL-2複合体は、
a. CD8T細胞におけるSTAT5リン酸化を増大させるよりも、制御性T(Treg)細胞におけるSTAT5リン酸化をより大幅に増大させ、及び/又は
b. CD8T細胞の増殖を増大させるよりも、Treg細胞の増殖を大幅に増加させ、及び/又は
c. CD8T細胞、ナチュラルキラー(NK)細胞、自然リンパ球(ILC)、及び/又はB細胞に対するTreg細胞の比率を増加させる、
項目Aに記載の使用のためのIL-2複合体を含む医薬組成物。
項目C. 前記hIL-2特異的mAbは、V相補性決定領域(CDR)CDR1、CDR2及びCDR3を含む重鎖可変(V)領域、並びにV相補性決定領域(CDR)CDR1、CDR2及びCDR3を含む軽鎖可変(V)領域を含み、ここで:
a. CDR1は、配列番号001を含むか、又はそれと同一であり;及び
b. CDR2は、配列番号002を含むか、又はそれと同一であり;及び
c. CDR3は、配列番号003を含むか、又はそれと同一であり;及び
d. CDR1は、配列番号004を含むか、又はそれと同一であり;及び
e. CDR2は、配列番号005を含むか、又はそれと同一であり;及び
f. CDR3は、配列番号006を含むか、又はそれと同一である、
項目A又はBに記載の使用のためのIL-2複合体を含む医薬組成物。
項目D.
c. 前記hIL-2 mAbのCDR1、CDR2及びCDR3は、配列番号007、配列番号008、配列番号009、配列番号010、配列番号011、配列番号012、配列番号013、又は配列番号014から選択されるV配列に含まれており、特に前記CDRは、配列番号007に含まれており、かつ
d. 前記hIL-2 mAbのCDR1、CDR2及びCDR3は、配列番号015、又は配列番号016から選択されるV配列に含まれており、特に前記CDRは、配列番号015に含まれている、
項目A~Cのいずれか一項に記載の使用のためのIL-2複合体を含む医薬組成物。
項目E. 前記医薬組成物は、患者におけるDCの増殖及び/又は活性化を促進する、項目A~Dのいずれか一項に記載の使用のためのIL-2複合体を含む医薬組成物。
項目F. 前記医薬組成物は、免疫介在性症状と診断された患者に投与される、項目A~Eのいずれか一項に記載の使用のためのIL-2複合体を含む医薬組成物。
項目G. 前記医薬組成物は、同種組織移植片若しくは臓器移植の処置の前に患者に、又は組織移植片若しくは臓器移植の処置を以前に受けたことのある患者に投与される、項目A~Fのいずれか一項に記載の使用のためのIL-2複合体を含む医薬組成物。
項目H. 項目A~Gのいずれか一項に記載のhIL-2特異的mAbと会合しているhIL-2ポリペプチドを含む医薬組成物の有効量を投与することを含む、がん、自己免疫疾患、炎症疾患、又は同種移植関連疾患を有する患者を治療するための方法。
【0141】
本発明は、以下の実施例及び図によってさらに説明され、そこからさらなる実施形態及び利点を引き出すことができる。これらの実施例は、本発明を説明するためのものであり、その範囲を限定するものではない。
【実施例
【0142】
材料と方法
細胞株と初代細胞
アメリカンタイプカルチャーコレクション(ATCC)から入手したHEK293T細胞は、子牛胎児血清(10%v/v,Thermo Scientific)及びペニシリン-ストレプトマイシン(100U/ml,Thermo Scientific)を補充したダルベッコ改変イーグル培地で維持した。末梢血単核細胞(PBMC)は、事前のインフォームドコンセントの後、チューリッヒ州倫理委員会の承認(BASEC番号2016-01440)を得て、健常者から採取したヒト末梢血からFicoll-Paque PLUS(GEヘルスケア)勾配遠心分離により単離した。
【0143】
蛍光タグ付きIL-2Rサブユニットの生成
IL-2Rサブユニットは、柔軟な15個のアミノ酸(GGGGS)スペーサー(モチーフ配列番号021)を有する蛍光タンパク質にC末端で連結した。CyPet、YPet、又はRFP657(RFP)をコードする配列は、プラスミドであるpCEP4CyPet-MAMM及びpCEP4yPET-MAMM(それぞれP.Daughertyから贈与された、Addgeneプラスミド14033及び14032)及びpSG4OC-RFP657(ハノーファー医科大学のD.Heckiからの贈与)から誘導した。CyPetは、以下の特定のプライマーを用いて増幅した:フォワード5’-CGTCTCGTGGTGGTGGTTCTGGTGGTGGTGGTTC-TGTGACAAGG-3’(配列番号022)及びリバース5’-GGTGGTCTCGAGTTATTTGTACA-GTTCGTCCATGCCG TG-3’(配列番号023)。ヒトCD25の遺伝子配列を、ヒトPBMC RNAから増幅し(RNeasy Plusミニキット、Qiagen)、ヒトCD25の特異的プライマー対を用いてPCR増幅した後にQuantiTect逆転写キット(Qiagen)を用いて、相補DNA(cDNA)に転写した:フォワード5’-CTAGGAAGCTTATCTATGGATTCATACCTGCTG-3’(配列番号024)及びリバース5’-ACCAGAACCACCACCACCAGAACCACCACCACCGATTGTTCTTCTA-CTCTTCCTCTG-3’(配列番号025)。PCR産物をゲル抽出(New England BioLabs)により0.5~1%アガロースゲルにより精製し、断片を、オーバーラップ伸長PCRを用いてアニールし、哺乳類発現ベクターpCSCMV(Addgeneプラスミド30530、G.Ryffelによる贈与)にクローニングした。ヒトCD122-CyPet及びヒトCD132-RFP657(CD132-RFPと呼ぶ)を、GeneArtサービス(Thermo Scientific)により合成し、哺乳類発現ベクターpcDNA3.1へクローニングした。
【0144】
細胞ベースのIL-2R結合アッセイ
0.75×10個のHEK293T細胞を、Opti-MEM(Thermo Scientific)中で、DNA:ViaFect(Promega)が1:3の比率を用いて、各々1.3μgのpCD25-CyPet、pCD122-YPet及びpCD132-RFPを用いて6ウェルプレートで共トランスフェクションした。1つ又は2つのIL-2Rサブユニットをトランスフェクトし、37℃、5%COで培養する場合、空ベクターpcDNA3.1を用いて総DNA量を3.9μgに調整した。トランスフェクション後48時間に酵素フリーの細胞解離バッファー(Thermo Scientific)を用いて細胞を剥離し、FACSバッファー(2%FBSと2mM EDTAとを含むPBS)中で回収した。ローダミン標識IL-2(IL-2Rhod)と抗IL-2 mAbを1:1のモル比で混合し、室温(RT)で15分間インキュベートした。IL-2Rhodを生成するために、ヒトIL-2を滅菌水で再構成し、50mM リン酸バッファー(pH=6.5)で透析して好ましいN末端ローダミン結合を最適化し、続いてN-ヒドロキシスクシンイミジル(NHS:N-hydroxy-succinimidyl)-ローダミン(Thermo Scientific)と氷上で2時間インキュベートした。非反応のNHS-ローダミンはゲルろ過(Zeba Spin脱塩カラム、7K MWCO、Thermo Scientific)により除去した。IL-2Rhod/抗IL-2 mAb複合体は、V底、96ウェルプレート中で0.3×10のHEK293T細胞(IL-2Rサブユニット又はモック対照を発現)と37℃で10分間インキュベートし、冷FACSバッファーで2回洗浄し、冷蔵庫でBV605ラット抗マウスIgG1(BD Biosciences、クローンX56)と20分間インキュベートした。表面染色後、細胞をPBSで洗浄し、2%パラホルムアルデヒドで固定し、BD LSRFortessaで取得し、FlowJoソフトウェアで解析した(いずれもBD Biosciences)。
【0145】
マウス
C57Bl/6JマウスはCharles River Laboratoriesから購入した。雌マウスは2~5ヶ月齢で実験に使用した。実験はチューリッヒ州獣医局の承認(ライセンス246/2016)を受け、スイス連邦及び州の法律に従って実施した。マウスは非盲検の治験責任医師によって無作為化され、機関ガイドラインに従ってチューリッヒ大学病院の特定の無菌施設で飼育した。
【0146】
アカゲザル
アカゲザル(Macaca mulatta)を用いた試験は、生物医学霊長類研究センター(Biomedical Primate Research Centre)(BPRC)で、4~15歳、体重5~15kgの15匹の健常な雌の成体を対象に実施した。動物はSTLV又はSRVに特異的な循環抗体を示さず、試験前に免疫抑制療法又は抗体療法を受けていなかった。すべての手順とプロトコルは、BPRCの動物実験委員会の動物実験に関するすべての関連倫理規定を遵守した。動物を3匹ずつの5群に無作為に分けた:群1:LD IL-2(10μg/kg);群2:HD IL-2(33μg/kg);群3:LD IL-2/UFKA-22cx(10/100μg/kg);群4:HD IL-2/UFKA-22cx(33/330μg/kg);及び群5:UFKA-22(330μg/kg)。IL-2を毎日皮下注入で投与し、IL-2/UFKA-22cx及びUFKA-22は0日目及び3日目に静脈注入した。注入及び出血時には、動物を鎮静化した。
【0147】
臨床試験及びヒト試料
ヒト試料は、臨床試験「インターロイキン2治療性全身性エリテマトーデスにおける免疫学的パラメーターの公正な特性評価に関するオープンラベル、モノセントリック、第II相、治験責任医師主導の臨床試験」(Charact-IL-2、臨床試験識別子:NCT03312335)及び「健康個体及び疾患個体の異なる白血球サブセットの表現型及び機能の特性評価に関する基礎研究プロジェクト」(PFCL-1、BASEC番号2016-01440)において収集した。両プロジェクトは、スイスの管轄当局による審査と承認を受け、ヘルシンキ宣言の最新版、Good Clinical Practiceのガイドライン、及びスイスの法的要件に準拠して実施した。臨床試験への登録又は試料採取の前に、書面によるインフォームドコンセントを得た。ヒト血液をEDTAバキュテナチューブ(BD Biosciences)に採取し、続いてFicoll-Paque PLUS(GE Healthcare)の勾配遠心分離により末梢血単核球(PBMC)を単離した。単離したPBMCは、10%ジメチルスルホキシド(Sigma)含有胎児子牛血清(FCS、Gibco)中で凍結し、分析前に液体窒素中で1年未満で保存した。血清は、Clot Activatorバキュテナチューブ(BD Biosciences)を用いて採取した血液から単離し、分析前に-80℃で18ヶ月未満で保存した。IL-2を介したcDC及びリンパ球の増大を評価するため、全身性エリテマトーデス(SLE:systemic lupus erythematosus)患者の血液を、試験プロトコルに従って、毎日150万国際単位(IU)のアルデスロイキン(Proleukin(登録商標)、Novartis Pharma)の5日間コースの投与前と後に採取した。
【0148】
IL-2 mAb複合体形成
HEK細胞に基づくアッセイでは、IL-2RhodをFACSバッファー(1×PBS、2%FBS、2mM EDTA)中で抗hIL-2抗体と1:1の割合で混合し、室温で少なくとも15分間インキュベートした。in vivoでの適用には、hIL-2を、抗hIL-2抗体と滅菌PBS中で1:1の割合で混合し、室温で少なくとも15分間インキュベートした。注入容量は1回の腹腔内注入あたり200マイクロリットルであった。組換えヒトIL-2(teceleukin、Roche)は、国立衛生研究所の国立がん研究所から入手した。抗体複合体は、以前の記載のとおり(Arenas-Rameriz N.Sci Transl Med 2016,8:367ra166)、1回の注入あたり15,000IUのIL-2と15μgの抗IL-2モノクローナル抗体(mAb)とを混合することにより調製した。IL-2cx、又は200,000IUのIL-2を毎日、3日間連続して注入した。BrdU取り込み細胞は、FITC BrdUフローキット(BD Biosciences)を用いて、製造者の指示に従って測定した。
【0149】
フローサイトメトリー
リンパ節(LN)及び脾臓の単細胞懸濁液を調製し、Foxp3/転写因子細胞内染色キット(Thermo Fisher)を用いて、表面マーカー及び細胞内Foxp3及びKi-67を製造者の指示に従って染色した。マウス又はサルのpSTAT5を検出するために、Phosflow Lyse/Fix Buffer(BD Biosciences)又は溶解液(Becton Dickinson)を用いて細胞を直ちに固定化し、さらに製造者の指示に従い細胞内染色処理を行った。in vitroでpSTAT5を測定するために、10個の磁気精製したヒトCD3T細胞(BioLegend)を96ウェル、V底プレートに播種し、IL-2、IL-2/UFKA-20cx、又はIL-2/UFKA-22cxを使用して37℃で15分間刺激した。細胞内pSTAT5は、抗STAT5(pY694)mAb(Thermo Fisher)を用いて前述と同様に染色した。サルの細胞の表面染色には、標準的なプロトコルに従って、200μlのEDTA血液でmAbをインキュベートし、その後、赤血球の溶解、固定化、及び透過処理を行い、Foxp3及びKi-67の細胞内染色を行った。試料はBD LSRFortessaで取得し、FlowJoを使用して分析した。フローサイトメトリーに使用する抗体及び蛍光色素は、ebioscience、BD Biosciences、Biolegend、又はMiltenyiから購入した。
【0150】
ELISA
平底Nunc MaxiSorp 96ウェルプレート(Thermo Scientific)をNARA1抗ヒトIL-2 mAb(捕捉)で4℃にて一晩コーティングした。PBS、0.1% Tween 20(Sigma-Aldrich)でプレートを洗浄した後、ウェルをPBS、1% BSA(Sigma-Aldrich)、0.1% Tween 20溶液で450rpmにて振とうしながら、1時間超過、室温でブロッキングした。細胞上清又は精製UFKA mAbをプレート上で1~2時間インキュベートし、IL-2を直接コーティングするか、プレートコーティングしたNARA1により捕捉した。プレートを洗浄した後、抗マウスIgG(BioLegend)又はビオチン化抗IL-2検出mAb(クローン5344.111、BD Biosciences)と共に室温で450rpmにて1時間インキュベートすることによりIL-2又は競合結合を評価した。さらに洗浄後、プレートをストレプトアビジン標識ワサビペルオキシダーゼ(BD Biosciences)と共に、暗所で室温にて45分間インキュベートした。最後に、最終洗浄後、プレートをTMBペルオキシダーゼEIA基質(BioRad)で2~5分間進展させ、HSO(1.8M、Sigma-Aldrich)を加えて停止させた。iMarkマイクロプレートリーダー(BioRad)を使用して、450nmの吸光度を読み取った。IL-2又はIL-2/UFKA-20cxの血清半減期は、NARA1が捕捉として、ビオチン化抗IL-2 mAb(clone 5334、R&D Systems)が検出mAbとして機能するサンドイッチELISAを用いて測定し、その後上記と同様に進展させた。
【0151】
表面プラズモン共鳴
SPR試験では、UFKA-20又はNARA1をCMD200チップ(XanTec bioanalytics)に直接固定し、300nMから開始して滴定したIL-2濃度を注入し、続いて2倍希釈を注入した。CD25及びCD122の結合を測定するために、IL-2(1000nM)を抗IL-2 mAbコーティングチップ上で60秒間捕捉し、続いて組換えCD25又はCD122(R&D Systems)を333nMから開始して連続注入し、続いて3倍希釈を注入した。チップ表面は、グリシンバッファーpH 1.5を用いてサイクルごとに再生した。測定値は20℃で取得し、Biacore T100(GE Healthcare)で分析した。
【0152】
IL-2/UFKA-20cxの構造解析
UFKA-20のFab断片は、全長mAbをパパインで切断した後、プロテインAで精製して作製した。1.5mlのUFKA-20(pH 7.0の90mM NaCl含有の50mMにおいて15.3mg/ml)を、ジクロロジフェニルトリクロロエタン(DDT)及びパパイン(Roche)と混合して、それぞれ最終濃度が5mM及び1.5mg/mlになるようにした。室温で16時間消化した後、56mM E64溶液(Roche)を用いてパパインを失活させ、Tris/NaClバッファー(25mM Tris、25mM NaCl、pH 8.0)で10倍希釈した。この混合物をTris/NaClバッファーで平衡化したプロテインAカラムにロードし、Fab断片を保有するフロースルー画分を回収し、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)でさらに精製した。精製したUFKA-20 Fabを水に溶かした10倍モル過剰のヒトIL-2と混合することにより形成したIL-2/UFKA-20 Fab複合体を、Akta pureクロマトグラフィーシステム(GE Healthcare)のSuperdex 200 10/300 GLカラムを用いてSECにより精製した。複合体を含む画分をプールし、Tris/NaClバッファー(pH 7.4)に対して4℃で一晩透析し、Amicon超遠心フィルターユニット10-kDa、MerckMillipore)を用いて濃縮して最終タンパク質濃度を10mg/mlとし、280nmでの吸収により測定した。さまざまな結晶化バッファーをスクリーニングし、最適な結晶化条件を見出すように精製した。最後に、IL-2/UFKA-20 Fab複合体溶液を、10.86%(v/v)PEG 8000、5.76%(v/v)エチレングリコール、100mM HEPES(pH 7.48)を含む結晶化バッファーと1:1で混合した。結晶は、20℃で96ウェルプレートにシッティングドロップ蒸気拡散法で成長させ、30%(v/v)のエチレングリコールを添加したリザーバー溶液を用いて回収及び凍結保護し、直ちに液体窒素で凍結した。回折データは、Pilatus 2M検出器(Dectris、バーデン-ヴァットヴィル、スイス)を備えたビームラインX06DA(スイス光源、ポール・シェラー研究所、ウィリゲン、スイス)において、波長1Åで収集した。データ処理は、XDS及びAimlessを使用した。IL-2/UFKA-20のFab複合体構造は、最初は抗ロイコトリエン抗体のFab断片の構造(PDB:5B6F)を、その後にヒトIL-2の構造(PDB:1M47)を検索モデルとして、MOLREPを用いて分子置換により解いた(Arkin M.R.ら,PNAS 2003 100:1603)。モデル構築はCootで行い、REFMAC5、 BUSTER、及びPHENIXを用いて精密化した。各ドメインを個別のTLS群として定義するTLS精密化を使用した。最終的な構造は、非対称単位の3つのIL-2/UFKA-20複合体を含有するものであった。IL-2Rサブユニットと抗IL-2 mAbのエピトープの重複(オーバーラップ)は、欧州バイオインフォマティクス研究所(European Bioinformatics Institute)(http://www.ebi.ac.uk/pdbe/prot_int/pistart.html)のタンパク質界面、表面、及び集合のサービス(protein interfaces,surfaces and assemblies’ service)(PISA)を使用して定量し、さらにExcel(Microsoft)を使用して計算した。
【0153】
RNAシーケンシング(RNA-seq)
未治療及びUFKA20複合体治療した野生型マウスから得られる4万個の脾臓マウスcDCを、1%の2-メルカプトエタノール(Sigma-Aldrich)を含有するRLT Plus溶解バッファー(Qiagen)中でFACSにより分離した。その後、RNeasy Plusマイクロキット(Qiagen)を用いてRNAを単離した。選別した細胞から抽出されたRNAは、TapeStation RNA好感度キット(Agilent)を用いて品質及び濃度を定量した。SMARTer Stranded Total RNA Seq Kit v2(Takara Bio)を用いて、ユニバーサルプライミングによりcDNAを調製し(3分間の断片化を含む)、ZapR v2及びR Probes v2を用いてリボソームcDNAを枯渇させた。このライブラリーをTapestation D1000(Agilent)測定により定量し、HiSeq 4000プラットフォームで1試料あたり約40Mリードを対象として125サイクルのシングルリードを使用して配列決定した。リードアライメントを行う前に、リードからアダプター及び低品質のテールを取り除いた。STAR aligner(v2.5.4b)を用いて、RNA-seqデータセットのEnsembl genome build GRCh38.p10(Release 91)へのアライメントを行った。遺伝子発現数は、BioconductorパッケージRsubread(v1.32.1)のfeature countで算出した。少なくとも1つの比較の群において、半数超過の試料で10カウント超過であった場合、その遺伝子を発現しているとみなした。BioconductorパッケージEdgeR(v3.20.6)を用いて差分発現遺伝子を検出した。遺伝子セットの濃縮解析は、Gene Ontology analyser for RNA-seq and other length biased data(goseq,v1.30.0)で行った。
【0154】
定量及び統計解析
統計検定は、Prismソフトウェア(GraphPad)を用いて実施した。図の凡例に示されているとおり、ほとんどの実験は、テューキ又はダネットの多重比較を用いた一元配置分散分析、又は両側の対応のないスチューデントのt検定によって分析した。カウント数が正規性検定には小さすぎるデータセットについては、データ分布に基づいて正規分布を仮定した。p<0.05は有意とみなした。
【0155】
実施例1:抗ヒトIL-2モノクローナル抗体の生成及び選択
Balb/cマウスを完全フロイントアジュバント(Freund’s adjuvant)(Sigma-Aldrich)中のヒトIL-2で免疫し、不完全フロイントアジュバント(Sigma-Aldrich)中で乳化したIL-2で2回ブーストした。初回免疫後4~5週間にマウスを殺処分して脾臓を採取した。脾臓細胞とミエローマ細胞とをポリエチレングリコール1500(Roche)を用いて5:1の割合で混合した。クローンは、10%ウシ胎児血清(FBS)、50mMメルカプトエタノール、1:100インスリン-トランスフェリン-セレニウム、2%IL-6調整培地、ペニシリン-ストレプトマイシン、ゲンタマイシン(すべてLife Technologies)、及びヒポキサンチン-アミノプテリン-チミジン(HAT:hypoxanthine-aminopterin-thymidine)(Sigma-Aldrich)を添加したイスコフ改変ダルベッコ培地で培養した。B細胞ハイブリドーマの上清では、IL-2結合ELISAを用いたIL-2反応性についてのスクリーニングを行い、かつ競合ELISAを用いた特異性についてのスクリーニングを行い、その後、陽性ヒットをサブクローニングした。mAbを、ヒポキサンチン・チミジン(HT)培地(LifeTechnologies)中で増殖した。再試験後、プロテインGアガロース精製(Thermo Fisher)を用いて、細胞上清から抗IL-2 mAbを精製した。抗体は、一過性にトランスフェクトしたHEK293F細胞により産生し、Protein A MabSelect SuRe樹脂(GE Healthcare)を用いてアフィニティー精製し、分画した。純度は、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)-ポリアクリルアミドゲル電気泳動で分析した。
【0156】
実施例2:偏向性抗IL-2mAbは、IL-2Rへの結合及びIL-2の送達という明確な特性を有する
競合酵素結合免疫吸着法(ELISA)を用いて、実施例1で生成したもの、特許抗体、及びマウスハイブリドーマライブラリーから公的に入手できるクローンを含む、1万以上の抗ヒトIL-2 mAbについて、IL-2とIL-2Rとの結合特性を評価した。特に指定がない限り、実施例中のすべてのIL-2及びIL-2Rのサブユニットはヒト分子を指す。CD25偏向性抗IL-2mAbを同定及び比較するために、単量体CD25、二量体CD122+CD132、及び三量体CD25+CD122+CD132をヒト細胞上に発現させた新規細胞ベースのin vitroスクリーニングプラットフォームを開発した。蛍光タグ付きIL-2Rサブユニットを生成し、ヒト胚性腎臓(HEK:human embryonic kidney)293T細胞で一過性に発現させて、これによりフローサイトメトリーにより定義した、IL-2Rサブセットを発現する細胞を正確に同定し、かつ単独又は抗IL-2 mAbとの複合体のいずれかでローダミン標識化IL-2(IL-2Rhod)の結合を定量することが可能になる。CD25偏向IL-2複合体(cx)はCD25と会合するがCD122+CD132とは会合せず、一方でCD122偏向IL-2cxは逆のパターンを示した(図1A)。5種の抗IL-2 mAbをその結合パターンの違いから選択し、UFKA-10、UFKA-20(重鎖配列番号019、軽鎖配列番号020)、UFKA-30、UFKA-40、及びUFKA-50と称し、これらは大きく3つのカテゴリーに分けられる:非偏向(UFKA-10)、CD25偏向(UFKA-20、UFKA-30、及びUFKA-40)、及びCD122偏向(UFKA-50)(図1B)。予想のとおり、IL-2Rhod単独ではCD25との結合は低く、CD122+CD132との結合は中間であり、CD25+CD122+CD132とは強い結合を示した(図1C)。次に、IL-2Rhodを本発明者らのさまざまな抗IL-2 mAbと1:1の比率で複合化し、IL-2Rサブユニット発現HEK293T細胞で試験した。IL-2Rhodと比較して、UFKA-10とIL-2Rhodの複合体はCD25及びCD122+CD132への結合がわずかな減少を示したことは、UFKA-10のこれらの受容体サブユニットとの軽度の干渉を示唆しており、一方で、CD25+CD122+CD132とのIL-2Rhodの会合はこのmAbにより変化しなかった(図1C)。mAbであるUFKA-20、UFKA-30、及びUFKA-40を試験すると、これらのmAb間には別個の違いがあるが、CD25偏向の明確なパターンが明らかに現れた(図1C及び図1D)。このように、IL-2Rhod/UFKA-30cx及びIL-2Rhod/UFKA-40cxは、CD25及びCD25+CD122+CD132に優先的に結合し、複合体としてそれぞれ74.5%及び93.2%結合したままであり、一方でCD122+CD132との会合はわずかに減少するか(UFKA-30と同様)又は変化しないか(UFKA-40と同様)のいずれかであった(図1C~1E)。特に、IL-2Rhod/UFKA-20cxはCD25と優先的に会合し、測定された相互作用の約3分の2はIL-2Rhod/UFKA-20cxによってなされ、IL-2Rhod単独がCD25で検出されるのは3分の1未満であった。しかしながら、IL-2Rhod/UFKA-20cxは三量体CD25+CD122+CD132と相互作用すると急速に解離するようであり、これは、IL-2Rhod/UFKA-20cxが形成するこの相互作用が8.4%未満であり、CD25+CD122+CD132に結合している複合体でない遊離IL-2Rhodが形成する相互作用がと91%になることから明らかである(Fig.1C~1E);しかし、IL-2Rhod/UFKA-20cxのCD122+CD132への結合は、IL-2Rhodと比較してUFKA-20の存在によって損なわれ(図1C)、このことは、UFKA-20がIL-2Rhodに「CD25偏向」を付与し、それと同時に、IL-2RhodがUFKA-20から解離して三量体CD25+CD122+CD132に結合することを可能にし、それによりシグナル伝達するIL-2R複合体への「IL-2送達」を可能にすることを示唆した(図1F~1H)。逆に、UFKA-30及びUFKA-40は、IL-2Rhodにさらに強いCD25偏向をもたらしたが、IL-2を三量体IL-2Rから解離し送達することはできなかった(図1F~1H)。前述のCD25偏向性抗IL-2 mAbとは異なり、IL-2Rhod/UFKA-50cxは、CD25結合が減少し、かつ二量体CD122+CD132及び三量体CD25+CD122+CD132のIL-2Rとの会合を明らかに有利にし(図1C-1H)、十分に特性評価されたCD122偏向性のNARA1 mAb(Arena-Ramirezら,Sci.Transl.Med.2006 8:367)によるIL-2cxと類似している。以上のことから、CD25偏向性mAbのメカニズムにおいて、CD25偏向、及びシグナルを伝達するIL-2RへのIL-2送達という2つの特徴の観点で明確な違いを観察した。
【0157】
実施例3:マウスTreg細胞の選択的刺激には、CD25偏向及びIL-2送達が重要である
次に、本発明者らのCD25偏向性mAbのマウスにおけるin vivo活性を評価した。C57BL/6野生型(WT)マウスにIL-2単独又はUFKA-10、UFKA-20、UFKA-30、UFKA-40及びNARA1との複合体のものを3日間毎日注入し、続いて治療した動物のリンパ節(LN)及び脾臓のCD4CD25Foxp3reg細胞、CD8CD44hiCD122メモリーT細胞、及びCD3NK1.1CD122NK細胞のフローサイトメトリー解析を行った(図2A図3A、及び図3B)。生理食塩水を投与した対照では、LNに平均8.7%のCD4CD25Foxp3reg細胞及び7%のCD8CD44hiCD122メモリーT細胞、並びに脾臓に8.6%のCD4CD25Foxp3reg細胞、13.4%のCD8CD44hiCD122メモリーT細胞、2.8%のNK細胞が認められた(図2A図3A、及び図3B)。低用量(LD:low-dose)IL-2治療(マウス1匹につき毎日1.5μg)により、CD4CD25Foxp3reg細胞及びCD8CD122メモリーT細胞の割合及び数は、LNと脾臓との両方で約2~3倍増加した(図2A図2B及び図3A)。UFKA-10、UFKA-30、及びUFKA-40で作成したIL-2cxは、CD4CD25Foxp3reg細胞の刺激を、LD IL-2で観察されたものよりもわずかに改善しただけであったが(図2A及び図2B)、これらのIL-2cxはCD8CD44hiCD122メモリーT細胞の増大を抑制できた(図2A図2C)。しかしながら、IL-2/UFKA-20cxは、CD4CD25Foxp3reg細胞の活発な増大を誘導し、LNと脾臓のTreg細胞の合計がほぼ20×10に達したのに対し、生理食塩水処理動物では1.5×10、LD IL-2治療動物では3×10であり、一方で、CD8CD44hiCD122メモリーT細胞の割合及び数はIL-2単独と比較して変化しないままであった(図2A図2C)。予想のとおり、CD122偏向IL-2/NARA1cxは、CD8CD44hiCD122メモリーT細胞の優先的な刺激を誘導したが、おそらくIL-2のNARA1からの解離に起因する、一部のCD4CD25Foxp3reg細胞の増大が観察された(図2A図2C)(Arenas-Ramirez N.ら,Trends Immunol.2015 36:763)。総合すると、これらのデータは、in vitroでIL-2/UFKA-30cx及びIL-2/UFKA-40cxで見られたようなCD25偏向だけでは、in vivoでTreg細胞を刺激するには不十分であることを実証する。むしろ、IL-2/UFKA-20cxのように、軽度のCD25偏向を付与し、IL-2を三量体IL-2Rに効率的に送達するIL-2cxの能力が、in vivoでの選択性及び有効性に必要な特徴であると考えられる。したがって、これらのスクリーニングアッセイにより、炎症を抑制するTreg細胞へのIL-2シグナル伝達を増加させる改善した方法として、さらなる特性評価のための候補mAbとしてUFKA-20を同定した。
【0158】
実施例4:IL-2/UFKA-20cxは、in vivoでマウスTreg細胞へのシグナル伝達を改善する
タイムコース実験では、マウスの脾臓のCD4CD25T細胞、CD8T細胞、及びNK細胞におけるリン酸化STAT5(pSTAT5)の細胞内染色により測定されるとおり、シグナル伝達を誘導する、LD IL-2(1μg)対IL-2/UFKA-20cx(1μg/10μg)の単回腹腔内注入の能力を比較した(図4)。LD IL-2を投与したマウスでは、注入後2時間でCD4CD25T細胞の優先的な刺激を観察したが、この効果は1日目には既に消失した(図4A)。CD8T細胞及びNK細胞は、LD IL-2に応答してSTAT5をリン酸化しなかったが、HD IL-2(30μg)の単回注入を用いると、CD8T細胞及びNK細胞を含む3つのリンパ球サブセットすべてで強固なシグナル伝達が生じた(図4A)。IL-2/UFKA-20cxは、CD4CD25T細胞に対して高い選択性を示し、この選択性は注入後2時間で明らかになり、少なくとも2日間持続したが、CD8T細胞及びNK細胞のpSTAT5レベルはこの治療による影響を受けないままであった(図4A)。結果として、CD4CD25T細胞の細胞数は、IL-2/UFKA-20cxの単回注入後、2日目に増加し、4日目にピークに達し、8日目にベースラインに戻ったが、CD8T細胞及びNK細胞の数は、IL-2と比較して、実験期間中に有意な変化はおこらなかった(図4B)。pSTAT5シグナル伝達のプロファイルは、IL-2/UFKA-20cxのCD4CD25T細胞に対する選択性を確認するだけでなく、IL-2/UFKA-20cxがIL-2よりはるかに長いin vivo半減期を有することも示唆した。これを検証するために、IL-2又はIL-2/UFKA-20cxをマウスに単回注入し、その後、NARA1を捕捉mAbとして、及びMAB202を検出mAbとして用いたサンドイッチELISAによって遊離IL-2又はUFKA-20複合化IL-2を測定した。IL-2は注入後30分で検出され、4時間以内に消失しただけであったが、IL-2/UFKA-20cxは注入後4時間でピークに達し、注入後24時間以上存在した(図5)。in vivo半減期は、IL-2が約30分であるのに対し、IL-2/UFKA-20cxは30時間であると推定した。IL-2/UFKA-22cxの血清半減期は約21時間であった。
【0159】
実施例5:IL-2/UFKA-20cxは、in vitroでヒトTreg細胞を選択的に刺激する
IL-2/UFKA-20cxの活性は、以前の記載のとおり、三量体IL-2Rを保持するCD4CD25T細胞及び二量体(CD122+CD132)IL-2Rを備えるCD8T細胞を含む、新たに単離した休止ヒトT細胞サブセットで評価した(Arena-Ramirez,2006)。健康なヒトドナーの末梢血からCD3T細胞を精製し、滴定したIL-2及びIL-2/UFKA-20cx(IL-2とUFKA-20とのモル比は1:1にて)で15分間刺激した後、ゲートしたCD4CD25CD127loFoxp3reg細胞及びCD8T細胞について細胞内pSTAT5のフローサイトメーター評価を行った。0.1ng/mlという低濃度のIL-2は、CD4reg細胞において最大半量のSTAT5活性化を誘導できたが、CD8T細胞において同等のSTAT5活性化を達成するには約1000倍高い濃度が必要であり(図6)、このことは以前の公表と一致している(Yu,Diabetes 2015 64:2172)。IL-2/UFKA-20cxは、ヒトCD4reg細胞におけるpSTAT5の刺激において、IL-2と同等の効率を示した(図6)。反対に、50%のpSTAT5CD8T細胞を達成するためには、半数効果濃度(EC50)に基づき、およそ17倍高い濃度のIL-2/UFKA-20cxが必要であった(図6)。UFKA-20のCD25偏向の選択性及び有効性の向上を、ヒトIL-2R保有細胞株を使用するin vitroでの測定、マウスでのさまざまなin vivo実験、及びさまざまな健康なドナーから新たに単離された初代T細胞サブセットを使用するin vitroでの測定において実証し、その後にUFKA-20のいくつかのヒト化バージョンを生成した。UFKA-20のV(配列番号020)及びV(配列番号019)のフレームワーク配列と最高レベルの同一性を共有するヒト生殖細胞系列遺伝子を同定し、コドン最適化し、GeneScript Custom Gene Synthesisにより合成して、Fc-silent(N297A)ヒトIgG1を含有する発現ベクターへクローニングした。UFKA-20の相補性決定領域(CDR)を、N297A変異を有するヒト免疫グロブリンG1(IgG1)骨格に転写し、これにより、この部位でのグリコシル化を防ぎ、したがってFc γ受容体結合及びエフェクター機能を大きく低下させる(Park H.I.ら,Trends Biotenchol 2016 34:895;Arnold J.N.ら,Annu.Rev.Immunol.2007 25:21)。最良のヒト化候補は、配列番号017の重鎖と配列番号018の軽鎖とを保有するUFKA-22-00と名付けられ、短くはUFKA-22と称する。IL-2/UFKA-22cx、及び同じCDRを共有するがフレームワーク変異を持つ類似のクローンは、新たに単離したヒトT細胞を用いたin vitro(図6)でのIL-2、又はマウスに注入(図7)したIL-2の速度論的結合解析(表2)において、IL-2/UFKA-20cxと同等の刺激活性及び選択性を示した。総じて、IL-2とUFKA-20及びそのヒト化バージョンUFKA-22との複合体は、ヒトTreg細胞に対して強いin vitro活性を示すが、ヒトCD8T細胞に対する活性は、複合化されていない遊離IL-2と比較して著しく低下した。
【0160】
実施例6:ヒト化IL-2/UFKA-22cxは、アカゲザルのTreg細胞に対してin vivoで選択性を示す
IL-2Rサブユニットは、ヒトとアカゲザルとの間で高度の相同性を有する。したがって、Basic Local Alignment Search Tool(BLAST)を用いてアメリカ国立生物工学情報センター(National Center for Biotechnology Information)(NCBI)の相同性検索を行ったところ、CD25、CD122、CD132の同一性は、この2種間でそれぞれ91.9%(アクセッション番号 NP 001028089.1)、94.2%(NP 001244989.1)、97.3%(NP001030606.1)であることがわかった。マウス抗体UFKA-20とヒト化UFKA-22クローンは、いずれも、in vitroにおけるサル又はヒトのいずれのIL-2への結合が類似することがわかった(データは示さず)。IL-2とIL-2/UFKA-22cxとの間のin vivo半減期の差を補償するために、動物に10μg/kg(LD)又は33μg/kg(HD)のIL-2(アルデスロイキン)を0~6日目に毎日注入し、一方で、10μg/kg IL-2と100μg/kg mAb(LD)又は33μg/kg IL-2と330μg/kg mAb(HD)のIL-2/UFKA-22cxを0及び3日目に投与した(図8A)。0日目と3日目に330μg/kgのUFKA-22(IL-2なし)の注入により、これが内因性サルIL-2と結合するかどうかを評価した。-8日目のパラメーターの評価は、ベースライン及び未治療の対照として機能させた。最初の注入後1日にpSTAT5レベルを測定し、HDのIL-2、並びにLD及びHDのIL-2/UFKA-22cxの後にCD4CD25T細胞でpSTAT5レベルの有意な増加を観察し(図8B)、一方でLDのIL-2又はUFKA-22単独では、CD4CD25T細胞のpSTAT5レベルは、-8日のベースラインで測定された値を超えて変化しなかった(図8B)。全体として、CD4CD25T細胞におけるpSTAT5レベルの増加は、IL-2よりもIL-2/UFKA-22cxでより顕著であった。CD4CD25T細胞とは対照的に、CD4CD25T細胞、CD8CD25T細胞、及びCD8CD25T細胞におけるpSTAT5レベルは、ベースラインと比較してIL-2、IL-2/UFKA-22cx又はUFKA-22によって有意に変化しなかった(図8B)。IL-2/UFKA-22cxのTreg細胞に対する選択性を評価するために、サルの血液中のTreg細胞の用量及び時間依存的な変化を定量した。6日目に最も強い変化を観察し、ここではCD4CD25Foxp3T細胞及びCD4CD25T細胞の割合が、LD IL-2/UFKA-22cxを受けた動物においてLD IL-2と比較して有意に高かった(図8C)。CD4CD25Foxp3T細胞は、LD IL-2/UFKA-22cxを2回注入の後、CD4T細胞全体の平均29%まで増加したが、低用量(LD)IL-2を毎日7回注入しても、CD4CD25Foxp3T細胞は4.8%のみの結果となった(図8C)。HD IL-2及びHD IL-2/UFKA-22cxは、LD IL-2/UFKA-22cxで見られた効果を上回ることはなかったものの、同等のTreg細胞応答をもたらした(図8C)。LDのIL-2/UFKA-22cxの注入後3日目及び6日目のCD4CD25T細胞において、Foxp3と細胞傷害性Tリンパ球関連抗原4(CTLA-4)のレベルはLD IL-2と比較して著しく増加したが、HD IL-2/UFKA-22cx及びHD IL-2ではそれ以上の利点はなかった(図8D)。同様に、CD4CD25T細胞は2日目からKi-67となり、Ki-67レベルは3日目と6日目にピークに達し(図8D)、これはIL-2シグナル伝達が誘導される細胞周期及び増殖を反映している可能性が最も高い。IL-2を含まないUFKA-22の注入は、CD4CD25T細胞の頻度の、小さいが明確な減少をもたらし(図8C)、これはおそらくUFKA-22による内因性のサルIL-2の穏やかな中和によって引き起こされたと考えられる。Foxp3、CTLA-4、及びKi-67の発現量は、UFKA-22群で変化がないままであった(図8D)。CD4CD25Foxp3reg細胞のCD8T細胞、NK細胞、及びB細胞に対する比率を計算すると、LD IL-2/UFKA-22cxが最良のTreg細胞選択性を達成した(図8E)。アカゲザルのヒト化IL-2/UFKA-22cxでは、CD4CD25Foxp3reg細胞に対するこれらのIL-2cxの選択性、及びIL-2に対する優位性を確認した。
【0161】
実施例7:UFKA-20は、CD122及びCD25へのIL-2の結合を立体的に干渉する
IL-2/UFKA-20の相互作用の構造的及びさらに機構的な洞察を得るために、UFKA-20の断片抗原結合(Fab)バリアントを作成し、IL-2と複合化した。その後、IL-2/UFKA-20 Fab複合体を結晶化し、構造解析を行った。生理的pH(pH 7.48)で結晶を成長させ、2.89Åの分解能で回折させた。この構造は分子置換法によって解かれ、3つのIL-2/UFKA-20 Fab複合体が非対称ユニットで含まれた。UFKA-20は、ヒトIL-2四元系の結晶構造と比較して、IL-2を背側に、縦軸に対して反時計回りに約55°の角度で結合しており、IL-2と、F5111(国際タンパク質構造データバンク(worldwide protein databank)PDB:5UTZ)、JES6-1(PDB:4YQX)、又はNARA1(PDB:5LQB)との複合体のものとは著しく異なっていた(図9A)。次に、CD25結合部位、CD122結合部位、及びCD132結合部位の綿密な解析を行った。抗IL-2 mAbとIL-2Rサブユニットとの間のエピトープのオーバーラップ(重なり)を評価し、タンパク質界面、表面、及び集合のソフトウェアツールを用いてIL-2cx及び四元IL-2R複合体内の埋没表面積に基づいて定量した。UFKA-20はIL-2のCD122結合部位と強く重なり、オーバーラップは40%と計算されたが、UFKA-20のIL-2のCD25結合部位への干渉はむしろ軽度で、わずか6.3%であった(図9B)。UFKA-20とIL-2のCD132結合部位とのオーバーラップは明らかではなかった。このように、UFKA-20は、可変重鎖(V)のCDR1~3、及び可変軽鎖(V)のCDR1及びCDR3を介して、主にIL-2のCへリックス及びBへリックスに接触し、Cへリックスの周りに「クランプ」を形成していた(図9B)。通常CD122の相互作用に関与するIL-2残基D84、N88、及びV91は、UFKA-20と密接に係合していた(図9A)。これらの相互作用は、表面プラズモン共鳴(SPR)測定で示されるとおり、IL-2のCD122への結合を阻止する可能性が非常に高い(図9C)。さらに、UFKA-20のV鎖は、IL-2-CD25界面に位置するIL-2残基E60、E61、及びK64と密接に接触することにより、CD25と小さいが有意な程度でぶつかっていた(図9B)。しかしながら、SPRにより測定したところ、IL-2/UFKA-20cxは用量依存的に組換えヒトCD25と効率的に結合していた(図9C)。その複数の接触の結果として、UFKA-20はIL-2と高い親和性で会合し、約10-9MのKであった(表1)。F5111はUFKA-20とは異なる角度でIL-2に結合し、F5111とCD122のエピトープが有意にオーバーラップしたのに対し(48.5%と計算)、CD132エピトープについてはこのオーバーラップは非常に軽度(2.5%)で、CD25エピトープとの有意なオーバーラップはなかった(0.85%)(図9A及び図9B)。JES6-1は、UFKA-20及びF5111とは全く異なる様式で、マウスIL-2と相互作用した。UFKA-20と比較して、JES6-1はIL-2の反対側に結合し、CD132(18%)、次いでCD25(16%)、及びCD122(8%)を主に干渉した(図9A及び図9B)。マウスIL-2R四元複合体は入手できないため、マウスIL-2/JES6-1cxのIL-2Rオーバーラップは、四元ヒトIL-2R結晶を用いて計算した。IL-2/NARA1はCD25と完全にオーバーラップし、したがって、これはCD25のIL-2との結合を「模倣」している。詳細な観察では、NARA1は、IL-2のCD25結合部位と大部分オーバーラップしていたが(52.5%)、CD122結合部位及びCD132結合部位は完全にアクセス可能なままであった(0%)(図9A及び図9B)。結果、SPRでは、IL-2/NARA1cxは非常に効率よく組換えヒトCD122に結合したが、CD25には結合しなかった(図9C)。
【0162】
構造解析から示唆されるとおり、UFKA-20がIL-2のCD122結合部位及びCD25結合部位と機能的に競合するかどうかを評価するために、異なるIL-2Rサブユニットを発現するHEK293T細胞で、設定濃度のIL-2Rhod及び滴定濃度のUFKA-20を用いる競合アッセイを実施した。CD122+CD132へのIL-2Rhod結合は、IL-2とUFKA-20のモル比が10:1及び1:1にて既に減少しており、したがってUFKA-20のCD122との機能的な干渉を確認した(図9D、中段)。逆に、IL-2RhodのCD25への結合は、IL-2とUFKA-20のモル比が10:1及び1:1にて干渉されず、CD25結合と競合するには5~50倍高いUFKA-20濃度が必要だった(9D、左パネル);同様のパターンは、CD25+CD122+CD132を発現するHEK293T細胞で現れた(図9D、右パネル)。UFKA20エピトープの重なりと、IL-2cxとIL-2R四元複合体内の埋没表面積との結果から、hIL-2配列の以下の3つの部位で結合がおこっていることが示唆された:
H16、D20を含むエピトープA。
Q57、E60、E61、L63、K64、E67、E68を含むエピトープB。
L80、R81、R83、D84、I86、S87、N88、N90、V91、L94、E95、K97、T101、T102、M104を含むエピトープC。
【0163】
エピトープAとCとは、CD122及びCD132との結合に重要なIL-2の(F5111により標的される)領域と重なるが、CD25結合部位と重なるエピトープBは、既存の抗体クローンと比較してUFKA-20によって固有に標的され(図9図10図11)、スクリーニングした10000を超える代替物と比較して、このクローンによってもたらされる効果の増強と関連している可能性が高い。
【0164】
実施例8:hIL-2エピトープへのUFKA20の結合を変化させるCDR変異
VH鎖(配列番号019)及びVL鎖(配列番号020)に特定のアミノ酸置換を含有するUFKA-20バリアントを作成し、特定のCDRループとhIL-2の提案エピトープとの間の極性及び非極性相互作用を弱めたり、強めたりする効果を調査した(表3及び表4)。7種のVH鎖バリアントには、2~4個のアミノ酸置換を有する1~3及び~4種の間のVL鎖バリアントが含まれた。まとめて、元のUFKA-20 mAbを含む12種のUFKA-20バリアントを発現させ、精製し、その後、親和性とin vivo活性(図12)を測定した。バリアント抗体の親和性は6.403×10-8M~1.856×10-10Mの範囲で、試験したバリアントの中で2+9が最も低く、5+9が最も高かった。ほとんどの抗体バリアントは10-10Mの範囲で結合し、未修飾の元の1+6(UFKA-20)の抗体の親和性の周辺にクラスタ化している。C57BL/6野生型マウスに、UFKA-20バリアントのIL-2/抗IL-2cxを単回投与した。CD4CD25Foxp3細胞の頻度は、バリアント5+9;4+9;4+10;2+9を含む抗体によって有意に変化せず(図12B)、これは、これらのバリアントがこれらのバリアントの鎖における残基の置換によって影響を受けるhIL-2エピトープB(例えばE61、Q57、R83)及びC(L94及びE95)の残基との最適相互作用を欠いており(表4)、両方との相互作用が本発明による抗体と形成されるhIL-2複合体の高い有効性に必須であることを示している。注目すべきことに、エピトープBは、CD25標的複合体を形成する能力を持つ既知のクローンと比較して、UFKA-20由来の抗体によって固有に標的される(図10)。105+6、105+9、2+9、103+6、及び103+9を含む試験抗体のほとんどは、CD4CD25Foxp3reg細胞刺激に関してUFKA-20(1+6)と非常に類似していたことから、配列は、CDR領域における特定のアミノ酸変化に対して寛容であることが示され、ただし、配列番号019に由来するヒト化抗体の残基S56、M100、Y102、及び配列番号020のK36、F56、S32、A33、及びA100が、IL-2エピトープB及びCと相互作用するためにそれらの最適な配向を維持することを条件とする。
【0165】
値と、Treg細胞刺激によって媒介されるCD4CD25Foxp3reg細胞の頻度を増加させる能力との間には、相関関係が観察された(図12C)。抗体2+9及び4+10を除いて、抗体の活性はUFKA-20(1+6)抗体を中心にクラスタ化し、これは最適な親和性は10-10Mの範囲にあることを示唆した。しかしながら、IL-2と最も高い親和性で結合した5+9の抗体は、CD4CD25Foxp3reg細胞刺激に関してin vivoの活性が低下したことは、親和性の上限が1.856-10であることを示唆した。
【0166】
実施例9:IL-2とUFKA-22抗体との融合タンパク質
CD25偏向免疫複合体は優れた免疫調節の可能性を有しているが、いくつかの生物学的な側面が問題を引き起こして臨床開発を妨げているため、ヒトの炎症反応を阻害する使用としてはまだ承認されていない。第1に、IL-2と抗IL-2抗体とを37度でインキュベートすることにより形成されたIL-2抗体複合体は、別々の成分に分解されないように、投与直前に調製する必要がある。これは臨床の場では不便であり、ロット間のわずかな活性差につながる可能性がある。さらに、in vivoでこの複合体が解離し、可溶性IL-2が生成され、望ましくないオフターゲットのシグナル伝達を生成する可能性がある。これらの問題を解決するために、IL-2/UFKA-22cx療法(組換えヒトIL-2とヒト化CD25偏向抗IL-2抗体UFKA-22からなる2成分免疫療法)を、CD25を介する最適なシグナル伝達を保持し、安定性が改善された組み合わされたIL-2/UFKA-22融合タンパク質(UFKA-22FP)に置き換える単剤薬物化合物を開発した。
【0167】
UFKA-22FP設計では、IL-2タンパク質とUFKA-22抗体とを柔軟なリンカーで接続する必要があり、これにより、IL-2会合だけでなく、重要なことに、二量体IL-2R(CD122+CD132)を介したIL-2シグナル伝達が結合された抗体構造によって妨げられないように、IL-2結合溝からのUFKA-22抗体の解離が最適な速度で促進される。IL-2/UFKA-20cxの結晶構造(PDB:6YE3)を分析して、UFKA-20の可変重鎖(V)及び可変軽鎖(V)のN末端からIL-2のC末端までの距離をそれぞれ32.2Å及び43.5Åと測定した(図12A及び図12B)。その後、どのリンカーがIL-2Rを介したCD25標的シグナル伝達を最適にすることができるか試験するために、N末端IL-12ポリペプチド(Uniprot P60568)をUFKA-22 VH(配列番号017)に、又はVL鎖(配列番号018)に、(GS)(配列番号023)(繰り返しのnの数が3~6の範囲である)からなる柔軟なグリシン(G)セリン(S)リンカーで接合するUFKA-22FPを生成した(図13C及びD、及び図14)。UFKA-22FP vH(GS)、UFKA-22FP vH(GS)、UFKA-22FP vH(GS)及びUFKA-22FP vL(GS)を、分泌シグナル(配列番号027)の下流で発現し、HiTrap(登録商標)Protein Gカラムで精製したHEK293 FreeStyle細胞の懸濁培養により得た。UFKA-22FPを、ELISAでCD25ミニボディー(NARA1)との結合について試験した。4つのUFKA-22FPバリアントすべてがNARA1と結合したことは、UFKA-22FPのIL-2ドメインが正しく折り畳まれていたことを示唆した。IL-2の生理活性は、3つのIL-2Rサブユニットすべてを発現するマウスCTLL-2細胞を用いた細胞増殖アッセイ、ヒトIL-2Rαβγを発現するHEK-Blue IL-2レポーター細胞でのSTAT5シグナル伝達アッセイ、ヒトPBMCでのTreg刺激において測定した。一度、融合タンパク質の活性及びTreg選択性をすべての融合タンパク質について確認し、最も有望な候補をさらなるマウスでの試験のために選択した。
【0168】
C57BL/6野生型マウスは、IL-2/UFKA-22cx、UFKA-22FP vH(GS)及びUFKA-22FP vL(GS)(hIL-2 LC融合の配列番号028を含む)を3日間毎日注入し、続いて、治療した動物の脾臓における、CD4CD25Foxp3reg細胞、CD8CD44hiCD122メモリーT細胞、及びCD3NK1.1CD122NK細胞についてフローサイトメトリー分析を行った。UFKA-22FP分子は1つのUFKA-22抗体と2つのIL-2分子を構成するため、2:1のIL-2とUFKA-22抗体のモル比を、IL-2/UFKA-22cx製剤に使用した。UFKA-22FP vH(GS)を3回注入すると、CD25Foxp3reg細胞画分がわずかに増加したが、その変化は適用用量では有意ではなかった。一方、UFKA-22FP vL(GS)は、CD25Foxp3reg細胞の頻度を12μgの用量にて脾臓で15.2±1.2%に有意に増加させ、24μgの用量では20.6±1.4%に達した。UFKA-22FP vL(GS)を用いる治療は、CD4CD25Foxp3reg細胞のKi-67発現の用量依存的な増加を誘導し、12μg及び24μgのUFKA-22FP vL(GS)に対して、それぞれ42.0±5.5%及び64.1±3.7%のCD4CD25Foxp3reg細胞がKi-67をアップレギュレーションした。Ki-67CD4CD25Foxp3reg細胞の有意な増加は、24μg UFKA-22FP vL(GS)を受けたマウスで観察され、12μgのIL-2/UFKA-22cxを注入したマウスで観察された70.9±1.1% Ki-67と非常に匹敵するものであった。CD8T細胞の頻度に有意な変化が観察されなかったことは、融合タンパク質が細胞傷害性CD8T細胞に対してオフターゲット効果を生じないことを実証した。UFKA-22FPの活性はIL-2/UFKA-22cxに比べて低下したが、UFKA-22FP vL(GS)はやや高い用量で同様の活性に達した(図14)。まとめると、軽鎖に対するペプチドリンカーの長さは30アミノ酸が好ましい。IL-2の抗体重鎖への結合も実現可能である。これらの結果は、製造上及び医薬安全上望ましい特性を有する融合タンパク質が、中程度の増量ではあるが、2成分のIL-2cxと比較して、in vivoで同等の効果を達成できることを示唆している。
【0169】
実施例10:IL-2免疫療法により、マウス及びヒトのcDCを増大させる
DCは、系統(Lin:lineage)マーカーがなく、CD11cが中間(int:intermediate)又は高(hi)であることによって特徴づけられ、かつCD11cintB220hipDC、CD11chi主要組織適合遺伝子複合体クラスII(MHC-II)hicDC、CD11blowXCR1CD8αDNGR-1(CLEC9A)cDC1、CD11bhiXCR1cDC2にさらに細分化できる(図15A)。組換えヒトIL-2(IL-2;テセロイキン)を3回注入する短期コースは、野生型(WT)成体マウスの脾臓におけるcDCの総カウント数を増加させた(図15B)。この増大は、cDCへのチミジンアナログであるブロモデオキシウリジン(BrdU)の取り込みの増加によって明らかなように、cDCの活発な増殖に起因していた(図15C)。このIL-2効果がCD25hi又はCD122hi細胞へのIL-2の結合によって引き起こされたかどうかを評価するために、CD25偏向IL-2/抗IL-2(5344)抗体複合体(IL-2/5344)及びCD122偏向IL-2/抗IL-2(NARA1)抗体複合体(IL-2/NARA1)を試験した(Letourneau E.M.PNAS 2010,107:11906;Krieg C.PNAS 2010,107:11906,Arenas-Ramirez N.Sci Transl Med 2016)。IL-2/5344及びIL-2/NARA1のマウスIL-2/抗体複合体の両方は、偏向なしのIL-2と定量的に同等の脾臓DCの増大及び増殖を刺激した(図15B、C):炎症性CD122標的IL-2抗体を含むIL-2cxでのマウスの治療は、cDC上のCD40、CD80、CD86、及びMHCクラスI(MHC-I)のアップレギュレーションを誘導したが、MHC-IIは誘導せず(図15D)、これは、T細胞活性化のための交差提示及び共刺激の可能性が増加したcDCの成熟を示している。
【0170】
ヒトCD11cMHC-II(HLA-DR)DCは、組換えhIL-2(アルデスロイキン)免疫療法を用いた治験責任医師主導型臨床試験(Charact-IL-2と呼ばれる、NCT 03312335)において試験した(図16A)。アルデスロイキンを試験した臨床試験では、アルデスロイキン免疫療法によりCD4及びCD8T細胞、及びNK細胞の増殖が報告されている(Klatzmann D.ら,Nat Rev Immunol 2015,15:283;Humrich J.Yら,Lancet Rheumatol 2019,1:e44)。しかしながら、アルデスロイキン連日投与5日間コースの0日目(投与前)と5日目(最終投与後1日)のKi67DCを比較すると、cDC1及びcDC2の増殖の増加を観察した(図16B)。
【0171】
UFKA20複合体(CD25偏向抗体UFKA20に結合したIL-2)の非経口投与はまた、マウスレシピエントの脾臓のcDCが増大し(図17A)、BrdU取り込みによって測定されるとおりcDCの増殖を誘発した(図17B)。UFKA20複合体を含む医薬組成物での治療により、MHC-II及びCD80がダウンレギュレートされ(図17C及びD)、これは、CD25標的抗体との複合体が、cDCの抗原提示の能力及びT細胞への共刺激シグナルを伝達する能力を低減することを示す。UFKA20複合体を用いる治療は、さらに、cDCに発現する免疫制御タンパク質プログラム細胞死タンパク質1(PD-1)、プログラム細胞死リガンド1(PD-L1)及びPD-L2のアップレギュレーションを誘導する(図17E)。UFA20複合体治療したマウスでは、トランスフォーミング成長因子β誘導型(Tgfbi)、インターロイキン1受容体拮抗型(Il1rn)、TGF-β活性化キナーゼ1/MAP3K7結合タンパク質1(Tab1)などの免疫調節遺伝子がアップレギュレーションされた(x軸の正の値)。インターロイキン6シグナルトランスデューサー(Il6st)、リンパトキシンβ(Ltb)、腫瘍壊死因子(リガンド)スーパーファミリーメンバー14(Tnfsf14)、及びコロニー刺激因子1(Csf1)を含む免疫賦活遺伝子は、UFKA20複合体治療したマウスにおいてダウンレギュレーションされた(X軸の負の値)。さらに、UFKA20複合体治療したcDCは、TNF受容体スーパーファミリーメンバー6(Fas)をダウンレギュレーションし、これは生存期間の延長を示唆している(図17F)。以上のことから、UFKA20を含む医薬化合物は、免疫寛容原性の表現型及び免疫調節特性を有するcDCの増殖を促進することが示された。
【0172】
【表1】
【0173】
【表2】
【0174】
【表3】
【0175】
【表4】
【0176】
図1A
図1BC
図1DEFGH
図2ABC
図3AB
図4AB
図5
図6
図7AB
図8A
図8B
図8C
図8DE
図9A
図9B-1】
図9B-2】
図9B-3】
図9CD
図10-1】
図10-2】
図10-3】
図11
図12ABC
図13ABCD
図14ABCD
図15ABCD
図16AB
図17ABCD
図17E
【配列表】
2023538919000001.app
【国際調査報告】