(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-09-12
(54)【発明の名称】試料作製方法及び装置
(51)【国際特許分類】
G01N 1/32 20060101AFI20230905BHJP
G01N 23/2055 20180101ALI20230905BHJP
G01N 23/20058 20180101ALI20230905BHJP
G01N 23/2252 20180101ALI20230905BHJP
G01N 23/2206 20180101ALI20230905BHJP
G01N 23/2202 20180101ALI20230905BHJP
G01N 1/28 20060101ALI20230905BHJP
【FI】
G01N1/32 B
G01N23/2055 310
G01N23/20058
G01N23/2252
G01N23/2206
G01N23/2202
G01N1/28 F
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023513960
(86)(22)【出願日】2021-08-26
(85)【翻訳文提出日】2023-04-14
(86)【国際出願番号】 GB2021052221
(87)【国際公開番号】W WO2022043694
(87)【国際公開日】2022-03-03
(32)【優先日】2020-08-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】507329985
【氏名又は名称】オックスフォード インストルメンツ ナノテクノロジー ツールス リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100098475
【氏名又は名称】倉澤 伊知郎
(74)【代理人】
【識別番号】100130937
【氏名又は名称】山本 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100144451
【氏名又は名称】鈴木 博子
(72)【発明者】
【氏名】リンゼイ ジョン
(72)【発明者】
【氏名】トリンビー パトリック
(72)【発明者】
【氏名】ステイサム ピーター
(72)【発明者】
【氏名】シュミット ニールス-ヘンリク
(72)【発明者】
【氏名】トムセン クヌート
【テーマコード(参考)】
2G001
2G052
【Fターム(参考)】
2G001AA03
2G001AA05
2G001AA10
2G001BA04
2G001BA06
2G001BA11
2G001BA14
2G001BA21
2G001BA30
2G001CA03
2G001DA02
2G001FA03
2G001FA16
2G001FA18
2G001GA06
2G001GA08
2G001HA07
2G001JA03
2G001KA08
2G001QA01
2G001RA04
2G052AD32
2G052AD52
2G052EC18
2G052GA18
2G052GA31
(57)【要約】
本発明は、解析のため試料を作製する方法に関する。本方法は、試料の第1の面上の表面関心領域と第2の面とを含む試料を提供するステップであって、第2の面が、第1の面と第2の面の間の共通縁部の周りで第1の面に対してある角度で配向され、第2の面が、共通縁部と試料の前記第2の面の対向側の第2の縁部との間に延びる、ステップと、第2の面の表面にトレンチを設けるように試料の前記第2の面をミリングするステップであって、トレンチは、共通縁部と第2の縁部との間の第2の面上の第1の位置から共通縁部に隣接する第2の位置まで延び、トレンチが、表面関心領域を含む電子透過性試料層を設けるように配置されている、ステップと、を含む。試料の第2の面のみをミリングすることにより、試料の第1の面上の表面関心領域が完全に保存され、ミリングビームに誘起される損傷がないままである。これにより、表面感度の高いデータを得るために、電子透過性試料と完全に損傷を受けていない試料表面の両方を必要とする相関特性評価作業を行うことができる。
【選択図】
図1A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
解析のための試料を作製する方法であって、
前記試料の第1の面上の表面関心領域と第2の面とを含む試料を提供するステップであって、前記第2の面が、前記第1の面と前記第2の面の間の共通縁部の周りで前記第1の面に対してある角度で配向され、前記第2の面が、前記共通縁部と前記試料の前記第2の面の対向側の第2の縁部との間に延びる、ステップと、
前記第2の面の表面にトレンチを設けるように前記試料の前記第2の面をミリングするステップであって、前記トレンチは、前記共通縁部と前記第2の縁部との間の前記第2の面上の第1の位置から前記共通縁部に隣接する第2の位置まで延び、前記トレンチが、前記表面関心領域を含む電子透過性試料層を提供するように配置されている、ステップと、
を含む、方法。
【請求項2】
前記第2の面における前記トレンチが、前記第1の面と前記第2の面の間の前記共通縁部に隣接する最深側部を有する傾斜トレンチを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記傾斜トレンチが、
前記表面関心層と平行な第1の内部側面であって、前記第1の内部側面の底が前記トレンチの最深点を定める、第1の内部側面と、
前記第1の内部側面の底部から離れて上方に傾斜して前記第2の面の表面と接する角度付き底面と、
を含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記トレンチは、前記電子透過性試料層が前記試料の前記第1の面に平行であるように配置される、請求項1~3の何れかに記載の方法。
【請求項5】
前記試料の前記第2の面をミリングするステップが、ミリングビームのシステムを用いて行われ、前記方法が更に、前記ミリングビームが表面関心層と平行になるように前記試料を配向するステップを含む、請求項1~4の何れかに記載の方法。
【請求項6】
前記ミリングするステップが、集束イオンビーム、ブロードイオンビーム、及びレーザのうちの1又は2以上を用いて実施される、請求項1~5の何れかに記載の方法。
【請求項7】
前記電子透過性試料層を通して集束電子ビームを向けるステップと、
検出器を用いて、前記集束電子ビームと前記電子透過性試料層の相互作用によって生成された信号を収集するステップと、
を更に含む、請求項1~6の何れかに記載の方法。
【請求項8】
前記信号を収集するステップが、
電子検出器を用いて、前記電子透過性試料層から散乱電子を収集するステップを含む、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記集束電子ビームを前記電子透過性試料層のミリングされた面に向け、電子検出器を、前記ミリングされた面とは反対側の前記試料の前記第1の面に向けるように前記試料を配向するステップを含む、請求項7又は8に記載の方法。
【請求項10】
前記信号を収集するステップが、
前記電子透過性試料層において発生されたX線を、X線検出器を用いて収集するステッを含む、請求項7~9の何れかに記載の方法。
【請求項11】
前記集束電子ビームを、前記試料の前記第1の面上の前記表面関心領域に向け、前記X線検出器を、前記試料の前記第1の面上の前記表面関心領域に向けるように前記試料を配向するステップを含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記試料の前記第1の面が多結晶表面層を含む、請求項1~11の何れかに記載の方法。
【請求項13】
前記多結晶表面層が、100nm未満の厚さを含み、及び/又は100nm未満の寸法を有するナノ結晶構造を含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
変形のない表面を生成するために、ミリングするステップの前に、前記試料の前記第1の面を作製するステップを更に含む、請求項1~13の何れかに記載の方法。
【請求項15】
前記試料の前記第2の面に前記傾斜トレンチをミリングする前に、前記試料の前記第1の面をミリングして前記表面関心領域上に研磨面を作製するステップを更に含む、請求項1~14の何れかに記載の方法。
【請求項16】
前記試料の前記第1の面上の前記表面関心領域を、表面特性評価技術を使用して解析するステップを更に含む、請求項1~15の何れかに記載の方法。
【請求項17】
解析のため試料を作製するための装置であって、前記試料が、前記試料の第1の面上の表面関心領域と第2の面とを含み、前記第2の面が、前記第1の面と前記第2の面の間の共通縁部の周りで前記第1の面に対してある角度で配向され、前記第2の面が、前記共通縁部と前記試料の前記第2の面の対向側の第2の縁部との間に延びており、
前記装置が、
試料の第2の面をミリングして、第2の面の表面にトレンチを設けるように配置されたミリングビームシステムであって、前記トレンチは、前記共通縁部と前記第2の縁部との間の前記第2の面上の第1の位置から前記共通縁部に隣接する第2の位置まで延び、前記トレンチが、表面関心領域を含む電子透過性試料層を提供するように配置されている、ミリングビームシステムと、
前記電子透過性試料層を通して集束電子ビームを向けるように配置された電子ビームシステムと、
前記集束電子ビームと前記電子透過性試料層の相互作用により生成された信号を収集するように配置された検出器と、
を備える、装置。
【請求項18】
前記電子透過性試料層から散乱電子を収集し、電子強度画像を提供するように構成された電子検出器を備える、請求項17に記載の装置。
【請求項19】
前記集束電子ビームが、前記電子透過性表面層のミリングされた面に向けられ、
前記電子検出器が、前記ミリングされた面とは反対側の前記試料の第1の面に向けられる、
ように前記試料の配向を可能にするよう構成されている、請求項18に記載の装置。
【請求項20】
前記電子強度画像を解析して前記信号内の1又は2以上の菊池バンドを識別するように構成された処理ユニットを更に備える、請求項18又は19に記載の装置。
【請求項21】
前記処理ユニットは、
識別された前記菊池バンドのパターン中心までの距離を測定し、
前記測定された距離に基づいて、グノモニック歪みの影響を軽減するように前記菊池バンドの決定された幅に補正を適用する、
ように構成されている、請求項20に記載の装置。
【請求項22】
前記処理装置は、
1又は2以上の候補相の格子間隔に基づいて、最小及び/又は最大菊池バンド幅を計算し、
決定された幅が、計算された前記最小菊池バンド幅を下回るか前記最大菊池バンド幅を上回る場合、識別された前記菊池バンドを無視する、
ように構成されている、請求項20又は21に記載の装置。
【請求項23】
前記電子透過性表面層から放出されたX線を収集して、X線エネルギースペクトルを提供するように構成されたX線検出器を備える、請求項17~22の何れかに記載の装置。
【請求項24】
前記集束電子ビームが、前記試料の前記第1の面上の前記表面関心領域に向けられ、
前記X線検出器が、前記試料の前記第1の面上の前記表面関心領域に向けられる、
ように前記試料の配向を可能にするように構成される、請求項23に記載の装置。
【請求項25】
前記電子透過性試料層から散乱電子を収集し、電子強度画像を提供するように構成された電子検出器と、
前記電子透過性表面層から放出されたX線を収集し、X線エネルギースペクトルを提供するように構成されたX線検出器と、
前記集束電子ビームが前記電子透過性表面層のミリングされた面に向けられ、前記電子検出器がミリングされた面とは反対側の前記試料の前記第1の面に向けられる第1の配向と、前記集束電子ビームと前記X線検出器が、前記試料の前記第1の面上の前記表面関心領域に向けられる第2の配向と、の間で、前記電子ビームシステム、電子イメージング検出器及び前記X線検出器に対して前記試料を相対的に移動させるように構成された試料ホルダーと、
を備える、請求項17~24の何れかに記載の装置。
【請求項26】
実行時に前記装置に請求項1~16の何れかに記載の方法ステップを実行させる、コンピュータ可読命令を保持するメモリを更に備える、請求項17~25の何れかに記載の装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、解析のための試料を作製するための方法及び装置に関し、特に、更なる特性評価のために試料を作製するためのミリングビームシステムを用いた方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
その後の解析を可能にするために適切な試料を作製する必要がある、多くの材料及びデバイス特性評価技術がある。このような特性評価技術には、他の多くのなかでも、透過型及び走査型電子顕微鏡(TEM/SEM)などの電子顕微鏡ベースの解析、制限視野回折(SAED)及び電子後方散乱回折(EBSD)などの電子回折技術、電子エネルギー損失分光法(EELS)及びエネルギー分散型X線分光法(EDS)などの分光法、原子間力顕微鏡法(AFM)などの表面解析技術が挙げられる。
【0003】
このような特性評価技術は、高品質のデータを確実に収集できるようにするために、試料作製時に満たすべき要件を試料に課すことが多い。複数の特性評価技術を相関解析に使用する場合、ある方法で特性評価される試料を作製すると、他の方法による特性評価が妨げられる可能性があり、例えば、電子透過性の試料を作製すると、その後の表面特性評価が妨げられる可能性があるので、これらの要件が一貫していることを確保する必要がある。
【0004】
相関解析のための困難な試料作製のこのような一例は、多結晶薄膜の特性評価であり、この場合、薄膜の結晶構造情報は、トポグラフィーなどの表面敏感データと共に必要となる。一般に、このような試料は、100nm未満の分解能での構造情報を得るために、TEMで解析しなければならない。これには、ナノスケールの結晶学的情報を得るために制限視野回折及び回折コントラストイメージングなどの技術を使用して、特性評価のためにTEMに移送される電子透過性試料を作製することが必要である。
【0005】
部位特異的な電子透過試料の作製は、一般に、FIB-SEMを用いて行われ、関心領域の周囲でトレンチをミリングし、薄片化される試料をリフトアウトしてTEMに移送する。これらの既知の試料作製技術に伴う幾つかの問題がある。最初に、これらの技術では、試料に対するイオンビーム誘起の損傷が生じることが多く、その後の相関特性評価作業を阻害する。更に、リフトアウト技術は時間がかかり、機器間の移送が必要とされ、有意な失敗率を有する。更に、単純なFIBリフトアウト技術では、その後の特性評価を可能にするために表面領域が保存された平面図試料を作成することはできない。このため、これらの方法を用いて、多結晶薄膜のような多くの試料の完全な特性評価を提供することができない。
【0006】
従って、相関特性評価作業を容易にし、上記の問題の幾つかを克服することの進歩をもたらす試料作製方法に対する要求が存在する。特に、試料表面を保存し、多結晶薄膜の相関特性評価作業を可能にする試料作製方法に対する要求がある。
【発明の概要】
【0007】
本発明の第1の態様では、解析のための試料を作製する方法であって、試料の第1の面上の表面関心領域と第2の面とを含む試料を提供するステップであって、第2の面が、第1の面と第2の面の間の共通縁部の周りで第1の面に対してある角度で配向され、第2の面が、共通縁部と試料の第2の面の対向側の第2の縁部との間に延びる、ステップと、第2の面の表面にトレンチを設けるように試料の第2の面をミリングするステップであって、トレンチは、共通縁部と第2の縁部との間の第2の面上の第1の位置から共通縁部に隣接する第2の位置まで延び、トレンチが、表面関心領域を含む電子透過性試料層を提供するように配置されている、ステップと、を含む、方法が提供される。
【0008】
試料の第2の面のみをミリングすることにより、試料の第1の面上の表面関心領域は、完全に保存され、ミリングビームに起因する損傷がないままである。これにより、表面感度の高いデータを得るために、電子透過性試料と完全に損傷を受けていない試料表面の両方を必要とする相関特性評価作業を行うことができる。
【0009】
本発明による方法の更なる主要な利点は、FIB-SEMなどのミリングビーム機器内で、現場で<10nmの分解能で試料の構造特性評価を行うことができることである。特に、透過菊池回折(TKD)は、FIB-SEM内でこの方法で作製した試料に対して実施して、一般にTEMにおいてのみ可能な分解能で結晶学的情報を提供することができる。試料表面関心領域は完全に損傷のないままであり、TKDが出口表面の結晶性にのみ敏感であるので、電子ビームは、電子透過性試料層のミリングされた裏面に集束させ、例えばEBSDハードウェア及びソフトウェアを使用して透過散乱電子を収集することができる。従って、本発明による方法は、試料作製とナノスケール特性評価を同じ機器内で行うことが可能であり、機器間で試料を移送する必要性が排除される。
【0010】
本試料作製方法は、周囲のバルク試料を使用して電子透過試料層を支持し、従来のFIBリフトアウト法で必要とされるその後のリフトアウト及びTEMグリッドへの取り付けが不要となる。本試料作製方法は、従来の方法におけるTEMへの試料を移送するのに要する追加時間を差し引いても、遙かに短い時間フレームで適切な電子透過性試料を作製することができる。
【0011】
トレンチは、試料の第2の面内に完全に配置され、すなわち、トレンチは、試料の第2の面上の位置から共通縁部に向かって延びる。特に、試料の第2の面は、共通縁部から第2の面の反対側の第2の縁部まで延び、トレンチは、共通縁部と第2の縁部の間の位置から共通縁部に向かって延びる。このようにトレンチを試料の第2の面内に完全に位置するように配置することにより、試料の全厚さ(すなわち、第2の縁部から試料関心領域に隣接する位置まで)を通してミリングする必要がない。これにより、必要なミリングの量が大幅に削減され、必要な作製時間が最小限にされ、試料関心領域への損傷のリスクが制限される一方で、トレンチを通して表面関心領域の裏面にアクセスするためにある角度でイメージング及び特性評価ビームを向けるために試料を傾斜することによって表面関心領域の特性評価を行うことができる。
【0012】
更に、第2の面の第2の縁部付近で試料の一部がそのままであるので、ミリングされた試料はより安定した状態のままである。また、この試料作製技術は、試料の全厚みを通して表面関心領域の裏面までミリングすることができないバルク試料に適用できることを意味する。
【0013】
好ましくは、トレンチは、第2の面上の位置(共通縁部と第2の縁部の間)から共通縁部に向かって下方に延びる角度付きトレンチである。上述したように、これは、何らかの厚さの試料のその後の特性評価を可能にし、電子透過性領域を残すために試料の厚さの全体を除去しなければならない既知の技術と比較して、必要なミリングの量が大幅に低減される。
【0014】
本方法の幾つかの例では、試料は、第1の面と第2の面との間の明確に定義された単一の「共通縁部」を有していない場合がある。試料の「第2の面」は、表面関心領域がミリングビームに曝されない状態のまま、試料のミリングが表面関心領域の下方から第1の面上の表面関心領域に接近することを可能にする試料の部分を含むことが意図されている。特に、本方法は、表面関心領域を含む試料を提供するステップと、試料をミリングして、トレンチが表面関心領域の裏面に近づくように試料の表面にトレンチを設け、これによって表面関心領域を含む電子透過性試料層を提供するステップと、を含むことができる。特に、本方法は、ミリングビームが表面関心層と平行であるようにミリングビームシステムに対して試料を配向するステップと、表面関心領域の裏面に向かってミリングするステップとを含むことができる。
【0015】
好ましくは、第2の面のトレンチは、電子透過性試料層が試料の第1の面に平行であるように配置される。表面関心領域は、第1の面のほぼ平面部分上にあることができ、トレンチは、電子透過性試料領域が第1の面の平面部分を含むように配置される。
【0016】
好ましくは、試料の第2の面をミリングするステップは、ミリングビームシステムを用いて実施され、本方法は、ミリングビームが表面関心層と平行になるように試料を配向するステップを更に含む。これにより、電子透過性試料層の実質的に均一な厚さを提供することができ、第1の面と平行である平面的な電子透過性試料層を提供することが可能になる。
【0017】
好ましくは、第2の面のトレンチは、第1の面と第2の面との間の共通縁部に隣接する最深側部を有する傾斜トレンチを含む。これにより、電子透過性表面層を提供しながら、ミリングされる材料の量を最小限にすることができる。傾斜トレンチは、表面関心層と平行な第1の内部側面であって、第1の内部側面の底部がトレンチの最深点を定める、第1の内部側面と、第1の内部側面の底部から上方に傾斜して第2の面の表面と交わる角度付き底面と、を含むことができる。
【0018】
共通縁部に隣接する最深側部を有する傾斜トレンチをミリングすることにより、試料の厚さに制限がなく、本方法はバルク試料にも適用することができる。特定の先行技術では、試料の対向面から試料をミリングする(試料の第1の面とは反対側の面から表面関心領域までミリングする)必要がある。このため、電子透過領域を残すために試料の厚さ全体をミリングして除去する必要があり、使用できる試料の厚さに制限がある(一般に最大50μm程度まで)。これに対して、第2の面の表面に傾斜トレンチを使用することで、何れかの厚さの試料を使用することができ、必要なミリングの量が大幅に削減されると共に、電子ビームを試料の第2の面に対してある角度で向けるように試料を配向することによって、表面関心領域を解析することができる。特に、電子ビームは、第1の面に対してトレンチの傾斜面の角度と同じか類似の角度で配向することができる。
【0019】
角度付き底面は、試料の第1の面に対して30~85度、好ましくは65~70度の角度で配向させることができる。これは、電子ビームが電子透過性試料領域に対してほぼ垂直に配向できるようにする一方で、必要なミリングの量を低減することの間で最も効果的なバランスを提供する。
【0020】
ミリングは、好ましくは、集束イオンビーム、ブロードイオンビーム及びレーザのうちの1又は2以上を使用して行われる。
【0021】
好ましくは、試料の第2の面をミリングするステップは、第1の厚さを有する試料層を設けるために粗ミリングステップを実行するステップと、その後、試料層の厚さを第1の厚さよりも小さい第2の厚さに低減するよう微細ミリングステップを実行するステップとを含む。特に、粗ミリングステップは、第1のビーム電流又は出力で実施することができ、微細ミリングステップは、第2のより低いビーム電流又は出力で実施することができる。このようにして、粗ミリングステップを使用して材料の大部分を迅速にミリングすることができ、その後、電子透過性試料層の損傷を低減するように微細ミリングステップを最適化する。
【0022】
本方法は更に、電子透過性試料層を通して集束電子ビームを向けるステップと、集束電子ビームと電子透過性試料層の相互作用によって生成された信号を、検出器を用いて収集するステップとを含むことができる。信号は、散乱電子、透過電子、X線のうちの1又は2以上を含むことができる。
【0023】
特定の例では、信号を収集するステップは、電子検出器を用いて電子透過性試料層からの散乱電子を収集するステップを含む。本方法は、集束電子ビームを電子透過性試料層の平面に対して65~75度の角度で向けるステップを含むことができる。本方法は、電子イメージング検出器、例えばEBSD検出器を用いて散乱電子を収集するステップを含むことができる。本方法は、透過菊池回折(TKD)データを収集するステップを含むことができる。本方法は、収集された電子像を解析して、1又は2以上の菊池バンドを識別するステップを含むことができる。本方法は、識別された1又は2以上の菊池バンドを使用して、集束電子ビームが配置された試料の一部の結晶学的配向を決定するステップを含むことができる。
【0024】
好ましくは、本方法は、電子透過性試料層のミリングされた面に集束電子ビームを向け、ミリングされた面とは反対側の試料の第1の面に電子検出器を向ける、ように試料を配向するステップを含む。透過菊池回折は、出口表面の結晶性にのみ敏感であり、表面関心領域は保存されるので、ミリングされた面の品質が低い場合でも、高品質のデータを得ることができる。
【0025】
本発明の幾つかの実施例では、信号を収集するステップは、電子透過性試料層にて発生したX線を、X線検出器を用いて収集するステップを含む。本方法は、収束電子ビームを試料の第1の面上の表面関心領域に向け、X線検出器を試料の第1の面上の表面関心領域に向ける、ように試料を配向するステップを含むことができる。このようにして、X線分光法を表面関心領域に対して実行することができる。
【0026】
本発明の幾つかの実施例では、試料の第2の面は、第1の面に対してある角度で、例えば第1の面に対して垂直に配向される。試料の第1の面は、多結晶表面層を含むことができ、例えば、多結晶表面層は、100nm未満の厚さを含み、及び/又は100nm未満の寸法を有するナノ結晶構造を含む。本方法は、従来の方法を用いて可能ではなかった薄膜からの結晶学的情報の収集を可能にするので、このような試料に特に適している。
【0027】
幾つかの実施例では、本方法は、ミリングステップの前に、電子ビーム蒸着を使用して試料の第2の面上に保護層を堆積させるステップを含むことができる。特に、保護層は、共通縁部に隣接する試料の第2の面の領域上に延び、好ましくは共通縁部上に延びてミリングステップ中に試料を保護することができる。保護層は、白金を含むことができる。
【0028】
本方法は更に、ミリングステップの前に試料の第1の面を作製して、変形のない表面を生成するステップを含むことができる。このようにして、標準的なEBSD解析が、ミリングステップの前に表面に対して行われ、ミリングステップの後に高分解能TKD解析を行うことができる。
【0029】
本発明の幾つかの実施例では、本方法は、試料の第2の面にトレンチをミリングする前に、試料の第1の面を加工して表面関心領域上に研磨面を作製するステップを含むことができる。このようにして、電子透過性試料層の均一な厚さを提供することができる。第1の面のミリングに使用されたミリングビーム角は、均一な厚さを更に確保するために、トレンチ内の電子透過性試料層の裏面の研磨に使用することができる。これらの例において、好ましくは、本方法は、試料の第1の面をミリングする前に、試料の第1及び/又は第2の面上に保護層を堆積するステップを含む。
【0030】
好ましくは、本方法は更に、特性評価技術を使用して、試料の第1の面上の表面関心領域を解析するステップを含む。特性評価技術は、原子間力顕微鏡、EBSD、SEMイメージング、EDS、カソードルミネッセンス分光法のうちの1又は2以上を含むことができる。現在の方法は、第1の面をそのまま残すので、これらのタイプの表面特性評価技術は、ミリングの前又は後で試料の第1の面に適用することができる。
【0031】
本発明の更なる態様では、解析のため試料を作製するための装置であって、試料が、試料の第1の面上の表面関心領域と第2の面とを含み、第2の面が、第1の面と第2の面の間の共通縁部の周りで第1の面に対してある角度で配向され、第2の面が、共通縁部と試料の第2の面の対向側の第2の縁部との間に延びており、本装置が、試料の第2の面をミリングして、第2の面の表面にトレンチを設けるように配置されたミリングビームシステムであって、トレンチは、共通縁部と第2の縁部との間の第2の面上の第1の位置から共通縁部に隣接する第2の位置まで延び、トレンチが、表面関心領域を含む電子透過性試料層を提供するように配置されている、ミリングビームシステムと、電子透過性試料層を通して集束電子ビームを向けるように配置された電子ビームシステムと、集束電子ビームと電子透過性試料層の相互作用により生成された信号を収集するように配置された検出器と、を備える、装置が提供される。
【0032】
従って、本装置は、試料の作製と特性評価の両方が装置内で行われる場合、10nm未満の分解能で試料の構造特性評価を可能とする。特に、試料の作製とその後の透過菊池回折(TKD)は、本装置を使用して実施することができ、一般にTEMでのみ実施可能な分解能で結晶学的情報を提供する。試料表面関心領域は完全に損傷のないままであり、TKDが出口表面の結晶性にのみ敏感であることを考慮すると、電子ビームは、例えばEBSDハードウェア及びソフトウェアを使用して、電子透過性試料層のミリングされた裏面上に合焦し、透過散乱電子を収集することができる。
【0033】
本装置は、好ましくは、電子強度画像を提供するために電子透過性試料層から散乱電子を収集するように構成された電子検出器を含む。本装置は、好ましくは、集束電子ビームが電子透過性表面層のミリングされた面に向けられ、電子検出器が、ミリングされた面とは反対側の試料の第1の面に向けられる、ように試料の配向を可能にするよう構成されている。
【0034】
本装置は更に、好ましくは、電子強度画像を解析して信号内の1又は2以上の菊池バンドを識別するように構成された処理ユニットを備える。特に、処理ユニットは、収集された信号を解析して1又は2以上の菊池バンドを識別し、好ましくは試料又は試料の一部の結晶学的配向を決定するためのコンピュータ実装方法を実行するように構成することができる。処理ユニットは更に、パターン中心からの菊池バンドの距離を決定し、決定された距離に基づいて菊池バンドの形状に対するグノモニック歪みの影響を軽減するように構成することができる。処理ユニットは、より具体的には、候補材料について、菊池バンドの最大及び最小の投影バンド幅を含む範囲を計算し、測定されたバンド幅が候補材料について計算された範囲の外にある場合、識別された菊池バンドを拒絶するように構成することができる。処理ユニットは、メモリに格納された複数の候補相に基づいて、菊池バンドに対する最大及び最小の投影バンド幅を含む範囲を計算するように構成することができ、候補相は、ユーザによって選択されるか、又は処理ユニットによって自動的に選択することができる。
【0035】
幾つかの実施例では、本装置は、電子透過性表面層から放出されたX線を収集し、X線エネルギースペクトルを提供するように構成されたX線検出器を含むことができる。このようにして、電子透過性試料層から高分解能のX線分光データを収集することができる。特に、本装置は、集束電子ビームが試料の第1の面上の表面関心領域に向けられ、X線検出器が試料の第1の面上の表面関心領域に向けられる、ように試料の配向を可能にするように構成することができる。
【0036】
本発明の幾つかの実施例では、本装置は、電子透過性試料層から散乱電子を収集し、電子強度画像を提供するように構成された電子検出器と、電子透過性表面層から放出されたX線を収集し、X線エネルギースペクトルを提供するように構成されたX線検出器と、集束電子ビームが電子透過性表面層のミリングされた面に向けられ、電子検出器がミリングされた面とは反対側の試料の第1の面に向けられる第1の配向と、集束電子ビームとX線検出器が、試料の第1の面上の表面関心領域に向けられる第2の配向と、の間で、電子ビームシステム、電子イメージング検出器及びX線検出器に対して試料を相対的に移動させるように構成された試料ホルダーと、を備える。このように、本装置を用いて、表面関心領域を残したまま電子透過性試料をミリングして作製し、電子検出器でTKDデータを収集し、X線検出器で高分解能EDSデータを収集することを順次行うことができる。
【0037】
本装置は、ガス注入システムを更に備えることができ、本装置は、電子ビーム及びガス注入システムを使用して電子ビームアシスト蒸着を行うことができるように構成される。
【0038】
本装置は、コンピュータ可読命令を保持するメモリを更に備え、命令が実行されたときに、添付の請求項に定められた又は本発明の上記又は下記の定められた態様に記載された方法ステップを装置に実行させることができる。本発明の更なる態様では、菊池回折パターンを含む電子像を処理するコンピュータ実装方法が提供され、本方法は、電子像内の菊池バンドを識別するステップと、識別された菊池バンドの幅を決定するステップと、1又は2以上の候補相の格子間隔に基づいて最小及び/又は最大予想菊池バンド幅を計算するステップと、決定した幅が計算した最小予想菊池バンド幅を下回る及び/又は最大予想菊池バンド幅を上回る場合に、識別した菊池バンドを無視するステップを含む。
【0039】
菊池回折パターンを含む電子像を処理するコンピュータ実装方法は、解析のために試料を作製する上記で定められた方法の一部を形成することができる。解析のための試料を作製するための上記で定められた装置は、菊池回折パターンを含む電子像を処理するコンピュータ実装方法を実行するように構成された処理ユニットを含むことができる。
【0040】
1又は2以上の候補相のリストに基づく予想範囲外の特徴を無視することにより、本方法は、画像特徴を菊池バンドとして誤って識別することを低減し、結晶配向をより正確にインデックス化することを可能にする。1又は2以上の候補相の最大及び/又は最小格子間隔は、メモリに格納することができる。候補相は、リストから候補相を選択するか、又はユーザ入力で入力することにより、ユーザインターフェースにおいてユーザにより入力することができる。他の例では、候補相は、例えば分光法を用いて、自動的に決定することができる。
【0041】
本方法は、好ましくは、最小及び最大菊池バンド幅を計算するステップと、決定された幅が最小及び最大菊池バンド幅によって定められる範囲外である場合、識別された菊池バンドを無視するステップとを含む。このようにして、検出された特徴は、試料の予想される相と矛盾しないほど広すぎる場合又は狭すぎる場合の両方で無視される。幾つかの実施例では、最大菊池バンド幅は、バンド縁部の識別を最適化するのに使用することができる。特に、電子像において菊池バンドが識別された場合、最大予想菊池バンド幅(1又は2以上の候補相の最小格子間隔に基づく)は、菊池バンド縁を見つけるために探索されるべき菊池バンドの中心からの距離を決定するのに使用することができる。
【0042】
好ましくは、最小及び/又は最大の菊池バンドの幅を計算するステップは、付加的に、電子ビームの加速電圧及び/又はパターン中心に対する識別された菊池ビームの位置を考慮する。特に、識別された菊池バンドの幅を決定するステップは、パターン中心に対する識別された菊池バンドの距離を測定するステップと、測定された距離に基づいてグノモニック歪みの影響を緩和するように菊池バンドの決定された幅に補正を適用するステップと、を含むことができる。本方法は、代替的に、パターン中心に対する識別された菊池バンドの距離を測定するステップと、1又は2以上の候補相に基づいて、予想される最大及び/又は最小菊池バンド幅に補正を適用するステップと、含むことができる。パターンセンターは、好ましくは、試料上の菊池パターンの発生源に最も近い、検出器の部分に対応する。
【0043】
本方法はまた、電子ビームの現在の加速電圧を使用して、1又は2以上の候補相の格子間隔に基づいて最小及び/又は最大菊池バンド幅を計算するステップを含むことができる。
【0044】
電子像内の菊池バンドを識別するステップは、電子像にハフ変換を適用して、電子像内の菊池バンドが強度ピークによって表されるハフ画像を提供するステップと、ハフ画像内の強度ピークを菊池バンドに対応するものとして識別するステップと、を含むことができる。ハフ画像は、更に、バタフライフィルタで処理されてもよく、強度ピークは、フィルタリングされたハフ画像において識別される。後続の処理は、フィルタリングされていない画像において実行することができる。識別された菊池バンドの幅を決定するステップは、ハフ画像における強度ピークの対向する縁部上の最も急な強度勾配の点を縁部位置として識別するステップと、縁部位置間の距離に基づいて菊池バンドの幅を決定するステップと、を含む。
【0045】
好ましくは、最も急な強度勾配を識別するステップは、強度ピークから離れたピーク位置から所定の最大距離まで検索するステップを含み、所定の最大距離は、1又は2以上の候補相の最大格子間隔に基づくものである。特に、本方法は、1又は2以上の候補相の最大格子間隔を使用して、ハフ空間画像における対応する最大距離を計算するステップを含むことができる。縁部位置のためのハフ空間画像の検索は、好ましくは、ハフ画像内のサブピクセル分解能で実施される。
【0046】
菊池バンドセンターは、好ましくは、菊池バンド縁位置の中間の位置に割り当てられる。本方法は、好ましくは、電子像において複数の菊池バンドを識別するステップと、菊池バンドの相対的な位置及び/又は配向に基づいて結晶学的配向を決定するステップとを更に含む。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【
図1A】本発明による解析のための試料を作製する方法を概略的に示す図である。
【
図1B】本発明による解析のための試料を作製する方法を概略的に示す図である。
【
図1C】本発明による解析のための試料を作製する方法を概略的に示す図である。
【
図2】本発明の方法に従って作製された試料から散乱電子強度信号を収集する方法を例示する図である。
【
図3A】本発明に従って作製された試料から収集された透過菊池回折像を示す図である。
【
図3B】試料を横切って電子ビームを走査して試料の領域から透過菊池回折データを収集することによって得られる回折パターン品質マップを示す図である。
【
図3C】本発明による菊池回折パターンを含む電子像を処理する方法を示す図である。
【
図4A】本発明による菊池回折パターンを含む電子像を処理する方法を示す図である。
【
図4B】本発明による菊池回折パターンを含む電子像を処理する方法を示す図である。
【
図4C】本発明による菊池回折パターンを含む電子像を処理する方法を示す図である。
【
図5】本発明の方法に従って作製された試料から高分解能EDS信号を収集する方法を示す図である。
【
図6A】本発明による方法の一連の試料作製及び解析ステップを示す図である。
【
図6B】本発明による方法の一連の試料作製及び解析ステップを示す図である。
【
図6C】本発明による方法の一連の試料作製及び解析ステップを示す図である。
【
図6D】本発明による方法の一連の試料作製及び解析ステップを示す図である。
【
図6E】本発明による方法の一連の試料作製及び解析ステップを示す図である。
【
図7】本発明の実施形態による任意選択の追加試料作製ステップを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0048】
図1A~
図1Cは、本発明による解析のための試料10を作製する方法を概略的に示す。本方法は、
図1Aに示すように試料10を提供するステップを含み、試料10は、試料10の第1の面12上に表面関心領域11と、第2の面13とを有し、第2の面は、第1の面12と第2の面13との間の共通縁部14の周りで第1の面12に対して角度aで配向される。本方法は更に、
図1Bに示すように、試料10の第2の面13をミリングして、共通縁部14に隣接する第2の面13の表面に傾斜トレンチ20を設けるステップを含み、トレンチ20は、表面関心領域11を含む電子透過性試料層15を提供するように配置される。
【0049】
本方法によれば、第2の面13においてのみ、表面関心領域11の裏面に近づくようにミリングを行うので、表面関心領域11の表面を保存したまま、表面関心領域11を含む電子透過性試料を作製することができる。このようにして、この試料作製法は、電子透過性試料層を必要とし且つ試料表面の保存も必要とする特性評価法を用いた相関特性評価作業を可能にする。更に、試料作製ステップと試料特性評価ステップが、同じ機器内で現場にて実施することができ、データを取得することができる速度を大幅に向上させることができる。先行技術の方法とは対照的に、試料の全厚を通って延びるのではなく、試料の第2の面13内に完全に位置するトレンチを設ける本発明の方法は、電子透過性試料層15を作製するのに必要なミリングの量を大幅に低減することができ、これは、本技術が(機器の試料チャンバ内の試料取り付けの実用性によって定められる制限内で)あらゆる厚さの試料に適用できることを意味している。
【0050】
図1Aに示すように、この例の試料は、共通縁部14の周りの第1の面12に対して第2の面13がほぼ垂直である略立方体の形状を有する。しかしながら、試料10は、試料関心領域11の裏面からミリングを行うことができるように、第1の面に対して角度をなす試料の第2の面13からのミリングを可能にする限り、何れかの形状を有することができる。第2の面13から関心領域11の裏面に向かってミリングを実施できるように第1の面12と第2の面13との間の介在する縁部14に向かって配置される限り、試料関心領域11の何れかの適切な位置を選択することができる。
【0051】
図1Bに示すように、ミリングは、表面関心層11が配置される電子透過性表面層15を提供するように、表面関心領域11の裏面まで第2の面13上のトレンチをミリングすることを可能にする何れかの適切な技術で実施することができる。試料10の第2の面13上のトレンチ20は、好ましくは、最深側部が第1の面12に隣接する傾斜トレンチである。
図1Cに示すように、傾斜トレンチは、好ましくは、表面関心層11と平行である第1の内部側面21を有し、第1の側面21の底部がトレンチ20の最深点を定めるように配置される。トレンチ20は、第1の内部側面21の底部から離れるように上方に傾斜して第2の面13の表面に合致する角度付き底表面22を有するように配置される。
【0052】
以下に説明するように、この配置により、傾斜トレンチ20の第1の内部側面21で電子ビーム41を配向させて、表面関心領域11とは反対側から電子透過性層15上に電子ビーム41を集束させることを含む、その後の特性評価技術が可能になる。従って、傾斜トレンチの底面22の角度は、電子ビーム41をトレンチ20のミリングされた第1の内部側面21上に配向することができる角度を決定する。電子ビーム41の向きの最大限の柔軟性を提供するために、角度付き底面22は、好ましくは、関心表面に対して30~85度の間の角度であり、より好ましくは約65~70度であり、これは、かなりの量の材料をミリングして除去する必要があることと、関心試料領域11に対して垂直に近い電子ビームのアライメントも提供することの良好なバランスをもたらす。
図1B及び
図1Cに示すように、トレンチは、好ましくは、電子透過性試料層15が第1の面12と平行な層となるように配置される。すなわち、電子透過性表面層15は、試料10の第1の面12の平面内にある。
【0053】
図1Bに示すミリングステップは、集束イオンビーム、ブロードイオンビーム又はレーザなどの何れかの既知のミリングビームシステムで実行することができる。
図1Aに示すように、好ましくは、ミリングステップは、従来のFIB-SEMリフトアウト技術のように、試料10のイメージング及びミリングを同時に可能にするために、集束イオンビームシステム30と電子ビームシステム40を有するデュアルビーム機器で実行される。FIB-SEMを用いた方法の具体例は以下の通りである。
【0054】
最初に、試料の作製に使用される関心領域11は、
図1Aに示すように、平面
図SEMイメージングを用いて識別され、試料10は、電子ビーム41が試料10の第1の面12に対してほぼ垂直になるようにデュアルビームFIB-SEMのチャンバ内で配向される。このステップは、調査される試料10の第1の面12上の均質な薄膜の場合には重要でない場合があるが、関心領域が試料10の縁部14に十分に近く、試料の第2の面13から関心領域11の裏面までミリングできる限り、このステップを使用して、より特定の局所関心領域を識別することができる。
【0055】
図1Bに示すように、試料10は、次に、試料の隣接する第2の面13上でFIBミリングできるように回転される。試料10は、好ましくは、
図1Bに示すように、イオンビームが試料10の第1の面12にほぼ平行となるように回転される。電子ビームシステム40に対するFIB30の従来の配向が約50~60度である場合、このステップは、従って、一般的には、FIBビームシステム30が第1の試料面12上の関心領域11に対して正しく配向されるのを確保するために、約140~150度の試料傾斜を伴う。
図1Bに示すようにミリングの正しい配向になると、従来のFIB試料リフトアウトと同様に、FIBを使用して傾斜トレンチをミリングすることができる。特に、最初の粗いミリングステップを使用して、最大1~2マイクロメートル以内の試料縁部14で、第2の面上のトレンチ20をミリングすることができる。粗ミリングステップは、第2の試料面13からより速い速度で材料を除去できるように、ビーム電流を増加させて実施することができる。次に、ビーム電流を減少させて、関心領域11を含む試料層を1~2マイクロメートルの厚さから電子透過性までミリングするファインミリングステップを実施することができる。これは、更なる特性評価のための電子透過性を確保するために、試料層15を100ナノメートル未満の厚さにミリングするステップを含む。
【0056】
図1Cに示すように、最終的に作製された試料は、周囲のバルク試料による支持が維持された100ナノメートル未満の厚さを有する電子透過性試料領域15を有する。従来のFIBリフトアウトのように、電子透過性例15をバルク試料10から解放して試料グリッドに除去するための更なるミリングステップは必要ではなく、むしろ
図1Cに示すように、電子透過性領域15を周囲の試料10により支持された状態で更なる特性評価を実施することができる。精巧な電子透過性試料領域15は、バルク試料10によって支持されたままであるので、試料をマイクロマニピュレータプローブに取り付けて、バルク試料10から解放し、更に解析するために試料グリッドにこれを取り付けるのに必要なステップに比べて、ミリングステップの数が減少することに起因して、試料作製の失敗率が大幅に減少し、第1のイオンビームによる試料への損傷が減少する。
【0057】
図1Cに示す試料作製の段階では、試料10は、その後、追加の特性評価のために更なる機器に移送することができる。特に、作製された試料10は、電子透過性であるが、関心領域11の表面12も保持しており、例えばAFMのように表面が無傷であることを必要とする表面モルホロジー解析と共に、異なるSEMにおける電子イメージング及び回折などの更なる相関的表面及び構造特性評価技術を可能にする。また、
図1Bに示す電子ビーム41で電子透過性試料層のミリングされた表面21を照明することができ、入射表面21が無傷であることに依存しないが、高品質のデータを取得することを可能にするために出口表面が保存されていることを必要とする技術を可能にすることができる。
【0058】
本発明の好ましい実施例では、試料作製ステップは、これらのステップを現場で実施することを可能にするハードウェアを更に含む機器内で実施され、特性評価のために試料を第2の機器に移送する必要性を排除する。本発明の試料作製方法の恩恵を受ける特性評価技術の例について、
図2~
図4を参照して説明する。
【0059】
(透過菊池回折解析)
図2は、本発明に従って作製された試料から透過菊池回折(TKD)データを得るための配置を示す図である。TKDは、本発明の試料作製方法と組み合わせることで、通常はTEM内でのみ可能である、SEM内の試料からナノスケールの結晶学的情報(10nm未満まで)を得る可能性を提供するので、特に興味深いものである。
【0060】
TKDデータは、SEM内の従来の電子後方散乱回折(EBSD)ハードウェアで得ることができる。EBSDは、特に多結晶フィルムなどの結晶構造に関する豊富な情報を提供できるが、従来のEBSDは分解能に限界があり、ナノ結晶構造(寸法が100ナノメートル未満)の解析には適していない。通常は、このようなナノ結晶試料の解析にはTEMが必要となる。しかしながら、TEMを使用するには、複雑で時間のかかる試料作製と、作製後の試料をTEMに移送することが必要となる。
【0061】
TKDは、EBSDと同じハードウェア及びソフトウェアを使用して、電子透過性試料を通じて散乱された電子の強度画像を収集する。TKDでは、従来のEBSDでは不可能だった、膜厚が5~100ナノメートルのナノ結晶である薄膜構造の解析が可能である。TKDは出口表面の結晶性にのみ敏感であるので、本発明による試料作製技術は、表面関心領域11を完全に保存することができることから理想的に好適である。試料10を
図2に示すように配向することにより、試料関心領域15のミリングされた裏面21が電子ビーム41に向けて配向され、透過電子及び散乱電子42が、保存された表面関心領域から収集される。
【0062】
従って、本試料作製法及びTKD特性評価を組み合わせることで、TEMに優る利点を提供する。
【0063】
TEMのイメージングと回折は、試料の全厚みの投影であるため、試料の入口と出口の両方の表面の品質に遙かに高い要求があるのに対し、TKDでは、入口表面は重要ではなく、異なる材料である可能性さえある。このため、試料作製時に細心の注意を必須となり、入口表面と出口表面の両方の結晶性を確保するために低電流/低エネルギーのイオン研磨が必要なTEM試料作製と比較して、ミリングプロセスは、遙かに迅速に行うことができる。
【0064】
図2は、TKD解析のためのハードウェアを含む機器と試料10の向きを示している。特に、装置は、EBSD検出器43、すなわち、CCD、CMOS又は直接電子検出カメラのような電子強度イメージング検出器を含む。
図2に示すように、試料10は、集束電子ビーム41が電子透過性表面層15を通して配向され、試料10の第1の表面12から現れる散乱電子42が電子イメージング検出器43で収集されるように、電子ビームシステム40に対して配向される。
【0065】
電子ビーム41は、電子透過性表面層のミリングされた裏面21に配向されるので、TKDが出口面のみを損なわれないままでいる必要があることを考慮すると、イオン注入に起因する結晶性の低下は、得られるデータの品質には影響しないことになる。集束電子ビーム41の照射角度は、トレンチ20の幾何形状によって制限され、浅い傾斜トレンチでは、電子透過性試料15に対してより垂直に近い照射角度を可能にするが、より多くの量のミリングと除去すべきより多くの材料が必要になる。一般に、検出器43での強い信号を収集可能とする一方で、過剰なミリングを必要としない好適な妥協点は、試料10の第1の表面12に対して65度から75度の角度で角度付き底表面を有する傾斜トレンチを設けることである。これにより、電子透過性試料15の平面に対して65度から75度の集束電子ビームの対応する角度が可能となる。図示のように、散乱電子42は、イメージング検出器43で収集され、
図3Aに示すように、透過菊池回折(TKD)パターンを収集する。
【0066】
試料15のミリングされた表面21からの電子ビームの各入射点では、
図3Aに示すようなTKDパターン50を収集することができる。TKDパターンは、電子ビーム41によって照射された試料の領域に対して配向を示し結晶学的情報を提供する複数の菊池バンド51を含む。
図2に示す電子透過性試料層15の表面を横切って電子ビーム41を走査することにより、多結晶膜を形成する結晶粒の配向のマップは、
図3Bに示すように形成することができる。上記で説明したように、この分解能での結晶粒のイメージングは、一般にTEM内でのみ可能であるが、本発明の試料作製技術により、試料の作成及び特性評価を同じFIB SEM機器内で実施することが可能である。
【0067】
(TKDデータの処理)
装置は、好ましくは、
図2に例示されたTKD解析プロセスから収集されたTKDデータを処理するためのソフトウェアを更に含む。本装置は更に、複数のコンピュータ実装方法ステップを実施するためのソフトウェアを含む処理ユニットを含むことができる。特に、ソフトウェアは、ビームが入射する結晶粒の配向を決定するために、菊池バンド51の検出を提供する方法ステップを実施するように構成することができる。ソフトウェアは更に、既知の自動化技術よりも菊池バンドを識別する精度が向上した特徴を含むことができる。一次バンド検出(PBD)」又は「TKD最適化バンド検出」と呼ばれるこのプロセスは、以下のようにソフトウェア内で実施される。
【0068】
図2に例示した手順を用いてTKDパターン50の1又は2以上の電子強度画像が得られると、既存の菊池回折パターン処理技術から周知のように、TKDパターン50は、最初に、ハフ変換を用いて処理される。
図3Cのハフ画像に示すように、元のTKDパターンにおける菊池バンドは、ピーク53に対応する。
図3Cの拡大部分に示すように、ハフ画像のピーク53の1つの周囲には、ピーク最大値が識別され、ピーク53の両側には、p-min1及びp-min2の2つの最小値が識別される。2つの極小値の間では、最も急な強度勾配が、元の菊池バンド51の縁部に対応する縁部p-edge1及びp-edge2として識別される。2つの縁部p-edge1、p-edge2の間の間隔は、元の菊池バンド51のバンド幅を定める。縁部間の中点は、菊池バンドの中心として決定される。このようにして画像中の菊池バンドの位置を識別することにより、菊池パターン50をインデックス化して結晶配向を決定することができる。ビームを試料表面にわたって走査することにより、
図3Bに示すように配向マップ56を形成することができ、ナノスケールの結晶学的情報を提供することができる。
【0069】
この方法では、画像中の特徴を菊池バンドと誤って識別する恐れがあるという問題が発生する場合がある。これは、配向の正確なインデックス付けを妨げる可能性がある。本方法は、複数の更なるステップを実施して菊池バンド51の自動識別を更に最適化し、これらの問題に対処することができる。
【0070】
最初に、アルゴリズムによって、試料中に存在する1又は2以上の予想される相(すなわち、材料と対応する結晶構造)の選択を可能にすることができる。これらの相は、例えば、装置内の分光分析によって自動的に識別することができ、又は、ユーザによって入力することもできる。アルゴリズムは、予想される相リストにおける相の最大及び最小格子間隔を使用して、パターン内の菊池バンド51の最大及び最小バンド幅を決定することができ、これにより、ソフトウェアは、菊池バンドとして識別された特徴が予想される結晶学的相と一致しない場合にこれらを自動的に破棄することができる。試料中に存在する最大格子間隔は、TKDパターンに存在する菊池バンド51の最小幅を決定し、同様に試料の材料中に存在する最小格子間隔は、菊池回折パターン50にて予想される菊池バンドの最大幅を決定する。
【0071】
ソフトウェアはまた、菊池バンド51をより正確に識別するために、他の複数のパラメータを考慮することができる。特に、アルゴリズムは、パターン中心(すなわち試料15に最も近い検出器43の部分)に対する関心のある菊池バンド51の位置を考慮に入れている。パターン中心に対する菊池バンドの相対的な位置は、菊池回折パターン50のグノモニック歪みをもたらす。パターン中心に対して測定される菊池バンド51の距離を考慮することで、アルゴリズムは、回折パターン50の形状に対するグノモニック歪みの影響を自動的に軽減することができる。アルゴリズムは更に、パターン50を形成するのに使用される電子ビーム41の加速電圧を考慮するように構成することができる。より高い加速電圧は、電子波長を減少させるので、これはまた、回折パターン50における菊池バンド51の幅を減少させる。
【0072】
予想される相リストにおける相の最大格子間隔、パターン中心に対する菊池バンド51の位置、及び電子ビームの加速電圧を考慮して、特定の菊池バンド51について予測される最小バンド幅を計算することによって、菊池バンド幅の下限を正確に予測することができる。これにより、電子像50中の狭い特徴を菊池バンドとして誤って識別し、配向測定の精度を低下させることが低減される。この菊池バンド検出を最適化する方法は、
図4Aから
図4Cに示されている。
【0073】
上述したように、TKDパターン50は、
図2に例示された試料及び検出器の配向から得られる。従来の菊池バンド検出方法は、多くの場合、広い菊池バンドの縁部でのコントラスト変動を個々の菊池バンド自体として誤って識別する。
図4Bに示されるように、従来の菊池バンド検出方法は、狭いコントラスト変動54を菊池バンドとして検出する。従って、TKDパターンをインデックス化する際に、これらのコントラスト変動が誤って考慮され、結晶配向を正確に決定することができなくなる。菊池バンド51の最小幅を予測する上記の一次バンド検出方法を用いて、計算された最小予測幅に基づいて、
図4Bに示される狭いコントラスト変動54が無視される。このようにして、
図4Cに示すように、これらの菊池バンド55の中心に沿って、広い菊池バンドが正しく識別される。
【0074】
収集されたTKDパターン内の菊池バンドを識別するためのこれらの方法ステップは、バンド検出とその後の結晶配向測定の精度を大幅に向上させる。これらの方法は、TKDパターン中心が回折パターンの上縁より上に位置することができる、
図2に示される典型的なTKD幾何形状で作業する場合に最大の影響を及ぼす。従って、装置の一部としてコンピュータ上で動作するソフトウェアに実装することができる、上述の方法ステップは、
図2の上述の試料作製及び解析ステップと相乗的に結合されて、SEM内の試料から高品質のナノスケール構造情報を取得することができる。ソフトウェアステップは、従来的に作製された試料から得られたデータに適用することができるが、上述した本発明の方法ステップと共に適用されると、更に増大した利点が得られる。
【0075】
ソフトウェアはまた、最小格子間隔(従って、最大菊池バンド幅)の知識を組み込むこともできる。特に、予想される相リストからの最小格子間隔の知識は、パターン中心に対する菊池バンド51の位置及び電子ビームのエネルギー(加速電圧)と共に、
図3Cの拡大部分に示されるように、最大菊池バンド幅を予測し、ひいてはバンド縁の検索を開始する位置を決定するのに使用することができる。最小格子間隔の知識により、システムは、最初に検出されたバンド中心からどの程度離れているかを知り、ハフ空間画像内でバンド縁を探索すること、並びに検出されたバンド幅の上限を提供することができる。これにより、ハフ画像内で、ピーク53の周囲で、例えばサブピクセル分解能でバンド縁p-edge1及びp-edge2をより高精度に探索して、バンド縁及び2つの正確なバンド縁位置の中間として割り当てられたバンド中心をより正確に識別することができる。
【0076】
表面関心領域11上に表面領域を保存した後、
図2に示すような幾何形状に試料を単に再配向して画像を収集することができる試料作製方法と、得られたTKDパターンの解析のための上述の方法ステップとの組み合わせにより、SEM内の試料から、既知の方法を用いた従来可能であったよりも遙かに高い分解能の構造データを取得することができる。
【0077】
(X線分光特性評価)
本発明による試料作製方法はまた、試料10に対して更なる特性評価技術を実施することができる。
図5は、上述の方法を用いて試料を作製した後、電子透過性試料15に対して高分解能X線分光法を実施する幾何形状を示す図である。但し、エネルギー分散型X線分光法(EDS)は、本方法のミリングステップの前に、試料の第1の面12上の関心領域11に対して実施することができる。特に、電子ビーム41と試料10との相互作用体積が、試料の比較的大きな体積からX線45が発生することに起因して、データの分解能が制限される。従って、データの分解能は、試料表面の従来のEDSにおいて制限され、電子ビームエネルギー(加速電圧)を著しく低下させない限り、特定の結晶の寸法が100ナノメートル未満である可能性がある多結晶薄膜の高分解能データを収集するに使用することはできない。
図5に示すように、電子ビームシステム40及びX線検出器44に対して試料を相対的に配向することにより、TEMからのリフトアウト又はTEMへの移送をする必要がなく、電子透過性薄膜から高分解能EDSデータを収集することができる。その代わりに、
図1Bに示すように、ミリングステップが実行されると、電子ビーム41が関心領域11を含む試料10の第1の面12に垂直な状態で、試料を
図5に示す向きに傾けて戻すことができる。
【0078】
試料の幾何形状により、集束電子ビーム41は、高分解能のX線データを提供するために、小さなスポットサイズに集束させて、電子透過性試料15の極めて小さな領域からX線45を蛍光させることができる。
図3に示すように、X線検出器44を試料の第1の表面12に面して配置することにより、X線検出器44は、電子透過性試料層15からのX線のみを収集し、電子ビームが電子透過性表面層を透過して下のバルク試料10上に生成されるX線からは収集しない。従って、電子ビーム41と検出器44の両方を試料の第1の面12と及び表面関心層11に面することで、高分解能のX線データを得ることができる。SEMにおいて最大30kVのビーム電圧が利用可能であり、このタイプの高分解能EDS解析は、試料の作製に使用される同じSEM内で実施することができ、このタイプの解析に通常必要とされるTEMへの移送の必要性を排除する。電子透過性試料層15の表面にわたって集束電子ビーム41を走査することによる従来技術と同様に、X線分光画像を得ることができ、
図2に示す配向から得られたTKDデータ及び
図1Aに示すようにミリングが実施される前の試料表面から得られた何れかの他のデータとの相関解析を行うことができる。
【0079】
(多段階の試料作製及び解析シーケンス)
上述したように、本発明による試料作製及び解析技術の主な利点の1つは、試料を作製して、例えば、関連する信号を検出するための適切なハードウェアを備えたFIB-SEMなどの同じ装置内で複数の特性評価技術を全て実行できることである。
図6Aから6Eは、試料を特性評価するプロセスにおける幾つかの例示的なステップを示しており、これらは全て同じ装置内で実行することができる。試料を作製及び解析するための装置は、電子透過性試料層15を作製できるようにするために、試料13の第2の面をミリングして第1の面12に隣接するトレンチを設けるのに適したミリングビームシステム40を備える。装置は更に、イメージング及び特性評価のための電子ビームシステム40と、様々な信号を収集するための1又は2以上の検出器43、44とを含む。
図6の具体例では、装置は、
図6Cに示すように試料をミリングするための集束イオンビームを生成するためのFIBシステム30と、散乱電子を収集するための電子イメージング検出器(すなわちEBSD検出器)43と、試料から蛍光を発するX線を収集するためのX線検出器44と、を含む。
図6A~
図6Eは、特性評価プロセスにおける様々なステップを示しており、これらの全ては、電子ビームシステム40、ミリングビームシステム30、及び検出器43、44に対して試料10を正しく配向するだけで簡単に取得することができる。
【0080】
最初に
図6Aに示すように、データは、ミリングステップの前に、試料10の第1の面12上の表面関心領域11から収集することができる。例えば、試料は、二次電子及び後方散乱電子イメージング、陰極ルミネセンス及びEDSを含む、試料表面上で実施される種々の特性評価技術を可能にするために、第1の面12が電子ビーム41に対して垂直になるように配向することができる。次に、試料は、
図6Bに示すように、従来のEBSDのために電子ビームに対して傾斜させることができる。特に、試料の第1の面は、従来のEBSDのための最適な幾何形状を提供するために約70度を通して傾けることができ、結果として得られた散乱電子信号がEBSD検出器43で収集される。
【0081】
図6Bはまた、ミリングステップを実行する前に、方法に含めることができる任意選択の追加ステップを示す。特に、装置は更に、ガス注入システムを備えることができ、本方法は、ガス注入システム及び電子ビーム支援堆積を用いた電子ビームを用いて保護層19を堆積するステップを含むことができる。保護層19は、ミリング中の意図しないイオンビーム損傷から試料の第1の面12を保護する役割を果たすことができ、また、電子透過性試料層15のミリングされた表面の均一性を向上させることができる。保護層は、共通縁部14に隣接する試料の第2の面13の一部にわたって延び、好ましくは共通縁部14を覆って延びるように堆積させることができる。保護層19は、後続の
図6C~
図6Eには示されていないが、明らかに、この任意選択のステップが含まれる場合、保護層の一部が電子透過性領域15の縁に留まることになる。
【0082】
試料表面のこれらの従来のイメージング及び特性評価技術が実施された後、
図6Cに示すように、
図1を参照して上述した試料作製ステップを実施することができる。特に、試料10は、集束イオンビーム31が試料10の第1の面12と略平行であるように、
図6Aの平面図配向に対して140~150度傾斜することができる。ミリングステップは、上述のように進行して、試料10の第1の面12上に表面関心領域11を含むトレンチ及び電子透過性試料層を作製することができる。次に、試料は、
図6Aの平面図配向に対して約150~160度まで傾けて、集束電子ビームを電子透過性試料層15のミリングされた表面に向けることができ、薄片化領域15のTKD解析を実施するために、試料層15を通って散乱された電子が電子イメージング検出器43で収集される。最後に、
図5を参照して説明したように、高分解能EDSデータを収集するために、電子透過性試料領域15にわたって集束電子ビームを走査することによって高分解能EDSを実施することができるように、試料は、
図6Eに示すように平面図配向に戻すことができる。
【0083】
図6に示す必要な配向の各々を提供するために、装置は、好ましくは、
図6Aから
図6Eの配向の各々の間で試料を傾斜することを可能にする、すなわち、0~160度の傾斜を可能にする試料ホルダーを含む。
【0084】
本発明による方法及び装置は、1又は2以上の更なる特徴を含むことができる。
【0085】
図7は、本発明の特定の実施例において使用できる任意選択の追加の方法ステップを示す。このステップは、試料10の第1の面12上の領域をミリングビームシステム30でミリングして、上述の後続の解析ステップの1又は2以上のため表面関心領域を作製することを含む。特に、本方法は、試料10の第1の面12をミリングビームシステム30でミリングして、第1の面12にトレンチ16を設け、これにより表面関心領域11内に平坦な研磨面を設けるステップを含むことができる。これにより、特に、表面関心領域が十分に作製されていない場合、又は最初の試料研磨から幾つかのトポグラフィーを保持している場合に、解析により均一な試料領域が提供される。また、試料縁部の丸みつけに関連する問題を最小限に抑えることができる。
【0086】
別の重要な利点は、均一な厚さの最終試料の作製を容易にすることである。特に、第1の面12上のトレンチ16のこの最初のミリングのためのミリングビーム角度が既知であるので、傾斜トレンチ20のその後のミリング及び電子透過性試料層15の薄片化のためのミリングビーム角度をより正確に選択し、均一な厚さを提供することができる。試料の第1の面におけるトレンチ16の最初のミリング及びその後の傾斜トレンチ20内の電子透過性領域15の薄片化に対して同じミリングビーム傾斜角を選択することによって、電子透過性試料層15の面が平行となる。これにより、その後の解析(TKDなど)に高品質試料を提供し、改善された結果を提供する。
【0087】
図7のこの上面ミリングステップは、好ましくは、試料10の第2の面13における傾斜トレンチ20のミリングの前に行われる。
図1を参照すると、従って、このステップは、
図1Bのミリングステップの前に行われて、試料12の第1の面を研磨し、傾斜トレンチ20をミリングする前に試料関心領域11を作製することになる。好ましくは、この予備作製ステップが使用されると、保護層19(典型的にはPt)が最初に試料の第2の面上に堆積され、試料12の第1の面のより良い品質のミリングされた表面を確保する。
【0088】
従って、試料作製ステップの好ましい順序は、以下の通りである。最初に、
図6Bを参照して説明したように、電子ビーム支援堆積法を用いて、試料10の第2の面13に保護層を堆積させる。次に、トレンチ16が、FIB30を用いて試料の第1の面にミリングされ、表面関心領域11に平坦な研磨面を提供する。次に、本方法は、
図1B及び
図6Cを参照して説明したように、傾斜トレンチ20をミリングすることによって進み、ここで、前のステップからのミリングビーム傾斜角を使用して傾斜トレンチ20のミリングビーム傾斜角を選択し、電子透過性領域15の均一な厚さを確保することができる。
【0089】
図7の任意選択のステップは、本発明の方法が、第1の面12上に堆積された薄膜を含む試料を作製するのに使用される場合(下にある層を曝露することが望ましい場合を除く)、又は試料10の第1の面12が既に完全に研磨されている場合には必要ではないが、他の場合では、その後の解析のために高品質の電子透過領域15を作製するのに有益である。
【0090】
本方法の幾つかの実施例では、1又は2以上の方法ステップは、装置によって自動的に実行されるように構成されている。特に、装置は、上述の試料作製及び/又は特性評価ステップを実行するための自動化ルーチンを実施するように構成されたソフトウェアを含むことができる。
【0091】
上述した好ましい実施例では、解析ステップは同じ機器内で実施されるが、ステップの幾つかは異なる機器で実施することができることは理解されるであろう。例えば、試料の作製及びミリングステップは、FIB SEMで実施され、その後、更なる特性評価のために別のSEMに試料を転送することができる。
【符号の説明】
【0092】
10 試料
11 表面関心領域
12 第1の面
13 第2の面
14 共通縁部
40 電子ビームシステム
41 電子ビーム
【国際調査報告】