(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-09-13
(54)【発明の名称】高分子の多次元分光法
(51)【国際特許分類】
G01N 21/21 20060101AFI20230906BHJP
G01N 21/27 20060101ALI20230906BHJP
G01N 21/64 20060101ALI20230906BHJP
G01N 33/483 20060101ALI20230906BHJP
【FI】
G01N21/21 Z
G01N21/27 Z
G01N21/64 A
G01N33/483 E
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023507227
(86)(22)【出願日】2021-07-28
(85)【翻訳文提出日】2023-03-30
(86)【国際出願番号】 CA2021051057
(87)【国際公開番号】W WO2022020952
(87)【国際公開日】2022-02-03
(32)【優先日】2020-07-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523032397
【氏名又は名称】12198681 カナダ エルティーディー.
(74)【代理人】
【識別番号】110003797
【氏名又は名称】弁理士法人清原国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】プリストパ,デイビッド アラン
(72)【発明者】
【氏名】パカク,ジョン ステファン
【テーマコード(参考)】
2G043
2G045
2G059
【Fターム(参考)】
2G043AA03
2G043BA16
2G043EA01
2G043EA03
2G043EA15
2G043FA03
2G043GA10
2G043GB01
2G043GB12
2G043GB13
2G043GB21
2G043HA07
2G043LA01
2G043NA04
2G045AA40
2G045DA36
2G045FA15
2G045FA31
2G059AA02
2G059AA03
2G059BB12
2G059CC16
2G059EE01
2G059EE02
2G059EE03
2G059EE05
2G059EE07
2G059EE12
2G059FF05
2G059GG01
2G059GG04
2G059GG08
2G059JJ19
2G059KK01
2G059MM07
2G059MM09
(57)【要約】
【解決手段】サンプル分子を含むサンプルボリューム内の標的分子に関する情報は、音響力によって、及び/又は電磁場によって引き起こされる時間的に変化する場のシーケンスを、場の方向にサンプルボリュームに印加することによって得られ、ここで、時間的に変化する場のシーケンスが、サンプル内の標的分子について少なくとも2つの異なる摂動された分子構成のシーケンスを生成するように選択され、摂動された分子構成は、印加された場の方向に少なくとも部分的に相関する。プローブ放射線のシーケンスは、サンプル分子に印加され、相互作用放射線は、場の方向に関する複数の方向及び/又は偏光について集められた相互作用放射線の振幅を測定するために集められる。基準スペクトルを以前の実験から得る場合は、本方法は、サンプルボリューム内の標的分子を同定するために使用されることができる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
サンプル分子を含むサンプルボリューム内の標的分子に関する情報を得るための方法であって、
音響力によって、並びに/又は電場及び磁場を含む電磁場によって、又はそれらの任意の組み合わせによって引き起こされる時間的に変化する場のシーケンスを、場の方向に前記サンプルボリュームに印加することであって、
前記時間的に変化する場のシーケンスが、サンプル内の前記標的分子について少なくとも2つの異なる摂動された分子構成の時間的シーケンスを生成するように選択され、前記摂動された分子構成は、印加された場の方向及び時間依存性に少なくとも部分的に相関する、時間的に変化する場のシーケンスを、場の方向に前記サンプルボリュームに印加することと、
前記摂動された分子構成のうちの少なくとも2つについて、前記摂動された分子構成の時間的シーケンスで、前記サンプル分子に入射するプローブ放射線を指向することであって、入射プローブ放射線ビーム内の少なくとも1つの波長が少なくとも1つのサンプル分子と相互作用する、前記サンプル分子に入射するプローブ放射線を指向することと、
少なくとも2つの前記摂動された分子構成の各々において少なくとも1つの分子と少なくとも部分的に相互作用した相互作用放射線を集めることと、
場の方向に関する複数の方向及び/又は偏光について集められた相互作用放射線の振幅の時間的シーケンスを測定することと、
場の方向及び偏光の各々について、前記印加された場の時間的シーケンスに関する振幅と、前記印加された場の時間的シーケンスに関しない振幅を分離することと、
前記印加された場の時間的シーケンスに関する振幅から、標的分子に関する情報を得ることと
を含む、方法。
【請求項2】
前記サンプルボリューム内の標的分子の存在を検出するように、基準シグネチャーと比較することによって、測定された前記振幅から、前記標的分子を示すシグネチャーを同定することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記サンプル分子に入射する前記プローブ放射線は、プローブ放射線のシーケンスとして指向される、請求項1~2のいずれかに記載の方法。
【請求項4】
さらに、場の第1の時間的シーケンスは、少なくとも1つの標的分子に、場の第1の時間的シーケンスの方向に少なくとも部分的に関する第1の構成状態を取らせ、場の第2の時間的シーケンスは、前記少なくとも1つの標的分子に、前記第1の構成状態に対して摂動された構成状態のシーケンスを取らせ、相互作用放射線は、前記第1の構成状態に対して摂動された少なくとも2つの構成状態について測定される、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記印加された場に関連する時間期間及び前記摂動された分子構成に関連する時間期間は異なる、請求項1~4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
各印加された場について、相互作用放射線の振幅は、各印加された場が印加された時間からずらした複数の異なる時間で測定され、測定間の時間間隔は、印加された場間の時間間隔よりも小さい、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
各印加された場について、プローブ放射線の時間的シーケンスが印加され、プローブ放射線のシーケンスにおける各プローブ放射線について、相互作用放射線が測定される、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記時間的に変化する場は、周期的であり、シーケンスの少なくとも2つの場は、異なる周波数を有する、請求項1~7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
標的分子構成のシーケンスは、前記時間的に変化する場の周波数に関するものであり、相互作用放射線の振幅は、前記時間的に変化する場の周波数の少なくとも2倍の測定周波数で測定される、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
少なくとも1つの時間的に変化する場は、非周期的であり、前記相互作用放射線の振幅は、前記印加された場の変化間の最小時間間隔よりも小さい時間間隔で測定される、請求項1~9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
前記標的分子の構成は、印加された場に応答して時間とともに変化し、前記相互作用放射線の振幅は、少なくとも2つの異なる時間で形成される、請求項1~10のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
前記標的分子の構成は、前記標的分子の動的特性に少なくとも部分的に依存し、前記動的特性は、質量又は慣性モーメントである、請求項1~11のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
前記標的分子の構成は、前記標的分子と別の分子との間の相互作用に少なくとも部分的に依存する、請求項1~12のいずれかに記載の方法。
【請求項14】
前記時間的に変化する場のシーケンスの少なくとも1つの場は、電磁放射線として印加される、請求項1~13のいずれかに記載の方法。
【請求項15】
前記時間的に変化する場のシーケンスの少なくとも1つの場は、音響じょう乱として印加される、請求項1~14のいずれかに記載の方法。
【請求項16】
前記プローブ放射線のシーケンスにおける少なくとも1つのプローブ放射線は、電磁放射線である、請求項1~15のいずれかに記載の方法。
【請求項17】
前記プローブ放射線のシーケンスにおける少なくとも1つのプローブ放射線は、音響波である、請求項1~16のいずれかに記載の方法。
【請求項18】
前記時間的に変化する場のシーケンスは、同一直線上にない少なくとも2つの印加された電場を含む、請求項1~17のいずれかに記載の方法。
【請求項19】
前記電場は、異なる方向である、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
第1の方向に指向されたシーケンスにおける任意の第1の印加された電場状態に対して、第2の方向に指向された少なくとも1つの第2の印加された電場状態が存在し、前記第1の方向と前記第2の方向との間の角度は、πラジアンの整数倍でない、請求項18又は19に記載の方法。
【請求項21】
前記印加された電場は、大きさが異なる、請求項18~20のいずれか1項に記載の方法。
【請求項22】
少なくとも1つの電場の方向は、前記サンプル分子のアセンブリの遷移双極子モーメントの方向に対して選択される、請求項18~21のいずれか1項に記載の方法。
【請求項23】
前記電場は、前記サンプル分子内の前記標的分子の好ましい配向を誘導する第1の期間に印加されるアラインメント電場状態を含む、請求項18~22のいずれか1項に記載の方法。
【請求項24】
前記プローブ放射線は、前記好ましい配向に対して選択されたプローブ電場状態のシーケンスの方向を含む、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記相互作用放射線の振幅は、少なくとも2つの異なる偏光状態について測定される、請求項1~24のいずれかに記載の方法。
【請求項26】
印加された電場の第1のサブシーケンスが前記サンプル分子に印加されて、前記サンプル分子を第1の構成に構成し、印加された電場の第2のサブシーケンスが前記サンプル分子に印加されて、少なくとも2つの摂動された第2の分子構成を生成し、前記プローブ放射線が各第2の分子構成に入射し、前記相互作用放射線の振幅が測定される、請求項1~25のいずれかに記載の方法。
【請求項27】
前記時間的に変化する場のシーケンスの少なくとも一部は、変調周波数を有する周期的なものであり、変調周波数を有する前記相互作用放射線は、分子構成に関連する振幅を選択するために増幅される、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
各波長における前記相互作用放射線の振幅は、印加された磁場状態のサブシーケンスの変調周波数に対して分析される、請求項26または27に記載の方法。
【請求項29】
前記相互作用放射線は、ロックインアンプを使用して分析される、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
前記時間的に変化する場のシーケンスの少なくとも一部は、擬似ランダムシーケンスであり、前記相互作用放射線は、分子構成に関連する振幅を選択するために、擬似ランダムシーケンスに相関している、請求項1~29のいずれかに記載の方法。
【請求項31】
前記相互作用放射線の時間的にずらしたシーケンスは、分子構成に関連する放射線を選択するために、一時的に変化する場の配列に相関している、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
前記プローブ放射線に対する前記相互作用放射線の時間的に依存するドップラーシフトが測定される、請求項1~31のいずれかに記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高分子の多次元スペクトルを測定するための方法と、概して高分子の分光法とに関し、特に、生体分子への適用において、サンプル分子を含むサンプルボリューム内の標的分子の存在を検出するために使用することができる。
【0002】
関連出願
本開示は、2020年3月10日に発行された米国特許第10,585,044号に記載されている本発明者らによる、高効率多重化(High Efficiency Multiplexing)と題する特許、以下「HEMS特許」に開示されている分光計に関する開示に関する。
【0003】
本開示は、2020年2月19日に出願された米国仮特許出願第62/978671号、並びにいずれも2021年2月18日に出願された米国特許出願第17/178551号及びPCT出願第PCT/CA2021/050177号に記載された、本発明者らによるフィールドプログラマブルアナログアレイ(field programmable analog array)、以下「FPAA特許」に関する開示に関する。
【0004】
本開示は、2018年11月14日に出願された米国特許出願第62/767,186号、及び米国特許出願公開第2020/0150036号として2020年5月に公開された米国特許出願第16/683357号に記載された、本発明者らによる電気シグナルアナライザである高分解能多重化システム(High Resolution Multiplexing System)、以下「HRMS特許」に関する開示に関する。
【0005】
本開示は、本出願と同時に出願された、2020年7月31日に出願された、指向性化学反応速度論(Directed Orientation Chemical Kinetics)と題する出願である米国特許出願第63/059,288号、以下「DOCK特許」に関する。
【背景技術】
【0006】
生物学的高分子の構造及びダイナミクスに関する情報は、生命科学産業に必須である。生物学的高分子の総組成、配座及びダイナミクスを研究するために、振動分光法が使用されてきた。従来の振動分光法は、生物学的高分子及びそのアンサンブルのアンサンブル平均特性に関する情報を提供する。生物学的高分子は、同じ又は類似の原子の群(官能基)の繰り返しを複数含むことができ、そのスペクトル特徴は、溶媒和分子との群内の相互作用によって支配される。しかし、高分子内及び高分子間の長い範囲の相互作用は、選択規則を緩和させ、官能基内のエネルギーレベルに摂動を与える。さらに、高分子の構成は、動的であり、数十フェムト秒の時間スケールで起こる小規模の(官能基内の)再構成を伴う。数百から数千の特定の小規模の再構成を必要とする全体的な再構成には、著しく長い時間、典型的には、マイクロ秒を要する。したがって、アンサンブル平均スペクトルは、類似しているが同一ではないエネルギーレベルを有する複数の官能基からの寄与を含む。高分子内の類似している官能基間の遷移エネルギー(及び光子エネルギー)は、典型的には、相互の線幅未満によって分離し、分解することはない。したがって、高分子の異なる領域にある類似の官能基のスペクトル寄与を分離することができる方法が必要である。
【0007】
従来の二次元法は、フェムト秒レーザパルスを利用して、励起状態を作成し、近接する官能基間の結合を引き出す。従来の二次元分光法は、官能基間の相互作用を同定し、分子位置エネルギー関数における非調和性を調べるのに有用であるが、従来の方法は、類似しているが空間的に分離した相互作用を区別しない。さらに、達成可能なシグナル対ノイズは、レーザパルスエネルギーの固有の変動性によって限定される。
【発明の概要】
【0008】
本発明によれば、サンプル分子を含むサンプルボリューム内の標的分子に関する情報を得るための方法であって、
音響力によって、並びに/又は電場及び磁場を含む電磁場によって、又はそれらの任意の組み合わせによって引き起こされる時間的に変化する場のシーケンスを、場の方向に前記サンプルボリュームに印加することであって、
前記時間的に変化する場のシーケンスが、サンプル内の前記標的分子について少なくとも2つの異なる摂動された分子構成の時間的シーケンスを生成するように選択され、摂動された分子構成は、印加された場の方向及び時間依存性と少なくとも部分的に相関する、時間的に変化する場のシーケンスを、場の方向に前記サンプルボリュームに印加することと、
前記摂動された分子構成のうちの少なくとも2つについて、前記摂動された分子構成の時間的シーケンスで、前記サンプル分子に入射するプローブ放射線を指向することであって、入射プローブ放射線ビーム内の少なくとも1つの波長が少なくとも1つのサンプル分子と相互作用する、前記サンプル分子に入射するプローブ放射線を指向することと、
少なくとも2つの前記摂動された分子構成の各々において少なくとも1つの分子と少なくとも部分的に相互作用した相互作用放射線を集めることと、
場の方向に関する複数の方向及び/又は偏光について集められた相互作用放射線の振幅の時間的シーケンスを測定することと、
場の方向及び偏光の各々について、前記印加された場の時間的シーケンスに関する振幅と、前記印加された場の時間的シーケンスに関しない振幅を分離することと、
前記印加された場の時間的シーケンスに関する振幅から、標的分子に関する情報を得ることと
を含む方法が提供される。
【0009】
好ましくは、サンプル分子に入射する前記プローブ放射線は、プローブ放射線のシーケンスとして指向される。
【0010】
好ましくは、場の第1の時間的シーケンスは、少なくとも1つの標的分子に、場の第1の時間的シーケンスの方向に少なくとも部分的に関する第1の構成状態を取らせ、場の第2の時間的シーケンスは、前記少なくとも1つの標的分子に、第1の構成状態に対して摂動された構成状態のシーケンスを取らせ、相互作用放射線は、前記第1の構成状態に対して摂動された少なくとも2つの構成状態について測定される。
【0011】
好ましくは、印加された場に関連する時間期間及び摂動された分子構成に関連する時間期間は異なる。
【0012】
好ましくは、各印加された場について、相互作用放射線の振幅は、各印加された場が印加された時間からずらした複数の異なる時間で測定され、測定間の時間間隔は、印加された場間の時間間隔よりも小さい。
【0013】
好ましくは、各印加された場について、プローブ放射線の時間的シーケンスが印加され、プローブ放射線のシーケンスにおける各プローブ放射線について、相互作用放射線が測定される。
【0014】
好ましくは、時間的に変化する場は、周期的であり、シーケンスの少なくとも2つの場は、異なる周波数を有する。
【0015】
好ましくは、標的分子構成のシーケンスは、時間的に変化する場の周波数に関するものであり、相互作用放射線の振幅は、時間的に変化する場の周波数の少なくとも2倍の測定周波数で測定される。
【0016】
好ましくは、少なくとも1つの時間的に変化する場は、非周期的であり、相互作用放射線の振幅は、印加された場の変化間の最小時間間隔よりも小さい時間間隔で測定される。
【0017】
好ましくは、標的分子の構成は、印加された場に応答して時間とともに変化し、相互作用放射線の振幅は、少なくとも2つの異なる時間で形成される。
【0018】
好ましくは、標的分子の構成は、標的分子の動的特性に少なくとも部分的に依存し、動的特性は、質量又は慣性モーメントである。
【0019】
好ましくは、標的分子の構成は、標的分子と別の分子との間の相互作用に少なくとも部分的に依存する。
【0020】
この方法は、サンプルボリューム内の標的分子の存在を検出するように、以前の実験から得た基準シグネチャー又は文献から入手可能な基準シグネチャーと比較することによって、測定された振幅から、標的分子を示すシグネチャーを同定するために使用されることができる。
【0021】
本明細書における概念は、初期構成の標的分子がじょう乱の時間的シーケンスによって摂動されて摂動された構成の時間的シーケンスを生成し、標的分子の1つ以上の特性が少なくとも1つの摂動された構成について測定される、多次元分光法を提供する。
【0022】
本明細書における「構成」という用語は、固定された測定基準系に対する標的分子の原子座標のセットを指す。原子座標のセットは、標的分子の形状及び配向の両方を決定する。
【0023】
本明細書における「分子」という用語は、そのメンバー間の相互作用のために凝集単位として動的に作用する原子の群を指す。この群は、水等の小溶媒分子からタンパク質等の生物学的高分子までの範囲の任意のサイズであり得る。大きな分子では、原子運動間の相関の程度は、離れている群内の原子間よりも近接している群内の原子間の方が高い。本明細書における「分子フラグメント」又は「その一部」という用語は、全体として分子とのよりもサブグループ内でより高い程度の動力学的相関を有する原子のサブグループを指す。原子のサブグループは、例えば、アミノ基等の化学官能基であり得る。原子のサブグループは、例えば、高分子の側鎖であり得る。サブグループは、例えば、タンパク質内のドメインであり得る。本明細書における「摂動された構成」という用語は、標的分子が基底量子状態にある場合、標的分子の平均原子座標が、基底量子状態における初期構成の平均原子座標とは異なることを意味する。すなわち、摂動された分子及び摂動されていない分子の基底状態の原子座標が比較される。じょう乱の時間的シーケンスは、電磁的、音響的、又は電磁的と音響的との任意の組み合わせであってもよい。
【0024】
熱平衡でのサンプルでは、各分子又はその一部は、複数の最小位置エネルギーの間で熱活性化再構成を受ける。位置エネルギー関数は、分子の電子構成(共有結合)、水素結合、ファンデルワールス相互作用、イオン相互作用を記述する用語を含む。ここでの再構成は、分子又はその一部の少なくとも1つの原子が第1の空間ボリュームから第2の空間ボリュームに移動することを意味する。じょう乱の時間的に変化する印加されたシーケンスは、位置エネルギー関数を摂動させる。じょう乱は、直接印加される電磁場又は分子間相互作用を介して間接的に電磁気効果を課す音響じょう乱であってもよい。本開示の方法で使用され得る最小電磁場強度は、分子又はその一部の少なくとも1つの集団の構成の非熱的分布を誘導するのに十分である。電磁場強度が増加すると、熱的集団からの逸脱が増加し、各分子集団又はその一部に新しい構成状態が利用可能になり得る。すなわち、第1の分子集団又はその一部は、新しい1セットの構成状態を当該第1の集団に利用可能にするように電磁場強度を変化させることによって、第2の分子集団又はその一部と区別することができる。
【0025】
じょう乱に対する各分子又はその一部の動的応答は、印加される電磁場、分子電荷分布、質量分布、近接する分子又はその一部との相互作用、及び熱励起に依存する。ここで、印加された電磁場は、印加された音響波によって誘導された分子衝突からの可能性のある局所的な電磁気相互作用を含むと考えられる。各分子又はその一部は、印加された時間的に変化する電磁場によって駆動され、熱励起及び近接する分子又はその一部との相互作用によって減衰する減衰振動子として作用する。時間的に変化する電磁場に応答して、分子又はその一部は、時間的に変化する好ましい構成を有する。各タイプの分子又はその一部の時間的に好ましい構成は、印加される時間的に変化する電磁場と異なる位相関係を有し得る。DC又はゆっくりと変化する電場では、全ての分子又はその一部が同相である。印加される電場の周波数が増加するにつれて、重分子又は緊密に結合した分子又はその一部は、過駆動され、印加された電磁場と位相がずれる。したがって、印加される電磁場の周波数を変化させることによって、第1のセットの分子又はその一部は、時間的に変化する第1の好ましい構成を有することができ、第2のセットの分子又はその一部は、時間的に変化する第2の好ましい構成を有することができる。第1のセットの分子及び第2のセットの分子を含むサンプルの時間的に変化するスペクトルは、印加された電磁場方向に平行及び垂直に偏光されたプローブの電磁放射線を使用して記録され得る。第1のセットの分子及び第2のセットの分子を含むサンプルの時間的に変化する音響スペクトルは、印加された電磁場方向に平行及び垂直な軸上の音響プローブ波を使用して記録され得る。時間的に変化するスペクトルは、第1の好ましい配向及び第2の好ましい配向のスペクトル寄与を単離するために、時間的に変化する電磁場と相関している。相関は、例えば、ロックインアンプ又はスペクトラムアナライザによって実行され得る。
【0026】
本発明の重要な特徴によれば、測定されるサンプル分子の集合と、サンプル分子に入射する電磁場の時間的シーケンスを生成するように動作可能な電磁場発生手段とが提供される。電磁場のシーケンスは、電場、磁場、又は電場と磁場の任意の組み合わせを含むことができる。電磁場発生手段は、例えば、レーザであってもよい。電磁場は、例えば、上記で特定されたFPAA特許に示すフィールドプログラマブルアナログアレイによって生成され得る。サンプル分子は、例えば、FPAA特許に記載されているようにチャネル内に含まれ得る。
【0027】
上記又は以下の特徴のいずれかと独立して使用することができる本発明の重要な任意の特徴によれば、サンプル分子に入射する電磁放射線を指向するプローブ放射線手段、偏光分析手段、放射線測定手段及び計算手段が提供される。プローブ放射線手段は、プローブ放射線の波長(複数可)、位相、偏光、振幅、コヒーレンス、空間特性及び時間特性を調節する光学素子を含むことができる。好ましくは、プローブ放射線手段は、計算手段によって制御される。偏光分析手段は、選択された放射線の偏光を測定手段に伝達するように動作可能である。好ましくは、偏光分析手段は、計算手段によって制御される。放射線測定手段は、電磁放射線を電気シグナルに変換する少なくとも1つのトランスデューサ、及び、計算手段と通信する電気シグナルアナライザを最小限含む。電気シグナルアナライザは、例えば、アナログデジタル変換器(ADC)であってもよい。好ましくは、電気シグナルアナライザは、上記で引用された「HRMS特許」に記載されたタイプのものである。放射線測定手段はさらに、波長、位相、コヒーレンス、空間特性及び時間特性によってサンプル分子と相互作用した放射線のエネルギーを測定するための計測手段を含んでもよい。計測手段は、例えば、分光計、撮像分光計、干渉計、又はそれらの任意の組み合わせであってもよい。分光計は、上記で引用された「HEMS特許」に基づくものであってもよい。
【0028】
上記又は以下の特徴のいずれかと独立して使用することができる本発明の重要な任意の特徴によれば、時間的に変化する電磁場の少なくとも1つの周波数と相関する各測定された波長でシグナルを増幅するように動作可能であるロックインアンプが提供される。ロックインアンプは、計算手段と通信する自立型アナログデバイスとして、又は計算手段内のデジタルプロセスとして実装され得る。
【0029】
上記又は以下の特徴のいずれかと独立して使用することができる本発明の重要な任意の特徴によれば、スペクトラムアナライザが提供される。スペクトラムアナライザは、例えば、測定手段から測定された各波長の振幅の時間的シーケンスを受信し、各波長のフーリエ変換を介して周波数応答を計算してもよい。測定された各波長の周波数応答は、例えば、波長におけるスペクトル特徴に寄与する分子またはその一部の再配向速度と相関してもよい。
【0030】
上記又は以下の特徴のいずれかと独立して使用することができる本発明の重要な任意の特徴によれば、プローブ周波数で音響波を放射するように動作可能な音響送信機が提供される。上記又は以下の特徴のいずれかと独立して使用することができる本発明の重要な任意の特徴によれば、音響アナライザが提供される。音響送信機は、例えば、サンプル分子に入射し、それと相互作用する超音波を、第1の周波数で生成することができる。サンプル分子との相互作用は、サンプル分子の光学特性を生成又は変調し得る。サンプル分子との相互作用は、音響波の振幅、方向又は周波数を変化させてもよく、前述の変化は、音響アナライザによって測定される。音響アナライザは、例えば、第1の周波数とは異なる第2の周波数で音響波を測定し、第1の周波数と第2の周波数との差は、音響アナライザとサンプル分子又はその一部との間の相対運動(ドップラーシフト)に起因する。音響アナライザは、例えば、フォノン相互作用に起因した、伝達された音響周波数と受信された音響周波数との間の周波数シフトを測定し得る。
【0031】
前述又は後述の実施形態のいずれかと組み合わせて使用され得る実施形態では、時間的に変化する電場のシーケンスが、分析される分子を含むサンプルボリュームに印加され、少なくとも1つの分子タイプが、印加された電場のシーケンスに応答して初期構成から少なくとも1つの異なる摂動された構成に再構成し、少なくとも1つの摂動された構成を含むサンプルのスペクトルが測定され、少なくとも1つの電場は、サンプルボリューム全体に電圧を印加することによって生成される。スペクトルは、電磁放射線の吸収、放射、屈折又は散乱であってもよい。音響スペクトルは、測定され得る。磁気共鳴スペクトルは、測定され得る。さらに、いくつかの実施形態では、シーケンス内の少なくとも1つの電場は、電磁放射線(光子の束)の形態で印加され得る。印加された電場は、各分子の電荷分布と相互作用し、分子内の各原子に作用する既存の分子間力及び分子内力に方向性のある力を加えることができる。次いで、分子構成は、各原子における新しい正味の力に動的に調整され、摂動された構成のシーケンスを与える。単一の妨げられない工程が必要な場合、再構成ダイナミクスは高速(<1ps)であり得る。多くの工程が必要とされる場合、又は再構成を妨げる位置エネルギー障壁がある場合、再構成ダイナミクスは遅くなり得る(>1μs)。出発分子構成は一般に熱平衡にあり、統計力学の方法によって説明することができるが、摂動された構成のシーケンスは非平衡である。本発明は、これらの非平衡構成を相互作用又は測定に利用可能にする。好ましくは、電場のシーケンスのうちの少なくとも1つの電場は、サンプル中の少なくとも1つの分子タイプの再構成速度以下の周波数を有する。典型的には、再配向周波数は、1GHz未満である。
【0032】
前述又は後述の実施形態のいずれかと組み合わせて使用され得る実施形態では、時間的に変化する音響波のシーケンスが、分析される分子を含むサンプルボリュームに印加される。音響波は、音響波の伝達軸に沿って分子衝突を偏らせ、これにより、分子又はその一部を音響波伝播方向に対して優先的に配向させることができる。音響波のシーケンスは、分子又はその一部の集合の構成を設定する音響波の第1のサブシーケンスと、分子又はその一部の構成状態の時間的発展を引き起こす音響波の第2のサブシーケンスとを含むことができる。音響波は、例えば、分析される高分子に対する溶媒分子の変位及び再配置を引き起こし得る。例えば、溶媒分子の電気双極子モーメントの好ましい方向は、音響波によって変調されてもよく、溶媒電気双極子モーメントは、分析される高分子の電子構造を変化させる。溶媒分子は、例えば、水であり得る。音響波のシーケンスは、単一の周波数を含んでもよく、又は複数の周波数を含んでもよい。音響波周波数のシーケンスはチャープされてもよい。音響波は、例えば、圧電素子によって生成されてもよい。音響波は、例えば、電磁場によって分析される分子を含む溶液内で磁性体を移動又は振動させることによって生成され得る。電磁場は、例えば、上記で引用されたFPAA特許に記載されているようなフィールドプログラマブルアナログアレイによって生成することができる。
【0033】
前述又は後述の実施形態のいずれかと組み合わせて使用され得る実施形態では、時間的に変化する電場のシーケンスが周期的に繰り返されて、分子構成の周期的な時間的シーケンスが生成され、スペクトルセットが、各繰り返し期間の開始に対して一定の時間的オフセットで周期的に測定され、各時間的オフセットのスペクトルは、少なくとも1つの分子構成のスペクトルを提供するように相関される。電場は、サンプルボリューム全体に電圧を印加することによって直接的に、又は上述のように音響じょう乱の影響を通じて間接的に生成されてもよい。
【0034】
前述又は後述の実施形態のいずれかと組み合わせて使用され得る実施形態では、周期的電場は、分子の集合に印加され、時間的に変化する配向依存スペクトルは、測定され、スペクトルシグナルは、ロックインアンプに結合され、印加された電場周波数におけるスペクトルシグナル及び印加された電場との選択された位相関係を増幅させる。この実施形態は、例えば、印加された電場との選択された位相関係で振動する分子またはその一部のサブグループを選択するために使用することができる。
【0035】
前述又は後述の実施形態のいずれかと組み合わせて使用され得る実施形態では、周期的電場が分子の集合に印加され、時間的に変化する配向依存スペクトルが測定され、スペクトラムアナライザを用いて各波長におけるスペクトル振幅が分析され、電場周波数とスペクトル応答との間の位相関係が決定される。この実施形態は、例えば、各波長のサンプル分子の位相スペクトルを測定するために使用することができる。
【0036】
前述又は後述の実施形態のいずれかと組み合わせて使用され得る実施形態では、印加される電磁場のシーケンスは、イオン化を引き起こすか、電子を励起状態に促進する1つ以上の高周波電磁場(すなわちUV、X線)、及び、変化した電子状態に作用することによって分子構成の変化をもたらす低周波電場のシーケンスを含んでもよい。
【0037】
前述又は後述の実施形態のいずれかと組み合わせて使用され得る実施形態では、電場のシーケンスがサンプル分子の集合に印加され、サンプル分子の偏光スペクトルのシーケンスが測定され、偏光スペクトルのシーケンスが分析されて、サンプル分子の少なくとも1つの動的特性に関する情報が提供される。動的特性は、例えば、質量又は慣性モーメントであってもよい。印加される各電場は、例えば、サンプル分子又はその一部の少なくとも一部上に異なる好ましい配向を誘導してもよい。分子の配向度は、例えば、印加される電場の強度及び持続時間に依存してもよい。各異なる好ましい配向の偏光スペクトルは異なってもよい。
【0038】
前述又は後述の実施形態のいずれかと組み合わせて使用され得る実施形態では、プローブ放射線は、少なくとも部分的に偏光される。プローブ放射線は、直線偏光され得、例えば、少なくとも偏光方向の遷移双極子モーメントのベクトル成分を有するサンプル分子と相互作用し得る。プローブ放射線は、右円偏光又は左円偏光であってもよい。この場合、プローブ放射線は、円偏光の方向に応じて異なってキラル分子又はその一部と異なって相互作用する。
【0039】
前述又は後述の実施形態のいずれかと組み合わせて使用され得る実施形態では、プローブ放射線が少なくとも2つの異なる方向からサンプル分子に印加される。プローブ放射線は、電磁波又は音響波であってもよい。好ましくは、異なる方向は、直交する方向である。プローブ放射線は、パルスの時間的に変調されたシーケンスの一定の供給源からのもの、例えば、パルスレーザからのものであってもよい。
【0040】
前述又は後述の実施形態のいずれかと組み合わせて使用され得る実施形態では、磁場のシーケンスがサンプル分子の集合に印加され、各磁場について、プローブ放射線の少なくとも2つの偏光が相互作用し、相互作用した放射線が測定されて、偏光スペクトルが生成され、偏光スペクトルのシーケンスが分析されて、サンプル分子の少なくとも1つの動的特性に関する情報が提供される。磁場のシーケンスは、電場が印加されるのと同じ時間間隔の間に印加されてもよく、電場は、摂動された構成を誘導し、磁場は、摂動された構成のスペクトル測定を向上する。プローブ放射線の偏光は、直交直線偏光であってもよい。プローブ放射線の偏光は、右円偏光又は左円偏光の放射線であってもよい。印加される磁場の各々は、例えば、サンプル分子またはその一部の少なくとも一部について、異なる量子状態間の分裂を変化させてもよい。印加される磁場の方向は、例えば、入射するプローブ放射線の方向と一致してもよい。スペクトルは、例えば、磁気振動円二色性スペクトルであってもよい。
【0041】
前述又は後述の実施形態のいずれかと組み合わせて使用され得る実施形態では、時間的に変化する磁場が、優先的に配向された分子に印加される。印加された磁場は、例えば、第1の配向を有する第1のタイプの分子と第2の配向を有する第2のタイプの分子との間のスペクトル差を強調し得る。
【0042】
前述又は後述の実施形態のいずれかと組み合わせて使用され得る実施形態では、第1の時間間隔の間に、サンプル分子の集合に電場が印加され、サンプル分子の少なくとも一部を、印加された電場に対して配向させ、磁場がオフに切り替えられ、サンプル分子の偏光スペクトルの時間的シーケンスが測定され、偏光スペクトルの時間依存性が分析されて、分子の配向緩和プロセスに関する情報が提供される。例えば、タンパク質分子を含む溶液のダイナミクスは、印加された電場方向に平行及び垂直に偏光された赤外線スペクトルの時間的シーケンスを測定することによって解明されてもよい。電場は、1msにわたって印加され、タンパク質分子を電場に対して配向させ、次いで、電場がオフに切り替えられる。次いで、電場方向に平行及び垂直偏光されたタンパク質分子のスペクトルは、タンパク質構造の再配向の期間が測定されるよりも短い時間間隔で測定される。実験的に、タンパク質の再配向は通常、100kHzから1MHzであるため、これらの運動を測定するには、例えば、0.0001ms間隔(10MHz)の時間間隔が適切である。より小さいスケールの構造には、より短い時間間隔が適切であり得る。いくつかの実施形態では、偏光スペクトルの時間的シーケンスは、一定のプローブ放射線束で測定される。一定のプローブ放射線束は、例えば、黒体放射または連続発振レーザによって提供されてもよい。いくつかの実施形態では、偏光スペクトルの時間的シーケンスは、時間的に変化するプローブ放射線束で測定される。例えば、プローブ放射線は、パルスレーザからのものであってもよく、パルス持続時間及びパルス間隔は、振幅測定の時間分解能を決定する。この場合、フェムト秒又はより良好な時間分解能が達成され得る。
【0043】
前述又は後述の実施形態のいずれかと組み合わせて使用され得る実施形態では、分子の集合に第1の定電場が第1の方向に印加されて、第1の定電場に対して好ましい分子配向を誘導し、かつ、分子の集合に第2の非定電場が第2の方向に印加されて、分子の集合の偏光スペクトルが測定されて、分子の動的特性に関する情報が提供され、第1の定電場及び第2の非定電場の方向は、同一直線上にない。好ましくは、非一定の第2の電場の方向は、一定の第1の電場に垂直である。好ましくは、偏光スペクトルは、第1の定電場の方向に平行及び垂直な偏光について測定される。
【0044】
前述又は後述の実施形態のいずれかと組み合わせて使用され得る実施形態では、時間的に変化する電場が、複数の分子タイプからなる分子の集合に印加され、第1のタイプの分子に対して電場によって誘導される配向度は、第2のタイプの分子に対して誘導される配向度よりも大きい。例えば、第1のタイプの分子は、第2のタイプの分子に等しい双極子モーメント及び第2のタイプの分子よりも小さい慣性モーメントを有し得る。慣性モーメントが小さいため、第1のタイプの分子は、印加された電場に対してより高い速度で配向することができる。したがって、第1のタイプの分子の配向依存スペクトルは、第2のタイプの分子の配向依存スペクトルとは異なる時間依存性を有する。
【0045】
前述又は後述の実施形態のいずれかと組み合わせて使用され得る実施形態では、分子の集合に第1の定電場が第1の方向に印加されて、第1の定電場に対して好ましい分子配向を誘導し、かつ、分子の集合に第2の非定電場が第2の方向に印加されて、分子の集合の偏光スペクトルが測定されて、分子の動的特性に関する情報が提供され、第1の定電場及び第2の非定電場の方向は、同一直線上にない。好ましくは、非一定の第2の電場の方向は、一定の第1の電場に垂直である。好ましくは、偏光スペクトルは、第1の定電場の方向に平行及び垂直な偏光について測定される。
【0046】
前述又は後述の実施形態のいずれかと組み合わせて使用され得る実施形態では、周期的に変化する電場が、分子の集合に印加され、分子は、周期的に変化する電場に対して時間的に配向し、分子の集合の配向依存スペクトルは、(ナイキスト定理を満たすように)電場の期間ごとに少なくとも2回測定される。分子の集合は、例えば、複数の異なるタイプからなり得、各分子タイプは、異なる時間依存性を有する周期的電場に対して配向する。具体的には、各分子タイプは、質量、慣性モーメント、印加された電場と相互作用する電気多重極モーメント、及び隣接分子との相互作用によって決定される振動の振幅及び位相によって、減衰振動子として動的に挙動し得る。スペクトル測定は、ナイキスト条件を満たすように電場の期間ごとに少なくとも2回され、電場の励起周波数までの分子振動を、配向依存スペクトルの変化を介して追うことができる。配向依存スペクトルは、例えば、印加された電場方向に平行及び垂直に偏光された放射線の吸収が時間的に変化する、赤外線吸収スペクトルであってもよい。配向依存スペクトルは、例えば、時間依存スペクトルが入射放射線の偏光、観察方向及び観察方向に対する偏光に依存する、ラマンスペクトルであってもよい。配向依存スペクトルは、例えば、蛍光の発光方向が発光分子の配向に対する励起放射線の方向及び偏光に依存する、蛍光スペクトルであってもよい。
【0047】
前述又は後述の実施形態のいずれかと組み合わせて使用され得る実施形態では、周期的電場が、異なるタイプからなる分子の集合に印加され、時間的に変化する配向依存スペクトルが測定され、スペクトルが分析されて、少なくとも1つの分子タイプのドップラーシフトが決定され、前述の分子タイプの移動度に関する情報が提供される。スペクトルは、測定される分子タイプの再配向に応じて、電磁的又は音響的であってもよい。例えば、電場は、タンパク質分子を含む溶液に印加されてもよく、タンパク質分子の様々な部分は、異なる速度で電場に応答する。タンパク質上のヒドロキシル基は、数ピコ秒という時間スケールで再配向し得る。印加された磁場の方向に平行かつ垂直に記録された赤外線スペクトルは、1cm-1程度のドップラー周波数シフトを示し得る。タンパク質分子全体は、数マイクロ秒という時間スケールで再配向し得る。電場の方向に平行及び垂直に記録された音響スペクトルは、数khz程度のドップラー周波数シフトを示し得る。分子又はその一部の速度は、分子の電子構造、及び印加される電場、分子又はその一部の質量及び慣性、並びに抵抗力をもたらし得る隣接分子との相互作用によって決定される、印加される力に依存する。したがって、類似する残りのスペクトルを有する異なる分子タイプは、異なるドップラーシフトによって区別され得る。
【0048】
前述又は後述の実施形態のいずれかと組み合わせて使用され得る実施形態では、異なる周波数を有する周期的電場のシーケンスは、異なるタイプの分子の集合に印加され、分子の集合の配向依存スペクトルは、各周波数の場の期間ごとに少なくとも2回測定される。配向依存スペクトル(振幅対波長)は、偏光、磁場方向に対する測定方向、印加された場の周波数及び印加された場の持続時間の組み合わせごとに異なり得る。多次元スペクトルは、少なくとも波長、振幅、並びに、偏光、印加された場の方向に対する測定方向、印加された場の周波数、及び印加された場の持続時間のうちの1つ以上からなる。分子の集合は、例えば、複数の異なるタイプからなり、各分子タイプは、各周波数ごとに異なる時間依存性を有する印加された周期的電場に対して配向する。したがって、印加される場が存在していない状態で同じスペクトルを有する異なる分子タイプ、又は印加される静的な場が存在している状態で同じスペクトルを有する異なる分子タイプは、異なる周波数及び異なる方向において場を印加することによって得られた多次元スペクトルによって区別され得る。具体的には、各分子タイプは、駆動周波数、質量、慣性モーメント及び印加された電場と相互作用する強度によって決定される振動の振幅及び位相によって、減衰振動子として動的に挙動し得る。スペクトル測定は、ナイキスト条件を満たすように印加された場の期間ごとに少なくとも2回測定され、印加された場の励起周波数までの分子振動を、配向依存スペクトルの変化を介して追うことができる。配向依存スペクトルは、例えば、印加された電場方向に平行及び垂直に偏光された放射線の吸収が時間的に変化する、赤外線吸収スペクトルであってもよい。配向依存スペクトルは、例えば、時間依存スペクトルが入射放射線の偏光、観察方向及び観察方向に対する偏光に依存する、ラマンスペクトルであってもよい。配向依存スペクトルは、例えば、蛍光の発光方向が発光分子の配向に対する励起放射線の方向及び偏光に依存する、蛍光スペクトルであってもよい。
【0049】
本発明の方法及びシステムの実施は、選択されたタスク又は工程を手動、自動、又はそれらの組み合わせで実行又は完了することを含む。さらに、本発明の方法及びシステムの好ましい実施形態の実際の器具及び機器によれば、いくつかの選択された工程は、任意のファームウェア又はそれらの組み合わせの任意のオペレーティングシステム上のハードウェア又はソフトウェアによって実施することができる。例えば、ハードウェアとして、本発明の選択された工程は、チップ又は回路として実施することができる。ソフトウェアとして、本発明の選択された工程は、任意の適切なオペレーティングシステムを使用してコンピュータによって実行される複数のソフトウェア命令として実施することができる。いずれの場合でも、本発明の方法及びシステムの選択された工程は、複数の命令を実行するためのコンピューティングプラットフォーム等のデータプロセッサによって実行されるものとして説明することができる。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【
図1】
図1は、本発明による多次元分光法の配置の概略図である。
【
図2】
図2のA、B、C、D及びEは、配向分子と入射放射線との相互作用を示す。
【
図3】
図3のAは、本発明によるサンプルセルの側面図及びサンプルセル内の分子のスペクトルを測定するための2つの分光法の配置を示す概略図である。
図3のBは、
図3のAの線3B-3Bに沿った断面図である。
【
図4】
図4のAは、本発明による第2のサンプルセルの斜視図及びサンプルセル内の分子のスペクトルを測定するための分光法の配置である。
図4のBは、
図4のAのサンプルセルの側面図である。
図4のCは、
図4のBの配置の1セットの電極電圧構成を示す。
【
図5】
図5のAは、サンプル分子の一連の構成を示す。
図5のBは、電場インパルスに対する分子配向に対する応答を示す、
図5のAの分子の時間的応答を示す。
【
図6】
図6のAは、サンプル分子の一連の構成を示す。
図6のBは、周期的電場に対する分子配向に対する応答を示す、
図6のAの分子の時間的応答を示す。
【
図7】
図7は、電場の擬似ランダムシーケンスに対する分子配向の時間的応答を示す。
【
図8】
図8のA及びBは、測定システムの基準系内の分子フラグメントを示す。
図8のC及びDはそれぞれ、同じ分子フラグメントを含有する第1のタイプの分子及び第2のタイプの分子にじょう乱のシーケンスを印加する効果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0051】
本開示の実施形態について添付の図面を参照しながら詳細に説明する。当技術分野で知られている構造又は方法の詳細な説明は、本開示の主題を不明瞭にすることを避けるために省略することができる。さらに、本開示の以下の説明では、本開示の一般的な理解を与えるために以下の説明に見られる様々な具体的な定義が提供され、そのような定義なしで本開示を実施できることは当業者には明らかである。
【0052】
多次元分光法のための配置は、
図1において概して100で示されている。サンプル分子の集合を含むボリュームは、概して101で示され、サンプルボリューム内に電磁場を発生させるためのデバイスは、概して130で示される。電磁場を発生させるデバイス130は、例えば、上記で引用されたFPAA特許に記載されているようなフィールドプログラマブルアナログアレイであってもよい。図示のように、基準電圧に保持されたプレート131と、電圧源133と連通するプレート132との間に電場が生成される。電圧源133は、制御部140の計算デバイス142から受信したシグナルに従って電圧の時間的シーケンスを生成する。プレート131と132との間の電圧差は、例えば、10ミクロンの間隔で10ボルトでピークとなり、1,000,000V/mの最大電場強度を与えることができる。他の電圧及び間隔を使用してもよい。102に示すように、電磁場デバイス130は三次元であり、任意の方向の成分を有する電場及び磁場を生成するように動作可能であり得る。
【0053】
代表的なサンプル分子110は、可撓性セグメント112、114及び116によって接合された剛性セグメント111、113、115及び117からなる。各セグメントは、隣接するセグメントによって制限された動きで電磁デバイス130によって生成されたE及びBとして示される電場及び磁場に対して配向することができる。例えば、剛性セグメント113は、セグメント軸に沿って双極子モーメントを有することができ、この双極子モーメントは電場と相互作用して電場とのアラインメントに向いた力を生成する。アラインメントに向いた双極子相互作用力は、溶媒効果と共に可撓性セグメント112及び114によって抵抗され得る。セグメント双極子モーメントと印加された電場とのアラインメントのダイナミクスは、質量及び慣性モーメント、印加された電場に対する双極子モーメントの大きさ及び方向、並びに溶媒及び隣接するセグメントによる拘束力に依存する。例えば、より小さい質量及び慣性モーメントを有するセグメント111は、セグメント113よりも速い印加電場と整列することができる。例えば、セグメント115は、セグメント114及び116からの抵抗力のためにゆっくりと整列することができる。一般に、各セグメント111、113、115及び117が印加された電場に対して配向する速度は異なり得る。サンプル分子のスペクトルは、配向の時間的発展の異なる段階で測定され得る。プローブ放射線源122は、偏光子124によって偏光されてサンプル分子110に入射する偏光放射線125を生成することができる放射線123を放射する。相互作用放射線126は、入射放射線125がサンプル分子110と相互作用した後にサンプル領域を出る。相互作用放射線126は、吸収による振幅の波長依存変化を有し得る。相互作用放射線126は、入射放射線125とは異なる波長でラマン散乱されてもよい。相互作用放射線126は、サンプル分子110、例えば蛍光によって放射され得る。相互作用放射線126は偏光アナライザ127を通過することができ、選択された偏光を有する放射線128は測定デバイス129によって測定される。測定デバイス129は、放射線128の振幅を単に測定することができる。測定デバイス129は、波長の関数として放射線128の振幅を測定する分光計であってもよい。
【0054】
サンプル分子110の状態は、放射線源120からの「ポンプ」放射線121を印加することによって測定前に操作することができる。ポンプ放射線は、サンプル分子110又はその一部と相互作用して励起状態を生成し、(励起状態が緩和するにつれて)時間依存性スペクトルをサンプル分子110に与えることができる。ポンプ放射線121はまた、サンプル分子110の電荷分布の変化を誘導することができ、これは次に、時間的に変化する電磁場に対するサンプル分子110の動的応答を変化させる。すなわち、ポンプ放射線は、静止基準系におけるサンプル分子のスペクトルと、時間的な一連の測定におけるサンプル分子110の配向のシーケンスとの両方を変化させることができる。
【0055】
151に示されるように、音響送信機は、超音波をサンプル領域101内に誘導することができる。超音波は、サンプル分子110と相互作用し、続いて音響アナライザ152で測定され得る。好ましくは、音響測定は、分子運動の方向に平行かつ垂直な方向で行われる。平行測定は、垂直成分に対する周波数のドップラーシフトを示し得る。運動方向は、印加される電磁場のシーケンスの方向によって設定されてもよい。ケーブルリンクによって示されるように、音響波の送信及び受信は、制御デバイス140によって調整される。サンプル分子の各セグメントは、異なる速度での電磁場の時間的シーケンスに応答して再配向することができる。例えば、セグメント115の運動は、音響アナライザ152によって測定された反射音響波の周波数にドップラーシフトを引き起こすことができる。この測定は、偏光依存スペクトル測定と相補的である。すなわち、スペクトル測定は、分子セグメントの位置(配向)に関する情報を提供し、音響測定は、分子セグメントの速度に関する情報を提供する。音響波はまた、分光計測のシーケンスの前又は間にサンプル分子の状態を変化させるためのポンプパルスとして使用されてもよい。例えば、音響波は、伝播軸に沿った分子衝突によって伝達される。そのような衝突は、例えば、サンプル分子に近接する水等の構造化溶媒分子の秩序化を乱し、それによってサンプル分子のスペクトル応答を変化させ得る。
【0056】
測定デバイス129からのシグナルは、電圧源133からのシグナルと共に、制御デバイス140に一体化されたシグナルアナライザ141に送信される。シグナルアナライザ141は、例えば、測定手段129からの各シグナルを電圧源133(及び拡張電場)と時間的に相関するスペクトラムアナライザ又はロックインアンプであってもよい。時間相関は、測定された波長ごとに行われてもよい。多次元スペクトルは、波長-振幅スペクトルに時間依存性、偏光依存性、励起依存性及び電磁場を加えることによって組み立てることができる。シグナルアナライザは、多次元スペクトルを組み立てて分析することができる計算デバイス142と通信する。多次元スペクトルは、機械可読記憶手段144に記憶されてもよく、又は通信ポート143を介して外部計算デバイス145に送信されてもよい。
【0057】
図2のAは、印加された電場Eと整列した214で示されるような軸Dを有する分子セグメント213を示す。分子セグメント213は、測定時間t
0+T
1において、印加電場に対して
図5のセグメント527と同じ配向を有する。分子セグメント213は、複数の遷移双極子モーメントを含むことができる。分子セグメント軸Dに対する各遷移双極子モーメントの配向は、光子の吸収の初期及び最終量子状態のそれぞれの波動関数に依存する。一般に、遷移双極子モーメントは分子セグメント軸Dに平行ではない。この例は、固定遷移双極子モーメントからの吸収に関するものであるが、記載された方法は、散乱(ラマン、ブリルアン)及び非線形光学効果にも適用される。2つの例示的な遷移双極子モーメントd
i及びd
i+1が、それぞれ215及び216で示されている。電磁放射線の量子(光子)の吸収の確率は、各遷移双極子モーメントと入射電磁放射線の電場との間のドット積に依存する。この例では、y方向に入射する電磁放射線の電場は、
図2のBの230に示すように、x方向、z方向、又はそれらの任意の組み合わせで振動することができる。一般に、入射電磁放射線E
iの電場は、231に示すように、ある瞬間にx軸に対して角度θで分極される。
図1に示す偏光要素124は、入射プローブ放射線の偏光を任意の角度に回転させる(又は円偏光を誘導する)ことができる。偏光角が走査されると、各遷移双極子モーメントの異なる角度における吸収ピークの振幅は、遷移双極子モーメントd
i及びd
i+1の曲線235及び236によってそれぞれ
図2のCに示されるように変化する。曲線235が曲線236よりも高いのは、遷移双極子モーメントd
iの大きさが遷移双極子モーメントd
i+1の大きさよりも大きいからであり、これは、それぞれ237及び238(
図2のA)に示すように、xy平面へのそれぞれの投影によって最もよく示される。239に示すように、遷移双極子モーメント投影237と遷移双極子モーメント投影238との間に角度Δφがあり、これは、
図2のDに240で示すように、プローブ放射線をz方向の分子セグメント213に指向し、偏光軸φをx軸に対して回転させることによって分解することができる。
図2のEは、d
i及びd
i+1の吸収振幅のプロットを示し、それぞれ241及び242で示されている。一般に、各遷移双極子モーメントの吸収振幅は、θ及びφによって各波長で変化する。分子セグメントの多次元スペクトルは、分子セグメント内の各遷移双極子モーメントからの寄与の重ね合わせである。異なる分子セグメントタイプを含むサンプルの多次元スペクトルは、各分子セグメントタイプの存在量によって重み付けされた各分子セグメントタイプからのスペクトルの重ね合わせである。したがって、θ、φ空間内の各点は、振幅及び波長からなる関連スペクトルを有する。
【0058】
図3のA及びBは、本発明の例示的な実施形態の側面図及び断面図である。
図3のBは、101で示されるようにサンプルボリュームを通る、300Aで概して示されるxy断面にある断面を示す。ゼロからNまで標識された電場源のアレイ330は、サンプル分子110を含むサンプルボリューム101の周りに対称的に配置される。各電場源は、電極331と電気的に接続された電圧源333を含む。電極331は、電流の流れを防止する絶縁材料334内に封入されている。電圧源333は、制御手段140(接続図示せず)によって独立して制御することができる。電圧源333は、例えば、デジタル-アナログ変換器(DAC)及び増幅回路を備えることができる。DACは、制御手段140からデジタルコードを受け取り、時間的電圧波形を出力する。次いで、増幅回路は、DAC出力の電圧を昇圧して所望の電場強度を生成する。電場強度は、例えば、1メートル当たり数百キロボルト程度で細胞膜を横切って測定される生理学的電場に匹敵し得る。
【0059】
別の配置では、DACがMUXによって複数の電圧源333に接続される。時間的に変化する電圧を生成するための他の手段が使用されてもよい。
【0060】
動作中、制御手段140は、例えば、制御コードのシーケンスを電圧源333に送信して、他の全ての電極を接地電位に保持した状態で電極331に時間的電圧波形を生じさせることができる。この場合、電極331とその直径方向に対向する電極335との間の軸の周りに対称な時間的に変化する電場が生成される。電場軸の方向は、アレイ330内の異なる電極に電圧波形を供給することによって変更することができる。複数の電極に(場合によっては異なる)電圧波形を供給することによって、電場の形状及び勾配を変更することができる。一般に、電極331によって生成される電場の軸は、xy平面内にある。
【0061】
図3のAはサンプルセルの側面図を示し、2つの分光システムの重要な構成要素を概略的に示す。
図3のBは、
図3のAに示す電極331と335との間の断面である。システムは一般に300Bで示され、サンプルセル領域は三次元で描かれている。半球形の内部反射要素(IRE)305が、絶縁材料334のリングの上方に配置される。IRE305は、例えば、電圧源333への接続によって示されるように電極としても機能することができるSi又はGeであってもよい。他の材料で作製された内部反射素子を用いてもよい。場合によっては、IREは、電極を形成するために底面に透明導電性材料の薄層を有してもよい。透明導電材料は、例えば、インジウムスズ酸化物(ITO)であってもよい。サンプルボリュームと接触するIREの表面は、電流の流れを防止する絶縁材料(図示せず)の薄層で被覆されている。絶縁材料の薄層は、例えば、スピンコーティングポリスチレンであってもよい。サンプルセルの底面は導電性ウインドウ306であり、これは任意に絶縁材料の薄層を含むことができる。ウインドウ306は、例えば、Si又はGeから製造することができる。他の材料を使用してもよい。電圧源333は、制御手段140からデジタルシグナルを受信し、上部内部反射素子305と下部ウインドウ306との間に時間的に変化する電圧差を生成する。IRE305とウインドウ306との間の電圧差は、z軸に沿って配向された時間的に変化する電場を生成する。サンプルボリューム101内の正味の電場は、電極305、306及び電極311のアレイ330によって生成された電場のベクトル和である。
図3のA及びBに示す配置は、円筒対称性を有するシステムに有用である。
【0062】
図3のAは、反射配置及び透過配置のための光路を概略的に示す。簡単にするために、ミラーレンズ等の光学素子、及び放射線を指向し、集め、集束させるために通常使用されるプリズムは明示的に示されていないが、存在すると理解される。
【0063】
透過配置の場合、
図1のスペクトル光源122は、位置322Bに示すようにIREの対称軸上に配置される。スペクトル光源122は、この例では時間的に変調された(好ましくはパルス化された)広帯域放射線311を生成する。プローブ放射線311は、IREを通過し、サンプルボリュームに通常(入射角0度)入る。プローブ放射線311はサンプル分子110と相互作用し、サンプルボリュームを透過した相互作用放射線は集められ、偏光アナライザ127を通って経路312に沿って指向される。制御部140は、偏光子127を回転させて、光分散デバイス307への経路313に指向された偏光を選択する。異なる波長の偏光相互作用放射線は、各波長の屈折率によって決定される速度で光分散デバイス307を通過し、検出器308への経路317をたどる。偏光相互作用放射線のパルスの各波長は、異なる時間に検出器308に到達する。検出器における時間的光子束は、時間的パルス形状で畳み込まれた波長による時間依存性である。光分散デバイス307は、例えば、コンパクトにするために円筒に巻かれた長い光ファイバであってもよい。検出器308は、例えば、フォトダイオード又は光電子増倍管であってもよい。検出器308からの電気シグナルは、制御部140と通信して時間的シグナルアナライザ309に転送される。時間的シグナルアナライザは、例えば、従来のアナログデジタル変換器(ADC)であってもよい。好ましくは、時間的シグナルアナライザは、従来のADCよりも良好な時間的分解能及び良好なシグナル対ノイズ比を提供する、上記で引用されたHRMS特許に記載されたデバイスである。
【0064】
反射配置の場合、
図1のスペクトル光源122は位置322Aに示されており、IREサンプルインターフェースで入射角が0より大きくなっている。この配置における入射角は調整可能であり、IRE材料の屈折率と共にサンプルボリュームへのエバネッセント波の浸透深さを制御する。プローブ放射線は、経路323に沿って入射し、サンプルボリューム101へのエバネッセント波の浸透を介してサンプル分子110と相互作用し、経路324に沿って反射される。経路324に沿った相互作用放射線の偏光は、制御手段140から制御シグナルを受信する偏光子127によって変調される。偏光された相互作用放射線は、経路325に沿って分光計303に続く。分光計303は、複数の検出素子を含むことができる検出器304への経路326に沿った放射線出力を変調する。分光計303は、例えば、各波長を異なる経路326に沿って検出器304の異なる検出器要素に指向する分散格子分光計であってもよい。分光計303は、例えば、ステップスキャンモードで動作するフーリエ変換分光計であってもよい。分光計303は、例えば、複数の検出器素子を有する上記で引用されたHEMS特許に記載されている配置であってもよい。各検出器素子からの電気シグナルは、時間に対する各シグナルの振幅を定量化し、定量化されたシグナルを制御部140に中継する時間的シグナルアナライザ309に送信される。
【0065】
上述の透過及び反射測定の場合、検出器304及び308におけるスペクトルシグナルの時間的発展は、制御部140によって電極アレイ330並びに電極305及び306によって生成される電場のシーケンスと相関する。すなわち、電場の時間的シーケンスは、摂動されたサンプル分子立体配座の時間的シーケンスを生成し、各摂動された立体配座は異なるスペクトルシグナルを与え得る。
【0066】
図4のA、B及びCは、概して400で示されるサンプルボリューム101内に時間的に変化する三次元電場を生成するように構成された長方形のサンプルセルを示す。
図4のA及びB、具体的には431、432、433、434、435、436、437、438、441、443、445、及び447に示す各電圧供給部は、
図1に示す制御手段140と通信し、制御される。簡単にするために、制御手段140への接続は、
図4のA及びBには示されていない。401で示される領域では、サンプルセルは三次元の斜視図で描かれている。サンプルセルの構造要素及び内面は、電流の流れを防止する電気絶縁材料403で構成される。電気化学的研究に使用される代替の配置(図示せず)では、電極は、サンプルボリューム内に電流が流れることを可能にするように配置されてもよい。3つの例示的な電極構成が示されている。電圧供給部431に連結された上部パネル電極421は、411に示すように、電磁放射線がサンプルボリューム101に出入りすることができる開口部429を有する。正面パネルは、4つの電極422、423、424及び425並びに対応する電圧供給部432、433、434及び435を有する別の配置を示している。各電極を異なる電圧に保持して、サンプルボリューム101内に空間的及び時間的に変化する電場を生成することができる。空間的に変化する電場における勾配は、例えば、分子双極子モーメントとの相互作用を介して分子を並進させるために使用され得る。412に示されるように、放射線は、電極間の間隙を通ってサンプルボリュームに出入りすることができる。電極422、423、424、及び425は、上記で引用されたFPAA特許においてより詳細に論じられているように、放射線をフィルタリング又は回折するように配置されてもよい。簡潔には、電極は、KHz~GHz範囲の分子に作用する電場を生成し、THz及びより高い周波数でサンプル分子と相互作用する放射線のための光学素子として作用するように機能することができる。電圧供給部436に連結されたサイドパネル電極426は、経路113に沿ってサンプルボリューム101に出入りする放射線のためのフレネルレンズとして作用するように成形されている。この例では、フレネルレンズを使用して、サンプルボリューム内に空間的に均一な電場を生成しながら、入射放射線をサンプルボリューム内の点に集束させることができる。
【0067】
図4のBのサンプルセルの断面図は、概して402で示されている。断面において、電気絶縁材料403は、404で示される電場によって配向されたサンプル分子110を有するサンプルボリューム101を囲むことが分かる。絶縁材料403は、サンプルボリューム101内の電流の流れを防止するのに十分な厚さを有する。さらなる絶縁材料403は、サンプルボリュームを、電場が許容域値内で均一である相互作用ボリュームに制限するように成形することができる。図示されているように、電圧が供給部436から印加されて、電極426上に正電荷(陰影で示されている)を生成し、供給部437を介して対向する電極427上に負電荷を生成する。垂直電場成分は、それぞれ電圧源431及び438を介して電極421及び428に異なる電圧を印加することによって生成することができる。xz平面における一連の例示的な電圧構成が、
図4のCの451、452、453、454、455、456、457及び458に示されている。正の電圧を有する電極は、黒色で陰影が付けられている。各例は、電場状態の時間的シーケンスにおいて1つの可能な状態を表す。402で与えられる座標系を参照すると、構成451及び452は、それぞれ-z及び+z方向の電場を生成する。同様に、構成453及び454は、それぞれ-x及び+x方向の電場を生成する。構成455は、-x+z方向にサンプルセルに対して斜めの電場を生成する。構成456は、-x-z方向にサンプルセルに対して斜めの電場を生成する。構成457は、+x-z方向にサンプルセルに対して斜めの電場を生成する。構成458は、+x+z方向にサンプルセルに対して斜めの電場を生成する。一般に、電場のシーケンスは、方向が0度を超え180度未満異なる少なくとも2つの異なる電場を含む。例えば、構成451及び452は180度異なるため、構成451及び452を含むシーケンスはまた、構成453、454、455、456、457又は458の少なくとも1つを含まなければならない。さらに、電圧(及び電場)の大きさは、活性化された電極ごとに異なり得る。
【0068】
図4のBを参照すると、電圧源441、443、445及び447は、電圧を生成及び測定するように構成されてもよい。この場合、電圧源は、例えば、DAC、ADC、及び増幅回路を含むことができる。送信モードでは、電圧源441は、制御手段140及びDAC回路からシグナルのシーケンスを受信し、時間的に変化する電圧によってトランスデューサ442を振動させ、サンプルボリューム101内に伝搬する音響波を生成する。受信モードでは、トランスデューサ442は、入射音響波の影響下で振動し、電圧をデジタル形式に変換し、デジタルシグナルを制御部140に送信する電圧源441内のADC回路によって受信された電圧を生成する。音響トランスデューサ444、446及び448は、それらの電圧源443、445及び447と共に、トランスデューサ442及び電圧源441と同じように動作する。音響トランスデューサは、2つの異なる機能を実施することができる。まず、音響波は、分子衝突を介してサンプル分子110と相互作用し、波の伝播方向に運動量伝達を提供する。制御部140は、電場のシーケンスと協調して音響波のシーケンスを活性化して、サンプル分子の立体配座の変化をもたらしてもよい。すなわち、音響波からの衝撃力は、エネルギー的に好ましい配座が電場によって決定される配座変化に対する位置エネルギー障壁を克服することができる。第2に、音響波を使用して、ドップラーシフトを介して分子運動をプローブすることができる。このモードでは、電場のシーケンスが分子又は分子フラグメントを移動させ、移動する分子又は分子フラグメントと相互作用する音響波がドップラーシフトされる。音響波の速度は通常、光速よりも5桁小さいため、相対ドップラーシフトはより大きく、測定がより容易である。
【0069】
図5のB、
図6のB及び
図7は、振幅、波長(又は周波数等価物)、温度、偏光状態、電場振幅及び周波数、並びに時間的発展の次元を有するスペクトルを生成するために
図1の配置と共に使用することができる電場シーケンスの単純な非限定的な例示的な例を示す。電磁場の複雑なシーケンスをサンプル分子に印加して、第1の選択されたサンプル分子又はその一部及び第2のサンプル分子からのスペクトルシグナルを選択的に増強することができる。例えば、電磁場のシーケンスは、選択されたサンプル分子の量子状態を変化させるポンプパルスを含むことができ、その後の電磁場は、変化した量子状態との電磁気相互作用に少なくとも部分的に起因して、選択されたサンプル分子の構成及び/又は配向を変化させる。例えば、電磁場のシーケンスは、後続のポンプパルスが同じ又は類似のエネルギーの第2の分子転移ではなく第1の分子遷移と選択的に相互作用するように、選択されたサンプル分子の構成/配向を変更し得る。例えば、電磁場のシーケンスは、プローブ放射線の偏光に平行な第1の遷移双極子モーメント及びプローブ放射線の偏光に垂直な第2の遷移双極子モーメントを配向する。第1の遷移双極子モーメント及び第2の遷移双極子モーメントの遷移エネルギーは同一であってもよいが、第1の遷移双極子モーメントのみがプローブ放射線と相互作用する。プローブ放射線の偏光が90度回転される場合、第2の遷移双極子モーメントのみがプローブ放射線と相互作用する。これは、第1の遷移双極子モーメント及び第2の遷移双極子モーメントの両方がランダムに配向され、任意の偏光のプローブ放射線と相互作用する可能性が等しく高い熱平衡状態のサンプルとは対照的である。第1の遷移双極子モーメント及び第2の遷移双極子モーメントの直交アラインメントは、2つの遷移双極子モーメントからの寄与の間に最大のスペクトルコントラストを提供するが、90度未満の平均遷移双極子モーメントの配向間の角度のスペクトルコントラストは、第一及び第2の遷移双極子モーメントのスペクトル寄与を分離するのに十分なスペクトルコントラストを提供し得る。第1の遷移双極子モーメントと第2の遷移双極子モーメントとの間のスペクトルコントラストは、遷移双極子モーメント間の平均角度が時間とともに変化する時系列の測定を行うことによって増強され得る。例えば、第1の遷移双極子モーメント及び第2の遷移双極子モーメントはそれぞれ、電磁場のシーケンスに従う好ましい配向を有することができる。電磁場がオフに切り替えられた後、各遷移双極子モーメントの平均配向は、異なる速度でランダム配向に減衰し得る。配向減衰率の差は、各遷移双極子モーメントのスペクトル寄与を区別するのに十分である。例えば、電磁場のシーケンスは、パルス間の時間が変化する複数のパルスを含むことができる。第1の遷移双極子モーメントは、連続するパルス間の残留配向を保持し、段階的により配向されるようになり得る。第2の遷移双極子モーメントは、各パルスによって配向され、パルス間のランダムな配向に減衰することができる。パルスレートを変えることにより、第1の遷移双極子モーメント及び第2の遷移双極子モーメントのスペクトル寄与を、動的特性の差に基づいて分離することができる。
【0070】
図5のBは、電場インパルスに応答した
図5のAの分子セグメントの異なる配向を示す。521で示される
図5のBの上の曲線は、z方向の電場を発生させるために印加される電圧のプロットである。電圧は、531で示されるように最初はゼロであり、532で示されるように時間t
0で電圧V
zまで上昇する。電圧は、533で示されるように時間tにわたって印加され、534で示されるように時間t
0+tにおいてオフに切り替えられる。
図5のAに示すように、剛性セグメント511、513、515及び517を有する分子510は、最初は無秩序状態にある。無秩序状態の分子のスペクトルは、入射放射線の方向及び偏光とは無関係である。時間の関数としてのz軸上への分子セグメント511,513,515及び517の投影は、それぞれ曲線511R、513R、515R及び517Rで与えられる。曲線511R上の518に示すように、z軸に対するセグメント511の平均配向はゼロであり、すなわち、好ましい配向はない。分子セグメント511,513,515、及び517はそれぞれ、曲線511R、513R、515R、及び517Rによってそれぞれ示されるように、異なる特性時定数T1を有する印加された電場と整列する。分子510の構成の時間的発展は、520、530、540及び550に概略的に示されている。全てのセグメントについて時間t>T1の後、全てのセグメントを、520に示すように印加された電場と整列する。電場がオフに切り替えられてから短時間後、最小質量及び慣性モーメントを有する最小セグメント511は、530に示すようにz軸とのアラインメントから逸脱する。各セグメントの配向は、特性時定数T2で減衰する。540に示すように、セグメント513のみがz軸との有意なアラインメントを保持する。550に示すように、全てのセグメントについてT2を過ぎた時間では、分子構成はランダムであり、初期構成とは異なる。時定数T1は、電荷分布、質量、慣性モーメント、及び隣接する分子又はその一部との相互作用に依存する。小分子又はその絡み合っていない部分の場合、時定数はピコ秒以下程度であり得る。場合によっては、再配向は、印加された電場とのアラインメントをエネルギー的に不可能にする、すなわち時定数が無限大に近づくようにする隣接分子又はセグメントの共有結合を切断することを必要とし得る。場合によっては、再配向に対する位置エネルギー障壁がある。この場合、再配向が起こり得る閾値印加電場強度が存在する。閾値は、セグメントタイプごとに統計的分布を有することができ、各セグメントタイプは、閾値電場の異なる分布を有することができる。なお、閾値電場は、電場と分子セグメントの電荷分布との相互作用により決定される移動度の活性化エネルギーに比例する。分子セグメントと隣接分子との間の相互作用は、利用可能なエネルギーに依存する速度で絶えず変化している。利用可能なエネルギーは熱エネルギーであってもよく、この場合、熱エネルギーはエネルギー等配分の法則に従って利用可能なモード間で分配され、T1は温度に依存する。再配向のためのエネルギーはまた、例えば電磁放射線で選択されたモードを励起することによって、選択されたモードに指向されてもよい。時定数T1は、印加された電場方向に平行及び垂直な偏光で記録されたスペクトルの時系列から計算することができる。図示の例では、平行偏光はz方向であり、垂直偏光はxy平面内の任意の方向である。分子セグメントの平行及び垂直偏光スペクトルは、ランダムな状態で同一である。電場がオンになると、平行偏光スペクトルと垂直偏光スペクトルとの差が増加し、各波長の限界値に漸近する可能性がある。T1は、スペクトル差が限界値の閾値分率に達するために電場がオンになってからの時間とみなされる。閾値分率は、例えば95%であってもよい。場合によっては、印加された電場は、局所的又は全体的な位置エネルギー最小値に対応するサンプル分子の長距離秩序化を誘導し得る。これらの場合、秩序化(アラインメント)は、熱変動に対して安定であり得、秩序化を乱すために(必ずしも同じ軸に沿ってではない)印加された電場を必要とし得る。
図5のAに示す例では、熱励起は分子セグメントの秩序化を乱すのに十分である。図示のように、(一連の偏光スペクトルでも測定される)z軸とのセグメント517のアライメントの曲線517Rは、特性周期T2の熱励起に起因して最大アラインメントの1/eまで減衰する。
【0071】
図6のAにおいて、サンプル分子610は、最初はランダムな状態にあり、短いセグメント611及び長いセグメント613は好ましい方向を有さない。
図6のBに示すように、時間t0において、波形Vzを有する配向電場がz方向に印加され、セグメント611及び613又はサンプル分子を優先的にz軸に沿って配向させる。一般に、配向は分子セグメント中の電荷の分布に依存し、必ずしも印加された電場の方向に沿っているとは限らないことに留意されたい。電場の方向の配向は、例示のみを目的としている。セグメント611及び613のT1より大きい時間(閾値を超える配向)において、時間的に変化する電場が、z方向定常場に垂直なx方向に生成される。時間的に変化する電場の周波数は、低周波電場及び高周波電場をそれぞれ示す例示的な波形Vx1及びVx2を用いて体系的に変化する。低周波電場に対する短いセグメント611の応答は、プロットAa1に概略的に示されている。質量及び慣性モーメントが低いため、セグメント611は、印加された場Vx1と同相で大きな振幅でx方向に振動する。より高い質量及び慣性モーメントにより、セグメント613は、プロットAb1に概略的に示されているように、位相遅延及び低減された振幅で振動する。セグメント611及び613のスペクトル寄与が同じ波長にあり、静的な場合には区別がつかないとしても、各セグメントの寄与は、ロックインアンプ又はスペクトラムアナライザを用いて、駆動波形Vx1に対するそれらの間の位相差に基づいて分離され得る。各セグメントからのスペクトル寄与の振幅及び位相は、駆動周波数が変化するにつれて変化する。駆動波形Vx2について、セグメント611及び613の応答は、それぞれプロットAa2及びAb2に概略的に示されている。プロットAa2における短いセグメント611のスペクトル応答は、より高い励起周波数に起因して、プロットAa1と比較して位相シフトされ、振幅が低減される。プロットAb2に示すように、長いセグメント613は、より高い周波数の励起Vx2で過剰駆動され、その結果、著しい位相シフト及び低減された振幅を有する。セグメント611及び613のスペクトル寄与は、例えば選択された位相を変化させることによって、ロックインアンプ又はスペクトラムアナライザで再び分離することができる。
図6のBの方法は、寸法振幅、波長(又は周波数等価物)、励起周波数、励起振幅、及び応答位相を有する多次元スペクトルを与える。さらに、サンプル温度を変化させることができ、これにより、分子間及び分子内相互作用が変化し、したがってスペクトル応答が変化する。
【0072】
図7は、
図4のAの配置のための3次元電圧励起パターンの2つの例を示す。第1のパターンは、それぞれ電圧源436、432及び431によって生成された電圧波形701、702及び703からなる。第2のパターンは、それぞれ電圧源436、432及び431によって生成された電圧波形711,712及び713からなる。波形701又は711は、401に示すように、x方向の電場成分を生成するために電極426に印加される。波形702又は712は、y方向の電場成分を生成するために電極422に印加される。波形703又は713は、z方向の電場成分を生成するために電極421に印加される。相互作用ボリューム401内のサンプル分子に作用する正味の電場は、x、y、及びz成分のベクトル和である。
【0073】
704及び714に示されるように、サンプル分子を優先的に整列させるのに十分な大きさ及び持続時間の一方向に初期電場を印加することが好都合である。第1の例(701,702,703)では、サンプル分子はx方向に対して配向されている。第2の例(711,712,713)では、分子はx+y方向の軸に対して配向されている。電極421,422及び426に印加される電圧を調整することによって、電場の初期アラインメントを任意の所望の方向に生成することができる。初期アラインメントに続いて、705に示すように、電場を周波数fで周期的に循環させることができ、周波数fで振動する分子セグメントからのスペクトル特徴を、ロックインアンプ又はスペクトラムアナライザを使用して抽出することができる。ロックイン検出は、励起の周波数に励起周波数の高調波を加えた応答を捕捉することに留意されたい。循環は、双極又は単極であり得る。単極の場合、サンプル分子は、θ=90度に対応する好ましい配向(
図2参照)と、
図5のAの550に最もよく示されているようなランダムな配向への緩和との間を循環する。双極性の場合、サンプル分子は、θ=90度及びθ=-90度で好ましい配向の間を循環する。励起周波数がサンプル分子又は分子フラグメントの固有周波数よりも大きい場合、振動の振幅は90度未満になる。分光計測は、励起周波数よりも高い周波数で行われて、配向の範囲にわたるドップラーシフトを介して配向の範囲のスペクトル及び動的情報を提供することができる。例えば、励起周波数は10MHzとすることができ、分光計測の周波数は500MHzとすることができる。上記で引用されたHRMS特許のデバイスを使用して、高精度で測定を行うことができる。
【0074】
701、702及び703に示すように、本発明の配置によって任意の座標軸に対して電場成分を生成するために電圧を印加することができる。励起シーケンスの賢明な選択により、サンプル分子又はそのセグメントは、θ及びφの任意の組み合わせに対して配向され得、その結果、θ単独でのスキャンよりも多くの情報を提供する。
【0075】
702及び703に示すように、励起電圧は擬似ランダムシーケンスであってもよい。擬似ランダムシーケンスは、3つの方法で使用することができる。第1に、擬似ランダムシーケンスは、ランダムな分子衝突の影響をエミュレートすることができる。さらに、ランダム電場からのインパルスは、サンプル温度での分子衝突からの運動量伝達よりも著しく大きくなり得る。すなわち、選択された分子フラグメントの「温度」は、異なるタイプの周囲分子の温度よりもはるかに高くてもよい。電場からのより大きなインパルスは、例えば、分子又はそのフラグメントが第1の構成と第2の構成との間の位置エネルギー障壁を克服することを可能にし得る。ランダム電場は、第1の構成と第2の構成との間の位置エネルギー障壁を回避する構成のシーケンスを通じて分子を導くことができる。第2に、印加された電場との分子アラインメントのために十分に低い周波数で印加された電場の擬似ランダムシーケンスは、ランダムな間隔で分子配向のスペクトルを測定することを可能にする。スペクトルのシーケンスは、各分子配向に関連するスペクトルを単離するために励起シーケンスと相関させることができる。この方法は、周期的励起に関連する高調波周波数のあいまいさを克服する。第3に、擬似ランダムシーケンスを使用して、可能な分子配向の4π立体角にわたる分子配向を、各立体角間隔に与えられた等しい確率でランダムにサンプリングすることができる。
【0076】
電圧波形702に示すように、電場成分のシーケンスは、ランダム状態間の均一な時間間隔を有する擬似ランダムシーケンスであってもよい。この場合、サンプル分子又はそのフラグメントの応答は、衝撃力に対する振動子の応答としてモデル化することができる。スペクトル測定値は、擬似ランダム電場励起と相関するスペクトル応答を単離するために、制御部140において擬似ランダムシーケンスと相関する。擬似ランダム励起シーケンスは、周期的励起シーケンスのような高調波応答を生成せず、この理由から好ましい。
【0077】
電圧波形703に示されるように、706で示されるような第1の時間間隔を有する第1のサブシーケンスと、707で示されるような第2の時間間隔を有する第2のサブシーケンスとが存在し得る。サブシーケンス706は、小分子フラグメントのスペクトル応答を測定するために使用することができ、サブシーケンス707は、より大きな分子フラグメントのスペクトル応答を測定するために使用することができる。
【0078】
電圧及び対応する電場の大きさは、701及び711に示すようにシーケンス間で変化してもよく、シーケンス712の715に最もよく見られるようにシーケンス内で変化してもよい。電圧振幅は、結果として生じる電場と分子フラグメントとの間の相互作用が位置エネルギー障壁を克服するように選択することができる。電圧は、熱揺らぎの大きさよりも大きい相互作用の大きさを生成するように選択されてもよく、それによって、電場によって誘導される分光シグナルを熱雑音から区別する。電圧は、熱励起をエミュレートするためにランダムな範囲内で選択されてもよい。例えば、直交励起場成分は、デジタル通信で使用されるQAM符号方式のI成分及びQ成分から生成され得る。
【0079】
図7に示す例では、方向ラベルx、y、及びzは例示のみを目的としている。図示された特徴のいずれも、任意の軸に対して任意の組み合わせで印加することができる。
【0080】
図8のA及びBは、測定手段の基準系907内の分子フラグメント900を示す。プローブ放射線は、901及び904に示すように、異なる方向から分子フラグメント900に入射することができる。プローブ放射線901は、903に示すように角度αで回転させることができる直交偏光ベクトル902を有する。プローブ放射線904は、906に示すように角度βで回転させることができる直交偏光ベクトル905を有する。
図8のAにおいて、分子フラグメント900は、909で示される好ましい配向軸Dを有し、910で示されるように角度Ψを通って軸Dの周りを回転することができる。
図8のBにおいて、分子フラグメント900は、911で示される好ましい配向軸Dを有し、912で示されるように角度Ψを通って軸Dの周りを回転することができる。熱平衡にある系では、分子フラグメント軸Dは、境界となる球面908によって示されるように任意の方向を指し得る。すなわち、フラグメント軸ベクトルは、境界となる球面908の表面上の任意の点で終結することができる。
【0081】
図8のAでは、電場ベクトルは、916に示すように単一の軸に制限されている。分子配向軸は電場軸によって固定されているため、球面908によって記述される全ての方向からの分光計測は、プローブ放射線源を測定手段907の基準系内で移動させることを必要とする。実際には、プローブ放射線に関連する光学アセンブリを移動させることは、遅くて面倒なプロセスである。分子フラグメント900は、フラグメント軸909の周りを自由に回転することができ、910で示されるΨの全ての値が等しく可能性がある。プローブ放射線方向901及び904で測定されたスペクトルは、Ψの全ての値にわたる平均である。
図2のAの双極子モーメント215及び216の大きさを測定することができるが、双極子モーメントの相対的な方向を分解することはできない。
【0082】
図8のBは、電場ベクトル917が任意の方向を向くことができる、
図4のAに示す配置の利点を示す。最初に、911で示される分子セグメント軸Dは、球面908の表面上の任意の点で終結することができる。分子セグメント軸911の方向は、便宜的に、それぞれ913及び915に示すように、球面座標θ及びφで表される。ここで、φは、偏光軸902と、914で示される分子セグメント軸の投影との間の角度である。これは、プローブ放射線方向901と分子セグメント軸との間の全ての角度のスペクトルが、プローブビームデバイスを回転させるのではなく、電場のシーケンスで測定基準系907内の分子フラグメント軸911を回転させることによって測定され得ることを意味する。分子セグメント軸は、非常に迅速に、典型的にはミリ秒~マイクロ秒で任意の方向に回転させることができ、多数の方向からスペクトル測定を行うことができる。第2に、電場のシーケンスは、912に示すようにΨを規定の角度に指向するために分子軸911の周りにトルクを加えることができる。これにより、各遷移双極子モーメント(
図2のAの215及び216)の方向を決定することが可能になる。第3に、φ915を通る分子セグメント軸回転は、903における偏光子角度αの回転と等価であるため、偏光軸902は固定され得る。すなわち、偏光ベクトル902と分子セグメント軸911との間の角度範囲のスペクトルは、915で角度φを通って分子セグメント軸911を回転させることによって迅速に測定することができる。
【0083】
図8のC及びDは、同じ分子フラグメント900を含有する第1のタイプの分子(
図8のC)及び第2のタイプの分子(
図8のD)にじょう乱のシーケンスを印加する効果を示す。第1のタイプの分子では、分子フラグメント900は経路921をたどる。第2のタイプの分子では、分子フラグメント900は経路922をたどる。経路921及び922は、第1及び第2の分子タイプの動的特性が異なるため、異なる。示されるように、分子フラグメント900は、第1の分子タイプ(経路921)に結合したとき、第2の分子タイプ(経路922)に結合したときよりも拘束されず、より大きな運動振幅を有する。経路921に沿って測定されたスペクトルのシーケンスは、経路922に沿って測定されたスペクトルのシーケンスとは異なり、第1のタイプの分子と第2のタイプの分子とを区別することを可能にする。
【0084】
動作を制御するアルゴリズムは、ソフトウェアコード、ハードウェア、又はソフトウェアとハードウェアの任意の組み合わせで制御手段140によって実行されてもよい。
【0085】
検出プロセスは、標的分子を含み得るサンプル分子を相互作用ボリューム101に配置することによって開始する。制御手段140は、メモリ144又は外部供給源145から標的分子の測定パラメータを検索する。測定パラメータは、各設定に必要な時間ステップと共にデバイス設定の時間的シーケンスである。プローブ放射線の偏光は、例えば、各測定時間について、
図8のAの903及び906で示される角度α及びβで指定される。電場ベクトルの時間的シーケンス、又は同等には、各時間間隔に対して各電極に印加される電圧が指定される。磁場ベクトルの時間的シーケンス、又は同等には、各時間間隔に対して電磁石に印加される電流が指定される。音響励起ベクトルの時間的シーケンスが指定される。
【0086】
例示的な測定アルゴリズムの擬似コード表現が与えられる。例えば異なる順序で、同じタイプの測定を実行する他のアルゴリズムが使用されてもよい。擬似コードは、最初に、測定値のセットに対してプローブ放射線偏光を設定する。ユーザ定義の時間間隔で、アルゴリズムはカウンタkを増大させ、じょう乱のシーケンスからk番目の電場、磁場、及び音響場を取得し、必要な場を生成させるシグナルを生成する。シグナルは、例えば、電圧を生成させて電極に送信させるDACに指向されたデジタルコードであってもよい。アルゴリズムは次に、じょう乱変化間の時間工程以下のスペクトル間の時間工程で各検出器におけるm個のスペクトルを測定する。例えば、電場、磁場、及び音響場は、1MHzの周波数で更新されてもよく(必ずしも変更されなくてもよい)、スペクトル測定は、100MHzの周波数で行われてもよい(じょう乱状態ごとに100個のスペクトルが測定される)。このように集められた多次元スペクトル(振幅及び波長)は、じょう乱磁場、観測方向及びプローブ放射線偏光の関数である。
【0087】
任意に、生のスペクトルデータを処理して、異なる分子セグメントからスペクトル寄与を抽出することができる。スペクトル寄与は、ロックインアンプ技術又は周期的なサンプル励起のためのスペクトラムアナライザを使用して抽出することができる。サンプル励起の擬似ランダムシーケンスの場合、相関器を使用してスペクトル寄与を抽出することができる。このプロセスは、ノイズを除去し、別個のスペクトルシグナルを増強する効果を有する。
【0088】
任意に、T1、T2及び速度等の分子セグメントの動的特性は、分子セグメントのスペクトル特徴の時間依存性を分析することによって抽出することができる。処理中のカーブフィッティングは、ノイズを除去し、別個のスペクトルシグナルを増強する効果を有する。
【0089】
パターン認識アルゴリズムは、サンプル分子からの多次元スペクトルデータを標的分子からの多次元スペクトルデータと比較し、類似性指数を計算する。類似性指数が閾値を超える場合、サンプル分子は標的分子として分類される。標的分子の多次元スペクトルは、データベースから検索され得る。サンプル分子は、複数の標的分子タイプと比較され得る。類似性指数は、多変量統計的方法を用いて、又は例えばニューラルネットワークを用いてスペクトルデータ内のパターンを学習する人工知能方法を用いて計算することができる。パターン認識アルゴリズムは、生のスペクトルデータ、生のデータから導出された量、又はそれらの任意の組み合わせに対して動作することができる。
【0090】
測定アルゴリズムからの生のスペクトルデータ及び/又は生のスペクトルデータから得られたデータを分析して、どの測定値(及び関連するじょう乱)が異なるタイプの標的分子間で最大の区別を与えるかを決定することができる。この解析に基づいて、じょう乱のシーケンスを修正して、最も高い診断値を有する測定値に測定時間を集中させることができる。
【0091】
本明細書中に記載される方法は、分子及び分子の別個のアセンブリに等しく良好に印加され得る。例えば、ウイルス又は細菌等の生物学的実体は、多くの種類の別個の分子をほぼ一定の割合で含む。本発明の範囲内で、生物学的実体は単一分子であると見なされ、構成分子は分子フラグメントであると見なされる。
【0092】
要約すると、異なるセグメント長に対応する異なる長さスケールでの秩序化は、異なる時定数を有するスペクトルの階層を生成する。分子のスペクトルは、各セグメントからのスペクトルの重ね合わせであり、各セグメントからのスペクトルは、分子構成に応じてθ、φ空間から選択される。次いで、分子の集合のスペクトルは、各分子からのスペクトルの重ね合わせである。分子構成、したがって各分子セグメントからのスペクトルに寄与するθ、φ空間の領域は、音響的又は電磁的であり得るのじょう乱のシーケンスによって選択される。本発明の第1の実施形態では、じょう乱の時間的シーケンスが分子構成の時間的シーケンスを生成し、シーケンス内の2つ以上の分子構成についてスペクトルを測定して、次元波長、振幅及び構成番号を有する三次元データキューブを得る。本発明の第2の実施形態では、さらなる偏光が測定され、第4の次元を与える。任意の他の実施形態で使用することができる本発明の別の実施形態では、スペクトルは異なる方向で測定され、各方向はさらなるスペクトル次元を提供する。任意の他の実施形態で使用することができる本発明の別の実施形態では、周波数応答の次元が追加される。具体的には、じょう乱のシーケンスは周波数掃引を含み、じょう乱の周期的シーケンスが異なる周波数で印加され、ロックインアンプ又はスペクトラムアナライザを使用して各周波数からスペクトル寄与を単離する。具体的には、じょう乱のシーケンスは周波数掃引を含み、じょう乱の周期的シーケンスが異なる周波数で印加され、ロックインアンプ又はスペクトラムアナライザを使用して各周波数からスペクトル寄与を単離する。各分子タイプについて測定された振幅の多次元パターンは、その分子タイプのシグネチャーと呼ばれる。未知の混合物中の分子タイプは、以前に測定されたシグネチャーと比較することによって同定され得る。分子タイプ間の類似性が増加するにつれて、分子タイプを区別するのに必要な摂動された場のシーケンスの次元数及び複雑さが増加する。任意の他の実施形態で使用することができる本発明の別の実施形態では、更に、サンプルの温度が変化する。任意の他の実施形態で使用することができる本発明の別の実施形態では、更に、材料が分子セグメントに近接して添加され、それによって分子セグメントの動的特性を変化させる。
【国際調査報告】