(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-09-13
(54)【発明の名称】ポリマーストランドおよびポリマーストランドを作製するためのプロセス
(51)【国際特許分類】
D01D 5/06 20060101AFI20230906BHJP
D01F 4/00 20060101ALI20230906BHJP
D01F 6/24 20060101ALI20230906BHJP
D01F 6/30 20060101ALI20230906BHJP
【FI】
D01D5/06
D01F4/00 A
D01F6/24
D01F6/30
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023511837
(86)(22)【出願日】2021-08-12
(85)【翻訳文提出日】2023-04-11
(86)【国際出願番号】 CA2021051110
(87)【国際公開番号】W WO2022032387
(87)【国際公開日】2022-02-17
(32)【優先日】2020-08-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523052225
【氏名又は名称】3ディバイオファイバー インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100202751
【氏名又は名称】岩堀 明代
(74)【代理人】
【識別番号】100208580
【氏名又は名称】三好 玲奈
(74)【代理人】
【識別番号】100191086
【氏名又は名称】高橋 香元
(72)【発明者】
【氏名】フランプトン アイヴィー,ジョン ポール
(72)【発明者】
【氏名】チャウドリー,グルカラン
(72)【発明者】
【氏名】ボールドウィン,サムエル ジェームス
(72)【発明者】
【氏名】クレプラック,ローレント
(72)【発明者】
【氏名】ナウマン,ネハ
【テーマコード(参考)】
4L035
4L045
【Fターム(参考)】
4L035AA04
4L035BB03
4L035BB05
4L035BB07
4L045BA03
4L045DA33
4L045DA41
(57)【要約】
ポリマーストランドを作製するためのプロセスは、核形成要素をプレストランド組成物に挿入することであって、プレストランド組成物は、溶媒と混合されたポリマーを含み、ポリマーは、プレストランド組成物中のポリマーの重なり濃度(c*)以上である、プレストランド組成物中の濃度を有する、挿入することと、ポリマーを含むストランドが、核形成要素によってプレストランド組成物から引っ張られるように、核形成要素をプレストランド組成物から引き出すことであって、核形成要素は、核形成要素の引っ張り時間(τ
pull)が、プレストランド組成物中のポリマーの絡み合いをほどくのに要するレプテーション時間(τ
rep)未満であるような速度で引き出され、それにより、ストランドが核形成要素によってプレストランド組成物から引っ張られるときに、プレストランド組成物の粘弾性応答を誘導する、引き出すこととを含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリマーストランドを作製するためのプロセスであって、
核形成要素をプレストランド組成物に挿入することであって、前記プレストランド組成物は、溶媒と混合されたポリマーを含み、前記ポリマーは、前記プレストランド組成物中の前記ポリマーの重なり濃度(c*)以上である、前記プレストランド組成物中の濃度を有する、挿入することと、
前記ポリマーを含むストランドが、前記核形成要素によって前記プレストランド組成物から引っ張られるように、前記核形成要素を前記プレストランド組成物から引き出すことであって、前記核形成要素は、前記核形成要素の引っ張り時間(τ
pull)が、前記プレストランド組成物中のポリマーの絡み合いをほどくのに要するレプテーション時間(τ
rep)未満であるような速度で引き出され、それにより、前記ストランドが前記核形成要素によって前記プレストランド組成物から引っ張られるときに、前記プレストランド組成物の粘弾性応答を誘導する、引き出すことと
を含む、プロセス。
【請求項2】
前記プレストランド組成物中の前記ポリマーの前記濃度が、前記プレストランド組成物中の前記ポリマーの絡み合い濃度(c
e)以上である、請求項1に記載のプロセス。
【請求項3】
前記ポリマーが、ポリエチレンオキシド(PEO)であり、
前記プレストランド組成物が、コラーゲンをさらに含み、
前記ポリマーストランドが、PEOおよびコラーゲンのマルチフィラメントストランドである、
請求項1または請求項2に記載のプロセス。
【請求項4】
ポリエチレンオキシド(PEO)およびコラーゲンのマルチフィラメントポリマーストランドを作製するためのプロセスであって、
核形成要素を、溶媒と混合されたPEOおよびコラーゲンを含むプレストランド組成物に挿入することと、
PEOおよびコラーゲンフィラメントを含むマルチフィラメントストランドが、前記核形成要素によって前記プレストランド組成物から引っ張られるように、前記核形成要素を前記プレストランド組成物から引き出すことと
を含む、プロセス。
【請求項5】
前記プレストランド組成物が、100~400Pa・sの範囲の粘度を有する、請求項4に記載のプロセス。
【請求項6】
前記プレストランド組成物が、150~300Pa・sの範囲の粘度を有する、請求項4に記載のプロセス。
【請求項7】
PEOが、前記プレストランド組成物の総重量に基づいて少なくとも7wt%の量で、前記プレストランド組成物中に存在する、請求項4~6のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項8】
PEOが、前記プレストランド組成物の総重量に基づいて7~14wt%の量で、前記プレストランド組成物中に存在する、請求項4~6のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項9】
PEOが、前記プレストランド組成物の総重量に基づいて7~10wt%の量で、前記プレストランド組成物中に存在する、請求項4~6のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項10】
コラーゲンが、前記プレストランド組成物の総重量に基づいて0.2~9wt%の量で、前記プレストランド組成物中に存在する、請求項4~9のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項11】
コラーゲンが、前記プレストランド組成物の総重量に基づいて0.3~3wt%の量で、前記プレストランド組成物中に存在する、請求項4~9のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項12】
前記マルチフィラメントストランドが、0.5~4m/sの範囲の速度で引っ張られる、請求項4~11のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項13】
前記核形成要素が、表面を有し、前記核形成要素が、前記核形成要素の前記表面が少なくとも11mm
2の表面積にわたって接液するように前記プレストランド組成物に挿入される、請求項4~12のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項14】
前記核形成要素が、離隔した核形成要素のアレイ内の1つの各形成要素であり、前記アレイ内の隣接核形成要素が、最も太い隣接核形成要素の直径の少なくとも2倍の中心間距離を有する、請求項4~13のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項15】
前記ストランドが、コラーゲンを含むが、PEOを含まないように、コラーゲンからPEOを分離することをさらに含む、請求項3~14のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項16】
前記溶媒が、水性溶媒である、請求項1~15のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項17】
前記プロセスによって作製された前記ストランドが、0.01~100mの範囲のストランド長を有する、請求項1~16のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項18】
請求項1~17のいずれか一項に記載のプロセスによって作製されたポリマーストランドを含む物品。
【請求項19】
ポリマーストランドを形成するための組成物であって、前記組成物は、100kDa以上の重量平均分子量(M
w)を有するポリ(エチレンオキシド)を含み、ポリ(エチレンオキシド)は、水性溶媒に、前記組成物中のポリ(エチレンオキシド)の重なり濃度(c*)超のポリ(エチレンオキシド)濃度で溶解される、組成物。
【請求項20】
ポリ(エチレンオキシド)の前記濃度が、前記組成物中のポリ(エチレンオキシド)の絡み合い濃度(c
e)超である、請求項19に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2021年8月14日に出願された米国仮出願第63/066,154号の利益を主張し、その内容全体は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
分野
本出願は、ポリマーストランド、ならびにポリマーストランドを作製するためのプロセスおよびプレストランド組成物、ならびにポリマーストランドの使用およびポリマーストランドから作られる物品に関する。
【背景技術】
【0003】
生体材料のための生物活性ストランドを作り出す上で、多くの一般的な技術は、実用化に十分な生産速度を維持しながら、ストランドに組み込まれる生体分子を損傷することなくストランドを作製することができない。例えば、エレクトロスピニングは、人体に見られる天然コラーゲンと同様の長さスケールのコラーゲンを有するストランドを作製することができるが、この方法は、非常に特殊な設備を必要とし、コラーゲンを変性させ得る揮発性溶媒を使用し、コラーゲン分子を損傷し得る高せん断応力にストランドを曝す。エレクトロスピニングと同様の問題は、他の生物活性分子についても存在する。湿式押し出しは、高せん断速度または揮発性溶媒を使用せずに、自己組織化コラーゲンストランドを作製するために使用され得るが、このプロセスは、極端に遅く、通常、一度に1本の太いストランドを作製する。さらに、エレクトロスピニングプロセスおよび湿式押し出しプロセスは両方とも、容易に詰まる小口径のノズルまたはニードルを通した押し出しに頼るため、巨大分子、超分子集合体、およびナノ/マイクロ粒子を組み込むストランドを作製する能力が限られている。
【0004】
改善されたスループット、より長いストランド長、制御可能なストランド直径、制御可能なストランド断面プロファイル、ストランド内に添加剤を組み込む能力、および自動化に適したより単純な設備の使用の1つ以上を提供する、ポリマーストランドを作製するためのプロセスの必要性が依然として存在する。
【発明の概要】
【0005】
ポリマーストランドを作製するためのプロセスが開発され、プロセスは、核形成要素をプレストランド組成物に挿入することであって、プレストランド組成物は、溶媒と混合されたポリマーを含み、ポリマーは、プレストランド組成物中のポリマーの重なり濃度(c*)以上である、プレストランド組成物中の濃度を有する、挿入することと、ポリマーを含むストランドが、核形成要素によってプレストランド組成物から引っ張られるように、核形成要素をプレストランド組成物から引き出すことであって、核形成要素は、核形成要素の引っ張り時間(τpull)が、プレストランド組成物中のポリマーの絡み合いをほどくのに要するレプテーション時間(τrep)未満であるような速度で引き出され、それにより、ストランドが核形成要素によってプレストランド組成物から引っ張られるときに、プレストランド組成物の粘弾性応答を誘導する、引き出すこととを含む。
【0006】
プロセスは、ポリマーストランドを固体基材上に堆積させることをさらに含み得る。
【0007】
態様では、ポリエチレンオキシド(PEO)およびコラーゲンのマルチフィラメントストランドを作製するためのプロセスが提供され、プロセスは、核形成要素を、溶媒と混合されたPEOおよびコラーゲンを含むプレストランド組成物に挿入することと、PEOおよびコラーゲンフィラメントを含むマルチフィラメントストランドが、核形成要素によってプレストランド組成物から引っ張られるように、核形成要素をプレストランド組成物から引き出すこととを含む。
【0008】
製造品は、プロセスによって作製されたポリマーストランドを含み得る。
【0009】
一態様では、ポリマーストランドを形成するための組成物は、100kDa以上の重量平均分子量(Mw)を有するポリ(エチレンオキシド)を含み、ポリ(エチレンオキシド)は、水性溶媒に、組成物中のポリ(エチレンオキシド)の重なり濃度(c*)超のポリ(エチレンオキシド)濃度で溶解される。
【0010】
本発明のポリマーストランドは、ストランド単独の繊維として、織布および不織布材料中ならびにハイドロゲル中の繊維としてなどを含む、様々な用途に有用である。用途のいくつかの例としては、細胞培養細胞外マトリックス材料(例えば、2Dおよび3D細胞培養および組織再生支持材料)、医療装置(例えば、包帯、縫合糸、手術用メッシュ、および腱などの移植組織)、布(例えば、顔用マスク、およびファッション産業用の布、および保護衣)、ならびに高価値添加剤を含有するバイオ複合材料が挙げられる。糸、ヤーン、マルチフィラメント繊維、織物、編物、他の不織布(例えばフェルトなど)、またはそれらの混合物などの物品は、プロセスによって作製されたポリマーストランドから作られ得る。メッシュ物品におけるストランド配向は、平行(0°)、直交(90°)、0°~90°の間、または多方向であってよい。1つの用途では、ポリマーストランドのポリマー繊維ネットワーク構築物は、固体基材上または固体基材内にポリマーストランドを組み込むことによって固体基材に形成され得る。固体基材は、例えば、他の天然または合成ストランドから形成された布、ハイドロゲルマトリックス、ガラス、ポリジメチルシロキサン(PDMS)、ポリスチレン、熱可塑性ポリオレフィン、熱可塑性ポリウレタン、または他の熱可塑性エラストマーを含み得る。ハイドロゲルマトリックスは、3-(アミノプロピル)トリエトキシシラン、グルタルアルデヒド、スルホスクシニミジル6-(4’-アジド-2’-ニトロフェニルアミノ)ヘキサノアート(sulpho-SANP AH)、他の好適な表面機能化分子、またはそれらの任意の混合物で活性化されてもされなくてもよい、多孔質または非多孔質ポリアクリルアミドハイドロゲルマトリックスまたはアガロースハイドロゲルマトリックスを含み得る。
【0011】
本明細書のプロセスは、実装がより簡単であり、生物活性分子の生物活性の少なくとも一部を保持したまま生物活性分子を組み込むことができ、大規模製造に十分な生産速度を有する。プロセスは、所望の長さ、および/または直径、および/または断面形状を有する、様々な異なる種類ポリマーストランドのための効率的な生産プロセスを設計することを可能とする。プロセスを使用して、ポリマーストランドは、エレクトロスピニングおよび湿式紡糸よりも速いスループットで作製され得る。
【0012】
以下の発明を実施するための形態の過程で、さらなる特徴が記載されるか、または明らかになるであろう。本明細書に記載された各特徴は、他に記載された特徴のいずれか1つ以上との任意の組み合わせで利用されてよく、各特徴は、当業者に明らかな場合を除いて、別の特徴の存在に必ずしも依存しないことを理解すべきである。
【0013】
より明確な理解のために、次に、好ましい実施形態を、添付の図面を参照しながら例として詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】ポリマーストランドを作製するための装置の概略図を示す。
【
図2A】複数のポリマーストランドを同時に作製するための装置の側面断面図の概略図を示す。
【
図2B】
図2Aの装置の多数の核形成要素を含むピンブラシの正面図を示す。
【
図3】濃度の関数としての、500kDaデキストランおよび水の溶液のバルク粘度η(cP×10
4)のグラフを示す。接触延伸実験で使用された様々なwt%について、バルク粘度値を、指数関数フィッティング(破線)から外挿した。
【
図4】4つの異なる濃度の水中の500kDaデキストランについて、τ
pullの関数としての故障率のグラフを示す。各データセットは、ワイブル累積分布関数を使用してフィッティングされ、全てr
2>0.9が得られる。どの濃度も、τ
pullの狭い範囲にわたって、0%から100%の故障率への急激な移行を示す。τ
pullの誤差は、1%未満であり、故障率は、少なくとも15回の試行からの故障のパーセンテージとして取られた。
【
図5A】分子量が増加する4つの異なるデキストランの濃度の関数として、実験的に決定されたτ
repを示すグラフを示す(
図4)。各データセットは、指数関数でフィッティングされている(全てr
2>0.9)。
【
図5B】τ
rep×M
w
-3としてリスケールされた
図5Aからのデータの片対数プロットを示すグラフであり、データを単一の指数関数的傾向に落とし込む(r
2=0.998)。エラーバーは見えないが、τ
repの最大平均誤差は、500kDaで0.4sであり、濃度の誤差は、1wt%未満である。
【
図6】
図6Aは、水中の500kDaデキストランの様々な濃度での、引っ張り持続時間の関数としてのストランド直径のグラフである。
図6Bは、様々なM
wのデキストランの濃度の関数としてのストランド直径のグラフである。
図6Bに示されたストランドは全て、40cm/s、0.25sの引っ張り持続時間で引っ張られた。各データ点は、同一条件下で引っ張られた5つのストランドに対する3回の測定の平均である。エラーバーは、平均値の標準偏差を表す。
【
図7】
図7Aは、500kDaデキストランのη/%wt
7/3を示すグラフを示す。
図7Bは、様々なM
wにおけるストランド直径を引っ張り持続時間(τ
pull)の関数として示すグラフを示す。
図7Aの粘度データは、
図3から内挿され、線形フィッティングは、r
2>0.9を有する。
図7Bのデータ点は、
図6Bと同じであり、線形フィッティングは、r
2=0.9を有する。
【
図8A】10mMの水性HCl溶媒中の1MDa PEOのプレストランド組成物におけるポリエチレンオキシド(PEO)濃度(wt%)対粘度(Pa・s)のグラフを示し、PEO濃度が上昇するにつれて、粘度が対数的に上昇することを示す。
【
図8B】プレストランド組成物の粘度(Pa・s)対
図8Aのプレストランド組成物から引っ張られたPEOストランドの平均長(m)のグラフを示し、PEOストランドを15m超の長さに引っ張る能力を示す。
【
図8C】プレストランド組成物のPEO濃度(wt%)対平均長(m)のグラフを示す。
【
図9】脱水プロセス中のストランド形成が成功した時点での、溶液中のコラーゲンの%乾燥質量分率の関数としての、溶液中のコラーゲンおよびPEOの水和%質量分率のグラフを示す。コラーゲン含有量の増加と、コラーゲンおよびPEOの水和質量分率との間の直線関係は、所望のコラーゲン組成のPEO-コラーゲンストランドの再現性のある作製を可能とする。
【
図10】各画像の左上隅に示されたコラーゲンの%乾燥質量分率を有する溶液から調製されたPEO-コラーゲンストランドのSEM画像を示す。平均ストランド直径は、標準偏差とともに画像の下の表に示される(n=25)。
【
図11】その乾燥形態で90wt%のコラーゲンおよび10wt%のPEOの初期組成で形成されたストランドのSEM画像を示す。ポリマーを、PBS中で1時間、37℃で洗浄し、続いて水ですすぐことによって除去した後、コラーゲンを、SEM分析のために臨界点乾燥した。結果として生じるコラーゲンストランドは、天然コラーゲンで見られるものに似たサブフィブリル構造を含有する。矢印は、ストランドのサブ構成要素のフィブリルサイズのコラーゲンを示す。
【
図12】1時間のPBS洗浄、3回の連続水洗、および気流下での乾燥を受けたPEO-コラーゲンストランドのSEM画像を示す。各画像のストランドのためのストランド形成溶液中のコラーゲンの%乾燥質量分率は、画像の左上に示される。低コラーゲン含有量ストランドは、リボン状の外観を有する一方で、高コラーゲン含有量ストランドは、より丸い断面の構造を保持する。平均ストランド直径は、標準偏差とともに右下の表に示される(n=25)。
【
図13】粘性PEO溶液および0~90%の範囲のコラーゲンの%乾燥質量分率を有する溶液から形成されたストランドの合計ラマンスペクトル(上)を示す。1100~1150cm
-1(左下)および1550~1740cm
-1(右下)のスペクトルの積分は、それぞれPEOおよびコラーゲンの含有量を表す。
【
図14】PEOの合計の相対成分および
図13のラマン合計スペクトルからのラマンピーク積分のグラフを示す。PEOピークと比較したコラーゲンピークの存在は、それぞれのストランド形成溶液中のコラーゲンの%乾燥質量分率とともに直線的に増減する。これは、ストランド形成溶液中のコラーゲン含有量に基づく、ストランドのコラーゲン含有量の制御を実証する。
【
図15】天然構造ColI(α1)染色したPEO-コラーゲンストランドの免疫蛍光画像を示す。各画像のストランドのためのストランド形成溶液中のコラーゲンの%乾燥質量分率は、画像の左上に示される。
【
図16】乾燥およびPBS洗浄PEO-コラーゲンストランドの第二高調波発生(SHG)異方性ピークのグラフを示し、それらの長手方向軸に沿ったストランド内のコラーゲンの整列を実証する。
【
図17】トップダウン配向およびボトムアップ配向で、10mMの水性HCl溶媒中に8.5wt%の1MDa PEOおよび0.6wt%のコラーゲンを含むプレストランド組成物から引っ張られたPEO/コラーゲンのマルチフィラメントストランドの、引っ張り速度(紡糸速度)(m/s)対平均長のグラフを示す。
【
図18】PEO/コラーゲンマルチフィラメントストランドの平均ストランド長に対するピン直径の変更の効果を示す、接液表面積(mm
2)対平均ストランド長(m)のグラフを示す。
【
図19A】PEO/コラーゲンマルチフィラメントストランドの平均ストランド長に対するプレストランド組成物中のPEO濃度の変更の効果を示す、PEO濃度(wt%)対平均ストランド長(m)のグラフを示す。
【
図19B】コラーゲン/PEOマルチフィラメントストランドの平均ストランド長に対するプレストランド組成物中のコラーゲン濃度の変更の効果を示す、コラーゲン濃度(wt%)対平均ストランド長(m)のグラフを示す。
【
図19C】0.6wt%の一定のコラーゲン濃度の存在下での、プレストランド組成物粘度に対するPEO濃度の上昇の効果を示す、PEO濃度(wt%)対プレストランド組成物粘度(Pa・s)のグラフを示す。
【
図19D】8.5wt%の一定のPEO濃度の存在下での、プレストランド組成物粘度に対するコラーゲン濃度の上昇の効果を示す、コラーゲン濃度(wt%)対プレストランド組成物粘度(Pa・s)のグラフを示す。
【
図19E】プレストランド組成物粘度の変更による繊維長の最適化を示す、プレストランド組成物粘度(Pa・s)対平均ストランド長(m)のグラフを示す。
【
図20】20mM酢酸および10mM HClから引っ張られたマルチフィラメントPEO/コラーゲンストランドの平均ストランド長(m)を比較するグラフを示す。
【
図21A】本プロセスに従って作製されたPEOストランドで作られた不織布の、初期濾過効率(%)対粒子径(nm)のグラフを示す。
【
図21B】
図21Aの不織布の、全濾過効率(%)対粒子径(nm)のグラフを示す。
【
図22】粘性PEO溶液、ならびに等量のPEOおよびゼラチンを含有する溶液から形成されたストランドの合計ラマンスペクトルを示す。PEO-ゼラチンのスペクトルは、アミドI領域にブロードなピークを有し、これは純PEOストランドのスペクトルには見られない。
【
図23】PEOストランドへのクエン酸の組み込みの程度を示すグラフを示す。90wt%の純水、0.1Mのクエン酸、および1Mのクエン酸を含む10wt%のPEOのプレストランド組成物のpHが、ストランド形成前に測定された(前)。長さ30cmの約200,000本のストランドが、プレストランド溶液から引っ張られ、10mlの純水中で再水和され、この時点で、結果として生じる溶液のpHが再び測定された(後)。
【
図24A】2nmの銀ナノ粒子(左のパネルにクラスターとして見られ、右のパネルに矢印で示される)がストランドに組み込まれた、1MDa PEOストランドの透過型電子顕微鏡画像を示す。プレストランド組成物は、水中に10wt%の1MDa PEOおよび2000ppmの銀ナノ粒子濃度で構成された。
【
図24B】200nm未満の直径を有し、2nmの銀ナノ粒子がストランドに組み込まれた、1MDa PEOストランドの透過型電子顕微鏡画像を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
プロセスは、溶媒と混合されたポリマーを含むプレストランド組成物(すなわち、紡糸ドープ)からのポリマーストランドの接触延伸を含む。プレストランド組成物中のポリマーは、プレストランド組成物に挿入される核形成要素上で核形成し、核形成要素がプレストランド組成物から引き出されると、ポリマー分子は絡み合い、プレストランド組成物の表面と、プレストランド組成物の表面の外側の雰囲気との界面で、液架橋の形成をもたらす。適切な速さでストランドの引き出しを続けることによって、プレストランド組成物中のポリマーのより多くが、ストランドによってプレストランド組成物から引っ張られ、それにより、引っ張られているストランドが長くなる。プレストランド組成物の連続供給がある場合、プロセスにより無限の長さのストランドを引っ張ることができる。
【0016】
プレストランド組成物は、溶媒と混合されたポリマーを含む。好ましくは、ポリマーは、溶媒に溶解されて溶液を形成するか、または溶媒と混合されてペーストを形成する。
【0017】
溶媒は、好ましくは、極性溶媒、例えば、水、アルコール(例えば、メタノール、エタノール、1-プロパノール、1-ブタノール、1-ペンタノールなどの第一級アルコール、2-プロパノールなどの第二級アルコール、またはtert-ブタノールなどの第三級アルコール)、およびそれらの混合物を含む。水性溶媒が好ましい。水性溶媒のpHは、酸または塩基の添加で調節される。塩基としては、例えば、水酸化物、炭酸塩、重炭酸塩など、およびそれらの混合物が挙げられる。酸としては、例えば、鉱酸(例えば、HCl、H2SO4、HNO3、H3PO4など)、または有機酸(例えば、酢酸、クエン酸、コハク酸、トリフルオロ酢酸/2,2,2-トリフルオロエタノールなど、およびそれらの混合物)が挙げられる。水性溶媒は、塩または他の添加剤、特に、生化学、例えば細胞培養で一般に使用される塩または他の添加剤をさらに含んでよい。塩または他の添加剤としては、例えば、食塩水(例えば、生理食塩水)、緩衝液(例えば、トリス緩衝液、トリス緩衝食塩水、リン酸緩衝液、リン酸緩衝食塩水)、血漿、乳酸リンゲル液、酢酸リンゲル液、組織培地、またはそれらの混合物が挙げられ得る。いくつかの実施形態では、溶媒のpHは、ポリマーに応じて酸性、中性、塩基性に調節され得る。
【0018】
ポリマーは、溶媒への適切な溶解性、およびプロセス条件下で核形成要素によって溶媒から引き出し可能な分子量を有する任意のポリマーであり得る。ストランドは、合成または天然のポリマーから形成され得る。一部のポリマーとしては、多糖(例えば、デキストラン、キトサン、カラゲナン、セルロースなど)、ポリペプチド(例えば、コラーゲン、クモの糸、カイコの糸、他の昆虫の糸など)、ポリ(エチレンオキシド)(PEO)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリエチレングリコール(PEG)、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリ(2-エチル-2-オキサゾリン)(P2E2O)、ポリ(4-スチレンスルホン酸-co-マレイン酸)、ポリ(アクリル酸)、ポリ(ジアリルジメチルアンモニウムクロリド)、ポリ(メタクリル酸)、ポリ(メチルビニルエーテル-alt-マレイン酸)、ポリ(ビニルピロリドン)(PVP)、それらの架橋ポリマー、およびそれらのコポリマーが挙げられる。
【0019】
ポリマーの特に有用な群は、ストランドとして引っ張ることができないか、またはストランドとして引っ張ることが困難な他の化学物質のための足場として作用することができるポリマーである。足場ポリマーのいくつかの例としては、デキストラン、PEO、PVA、PEG、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリ(2-エチル-2-オキサゾリン)、ポリ(4-スチレンスルホン酸-co-マレイン酸)、ポリ(アクリル酸)、ポリ(ジアリルジメチルアンモニウムクロリド)、ポリ(メタクリル酸)、ポリ(メチルビニルエーテル-alt-マレイン酸)、ポリ(ビニルピロリドン)(PVP)、低密度ポリエチレン(LDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、ポリプロピレン(PP)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリスチレン(PS)、ナイロン、ポリテトラフルオロエチレン、熱可塑性ポリウレタン、それらの架橋ポリマー、およびそれらのコポリマーが挙げられる。
【0020】
1つ以上の他の化学物質が、プレストランド組成物中に存在してよい。ストランドの形成プロセス中、他の化学物質は、ストランドが形成されるときにポリマーストランド中またはポリマーストランド上に混入またはドープされる。足場ポリマーに担持され得る他の化学物質のいくつかの例としては、コラーゲン、ゼラチン、酵素、アクチン、チューブリン、ケラチン、アミノ酸、クモの糸、カイコの糸、エラスチン、ラミニン、フィブロネクチン、レシリン、アブダクタン(abductan)、フィブリン、インテグリン受容体リガンド、フィビュリン、グロブリン、トロンビン、糖タンパク質、プロテオグリカン、DNA、RNA、ヌクレオチド、カラゲナン、キチン、キトサン、セルロース、糖類、成長因子、ホルモン、サイトカイン、ケモカイン、抗体、脂質、ヒアルロン酸、金属イオン、非金属イオン、ナノ粒子(例えば、カーボンナノチューブ、金属ナノ粒子)、着色剤、界面活性剤、洗剤、ビタミン、塩基、鉱酸および有機酸(例えば、クエン酸)、他の自然健康製品、他の低分子医薬品(例えば、ミノサイクリン、リルゾール、ダルファムプリジン、エスシタロプラム、デオキシゲズニン、7,8-ジヒドロキシフラボン、ケルセチン、デキサメタゾン、タクロリムス)、ならびにそれらの組み合わせが挙げられる。
【0021】
それもまたポリマー物質であり、ストランドを形成することができる他の化学物質の場合、結果として生じるポリマーストランドは、足場ポリマーのストランドが他のポリマー化学物質(単数または複数)のポリマーストランドを担持する、2つ以上のポリマーのマルチフィラメントストランドを含み得る。このように、そのポリマーストランドを形成するのがこれまで不可能であったか、またはより困難であった、様々なポリマーの長いストランドを形成することができる。マルチフィラメントストランドは、市販の紡糸-延伸-巻き取り機、編組機、織機、および編み機、ならびに医療装置、例えば、縫合糸、織物、編まれた小径血管移植片または腱の製造に使用される機械の展開を可能とする。いくつかの実施形態では、他の化学物質は、ストランド形成の前、最中、または後に重合して、足場ポリマーに担持されたポリマーを含むポリマーストランドを提供する、モノマーを含み得る。いくつかの実施形態では、足場ポリマーは、例えば、機械的に、または足場ポリマーは溶けるが他のポリマーは溶けない洗浄溶媒の適用によって分離されて、他のポリマーの薄いストランドを残すことができる。
【0022】
1つ以上の他の化学物質は、ポリマーストランド中の他の化学物質のために好適な量で、プレストランド組成物中に存在する。好ましくは、1つ以上の他の化学物質は、プレストランド組成物の総重量に基づいて0.1~50wt%の範囲の濃度で、プレストランド組成物中に存在する。いくつかの実施形態では、プレストランド組成物中の1つ以上の他の化学物質の濃度は、0.1~30wt%、または0.2~30wt%、または0.2~5wt%、または0.2~9wt%、または0.3~20wt%、または0.3~10wt%、または0.3~9wt%、または0.3~8wt%、または0.3~5wt%、または0.3~3wt%、または0.4~10wt%、または0.5~9wt%、または0.5~8wt%、または0.5~5wt%、または0.5~3wt%である。
【0023】
プレストランド組成物は、ポリマーストランドのための安定化化合物をさらに含み得る。安定化化合物は、好ましくは、ポリマーストランドのための架橋剤である。安定化化合物のいくつかの例としては、グリオキサール、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDC)、アルデヒド(例えば、ホルムアルデヒド、グルタルアルデヒド)、フリーラジカルを発生させる架橋剤、またはそれらの混合物が挙げられる。
【0024】
プレストランド組成物中のポリマーの重なり濃度(c*)は、個々のポリマー鎖の立体構造が互いに重なり始める、プレストランド組成物中のポリマーの最低濃度である。これは、所与の充満した体積内の濃度が、プレストランド組成物中のポリマーの濃度に等しくなる点である。プレストランド組成物中のポリマーの濃度は、重なり濃度以上である。
【0025】
プレストランド組成物中のポリマーの絡み合い濃度(ce)は、個々のポリマー鎖が互いに絡み合い始める、プレストランド組成物中のポリマーの濃度である。絡み合い濃度は、常に重なり濃度と少なくとも同じ高さであるが、重なり濃度より最大で1000倍高くなり得る。絡み合い濃度は、しばしば、重なり濃度より少なくとも10倍高い。プレストランド組成物中のポリマーの濃度は、好ましくは絡み合い濃度以上である。好ましくは、プレストランド組成物中のポリマーの濃度は、プレストランド組成物全体が絡み合った状態にあるように十分に高い。
【0026】
ポリマーの濃度は、プレストランド組成物の総重量に基づいて、好ましくは少なくとも0.01wt%、より好ましくは0.01wt%~99wt%の範囲である。いくつかの実施形態では、ポリマーは、プレストランド組成物の総重量に基づいて、少なくとも7wt%、好ましくは7~14wt%、より好ましくは8~14wt%または7~10wt%の量で、プレストランド組成物中に存在する。いくつかの実施形態、例えばI型コラーゲンでは、プレストランド組成物中のポリマーの濃度は、40wt%以上、例えば、40~95wt%または40~65wt%である。他の実施形態、例えばPEOでは、プレストランド組成物中のポリマーの濃度は、0.5wt%以上、例えば0.5~70wt%である。要求されるポリマー濃度は、ポリマーの分子量(Mw)にある程度依存する。概して、より高い分子量のポリマーでは、より低い濃度が要求される。
【0027】
ポリマーは、好ましくは、1kDa以上、または5kDa以上、または10kDa以上、または35kDa以上、または40kDa以上、または50kDa以上、または70kDa以上、または100kDa以上、または1,000kDa以上、または8,000kDa以上の分子量(Mw)を有する。いくつかの実施形態では、ポリマーは、20,000kDa以下の分子量(Mw)を有する。概して、より高い分子量のポリマーは、より長いポリマーストランドを作製する能力をもたらす。
【0028】
プレストランド組成物中のポリマーのレプテーション時間(τrep)は、プレストランド組成物中のポリマー鎖の絡み合いをほどくのに要する時間である。レプテーション時間は、引っ張り時間を増加させることができるように可能な限り長く、所望の引っ張り時間未満であるべきである。レプテーション時間は、好ましくは少なくとも0.01秒、より好ましくは少なくとも0.1秒である。
【0029】
プレストランド組成物からの核形成要素の引っ張り時間(τpull)は、τpull=経路長/引っ張り速度と定義され、式中、経路長は、核形成要素がポリマーストランドを引っ張る設定距離であり、引っ張り速度は、核形成要素が設定距離にわたってストランドを引っ張る速さである。引っ張り時間(τpull)を、代わりに、核形成要素ではなくストランドとの関連で定義することができ、その場合、プレストランド組成物からのストランドの引っ張り時間(τpull)は、τpull=ストランド長/引っ張り速度と定義され、式中、ストランド長は、ポリマーストランドが引っ張られる設定長さであり、引っ張り速度は、ストランドがその長さにわたって引っ張られる速さである。ストランドの引っ張り時間(τpull)は、ストランドが核形成要素に接続される場合、核形成要素のτpullと同じである。τpullをストランドとの関連で定義することは、ストランドが核形成要素からストランド巻き取り機構に移される場合に有用であり、これは、連続ストランド形成プロセスにおいて好ましい。
【0030】
プロセスにおいて、核形成要素(または、ストランドが核形成要素に接続されない場合、ストランド)の引っ張り時間は、ポリマーのレプテーション時間(τrep)未満である。ポリマーのレプテーション時間(τrep)未満の引っ張り時間を有することにより、ポリマーのストランドがプレストランド組成物から引っ張られるときに、プレストランド組成物の粘弾性応答を誘導する。したがって、レプテーション時間より短い引っ張り時間において、絡み合いは一時的な架橋として作用し、粘弾性応答が生じ、それにより、ポリマーストランドが破断することなくプレストランド組成物から引っ張られることを可能とする。しかしながら、核形成要素またはすでに形成したストランドと、プレストランド組成物中の絡み合ったポリマーとの相互作用時間が、レプテーション時間より長い場合、絡み合いがなくなり、ストランドは破断する。引っ張り時間は、好ましくは、所望の引っ張り速度に対してストランドの長さを最大化するように選択される。引っ張り速度は、好ましくは、0.1~4m/s、または0.5~4m/s、または0.5~3m/s、または0.5~2m/sの範囲である。
【0031】
ポリマーストランドは、重力方向に対して任意の方向、例えば、上、下、または横に引っ張られてよい。プレストランド組成物への重力の作用が、引っ張りプロセス中に安定な紡糸コーンを維持するのを助け、それにより、より長いポリマーストランドの形成が可能となるため、ポリマーストランドを下方に引っ張ることが好ましい。紡糸コーンは、引っ張り(紡糸)中にプレストランド組成物の表面から外側に向いているプレストランド組成物の体積である。
【0032】
プロセスを使用して、ストランドが引っ張られているプレストランド組成物を連続的に補充することによって、事実上無制限のポリマーストランド長を達成することができる。10m以上、またはさらには100m以上までのストランド長を達成することができる。いくつかの実施形態では、ストランド長は、0.01~100mの範囲である。いくつかの実施形態では、ストランド長は、0.01~15mまたは0.01~10mの範囲である。いくつかの実施形態では、ストランド長は、10cm以上、または50cm以上、または1m以上、または10m以上であり得る。
【0033】
より低いバルク粘度は、より薄いストランドをもたらすので、プレストランド組成物のバルク粘度を、ストランド直径を制御するように調整することができる。プレストランド組成物のバルク粘度が上昇するにつれて、より太いストランドを形成することができる。しかしながら、プレストランド組成物の粘度が低すぎる場合、紡糸コーンは崩壊し、成長しているストランドは破断し、粘度が高すぎる場合、紡糸コーンは、ストランド形成を可能とするのに十分な体積の流体を含有していないであろう。したがって、プレストランド組成物の粘度を適切に設定することが重要である。いくつかの実施形態では、プレストランド組成物のバルク粘度は、好ましくは、垂直落球法による測定で8~100Pa・s(8,000cP~100,000cP)の範囲である。他の実施形態では、プレストランド溶液のバルク粘度は、StressTech(商標)HRレオメータによる測定で、好ましくは100~5,000Pa・s(100,000~5,000,000cp)、より好ましくは100~1,000Pa・s(100,000~1,000,000cp)、さらにより好ましくは100~400Pa・s、さらにより好ましくは150~300Pa・s、さらにより好ましくは175~250Pa・sの範囲、例えば200Pa・sである。ポリマーがPEOを含む場合、バルク粘度は、好ましくは100~400Pa・s、より好ましくは150~300Pa・s、さらにより好ましくは175~250Pa・s、または150~200Pa・s、例えば200Pa・sである。
【0034】
プレストランド組成物のバルク粘度は、プレストランド組成物中のポリマーの濃度の影響を受ける。プレストランド組成物中のポリマーの濃度の上昇は、バルク粘度を上昇させる一方で、濃度の低下は、バルク粘度を低下させる。プレストランド組成物中のポリマーの濃度の調整は、したがって、作製されるストランドの直径を調整する。20~20,000nmの範囲の平均ストランド直径を、プレストランド組成物の粘度の適切な調整によって達成することができる。プロセスの大きな利益は、200nm以下、例えば20~200nmの平均ストランド直径を有する超微細ストランドを作製する能力である。さらに、ストランド直径は、ストランドの長さにわたって比較的一定のままである。
【0035】
ストランドの異なる断面形状を、プロセスで得ることができる。例えば、ストランドは、円形または楕円形の断面を有し得る。ストランド全体が、1つの断面形状を有してもよく、またはストランドの異なる部分が、異なる断面形状を有してもよい。したがって、リボンおよび他のアーキテクチャのストランドが作製され得る。
【0036】
核形成要素は、要素がプレストランド組成物に挿入されるとストランドが核形成することができる、任意の物体であり得る。ストランドの核形成は、核形成要素上の1つ以上の核形成部位において、例えば液滴の形態での、プレストランド組成物の一部の付着をもたらす。核形成要素がプレストランド組成物から引き出されると、液架橋が、核形成要素上のプレストランド組成物と、リザーバに残っているプレストランド組成物との間に形成され、核形成要素がさらに引っ張られてリザーバから離れると、ポリマーストランドが、核形成要素とリザーバとの間に形成される。核形成要素は、ポリマーの非ランダム核形成を提供する。非ランダム核形成により、1つ以上の核形成部位が、ストランド成長および他のプロセスステップのより良好な制御のためにあらかじめ決定され得る。核形成要素は、核形成要素がプレストランド組成物から引き出されると、ポリマーがストランドを形成するような、サイズおよび形状を有する。核形成要素のアスペクト比(高さ対最大幅)は、好ましくは1:100~1000:1の範囲である。いくつかの実施形態では、アスペクト比は、好ましくは1:1~1000:1の範囲である。核形成要素は、好ましくは、キャップがプレストランド組成物に挿入されたときに、その上への薄いポリマーストランドの初期付着を可能とする、十分に小さい幅のキャップを有する。ポリマーストランドが付着する核形成要素の幅は、好ましくは0.5~4mm、より好ましくは2~4mmである。いくつかの実施形態では、核形成要素の幅は、1mm以下、または0.75mm以下、例えば0.5mmであり得る。キャップは、好ましくは、平坦、円錐形、ピラミッド形、または楕円形のジオメトリを有する。
【0037】
核形成要素は表面を有し、核形成要素は、好ましくは、核形成要素の表面が少なくとも11mm2、好ましくは少なくとも50mm2の表面積にわたって接液するようにプレストランド組成物に挿入される。好ましくは、接液表面積は、400mm2まで、より好ましくは200mm2まで、さらにより好ましくは110mm2までである。好ましくは、接液表面積は、11~400mm2、より好ましくは11~200mm2、さらにより好ましくは11~110mm2、さらにより好ましくは50~110mm2、さらにより好ましくは60~90mm2の範囲である。
【0038】
1つのポリマーストランドを引っ張るために、単一の核形成要素が使用され得る。しかしながら、複数のストランドが、複数の離散した核形成要素を使用することによって、同じプレストランド組成物から同時に引っ張られてよい。複数の核形成要素は、規則的またはランダムな間隔を有する、規則的なアレイまたは不規則なアレイのいずれかのアレイで提供され得る。複数の核形成要素が使用される場合、複数の核形成要素は、好ましくは、最も太い隣接核形成要素の直径の少なくとも1.5倍、好ましくは少なくとも2倍、より好ましくは少なくとも2.5倍の、核形成要素間の最小中心間距離を有する。いくつかの実施形態では、間隔は、少なくとも0.2mm、好ましくは少なくとも0.5mm、より好ましくは少なくとも1mmである。下限は、主に、3Dプリンタの解像度、および機械加工により達成され得る許容誤差に起因する。所望のストランド厚はまた、最小間隔および核形成要素の幅の情報を与える。より大きいピン間隔および/またはより幅広の核形成要素が、より太いストランドのために必要であり得る。核形成要素は、任意の好適な方法、例えば3D印刷または機械加工によって製造され得る。核形成要素は、任意の好適なジオメトリ、例えば、多角形または楕円形の断面を有し得る。核形成要素のいくつかの例としては、表面上のピン、ニードル、ロッド、および突起(例えば、ピラー、リッジ、ノジュール、細粒など)が挙げられる。いくつかの実施形態では、複数の、1つ以上の種類のそのような核形成要素が、ベースに取り付けられ、複数のストランドを同時に引っ張るのに使用される。したがって、ピンブラシ、紙やすり、テクスチャ加工グローブ、粗面などが、複数のストランドを同時に引っ張るのに使用され得る。
【0039】
核形成要素は、核形成要素を取り付けるかまたは繋ぎ、プレストランド組成物を含有し、核形成要素をプレストランド組成物内外に平行移動させるための特徴を含有する装置に具現化され得る。いくつかの実施形態では、核形成要素は、平坦なプレートに取り付けられ、そこから突出する。いくつかの実施形態では、プレストランド組成物は、平坦なプレート上の浅いプールに含有される。ストランド形成中、平坦なプレートは、互いに向き合い、プレートが垂直に立ち、それにより核形成要素が水平に伸びるように配向され得るか、または核形成要素が垂直に伸びるように水平に配向され得る。水平配向では、プレストランド組成物を含有する平坦なプレートは、好ましくは、核形成要素を保持する平坦なプレートの下にある。平坦なプレートは、好ましくは1cm2の最小底面積を有する一方で、最大底面積は、ストランドを作製するための操作上の要求によってのみ制限される。したがって、最大底面積は、数平方メートル以上に達し得る。他の取り付けおよび含有配置を、当業者なら想定することができる。核形成要素を平行移動させるための特徴は、電動または手動ステージを含み得る。自動装置が好ましい。
【0040】
核形成要素上でのストランド核形成後、ストランドは、核形成要素から、ストランドを連続的に引っ張り、収集することができるストランド巻き取り機構(例えば、ゴデットなどの連続紡糸装置)に移され得る。このようにして、不定の長さのストランドを作製することができる。
【0041】
図1に示されるような一実施形態では、プレストランド組成物からポリマーストランドを作製するための装置1は、プレストランド組成物の入った3D印刷した溶液リザーバ3、プレストランド組成物からストランドを引っ張るための先端6を有するマイクロニードル5、および3D印刷したマウント9を使用してマイクロニードル5が取り付けられている平行移動ステージ8を備える。溶液リザーバは、スタンド2に取り付けられ、平行移動ステージ8は、マイクロニードル5の先端6が、水平ベクトルに沿って平行移動して、溶液リザーバ3の中のプレストランド組成物に挿入され、次いで、溶液リザーバ3から引き出されて、同じ水平ベクトルに沿って逆方向にプレストランド組成物からポリマーストランドを引っ張り出すように取り付けられる。平行移動ステージ8の動きは、可変速モータ(図示せず)によって制御される。少なくともマイクロニードル5の先端6は、好ましくはステンレス鋼製である。
【0042】
図2Aおよび
図2Bに示されるような別の実施形態では、プレストランド組成物から複数のポリマーストランドを同時に作製するための装置20は、プレストランド組成物を含有するための3D印刷した溶液支持体21、およびブラシプレート28の前面から突出するピン25(1つだけラベルが付いている)の70×35個のアレイを含むピンブラシ27を備える。溶液支持体21は、プレストランド組成物を含有するための、支持プレート23の前面と後面との間の隙間24を有する支持プレート23、およびピン25のアレイと整列し得る、支持プレート23の前面の開口22(1つだけラベルが付いている)の70×35個のアレイを備える。ピン25および開口22が整列すると、ピン25は、開口22を通して、隙間24の中のプレストランド組成物に挿入され得、次いで引き出されて、プレストランド組成物からポリマーストランドを引っ張り得る。装置20は手持ち装置として示されているが、溶液支持体21がスタンドに取り付けられ、ブラシプレート28が平行移動ステージに取り付けられて、
図1の装置と同様の方法で操作され得る。装置20は、高スループットのストランド形成のために、高密度のストランド核形成部位を有する。プレストランド組成物を含有するための隙間および隙間にアクセスするための開口を備える支持プレートの代わりに、支持プレートは、浅いプールにプレストランド組成物を保持することができる平坦な表面を備えることができる。そのような配置は、ピンと開口を整列させる必要性を排除する。
【0043】
ポリマーストランドの作製後、ストランドを、スプールまたは円形フレームなどの収集器に移すことができ、ストランドは、続いて、糸、ヤーン、織物、編物、フェルトなどに組み立てられ得る。製造プロセス全体は、手で行われ得るか、または生産効率を改善し、ストランドサイズをより良好に制御するために、プロセスは、単純なロボットシステムを使用して自動化され得る。
【0044】
実施例
実施例1:ポリマーストランド作製のためのプロセス最適化
材料および方法:
以下のデキストラン分子量(Mw):70、150、250、および500kDaが検討された。70、150、および500kDaデキストランは、Dextran Products Limitedから購入され、一方で250kDaデキストランは、Pharmacosmos(商標)から購入された。Mwごとに、40wt%(wt/wt)~63wt%(wt/wt)の範囲のデキストラン濃度を有する様々な溶液を作った。脱イオン(DI)水が、ストランド引っ張りプロセスの分析に使用した溶媒であった。DI水および0.02Nの酢酸中のI型コラーゲン(Corningからのラット尾コラーゲンI)を、ストランド直径分析のための溶媒として使用した。各Mwのデキストランについて、所望の濃度を有する均質なポリマー溶液を、プラスチック秤量皿内の適切な質量の溶媒に乾燥ポリマーを加え、ポリマーが完全に溶解するまでピペットチップ使用して手動で撹拌することによって得た。次いで、結果として生じる溶液を、貯蔵中の蒸発による溶媒損失を防ぎ、接触延伸装置に加えられる溶液の体積を制御するために、1mLのシリンジに移した。
【0045】
粘度測定
全ての実験を、22.5~24.0℃、20%未満の相対湿度で行った。デキストラン溶液粘度(η)を、落球法を使用して測定した。0.399±0.002cmの直径および0.2611±0.0001gの質量を有する球形ステンレス鋼ボールベアリング玉を、ポリスチレンコニカルチューブ内の溶液に落とした。500kDaデキストランの水溶液を、35、40、45、50、および55wt%で調製し、3000rcfで15分間遠心分離して、浮遊気泡を取り除いた。0.001sの単位まで正確なデジタルタイマーおよび0.5mmの単位まで正確な定規を使用して、落球が移動した距離を経時的に測定し、そこから速度を計算した。0.001g/cm
3の単位まで正確なAnton Parr DMA 35携帯型密度計を使用して、各溶液の密度を測定した。粘度を、以下:
【数1】
に従って計算し、式中、ΔPは、溶液とボールベアリング玉との間の密度の差であり、gは、重力加速度であり、rは、ボールベアリング玉の半径であり、vは、デキストラン溶液中を移動するボールベアリング玉の速度である。直接試験されていない500kDaデキストランの濃度については、粘度は、
図3に示された濃度対粘度のプロットから内挿された。
【0046】
接触延伸装置
図1に示されたような装置が、ポリマーのストランドを作製するために作られた。装置は、ストランドを引っ張るために、Ted Pella(商標)から購入されたシャンク直径0.5mmの鋼製マイクロニードル(製品#13601C)を備えていた。マイクロニードルを、3D印刷した継ぎ手を使用して、100mm直線移動ステージ(Thorlabs(商標)DDSM100/M)に取り付けた。この取り付け構成を用いて、平行移動ステージは、400mm/sまでの速度に達することができた。平行移動ステージを、移動速度および停止位置を設定する、ThorlabsからのKinesisソフトウェアを使用して操作した。Nikon(商標)のNikkor(商標)50mmレンズを装着したEdgertronic(商標)の高速度カメラを使用して、60mm/s間隔の設定速度のビデオを記録することによって、ステージの速さを較正した。そこからマイクロニードルがストランドを引っ張ることになる、溶液を保持する溶液リザーバを、3D印刷した。溶液リザーバは、蓋がなく、シリンジによる充填を可能とする前面を有する2×5×5mmの長方形リザーバに、50μLを保持するように設計された。マイクロニードルは、平行移動ステージの位置限界において、リザーバ内で約4mmの深さに達することができた。
【0047】
ストランド引っ張りプロセスの分析のために、3D印刷した溶液リザーバを50μLのデキストラン溶液で充填した。デキストラン溶液を10分ごとに交換して、蒸発の影響を軽減し、マイクロニードルが、デキストラン溶液の表面に対して一貫した深さで侵入することを確実にした。ステージを、マイクロニードルが、充填された溶液リザーバに、29mm/sの速度で約4mmの深さに侵入し、0.5s間停止し、次いで設定速度で後退して、下式のとおりに計算された所望の引っ張り持続時間(τ
pull)を得るようにプログラムした:
【数2】
【0048】
試行は、設定経路長のストランドが得られた場合に成功が割り当てられ、そうでない場合に故障が記録され、故障モードが記録された。2つの故障モードが観察された。モードIは、引っ張りが完了する前にストランドが一端または両端から離れたときに生じる、緩和故障であった。モードIIは、液滴がストランドに沿って捕捉され、ストランドの垂れを引き起こす、ストランド液滴故障であった。少なくとも15回の試行を各τ
pullについて行い、故障率を以下に従って計算した:
【数3】
【0049】
0%の故障率をもたらすτpullから開始して、故障率が100%に達するまで、ステージの平行移動速度を減少させることによってτpullを増加させた。マイクロニードルを、エタノールに浸したKimwipe(商標)を使用して、試行間にきれいに拭いた。試行のいくつかの高速ビデオを、引っ張りプロセスの定性分析のために、Edgertronic(商標)のカメラを使用して記録した。
【0050】
τ
pullの関数としての故障率のデータを、経時的な故障解析に広く使用されている統計モデルであるワイブル累積分布関数を用いてフィッティングした。Matlab(商標)曲線フィッティングツールを使用して、データを、以下:
【数4】
に従ってフィッティングし、式中、aは、累積分布の変曲点を表す尺度パラメータであり、kは、分布の幅を表す形状パラメータである。データセットは、0%または100%の故障率ではない少なくとも3つの点を含んでいた場合にのみ、フィッティングされた。
【0051】
ストランド直径測定
ストランド直径を特徴付けるために、少なくとも5つのストランドを、所与の引っ張り持続時間で、25.4×76.2×1mmのスライドガラス(Ultident(商標)170-7107A)上に収集し、次いで、両面テープを使用して、24×50×0.15mmのガラスカバースリップ(Deckglaser(商標)470819)で蓋をした。デキストランの全ての濃度およびMwについて、特に記載のない限り、引っ張り持続時間を0.25sに設定した。直径を測定するために、ストランドを、Nikon Eclipse(商標)Ti光学顕微鏡で40倍の対物レンズを使用して撮像した。各ストランドを、ストランド長に沿って約1cm間隔の3つの点で撮像した。ImageJ(商標)にインポートされた後、画像は、バイナリに変換され、3×3マトリックス中の画素を平均することによってエッジ検出を簡略化するImageJ(商標)の平滑化機能を使用して処理された。次いで、ストランドの直径を、200画素の幅を有する目的の長方形領域を使用して、2つの外縁間で測定した。これは、各直径測定が17μmのストランド長にわたる平均であることを可能とし、測定された直径がストランド長に垂直であることを確実にすることによって、測定誤差を減らした。
【0052】
結果および考察:
デキストランをモデルポリマーとして使用し、デキストランを使用して得られた結果を、他のポリマーに広く適用することができる。接触延伸プロセスを理解し、ストランド形成を制御する重要なパラメータを特定するために、τ
pullを変化させ、ストランド形成プロセスを、成功した引っ張り中の様々な時点で高速度カメラを使用して観察した。短いτ
pull(0%の故障率をもたらすもの)では、ストランドは、引っ張りが完了するまで、マイクロニードルと溶液リザーバの両方に接続したままであり、試行の成功を例示する。τ
pullが増加すると、引っ張りが完了する前に不完全なストランドが少なくとも1つの接触点から離れる、モードIの故障率が上昇する。モードIの故障は、モードIIの故障よりも頻繁に生じ、かつ(以下で説明されるように)予測可能である。モードIIの故障では、液滴は、ストランドに沿って捕捉され、ストランドの垂れを引き起こす。モードIIの故障は、全故障の2%未満を占める。4つの異なる濃度の水中の500kDaデキストランについて、τ
pullの関数としての故障率を
図4に示す。各濃度について、故障率は、τ
pull値の非常に狭い範囲にわたって、0%から100%へ急激に移行する。故障の累積分布におけるこの急激な移行は、接触延伸プロセスの特性時間スケールを示す。
【0053】
デキストラン分子は、水中でランダムコイルを形成することが知られており、水がデキストランにとってθ溶媒であることを意味する。70および500kDaデキストランは、それぞれ、10.6および5.1g/dL、すなわち約9.6および4.8wt%の重なり濃度(c*)を有する。所与の溶液について、絡み合い濃度(c
e)は、c*よりはるかに高い。一例として、トルエン中のポリスチレン(中性ポリマー)では、c
e≒10c*である。ここで、全てのデキストラン溶液が絡み合った状態にあるように、c*より約6および10倍高い濃度を、それぞれ70および500kDaデキストランに使用した。絡み合った溶液内で、レプテーション時間(τ
rep)は、ポリマーが絡み合いを脱して自由に流動するのに必要な特性時間である。したがって、絡み合った溶液との相互作用時間がτ
repより長い場合、絡み合いがなくなり、粘性応答が観察される一方で、τ
repより短い時間スケールでは、絡み合いは一時的な架橋として作用し、粘弾性応答が生じる。全てのデキストランの濃度は、重なり濃度c*よりはるかに高いため、
図4における0から100%の故障率への急激な移行は、絡み合いがストランド形成の主な機構であることを示唆する。したがって、
図4の曲線をフィッティングし、変曲点(時間スケールを表す)を抽出することにより、所与の溶液のτ
repを抽出することが可能である。
【0054】
ストランド形成プロセスにおけるストランドの絡み合いの役割をさらに調べるために、故障率曲線を、時間に比例する故障率を有するシステムの解析に広く使用されている統計モデルであるワイブル累積分布関数を用いてフィッティングした。24のデータセットについて、19のフィッティングが、r2>0.90を有する。計算された最低r2値は、0.76である。各フィッティングは、形状パラメータk>1を有し、これは、引っ張り持続時間の増加が粘性応答の可能性の上昇をもたらすシステムから予想されるように、時間とともに故障率が上昇することを表す。理論上、既知の濃度および明確なMwを有する溶液は単一の明確なτrepを有するはずであるので、粘弾性応答から粘性応答への移行は、即時となるはずである。しかしながら、ここで使用されるポリマーは、多分散(500kDaデキストランでPDI=9.1)であり、溶液は、濃度に局所的な不均一性を有し得る。両方の要素が、kパラメータによって捉えられるτrepの分布をもたらす。
【0055】
各フィッティングから、尺度パラメータaは、特定の溶液について実験的に決定されたτ
repである。
図5Aは、様々なM
w値の濃度の関数として、τ
repのこれらのデータをプロットする。所与のM
wについて、τ
repは濃度とともに指数関数的に増減する。物理的には、τ
repの増加は、濃度の上昇から生じる絡み合い数密度の上昇として理解され得る。絡み合い密度が上昇すると、ポリマーが絡み合いをやめて、自由に流動するのに必要な時間は増加する。
図5Aは、一定の濃度において、M
wの増加に伴うτ
repの増加も示す。これは、250および500kDaデキストランで最もはっきりと観察される。一定の濃度において、M
wを2倍にすることは、絡み合い密度が同じままで、2つのポリマー鎖を末端間でともに結合させることと等価である。したがって、τ
repの増加は、絡み合い密度の上昇に由来せず、むしろ各ポリマーが2倍の数の絡み合いを脱しなければならないことから生じる。
【0056】
絡み合った溶液のレプテーションモデルは、τ
repがM
w
3に従って増減することを予測する。このモデルに従ってτ
repをリスケールすることは、データを単一の指数関数的傾向に落とし込むことを可能とする(
図5B)。これは、この研究で分析された全てのデキストラン溶液がc
eより高い濃度を有することを示し、ポリマーの絡み合いがストランド形成の主な機構であるという主張を支持する。
【0057】
データは指数関数でうまくフィッティングされている(r2=0.998)が、レプテーションモデルは、τrep/Mw
3が濃度のべき乗則として増減すると予測する。しかしながら、このモデルが、単分散の線状ポリマーに基づく一方で、これらの実験で使用されたデキストランは、ある程度多分散であり、高分子量で分岐することが知られている。多分散性は、ポリマーネットワークの緩和時間を3倍以上に増加させることが知られ、分岐の存在は、レプテーションを抑制し、緩和時間を分岐長に比例して増加させ得るため、これらの実験条件の両方が、絡み合いモデルの解釈を大幅に複雑化する。この矛盾にもかかわらず、実験的に決定されたτrep/Mw
3データは、普遍的傾向に落とし込まれる。これは、ポリマーの絡み合いをストランド形成の機構として検証し、広い分子量および溶液濃度の範囲にわたってストランドを作り出すのに必要な製造条件の予測を可能とする。
【0058】
接触延伸では、τrepより短い時間スケールで引っ張ることにより、収集され、数か月間ひずみが加わることなく貯蔵され得る固体ストランドを作製する。これらのストランドは、これらの長期間にわたってほどけず、または粘性流動せず、水が、引っ張られたストランドから蒸発したことを示す。ストランド直径はミクロンオーダーであるが、長さは少なくとも数センチメートルであるため、体積に対する表面積の比率が大きいことにより、水の蒸発は急速に起こる。最終ストランド直径に対する接触延伸条件および初期溶液特性の影響を分析することにより、ストランド製造プロセスへのさらなる洞察を得ることができる。
【0059】
図6Aは、水中の500kDaデキストランの様々な濃度での、τ
pullの関数としての乾燥ストランド直径を示す。所与の濃度について、ストランド直径は、実験誤差の範囲内でτ
pullに無関係である。これらのデータによれば、τ
pullがτ
repより短い場合、最終ストランド直径は、ストランドがどれほど速く引っ張られるかに無関係である。しかしながら、ストランド直径は、濃度の上昇とともに増加する。この傾向は、
図6Bに見られるように、全てのM
w値で示される。所与のM
wについて、ストランド直径は、濃度とともに指数関数的に増加することがわかる。所与の濃度について、ストランド直径は、概してM
wとともに増加する。この傾向は、70~250kDaのデキストランで観察されるが、250~500kDaのデキストランでは観察されなかった。
図6Bの白丸は、8.70mg/mlのコラーゲン酸性溶液中に溶解された500kDaデキストランからのストランドの直径を示す。これらのデータは、水中の500kDaのデータと非常によく重なり、デキストラン溶液への少量の生物学的物質の組み込みは、ストランド形成に影響を及ぼさないことを示す。したがって、コラーゲン/デキストランストランドおよび他のポリマーストランドの形成を、
図6Bの傾向を使用して予測することができる。
【0060】
濃度上昇に伴うストランド直径の増加の傾向は、接触延伸プロセスを分析することによって定性的に理解され得る。ストランドが引っ張られ、マイクロニードルが動きを止めると、ストランドにその端部で付着する液架橋の二次流が存在する。絡み合った溶液における液架橋についての多数の先行研究は、粘弾性溶液内に蓄えられた回復可能な弾性ひずみを特徴付けている。ひずみが加えられない場合、この蓄えられた弾性エネルギーは、二次流を発生させる原因となる。500kDaデキストランおよび水の45wt%および50wt%溶液について、二次流は、最終ストランドより約200倍大きい直径の液架橋から始まる。時間とともに、液体は、溶液リザーバに逆流し、すべての液体が溶液リザーバに戻り、最終ストランドが離れるまで、液架橋を短くする。直径測定値の比較的大きい変動が、ストランドの引っ張りとストランドの収集との間に経過した時間の変動から生じ得る。ストランドは手動で収集されたため、全ての液体が最後まで流れる前に収集されたストランドは、後の時点で収集されたストランドより大きく見えることになる。この影響は、
図6Aの実験誤差の主な原因であり得る。
【0061】
興味深いことに、この二次流は、50wt%溶液より45wt%溶液において著しく速く生じ、両方の引っ張りは同じ持続時間にわたって生じる。約8000cPのバルク粘度を有する45wt%溶液は、3.1mm/sの平均流速を有する一方で、約85,000cPのバルク粘度を有する50wt%溶液は、1.1mm/sの平均流速を有する(バルク粘度値については
図3を参照)。したがって、濃度上昇に伴うストランド直径の増加は、このネッキング領域の先端を分析することによって定性的に理解され得る。この先端では、高濃度の固体ストランドが液架橋と交わり、この交点は、時間ともに一定の流速で後退する。同様に一定の蒸発速度を仮定すると、流速が高いほど、より多くのポリマーが液体とともに流れて溶液リザーバに戻ることになり、より小さいストランドをもたらす。流速が低いほど、溶液が乾燥するにつれてより大きい重量分率のポリマーがストランドに残り、より大きい最終ストランドをもたらす結果になる。言い換えれば、バルク粘度は二次流の速度を制御し、二次流の速度がストランド直径を制御する。
【0062】
さらに、レプテーションモデルによれば、τ
repおよび粘度は、以下を通して直接関係する:
【数5】
図7Aは、水中の500kDaデキストランについて実験的に決定されたτ
repの関数として、η/wt%
7/3を示し、レプテーションモデルによって予測されるような線形傾向(r
2>0.9)でフィッティングされた。再び、これらのデータは、レプテーションモデル予測に従い、τ
repをηのスケール因子として使用することの妥当性を示す。
【0063】
τ
repを粘度の代理として使用することができるという理解のもとに、
図7Bは、デキストランの全てのM
wについて、τ
repの関数としてのストランド直径のプロットを示す。直径は、τ
repとともに直線的に増減し(r
2=0.90)、これは、最終ストランド直径が、全てのM
w値でηとともに直線的に増減することを意味する。したがって、
図6Bに見られる、濃度によるストランド直径の増減も、粘度の上昇をもたらす濃度の上昇によって説明され得る。これは、最終ストランド直径が、主に溶液の濃度および粘度によって決定されることを実証する。
【0064】
本プロセスを使用して高粘性デキストラン溶液から形成された、長さ10cmの安定な液架橋の分析は、接触延伸プロセスを制御する重要なパラメータを特定した。故障解析は、安定な架橋の生成が、ポリマー溶液内の絡み合いの緩和時間に依存することを実証した。この臨界時間スケールより短い時間でストランドが引っ張られる場合、液架橋は安定化し、所望の長さのポリマーストランドになる。引っ張り速度は、ストランド直径に明らかな影響を及ぼさないが、初期溶液の粘度は影響を及ぼす。粘度が上昇すると、二次流の流速は低下し、より大きい最終ストランド直径をもたらす。溶液特性へのストランド直径の依存性は、I型コラーゲンの添加で持続し、これは、生体材料としてのこれらのストランドの使用において重要である。
【0065】
実施例2:ポリ(エチレンオキシド)ストランドの作製
材料および方法:
ポリエチレンオキシド(PEO)(1MDa、ロット# MKCM5188およびMKCF6841を、Sigma Aldrichから入手した。塩酸(HCl)を、ACP chemicalsから購入し、逆浸透水で10mMに希釈した。
【0066】
10mM HCl溶液15グラムを、CL Series OHAUSスケールで50mLのVWR falconチューブに秤量した。所望の量のPEOを、VWR化学天秤で重量測定した。PEO粉末を、10mM HCl溶媒に徐々に加え、溶液を、ガラス撹拌棒を使用して5分間混合した。次いで、溶液を、周囲温度下で3~5日間放置して均質化し、PEOのプレストランド組成物を形成した。プレストランド組成物を、Eppendorf(商標)遠心機5702 RHを使用して脱気した。
【0067】
PEOストランドを、0.5~4m/sの範囲の引っ張り速度を使用して、プレストランド組成物から引っ張った。任意選択で、1~2m/sが、紡糸コーンが最も安定な範囲である。引っ張り速度が上昇すると、マルチフィラメントストランドの長さは、徐々に増加し、次いで減少した。引っ張り速度が最適範囲を超えて上昇すると、紡糸コーンは、長くかつ不安定になり、ストランド長の減少をもたらした。部屋の周囲条件を、TP49 Thermo Pro(商標)湿度計で記録した。周囲相対湿度は、25~27%の範囲であり、周囲温度は、27~29℃の範囲であった。
【0068】
結果および考察:
PEOは、エチレンオキシドの線状非分岐ホモポリマーである。PEOを含むプレストランド組成物のレオロジーは、特に、他のポリマー物質、例えばコラーゲンのストランドの形成のための足場ポリマーとしてPEOを使用することを目指して、PEOが長く強いストランドを作製するのに使用される場合、詳細に理解することが重要である。
【0069】
様々な産業分野において、水溶性ポリマーは、水溶液の粘度を制御するための増粘剤として一般に使用される。ポリマー溶液の粘度の制御には、化学組成、ポリマー分子量、およびポリマー濃度の複雑な関係を理解することが必要である。連続ストランドの作製に適用されるPEO溶液の流動特性を理解することは、特にPEOがナノスケールのマルチフィラメントストランドのための足場ポリマーとして使用される場合に、重要である。
【0070】
プレストランド組成物の特性は、ポリマーのストランドを含有する紡糸コーンの形成を可能とし、その安定性を促進するべきである。紡糸コーンは、できるだけ長く安定した状態に保たれるべきである。短い長さのストランド(<1m)を手動で引っ張るか、または機械で引っ張る場合、ストランドは<4秒間引っ張られるため、紡糸コーンの不安定性は問題ではなく、ストランドを得るか得ないかのいずれかの結果になる。長いストランド、特に長いマルチフィラメントストランドを引っ張る場合、数秒ではなく数分間、紡糸コーンの安定性を管理することが必要である。
【0071】
ここで、プレストランド組成物の粘度の制御が、紡糸コーンの安定性の改善をもたらすことが見出された。プレストランド粘度が低すぎる場合、不安定な紡糸コーンが生じ、これは急速に崩壊して(<5秒)、ストランドが形成されないか、または短いストランドが形成される結果になる。プレストランド組成物粘度が高すぎる場合、より短い繊維が作製される。
図8A(Ebagninin Kら、Journal of Colloid and Interface Science 336 (2009) 360-367から)は、プレストランド組成物粘度がポリマー濃度に対数的に関連することを示し、そのように粘度を調節することは、精度の恩恵を受ける。典型的には>40メートルの、長いPEOストランドは、プレストランド組成物粘度が、持続するのに十分安定であるが、紡糸コーンへの新しいPEO分子の補充を妨げるほど粘性があるわけではなく、引っ張られて発生期のストランドになる紡糸コーンを生じる場合にのみ、形成され得る。
図8Bから、300~5,000Pa・s、好ましくは300~1,000Pa・s、例えば650Pa・sのプレストランド組成物粘度の範囲が最適であることが明らかである。
図8Bでは、各点は、少なくとも7回の反復の平均を表す。300、650、および1000Pa・sの粘度からの平均ストランド長は、5,000Pa・s以上の粘度を有するプレストランド組成物から形成されたストランドより著しく高い(P<0.05)。150Pa・s以下の粘度を有するプレストランド組成物は、紡糸コーンの不安定性のため、ストランド形成を支持しない。5,000Pa・s超のプレストランド組成物粘度は、より短いPEOベースのストランド長を作製する。
【0072】
1MDa PEOについて、c*は、プレストランド組成物の総重量に基づいて1.5wt%であり、c
eは、プレストランド組成物の総重量に基づいて5wt%である(Ebagninin 2009)。
図8Cから明らかなように、これらのPEO濃度では、ストランドは形成されない。ストランドは、PEO濃度が、プレストランド組成物の総重量に基づいて約7wt%以上である場合に形成される。さらに、長いストランドは、プレストランド組成物中のPEO濃度が、7~14wt%、好ましくは7~10wt%の比較的狭い範囲にある場合にのみ形成される。c
eより高いこれらの濃度では、ストランドの引っ張りは、したがって粘弾性応答を伴う。
【0073】
実施例3:8MDaポリ(エチレンオキシド)足場ポリマーを用いたコラーゲンストランドの作製
材料および方法:
8MDaポリ(エチレンオキシド)(PEO)(Sigma-Aldrich)およびnano-pure水の、0.1wt%水性原液を、PEO粉末から調製し、48時間平衡化させた。PEO水溶液を、20mM酢酸中の9.29mg/mlのラット尾コラーゲン(Corning)のコラーゲン原液と混ぜた。コラーゲンおよびPEOの乾燥質量分率が、最終ストランドの所望のコラーゲンパーセンテージを表すように、2つの溶液を混ぜた。PEO-コラーゲン溶液を、4℃で48時間、振盪台に置いて溶解し、均質な溶液を形成した。純PEOストランドを形成するための溶液を、0.1wt% PEO原液と同じプロトコルに従うが、1%のPEO質量分率で作った。
【0074】
調製されたポリマー-コラーゲン溶液を、滑らかなプラスチック表面上に注いだ。溶液中のPEOおよびコラーゲンの濃度が、ストランドを形成するのに十分に高くなるまで、水を、周囲条件(25℃、湿度30%)下で蒸発によって除去した。ストランド形成を、ピペット先端を表面に当て、ピペットを引き離すことによって、10分ごとに試験した。これを、使用可能なストランドが形成されるまで繰り返し、使用可能なストランドは、形成時に乾燥しており、形成後その形状を保持するものであり、その時点で、溶液の最終質量を測定し、PEOおよびコラーゲンの合計質量分率を記録した(
図9)。
【0075】
接触延伸
ストランドを、2つの基材をともにプレスし、引き離すことによって形成した。一方の基材は、調製されたPEO-コラーゲン溶液で覆われたプラスチック表面であり、他方は、
図2Bに関連して記載されたような、カスタマイズされた3D印刷ピンブラシであった。接触延伸は、乾燥PEO-コラーゲンストランドの形成をもたらした。ピンブラシの各ピンは、ストランドの核形成点として機能し、ストランド間隔および形成されるストランドの数の制御を可能とする。プロセスを、PEO-コラーゲン溶液またはいずれかの基材の手入れをすることなく、複数回繰り返すことができる。ストランドを、特徴付けのために、顕微鏡用スライドガラス、ガラスカバースリップ、およびSEMスタブに収集した。全てのストランドを、一方向に整列させた。
【0076】
ストランド特徴付け
0%、30%、50%、70%、80%、および90%のコラーゲンの乾燥質量分率を有する溶液から調製されたストランドを、ストランド構造、コラーゲン含有量、および水和前後のコラーゲン組織に重点を置いて特徴付けた。95%の質量分率を有する溶液からのストランドも形成されたが、完全には分析されなかった。
【0077】
走査型電子顕微鏡
走査型電子顕微鏡(SEM)を、初期ストランド形成後および再水和後乾燥プロセス後に、全てのストランド組成物に行った。まず、ストランドを、SEMスタブに引っ張って収集した。この時点で、複数のSEMスタブを、乾燥ストランド分析用に取っておく一方で、他のものを、PBS中で1時間、室温で水和させ、nano-pure水で3回すすぎ、研究室の気流下で乾燥させた。次いで、試料を、金/パラジウムで厚さ3.18nmにスパッタコーティングし、2~5kVの範囲内で動作するJEOL 840 SEM(JEOL Ltd.)で、145,000倍までの倍率を使用して撮像した。得られた画像からのストランド直径(n=25)およびアーキテクチャを、ImageJ(商標)のラインツールを使用して分析した。
【0078】
ラマン分光法
ラマン分光法を、乾燥PEO-コラーゲンストランド、および再水和され、すすがれた90% PEO-コラーゲンストランドに行った(n=5)。ラマンシステムは、倒立顕微鏡(1X71;Olympus、Center Valley、PA)、IHR550ラマン分光計(Horiba Jobin Yvon、Edison、NJ)、および試料励起用532nm固体レーザーを含んでいた。全てのスペクトルを、1.3NAの100倍油浸対物レンズ、1μmのレーザースポット、200μmのピンホールサイズ、および3mWのレーザー出力を使用して取得した。ストランドが付着したガラスカバースリップを、レーザー偏光に平行なストランド配向で倒立顕微鏡に置いた。各ストランドのスペクトルは、800cm-1~1800cm-1のスペクトル範囲で、10回の10秒取得を含んでいた。個々のスペクトルは、ストランドのコラーゲン%ごとのスペクトル群合計の前に、バックグラウンド減算および線形ベースライン法により補正された。次いで、合計されるスペクトルは、25波数移動平均フィルタを使用して平滑化され、分析前に再びベースラインに設定された。各コラーゲン%のスペクトルは、1100cm-1~1150cm-1(PEOに特有のC-O伸縮振動およびCH2横揺れ振動)、ならびに1550~1740cm-1(コラーゲンに特有のアミドIピーク)で積分された。次いで、これらの積分は、そのそれぞれの波数範囲で正規化され、次いで合計された。次いで、コラーゲンに特有のアミドピークに関連するこの合計への寄与率が、各群から計算された。
【0079】
コラーゲン免疫蛍光法
PEO-コラーゲンストランドを、顕微鏡用スライドガラスに収集し、PBS中で2時間すすいだ。次いで、PBSを除去し、5%ウシ血清アルブミン(BSA)(Sigma Aldrich)のPBS溶液で20分間置換した。20分後、溶液を、新鮮な5% BSA PBSで置換し、16時間、振盪台上で放置した。1%wt/wt BSA PBS溶液を調製し、4℃で16時間、振盪台上で放置した。5% BSA PBS浴中で16時間後、試料を、3×15分間、毎回PBS中ですすぎ、あらかじめ調製した1% BSA PBS浴中に、天然コラーゲンに対して1:10000の比率のマウス抗コラーゲンI α1抗体(Novus Biologics、Oakville、ON、カナダ)とともに置き、4℃で24時間、振盪台上に置いた。次いで、試料を、3×15分間、PBS中ですすぎ、この時点で、1% BSA PBSの溶液および1:20000のFluoro 549 ヤギ抗マウスIgG(Novus Biologics、Oakville、ON、カナダ)を、試料に加え、4℃で20時間、振盪台上で、暗所でインキュベートした。その後、3×15分のPBS洗浄を行い、次いで、試料をPBS中で放置して水和させ、撮像した。
【0080】
免疫蛍光撮像
免疫蛍光画像を、Nikon(商標)Eclipse(商標)Ti落射蛍光顕微鏡で、20倍の対物レンズを使用して、4秒の露出で取得した。染色されたストランドを含有するスライドガラスを、PBS中で水和させながら撮像した。全ての画像は、170nmの画素寸法で取得された。画像は、ImageJ(商標)ソフトウェアで処理された。ストランド直径は、ラインツールを使用して、各ストランドに沿って3つの位置で測定された。これらの測定値の平均が、ボックスツールを使用して選択された各ストランドの平均積分強度の正規化因子として使用された。
【0081】
第二高調波発生
PBS洗浄前後のPEO-コラーゲンストランドの第二高調波発生(SHG)撮像を、自作のシステムで行った。250fsのパルス幅および5MHzの繰り返し数に設定された1030nmの波長の超高速パルスレーザー(Femtolux(商標)3、Ekspla)を、一対のガルバノスキャンミラー(ScannerMAX(商標)、Pangolin(商標)Laser Systems Inc.)を使用して、6μsの画素滞在時間で、試料にラスタースキャンした。SHG信号は、前方散乱ジオメトリで、カスタム0.8NA対物レンズを使用して収集され、フィルタリングされ(87-789および48-637、Edmund Optics Inc.)、光子計数光電子増倍管(H10682-210、浜松ホトニクスK.K.)で検出された。レーザーは、レーザーの偏光を変えるために使用される液晶偏光リターダ(LCC1223-C、Thorlabs、Inc.)および四分の一波長板(WPMP4-22-BB-1030、Karl Lambrecht Corp.)を通過した直後に、空気(air immersion)顕微鏡対物レンズ(20倍、0.8NA、Zeiss(商標))を使用して試料に集束された。8枚のSHG信号画像が、各画像間で22.5°のレーザー偏光回転で、ストランド試料当たりに取得された。
【0082】
結果および考察:
ストランドの総重量に基づいて、0%のコラーゲン~90%のコラーゲンを含むPEO-コラーゲンストランドを、粘性PEO-コラーゲン溶解物の接触延伸を使用して作製することに成功した。ストランドの走査型電子顕微鏡(SEM)画像(
図10)は、コラーゲンデキストラン溶解物を使用する先行研究(2018年8月2日に公開された国際特許出願WO 2018/137041)と同様に、コラーゲン含有量に無関係の一定のストランド直径(600±200nm)を明らかにした。表面トポグラフィーの漸進的変化が、コラーゲン含有量に応じて観察され、0%および30%のコラーゲン含有量で顕著な山および谷(
図10)から、50%および70%のコラーゲン含有量で滑らかな構成(
図10)に変形し、最終的に80%および90%のコラーゲン含有量で粗い畝のある表面(
図10)になった。90%超のコラーゲンを含む臨界点脱水したコラーゲンストランドの高分解能SEM画像(
図11)は、長手方向のサブフィブリル構造を示す。
【0083】
繊維形成緩衝液(FFB)、例えばPBSまたはその変形で、1時間水和し、続いて乾燥すると、ストランドの膨潤は、コラーゲン含有量に反比例した(
図12)。再水和およびそれに続く脱水後に、より低いコラーゲン含有量のストランドは、SEMスタブ上で平たいリボンのように見える一方で、より高い濃度は、それらのより丸いアーキテクチャを保持する(
図12)。脱水試料および臨界点脱水試料の両方において、ストランドのフィブリルサブ構造は持続し(
図11)、コラーゲンストランド直径が、秩序化された横方向の分子充填よりも保存され、両者は共依存していないことを示唆する。
【0084】
コラーゲンの含有量よび組織を、ラマン分光法、免疫蛍光撮像、および第二高調波発生(SHG)を使用して測定した。乾燥PEO-コラーゲンストランドのラマンスペクトルは、0%ストランドのPEOに支配されたスペクトルから、90%コラーゲンストランドのコラーゲンに支配されたスペクトルへの明らかな移行を示す。これは、コラーゲン含有量の増加に伴う、1100~1150cm
-1のPEOに特有のピークの減少(
図13左下)、および1550~1740cm
-1のコラーゲンに特有のピークであるアミドIの対応する増加(
図13右下)によって明確に示される。コラーゲン含有量とアミドピークの発生との間の対応する直線関係は、ストランドが、それらが引っ張られる粘性溶液と同じ乾燥質量分率のコラーゲンおよびPEOを有することを示す(
図14)。さらに、室温でのPBS中での1時間の洗浄およびそれに続く3回の水洗の後、90%コラーゲンストランドは、水和されていないPEO-コラーゲンストランドからフィッティングされた線形関係からの予測値に対応するPEO信号発生に対する、コラーゲンの増加を示した。これは、すすぎ時に、PEOがストランドから可溶化され、100%コラーゲンのストランドをその場に残すことを示す。
【0085】
水和後に、全てのPEO-コラーゲンストランドに、天然コラーゲンに対するマウス抗コラーゲンI α1抗体が結合することは、ストランド形成プロセス後にコラーゲンの天然分子構造が保存されることを実証する(
図15)。免疫蛍光試料の調製の成功は、プロセスが撮像の前に水和状態で60時間以上を要するため、ストランドの不溶性を強調する。この程度の水和安定性は、非水溶媒の非存在下または架橋剤の添加なしでのエレクトロスピニング法によって示されていない。
【0086】
70%、80%、および90%のコラーゲンを含有するストランドのSHG異方性分布を、PBSで洗浄される前後両方で取得した。試料群間で著しい差異は観察されなかった(
図16)が、異方性分布の平均は、ストランド内の分子の整列を実証する。SHG信号は、70%未満のコラーゲンのストランドでは得られなかったが、これは、PEOがSHGシステムの入射レーザーの出力と重なる吸収帯を有するためである。
【0087】
長いPEO-コラーゲンストランドの接触延伸が、2つの基材間で圧縮された粘性水溶液からうまく達成された。純PEOから90%コラーゲンまでの範囲の、接触延伸によって形成されたストランドは、直径がサブミクロン、長さが数メートルまでであり得、異方性天然コラーゲン構造を実証し、不溶性であり、SEM、免疫蛍光撮像、ラマン分光法、および第二高調波発生によって確認されるように、変性していないコラーゲン分子である。高スループット(13km/s)およびストランドの整列の制御により、これらのストランドは、無毒の細胞外マトリックス(ECM)環境を再現しながら、様々な用途、例えば細胞培養および再生医療のための不織布および織布を作製するのに役立つ。
【0088】
実施例4:1MDaポリ(エチレンオキシド)足場ポリマーを用いたコラーゲンストランドの作製
1つの実験では、PEO/コラーゲンマルチフィラメントストランドは、8.5wt%の1MDa PEOおよび0.6wt%のコラーゲンを含むプレストランド組成物から引っ張られた。ストランドは、0.5m/s、1m/s、2m/s、3m/s、および4m/sの5つの異なる紡糸速度で、トップダウンおよびボトムアップのマルチフィラメントストランド製造構成で引っ張られ、各々5回反復した。
図17は、結果を示す。紡糸コーンが重力の影響を直接受けることが、
図17から明らかである。プレストランド組成物リザーバの配置、およびマルチフィラメントストランドが作り出される方法が重要である。トップダウン配向を使用した1m/sの引っ張り速度で、紡糸コーンは、最も安定であるように見え、最も長いストランド長を作り出す。しかしながら、より高い速度では、重力が紡糸コーンを過度に伸ばし、これは、紡糸コーンの不在、およびより短い繊維長をもたらす。プレストランド組成物リザーバが、ストランドが重力に逆らって上方に引っ張られるように配置される場合、紡糸コーンは、崩壊し、「ほどかれて」、バルクのプレストランド組成物中に戻り、発生期のストランドは破断する。
【0089】
別の実験では、コラーゲン/PEOマルチフィラメントストランドは、8.5wt%の1MDa PEOおよび0.6wt%のコラーゲンを含むプレストランド組成物から引っ張られた。紡糸コーン安定性およびストランド長に対する、ピン直径およびプレストランド組成物中へのピン浸漬の深さの影響を調べた。ピンアレイを、Onshape(商標)ソフトウェアで設計し、B9 Creator V1.2 3Dプリンタを使用して印刷した。ピン直径を、0.5mm~4mmの範囲で試験し、プレストランド組成物中に7.4mm浸漬した。
図18は、接液表面積と平均ストランド長との間の直線関係を示し、各点は、10回の反復の平均を表す。接液表面積として表わされる場合、最長ストランドは、105.6mm
3の接液表面積(2.4mmのピン直径およびプレストランド組成物中への7.4mmの浸漬)で作製される。ピン直径、ピン高さ、およびリザーバ深さは、方程式:y=0.4768x+7.8893に基づいて計算された所望のストランド長のために必要な接液表面積に応じて修正され得、式中、yは、メートル単位の平均ストランド長であり、xは、mm
2での接液表面積である。最適化されたピンのアーキテクチャは、各ピン間の距離の設定も含む。ピンの配置が、互いに近すぎる場合、ストランドは混ざり合い、紡糸プロセスを破壊する。混ざるのを回避するために、中心間距離は、ピン直径の少なくとも2倍であるべきである。
【0090】
別の実験では、PEO/コラーゲンマルチフィラメントストランドは、様々な濃度の1MDa PEOおよび一定の0.6wt%のコラーゲンを含むプレストランド組成物から引っ張られた。引っ張り速度およびピンのアーキテクチャは、各濃度で同じであった。したがって、平均ストランド長によって定義される紡糸コーン安定性に対する、プレストランド組成物中のPEO濃度の影響が検討された。PEOの量を、次のように6~12wt%の間で変化させた:6wt%、7wt%、8.5wt%、9wt%、9.5wt%、10wt%、10.5wt%、および12wt%。結果は
図19Aに示され、各点は、少なくとも7つの個々のストランドの平均を表す。エラーバーは、1標準誤差である。PEO足場ポリマーへのコラーゲンの添加はまた、ストランド長がPEO濃度の特定の高い値と低い値との間でピークに達する最適化曲線をもたらすことが、
図19Aから明らかである。同様に、PEO濃度が上昇するにつれてストランド長が改善し、その後、より高いPEO濃度でストランド長が短くなることが、PEO単独で観察される(
図8C参照)。
【0091】
別の実験では、PEO/コラーゲンマルチフィラメントストランドは、8.5wt%の1MDa PEOおよび様々な濃度のコラーゲンを含むプレストランド組成物から引っ張られた。引っ張り速度およびピンのアーキテクチャは、各濃度で同じであった。したがって、平均ストランド長によって定義される紡糸コーン安定性に対する、プレストランド組成物中のコラーゲン濃度の影響が検討された。コラーゲンの量を、次のように0.2~5wt%の間で変化させた:0.2wt%、0.3wt%、0.4wt%、0.5wt%、0.6wt%、0.8wt%、1wt%、1.2wt%、1.5wt%、2wt%、3wt%、および5wt%。結果は
図19Bに示され、各点は、少なくとも7つの個々のストランドの平均を表す。エラーバーは、1標準誤差である。平均ストランド長に対するコラーゲン濃度の影響は、検討された濃度範囲で二相性であることが、
図19Bから明らかである。
図19Dを参照すると、プレストランド組成物の粘度は、コラーゲン濃度の上昇とともに直線的に上昇しないことが明らかである。150~250Pa・sの粘度、例えば、0.4wt%、0.8wt%、2wt%、および3wt%のコラーゲン濃度で、より長い繊維が形成される。250Pa・s超の粘度、例えば、1wt%、1.2wt%、および5wt%のコラーゲン濃度で、平均繊維長は減少する。非常に低いコラーゲン濃度、例えば0.2wt%で、この応答は観察されない。
【0092】
図19Aおよび
図19Bはともに、最長のストランドを作製するために、PEOおよびコラーゲンを含む全てのポリマー材料の濃度は、好ましくは、プレストランド組成物の総重量に基づいて8~13wt%であることを示す。
【0093】
別の実験では、上記プレストランド組成物の粘度が、直径40mmのプレートおよび0.5mmのギャップを有する平行平板構成のStressTech(商標)HRレオメータ(ATS RheoSystems(商標))を使用して測定された。試料は、スパチュラを使用してロードされ、プレートのギャップが達成されたら、過剰のプレストランド組成物は除去された。測定前に、試料は30秒間保持され、次いで、0.1s
-1で30秒間予備せん断を受けた。温度は20℃であった。試料は、0.1~100s
-1のせん断速度掃引を受け、新しい試料で2回繰り返され、平均として表された。全ての試料は、非ニュートンシアーシニング挙動を示した。
図19Cは、コラーゲン濃度が0.6wt%で一定に保持される場合、プレストランド組成物の粘度がPEO濃度の上昇に応じてどのように変化するかを示す。
図19DはPEO濃度が8.5wt%で一定に保持される場合、プレストランド組成物の粘度がコラーゲン濃度の上昇に応じてどのように変化するかを示す。
図19Eは、プレストランド組成物の粘度と平均繊維長との間の関係を示す。多項式回帰:q=-6E-09p
4+1E-05p
3-0.0059p
2+1.2831p-57.525(式中、qは、メートル単位の平均ストランド長であり、pは、Pa・sでのプレストランド組成物の粘度である)は、この関係を数学的に表し、繊維長は、プレストランド組成物の粘度を調節することによって予測または「調整」され得る。例えば、最も長い繊維は、プレストランド組成物の粘度が178Pa・sに設定される場合に作製される。
【0094】
別の実験では、平均ストランド長に対する酸溶媒選択の影響が検討された。20mM酢酸または10mM HCl溶媒中に8.5wt%の1MDa PEOおよび0.6wt%のコラーゲンを含む、2つのプレストランド組成物を調製した。これらは、産業で使用される一般的なコラーゲン溶媒である。繊維は、可変速巻き取り機を使用して、1m/sの引っ張り速度で、各プレストランド組成物から作製され、平均長は、10回の反復に基づいて測定された。ピンのアーキテクチャは、各プレストランド組成物で同じであった。溶媒選択の影響は、
図20に見られるように顕著であった。試験された条件下では、塩酸は、酢酸から作製されたストランドより2倍超長い平均ストランド長を有するストランドを作製したという点で、優れた溶媒であった。
【0095】
実施例4の実験について、部屋の周囲条件を、TP49 Thermo Pro(商標)湿度計で記録した。周囲相対湿度は、25~30%の範囲であり、周囲温度は、26~32℃の範囲であった。
【0096】
実施例5:ポリ(エチレンオキシド)ストランドからの不織布の作製
ポリ(エチレンオキシド)(PEO)ストランドを、
図2に関連して記載されたような装置を使用し、実施例1に記載された方法論によって決定されたプロセス条件を利用して、水中のPEOの水溶液からストランドを引っ張ることによって作製した。マルチピン核形成要素を使用して作製された連続引っ張り繊維を積層することによって、ストランドは不織布に形成されたが、他の従来の技術を使用することができる。布は、NIOSHレスピレーター認可「N95」フィルタマスクの製造における潜在的有用性について評価された。
【0097】
図21Aは、不織布の初期濾過効率(%)対粒子径(nm)のグラフを示す。ポリマー+ポリマーは、PEOのみから作られた不織布を表す。
図21Aに見られるように、不織布の初期濾過効率は、1nm~500nmの粒子径範囲全体にわたって、98%超である。そのような効率は、N95マスクに要求される95%の効率の印(破線)を上回り、ドライフェルトおよびポリマー(ドライフェルト+ポリマー)を利用する布よりも良好である。ドライフェルト+ポリマーは、単一ポリマー層+60%wtのウールおよび40%wtのリネンで構成されるフェルトである。
図21Bに見られるように、不織布の濾過効率(%)は、N95マスクの試験プロトコルに相当する微粒子負荷の後で失われていない。
【0098】
実施例6:ポリ(エチレンオキシド)-ゼラチンストランドの作製
ゼラチンは、3~5kDaの低分子量の加水分解コラーゲンペプチドで構成される(Leon-Lopez Aら、Molecules. 2019, 24, 4031, 16ページ)。この実施例は、ランダムコイル二次構造を有する低分子ペプチドを用いた接触延伸ストランド形成の適用を示す。ポリ(エチレンオキシド)-ウシ皮膚由来B型ゼラチン(PEO-ゼラチン)ストランドを、実施例2のPEO-コラーゲンストランドと同様の方法のプロセスによって作製した。ストランドを、5wt%のPEO(Mw=1,000kDa)および5wt%のゼラチンを含有する酢酸溶液から形成した。比較のために、ストランドを、粘性PEO水溶液からも形成した。
【0099】
図22は、PEO-ゼラチンストランドの合計ラマンスペクトルを示す。PEO-ゼラチンのスペクトルは、アミドI領域にブロードなピークを有し、これは純PEOストランドのスペクトルには見られず、それにより、PEOのストランドに担持されたゼラチンのストランドの形成が成功したことを示す。
【0100】
実施例7:クエン酸担持ポリ(エチレンオキシド)ストランドの作製
ポリ(エチレンオキシド)(PEO)ストランドを、クエン酸がコラーゲンの代わりにPEOストランド組み込まれることを除いて、実施例3のPEO-コラーゲンストランドと同様の方法のプロセスによって作製した。ストランドを、純水、水中の0.1Mのクエン酸、および水中の1Mのクエン酸を含有する10wt%のPEO(Mw=1,000kDa)溶液から形成した。プレストランド組成物のpHを、ストランド形成前に測定した(前)。長さ30cmの約200,000本のストランドが、プレストランド溶液の各々から引っ張られ、10mlの純水中で再水和され、この時点で、結果として生じる溶液のpHを再び測定した(後)。
【0101】
図23に見られるように、純水中の溶液から引っ張られたPEOストランドについて、プレストランド溶液(前)および再水和されたストランドの溶液(後)のpHは、pH8のまま変化しなかった。対照的に、クエン酸を含有するプレストランド溶液から引っ張られたストランドについて、再水和されたストランドの溶液のpHは、どちらの場合も6未満であり、どちらの場合も、クエン酸の少なくとも一部がストランド形成プロセス中にPEOストランドに組み込まれたことを示した。さらに、1Mのクエン酸の場合、再水和されたストランドの溶液のpHは、0.1Mのクエン酸の場合よりも低く、PEOへのクエン酸のより多くの担持が、より高いクエン酸濃度を有するプレストランド溶液に起因することを示す。
【0102】
実施例8:銀ナノ粒子担持ポリ(エチレンオキシド)ストランドの作製
ポリ(エチレンオキシド)(PEO)ストランドを、銀ナノ粒子がコラーゲンの代わりにPEOストランド組み込まれることを除いて、実施例3のPEO-コラーゲンストランドと同様の方法のプロセスによって作製した。ストランドを、水中の10wt%のPEO(Mw=1,000kDa)および2,000ppmの銀ナノ粒子(直径=2nm)のプレストランド溶液から形成した。
【0103】
図24に見られるように、PEOストランドは、銀ナノ粒子のクラスター(左のパネル)およびクラスター化していない銀ナノ粒子(右のパネル)の両方が組み込まれている。
図24Bに見られるように、銀ナノ粒子はまた、200nm未満のストランド直径を有するPEOストランドに組み込まれる。
【0104】
新規特徴は、記載の検討により当業者に明らかになるであろう。しかしながら、特許請求の範囲は、実施形態によって限定されるべきではなく、全体として特許請求の範囲および明細書の表現と一致する最も広い解釈を与えられるべきであることが理解されるべきである。
【国際調査報告】