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  • 特表-治療的および美容的な創傷処置法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-09-13
(54)【発明の名称】治療的および美容的な創傷処置法
(51)【国際特許分類】
   A61L 15/22 20060101AFI20230906BHJP
   A61K 8/72 20060101ALI20230906BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALI20230906BHJP
   A61L 15/42 20060101ALI20230906BHJP
   A61L 15/44 20060101ALI20230906BHJP
【FI】
A61L15/22 100
A61K8/72
A61Q19/00
A61L15/42 310
A61L15/44
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023512088
(86)(22)【出願日】2021-08-19
(85)【翻訳文提出日】2023-03-30
(86)【国際出願番号】 US2021046698
(87)【国際公開番号】W WO2022040431
(87)【国際公開日】2022-02-24
(31)【優先権主張番号】63/067,417
(32)【優先日】2020-08-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】512254586
【氏名又は名称】サイトソーベンツ・コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100104411
【弁理士】
【氏名又は名称】矢口 太郎
(72)【発明者】
【氏名】チャン、フィリップ、ピー.
(72)【発明者】
【氏名】オルティーズ、オフィアー
(72)【発明者】
【氏名】ゴロビッシュ、トーマス、ディー.
(72)【発明者】
【氏名】カッポーニ、ヴィンセント、ジェイ.
(72)【発明者】
【氏名】ヤン、ウェイ-タイ
【テーマコード(参考)】
4C081
4C083
【Fターム(参考)】
4C081AA03
4C081AA11
4C081AA12
4C081AB37
4C081BA12
4C081CA002
4C081CE02
4C081DA02
4C081DB03
4C081DB06
4C083AA121
4C083AC121
4C083AD011
4C083AD331
4C083AD611
4C083AD621
4C083AD641
4C083AD651
4C083AD661
4C083AD671
4C083BB51
4C083CC02
4C083DD12
4C083DD17
4C083DD22
4C083DD23
4C083DD27
4C083DD39
4C083DD41
4C083EE13
4C083EE14
4C083FF01
(57)【要約】
【要約】
【解決手段】 本発明は、前記物質を放出または収着(吸着および/または吸収)することができる多孔性ポリマー組成物の局所的または経皮的適用を介して、選択的、局所的、または経皮的に、ヒトまたは動物対象の皮膚または表面へ1つまたはそれ以上の物質を送達、もしくは、ヒトまたは動物対象の皮膚または表面から1つまたはそれ以上の物質を除去するための方法であって、前記多孔性ポリマーは、約0.1ミクロン~約0.5センチメートルの範囲の平均直径を有し、約50オングストローム~約40,000オングストロームの範囲の平均細孔径をもつ複数の細孔を有している粒子をもつ、粒子状材料である。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
選択的、局所的、または経皮的に、ヒトまたは動物対象の皮膚または表面へ1つまたはそれ以上の物質を送達、もしくは、ヒトまたは動物対象の皮膚または表面から1つまたはそれ以上の物質を除去するための方法であって、
前記方法は、前記物質を放出または収着することができる多孔性ポリマー組成物の局所的または経皮的適用を含み、
前記多孔性ポリマーは、約0.1ミクロン~約0.5センチメートルの範囲の平均直径を有し、約50オングストローム~約40,000オングストロームの範囲の平均細孔径をもつ複数の細孔を有している粒子をもつ、粒子状材料である、方法。
【請求項2】
請求項1記載の方法において、前記多孔性ポリマー組成物の創傷への適用を含む、方法。
【請求項3】
請求項2記載の方法において、前記創傷が、慢性創傷、静脈うっ滞性潰瘍、疾患による潰瘍または潰瘍形成、外傷性創傷、熱傷創、糖尿病性創傷、または手術創傷である、方法。
【請求項4】
請求項2記載の方法において、創傷治癒を変化または改善し、瘢痕を減少させ、組織リモデリングを改善し、もしくは、炎症または痛みを軽減するための、前記多孔性ポリマー組成物の適用を含む、方法。
【請求項5】
請求項1記載の方法において、前記多孔性ポリマー組成物の皮膚への適用を含む、方法。
【請求項6】
請求項1記載の方法において、前記多孔性ポリマー組成物の皮膚移植部位への適用を含む、方法。
【請求項7】
請求項1記載の方法において、形成外科、美容外科、および再建外科の用途のための、前記多孔性ポリマー組成物の経皮適用を含む、方法。
【請求項8】
請求項5記載の方法において、前記皮膚への適用が、化粧品用途を目的とする、方法。
【請求項9】
請求項8記載の方法において、前記化粧品用途が、肌の明るさ、クレンジング、角質除去、抗老化、美化、抗シワ、柔軟化、油分低減、毛穴クレンジング、肌の若返り、肌変色の改善、ならびに小ジワ、肌のたるみ、および肌の脆弱性の低減の1つまたはそれ以上を含む、方法。
【請求項10】
請求項5記載の方法において、前記皮膚への適用が、1つまたはそれ以上の皮膚科疾患の治療を目的とする、方法。
【請求項11】
請求項5記載の方法において、前記皮膚科疾患が、感染症、酵母感染症、真菌感染症、イボ、悪臭皮膚、多汗症、フケ、脂漏性皮膚炎、自己免疫疾患の皮膚症状、乾癬、ループス、扁平苔癬、乾燥または脂性肌、湿疹、アトピー性皮膚炎、接触性またはアレルギー性皮膚炎、白癬、白斑、発疹、蕁麻疹、褥瘡、口唇潰瘍または口唇ヘルペス、口内炎、癜風、類天疱瘡、酒さ、皮膚のしみ、角質、皮膚硬結、尋常性魚鱗癬、ケロイド、脂漏性角化症、光線性角化症、および皮膚がんを含む、方法。
【請求項12】
請求項10記載の方法において、前記皮膚科疾患が、尋常性ざ瘡である、方法。
【請求項13】
請求項5記載の方法において、前記皮膚への適用が、前記皮膚における免疫細胞の活性を変化させる、方法。
【請求項14】
請求項12記載の方法において、免疫細胞の活性変化が、前記皮膚の炎症または老化の変化をもたらす、方法。
【請求項15】
請求項1記載の方法において、前記多孔性ポリマー組成物が、粉末、湿布、マスク、液体、ゲルペースト、低容量ペースト、ゲル、分散液、スラリー、または懸濁液の形態である、方法。
【請求項16】
請求項14記載の方法において、前記多孔性ポリマー組成物が、クレンジングクロス、パッド、タオレット、または回転式クレンジング器具と共に使用される、方法。
【請求項17】
請求項1記載の方法において、前記多孔性ポリマー組成物が、浸透性材料または液体も含む、方法。
【請求項18】
請求項17記載の方法において、前記浸透性材料が、ガーゼ、メッシュ、パッド、もしくは前記多孔性ポリマー材料が埋め込まれ、または封入された、透過性または半透過性の膜である、方法。
【請求項19】
請求項17記載の方法において、前記浸透性材料が、液体、ゲル、ローション、またはペーストである、方法。
【請求項20】
請求項17記載の方法において、前記浸透性材料が、薬物、薬剤、ビタミン、一酸化窒素、一酸化窒素ドナー)、ミネラル、または栄養素から選択される少なくとも1つまたはそれ以上の化学物質を含む、方法。
【請求項21】
請求項20記載の方法において、前記化学物質が、抗生物質、抗ウイルス薬、抗真菌薬、または抗寄生虫薬である、方法。
【請求項22】
請求項17記載の方法において、前記浸透性材料が、少なくとも1つの化粧品成分を含む、方法。
【請求項23】
請求項22記載の方法において、前記化粧品成分が、グリセリン、ヒアルロン酸、ヒアルロン酸塩、シアバター、ビタミン、ビタミンE、ビタミンA、ビタミンD、ビタミンC、およびビタミンKの1つまたはそれ以上を含む、方法。
【請求項24】
請求項22記載の方法において、前記化粧品成分が、クレンザー、保湿剤、日焼け止め、抗生物質、過酸化ベンゾイル、角質溶解剤、α-ヒドロキシ酸、β-ヒドロキシ酸、レチノイン酸、ヒドロキシキノン、水酸化カリウム、茶抽出物、ならびに植物および花抽出物の1つまたはそれ以上を含む、方法。
【請求項25】
請求項1記載の方法において、前記1つまたはそれ以上の物質が、タンパク質、ペプチド、グリコシル化タンパク質または脂質(例えば、終末糖化産物)、もしくはタンパク質含有分子を含む、方法。
【請求項26】
請求項25記載の方法において、前記1つまたはそれ以上の物質が、サイトカイン、毒素、または活性化補体等のタンパク質ベースの炎症性メディエーターを含む、方法。
【請求項27】
請求項26記載の方法において、前記サイトカインが、TNF-α、IL-1、IL-4、IL-5、IL-6、IL-8、IL-10、IL-12、RANTES、MCP-1、またはIP-10の1つまたはそれ以上を含む、方法。
【請求項28】
請求項25記載の方法において、前記物質が、成長因子である、方法。
【請求項29】
請求項25記載の方法において、前記物質が、酵素である、方法。
【請求項30】
請求項29記載の方法において、前記酵素が、メタロプロテイナーゼ、コラゲナーゼ、エラスターゼ、または架橋酵素である、方法。
【請求項31】
請求項1記載の方法において、前記物質が、プロスタグランジン、ロイコトリエン、生物活性脂質、またはヒスタミンのような非タンパク質炎症性メディエーターである、方法。
【請求項32】
請求項1記載の方法において、前記物質が、ホルモンである、方法。
【請求項33】
請求項1記載の方法において、前記物質が、疼痛メディエーターである、方法。
【請求項34】
請求項1記載の方法において、前記物質が、ワックス、スクアレン、脂肪酸、トリグリセリド、もしくは皮脂、またはウルシオール油等の油である、方法。
【請求項35】
請求項1記載の方法において、前記多孔性ポリマー組成物が、少なくとも2つの異なる平均直径を有する粒子の混合物を含む、方法。
【請求項36】
請求項1記載の方法において、前記多孔性ポリマー材料が、生体適合性であるかまたは炎症を誘発しない、方法。
【請求項37】
請求項1記載の方法において、前記多孔性ポリマー材料が、0.5cc/g~5.0cc/gの細孔容積をもつ50Å~40,000Åの範囲の複数の孔を含み、前記吸着剤は、0.05mm~2cmのサイズを有し、
前記吸着剤は、50Å~40,000Åの範囲の細孔サイズの全細孔容積が0.5cc/g~5.0cc/gの乾燥吸着剤よりも大きいような細孔構造を有し、
(i)前記吸着剤の50Å~40,000Åの範囲の細孔径の全細孔容積と100Å~1,000Åの範囲の細孔径の全細孔容積の比が3:1より小さい、または
(ii)前記吸着剤の50Å~40,000Åの範囲の細孔径の全細孔容積と1,000Å~10,000Åの範囲の細孔径の全細孔容積の比が2:1より小さい、または
(iii)前記吸着剤の50Å~40,000Åの範囲の細孔径の全細孔容積と10,000Å~40,000Åの範囲の細孔径の全細孔容積の比が3:1より小さい、
方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、2020年8月19日付け出願の「治療的および美容的な創傷処置法」という表題の米国仮出願第63/067,417号に対する優先権および利益を主張するものであり、その全体はあらゆる目的のために参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本開示の発明は、問題の物質を放出または収着(sorb)[吸着(adsorb)および/または吸収(absorb)]する多孔性ポリマー材料の局所的、体外的または経皮的な適用を介して、ヒトまたは動物対象において1つまたはそれ以上の物質を送達および/または除去する分野に関するものである。また、本開示の発明は、ヒトまたは動物対象の治療的、美容的、および予防的処置の分野に関するものである。
【背景技術】
【0003】
皮膚は複雑で、非常に活発な器官であり、多くの機能を果たしている。例えば、皮膚は感染症、湿気、放射線障害に対する効果的な保護バリアとして機能し、下層組織を保護している。皮膚は、様々な方法(例えば、毛穴からの発汗、血管の収縮または拡張、鳥膚、脂肪断熱等)を通じて体温調節を助けている。皮膚では非常に神経が発達しており、感覚(例えば、痛み、接触、圧力、温度等)を感じることができる。また、皮膚は免疫学的に活性な器官でもあり、免疫細胞が初回刺激を受けると、サイトカイン、酸素ラジカル、およびその他多くの炎症性メディエーターの産生を通じて、傷害や感染に迅速に反応することができる。皮膚表面の細胞が正常に落屑することで、皮膚の健康的な外観と状態が保たれる。
【0004】
皮膚は、3つの一般的な層で構成されている。表皮は皮膚の最外層であり、(角質層および表面油分を介する)防水性の感染バリア、色素細胞(例えば、メラノサイト、メラニン)を介する日光からの保護、アレルゲンおよび感染の監視(例えば、ランゲルハンス細胞、CD8T細胞等)を提供する細胞(例えば、ケラチノサイト)から構成される。ランゲルハンス細胞は樹状細胞が変化したもので、皮膚表面に達する突起を持ち、抗原のサンプリングおよび皮膚フローラと毒素の感知により、表皮および真皮の炎症を上方制御または下方制御することができる。ウルシオール毒素による接触皮膚炎(例えば、ツタウルシ)は、そのような例の一つである。「環境をサンプリング」する能力は、皮膚の全体的な健康にとって重要である。皮膚表面の化学的または生物学的な組成を変えることで、真皮および表皮の炎症を変化させる新たな戦略として、この能力は皮膚表面または角質層で発生する。また、角層の正常な落屑は、皮膚の外観や健康状態に重要である。角質層の大部分を占めるのは、終末分化したケラチノサイト、または角質細胞であり、機械的剪断と細胞間デスモソームにおける細胞間結合のタンパク質分解により、角質細胞が剥がれ落ち、正常な落屑が生じる。この工程がうまくいかないと、角質細胞の蓄積、または過剰な角質化が起こり、例えば、毛穴の詰まりやニキビ、乾燥肌、フケ、および他の皮膚問題の一因として寄与することがある。乾癬もまた表皮の疾患であり、炎症性サイトカインによって駆動される真皮の炎症カスケードによって誘発されるケラチノサイトの早期成熟および過剰増殖によって引き起こされる。
【0005】
真皮は二番目の層であり、細胞(例えば、線維芽細胞、CD4リンパ球、樹状細胞、および他の免疫細胞)、血管、神経末端、水分を分泌する汗腺、電解質および他の化学物質、皮脂および他の油分を分泌する皮脂腺を持つ毛包(毛嚢脂腺単位)、かつコラーゲン、エラスチン、およびフィブリリンのような構造タンパク質で構成されている。真皮の組織構造は、皮膚に柔軟性と強度を与えている。ニキビは一般的な真皮疾患であり、皮脂分泌の増加、細菌の過剰繁殖、異常な落屑、および他の因子による毛嚢脂腺単位の急性および慢性炎症によって引き起こされ、痛み、不快感、および瘢痕をもたらすことがある。
【0006】
皮膚の三番目の層は皮下脂肪層であり、断熱性や衝撃吸収性を与える。
【0007】
身体の第一線の防御として、皮膚は多くの潜在的な傷害、刺激または感染にさらされている。多くの場合、組織の傷害源は、外部(例えば、熱、寒さ、挫滅傷または裂傷等の外部外傷、毒素媒介、電磁波、電気損傷)または身体の内部(例えば、細胞、抗体、酵素、サイトカイン、補体因子、酸素ラジカル、ヒスタミンおよび他の炎症性メディエーター等によって媒介)にある。刺激源には、有害物質(例えば、剪断ストレス、油、皮脂、コメド、脂肪酸、ペプチド、タンパク質、プロスタグランジン、アラキドン酸誘導体、酸素ラジカル、化粧品等)がなり得る。感染源には、例えば、細菌、ウイルス、真菌、寄生虫、プリオン関連、またはその他がなり得る。
【0008】
皮膚構造およびそれが傷害、感染、刺激、炎症および加齢にどのように反応するかを理解することは重要である。なぜならば、創傷治癒、痛みの軽減、美容(例えば、皮膚の若返りおよびアンチエイジング)、および皮膚科疾患(例えば、ニキビ)の治療等多くの異なる用途において、局所療法の介入の可能性がある点を強調するからである。以下の代表的な例は、皮膚または体表面から物質を送達または除去することができる局所的または経皮的な生体適合性多孔性ポリマー療法の使用に対する理論的根拠を説明する。このような治療法の使用は、これらの具体例を超えて広がっている。
【0009】
創傷治癒:
皮膚やその下の組織が傷つき、開いた傷ができると、多くの細胞ファミリー(例えば、線維芽細胞、マクロファージ等)、分子(例えば、成長因子、サイトカイン、炎症モジュレーター、マトリックスメタロプロテイナーゼ、およびその他の酵素)、およびその他の因子の相互作用により、秩序ある、しかし複雑な一連の工程を経て治癒が起こる。例えば以下を参照されたい。これらはすべて、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
Enoch,et al.,"ABCs of Wound Healing Recent Advances and Emerging Treatments,"BMJ,332:962-965(2006)
Olmarker,et al.,"Inhibition of Tumor Necrosis Factor May Improve Wound Healing and Reduce Scar Formation Following Laminectomy.A Pilot Study In Pigs,"Internet J.Spine Surgery JSSN:1937-8270
Schietz,et al.,"Molecular Analysis of the Environments of Healing and Chronic Wounds:Cytokines,Proteases and Growth Factors,"Primary Intervention,7-14(Feb.1999)
Cytokines in Wound Healing,(R&D Systems Catalog,2002)
Forsberg,et al.,"Correlation of Procalcitonin and Cytokine Expression with Dehiscing of wartime extremity wounds,"J.Bone Joint Surg.Am.,90(3):580-588(2008)
Finnerty,et al.,"Temporal Cytokine Profiles in Severely Burned Patients:A Comparison of Adults and Children,"Mol.Med.,14(9-10):553-5560(2008).
【0010】
これらの文献が当業者に示すことは、創傷治癒とは、炎症、新組織形成、およびリモデリングの3段階を適時に進行するプロセスであり、創傷修復に有益な物質と有害な物質の両方の存在を伴うということである。ある段階から別の段階への移行は、ケラチノサイト、線維芽細胞、およびマクロファージ等の修復プロセスに関与する様々な細胞集団の成熟および分化に依存している。炎症期の最初の工程は、活性化した血小板による血栓の形成である。活性化した血小板、内皮細胞、およびその他の損傷関連分子パターン(DAMPs)ならびに病原体関連分子パターン(PAMPs)等によって、大量のサイトカインが産生、放出、または誘導される。その後、サイトカインが好中球を引き寄せ、好中球はアポトーシスを起こし、さらにサイトカインを放出する。ほとんどの慢性創傷では、炎症段階から細胞の成熟と分化が起こる新組織形成段階への進行に不具合が見られる(Loots MA,Lamme EN,Zeegelaar J,Mekkes JR,Bos JD and Middelkoop E.Differences in cellular infiltrate and extracellular matrix of chronic diabetic and venous ulcers versus acute wounds.J Invest Dermatol 1998;111:850¬857)。これは糖尿病マウスにおいても同様であり、慢性創傷ではサイトカインが長時間発現し、創傷関連マクロファージが大量に浸潤することが特徴となっている(Wetzler C,Kampfer H,Stallmeyer B,Pfeilschifter J and Frank S.Large and sustained induction of chemokines during impaired wound healing in the genetically diabetic mouse:prolonged persistence of neutrophils and macrophages during the late phase of repair.J Invest Dermatol 2000;115:245-253.)。典型的な回復期創傷は、しばしば細胞分裂活性の上昇を示し、創傷周辺では炎症性サイトカインおよびプロテアーゼが経時的に減少している。典型的な慢性潰瘍は、しばしば細胞分裂活性の低下を示し、老化細胞が多く、創傷周辺では炎症性サイトカインやプロテアーゼが高濃度に存在している。
【0011】
急性および慢性の創傷治癒を改善するアプローチとしては、例えば、抗生物質の使用、湿潤から乾燥へのガーゼドレッシング交換、物理的デブリードマン、真空ドレッシング、人工または生物工学的皮膚の使用、患部の血行再建、成長因子およびその他の生物製剤、血漿濃縮物、遺伝子ベースまたは細胞ベース治療が挙げられる。新規の多孔性ポリマー吸着剤を用いて炎症期における炎症性メディエーターやその他の有害物質を減少させることは、組織形成および創傷リモデリングの段階への適時移行を促すことによって創傷治癒を増強させる新しいアプローチとなるだろう。
【0012】
瘢痕の修正:創傷治癒の結果の一つは、傷ついた部分に瘢痕組織が形成されることである。瘢痕組織は、典型的には繊維状の結合組織であり、正常な組織構造に取って代わる。瘢痕組織は、元の組織より構造的に劣り、痛みを伴い、美容的にも好ましくないことがあり、十分な創傷治癒が得られない場合がある。肥厚性瘢痕およびケロイド形成は、過剰な瘢痕形成の例である。瘢痕組織の形成は様々な要因が複合した結果であり、要因としては「サイトカインおよびケモカインによって引き起こされる局所的な炎症」、「傷口に補充される細胞の種類」、「異常なコラーゲンの生成および沈着(例えば、I型コラーゲン対III型コラーゲン)」、「リシルヒドロキシラーゼ-2b等の酵素による架橋」、さらに「線維芽細胞によるオステオポンチン、創傷に関連するマクロファージや血小板や表皮細胞等によるTGF-β1やTGF-β2等、補充された細胞による他の分子の生成と分泌」が挙げられる。このような複雑な活動のネットワークは、瘢痕形成を抑制する可能性のある複数の戦略を提供する。例えば、サイトカインおよびケモカインのバランス調節は、瘢痕のない創傷治癒に関連する[Liechty KW.Adzick NS,Crombleholme TM.[Diminished interleukin 6(IL-6)production during scarless human fetal wound repair.Cytokine,2000.12(6):691-8]。創傷治癒過程またはその後の過程において、コラーゲン、リシルヒドロキシラーゼ-2bのようなコラーゲン架橋酵素、およびサイトカイン等の物質または炎症性メディエーターを局所的に減少させる(しかし完全には除去しない)ことは、ケロイドおよび肥厚性瘢痕のような正常または過剰な瘢痕形成を抑制する新たな戦略を示す。
【0013】
ニキビの治療:物理的外傷がない場合でも、皮膚の炎症が見られることがある。例えば、尋常性ざ瘡は、よく知られた一つの例である。皮膚の毛穴が閉塞したり(例えば、油分、皮脂、または上皮細胞)、細菌感染したり(例えば、プロピオニバクテリウムアクネス、黄色ブドウ球菌等)、刺激を受けたり(例えば、飽和または不飽和脂肪酸、油分、物理的外傷による)すると、同様に炎症が起こることがある。ニキビ病変の外傷性減圧およびニキビ病変の治癒は、萎縮性または肥厚性の瘢痕および炎症後紅斑(PIE)または炎症後色素沈着(PIH)のような色素性変色を引き起こすことがある。このような状態において、油分、脂肪酸、細菌毒素等の炎症原因物質を吸着する多孔性ポリマー吸着材を局所的に使用すると、ニキビの予防または治療、炎症および痛みの改善、瘢痕の軽減、PIEまたはPIHの軽減、組織のリモデリング改善、ならびに治癒促進が期待できる。このポリマー吸着剤が粒子状(例えば、ビーズ)である場合、この材料は、毛穴をきれいにするのに役立つ剥離剤または微細皮膚研磨材であるという追加の利点を有する。このポリマー吸着剤を、クレンザー、保湿剤、日焼け止め、抗生物質、過酸化ベンゾイル、α-ヒドロキシ酸(グリコール酸、乳酸、クエン酸、マンデル酸等)、サリチル酸等のβ-ヒドロキシ酸、ヒドロキシキノン等の薬または化学製品に混合もしくは前投与すると、薬、化学製品、または薬剤を皮膚に送達したりニキビ病変を治療したりする等の連携した働きをすることができる。
【0014】
酒さ:酒さは、主に顔および首の紅斑と慢性的な炎症によって特徴づけられる慢性疾患で、顔および鼻の皮膚の過形成、結節性または膿疱性の腫れ、紅斑、ならびに毛細血管の鬱滞を引き起こすことがある。酒さの治療法はなく、病因も不明であるが、抗生物質の内服や外用、抗炎症剤による対症療法が有効とされている。また、局所的に多孔性ポリマー吸着剤を用いて、原因となる炎症性メディエーター、推定細菌毒素、および刺激性の化学物質や油分を患部皮膚から除去することにより、対症療法または確定的治療を行うことができる。
【0015】
肌の若返り、抗老化、抗シワ:シワおよび小ジワを含む目に見える皮膚の老化は、慢性的な皮膚炎症と関連している。KligmanおよびLavkerは、目に見える皮膚の老化において、炎症が微細な影響を与えることを記述した[R Lavker and A Kligman,Chronic Heliodermatitis:A morphological evaluation of chronic actinic dermal damage with emphasis on the role of mast cells.J Invest Derm 90,325-330(1988)]。この微細な慢性炎症は、軽度または繰り返しの皮膚バリア破壊、紫外線曝露による亜紅斑、皮膚フローラ、化学物質曝露等、様々な要因で誘発される可能性がある[P Elias et al,The link between barrier function and inflammation.Arch Derma 137(8),60-62(2001)]&[L Baumann,L Eichenfield and S Taylor,Advancing the Science of Naturals.Cosm Dermatol 18(24)suppl 4,2-7(2005)]。例えば、皮膚バリアが破壊されると、TNF-α、IL-1、IL-8等の炎症性サイトカインの放出が活性化される[B Nickoloff and Y Naidu,Perturbation of epidermal barrier function correlates with initiation of cytokine cascade in human skin.J Am Acad Derm 30 535-546 (1994)]&[P Elias et al,Barrier function regulates DNA synthesis.Sem Dermatol 11 176-182(1992)]。炎症は、線維芽細胞、ケラチノサイト、およびマスト細胞によるマトリックスメタロプロテイナーゼ(MMP)の産生および活性化をもたらし、通常は損傷後の皮膚のリモデリングに重要であるが、慢性炎症では炎症を悪化させ、コラーゲンやエラスチン等の真皮成分を分解して皮膚のシワや老化につながることがある。重要なMMPには、コラゲナーゼ(MMP-1)、ストロメライシン(MMP-3)、およびゼラチナーゼ(MMP-9)が含まれる。小ジワ、シワ、脆弱状態、弛緩状態等の目に見える皮膚の老化現象は、これらMMPの損傷活性によって誘発される日光性弾性線維変性、コラーゲン破壊、および組織萎縮によるものである[B Pilcher et al,Collagenase-1 and collagen in epidermal repair.Arch Derma Res 290 suppl 37-46(1998)]。生体適合性の多孔性ポリマー吸着剤の局所適用は、慢性炎症の表面炎症性メディエーターおよび皮膚MMPを除去し、それによってMMPおよび他の皮膚炎症性メディエーターの活性を低下させ、さらにランゲルハンス細胞および皮膚のサンプリングおよび炎症に関わる他の細胞に潜在的に影響を与える能力を有している。一定期間にわたって使用すると、多孔性ポリマー吸着剤は、慢性的な皮膚炎症を予防または治療して、シワの形成、小ジワを含む皮膚の老化を逆転または予防し、経時的に皮膚を若返らせるのに役立つ可能性がある。これらの多孔性ポリマーは、サイトカインおよび生理活性脂質等の炎症性メディエーターと積極的に結合して除去する能力を実証しているため、一般的な化粧品に見られる市販の角質除去固体ビーズとは異なるものである。
【0016】
皮膚がん:皮膚バリア破壊による慢性的な皮膚炎症は、皮膚がんにも関連している。Hallidayは、(皮膚障害を引き起こす)レチノイドの局所的な長期使用と皮膚がんの発生率の増加との間に強い相関関係があることを報告している[GM Halliday et al,J Invest Derm 114(5)923-7(2000)]。同様に、炎症性MMP酵素は、皮膚細胞の前悪性および悪性損傷において重要な役割を果たす[B Pilcher et al,Collagenase-1 and collagen in epidermal repair.Arch Derma Res 290 suppl 37-46(1998)]。適切な落屑および細胞のターンオーバーもまた重要である。局所的な多孔性ポリマー吸着剤は、正常な皮膚のターンオーバーおよび皮膚からの炎症性メディエーターの除去に役立ち、悪性腫瘍のリスク上昇に関連する慢性炎症を軽減して皮膚がんのリスクを予防するのに役立つ可能性がある。
【0017】
以下の発明は、皮膚の炎症を調節するために、皮膚およびその下の組織に物質を送達または除去する組成物に、多孔性ポリマー粒子を配合できるという発見に基づいている。このような組成物は、例えば、炎症性物質を除去することができる多孔性ポリマー吸着剤粒子と、炎症および感染の制御を助け、または治癒を促進する賦形剤とを含むことができる。そうすることで、これらの多孔性ポリマー組成物は、創傷治癒を改善し、皮膚の炎症、損傷および老化を防止し、美容術を改善し、広範囲の皮膚科疾患を治療することが可能である。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0018】
いくつかの実施形態においては、本発明は、前記物質を放出または収着(吸着および/または吸収)することができる多孔性ポリマー組成物の局所的または経皮的適用を介して、選択的、局所的、または経皮的に、ヒトまたは動物対象の皮膚または表面へ1つまたはそれ以上の物質を送達、もしくは、ヒトまたは動物対象の皮膚または表面から1つまたはそれ以上の物質を除去するための方法であって、前記多孔性ポリマーは、約0.1ミクロン~約0.5センチメートルの範囲の平均直径を有し、約50オングストローム~約40,000オングストロームの範囲の平均細孔径をもつ複数の細孔を有している粒子をもつ、粒子状材料である、方法に関する。
【0019】
いくつかの実施形態は、前記多孔性ポリマー組成物の創傷への適用に関する。特定の実施形態においては、前記創傷が、慢性創傷、静脈うっ滞性潰瘍、疾患による潰瘍または潰瘍形成、外傷性創傷、熱傷創、糖尿病性創傷、または手術創傷である。
【0020】
本発明は、創傷治癒を変化または改善し、瘢痕を減少させ、組織リモデリングを改善し、もしくは、炎症または痛みを軽減するための、前記多孔性ポリマー組成物の適用に関する。処置は、前記多孔性ポリマー組成物の皮膚への適用を含む。処置は、前記多孔性ポリマー組成物の皮膚移植部位への適用を含む。
【0021】
いくつかの処置は、形成外科、美容外科、および再建外科の用途のための、前記多孔性ポリマー組成物の経皮適用を含む。他の処置は、皮膚への適用が、化粧品用途を目的とすることを含む。化粧品用途は、肌の明るさ、クレンジング、角質除去、抗老化、美化、抗シワ、柔軟化、油分低減、毛穴クレンジング、肌の若返り、肌変色の改善、ならびに小ジワ、肌のたるみ、および肌の脆弱性の低減の1つまたはそれ以上を含む。
【0022】
皮膚への適用は、1つまたはそれ以上の皮膚科疾患の治療も含む。皮膚科疾患は、感染症、酵母感染症、真菌感染症、イボ、悪臭皮膚、多汗症、フケ、脂漏性皮膚炎、自己免疫疾患の皮膚症状、乾癬、ループス、扁平苔癬、乾燥または脂性肌、湿疹、アトピー性皮膚炎、接触性またはアレルギー性皮膚炎、白癬、白斑、発疹、蕁麻疹、褥瘡、口唇潰瘍または口唇ヘルペス、口内炎、癜風、類天疱瘡、酒さ、皮膚のしみ、角質、皮膚硬結、尋常性魚鱗癬、ケロイド、脂漏性角化症、光線性角化症、および皮膚がんを含む。一実施形態においては、前記皮膚科疾患は、尋常性ざ瘡である。
【0023】
特定の実施形態においては、皮膚への適用は、皮膚におけるランゲルハンス細胞などの免疫細胞の活性を変化させる。ランゲルハンス細胞などの免疫細胞の活性変化は、前記皮膚の炎症または老化の変化をもたらす。
【0024】
いくつかの実施形態においては、前記多孔性ポリマー組成物が、粉末、湿布、マスク、液体、ゲルペースト、低容量ペースト、ゲル、分散液、スラリー、または懸濁液の形態である。前記多孔性ポリマー組成物は、クレンジングクロス、パッド、タオレット、または回転式クレンジング器具と共に使用される。
【0025】
いくつかの実施形態においては、前記多孔性ポリマー組成物が、浸透性材料または液体も含む。浸透性材料は、ガーゼ、メッシュ、パッド、もしくは前記多孔性ポリマー材料が(例えば、パウチ、または包帯のように)埋め込まれ、または封入された、透過性または半透過性の膜を含む。
【0026】
特定の実施形態においては、前記浸透性材料が、液体、ゲル、ローション、またはペーストである。前記浸透性材料は、化学物質(例えば、薬物、薬剤、ビタミン、一酸化窒素、一酸化窒素ドナー)、ミネラル、または栄養素の1つまたはそれ以上を含む。好適な化学物質は、抗生物質、抗ウイルス薬、抗真菌薬、または抗寄生虫薬を含む。
【0027】
いくつかの実施形態においては、前記浸透性材料が、少なくとも1つの化粧品成分を含む。化粧品成分は、グリセリン、ヒアルロン酸、ヒアルロン酸塩、シアバター、ビタミン、ビタミンE、ビタミンA、ビタミンD、ビタミンC、およびビタミンKの1つまたはそれ以上を含む。化粧品成分は、クレンザー、保湿剤、日焼け止め、抗生物質、過酸化ベンゾイル、角質溶解剤、α-ヒドロキシ酸、β-ヒドロキシ酸、レチノイン酸、ヒドロキシキノン、水酸化カリウム、茶抽出物、ならびに植物および花抽出物の1つまたはそれ以上も含む。
【0028】
特定の実施形態においては、除去される物質が、タンパク質、ペプチド、グリコシル化タンパク質または脂質(例えば、終末糖化産物)、もしくはタンパク質含有分子である。前記物質は、サイトカイン(例えば、TNF-α、IL-1、IL-4、IL-5、IL-6、IL-8、IL-10、IL-12、RANTES、MCP-1、またはIP-10)、毒素、または活性化補体のようなタンパク質ベースの炎症性メディエーターを含む。他の実施形態においては、前記物質は、成長因子である(例えば、上皮成長因子、線維芽細胞成長因子、血小板由来成長因子、トランスフォーミング成長因子、血管内皮成長因子)。さらに他の実施形態においては、前記物質が、酵素である。酵素は、メタロプロテイナーゼ、コラゲナーゼ、エラスターゼ、または架橋酵素を含む。除去される物質は、プロスタグランジン、ロイコトリエン、生物活性脂質(例えば、エイコサノイド、エンドカンナビノイド、およびスフィンゴ脂質)またはヒスタミンのような非タンパク質炎症性メディエーターも含む。他の物質は、ホルモン、疼痛メディエーター、ワックス、スクアレン、脂肪酸、トリグリセリド、もしくは皮脂、またはウルシオール油等の油の1つまたはそれ以上を含む。
【0029】
いくつかの実施形態においては、前記多孔性ポリマー組成物が、少なくとも2つの異なる平均直径を有する粒子の混合物を含む。
【0030】
好ましくは、前記多孔性ポリマー材料が、生体適合性であるかまたは炎症を誘発しないものである。
【0031】
いくつかの好ましい実施形態においては、前記多孔性ポリマー材料が、0.5cc/g~5.0cc/gの細孔容積をもつ50Å~40,000Åの範囲の複数の孔を含み、前記吸着剤は、0.05mm~2cmのサイズを有し、
前記吸着剤は、50Å~40,000Åの範囲の細孔サイズの全細孔容積が0.5cc/g~5.0cc/gの乾燥吸着剤よりも大きいような細孔構造を有し、
(i)前記吸着剤の50Å~40,000Åの範囲の細孔径の全細孔容積と100Å~1,000Åの範囲の細孔径の全細孔容積の比が3:1より小さい、または
(ii)前記吸着剤の50Å~40,000Åの範囲の細孔径の全細孔容積と1,000Å~10,000Åの範囲の細孔径の全細孔容積の比が2:1より小さい、または
(iii)前記吸着剤の50Å~40,000Åの範囲の細孔径の全細孔容積と10,000Å~40,000Åの範囲の細孔径の全細孔容積の比が3:1より小さい。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1図1は、実施例1に記載された試験について、選択されたウェル(灰色)にシトクロムC溶液が充填された6ウェルプレートを示している。
図2図2は、実施例1に記載された試験について、粗いメッシュパック(下側曲線)と細かいメッシュパック(上側曲線)のシトクロムC残存率対時間のプロットを示している。
図3図3は、実施例2に記載された試験について、死亡ラットの背中に作られた直径8mmの全厚の皮膚創傷を示している。
図4図4は、ラットの背中に麻酔下で外科的に作った直径8mmの全厚の皮膚創傷について、14日後の皮膚創傷治癒率を定性的に比較したものである。上図は多孔性テストビーズ、中図は非多孔性ビーズ、下図は未処理の創傷を示している。
図5図5は、創傷を作る手術の4時間後にヘモグロビンタンパク質の吸着量を定性的に比較した図である。上図(A)はテストビーズを使用した結果であり、下図(B)は非多孔性コントロールビーズを使用した結果である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
本発明の多孔性ポリマー組成物は、約0.1ミクロン~約2センチメートル、より好ましくは約0.1ミクロン~約1センチメートル、最も好ましくは約0.1ミクロン~約0.75センチメートルの平均直径を有する生体適合性粒子を含む。当業者であれば、これらの範囲の小さい方の粒子状組成物は粉末として見え、大きい方の粒子状組成物はビーズとして見えることが分かるだろう。実際には、本発明の組成物は、直径が本質的に均一な粒子から構成されても良く、異なる直径の粒子の混合物であっても良く、各サイズの粒子の割合は粒子が意図される用途によって決定される。
【0034】
上述したように、粒子は多孔性である。粒子の細孔は、平均直径が約50オングストローム~約40,000オングストローム、より好ましくは50~20,000オングストローム、最も好ましくは50~5,000オングストロームの範囲である。細孔の総体積は、乾燥ポリマー1グラムあたり約0.5cc~約3.0ccの範囲である。本明細書で使用される「乾燥」ポリマーは、以下で詳述される
【0035】
本発明の組成物を作るために使用されるポリマーは、生体適合性であっても良く、および、例えば、創傷の治療または血液と接触する他の条件で使用される場合には、血液適合性であっても良い。その全体が参照により組み込まれる米国特許第7,875,182号および第7,846,650号は、本発明において有用な生体適合性および血液適合性ポリマーの例を示す。当業者は、本明細書に記載する必要のない他の例を認識するだろう。
【0036】
実際には、本発明の粒子は、その重要度の観点から、創傷治癒または有害分子の除去により治癒プロセスが促進される他の生物学的現象を促進するように、炎症に関与する分子の選択的吸着を可能にする。本発明の組成物で除去できる分子の例としては、サイトカイン、炎症モジュレーター、酵素、ホルモン、疼痛メディエーター、および当業者が治癒および/または回復プロセスに有害だと認識するだろう他の物質が挙げられる。これらの分子カテゴリーの具体例として、サイトカインについてはTNF、IL-1、IL-4、IL-5、IL-6、IL-8、IL-10、IL-12、RANTES、MCP-1、およびIP-10が挙げられ、酵素についてはメタロプロテイナーゼ、コラゲナーゼ、エラスターゼ、コラーゲン架橋剤が挙げられ、サブスタンスP、セロトニン、ヒスタミン、C-GRP、ブラジキニン、プロスタグランジンおよびアラキドン酸、シトクロムC、ならびにインターロイキンおよび疼痛メディエーターが挙げられる。インターロイキンおよび他のサイトカインでよく見られるように、特定の分子の1つまたはそれ以上の形態が知られている場合はその分子のすべての形態が本明細書に包含される。
【0037】
選択的に、本発明組成物の粒子は、標的とする有害物質の収着(吸着および/または吸収)を促進するのに役立つ追加の材料でコーティングされても良い。粒子上および/または細孔内に配置することができる材料の例示的な、しかし決して包括的ではないリストとしては、スルホン化ポリマーおよびヒドロキシル化ポリマー、ラクトース、N-アセチルグルコサミン、抗生物質(例えば、βラクタム、バシトラシン等)、抗体、ならびに有害物質のリガンドがある。
【0038】
これらの分子の活性型、例えば抗体およびリガンドの結合断片、複合糖質または糖のタンパク質等も、同様に本発明の一部として企図されている。
【0039】
粒子は、当該技術分野においてよく知られた方法に従って構成されており、「半選択的」と言うことができる。「半選択的」とは、本質的に2つの概念を意味する。第一に、吸着特性は、抗体(平均分子量150キロダルトン以上)のような大きく有益な分子が吸着されないか、または最小限の吸着であるようなものである。第二に、粒子は、特定の範囲、例えば、10~85キロダルトンの範囲に入るほとんどの分子を吸着するが、選択性は、例えば、上述したように適切なコーティングを選択することによって改善することができ、粒子は、潜在的に有益な分子のすべてを除去するわけではなく、粒子の動作範囲内にある有益な分子のすべてを除去するわけではないが、その一部を除去する。好ましい実施形態においては、粒子は、約10~約85キロダルトンの分子量を有する分子を吸着するように作られる。当業者であれば、上記の説明から、より小さいおよび/またはより大きい分子を収着できる粒子を設計できること、および多様な収着特性を有する粒子の混合物が企図されることに気づくだろう。これらの特性の結果として、粒子が治療的に使用される場合、例えば、創傷の治療において、粒子は、問題のある分子が蔓延している炎症期のような時点で適用され、その後除去することができる。
【0040】
創傷の治療に加えて、本発明は、治療と美容にまたがるような症状にも使用することができる。例えば、感染症、単純ヘルペスウイルスによる潰瘍、イボ、悪臭皮膚、多汗症、フケ、脂漏性皮膚炎、自己免疫疾患の皮膚症状、乾癬、ループス、扁平苔癬、乾燥または脂性肌、あらゆる形態の湿疹、アトピー性皮膚炎、接触性またはアレルギー性皮膚炎、白癬、白斑、発疹、蕁麻疹、褥瘡、口唇潰瘍または口唇ヘルペス、口内炎、癜風、類天疱瘡、酒さ、角質、皮膚硬結、尋常性魚鱗癬、ケロイド、脂漏性角化症、光線性角化症、および皮膚がんが挙げられるが、決してこれらに限られるわけではない。他の例としては、皮膚のしみ、毛穴の若返りおよび毛穴のクレンジング、シワの予防または軽減、発毛、皮膚の変色、皮膚の若返り、および抗老化を含む。
【0041】
皮膚または創傷への有益な物質の送達も、本発明により可能である。多孔性ポリマーは、薬物または薬剤(例えば、抗生物質、α-ヒドロキシ酸(グリコール酸、乳酸、クエン酸、およびマンデル酸等)、β-ヒドロキシ酸(サリチル酸等)、ヒドロキシ尿素、レチノイン酸、サリチル酸、過酸化ベンゾイル、ヒドロキシキノン、一酸化窒素ドナー、角質溶解剤、および抗ウイルス薬)ならびにビタミン、ミネラルおよび他の栄養分を備え付けることもできる。また、多孔性ポリマーは、同様の物質を含む組成物に製剤化し、皮膚または創傷に適用することもできる。
【0042】
本発明の組成物は、純粋に化粧品としての用途にも使用することができる。そのような状況では、粒子は、クレンザー、マスク、軟化薬または保湿剤等の少なくとも1つの化粧品と組み合わされる。例示的な添加剤としては、グリセリン、ヒアルロン酸、またはその塩、シアバター、ビタミン、過酸化ベンゾイル、角質溶解剤、α-ヒドロキシ酸(グリコール酸、乳酸、クエン酸、およびマンデル酸等)、β-ヒドロキシ酸(サリチル酸等)、レチノイン酸、ヒドロキシキノン、水酸化カリウム、茶抽出物、ならびに植物および花抽出物を含む。
【0043】
本発明の組成物は、抗菌活性を促進しできる金属イオンまたは他の表面コーティング(例えば、亜鉛、二硫化セレン、およびケトコナゾール、銀)を組み込むためにポリマー表面で修飾されても良い。あるいは、ポリマーは、金属イオンまたは他の化合物の送達(例えば、ジンクピリチオン送達)のための媒体として機能しても良い。このような場合、本発明の有用性は、尋常性ざ瘡、膿瘍、酵母感染症、ふけ、および脂漏性皮膚炎を治療することだろう。また、抗菌性を有することができ、連鎖球菌属およびブドウ球菌属の多くの病原体に対して有効である。他の医療用途は、局所適用における乾癬、湿疹、水虫、乾燥肌、アトピー性皮膚炎、白癬、および白斑の治療である。
【0044】
いくつかの好ましいポリマーは、アクリロニトリル、アリルグリシジルエーテル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸ブチル、アクリル酸セチル、メタクリル酸セチル、3,4-ジヒドロキシ-1-ブテン、ジペンタエリスリトールジアクリレート、ジペンタエリスリトールジメタクリレート、ジペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールテトラメタクリレート、ジペンタエリスリトールトリアクリレート、ジペンタエリスリトールトリメタクリレート、ジビニルベンゼン、ジビニルホルムアミド、ジビニルナフタレン、ジビニルスルホン、3,4-エポキシ-1-ブテン、1,2-エポキシ-9-デセン、1,2-エポキシ-5-ヘキセン、アクリル酸エチル、メタクリル酸エチル、エチルスチレン、エチルビニルベゼン、メタクリル酸グリシジル、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、アクリル酸オクチル、メタクリル酸オクチル、ペンタエリスリトールジアクリレート、ペンタエリスリトールジメタクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ペンタエリスリトールテトラメタクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールトリメタクリレート、スチレン、トリメチロールプロパンジアクリレート、トリメチロールプロパンジメタクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、トリビニルベンゼン、トリビルシクロヘキサン、酢酸ビニル、ビニルベンジルアルコール、4-ビニル-1-シクロヘキセン1,2-エポキシド、ビニルホルムアミド、ビニルナフタレン、2-ビニルオキシラン、およびビニルトルエンから選択される1つまたはそれ以上のモノマー、またはそれを含むモノマー、またはそれらの混合物由来の残基を含む。
【0045】
本発明のいくつかの実施形態は、ポロゲンまたは孔形成剤として有機溶媒および/またはポリマーポロゲンを使用し、重合中に誘導される相分離により多孔性ポリマーが得られる。いくつかの好ましいポロゲンは、ベンジルアルコール、シクロヘキサン、シクロヘキサノール、シクロヘキサノン、デカン、フタル酸ジブチル、フタル酸ジ-2-エチルヘキシル、ジ-2-エチルヘキシルリン酸、エチルアセテート、2-エチル-1-ヘキサン酸、2-エチル-1ヘキサノール、n-ヘプタン、n-ヘキサン、酢酸イソアミル、イソアミルアルコール、n-オクタン、ペンタノール、ポリプロピレングリコール)、ポリスチレン、ポリ(スチレン-co-メチルメタクリレート)、テトラリン、トルエン、トリ-n-ブチルリン酸、1,2,3-トリクロロプロパン、2,2,4-トリメチルペンタン、およびキシレンから選択されるか、またはそれらの任意の組み合わせを含む混合物である。
【0046】
さらに別の実施形態においては、分散剤は、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリ(ジエチルアミノエチルアクリレート)、ポリ(ジエチルアミノエチルメタクリレート)、ポリ(ジメチルアミノエチルアクリレート)、ポリ(ジメチルアミノエチルメタクリレート)、ポリ(ヒドロキシエチルアクリレート)、ポリ(ヒドロキシエチルメタクリレート)、ポリ(ヒドロキシプロピルアクリレート)、ポリ(ヒドロキシプロピルメタクリレート)、ポリ(ビニルアルコール)、ポリ(アクリル酸)の塩、ポリ(メタクリル酸)の塩、およびそれらの混合物から成る群から選択される。
【0047】
好ましい吸着剤は、生体適合性である。別のさらなる実施形態においては、ポリマーは生体適合性である。さらに別の実施形態においては、ポリマーは血液適合性である。その上さらなる実施形態においては、生体適合性ポリマーは血液適合性である。その上さらなる実施形態においては、ポリマーの幾何学的形状は球状ビーズである。
【0048】
別の実施形態においては、生体適合性ポリマーは、ポリ(N-ビニルピロリドン)を含む。
【0049】
別の実施形態においては、生体適合性ポリマーは、1,2-ジオールを含む。別の実施形態においては、生体適合性ポリマーは、1,3-ジオールを含む。
【0050】
別のさらなる実施形態においては、生体適合性ポリマーは、ヘパリン模倣ポリマーを含む。
【0051】
ポリマー材料におけるコーティング/分散剤は、材料に生体適合性の向上をもたらす。
【0052】
いくつかの好ましいポリマーは、ジビニルベンゼン、エチルビニルベンゼン、スチレン、およびエチルスチレンモノマーの1つまたはそれ以上の残基を含む。好ましいポリマーの1つは、ポリ(スチレン-co-ジビニルベンゼン)樹脂である。
【0053】
さらに別の実施形態においては、ジペンタエリスリトールジアクリレート、ジペンタエリスリトールジメタクリレート、ジペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールテトラメタクリレート、ジペンタエリスリトールトリアクリレート、ジペンタエリスリトールトリメタクリレート、ジビニルベンゼン、ジビニルホルムアミド、ジビニルナフタレン、ジビニルスルホン、ペンタエリスリトールジアクリレート、ペンタエリスリトールジメタクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ペンタエリスリトールテトラメタクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールトリメタクリレート、トリメチロールプロパンジアクリレート、トリメチロールプロパンジメタクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、トリビニルベンゼン、トリビニルシクロヘキサン、およびそれらの混合物から成る架橋剤の群は、血液適合性ヒドロゲルコーティングの形成に使用できる。
【0054】
いくつかの実施形態においては、ポリマーは、少なくとも1つの架橋剤と少なくとも1つの分散剤とを含むポリマーである。分散剤は、生体適合性である。分散剤は、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリ(ジエチルアミノエチルアクリレート)、ポリ(ジエチルアミノエチルメタクリレート)、ポリ(ジメチルアミノエチルアクリレート)、ポリ(ジメチルアミノエチルメタクリレート)、ポリ(ヒドロキシエチルアクリレート)、ポリ(ヒドロキシエチルメタクリレート)、ポリ(ヒドロキシプロピルアクリレート)、ポリ(ヒドロキシプロピルメタクリレート)、ポリ(ビニルアルコール)、ポリ(アクリル酸)の塩、ポリ(メタクリル酸)の塩、およびそれらの混合物等の化学物質、化合物、または材料から選択できる。架橋剤は、ジペンタエリスリトールジアクリレート、ジペンタエリスリトールジメタクリレート、ジペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールテトラメタクリレート、ジペンタエリスリトールトリアクリレート、ジペンタエリスリトールトリメタクリレート、ジビニルベンゼン、ジビニルホルムアミド、ジビニルナフタレン、ジビニルスルホン、ペンタエリスリトールジアクリレート、ペンタエリスリトールジメタクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ペンタエリスリトールテトラメタクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールトリメタクリレート、トリメチロールプロパンジアクリレート、トリメチロールプロパンジメタクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、トリビルベンゼン、トリビルシクロヘキサン、およびそれらの混合物から成る群から選択される。好ましくは、ポリマーはコーティングの形成と同時に伸び、分散剤はポリマーの表面で化学的に結合または絡まり合う。
【0055】
さらに別の実施形態においては、生体適合性ポリマーコーティングは、ポリ(ジエチルアミノエチルメタクリレート)、ポリ(ジメチルアミノエチルメタクリレート)、ポリ(ヒドロキシエチルアクリレート)、ポリ(ヒドロキシエチルメタクリレート)、ポリ(ヒドロキシプロピルアクリレート)、ポリ(ヒドロキシプロピルメタクリレート)、ポリ(N-ビニルピロリドン)、ポリ(ビニルアルコール)、ポリ(アクリル酸)の塩、ポリ(メタクリル酸)の塩、およびそれらの混合物から成る群から選択される。
【0056】
さらに別の実施形態においては、生体適合性オリゴマーコーティングは、ポリ(ジエチルアミノエチルメタクリレート)、ポリ(ジメチルアミノエチルメタクリレート)、ポリ(ヒドロキシエチルアクリレート)、ポリ(ヒドロキシエチルメタクリレート)、ポリ(ヒドロキシプロピルアクリレート)、ポリ(ヒドロキシプロピルメタクリレート)、ポリ(N-ビニルピロリドン)、ポリ(ビニルアルコール)、ポリ(アクリル酸)の塩、ポリ(メタクリル酸)の塩、およびそれらの混合物から成る群から選択される。
【0057】
いくつかの本発明の生体適合性吸着剤組成物は、複数の細孔を含む。生体適合性吸着剤は、0.5kDa未満~1,000kDaまでの広範な毒素を吸着するように設計されている。理論に縛られることを意図しないが、吸着剤は、細孔内に所定の分子量の分子を隔離することによって作用すると考えられる。ポリマーが収着できる分子の大きさは、ポリマーの細孔径が大きくなるにつれて大きくなる。逆に、細孔径が所定の分子の吸着に最適な細孔径を超えて大きくなると、前記タンパク質の吸着は減少する可能性がある、または減少するだろう。
【0058】
特定の方法において、固体形態は多孔性である。いくつかの固体形態は、10Å~40,000Åの範囲の細孔径の総容積が0.1cc/gより大きく、かつ5.0cc/gより小さい乾燥ポリマーを有する細孔構造を有することを特徴とする。
【0059】
吸着性ポリマーの細孔構造は、Micromeritics ASAP 2020装置(N2吸着/脱着等温線)またはMicromeritics AutoPore IV 9500(水銀侵入ポロシメータ)のいずれかにより分析された。N2吸着データについては、Barrett-Joyner-Halenda(BJH)法による等温線の脱着枝に基づいて、全細孔容積とサイズ分布を算出した。圧力対侵入データより、水銀侵入ポロシメータは、Washburn方程式を使用して体積分布およびサイズ分布を生成する。いくつかの好ましい実施形態においては、吸着剤は多孔性であり、吸着剤の50Å~40,000Å(細孔径)間の細孔容積と1,000Å~10,0001Å(細孔径)間の細孔容積の比は、3:1、6:1、8:1、または10:1より小さい。
【0060】
特定の実施形態においては、ポリマーは、0.1マイクロメートル~2センチメートルの範囲の直径を有するビーズ形態にすることができる。特定のポリマーは、粉末、ビーズ、もしくは他の規則的または不規則的な形状の微粒子の形態である。
【0061】
いくつかの実施形態においては、複数の固体形態は、0.1マイクロメートル~2センチメートルの範囲の直径を有する粒子を含む。
【0062】
いくつかの実施形態においては、吸着剤は、架橋剤と、以下の重合性モノマーの1つまたはそれ以上との反応から得られ、その後、エポキシ化および開環してポリオールを形成した架橋重合体を含む:アクリロニトリル、アリルグリシジルエーテル、ブチルアクリレート、ブチルメタクリレート、セチルアクリレート、セチルメタクリレート、3,4-ジヒドロキシ-1-ブテン、ジペンタエリスリトールジアクリレート、ジペンタエリスリトールジメタクリレート、ジペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールテトラメタクリレート、ジペンタエリスリトールトリアクリレート、ジペンタエリスリトールトリメタクリレート、ジビニルベンゼン、ジビニルホルムアミド、ジビニルナフタレン、ジビニルスルホン、3,4-エポキシ-1-ブテン、1,2-エポキシ-9-デセン、1,2-エポキシ-5-ヘキセン、エチルアクリレート、エチルメタクリレート、エチルスチレン、エチルビルベゼン、グリシジルメタクリレート、メチルアクリレート、メチルメタクリレート、オクチルアクリレート、オクチルメタクリレート、ペンタエリスリトールジアクリレート、ペンタエリスリトールジメタクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ペンタエリスリトールテトラメタクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールトリメタクリレート、スチレン、トリメチロールプロパンジアクリレート、トリメチロールプロパンジメタクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、トリビニルベンゼン、トリビニルシクロヘキサン、酢酸ビニル、ビニルベンジルアルコール、4-ビニル-1-シクロヘキセン1,2-エポキシド、ビニルホルムアミド、ビニルナフタレン、2-ビニルオキシラン、およびビニルトルエン。好ましい吸着剤においては、形成されたポリオールはジオールである。
【0063】
別の実施形態においては、ポリマー吸着剤は、架橋剤と酢酸ビニルとの反応から調製され、その後、ポリオール基を含むビーズを形成するように修飾される。この反応は、共重合であっても良いし、または最初の重合がほぼ終了した後に酢酸ビニルを加え、未使用の開始剤を利用して第2のフリーラジカル重合を開始し、ポリマービーズ表面に酢酸ビニル基を付加するワンポット反応であっても良い。酢酸ビニル含有ポリマーのその後の修飾は、順に、酢酸基をヒドロキシル基に変換する加水分解、エピクロロヒドリンとの反応によるエポキシド基含有ポリマービーズの形成、およびエポキシド基をポリオール基に変換する開環を含む。好ましい実施形態においては、ポリオールはジオールである。
【0064】
本発明のいくつかの実施形態においては、エポキシド基を含むポリマービーズを直接合成し、次いでエポキシド基を開環させてポリオールを形成させることを伴う。エポキシド基を含む以下の重合性ビニルモノマーの1つまたはそれ以上を、架橋剤およびモノマーの存在下で重合させて、上述した官能基性を含むポリマービーズを得ることができる:アリルグリシジルエーテル、3,4-ジヒドロキシ-1-ブテン、3,4-エポキシ-1-ブテン、1,2-エポキシ-9-デセン、1,2-エポキシ-5-ヘキセン、グリシジルメタクリレート、4-ビニル-1-シクロヘキセン1,2-エポキシド、および2-ビニルオキシラン。エポキシド基含有ビニルモノマーは、血液適合性モノマー(NVP.2-HEMA等)と共重合して、エポキシド基含有血液適合性ビーズを得ることもできる。好ましい実施形態においては、ポリオールはジオールである。
【0065】
さらに他の実施形態は、ビーズの表面にポリオール基を含む超架橋ポリマー吸着剤から成る。これは、フリーラジカルまたはS2タイプの化学修飾を介して達成することができる。吸着剤ビーズの表面の化学修飾は、上記の修飾の場合であるが、超架橋ポリスチレンの顕著な特殊性;すなわち、ポリマーの反応性官能基がその表面に主に位置していることによって促進される。超架橋ポリスチレンは一般に、ポリスチレン鎖を多量の二官能性化合物、特に2個の反応性クロロメチル基を有する化合物で架橋することにより調製される。後者は、2段階反応で、隣接するポリスチレン鎖の2つのフェニル基をフリーデル・クラフツ反応に従ってアルキル化し、2分子のHClを発生させて架橋を形成する。架橋反応中、形成された三次元ネットワークは剛性を獲得する。この特性は、架橋反応の第2段階の速度を徐々に低下させる。なぜなら、最初の架橋試薬の第2のペンダント官能基の移動度が低下すると、アルキル化反応のための適切な第2のパートナーを加えることがますます困難になるためである。これは特に、たまたまビーズの表面に露出している第2官能基について特徴的である。したがって、最終的な超架橋ポリマー中のペンダント未反応クロロメチル基のうち、大部分ではないにしても、最も大きな部分はビーズの表面(または細孔の表面)に位置している。この状況により、生体適合性および血液適合性のモノマー、および/もしくは架橋剤または低分子量オリゴマーの付着が可能な種々の化学反応に上記クロロメチル基を関与させて、ポリマービーズの表面を主に修飾することが可能となる。続いてヒドロキシル基を導入し、エピクロロヒドリンと反応させることにより、ビーズの表面にエポキシド基を有するポリマー吸着剤が得られる。次にこれらのエポキシド基は、開環してポリオール基を形成することができる。いくつかの好ましい実施形態においては、ポリオールはジオールである。
【0066】
他の実施形態においては、ペンダント未反応クロロメチル基を含む超架橋ポリスチレンが、以下の試薬の1つまたはそれ以上の存在下で直接修飾され、ビーズの表面(または孔の表面)上にポリオールを含む吸着剤ポリマービーズを形成する:(±)-3-アミノ-1,2-プロパンジオール、グリセロール、および他のポリオール。好ましい実施形態においては、ポリオールはジオールである。
【0067】
さらに他の実施形態においては、表面コーティングの生体適合性剤および血液適合性剤であるポリ(ビニルアルコール)も、ポリオール官能基として作用する。
【0068】
いくつかの他の実施形態においては、吸着剤は、架橋剤と、以下の重合性モノマーの1つまたはそれ以上との反応から得られ、その後、フリーラジカル開始剤の存在下で重合性双性イオンモノマーと反応した架橋重合体を含む:アクリロニトリル、アリルグリシジルエーテル、ブチルアクリレート、ブチルメタクリレート、セチルアクリレート、セチルメタクリレート、3,4-ジヒドロキシ-1-ブテン、ジペンタエリスリトールジアクリレート、ジペンタエリスリトールジメタクリレート、ジペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールテトラメタクリレート、ジペンタエリスリトールトリアクリレート、ジペンタエリスリトールトリメタクリレート、ジビニルベンゼン、ジビニルホルムアミド、ジビニルナフタレン、ジビニルスルホン、3,4-エポキシ-1-ブテン、1,2-エポキシ-9-デセン、1,2-エポキシ-5-ヘキセン、エチルアクリレート、エチルメタクリレート、エチルスチレン、エチルビルベゼン、グリシジルメタクリレート、メチルアクリレート、メチルメタクリレート、オクチルアクリレート、オクチルメタクリレート、ペンタエリスリトールジアクリレート、ペンタエリスリトールジメタクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ペンタエリスリトールテトラメタクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールトリメタクリレート、スチレン、トリメチロールプロパンジアクリレート、トリメチロールプロパンジメタクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、トリビニルベンゼン、トリビニルシクロヘキサン、酢酸ビニル、ビニルベンジルアルコール、4-ビニル-1-シクロヘキセン1,2-エポキシド、ビニルホルムアミド、ビニルナフタレン、2-ビニルオキシラン、およびビニルトルエン。重合性双性イオンモノマーとしては、以下の1つまたはそれ以上を含む:2-アクリルアミド-2-メチル-1-プロパンスルホン酸ナトリウム塩、[3-(アクリロイルアミノ)プロピル]-トリメチルアンモニウムクロリド、34[2-(アクリロイルオキシ)エチル]-ジメチルアンモニオ]-プロピオナート、[2-(アクリロイルオキシ)エチル]-ジメチル-(3-スルホプロピル)-アンモニウムヒドロキシド、2-アクリロイルオキシエチルホスホリルコリン、[3-(メタクリロイルアミノ)プロピル]-トリメチルアンモニウムクロリド、3-][2(メタクリロイルオキシ)エチル]-ジメチルアンモニオ]-プロピオナート、[2-(メタクリロイルオキシ)エチル]-ジメチル-(3-スルホプロピル)-アンモニウムヒドロキシド、および2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン。
【0069】
一実施形態においては、本発明のポリマーは、形成されたポリマービーズに生体適合性および血液適合性の外面を提供するように選択される水相分散剤の存在下で、フリーラジカル開始を伴う配合水相での懸濁重合により調製される。いくつかの実施形態においては、ビーズは、適切な細孔構造を持つために、適切に選択されたポロゲン(細孔形成剤)および重合のための適切な時間-温度プロファイルを有する巨大網状合成によって多孔性にされる。
【0070】
別の実施形態においては、懸濁重合によって作られたポリマーは、生体適合性および血液適合性のモノマーまたは低分子量オリゴマーをさらにグラフト化することによって生体適合性および血液適合性にすることができる。ラジカル重合の手順では、共重合に導入されたDVBのビニル基がすべて消費されるわけではないことが示されている。平均して、約30%のDVB種が架橋ブリッジとしての役割を果たせず、2つのビニル基のうちの1つだけがネットワークに関与したままである。したがって、比較的多量のペンダントビニル基が存在することが吸着剤の特徴である。これらのペンダントビニル基は、好ましくはポリマービーズの表面に露出し、マクロポアが存在する場合は、化学修飾に容易に利用できると予想される。DVBポリマーの表面の化学修飾は、表面に露出したペンダントビニル基の化学反応に依存し、これらの基をより親水性の高い官能基に変換することを目的としている。モノマーおよび/または架橋剤または低分子量オリゴマーのフリーラジカルグラフト化を介したこの変換は、血液適合特性を有する初期の疎水性吸着材を提供する。
【0071】
さらに別の実施形態においては、ラジカル重合開始剤は、懸濁重合で典型的な水性分散媒ではなく、分散した有機相に最初に添加される。重合中、鎖端ラジカルを持つ多くの伸長するポリマー鎖が相界面に現れ、分散媒中で重合を開始することができる。さらに、過酸化ベンゾイルのようなラジカル開始剤は、比較的ゆっくりとラジカルを発生させる。この開始剤は、数時間の重合でもビーズ形成時に部分的に消費されるだけである。この開始剤はビーズの表面に向かって容易に移動し、ビーズのジビニルベンゼン部分の表面に露出したペンダントビニル基を活性化するため、一定時間反応が進行した後に添加した他のモノマーのグラフト重合を開始させる。したがって、フリーラジカルグラフト化は、モノマー液滴のポリマービーズへの変換中に起こり、それによって表面コーティングとして生体適合性または血液適合性を付与するモノマーおよび/または架橋剤または低分子量オリゴマーを組み込む。
【0072】
本明細書で使用する時、用語「収着剤(sorbent)」は、吸着剤(adsorbent)および吸収剤(absorbent)を含む。
【0073】
本明細書で使用する時、単数形「a」、「an」、および「the」は複数形を含み、特定の数値への言及は、文脈が明確に指示しない限り、少なくともその特定の数値が含まれる。値の範囲が表される場合、別の実施形態では、1つの特定の値から、および/または他の特定の値までが含まれる。同様に、値が近似値として表現される場合、先行詞「約」の使用により、特定の値が別の実施形態を形成することが理解されるだろう。すべての範囲は、包括的であり、組み合わせ可能である。
【0074】
用語「生体適合性」は、吸着剤が生理的流体、生体組織、または生物と接触している間に、許容できない臨床的変化を生じることなく、吸着剤が生理的流体、生体組織、または生物と接触することができることを意味すると定義される。
【0075】
用語「血液適合性」は、生体適合性材料が全血または血漿と接触した時に、臨床的に許容できる生理的変化をもたらす状態として定義される。
【0076】
本明細書で使用する時、用語「生理的流体」は、鼻咽頭、口腔、食道、胃、膵臓、肝臓、胸膜、心膜、腹膜、腸、前立腺、精液、膣分泌物を含む身体に由来する液体、ならびに涙、唾液、肺、または気管支分泌物、粘液、胆汁、血液、リンパ、血漿、血清、滑液、脳脊髄液、尿、および間質液、細胞内液、および細胞外液、例えば火傷または創傷から滲出する流体である。
【0077】
本明細書で使用する時、用語「収着剤(sorbent)」は、吸着剤(adsorbent)および吸収剤(absorbent)を含む。
【0078】
本発明の目的のために、用語「収着する(sorb)」は、「吸収(absorption)および/または吸着(adsorption)による取り込むことおよび結合すること」と定義される。
【0079】
用語「分散剤(dispersant)」または「分散剤(dispersing agent)」は、流動化媒体中に懸濁された非混和性液体液滴の微細に分割された配列に安定化効果を付与する物質と定義される。
【0080】
用語「ヘパリン模倣ポリマー」とは、ヘパリンと同じ抗凝固および/または抗血栓特性を有する任意のポリマーを指す。
【0081】
用語「巨大網状合成」は、相平衡によって規定される特定の分子サイズにおいて成長するポリマー分子をモノマー液体から強制的に追い出す不活性沈殿剤の存在下でのポリマーへのモノマーの重合として定義され、球状またはほぼ球状の対称性の固体ナノサイズのマイクロゲル粒子が一緒に詰まって、オープンセル構造の物理細孔を有するビーズを与える[米国特許第4.297,220号,Meitzner and Oline,October 27,1981;R.L.Albright,Reactive Polymers,4,155-174(1986)]。
【0082】
用語「超架橋」は、単一の繰り返し単位が2以上の連結性を有するポリマーを示す。超架橋ポリマーは、モノマーの共重合ではなく、膨潤した、または溶解したポリマー鎖を、多数の強固な架橋スペーサーで架橋することによって調製される。架橋剤としては、芳香族炭化水素のビス(クロロメチル)誘導体、メチラール、モノクロロジメチルエーテル、およびフリーデル・クラフツ触媒の存在下でポリマーと反応する他の二官能性化合物を含む[Tsyurupa,M.P.,Z.K.Blinnikova,N.A.Proskurina,A.V.Pastukhov,L.A.Pavlova,and V.A.Davankov."Hypercrosslinked Polystyrene:The First Nanoporous Polymeric Material."Nanotechnologies in Russia 4(2009):665-75.]。
【0083】
以下の実施例は、本開示内に記載される概念のいくつかを図示するために提供される。実施例は、実施形態を説明するものと考えられるが、本明細書に記載されるより一般的な実施形態を限定するものと考えるべきではない。
【実施例1】
【0084】
実施例1-炎症性メディエーターであるシトクロムCのIn Vitroでの除去
図1に示すように、6ウェルプレートの選択したウェルに、1XPBS緩衝液中の0.5mg/mLのシトクロムC(CytC)溶液を1mL満たした。
【0085】
CytCは12kDaのタンパク質で、ミトコンドリアにおけるエネルギー産生のための電子伝達鎖に関与し、細胞のアポトーシスにおいて役割を果たす。最近では、ミトコンドリアおよび細胞の損傷、ネクローシス、ならびにアポトーシスを引き起こす疾患状態により細胞外に放出され、細胞外の一般血液循環および間質空間に存在することが分かってきた。細胞外では、シトクロムCは損傷関連分子パターン(DAMP)、または損傷組織から放出される炎症性メディエーターとして作用し、その後、全身および局所の炎症の両方に寄与することがある[Eleftheriadis,T.,et al,シトクロムC as a potentially clinical useful marker of mitochondrial and cellular damage",Front Immunol.2016;7:279.]。CytoSorbによるシトクロムCおよび他の炎症性メディエーターの除去は、全身性炎症の軽減に役立ち、皮膚の損傷または疾病で見られるような局所的な炎症を軽減する。また、シトクロムCは、低分子量のサイトカインとサイズが似ており、その比色特性から分光光度計によるアッセイが容易である。
【0086】
1XPBS緩衝液中の0.5mg/mLのシトクロムC(CytC)溶液で満たされたウェルに、CytoSorbビーズを入れた1mlを、パウチの片側がCytC溶液に接触するように入れた。
【0087】
パウチを移動または振盪することなく、t=30、60、または120分間静置した。これら各々の時間枠の後、ウェル内の液体の大きな損失はなかったが、時間依存的に色(シトクロムC)の消失があったことが観察された。これは、CytCがCytoSorbビーズに吸着され、ピンク色になったことを示している。
【0088】
ウェル内の液体の吸光度を波長405nm(A405)で測定し、開始濃度に対するCytCの除去率を算出した。その結果を、図2とともに以下の表1に示す。
【実施例2】
【0089】
実施例2-シトクロムC除去の動物実験
図3に示すように、死亡ラットの背中に直径8mmの全厚の皮膚創傷が作られた。各創傷は、約90μLの3.8mg/mLのCytC溶液で満たされた。
【0090】
CytoSorbビーズを入れたパウチを各創傷に押し当て、テガダームラップを用いて保持した。約10分後、パウチを創傷から除去し、視覚的に検査した。溶液からビーズに移った色で判断すると、CytCが吸着されたことが確認された。
【実施例3】
【0091】
実施例3-In Vivoでの創傷治癒
直径8mmの全厚の皮膚創傷を、ラットの背中に麻酔下で外科的に作成した。創傷は、;a)~80μLのCytoSorbビーズ(テスト)およびテガダームで覆われ;またはb)~80μLのCytoSorbと同じ材料から作られた非多孔性ビーズ(コントロール)およびテガダームで覆われ;またはc)単にガーゼ(未処理)で覆われた。
【0092】
ビーズおよびドレッシングは8日目まで2日ごとに交換し、0、2、4、6、8、および14日目に創傷を観察し写真を撮った。14日後、動物を安楽死処分し、創傷部位の病理組織学的検査を実施した。
【0093】
肉芽組織は、正常な創傷治癒の重要因子であり、創傷欠損の充填、ならびに上皮化、血管の成長、細胞外マトリックスの沈着、および病原体の制御を可能にする細胞動員を助ける。この肉芽組織を、0(肉芽組織なし)~4(顕著に肉芽組織あり)のスケールで測定した。病理組織学的検査によると、創床に多孔性ビーズおよび非多孔性ビーズを使用すると、未処理の創傷の肉芽スコア1.6と比較して、有意により多くの肉芽組織(それぞれ肉芽スコア3.1および3.2)を形成した。多孔性ビーズと未処理の比較では、この差はp=0.001で統計的に有意であった)。多孔性ビーズでは、肉芽組織は、コラーゲンの束への組織化、軽度~中等度の全体的な細胞充実性、軽度~中等度の血管新生を伴い、成熟が進んでいる兆候を示した。ビーズの使用は、未処理のコントロールと比較して、試験したラットの創傷閉鎖のわずかな遅延に関連していた。図4に示すように、14日後の治癒率に実質的な差はなかった。さらに、上皮の修復および炎症反応は、試験物で処理した創傷と未処理の創傷の間で同様であることが観察された。また、同じポリマーから合成された多孔性ビーズもコントロールビーズも、紅斑または浮腫を誘発しないことが観察され、両者が生体適合性であり、炎症を誘発しないことが支持された。
【0094】
治療中の創傷治癒の速度がより制御されて遅くなり、肉芽組織が同時に増加することで、創傷部位での強固な分化と組織再構築が可能になる可能性があり、その結果、I型コラーゲン繊維の堆積と架橋がより完全になり、線維化が減少し、付属組織の存在量が増加するので、最終的に真皮構造が損傷していない皮膚により近くなり、強度が向上し、瘢痕が減少するということも考えられる。
【0095】
さらに、実験期間中、テストビーズが創傷滲出液から様々な物質を吸着/除去できたのに対し、コントロールの非多孔性ビーズでは吸着/除去できなかったことが観察された。図5に示すように、テストビーズは創傷治癒過程の初期段階で暗褐色になったが、コントロールビーズは暗褐色にならなかった。特定の理論に縛られることを望むものではないが、これは、サイトカイン、炎症性メディエーター、ヘモグロビン等のようなタンパク質のような物質の吸着によるものと推定される。テストビーズは、創傷治癒の進行に伴い、やがて黄色に変色した。特定の理論に縛られることを望むものではないが、これは他の未知のタンパク質または色素分子の吸着によるものと推定される。
【0096】
特定の理論に縛られることを望むものではないが、実施例1~3で使用したビーズは、ヒトまたは動物対象の皮膚または表面への、もしくは皮膚または表面からの、1つまたはそれ以上の物質の選択的、局所的、または経皮的送達または除去を促進するものであった。
図1
図2
図3
図4
図5
【国際調査報告】