(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-09-13
(54)【発明の名称】アクチビンAアンタゴニストによる心機能障害及びCOVID-19の予防及び治療方法
(51)【国際特許分類】
A61K 45/00 20060101AFI20230906BHJP
A61P 9/04 20060101ALI20230906BHJP
A61P 9/00 20060101ALI20230906BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20230906BHJP
C07K 16/24 20060101ALN20230906BHJP
C12N 15/13 20060101ALN20230906BHJP
【FI】
A61K45/00
A61P9/04
A61P9/00
A61K39/395 D
A61K39/395 N
C07K16/24 ZNA
C12N15/13
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023512094
(86)(22)【出願日】2021-08-19
(85)【翻訳文提出日】2023-03-20
(86)【国際出願番号】 US2021046765
(87)【国際公開番号】W WO2022040461
(87)【国際公開日】2022-02-24
(32)【優先日】2020-08-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2020-11-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2021-01-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】597160510
【氏名又は名称】リジェネロン・ファーマシューティカルズ・インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】REGENERON PHARMACEUTICALS, INC.
(74)【代理人】
【識別番号】100127926
【氏名又は名称】結田 純次
(74)【代理人】
【識別番号】100140132
【氏名又は名称】竹林 則幸
(74)【代理人】
【識別番号】100216105
【氏名又は名称】守安 智
(72)【発明者】
【氏名】デーヴィッド・グラス
(72)【発明者】
【氏名】スコット・マクドネル
(72)【発明者】
【氏名】ジェイク・メグナ
(72)【発明者】
【氏名】ローリ・モートン
【テーマコード(参考)】
4C084
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4C084AA17
4C084NA14
4C084ZB33
4C085AA13
4C085AA14
4C085BB11
4C085BB36
4C085CC23
4H045AA30
4H045CA40
4H045DA76
4H045EA20
(57)【要約】
本発明は、心筋症及び心不全を含む心機能障害を予防及び治療するための方法を提供する。本発明の方法は、アクチビンAのアンタゴニスト、例えば、ヒトアクチビンAに結合し、その活性を低減又は中和する、治療有効量の抗体の投与を特徴とする。本発明の方法は、ウイルス性疾患、例えば、COVID-19を含む、多様な原因による心疾患の予防及び治療において有用である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
心機能障害又は心不全の予防又は治療を、それを必要とする対象において行う方法であって、アクチビンA特異的アンタゴニストを前記対象に投与することを含む、方法。
【請求項2】
前記アクチビンA特異的アンタゴニストが、抗アクチビンA抗体又はその抗原結合断片である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記抗体又はその抗原結合断片が、25℃での表面プラズモン共鳴アッセイで測定したとき、約5pM未満の結合解離平衡定数(K
D)でアクチビンAに特異的に結合する、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記抗体又はその抗原結合断片が、25℃での表面プラズモン共鳴アッセイで測定したとき、約4pM未満のK
DでアクチビンAに特異的に結合する、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記抗体又はその抗原結合断片が、約500nM未満の結合会合平衡定数(K
a)でアクチビンAに特異的に結合する、請求項2に記載の方法。
【請求項6】
前記抗体又はその抗原結合断片が、少なくとも1つのアクチビンA受容体のアクチビンAへの結合を遮断する、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記抗体又はその抗原結合断片が、アクチビンAによる少なくとも1つのアクチビンA受容体の活性化を遮断する、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記抗体又はその抗原結合断片が、アクチビンAのアクチビンII型受容体への結合を顕著に遮断しない、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記抗体又はその抗原結合断片が、25℃でのインビボ受容体/リガンド結合バイオアッセイにおいて測定したとき、約80pM未満のIC
50値でアクチビンAのアクチビンA受容体への結合を遮断する、請求項6に記載の方法。
【請求項10】
前記抗体又はその抗原結合断片が、25℃でのインビボ受容体/リガンド結合バイオアッセイにおいて測定したとき、約60pM未満のIC
50値でアクチビンAのアクチビンA受容体への結合を遮断する、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記抗体又はその抗原結合断片が、アクチビンIIA型受容体(ActRIIA)、アクチビンIIB型受容体(ActRIIB)、及びアクチビンI型受容体からなる群から選択されるアクチビンAのアクチビンA受容体への結合を阻害する、請求項2に記載の方法。
【請求項12】
前記抗体又はその抗原結合断片が、SMAD複合体シグナル伝達のアクチビンA媒介性活性化を阻害する、請求項2に記載の方法。
【請求項13】
前記抗体又は抗原結合断片が、(a)配列番号2、18、34、50、66、82、98、106、114、122、130、138、154、162、170、178、186、194及び202からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域(HCVR)の相補性決定領域(CDR)と、(b)配列番号10、26、42、58、74、90、146及び210からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域(LCVR)のCDRと、を含む、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記抗体又は抗原結合断片が、配列番号2/10、18/26、34/42、50/58、66/74、82/90、98/90、106/90、114/90、122/90、130/90、138/146、154/146、162/146、170/146、178/146、186/146、194/146及び202/210からなる群から選択されるHCVR/LCVRアミノ酸配列対の重鎖及び軽鎖CDRを含む、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記抗体又はその抗原結合断片が、
配列番号4-6-8-12-14-16、20-22-24-28-30-32、36-38-40-44-46-48、52-54-56-60-62-64、68-70-72-76-78-80、84-86-88-92-94-96、100-102-104-92-94-96、108-110-112-92-94-96、116-118-120-92-94-96、124-126-128-92-94-96、132-134-136-92-94-96、140-142-144-148-150-152、156-158-160-148-150-152、164-166-168-148-150-152、172-174-176-148-150-152、180-182-184-148-150-152、188-190-192-148-150-152、196-198-200-148-150-152及び204-206-208-212-214-216からなる群から選択されるアミノ酸配列をそれぞれ含むHCDR1-HCDR2-HCDR3-LCDR1-LCDR2-LCDR3ドメインを含む、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記抗体又は抗原結合断片が、(a)配列番号2、18、34、50、66、82、98、106、114、122、130、138、154、162、170、178、186、194及び202からなる群から選択されるアミノ酸配列を含むHCVRと、(b)配列番号10、26、42、58、74、90、146及び210からなる群から選択されるアミノ酸配列を含むLCVRと、
を含む、請求項1~15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記抗体又は抗原結合断片が、配列番号2/10、18/26、34/42、50/58、66/74、82/90、98/90、106/90、114/90、122/90、130/90、138/146、154/146、162/146、170/146、178/146、186/146、194/146及び202/210からなる群から選択されるHCVR/LCVRアミノ酸配列対を含む、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
心機能障害又は心不全の予防又は治療を、それを必要とする対象において行う方法であって、アクチビンAに特異的に結合する抗体又はその抗原結合断片を投与することを含み、前記抗体又はその抗原結合断片が、配列番号68-70-72-76-78-80のアミノ酸配列をそれぞれ含むHCDR1-HCDR2-HCDR3-LCDR1-LCDR2-LCDR3ドメインを含む、方法。
【請求項19】
前記抗体又は抗原結合断片が、配列番号66のアミノ酸配列を含むHCVRと、配列番号74のアミノ酸配列を含むLCVRと、を含む、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
心機能障害又は心不全の予防又は治療を、それを必要とする対象において行う方法であって、アクチビンAに特異的に結合する抗体又はその抗原結合断片を投与することを含み、前記抗体又はその抗原結合断片が、配列番号164-166-168-148-150-152のアミノ酸配列をそれぞれ含むHCDR1-HCDR2-HCDR3-LCDR1-LCDR2-LCDR3ドメインを含む、方法。
【請求項21】
前記抗体又は抗原結合断片が、配列番号162のアミノ酸配列を含むHCVRと、配列番号146のアミノ酸配列を含むLCVRと、を含む、請求項18に記載の方法。
【請求項22】
前記抗体又は抗原結合断片が、IgG重鎖定常領域を含むヒト抗体である、請求項1~21のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
前記IgG重鎖定常領域が、IgG1アイソタイプである、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記IgG重鎖定常領域が、IgG4アイソタイプである、請求項22に記載の方法。
【請求項25】
前記抗体又はその抗原結合断片が、GDF8アンタゴニストとの組み合わせで投与される、請求項1~24のいずれか一項に記載の方法。
【請求項26】
前記GDF8アンタゴニストが、GDF8阻害融合タンパク質、抗GDF8抗体、及び抗GDF8抗体の抗原結合断片からなる群から選択される、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記GDF8アンタゴニストが、抗GDF8抗体又はその抗原結合断片である、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
前記抗GDF8抗体又はその抗原結合断片が、配列番号217のアミノ酸配列を含むHCVRのCDRと、配列番号221のアミノ酸配列を含むLCVRのCDRと、を含む、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
前記抗GDF8抗体又はその抗原結合断片が、配列番号218-219-220-222-223-224のアミノ酸配列をそれぞれ含むHCDR1-HCDR2-HCDR3-LCDR1-LCDR2-LCDR3ドメインを含む、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
前記抗GDF8抗体又はその抗原結合断片が、配列番号217のアミノ酸配列を含むHCVRと、配列番号221のアミノ酸配列を含むLCVRと、を含む、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
前記対象が、ウイルス感染を有すると診断されている、請求項1~30のいずれか一項に記載の方法。
【請求項32】
前記ウイルス感染が、コロナウイルス感染である、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
前記コロナウイルスが、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)である、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
前記対象が、重症のCOVID-19症状を有する、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
前記対象が、最重症のCOVID-19症状を有する、請求項33に記載の方法。
【請求項36】
試験により重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)感染に対して陽性であるとされた対象におけるCOVID-19を治療する方法であって、アクチビンA特異的アンタゴニストを前記対象に投与することを含む、方法。
【請求項37】
前記アクチビンA特異的アンタゴニストが、抗アクチビンA抗体又はその抗原結合断片である、請求項36に記載の方法。
【請求項38】
前記抗体又は抗原結合断片が、配列番号2/10、18/26、34/42、50/58、66/74、82/90、98/90、106/90、114/90、122/90、130/90、138/146、154/146、162/146、170/146、178/146、186/146、194/146及び202/210からなる群から選択されるHCVR/LCVRアミノ酸配列対の重鎖及び軽鎖CDRを含む、請求項37に記載の方法。
【請求項39】
前記抗体又はその抗原結合断片が、配列番号4-6-8-12-14-16、20-22-24-28-30-32、36-38-40-44-46-48、52-54-56-60-62-64、68-70-72-76-78-80、84-86-88-92-94-96、100-102-104-92-94-96、108-110-112-92-94-96、116-118-120-92-94-96、124-126-128-92-94-96、132-134-136-92-94-96、140-142-144-148-150-152、156-158-160-148-150-152、164-166-168-148-150-152、172-174-176-148-150-152、180-182-184-148-150-152、188-190-192-148-150-152、196-198-200-148-150-152及び204-206-208-212-214-216からなる群から選択されるアミノ酸配列をそれぞれ含むHCDR1-HCDR2-HCDR3-LCDR1-LCDR2-LCDR3ドメインを含む、請求項38に記載の方法。
【請求項40】
前記抗体又は抗原結合断片が、(a)配列番号2、18、34、50、66、82、98、106、114、122、130、138、154、162、170、178、186、194及び202からなる群から選択されるアミノ酸配列を含むHCVRと、(b)配列番号10、26、42、58、74、90、146及び210からなる群から選択されるアミノ酸配列を含むLCVRと、を含む、請求項37~39のいずれか一項に記載の方法。
【請求項41】
前記抗体又は抗原結合断片が、配列番号2/10、18/26、34/42、50/58、66/74、82/90、98/90、106/90、114/90、122/90、130/90、138/146、154/146、162/146、170/146、178/146、186/146、194/146及び202/210からなる群から選択されるHCVR/LCVRアミノ酸配列対を含む、請求項40に記載の方法。
【請求項42】
前記抗体又はその抗原結合断片が、配列番号68-70-72-76-78-80のアミノ酸配列をそれぞれ含むHCDR1-HCDR2-HCDR3-LCDR1-LCDR2-LCDR3ドメインを含む、請求項37に記載の方法。
【請求項43】
前記抗体又は抗原結合断片が、配列番号66のアミノ酸配列を含むHCVRと、配列番号74のアミノ酸配列を含むLCVRと、を含む、請求項42に記載の方法。
【請求項44】
前記抗体又はその抗原結合断片が、配列番号164-166-168-148-150-152のアミノ酸配列をそれぞれ含むHCDR1-HCDR2-HCDR3-LCDR1-LCDR2-LCDR3ドメインを含む、請求項37に記載の方法。
【請求項45】
前記抗体又は抗原結合断片が、配列番号162のアミノ酸配列を含むHCVRと、配列番号146のアミノ酸配列を含むLCVRと、を含む、請求項44に記載の方法。
【請求項46】
前記抗体又は抗原結合断片が、IgG重鎖定常領域を含むヒト抗体である、請求項37~45のいずれか一項に記載の方法。
【請求項47】
前記IgG重鎖定常領域が、IgG1アイソタイプである、請求項46に記載の方法。
【請求項48】
前記IgG重鎖定常領域が、IgG4アイソタイプである、請求項46に記載の方法。
【請求項49】
前記対象が、酸素補給の投与を必要とする重症のCOVID-19症状を有する、請求項36~48のいずれか一項に記載の方法。
【請求項50】
前記対象が、人工呼吸器又は集中治療室での治療を必要とする最重症のCOVID-19症状を有する、請求項36~48のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(配列表の参照)
本出願は、2021年8月19日に作成され、87,383バイトを含むファイル10771WO01-Sequenceとしてコンピュータ可読形式で提出された配列表を、参照により組み込む。
【0002】
(発明の分野)
本発明は、医薬の分野に属し、抗アクチビンA抗体及びその抗原結合断片、又はかかる抗体若しくは抗原結合断片とミオスタチン阻害剤との組み合わせを含むアクチビンAアンタゴニストにより、心機能障害を予防及び治療するための方法及び医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0003】
アクチビンは、トランスフォーミング増殖因子-ベータ(TGF-β)スーパーファミリーに属し、細胞の増殖、分化、及びアポトーシスに対して広範囲な生物学的効果を発揮する。アクチビンは、インヒビンβA、インヒビンβB、インヒビンβC及びインヒビンβEのホモ二量体又はヘテロ二量体であり、これらの異なる組み合わせがアクチビンタンパク質群の様々なメンバーを作り出す。例えば、アクチビンAは、インヒビンβAのホモ二量体であり、アクチビンBは、インヒビンβBのホモ二量体である一方で、アクチビンABは、インヒビンβAとインヒビンβBのヘテロ二量体であり、アクチビンACは、インヒビンβAとインヒビンβCのヘテロ二量体である(Tsuchida,K.et al.,Cell Commun Signal 7:15 (2009))。
【0004】
アクチビンAは、アクチビンII型受容体として知られる(IIA型及びIIB型、それぞれActRIIA及びActRIIBとしても知られる)、細胞表面上の受容体複合体に結合し、活性化する。これらの受容体の活性化は、アクチビンI型受容体(例えば、Alk4又は7)のリン酸化をもたらし、これは次に、SMAD2及び3タンパク質のリン酸化、(SMAD4との)SMAD複合体の形成、並びにSMAD複合体の細胞核内への移行をもたらし、そこでは、SMAD2及びSMAD3は、様々な遺伝子の転写を調節するよう機能する(Sozzani,S.and Musso,T.,Blood 117(19):5013-5015 (2011))。
【0005】
ActRIIBに結合して活性化するアクチビンA又は他のリガンド(GDF8(ミオスタチン)、アクチビンB、アクチビンAB、インヒビンA、インヒビンB、GDF3、GDF11、Nodal、BMP2、BMP4、BMP7、BMP9、及びBMP10を含む)は、老化及び疾患における筋肉消耗、並びに肺及び心臓の症状を含む、様々な症状と関連している。例えば、マウス気道におけるアクチビンAの過剰発現は、急性肺障害及び急性呼吸窮迫症候群のような肺病態に関与することが示唆されており、それはヒトIgG1のFc部分と融合したアクチビンII型受容体ActRIIBの細胞外部分から構成される融合タンパク質によるアクチビンAの中和を介して減弱される(Apostolou et al.,Am J Respir Crit Care Med.,185(4):382-391)。同様に、アクチビンII型受容体(ActRII)リガンドは、心臓の老化及び心不全に関与することが示唆されている。ActRIIA及びActRIIBを遮断する抗体(CDD866)、又は循環ActRIIリガンドに結合することによって経路活性化を遮断するActRIIB-Fc融合タンパク質(RAP-031)によるActRII経路の阻害は、心臓機能を回復又は保存しながら、心臓ActRIIシグナル伝達を減少させている(Roh et al.,Sci.Transl.Med,11,eaau8680,2019)。
【0006】
複数のActRIIリガンドに結合するか、又は広義にActRIIシグナル伝達を阻害する薬剤は、ヒト患者に投与された場合、様々な有害作用を引き起こすことが知られている。多くのActRIIリガンドの明確な役割は、未だ完全に解明されておらず、臨床的利益を提供することができるActRIIリガンドの特異的阻害剤が必要とされている。
【発明の概要】
【0007】
一態様では、本発明は、心機能障害又は心不全の予防又は治療を、それを必要とする対象において行う方法であって、アクチビンA特異的アンタゴニストを対象に投与することを含む方法を提供する。
【0008】
いくつかの実施形態では、アクチビンA特異的アンタゴニストは、抗アクチビンA抗体又はその抗原結合断片である。いくつかの場合では、抗体又はその抗原結合断片は、25℃での表面プラズモン共鳴アッセイで測定したとき、約5pM未満の結合解離平衡定数(KD)でアクチビンAに特異的に結合する。いくつかの場合では、抗体又はその抗原結合断片は、25℃での表面プラズモン共鳴アッセイで測定したとき、約4pM未満のKDでアクチビンAに特異的に結合する。いくつかの場合では、抗体又はその抗原結合断片は、約500nM未満の結合会合平衡定数(Kα)でアクチビンAに特異的に結合する。
【0009】
いくつかの実施形態では、抗体又はその抗原結合断片は、少なくとも1つのアクチビンA受容体のアクチビンAとの結合を遮断する。いくつかの実施形態では、抗体又はその抗原結合断片は、アクチビンAによる少なくとも1つのアクチビンA受容体の活性化を遮断する。いくつかの場合では、抗体又はその抗原結合断片は、アクチビンAのアクチビンII型受容体への結合を有意に遮断しない。いくつかの場合では、抗体又はその抗原結合断片は、25℃でのインビボ受容体/リガンド結合バイオアッセイにおいて測定したとき、約80pM未満のIC50値でアクチビンAのアクチビンA受容体への結合を遮断する。いくつかの場合では、抗体又はその抗原結合断片は、25℃でのインビボ受容体/リガンド結合バイオアッセイにおいて測定したとき、約60pM未満のIC50値でアクチビンAのアクチビンA受容体への結合を遮断する。
【0010】
いくつかの実施形態では、抗体又はその抗原結合性断片は、アクチビンIIA型受容体(ActRIIA)、アクチビンIIB型受容体(ActRIIB)、及びアクチビンI型受容体からなる群から選択されるアクチビンAのアクチビンA受容体への結合を阻害する。いくつかの実施形態では、抗体又はその抗原結合断片は、SMAD複合体シグナル伝達のアクチビンA媒介性活性化を阻害する。
【0011】
様々な実施形態のいずれかでは、抗体又は抗原結合断片は、(a)配列番号2、18、34、50、66、82、98、106、114、122、130、138、154、162、170、178、186、194及び202からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域(heavy chain variable region、HCVR)の相補性決定領域(complementarity determining region、CDR)と、(b)配列番号10、26、42、58、74、90、146及び210からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域(light chain variable region、LCVR)のCDRと、を含む。いくつかの実施形態では、抗体又は抗原結合断片は、配列番号2/10、18/26、34/42、50/58、66/74、82/90、98/90、106/90、114/90、122/90、130/90、138/146、154/146、162/146、170/146、178/146、186/146、194/146及び202/210からなる群から選択されるHCVR/LCVRアミノ酸配列対の重鎖及び軽鎖CDRを含む。いくつかの実施形態では、抗体又は抗原結合断片は、以下からなる群から選択されるアミノ酸配列をそれぞれ含むHCDR1-HCDR2-HCDR3-LCDR1-LCDR2-LCDR3ドメインを含む:配列番号4-6-8-12-14-16、20-22-24-28-30-32、36-38-40-44-46-48、52-54-56-60-62-64、68-70-72-76-78-80、84-86-88-92-94-96、100-102-104-92-94-96、108-110-112-92-94-96、116-118-120-92-94-96、124-126-128-92-94-96、132-134-136-92-94-96、140-142-144-148-150-152、156-158-160-148-150-152、164-166-168-148-150-152、172-174-176-148-150-152、180-182-184-148-150-152、188-190-192-148-150-152、196-198-200-148-150-152及び204-206-208-212-214-216。
【0012】
様々な実施形態のいずれかでは、抗体又は抗原結合断片は、(a)配列番号2、18、34、50、66、82、98、106、114、122、130、138、154、162、170、178、186、194及び202からなる群から選択されるアミノ酸配列を含むHCVRと、(b)配列番号10、26、42、58、74、90、146及び210からなる群から選択されるアミノ酸配列を含むLCVRと、を含む。いくつかの実施形態では、抗体又は抗原結合断片は、配列番号2/10、18/26、34/42、50/58、66/74、82/90、98/90、106/90、114/90、122/90、130/90、138/146、154/146、162/146、170/146、178/146、186/146、194/146及び202/210からなる群から選択されるHCVR/LCVRアミノ酸配列対を含む。
【0013】
一態様では、本発明は、心機能障害又は心不全の予防又は治療を、それを必要とする対象において行う方法であって、アクチビンAに特異的に結合する抗体又はその抗原結合断片を投与することを含み、抗体又はその抗原結合断片が、配列番号68、70、72、76、78、80のアミノ酸配列をそれぞれ含むHCDR1-HCDR2-HCDR3-LCDR1-LCDR2-LCDR3ドメインを含む、方法を提供する。いくつかの実施形態では、抗体又は抗原結合断片は、配列番号66のアミノ酸配列を含むHCVRと、配列番号74のアミノ酸配列を含むLCVRと、を含む。
【0014】
一態様では、本発明は、心機能障害又は心不全の予防又は治療を、それを必要とする対象において行う方法であって、アクチビンAに特異的に結合する抗体又はその抗原結合断片を投与することを含み、抗体又はその抗原結合断片が、配列番号164-166-168-148-150-152のアミノ酸配列をそれぞれ含むHCDR1-HCDR2-HCDR3-LCDR1-LCDR2-LCDR3ドメインを含む、方法を提供する。いくつかの実施形態では、抗体又は抗原結合断片は、配列番号162のアミノ酸配列を含むHCVRと、配列番号146のアミノ酸配列を含むLCVRと、を含む。
【0015】
様々な実施形態のいずれかでは、抗体又は抗原結合断片は、IgG重鎖定常領域を含むヒト抗体であり得る。いくつかの実施形態では、重鎖定常領域は、IgG1アイソタイプのものである。いくつかの実施形態では、重鎖定常領域は、IgG4アイソタイプのものである。
【0016】
様々な実施形態のいずれかでは、本方法は、GDF8アンタゴニストと組み合わせた抗体又は抗原結合性断片の投与を更に含む。いくつかの実施形態では、GDF8アンタゴニストは、GDF8阻害融合タンパク質、抗GDF8抗体、及び抗GDF8抗体の抗原結合断片からなる群から選択される。いくつかの場合では、GDF8アンタゴニストは、抗GDF8抗体又はその抗原結合断片である。いくつかの実施形態では、抗GDF8抗体は、配列番号217のアミノ酸配列を含むHCVRのCDRと、配列番号221のアミノ酸配列を含むLCVRのCDRと、を含む。いくつかの場合では、抗GDF8抗体又はその抗原結合断片は、配列番号218-219-220-222-223-224のアミノ酸配列をそれぞれ含む、HCDR1-HCDR2-HCDR3-LCDR1-LCDR2-LCDR3ドメインを含む。いくつかの実施形態では、抗GDF8抗体又はその抗原結合断片は、配列番号217のアミノ酸配列を含むHCVRと、配列番号221のアミノ酸配列を含むLCVRと、を含む。
【0017】
上記又は本明細書において考察される様々な実施形態のいずれかでは、対象は、ウイルス感染を有すると診断されている。いくつかの実施形態では、ウイルス感染は、コロナウイルスへの感染である。いくつかの場合では、コロナウイルスは、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(Severe acute respiratory syndrome coronavirus 2、SARS-CoV-2)である。いくつかの場合では、対象は、重症の(severe)COVID-19症状を有する。いくつかの場合では、対象は、最重症の(critical)COVID-19症状を有する。
【0018】
別の態様では、本発明は、心機能障害又は心不全の予防又は治療を、それを必要とする対象において行うための、アクチビンA特異的アンタゴニスト(例えば、上記又は本明細書で考察される組換えヒト抗アクチビンA抗体又はその抗原結合断片)と、薬学的に許容される担体とを含む医薬組成物を提供する。
【0019】
別の態様では、本発明は、心機能障害又は心不全の予防又は治療を、それを必要とする対象において行う方法において使用するための、アクチビンA特異的アンタゴニスト(例えば、上記又は本明細書において考察されるような抗アクチビンA抗体又はその抗原結合断片)を提供する。
【0020】
別の態様では、本発明は、試験により重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)感染に対して陽性であるとされた対象において、COVID-19を治療する方法であって、アクチビンA特異的アンタゴニストを対象に投与することを含む方法を提供する。いくつかの実施形態では、アクチビンA特異的アンタゴニストは、抗アクチビンA抗体又はその抗原結合断片である。
【0021】
いくつかの場合では、抗体又は抗原結合断片は、配列番号2/10、18/26、34/42、50/58、66/74、82/90、98/90、106/90、114/90、122/90、130/90、138/146、154/146、162/146、170/146、178/146、186/146、194/146及び202/210からなる群から選択されるHCVR/LCVRアミノ酸配列対の重鎖及び軽鎖CDRを含む。いくつかの場合では、抗体又はその抗原結合断片は、以下からなる群から選択されるアミノ酸配列をそれぞれ含むHCDR1-HCDR2-HCDR3-LCDR1-LCDR2-LCDR3ドメインを含む:配列番号4-6-8-12-14-16、20-22-24-28-30-32、36-38-40-44-46-48、52-54-56-60-62-64、68-70-72-76-78-80、84-86-88-92-94-96、100-102-104-92-94-96、108-110-112-92-94-96、116-118-120-92-94-96、124-126-128-92-94-96、132-134-136-92-94-96、140-142-144-148-150-152、156-158-160-148-150-152、164-166-168-148-150-152、172-174-176-148-150-152、180-182-184-148-150-152、188-190-192-148-150-152、196-198-200-148-150-152、及び204-206-208-212-214-216。いくつかの場合では、抗体又は抗原結合断片は、(a)配列番号2、18、34、50、66、82、98、106、114、122、130、138、154、162、170、178、186、194及び202からなる群から選択されるアミノ酸配列を含むHCVRと、(b)配列番号10、26、42、58、74、90、146及び210からなる群から選択されるアミノ酸配列を含むLCVRと、を含む。いくつかの場合では、抗体又は抗原結合断片は、配列番号2/10、18/26、34/42、50/58、66/74、82/90、98/90、106/90、114/90、122/90、130/90、138/146、154/146、162/146、170/146、178/146、186/146、194/146及び202/210からなる群から選択されるHCVR/LCVRアミノ酸配列対を含む。いくつかの場合では、抗体又はその抗原結合断片は、配列番号68-70-72-76-78-80のアミノ酸配列をそれぞれ含む、HCDR1-HCDR2-HCDR3-LCDR1-LCDR2-LCDR3ドメインを含む。いくつかの場合では、抗体又は抗原結合断片は、配列番号66のアミノ酸配列を含むHCVRと、配列番号74のアミノ酸配列を含むLCVRと、を含む。いくつかの場合では、抗体又はその抗原結合断片は、配列番号164-166-168-148-150-152のアミノ酸配列をそれぞれ含むHCDR1-HCDR2-HCDR3-LCDR1-LCDR2-LCDR3ドメインを含む。いくつかの場合では、抗体又は抗原結合断片は、配列番号162のアミノ酸配列を含むHCVRと、配列番号146のアミノ酸配列を含むLCVRと、を含む。
【0022】
いくつかの実施形態では、抗体又は抗原結合断片は、IgG重鎖定常領域を含むヒト抗体である。いくつかの場合では、重鎖定常領域は、IgG1アイソタイプのものである。いくつかの場合では、重鎖定常領域は、IgG4アイソタイプのものである。
【0023】
いくつかの実施形態では、対象は、酸素補給の投与を必要とする重症のCOVID-19症状を有する。いくつかの実施形態では、対象は、人工呼吸器又は集中治療室での治療を必要とする最重症のCOVID-19症状を有する。
【0024】
別の態様では、本発明は、心機能障害又は心不全の予防若しくは治療を、それを必要とする対象において行うための、又はCOVID-19患者を治療するための医薬の製造における、アクチビンA特異的アンタゴニスト(例えば、上記又は本明細書において考察されるような抗アクチビンA抗体又はその抗原結合性断片)の使用を提供する。
【0025】
様々な実施形態では、上記又は本明細書で考察される実施形態の特徴又は構成要素のうちのいずれも組み合わされ得、かかる組み合わせは本開示の範囲内に包含される。上記又は本明細書で考察されるいずれの特定の値も、上記又は本明細書で考察される別の関連値と組み合わせられて、それらの値が範囲の上限及び下限を表す範囲を列挙することができ、かかる範囲は本開示の範囲内に包含される。
【0026】
他の実施形態は、後述の発明を実施するための形態の精査から明らかとなるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1A】アクチビンAによる単回処理(
図1A)後の、培養液中のヒト人工多能性幹細胞のインピーダンス振幅に対するアクチビンAの負の効果を示すグラフである。
【
図1B】アクチビンAによる複数回処理(
図1B)後の、培養液中のヒト人工多能性幹細胞のインピーダンス振幅に対するアクチビンAの負の効果を示すグラフである。
【
図2】ヒト人工多能性幹細胞におけるアクチビンA媒介性の心機能障害の予防に対する抗アクチビンA抗体(mAb1)の正の効果を示すグラフである。
【
図3】対照と比較した、COVID-19患者由来の血清試料中の、アクチビンA、フォリスタチン関連遺伝子(follistatin-related gene、FLRG)及びプラスミノゲン活性化因子阻害剤-1(plasminogen activator inhibitor-1、PAI-1)の相対的増加を示す一連のグラフである。
【
図4】COVID-19患者における疾患重篤度とアクチビンA及びFLRGの血清中レベルとの間の相関関係を示す一連のグラフである。
【
図5】健康な年齢適合対照と比較した、様々な年齢のCOVID-19患者群の血清試料中のアクチビンA及びFLRGの相対レベルを示す一連のグラフである。
【
図6】COVID-19患者における疾患重篤度とPAI-1の血清中レベルとの間の相関を示すグラフである。
【
図7】男性(左パネル)及び女性(右パネル)のCOVID-19患者における疾患重篤度とPAI-1の血清中レベルとの間の相関を示す一連のグラフである。
【
図8】健康な年齢適合対照と比較した、様々な年齢のCOVID-19患者群の血清試料中のPAI-1の相対レベルを示すグラフである。
【
図9】コルチコステロイドによる処置が、重症又は最重症のCOVID-19症状を有する患者におけるアクチビンA及びFLRGの血清中レベルに有意に影響を及ぼさなかったことを示す一連のグラフである。
【
図10】アクチビンAで処理したIPSC-心筋細胞における、心臓ストレスの遺伝子マーカー(NPPA-心房性ナトリウム利尿ペプチド、及びNPPB-B型ナトリウム利尿ペプチド)及びアクチビンAシグナル伝達遺伝子(FLRGとしても知られるFSTL3-フォリスタチン様3タンパク質、及びPAI-1としても知られるセルピン1)の活性化を示す一連のグラフである。
【
図11】IKK/NF
KB経路がIL1β及びTNFαによるアクチビンA誘導に主に関与することを示すグラフである。
【
図12】アクチビンAに曝露されたヒト人工多能性幹細胞由来(inducible pluripotent stem cell、IPSC)心筋細胞における、SMAD2/3リン酸化の増加、及び阻害性抗アクチビンA抗体(mAb2)によるこのSMAD2/3リン酸化の増加の遮断を示すウェスタンブロット及びグラフである。対照mAbは、無関係な非ヒト抗原に結合する抗体である。
【
図13A】アクチビンAに慢性的に曝露された心筋細胞における活動電位の延長、電場電位振幅の減少、及び電場電位下降速度の減少、並びに阻害性抗アクチビンA抗体(mAb1)の存在下でのこれらの効果の防止を示すグラフである。
【
図13B】アクチビンAに慢性的に曝露された心筋細胞における活動電位の延長、電場電位振幅の減少、及び電場電位下降速度の減少、並びに阻害性抗アクチビンA抗体(mAb1)の存在下でのこれらの効果の防止を示すグラフである。
【
図14A】アクチビンAに慢性的に曝露された心筋細胞におけるカルシウム流動ピーク振幅の減少、カルシウム流動下降時間の増加、及びカルシウム流動上昇時間の増加、並びに阻害性抗アクチビンA抗体(mAb1)の存在下でのこれらの効果の防止を示すグラフである。
【
図14B】アクチビンAに慢性的に曝露された心筋細胞におけるカルシウム流動ピーク振幅の減少、カルシウム流動下降時間の増加、及びカルシウム流動上昇時間の増加、並びに阻害性抗アクチビンA抗体(mAb1)の存在下でのこれらの効果の防止を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明が記載される前に、記載される特定の方法及び実験条件が異なり得るため、本発明がかかる方法及び条件に限定されないことを、理解されたい。本明細書で使用される用語は、特定の実施形態のみを記載する目的のためであり、本発明の範囲が添付の特許請求の範囲によってのみ限定されるため、限定するようには意図されていないことも、理解されたい。
【0029】
別段定義されない限り、本明細書で使用される全ての技術及び科学用語は、本発明が属する技術分野の当業者によって一般に理解される意味と同じ意味を有する。本明細書で使用される場合、「約」という用語は、特定の列挙された数値に関して使用されるとき、その値が列挙された値から1%以下だけ変動し得ることを意味する。例えば、本明細書で使用される場合、「約100」という表現は、99及び101並びにそれらの間の全ての値(例えば、99.1、99.2、99.3、99.4など)を含む。
【0030】
本明細書に記載されるものと同様又は同等のいずれの方法及び材料も本発明の実施又は試験に使用され得るが、好ましい方法及び材料をこれから説明する。本明細書において言及される全ての特許、出願及び非特許刊行物は、それらの全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0031】
心機能障害及び心不全を予防及び治療する方法
本発明は、心機能障害及び心不全を予防及び治療する方法を提供する。いくつかの実施形態では、本発明は、心不全又は1つ以上の心不全の合併症を治療する、予防する、及びその重篤度若しくは進行を低減するための方法を提供する。いくつかの態様では、本発明は、収縮性及び電気的特性を含むヒト心筋細胞機能を改善するための方法を提供する。
【0032】
本明細書で考察されるように、アクチビンA特異的アンタゴニスト(例えば、抗アクチビンA抗体又はその抗原結合断片)は、心機能障害及び心不全の様々な編集物の治療及び予防に対して驚くべき効果を提供することが見出された。例えば、抗アクチビンA抗体は、横断大動脈狭窄(transverse aortic constriction、TAC)心不全モデルにおいて、心肥大、心臓リモデリング、及び心臓線維症の重篤度を予防又は低減するため、並びに心機能を改善するために使用することができる。加えて、アクチビンA特異的アンタゴニストによる治療は、心不全患者の生存時間を増加させることができる。したがって、本開示は、一部において、心不全を治療する、予防する、又はその重篤度を低減するために、特に、心不全の1つ以上の合併症(例えば、心肥大、心臓リモデリング、及び心線維症)を治療する、予防する、又はその重篤度を低減するために、並びに、心機能を改善し、心不全患者の生存時間を増加させるために、アクチビンA特異的アンタゴニスト(例えば、抗アクチビンA抗体又はその抗原結合断片)を単独で、又は1つ以上の追加の支持療法及び/若しくは追加の活性薬剤と組み合わせて、使用する方法を提供する。
【0033】
本明細書で使用される場合、障害又は症状を「予防する」治療薬は、統計的試料において、未処理の対照試料に対して、処理された試料における障害若しくは症状の発生を低減するか、又は未処理の対照試料に対して、障害若しくは症状の発症を遅延させる化合物を指す。本明細書で使用される場合、「治療する」という用語は、確立されると、状態の回復又は排除を含む。いずれの場合も、予防又は治療は、医師又は他の医療提供者によって提供される診断、及び治療薬の投与の意図された結果において識別され得る。
【0034】
一般に、本開示に記載される疾患又は状態の治療又は予防は、有効量で1つ以上のアクチビンA特異的アンタゴニスト(例えば、抗アクチビンA抗体又はその抗原結合断片)を投与することによって達成される。薬剤の有効量は、所望の治療又は予防結果を達成するために必要な投与量及び期間で有効な量を指す。本開示の薬剤の治療有効量は、個体の疾患状態、年齢、性別、及び体重などの要因、並びに個体において所望の応答を誘発する薬剤の能力によって異なり得る。予防有効量は、所望の予防結果を達成するために必要な投与量及び期間で有効な量を指す。
【0035】
心不全は、心臓の特定の構造的又は機能的な異常から生じる典型的な症状及び徴候によって定義される臨床的症候群である(ESC Guidelines for the diagnosis and treatment of acute and chronic heart failure.McMurray J J et al.European Heart Journal 2012,14(8):803-69、2013 ACCF/AHA Guideline for the Management of Heart Failure,Yanzy C W et al.Circulation 2013,128,e240-e327)。例えば、心臓異常は、血液を充填又は排出する能力を損ない得、及び/又は、正常な充填圧力にもかかわらず、又は増加した充填圧力を犠牲にしてのみ、代謝組織の要求を満たすのに十分な酸素を送達できないことにつながり得る。本明細書中で使用される場合、用語「心不全」は、左心室機能不全に起因する心不全、正常な駆出率を有する心不全、大動脈弁狭窄に起因する心不全、急性心不全、慢性心不全、うっ血性心不全、先天性心不全、代償性心不全、非代償性心不全、拡張期心不全、収縮期心不全、右側心不全、左側心不全、両心室心不全、前方心不全、後方心不全、高出力心不全、低出力心不全を含むがこれらに限定されない、種々の心臓血管症状を包含する。また、心不全には、心筋浮腫などの心臓内の体液蓄積に関連する心臓症状が含まれる。
【0036】
一般に、心不全の臨床症状としては、例えば、呼吸困難(息切れ)、起坐呼吸、発作性夜間呼吸困難、及び倦怠感(運動負荷を制限し得る)、体液貯留(例えば、肺うっ血及び末端浮腫をもたらし得る)、アンギナ、高血圧症、不整脈、心室性不整脈、心筋障害、心臓肥大、心臓喘息、夜間頻尿、喘息、うっ血性肝障害、凝固障害、腎血流低下、腎機能不全、心筋梗塞、及び卒中が挙げられる。
【0037】
語句「うっ血性心不全」は、上に列挙したタイプを含む全てのタイプの心不全を説明するために使用されることが多いが、うっ血性心不全は、肺における肺うっ血又は体液蓄積に関連する心不全の症状をより正確に説明するものである。このうっ血は、一般的には、収縮期及び左側心不全の症状である。肺系の効率が低下するにつれて、心臓の入力側付近の血液量の増加は、肺胞動脈界面、すなわち肺毛細血管と肺の肺胞腔との間の界面における圧力を変化させる。界面における圧力の変化により、血漿が肺の肺胞腔に押し出される。呼吸困難及び全身疲労は、うっ血性心不全の典型的な知覚される徴候である。
【0038】
心不全を分類するための多くの異なる方法がある。例えば、心不全は、関与する心臓の側(左心不全対右心不全)に基づいて特徴付けられ得る。右心不全は、肺への肺血流を損なう。左心不全は、身体及び脳への大動脈流を損なう。混合プレゼンテーションが一般的であり、左心不全は、しばしば、より長い期間において右心不全をもたらす。心不全はまた、異常が不十分な収縮に起因するものか否か(収縮機能障害、収縮期心不全)、又は心臓の不十分な弛緩によるものか(拡張機能障害、拡張期心不全)、又はそれらの両方である。更に、心不全は、問題が主に増大した静脈背圧(前負荷)であるか、又は適切な動脈灌流を供給できないこと(後負荷)であるかに基づいて分類され得る。心不全は、異常が、高い全身血管抵抗を伴う低心拍出量に起因するのか、又は低い血管抵抗を伴う高い心拍出量に起因するのかに基づいて分類することができる(低心拍出量性心不全対高心拍出量性心不全)。また、心不全は、例えば、心不全/全身性高血圧、心不全/肺高血圧、心不全/糖尿病、及び心不全/腎不全など、併存する疾患の程度に基づいて分類され得る。
【0039】
更に、心不全は、心臓の異常によってもたらされる機能障害の程度に基づいて分類され得る。機能的な分類は、一般に、New York Heart Association(NYHA)の機能分類に依存する。クラス(I~IV)は、クラスI:いかなる活動においても制限を受けない、通常の活動においては症状がない、クラスII:わずかに、若干、活動が制限される、患者が安静時又は軽度の運動時に快適である、クラスIII:活動がある程度顕著に制限される、患者が安静時においてのみ快適である、クラスIV:いかなる身体活動も不快感をもたらし、症状が安静時にも生じる。このスコアは、症状の重篤度を記録し、治療に対する応答を評価するために使用することができる。
【0040】
2001年のガイドラインでは、American College of Cardiology/American Heart Association(ACC)ワーキンググループは、心不全の4つのステージを紹介している(例えば、Hunt,S.,「ACC/AHA 2005 Guideline Update for the Diagnosis and Management of Chronic Heart Failure in the Adult:A Report of the American College of Cardiology/American Heart Association Task Force on Practice Guidelines (Writing Committee to Update the 2001 Guidelines for the Evaluation and Management of Heart Failure),」 J.Am,Coll.Cardiol,46:e1-e82:2005を参照)。第1のステージであるステージAは、心不全のリスクが高いが、構造的な心疾患又は心不全症状を有さない対象である(例えば、彼らは、高血圧、アテローム性動脈硬化症、糖尿、肥満、代謝症候群を有する患者、又は心臓毒を使用する患者である)。第2のステージであるステージBは、構造的な心疾患を有するが、徴候又は心不全症状を有さない対象である(例えば、彼らは、以前に心筋梗塞を有し、肥大及び低駆出率を含む心臓リモデリングを示す患者、並びに無症状の弁膜症を有する患者である)。第3のステージであるステージCは、以前又は現在の心不全症状を伴う構造的な心疾患を有する対象である(例えば、彼らは、既知の構造的心疾患を有し、息切れ及び倦怠感を示し、運動への耐性が低下している患者である)。第4の最終ステージであるステージDは、特別な介入を必要とする難治性の心不全である(例えば、最大の薬物療法にもかかわらず安静時に顕著な症状を有する患者、すなわち、再発により入院しているか、又は特別な介入なしに病院から安全に退院することができない患者である)。ACCステージングシステムは、ステージAが、「前心不全」、すなわち治療による介入が明白な症状への進行をおそらく予防することができるステージを包含するという点で有用である。ACCステージAは、対応するNYHAクラスを有さない。ACCステージBは、NYHAクラスIに対応する。ACCステージCはNYHAクラスII及びIIIに対応し、一方、ACCステージDはNYHAクラスIVと重複する。
【0041】
通常では心不全の臨床徴候に先行する心臓リモデリングは、一般に心臓負荷又は損傷から生じる心臓のサイズ、形状及び機能の変化として臨床的に現れる、分子、細胞及び/又は間質の変化を指す(Cohn JN et al.JACC 2000.35(3):569-82)。心臓リモデリングのトリガーとしては、例えば、心筋梗塞、高血圧、壁ストレス、炎症、圧負荷、及び容量負荷が挙げられる。心筋構造の変化は、損傷の数時間以内に急速に起こり得、数ヶ月及び数年にわたって進行し得る。これらの変化は、最初は有益であるが、時間とともに(数ヶ月から数年で)慢性の難治性の心不全にまで至って心筋機能を損なう可能性がある。心臓リモデリングの顕著な特徴としては、例えば、心室拡張、心室球形度の増加、並びに間質線維症及び血管周囲線維症の発症が挙げられる。増加した球形度は、僧帽弁逆流と明確に相関する。心室拡張は、主に心筋細胞の肥大及び伸長から生じ、また少ない程度ではあるが、心室質量の増加から生じる。
【0042】
いくつかの実施形態では、本開示のアクチビンA特異的アンタゴニスト(例えば、抗アクチビンA抗体又はその抗原結合断片)を使用して、心臓リモデリングを治療し、予防し、又はその進行を低減することができる。例えば、アクチビンA特異的アンタゴニストは、対象における心臓の心筋構造を維持するか、又は心筋構造の変化を減少させるために使用され得る。心臓リモデリングの進行は、第1の群(治療群)が本発明の方法によって治療され、第2の群(プラセボ群)が本発明の方法による治療の代わりに(in replacement of)又はその代わりに(in lieu of)プラセボを使用することによって治療される、2つの対象群の間で一定期間にわたる心臓の心筋構造の変化を比較することによって評価することができる。治療群の対象における心臓の心筋構造の変化が、プラセボ群の対象における心臓の心筋構造の変化よりも小さい場合、心臓リモデリングの進行の減少があったという判断がなされる。心臓リモデリングなどの疾患の進行又は発達を判断するための方法は、例えば、理学的検査、ドップラフロー検査と組み合わせた2次元心エコー検査、超音波検査、MRI検査、コンピュータ断層撮影、心臓カテーテル法、放射線核種撮像(放射線核種脳室撮影など)、並びにそれらの任意の組み合わせを含む周知の方法を用いて評価することができる。
【0043】
一般に、心臓リモデリング及び心不全は、心臓の負荷又は損傷の持続的な増加を引き起こす障害及び症状から生じる。心不全につながる障害及び症状としては、例えば、心筋梗塞後の生存心筋の喪失、冠状動脈疾患、高血圧症、心筋症(例えば、拡張型心筋症、感染又はアルコール/薬物乱用による心筋症など)、大動脈弁疾患(例えば、大動脈弁閉鎖不全症、大動脈弁逆流症、及び大動脈弁狭窄(大動脈弁狭窄症))などの心臓弁疾患及び機能不全、肺障害(例えば肺高血圧)、先天性心臓欠陥、急性虚血性損傷、再灌流損傷、心膜疾患及び異常、心筋疾患、大血管障害、心内膜障害、心房性細動、左心室心筋機能の障害、右心室心筋機能の障害、心不整脈、甲状腺疾患、腎疾患、糖尿、十分な血を送り出すことができないままにする心筋の衰弱、甲状腺疾患、神経ホルモン不均衡、ウイルス感染、及び貧血症が挙げられる。かかる障害及び症状は、心臓リモデリング及び/又は心不全をもたらし得るため、これらの状態のうちの1つ以上を有するか、又は有することが疑われる対象は、本発明に従って、心臓リモデリング及び/又は心不全を治療するための1つ以上の追加の活性薬剤又は支持療法と任意選択で組み合わせた、1つ以上のアクチビンA特異的アンタゴニスト(例えば、抗アクチビンA抗体又はその抗原結合断片)による治療に好ましい対象である。いくつかの実施形態では、心臓リモデリングの徴候(例えば、心筋肥大及び心室拡張)を有する対象又は顕性心不全を有する対象も、根底にある病因を検出することができない場合であっても、更なる心臓リモデリングの予防、又は既存の心臓リモデリングの治療、又は心臓リモデリングの低減がこれらの対象において有益であるため、本開示による治療に適している。いくつかの実施形態では、心臓リモデリング及び/又は心不全発症のリスク因子を有する対象(例えば、本明細書に記載の心臓リモデリング及び/又は慢性心不全をもたらし得る症状を有する対象)もまた、本開示による治療に適している。
【0044】
一般に、高血圧(hypertension)又は高血圧(high blood pressure)は、例えば血圧計で測定したときに、120mmHg(収縮期)/80mmHg(拡張期)を超える安静時血圧を指す。121~139/81~89の間の血圧は前高血圧と考えられ、このレベルを超える(140/90mmHg以上)と高(高血圧)と考えられている。別段の指示がない限り、前高血圧及び高血圧の血圧の両方が、本明細書で使用される「高血圧」の意味に含まれる。例えば、135mmHg/87又は140mmHg/90mmHgの安静時血圧は、たとえ135/87が一般的に前高血圧カテゴリー内にあると考えられていても、用語「高血圧」の範囲内にあることが意図される。145mmHg/90mmHg、140mmHg/95mmHg、及び142mmHg/93mmHgの血圧は、高血圧の更なる例である。血圧は通常、1日を通じて変化することが理解されるであろう。それは、心拍毎にわずかに変化することさえあり得る。通常、活動中に上昇し、安静時に低下する。それはしばしば、寒い天候では高く、ストレス下では上昇し得る。より正確な血圧の読み取り値は、血圧を毎日モニタリングすることによって得ることができ、血圧値は、外部要因の影響を最小限に抑えるために毎日同じ時間に測定される。血圧が高いか否かを決定するために、経時的ないくつかの読み取り値が必要とされ得る。一般に、慢性高血圧は、限定されるものではないが、少なくとも1週間、少なくとも2週間、少なくとも3週間、少なくとも4週間、少なくとも2ヶ月、少なくとも6ヶ月、少なくとも1年、少なくとも2年、少なくとも3年、少なくとも4年、少なくとも5年、少なくとも10年などの長期間にわたって連続的又は断続的に高血圧を示す対象を指す。
【0045】
一般に、心不整脈とは、心臓の筋収縮が不規則になる症状を指す。異常に速いリズム(例えば、100拍/分を超える)は、頻脈と呼ばれる。異常に遅いリズム(例えば、60拍/分未満)は、徐脈と呼ばれる。
【0046】
一般に、心肥大とは、心臓及び個々の心筋細胞、特に心室筋細胞の特に心室筋細胞の大きさの増大、並びに心室の内腔の大きさの増大を特徴とする症状を指す。
【0047】
駆出率は、各心拍で左心室から送り出される血液のパーセンテージである。駆出率は、例えば、心エコーダイアグラム中に測定され得る。駆出率は、心臓がどれだけ良好にポンピングしているかに関する重要な測定値であり、心不全を分類し、治療を導くために使用することができる。心不全は、駆出率が維持された心不全(拡張期心不全とも呼ばれる)又は駆出率が低下した心不全(収縮期心不全とも呼ばれる)として分類することができる。最近の研究は、駆出率が維持された心不全の有病率が15年の期間にわたって増加し、死亡率の顕著な改善がないことを実証している。これらの傾向が続く場合、駆出率が維持された心不全は、心不全の最も一般的な形態になる可能性があり、一般的な健康問題となりつつあることが示されている(Owan et al.,2006,N Engl J Med;355(3):251-9)。
【0048】
いくつかの実施形態では、本開示のアクチビンA特異的アンタゴニストを使用して、非致死性又は致死性の心血管イベント(例えば、心筋梗塞、脳卒中、狭心症、不整脈、体液貯留、及び心不全の進行)の発生率を低下させ得る。本明細書で使用される場合、心血管イベントの発生率を減少させることは、ある期間の間、又はある期間にわたって、対象が経験する心血管イベントの数を維持又は減少させることを指す。心血管イベントの発生率の低下は、第1の群(治療群)が本発明の方法によって治療され、第2の群(プラセボ群)が本発明の方法による治療の代わりにプラセボ(すなわち、ダミーピル)を使用することによって治療される、2つの対象の群間で、ある期間にわたる又はその間の心血管イベントの発生率を比較することによって評価又は決定することができる。治療群についての心血管イベントの数がプラセボ群についての心血管イベントの数よりも少ない場合、心血管イベントの発生率の減少があったか又はあったという判断がなされる。あるいは、心血管イベントの発生率の低下は、第1の期間に対象集団について心血管イベントのベースライン数を決定し、次いで、第2の後の期間に対象集団について心血管イベントの数を測定することによって評価又は判断することができる。第2の後の期間における対象集団についての心血管イベントの数が、第1の期間における対象集団についての心血管イベントの数と同じであるか又はそれ未満である場合、当該対象集団についての心血管イベントの発生率の減少があったという判断がなされる。
【0049】
いくつかの実施形態では、本開示のアクチビンA特異的アンタゴニスト(例えば、抗アクチビンA抗体又はその抗原結合断片)は、心不全による入院の発生率を低下させるために使用され得る。本明細書で使用される場合、心不全による入院の発生率を減少させることは、ある期間の間、又はある期間にわたって、対象が経験する心不全による入院の数を維持又は減少させることを指す。心不全による入院の発生率の低下は、第1の群(治療群)が本発明の方法によって治療され、第2の群(プラセボ群)が本発明の方法による治療の代わりにプラセボ(すなわち、ダミーピル)を使用することによって治療される、2つの対象の群間で、ある期間にわたる又はその期間中の心不全による入院の発生率を比較することによって評価又は決定することができる。治療群についての心不全による入院の数が、プラセボ群についての心不全による入院の数よりも少ない場合、心不全による入院の発生率の減少があったか又はあったという判断がなされる。あるいは、心不全による入院の発生率の低下は、第1の期間における対象集団の心不全による入院のベースライン数を決定し、次いで、第2の後の期間における対象集団の心不全による入院の数を測定することによって評価又は判断することができる。第2の後の期間における対象集団の心不全による入院の数が、第1の期間における対象集団の心不全による入院の数以下である場合、当該対象集団の心不全による入院の発生率が減少したと判断される。
【0050】
いくつかの実施形態では、本開示のアクチビンA特異的アンタゴニスト(例えば、抗アクチビンA抗体又はその抗原結合断片)は、心不全患者の生存を改善するために使用され得る。本明細書で使用される場合、心不全患者の生存を改善することは、ある期間の間、又は期間にわたって、対象集団が経験する致死性の心血管イベントの数を維持又は低減することを指す。心不全患者の生存の改善は、第1の群(治療群)が本発明の方法によって治療され、第2の群(プラセボ群)が本発明の方法による治療の代わりにプラセボ(すなわち、ダミーピル)を使用することによって治療される、2つの対象群間で、ある期間にわたる又はその期間中の致死性心血管イベントの発生率を比較することによって評価又は判断することができる。治療群についての致死性心血管イベントの数がプラセボ群についての致死性心血管イベントの数より少ない場合、心不全患者の生存における改善があったか又はあったという判断がなされる。あるいは、致死性心血管イベントの発生率の低下は、第1の期間に対象集団について致死性心血管イベントのベースライン数を決定し、次いで、第2の後の期間に対象集団について致死性心血管イベントの数を測定することによって評価又は判断することができる。第2の後の期間における対象集団についての致死性心血管イベントの数が、第1の期間における対象集団についての致死性心血管イベントの数と同じであるか又はそれ未満である場合、当該対象集団について心不全患者の生存率の改善があったという判断がなされる。
【0051】
いくつかの実施形態では、本開示のアクチビンA特異的アンタゴニスト(例えば、抗アクチビンA抗体又はその抗原結合断片)は、心不全患者における心血管死のリスクを低減するために使用され得る。本明細書で使用される場合、心不全患者の心血管死のリスクを低減することは、ある期間の間、又は期間にわたって、対象集団が経験する致死性心血管イベントの数を維持又は低減することを指す。心不全患者における心血管死の減少は、第1の群(治療群)が本発明の方法によって治療され、第2の群(プラセボ群)が本発明の方法による治療の代わりにプラセボ(すなわち、ダミーピル)を使用することによって治療される、2つの対象の群間で、ある期間にわたる又はその期間中の致死性心血管イベントの発生率を比較することによって評価又は判断することができる。治療群についての致死性心血管イベントの数がプラセボ群についての致死性心血管イベントの数より少ない場合、心不全患者における心血管死の減少があったか又はあったという判断がなされる。あるいは、心不全患者における心血管死の減少は、第1の期間において対象集団について致死性心血管イベントのベースライン数を決定し、次いで、第2の後の期間において対象集団について致死性心血管イベントの数を測定することによって評価又は判断することができる。第2の後の期間における対象集団についての致死性心血管イベントの数が、第1の期間における対象集団についての致死性心血管イベントの数と同じか又はそれ未満である場合、当該対象集団について心不全患者における心血管死の減少があったという判断がなされる。
【0052】
いくつかの実施形態では、本開示のアクチビンA特異的アンタゴニスト(例えば、抗アクチビンA抗体又はその抗原結合断片)は、確認されたSARS-CoV-2ウイルス感染及び発熱、咳、又は息切れなどのCOVID-19の1つ以上の症状を有する患者における心機能障害を治療するために使用され得る。COVID-19及び既存の心臓血管疾患を有する患者は、重篤な疾患及び死亡のリスクが高いことが報告されている。更に、SARS-CoV-2感染は、急性心筋損傷、心筋炎、不整脈、及び静脈血栓塞栓症を含む複数の直接的及び間接的な心臓血管合併症と関連付けられている(Driggin et al.,J Am Coll Cardiol.,75(18):2352-2371,May 2020)。大量の炎症促進性サイトカイン及びケモカインの産生に関連する炎症亢進応答もまた、COVID-19患者において報告されている(Soy et al.,Clinical Rheumatology,doi.org/10.1007/s10067-020-05190-5,May 2020)。理論に束縛されることを意図するものではないが、サイトカイン産生の増加は、アクチビンA発現の増加を活性化し得、これは次に、心筋細胞の収縮振幅を減少させ、収縮動態を遅くし、心筋細胞のカルシウム処理を損ない、心機能障害、場合によっては心不全をもたらす。
【0053】
心不全を有する患者並びに心不全のリスクがある患者(例えば、高血圧、脂質障害、糖尿病、及び血管障害を有する患者)を管理するために現在使用されている多種多様な承認薬及び支持療法が存在する。このような薬物としては、例えば、アドレナリン遮断薬(α遮断薬及びβ遮断薬)、中枢作用性αアゴニスト、アンジオテンシン変換酵素(angiotensin-converting enzyme、ACE)阻害剤、アンジオテンシン受容体遮断薬、カルシウムチャネル遮断薬、陽性変力薬、血管拡張薬、ベンゾジアゼピン、レニン阻害剤、抗血栓薬、及び複数の種類の(例えば、ループ、カリウム保持性、チアジド及びチアジド様)利尿薬が挙げられる。心不全を治療又は予防するための外科的治療としては、例えば、バルーン血管形成術又はステント術によって収縮した動脈の内部サイズを増大させる物理的操作が挙げられる。いくつかの実施形態では、本開示は、心不全又は心不全の1つ以上の合併症を治療する方法であって、アクチビンA特異的アンタゴニスト(例えば、抗アクチビンA抗体又はその抗原結合断片)を、心不全を治療する、予防する、又はその進行を低減するための追加の活性薬剤又は支持療法(例えば、アドレナリン遮断薬、中枢作用性α-アゴニスト、ACE阻害剤、アンジオテンシンII受容体遮断薬、カルシウムチャネル遮断薬、収縮増強薬、利尿薬、及び様々な外科的治療)と組み合わせて投与するステップを含む方法を提供する。
【0054】
アクチビンA特異的アンタゴニスト
本発明の方法は、アクチビンA特異的結合タンパク質、アクチビンAの小分子阻害剤、又はアクチビンAのヌクレオチドアンタゴニストなどの、アクチビンA特異的アンタゴニストを利用する。
【0055】
本明細書で使用される場合、「抗原特異的結合タンパク質」という表現は、特定の抗原に特異的に結合する少なくとも1つのドメインを含むタンパク質を意味する。抗原特異的結合タンパク質の例示的なカテゴリーとしては、抗体、抗体の抗原結合部分、特定の抗原と特異的に相互作用するペプチド(例えば、ペプチボディ)、特定の抗原と特異的に相互作用するが他の抗原とは相互作用しない受容体分子、及び特定の抗原と特異的に結合するが他の抗原とは結合しない受容体のリガンド結合部分を含むタンパク質が挙げられる。
【0056】
本発明の方法には、アクチビンAに特異的に結合する抗原特異的結合タンパク質、すなわち、「アクチビンA特異的結合タンパク質」の使用が含まれる。アクチビンは、ベータサブユニット(すなわち、インヒビンβA、インヒビンβB、インヒビンβC、及び/又はインヒビンβE)を含むホモ及びヘテロ二量体分子である。βAサブユニットは、配列番号226のアミノ酸配列を含み、βBサブユニットは、配列番号228のアミノ酸配列を含む。アクチビンAは、2つのβAサブユニットのホモ二量体である。アクチビンBは、2つのβBサブユニットのホモ二量体である。アクチビンABは、1つのβAサブユニット及び1つのβBサブユニットのヘテロ二量体であり、アクチビンACは、1つのβAサブユニット及び1つのβCサブユニットのヘテロ二量体である。アクチビンA特異的結合タンパク質は、βAサブユニットに特異的に結合する抗原特異的結合タンパク質であり得る。βAサブユニットは、アクチビンA、アクチビンAB、及びアクチビンAC分子において存在するため、「アクチビンA特異的結合タンパク質」は、アクチビンA並びにアクチビンAB及びアクチビンACに(βAサブユニットとのその相互作用によって)特異的に結合する抗原特異的結合タンパク質であり得る。したがって、本発明の一実施形態によれば、アクチビンA特異的結合タンパク質は、アクチビンA;又はアクチビンA及びアクチビンAB;又はアクチビンA及びアクチビンAC;又はアクチビンA、アクチビンAB及びアクチビンAC、に特異的に結合するが、アクチビンB、GDF3、GDF8、BMP2、BMP4、BMP7、BMP9、BMP10、GDF11、Nodal等の他のActRIIBリガンドには結合しない、したがって、本発明の一実施形態では、アクチビンA特異的結合タンパク質は、アクチビンAに特異的に結合するが、アクチビンB又はアクチビンCには有意に結合しない。別の実施形態では、アクチビンA特異的結合タンパク質は、アクチビンBにも(βBサブユニット、すなわち、インヒビンβBとの交差反応によって)結合し得る。別の実施形態では、アクチビンA特異的結合タンパク質は、アクチビンAに特異的に結合するが、ActRIIBの任意の他のリガンドに結合しない結合タンパク質である。別の実施形態では、アクチビンA特異的結合タンパク質は、結合タンパク質であり、アクチビンAに特異的に結合するが、いかなる骨形成タンパク質(Bone Morphogenetic Protein、BMP)(例えば、BMP2、BMP4、BMP6、BMP9、BMP10)にも結合しない。別の実施形態では、アクチビンA特異的結合タンパク質は、アクチビンAに特異的に結合するが、トランスフォーミング増殖因子ベータ(TGFβ)スーパーファミリーのいかなる他のメンバーにも結合しない結合タンパク質である。
【0057】
本発明の方法のいくつかの実施形態はまた、GDF8に特異的に結合する抗原特異的結合タンパク質(すなわち、「GDF8特異的結合タンパク質」)を含む。「GDF8」(「増殖分化因子-8」及び「ミオスタチン」とも呼ばれる)という用語は、配列番号225のアミノ酸配列を有するタンパク質(成熟タンパク質)を意味する。これらの実施形態によれば、GDF8特異的結合タンパク質は、GDF8に特異的に結合するが、他のActRIIBリガンド、例えば、GDF3、BMP2、BMP4、BMP7、BMP9、BMP10、GDF11、アクチビンA、アクチビンB、アクチビンAB、Nodalなどには結合しない。
【0058】
本発明の文脈では、ActRIIB受容体のリガンド結合部分を含むActRIIB-Fc(例えば、「ACE-031」又は「RAP-031」)などの分子は、かかる分子がGDF8、アクチビンA及びアクチビンABに加えて複数のリガンドに結合するので、「アクチビンA特異的結合タンパク質」又は「GDF8特異的結合タンパク質」とはみなされない。
【0059】
本明細書におけるタンパク質、ポリペプチド、及びタンパク質断片についての全ての言及は、非ヒト種由来であることが明確に特定されない限り、それぞれのタンパク質、ポリペプチド、又はタンパク質断片のヒト型を指すことを意図している。
【0060】
特異的結合
「特異的に結合する」などの用語は、本明細書で使用される場合、抗原特異的結合タンパク質又は抗原特異的結合ドメインが、500pM以下の解離定数(KD)を特徴とし、通常の試験条件下で他の無関係な抗原に結合しない、特定の抗原と複合体を形成することを意味する。「非関連抗原」は、互いに95%未満のアミノ酸同一性を有するタンパク質、ペプチド、又はポリペプチドである。2つの分子が互いに特異的に結合するかどうかを決定するための方法は、当技術分野で周知であり、例えば、平衡透析、表面プラズモン共鳴などを含む。例えば、本発明との関連で使用される抗原特異的結合タンパク質又は抗原特異的結合ドメインは、表面プラズモン共鳴アッセイで測定したとき、約500pM未満、約400pM未満、約300pM未満、約200pM未満、約100pM未満、約90pM未満、約80pM未満、約70pM未満、約60pM未満、約50pM未満、約40pM未満、約30pM未満、約20pM未満、約10pM未満、約5pM未満、約4pM未満、約2pM未満、約1pM未満、約0.5pM未満、約0.2pM未満、約0.1pM未満、又は約0.05pM未満のKDで、特異的な抗原(アクチビンA及び/若しくはAB、又はGDF8)に結合する分子を含む。
【0061】
本明細書で使用される場合、抗原特異的結合タンパク質又は抗原特異的結合ドメインは、表面プラズモン共鳴アッセイにおいて25℃で分子への結合について試験したときに、50.0nM超のKDを示す場合、又はかかるアッセイ若しくはその同等のものにおいていかなる結合も示さない場合に、特定の分子に「結合しない」(例えば「GDF11に結合しない」、「BMP9に結合しない」、「BMP10に結合しない」など)という。
【0062】
「表面プラズモン共鳴」という用語は、本明細書で使用される場合、例えば、BIAcore(商標)システム(Biacore Life Sciences division of GE Healthcare,Piscataway,NJ)を使用して、バイオセンサマトリックス内のタンパク質濃度の変化の検出によって実時間での相互作用の分析を可能にする光学現象を指す。
【0063】
「KD」という用語は、本明細書で使用される場合、特定のタンパク質-タンパク質相互作用(例えば、抗体-抗原相互作用)の平衡解離定数を意味する。別段示されない限り、本明細書に開示されるKD値は、25℃での表面プラズモン共鳴アッセイによって決定されたKD値を指す。
【0064】
抗体及び抗原結合断片
抗原特異的結合タンパク質は、抗体又は抗体の抗原結合断片を含み得るか、又はそれらからなり得る。更に、2つの異なる抗原特異的結合ドメイン(後述)を含む抗原結合分子の場合、抗原特異的結合ドメインの一方又は両方は、抗体の抗原結合断片を含み得るか、又はそれからなり得る。
【0065】
本明細書で使用される場合、「アクチビンに結合する抗体」又は「抗アクチビンA抗体」には、アクチビンAタンパク質の可溶性断片に結合し、アクチビンβAサブユニット含有アクチビンヘテロ二量体にも結合し得る抗体及びその抗原結合断片が含まれる。
【0066】
本発明で使用される場合、「抗体」という用語は、特定の抗原(例えば、アクチビンA)に特異的に結合するか又はそれと相互作用する少なくとも1つの相補性決定領域(CDR)を含む、任意の抗原結合分子又は分子複合体を意味する。「抗体」という用語は、ジスルフィド結合によって相互連結された4本のポリペプチド鎖、2本の重(H)鎖及び2本の軽(L)鎖を含む免疫グロブリン分子、並びにそれらの多量体(例えば、IgM)を含む。重鎖は各々、重鎖可変領域(本明細書でHCVR又はVHと略される)及び重鎖定常領域を含む。重鎖定常領域は、3つのドメイン、CH1、CH2、及びCH3を含む。軽鎖は各々、軽鎖可変領域(本明細書でLCVR又はVLと略される)及び軽鎖定常領域を含む。軽鎖定常領域は、1つのドメイン(CL1)を含む。VH領域及びVL領域は、フレームワーク領域(framework region、FR)と称されるより保存された領域が点在する相補性決定領域(CDR)と称される超可変領域に更に細分され得る。各VH及びVLは、3つのCDR及び4つのFRからなり、アミノ末端からカルボキシ末端へ、以下の順:FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、FR4で配置されている。本発明の異なる実施形態では、抗アクチビンA抗体(若しくはその抗原結合部分)のFRは、ヒト生殖系列配列と同一であってもよく、又は天然に若しくは人工的に修飾されていてもよい。アミノ酸コンセンサス配列は、2つ以上のCDRの並列分析に基づいて定義され得る。
【0067】
本明細書で使用される「抗体」という用語はまた、完全抗体分子の抗原結合断片を含む。抗体の「抗原結合部分」、抗体の「抗原結合断片」及び同様の用語は、本明細書で使用される場合、天然の、酵素処理で入手可能な、合成の、又は遺伝子操作された、抗原を特異的に結合して複合体を形成するポリペプチド又は糖タンパク質を含む。抗体の抗原結合断片は、例えば、DNAコード抗体可変ドメイン及び任意に定常ドメインの操作及び発現を包含するタンパク質消化技法又は組換え遺伝子操作技法などの任意の好適な標準的技法を使用した完全抗体分子に由来し得る。このようなDNAは、知られており、かつ/又は例えば、市販の供給源、DNAライブラリ(例えば、ファージ抗体ライブラリを含む)から容易に入手可能であるか、あるいは合成することができる。DNAは、化学的に、又は分子生物学技法を使用することによって配列決定及び操作されて、例えば、1つ以上の可変ドメイン及び/若しくは定常ドメインを好適な立体配置に配置するか、又はコドンを導入し、システイン残基を作製し、アミノ酸を修飾、付加、若しくは欠失などすることができる。
【0068】
抗原結合断片の非限定的な例には、(i)Fab断片、(ii)F(ab’)2断片、(iii)Fd断片、(iv)Fv断片、(v)一本鎖Fv(scFv)分子、(vi)dAb断片、及び(vii)抗体の超可変領域を模倣するアミノ酸残基からなる最小認識単位(例えば、CDR3ペプチドなどの単離された相補性決定領域(CDR))、又は拘束FR3-CDR3-FR4ペプチドが挙げられる。ドメイン特異性抗体、単一ドメイン抗体、ドメイン欠失抗体、キメラ抗体、CDR移植抗体、ダイアボディ、トリアボディ、テトラボディ、ミニボディ、ナノボディ(例えば、一価ナノボディ、二価ナノボディなど)、小モジュラー免疫薬(small modular immunopharmaceutical、SMIP)、及びサメ可変IgNARドメインなどの他の操作された分子もまた、本明細書で使用されるような「抗原結合断片」の表現内に包含される。
【0069】
抗体の抗原結合断片は、典型的には、少なくとも1つの可変ドメインを含む。可変ドメインは、任意のサイズ又はアミノ酸組成のものであり得、一般に、1つ以上のフレームワーク配列に隣接しているか、又はそれとインフレームである少なくとも1つのCDRを含む。VHドメインがVLドメインに会合した抗原結合断片では、VHドメイン及びVLドメインは、任意の好適な配置で互いに対して位置付けられてもよい。例えば、可変領域は二量体であり、VH-VH、VH-VL、又はVL-VL二量体を含んでもよい。あるいは、抗体の抗原結合断片は、単量体のVHドメイン又はVLドメインを含んでもよい。
【0070】
特定の実施形態では、抗体の抗原結合断片は、少なくとも1つの定常ドメインに共有結合された少なくとも1つの可変ドメインを含んでもよい。本発明の抗体の抗原結合断片内に見出され得る可変及び定常ドメインの非限定的な例示的な構成としては、(i)VH-CH1、(ii)VH-CH2、(iii)VH-CH3、(iv)VH-CH1-CH2、(v)VH-CH1-CH2-CH3、(vi)VH-CH2-CH3、(vii)VH-CL、(viii)VL-CH1、(ix)VL-CH2、(x)VL-CH3、(xi)VL-CH1-CH2、(xii)VL-CH1-CH2-CH3、(xiii)VL-CH2-CH3、及び(xiv)VL-CLが挙げられる。上に列記される例示的な立体配置のうちのいずれかを含む、可変ドメイン及び定常ドメインのいずれの立体配置でも、可変ドメイン及び定常ドメインは、互いに直接連結されているか、又は完全若しくは部分的ヒンジ領域若しくはリンカー領域によって連結されているかのいずれかであり得る。ヒンジ領域は、単一のポリペプチド分子において隣接する可変ドメイン及び/又は定常ドメイン間の可撓性又は半可撓性の結合をもたらす少なくとも2つの(例えば、5、10、15、20、40、60以上の)アミノ酸からなり得る。更に、本発明の抗体の抗原結合断片は、互いとの及び/又は1つ以上の単量体VH若しくはVLドメインとの(例えば、ジスルフィド結合による)非共有結合において、上に列記される可変ドメイン立体配置及び定常ドメイン立体配置のうちのいずれかのホモ二量体又はヘテロ二量体(又は他の多量体)を含み得る。
【0071】
完全抗体分子と同様に、抗体結合断片は、単一特異性又は多重特異性(例えば、二重特異性)であり得る。抗体の多重特異性抗原結合断片は、典型的には、少なくとも2つの異なる可変ドメインを含み、各可変ドメインは、別個の抗原に、又は同じ抗原上の異なるエピトープに特異的に結合することができる。本明細書に開示される例示的な二重特異性抗体形式を含む任意の多重特異性抗体形式は、当該技術分野で利用可能な通例の技術を使用して、本発明の抗体の抗原結合断片との関連で使用に適合し得る。
【0072】
本発明のある特定の実施形態では、本発明の抗アクチビンA抗体は、ヒト抗体である。本発明で使用される場合、「ヒト抗体」という用語は、ヒト生殖系列免疫グロブリン配列に由来する可変及び定常領域を有する抗体を含むように意図される。本発明のヒト抗体は、例えば、CDR、特にCDR3における、ヒト生殖系列免疫グロブリン配列(例えば、インビトロでのランダム若しくは部位特異的変異誘発によるか、又はインビボでの体細胞変異によって導入された変異)によってコードされないアミノ酸残基を含み得る。しかしながら、本明細書で使用される「ヒト抗体」という用語は、別の哺乳動物種(例えば、マウス)の生殖系列に由来するCDR配列がヒトフレームワーク配列へと移植された抗体を含むことを意図するものではない。
【0073】
本発明の抗体は、いくつかの実施形態では、組換えヒト抗体であり得る。「組換えヒト抗体」という用語は、本明細書で使用される場合、宿主細胞にトランスフェクトされた組換え発現ベクターを使用して発現される抗体など組換え手段によって調製、発現、作製、若しくは単離される全てのヒト抗体(更に後述)、組換え型コンビナトリアルヒト抗体ライブラリから単離された抗体(更に後述)、ヒト免疫グロブリン遺伝子についてトランスジェニックである動物(例えば、マウス)から単離された抗体(例えば、Taylor et al.,Nucl Acids Res 20:6287-6295(1992))、又は他のDNA配列へのヒト免疫グロブリン遺伝子配列のスプライシングを伴う任意の他の手段によって調製、発現、作製、若しくは単離される抗体を含むことが意図される。そのような組換えヒト抗体は、ヒト生殖系列免疫グロブリン配列に由来する可変及び定常領域を有する。しかしながら、ある特定の実施形態では、そのような組換えヒト抗体は、インビトロ変異誘発(又は、ヒトIg配列に対してトランスジェニックな動物が使用される際の、インビボ体細胞変異誘発)に供され、したがって、組換え抗体のVH及びVL領域のアミノ酸配列は、ヒト生殖系列VH及びVL配列に由来しそれらに関連しているが、インビボでヒト抗体生殖系列レパートリー内に天然に存在し得ない配列である。
【0074】
ヒト抗体は、ヒンジの不均一性に関連する2つの形態で存在することができる。第1の形態では、免疫グロブリン分子は、二量体が鎖間重鎖ジスルフィド結合によって一緒に保持されているおよそ150~160kDaの安定した四本鎖構築体を含む。第2の形態では、二量体は鎖間ジスルフィド結合によって連結されておらず、共有結合した軽鎖及び重鎖からなる約75~80kDaの分子が形成される(半抗体)。これらの形態は、親和性精製後でさえも分離することが極めて困難とされている。
【0075】
様々な無傷のIgGアイソタイプにおける第2の形態の出現頻度は、抗体のヒンジ領域アイソタイプに関連する構造上の相違によるが、それに限定されない。ヒトIgG4ヒンジのヒンジ領域における単一アミノ酸置換は、ヒトIgG1ヒンジを使用して典型的に観察されるレベルまで第2の形態の出現を著しく低減することができる(Angal et al.Molecular Immunology 30:105 1993))。本発明は、ヒンジ領域、CH2領域、又はCH3領域に1つ以上の変異を有する抗体を包含し、例えば、産生において、所望の抗体形態の収率を改善する(improve)のに望ましくあり得る。
【0076】
本発明の抗体は、単離された抗体であってもよい。「単離された抗体」は、本明細書で使用される場合、その天然環境の少なくとも1つの成分から同定され、分離及び/又は回収された抗体を意味する。例えば、生物の少なくとも1つの成分から、又は抗体が天然に存在するか若しくは天然に産生される組織又は細胞から分離又は除去された抗体は、本発明の目的のための「単離された抗体」である。単離された抗体は、組換え細胞内の原位置の抗体も含む。単離された抗体は、少なくとも1つの精製又は単離ステップに供された抗体である。特定の実施形態によると、単離された抗体は、他の細胞性物質及び/又は化学物質を実質的に含まない場合がある。
【0077】
本発明には、抗アクチビンA抗体の中和及び/又は遮断が含まれる。「中和」又は「遮断」抗体は、本明細書で使用される場合、アクチビンAへのその結合が、以下のようになるものを指すことが意図される:
(i)アクチビンAとアクチビンA受容体との間の相互作用に干渉する(例えば、アクチビンIIA型受容体、アクチビンIIB型受容体、アクチビンI型受容体など)、(ii)アクチビン-アクチビン受容体複合体の形成を阻害する、及び/又は、(iii)結果としてアクチビンAの少なくとも1つの生物学的機能を阻害する。アクチビンA中和又は遮断抗体によって引き起こされる阻害は、それが適切なアッセイを使用して検出可能である限り、完全である必要はない。アクチビンA阻害を検出するための例示的なアッセイは、本明細書の実施例に記載されている。
【0078】
本明細書に開示される抗アクチビンA抗体は、抗体が由来した対応する生殖系列配列と比較して、重鎖及び軽鎖可変ドメインのフレームワーク領域及び/又はCDR領域において1つ以上のアミノ酸置換、挿入、及び/又は欠失を含み得る。かかる変異は、本明細書に開示されるアミノ酸配列を、例えば、公共の抗体配列データベースから入手可能な生殖系列配列と比較することによって、容易に確認され得る。本発明は、本明細書に開示されるアミノ酸配列のうちのいずれかに由来する抗体及びその抗原結合断片を含み、1つ以上のフレームワーク領域及び/又はCDR領域内の1つ以上のアミノ酸は、抗体が由来した生殖系列配列の対応する残基に変異するか、又は別のヒト生殖系列配列の対応する残基に変異するか、又は対応する生殖系列残基の保存的アミノ酸置換に変異する(かかる配列変化は、本明細書で集合的に「生殖系列変異」と称される)。当業者は、本明細書に開示される重鎖及び軽鎖可変領域配列から出発して、1つ以上の個々の生殖系列変異又はそれらの組み合わせを含む多くの抗体及び抗体結合断片を容易に産生することができる。特定の実施形態において、VH及び/又はVLドメイン内のフレームワーク及び/又はCDR残基のうちの全てが、抗体が由来した元の生殖系列配列において見出される残基へと再び変異する。他の実施形態では、特定の残基のみが元の生殖系列配列へと変異し戻され、例えば、変異した残基は、FR1の最初の8つのアミノ酸内に、若しくはFR4の最後の8つのアミノ酸内に見出されるか、又は変異した残基は、CDR1、CDR2、若しくはCDR3内にのみ見出される。他の実施形態では、フレームワーク及び/又はCDR残基のうちの1つ以上は、異なる生殖系列配列(すなわち、抗体が本来由来した生殖系列配列とは異なる生殖系列配列)の対応する残基へ変異する。更に、本発明の抗体は、フレームワーク及び/又はCDR領域内に2つ以上の生殖系列変異の任意の組み合わせを含有してもよく、例えば、特定の個々の残基は、特定の生殖系列配列の対応する残基へ変異するのに対し、元の生殖系列配列とは異なる特定の他の残基は、維持されるか、又は異なる生殖系列配列の対応する残基へ変異する。いったん得られれば、1つ以上の生殖系列変異を含有する抗体及び抗体結合断片は、結合特異性の改善、結合親和性の増加、アンタゴニスト又はアゴニストの生物学的特性の改善又は増強(場合によって)、免疫原性の低下などの1つ以上の所望の特性について容易に試験することができる。この一般的な方法で得られる抗体及び抗体結合断片は、本発明の範囲内に包含される。
【0079】
本発明にはまた、1つ以上の保存的置換を有する本明細書に開示するHCVRアミノ酸配列、LCVRアミノ酸配列、及び/又はCDRアミノ酸配列のいずれかの変異体を含む抗アクチビンA抗体が含まれる。例えば、本発明には、本明細書に開示されるHCVR、LCVR、及び/又はCDRアミノ酸配列のうちのいずれかに関連する、例えば10個以下、8つ以下、6つ以下、又は4つ以下などの保存的アミノ酸置換を有するHCVR、LCVR、及び/又はCDRアミノ酸配列を有する抗アクチビンA抗体が含まれる。
【0080】
「エピトープ」という用語は、パラトープとして既知の抗体分子の可変領域における特異的抗原結合部位と相互作用する抗原決定基を指す。単一の抗原は2つ以上のエピトープを有してもよい。したがって、異なる抗体は抗原上の異なる領域に結合し得、異なる生物学的効果を有し得る。エピトープは、立体配座又は直鎖状のいずれかであり得る。立体配座エピトープは、直鎖状ポリペプチド鎖の異なるセグメント由来の空間的に並置されたアミノ酸によって産生される。直鎖状エピトープは、ポリペプチド鎖中の隣接するアミノ酸残基によって産生されるものである。特定の状況では、エピトープは、抗原上のサッカリド、ホスホリル基、又はスルホニル基の部分を含み得る。
【0081】
「実質的な同一性」又は「実質的に同一である」という用語は、核酸又はその断片を指す場合、別の核酸(又はその相補鎖)との適切なヌクレオチド挿入又は欠失と最適に整列した場合、以下で考察されるように、FASTA、BLAST又はGapなど、配列同一性の任意の周知のアルゴリズムによって測定される場合に、ヌクレオチド塩基の少なくとも約95%、より好ましくは少なくとも約96%、97%、98%、又は99%のヌクレオチド配列同一性があることを示す。参照核酸分子と実質的な同一性を有する核酸分子は、特定の場合では、参照核酸分子によってコードされるポリペプチドと同じ又は実質的に類似のアミノ酸配列を有するポリペプチドをコードすることができる。
【0082】
ポリペプチドへ適用される場合、「実質的な類似性」又は「実質的に類似の」という用語は、2つのペプチド配列が、既定のギャップ重みを使用してプログラムGAP又はBESTFITなどによって最適に整列した場合、少なくとも95%の配列同一性、更により好ましくは少なくとも98%又は99%の配列同一性を共有する。好ましくは、同一ではない残基位置は、保存的アミノ酸置換が異なる。「保存的アミノ酸置換」とは、アミノ酸残基が、類似の化学的特性(例えば、電荷又は疎水性)を備えた側鎖(R基)を有する別のアミノ酸残基によって置換されるものである。概して、保存的アミノ酸置換は、タンパク質の機能的特性を実質的に変化させない。2つ以上のアミノ酸配列の保存的置換が互いに異なる場合、配列同一性パーセント又は類似性の程度は、置換の保存的性質を補正するために上向きに調整され得る。この調整を行うための手段は、当業者に周知である。例えば、参照により本明細書に組み込まれるPearson,W.R.,Methods Mol Biol 24:307-331 (1994)を参照されたい。類似の化学的特性を有する側鎖を有するアミノ酸の群の例としては、(1)脂肪族側鎖:グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、及びイソロイシン、(2)脂肪族ヒドロキシル側鎖:セリン及びトレオニン、(3)アミド含有側鎖:アスパラギン及びグルタミン、(4)芳香族側鎖:フェニルアラニン、チロシン、及びトリプトファン、(5)塩基性側鎖:リジン、アルギニン、及びヒスチジン、(6)酸性側鎖:アスパラギン酸及びグルタミン酸、並びに(7)硫黄含有側鎖は、システイン及びメチオニンである、が挙げられる。好ましい保存的アミノ酸置換基は、バリン-ロイシン-イソロイシン、フェニルアラニン-チロシン、リジン-アルギニン、アラニン-バリン、グルタミン酸-アスパラギン酸、及びアスパラギン-グルタミンである。あるいは、保存的置換とは、参照により本明細書に組み込まれるGonnet et al.,Science 256:1443-1445(1992)に開示されるPAM250対数尤度行列において正値を有する任意の変化である。「適度に保存的な」置換とは、PAM250対数尤度マトリックスにおいて負以外の値を有する任意の変化である。
【0083】
ポリペプチドに対する配列類似性は、配列同一性とも呼ばれ、典型的には配列分析ソフトウェアを使用して測定される。タンパク質分析ソフトウェアは、保存的アミノ酸置換を含む様々な置換、欠失、及び他の修飾に割り当てられた類似性の測定値を使用して類似の配列を一致させる。例えば、GCGソフトウェアは、異なる種の生物由来の相同ポリペプチドなどの密接に関連するポリペプチド間又は野生型タンパク質とその変異タンパク質との間の配列相同性又は配列同一性を決定するための既定パラメータとともに使用され得るGap及びBestfitなどのプログラムを含む。例えば、GCGバージョン6.1を参照されたい。ポリペプチド配列は、GCGバージョン6.1のプログラムである既定パラメータ又は推奨パラメータを用いたFASTAを使用して比較することもできる。FASTA(例えば、FASTA2及びFASTA3)は、クエリ配列と検索配列との間の最良の重複領域のアラインメント及び配列同一性パーセントを提供する(例えば、参照により本明細書に組み込まれる、Pearson,W.R.,Methods Mol Biol 132:185-219(2000)を参照されたい)。本発明の配列を、異なる生物由来の多数の配列を含有するデータベースと比較する場合の別の好ましいアルゴリズムは、既定パラメータを使用するコンピュータプログラムBLAST、特にBLASTP又はTBLASTNである。例えば、それぞれ参照により本明細書に組み込まれる、Altschul et al.,J Mol Biol 215:403-410(1990)及びAltschul et al.,Nucleic Acids Res 25:3389-402(1997)を参照されたい。
【0084】
本発明は、配列番号2、18、34、50、66、82、98、106、114、122、130、138、154、162、170、178、186、194、及び202からなる群から選択されるアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域(HCVR)、又はそれらと実質的に類似する少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、若しくは少なくとも99%の配列同一性を有する配列を含む、抗体又は抗体の抗原結合断片を提供する。
【0085】
本発明は、配列番号10、26、42、58、74、90、146及び210からなる群から選択されるアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域(LCVR)、又は少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、若しくは少なくとも99%の配列同一性を有するそれに実質的に類似の配列を含む、抗体又は抗体の抗原結合断片を更に提供する。
【0086】
本発明はまた、配列番号2/10、18/26、34/42、50/58、66/74、82/90、98/90、106/90、114/90、122/90、130/90、138/146、154/146、162/146、170/146、178/146、186/146、194/146、及び202/210からなる群から選択されるHCVR及びLCVR(HCVR/LCVR)配列対を含む、抗体又はその抗原結合断片を提供する。
【0087】
本発明はまた、は、配列番号8、24、40、56、72、88、104、112、120、128、136、144、160、168、176、184、192、200及び208からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR3(HCDR3)ドメイン、又はそれらと実質的に類似する少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、若しくは少なくとも99%の配列同一性を有する配列と、配列番号16、32、48、64、80、96、152及び216からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR3(LCDR3)ドメイン、又はそれらと実質的に類似する少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、若しくは少なくとも99%の配列同一性を有する配列と、を含む、抗体又はその抗原結合断片を提供する。
【0088】
ある特定の実施形態では、抗体又は抗体の抗原結合部分は、配列番号8/16、24/32、40/48、56/64、72/80、88/96、104/96、112/96、120/96、128/96、136/96、144/152、160/152、168/152、176/152、184/152、192/152、200/152及び208/216からなる群から選択されるHCDR3/LCDR3アミノ酸配列対を含む。
【0089】
本発明はまた、配列番号4、20、36、52、68、84、100、108、116、124、132、140、156、164、172、180、188、196、及び204からなる群から選択されるアミノ酸配列、又は少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%若しくは少なくとも99%の配列同一性を有するその実質的に類似の配列を有する重鎖CDR1(HCDR1)ドメイン、配列番号6、22、38、54、70、86、102、110、118、126、134、142、158、166、174、182、190、198、及び206からなる群から選択されるアミノ酸配列、又は少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%若しくは少なくとも99%の配列同一性を有するその実質的に類似の配列を有する重鎖CDR2(HCDR2)ドメイン、配列番号12、28、44、60、76、92、148及び212からなる群から選択されるアミノ酸配列、又は少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、若しくは少なくとも99%の配列同一性を有するそれに実質的に類似の配列を有する軽鎖CDR1(LCDR1)ドメイン、及び配列番号14、30、46、62、78、94、150及び214からなる群から選択されるアミノ酸配列、又は少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、若しくは少なくとも99%の配列同一性を有するそれに実質的に類似の配列を有する軽鎖CDR2(LCDR2)ドメイン、を更に含む抗体又はその断片を提供する。
【0090】
本発明示の特定の非限定的で例示的な抗体及び抗原結合断片は、それぞれ、以下からなる群から選択されるアミノ酸配列を有するHCDR1-HCDR2-HCDR3-LCDR1-LCDR2-LCDR3ドメインを含む:配列番号4-6-8-12-14-16(例えばH4H10423P)、20-22-24-28-30-32(例えばH4H10424P)、36-38-40-44-46-48(例えばH4H10426P)、52-54-56-60-62-64(例えばH4H10429P)、68-70-72-76-78-80(例えばH4H10430P)、84-86-88-92-94-96(例えばH4H10432P2)、100-102-104-92-94-96(例えばH4H10433P2)、108-110-112-92-94-96(例えばH4H10436P2)、116-118-120-92-94-96(例えばH4H10437P2)、124-126-128-92-94-96(例えばH4H10438P2)、132-134-136-92-94-96(例えばH4H10440P2)、140-142-144-148-150-152(例えばH4H10442P2)、156-158-160-148-150-152(H4H10445P2)、164-166-168-148-150-152(H4H10446P2)、172-174-176-148-150-152(H4H10447P2)、180-182-184-148-150-152(H4H10448P2)、188-190-192-148-150-152(H4H10452P2)、196-198-200-148-150-152(H4H10468P2)、及び204-206-208-212-214-216(H2aM10965N)。いくつかの実施形態では、抗アクチビンA抗体は、上記のCDR配列、並びに配列番号2/10、18/26、34/42、50/58、66/74、82/90、98/90、106/90、114/90、122/90、130/90、138/146、154/146、162/146、170/146、178/146、186/146、194/146、及び202/210からなる群から選択される対応するHCVR及びLCVR(HCVR/LCVR)配列対と少なくとも90%、95%、96%、97%、98%、又は99%同一であるHCVR及び/又はLCVRを含む。
【0091】
いくつかの実施形態では、本発明には、アクチビンAに特異的に結合する抗体又はその抗原結合断片が含まれ、抗体又は断片は、配列番号2/10、18/26、34/42、50/58、66/74、82/90、98/90、106/90、114/90、122/90、130/90、138/146、154/146、162/146、170/146、178/146、186/146、194/146及び202/210からなる群から選択される重鎖可変領域及び軽鎖可変領域(HCVR/LCVR)配列内に含有される重鎖及び軽鎖CDRドメインを含む。HCVRアミノ酸配列及びLCVRアミノ酸配列内のCDRを同定するための方法及び技術は、当該技術分野において周知であり、それらを使用して、本明細書に開示される特定のHCVRアミノ酸配列及び/又はLCVRアミノ酸配列内のCDRを同定することができる。CDRの境界を同定するために使用することができる例示的な規則は、例えば、Kabat定義、Chothia定義、及びAbM定義を含む。一般的には、Kabat定義は配列の可変性に基づいており、Chothia定義は構造ループ領域の位置に基づいており、AbM定義はKabatのアプローチとChothiaのアプローチの間の折衷案である。例えば、Kabat,「Sequences of Proteins of Immunological Interest,」National Institutes of Health,Bethesda,Md.(1991)、Al-Lazikani et al.,J Mol Biol 273:927-948 (1997);及びMartin et al.,PNAS (USA)86:9268-9272(1989)を参照されたい。抗体内のCDR配列を同定するために、公開データベースも利用可能である。
【0092】
本発明には、修飾炭化水素を含有する抗アクチビンA抗体が含まれる。いくつかの用途では、望ましくないグリコシル化部位を除去するための改変が有用であり得る。いくつかの用途では、望ましくないグリコシル化部位を除去するための修飾、又は例えば抗体依存性細胞傷害作用(antibody dependent cellular cytotoxicity、ADCC)機能を増大させるためのオリゴ糖鎖上に存在するフコース部分の欠失を有する抗体が、有用であり得る(Shield et al.J Biol Chem 277:26733 (2002)を参照)。他の用途では、補体依存性細胞傷害作用(complement dependent cytotoxicity、CDC)を修飾するために、ガラクトシル化の修飾を行うことができる。いくつかの用途では、抗体は、エフェクター機能を最小化するために、改変されたグリコシル化パターンを有し得る。例えば、抗体を改変して、更にグリコシル化又はシアリル化された抗体が得られ得る。
【0093】
抗体の生物学的特徴
本発明には、高い親和性でアクチビンAに結合する抗アクチビンA抗体及びその抗原結合断片が含まれる。例えば、本発明には、本明細書の実施例に定義されるようなアッセイフォーマットを使用して、表面プラズモン共鳴により測定したときに、約30nM未満のKDでアクチビンAに(例えば、25℃又は37℃で)結合する抗体及び抗体の抗原結合断片が含まれる。ある特定の実施形態では、本発明の抗体又は抗原結合性断片は、例えば、本明細書の実施例3で定義されるアッセイフォーマット又は実質的に同様のアッセイを使用して、表面プラズモン共鳴によって測定したとき、約25nM未満、約20nM未満、約15nM未満、約10nM未満、約5nM未満、約2nM未満、約1nM未満、約500pM未満、約250pM未満、約240pM未満、約230pM未満、約220pM未満、約210pM未満、約200pM未満、約190pM未満、約180pM未満、約170pM未満、約160pM未満、約150pM未満、約140pM未満、約130pM未満、約120pM未満、約110pM未満、約100pM未満、約95pM未満、約90pM未満、約85pM未満、約80pM未満、約75pM未満、約70pM未満、約65pM未満、約60pM未満、約55pM未満、約50pM未満、約45pM未満、約40pM未満、約35pM未満、約30pM未満、約25pM未満、約20pM未満、約15pM未満、約10pM未満、約9pM未満、約8pM未満、約7pM未満、約6pM未満、約5pM未満、約4pM、又は約3pM未満のKDでアクチビンAに結合する。
【0094】
本発明にはまた、アクチビンA媒介性の細胞シグナル伝達を阻害する抗アクチビンA抗体及びその抗原結合断片が含まれる。例えば、本発明には、例えば本明細書の実施例において定義されるアッセイフォーマット、又は実質的に同様のアッセイを使用して、細胞ベースのブロッキングバイオアッセイにおいて測定したとき、約4nM未満のIC50値で、アクチビンAのアクチビンI型又はII型受容体への結合を介するSMAD複合体シグナル伝達経路の活性化を阻害する、抗アクチビンA抗体が含まれる。ある特定の実施形態では、本発明の抗体又は抗原結合性断片は、例えば本明細書の実施例で定義されるアッセイフォーマット、又は実質的に同様のアッセイを使用して、細胞ベースのブロッキングバイオアッセイで測定したとき、アクチビンAのアクチビンI型又はII型受容体への結合を介するSMAD複合体シグナル伝達経路の活性化を、約3nM未満、約2nM未満、約1nM未満、約500pM未満、約250pM未満、約240pM未満、約230pM未満、約220pM未満、約210pM未満、約200pM未満、約190pM未満、約180pM未満、約170pM未満、約160pM未満、約150pM未満、約140pM未満、約130pM未満、約120pM未満、約110pM未満、約100pM未満、約95pM未満、約90pM未満、約85pM未満、約80pM未満、約75pM未満、約70pM未満、約65pM未満、約60pM未満、約55pM未満、約50pM未満、約49pM未満、約48pM未満、約47pM未満、約46pM未満、約45pM未満、約44pM未満、約43pM未満、約42pM未満、約41pM未満、約40pM未満、又は約39pM未満のIC50値で阻害する。ある特定の実施形態では、本発明の抗体又は抗原結合性断片は、アクチビンBのアクチビンI型又はII型受容体への結合に干渉することによって、アクチビンBのシグナル伝達を阻害し、そのIC50値は、例えば本明細書の実施例で定義されるアッセイフォーマット又は実質的に同様のアッセイを使用して、細胞ベースのブロッキングバイオアッセイで測定したとき、約50nM未満、約20nM未満、約10nM未満、約5nM未満、又は約1nM未満である。ある特定の実施形態では、本発明の抗体又は抗原結合性断片は、アクチビンABのアクチビンI型又はII型受容体への結合を介するSMAD複合体シグナル伝達経路の活性化を、例えば本明細書の実施例で定義されるアッセイフォーマット又は実質的に同様のアッセイを用いた細胞ベースのブロッキングバイオアッセイで測定したとき、約500pM未満、約450pM未満、約440pM未満、約430pM未満、約420pM未満、約410pM未満、約400pM未満、約390pM未満、約380pM未満、約370pM未満、約360pM未満、約350pM未満、約340pM未満、約320pM未満、約310pM未満、約300pM未満、約290pM未満、約280pM未満、約270pM未満、約260pM未満、約250pM未満、約240pM未満、約230pM未満、約220pM未満、約210pM未満、約200pM未満、約190pM未満、約180pM未満、約170pM未満、約160pM未満、約150pM未満、又は約140pM未満のIC50値で阻害する。ある特定の実施形態では、本発明の抗体又は抗原結合性断片は、アクチビンACのアクチビンI型又はII型受容体への結合を介するSMAD複合体シグナル伝達経路の活性化を、例えば本明細書の実施例で定義されるアッセイフォーマット又は実質的に同様のアッセイを使用して、細胞ベースのブロッキングバイオアッセイで測定したとき、約1nM未満、約900pM未満、約800pM未満、約750pM未満、約700pM未満、約650pM未満、約600pM未満、又は約580pM未満のIC50値で阻害する。
【0095】
本発明の抗体は、上述の生物学的特徴の1つ以上、又はこれらの何らかの組み合わせを有することができる。本発明の抗体の他の生物学的特徴は、本明細書における実施例を含む本開示の再吟味から当業者に明らかとなるであろう。
【0096】
Fc変異体を含む抗アクチビンA抗体
本発明の特定の実施形態によると、例えば、中性pHと比較して酸性pHで、FcRn受容体への抗体結合を増強又は減少させる1つ以上の突然変異を含むFcドメインを含む、抗アクチビンA抗体が提供される。例えば、本発明には、FcドメインのCH2又はCH3領域に変異を含む抗アクチビンA抗体が含まれ、この変異は、酸性環境において(例えば、pHが約5.5~約6.0の範囲のエンドソームにおいて)FcRnに対するFcドメインの親和性を増加させる。そのような変異は、動物に投与したときに抗体の血清半減期の増加をもたらし得る。そのようなFc修飾の非限定的な例としては、例えば、位置250(例えば、E又はQ)、250及び428(例えば、L又はF)、252(例えば、L/Y/F/W又はT)、254(例えば、S又はT)、及び256(例えば、S/R/Q/E/D又はT)での修飾、あるいは位置428及び/若しくは433(例えば、H/L/R/S/P/Q又はK)、並びに/又は434(例えば、A、W、H、F、又はY[N434A、N434W、N434H、N434F、又はN434Y])での修飾、あるいは位置250及び/又は428での修飾、あるいは位置307又は308(例えば、308F、V308F)、及び434での修飾が挙げられる。一実施形態では、修飾は、428L(例えば、M428L)及び434S(例えば、N434S)修飾、428L、259I(例えば、V259I)及び308F(例えば、V308F)修飾、433K(例えば、H433K)及び434(例えば、434Y)修飾、252、254、及び256(例えば、252Y、254T、及び256E)修飾、250Q及び428L修飾(例えば、T250Q及びM 428L)、並びに307及び/又は308修飾(例えば、308F又は308P)を含む。更に別の実施形態において、修飾は、265A(例えば、D265A)及び/又は297A(例えば、N297A)修飾を含む。
【0097】
例えば、本発明には、250Q及び248L(例えば、T250Q及びM248L)、252Y、254T、及び256E(例えば、M252Y、S254T、及びT256E)、428L及び434S(例えば、M428L及びN434S)、257I及び311I(例えば、P257I及びQ311I)、257I及び434H(例えば、P257I及びN434H)、376V及び434H(例えば、D376V及びN434H)、307A、380A、及び434A(例えば、T307A、E380A、及びN434A)、並びに433K及び434F(例えば、H433K及びN434F)からなる群から選択される変異の1つ以上の対又は群を含むFcドメインを含む、抗アクチビンA抗体が含まれる。前述のFcドメイン変異、及び本明細書に開示される抗体可変ドメイン内の他の変異の全ての可能な組み合わせが、本発明の範囲内で熟慮される。
【0098】
本発明にはまた、キメラ重鎖定常(CH)領域を含む抗アクチビンA抗体が含まれ、キメラCH領域は、1つ超の免疫グロブリンアイソタイプのCH領域に由来するセグメントを含む。例えば、本発明の抗体は、ヒトIgG1分子、ヒトIgG2分子、又はヒトIgG4分子に由来するCH3ドメインの一部又は全部と組み合わされた、ヒトIgG1分子、ヒトIgG2分子、又はヒトIgG4分子に由来するCH2ドメインの一部又は全部を含む、キメラCH領域を含み得る。特定の実施形態によると、本発明の抗体は、キメラヒンジ領域を有するキメラCH領域を含む。例えば、キメラヒンジは、ヒトIgG1ヒンジ領域、ヒトIgG2ヒンジ領域、又はヒトIgG4ヒンジ領域に由来する「下部ヒンジ」配列(EU番号付けによる位置228~236のアミノ酸残基)と組み合わされた、ヒトIgG1ヒンジ領域、ヒトIgG2ヒンジ領域、又はヒトIgG4ヒンジ領域に由来する「上部ヒンジ」アミノ酸配列(EU番号付けによる位置216~227のアミノ酸残基)を含み得る。特定の実施形態によると、キメラヒンジ領域は、ヒトIgG1又はヒトIgG4上部ヒンジに由来するアミノ酸残基と、ヒトIgG2下部ヒンジに由来するアミノ酸残基と、を含む。本明細書に記載されるようなキメラCH領域を含む抗体は、特定の実施形態では、抗体の治療特性又は薬物動態学的特性に悪影響を与えることなく、修飾Fcエフェクター機能を呈し得る。(開示全体が参照により本明細書に組み込まれる、2013年2月1日出願の米国仮特許出願第61/759,578号を参照されたい)。
【0099】
エピトープマッピング及び関連技法
本発明には、アクチビンA内(例えば、アクチビンII型受容体結合部位内)に存在する1つ以上のアミノ酸と相互作用する抗アクチビンA抗体が含まれる。抗体が結合するエピトープは、アクチビンβAサブユニット内に位置する3つ以上(例えば、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20以上)のアミノ酸の単一連続配列からなるものであり得る。あるいは、エピトープは、アクチビンA二量体内に位置する複数の非連続アミノ酸(又はアミノ酸配列)からなるものであり得る。
【0100】
当業者に知られている様々な技術を使用して、抗体がポリペプチド又はタンパク質の内部にある「1つ以上のアミノ酸と相互作用する」かどうかを判定することができる。例示的な技法としては、例えば、Antibodies,Harlow and Lane(Cold Spring Harbor Press,Cold Spring Harb.,NY)に記載されている日常的なクロス遮断アッセイ、アラニンスキャニング変異分析、ペプチドブロット分析(Reineke,Methods Mol Biol 248:443-463(2004))、及びペプチド切断分析が挙げられる。加えて、エピトープ切除、エピトープ抽出、及び抗原の化学修飾などの方法を採用することができる(Tomer,Protein Science 9:487-496(2000))。抗体が相互作用するポリペプチドの内部にあるアミノ酸を同定するために使用することができる別の方法は、質量分析によって検出される水素/重水素交換である。一般的にいえば、水素/重水素交換法は、関心対象のタンパク質を重水素標識した後、抗体を重水素標識タンパク質へ結合させることを包含する。次に、タンパク質/抗体複合体を水に移して、抗体によって保護されている残基(重水素標識されたままである)を除く全ての残基で水素-重水素交換を生じさせる。抗体の解離後、標的タンパク質をプロテアーゼ切断及び質量分析へ供し、それにより、抗体が相互作用する特異的アミノ酸に対応する重水素標識残基を明らかにする。例えば、Ehring,Analytical Biochemistry 267(2):252-259(1999)、Engen and Smith,Anal.Chem.73:256A-265A(2001)を参照されたい。
【0101】
本発明には、本明細書に記載される特定の例示的な抗体のいずれか(例えば、H4H10423P、H4H10424P、H4H10426P、H4H10429P、H4H10430P、H4H10432P2、H4H10433P2、H4H10436P2、H4H10437P2、H4H10438P2、H4H10440P2、H4H10442P2、H4H10445P2、H4H10446P2、H4H10447P2、H4H10448P2、H4H10452P2、H4H10468P2、H2aM10965Nなど)と同じエピトープに結合する抗アクチビンA抗体が更に含まれる。同様に、本発明にはまた、アクチビンAへの結合について、本明細書に記載される特定の例示的な抗体のいずれか(例えば、H4H10423P、H4H10424P、H4H10426P、H4H10429P、H4H10430P、H4H10432P2、H4H10433P2、H4H10436P2、H4H10437P2、H4H10438P2、H4H10440P2、H4H10442P2、H4H10445P2、H4H10446P2、H4H10447P2、H4H10448P2、H4H10452P2、H4H10468P2、H2aM10965Nなど)と競合する抗アクチビンA抗体が含まれる。例えば、本発明には、本明細書に例示される1つ以上の抗体(例えばH4H10423P、H4H10446P2、H4H10468P2及びH4H10442P2)とアクチビンAへの結合について交差競合する抗アクチビンA抗体が含まれる。本発明にはまた、アクチビンAへの結合について、例えばH4H10429、H4H1430P、H4H10432P2、H4H10436P2、及びH4H10440P2などの1つ以上の抗体と交差競合する抗アクチビンA抗体が含まれる。
【0102】
当該技術分野で即知であり、本明細書に例示される通例の方法を使用することによって、抗体が参照抗アクチビンA抗体と同じエピトープに結合するか、又は結合について参照抗アクチビンA抗体と競合するかを容易に決定することができる。例えば、試験抗体が本発明の参照抗アクチビンA抗体と同じエピトープに結合するかどうかを決定するために、参照抗体を飽和条件下でアクチビンA(又はβAサブユニット含有ヘテロ二量体)に結合させておく。次に、アクチビンA分子に結合する試験抗体の能力を評価する。試験抗体が、参照抗アクチビンA抗体との飽和結合後にアクチビンAに結合することができる場合、この試験抗体は、参照抗アクチビンA抗体とは異なるエピトープに結合すると結論付けることができる。その一方で、試験抗体が、参照抗アクチビンA抗体との飽和結合後にアクチビンAタンパク質に結合することができない場合、試験抗体は、本発明の参照抗アクチビンA抗体によって結合されたエピトープと同じエピトープに結合し得る。次に、試験抗体の結合の観察された欠失が、実際に、参照抗体と同じエピトープへの結合によるものであるか、それとも立体遮断(又は別の現象)が、観察された結合の欠失の原因であるのかを確認するために、更なる通例の実験(例えば、ペプチド変異及び結合分析)を実施することができる。この種の実験は、ELISA、RIA、Biacore、フローサイトメトリ、又は当該技術分野で利用可能な任意の他の定量的若しくは定性的な抗体結合アッセイを使用して実施することができる。本発明のある特定の実施形態によると、例えば、1、5、10、20、又は100倍過剰の一方の抗体が、競合的結合アッセイで測定した場合、少なくとも50%、しかし好ましくは75%、90%、更には99%で他方の抗体の結合を阻害する場合に、2つの抗体は、同じ(又は重複する)エピトープに結合する(例えば、Junghans et al.,Cancer Res.50:1495-1502 (1990)を参照されたい)。あるいは、一方の抗体の結合を減少又は排除する抗原における本質的に全てのアミノ酸変異が、もう一方の抗体の結合を減少又は排除する場合、2つの抗体は、同じエピトープと結合するとみなされる。一方の抗体の結合を低減又は排除するアミノ酸変異のサブセットのみが他方の結合を低減又は排除する場合、2つの抗体は「重複エピトープ」を有するとみなされる。
【0103】
抗体が参照抗アクチビンA抗体との結合について競合する(又は結合について交差競合する)かを決定するために、上記に記載される結合方法論を2つの向きで実施する。すなわち、第1の向きでは、参照抗体を飽和条件下でアクチビンAタンパク質(又はβAサブユニットを含む二量体)と結合させておいた後、アクチビンA分子との試験抗体の結合を評価する。第2の向きでは、試験抗体を、飽和条件下でアクチビンAと結合させ、続いてアクチビンAに対する参照抗体の結合を評価する。両方の向きのうち、第1の(飽和)抗体のみがアクチビンA分子に結合することができる場合、試験抗体及び参照抗体は、アクチビンAへの結合について競合すると結論付けられる。当業者によって認識されるであろうように、参照抗体との結合について競合する抗体は、必ずしも参照抗体と同一のエピトープに結合する必要はない場合があるが、重複している又は隣接しているエピトープに結合することによって、参照抗体の結合を立体的に遮断する可能性がある。
【0104】
本発明の抗アクチビンA抗体は、アクチビンII型受容体に対する結合部位内又はその近傍のアクチビンA上のエピトープに結合し、アクチビンAとアクチビンII型受容体との間の相互作用を直接遮断し、アクチビンAとアクチビンI型受容体との間の相互作用を間接的に遮断し得る。本発明の抗アクチビンA抗体は、アクチビンI型受容体に対する結合部位内又はその近傍のアクチビンA上のエピトープに結合し、アクチビンAとアクチビンI型受容体との間の相互作用を直接遮断し得る。本発明の一実施形態では、アクチビンI型受容体結合部位又はその近傍でアクチビンAに結合する本発明の抗アクチビンA抗体は、アクチビンAとアクチビンA II型受容体との間の相互作用を遮断しない。
【0105】
ヒト抗体の調製
完全ヒトモノクローナル抗体を含むモノクローナル抗体を生成するための方法は、当該技術分野で既知である。ヒトアクチビンAに特異的に結合するヒト抗体を作製するために、何らかのこのような既知の方法を本発明の背景において使用することができる。
【0106】
例えば、VELOCIMMUNE(商標)技術、又は完全ヒトモノクローナル抗体を生成するための任意の他の既知の方法を使用して、ヒト可変領域及びマウス定常領域を有するヒトアクチビンAに対する高親和性キメラ抗体を最初に単離する。後述する実験セクションに記載のように、抗体を、親和性、選択性、エピトープなどを含む望ましい特徴について特徴付けし選択する。必要ならば、マウス定常領域を所望のヒト定常領域、例えば、野生型又は修飾IgG1若しくはIgG4と置き換えて、完全ヒト抗アクチビンA抗体を生成する。選択される定常領域は特異的用途に応じて変化し得るが、高親和性抗原結合特徴及び標的特異性特徴は、可変領域に存在する。ある特定の例では、完全ヒト抗アクチビンA抗体は、抗原陽性B細胞から直接単離される。
【0107】
生物学的等価物
本発明の抗アクチビンA抗体及び抗体断片は、記載される抗体のものとは異なるアミノ酸配列を有するが、アクチビンAに結合する能力を保持しているタンパク質を包含する。かかる変異抗体及び抗体断片は、親配列と比較して、アミノ酸の1つ以上の付加、欠失、又は置換を含むが、記載される抗体のものと本質的に同等である生物学的活性を示す。同様に、本発明の抗アクチビンA抗体をコードするDNA配列は、開示された配列と比較して、ヌクレオチドの1つ以上の付加、欠失、又は置換を含むが、本発明の抗アクチビンA抗体又は抗体断片と本質的に生物学的に等価である抗アクチビンA抗体又は抗体断片をコードする配列を包含する。そのような変異体アミノ酸及びDNA配列の例は、上で議論されている。
【0108】
2つの抗原結合タンパク質又は抗体は、例えば、それらが類似の実験条件下で単回用量又は複数回用量のいずれかで同じモル用量で投与された場合に、吸収速度及び吸収の程度が有意差を示さない医薬的等価物又は医薬的選択肢である場合、生物学的等価物とみなされる。いくつかの抗体は、これらの吸収の程度において等価であるが、吸収速度は等価ではなく、また吸収速度のそのような差が意図的であり、かつ標識する際に反映されているため生物学的に等価とみなされ得る場合、等価物又は医薬代替物とみなされ、例えば長期使用に及ぼす有効な身体薬物濃度の達成に必須ではなく、かつ研究される特定の薬物生成物にとって医学的に有意ではないとみなされる。
【0109】
一実施形態では、2つの抗原結合タンパク質は、これらの安全性、純度、又は有効性において臨床的に有意性のある差がない場合、生物学的に等価である。
【0110】
一実施形態では、2つの抗原結合タンパク質は、免疫原性の臨床的に有意な変化又は有効性の減退を含む有害作用のリスクの期待される上昇なしで参照生成物と生物学的生成物との間での切り替えなしで持続される療法と比較して、患者が1回以上切り替えられることができる場合、生物学的に等価である。
【0111】
一実施形態では、2つの抗原結合タンパク質は、これらが両方とも、条件又は使用条件についての共通の機序又は作用機序によって、このような機序が既知である程度まで作用する場合、生物学的に等価である。
【0112】
生物学的等価性は、インビボ及びインビトロの方法によって実証され得る。生物学的等価性尺度には、例えば、(a)抗体又はその代謝産物の濃度が、血液、血漿、血清、又は他の生物学的流体において時間の関数として測定される、ヒト又は他の哺乳動物におけるインビボ試験、(b)ヒトインビボバイオアベイラビリティデータと相関しており、かつ合理的に予測的なインビトロ試験、(c)抗体(又はその標的)の適切な急性薬理効果を時間の関数として測定する、ヒト又は他の哺乳動物におけるインビボ試験、及び(d)抗体の安全性、有効性、又はバイオアベイラビリティ若しくは生物学的等価性を確立する十分に制御された臨床試験が含まれる。
【0113】
本発明の抗アクチビンA抗体の生物学的に等価な変異体は、例えば、残基若しくは配列の様々な置換を生じさせること、又は生物活性に必要とされない末端若しくは内部の残基若しくは配列を欠失させることによって構築され得る。例えば、生物学的活性にとって必須ではないシステイン残基は、再生の際の不必要又は不正確な分子内ジスルフィド架橋の形成を防止するために、欠失又は他のアミノ酸で置換することができる。他の背景では、生物学的に等価の抗体には、抗アクチビンA抗体のグリコシル化特徴を修飾するアミノ酸変化、例えばグリコシル化を排除又は除去する変異を含む、抗体変異体が含まれ得る。
【0114】
種の選択性及び種の交差反応性
本発明は、ある特定の実施形態によると、ヒトアクチビンAに結合するが、他の種由来のアクチビンAには結合しない抗アクチビンA抗体を提供する。本発明にはまた、ヒトアクチビンA及び1つ以上の非ヒト種由来のアクチビンAに結合する抗アクチビンA抗体が含まれる。例えば、本発明の抗アクチビンA抗体は、ヒトアクチビンAに結合し得、いくつかの場合では、マウス、ラット、モルモット、ハムスター、アレチネズミ、ブタ、ネコ、イヌ、ウサギ、ヤギ、ヒツジ、ウシ、ウマ、ラクダ、カニクイザル、マーモセット、アカゲザル又はチンパンジーのアクチビンAのうちの1つ以上に結合得るか、又は結合し得ない。本発明の特定の例示的な実施形態によれば、ヒトアクチビンA(例えば、アクチビンA又はβAサブユニット含有ヘテロ二量体)及びカニクイザル(例えば、Macaca fascicularis)アクチビンAに特異的に結合する抗アクチビンA抗体が提供される。
【0115】
多重特異性抗体
本発明の抗体は、単一特異性、二重特異性、又は多重特異性であってもよい。多重特異性抗体は、1つの標的ポリペプチドの異なるエピトープに特異的であり得るか、又は2つ以上の標的ポリペプチドに特異的な抗原結合ドメインを含有し得る。例えば、Tutt et al.,J Immunol 147:60-69 (1991)、Kuferら,Trends Biotechnol 22:238-244(2004)を参照。本発明の抗アクチビンA抗体は、別の機能性分子、例えば、別のペプチド又はタンパク質に連結するか、又はそれと同時発現させることができる。例えば、抗体又はその断片は、別の抗体又は抗体断片などの1つ以上の他の分子実体に(例えば、化学結合、遺伝的融合、非共有結合、若しくは他の方法により)機能的に連結されて、第2の結合特異性を有する二重特異性抗体又は多重特異性抗体を産生することができる。例えば、本発明には、免疫グロブリンの一方のアームがヒトアクチビンA又はその断片に特異的であり、免疫グロブリンの他方のアームが第2の治療標的に特異的であるか、又は治療部分にコンジュゲートしている、二重特異性抗体が含まれる。本発明の一実施形態は、免疫グロブリンの一方のアームがヒトアクチビンA又はその断片に特異的であり、免疫グロブリンの他方のアームがGDF8に特異的である二重特異性抗体を含む。
【0116】
本発明の文脈において使用することのできる例示的な二重特異性抗体フォーマットは、第1の免疫グロブリン(Ig)CH3ドメイン及び第2のIgCH3ドメインの使用を包含し、第1及び第2のIgCH3ドメインは、少なくとも1つのアミノ酸ほど互いに異なっており、少なくとも1つのアミノ酸の相違は、このアミノ酸の相違を欠失する二重特異性抗体と比較して、プロテインAへの二重特異性抗体の結合を低減させる(例えば、全内容を参照により本明細書に組み込む米国特許第8,586,713号明細書を参照)。一実施形態では、第1のIg CH3ドメインは、プロテインAに結合し、第2のIg CH3ドメインは、H95R修飾(IMGTエクソン番号付けによるもの、EU番号付けによるH435R)などのプロテインA結合を減少又は消失させる突然変異を含む。第2のCH3は、Y96F修飾(IMGTによるもの、EUによるY436F)を更に含み得る。第2のCH3内に見出され得る更なる改変としては、IgG1抗体の場合、D16E、L18M、N44S、K52N、V57M、及びV82I(IMGTによるもの、EUによるD356E、L358M、N384S、K392N、V397M、及びV422I)、IgG2抗体の場合、N44S、K52N、及びV82I(IMGTによるもの、EUによるN384S、K392N、及びV422I)、並びにIgG4抗体の場合、Q15R、N44S、K52N、V57M、R69K、E79Q、V82I、及びL105P(IMGTによるもの、EUによるQ355R、N384S、K392N、V397M、R409K、E419Q、V422I、及びL445P)を更に含み得る。上記に記載される二重特異性抗体フォーマットの変形は、本発明の範囲内で熟慮される。
【0117】
本発明の背景において使用することができる他の例示的な二重特異性フォーマットには、例えば、scFv系フォーマット又はダイアボディ二重特異性フォーマット、IgG-scFv融合、二重可変ドメイン(dual variable domain、DVD)-Ig、Quadroma、ノブズ-イントゥ-ホールズ(knobs-into-holes)、共通の軽鎖(例えば、ノブズ-イントゥ-ホールズを有する共通の軽鎖など)、CrossMab、CrossFab、(SEED)ボディ、ロイシンジッパー、Duobody、IgG1/IgG2、二重作用型Fab(DAF)-IgG、及びMab2二重特異性フォーマットが含まれるが、これらに限定されない(上述のフォーマットの総説については、例えば、Klein et al.,mAbs 4:6,1-11 (2012)、及びそこに引用されている参考文献を参照されたい)。二重特異性抗体はまた、ペプチド/核酸接合を使用して構築することもでき、例えば、直交化学反応性を有する非天然アミノ酸を使用して、部位特異性抗体-オリゴヌクレオチド抱合体を生成し、これが次に、定義される組成物、原子価、及び幾何学的形状を有する多量体複合体へと自己集合する。(例えば、Kazane et al.,J Am Chem Soc.135(1):340/346(2013)を参照)。
【0118】
治療製剤及び投与
本発明の方法において使用される抗アクチビンA抗体(又は他の抗アクチビンA特異的アンタゴニスト)は、1つ以上の薬学的に許容される担体、賦形剤、又は希釈剤を用いた薬学的組成物における投与のために製剤化され得る。薬学的組成物は、適切な担体、賦形剤、及び改善された移動、送達、耐性などをもたらす他の薬剤とともに製剤化される。多くの適切な製剤は、薬剤師全員に既知の処方集:Remington’s Pharmaceutical Sciences,Mack Publishing Company,Easton,PAにおいて認めることができる。これらの製剤には、例えば、粉末、ペースト、軟膏、ゼリー、ワックス、油、脂質、ベシクル(LIPOFECTIN(商標)、Life Technologies、Carlsbad、CAなど)を含む脂質(カチオン性又はアニオン性)、DNA複合体、無水吸収ペースト、水中油エマルション及び油中水エマルション、エマルションカーボワックス(様々な分子量のポリエチレングリコール)、半固体ゲル、並びにカーボワックスを含む半固体混合物が含まれる。Powell et al.「Compendium of excipients for parenteral formulations」 PDA,J Pharm Sci Technol 52:238-311(1998)も参照されたい。
【0119】
患者に投与される抗体の用量は、患者の年齢及び体格、標的疾患、状態、投与経路などに応じて変わり得る。好ましい用量は、典型的には体重又は体表面積に従って計算される。本発明の抗体が成人患者におけるアクチビンAの活性に関連する症状又は疾患を治療するために使用される場合、本発明の抗体を通常は約0.01~約20mg/kg体重、より好ましくは約0.02~約7、約0.03~約5、又は約0.05~約3mg/kg体重の単回投与で投与することが有利であり得る。いくつかの実施形態では、用量は3mg/kgである。いくつかの実施形態では、用量は10mg/kgである。容態の重篤度に応じて、治療の頻度及び期間を調整することができる。「重症」の疾患(例えば、COVID-19)の患者は、鼻カニューレ、単純なフェースマスク、又は他の同様の酸素送達デバイスによる酸素補給の投与を必要とする。「最重症」の疾患(例えば、COVID-19)の患者は、高流量鼻カニューレの非再呼吸マスクによって送達される酸素補給、又は侵襲的若しくは非侵襲的換気の使用を必要とするか、又は集中治療室での治療を必要とする。抗アクチビンA抗体を投与するための有効投与量及びスケジュールは、実験的に決定され得、例えば、患者の進行は、定期的な評価によってモニタリングされ得、それに応じて用量が調整される。更に、投与量の種間スケーリングは、当該技術分野において周知の方法を用いて実施することができる(例えば、Mordenti et al.,Pharmaceut Res 8:1351(1991))。
【0120】
様々な送達系が既知であり、本発明の薬学的組成物を投与するために使用することができ、例えば、リポソーム封入、マイクロ粒子、マイクロカプセル、本発明の抗体又は他の治療用タンパク質を発現することができる組換え細胞、受容体媒介エンドサイトーシスである(例えば、Wu et al.,J Biol Chem 262:4429-4432(1987)を参照されたい)。本発明の抗体及び他の治療活性成分はまた、遺伝子療法技術によって送達され得る。導入方法には、皮内経路、筋肉内経路、腹腔内経路、静脈内経路、皮下経路、鼻腔内経路、硬膜外経路及び経口経路が含まれるが、これらに限定されない。組成物は、任意の好都合な経路によって、例えば、注入若しくはボーラス注射によって、上皮若しくは粘膜皮膚内層(linings)(例えば、口腔粘膜、直腸、及び腸粘膜など)を介した吸収によって投与することができ、かつ他の生物学的に活性な薬剤と一緒に投与することができる。投与は全身又は局所であり得る。
【0121】
薬学的組成物は、標準的な針及び注射器を用いて皮下に又は静脈内に送達することができる。加えて、皮下送達に関して、ペン型送達デバイスは、本発明の薬学的組成物を送達する際の適用を容易にする。このようなペン型送達デバイスは、再利用可能又は使い捨て可能であり得る。再利用可能なペン型送達デバイスは、概して、薬学的組成物を含む交換可能なカートリッジを利用する。一度、カートリッジ内の薬学的組成物が全て投与され、カートリッジが空になると、この空のカートリッジは容易に廃棄することができ、薬学的組成物を含む新しいカートリッジと容易に交換することができる。次に、ペン型送達デバイスは再利用することができる。使い捨てのペン型送達デバイスにおいて、交換可能なカートリッジは存在しない。むしろ、使い捨てペン型送達デバイスは、このデバイス内の貯蔵器の中に保持された薬学的組成物が事前に充填されている。貯蔵器から薬学的組成物が空になると、デバイス全体が廃棄される。
【0122】
数多くの再利用可能なペン型及び自動注射送達デバイスは、本明細書で考察される薬学的組成物の皮下送達の用途を有する。例としては、AUTOPEN(商標)(Owen Mumford,Inc.,Woodstock,UK)、DISETRONIC(商標)ペン(Disetronic Medical Systems,Bergdorf,Switzerland)、HUMALOG MIX 75/25(商標)ペン、HUMALOG(商標)ペン、HUMALIN 70/30(商標)ペン(Eli Lilly and Co.,Indianapolis,IN)、NOVOPEN(商標)I、II及びIII(Novo Nordisk,Copenhagen,Denmark)、NOVOPEN JUNIOR(商標)(Novo Nordisk,Copenhagen,Denmark)、BD(商標)ペン(Becton Dickinson,Franklin Lakes,NJ)、OPTIPEN(商標)、OPTIPEN PRO(商標)、OPTIPEN STARLET(商標)、及びOPTICLIK(商標)(sanofi-aventis,Frankfurt,Germany)が挙げられるが、これらに限定されず、ほんの数種類しか挙げていない。本発明の薬学的組成物の皮下送達での用途を有する使い捨てペン型送達デバイスの例としては、SOLOSTAR(商標)ペン(Sanofi-Aventis)、FLEXPEN(商標)(Novo Nordisk)、及びKWIKPEN(商標)(Eli Lilly)、SURECLICK(商標)自動注射器(Amgen、Thousand Oaks,CA)、PENLET(商標)(Haselmeier、Stuttgart,Germany)、EPIPEN(Dey,L.P.)及びHUMIRA(商標)ペン(Abbott Labs、Abbott Park IL)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0123】
ある特定の状況において、薬学的組成物は、徐放系で送達することができる。一実施形態では、ポンプを使用することができる(Langer、上記、Sefton,CRC Crit.Ref.Biomed.Eng.14:201 (1987)を参照されたい)。別の実施形態では、ポリマー材料を使用することができる。Medical Applications of Controlled Release,Langer and Wise(eds.),1974,CRC Pres.,Boca Raton,Floridaを参照されたい。更に別の実施形態では、徐放系を組成物の標的の近傍に配置することができ、それによって全身用量のほんの一部のみが必要となる(例えば、Goodson,1984,in Medical Applications of Controlled Release、上記、vol.2,pp.115-138を参照されたい)。他の徐放系は、Langer,Science 249:1527-1533(1990)による総説で考察されている。
【0124】
注射可能な調製物には、静脈内注射、皮下注射、皮内注射、及び筋肉内注射、点滴注入などのための剤形が含まれてもよい。これらの注射可能な調製物は、公に知られている方法によって調製され得る。例えば、注射可能な調製物は、例えば、注射用に従来通り使用される滅菌水性媒体又は油性媒体中に上述の抗体又はその塩を溶解、懸濁又は乳化させることによって調製され得る。注射用の水性媒体として、例えば、生理食塩水、グルコース及び他の助剤を含有する等張溶液がある。
【0125】
併用療法
本発明には、本明細書に記載の抗アクチビンA抗体のいずれかを、1つ以上の追加の治療活性成分と組み合わせて使用又は投与することを含む方法が含まれる。いくつかの場合では、本発明の抗アクチビンA抗体はまた、抗ウイルス剤、抗生物質、鎮痛剤、コルチコステロイド、ステロイド、酸素、抗酸化剤、金属キレート剤、IFN-γ、及び/又はNSAIDと組み合わせて投与及び/又は共製剤化され得る。いくつかの場合では、本発明の抗アクチビンA抗体はまた、心不全又は心不全の1つ以上の合併症を治療する、予防する、又はその重篤度を低減するための追加の活性薬剤又は他の支持療法と組み合わせて投与又は使用され得る。いくつかの場合では、追加の活性薬剤又は他の支持療法は、ペースメーカー、移植可能細動除去器、心収縮性調節、心臓再同期療法、補助人工心臓、両室心臓再同期療法、心臓移植、アドレナリン作用性ブロッカー(α遮断薬及びβ遮断薬)、中枢性α-アゴニスト、アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害剤、アンジオテンシン受容体遮断薬、カルシウム拮抗薬、陽性変力薬、血管拡張神経、ベンゾジアゼピン、レニン阻害剤、抗血栓薬、様々なタイプの利尿剤、カプトプリル、エナラプリル、リシノプリル、ベナゼプリル、ラミプリル、ゾフェノプリル、キナプリル、ペリンドプリル(perinodopril)、リシノプリル、ベナゼプリル、イミダプリル、トランドラプリル、シラザプリル及びフォシノプリル、ロサルタン、カンデサルタン、バルサルタン、イルベサルタン、テルミサルタン、エプロサルタン、オルメサルタン、アジルサルタン、フィマサルタン、プロプラノロール、ブシンドロール、カルテオロール、カルベジロール、ラベタロール、ナドロール、オクスプレノロール、ペンブトロール、ピンドロール、ソタロール、チモロール、アセブトロール、アテノロール、ベタキソロール、ビソプロロール、セリプロロール、エスモロール、メトプロロール、ネビボロール、ブタキサミン(butazamine)、ICI-118,551、SR 59230A、フェノキシベンザミン、フェントラミン、トラゾリン、トラゾドン、アルフゾシン、ドキサゾシンメシレート(Cardura及びCarduran)、プラゾシン、タムスロシン、テラゾシン、シロドシン、アチパメゾール(atipanmezole、例えば、アンチセダン)、イダゾキサン、ミルタザピン、ヨヒンビン、アシドーシス性塩(例えば、CaCl2及びNH4Cl)、アルギニンバソプレシン受容体2アンタゴニスト、選択的バソプレッシンV2アンタゴニスト、Na-H交換体アンタゴニスト、炭酸アンヒドラーゼ阻害剤、ループ利尿薬、浸透圧性利尿薬、カリウム保持性利尿薬、サイアザイド、キサンチン、ジヒドロピリジン、アムロジピン、アラニジピン、アゼルニジピン、バルニジピン、ベニジピン、シルニジピン、クレビジピン、イスラジピン、エホニジピン、フェロジピン、ラシジピン、レルカニジピン、マニジピン、ニカルジピン、ニフェジピン、ニルバジピン、ニモジピン、ニソルジピン、ニトレンジピン、プラニジピン、フェニルアルキルアミンカルシウム拮抗薬、ベラパミル、ガロパミル、フェンジリン、ベンゾチアゼピンカルシウム拮抗薬、ジルチアゼム、ミベフラジル、ベプリジル、フルナリジン、フルスピリレン、フェンジリン、ガバペンチノイド、ジコノチド、ジゴキシン、アミオダロン、ベルベリン、レボシメンダン、オメカムチブ、カテコールアミン、エイコサノイド、ホスホジエステラーゼ阻害剤、エノキシモン、ミルリノン、アムリノン、テオフィリン、グルカゴン、インスリン、ニトロフェリシアン化ナトリウム、ヒドララジン、硝酸イソソルビド及びイソソルビドモノニトラート、ニトログリセリン、ベンゾジアゼピン、レニン阻害剤、クロニジン、グアナベンズ、グァンファシン、メチルドパ及びモキソニジン、ミノキシジル、グアネチジン、メカミラミン、レセルピン、不可逆シクロオキシゲナーゼ阻害剤、アデノシン二リン酸受容体阻害剤、クロピドグレル、プラスグレル、チカグレロール及びチクロピジン(ホスホジエステラーゼ阻害剤、シロスタゾール、プロテアーゼ活性化受容体-1アンタゴニスト、ボラパキサール、糖タンパク質阻害剤、アブシキシマブ、エプチフィバチド、チロフィバン、アデノシン再取込み阻害剤、ジピリダモール、トロンボキサン阻害剤、トロンボキサンシンターゼ阻害剤及びトロンボキサン受容体アンタゴニスト、組織プラスミノゲン活性化因子、アルテプラーゼ、レテプラーゼ、テネクテプラーゼ、アニストレプラーゼ、ストレプトキナーゼ、ウロキナーゼ、ダビガトラン、リバロキサバン)、アピキサバン、クマリン、ヘパリン及びその誘導体、因子Xa阻害剤、リバロキサバン、アピキサバン、エドキサバン、べトリキサバン、レタキサバン、エリバキサバン、ヒルジン、レピルジン、ビバリルジン、アルガトロバン、ダビガトラン、キシメラガトラン、アンチトロンビンタンパク質、バトロキソビン、ヘメンチン及びビタミンEからなる群から選択される。いくつかの実施形態では、本発明の抗アクチビンA抗体のいずれも、GDF8阻害剤(例えば、抗GDF8抗体)と組み合わせて投与されてもよくて、及び/又は共製剤化されてもよい。
【0126】
追加の治療活性成分又は支持療法を、本発明の抗アクチビンA抗体の投与前に対象に投与又は使用し得る。例えば、第1の成分が、第2の成分の投与/使用の1週間前、72時間前、60時間前、48時間前、36時間前、24時間前、12時間前、6時間前、5時間前、4時間前、3時間前、2時間前、1時間前、30分前、15分前、10分前、5分前、又は1分未満に投与/使用される場合、第1の成分は、第2の成分の「前に」投与/使用されるとみなされ得る。他の実施形態では、追加の治療活性成分又は支持療法を、本発明の抗アクチビンA抗体の投与後に対象に投与又は使用し得る。例えば、第1の成分が第2の成分の投与/使用の1分後、5分後、10分後、15分後、30分後、1時間後、2時間後、3時間後、4時間後、5時間後、6時間後、12時間後、24時間後、36時間後、48時間後、60時間後、72時間後に投与/使用される場合、第1の成分は、第2の成分の「後に」投与/使用されるとみなされ得る。更に他の実施形態では、追加の治療活性成分又は支持療法を、本発明の抗アクチビンA抗体の投与と同時に対象に投与又は使用し得る。本発明の目的のための「同時」投与には、例えば、対象への抗アクチビンA抗体及び追加の治療活性成分の、単一剤形での、又は互いに約30分以内に対象へ投与される別個の剤形での投与が含まれる。別個の剤形で投与される場合、各剤形は、同じ経路を介して投与され得る(例えば、抗アクチビンA抗体及び追加の治療活性成分の両方が静脈内、皮下、硝子体内などに投与され得る)。あるいは、各剤形は、異なる経路を介して投与され得る(例えば、抗アクチビンA抗体は、局所的に(例えば、硝子体内に)投与され得、追加の治療活性成分は、全身的に投与され得る)。いずれの事象においても、単回剤形で、同じ経路による別個の剤形で、又は異なる経路による別個の剤形でこの成分を投与することは全て、本開示の目的のために、「同時投与」とみなされる。本開示の目的のために、追加の治療活性成分の投与「の前の」、「と同時の」、又は「の後の」抗アクチビンA抗体の投与は、追加の治療活性成分「と組み合わせた」抗アクチビンA抗体の投与と考えられる。
【0127】
本発明には、本発明の抗アクチビンA抗体が、本明細書の他箇所に記載の追加の治療活性成分のうちの1つ以上と共製剤化された医薬組成物が含まれる。
【0128】
投与量
対象に投与され得る活性成分の量(例えば、抗アクチビンA抗体、抗GDF8抗体、又は抗アクチビンA抗体と組み合わせて与えられる他の治療薬、又はアクチビンA及びGDF8に特異的に結合する二重特異性抗体)は、一般に、本明細書の他の箇所で考察されるように、治療有効量である。
【0129】
いくつかの実施形態では、治療有効量は、約0.05mg~約600mg、例えば、約0.05mg、約0.1mg、約1.0mg、約1.5mg、約2.0mg、約10mg、約20mg、約30mg、約40mg、約50mg、約60mg、約70mg、約80mg、約90mg、約100mg、約110mg、約120mg、約130mg、約140mg、約150mg、約160mg、約170mg、約180mg、約190mg、約200mg、約210mg、約220mg、約230mg、約240mg、約250mg、約260mg、約270mg、約280mg、約290mg、約300mg、約310mg、約320mg、約330mg、約340mg、約350mg、約360mg、約370mg、約380mg、約390mg、約400mg、約410mg、約420mg、約430mg、約440mg、約450mg、約460mg、約470mg、約480mg、約490mg、約500mg、約510mg、約520mg、約530mg、約540mg、約550mg、約560mg、約570mg、約580mg、約590mg、約600mg、約610mg、約620mg、約630mg、約640mg、約650mg、約660mg、約670mg、約680mg、約690mg、約700mg、約710mg、約720mg、約730mg、約740mg、約750mg、約760mg、約770mg、約780mg、約790mg、約800mg、約810mg、約820mg、約830mg、約840mg、約850mg、約860mg、約870mg、約880mg、約890mg、約900mg、約910mg、約920mg、約930mg、約940mg、約950mg、約960mg、約970mg、約980mg、約990mg、又は約1000mgの、それぞれの抗体とすることができる。
【0130】
個々の用量に含まれる抗アクチビンA抗体又は他の治療薬の量は、患者の体重1キログラム当たりの抗体のミリグラム単位(すなわち、mg/kg)で表され得る。例えば、抗アクチビンA、抗GDF 8、及び/又は抗アクチビンA/抗GDF 8二重特異性抗体は、患者に、約0.0001~約50mg/kg患者体重(例えば0.1mg/kg、0.5mg/kg、1.0mg/kg、1.5mg/kg、2.0mg/kg、2.5mg/kg、3.0mg/kg、3.5mg/kg、4.0mg/kg、4.5mg/kg、5.0mg/kg、5.5mg/kg、6.0mg/kg、6.5mg/kg、7.0mg/kg、7.5mg/kg、8.0mg/kg、8.5mg/kg、9.0mg/kg、9.5mg/kg、10.0mg/kg、10.5mg/kg、11.0mg/kg、11.5mg/kg、12.0mg/kg、12.5mg/kg、13.0mg/kg、13.5mg/kg、14.0mg/kg、14.5mg/kg、15.0mg/kg、15.5mg/kg、16.0mg/kg、16.5mg/kg、17.0mg/kg、17.5mg/kg、18.0mg/kg、18.5mg/kg、19.0mg/kg、19.5mg/kg、20.0mg/kgなど)の用量で投与し得る。
【0131】
投与レジメン
本発明のある特定の実施形態によれば、複数回用量の有効成分(例えば、抗アクチビンA抗体、抗アクチビンA抗体と組み合わせて投与される抗GDF8抗体、抗アクチビンA抗体と、例えば抗GDF8抗体、又はアクチビンA及びGDF8に特異的に結合する二重特異性抗体を含めた、抗アクチビンA抗体と本明細書で言及される追加の治療活性剤のいずれかとの組み合わせを含む医薬組成物)を、規定の時間経過にわたって対象に投与することができる。本発明のこの態様による方法は、本発明の活性成分の複数回用量を対象に連続的に投与することを含む。本発明で使用する場合、「連続的に投与すること」は、活性成分の各用量が、異なる時点、例えば、所定の間隔(例えば、数時間、数日、数週間、又は数ヶ月)よって分けられた異なる日に、対象に投与されることを意味する。本発明には、活性成分の単回初期用量、続いて活性成分の1回以上の二次用量、続いて任意に活性成分の1回以上の三次用量を患者に連続的に投与することを含む方法が含まれる。
【0132】
「初期用量」、「二次用量」、及び「三次用量」という用語は、活性成分、例えば、本発明の抗アクチビンA抗体、又は本発明の併用療法、例えば、抗アクチビンA抗体及び抗GDF8抗体の投与の時間的順序を指す。したがって、「初期用量」は、治療レジメンの開始時に投与される用量(「ベースライン用量」とも呼ばれる)である。「二次用量」は、初期投与後に投与される用量であり、「三次用量」は、二次用量後に投与される用量である。初期用量、二次用量、及び三次用量は全て、同じ量の活性成分、例えば、抗アクチビンA抗体を含み得るが、概して、投与頻度に関して互いに異なり得る。しかしながら、ある特定の実施形態では、初期用量、二次用量、及び/又は三次用量に含まれる抗アクチビンA抗体の量は、治療経過中、互いに異なる(例えば、必要に応じて増減調整される)。ある特定の実施形態では、2回以上(例えば、2回、3回、4回、又は5回)の用量が治療レジメンの開始時において「負荷用量(loading dose)」として投与され、続いてより低い頻度に基づいて投与される後続用量(例えば、「維持用量」)が投与される。
【0133】
本発明のある特定の例示的な実施形態では、各二次用量及び/又は三次用量は、直前の用量の1~26(例えば、1、11/2、2、21/2、3、31/2、4、41/2、5、51/2、6、61/2、7、71/2、8、81/2、9、91/2、10、101/2、11、111/2、12、121/2、13、131/2、14、141/2、15、151/2、16、161/2、17、171/2、18、181/2、19、191/2、20、201/2、21、211/2、22、221/2、23、231/2、24、241/2、25、251/2、26、261/2以上)週間後に投与される。「直前の用量」という句は、本明細書で使用される場合、一連の複数の投与では、介入用量なく順に直後の用量の投与の前に患者に投与される活性成分、例えば、抗アクチビンA抗体の用量を意味する。
【0134】
本発明のこの態様による方法は、本発明の活性成分、例えば、抗アクチビンA抗体の任意の回数の二次用量及び/又は三次用量を患者に投与することを含み得る。例えば、ある特定の実施形態において、単回の二次用量のみが患者に投与される。他の実施形態では、2回以上(例えば、2回、3回、4回、5回、6回、7回、8回以上)の二次用量が患者に投与される。同様に、特定の実施形態では、単回の三次用量のみが患者に投与される。他の実施形態では、2回以上(例えば、2回、3回、4回、5回、6回、7回、8回以上)の三次用量が患者に投与される。
【0135】
複数回の二次用量を伴う実施形態では、各二次用量は、他の二次用量と同じ頻度で投与され得る。例えば、各二次用量は、直前の投与の1~2週間後又は1~2ヶ月後に患者に投与されてもよい。同様に、複数の三次用量を伴う実施形態では、各三次用量は、他の三次用量と同じ頻度で投与されてもよい。例えば、各三次用量は、直前の用量の2~12週間後に患者に投与され得る。本発明のある特定の実施形態において、二次用量及び/又は三次用量が患者に投与される頻度は、治療レジメンの経過にわたって変わり得る。投与頻度はまた、臨床検査後の個々の患者の必要性に応じて、医師によって治療経過中に調整され得る。
【0136】
本発明は、2~6回の負荷用量が患者に第1の頻度(例えば、1週間に1回、2週間に1回、3週間に1回、1ヶ月に1回、2ヶ月に1回など)で投与され、続いてより少ない頻度で2回以上の維持用量が患者に投与される、投与レジメンを含む。例えば、本発明のこの態様によれば、負荷用量が月に1回の頻度で投与される場合、維持用量は6週間に1回、2ヶ月に1回、3ヶ月に1回などで患者に投与されてもよい。
【0137】
キット
本発明は更に、包装材料、容器、及び容器内に含まれる医薬品を含む製造品又はキットを提供し、医薬品は、少なくとも1つのアクチビンAアンタゴニスト(例えば、抗アクチビンA抗体)を含み、包装材料は、使用(例えば、心機能障害又は心不全を治療するための抗アクチビンA抗体の例えば使用)の使用説明及び指示を示すラベル又は添付文書を含む。
【実施例】
【0138】
以下の実施例は、本発明の方法及び組成物をどのように作製及び使用するかに関する完全な開示及び説明を当業者に提供するために提示されており、本発明者らが本発明とみなすことの範囲を限定することを企図するものではない。使用される数値(例えば、量、温度など)に関して正確性を確保するための努力はなされたが、ある程度の実験上の誤差及び偏差が考慮されるべきである。別段示されない限り、部は重量部であり、分子量は平均分子量であり、温度は摂氏度であり、圧力は大気圧又はそれに近い圧力である。
【0139】
実施例1.アクチビンAに対するヒト抗体の生成
アクチビンAタンパク質(インヒビン-βA二量体)を含む免疫原を、ヒト免疫グロブリン重鎖及びカッパ軽鎖可変領域をコードするDNAを含むVELOCIMMUNE(登録商標)マウスに、免疫応答を刺激するためのアジュバントとともに直接投与した。抗体の免疫応答を、アクチビンA特異的免疫測定法によってモニタリングした。所望の免疫応答が達成されたとき、脾細胞を採取し、マウス骨髄腫細胞と融合させて、それらの生存率を維持し、ハイブリドーマ細胞株を形成した。ハイブリドーマ細胞株をスクリーニング及び選択して、アクチビンA特異的抗体を産生する細胞株を同定した。この技法を使用して、いくつかの抗アクチビンAキメラ抗体(すなわち、ヒト可変ドメイン及びマウス定常ドメインを有する抗体)を得た。このようにして得られる例示的な抗体は、H2aM10965Nである。その後、キメラ抗体由来のヒト可変ドメインをヒト定常ドメイン上にクローニングして、本明細書に記載の完全ヒト抗アクチビンA抗体を作製した。
【0140】
更に、米国特許出願公開第2007/0280945(A1)号に記載されるように、いくつかの抗アクチビンA抗体を、骨髄腫細胞に融合させることなく抗原陽性B細胞から直接単離した。この方法を使用して、いくつかの完全ヒト抗アクチビンA抗体(すなわち、ヒト可変ドメイン及びヒト定常ドメインを有する抗体)が得られた。このようにして作製した例示的な抗体を以下のように命名した:H4H10423P、H4H10429P、H4H10430P、H4H10432P2、H4H10440P2、H4H10442P2、H4H10436P2、及びH4H10446P2。
【0141】
本実施例の方法に従って産生された例示的な抗アクチビンA抗体の特定の生物学的特性を、以下に示す実施例において詳細に説明する。
【0142】
実施例2.重鎖可変領域及び軽鎖可変領域のアミノ酸配列
表1は、選択された抗アクチビンA抗体に特異的な抗体及びそれらの対応する抗体識別子の重鎖可変領域及び軽鎖可変領域のアミノ酸配列対を記載する。対応する核酸配列識別子を表2に示す。
【0143】
【0144】
【0145】
抗体は、典型的には、本明細書において以下の命名法:Fc接頭辞(例えば、「H1M」、「H2aM」、「H4H」)、続いて数値識別子(例えば、表1及び2に示すように、「10423」、「10424」又は「10426」)、続いて「P」、「P2」、又は「N」接尾辞、に従って記載される。したがって、この命名法によれば、抗体は、本明細書では、例えば、「H4H10423P」、「H4H10432P2」、「H2aM10965N」などと言及され得る。本明細書に使用される抗体名のH1M、H2M、及びH4Hの接頭辞は、抗体の特定のFc領域アイソタイプを示す。例えば、「H2aM」抗体はマウスIgG2a Fcを有するのに対し、「H4H」抗体はヒトIgG4 Fcを有する。当業者によって理解されるように、特定のFcアイソタイプを有する抗体は、異なるFcアイソタイプを有する抗体へ変換することができる(例えば、マウスIgG2a Fcを有する抗体は、ヒトIgG4を有する抗体へ変換することができる、など)が、いずれの事象においても、表1に示す数値識別子によって示される可変ドメイン(CDRを含む)は同じままであることになっており、結合特性はFcドメインの性質にかかわらず、同一又は実質的に類似であると期待される。
【0146】
以下の実施例にて使用される対照構築物
抗アクチビンA対照分子を、比較目的のために以下の実施例に含めた。本明細書において対照1と称される対照抗体は、米国特許第8,309,082号に記載される「A1」の重鎖及び軽鎖可変ドメイン配列を有するヒト抗アクチビンA抗体である。対照2は、米国特許出願第2012/0237521(A1)号においてMOR8159として開示されている抗ヒトアクチビン受容体II型B抗体(抗ActR2B mAb)である。対照3は、R&D Systems(Minneapolis,MN)から購入したマウス抗アクチビンAモノクローナル抗体(カタログ番号MAB3381)である。対照4は、アクチビンIIB型受容体-Fc融合分子(C末端ヒトIgG1 Fc融合タンパク質(NP_001097のE23-P133、続いてGly-Serリンカー、続いてC末端ヒトIgG1 Fc融合物)を用いて産生された可溶性アクチビンRIIB受容体細胞外ドメイン)であり、その配列は配列番号227として示される。
【0147】
実施例3.表面プラズモン共鳴によって決定されるヒトアクチビンAへの抗体結合
リアルタイム表面プラズモン共鳴バイオセンサー(Biacore T200又はBiacore 4000、GE Healthcare Life Sciencesリアルタイム表面プラズモン共鳴バイオセンサー(Biacore T200又はBiacore 4000、GE Healthcare Life Sciences、Piscataway、NJ)アッセイを25℃及び37℃で使用して、選択された精製抗ヒトアクチビンAモノクローナル抗体に対する抗原結合の結合親和性及び速度定数を測定した。マウスFc(接頭辞H2aM)又はヒトFc(接頭辞H4H)のいずれかとして発現される抗体を、それらのそれぞれの抗Fcセンサー表面上に捕捉した(mAb捕捉フォーマット)。Biacore CM5センサーチップへの直接アミンカップリングによって作製された、ヤギ抗マウスIgGポリクローナル抗体(GE Healthcare、#BR-1008-38)又はマウス抗ヒトIgGモノクローナル抗体(GE Healthcare、#BR-1008-39)表面のいずれかに、抗アクチビンA抗体を捕捉した。HBS-EP(10mM HEPES、150mM NaCl、3mM EDTA、0.05%Surfactant P20、pH 7.4)又はPBS-P(10mMリン酸ナトリウム、2.7mM KCl、137mM NaCl、0.02%NaN3、0.05%Surfactant P20、pH 7.4)のいずれかをランニング緩衝液及び試料緩衝液の両方として使用して、動態実験を行った。様々な濃度(50~0.2nMの範囲の4倍希釈)のアクチビンA(R&D Systems、#338-AC-050/CF)、アクチビンB(R&D Systems、#659-AB-025/CF)、アクチビンAB(R&D Systems、#1006-AB-005)、アクチビンAC(R&D Systems、#4879-AC/CF)、又はインヒビンE(Novus Biologicals、#H00083729-P01)のいずれかを捕捉された抗体表面に注入することによって、抗原-抗体会合速度を測定した。抗体-抗原の会合を240秒間モニタリングし、一方、緩衝液中での解離を600秒間モニタリングした。動的会合及び解離の速度定数を、Scrubberソフトウェアバージョン2.0cを使用してデータを処理及びフィッティングすることによって決定した。次いで、結合平衡解離定数(KD)及び解離半減期(t1/2)を、以下のように動態速度定数から計算した:KD(M)=kd/ka及びt1/2(分)=[ln2/(60*kd)]。異なる抗アクチビンAモノクローナル抗体の動的結合パラメータを表3~10に示す。(NB=使用した条件下で結合が観察されなかったNT=試験しなかった)。
【0148】
【0149】
イタリック体のkd値については、これらの実験条件下で分析物の解離は観察されず、したがってkdの値は5.0E-05 s-1に固定された。
【0150】
【0151】
イタリック体のkd値については、これらの実験条件下で分析物の解離は観察されず、したがってkdの値は5.0E-05 s-1に固定された。
【0152】
【0153】
【0154】
【0155】
【0156】
【0157】
【0158】
表3及び4に示されるように、本発明の抗アクチビンA抗体は、25℃で3.18pM未満(すなわち、≦3.18E-12)~745pM(すなわち、7.45E-10)までの範囲のKD値、及び37℃で2.18pM未満(すなわち、≦2.18E-12)~1.77nM(1.77E-09)までの範囲のKD値でアクチビンAに結合した。表5及び6に示されるように、抗アクチビンA抗体のいくつか(すなわち、H4H10432P2、H4H10442P2、H4H10430P2、H4H10446P2、及びH4H10468P2)は、25℃又は37℃でアクチビンBへの測定可能な結合を示さなかった。抗体のいくつかは、25℃で約18.5pM(すなわち、1.85E-11)~33.1nM(すなわち、3.31E-08)(表7)、及び37℃で約44.3pM(すなわち、4.43E-11)~24.2nM(すなわち、2.42E-08)(表8)の範囲のKD値で、アクチビンABへの測定可能な結合を示した。抗体のいくつかは、25℃で約99.7pM(すなわち、9.97E-11)~11.8nM(すなわち、1.18E-08)(表9)、及び37℃で約462pM(すなわち、4.62E-10)~22.5nM(すなわち、2.25E-08)(表10)の範囲のKD値で、アクチビンACへの測定可能な結合を示した。更に、試験した本発明の抗アクチビンA抗体のいずれも、インヒビンEへの測定可能な結合を示さなかった(データ示さず)。
【0159】
実施例4.抗アクチビンA抗体による、アクチビンA媒介性の受容体活性化及びSMAD複合体シグナル伝達の阻害
本明細書において考察される抗アクチビンA抗体を更に特徴付けるために、バイオアッセイを開発して、アクチビンIIA型受容体及びアクチビンIIB型受容体(それぞれ、ActRIIA及びActRIIB)の活性化、並びにその後のアクチビンI型受容体のリン酸化及び活性化を検出した。ActRIIA及びActRIIBとアクチビンとの間の相互作用は、増殖調節、がん細胞の転移及び胚性幹細胞の分化を含む多様な細胞プロセスの誘導をもたらす(Tsuchida,K.et al.,Cell Commun Signal 7:15 (2009))。I型受容体のリン酸化及び活性化は、活性化SMAD複合体を形成するSMAD 2及び3タンパク質のリン酸化をもたらし、遺伝子の転写調節をもたらす。
【0160】
アクチビンのアクチビンII型受容体への結合を介したSMAD複合体シグナル伝達経路の活性化を検出するために、ヒトA204横紋筋肉腫細胞株(ATCC、#HTB-82)を、Smad 2/3-ルシフェラーゼレポータープラスミド(CAGAx12-Luc;Dennler,1998)でトランスフェクトし、A204/CAGAx12-Luc細胞株を作製した。A204/CAGAx12-Luc細胞を、10%ウシ胎児血清(fetal bovine serum、FBS)、ペニシリン/ストレプトマイシン/グルタミン及び250μg/mLのG418を補充したMcCoy’s 5A(Irvine Scientific、#9090)中で維持した。バイオアッセイのために、A204/CAGAx12-Luc細胞を、低血清培地、0.5%FBS及びOPTIMEM(Invitrogen、#31985-070)中、10,000細胞/ウェルで96ウェルアッセイプレート上に播種し、37℃及び5%CO2で一晩インキュベートした。リガンド用量応答を決定するために、アクチビンA(R&D Systems、#338-AC)、アクチビンB(R&D Systems、#659-AB)、アクチビンAB(R&D Systems、#1066-AB)及びアクチビンAC(R&D Systems、#4879-AC/CF)を100~0.002nMまで1:3で連続希釈して細胞に添加し、またアクチビンを含有しない対照を設けた。アクチビンA、アクチビンB、アクチビンAB、及びアクチビンACは、それぞれ99pM、47pM、19pM、及び4.4nMのEC50値でA204/CAGAx12-Luc細胞株を活性化することが観察された。阻害を測定するために、抗体を、100~0.002nM、1000~0.02nM、又は300~0.005nM(適切なアイソタイプ対照抗体を含有するか又は抗体を含有しない対照試料を含む)へと、1:3で連続希釈し、100pMアクチビンA、50pMアクチビンB、30pMアクチビンAB、又は4nMアクチビンACを一定濃度で細胞に添加した。このアッセイにおいて陽性ブロッキング対照として対照4(ActRIIB-hFc;配列番号227)を使用した。37℃及び5%CO2で5.5時間インキュベートした後、OneGlo基質(Promega、#E6051)を添加し、次いでルシフェラーゼ活性をVictor X(Perkin Elmer)機器を使用して検出した。Prism 5ソフトウェア(GraphPad)で非線形回帰(4パラメータロジスティック)を使用して結果を分析した。
【0161】
表11に示すように、本発明の抗アクチビンA抗体は、39pM~3.5nMの範囲のIC50値で100pMのアクチビンAを遮断したが、対照1は83pMのIC50値で遮断した。本発明の抗アクチビンA抗体のサブセットを、アクチビンB、AB、及びACの遮断について試験した。試験した9つの抗体のうち4つは、130pM~100nMの範囲のIC50値で、50pMのアクチビンBを遮断した。アクチビンB遮断について試験された本発明の5つの抗体は、高い抗体濃度でのみ遮断したが、対照1は、測定可能なアクチビンB遮断を示さなかった。試験した本発明の8つの抗体は、100pM~8.2nMの範囲のIC50値で30pMのアクチビンABを遮断したが、対照4は540pMのIC50値で遮断した。1つの抗体、H4H10423Pのみが、アクチビンABの弱い遮断を示した。試験した8つの抗体のうち7つは、580pM~6.5nMの範囲のIC50値で4nMのアクチビンACを遮断したが、対照4は、1.1nMのIC50値で遮断した。1つの抗体H4H10423Pは、アクチビンACのいかなる遮断も実証しなかった。マウスIgG(mIgGアイソタイプ対照)及びヒトIgG(hIgGアイソタイプ対照)陰性対照は両方とも、受容体のリガンド活性化を遮断しなかった。
【0162】
【0163】
A204/CAGAx12-Luc細胞を使用するバイオアッセイは、GDF8(R&D Systems、カタログ番号788-G8/CF)及びGDF11(R&D Systems、カタログ番号1958-GD-010/CF)によっても刺激することができた。アクチビンA抗体によるこれらのリガンドの機能的阻害について試験するために、上記の条件を使用するが、活性化リガンドをGDF8又はGDF11に置き換えてアッセイを実施したところ、それぞれ188pM及び84pMのEC50値が得られた。このアッセイでは、一定濃度の0.50nM GDF8又は0.40nM GDF11による活性化は、対照4によって完全に遮断され、IC50値はそれぞれ298pM及び214pMであった。これらの同じ一定濃度のリガンドを使用して、100nMまでの抗体で試験した場合、アクチビンA抗体、H4H10446P2及びH4H10430PによるGDF8又はGDF11のいずれの阻害も観察されなかった。別の日に、アクチビンA抗体H4H10429P及びH4H10436P2を、一定濃度の250pM GDF8又は250pM GDF11の存在下で、このアッセイにおける阻害について試験し、細胞を150nMまでの試験アクチビンA抗体とともにインキュベートした後、阻害は観察されなかった。このアッセイにおけるGDF8及びGDF11単独は、それぞれ124pM及び166pMのEC50値を示した。これらのデータは、アクチビンA抗体H4H10446P2、H4H10430P、H4H10429P及びH4H10436P2が、GDF8又はGDF11を機能的に阻害しないことを実証する。
【0164】
実施例5.アクチビンA抗体を用いたアクチビンA結合の遮断
選択された抗アクチビンA抗体が、アクチビンAとその受容体であるActRIIB及びActRIIA、並びにその内因性アンタゴニストであるフォリスタチンとの相互作用を遮断する能力を、Biacore 3000機器を使用して測定した。この実験では、対照4(C末端ヒトFcタグ(配列番号227)と共発現されたヒトActRIIB)、C末端ヒトFcタグと共発現されたヒトActRIIA(hActRIIA-Fc;R&D Systems、#340-R2-100)、又はフォリスタチン-288(R&D Systems、#5836-FS-025)を、Biacore CM5センサー表面にアミンカップリングした。5nMの固定濃度のアクチビンA(R&D Systems、#338-AC)を、単独で、又は最終濃度60nM(アクチビンAに対して12倍モル過剰)のアクチビンA抗体、hActRIIA-Fc、hActRIIB-Fc、若しくはアイソタイプ対照抗体と混合して、室温で1時間インキュベートした。次いで、抗体-アクチビンA混合物を、20uL/分の流速で、アミンカップリング対照4、hActRIIA-Fc、又はフォリスタチン-288表面上に注入した。結合シグナル(RU)を注入開始後150秒で測定し、このシグナルを陰性対照参照表面について測定したRU値で減算して、特異的結合シグナルを決定した。各抗アクチビンA抗体の存在下での受容体又はアンタゴニスト表面に対する遊離アクチビンA結合のパーセンテージを、観察された特異的結合シグナルを、抗体の非存在下での5nMアクチビンAからの特異的結合シグナルで割った比として計算した。
【0165】
【0166】
表12に示すように、試験した7つの抗アクチビンA抗体のうちの6つ、並びに対照1及び対照3の両方が、フォリスタチン-288へのアクチンAの結合を遮断した。1つの抗体H4H10423Pは、アクチビンAのフォリスタチン-288への結合を妨げなかった。対照4及びhActRIIA-Fcは、より高い濃度でアクチビンAのフォリスタチン-288への結合を遮断した。
【0167】
【0168】
表13に示すように、試験した7つの抗アクチビンA抗体のうちの4つ、並びに対照1及び対照3の両方が、アクチビンAへのhActRIIA-Fcの結合を遮断した。3つの抗体、H4H10442P2、H4H10446P2、及びH4H10423Pは、アクチビンAのhActRIIA-Fcへの結合を妨げなかった。対照4及びhActRIIA-Fcは、アクチビンAのhActRIIA-Fcへの結合を遮断した。
【0169】
【0170】
表14に示すように、試験した7つの抗アクチビンA抗体のうちの4つ、並びに対照1及び対照3の両方が、アクチビンAのhActRIIB-Fcへの結合を遮断した。2つの抗体、H4H10442P2及びH4H10446P2は、アクチビンAのhActRIIB-Fcへの結合を妨げなかった。1つの抗体、H4H10423Pは、試験した抗体のより高い濃度でアクチビンAのhActRIIB-Fcへの結合を部分的に遮断する能力を示した。hActRIIB-Fc及びhActRIIA-Fcの両方が、アクチビンAのhActRIIB-Fcへの結合を遮断した。
【0171】
実施例6.アクチビンAは、ヒト人工多能性幹細胞由来心筋細胞において上流シグナル伝達を誘導し、心臓ストレス遺伝子を活性化する
ヒト人工多能性幹細胞由来(IPSC)心筋細胞の培養のために、組織培養容器を10μg/mLフィブロネクチン(Thermo Fisher Scientific,Waltham,MA,USA)で、37℃で1時間プレコーティングした。ヒトiPSC-CM(iCell心筋細胞2;Fujifilm Cellular Dynamics,Madison,WI,USA)を製造業者の指示に従って保存し、解凍し、播種した。簡単に説明すると、細胞を急速解凍し(37℃、3分間)、播種培地でゆっくり希釈した。遺伝子発現分析及びリン酸化アッセイのために、12ウェルプレートのウェル当り5×105個の細胞を播種した。インピーダンス、電気生理学、及びカルシウムフラックスアッセイのために、細胞を、ウェル当たり5×104細胞の密度で96ウェルプレートに播種した。細胞を、5%CO2を含む加湿37℃インキュベーター中で維持し、培地を48時間毎に交換した。各実験を開始する前に、細胞の同期した拍動単層が形成されるまで(約10~14日)、細胞を培養液中で維持した。
【0172】
SMADリン酸化の検出のために、細胞を1nMアクチビンA(R&D Systems,Minneapolis,MD,USA)に30分間曝露した。細胞を冷却したリン酸緩衝生理食塩水で2回洗浄し、Halt(商標)Protease and Phosphatase Inhibitor Cocktail(Thermo Fisher Scientific)を補充したRIPA Lysis and Extraction Buffer(Thermo Fisher Scientific)を使用して溶解させた。溶解物を遠心分離し(14,000×g、15分)、Pierce BCAタンパク質定量キット(Thermo Fisher Scientific)を使用して総タンパク質を定量した。細胞溶解物中のタンパク質検出を、キャピラリー電気泳動Wes(商標)System(ProteinSimple,San Jose,CA,USA)のための12-230 kDa Separation Moduleを製造業者の説明書に従って使用して還元条件下で行った。タンパク質試料を5×還元緩衝液で0.5mg/mLの最終濃度に希釈し、変性させ(5分間、95℃)、氷上に置いた。カートリッジプレートを組み立て、遠心分離し(1000×g、5分間)、Wes(商標)装置に入れた。一次抗体は、Cell Signaling Technologies(Danvers,MA,USA)から入手した。ホスホ-SMAD 2(Ser465/467)/SMAD3(Ser423/425)を1:50に希釈し、SMAD2/3を1:50に希釈し、GAPDHを1:100に希釈した。抗ウサギ検出モジュール(ProteinSimple)には、抗体希釈剤、1×抗ウサギ二次抗体、ストレプトアビジン-HRP結合体、及び化学発光検出試薬が供給される。Compassソフトウェア(ProteinSimple)を使用してタンパク質検出を分析し、対象のタンパク質からのピーク化学発光シグナルの曲線下面積及び高さを定量化した。SMAD2/3リン酸化は、1nMアクチビンAに30分間曝露されたiPSC-CMにおいて83%有意に増加した(P<0.001)。阻害性アクチビンA抗体(mAb2;H$H10446P2)は、SMADリン酸化におけるこの増加を遮断した(
図12を参照のこと)。これらのデータは、アクチビンAがiPSC-CMにおいてシグナル伝達を誘導することを示す。
【0173】
遺伝子発現の分析のために、10μLの2×TaqMan Gene Expression Master Mix(Thermo Fisher Scientific)、1μLの20×TaqManプローブ、5μL(10ng)のcDNA、及び4μLの水を含むPCR反応(合計20μL)を、QuantStudio(商標)3 Real-Time PCR System(Thermo Fisher Scientific)上で実施した。サーモサイクラーの設定は以下の通りとした:95℃で15分間、次いで95℃で15秒間を40サイクル、続いて60℃で60秒間。QuantStudio(商標)3機器ソフトウェアによって増幅プロットを作成し、得られたサイクル閾値(Ct)値を導出した。GAPDHを内因性対照として使用した。全てのRT-qPCR分析について、デルタ-デルタCt(2
-ΔΔCt)法(Pfaffl 2001)を使用して、遺伝子発現の相対倍率変化を計算した。アクチビンAへのIPSC心筋細胞の曝露(急性-24時間、又は慢性-6回の治療)は、心臓ストレスの一般的なマーカーである、下流アクチビンAシグナル伝達遺伝子FSTL3(別名FLRG)及びセルピン1(別名PAI-1)、並びに心房性ナトリウム利尿ペプチド(NPPA)及びB型ナトリウム利尿ペプチド(NPPB)の発現を活性化した(
図10を参照)。
【0174】
実施例7.抗アクチビンAは、抗アクチビンA抗体によって遮断されるIPSC-心筋細胞の収縮機能不全及び電気生理学的機能不全を誘導する
CardioExcyte 96(Nanion Technologies,Munich,Germany)、すなわち、生理的培養条件下の無標識環境において心筋細胞の拍動単層のインピーダンス(収縮性)及び細胞外電場電位(EFP)を同時に記録することができるハイブリッドシステムを使用して、iPSC-CMの収縮性(インピーダンス)及び電気生理学を特徴付けた。この試験では、iPSC-CMを、電極を含む96ウェルプレート(NSP-96;Nanion Technologies)に播種し、4時間毎に30秒間記録した。インピーダンス及びEFPデータを、Data Control 96ソフトウェア(Nanion Technologies)を使用して分析した。
【0175】
IPSC-心筋細胞を播種し、培地又は種々の濃度のアクチビンA(R&D Systems)と1回又は連続的に接触させながら、実験全体を通して収縮振幅(インピーダンス)を測定した。
図1Bに示されるように、アクチビンAへのIPSC心筋細胞の長期曝露(6回の治療)は、用量依存的な様式で振幅の低下傾向をもたらした。単回の曝露の最小限の影響が観察された(
図1Aを参照のこと)。
【0176】
上記のように、播種したヒトIPSC心筋細胞を使用して、抗アクチビンA抗体(mAb1;H4H10430P)は、機能障害を防止した。
図2に示すように、mAb1の適用は、アイソタイプ対照と比較して、試験した全ての用量にわたって収縮振幅の減少を防止した。
【0177】
EFP記録のために、細胞外の一過性の電気的活性を測定し、続いて平均拍動を逆転させて心筋細胞の活動電位に類似させた。振幅、ダウンストローク速度(脱分極中の最大勾配)、及び電場電位持続時間(FPDMax:脱分極の最初の偏向と再分極曲線の最大との間の時間)を、各平均拍動について特徴付けた。対照と比較して、アクチビンA(1nM)で慢性的に処理した心筋細胞では、伸長した活動電位が観察された(0.56±0.01対0.49±0.02秒、P<0.01)。25nMの阻害抗体(mAb1)は、この活動電位持続時間の増加を防止したが、アイソタイプ対照抗体は防止しなかった(0.51±0.05対0.56±0.02秒)。アクチビンAへの慢性的曝露は、培地対照と比較して電場電位振幅の減少を引き起こした(48.58±6.52対74.52±11.66μV、P<0.01)。25nMの阻害抗体(mAb1)は、25nMのアイソタイプ対照抗体と比較して、この減少を防止した(85.55±19.82対42.87±2.00μV)。アクチビンAへの曝露はまた、培地対照と比較して、電場電位ダウンストローク速度を減少させた(0.018±0.006対0.034±0.005 V/秒、P<0.001)。アクチビンA+25nMの阻害抗体(mAb1)は、ダウンストローク速度のこの低下を防止したが、25nMのアイソタイプ対照抗体は防止しなかった(0.039±0.009対0.019±0.002 V/秒)(
図13A及び13B参照)。
【0178】
EarlyTox心臓毒性キット(Molecular Devices Molecular Devices,San Jose,CA,USA)を使用して、カルシウムフラックスを評価した。カルシウム色素ローディングは、製造業者の指示に従い行った。EarlyToxカルシウム色素を、供給された緩衝液に再懸濁し、心筋維持培地と1:1の比で細胞に添加した。プレートを2時間(37℃、5%CO2)インキュベートした後、以下のパラメータを使用して、FLIPR Tetra System(Molecular Devices)で37℃で2分間のカルシウムフラックスを記録した:励起:470~495nM、発光:515~575nM、露光時間:50ms、LED強度:50%、インターバル時間:0.1秒。カルシウムフラックスのトレースを得、SoftMax Pro Software(Molecular Devices)を使用して分析した。アクチビンA(1nM)の慢性的な処理は、培地対照と比較して、ピークカルシウムフラックス振幅を減少させ(447±33対609±99 RFU、p<0.05)、カルシウムフラックス下降時間を増加させ(0.70±0.04秒対0.52±0.05秒、p<0.0001)、カルシウムフラックス上昇時間を増加させた(0.40±0.06対0.24±0.03秒、p<0.01)。ピークカルシウム処理振幅は、アクチビンA+アイソタイプ対照抗体で処理した細胞における484±37 RFUと比較して、アクチビンA+阻害抗体(mAb1)で処理した細胞において759±129 RFUであった。アイソタイプ対照抗体と比較した場合、アクチビンA阻害抗体(mAb1)は、カルシウムフラックス下降時間(0.58±0.04対0.75±0.08秒)及び上昇時間(0.27±0.1対0.36±0.05秒)の増加を防止したが、アイソタイプ対照抗体は防止しなかった(
図14A及び14Bを参照されたい)。
【0179】
これらのデータは、高レベルのアクチビンAが心筋細胞に直接作用することができ、心不全及び高齢集団における心機能障害に寄与し得ることを示す。
【0180】
実施例8.アクチビンA、フォリスタチン関連遺伝子(FLRG)及びプラスミノゲン活性化因子阻害因子-1(PAI-1)の血清中レベルは、COVID-19患者において増加し、疾患重篤度と相関する
血清試料をCOVID-19患者から採取し、標準的なプロトコール(R&D Systems)に従いELISAを行い、アクチビンA、FLRG及びPAI-1の濃度を測定した。アクチビンA ELISA試料を1:1に希釈し、FLRG ELISA試料を1:5に希釈した。患者試料を氷上で1日解凍し、凍結融解効果を防ぐために、解凍時に各試料を3つのELISA用に等分した。市販の対照血清を使用して、男性及び女性の血清を含むプレート対照を作製し、これを使用してデータを正規化した。BioTek Synergy Neo2 Multi-Mode ReaderでELISAを読み取った。FLRGデータについては、いずれかの試料が標準曲線を上回った場合、結果を標準曲線の最大量(4000pg/mL)で入力した。
【0181】
疾患重篤度及び酸素投与の必要性によって分類される統計データは、連続変数では中央値(四分位数間範囲:IQR)、及びカテゴリー変数では頻度(パーセント:%)として表した。クラスカル・ウォリス検定を3つ以上の群にわたる連続変数に使用し、ウィルコクソン符号順位検定を2つの群間の連続変数に使用した。フィッシャーの正確確率検定をカテゴリー変数に使用した。追跡Dunnペアワイズ比較(有意なオムニバス結果について)を伴うKruskal Wallis検定を使用して、ベースラインにおける疾患重篤度及び酸素必要性による、アクチビンA、FLRG、及びPAI-1の差異について検定した。死亡率及び臨床スコア改善(≧1ポイント)を含む長期的転帰については、共変量の有無において、ベースラインアクチビンA、FLRG、及びPAI-1(標準化)を予測因子として、ロジスティック回帰モデルを使用した。また、利用可能なイベントまでの時間情報を用いて、これらの長期的な結果変数について、Fine-Gray部分分布ハザードモデルを生成した。対象を、個々の各分析物のベースライン値の中央値分割に基づいてウイルス負荷群(低、高)に分割した。低群に対する高群の亜分布ハザード比(sHR)を、共変量の有無において計算した。全死因死亡率及びイベントまでの臨床スコア改善時間データは、それぞれ60日目及び29日目に打ち切られた。試験中の各結果の発生率を、打ち切り時点で計算した。
【0182】
結果を
図3~9に示すが、これらは、対照と比較した、COVID-19患者におけるアクチビンA、FLRG及びPAI-1の血清中レベルの有意な増加、並びにアクチビンA、FLRG及びPAI-1の血清中レベルと疾患重篤度との間の相関を示すものである。FLRG及びPAI-1はいずれも、アクチビンA経路活性化のバイオマーカーである。
【0183】
アクチビンA及びFLRGのレベルは、それらがICU患者において最も高かったため、最も重度に罹患したCOVID-19患者と相関していた(
図4)。COVID-19患者におけるアクチビンA、FLRG、及びPAI-1のベースラインを用いて、研究登録時の酸素必要性と全死因死亡率との関係を試験した。ベースラインのアクチビンAは、死亡した患者(中央値=547.5pg/mL)よりも生存した患者(中央値=336.8pg/mL)において有意に低かった(p<0.0001)。FLRGについても同じ傾向が観察され、死亡した患者(中央値=17633.6pg/mL)よりも生存した患者(中央値=12141.8pg/mL)において有意に低かった(p<0.0001)。ベースラインPAI-1レベルは、死亡率によって有意に異ならなかった(p=0.52)。
【0184】
ベースラインでの酸素投与状態を、酸素デバイスのタイプに基づいて3つのカテゴリー:低流量、高流量、及び侵襲的人工呼吸(IMV)に階層化した。これら3つの群の間の差を、アクチビンA(H(2)=48.2;p<0.0001)、FLRG(H(2)=37.1;p<0.0001)、及びPAI-1(H(2)=11.3;p=0.0004)について観察した。アクチビンAは、低流量の患者で最も低く(中央値=236.5pg/mL)、高流量の患者でより高く(403.7pg/mL)、IMVの患者で最も高かった(中央値=499.6pg/mL)。しかしながら、アクチビンAは、高流量患者とIMV患者との間で有意に異ならなかった(z=1.8、p>0.0167)。同じ傾向がFLRGについて観察され、これは低流量の患者について最も低く(中央値=9399.0pg/mL)、高流量の患者についてより高く(中央値=14117.1pg/mL)、IMVの患者について最も高かった(中央値=15424.3pg/mL)。全てのペアワイズ比較は有意であった(p<0.0167)。PAI-1はまた、高流量(中央値=17.5ng/mL)及びIMV(中央値=19.2ng/mL)の患者と比較して、低流量(中央値=16.7ng/mL)の患者においてより低かった。しかしながら、PAI-1は、高流量及びIMV(z=1.6、p>0.0167)に加えて、低流量及び高流量(z=2.1、p>0.0167)の患者間で有意に異ならなかった。これらのデータは、アクチビンA及びその経路マーカーであるFLRGが、より高い酸素レベルの必要性と相関するが、PAI-1濃度が、全てのCOVID-19群においてより高いそれにもかかわらず、酸素の必要性の予測とはならないことを示す。ベースライン酸素補給必要性によって群分けされた患者についての検査結果、試験進行及び臨床転帰の概要を、以下の表15に示す。
【0185】
【表15】
注:統計処理では、連続変数については中央値(IQR)として、カテゴリー変数についてはカウント(%)として表す。
【0186】
表15に示すように、COVID-19患者について、アクチビンA及びFLRG(PAI-1などの他の経路マーカーではない)は、より侵襲的な酸素投与の必要性、入院医療に必要な時間、及び死亡の可能性を含む、COVID-19の最悪の転帰の予測となる。
【0187】
COVID-19患者における、アクチビンA及びその経路マーカーFLRGと、酸素投与の必要性及び死亡のリスクとの特有の相関を考慮して、炎症性サイトカインがアクチビンAを誘導する機構を調べた。
【0188】
Cook Myosite Human Skeletal Muscle由来細胞(Cook Myosite Human Skeletal Muscle derived cell、SKMDC)を5日間分化させ、100ng/mlのIL1b又はTNFα及びアクチビンA誘導で同時処理した後、以下の追加処理のそれぞれを行った:DMSO(陰性対照として、ビヒクルのみを含有する)、IKKi(サイトカイン刺激の下流の、Iκキナーゼの阻害剤;3uMウィタフェリンA)、p38i(p38の阻害剤:0.3uM SB203580)、JNKi(Jnkの阻害剤;30uM SP600125)、IKKi+JNKiの組み合わせ、又はp38i+JNKiの組み合わせ、24時間。馴化培地中のアクチビンA濃度をELISAによって定量した。各主要な処理条件内で(IL1b、TNFa)、各同時処理についてのアクチビンA誘導を、ペアワイズ検定を使用してDMSO同時処理と比較した。結果を
図11に示す。有意な(p<0.05)ボンフェローニ補正比較のみを示す。群内で、各ポイントは技術的複製である。DMSO処理と比較して、IL-1又はTNFα処理後のアクチビンA誘導は、IKKi処理細胞において有意に低かった(t(2)=41.4、p=0.0006)。対照的に、JNKi及びp38i+JNKiのいずれかの条件で処理された細胞は、DMSO処理と比較して、アクチビンA誘導の阻害がはるかに少なかった。IKKiを用いた併用治療は、IKKi単独による治療と同様の阻害をもたらした。したがって、IL1及びTNFは、p38又はJnkとは無関係に、IKK/NF-κB経路を介してアクチビンAを誘導し、サイトカインレベル(例えば、IL-1及びTNFα)の増加は、COVID-19患者における酸素補給の必要性の増加及び死亡の危険性と相関する。
【0189】
本発明は、本明細書に記載される具体的な実施形態によって範囲が限定されるべきではない。実際、本明細書に記載されたものに加えて本発明の様々な修正は、前述の記載及び添付の図から当業者には明らかであろう。そのような変更は、添付の特許請求の範囲の範囲内に含まれることが意図されている。
【配列表】
【国際調査報告】