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特表2023-539271植物油組成物のトリグリセリド内の全パルミチン酸のうち少なくとも50%のパルミチン酸がsn2位に存在する植物油組成物を作製するプロセス
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-09-13
(54)【発明の名称】植物油組成物のトリグリセリド内の全パルミチン酸のうち少なくとも50%のパルミチン酸がsn2位に存在する植物油組成物を作製するプロセス
(51)【国際特許分類】
   C11C 3/10 20060101AFI20230906BHJP
   A23L 33/115 20160101ALI20230906BHJP
   A23L 33/105 20160101ALI20230906BHJP
【FI】
C11C3/10
A23L33/115
A23L33/105
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023513597
(86)(22)【出願日】2021-08-26
(85)【翻訳文提出日】2023-04-11
(86)【国際出願番号】 SE2021050829
(87)【国際公開番号】W WO2022045953
(87)【国際公開日】2022-03-03
(31)【優先権主張番号】2051009-5
(32)【優先日】2020-08-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】SE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】515062913
【氏名又は名称】エイエイケイ、アクチボラグ (ピーユービーエル)
【氏名又は名称原語表記】AAK AB (PUBL)
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100102118
【弁理士】
【氏名又は名称】春名 雅夫
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【弁理士】
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100188433
【弁理士】
【氏名又は名称】梅村 幸輔
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【弁理士】
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【弁理士】
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【弁理士】
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100214396
【弁理士】
【氏名又は名称】塩田 真紀
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【弁理士】
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】ヨート イェベ リネゴー
(72)【発明者】
【氏名】ブレンク アネ
【テーマコード(参考)】
4B018
4H059
【Fターム(参考)】
4B018LB07
4B018LE05
4B018MD10
4B018ME14
4B018MF04
4H059BA26
4H059BB02
4H059BC14
4H059CA35
4H059CA38
4H059EA21
(57)【要約】
最終植物油組成物のトリグリセリド内の全パルミチン酸のうち少なくとも50%のパルミチン酸がsn2位に存在する最終植物油組成物を作製するプロセスであって、トリグリセリド内パルミチン酸を含む出発植物油組成物を準備する工程、酵素的エステル交換プロセスを実施する工程、ならびにプロセス中に得られた過剰の遊離脂肪酸および/またはその非グリセリドエステルを使用し、それらをプロセスに戻して再利用する工程を含み、出発植物油組成物中のパルミチン酸の総量のうち少なくとも70重量%が最終植物油組成物中に存在する、プロセスが開示される。本開示のプロセスによって得られる植物油組成物、乳児用調製乳の製造における該植物油組成物の使用、および該植物油組成物を含む乳児用調製乳が、さらに開示される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
最終植物油組成物のトリグリセリド内の全パルミチン酸のうち少なくとも50%のパルミチン酸がsn2位に存在する最終植物油組成物を作製するプロセスであって、トリグリセリド内パルミチン酸を含む出発植物油組成物を準備する工程、酵素的エステル交換プロセスを実施する工程、ならびに該プロセス中に得られた過剰の遊離脂肪酸および/またはその非グリセリドエステルを使用し、それらを該プロセスに戻して再利用する工程を含み、該出発植物油組成物中のパルミチン酸の総量のうち少なくとも70重量%が該最終植物油組成物中に存在する、プロセス。
【請求項2】
(I)加水分解またはアルコーリシスのプロセスを実施し、さらに蒸留を実施し、それによって、少なくともパルミチン酸に富む画分を得る、工程;
(II)該パルミチン酸に富む画分によるグリセロールのエステル化を実施して、少なくともPPP TAGに富む植物油を得る、工程;
(III)該PPP TAGに富む植物油を脂肪酸組成物による酵素的エステル交換プロセスに供し、それによって粗製植物油混和物を得る、工程;
(IV)該粗製植物油混和物を分離して、過剰の遊離脂肪酸および/またはその非グリセリドエステルの混合物と、パルミチン酸がsn2位に存在する前記最終植物油組成物とを得る、工程;
(V)プロセス中に得られた過剰の遊離脂肪酸および/またはその非グリセリドエステルの混合物を使用し、それをプロセスに戻して再利用する、工程
をさらに含む、請求項1記載のプロセス。
【請求項3】
工程(III)の脂肪酸組成物が、C18脂肪酸および/またはその非グリセリドエステルに富む脂肪酸組成物である、請求項2記載のプロセス。
【請求項4】
工程(I)が
(Ia)前記出発植物油組成物を加水分解またはアルコーリシスのプロセスに供して、グリセロールと遊離脂肪酸および/またはその非グリセリドエステルとを得る、工程;
(Ib)該遊離脂肪酸および/またはその非グリセリドエステルを該グリセロールおよび水/アルコールから分離して、遊離脂肪酸および/またはその非グリセリドエステルの混合物を得る、工程;
(Ic)遊離脂肪酸および/またはその非グリセリドエステルの混合物に対して蒸留プロセスを実施して、C18脂肪酸に富む画分とパルミチン酸に富む画分とを得る、工程
を含む、請求項2または3記載のプロセス。
【請求項5】
工程(III)が
(IIIa)工程(II)で得られたPPP TAGに富む植物油に対して蒸留および/または中和のプロセスを実施して、過剰の遊離脂肪酸および/またはその非グリセリドエステルを取り出し;それによって、全トリグリセリドの63重量%~97重量%がトリパルミチンTAGである植物油組成物を得る、工程;
(IIIb)全トリグリセリドの63重量%~97重量%がトリパルミチンTAGである得られた植物油組成物を、C18脂肪酸および/またはその非グリセリドエステルに富む脂肪酸組成物と混合して、第1の混合物を得る、工程;
(IIIc)工程(IIIb)からの該第1の混合物に対して1つまたは複数の1,3位特異的酵素の使用による酵素的エステル交換プロセスを実施し、それによって粗製植物油混和物を得る、工程
を含む、請求項2~4のいずれか一項記載のプロセス。
【請求項6】
前記出発植物油組成物が、トリグリセリド内脂肪酸の総重量と比較して80重量%以下のトリグリセリド内パルミチン酸を含む、前記請求項のいずれか一項記載のプロセス。
【請求項7】
前記プロセス中に得られた過剰の遊離脂肪酸および/またはその非グリセリドエステルを使用し、それらをプロセスに戻して再利用する工程が、工程(IV)から得られた過剰の遊離脂肪酸および/またはその非グリセリドエステルの混合物を使用し、それらを工程(Ic)の混合物に供給することを含む、請求項4~6のいずれか一項記載のプロセス。
【請求項8】
工程(IV)からの過剰の遊離脂肪酸および/またはその非グリセリドエステルの混合物を蒸留プロセスによって分割し、それによって、パルミチン酸(P、C16:0)に富む画分とC18脂肪酸に富む画分とを得、該パルミチン酸に富む画分の少なくとも一部を工程(II)において使用する工程をさらに含む、請求項2~7のいずれか一項記載のプロセス。
【請求項9】
前記C18脂肪酸に富む画分の蒸留プロセスと、該C18脂肪酸に富む画分の少なくとも一部の工程(IIIb)における使用とをさらに含む、請求項8記載のプロセス。
【請求項10】
工程(Ic)からの前記C18脂肪酸に富む画分が工程(IIIb)において使用される、請求項5~9のいずれか一項記載のプロセス。
【請求項11】
工程(Ib)からのグリセロールおよび水/アルコールを分離する工程、ならびに該工程で得られたグリセロールをエステル化工程(II)において使用する工程をさらに含む、請求項4~10のいずれか一項記載のプロセス。
【請求項12】
工程(IIIa)から得られた過剰の遊離脂肪酸および/またはその非グリセリドエステルを使用し、さらにそれらをエステル化工程(II)に供給する工程をさらに含む、請求項5~11のいずれか一項記載のプロセス。
【請求項13】
プロセスの工程のいずれにおいても化学触媒が使用されない、前記請求項のいずれか一項記載のプロセス。
【請求項14】
前記出発植物油組成物が、少なくとも15、例えば少なくとも20、例えば少なくとも25、例えば少なくとも30、例えば少なくとも35、例えば少なくとも40、例えば少なくとも45、例えば少なくとも50、例えば少なくとも55、または例えば少なくとも60のヨウ素価を有する、前記請求項のいずれか一項記載のプロセス。
【請求項15】
前記請求項のいずれか一項記載のプロセスによって得られる、植物油組成物のトリグリセリド内の全パルミチン酸のうち少なくとも50%のパルミチン酸がsn2位に存在する植物油組成物。
【請求項16】
乳児用調製乳の製造またはプラントベース食品の製造における、請求項15記載の植物油組成物のトリグリセリド内の全パルミチン酸のうち少なくとも50%のパルミチン酸がsn2位に存在する植物油組成物の使用。
【請求項17】
植物油組成物のトリグリセリド内の全パルミチン酸のうち少なくとも50%のパルミチン酸がsn2位に存在する植物油組成物を15重量%~100重量%含む、乳児用調製乳。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の技術分野
本発明は、最終植物油組成物のトリグリセリド内の全パルミチン酸のうち少なくとも50%のパルミチン酸がsn2位に存在する最終植物油組成物を作製するプロセスに関する。本発明は、本明細書に開示されるように、本明細書に開示されるプロセスによって得られる、植物油組成物のトリグリセリド内の全パルミチン酸のうち少なくとも50%のパルミチン酸がsn2位に存在する植物油組成物、植物油組成物のトリグリセリド内の全パルミチン酸のうち少なくとも50%のパルミチン酸がsn2位に存在する植物油組成物の使用、および植物油組成物のトリグリセリド内の全パルミチン酸のうち少なくとも50%のパルミチン酸がsn2位に存在する植物油組成物を含む乳児用調製乳にさらに関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
sn2位に多量のパルミチン酸(P)を有する生成物、例えば、OPO(Oはオレイン酸)を作る「伝統的な」プロセスは、例えば、EP1928990 B1(特許文献1)、EP3583857 A1(特許文献2)、EP0209327B1(特許文献3)、およびWO2005/036987(特許文献4)に開示されているように、ある種の高度に分別されたパームステアリンを使用することである。硬質パームステアリンを使用することの利点は、これが出発油中のパルミチン酸の高含量を確実にする手法である点である。このことは、次に、酵素的エステル交換において、より高純度のOPO生成物を獲得するために重要な、sn2位パルミチン酸のより高い含量を確実にする。その欠点は、出発材料として使用される硬質パームステアリンが、所望のヨウ素価(IV)およびsn2位パルミチン酸を獲得するためには、いくつかの処理工程を経なければならない点である。そのため、それは重労働の高価な出発材料であるだけでなく;有機パーム油などの存在量の少ない原材料を使用することが望ましい場合にも問題となる。有機パーム油などの希少な原材料が使用される場合には、出発材料中のパルミチン酸を可能な限り多く利用することが望ましい。硬質パームステアリンを分別する場合、所望のトリグリセリドはPPPである。即ち、POPおよびPOOとして存在するトリグリセリドは全て望ましくなく、従って、大部分が除去される。これらのトリグリセリド内に存在するパルミチン酸は全て失われ、従って、出発材料中のパルミチン酸の最適ではない利用がもたらされる。
【0003】
従って、本発明の主な目的は、多量のパルミチン酸がsn2位に存在する植物油組成物を作製する効率的かつ代替的な手法を提供することである。
【0004】
本発明の別の目的は、出発材料中のパルミチン酸を可能な限り多く利用する手法を提供することである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】EP1928990 B1
【特許文献2】EP3583857 A1
【特許文献3】EP0209327B1
【特許文献4】WO2005/036987
【発明の概要】
【0006】
本発明は、最終植物油組成物のトリグリセリド内の全パルミチン酸のうち少なくとも50%のパルミチン酸がsn2位に存在する最終植物油組成物を作製するプロセス(方法)であって、トリグリセリド内パルミチン酸を含む出発植物油組成物を準備する工程、酵素的エステル交換プロセスを実施する工程、ならびにプロセス中に得られた過剰の遊離脂肪酸および/または非グリセリドエステルを使用し、それらをプロセスに戻して再利用する工程を含み、出発植物油組成物中のパルミチン酸の総量のうち少なくとも70重量%が最終植物油組成物中に存在する、プロセスに関する。
【0007】
本プロセスによって、植物油組成物のトリグリセリド内の全パルミチン酸のうち多量のパルミチン酸がsn2位に存在する植物油組成物を得ることが可能である。
【0008】
本プロセスは、出発油組成物中のパルミチン酸を効率的に利用し、このことは、出発油組成物が、供給量が限定されているもの、例えば、有機パーム油である場合、特に有利である。従って、本プロセスは、限定された供給量および価格を考慮に入れる。本プロセスにおいて、出発植物油組成物中のパルミチン酸の総量のうち少なくとも70重量%が最終植物油組成物中に存在する。
【0009】
本発明は、本発明によるプロセスによって得られる、植物油組成物のトリグリセリド内の全パルミチン酸のうち少なくとも50%のパルミチン酸がsn2位に存在する植物油組成物にも関する。
【0010】
本発明は、乳児用調製乳またはプラントベース食品の製造における、本発明による植物油組成物のトリグリセリド内の全パルミチン酸のうち少なくとも50%のパルミチン酸がsn2位に存在する植物油組成物の使用にさらに関する。プラントベース食品とは、植物由来成分に主に基づく食品を意味するものとする。非植物由来成分の微量の存在は許可される。1つの態様において、プラントベース食品は、植物由来成分から完全に作られ、従って、動物由来成分を含まない。プラントベース食品の一例は、ミルクフリーの乳児用食品である。
【0011】
本発明は、本発明による植物油組成物のトリグリセリド内の全パルミチン酸のうち少なくとも50%のパルミチン酸がsn2位に存在する植物油組成物を15重量%~100重量%含む乳児用調製乳も含む。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施例2のPPPを使用した経時的なTAG生成を示す。
図2】実施例3のPPPを使用した経時的なTAG生成を示す。
図3】実施例4のPOST IV 13を使用した経時的なTAG生成を示す。
図4】本開示の1つの局面によるプロセスのフローチャートを示す。
図5】本開示の1つの局面によるプロセスのフローチャートを示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
定義
他に定義されない限り、本明細書において使用される(技術用語および科学用語を含む)全ての用語は、本発明が関係する技術分野の当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。一般的に使用される辞書において定義されているものなどの用語は、関連技術分野に関するそれらの意味と一致する意味を有するものとして解釈されるべきであり、本明細書において明示的にそのように定義されない限り、理想的な、または過度に正式な意味で解釈されないことが、さらに理解されるであろう。
【0014】
本明細書において使用されるように、「植物性」という用語は、植物または単細胞生物に由来するものと理解される。従って、植物油または植物性トリグリセリドは、該トリグリセリドまたは油を得るために使用される全ての脂肪酸が、植物または単細胞生物に由来する場合にも、植物油または植物性トリグリセリドとして理解されるべきである。
【0015】
飽和脂肪酸とは、最大数の水素原子が鎖内の各炭素原子に付着している、単結合によってつながれた炭素原子の鎖である。不飽和脂肪酸とは、水素原子の割り当てが完全には付着していない、単結合および変動する数の二重結合によってつながれた炭素原子の鎖である。不飽和脂肪酸は、シス型およびトランス型という2つの形態で存在し得る。二重結合は、トランスまたはシスの2つの可能な配置のうちの1つを示すことができる。トランス配置(トランス脂肪酸)においては、炭素鎖が二重結合の反対側から伸び、一方、シス配置(シス脂肪酸)においては、炭素鎖が二重結合の同じ側から伸びる。
【0016】
CXという命名法の使用は、脂肪酸がX個の炭素原子を含むことを意味し、例えば、C14脂肪酸は14個の炭素原子を有し、C8脂肪酸は8個の炭素原子を有する。
【0017】
CX:Yという命名法の使用は、脂肪酸がX個の炭素原子およびY個の二重結合を含むことを意味し、例えば、C14:0脂肪酸は14個の炭素原子および0個の二重結合を有し、C18:1脂肪酸は18個の炭素原子および1個の二重結合を有する。
【0018】
本明細書において使用されるように、「C18」には、ステアリン酸(St)であるC18:0、オレイン酸(O)であるC18:1、リノール酸(LiまたはL)であるC18:2、およびリノレン酸(Ln)であるC18:3が含まれる。従って、「C18脂肪酸および/またはその非グリセリドエステルに富む脂肪酸組成物」および「C18脂肪酸に富む画分」にも、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、およびリノレン酸のうちの1つまたは複数が含まれる。
【0019】
パルミチン酸(C16:0)に富む画分とは、画分の少なくとも85重量%がパルミチン酸であることを意味する。
【0020】
C18に富む画分とは、画分の少なくとも70重量%がC18であることを意味する。
【0021】
分別蒸留とは、沸点に基づく脂肪酸の分離を意味する。分別蒸留の詳細な説明については、Steven C. Cermak, Roque L. Evangelista and James A. Kenar(2012). Distillation of Natural Fatty Acids and Their Chemical Derivatives,Distillation - Advances from modelling to Applications,Dr.Sina Zereshki (Ed.), ISBN:978-953-51-0428-5を参照すること。
【0022】
本明細書において使用されるように、「%」または「百分率」は、他に示されない場合、重量百分率、即ち、wt%またはwt.-%に関する。
【0023】
本明細書において、「油」および「脂肪」は、他に特記されない限り、交換可能に使用される。
【0024】
本明細書において、「植物油」および「植物性脂肪」は、他に特記されない限り、交換可能に使用される。
【0025】
本明細書において使用されるように、「単細胞油」という用語は、酵母、カビ(真菌)、細菌、および微細藻類の種である油性微生物に由来する油を意味する。これらの単細胞油は、細胞内で、大部分の場合、特定の増殖条件(例えば、窒素が制限されており、同時に炭素源が過剰である条件)で、定常増殖期に産生される。油性微生物の例は、モルチエレラ・アルピネア(Mortierella alpineea)、ヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)、シゾキトリウム(Schizochytrium)、ナンノクロロプシス(Nannochloropsis)、クロレラ(Chlorella)、クリプテコジニウム・コーニ(Crypthecodinium cohnii)、およびシュワネラ(Shewanella)であるが、これらに限定されるわけではない。
【0026】
食品とは、人間が消費するための製品である。
【0027】
プラントベース食品とは、植物由来成分に主に基づく食品を意味するものとする。非植物由来成分の微量の存在は許可される。1つの態様において、プラントベース食品は、植物由来成分から完全に作られ、従って、動物由来成分を含まない。プラントベース食品の一例は、ミルクフリーの乳児用食品である。
【0028】
本明細書において使用されるように、トリグリセリド組成物、油、または脂肪とは、同じものを意味し、モノグリセリドおよびジグリセリドなどの他のアシルグリセロールが存在してもよいが、該組成物の大部分はトリグリセリドであることが理解されるべきである。
【0029】
「含む(comprising)」、「含む(to comprise)」、または「含有する(contains)」という用語は、記述された部分、工程、特色、または成分の存在を指定するものとして解釈されるべきであるが、1つまたは複数の付加的な部分、工程、特色、または成分の存在を排除するものではない。
【0030】
本明細書において使用されるように、「および/または」という用語は、合同的な使用(「および」)および排他的な使用(「または」)を意味するものとし、即ち、「Aおよび/またはB」は、「Aのみ、またはBのみ、またはAおよびBの両方」を意味するものとする。
【0031】
発明の詳細な説明
ある要素に関して「含む(comprising)」、「有する(having)」、「含む(including)」、または「含有する(containing)」などの用語を使用した本発明の局面または態様の本明細書における記載は、他に記述されない限り、または前後関係によって明確に否定されない限り、その特定の要素「からなる」、「から本質的になる」、または「を実質的に含む」本発明の類似した局面または態様についての支持を提供するものとし、例えば、ある特定の要素を含むと本明細書に記載される組成物は、他に記述されない限り、または前後関係によって明確に否定されない限り、その要素からなる組成物も記載していると理解されるべきである。「含む(comprises)」、「含む(comprising)」、「含む(includes)」、および/または「含む(including)」という用語は、本明細書において使用される場合、記述された特色、整数、工程、操作、要素、および/または成分の存在を指定するが、1つまたは複数の他の特色、整数、工程、操作、要素、成分、および/またはそれらの群の存在または付加を排除するものではないことが、さらに理解されるであろう。
【0032】
本明細書において提供される任意の全ての例、または例示的な語(例えば、「などの」)の使用は、本発明をより明確にするためのものに過ぎず、特許請求の範囲に他に記載されない限り、本発明の範囲を限定するものではない。本明細書中のいかなる語も、特許請求の範囲に記載されていない要素を、本発明の実施に必須のものとして示していると解釈されるべきではない。
【0033】
本発明は、最終植物油組成物のトリグリセリド内の全パルミチン酸のうち少なくとも50%のパルミチン酸がsn2位に存在する最終植物油組成物を作製するプロセス(方法)に関し、ここで、当該プロセスは、トリグリセリド内パルミチン酸を含む出発植物油組成物を準備する工程、酵素的エステル交換プロセスを実施する工程、ならびにプロセス中に得られた過剰の遊離脂肪酸および/またはその非グリセリドエステルを使用し、それらをプロセスに戻して再利用する工程を含み、出発植物油組成物中のパルミチン酸の総量の少なくとも70重量%が最終植物油組成物中に存在する。
【0034】
一般に、トリグリセリドは、立体特異的番号付けを表す「sn」表記を使用する。天然L-グリセロール誘導体のフィッシャー投影式においては、第2ヒドロキシル基がC-2の左側に示され;次いで、その上の炭素原子がC-1となり、下の炭素原子がC-3となる。接頭辞「sn」は、化合物の語幹名の前に置かれる。
【0035】
sn1/sn2/sn3:
【0036】
本プロセスは、出発植物油組成物と比較して、sn2位パルミチン酸の増加をもたらし、即ち、最終植物油組成物のトリグリセリド内のsn2位(トリグリセリドの中央の位置)にあるパルミチン酸の含量が、出発植物油組成物中の同位置にあるパルミチン酸の含量と比較した場合に増加する。
【0037】
1つまたは複数の態様において、プロセス中に得られた過剰の遊離脂肪酸および/またはその非グリセリドエステルを、数回、プロセスに戻して再利用することができるよう、即ち、前回のラン中に得られた過剰の遊離脂肪酸および/またはその非グリセリドエステルが今回のランにおいて使用され、それによって、次回のランにおいて使用するための新しい過剰の遊離脂肪酸および/またはその非グリセリドエステルが得られ、その後も同様であるよう、プロセスを数回(例えば、4、5、6、7、または8サイクル)実行することができる。
【0038】
プロセス中に得られた過剰の遊離脂肪酸および/またはその非グリセリドエステルを使用し、それらをプロセスに戻して再利用することによって、少なくとも、あるプロセスサイクルから残った未反応のパルミチン酸を、新しい量の出発植物油組成物から出発する同じプロセスにおいて再使用することができる。即ち、前回のランにおいて得られたパルミチン酸に富む画分が、今回のランにおいて使用され、それによって、次回のランにおいて使用するための新しいパルミチン酸に富む画分が得られ、その後も同様である。従って、パルミチン酸は、限定されている供給源として自然界に見出されるが、本プロセスは、過剰のパルミチン酸をプロセスに再使用し続けるため、プロセス中に無駄になるパルミチン酸の量が最小になることを保証する。
【0039】
1つまたは複数の態様において、脂肪酸非グリセリドエステルは、メチルエステル、エチルエステル、またはそれらの組み合わせより選択される。
【0040】
1つまたは複数の態様において、プロセスは、以下の工程をさらに含む:
(I)加水分解またはアルコーリシスのプロセスを実施し、さらに蒸留を実施し、それによって、少なくともパルミチン酸に富む画分を得る、工程;
(II)パルミチン酸に富む画分によるグリセロールのエステル化を実施して、少なくともPPP TAGに富む植物油を得る、工程;
(III)PPP TAGに富む該植物油を脂肪酸組成物による酵素的エステル交換プロセスに供し、それによって粗製植物油混和物を得る、工程;
(IV)粗製植物油混和物を分離して、過剰の遊離脂肪酸および/またはその非グリセリドエステルの混合物と、パルミチン酸がsn2位に存在する最終植物油組成物とを得る、工程;
(V)プロセス中に得られた過剰の遊離脂肪酸および/またはその非グリセリドエステルの混合物を使用し、それをプロセスに戻して再利用する工程。
【0041】
1つまたは複数の態様において、工程(III)の脂肪酸組成物は、C18脂肪酸および/またはその非グリセリドエステルに富む脂肪酸組成物である。
【0042】
1つまたは複数の態様において、工程(I)は、以下の工程を含む:
(Ia)出発植物油組成物を加水分解またはアルコーリシスのプロセスに供して、グリセロールと遊離脂肪酸および/またはその非グリセリドエステルとを得る、工程;
(Ib)遊離脂肪酸および/またはその非グリセリドエステルをグリセロールおよび水/アルコールから分離して、遊離脂肪酸および/またはその非グリセリドエステルの混合物を得る、工程;
(Ic)遊離脂肪酸および/またはその非グリセリドエステルの混合物に対して蒸留のプロセスを実施して、C18脂肪酸に富む画分とパルミチン酸に富む画分とを得る、工程。
【0043】
グリセロールおよび水/アルコールとは、工程(Ia)において加水分解プロセスが実施される場合は、グリセロールおよび水を意味し、工程(Ia)においてアルコーリシスプロセスが実施される場合は、グリセロールおよびアルコールを意味する。
【0044】
1つまたは複数の態様において、工程(Ia)における加水分解は、向流反応槽において高圧かつ高温で実施され得る。油は槽の底部近くに供給され、水は槽の上部近くに供給される。密度の差によって、水は槽の下方に輸送され、油は上方に移動しようとする。水相と油相との接触中に加水分解が起こり、脂肪酸およびグリセロールが形成される。グリセロールは、余剰水と共に槽の底部から排出され、脂肪酸は、槽の上部から排出される。グリセロールは、水が除去された後、プロセスにおいて再使用され得る。加水分解工程後、加水分解された脂肪酸は、蒸留によって精製され得る。
【0045】
1つまたは複数の態様において、工程(II)におけるエステル化は、以下の工程を含む:
(a)グリセロールをパルミチン酸に富む画分と混和して混和物を得る工程;
(b)混和物を所定の期間にわたって減圧下で加熱する工程;
(c)工程(b)と比較して、さらに温度を上げ、所定の期間にわたって混和物を加熱し、同時に、圧力をさらに下げる工程;
(d)混和物を所定の期間にわたって工程(c)の温度および圧力で維持する工程。
【0046】
工程(II)におけるエステル化の1つまたは複数の態様において、グリセロールと脂肪酸との混合混和物を、所定の時間にわたって減圧下で所望の温度まで連続的に加熱することによって、工程(b)および工程(c)は、1つの工程に組み合わせられる。
【0047】
工程(II)におけるエステル化の1つまたは複数の態様において、工程(c)は、(c1)所定の期間にわたって工程(b)と比較して圧力を下げる工程、および(c2)所定の期間にわたって工程(c1)の減圧下で温度を上げる工程という2つの工程を含む。
【0048】
工程(II)におけるエステル化の1つまたは複数の態様において、工程(c1)および工程(c2)は、その順序で逐次実施される。
【0049】
工程(II)におけるエステル化の1つまたは複数の態様において、工程(c1)および工程(c2)は、逆にされる。
【0050】
工程(II)におけるエステル化の1つまたは複数の態様において、工程(a)のグリセロールとパルミチン酸に富む画分とは、混和物を得るため、1:3.125または最大1:10の比(グリセロールのmol数:遊離脂肪酸および/またはその非グリセリドエステルのmol数)で混合される。
【0051】
工程(II)におけるエステル化の1つまたは複数の態様において、グリセロールをパルミチン酸に富む画分と混和して混和物を得る工程(工程(a))は、容器内で実施される。容器は、化学反応を実施するために適当な任意の容器であり得る。そのような容器は、例えば、フラスコ、タンク、チューブ、実験用フラスコ、丸底フラスコ、三口フラスコ、二口フラスコ、一口フラスコ、ガラスフラスコ、または金属フラスコであり得るが、これらに限定されるわけではない。反応は、攪拌(stirring)などの攪拌(agitation)を行いながら、または行わずに実施され得る。
【0052】
工程(II)におけるエステル化の1つまたは複数の態様において、コンデンサーが使用される。コンデンサーは、40℃~150℃、例えば50℃~90℃、または例えば65℃~90℃の温度に加熱される。コンデンサーのこの温度は、コンデンサーのサイズおよび表面積に依存し、グリセロールが過剰に失われることを回避するため、水が蒸発し、グリセロールの大部分が凝縮される温度を使用することが重要である。これを調整する方法は、当業者に公知であろう。
【0053】
工程(II)におけるエステル化の1つまたは複数の態様において、混和物は、工程(b)において140℃~180℃の範囲の温度に加熱される。プロセスの1つまたは複数の態様において、混和物は、工程(b)において160℃~170℃の範囲の温度に加熱される。
【0054】
工程(II)におけるエステル化の1つまたは複数の態様において、工程(b)における減圧圧力は、150mbar~400mbarの範囲、例えば175mbar~250mbarの範囲である。
【0055】
工程(II)におけるエステル化の1つまたは複数の態様において、工程(b)における所定の期間は、15分~5時間の範囲、例えば30分~4時間の範囲である。
【0056】
工程(II)におけるエステル化の1つまたは複数の態様において、工程(b)における所定の期間は、少なくとも15分、例えば少なくとも20分、例えば少なくとも30分、例えば少なくとも1時間、例えば少なくとも2時間、例えば少なくとも3時間である。
【0057】
工程(II)におけるエステル化の1つまたは複数の態様において、工程(c)における温度は、180℃~250℃の範囲、例えば210℃~230℃の範囲である。
【0058】
工程(II)におけるエステル化の1つまたは複数の態様において、工程(c)における混和物は、少なくとも160℃に加熱される。
【0059】
工程(II)におけるエステル化の1つまたは複数の態様において、工程(c)における混和物は、最大230℃に加熱される。1つまたは複数の態様において、工程(c)における混和物は、最大240℃に加熱される。
【0060】
温度は、工程(b)から工程(c)に進む時、徐々に上げられる。1つまたは複数の態様において、温度は、工程(b)における約170℃から、工程(c)における約210℃まで上げられる。
【0061】
工程(II)におけるエステル化の1つまたは複数の態様において、工程(c)における圧力は、10mbar~400mbarの範囲、例えば20mbar~250mbarの範囲、例えば30mbar~150mbarの範囲、例えば30mbar~90mbarの範囲、または例えば30mbar~40mbarの範囲である。
【0062】
圧力は、工程(b)から工程(c)に進む時、徐々に下げられる。1つまたは複数の態様において、圧力は、工程(b)における約200mbarから、工程(c)における約30mbarまで下げられる。
【0063】
工程(II)におけるエステル化の1つまたは複数の態様において、工程(c)における所定の期間は、15分~5時間の範囲、例えば30分~4時間の範囲である。
【0064】
工程(II)におけるエステル化の1つまたは複数の態様において、工程(c)における所定の期間は、少なくとも15分、例えば少なくとも20分、例えば少なくとも30分、例えば少なくとも1時間、または例えば少なくとも2時間である。
【0065】
工程(II)におけるエステル化の1つまたは複数の態様において、触媒が、工程(a)において添加される。触媒は、エステル化プロセスにおいて有益であることが公知の任意の触媒であり得る。1つまたは複数の態様において、触媒は有機触媒である。1つまたは複数の態様において、酸化亜鉛が触媒として使用される。従って、本プロセスの1つまたは複数の態様において、酸化亜鉛(ZnO)が、触媒として工程(a)において添加される。当業者に公知であるように、工程(d)における所定の時間は、触媒が使用される場合、減少するであろう。
【0066】
1つまたは複数の態様において、工程(III)は、以下の工程を含む:
(IIIa)工程(II)で得られたPPP TAGに富む植物油に対して蒸留および/または中和のプロセスを実施して、過剰の遊離脂肪酸および/またはその非グリセリドエステルを取り出し;それによって、全トリグリセリドの63重量%~97重量%がトリパルミチンTAGである植物油組成物を得る、工程;
(IIIb)全トリグリセリドの63重量%~97重量%がトリパルミチンTAGである得られた植物油組成物を、C18脂肪酸および/またはその非グリセリドエステルに富む脂肪酸組成物と混合して、第1の混合物を得る、工程;
(IIIc)工程(IIIb)からの第1の混合物に対して1つまたは複数の1,3位特異的酵素の使用による酵素的エステル交換プロセスを実施し、それによって粗製植物油混和物を得る、工程。
【0067】
1つまたは複数の態様において、工程(IIIa)における蒸留は、物理的精練である。1つまたは複数の態様において、蒸留は、少なくとも160℃の温度で、任意で減圧下で、実施される。1つまたは複数の態様において、蒸留は、少なくとも190℃の温度で減圧下で実施される。1つまたは複数の態様において、蒸留は、220℃~260℃の温度で減圧下で、例えば、約240℃で減圧下で実施される。これは、当業者に公知の蒸留プロセスの標準的な条件である。1つの態様において、物理的精練の代わりに化学的精練を使用することもでき、その場合、温度を約100℃に変化させることは、当業者に公知であろう。
【0068】
1つまたは複数の態様において、1つまたは複数の1,3位特異的酵素は、1,3位特異的リパーゼ(即ち、sn1位およびsn3位に特異的なリパーゼ)であり得る。これは、トリグリセリドの外側の位置にあるパルミチン酸の含量を減少させ、その結果、トリグリセリド内パルミチン酸の総含量に対するsn2位パルミチン酸の割合を増加させる。
【0069】
1つまたは複数の態様において、プロセス中に得られた過剰の遊離脂肪酸および/またはその非グリセリドエステルを使用し、それらをプロセスに戻して再利用する工程は、工程(IV)から得られた過剰の遊離脂肪酸および/またはその非グリセリドエステルの混合物を使用し、それらを工程(Ic)の混合物に供給する工程を含む。
【0070】
1つまたは複数の態様において、プロセスは、工程(IV)からの過剰の遊離脂肪酸および/またはその非グリセリドエステルの混合物を蒸留プロセスによって分割し、それによって、パルミチン酸(P、C16:0)に富む画分とC18脂肪酸に富む画分とを得、パルミチン酸に富む画分の少なくとも一部を工程(II)において使用する工程をさらに含む。
【0071】
過剰の遊離脂肪酸および/またはその非グリセリドエステルの混合物を回収し、蒸留プロセスによって分割し、それによって、パルミチン酸(P、C16:0)に富む画分とC18脂肪酸に富む画分とを得ることによって、少なくともプロセスから残った未反応のパルミチン酸を、新しい量の出発植物油組成物から始まるプロセスにおいて再使用することができる。これによって、前回のランにおいて得られたパルミチン酸に富む画分が、今回のランにおいて使用され、それによって、次回のランにおいて使用するための新しいパルミチン酸に富む画分が得られ、その後も同様である。即ち、パルミチン酸は、限定されている供給源として自然界に見出されるが、本プロセスは、過剰のパルミチン酸をプロセスに戻し再使用し続けるため、プロセス中に無駄になるパルミチン酸の量が最小になることを保証する。
【0072】
1つまたは複数の態様において、プロセスは、C18脂肪酸に富む画分の蒸留プロセス、およびC18脂肪酸に富む画分の少なくとも一部の工程(IIIb)における使用をさらに含む。
【0073】
1つまたは複数の態様において、工程(Ic)からのC18脂肪酸に富む画分は、工程(IIIb)において使用される。従って、1つまたは複数の態様において、得られた画分は全てプロセスにおいて再使用されるため、未使用の画分は存在しない。
【0074】
出発植物油組成物を分割する場合、パルミチン酸が主生成物であるが、得られたC18脂肪酸およびグリセロールも、1つまたは複数の態様において、精製され、プロセスに戻し供給され、それによって、原材料の観点から効果的なプロセスが作り出され、同時に、出発油組成物の起源が維持される。
【0075】
1つまたは複数の態様において、プロセスは、工程(Ib)からのグリセロールおよび水/アルコールを分離する工程、ならびに該工程で得られたグリセロールをエステル化工程(II)において使用する工程をさらに含む。
【0076】
1つまたは複数の態様において、プロセスは、工程(IIIa)から得られた過剰の遊離脂肪酸および/またはその非グリセリドエステルを使用し、それらをエステル化工程(II)にさらに供給する工程をさらに含む。
【0077】
1つまたは複数の態様において、プロセスは、工程(IIIa)の蒸留および/または中和のプロセスで得られた生成物の漂白および/または中和をさらに含む。
【0078】
1つまたは複数の態様において、プロセスは、工程(IV)の分離で得られた最終植物油組成物の漂白および/または中和および/または脱臭をさらに含む。
【0079】
1つまたは複数の態様において、工程(IIIa)の後に得られる植物油組成物は、全トリグリセリドの70重量%~97重量%のトリパルミチンTAG、例えば、全トリグリセリドの85重量%~97重量%のトリパルミチンTAGを有する。
【0080】
1つまたは複数の態様において、工程(IIIa)の後に得られる植物油組成物のトリグリセリド内のsn2位パルミチン酸の割合は、85%~99%の範囲である。
【0081】
1つまたは複数の態様において、工程(IIIa)の後に得られる植物油組成物は、植物油組成物の総重量と比較して6%以下、例えば3%以下、または例えば2%以下の量のジグリセリドおよび/またはモノグリセリドを有する。1つまたは複数の態様において、工程(IIIa)の後に得られる植物油組成物は、植物油組成物の全重量と比較して0%~6%の範囲、例えば、植物油組成物の全重量と比較して0.5%~5%の範囲、例えば0.5%~4%の範囲、例えば0.5%~3%の範囲、例えば0.5%~3%の範囲、または例えば0.5%~2%の範囲の量のジグリセリドおよび/またはモノグリセリドを有する。
【0082】
1つまたは複数の態様において、最終植物油組成物のトリグリセリド内の全パルミチン酸のうちのsn2位パルミチン酸の割合は、52%以上、例えば55%以上、例えば60%以上、または例えば70%以上である。1つまたは複数の態様において、最終植物油組成物のトリグリセリド内の全パルミチン酸のうちのsn2位パルミチン酸の割合は、52%~80%の範囲、例えば52%~75%の範囲、例えば52%~70%の範囲、または例えば55%~70%の範囲である。
【0083】
1つまたは複数の態様において、最終植物油組成物は、最終植物油組成物中のトリグリセリド内脂肪酸の総重量と比較して30重量%~60重量%、例えば30重量%~50重量%、例えば35重量%~45重量%、または例えば40重量%~45重量%のトリグリセリド内パルミチン酸を含む。1つまたは複数の態様において、最終植物油組成物は、最終植物油組成物中のトリグリセリド内脂肪酸の総重量と比較して少なくとも30重量%、例えば少なくとも35重量%、または例えば少なくとも40重量%のトリグリセリド内パルミチン酸を含む。
【0084】
1つまたは複数の態様において、最終植物油組成物のトリグリセリド内のオレイン酸とリノール酸との比(オレイン酸:リノール酸)は、10:1~1:2の範囲、例えば5:1~1:1の範囲である。
【0085】
1つまたは複数の態様において、最終植物油組成物中のトリグリセリドの40%以上が、OPO型、OPL型、および/またはLPL型のものである。
【0086】
1つまたは複数の態様において、最終植物油組成物中のトリグリセリドの40%以上が、OPO型のものである。
【0087】
1つまたは複数の態様において、出発植物油組成物中のパルミチン酸の総量のうち少なくとも75重量%が最終植物油組成物中に存在し、例えば、出発植物油組成物中のパルミチン酸の総量のうち少なくとも80重量%、例えば少なくとも90重量%、または例えば少なくとも95重量%が最終植物油組成物中に存在する。
【0088】
1つまたは複数の態様において、化学触媒は、プロセスの工程のいずれにおいても使用されない。化学触媒の使用を回避することによって、プロセスはより単純になり、有機出発植物油組成物が使用される場合、最終植物油組成物は有機性を維持することができる。
【0089】
1つまたは複数の態様において、使用される酵素は、非遺伝子組換え酵素である。非遺伝子組換え酵素とは、遺伝子組換え生物(GMO)技術を使用することなく作製される酵素である。
【0090】
1つまたは複数の態様において、有機溶媒は、プロセスの工程のいずれにおいても使用されない。
【0091】
工程のいずれにおいても化学触媒および非GMO産生酵素(例えば、リパーゼ)が使用されず、さらに、有機溶媒が使用されないプロセスは、有機認証出発油組成物から出発する場合、最終植物油組成物が有機に関する規則および規制の下で作製され、従って、最終生成物が有機認証を受けるのを助けるはずである。
【0092】
1つまたは複数の態様において、出発植物油組成物は、トリグリセリド内脂肪酸の総重量と比較して80重量%以下のトリグリセリド内パルミチン酸を含む。
【0093】
1つまたは複数の態様において、出発植物油組成物は、トリグリセリド内脂肪酸の総重量と比較して少なくとも9%のトリグリセリド内パルミチン酸、例えば少なくとも15%、例えば少なくとも25%、例えば少なくとも35%、例えば少なくとも40%、例えば少なくとも50%、または例えば少なくとも60%のパルミチン酸を含む。
【0094】
1つまたは複数の態様において、出発植物油組成物は、トリグリセリド内脂肪酸の総重量と比較して9%~80%の範囲、例えば15%~80%の範囲、例えば20%~80%の範囲、例えば30%~80%の範囲、例えば30%~75%の範囲、または例えば30%~70%の範囲のトリグリセリド内パルミチン酸を含む。
【0095】
1つまたは複数の態様において、出発植物油組成物は、少なくとも15、例えば少なくとも20、例えば少なくとも25、例えば少なくとも30、例えば少なくとも35、例えば少なくとも40、例えば少なくとも45、例えば少なくとも50、例えば少なくとも55、または例えば少なくとも60のヨウ素価を有する。
【0096】
1つまたは複数の態様において、出発植物油組成物は、少なくとも70、例えば少なくとも80、例えば少なくとも90、例えば少なくとも100、例えば少なくとも110、例えば少なくとも120、または例えば少なくとも130のヨウ素価を有する。
【0097】
1つまたは複数の態様において、出発植物油組成物は、140以下、例えば130以下、例えば120以下、または例えば110以下のヨウ素価を有する。
【0098】
1つまたは複数の態様において、出発植物油組成物は、100以下、例えば90以下、例えば80以下、または例えば70以下のヨウ素価を有する。
【0099】
1つまたは複数の態様において、出発植物油組成物は、15~140の範囲、例えば30~70の範囲、または例えば30~55の範囲のヨウ素価を有する。
【0100】
パルミチン酸は、特に、有機バリアントを必要とする場合、希にしか得られない起源材料であるため、例えば12という低いヨウ素価を有するパームステアリンよりパルミチン酸の含量が少ない出発油から出発することができれば、それは高度に有益である。それによって、より経済的なプロセスを得ることができる。以前の教示は、sn2位パルミチン酸の含量が高い植物性脂肪を作り出すためには、プロセスの出発材料を可能な限り硬質のパームステアリン(例えば、低いヨウ素価(12未満)を有するパームステアリン)より選択すべきであることを示したが、それは、出発組成物中のより多いパルミチン、特に、より多いsn2パルミチン酸と等しいためである。これとは反対に、本発明は、他の出発材料、例えば、より高いヨウ素価を有するパーム画分から出発しても、sn2位パルミチン酸の含量が高い植物油組成物を作り出すためのバランスのとれたプロセスを作り出すことができる。
【0101】
1つの態様において、本明細書に開示されるプロセスは、出発油として、少なくとも15のヨウ素価を有するパーム画分から出発する。次いで、パーム画分は、極めて純粋な、PPP TAGに富む植物油に変換される。
【0102】
従って、本プロセスは、より安価な、より低加工の出発材料を使用しても、高い収率および純度で最終生成物を獲得することを可能にする、より効率的なプロセスである。
【0103】
有機パーム油は多くは存在しないため、パルミチン酸は、特に、有機バリアントであるべき場合、希少な原材料であるが、本プロセスによれば、出発油中に存在するパルミチン酸のほぼ全てを利用することが可能であり、プロセス中にパルミチン酸の廃棄がほぼ存在しない。
【0104】
1つまたは複数の態様において、出発植物油組成物は、以下の起源のうちの1つに由来する:パーム油もしくはその画分もしくは誘導体、パーム核油、コーン油、一次(single stage)乾式分別パームステアリン、米ぬか油、落花生油、ヤシ油、大豆油、綿油、またはそれらの組み合わせ。
【0105】
1つまたは複数の態様において、出発植物油組成物は、有機認証を受けたものである。
【0106】
1つまたは複数の態様において、出発植物油組成物は、単細胞生物に由来しない。
【0107】
1つまたは複数の態様において、過剰の遊離脂肪酸および/またはその非グリセリドエステルは、過剰の遊離脂肪酸である。
【0108】
図4および5は、本明細書に開示されるプロセスの1つの態様のフローチャートを示す。
【0109】
全トリグリセリド(TAG)の63重量%~97重量%がトリパルミチン(PPP)TAGである植物油組成物を作製するプロセスも本明細書において開示され、ここで、当該プロセスは、出発植物油組成物中に存在するパルミチン酸(P、C16:0)の少なくとも70%を利用し、当該プロセスは、
・トリグリセリド内脂肪酸の総重量と比較して80%以下のトリグリセリド内パルミチン酸を含む出発植物油組成物を準備する工程;
・出発植物油組成物を加水分解またはアルコーリシスのプロセスに供して、グリセロールと遊離脂肪酸および/またはその非グリセリドエステルとを得る、工程;
・遊離脂肪酸および/またはその非グリセリドエステルをグリセロールおよび水/アルコールから分離して、遊離脂肪酸および/またはその非グリセリドエステルの混合物を得る、工程;
・遊離脂肪酸および/またはその非グリセリドエステルの混合物に対して蒸留プロセスを実施して、C18脂肪酸に富む画分とパルミチン酸に富む画分とを得る、工程;
・前工程からのパルミチン酸に富む画分によってグリセロールをエステル化して、過剰の遊離脂肪酸および/またはその非グリセリドエステルの混合物とPPP TAGに富む植物油とを得る、工程;
・前工程で得られたPPP TAGに富む植物油に対して蒸留および/または中和のプロセスを実施して、過剰の遊離脂肪酸および/またはその非グリセリドエステルを取り出す、工程
を含み、それによって、全トリグリセリドの63重量%~97重量%がトリパルミチンTAGである植物油組成物が得られる。
【0110】
全トリグリセリド(TAG)の63重量%~97重量%がトリパルミチン(PPP)TAGである植物油組成物を作製するプロセスの1つまたは複数の態様において、化学触媒は、プロセスの工程のいずれにおいても使用されない。
【0111】
全トリグリセリド(TAG)の63重量%~97重量%がトリパルミチン(PPP)TAGである植物油組成物を作製するプロセスの1つまたは複数の態様において、プロセスは、出発植物油組成物中に存在するパルミチン酸の少なくとも75%、例えば、出発植物油組成物中に存在するパルミチン酸の少なくとも80%、例えば少なくとも85%、または例えば少なくとも90%を利用する。
【0112】
全トリグリセリド(TAG)の63重量%~97重量%がトリパルミチン(PPP)TAGである植物油組成物を作製するプロセスの1つまたは複数の態様において、エステル化は、以下の工程を含む:
(a)グリセロールをパルミチン酸に富む画分と混和して混和物を得る工程;
(b)混和物を所定の期間にわたって減圧下で加熱する工程;
(c)工程(b)と比較して、温度をさらに上げ、所定の期間にわたって混和物を加熱し、同時に、圧力をさらに下げる工程;
(d)混和物を所定の期間にわたって工程(c)の温度および圧力で維持する工程。
【0113】
全トリグリセリド(TAG)の63重量%~97重量%がトリパルミチン(PPP)TAGである植物油組成物を作製するプロセスの1つまたは複数の態様において、エステル化は、グリセロールと脂肪酸との混合混和物を所定の時間にわたって減圧下で所望の温度まで連続的に加熱することによって、工程(b)および工程(c)が1つの工程に組み合わせられることを含む。
【0114】
全トリグリセリド(TAG)の63重量%~97重量%がトリパルミチン(PPP)TAGである植物油組成物を作製するプロセスの1つまたは複数の態様において、エステル化は、工程(c)が(c1)所定の期間にわたって圧力を工程(b)と比較して下げる工程;および(c2)所定の期間にわたって工程(c1)の減圧下で温度を上げる工程という2つの工程を含むことを含む。
【0115】
全トリグリセリド(TAG)の63重量%~97重量%がトリパルミチン(PPP)TAGである植物油組成物を作製するプロセスの1つまたは複数の態様において、エステル化は、工程(c1)および工程(c2)が、その順序で逐次実施されることを含む。1つまたは複数の態様において、工程(c1)および工程(c2)は、逆にされる。
【0116】
全トリグリセリド(TAG)の63重量%~97重量%がトリパルミチン(PPP)TAGである植物油組成物を作製するプロセスの1つまたは複数の態様において、エステル化は、工程(a)のグリセロールとパルミチン酸に富む画分とが、混和物を得るため、1:3.125または最大1:10の比(グリセロールのmol数:遊離脂肪酸および/またはその非グリセリドエステルのmol数)で混合されることを含む。
【0117】
全トリグリセリド(TAG)の63重量%~97重量%がトリパルミチン(PPP)TAGである植物油組成物を作製するプロセスの1つまたは複数の態様において、エステル化は、混和物を得るため、グリセロールをパルミチン酸に富む画分と混和する工程(工程(a))が容器内で実施されることを含む。容器は、化学反応を実施するために適当な任意の容器であり得る。そのような容器は、例えば、フラスコ、タンク、チューブ、実験用フラスコ、丸底フラスコ、三口フラスコ、二口フラスコ、一口フラスコ、ガラスフラスコ、または金属フラスコであり得るが、これらに限定されるわけではない。反応は、攪拌などの攪拌を行いながら、または行わずに実施され得る。
【0118】
全トリグリセリド(TAG)の63重量%~97重量%がトリパルミチン(PPP)TAGである植物油組成物を作製するプロセスの1つまたは複数の態様において、エステル化は、コンデンサーが使用されることを含む。コンデンサーは、40℃~150℃、例えば50℃~90℃、または例えば65℃~90℃の温度に加熱される。コンデンサーのこの温度は、コンデンサーのサイズおよび表面積に依存し、グリセロールが過剰に失われることを回避するため、水が蒸発し、グリセロールの大部分が凝縮される温度を使用することが重要である。これを調整する方法は、当業者に公知であろう。
【0119】
全トリグリセリド(TAG)の63%~97重量%がトリパルミチン(PPP)TAGである植物油組成物を作製するプロセスの1つまたは複数の態様において、エステル化は、混和物が工程(b)において140℃~180℃の範囲の温度に加熱されることを含む。プロセスの1つまたは複数の態様において、混和物は、工程(b)において160℃~170℃の範囲の温度に加熱される。
【0120】
全トリグリセリド(TAG)の63重量%~97重量%がトリパルミチン(PPP)TAGである植物油組成物を作製するプロセスの1つまたは複数の態様において、エステル化は、工程(b)における減圧圧力が、150mbar~400mbarの範囲、例えば175mbar~250mbarの範囲であることを含む。
【0121】
全トリグリセリド(TAG)の63重量%~97重量%がトリパルミチン(PPP)TAGである植物油組成物を作製するプロセスの1つまたは複数の態様において、エステル化は、工程(b)における所定の期間が、15分~5時間の範囲、例えば30分~4時間の範囲であることを含む。
【0122】
全トリグリセリド(TAG)の63重量%~97重量%がトリパルミチン(PPP)TAGである植物油組成物を作製するプロセスの1つまたは複数の態様において、エステル化は、工程(b)における所定の期間が、少なくとも15分、例えば少なくとも20分、例えば少なくとも30分、例えば少なくとも1時間、例えば少なくとも2時間、例えば少なくとも3時間であることを含む。
【0123】
全トリグリセリド(TAG)の63重量%~97重量%がトリパルミチン(PPP)TAGである植物油組成物を作製するプロセスの1つまたは複数の態様において、エステル化は、工程(c)における温度が、180℃~250℃の範囲、例えば210℃~230℃の範囲であることを含む。
【0124】
全トリグリセリド(TAG)の63重量%~97重量%がトリパルミチン(PPP)TAGである植物油組成物を作製するプロセスの1つまたは複数の態様において、エステル化は、工程(c)における混和物が少なくとも160℃に加熱されることを含む。
【0125】
全トリグリセリド(TAG)の63重量%~97重量%がトリパルミチン(PPP)TAGである植物油組成物を作製するプロセスの1つまたは複数の態様において、エステル化は、工程(c)における混和物が最大230℃に加熱されることを含む。1つまたは複数の態様において、工程(c)における混和物は、最大240℃に加熱される。工程(b)から工程(c)に進む時、温度は徐々に上げられる。1つまたは複数の態様において、温度は、工程(b)における約170℃から、工程(c)における約210℃まで上げられる。
【0126】
全トリグリセリド(TAG)の63重量%~97重量%がトリパルミチン(PPP)TAGである植物油組成物を作製するプロセスの1つまたは複数の態様において、エステル化は、工程(c)における圧力が、10mbar~400mbarの範囲、例えば20mbar~250mbarの範囲、例えば30mbar~150mbarの範囲、例えば30mbar~90mbarの範囲、または例えば30mbar~40mbarの範囲であることを含む。工程(b)から工程(c)に進む時、圧力は徐々に下げられる。1つまたは複数の態様において、圧力は、工程(b)における約200mbarから工程(c)における約30mbarまで下げられる。
【0127】
全トリグリセリド(TAG)の63重量%~97重量%がトリパルミチン(PPP)TAGである植物油組成物を作製するプロセスの1つまたは複数の態様において、エステル化は、工程(c)における所定の期間が、15分~5時間の範囲、例えば30分~4時間の範囲であることを含む。
【0128】
全トリグリセリド(TAG)の63重量%~97重量%がトリパルミチン(PPP)TAGである植物油組成物を作製するプロセスの1つまたは複数の態様において、エステル化は、工程(c)における所定の期間が、少なくとも15分、例えば少なくとも20分、例えば少なくとも30分、例えば少なくとも1時間、または例えば少なくとも2時間であることを含む。
【0129】
全トリグリセリド(TAG)の63重量%~97重量%がトリパルミチン(PPP)TAGである植物油組成物を作製するプロセスの1つまたは複数の態様において、エステル化は、工程(a)において触媒が添加されることを含む。触媒は、エステル化プロセスにおいて有益であることが公知の任意の触媒であり得る。1つまたは複数の態様において、触媒は有機触媒である。1つまたは複数の態様において、酸化亜鉛が触媒として使用される。従って、本プロセスの1つまたは複数の態様において、酸化亜鉛(ZnO)が、触媒として工程(a)において添加される。当業者に公知であるように、工程(d)における所定の時間は、触媒が使用される場合、減少するであろう。
【0130】
全トリグリセリド(TAG)の63重量%~97重量%がトリパルミチン(PPP)TAGである植物油組成物を作製するプロセスの1つまたは複数の態様において、当該プロセスは、
・全トリグリセリドの63重量%~97重量%がトリパルミチンTAGである得られた植物油組成物を、C18脂肪酸および/またはその非グリセリドエステルに富む脂肪酸組成と混合して、第1の混合物を得る、工程;
・前工程からの第1の混合物に対して1つまたは複数の1,3位特異的酵素の使用による酵素的エステル交換プロセスを実施し、それによって粗製植物油混和物を得る、工程;
・前工程で得られた粗製植物油混和物を分離して、過剰の遊離脂肪酸および/またはその非グリセリドエステルの混合物を得る、工程
をさらに含み;パルミチン酸がsn2位に存在する最終植物油組成物を得る。
【0131】
全トリグリセリド(TAG)の63重量%~97重量%がトリパルミチン(PPP)TAGである植物油組成物を作製するプロセスの1つまたは複数の態様において、酵素的エステル交換プロセスは、1つもしくは複数の1,3位特異的酵素を第1の混合物に添加することによって、または1つもしくは複数の1,3位特異的酵素を含むカラムに第1の混合物をポンプで通すことによって実施される。1つまたは複数の態様において、酵素的エステル交換プロセスの温度は、40℃~75℃の範囲、例えば50℃~70℃の範囲、または例えば55℃~65℃の範囲である。
【0132】
全トリグリセリド(TAG)の63重量%~97重量%がトリパルミチン(PPP)TAGである植物油組成物を作製するプロセスの1つまたは複数の態様において、分離工程は、過剰の遊離脂肪酸および/またはその非グリセリドエステルを取り出すため、得られた粗製植物油混和物に対して蒸留および/または中和のプロセスによって実施される。
【0133】
全トリグリセリド(TAG)の63重量%~97重量%がトリパルミチン(PPP)TAGである植物油組成物を作製するプロセスの1つまたは複数の態様において、得られたPPP TAGに富む植物油に対して蒸留および/または中和のプロセスを実施して過剰の遊離脂肪酸および/またはその非グリセリドエステルを取り出す工程は、物理的精練である。1つまたは複数の態様において、蒸留は、少なくとも160℃の温度で、任意で、減圧下で実施される。1つまたは複数の態様において、蒸留は、少なくとも190℃の温度で減圧下で実施される。1つまたは複数の態様において、蒸留は、220℃~260℃の温度で減圧下で、例えば、約240℃で減圧下で実施される。これは、当業者に公知の蒸留プロセスの標準的な条件である。1つの態様において、物理的精練の代わりに化学的精練を使用することもでき、その場合、温度を約100℃に変化させることは、当業者に公知であろう。
【0134】
全トリグリセリド(TAG)の63重量%~97重量%がトリパルミチン(PPP)TAGである植物油組成物を作製するプロセスの1つまたは複数の態様において、加水分解の工程は、向流反応槽において高圧かつ高温で実施され得る。水が除去された後、グリセロールは、プロセスにおいて再使用され得る。加水分解工程の後、加水分解された脂肪酸は、蒸留によって精製され得る。
【0135】
本開示は、本明細書に開示されるプロセスによって得られる、植物油組成物のトリグリセリド内の全パルミチン酸のうち少なくとも50%のパルミチン酸がsn2位に存在する植物油組成物も含む。
【0136】
植物油組成物のトリグリセリド内の全パルミチン酸のうち少なくとも50%のパルミチン酸がsn2位に存在する植物油組成物も、開示される。
【0137】
植物油組成物の1つまたは複数の態様において、植物油組成物中の全パルミチン酸のうちのsn2位パルミチン酸の割合は、52%以上、例えば55%以上、例えば60%以上、または例えば70%超である。植物油組成物の1つまたは複数の態様において、植物油組成物中の全パルミチン酸のうちのsn2位パルミチン酸の割合は、52%~80%の範囲、例えば52%~75%の範囲、例えば52%~70%の範囲、または例えば55%~70%の範囲である。
【0138】
1つまたは複数の態様において、植物油組成物は、植物油組成物中のトリグリセリド内脂肪酸の総重量と比較して30重量%~60重量%、例えば30重量%~50重量%、例えば35重量%~45重量%、または例えば40重量%~45重量%のトリグリセリド内パルミチン酸を含む。1つまたは複数の態様において、植物油組成物は、植物油組成物中のトリグリセリド内脂肪酸の総重量と比較して少なくとも30重量%、例えば少なくとも35重量%、または例えば少なくとも40重量%のトリグリセリド内パルミチン酸を含む。
【0139】
植物油組成物の1つまたは複数の態様において、植物油組成物のトリグリセリド内のオレイン酸とリノール酸との比(オレイン酸:リノール酸)は、10:1~1:2の範囲、例えば5:1~1:1の範囲である。
【0140】
植物油組成物の1つまたは複数の態様において、最終植物油組成物中のトリグリセリドの40%以上は、OPO型、OPL型、および/またはLPL型のものである。
【0141】
1つまたは複数の態様において、最終植物油組成物中のトリグリセリドの40%以上は、OPO型のものである。
【0142】
乳児用調製乳の製造における、本開示による植物油組成物のトリグリセリド内の全パルミチン酸のうち少なくとも50%のパルミチン酸がsn2位に存在する植物油組成物の使用も、本明細書に開示される。
【0143】
プラントベース食品の製造における、本開示による植物油組成物のトリグリセリド内の全パルミチン酸のうち少なくとも50%のパルミチン酸がsn2位に存在する植物油組成物の使用も、本明細書に開示される。
【0144】
本開示による植物油組成物のトリグリセリド内の全パルミチン酸のうち少なくとも50%のパルミチン酸がsn2位に存在する植物油組成物を15重量%~100重量%含む乳児用調製乳が、さらに開示される。
【0145】
1つまたは複数の態様において、植物油組成物の全パルミチン酸のうち少なくとも50%のパルミチン酸がsn2位に存在する植物油組成物を20重量%~90重量%、例えば20重量%~80重量%、または例えば20重量%~70重量%含む乳児用調製乳。
【0146】
態様を記載する場合、全ての可能な態様の組み合わせおよび並べ替えが明示的に記載されているわけではない。にも関わらず、ある特定の尺度(measures)が、相互に異なる従属請求項において列挙されているか、または異なる態様において記載されているという単なる事実は、これらの尺度の組み合わせが有利に使用され得ないことを示すものではない。本発明は、記載された態様の全ての可能な組み合わせおよび並べ替えを構想する。
【0147】
本発明は、以下の実施例によってさらに例示されるが、実施例は、保護の範囲を限定するものと解釈されるべきではない。
【実施例
【0148】
実施例1 - パーム画分からのPPP TAG(PPP)に富む油の作製
パルミチン酸を含む種々の油が、出発油組成物として使用され得る。この実施例のため、パームステアリン、パーム油、およびパームオレインという3つの異なるパーム画分を使用した。表1は、3つの油の組成を示す。
【0149】
(表1)
* IUPAC 2.205による分析
** IUPAC 2.304による分析
【0150】
高圧かつ水過剰での標準的な向流加水分解を介して、パーム画分を、遊離脂肪酸(FFA)と水とグリセロールとに分割する。FFA画分を蒸留装置に移し、そこで、FFAを、それぞれ、パルミチン酸に富む画分(Pに富む画分)とオレイン酸に富む画分(Oに富む画分)とに分離(分割)する。得られた画分は、以下の表2a、2bおよび2cに示される組成を有する。
【0151】
ストリッピングカラムの特徴、適用される温度、および還流が、異なる脂肪酸の分割を決定することは、当業者に公知であろう。これらの場合、残留パルミチン酸の約6%が、オレイン酸に富む画分に見出された。原理的には、蒸留カラムのより少ない容量という犠牲の下に、C18ストリーム中に見出されるパルミチン酸の量を低下させることができる。
【0152】
(表2a)(パーム油)
【0153】
(表2b)(パームステアリン)
【0154】
(表2c)(パームオレイン)
* IUPAC 2.304による分析
【0155】
次いで、グリセロールと遊離脂肪酸とを、1:4の重量比(33%遊離脂肪酸過剰)で反応容器内で混合した。本実施例における遊離脂肪酸は、98重量%のC16:0、1重量%のC18:1、および1%のC:16またはC18:1ではない脂肪酸を含んでいる(出発油はパーム油である、表2aを参照すること)。反応容器には、真空入口、コールドトラップ、70℃に加熱されたコンデンサーが備わっている。反応混合物を減圧下(200mbar)で約20分間かけて150℃に加熱した。30分~60分かけて、温度を210℃まで徐々に上げながら、圧力を33mbarまで徐々に下げた。最終反応温度に達した後、反応混合物をこれらの条件で5時間放置した。次いで、過剰の遊離脂肪酸を取り出すため、得られた粗製油を減圧下で240℃で蒸留し、以下の表3に示されるように、97.9%のTAG、1.3%のDAG、および0.4%のFFAからなる、PPP TAGに富む油を得た。
【0156】
(表3)PPP TAG(単にPPPまたはトリパルミチンとも呼ばれる)に富む油の組成を示す
* IUPAC 2.304を使用して分析
** ジグリセリドおよびモノグリセリドはアシルグリセロールの%で与えられており、AOCS Cd 11d-96によって分析された
*** IUPAC 2.323による分析
**** IUPAC 2.201による分析
【0157】
形成された、PPP TAGに富む油は、98%P(sn2)を有する。これは、52のIVを有するパーム油についての14%、34のIVを有するパームステアリンについての40%と比較されるべきである。
【0158】
実施例2 - PPP TAG(トリパルミチン、PPP)に富む油とC18脂肪酸に富む遊離脂肪酸の組成物との酵素的エステル交換(1:2 w/w比)
最初に、トリパルミチン(1.3kg)とC18脂肪酸に富む遊離脂肪酸(2.65kg)とを1:2の重量比で混合することによって、3.95kgの原料混合物を調製した。
【0159】
利用されたPPPおよびC18脂肪酸に富む遊離脂肪酸の組成を表4に示す。
【0160】
(表4)
* IUPAC 2.304を使用した分析
** IUPAC 2.323による分析
【0161】
この混合物を、10gの1,3位特異的リパーゼDF IM(Amano Japan)を含むカラムに、60℃で、4グラム油/1グラム酵素/時に相当する40グラム/時の流速で供給することによって反応させた。約95時間(4日強)後、反応を止めた。反応中、酵素活性および生成物の品質を経時的にモニタリングするため、試料を採取した(図1を参照すること)。
【0162】
形成されたTAGと過剰の遊離脂肪酸とを分割した後、結果として生じた組成物が得られる(以下の表5に示す)。
【0163】
(表5)
* IUPAC 2.323による分析
【0164】
C52はOPO、OPL、LPL等の尺度と見なされ得、C50は中間生成物(PPOまたはPPL等)である。
【0165】
以下の表6は、PPPとC18脂肪酸に富む遊離脂肪酸とから作られた生成物、およびTAGから蒸留された後の脂肪酸混合物の脂肪酸組成を示す。
【0166】
(表6)
* IUPAC 2.304を使用した分析
【0167】
実施例3 - PPP TAG(トリパルミチン、PPP)に富む油とC18脂肪酸に富む遊離脂肪酸の組成物との酵素的エステル交換(1:4 w/w比)
この実施例は、実施例2と正確に同じ条件で実行され、PPPとC18脂肪酸に富む脂肪酸との比が、実施例2のように1:2の重量比ではなく、1:4の重量比であることのみが異なる。反応中、酵素活性および生成物の品質を経時的にモニタリングするため、試料を採取した(図2を参照すること)。これは、存在する全パルミチン酸のうちのsn2位パルミチン酸の量がより多い生成物をもたらす。形成されるC52の量は、有意に高く、平均P(sn2)/全Pは、68%である。
【0168】
実施例4 - 比較例:ヨウ素価(IV)13を有するパーム油ステアリン(POST)とC18脂肪酸に富む遊離脂肪酸の組成物との酵素的エステル交換
実施例2と正確に同じプロセスを実施する。今回のみ、出発材料は、ヨウ素価(IV)13を有するパーム油ステアリン(POST)(POST IV 13)である。この実施例において使用された、利用されたPOST IV 13およびC18脂肪酸に富む遊離脂肪酸の組成は、実施例2の表4に示される。これは、PPP TAGに富む油が利用可能でない今日のプロセスの状況例として見なされるべきである。
【0169】
最初に、パームステアリンIV 13(1.3kg)とC18脂肪酸に富む遊離脂肪酸(2.65kg)とを1:2の重量比で混合することによって、3.95kgの原料混合物を調製した。この混合物を、10gの1,3位特異的リパーゼDF IM(Amano Japan)を含むカラムに、60℃で、4グラム油/1グラム酵素/時に相当する40グラム/時の流速で供給した。約95時間(4日強)後、反応を止めた。反応中、酵素活性および生成物の品質を経時的にモニタリングするため、試料を採取した(図3を参照すること)。C52は、OPO、OPL、LPL等の尺度と見なされ得、C50は、中間生成物(PPO、PPL等)である。より多くの油が酵素を通過するにつれて、酵素活性が下がり、C52の形成の減少およびC50の形成の増加が起こる。
【0170】
2つの酵素的エステル交換反応からの結果を比較すると、エステル化プロセスを介して作製されたトリパルミチンの利用は、標準的なパームステアリンと比較して、sn2位パルミチン酸の有意に多い量(72%対93% - 表8を参照すること)によって測定されるように、より高品質の生成物を与え、PPP出発材料を使用して作られた生成物の中のOPOの濃度は、パームステアリン出発材料と比較して、より高いことが分かる。
【0171】
表4から、作製されたPPP TAG(PPP)に富む油は、パルミチン酸の高い収率を有し(98%)、得られたPPPの量は、(POST IV 13の62%と比較して)95%に近く、OPOなどのsn2位に存在するパルミチン酸を多量に有する油組成物を作るための極めて優れた出発点であることが明らかである。
【0172】
上記の実施例からの結論
表7に、酵素的エステル交換前後の生成物の比較が示される。
【0173】
(表7)酵素的エステル交換前後のTAGを示す
* IUPAC 2.323による分析
** 全C16:0のうちのsn2位C16:0の%は、100/3 ×(IUPAC 2.210によって測定されたsn2位C16:0)/(IUPAC 2.304によって測定されたC16:0)として計算される。分母の3は、トリグリセリドには3つの位置があるためである。
*** 分析は、商業的な研究室によって任意の公知の方法によって実施され得る。
【0174】
(表8)POST IV 13およびPPPの、出発油材料および得られた生成物の両方における、sn-2位の異なる脂肪酸含量を示す。
* sn2位の脂肪酸組成は、sn2位の脂肪酸残基の%として与えられ、IUPAC 2.210によって分析される。
【0175】
表7および8から、作製されたPPPは、POST IV 13基準物より、はるかに多くのパルミチン酸をsn2位に含有することが明らかである。従って、これは、OPOなどのsn2位に存在するパルミチン酸を多量に有する油組成物を作るための、より優れた出発点となるはずである。実際にも、これは事実である。OPOと非対称カウンターパートPOO(またはOOP)との比を見れば、その比が、PPPから出発すると、はるかに(3倍超)高くなることが明らかである(表7を参照すること)。
【0176】
実施例5
10kgの(42%パルミチン酸を含む)パーム油から出発すると、40%の収率でパルミチン酸に富む画分が得られる(実施例1)。次いで、33%過剰のパルミチン酸をグリセロールと反応させて、PPPトリグリセリドを得る(実施例1)。出発パルミチン酸(42%)のうち、29%がPPP内に存在する(次のサイクルのため、10%の過剰分が残る)。次いで、出発材料としてPPPを使用して、酵素的エステル交換を実施する(実施例2)。得られたOPOに富む油は、出発パルミチン酸の15%に等しい52%のパルミチン酸を含有する(次のサイクルのため、14%が残る)。従って、最初のサイクルにおいて、出発パーム油からのパルミチン酸の15%/42% = 36%が生成物中に回収され、(10%+14%)/42%=57%が次のサイクルに再利用される(パルミチン酸の7%の損失をもたらす)。次いで、このプロセスを、回収されたパルミチン酸によって繰り返し、次のサイクルで、出発パーム油からのパルミチン酸の21%がさらに回収され、それによって、出発パーム油の回収率は、36%+21%=57%となる。以下の表は、最初の4サイクルで回収されたパルミチン酸の割合を示す。図5には、必要とされる遊離脂肪酸を得る最初のプロセスが示され、図4には、パルミチン酸を循環させるプロセスが示される。
【0177】
【0178】
出発油中に存在する量と比べた、生成物中のパルミチン酸の累積量は、いくつかの要因、とりわけ、以下のことに依存する。
- 蒸留中のパルミチン酸の損失が低下した場合、1サイクル当たりのパルミチン酸の回収量が増加する。
- より純粋なOPOが作製された場合、OPO生成物中に存在するパルミチン酸が少なくなり、1サイクル当たりのパルミチン酸の回収量が低下する。
【0179】
本発明は、以下の非限定的な項において、さらに記載される。
【0180】
1. 最終植物油組成物のトリグリセリド内の全パルミチン酸のうち少なくとも50%のパルミチン酸がsn2位に存在する最終植物油組成物を作製するプロセスであって、トリグリセリド内パルミチン酸を含む出発植物油組成物を準備する工程、酵素的エステル交換プロセスを実施する工程、ならびに該プロセス中に得られた過剰の遊離脂肪酸および/またはその非グリセリドエステルを使用し、それらを該プロセスに戻して再利用する工程を含み、該出発植物油組成物中のパルミチン酸の総量のうち少なくとも70重量%が該最終植物油組成物中に存在する、プロセス。
【0181】
2. (I)加水分解またはアルコーリシスのプロセスを実施し、さらに蒸留を実施し、それによって、少なくともパルミチン酸に富む画分を得る、工程;
(II)該パルミチン酸に富む画分によるグリセロールのエステル化を実施して、少なくともPPP TAGに富む植物油を得る、工程;
(III)該PPP TAGに富む植物油を脂肪酸組成物による酵素的エステル交換プロセスに供し、それによって粗製植物油混和物を得る、工程;
(IV)該粗製植物油混和物を分離して、過剰の遊離脂肪酸および/またはその非グリセリドエステルの混合物と、パルミチン酸がsn2位に存在する前記最終植物油組成物とを得る、工程;
(V)プロセス中に得られた過剰の遊離脂肪酸および/またはその非グリセリドエステルの混合物を使用し、それをプロセスに戻して再利用する、工程
をさらに含む、項1記載のプロセス。
【0182】
3. 工程(III)の脂肪酸組成物が、C18脂肪酸および/またはその非グリセリドエステルに富む脂肪酸組成物である、項2記載のプロセス。
【0183】
4. 工程(I)が
(Ia)前記出発植物油組成物を加水分解またはアルコーリシスのプロセスに供して、グリセロールと遊離脂肪酸および/またはその非グリセリドエステルとを得る、工程;
(Ib)該遊離脂肪酸および/またはその非グリセリドエステルを該グリセロールおよび水/アルコールから分離して、遊離脂肪酸および/またはその非グリセリドエステルの混合物を得る、工程;
(Ic)遊離脂肪酸および/またはその非グリセリドエステルの混合物に対して蒸留プロセスを実施して、C18脂肪酸に富む画分とパルミチン酸に富む画分とを得る、工程
を含む、項2または3記載のプロセス。
【0184】
5. 工程(III)が
(IIIa)工程(II)で得られたPPP TAGに富む植物油に対して蒸留および/または中和のプロセスを実施して、過剰の遊離脂肪酸および/またはその非グリセリドエステルを取り出し;それによって、全トリグリセリドの63重量%~97重量%がトリパルミチンTAGである植物油組成物を得る、工程;
(IIIb)全トリグリセリドの63重量%~97重量%がトリパルミチンTAGである得られた植物油組成物を、C18脂肪酸および/またはその非グリセリドエステルに富む脂肪酸組成物と混合して、第1の混合物を得る、工程;
(IIIc)工程(IIIb)からの該第1の混合物に対して1つまたは複数の1,3位特異的酵素の使用による酵素的エステル交換プロセスを実施し、それによって粗製植物油混和物を得る、工程
を含む、項2~4のいずれかに記載のプロセス。
【0185】
6. 前記出発植物油組成物が、トリグリセリド内脂肪酸の総重量と比較して80重量%以下のトリグリセリド内パルミチン酸を含む、前記項のいずれかに記載のプロセス。
【0186】
7. 前記プロセス中に得られた過剰の遊離脂肪酸および/またはその非グリセリドエステルを使用し、それらをプロセスに戻して再利用する工程が、工程(IV)から得られた過剰の遊離脂肪酸および/またはその非グリセリドエステルの混合物を使用し、それらを工程(Ic)の混合物に供給することを含む、項4~6のいずれかに記載のプロセス。
【0187】
8. 工程(IV)からの過剰の遊離脂肪酸および/またはその非グリセリドエステルの混合物を蒸留プロセスによって分割し、それによって、パルミチン酸(P、C16:0)に富む画分とC18脂肪酸に富む画分とを得、該パルミチン酸に富む画分の少なくとも一部を工程(II)において使用する工程をさらに含む、項2~7のいずれかに記載のプロセス。
【0188】
9. 前記C18脂肪酸に富む画分の蒸留プロセスと、該C18脂肪酸に富む画分の少なくとも一部の工程(IIIb)における使用とをさらに含む、項8記載のプロセス。
【0189】
10. 工程(Ic)からの前記C18脂肪酸に富む画分が工程(IIIb)において使用される、項5~9のいずれかに記載のプロセス。
【0190】
11. 工程(Ib)からのグリセロールおよび水/アルコールを分離する工程、ならびに該工程で得られたグリセロールをエステル化工程(II)において使用する工程をさらに含む、項4~10のいずれかに記載のプロセス。
【0191】
12. 工程(IIIa)から得られた過剰の遊離脂肪酸および/またはその非グリセリドエステルを使用し、さらにそれらをエステル化工程(II)に供給する工程をさらに含む、項5~11のいずれかに記載のプロセス。
【0192】
13. 工程(IIIa)の蒸留および/または中和のプロセスで得られた生成物の漂白および/または中和をさらに含む、項5~12のいずれかに記載のプロセス。
【0193】
14. 工程(IV)の分離で得られた最終植物油組成物の漂白および/または中和および/または脱臭をさらに含む、項2~13のいずれかに記載のプロセス。
【0194】
15. 工程(IIIa)の後に得られる植物油組成物が、全トリグリセリドの70重量%~97重量%のトリパルミチンTAG、例えば、全トリグリセリドの85重量%~97重量%のトリパルミチンTAGを有する、項5~14のいずれかに記載のプロセス。
【0195】
16. 工程(IIIa)の後に得られる植物油組成物のトリグリセリド内のsn2位の全脂肪酸のうちのsn2位パルミチン酸の割合が85%~99%の範囲である、項5~15のいずれかに記載のプロセス。
【0196】
17. 工程(IIIa)の後に得られる植物油組成物が、植物油組成物の総重量と比較して、6%以下、例えば3%以下、または例えば2%以下の量のジグリセリドおよび/またはモノグリセリドを有する、項5~16のいずれかに記載のプロセス。
【0197】
18. 最終植物油組成物のトリグリセリド内の全パルミチン酸のうちのsn2位パルミチン酸の割合が52%以上、例えば55%以上、例えば60%以上、または例えば70%以上である、前記項のいずれかに記載のプロセス。
【0198】
19. 最終植物油組成物が、最終植物油組成物中のトリグリセリド内脂肪酸の総重量と比較して30重量%~60重量%、例えば30重量%~50重量%、例えば35重量%~45重量%、または例えば40重量%~45重量%のトリグリセリド内パルミチン酸を含む、前記項のいずれかに記載のプロセス。
【0199】
20. 最終植物油組成物のトリグリセリド内のオレイン酸とリノール酸との比(オレイン酸:リノール酸)が10:1~1:2の範囲、例えば5:1~1:1の範囲である、前記項のいずれかに記載のプロセス。
【0200】
21. 出発植物油組成物中のパルミチン酸の総量のうち少なくとも75重量%が最終植物油組成物中に存在し、例えば、出発植物油組成物中のパルミチン酸の総量のうち少なくとも80%、例えば少なくとも90%、または例えば少なくとも95重量%が最終植物油組成物中に存在する、前記項のいずれかに記載のプロセス。
【0201】
22. プロセスの工程のいずれにおいても化学触媒が使用されない、前記項のいずれかに記載のプロセス。
【0202】
23. 使用される酵素が非遺伝子組換え酵素である、前記項のいずれかに記載のプロセス。
【0203】
24. プロセスの工程のいずれにおいても有機溶媒が使用されない、前記項のいずれかに記載のプロセス。
【0204】
25. 出発植物油組成物が、トリグリセリド内脂肪酸の総重量と比較して、少なくとも9%のトリグリセリド内パルミチン酸、例えば少なくとも15%、例えば少なくとも25%、例えば少なくとも35%、例えば少なくとも40%、例えば少なくとも50%、または例えば少なくとも60%のパルミチン酸を含む、前記項のいずれかに記載のプロセス。
【0205】
26. 出発植物油組成物が、少なくとも15、例えば少なくとも20、例えば少なくとも25、例えば少なくとも30、例えば少なくとも35、例えば少なくとも40、例えば少なくとも45、例えば少なくとも50、例えば少なくとも55、または例えば少なくとも60のヨウ素価を有する、前記項のいずれかに記載のプロセス。
【0206】
27. 出発植物油組成物がパーム油またはその画分もしくは誘導体、パーム核油、コーン油、一次乾式分別パームステアリン、米ぬか油、落花生油、ヤシ油、大豆油、綿油、またはそれらの組み合わせのうちの1つの起源に由来する、前記項のいずれかに記載のプロセス。
【0207】
28. 前記項のいずれかに記載のプロセスによって得られる、植物油組成物のトリグリセリド内の全パルミチン酸のうち少なくとも50%のパルミチン酸がsn2位に存在する植物油組成物。
【0208】
29. 植物油組成物中の全パルミチン酸のうちのsn2位パルミチン酸の割合が52%以上、例えば55%以上、例えば60%以上、または例えば70%以上である、項28による植物油組成物。
【0209】
30. 植物油組成物中のトリグリセリド内脂肪酸の総重量と比較して30重量%~60重量%、例えば30重量%~50重量%、例えば35重量%~45重量%、または例えば40重量%~45重量%のトリグリセリド内パルミチン酸を含む、項28または29のいずれかに記載の植物油組成物。
【0210】
31. 植物油組成物のトリグリセリド内のオレイン酸とリノール酸との比(オレイン酸:リノール酸)が10:1~1:2の範囲、例えば5:1~1:1の範囲である、項28~30のいずれかに記載の植物油組成物。
【0211】
32. 植物油組成物のトリグリセリド内の全パルミチン酸のうち少なくとも50%のパルミチン酸がsn2位に存在する、植物油組成物。
【0212】
33. 植物油組成物中の全パルミチン酸のうちのsn2位パルミチン酸の割合が52%以上、例えば55%以上、例えば60%以上、または例えば70%以上である、項32に記載の植物油組成物。
【0213】
34. 植物油組成物中のトリグリセリド内脂肪酸の総重量と比較して30重量%~60重量%、例えば30重量%~50重量%、例えば35重量%~45重量%、または例えば40重量%~45重量%のトリグリセリド内パルミチン酸を含む、項32または33のいずれかに記載の植物油組成物。
【0214】
35. 植物油組成物のトリグリセリド内のオレイン酸とリノール酸との比(オレイン酸:リノール酸)が10:1~1:2の範囲、例えば5:1~1:1の範囲である、項32~34のいずれかに記載の植物油組成物。
【0215】
36. 乳児用調製乳の製造における、項28~36のいずれかに記載の、植物油組成物のトリグリセリド内の全パルミチン酸のうち少なくとも50%のパルミチン酸がsn2位に存在する植物油組成物の使用。
【0216】
37. プラントベース食品の製造における、項28~36のいずれかに記載の、植物油組成物のトリグリセリド内の全パルミチン酸のうち少なくとも50%のパルミチン酸がsn2位に存在する植物油組成物の使用。
【0217】
38. 植物油組成物のトリグリセリド内の全パルミチン酸のうち少なくとも50%のパルミチン酸がsn2位に存在する植物油組成物を15重量%~100重量%含む、乳児用調製乳。
図1
図2
図3
図4
図5
【国際調査報告】