(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-09-13
(54)【発明の名称】増加した量のsn2位パルミチン酸を有する植物性脂肪組成物を作製するプロセス
(51)【国際特許分類】
C11C 3/10 20060101AFI20230906BHJP
A23D 9/00 20060101ALI20230906BHJP
A23C 9/152 20060101ALI20230906BHJP
【FI】
C11C3/10
A23D9/00 514
A23C9/152
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023513598
(86)(22)【出願日】2021-08-26
(85)【翻訳文提出日】2023-04-11
(86)【国際出願番号】 SE2021050827
(87)【国際公開番号】W WO2022045951
(87)【国際公開日】2022-03-03
(32)【優先日】2020-08-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】SE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】515062913
【氏名又は名称】エイエイケイ、アクチボラグ (ピーユービーエル)
【氏名又は名称原語表記】AAK AB (PUBL)
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100102118
【氏名又は名称】春名 雅夫
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100188433
【氏名又は名称】梅村 幸輔
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100214396
【氏名又は名称】塩田 真紀
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】ヨハンソン マーティン シー.
(72)【発明者】
【氏名】フィセルス マルティヌス エム. エム.
【テーマコード(参考)】
4B001
4B026
4H059
【Fターム(参考)】
4B001AC15
4B001EC05
4B026DC05
4B026DG02
4B026DG03
4B026DG04
4B026DG08
4B026DH01
4B026DH10
4B026DL09
4B026DP01
4H059BA26
4H059BB02
4H059BC14
4H059CA18
4H059CA35
4H059EA21
(57)【要約】
本発明は、中央の位置にパルミチン酸(P)を有するトリグリセリド(XPX)の作製に関する。第1のエステル交換プロセスを用いてパルミチン酸に富む植物性脂肪組成物が作製され、次いで、当該中間組成物がさらに加工されて、高い割合で中央の位置にパルミチン酸を有するトリグリセリドが作製される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
出発植物性脂肪組成物と比較してsn2位のパルミチン酸が増加した最終植物性脂肪組成物を作製するプロセスであって、
(a)出発植物性脂肪組成物を第1の脂肪酸混合物と混合して第1のプロセス混合物を得る工程であって、該出発植物性脂肪組成物が、該出発植物性脂肪組成物の中のトリグリセリド内脂肪酸の総重量と比較して15重量%~75重量%のトリグリセリド内パルミチン酸を含み、該第1の脂肪酸混合物が、該第1の脂肪酸混合物の中の脂肪酸およびその非グリセリドエステルの総重量と比較して少なくとも75重量%のパルミチン酸(C16:0)および/またはその非グリセリドエステルを含む、工程;
(b)該第1のプロセス混合物に対して第1のエステル交換プロセスを実施して、遊離脂肪酸および/またはその非グリセリドエステルの混合物と、エステル交換されたトリグリセリドとを含む第1のエステル交換混合物を得る、工程;
(c)該第1のエステル交換混合物の該エステル交換されたトリグリセリドから該遊離脂肪酸および/またはその非グリセリドエステルを分離して、中間植物性脂肪組成物と、過剰の遊離脂肪酸および/またはその非グリセリドエステルの第1の混合物とを得る、工程;
(d)該中間植物性脂肪組成物を第2の脂肪酸混合物と混合して第2のプロセス混合物を得る工程であって、該第2の脂肪酸混合物が、該第2の脂肪酸混合物の中の脂肪酸およびその非グリセリドエステルの総重量と比較して10重量%以下のパルミチン酸および/またはその非グリセリドエステルを含む、工程;
(e)1つまたは複数の1,3位特異的リパーゼの使用による第2のエステル交換プロセスを該第2のプロセス混合物に対して実施して、遊離脂肪酸および/またはその非グリセリドエステルの混合物と、エステル交換されたトリグリセリドとを含む第2のエステル交換混合物を得る、工程;
(f)該第2のエステル交換混合物の該エステル交換されたトリグリセリドから該遊離脂肪酸および/またはその非グリセリドエステルを分離して、該出発植物性脂肪組成物と比較してsn2位のパルミチン酸が増加した最終植物性脂肪組成物と、過剰の遊離脂肪酸および/またはその非グリセリドエステルの第2の混合物とを得る、工程;
(g)該過剰の遊離脂肪酸および/またはその非グリセリドエステルの第1の混合物を分別して、少なくとも第1の高パルミチン酸画分と第1の低パルミチン酸画分とを得る工程であって、該第1の高パルミチン酸画分が、該第1の高パルミチン酸画分の中の脂肪酸およびその非グリセリドエステルの総重量と比較して少なくとも75重量%のパルミチン酸および/またはその非グリセリドエステルを含み、該第1の低パルミチン酸画分が、好ましくは、該第1の低パルミチン酸画分の中の脂肪酸およびその非グリセリドエステルの総重量と比較して15重量%以下、例えば10重量%以下のパルミチン酸および/またはその非グリセリドエステルを含む、工程;
(h)該過剰の遊離脂肪酸および/またはその非グリセリドエステルの第2の混合物を分別して、少なくとも第2の高パルミチン酸画分と第2の低パルミチン酸画分とを得る工程であって、該第2の高パルミチン酸画分が、該第2の高パルミチン酸画分の中の脂肪酸およびその非グリセリドエステルの総重量と比較して少なくとも75重量%のパルミチン酸および/またはその非グリセリドエステルを含み、該第2の低パルミチン酸画分が、好ましくは、該第2の低パルミチン酸画分の中の脂肪酸およびその非グリセリドエステルの総重量と比較して15重量%以下、例えば10重量%以下のパルミチン酸および/またはその非グリセリドエステルを含む、工程;
(i)新たな量の出発植物性脂肪組成物を用いて工程(a)から再開する後続のプロセスにおける該第1の脂肪酸混合物の少なくとも一部として、少なくとも該第1の高パルミチン酸画分および該第2の高パルミチン酸画分を使用する工程
を含む、プロセス。
【請求項2】
新たな量の出発植物性脂肪組成物を用いて工程(a)から再開する後続のプロセスにおける前記第2の脂肪酸混合物の少なくとも一部として前記第1の低パルミチン酸画分を使用し、かつ/または新たな量の出発植物性脂肪組成物を用いて工程(a)から再開する後続のプロセスにおける前記第2の脂肪酸混合物の少なくとも一部として前記第2の低パルミチン酸画分を使用する工程をさらに含む、請求項1記載のプロセス。
【請求項3】
前記第1の脂肪酸混合物が、該第1の脂肪酸混合物の中の脂肪酸およびその非グリセリドエステルの総重量と比較して少なくとも80重量%のパルミチン酸および/またはその非グリセリドエステル、例えば、該第1の脂肪酸混合物の中の脂肪酸およびその非グリセリドエステルの総重量と比較して少なくとも85重量%、例えば少なくとも90重量%、または例えば少なくとも95重量%のパルミチン酸および/またはその非グリセリドエステルを含む、前記請求項のいずれか一項記載のプロセス。
【請求項4】
前記中間植物性脂肪組成物が、該中間植物性脂肪の中のトリグリセリド内脂肪酸の総重量と比較して少なくとも50重量%のトリグリセリド内パルミチン酸、例えば、該中間植物性脂肪の中のトリグリセリド内脂肪酸の総重量と比較して少なくとも60重量%、例えば少なくとも70重量%、または例えば少なくとも80重量%のトリグリセリド内パルミチン酸を含み、該中間植物性脂肪組成物のトリグリセリド内脂肪酸のうちのsn2位パルミチン酸の割合が、少なくとも25%、例えば少なくとも27%、例えば少なくとも29%、例えば少なくとも30%、例えば少なくとも31%、例えば少なくとも32%、または例えば実質的に33%である、前記請求項のいずれか一項記載のプロセス。
【請求項5】
前記第2の脂肪酸混合物が、該第2の脂肪酸混合物の中の脂肪酸およびその非グリセリドエステルの総重量と比較して少なくとも60重量%のC18脂肪酸および/またはその非グリセリドエステル、例えば、該第2の脂肪酸混合物の中の脂肪酸およびその非グリセリドエステルの総重量と比較して少なくとも70重量%、例えば少なくとも80重量%、または例えば少なくとも90重量%のC18脂肪酸および/またはその非グリセリドエステルを含む、前記請求項のいずれか一項記載のプロセス。
【請求項6】
前記最終植物性脂肪組成物が、該最終植物性脂肪組成物の中のトリグリセリド内脂肪酸の総重量と比較して少なくとも30重量%、例えば少なくとも35重量%、または例えば少なくとも40重量%のトリグリセリド内パルミチン酸を含み、該最終植物性脂肪組成物のトリグリセリド内の全パルミチン酸のうちのsn2位パルミチン酸の割合が、少なくとも50%、例えば少なくとも52%、例えば少なくとも55%、例えば少なくとも60%、または例えば少なくとも70%である、前記請求項のいずれか一項記載のプロセス。
【請求項7】
前記最終植物性脂肪組成物が、該最終植物性脂肪組成物の中のトリグリセリド内脂肪酸の総重量と比較して4.0重量%~9.0重量%のトリグリセリド内ステアリン酸、例えば、該最終植物性脂肪組成物の中のトリグリセリド内脂肪酸の総重量と比較して4.5重量%~8.0重量%、例えば5.0重量%~7.0重量%、または例えば6.0重量%のトリグリセリド内ステアリン酸を含み、該最終植物性脂肪組成物のトリグリセリド内の全ステアリン酸のうちのsn2位ステアリン酸の割合が、10%~30%、例えば10%~25%、例えば15%~25%、または例えば15%~20%である、前記請求項のいずれか一項記載のプロセス。
【請求項8】
前記出発植物性脂肪組成物の中のパルミチン酸の量の少なくとも60%が前記最終植物性脂肪組成物の中に存在し、例えば、該出発植物性脂肪組成物の中のパルミチン酸の量の少なくとも70%、例えば少なくとも80%、例えば少なくとも90%、または例えば少なくとも95%が該最終植物性脂肪の中に存在する、前記請求項のいずれか一項記載のプロセス。
【請求項9】
前記プロセスが連続式プロセスであり、該連続式プロセスが少なくとも工程(a)~(i)を含み、該プロセスが、新たな量の出発植物性脂肪組成物を用いて工程(a)から再開する後続のプロセスにおける前記第1の脂肪酸混合物の少なくとも一部として、少なくとも工程(i)の前記第1および第2の高パルミチン酸画分を使用することによって継続され、該第1の脂肪酸混合物の一部としての高パルミチン酸画分と、該新たな量の出発植物性脂肪組成物とが工程(a)~(i)によって加工され、それによって、後続の量の最終植物性脂肪組成物と、後続の高パルミチン酸画分とが得られ、次いで、該後続の高パルミチン酸画分が、工程(a)から再開するさらに後続のプロセスによって継続され得る、前記請求項のいずれか一項記載のプロセス。
【請求項10】
前記連続式プロセスが、前記分別のうちの1つまたは複数から得られた脂肪酸を戻すことによって実施され、ここから得られた脂肪酸が、次いで、前記エステル交換プロセスのうちの1つまたは複数において使用され、該エステル交換がバッチ式または連続式のいずれかで実施され得る、請求項9記載のプロセス。
【請求項11】
工程(a)から再開する後続のプロセスにおける前記第1の脂肪酸混合物が、工程(a)から再開する後続のプロセスにおける該第1の脂肪酸混合物の中の脂肪酸の総重量と比較して少なくとも50重量%の、前記過剰の遊離脂肪酸および/またはその非グリセリドエステルの第1および第2の混合物の分別から得られた脂肪酸および/またはその非グリセリドエステル、例えば、工程(a)から再開する後続のプロセスにおける該第1の脂肪酸混合物の中の脂肪酸の総重量と比較して少なくとも70重量%、例えば少なくとも80重量%、例えば少なくとも90重量%、例えば少なくとも95重量%、または例えば実質的に100重量%の、該過剰の遊離脂肪酸および/またはその非グリセリドエステルの第1および第2の混合物の分別から得られた脂肪酸および/またはその非グリセリドエステルを含む、請求項9または10記載のプロセス。
【請求項12】
得られる最終植物性脂肪組成物の量の収率が、出発植物性脂肪組成物、ならびに前のサイクルの工程(g)および(h)に由来しない脂肪酸および/またはその非グリセリドエステルの量と比較して少なくとも50%、例えば、出発植物性脂肪組成物と、前のサイクルの工程(g)および(h)に由来しない脂肪酸および/またはその非グリセリドエステルとの量と比較して少なくとも70%、例えば少なくとも80%、例えば少なくとも90%、または例えば少なくとも95%である、請求項9~11のいずれか一項記載のプロセス。
【請求項13】
請求項1~12のいずれか一項によって製造された、sn2位に存在するパルミチン酸を有する植物性脂肪組成物。
【請求項14】
前記植物性脂肪組成物が、トリグリセリド内脂肪酸の総重量と比較して少なくとも30重量%、例えば少なくとも35重量%、または例えば少なくとも40重量%のトリグリセリド内パルミチン酸を含み、トリグリセリド内の全パルミチン酸のうちのsn2位パルミチン酸の割合が、少なくとも50%、例えば少なくとも52%、例えば少なくとも55%、例えば少なくとも60%、または例えば少なくとも70%である、請求項13記載の植物性脂肪組成物。
【請求項15】
前記植物性脂肪組成物が、トリグリセリド内脂肪酸の総重量と比較して4.0重量%~9.0重量%のトリグリセリド内ステアリン酸、例えば、トリグリセリド内脂肪酸の総重量と比較して4.5重量%~8.0重量%、例えば5.0重量%~7.0重量%、または例えば6.0重量%のトリグリセリド内ステアリン酸を含み、トリグリセリド内の全ステアリン酸のうちのsn2位ステアリン酸の割合が、10%~30%、例えば10%~25%、例えば15%~25%、または例えば15%~20%である、請求項13~14のいずれか一項記載の植物性脂肪組成物。
【請求項16】
乳児用調製乳のための他の脂肪組成物との混和物において使用するための、植物由来の加工された植物性脂肪組成物であって、該加工された植物性脂肪組成物が、トリグリセリド内脂肪酸の総重量と比較して少なくとも30重量%のトリグリセリド内パルミチン酸を含み、トリグリセリド内の全パルミチン酸のうちのsn2位パルミチン酸の割合が少なくとも50%である、加工された植物性脂肪組成物。
【請求項17】
前記加工された植物性脂肪組成物が、トリグリセリド内脂肪酸の総重量と比較して少なくとも35重量%、例えば少なくとも40重量%のトリグリセリド内パルミチン酸を含み、トリグリセリド内の全パルミチン酸のうちのsn2位パルミチン酸の割合が、少なくとも52%、例えば少なくとも55%、例えば少なくとも60%、または例えば少なくとも70%である、請求項16記載の加工された植物性脂肪組成物。
【請求項18】
前記加工された植物性脂肪組成物が、トリグリセリド内脂肪酸の総重量と比較して4.0重量%~9.0重量%のトリグリセリド内ステアリン酸、例えば、トリグリセリド内脂肪酸の総重量と比較して4.5重量%~8.0重量%、例えば5.0重量%~7.0重量%、または例えば6.0重量%のトリグリセリド内ステアリン酸を含み、トリグリセリド内の全ステアリン酸のうちのsn2位ステアリン酸の割合が、10%~30%、例えば10%~25%、例えば15%~25%、または例えば15%~20%である、請求項16または17記載の加工された植物性脂肪組成物。
【請求項19】
乳児用調製乳の製造における、請求項13~15のいずれか一項記載のsn2位に存在するパルミチン酸を有する植物性脂肪組成物または請求項16~18のいずれか一項記載の加工された植物性脂肪組成物の使用。
【請求項20】
ミルクフリーの乳児用食品などのプラントベース食品の製造における、請求項13~15のいずれか一項記載のsn2位に存在するパルミチン酸を有する植物性脂肪組成物または請求項16~18のいずれか一項記載の加工された植物性脂肪組成物の使用。
【請求項21】
乳児用調製乳の中の脂肪組成物の総量と比較して15重量%~100重量%、例えば15重量%~99重量%の、請求項13~15のいずれか一項記載のsn2位にパルミチン酸を有する植物性脂肪組成物または請求項16~18のいずれか一項記載の加工された植物性脂肪組成物を含む、乳児用調製乳。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中央の位置にパルミチン酸(P)を有するトリグリセリド(XPX)の作製に関する。パルミチン酸に富む植物性脂肪組成物を作製するため、第1のエステル交換プロセスが使用され、次いで、中央の位置にパルミチン酸を高い割合で有するトリグリセリドを作製するため、中間組成物がさらに加工される。
【背景技術】
【0002】
本明細書における特許文書の引用および組み入れは、便宜のために行われるに過ぎず、そのような特許文書の有効性、特許性、および/または行使可能性に関するいかなる見解も反映しない。
【0003】
人乳脂肪中のステアリン酸は、他の長鎖飽和脂肪酸とは対照的に、sn2位に濃縮されておらず、全ステアリン酸のうちの15%のみがsn2位に位置することが、以前に報告されている(例えば、Breckenridge et al., Can. J. Biochem. 1969, 47, 761-769(非特許文献1)を参照すること)。このことは、ステアリン酸を除く全ての長鎖(C14以上)飽和脂肪酸がsn2に濃縮されていることを示している、Sun et al., 2018(Sun et al., Food Chemistry 2018, 242, 29-36(非特許文献2))などの、いくつかの研究において確認されている(例えば、Sun et al 2018の表4を参照すること)。即ち、ステアリン酸は、(33%に等しい)ランダムな分布より低い程度に、sn2位に位置するのに対し、他の長鎖脂肪酸は、純粋にランダムな分布より高い程度に、sn2位に位置する。
【0004】
これらの脂肪酸、特に、最も豊富な脂肪酸、即ち、パルミチン酸の吸収の改善という課題を解決しようと、多くの研究が当領域において行われている。これらの脂肪酸が1,3位に供給された時には、不溶性のカルシウム石鹸が形成され、これは、便を介して脂肪およびカルシウムを失うリスクと相関する。臨床的証拠は、乳児用調製乳中のsn2位パルミチン酸が、多くのパラメータに対する効果を有すると仮定する。高sn2パルミチン酸(βパルミチン酸)調製乳は、脂肪およびカルシウムの吸収、より柔らかい便、骨強度パラメータ、糞便中の細菌、ならびに乳児の泣くことの減少に関して臨床的利益を示しているが、乳児用調製乳と母乳栄養との違いは未だ残っている(Miles and Calder, Nutrition Research 2017, 44, 1-8(非特許文献3))。
【0005】
人乳脂肪中のステアリン酸が、他の長鎖飽和脂肪酸と同様にsn2位に濃縮されていない理由は、不明であるが、この濃縮は、ランダムではなく、乳児のある特定の生理学的必要性を満たしていると推測される。このことは、それが進化中に保存されてきたという事実によって、さらに仮定される。正確な生理学的効果が不明であるとしても、人乳に代わる製品において使用される油および脂肪が、人乳脂肪との高度の類似性を有することは重要である。このことは、使用される脂肪酸組成だけでなく、トリグリセリド内の脂肪酸の位置付けにも当てはまる。
【0006】
Breckenridgeは、人乳中の全脂肪酸のうちの6.7%がステアリン酸であると報告し、より最近の報告は、アジア集団におけるやや低いレベルを示し、5.58%(3.90~6.79の範囲)が、Hagerman et al., 2019によって報告された(Hagerman et al., International Dairy Journal, 2019, 92, 37-49(非特許文献4))。
【0007】
人乳脂肪中のステアリン酸の位置付けは、他の長鎖飽和脂肪酸と比較して顕著に異なるため、組成物が人乳脂肪代用物において使用するためのものである場合、sn2パルミチン酸が濃縮された脂肪において、ステアリン酸の位置付けを考慮することは、さらに重要である。
【0008】
パームステアリン組成物の反応に基づくβパルミチン酸は、全脂肪酸のうち9.6%のステアリン酸を含み、そのうちの45.1%がsn2位に位置することが、以前に開示された(例えば、Lee et al., New Biotechnology, 2010, 27, 38-45(非特許文献5)を参照すること)。これは、全ステアリン酸についても、sn2位の割合についても、人乳脂肪より高い。US5658768は、全ステアリン酸の低いレベルと共に、全ステアリン酸のうちの5%以下がsn2位にあるという値を報告している。これは、総量においても、sn2位の相対的な割合においても、人乳脂肪より低い。
【0009】
さらに、例えば、有機パーム油などの、供給量が限定されている出発材料が使用される場合、出発材料中のパルミチン酸を可能な限り多く利用することが望ましい。従って、高sn2パルミチン酸脂肪を有する組成物を作製するプロセスにおいて、廃棄されるパルミチン酸の量を制限する必要がある。高いパルミチン酸収率は、非パームベースの生成物の場合、さらに重要である。
【0010】
さらに、人乳脂肪代用物として意図された脂肪の混和物において使用される高sn2パルミチン酸脂肪の必要性が残っている。さらに、そのような高sn2パルミチン酸脂肪において、ステアリン酸のsn2位への相対的な位置付けが、人乳脂肪中のそれと比較可能であるか、またはわずかに高いだけであるという必要性が残っている。
【0011】
従って、本発明の主な目的は、高sn2パルミチン酸脂肪組成物を得るための、出発油から生成物への高いパルミチン酸収率を利用するプロセスを提供することである。有機認証生成物を得るための方式で該プロセスを提供することが、さらなる目的である。
【0012】
本発明の別の目的は、sn2位ステアリン酸の相対的な位置付けが人乳脂肪中のそれと比較可能である高sn2パルミチン酸脂肪を提供することである。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】Breckenridge et al., Can. J. Biochem. 1969, 47, 761-769
【非特許文献2】Sun et al., Food Chemistry 2018, 242, 29-36
【非特許文献3】Miles and Calder, Nutrition Research 2017, 44, 1-8
【非特許文献4】Hagerman et al., International Dairy Journal, 2019, 92, 37-49
【非特許文献5】Lee et al., New Biotechnology, 2010, 27, 38-45
【発明の概要】
【0014】
概要
本発明は、中央の位置にパルミチン酸(P;C16:0)を有するトリグリセリド(XPXまたはOPOと呼ばれることもある)の作製に関する。パルミチン酸に富む中間植物性脂肪組成物を作製するため、エステル交換プロセスが使用され、次いで、例えば、乳児の栄養において高度に重要である、中央の位置にパルミチン酸を高い割合で有する最も必要とされるトリグリセリドを作製するため、この組成物がさらに加工される。例えば、パーム油またはその画分から出発して、XPX生成物で終わる、循環型の無溶媒プロセスが、本発明によって提供される。高パルミチン酸画分の中の残余パルミチン酸がプロセスにおいて再使用されるため、このプロセスは、基本的に、プロセス中に他の原材料を添加することなく実行され得る。
【0015】
従って、本発明は、高sn2パルミチン酸脂肪組成物を得るための、出発油から生成物への高いパルミチン酸収率を利用するプロセスを提供し、これにより、高含量のsn2位パルミチン酸を有する乳児用調製乳を製造するための、より原材料効率の高いプロセスの必要性を解決する。
【0016】
再使用の利点のうちの1つは、有機パーム油は、供給量が限定されているため、高価格の希少な材料であり、従って、本発明は、出発材料の量を効率的に利用するプロセスを提供し、従って、限定された供給量および価格を考慮に入れるという点である。
【0017】
第1の局面において、出発植物性脂肪組成物と比較してsn2位のパルミチン酸が増加した最終植物性脂肪組成物を作製するプロセス(方法)であって、
(a)出発植物性脂肪組成物を第1の脂肪酸混合物と混合して第1のプロセス混合物を得る工程であって、出発植物性脂肪組成物が、出発植物性脂肪組成物の中のトリグリセリド内脂肪酸の総重量と比較して15重量%~75重量%のトリグリセリド内パルミチン酸を含み、第1の脂肪酸混合物が、第1の脂肪酸混合物の中の脂肪酸およびその非グリセリドエステルの総重量と比較して少なくとも75重量%のパルミチン酸(C16:0)および/またはその非グリセリドエステルを含む、工程;
(b)第1のプロセス混合物に対して第1のエステル交換プロセスを実施して、遊離脂肪酸および/またはその非グリセリドエステルの混合物と、エステル交換されたトリグリセリドとを含む第1のエステル交換混合物を得る、工程;
(c)第1のエステル交換混合物のエステル交換されたトリグリセリドから遊離脂肪酸および/またはその非グリセリドエステルを分離して、中間植物性脂肪組成物と、過剰の遊離脂肪酸および/またはその非グリセリドエステルの第1の混合物とを得る、工程;
(d)中間植物性脂肪組成物を第2の脂肪酸混合物と混合して第2のプロセス混合物を得る工程であって、第2の脂肪酸混合物が、第2の脂肪酸混合物の中の脂肪酸およびその非グリセリドエステルの総重量と比較して10重量%以下のパルミチン酸および/またはその非グリセリドエステルを含む、工程;
(e)1つまたは複数の1,3位特異的リパーゼの使用による第2のエステル交換プロセスを第2のプロセス混合物に対して実施して、遊離脂肪酸および/またはその非グリセリドエステルの混合物と、エステル交換されたトリグリセリドとを含む第2のエステル交換混合物を得る、工程;
(f)第2のエステル交換混合物のエステル交換されたトリグリセリドから遊離脂肪酸および/またはその非グリセリドエステルを分離して、出発植物性脂肪組成物と比較してsn2位のパルミチン酸が増加した最終植物性脂肪組成物と、過剰の遊離脂肪酸および/またはその非グリセリドエステルの第2の混合物とを得る、工程;
(g)過剰の遊離脂肪酸および/またはその非グリセリドエステルの第1の混合物を分別して、少なくとも第1の高パルミチン酸画分と第1の低パルミチン酸画分とを得る工程であって、第1の高パルミチン酸画分が、第1の高パルミチン酸画分の中の脂肪酸およびその非グリセリドエステルの総重量と比較して少なくとも75重量%のパルミチン酸および/またはその非グリセリドエステルを含み、第1の低パルミチン酸画分が、好ましくは、第1の低パルミチン酸画分の中の脂肪酸およびその非グリセリドエステルの総重量と比較して15重量%以下、例えば10重量%以下のパルミチン酸および/またはその非グリセリドエステルを含む、工程;
(h)過剰の遊離脂肪酸および/またはその非グリセリドエステルの第2の混合物を分別して、少なくとも第2の高パルミチン酸画分と第2の低パルミチン酸画分とを得る工程であって、第2の高パルミチン酸画分が、第2の高パルミチン酸画分の中の脂肪酸およびその非グリセリドエステルの総重量と比較して少なくとも75重量%のパルミチン酸および/またはその非グリセリドエステルを含み、低パルミチン酸画分が、好ましくは、第2の低パルミチン酸画分の中の脂肪酸およびその非グリセリドエステルの総重量と比較して15重量%以下、例えば10重量%以下のパルミチン酸および/またはその非グリセリドエステルを含む、工程;
(i)新たな量の出発植物性脂肪組成物を用いて工程(a)から再開する後続のプロセスにおける第1の脂肪酸混合物の少なくとも一部として、少なくとも第1および第2の高パルミチン酸画分を使用する工程
を含むプロセスが、本明細書に開示される。
【0018】
新たな量の出発植物性脂肪組成物とは、プロセスが、バッチ式プロセスまたは連続式プロセスのいずれかとして実行され得ること、即ち、新たな量の出発材料が、バッチとして、または連続ストリーム中に供給され得ることを意味する。
【0019】
出発植物性脂肪組成物と比較してsn2位のパルミチン酸が増加しているとは、最終植物性脂肪組成物のトリグリセリドのsn2位(トリグリセリド上の中央の位置)のパルミチン酸の含量が、出発植物性脂肪組成物の中の同じ位置のパルミチン酸の含量と比較した場合に増加していることを意味する。即ち、出発植物性脂肪組成物のsn2位に見出されるパルミチン酸の量を、最終植物性脂肪組成物のsn2位に見出されるパルミチン酸の量と比較することによって、この量は、最終植物性脂肪組成物の方が高い。
【0020】
これに関して「量」という用語は、相対量および絶対量の両方を意味する。sn2位パルミチン酸を含むトリグリセリドの絶対量を決定するためには、sn2位の脂肪酸組成に関してトリグリセリドが分析される。相対量とは、トリグリセリド内の全パルミチン酸のうちの、sn2位に位置するものの分率である。相対量は、絶対量であるsn2位パルミチン酸の割合を、トリグリセリドの全ての位置のパルミチン酸の割合で割り、さらに、3つの位置を考慮して3で割ることによって得られる。出発植物性脂肪組成物と比較して最終植物性脂肪組成物においてより高いのは、sn2位パルミチン酸の相対量および絶対量の両方である。
【0021】
以前の教示は、sn2位パルミチン酸の含量が高い植物性脂肪を作り出すためには、プロセスのための出発材料を、可能な限り硬質のパームステアリンより選択すべきであることを示したが、それは、出発組成物中のより多いパルミチン酸、特に、より多いsn2パルミチン酸と等しいためである。これとは反対に、本発明は、他の出発材料、例えば、パーム油またはさらにはパームオレインから出発しても、sn2位パルミチン酸の含量が高い、人乳脂肪代用物として有用な植物性脂肪組成物を作り出すための、バランスのとれたプロセスを作り出すことができる。
【0022】
第1のエステル交換工程(プロセス中の工程(b))は、出発植物性脂肪組成物の中のパルミチン酸の含量と比較して、トリグリセリド内パルミチン酸の含量を増加させるであろう。エステル交換は、特に、トリグリセリドのsn2位パルミチン酸の量を増加させる。天然に存在する植物性脂肪組成物において、パルミチン酸、特に、sn2位パルミチン酸を含むトリグリセリドは、希少な供給源である。
【0023】
第2のエステル交換工程(プロセス中の工程(d))は、1,3位特異的リパーゼ(即ち、sn1位およびsn3位に特異的なリパーゼ)を使用する。パルミチン酸残基が少ない脂肪酸混合物と共に、これは、中間植物性脂肪組成物と比較してトリグリセリドの外側の位置のパルミチン酸の含量を低下させ、その結果、トリグリセリド内パルミチン酸の総含量に対するsn2位パルミチン酸の割合を増加させる。従って、両方の工程を使用することによって、特に、パーム油ステアリンから出発する以前の教示と比較した場合、出発油、例えば、パーム油の単位当たりのXPX生成物の高い収率が得られる。パーム油から出発すると、最初の乾式分別において約20%パームステアリンという収率が予想され得る(例えば、M. Kellens et al. Eur. J. Lipid Sci. Technol. 109 (2007) 336-349の表9を参照すること)。高レベルのsn2位パルミチン酸を有するヨウ素価の低いパームステアリンを得るため、そのようなステアリンを再分別するとき、さらにオレインが作り出され、パーム油から二重分別パームステアリンまでの全体収率は、10%をはるかに下回る。
【0024】
過剰の遊離脂肪酸混合物を回収し、これらの混合物のうちの少なくとも1つを2つの画分に分別することによって、最終生成物に含まれないパルミチン酸を、新たな量の出発植物性脂肪組成物から出発する同じプロセスにおいて再使用し、それによって、新たな量の最終植物性脂肪組成物を得ることができる。即ち、パルミチン酸は、限定されている供給源として自然界に見出されるが、本発明のプロセスは、工程(a)から出発する新たなプロセスに、過剰のパルミチン酸を戻し再使用し続けるため、プロセス中に廃棄されるパルミチン酸の量が最小になることを保証する。
【0025】
得られる少なくとも2つの画分は、高パルミチン酸画分と低パルミチン酸画分とであり、ここで、多量のパルミチン酸を含有する画分は、工程(a)において第1の脂肪酸混合物として再使用され、少量のパルミチン酸を含有する画分は、工程(d)において第2の脂肪酸混合物として使用され得る。即ち、脂肪酸とグリセロールとを作製するための分割ユニットを有する必要はない。さらに、(例えば、PPPから出発するプロセスと比較して)グリセロール精製の必要がない。以前の教示の標準的なプロセスにおいては、オレイン脂肪酸が、分割された油に由来するため、従来、分割が必要であった。本発明によると、いくらかの脂肪酸のみがプロセスのスタートアップのために必要とされ、2つの工程の後の「過剰」の遊離脂肪酸がプロセスに戻され再利用され得るため、それ以降、遊離脂肪酸またはそれらのエステルの添加は必要とされない。さらに、脂肪酸が3つずつつながれておらず、別々の分子として優勢であるという事実のため、脂肪酸の分離がはるかに効率的であるため、植物油の分別、例えば、低収率のパームステアリンへの分別は必要ない。脂肪酸の分別は、例えば、結晶化、蒸留、またはその他の手段を介したものであり得るが、分別蒸留が好ましい。分別とは、本明細書において、少なくとも2つの分別への分離と定義され、それは、当技術分野において公知の任意の分離方法によって実施され得る。
【0026】
第1の高パルミチン酸画分と第1の低パルミチン酸画分とを得るための分別は、1工程プロセスで実施される分別工程に限定されない。即ち、例えば、低収率であるが迅速な分別が実施され、次いで、最初の工程に応じて、またはどの画分がさらに分別されるかに応じて、高画分または低画分のいずれかを得るため、該画分がさらに分別される。本発明は、高画分および低画分を得ることを少なくとも企図し、ここで、高画分が少なくとも再使用される。
【0027】
新たな量の最終植物性脂肪組成物とは、出発材料と同様に、プロセスがバッチ式プロセスまたは連続式プロセスのいずれかとして実行され得ること、即ち、新たな量の最終生成物が、バッチとして、または連続ストリーム中に、プロセスから得られ得ることを意味する。
【0028】
本発明の生成物は、人乳脂肪代用物の要件を満たすため、他の油と混和されることが意図される。これらの他の油および脂肪は、主に、植物油であるが、他の起源の油、例えば、動物または微生物に由来するもの、例えば、魚油、微生物由来の長鎖多価不飽和脂肪酸(LCPUFA)、非ヒト哺乳動物由来の乳脂肪も、使用することが可能である。
【0029】
出発植物性脂肪組成物に応じて、得られる生成物は、好ましくは、非トランスであるだけでなく、水素添加もされていない。分別によって植物性脂肪組成物の中の18:0と16:0との割合を変化させることは極めて困難であり、エステル交換も、化学的であっても、酵素的であっても、1,3位特異的であるか、または非位置特異的であるかに関わらず、これを変化させない。一方、水素添加は、18:0の含量を増加させる。しかしながら、トランス脂肪酸は、乳児用調製乳生成物において避けられるべきであり、1部の天然パーム油画分と、より少ない部の完全水素添加出発油との混和を行うことは可能であるが、特に、乳児用調製乳のために使用されるとき、出発油は、非トランスであるだけでなく、水素添加もされていないことが好ましい。
【0030】
本発明のさらなる利点は、このプロセスが、sn2位パルミチン酸の濃縮の他に、ステアリン酸が人乳中と類似した様式でトリグリセリド内に分布することを可能にする点である。さらに、有機認証植物性脂肪組成物から出発する場合、適切なプロセスパラメータを選択することによって、プロセスは、有機認証生成物を製造するのに適している。
【0031】
第2の局面において、第1の局面によって製造された、sn2位に存在するパルミチン酸を有する植物性脂肪組成物が、本明細書に開示される。
【0032】
第3の局面において、乳児用調製乳のための他の脂肪組成物との混和物において使用するための植物由来の加工された植物性脂肪組成物が、本明細書に開示され、ここで、該加工された植物性脂肪組成物は、トリグリセリド内脂肪酸の総重量と比較して少なくとも30重量%のトリグリセリド内パルミチン酸を含み、トリグリセリド内の全パルミチン酸のうちのsn2位パルミチン酸の割合は、少なくとも50%である。
【0033】
第4の局面において、乳児用調製乳の製造における、第2の局面によるsn2位に存在するパルミチン酸を有する植物性脂肪組成物、または第3の局面による加工された植物性脂肪組成物の使用が、本明細書に開示される。
【0034】
第5の局面において、ミルクフリーの乳児用食品などのプラントベース食品の製造における、第2の局面によるsn2位に存在するパルミチン酸を有する植物性脂肪組成物、または第3の局面による加工された植物性脂肪組成物の使用が、本明細書に開示される。プラントベース食品とは、植物由来成分に主に基づく食品を意味するものとする。非植物由来成分の微量の存在は許可される。1つの態様において、プラントベース食品は、植物由来成分から完全に作られ、従って、動物由来成分を含まない。プラントベース食品の一例は、ミルクフリーの乳児用食品である。
【0035】
第6の局面において、乳児用調製乳の中の脂肪組成物の総量と比較して15重量%~100重量%、例えば15重量%~99重量%の、第2の局面によるsn2位に存在するパルミチン酸を有する植物性脂肪組成物、または第3の局面による加工された植物性脂肪組成物を含む乳児用調製乳が、本明細書に開示される。
【0036】
定義
他に定義されない限り、本明細書において使用される(技術用語および科学用語を含む)全ての用語は、本発明が関係する技術分野の当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。一般的に使用される辞書において定義されているものなどの用語は、関連技術分野に関するそれらの意味と一致する意味を有するものとして解釈されるべきであり、本明細書において明示的にそのように定義されない限り、理想的な、または過度に正式な意味で解釈されないことが、さらに理解されるであろう。
【0037】
本明細書において使用されるように、「植物性」という用語は、植物または単細胞生物に由来するものと理解される。従って、植物性脂肪または植物性トリグリセリドは、該トリグリセリドまたは脂肪を得るために使用される全ての脂肪酸が、植物または単細胞生物に由来する場合にも、植物性脂肪または植物性トリグリセリドとして理解されるべきである。
【0038】
飽和脂肪酸とは、最大数の水素原子が鎖内の各炭素原子に付着している、単結合によってつながれた炭素原子の鎖である。不飽和脂肪酸とは、水素原子の割り当てが完全には付着していない、単結合および変動する数の二重結合によってつながれた炭素原子の鎖である。不飽和酸は、シス型およびトランス型という2つの形態で存在し得る。二重結合は、トランスまたはシスの2つの可能な配置のうちの1つを示すことができる。トランス配置(トランス脂肪酸)においては、炭素鎖が二重結合の反対側から伸び、一方、シス配置(シス脂肪酸)においては、炭素鎖が二重結合の同じ側から伸びる。トランス脂肪酸は、より直線的な分子である。シス脂肪酸は、折れ曲がった分子である。
【0039】
CXという命名法の使用は、脂肪酸がX個の炭素原子を含むことを意味し、例えば、C16脂肪酸は16個の炭素原子を有し、C18脂肪酸は18個の炭素原子を有する。しかしながら、実施例において開示されるC48、C50、C52、およびC54は、3つの脂肪酸の炭素数の和が、それぞれ、48、50、52、および54であるトリグリセリドを意味する。
【0040】
CX:Yという命名法の使用は、脂肪酸がX個の炭素原子およびY個の二重結合を含むことを意味し、例えば、C16:0脂肪酸は16個の炭素原子および0個の二重結合を有し、C18:1脂肪酸は18個の炭素原子および1個の二重結合を有する。
【0041】
トリグリセリドXPXとは、sn2位にパルミチン酸Pを含み、sn1位およびsn3位に任意の脂肪酸を含むトリグリセリドを意味する。PPPは、トリパルミチンを意味する。
【0042】
本明細書において使用されるように、「%」または「百分率」は、他に示されない場合、重量百分率、即ち、重量%(wt.%またはwt.-%)に関する。
【0043】
本明細書において、「植物油」および「植物性脂肪」は、他に特記されない限り、交換可能に使用される。
【0044】
本明細書において使用されるように、「単細胞油」という用語は、酵母、カビ(真菌)、細菌、および微細藻類の種である油性微生物に由来する油を意味する。これらの単細胞油は、細胞内で、大部分の場合、特定の増殖条件(例えば、窒素が制限されており、同時に炭素源が過剰である条件)で、定常増殖期に産生される。油性微生物の例は、モルチエレラ・アルピネア(Mortierella alpineea)、ヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)、シゾキトリウム(Schizochytrium)、ナンノクロロプシス(Nannochloropsis)、クロレラ(Chlorella)、クリプテコジニウム・コーニ(Crypthecodinium cohnii)、シュワネラ(Shewanella)であるが、これらに限定されるわけではない。
【0045】
「含む(comprising)」または「含む(to comprise)」という用語は、記述された部分、工程、特色、または成分の存在を指定するものとして解釈されるべきであるが、1つまたは複数の付加的な部分、工程、特色、または成分の存在を排除するものではない。
【0046】
本明細書において使用されるように、「および/または」という用語は、合同的な使用(「および」)および排他的な使用(「または」)を意味するものとし、即ち、「Aおよび/またはB」は、「Aのみ、またはBのみ、またはAおよびBの両方」を意味するものとする。
【0047】
本明細書において使用されるように、トリグリセリド組成物、油、または脂肪とは、同じものを意味し、モノグリセリドおよびジグリセリドなどの他のアシルグリセロールが存在してもよいが、該組成物の大部分はトリグリセリドであることが理解されるべきである。これは、組成物の中の脂肪酸が、植物性脂肪組成物の中のトリグリセリド内脂肪酸の総重量と比較した、トリグリセリド内の該脂肪酸の重量%によって定義されるとき、モノグリセリド内およびジグリセリド内の脂肪酸の量も、その数に含まれることを意味する。植物性脂肪組成物の中のトリグリセリド内の脂肪酸の総重量と比較したトリグリセリド内の該脂肪酸の重量%は、グリセロール骨格上の全脂肪酸と比較した、グリセロール骨格上の該脂肪酸の%として計算される。これは、「トリグリセリド組成物」という用語が、モノグリセリドおよびジグリセリドを含むことも意味する。さらに、トリグリセリド、トリグリセリド組成物、油、または脂肪という用語は、例えば、完全に精練されていない場合、部分加水分解されている場合、または蒸留分離が完全に完了していない場合、少量の遊離脂肪酸を含有し得ることが理解されるべきである。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【
図1】本発明のプロセスの1つの態様を例示的に示すフローチャートを示す。
【発明を実施するための形態】
【0049】
詳細な説明
ある要素に関して「含む(comprising)」、「有する(having)」、「含む(including)」、または「含有する(containing)」などの用語を使用した本発明の任意の局面または態様の本明細書における記載は、他に記述されない限り、または前後関係によって明確に否定されない限り、その特定の要素「からなる」、「から本質的になる」、または「を実質的に含む」本発明の類似した局面または態様についての支持を提供するものとし、例えば、ある特定の要素を含むと本明細書に記載される組成物は、他に記述されない限り、または前後関係によって明確に否定されない限り、その要素からなる組成物も記載していると理解されるべきである。「含む(comprises)」、「含む(comprising)」、「含む(includes)」、および/または「含む(including)」という用語は、本明細書において使用されるとき、記述された特色、整数、工程、操作、要素、および/または成分の存在を指定するが、1つまたは複数の他の特色、整数、工程、操作、要素、成分、および/またはそれらの群の存在または付加を除外するものではないことが、さらに理解されるであろう。
【0050】
本明細書において提供される任意の全ての例、または例示的な語(例えば、「などの」)の使用は、本発明をより明確にするためのものに過ぎず、特許請求の範囲に他に記載されない限り、本発明の範囲を限定するものではない。本明細書中のいかなる語も、特許請求の範囲に記載されていない要素を、本発明の実施に必須のものとして示していると解釈されるべきではない。
【0051】
本発明は、出発植物性脂肪組成物と比較してsn2位のパルミチン酸が増加した最終植物性脂肪組成物を作製するプロセス、sn2位に存在するパルミチン酸を有する植物性脂肪組成物、および乳児用調製乳のための他の脂肪組成物との混和物において使用するための植物由来の加工された植物性脂肪組成物に関する。
【0052】
一般に、トリグリセリドは、立体特異的番号付けを表す「sn」表記を使用する。天然L-グリセロール誘導体のフィッシャー投影式においては、第2ヒドロキシル基がC-2の左側に示され;次いで、その上の炭素原子がC-1となり、下の炭素原子がC-3となる。接頭辞「sn」は、化合物の語幹名の前に置かれる。
【0053】
【0054】
1つまたは複数の態様において、プロセスは、新たな量の出発植物性脂肪組成物を用いて工程(a)から再開する後続のプロセスにおける第2の脂肪酸混合物の少なくとも一部として、第1の低パルミチン酸画分を使用し、かつ/または新たな量の出発植物性脂肪組成物を用いて工程(a)から再開する後続のプロセスにおける第2の脂肪酸混合物の少なくとも一部として、第2の低パルミチン酸画分を使用する工程をさらに含む。
【0055】
1つまたは複数の態様において、過剰の遊離脂肪酸および/またはその非グリセリドエステルの第1の混合物と、過剰の遊離脂肪酸および/またはその非グリセリドエステルの第2の混合物とは、1つの混合物に組み合わせられ、その後、混合物は、少なくとも高パルミチン酸画分と低パルミチン酸画分とに分別される。
【0056】
1つまたは複数の態様において、プロセスは、例えば、脱臭、漂白、中和、および/または濾過によって、最終植物性脂肪組成物を精練する工程をさらに含む。
【0057】
1つまたは複数の態様において、プロセスは、部分アシルグリセロールを減少させる少なくとも1つの工程をさらに含み、ここで、該少なくとも1つの工程は、以下の工程からなる群より選択される工程のうちの1つまたは複数である:
第1および/もしくは第2のエステル交換プロセスまたはそれらの一部において、モレキュラーシーブまたはその他の水吸着剤もしくは水吸収剤を存在させる工程;
部分アシルグリセロールに対する特異性を有するリパーゼによって処理する工程;
部分真空または窒素ガスバブリングによって、第1のエステル交換プロセスおよび/または第2のエステル交換プロセスの途中または後に水を除去する工程;
エステル化を促進するリパーゼおよび条件を使用することによって、第1のエステル交換プロセスおよび/または第2のエステル交換プロセスの後にエステル化プロセスを実施する工程;
エステル化において形成された水を除去するため、第1のエステル交換プロセスおよび/または第2のエステル交換プロセスの後に、高温減圧下でエステル化プロセスを実施する工程。
【0058】
部分アシルグリセロールに対する特異性を有するリパーゼは、例えば、部分アシルグリセロールに対して特異的である、ペニシリウム・カマンベルティ(Penicillium camenberti)に由来するリパーゼである、Amano製のリパーゼGであり得る。
【0059】
1つまたは複数の態様において、分離工程のうちの1つまたは複数は、エステル交換されたトリグリセリドから、遊離脂肪酸および/またはその非グリセリドエステルを分離するため、エステル交換プロセスが実施された後に、プロセス混合物に対する蒸留および/または中和のプロセスによって実施される。1つまたは複数の態様において、分離工程のうちの全てが、エステル交換されたトリグリセリドから、遊離脂肪酸および/またはその非グリセリドエステルを分離するため、エステル交換プロセスが完了した後に、プロセス混合物に対する蒸留および/または中和のプロセスによって実施される。
【0060】
1つまたは複数の態様において、第2のエステル交換プロセスは、1つもしくは複数の1,3位特異的リパーゼを、第2のプロセス混合物に添加することによって、または1つもしくは複数の1,3位特異的リパーゼを含む1つもしくは複数のカラムに、第2のプロセス混合物を通すことによって実施される。これは、油および担体上のリパーゼ(固定化リパーゼ)を含むタンクを撹拌することによって、バッチ式に実施されてもよいし、または油がポンプで送られる間、カラム内に保持される固定化リパーゼを有するカラムを使用することによって、連続式プロセスとして実施されてもよい。工程を実施するこの方式は、その工程において使用されるリパーゼの種類に応じて、第1のエステル交換にも使用され得る。エステル交換の各々が、複数回実施されてもよい。それぞれ、工程(a)および(d)において、大過剰の脂肪酸混合物を添加する代わりに、それぞれ、工程(a)~(c)および/または(d)~(f)が、工程(a)から開始して工程(i)で終わる同じサイクルにおいて2回以上実施される。1つまたは複数の態様において、工程(d)~(f)は、工程(f)の後に、新たな量の第2の脂肪酸混合物が添加され、工程(f)から得られたトリグリセリドによってエステル交換され、続いて、新たな分離が実施されるよう、2回以上実施される。同じことが、工程(a)~(c)にも当てはまる。
【0061】
1つまたは複数の態様において、第1のエステル交換プロセスは、40℃~75℃、例えば50℃~75℃、例えば50℃~70℃、例えば60℃~75℃、または例えば60℃~70℃の温度で実施される。1つまたは複数の態様において、第2のエステル交換プロセスは、40℃~75℃、例えば50℃~75℃、例えば50℃~70℃、例えば60℃~75℃、または例えば60℃~70℃の温度で実施される。
【0062】
1,3位特異的エステル交換は、典型的には、40~60℃で実施され、異なる酵素は極めて異なる活性を有するため、時間、流速、処理の強度は変動するが、エステル交換度は、1つの態様において、70%超、好ましくは80%超、例えば90%~99%である。エステル交換度の定義は、脂肪酸混合物中の最も多く存在する脂肪酸の、遊離脂肪酸(またはその非グリセリドエステル)の含量に対する、sn1,3位における含量の比率である(最初から、1,3位にある脂肪酸の方が多い場合、比率は逆転する)。
【0063】
1つまたは複数の態様において、出発植物性脂肪組成物は、出発植物性脂肪組成物を第1の脂肪酸混合物と混合する前に、または混合する時に、部分的に、または完全に加水分解され、ここで、出発植物性脂肪組成物の加水分解された脂肪酸は、第1の脂肪酸混合物と混合する前に、加水分解混合物から分離されない。部分加水分解されるとき、好ましくは、少なくとも10%、例えば少なくとも15%、または、少なくとも20%、または、最も好ましくは、少なくとも30%のモノグリセリドおよびジグリセリドが存在する。
【0064】
1つまたは複数の態様において、出発植物油組成物に対する第1の脂肪酸混合物の重量比は、0.5~5.0、例えば1.0~3.0、または例えば2.0~2.5である。1つまたは複数の態様において、中間植物性脂肪組成物に対する第2の脂肪酸混合物の重量比は、0.5~5.0、例えば1.0~3.0、または例えば2.0~2.5である。
【0065】
1つまたは複数の態様において、第1のエステル交換プロセスにおいて、触媒は使用されない。1つまたは複数の態様において、第1のエステル交換工程は、1つまたは複数のリパーゼを第1のプロセス混合物に添加することによって、エステル交換プロセスによって実施される。1つまたは複数の態様において、第1のエステル交換工程において使用される1つまたは複数のリパーゼは、1,3位特異性をほとんどまたは全く有しない。
【0066】
1,3位特異性をほとんどまたは全く有しない、とは、リパーゼが、トリグリセリド上のsn1位およびsn3位(外側の2つの位置)の脂肪酸を選択的に交換しないが、ある程度の特異性が得られてもよいことを意味する。しかし、1,3位特異性をほとんどまたは全く有しないリパーゼは、好ましくは、任意の位置における脂肪酸を完全にランダムに交換するべきである。
【0067】
1つまたは複数の態様において、第1のエステル交換工程において使用される1つまたは複数のリパーゼ酵素は、1つまたは複数の1,3位特異的リパーゼであり、ここで、1,3位特異性は、1つまたは複数のジアシルグリセロール異性化化合物を第1のプロセス混合物に添加することによって打ち消される。1つまたは複数の態様において、ジアシルグリセロール異性化化合物は、シリカゲルである。
【0068】
1,3位特異的リパーゼは、1,2(および2,3)-ジアシルグリセロールを生成することができるが、これらのジアシルグリセロールは、安定しておらず、異性体化して1,2(2,3)-ジアシルグリセロールおよび1,3-ジアシルグリセロールの混合物を与える傾向があり、後者が最も多く存在する。異性化の速度は、温度および酵素支持体の酸性基または塩基性基の利用可能性などの要因によって影響される。最初にsn2位に位置していた脂肪酸が、1,3-ジアシルグリセロールへの異性化後には、sn1位またはsn3位に位置するため、次いで、1,3位特異的リパーゼは、それを交換することができる。驚くべきことに、異性化を促進しないことが見出された、支持体上に固定化1,3位特異的リパーゼを使用した時でさえ、即ち、固定化酵素調製物にリパーゼの1,3位特異性が保持された時でさえ、第1のエステル交換反応において高度のランダム化が達成されることが見出された。様々な条件が、エステル交換中に高レベルのジアシルグリセロールおよび高い異性化率を与え、従って、第1のエステル交換反応において1,3位特異的リパーゼ調製物を使用することを可能にすることが見出された。これらの条件は、
トリグリセリドの加水分解を駆動するため、高レベルのジグリセリドを与える、リパーゼが活性であることを確実にするために必要な少量を超える水を添加すること;
表面上に酸性もしくは塩基性の基を有するアシル基転移促進剤、例えば、シリカ、イオン交換樹脂、セライト、もしくはゼオライトを添加すること;および/または
リパーゼの非存在下で、リパーゼの最高機能温度を超える温度にプロセス混合物を加熱し、加熱されたプロセス混合物をリパーゼと再び接触させた時、エステル交換を継続すること
によって達成される。
【0069】
リパーゼの位置特異性は、ジアシルグリセロール異性化プロセスによって打ち消されてもよく、該プロセスは、エステル交換工程において、より多くの1,3-ジアシルグリセロールが形成されるよう、リパーゼの非存在下で混合物を加熱し、続いて、加熱された反応混合物を第1のプロセス混合物に戻し還流させるか、または間に加熱して1つまたは複数の反応器にプロセス混合物を通すことを含む。
【0070】
1つまたは複数の態様において、化学触媒は、プロセスのいずれの工程においても使用されない。
【0071】
1つまたは複数の態様において、使用される酵素は、非遺伝子組換え酵素または非遺伝子組換え産生酵素である。
【0072】
非遺伝子組換え産生リパーゼ酵素とは、遺伝子組換え生物(GMO)技術を使用せずに作製されるリパーゼ酵素である。
【0073】
1つまたは複数の態様において、有機溶媒は、プロセスのいずれの工程においても使用されない。
【0074】
工程のいずれにおいても化学触媒および非GMO産生酵素(例えば、リパーゼ)が使用されず、さらに、有機溶媒が使用されないプロセスは、有機認証出発組成物から出発する場合、最終植物性脂肪組成物が有機に関する規則および規制の下で作製され、従って、最終生成物が有機認証を受けるのを助けるはずである。さらに、最終植物性脂肪組成物は、National Food Safety Standard、例えば、National Food Safety Standard Food Nutritional Fortification Substance、1,3-ジオレオイル-2-パルミトイルトリグリセリド - GB 30604-2015に基づく基準も満たすはずである。
【0075】
1つまたは複数の態様において、第1の脂肪酸混合物は、第1の脂肪酸混合物の中の脂肪酸およびその非グリセリドエステルの総重量と比較して少なくとも80重量%のパルミチン酸および/またはその非グリセリドエステル、例えば、第1の脂肪酸混合物の中の脂肪酸およびその非グリセリドエステルの総重量と比較して少なくとも85重量%、例えば少なくとも90重量%、または例えば少なくとも95重量%のパルミチン酸および/またはその非グリセリドエステルを含む。
【0076】
1つまたは複数の態様において、第1の脂肪酸混合物は、第1の脂肪酸混合物の中の脂肪酸およびその非グリセリドエステルの総重量と比較して15重量%以下、例えば10重量%以下、または例えば5重量%以下のステアリン酸(C18:0)および/またはその非グリセリドエステルを含む。
【0077】
1つまたは複数の態様において、出発植物性脂肪組成物は、出発植物性脂肪組成物の中のトリグリセリド内脂肪酸の総重量と比較して20重量%~70重量%のトリグリセリド内パルミチン酸、例えば、出発植物性脂肪組成物の中のトリグリセリド内脂肪酸の総重量と比較して25重量%~65重量%、例えば30重量%~60重量%、例えば35重量%~55重量%、例えば40重量%~50重量%、または例えば45重量%のトリグリセリド内パルミチン酸を含む。
【0078】
1つまたは複数の態様において、出発植物性脂肪組成物は、パーム油もしくはその画分、例えば、パームオレイン油もしくは一次(single stage)乾式分別パームステアリン、もしくはそれらの誘導体、米ぬか油、落花生油、綿実油、またはそれらの組み合わせより選択される。1つまたは複数の態様において、出発植物性脂肪組成物は、パーム油もしくはその画分もしくは誘導体、パームオレイン油、またはそれらの組み合わせより選択される。あるいは、出発植物性脂肪組成物は、非パーム生成物、または非パーム生成物とパーム生成物との混合物であり得る。1つまたは複数の態様において、出発植物油組成物は、他の油との混和物、例えば、パーム油/画分と、別の液体油、例えば、以下に限定されるわけではないが、ヒマワリ油、菜種油、ベニバナ油、大豆油、またはそれらの組み合わせ、例えば、それらの高オレインバージョンとの混合物より選択される。例えば、最終生成物の脂肪酸組成を所望のレベルにするため、パーム油と別の液体油との混合物を、完全に循環型の/統合されたプロセスにおいて作り出すことは、本発明の一部である。
【0079】
1つまたは複数の態様において、出発植物性脂肪組成物は、少なくとも15、例えば少なくとも20、例えば少なくとも25、例えば少なくとも30、例えば少なくとも35、例えば少なくとも40、例えば少なくとも45、例えば少なくとも50、例えば少なくとも55、または例えば少なくとも60のヨウ素価(IV)を有する。1つまたは複数の態様において、出発植物性脂肪組成物は、少なくとも50、例えば少なくとも56のIVを有する。
【0080】
1つまたは複数の態様において、過剰の遊離脂肪酸および/またはその非グリセリドエステルの第1の混合物は、過剰の遊離脂肪酸および/またはその非グリセリドエステルの第1の混合物と中間植物性脂肪組成物との中の遊離脂肪酸および/またはその非グリセリドエステルの合計総量と比較して少なくとも90重量%、例えば少なくとも95重量%、または例えば少なくとも98重量%の遊離脂肪酸および/またはその非グリセリドエステルを含む。
【0081】
過剰の遊離脂肪酸および/またはその非グリセリドエステルの第1の混合物が、過剰の遊離脂肪酸および/またはその非グリセリドエステルの第1の混合物と中間植物性脂肪組成物との中の遊離脂肪酸および/またはその非グリセリドエステルの合計総量と比較して少なくとも90重量%の遊離脂肪酸および/またはその非グリセリドエステルを含む、とは、遊離脂肪酸および/またはその非グリセリドエステルの過剰の混合物が、エステル交換プロセス後に(組み合わせられた)過剰の混合物と中間植物性脂肪組成物との中に残存している遊離脂肪酸のうちの少なくとも90%を有することを意味する。過剰の混合物とは、第1のエステル交換プロセスの後、該プロセスを過剰の混合物と中間組成物とに分離した後に得られた混合物であり、比較する値は、混合物と組成物との両方の中の遊離脂肪酸の総量である。
【0082】
遊離脂肪酸のうちの少なくとも90%を過剰の混合物の中に回収することの技術的効果のうちの1つは、遊離脂肪酸形態のパルミチン酸をより多く中間組成物から取り出すことができ、それによって、分別後の高パルミチン酸画分の量が多くなり、その結果、後続のプロセスにおける第1の脂肪酸混合物の一部になるパルミチン酸の量が多くなるため、プロセスの効率が増加することである。
【0083】
換言すると、中間植物性脂肪組成物と、過剰の遊離脂肪酸および/またはその非グリセリドエステルの第1の混合物とを得るため、第1のエステル交換混合物を分離する時に、第1のエステル交換プロセスを実施した後に第1のエステル交換混合物の中に見出される過剰の遊離脂肪酸の残存量のうちの少なくとも90%は、過剰の遊離脂肪酸の第1の混合物に分離される。
【0084】
1つまたは複数の態様において、中間植物性脂肪組成物は、中間植物性脂肪の中のトリグリセリド内脂肪酸の総重量と比較して少なくとも50重量%のトリグリセリド内パルミチン酸、例えば、中間植物性脂肪の中のトリグリセリド内脂肪酸の総重量と比較して少なくとも60重量%、例えば少なくとも70重量%、または例えば少なくとも80重量%のトリグリセリド内パルミチン酸を含む。1つまたは複数の態様において、中間植物性脂肪組成物は、中間植物性脂肪の中のトリグリセリド内脂肪酸の総重量と比較して50重量%~85重量%のトリグリセリド内パルミチン酸、例えば、中間植物性脂肪の中のトリグリセリド内脂肪酸の総重量と比較して60重量%~85重量%、例えば70重量%~85重量%、例えば70重量%~80重量%、または例えば75重量%~80重量%のトリグリセリド内パルミチン酸を含む。
【0085】
1つまたは複数の態様において、中間植物性脂肪組成物のトリグリセリド内の全パルミチン酸のうちのsn2位パルミチン酸の割合は、少なくとも25%、例えば少なくとも27%、例えば少なくとも29%、例えば少なくとも30%、例えば少なくとも31%、例えば少なくとも32%、または例えば実質的に33%である。
【0086】
1つまたは複数の態様において、第2の脂肪酸混合物は、第2の脂肪酸混合物の中の脂肪酸およびその非グリセリドエステルの総重量と比較して少なくとも4重量%、例えば少なくとも5重量%、または例えば少なくとも6重量%のステアリン酸および/またはその非グリセリドエステルを含む。
【0087】
1つまたは複数の態様において、第2の脂肪酸混合物は、第2の脂肪酸混合物の中の脂肪酸およびその非グリセリドエステルの総重量と比較して少なくとも60重量%のC18脂肪酸および/またはその非グリセリドエステル、例えば、第2の脂肪酸混合物の中の脂肪酸およびその非グリセリドエステルの総重量と比較して少なくとも70重量%、例えば少なくとも80重量%、または例えば少なくとも90重量%のC18脂肪酸および/またはその非グリセリドエステルを含む。
【0088】
1つまたは複数の態様において、C18脂肪酸および/またはその非グリセリドエステルは、オレイン酸(C18:1)および/もしくはその非グリセリドエステル、リノール酸(C18:2)および/もしくはその非グリセリドエステル、またはそれらの組み合わせより選択される。
【0089】
1つまたは複数の態様において、C18脂肪酸および/またはその非グリセリドエステルは、ステアリン酸(C18:0)および/もしくはその非グリセリドエステル、オレイン酸(C18:1)および/もしくはその非グリセリドエステル、リノール酸(C18:2)および/もしくはその非グリセリドエステル、またはそれらの組み合わせより選択される。
【0090】
1つまたは複数の態様において、第2の脂肪酸混合物は、第2の脂肪酸混合物の中の脂肪酸およびその非グリセリドエステルの総重量と比較して8重量%以下のパルミチン酸および/またはその非グリセリドエステル、例えば、第2の脂肪酸混合物の中の脂肪酸およびその非グリセリドエステルの総重量と比較して6重量%以下、例えば4重量%以下、例えば3重量%以下、例えば2重量%以下、または例えば1重量%以下のパルミチン酸および/またはその非グリセリドエステルを含む。
【0091】
1つまたは複数の態様において、第2の脂肪酸混合物は、第2の脂肪酸混合物の中の脂肪酸およびその非グリセリドエステルの総重量と比較して少なくとも70重量%、例えば少なくとも80重量%、または例えば少なくとも90重量%の不飽和かつ/または短鎖~中鎖の脂肪酸、例えば、C2~C12脂肪酸および/またはその非グリセリドエステル、例えば、C8~C10脂肪酸および/またはその非グリセリドエステルを含む。この態様において、短鎖または短鎖および中鎖の脂肪酸が使用されるが、それは、それらが1,3位にあっても容易に吸収されるという意味で、不飽和脂肪酸と類似した栄養効果を有するためである。
【0092】
1つまたは複数の態様において、過剰の遊離脂肪酸および/またはその非グリセリドエステルの第2の混合物は、過剰の遊離脂肪酸および/またはその非グリセリドエステルの第2の混合物と最終植物性脂肪組成物との中の遊離脂肪酸および/またはその非グリセリドエステルの総量と比較して少なくとも90重量%、例えば少なくとも95重量%、または例えば少なくとも98重量%の遊離脂肪酸および/またはその非グリセリドエステルを含む。
【0093】
1つまたは複数の態様において、最終植物性脂肪組成物は、最終植物性脂肪組成物の中のトリグリセリド内脂肪酸の総重量と比較して少なくとも30重量%、例えば少なくとも35重量%、または例えば少なくとも40重量%のトリグリセリド内パルミチン酸を含む。1つまたは複数の態様において、最終植物性脂肪組成物は、最終植物性脂肪組成物の中のトリグリセリド内脂肪酸の総重量と比較して30重量%~50重量%、例えば35重量%~45重量%、または例えば40重量%~45重量%のトリグリセリド内パルミチン酸を含む。
【0094】
1つまたは複数の態様において、最終植物性脂肪組成物のトリグリセリド内の全パルミチン酸のうちのsn2位パルミチン酸の割合は、少なくとも50%、例えば少なくとも52%、例えば少なくとも55%、例えば少なくとも60%、または例えば少なくとも70%である。1つまたは複数の態様において、最終植物性脂肪組成物のトリグリセリド内の全パルミチン酸のうちのsn2位パルミチン酸の割合は、40%~90%、例えば52%~85%、例えば60%~80%である。
【0095】
1つまたは複数の態様において、最終植物性脂肪組成物は、最終植物性脂肪組成物の中のトリグリセリド内脂肪酸の総重量と比較して4.0重量%~9.0重量%のトリグリセリド内ステアリン酸、例えば、最終植物性脂肪組成物の中のトリグリセリド内脂肪酸の総重量と比較して4.5重量%~8.0重量%、例えば5.0重量%~7.0重量%、または例えば6.0重量%のトリグリセリド内ステアリン酸を含む。1つまたは複数の態様において、最終植物性脂肪組成物のトリグリセリド内の全ステアリン酸のうちのsn2位ステアリン酸の割合は、10%~30%、例えば10%~25%、例えば15%~25%、または例えば15%~20%である。このトリグリセリド構造は、C18:0がsn1位およびsn3位に濃縮されており、即ち、sn1位およびsn3位に見出されるステアリン酸の割合が高く、これは、人乳のトリグリセリド構造との高い類似性を意味するため、人乳とより類似している。
【0096】
1つまたは複数の態様において、C18脂肪酸および/もしくはその非グリセリドエステルは、ステアリン酸(C18:0)および/もしくはその非グリセリドエステル、オレイン酸(C18:1)および/もしくはその非グリセリドエステル、リノール酸(C18:2)および/もしくはその非グリセリドエステル、またはそれらの組み合わせより選択される。
【0097】
1つまたは複数の態様において、第2の脂肪酸混合物の中のリノール酸に対するオレイン酸の比は、0.5~10、例えば1~8、例えば2~6である。
【0098】
1つまたは複数の態様において、最終植物性脂肪組成物の中のジグリセリドおよびモノグリセリドの総量は、最終植物性脂肪組成物の総重量と比較して8重量%以下、例えば6重量%以下、例えば4重量%以下、または例えば2重量%以下である。例えば、ジグリセリドの量を低くすることの効果のうちの1つは、ジグリセリドの脂肪酸(例えば、パルミチン酸)は、1,2(2,3)-ジグリセリドから1,3-ジグリセリドに異性化し、従って、βパルミチン酸が除去される傾向があることである。さらに、高レベルのジグリセリドは、sn2位の脂肪酸組成を決定するために使用される分析方法において障害となり得る。
【0099】
1つまたは複数の態様において、出発植物性脂肪組成物の中のパルミチン酸の量の少なくとも60%が最終植物性脂肪組成物の中に存在し、例えば、出発植物性脂肪組成物の中のパルミチン酸の量の少なくとも70%、例えば少なくとも80%、例えば少なくとも90%、または例えば少なくとも95%が最終植物性脂肪組成物の中に存在する。
【0100】
1つまたは複数の態様において、最終植物性脂肪組成物は、水素添加されていない植物性脂肪組成物である。
【0101】
水素添加とは、不飽和脂肪酸を部分的に飽和させるプロセスである。水素添加されていない(Non-hydrogenated)とは、水素添加されていない(not hydrogenated)、または水素添加されていない(un-hydrogenated)ことを意味する。不飽和脂肪酸を(例えば、触媒、水素、および熱の組み合わせを含む)水素添加のプロセスに供することによって、二重結合が開き、水素原子が炭素原子に結合し、従って、二重結合が飽和する。不飽和油の大部分は、そのまま(その二重結合構造に)残るか、または対応する飽和脂肪酸に変換されるが、二重結合の一部は、水素添加プロセス中に開き、次いで、別の二重結合配置で再び閉じられ、従って、シス脂肪酸をトランス脂肪酸に、またはトランス脂肪酸をシス脂肪酸に変換することがある。水素添加されていない植物性脂肪組成物とは、水素添加されていない脂肪酸のみを含む組成物であり、即ち、脂肪酸としても、エステル(例えば、アシルグリセロール)としても、該組成物の中の脂肪酸に対して水素添加のプロセスが実施されていない。
【0102】
1つまたは複数の態様において、最終植物性脂肪組成物は、少なくとも40のC52値を含む。現在のNational Food Safety Standard(即ち、GB 30604-2015)において、OPOは、少なくとも40のC52を有する脂肪化合物として定義されることが示されている。少なくとも40のC52とは、組成物の少なくとも40%が、その3つの脂肪酸に52個の炭素(例えば、C18-C16-C18 = 18 + 16 + 18 = 52)を有するトリグリセリドを含むことを意味する。
【0103】
1つまたは複数の態様において、脂肪酸非グリセリドエステルは、メチルエステル、エチルエステル、またはそれらの組み合わせより選択される。
【0104】
1つまたは複数の態様において、得られる最終植物性脂肪組成物の量の収率は、出発植物性脂肪組成物の量と比較して少なくとも50%、例えば、出発植物性脂肪組成物の量と比較して少なくとも70%、例えば少なくとも80%、例えば少なくとも90%、または例えば少なくとも95%である。
【0105】
出発脂肪組成物から最終脂肪組成物への95%の利用率で実行されるプロセスとは、出発植物性脂肪組成物のグリセロール骨格の95%が最終植物性脂肪組成物の中に得られることを意味する。これは、物理的損失が小さく、生成物の脂肪酸組成が出発油と極めて類似している(ただし位置は変化する)場合に得られ得、これは、第1のエステル交換プロセスにおける良好なランダム化を必要とする。
【0106】
出発植物性脂肪組成物の量と比較された、得られた最終植物性脂肪組成物の重量収率とは、最終植物性脂肪組成物の重量を、第1のプロセス工程において添加された出発植物性脂肪組成物の重量で割ることを意味する。プロセスが、工程(a)から再開する後続のプロセスである場合、それは、その後続のプロセスサイクルにおいて添加された出発植物性脂肪組成物の量である。
【0107】
1つまたは複数の態様において、プロセスは連続式プロセスであり、ここで、連続式プロセスは、少なくとも工程(a)~(i)を含み、プロセスは、新たな量の出発植物性脂肪組成物を用いて工程(a)から再開する後続のプロセスにおける第1の脂肪酸混合物の少なくとも一部として、少なくとも工程(i)の第1および第2の高パルミチン酸画分を使用することによって継続され、第1の脂肪酸混合物の一部としての高パルミチン酸画分と、新たな量の出発植物性脂肪組成物とは、工程(a)~(i)によって加工され、それによって、後続の量の最終植物性脂肪組成物と、後続の高パルミチン酸画分が得られ、後続の高パルミチン酸画分は、次いで、工程(a)から再開するさらに後続のプロセスによって継続され得る。
【0108】
連続式プロセスを開始するためには、工程(a)~(h)のプロセスを1回実施する。次いで、2回目/後続のプロセスを実施することができるが、今回は、1回目のプロセスの実施から得られた高パルミチン酸画分を、第1の脂肪酸混合物の少なくとも一部として使用することができる。次いで、2回目のプロセスの実施から得られた高パルミチン酸画分を、プロセスの3回目のサイクルにおいて、第1の脂肪酸混合物の少なくとも一部として使用することができる。
【0109】
即ち、前回のランにおいて得られた高パルミチン酸画分が、今回のランにおいて第1の脂肪酸混合物の一部として使用され、それによって、後続のランにおいて使用するための新たな高パルミチン酸画分が得られ、それによって、連続式プロセスが作り出される。ここで、新たな量の出発植物性脂肪組成物は、前回のランからの高パルミチン酸画分と混合される必要があり、より少量の第1の脂肪酸混合物が、外部から供給されるか、または全く供給されず、それによって、新たな量の最終植物性脂肪組成物が得られ、それが、連続式プロセスから取り出される。
【0110】
過剰の遊離脂肪酸の第2の混合物から得られた高パルミチン酸画分も、前記のように戻し再利用されるときには、さらに少量の第1の脂肪酸混合物が、本開示のプロセスの外部から必要とされ得る。さらに、過剰の遊離脂肪酸の第1または第2の混合物からの低パルミチン酸画分が、後続のプロセスにおける第2の脂肪酸混合物の少なくとも一部として再利用される場合、外部供給/本開示のプロセスの外部から得られる必要のある第2の脂肪酸混合物の量も低下し得る。両方のプロセスからの両方の画分が再使用され、プロセスが最適に実行された場合には、第1および第2の脂肪酸混合物の両方が、前のサイクルの高パルミチン酸画分および低パルミチン酸画分から得られるため、プロセスの初回のサイクルが完了した時、新たな量の最終植物性脂肪組成物を得るために、新たな量の出発植物性脂肪組成物のみを添加する必要がある。
【0111】
連続式プロセスを開始する別の方式は、一定量のパルミチン酸および低パルミチン脂肪酸(第1および第2の脂肪酸混合物)を得ることであり得る。これらは種々の方式で得られ得る。1つの可能性は、まず、パルミチン酸を添加せずに工程(a)および(b)を実行し、何らかの低パルミチン酸(第2の脂肪酸混合物)を添加し、プロセスの工程(d)および(e)を実行し、次いで、請求項1記載のプロセスにおいて、そのスタートアッププロセスから再利用された脂肪酸を使用することである。この最初の反応は、同じ出発植物性脂肪組成物を用いてもよいが、好ましくは、より多くのパルミチン酸を含有する植物性脂肪組成物が使用される。サイクルを開始する別の可能性は、工程(d)および(e)がプロセスのスタートアップ工程であり、ここで、出発植物性脂肪組成物であってもよいが、好ましくは、より多くのパルミチン酸を含む植物性脂肪組成物である植物性脂肪組成物と、何らかの低パルミチン酸(第2の脂肪酸混合物)が混合される。さらに別の可能性は、系を「フィルアップ(fill up)」するため、完全に外部からの脂肪酸混合物を使用することである。
【0112】
少なくとも工程(i)の第1および第2の高パルミチン酸画分を使用することによってプロセスが継続される、とは、後の工程を実施することによってプロセスが継続されること、即ち、下流の材料が連続的に再利用され、より前のプロセス工程に戻されることを意味する。即ち、工程が逐次的に実施されるのではなく、全てが同時に実施され、その際、後の工程から再利用された材料が、前の工程において使用される。
【0113】
1つまたは複数の態様において、連続式プロセスは、分別のうちの1つまたは複数から得られた脂肪酸を戻すことによって実施され、ここから得られた脂肪酸は、次いで、エステル交換プロセスのうちの1つまたは複数において使用され、エステル交換は、例えば、1つまたは複数の充填床カラムに通すことによって、バッチ式または連続式のいずれかで実施され得る。
【0114】
1つまたは複数の態様において、連続式プロセスは、新たな量の出発植物性脂肪組成物を用いて工程(a)から再開する後続のプロセスにおける第2の脂肪酸混合物の少なくとも一部として、第1の低パルミチン酸画分および/または第2の低パルミチン酸画分を使用する工程をさらに含む。
【0115】
1つまたは複数の態様において、工程(a)から再開する後続のプロセスにおける第1の脂肪酸混合物は、工程(a)から再開する後続のプロセスにおける第1の脂肪酸混合物の中の脂肪酸の総重量と比較して少なくとも50重量%の、過剰の遊離脂肪酸および/またはその非グリセリドエステルの第1の混合物の分別、ならびに過剰の遊離脂肪酸および/またはその非グリセリドエステルの第2の混合物の分別から得られた脂肪酸および/またはその非グリセリドエステル、例えば、工程(a)から再開する後続のプロセスにおける第1の脂肪酸混合物の中の脂肪酸の総重量と比較して少なくとも70重量%、例えば少なくとも80重量%、例えば少なくとも90重量%、例えば少なくとも95重量%、または例えば実質的に100重量%の、過剰の遊離脂肪酸および/またはその非グリセリドエステルの第1の混合物の分別、ならびに過剰の遊離脂肪酸および/またはその非グリセリドエステルの第2の混合物の分別から得られた脂肪酸および/またはその非グリセリドエステルを含む。
【0116】
工程(a)から再開する後続のプロセスにおける第1の脂肪酸混合物が、工程(a)から再開する後続のプロセスにおける第1の脂肪酸混合物の中の脂肪酸の総重量と比較して少なくとも50重量%の、過剰の遊離脂肪酸および/またはその非グリセリドエステルの第1の混合物の分別、ならびに過剰の遊離脂肪酸および/またはその非グリセリドエステルの第2の混合物の分別から得られた脂肪酸および/またはその非グリセリドエステルを含む、とは、プロセスの任意のサイクルの第1の脂肪酸混合物の中の脂肪酸のうちの少なくとも50%が、前のサイクルのプロセスにおける分別工程から得られることを意味する。
【0117】
さらに、50重量%の脂肪酸とは、同じサイクルにおける同じ組成物の中の脂肪酸の総重量と比較されたものであり、即ち、初回サイクルの後のプロセスの任意のサイクルの第1の脂肪酸混合物は、プロセスの前のサイクルにおける分別から得られた混合物の中の少なくとも50%の脂肪酸を含み得、ここで、50%の脂肪酸とは、混合物の中の脂肪酸の総重量と重量で比較されたものである。
【0118】
1つまたは複数の態様において、工程(a)から再開する後続のプロセスにおける第2の脂肪酸混合物は、工程(a)から再開する後続のプロセスにおける第2の脂肪酸混合物の中の脂肪酸の総重量と比較して少なくとも50重量%の、過剰の遊離脂肪酸および/またはその非グリセリドエステルの第1の混合物の分別、および/または過剰の遊離脂肪酸および/またはその非グリセリドエステルの第2の混合物の分別から得られた脂肪酸および/またはその非グリセリドエステル、例えば、工程(a)から再開する後続のプロセスにおける第2の脂肪酸混合物の中の脂肪酸の総重量と比較して少なくとも70重量%、例えば少なくとも80重量%、例えば少なくとも90重量%、例えば少なくとも95重量%、または例えば実質的に100重量%の、過剰の遊離脂肪酸および/またはその非グリセリドエステルの第1の混合物の分別、および/または過剰の遊離脂肪酸および/またはその非グリセリドエステルの第2の混合物の分別から得られた脂肪酸および/またはその非グリセリドエステルを含む。
【0119】
1つまたは複数の態様において、工程(a)から再開する後続のプロセスに、出発植物性脂肪組成物以外に、追加の脂肪酸混合物は添加されず、即ち、出発植物性脂肪組成物以外の原材料は使用されない。
【0120】
後続のプロセスに追加の脂肪酸混合物が添加されない、とは、第1の脂肪酸混合物および第2の脂肪酸混合物として添加される脂肪酸の全てが、過剰の遊離脂肪酸および/またはその非グリセリドエステルの第1の混合物の分別、および過剰の遊離脂肪酸および/またはその非グリセリドエステルの第2の混合物の分別から得られることを意味する。
【0121】
1つまたは複数の態様において、得られる最終植物性脂肪組成物の量の収率は、出発植物性脂肪組成物、ならびに前のサイクルの工程(g)および(h)に由来しない脂肪酸および/またはその非グリセリドエステルの量と比較して少なくとも50%、例えば、出発植物性脂肪組成物、ならびに前のサイクルの工程(g)および(h)に由来しない脂肪酸および/またはその非グリセリドエステルの量と比較して少なくとも70%、例えば少なくとも80%、例えば少なくとも90%、または例えば少なくとも95%である。
【0122】
1つまたは複数の態様において、最終トリグリセリド組成物の中の脂肪酸の総重量と比較して少なくとも30重量%、例えば少なくとも35重量%、または例えば少なくとも40重量%のパルミチン酸が、最終トリグリセリド組成物の中に存在する。
【0123】
第2の局面による1つまたは複数の態様において、植物性脂肪組成物は、トリグリセリド内脂肪酸の総重量と比較して30重量%~50重量%、例えば35重量%~45重量%、または例えば40重量%~45重量%のトリグリセリド内パルミチン酸を含む。
【0124】
第2の局面による1つまたは複数の態様において、トリグリセリド内の全パルミチン酸のうちのsn2位パルミチン酸の割合は、少なくとも50%、例えば少なくとも52%、例えば少なくとも55%、または例えば少なくとも60%、または例えば少なくとも70%である。第2の局面による1つまたは複数の態様において、トリグリセリド内の全パルミチン酸のうちのsn2位パルミチン酸の割合は、50%~90%、例えば52%~85%である。
【0125】
第2の局面による1つまたは複数の態様において、植物性脂肪組成物は、トリグリセリド内脂肪酸の総重量と比較して4.0重量%~9.0重量%のトリグリセリド内ステアリン酸、例えば、トリグリセリド内脂肪酸の総重量と比較して4.5重量%~8.0重量%、例えば5.0重量%~7.0重量%、または例えば6.0重量%のトリグリセリド内ステアリン酸を含む。
【0126】
第2の局面による1つまたは複数の態様において、トリグリセリド内の全ステアリン酸のうちのsn2位ステアリン酸の割合は、10%~30%、例えば10%~25%、例えば15%~25%、または例えば15%~20%である。
【0127】
第2の局面による1つまたは複数の態様において、最終植物性脂肪組成物のトリグリセリド内のリノール酸に対するオレイン酸の比率は、0.5~10、例えば1~8、例えば2~6である。
【0128】
第2の局面による1つまたは複数の態様において、植物性脂肪組成物は、植物性脂肪組成物の総重量と比較して8重量%以下、例えば6重量%以下、例えば4重量%以下、または例えば2重量%以下のジグリセリドおよびモノグリセリドを含む。
【0129】
第3の局面による1つまたは複数の態様において、加工された植物性脂肪組成物は、トリグリセリド内脂肪酸の総重量と比較して少なくとも35重量%、例えば少なくとも40重量%のトリグリセリド内パルミチン酸を含む。第3の局面による1つまたは複数の態様において、加工された植物性脂肪組成物は、トリグリセリド内脂肪酸の総重量と比較して30重量%~50重量%、例えば35重量%~45重量%、または例えば40重量%~45重量%のトリグリセリド内パルミチン酸を含む。
【0130】
第3の局面による1つまたは複数の態様において、トリグリセリド内の全パルミチン酸のうちのsn2位パルミチン酸の割合は、少なくとも50%、例えば少なくとも52%、例えば少なくとも55%、例えば少なくとも60%、または例えば少なくとも70%である。第3の局面による1つまたは複数の態様において、トリグリセリド内の全パルミチン酸のうちのsn2位パルミチン酸の割合は、50%~90%、例えば52%~85%である。
【0131】
第3の局面による1つまたは複数の態様において、加工された植物性脂肪組成物は、トリグリセリド内脂肪酸の総重量と比較して4.0重量%~9.0重量%のトリグリセリド内ステアリン酸、例えば、トリグリセリド内脂肪酸の総重量と比較して4.5重量%~8.0重量%、例えば5.0重量%~7.0重量%、または例えば6.0重量%のトリグリセリド内ステアリン酸を含む。
【0132】
第3の局面による1つまたは複数の態様において、トリグリセリド内の全ステアリン酸のうちのsn2位ステアリン酸の割合は、10%~30%、例えば10%~25%、例えば15%~25%、または例えば15%~20%である。
【0133】
第3の局面による1つまたは複数の態様において、加工された植物性脂肪組成物のトリグリセリド内のリノール酸に対するオレイン酸の比率は、0.5~10、例えば1~8、例えば2~6である。
【0134】
第3の局面による1つまたは複数の態様において、加工された植物性脂肪組成物は、加工された植物性脂肪組成物の総重量と比較して8重量%以下、例えば6重量%以下、例えば4重量%以下、または例えば2重量%以下のジグリセリドおよびモノグリセリドを含む。
【0135】
態様を記載するとき、全ての可能な態様の組み合わせおよび並べ替えが明示的に記載されているわけではない。にも関わらず、ある特定の尺度(measures)が、相互に異なる従属請求項において列挙されているか、または異なる態様において記載されているという単なる事実は、これらの尺度の組み合わせが有利に使用され得ないことを示すものではない。本発明は、記載された態様の全ての可能な組み合わせおよび並べ替えを構想する。
【0136】
以下に、本発明を、以下の非限定的な項によって記載する。
【0137】
1. 出発植物性脂肪組成物と比較してsn2位のパルミチン酸が増加した最終植物性脂肪組成物を作製するプロセスであって、
(a)出発植物性脂肪組成物を第1の脂肪酸混合物と混合して第1のプロセス混合物を得る工程であって、出発植物性脂肪組成物が、出発植物性脂肪組成物の中のトリグリセリド内脂肪酸の総重量と比較して15重量%~75重量%のトリグリセリド内パルミチン酸を含み、第1の脂肪酸混合物が、第1の脂肪酸混合物の中の脂肪酸およびその非グリセリドエステルの総重量と比較して少なくとも75重量%のパルミチン酸(C16:0)および/またはその非グリセリドエステルを含む、工程;
(b)第1のプロセス混合物に対して第1のエステル交換プロセスを実施して、遊離脂肪酸および/またはその非グリセリドエステルの混合物と、エステル交換されたトリグリセリドとを含む第1のエステル交換混合物を得る、工程;
(c)第1のエステル交換混合物のエステル交換されたトリグリセリドから遊離脂肪酸および/またはその非グリセリドエステルを分離して、中間植物性脂肪組成物と、過剰の遊離脂肪酸および/またはその非グリセリドエステルの第1の混合物とを得る、工程;
(d)中間植物性脂肪組成物を第2の脂肪酸混合物と混合して第2のプロセス混合物を得る工程であって、第2の脂肪酸混合物が、第2の脂肪酸混合物の中の脂肪酸およびその非グリセリドエステルの総重量と比較して10重量%以下のパルミチン酸および/またはその非グリセリドエステルを含む、工程;
(e)1つまたは複数の1,3位特異的リパーゼの使用による第2のエステル交換プロセスを第2のプロセス混合物に対して実施して、遊離脂肪酸および/またはその非グリセリドエステルの混合物と、エステル交換されたトリグリセリドとを含む第2のエステル交換混合物を得る、工程;
(f)第2のエステル交換混合物のエステル交換されたトリグリセリドから遊離脂肪酸および/またはその非グリセリドエステルを分離して、出発植物性脂肪組成物と比較してsn2位のパルミチン酸が増加した最終植物性脂肪組成物と、過剰の遊離脂肪酸および/またはその非グリセリドエステルの第2の混合物とを得る、工程;
(g)過剰の遊離脂肪酸および/またはその非グリセリドエステルの第1の混合物を分別して、少なくとも第1の高パルミチン酸画分と第1の低パルミチン酸画分とを得る工程であって、第1の高パルミチン酸画分が、第1の高パルミチン酸画分の中の脂肪酸およびその非グリセリドエステルの総重量と比較して少なくとも75重量%のパルミチン酸および/またはその非グリセリドエステルを含み、第1の低パルミチン酸画分が、好ましくは、第1の低パルミチン酸画分の中の脂肪酸およびその非グリセリドエステルの総重量と比較して15重量%以下、例えば10重量%以下のパルミチン酸および/またはその非グリセリドエステルを含む、工程;
(h)過剰の遊離脂肪酸および/またはその非グリセリドエステルの第2の混合物を分別して、少なくとも第2の高パルミチン酸画分と第2の低パルミチン酸画分とを得る工程であって、第2の高パルミチン酸画分が、第2の高パルミチン酸画分の中の脂肪酸およびその非グリセリドエステルの総重量と比較して少なくとも75重量%のパルミチン酸および/またはその非グリセリドエステルを含み、第2の低パルミチン酸画分が、好ましくは、第2の低パルミチン酸画分の中の脂肪酸およびその非グリセリドエステルの総重量と比較して15重量%以下、例えば10重量%以下のパルミチン酸および/またはその非グリセリドエステルを含む、工程;
(i)新たな量の出発植物性脂肪組成物を用いて工程(a)から再開する後続のプロセスにおける第1の脂肪酸混合物の少なくとも一部として、少なくとも第1および第2の高パルミチン酸画分を使用する工程
を含む、プロセス。
【0138】
2. 新たな量の出発植物性脂肪組成物を用いて工程(a)から再開する後続のプロセスにおける第2の脂肪酸混合物の少なくとも一部として、第1の低パルミチン酸画分を使用し、かつ/または新たな量の出発植物性脂肪組成物を用いて工程(a)から再開する後続のプロセスにおける第2の脂肪酸混合物の少なくとも一部として、第2の低パルミチン酸画分を使用する工程をさらに含む、項1に記載のプロセス。
【0139】
3. 過剰の遊離脂肪酸および/またはその非グリセリドエステルの第1の混合物と、過剰の遊離脂肪酸および/またはその非グリセリドエステルの第2の混合物とが、1つの混合物に組み合わせられた後、混合物が、少なくとも高パルミチン酸画分と低パルミチン酸画分とに分別される、前記項のいずれかに記載のプロセス。
【0140】
4. 例えば、脱臭、漂白、中和、および/または濾過によって最終植物性脂肪組成物を精練する工程をさらに含む、前記項のいずれかに記載のプロセス。
【0141】
5. 前記プロセスが、部分アシルグリセロールを減少させる少なくとも1つの工程をさらに含み、該少なくとも1つの工程が、
第1および/もしくは第2のエステル交換プロセスまたはそれらの一部において、モレキュラーシーブまたはその他の水吸着剤もしくは水吸収剤を存在させる工程;
部分アシルグリセロールに対する特異性を有するリパーゼによって処理する工程;
部分真空または窒素ガスバブリングによって、第1のエステル交換プロセスおよび/または第2のエステル交換プロセスの途中または後に水を除去する工程;
エステル化を促進するリパーゼおよび条件を使用することによって、第1のエステル交換プロセスおよび/または第2のエステル交換プロセスの後にエステル化プロセスを実施する工程;
エステル化において形成された水を除去するため、第1のエステル交換プロセスおよび/または第2のエステル交換プロセスの後に、高温減圧下でエステル化プロセスを実施する工程
からなる群より選択される工程のうちの1つまたは複数である、前記項のいずれかに記載のプロセス。
【0142】
6. 出発植物性脂肪組成物を第1の脂肪酸混合物と混合する前に、出発植物性脂肪組成物が、部分的または完全に加水分解され、出発植物性脂肪組成物の加水分解された脂肪酸が、第1の脂肪酸混合物と混合する前に、加水分解混合物から分離されない、前記項のいずれかに記載のプロセス。
【0143】
7. 出発植物油組成物に対する第1の脂肪酸混合物の重量比が、0.5~5.0、例えば1.0~3.0、または例えば2.0~2.5である、前記項のいずれかに記載のプロセス。
【0144】
8. 中間植物性脂肪組成物に対する第2の脂肪酸混合物の重量比が、0.5~5.0、例えば1.0~3.0、または例えば2.0~2.5である、前記項のいずれかに記載のプロセス。
【0145】
9. 第1のエステル交換プロセスにおいて触媒が使用されない、前記項のいずれかに記載のプロセス。
【0146】
10. 第1のエステル交換工程が、1つまたは複数のリパーゼを第1のプロセス混合物に添加することによるエステル交換プロセスによって実施される、項1~8のいずれかに記載のプロセス。
【0147】
11. 第1のエステル交換工程において使用される1つまたは複数のリパーゼが1,3位特異性をほとんどまたは全く有しない、項10に記載のプロセス。
【0148】
12. 第1のエステル交換工程において使用される1つまたは複数のリパーゼ酵素が、1つまたは複数の1,3位特異性リパーゼであり、1,3位特異性が、1つまたは複数のジアシルグリセロール異性化化合物を第1のプロセス混合物に添加することによって打ち消される、項10に記載のプロセス。
【0149】
13. ジアシルグリセロール異性化化合物がシリカゲルである、項12に記載のプロセス。
【0150】
14. プロセスのいずれの工程においても化学触媒が使用されない、前記項のいずれかに記載のプロセス。
【0151】
15. 使用される酵素が非遺伝子組換え酵素または非遺伝子組換え産生酵素である、前記項のいずれかに記載のプロセス。
【0152】
16. プロセスのいずれの工程においても有機溶媒が使用されない、前記項のいずれかに記載のプロセス。
【0153】
17. 第1の脂肪酸混合物が、第1の脂肪酸混合物の中の脂肪酸およびその非グリセリドエステルの総重量と比較して少なくとも80重量%のパルミチン酸および/またはその非グリセリドエステル、例えば、第1の脂肪酸混合物の中の脂肪酸およびその非グリセリドエステルの総重量と比較して少なくとも85重量%、例えば少なくとも90重量%、または例えば少なくとも95重量%のパルミチン酸および/またはその非グリセリドエステルを含む、前記項のいずれかに記載のプロセス。
【0154】
18. 第1の脂肪酸混合物が、第1の脂肪酸混合物の中の脂肪酸およびその非グリセリドエステルの総重量と比較して15重量%以下、例えば10重量%以下、または例えば5重量%以下のステアリン酸(C18:0)および/またはその非グリセリドエステルを含む、前記項のいずれかに記載のプロセス。
【0155】
19. 出発植物性脂肪組成物が、パーム油もしくはその画分、例えば、パームオレイン油もしくは一次乾式分別パームステアリン、もしくはそれらの誘導体、米ぬか油、落花生油、綿実油、またはそれらの組み合わせより選択される、前記項のいずれかに記載のプロセス。
【0156】
20. 過剰の遊離脂肪酸および/またはその非グリセリドエステルの第1の混合物が、過剰の遊離脂肪酸および/またはその非グリセリドエステルの第1の混合物と中間植物性脂肪組成物との中の遊離脂肪酸および/またはその非グリセリドエステルの合計総量と比較して少なくとも90重量%、例えば少なくとも95重量%、または例えば少なくとも98重量%の遊離脂肪酸および/またはその非グリセリドエステルを含む、前記項のいずれかに記載のプロセス。
【0157】
21. 中間植物性脂肪組成物が、中間植物性脂肪の中のトリグリセリド内脂肪酸の総重量と比較して少なくとも50重量%のトリグリセリド内パルミチン酸、例えば、中間植物性脂肪の中のトリグリセリド内脂肪酸の総重量と比較して少なくとも60重量%、例えば少なくとも70重量%、または例えば少なくとも80重量%のトリグリセリド内パルミチン酸を含む、前記項のいずれかに記載のプロセス。
【0158】
22. 中間植物性脂肪組成物のトリグリセリド内の全パルミチン酸のうちのsn2位パルミチン酸の割合が、少なくとも25%、例えば少なくとも27%、例えば少なくとも29%、例えば少なくとも30%、例えば少なくとも31%、例えば少なくとも32%、または例えば実質的に33%である、前記項のいずれかに記載のプロセス。
【0159】
23. 第2の脂肪酸混合物が、第2の脂肪酸混合物の中の脂肪酸およびその非グリセリドエステルの総重量と比較して少なくとも4重量%、例えば少なくとも5重量%、または例えば少なくとも6重量%のステアリン酸および/またはその非グリセリドエステルを含む、前記項のいずれかに記載のプロセス。
【0160】
24. 第2の脂肪酸混合物が、第2の脂肪酸混合物の中の脂肪酸およびその非グリセリドエステルの総重量と比較して少なくとも60重量%のC18脂肪酸および/またはその非グリセリドエステル、例えば、第2の脂肪酸混合物の中の脂肪酸およびその非グリセリドエステルの総重量と比較して少なくとも70重量%、例えば少なくとも80重量%、または例えば少なくとも90重量%のC18脂肪酸および/またはその非グリセリドエステルを含む、前記項のいずれかに記載のプロセス。
【0161】
25. 第2の脂肪酸混合物が、第2の脂肪酸混合物の中の脂肪酸およびその非グリセリドエステルの総重量と比較して8重量%以下のパルミチン酸および/またはその非グリセリドエステル、例えば、第2の脂肪酸混合物の中の脂肪酸およびその非グリセリドエステルの総重量と比較して6重量%以下、例えば4重量%以下、例えば3重量%以下、例えば2重量%以下、または例えば1重量%以下のパルミチン酸および/またはその非グリセリドエステルを含む、前記項のいずれかに記載のプロセス。
【0162】
26. 第2の脂肪酸混合物において、不飽和かつ/または短鎖~中鎖の脂肪酸、例えば、C2~C12脂肪酸、または例えば、C8~C10脂肪酸が濃縮されている、前記項のいずれかに記載のプロセス。
【0163】
27. 過剰の遊離脂肪酸および/またはその非グリセリドエステルの第2の混合物が、過剰の遊離脂肪酸および/またはその非グリセリドエステルの第2の混合物と最終植物性脂肪組成物との中の遊離脂肪酸および/またはその非グリセリドエステルの合計総量と比較して少なくとも90重量%、例えば少なくとも95重量%、または例えば少なくとも98重量%の遊離脂肪酸および/またはその非グリセリドエステルを含む、前記項のいずれかに記載のプロセス。
【0164】
28. 最終植物性脂肪組成物が、最終植物性脂肪組成物の中のトリグリセリド内脂肪酸の総重量と比較して少なくとも30重量%、例えば少なくとも35重量%、または例えば少なくとも40重量%のトリグリセリド内パルミチン酸を含む、前記項のいずれかに記載のプロセス。
【0165】
29. 最終植物性脂肪組成物のトリグリセリド内の全パルミチン酸のうちのsn2位パルミチン酸の割合が、少なくとも50%、例えば少なくとも52%、例えば少なくとも55%、例えば少なくとも60%、または例えば少なくとも70%である、前記項のいずれかに記載のプロセス。
【0166】
30. 最終植物性脂肪組成物が、最終植物性脂肪組成物の中のトリグリセリド内脂肪酸の総重量と比較して4.0重量%~9.0重量%のトリグリセリド内ステアリン酸、例えば、最終植物性脂肪組成物の中のトリグリセリド内脂肪酸の総重量と比較して4.5重量%~8.0重量%、例えば5.0重量%~7.0重量%、または例えば6.0重量%のトリグリセリド内ステアリン酸を含む、前記項のいずれかに記載のプロセス。
【0167】
31. 最終植物性脂肪組成物のトリグリセリド内の全ステアリン酸のうちのsn2位ステアリン酸の割合が、10%~30%、例えば10%~25%、例えば15%~25%、または例えば15%~20%である、前記項のいずれかに記載のプロセス。
【0168】
32. 第2の脂肪酸混合物の中のリノール酸に対するオレイン酸の比率が、0.5~10、例えば1~8、例えば2~6である、前記項のいずれかに記載のプロセス。
【0169】
33. 最終植物性脂肪組成物の中のジグリセリドおよびモノグリセリドの総量が、最終植物性脂肪組成物の総重量と比較して8重量%以下、例えば6重量%以下、例えば4重量%以下、または例えば2重量%以下である、前記項のいずれかに記載のプロセス。
【0170】
34. 出発植物性脂肪組成物の中のパルミチン酸の量の少なくとも60%が最終植物性脂肪組成物の中に存在し、例えば、出発植物性脂肪組成物の中のパルミチン酸の量の少なくとも70%、例えば少なくとも80%、例えば少なくとも90%、または例えば少なくとも95%が最終植物性脂肪組成物の中に存在する、前記項のいずれかに記載のプロセス。
【0171】
35. 得られる最終植物性脂肪組成物の量の収率が、出発植物性脂肪組成物の量と比較して少なくとも50%、例えば、出発植物性脂肪組成物の量と比較して少なくとも70%、例えば少なくとも80%、例えば少なくとも90%、または例えば少なくとも95%である、前記項のいずれかに記載のプロセス。
【0172】
36. プロセスが連続式プロセスであり、連続式プロセスが少なくとも工程(a)~(i)を含み、プロセスが、新たな量の出発植物性脂肪組成物を用いて工程(a)から再開する後続のプロセスにおける第1の脂肪酸混合物の少なくとも一部として、少なくとも工程(i)の第1および第2の高パルミチン酸画分を使用することによって継続され、第1の脂肪酸混合物の一部としての高パルミチン酸画分と、新たな量の出発植物性脂肪組成物とが、工程(a)~(i)によって加工され、それによって、後続の量の最終植物性脂肪組成物および後続の高パルミチン酸画分が得られ、後続の高パルミチン酸画分が、次いで、工程(a)から再開するさらに後続のプロセスによって継続され得る、前記項のいずれかに記載のプロセス。
【0173】
37. 連続式プロセスが、分別のうちの1つまたは複数から得られた脂肪酸を戻すことによって実施され、ここから得られた脂肪酸が、次いで、エステル交換プロセスのうちの1つまたは複数において使用され、エステル交換がバッチ式または連続式のいずれかで実施され得る、項36に記載のプロセス。
【0174】
38. 新たな量の出発植物性脂肪組成物を用いて工程(a)から再開する後続のプロセスにおける第2の脂肪酸混合物の少なくとも一部として、第1の低パルミチン酸画分および/または第2の低パルミチン酸画分を使用する工程をさらに含む、項36~37のいずれかに記載のプロセス。
【0175】
39. 工程(a)から再開する後続のプロセスにおける第1の脂肪酸混合物が、工程(a)から再開する後続のプロセスにおける第1の脂肪酸混合物の中の脂肪酸の総重量と比較して少なくとも50重量%の、過剰の遊離脂肪酸および/またはその非グリセリドエステルの第1の混合物の分別、ならびに過剰の遊離脂肪酸および/またはその非グリセリドエステルの第2の混合物の分別から得られた脂肪酸および/またはその非グリセリドエステル、例えば、工程(a)から再開する後続のプロセスにおける第1の脂肪酸混合物の中の脂肪酸の総重量と比較して少なくとも70重量%、例えば少なくとも80重量%、例えば少なくとも90重量%、例えば少なくとも95重量%、または例えば実質的に100重量%の、過剰の遊離脂肪酸および/またはその非グリセリドエステルの第1の混合物の分別、ならびに過剰の遊離脂肪酸および/またはその非グリセリドエステルの第2の混合物の分別から得られた脂肪酸および/またはその非グリセリドエステルを含む、項36~38のいずれかに記載のプロセス。
【0176】
40. 工程(a)から再開する後続のプロセスにおける第2の脂肪酸混合物が、工程(a)から再開する後続のプロセスにおける第2の脂肪酸混合物の中の脂肪酸の総重量と比較して少なくとも50重量%の、過剰の遊離脂肪酸および/またはその非グリセリドエステルの第2の混合物の分別、ならびに過剰の遊離脂肪酸および/またはその非グリセリドエステルの第2の混合物の分別から得られた脂肪酸および/またはその非グリセリドエステル、例えば、工程(a)から再開する後続のプロセスにおける第2の脂肪酸混合物の中の脂肪酸の総重量と比較して少なくとも70重量%、例えば少なくとも80重量%、例えば少なくとも90重量%、例えば少なくとも95重量%、または例えば実質的に100重量%の、過剰の遊離脂肪酸および/またはその非グリセリドエステルの第1の混合物の分別、ならびに過剰の遊離脂肪酸および/またはその非グリセリドエステルの第2の混合物の分別から得られた脂肪酸および/またはその非グリセリドエステルを含む、項36~39のいずれかに記載のプロセス。
【0177】
41. 工程(a)から再開する後続のプロセスに追加の脂肪酸混合物が添加されない、項36~40のいずれかに記載のプロセス。
【0178】
42. 得られる最終植物性脂肪組成物の量の収率が、出発植物性脂肪組成物、ならびに前のサイクルの工程(g)および(h)に由来しない脂肪酸および/またはその非グリセリドエステルの量と比較して少なくとも50%、例えば、出発植物性脂肪組成物、ならびに前のサイクルの工程(g)および(h)に由来しない脂肪酸および/またはその非グリセリドエステルの量と比較して少なくとも70%、例えば少なくとも80%、例えば少なくとも90%、または例えば少なくとも95%である、項36~41のいずれかに記載のプロセス。
【0179】
43. 前記項1~42のいずれかによって製造された、sn2位に存在するパルミチン酸を有する植物性脂肪組成物。
【0180】
44. トリグリセリド内脂肪酸の総重量と比較して少なくとも30重量%、例えば少なくとも35重量%、または例えば少なくとも40重量%のトリグリセリド内パルミチン酸を含む、項43に記載の植物性脂肪組成物。
【0181】
45. トリグリセリド内の全パルミチン酸のうちのsn2位パルミチン酸の割合が、少なくとも50%、例えば少なくとも52%、例えば少なくとも55%、例えば少なくとも60%、または例えば少なくとも70%である、項43~44のいずれかに記載の植物性脂肪組成物。
【0182】
46. トリグリセリド内脂肪酸の総重量と比較して4.0重量%~9.0重量%のトリグリセリド内ステアリン酸、例えば、トリグリセリド内脂肪酸の総重量と比較して4.5重量%~8.0重量%、例えば5.0重量%~7.0重量%、または例えば6.0重量%のトリグリセリド内ステアリン酸を含む、項43~45のいずれかに記載の植物性脂肪組成物。
【0183】
47. トリグリセリド内の全ステアリン酸のうちのsn2位ステアリン酸の割合が、10%~30%、例えば10%~25%、例えば15%~25%、または例えば15%~20%である、項43~46のいずれかに記載の植物性脂肪組成物。
【0184】
48. 最終植物性脂肪組成物のトリグリセリド内のリノール酸に対するオレイン酸の比率が、0.5~10、例えば1~8、例えば2~6である、項43~47のいずれかに記載の植物性脂肪組成物。
【0185】
49. 植物性脂肪組成物の総重量と比較して8重量%以下、例えば6重量%以下、例えば4重量%以下、または例えば2重量%以下のジグリセリドおよびモノグリセリドを含む、前記項43~48のいずれかに記載の植物性脂肪組成物。
【0186】
50. 乳児用調製乳のための他の脂肪組成物との混和物において使用するための植物由来の加工された植物性脂肪組成物であって、加工された植物性脂肪組成物が、トリグリセリド内脂肪酸の総重量と比較して少なくとも30重量%のトリグリセリド内パルミチン酸を含み、トリグリセリド内の全パルミチン酸のうちのsn2位パルミチン酸の割合が少なくとも50%である、加工された植物性脂肪組成物。
【0187】
51. トリグリセリド内脂肪酸の総重量と比較して少なくとも35重量%、例えば少なくとも40重量%のトリグリセリド内パルミチン酸を含む、項50に記載の加工された植物性脂肪組成物。
【0188】
52. トリグリセリド内の全パルミチン酸のうちのsn2位パルミチン酸の割合が、少なくとも52%、例えば少なくとも55%、例えば少なくとも60%、または例えば少なくとも70%である、項50~51のいずれかに記載の加工された植物性脂肪組成物。
【0189】
53. トリグリセリド内脂肪酸の総重量と比較して4.0重量%~9.0重量%のトリグリセリド内ステアリン酸、例えば、トリグリセリド内脂肪酸の総重量と比較して4.5重量%~8.0重量%、例えば5.0重量%~7.0重量%、または例えば6.0重量%のトリグリセリド内ステアリン酸を含む、項50~52のいずれかに記載の加工された植物性脂肪組成物。
【0190】
54. トリグリセリド内の全ステアリン酸のうちのsn2位ステアリン酸の割合が、10%~30%、例えば10%~25%、例えば15%~25%、または例えば15%~20%である、項50~53のいずれかに記載の加工された植物性脂肪組成物。
【0191】
55. 加工された植物性脂肪組成物のトリグリセリド内のリノール酸に対するオレイン酸の比率が、0.5~10、例えば1~8、例えば2~6である、項50~54のいずれかに記載の加工された植物性脂肪組成物。
【0192】
56. 加工された植物性脂肪組成物の総重量と比較して8重量%以下、例えば6重量%以下、例えば4重量%以下、または例えば2重量%以下のジグリセリドおよびモノグリセリドを含む、項50~55のいずれかに記載の加工された植物性脂肪組成物。
【0193】
57. 乳児用調製乳の製造における、項43~49のいずれかに記載のsn2位に存在するパルミチン酸を有する植物性脂肪組成物、または項50~56のいずれかに記載の加工された植物性脂肪組成物の使用。
【0194】
58. ミルクフリーの乳児用食品などのプラントベース食品の製造における、項43~49のいずれかに記載のsn2位に存在するパルミチン酸を有する植物性脂肪組成物、または項50~56のいずれかに記載の加工された植物性脂肪組成物の使用。
【0195】
59. 乳児用調製乳の中の脂肪組成物の総量と比較して15重量%~100重量%、例えば15重量%~99重量%の、項43~49のいずれかに記載のsn2位に存在するパルミチン酸を有する植物性脂肪組成物、または項50~56のいずれかに記載の加工された植物性脂肪組成物を含む乳児用調製乳。
【0196】
様々な実施例を、図面を参照しながら、以下に記載する。図面は、実施例の説明を容易にするためのものに過ぎないことにも注意すべきである。それらは、特許請求の範囲に記載された発明の網羅的な説明としてのものではなく、特許請求の範囲に記載された発明の範囲を限定するものでもない。さらに、例示された実施例は、示された局面または利点の全てを有するとは限らない。特定の実施例と併せて記載される局面または利点は、必ずしもその実施例に限定されず、そのように例示されていなくても、または明示的に記載されていなくても、他の実施例において実施され得る。
【実施例】
【0197】
脂肪酸組成は、脂肪酸残基の%として与えられ、IUPAC 2.304によって分析される。
sn2位の脂肪酸組成は、sn2位の脂肪酸残基の%として与えられ、IUPAC 2.210によって分析される。
全C16:0のうちのsn2位C16:0の%は、100/3*(IUPAC 2.210によって測定されたsn2位C16:0)/(IUPAC 2.304によって測定されたC16:0)として計算され、ここで、分母の3は、トリグリセリド内の3つの位置のためである。
トリグリセリド組成C48~C54は、トリグリセリドの%で与えられ、IUPAC 2.323によって分析される。
ジグリセリドおよびモノグリセリドは、アシルグリセロールの%で与えられ、AOCS Cd 11d-96によって分析される。
遊離脂肪酸は、パルミチン酸残基またはオレイン酸残基のいずれかの%として与えられ、IUPAC 2.201によって分析される。
ヨウ素価は、IUPAC 2.205によって分析される。
【0198】
比較例
59.7%パルミチン酸を含む化学的にエステル交換されたパームステアリンIV 34を、クモノスカビ(Rhizopus oryzae)由来の固定化1,3位特異的リパーゼを使用して、オレイン酸脂肪酸によってエステル交換した(45:55比)。エステル交換度は93%であった。残留脂肪酸を、蒸留によって、アシルグリセロールから分離した。
【0199】
【表1】
* 蒸留によって取り出された脂肪酸の中のオレイン酸に対する(全部とsn2との差によって計算された)sn1位およびsn3位のオレイン酸の比率
【0200】
比較例2
74.4%パルミチン酸残基を含有する(有機認証パーム油から2回の乾式分別によって約7%の収率で得られた)ヨウ素価(IV)19.2のパームステアリンを、クモノスカビ由来の固定化1,3位特異的リパーゼを使用して、オレイン酸脂肪酸によって、90%のエステル交換度でエステル交換した(1:1.5比)。残留脂肪酸を、蒸留によって、アシルグリセロールから分離した。
【0201】
【表2】
* 蒸留によって取り出された脂肪酸の中のオレイン酸に対する(全部とsn2との差によって計算された)sn1位およびsn3位のオレイン酸の比率
【0202】
実施例1
クモノスカビ由来の固定化された1,3位特異的リパーゼによる、有機認証パームステアリンと有機認証オレイン脂肪酸とのエステル交換によって、スタートアップ工程を実施した。蒸留によってアシルグリセロールから残留脂肪酸を分離した。当該脂肪酸を、分別蒸留によって、87%パルミチン酸を含有する高パルミチン酸画分と、1%未満のパルミチン酸を含有するが77%オレイン酸を含有する高オレイン酸画分とに分離した。
【0203】
上に示されたスタートアップ工程は、高パルミチン酸画分と低パルミチン酸画分(高オレイン酸画分)とを得るための1つの方式である。この工程は、プロセスにおいて必要とされる、第1の脂肪酸混合物と第2の脂肪酸混合物とを得るために、実施される。上記の方法が示されるにも関わらず、前記の説明において開示された様々な異なる方式で画分を得ることが可能である。
【0204】
プロセスの初回サイクルは、3つの工程で実施された:
第1の工程は、認証有機パーム油1部と、スタートアップ工程からの高パルミチン酸画分(87%パルミチン酸を含有する画分)3部との酵素的エステル交換であった。酵素的エステル交換は、7%クモノスカビ由来固定化1,3位特異的リパーゼ、2%水、および3%シリカゲル(Trisyl 150 IE、Grace)を使用して実施された。ここで%は、パーム油と高パルミチン酸画分との混合物の合計重量に対する重量に基づく。エステル交換反応は、2つの部分に分割され、第1の部分においては、パーム油にリパーゼ、シリカゲル、および水を添加し、70℃で攪拌しながら4時間反応させた。4時間後に、高パルミチン酸画分を添加し、攪拌しながら、水を徐々に蒸発させながら、70℃でさらに20時間反応を継続させた。リパーゼおよびシリカゲルを除去した後、反応混合物を蒸留して、アシルグリセロールから遊離脂肪酸を分離し、それによってアシルグリセロール混合物を得た。
【0205】
反応の分析は、表3に示される。
【0206】
【表3】
* うち12.6%がsn-2位にあった。
** うち29.6%がsn-2位にあった。
【0207】
第2の工程は、クモノスカビ由来の固定化された1,3位特異的リパーゼを使用して、60℃で、工程1からのアシルグリセロール混合物0.89部と、スタートアップ工程からの高オレイン酸画分1.36部とのエステル交換によって、95%のエステル交換度で実施された。エステル交換後に得られた油を蒸留して、アシルグリセロールから遊離脂肪酸を分離し、それによって最終油組成物を得た。0.87単位の最終油組成物が得られた。
【0208】
反応の分析は、表4に示される。
【0209】
【表4】
* 蒸留によって取り出された脂肪酸の中のオレイン酸に対する(全部とsn2との差によって計算された)sn1位およびsn3位のオレイン酸の比率
【0210】
第3の工程は、工程1および工程2の最後に蒸留によって取り出された遊離脂肪酸を組み合わせることによって実施された。この組み合わせられた混合物を再び蒸留して、2.65部の高パルミチン酸画分と1.13部の低パルミチン酸画分とに分離した。
【0211】
蒸留の分析は、表5に示される。
【0212】
【0213】
プロセスの2回目のサイクルは、3つの工程で実施された:
初回サイクルの工程1を、初回サイクルと同じパーム油0.88部と、初回サイクルの工程3からの高パルミチン酸画分2.64部とを使用して繰り返した。
【0214】
反応の分析は、表6に示される。
【0215】
【0216】
初回サイクルの工程2を、2回目のサイクルの工程1からのアシルグリセロール混合物0.79部と、サイクル1の工程3からの低パルミチン酸画分1.13部とを用いて繰り返した。エステル交換度は89%であった。蒸留後、0.78単位の最終油組成物が得られた。
【0217】
反応の分析は、表7に示される。
【0218】
【表7】
* 蒸留によって取り出された脂肪酸の中のオレイン酸に対する(全部とsn2との差によって計算された)sn1位およびsn3位のオレイン酸の比率
【0219】
出発トリグリセリド組成物と比較した、サイクル2の工程2における最終生成物の収率は、0.78/0.88 = 89%であった。
【0220】
出発パーム油からのパルミチン酸の収率は、以下のように計算され得る:
39.4%パルミチン酸(30.732部のパルミチン酸に相当)を含量するサイクル2の工程2における生成物0.78部を、サイクル2の工程1における43.4%パルミチン酸(38.192部のパルミチン酸に相当)を含有するパーム油0.88部で割ったものは、30.732÷38.192=80.46%となる。
実験1の結果から分かるように、循環型のプロセスが達成され、即ち、サイクル1の工程3において再利用されたパルミチン酸が、サイクル2の工程1および2において使用される(そして、サイクル2の工程2および3からの残留脂肪酸は、さらなるサイクル3において使用するため再利用され得、その後も同様である)。工場規模で連続運転で実行するとき、損失がより少なくなると考えられるため、さらにサイクルを追加することができる。
【0221】
クモノスカビ由来の同じ固定化された1,3位特異的リパーゼを、実施例の全ての工程において使用した。
【0222】
部は重量部であり、絶対重量の代わりに部を使用したのは、異なるストリームの追跡をより容易にするためである。
【0223】
実施例2
認定有機パーム油1部と、87%パルミチン酸残基を含有する脂肪酸3部との酵素的エステル交換を、7%のクモノスカビ由来の固定化1,3位特異的リパーゼを使用して実施した。固定化リパーゼに含有される水のみによって実行された実験と、追加の水を添加して実行された実験とがあった。シリカゲル(Trisyl 150 IE、Grace)を添加した実験、添加しない実験もあった。実験は表8に概説され、ここで%は、パーム油と高パルミチン酸画分との混合物の合計重量に対する重量に基づく。全ての反応物および添加剤が最初から添加されたエステル交換反応と、プロセスが2つの部分に分割された実験とがあった。2つの部分に分割された時、第1の部分は、リパーゼ、シリカゲル、および水であり、これを、パーム油に添加し、70℃で攪拌しながら4時間反応させる。第2の部分は、4時間後に、高パルミチン画分を添加し、攪拌しながら徐々に水を蒸発させながら、70℃でさらに20時間反応を継続するというものである。プロセスを2つの部分に分割しない時は、全ての反応物および添加剤が最初から添加され、攪拌しながら70℃で24時間、反応が放置された。水の添加によるパーム油の部分加水分解、および/またはプロセスの2つの工程への分離は、作り出された部分アシルグリセロールが、再エステル化された時に、よりランダムに分布したトリグリセリドを生じるため、プロセスを改善すると考えられる。シリカゲルの添加も、ジグリセリドの異性化を助け、それによって、sn2位の脂肪酸の交換を増加させると考えられる。結果は表9に示される。
【0224】
【0225】
【0226】
C48(主にPPP)の変化は、エステル交換反応がどの程度ランダムであるかのマーカーとして使用された。
【0227】
実施例3
比較例で得られた油組成物および実施例1のサイクル2の工程2における生成物を、漂白し、脱臭した。これらのβパルミチン酸脂肪の各々55%を、菜種油20%、ヒマワリ油15%、およびヤシ油10%と混和して、表10に記載の油混和物を得た。
【0228】
【0229】
表に見られるように、混和物1および2は、脂肪酸組成についても、パルミチン脂肪酸の位置付けについても極めて類似しているが、本発明による脂肪を使用した時、ステアリン酸は、より低い程度にsn2位にエステル化される。混和物1と混和物3とを比較した時、本発明による脂肪は、代替的なβパルミチン酸脂肪を使用した時より、sn2位にエステル化されるステアリン酸のより低い割合を与えることが、さらに明らかである。
【国際調査報告】