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特表2023-539282自己短絡双安定ソレノイドのためのシステム及び方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-09-13
(54)【発明の名称】自己短絡双安定ソレノイドのためのシステム及び方法
(51)【国際特許分類】
   H01F 7/16 20060101AFI20230906BHJP
【FI】
H01F7/16 B
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023513634
(86)(22)【出願日】2021-08-30
(85)【翻訳文提出日】2023-04-20
(86)【国際出願番号】 US2021048291
(87)【国際公開番号】W WO2022047336
(87)【国際公開日】2022-03-03
(31)【優先権主張番号】63/071,454
(32)【優先日】2020-08-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】515138399
【氏名又は名称】フスコ オートモーティブ ホールディングス エル・エル・シー
【氏名又は名称原語表記】HUSCO Automotive Holdings LLC
(74)【代理人】
【識別番号】100134832
【弁理士】
【氏名又は名称】瀧野 文雄
(74)【代理人】
【識別番号】100165308
【弁理士】
【氏名又は名称】津田 俊明
(74)【代理人】
【識別番号】100115048
【弁理士】
【氏名又は名称】福田 康弘
(72)【発明者】
【氏名】ワインクープ トレヴァー
(72)【発明者】
【氏名】ぺルマン マシュー
【テーマコード(参考)】
5E048
【Fターム(参考)】
5E048AC05
5E048AC06
5E048AD02
(57)【要約】
双安定ソレノイドは、ハウジングと、ハウジング内に配置されたワイヤコイルと、第1のポールピースと、第2のポールピースと、ハウジング内にスライド可能に配置された電機子と、電機子内において第1の電機子部分と第2の電機子部分との間に配置された永久磁石と、を備えている。第1の電機子部分及び第2の電機子部分は透磁性材料から作製されている。ワイヤコイルの選択的通電によりワイヤコイル磁束路が生じて、電機子が第1の安定位置と第2の安定位置との間で移動する。第1の安定位置は、永久磁石の磁束が第1のポールピースを通って短絡することにより確立され、第2の安定位置は、永久磁石の磁束がワイヤコイル磁束路を横切ることにより確立される。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の端部と、反対側の第2の端部と、を有するハウジングと、
前記ハウジング内に配置されたワイヤコイルと、
前記ハウジングの前記第1の端部の隣に設けられた第1のポールピースと、
前記ハウジングの前記第2の端部の隣に設けられた第2のポールピースと、
前記ハウジング内にスライド可能に配置され、第1の安定位置と第2の安定位置との間で可動である電機子と、
前記電機子内において第1の電機子部分と第2の電機子部分との間に配置された永久磁石と、
を備えた双安定ソレノイドであって、
前記第1の電機子部分及び前記第2の電機子部分は透磁性材料から作製されており、
前記ワイヤコイルの選択的通電によりワイヤコイル磁束路が生じて、前記電機子が前記第1の安定位置と前記第2の安定位置との間で移動し、
前記第1の安定位置は、前記永久磁石の磁束が前記第1のポールピースを通って短絡することにより確立され、前記第2の安定位置は、前記永久磁石の磁束が前記ワイヤコイル磁束路を横切ることにより確立される
ことを特徴とする双安定ソレノイド。
【請求項2】
前記電機子は、前記第1の安定位置にあるときに前記第1のポールピースの隣に位置する、
請求項1記載の双安定ソレノイド。
【請求項3】
前記永久磁石の磁束は前記第1のポールピースを通って、前記電機子と前記永久磁石と前記第1のポールピースとを通る閉ループの磁束路を形成することにより短絡する、
請求項1記載の双安定ソレノイド。
【請求項4】
前記永久磁石の磁束は、前記第1のポールピースを通って短絡した際に前記電機子と前記第1のポールピースとの間に力を生成し、前記電機子が前記第1の安定位置から離れるように押された場合に前記力によって前記電機子が前記第1の安定位置に向かって復帰する、
請求項3記載の双安定ソレノイド。
【請求項5】
前記電機子は、前記第2の安定位置にあるときに前記第2のポールピースの隣に位置する、
請求項1記載の双安定ソレノイド。
【請求項6】
前記電機子が前記第2の安定位置にあるとき、前記永久磁石の磁束は前記電機子と前記第2のポールピースとの間に力を生成し、前記電機子が前記第2の安定位置から離れるように押された場合に前記力によって前記電機子が前記第2の安定位置に制止される、
請求項5記載の双安定ソレノイド。
【請求項7】
さらに、少なくとも一部が前記ハウジング内に配置された電機子筒部を備えており、
前記電機子筒部はストッパ面を有し、
前記ストッパ面は、前記第1のポールピースを通って短絡した前記永久磁石の磁束によって生じた力が前記第2のポールピースから軸方向に離れていく方向である軸方向位置に前記電機子を保持するように、軸方向に配置されている、
請求項1記載の双安定ソレノイド。
【請求項8】
ハウジングと、
前記ハウジング内に配置されたワイヤコイルと、
第1のポールピースと、
第2のポールピースと、
永久磁石を備えると共に、第1の安定位置と第2の安定位置との間で可動である電機子と、
前記電機子の少なくとも一部を包囲し、ストッパ面を有する電機子筒部と、
を備えた双安定ソレノイドであって、
前記電機子が前記第1の安定位置にあり、前記ワイヤコイルが非通電状態である場合、前記電機子が前記ストッパ面に係合し、前記永久磁石の磁束が前記電機子と前記永久磁石と前記第1のポールピースとを通る閉ループの磁束路を形成することによって前記第1のポールピースを通って短絡し、前記閉ループの磁束路が、前記電機子を前記ストッパ面に押し込む方向に前記電機子に力を生じさせる軸方向位置に、前記電機子が前記ストッパ面によって保持される
ことを特徴とする双安定ソレノイド。
【請求項9】
前記電機子は、前記第1の安定位置にあるときに前記第1のポールピースの隣に位置し、前記第2の安定位置にあるときに前記第2のポールピースの隣に位置する、
請求項8記載の双安定ソレノイド。
【請求項10】
前記電機子が前記第2の安定位置にあるとき、前記永久磁石の磁束は、通電時に前記ワイヤコイルの磁束が横切るワイヤコイル磁束路を横切り、これにより前記第2の安定位置を維持する、
請求項8記載の双安定ソレノイド。
【請求項11】
前記電機子が前記第2の安定位置にあるとき、前記永久磁石の磁束は前記電機子と前記第2のポールピースとの間に力を生成し、前記電機子が前記第2の安定位置から離れるように押された場合に前記力によって前記電機子が前記第2の安定位置に制止される、
請求項10記載の双安定ソレノイド。
【請求項12】
前記永久磁石の磁束は、前記第1のポールピースを通って短絡した際に前記電機子と前記第1のポールピースとの間に力を生成し、前記電機子が前記第1の安定位置から離れるように押された場合に前記力によって前記電機子が前記第1の安定位置に向かって復帰する、
請求項8記載の双安定ソレノイド。
【請求項13】
前記第1の安定位置において磁束が前記第1のポールピースを通って短絡することにより、前記第1の安定位置において磁気デテントが確立される、
請求項8記載の双安定ソレノイド。
【請求項14】
前記電機子は第1の電機子部分と第2の電機子部分とを有し、前記第1の電機子部分及び前記第2の電機子部分は透磁性材料から作製されている、
請求項8記載の双安定ソレノイド。
【請求項15】
ハウジングと、
前記ハウジング内に配置されたワイヤコイルと、
第1のポールピースと、
第2のポールピースと、
永久磁石を備えた電機子と、
前記電機子の少なくとも一部を包囲し、ストッパ面を有する電機子筒部と、
を備えた双安定ソレノイドであって、
前記ワイヤコイルの選択的通電により、前記電機子が第1の位置と第2の位置との間で移動し、
前記電機子が前記第1の位置にあるとき、前記永久磁石の磁束が前記第1のポールピースを通って短絡して磁気デテントが確立され、
前記電機子が前記第2の位置にあるとき、前記永久磁石の磁束によって前記電機子が前記第2の位置に維持されると共に前記電機子と前記第2のポールピースとの係合により磁気ラッチが確立され、前記第2のポールピースから軸方向に離れていく方向に力を前記磁気デテントが前記電機子に生じさせる軸方向位置に前記電機子を前記ストッパ面が保持する
ことを特徴とする双安定ソレノイド。
【請求項16】
前記磁気デテントは、磁束が前記電機子と前記永久磁石と前記第1のポールピースとを通る閉ループの磁束路を形成することにより確立される、
請求項15記載の双安定ソレノイド。
【請求項17】
前記磁気デテントが前記電機子と前記第1のポールピースとの間に力を生成することにより、前記電機子が前記第1の位置から離れるように押された場合に前記力によって前記電機子が前記第1の位置に制止される、
請求項15記載の双安定ソレノイド。
【請求項18】
前記磁気ラッチは、通電時に前記永久磁石の磁束が、前記ワイヤコイルの磁束が横切るワイヤコイル磁束路を横切ることによって確立される、
請求項15記載の双安定ソレノイド。
【請求項19】
前記磁気ラッチが前記電機子と前記第2のポールピースとの間に力を確立することにより、前記電機子が前記第2の位置から離れるように押された場合に前記力によって前記電機子が前記第2の位置に制止される、
請求項15記載の双安定ソレノイド。
【請求項20】
前記電機子は第1の電機子部分と第2の電機子部分とを有し、前記第1の電機子部分及び前記第2の電機子部分は透磁性材料から作製されている、
請求項15記載の双安定ソレノイド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
<関連出願の相互参照>
本願は、米国仮特許出願第63/071,454号(出願日:2020年8月28日)に基づくと共に、その優先権を主張するものであり、同出願の記載内容は全て、参照により本願の記載内容に含まれるものとする。
【0002】
<連邦政府の支援による研究に関する言明>
無し。
【背景技術】
【0003】
双安定ソレノイドは典型的には、ワイヤコイルを可動電機子に巻いたものを備えている。ワイヤコイルに電流が供給されると磁界が発生し、この磁界が可動電機子を第1の位置から第2の位置に作動する(すなわち移動させる)。一般に、双安定ソレノイドにおける電機子は2つの安定位置間で可動である。例えば、電機子を第1の位置から第2の位置に作動させるために十分な大きさの第1の方向の電流をワイヤコイルに供給することができ、電機子を第2の位置から第1の位置に作動させるために十分な大きさの第2の方向の電流がワイヤコイルに供給されるまで、電機子は第2の位置に留まることができる。
【発明の概要】
【0004】
本願開示は、電機子と第1のポールピースと第2のポールピースとを備えた双安定ソレノイドを提供するものであり、電機子は第1の位置と第2の位置との間で移動するように構成されている。第1の位置では電機子は磁気デテントにより固定され、第2の位置では電機子は第2のポールピースと係合して磁気ラッチにより固定される。
【0005】
一側面では本願開示は双安定ソレノイドを提供し、双安定ソレノイドは、第1の端部と、反対側の第2の端部と、を有するハウジングと、前記ハウジング内に配置されたワイヤコイルと、前記ハウジングの前記第1の端部の隣に設けられた第1のポールピースと、前記ハウジングの前記第2の端部の隣に設けられた第2のポールピースと、前記ハウジング内にスライド可能に配置され、第1の安定位置と第2の安定位置との間で可動である電機子と、前記電機子内において第1の電機子部分と第2の電機子部分との間に配置された永久磁石と、を備えている。前記第1の電機子部分及び前記第2の電機子部分は透磁性材料から作製されている。前記ワイヤコイルの選択的通電によりワイヤコイル磁束路が生じて、前記電機子が前記第1の安定位置と前記第2の安定位置との間で移動する。前記第1の安定位置は、前記永久磁石の磁束が前記第1のポールピースを通って短絡することにより確立され、前記第2の安定位置は、前記永久磁石の磁束が前記ワイヤコイル磁束路を横切ることにより確立される。
【0006】
一側面では本願開示は、ハウジングと、前記ハウジング内に配置されたワイヤコイルと、第1のポールピースと、第2のポールピースと、永久磁石を備えた電機子と、前記電機子の少なくとも一部を包囲し、ストッパ面を有する電機子筒部と、を備えた双安定ソレノイドを提供する。前記電機子は、第1の安定位置と第2の安定位置との間で可動である。前記電機子が前記第1の安定位置にあり、前記ワイヤコイルが非通電状態である場合、前記電機子が前記ストッパ面に係合し、前記永久磁石の磁束が前記電機子と前記永久磁石と前記第1のポールピースとを通る閉ループの磁束路を形成することによって前記第1のポールピースを通って短絡する。前記ストッパ面は、前記閉ループの磁束路が、前記電機子を前記ストッパ面に押し込む方向に前記電機子に力を生じさせる軸方向位置に、前記電機子を保持する。
【0007】
一側面では本願開示は、ハウジングと、前記ハウジング内に配置されたワイヤコイルと、第1のポールピースと、第2のポールピースと、永久磁石を備えた電機子と、前記電機子の少なくとも一部を包囲し、ストッパ面を有する電機子筒部と、を備えた双安定ソレノイドを提供する。前記ワイヤコイルの選択的通電により、前記電機子が第1の位置と第2の位置との間で移動する。前記電機子が前記第1の位置にあるとき、前記永久磁石の磁束が前記第1のポールピースを通って短絡して磁気デテントが確立され、前記電機子が前記第2の位置にあるとき、前記永久磁石の磁束によって前記電機子が前記第2の位置に維持されると共に前記電機子と前記第2のポールピースとの係合により磁気ラッチが確立される。前記ストッパ面は、前記第2のポールピースから軸方向に離れていく方向に力を前記磁気デテントが前記電機子に生じさせる軸方向位置に、前記電機子を保持する。
【0008】
以下の説明から、本発明の上記及び他の側面及び利点が明らかである。以下の説明では、当該説明の一部を構成する添付図面を参照しており、添付図面は本発明の好適な実施形態を例示するものである。しかし、かかる実施形態は必ずしも本発明の全範囲に及ぶとは限らないので、本発明の範囲の解釈に際しては特許請求の範囲が参酌される。
【0009】
以下の発明の詳細な説明を参酌すれば本発明をより理解することができると共に、上記の構成、側面及び利点以外の構成、側面及び利点が明らかとなる。かかる詳細な説明は、以下の図面を参照する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本願開示の一側面の第1の位置にあるときの双安定ソレノイドの概略図である。
図2】第2の位置にあるときの図1の双安定ソレノイドの概略図である。
図3】異なる大きさ及び極性の電流における図1の双安定ソレノイドのストロークに対する電機子力を示すグラフである。
図4図1の双安定ソレノイドの磁気デテント磁束路の概略図である。
図5図4の磁気デテントのストロークに対する電機子力を示すグラフである。
図6】本願開示の他の一側面の第1の位置にあるときの双安定ソレノイドの概略図である。
図7】中間位置にあるときの図6の双安定ソレノイドの概略図である。
図8】第2の位置にあるときの図6の双安定ソレノイドの概略図である。
図9】異なる大きさ及び極性の電流における図6のソレノイドのストロークに対する電機子力を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本願開示の各側面を詳細に説明する前に、留意すべき点として、本願開示はその使用時に、以下の説明に記載され又は以下の図面に示されている構成及び構成要素の配置の詳細に限定されるものではなく、本願開示は他の構成が可能であり、種々の態様で実施することが可能である。また、本願にて用いられる文言及び用語用法は説明のためのものであり、本発明を限定するものと解すべきではない点にも留意すべきである。本願において「含む」、「備える」又は「有する」及びこれらの変形を用いた場合、これは下記の事項及びその均等事項と、追加の事項とを含むと解される。別段の指定又は限定が無い限り、「取り付ける」、「接続」、「支持」及び「結合」との用語並びにこれらの変形は広義の意味で用いられ、直接的及び間接的の両方の取り付け、接続、支持及び結合を含む。さらに、「接続」及び「結合」との用語は、物理的又は機械的な接続又は結合に限定されるものではない。
【0012】
以下の検討は、当業者が本願開示の各側面を生産及び使用できるようにするために示されるものであり、当業者は、ここで記載されている構成の種々の変形を容易に理解することができ、本願開示の各側面から逸脱することなく、本願の一般的原理を他の構成や用途に適用することができる。よって、本願開示の各側面はここで示されている構成に限定されることを意図したものではなく、本願開示の原理及び構成と一致する最も広い範囲に解すべきものである。以下の詳細な説明は各図を参照して読むものであり、異なる図において同様の要素には同様の符号が付されている。各図の拡大縮小率は必ずしも実寸通りではなく、一部の選択した構成を示しており、本願開示の範囲を限定することを意図したものではない。当業者であれば、本願に記載されている非限定的な例について有用な代替態様が存在し、本願開示の範囲に属することを認識することができる。
【0013】
本願において「軸方向」との用語及びその変形は、特定の構成要素又はシステムの対称軸、中心軸又は長手方向に概ね沿った方向をいう。例えば、構成要素の軸方向に延在する構造は、当該構成要素の対称軸又は長手方向に対して平行な方向に概ね沿ったものとすることができる。また、本願において「径方向」との用語及びその変形は、対応する軸方向に対して概ね垂直な方向をいう。例えば、構成要素の径方向に延在する構造は、少なくとも部分的に、当該構成要素の長手軸又は中心軸に対して垂直な方向に概ね沿ったものとすることができる。本願において「周方向」との用語及びその変形は、物の周囲若しくは周辺まわり、又は特定の構成要素若しくはシステムの対称軸まわり、中心軸まわり若しくは長手方向まわりに概ね延在する方向をいう。
【0014】
図1を参照すると、本願開示の非限定的な一例の双安定ソレノイド100が示されている。双安定ソレノイド100は、ハウジング104と、第1のポールピース106と、ボビン108と、第2のポールピース110と、電機子112と、永久磁石114と、電機子筒部115と、を備えることができる。図中の非限定的な一例では、第1のポールピース106とボビン108と第2のポールピース110と電機子112と永久磁石114と電機子筒部115とを中心軸117上に同心に配置することができる。例えば図1,2では双安定ソレノイド100の半分のみを示しているが、双安定ソレノイド100の構成要素は中心軸117を基準として軸対称となっている。
【0015】
ハウジング104は、第1のポールピース106と、ボビン108と、第2のポールピース110と、電機子112と、永久磁石114と、電機子筒部115とを少なくとも部分的に包囲する。好適には、永久磁石114は電機子112表面に配置され、又は電機子112に接続され、又は電機子112内に包含されて、電機子112を移動させるようになっている。以下で説明するように、本願開示の各側面の双安定ソレノイドの配置構成により永久磁石114の磁束路を変更して電機子の安定位置を確立することができる。例えば双安定ソレノイド100は、磁気ラッチにより形成される1つの安定位置と、磁気デテントにより形成される他の1つの安定位置と、を有することができる。
【0016】
図中の非限定的な一例では、ハウジング104は概ね中空の円筒形状を有することができ、また、概ね開口した第1の端部122と、その反対側の概ね開口した第2の端部124と、を有することができる。双安定ソレノイド100はまた、開口した第2の端部124付近においてハウジング104に結合された取付ベース126を備えることもできる。取付ベース126は開口した第2の端部124の少なくとも一部を覆うことができ、これによりハウジング104内部の部分的に閉じたチャンバを形成することができる。
【0017】
一部の非限定的な例では、双安定ソレノイド100の電機子112は作動要素(例えばピン、プッシュロッド等)に結合することができる。電機子112は作動要素を選択的に変位させるように構成することができる。当業者であれば、電機子112を備えた双安定ソレノイド100は、装置に対して作動力及び/又は変位を提供するために適した任意の配置構成にて使用できることが明らかである。例えば、作動要素に作動力及び/又は変位を加えるために、電機子112を当該作動要素に直接的又は間接的に係合させるように作動することができる。
【0018】
第1のポールピース106は、磁性材料(例えば磁性鋼、鉄、ニッケル等)から作製することができる。第1のポールピース106は、少なくとも一部をハウジング104内において当該ハウジング104の第1の端部122の隣に配置することができる。図1に示されているように、第1のポールピース106は、ハウジング104の周部近傍から径方向内側に延在する第1面134を有することができる。第1のポールピース106はさらに、ハウジング104の第1の端部122から第2の端部124に向かって延在する第1の軸方向突起138の形態の第1の部分136を有することができる。第1の部分136は、軸方向に第1のポールピース106の第1面134から自由端142まで及ぶことができる。
【0019】
引き続き図1を参照すると、第2のポールピース110も同様に、磁性鋼、鉄、ニッケル等の磁性材料から作製することができる。第2のポールピース110の一部をハウジング104内に配置し、第1のポールピース106から軸方向に離隔して配置することができる。第2のポールピース110の少なくとも一部を取付ベース126内に通して当該取付ベース126に結合することができる。第2のポールピース110は、電機子112を受ける第2の部分152も有することができる。図中の非限定的な一例では第2の部分152は、係合面164からハウジング104の第1の端部122に向かって延在するチョーク部分154の形態となっている。具体的には第2の部分152は、第2のポールピース110の第1の端部160に配置された環状の突起とし、電機子112を受ける電機子受容口162を画定することができる。図2に示されているように、チョーク部分154と係合面164とが合わさって電機子受容口162を画定することができる。電機子受容口162の係合面164は、電機子112に対する端部ストッパとして働くことができる。さらに、第2のポールピース110はピン係合口168を有することもできる。ピン係合口168は第2のポールピース110の第2の端部170を貫通することができ、また、当該ピン係合口168を通して作動要素(不図示)をスライド可能に受ける構成とすることができる。
【0020】
ボビン108は、ハウジング104内において第1のポールピース106と第2のポールピース110との間に配置することができる。ボビン108の形状は概ね環状とし、ワイヤコイル172を包囲することができる。
【0021】
電機子112は、磁性材料(例えば磁性鋼、鉄、ニッケル等)から作製することができる。電機子112は第1の端部176と第2の端部178とを有することができる。一部の非限定的な例では、電機子112はさらに、例えばピン等の作動要素を通して受ける中央開口を有することもできる。
【0022】
永久磁石114は、電機子112内に配置し、又は電機子112に接続し、又は電機子112表面に配置することができる。このようにして永久磁石114は、電機子112と共に移動する構成とすることができる。図中の非限定的な例では、永久磁石114は軸方向に電機子112の第1の端部176と第2の端部178との間に配置され、軸方向に磁化される(すなわちN極とS極が中心軸117に沿って並んでいる)。図中の非限定的な例では、永久磁石114は軸方向に電機子112の2つの部分間に配置することができる。例えば電機子112は、永久磁石114によって軸方向に分離された第1の電機子部分175及び第2の電機子部分177を有することができる。第1の電機子部分175及び第2の電機子部分177は透磁性材料(例えば磁性鋼、鉄、ニッケル、又はその均等物)から作製されている。一般に、永久磁石114を2つの透磁性部分間(すなわち第1の電機子部分175と第2の電機子部分177との間)に入れて電機子112を形成することにより、電機子を永久磁石のみから形成する設計と比較して高い出力(ストロークに対する力)が生成される。図中の非限定的な例では、永久磁石114の表面は電機子112の表面と比較して径方向に凹むことができる。換言すると、永久磁石114の径方向厚さは、第1の電機子部分175と第2の電機子部分177とにより画定される最大径方向厚さより小さくすることができる。
【0023】
電機子筒部115は、電機子112を包囲すると共に第2のポールピース110の少なくとも一部を包囲する薄肉の筒部である。電機子筒部115は非磁性材料から作製することができる。電機子筒部115は、第1のポールピース106の第1面134の軸方向位置の隣にストッパ面179を有する。一般に、ストッパ面179の軸方向位置によって後述のように電機子112の第1の安定位置が定まり、また、ストッパ面179の軸方向位置が第1の安定位置を維持する。
【0024】
以下、双安定ソレノイド100の動作の非限定的な一例を、図1及び図2を参照して説明する。以下説明する双安定ソレノイド100の動作は、多くの適切なシステムに適合し得ることが明らかである。動作時には、双安定ソレノイド100のワイヤコイル172に選択的に通電する(すなわち、所望の方向かつ所定の大きさの電流を供給する)ことができ、このワイヤコイル172に供給した電流に応じて、電機子112が当該ワイヤコイル172に供給された電流の方向に依存して2つの安定位置間で移動することができる。図中の非限定的な一例では電機子112は、第1のポールピース106の第1の部分136の隣に配される第1の安定位置(図1等参照)と、第2のポールピース110の係合面164と接触又は係合する第2の安定位置(図2等参照)と、の間で可動とすることができる。
【0025】
動作の一例では、電機子112は図1に示されているように第1の安定位置とすることができ、双安定ソレノイド100のワイヤコイル172に第1の方向の電流で通電することができる。このようにして電機子112は、第2のポールピース110の係合面164と係合するまで第2の安定位置に向かって変位(すなわち作動)することができ、電機子112は係合面164と係合した時点で第2の安定位置となり、ワイヤコイル172を非通電状態とすることができる(すなわち電流を除去して電機子112を安定位置にする)。電機子112は磁気ラッチによって第2の安定位置に保持することができ、この磁気ラッチに打ち勝つために十分な大きさかつ第1の方向とは逆の第2の方向の電流によりワイヤコイル172に通電するまで、電機子112は第2の安定位置に留まる。
【0026】
一般に磁気ラッチは、磁束を通し若しくは生成できる2つの部品の磁気的係合及び/又は2つの磁性部品の磁気的係合により形成することができる。図示の一例では、磁気ラッチは永久磁石114によって確立され、この永久磁石114が永久磁界を生じさせ、この永久磁界により電機子112と第2のポールピース110との磁気的係合が生じる。具体的には、電流が永久磁石114と第1のポールピース106との間の磁気的吸引力に打ち勝つために十分な大きさである場合、ワイヤコイル172の通電によって生成された磁束路が永久磁石114によって生成された磁束路と相互作用して、永久磁石114と第1のポールピース106との間の磁気的吸引力に打ち勝ち、電機子112が第2のポールピース110に向かって軸方向に(例えば図1及び図2で見て下方向に)変位する。ワイヤコイル172によって生成される力と、永久磁石114と第1のポールピース106との間の磁気的吸引力と、永久磁石114と第2のポールピース110との間の磁気的吸引力とのバランスが、電機子112にかかる正味の力を決定する。ワイヤコイル172によって生成された力が電機子112を第2のポールピース110に変位させるために十分であり、かつその後にワイヤコイル172を非通電状態にした場合、電機子112は第2のポールピース110と係合して磁気的にラッチされる。具体的には、電機子112が第2のポールピース110の係合面164と係合して永久磁石114と第2のポールピース110との間の磁気的吸引力が電機子112に対して力を生成し(例えば、図2で見て下方向の力を生成し)、ワイヤコイルが非通電状態にされたときに電機子112を第2の安定位置に維持する。
【0027】
ワイヤコイル172に第2の方向の電流で通電が行われた場合(又はかかる通電が行われた際には)、ワイヤコイル172の通電によって電機子112に生じた電磁力が、永久磁石114によって電機子112と第2のポールピース110との間に提供される磁気的吸引力に打ち勝ち、電機子112は第1の安定位置に変位し戻ることができる。具体的には、電流が永久磁石114と第2のポールピース110との間の磁気ラッチに打ち勝つために十分な大きさである場合、ワイヤコイル172の通電によって生成された磁界が永久磁石114によって生成された磁界と相互作用して、永久磁石114と第2のポールピース110との間の磁気的吸引力に打ち勝ち、電機子112が第1のポールピース106に向かって軸方向に(例えば図1及び図2で見て上方向に)変位する。ワイヤコイル172によって生じた力が、電機子112がストッパ面179と係合する第1の安定位置へ電機子112を変位させるために十分であり、その後にワイヤコイル172を非通電状態にした場合、電機子112は、第1のポールピース106と永久磁石114との間に形成された磁気デテントによって定位置に保持されることとなる。電機子112が磁気デテントによって第1の安定位置に維持されると共に、磁気ラッチによって第2の安定位置に維持されることにより、第1又は第2の安定位置のいずれにおいても電機子112を維持するためにワイヤコイル172に連続的に通電を行う必要が無くなるので、双安定ソレノイド100の動作に必要なエネルギー入力量を削減することができる。
【0028】
一般に電機子112は、永久磁石114によって生成される磁束路によって、第1の安定位置及び第2の安定位置の各位置に保持することができる。具体的には、図2に、磁気ラッチによって電機子112が第2の安定位置に保持されてワイヤコイル172が非通電状態にされた場合に永久磁石114によって生じる磁束路が示されている。この位置では例えば、磁束線により示されているラッチ磁束路が辿る経路は、通電時にワイヤコイル172によって生成された磁束が横切る磁路と同じになっている。換言すると、永久磁石114のラッチ磁束路が、通電時にワイヤコイル172の磁束が横切る磁束路を横切ることによって、第2の安定位置を確立することができる、ということである。上記の通電時にワイヤコイル172の磁束が横切る磁束路は、「ワイヤコイル磁束路」と称し得る。ワイヤコイル磁束路は、ハウジング104と、第1のポールピース106と、電機子112と、第2のポールピース110と、取付ベース126と、を通るループを形成し得る。その結果、電機子112が第2の安定位置にあるとき、永久磁石114によって生成された磁束がワイヤコイル磁束路を横切って磁気ラッチを確立することにより、電機子112は第2の安定位置に磁気的に固定される。さらに、上記の磁気ラッチは電機子112と第2のポールピース110との間に力を生じさせることができ、この磁気ラッチによる力は、軸方向で第1の安定位置に向かう方向に電機子112にかかる力であって電機子112と第2のポールピース110との間の磁気的吸引力より小さい力に抗して、電機子112を軸方向において第2の安定位置に制止するものである。
【0029】
一部の非限定的な例では、磁気ラッチを特徴付ける力対ストローク特性曲線は、当該磁気ラッチの場所において又はその近傍において漸近的又は指数関数的な関係を示すものとすることができる。例えば、図3に示されているように、ワイヤコイル172を非通電状態(0A力)にした場合、電機子112が磁気ラッチ位置に向かって変位するにつれて(図3のグラフ上におけるストロークの増大)、電機子112にかかる力が下方向に指数関数的に増加する(負の力は、電機子112にかかる力が伸長方向であること、又は図1及び図2で見て下方向の力であることを表す)。
【0030】
図1を再度参照すると、第1の安定位置では、電機子112は磁気デテントによって定位置に固定されている。一般に、ソレノイドにおける磁気デテントはリラクタンスが最小の場所である。下記にてさらに説明するように、磁気デテントは電機子112の軸方向位置を最小リラクタンス点すなわち磁気デテントに向かって付勢するための復帰力を確立することができる。この復帰力は、電機子112を磁気デテントに向かって軸方向に付勢するように設定され、当該デテントの軸方向中心に向かう双方向の力とすることができる。よって、デテントの中心すなわち最小リラクタンス場所では、復帰力は約ゼロとなる。しかし、双安定ソレノイド100は、磁気デテントによって生じる力特性曲線に影響して磁気デテントの軸方向中心から電機子をずらすことにより、電機子112を第1の安定位置に保持する力が当該電機子112に生じる。図中の非限定的な一例の磁気デテントについては、電機子112が第1の安定位置にあるとき、永久磁石114によって発生した磁束の大半がその経路を変え、これにより、当該磁束の大半は磁束線によって示されているように第1のポールピース106を通る。すなわち、電機子112と永久磁石114と第1のポールピース106とを通る閉ループの磁束路を形成することにより、永久磁石114の磁束の大半が第1のポールピース106を通って短絡する。この永久磁石114の短絡した磁束は電機子112と第1のポールピース106との間に力を生じさせ、電機子112が第1の安定位置から離れるように押された場合に、この力によって電機子112が第1の安定位置に向かって復帰する(例えば、磁気デテントの力特性曲線)。
【0031】
上記にて述べたように、磁気デテントは電機子112と第1のポールピース106との間に、軸方向において電機子112を第1の安定位置に制止する復帰力を確立することができる。例として図4及び図5に、他の構成要素が存在しない場合(すなわち、磁気ラッチによって提供される力と、これと均衡状態にあるコイルの通電による力とを考慮しない場合)の磁気デテントの磁束(図4)及び力対ストローク特性曲線(図5)が示されている。図中の非限定的な一例では、磁気デテントの中心(すなわち力がゼロになる場所)はストローク-1mm~-2mmの間となる。電機子112がこの場所から変位して離れた場合、電機子112にかかる力は、当該電機子112を中心に戻す方向に増加していく。
【0032】
双安定ソレノイド100は、磁気デテントによって生じる力特性曲線に影響することにより第1の安定位置を形成する。例えば、ストッパ面179は、磁気デテントの復帰力が電機子112を第1の安定位置に動かす軸方向位置に配置される。換言すると、ストッパ面179が配置される軸方向位置は、磁気デテントによって形成された中心位置に電機子112が達するのを阻止し、電機子112が中心位置に達するのを阻止して、磁気デテントが電機子112に、当該電機子112をストッパ面179に押し込む力を生じさせる(すなわち、第1のポールピース106を通って短絡した永久磁石114の磁束が電機子112をストッパ面179に押し付けて保持する力を生じさせる)軸方向位置である。図5の非限定的な一例ではストッパ面179は、磁気デテントが正の力を電機子112に生成するゼロストロークに電機子112を保持することができる(例えば、正の力が電機子112をハウジング104に後退させ、又は図1で見て上方向に後退させる)。図4及び図5の磁気デテントのモデル例では双安定ソレノイド100の他の構成要素が考慮されていないので、図中に示されている力は、磁気ラッチの均衡状態の力によって双安定ソレノイド100より高くなる(例えば、永久磁石114によって生成された磁束の一部は依然として第2のポールピース110を通っているが、第1の安定位置において電機子112にかかる正味の力は依然として、図1で見て上方向のままである)。例えば、図3に示されているようにワイヤコイル172を非通電状態にした場合(0A力)、電機子112にかかる力、ゼロストローク(すなわち第1の安定位置)において電機子112にかかる力は正になり、この力が電機子112を第1の安定位置に維持する。この正の力が生成されるのは、ストッパ面179が磁気デテントの中心位置から電機子112をずらして保持し、これにより、軸方向において第2のポールピース110から離れる方向に電機子112にかかる力が維持されるからである。換言すると、第1のポールピース106を通って短絡した永久磁石114の磁束によって生成される力であって、ストッパ面179が電機子112を第1の安定位置に保持する場所において生成される力は、第2のポールピース110から軸方向に離れる方向である。このようにして例えば、双安定ソレノイド100は非通電状態のとき、他の付勢要素(例えばバネ等)を用いることなく第1の安定位置と第2の安定位置と維持することができる。
【0033】
図3に示された力対ストローク特性曲線は、双安定ソレノイド100の設計によって提供される双安定性能の他にさらに、性能上の利点も提供する。例えば、通電時の力対ストローク特性曲線(+1.5A曲線及び-1.5A曲線)は、それぞれの両端位置付近(グラフの左側と右側)において非常に異なる形状を示す。通電時のデテント側(すなわちグラフの左側のゼロストローク付近)におけるラッチ側に向かう方向(すなわち、グラフ上において左から右へ向かう方向)の力(+1.5A曲線)は、絶対値が10Nを超える。電機子112のストロークがラッチ側に向かって増大するのに伴い、上記の力の絶対値は連続的に形成される。逆方向の等しい電流(+1.5A)の場合、力対ストローク特性曲線は変わり、逆極性の電流と対称的にはならない。具体的には、ラッチ端におけるデテント側に向かう方向(グラフ上で右から左の方向)に作用する-1.5Aの力は約ゼロになり、電機子112がデテント位置(ゼロストローク付近)に向かって移動するにつれて、通電時の力の大きさは逆極性の場合と同様、増加するのではなく減少していく。換言すると、極性が逆で大きさが等しい電流の力対ストローク特性曲線は、ストローク軸を基準とした対称にはならない、ということである。第1の極性の電流(例えば+1.5A)でワイヤコイル172が通電されると第1の力対ストローク特性曲線が得られ、この第1の力対ストローク特性曲線は、デテントからラッチ位置に移動する場合、最初は力が増加し(絶対値)、その後、電機子112が力対ストローク特性曲線における変位点(例えば1.5mmストローク付近)を通過すると力が増減する(絶対値)。第1の電流極性とは逆の第2の極性かつ等しい電流(例えば-1.5A)でワイヤコイル172に通電すると、第2の力対ストローク特性曲線が得られ、この第2の力対ストローク特性曲線は第1の電流極性の場合とは異なり、デテントからラッチ位置に移動する場合、第1の極性によって定められた変位点に向かって力が増加していき、その後、ストロークがラッチ位置に向かって増大するにつれて力が増大し続ける。
【0034】
既存の双安定ソレノイド設計は、電機子によって選択的にブリッジングされる複数の別個のコイルベイ(coil bay)を用いてデュアルラッチ回路を構成するか、又は、1つの磁気ラッチ回路と付勢復帰バネとを用いるシングルコイルベイのいずれかを用いる傾向にある。複数の別個のコイルベイ設計は、そのラッチが圧縮復帰バネの力によって阻害されることがないため有利であるが、コイルベイ設計の構造によっては、磁石体積又はコイル体積のいずれかを効率的に利用できない問題がある。シングルベイ設計の磁気回路は非常に高効率で力が大きいが、そのラッチ力は、復帰バネの寸法を適度な復帰力を提供する寸法にしなければならないことにより、小さくなってしまう。
【0035】
ここで記載した双安定設計の非限定的な例は、欠点を最小限にしつつ、複数の既存の設計の利点を兼ね備えることを図るものとすることができる。具体的には、本願開示の非限定的な例は、安定位置がバネ力によって必ずしも低減しないという、デュアルベイ設計に匹敵する利点を奏することができる。また、磁石は一般にコイルの磁束路の一部となるので、磁石の磁界の全部を、発生する力に寄与させることができる。本願の非限定的な例は、復帰バネ設計を有するシングルベイと同等の利点も兼ね備えることができる。例えば、コイル体積がシャントや磁石によって妨げられないようにし、ボビンその他の絶縁媒体に必要なスペースを増やすことができる。かかる態様は、よりパワフルなコイルの設計を達成すると同時に、既存のデュアルベイ設計より複雑性を遥かに低減することを図ることができる。さらに、既存のシングルベイ設計のように後退力が復帰バネによって制限されることも無くなる。
【0036】
図6~8は、本願開示の他の非限定的な一例の双安定ソレノイド200を示す。双安定ソレノイド200の構成及び機能は、ここで記載され又は図面から明らかである点を除いて、図1及び図2の双安定ソレノイド100と同様とすることができ、同様の要素には同様の符号を付している。一般に、双安定ソレノイド100はその安定位置を確立するために付勢要素を用いる必要が無いが、バネを追加することにより、さらなる安定位置(例えば2を超える数の安定位置)を達成することができる。例えば、双安定ソレノイド200は追加の中間位置を確立するために追加の要素を備えている。具体的には双安定ソレノイド200は、上記にて双安定ソレノイド100について説明した第1の安定位置と第2の安定位置との間の中間位置に電機子112を保持できる構成となっている。中間位置はバネ202を設けることによって達成され、このバネ202は電機子112に接続し、又は電機子112の隣に設けることができる。好適には、バネ202は電機子112の第2の端部178の隣に配置され、電機子112を第1のポールピース106に向かって付勢する付勢力を提供するように構成されている。一部の非限定的な例では、バネ202の第1の端部204が少なくとも部分的に電機子112のバネ受容口180内に配されるように、バネ202が電機子112の第2の端部178に固定的に取り付けられる。バネ202は、接着剤、締結具、曲げ可能なタブ、ねじ部等を介して、当該バネ202の第1の端部204で電機子112に取り付けることができる。バネ202は、電機子112の第2の端部178から第2のポールピース110に向かってバネストッパ部206まで軸方向に延在することができる。バネストッパ部206は、バネ202の第2の端部208に固定的に取り付けることができる。
【0037】
バネ202は好適には、図6を参照すると、電機子112が第1の位置にある場合、すなわち電機子112が第2のポールピース110の係合面164から離隔している場合に、第2の端部208及びバネストッパ部206が第2のポールピース110の第2の端部170から軸方向に離隔するように構成される。一般に、電機子112が第1の位置にあり、すなわち電機子112が第1のポールピース106と係合し又はその隣に位置して、磁束が第1のポールピース106を通って短絡して磁気デテントを確立した場合、バネ202は静止/無圧縮位置とすることができる。図8を見ると最も良く分かるように、電機子112が第2の位置にある場合、バネストッパ部206は第2の端部170近傍において第2のポールピース110と接触、係合又は隣接することができ、電機子112は第2のポールピース110の係合面164と係合又は当接することができる。このようにして、バネ202は電機子112と第2のポールピース110との間で圧縮される。図中の非限定的な一例の双安定ソレノイド200は、図7に示されているような他の安定位置を有し、この他の安定位置は、第1の位置と第2の位置との間の中間位置に電機子112が静止する安定位置である。この中間位置では、バネストッパ部206は第2のポールピース110と接触するが、バネ202は実質的に静止/無圧縮位置に留まることができる。中間位置の確立については、以下でさらに詳しく説明する。
【0038】
以下、双安定ソレノイド200の動作の非限定的な一例を、図6~8を参照して説明する。しかし、以下説明する双安定ソレノイド200の動作は、多くの適切なシステムに適合し得ることが明らかである。動作時には、双安定ソレノイド200のワイヤコイル172に選択的に通電する(すなわち、所望の方向かつ所定の大きさの電流を供給する)ことができ、このワイヤコイル172に供給した電流に応じて、電機子112が当該ワイヤコイル172に供給された電流の方向及び大きさに依存して3つの安定位置間で移動することができる。図中の非限定的な一例では電機子112は、当該電機子112が第1のポールピース106の第1の部分136と係合し又はその隣に位置する第1の位置(図6等参照)と、バネストッパ部206が第2のポールピース110と係合するがバネ202は圧縮しない中間位置(図7等参照)と、電機子112が第2のポールピース110の電機子受容口162の係合面164と接触又は当接してバネ202の少なくとも一部が圧縮する第2の位置(図8等参照)と、の間で可動とすることができる。
【0039】
引き続き図6を参照すると、図1に示されている双安定ソレノイド100と同様、双安定ソレノイド200の電機子112が第1の位置にあるとき、永久磁石114の磁束路は矢印210によって示されているように第1のポールピース106を通る。つまり、永久磁石114の磁束は第1のポールピース106を通って短絡して磁気デテントを形成し、安定位置を確立する、ということである。よって、中間位置を達成するためには、第1の位置にて確立される磁気デテントに打ち勝つために十分な大きさであるがバネ202の付勢より大きくない力を生成できる大きさの電流をワイヤコイル172に供給しなければならない。このようにして、バネ202の付勢が電機子112を中間位置に維持することができ、すなわち、バネ202は中間位置において実質的に圧縮することがない。よって第2の位置を達成するためには、バネ202の付勢に打ち勝って電機子112を第2のポールピース110に向かって移動させるため、電流量を追加してワイヤコイル172に供給する必要がある。バネ202が圧縮して電機子112が第2のポールピース110に向かって移動した後、矢印212で示されているように永久磁石114の磁束の方向を変えることができる。具体的には、永久磁石114の磁束は、ワイヤコイル172の磁束路が横切る磁気回路に実質的に沿って進むことができ、これにより、上記にて図2の双安定ソレノイド100を参照して説明したように磁気ラッチを確立することができる。その結果、電機子112は第2の位置にあるとき、永久磁石114によって生成される磁束によって第2の位置に磁気的にラッチされる。
【0040】
図9は、双安定ソレノイド200の力対ストローク特性曲線の非限定的な一例を示す。一般に、相当な大きさの力も生じさせる磁気回路内で、通電時の反復可能な中間位置を達成するために、構成にバネ(例えばバネ202等)が組み込まれる。こうするためには、バネ202の圧縮時に力対ストローク特性曲線が生じることと、完全圧縮したときのバネ力に打ち勝つために十分に大きい非通電時の保持力(ラッチ力)と、が必要となる。一般に、安定状態の中間位置を達成するためには、リラクタンスベースのソレノイドの力対ストローク特性は、一方向では安定的なラッチを備え、それと共に後退方向に向かう方向では、このラッチ力を打破して完全後退し、完全後退後は安定状態に留まるために必要な無拘束の力対ストローク特性曲線と、を兼ね備えることが求められる。かかる機能は、上記の双安定ソレノイド200の設計及び特性(すなわち磁気デテント、バネ、磁気ラッチ)によって可能となる。
【0041】
図9に示された力対ストロークグラフでは、バネ力は負として示されているが、実施時にはこの力は実際には正の方向に作用する。この力をグラフの負側に示したのは、バネ力が-0.75A力曲線と-1.5A力曲線とをどのように分けるかを示すためである。この力対ストローク曲線に基づくと、0.75Aが供給されている間は、(1.5mmストロークを起点として)中間位置においてバネ力の開始を押しのけることができない(0mm又は1.5mmのいずれかを起点として)3mmのストロークに到達するためには、1.5Aを供給する必要がある。あるいは、0mmストロークに後退し戻すためには-1.5Aを供給する必要がある。この構成では、圧縮時のバネ力もラッチ力の打破に寄与する。
【0042】
本願明細書では、明確かつ簡潔な明細書を記載するように実施形態を記載したが、本発明から逸脱することなく実施形態の種々の組み合わせ又は種々の分割を行うことができ、またこれらが明らかである。例えば、本願にて記載した好適な構成は全て、本願にて記載した発明の全ての側面に適用可能であることが明らかである。
【0043】
よって、特定の実施形態及び事例を参照して本発明を説明したが、本発明は必ずしもこれらの実施形態や事例に限定されるものではなく、多数の他の実施形態、事例、使用、改良、並びに当該実施形態、事例及び使用の派生形態も、添付の特許請求の範囲に含まれることを意図している。本願にて引用した各特許文献及び刊行物の開示内容は全て、参照により、当該特許文献及び刊行物のそれぞれが個別に参照により含まれている場合と同様に含まれる。
【0044】
本発明の種々の構成および利点は、以下の特許請求の範囲に記載されている。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
【国際調査報告】