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特表2023-539325モータ駆動式ピストン・シリンダ装置を搭載した車両のブレーキシステムのパラメータ推定装置および方法
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  • 特表-モータ駆動式ピストン・シリンダ装置を搭載した車両のブレーキシステムのパラメータ推定装置および方法 図1
  • 特表-モータ駆動式ピストン・シリンダ装置を搭載した車両のブレーキシステムのパラメータ推定装置および方法 図2
  • 特表-モータ駆動式ピストン・シリンダ装置を搭載した車両のブレーキシステムのパラメータ推定装置および方法 図3a
  • 特表-モータ駆動式ピストン・シリンダ装置を搭載した車両のブレーキシステムのパラメータ推定装置および方法 図3b
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-09-13
(54)【発明の名称】モータ駆動式ピストン・シリンダ装置を搭載した車両のブレーキシステムのパラメータ推定装置および方法
(51)【国際特許分類】
   B60T 8/00 20060101AFI20230906BHJP
   B60T 13/138 20060101ALI20230906BHJP
   B60T 8/40 20060101ALI20230906BHJP
【FI】
B60T8/00 Z
B60T13/138 A
B60T8/40 C
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023513868
(86)(22)【出願日】2021-06-15
(85)【翻訳文提出日】2023-02-27
(86)【国際出願番号】 EP2021066016
(87)【国際公開番号】W WO2022048806
(87)【国際公開日】2022-03-10
(31)【優先権主張番号】102020211056.5
(32)【優先日】2020-09-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】591245473
【氏名又は名称】ロベルト・ボッシュ・ゲゼルシャフト・ミト・ベシュレンクテル・ハフツング
【氏名又は名称原語表記】ROBERT BOSCH GMBH
(74)【代理人】
【識別番号】100177839
【弁理士】
【氏名又は名称】大場 玲児
(74)【代理人】
【識別番号】100172340
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 始
(74)【代理人】
【識別番号】100182626
【弁理士】
【氏名又は名称】八島 剛
(72)【発明者】
【氏名】ゲルデス,マンフレート
(72)【発明者】
【氏名】フランク,ダニエル
(72)【発明者】
【氏名】コリンズ,レイド
【テーマコード(参考)】
3D048
3D246
【Fターム(参考)】
3D048BB03
3D048CC05
3D048CC41
3D048HH13
3D048HH66
3D048QQ07
3D048RR06
3D246BA02
3D246CA04
3D246DA01
3D246HA42A
3D246KA02
3D246LA02Z
3D246LA55Z
(57)【要約】
本発明は、モータ駆動式ピストン・シリンダ装置(12)の、電気モータ(14)の動作によって変位可能な少なくとも1つのピストンが、そのそれぞれの出発位置から変位されるように、モータ駆動式ピストン・シリンダ装置(12)の電気モータ(14)を制御すること、モータ駆動式ピストン・シリンダ装置(12)の少なくとも1つの変位可能なピストンによって、モータ駆動式ピストン・シリンダ装置(12)とモータ駆動式ピストン・シリンダ装置(12)に隣接するブレーキシステムの少なくとも1つの部分との間で移動したブレーキ液体積を検知または推定すること、移動したブレーキ液体積にもとづいて、少なくともモータ駆動式ピストン・シリンダ装置(12)に隣接するブレーキシステムの部分で生じる圧力変化を検知または推定すること、ならびに検知または推定された移動したブレーキ液体積と検知または推定された圧力変化とを少なくとも考慮してブレーキシステムの弾性(E)および/またはブレーキシステムの剛性(Σ)を決定することによって、モータ駆動式ピストン・シリンダ装置(12)を搭載した車両のブレーキシステムのパラメータ推定装置(10)および方法に関する。
【選択図】 図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータ駆動式ピストン・シリンダ装置(12)を搭載した車両のブレーキシステムのパラメータ推定装置(10)であって、
前記モータ駆動式ピストン・シリンダ装置(12)の少なくとも1つの変位可能なピストンを、電気モータ(14)の駆動によってそのそれぞれの出発位置から変位できるように、前記モータ駆動式ピストン・シリンダ装置(12)の前記電気モータ(14)を制御するべく設計および/またはプログラムされたモータ制御デバイス(32)と、
前記少なくとも1つの変位可能なピストンによって前記モータ駆動式ピストン・シリンダ装置(12)と、前記モータ駆動式ピストン・シリンダ装置(12)に隣接する前記ブレーキシステムの少なくとも1つの部分との間で移動したブレーキ液体積(ΔV)を推定するべく、または計算デバイス(36)に提供される少なくとも1つの体積センサ信号から読み取るべく、ならびに/あるいは、前記移動したブレーキ液体積(ΔV)にもとづいて、少なくとも前記モータ駆動式ピストン・シリンダ装置(12)に隣接する前記ブレーキシステムの前記部分で生じる圧力変化(Δp)を推定するべく、または前記計算デバイス(36)に提供される少なくとも1つの圧力センサ信号(38)から読み取るべく設計および/またはプログラムされた計算デバイス(36)と、を備える装置において、
前記計算デバイス(36)はさらに、前記推定された、または読み取られた移動したブレーキ液体積(ΔV)と前記推定された、または読み取られた圧力変化(Δp)とを少なくとも考慮して前記ブレーキシステムの弾性(E)および/または前記ブレーキシステムの剛性(Σ)を決定するべく設計および/またはプログラムされることを特徴とする装置。
【請求項2】
前記装置(10)は、第1のローパスフィルタデバイスおよび/または第2のローパスフィルタデバイスを有し、前記計算デバイス(36)は、フィルタ処理されないか、または前記第1のローパスフィルタデバイスによりフィルタ処理された前記移動したブレーキ液体積(ΔV)と、前記フィルタ処理されないか、または前記第2のローパスフィルタデバイスによりフィルタ処理された前記圧力変化(Δp)とを少なくとも考慮して前記ブレーキシステムの前記弾性(E)および/または前記ブレーキシステムの前記剛性(Σ)を決定するべく設計および/またはプログラムされる、請求項1に記載の装置(10)。
【請求項3】
前記計算デバイス(36)はさらに、前記モータ駆動式ピストン・シリンダ装置(12)の、前記電気モータ(14)の駆動によって変位される前記少なくとも1つのピストンの、そのそれぞれの出発位置からの変位ストロークを推定するべく、または前記計算デバイス(36)に提供される少なくとも1つの変位ストロークセンサ信号(42)から読み取るべく設計および/またはプログラムされ、前記計算デバイス(36)は、前記少なくとも1つの変位されるピストンの前記推定された、または読み取られた変位ストロークをもとにして、前記少なくとも1つの変位可能なピストンによって前記モータ駆動式ピストン・シリンダ装置(12)と少なくとも前記モータ駆動式ピストン・シリンダ装置(12)に隣接する前記ブレーキシステムの前記部分との間で移動される前記ブレーキ液体積(ΔV)を推定するべく設計および/またはプログラムされる、請求項1または2に記載の装置(10)。
【請求項4】
前記計算デバイス(36)はさらに、前記ブレーキシステムの少なくとも1つの貯留室内に中間貯留される貯留体積(Vacc)を推定するべく、または前記計算デバイス(36)に提供される少なくとも1つの貯留室センサ信号から読み取るべく設計および/またはプログラムされ、前記計算デバイス(36)は、前記推定された、または読み取られた移動したブレーキ液体積(ΔV)と、前記推定された、または読み取られた圧力変化(Δp)と、前記少なくとも1つの貯留室内に中間貯留される前記貯留体積(Vacc)とを少なくとも考慮して前記ブレーキシステムの前記弾性(E)および/または前記ブレーキシステムの前記剛性(Σ)を決定するべく設計および/またはプログラムされる、請求項1から3までのいずれか1項に記載の装置(10)。
【請求項5】
前記モータ制御デバイス(32)はさらに、モータ駆動式ブレーキ圧上昇装置によって、少なくとも前記モータ駆動式ピストン・シリンダ装置(12)に隣接する前記ブレーキシステムの前記部分に、または前記部分から差分体積(Vdiff)を移動できるように、前記ブレーキシステムの前記モータ駆動式ブレーキ圧上昇装置の電気モータを制御するべく設計および/またはプログラムされ、前記計算デバイス(36)はさらに、前記差分体積(Vdiff)を推定するべく、または前記計算デバイス(36)に提供される少なくとも1つの別の体積センサ信号から読み取るべく、かつ前記推定された、または読み取られた移動したブレーキ液体積(ΔV)と、前記推定された、または読み取られた圧力変化(Δp)と、少なくとも前記モータ駆動式ピストン・シリンダ装置(12)に隣接する前記ブレーキシステムの前記部分に、または前記部分から移動される前記差分体積(Vdiff)とを少なくとも考慮して前記ブレーキシステムの前記弾性(E)および/または前記ブレーキシステムの前記剛性(Σ)を決定するべく設計および/またはプログラムされる、請求項1から4までのいずれか1項に記載の装置(10)。
【請求項6】
前記計算デバイス(36)はさらに、前記推定された、または読み取られた移動したブレーキ液体積(ΔV)と前記推定された、または読み取られた圧力変化(Δp)とを少なくとも考慮して前記ブレーキシステムのデッドボリューム(V)を推定するべく、かつ前記推定された、または読み取られた移動したブレーキ液体積(ΔV)と前記推定された、または読み取られた圧力変化(Δp)と前記推定されたデッドボリューム(V)とを少なくとも考慮して前記ブレーキシステムの前記弾性(E)および/または前記ブレーキシステムの前記剛性(Σ)を決定するべく設計および/またはプログラムされる、請求項1から5までのいずれか1項に記載の装置(10)。
【請求項7】
前記モータ制御デバイス(32)はさらに、前記車両の運転者または自動速度調節装置により要求される車両速度および/または車両減速度に関する少なくとも1つの設定量(46)を考慮して、かつ前記計算デバイス(36)により決定された前記ブレーキシステムの前記弾性(E)および/または前記剛性(Σ)をさらに考慮して、前記モータ駆動式ピストン・シリンダ装置(12)の前記電気モータ(14)の目標動作モードに関する少なくとも1つの目標量を決定するべく、かつ少なくとも前記決定された目標量を考慮して少なくとも1つのモータ制御信号(34)を前記電気モータ(14)に出力するべく設計および/またはプログラムされる、請求項1から6までのいずれか1項に記載の装置(10)。
【請求項8】
車両用ブレーキシステムであって、
請求項1から7までのいずれか1項に記載の前記パラメータ推定装置(10)と、
前記装置(10)によって制御可能な前記電気モータ(14)を有する前記モータ駆動式ピストン・シリンダ装置(12)と、を備えるブレーキシステム。
【請求項9】
モータ駆動式ピストン・シリンダ装置(12)を搭載した車両のブレーキシステムのパラメータ推定方法であって、次の各ステップ、すなわち、
前記モータ駆動式ピストン・シリンダ装置(12)の、電気モータ(14)の動作によって変位可能な少なくとも1つのピストンを、そのそれぞれの出発位置から変位させるように、前記モータ駆動式ピストン・シリンダ装置(12)の前記電気モータ(14)を制御するステップ(S1)、
前記モータ駆動式ピストン・シリンダ装置(12)の前記少なくとも1つの変位可能なピストンによって前記モータ駆動式ピストン・シリンダ装置(12)と前記モータ駆動式ピストン・シリンダ装置(12)に隣接する前記ブレーキシステムの少なくとも1つの部分との間で移動したブレーキ液体積(ΔV)を検知または推定するステップ(S2、S6)、ならびに/あるいは
前記移動したブレーキ液体積(ΔV)にもとづいて、少なくとも前記モータ駆動式ピストン・シリンダ装置(12)に隣接する前記ブレーキシステムの前記部分で生じる圧力変化(Δp)を検知または推定するステップ(S3、S7)、
を包含する方法において、
前記検知または推定された移動したブレーキ液体積(ΔV)と前記検知または推定された圧力変化(Δp)とを少なくとも考慮して、前記ブレーキシステムの弾性(E)および/または前記ブレーキシステムの剛性(Σ)を決定するステップ(S10)を特徴とする、方法。
【請求項10】
モータ駆動式ピストン・シリンダ装置(12)を搭載した車両のブレーキシステムの動作方法であって、次の各ステップ、すなわち、
請求項9に記載のパラメータ推定方法により前記ブレーキシステムの弾性(E)および/または前記ブレーキシステムの剛性(Σ)を決定するステップと、
前記車両の運転者または自動速度調節装置により要求される車両速度および/または車両減速度に関する少なくとも1つの設定量を考慮して、かつ前記ブレーキシステムの前記決定された弾性(E)および/または剛性(Σ)をさらに考慮して、前記モータ駆動式ピストン・シリンダ装置(12)の前記電気モータ(14)の目標動作モードに関する少なくとも1つの目標量を決定するステップ(S18)と、
少なくとも前記決定された目標量を考慮して少なくとも1つのモータ制御信号(34)を前記電気モータ(14)に出力することによって、前記モータ駆動式ピストン・シリンダ装置(12)の前記電気モータ(14)を制御するステップ(S19)と、を包含する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータ駆動式(motorisiert)ピストン・シリンダ装置を搭載した車両のブレーキシステムのパラメータ推定装置および車両用ブレーキシステムに関する。また本発明は、モータ駆動式ピストン・シリンダ装置を搭載した車両のブレーキシステムのパラメータ推定方法にも関する。さらに、本発明は、モータ駆動式ピストン・シリンダ装置を搭載した車両のブレーキシステムの動作方法に関する。
【背景技術】
【0002】
モータ駆動式プランジャ装置とも呼ぶことができるモータ駆動式ピストン・シリンダ装置と、モータ駆動式ピストン・シリンダ装置の電気モータを制御する装置または制御装置とをブレーキシステムに搭載することは、例えば特許文献1などの先行技術から知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】独国特許出願公開第102017212360号明細書
【発明の概要】
【0004】
本発明は、請求項1の特徴を有するモータ駆動式ピストン・シリンダ装置を搭載した車両のブレーキシステムのパラメータ推定装置、請求項8の特徴を有する車両用ブレーキシステム、請求項9の特徴を有するモータ駆動式ピストン・シリンダ装置を搭載した車両のブレーキシステムのパラメータ推定方法、および請求項10の特徴を有するモータ駆動式ピストン・シリンダ装置を搭載した車両のブレーキシステムの動作方法を提供する。
【発明の効果】
【0005】
本発明は、モータ駆動式ピストン・シリンダ装置を搭載した車両のブレーキシステムのために逆システムモデルの必要なパラメータとしての少なくとも1つの弾性または剛性を決定/特定するための有利な可能性を提供する。特に、本発明は、弾性および/または剛性を損なう量も考慮することができる、それぞれのブレーキシステムの弾性および/または剛性を決定するための「ロバストな」可能性を提供する。したがって、極端な境界条件下でも、本発明によればそれぞれのブレーキシステムの弾性および/または剛性の信頼できる決定が保証される。特に、それぞれのブレーキシステムの製造条件によるその標準ブレーキシステム型式との差異、それぞれのブレーキシステムの老朽化に起因する変化、および/またはそれぞれのブレーキシステムに作用を及ぼす周囲からの影響の変化に対してそれぞれのブレーキシステムの弾性および/または剛性を適合させることができる。ここに列挙したすべての場合に、信頼性をもってそれぞれのブレーキシステムの弾性および/または剛性を決定することができる。したがって、ブレーキシステムの1つにその典型的な大量生産品との差異があったとしても、本発明によれば信頼性をもってその弾性および/または剛性を決定することができるので、本発明は、それぞれモータ駆動式ピストン・シリンダ装置を搭載したブレーキシステムの低コストの大量生産も支援する。
【0006】
装置の有利な実施形態は、第1のローパスフィルタデバイス(Tiefpassfiltereinrichtung)および/または第2のローパスフィルタデバイスを有し、計算デバイスは、フィルタ処理されないか、または第1のローパスフィルタデバイスによりフィルタ処理された移動したブレーキ液体積(Bremsfluessigkeitsvolumen)と、フィルタ処理されないか、または第2のローパスフィルタデバイスによりフィルタ処理された圧力変化とを少なくとも考慮してブレーキシステムの弾性および/またはブレーキシステムの剛性を決定するべく設計および/またはプログラムされる。第1のローパスフィルタデバイスにより、および/または第2のローパスフィルタデバイスにより実行されるローパスフィルタ処理によって、それぞれフィルタ処理された信号に生じる信号ノイズを制限/低減することができる。
【0007】
殊に、計算デバイスはさらに、モータ駆動式ピストン・シリンダ装置の、電気モータの駆動によって変位される少なくとも1つのピストンの、そのそれぞれの出発位置からの変位ストローク(Verstellweg)を推定するべく、または計算デバイスに提供される少なくとも1つの変位ストロークセンサ信号から読み取るべく設計および/またはプログラムされ、計算デバイスは、少なくとも1つの変位されるピストンの推定された、または読み取られた変位ストロークをもとにして、少なくとも1つの変位可能なピストンによって、モータ駆動式ピストン・シリンダ装置と少なくともモータ駆動式ピストン・シリンダ装置に隣接するブレーキシステムの部分との間で移動したブレーキ液体積を推定するべく設計および/またはプログラムされる。従来、モータ駆動式ピストン・シリンダ装置は、例えばこの装置の電気モータの回転角度センサなど、少なくとも1つの変位ストロークセンサを搭載していることが多いため、ここに記載される装置の実施形態により、移動したブレーキ液体積の信頼できる推定値を容易に決定することができ、それによって移動したブレーキ液体積を測定するための他のセンサ系の必要がなくなる。
【0008】
装置の別の有利な実施形態では、計算デバイスはさらに、ブレーキシステムの少なくとも1つの貯留室内に中間貯留される貯留体積(Speichervolume)を推定するべく、または計算デバイスに提供される少なくとも1つの貯留室センサ信号から読み取るべく設計および/またはプログラムされ、計算デバイスは、推定された、または読み取られた移動したブレーキ液体積と、推定された、または読み取られた圧力変化と、少なくとも1つの貯留室内に中間貯留される貯留体積とを少なくとも考慮してブレーキシステムの弾性および/またはブレーキシステムの剛性を決定するべく設計および/またはプログラムされる。したがって、ここに記載される装置の実施形態は、それぞれのブレーキシステムの弾性および/または剛性のより正確でより信頼できる決定を可能にする。
【0009】
同様に、モータ制御デバイスはさらに、モータ駆動式ブレーキ圧上昇装置によって、少なくともモータ駆動式ピストン・シリンダ装置に隣接するブレーキシステムの部分に、またはこの部分から差分体積を移動できるように、ブレーキシステムのモータ駆動式ブレーキ圧上昇装置の電気モータを制御するべく設計および/またはプログラムされてもよく、計算デバイスはさらに、差分体積を推定するべく、または計算デバイスに提供される少なくとも1つの別の体積センサ信号(Volumensensorsignal)から読み取るべく、かつ推定された、または読み取られた移動したブレーキ液体積と、推定された、または読み取られた圧力変化と、少なくともモータ駆動式ピストン・シリンダ装置に隣接するブレーキシステムの部分に、またはこの部分から移動される差分体積とを少なくとも考慮してブレーキシステムの弾性および/またはブレーキシステムの剛性を決定するべく設計および/またはプログラムされる。このようにすることでもそれぞれのブレーキシステムの弾性および/または剛性をより正確に、かつより信頼性をもって決定することができる。
【0010】
これに代えて、またはこれに加えて、計算デバイスはさらに、推定された、または読み取られた移動したブレーキ液体積と推定された、または読み取られた圧力変化とを少なくとも考慮してブレーキシステムのデッドボリュームを推定するべく、かつ推定された、または読み取られた移動したブレーキ液体積と推定された、または読み取られた圧力変化と推定されたデッドボリュームとを少なくとも考慮してブレーキシステムの弾性および/またはブレーキシステムの剛性を決定するべく設計および/またはプログラムされ得る。ブレーキシステムのデッドボリュームを推定および考慮することも、それぞれのブレーキシステムの決定される弾性または剛性の精度と信頼性の改善に寄与し得る。
【0011】
有利な発展形態として、モータ制御デバイスはさらに、車両の運転者または自動速度調節装置により要求される車両速度および/または車両減速度に関する少なくとも1つの設定量を考慮して、かつ計算デバイスにより決定されたブレーキシステムの弾性および/または剛性をさらに考慮して、モータ駆動式ピストン・シリンダ装置の電気モータの目標動作モードに関する少なくとも1つの目標量を決定するべく、かつ少なくとも決定された目標量を考慮して、少なくとも1つのモータ制御信号を電気モータに出力するべく設計および/またはプログラムされ得る。ここに記載される装置の発展形態により、それぞれの車両のブレーキ倍力のみならず自律ブレーキももたらすことができ、どちらの場合もそれぞれのブレーキシステムの決定された弾性および/または剛性を考慮することによって、信頼性をもって要求される車両速度および/または車両減速度を遵守することが確保される。
【0012】
前述の利点は、このようなパラメータ推定装置と、装置によって制御可能な電気モータを有するモータ駆動式ピストン・シリンダ装置とを備える車両用ブレーキシステムの場合にも保証されている。
【0013】
モータ駆動式ピストン・シリンダ装置を搭載した車両のブレーキシステムの対応するパラメータ推定方法を実行することも上記の利点をもたらす。上述した装置の実施形態に従いパラメータ推定方法を発展させることができる。
【0014】
さらに、モータ駆動式ピストン・シリンダ装置を搭載した車両のブレーキシステムの対応する動作方法を実行することも上記の利点を提供し、この場合も、上述した装置の実施形態に従い方法を発展させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】モータ駆動式ピストン・シリンダ装置を搭載した車両のブレーキシステムのパラメータ推定方法の実施形態を説明するためのフローチャートである。
図2】モータ駆動式ピストン・シリンダ装置を搭載した車両のブレーキシステムの動作方法の実施形態を説明するためのフローチャートである。
図3a】ブレーキシステムの実施形態の模式的部分図である。
図3b】ブレーキシステムの圧力・体積特性曲線を説明するための座標系である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図をもとにして本発明の他の特徴および利点を説明する。
【0017】
図1は、モータ駆動式ピストン・シリンダ装置を搭載した車両のブレーキシステムのパラメータ推定方法の実施形態を説明するためのフローチャートを示す。
【0018】
以下に記載される方法は、モータ駆動式プランジャ装置とも呼ぶことができる少なくとも1つのモータ駆動式ピストン・シリンダ装置を搭載した(ほぼ)どのブレーキシステムでも実行することができる。モータ駆動式ピストン・シリンダ装置とは、それぞれ円筒形容積内に配置された少なくとも1つのピストンを備える装置と解することができ、この装置では、ブレーキ液がモータ駆動式ピストン・シリンダ装置の少なくとも1つの円筒形容積と連結されたブレーキシステム容積との間で移動できるように、少なくとも1つのピストンがモータ駆動式ピストン・シリンダ装置の電気モータの動作によって直線的に変位可能である/変位される。方法の実行可能性も同様に、それぞれのブレーキシステムを搭載した車両/自動車の特定の車両型式/自動車型式に限定されない。
【0019】
方法ステップS1において、モータ駆動式ピストン・シリンダ装置の電気モータの動作によって変位可能な少なくとも1つのピストンがそのそれぞれの出発位置から変位されるように、モータ駆動式ピストン・シリンダ装置の電気モータが駆動される。さらに、ここに記載される方法を実行する場合、モータ駆動式ピストン・シリンダ装置の少なくとも1つの変位可能なピストンによってモータ駆動式ピストン・シリンダ装置とモータ駆動式ピストン・シリンダ装置に隣接するブレーキシステムの少なくとも1つの部分との間で移動したブレーキ液体積ΔVが推定または検知される。
【0020】
例えば、モータ駆動式ピストン・シリンダ装置の少なくとも1つの(電気モータの駆動により)変位されるピストンの変位ストロークをそのそれぞれの出発位置から推定するか、または少なくとも1つの変位ストロークセンサ信号から読み取ることができ、続いて、少なくとも1つの体積の推定された変位ストロークをもとにして、少なくとも1つの変位可能なピストンによってモータ駆動式ピストン・シリンダ装置と少なくともモータ駆動式ピストン・シリンダ装置に隣接するブレーキシステムの部分との間で移動したブレーキ液体積ΔVを推定することができる。例えば、方法ステップS1として実行される電気モータの駆動をもとにして、例えば電気モータに、その駆動のために出力された電流が相応に評価されることにより、少なくとも1つの変位可能なピストンの変位ストロークを高い精度と高い信頼性で推定することができる。これに代えて、またはこれに加えて、少なくとも1つの変位可能なピストンの変位ストロークをモータ駆動式ピストン・シリンダ装置の電気モータの回転角度センサの変位ストロークセンサ信号として評価される信号からも読み取ることができる。選択的に、モータ駆動式ピストン・シリンダ装置に少なくとも1つのピストンの現在ポジションを特定するために専用の少なくとも1つのセンサを組み込むこともでき、その場合、その信号が、少なくとも1つのピストンの変位ストロークを読み取るための変位ストロークセンサ信号として評価される。少なくとも1つの変位可能なピストンにより移動したブレーキ液体積ΔVを特定するべく設計された少なくとも1つの体積センサがブレーキシステムに組み込まれている場合、移動したブレーキ液体積ΔVを少なくとも1つの体積センサの少なくとも1つの体積センサ信号から読み取ることもできる。
【0021】
ここに記載される方法では、単に例示的に、方法ステップS2として、少なくとも1つの変位可能なピストンによって移動したブレーキ液体積ΔVを特定するために、ブレーキシステムの全ブレーキ液体積V(t)が継続的に評価または検知される。ブレーキシステムの全ブレーキ液体積V(t)の推定または検知は、電気モータの駆動により変位される少なくとも1つのピストンのそれぞれの変位ストローク、少なくとも1つの変位ストロークセンサ信号および/または少なくとも1つの体積センサ信号を考慮して行うことができる。
【0022】
その他に、ここに記載される方法を実行する場合、移動したブレーキ液体積ΔVにもとづいて、少なくともモータ駆動式ピストン・シリンダ装置に隣接するブレーキシステムの部分で生じる圧力変化Δpが検知または推定される。それぞれの圧力変化Δpとして、例えば供給圧力(Vordruck)の変化を推定するか、または少なくとも1つの供給圧力センサにより測定することができる。例えば、ここに記載される実施形態では、少なくともモータ駆動式ピストン・シリンダ装置に隣接するブレーキシステムの部分で生じる圧力p(t)が方法ステップS3として継続的に検知または推定される。殊に、方法ステップS2およびS3を実行する場合、全ブレーキ液体積V(t)および圧力p(t)の検知または推定される値間に大きな時間遅延が生じないように注意が払われる。
【0023】
図1の実施形態では、続いて(任意的な)方法ステップS4において、検知または推定された全ブレーキ液体積V(t)が可変ローパスフィルタでフィルタ処理される。同様に(任意的な)方法ステップS5において、検知または推定された圧力p(t)を別の可変ローパスフィルタでフィルタ処理することができる。方法ステップS4およびS5として実行されるローパスフィルタ処理により、体積値V(t)および圧力値p(t)、もしくは後でそこから導かれる移動したブレーキ液体積ΔVおよび圧力変化Δpの値の信号ノイズを制限することができる。
【0024】
次に、方法ステップS6において、移動したブレーキ液体積ΔVが次式(式1)で決定される。
(式1) ΔV=V(t+Δt)-V(t)≒dV(t)/dt
それに対応して、方法ステップS7において、圧力変化Δpが次式(式2)で決定される。
(式2) Δp=p(t+Δt)-p(t)≒dp(t)/dt
【0025】
(任意的な)方法ステップS8において、ここに記載される実施形態では、方法ステップS7で特定された圧力変化Δpが予め定められた最小圧力変化Δpminと比較される。圧力変化Δpが最小圧力変化Δpminよりも大きい場合、方法は(任意的な)方法ステップS9に続くことができる。方法ステップS9として、方法ステップS6で特定された移動したブレーキ液体積ΔVを予め定められた最小体積変化ΔVminと比較することができる。特定された移動したブレーキ液体積ΔVが最小体積変化ΔVminよりも大きい場合、方法は、方法ステップS10に続くことができる。
【0026】
方法ステップS10において、移動したブレーキ液体積ΔVと圧力変化Δpとを少なくとも考慮して、ブレーキシステムの弾性Eおよび/またはブレーキシステムの剛性Σが決定される。ここに記載される図1の実施形態では、特に、ブレーキシステムの弾性は次式(式3)で決定される。
(式3) E=ΔV/Δp
【0027】
特に、圧力変化Δpの大きさが十分であることが方法ステップS8により確保されているので、信頼性をもって式(式3)を使用することができる。(圧力変化Δpがほぼゼロである場合、このようにして特定された弾性Eは無限大に向かうことになろう。)その他に、方法ステップS9により、式(式3)により特定された弾性Eがゼロと明確に異なることが確保されている。
【0028】
これに代えて、またはこれに加えて、ブレーキシステムの剛性Σを次式(式4)で決定することもできる。
(式4) Σ=Δp/ΔV
【0029】
有利な発展形態として、方法ステップ10において、ブレーキシステムの弾性Eおよび/またはブレーキシステムの剛性Σを決定するためにより複雑な式を使用することもできる。例えば、少なくとも1つの図示されない方法ステップにおいて、それぞれのブレーキシステムの少なくとも1つの貯留室内に中間貯留される貯留体積Vaccを推定するか、または少なくとも1つの貯留室センサ信号から読み取ることもできる。その場合、場合によっては、移動したブレーキ液体積ΔVと圧力変化Δpと少なくとも1つの貯留室内に中間貯留される貯留体積Vaccとを少なくとも考慮してブレーキシステムの弾性Eおよび/またはブレーキシステムの剛性Σを決定することができる。ブレーキシステムが少なくとも1つの別のモータ駆動式ブレーキ圧上昇装置をさらに有するならば、さらに、モータ駆動式ブレーキ圧上昇装置によって、少なくともモータ駆動式ピストン・シリンダ装置に隣接するブレーキシステムの部分に、またはこの部分から移動される差分体積Vdiffを推定または特定することができ、その後、移動したブレーキ液体積ΔVと圧力変化Δpと少なくともモータ駆動式ピストン・シリンダ装置に隣接するブレーキシステムの部分に、またはこの部分から移動される差分体積Vdiffとを少なくとも考慮して、それぞれのブレーキシステムの弾性Eおよび/または剛性Σを決定することができる。多くのブレーキシステムではその他に、少なくともモータ駆動式ピストン・シリンダ装置の動作によってそれぞれのブレーキシステムにおいて圧力上昇が始まる前にまず、いわゆるデッドボリュームVを越えていなければならない。それぞれのブレーキシステムにこのことが該当する場合、移動したブレーキ液体積ΔVと圧力変化Δpと推定されたデッドボリュームVとを少なくとも考慮して、ブレーキシステムの弾性Eおよび/またはブレーキシステムの剛性Σを決定することもできる。したがって、ブレーキシステムの弾性Eまたは剛性Σを決定するために、次式(式5)および/または(式6)を使用することもできる。
(式5) E=ΔV+V/Δp
(式6) Σ=Δp/ΔV+V
【0030】
体積Vは、選択的に、少なくとも1つの貯留室内に中間貯留される貯留体積Vacc、モータ駆動式ブレーキ圧上昇装置により移動される差分体積Vdiffおよび/またはデッドボリュームVを含むことができる。
【0031】
可能な発展形態として、それぞれのブレーキシステムの弾性Eおよび/または剛性Σを決定する場合に、それぞれのブレーキシステムの減衰Dおよび/または慣性Tをさらに考慮することもできる。これは、次式(式7)および/または(式8)で行われ得る。
(式7) p(t)=Σ*(ΔV+V)+D*dV(t)/dt+T*dV(t)/dt
(式8) E=1/Σ
【0032】
しかし、弾性E/剛性Σ、貯留体積Vacc、差分体積Vdiff、デッドボリュームV、減衰Dおよび慣性Tという6つのパラメータの使用が単に任意的であることを指摘しておく。弾性Eの式(式7)もしくはそこから導かれる式の複雑で計算負荷の高い使用の代わりに、多くの場合、式(式3)および(式4)のみを使用して弾性Eおよび/または剛性Σを決定することができる。それぞれのブレーキシステムの貯留体積Vacc、差分体積Vdiff、デッドボリュームV、減衰Dおよび慣性Tがそれぞれのブレーキシステムの弾性Eおよび/または剛性Σを決定する際に重要な役割をしないことを確保するために、さらに、パラメータ特定時に相応の実験境界条件を遵守することができる。例えば方法ステップS4およびS5により実行される信号フィルタ処理によって、これらの実験境界条件の遵守を確保することができる。
【0033】
式(式3)で決定された値Eを弾性Eの信頼できる値にすることを、以下に記載される複数の方法ステップによっても確保することができる。そのために(任意的な)方法ステップS11において、式(式3)で決定された値Eがまず、弾性について予め定められた最大値Emaxと比較される。式(式3)で決定された値Eが最大値Emaxよりも小さい場合、方法は(任意的な)方法ステップS12に続き、このステップにおいて式(式3)で決定された値Eが、弾性について予め定められた最小値Eminと比較される。式(式3)で決定された値Eが最小値Eminよりも大きい場合にのみ、方法ステップS13において値Eが弾性Eとして決定される。
【0034】
方法ステップS7において決定された圧力変化Δpが最小圧力変化Δpmin以下であるか、方法ステップS6において決定された移動したブレーキ液体積ΔVが最小体積変化ΔVmin以下であるか、または式(式3)で決定された値Eが最大値Emax以上である場合、ここに記載される方法の実施形態では、(任意的な)方法ステップS14が実行される。方法ステップS14において、弾性Eについて前もって有効な値があるかどうかが照会される。あるという場合、方法ステップS15として、前もって有効な値が値Eとして決定され、方法は方法ステップS13で終了する。そうでない場合には、方法ステップS16において、最大値Emaxが値Eとして決定され、方法は方法ステップS13で終了する。
【0035】
式(式3)で決定された値Eが最小値Emin以下であっても方法ステップS14が実行される。弾性Eについて前もって有効な値がある場合、方法ステップS13およびS15が実行される。そうでない場合には、方法ステップS17として最小値Eminが値Eとして決定され、方法は方法ステップS13で終了する。
【0036】
図2は、モータ駆動式ピストン・シリンダ装置を搭載した車両のブレーキシステムの動作方法の実施形態を説明するフローチャートを示す。
【0037】
ここに記載される方法も、少なくとも1つのモータ駆動式ピストン・シリンダ装置を搭載した(ほぼ)どのブレーキシステムでも実行することができる。同様に、方法の実行性は、それぞれのブレーキシステムを搭載した車両/自動車の特定の車両型式/自動車型式に限定されない。
【0038】
ここに記載される方法では、まずブレーキシステムの弾性Eおよび/またはブレーキシステムの剛性Σが決定される。これは、例えば上述した方法ステップS1~S17の少なくともいくつかを実行することによって行うことができる。
【0039】
その後、方法ステップS18として、車両の運転者または自動速度調節装置(Geschwindigkeitsautomatik)により要求される車両速度および/または車両減速度に関する少なくとも1つの設定量を考慮して、かつブレーキシステムの決定された弾性Eおよび/または剛性Σをさらに考慮して、モータ駆動式ピストン・シリンダ装置の電気モータの目標動作モードに関する少なくとも1つの目標量が決定される。自動速度調節装置とは、例えば車間距離制御スピードコントローラ(Abstandsregeltempomat)、車両の自律運転のための自動装置、および/または非常ブレーキシステムと解することができる。特に、要求される車両速度および/または車両減速度を通常実現できる、ブレーキシステムの少なくとも1つのホイールブレーキシリンダに生じさせるべきブレーキ圧ptargetをまず決定することができる。続いて、少なくとも1つのホイールブレーキシリンダ内に所望のブレーキ圧ptargetを発生させることができる、モータ駆動式ピストン・シリンダ装置により生じさせるべき体積流量qを少なくとも1つの目標量として決定することができ、次式(式9)により特定され得る。
(式9) q=E*dptarget/dt
【0040】
次の方法ステップS19において、少なくとも決定された目標量を考慮して少なくとも1つのモータ制御信号を電気モータに出力することによりモータ駆動式ピストン・シリンダ装置の電気モータが制御される。例えば、そのために、給電される電気モータがモータ駆動式ピストン・シリンダ装置の少なくとも1つのピストンの変位により所望の体積流量qを引き起こす電流信号が少なくとも1つのモータ制御信号として電気モータに出力される。
【0041】
図3aおよび図3bは、ブレーキシステムの実施形態の模式的部分図、およびブレーキシステムの圧力・体積特性曲線を説明するための座標系を示す。
【0042】
図3aに一部が模式的に示されたブレーキシステムは、パラメータ推定するための少なくとも1つの装置10と、装置10により制御可能な電気モータ14を含むモータ駆動式ピストン・シリンダ装置12とを有する。モータ駆動式ピストン・シリンダ装置12の少なくとも1つのピストンは、装置の電気モータ14の動作によって、モータ駆動式ピストン・シリンダ装置12とブレーキシステムの残りの容積との間でブレーキ液が移動できるように直線的に変位可能である。
【0043】
単に例示的に、図3aにおいて、ブレーキシステムの付加的コンポーネントとして、ブレーキペダル18が前置されたマスタブレーキシリンダ16と、ブレーキ液リザーバ20と、マスタブレーキシリンダ16の第1室をブレーキシステムの(図示されない)第1のブレーキ回路と連結または連結解除するための第1の遮断弁22aと、マスタブレーキシリンダ16の第2室をブレーキシステムの(図示されない)第2のブレーキ回路と連結または連結解除するための第2の遮断弁22bと、モータ駆動式ピストン・シリンダ装置12を第1のブレーキ回路と連結または連結解除するための第3の遮断弁24aと、モータ駆動式ピストン・シリンダ装置12を第2のブレーキ回路と連結または連結解除するための第4の遮断弁24bと、モータ駆動式ピストン・シリンダ装置12をブレーキ液リザーバ20と連結するための第5の遮断弁26と、シミュレータ30をマスタブレーキシリンダ16の第1室と連結または連結解除するためのシミュレータ遮断弁28とがさらに示されている。ブレーキシステムの2つのブレーキ回路の各々はそれぞれ、少なくとも1つのホイールブレーキシリンダを含む。例えば、2つのブレーキ回路の各々はそれぞれ2つのホイールブレーキシリンダを有することができる。任意的に、2つのブレーキ回路のうちの少なくとも1つが、少なくとも1つのホイールインレットバルブ、少なくとも1つのホイールアウトレットバルブ、その少なくとも1つのホイールアウトレットバルブに後置された貯留室、および/またはリターンポンプをさらに備えて形成されていてもよい。しかし、図3aに2つのブレーキ回路の個々のコンポーネントを図示することは省略する。その他に、この段落に記載されるブレーキシステムのコンポーネントが例示にすぎないと解釈されるべきであることを明確に指摘しておく。以下に記載される装置10の使用可能性は、このようなブレーキシステム、またはそれぞれのブレーキシステムを搭載した車両/自動車の特定の車両型式/自動車型式に限定されない。
【0044】
装置10は、モータ駆動式ピストン・シリンダ装置12の少なくとも1つの変位可能なピストンが、電気モータ14の駆動によりそのそれぞれの出発位置から変位できる/変位されるように、モータ駆動式ピストン・シリンダ装置12の電気モータ14を少なくとも1つのモータ制御信号34により制御するべく設計および/またはプログラムされたモータ制御デバイス32を有する。これに加えて、装置10は、少なくとも1つの変位可能なピストンによってモータ駆動式ピストン・シリンダ装置12と、モータ駆動式ピストン・シリンダ装置12に隣接するブレーキシステムの少なくとも1つの部分との間で移動したブレーキ液体積を推定するべく、または計算デバイス36に提供される少なくとも1つの体積センサ信号から読み取るべく、ならびに移動したブレーキ液体積にもとづいて、少なくともモータ駆動式ピストン・シリンダ装置12に隣接するブレーキシステムの部分で生じる圧力変化を推定するべく、または計算デバイス36に提供される少なくとも1つの圧力センサ信号38から読み取るべく設計および/またはプログラムされた計算デバイス36を備えている。少なくとも1つの圧力センサ信号38は、例えば供給圧力センサ40から計算デバイス36に出力することができる。ここに記載される実施形態では、計算デバイス36は、その他に、モータ駆動式ピストン・シリンダ装置12の、電気モータ14の駆動によって変位される少なくとも1つのピストンの、そのそれぞれの出発位置からの変位ストロークを、計算デバイス36に提供される少なくとも1つの変位ストロークセンサ信号42から読み取るべく、続いて、少なくとも1つの変位されるピストンの推定または読み取られた変位ストロークをもとにして、少なくとも1つの変位可能なピストンによってモータ駆動式ピストン・シリンダ装置12と少なくともモータ駆動式ピストン・シリンダ装置12に隣接するブレーキシステムの部分との間で移動したブレーキ液体積を推定するべく設計および/またはプログラムされている。少なくとも1つの変位ストロークセンサ信号42は、電気モータ14の特に回転角度センサ44から計算デバイス36に出力することができる。
【0045】
計算デバイス36はさらに、推定された、または読み取られた移動したブレーキ液体積と推定された、または読み取られた圧力変化とを少なくとも考慮して、ブレーキシステムの弾性Eおよび/またはブレーキシステムの剛性Σを決定するべく設計および/またはプログラムされている。これは特に上記の式のうちの少なくとも1つで行うことができる。仮にブレーキシステムが大量生産での製造、その老朽化、または周囲条件によるその変化にもとづいて「通常ではない(ungewoehnlich)」弾性Eまたは剛性Σを有しても、それぞれの値を装置10によって信頼性をもって特定することができる。図3bの座標系において、計算デバイス36により決定可能なブレーキシステムの弾性Eの特性曲線kの一例がプロットされ、座標系の横座標はブレーキシステムにおける圧力pを表し、座標系の縦座標はブレーキシステムの全ブレーキ液体積Vを表す。さらに、図3bの座標系にはブレーキシステムのデッドボリュームVが示されている。
【0046】
図示されない発展形態として、装置10はさらに、第1のローパスフィルタデバイスおよび/または第2のローパスフィルタデバイスを有することができ、計算デバイス36は、フィルタ処理されないか、または第1のローパスフィルタデバイスによりフィルタ処理された移動したブレーキ液体積と、フィルタ処理されないか、または第2のローパスフィルタデバイスによりフィルタ処理された圧力変化とを少なくとも考慮してブレーキシステムの弾性Eおよび/またはブレーキシステムの剛性Σを決定するべく設計および/またはプログラムされ得る。同様に、計算デバイス36はさらに、ブレーキシステムの少なくとも1つの(図示されない)貯留室内に中間貯留される貯留体積を推定するべく、または計算デバイスに提供される少なくとも1つの貯留室センサ信号から読み取るべく、および/またはブレーキシステムのデッドボリュームVを推定するべく設計および/またはプログラムされ得る。この場合、計算デバイス36は殊に、少なくとも1つの貯留室内に中間貯留される貯留体積および/または推定されたデッドボリュームVも考慮して、ブレーキシステムの弾性Eおよび/またはブレーキシステムの剛性Σを決定するためにも設計および/またはプログラムされている。モータ制御デバイス32が、モータ駆動式ブレーキ圧上昇装置によって、少なくともモータ駆動式ピストン・シリンダ装置に隣接するブレーキシステムの部分に、またはこの部分から差分体積を移動できるように、ブレーキシステムの(図示されない)モータ駆動式ブレーキ圧上昇装置の電気モータを制御すべき場合、計算デバイス36は付加的に差分体積を推定するべく、または計算デバイスに提供される少なくとも1つの別の体積センサ信号から読み取るべく、ならびに少なくともモータ駆動式ピストン・シリンダ装置に隣接するブレーキシステムの部分に、またはこの部分から移動される差分体積を付加的に考慮してブレーキシステムの弾性Eおよび/またはブレーキシステムの剛性Σを決定するべく設計および/またはプログラムされ得る。
【0047】
有利な発展形態として、モータ制御デバイス32は、ここに記載される装置10の実施形態では、車両の運転者または自動速度調節装置により要求される車両速度および/または車両減速度に関する少なくとも1つの設定量46を考慮して、かつ計算デバイス36により決定されたブレーキシステムの弾性Eおよび/または剛性Σを付加的に考慮してモータ駆動式ピストン・シリンダ装置の電気モータ14の目標動作モードに関する少なくとも1つの目標量を決定するためにも設計および/またはプログラムされている。少なくとも1つの設定量46を、例えばロッドストロークセンサ48および/または差分ストロークセンサによってモータ制御デバイス32に提供することもできる。その場合、モータ制御デバイス32は、少なくとも決定された目標量を考慮して少なくとも1つのモータ制御信号34を電気モータ14に出力する。したがって、装置10を能動的または自律的な圧力変調に使用することもできる。
【符号の説明】
【0048】
10 パラメータ推定装置
12 モータ駆動式ピストン・シリンダ装置
14 電気モータ
16 マスタブレーキシリンダ
18 ブレーキペダル
20 ブレーキ液リザーバ
22a 第1の遮断弁
22b 第2の遮断弁
24a 第3の遮断弁
24b 第4の遮断弁
28 シミュレータ遮断弁
30 シミュレータ
32 モータ制御デバイス
34 モータ制御信号
36 計算デバイス
38 圧力センサ信号
40 供給圧力センサ
42 変位ストロークセンサ信号
44 回転角度センサ
46 設定量
48 ロッドストロークセンサ
E 弾性
Σ 剛性
p 圧力
k 特性曲線
V 全ブレーキ液体積
デッドボリューム
acc 貯留体積
diff 差分体積
図1
図2
図3a
図3b
【国際調査報告】