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  • 特表-Dux4阻害剤およびその使用方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-09-13
(54)【発明の名称】Dux4阻害剤およびその使用方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/113 20100101AFI20230906BHJP
   A61P 21/00 20060101ALI20230906BHJP
   A61K 31/713 20060101ALI20230906BHJP
   C12N 15/115 20100101ALN20230906BHJP
   C07K 2/00 20060101ALN20230906BHJP
   C07K 16/28 20060101ALN20230906BHJP
【FI】
C12N15/113 Z ZNA
A61P21/00
A61K31/713
C12N15/115 Z
C07K2/00
C07K16/28
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023514067
(86)(22)【出願日】2021-09-01
(85)【翻訳文提出日】2023-04-26
(86)【国際出願番号】 US2021048611
(87)【国際公開番号】W WO2022051332
(87)【国際公開日】2022-03-10
(31)【優先権主張番号】63/073,304
(32)【優先日】2020-09-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】516134291
【氏名又は名称】ウルトラジェニクス ファーマシューティカル インク.
【氏名又は名称原語表記】ULTRAGENYX PHARMACEUTICAL INC.
(71)【出願人】
【識別番号】509039013
【氏名又は名称】セントルイス ユニバーシティ
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【弁理士】
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100138911
【弁理士】
【氏名又は名称】櫻井 陽子
(72)【発明者】
【氏名】ドガーティ,ショーン クリストファー
(72)【発明者】
【氏名】チェン,リーシャン
(72)【発明者】
【氏名】スベルドラップ,フランシス マイケル
【テーマコード(参考)】
4C086
4H045
【Fターム(参考)】
4C086AA01
4C086AA02
4C086AA03
4C086EA16
4C086MA01
4C086MA04
4C086MA52
4C086MA56
4C086MA59
4C086MA63
4C086MA65
4C086NA14
4C086ZA94
4H045AA10
4H045AA30
4H045BA54
4H045CA40
4H045DA75
4H045EA20
(57)【要約】
本願は、DUX4遺伝子の発現を調節する二本鎖低分子干渉RNAに関し、該二本鎖低分子干渉RNAを細胞に接触させてDUX4遺伝子の発現を阻害する方法について記載する。本願は、二本鎖低分子干渉RNAを含む組成物、および対象における顔面肩甲上腕型筋ジストロフィー(FSHD)または癌などのDUX4の異常な発現に関連する疾患または障害を予防または処置する方法におけるその使用を提供する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
センス鎖およびアンチセンス鎖を含む二本鎖低分子干渉RNA(siRNA)であって、ここで、前記二本鎖siRNAのアンチセンス鎖は、配列番号:2、4、6、8、10、12、14、16、18、20、22、24、26、28、30、32、34、36、38、40、42、44、46、48、50、52、54、56、58、60、62、64、66、68、70、72、74、76、78、80、82、84、86、88、90、92,94、96、98、100、102、104、106、108、110、112、114、116、118、120、122、124、126、128、130、132、134、136、138、140、142、144、146、148、150、152、154、156、158、160、162、164、166、168、170、172、174、176、178、180、182、184、186、188、190、192、194、196、198、200、202、204、206、208、210、212、214、216、218、220、222、224、226、228、230、232、234、236,238、240、242、244、246、248、250、252、254、256、258、260、262、264、266、268、270、272、274、276、278、280、282、284、286、288、290、292、294、296、298、300、302、304、306、308,310、312、314、316、318、320、322、324、326、328、330、332、334、336、338、340、342、344、346、348、350、352、354、356、358、360、362、364、366、368、370、372、374、376、378、380、382、384、386、388、390、392、394、396、398、400、402、404、406、408、410、412、414、416、418、420、422、424、426、428、430、432、434、436、438、440、442、444、446、448、450、452,454、456、458、460、462、464、466、468、470、472、474、476、478、480、482、484、486、488、490、492、494、496、498、500、502、504、506、508、510、512、514、516、518、520、522、524、526、528、530、532、534、536、538、540、542、544、546、548、550、552、554、556、558、560、562、564、566、568、570、572、574、576、578、580、582、584、586、588、590および592からなる群より選択される配列の少なくとも12個の連続ヌクレオチドの核酸塩基配列を含み、かつ前記二本鎖siRNAが、少なくとも1つの修飾ヌクレオシドを含む、二本鎖siRNA。
【請求項2】
二本鎖siRNAのアンチセンス鎖が、配列番号:216、218、220、312、324、340、342、348、350、352、354、364、372、376、400、402、404、410、434、446、448、450、462および564からなる群より選択される配列の少なくとも12個の連続ヌクレオチドの核酸塩基配列を含む、請求項1に記載の二本鎖siRNA。
【請求項3】
センス鎖およびアンチセンス鎖を含む二本鎖siRNAであって、ここで、前記二本鎖siRNAのセンス鎖は、配列番号:1、3、5、7、9、11、13、15、17、19、21、23、25、27、29、31、33、35、37、39、41、43、45、47、49、51、53、55、57、59、61、63、65、67、69、71、73、75、77、79、81、83、85、87、89、91、93、95、97、99、101、103、105、107、109、111、113、115、117、119、121、123、125、127、129、131、133、135、137、139、141、143、145、147、149、151、153、155、157、159、161、163、165、167、169、171、173、175、177、179、181、183、185、187、189、191、193、195、197、199、201、203、205、207、209、211、213、215、217、219、221、223、225、227、229、231、233、235、237,239、241、243、245、247、249、251、253、255、257、259、261、263、265、267、269、271、273、275、277、279、281、283、285、287、289、291、293、295、297、299、301、303、305、307、309、311、313、315、317、319、321、323、325、327、329、331、333、335、337、339、341、343、345、347、349、351、353、355、357、359、361、363、365、367、369、371、373、375、377、379,381、383、385、387、389、391、393、395、397、399、401、403、405、407、409、411、413、415、417、419、421、423、425、427、429、431、433、435、437、439、441、443、445、447、449、451,453、455、457、459、461、463、465、467、469、471、473、475、477、479、481、483、485、487、489、491、493、495、497、499、501、503、505、507、509、511、513、515、517、519、521、523、525、527、529、531、533、535、537、539、541、543、545、547、549、551、553、555、557、559、561、563、565、567、569、571、573、575、577、579、581、583、585、587、589および591からなる群より選択される配列の少なくとも12個の連続ヌクレオチドの核酸塩基配列を含み、かつ前記二本鎖siRNAが、少なくとも1つの修飾ヌクレオシドを含む、二本鎖siRNA。
【請求項4】
センス鎖およびアンチセンス鎖を含む二本鎖siRNAであって、ここで、前記二本鎖siRNAのアンチセンス鎖は、配列番号593の核酸塩基4605~7485の等長部分のうち少なくとも8個の連続核酸塩基に相補的な核酸塩基配列を含み、前記センス鎖は前記アンチセンス鎖に少なくとも85%相補性を有し、かつ前記二本鎖siRNAは、少なくとも1つの修飾ヌクレオシドを含む、二本鎖siRNA。
【請求項5】
二本鎖siRNAのアンチセンス鎖が、配列番号593の核酸塩基4605~4638、4693~4727、4765~4783、4933~4951、4990~5011、5075~5093、5127~5148、5161~5193、5201~5228、5243~5279、5305~5327、5353~5397、5433~5461、5464~5509、5522~5540、5651~5670、5809~5830、5842~5865、5969~5990、6066~6086、6109~6135、6183~6229、6328~6369、6403~6451、7120~7138、7162~7190、7239~7285、7404~7437、または7452~7485の等長部分のうち少なくとも8個の連続核酸塩基に相補的な核酸塩基配列を含む、請求項4に記載の二本鎖siRNA。
【請求項6】
二本鎖siRNAのセンス鎖の少なくとも1つのヌクレオシドが修飾糖を含む、請求項1から5のいずれか一項に記載の二本鎖siRNA。
【請求項7】
二本鎖siRNAのセンス鎖の各ヌクレオシドが修飾糖を含む、請求項1から6のいずれか一項に記載の二本鎖siRNA。
【請求項8】
修飾糖が、2’-OMe修飾糖および2’-F修飾糖から選択される、請求項6に記載の二本鎖siRNA。
【請求項9】
アンチセンス鎖が、3’末端にTTオーバーハングを含む、請求項1から8のいずれか一項に記載の二本鎖siRNA。
【請求項10】
センス鎖が、3’末端にTTオーバーハングを含む、請求項1から9のいずれか一項に記載の二本鎖siRNA。
【請求項11】
二本鎖siRNAのセンス鎖が、少なくとも1つの修飾ヌクレオシド間結合を含む、請求項1から10のいずれか一項に記載の二本鎖siRNA。
【請求項12】
二本鎖siRNAのセンス鎖が、少なくとも5つの修飾ヌクレオシド間結合を含む、請求項11に記載の二本鎖siRNA。
【請求項13】
ヌクレオシド間結合がそれぞれ、ホスホロチオエートヌクレオシド間結合である、請求項11に記載の二本鎖siRNA。
【請求項14】
siRNAが、親油性分子、抗体、アプタマー、リガンド、ペプチドまたはポリマーに結合している、請求項1から13のいずれか一項に記載の二本鎖siRNA。
【請求項15】
親油性分子が長鎖脂肪酸(LCFA)である、請求項14に記載の二本鎖siRNA。
【請求項16】
抗体が抗トランスフェリン受容体抗体である、請求項14に記載の二本鎖siRNA。
【請求項17】
請求項1から16のいずれか一項に記載の二本鎖siRNAおよび薬学的に許容される担体を含む、医薬組成物。
【請求項18】
医学的治療に用いるための、請求項17に記載の医薬組成物。
【請求項19】
ヒトまたは動物の身体の処置に用いるための、請求項17に記載の医薬組成物。
【請求項20】
それを必要とする対象において、DUX4の異常発現に関連する疾患または障害を改善、予防、発症遅延または処置するための医薬を調製または製造するための、請求項17に記載の医薬組成物の使用。
【請求項21】
疾患または障害が、顔面肩甲上腕型筋ジストロフィー(FSHD)である、請求項20に記載の使用。
【請求項22】
FSHDが、FSHD1およびFSHD2からなる群より選択される、請求項21に記載の使用。
【請求項23】
請求項17に記載の医薬組成物をそれを必要とする対象に投与することを含む、該対象における、DUX4の異常発現に関連する疾患または障害を改善、予防、発症遅延または処置するための方法。
【請求項24】
疾患または障害がFSHDである、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
FSHDが、FSHD1およびFSHD2からなる群より選択される、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
請求項17に記載の医薬組成物をそれを必要とする対象に投与することを含む、該対象における、FSHDの改善、予防、発症遅延または処置のための方法。
【請求項27】
FSHDがFSHD1である、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
FSHDがFSHD2である、請求項26に記載の方法。
【請求項29】
請求項17に記載の医薬組成物をそれを必要とする対象に投与することを含む、該対象において癌を改善、予防、発症遅延または処置する方法。
【請求項30】
投与が、静脈内、皮下、肺、筋肉内、腹腔内、皮膚、経口、鼻腔または吸入経由である、請求項23から29のいずれか一項に記載の方法。
【請求項31】
投与が、1日1回、週1回、2週間に1回、月1回、2ヶ月に1回、3ヵ月に1回、または年1回である、請求項23から30のいずれか一項に記載の方法。
【請求項32】
投与が、0.01~100mg/kgの有効量を含む、請求項23から31のいずれか一項に記載の方法。
【請求項33】
投与が、対象におけるDUX4の発現を阻害する、請求項23から32のいずれか一項に記載の方法。
【請求項34】
請求項1~16のいずれか一項に記載の1以上の二本鎖siRNAおよび前記二本鎖siRNAを投与するための器具を含む、キット。
【請求項35】
請求項1~16のいずれか一項に記載の二本鎖siRNAを細胞に接触させることを含む、該細胞におけるDUX4の発現を阻害する方法。
【請求項36】
センス鎖およびアンチセンス鎖を含む二本鎖siRNAであって、ここで、前記センス鎖が、配列番号:597、599、601、603、605、607、609、611、613、615、617、619、621、623、625、627、629、631、633、635、637、639、641,643、645、647、649、651、653、655、657、659、661、663、665、667、669、671、673、675、677、679、681、683、685および687からなる群より選択される配列の少なくとも8個の連続ヌクレオチドを含む、二本鎖siRNA。
【請求項37】
センス鎖およびアンチセンス鎖を含む二本鎖siRNAであって、ここで、前記アンチセンス鎖が、配列番号:598、600、602、604、606、608、610、612、614、616、618、620、622、624、626、628、630、632、634、636、638、640、642、644、646、648、650、652、654、656、658、660、662、664、666、668、670、672、674、676、678、680、682、684、686および688からなる群より選択される配列の少なくとも8個の連続ヌクレオチドを含む、二本鎖siRNA。
【請求項38】
センス鎖およびアンチセンス鎖を含む二本鎖siRNAであって、ここで、前記センス鎖が、配列番号:597、599、601、603、605、607、609、611、613、615、617、619、621、623、625、627、629、631、633、635、637、639、641、643、645、647、649、651、653、655、657、659、661、663、665、667、669、671、673、675、677、679、681、683、685および687からなる群より選択される配列の少なくとも8個の連続ヌクレオチドを含み、かつ前記アンチセンス鎖が、配列番号:598、600、602、604、606、608、610、612、614、616、618、620、622、624、626、628、630、632、634、636、638、640、642、644、646、648、650、652、654、656、658、660、662、664、666、668、670、672、674、676、678、680、682、684、686および688からなる群より選択される配列の少なくとも8個の連続ヌクレオチドを含む、二本鎖siRNA。
【請求項39】
請求項36から38のいずれか一項に記載の二本鎖siRNAおよび薬学的に許容される担体を含む、医薬組成物。
【請求項40】
医学的治療に用いるための、請求項39に記載の医薬組成物。
【請求項41】
ヒトまたは動物の身体の処置に用いるための、請求項39に記載の医薬組成物。
【請求項42】
それを必要とする対象において、DUX4の異常発現に関連する疾患または障害を改善、予防、発症遅延または処置するための医薬を調製または製造するための、請求項39に記載の医薬組成物の使用。
【請求項43】
疾患または障害がFSHDである、請求項42に記載の使用。
【請求項44】
FSHDが、FSHD1およびFSHD2からなる群より選択される、請求項43に記載の使用。
【請求項45】
請求項17に記載の医薬組成物をそれを必要とする対象に投与することを含む、該対象における、DUX4の異常発現に関連する疾患または障害を改善、予防、発症遅延または処置するための方法。
【請求項46】
疾患または障害がFSHDである、請求項45に記載の方法。
【請求項47】
FSHDが、FSHD1およびFSHD2からなる群より選択される、請求項46に記載の方法。
【請求項48】
請求項39に記載の医薬組成物をそれを必要とする対象に投与することを含む、該対象においてFSHDを改善、予防、発症遅延または処置するための方法。
【請求項49】
FSHDがFSHD1である、請求項48に記載の方法。
【請求項50】
FSHDがFSHD2である、請求項48に記載の方法。
【請求項51】
請求項39に記載の医薬組成物をそれを必要とする対象に投与することを含む、該対象において癌を改善、予防、発症遅延または処置する方法。
【請求項52】
投与が、静脈内、皮下、肺、筋肉内、腹腔内、皮膚、経口、鼻腔または吸入経由である、請求項45から51のいずれか一項に記載の方法。
【請求項53】
投与が、1日1回、週1回、2週間に1回、月1回、2ヶ月に1回、3ヵ月に1回、または年1回である、請求項45から52のいずれか一項に記載の方法。
【請求項54】
投与が、0.01~100mg/kgの有効量を含む、請求項45から53のいずれか一項に記載の方法。
【請求項55】
投与が、対象におけるDUX4の発現を阻害する、請求項45から54のいずれか一項に記載の方法。
【請求項56】
請求項36~38のいずれか一項に記載の1以上の二本鎖siRNAおよび前記二本鎖siRNAを投与するための器具を含む、キット。
【請求項57】
請求項36~38のいずれか一項に記載の二本鎖siRNAを細胞に接触させることを含む、該細胞におけるDUX4の発現を阻害する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は、2020年9月1日出願の米国仮特許出願番号第63/073,304号に基づく優先権の利益を主張し、その内容全体は引用により本明細書中に包含される。
【0002】
配列表への参照
本願は、EFS-Webによりテキストファイルとして電子的に提出された配列表を含む。テキストファイルの名称は「8957-5-PCT_Seq_Listing_ST25.txt」であり、サイズは194,000バイトであって、2021年8月25日に記録された。テキストファイルに含まれる情報は、37 CFR§1.52(e)(5)に従い、引用によりその内容全体が本明細書に包含される。
【0003】
発明の技術分野
本発明は、DUX4遺伝子の発現を調節する二本鎖低分子干渉RNA(siRNA)、および研究、診断および/または治療におけるその適用に関する。いくつかの態様において、顔面肩甲上腕型筋ジストロフィー(FSHD)の予防および/または処置において、前記siRNAを含む組成物および方法に関する。
【背景技術】
【0004】
発明の背景
顔面肩甲上腕型筋ジストロフィー(FSHD)は、世界で約1万人に1人の割合で発症する希少な遺伝病である。FSHD患者は、進行性の非対称の筋力低下を示し、罹患個体の20%までが重度障害者となる。筋肉以外の症状としては、潜在性感音性難聴毛細血管拡張症が挙げられる。
【0005】
DUX4遺伝子の不十分なエピジェネティックな抑制による骨格筋でのDUX4タンパク質の異常発現は、FSHDの原因と考えられている。DUX4は、D4Z4マクロサテライトリピート配列の各ユニットにコードされているレトロ遺伝子である。D4Z4リピートは体細胞組織で双方向に転写され、エピジェネティックサイレンシングに関与すると考えられる長いRNAおよび低分子RNAフラグメントを生成する。より一般的なFSHD(FSHD1)は、染色体4qのサブテロメア領域におけるD4Z4マクロサテライトリピートのサブセットの欠失によって引き起こされる。罹患していない個体は、3.3kbのD4Z4リピートユニットを11~100個有しているが、FSHD1個体は10個以下のリピートしか有さない。FSHD2は、同じ4qAハプロタイプのD4Z4リピートのDNAメチル化の低下と関連している。したがって、DUX4遺伝子の発現を抑制する薬剤の投与は、FSHD1およびFSHD2の予防法または処置法として有望である。DUX4は、MHCクラスIを抑制して癌の免疫回避を促進し、抗CTLA-4療法に対する抵抗性に介在することが分かっているため、FSHDの予防または処置における有用性のほか、DUX4を標的とした処置により、癌免疫療法の成功率を高め得る。Chew et al., 2019, Dev Cell 50(5):525-6を参照のこと。
【0006】
二本鎖オリゴヌクレオチドは、遺伝子発現を調節するために、研究、診断、および/または治療において用いるために使用されてきた。遺伝子発現を調節する方法のひとつにRNA干渉(RNAi)があり、これは一般的に、二本鎖RNA(dsRNA)を導入して、標的の内因性mRNAレベルを配列特異的に減少させることを伴う遺伝子サイレンシングを意味する。標的mRNAの減少は、dsRNAの配列または構造に応じて、いくつかの異なる機序のうちの1つによって起こり得る。例えば、RNA誘導サイレンシング複合体(RISC)の形成による標的mRNAの分解、またはRNA誘導転写サイレンシング(RITS)と称されるmRNAの転写が阻害される転写サイレンシング、またはマイクロRNA(miRNA)の機能調節によるものがある。マイクロRNAは、メッセンジャーRNAの発現を制御する低分子非コーディングRNAである。RNAi化合物がマイクロRNAに結合することで、そのマイクロRNAがメッセンジャーRNAの標的に結合できなくなり、マイクロRNAの機能を阻害できる。RNAi化合物は、その配列特異性から、疾患の発症に関わる遺伝子の発現を選択的に調節する治療薬として有望視されている。
【0007】
当技術分野において、FSHDの処置のための方法および薬剤が必要とされている。本発明は、DUX4遺伝子の異常な発現を抑制でき、それによりFSHDを改善、予防または処置できるオリゴヌクレオチド、それらを含む組成物および方法を提供することによって、この必要性に応える。
【発明の概要】
【0008】
発明の概要
本発明は、DUX4遺伝子の発現を低減または阻害するための二本鎖低分子干渉RNA(siRNA)分子を提供する。また、本発明は、DUX4を標的とする二本鎖siRNA分子を細胞に接触させ、それによりDUX4の発現を低減または阻害することを含む、該細胞におけるDUX4の発現を低減または阻害する方法を提供する。別の面において、本発明は、二本鎖siRNA分子およびそれを含む組成物を対象に投与することによる、顔面肩甲上腕型筋ジストロフィー(FSHD)を含む種々の障害の予防または処置のための組成物および方法を提供する。
【0009】
従って、一面において、本発明は、細胞におけるDUX4遺伝子の異常発現を低減または阻害するのに有用な、各分子がセンス鎖およびアンチセンス鎖を含む二本鎖低分子干渉RNA(siRNA)分子を含む。いくつかの態様において、二本鎖低分子干渉RNAは、少なくとも1つの修飾ヌクレオシドを含む。
【0010】
いくつかの態様において、DUX4遺伝子は、配列番号593と少なくとも85%、少なくとも90%、または少なくとも95%同一である核酸塩基配列を含む。特定の態様において、DUX4は、配列番号593と100%同一である核酸塩基配列を含む。
【0011】
いくつかの態様では、二本鎖低分子干渉RNAのアンチセンス鎖は、配列番号593の等長部分に少なくとも85%、少なくとも90%または少なくとも95%相補的な核酸塩基配列を含む。いくつかの態様において、二本鎖低分子干渉RNAのアンチセンス鎖は、配列番号593の等長部分に100%相補的な核酸塩基配列を含む。
【0012】
いくつかの態様では、二本鎖低分子干渉RNAのアンチセンス鎖は、配列番号593の等長部分の少なくとも8個の連続核酸塩基に相補的な核酸塩基配列を含む。種々の態様において、二本鎖低分子干渉RNAのアンチセンス鎖は、配列番号593の等長部分の少なくとも8個、少なくとも9個、少なくとも10個、少なくとも11個、少なくとも12個、少なくとも13個、少なくとも14個、少なくとも15個、少なくとも16個、少なくとも17個、少なくとも18個または少なくとも19個の連続核酸塩基に相補的な核酸塩基配列を含む。
【0013】
一態様では、二本鎖低分子干渉RNAのアンチセンス鎖は、配列番号593の核酸塩基4605~7485内の等長部分の少なくとも8個の連続核酸塩基に相補的な核酸塩基配列を含む。例えば、種々の態様において、二本鎖低分子干渉RNAのアンチセンス鎖は、配列番号593の核酸塩基4605-4638、4693-4727、4765-4783、4933-4951、4990-5011、5075-5093、5127-5148、5161-5193、5201-5228、5243-5279、5305-5327、5353-5397、5433-5461、5464-5509、5522-5540、5651-5670、5809-5830、5842-5865、5969-5990、6066-6086、6109-6135、6183-6229、6328-6369、6403-6451、7120-7138、7162-7190、7239-7285、7404-7437、または7452-7485内の等長部分の少なくとも8個の連続核酸塩基に相補的である核酸塩基配列を含み得る。種々の態様において、二本鎖低分子干渉RNAのアンチセンス鎖は、配列番号593の核酸塩基4605-7485の、例えば配列番号593の核酸塩基4605-4638、4693-4727、4765-4783、4933-4951、4990-5011、5075-5093、5127-5148、5161-5193、5201-5228、5243-5279、5305-5327、5353-5397、5433-5461、5464-5509、5522-5540、5651-5670、5809-5830、5842-5865、5969-5990、6066-6086、6109-6135、6183-6229、6328-6369、6403-6451、7120-7138、7162-7190、7239-7285、7404-7437または7452-7485内の等長部分の少なくとも8個、少なくとも9個、少なくとも10個、少なくとも11個、少なくとも12個、少なくとも13個、少なくとも14個、少なくとも15個、少なくとも16個、少なくとも17個、少なくとも18個、または少なくとも19個の連続核酸塩基に相補的な核酸塩基配列を含む。
【0014】
いくつかの態様では、二本鎖低分子干渉RNAのアンチセンス鎖は、表1に列記された核酸塩基配列の何れか、すなわち、配列番号:2、4、6、8、10、12、14、16、18、20、22、24、26、28、30、32、34、36、38、40、42、44、46、48、50、52、54、56、58、60、62、64、66、68、70、72、74、76、78、80、82、84、86、88、90、92、94、96、98、100、102、104、106、108、110、112、114、116、118、120、122、124、126、128、130、132、134、136、138、140、142、144、146、148、150、152、154、156、158、160、162、164、166、168、170、172、174、176、178、180、182、184、186、188、190、192、194、196、198、200、202、204、206、208、210、212、214、216、218、220、222、224、226、228、230、232、234、236、238、240、242、244、246、248、250、252、254、256、258、260、262、264、266、268、270、272、274、276、278、280、282、284、286、288、290、292、294、296、298、300、302、304、306、308、310、312、314、316、318、320、322、324、326、328、330、332、334、336、338、340、342、344、346、348、350、352、354、356、358、360、362、364、366、368、370、372、374、376、378、380、382、384、386、388、390、392、394、396、398、400、402、404、406、408、410、412、414、416、418、420、422、424、426、428、430、432、434、436、438、440、442、444、446、448、450、452、454、456、458、460、462、464、466、468、470、472、474、476、478、480、482、484、486、488、490、492、494、496、498、500、502、504、506、508、510、512、514、516、518、520、522、524、526、528、530、532、534、536、538、540、542、544、546、548、550、552、554、556、558、560、562、564、566、568、570、572、574、576、578、580、582、584、586、588、590および592からなる群より選択される配列の少なくとも8個、少なくとも9個、少なくとも10個、少なくとも11個、または少なくとも12個の連続核酸塩基を含む核酸塩基配列を含む。いくつかの態様では、二本鎖低分子干渉RNAのアンチセンス鎖は、配列番号:216、218、220、312、324、340、342、348、350、352、354、364、372、376、400、402、404、410、434、446、448、450、462および564からなる群より選択される核酸塩基配列の何れかの少なくとも8個、少なくとも9個、少なくとも10個、少なくとも11個、または少なくとも12個の連続核酸塩基を含む核酸塩基配列を含む。いくつかの態様において、二本鎖低分子干渉RNAのアンチセンス鎖は、配列番号:216、218、220、312、324、340、342、348、350、352、354、364、372、376、400、402、404、410、434、446、448、450、462および564のいずれか1つの核酸配列を含むかまたはそれからなる。
【0015】
いくつかの態様では、二本鎖低分子干渉RNAのアンチセンス鎖は、表5に列記された核酸塩基配列の何れか、すなわち、配列番号:598、600、602、604、606、608、610、612、614、616、618、620、622、624、626、628、630、632、634、636、638、640、642、644、646、648、650、652、654、656、658、660、662、664、666、668、670、672、674、676、678、680、682、684、686および688からなる群より選択される配列の少なくとも8個、少なくとも9個、少なくとも10個、少なくとも11個、または少なくとも12個の連続核酸塩基を含む核酸塩基配列を含む。いくつかの態様では、二本鎖低分子干渉RNAのアンチセンス鎖は、配列番号:602、604、606、616、684、686および688からなる群より選択される何れかの核酸塩基配列の少なくとも8個、少なくとも9個、少なくとも10個、少なくとも11個、または少なくとも12個の連続核酸塩基を含む核酸塩基配列を含む。いくつかの態様において、二本鎖低分子干渉RNAのアンチセンス鎖は、配列番号:602、604、606、616、684、686および688の何れか1つの核酸配列を含むかまたはそれからなる。
【0016】
いくつかの態様において、二本鎖低分子干渉RNAのセンス鎖は、二本鎖低分子干渉RNAのアンチセンス鎖に少なくとも85%相補的な核酸塩基配列を含む。種々の態様において、二本鎖低分子干渉RNAのセンス鎖は、二本鎖低分子干渉RNAのアンチセンス鎖に少なくとも90%、少なくとも95%、または100%相補的な核酸塩基配列を含む。
【0017】
いくつかの態様では、二本鎖低分子干渉RNAのセンス鎖は、配列番号593の核酸塩基4605~7485内の等長部分の少なくとも8個の連続核酸塩基と同一である核酸塩基配列を含む。例えば、種々の態様において、二本鎖低分子干渉RNAのセンス鎖は、配列番号593の核酸塩基4605-4638、4693-4727、4765-4783、4933-4951、4990-5011、5075-5093、5127-5148、5161-5193、5201-5228、5243-5279、5305-5327、5353-5397、5433-5461、5464-5509、5522-5540、5651-5670、5809-5830、5842-5865、5969-5990、6066-6086、6109-6135、6183-6229、6328-6369、6403-6451、7120-7138、7162-7190、7239-7285、7404-7437、または7452-7485内の等長部分の少なくとも8個の連続核酸塩基配列と同一である核酸塩基配列を含む。種々の態様において、二本鎖低分子干渉RNAのセンス鎖は、配列番号593の核酸塩基4605~7485の、例えば、配列番号593の核酸塩基4605-4638、4693-4727、4765-4783、4933-4951、4990-5011、5075-5093、5127-5148、5161-5193、5201-5228、5243-5279、5305-5327、5353-5397、5433-5461、5464-5509、5522-5540、5651-5670、5809-5830、5842-5865、5969-5990、6066-6086、6109-6135、6183-6229、6328-6369、6403-6451、7120-7138、7162-7190、7239-7285、7404-7437、または7452-7485の等長部分の少なくとも8個、少なくとも9個、少なくとも10個、少なくとも11個、少なくとも12個、少なくとも13個、少なくとも14個、少なくとも15個、少なくとも16個、少なくとも17個、少なくとも18個、または少なくとも19個の連続核酸塩基配列と同一の核酸塩基配列を含む。
【0018】
いくつかの態様では、二本鎖低分子干渉RNAのセンス鎖は、表1に列記された核酸塩基配列のいずれか1つの核酸塩基配列、すなわち、配列番号:1、3、5、7、9、11、13、15、17、19、21、23、25、27、29、31、33、35、37、39、41、43、45、47、49、51、53、55、57、59、61、63、65、67、69、71、73、75、77、79、81、83、85、87、89、91、93、95、97、99、101、103、105、107、109、111、113、115、117、119、121、123、125、127、129、131、133、135、137、139、141、143、145、147、149、151、153、155、157、159、161、163、165、167、169、171、173、175、177、179、181、183、185、187、189、191、193、195、197、199、201、203、205、207、209、211、213、215、217、219、221、223、225、227、229、231、233、235、237、239、241、243、245、247、249、251、253、255、257、259、261、263、265、267、269、271、273、275、277、279、281、283、285、287、289、291、293、295、297、299、301、303、305、307、309、311、313、315、317、319、321、323、325、327、329、331、333、335、337、339、341、343、345、347、349、351、353、355、357、359、361、363、365、367、369、371、373、375、377、379、381、383、385、387、389、391、393、395、397、399、401、403、405、407、409、411、413、415、417、419、421、423、425、427、429、431、433、435、437、439、441、443、445、447、449、451、453、455、457、459、461、463、465、467、469、471、473、475、477、479、481、483、485、487、489、491、493、495、497、499、501、503、505、507、509、511、513、515、517、519、521、523、525、527、529、531、533、535、537、539、541、543、545、547、549、551、553、555、557、559、561、563、565、567、569、571、573、575、577、579、581、583、585、587、589および591からなる群より選択される配列の少なくとも8個、少なくとも9個、少なくとも10個、少なくとも11個、または少なくとも12個の連続核酸塩基を含む核酸塩基配列を含む。いくつかの態様では、二本鎖低分子干渉RNAのセンス鎖は、配列番号215、217、219、311、323、339、341、347、349、351、353、363、371、375、399、401、403、409、433、445、447、449、461および563からなる群より選択される核酸塩基配列の何れかの少なくとも8個、少なくとも9個、少なくとも10個、少なくとも11個、または少なくとも12個の連続核酸塩基を含む核酸塩基配列を含む。いくつかの態様において、二本鎖低分子干渉RNAのセンス鎖は、配列番号:215、217、219、311、323、339、341、347、349、351、353、363、371、375、399、401、403、409、433、445、447、449、461および563の核酸塩基配列の何れか1つの核酸塩基配列を含むかまたはそれからなる。
【0019】
いくつかの態様では、二本鎖低分子干渉RNAのセンス鎖は、表5に列記された核酸塩基配列の何れか1つの、すなわち、配列番号:597、599、601、603、605、607、609、611、613、615、617、619、621、623、625、627、629、631、633、635、637、639、641、643、645、647、649、651、653、655、657、659、661、663、665、667、669、671、673、675、677、679、681、683、685および687からなる群より選択される配列の少なくとも8個、少なくとも9個、少なくとも10個、少なくとも11個、または少なくとも12個の連続核酸塩基を含む核酸塩基配列を含む。いくつかの態様では、二本鎖低分子干渉RNAのアンチセンス鎖は、配列番号:601、603、605、615、683、685および687からなる群より選択される何れかの核酸塩基配列の少なくとも8個、少なくとも9個、少なくとも10個、少なくとも11個、または少なくとも12個の連続核酸塩基を含む核酸塩基配列を含む。いくつかの態様において、二本鎖低分子干渉RNAのアンチセンス鎖は、配列番号:601、603、605、615、683、685および687の何れか1つの核酸配列を含むかまたはそれからなる。
【0020】
いくつかの態様において、二本鎖低分子干渉RNAは、少なくとも1つの修飾ヌクレオシドを含む。いくつかの態様において、二本鎖低分子干渉RNAのセンス鎖は、少なくとも1つの修飾ヌクレオシドを含む。いくつかの態様において、二本鎖低分子干渉RNAのセンス鎖の各ヌクレオシドは、修飾ヌクレオシドを含む。
【0021】
いくつかの態様では、二本鎖siRNAのセンス鎖の少なくとも1つのヌクレオシドは、修飾された糖を含む。いくつかの態様において、二本鎖siRNAのセンス鎖の各ヌクレオシドは、修飾糖を含む。いくつかの態様において、修飾ヌクレオシドは、2’-F修飾糖および/または2’-OMe修飾糖を含む。いくつかの態様において、修飾ヌクレオシドは、2’-OMe修飾糖を含む。いくつかの態様において、修飾ヌクレオシドは、2’-F修飾糖を含む。
【0022】
いくつかの態様では、二本鎖低分子干渉RNAのアンチセンス鎖および/またはセンス鎖は、3’末端にTTオーバーハングを含む。
【0023】
いくつかの態様では、二本鎖低分子干渉RNAのセンス鎖は、少なくとも1つの修飾ヌクレオシド間結合を含む。いくつかの態様において、二本鎖低分子干渉RNAのセンス鎖は、少なくとも2個、3個、4個または5個の修飾ヌクレオシド間結合を含む。いくつかの態様において、修飾ヌクレオシド間結合は、ホスホロチオエート結合である。
【0024】
いくつかの態様において、二本鎖低分子干渉RNAは、親油性分子、抗体、アプタマー、リガンド、ペプチドまたはポリマーに結合される。いくつかの態様において、親油性分子は、長鎖脂肪酸(LCFA)であってもよい。いくつかの態様において、抗体は、抗トランスフェリン受容体抗体である。
【0025】
別の面では、本発明は、本明細書に記載の二本鎖低分子干渉RNAまたはその塩、および少なくとも1つの薬学的に許容される担体を含む医薬組成物を含む。医薬組成物は、医学的治療における使用のためのものであり得る。医薬組成物は、ヒトまたは動物の身体の処置における使用のためのものであり得る。別の面において、本発明は、それを必要とする対象において、DUX4の異常発現に関連する疾患または障害を改善、予防、発症遅延、または処置するための医薬を調製または製造するための医薬組成物の用途を含む。別の面において、本発明は、医薬組成物を対象に投与することにより、それを必要とする対象においてDUX4の異常発現に関連する疾患または障害を改善、予防、発症遅延または処置する方法を含む。疾患または障害は、顔面肩甲上腕型筋ジストロフィー(FSHD)であり得て、FSHD1またはFSHD2であり得る。別の面において、本発明は、医薬組成物を対象に投与することにより、顔面肩甲上腕型筋ジストロフィー(FSHD1およびFSHD2を含む)を改善、予防、発症遅延または処置する方法を含む。
【0026】
種々の態様において、投与は、静脈内、皮下、肺、筋肉内、腹腔内、経皮、経鼻または吸入であり得る。いくつかの態様では、投与は、1日1回、週1回、2週間に1回、月1回、2ヶ月に1回、3ヵ月に1回、または年1回であり得る。いくつかの態様において、投与は、0.01~100mg/kgの有効量を含み得る。いくつかの態様において、投与は、対象におけるDUX4の発現を阻害する。
【0027】
別の面において、本発明は、1以上の二本鎖siRNA、および前記二本鎖siRNAを投与するための器具を含むキットを提供する。
【0028】
別の面において、本発明は、本明細書に記載の二本鎖低分子干渉RNAを投与することを含む、顔面肩甲上腕型筋ジストロフィー(FSHD1およびFSHD2を含む)を改善、予防、発症遅延または処置する方法を含む。別の面において、本発明は、顔面肩甲上腕型筋ジストロフィーの処置のための、本明細書に記載の二本鎖低分子干渉RNAの使用を含む。
【0029】
別の面では、本発明は、本明細書に記載の二本鎖低分子干渉RNAを投与することを含む、癌を改善、予防、発症遅延または処置する方法を含む。いくつかの態様において、本方法は、抗CTLA-4剤などのチェックポイント阻害剤の投与をさらに含み得る。
【0030】
別の面において、本発明は、顔面肩甲上腕型筋ジストロフィーの処置のための医薬の調製のための、本明細書に記載の二本鎖低分子干渉RNAの使用を含む。
【0031】
別の面において、本発明は、細胞におけるDUX4の発現を阻害する方法であって、該細胞を本明細書に記載の二本鎖低分子干渉RNAと接触させ、それによりDUX4の発現を阻害することを含む。いくつかの態様において、接触はインビトロで行われる。いくつかの態様において、接触は、インビボで行われる。いくつかの態様において、細胞は動物中にある。いくつかの態様では、動物はヒトである。いくつかの態様において、DUX4の発現は、少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、または少なくとも90%阻害される。いくつかの態様において、DUX4の発現はなくなる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1図1Aは、DUX4を標的とする非修飾siRNA分子で得られたインビトロのMBD3L2発現データを示す。図1Bは、DUX4を標的とする修飾siRNA分子を用いて得られたインビトロのMBD3L2発現データを示す。
【発明を実施するための形態】
【0033】
発明の詳細な説明
本明細書には、DUX4遺伝子内の配列を標的とする二本鎖低分子干渉RNA(siRNA)分子を記載している。また、細胞を前記siRNA分子と接触させることを含む、細胞におけるDUX4の発現を低減または阻害する方法も記載される。さらに本明細書では、二本鎖siRNA分子およびそれを含む組成物を対象に投与することによる、顔面肩甲上腕型筋ジストロフィー(FSHD)の予防または処置のための方法が記載される。
【0034】
定義
上記の一般的な説明および下記の詳細な説明の両方が、例示的かつ説明的なものに過ぎず、特許請求の範囲に記載される本発明を制限するものではないことが理解される。本明細書中、特に別段の記載がない限り、単数形の使用は複数形を含むものとする。本明細書中、“または”の使用は、特に別段の記載がない限り、“および/または”を意味する。さらに、“含む”という用語の使用だけでなく、“含む”および“包含する”などの他の形態の使用も、限定的なものではない。また、“要素”または“構成要素”などの用語は、特に別段の記載がない限り、1つのユニットを含む要素および構成要素と、2以上のサブユニットを含む要素および構成要素の両方を包含する。
【0035】
本明細書で用いる用語“DUX4”とは、DUX4タンパク質またはDUX4核酸、すなわち、DUX4タンパク質をコードする核酸配列を意味し得る。DUX4核酸とは、DUX4タンパク質をコードするDNA配列、タンパク質をコードしない(すなわち、非コーディング)RNA配列を含むDUX4をコードするDNA(イントロンおよびエクソンを含むゲノムDNAを含む)から転写されるRNA配列、およびDUX4をコードするmRNA配列を意味し得る。いくつかの態様において、DUX4核酸配列は、GENBANK受託番号FJ439133.1(配列番号593)を含む。
【0036】
“二本鎖低分子干渉RNA”とは、2本の逆平行かつ実質的に相補的な核酸鎖を含む何れかの二重RNA構造を意味する。特定の態様において、二本鎖低分子干渉RNAは、センス鎖およびアンチセンス鎖を含み、アンチセンス鎖は、標的核酸に相補的である。
【0037】
“相補性”とは、第1の核酸の核酸塩基と第2の核酸の核酸塩基の間で対になる能力を意味する。
【0038】
“連続する核酸塩基”とは、互いにすぐに隣接する核酸塩基を意味する。
【0039】
“デオキシリボヌクレオチド”とは、ヌクレオチドの糖部分の2’位に水素を有するヌクレオチドをいう。デオキシリボヌクレオチドは、様々な置換基のいずれかで修飾され得る。
【0040】
“発現”には、遺伝子にコードされた情報が、細胞内に存在しかつ作動する構造体に変換されることによる全ての機能が含まれる。このような構造には、転写および翻訳の産物が含まれるが、これらに限定されない。
【0041】
“完全相補”または“100%相補”とは、第1の核酸の各核酸塩基が、第2の核酸に相補的な核酸塩基を有することを意味する。特定の態様において、第1の核酸はアンチセンス化合物であり、標的核酸は第2の核酸である。
【0042】
“発現または活性を阻害する”とは、発現または活性の減少または遮断を意味し、必ずしも発現または活性の完全な喪失を意味するものではない。
【0043】
“ヌクレオシド間結合”とは、ヌクレオシド間の化学結合を意味する。
【0044】
“連結ヌクレオシド”とは、ヌクレオシド間結合によって共に連結された隣接ヌクレオシドを意味する。
【0045】
“修飾ヌクレオシド間結合”とは、天然ヌクレオシド間結合(すなわち、ホスホジエステルヌクレオシド間結合)からの置換または何れかの変化を意味する。
【0046】
“核酸塩基”とは、他の核酸の塩基と対になることができるヘテロ環式部分を意味する。“修飾核酸塩基”とは、アデニン、シトシン、グアニン、チミジン、ウラシルを除く核酸塩基をいう。“非修飾核酸塩基”とは、プリン塩基であるアデニン(A)およびグアニン(G)、ならびにピリミジン塩基であるチミン(T)、シトシン(C)およびウラシル(U)を意味する。
【0047】
“ヌクレオシド”とは、糖と結合した核酸塩基を意味する。“修飾ヌクレオシド”とは、それぞれ独立に、修飾糖部分および/または修飾核酸塩基を有するヌクレオシドを意味する。
【0048】
“修飾ヌクレオチド”とは、独立して、修飾糖部分、修飾ヌクレオシド間結合、または修飾核酸塩基を有するヌクレオチドを意味する。
【0049】
“修飾糖”とは、天然の糖部分からの置換および/または何れかの変更を意味する。特定の態様では、修飾糖は、2’-F修飾糖および2’-OMe修飾糖が挙げられる。
【0050】
“核酸塩基相補性”とは、別の核酸塩基と塩基対形成が可能な核酸塩基を意味する。例えば、DNAでは、アデニン(A)はチミン(T)と相補的である。例えば、RNAでは、アデニン(A)はウラシル(U)と相補的である。特定の態様において、相補的核酸塩基とは、標的核酸の核酸塩基と塩基対形成できるアンチセンス化合物の核酸塩基を意味する。例えば、アンチセンス化合物のある位置の核酸塩基が、標的核酸のある位置の核酸塩基と水素結合できる場合、オリゴヌクレオチドと標的核酸の間の水素結合の位置は、その核酸塩基対で相補的であると考えられる。
【0051】
“核酸塩基配列”とは、糖、連結、および/または核酸塩基の修飾とは独立した連続核酸塩基の順序を意味する。
【0052】
“ホスホロチオエート結合”とは、ホスホジエステル結合が、非架橋酸素原子の1つを硫黄原子で置換することによって修飾されているヌクレオシド間の結合を意味する。ホスホロチオエート結合は、修飾ヌクレオシド間結合である。
【0053】
本明細書で用いる“部位”とは、標的核酸内のユニークな核酸塩基位置として定義される。
【0054】
“対象”とは、処置または治療のために選択されたヒトまたは非ヒト動物を意味する。
【0055】
“標的遺伝子”とは、標的をコードする遺伝子を意味する。
【0056】
“標的核酸”とは、核酸の調節が望まれる核酸のことを意味する。
【0057】
二本鎖低分子干渉RNA(siRNA)分子
一面において、本発明は、低分子干渉RNA(siRNA)化合物のような二本鎖オリゴヌクレオチド、およびそれを含む組成物を含む。いくつかの態様において、siRNA化合物は、少なくとも1つの修飾RNAヌクレオシド(すなわち、独立して、修飾糖部分および/または修飾核酸塩基)、および/または修飾ヌクレオシド間結合を含み得る。特定の態様において、siRNA化合物は、修飾RNAヌクレオシド、修飾DNAヌクレオシド、および/または修飾ヌクレオシド間結合を含み得る。
【0058】
いくつかの態様は、各鎖が、1以上の修飾または非修飾ヌクレオシドの位置によって定義されるモチーフを含む二本鎖分子に関する。
【0059】
いくつかの態様において、二重鎖領域を形成するために完全にまたは少なくとも部分的にハイブリダイズする第1および第2のオリゴマー化合物を含み、核酸標的に相補的でハイブリダイズする領域をさらに含む、組成物が提供される。このような組成物は、核酸標的に対して完全または部分的な相補性を有するアンチセンス鎖である第1のオリゴマー化合物、および第1のオリゴマー化合物と相補性を有し少なくとも1つの二重鎖領域を形成する1以上の領域を有するセンス鎖である第2のオリゴマー化合物を含み得る。
【0060】
いくつかの態様において、本発明の組成物は、その正常な機能の喪失をもたらす核酸標的にハイブリダイズすることによって、遺伝子発現を調節する。いくつかの態様では、標的核酸の分解は、本発明の組成物を用いて形成される活性化RISC複合体によって促進される。
【0061】
いくつかの態様において、一方の鎖は、例えば、RISC(または開裂)複合体への反対側の鎖の優先的な負荷に影響を及ぼすのに有用である。いくつかの態様において、本発明の組成物は、標的RNAの一部にハイブリダイズし、標的RNAの正常な機能の喪失をもたらす。
【0062】
いくつかの態様は、両鎖がヘミマーモチーフ、完全修飾モチーフ、位置的に修飾されたモチーフまたは交互のモチーフを含む二本鎖組成物に関する。本発明の組成物の各鎖は、例えばsiRNA経路において特定の役割を果たすように修飾できる。各鎖に異なるモチーフを用いるか、同じモチーフでも各鎖に異なる化学修飾を施すことで、アンチセンス鎖をRISC複合体の標的とし、センス鎖の取り込みを阻害できる。このモデルでは、それぞれの鎖は、その特定の役割のために強化されるように独立して修飾され得る。アンチセンス鎖は、RISCのある領域での役割を高めるために5’末端を修飾され、RISCの異なる領域での役割を高めるために3’末端では異なる修飾をされ得る。
【0063】
二本鎖オリゴヌクレオチド分子は、自己相補的なセンス領域およびアンチセンス領域を含んでいてもよく、アンチセンス領域は、標的核酸分子またはその一部におけるヌクレオチド配列に相補的であるヌクレオチド配列を含み、センス領域は標的核酸配列またはその一部と対応するヌクレオチド配列を有する。二本鎖オリゴヌクレオチド分子は、2つの別個のオリゴヌクレオチドから組み立てられ得、ここで、一方の鎖はセンス鎖であり、他方はアンチセンス鎖であり、アンチセンス鎖およびセンス鎖は、自己相補的である(すなわち、各鎖は、他方の鎖のヌクレオチド配列に相補的なヌクレオチド配列を含み;例えば、アンチセンス鎖およびセンス鎖が二重鎖または二本鎖構造を形成する場合、二本鎖領域が約12~約30塩基対、例えば、約12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29または30塩基対であり;アンチセンス鎖は、標的核酸分子またはその一部におけるヌクレオチド配列に相補的なヌクレオチド配列を含み、センス鎖は標的核酸配列またはその一部に対応するヌクレオチド配列を含む(例えば、二本鎖オリゴヌクレオチド分子の約12~約30個以上のヌクレオチドが標的核酸またはその一部と相補的である)。あるいは、二本鎖オリゴヌクレオチドは、siRNAの自己相補的なセンスおよびアンチセンス領域が核酸ベースまたは非核酸ベースのリンカー(複数可)によって連結される、単一のオリゴヌクレオチドから構成されてもよい。
【0064】
二本鎖オリゴヌクレオチドは、二重鎖、非対称二重鎖、ヘアピンまたは非対称ヘアピン二次構造を有し、自己相補的センスおよびアンチセンス領域を有し、ここで、アンチセンス領域は、別の標的核酸分子またはその一部におけるヌクレオチド配列に相補的であるヌクレオチド配列を含み、かつセンス領域は標的核酸配列またはその一部と対応するヌクレオチド配列を有していてよい。二本鎖オリゴヌクレオチドは、2以上のループ構造ならびに自己相補的なセンス領域およびアンチセンス領域を含むステムを有する環状一本鎖ポリヌクレオチドであり得て、ここで、アンチセンス領域は、標的核酸分子中のヌクレオチド配列またはその一部と相補的なヌクレオチド配列を含み、かつセンス領域は、標的核酸配列またはその一部に対応するヌクレオチド配列を有し、そして環状ポリヌクレオチドは、RNAiに介在できる活性siRNA分子を生成するのに、インビボまたはインビトロの何れでも実施できる。
【0065】
いくつかの態様において、二本鎖オリゴヌクレオチドは、別個のセンス配列およびアンチセンス配列またはセンス領域およびアンチセンス領域を含み、ここで、センス領域およびアンチセンス領域は、当技術分野で知られているように、ヌクレオチドリンカーまたは非ヌクレオチドリンカー分子によって共有結合されているか、イオン相互作用、水素結合、ファンデルワールス相互作用、疎水性相互作用、および/またはスタッキング相互作用によって代替的に非共有結合されている。いくつかの態様において、二本鎖オリゴヌクレオチドは、標的遺伝子のヌクレオチド配列に相補的なヌクレオチド配列を含む。別の態様では、二本鎖オリゴヌクレオチドは、標的遺伝子の発現阻害を引き起こす態様で標的遺伝子のヌクレオチド配列と相互作用する。
【0066】
本明細書で用いる用語siRNAは、配列特異的RNAiに介在できる核酸分子、例えば短干渉RNA(siRNA)、二本鎖RNA(dsRNA)、マイクロRNA(miRNA)、ショートヘアピンRNA(shRNA)、短干渉オリゴヌクレオチド、短干渉核酸、短干渉修飾オリゴヌクレオチド、化学修飾siRNA、転写後遺伝子サイレンシングRNA(ptgsRNA)などの核酸分子を記載するために用いられる他の用語と同等であると意図される。さらに、本明細書で用いる用語RNAiとは、転写後遺伝子サイレンシング、翻訳阻害、またはエピジェネティクスなどの配列特異的RNA干渉を記載するために用いられる他の用語と同等であることが意図される。例えば、二本鎖オリゴヌクレオチドは、転写後レベルおよび転写前レベルの両方で遺伝子をエピジェネティックにサイレンシングさせるために用いられ得る。限定されない例としては、本発明のsiRNA分子による遺伝子発現のエピジェネティックな調節は、遺伝子発現を変化させるためのクロマチン構造またはメチル化パターンのsiRNA介在修飾により生じ得る(例えば、Verdel et al., 2004, Science, 303, 672-676; Pal-Bhadra et al., 2004, Science, 303, 669-672; Allshire, 2002, Science, 297, 1818-1819; Volpe et al., 2002, Science, 297, 1833-1837; Jenuwein, 2002, Science, 297, 2215-2218; および、Hall et al., 2002, Science, 297, 2232-2237)。
【0067】
本明細書で提供されるいくつかの態様の化合物および組成物は、例えば、自己相補的配列を有する単一のRNA鎖が二本鎖コンフォメーションを想定できる“ヘアピン”またはステムループ二本鎖RNAエフェクター分子、またはRNAの二つの別個の鎖を含む二本鎖dsRNAエフェクター分子を含む、dsRNA介在遺伝子サイレンシングまたはRNAi機序によって標的化できることが企図される。種々の態様において、dsRNAは、完全にリボヌクレオチドからなるか、またはリボヌクレオチドおよびデオキシヌクレオチドの混合物からなり、例えば、2000年4月19日出願のWO 00/63364、または1999年4月21日出願の米国特許出願第60/130,377によって開示されるRNA/DNAハイブリッドなどが挙げられる。
【0068】
本明細書で用いる二本鎖オリゴヌクレオチドは、RNAのみを含む分子に限定される必要はなく、化学的に修飾されたヌクレオチドおよび非ヌクレオチドをさらに包含する。特定の態様では、短干渉核酸分子は、リボヌクレオチドまたは2’-ヒドロキシ(2’-OH)含有ヌクレオチドを欠いていてもよい。しかしながら、RNAiをサポートするために分子内にリボヌクレオチドの存在を必要としないかかる二本鎖オリゴヌクレオチドは、2’-OH基を有する1以上のヌクレオチドを含む結合リンカー(複数可)または他の結合もしくは連結基、部位もしくは鎖を有し得る。いくつかの態様において、二本鎖オリゴヌクレオチドは、ヌクレオチド位置の約5%、約10%、約20%、約30%、約40%または約50%でリボヌクレオチドを含み得る。
【0069】
dsRNAまたはdsRNAエフェクター分子は、分子のあるセグメントのヌクレオチドが該分子の別のセグメントのヌクレオチドと塩基対になるような自己相補性の領域を有する単一分子であってもよい。種々の態様において、1分子からなるdsRNAは、完全にリボヌクレオチドからなるか、またはデオキシリボヌクレオチドの領域と相補的なリボヌクレオチドの領域を含む。あるいは、dsRNAは、互いに相補的な領域を有する2つの異なる鎖を含み得る。
【0070】
種々の態様において、両方の鎖が完全にリボヌクレオチドからなるか、一方の鎖が完全にリボヌクレオチドからなり、かつ他方の鎖が完全にデオキシリボヌクレオチドからなるか、または一方もしくは両方の鎖がリボヌクレオチドおよびデオキシリボヌクレオチドの混合物を含む。
【0071】
特定の態様では、相補性の領域は、互いにおよび標的核酸配列に対して少なくとも70%、80%、90%、95%、98%または100%相補的である。特定の態様では、二本鎖コンフォメーションで存在するdsRNAの領域は、少なくとも6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、50、75、100、200、500、1000、2000もしくは5000ヌクレオチドを含むか、またはdsRNAで表されるcDNAもしくは他の標的核酸配列の全てのヌクレオチドを含む。いくつかの態様において、dsRNAは、一本鎖末端などの一本鎖領域を含まないか、またはdsRNAはヘアピンである。他の態様では、dsRNAは、1以上の一本鎖領域またはオーバーハングを有する。特定の態様において、RNA/DNAハイブリッドは、アンチセンス鎖または領域(例えば、標的核酸に対して少なくとも70%、80%、90%、95%、98%または100%の相補性を有する)であるDNA鎖または領域、およびセンス鎖または領域(例えば、標的核酸と少なくとも70%、80%、90%、95%、98%または100%の同一性を有する)であるRNA鎖または領域を含み、その逆も可である。
【0072】
種々の態様において、RNA/DNAハイブリッドは、本明細書に記載のもの、または2000年4月19日出願のWO 00/63364号、または1999年4月21日出願の米国特許出願第60/130,377号に記載のものなどの酵素合成法または化学合成法を用いてインビトロで製造される。他の態様では、インビトロで合成されたDNA鎖は、該DNA鎖の細胞への形質転換の前、後またはそれと同時に、インビボまたはインビトロで作成されたRNA鎖と複合体化される。
【0073】
さらに他の態様では、dsRNAは、センス領域およびアンチセンス領域を含む単一の環状核酸であるか、またはdsRNAは、環状核酸および第2の環状核酸または線状核酸のいずれかを含む(例えば、2000年4月19日出願のWO 00/63364、または1999年4月21日出願の米国特許出願第60/130,377号参照)。環状核酸の例としては、ヌクレオチドの遊離5’リン酸基が他のヌクレオチドの2’水酸基にループバック方式で結合したラリアット構造が挙げられる。化学的に合成された25-30塩基長のRNA二重鎖は、より短い21マーのsiRNAと比較して高い効力を示すことが示されており、この効力の増加は、長いdsRNAを基質として切断し、切断したdsRNAのRISCへの負荷を容易にするDicerエンドヌクレース酵素の作用によるものと考えられている。したがって、いくつかの態様では、dsRNAは、Dicer基質RNAであり得る。例えば、いくつかの態様において、dsRNAは、25/27マーである。
【0074】
修飾ヌクレオチドおよび化学修飾siRNA
本明細書に記載の種々の態様において、本発明の二本鎖siRNAは、1以上(例えば、2、3、4、5またはそれ以上)の修飾核酸モノマー(すなわち、ヌクレオチド)を含み得る。修飾ヌクレオチドの種々の例は、米国特許出願第9,035,039号、同第9,951,338号、同第10,036,024号、同第10,538,763号、および国際特許公開第WO/2018/222926号に開示されており、これらの各々は引用によりその内容全体が本明細書に包含される。
【0075】
本発明での使用に適した修飾ヌクレオチドの例としては、2’-O-メチル(2’-OMe)、2’-デオキシ-2’-フルオロ(2’-F)、2’-デオキシ、5-C-メチル、2’-O-(2-メトキシエチル)(MOE)、4’-チオ、2’-アミノまたは2’-C-アリール基を有するリボヌクレオチドまたはアラビノヌクレオチドが挙げられるが、これらに限定されない。いくつかの態様において、これらは、2’-デオキシ-2’-フルオロアラビノグアノシンヌクレオチドを含み得る。
【0076】
例えば、Saenger、Principles of Nucleic Acid Structure、Springer-Verlag Ed.(1984)に記載されているようなコンフォメーションを有する修飾ヌクレオチドも、siRNA分子に用いるのに好適である。他の修飾ヌクレオチドには、これ限定されないが、ロックド核酸(LNA)ヌクレオチド、アンロックド核酸(UNA)ヌクレオチド、Gクランプヌクレオチド、またはヌクレオチド塩基類縁体が含まれる。LNAヌクレオチドとしては、2’-O、4’-C-メチレン-(D-リボフラノシル)ヌクレオチド)、2’-O-(2-メトキシエチル)(MOE)ヌクレオチド、2’-メチルチオ-エチルヌクレオチド、2’-デオキシ-2’-フルオロ(2’-F)ヌクレオチド、2’-デオキシ-2’-クロロ(2’-Cl)ヌクレオチド、2’-アジドヌクレオチド、および(S)-拘束エチル(cEt; constrained ethyl)ヌクレオチドなどが挙げられるが、これらに限定されない。
【0077】
いくつかの態様では、二本鎖siRNA分子は、末端キャップ部位、リン酸骨格修飾などの1以上の化学修飾を含み得る。末端キャップ部分のクラスの例としては、逆デオキシ脱塩基残基、グリセリル修飾、4’,5’-メチレンヌクレオチド、1-(β-D-エリスロフラノシル)ヌクレオチド、4’-チオヌクレオチド、カルボシクロヌクレオチド、1,5-アンヒドロヘキシトルヌクレオチド、L-ヌクレオチド、α-ヌクレオチド、修飾塩基ヌクレオチド、トレオペントフラノシルヌクレオチド、非環状3’,4’-セコ核酸、非環状3,4-ジヒドロキシブチル核酸、非環状3,5-ジヒドロキシペンチル核酸、3’-3’-逆核酸部位、3’-3’-逆脱塩基部位、3’-2 ’-逆核酸部位、3’-2’-逆脱塩基部位、5’-5’-逆脱ヌクレオチド部位、5’-5’-逆脱塩基部位、3’-5’-逆デオキシ脱塩基部位、5’-アミノアルキルリン酸、1,3-ジアミノ-2-プロピルリン酸、3アミノプロピルリン酸、6-アミノヘキシルリン酸、1,2-アミノドデシルリン酸、ヒドロキシプロピルリン酸、1,4-ブタンジオールリン酸、3’-ホスホラミデート、5’-ホスホラミデート、ヘキシルホスフェート、アミノヘキシルホスフェート、3’-ホスフェート、5’-アミノ、3’-ホスホロチオエート、5’-ホスホロチオエート、フォスフォルジチオエートおよび架橋または非架橋メチルフォスホネートあるいは5’-マーキャプト部分が挙げられるが、これらに限定されない。リン酸骨格の修飾(すなわち、修飾されたヌクレオシド間結合をもたらす)の限定されない例としては、ホスホロチオエート、ホスホロジチオエート、メチルホスホネート、ホスホトリエステル、モルホリノ、アミデート、カルバメート、カルボキシメチル、アセタミデート、ポリアミド、スルホン酸、スルホンアミド、サルバメート、フォーマセタル、チオフォーマセタルおよびアルキルシリル置換が挙げられる。かかる化学修飾は、siRNAのセンス鎖、アンチセンス鎖、または両鎖の5’末端および/または3’末端で起こり得る。
【0078】
いくつかの態様において、本発明の二本鎖siRNAは、少なくとも1つの修飾ヌクレオシド間結合を含み得る。修飾ヌクレオシド間結合の例としては、ペプチド結合、ホスホロチオエート(PS)結合、およびホスホロジアミデートモルフォリノ(PMO)結合連結が挙げられるが、これらに限定されない。いくつかの態様において、本発明の二本鎖siRNAは、2、3、4、5またはそれ以上の修飾ヌクレオシド間結合を含む。いくつかの態様では、本発明の二本鎖siRNAは、センス鎖、アンチセンス鎖、またはその両方を含み、ここで、すべてのヌクレオシド間結合が修飾されている。いくつかの態様において、各ヌクレオシド間結合は、ホスホロチオエートヌクレオシド間結合である。
【0079】
いくつかの態様では、センス鎖および/またはアンチセンス鎖は、1、2、3、4またはそれ以上の2’-デオキシリボヌクレオチド(例えば、A、G、CまたはT)、ならびに修飾ヌクレオチドおよび非修飾ヌクレオチドの何れかの組合せを有する5’-末端または3’-末端オーバーハングを含み得る。いくつかの態様において、二本鎖siRNAは、センス鎖の3’末端にTTオーバーハングを含み得る。いくつかの態様において、二本鎖siRNAは、アンチセンス鎖の3’末端にTTオーバーハングを含み得る。いくつかの例示的な態様では、二本鎖siRNAは、センス鎖の3’末端およびアンチセンス鎖の3’末端にTTオーバーハングを含み得る。
【0080】
複合siRNA
いくつかの態様では、本発明の二本鎖siRNAは、少なくとも1つの他の分子に複合体化され得る。二本鎖siRNAを適切な分子と結合させることで、標的細胞へのsiRNAの送達を向上させる手段を提供する。このような複合分子は、細胞膜の脂質成分と相互作用したり、特定の細胞表面タンパク質や受容体に結合したり、siRNAを伴って内因性輸送機構により細胞内に侵入することができる。
【0081】
コンジュゲートは、核酸または非核酸リンカーなどの共有結合を介して、siRNAのセンス鎖および/またはアンチセンス鎖の5’末端および/または3’末端に結合され得る。コンジュゲートは、カルバメート基または他の連結基を介してsiRNAに結合できる(例えば、米国特許公開第20050074771号、同第20050043219号、同第20050158727号を参照)。コンジュゲートは、多くの目的のためにsiRNAに添加できる。例えば、コンジュゲートは、細胞へのsiRNAの送達を容易にする分子エンティティであってもよいし、薬剤またはラベルを含む分子であってもよい。本発明のsiRNAに結合させるのに適したコンジュゲート分子の例としては、親油性分子(例えば、脂肪酸)、コレステロール、ポリエチレングリコール(PEG)などのグリコール、ヒト血清アルブミン(HSA)、カロテノイド、テルペン、胆汁酸、葉酸(例えば、葉酸、葉酸類縁体およびその誘導体)、糖(例えば、ガラクトース、ガラクトサミン、N-アセチルガラクトサミン、グルコース、マンノース、フルクトース、フコースなど)、リン脂質、ペプチド、細胞への取り込みに介在できる細胞受容体のリガンド、抗体、アプタマー、およびそれらの組合せが挙げられるが、これらに限定されない(例えば、米国特許公開第20030130186号、同第20040110296号、同第20040249178号、米国特許第6,753,423号参照)。
【0082】
用いられるコンジュゲートの種類およびsiRNAへの複合体化の程度は、活性を維持しながらの、薬物動態プロファイル、バイオアベイラビリティ、および/または安定性の改善により評価できる。このように、当業者は、様々なコンジュゲートが結合したsiRNA分子をスクリーニングし、上記のネガティブコントロール発現試験を含む様々な周知のインビトロ細胞培養またはインビボ動物モデルのいずれかを用いて、改善された特性を有するsiRNA複合体を選択できる。siRNAバイオコンジュゲートの例は、例えば、Chernikov et al., 2019, Front. Pharmacol. 10: 1-25 および Osborn et al., 2018, Nuc. Acid Ther. 28(3): 128-136に記載されている。
【0083】
いくつかの態様では、本発明の二本鎖siRNAは、親油性分子(例えば、長鎖脂肪酸またはLCFA)、抗体(例えば、抗トランスフェリン受容体抗体)、アプタマー、リガンド、ペプチド、またはポリマーに複合体化され得る。
【0084】
一態様では、二本鎖siRNAは、親油性分子、例えば長鎖脂肪酸に結合させることができる。いくつかの例示的な態様では、本発明の二本鎖siRNAは、国際特許公開第WO/2019/232255号に記載の長鎖脂肪酸にコンジュゲートされる。
【0085】
いくつかの態様では、本発明の二本鎖siRNAは、抗体にコンジュゲートされ得る。いくつかの態様において、抗体は、筋肉標的化抗体である。いくつかの態様において、筋肉標的化抗体は、抗トランスフェリン受容体抗体である。いくつかの例示的な態様では、本発明の二本鎖siRNAは、国際特許公開第WO/2020/028864号に記載の抗トランスフェリン受容体抗体にコンジュゲートされる。
【0086】
リポソーム、脂質ナノ粒子(LNP)およびその他の担体を用いたsiRNA送達
いくつかの態様では、本発明の二本鎖siRNAは、リポソーム、ナノ粒子、脂質ナノ粒子(LNP)、ポリマー、マイクロ粒子、マイクロカプセル、ミセル、または細胞外小胞を介して送達され得る。
【0087】
いくつかの態様では、本発明の二本鎖siRNAは、脂質ナノ粒子(LNP)を介して送達される。本発明の二本鎖siRNAを送達できるLNPの例は、国際特許公開番号WO/2015/074085、WO/2016/081029、WO/2017/117530、WO/2018/118102、WO/2018/119163、WO/2018/222926、WO/2019/191780、およびWO/2020/154746に記載されている。いくつかの態様では、LNPは、標的化部分、例えば、標的リガンドに結合できる抗体、受容体またはそのフラグメントで修飾され得る。
【0088】
一態様では、本発明で用いる脂質ナノ粒子は、(a)核酸(例えば、二本鎖siRNA)、(b)カチオン性脂質、(c)凝集低減剤(PEG-脂質など)、(d)要すれば非カチオン性脂質(中性脂質など)、および(e)要すればステロール、を含む。一態様では、脂質ナノ粒子は、(i)少なくとも1つのカチオン性脂質;(ii)中性脂質、例えばDSPC;(iii)ステロール、例えばコレステロール;および(iv)PEG-脂質を含み、約20~65%のカチオン性脂質:5~25%の中性脂質:25~55%のステロール;0.5~15%のPEG-脂質というモル比でこれらを含む。いくつかの態様において、カチオン性脂質は、WO/2018/222926に記載のように、ATX-002、ATX-081、ATX-095またはATX-126から選択される。
【0089】
いくつかの態様では、本発明の二本鎖siRNAは、特異的な受容体介在エンドソーム取り込みを可能にする分子を含むナノキャリアを介して送達される。一態様では、前記分子は、受容体結合、エンドソームへの取り込み、エンドソーム膜の制御された破壊、および標的細胞へのsiRNAの放出を可能にし得る。本発明の二本鎖siRNAを送達できるナノキャリアの例は、WO/2009/141257に記載されている。いくつかの態様では、ナノキャリアは、脂質ベースのナノキャリア、例えば、脂質ナノ粒子(LNP)である。
【0090】
DUX4
別の面において、本発明は、DUX4を標的とする二本鎖の低分子干渉RNA化合物と細胞を接触させることを含む、細胞におけるDUX4の発現を低減する方法を含む。特定の態様において、DUX4は、配列番号593と少なくとも85%同一の核酸配列を含む。特定の態様において、DUX4は、配列番号593に少なくとも85%相補的な核酸配列を含む。
【0091】
骨格筋におけるDUX4の非効率的なエピジェネティック抑制は、DUX4タンパク質の異常発現および顔面肩甲上腕型筋ジストロフィー(FSHD)1および2につながる。FSHD1および2の患者は、進行性の非対称性筋力低下を示す。したがって、特定の態様では、DUX4の発現を阻害することが望ましい。特定の態様では、10個以下のD4Z4リピートを有する対象において、DUX4の発現を阻害することが望ましい。
【0092】
特定の態様において、DUX4発現は、二本鎖の低分子干渉RNA化合物と細胞を接触させることによって阻害される。特定の態様において、DUX4発現は、本明細書に記載の二本鎖低分子干渉RNA化合物と細胞を接触させることによって阻害される。
【0093】
医薬組成物
特定の態様において、本発明は、1以上の二本鎖低分子干渉RNA化合物を含む医薬組成物を提供する。特定の態様では、かかる医薬組成物は、適切な薬学的に許容される希釈剤または担体を含む。特定の態様において、医薬組成物は、滅菌生理食塩水および1以上のアンチセンス化合物を含む。特定の態様では、そのような医薬組成物は、滅菌生理食塩水および1以上のアンチセンス化合物からなる。特定の態様では、滅菌生理食塩水は、医薬品グレードの生理食塩水である。特定の態様において、医薬組成物は、1以上のアンチセンス化合物および滅菌水を含む。特定の態様において、医薬組成物は、1以上のアンチセンス化合物および滅菌水からなる。特定の態様において、滅菌生理食塩水は、医薬品グレードの水である。特定の態様において、医薬組成物は、1以上のアンチセンス化合物およびリン酸緩衝生理食塩水(PBS)を含む。特定の態様では、医薬組成物は、1以上のアンチセンス化合物および滅菌リン酸緩衝生理食塩水(PBS)からなる。特定の態様において、滅菌生理食塩水は、医薬品グレードのPBSである。
【0094】
特定の態様において、二本鎖低分子干渉RNA化合物は、医薬組成物または医薬製剤の調製のために、薬学的に許容される活性物質および/または不活性物質と混和され得る。医薬組成物の剤形化のための組成物および方法は、投与経路、疾患の程度、または投与される量を含むが、これらに限定されない多くの基準によって変わる。
【0095】
二本鎖低分子干渉RNA化合物を含む医薬組成物は、何れかの薬学的に許容される塩、エステル、またはそのようなエステルの塩を包含する。特定の態様において、二本鎖低分子干渉RNA化合物を含む医薬組成物は、ヒトを含む動物への投与時に、生物学的に活性な代謝物またはその残基を(直接的または間接的に)提供できる1以上のオリゴヌクレオチドを含む。したがって、例えば、本明細書は、二本鎖低分子干渉RNA化合物の薬学的に許容される塩、プロドラッグ、かかるプロドラッグの薬学的に許容される塩、および他の生物学的同等物も開示する。好適な薬学的に許容される塩としては、ナトリウム塩およびカリウム塩が挙げられるが、これらに限定されない。
【0096】
特定の態様において、本明細書で提供される1以上の二本鎖低分子干渉RNA化合物は、プロドラッグとして処方される。プロドラッグは、体内の内因性ヌクレアーゼによって切断され、活性なアンチセンスオリゴマー化合物を形成する二本鎖低分子干渉RNA化合物の片端または両端に、追加のヌクレオシドを組み込むことを含み得る。特定の態様では、インビボ投与時に、プロドラッグは化学的または酵素的に、オリゴヌクレオチドの生物学的、薬学的または治療的により活性な形態に変換される。特定の態様では、プロドラッグは、対応する活性型よりも投与が容易であるか、またはRISCによって処理されるため、有用である。例えば、特定の例では、プロドラッグは、対応する活性型よりも生物学的利用性(例えば、経口投与による)が高い場合がある。ある例では、プロドラッグは対応する活性型と比較して溶解性が向上している場合がある。特定の態様において、プロドラッグは、対応する活性型よりも水溶性が低い。このようなプロドラッグは、水溶性が移行性に不利となる細胞膜を通過する透過性に優れている場合がある。
【0097】
特定の態様において、本明細書で提供される医薬組成物は、1以上の二本鎖低分子干渉RNA化合物および1以上の賦形剤を含む。特定のそのような態様では、賦形剤は、水、塩溶液、アルコール、ポリエチレングリコール、ゼラチン、ラクトース、アミラーゼ、ステアリン酸マグネシウム、タルク、ケイ酸、粘性パラフィン、ヒドロキシメチルセルロースおよびポリビニルピロリドンから選択される。
【0098】
投与および投与量
siRNA分子およびそれらを含む組成物は、何れかの好適な経路によって対象に投与され得る。例えば、投与は、静脈内、皮下、肺、筋肉内、腹腔内、皮膚、経口、鼻腔内、または吸入を介して行われ得る。
【0099】
例えば、特定の態様において、本明細書で提供される医薬組成物は、経口投与用に調製される。特定の態様において、医薬組成物は、注射(例えば、静脈内、皮下、筋肉内、皮膚、腹腔内など)による投与のために調製される。そのような態様の特定のものでは、医薬組成物は担体を含み、水またはハンクス液、リンゲル液、または生理的食塩水緩衝液などの生理学的に適合する緩衝液などの水溶液で剤形化される。特定の態様では、他の成分が含まれる(例えば、溶解を助ける成分または防腐剤としての役割を果たす成分など)。特定の態様では、注射用懸濁液は、適切な液体担体、懸濁化剤などを用いて調製される。注射用の任意の医薬組成物は、単位投与形態、例えばアンプルまたは複数用量用(multi-dose)容器で提示される。注射用の任意の医薬組成物としては、油性または水性ビークル中の懸濁液、溶液または乳濁液であり、懸濁剤、安定化剤および/または分散剤などの製剤を含んでもよい。注射用医薬組成物に用いるのに適した特定の溶媒としては、親油性溶媒および脂肪油、例えばゴマ油、合成脂肪酸エステル、例えばオレイン酸エチルまたはトリグリセリド、およびリポソームが挙げられるが、これらに限定されない。水性注射用懸濁液は、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ソルビトール、デキストランなど、懸濁液の粘度を上げる物質を含み得る。要すれば、このような懸濁液は、高濃度溶液の調製を可能にするために、薬物(pharmaceutical agent)の溶解度を高める適切な安定剤または補助剤を含み得る。
【0100】
特定の態様において、医薬組成物は、経粘膜投与用に調製される。いくつかの態様では、浸透させるべきバリアに適切な浸透剤が製剤に用いられる。このような浸透剤は、当技術分野で一般的に知られているものである。特定の態様において、医薬組成物は、肺送達、例えば、気管内、鼻腔内または吸入を介した送達のために調製される。経鼻製剤に適した組成物は、鼻腔内懸濁液として鼻腔内に投与できる。吸入に適した組成物は、医薬エアロゾル、例えば溶液エアロゾルまたは粉末エアロゾルとして提供されてもよく、吸入器、例えば定量吸入器(MDI)または乾燥粉末吸入器(DPI)、およびネブライザーなどのデバイスを用いて投与できる。粒子の特性および蓄積の機序を制御したり、標的細胞の表面に発現する受容体に結合するリガンドをカップリングするなどして、肺の特定の細胞タイプを特異的に標的とすることで、組成物を気道の特定の領域に送達できる。特定の態様において、医薬組成物は、鼻腔内投与のために調製される。特定の態様では、吸入により投与される。
【0101】
特定の態様において、本明細書で提供される医薬組成物は、治療的有効量の二本鎖低分子干渉RNAを含む。特定の態様では、治療的有効量は、疾患の症状を予防、緩和もしくは改善するため、または処置される対象の生存期間を延長するために十分である。治療的有効量の決定は、十分に当業者の能力の範囲内である。いくつかの態様において、投与は、0.01~100mg/kgの有効量を含む。投与は、1日1回、1週間に1回、2週間に1回、1ヶ月に1回、2ヶ月に1回、または3ヵ月に1回、行われ得る。
【0102】
特定の態様において、本発明は、細胞内の標的核酸の量または活性を低減するための組成物および方法を提供する。特定の態様において、細胞は動物内にある。特定の態様では、動物は哺乳動物である。特定の態様では、動物は齧歯類である。特定の態様では、動物は霊長動物である。特定の態様において、動物は、非ヒト霊長動物である。特定の態様では、動物はヒトである。
【0103】
特定の態様において、本発明は、本明細書に記載の二本鎖低分子干渉RNA化合物を含む医薬組成物を、動物に投与する方法を提供する。好適な投与経路としては、経口、直腸、経粘膜、腸管、局所、坐剤、吸入により、髄腔内、脳室内、腹腔内、鼻腔内、腫瘍内、非経腸(例えば、静脈内、筋肉内、髄内、皮下)などがあるが、これらに限定されない。特定の態様では、髄腔内投与用医薬品(pharmaceutical intrathecal)は、全身的な曝露ではなく局所的な曝露を達成するために投与される。例えば、医薬組成物は、所望の効果のある領域(例えば、耳の中)に直接注入できる。
【0104】
本明細書に記載の特定の化合物、組成物および方法を、特定の態様に従って具体的に説明したが、以下の実施例は、本明細書に記載の化合物を例示するためにのみ用いられ、これを限定することを意図するものではない。本明細書に記載された各文献、GenBank受託番号等は、その内容全体が引用により本明細書に包含される。
【0105】
本明細書に添付された配列表において、必要に応じて各配列を“RNA”または“DNA”のいずれかとして特定しているが、これらの配列は、化学修飾の何れかの組み合わせで修飾できる。当業者であれば、修飾オリゴヌクレオチドを説明するための“RNA”または“DNA”のような記載は、ある場合には、任意であることを容易に理解し得る。例えば、2’-OH糖部分を含むヌクレオシドおよびチミン塩基を含むオリゴヌクレオチドは、修飾糖(DNAの天然2’-Hは2’-OH)を有するDNAとして、または修飾塩基(RNAの天然ウラシルはチミン(メチル化ウラシル))を有するRNAとして記載され得る。
【0106】
従って、配列表に記載のものを含むがこれに限定されない本明細書で提供される核酸配列は、天然または修飾RNAおよび/またはDNAの何れかの組み合わせを含む核酸を包含することを意図しており、それらには修飾核酸塩基を有するそのような核酸が含まれるが、これらに限定されない。限定されないさらなる例としては、核酸塩基配列“ATCGATCG”(配列番号689)を有するオリゴマー化合物は、修飾または非修飾にかかわらず、そのような核酸塩基配列を有する何れかのオリゴマー化合物を包含し、そのような化合物は、配列“AUCGAUCG”(配列番号690)を有するものなどのRNA塩基を含む化合物、および“AUCGATCG”(配列番号691)のようないくつかのDNA塩基およびいくつかのRNA塩基を有する化合物、および“ATmeCGAUCG”(配列番号692)のような他の修飾または天然由来の塩基を有するオリゴマー化合物、ここでmeCは5位にメチル基を含むシトシン塩基を意味する、が含まれるが、これらに限定されない。
【0107】
特定の定義が記載されない限り、本明細書に記載される分析化学、有機合成化学および医薬化学に関連して用いられる命名法、ならびにその手順および技術は、当技術分野でよく知られ、一般的に使用されているものである。化学合成および化学分析には、標準的な技術を使用できる。許されるなら、本明細書の記載において全体的に引用される全ての特許、特許出願、公開特許出願およびその他の刊行物、GENBANK受託番号およびNational Center for Biotechnology Information(NCBI)などのデータベースを通じて取得可能な関連配列情報、ならびにその他のデータは、その内容全体と同様に、本明細書で論じられる部分についても引用により本明細書中に包含される。
【0108】
本明細書で用いるセクションの見出しは、記載整理だけを目的とするものであり、記載される発明の主題を限定するものとして解釈されるものではない。特許、特許出願、刊行物、書籍および論文を含むがこれらに限定されない、本明細書に引用したすべての文書、または文書の一部は、その内容全体と同様に、本明細書で論じた部分についても引用により明示的に本明細書中に包含される。
【0109】
本明細書に記載される各配列番号に記載される配列は、糖部分、ヌクレオシド間結合または核酸塩基に対する何れの修飾とも独立していることが理解される。このように、配列番号によって定義されるアンチセンス化合物は、独立して、糖部分、ヌクレオシド間結合、または核酸塩基に対する1以上の修飾を含み得る。
【実施例
【0110】
実施例
実施例1:DUX4コード領域および上流D4Z4リピート領域を標的とするsiRNAの設計および配列
ヒトDUX4プロモーター領域およびコード領域を標的とする二本鎖の低分子干渉RNA(siRNA)を、インシリコで設計した。配列は以下の表1に示す通りである。表1に記載の各siRNAは、ヒトゲノムDUX4配列(GENBANK受託番号FJ439133.1、配列番号593)に対して標的となる。“Start”は、ゲノムDUX4配列において、siRNAが標的とする5’末端のヌクレオシドを示す。“Stop”は、ゲノムDUX4配列において、siRNAが標的とする3’末端のヌクレオシドを示す。
【0111】
【表1-1】

【表1-2】

【表1-3】

【表1-4】

【表1-5】

【表1-6】
【0112】
実施例2:二本鎖siRNAによるDUX4遺伝子のサイレンシング
表1に記載された二本鎖低分子干渉RNA(siRNA)を、以下に記載のようにインビトロでDUX4遺伝子発現の阻害について試験した。
【0113】
細胞および細胞培養。不死化したヒトFSHD1(54-2)(Kromら、2012)およびFSHD2(MB200)(Stadlerら、2011)細胞株を用いた。不死化筋芽細胞を、20%のコーニングのUSDA認可のウシ胎仔血清(Corning, Corning, NY, USA)、100U/100μgのペニシリン/ストレプトマイシン(Gibco)、10ng/mlの組換えヒト繊維芽細胞成長因子(Promega Corporation, Madison, WI, USA)および1μMのデキサメタゾン(Sigma-Aldrich)を添加したハムのF-10栄養素ミックス(Gibco, Waltham, MA, USA)中で培養した。筋芽細胞の筋管への分化は、コンフルエントな筋芽細胞単層体を、2%ノックアウト血清補充液(Gibco)、100U/100μgペニシリン/ストレプトマイシン、10μg/mlインスリンおよび10μg/mlトランスフェリンを添加したDMEM:F-12栄養素混合物(1:1、Gibco)(KSR media)に40時間かけて切り替えることにより達成した。
【0114】
低分子干渉RNA(siRNA)のトランスフェクション。19塩基対の相補配列およびdTdT 3プライムオーバーハングを含む表1に示す未修飾二重鎖21マー siRNAを合成し、Thermo Fisher ScientificまたはIntegrated DNA Technologiesから入手した。FSHD1およびFSHD2筋芽細胞へのsiRNAのトランスフェクションを、リポフェクトアミン RNAiMAX(Invitrogen)を用いて、メーカーの説明書に従って実施した。概略を説明すると、細胞を12ウェルプレートに1×10細胞/ウェルで播種し、約20時間後に2μlのリポフェクトアミン RNAiMAXおよび10pmol以下の遺伝子特異的siRNAまたは100μl Opti-MEM 低血清培地で希釈したスクランブル非サイレンス対照siRNAでトランスフェクションした。トランスフェクションから24時間後、48時間後または72時間後に、細胞を分化培地で40時間インキュベートして筋管への分化を誘導し、全RNA解析のために採取した。
【0115】
FSHD1およびFSHD2筋管におけるDUX4標的遺伝子発現の測定。RNeasy Mini Kit (Qiagen、Hilden、Germany)を用いて、製造者の指示に従い全細胞から全RNAを抽出した。単離したRNAをDNase I(Thermo Fisher Scientific)で処理し、熱不活性化した後、Superscript III(Thermo Fisher Scientific)およびオリゴ(dT)プライマー(Invitrogen)を用いて製造元のプロトコルに従いcDNAへ逆転写した。qPCRをcDNAで行い、DUX4の発現を測定した。DUX4の発現は、DUX4によって発現が上昇する遺伝子、例えば、MBD3L2、ZSCAN4、LEUTX、MYOGおよびMYH2の発現をTaqMan Gene Expression Assay ID番号:MBD3L2、Hs00544743_m1;MYH2、Hs00430042_m1;MYOG、Hs01072232_m1;RPL30、Hs00265497_m1;LEUTX、Hs01028718_m1;ZSCAN4、Hs00537549_m1;または、プローブの5’末端に結合した蛍光色素(6FAM)およびプローブの3’末端に結合したマイナーグルーブバインダー(MGB)および非蛍光性クエンチャー(NFQ)を有する、プライマーGCCGCCCAGGTACCA(配列番号594)およびCAGCGAGCTCCCTTGCA(配列番号595)ならびにプローブCAGTGCGCACCCCG(配列番号596)を含むDUX4で測定することにより測定できる。
【0116】
結果を以下の表2および表3にまとめた。MB200または54-2筋芽細胞は、表1に示すsiRNAで上記のようにトランスフェクトされた。RNAを単離し、qRT-PCRで解析した。MBD3L2の発現についての結果を、対照を導入した細胞での発現に対する相対的な発現率として、以下の表2および表3に示す。その結果は、いくつかのアンチセンスsiRNAがDUX4発現を阻害することを示した。
【0117】
【表2-1】

【表2-2】

【表2-3】

【表2-4】

【表2-5】

【表2-6】
【0118】
【表3-1】

【表3-2】
【0119】
実施例3:アンチセンスsiRNAを用いたDUX4の阻害
10nM、2nMおよび0.4nMの濃度を用いて、さらなる用量応答試験を行った。FSHD1およびFSHD2筋芽細胞へのsiRNAのトランスフェクションを、リポフェクトアミン RNAiMAX(Invitrogen)を用いて上記と同様に実施した。概略を説明すると、12ウェル培養プレートで1mlの通常の増殖培地に1×10細胞/ウェルで細胞を播種した。約20時間後、まず2μlのリポフェクトアミン RNAiMAXおよび10pmol、2pmolまたは0.4pmolの遺伝子特異的siRNAまたはスクランブル非サイレンシング対照siRNAを100μl Opti-MEM 低血清培地で希釈してリポフェクトアミン/siRNA複合体を作製し、細胞をトランスフェクトした。その後、リポフェクタミン/siRNA複合体を筋芽細胞を含む培養プレートの1ウェルに滴下添加した。トランスフェクションから24時間後、細胞を分化培地で40時間培養して筋管への分化を誘導し、全RNA解析のために細胞を採取した。
【0120】
各siRNAの50%阻害濃度(IC50)を決定するために、まず、水中の濃縮ストックからsiRNAの3倍連続希釈液を96ウェルプレートに作成することによって、7点濃度応答曲線を作成した。その後、上記と同様にトランスフェクションを行った。IC50は、4パラメータロジスティック方程式を用いた非線形回帰により決定した(GraphPad Prism Software Inc., San Diego, CA; http://www.graphpad.com)。データは、有効数字2桁のIC50として表示される。用量応答試験およびIC50試験のデータを表4にまとめた。
【0121】
【表4-1】
【表4-2】

【表4-3】

【表4-4】

【表4-5】
【0122】
実施例4:siRNAの修飾
siRNA UGNX-1898(センス鎖配列 配列番号41およびアンチセンス鎖配列 配列番号42を含む)は、センス鎖およびアンチセンス鎖のそれぞれの3’末端にTTオーバーハングを付加し、センス鎖に2’O-メチル修飾リボース糖を組み込むことにより、以下に示すように改変された(太字- TTオーバーハング、下線- 2’O-メチル化)。
【数1】
【0123】
非修飾および修飾siRNAによるDUX4の阻害は、MBD3L2の発現を測定することにより、実施例2に記載のように決定された。このデータは、図1A(非修飾)および図1B(修飾)にまとめられ、修飾siRNAがインビトロで最小限の効力損失を示したことを証明している。
【0124】
実施例5:siRNAの修飾
この実施例では、DUX4を標的とする化学修飾siRNA化合物を生成するために、様々な化学修飾が行われた。化学修飾されたsiRNAを表5に示す。
【0125】
【表5-1】

【表5-2】
【0126】
合成後、表5に示す化学修飾化合物を、効力および安定性について評価した。結果は表6に示すとおりである。
【0127】
MB200および54-2の効力アッセイを実施例2~3に記載したように実施し、一方、培養ヒト肝細胞癌細胞株(HepG2)における効力を、以下のように測定した。簡単に説明すると、ヒト肝細胞癌細胞株HepG2を凍結回復させて播種した。細胞を、96ウェル培養プレート中に90ul EMEM + 10% FBSに1 x 10 細胞/ウェルで播種した。その後、化学修飾したsiRNA配列を、リポフェクトアミン RNAiMAX(Thermo-Fisher Scientific)を用いて、量を変えながらトランスフェクションした。トランスフェクションの24時間後に、細胞を溶解バッファーで溶解させ、その後のQuantigene Singleplex 遺伝子発現解析(Thermo-Fisher Scientific)のために採取した。HepG2の効力値を、陰性対照siRNAに正規化した相対的なDUX4遺伝子発現として測定し、表6に例示するように、+=0.5、++=<0.5とした。
【0128】
一方、化学修飾されたsiRNAの安定性は、ヒト血清中で以下のように測定した。まず、各siRNA配列1uMを10%ヒト血清と共に37℃のヒートブロックで2時間インキュベートした。さらに、各siRNA配列1uMを同条件で無血清でインキュベートした。インキュベーション後、siRNA/血清およびsiRNA単独の混合物をドライアイス上で瞬間凍結した。次に、安定性を判断するために、チップの調製に関するメーカーのプロトコルに従って、サンプルにAgilent Small RNA Assayを実施した。サンプルはAgilent 2100 Bioanalyzer装置で実施した。安定性は、エレクトロフェログラムにおけるピークの存在および遷移電気泳動ゲルにおけるバンドの存在で判断した。定量性は、ピークのサイズ分布で回収率を表し、表6に示すように、50%=+、50~75%=++、75%以上=++とした。
【0129】
【表6-1】


【表6-2】
図1
【配列表】
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【国際調査報告】