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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-09-13
(54)【発明の名称】姿勢に応答する神経刺激
(51)【国際特許分類】
   A61N 1/36 20060101AFI20230906BHJP
   A61N 1/05 20060101ALI20230906BHJP
【FI】
A61N1/36
A61N1/05
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023514102
(86)(22)【出願日】2021-08-30
(85)【翻訳文提出日】2023-04-25
(86)【国際出願番号】 AU2021050999
(87)【国際公開番号】W WO2022040757
(87)【国際公開日】2022-03-03
(31)【優先権主張番号】2020903082
(32)【優先日】2020-08-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】AU
(31)【優先権主張番号】2020903083
(32)【優先日】2020-08-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】AU
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】513144730
【氏名又は名称】サルーダ・メディカル・ピーティーワイ・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ジェームズ・ハミルトン・ワウ
(72)【発明者】
【氏名】アモル・マッラ
【テーマコード(参考)】
4C053
【Fターム(参考)】
4C053CC10
4C053JJ01
4C053JJ04
4C053JJ18
4C053JJ27
(57)【要約】
植込み型機器は、刺激パラメータにより定められる神経刺激の付与を制御し、測定回路を介して、刺激により誘発された神経複合活動電位応答の特徴を測定し、刺激パラメータと誘発された神経複合活動電位応答の測定された特徴とを使用して、患者が参照姿勢をとった場合に神経刺激から得られるであろう誘発応答の特徴を計算するように構成される。患者の姿勢は計算された特徴から推定することができ、及び.又は計算された特徴は、フィードバックループのフィードバック変数として使用することができる。刺激パラメータとフィードバック変数のうちの少なくとも一方を含むデータセットの多次元ヒストグラムを保存することができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
神経刺激を制御可能に与えるための植込み型装置であって、
1つ又は複数の刺激電極及び1つ又は複数のセンス電極を含む複数の電極と、
前記1つ又は複数の刺激電極から患者の神経経路に送達されるべき刺激を提供して前記神経経路上に誘発活動電位を生じさせるための刺激源と、
前記1つ又は複数のセンス電極で感知される神経複合活動電位信号を記録するための測定回路と、
制御ユニットと、を含み、
前記制御ユニットが、
刺激パラメータにより定められる神経刺激の付与を制御し、
前記測定回路を介して、前記神経刺激により誘発された神経複合活動電位応答の特徴を測定し、
前記刺激パラメータと前記誘発された神経複合活動電位応答の前記測定された特徴とを使用して、前記患者が参照姿勢をとった場合に前記神経刺激から得られるであろう誘発応答の特徴を計算し、
前記計算された特徴から前記患者の姿勢を推定するように構成されている、植込み型装置。
【請求項2】
前記姿勢の推定が、前記神経複合活動電位応答の測定された振幅と前記計算された特徴との比を含み、前記計算された特徴が、前記患者が参照姿勢をとった場合に前記神経刺激から得られるであろう誘発応答の振幅を含む、請求項1に記載の植込み型装置。
【請求項3】
前記制御ユニットが、前記計算された特徴をフィードバック変数として使用して、フィードバックループを完成させるフィードバックコントローラを実装するように構成され、前記フィードバックコントローラは、前記フィードバック変数をセットポイントに保持するように前記刺激パラメータを制御するようにさらに構成されている、請求項1又は2に記載の植込み型装置。
【請求項4】
前記制御ユニットが、前記測定された特徴をフィードバック変数として使用して、フィードバックループを完成させるフィードバックコントローラを実装するように構成され、前記フィードバックコントローラは、前記フィードバック変数をセットポイントに保持するように前記刺激パラメータを制御するようにさらに構成されている、請求項1から3のいずれか一項に記載の植込み型装置。
【請求項5】
前記制御ユニットが、前記姿勢の推定からの姿勢にわたるリクルートメントの変化を特定するようにさらに構成される、請求項1から4のいずれか一項に記載の植込み型装置。
【請求項6】
前記特徴を計算することが、
【数1】
について
【数2】
を解くことを含み、
【数3】
は前記計算された特徴であり、計算された振幅を含み、C=IVであり、Iは前記刺激パラメータであり、Vは前記誘発された神経複合活動電位応答の前記測定された特徴であり、M及びTは前記参照姿勢での前記患者の成長曲線のパラメータである、請求項1から5のいずれか一項に記載の植込み型装置。
【請求項7】
前記フィードバックコントローラが、前記姿勢の推定を使用して前記刺激パラメータを制御するように構成されている、請求項3又は4に記載の植込み型装置。
【請求項8】
前記フィードバックコントローラが、前記姿勢の推定を使用して、前記電極と前記神経経路との間の距離を推定するように構成されている、請求項3から4及び7のいずれか一項に記載の植込み型装置。
【請求項9】
前記フィードバックコントローラが、前記姿勢の推定を前記参照姿勢における前記電極と前記神経経路との間の距離で拡縮することによって前記距離を推定するように構成されている、請求項8に記載の植込み型装置。
【請求項10】
神経刺激を制御するための自動化された方法であって、
刺激パラメータにより定められる神経刺激を患者の神経経路に与えて、前記神経経路上に誘発活動電位を生じさせるステップと、
前記神経刺激により誘発された神経複合活動電位応答の特徴を測定するステップと、
前記刺激パラメータ及び前記誘発された神経複合活動電位応答の前記測定された特徴を使用して、前記患者が参照姿勢をとった場合に前記神経刺激から得られるであろう誘発応答の特徴を計算するステップと、
前記計算された特徴から前記患者の姿勢を推定するステップと、を含む方法。
【請求項11】
神経刺激を制御可能に与えるための植込み型装置であって、
1つ又は複数の電極及び1つ又は複数のセンス電極を含む複数の電極と、
前記1つ又は複数の刺激電極から患者の神経経路に送達されるべき刺激を提供して、前記神経経路上に誘発活動電位を生じさせるための刺激源と、
前記1つ又は複数のセンス電極で感知された神経複合活動電位信号を記録するための測定回路と、
制御ユニットと、を含み、
前記制御ユニットが、
刺激パラメータにより定められる神経刺激の付与を制御し、
前記測定回路を介して、前記神経刺激により誘発された神経複合活動電位応答の特徴を測定し、
前記刺激パラメータ及び前記誘発された神経複合活動電位応答の前記測定された特徴を使用して、前記患者が参照姿勢をとった場合に前記神経刺激から得られるであろう誘発応答の特徴を計算し、
フィードバックループを完成させるフィードバックコントローラを実装し、前記フィードバックコントローラは、前記計算された特徴をフィードバック変数として使用して、前記フィードバック変数をセットポイントに保持するように前記刺激パラメータを制御するように構成されている、植込み型装置。
【請求項12】
前記特徴を計算することが、
【数4】
について
【数5】
を解くことを含み、
【数6】
は前記計算された特徴であり、計算された振幅を含み、C=IVであり、Iは前記刺激パラメータであり、Vは前記測定された特徴であり、M及びTは前記参照姿勢での前記患者の成長曲線のパラメータである、請求項11に記載の植込み型装置。
【請求項13】
前記制御ユニットが、前記計算された特徴から前記患者の姿勢を推定するようにさらに構成される、請求項11又は12に記載の植込み型装置。
【請求項14】
前記姿勢の推定が、前記神経複合活動電位応答の測定された振幅と前記計算された特徴との比を含み、前記計算された特徴は、前記患者が前記参照姿勢をとった場合に前記神経刺激から得られるであろう誘発応答の振幅を含む、請求項13に記載の植込み型装置。
【請求項15】
神経刺激を制御するための自動化された方法であって、
刺激パラメータにより定められる神経刺激を患者の神経経路に与えて、前記神経経路上に誘発活動電位を生じさせるステップと、
前記神経刺激により誘発された神経複合活動電位応答の特徴を測定するステップと、
前記誘発された神経複合活動電位応答の前記測定された特徴及び前記刺激パラメータから、前記患者が参照姿勢をとった場合に前記神経刺激から得られるであろう誘発応答の特徴を計算するステップと、
前記計算された特徴をフィードバック変数として使用して、前記フィードバック変数をセットポイントに保持するように、前記刺激パラメータを制御するフィードバックループを完成させるステップと、を含む方法。
【請求項16】
神経刺激を制御可能に与えるための植込み型装置であって、
1つ又は複数の刺激電極及び1つ又は複数のセンス電極を含む複数の電極と、
前記1つ又は複数の刺激電極から神経経路に送達されるべき刺激を提供して、前記神経経路上に誘発活動電位を生じさせるための刺激源と、
前記1つ又は複数のセンス電極において感知される神経複合活動電位信号を記録するための測定回路と、
制御ユニットと、を含み、
前記制御ユニットが、
刺激パラメータにより定められる神経刺激の付与を制御し、
前記測定回路を介して、前記神経刺激により誘発された神経複合活動電位応答を測定し、
前記測定された誘発応答からフィードバック変数を特定し、
フィードバックループを完成するフィードバックコントローラであって、前記フィードバック変数を使用して前記刺激パラメータを制御するフィードバックコントローラを実装するように構成されていて、
前記制御ユニットが、複数のデータ変数値を含む多次元データセットをコンパイルするようにさらに構成され、各データ変数値は、各神経刺激及び関連して測定された誘発応答に関連付けられ、前記多次元データセットは前記刺激パラメータと前記フィードバック変数の少なくとも一方を含み、
前記制御ユニットが、各多次元データセットをそれが取得された後に反映させるように多次元ヒストグラムを更新し、前記多次元ヒストグラムを前記植込み型装置の記憶ユニットに保存することによって、複数の神経刺激及びそれぞれ関連して測定された誘発応答に関して、ある時間にわたる複数の多次元データセットを保存するようにさらに構成されている、植込み型装置。
【請求項17】
前記多次元ヒストグラムが2次元ヒストグラムを含む、請求項16に記載の植込み型装置。
【請求項18】
前記多次元データセットが、前記刺激パラメータと前記フィードバック変数とを含む2つのデータ変数値を含む、請求項17に記載の植込み型装置。
【請求項19】
前記刺激パラメータが刺激電流振幅を含む、請求項16から18のいずれか一項に記載の植込み型装置。
【請求項20】
前記フィードバック変数が観察されたECAP振幅を含む、請求項16から19のいずれか一項に記載の植込み型装置。
【請求項21】
前記制御ユニットが、観察されたECAP振幅と各刺激パラメータの両方から前記フィードバック変数を導き出すようにさらに構成される、請求項16から19のいずれか一項に記載の植込み型装置。
【請求項22】
前記制御ユニットが、前記多次元ヒストグラムを処理して、患者の姿勢を特定するようにさらに構成されている、請求項16から21のいずれか一項に記載の植込み型装置。
【請求項23】
前記制御ユニットが、ビンワーピング関数を適用することにより、電流‐電圧データの2次元ヒストグラムを2次元姿勢‐リクルートメントヒストグラムに変換するようにさらに構成されている、請求項16から22のいずれか一項に記載の植込み型装置。
【請求項24】
前記制御ユニットが、2次元姿勢‐リクルートメントヒストグラムを使用して1次元姿勢ヒストグラム及び/又は1次元リクルートメントヒストグラムを得るようにさらに構成されている、請求項16から23のいずれか一項に記載の植込み型装置。
【請求項25】
神経刺激を制御するための自動化された方法であって、
刺激パラメータによって定められる神経刺激を神経経路に与えて、前記神経刺激上に誘発活動電位を生じさせるステップと、
前記神経刺激により誘発された神経複合活動電位応答を測定し、前記測定された誘発応答からフィードバック変数を導き出すステップと、
前記フィードバック変数を使用して前記刺激パラメータを制御するフィードバックループを完成させるステップと、
複数のデータ変数値を含む多次元データセットをコンパイルするステップであって、各データ変数値は各神経刺激及び関連して測定された誘発応答に関連付けられ、前記多次元データセットは前記刺激パラメータと前記フィードバック変数の少なくとも一方を含むステップと、
各多次元データセットをそれが取得された後に反映させるように多次元ヒストグラムを更新することによって、複数の神経刺激及びそれぞれ関連して測定された誘発応答に関して、ある時間にわたる複数の多次元データセットを保存するステップと、を含む方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は、何れも2020年8月28日に出願された豪州仮特許出願第2020903082号及び豪州仮特許出願第2020903083号の優先権するものであり、両仮出願を参照によって本願に援用する。
【0002】
本発明は、刺激に対する神経応答を制御することに関し、特に、神経経路の付近に植え込まれた1つ又は複数の電極を使用して複合活動電位の測定に関する。これは、フィードバックを改善して、その後付与される刺激を制御するため、及び/又は姿勢の変化の影響を評価するためであり得る。
【背景技術】
【0003】
誘発複合活動電位(ECAP:evoked compound action potential)を生じさせ、及び/又は神経機能を変化させるために神経刺激を付与することが望ましい様々な状況がある。例えば、ニューロモデュレーションは、慢性神経因性疼痛、パーキンソン病、偏頭痛をはじめとする各種疾患の治療に使用される。ニューロモデュレーションシステムは、電気パルスを神経組織に与えて、治療効果を生じさせるものである。
【0004】
体幹及び四肢内に生じる神経因性疼痛の緩和に使用される場合、電気パルスは脊髄の後索(DC:dorsal column)に付与され、これは脊髄刺激療法(SCS:spinal cord stimulation)と呼ばれる。このようなシステムは典型的に、植込み型電気パルス発生器と、経皮的電力伝送により再充電可能であり得るバッテリ等の電源と、を含む。電極アレイはパルス発生器に接続され、標的神経経路の付近に位置付けられる。電極によって神経経路に与えられる電気パルスにより、ニューロンの脱分極が起こり、伝播する活動電位が生成される。このようにして刺激された神経線維は、疼痛が脊髄のその分節から脳へと伝わるのを阻止する。疼痛緩和効果を保持するために、刺激は、例えば30Hz~100Hzの範囲の周波数で実質的に継続的に与えられる。
【0005】
有効で快適な動作のためには、刺激の振幅又は送達電荷をリクルートメント閾値より高く保つ必要がある。リクルートメント閾値より低い刺激では、何れの活動電位も動員されない。また、快適さ閾値より低い刺激を与えることも必要であり、この閾値を超えた場合、動員が多すぎると不快な感覚を生じさせ、高い刺激レベルでは急性疼痛、冷感覚、圧力感覚に関連付けられる感覚神経線維さえ動員し得るAβ線維の動員増大によって不快又は痛みの感覚が生じる。ほとんど全てのニューロモデュレーション応用で1つのクラスの線維応答が望ましいものの、使用される刺激の波形によっては他のクラスの線維の活動電位が動員される可能性があり、これは望ましくない副作用の原因となる。適切なニューラルの動員を保持するというタスクは、電極の移動及び/又は被植込み患者の姿勢の変化によって難しくなり、これらは何れも、ある刺激から生じる神経動員を、その刺激が与えられるのが電極位置又は使用者の姿勢の変化の前か後かによって、大きく変化させる可能性がある。硬膜外腔に電極アレイが移動する余地があり、このようなアレイの移動によって電極線維間距離及びひいてはある刺激の動員効果が変化する。さらに、脊髄自体も脳脊髄液(CSF:cerebrospinal fluid)内で硬膜に関して移動し得る。姿勢の変化中に、CSFの量と脊髄電極間距離は大きく変化する可能性がある。この効果は非常に大きいため、姿勢の変化だけでも、それ以前は快適で有効であった刺激レジームが無効に、又は痛みを感じさせるものとなる可能性がある。
【0006】
あらゆるタイプのニューロモデュレーションシステムが直面する他の制御問題は、治療効果を上げるのに十分なレベルで、しかも最小のエネルギ消費で神経動員を実現することである。刺激パラダイムの電力消費はバッテリ需要に対する直接的な影響を有し、それが今度は装置の物理的なサイズと寿命に悪影響を与える。再充電可能なシステムの場合、電力消費の増大の結果として充電頻度が高くなり、バッテリが限られたサイクル数の充電しかできないことから、最終的にそれによって装置の植込み後の寿命が短くなる。
【0007】
このような問題に、フィードバックによって、例えば本願の出願人による特許文献1に記載されている方法によって対処する試みがなされている。フィードバックは、送達される刺激を制御して、一定のECAP振幅を保持することにより、神経及び/又は電極の移動を補償しようとするものである。機能的フィードバックループはまた、ライブオペレーション及び/又は事後解析のための有益なデータ、例えば観察された神経応答振幅や付与される刺激電流等を生成することもできるが、生成されるこのようなデータの量は、数十Hzでの数時間又は数日に及ぶ装置の動作により、すぐに植込み型装置のデータ保存及び/又はデータ転送能力を優に超えることになる。
【0008】
本明細書中に含められている文献、行為、材料、装置、物品、その他に関する議論は何れも、本発明のための脈絡を提供することを目的としているにすぎない。これは、これらの事柄の何れか又は全部が先行技術の基礎の一部を成す、又は本発明の関係分野において、本願の各特許請求項の優先権日以前に存在していた共通の一般的知識であったことを認めているものとは解釈されない。
【0009】
本明細書全体を通じて、「~を含む」又はその変化形は、明示されている要素、整数、若しくはステップ、又は要素、整数、若しくはステップの群を含むことを黙示しているが、他の何れの要素、整数、若しくはステップ、又は要素、整数、若しくはステップの群も排除することは黙示していないと理解されたい。
【0010】
本明細書において、ある要素が列挙された選択肢の「少なくとも1つ」であり得るとの記述は、その要素が列挙された選択肢の何れの1つでもあり得る、又は列挙された選択肢のうちの2つ以上の何れの組合せでもあり得ると理解されたい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】国際公開第2012/155188号
【特許文献2】米国特許第9386934号明細書
【特許文献3】国際公開第2020/082118号
【特許文献4】国際公開第2020/082126号
【特許文献5】国際公開第2020/124135号
【特許文献6】国際公開第2017/219096号
【特許文献7】国際公開第2012/155183号
【特許文献8】国際公開第2015/074121号
【特許文献9】国際公開第2017/173493号
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0012】
第一の態様によれば、本発明は、神経刺激を制御可能に与えるための植込み型装置を提供し、この装置は、
1つ又は複数の刺激電極及び1つ又は複数のセンス電極を含む複数の電極と、
1つ又は複数の刺激電極から患者の神経経路に送達されるべき刺激を提供して神経経路上に誘発活動電位を生じさせるための刺激源と、
1つ又は複数のセンス電極で感知される神経複合活動電位信号を記録するための測定回路と、
制御ユニットであって、
刺激パラメータにより定められる神経刺激の付与を制御し、
測定回路を介して、刺激により誘発された神経複合活動電位応答の特徴を測定し、
刺激パラメータと誘発された神経複合活動電位応答の測定された特徴とを使用して、患者が参照姿勢をとった場合に神経刺激から得られるであろう誘発応答の特徴を計算し、
計算された特徴から患者の姿勢を推定する
ように構成された制御ユニットと、
を含む。
【0013】
第二の態様によれば、本発明は神経刺激を制御するための自動化された方法を提供し、この方法は、
患者の神経経路に神経刺激を与えて、神経経路上に誘発活動電位を生じさせるステップであって、刺激は刺激パラメータにより定められるステップと、
刺激により誘発された神経複合活動電位応答の特徴を測定するステップと、
刺激パラメータ及び誘発された神経複合活動電位応答の測定された特徴を使用して、患者が参照姿勢をとった場合に神経刺激から得られるであろう誘発応答の特徴を計算するステップと、
計算された特徴から患者の姿勢を推定するステップと、
を含む。
【0014】
第三の態様によれば、本発明は神経刺激を制御可能に与えるための植込み型装置を提供し、この装置は、
1つ又は複数の電極及び1つ又は複数のセンス電極を含む複数の電極と、
1つ又は複数の刺激電極から患者の神経経路に送達されるべき刺激を提供して、神経経路上に誘発される活動電位を生じさせるための刺激源と、
1つ又は複数のセンス電極において感知された神経複合活動電位信号を記録するための測定回路と、
制御ユニットであって、
刺激パラメータにより定められる神経刺激の付与を制御し、
測定回路を介して、刺激により誘発された神経複合活動電位応答の特徴を測定し、
刺激パラメータ及び誘発された神経複合活動電位応答の測定された特徴を使用して、患者が参照姿勢をとった場合に神経刺激から得られるであろう誘発応答の特徴を計算し、
フィードバックループを完成させるフィードバックコントローラを実装し、フィードバックコントローラは、計算された特徴をフィードバック変数として使用して、フィードバック変数をセットポイントに保持するように刺激パラメータを制御する
ように構成された制御ユニットと、
を含む。
【0015】
第四の態様によれば、本発明は神経刺激を制御するための自動化された方法を提供し、この方法は、
患者の神経経路に神経刺激を与えて、神経経路上に誘発活動電位を生じさせるステップであって、刺激は刺激パラメータにより定められるステップと、
刺激により誘発された神経複合活動電位応答の特徴を測定するステップと、
誘発された神経複合活動電位応答の測定された特徴及び刺激パラメータから、患者が参照姿勢をとった場合に神経刺激から得られるであろう誘発応答の特徴を計算するステップと、
計算された特徴をフィードバック変数として使用して、フィードバック変数をセットポイントに保持するように、刺激パラメータを制御するフィードバックループを完成させるステップと、
を含む。
【0016】
本発明の幾つかの実施形態において、姿勢の推定は神経複合活動電位応答の測定された振幅と計算された特徴との比を含み、計算された特徴は、患者が参照姿勢をとった場合に神経刺激から得られるであろう誘発応答の振幅を含む。
【0017】
本発明の幾つかの実施形態は、計算された特徴をフィードバック変数として使用して、フィードバックループを完成させるフィードバックコントローラを実装し、フィードバックコントローラは、フィードバック変数をセットポイントに保持するように刺激パラメータを制御するように構成される。
【0018】
本発明の幾つかの実施形態は、測定された特徴をフィードバック変数として使用して、フィードバックループを完成させるフィードバックコントローラを実装し、フィードバックコントローラは、フィードバック変数をセットポイントに保持するように刺激パラメータを制御するように構成される。
【0019】
本発明の幾つかの実施形態において、制御ユニットは、姿勢の推定からの姿勢にわたるリクルートメントの変化を特定するようにさらに構成される。
【0020】
本発明の幾つかの実施形態において、特徴を計算することは、
【数1】
について
【数2】
を解くことを含み、式中、
【数3】
は計算された特徴であり、計算された振幅を含み、C=IVであり、Iは刺激パラメータであり、Vは誘発された神経複合活動電位応答の測定された特徴であり、M及びTは参照姿勢での患者の成長曲線のパラメータである。
【0021】
本発明の幾つかの実施形態において、フィードバックコントローラは、姿勢の推定を使用して刺激パラメータを制御するように構成される。
【0022】
本発明の幾つかの実施形態において、フィードバックコントローラは、姿勢の推定を使用して、電極と神経経路との間の距離を推定するように構成される。
【0023】
本発明の幾つかの実施形態において、フィードバックコントローラは、姿勢の推定を参照姿勢における電極と神経経路との間の距離で拡縮することによって距離を推定するように構成される。
【0024】
幾つかの実施形態において、フィードバック変数は観察されたECAP(V)の振幅測定値であり、患者の姿勢の推定は振幅測定値の逆数(V-1)又はその何れかの適当な関数を含む。
【0025】
幾つかの実施形態において、フィードバック変数は観察されたECAP(V)であり、患者の姿勢の推定は、参照姿勢での等価ECAP振幅と振幅測定値の比
【数4】
又はその何れかの適当な関数を含む。幾つかの実施形態において、刺激パラメータは刺激電流Iであり、推定リクルートメント
【数5】

【数6】
を解くことにより特定される。
【0026】
幾つかの実施形態において、第一のヒストグラムはある時間にわたる刺激パラメータの値からコンパイルされる。このような実施形態では、患者の姿勢の推定は、第二のヒストグラムのピーク位置を含むか、又はそこから導き出され得る。幾つかの実施形態において、第二のヒストグラムはある時間にわたるフィードバック変数の値からコンパイルされる。このような実施形態では、患者の姿勢の推定は、第二のヒストグラムのピーク位置を含むか、又はそこから導き出され得る。
【0027】
幾つかの実施形態において、2次元ヒストグラムはデータペアからコンパイルされ、各データペアは刺激パラメータとそれぞれのフィードバック変数を含む。このような実施形態では、患者の姿勢の推定は、2次元ヒストグラムのピーク位置を含むか、又はそこから導き出され得る。
【0028】
追加的又は代替的に、このような実施形態では、患者の姿勢の推定は、観察された一変量又は多変量ヒストグラムデータと事前特定された姿勢シグネチャヒストグラムとの相関を含むか、そこから導き出され得る。追加的又は代替的に、患者の姿勢の推定は、一変量又は多変量ヒストグラムの部分領域を姿勢に関連付け、データがその部分領域内に密集したときに、患者はその姿勢をとっていると特定することによって導き出され得る。
【0029】
幾つかの実施形態において、患者の姿勢の推定は、少なくとも1つの刺激パラメータを制御するために使用され得る。
【0030】
幾つかの実施形態において、患者の姿勢の推定は、定電圧フィードバックが使用された場合に、患者に様々な姿勢でどれだけのリクルートメントの変化が生じるかを特定するために使用できる。このような実施形態では、リクリートメントの大きな変化の指標はI-Vフィードバックループ制御のアクティベーションをトリガするために使用され得る。
【0031】
幾つかの実施形態において、患者の姿勢の推定は、神経と電極との間の距離の相対測定値として使用され得る。例えば、神経電極間距離の相対測定値は、姿勢の逆関数として計算され得る。
【0032】
第五の態様によれば、本発明は神経刺激を制御可能に与えるための植込み型装置を提供し、この装置は、
1つ又は複数の公称刺激電極及び1つ又は複数の公称センス電極を含む複数の電極と、
1つ又は複数の刺激電極から神経経路に送達されるべき刺激を提供して、神経経路上に誘発活動電位を生じさせるための刺激源と、
1つ又は複数のセンス電極において感知される神経複合活動電位信号を記録するための測定回路と、
制御ユニットであって、
刺激パラメータによって定められる神経刺激の付与を制御し、
測定回路を介して、刺激により誘発された神経複合活動電位応答を測定し、
測定された誘発応答からフィードバック変数を特定し、
フィードバックループを完成するフィードバックコントローラであって、フィードバック変数を使用して刺激パラメータを制御するフィードバックコントローラを実装する
ように構成された制御ユニットと、
を含み、
制御ユニットは、複数のデータ変数値を含む多次元データセットをコンパイルするようにさらに構成され、各テータ変数値は、それぞれの神経刺激及び関連付けされ測定された誘発応答に関連付けられ、多次元データセットは刺激パラメータとフィードバック変数の少なくとも一方を含み、
制御ユニットは、各多次元データセットをそれが取得された後に反映させるように多次元ヒストグラムを更新し、多次元ヒストグラムを装置の記憶ユニットに保存することによって、複数の神経刺激及びそれぞれの関連付けられ測定された誘発応答に関して、ある時間にわたる複数の多次元データセットを保存するようにさらに構成される。
【0033】
第六の実施形態によれば、本発明は、神経刺激を制御するための自動化された方法を提供し、この方法は、
神経刺激を神経経路に与えて、神経刺激上に誘発活動電位を生じさせるステップであって、刺激は刺激パラメータによって定められるステップと、
刺激により誘発された神経複合活動電位応答を測定し、測定された誘発応答からフィードバック変数を導き出すステップと、
フィードバック変数を使用して刺激パラメータを制御するフィードバックループを完成させるステップと、
複数のデータ変数値を含む多次元データセットをコンパイルするステップであって、各データ変数値はそれぞれの神経刺激及び関連付けされ測定された誘発応答に関連付けられ、多次元データセットは刺激パラメータとフィードバック変数の少なくとも一方を含むステップと、
各多次元データセットをそれが取得された後に反映させるように多次元ヒストグラムを更新することによって、複数の神経刺激及びそれぞれに関連付けされた測定された誘発応答に関して、ある時間にわたる複数の多次元データセットを保存するステップと、
を含む。
【0034】
第五及び第六の態様の実施形態において、多次元ヒストグラムは2次元ヒストグラムを含む。例えば、データセットは2つの可変値を含み、これは刺激パラメータとフィードバック変数を含む。多次元ヒストグラムは、3次元ヒストグラム又はそれより多い次元を含み得る。
【0035】
幾つかの実施形態において、刺激パラメータは刺激電流振幅を含み得る。幾つかの実施形態において、フィードバック変数は観察されたECAP振幅又はそこから導き出される変数を含み得る。幾つかの実施形態において、フィードバック変数は観察されたECAP振幅とそれぞれの刺激パラメータの両方から導き出され得る。
【0036】
幾つかの実施形態において、多次元ヒストグラムは、姿勢を特定するために処理され得る。
【0037】
幾つかの実施形態において、電流‐電圧データの2次元ヒストグラムはビンワーピング関数を適用することによって2次元姿勢‐リクルートメントヒストグラムに変換され得る。2次元姿勢‐リクルートメントヒストグラムは、1次元姿勢ヒストグラム及び/又は1次元リクルートメントヒストグラムを得るために使用され得る。
【0038】
幾つかの実施形態において、多次元ヒストグラムは、ヒストグラム及び/又はワープされたヒストグラムのクラスタリング解析、強度解析、及び/又はトポグラフィック解析を行うために処理され得る。
【0039】
幾つかの実施形態において、姿勢はある時間にわたり繰り返し特定される。
【0040】
第七の態様によれば、本発明は神経刺激を制御可能に与えるための植込み型装置を提供し、この装置は、
1つ又は複数の刺激電極及び1つ又は複数のセンス電極を含む複数の電極と、
1つ又は複数の刺激電極から神経経路に送達されるべき刺激を提供して、神経経路上に誘発活動電位を生じさせるための刺激源と、
1つ又は複数のセンス電極で感知された神経複合活動電位信号を記録するための測定回路と、
制御ユニットであって、
少なくとも1つの刺激パラメータにより定められる神経刺激の付与を制御し、
測定回路を介して、刺激により誘発される神経複合活動電位応答を測定し、
測定された誘発応答からフィードバック変数を特定し、
フィードバックループを完成するフィードバックコントローラであって、フィードバック変数を使用して少なくとも1つの刺激パラメータを制御するフィードバックコントローラを実装するように構成された制御ユニットと、
を含み、
制御ユニットはさらに、フィードバック変数及び刺激パラメータの少なくとも一方から患者の姿勢を推定するように構成される。
【0041】
第八の態様によれば、本発明は神経刺激を制御するための自動化された方法を提供し、この方法は、
神経刺激を神経経路に与えて、神経経路上に誘発活動電位を生じさせるステップであって、刺激は刺激パラメータにより定められるステップと、
刺激により誘発された神経複合活動電位応答を測定し、測定された誘発応答からフィードバック変数を導き出すステップと、
フィードバック変数を使用して少なくとも1つの刺激パラメータを制御することによってフィードバックループを完成させるステップと、
フィードバック変数と刺激パラメータの少なくとも一方から患者の姿勢を推定するステップと、
を含む。
【0042】
第七及び第八の態様の幾つかの実施形態において、フィードバックコントローラは、フィードバック変数を使用して、フィードバック変数を一定のレベルに保持するように少なくとも1つの刺激パラメータを制御することによってフィードバックループを完成させる。第七及び第八の態様の幾つかの実施形態において、フィードバックコントローラは、フィードバック変数を使用して、神経動員を一定のレベルに保持するように少なくとも1つの刺激パラメータを制御することによってフィードバックループを完成させる。
【0043】
別の態様によれば、本発明は神経刺激を制御可能に与えるための非一時的コンピュータ可読媒体を提供し、これは、1つ又は複数のプロセッサにより実行されると、本発明の第二、第四、第六、又は第八の態様の方法を実行する命令を含む。
【0044】
フィードバック変数は、幾つかの実施形態において、誘発複合活動電位全体、例えば刺激後0~2msの測定ウィンドウ内の速い神経応答、例えば刺激後2~6msの測定ウィンドウの遅い神経応答、又はフィルタ処理後の応答のうちの何れか1つの振幅、エネルギ、パワー、積分、信号強度、又は導関数のうちの何れか1つとすることができる。フィードバック変数は、幾つかの実施形態において、複数の刺激/測定サイクルにわたり特定される上述の何れかの特徴の平均とすることができる。フィードバック変数は、幾つかの実施形態において、刺激電流の変化に対するECAP振幅の応答の線形部分のゼロインターセプト、又は勾配とし得る。幾つかの実施形態において、フィードバック変数は上述の特徴の複数から導き出され得る。
【0045】
制御変数、又は刺激パラメータは、幾つかの実施形態において、全刺激電荷、刺激電流、パルス振幅、位相期間、位相間ギャップ期間、若しくはパルス波形のうちの1つ以上、又はこれらの組合せとすることができる。
【0046】
神経記録は、幾つかの実施形態において、例えば特許文献2、特許文献3、特許文献4、及び/又は特許文献5における本願の出願人の教示にしたがって取得され得て、各々の内容を参照によって本願に援用する。
【0047】
フィードバック変数は測定された神経応答から、測定された神経応答を評価して第二のピーク(例えば、N1ピーク)の振幅及び/又は第三のピーク(例えば、P2ピーク)の振幅を、例えばN1‐P2ピークツーピーク振幅を識別することにより確認してフィードバック変数を生成することによって特定され得る。
【0048】
本発明の幾つかの実施形態において、測定回路は、神経応答の記録を装置の動作中に実質的に継続的に記録するように構成される。例えば、本発明の幾つかの実施形態において、植込み型ニューロモデュレーション装置は、神経応答の記録を少なくとも8時間の装置動作期間にわたり記録するように構成される。本発明の幾つかの実施形態において、植込み型ニューロモデュレーション装置は、神経応答の記録を少なくとも2日間の装置動作期間にわたり記録するように構成される。本発明の幾つかの実施形態において、植込み型ニューロモデュレーション装置は、神経応答の記録を少なくとも5日間の装置動作期間にわたり記録するように構成される。このために、本発明の好ましい実施形態は、植込み型ニューロモデュレーション装置が神経応答の各記録を実質的にリアルタイムで処理することによって神経活動のそれぞれの測定値を得るように構成されるようにし、さらに、植込み型ニューロモデュレーション装置が、記録全体ではなく神経活動の測定値だけをメモリに保存するようにする。例えば、植込み型ニューロモデュレーション装置は、神経活動の複数の測定値のヒストグラムを複数のビンの形態でメモリに保存し得て、それぞれのビンに関連付けられるカウンタは神経活動の追加の測定値が得られるたびにインクリメントされる。このような実施形態では、かかるデータは数時間又は数日の期間にわたって例えば50Hz以上の速い速度で取得し、ヒストグラムの使用によって非常にコンパクトに保存し、それによって植込み型装置の限定的なメモリ制約を超過しないようにすることができる。ビンの各々には、各ビンについて等しい幅又は範囲が割り当てられ得る。代替的に、ビンには、神経活動のレベルの増大と共に増大するそれぞれの幅、例えば線形に増加するビン幅又は指数関数的に増大するビン幅が割り当てられ得る。
【0049】
本明細書における推定、特定、比較、等への言及は、記載されている推定、特定、及び/又は比較ステップを実行するのに適した所定の手順を実行するために動作するプロセッサによりデータに対して実行される自動プロセスを指すと理解されたい。本明細書中で提示される手法は、ハードウェアで(例えば、デジタル信号プロセッサ、特定用途集積回路(ASIC:application specific integrated circuits)若しくはフィールドプログラマブルゲートアレイ(FPGA)を使用して)、又はソフトウェアで(例えば、コンピュータ可読媒体に有形に記憶された、データ処理システムに本明細書に記載のステップを実行させる命令を使用して)、又はハードウェアとソフトウェアの組合せで実装され得る。本発明はまた、コンピュータ可読媒体上のコンピュータ可読コードとしても具現化できる。コンピュータ可読媒体は、後にコンピュータシステムにより読取可能なデータを保存できるあらゆるデータ記憶装置を含むことができる。コンピュータ可読媒体の例としては、リードオンリメモリ(「ROM」)、ランダムアクセスメモリ(「RAM」)、磁気テープ、光データ記憶装置、フラッシュ記憶装置、又は他のあらゆる適当な記憶装置が含まれる。コンピュータ可読媒体はまた、ネットワーク接続されたコンピュータシステム上に分散させることもでき、それによってコンピュータ可読媒体は分散式に記憶及び/又は実行される。
【0050】
特に、本明細書で定義される「ヒストグラム」のコンパイル、解析、又はそれ以外の処理は、ヒストグラムを表すデータも含み、そのようなデータの図表示が作成されるか否かは問わないと理解されたい。
【0051】
ここで、下記のような添付の図面を参照しながら本発明の例を説明する。
【図面の簡単な説明】
【0052】
図1】植込み型脊髄刺激装置を概略的に示す。
図2】植込み型神経刺激装置のブロック図である。
図3】植え込まれた刺激装置と神経との相互作用を示す略図である。
図4】電気的に誘発された複合活動電位の典型的な形態を示す。
図5】1人の患者の体内で発生し得るある範囲の成長曲線を、それぞれ各姿勢につき示す。
図6】神経刺激のI-V制御の1つの実施例による、フィードバックループにおけるECAP生成モデルの適用を示す。
図7】1つの実施形態における積分制御ループの簡略モデルを示す。
図8a】人の姿勢変化実験で得られたデータを示す。
図8b】人の姿勢変化実験で得られたデータを示す。
図9】仰臥位での神経活動プロットをフィッティングされた線と共に示す。
図10】立位での神経活動プロットをフィッティングされた線と共に示す。
図11】各姿勢で刺激が快適さマイナス(C-)レベルで与えられたときの、図8aのデータのサブセットに関するlogVに対するlogIのブロットである。
図12】各姿勢で刺激が最大レベルで与えられたときの、図8aのデータのサブセットに関するlogVに対するlogIのプロットである。
図13】リクルートメント-姿勢平面に変換された図8aのデータを示す。
図14】脊髄刺激のシミュレーション中の患者の姿勢のモデルを示す。
図15図15aは、多数の刺激サイクルを通じて生じた刺激電流値の1次元ヒストグラムを示す。図15bは、同じ期間のECAP電圧観察の1次元ヒストグラムを示す。
図16】多次元データセットからコンパイルされた2次元ヒストグラムであり、各々が刺激電流データとECAP電圧データを含む。
図17】姿勢対リクルートメントの軸にワープされたときの図16の電流対電圧データのより低分解能での2次元ヒストグラムである。
図18図18aは、図17の姿勢/リクルートメントヒストグラムデータをフル分解能で示す。図18bは、図18aのデータから抽出された姿勢の1次元ヒストグラムである。図18cは、図18aのデータから抽出されたリクルートメントの1次元ヒストグラムである。
図19】I‐Vフィードバックループコントローラを使用したときに得られる電流対電圧データの2次元ヒストグラムである。
図20図20aは、姿勢対リクルートメントの軸にワープされたときの図19の電流対電圧データの2次元ヒストグラムである。図20bは、図20aのデータから抽出された姿勢の1次元ヒストグラムである。図20cは、図20aのデータから抽出されたリクルートメントの1次元ヒストグラムである。
図21】臨床データを収集して、自動姿勢推定のための神経刺激装置を構成するときの、臨床データビューワアプリケーションのグラフィカルユーザインタフェースを示す。
図22】視覚化のために任意のオフセットにより分離された、姿勢ごとに得られるデータの分布を示す。
図23a】姿勢ごとの事前特定されたシグネチャ電流ヒストグラムを示す。
図23b】仰臥位に関する事前特定されたシグネチャ電流ヒストグラムの拡大図である。
図24】姿勢識別を目的とした、異なる期間にわたり観察された電流ヒストグラムを示す。
図25a】1つの期間に得られたデータクラスタを示す。
図25b図25aのデータの2つの異なる姿勢への分類を示す。
図26】各姿勢に関する正規化されたシグネチャヒストグラムの臨床的導出と、臨床データからの姿勢の分類のためのそのようなシグネチャヒストグラムの使用を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0053】
図1は、植込み型脊髄刺激装置100を概略的に示す。刺激装置100は、患者の下腹部又は後方上側臀部の適当な位置に植え込まれた電子モジュール110と、硬膜外腔内に植え込まれ、モジュール110に適当なリードにより接続される電極アセンブリ150と、を含む。植込み型神経装置100の動作の様々な態様は、外部制御装置192によって再構成可能であり、これは臨床医側プログラマ及び/又は患者側プログラマであり得る。さらに、植込み型神経装置100は、データ収集の役割を果たし、収集されたデータは何れかの適当な経皮的通信チャネル190を介して外部装置192に通信される。通信チャネル190は、高周波数(RF)通信、近接誘導相互作用その他により実現され得る。通信チャネル190は、実質的に連続的に、周期的間隔で、非周期的間隔で、又は外部装置192からの要求に応じて動作し得る。
【0054】
図2は、植込み型神経刺激装置100のブロック図である。モジュール110は、バッテリ112とテレメトリモジュール114を含む。本発明の実施形態において、例えば赤外線(IR)、電磁、容量、及び誘導伝送等の何れの適当な種類の経皮的通信190でも、テレメトリモジュール114によって電力及び/又はデータを外部装置192と電子モジュール110との間で伝送するために使用され得る。モジュールコントローラ116は、関連するメモリ118を有し、これは患者の設定120、制御プログラム122、及びその他を記憶する。コントローラ116は、パルス発生器124を制御して、刺激を患者の設定120及び制御プログラム122にしたがって電流パルスの形態で生じさせる。電極選択モジュール126は、生成されたパルスを電極アレイ150の適当な電極に切り替えて、電流が選択された電極の周囲の組織に送達されるようにする。電極アレイ150は1つ又は複数の電極を含み得て、これは例えばパドルリード上の電極パッド、リードの本体を取り囲む円形(例えば、リング)電極、フレキシブル電極、カフ電極、セグメント電極、又は治療のための単極、双極、若しくは多極電極構成を形成することのできる他のあらゆる種類の電極等である。電極は、組織自体を貫通し、又はそこに直接付着させ得る。測定回路128は、電極アレイの、電極選択モジュール126により選択されたセンス電極で感知された神経応答の測定値を捕捉するように構成される。
【0055】
図3は、植え込まれた刺激装置100の神経180、この場合は脊髄との相互作用を示す略図であるが、代替的実施形態は末梢神経、内臓神経、副交感神経、又は第四脳室を含めた何れの所望の神経組織に隣接して位置付けられてもよい。電極選択モジュール126は、電極アレイ150の刺激電極2を選択して、電流パルス、この実施形態では三相を含む、すなわち三相刺激を送達する。三相刺激はECAP測定に対する刺激アーチファクトの影響を軽減するように構成され得て、これは特許文献6の教示にしたがって行われ、その内容を参照によって本願に援用する。電極選択モジュール126は三相パルスを、神経180を含む周辺組織に送達するための刺激電極2を選択し、また、正味電荷伝送をゼロに保つように各位相での刺激電流を回復させるためにアレイ150から2つのリターン電極1及び3も選択する。このようにして3つの電極を各刺激位相での電流の送達と回復に使用することを三極刺激と呼ぶ。刺激電流の回復は、電流リターンモジュール125により制御される。三極刺激は、幾つかの実施形態において、空間的に制約されたECAPを引き出すために構成され得て、これは特許文献3の教示にしたがって行われ、その内容を参照によって本願に援用する。追加的に、又は代替的に、三極刺激は、ECAP測定を容易にするために刺激アーチファクトを最小にするために構成され得て、これは特許文献4の教示にしたがって行われ、その内容を参照によって本願に援用する。代替的実施形態は、他の形態の三極刺激を適用し得るか、又はそれより多くの、又は少ない刺激電極を使用し得る。
【0056】
電極1、2、3から神経180への適当な刺激の送達によって神経応答が誘発され、これには誘発複合活動電位が含まれ、これは、慢性疼痛のための脊髄刺激装置の場合は所望の位置に感覚異常を来すことである治療目的のために、図のように神経180に沿って伝播する。このために、刺激電極を使用して治療に適した何れの周波数、例えば30Hzの刺激でも送達されるが、kHz範囲の高さも含めて他の周波数も使用されてよく、及び/又は刺激はその患者にとっての必要に応じて、バースト、単発的等、非周期的にも送達されてよい。装置のフィッティングのために、臨床医は、使用者が感覚異常として感じる感覚を生じさせるための様々な構成の刺激を与える。使用者の体の疼痛部位に適合する位置及び規模の感覚異常を誘発する刺激構成が見つかったところで、臨床医はその構成の使用の継続を指定する。
【0057】
装置100はさらに、神経180に沿って伝播する複合活動電位(CAP:compound action potential)の存在と強度を感知するように構成され、そのようなCAPが電極1、2、及び3からの刺激により誘発されるか、それ以外により誘発されるかを問わない。このために、アレイ150の何れかの電極が電極選択モジュール126によって、測定電極6及び測定参照電極8としての役割を果たすように選択されてもよく、それによって電極選択モジュール126は選択された電極を増幅器128の入力に選択的に接続する。それゆえ、測定電極6及び8により感知される信号は、増幅器128及びアナログ-デジタル変換器(ADC)130を含む測定回路に送られる。測定回路は例えば、本願の出願人による特許文献7の強度にしたがって動作し得て、その内容を参照によって本願に援用する。
【0058】
測定回路128、130を介して測定電極6、8から得られた神経記録はコントローラ116によって処理されて、与えられた刺激が神経180に与える影響に関する情報を取得する。刺激装置100は、刺激を数日、数週間、又は数カ月という長期間にわたって与える可能性があり、この期間中に神経応答、刺激設定、感覚異常の目標レベル、及びその他の動作パラメータを記録する。刺激装置100は、記録された神経応答がフィードバック配置で使用されて、将来の刺激の刺激設定を連続的又は継続的に制御するという点で閉ループ式に動作する。適切なSCS治療を実現するために、刺激装置100は1秒間に数十、数百、又はさらには数千の刺激を毎日何時間も送達し得る。フィードバックループは、この時間のほとんど又は全部にわたり、各刺激の後に神経応答記録を取得するか、又は少なくともこのような記録を定期的に取得することによって動作する。各記録によって、誘発神経応答の振幅の測定値等のフィードバック変数が生成され、その結果、フィードバックループは次の、又は後の刺激のための刺激パラメータを変化させる。刺激装置10はそれゆえ、このようなテータを数十又は数百Hz、さらにはkHzの速度で生成し得て、数時間又は数日を経てこのプロセスの結果として大量の臨床データが得られ、これはメモリ118の臨床データストア120に保存され得る。このことは、何れの神経応答を記録する能力も持たないSCS装置等の過去のニューロモデュレーション装置と異なる。しかしながら、メモリ118の容量は当然のことながら限定的であり、それゆえ、1日に1、2回又はそれより低い頻度であり得る、装置192によるワイヤレスでのデータ取り出しが予想される時点より前にメモリの空き容量がなくならないことを確実にするために、メモリ118に保存するためのコンパクトなデータ形態を選択するように注意を払う必要がある。
【0059】
したがって、この実施形態では、測定回路128、130により生成される神経記録はコントローラ116により、各記録から、μV単位のECAPピークツーピーク振幅を含む1つのデータポイントを取り出すような方法で処理される。例えば、神経記録はECAPピークツーピーク振幅を特定するように処理され得て、これは特許文献8の教示にしたがって行われ、その内容を参照によって本願に援用する。代替的な実施形態では、記録から取り出して保存されるべき代替的な1つのデータポイントを選択し得るか、又は記録から2つ以上のデータポイントを取り出して保存し得る。
【0060】
図4は、健康な被検者の電気的に誘発された複合活動電位の典型的な形態を示す。図4に示される複合活動電位の形状はある程度予測可能であり、なぜならそれは刺激に応答する軸索発生活動電位の全体的効果により生じるイオン流の結果であるからである。多数の線維の中で発生した活動電位が合算されて、複合活動電位(CAP)を形成する。CAPは多数の単線維の活動電位からの応答の合計である。記録されたCAPは、多数の異なる線維の脱分極の結果である。伝播速度はほとんど線維径により決まる。同様の線維群の発火から生成されるCAPは、正のピーク電子P、次に負のピークN、その後、第二の正のピークPとして測定される。これは、活動電位が個々の線維に沿って伝播する際に記録電極6、8を通過する活性化領域により引き起こされる。
【0061】
CAPプロファイルはそれゆえ典型的な形態をとり、何れかの適当なパラメータによって特徴付けることができ、そのうちの幾つかが図4に示されている。記録電極6、8が増幅器128に接続される極性に応じて、通常の記録プロファイルは図4に示されるものの逆の形態をとり得、すなわち2つの負のピークN及びNと1つの正のピークPを有する。
【0062】
前述のように、患者の動きによって、電極アレイ150と神経180の位置、形状、及びアラインメント状態は相互に関して、及び周囲の体内構造に関して大きく変化する可能性がある。特に、図3に示されるように、神経180からの刺激電極2の距離dは変化する可能性があり、同じく神経180からの記録電極の距離dも変化する可能性がある。アレイ150及び神経180の柔軟性と各々のアラインメント状態及び位置の変化によって、dは常にdと等しいとは限らず、dの変化は常にdの変化と等しいとは限らない。
【0063】
治療レベルで、観察されるCAP信号は典型的に、数十マイクロボルトの範囲の最大振幅を有する。刺激電流Iを増大させると、ECAP振幅Vは典型的に成長曲線をたどる。図5は、1人の患者において生じる成長曲線のある範囲を姿勢ごとに示す。典型的な成長曲線は、非ゼロ刺激電流ECAPを誘導しない、閾値より低い第一の部分と、閾値を超えて刺激電流がさらに増大することでECAP振幅が線形に増大する、閾値より高い第二の部分により特徴付けられる。閾値T、及び成長曲線の第二の部分の勾配Mは、どちらも電極線維間距離に依存し、それゆえどちらも姿勢に応じて変化する。例えば、図5からわかるように、仰臥位では背臥位と比較して、閾値はより低く、勾配はより大きい。
【0064】
この実施形態はそれゆえ、電極が標的組織に関して移動する状況を説明するECAP生成モデルを利用しており、これは特許文献9に記載されており、その内容を参照によって本願に援用する。以下で、若干変更された数学用語を使用して、ECAP生成モデルの幾つかの主要要素に立ち戻る。
【0065】
ECAP生成モデルは、刺激電流IからECAP振幅Vへの患者の伝達関数を表す。(他の実施例では、特徴が下記のモデリング式に当てはまるかぎり、Vは振幅以外のECAPの特徴を示し得る。)この伝達関数は、電極線維間距離pに依存し、d=d=pと仮定され、これ自体は患者の姿勢に依存する。モデルはpの相対値のみに依存するため、参照点を取り上げる必要がある。本願では患者の参照姿勢においてはp=1と設定することにする。これは何れの姿勢でもよいが、好ましくは患者が容易に繰り返すことのできるものである。
【0066】
本願では区分線形モデルを使用し、この場合、ECAPは閾値を超えて線形に増大する。閾値Tと勾配Mはどちらもpと共に変化する:
【数7】
【0067】
T及びMは刺激及び記録伝達関数に依存し、これらはべき法則であると仮定される。T及びMを、それぞれ参照姿勢における閾値及び勾配、すなわち
T(1)=T
M(1)=M
とする。
【0068】
閾値上の電流では、刺激の付与により行われるリクルートメントRはあるべきmで距離dと共に減少する:
R∝(1-T(p))p-m
これは刺激伝達関数である。
【0069】
記録は他のべきnで距離drと共に減少する:
V∝Rp-n
これは記録伝達関数である。
【0070】
以上から、以下が得られる:
V=M-(m+n)(I-T
これは患者の伝達関数である。
【0071】
それゆえ、モデル関数が得られる:
T(p)=T
M(p)=M-(m+n)
【0072】
刺激伝達関数と記録伝達関数の両方をこのように実現できるフィードバックループを得ることを、本明細書でI‐V制御と呼ぶ。I‐V制御を実装するために、pに関係なく、一定のリクルートメントRを保持したいと考える。一定のリクルートメントでは:
I∝p
V∝p-n
である。
【0073】
一定のリクルートメントとはここでは、適用可能な閾値T(p)の一定の倍数で刺激することを意味する。本願では、フィードバック変数Cを導き出すことができ、したがってpのべきは消せる:
C=I
【0074】
これには、
【数8】
の特性があり、したがって、Cを距離に依存しないリクルートメントの測定値として使用することができる。
【0075】
さらに、mもnもわかっている必要がない点に留意されたく、わずかに異なるフィードバック変数を得るために、その比kのみがわかればよい:
【数9】
【0076】
図6は、神経刺激のI‐V制御の当初の実装による、フィードバックループでのそのようなモデルの応用を示している。
【0077】
このようにCを選択することにより、電流の増大と共に上方に湾曲する制御伝達関数、すなわち、
【数10】
が得られ、これには積分制御器を用いた安定性に関して有利な示唆がある。この正の曲率は、コントローラが一定のゲインを持たなくなることを意味し、すなわち、セットポイントが高くなると、勾配もまた大きくなる。これは、この実施例において、セットポイントが変化したときに制御ゲインを調整することによって補償でき、これは本願の出願人による豪州仮特許出願第2020903083号に記載されており、同仮出願を参照によって本願に援用する。
【0078】
値IV、又はその単調関数は神経動員の測定値である。この測定値は必ずしもその基礎となるリクルートメントに比例するとは限らないが、単調である。
【0079】
mの値は刺激構成に依存し、nは記録構成に依存する。どちらもリード配置及び患者の神経パラメータにも依存する。kの値は各患者の構成に個別にフィットさせる必要がある。
【0080】
したがって、フィッティングプロセスが必要である。この点で、伝達パラメータkはpがわからなくても特定できることに留意されたい。患者の快適さレベルが一定の神経動員に対応すると仮定した場合、1つの選択肢は、患者の快適さレベルを参照点として使用することである。この方式では、患者の快適さレベルで発生する電流と電圧が複数の姿勢の各々で測定される。i番目の姿勢における快適さレベルをV及びIで示すことにする。
【数11】
とすると、単純に、勾配-kを有する、点(logI,logV)を通る線をフィットさせて、特定の患者のkを得ることができる。
【0081】
他のフィッティング方法は、異なる姿勢での閾値と勾配を探すことである:
=T
=M-m-n
【0082】
(logT,logM)を通る線もまた勾配-kを有し、それゆえ特定の患者に関する伝達パラメータkを得る他の方法を提供する。
【0083】
伝達パラメータkはまた、手作業で調整して、患者が認識する均一性を微調整できる。患者がより感度の高い姿勢に、例えば背臥位から仰臥位に動いたときに刺激の増大を認識した場合、kは減少させるべきであり、またその逆である。
【0084】
フィードバック変数IVはリクルートメントのプロキシであり、姿勢に関係なくリクルートメントと共に単調に変化するが、それは非線形の関係である。この実施形態では、リクルートメントの線形の測定値がより有益であるタスクがあると認識されており、これは例えば、患者が自分の標的レベル(セットポイント)を設定するため、及びフィードバックヒストグラムの解析のためである。
【0085】
姿勢が一定に保たれると、ECAP振幅VはリクルートメントRと共にほぼ線形に変化し、これは、SCSではリクルートメントの空間範囲は電流と共に増大し、他方で動員集団の特徴は電流が変化してもほぼ一定のままであるからである。
【0086】
モデル式を使用すると、IVの何れの測定値を何れの姿勢にも投影することができ、これによって、リクルートメントが同じときに、その姿勢でどけだけのECAP振幅が予想されるかがわかる。これによって、線形のリクルートメント測定値を定義でき、すなわちこれは参照姿勢での等価的ECAP振幅であり、本明細書ではrefcapと呼ぶ。refcap
【数12】
は電圧の単位を有する。
【0087】
refcapは閉ループ制御のためのフィードバック変数の当然の選択である。refcapにより、リクルートメントに関係なく、姿勢の測定値も得られ、すなわち比
【数13】
はpに依存するが、Rには依存しない。
【0088】
refcapは、I‐V制御の当初の実装のフィードバック変数Cに、及びそこから、次式を解くことにより変換できる:
【数14】
この式には閉じた解がないため、Cからrefcap
【数15】
を得るためには数値的方法を使用しなければならない。refcapはすると、神経刺激のI-V制御の「refcap実装」でのフィードバック変数として使用され得る。
【0089】
refcapに基づくI‐V制御の代替的な実施例では、図6に示されるようなI-V制御の当初の実装が使用される。しかしながら、患者のセットポイントはrefcapの値
【数16】
として扱われ、これはリクルートメントに比例する。すると、式(1)を適用してセットポイントがCの値に変換され、すると、それがフィードバックコントローラによって計算されたフィードバック変数と比較される。この実装は、refcapをフィードバック変数として使用する実施例より計算集約性が低く、これは、刺激サイクルごとにrefcapのために式(1)を解く必要がないからである。それに加えて、患者により制御されるセットポイントは、refcapがフィードバック変数として使用される実装と同様に、リクルートメントに比例する。
【0090】
インプラントのrefcapを計算することは、それに工程の多い計算又はルックアップテーブルが必要となるため、困難であり得る。他方で、本開示では、I-V制御の当初の実装を使用すると、姿勢を推定することで十分であり得ると認識されている。I-V制御は、リクルートメントを、したがってrefcapを一定に保つ機能を果たす。それゆえ、姿勢はV-1と共に変化する。それゆえ、I-V制御の当初の実装を使用すると、V-1から代替的な姿勢推定信号が得られる。
【0091】
refcapは、使用される制御方法に関係なく計算でき、すなわち、MとTは何れの患者においても推定して、開ループ又は定電圧制御モードのほか、I-V制御モードのrefcapの計算に使用することができる。
【0092】
この実施形態はさらに、フィードバックループ内の非線形要素の制御の統合を提供する。I-Vフィードバックループは、刺激電流を調整することによってリクルートメントを一定に保持しようとする。各刺激パルスの後にECAPが測定され、実際のフィードバック変数と所望のフィードバック変数との差はエラーである。このエラーに制御ゲインが乗じられて、積分器に供給される。積分器は、エラーの累計を記録し、次の刺激電流を特定する。図7は、この実施形態の積分制御ループの簡略化モデルを示す。積分器の出力は刺激電流mである。患者は、刺激電流mを、ある程度の勾配Pを有するフィードバック変数fに変換するようにモデル化される。fと患者のセットポイントcとの差はエラーeである。ループエラーeには、次の時間ステップのためにゲインGが乗じられ、積分される。
【0093】
実際、各刺激の後、システムは所望のセットポイントに向かうステップをとる。例えば、測定されたECAPがセットポイントより大きい場合、エラーは負であり、積分器は電流を下げる。このようなループの実装においては、ループの動的挙動、例えばそれが患者のセットポイントにどれだけ素早く収れんするか、及びどのような状況でそれが不安定となり、振動するかを理解することが重要であり、このような挙動はステップサイズにより決まる。ステップサイズが小さいと、ループは標的に向かってスムーズに収れんする。他方で、ステップが大きすぎると、ループはセットポイントを通り過ぎる。ダイナミックループ挙動と制御については、本願の出願人による豪州仮特許出願第2020903083号に記載されている。
【0094】
したがって、ループ内の制御ゲインGは調整可能として、特定の各患者に適したものとなるようにループを調整できるようにし得る。
【0095】
リクルートメントRの推定を実証するために、人の姿勢変化の実験を解析した。得られたデータは図8a及び8bに示されており、P0119で示される人の患者の体内で実行された3つの電流掃引からなる。患者に座位、立位、及び仰臥位を2~3分の時間でとらせた。各姿勢で、60Hzの刺激を与え、刺激電流I(右軸)を知覚閾値(T-)、快適(C-)を経て最大値(M)まで上げ、再び快適(C+)に戻した。図8aではこれらの刺激電流レベルは座位に関して示されており、他の姿勢については、T-、C-、M、及びC+での刺激電流レベルは座位に関して示されたものとは異なることに留意されたい。刺激電流を各姿勢で調整しながら、ECAP振幅測定値(V、左軸)を記録した。座位は明らかに最も感度の低い姿勢であり、電流は最も高く、ECAPは最も低い。仰臥位は最も感度の高い姿勢であり、最大値は座位及び立位の場合が4mAを超えるのに対し、3mA未満で発生している。図8bは、図8aのデータの仰臥位部分の拡大図であり、x軸のデータは原点側にシフトしている。変調信号は仰臥位において約1.5Hzで明白であり、したがって、ECAP信号の変動は患者の心拍により、例えば心拍の振動により生じる電極線維間距離の変動に起因する可能性がある。
【0096】
上述のリクルートメント推定方法を適用するために、当該の患者の伝達パラメータkを推定することが必要である。また、参照姿勢閾値Tと参照姿勢勾配Mも推定する必要がある。したがって、この実施形態は、適用すべき患者パラメータフィッティングプロセスを提供し、これはこのような装置のための通常の臨床フィッティングプロセスに組み込むことができる。
【0097】
このようなフィッティングを実現するために、患者に参照姿勢をとってもらうが、これは例えば、図8aに示されるように最も感度の高い姿勢である仰臥位とすることができる。図8bに示される、その姿勢で得られた電流と電圧データは、閾値より上のこれらの記録されたI及びVの値を通る線をフィッティングするように処理される。図8bにおける最初の400程度のデータのようにV値がゼロにクリップされるバイアスの問題を避けるために、この線はV=0のサンプルが記録された全ての電流を無視することによってフィッティングされ、このようにして、この線は、信頼できるものとするために閾値より十分に高い点のみにフィッティングされる。図9は、仰臥位におけるこのような線の活性化プロットへのフィッティングを示す。フィッティングされた線は、この患者についてはT=1.89mA、M=164μV/mAであることを示している。すると、あとはこの患者の伝達パラメータkを推定するだけでよい。
【0098】
kを推定する1つの方法は、各姿勢で等しいリクルートメントを達成できるようにリクルートメントデータ、例えば快適又は最大をとることである。等しいリクルートメントで各姿勢iにおいて電流及び電圧I、Vを測定した後、点(logI,logV)を通じて線をフィッティングできる。この線の勾配からkがわかる。
【0099】
この患者において、全ての姿勢で快適レベルの電圧と電流を測定することは困難であり、すなわち、電流ステップが粗く、それによって「理想的な」快適さでの電流及び電圧の両方が相応に不確実となり、快適ECAPは非常に小さい。これは特に、上で特定されたTの数値が、閾値は快適レベルと下のステップとの間で予測されることを示している点に注目すると明らかである。これは、定量化エラーが大きいことを意味する。さらに、立位の場合の線の活性化プロットへのフィッティングを示す図10を参照しながらこれを例示する。ここでも、線のフィッティングは、記録された電圧がゼロでなかった電流についてのみ行われ,クリッピング効果が回避されている。しかしながら、ドット2110は、快適電流での平均Vを示し、ドット2120は、快適電流での線から推定されるVを示す。推定されたV2120は観察された平均V2110と異なっているが、それはこの姿勢で電圧クリッピングが快適レベルで発生したからであり、これは再び、快適レベルを一定のリクルートメントデータとして使用した場合にフッティングを行う難しさを示している。
【0100】
この効果により、ログ領域における快適点を通る線のフィッティングも困難となる。図11は、図8aに示される3つの姿勢の各々について、快適マイナス(C-)でのlogVに対してプロットされたlogIを示している。図11では、エラーバーは電流が1ステップ上下したときの効果を示している。快適レベルを一定のリクルートメントデータとして使用した場合の前述の問題により、下方へのエラーは限定されない。以前のフィッティングから推定された閾値と勾配に電流ステップサイズを組み合わせて使用すると、このフィッティングプロセスのログ領域における定量化エラーバーを特定できる。この患者の場合、快適の下限はV=0であり、これは定量化エラーが非常に大きいからである。それゆえ、図11は、線のフィッティングは、快適レベルを一定のリクルートメントデータとして使用すると、きわめて不正確となり得ることを示している。しかしながら、より小さい電流ステップサイズを有する他の装置では、並びに/又は快適レベルが閾値より複数の電流ステップだけ上である、及び/若しくは快適レベルでのデータのノイズがより少ない他の患者の場合は、快適レベルを一定のリクルートメントデータとして使用することが適切であり得る点に留意されたい。
【0101】
しかしながら、この実施形態では、快適レベルが使用可能な唯一の一定のリクルートメントデータではないこと、他の可能性は、患者の最大レベルを一定のリクルートメントデータとして使用することであることがわかる。図12は、各姿勢での最大レベルにおける図8aのデータを示し、logIはlogVに対してプロットされている。定量化エラーは縮小しており、これは、患者の最大レベルの電流レベルが電流ステップサイズに関して、より高いからである。それに加えて、図8a及び8bからわかるように、患者の最大レベルでは、記録されたECAPはさらにノイズがなく、信号対ノイズ比が改善している。図12においてこれらの点にフィッティングされた線から、logV対logIの勾配が-1.29であることがわかり、したがってこの患者の場合、k=1.29であると推定できる。
【0102】
装置が上述のようにフィッティングされると、当該の患者について、伝達パラメータk、参照姿勢閾値T0、及び参照姿勢勾配M0がわかる。これらのフィッティングされたパラメータ値を用いると、図8aの記録されたI及びVの値を、前述の式:
【数17】
を想起することによって推定されたリクルートメント
【数18】
に、
また、比
【数19】
がpには依存するが、Rには依存しないことを想起することによって姿勢
【数20】
に変換することができる。図13は、リクルートメント‐姿勢平面に変換された後の図8aのデータを示す。リクルートメント(左軸)はrefcap
【数21】
として、すなわち参照姿勢でのこのリクルートメントについて予想されるECAPとして表される。姿勢
【数22】
(右軸)はユニットレスである。
【0103】
図13では、推定リクルートメント
【数23】
を生成するこの方法により、ある電流知覚レベルで、姿勢に関係なく実質的で同じである
【数24】
の値が所望のとおりに得られることが明らかとなる。例えば、図13では、最大電流レベルの刺激中に、患者が座っているとき(2402)の推定リクルートメント
【数25】
が、患者が立っているとき(2404)の推定リクルートメント
【数26】
と実質的に同じであり、患者が仰向けであるとき(2406)の推定リクルートメント
【数27】
と実質的に同じであることがわかる。同じことが、各姿勢での快適レベルでも観察できる。
【0104】
図13からはさらに、姿勢が
【数28】
により曖昧に特定されることも明らかとなる。特に、患者が座っている間(2412)に生成された
【数29】
の値は、異なる刺激電流レベルにおいても約2.1で実質的に一定の値のままである。患者が立っている間(2414)に生成された
【数30】
の値は、異なる刺激電流レベルであっても約1.8で実質的に一定値のままであり、2412とは明らかに異なる。さらに、患者が仰向けである間(2416)に生成された
【数31】
の値は約1.0で実質的に一定のままであり(仰臥位が参照姿勢であることを考えると、予想されるとおり)、これは異刺激電流レベルが違っても当てはまり、値2416は2412及び2414とは明らかに異なる。
【0105】
この方法は、定電圧フィードバックにより、異なる姿勢で患者にリクルートメントのどれだけの変化が生じるかを特定するために使用できる。前述のように、姿勢の推定は:
【数32】
として定義される。
【0106】
リクルートメントはrefcap
【数33】
に比例する。他方で、定電圧フィードバックでは、Vは制御ループにより一定に保持される。したがって、患者が
【数34】
の姿勢から
【数35】
の新たな姿勢に変わると、リクルートメントを係数b/aだけ変化させなければならない。
【0107】
例えば、図8~13の被検者である人の患者P0119が座位
【数36】
で快適であるように構成され、その後、仰臥位
【数37】
へと動くと、その神経動員は55%低下し、他方で一定のフィードバック変数は保持される。それゆえ、様々な姿勢から各患者について観察される高い比b/aを使用して、どの患者がI-Vフィードバックループ制御等の一定のリクルートメントフィードバック制御の使用から、異なる姿勢で定電圧を保持することより一定のリクルートメントをよりよく保持するという恩恵を受けるかを特定できる。
【0108】
本開示の別の実施形態は、多次元ヒストグラムの作成、保存、及び解析を提供する。閉ループフィードバックSCSシステムでは、刺激がシステムにより送達されるたびに体の神経応答が記録される。幾つかの構成では、応答は制御ループによって、治療を保持するように刺激を調整するために使用される。治療とループ挙動を測定し、追跡するために、応答信号と制御変数を記録することができる。
【0109】
植込みの応用で、これらの信号の全ての値を記録することは、記憶スペース及び/又は伝送速度が限定され得ることから非現実的である可能性がある。一般的なSCSインプラントの場合、全ての刺激及び応答の値を記録することは不可能であり、これは例えば、患者は典型的にそれほど頻繁に技師のところに行かず、また、経皮的通信で可能な速度でデータをダウンロードする時間は技師のところに行く時期を大幅に上回るからである。
【0110】
このように、この実施形態は、データストリームに対して統計解析を行い、それゆえデータの有益なサマリを記録し、大量の生データを廃棄することによる解決策を提供する。この解決策は、生データの、より有益な表現を効率的に保存するために2次元ヒストグラムを使用することである。この方式を説明するために、典型的なSCS患者をシミュレートする患者モデルを作成した。定電圧コントローラを含むフィードバックループを患者にフィットさせた。コントローラは、刺激電流を調整して一定の応答電圧を実現する。
【0111】
図14は、シミュレーション中のモデル化された患者の姿勢を示す。姿勢の値は前述したように、患者の参照姿勢に関する電極線維間距離である。モデルは、マルコフプロセスにしたがって定期的に姿勢を変え、すなわち、各姿勢をある期間だけ保ってから別の姿勢へと動く。2つの考え得る姿勢は範囲の中央にあり、2つの考えにくい姿勢は両極端にある。各変化時の実際の位置の選択は、少量のノイズを伴う。連続的なホワイトノイズも姿勢信号に追加される。正の波形は3Hzのコーナ周波数でローパスフィルタ処理される。
【0112】
このような姿勢変化のための制御ループのシミュレーションも行った。刺激電流及び応答電圧を各時間ステップで記録した。多数の刺激サイクルで発生する刺激電流値の1次元ヒストグラムが図15aに示され、電圧の1次元ヒストグラムは図15bに示されている。制御ループは、応答電圧を実質的に一定レベル2602に保持する役割を果たす。図15aの電流ヒストグラムは、姿勢の変化を反映する複数のピークを含んでいることがわかる。しかしながら、このような1次元ヒストグラムでは、ある刺激についての電流と電圧の関係は分離されるため、そこに含まれる情報は、本明細書中の他の箇所に記載されているようなリアルタイム解析又は事後解析の範囲にとっては不十分である。
【0113】
その代わりに、この実施形態では、2次元ヒストグラムには格段に多くの情報が含まれ、それと同時に効率的なデータ保存手段を提供することが認識されている。図16は、各々が刺激電流と電圧の両方を含む2次元データセットからコンパイルされた2次元ヒストグラムである。フィードバックループは定電圧制御を使用するように構成されているため、電圧データは主に125~140μVの範囲内であり、電流データは異なる電流値で姿勢ごとに分類されている。この点で、図16の2次元データは図15a及び15bの1次元データに対応しており、これらは説明のために図16と整合させて、隣接した位置に示されている。
【0114】
しかしながら、図16に示される2次元ヒストグラムデータの保存は、1次元ヒストグラムより重要な利点と特徴を数多く提供する。
【0115】
電流データのaのビンと電圧データのbのビンを保存するのに必要な保存スペースは、1次元ヒストグラムでは(a+b)、2次元ヒストグラムでは(a×b)である。しかしながら、数千、さらには数百万の刺激サイクルが発生する長期間の動作の場合、2次元ヒストグラムは生データの保存と比較して、大幅に削減されたデータ保存形態を提供する。さらに、2次元ヒストグラムにより、装置の動作と患者の応答及び動きをずっとよく洞察できる。
【0116】
例えば、図16では、システムの始動は、右に向かい、その後、原点から上昇するドットとして識別可能であり、それによってコントローラの電流はゼロから始まり、セットポイントに到達するまで増大する。
【0117】
さらに、患者がとる個別の姿勢は、この特定のヒストグラムの中の高強度の部分領域として明らかに見える。各姿勢で観察される縦の変動(電圧の変動)は、フィードバックループが定電圧を求めているため、ノイズによる。周辺の斑点は、1つの姿勢から別の姿勢へと動くときに経る状態であり、これらはその位相平面速度等の他のデータから、そのようなデータが記録されていれば、さらに区別できる。この遷移領域の範囲は、システムが姿勢変更中にセットポイントからどれだけ離れたかの指標となり、これはループ設計の改良を導くための測定値として使用できる。
【0118】
図16の2次元ヒストグラムはビンのグリッドを有し、一方の軸は電流、他方は電圧である。これは、2つの数値間の関係に関する情報を記録する。これには、1次元ヒストグラムより多くのストレージが必要であるが、この増大は典型的に、リアルタイムデータを記録する場合と比較すれば取るに足らない。この場合、ヒストグラムは、計算能力と最新の患者パラメータの知識が限定されないコンピュータ上で後処理することにより、姿勢とリクルートメントに関する情報を抽出できる。
【0119】
電圧と電流との間の相関関係は、1次元ヒストグラムにはない情報の一例にすぎない。様々な信号の時間もまた多くの情報を含んでいる可能性があり、例えば、システム挙動は患者の姿勢変更により不利な影響を受けるが、ノイズの影響は受けない。これらは、さらに導き出された信号、例えば信号のうちの1つの周波数コンテンツによって、又は電流/電圧位相平面内のシステムの状態の方向及び/若しくは速度によっても区別できる。これは電流対周波数コンテンツ等の2次元ヒストグラムに記録できる。
【0120】
より高次元のヒストグラムも使用できる。ある刺激で測定された電流及び電圧は、電流‐電圧平面内の1点を定める。刺激から刺激へのこの点の変化の方向及び/又は速度を計算して記録できる。この点を前の刺激点と比較することにより、方向ベクトルを計算できる。この方向ベクトルの角度を定量化し、電流、電圧、及び角度の軸を有する3次元ヒストグラムを保存できる。或いは、4次元ヒストグラムは電流、電圧、及び方向ベクトルの2つの成分を含むことができる。この方向情報は、システムの状態の時間変化に関する情報を捉え、それを後にイベントの区別のために使用できる。
【0121】
別の実施形態は、前述のように、インプラント内部で姿勢及び/又はリクルートメントをその場で計算でき、その後、追加的又は代替的にこれらの計算値のヒストグラムを保存できる。例えば、電流及び電圧データを姿勢及びリクルートメントデータに変換するための本明細書に記載の方法は、ヒストグラムのビンのコーナ部を電流/電圧平面から姿勢/リクルートメント平面にワープさせる変換として使用できる。図17は、姿勢対リクルートメントの軸にワープされた電流対電圧の2次元ヒストグラムである。このヒストグラムは、図16と同じデータであるが、ビンのグリッドの歪曲により示されるようなワープ効果をよりよく説明するために、分解能が下げられている。
【0122】
ワープヒストグラムはすると、図18に示されるような実験中の患者の姿勢とリクルートメントのヒストグラムを作成するためにも使用できる。特に、図18aは図17の姿勢/リクルートメントヒストグラムデータを示すが、フル分解能による。姿勢の1次元ヒストグラムは、図18bに示されるように抽出できる。リクルートメントの1次元ヒストグラムは、図18cに示されるように抽出できる。
【0123】
この場合、結果は患者の神経動員が姿勢によって大きく変化することを実証している。これは、特許文献9においてより詳しく説明されているように、定電圧フィードバックループに関して予想されるとおりである。
【0124】
実験は、図14に示されるものと同じ姿勢シーケンスで繰り返したが、使用したフィードバックコントローラは、定電圧ではなく、一定の神経動員を求めるためにI‐V制御を用いる。結果として得られる電流‐電圧ヒストグラムが図19に示されている。ここでも、図19の電流‐電圧2次元ヒストグラムは、図20aに示されるように、ヒストグラムのビンのコーナ部を電流/電圧平面から姿勢/リクルートメント平面にワープさせることによってリクルートメント‐姿勢平面ヒストグラムに変換できる。さらに、図20aのワープヒストグラムは、1次元姿勢ヒストグラム(図20b)と1次元リクルートメントヒストグラム(図20c)を導き出すために使用できる。図20a及び20cにおいて、一定リクルートメントループ挙動は明らかに目に見え、それによって神経動員は、患者が実験中に所望のとおりに幾つかの異なる姿勢をとっても、一定レベル3102に、又はその付近に保たれる。
【0125】
2種類のフィードバックループ(図16の定電圧、図19の一定リクルートメント)から得られるソースヒストグラムが大きく異なることにかかわらず、推定される姿勢は非常に似ており、これは図18bの姿勢ヒストグラムを図20bの姿勢ヒストグラムと比較するとわかる。これは、それぞれの実験で患者に同じ姿勢をとるように依頼したためであると予想され、それゆえ各方式を検証する役割を果たす。
【0126】
この情報は1次元ヒストグラムでは捕捉されず、なぜなら電圧の広がりが、一定の神経動員を実現する際の性能は改良されていても、一定リクルートメント制御ループのほうが大きいからである。
【0127】
特に、本発明の各種の実施形態では、インプラントが開ループモード(図13参照)、定電圧制御を利用する閉ループフィードバックモード(図16、17、18)、又は一定リクルートメント制御を利用する閉ループフィードバックモード(図19、20)の何れで動作しているかを問わず、姿勢の特定及び/又は神経再動員の特定が可能となる。
【0128】
他の実施例では、2次元ヒストグラムは電流対電圧又は姿勢対リクルートメント以外の多次元データセットからコンパイルされ得る。例えば、多次元データセットは、2種類の電極ペア上で同時に感知されるECAP振幅を含み得る。代替的に、多次元データセットは、同じECAPからの2つの異なるパラメータ、例えばレイテンシと振幅を含み得る。代替的に、多次元データセットは、時間的に分離されるECAPパラメータ、例えば特定の時間のECAP振幅及びその時間よりある間隔だけ前のECAP振幅を含み得る。
【0129】
本開示の別の実施形態は、一変量(1次元)ヒストグラムか多次元ヒストグラムの何れかを問わず、臨床データヒストグラムからの自動化された姿勢特定のための方法及びシステムにある。この実施形態では、臨床フィッティングの通常の姿勢評価段階中に収集される刺激電流データを使用して「シグネチャヒストグラム」の集合が形成され、その各々がそれぞれ1つの姿勢の特徴であり、その各々が関係する個々の患者特定のものである。この効果の1つの実施形態は図26に示されており、以下にさらに説明する。しかしながら、代替的な実施形態は、「シグネチャヒストグラム」を使用せずに、多数の解析方式を通じて患者の姿勢を識別し得る。例えば、このような実施形態では、IPG電流又は電圧レベルの平均、平方偏差、スキュー等の継続的統計の計算によって、ヒストグラムを作成することなく、姿勢を正確に識別できる。
【0130】
すると、インプラントの日常の、又は現場での使用中、ある期間にわたる被検者の1つ又は複数の姿勢は、その期間中に収集されたヒストグラムと最も相関性の高いシグネチャヒストグラムを識別することによって特定できる。
【0131】
自動姿勢推定の用途の1つは、プログラミング及び刺激設定の患者の姿勢に基づく変更を自動化できることである。例えば、現在、一部の患者は起きているときの活動及び睡眠時のための2種類の刺激設定を有する。患者は、ハンドヘルドリモートコントロールを使用して、起きているときの刺激設定を睡眠時の他の刺激設定に変更する。自動姿勢推定器により、刺激設定の変更は、患者が仰臥位か他の姿勢かに基づいて自動化できる。
【0132】
このために、患者にクリニックで様々な姿勢をとるように依頼する。この姿勢評価中、観察されるECAP振幅及び姿勢は、図21に示されるように刺激電流(図示せず)と共に記録される。
【0133】
この実施形態では、ほとんどの姿勢のための刺激電流の分布が異なる特徴を有し、それによってこれらを相互に区別できることが認識されている。図22は、x軸内の仰臥位での電流の位置と分布が座位の場合とどれだけ大きく異なるかを示している。また、歩行中と立っているときの電流の分布も相互に大きく異なる。図22は、各姿勢でのデータ群が視覚的にはっきりと分けられるようにするために各姿勢からのデータに適用される固有の縦方向のオフセットを含んでいる。ライブデータにはこのようなオフセットは含まれないが、事前特定された姿勢シグネチャヒストグラムをその後、観察データに相関させて、どの姿勢が観察されたライブデータに最も密接に対応するかを識別できる。
【0134】
臨床現場でテストされる各姿勢について、事前特定されたシグネチャ電流ヒストグラムを導き出すことができ、その一部が図23aに示されている。特に、図23aの上部分は、患者がA、B、…Kで示される一連の異なる姿勢をとっているときに得られた時間シーケンスデータをプロットしている。このような姿勢の各々で得られた電流/FBV散布図が図23aの中央と下部分に示されている。図23bは、ほとんど患者が仰臥位である間に得られたデータの事前特定されたシグネチャ電流ヒストグラムの拡大図である。具体的には、仰臥位では、データポイントの大部分が散布図の左側の約6000~8000μAの電流範囲に向かってクラスタになることがわかる。このクラスタの外部の、より少ない数のデータポイントは姿勢の遷移を表す。
【0135】
すると、日常の使用中に、各シグネチャ電流ヒストグラムを観察された周期ヒストグラムと相関させて、その期間中のその患者の主な姿勢を推定することができる。図24は、9pmから翌日の2pmの電流ヒストグラムを4時間ごとのブロックに分けて示している。予想されるとおり、12amから8:35amの間の電流ヒストグラム(第二及び第三の行)は仰臥位のシグネチャヒストグラムとマッチし、患者がこの時間中はベッドで寝ていたことを黙示している。また、第四の行のヒストグラムは、仰臥位及び立位のシグネチャヒストグラムの両方とマッチする成分があることを示しており、これも8:35amから12pmの間の午前中において予想されるとおりである。装置は、このようなデータを使用して、例えば「日中」プログラムと「睡眠」プログラムを切り替えることにより、動作モードを変更し得る。これはまた、装置が1日の時刻を考えて、装置が例えば8PM以降にのみ「睡眠」プログラムに切り替えるようにもし得る。
【0136】
図24のヒストグラムは時間単位で得られる点に留意されたいが、現場の使用中、評価されるヒストグラムは何れの適当な時間のものであってもよく、例えば数秒、又は数分のオーダであり得る。ヒストグラムをより短い期間に制約することにより、患者はその期間中、1つの姿勢又は1つの主な姿勢しかとらない可能性が高くなり、それによっておそらくデータ解析が容易になる。
【0137】
シグネチャヒストグラムは好ましくは電流と時間の両方について正規化すべきであり、観察時間が長くなると、1つのビンあたりのカウント数が多くなり、患者のセットポイントが高く、又は低くなると、ヒストグラムは左又は右に「移動される」ことに留意されたい。それゆえ、患者のセットポイントに関する知識は、装置により、ライブデータと相関させるのに適当であるようにシグネチャヒストグラムを左又は右にスライドさせるために使用できる。
【0138】
教師なし機械学習もまた、シグネチャヒストグラムの臨床での作成及び/又は記録されたフィールドデータの後処理に当てはめて、姿勢を識別し得る。
【0139】
図23aに戻ると、プロットの一部に、2つの異なる姿勢を表す電流値により分離される2つのデータクラスタがある様子がわかる。これは、臨床プロセス中、複数の姿勢からのデータが「1つの」姿勢の中に存在することがあり得るからであり、これは臨床医による手作業での姿勢変更アノテーションの結果として、アノテーションのタイミングが適当でなくなることによる。通常、大型のクラスタは主な姿勢中に収集されたデータであり、より小さいクラスタは変更途中の姿勢のデータである。例えば、図25aでは、散布図の右側のより大きいクラスタは座位でのデータを表し、より小さいデータラスタは立位を表す。したがって、クラスタの検出は図25bに示されるようにシグネチャヒストグラムをクリーンにするために適用でき、クラスタ検出により座位から生じたとして識別されたデータポイントは星で表示され、クラスタ検出により立位から生じたとして識別されたデータポイントは三角で示される。
【0140】
図26は、各姿勢についての正規化されたシグネチャヒストグラムの臨床的導出と、日常の通常の使用中等、クリニック外のデータから姿勢を分類するためのこのようなシグネチャヒストグラムの使用を説明するフローチャートである。一般に、このプロセス及びその他の変形型は、本発明によれば、IPGに基づく治療の詳細を使用して患者がとっている姿勢を分類し、したがって、提供される治療を調整するためのものであり得る。例えば、フローチャートの中の1つのステップは機械学習クラスタリングアリゴリズムでデータ分類をより改良し、各姿勢に関するシグネチャヒストグラムを出力することであるが、代替的な実施形態では、このような出力を生成するその他の手段も使用し得る。
【0141】
ヒストグラムの図式的表現は本明細書において、本発明の実施形態の理解を助けるために提供されているが、理解すべき点として、本明細書で定義される「ヒストグラム」とは、ヒストグラムを表すデータを含む実施形態を、このようなヒストグラムデータの図式的表現が作成されるか否かを問わず、包含すると理解するものとする。
【0142】
ECAP信号の感知と測定は、例えば胸郭部、胸腰部、又は頸部の脊髄に関して説明されている。他の実施形態では、刺激は脊髄以外の場所、例えば末梢神経、又は脳内で付与され得て、及び/又はそこでECAPが記録され得る。
【0143】
当業者であれば、広く説明されている本発明の主旨又は範囲から逸脱することなく、具体的な実施形態で示されている本発明に多くの様々な変更及び/又は改良を加え得ることがわかるであろう。したがって、これらの実施形態はあらゆる点において例示的であると考えられ、限定的又は制約的とはみなされない。
図1
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図8a
図8b
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図23b
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図25a
図25b
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【国際調査報告】