(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-09-13
(54)【発明の名称】抗体-ナノ粒子複合体、ならびにその作製および使用方法
(51)【国際特許分類】
A61K 47/68 20170101AFI20230906BHJP
A61K 9/51 20060101ALI20230906BHJP
A61K 31/337 20060101ALI20230906BHJP
A61K 31/704 20060101ALI20230906BHJP
A61K 47/04 20060101ALI20230906BHJP
A61K 47/12 20060101ALI20230906BHJP
A61K 47/10 20170101ALI20230906BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20230906BHJP
【FI】
A61K47/68
A61K9/51 ZNA
A61K31/337
A61K31/704
A61K47/04
A61K47/12
A61K47/10
A61P35/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023514416
(86)(22)【出願日】2021-09-01
(85)【翻訳文提出日】2023-04-25
(86)【国際出願番号】 US2021048737
(87)【国際公開番号】W WO2022051414
(87)【国際公開日】2022-03-10
(32)【優先日】2020-09-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】511281899
【氏名又は名称】マヨ ファウンデーション フォー メディカル エデュケーション アンド リサーチ
【氏名又は名称原語表記】MAYO FOUNDATION FOR MEDICAL EDUCATION AND RESEARCH
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】ネヴァラ, ウェンディ ケー.
(72)【発明者】
【氏名】マルコヴィッチ, スヴェトミール エヌ.
(72)【発明者】
【氏名】ゲン, リーイー
【テーマコード(参考)】
4C076
4C086
【Fターム(参考)】
4C076AA65
4C076AA95
4C076BB11
4C076CC27
4C076CC41
4C076DD38
4C076DD42
4C076EE41
4C076EE59
4C086AA01
4C086AA02
4C086BA02
4C086EA10
4C086MA03
4C086MA05
4C086MA38
4C086MA66
4C086NA13
4C086ZB26
(57)【要約】
本明細書では、結合剤および/または治療薬と複合体化したナノ粒子(例えば、抗体-複合体化アルブミン結合パクリタキセル/ドキソルビシンナノ粒子および抗体-複合体化アルブミン結合パクリタキセル/SN38ナノ粒子)、ならびにその医薬組成物が提供される。さらに、本明細書では、結合剤および/または治療薬と複合体化したナノ粒子(例えば、抗体-複合体化アルブミン結合パクリタキセル/ドキソルビシンナノ粒子および抗体-複合体化アルブミン結合パクリタキセル/SN38ナノ粒子)を作製する方法、ならびに癌の処置を必要とする患者において癌を処置する方法が提供される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
担体タンパク質、抗-癌エピトープに対する結合特異性をもつ結合剤、および治療有効量の治療薬およびパクリタキセルを含むナノ粒子複合体であって、前記ナノ粒子複合体は、前記ナノ粒子複合体が抗癌結合特異性を有するように、前記ナノ粒子複合体を形成する条件下で、水性の担体タンパク質-治療薬-パクリタキセルナノ粒子と前記結合剤とを混合することにより、インビトロで予め形成されている、ナノ粒子複合体。
【請求項2】
担体タンパク質、抗-癌エピトープに対する結合特異性をもつ結合剤、および治療有効量の治療薬およびパクリタキセル誘導体を含むナノ粒子複合体であって、前記パクリタキセル誘導体はパクリタキセルよりも毒性が低く、前記ナノ粒子複合体は、前記ナノ粒子複合体が抗癌結合特異性を有するように、前記ナノ粒子複合体を形成する条件下で、水性の担体タンパク質-治療薬-パクリタキセル誘導体ナノ粒子と前記結合剤とを混合することにより、インビトロで予め形成されている、ナノ粒子複合体。
【請求項3】
前記パクリタキセル誘導体が、20-アセトキシ-4-デアセチル-5-エピ-20,O-セコタキソールである、請求項2に記載のナノ粒子複合体。
【請求項4】
前記治療薬とパクリタキセル、または治療薬とパクリタキセル誘導体が、約5:1~1:20の治療薬:パクリタキセルの比で存在する、請求項1または2に記載のナノ粒子複合体。
【請求項5】
前記治療薬とパクリタキセル、または治療薬とパクリタキセル誘導体が、約3:1~1:10の治療薬:パクリタキセルの比で存在する、請求項4に記載のナノ粒子複合体。
【請求項6】
前記結合剤が抗体またはその抗原結合断片である、請求項1から5のいずれか1項に記載のナノ粒子複合体。
【請求項7】
前記担体タンパク質がアルブミンである、請求項1から6のいずれか1項に記載のナノ粒子複合体。
【請求項8】
前記治療薬がドキソルビシンまたはSN38である、請求項1から7のいずれか1項に記載のナノ粒子複合体。
【請求項9】
前記複合体の直径が0.05μm~1.0μmの間である、請求項1から8のいずれか1項に記載のナノ粒子複合体。
【請求項10】
前記複合体の直径が0.05μm~0.6μmの間である、請求項9に記載のナノ粒子複合体。
【請求項11】
担体タンパク質-治療薬-パクリタキセルナノ粒子と結合剤の前記比が、重量で50:1~1:2.5である、請求項1から10のいずれか1項に記載のナノ粒子複合体。
【請求項12】
薬学的に許容され得る担体およびナノ粒子複合体を含む医薬組成物であって、前記ナノ粒子複合体が、担体タンパク質、抗-癌エピトープに対する結合特異性をもつ結合剤、および治療有効量の治療薬およびパクリタキセルを含み、前記ナノ粒子複合体は、前記ナノ粒子複合体が抗癌結合特異性を有するように、前記ナノ粒子複合体を形成する条件下で、水性の担体タンパク質-治療薬-パクリタキセルナノ粒子と前記結合剤とを混合することにより、インビトロで予め形成されている、医薬組成物。
【請求項13】
薬学的に許容され得る担体およびナノ粒子複合体を含む医薬組成物であって、前記ナノ粒子複合体が、担体タンパク質、抗-癌エピトープに対する結合特異性をもつ結合剤、および治療有効量の治療薬およびパクリタキセル誘導体を含み、前記パクリタキセル誘導体はパクリタキセルよりも毒性が低く、前記ナノ粒子複合体は、前記ナノ粒子複合体が抗癌結合特異性を有するように、前記ナノ粒子複合体を形成する条件下で、水性の担体タンパク質-治療薬-パクリタキセル誘導体ナノ粒子と前記結合剤とを混合することにより、インビトロで予め形成されている、医薬組成物。
【請求項14】
前記パクリタキセル誘導体が、20-アセトキシ-4-デアセチル-5-エピ-20,O-セコタキソールである、請求項13に記載の医薬組成物。
【請求項15】
前記治療薬とパクリタキセル、または治療薬とパクリタキセル誘導体が、約5:1~1:20の治療薬:パクリタキセルの比で存在する、請求項12または13に記載の医薬組成物。
【請求項16】
前記治療薬とパクリタキセル、または治療薬とパクリタキセル誘導体が、約3:1~1:10の治療薬:パクリタキセルの比で存在する、請求項15に記載の医薬組成物。
【請求項17】
前記結合剤が抗体またはその抗原結合断片である、請求項12から16のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項18】
前記担体タンパク質がアルブミンである、請求項12から17のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項19】
前記治療薬がドキソルビシンまたはSN38である、請求項12から18のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項20】
前記複合体の前記平均直径が、0.05μm~1.0μmの間である、請求項12から19のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項21】
前記複合体の前記平均直径が、0.05μm~0.6μmの間である、請求項20に記載の医薬組成物。
【請求項22】
担体タンパク質-治療薬-パクリタキセルナノ粒子と結合剤の前記比が、重量で50:1~1:2.5である、請求項12から21のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項23】
注射用に製剤化される、請求項12から22のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項24】
前記薬学的に許容され得る担体が、生理食塩水、水、乳酸、マンニトール、またはそれらの組合せである、請求項12から23のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項25】
ナノ粒子複合体を含む凍結乾燥組成物であって、前記ナノ粒子複合体の各々は、担体タンパク質、抗-癌エピトープに対する結合特異性をもつ結合剤、および治療有効量の治療薬およびパクリタキセルを含み、前記ナノ粒子複合体は凍結乾燥されており、水溶液で再構成すると、前記ナノ粒子複合体はインビボで前記抗-癌エピトープに結合可能である、凍結乾燥組成物。
【請求項26】
ナノ粒子複合体を含む凍結乾燥組成物であって、前記ナノ粒子複合体の各々は担体タンパク質、抗-癌エピトープに対する結合特異性をもつ結合剤、および治療有効量の治療薬およびパクリタキセル誘導体を含み、前記パクリタキセル誘導体はパクリタキセルよりも毒性が低く、前記ナノ粒子複合体は凍結乾燥されており、水溶液で再構成すると、前記ナノ粒子複合体はインビボで前記抗-癌エピトープに結合可能である、凍結乾燥組成物。
【請求項27】
前記パクリタキセル誘導体が、20-アセトキシ-4-デアセチル-5-エピ-20,O-セコタキソールである、請求項26に記載のナノ粒子複合体。
【請求項28】
前記治療薬とパクリタキセル、または治療薬とパクリタキセル誘導体が、約5:1~1:20の治療薬:パクリタキセルの比で存在する、請求項25または26に記載の凍結乾燥組成物。
【請求項29】
前記治療薬とパクリタキセル、または治療薬とパクリタキセル誘導体が、約3:1~1:10の治療薬:パクリタキセルの比で存在する、請求項28に記載の凍結乾燥組成物。
【請求項30】
前記結合剤が抗体またはその抗原結合断片である、請求項25から29のいずれか1項に記載の凍結乾燥組成物。
【請求項31】
前記担体タンパク質がアルブミンである、請求項25から30のいずれか1項に記載の凍結乾燥組成物。
【請求項32】
前記治療薬がドキソルビシンまたはSN38である、請求項25から31のいずれか1項に記載のナノ粒子複合体。
【請求項33】
前記複合体の前記平均直径が、0.05μm~1.0μmの間である、請求項25~32のいずれか1項に記載の凍結乾燥組成物。
【請求項34】
前記複合体の前記平均直径が、0.05μm~0.6μmの間である、請求項33に記載の凍結乾燥組成物。
【請求項35】
担体タンパク質-治療薬-パクリタキセルナノ粒子と結合剤の前記比が、重量で50:1~1:2.5である、請求項25から34のいずれか1項に記載の凍結乾燥組成物。
【請求項36】
癌の処置を必要とする対象において癌を処置するための方法であって、前記方法は、治療有効量の請求項1~11のいずれか1項に記載のナノ粒子複合体、または請求項12~24のいずれか1項に記載の前記医薬組成物を前記対象に投与し、それによって前記癌を処置することを含む方法。
【請求項37】
前記ナノ粒子複合体または前記医薬組成物が、静脈内注射によって投与される、請求項36に記載の方法。
【請求項38】
前記対象がヒトである、請求項36または37に記載の方法。
【請求項39】
癌の処置を必要とする対象において癌を処置するための方法であって、前記方法は、請求項25~35のいずれか1項に記載の前記凍結乾燥組成物を薬学的に許容され得る賦形剤で再構成して、再構成されたナノ粒子組成物を形成すること、および治療有効量の前記再構成されたナノ粒子組成物を前記対象に投与し、それによって前記癌を処置することを含む、方法。
【請求項40】
前記再構成されたナノ粒子組成物が、静脈内注射によって投与される、請求項39に記載の方法。
【請求項41】
前記対象がヒトである、請求項39または40に記載の方法。
【請求項42】
ナノ粒子複合体を作製する方法であって、前記方法は、水性の担体タンパク質-治療薬-パクリタキセルナノ粒子と結合剤を、ナノ粒子複合体を形成する条件下でインビトロで混合することを含む、方法。
【請求項43】
ナノ粒子複合体を作製する方法であって、前記方法は、水性の担体タンパク質-治療薬-パクリタキセル誘導体ナノ粒子と結合剤を、ナノ粒子複合体を形成する条件下でインビトロで混合することを含み、前記パクリタキセル誘導体はパクリタキセルよりも毒性が低い、方法。
【請求項44】
前記パクリタキセル誘導体が、20-アセトキシ-4-デアセチル-5-エピ-20,O-セコタキソールである、請求項43に記載のナノ粒子複合体。
【請求項45】
前記治療薬とパクリタキセル、または治療薬とパクリタキセル誘導体が、約5:1~1:20の治療薬:パクリタキセルの比で存在する、請求項42または43に記載の方法。
【請求項46】
前記治療薬とパクリタキセル、または治療薬とパクリタキセル誘導体が、約3:1~1:10の治療薬:パクリタキセルの比で存在する、請求項45に記載の方法。
【請求項47】
前記結合剤が抗体またはその抗原結合断片である、請求項42から46のいずれか1項に記載の方法。
【請求項48】
前記担体タンパク質がアルブミンである、請求項42から47のいずれか1項に記載の方法。
【請求項49】
前記治療薬がドキソルビシンまたはSN38である、請求項42から48のいずれか1項に記載のナノ粒子複合体。
【請求項50】
前記複合体の直径が0.05μm~1.0μmの間である、請求項42から49のいずれか1項に記載の方法。
【請求項51】
前記複合体の直径が0.05μm~0.6μmの間である、請求項50に記載の方法。
【請求項52】
担体タンパク質-治療薬-パクリタキセルナノ粒子と結合剤の前記比が、重量で50:1~1:2.5である、請求項42から51のいずれか1項に記載の方法。
【請求項53】
ナノ粒子複合体を含む凍結乾燥ナノ粒子組成物を作製する方法であって、前記ナノ粒子複合体の各々は、担体タンパク質、抗-癌エピトープに対する結合特異性をもつ結合剤、および治療有効量の治療薬およびパクリタキセルを含み、前記方法は、水溶液で再構成されると前記ナノ粒子複合体が前記抗-癌エピトープに対する結合特異性を有するように、前記ナノ粒子複合体を形成する条件下で水性の担体タンパク質-治療薬-パクリタキセルナノ粒子と結合剤をインビトロで混合し、前記ナノ粒子複合体を凍結乾燥して前記凍結乾燥ナノ粒子組成物を形成することを含む、方法。
【請求項54】
ナノ粒子複合体を含む凍結乾燥ナノ粒子組成物を作製する方法であって、前記ナノ粒子複合体の各々は、担体タンパク質、抗-癌エピトープに対する結合特異性をもつ結合剤、および治療有効量の治療薬およびパクリタキセル誘導体を含み、前記パクリタキセル誘導体はパクリタキセルよりも毒性が低く、前記方法は、水溶液で再構成されると前記ナノ粒子複合体が前記抗-癌エピトープに対する結合特異性を有するように、前記ナノ粒子複合体を形成する条件下で水性の担体タンパク質-治療薬-パクリタキセルナノ粒子と結合剤をインビトロで混合し、前記ナノ粒子複合体を凍結乾燥して前記凍結乾燥ナノ粒子組成物を形成することを含む、方法。
【請求項55】
前記パクリタキセル誘導体が、20-アセトキシ-4-デアセチル-5-エピ-20,O-セコタキソールである、請求項54に記載のナノ粒子複合体。
【請求項56】
前記治療薬とパクリタキセル、または治療薬とパクリタキセル誘導体が、約5:1~1:20の治療薬:パクリタキセルの比で存在する、請求項53または54に記載の方法。
【請求項57】
前記治療薬とパクリタキセル、または治療薬とパクリタキセル誘導体が、約3:1~1:10の治療薬:パクリタキセルの比で存在する、請求項56に記載の方法。
【請求項58】
前記結合剤が抗体またはその抗原結合断片である、請求項53から57のいずれか1項に記載の方法。
【請求項59】
前記担体タンパク質がアルブミンである、請求項53から58のいずれか1項に記載の方法。
【請求項60】
前記治療薬がドキソルビシンまたはSN38である、請求項53から59のいずれか1項に記載のナノ粒子複合体。
【請求項61】
前記複合体の直径が0.05μm~1.0μmの間である、請求項53から60のいずれか1項に記載の方法。
【請求項62】
前記複合体の直径が0.05μm~0.6μmの間である、請求項61に記載の方法。
【請求項63】
担体タンパク質-治療薬-パクリタキセルナノ粒子と結合剤の前記比が、重量で50:1~1:2.5である、請求項53から62のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本開示は、結合剤および担体タンパク質の新規な組成物、ならびに特に癌治療薬としてこれを作製および使用する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
背景
化学療法は、多くの種類の癌の全身治療の中心であり続けている。大部分の化学療法薬は、腫瘍細胞に対する選択性がわずかしかなく、健康な増殖細胞に対する毒性が高くなることがあり(Allen TM.(2002)Cancer2:750-763)、多くの場合、用量の減少および処置の中止さえも必要とする。理論的には、化学療法の毒性の問題を克服し、薬効を改善する1つの方法は、腫瘍細胞が選択的に発現(または過剰発現)するタンパク質に特異的な抗体を使用して、化学療法薬が腫瘍を標的にして標的薬物を腫瘍に引き付けることである。それにより、化学療法の体内分布が変化し、より多くの薬物が腫瘍に行き、健康な組織への影響が少なくなる。しかし、30年にわたる研究にもかかわらず、治療薬の状況で特異的ターゲティングが成功することはほとんどない。
【0003】
従来の抗体薬物複合体(ADC)は、合成プロテアーゼ切断性リンカーを介してターゲティング抗体に連結された毒性物質を用いて設計されている。このようなADC治療の有効性は、標的細胞が抗体に結合する能力、リンカー切断される能力、および毒性物質の標的細胞への取り込みに依存する(Schrama,D.ら(2006)Nature reviews.Drug discovery5:147-159)。
抗癌抗体に共有結合によらずに結合させたnab-パクリタキセル(アブラキサン(登録商標))を含むナノ粒子複合体は、黒色腫および他の癌に対して効果的であり、単独で、または同時に別々に投与された複合体の成分よりも効果的であることが示されている(米国特許第9,427,477号;第9,446,148号;第9,757,453号)。
抗体標的化学療法は、ターゲティング能力、複数の細胞傷害性薬剤、および治療能力の向上の組み合わせを提供し、潜在的に毒性が低いため、従来の治療法よりも有利であることが見込まれる。広範な研究にもかかわらず、臨床的に効果的な抗体標的化学療法は依然として達成されていない。その主な障害には、抗体と化学療法薬との間のリンカーの不安性、抗体に結合したときの化学療法薬の腫瘍毒性の低下、および複合体が腫瘍細胞に結合および侵入できないことが挙げられる。さらに、これらの治療法では、抗体薬物複合体のサイズ自由に制御することができなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許第9,427,477号明細書
【特許文献2】米国特許第9,446,148号明細書
【特許文献3】米国特許第9,757,453号明細書
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Allen TM.(2002)Cancer2:750-763
【非特許文献2】Schrama,D.ら(2006)Nature reviews.Drug discovery5:147-159
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
要旨
本発明は、パクリタキセルと治療薬を含む担体タンパク質に共有結合によらずに結合抗癌剤結合剤を含む、ナノ粒子複合体の開発に一部基づいている。本明細書に記載のナノ粒子複合体は、驚くことに、パクリタキセルのみを含む担体タンパク質に共有結合によらずに結合抗癌剤結合剤で作製したナノ粒子複合体と比較して、インビトロで安定性が向上し、癌細胞に対する毒性が増加した。理論に縛られるものではないが、この本明細書に記載のナノ粒子複合体の安定性および毒性の増強は、腫瘍への薬物沈着を好むように体内分布をさらに改善し、臨床効果をさらに高める可能性があると考えられている。さらに、パクリタキセル誘導体(パクリタキセルよりも毒性が低い)と治療薬を含む担体タンパク質に共有結合によらずに結合抗癌剤結合剤を含むナノ粒子複合体は、パクリタキセル誘導体のみを含む担体タンパク質に共有結合によらずに結合抗癌剤結合剤で作製したナノ粒子複合体と比較して、または担体タンパク質、パクリタキセル誘導体および治療薬を含むナノ粒子複合体と比較して、インビボで毒性が増加した。
【0007】
ある態様では、担体タンパク質、抗-癌エピトープに対する結合特異性をもつ結合剤、および治療有効量の治療薬(例えば、ドキソルビシンまたはSN38)およびパクリタキセルを含むナノ粒子複合体であって、ナノ粒子複合体は、ナノ粒子複合体が抗癌結合特異性を有するように、ナノ粒子複合体を形成する条件下で、水性の担体タンパク質-治療薬-パクリタキセルナノ粒子と結合剤とを混合することにより、インビトロで予め形成されている、ナノ粒子複合体が本明細書に提供される。
【0008】
別の態様では、担体タンパク質、抗-癌エピトープに対する結合特異性をもつ結合剤、および治療有効量の治療薬(例えば、ドキソルビシンまたはSN38)およびパクリタキセル誘導体を含むナノ粒子複合体であって、パクリタキセル誘導体はパクリタキセルよりも毒性が低く、ナノ粒子複合体は、ナノ粒子複合体が抗癌結合特異性を有するように、ナノ粒子複合体を形成する条件下で、水性の担体タンパク質-治療薬-パクリタキセル誘導体ナノ粒子と結合剤とを混合することにより、インビトロで予め形成されている、ナノ粒子複合体が本明細書に提供される。
【0009】
なお別の態様では、薬学的に許容され得る担体およびナノ粒子複合体を含む医薬組成物であって、ナノ粒子複合体が、担体タンパク質、抗-癌エピトープに対する結合特異性をもつ結合剤、および治療有効量の治療薬(例えば、ドキソルビシンまたはSN38)およびパクリタキセルを含み、ナノ粒子複合体は、ナノ粒子複合体が抗癌結合特異性を有するように、ナノ粒子複合体を形成する条件下で、水性の担体タンパク質-治療薬-パクリタキセルナノ粒子と結合剤とを混合することにより、インビトロで予め形成されている、医薬組成物が本明細書に提供される。
【0010】
別の態様では、薬学的に許容され得る担体およびナノ粒子複合体を含む医薬組成物であって、ナノ粒子複合体が、担体タンパク質、抗-癌エピトープに対する結合特異性をもつ結合剤、および治療有効量の治療薬(例えば、ドキソルビシンまたはSN38)およびパクリタキセル誘導体を含み、パクリタキセル誘導体はパクリタキセルよりも毒性が低く、ナノ粒子複合体は、ナノ粒子複合体が抗癌結合特異性を有するように、ナノ粒子複合体を形成する条件下で、水性の担体タンパク質-治療薬-パクリタキセル誘導体ナノ粒子と結合剤とを混合することにより、インビトロで予め形成されている、医薬組成物が本明細書に提供される。
【0011】
別の態様では、ナノ粒子複合体を含む凍結乾燥組成物であって、ナノ粒子複合体の各々は、担体タンパク質、抗-癌エピトープに対する結合特異性をもつ結合剤、および治療有効量の治療薬およびパクリタキセルを含み、ナノ粒子複合体は凍結乾燥されており、水溶液で再構成すると、ナノ粒子複合体はインビボで抗-癌エピトープに結合可能である、凍結乾燥組成物が本明細書に提供される。
【0012】
なお別の態様では、ナノ粒子複合体を含む凍結乾燥組成物であって、ナノ粒子複合体の各々は担体タンパク質、抗-癌エピトープに対する結合特異性をもつ結合剤、および治療有効量の治療薬およびパクリタキセル誘導体を含み、パクリタキセル誘導体はパクリタキセルよりも毒性が低く、ナノ粒子複合体は凍結乾燥されており、水溶液で再構成すると、ナノ粒子複合体はインビボで抗-癌エピトープに結合可能である、凍結乾燥組成物が本明細書に提供される。
【0013】
別の態様では、癌の処置を必要とする対象において癌を処置するための方法であって、方法は、治療有効量の上記のナノ粒子複合体、または医薬組成物を対象に投与し、それによって癌を処置することを含む方法が本明細書に提供される。
【0014】
別の態様では、癌の処置を必要とする対象において癌を処置するための方法であって、方法は、ナノ粒子複合体の凍結乾燥組成物を薬学的に許容され得る賦形剤で再構成して、再構成されたナノ粒子組成物を形成すること、および治療有効量の再構成されたナノ粒子組成物を対象に投与し、それによって癌を処置することを含む、方法が本明細書に提供される。
【0015】
別の態様では、ナノ粒子複合体を作製する方法であって、方法は、水性の担体タンパク質-治療薬-パクリタキセルナノ粒子と結合剤を、ナノ粒子複合体を形成する条件下でインビトロで混合することを含む、方法が本明細書に提供される。
【0016】
別の態様では、ナノ粒子複合体を含む凍結乾燥ナノ粒子組成物を作製する方法であって、ナノ粒子複合体の各々は、担体タンパク質、抗-癌エピトープに対する結合特異性をもつ結合剤、および治療有効量の治療薬およびパクリタキセルを含み、方法は、水溶液で再構成されるとナノ粒子複合体が抗-癌エピトープに対する結合特異性を有するように、ナノ粒子複合体を形成する条件下で水性の担体タンパク質-治療薬-パクリタキセルナノ粒子と結合剤をインビトロで混合し、ナノ粒子複合体を凍結乾燥して凍結乾燥ナノ粒子組成物を形成することを含む、方法が本明細書に提供される。
【0017】
別の態様では、ナノ粒子複合体を含む凍結乾燥ナノ粒子組成物を作製する方法であって、ナノ粒子複合体の各々は、担体タンパク質、抗-癌エピトープに対する結合特異性をもつ結合剤、および治療有効量の治療薬およびパクリタキセル誘導体を含み、パクリタキセル誘導体はパクリタキセルよりも毒性が低く、方法は、水溶液で再構成されるとナノ粒子複合体が抗-癌エピトープに対する結合特異性を有するように、ナノ粒子複合体を形成する条件下で水性の担体タンパク質-治療薬-パクリタキセルナノ粒子と結合剤をインビトロで混合し、ナノ粒子複合体を凍結乾燥して凍結乾燥ナノ粒子組成物を形成することを含む、方法が本明細書に提供される。
【0018】
本明細書に記載のこれらおよび他の態様は、以下の説明においてさらに詳細に記載される。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1A】
図1Aは、ドキソルビシンとパクリタキセルを1:1、1:3および1:9の比で作製したナノ粒子の粒径を示す。
【0020】
【
図1B】
図1Bは、HPLCで測定した、ナノ粒子の製造後の総薬物量とアルブミン結合薬物量を示す。
【0021】
【
図1C】
図1Cは、ナノ粒子が安定しなくなる濃度の測定値を示す。
【0022】
【
図2】
図2は、ベバシズマブ、アブラキサン(登録商標)、およびnab-パクリタキセルと比較した、A375細胞に対するナノ粒子の毒性を示す。
【0023】
【
図3】
図3は、パクリタキセルのメーヤワイン生成物(無毒性パクリタキセル誘導体である)を形成する、パクリタキセルとメーヤワイン試薬との反応を示す。
【0024】
【
図4A】
図4Aは、以下のナノ粒子の粒径を示す:ABX Nab、ABX:BEV NIC、ABX:RIT NIC、ABX:STI3031 NIC、DOX:NTP Nab、DOX:NTP:RIT NIC、SN38:NTP Nab、SN38:NTP:BEV NIC、およびSN38:NTP:STI3031 NIC。
【0025】
【
図4B】
図4Bは、以下のナノ粒子のゼータ電位を示す:ABX Nab、ABX:BEV NIC、ABX:RIT NIC、ABX:STI3031 NIC、DOX:NTP Nab、DOX:NTP:RIT NIC、SN38:NTP Nab、SN38:NTP:BEV NIC、およびSN38:NTP:STI3031 NIC。
【0026】
【
図4C】
図4Cは、SN38単独、または2mg/ml、4mg/ml、6mg/ml、もしくは8mg/mlのPDL1抗体(STI-3031)と結合したSN38を含むnab-パクリタキセルナノ粒子のゼータ電位を示す。
【0027】
【
図5A】
図5Aは、HPLCで測定した、SN38と無毒性パクリタキセルの最初の投入量、ならびにナノ粒子の製造後の総薬物量およびアルブミン結合薬物量を示す。
【0028】
【
図5B】
図5Bは、HPLCで測定した、ナノ粒子の製造後の総薬物量とアルブミン結合薬物量(SN38またはドキソルビシン)を示す(無毒性パクリタキセルを使用してナノ粒子を製造)。
【0029】
【
図6A】
図6Aは、イリノテカンおよびSN38と比較した、SN38 Nabナノ粒子(SN38を含むnab-パクリタキセルナノ粒子)のMDA-MB-231細胞に対する毒性を示す(無毒性パクリタキセルを使用してナノ粒子を製造)。
【0030】
【
図6B】
図6Bは、ドキソルビシンと比較した、ドキソルビシンNabナノ粒子(ドキソルビシンを含むnab-パクリタキセルナノ粒子)のDaudi細胞に対する毒性を示す(無毒性パクリタキセルを使用してナノ粒子を製造)。
【0031】
【
図7-1】
図7は、雌胸腺欠損ヌードマウスのMDA-MB-231腫瘍異種移植片におけるインビボ有効性研究の結果を示す。すべてのnab-パクリタキセルナノ粒子は無毒性パクリタキセル誘導体で調製した。
図7Aは、マウスにおけるNIC 7.5(7.5mg/kgのSN38を含み、PDL1抗体STI3031に結合したnab-パクリタキセルナノ粒子)のインビボ有効性を示す。
図7Bは、マウスにおけるNab 7.5(7.5mg/kgのSN38を含むnab-パクリタキセルナノ粒子)のインビボ有効性を示す。
図7Cは、マウスにおけるSN38 7.5(7.5mg/kgのSN38)のインビボ有効性を示す。
図7Dは、マウスにおけるNIC 15(15mg/kgのSN38を含み、PDL1抗体STI3031に結合したnab-パクリタキセルナノ粒子)のインビボ有効性を示す。
図7Eは、マウスにおけるNab 15(15mg/kgのSN38を含むnab-パクリタキセルナノ粒子)のインビボ有効性を示す。
図7Fは、マウスにおけるSN38 15(15mg/kgのSN38)のインビボ有効性を示す。
図7Gは、マウスにおけるPDL1+Nab 15(15mg/kgのSN38と、別々に注射されたPDL1抗体STI 3031を含むnab-パクリタキセルナノ粒子)のインビボ有効性を示す。
図7Hは、マウスにおけるイリノテカン15(15mg/kgのイリノテカン)のインビボ有効性を示す。
図7Iは、マウスにおける生理食塩水のインビボ有効性を示す。
図7Jは、マウスにおける抗PDL1抗体(STI3031)のインビボ有効性を示す。
図7Kは、マウスにおけるNTP(nab-無毒性パクリタキセルナノ粒子)のインビボ有効性を示す。
【0032】
【
図8】
図8は、MDA-MB-231細胞を注射し、生理食塩水、抗PDL1、イリノテカン、NTP、SN38 7.5、SN38 15、Nab 7.5、Nab 15、PDL1+Nab 15、NIC 7.5、またはNIC 15で処置したマウスにおける7日目の腫瘍応答を示す。
【0033】
【
図9】
図9は、MDA-MB-231細胞を注射し、生理食塩水、抗PDL1、イリノテカン、NTP、SN38 7.5、SN38 15、Nab 7.5、Nab 15、PDL1+Nab 15、NIC 7.5、またはNIC 15で処置したマウスのカプラン・マイヤー生存曲線を示す。
【発明を実施するための形態】
【0034】
詳細な説明
本発明を以下でさらに詳細に説明する。この説明は、本発明を実施することのできるすべての異なる方法、または本発明に追加することのできるすべての機能の詳細なカタログであることを意図していない。例えば、一実施形態に関して例示される機能は、他の実施形態に組み込まれてもよく、特定の実施形態に関して例示される機能はその実施形態から削除されてもよい。その上、本発明から逸脱しない本開示に照らして、本明細書中で提案される様々な実施形態に対する多数の変形および追加が当業者には明らかであろう。したがって、以下の明細書は、本発明のいくつかの特定の実施形態を例示することを意図し、そのすべての置換、組合せ、および変形を網羅的に指定することを意図していない。
【0035】
文脈がそうでないことを示していない限り、本明細書に記載される様々な機能は任意の組み合わせで使用され得ることが特に意図される。さらに、本発明は、一部の実施形態において、本明細書に記載の任意の機能または機能の組み合わせが除外または省略され得ることも企図する。例えば、複合体が成分A、BおよびCを含むと明細書に記載されている場合、それはA、BまたはCのいずれか、あるいはその組合せは、単独でまたは任意の組合せで省略され、クレームを放棄され得ることが特に意図される。
【0036】
別に定義されない限り、本明細書において使用されるすべての技術用語および科学用語は、本発明が属する当業者が一般に理解する意味と同じ意味を有する。本明細書の説明で使用される用語は、特定の実施形態を説明することのみを目的としており、限定することを意図するものではない。
【0037】
ヌクレオチド配列は、特に指定のない限り、本明細書において左から右へ5’から3’方向の一本鎖のみで示される。ヌクレオチドおよびアミノ酸は、本明細書において、IUPAC-IUB生化学命名委員会に推奨される方法で、または(アミノ酸の場合には)1文字コードまたは3文字コードのいずれかで、両方とも37C.F.R.§1.822および確立された使用法に従って表される。
【0038】
特に指定のない限り、組換えおよび合成ポリペプチドの作製、抗体またはその抗原結合断片の作製、核酸配列の操作、および形質転換細胞の産生には当業者に公知の標準法を使用することができる。このような技術は当業者に公知である。例えば、SAMBROOKら、MOLECULAR CLONING:A LABORATORY MANUAL 2nd Ed.(Cold Spring Harbor,NY,1989);F.M.AUSUBELら、CURRENT PROTOCOLS IN MOLECULAR BIOLOGY(Green Publishing Associates,Inc.およびJohn Wiley&Sons,Inc.,New York)を参照されたい。
【0039】
本明細書で言及されるすべての刊行物、特許出願、特許、ヌクレオチド配列、アミノ酸配列、および他の参考文献は、参照によりその全文が組み込まれる。
【0040】
定義
説明および添付される特許請求の範囲で使用される、単数形の「a」、「an」および「the」は、文脈が明らかにそうでないことを示さない限り、複数形も含むことが意図される。
【0041】
本明細書において使用される、「および/または」とは、1またはそれを超える関連するリスト項目のありとあらゆる可能性のある組合せと、もう一つの選択肢(「または」)で解釈される場合の組合せの欠如を指し、包含する。
【0042】
さらに、本発明は、一部の実施形態において、本明細書に記載の任意の機能または機能の組み合わせが除外または省略され得ることも企図する。
【0043】
さらに、本発明の化合物または薬剤の量、用量、時間、温度などの測定可能な値に言及する場合に本明細書において使用される用語「約」は、指定された量の±10%、±5%、±1%、±0.5%、またはさらには±0.1%の変動を包含することを意味する。
【0044】
本明細書において使用される、「から本質的になる」という移行句は、列挙される材料またはステップと、特許請求される本発明の1または複数の基本的かつ新規な特徴に実質的に影響を及ぼさない材料またはステップを包含すると解釈される。したがって、本明細書において使用される「から本質的になる」という用語は、「含む」と等価であると解釈されるべきではない。
【0045】
本発明のポリヌクレオチドまたはポリペプチド配列に適用される、「から本質的になる」という用語(および文法上の変化形)は、列挙された配列(例えば、配列番号)と、ポリヌクレオチドまたはポリペプチドの機能を実質的に変化させないような、列挙された配列の5’および/または3’あるいはN末端および/またはC末端あるいは両末端間(例えば、ドメイン間)の合計10個またはそれ未満(例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9、または10個)の追加のヌクレオチドまたはアミノ酸の両方からなるポリヌクレオチドまたはポリペプチドを意味する。合計10個またはそれ未満の追加のヌクレオチドまたはアミノ酸には、一緒に付加された追加のヌクレオチドまたはアミノ酸の総数が含まれる。本明細書に記載のポリヌクレオチドに適用される、「実質的に変化した」という用語は、コードされたポリペプチドを発現する能力が、列挙された配列からなるポリヌクレオチドの発現量と比較して、少なくとも約50%またはそれを超えて増加または低下することを指す。本明細書に記載のポリペプチドに適用される、「実質的に変化した」という用語は、生物活性が、列挙された配列からなるポリペプチドの活性と比較して、少なくとも約50%またはそれを超えて増加または低下することを指す。
【0046】
「随意の」または「必要に応じて」とは、その後に記載される事象または状況が発生し得るかまたは発生し得ないか、およびその記載にその事象または状況が起こる例と起こらない例が含まれることを意味する。
【0047】
本明細書において、「治療量以下(sub-therapeutic)」という用語は、癌を処置するために慣習的に使用される治療薬の量を下回る治療薬(例えば、抗体などの結合剤)の量を記載するために使用される。例えば、治療量以下の量は、治療に必要であると製造業者に定義された量未満の量である。
【0048】
本明細書において使用される「ナノ粒子」という用語は、少なくとも1つの寸法が5ミクロン未満の粒子をさす。静脈内投与用などの好ましい実施形態では、ナノ粒子は1ミクロン未満である。腫瘍などへの直接投与では、ナノ粒子はより大きくてよい。さらに大きい粒子は、本発明では特に企図される。
【0049】
粒子集団では、個々の粒子の大きさは平均値の周りに分布している。そのため、集団の粒径は平均で表すことができ、パーセンタイルでも表すことができる。D50は、粒子の50%がそれよりも小さくなる粒径である。粒子の10%はD10値よりも小さく、粒子の90%はD90よりも小さい。明確でない場合、「平均」サイズはD50に等しい。粒径は、WO2016/057554号に記載されるように、例えばMastersizer2000(Malvern Instruments Ltd、英国Worcestershireより入手可能)を使用して、当技術分野で周知のレーザー回折によって求めてよい。
【0050】
「ナノ粒子」という用語は、より小さな単位のナノ粒子の別々の多量体も包含し得る。
【0051】
本明細書において使用される「nab」、「nab-パクリタキセル」、または「担体タンパク質含有ナノ粒子」という用語は、アルブミン結合ナノ粒子を指す。Nabには、ナノ粒子を形成するアルブミンとパクリタキセルまたはアルブミンとパクリタキセル誘導体が含まれており、このパクリタキセルまたはパクリタキセル誘導体はアルブミンに非共有結合している。nabには、1またはそれを超える治療薬(ドキソルビシンまたはSN38など)がさらに含まれてよい。
【0052】
本明細書において使用される「パクリタキセル誘導体」、「無毒性パクリタキセル(NTP)」または「無毒性パクリタキセル誘導体」という用語は、パクリタキセルよりも毒性の低いパクリタキセル誘導体をさす。「パクリタキセルよりも毒性の低い」とは、パクリタキセルと比較して、癌細胞および正常細胞を含む細胞に対する毒性の低下(例えば、細胞の死滅の低下)を示すパクリタキセル誘導体をさす。例えば、パクリタキセルのメーヤワイン生成物(Meerwein Product)である20-アセトキシ-4-デアセチル-5-エピ-20,O-セコタキソール(
図3)は、毒性が大幅に低下しており、パクリタキセルのC-4、C-5オキセタン環の破壊による可能性が高い。
【0053】
本明細書において使用される「NIC」、「ナノ粒子複合体」または「担体タンパク質含有ナノ粒子/結合剤複合体」という用語は、担体タンパク質(アルブミンなど)とパクリタキセルまたはパクリタキセル誘導体、結合剤(抗体またはその抗原結合断片、アプタマー、タンパク質、レクチンなど)、および必要に応じて1またはそれを超える治療薬(ドキソルビシンまたはSN38など)を含むナノ免疫複合体を指す。したがって、NICは、結合剤(抗体またはその抗原結合断片、アプタマー、タンパク質、レクチンなど)に非共有結合的に結合した「nab」で構成され、必要に応じて1またはそれを超える治療薬を含む。
【0054】
本明細書において使用される「バイオシミラー」という用語は、品質、安全性、および有効性において、イノベーター企業が販売する参照製品に匹敵するとみなされるバイオ医薬品をさす(米国公衆衛生法(42U.S.C.262(i))の第351(i)項)。バイオシミラーは、その参照生物製剤(例えば、ベバシズマブバイオシミラーの場合はベバシズマブ)と同一の一次アミノ酸配列、高度に類似した一次、二次、三次、および四次構造、翻訳後修飾、および生物活性を有すると当技術分野で理解されている。ここで、参照により本明細書に組み込まれる米国FDA「Scientific considerations in demonstrating biosimilarity to a reference product:guidance for industry」、2015に記載されるように、わずかな違いは臨床的に重要でないことが確認されており、バイオシミラーの臨床特性(機能、投薬、毒性など)は参照生物製剤と同じである。
【0055】
本明細書において使用される「担体タンパク質」という用語は、結合剤(抗体など)および/または他の治療薬(パクリタキセル、SN38およびドキソルビシンなど)を輸送する働きをするタンパク質をさす。本開示の結合剤は、担体タンパク質に可逆的に結合することができる。例示的な担体タンパク質は、以下でより詳細に考察される。
【0056】
本明細書において使用される「コア」という用語は、担体タンパク質、担体タンパク質と治療薬、または他の薬剤または薬剤の組合せで構成され得るナノ粒子の中心部または内側部分をさす。一部の実施形態では、結合剤の疎水性部分(例えば、抗体の疎水性部分)は、コアに組み込まれていてもよい。
【0057】
本明細書において、癌患者に対する「治療成績を高める」などの用語は、癌細胞または固形腫瘍の増殖の遅延または減少、あるいは癌細胞の総数または総腫瘍負荷の減少をさす。
【0058】
本明細書において使用される「治療薬」という用語は、治療上有用である薬剤、例えば、疾患状態、生理的症状、症候、または病因因子を処置、緩解または減弱するための薬剤、あるいはその評価または診断のための薬剤を意味する。治療薬は、化学療法薬、例えば、有糸分裂阻害剤、トポイソメラーゼ阻害剤、ステロイド、抗腫瘍抗生物質、代謝拮抗剤、アルキル化剤、酵素、プロテアソーム阻害剤、またはそれらの任意の組合せであってよい。本開示の方法において効果的に用いることができる治療薬の例としては、限定されるものではないが、パクリタキセル(タキソール)、ドキソルビシン、およびSN38が挙げられる。
【0059】
本明細書において、「結合剤」、「特異的な結合剤」、または「特異的に結合する結合剤」という用語は、標的抗原に結合し、無関係の化合物に特異的に結合しない薬剤をさす。本開示の方法において効果的に用いることができる結合剤の例としては、限定されるものではないが、レクチン、タンパク質、および抗体、例えばヒト化モノクローナル抗体などのモノクローナル抗体、キメラ抗体、またはポリクローナル抗体、またはその抗原結合断片、ならびにアプタマー、Fcドメイン融合タンパク質、および、Fcドメインなどの疎水性タンパク質ドメインを有するかまたはそれらに融合したアプタマーが挙げられる。一部の実施形態では、結合剤は外因性抗体である。外因性抗体は、ヒトなどの哺乳動物で哺乳動物の免疫系によって自然に産生されない抗体である。
【0060】
本明細書において使用される「抗体」という用語は、免疫グロブリン分子および免疫グロブリン分子の免疫学的に活性な部分(すなわち、抗原に免疫特異的に結合する抗原結合部位を含有する分子)をさす。この用語は、2本の免疫グロブリン重鎖と2本の免疫グロブリン軽鎖で構成される抗体ならびに全長抗体およびその部分を含む様々な形態もさし;それには、例えば、免疫グロブリン分子、モノクローナル抗体、キメラ抗体、CDRグラフト抗体、ヒト化抗体、Fab、Fab’、F(ab’)2、Fv、ジスルフィド結合Fv、scFv、シングルドメイン抗体(dAb)、ダイアボディ、多重特異性抗体、二重特異性抗体、抗イディオタイプ抗体、二重特異性抗体、その機能活性エピトープ結合断片、二機能性ハイブリッド抗体(例えば、Lanzavecchiaら、Eur.J.Immunol.17,105(1987))および単鎖(例えば、Hustonら、Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.,85、5879-5883(1988)およびBirdら、Science242,423-426(1988)、これらは参照により本明細書に組み込まれる)が挙げられる。(一般に、参照により本明細書に組み込まれる、Hoodら、Immunology,Benjamin,N.Y.,2ND ed.(1984);Harlow and Lane,Antibodies.A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory(1988);Hunkapiller and Hood,Nature,323,15-16(1986)を参照)。抗体はどんな種類のものであってもよい(例えば、IgG、IgA、IgM、IgEまたはIgD)。好ましくは、抗体はIgGである。抗体は、非ヒト(例えば、マウス、ヤギ、または任意のその他の動物由来)、完全ヒト、ヒト化、またはキメラのいずれでもよい。
【0061】
「アプタマー」という用語は、ポリペプチドなどの標的分子に結合する能力のある核酸分子またはペプチド分子をさす。例えば、本明細書に記載のアプタマーが特異的に結合することのできる標的分子としては、限定されるものではないが、CD20、CD38、CD52、PD-L1、Ly6E、HER2、HER3/EGFR DAF、ERBB-3受容体、CSF-1R、STEAP1、CD3、CEA、CD40、OX40、Ang2-VEGF、およびVEGFが挙げられる。特定の結合特異性をもつアプタマーの生成およびアプタマーの治療用途は、当技術分野で十分に確立されている。例えば、米国特許第5,475,096号、第5,270,163号、第5,582,981号、第5,840,867号、第6,011,020号、第6,051,698号、第6,147,204号、第6,180,348号および第6,699,843号、ならびに加齢性黄斑変性の処置に対するMacugen(登録商標)(Eyetech,New York)の治療効果などを参照されたい。
【0062】
Fc融合タンパク質は、抗体の結晶化可能な断片(Fc)ドメインと別の生理活性物質、例えば、タンパク質ドメイン、ペプチド、または核酸またはペプチドアプタマーなどを連結して、望ましい構造-機能特性と意義深い治療可能性をもつ分子を生成する、生物工学によって作製されたポリペプチドである。ガンマ免疫グロブリン(IgG)アイソタイプは、エフェクター機能の動員および血漿半減期の増加などの好ましい特徴のためにFc融合タンパク質を生成するための基礎としてしばしば使用される。融合パートナーとして使用することができるペプチドと核酸の両方のアプタマーの範囲を考えると、Fc融合タンパク質には多数の生物学的用途および薬学的用途がある。
【0063】
「解離定数」という用語は、「Kd」とも呼ばれ、特定の物質が個々の成分(例えば、タンパク質担体、結合剤、および随意の治療薬)に分離する程度を表す量をさす。
【0064】
本明細書において使用される「凍結乾燥した」、「凍結乾燥」などは、乾燥させる材料(ナノ粒子など)を最初に凍結させ、次に真空環境で昇華させることによって氷または凍結溶媒を除去するプロセスをさす。賦形剤は、凍結乾燥生成物の保存時の安定性を高めるために、凍結乾燥前の製剤に必要に応じて含められる。一部の実施形態では、ナノ粒子は、治療薬として使用する前の凍結乾燥成分(担体タンパク質、結合剤および随意の治療薬)から形成することができる。他の実施形態では、担体タンパク質、結合剤、および随意の治療薬は、最初にナノ粒子に結合され、その後、凍結乾燥される。凍結乾燥した試料は、さらに賦形剤を含んでよい。
【0065】
「緩衝液」という用語は、凍結乾燥前に溶液のpHを許容され得る範囲に維持する薬剤を包含し、それには、コハク酸(ナトリウムまたはカリウム)、ヒスチジン、リン酸(ナトリウムまたはカリウム)、トリス(トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン)、ジエタノールアミン、クエン酸(ナトリウム)などを挙げることができる。本発明の緩衝液は、約5.5~約6.5の範囲のpHを有し、好ましくは約6.0のpHを有する。pHをこの範囲に制御する緩衝液の例としては、コハク酸(コハク酸ナトリウムなど)、グルコン酸、ヒスチジン、クエン酸および他の有機酸緩衝液が挙げられる。
【0066】
「増量剤」という用語は、凍結乾燥製品の構造を提供する薬剤を含む。増量剤に使用される一般的な例としては、マンニトール、グリシン、ラクトース、およびスクロースが含まれる。薬学的に的確なケーキをもたらすことに加えて、増量剤は、崩壊温度の修正、凍結融解保護の提供、および長期保存でのタンパク質の安定性の向上長期保存に関して有用な品質を付与することもできる。これらの薬剤は張度調整剤としても機能し得る。
【0067】
「凍結保護剤」という用語は、一般に、おそらくタンパク質表面から優先的に排除されることによって、凍結によって誘発されるストレスに対してタンパク質に安定性を提供する薬剤を含む。また、これは一次乾燥と二次乾燥中、および製品の長期保存中の保護も提供することができる。例は、デキストランおよびポリエチレングリコールなどのポリマー;スクロース、グルコース、トレハロース、およびラクトースなどの糖類;ポリソルベートなどの界面活性剤;およびグリシン、アルギニン、セリンなどのアミノ酸である。
【0068】
「凍結乾燥保護剤」という用語には、乾燥または「脱水」プロセス(一次および二次乾燥サイクル)中にタンパク質に安定性を提供する薬剤が含まれる。これはおそらく非晶質のガラス状マトリックスを提供し、水素結合を介してタンパク質と結合し、乾燥プロセス中に除去される水分子を置換することによる。これは、タンパク質の立体構造を維持し、凍結乾燥サイクル中のタンパク質の分解を最小限に抑え、長期的な製品を改良するのに役立つ。例には、ポリオールまたはスクロースおよびトレハロースなどの糖類が挙げられる。
【0069】
「医薬製剤」という用語は、活性成分が有効であるのを許容するような形態をとり、製剤が投与される対象に有毒な追加の成分を含まない調製物をさす。
【0070】
「薬学的に許容され得る」賦形剤(ビヒクル、添加剤)は、用いる活性成分の有効量を提供するために、対象哺乳動物に合理的に投与されることができる賦形剤(ビヒクル、添加剤)である。
【0071】
「再構成時間」は、凍結乾燥製剤を再水和して溶液にするのに必要な時間である。
【0072】
「安定な」製剤は、保存時にその中のタンパク質がその物理的安定性および/または化学的安定性および/または生物活性を本質的に保持する製剤である。
【0073】
本明細書において使用される「エピトープ」という用語は、抗体などの結合剤によって認識される抗原の部分をさす。エピトープには、限定されるものではないが、タンパク質(抗体など)またはリガンドとの特異的相互作用を可能にする短いアミノ酸配列またはペプチド(必要に応じてグリコシル化されているかまたは修飾されたもの)が含まれる。例えば、エピトープは、結合剤の抗原結合部位が結合する分子の部分であり得る。
【0074】
「処置する」または「処置」という用語は、ヒトなどの対象における疾患または障害(例えば、癌)の処置を包含し、以下を含む:(i)疾患または障害を抑制すること、すなわち、その発症を抑止すること;(ii)疾患または障害を緩和すること、すなわち、障害の退行を引き起こすこと;(iii)障害の進行を遅らせること;および/または(iv)疾患または障害の1またはそれを超える症候を抑制、緩和、またはその進行を遅らせること。一部の実施形態では「処置する」または「処置」は、癌細胞の死滅をさす。
【0075】
癌の処置に関して「死滅させる」という用語は、その癌細胞または癌細胞集団の少なくとも一部の死をもたらすあらゆる種類の操作を含むことを表す。
【0076】
「用量」という用語は、治療薬を必要とする患者に投与される治療薬の量をさす。主治医は、患者の体重、年齢、健康、癌のステージ、および他の関連する要因に基づいた範囲から適切な用量を選択することになるが、これらはすべて十分に当業者の範囲内である。
【0077】
「単位用量」という用語は、所望の結果をもたらすために患者に投与される薬剤(例えば、治療薬、結合剤、および/またはナノ粒子複合体)の用量をさす。場合によっては、単位用量は、治療量以下の製剤(例えば、治療用量の10%)で販売される。単位用量は、単回用量または一連のサブ用量として投与されてよい。所与のFDA承認適応症の抗体の治療用量は処方情報に記載されている、例えば、ベバシズマブの治療用量は、症状に応じて5mg/kg~15mg/kgであり、好ましくは治療用量の5%~20%の治療量以下の用量範囲である。このような好ましい実施形態では、このような治療量以下の用量は、0.25mg/kg~3mg/kg、より好ましくは0.5~2mg/kgの範囲となる。ある結合剤がまだFDAに承認されていないか、または結合剤がまだその適応症に対して承認されていない場合には、その結合剤(例えば、抗体)の所与適応症に対する治療用量は、他の適応症について承認された治療用量に相関する量となる。したがって、FDAに承認されていない適応症の治療量以下の用量は、治療用量のパーセント(例えば、治療用量の10%)として容易に計算される。例えば、転移性黒色腫の処置のための抗体の治療用量、したがって治療量以下の用量は、承認されている一般的な転移性癌の治療用量に相関する。
【0078】
さらに、本明細書で使用されるいくつかの用語は、以下でより具体的に定義されている。
【0079】
概要
本発明は、一部分、アルブミン結合治療薬/パクリタキセルまたはパクリタキセル誘導体/抗癌抗体ナノ粒子複合体による患者の癌の処置が予想外に改善された治療成績(ドキソルビシンまたはSN38などの治療薬)をもたらすという驚くべき発見に基づいている。本文書は癌の処置に関連する方法および材料を提供する。例えば、本文書は、担体タンパク質含有ナノ粒子(例えば、アルブミン結合治療薬(例えば、ドキソルビシンまたはSN38)/パクリタキセルまたはパクリタキセル誘導体ナノ粒子)および結合剤(例えばFc融合タンパク質、例えばアプタマー、例えば抗体、例えば抗癌抗体)を含有する複合体を使用して癌を処置するための方法および材料を提供する。
【0080】
本明細書で提供される方法および材料は、あらゆるタイプの癌を処置するために使用することができる。例えば、本明細書で提供される方法および材料は、皮膚癌(黒色腫など)および乳癌を処置するために使用することができる。場合によっては、本明細書で提供される方法および材料は、限定されないが、マウス、ラット、イヌ、ネコ、ウマ、ウシ、ブタ、サル、およびヒトをはじめとするあらゆる種類の哺乳動物の癌を処置するために使用することができる。皮膚癌の処置の場合には、黒色腫などのあらゆるタイプの皮膚癌が本明細書で提供される方法および材料を使用して処置され得る。例えば、ステージI、ステージII、ステージIII、またはステージIVの黒色腫を処置することができる。場合によっては、リンパ節陽性、リンパ節陰性、または転移性黒色腫を本明細書に記載のように処置することができる。
【0081】
本明細書に記載される組成物および方法によって処置することができる癌または腫瘍としては、限定されるものではないが以下が挙げられる:胆道癌;神経膠芽腫および髄芽細胞腫を含む脳癌;乳癌;子宮頸癌;絨毛癌;結腸癌;子宮内膜癌;食道癌、胃癌;急性リンパ性および骨髄性白血病を含む血液腫瘍;多発性骨髄腫;AIDS関連白血病および成人T細胞白血病リンパ腫;ボーエン病およびパジェット病を含む上皮内腫瘍;肝臓癌(肝細胞癌);肺癌;ホジキン病およびリンパ球性リンパ腫を含むリンパ腫;神経芽細胞腫;扁平上皮癌を含む口腔癌;上皮細胞、間質細胞、生殖細胞および間葉系細胞から生じるものを含む卵巣癌;膵臓癌;前立腺癌;直腸癌;平滑筋肉腫、横紋筋肉腫、脂肪肉腫、線維肉腫および骨肉腫を含む肉腫;黒色腫、カポジ肉腫、基底細胞癌および扁平上皮癌を含む皮膚癌;胚性腫瘍(セミノーマ、非セミノーマ[奇形腫、絨毛癌])、間質性腫瘍および胚細胞腫瘍を含む精巣癌;甲状腺癌および髄様癌を含む甲状腺癌;腺癌およびウィルムス腫瘍を含む腎癌;および表1および表2に記載の癌。
【0082】
担体タンパク質結合化学療法薬/結合剤複合体(例えば、抗体-複合体化アルブミン結合ドキソルビシン/パクリタキセルナノ粒子複合体、抗体-複合体化アルブミン結合ドキソルビシン/パクリタキセル誘導体ナノ粒子複合体、抗体-複合体化アルブミン結合SN38/パクリタキセルナノ粒子複合体、および抗体-複合体化アルブミン結合SN38/パクリタキセル誘導体ナノ粒子複合体)およびナノ粒子複合体を調製する方法は、例えば、PCT特許公報第WO2012/154861号、WO2014/055415号、WO2015/191969号、WO2015/195476号、WO2016/057554号、WO2017/031368号、WO2017/176265号、WO2018/048816号、およびWO2018/048958号に記載されており、その開示は参照によりその全文が本明細書に組み込まれる。
【0083】
一部の実施形態では、抗体はそのバイオシミラーバージョンである。一部の実施形態では、抗体は、ナノ粒子の表面の全部または一部にある実質的に単層の抗体である。
【0084】
結合剤
一部の実施形態では、結合剤は、Fc融合タンパク質および/またはアプタマーであってよい。一部の実施形態では、結合剤は、抗体(抗癌抗体など)またはその抗原結合断片であってよい。一部の実施形態では、抗体は、表1に記載の抗体から選択され得る。実施形態では、抗体は、抗PDL1 H6B1L-EM抗体(STI3031)HC/LC配列番号1/配列番号2(PCT特許公報第WO2017/132562号に配列番号1/配列番号2(H6B1L-EM)として開示)である。抗体はそのバイオシミラーバージョンであってよい。表1の抗体のバイオシミラーとしては、限定されるものではないが、ベバシズマブのバイオシミラーとしてベバシズマブ-awwb(「MVASI(商標)」)、リツキシマブのバイオシミラーとしてGP2013およびリツキシマブ-abbs「TRUXIMA(登録商標)」)、トラスツズマブのバイオシミラーとしてトラスツズマブ-dkst(「OGIVRI」)、トラスツズマブ-dttb(「ONTRUZANT(登録商標)」)、およびトラスツズマブ-pkrb(「HERZUMA(登録商標)」)が挙げられる。
【表1-1】
【表1-2】
【表1-3】
【0085】
担体
一部の実施形態では、担体タンパク質は、アルブミン、ゼラチン、エラスチン(トポエラスチンを含む)またはエラスチン由来ポリペプチド(例えば、α-エラスチンおよびエラスチン様ポリペプチド(ELP))、グリアジン、レグミン、ゼイン、大豆タンパク質(例えば、大豆タンパク質分離物(SPI))、乳タンパク質(例えば、β-ラクトグロブリン(BLG)およびカゼイン)、またはホエイタンパク質(例えば、ホエイタンパク質濃縮物(WPC)およびホエイタンパク質分離物(WPI))であってよい。一部の実施形態では、担体タンパク質はアルブミンであってよい。一部の実施形態では、アルブミンは、卵白(オボアルブミン)、ウシ血清アルブミン(BSA)などである。一部の実施形態では、担体タンパク質は、ヒト血清アルブミン(HSA)、例えば、組換えHSAである。一部の実施形態では、担体タンパク質は、米国食品医薬品局(FDA)によって承認された、一般に安全とみなされている(GRAS)賦形剤である。
【0086】
治療薬
治療薬としてドキソルビシンおよびパクリタキセルを比較するナノ粒子を開発した。この薬剤の組合せは、パクリタキセルのみを含むナノ粒子よりも、安定性の向上および細胞毒性の向上をはじめとする実質的な利益をもたらす。SN38(イリノテカンの活性代謝物)とパクリタキセルを治療薬として比較するナノ粒子も開発された。この薬剤の組合せは、パクリタキセルのみを含むナノ粒子よりも、インビトロおよびインビボでの細胞毒性の向上をはじめとする実質的な利益をもたらす。したがって、本明細書に記載のナノ粒子複合体は、少なくともドキソルビシンまたはSN38、およびパクリタキセル(またはパクリタキセル誘導体)を治療薬として含む。ナノ粒子複合体には、さらなる治療薬が含まれてよい。
【0087】
1または複数の治療薬は、ナノ粒子の内部、ナノ粒子の外表面、またはその両方に位置し得ることが理解される。一部の実施形態では、ナノ粒子複合体は、1よりも多くの治療薬、例えば、2種類の治療薬、3種類の治療薬、4種類の治療薬、5種類の治療薬、またはそれを超える治療薬を含むことがある。さらに、ナノ粒子複合体は、ナノ粒子の内側と外側に同じまたは異なる治療薬を含むことがある。一部の実施形態では、どんな担体タンパク質、結合剤、治療薬、またはそのどんな組合せも明白に除外される。例えば、一部の実施形態では、組成物は、担体タンパク質およびアブラキサン(登録商標)以外の治療薬および/またはベバシズマブ以外のターゲティング抗体を含むことがある。
【0088】
一部の実施形態では、さらなる治療薬は、アビラテロン、ベンダムスチン、ボルテゾミブ(プロテアソーム阻害剤)、カルボプラチン、カバジタキセル、シスプラチン、クロラムブシル、ダサチニブ、ドセタキセル、ドキソルビシン、エピルビシン、エルロチニブ、エトポシド、エベロリムス、ゲフィチニブ、イダルビシン、イマチニブ、ヒドロキシ尿素、イマチニブ、ラパチニブ、リュープロレリン、メルファラン、メトトレキサート、ミトキサントロン、ネダプラチン、ニロチニブ、オキサリプラチン、パゾパニブ、ペメトレキセド、ピコプラチン、ロミデプシン、サトラプラチン、ソラフェニブ、ベムラフェニブ、スニチニブ、テニポシド、トリプラチン、ビンブラスチン、ビノレルビン、ビンクリスチン、シクロホスファミド、ベンダムスチン、ボルテゾミブ、カバジタキセル、クロラムブシル、ダサチニブ、ドセタキセル、エピルビシン、エルロチニブ、イダルビシン、ヒドロキシ尿素、イマチニブ、アドリアマイシン、プレドニゾン、デキサメタゾン、シタラビン、チオテパ、イフォスファミド、ダカルバジン、ブレオマイシン、イブルチニブ、キャンパス-B、ゲムシタビン、レブラミド、シロリムス、テムシロリムス、ベキサール、ブレンツキシマブ、ベンダムスチン、ベドチン、エムタンシン、および/または表2に記載のものから選択される。
【表2-1】
【表2-2】
【表2-3】
【表2-4】
【表2-5】
【表2-6】
【表2-7】
【0089】
場合によっては、癌を処置するための複合体を形成するために、結合剤、少なくともドキソルビシンとパクリタキセル、少なくともドキソルビシンとパクリタキセル誘導体、少なくともSN38とパクリタキセル、少なくともSN38とパクリタキセル誘導体を含む治療薬、または結合剤と治療薬の任意の組合せ、例えば表1および表2に記載されるものと複合体を形成する担体タンパク質を含有するナノ粒子(例えばアルブミンシェルを有するナノ粒子)を含むように組成物を製剤化することができる。例えば、担体タンパク質ナノ粒子は、黒色腫を処置するためにベバシズマブを含むように製剤化することができる。黒色腫を標的化する追加の結合剤、および黒色腫を処置するために有用な治療薬をナノ粒子に含めることができる。場合によっては、複数の異なる癌を処置する能力のある複合体を形成するために、表1および表2に記載される様々な結合剤または治療薬の組合せと複合体化(例えば、非共有結合)された担体タンパク質を含有するナノ粒子(例えばアルブミンシェルを有するナノ粒子)を含むように組成物を製剤化することができる。例えば、担体タンパク質ナノ粒子は、乳癌および卵巣癌を処置するための複合体として、トラスツズマブ、ベバシズマブ、およびドセタキセルを含むように製剤化することができる。
【0090】
場合によっては、担体タンパク質を含有するナノ粒子(例えばアルブミンシェルを有するナノ粒子)または本明細書に記載の複合体(例えば、抗体-複合体化アルブミン結合治療薬(例えばドキソルビシンまたはSN38)/パクリタキセルまたはパクリタキセル誘導体ナノ粒子複合体)は、癌患者内に存在する免疫機能障害および/または慢性炎症の全体的な状態を軽減するように設計された1またはそれを超える抗慢性炎症処置剤を含むように製剤化することができる。例えば、ステロイド性抗炎症薬(プレドニゾンなど)、非ステロイド性抗炎症薬(ナプロキセンなど)、リンパ枯渇性細胞傷害性薬剤(シクロホスファミドなど)、免疫細胞および/またはサイトカインターゲティング抗体(インフリキシマブなど)、またはその組合せを、担体タンパク質または結合剤-複合体化担体タンパク質結合治療薬(ドキソルビシンまたはSN38など)/パクリタキセルまたはパクリタキセル誘導体ナノ粒子複合体を含有するナノ粒子に組み込むことができる。場合によっては、抗IL-4剤(例えば、抗IL-4抗体)、抗IL-13剤(例えば可溶性IL-13受容体)、およびその組合せを、担体タンパク質またはアブラキサン(登録商標)を含有するナノ粒子/結合剤複合体に組み込むことができる。
【0091】
慢性炎症の処置の後に免疫機能障害および/または慢性炎症の全体的な状態が軽減されたかどうかを評価するために、任意の適切な方法を使用することができる。例えば、血液中に存在するサイトカインプロファイル(例えば、IL-4、IL-13、IL-5、IL-10、IL-2、およびインターフェロンγ)を、抗慢性炎症の処置の前後に評価して、免疫機能障害および/または慢性炎症の全体的な状態軽減されたかどうかを決定することができる。
【0092】
ナノ粒子およびナノ粒子複合体
任意の適切な方法を使用して担体タンパク質含有ナノ粒子を得ることができる。例えば、アルブミンを治療薬(例えば、ドキソルビシンまたはSN38)およびパクリタキセルまたはパクリタキセル誘導体と組み合わせて、ナノ粒子を形成してもよい。
【0093】
本明細書に記載の担体タンパク質含有ナノ粒子は、担体タンパク質(アルブミンなど)をパクリタキセルまたはパクリタキセル誘導体(20-アセトキシ-4-デアセチル-5-エピ-20,O-セコタキソール)およびドキソルビシンまたはSN38などの治療薬とともに、ナノ粒子を形成するための適した条件下でインキュベートすることによって形成されてよい。一部の実施形態では、担体タンパク質をドキソルビシンおよびパクリタキセルと同時に接触させる。実施形態では、担体タンパク質を、ドキソルビシンおよびパクリタキセル誘導体(20-アセトキシ-4-デアセチル-5-エピ-20,O-セコタキソール)と同時に接触させる。実施形態では、担体タンパク質をSN38およびパクリタキセルと同時に接触させる。実施形態では、担体タンパク質を、SN38およびパクリタキセル誘導体(20-アセトキシ-4-デアセチル-5-エピ-20,O-セコタキソール)と同時に接触させる。他の実施形態では、担体タンパク質を最初にパクリタキセルに接触させた後、ドキソルビシンに接触させるか、またはその逆にする。実施形態では、担体タンパク質を最初にパクリタキセル誘導体(20-アセトキシ-4-デアセチル-5-エピ-20,O-セコタキソール)に接触させた後、ドキソルビシンに接触させるかまたはその逆にする。他の実施形態では、担体タンパク質を最初にパクリタキセルに接触させた後、SN38に接触させるか、またはその逆にする。実施形態では、担体タンパク質を最初にパクリタキセル誘導体(20-アセトキシ-4-デアセチル-5-エピ-20,O-セコタキソール)に接触させた後、SN38に接触させるかまたはその逆にする。
【0094】
ナノ粒子中のドキソルビシン対パクリタキセル、またはSN38対パクリタキセルの比は、例えば、重量で5:1~1:20の治療薬:パクリタキセル、例えば、3:1~1:10、例えば5:1、4:1、3:1、2:1、1:1、1:2、1:3、1:4、1:5、1:6、1:7、1:8、1:9、1:10、1:11、1:12、1:13、1:14、1:15、1:16、1:17、1:18、1:19、または1:20、またはその中の任意の範囲であってよい。ナノ粒子中のドキソルビシン対パクリタキセル誘導体、またはSN38対パクリタキセル誘導体の比は、例えば、重量で5:1~1:20の治療薬:パクリタキセル誘導体、例えば、3:1~1:10、例えば5:1、4:1、3:1、2:1、1:1、1:2、1:3、1:4、1:5、1:6、1:7、1:8、1:9、1:10、1:11、1:12、1:13、1:14、1:15、1:16、1:17、1:18、1:19、または1:20、またはその中の任意の範囲であってよい。
【0095】
任意の適切な方法を使用して担体タンパク質含有ナノ粒子および結合剤(ナノ粒子複合体)を得ることができる。例えば、アルブミンを治療薬(例えば、ドキソルビシンまたはSN38)およびパクリタキセルまたはパクリタキセル誘導体と組み合わせてナノ粒子を形成することができ、次にそれを結合剤と組み合わせてナノ粒子複合体を形成することができる。
【0096】
一態様では、本発明のナノ粒子複合体は、ナノ粒子の表面に共有結合によらずに結合少なくとも100個の結合剤を含む。一態様では、ナノ粒子複合体は、ナノ粒子の表面に共有結合によらずに結合少なくとも200個の結合剤を含む。一態様では、ナノ粒子複合体は、ナノ粒子の表面に共有結合によらずに結合少なくとも300個の結合剤を含む。一態様では、ナノ粒子複合体は、ナノ粒子の表面に共有結合によらずに結合少なくとも400個の結合剤を含む。一態様では、ナノ粒子複合体は、ナノ粒子の表面に共有結合によらずに結合少なくとも500個の結合剤を含む。一態様では、ナノ粒子複合体は、ナノ粒子の表面に共有結合によらずに結合少なくとも600個の結合剤を含む。一部の実施形態では、結合剤は、Fc融合タンパク質、アプタマー、および/または抗体、例えば抗癌抗体であってよい。
【0097】
一態様では、ナノ粒子複合体は、ナノ粒子の表面に共有結合によらずに結合約100個~約1000個の結合剤を含む。一態様では、ナノ粒子複合体は、ナノ粒子の表面に共有結合によらずに結合約200個~約1000個の結合剤を含む。一態様では、ナノ粒子複合体は、ナノ粒子複合体の表面に共有結合によらずに結合約300個~約1000個の結合剤を含む。一態様では、ナノ粒子複合体は、ナノ粒子の表面に共有結合によらずに結合約400個~約1000個の結合剤を含む。一態様では、ナノ粒子複合体は、ナノ粒子の表面に共有結合によらずに結合約500個~約1000個の結合剤を含む。一態様では、ナノ粒子複合体は、ナノ粒子の表面に共有結合によらずに結合約600個~約1000個の結合剤を含む。一態様では、ナノ粒子複合体は、ナノ粒子の表面に共有結合によらずに結合約200個~約800個の結合剤を含む。一態様では、ナノ粒子複合体は、ナノ粒子の表面に共有結合によらずに結合約300個~約800個の結合剤を含む。好ましい実施形態では、ナノ粒子複合体は、ナノ粒子の表面に共有結合によらずに結合約400個~約800個の結合剤を含む。企図される値には、エンドポイントを含む、列挙された範囲のいずれかの内の任意の値または部分範囲が含まれる。
【0098】
いかなる理論にも拘束されることを望まないが、本出願の発明者らは、参照によりその全文が本明細書に組み込まれるButterfieldら、2017 Scientific Reports 7(1):14476に開示されるように、アルブミン-パクリタキセルまたはアルブミン-パクリタキセル誘導体ナノ粒子に特異的なアルブミンへのパクリタキセルまたはパクリタキセル誘導体の結合が、そうでなければ隠れていたナノ粒子上の抗体の疎水性結合のための結合部位を開くことを見出した。抗体の結合部位は、完全なHSA分子内の比較的内側に位置し、非常に疎水性の薬物結合部位に隣接している。このことは、完全抗体とnab-パクリタキセル(例えば、アブラキサン(登録商標))粒子以外の供給源由来のアルブミンとの間の結合が起こらないことと対になっていることから、アルブミン結合パクリタキセルまたはアルブミン結合パクリタキセル誘導体ナノ粒子形成のプロセスで、そうでなければ起こらない抗体-アルブミン結合を何かが可能にしていることが示唆される。この未知の独特な結合部位が凍結乾燥中に解放されて安定したままになるかどうかは不明であり、予測不可能であった。
【0099】
パクリタキセルまたはパクリタキセル誘導体に誘導される抗体の隠れた結合部位の解放は、ドキソルビシンまたはSN38のナノ粒子への添加によって阻害されない。実際に、治療薬(例えば、ドキソルビシンまたはSN38)の添加は、パクリタキセルまたはパクリタキセル誘導体のみと比較してナノ粒子複合体の特徴を強化する。
【0100】
場合によっては、担体タンパク質含有ナノ粒子と結合剤(例えば、Fc融合タンパク質、アプタマー、および/または抗体)を含有する複合体は、平均直径が1μmを超えるように設計することができる。例えば、平均直径が1μmを超える複合体が形成されるような、適切な濃度の担体タンパク質含有ナノ粒子および結合剤を使用することができる。場合によっては、遠心分離などの操作を使用して、複合体の平均直径が1μmを超える担体タンパク質含有ナノ粒子/結合剤複合体の調製物を形成することができる。場合によっては、本明細書で提供される担体タンパク質含有ナノ粒子/結合剤複合体の調製物の平均直径は、1μm~5μmの間(例えば、1.1μm~5μmの間、1.5μm~5μmの間、2μm~5μmの間、2.5μm~5μmの間、3μm~5μmの間、3.5μm~5μmの間、4μm~5μmの間、4.5μm~5μmの間、1.1μm~4.5μmの間、1.1μm~4μmの間、1.1μm~3.5μmの間、1.1μm~3μmの間、1.1μm~2.5μmの間、1.1μm~2μmの間、または1.1μm~1.5μmの間)であり得る。平均直径が1μm~5μmの間である本明細書で提供される担体タンパク質含有ナノ粒子/結合剤複合体の調製物は、哺乳動物の体内に位置する癌を処置するために全身に(例えば、静脈内に)投与され得る。場合によっては、本明細書で提供される担体タンパク質含有ナノ粒子/結合剤複合体の調製物の平均直径は、5μm~50μmの間、(例えば、6μm~50μmの間、7μm~50μmの間、10μm~50μmの間、15μm~50μmの間、20μm~50μmの間、25μm~50μmの間、30μm~50μmの間、35μm~50μmの間、5μm~45μmの間、5μm~40μmの間、5μm~35μmの間、5μm~30μmの間、5μm~25μmの間、5μm~20μmの間、5μm~15μmの間、または10μm~30μmの間)であり得る。平均直径が5μm~50μmの間である本明細書で提供される担体タンパク質含有ナノ粒子/結合剤複合体の調製物は、哺乳動物の体内に位置する腫瘍に(例えば、腫瘍内に)または腫瘍の領域に投与され得る。
【0101】
腫瘍への直接注射には、腫瘍部位へのまたはその近傍への注射、腫瘍への灌流などが含まれる。腫瘍への直接注射用に製剤化される場合、ナノ粒子複合体はどんな平均粒径も含むことができる。理論に縛られるものではないが、大きい粒子(例えば、500nmを超える、1μmを超える粒子など)のほうが腫瘍内で固定化される可能性が高く、それによって有益な効果をもたらすと考えられている。大きい粒子は腫瘍または特定の臓器に蓄積することができる。例えば、肝臓の腫瘍を養う冠動脈に注射するために使用される20~60ミクロンのガラス粒子、「TheraSphere(登録商標)」(肝臓癌に対して臨床使用中)を参照されたい。そのため、静脈内投与では、通常1μm未満の粒子が使用される。1μmを超える粒子は、より一般的には、腫瘍に直接投与されるか(「直接注射」)、または腫瘍の部位に流れ込む動脈に投与される。
【0102】
場合によっては、本明細書で提供される担体タンパク質含有ナノ粒子/結合剤複合体の調製物は、60パーセントを超える(例えば、65、70、75、80、90、95、または99パーセントを超える)複合体を有することができ、複合体の直径は1μm~5μmの間、(例えば、1.1μm~5μmの間、1.5μm~5μmの間、2μm~5μmの間、2.5μm~5μmの間、3μm~5μmの間、3.5μm~5μmの間、4μm~5μmの間、4.5μm~5μmの間、1.1μm~4.5μmの間、1.1μm~4μmの間、1.1μm~3.5μmの間、1.1μm~3μmの間、1.1μm~2.5μmの間、1.1μm~2μmの間、または1.1μm~1.5μmの間)である。直径が1μm~5μmの間の複合体が60パーセントを超える(例えば、65、70、75、80、90、95、または99パーセントを超える)、本明細書で提供される担体タンパク質含有ナノ粒子/結合剤複合体の調製物は、全身に(例えば、静脈内に)投与されて、哺乳動物の体内に位置する癌を処置することができる。場合によっては、本明細書で提供される担体タンパク質含有ナノ粒子/結合剤複合体の調製物は、60パーセントを超える(例えば、65、70、75、80、90、95、または99パーセントを超える)複合体を有することができ、複合体の直径は5μm~50μmの間(例えば、6μm~50μmの間、7μm~50μmの間、10μm~50μmの間、15μm~50μmの間、20μm~50μmの間、25μm~50μmの間、30μm~50μmの間、35μm~50μmの間、5μm~45μmの間、5μm~40μmの間、5μm~35μmの間、5μm~30μmの間、5μm~25μmの間、5μm~20μmの間、5μm~15μmの間、または10μm~30μmの間)である。直径が5μm~50μmの間の複合体が60パーセントを超える(例えば、65、70、75、80、90、95、または99パーセントを超える)、本明細書で提供される担体タンパク質含有ナノ粒子/結合剤複合体の調製物は、哺乳動物の体内に位置する腫瘍に(例えば、腫瘍内に)または腫瘍の領域に投与され得る。一部の実施形態では、ナノ粒子複合体は、新たに作製されたか、または凍結乾燥されて注射に適した水溶液に再懸濁された後のいずれかに上記の平均粒径を有する。
【0103】
一態様では、組成物内の約0.01%未満のナノ粒子複合体は、200nmよりも大きい、300nmよりも大きい、400nmよりも大きい、500nmよりも大きい、600nmよりも大きい、700nm、または800nmよりも大きい粒径を有する。一態様では、組成物内の約0.001%未満のナノ粒子複合体は、200nmよりも大きい、300nmよりも大きい、400nmよりも大きい、500nmよりも大きい、600nmよりも大きい、700nm、または800nmよりも大きい粒径を有する。好ましい実施形態では、組成物内の約0.01%未満のナノ粒子複合体は、800nmよりも大きい粒径を有する。より好ましい実施形態では、組成物内の約0.001%未満のナノ粒子複合体は、800nmよりも大きい粒径を有する。
【0104】
場合によっては、担体タンパク質含有ナノ粒子と結合剤(例えば、抗体)を含有する複合体は、平均直径が1μm未満になるように設計することができる。例えば、平均直径が1μm未満の複合体が形成されるような、適切な濃度の担体タンパク質含有ナノ粒子および結合剤を使用することができる。場合によっては、本明細書で提供される担体タンパク質含有ナノ粒子/結合剤複合体の調製物の平均直径は、0.05μm~1μmの間(例えば、0.05μm~0.95μmの間、0.05μm~0.9μmの間、0.05μm~0.8μmの間、0.05μm~0.7μmの間、0.05μm~0.6μmの間、0.05μm~0.5μmの間、0.05μm~0.4μmの間、0.05μm~0.3μmの間、0.05μm~0.2μmの間、0.2μm~1μmの間、0.3μm~1μmの間、0.4μm~1μmの間、0.5μm~1μmの間、0.2μm~0.6μmの間、0.3μm~0.6μmの間、0.2μm~0.5μmの間、または0.3μm~0.5μmの間)であり得る。平均直径が0.05μm~0.9μmの間である本明細書で提供される担体タンパク質含有ナノ粒子/結合剤複合体の調製物は、哺乳動物の体内に位置する癌を処置するために全身に(例えば、静脈内に)投与され得る。一態様では、ナノ粒子複合体組成物は、静脈内注射用に製剤化される。虚血事象を回避するために、静脈内注射用に製剤化されたナノ粒子組成物は、平均粒径が約1μm未満のナノ粒子を含むべきである。
【0105】
場合によっては、本明細書で提供される担体タンパク質含有ナノ粒子/結合剤複合体の調製物は、60パーセントを超える(例えば、65、70、75、80、90、95、または99パーセントを超える)複合体を有することができ、複合体の直径は0.05μm~1μmの間(例えば、0.05μm~0.95μmの間、0.05μm~0.9μmの間、0.05μm~0.8μmの間、0.05μm~0.7μmの間、0.05μm~0.6μmの間、0.05μm~0.5μmの間、0.05μm~0.4μmの間、0.05μm~0.3μmの間、0.05μm~0.2μmの間、0.2μm~1μmの間、0.3μm~1μmの間、0.4μm~1μmの間、0.5μm~1μmの間、0.2μm~0.6μmの間、0.3μm~0.6μmの間、0.2μm~0.5μmの間、または0.3μm~0.5μmの間)である。直径が0.05μm~1μmの間の複合体が60パーセントを超える(例えば、65、70、75、80、90、95、または99パーセントを超える)、本明細書で提供される担体タンパク質含有ナノ粒子/結合剤複合体の調製物は、全身に(例えば、静脈内に)投与されて、哺乳動物の体内に位置する癌を処置することができる。
【0106】
一部の実施形態では、本明細書に列挙されるサイズおよびサイズ範囲は、再構成された凍結乾燥ナノ粒子組成物の粒径に関連する。つまり、凍結乾燥ナノ粒子が水溶液(例えば、水、他の薬学的に許容され得る賦形剤、緩衝液など)に再懸濁された後の粒径または平均粒径は、本明細書に列挙される範囲内にある。
【0107】
一態様では、少なくとも約50%、60%、70%、80%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、99.5%、または99.9%のナノ粒子複合体が、再構成された組成物中に単一のナノ粒子として存在する。つまり、ナノ粒子複合体の約50%、40%、30%未満などが二量体化または多量体化(オリゴマー化)されている。
【0108】
一部の実施形態では、ナノ粒子複合体のサイズは、担体タンパク質と結合剤の量(例えば、比)を調製することによって制御することができる。ナノ粒子複合体のサイズ、およびサイズ分布も重要である。本明細書に記載のナノ粒子複合体は、それらのサイズに応じて異なって挙動することがある。大きいサイズでは、凝集が血管を塞ぐ可能性がある。そのため、ナノ粒子複合体の凝集は、組成物の性能および安全性に影響を及ぼし得る。一方、より大きな粒子複合体(例えば、多量体)は、特定の条件下(例えば、静脈内投与されない場合)でより治療的であり得る。
【0109】
一般に、担体タンパク質含有ナノ粒子は、ヒトへの投与の前にポリペプチド抗体などの結合剤と接触させて、担体タンパク質含有ナノ粒子/結合剤複合体(例えば、アルブミン/ドキソルビシン/パクリタキセル粒子/抗VEGFポリペプチド抗体複合体、アルブミン/SN38/パクリタキセル粒子/抗VEGFポリペプチド抗体複合体、アルブミン/ドキソルビシン/パクリタキセル誘導体粒子/抗VEGFポリペプチド抗体複合体、アルブミン/SN38/パクリタキセル誘導体粒子/抗VEGFポリペプチド抗体複合体、アルブミン/ドキソルビシン/パクリタキセル粒子/抗CD20ポリペプチド抗体複合体、アルブミン/SN38/パクリタキセル粒子/抗CD20ポリペプチド抗体複合体、アルブミン/ドキソルビシン/パクリタキセル誘導体粒子/抗CD20ポリペプチド抗体複合体、アルブミン/SN38/パクリタキセル誘導体粒子/抗CD20ポリペプチド抗体複合体、アルブミン/ドキソルビシン/パクリタキセル粒子/抗PDL1ポリペプチド抗体複合体、アルブミン/SN38/パクリタキセル粒子/抗PDL1ポリペプチド抗体複合体、アルブミン/ドキソルビシン/パクリタキセル誘導体粒子/抗PDL1ポリペプチド抗体複合体、アルブミン/SN38/パクリタキセル誘導体粒子/抗PDL1ポリペプチド抗体複合体など)を形成することができる。任意の適切な担体タンパク質含有ナノ粒子調製物および任意の適切な結合剤は、本明細書に記載されるように使用することができる。例えば、アルブミン/ドキソルビシン/パクリタキセル粒子ナノ粒子、アルブミン/ドキソルビシン/パクリタキセル誘導体(20-アセトキシ-4-デアセチル-5-エピ-20,O-セコタキソール)粒子ナノ粒子、アルブミン/SN38/パクリタキセル粒子ナノ粒子、またはアルブミン/SN38/パクリタキセル誘導体(20-アセトキシ-4-デアセチル-5-エピ-20,O-セコタキソール)粒子ナノ粒子は、本明細書に記載されるように使用することができる。本明細書に記載されるように担体タンパク質含有ナノ粒子/結合剤複合体を形成するために使用することができる結合剤の例としては、限定されないが、表1に列挙されるものが挙げられる。例えば、適切な用量のアルブミン/ドキソルビシンまたはSN38/パクリタキセルまたはパクリタキセル誘導体(20-アセトキシ-4-デアセチル-5-エピ-20,O-セコタキソール)粒子と適切な用量の結合剤は、同一容器内で一緒に混合することができる。この混合物は、約5℃~約60℃の適切な温度、またはエンドポイントを含むその範囲内の任意の範囲、部分範囲、または値でインキュベートすることができる。実施形態では、混合物は、癌患者に投与される前の一定期間(例えば、約30分、または約5~約60分の間、約5~約45分の間、約15~約60分の間、約15~約45分の間、約20~約40分の間、または約25~約35分の間)、室温で、例えば、約15℃~約30℃の間、約15℃~約25℃の間、約20℃~約30℃の間、または約20℃~約25℃の間でインキュベートすることができる。
【0110】
場合によっては、担体タンパク質含有ナノ粒子を結合剤と接触させて、癌患者に投与される前に保存される担体タンパク質含有ナノ粒子/結合剤複合体を形成することができる。例えば、担体タンパク質含有ナノ粒子/結合剤複合体を含有する組成物は、本明細書に記載されるように形成し、癌患者に投与される前に一定期間(例えば、数日または数週間)保存することができる。
【0111】
一実施形態では、ナノ粒子複合体の結合剤は、ナノ粒子複合体上におよび/またはその内部に、例えば担体タンパク質結合治療薬(例えば、ドキソルビシンまたはSN38)/パクリタキセルコアの表面上に組み込まれている。一実施形態では、ナノ粒子複合体の結合剤は、担体タンパク質(例えば、アルブミン)結合治療薬(例えば、ドキソルビシンまたはSN38)/パクリタキセルコアの表面上に配置されている。一実施形態では、ナノ粒子複合体の結合剤は、担体タンパク質結合治療薬(例えば、ドキソルビシンまたはSN38)/パクリタキセルコアと会合している。実施形態では、ナノ粒子複合体の結合剤は、ナノ粒子複合体上におよび/またはその内部に、例えば、担体タンパク質結合治療薬(例えば、ドキソルビシンまたはSN38)/パクリタキセル誘導体コアの表面上に組み込まれている。実施形態では、ナノ粒子複合体の結合剤は、担体タンパク質(例えば、アルブミン)結合治療薬(例えば、ドキソルビシンまたはSN38)/パクリタキセル誘導体コアの表面上に配置されている。実施形態では、ナノ粒子複合体の結合剤は、担体タンパク質結合治療薬(例えば、ドキソルビシンまたはSN38)/パクリタキセル誘導体コアと会合している。一実施形態では、ナノ粒子複合体の結合剤は、ナノ粒子複合体中の担体タンパク質、例えば、アルブミンと非共有結合的に会合(結合)している。一実施形態では、担体タンパク質(例えば、アルブミン)および治療薬、例えば、ドキソルビシン、SN38およびパクリタキセル(またはパクリタキセル誘導体)は、非共有結合を介して会合している(互いに結合している)。
【0112】
一態様では、ナノ粒子組成物のナノ粒子複合体は、担体タンパク質または担体タンパク質-治療薬粒子と結合剤を、約50:1~約10:30(濃度による)の比の担体タンパク質粒子または担体タンパク質-治療薬粒子:結合剤の比で接触させることにより形成される。一実施形態では、この比は約50:2~約10:25である。一実施形態では、この比は約50:2~約1:1である。一実施形態では、この比は約50:2~約10:6である。一実施形態では、この比は約50:4である。一実施形態では、この比は約50:2である。企図される比には、エンドポイントを含む、列挙された範囲のいずれかの内の任意の値、部分範囲、または範囲が含まれる。
【0113】
一実施形態では、ナノ粒子複合体を形成するために用いられる溶液または他の液体培地の量は特に重要である。ナノ粒子複合体は、担体タンパク質(または担体タンパク質-治療薬)および結合剤の過度に希薄な溶液では形成されない。過度に濃縮された溶液は、構造化されていない凝集体をもたらす。一部の実施形態では、用いる溶液(例えば、滅菌水、生理食塩水、リン酸緩衝生理食塩水)の量は、約0.5mLの溶液~約20mLの溶液の間である。一部の実施形態では、担体タンパク質(または担体タンパク質-治療薬)ナノ粒子の濃度は、約1mg/mL~約100mg/mLの間である。一部の実施形態では、抗体の濃度は、約0.04mg/mL~約4mg/mLの間である。例えば、一部の実施形態では、担体タンパク質:結合剤溶液の比は、1mLの溶液(例えば、生理食塩水)中、約25mgの担体タンパク質(例えば、アルブミン):1mgの結合剤(例えば、抗体)である。治療薬(例えば、ドキソルビシン、SN38およびパクリタキセル)も担体タンパク質に添加することができる。典型的なIVバッグを使用する場合、例えば約1リットルの溶液では、1mLで使用する場合と比較して1000倍の量の担体タンパク質/担体タンパク質-治療薬および結合剤を使用する必要がある。したがって、標準的なIVバッグでは本発明のナノ粒子を形成することはできない。さらに、成分を本発明の治療量で標準的なIVバッグに添加すると、成分はナノ粒子複合体を形成するために自己集合しない。
【0114】
一実施形態では、1または複数の担体タンパク質または担体タンパク質-治療薬粒子を、約4~約8の間のpHを有する溶液中で結合剤と接触させる。一実施形態では、1または複数の担体タンパク質または担体タンパク質-治療薬粒子を、約4のpHを有する溶液中で結合剤と接触させる。一実施形態では、1または複数の担体タンパク質または担体タンパク質-治療薬粒子を、約5のpHを有する溶液中で結合剤と接触させる。一実施形態では、1または複数の担体タンパク質または担体タンパク質-治療薬粒子を、約6のpHを有する溶液中で結合剤と接触させる。一実施形態では、1または複数の担体タンパク質または担体タンパク質-治療薬粒子を、約7のpHを有する溶液中で結合剤と接触させる。一実施形態では、1または複数の担体タンパク質または担体タンパク質-治療薬粒子を、約8のpHを有する溶液中で結合剤と接触させる。好ましい実施形態では、1または複数の担体タンパク質または担体タンパク質-治療薬粒子を、約5~約7の間のpHを有する溶液中で結合剤と接触させる。
【0115】
理論に縛られるものではないが、ナノ粒子組成物内のナノ粒子複合体の安定性は、少なくとも一部分、ナノ粒子複合体が形成される温度および/またはpH、ならびに溶液中の成分(すなわち、担体タンパク質、結合剤、および必要に応じて治療薬)の濃度に依存すると考えられている。一実施形態では、ナノ粒子複合体のKdは、約1×10-11M~約2×10-5Mの間である。一実施形態では、ナノ粒子複合体のKdは、約1×10-11M~約2×10-8Mの間である。一実施形態では、ナノ粒子複合体のKdは、約1×10-11M~約7×10-9Mの間である。好ましい実施形態では、ナノ粒子複合体のKdは、約1×10-11M~約3×10-8Mの間である。企図される値には、エンドポイントを含む、列挙された範囲のいずれかの内の任意の値、部分範囲、または範囲が含まれる。
【0116】
凍結乾燥
本明細書に記載の凍結乾燥組成物は、安定剤、緩衝液などの存在下または非存在下で、標準的な凍結乾燥技術によって調製される。驚くべきことに、これらの条件は、ナノ粒子複合体の比較的脆弱な構造を変えない。さらに、これらのナノ粒子複合体は、凍結乾燥によってせいぜいそのサイズ分布を保持するかまたはそのサイズ分布を増大させる程度であり、さらに重要なことに、新たに作製された場合と実質的に同じ形態および比でインビボ投与(例えば、静脈内送達)用に再構成することができる。
【0117】
本発明はさらに、担体タンパク質、結合剤、例えば、抗体、アプタマー、または疎水性ドメインと結合ドメインを有する融合タンパク質、例えば、アプタマーまたは細胞受容体のリガンドに融合したFcドメイン、および治療薬を含む、必要に応じて凍結乾燥したナノ粒子が、患者に対する毒性を最小限に抑えながら腫瘍への標的治療を提供するという驚くべき発見に一部分基づいている。したがって、本明細書に記載のナノ粒子は、従来のADCと比べて大幅に改善されている。
【0118】
凍結乾燥またはフリーズドライは、組成物から水を除去する。このプロセスでは、乾燥させる材料が最初に凍結され、次に氷または凍結した溶媒が真空環境での昇華によって除去される。賦形剤は、凍結乾燥プロセス中の安定性を高めるため、および/または保存時の凍結乾燥製品の安定性を改善するために、凍結乾燥前の製剤に含めることができる。Pikal、M.Biopharm.3(9)26-30(1990)およびArakawaら、Pharm.Res.8(3):285-291(1991)。
【0119】
タンパク質は凍結乾燥することができるが、凍結乾燥および再構成のプロセスは、タンパク質の特性に影響を及ぼす可能性がある。タンパク質は、従来の有機および無機薬物よりも大きく複雑であるため(すなわち、複雑な三次元構造に加えて複数の官能基をもっている)、このようなタンパク質の製剤は特別な問題を提起する。タンパク質が生物活性を維持するために、製剤は、タンパク質の複数の官能基を分解から保護すると同時に、タンパク質のアミノ酸の少なくともコア配列のコンフォメーションの完全性をそのまま維持する必要がある。タンパク質の分解経路には、化学的不安定性(すなわち、結合形成または切断によるタンパク質の修飾を伴い、新しい化学物質が生じるあらゆるプロセス)または物理的不安定性(すなわち、タンパク質の工事構造の変化)が関与する可能性がある。化学的不安定性は、脱アミド化、ラセミ化、加水分解、酸化、β脱離またはジスルフィド交換に起因し得る。物理的不安定性は、例えば、変性、凝集、沈殿または吸着に起因し得る。最も一般的な3つのタンパク質分解経路は、タンパク質の凝集、脱アミド化および酸化である。Clelandら、Critical Reviews in Therapeutic Drug Carrier Systems 10(4):307-377(1993)。
【0120】
本明細書で提供される組成物は、(a)担体タンパク質(b)結合剤および(c)治療薬を含有するナノ粒子を含む。結合剤は、おそらくその性質上弱い疎水性相互作用によって、担体タンパク質に非共有結合している。そのため、このような組成物の凍結乾燥および再構成は、個々の成分の活性を維持するだけでなく、ナノ粒子におけるそれらの相対的な関係も維持する必要がある。しかし、個々の成分の活性、ならびにナノ粒子におけるそれらの相対的な関係は、組成物の凍結乾燥および再構成にもかかわらず維持される。担体タンパク質への結合、例えば結合剤の担体タンパク質への複合体形成は、結合剤の疎水性部分、例えば抗体のFc成分の一部または全部を介して起こり、その結果、疎水性部分の全部または一部が担体タンパク質コアに組み込まれるが、一方、標的結合部分(領域)(例えば、抗体のFaおよびFb部分)は担体タンパク質コアの外側に残り、それにより、それらの標的特異的結合能力を保持することはさらに企図される。一部の実施形態では、結合剤は、非治療的かつ非内在性のヒト抗体、融合タンパク質、例えば、抗体のFcドメインと標的抗原に結合するペプチドとの融合、またはアプタマーである。
【0121】
ナノ粒子複合体は治療で使用されるため、さらなる課題が課せられる。例えば、ナノ粒子複合体中の疎水性成分の再配列は、成分間の共有結合によって軽減され得る。しかし、このような共有結合は、癌の処置におけるナノ粒子複合体の治療的使用に課題をもたらす。結合剤、担体タンパク質、および追加の治療薬は、通常、腫瘍の異なる位置で、異なる機構を通じて作用する。非共有結合は、ナノ粒子複合体の成分が腫瘍で解離することを容認する。したがって、共有結合は凍結乾燥には有利かもしれないが、治療用途には不利になる場合がある。
【0122】
ナノ粒子複合体のサイズ、およびサイズ分布も重要である。本明細書に記載のナノ粒子複合体は、それらのサイズに応じて異なって挙動することがある。大きなサイズでは、ナノ粒子複合体またはこれらの粒子の凝集が血管を塞ぐ可能性があり、いずれも組成物の性能および安全性に影響を与える可能性がある。最後に、凍結保護剤および凍結乾燥プロセスを助ける薬剤は、安全で治療用途に許容されるものでなければならない。
【0123】
従来のADCが効果的であるためには、リンカーが全身循環で解離しない程度に安定していて、腫瘍部位では十分な薬物放出を可能にすることが重要である。Alley,S.C.ら、(2008)Bioconjug Chem19:759-765。これは、効果的な薬物複合体を開発する上で大きなハードルであることが分かった(Julien,D.C.ら、(2011)MAbs 3:467-478;Alley,S.C.ら、(2008)Bioconjug Chem19:759-765);そのため、ナノ粒子複合体の魅力的な機能は、生化学リンカーを必要としないことである。
【0124】
現在のADCのもう1つの欠点は、腫瘍へのより高い薬物浸透がヒトの腫瘍で実質的に証明されていないことである。マウスモデルにおけるADCの初期の試験により、抗体を用いた腫瘍ターゲティングが腫瘍での活性剤の濃度を高くすることが示唆された(Deguchi,T.ら(1986)Cancer Res46:3751-3755)。しかし、おそらくヒト腫瘍の透過性がマウス腫瘍の透過性よりもはるかに不均一であるために、これはヒトの疾患の処置とは相関していなかった。Jain,R.K.ら(2010)Nat Rev Clin Oncol7:653-664。また、ナノ粒子複合体のサイズも脈管構造から腫瘍への血管外遊走にとって重要である。ヒト結腸腺癌異種移植モデルを使用したマウスの研究では、血管孔は400nmまでのリポソームに対して透過性であった。Yuan,F.ら、(1995)Cancer Res55:3752-3756。腫瘍の孔径および透過性の別の研究では、両方の特徴が腫瘍の位置と成長状態に依存し、退行性腫瘍と頭蓋腫瘍は200nm未満の粒子を透過することが示された。Hobbs,S.K.ら、(1998)Proc Natl Acad Sci USA95:4607-4612。本明細書に記載のナノ粒子複合体は、200nm未満のインタクトな大きな複合体が、全身循環で部分的に解離して、腫瘍組織に容易に浸透できる小さな機能単位になるという事実によってこの問題を克服する。さらに、複合体は腫瘍部位に到着すると、より毒性の低いペイロードを放出することができるので、複合体全体ではなく、毒性部分だけを腫瘍細胞に取り込ませればよい。
【0125】
治療薬(すなわち、パクリタキセル)を含有する抗体(すなわち、アバスチン(登録商標))でコーティングされたアルブミンナノ粒子の出現は、2またはそれを超える治療薬をインビボで所定の部位に指向性送達するという新しいパラダイムをもたらした。PCT特許公報第WO2012/154861号、WO2014/055415号、WO2015/191969号、WO2015/195476号、WO2016/057554号、WO2017/031368号、WO2017/176265号、WO2018/048816号、およびWO2018/048958号を参照されたい。
【0126】
単一の供給源タンパク質を含むタンパク質組成物は、一般に、かなりの有効期間を示す凍結乾燥形態で保存されるが、このような凍結乾燥組成物は、疎水性-疎水性相互作用によって一緒に組み込まれた2つの異なるタンパク質の自己組織化ナノ粒子を含まない。さらに、抗体結合部分の大部分がナノ粒子の表面に露出しているナノ粒子構成は、そうでなければ良性とみなされる条件による移動または再構成の影響を受けやすい。例えば、凍結乾燥中に、タンパク質のイオン電荷が脱水され、それにより下にある電荷が露出する。露出した電荷により、2つのタンパク質の電荷-電荷相互作用が可能になり、各タンパク質の他方に対する結合親和性を変化させることができる。さらに、ナノ粒子の濃度は、溶媒(例えば、水)が除去されると大幅に増加する。このようなナノ粒子の濃度の増加は、不可逆的なオリゴマー化を引き起こすことがあり得る。オリゴマー化は、モノマー形態と比較してオリゴマーの生物学的特性を低下させ、粒子のサイズを時には1ミクロン以上に増大させることもある、タンパク質の既知の特性である。
【0127】
一方、ナノ粒子組成物の安定な形態は、少なくとも3か月の有効期間が必要とされ、6カ月または9カ月を超える有効期間が好ましい、臨床的および/または商業的使用のために必要である。このような安定な組成物は、静脈内注射に容易に利用可能でなければならず、ナノ粒子をインビボで所定の部位に向けるように、静脈内注射時にその自己組織化形態を保持しなければならず、血流中に送達された場合に虚血事象を回避するために最大サイズが1ミクロン未満でなければならず、最後に、注射に使用される水性組成物に適合しなければならない。
【0128】
本発明のものと同様のナノ粒子複合体の治療効果を並べて比較すると、結果は、驚くべきことに、凍結乾燥および再構成された複合体が新鮮な複合体と同等またはそれを超える活性を保持することを示した。さらに、複合体の直径は、平均して凍結乾燥前よりも凍結乾燥後のほうが大きい。この直径の増加は、凍結乾燥プロセス後の水の減少のために、抗体がナノ粒子上により高密度に充填されているためであり得る。腫瘍サイズの減少とベバシズマブナノ粒子複合体の生存率は、160nmから1130nmまでのサイズ間でますます増加しているため(Nevalaら、2016 Cancer Res(76)13:3954-3964)、凍結乾燥は、再構成後に平均直径が増加した複合体を生成することによって、製品を予想外に改善する。
【0129】
ナノ粒子複合体を用いた医薬組成物および方法
一般に、本明細書で提供される複合体は、承認された投与様式のいずれかによって患者に投与するために製剤化することができる。様々な製剤および薬物送達システムが当技術分野で利用可能である。例えば、Gennaro,A.R.,ed.(2012)Remington’s Pharmaceutical Sciences,22nd ed.,Mack Publishing Co.を参照されたい。
【0130】
一般に、本明細書で提供される複合体は、以下の経路:経口、全身(例えば、経皮、経鼻または座薬による)、または非経口(例えば、筋肉内、静脈内または皮下)投与のいずれか1つによって医薬組成物として投与される。
【0131】
一態様では、本明細書に記載のナノ粒子複合体の医薬組成物は、腫瘍への直接注射用に製剤化される。直接注射には、腫瘍部位へのまたはその近傍への注射、腫瘍への灌流などが含まれる。ナノ粒子複合体の医薬組成物は全身投与されないので、ナノ粒子複合体の医薬組成物は、腫瘍への直接注射用に製剤化され、任意の平均粒径を含み得る。理論に縛られるものではないが、大きい粒子(例えば、600nmを超える、1μmを超えるなど)のほうが腫瘍内で固定化される可能性が高く、それによって、より有益な効果であると考えられるものをもたらすと考えられている。
【0132】
一態様では、本明細書では、本明細書に記載のナノ粒子複合体の医薬組成物が提供される。医薬組成物は、一般に、少なくとも1つの薬学的に許容され得る賦形剤と組み合わせた、本明細書に記載のナノ粒子複合体から構成される。許容され得る賦形剤は無毒であり、投与を補助し、特許請求された複合体の治療効果に悪影響を及ぼさない。このような賦形剤は、当業者が一般に入手可能な任意の固体、液体、半固体、またはエアロゾル組成物の場合にはガス状の賦形剤であってよい。
【0133】
固体の医薬賦形剤には、デンプン、セルロース、タルク、グルコース、ラクトース、スクロース、ゼラチン、モルト、米、小麦粉、チョーク、シリカゲル、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸ナトリウム、モノステアリン酸グリセロール、塩化ナトリウム、乾燥スキムミルクなどが含まれる。液体およびの賦形剤は、グリセロール、プロピレングリコール、水、エタノール、および石油、動物、野菜または合成期限のものを含む様々な油、例えば、ピーナッツ油、ダイズ油、鉱油、ゴマ油などから選択されてよい。好ましい液体担体、特に注射液用の担体としては、水、生理食塩水、水性デキストロース、およびグリコールが挙げられる。他の適した医薬賦形剤およびそれらの製剤は、Remington’s Pharmaceutical Sciences,edited by E.W.Martin(Mack Publishing Company,22nd ed.,2012)に記載されている。
【0134】
本発明の製剤は、必要に応じて、単位用量の活性成分を含有するパックまたはディスペンサー装置で提示されてよい。このようなパックまたは装置は、例えば、金属箔またはプラスチック箔、例えばブリスター包装など、またはガラス、およびバイアルなどでのゴム栓を含み得る。パックまたはディスペンサー装置には、投与のための説明書が添付されていてもよい。適合する薬学的担体に製剤化された単位用量製剤を含む、本明細書に記載の薬学的組成物は、指示された症状の処置のために調製され、適切な容器に入れられ、ラベル付けされてもよい。
【0135】
任意の適切な方法を用いて、本明細書で提供される担体タンパク質含有ナノ粒子/抗体複合体(例えば、抗体-複合体化アルブミン結合治療薬/パクリタキセルナノ粒子複合体または抗体-複合体化アルブミン結合治療薬/パクリタキセル誘導体ナノ粒子複合体)を哺乳動物に投与することができる。例えば、担体タンパク質含有ナノ粒子/結合剤複合体を含有する医薬組成物は、注射(例えば、皮下注射、筋肉内注射、静脈内注射、またはくも膜下腔内注射)によって投与することができる。
【0136】
本明細書に記載されるナノ粒子複合体およびナノ粒子複合体の医薬組成物は、哺乳動物の癌細胞および/または腫瘍を処置するのに有用である。一実施形態では、哺乳動物はヒト(すなわち、ヒト患者)である。実施形態では、凍結乾燥ナノ粒子複合体またはナノ粒子複合体の医薬組成物は、投与の前に再構成される(水性賦形剤に懸濁される)。
【0137】
一態様では、癌細胞を処置するための方法が提供され、この方法は、癌細胞を処置するために、本明細書に記載される有効量のナノ粒子複合体またはナノ粒子複合体の医薬組成物を細胞に接触させることを含む。癌細胞の処置には、限定されないが、増殖の低下、細胞の死滅、細胞の転移の防止などが含まれる。
【0138】
一態様では、腫瘍の処置を必要とする患者において腫瘍を処置するための方法が提供され、この方法は、腫瘍細胞を処置するために、本明細書に記載される治療有効量のナノ粒子複合体またはナノ粒子複合体の医薬組成物を患者に投与することを含む。一実施形態では、腫瘍のサイズが小さくなる。一実施形態では、処置中および/または処置後の少なくとも一定の期間、腫瘍サイズは増加しない(すなわち、進行しない)。
【0139】
一実施形態では、ナノ粒子複合体またはナノ粒子複合体の医薬組成物は、静脈内に投与される。一実施形態では、ナノ粒子複合体またはナノ粒子複合体の医薬組成物は、腫瘍に直接投与される。一実施形態では、ナノ粒子複合体またはナノ粒子複合体の医薬組成物は、腫瘍への直接注射または灌流によって投与される。
【0140】
一実施形態では、この方法は、a)ナノ粒子複合体またはナノ粒子複合体の医薬組成物を週1回、3週間投与すること;b)ナノ粒子複合体またはナノ粒子複合体の医薬組成物の投与を1週間中止すること;およびc)必要に応じて、腫瘍を処置するために必要なだけステップa)およびb)を繰り返すことを含む。
【0141】
一実施形態では、治療有効量の本明細書に記載のナノ粒子複合体は、約50mg/m2~約200mg/m2の担体タンパク質または担体タンパク質と治療薬を含む。一部の実施形態では、治療有効量は、約75mg/m2~約175mg/m2の担体タンパク質または担体タンパク質と治療薬を含む。企図される値には、エンドポイントを含む、列挙された範囲のいずれかの内の任意の値、部分範囲、または範囲が含まれる。
【0142】
一実施形態では、治療有効量は、約2mg/m2~約9mg/m2の結合剤、例えば、抗体、アプタマー、またはFc融合体を含む。一部の実施形態では、治療有効量は、3mg/m2~約7mg/m2の結合剤を含む。企図される値には、エンドポイントを含む、列挙された範囲のいずれかの内の任意の値、部分範囲、または範囲が含まれる。
【0143】
本明細書に記載される組成物および方法によって処置することができる癌または腫瘍としては、限定されるものではないが以下が挙げられる:胆道癌;神経膠芽腫および髄芽細胞腫を含む脳癌;乳癌;子宮頸癌;絨毛癌;結腸癌;子宮内膜癌;食道癌、胃癌;急性リンパ性および骨髄性白血病を含む血液腫瘍;多発性骨髄腫;AIDS関連白血病および成人T細胞白血病リンパ腫;ボーエン病およびパジェット病を含む上皮内腫瘍;肝臓癌(肝細胞癌);肺癌;ホジキン病およびリンパ球性リンパ腫を含むリンパ腫;神経芽細胞腫;扁平上皮癌を含む口腔癌;上皮細胞、間質細胞、生殖細胞および間葉系細胞から生じるものを含む卵巣癌;膵臓癌;前立腺癌;直腸癌;平滑筋肉腫、横紋筋肉腫、脂肪肉腫、線維肉腫および骨肉腫を含む肉腫;黒色腫、カポジ肉腫、基底細胞癌および扁平上皮癌を含む皮膚癌;胚性腫瘍(セミノーマ、非セミノーマ[奇形腫、絨毛癌])、間質性腫瘍および胚細胞腫瘍を含む精巣癌;甲状腺癌および髄様癌を含む甲状腺癌;腺癌およびウィルムス腫瘍を含む腎癌;ならびに表1および表2に記載の癌。
【0144】
一般に、本明細書に記載の化合物は、同様の有用性を果たす薬剤について承認された投与様式のいずれかによって、治療有効量で投与されることになる。本発明の化合物、すなわちナノ粒子複合体の実際の量は、処置される疾患の重症度、対象の年齢および相対的な健康状態、使用される化合物の効力、投与の経路および形態、および当業者に周知の他の要因などの多数の要因に依存することになる。
【0145】
このような化合物の有効量は、最も効果的で便利な投与経路、および最も適切な製剤と同様に、日常的な実験によって容易に決定することができる。様々な製剤および薬物送達システムが当技術分野で利用可能である。例えば、Gennaro,A.R.,ed.(2012)Remington’s Pharmaceutical Sciences,22nded.,Mack Publishing Co.を参照されたい。
【0146】
本明細書に記載の化合物の有効量または治療有効量または用量は、対象において症状の改善または生存期間の延長をもたらす化合物の量をさす。このような化合物の毒性および治療効果は、細胞培養または実験動物における標準的な薬学的手順によって、例えば、LD50(集団の50%にとって致死的な用量)およびED50(集団の50%において治療効果のある用量)を決定することにより、決定することができる。毒性効果と治療効果の用量比が治療指数であり、LD50/ED50の比として表すことができる。高い治療指数を示す化合物が好ましい。
【0147】
有効量または治療有効量は、研究者、獣医、医師または他の臨床医が求めている、組織、系、動物またはヒトの生物学的または医学的応答を誘発する化合物または医薬組成物の量である。投与量は、用いる剤形および/または利用する投与経路に応じてこの範囲内で変化することがある。正確な製剤、投与経路、投与量、および投与間隔は、対象の症状の詳細を考慮して、当技術分野で公知の方法に従って選択されるべきである。
【0148】
投与量および投与間隔は、所望の効果を得るのに十分な活性部分の血漿レベル、すなわち最小有効濃度(MEC)を提供するように個別に調整することができる。MECは化合物ごとに異なるが、例えばインビトロデータおよび動物実験から推定することができる。MECを達成するために必要な投与量は、個々の特徴および投与経路によって異なる。局所投与または選択的取込みの場合、化合物の有効な局所濃度は、血漿濃度に関連しない場合がある。
【0149】
本明細書で提供される担体タンパク質含有ナノ粒子/結合剤複合体を含有する組成物を哺乳動物に投与する前に、哺乳動物を評価して、哺乳動物が癌を有するか否かを決定することができる。任意の適切な方法を使用して、哺乳動物が癌を有するか否かを決定することができる。例えば、哺乳動物(例えば、ヒト)は、標準的な診断技術を使用して、癌(例えば、リンパ腫などの皮膚癌)を有すると特定することができる。場合によっては、組織生検(例えば、皮膚生検、例えば、リンパ節生検)を採取および分析して、哺乳動物が癌を有するか否かを決定することができる。
【0150】
哺乳動物が癌を有することを特定した後、哺乳動物に、本明細書で提供される担体タンパク質含有ナノ粒子/結合剤複合体を含有する組成物を投与することができる。例えば、担体タンパク質含有ナノ粒子/結合剤複合体(例えば、抗体-複合体化アルブミン結合パクリタキセルナノ粒子複合体)を含む組成物は、腫瘍の外科的切除の前または代わりに投与することができる。場合によっては、本明細書で提供される担体タンパク質含有ナノ粒子/結合剤複合体を含有する組成物(例えば、抗体-複合体化アルブミン結合ドキソルビシン/パクリタキセルナノ粒子複合体)は、腫瘍の切除の後に投与することができる。
【0151】
実施形態では、本明細書で提供される担体タンパク質含有ナノ粒子/結合剤複合体を含有する組成物(例えば、抗体-複合体化アルブミン結合ドキソルビシン/パクリタキセルナノ粒子複合体、抗体-複合体化アルブミン結合SN38/パクリタキセルナノ粒子複合体、抗体-複合体化アルブミン結合ドキソルビシン/パクリタキセル誘導体ナノ粒子複合体、または抗体-複合体化アルブミン結合SN38/パクリタキセル誘導体ナノ粒子複合体)は、適切な量で、適切な頻度で、そして所望の結果を達成するため(例えば、無憎悪生存期間を増加させるため)に有効な適切な期間、哺乳動物に投与され得る。場合によっては、本明細書で提供される担体タンパク質含有ナノ粒子/結合剤複合体を含有する組成物(例えば、抗体-複合体化アルブミン結合ドキソルビシン/パクリタキセルナノ粒子複合体、抗体-複合体化アルブミン結合SN38/パクリタキセルナノ粒子複合体、抗体-複合体化アルブミン結合ドキソルビシン/パクリタキセル誘導体ナノ粒子複合体、または抗体-複合体化アルブミン結合SN38/パクリタキセル誘導体ナノ粒子複合体)は、癌を有する哺乳動物に投与して、癌の進行速度を5、10、25、50、75、100、またはそれを超えるパーセントだけ低下させることができる。例えば、進行速度は、さらなる癌の進行が検出されないように低下させることができる。任意の適切な方法を使用して、癌の進行速度が低下したか否かを決定することができる。例えば、皮膚癌の進行速度は、様々な時点で組織を画像化し、存在する癌細胞の量を決定することによって評価することができる。異なる時期に組織内で求めた癌細胞の量を比較することで、進行速度を決定することができる。本明細書に記載の処置の後、進行速度を別の時間間隔で再度決定することができる。場合によっては、処置後の癌のステージを決定し、処置前のステージと比較して、進行速度が低下したか否かを決定することができる。
【0152】
場合によっては、本明細書で提供される担体タンパク質含有ナノ粒子/結合剤複合体を含有する組成物(例えば、抗体-複合体化アルブミン結合ドキソルビシン/パクリタキセルナノ粒子複合体、抗体-複合体化アルブミン結合SN38/パクリタキセルナノ粒子複合体、抗体-複合体化アルブミン結合ドキソルビシン/パクリタキセル誘導体ナノ粒子複合体、または抗体-複合体化アルブミン結合SN38/パクリタキセル誘導体ナノ粒子複合体)は、未処置の癌を有する対応する哺乳動物の無憎悪生存期間中央値、または担体タンパク質含有ナノ粒子/結合剤複合体を形成せずに(例えば、抗体-複合体化アルブミン結合ドキソルビシン/パクリタキセルナノ粒子複合体、抗体-複合体化アルブミン結合SN38/パクリタキセルナノ粒子複合体、抗体-複合体化アルブミン結合ドキソルビシン/パクリタキセル誘導体ナノ粒子複合体、または抗体-複合体化アルブミン結合SN38/パクリタキセル誘導体ナノ粒子複合体を形成せずに)ナノ粒子と結合剤で処置した癌を有する対応する哺乳動物の無憎悪生存期間中央値と比較して、無憎悪生存期間が(例えば、5、10、25、50、75、100、またはそれを超えるパーセントだけ)増加する条件下で、癌を有する哺乳動物に投与することができる。場合によっては、本明細書で提供される担体タンパク質含有ナノ粒子/結合剤複合体を含有する組成物(例えば、抗体-複合体化アルブミン結合ドキソルビシン/パクリタキセルナノ粒子複合体、抗体-複合体化アルブミン結合SN38/パクリタキセルナノ粒子複合体、抗体-複合体化アルブミン結合ドキソルビシン/パクリタキセル誘導体ナノ粒子複合体、または抗体-複合体化アルブミン結合SN38/パクリタキセル誘導体ナノ粒子複合体)は、癌を有する哺乳動物に投与して、癌を有し、ナノ粒子または結合剤を単独で投与された対応する哺乳動物の無憎悪生存期間中央値と比較して5、10、25、50、75、100、またはそれを超えるパーセントだけ無憎悪生存期間を増加させることができる。無増悪生存期間は、任意の長さの期間(例えば、1ヶ月、2ヶ月、3ヶ月、4ヶ月、5ヶ月、6ヶ月、またはそれ以上)にわたって測定することができる。
【0153】
場合によっては、本明細書で提供される担体タンパク質含有ナノ粒子/結合剤複合体を含有する組成物(例えば、抗体-複合体化アルブミン結合ドキソルビシン/パクリタキセルナノ粒子複合体、抗体-複合体化アルブミン結合SN38/パクリタキセルナノ粒子複合体、抗体-複合体化アルブミン結合ドキソルビシン/パクリタキセル誘導体ナノ粒子複合体、または抗体-複合体化アルブミン結合SN38/パクリタキセル誘導体ナノ粒子複合体)は、哺乳動物の集団の8週間無憎悪生存率が、本明細書に記載の担体タンパク質含有ナノ粒子/結合剤複合体(例えば、抗体-複合体化アルブミン結合ドキソルビシン/パクリタキセルナノ粒子複合体、抗体-複合体化アルブミン結合SN38/パクリタキセルナノ粒子複合体、抗体-複合体化アルブミン結合ドキソルビシン/パクリタキセル誘導体ナノ粒子複合体、または抗体-複合体化アルブミン結合SN38/パクリタキセル誘導体ナノ粒子複合体)を含有する組成物を投与されていない比較可能な哺乳動物の集団で観察されたものに比べて65%またはそれを超える(例えば、66%、67%、68%、69%、70%、71%、72%、73%、74%、75%、76%、77%、78%、79%、80% またはそれを超える)という条件下で癌を有する哺乳動物に投与することができる。場合によっては、本明細書で提供される担体タンパク質含有ナノ粒子/結合剤複合体を含有する組成物(例えば、抗体-複合体化アルブミン結合ドキソルビシン/パクリタキセルナノ粒子複合体、抗体-複合体化アルブミン結合SN38/パクリタキセルナノ粒子複合体、抗体-複合体化アルブミン結合ドキソルビシン/パクリタキセル誘導体ナノ粒子複合体、または抗体-複合体化アルブミン結合SN38/パクリタキセル誘導体ナノ粒子複合体)は、哺乳動物の集団の腫瘍増殖停止時間中央値が少なくとも150日(例えば、少なくとも155、160、163、165、または170日)である条件下で癌を有する哺乳動物に投与することができる。
【0154】
有効量の本明細書で提供される担体タンパク質含有ナノ粒子/結合剤複合体を含有する組成物(例えば、抗体-複合体化アルブミン結合ドキソルビシン/パクリタキセルナノ粒子複合体、抗体-複合体化アルブミン結合SN38/パクリタキセルナノ粒子複合体、抗体-複合体化アルブミン結合ドキソルビシン/パクリタキセル誘導体ナノ粒子複合体、または抗体-複合体化アルブミン結合SN38/パクリタキセル誘導体ナノ粒子複合体)は、哺乳動物に重大な毒性を生じることなく、癌の進行速度を低下させるか、無憎悪生存率を増加させるか、または腫瘍増殖停止時間中央値を増加させる量であってよい。一般に、有効量のアルブミン/治療薬/パクリタキセルは、約50mg/m2~約150mg/m2(例えば、約80mg/m2)であり得、有効量の結合剤、例えば、抗体、例えば、そのベバシズマブまたはバイオシミラーバージョンなどの抗VEGFポリペプチド抗体、例えば、そのリツキシマブまたはバイオシミラーバージョンなどの抗CD20ポリペプチド抗体は、約1mg/kg~約20mg/kg(例えば、約3mg/kg)であり得る。特定の哺乳動物が特定の量に反応しない場合、アルブミン/治療薬/パクリタキセルまたは結合剤の量を、例えば2倍に増やすことができる。この高濃度を投与した後、処置に対する反応性と毒性症状の両方について哺乳動物をモニターし、それに応じて調整を行うことができる。有効量は、一定のままであってもよいし、処置に対する哺乳動物の応答に応じてスライド式または可変用量として調整することもできる。様々な要因が、特定の用途に使用される実際の有効量に影響を及ぼす可能性がある。例えば、投与頻度、処置期間、複数の処置剤の使用、投与経路、および癌の重症度によって、投与される実際の有効量の増減を必要とすることがある。
【0155】
投与頻度は、哺乳動物に重大な毒性を生じることなく、癌の進行速度を低下させるか、無憎悪生存率を増加させるか、または腫瘍増殖停止時間中央値を増加させる頻度であり得る。例えば、投与頻度は、1ヶ月に約1回~1ヶ月に約3回、または1ヶ月に約2回~1ヶ月に約6回、または2ヶ月に約1回~2ヶ月に約3回であってよい。処置期間中、投与頻度は一定のままにすることも、変えることもできる。本明細書に記載の担体タンパク質含有ナノ粒子/結合剤複合体(例えば、抗体-複合体化アルブミン結合ドキソルビシン/パクリタキセルナノ粒子複合体、抗体-複合体化アルブミン結合SN38/パクリタキセルナノ粒子複合体、抗体-複合体化アルブミン結合ドキソルビシン/パクリタキセル誘導体ナノ粒子複合体、または抗体-複合体化アルブミン結合SN38/パクリタキセル誘導体ナノ粒子複合体)を含有する組成物による処置の過程は、休息期間を含むことができる。例えば、本明細書に記載の組成物を2週間にわたって投与した後に2週間の休息期間が続くことがあり、このようなレジメンを複数回繰り返すことができる。有効量と同様に、様々な要因が、特定の用途に使用される実際の投与頻度に影響を及ぼす可能性がある。例えば、有効量、処置期間、複数の処置剤の使用、投与経路、および皮膚癌の重症度によって、投与頻度の増減を必要とすることがある。
【0156】
本明細書で提供される組成物を投与するための有効な期間は、哺乳動物に重大な毒性を生じることなく、癌の進行速度を低下させるか、無憎悪生存率を増加させるか、または腫瘍増殖停止時間中央値を増加させる期間であり得る。したがって、有効期間は、数日から数週間、数か月、または数年までさまざまであり得る。一般に、皮膚癌の処置の有効期間は、数週間から数か月の期間の範囲であり得る。場合によっては、有効期間は個々の哺乳動物が生きている限りであってよい。複数の要因が、特定の処置に使用される実際の有効期間に影響を及ぼす可能性がある。例えば、有効期間は、投与頻度、有効量、複数の処置剤の使用、投与経路、および癌の重症度によって変動し得る。
【0157】
本明細書に記載の担体タンパク質含有ナノ粒子/結合剤複合体(例えば、抗体-複合体化アルブミン結合ドキソルビシン/パクリタキセルナノ粒子複合体、抗体-複合体化アルブミン結合SN38/パクリタキセルナノ粒子複合体、抗体-複合体化アルブミン結合ドキソルビシン/パクリタキセル誘導体ナノ粒子複合体、または抗体-複合体化アルブミン結合SN38/パクリタキセル誘導体ナノ粒子複合体)を含有する組成物は、任意の適切な形態をとってよい。例えば、本明細書で提供される組成物は、注射用の懸濁液を作製するための希釈剤を含むまたは含まない溶液または粉末の形態であってよい。組成物は、限定されないが、薬学的に許容され得るビヒクルを含む追加の成分を含むこともできる。薬学的に許容され得るビヒクルは、例えば、生理食塩水、水、乳酸、マンニトール、またはそれらの組合せであってよい。
【0158】
本明細書で提供される組成物を哺乳動物に投与した後、哺乳動物をモニターして、癌が処置されたか否かを決定することができる。本明細書に記載されるように、任意の方法を使用して進行および生存率を評価することができる。
【0159】
一態様では、抗原(例えば、表1に記載の抗原)を発現する癌に罹患している患者を処置するための方法が提供され、前記患者は、前記治療量以下の量の抗-抗原結合剤(例えば、抗体)の投与が前記ナノ粒子複合体の有効性を高めるように、治療量以下の量の、抗原(例えば、表1に記載の抗体)に対して特異的な結合剤と、治療有効量の化学療法薬を含有する担体タンパク質結合化学療法薬/結合剤ナノ粒子複合体で処置される。
【0160】
明確にするために、「同時処置」は、抗-抗原抗体が可溶性抗原に優先的に結合する能力があることを条件として、抗原(例えば、VEGF;可溶性サイトカイン)を発現している癌の、担体タンパク質結合化学療法薬/抗-抗原結合剤複合体の投与の前、同時または投与直後の抗-抗原(例えば、抗VEGF)結合剤による処置をさす。
【0161】
一実施形態では、抗-抗原結合剤は、ナノ粒子複合体の前に、治療量以下の用量で投与される。この実施形態では、抗-抗原結合剤の投与は、ナノ粒子複合体の投与の約0.5~48時間前に行われる。
【0162】
もう一つの実施形態では、抗-抗原結合剤組成物は、ナノ粒子複合体の投与の0.5時間前から投与の0.5時間後までの間に投与される。この実施形態では、このような投与は、それにもかかわらず結合剤(例えば、抗体)組成物によって一部の循環抗原(例えば、VEGF)の結合をもたらすことが企図される。
【0163】
さらに別の実施形態では、抗体組成物は、ナノ粒子複合体の投与後2時間まで投与することができる。
【0164】
一態様では、治療量以下の量の抗-抗原結合剤で患者を前処置した約0.5~48時間後に担体タンパク質結合化学療法薬/抗-抗原結合剤ナノ粒子複合体を投与することによって、担体タンパク質結合化学療法薬/抗-抗原結合剤ナノ粒子複合体の有効性を増強するための方法が本明細書で提供される。一実施形態では、このようなナノ粒子複合体は、治療量以下の量の抗-抗原結合剤の約24時間後に投与される。
【0165】
別の態様では、可溶性抗原(例えば、VEGF)を発現している癌に罹患している患者の治療成績を増強するための方法が本明細書で提供される。この患者は担体タンパク質結合ドキソルビシン/パクリタキセルまたは担体タンパク質結合SN38/パクリタキセルおよび抗-抗原結合剤を含むナノ粒子で処置されるように選択されており、ナノ粒子の前記結合剤は、前記ナノ粒子上および/または前記ナノ粒子の中に組み込まれており、この方法は、ナノ粒子による後続の処置の前に、治療量以下の量の前記抗-抗原結合剤で前記患者を処置することを含む。
【0166】
別の態様では、可溶性抗原(例えば、VEGF)を過剰発現している癌に罹患している患者の治療成績を増強するための方法が本明細書で提供され、前記方法は、患者を治療量以下の量の前記抗-抗原結合剤で処置すること、および前記患者を有効量の担体タンパク質結合ドキソルビシン/パクリタキセルまたは担体タンパク質結合SN38/パクリタキセルおよび抗-抗原結合剤を含むナノ粒子(ナノ粒子の前記結合剤は、前記ナノ粒子上および/または前記ナノ粒子の中に組み込まれている)で同時処置することを含む。
【0167】
別の態様では、可溶性抗原(例えば、VEGF)を発現している癌に罹患している患者の治療成績を増強するための方法が本明細書で提供される。この患者は担体タンパク質結合ドキソルビシン/パクリタキセルまたは担体タンパク質結合SN38/パクリタキセルおよび抗-抗原結合剤を含むナノ粒子で処置され、ナノ粒子の前記結合剤は、前記ナノ粒子上および/または前記ナノ粒子の中に組み込まれており、この方法は、前記ナノ粒子の投与から+/-0.5時間以内に前記患者を治療量以下の量の前記抗-抗原結合剤で処置することを含む。
【0168】
別の態様では、治療量以下の量の前記抗-抗原結合剤で処置されている、可溶性抗原(例えば、VEGF)を過剰発現している癌に罹患している患者の治療成績を増強するための方法が本明細書で提供され、前記方法は、前記患者を有効量の担体タンパク質結合ドキソルビシン/パクリタキセルまたは担体タンパク質結合SN38/パクリタキセルおよび抗-抗原結合剤を含むナノ粒子で処置することを含み、ナノ粒子の前記結合剤は、前記結合剤の投与から+/-0.5時間以内に前記ナノ粒子抗体上および/または前記ナノ粒子抗体の中に組み込まれている。
【0169】
患者は、治療量以下の量の抗-抗原結合剤および担体タンパク質結合化学療法薬/抗-抗原結合剤複合体で同時処置されてよい。
【0170】
一部の実施形態では、担体タンパク質結合化学療法薬/抗-抗原結合剤複合体の前に抗-抗原結合剤が投与され、例えば、結合剤は、担体タンパク質結合化学療法薬/結合剤複合体の投与の数分、数時間または数日前に投与することができる。一部の実施形態では、結合剤は、担体タンパク質結合化学療法薬/結合剤複合体の投与の前の約5~約59分、約10~約50分、約15~約45分、約20~約40分、約25~約35分の間に投与される。他の実施形態では、結合剤は、担体タンパク質結合化学療法薬/結合剤複合体の投与の約1時間、約2時間、約3時間、約4時間、約5時間、約6時間、約12時間、約24時間、約48時間、約72時間、またはそれ以上前に投与することができる。他の実施形態では、結合剤は、担体タンパク質結合化学療法薬/結合剤複合体の投与の約1日、約2日、約3日、約4日、約5日、約6日、約7日、約10日、約12日、約15日、またはそれ以上前に投与することができる。
【0171】
一部の実施形態では、結合剤は、担体タンパク質結合化学療法薬/結合剤複合体の投与と同時に、例えば、互いの10分またはそれ未満で投与することができる。他の実施形態では、結合剤は、後続の投与が抗体を可溶性抗原に優先的に結合させるという条件で、担体タンパク質結合化学療法薬/結合剤複合体の投与に続いて、例えば、担体タンパク質結合化学療法薬/結合剤複合体の投与後2時間以内に投与することができる。
【0172】
一部の実施形態では、結合剤の治療量以下の量は、結合剤の治療投与量の約1%、約5%、約10%、約15%、約20%、約25%、約30%、約35%、約40%、約45%、約50%、約55%または約60%からなる量から選択される。
【0173】
一部の実施形態では、抗VEGF抗体の治療量以下の量は、腫瘍に関連するVEGFをブロックすることなく、循環VEGFを優先的にブロックする量である。
【0174】
一態様では、抗-抗原(例えば、抗-可溶性抗原、例えば、抗VEGF)用量は、抗-抗原結合剤の単位用量製剤であり、その製剤は、前記結合剤の治療用量の約1%~約60%を構成し、前記製剤は、単位用量として投与されるように包装されている。一態様では、抗-抗原結合剤の単位用量製剤は、前記結合剤の治療用量の約10%を構成する 例えば、抗VEGF抗体、例えば、ベバシズマブの治療用量の10%は、0.5mg/kg~5mg/kgであり得る。
【0175】
抗-抗原(例えば、抗-可溶性抗原、例えば、抗VEGF)結合剤の単位用量製剤は、抗-抗原(例えば、抗-可溶性抗原、例えば、抗VEGF)結合剤の治療用量の約1%~約60%、約5%~約50%、約10%~約40%、約15%~約30%、約20%~約25%であり得る。企図される値には、エンドポイントを含む、列挙された範囲のいずれかの内の任意の値、部分範囲、または範囲が含まれる。
【0176】
一部の実施形態では、抗-抗原(例えば、抗-可溶性抗原、例えば、抗VEGF)抗体は、そのバイオシミラーバージョン(例えば、ベバシズマブのバイオシミラーバージョン)であり、この製剤は、抗体またはそのバイオシミラーバージョンの治療用量の約5%~約20%を構成する。
【0177】
キット
一部の態様では、(a)一定量の担体タンパク質結合化学療法薬/抗-抗原結合剤複合体、および必要に応じて(b)取扱説明書を含むキットが本明細書で提供される。一部の実施形態では、(a)一定量の担体タンパク質結合化学療法薬/抗-抗原結合剤複合体、(b)治療量以下の量の抗-抗原結合剤の単位用量、および必要に応じて(c)取扱説明書を含むキットが本明細書で提供される。一部の実施形態では、キットには、担体タンパク質結合化学療法薬/結合剤の凍結乾燥複合体が含まれ得る。
【0178】
一部の実施形態では、キットの構成成分は、構成成分が使用順にアクセスされるような方法で構成され得る。例えば、一部の態様では、キットは、開封時またはユーザーのアクセス時に利用可能な第1の成分が、例えば、第1のバイアルに入った、治療量以下の量の結合剤の単位用量であるように構成され得る。次に、一定量の単体タンパク質結合化学療法薬/結合剤複合体を含むまたは含有する第2の容器(例えば、バイアル)がアクセスされ得る。そのため、キットは、第2のバイアルを開ける前に第1のバイアルを開けなければならないように、直感的に構成され得る。一部の実施形態では、例えば、結合剤の投与の前に最初に複合体を投与することが望まれる場合には、順序は異なっていてもよいことを理解されたい。また、両方が同時に投与されるように構成することもできる。最後に、いずれかまたは両方の1または複数の成分の追加のバイアルまたは容器を含めることができ、任意の望ましい順序で開くように構成することができることを理解されたい。例えば、第1のバイアルは結合剤であり得、第2のバイアルは複合体を含み得、第3のバイアルは結合剤または複合体などのいずれを含み得る。このように構成されたキットは、取扱説明書によって意図されていない順序で投与されることを防止する、または少なくとも防止に役立つことが企図される。
【0179】
一部の態様では、本発明は、担体タンパク質結合化学療法薬/抗-抗原(例えば、抗-可溶性抗原、例えば、抗VEGF)結合剤複合体および治療量以下の量の結合剤の単位用量の投与用のパーツ;および必要に応じてさらに、可読媒体に投薬処置スケジュールを含むキットに関する。一部の実施形態では、投薬スケジュールには、望ましい平均血清レベルを達成するために必要な、治療量以下の量の抗可溶性抗体が提供されることが含まれる。一部の実施形態では、パーツのキットには、患者の性別、患者の体重、および臨床医が達成したい血清レベルに基づく治療量以下の量の抗可溶性結合剤の投薬レジメンを選択する能力を主治医に提供する投薬スケジュールが含まれる。一部の実施形態では、投薬処置は、患者の血液中の循環可溶性抗原(例えば、VEGF)のレベルに基づく。一部の実施形態では、投薬スケジュールは、患者の体重(または質量)および性別に基づいて患者の血液量に対応する情報をさらに提供する。一実施形態では、記憶媒体は、キット内の単位用量形態に付随する付属のパンフレットまたは同様の書面による情報を含むことができる。一実施形態では、記憶媒体は、例えば、このような情報のデジタル符号化された機械可読表現を記憶するための電子、光学、または不揮発性メモリなどの他のデータ記憶装置を含み得る。
【0180】
本明細書において使用される「可読媒体」という用語は、例えば、ヒトによるかまたは機械によって読み取ることができるデータの表現をさす。人間が読める形式の限定されない例としては、パンフレット、挿入物、または他の書面が含まれる。機械が読める形式の限定されない例には、機械(例えば、コンピュータ、錠剤、および/またはスマートフォン)で読み取り可能な形式で情報を提供する(すなわち、保存および/または送信する)あらゆる機構が含まれる。例えば、機械可読媒体には、読み取り専用メモリ(ROM);ランダムアクセスメモリ(RAM);磁気ディスク記憶媒体;光学記憶媒体;およびフラッシュメモリ装置が含まれる。一実施形態では、機械可読媒体は、CD-ROMである。一実施形態では、機械可読媒体は、USBドライブである。一実施形態では、機械可読媒体は、Quick Response Code(QRコード(登録商標))または他のマトリックスバーコードである。
【0181】
配列リスト
抗PDL1H6B1L-EM(STI3031)IgG1抗体重鎖配列番号1:
QMQLVQSGAEVKKPGSSVKVSCKASGGTFSSYAYSWVRQAPGQGLEWMGGIIPSFGTANYAQKFQGRVTITADESTSTAYMELSSLRSEDTAVYYCARGPIVATITPLDYWGQGTLVTVSSASTKGPSVFPLAPSSKSTSGGTAALGCLVKDYFPEPVTVSWNSGALTSGVHTFPAVLQSSGLYSLSSVVTVPSSSLGTQTYICNVNHKPSNTKVDKKVEPKSCDKTHTCPPCPAPELLGGPSVFLFPPKPKDTLMISRTPEVTCVVVDVSHEDPEVKFNWYVDGVEVHNAKTKPREEQYNSTYRVVSVLTVLHQDWLNGKEYKCKVSNKALPAPIEKTISKAKGQPREPQVYTLPPSRDELTKNQVSLTCLVKGFYPSDIAVEWESNGQPENNYKTTPPVLDSDGSFFLYSKLTVDKSRWQQGNVFSCSVMHEALHNHYTQKSLSLSPGK
【0182】
抗PDL1H6B1L-EM(STI3031)λ抗体軽鎖配列番号2:
SYVLTQPPSVSVAPGKTATIACGGENIGRKTVHWYQQKPGQAPVLVIYYDSDRPSGIPERFSGSNSGNTATLTISRVEAGDEADYYCLVWDSSSDHRIFGGGTKLTVLGQPKAAPSVTLFPPSSEELQANKATLVCLISDFYPGAVTVAWKADSSPVKAGVETTTPSKQSNNKYAASSYLSLTPEQWKSHRSYSCQVTHEGSTVEKTVAPTECS
【実施例】
【0183】
実施例
前述の例は本発明を例示するものであり、これを限定するものと解釈されるものではない。本発明は、好ましい実施形態を参照して詳細に説明されているが、以下の特許請求の範囲に記載および定義されるように、本明細書に記載される範囲および精神内で変形形態および修正形態が存在する。
【0184】
実施例1 薬物含有ナノ粒子の製造
SN38-NabまたはSN38-NTP Nab(ナノ粒子アルブミン結合SN38)
30mgのSN38を0.6mlのDMSOに溶解し、10mgのパクリタキセル(または無毒性パクリタキセル(NTP)誘導体(20-アセトキシ-4-デアセチル-5-エピ-20,O-セコタキソール))を0.5mlのクロロホルムに溶解した。2つの溶液を混合し、0.1mlのエタノールを混合物に添加した。400mgのヒト血清アルブミン(HSA)を38.8mlのHPLCグレードの水に溶解し、薬物混合物に添加し、ハンドヘルドホモジナイザ-で5000rpmで5分間均質化した。次に、均質化した混合物をMicrofluidics製マイクロフルイダイザー高圧乳化装置(マイクロフルイダイザーモデル110S)に加え、チューブを通して20回ポンプで送り、ナノ粒子アルブミン結合SN38(SN38-NabまたはSN38-NTP Nab)を形成した。ナノ粒子混合を-80℃で一晩凍結させ、96時間凍結乾燥させた。ナノ粒子は100mg/mlの生理食塩水で再構成された。
【0185】
DOX-NabまたはDOX-NTP Nab(ナノ粒子アルブミン結合ドキソルビシン)
ステップ1:ドキソルビシン塩酸塩の疎水性形態への変換-50mgのドキソルビシン-HCl(Caymab Chemical、カタログ番号15007)を12ml:8mlのクロロホルム:メタノール(3:2)混合物に溶解し、続いて112mgのトリエチルアミン(Acros Organics、カタログ番号15791)を添加した。この溶液を室温で24時間、回転させることによって混合した。次に、ドキソルビシンを乾燥させないようにしながら、溶液をロータベーパーで40℃で5分間蒸発させた。このプロセスを、すべての溶媒が除去されるまで3~4回繰り返した。ドキソルビシンを7.5~10mlのクロロホルムに再懸濁した。
ステップ2:30mgのドキソルビシンを約6mlのクロロホルムに溶解した。10mgのパクリタキセル(または無毒性パクリタキセル(NTP)誘導体(20-アセトキシ-4-デアセチル-5-エピ-20,O-セコタキソール))をドキソルビシン溶液に溶解し、10容量%の100%エタノールを添加した。400mgのヒト血清アルブミン(HSA)を34mlのHPLCグレードの水に溶解し、薬物混合物に添加し、5分間撹拌した。混合直後に、混合物をガラスリザーバに移し、マイクロフルイダイザーポンプを使用して乳化した。混合物は、チューブシステムを通して80~100psiで20回ポンプで送った。ポンプを5回通すごとにシステムを閉じて、混合物をポンプチューブに5回循環させた。次に、ナノ粒子混合物をロータベーパーで40℃で25分間蒸発させた。混合物を-80℃で少なくとも4時間凍結させ、次いで48~72時間凍結乾燥させた。ナノ粒子は100mg/mlの生理食塩水で再構成された。
【0186】
ナノ免疫複合体(NIC)
抗体を、SN38-Nab、SN38-NTP Nab、DOX-NabまたはDOX-NTP Nabとともに、0.9%生理食塩水中1:25(抗体:ナノ粒子の濃度)の比で穏やかに撹拌しながら室温で30~60分間インキュベートした。
【0187】
実施例2 ドキソルビシン/パクリタキセル(Pactilaxel)ナノ粒子の安定性および細胞毒性
本発明者らは、以前に、特にベバシズマブ、リツキシマブ、およびアテゾリズマブをはじめとする、臨床的に関連するモノクローナル抗体に結合する能力を有するヒト血清アルブミンの球の中心にパクリタキセルを含有する130nmのナノ粒子を含むナノ粒子複合体を開発し、160nmの粒子を作成した。この複合体は、臨床効果があることが示されている。データは、ナノ粒子単独と比較して抗体でコーティングされたナノ粒子の臨床効果の改善が、少なくとも部分的に、循環から離れて腫瘍へのより高い薬物沈着を好む体内分布の変化に起因することを示唆している。
【0188】
他の疎水性小分子はアルブミンと安定したナノ粒子を形成することができるが、パクリタキセルにはアルブミン上の抗体結合部位を開く独自の能力がある。アルブミンの中心にある疎水性ポケットに他の化学療法剤を含めるために、ドキソルビシンおよびSN38をパクリタキセル(タキソール)と様々な比で試験して、癌ターゲティング抗体に非共有結合することもできる安定したナノ粒子を作成した。
【0189】
これらのドキソルビシン含有ナノ粒子は、パクリタキセルのみのナノ粒子と比較して改善された安定性を示した。この追加された粒子安定性は、体内分布を腫瘍への薬物沈着を好むようにさらに改善し、臨床効果をさらに高めることができる。ナノサイトを実施して、ドキソルビシンおよびパクリタキセル(タキソール)を1:1、1:3および1:9の重量比で用いて作製したナノ粒子の粒径を決定した(
図1A)。これらのデータは、ドキソルビシンとパクリタキセル(タキソール)の両方を用いて作製されたナノ粒子が、すべて同様のサイズの安定した粒子を形成することを示唆する。ドキソルビシンおよびパクリタキセル(タキソール)のナノ粒子を製造した後、HPLCによって総薬物およびアルブミン結合薬物の測定を行った(
図1B)。ナノサイト測定を行って、ナノ粒子が安定しなくなる濃度を決定した(
図1C)。ドキソルビシンを含有する粒子は安定しており、パクリタキセル(タキソール)のみを含むナノ粒子よりもはるかに高い希釈度で測定可能であった。
【0190】
1:1の比のドキソルビシン:パクリタキセルを含有するアルブミン粒子(発明者が製造したナノ粒子複合体;Mayo_Pac.Dox)、市販のアブラキサン(Com_ABX)、Nab-パクリタキセル(発明者が製造したアブラキサン;Mayo_ABX)、および市販のベバシズマブ(アバスチン、Bevのみ)の細胞毒性を、A375黒色腫細胞に対して試験した。Mayo_ABXは、DOX-Nabの調製について上述した手順に従って調製したが、ドキソルビシンは含まなかった。6.25~200mg/mlの各パクリタキセルおよびドキソルビシンをヒト血清アルブミン(HSA)と組み合わせて、両方の化学療法薬Mayo_Pac.Dox(上記のDOX-Nabの調製手順に従って調製)を含有するナノ粒子を形成した。7.5×10
4 A375細胞を、10%ウシ胎児血清(FCS)を含むDMEM培地中の24ウェルプレートの各ウェルに播種した。A375細胞を、12.5~400mg/mlのベバシズマブ、12.5~400mg/mlの市販のアブラキサン(登録商標)、12.5~400mg/mlの発明者が製造したNab-パクリタキセル、またはドキソルビシン:パクリタキセルナノ粒子(6.25~200mg/mlの各パクリタキセルおよびドキソルビシン)とともに37℃および5%CO
2で一晩インキュベートし、10mMの5-エチニル-2’-デオキシウリジン(EdU)も各ウェルに含めた。一晩インキュベートした後、細胞を回収し、4%パラホルムアルデヒドで固定した。固定後、細胞洗剤(10%サポニン)で透過処理し、Alexa Fluor 647結合抗EdU抗体を用いて製造業者の指示に従って染色する(Invitrogen、カタログ番号C10634)。Alexa Fluor 647陽性の増殖細胞の計数は、フローサイトメトリー(Guava 8HT、Millipore)によって行われた。
図2は、ナノ粒子中の薬物の濃度(X軸)に対するA375細胞の増殖指数(Y軸)を示す。増殖指数は、試験ウェルにおける陽性率を、未処置(最大増殖)のEdU標識細胞における陽性率で割ることによって算出した。ドキソルビシン:パクリタキセルナノ粒子(Mayo_Pac.Dox)は、パクリタキセルしか含まないナノ粒子よりも毒性が著しく高く、わずか12.5μg/mlの薬物でほとんどの細胞が死滅した。
【0191】
実施例3 ドキソルビシン/パクリタキセル誘導体およびSN38/パクリタキセル誘導体ナノ粒子の特徴づけ
以下の実験では、SN38またはドキソルビシンの毒性効果をナノ粒子中のパクリタキセルの毒性効果から分離するために、通常のパクリタキセルの代わりに、無毒の形態のパクリタキセル(NTP)を一部のナノ粒子の製造に使用した(
図3)。ドキソルビシンおよびSN38を、無毒性パクリタキセル誘導体(20-アセトキシ-4-デアセチル-5-エピ-20,O-セコタキソール)と様々な比で試験して安定したナノ粒子を作製した。これは癌ターゲティング抗体に非共有結合させることもできた。
【0192】
ナノサイトを実施して以下のナノ粒子の粒径を求めた:ABX Nab(市販のアブラキサン(登録商標))、ABX:BEV NIC(ベバシズマブと結合したアブラキサン(登録商標)ナノ粒子)、ABX:RIT NIC(リツキシマブと結合したアブラキサン(登録商標)ナノ粒子)、ABX:STI3031 NIC(PDL1抗体STI3031と結合したアブラキサン(登録商標)ナノ粒子)、DOX:NTP Nab(無毒性パクリタキセル誘導体を使用し、ドキソルビシンを含む、Nab-パクリタキセルナノ粒子)、DOX:NTP:RIT NIC(無毒性パクリタキセル誘導体を使用し、ドキソルビシンを含み、リツキシマブと結合したNab-パクリタキセルナノ粒子)、SN38:NTP Nab(無毒性パクリタキセル誘導体を使用し、SN38を含む、Nab-パクリタキセルナノ粒子)、SN38:NTP:BEV NIC(無毒性パクリタキセル誘導体を使用し、SN38を含み、ベバシズマブと結合したNab-パクリタキセルナノ粒子)、SN38:NTP:STI3031 NIC(無毒性パクリタキセル誘導体を使用し、SN38を含み、PDL1抗体STI3031と結合したnab-パクリタキセルナノ粒子)(
図4A)。これらのデータは、ドキソルビシンと無毒性パクリタキセル誘導体(NTP)(20-アセトキシ-4-デアセチル-5-エピ-20,O-セコタキソール)の両方で作製されたナノ粒子が、すべて同様のサイズで、ドキソルビシンを含まないナノ粒子よりも小さい粒子を形成するが、SN38と無毒性パクリタキセル誘導体の両方で作製されたナノ粒子は、すべて同様のサイズで、SN38を含まないナノ粒子よりもはるかに大きな粒子を形成することを示唆する。
【0193】
上記段落に記載した粒子のゼータ電位を、Zetasizer(Malvern)を使用して測定した。このデータは、ナノ粒子にドキソルビシンを含めるとゼータ電位がわずかに低下するが、SN38はゼータ電位に影響を与えないことを示唆している。抗体をナノ粒子と結合することにより、ゼータ電位は著しく上昇する(
図4B)。ゼータ電位の上昇を用いて、抗体がナノ粒子の表面に結合していることを確認した。
図4Cは、SN38を含むNab-パクリタキセル(タキソール)ナノ粒子から作成され、様々な濃度のSTI3031(PDL1)抗体と結合したナノ免疫複合体(NIC)のゼータ電位を示す。ゼータ電位は、nab-パクリタキセルSN38ナノ粒子に結合したSTI3031抗体の濃度の増加とともに上昇し、4mg/ml抗体がNab-パクリタキセルSN38ナノ粒子と結合したときにその最大値に達すると思われる。
【0194】
実施例4 薬物負荷および結合効率
SN38およびパクリタキセル(タキソール)のナノ粒子を製造した後、HPLCによって総薬物およびアルブミン結合薬物の測定を行った(
図5A)。このデータは、SN38が非常に優れた負荷および結合効率を有することを示唆する。75.0mgのSN38と25mgのパクリタキセル(タキソール)をホモジナイズし、アルブミンで乳化してナノ粒子を調製すると、総量72.3mgのSN38が検出され(負荷効率96.4%)、69.9mgのSN38がナノ粒子に共有結合によらずに結合(結合効率96.7%)。
【0195】
ドキソルビシンおよび無毒性パクリタキセル誘導体(NTP)ナノ粒子またはSN38および無毒性パクリタキセル誘導体(NTP)ナノ粒子の製造後、HPLCによって総薬物およびアルブミン結合薬物の測定を行った(
図5B)。62.5mgのドキソルビシン、無毒性パクリタキセル誘導体およびアルブミンをホモジナイズし、一緒に乳化してナノ粒子を形成すると、総量35mgのドキソルビシンが検出され(負荷効率56%)、約27.5mgのドキソルビシンがナノ粒子に共有結合によらずに結合(結合効率78.6%)。75mgのSN38、無毒性パクリタキセル誘導体およびアルブミンをホモジナイズし、一緒に乳化してナノ粒子を形成すると、総量51.2mgのSN38が検出され(負荷効率68.2%)、約50.1mgのSN38がナノ粒子に共有結合によらずに結合(結合効率97.9%)。このデータは、SN38がドキソルビシンよりもはるかに優れた負荷および結合効率を有することを示唆する。
【0196】
実施例5 ドキソルビシン/無毒性パクリタキセルおよびSN38/無毒性パクリタキセルナノ粒子の細胞毒性
イリノテカン(数種類の癌を処置するために使用されるトポイソメラーゼI阻害剤)、SN38(イリノテカンの疎水性活性代謝物)、およびSN38 Nab(上記のように、無毒性パクリタキセル誘導体を用いてナノ粒子を調製した場合)の細胞毒性をMDA-MB-231乳癌細胞に対して試験した。1×10
5 MDA-MB-231細胞を、10%ウシ胎児血清(FCS)を含むDMEM培地中の24ウェルプレートの各ウェルに播種した。MDA-MB-231細胞を、1、5、10、または50mg/mlのイリノテカン、SN38、またはSN38 Nabナノ粒子とともに37℃および5%CO
2で一晩インキュベートし、10mMの5-エチニル-2’-デオキシウリジン(EdU)も各ウェルに含めた。一晩インキュベートした後、細胞を回収し、4%パラホルムアルデヒドで固定した。固定後、細胞洗剤(10%サポニン)で透過処理し、Alexa Fluor 647結合抗EdU抗体を用いて製造業者の指示に従って染色する(Invitrogen、カタログ番号C10634)。Alexa Fluor 647陽性の増殖細胞の計数は、フローサイトメトリー(Guava 8HT、Millipore)によって行われた。
図6Aは、ナノ粒子中の薬物の濃度(X軸)に対するMDA-MB-231細胞の増殖指数(Y軸)を示す。増殖指数は、試験ウェルにおける陽性率を、未処置(最大増殖)のEdU標識細胞における陽性率で割ることによって算出した。SN38 Nabナノ粒子は、SN38およびイリノテカンよりも著しく毒性が高く、わずか1μg/mlの薬物で半分以上の細胞が死滅した。重要なことに、薬物をナノ粒子に封入した結果として、SN38の毒性はいずれの濃度でも失われなかった。
【0197】
ドキソルビシンおよびドキソルビシン Nab(上記のように、無毒性パクリタキセル誘導体を用いてナノ粒子を調製した場合)の細胞毒性を、DaudiヒトB細胞リンパ腫細胞に対して試験した。2×10
5Daudi細胞を、10%ウシ胎児血清(FCS)を含むDMEM培地中の24ウェルプレートの各ウェルに播種した。Daudi細胞を、1、5、10、または50mg/mlのイリノテカン、ドキソルビシンまたはドキソルビシン Nabナノ粒子とともに37℃および5%CO
2で一晩インキュベートし、10mMの5-エチニル-2’-デオキシウリジン(EdU)も各ウェルに含めた。一晩インキュベートした後、細胞を回収し、4%パラホルムアルデヒドで固定した。固定後、細胞洗剤(10%サポニン)で透過処理し、Alexa Fluor 647結合抗EdU抗体を用いて製造業者の指示に従って染色する(Invitrogen、カタログ番号C10634)。Alexa Fluor 647陽性の増殖細胞の計数は、フローサイトメトリー(Guava 8HT、Millipore)によって行われた。
図6Bは、ナノ粒子中の薬物の濃度(X軸)に対するDaudi細胞の増殖指数(Y軸)を示す。増殖指数は、試験ウェルにおける陽性率を、未処置(最大増殖)のEdU標識細胞における陽性率で割ることによって算出した。ドキソルビシンNabナノ粒子は、低い濃度ではドキソルビシンと同等の細胞毒性を示したが、50mg/mlのドキソルビシンNabでは細胞毒性が高い。重要なことに、薬物をナノ粒子に封入した結果として、ドキソルビシンの毒性はいずれの濃度でも失われなかった。
【0198】
実施例6 PDL1-SN38 Nab(無毒性パクリタキセルで作製)のインビボ有効性
6週齢の雌の胸腺欠損ヌードマウスは、Envigo Corporationより購入した。
【0199】
ヒト乳癌細胞株MDA-MB-231を、ATCCより購入し、5%CO2 37℃の加湿環境で、10%FBS、100単位/mlのペニシリンおよび100μg/mlのストレプトマイシンを添加したDMEM培地で、移植用に収集する前の2~3週間の期間、培養および増殖させた。トリパンブルー色素排除アッセイによって求めた細胞生存率は移植前に90%を超えていた。100μlのPBS中400万個のMDA-MB-231細胞を、皮下注射により各マウスの右上側腹部に接種した。
【0200】
腫瘍体積の測定は、腫瘍細胞接種後25日目に開始し、週2回実施した。最も長い縦径を長さとして、最も広い横径を幅として、デジタルノギスを用いることによって測定した。次に、腫瘍体積(TV)を式:TV=[長さ×(幅)2]/2によって算出し、エクセルで分析した。
【0201】
平均腫瘍サイズが約400mm3に達したときに処置を開始した。
【0202】
腫瘍サイズが2000mm3に達したときにマウスを安楽死させた。
【0203】
担癌マウスを無作為化した後、0.9%生理食塩水、抗PDL1、イリノテカン15、アルブミン結合無毒性パクリタキセル(NTP)、7.5および15mg/kgの遊離SN-38(SN38 7.5および15)、7.5および15mg/kgのアルブミン結合SN-38(Nab 7.5および15)、別々の注射で同時に送達される抗PDL1+SN38 Nab(PDL1+Nab15)、または7.5および15mg/kgの抗PDL1コーティングアルブミン結合SN-38(NIC7.5およびNIC15)を投与した。アルブミン結合SN-38(Nab)および抗PDL1コーティングSN-38 Nab(NIC)を上記のように作製した。薬物を0.9%生理食塩水に希釈し、胸腺欠損ヌードマウスの尾静脈に静脈注射によって100μl投与した。すべての形態のSN-38は、7.5および15mg/kgの単回投与で投与された。
【0204】
腫瘍測定の生データ(
図7A~
図7K)はエクセルで分析した。腫瘍増殖曲線、7日目の腫瘍応答およびカプラン・マイヤー生存曲線は、GraphPad Prism 8.0ソフトウェアを用いてプロットした。7日目の腫瘍応答のデータは、スチューデントt検定を用いて比較した。0.05未満のP値を有意とみなした(
図8)。
【0205】
MDA-MB-231腫瘍異種移植モデルでは、腫瘍応答は、7日目に式:{(0日目の腫瘍サイズ-7日目の腫瘍サイズ)/0日目の腫瘍サイズ}*100を使用して求めた。腫瘍応答の違いは、GraphPad Prismソフトウェア8.0でスチューデントt検定によって求めた。ゼロの線よりも上の変化率は腫瘍の増殖を示し、ゼロの線よりも下の変化率は腫瘍の縮小を示す。NIC15群は、Nab 15(p値=0.49)およびNIC 7.5(p値=0.06)を除く他のすべての群(p値0.03またはそれ未満)と比較して有意に高い腫瘍応答を示した。このデータは、15mg/mlのSN-38は、抗PDL1で標的化されていようといまいと同等の効果があることを示唆している;しかし、薬物投与量をNICの観点から7.5mg/kgから15mg/kgに増加させることは、有意性に向かって進んでいる(treading towards significance)。また、両方の用量の遊離SN38と、同じ用量のNabおよびNICとの比較も行った。NIC 7.5と遊離SN38 7.5の差は非常に有意であるが(p値=0.0002)、Nab 7.5と遊離SN38 7.5の差は有意に達しなかった(p値=0.07)。15mg/kgの遊離SN38とNab 15およびNIC 15を比較すると、p値はそれぞれ0.013および0.0028でいずれも有意であった。
【0206】
MDA-MB-231異種移植モデルのカプラン・マイヤー曲線をGraphPad Prism ソフトウェア8.0で生成し、生存期間の中央値を、生理食塩水、抗PDL1、イリノテカン15、NTP、遊離SN38 7.5、および遊離SN38 15について、それぞれ28、34、30、24.5、30、および42.5と決定した。NabまたはNICにSN38を含有するすべての群の生存期間の中央値は、未決定のままであった(生存期間の中央値に未達)。これらの群間の生存率の差は、Mantel-Coxログランク検定によってp値0.0003で有意に異なることが見出された(
図9)。NIC 15による処置のみが、100%の生存率をもたらした。
【0207】
前述の例は本発明を例示するものであり、これを限定するものと解釈されるものではない。本発明は、好ましい実施形態を参照して詳細に説明されているが、以下の特許請求の範囲に記載および定義されるように、本明細書に記載される範囲および精神内で変形形態および修正形態が存在する。
【配列表】
【国際調査報告】