(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-09-14
(54)【発明の名称】音響光学変調器
(51)【国際特許分類】
G02F 1/11 20060101AFI20230907BHJP
H05H 1/24 20060101ALI20230907BHJP
【FI】
G02F1/11 501
H05H1/24
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023507290
(86)(22)【出願日】2021-07-12
(85)【翻訳文提出日】2023-03-29
(86)【国際出願番号】 EP2021069318
(87)【国際公開番号】W WO2022023007
(87)【国際公開日】2022-02-03
(32)【優先日】2020-07-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523033512
【氏名又は名称】ベー612・ゲゼルシャフト・ミット・ベシュレンクテル・ハフツング
【氏名又は名称原語表記】B612 GMBH
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ボードワン,ジャン・ミッシェル
【テーマコード(参考)】
2G084
2K102
【Fターム(参考)】
2G084AA01
2G084AA25
2G084CC14
2G084CC34
2G084DD01
2G084DD12
2G084FF02
2G084FF12
2G084FF38
2G084FF39
2K102AA09
2K102AA15
2K102AA30
2K102AA40
2K102BA01
2K102BC07
2K102DB10
2K102DD01
2K102DD03
2K102DD05
2K102DD07
2K102DD10
2K102EA04
(57)【要約】
第1の電極(21)、第2の電極(22)、および当該電極(21、22)間に当該電極(21、22)と接触して配置される誘電体(23)を有する圧電トランスデューサ(20)と、屈折率が互いに異なる少なくとも2つのさらなる誘電体(31、32)を備える音響光学素子(30)とを備える音響光学変調器(10)であって、当該圧電トランスデューサ(20)および当該音響光学素子(30)は、互いに積層され、当該音響光学素子(30)の当該さらなる誘電体(31、32)のうちの少なくとも一方は、二重周期構造を有する誘電性テキスタイルである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
具体的には媒質(90)、好ましくは空気(91)、を処理するためのデバイス(100)のための音響光学変調器(10)であって、前記音響光学変調器は、
第1の電極(21)、第2の電極(22)、および前記電極(21、22)間に前記電極(21、22)と接触して配置される誘電体(23)、ならびに場合により、前記第1の誘電体(23)と前記電極(21、22)との接触を確実にするように構成される2つの接触素子(24、25)を有する圧電トランスデューサ(20)と、
屈折率が互いに異なる少なくとも2つのさらなる誘電体(31、32)を備える音響光学素子(30)と、を備え、
前記圧電トランスデューサ(20)および前記音響光学素子(30)は、互いに積層され、前記音響光学素子(30)の前記さらなる誘電体(31、32)のうちの少なくとも一方は、二重周期構造を有する誘電性テキスタイルである、音響光学変調器(10)。
【請求項2】
前記第1(21)および/または前記第2の電極(21)材料は、金属、活性炭、グラフェンおよびイオン性ポリマーから選択され、好ましくは、前記第1および/または前記第2の電極は、厚さ4~100μm、より好ましくは4~20μmのアルミニウム箔で製造される、請求項1に記載の音響光学変調器(10)。
【請求項3】
前記圧電トランスデューサ(20)の前記誘電体(23)は、カルナウバ、ロジン、サトウキビ、ウッドロジンのグリセロールエステル、ラノリン、シェラック、獣脂、モンタン、オゾケライト、鯨蝋、蜜蝋、オーリキュリ、漆、ベイベリ、キャンデリラ、チャイニーズ、支那蝋、およびこれらの組合せより成るグループから選択される少なくとも1つの天然蝋を含み、好ましくは、前記誘電体は、カルナウバ、ロジン、蜜蝋およびこれらの組合せより成るグループから選択される、請求項1または2に記載の音響光学変調器(10)。
【請求項4】
前記圧電トランスデューサ(20)の前記誘電体(23)は、ZnO、LiNb
3、LiTaO
3、SiO
2、石英、TiO
2、Si、SiN、AlN、GaNおよびSrTiO
3より成るグループから選択される、請求項1または2に記載の音響光学変調器(10)。
【請求項5】
前記接触素子(24、25)のうちの少なくとも一方、好ましくは両方の接触素子(24、25)は、誘電性テキスタイル、好ましくはガラス繊維ニットを備える、先行する請求項のいずれか1項に記載の音響光学変調器(10)。
【請求項6】
前記音響光学素子(30)は、シリコーン樹脂を含浸させたガラス繊維ニットを備える、先行する請求項のいずれか1項に記載の音響光学変調器(10)。
【請求項7】
前記シリコーン樹脂は、好ましくはダイヤモンド、コランダムおよび/または石英より成るグループから選択される少なくとも1種類のラマン散乱結晶(33)を含む、請求項6に記載の音響光学変調器(10)。
【請求項8】
前記シリコーン中の前記ラマン散乱結晶(33)の含有量は、0.1~2重量パーセントであり、かつ/または前記ラマン散乱結晶(33)のサイズは、4~1000nm、好ましくは8~170nmである、請求項7に記載の音響光学変調器(10)。
【請求項9】
前記音響光学素子(30)の表面(34)は、前記表面における前記シリコーンに酸素および/または窒素を含むプラズマを作用させることによって、SiO
2および/またはSiN
xを含むプラズマミラーを形成するように構成される、請求項6~8のいずれか1項に記載の音響光学変調器(10)。
【請求項10】
前記圧電トランスデューサ(20)および前記音響光学素子(30)から成る積層板の総厚さは、4~80mm、好ましくは20~40mmである、先行する請求項のいずれか1項に記載の音響光学変調器(10)。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか1項に記載の少なくとも1つの音響光学変調器(10)および少なくとも1つの電極(40)より成る、好ましくは、請求項1~10のいずれか1項に記載のリング形音響光学変調器(10)および前記リング形音響光学変調器(10)内部に配置される少なくとも1つの電極(40)、より成る装置(50)であって、前記音響光学変調器(10)の表面と前記電極(40)との間には、媒質(90)が導入され得る空間が形成され、前記電極(40)は、ラマン散乱結晶(33)、具体的にはダイヤモンド、による少なくとも1つの部分的コーティング、好ましくは完全なコーティング、を含む、装置(50)。
【請求項12】
媒質(90)、具体的には空気(91)、を処理するためのデバイス(100)であって、前記デバイス(100)は、請求項11に記載の少なくとも1つの装置(50)を備え、前記デバイス(100)は、ルーメン(102)を画定する処理チャンバ(101)と、前記ルーメン(102)と流体連通しかつ前記処理チャンバ(101)の第1の端に近接する第1の開口を備える入口(103)と、前記ルーメン(102)と流体連通しかつ前記処理チャンバ(101)の第2の端に近接する第2の開口を備える出口(104)と、前記入口(103)と前記出口(104)との間で前記ルーメン(102)を通る流れ経路(a)とをさらに備える、デバイス(100)。
【請求項13】
前記音響光学変調器(10)は、前記処理チャンバ(101)の内壁(105)上に配置され、前記デバイス(100)の意図された動作中に、前記ルーメンは、前記処理チャンバ(101)を通って流れる前記媒質(90)の連続処理を可能にすべく光で満たされる、請求項12に記載のデバイス(100)。
【請求項14】
前記デバイス(100)は、ガス状媒質(91)を処理するように構成され、かつ前記デバイス(100)は、処理されるべきガス流に液体(92)を導入するための手段をさらに備え、好ましくは、前記液体(92)は、直径8~12マイクロメートルの液滴の形態で導入される、請求項12または13に記載のデバイス(100)。
【請求項15】
請求項1~11のいずれか1項に記載の音響光学変調器(10)の、具体的には請求項12~14のいずれか1項に記載のデバイス(100)における、媒質(90)、具体的には空気(91)、を処理するための使用法。
【請求項16】
請求項1~11のいずれか1項に記載の音響光学変調器(10)の、具体的には請求項12~14のいずれか1項に記載のデバイス(100)における、光パルス持続時間を短縮しかつ/または前記音響光学素子(30)に入射する光子のエネルギーを増加させるための使用法。
【請求項17】
請求項1~11のいずれか1項に記載の音響光学変調器(10)の、具体的には請求項12~14のいずれか1項に記載のデバイス(100)における、有機分子、具体的にはアミノ酸を、好ましくは二酸化炭素および亜酸化窒素より成るグループから選択される燃焼ガスを用いて合成するための使用法。
【請求項18】
請求項1~11のいずれか1項に記載の音響光学変調器(10)の、具体的には請求項12~14のいずれか1項に記載のデバイス(100)における、水、アルコールおよび/または炭化水素から水素を製造するための使用法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、音響光学変調器、音響光学変調器および電極より成る装置、媒質を処理するためのデバイス、ならびに、当該音響光学変調器および当該デバイスの双方の、光パルス持続時間を短縮しかつ/または光子エネルギーを増大させ、媒質を処理し、有機分子を合成し、水および/または炭化水素から水素を生成するための、または、独立請求項の前提部分に従ってこれらを任意に組み合わせるための使用法、に関する。
【背景技術】
【0002】
音響光学変調器は、最新技術から様々なものが知られていて、たとえば、米国特許出願公開第2007/0171513号明細書は、単結晶シリコン音響光学相互作用媒質と、単結晶へ付着される音響波を放射するための少なくとも1つのトランスデューサとを備える音響光学変調器を開示している。しかしながら、このような音響光学変調器には、通常、その製造に、典型的にはかなり高価であって大きいサイズおよび/または異なる形状での入手が容易ではない、たとえば単結晶といった、マイクロメートル以下の精度でパターニングされる構造体を要するという欠点がある。また、結晶構造体の脆性または剛性は、これらの周期構造体を不均一な、または成形された基板に適合させることを、不可能ではないにしても困難にする。
【0003】
さらに、最新技術からは、処理空間において空気を消毒するために電磁放射線、具体的には紫外(UV)光、を用いることも知られている。この原理に基づいて作用する、流体から汚染物質を精製しかつ除去するためのシステムは、たとえば、欧州登録特許第1660211号明細書から知られている。このようなデバイスにおいて使用されるUVバルブの耐用年数は、限定的であることから、適用される強度および環境条件に依存して、これらのUVバルブの頻繁な交換が必要となる場合があり、これは、耐用年数の減少およびユーザによる労力の追加を意味する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
概して、処理されるべき媒質は、プラズマ発生に供される気体、液体または気体/液体混合物であり得る。プラズマは、プラズマと処理されるべき媒質との間の相互作用の持続時間を延長するために、処理チャンバへと搬送される。しかしながら、デバイス内での、具体的には処理チャンバ内での処理時間および/または処理強度は、所望される処理結果の達成に足るものでない場合がある。
【0005】
したがって、本発明の目的は、最新技術におけるこれらの、および他の欠点を改善すること、具体的には、音響光学変調器、音響光学変調器および電極より成る装置、ならびに、エネルギー効率およびエネルギー効果の高い処理を可能にしかつ安価でもあって多様な形状で製造可能である、媒質を処理するためのデバイスを提供することにある。
【0006】
本明細書の文脈において、ガス状媒質という用語は、液体および/または固体を含み得る気体または混合気を指す。同様に、液体媒質という用語は、気体および/または固形物を含み得る液体または混合液を指す。
【0007】
本発明を限定するものではないが、処理という用語は、処理される媒質内に取り込まれる、タンパク質、花粉、カビ胞子、細菌、ウイルスおよび/または他の微生物などの生物学的構造体を含む分子の分解、合成、不活性化または破砕を包含する。
【0008】
さらに、本発明の意味合いにおけるプラズマという用語は、電場の影響下でその成分へと解離される気体および/または蒸気として理解される。プラズマは、光子、イオン、自由電子、フリーラジカルおよび中性粒子、具体的には励起された中性粒子、を含む。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この目的は、独立請求項に記載されている、音響光学変調器、音響光学変調器および電極より成る装置、ならびに媒質を処理するためのデバイスによって達成される。効果的な実施形態は、従属請求項の主題である。
【0010】
本発明によれば、音響光学変調器は、第1の電極と、第2の電極と、当該電極間に当該電極と接触して配置される誘電体とを有する圧電トランスデューサを備える。誘電体と電極との間の接触を確実にするために、圧電トランスデューサは、場合により、当該第1の誘電体と当該両電極との間の接触を確実にするように構成される2つの接触素子を備えてもよい。圧電トランスデューサは、さらに、互いに屈折率を異にする少なくとも2つのさらなる誘電体を有する音響光学媒質を備える。圧電トランスデューサおよび当該音響光学媒質は、互いに積層される。音響光学媒質は、二重周期構造を有する少なくとも1つの誘電性テキスタイルを含む。
【0011】
驚くべきことに、現在、光変調における結晶は、正規構造を特徴とするテキスタイルによって、具体的には、ガラス繊維の編物または高い誘電率を有する他の任意の材料によって置き換えられることが可能である。これにより、所望されれば、または必要であれば、数十平方メートルサイズの大きい音響光学構造体の実現が可能となる。テキスタイルの柔軟性もまた、複雑な音響光学変調器形状の実現を可能にする。さらにサイズも数平方センチメートルに制限される既知の従来構造に比較すると、材料および製造コストの大幅な削減が可能である。
【0012】
圧電トランスデューサは、最新技術において知られていて、何らかの形態の固形物により生成される電荷をエネルギーに変換する一種の電気音響トランスデューサを構成する。たとえば、圧電層が音響波を発生させ得ることは、理解される。
【0013】
音響光学変調器は、音響光学効果を利用して、光の周波数を音波により回折しかつ変化させる。レーザパルスは、圧電セルを振動させ、ガラス内に音波を生成する。これらは、周期的に移動しかつ屈折率を変える膨張平面および圧縮平面であることが仮想され得る。入射光は、結果として生じる屈折率の周期変調の外側で散乱され(ブリルアン散乱)、ブラッグ回折において生成されるものに類似する干渉が生じる。この相互作用は、フォノンと光子との四光波混合と考えることができる。
【0014】
理論に束縛されるものではないが、現在、本明細書で開示されるような音響光学変調器を静電場およびパルス電磁放射線へ同時に曝すことに関係される一連の物理現象は、以下のように、すなわち、1)レーザパルスの、半導体、すなわち音響光学素子による吸収は、光励起自由キャリアを発生させる、2)これらの不均衡な電子および正孔は、既存の静電場内で拡散する、3)電荷の空間的分離は、電子の電子雲と正孔との間に動的電場を発生させる、4)この動的な場は、圧電トランスデューサ内で圧電効果を介して、ひいては音響波の発生源となる機械的制約を誘起する、として定性的に説明され得ることが想定されている。本明細書において使用される圧電材料と従来の圧電トランスデューサとの主たる違いは、音響波を発生させるために材料に印加される電界が電気的でなく光学的にトリガされ、これにより、本明細書に記載されるデバイスの動作周波数をGHzより高い周波数へと大幅に拡大することが可能にされる点にある。
【0015】
本明細書の文脈において、二重周期という用語は、編物に渡って2方向へ周期的に繰り返す単位セルにより画定され得る規則的なテキスタイル構造を指す(Grishanov et al.,J.Knot Theory and its Ramifications,18(2009),1597-1622)。編織されるテキスタイル構造は、結びついた撚糸から製造される肥厚平面内における二重周期構造の例である。
【0016】
ある好ましい実施形態において、音響光学変調器は、媒質、好ましくは空気、を処理するためのデバイスの一部である。
【0017】
ある好ましい実施形態において、本明細書で開示される音響光学変調器は、圧電トランスデューサと、音響光学素子とを備える。圧電トランスデューサは、第1の電極と、第2の電極と、当該電極間に当該電極と接触して置かれる誘電体とを備える。場合により、圧電トランスデューサは、さらに、当該第1の誘電体と当該電極との間の接触を確実にするように構成される2つの接触素子を備える。音響光学変調器は、互いに異なる屈折率を有するさらなる2つの誘電体を備える。当該圧電トランスデューサおよび当該音響光学素子は、互いに積層される。当該音響光学素子の前記さらなる当該誘電体の一方は、二重周期構造を有する誘電性テキスタイルである。
【0018】
先に述べた音響光学変調器と比較して、音響光学素子が2つの異なる誘電体だけで製造されていて、そのうちの一方が二重周期構造を有するテキスタイルである、このような音響光学変調器は、製造がより容易でありかつより安価である。
【0019】
本明細書で開示される音響光学変調器の電極は、誘電体へ電圧を印加するために使用される。理論に束縛されるものではないが、現在、光子による電極表面の励起は、表面増強ラマン散乱(SERS)として知られるメカニズムにより当該光子の散乱を増強し得ることが理解されている。これは、後に詳述するように、処理チャンバ内に存在する様々な光子を増加させる場合もある。
【0020】
本明細書で開示される音響光学変調器の好ましい一実施形態において、第1および/または第2の電極材料は、金属、活性炭、グラフェンおよびイオン性ポリマーから選択される。
【0021】
このような電極は、容易に入手可能であり、かつ様々な形状で製造されることが可能である。また、第1および第2の電極材料は、互いに組成が異なってもよい。
【0022】
好ましくは、第1および/または第2の電極は、アルミニウムである。
アルミニウムから製造される電極には、電極が比較的安価であり、かつ延性であるという利点がある。さらに、アルミニウム箔および適切なアルミニウムシートは、概して容易に入手可能である。また、エレクトレット上のアルミニウムは、ラマン散乱および発光を高める。
【0023】
同じく、理論に束縛されるものではないが、15倍にも達し得るこの現象は、分子および原子に加えられる局所電場の高揚によって説明される場合がある。この高揚の起源は、レーザ光と、好ましくはサブミクロンの、またはナノメートルまでものサイズを有する所定の金属において表面近くに現れる電子密度波とのカップリングにある。電子密度波は、金属の自由電子に起因する。このカップリングにより形成される新たな粒子は、表面プラズモンと呼ばれる。これらの表面プラズモンの共鳴周波数が電磁スペクトルの可視域にある場合、表面プラズモンは、局所電場を増幅するためにカップリングされることが可能である。したがって、表面増強ラマン散乱(SERS)効果は、主として、金属表面において生成される電磁場の増加の結果である。入射光の波長が金属のプラズマ波長に近い場合、金属表面における伝導電子は、表面プラズモン共鳴に対応する非局在化された電子状態へと励起される。表面に吸着される、または表面付近に存在する分子は、特に強い電磁場を感じる。この関連においては、表面における正規振動モードが最も強く増大される。
【0024】
好ましくは、アルミニウム箔の厚さは、4~100μmであり、より好ましくは、4~20μmである。
【0025】
アルミニウム箔の厚さを指示通りに選択することによって、電極に印加される揺動性のRF駆動信号によりトランスデューサ内に発生される振動は、隣接する音響光学媒質へ効果的に伝達されることが可能である。具体的には、本発明により、10~15μmの典型的厚さを有する家庭用アルミニウム箔の使用が考えられる。
【0026】
本明細書の文脈において、厚さという用語は、箔材料の平均厚さを指す。
本明細書で開示される音響光学変調器は、誘電体を2つの電極間に置き、当該誘電体または誘電体混合物をヒンジ付きDC電位を印加して適切な温度で長期間保全し、続いてDC電位を保全しながら物品を室温まで冷却することにより調製される、サーモエレクトレットを特徴とする。
【0027】
本明細書の文脈において、エレクトレットという用語は、電荷が(擬似)永久的であり、よって(擬似)永久電場を発生させる誘電体層として理解される。
【0028】
本明細書で開示される音響光学変調器の好ましい一実施形態において、圧電トランスデューサの誘電体は、カルナウバ、ロジン、サトウキビ、ウッドロジンのグリセロールエステル、ラノリン、シェラック、獣脂、モンタン、オゾケライト、鯨蝋、蜜蝋、オーリキュリ、漆、ベイベリ、キャンデリラ、チャイニーズ、支那蝋、およびこれらの組合せより成るグループから選択される少なくとも1つの天然蝋を含む。
【0029】
列挙されている誘電体には、天然産物として、特に環境に優しいという利点がある。ただし、当然ながらまた、かつ本発明によれば、誘電体は、ポリ二フッ化ビニリデン(PVDF)樹脂、ポリ塩化ビニル(PVC)樹脂、ポリカーボネート(PC)、ポリエステル、アクリル樹脂、ポリエチレン(PE)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリプロピレン(PP)、ポリスチレン(PS)、またはこれらのコポリマーおよび/または混合物などの、合成ポリマーから成ることも考えられる。
【0030】
好ましくは、誘電体は、カルナウバ、ロジン、蜜蝋およびこれらの組合せより成るグループから選択される。
【0031】
これらの材料から製造されるエレクトレットは、その分極状態を長時間保全することができ、かつ優れた加工性、靭性および柔軟性を特徴とする。
【0032】
本明細書で開示される音響光学変調器の好ましい一実施形態において、圧電トランスデューサの誘電体は、ZnO、LiNb3、LiTaO3、SiO2、石英、TiO2、Si、SiN、AlN、GaNおよびSrTiO3より成るグループから選択される。
【0033】
本明細書で開示される音響光学変調器の好ましい一実施形態において、接触素子のうちの少なくとも1つは、誘電性テキスタイルである。
【0034】
接触素子としてのテキスタイルの使用には、その柔軟性および延伸能力に起因して、誘電体が冷える際に生じる収縮の補償にテキスタイルが特に優れ、よって、それぞれの電極とこれらの間の誘電体との広範な接触が確実にされる、という利点がある。
【0035】
好ましくは、接触素子は、双方が誘電性テキスタイルである。これにより、誘電体と、誘電体を挟む2つの電極との最適な連接が実現可能である。
【0036】
好ましくは、接触素子として使用される誘電性テキスタイルは、ガラス繊維ニットを含む。ガラス繊維ニットには、特殊用途のニーズに応じて選択できる広範なサイズおよびパターンで市販されているという利点がある。
【0037】
ガラスおよび窒化ケイ素で製造されるフォトニック結晶は、蛍光または発光を数十倍も増幅できることが証明されている。
【0038】
ある好ましい実施形態において、本明細書に開示される音響光学変調器は、シリコーン樹脂を含浸させたガラス繊維ニットを備える。
【0039】
好ましくは、ガラス繊維ニットに含浸させるために使用されるシリコーンは、光学シリコーンである。光学シリコーンの利点には、形状が複雑な音響光学素子または音響光学変調器の製造を容易にする高い熱安定性、光学的透明度、耐UV性、低い収縮性および優れた成形特性が含まれる。
【0040】
理論に束縛されるものではないが、ガラス繊維ニットのメッシュ間の空間をシリコーン樹脂で充填することにより、半導体産業で使用される量子井戸ヘテロ構造と同様に、化学組成が位置によって変わる構造体が得られる。
【0041】
シリコン樹脂を含浸させた周期的なガラス繊維構造体は、フォトニック結晶とも見なされることが可能である。フォトニック結晶は、所定の波長での光子の伝播を制止する周期的な誘電構造体である。半導体における電子バンドギャップと同様に、フォトニック結晶は、フォトニック・バンド・ギャップ、すなわち、たとえば材料内に周期的に離間された正孔を包含することにより引き起こされ得る誘電率の周期的変動、を特徴とする。これにより、フォトニック・バンド・ギャップは、所定のエネルギーの光子の伝播を制止する。より正確には、2次元フォトニック・バンド・ギャップは、所定の周波数範囲に渡る、かつ平面の全方向への光の伝播を防止する。代わりに、これは、放射光をフォトニック結晶の外側へと誘導し、抽出効率を高める。
【0042】
発光方向の制御を改善するために、フォトニック結晶は、ブラッグ反射器と呼ばれるある種のミラー上に置かれることも可能である。これらのミラーは、次に、光電子放出材料により放出された光を外部へと反射し返す。
【0043】
ある好ましい実施形態において、ガラス繊維ニット内の空隙を充填するために使用されるシリコーン樹脂は、好ましくはダイヤモンド、コランダムおよび/または石英より成るグループから選択される少なくとも1種類のラマン散乱結晶を含む。
【0044】
理論に束縛されるものではないが、現時点で、電磁放射線、すなわち光子は、これらの散乱粒子によってより効率的に分散され、よって当該電磁放射線により引き起こされる処理効果が高まることが想定されている。具体的には、結晶上での光子のラマン散乱、すなわち非弾性散乱は、光子数の増幅を支援して、散乱光子の少なくとも一部のエネルギー、すなわち周波数、の増加をもたらす。明記したラマン散乱結晶の使用は、これらの材料が容易に入手可能であり、かつ比較的安価であるという理由で特に好ましい。
【0045】
具体的にダイヤモンドに関して言えば、ダイヤモンドにおける一次および二次電子-正孔対を光子によって励起可能であることが知られている(Gaudin et al.,Appl Phys B 78(2004),1001-1004)。本発明は、これに限定されるものではないが、現在、一次および二次電子-正孔対は、ダイヤモンドコーティング内で励起され、次いで2つの光子を放出することにより再結合し、こうして本明細書に記載の音響光学素子上へ入射する光子の数が増幅されることが理解されている。
【0046】
天然ダイヤモンドの代替物として、酸化ジルコニウムおよび/または他の合成ダイヤモンドの使用が可能である。好ましくは、窒素ドーパントによるダイヤモンドコーティングが使用される。
【0047】
ダイヤモンドを窒素でドーピングすると、可視光で励起可能ないわゆる帯電した窒素-空孔色中心が生成され、続いて発光が生じることは、技術上知られている(Han et al.,Nano Letters 9(2009),3323-3329)。本発明は、これに限定されるものではないが、現在、これにより、プラズマ中の光子分散がより効率的になることが理解されている。
【0048】
好ましくは、シリコーン中の当該ラマン散乱結晶の含有量は、当該シリコーン樹脂の0.1~2重量パーセントである。あるいは、または追加的に、当該ラマン散乱結晶のサイズは、4~1000nm、好ましくは8~170nmである。
【0049】
上記仕様を有する組成物ならびに粒子は、特に効果的な音響光学変調器の製造を見込んだものである。
【0050】
ミラーは、標的上へ超短光パルスを集束させるための能動光学素子として使用されることが可能である。この光が十分に高い強度を有するものとすれば、後者は、パルスの立上りの間に、強い電磁場により極めて短時間で強力にイオン化される。
【0051】
本明細書で開示される音響光学変調器の好ましい一実施形態において、音響光学媒質の表面は、SiO2および/またはSiNxを含むプラズマミラーを形成するように構成される。プラズマミラーは、当該表面におけるシリコーンに、すなわち音響光学媒質とプラズマとの間の界面を画定するシリコーン層に、酸素および/または窒素を含むプラズマを作用させることによって生成される。
【0052】
具体的には、シリカおよび窒化ケイ素(Si3N4)は、フォトニックデバイス用として十分に確立された材料であって、可視から中赤外に及ぶ広域の透明窓を表示する。これらの材料は、プラズマを効果的なミラーにするために必要な品質を有する。これらの材料は、光学およびマイクロエレクトロニクス分野で広く使用され、その優れた電気的、機械的および熱的特性で知られている。シリカおよび窒化物はいずれも、マイクロ波プラズマECR反応器内で化学気相成長法により生成される。この方法は、低温堆積技術の1つであって、基板を損傷することなく高品質の誘電体層を製造することを可能にする。
【0053】
本明細書で開示される音響光学変調器が動作する間、音響光学素子のシリコーン表面は、後に詳述するように、振動プラズマに絶えず曝される。酸素および窒素を多く含むこのプラズマは、自動生成または自己修復効果に似て、プラズマミラーの固体支持体を構成する二酸化ケイ素(SiO2)および窒化ケイ素(Si3N4)の表面薄層の連続的再構成を可能にする。
【0054】
音響光学媒質とこれを覆う容積との間の界面にプラズマミラーを形成する能力には、入射光子がより強く反射されるという利点がある。さらに、プラズマミラー上へ入射する電磁放射線パルスは、別のプラズマミラー上へ、今回はさらにより強力に、よって相対論的相互作用レジームまでの遙かに高い強度で集束されることが可能であり、こうして、処理されるべき媒質の処理効果が高まる。また、この別のプラズマミラーは、後にさらに詳述するように、たとえばリング形の音響光学変調器の場合、実際には第1のプラズマミラーと同じ要素の一部であるとも考えられる。相対論的相互作用レジームでは、ライトフィールドがプラズマミラー表面の振動運動を誘発し、これが、ドップラー効果により、ミラーによって反射される波の周期的な時間歪みを誘発する。この周期的な歪みの結果、反射光のスペクトルは、入射レーザの周波数に加えて、この周波数の多数の高次高調波で構成される。相対論的振動ミラープロセスとして知られるこのプロセスは、超短パルスを得るに足る高い高調波次数の現出を可能にする。
【0055】
本明細書で開示されるヘテロ構造において生じる複合プロセスは全て、単一光子の現出、具体的には、各々ダイヤモンドナノ粒子における光ポンピングおよび光学シリコーンにおける発光、に寄与する。
【0056】
本明細書で開示される音響光学変調器の好ましい一実施形態において、圧電トランスデューサおよび音響光学素子より成る積層板の総厚さは、4~80mm、好ましくは20~40mmである。
【0057】
先の目的は、さらに、本明細書で開示される通りの少なくとも1つの音響光学変調器および少なくとも1つの電極より成る装置によって達成される。当該音響光学変調器の表面と当該電極との間には、媒質が導入され得る空間が形成される。電極は、ラマン散乱結晶、具体的にはダイヤモンド、による少なくとも1つの部分的コーティング、好ましくは完全なコーティング、を含む。
【0058】
好ましくは、この装置は、本明細書に記載のリング形音響光学変調器と、当該リング形音響光学変調器の内側に配置される少なくとも1つの電極とを含む。
【0059】
リング形音響光学変調器のこうした装置内に存在する光子は、音響光学素子の表面により反射されて散乱されるが、少なくとも一部は、当該表面間の空間、すなわちリング形音響光学変調器内部のルーメン内に閉じ込められたままとなり、これにより光子と処理されるべき媒質との相互作用の確率が高まることは理解されるものの、この限りではない。さらには、様々な物理的現象に起因して波長シフトおよびフォトニックパルス変動が発生し得、これにより、処理されるべき媒質において広範な光化学反応が生じる可能性がもたらされ、処理の効率がさらに高められる。
【0060】
本明細書の文脈において、ルーメンという用語は、本明細書に記載の1つまたは複数の音響光学変調器により少なくとも部分的に画定または限定される空間内で、処理されるべき媒質用に利用可能な容積を指す。
【0061】
先の目的は、さらに、媒質、具体的には空気、を処理するためのデバイスによって達成される。デバイスは、本明細書で開示される少なくとも1つの装置と、処理チャンバとを備える。処理チャンバは、ルーメンを画定し、かつ音響光学変調器および電極より成る少なくとも1つの装置を備える。処理チャンバは、さらに、ルーメンと流体連通しかつ処理チャンバの第1の端に近接する第1の開口を備える入口と、ルーメンと流体連通しかつ処理チャンバの第2の端に近接する第2の開口を備える出口とを備える。入口と出口との間には、ルーメンを通り抜ける流れ経路が存在する。
【0062】
特有の理論に限定されるものではないが、処理チャンバ内に閉じ込められるべき粒子および電磁放射線の性質は、イオン、電子、マイクロ波、音響波、アルヴェーン波、および/または赤外線(IR)から紫外線(UV)光に及ぶ電磁放射線を含み、極めて多様であることが確信される。処理チャンバにおけるプラズマの閉込めおよび反射は、多数の高エネルギー短パルスレーザフィラメントを形成させることになり、これらは、媒質またはその中の含有物質により吸収されて媒質の処理を達成する。これらの粒子および波の大部分を処理チャンバの内部へと戻す能力は、システム性能を決定する可能性が高い。したがって、電磁妨害の原因ともなる処理チャンバにおける漏れを防止し、かつ耐劣化性の、具体的にはUV光による分解に耐性のある壁を有することが必要である。
【0063】
具体的には、デバイスは、処理チャンバを介して、処理されるべき媒質の平均流れ方向に略平行な長手方向軸を有する、リング形の音響光学変調器を備える。
【0064】
こうしたデバイスには、達成される媒質処理がエネルギー効率的であるという利点がある。このようなデバイスは、換気システムおよび/または空調システムに組み込まれ得るが、スタンドアロンデバイス、具体的には空気処理のためのもの、としても使用され得る。
【0065】
本明細書で開示されるデバイスの好ましい一実施形態において、処理チャンバは、増幅構造体、具体的には有孔の増幅構造体を備える。増幅構造体は、媒質の平均流れ方向へ円錐状に形成される。好ましくは、増幅構造体は、外サイクロイドとして形成される。増幅構造体は、少なくとも部分的な、好ましくは完全なダイヤモンドコーティングを備える。
【0066】
本明細書で使用する有孔という用語は、空気および/またはプラズマが通過できる増幅構造体内の開口を指す。
【0067】
増幅構造体の円錐形状には、ガス状媒質の流れが1つまたは複数の処理チャンバ出口へと方向づけられ、これにより、増幅構造体の下流のプラズマ密度、すなわちプラズマ中の荷電粒子の数が増加され、よって処理効果が高まるという利点がある。
【0068】
本明細書で開示されるデバイスの好ましい一実施形態において、リング形音響光学変調器の音響光学素子の表面は、増幅構造体に準じて外サイクロイドとして形成される。
【0069】
このような構造には、音響光学変調器の表面、および音響光学変調器の表面に入射する電磁放射線が最適に分散され、処理効果が高まるという利点がある。
【0070】
好ましくは、増幅構造体には、増幅構造体が処理チャンバ内に含まれる電極に対する対電極として機能するように、具体的には電極がカソードとして機能しかつ増幅構造体がアノードとして機能するようにして、電圧を印加することができる。
【0071】
本明細書で開示されるデバイスの好ましい一実施形態において、音響光学変調器は、当該処理チャンバの内壁に配置される。この実施形態では、デバイスの意図された動作中に、ルーメンは、処理チャンバを通って流れる当該媒質の連続処理を可能にすべく光で満たされる。
【0072】
これには、処理チャンバへと導入される全ての媒質が処理されるという利点がある。
ある好ましい実施形態において、本明細書で開示されるデバイスは、ガス状媒質を処理するように構成されていて、処理されるべきガス流に液体を導入するための手段をさらに備える。
【0073】
好ましくは、当該液体は、直径8~12マイクロメートルの液滴の形態で導入される。
理論に束縛されるものではないが、現在、液滴表面に与える電磁パルスの衝撃は、それぞれの液滴内に圧力勾配を引き起こし、これにより、最終的に液滴が爆縮しかつ衝撃波が放出され、次には、処理チャンバ内に存在する分子および/または粒子、たとえば電子、が加速されることが想定されている。
【0074】
指定されたサイズ範囲の液滴を注入すれば、効果を最適化することができ、かつ媒質処理が特に効果的となる。
【0075】
先の目的は、さらに、本明細書で開示される音響光学変調器の、具体的には本明細書で開示されるデバイスにおける、媒質、具体的には空気、を処理するための使用法によって達成される。
【0076】
先の目的は、さらに、本明細書で開示される音響光学変調器の、具体的には本明細書で開示されるデバイスにおける、光パルス持続時間を短縮しかつ/または音響光学媒質に入射する光子のエネルギーを増加させるための使用法によって達成される。
【0077】
先の目的は、さらに、本明細書で開示される音響光学変調器の、具体的には本明細書で開示されるデバイスにおける、有機分子を合成するための使用法によって達成される。
【0078】
具体的には、当該有機分子は、アミノ酸であってもよく、これは、好ましくは少なくとも部分的に、二酸化炭素および亜酸化窒素より成るグループから選択される燃焼ガスを用いて合成される。
【0079】
先の目的は、さらに、本明細書で開示される音響光学変調器の、具体的には本明細書で開示されるデバイスにおける、水、アルコールおよび/または炭化水素から水素を製造するための使用法によって達成される。
【0080】
本発明は、さらに、図面によってもさらに詳しく説明され、諸図において、類似の参照数字は、同じ、または類似のエレメントを指して使用されている。
【図面の簡単な説明】
【0081】
【
図1】本発明による音響光学変調器の斜視図である。
【
図2】
図1の破線bに沿った、音響光学変調器の層状構造を示す。
【
図3】
図1の破線bに沿った、別の音響光学変調器の層状構造を分解スタイルで示す図である。
【
図4】音響光学変調器および電極より成る装置の長手方向断面図である。
【
図5】音響光学変調器および電極より成る装置の断面図である。
【
図6】本発明によるデバイスの長手方向断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0082】
図1は、本明細書で開示される音響光学変調器(10)を示す斜視図である。音響光学変調器(20)は、積層板を形成する、圧電トランスデューサ(20)と音響光学素子(30)とを備える。本実施例では、音響光学変調器(10)が円形ハウジングに組み込まれ、よって、この図では、音響光学素子(30)とは反対向きの圧電トランスデューサ(20)の電極(21)およびこれとは反対側の音響光学素子(30)の表面(34)のみを視認可能である。破線bに沿った音響光学変調器(10)の詳細な構造については、以下、
図2および
図3においてより詳細に説明する。さらに、処理されるべき媒質(90)の平均流れ方向が破線aで示されている。
【0083】
図2は、音響光学変調器(10)の層状構造を、破線bに沿った断面図として略示したものである。処理されるべき媒質に面する音響光学素子(30)の表面(34)を起点として圧電トランスデューサ(20)方向へ、音響光学変調器(10)のこの実施形態における一連の材料は、まず、ガラス繊維の編物(31)および光学シリコーン(32)の二重周期構造から成り、これらが合わせて音響光学素子(30)を形成する。当該音響光学素子(30)の調製については、後により詳細に説明する。第1の電極(22)は、音響光学素子(30)へ直に連接されていて、この電極は、たとえば、厚さ約15マイクロメートルの家庭にある一般的なアルミニウム箔片から成る。第1の電極(22)は、たとえばガラス繊維テキスタイルからなる接触素子(25)を介して誘電体(23)へ連接される。圧電トランスデューサ(20)の誘電体(23)は、たとえば、カルナウバ蝋、ロジンおよび蜜蝋の混合物であってもよい。音響光学変調器(10)におけるさらなる一連の材料は、さらなる接触素子(24)および第2の電極(21)から成り、これらのエレメント(21、24)に使用される材料は、第1の電極(22)および第1の接触素子(25)のそれと同じであっても、異なっていてもよい。第2の電極(21)および音響光学素子(30)の表面(34)は、音響光学変調器(10)の反対側面に位置決めされていて、言い換えれば、第2の電極(21)および表面(24)は、積層板の2つの最外層を形成する。
【0084】
図3は、音響光学変調器(10)の別の層状構造を、音響光学変調器(10)の層状構造をより一層理解することができる分解スタイルで描いたものである。具体的には、
図3は、編み糸が誘電体から作られているテキスタイル(31)を備える音響光学素子層(30)を略示している。編み糸は、二重周期構造を形成していて、編み糸間の間隙は、二重周期構造を有するテキスタイル(31)を調製するために使用される材料の屈折率とは異なる屈折率を特徴とする誘電体(32)、具体的には誘電性樹脂、で充填される。本実施例において、テキスタイル(31)を含浸しかつ充填するために使用される誘電性樹脂(32)は、さらに、樹脂内に分散されるラマン散乱結晶(33)を含む。こうして形成された音響光学素子(30)は、2つの電極(21、22)間に挟まれる誘電体(23)を含む圧電トランスデューサ(20)と積層される。
【0085】
図4は、音響光学変調器(10)および電極(40)より成る装置(50)の長手方向断面図を示す。この図において、処理されるべき媒質の平均流れ方向は、実質的に描画平面(不図示)内となる。本実施例において、装置(50)はリング形であり、すなわち、音響光学変調器(10)および増幅器構造体(41)は、当該リング形音響光学変調器(10)と当該増幅器構造体(41)との間に置かれる電極(40)と同心的に配置される。当該音響光学変調器(10)の表面(34)と当該増幅器構造体(41)との間の空間(102)は、処理されるべき媒質内の分子とプラズマとの相互作用が生じる場所である。処理されるべき媒質(90)は、処理チャンバ入口(103)を介して空間(102)へ入り、かつ処理チャンバ出口(104)を介して空間(102)から出る。電極(40)は、先に述べたように、処理効果を高めるために、少なくとも1つの部分的なダイヤモンドコーティングを含む。
【0086】
図5は、
図4の装置(50)を断面図で示したものである。本実施例において、処理空間(102)に面する音響光学変調器(10)の表面(34)は、増幅構造体(41)に準じる外サイクロイドとして形成されている。理論に束縛されるものではないが、処理チャンバの側壁、すなわち音響光学変調器(10)の表面(34)、を放物線的に形成することにより、音響波は、処理チャンバ内で効果的に分散されかつ反射され得ることが想定される。これにより、処理効果を高めることが可能である。
【0087】
図6は、国際公開出願第2012/028687号パンフレットに開示されているデバイス(100)の長手方向断面を示すものであるが、本明細書で開示される音響光学変調器が使用されている。媒質(90)、具体的には空気(91)、を処理するためのデバイス(100)は、ルーメン(102)を画定する処理チャンバ(101)内に、音響光学変調器(10)および電極(40)より成る少なくとも1つの装置(50)と、ルーメン(102)および処理チャンバ(101)の第1の端に近接する第1の開口と流体連通する入口(103)と、ルーメン(102)および処理チャンバ(101)の第2の端に近接する第2の開口と流体連通する出口(104)とを備える。デバイスは、入口(103)と出口(104)との間でルーメン(102)を通る流れ経路(a)をさらに備える。
【0088】
処理チャンバ(101)へと入る前に、処理されるべきガス状または液体媒質(90)は、本略図には示されていない外部手段によりプラズマ発生デバイス(60)内へ搬送される。しかしながら、搬送手段は、たとえば1つまたは複数の換気装置を含んでもよい。プラズマ発生デバイス(60)は、プラズマチャンバであってもよく、好ましくは、マイクロ波範囲の周波数を有する電磁放射線を発生させるための発生器を備える。
【0089】
媒質(90)は、プラズマデバイス入口(61)を通ってプラズマ発生デバイス(60)に入る。プラズマ発生デバイス(60)の内部において、媒質(90)内にプラズマ(1)が発生され、すなわち、空気(91)がプラズマ(1)に変換される。プラズマ(1)は、大気圧、すなわち0.8バール~1.2バールの範囲の圧力、および15℃~45℃の範囲の温度を呈することが考えられる。プラズマ(1)は、プラズマデバイス出口(62)を通り、円形、長方形または楕円形断面のチューブとして形成され得る誘電構造体(63)へと搬送される。具体的には、このような構造体は、任意の断面で形成されることが可能である。チューブは、さらに好ましくは、シリカを含み、またはシリカでコーティングされる。このような溶融シリカチューブ(63)は、プラズマ発生デバイス(60)内で形成されたプラズマ(1)をそれぞれ処理チャンバ入口(103)および処理チャンバ(101)へ向かって搬送することを可能にする。これには、プラズマ(1)内の電子の少なくとも一部を加速させる効果がある。溶融シリカチューブ(63)は、媒質の流れ方向(a)に先細の断面を有するが、これは、チューブの流れ断面が、少なくともチューブの一区画において媒質の流れ方向に減少することを意味する。これは、媒質の流れにおいて、およびプラズマ内に、プラズマ(1)の「混合」に寄与する乱流を生成するために使用される。したがって、より長い長さに渡ってプラズマ(1)を持続しかつプラズマ(1)を改質する相乗効果が達成され得、これにより、プラズマ(1)と媒質(90)との反応時間が延長される。理論に束縛されるものではないが、さらに、プラズマの電子の少なくとも一部は、誘電構造体(63)内の表面波によってより高速へと加速され、これもまた処理の向上に繋がることが想定される。
【0090】
処理チャンバ(101)において、音響光学変調器(10)は、当該処理チャンバ(101)の内壁(105)上に配置され、音響光学変調器(10)間に存在する容積(102)、すなわちルーメン(102)は、複数の電極(40)を備える。電極(40)は、好ましくは、完全なダイヤモンドコーティングで被覆される。電極(40)間には、電源(不図示)によって4~17kVの電圧が印加される。好ましくは、当該電極(40)間に印加される電圧は、8~12kVである。これは、プラズマの発生を支援し、かつ処理チャンバ(101)内に存在するプラズマ(1)を保全する効果を有する。したがって、処理チャンバ(101)は、プラズマ(1)と媒質(90)との相互作用持続時間を増加させることを見込んでいて、これにより、処理効果が高まり、かつデバイス(100)のエネルギー効率がより高まる。
【0091】
本明細書で開示される処理チャンバ(101)のさらなる利点は、デバイス(100)の意図された動作の間の光子数、すなわちプラズマの光子種の数の増幅にある。言い換えれば、処理チャンバ(101)は、浮遊微生物または化学的毒素などの汚染物質と相互作用するプラズマ(1)で満たされ、こうして、プラズマ(1)中のこうした汚染物質の量を減らす。したがって、処理チャンバ出口(104)を出るプラズマ(1)に含まれる汚染物質の量は、より少なくなる。具体的には、本明細書に記載のデバイス(100)は、処理チャンバ(101)を通って流れる当該媒質(90)の連続処理を可能にする。好ましくは、処理チャンバ(101)の内壁(105)は、ダイヤモンドコーティングを備える。
【0092】
本実施例では、処理チャンバ入口(103)を起点に媒質(90)の流れ方向(a)へ向かって、内壁(105)が、略湾曲した表面を有する第1の区画と、音響光学変調器(10)の音響光学素子のルーメンに面する表面(34)により形成される平坦な表面を有する第2の区画とを有する。処理チャンバ(101)は、さらに、外サイクロイドの形態の増幅構造体(41)と、増幅構造体(41)により囲まれる容積内に配置される円筒構造体(不図示)とを備える。増幅構造体(41)および円筒構造体は各々、ダイヤモンドコーティングを特徴とする。
【0093】
ある好ましい実施形態において、本明細書で開示されるデバイス(100)は、ガス状媒質(91)を処理するように構成されていて、処理されるべきガス流(不図示)に液体(92)を導入するための手段をさらに備える。
【0094】
以下、本明細書で開示される音響光学変調器を調製する方法について記載する。音響光学変調器を調製するための方法は、i)第1の電極と、第2の電極とを備える金型を提供するステップであって、当該電極は離間され、かつ各々が当該金型の一方の壁を画定するステップと、ii)場合により、電極のそれぞれの側に1つ、互いに対向する2つの接触素子を提供するステップと、iii)当該電極を電圧源へ連接するステップと、iv)第1の誘電体を溶融状態で提供するステップと、v)当該金型に溶融した第1の誘電体を充填するステップと、vi)2つの電極へDC電圧を印加するステップと、vii)この電圧を、第1の誘電体を冷却する間、少なくとも溶融した第1の誘電体が完全に固化するまで保全するステップと、viii)誘電体製のテキスタイルを提供するステップであって、当該テキスタイルは、二重周期構造を含むステップと、ix)当該テキスタイルに、テキスタイル誘電体のそれとは異なる屈折率を有する誘電体を含浸させるステップとを含む。
【0095】
エレクトレットは、開放空気中の帯電した塵粒および様々なイオンを引き付けて、その帯電作用を急速に失うことから、たとえばアルミニウム箔で覆ってしっかりと遮蔽された状態で保管されなければならない。
【0096】
したがって、誘電体は、圧電トランスデューサにおいて、電極により最大限に覆われること、および、誘電体と電極との接触は、可能な限り大きいことが好ましい。
【0097】
好ましくは、エレクトレットは、後に音響光学変調器を備えるデバイスの一部を形成する金型内で製造される。
【0098】
エレクトレット、すなわち電場における分極後の第1の誘電体、を、本質的に最終的な圧電トランスデューサの所望されるサイズを含む金型内で直に製造することにより、エレクトレットは、その製造後に電極から分離される必要がなく、これにより、エレクトレットの帯電作用を特に良好に保つことが可能になる。
【0099】
また、溶融された第1の誘電体は、絶縁された金属電極上に置かれた1片のアルミニウム箔上に存在する金型へ注がれることも考えられる。溶融物を含む金型の上部には、第2のアルミニウム箔片が置かれ、箔上へカバー電極が置かれる。
【0100】
金型に溶融物を充填した後、2つの電極間には高電圧が印加され、第1の誘電体は、印加された電圧の影響下で約1時間、第1の誘電体が完全に固化されるまで冷却される。次に、電圧がオフにされ、こうして得られたエレクトレットは、必要に応じて金型から取り外されてもよい。
【0101】
好ましくは、二重周期構造を有する提供されたテキスタイルと圧電トランスデューサとの連接は、含浸ステップにおいて確立される。
【0102】
たとえば、音響光学素子により覆われるべき圧電トランスデューサの接触面と略同じサイズを有するガラス繊維ニットを当該接触面上に置くこと、および、その前および/または後に、当該ガラス繊維ニットに光学シリコーンを含浸させることが考えられる。
【0103】
必要に応じて、ガラス繊維ニットは、含浸ステップの前に、たとえばアセンブリシリコーンを用いて、圧電トランスデューサの接触面の一部へ、または接触面全体を覆って固定されることも可能である。
【0104】
これには、たとえば、圧電トランスデューサの形状が平坦でない場合、音響光学変調器が、半製品がそれらの間で輸送されなければならない異なるステーションで製造される場合、または、音響光学変調器の幾何学的形状が、テキスタイルを重力に逆らって保持することを必要とする場合に、テキスタイルを所望される形状で迅速かつ安全に固定することができる、という利点がある。この場合、ガラス繊維ニットにさらなる誘電体、たとえば光学シリコーン、を実際に含浸させることは、後の段階で実行される。
【0105】
ある好ましい実施形態では、テキスタイルに含浸させるために使用される誘電体へラマン散乱結晶、たとえばダイヤモンドナノ粒子、が添加される。この場合、当該誘電体内に当該ラマン散乱結晶の均一なコロイド分散を達成するために、これらの粒子は、含浸ステップの前に誘電体、たとえば光学シリコーン、へ組み込まれることが望ましい。
【0106】
テキスタイルの含浸に使用される誘電体次第では、音響光学素子のより高い機械的強度および/または誘電体とテキスタイルとの間の改善された接着を達成するために、誘電体を架橋することが好ましい。架橋は、たとえば紫外線照射によって行うことができるが、この場合、含浸に使用される誘電体樹脂は、好ましくは光開始剤を含み、かつ/または、テキスタイルは、含浸より前に光開始剤含有化合物で処理される。
【国際調査報告】