IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ボットメディカル アー・ゲーの特許一覧

特表2023-539448歯科器具を製造するための方法およびそれに付随する使用例
<>
  • 特表-歯科器具を製造するための方法およびそれに付随する使用例 図1
  • 特表-歯科器具を製造するための方法およびそれに付随する使用例 図2
  • 特表-歯科器具を製造するための方法およびそれに付随する使用例 図3
  • 特表-歯科器具を製造するための方法およびそれに付随する使用例 図4
  • 特表-歯科器具を製造するための方法およびそれに付随する使用例 図5
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-09-14
(54)【発明の名称】歯科器具を製造するための方法およびそれに付随する使用例
(51)【国際特許分類】
   A61K 6/884 20200101AFI20230907BHJP
   C08J 7/04 20200101ALI20230907BHJP
   A61K 6/898 20200101ALI20230907BHJP
   A61K 6/891 20200101ALI20230907BHJP
   A61K 31/11 20060101ALI20230907BHJP
   A61P 31/04 20060101ALI20230907BHJP
   A61K 31/015 20060101ALI20230907BHJP
   A61K 31/618 20060101ALI20230907BHJP
   A61K 31/085 20060101ALI20230907BHJP
【FI】
A61K6/884
C08J7/04 U CER
C08J7/04 CEZ
A61K6/898
A61K6/891
A61K31/11
A61P31/04
A61K31/015
A61K31/618
A61K31/085
【審査請求】未請求
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2023510371
(86)(22)【出願日】2021-08-06
(85)【翻訳文提出日】2023-03-13
(86)【国際出願番号】 EP2021072046
(87)【国際公開番号】W WO2022033985
(87)【国際公開日】2022-02-17
(31)【優先権主張番号】20191189.8
(32)【優先日】2020-08-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522164525
【氏名又は名称】ボットメディカル アー・ゲー
【氏名又は名称原語表記】Bottmedical AG
【住所又は居所原語表記】Technologiepark Basel, Hochbergerstrasse 60C, 4057 Basel, Switzerland
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【弁理士】
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】ティノ テッパー
(72)【発明者】
【氏名】ベキム オスマニ
(72)【発明者】
【氏名】エリーゼ ダート
【テーマコード(参考)】
4C086
4C089
4C206
4F006
【Fターム(参考)】
4C086AA01
4C086AA02
4C086DA17
4C086MA03
4C086MA05
4C086MA57
4C086NA12
4C086ZB35
4C089BA03
4C089BC02
4C089BC03
4C089BC07
4C089BC20
4C089BE08
4C089BE15
4C206AA01
4C206AA02
4C206BA04
4C206CA27
4C206CB05
4C206MA03
4C206MA05
4C206MA77
4C206NA12
4C206ZB35
4F006AA35
4F006AB03
4F006AB64
4F006BA17
4F006CA09
4F006EA05
4F006EA06
(57)【要約】
歯科器具(2)の機能性および生体適合性を改善するために、熱可塑性の機能性薄片(1)を作製するための新規な方法が提案され、かかる歯科器具(2)は、機能性薄片(1)を熱成形することによって熱可塑性の機能性薄片(1)から得ることができる。有機ポリマー、好ましくはバイオ系ポリマー(6)を含有する担体液(9)は、薬剤(7)によって強化され、固形の熱可塑性のコア薄片(13)に塗布される。担体液(9)に含有される溶媒を蒸発させた後、均一で高度に均質な機能性のコーティング(5)がコア薄片(13)上に得られる。したがって、薄片(1)の熱成形後、歯科器具(2)は、強化された機能性を提供する外側の保護用のコーティング(5)を特徴とする(図1を参照)。さらに、再充填液(23)を使用して、器具(2)のコーティング(5)に薬剤(7)を再充填することが可能である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
特に歯科器具(2)として口腔内で使用するための熱可塑性の機能性薄片(1)を作製するための方法であって、
前記機能性薄片(1)は、熱可塑性材料(4)のコア(3)と、前記コア(3)を少なくとも部分的に被覆する熱可塑性のコーティング(5)と、を備え、
- 有機ポリマー(6)を含む担体液(9)を提供するステップと、
- 前記コーティング(5)を形成する前に、水性環境中で前記コーティング(5)から放出可能な薬剤(7)を、前記担体液(9)に添加するステップと、
- 前記担体液(9)を前記コーティング(5)として前記コア(3)に塗布するステップと、
を含む、方法。
【請求項2】
- 前記薬剤(7)は、再生可能な生物資源、特に生物によって生産される非化石起源の材料に由来し、
- 最も好ましくは、特に非化石植物から直接抽出された精油に由来する、
請求項1記載の方法。
【請求項3】
- 前記薬剤(7)は、以下の物質、すなわち精油、精油の抽出物、またはシンナムアルデヒド、石灰、チモール、オイゲノール、リナロール、カルバクロール、ナツメグ、ピメントベリー、ローズマリー、プチグレイン、コーヒー、もしくはアニスなどの誘導体のうちの少なくとも1つを含む、
請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
- 前記有機ポリマー(6)は、再生可能な生物資源、特に生物によって生産される非化石起源の材料に由来し、かつ/または
- 前記有機ポリマー(6)は、セルロース系材料、特にセルロース系複合材料であり、
- 好ましくは、前記有機ポリマー(6)は、酢酸酪酸セルロース(CAB)であり、
- 最も好ましくは、前記CABのブチリル含有量が15~60重量%である、
請求項1から3までのいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
- 前記コーティング(5)は、特に抗菌剤(7)、最も好ましくはシンナムアルデヒド、の放出を通じて抗菌保護を提供する、
請求項1から4までのいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
- 前記コア(3)の溶融温度Tm,coreと前記コーティング(5)の溶融温度Tm,coatingとは、少なくとも20℃、好ましくは少なくとも40℃異なり、
- 最も好ましくは、前記コア(3)の前記溶融温度Tm,coreは、前記コーティング(5)の前記溶融温度Tm,coatingよりも高い、
請求項1から5までのいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
- 前記コア(3)は、ポリエチレンテレフタレート(PET)から、特に少なくとも部分的にリサイクルPETから作製され、
- 好ましくは、グリコール変性ポリエチレンテレフタレート(PETG)から作製される、
請求項1から6までのいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
- 前記薬剤(7)は、以下の精油、すなわち
リモネンまたはシンナムアルデヒド
および
サリチル酸メチルまたはトランス-アネトール
の組み合わせを含む、
請求項1から7までのいずれか1項記載の方法。
【請求項9】
- 前記コーティング(5)のガラス転移温度Tg,coatingは、80~165℃の範囲内にあり、
- 好ましくは、前記薬剤(7)の分解温度Td,agentは、前記コーティング(5)の溶融温度Tm,coatingよりも少なくとも10℃高く、かつ/または
- 前記コーティング(5)、特に前記有機ポリマー(6)の、対応する溶融範囲は、120~200℃の範囲内にあり、
かつ/または
- 前記コーティング(5)に使用される前記有機ポリマー(6)、特に前記CABは、12000g/molを超える、好ましくは20000g/molを超える数平均分子量を有する、
請求項1から8までのいずれか1項記載の方法。
【請求項10】
- 前記担体液(9)は、担体溶液(11)であり、
- 好ましくは、前記担体溶液(11)は、前記有機ポリマー(6)を溶媒(12)に溶解することによって得られ、
- 最も好ましくは、前記コーティング(5)は、前記コーティング(5)から前記溶媒(12)を蒸発させることによって前記コア(3)上で固化され、かつ/または
- 前記コア(3)は、コア薄片(13)である、
請求項1から9までのいずれか1項記載の方法。
【請求項11】
- 前記コーティング(5)は、スピンコーティングもしくはブレードベースのコーティングなどの物理的コーティング方法によって、またはスプレーコーティングによって、またはロールツーロールコーティングによって形成される、
請求項1から10までのいずれか1項記載の方法。
【請求項12】
- 前記コア(3)のガラス転移温度Tg,coreと前記コーティング(5)のガラス転移温度Tg,coatingとの差は、80℃未満、好ましくは60℃未満であり、特に、Tg,coatingは、Tg,coreよりも高い、
請求項1から11までのいずれか1項記載の方法。
【請求項13】
- 前記溶媒(12)は、特に前記コア(3)の材料の分子鎖の相互作用を低減することによって、前記コア(3)の表面を改質し、それにより、前記コア(3)および前記コーティング(5)は、ナノメートルスケールで結合することができ、その結果、前記コア(3)上の前記コーティング(5)の接着が改善され、かつ/または
- 前記溶媒(12)は、アセトン、酢酸メチル、酢酸エチル、メチルエチルケトン、酢酸イソプロピル、酢酸ブチル、乳酸エチル、シクロヘキサン、ジアセトンアルコール、乳酸ブチル、またはこれらの溶媒の適切な混合物のうちの少なくとも1つを含む、
請求項10から12までのいずれか1項記載の方法。
【請求項14】
- 前記薬剤(7)自体は、液体であり、または
- 前記薬剤(7)は、前記薬剤(7)を水性または油性の溶液中に溶解または乳化させ、前記溶液を前記担体液(9)と混合することによって、前記担体液(9)に添加され、
- 好ましくは、前記コーティング(5)を形成する前に、前記薬剤(7)を含有する前記溶液が例えば撹拌機によって前記担体液(9)と混合されて、均質な担体溶液(11)を形成する、
請求項1から13までのいずれか1項記載の方法。
【請求項15】
- 前記薬剤(7)と前記有機ポリマー(6)との間の比率は、重量で0.01/99.99~30/70である、
請求項1から14までのいずれか1項記載の方法。
【請求項16】
- 歯科器具(2)は、前記コア(3)に前記コーティング(5)を塗布した後に前記機能性薄片(1)を熱成形することによって前記機能性薄片(1)から形成され、
- 特に、その結果、熱成形後に、前記有機ポリマー(6)が、好ましくは前記コア(3)を完全に被覆するコンフォーマルな機能性のコーティング(5)を形成し、
- 特に、前記コーティング(5)に埋め込まれた前記薬剤(7)が、歯および歯肉に対する抗菌もしくは再生機能、または香味を前記歯科器具(2)に提供する、
請求項1から15までのいずれか1項記載の方法。
【請求項17】
歯科矯正器具(2)または歯および/または歯肉の保護用の保護器具(2)などの歯科器具(2)であって、
- 請求項1から16までのいずれか1項記載の方法で製造された機能性薄片(1)から形成され、特に熱成形され、好ましくは、前記歯科器具(2)は、完全に前記機能性薄片(1)から構成され、
または
- 有機ポリマーを含む液体前駆体から3D印刷されて放出可能な薬剤(7)によって充填され、
- 特に、前記薬剤(7)は、
- 口腔内使用中に前記歯科器具(2)から放出可能であり、かつ/または
- 再充填液(23)を使用して前記歯科器具(2)のキャップ層に再充填可能である、
歯科器具(2)。
【請求項18】
歯科矯正器具(2)または歯および/または歯肉の保護用の保護器具(2)などの歯科器具(2)であって、
前記歯科器具(2)は、
- 熱可塑性材料(4)のコア(3)と、
- 前記コア(3)を少なくとも部分的に被覆する熱可塑性のコーティング(5)と、
- 前記コーティング(5)に埋め込まれ、水性環境において前記コーティング(5)から放出可能な薬剤(7)と、
を特徴とし、
- 好ましくは、前記薬剤は、前記コーティング(5)の表面積1cm当たり少なくとも0.05mgの前記薬剤(7)の表面密度で埋め込まれ、
- 特に、請求項20から25までのいずれか1項において規定される再充填液(23)を使用することによって埋め込まれ、
- 最も好ましくは、前記器具(2)が口内に装着されたときに、24時間の期間にわたって、1時間当たり前記コーティング(5)の表面積で少なくとも1mg/mの、前記歯科器具(2)からの前記薬剤(7)の放出速度が維持され得るように埋め込まれる、
ことを特徴とする、歯科器具(2)。
【請求項19】
歯および/または歯肉を歯肉炎および/または歯周炎から保護するための、特に請求項18記載の歯科器具(2)の非治療的な使用であって、
- 使用中、前記歯科器具(2)は、歯と前記歯に隣接する前記歯肉の部分との両方を被覆し、
- 前記歯科器具(2)は、特に放出可能な抗菌剤(7)を介して抗菌保護を提供する機能性コーティング(1)を特徴とし、
- 好ましくは、前記歯科器具(2)は、前記歯科器具(2)が前記歯に力を加えないように、使用者の前記歯の自然な位置に適合する空洞を有して形成され、
- 好ましくは、前記熱可塑性の前記機能性薄片(1)は、700μm未満、好ましくは500μm未満、最も好ましくは300μm未満の最大厚さを示し、
- 特に、前記歯科器具(2)は、前記使用者が睡眠中に前記使用者によって装着される、
ことを特徴とする、使用。
【請求項20】
好ましくは請求項17または18記載の歯科器具(2)に放出可能な薬剤(7)を充填または再充填するための再充填液(23)の使用であって、
- 前記再充填液は、前記薬剤(7)を含有し、
- 前記歯科器具(2)は、前記薬剤(7)を前記歯科器具(2)内に、特に前記歯科器具(2)のコーティング(5)内に充填するために、前記再充填液に浸漬され、
- 好ましくは、前記再充填液(23)は、少なくとも0.2g/lの濃度の前記薬剤(7)を含有する、
ことを特徴とする、再充填液(23)の使用。
【請求項21】
前記再充填液(23)は、
- 特にエタノールなどの溶媒を含有する水溶液
または
- 油性液体である、
請求項20記載の再充填液(23)の使用。
【請求項22】
前記再充填液(23)は、前記薬剤(7)を含有する固形の錠剤(25)を液体に溶解することによって得られ、
- 好ましくは、前記錠剤(25)は水溶性であり、前記液体は水である、
請求項20または21記載の再充填液(23)の使用。
【請求項23】
前記再充填液(23)および/または前記錠剤(25)は、前記薬剤(7)を前記再充填液(23)内に均質に分布させるための界面活性剤を含み、
- 好ましくは、前記界面活性剤は、再生可能な生物資源、特に生物によって生産される非化石起源の材料に由来し、
- 最も好ましくは、前記界面活性剤は、以下の物質、すなわち脂肪酸エステル、安息香酸アルコール、グリセロール系界面活性剤、ラウリン酸ポリグリセリル-4、もしくはカプリン酸ポリグリセリル-6のうちの1つ、またはこれらの組み合わせを含む、
請求項20から22までのいずれか1項記載の再充填液(23)の使用。
【請求項24】
- 前記再充填液(23)中の前記界面活性剤の濃度cは、c>1.1g/lであり、かつ/または
- 前記再充填液(23)中の前記界面活性剤の濃度cと前記薬剤(7)の濃度cとの比率は、c/c<100、最も好ましくはc/c<10である、
請求項23記載の再充填液(23)の使用。
【請求項25】
前記薬剤(7)は、
- 抗菌剤(7)、好ましくはシンナムアルデヒドであり、かつ/または
- 再生可能な生物資源、特に生物によって生産される非化石起源の材料に由来し、かつ/または
- 精油であり、かつ/または
- 以下の精油、すなわち
リモネンまたはシンナムアルデヒド
および
サリチル酸メチルまたはトランス-アネトール
の組み合わせを含む、
請求項20から24までのいずれか1項記載の再充填液(23)の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、熱可塑性材料のコア、特に熱可塑性ポリマーから作製されたコアと、コアを少なくとも部分的に被覆する熱可塑性のコーティングとを含む熱可塑性の機能性薄片を作製するための方法に関する。
【0002】
この薄片は、口腔内で歯に装着される歯科器具として口腔内で使用するのに特に好適である。なぜならば、そのような器具は、そのような薄片から容易に形成され得るためである。したがって、この開示は、また、そのような機能性薄片から製造、特に形成された、最も好ましくは熱成形された、歯科器具に関する。この歯科器具は、歯科矯正器具として、または器具の使用者の歯および/または歯肉を保護するための保護器具として使用することができる。
【0003】
最後に、本発明は、新規の非治療的な使用例に関するものであり、この使用例では、歯および/または歯肉を、特にタバコの煙および/または結果として生じる歯肉炎および/または歯周炎から保護するために、前述したような歯科器具が使用者によって装着される。さらに、歯に器具を装着することによって、歯垢の形成を低減することができ、ひいては虫歯を発症するリスクを低減することができる。
【0004】
従来、歯並びを整えるための歯科矯正治療には、口腔内歯科矯正装置が使用されてきた。この特定の用途例では、装置は、数時間にわたって歯に装着する歯科用スプリントとして設計されることが一般的である。歯科用スプリントは、患者の個々の歯に力を加えることにより、所望の歯の位置の方向に歯並びを整える。この目的のために、通常、形状が互いに僅かに異なる多数の歯科用スプリントが、段階的に歯並びを整えるために連続して患者によって装着される。
【0005】
かかる口腔内歯科矯正装置、特に歯科用スプリントの更なる公知の用途は、装置によって歯に塗布される漂白ペーストを用いて歯を漂白すること、または夜間のいびきを治療するためにかかる装置を使用することである。
【0006】
歯科矯正器具のような口腔内器具はまた、噛みしめおよび歯ぎしりを回避するためにも使用されている。慢性的な歯の噛みしめおよび歯ぎしりは、下顎を動かす筋肉を酷使することになり、筋肉痛の原因となる場合がある。関節そのものに負荷がかかることで、関節内部に変化が生じ、痛みが生じ、かつ開口の制限が生じる可能性がある。
【0007】
これらの用途の全てにおいて、装置の高い装着快適性を提供することは、患者が治療を受け入れやすく、ひいては治療を全体的に成功させるために最も重要である。しかし、歯科器具が純粋に歯の保護のために装着される場合にも、高い装着快適性は重要な品質である。
【0008】
これに関連して、本発明は、かかる歯科器具の機能性および生体適合性をさらに向上させることを目的とし、この根本的な目的に関連して、かかる装置を製造するための効率的な方法を提供することを目的とする。
【0009】
本発明によれば、前述の問題を解決する請求項1記載の方法が提供される。特に、本発明は、熱可塑性のコアと、このコアを少なくとも部分的に、好ましくは完全に被覆する熱可塑性のコーティングとを特徴とする、冒頭に説明したような熱可塑性の機能性薄片を作製する方法を提案する。この方法は、好ましくは熱可塑性ポリマーであり得る有機ポリマーを含む担体液を提供するステップと、コーティングとしての担体液をコアに塗布するステップと、を含む。
【0010】
コアに特に好適な材料は、ポリエチレンテレフタレート(PET)、特にPETG、ポリカーボネート(PC)、およびポリウレタン(PU)である。これらの材料は、リサイクルされた形態(rPET、rPU、rPET、rPETG)で使用することもできる。
【0011】
換言すれば、本発明は、液体コーティングの形態のコーティングを、コア薄片の形態を有し得る固形のコアに、特にかかるコア薄片の両面に塗布し、その後、液体コーティングをコア上で固化して、コアを被覆する固形の熱可塑性のコーティングを形成することを提案する。
【0012】
この方法を通して、コアの高度に均一かつ均質なコーティングを達成することができ、コアおよびコーティングの両方を、以下により詳細に説明するように、後続の方法ステップにおいて一緒に熱成形することができる。この液体コーティング手法の別の大きな利点は、コーティングが、薄片および薄片から形成された歯科器具に新しい機能性を提供できる点にある。特に、以下により詳細に説明するように、コーティングをコア上で固化する前に、コーティングを形成する担体液中に薬剤を混合することができる。
【0013】
あるいは、コーティングは、ホットメルト押出方法を使用し、担体溶融物として担体液を提供することによって形成されてもよい。かかる担体溶融物を固形のコアに塗布して、機能性のコーティングを形成することもできる。
【0014】
以下で明らかになるように、コーティングにより、薄片から製造される歯科器具の熱可塑性のキャップ層を形成することができる。特定の用途に関して、例えば、抗菌保護が提供される場合、キャップ層が装置のコアを完全に被覆することが有益であり、それにより、熱可塑性のコーティングは、機能性薄片のコアを完全に被覆することができる。
【0015】
本発明によれば、前述の問題を解決する更なる有利な例が存在し、以下において説明される。
【0016】
例えば、方法の1つの例では、コーティングを形成する前に担体液に薬剤を添加することが示唆される。好ましくは、多くの薬剤を既に液体の形態で得ることができるので、薬剤は、薬剤液の形態で担体液に添加することができる。かかる薬剤は、特に、水性環境中でコーティングから放出可能な薬剤であり得る。これは、かかる薬剤をコーティングから、機能性薄片から形成された歯科器具を装着している使用者の口腔内に放出することができるという利点を有する。
【0017】
本方法の別の非常に好ましい例では、薬剤がバイオ系材料に由来することが示唆される。換言すれば、薬剤は、再生可能な生物資源、特に生物によって生産される非化石起源の材料に由来し得る。「バイオ系材料」という用語は、本明細書では、バイオ系材料が、炭素同位体14Cの検出可能な部分を含有する非化石炭素含有量を含み得るという意味で理解され得る。好ましくは、非化石炭素含有量は、バイオ系材料の少なくとも20%、好ましくは少なくとも35%、最も好ましくは50%超を構成することができる。換言すれば、バイオ系材料の約80%~65%、好ましくはそれよりはるかに少ない量が、原油などの化石資源に由来する他の有機材料、特にポリマーに基づき得る。
【0018】
後述するように、かかるバイオ系材料はまた、コーティングのための材料として使用されてもよく、かつ/またはかかるバイオ系材料は、コアがバイオ系材料から作製されていない状態で、当該機能性薄片から製造された歯科器具のコアを完全に被覆してもよい。
【0019】
14Cは、地球の大気中で約1.25×10-12=1250ppq(ppq=千兆分の1=10-15)の濃度で生成される放射性同位体であり、光合成によって植物に取り込まれる放射性同位体である。植物が死んだ場合、植物は、環境との炭素の交換を停止し、その後、植物が含有する14Cの量は、14Cが放射性崩壊に供されるにつれて減少し始める。かかる生体材料を含有する試料では、古ければ古いほど、検出される14Cの残量が少なくなる。したがって、14Cの存在を検出することによって、非化石炭素含有量を含有する材料と、化石資源に由来する材料とを区別することができる。したがって、材料中の14Cの存在は、材料が、少なくとも部分的に、非化石の再生可能な生物資源から得られることの直接的な証拠となる。これは、例えば化石油に由来する有機ポリマーは、放射性14Cの半減期が6000年未満であるため、もはや14Cを示さないためである。
【0020】
「検出可能な部分」とは、ここでは、バイオ系材料の非化石炭素含有量の全てのC原子のうちの14Cの割合が、少なくとも1ppq、好ましくは少なくとも10ppq、またはさらに少なくとも100ppqであり得るという点で理解され得る。
【0021】
バイオ系材料は、少なくとも40%、好ましくは少なくとも50%のバイオ系含有量を含むことをさらに特徴とすることができ、当該バイオ系含有量は、上記の14Cを含有する非化石炭素含有量、ならびに非化石炭素含有量に結合した窒素、酸素および水素を含む。
【0022】
換言すれば、コーティングの少なくとも一部は、1つ以上のバイオ系材料に基づき得る。しかしながら、好ましくは、コーティングは、バイオ系材料のみから製造されてもよい。
【0023】
最も好ましくは、薬剤は精油に由来することができる。かかる精油は、非化石植物から直接抽出することができる。かかる特徴により、バイオ系薬剤が歯科器具の使用者の身体に有害でないことが保証される。さらに、かかる手法を用いて、口腔内に有害な汚染をもたらさない天然物に依存することにより、香味の付加または抗菌保護などの無数の様々な機能性を達成することができる。
【0024】
別の好ましい例によれば、薬剤は、以下の物質、すなわち精油、精油の抽出物、またはフェノール、モノテルペノール、アルデヒド、ケトン、酸化テルペン、エーテル、モノテルペン、ラクトン、フタリド、テルペンアルデヒド、セステキテルペンアルコール、セステキテルペン、テルペンエステル、クマリンの化学ファミリーからの誘導体、特に、シンナムアルデヒド、石灰、チモール、オイゲノール、リナロール、カルバクロール、ナツメグ、ピメントベリー、ローズマリー、プチグレイン、コーヒー、アニス、スピアミントなどの物質のうちの少なくとも1つを含んでもよい。
【0025】
バイオ系の材料、特に天然精油からの抽出によって得られた、コーティング中に埋め込まれる薬剤として使用され得る更なる抽出物/誘導体は、+α,β-ピネン、ミリスチシン、メチルオイゲノール、メントール、テルピネン、p-シメン、リナロール、ミルセン、ピネン、β-オシメン、ゲラニアール、サビネン、ネラール、シトロネロール、リノレン酸、オレイン酸、ステアリン酸、ヒマキレン、ビサボレン、トランス-シンナムアルデヒド、メチルサリシテート、ユーカリプトール、トランス-アネトール、(+)-リモネン、(-)-リモネンまたはL-カルボンである。
【0026】
石灰およびシンナムアルデヒドを薬剤として使用することの特定の利点は、それらが非常に有効な抗菌剤であるだけでなく、熱可塑性のコーティングに軟化効果および可塑化効果も提供することである。
【0027】
機能性薄片から形成された歯科器具の安全性および適合性をさらに向上させるために、担体液中に含有される有機ポリマーがバイオ系材料であるか、または少なくともバイオ系材料に由来することが非常に好ましい。換言すれば、(コーティングを形成する)有機ポリマーは、再生可能な生物資源、特に、生物によって生産される非化石起源の材料に由来し得る。
【0028】
(コーティングを形成する)有機ポリマーの特に好適な選択は、セルロース系材料、特にセルロース系複合材料である。これは、セルロースが、水中で膨潤した後に歯科器具の表面を軟化することが可能なバイオ系材料であり、加えて、セルロースが、セルロース系複合材料を含むCAP層に充填または再充填される上述の薬剤との好ましい化学的相互作用を提供するためである。
【0029】
薄片のコアを製造するための適切な材料は、酢酸セルロース、酢酸酪酸セルロース、PLA、キトサンまたはポリエステル、コポリエステル、ポリカーボネート、ポリウレタン、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリプロピレンおよびポリエチレンコポリマー、アクリル、環状ブロックコポリマー、ポリエーテルエーテルケトン、ポリアミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエーテルイミド、ポリエーテルスルホン、ポリトリメチレンテレフタレートまたはそれらの組み合わせ(例えば、列挙された硬質ポリマー材料の少なくとも2つのブレンド)である。一部の実施形態では、装置のコアは、ポリカーボネート、コポリエステル、ポリエステル、およびポリウレタンなどのポリマー材料を含み得る。さらに、コアはまた、複数の層(例えば、2つ以上のポリマー層)から構成され得る。
【0030】
しかし、好ましくは、コアは、(薄片を熱成形可能にするために)主に熱可塑性ポリマーから構成されるべきである。
【0031】
別の非常に好ましい選択は、有機ポリマーとして(すなわち、コーティングのために)酢酸酪酸セルロース(CAB)を使用することである。この場合、熱可塑性の機能性薄片(および薄片から形成される歯科器具)の良好な機械的特性のために、CABのブチリル含有量が15~60重量%であることが非常に好ましい。
【0032】
かかる特徴を提供することによって、コーティング中に埋め込まれた薬剤が、特に水性環境中で、例えば口腔中でコーティングから放出可能であることを達成することができる。さらに、薬剤の適切な選択によって、例えば薬剤としてシンナムアルデヒドを使用することによって、コーティングが(抗菌剤の放出によって)抗菌保護を提供することを達成することができる。したがって、薬剤は抗菌剤であってもよい。
【0033】
熱成形中の薄片の可鍛性および適応性を改善するために、コーティングのガラス転移温度Tg,coating、および/または特に有機ポリマーのガラス転移温度Tg,polymerが80~165℃の範囲内にあると有利である。これは、有機ポリマーとしてCABを使用する場合に特に当てはまる。
【0034】
コーティング、特に当該有機ポリマーの好適な対応する溶融範囲は、120~200℃であり得る。
【0035】
機能性薄片を熱成形する場合に満足な結果を達成するための別の重要な因子は、コーティングに使用される有機ポリマーの数平均分子量である。最適な結果のためには、数平均分子量は、12000g/mol超、好ましくは20000g/mol超、最も好ましくは30000g/mol超であり得る。かかる数値は、有機ポリマーとしてCABを選択した場合に特に好適である。
【0036】
冒頭で紹介した方法の別の非常に有利な例では、担体液が担体溶液であること、すなわち、担体液が溶媒と有機ポリマーとの溶液であり得ることが提案される。この場合、担体溶液は、有機ポリマーを溶媒に溶解することによって得られることが好ましい。これは、溶媒をコーティングから蒸発させることによって、コーティングをコア上で固化することができるという利点を有する。後述するように、溶媒を使用してコアの表面を改質することができるので、この手法は有利である。既に述べたように、コアは実際にはコア薄片であり得るため、担体溶液はコア薄片の両面に均一に塗布されてもよい。
【0037】
均一なコーティング厚さを達成するために、コーティングは、スピンコーティングまたはブレードベースのコーティングなどの物理的コーティング方法によって、またはスプレーコーティングによって、またはロールツーロールコーティングによって形成することができる。当然ながら、例として、ロールツーロールコーティング(例えば、エアナイフコーティング、ギャップコーティング、浸漬ディップコーティング、ローラーコーティングなど)またはスプレーコーティング(スプレー塗装、熱スプレー、プラズマスプレーなど)を行うために利用可能な無数の異なる方法が存在する。
【0038】
既に述べたように、担体溶液の溶媒を使用して、コアの表面を改質することができる。実際、溶媒は、コアの材料の分子鎖の相互作用を低減することによって、コアの表面を軟化させることができる。結果として、コアを担体溶液で処理した後、コアおよびコーティング(またはより正確には、コーティングの有機ポリマー)は、ナノメートルスケールで結合することができ、その結果、コアへのコーティングの接着が改善される。液体形態のコーティングをコアに塗布し、溶媒とコアとを相互作用させた後、溶媒を単に蒸発させて、最終的な固形のコーティングを形成することができる。
【0039】
かかるコアの軟化は、例えば、溶媒としてアセトンを使用し、コア材料としてPETGを使用する場合に達成され得るが、文献において容易に明らかであるように、同じ軟化効果を達成するコア材料と好適な溶媒との他の組み合わせが存在する。本発明では、歯科器具を製造することを目的とする機能性薄片のコア上のコーティングの接着を強化するために、この効果を用いることが提案される。
【0040】
コーティングとコアとの機械的および/または化学的相互作用を改善するための別の手法は、コアのガラス転移温度Tg,coreとコーティングのガラス転移温度Tg,coatingとの差が80℃未満、好ましくは60℃未満であることを保証することである。かかる材料の選択により、コアとコーティングの両方の分子鎖の十分な可動性が得られ、その結果、機能性薄片の最終的な熱成形中に、コアとコーティングとの間の熱融合(「熱溶接」と称されることもある)によって、効率的な熱的結合を達成することができる。
【0041】
さらに、かかる場合、コーティングのガラス転移温度Tg,coatingがコアのガラス転移温度Tg,coreよりも高いことが有利であり得る。かかる材料の選択により、有機ポリマーが薄片にある程度の安定性を提供することができるので、装置の熱成形中に十分な機械的安定性が得られる。例えば、コアに有用な材料であるPETGは、80℃のガラス転移温度、および210℃もの高い溶融温度を有することができる。かかるコアは、酢酸酪酸セルロース(CAB)に基づくコーティングと組み合わせることができる。かかるCABコーティングは、120℃以上のガラス転移温度Tg,coatingを特徴とし得るが、同時に、160℃の比較的低い溶融温度Tm,coatingを特徴とし得る。
【0042】
さらに、コーティングは、コアがその溶融温度Tm,coreに達する前にその溶融温度Tm,coatingに達するべきであり、またはコアは、コーティングがその溶融温度に達する前にその溶融温度に達するべきである。これは、特に熱成形を考慮した場合、コアの溶融温度Tm,coreとコーティングの溶融温度Tm,coatingとが少なくとも20℃、好ましくは少なくとも40℃、最も好ましくは少なくとも60℃異なることを保証することによって達成され得る。その結果、例えばコーティングがその溶融温度に達したときに、コアが依然としてガラス転移相/温度範囲内にあり得る(またはその逆である)ので、機能性薄片の熱成形中に、コアとコーティングとの間の界面に複合材料を生成することができる。したがって、この複合材料は、熱可塑性のコーティングの有機ポリマーからの鎖と、熱可塑性コアに使用される材料の一部とを含む。
【0043】
しかしながら、容易な製造のためには、コアの溶融温度Tm,coreがコーティングの溶融温度Tm,coatingよりも少なくとも20℃、好ましくは少なくとも40℃、最も好ましくは少なくとも60℃高い設計が好ましい。かかる設計では、コア材料がまだ固形またはまだガラス転移段階にある間にコーティングが溶融する。これは、薄片を熱成形する際、強固な工程制御を得るために非常に有益である。
【0044】
担体溶液に使用される溶媒は、アセトン、酢酸メチル、酢酸エチル、メチルエチルケトン、酢酸イソプロピル、酢酸ブチル、乳酸エチル、シクロヘキサン、ジアセトンアルコール、乳酸ブチル、またはこれらの溶媒の適切な混合物のうちの少なくとも1つを含み得る。
【0045】
本方法の別の変形例は、薬剤自体が液体であり得るという点で定義される。この場合、液体形態の薬剤(薬剤液)は、担体液と単に混合することができる。
【0046】
あるいは、最初に薬剤を水性または油性の溶液に溶解または乳化させ、この溶液(薬剤液)を担体液と混合することによって、薬剤を担体液に添加してもよい。かかる場合、コーティングを形成する前に薬剤を含有する溶液を例えば撹拌機によって担体液と混合して均質な担体溶液を形成することが、最終コーティング内の薬剤の均質な分布のために好ましい。
【0047】
最終コーティング中の薬剤と有機ポリマーとの比率に関して、この比率は、典型的には、重量で0.01/99.99~30/70、例えば、2~3gの薬剤および7gの有機ポリマーであってもよい。ほとんどの用途では、薬剤と有機ポリマーとの重量比が0.1/99.9~20/80であることが好ましい。
【0048】
機能性薄片のコアがポリエチレンテレフタレート(PET)から作製される場合、特に好適な方法を得ることができる。特に、コアは、少なくとも部分的にリサイクルPETから作製されてもよい。換言すれば、コアの熱可塑性材料は、リサイクルPETを含んでもよい。
【0049】
機能性薄片の機械的特性を改善するために、特にクラック形成の傾向を低減するために、コアの材料としてグリコール変性ポリエチレンテレフタレート(PETG)を選択することができる。この場合、上記の軟化効果を達成するのに非常に好適な溶媒は、アセトンである。
【0050】
この方法は、コーティングを形成する前に、天然の軟化剤、好ましくはトリアセチンまたはポリカプロラクトン-トリオール(PCL-T)を可塑剤として担体液に添加するという点でさらに変更することができる。これは、好ましくは、40%未満、好ましくは20%未満、最も好ましくは10%未満の体積比で行うことができる。
【0051】
最後に、これまで説明した方法は、薄片を熱成形することによって機能性薄片から歯科器具を形成することによって継続することができる。重要なのは、この熱成形は、コアおよびコーティングの両方が熱可塑性であり得ることから、コア上へのコーティングの塗布後に行うことができるということである。その結果、機能性薄片の熱成形後、有機ポリマーは、好ましくは薄片のコアを完全に被覆する機能性のコンフォーマルコーティングを形成することができ、これが次に歯科器具のコアを構成する。さらに、(上述のように)コーティングに予め埋め込まれた薬剤は、歯および歯肉の抗菌保護もしくは再生機能、または香味もしくは単に良好な色を歯科器具に提供することができる。
【0052】
最終的な熱成形に関して重要な態様は、薬剤の熱安定性である。最終的な装置の適切な機能性を保護するために、薬剤の分解温度Td,agentは、コーティングの溶融温度Tm,coatingより少なくとも10℃高くすべきである(したがって、分解温度Td,agentは、コーティングのガラス転移温度Tg,coatingより60℃まで高くなり得る)。
【0053】
したがって、上記で概説した概念に従って、前述の問題は、本発明による歯科器具によっても解決することができる。冒頭で説明したように、この歯科器具は、歯科矯正器具または歯および/もしくは歯肉の保護用の保護器具であってもよく、本明細書に記載された方法またはかかる方法を対象とする請求項の1つに記載された方法で製造された機能性薄片から形成、特に熱成形されてもよい。
【0054】
あるいは、歯科器具は、有機ポリマー(および任意選択で薬剤)を含む液体前駆体から(直接)3D印刷されてもよい。この場合、歯科器具は、以下でより詳細に説明するように、再充填液を使用して、製造後に、放出可能な薬剤で(再)充填されてもよい。
【0055】
かかる歯科器具では、機能性薄片に関して上述した薬剤または歯科器具に(好ましくは器具のキャップ層に)埋め込まれた薬剤は、口腔内使用中に歯科器具から放出可能であり得る。加えて、または代替として、当該薬剤は、再充填液(以下にさらに説明される)を使用して、歯科器具のキャップ層の中に再充填可能であり得る。
【0056】
純粋に歯および歯肉の保護のために歯科器具を使用することを意図した特定の手法によれば、歯科器具は、400μm未満、好ましくは300μm未満、最も好ましくは200μm未満の薄い厚さを有し得る機能性薄片から完全に構成することができる。
【0057】
最終的な装置の特性に関して、本発明は、したがって、熱可塑性材料のコア、コアを少なくとも部分的に被覆する熱可塑性のコーティング、およびコーティング中に埋め込まれ、水性環境中でコーティングから放出可能な薬剤を特徴とするものとして記載され得る歯科器具を提案する。コアおよび/またはコーティングおよび/または薬剤は、製造方法に関して詳細に上述されたように、またはこの方法を対象とする従属請求項の1つの特徴によって定義されるように、選択および/または設計されてもよい。
【0058】
最も好ましくは、薬剤は、コーティングの表面積1cm当たり少なくとも0.05mgの薬剤の表面密度でコーティングに埋め込まれるべきであり、これは、口内に装着されたときに器具の所望の機能性を達成するのに十分な放出速度を保証するためである。かかる表面密度は、かかる再充填液の使用を対象とする請求項のうちの1つに定義されるような、かつ/または以下にさらに詳細に記載されるような再充填液を使用することによって容易に達成することができる。
【0059】
かかる表面密度を達成した場合、この器具が口内に装着されたときに、24時間の期間にわたって1時間当たりコーティングの表面積で少なくとも1mg/mの、歯科器具からの薬剤の放出速度を維持することができる。これは、セルロース系コーティングおよび薬剤、例えば、リモネン、シンナムアルデヒド、サリチル酸メチルまたはトランス-アネトールを使用する場合に特に当てはまる。かかる放出速度は、特に薬剤が抗菌保護を提供するように選択される場合に適切であることが見出されている。
【0060】
上記の概念に従って、歯科器具の新規の使用例が提案され、その増大した機能性から利益が得られる。換言すれば、歯に歯科器具を装着している使用者の歯および/または歯肉を保護するための、歯科器具の非治療的な使用が提案される。この保護は、特に、タバコの煙および/または歯肉炎および/または歯周炎からのものであってもよく、歯科器具は、前述のように製造されてもよい。また、歯の上に保護歯科器具を装着することで、歯垢形成からの保護を提供することができるため、虫歯を発症するリスクを低減することができる。これは、歯科器具のコーティングに埋め込まれる薬剤として石灰およびシンナムアルデヒドを使用する場合に特に当てはまる。歯科器具はまた、例えば漂白剤と組み合わせて使用される場合、またはナイトガードとして、歯垢、細菌および歯肉炎に対する保護を提供するため、かつ/または良好な味および臭いを提供するために、美容上の理由で装着されてもよい。
【0061】
かかる歯科器具を製造する手法とは別に、本使用例は、使用中に、歯科器具が歯と歯に隣接する歯肉の部分との両方を被覆することと、歯科器具が抗菌保護を提供する機能性のコーティングを特徴とすることと、を特徴とする。この保護は、上で説明したように、特に放出可能な抗菌剤によって提供されてもよく、この薬剤は、特に前述したように、機能性のコーティングに埋め込まれてもよい。この使用例で最も好ましいのは、コーティングがバイオ系材料から形成され、かつ/または薬剤もバイオ系材料に由来する状況である。これにより、器具を装着しているときの保護および安全性がさらに高められる。
【0062】
さらに、かかる使用例では、器具が歯に力を加えないように、歯科器具が使用者の歯の自然な位置に一致する空洞を有して形成されることが好ましい。これにより、装着快適性が大幅に改善される。これは、使用者が数時間にわたって歯科器具を装着して長時間の保護から利益を得たい場合に重要である。同じ理由で、熱可塑性の機能性薄片が700μm未満、好ましくは500μm未満、最も好ましくは300μm未満の最大厚さ(最終熱成形方法後)を示す場合、非常に好ましいと考えられる。この理由として、特に液体コーティング手法のために、機能性のコーティングの厚さが100μm未満またはさらに50μm未満である可能性があり、一方で、コーティングは、コーティング内部の高濃度の薬剤のために、依然として十分な抗菌保護を提供する可能性があることである。特に、かかる歯科器具は、使用者が喫煙または睡眠中に、使用者によって快適に装着することができる。
【0063】
歯科用歯列矯正の使用例では、埋め込まれた薬剤はまた、可塑剤としての機能も果たすことができ、これにより、熱成形された歯科器具の脆弱性が低減し、2週間の典型的な装着期間中(例えば、一連のアライナの各アライナについて)、長期的に安定した柔軟性を可能にすることができる。
【0064】
歯科器具を複数回使用した後、薬剤の選択にさらに柔軟性を持たせるために、またはコーティング中に薬剤を補充するために、またはかかる薬剤を3D印刷された歯科器具に最初に充填するために、再充填液を使用することが提案される。この再充填液により、歯科器具に、特に前述のコーティング/キャップ層に、または歯科器具の3D印刷された本体に薬剤を充填することができる。
【0065】
再充填は、特に、器具の製造中に薬剤が器具に埋め込まれていない場合に最初に行うことができる。他方、再充填液により、当初はコーティング中に存在していたが、器具から口中への放出を通して消費された薬剤を、再びコーティング中に再充填することも可能である。したがって、再充填液は、歯科器具(前述のように設計および/または製造され得る)に放出可能な薬剤を充填または再充填するために使用することができる。
【0066】
提案する使用は、再充填液が薬剤を含有し、歯科器具が再充填液に浸漬されて薬剤を歯科器具に充填するという点で説明され得る。歯科器具は、例えば、熱成形によって、または直接3D印刷によって製造されてもよい。3D印刷によって歯科器具を製造する場合、薬剤は、器具が印刷される液体前駆体に埋め込まれてもよい。
【0067】
十分な充填を達成するために、再充填液が少なくとも0.2g/lの濃度の薬剤を含有することが好ましい。この場合、0.05mg/cmの歯科器具に埋め込まれた薬剤の表面密度を達成することができる。これにより、歯科器具が少なくとも24時間の典型的な装着期間中に口内に装着されたときに、歯科器具からの、特に当該コーティング/当該キャップ層からの、1時間当たり少なくとも1mg/mの放出速度を得ることができる。
【0068】
加えて、特に熱成形の前に、本発明による熱可塑性の機能性薄片に放出可能な薬剤を充填するためにかかる液体を使用することも可能である。
【0069】
再充填液は、水溶液または油性液体の形態であり得る。再充填液はまた、エタノールのような溶媒を含有し得る。かかる溶媒は、表面張力を低下させ、器具を再充填液で湿潤させるのに役立ち得る。
【0070】
特に便利な方法は、薬剤(および好ましくは以下に記載される界面活性剤)を含む液体前駆体から再充填液を得ることである。この再充填液は、次いで、再充填液を得るために希釈することができる。
【0071】
別の手法は、薬剤を含有する固形の錠剤を液体、好ましくは水に溶解することによって再充填液を得ることである。したがって、再充填液を形成するためにかかる固形の錠剤を使用すること、および前述のように充填液を使用することが提案される。したがって、錠剤は水溶性であってよく、使用される液体は水であってよい。
【0072】
上述した充填液および/または錠剤は、薬剤を再充填液内に均質に分布させるための界面活性剤を含み得る。これは、コーティングの表面積当たりの高い薬剤の充填濃度を達成するために重要である。
【0073】
かかる錠剤の1つの特に好適な組成物は、酸性材料(例えば、クエン酸)、塩基(例えば、重炭酸ナトリウムおよびクエン酸)、脂肪酸エステル(例えば、ラウリン酸ポリグリセリル-4および/またはカプリン酸ポリグリセリル-6)、カルシウム誘導体(例えば、炭酸カルシウム)および甘味料(例えば、キシリトール)の組み合わせである。この組成物に、薬剤または複数の薬剤の組み合わせ、好ましくは界面活性剤(可溶化剤および乳化剤を含んでもよい)を添加することができる。
【0074】
界面活性剤は、再生可能な生物資源、特に生物によって生産される非化石起源の材料に由来することができる。この用途に好ましい界面活性剤は、脂肪酸エステル、安息香酸アルコールまたはグリセロールベースの界面活性剤である。本明細書に記載の用途に特に好適な界面活性剤の更なる例は、ラウリン酸ポリグリセリル-4またはカプリン酸ポリグリセリル-6である。これらの物質は全て組み合わせて使用することもでき、薬剤シンナムアルデヒドとともに使用するのに特に好適であることが判っている。
【0075】
再充填液中の界面活性剤および薬剤の濃度により、薬剤を歯科器具に充填する速度が規定される。ただし、界面活性剤と薬剤との間の比率は、注意深く均衡をとる必要がある。一方では、界面活性剤と薬剤との比率が小さいほど、薬剤はより速く再充填液から歯科器具のキャップ層に拡散することができる。換言すれば、過剰な濃度の場合、界面活性剤が再充填液中の薬剤を捕捉してしまうため、界面活性剤の濃度は可能な限り低くすべきである。一方、再充填液中の水に対する界面活性剤および薬剤の濃度が高いほど、(再)充填は速くなる。
【0076】
界面活性剤の濃度cと薬剤の濃度cとの好ましい比率は、c/c<100、最も好ましくはc/c<10である。かかる比率は、乳化剤としてラウリン酸ポリグリセリル-4を、可溶化剤としてカプリン酸ポリグリセリル-6を使用する(したがって、この場合、界面活性剤はこれらの成分の両方を含む)特定の場合に特に好適である。比率c/cがかかる値を超える場合、薬剤が界面活性剤によって捕捉され(単一分子間の極性/非極性相互作用のため)、歯科器具に埋め込まれない可能性が高くなる。
【0077】
かかるパラメータにより、高い吸収速度が達成され得ることが保証され、その結果、(器具の装着中に有意な効果をもたらすのに十分な)有意な量の薬剤を、1時間未満、またはさらには15分未満で歯科器具のコーティングに埋め込むことができる(したがって、使用者にとって再充填の方法が快適になる)。具体的な例として、最終的な再充填溶液msol中の界面活性剤の量mは、m/msol>0.1g/lであってもよい。
【0078】
以下、本発明の好ましい実施例をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではなく、当業者には、請求項の1つ以上の特徴を互いに組み合わせることによって、かつ/または本明細書に記載または図示された実施例の1つ以上の特徴と組み合わせることによって、本発明の更なる実施例を得ることができることが明らかである。
【0079】
添付の図面を参照すると、対応する技術的機能を有する特徴は、これらの特徴が形状または設計において異なる場合であっても、同じ数字で参照される。
【図面の簡単な説明】
【0080】
図1】本発明による製造方法の概略図である。
図2】バイオ系材料を説明するために本明細書で使用される非化石炭素含有量およびバイオ系含有量の定義を示す図である。
図3】本発明による再充填液を使用して歯科器具に薬剤を充填する方法を概略的に示す図である。
図4】様々な熱可塑性材料に充填された特定の薬剤の濃度の測定データを示す図である。
図5】熱量測定の更なる実験データを示す図である。
【0081】
図1は、本発明による製造方法の概要を提供している。有機ポリマー6、すなわち酢酸酪酸セルロース(CAB)が、溶媒12、すなわちアセトンに溶解され、担体溶液11が形成される。次に、担体溶液11と、バイオ系抗菌剤7であるシンナムアルデヒドを含有する薬剤液8とを混合して、薬剤7とCABとが均一に混合された担体液9が形成される。次に、この担体液9は、熱可塑性材料4のコア薄片13上にディップコーティングすることによって塗布される。溶媒12の蒸発後、固形の熱可塑性のコーティング5がコア薄片13の両面に得られるため、コア薄片13は、得られた機能性薄片1のコア3を完全に被覆することになる(図1に示される断面を参照)。
【0082】
薄片1は、実際には、200μmの厚さを有するグリコール変性ポリエチレンテレフタレート(PETG)から作製されたコア3と、それぞれが20μm未満の厚さ(固化後)を有する上部および下部の機能性のコーティング5とを有する多層構造を構成するため、全厚250μm未満の熱可塑性の機能性薄片1が得られる。
【0083】
次のステップとして、患者の口腔の3Dモデルを使用して、プリフォーム15が、熱成形によって機能性薄片1から形成され、熱14が両面から薄片1に加えられ、それにより、コア3およびコーティング5がともに1つのステップで変形される。換言すれば、コーティング5は、熱成形前に既にコア3に堅固に結合されている。この根本的な理由は、アセトン12がPETGコア3の表面を改質してPETG表面の軟化をもたらし、その結果、CAB分子6がコア3のPETGとの界面17(図1を参照)においてナノメートルスケールで結合することができるためである。結果として、熱成形の前に、コア3上のコーティング5の高い接着が既に存在していることになる。
【0084】
PETG-コア3のガラス転移温度Tg,coreとコーティングのガラス転移温度Tg,coatingとの差が60℃未満であることから、熱成形中、CAB-コーティング5とPETGとの熱融合によって熱的結合が達成されるため、コア薄片13上のコーティング5の接着がさらに改善される。
【0085】
最後に、図1の左下に示す得られた歯科器具2が歯と歯肉の隣接部分の両方を被覆するように、プリフォーム15が切断される。図示のように、歯科器具2は、単一の歯を取り上げるように設計された複数の空洞16をさらに特徴としており、この空洞16は、使用者の歯の自然な位置に一致する。したがって、使用者は、歯科器具2を歯に装着しているとき、歯に力を受けることはない。器具2は、非常に薄く、高度に適合性があり、柔軟で高度に変形可能な機能性のコーティング5を提供し、この機能性のコーティング5は、使用されるCABにより、唾液と接触したときにさらに軟化し、埋め込まれたシンナムアルデヒドにより抗菌保護を提供するので、器具2は、理想的には、一晩または喫煙中、さらには数時間にわたって装着されるのに好適である。かかる非治療的な使用例では、使用者は、器具2が煙に対して不透過性であるため、タバコの煙に対して器具2によって提供される保護から利益を得ることができるが、シンナムアルデヒド7がコーティング5から使用者の口腔内にゆっくりと放出されるときに生じる抗菌効果により、歯肉炎および歯周炎に対しても利益を得ることができる。
【0086】
図1の右側に示されるように、コア3を封入するコーティング5に使用されるCABは、化石資源に由来する有機材料を、植物などの非化石天然資源に由来する有機材料、特にセルロースとブレンドすることによって生産されるので、実際にはバイオ系材料10となる。したがって、器具2の外面18全体が、バイオ系材料10から形成される。したがって、この面18からのいかなる機械的摩耗も、口内に器具2を装着している使用者にとって有害とはならない。
【0087】
同様に、コーティング5に埋め込まれた薬剤7は、非化石植物から直接抽出された精油などの天然資源に由来することができる。これにより、数例を挙げると、石灰、チモール、オイゲノール、リナロール、カルバクロール、ナツメグ、ピメントベリー、ローズマリー、プチグレイン、コーヒー、アニスなどの薬剤の使用が可能となる。したがって、器具2は、香味および抗菌保護の両方を提供することができ、それでもなお、生体適合性が高く、装着に対して無害である。
【0088】
図2に概略的に示すように、本明細書で理解される「バイオ系材料」は、有機ポリマー6ならびにコーティング5に使用される薬剤7が、非化石炭素含有量19の相当量の部分、例えば少なくとも40%を含有し得ることを意味し得る。この非化石炭素含有量19は、検出可能な割合(例えば、10ppq超またはさらには100ppq超)で炭素同位体14Cを含有することを特徴とする。また、化石炭素含有量20(図4参照)も存在する場合もあり、これは化石資源に基づき、同位体12Cを含有するが、14Cは数千年にわたって放射性崩壊によって減少しているので、14Cの検出可能な割合をもはや含有しない。図4に示すように、更なる量、すなわち、いわゆるバイオ系含有量21を定義することができる。材料5のこの割合は、非化石炭素含有量19と、非化石炭素含有量19に結合された全ての水素H-、酸素O-および窒素N-原子22とを含む。
【0089】
図3は、本明細書で提案される再充填液の形成および使用を示している。第1のステップにおいて、薬剤7および界面活性剤を含有する高濃縮液体前駆体24が、最初に、低コストピペット26を使用して水中に分注される。代替として、薬剤7および界面活性剤を含有するタブ25が、水中に溶解されてもよい。両方の方法によって、再充填液23を形成することができる。第2のステップにおいて、再充填液23は、液体前駆体24と水との完全な混合および/またはタブ24の水への完全な溶解を可能にするために振盪される。第3のステップにおいて、歯科器具2は、形成された再充填液23に15~30分の持続時間にわたって浸漬され、浸される。最後に、第4のステップにおいて、歯科器具2は、再充填液23から取り出され、ここで薬剤7が充填され、口内で使用する準備ができる。薬剤7は、例えば心地よい味および/または抗菌効果を生成するために、歯科器具2から放出され得る。
【0090】
図4は、それぞれの熱可塑性材料を再充填液23(100mlの水に溶解した12gの界面活性剤および0.56gの薬剤7を含む)にそれぞれ60分間浸漬することによって、4つの異なる熱可塑性材料に薬剤7(シンナムアルデヒド)を最初に充填することによって得られた実験データを示している。その後、材料から薬剤7を抽出するための抽出媒体として使用した新しいエタノール溶液中に材料を繰り返し浸漬し、それぞれのエタノール溶液中の薬剤7の濃度を毎回測定した。換言すれば、様々な時点で、新鮮なエタノール溶液を使用して、それぞれの熱可塑性材料から薬剤を抽出した。グラフは、それぞれ0.7時間、7時間、および70時間の抽出時間について、各材料のそれぞれの溶液中の薬剤7の測定濃度を表示している。
【0091】
グラフが示すように(両方の軸上が対数目盛であることに留意されたい!)、熱可塑性材料のコアに塗布されたセルロース系キャップ層(それぞれ材料NA750およびNA550)を含む提案された材料系(上の2つの記号)は、ポリウレタン(PU)系サーモ薄片(Zendura社)または純粋なPETG系サーモ薄片(両方ともコーティングなし)と比較して、同じ再充填液23からより多くの薬剤7を最初に充填することができ、加えて、はるかに長い期間にわたって薬剤7を貯蔵することができる(したがって、経時的に薬剤7のより低い放出速度を提供する)。ベアの数字では、本発明による手法では、僅か60分の再充填時間後に2~6倍の放出速度の増大が可能となり、薬剤の有意な放出が維持される(ひいては歯科器具の所望の抗菌機能が維持される)期間は、約6倍延長される。セルロース系キャップ層の取り込みは、純粋なコア材料PETGおよびPUと比較して、少なくとも2~4倍高い。
【0092】
図5は、セルロース系キャップ層を含む各回の本発明による歯科器具に、7つの異なるタイプの薬剤7を10~1440分(=24時間)の範囲の期間充填した第2の実験で得られた実験データを示している。グラフは、24時間の期間にわたって抽出媒体として使用された40%エタノール水溶液における各薬剤7の濃度を示す。カルバクロールおよびシンナムアルデヒドのデータを比較することによって分かるように、特定の薬剤の化学的側基(特にその極性)に応じて、(貯蔵および放出を通して)歯科器具と相互作用する能力は、最大10000倍変化し得る。結果として、シンナムアルデヒドは、本明細書に記載の用途に特に好適な薬剤であると考えられる。
【0093】
最後に、ストレプトコッカス・ミュータンス(streptococcus mutans)およびストレプトコッカス・ミティス(streptococcus mitis)のようなバクテリアの増殖を抑制する様々な薬剤の能力を測定するために、追加の熱量測定実験を行った。様々な薬剤7を、BHI中0.1%の濃度で単一の精油成分を含有する溶液として塗布した。性能指数として、細菌の増殖の時間の遅れとして定義され、時間単位で測定される遅滞期、およびJ/hで測定される連鎖球菌集団の増殖速度(細菌数の増大/時間)を以下のように求めた。
【0094】
【表1】
【0095】
【表2】
【0096】
これらのデータから分かるように、特にリモネンおよびシンナムアルデヒドは、ストレプトコッカス・ミュータンスに対して測定可能な増殖なしに、24時間を超える遅滞期を生じる。ストレプトコッカス・ミティスに関しては、サリチル酸メチルが、0.4J/hの穏やかな増殖速度における23時間の遅滞期により、最良の保護を提供する。
【0097】
さらに、薬剤7の極性は、歯科器具2のセルロース系(例えば、CAB)コーティングへの再充填速度ならびに患者の唾液中の抽出速度を規定するので、非極性薬剤と極性薬剤との間の差異が、ここで留意されるべきである。さらに、薬剤5の極性は、1つの再充填液23中で一緒に組み合わされたときにそれぞれの相互作用に影響を及ぼすため、互いに対する比率および界面活性剤(再充填液23中に存在する場合)に対する比率に応じて、各単一の薬剤7の再充填速度に影響を及ぼす。
【0098】
シンナムアルデヒドは極性であるが、リモネンおよびサリチル酸メチルは非極性であるので、シンナムアルデヒドは、セルロース系キャップ層を有する本明細書で提案される材料系とともに使用される抗菌剤7として特に好適であるが、これは、シンナムアルデヒドは同様の抗菌保護を提供するが、再充填速度が優れているためである。
【0099】
ストレプトコッカス・ミュータンスおよびストレプトコッカス・ミティスの両方に対する最良の保護を達成するために、リモネンまたはシンナムアルデヒドとサリチル酸メチルまたはトランス-アネトールとの組み合わせが、前述の再充填液23中の薬剤7として、したがって歯科器具2によって使用者に提供される抗菌剤7として使用されることが提案される。
【0100】
要約すると、歯科器具2の機能性および生体適合性を改善するために、熱可塑性の機能性薄片1を作製するための新規な方法が提案され、かかる歯科器具2は、機能性薄片1を熱成形することによって熱可塑性の機能性薄片1から得ることができる。有機ポリマー、好ましくはバイオ系ポリマー6を含有する担体液9は、薬剤7によって強化され、固形の熱可塑性のコア薄片13に塗布される。担体液9に含有される溶媒12を蒸発させた後、均一で高度に均質な機能性のコーティング5がコア薄片13上に得られる。したがって、薄片1の熱成形後、歯科器具2は、強化された機能性を提供する外側の保護用のコーティング5を特徴とする(図1を参照)。さらに、再充填液を使用して、器具2のコーティング5に薬剤7を再充填することが可能である。
【符号の説明】
【0101】
1 熱可塑性の機能性薄片
2 歯科器具
3 コア
4 熱可塑性材料
5 熱可塑性のコーティング
6 有機ポリマー
7 薬剤
8 薬剤液
9 担体液
10 バイオ系材料
11 担体溶液
12 溶媒
13 コア薄片
14 加えられる熱
15 プリフォーム
16 (単一の歯を収容するための)空洞
17 界面
18 外面
19 非化石炭素含有量(14Cを含有する)
20 化石資源に基づく炭素含有量(14Cの検出可能な割合をもはや含有しない)
21 バイオ系含有量(すなわち、非化石炭素含有量+この含有量に結合した水素、窒素、および酸素)
22 非化石炭素に結合した水素、窒素、および酸素
23 再充填液
24 液体前駆体
25 錠剤
26 ピペット
図1
図2
図3
図4
図5
【国際調査報告】