(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-09-14
(54)【発明の名称】生物分析物に対して結合親和性を有する1種又は複数の多糖を含むコーティングを医療用サンプリングデバイスの表面上に適用するための方法、及び生物分析物を捕捉するための該コーティングを備えた医療用サンプリングデバイス
(51)【国際特許分類】
G01N 33/48 20060101AFI20230907BHJP
G01N 1/28 20060101ALI20230907BHJP
C12Q 1/34 20060101ALI20230907BHJP
C12Q 1/02 20060101ALI20230907BHJP
【FI】
G01N33/48 S
G01N1/28 J
C12Q1/34
C12Q1/02
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023510423
(86)(22)【出願日】2021-08-09
(85)【翻訳文提出日】2023-02-28
(86)【国際出願番号】 EP2021072169
(87)【国際公開番号】W WO2022034027
(87)【国際公開日】2022-02-17
(32)【優先日】2020-08-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】NL
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521118189
【氏名又は名称】イドリス・オンコロジー・ベーフェー
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ペーテル・イマヌエル・ウィーグマン
(72)【発明者】
【氏名】ハンス・ペーテル・ムルデル
【テーマコード(参考)】
2G045
2G052
4B063
【Fターム(参考)】
2G045AA24
2G045AA26
2G045BA13
2G045BB12
2G045CB02
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2G052JA05
2G052JA08
4B063QA20
4B063QQ01
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4B063QR15
4B063QS12
(57)【要約】
本発明は、医療用サンプリングデバイスの表面上に適用するための、生物分析物に対して結合親和性を有する1種又は複数の多糖を含むコーティングであって、1種又は複数の多糖が医療用デバイスの表面にエンドポイント結合され、1種又は複数のエンドポイント結合された多糖が、それらの骨格から伸びる側基に末端グラフト化された1種又は複数の多糖を有する、コーティングを提供する。本発明はまた、それを調製するための方法、並びに該コーティングを含む医療診断用デバイスを提供する。生物分析物(例えば、CTC)を捕捉するための対応する方法、捕捉された生物分析物を放出するための方法、及び生物分析物を分析するための方法も本発明に包含される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
医療用サンプリングデバイスの表面上に適用するための、生物分析物に対して結合親和性を有する1種又は複数の多糖を含むコーティングであって、1種又は複数の多糖が、医療用デバイスの表面にエンドポイント結合され、1種又は複数のエンドポイント結合された多糖が、それらの骨格から伸びる側基に末端グラフト化された1種又は複数の多糖を有する、コーティング。
【請求項2】
エンドポイント結合された多糖に加えて、グラフト化された多糖も、それらの骨格から伸びる側基に末端グラフト化された1種又は複数の多糖を有する、請求項1に記載のコーティング。
【請求項3】
生物分析物に対して結合親和性を有する1種又は複数の多糖を含むコーティングを医療用サンプリングデバイスの表面上に適用するための方法であって、1種又は複数の多糖がデバイスの表面にエンドポイント結合され、表面をアミノ化する工程(A)、続いて1種又は複数の多糖を表面上のアミン基にエンドポイント結合させる工程(B)、及び1種又は複数の多糖を表面上にエンドポイント結合された多糖の骨格から伸びる側基にエンドポイント結合させる工程(C)、続いて表面上のいかなる残留官能基も遮断する工程(D)、或いは工程(D)続いて工程(C)を含む、方法。
【請求項4】
デバイスの表面が、アミノリシスによって、好ましくはジアミンによるアミノリシスによって、好ましくはエチレンジアミン又はジエチレントリアミンでのアミノリシスによってアミノ化される、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
多糖が、表面上のアミン基に還元的アミノ化によって結合される、請求項3又は4に記載の方法。
【請求項6】
エンドポイント結合された1種又は複数の多糖が、1種又は複数のグリコサミノグリカン(glycoaminoglycan)、より好ましくはヒアルロン酸(HA)又は置換されているHAを含む、請求項3~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
HAが、40kDa~2MDAの範囲内、好ましくは50kDa~1.5MDaの範囲内の分子量を有する、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
ジアルデヒド、好ましくはグルタルアルデヒドと反応させ、続いてアミノ酸、好ましくは6-アミノカプロン酸と反応させ、好ましくは続いてイミン結合を還元することによって、残留アミン基が遮断される、請求項3~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
1種又は複数の多糖の上に受容体及び/又はリガンドをグラフト化する工程(E)を更に含む、請求項3~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
生物分析物に対して結合親和性を有するエンドポイント結合された多糖を有するアミノ化表面を有する、生物分析物、好ましくは循環腫瘍細胞を捕捉するための医療用サンプリングデバイスであって、1種又は複数のエンドポイント結合された多糖が、それらの骨格から伸びる側基に末端グラフト化された1種又は複数の多糖を有し、表面上のいかなる残留アミン基も遮断されている、医療用サンプリングデバイス。
【請求項11】
好ましくはアミノリシスが可能なポリマーから構成される、好ましくはポリウレタン又はポリエステルから構成される、好ましくはポリウレタンから構成されるポリマー表面を有する、請求項10に記載の医療用サンプリングデバイス。
【請求項12】
表面がデバイスの内側又は外側の上にある、請求項10又は11に記載の医療用サンプリングデバイス。
【請求項13】
請求項10~12のいずれか一項に記載の医療用サンプリングデバイス、好ましくは改変されたガイドワイヤ又はカテーテルの形態の医療用サンプリングデバイスを使用して、循環系から生物分析物、好ましくはCTCを捕捉するための方法。
【請求項14】
請求項13に記載の方法を使用して捕捉された生物分析物、好ましくはCTCを医療用サンプリングデバイスから放出させるための方法であって、そのコーティングを酵素分解に、好ましくはヒアルロニダーゼでの、より好ましくはウシ精巣由来のヒアルロニダーゼでの酵素分解に供することによる、方法。
【請求項15】
生物分析物、好ましくはCTCの分析のための方法であって、請求項13に記載の方法によって生物分析物を捕捉する工程、請求項14に記載の方法によって捕捉された生物分析物を放出する工程、及び生物分析物を臨床的に関連するパラメータのスクリーニングに供する工程を含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療用サンプリングデバイスの表面にエンドポイント結合される1種又は複数の多糖を含む、生物分析物を捕捉するためのコーティングに関する。更にまた、本発明は、生物分析物、特に循環腫瘍細胞(CTC)の捕捉の強化をもたらし、次いでそれを分析及び診断のために放出することができる新たなコーティングを備えた医療用サンプリングデバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
分析しようとする対象物が生物活性であり、高分子、ポリヌクレオチド、RNA、DNA、タンパク質、マーカータンパク質、リポタンパク質、ポリペプチド、抗体、自己抗体、ホルモン、抗原、細胞、CD44+細胞、ウイルス、細菌細胞、寄生虫、真菌細胞、腫瘍細胞、幹細胞、及び/若しくは妊娠中の胎児に由来する細胞、又はそれらの部分からなる群から選択される、生物分析物を捕捉するためのデバイスが知られている。特に関心が持たれているのは、循環腫瘍細胞を捕捉するためのデバイスである。
【0003】
化学療法は、過去20年で遥かに進歩した。旧来の「汎用的な」化学療法が、単に急速に増殖している体内の全ての細胞を死滅させる(健常組織の損傷をもたらす)ものであったのに対し、現代の標的化化学療法は、特定の(がん)細胞だけに作用し、付随する損傷を最低限に抑えるように設計されている。標的化化学療法は、がん治療に大幅な改良をもたらしてきたが、その真の可能性は実現されないままである。がん細胞は絶えず変異しているため、標的化化学療法に適合し、耐性を持つことができるようになる。これによって、最終的には標的化化学療法が効かなくなる。がんは死に至ることが多く、標的化化学療法は高価であることを考えると、腫瘍細胞がいつどのように耐性を持つようになったのかを追跡して、それに応じて療法を調整できるようにすることを可能にするツールに対する大きな必要性が存在する。
【0004】
現在のところ、腫瘍の変異を追跡するのに最も広く受け入れられている方法は、生検を行うこと、すなわち腫瘍の組織試料を直接採取することである。これは、侵襲性手技であり、本質的に痛みを伴い、疾患が局所的に広がるリスクを抱え、良好に行われたときであっても、その特定の時点で試料採取されたその厳密な場所を反映したものしか得られない。患者のことを考慮すると、全ての腫瘍の連続的な生検が行われることは滅多にない。液体生検は、腫瘍の代わりに血液を試料採取するものであり、比較的容易で安全であるために、腫瘍の変異を継続的に追跡するための最も有望なツールである。液体生検には、循環腫瘍細胞(CTC)、腫瘍由来の小胞(例えば、エキソソーム)、及び循環腫瘍DNA(ctDNA)の単離を含めた多くの様々な手法が存在する。全てのこれらの手法のうち、CTCは、DNA、RNA、及びタンパク質の完全なプロファイルを含有するため、腫瘍の耐性に関する最も包括的で奥深い情報を提供する。しかし、CTCは血液中で極めて稀であり、典型的な血液試料では、平均すると血液1ミリリットル当たり数十億の他の細胞の中でCTCは1個未満である。腫瘍の耐性を確実に追跡するには遥かに多くの細胞(100+)が必要であり、それが、血液からCTCを効率的に単離することができる技術に対する必要性が存在する理由である。したがって、本発明は、CTCの選択的捕捉に関する。
【0005】
同様に関心を持たれているのは、敗血症を診断するための医療用サンプリングデバイスである。敗血症は、感染によって引き起こされる炎症性免疫応答である。細菌感染が最も一般的な原因であるが、真菌、ウイルス、及び原虫感染も敗血症に至ることがある。敗血症のガイドラインは、正確な診断を得るためにできるだけ早く血液培養物を得ることを推奨している。しかし、血液培養物は数日かかることがあるのに対して、敗血症は、急激に危険になる状態であり、治療はできるだけ早く開始しなければならない。したがって、感染源を迅速且つ選択的に分析することができれば非常に有益であろう。
【0006】
生物活性分子で装飾された光ファイバ、カテーテル、又はワイヤベースのデバイスを、生体試料又は更には生体からのDNA、タンパク質、細胞等の検出及び捕捉等の診断業務に適用することが知られている。
【0007】
WO2006131400は、ステンレス鋼ワイヤを、特異的に細胞を捕捉するための抗体で装飾された金属島で修飾することを教示している。100nm域のサイズを有する金属島は、金層の堆積工程中にシャドウマスクとして球状単層を使用することによって作製された。金の島は、特異的な抗体と結合するチオール化リンカー分子で修飾された。
【0008】
EP1907848は、診断用ナノセンサについて記載しており、これは、例えば、カテーテル又はスプリングワイヤの形態であり、検出分子を有する二次元のアーチ型金属ナノ構造上の領域を含む担体からなる。この診断用ナノセンサは、末梢血又は体から稀な分子又は細胞を直接検出し、単離するために使用することができる。この応用技法によって、以前には不可能だった診断法(母体循環系に存在する胎児栄養胚葉を使用する染色体異常の出生前診断、体内の播種性がん細胞の検出に基づいたがんの診断及びがん療法のモニタリング)が可能になる。
【0009】
EP2344021は、分析物を検出するための、ポリマー繊維及び捕捉分子を含むデバイスに関するものであり、該捕捉分子は分析物及び/又はリンカー分子に結合する。捕捉分子は、抗体、抗原、受容体、ポリヌクレオチド、DNAプローブ、RNAプローブ、ポリペプチド、タンパク質、及び/又は細胞を含む群から選択される。表面上に微細構造又は表面形状を有するとこの文献に記載される官能化ポリマー繊維は、血液試料等の生体試料中、又は生体の静脈内に導入することができる。少なくとも数秒から数時間の間、該繊維は、その生物機能性コーティングを通してそれぞれの標的分析物を収集する。収集プロセスが終了した後に、該繊維は引き上げられ、捕捉された物質が繊維から分離されて分析される。
【0010】
同様に、EP2547250から、人体からの分子又は細胞を単離するための官能化表面を有する生物検知器が知られている。この生物検知器は、標的分子及び標的細胞を単離し、濃厚化するために人体に導入され、短時間の後にもう一度人体から取り出される。
【0011】
Jinling Zhangらによる「An ensemble of aptamers and antibodies for multivalent capture of cancer cells」、Chem. Commun.、2014、50、6722には、がん細胞を捕捉し、単離するための多価接着ドメインとして機能する、最適化された集合体を見出すことができる。該集合体は、マイクロピラーアレイを含有するマイクロ流体デバイス中に組み込むことができる。抗体及びアプタマーは、Sheng W、Chen T、Katnath R、Xiong XL、Tan WH、Fan ZHによる「Aptamer-enabled Efficient Isolation of Cancer Cells from Whole Blood Using a Microfluidic Device」Anal. Chem. 2012;84:4199~4206に記載されるように、アビジンとビオチンとの反応を使用してマイクロ流体チャネル上に固定化された。該マイクロ流体デバイスは、600nL/秒の流量の場合に約81%の純度で>95%の捕捉効率をもたらすと報告されている。これは技術的な実現可能性を実証するが、臨床に適用可能とするには流量が不十分である。より正確には、この速度では、仮に100個のCTCを得るために100%の効率で46時間を超える連続運転が必要となり、これは全く実用的ではない。
【0012】
腫瘍細胞は、現在のところ、後続する臨床的に関連するパラメータのスクリーニングのためにin vitroにおいて高い感度及び選択性で単離されている。しかし、血液中のCTCの発生頻度が極めて低いことを考慮すると、採取することができる最大の血液試料であっても非常に少ない情報しか得られない。感度及び選択性を更に改良すれば、代わりにin vivoでもそのように行うことが可能になり、それによって臨床的に関連するパラメータの更なるスクリーニングが大幅に助けられることになるであろう。同様の考察が敗血症に関しても当てはまる。
【0013】
循環腫瘍細胞(CTC)等の生物分析物をヒト静脈の血流中から直接捕捉することは困難である。上で示したように、生物分析物の捕捉は、典型的には、高度に選択的で、強くほぼ永久的な結合をもたらす抗体を用いて行われる。しかし、抗体は、これらの結合を非常に低い相対速度で形成することしかできず、1mm/秒を上回る速度で生物分析物を捕捉するその能力を急速に失うが、血流中の速度は更に何桁も高い。更にまた、当分野における問題は、捕捉後又は放出時にデバイスを引き上げる間に、捕捉されたCTC等の生物分析物が往々にして損傷されたり破壊されたりすることである。結果的に、検出又は診断がもはや不可能になったり、信頼できなくなったりする。
【0014】
したがって、循環系から、好ましくは脈管系から、より好ましくは直接血流中からCTC等の生物分析物を単離するための、改良された感度及び選択性を有する医療用サンプリングデバイス、すなわち、臨床的に関連するパラメータの更なるスクリーニングのために放出することを可能にする、増加した捕捉率を有する改変されたガイドワイヤ又はカテーテルに対する必要性が依然として存在する。
【0015】
Zhi Sheng-liangらによる論文、「Fabrication of Carbohydrate Microarrays on Gold surfaces: Direct Attachment of Nonderivatized Oligosaccharides to Hydrazide-modified Self-Assembled Monolayers」、Analytical chemistry、第78部、第14号、2006、4788~4793頁には、ヘパリンを含むコーティングをマイクロアレイの表面上に適用するための方法が開示されており、ここでは、ヘパリンは、その表面上のアミン基にエンドポイント結合される。該マイクロアレイは、炭水化物-タンパク質認識事象のマッピングに使用することができる。
【0016】
WO2010019189は、特に、エンドポイント結合されたヘパリンをベースとするコーティング層を含む表面を有する医療用デバイスについて記載しており、ヘパリンは、前記表面に1,2,3-トリアゾールを含む連結を通して共有結合されている。ヘパリンは、抗凝血化合物として使用されている。医療用デバイスは、サンプリングデバイスとしては使用されていない。分岐について述べられているが、これはヘパリンの分岐ではなく、捕捉率を改良するために述べられているのでもない。
【0017】
WO2013188073には、血液を体外で固体に接触させることによってがんの病理発生に寄与するメディエータを血液から除去するための方法が記載されている。したがって、これは診断用デバイスではない。該方法がヘパリンについて特に記載しているのは、他の炭水化物表面はヘパリン化表面より血液適合性が有意に低いことがあり、血栓形成性の増大につながり得るからである。それに対して、そのようなメディエータの除去効率を更に改良すると思われるコーティングを有していれば、特に関心が持たれるであろう。
【0018】
本発明の主な用途は、追加の選択機構として機能するコーティングをもたらし、既存の選択機構の感度を増大させながら、血液適合性も付与することによって、CTC等の生物分析物を単離する既存の方法を改良することである。該コーティングは、血流中のCTCを直接捕捉する改変されたガイドワイヤ及びカテーテル(例えば、Gilupi CellCollector(登録商標))等のin-vivoでの濃厚化ツールに適用することができる。しかし、該コーティングは、in-vitroでの技術、例えば、磁気ビーズ分離(例えば、CELLSEARCH(登録商標)Circulating Tumor Cell Kit、これは、全血中の上皮由来(CD45-、EpCAM+、並びにサイトケラチン8、18+、及び/又は19+)のCTCを計数することを意図したものである)及び幾つかのマイクロ流体フローセルにも適用することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0019】
【特許文献1】WO2006131400
【特許文献2】EP1907848
【特許文献3】EP2344021
【特許文献4】EP2547250
【特許文献5】WO2010019189
【特許文献6】WO2013188073
【非特許文献】
【0020】
【非特許文献1】Jinling Zhangらによる「An ensemble of aptamers and antibodies for multivalent capture of cancer cells」、Chem. Commun.、2014、50、6722
【非特許文献2】Sheng W、Chen T、Katnath R、Xiong XL、Tan WH、Fan ZHによる「Aptamer-enabled Efficient Isolation of Cancer Cells from Whole Blood Using a Microfluidic Device」Anal. Chem. 2012;84:4199~4206
【非特許文献3】Zhi Sheng-liangらによる論文、「Fabrication of Carbohydrate Microarrays on Gold surfaces: Direct Attachment of Nonderivatized Oligosaccharides to Hydrazide-modified Self-Assembled Monolayers」、Analytical chemistry、第78部、第14号、2006、4788~4793頁
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明は、医療用サンプリングデバイスの表面上に適用するための、生物分析物に対して結合親和性を有する1種又は複数の多糖を含むコーティングであって、1種又は複数の多糖が医療用デバイスの表面にエンドポイント結合され、1種又は複数のエンドポイント結合された多糖が、それらの骨格から伸びる側基に末端グラフト化された1種又は複数の多糖を有する、コーティングを提供する。本発明は、コーティングを適用するための方法であって、表面を官能化する工程(A)、続いて1種又は複数の多糖を表面上の官能基にエンドポイント結合させる工程(B)、続いて表面上の官能基にエンドポイント結合された多糖の上に1種又は複数の多糖をエンドポイント結合させる工程(C)を含む方法を更に提供する。好ましくは、1種又は複数の多糖を表面上の官能基にエンドポイント結合させる工程の後に、表面上のいかなる残留官能基もブロックする工程(D)が続く。工程(C)及び(D)の順序は逆であってもよい。本発明はまた、循環腫瘍細胞等の生物分析物を捕捉するための医療用サンプリングデバイスであって、適用されたコーティングをその上に有する医療用サンプリングデバイスを提供する。
【0022】
本発明はまた、循環腫瘍細胞等の生物分析物を捕捉するための方法、及び捕捉された生物分析物を放出し、分析するための方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】末端基結合されていない多糖をベースとした、医療用サンプリングデバイスの表面上に適用された基材上の先行技術のコーティングの適用を模式的に示す図である。
【
図2A】末端基結合された多糖をベースとし、基材の表面上の活性基が遮断された、基材上の本発明のコーティングの適用を模式的に示す図である。
【
図2B】末端基結合された多糖をベースとし、基材の表面上の活性基が遮断された、基材上の本発明のコーティングの適用を模式的に示す図である。
【
図2H】末端基結合された多糖をベースとし、基材の表面上の活性基が遮断された、基材上の本発明のコーティングの適用を模式的に示す図である。
【
図2I】末端基結合された多糖をベースとし、基材の表面上の活性基が遮断された、基材上の本発明のコーティングの適用を模式的に示す図である。
【
図2J】末端基結合された多糖をベースとし、基材の表面上の活性基が遮断された、基材上の本発明のコーティングの適用を模式的に示す図である。
【
図2K】末端基結合された多糖をベースとし、基材の表面上の活性基が遮断された、基材上の本発明のコーティングの適用を模式的に示す図である。
【
図2N】末端基結合された多糖をベースとし、基材の表面上の活性基が遮断された、基材上の本発明のコーティングの適用を模式的に示す図である。
【
図2O】末端基結合された多糖をベースとし、基材の表面上の活性基が遮断された、基材上の本発明のコーティングの適用を模式的に示す図である。
【
図2P】末端基結合された多糖をベースとし、基材の表面上の活性基が遮断された、基材上の本発明のコーティングの適用を模式的に示す図である。
【
図2Q】末端基結合された多糖をベースとし、基材の表面上の活性基が遮断された、基材上の本発明のコーティングの適用を模式的に示す図である。
【
図3】受容体及び/又はリガンドが1種又は複数の多糖の上にグラフト化された、基材上の本発明のコーティングの適用を模式的に示す図である。
【
図4】細胞の速度及び捕捉率に及ぼすコーティングの作用を示すヒストグラムである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明による医療用サンプリングデバイスは、生物分析物、特にCTCを血流中で直接単離するための改良された感度及び選択性を有する。それは、ガイドワイヤ又はカテーテルの形態であってもよい。重要なことに、それは増大した捕捉率を示すと同時に、臨床的に関連するパラメータの更なるスクリーニングのために捕捉された生物分析物を放出することを可能にする。加えて、該コーティングを固体上に適用して、コーティングされた固体に血液を接触させることによってがんの病理発生に寄与するメディエータを血液から除去することができる。
【0025】
本発明のプロセスは、医療用サンプリングデバイスの表面を官能化することから始まる。これは、好ましくはアミノ化によって、すなわち、表面上に遊離アミノ基を導入することによって行われる。
【0026】
本発明のプロセスの工程(A)は、好ましくは、医療用サンプリングデバイスの表面のアミノ化を含む。好ましくは、アミノ化はジアミンで行われる。次に、リンカーとして作用する化合物が結合される。これは、好ましくはジアルデヒド、より好ましくはグルタルアルデヒドである。
【0027】
本発明のプロセスの工程(B)は、アミン基と反応したリンカーへの多糖のエンドポイント結合を含む。好ましくはヒアルロン酸が多糖として使用され、その末端への還元的アミノ化を介してその上にジアミンが結合される。還元的アミノ化は、還元剤の存在下で実施することができる。それは、好ましくはシアノ水素化ホウ素ナトリウムの存在下でアジピン酸ジヒドラジドを用いて実施される。
【0028】
本発明のプロセスの工程(C)は、グラフト化、すなわち、医療用サンプリングデバイスの表面に結合された多糖の骨格上への多糖のエンドポイント結合を含む。この場合、工程(B)及び工程(C)においてヒアルロン酸が使用される。これは、カルボジイミドカップリングによって行われるが、他の反応が可能である。このプロセスを2回以上繰り返して、炭水化物の上に炭水化物がグラフト化され、その上に炭水化物がグラフト化された層を作ってもよい。これらの多糖は、同一であっても、同じクラスに属しているが分子量が異なっていても、無関係でもよい。
【0029】
しかし、多糖のエンドポイント結合は、リンカーからの未反応のアミノ基及びアルデヒド基を医療用サンプリングデバイスの表面上に残している。これらの残留官能基は、適用されたコーティングの選択性に悪影響を及ぼすことになるので、遮断する必要がある。好ましくは、これらの残留官能基は、工程(D)において穏やかな条件下で、末端基結合された炭水化物に影響を及ぼすことなく遮断される。例えば、残留アミノ基をアルデヒド基に変換し、これらの残留アルデヒド基をアミノ酸との反応によって遮断し、それによって適用されたコーティングの選択性にもはや影響を及ぼすことがない遊離酸性基を作ってもよい。安定性の理由から、イミン結合は、好ましくはシアノ水素化ホウ素ナトリウムを使用して還元されてもよい。工程(C)及び(D)の順序は逆であってもよい。
【0030】
本発明では、生物分析物に対して結合親和性を有する多糖が使用される。生物分析物に対して結合親和性を有する多糖は、当技術分野でよく知られている。この親和性は、固有のもので、例えば、生物分析物の表面上の検出受容体に起因するものであってもよいが、多糖の上に結合された検出受容体に起因するものであってもよい。この特許出願の範囲内では、CTC等の生物分析物に対して結合親和性を有する多糖は、生物分析物上の受容体と多糖との相互作用を通して、及び/又は多糖の上に結合された検出受容体の相互作用を通して、生物分析物と少なくとも一時的な連結を形成する。相互作用は、基材の表面上にエンドポイント結合された多糖を通したものであっても、上述の多糖の上にグラフト化された多糖を通したものでも、両方の組み合わせであってもよい。
【0031】
本発明のコーティングに使用される多糖は、グリコシド結合によって共に結合された単糖単位から構成される長鎖ポリマー炭水化物である。例として、貯蔵多糖、例えば、デンプン、グリコーゲン、及びガラクトゲン、並びに構造多糖、例えば、セルロース及びキチンが挙げられる。好ましくは多糖は不均一であり、より好ましくは血液適合性のグリコサミノグリカン、より好ましくは人体に元々存在するグリコサミノグリカンである。それは、数個しかない繰り返し糖単位からなるオリゴ糖だけでなく、分子量が百万ダルトンを超える長い多糖であっても、更にはそれらの混合物であってもよい。典型的には、それは、ポリマー骨格に繰り返し単位として単糖を40~3000個有する。
【0032】
エンドポイント結合を使用することによって、また多糖に一般に見出される負に帯電した側基によって、多糖分子は互いに反発し、したがって医療用サンプリングデバイスの表面から離れて突き出して血液中により遠くに伸び、それによって腫瘍細胞上の特異的な受容体と結合するその有用性を最大限にすることができる。この原理は、多糖の上にグラフト化された多糖にも等しく当てはまる。典型的には、コーティングは0.1μm~2μmの範囲内の厚さを有する。
【0033】
最も好ましくは、本発明のコーティングは、人体に元々存在する血液適合性のグリコサミノグリカンであるヒアルロン酸(HA)を含むか、又は更には完全にヒアルロン酸(HA)からなる。したがってHAは、好ましくは、医療用サンプリングデバイスの表面に末端基結合させるために使用されるだけでなく、医療用サンプリングデバイスの表面に末端基結合された多糖に末端基結合させるために使用される。HAは、以降に考察するように、幾つかの理由から好ましい。
【0034】
HAは、そのカルボン酸側基のために、容易に化学修飾されて、表面上をコーティングすることができる。更にまたHAの側基によって、抗体及び他の受容体等の追加分子をカップリングすることが可能になる。
【0035】
腫瘍細胞が、HAに特異的に結合する受容体である、CD44等のヒアルアドヘリンの豊富な発現を往々にして示すことが発見されたことから、HAは特に関心が持たれている。したがって、殆どの腫瘍細胞がHAのコーティングに付着することができるが、HAはその他に、一般に撥水性及び防汚性である。エンドポイント結合を使用することによって、HAは、ある種の細胞、最も顕著には腫瘍細胞上の特異的な受容体に結合するのに最大限に利用可能であるように適用される。
【0036】
CD44とHAの間の相互作用は、単純な細胞接着に限らない。本発明者らは、CD44陽性細胞がHAでコーティングされた基材上でローリングすることができることを実証した。この相互作用は、免疫細胞の血管外遊出及びホーミングに役割を果たしている可能性があると思われ、したがってCTCの血管外遊出及び転移にも関与している可能性があると思われる。HAでコーティングされた表面の細胞ローリングを誘導する能力は、ローリング作用がおそらく速度を低下させるために、CTCの濃厚化に非常に有益であることが見出されている。これは、次の点で有益である;コーティングの表面に沿ったCTCの流速が上がれば上がるほど、細胞がコーティングに結合する機会が少なくなるからである。言い換えれば、腫瘍細胞がHAでコーティングされた表面に特異的に接着できることの他に、そのローリング作用のために流れの中の腫瘍細胞をより容易に捕捉することもできる。
【0037】
好都合なことに、HAは、細菌発酵によって生産することができ、それによって動物由来のHAの潜在的な毒素及び病原体が回避される。細菌発酵は、数多くの臨床製品及び化粧品、更には栄養補助食品によっても証明されるように、HAの工業生産を可能にしてきた。好ましくは、HAは、40kDa~2MDaの範囲内、好ましくは50kDa~1.5MDaの範囲内の分子量を有する。HAはまた置換されていてもよく、ここでは、ポリマー骨格に沿った官能基の少なくとも一部が他の官能基で置換されている。
【0038】
重要なことに、HAは、穏やかな条件下で酵素によって特異的に分解することができ、それによってCTCの制御放出が可能になる。例えば、HAは、穏やかな条件下でヒアルロニダーゼを使用して選択的に分解することができるが、これは臨床用途にも見られている。要約すると、HAは、がん療法及び診断に多くの用途を有する多用途の分子である。コーティングとして、それは、選択的腫瘍細胞接着、血液適合性、及び豊かな化学の独特な組み合わせをもたらすことができる。言い換えれば、HAコーティングは、in-vivoとin-vitroの両方で、全血から循環腫瘍細胞を捕捉するために最適化されている。
【0039】
上で述べたように、コーティングにおける多糖の結合親和性は、CTCの受容体及び/又はリガンド、例えば、抗体、好ましくはモノクローナル抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体、抗体断片、又はアミノ酸構造及びアミノ酸配列、核酸構造若しくは核酸配列等をその上に追加することによって作り出すか又は強化することができる。例えば、HAとアプタマー及び抗体との相互作用は、エンドポイント結合されたHA、アプタマー及び抗体が一緒にCTCの通過を減速させ、したがって選択的捕捉を増大させると考えられるようなものである。
【0040】
上で述べたように、本発明のコーティングは、好ましくは、最初にサンプリングデバイスの表面上にアミン基を導入し、続いてリンカーを導入し、次いで多糖、好ましくはHAをエンドポイント結合させることによってもたらされる。アミノ化は、ポリマー表面を有する医療用サンプリングデバイス上で最もよく実現することができる。これは、例えば、エステル含有ポリマー、例えば、ポリウレタン(PU)、ポリエステル(例えばPET)、又はエステルをその側基に含有するポリマー(例えばPMMA)のアミノリシスによって遂行することができる。原則として、アミノリシスが可能な任意のポリマーが使用されてもよい。表面アミノ化は、シラン化、又はアンモニアベースのプラズマ処理を通して実現することもできる。アミノリシスは、好ましくはジアミンを用いて、より好ましくはエチレンジアミン又はヘキサメチレンジアミンを用いて実施される。
【0041】
次に、リンカーが表面上のアミン基に結合される。好ましくはジアルデヒドが使用される。それは、末端アミノ化多糖を非常に穏やかな条件下でエンドポイント結合させることができるからである。しかし、例えば、トリカルボン酸であるクエン酸/ジアミン-クエン酸を使用して、カルボン酸でコーティングされた表面にジアミン中間体を通してコンジュゲートすることも可能である。各クエン酸が、そのカルボン酸のうちの1つを通してアミノ化表面に結合すれば、表面に露出された各アミン基に対して2つのカルボキシル基が存在することになる。これによって、表面上のカルボキシル基の数が効果的に2倍になるために、グラフト化密度が2倍になる。
【0042】
多糖は、リンカーに直接エンドポイント結合されてもよいし、又は多糖の末端を修飾してアミノ化表面に結合されたリンカーと反応できるようにしてもよい。例えば、多糖の末端及び/又は表面アミン基は、チオール基で修飾されてもよい。
【0043】
前の工程によって、表面に多糖が末端結合された基材が得られた。しかし、エンドポイント結合反応が、多糖分子を表面上のあらゆる利用可能なリンカーにカップリングさせるとは考えにくい。結果的に、表面上に活性基、例えば、遊離アルデヒド基が存在することになるが、これは2つの理由から不利である。すなわち、リンカーからの残留官能基は非特異的接着部位をもたらす可能性があること、及び残留官能基によって、エンドポイント結合された多糖が基材上で平らになる可能性があることである。よって、残留表面官能基は、好ましくは、基材と多糖の間の相互作用を防ぐ官能基で遮断される。残留表面官能基を遮断すれば、下流の反応における基材と他の反応物の間の望ましくない化学反応、例えば、検出受容体のカップリングも防ぐことができる。上で述べたように、表面アミンがジアルデヒドと反応したのであれば、これは、好ましくはアミノ酸を用いて実現される。何故なら、この反応は単純で速く、エンドポイント結合された多糖に影響を及ぼさないからである。ジアルデヒドは、2つ以上のアルデヒド基を有する任意の分子であり得るが、容易に入手することができ、効率的に反応することから、グルタルアルデヒドが好ましい。ジアルデヒドは、未反応のアルデヒドで基材を装飾し、次いで所望の特性に基づいて任意のアミノ酸と反応させることができる。好ましくは、いずれの側基も有していないことから、6-アミノカプロン酸が使用される。他の良好な選択肢は、アスパラギン酸及びグルタミン酸であろう。これらのアミノ酸は、多糖を結合する又は受容体を結合するための追加の部位を作るのに有利な追加のカルボキシ部分を含有するからである(以降で考察する)。
【0044】
次に、コーティングは、表面にエンドポイント結合された多糖の上に追加の多糖をグラフト化することによって更に修飾される。前に述べたように、これは、好ましくは同じ分子量を有する同じヒアルロン酸である。
【0045】
エンドポイント結合された多糖は「ブラシ」様構造を有することになり、これは、エンドポイント結合された多糖の側基に多糖をカップリングさせ、それによって分岐構造を作ることによって、「ボトルブラシ」様構造に作製することができる。様々なカップリング反応が使用されてもよい。カルボジイミドカップリング反応を用いて、末端アミノ化カルボジイミドをエンドポイント結合された多糖にカップリングさせることが好ましい。この手法が好ましい理由は、末端アミノ化多糖が前の反応でも使用されていたこと、及びカルボジイミドカップリング反応が二段階反応であり、それによってボトルブラシ様構造当たりの分岐点の最大数を制御することができることである。好ましくは、これは、グラフト化に使用される多糖がエンドポイント結合された多糖のみに結合し、それ自体には結合できないことを確実にするために、二段階手法で行われる。例えば、エンドポイント結合された多糖のカルボキシ基を良好な脱離基、例えば、N-ヒドロキシスクシンイミド(NHS)又はN-ヒドロキシスルホスクシンイミド(スルホ-NHS)で活性化することが役に立つ場合がある。グラフト化の手順を繰り返して既にグラフト化された多糖の上に多糖をグラフト化し、それによってボトルブラシのサイズを増加させ、より厚く、より密なコーティングを作ることができる。これは、生物分析物と相互作用するコーティングの能力に有意に影響を及ぼし得る。
【0046】
したがって、本発明による医療用サンプリングデバイスは、最初にポリマー基材をその上に適用し、次いでそれを官能化し、続いて多糖、好ましくはHAをエンドポイント結合させ、直後に表面上のいかなる残留官能基も遮断することによって作製することができる。次いでエンドポイント結合された多糖をグラフト化し、分岐構造を作る(本明細書ではボトルブラシと呼ぶ)。任意選択で、次いで多糖、好ましくはHAを更に修飾してその上に更なる検出受容体を追加する。
【0047】
例えば、HAのカルボキシ基は、検出受容体がアミノ基を有していれば、検出受容体で容易に装飾される。これは、抗体及び他のタンパク質の場合に一般的である。アプタマーは、必要であれば、アミノ基で官能化することができる。利用可能なアミノ基を有する検出受容体で装飾されたHAは、単純で有効なカルボジイミドカップリングを使用することができるために好ましい。検出受容体上で利用可能な部分に応じた、中間リンカーを用いる又は用いない他の非カルボジイミドカップリング法を使用して、検出受容体でHAを装飾してもよい。
【0048】
図1(A~D)にはコーティングのイメージが示されており、図中、多糖X03が、末端基結合されずにポリマー基材X01上に適用されている。この先行技術のプロセスでは、アミン基X02が基材上に設けられている。多糖側基X04が活性化されてX05が作られ、これがアミン基X02と反応して接続部X06を形成し、これによって多糖が基材表面のアミノ基にカップリングされる。これを口語的に「スパゲティ」と呼ぶ。
【0049】
図2を参照すると、本発明のコーティングがポリマー基材X01上に適用される一連の工程が示される。やはり、アミン基X02が基材X01上に設けられる(
図2A~
図2B)。一方(
図2H~
図2I)、多糖X03がその末端X09でジアミンX08、好ましくはジヒドラジドと反応して、末端基結合を容易にする末端基X10が生じる。
図2Jでは、基材がジアルデヒドと反応して、アルデヒド基X11をその表面上に形成する。
図2Kでは、末端基X10がアルデヒド基X11に接続されて、接続部X12を形成する。
図2Nでは、末端結合された多糖の側基が、後続するX10とのカップリングのために活性化され(X05)、結果的に
図2Oにおける結合部14を生じ、それを通して多糖X15がX03に末端結合される。
図2Pでは、残留アミノ基がジアルデヒドで遮断されるのに対して、
図2Qでは、そのアルデヒド基がアミノ酸で遮断される。
【0050】
最後に、
図2N~
図2Oの工程を繰り返すことによって、
図2Qにおいて多糖X16がX15に末端結合される。
【0051】
図3では、受容体X17が側基X04上にもたらされる。
【0052】
図4を参照すると、フローセル内での培養乳がん細胞の速度に及ぼすグラフト法の作用を示すヒストグラムが示される。ヒストグラムは、「スパゲティHA」をベースラインとした陽性及び陰性対照を含有する。コーティングと細胞の間に何も相互作用が存在しないと(-対照)、大多数の細胞が速く流れ過ぎて定量化できないことに留意されたい。逆に、接着したコーティングとあまりに強く相互作用する細胞は、最低速度のバー(<5μm/秒)としてカウントされることになる。結果的に、このバー(5μm/秒)が高くなれば、コーティングはより多くの細胞を捕捉できる。詳細な考察は、以降の実験の部に示す。ボトルブラシ1は、実験の部によるコーティングであり、グラフト化工程は1回である。それに対して、ボトルブラシ2及びボトルブラシ3では、実験の部のグラフト化工程がそれぞれ1回又は2回繰り返される。グラフト化工程を繰り返すと、分岐点の数及びグラフト化された多糖鎖の量が多くなる。
【0053】
細胞の減速及び接着に及ぼすHAの作用を以下の実験によって説明する。それにおいて、コーティングされた基材の形態の試験試料をフローセル内で試験する。効率は、2つの対照:COOHコーティング及びNH2コーティングと比較する。それを、HAがエンドポイント結合されておらず、流れの中に伸びてもいないコーティングされた基材とも比較する。
【実施例】
【0054】
使用した材料:
【0055】
【0056】
【0057】
1. 表面のアミノ化
アミノリシスは、アミンがエステルと反応してアミド結合を形成する反応である。EDAは効率的に反応するので、EDAを使用した。以下に記載するプロトコルを使用した。
a. MQ及び洗剤を用いて基材を手で十分に清浄化する
b. Branson 5510超音波洗浄器を使用して、基材を、洗剤を有するMQ中40kHzで60分間室温で超音波処理する
c. 基材をMQで洗浄する
d. 基材をMQ中40kHzで60分間室温で超音波処理する
e. 基材を乾燥させる
f. 96% EtOH中2M EDAを調製する
g. 基材をEDA溶液中で2時間インキュベートする
h. 基材を96% EtOHで穏やかにすすぐ
i. 基材を96% EtOH中で2+時間軽く撹拌しながら洗浄する
j. 新たな96% EtOHで前の工程を繰り返す
k. 2+時間40℃で乾燥させる。
【0058】
アミノ基は、非特異的に多くの細胞を接着するその能力がよく知られる部分であることから、アミノ化された基材は、フロー装置実験において陽性対照として機能することになる。
【0059】
2. HAの末端アミノ化(iHA)
この工程の目標は、多糖の還元性末端にアミノ基をもたらすことである。これは、ジアミンを多糖の還元性末端上のアルデヒド(ラクトールと平衡状態にある)にカップリングさせ、得られた結合を還元剤で還元することによって実現される。多糖がジアミンの両方のアミンにカップリングすることを最小限に抑えるために、この反応ではモル過剰のジアミンを使用する。多糖としてヒアルロン酸(HA)を使用した。シアノ水素化ホウ素ナトリウムは、比較的穏やかで容易に入手できるために、これを還元剤として使用した。アジピン酸ジヒドラジドは、カップリング効率が高いために、これをこの反応で使用した。
a. 0.1M Na2Br4O7及び0.4M NaClをMQに溶解させる
b. pHをHClで8.4に調整する(VOS-70005 pHメータを使用する)
c. 得られた緩衝液をN2ガスで2+時間バブリングする
d. 5%w/v HA及び1000xモル当量のADHをホウ酸塩緩衝液に溶解させる
e. 0.07M NaBH3CNをその容量のホウ酸塩緩衝液に溶解させる
f. ホウ酸塩緩衝液を40℃で3日間インキュベートする
g. ホウ酸塩緩衝液をMQ中で十分に透析する
i. 10kDAカットオフの透析膜又はチューブを使用する
ii. ホウ酸塩緩衝液の容量より少なくとも100x多い容量のMQ中で透析する
iii. MQを少なくとも6時間の間隔で少なくとも5回新しくする
h. 透析された溶液を凍結乾燥する
【0060】
3. グルタルアルデヒドのカップリング
この工程の目標は、アミノ化ポリマー表面を末端アミノ化多糖に対して反応性にすることである。これは、ジアルデヒドを表面アミノ基にカップリングさせて、反応性アルデヒドを表面上にもたらすことによって実現され、その反応性アルデヒドは、続いて末端アミノ化HAのアミノ基に結合させることができる。殆どのジアルデヒドが機能するはずであるが、グルタルアルデヒドのような比較的短く単純なジアルデヒドが好ましい。何故なら、それは両方のアルデヒドが表面にカップリングする機会が限られるからである。
a. 2%v/v GAをMQに溶解させる
b. ポリマー表面をGA溶液中室温(RT)で6+時間インキュベートする
c. 頻繁に穏やかに撹拌する
d. ポリマー表面をMQで3回以上穏やかに洗浄する。
【0061】
4. 末端アミノ化多糖の基材へのカップリング
この工程の目標は、末端アミノ化多糖をアルデヒド官能化表面にカップリングさせ、それによってエンドポイント結合された多糖を作ることである。末端アミノ化多糖の還元性末端上のアミノ基は、表面アルデヒドと自然発生的に反応することになる。
a. 1%w/vの末端アミノ化MDa HAをMQに溶解させる
b. ポリマー表面をiHA溶液と6+時間インキュベートする
c. 頻繁に穏やかに撹拌する
d. ポリマー表面を1X PBS(pH=7.4)で3回以上穏やかに洗浄する。
【0062】
5. 残留表面基の遮断
前の工程で、ヒアルロン酸が表面に末端結合したポリウレタン基材が得られた。還元的アミノ化反応が、ヒアルロン酸分子をあらゆる利用可能な表面アミンにカップリングさせるとは考えにくい。結果的に、残留表面アミンが存在することになるが、これは2つの理由から不利である。すなわち、残留表面アミンは、非特異的接着部位をもたらす可能性がある部分であること、及び生理的pHでの残留表面アミンの正電荷によって、エンドポイント結合された負に帯電したヒアルロン酸が基材上で平らになる可能性があることである。
【0063】
残留表面アミンは、ジアルデヒド(GA)、続いてアミノ酸(6AC)との反応によって遮断される。何故なら、これらの反応は単純で速く、エンドポイント結合されたヒアルロン酸に影響を及ぼさないからである。
a. MQ中2%v/v GAを調製する
b 基材をGA溶液中RTで6+時間インキュベートする
c. 頻繁に穏やかに撹拌する
d. 基材をMQで3回以上穏やかに洗浄する
e. MQ中100mM 6ACを調製する
f. 基材を6AC溶液中で6+時間インキュベートする
g. 頻繁に穏やかに撹拌する
h. 基材を1X PBS(pH=7.4)で3回以上穏やかに洗浄する
【0064】
6. エンドポイント結合された多糖の上への多糖のグラフト化
グラフト化は、以下の方法によって実施する:
a. 100mM NHS及び100mM EDCを0.1M MES緩衝液(pH=5.5)に溶解させる
b. ポリマー表面をEDC溶液と1時間RTでインキュベートする
c. 頻繁に穏やかに撹拌する
d. 基材を1X PBS(pH=7.4)で穏やかに洗浄する
e. 1%w/v iHAを1X PBS(pH=7.4)に溶解させる
f. ポリマー表面をiHA溶液とRTで5+時間インキュベートする
g. 頻繁に穏やかに撹拌する
h. ポリマー表面を1X PBS(pH=7.4)で3回以上穏やかに洗浄する。
【0065】
7. (任意選択の)HAの検出受容体での装飾
以下のプロトコルは、抗EpCAM抗体であるVU1D9とのカルボジイミドカップリングの一方法について記載する。利用可能な他の抗EpCAM抗体も存在するが、プロトコルは殆どの(全部とまでいかなくても)IgG1抗体で十中八九同じであろう。
a. 100mM NHS、続いて100mM EDCを0.1M MES緩衝液(pH=5.5)に溶解させる
b. ポリマー表面をEDC/NHS溶液とRTで2時間インキュベートする
c. 頻繁に穏やかに撹拌する
d. 基材を1X PBS(pH=7.4)で穏やかに洗浄する
e. VU1D9の5μg/ml溶液を調製する
f. ポリマー表面をVU1D9溶液とRTで2時間インキュベートする
g. 頻繁に穏やかに撹拌する
h. 基材を1X PBS(pH=7.4)で穏やかに洗浄する
【0066】
8. スパゲティHAの調製(比較用)
前の工程でエンドポイント結合されたHAを有する試料を生成した。エンドポイント結合されたHAの作用をスパゲティHAと比較するために、PUのアミノ化試料を以下の通りに処理する:
a. 5%w/v 50kDA HAを0.1M MES緩衝液(pH=5.5)に溶解させる
b. 100mM NHS、続いて100mM EDCを添加し、頻繁に穏やかに撹拌する
c. ポリマー表面をHA溶液とRTで3+時間インキュベートする
d. 頻繁に穏やかに撹拌する
e. 基材を1X PBS(pH=7.4)で3回以上穏やかに洗浄する。
【0067】
9. 細胞懸濁液の調製
エンドポイント結合されたヒアルロン酸が流れの中でがん細胞の接着及びローリングに及ぼす影響を試験するために、がん細胞を培養し、処理された基材に沿って流動させた。MCF7細胞株は、そのロバストな性質並びにCD44及びEpCAMを発現することから、これを使用した。最初の工程は、細胞の懸濁液を調製することである。
a. ATCCによって提供されたプロトコルに従ってMCF7細胞を集密に達するまで培養する
b. Innovative Cell Technologies社によって提供されたプロトコルに従ってMCF7細胞をAccutase(登録商標)で採集する
c. ThermoFisher社によるプロトコルに従ってMCF7細胞をCMFDAで染色する
d. MCF7細胞をDMEM+10% FBS中に20.000細胞/mLの濃度で懸濁させる
【0068】
10. フローセル
エンドポイント結合されたヒアルロン酸が流れの中でがん細胞の接着及びローリングに及ぼす影響を試験するために、改変されたシリンジポンプ、カスタムのフローセルアセンブリ、及び落射蛍光顕微鏡からなる装置を使用した。シリンジポンプは改変して以下のようにした:落射蛍光顕微鏡が、処理された基材の内腔表面の画像を20分間捕捉する間に、フローセル内のチャネルに接続するチューブを通して細胞懸濁液を送り出し、このとき1mm/秒の平均速度を維持する。
【0069】
この装置の要件は以下の通りである:
a. シリンジポンプ:
i. 2つの5~60mlシリンジを有する
ii. 垂直に取り付けたシリンジを有する
iii. シリンジに対して個々に設定可能な注入/引抜速度を有する
iv. 両方のシリンジに対して37℃まで加熱を制御する
v. 0.001~128ml/分の間で設定可能な注入/引抜速度を有する
b. フローセルアセンブリ:
i. 以下のアセンブリに3.2MPaの均等な圧締圧を与えることができる
1. 顕微鏡スライドサイズに処理された基材1mm厚
2. 0.5mm厚の顕微鏡スライドサイズのPDMSガスケット
3. 0.6mmのチャネル高さを有するIbidi社sticky-Slide I Luer(80188)
ii. 処理された基材の37℃までの加熱を制御する
c. 落射蛍光顕微鏡:
i. 420~490nmのバンドパス励起フィルタを有する
ii. 520nmのロングパス発光フィルタを有する
iii. 4X対物レンズを有する
iv. RGB24形式での1280*960 JPEG画像を100msの露出時間でISO100で捕捉できるカメラを有する
【0070】
11. データ分析
前の工程で捕捉した画像を分析して、エンドポイント結合されたヒアルロン酸が流速及びローリング速度並びに固定化率に及ぼす作用を定量化した。データ分析は、以下の通りに行った:
a. 画像は、カスタムマクロを有するFiji(ImageJに基づいたオープンソース画像処理パッケージ)で前処理し、それによって以下を行った
i. 緑チャネルを単離する
ii. ローリングボール半径50で「Subtract Background」機能を使用する
iii. 静的な値を全ての画像から差し引く
b. 画像を、以下のTrackmateプラグインで分析する
i. Dog detector、直径20px及び閾値1.0を用いる
ii. Lap tracker、距離30pix及びペナルティ50Yを用いる
c. トラックをMS Excelにエクスポートし、加工する
i. <5のスポットを有する全てのトラックを削除する
ii. 0.25のビンサイズでヒストグラムを作成する
iii. ビンサイズをμm/秒に変換する
d. ヒストグラムを陽性及び陰性対照と比較する
e. ヒストグラムを非エンドポイント結合HAと比較する
【0071】
図4におけるヒストグラムは、様々な基材の上での細胞/細胞集塊の移動速度の分布を示す。少なくとも5フレーム追跡できなかった全ての細胞/細胞集塊は切り捨てた。各バーは、速度の範囲、すなわち、0~4.9、5~9.9、10~14.9、15~19.9、20~24.9、及び25~30μm/秒のビンを表す。完全に固定化された細胞/細胞集塊は、0~4.9μm/秒のビンに含まれる。30μm/秒より速く移動した細胞/細胞集塊は含まれない。細胞懸濁液の濃度は等しく、細胞/細胞集塊のカウントが低ければ、細胞は概して基材と相互作用しなかったか、又は接着しなかったことを意味する。
【0072】
陰性対照試料は、非常に低い0~4.9μm/秒のビンによって証明されるように、細胞又は細胞集塊と相互作用せず、基材への結合を防ぐ-COOH基で装飾されている。陽性対照試料は、細胞によく接着することが知られている-NH2基で装飾されている。スパゲティ試料は、分子の長さに沿って基材とカップリングしたHAでコーティングされており、それによってローリング及び接着細胞/細胞集塊がかろうじて増大している。エンドポイント結合されたHAを有する試料は、接着又は相互作用する遥かに多くの細胞/細胞集塊を示す。スパゲティHAとエンドポイント結合されたHAとは結合の方法のみが異なるため、このデータから、エンドポイント結合が基材と細胞/細胞集塊の相互作用及び接着を大きく改良することが示される。
【0073】
12. CTCの放出
コーティングされた基材に結合された捕捉CTCは、HAの酵素分解を通して基材から穏やかに放出させることができる。トリプシン処理のような古典的な手法とは異なり、この手法はCTCの生存能及び表現型に最小限しか影響を及ぼさないので、影響を受けていない細胞を必要とする後続する分析には理想的である。ウシ精巣由来のヒアルロニダーゼは、選択的、効率的、及び経済的であるために好ましい。HAを分解することができる他の酵素又は他の源からのヒアルロニダーゼを代わりに使用してもよい。以下のプロトコルは、ヒアルロニダーゼ溶液との単純なインキュベーションについて記載している。
a. 1X PBS(pH=7.4)中200U/mlヒアルロニダーゼの溶液を調製する
b. 溶液を37℃に予熱する
c. CTCを有する基材を37℃で5分間インキュベートする
d. 溶液を採集して懸濁液中のCTCを得る
【0074】
影響を受けていない表現型を有する生存可能なCTCを得ることができるが、これは実現するのが非常に難しいことであり、臨床的に関連するパラメータの更なるスクリーニングのために極めて望ましいことである。
【符号の説明】
【0075】
X01 基材
X02 アミン基
X03 多糖
X04 多糖側基
X05 活性化
X06 接続部
X08 ジアミン
X09 多糖末端
X10 末端基
X11 アルデヒド基
X12 接続部
X14 結合部
X15 多糖
X16 多糖
X17 受容体
【国際調査報告】