(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-09-14
(54)【発明の名称】神経細胞の拡大培養培地及び培養法
(51)【国際特許分類】
C12N 5/0793 20100101AFI20230907BHJP
C12N 5/0797 20100101ALI20230907BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20230907BHJP
A61P 25/16 20060101ALI20230907BHJP
A61K 35/30 20150101ALI20230907BHJP
A61K 35/545 20150101ALN20230907BHJP
【FI】
C12N5/0793
C12N5/0797
A61P25/00
A61P25/16
A61K35/30
A61K35/545
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023512000
(86)(22)【出願日】2021-08-17
(85)【翻訳文提出日】2023-04-11
(86)【国際出願番号】 CN2021112986
(87)【国際公開番号】W WO2022037570
(87)【国際公開日】2022-02-24
(31)【優先権主張番号】202010824749.3
(32)【優先日】2020-08-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】522110751
【氏名又は名称】インスティチュート・オブ・ズーロジー、チャイニーズ・アカデミー・オブ・サイエンシズ
【氏名又は名称原語表記】INSTITUTE OF ZOOLOGY, CHINESE ACADEMY OF SCIENCES
【住所又は居所原語表記】1 Beichen West Road, Chaoyang District, Beijing 100101, China
(71)【出願人】
【識別番号】522110740
【氏名又は名称】ベイジン・インスティチュート・フォー・ステム・セル・アンド・リジェネラティヴ・メディスン
【氏名又は名称原語表記】BEIJING INSTITUTE FOR STEM CELL AND REGENERATIVE MEDICINE
【住所又は居所原語表記】3A, Datun Road, Chaoyang District, Beijing, 100101, China
(74)【代理人】
【識別番号】100110423
【氏名又は名称】曾我 道治
(74)【代理人】
【識別番号】100111648
【氏名又は名称】梶並 順
(74)【代理人】
【識別番号】100122437
【氏名又は名称】大宅 一宏
(74)【代理人】
【識別番号】100209495
【氏名又は名称】佐藤 さおり
(72)【発明者】
【氏名】シュウ、チ
(72)【発明者】
【氏名】リ、ウェイ
(72)【発明者】
【氏名】ハオ、ジェ
(72)【発明者】
【氏名】ワン、ユカイ
(72)【発明者】
【氏名】フェン、リン
(72)【発明者】
【氏名】ワン、リウ
(72)【発明者】
【氏名】フ、バォヤン
(72)【発明者】
【氏名】サン、ユン
(72)【発明者】
【氏名】ティアン、ヤオ
(72)【発明者】
【氏名】ヘ、ジェンクァン
【テーマコード(参考)】
4B065
4C087
【Fターム(参考)】
4B065AA93X
4B065BB40
4B065CA44
4C087AA01
4C087AA02
4C087AA03
4C087BB45
4C087BB57
4C087BB65
4C087CA04
4C087DA32
4C087NA14
4C087ZA02
(57)【要約】
神経細胞のための培養培地及び培養方法、特に、SMADタンパク質シグナル伝達経路阻害剤、SHHシグナル伝達経路アゴニスト、Wntシグナル伝達経路アゴニスト、及びミオシンII ATPアーゼ阻害剤を含み、任意にROCK阻害剤を更に含む組成物、又はSMADタンパク質シグナル伝達経路阻害剤、SHHシグナル伝達経路アゴニスト、Wntシグナル伝達経路アゴニスト、ミオシンII ATPアーゼ阻害剤、及び任意にROCK阻害剤からなる組成物に関する。中脳ドーパミン神経細胞前駆体等の神経細胞の同一のバッチを、上記組成物に基づいて設計された培養方法及び培養培地を用いることによって効率的に得ることができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
SMADシグナル伝達経路阻害剤、SHHシグナル伝達経路アゴニスト、Wntシグナル伝達経路アゴニスト、及びミオシンII ATPアーゼ阻害剤を含み、任意にROCK阻害剤(例えば、Y-27632)を更に含むか、
或いは、SMADシグナル伝達経路阻害剤、SHHシグナル伝達経路アゴニスト、Wntシグナル伝達経路アゴニスト、ミオシンII ATPアーゼ阻害剤、及び任意にROCK阻害剤(例えば、Y-27632)からなる、組成物。
【請求項2】
前記ミオシンII ATPアーゼ阻害剤が、ブレビスタチン及びその誘導体(例えば、(S)-(-)-ブレビスタチンO-ベンゾエート)からなる群から選択される、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記SMADシグナル伝達経路阻害剤が、BMP阻害剤、TGFβ/アクチビン-ノーダル阻害剤及びそれらの組合せからなる群から選択され、
好ましくは、前記BMP阻害剤が、DMH-1、ドルソモルフィン、ノギン、LDN193189及びそれらの任意の組合せからなる群から選択され、
好ましくは、前記TGFβ/アクチビン-ノーダル阻害剤が、SB431542、SB505124、A83-01及びそれらの任意の組合せからなる群から選択される、
請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
前記SHHシグナル伝達経路アゴニストが、SHHタンパク質、スムーズンド(Smoothend)アゴニスト及びそれらの組合せからなる群から選択され、
好ましくは、前記SHHタンパク質が、組換えSHH及び末端修飾SHH(例えば、SHH C25II)からなる群から選択され、
好ましくは、前記スムーズンド(Smoothend)アゴニストが、SAG、Hh-Ag1.5、20α-ヒドロキシコレステロール、プルモルファミン及びそれらの任意の組合せからなる群から選択される、
請求項1~3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
前記Wntシグナル伝達経路アゴニストが、GSK3β阻害剤、Wnt3A、Wnt1及びそれらの組合せからなる群から選択され、
好ましくは、前記GSK3β阻害剤が、CHIR99021、GSK3β阻害剤IX(6-ブロモインジルビン-3’-オキシム、BIO)、GSK3β阻害剤VII(4-ジブロモアセトフェノン)、インジルビン、L803-mts、TWS119、AZD2858、AR-A014418、TDZD-8、LY2090314、2-D08、IM-12、1-アザケンパウロン、SB216763、又はそれらの任意の組合せからなる群から選択される、
請求項1~4のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項6】
前記組成物が、BMP阻害剤、TGFβ/アクチビン-ノーダル阻害剤、SHHタンパク質、スムーズンドアゴニスト、GSK3β阻害剤、ミオシンII ATPアーゼ阻害剤、及び任意にROCK阻害剤を含み、好ましくは、前記組成物が、LDN193189、SB431542、組換えSHH、SAG、CHIR99021、ブレビスタチン、及び任意にY-27632を含むか、
或いは、前記組成物が、BMP阻害剤、TGFβ/アクチビン-ノーダル阻害剤、SHHタンパク質、スムーズンドアゴニスト、GSK3β阻害剤、ミオシンII ATPアーゼ阻害剤、及び任意にROCK阻害剤からなり、好ましくは、前記組成物が、LDN193189、SB431542、組換えSHH、SAG、CHIR99021、ブレビスタチン及び任意にY-27632からなる、
請求項1~5のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載の組成物と、基本培養培地、好ましくは、神経細胞の培養に適している基本培養培地とを含む培養培地。
【請求項8】
前記基本培養培地が、以下の物質:1つ以上の無血清代用物、グルタミン又はL-アラニル-L-グルタミンの安定化ジペプチドを補充した基本培養培地であり、
好ましくは、前記基本培養培地が、以下の物質:N2サプリメント及びL-アラニル-L-グルタミンの安定化ジペプチドを補充した基本培養培地であり、
好ましくは、前記基本培養培地が、以下の成分:49%CTS(商標)KnockOut(商標)DMEM/F-12+49%CTS(商標)Neurobasal+1%CTS(商標)N2サプリメント+1%CTS-GlutaMAX(商標)-Iを含む、
請求項7に記載の培養培地。
【請求項9】
前記培養培地において、前記組成物の各成分の含有量が次の通りである、請求項7又は8に記載の培養培地:
0.05μM~1μM BMP阻害剤、5μM~20μM TGFβ/アクチビン-ノーダル阻害剤、50ng/mL~200ng/mL SHHタンパク質、0.5μM~3μM スムーズンドアゴニスト、0.5μM~1.0μM GSK3β阻害剤、及び5μM~20μMミオシンII ATPアーゼ阻害剤;
好ましくは、10μM SB431542、100nM LDN193189、100ng/mL SHH、2μM SAG、0.5μM~1.0μM CHIR99021、及び10μMブレビスタチン。
【請求項10】
請求項1~6のいずれか一項に記載の組成物と基本培養培地とを含む培養培地であって、培地が以下から選択され、
(1)請求項7~9のいずれか一項に記載の培養培地;
(2)以下の物質:1つ以上の無血清代用物、グルタミン又はL-アラニル-L-グルタミンの安定化ジペプチド、EGF、FGF2、TGFβ1、及びブレビスタチン又はその誘導体を補充した基本培養培地;
好ましくは、以下の物質:N2サプリメント、B27サプリメント、L-アラニル-L-グルタミンの安定化ジペプチド、EGF、FGF2、TGFβ1及びブレビスタチンを補充した基本培養培地;
好ましくは、前記培養培地は、以下の成分:48%DMEM/F-12+48%Neurobasal+1%N2+2%B27+1%GlutaMAX+10ng/ml EGF+10ng/ml FGF2+10ng/ml TGFβ1+10μmブレビスタチンを含む;
(3)以下の物質:1つ以上の無血清代用物、グルタミン又はL-アラニル-L-グルタミンの安定化ジペプチド、SHHシグナル伝達経路阻害剤、及びブレビスタチン又はその誘導体を補充した基本培養培地;
好ましくは、以下の物質:N2サプリメント、B27サプリメント、L-アラニル-L-グルタミンの安定化ジペプチド、SHH、プルモルファミン及びブレビスタチンを補充した基本培養培地;
好ましくは、前記培養培地は、以下の成分:48%DMEM/F-12+48%Neurobasal+1%N2+2%B27+1%GlutaMAX+100ng/mL SHH+1μMプルモルファミン+10μmブレビスタチンを含む;
(4)以下の物質:グルタミン又はL-アラニル-L-グルタミンの安定化ジペプチド、IL-34、M-CSF、及びブレビスタチン又はその誘導体を補充した基本培養培地;
好ましくは、以下の物質:L-アラニル-L-グルタミンの安定化ジペプチド、IL-34、M-CSF、及びブレビスタチン又はその誘導体を補充した基本培養培地;
好ましくは、前記培養培地は、以下の成分:X-VIVO15+×Glutamax+25ng/ml IL-34+50ng/ml M-CSF+10μMブレビスタチンを含む;並びに、
(5)以下の物質:1つ以上の無血清代用物、グルタミン又はL-アラニル-L-グルタミンの安定化ジペプチド、EGF、FGF2、ヘパリン、及びブレビスタチン又はその誘導体を補充した基本培養培地;
好ましくは、以下の物質:B27サプリメント、L-アラニル-L-グルタミンの安定化ジペプチド、EGF、FGF2、ヘパリン及びブレビスタチンを補充した基本培養培地;
好ましくは、前記培養培地は、以下の成分:DMEM/F12+20μg/mL EGF+20μg/mL bFGF+5μg/mlヘパリン+2%B27+1×GlutaMAX+10μMブレビスタチンを含む;
好ましくは、上記項目のいずれかに記載される基本培養培地は、DMEM/F12、Neurobasal、神経誘導培地(Neural Induction Media)、又はX-VIVOからなる群から選択される、
培養培地。
【請求項11】
請求項1~6のいずれか一項に記載の組成物、又は請求項7~10のいずれか一項に記載の培養培地を含み、任意に使用説明書を更に含む、キット。
【請求項12】
in vitroで細胞の数を維持又は増加させる方法であって、請求項7~10のいずれか一項に記載の培養培地中で細胞を培養する工程を含み、
好ましくは、前記細胞が、運動ニューロン前駆細胞、皮質ニューロン前駆体、GABA作動性前駆体、セロトニン作動性前駆体、中脳ドーパミン作動性前駆体、星状膠細胞、神経幹細胞、又はミクログリア細胞から選択され、
好ましくは、前記培養を行う方法が、前記細胞を単一細胞懸濁液に調製すること、前記単一細胞懸濁液を2×10
4/cm
2~6×10
4/cm
2の密度で前記培養培地に接種すること、接着培養又は懸濁培養を行うこと、及び前記細胞を5日~8日ごとに1回継代することであり、各継代の培養条件は同じである、方法。
【請求項13】
請求項12に記載の方法により調製された、細胞又は細胞集団。
【請求項14】
前記細胞が神経細胞又は神経関連細胞から選択される、請求項13に記載の細胞又は細胞集団。
【請求項15】
前記細胞が、運動ニューロン前駆細胞、皮質ニューロン前駆体、GABA作動性前駆体、セロトニンニューロン前駆体、中脳ドーパミン神経細胞前駆体、星状膠細胞、神経幹細胞、又はミクログリア細胞からなる群から選択される、請求項13又は14に記載の細胞又は細胞集団。
【請求項16】
60%超、65%超、70%超、75%超、80%超、85%超、90%超、95%超、98%超又は99%超の前記細胞が、少なくとも1つ以上の以下のマーカー:PCDHGB1、SOX3、SEMA3D、VGF、NEFL、NTRK2、PCDHGA3、CNTN1、BDNF、STMN1、TNC、FAIM2、CHGB、GAP43、ARPP21、ALCAM、OTP、KCNF1、FOXP1、RTN1、MAPT、IGFBP5、NNAT、CHRNA6、C1QL1、INA、TNR、PHLDA1、ELAVL3、TENM1、NRN1、CRMP1、SCG2、PMP22、及びNSG1を特異的に発現し、好ましくは、前記マーカーの発現レベルが、初代細胞の発現レベルよりも少なくとも約1.5倍、2.0倍、3倍、5倍、10倍、20倍、30倍、40倍、50倍又は100倍高い、請求項13~15のいずれか一項に記載の細胞又は細胞集団。
【請求項17】
60%超、65%超、70%超、75%超、80%超、85%超、90%超、95%超、98%超又は99%超の前記細胞が、少なくとも1つ以上の以下のマーカー:MTND4LP7、AL031777.3、HIST1H2AC、HIST1H1C、HIST1H4H、SYNPO2、LMO2、MGAT2、PDXP、DNAJC6、DNAJC22、ELN、MIR568、MIR1179、MIR6892、MIR7-3HG、ANGPTL1、HSPE1-MOB4、INO80B-WBP1、R3HDML、PMF1-BGLAP、PLP1、AP002748.4、MDFI、RCN3、FST、HSPH1、PCBP1、ASPN、TSPAN8、LINC01866、LEFTY2、GMNC、ATP5MF-PTCD1、CCDC96、ALG14、IL11、A2M、C4B、ITGB4、STC1、TMEM229B、MUC5AC、TAC1、CRABP1、CRABP2、H19、C22orf42、RCAN2、PCSK1、VAT1L、CXCL12、DCN、SSTR1、MAP7D2、PPP2R2C、LRFN5、DIRAS3、CA10、C4A、AP002373.1、AMIGO3、GDA、EDIL3、CFH、TGFBI、CLSTN2、FBLN5、HPCAL4、ADCYAP1R1、NNMT、CD44、SMOC1、CLEC3B、DLX5、LYNX1、SYNC、TCAF1P1、CD9、COL3A1、CAVIN1、LMO4、TCF12、GDE1、GNG3、PEG10、TFPI2、CENPF、CAMK2N1、MLLT11を特異的に発現し、好ましくは、前記マーカーの発現レベルが、初代細胞の発現レベルよりも少なくとも約1.5倍、2.0倍、3倍、5倍、10倍、20倍、30倍、40倍、50倍又は100倍高い、請求項13~16のいずれか一項に記載の細胞又は細胞集団。
【請求項18】
前記初代細胞から少なくとも約1.5倍、2.0倍、3倍、5倍、10倍、20倍、30倍、40倍、50倍、100倍、150倍、200倍、500倍、1000倍、10000倍又は100000倍に拡大される、請求項13~15のいずれか一項に記載の細胞又は細胞集団。
【請求項19】
細胞又は細胞集団であって、
前記細胞が中脳ドーパミン神経細胞前駆体であり、
好ましくは、前記細胞の少なくとも20%(例えば、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、例えば100%)が、前記中脳ドーパミン神経細胞前駆体の少なくとも1つのマーカー、例えばFOXA2、LMX1A、及びOTX2を発現する、細胞又は細胞集団。
【請求項20】
前記細胞がTUJ1を発現しない、請求項19に記載の細胞又は細胞集団。
【請求項21】
前記細胞が、請求項13~18のいずれか一項に記載の特徴のいずれか1つ以上を有する、請求項19又は20に記載の細胞又は細胞集団。
【請求項22】
前記細胞がTUJ1を発現する、請求項19に記載の細胞又は細胞集団。
【請求項23】
前記細胞が、請求項13~18のいずれか一項に記載の特徴の1つ以上を有する、請求項22に記載の細胞又は細胞集団。
【請求項24】
請求項13~23のいずれか一項に記載の細胞又は細胞集団を含む、医薬組成物。
【請求項25】
神経系疾患(例えば、ドーパミン神経細胞損傷によって引き起こされる疾患(例えば、パーキンソン病))を治療するための医薬の製造における請求項13~23のいずれか一項に記載の細胞又は細胞集団の使用。
【請求項26】
神経系疾患(例えば、ドーパミン神経細胞損傷によって引き起こされる疾患(例えば、パーキンソン病))を治療する方法であって、それを必要とする対象に、有効量の請求項13~23のいずれか一項に記載の細胞又は細胞集団を投与することを含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、中国特許出願第202010824749.3号及び2020年8月17日の出願日を基礎とし、その優先権を主張する。本中国特許出願の開示内容は、その全体が引用することにより本願の一部をなす。
【0002】
本願は、神経細胞培養技術に関し、特に神経細胞の拡大培養培地及び培養方法に関する。この培養培地及び培養方法を用いることにより、多数の神経細胞を効率よく得ることができ、その後の分化に際して安定した質の神経細胞を得ることで神経細胞欠損による疾患(パーキンソン病)に対する細胞療法を実現することができる。
【背景技術】
【0003】
パーキンソン病は中枢神経系の変性疾患であり、中年及び高齢者によくみられる。主な病因は、黒質における中脳ドーパミン作動性ニューロンの大量死であり、その結果、脳におけるドーパミン伝達物質の合成が減少し、それによって行動に影響を及ぼす。黒質の中脳ドーパミン作動性ニューロンは、胚期に中脳底板細胞から分化し、線条体に投射してループを形成する。中脳ドーパミン作動性ニューロンは成熟後にドーパミン伝達物質を放出し、個体の運動の調節に重要な役割を果たす。
【0004】
中脳底板細胞は初期胚から単離することができ、多能性幹細胞からin vitro分化により得ることもできる。既存の分化方法は、BMP及びTGFの阻害剤を用いてSMADシグナル伝達経路を二重に阻害し、Wntシグナル伝達及びSHHシグナル伝達を活性化して多能性幹細胞を中脳底板細胞へと特殊化することにより、in vivoにおいて初期胚発生のシグナル伝達経路をシミュレートする。次いで、FGF8、DAPT、BDNF、GDNF等の処理下で、中脳底板細胞は更にドーパミン作動性ニューロンに分化する。
【0005】
中脳ドーパミン作動性ニューロンは、ニューロンの特定の亜集団である。培養過程の間、前駆体期に少量のWntシグナルと高用量のSHHが必要であり、その後、成熟を促進するためにFGF8を加える必要がある。他の細胞と比較して、培養条件は非常に独特である。現在、培養過程に存在する問題は主に次に見られる:1)in vitroで多能性幹細胞から分化した中脳底板細胞の質が不均一である;2)分化バッチの安定性が不良である;3)中脳ドーパミン作動性神経細胞の産生は中間細胞の安定したバルク拡大過程を欠いている。
【0006】
さらに、他の神経細胞、又はGABA前駆細胞、星状膠細胞及びミクログリア細胞等の神経関連細胞もパーキンソン病に重要な役割を果たしているが、これらは不安定な拡大の問題にも直面している。
【発明の概要】
【0007】
多くの創造的研究の後、本発明者らは、培地の組成を調整し、ミオシンII ATPアーゼ阻害剤ブレビスタチンを加えることにより、中脳ドーパミン作動性前駆体、GABA前駆体、星状膠細胞及びミクログリア細胞等の神経細胞又は神経関連細胞の拡大効率を著しく増加させることができ、バッチ拡大用に高品質の細胞を選択することができ、これにより高品質の神経細胞又は神経関連細胞(例えば、ドーパミン作動性ニューロン、GABA前駆体、星状膠細胞、ミクログリア細胞等)を得るための安定した方法が提供され、ドーパミン作動性細胞の欠損によって引き起こされるパーキンソン病及び他の疾患のための細胞治療の基礎が築かれることを見出した。
【0008】
第1の態様において、本願は、神経細胞の活性及び/又は機能を維持及び/又は改善するための1つ以上の添加剤、及びミオシンII ATPアーゼ阻害剤を含む組成物を提供する。
【0009】
幾つかの実施の形態において、組成物は、SMADシグナル伝達経路阻害剤、SHHシグナル伝達経路アゴニスト、Wntシグナル伝達経路アゴニスト、及びミオシンII ATPアーゼ阻害剤を含み、任意にROCK阻害剤を更に含むか、
或いは、組成物は、SMADシグナル伝達経路阻害剤、SHHシグナル伝達経路アゴニスト、Wntシグナル伝達経路アゴニスト、ミオシンII ATPアーゼ阻害剤、及び任意にROCK阻害剤からなる。
【0010】
本願の実施の形態において、ミオシンII ATPアーゼ阻害剤は、ミオシンII型ATPアーゼ阻害剤を指す。或る特定の実施の形態において、ミオシンII ATPアーゼ阻害剤は、ブレビスタチン及びその誘導体、例えば、ブレビスタチン、すなわち、
【化1】
の構造を有する(S)-(-)-ブレビスタチン、例えば、
【化2】
の構造を有する(S)-(-)-ブレビスタチン-O-ベンゾエートから選択される。
【0011】
或る特定の実施の形態において、SMADシグナル伝達経路阻害剤は、BMP阻害剤、TGFβ/アクチビン-ノーダル阻害剤、及びそれらの組合せから選択される。
【0012】
本願の実施の形態において、BMP(骨形成タンパク質)阻害剤は、BMPシグナル伝達経路の阻害剤である。或る特定の実施の形態において、BMP阻害剤は、DMH-1、ドルソモルフィン、ノギン、LDN193189、及びそれらの任意の組合せからなる群から選択される。その中で、LDN193189は低分子DM-3189を指し、その化学式はC25H22N6であり、その化学名は4-(6-(4-(ピペリジン-1-イル)フェニル)-ピラゾロ[1,5-a]ピリミジン-3-イル)キノリンである。LDN193189は、SMADシグナル伝達経路の阻害剤として作用し、ALK2、ALK3、ALK6及びPTKの強力な低分子阻害剤でもある。LDN193189は、TGFβ1受容体ALK1及びALK3ファミリーメンバーのシグナル伝達経路を阻害することができ、その結果、BMP(例えば、BMP2、BMP4、BMP6、BMP7)及びアクチビンを含む複数の生物学的シグナル伝達、並びにその後のSMAD(例えば、Smad1、Smad5及びSmad8)のリン酸化を阻害する。
【0013】
本願の実施の形態において、TGFβ/アクチビン-ノーダル阻害剤は、TGFβがその受容体と結合し、継続的にSMADにシグナルを伝達する経路を妨げる物質であり、これは、受容体としてのALKファミリーとの結合を妨げる物質、又はALKファミリーによって引き起こされるSMADのリン酸化を妨げる物質から選択することができる。或る特定の実施の形態において、TGFβ/アクチビン-ノーダル阻害剤は、SB431542、SB505124、A83-01、及びそれらの任意の組合せからなる群から選択される。その中で、SB431542は、CAS番号301836-41-9、分子式C22H18N4O3、及び化学名4-[4-(1,3-ベンゾジオキサン-5-イル)-5-(2-ピリジル)-1H-イミダゾール-2-イル]-ベンズアミドを有する、TGF/アクチビン-ノーダルシグナル伝達経路の転写を減少又は遮断することができる小分子を指す。
【0014】
本願の実施の形態において、SHHシグナル伝達経路アゴニストは、SHHを、受容体であるパッチド(Ptch1)に結合させ、その結果、スムーズンド(Smoothenod)(Smo)の脱阻害を生じ、更にGli2活性化を引き起こす物質を指す。或る特定の実施の形態において、SHHシグナル伝達経路アゴニストは、SHHタンパク質、スムーズンド(Smoothend)アゴニスト及びそれらの組合せからなる群から選択される。或る特定の実施の形態において、SHHタンパク質は、組換えSHH及び末端修飾SHH(例えば、SHH C25II)からなる群から選択される。或る特定の実施の形態において、スムーズンド(Smoothend)アゴニストは、SAG、Hh-Ag1.5、20α-ヒドロキシコレステロール、プルモルファミン及びそれらの任意の組合せからなる群から選択される。SAGは、分子式C28H28ClN3OS、及びCAS番号912545-86-9を有する。プルモルファミンはCAS番号483367-10-8を有するプリン誘導体であり、スムーズンドを標的とすることを含むヘッジホッグシグナル伝達経路を活性化することができる。
【0015】
本願の実施の形態において、Wntシグナル伝達経路は、Wntファミリーリガンド及びWntファミリー受容体で構成されるシグナル伝達経路を指す。或る特定の実施の形態において、Wntシグナル伝達経路アゴニストは、GSK3β阻害剤、Wnt3A、Wnt1及びそれらの組合せからなる群から選択される。
【0016】
本願の実施の形態において、GSK3β阻害剤は、グリコーゲンシンターゼキナーゼ3βを阻害する化合物を指す。本願におけるGSK3β阻害剤は、Wntシグナル伝達経路を活性化することができる。或る特定の実施の形態において、GSK3β阻害剤は、CHIR99021、GSK3β阻害剤IX(6-ブロモインジルビン-3’-オキシム、BIO)、GSK3β阻害剤VII(4-ジブロモアセトフェノン)、インジルビン、L803-mts、TWS119、AZD2858、AR-A014418、TDZD-8、LY2090314、2-D08、IM-12、1-アザケンパウロン、SB216763、又はそれらの任意の組合せからなる群から選択される。その中で、CHIR99021は、6-(2-(4-(2,4-ジクロロフェニル)-5-(4-メチル-1H-イミダゾール-2-イル)ピリミジン-2-アミノ)エチルアミノ)ニコチノニトリルを指す。これはGSK3βの低分子阻害剤であり、Wntシグナル伝達経路を活性化することができる。
【0017】
本願の実施の形態において、ROCK阻害剤は、Rhoキナーゼ(ROCK)の機能を阻害する物質、例えばY-27632、HA100又はHA1152である。或る特定の実施の形態において、ROCK阻害剤はY-27632である。
【0018】
幾つかの実施の形態において、組成物は、BMP阻害剤、TGFβ/アクチビン-ノーダル阻害剤、SHHタンパク質、スムーズンドアゴニスト、GSK3β阻害剤、ミオシンII ATPアーゼ阻害剤、及び任意にROCK阻害剤を含むか、
或いは、組成物は、BMP阻害剤、TGFβ/アクチビン-ノーダル阻害剤、SHHタンパク質、スムーズンドアゴニスト、GSK3β阻害剤、ミオシンII ATPアーゼ阻害剤、及び任意にROCK阻害剤からなる。
【0019】
或る特定の実施の形態において、組成物は、LDN193189、SB431542、SHH、SAG、CHIR99021、ブレビスタチン、及び任意にY-27632を含むか、
或いは、組成物は、LDN193189、SB431542、SHH、SAG、CHIR99021、ブレビスタチン、及び任意にY-27632からなる。
【0020】
或る特定の実施の形態において、組成物は、N2サプリメント、B27サプリメント、bFGF(組換え塩基性線維芽細胞成長因子)及びブレビスタチンを含むか、
或いは、組成物は、N2サプリメント、B27サプリメント、bFGF及びブレビスタチンからなる。
【0021】
第2の態様において、本願は、前述の組成物と基本培養培地とを含む培養培地を提供する。
【0022】
或る特定の実施の形態において、基本培養培地は、神経細胞の培養に適している。
【0023】
幾つかの実施の形態において、基本培養培地は、N2培地、DMEM培地、DMEM/F12培地、Neurobasal培養培地又は/及びSciencell 1801培地からなる群から選択される。
【0024】
或る特定の実施の形態において、基本培養培地はN2培地である。
【0025】
或る特定の実施の形態において、基本培養培地は、以下の物質:1つ以上の無血清代用物、グルタミン又はL-アラニル-L-グルタミンの安定化ジペプチドを補充した基本培養培地である。
【0026】
或る特定の実施の形態において、基本培養培地は、以下の物質:N2サプリメント、及びL-アラニル-L-グルタミンの安定化ジペプチドを補充した基本培養培地である。
【0027】
或る特定の実施の形態において、基本培養培地は、以下:49%CTS(商標)KnockOut(商標)DMEM/F-12+49%CTS(商標)Neurobasal+1%CTS(商標)N2サプリメント+1%CTS-GlutaMAX(商標)-Iで構成される。
【0028】
或る特定の実施の形態において、N2培地の成分は以下の通りである:49%KODMEM+49%Neurobasal+1%N2サプリメント+1%GlutaMAX。
【0029】
幾つかの実施の形態において、培地中の各成分の濃度は、そのそれぞれの生物学的機能を実現するための有効な濃度である。
【0030】
幾つかの実施の形態において、BMP阻害剤の濃度は、例えば、0.05μM~1μMであり得るが、これに限定されない。幾つかの具体的な実施の形態において、BMP阻害剤(例えば、LDN193189)の濃度は、50nM、60nM、70nM、80nM、90nM、100nM、200nM、300nM、400nM、500nM、600nM、700nM、800nM、900nM、又は1000nMであり得る。好ましい濃度は100nMである。
【0031】
或る特定の実施の形態において、TGFβ/アクチビン-ノーダル阻害剤の濃度は、5μM~20μMであり得るが、これに限定されない。幾つかの具体的な実施の形態において、TGFβ/アクチビン-ノーダル阻害剤(例えば、SB431542)の濃度は、5μM、6μM、7μM、8μM、9μM、10μM、11μM、12μM、13μM、14μM、15μM、16μM、17μM、18μM、19μM、又は20μMであり得る。好ましい濃度は10μMである。
【0032】
或る特定の実施の形態において、SHHタンパク質の濃度は、50ng/mL~200ng/mLであり得るが、これに限定されない。幾つかの具体的な実施の形態において、SHHタンパク質(例えば、組換えSHH)の濃度は、例えば、50ng/mL、60ng/mL、70ng/mL、80ng/mL、90ng/mL、100ng/mL、110ng/mL、120ng/mL、130ng/mL、140ng/mL、150ng/mL、160ng/mL、170ng/mL、180ng/mL、190ng/mL、又は200ng/mLである。好ましい濃度は100ng/mLである。
【0033】
或る特定の実施の形態において、スムーズンドアゴニストの濃度は、0.5μM~3μMであり得るが、これに限定されない。幾つかの具体的な実施の形態において、スムーズンドアゴニスト(例えば、SAG)の濃度は、0.5μM、0.6μM、0.7μM、0.8μM、0.9μM、1.0μM、1.2μM、1.4μM、1.6μM、1.8μM、2.0μM、2.5μM、又は3.0μMである。好ましい濃度は2.0μMである。
【0034】
或る特定の実施の形態において、GSK3β阻害剤の濃度は、0.5μM~1.0μMであり得るが、これに限定されない。幾つかの具体的な実施の形態において、GSK3β阻害剤(例えば、CHIR99021)の濃度は、0.5μM、0.6μM、0.7μM、0.8μM、0.9μM又は1.0μMである。
【0035】
或る特定の実施の形態において、ミオシンII ATPアーゼ阻害剤の濃度は、5μM~20μMであり得るが、これに限定されない。幾つかの具体的な実施の形態において、ミオシンII ATPアーゼ阻害剤(例えば、ブレビスタチン)の濃度は、5μM、6μM、7μM、8μM、9μM、10μM、11μM、12μM、13μM、14μM、15μM、16μM、17μM、18μM、19μM又は20μMである。好ましい濃度は10μMである。
【0036】
或る特定の実施の形態において、ROCK阻害剤の濃度は、1μM~50μMであり得るが、これに限定されない。或る特定の実施の形態において、ROCK阻害剤の濃度は、1μM~30μM、例えば5μM~30μMである。幾つかの具体的な実施の形態において、ROCK阻害剤(例えば、Y-27632)の濃度は、1μM、2μM、3μM、4μM、5μM、6μM、7μM、8μM、9μM、10μM、11μM、12μM、13μM、14μM、15μM、16μM、17μM、18μM、19μM、20μM、21μM、22μM、23μM、24μM、25μM、26μM、27μM、28μM、29μM、又は30μMである。好ましい濃度は10μMである。
【0037】
幾つかの実施の形態において、培地は、N2培地、10μM SB431542、100nM LDN193189、100ng/mL SHH、2μM SAG、0.5μM~1.0μM CHIR99021、及び10μMブレビスタチンを含む。
【0038】
幾つかの実施の形態において、培養培地は、例えば、中脳ドーパミンニューロン前駆体を拡大するための培養に適している。
【0039】
或る特定の実施の形態において、基本培養培地は、DMEM/F12及びNeurobasalである。
【0040】
幾つかの実施の形態において、培地は、49.25%DMEM/F12、49.25%Neurobasal、0.5%N2サプリメント、1%B27サプリメント、10ng/ml bFGF(組換え塩基性線維芽細胞成長因子)及び5μM~20μMブレビスタチンを含む。
【0041】
或る特定の実施の形態において、培地は、例えば、GABA作動性ニューロン前駆体を拡大するための培養に適している。
【0042】
幾つかの実施の形態において、基本培養培地は、NIM(Neural Induction Media:神経誘導培地)である。
【0043】
幾つかの実施の形態において、培養培地は、DMEM/F12、Neurobasal、N2サプリメント、B27サプリメント、及びGlutamax10、EGF、FGF2、TGFb1、及び5μM~20μMブレビスタチンを含む。
【0044】
或る特定の実施の形態において、培地は、例えば、星状膠細胞を拡大するための培養に適している。
【0045】
幾つかの実施の形態において、基本培養培地は、DMEM/F12、KOSR、1×Glutamax、1×NEAA、BMP4、VEGF、SCF、X-VIVO、IL-34、Y-27632及び5μM~20μMブレビスタチンである。
【0046】
或る特定の実施の形態において、培養培地は、例えば、ミクログリア細胞を拡大するための培養に適している。
【0047】
幾つかの実施の形態において、培地は、49.25%DMEM/F12、49.25%Neurobasal、0.5%N2サプリメント、1%B27サプリメント、10ng/ml bFGF(組換え塩基性線維芽細胞成長因子)及び5μM~20μMブレビスタチンを含む。
【0048】
或る特定の実施の形態において、培地は、例えば、GABA作動性ニューロン前駆体を拡大するための培養に適している。
【0049】
或る特定の実施の形態において、基本培養培地は、Sciencell 1801である。
【0050】
或る特定の実施の形態において、培地は5μM~20μMのブレビスタチンを含む。
【0051】
或る特定の実施の形態において、培養培地は、例えば、グリア細胞を拡大するための培養に適している。
【0052】
或る特定の実施の形態において、培地は、以下の物質:1つ以上の無血清代用物、グルタミン又はL-アラニル-L-グルタミンの安定化ジペプチド、EGF、FGF2、TGFβ1、及びブレビスタチン又はその誘導体を補充した基本培養培地である。或る特定の実施の形態において、基本培養培地は、以下の物質:N2サプリメント、B27サプリメント、L-アラニル-L-グルタミンの安定化ジペプチド、EGF、FGF2、TGFβ1及びブレビスタチンを補充した基本培養培地である。或る特定の実施の形態において、培地は、以下のもので構成される:48%DMEM/F-12+48%Neurobasal+1%N2+2%B27+1%GlutaMAX+10ng/ml EGF+10ng/ml FGF2+10ng/ml TGFβ1+10μMブレビスタチン。幾つかの実施の形態において、培地は、星状膠細胞の拡大培養に特に適している。
【0053】
或る特定の実施の形態において、培地は、以下の物質:1つ以上の無血清代用物、グルタミン又はL-アラニル-L-グルタミンの安定化ジペプチド、SHHシグナル伝達経路阻害剤、及びブレビスタチン又はその誘導体を補充した基本培養培地である。或る特定の実施の形態において、基本培養培地は、以下の物質:N2サプリメント、B27サプリメント、L-アラニル-L-グルタミンの安定化ジペプチド、SHH、プルモルファミン、及びブレビスタチンを補充した基本培養培地である。或る特定の実施の形態において、培地は、以下のもので構成される:48%DMEM/F-12+48%Neurobasal+1%N2+2%B27+1%GlutaMAX+100ng/mL SHH+1μMプルモルファミン+10μMブレビスタチン。或る特定の実施の形態において、培地は、GABA作動性神経前駆細胞の拡大培養に特に適している。
【0054】
或る特定の実施の形態において、培地は、以下の物質:グルタミン又はL-アラニル-L-グルタミンの安定化ジペプチド、IL-34、M-CSF、及びブレビスタチン又はその誘導体を補充した基本培養培地である。或る特定の実施の形態において、基本培養培地は、以下の物質:L-アラニル-L-グルタミンの安定化ジペプチド、IL-34、M-CSF、及びブレビスタチン又はその誘導体を補充した基本培養培地である。或る特定の実施の形態において、培地は、以下のもので構成される:X-VIVO15+XGlutamax+25ng/ml IL-34+50ng/ml M-CSF+10μMブレビスタチン。幾つかの実施の形態において、培地は、ミクログリア細胞の拡大培養に特に適している。
【0055】
或る特定の実施の形態において、培地は、以下の物質:1つ以上の無血清代用物、グルタミン又はL-アラニル-L-グルタミンの安定化ジペプチド、EGF、FGF2、ヘパリン、及びブレビスタチン又はその誘導体を補充した基本培養培地である。或る特定の実施の形態において、基本培養培地は、以下の物質:B27サプリメント、L-アラニル-L-グルタミンの安定化ジペプチド、EGF、FGF2、ヘパリン、及びブレビスタチンを補充した基本培養培地である。或る特定の実施の形態において、培地は、以下のもので構成される:DMEM/F12+20μg/mL EGF+20μg/mL bFGF+5μg/mlヘパリン+2%B27+1×GlutaMAX+10μMブレビスタチン。幾つかの実施の形態において、培養培地は、神経幹細胞の拡大培養に特に適している。
【0056】
或る特定の実施の形態において、上記項目のいずれかに記載されている基本培養培地は、DMEM/F12、Neurobasal、神経誘導培地(Neural Induction Media)、及びX-VIVOからなる群から選択される。
【0057】
別の態様において、本願は、上述の組成物又は培養培地を含み、また任意に使用説明書を更に含むキットを提供する。
【0058】
別の態様において、本願は、in vitroで神経細胞又は神経関連細胞の数を維持又は増加させるためのミオシン阻害剤(例えば、ブレビスタチン、又はその誘導体(例えば、(S)-(-)-ブレビスタチンO-ベンゾエート))、又はミオシン阻害剤を含有する培養培地の使用を提供する。
【0059】
或る特定の実施の形態において、神経細胞又は神経関連細胞は、神経前駆細胞、運動ニューロン前駆体、皮質ニューロン前駆体、GABA作動性ニューロン前駆体、セロトニンニューロン前駆体、中脳ドーパミン神経細胞前駆体、又は神経幹細胞、又はグリア細胞(例えば、星状膠細胞又はミクログリア細胞)からなる群から選択される。
【0060】
幾つかの実施の形態において、培地は、上記の第2の態様に記載される培地である。これは、中脳ドーパミン神経前駆細胞の数をin vitroで維持又は増加させるのに特に有用である。
【0061】
或る特定の実施の形態において、培地は、以下の物質:1つ以上の無血清代用物、グルタミン又はL-アラニル-L-グルタミンの安定化ジペプチド、EGF、FGF2、TGFβ1、及びブレビスタチン又はその誘導体を補充した基本培養培地である。或る特定の実施の形態において、基本培養培地は、以下の物質:N2サプリメント、B27サプリメント、L-アラニル-L-グルタミンの安定化ジペプチド、EGF、FGF2、TGFβ1及びブレビスタチンを補充した基本培養培地である。或る特定の実施の形態において、培地は、以下のもので構成される:48%DMEM/F-12+48%Neurobasal+1%N2+2%B27+1%GlutaMAX+10ng/ml EGF+10ng/ml FGF2+10ng/ml TGFβ1+10μMブレビスタチン。これは、中脳ドーパミン神経前駆細胞の数をin vitroで維持又は増加させるのに特に有用である。これは、in vitroで星状膠細胞の数を維持又は増加させるのに特に有用である。
【0062】
或る特定の実施の形態において、培地は、以下の物質:1つ以上の無血清代用物、グルタミン又はL-アラニル-L-グルタミンの安定化ジペプチド、SHHシグナル伝達経路阻害剤、及びブレビスタチン又はその誘導体を補充した基本培養培地である。或る特定の実施の形態において、基本培養培地は、以下の物質:N2サプリメント、B27サプリメント、L-アラニル-L-グルタミンの安定化ジペプチド、SHH、プルモルファミン、及びブレビスタチンを補充した基本培養培地である。或る特定の実施の形態において、培地は、以下のもので構成される:48%DMEM/F-12+48%Neurobasal+1%N2+2%B27+1%GlutaMAX+100ng/mL SHH+1μMプルモルファミン+10μMブレビスタチン。これは、in vitroでGABA作動性神経前駆細胞の数を維持又は増加させるのに特に有用である。
【0063】
或る特定の実施の形態において、培地は、以下の物質:グルタミン又はL-アラニル-L-グルタミンの安定化ジペプチド、IL-34、M-CSF、及びブレビスタチン又はその誘導体を補充した基本培養培地である。或る特定の実施の形態において、基本培養培地は、以下の物質:L-アラニル-L-グルタミンの安定化ジペプチド、IL-34、M-CSF、及びブレビスタチン又はその誘導体を補充した基本培養培地である。或る特定の実施の形態において、培地は、以下のもので構成される:X-VIVO15+XGlutamax+25ng/ml IL-34+50ng/ml M-CSF+10μMブレビスタチン。これは、in vitroでミクログリア細胞の数を維持又は増加させるのに特に有用である。
【0064】
或る特定の実施の形態において、培地は、以下の物質:1つ以上の無血清代用物、グルタミン又はL-アラニル-L-グルタミンの安定化ジペプチド、EGF、FGF2、ヘパリン、及びブレビスタチン又はその誘導体を補充した基本培養培地である。或る特定の実施の形態において、基本培養培地は、以下の物質:B27サプリメント、L-アラニル-L-グルタミンの安定化ジペプチド、EGF、FGF2、ヘパリン、及びブレビスタチンを補充した基本培養培地である。或る特定の実施の形態において、培地は、以下のもので構成される:DMEM/F12+20μg/mL EGF+20μg/mL bFGF+5μg/mlヘパリン+2%B27+1×GlutaMAX+10μMブレビスタチン。これは、in vitroで神経幹細胞の数を維持又は増加させるのに特に適している。
【0065】
或る特定の実施の形態において、上記のいずれかに記載されている基本培養培地は、DMEM/F12、Neurobasal、神経誘導培地(Neural Induction Media)、及びX-VIVOからなる群から選択される。
【0066】
別の態様において、本願は、前述の培地中で細胞を培養する工程を含む、in vitroで細胞の数を維持又は増加させる方法、又はin vitroで細胞の数を維持又は増加させるための前述の培地の使用を提供する。
【0067】
幾つかの実施の形態において、培養を行う方法は、細胞を単一細胞懸濁液に調製すること、単一細胞懸濁液を2×104/cm2~6×104/cm2(好ましくは4×104/cm2)の密度で培養培地に接種すること、接着培養又は懸濁培養を行うこと、及び細胞を5日~8日ごとに1回継代することであり、各継代の培養条件は同じである。或る特定の実施の形態においては、4×104/cm2の密度で接種する。
【0068】
幾つかの実施の形態において、接着培養の条件は、細胞を単一細胞懸濁液に調製すること、単一細胞懸濁液を2×104/cm2~6×104/cm2の密度で培養培地中に接種すること、接着培養を行うこと、及び5日~8日ごとに1回細胞を継代することであり、各継代の培養条件は同一である。或る特定の実施の形態においては、4×104/cm2の密度で接種する。
【0069】
幾つかの実施の形態において、懸濁培養の条件は、細胞を単一細胞懸濁液に調製すること、単一細胞懸濁液を2×105/mL~6×105/mLの密度で培養培地中に接種すること、懸濁培養を行うこと、及び5日~8日ごとに1回細胞を継代することであり、各継代の培養条件は同一である。或る特定の実施の形態においては、4×105/mLの密度で接種する。
【0070】
或る特定の実施の形態において、細胞は、運動ニューロン前駆細胞である。或る特定の実施の形態において、細胞は、皮質神経前駆体である。或る特定の実施の形態において、細胞は、GABA作動性ニューロン前駆体である。或る特定の実施の形態において、細胞は、セロトニン神経前駆体である。或る特定の実施の形態において、細胞は、星状膠細胞である。或る特定の実施の形態において、細胞は、神経幹細胞である。或る特定の実施の形態において、細胞は、ミクログリア細胞である。
【0071】
或る特定の実施の形態において、拡大された細胞は、初代細胞とゲノム同一である。
【0072】
別の態様において、本願は、上に記載される方法のいずれかによって調製又は拡大される細胞又は細胞集団を提供する。別の態様において、本願は、60%超、65%超、70%超、75%超、80%超、85%超、90%超、95%超、98%超又は99%超の細胞が、少なくとも1つ以上の以下のマーカー:PCDHGB1、SOX3、SEMA3D、VGF、NEFL、NTRK2、PCDHGA3、CNTN1、BDNF、STMN1、TNC、FAIM2、CHGB、GAP43、ARPP21、ALCAM、OTP、KCNF1、FOXP1、RTN1、MAPT、IGFBP5、NNAT、CHRNA6、C1QL1、INA、TNR、PHLDA1、ELAVL3、TENM1、NRN1、CRMP1、SCG2、PMP22、及びNSG1を特異的に発現し、好ましくは、マーカーの発現レベルが、初代細胞の発現レベルよりも少なくとも約1.5倍、2.0倍、3倍、5倍、10倍、20倍、30倍、40倍、50倍又は100倍高い、細胞又は細胞集団を提供する。
【0073】
或る特定の実施の形態において、細胞又は細胞集団において、60%超、65%超、70%超、75%超、80%超、85%超、90%超、95%超、98%超又は99%超の細胞が、少なくとも1つ以上の以下のマーカー:MTND4LP7、AL031777.3、HIST1H2AC、HIST1H1C、HIST1H4H、SYNPO2、LMO2、MGAT2、PDXP、DNAJC6、DNAJC22、ELN、MIR568、MIR1179、MIR6892、MIR7-3HG、ANGPTL1、HSPE1-MOB4、INO80B-WBP1、R3HDML、PMF1-BGLAP、PLP1、AP002748.4、MDFI、RCN3、FST、HSPH1、PCBP1、ASPN、TSPAN8、LINC01866、LEFTY2、GMNC、ATP5MF-PTCD1、CCDC96、ALG14、IL11、A2M、C4B、ITGB4、STC1、TMEM229B、MUC5AC、TAC1、CRABP1、CRABP2、H19、C22orf42、RCAN2、PCSK1、VAT1L、CXCL12、DCN、SSTR1、MAP7D2、PPP2R2C、LRFN5、DIRAS3、CA10、C4A、AP002373.1、AMIGO3、GDA、EDIL3、CFH、TGFBI、CLSTN2、FBLN5、HPCAL4、ADCYAP1R1、NNMT、CD44、SMOC1、CLEC3B、DLX5、LYNX1、SYNC、TCAF1P1、CD9、COL3A1、CAVIN1、LMO4、TCF12、GDE1、GNG3、PEG10、TFPI2、CENPF、CAMK2N1、及びMLLT11を特異的に発現し、好ましくは、マーカーの発現レベルが、初代細胞の発現レベルよりも少なくとも約1.5倍、2.0倍、3倍、5倍、10倍、20倍、30倍、40倍、50倍又は100倍高い。
【0074】
或る特定の実施の形態において、細胞又は細胞集団を調製する方法は、上記の態様で記載されるように、in vitroで細胞の数を維持又は増加させる方法において規定される工程を含む。
【0075】
或る特定の実施の形態において、細胞は、神経細胞又は神経関連細胞である。
【0076】
或る特定の実施の形態において、細胞は、運動ニューロン前駆体、皮質ニューロン前駆体、GABA作動性前駆体、セロトニンニューロン前駆体、中脳ドーパミン作動性前駆体、星状膠細胞、神経幹細胞、及びミクログリア細胞からなる群から選択される。
【0077】
或る特定の実施の形態において、細胞は、初代細胞から少なくとも約1.5倍、2.0倍、3倍、5倍、10倍、20倍、30倍、40倍、50倍、100倍、150倍、200倍、500倍、1000倍、10000倍又は100000倍に拡大される。
【0078】
別の態様において、本願において提供される細胞又は細胞集団は、中脳ドーパミン作動性前駆体である。或る特定の実施の形態において、細胞の少なくとも20%(例えば、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、例えば100%)は、中脳ドーパミン神経細胞前駆体の少なくとも1つのマーカー、例えばFOXA2、LMX1A、及びOTX2を発現する。或る特定の実施の形態において、細胞は、TUJ1を発現しない。或る特定の実施の形態において、細胞は、TUJ1を発現する。或る特定の実施の形態において、中脳ドーパミン神経細胞前駆体では、60%超、65%超、70%超、75%超、80%超、85%超、90%超、95%超、98%超又は99%超の細胞が、少なくとも1つ以上の以下のマーカー:PCDHGB1、SOX3、SEMA3D、VGF、NEFL、NTRK2、PCDHGA3、CNTN1、BDNF、STMN1、TNC、FAIM2、CHGB、GAP43、ARPP21、ALCAM、OTP、KCNF1、FOXP1、RTN1、MAPT、IGFBP5、NNAT、CHRNA6、C1QL1、INA、TNR、PHLDA1、ELAVL3、TENM1、NRN1、CRMP1、SCG2、PMP22、及びNSG1を特異的に発現し、好ましくは、マーカーの発現レベルが、初代細胞の発現レベルよりも少なくとも約1.5倍、2.0倍、3倍、5倍、10倍、20倍、30倍、40倍、50倍又は100倍高い。
【0079】
或る特定の実施の形態において、中脳ドーパミン神経細胞前駆体では、60%超、65%超、70%超、75%超、80%超、85%超、90%超、95%超、98%超又は99%超の細胞が、少なくとも1つ以上の以下のマーカー:MTND4LP7、AL031777.3、HIST1H2AC、HIST1H1C、HIST1H4H、SYNPO2、LMO2、MGAT2、PDXP、DNAJC6、DNAJC22、ELN、MIR568、MIR1179、MIR6892、MIR7-3HG、ANGPTL1、HSPE1-MOB4、INO80B-WBP1、R3HDML、PMF1-BGLAP、PLP1、AP002748.4、MDFI、RCN3、FST、HSPH1、PCBP1、ASPN、TSPAN8、LINC01866、LEFTY2、GMNC、ATP5MF-PTCD1、CCDC96、ALG14、IL11、A2M、C4B、ITGB4、STC1、TMEM229B、MUC5AC、TAC1、CRABP1、CRABP2、H19、C22orf42、RCAN2、PCSK1、VAT1L、CXCL12、DCN、SSTR1、MAP7D2、PPP2R2C、LRFN5、DIRAS3、CA10、C4A、AP002373.1、AMIGO3、GDA、EDIL3、CFH、TGFBI、CLSTN2、FBLN5、HPCAL4、ADCYAP1R1、NNMT、CD44、SMOC1、CLEC3B、DLX5、LYNX1、SYNC、TCAF1P1、CD9、COL3A1、CAVIN1、LMO4、TCF12、GDE1、GNG3、PEG10、TFPI2、CENPF、CAMK2N1、及びMLLT11を特異的に発現し、好ましくは、マーカーの発現レベルが、初代細胞の発現レベルよりも少なくとも1.5倍、2.0倍、3倍、5倍、10倍、20倍、30倍、40倍、50倍又は100倍高い。
【0080】
別の態様において、本願は、以下の方法:
(1)第1の培養培地において、拡大された中脳ドーパミン神経細胞前駆体を6日間培養すること;
(2)工程(1)で得た細胞を第2の培養培地で8日間培養し、細胞又は細胞集団を得ること;
によって調製される細胞又は細胞集団を提供し、
第1の培養培地は、以下の物質:BDNF、GDNF、TGF-β3、FGF8、AA、及びY-27632を添加した基本培養培地であり、好ましくは、第1の培養培地は、以下の物質:10ng/ml~50ng/ml BDNF、10ng/ml~50ng/ml GDNF、0.5ng/ml~5ng/ml TGF-β3、50ng/ml~200ng/ml FGF8、0.1mM~1mM AA、及び1mM~30mM Y-27632を補充した基本培養培地であり、好ましくは、第1の培養培地は、以下の物質:20ng/ml BDNF、20ng/ml GDNF、1ng/ml TGF-β3、100ng/ml FGF8、0.2mM AA、及び10mM Y-27632を補充した基本培養培地であり、
第2の培養培地は、以下の物質:BDNF、GDNF、TGF-β3、FGF8、AA、db-cAMP、及びDAPTを補充した基本培養培地であり、好ましくは、第2の培養培地は、以下の物質:10ng/ml~50ng/ml BDNF、10ng/ml~50ng/ml GDNF、0.5ng/ml~5ng/ml TGF-β3、500~200 FGF8、0.1mM~1mM AA、200μM~1000μM db-cAMP、及び5μM~20μM DAPTを補充した基本培養培地であり、好ましくは、第2の培養培地は、20ng/ml BDNF、20ng/ml GDNF、1ng/ml TGF-β3、100 FGF8、0.2mM AA、500μM db-cAMP、及び10μM DAPTを補充した基本培養培地である。
【0081】
或る特定の実施の形態において、基本培養培地はB27である。
【0082】
或る特定の実施の形態において、上記で得られた拡大された中脳ドーパミン神経細胞前駆体を単一細胞懸濁液に調製し、1×104/cm2~1×106/cm2(例えば、1×104/cm2、5×104/cm2、1×105/cm2、5×104/cm2又は1×106/cm2)の密度で単一細胞懸濁液を第1の培養培地に接種する。
【0083】
別の態様において、本願は、更に、上記態様のいずれか1つに記載される細胞又は細胞集団を含む、医薬組成物を提供する。
【0084】
別の態様において、本願は、神経系疾患(例えば、ドーパミン作動性ニューロン損傷によって引き起こされる疾患(例えば、パーキンソン病))を治療するための医薬の製造における上記態様のいずれかに1つに記載される細胞又は細胞集団の使用を更に提供する。
【0085】
用語の定義
本明細書で使用される場合、「ドーパミン」という用語は、脳における運動及び協調を制御するニューロンにメッセージを送信するドーパミン作動性ニューロンによって産生される化学物質を指す。
【0086】
本明細書で使用される場合、「神経前駆細胞」という用語は、例えば、運動ニューロン前駆体、皮質ニューロン前駆体、GABA作動性ニューロン前駆体、セロトニンニューロン前駆体等の種々のタイプの神経前駆細胞を含む未成熟神経細胞を指す。
【0087】
本明細書で使用される場合、「中脳ドーパミン作動性前駆体」という用語は、「中脳底板細胞」と同じ意味を有し、未だ胚発生段階にある中脳ドーパミン作動性ニューロンを含む、ドーパミン作動性ニューロンに発達することができる中脳に位置する細胞を指す。或る特定の実施の形態において、中脳ドーパミン作動性前駆体は、以下の細胞マーカー:EN1、FOXA2、LMX1A、OTX2等のうち1つ以上を発現する。
【0088】
本明細書で使用される場合、「ドーパミン作動性ニューロン」という用語は、一般に、ドーパミンを放出する細胞を指す。「中脳ドーパミン作動性ニューロン」は、ドーパミンを放出する前脳の細胞を指す。この細胞は、以下のマーカー:FOXA2、LMX1A、TH、TUJ1等のうちの1つ以上を発現する。本明細書で使用される場合、「シグナル伝達経路」という用語は、膜タンパク質へのリガンド結合又は他の何らかの刺激によって活性化されるか、又は他の形の影響を受けるその効果を発揮するための下流タンパク質に対する一連の反応を指す(例えばSMAD経路、Wnt経路)。Wnt経路の調節因子は、β-カテニン、GSK3β等を含む。多くの細胞表面又は細胞内の受容体タンパク質では、リガンド-受容体相互作用は細胞応答に直接関連していない。リガンドによって活性化される受容体は、リガンドが細胞の挙動に生理学的効果を発揮し得る前に、他の細胞内タンパク質と相互作用しなければならない。典型的には、連鎖的に相互作用する幾つかの細胞タンパク質の挙動は、受容体の活性化又は阻害により変化する。受容体の活性化によって誘導される全体的な細胞の変化は、細胞の形質導入機構又はシグナル伝達経路と呼ばれる。
【0089】
本明細書で使用される場合、「阻害する」、「遮断する」又は「妨げる」という用語は、化合物(すなわち、阻害剤)で処理された細胞における特定のシグナル伝達経路の活性の低下を指す。
【発明の効果】
【0090】
本発明の有益な効果
本願は、培養培地の成分を調整すること、ミオシンII ATPアーゼ阻害剤ブレビスタチンを加えること、及び中脳ドーパミン作動性前駆体等の種々の神経細胞又は神経関連細胞を得るために拡大培養することにより、以下の技術的効果のうちの少なくとも1つを達成した。
【0091】
1.神経細胞又は神経関連細胞の拡大効率、特に中脳底板細胞又は中脳ドーパミン作動性前駆体の拡大効率が大幅に向上し、それにより、大規模な細胞拡大を実現し、科学的研究又は商業化に有用な細胞株の樹立を実現する。
【0092】
2.拡大効率の改善に基づき、神経前駆細胞の分化過程において、中間体生成物を拡大させるための技術的手順を設計し、それにより、同じバッチから多数のシード細胞を得て、シード細胞バンクを樹立することが可能である。
【0093】
3.幾つかの実施の形態において、拡大された中脳ドーパミン作動性前駆体は、依然として底板細胞マーカーFOXA2、LMX1A、OTX2等を発現することができ、その後の凍結保存のために依然として使用することができる。
【0094】
4.製造コスト、特に多能性幹細胞培養期におけるコストを低減することができ、その結果、調製過程をより制御しやすくなる。
【0095】
5.拡大された中脳ドーパミン神経細胞前駆体から分化した細胞は、種々の新しいマーカーを特異的に発現し、ラットPDモデルにおいて良好な治療活性を示す。
【0096】
図面の簡単な説明
本明細書に記載される図面は、本発明の更なる理解を提供するために使用され、本願の一部を構成する。本発明の概略例及びその記載は、本発明を説明するために用いられ、本発明に対する不適切な限定を構成するものではない。図面は以下の通りである。
【図面の簡単な説明】
【0097】
【
図1】ヒト胚性幹細胞由来の底板細胞の誘導及び拡大の過程を示す図である。
【
図2】底板拡大培地1及び2の各継代の細胞増殖曲線を示す図である。
【
図3】底板細胞拡大培地1を用いて10継代の継代培養により得られた底板細胞の底板細胞マーカーLMX1A及びFOXA2の発現を示す図である。
【
図4】底板細胞拡大培地1を用いて10継代培養した底板細胞の分化により得られた細胞のドーパミンニューロンマーカーFOXA2、TH、及びTUJ1の発現を示す図である。
【
図5】底板細胞拡大培地2を用いた10継代の継代培養後の細胞マーカーFOXA2及びLMX1Aの発現を示す図である。
【
図6】底板細胞拡大培地2を用いて12継代培養した底板細胞の分化により得られた細胞のドーパミン作動性ニューロンマーカーFOXA2、LMX1A、TH、及びTUJ1の発現を示す図である。
【
図7】回転実験で検出されたラットPDモデルにおける2.5×10
5細胞の線条体注射の治療効果を示す図である。
【
図8】実験群及び対照群、+SMI:NPM+10ng/ml EGF+10ng/ml FGF2+10ng/ml TGFβ1+10μmブレビスタチン;-SMI:NPM+10ng/ml EGF+10ng/ml FGF2+10ng/ml TGFβ1の培養条件下でのp1からp6までの星状膠細胞の細胞量を示す図である。
【
図9】実験群及び対照群、+SMI:NPM+100ng/mL SHH+1μMプルモルファミン+10μMブレビスタチン;-SMI:NPM+100ng/mL SHH+1μMプルモルファミンの培養条件下におけるp4からp5までのGABA前駆細胞の細胞量を示す図である。
【
図10】ミクログリア分化培地(収集1)、対照:X-VIVO15+1×Glutamax+25ng/ml IL-34+50ng/ml M-CSF;SMI:X-VIVO15+1×Glutamax+25ng/ml IL-34+50ng/ml M-CSF+10μMブレビスタチンにおいて4日目~11日目に培養したEBから収集した懸濁細胞の量を示す図である。
【
図11】ミクログリア分化培地(収集2)、対照:X-VIVO15+1×Glutamax+25ng/ml IL-34+50ng/ml M-CSF;SMI:X-VIVO15+1×Glutamax+25ng/ml IL-34+50ng/ml M-CSF+10μMブレビスタチンにおいて11日目~18日目に培養したEBから収集した懸濁細胞の量を示す図である。
【
図12】ミクログリア分化培地(収集3)、対照:X-VIVO15+1×Glutamax+25ng/ml IL-34+50ng/ml M-CSF;SMI:X-VIVO15+1×Glutamax+25ng/ml IL-34+50ng/ml M-CSF+10μMブレビスタチンにおいて18日目~25日目に培養したEBから収集した懸濁細胞の量を示す図である。
【
図13】各種拡大継代でのNSCの総量を示す図である。図中、A:DMEM/F12+20μg/mL EGF+20μg/mL bFGF+5μg/mlヘパリン+2%B27+1×GlutaMAX;B:DMEM/F12+20μg/mL EGF+20μg/mL bFGF+5μg/mlヘパリン+2%B27+1×GlutaMAX+10μMブレビスタチン。
【発明を実施するための形態】
【0098】
本発明を実施するための具体的な形態
本発明の実施例における技術的解決策は、本発明の実施例における添付図面と共に明確かつ完全に説明される。明らかに、記載される実施例は、本発明の実施例の一部にすぎず、全てではない。少なくとも1つの例示的な実施例の以下の説明は、本質的に単に例示的なものであり、本発明、その適用又は使用のいかなる限定としても解釈されない。本発明の実施例に基づき、当業者が創造的努力なしに得た他の実施例はいずれも、本発明の保護範囲に含まれる。
【実施例】
【0099】
実施例1.底板細胞の拡大実験
1.底板細胞の拡大実験に使用した試薬:
(1)各因子の調製及び作業濃度:
1)LDN193189溶液:作業濃度は100nMであった。これを4℃で2週間保存することができた。
2)SB431542溶液:作業濃度は10μMであった。これを4℃で2週間保存することができた。
3)SAG溶液:作業濃度は2μMであった。これを4℃で2週間保存することができた。
4)SHH(ソニックヘッジホッグ)溶液:作業濃度は100ng/mLであった。これを4℃で2週間保存することができた。
5)CHIR99021溶液:作業濃度は0.5μM~1.0μMであった。これは一度のみ使用可能であった。
6)ブレビスタチン液:作業濃度は10μMであった。これを4℃で2週間保存することができた。
【0100】
(2)基本培養培地N2培地の調製:
49%CTS(商標)KnockOut(商標)DMEM/F-12+49%CTS(商標)Neurobasal+1%CTS(商標)N2 Supplement+1%CTS-GlutaMAX(商標)-I
【0101】
(3)底板細胞拡大培地1:
N2培地+LDN193189(100nM)+SB431542(10μM)+SHH(100ng/mL)+SAG(2μM)+CHIR99021(0.5μM~1.0μM);
【0102】
(4)底板細胞拡大培地2:
N2培地+LDN193189(100nM)+SB431542(10μM)+SHH(100ng/mL)+SAG(2μM)+CHIR99021(0.5μM~1.0μM)+ブレビスタチン(10μM);
【0103】
2.拡大された底板細胞からのドーパミンニューロンの分化実験に用いられる試薬:
(1)各因子の調製及び作業濃度:
1)FGF8溶液:作業濃度は100ng/mLであった。これを4℃で2週間保存することができた。
2)TGFβ3溶液:作業濃度は1ng/mLであった。これを4℃で2週間保存することができた。
3)アスコルビン酸(AA)溶液:作業濃度は0.2mMであった。これを4℃で2週間保存することができた。
4)ジブチリルcAMP(db-cAMP)溶液:作業濃度は0.5mMであった。これを4℃で2週間保存することができた。
5)BDNF溶液:作業濃度は20ng/mLであった。これを4℃で2週間保存することができた。
6)GDNF溶液:作業濃度は20ng/mLであった。これを4℃で2週間保存することができた。
【0104】
(2)基本培養培地B27培地の調製:
97%CTS(商標)Neurobasal+2%B27-CTS(商標)+1%CTS-GlutaMAX(商標)-I
【0105】
(3)ドーパミンニューロン分化培地1の調製:
B27培地+BDNF(20ng/mL)+GDNF(20ng/mL)+TGF-β3(1ng/mL)+AA(0.2mM)+FGF8(100ng/mL)、各因子溶液をよく混合した後、少しずつ加え、分化培地1を得て、これを繰り返しピペッティングした。
【0106】
(4)ドーパミンニューロン分化培地2の調製:
B27培地+BDNF(20ng/mL)+GDNF(20ng/mL)+TGF-β3(1ng/mL)+AA(0.2mM)+db-cAMP(500μM)+DAPT(10μM)、各因子溶液をよく混合した後、少しずつ加え、分化培地2を得て、これを繰り返しピペッティングした。
【0107】
3.底板細胞拡大実験の方法:
図1の方法を参照すると、ヒト胚性幹細胞を誘導分化に供し、底板細胞を得て、これをその後の拡大、凍結保存及び分化実験に使用した。ヒト胚性幹細胞は、National Stem Cell Resource Bankに由来し、市販のヒト胚性幹細胞株も使用することができた。ヒト胚性幹細胞から底板細胞を誘導する方法については、従来技術、例えばdoi:10.1038/nprot.2017.078を参照されたい。
【0108】
(1)底板細胞を得る方法:
1)ビトロネクチンマトリックスの調製:室温で、6mLのDPBSを15mLの遠心管にピペットで入れ、次いで、60μLのビトロネクチンを上記DPBSにピペットで入れ、ピペットガンで10回ピペッティングしてよく混合し、ビトロネクチンマトリックスを得た(使用時に調製)。調製したマトリックス1mLを6ウェルプレートの各ウェルに加え、室温で1時間インキュベートして使用した。
【0109】
2)ヒト胚性幹細胞をTrypLE又はaccutaseで単一細胞に消化し、上記懸濁液10μLをトリパンブルー溶液10μLに加えてよく混合し、countess細胞カウンターで計数を行った。次いで、ビトロネクチンマトリックスをピペッティングして廃棄し、TrypLE又はaccutaseを用いて消化して単一細胞を得て、これを10μM Rock阻害剤(例えば、Y-27632)を含有する分化培地中2×104/cm2の密度で接種し、37℃、5%CO2インキュベーター内で培養した。分化培地はBMP阻害剤及びTGF阻害剤、Wnt活性化因子及びSHH活性化因子を含み、数日後にヒト胚性幹細胞から分化した中脳底細胞を得ることができた。
【0110】
(2)底板細胞拡大実験:
1)ビトロネクチンマトリックスの調製:室温で、6mLのDPBSを15mLの遠心管にピペットで入れ、次いで、60μLのビトロネクチンを上記DPBS中にピペットで入れ、ピペットガンで10回ピペッティングしてよく混合し、ビトロネクチンマトリックスを得た(使用時に調製)。調製したマトリックス1mlを6ウェルプレートの各ウェルに加え、室温で1時間インキュベートして使用した。
【0111】
2)底板細胞をTrypLE又はaccutaseで単一細胞に消化し、上記懸濁液10μLをトリパンブルー溶液10μLに加え、よく混合し、countess細胞カウンターで計数を行った。次いで、ビトロネクチンマトリックスをピペッティングして廃棄し、細胞を底板細胞拡大培地1及び底板細胞拡大培地2(いずれも10μM Rock阻害剤(例えば、Y-27632)を補充)における2D法により、4×104/cm2の密度で再接種し、37℃、5%CO2インキュベーターで培養した。
【0112】
3)細胞を5日~8日ごとに継代し、接種密度、培地及び各継代の条件は同じであった。
【0113】
各継代で、countess細胞カウンターを用いて細胞の総数を計算し、細胞増殖曲線を作成した。
【0114】
底板細胞拡大培地1及び2で行った拡大の増殖効率を
図2に示した。拡大培地1及び拡大培地2の処理下では、細胞継代数の増加に伴い、細胞1及び細胞2の細胞数が増加し続け、増殖速度は徐々に低下した。細胞1は10継代まで拡大することができ、細胞2は12継代まで拡大することができ、同時に細胞2の細胞数は細胞1の細胞数の48倍であった。結果は、拡大培地2が、細胞の拡大能を大幅に増加させることができたことを証明した。
【0115】
底板細胞拡大培地1において、細胞継代数の増加に伴い、細胞数が徐々に増加し、増殖速度は徐々に低下した。10継代後、細胞を1000倍に拡大させることができ、免疫蛍光染色は、細胞が依然として底板細胞マーカーFOXA2及びLMX1Aを安定に発現することを示した(
図3)。
【0116】
底板細胞拡大培地2において、継代の増加に伴い、細胞数が徐々に増加し、増殖速度は徐々に低下した。10継代後、細胞を50000倍に拡大させることができ、免疫蛍光染色は、細胞が依然として底板細胞マーカーFOXA2及びLMX1Aを安定に発現することを示した(
図5)。
【0117】
4.拡大後の底板細胞の凍結保存実験:
1)プログラムされた冷却ボックス及び凍結溶液を、使用のために4℃で予冷した。
【0118】
2)細胞の状態を倒立顕微鏡下で観察し、細胞が良好な状態にあり、汚染がないことを確認した。
【0119】
3)培養培地を生物学的安全性キャビネットで廃棄し、6ウェルプレートの各ウェルに1mLのDPBSを加えて細胞を洗浄した。
【0120】
4)DPBSを廃棄し、各ウェルに1mLのTrypleを加え、37℃のインキュベーターで3分~4分間消化を行った(Trypleを用いた消化時間は、細胞の消化の程度に応じて調整することができた)。
【0121】
5)Trypleを廃棄し、基本培養培地N2培地1mLを各ウェルに加えて終結させ、細胞をピペットガンで穏やかにピペッティングして均一なサイズの小片にした後、遠心管に集め、室温にて1200r/分で3分間遠心分離した。
【0122】
6)上清を廃棄し、予冷した凍結溶液を加えて細胞を再懸濁した(細胞懸濁液の1/6ウェルごとに1本の凍結保存チューブ、1mL/チューブ)。
【0123】
7)細胞懸濁液を凍結保存チューブ(1mL/チューブ)にサブパッケージングした。次いで、凍結保存チューブを予冷したフリーザーボックスに入れ、-80℃の冷蔵庫に一晩保管した。翌日に長期保存のため液体窒素に移した。
【0124】
5.拡大された底板細胞をドーパミン前駆細胞に分化させる実験:
1)ビトロネクチンマトリックスの調製:室温で、6mLのDPBSを15mLの遠心管にピペットで入れ、次いで、60μLのビトロネクチンを上記DPBS中にピペットで入れ、ピペットガンで10回ピペッティングしてよく混合し、ビトロネクチンマトリックスを得た(使用時に調製)。調製したマトリックス1mLを6ウェルプレートの各ウェルに加え、後の使用のため室温で1時間インキュベートした。
【0125】
2)底板細胞拡大培地1及び2を用いて10継代培養して得た底板細胞をTrypLE又はaccutaseで消化して単一細胞にし、Rock阻害剤(例えば、Y-27632)を含有するドーパミンニューロン分化培地1(均等に混合した後)において2D法により、それぞれ5×105/cm2の密度で再接種し、37℃、5%CO2インキュベーターで培養した。
【0126】
3)ドーパミンニューロン分化培地1で6日間培養した後、培地をドーパミンニューロン分化培地2に置き換えて、細胞を更に8日間培養した。
【0127】
4)分化したドーパミン神経細胞が免疫蛍光法によって同定され、その結果を
図4及び
図6に示した。
【0128】
結果は、マーカーの免疫蛍光法により、底板細胞拡大培地1において10継代の拡大で得られた細胞1の更なる分化によって得られたドーパミン神経細胞が同定されたことを示し、また結果は、10継代の拡大後に得られた細胞1がドーパミン神経細胞への分化能をまだ有しており、ドーパミン神経細胞のマーカーFOXA2、TH、及びTUJ1を安定して発現できることを証明した。
【0129】
マーカーの免疫蛍光法により、底板細胞拡大培地2において12継代の拡大で得られた細胞2の更なる分化によって得られたドーパミン神経細胞が同定され、また結果は、12継代の拡大後に得られた細胞2がドーパミン神経細胞への分化能をまだ有しており、ドーパミン神経細胞のマーカーFOXA2、LMX1A、TH、TUJ1を安定して発現できることを証明した。
【0130】
免疫蛍光による同定方法:
a)細胞接種:清潔で無菌の円形カバースリップを24ウェル細胞培養皿の底部中央に置き、30分間ビトロネクチンでコーティングした後、細胞を接種した。
【0131】
b)細胞固定:細胞が適切な密度に成長した後、培養培地を廃棄し、細胞をPBSで1回洗浄し、4%PFAを用いて室温で15分~30分間固定し、次いでPBSで3回洗浄した。
【0132】
c)ブロッキング:2%BSAと0.3%Tritonの混合溶液320μLを各ウェルに加え、室温で2時間ブロッキングを行った。
【0133】
d)一次抗体の添加:一次抗体を、2%BSAと0.3%Tritonの混合溶液(使用比については一次抗体の取扱説明書を参照)で希釈し、ピペッティングしてよく混合し、ブロッキング溶液を廃棄し、希釈した一次抗体溶液を各ウェルに対して320μL加え、パラフィルムで密封後、4℃で一晩放置した。
【0134】
e)二次抗体の添加:一次抗体をピペッティングにより廃棄し、細胞をPBSで2回洗浄し、2%BSAと0.3%Tritonの混合溶液で希釈した二次抗体320μLを各ウェルに加え(使用比については一次抗体の取扱説明書を参照)、室温で2時間暗所に放置した。
【0135】
f)核の染色:二次抗体を廃棄し、細胞をPBSで2回洗浄し、希釈したHoechst33342溶液(1mlのPBS中の1μlのHoechst33342)320μLを各ウェルに加え、細胞を15分間インキュベートした。
【0136】
g)密封:希釈したHoechst33342溶液をピペッティングにより廃棄し、細胞をPBSで1回洗浄し、次いで、抗クエンチャー10μLを各スライドに加え、その上に成長している細胞を有するスライドガラスを、湾曲したピンセットと協働して注射針を用いて慎重に拾い上げ、細胞を有する側を、気泡を避けて、抗クエンチャーを加えたスライドガラス上に置き、最後に、スライドガラスを固定するためにカバーガラスの端部に無色のマニキュアを軽く置いた後、5分間乾燥させ、スライドボックスに入れた。
【0137】
5)分化した細胞を、RNA抽出及び発現プロファイルシーケンシングに供し、具体的な方法は、Kim et al., Biphasic Activation of WNT Signaling Facilitates the Derivation of Midbrain Dopamine Neurons from hESCs for Translational Use. 2021, Cell Stem Cell 28, 343-355の公開された文献を参照した。
【0138】
結果は、拡大培地で培養した底板細胞を分化させて得たドーパミン神経細胞の発現レベルが、非拡大細胞の10倍超であったことを示し(表1~表2)、マーカーを表に示した。
【0139】
【0140】
【0141】
【0142】
【0143】
【0144】
6.PDモデルの挙動検出方法(回転実験):
実験装置:回転レコーダー、カウンター、計量スケール。
実験用試薬:アポモルヒネ(sigma、A4393)。
【0145】
回転実験工程は以下の通りである:
a)動物の体重を測定した。
b)体重に応じて5%抱水クロラールを腹腔内注射することにより、動物を麻酔した。
c)アポモルヒネの調製及び注射:粉末アポモルヒネを生理食塩水に溶解して1mg/mlとし、0.5mg/kgの用量で腹腔内注射した。
d)アポモルヒネの注射から5分~10分後、又はモデルラットがぐるぐると円を描いて回りを始めたときに計数を開始し、30分間記録し、1分当たりの平均回転数を算出した。
【0146】
細胞注入工程は、以下の通りであった:
実験装置:脳定位固定装置、電動注入ポンプ、頭蓋ドリル、外科用はさみ、ピンセット、持針鉗子、針付き5-0縫合糸、Hamilton 701シリンジ、保温パッド、ウルトラクリーンワークベンチ等。
実験用試薬:ポビドンヨード、生理食塩水、消毒用アルコール、Baytril、シクロスポリン。
a)免疫抑制剤の注射:移植48時間前に免疫抑制剤シクロスポリンを10mg/kgの用量で腹腔内注射し、実験終了まで毎日注射を行った。
b)細胞懸濁液の調製:移植する細胞の培養上清を廃棄し、細胞をPBSで1回洗浄し、次いでtrypleを加え、5分~8分間消化した。細胞懸濁液を遠心管に収集し、1200rpmで3分間遠心分離し、上清を廃棄し、細胞を細胞注射液で1.25×10
5/μLに再懸濁した。
c)細胞懸濁液の注入:2μLの上記の細胞懸濁液(2.5×10
5細胞)を、モデル化側の各動物の線条体に注入し、線条体の座標を以下の通りとした:A、+1.0mm;L、-3.0mm;V、-6.0mm、-5.0mm;針路1本、深度2、各深度に1μLを注入し、注入速度は1μL/分であり、注入後に創傷部を縫合した。
d)術後管理:手術後、Baytrilを毎日0.5mL/200g体重で3日間連続して皮下注射した。回転実験を注入後毎月実施し、5ヵ月間の回転回数の変化をプロットし、3ヵ月目で有意な機能改善が観察された(
図7)。
【0147】
実施例2.星状膠細胞の拡大実験
1.分化及び培養の方法:
(1)hESCを培養し、約80%コンフルエンスまで分化を行った。0日目に、細胞をDispase(1U/mL)で解離させ、底部細胞塊を回収し、超低吸着10cm培養皿に播種した。
【0148】
(2)1日目から、神経誘導分子100nM LDN193189及び10μM SB431542を補充したNIM培地で置き換えることにより神経誘導を開始した。培地を7日目まで毎日交換した。
【0149】
(3)細胞球を、7日目にMatrigelでコーティングした6ウェルプレート上に広げた。
【0150】
(4)9日目から、培地をNPM培地に置き換え、13日目まで20ng/mLのFGF2を加えた。
【0151】
(5)13日目に、Accutaseを使用して解離することで単一細胞を得て、1.2×105細胞/cm2の密度で、Matrigelでコーティングした6ウェルプレート上に再び広げた。
【0152】
(6)14日目に、培地を星状膠細胞誘導培地に置き換え、NPM培地に10ng/ml EGF+10ng/ml FGF2+10ng/ml TGFβ1を加え、同時に10μmブレビスタチン(対照群には加えず、1:1000)を加え、1日おきに培地を交換した。
【0153】
(7)星状膠細胞の密度コンフルエンスが100%に達した後、それらをAccutaseで単一細胞に解離し、計数し、Matrigelでコーティングした6ウェルプレート上に3.0×105細胞/cm2の密度で再び広げた。
【0154】
(8)細胞を連続して5回継代し、各継代の初期細胞密度は3.0×105細胞/cm2であり、ブレビスタチンを添加した場合の星状膠細胞の増殖を比較した。
【0155】
【0156】
【0157】
2.実験結果:
P2からP6まで、実験群における星状膠細胞の拡大能は有意に改善された(
図8)。
【0158】
実施例3.GABA前駆細胞の増殖
1.分化及び培養の方法:
(1)hESCを培養し、約80%コンフルエンスまで分化を行った。0日目に、細胞をDispase(1U/mL)で解離させ、底部細胞塊を回収し、超低吸着10cm培養皿上に広げた。
【0159】
(2)1日目から、100nM LDN193189、10μM SB431542、及び2μM XAV939を補充したNIM培地を用いて神経誘導を開始した。培地を7日目まで毎日交換した。
【0160】
(3)細胞球を、7日目にMatrigelでコーティングした6ウェルプレート上に広げた。
【0161】
(4)9日目から、培地をNPM培地に置き換え、13日目まで20ng/mLのFGF2を加えた。
【0162】
(5)13日目に、Accutaseを使用して解離することで単一細胞を得て、Matrigelでコーティングした6ウェルプレート上に3.0×105細胞/cm2の密度で再び広げた。
【0163】
(6)14日目に、培地をGABA細胞誘導培地に置き換え、NPM培地に100ng/mLのSHH及び1μMのプルモルファミンを加え、同時に10μmのブレビスタチンを加え(対照群には加えず)、1日おきに培地を交換した。
【0164】
(7)GABA前駆細胞の密度コンフルエンスが100%に達した後、それらをAccutaseで単一細胞に解離し、計数し、次いでMatrigelでコーティングした6ウェルプレート上に3.0×105細胞/cm2の密度で再び広げた。
【0165】
(8)細胞を5回継代し、各継代の初期細胞密度は3.0×105細胞/cm2であり、ブレビスタチンの有無によるGABA前駆細胞の増殖を比較した。
【0166】
2.実験結果:
P4からP5まで、実験群におけるGABA前駆細胞の拡大能は有意に改善された(
図9)。
【0167】
実施例4.ミクログリア前駆体の増殖
1.分化及び培養の方法:
(1)0日目に、ESCをAccutaseで消化して単一細胞にし、計数し、10000/ウェルの濃度でV底96ウェルプレートに接種し、静置培養した。
【0168】
(2)0日目から4日目まで、培地はミクログリア誘導培地であった:DMEM/F12、20%KOSR、1×Glutamax、1×NEAA、50ng/ml BMP4、50ng/ml VEGF、20ng/ml SCF、10μM Y-27632。
【0169】
(3)4日目に、懸濁EBを6ウェルプレートで接着培養に供し、4日目に培養培地を交換し、その後11日目まで静置培養を行った。4日目から11日目まで、培養培地はミクログリア分化培地であった:X-VIVO15、1×Glutamax、25ng/ml IL-34、50ng/ml M-CSF。この段階で、ブレビスタチンを10μMの濃度で添加した。
【0170】
(4)11日目に、培地中に懸濁した単一細胞を収集して計数し、EBをミクログリア分化培地で培養し続け、上清中の懸濁細胞を7日ごとに計3回収集した。
【0171】
(5)ミクログリア細胞の成熟:遠心分離後、上清を廃棄し、細胞をミクログリア成熟培地に再懸濁し、Matrigelで予めコーティングした培養プレートに接種した。ミクログリア細胞は14日間連続培養した後に成熟した。ミクログリア成熟培地:Advanced F12、1×Glutamax、50ng/ml IL-34、5ng/ml M-CSF。
【0172】
2.実験結果:
分化の11日目に、培養培地中に懸濁した単一細胞を収集して計数し、EBをミクログリア分化培地中で培養し続け、上清中の懸濁細胞を7日ごと計3回収集した。実験群と対照群の間の各収集時における細胞数を比較した(
図10~
図12)。実験群の最初の2回の収集における細胞数は有意に増加し、小分子がミクログリア前駆体の増殖を促進し、分化効率を改善することを証明した。
【0173】
実施例5.神経幹細胞の増殖
1.分化及び培養の方法:
分化法は、Tchieu et al., A Modular Platform for Differentiation of Human PSCs into All Major Ectodermal Lineages. 2017, Cell Stem Cell 21, 399-410を参照した。
【0174】
NSCを接着後に拡大培地で培養し、20μg/mLヒト(EGF)(R&D)、20μg/mL(bFGF)(R&D)、5μg/mlヘパリン(Sigma)、2%B27(Gibco)、1×GlutaMAX、及び10μMブレビスタチンを補充したDMEM/F12(1×、Gibco)を実験群に添加した。培養培地の半分を毎日交換した。
【0175】
2.実験結果:
小分子はNSCのP4からP6までの拡大を有意に促進した(
図13を参照されたい)。
【0176】
本発明の種々の変更形態は、本明細書に記載されるものに加えて、前述の説明から当業者には明らかである。かかる変更形態はまた、添付の特許請求の範囲の範囲内に含まれることが意図されている。全ての特許、特許出願、雑誌論文、書籍、及び任意の他の刊行物を含む、本願に引用された各参考文献は、その全体が引用することにより本明細書の一部をなす。
【国際調査報告】