(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-09-14
(54)【発明の名称】粒子運動を用いたバイオセンサ
(51)【国際特許分類】
C12M 1/00 20060101AFI20230907BHJP
C12Q 1/00 20060101ALI20230907BHJP
G01N 33/543 20060101ALI20230907BHJP
【FI】
C12M1/00 A ZNA
C12Q1/00 Z
G01N33/543 501A
G01N33/543 501M
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023512696
(86)(22)【出願日】2021-08-17
(85)【翻訳文提出日】2023-04-10
(86)【国際出願番号】 NL2021050510
(87)【国際公開番号】W WO2022039594
(87)【国際公開日】2022-02-24
(32)【優先日】2020-08-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】NL
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】501276430
【氏名又は名称】テクニーシェ・ユニバーシタイト・アイントホーベン
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【氏名又は名称】森下 賢樹
(72)【発明者】
【氏名】ジョン、アーサー マーティン
(72)【発明者】
【氏名】セルゲレン、クーラン
(72)【発明者】
【氏名】プリンス、メノ ヴィレム ジョセ
(72)【発明者】
【氏名】リン、ユ-ティン
【テーマコード(参考)】
4B029
4B063
【Fターム(参考)】
4B029AA07
4B029BB17
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4B063QX01
(57)【要約】
【解決手段】本発明は、官能化された表面および粒子を有する、粒子運動を用いてある期間にわたって分析物をセンシングするためのバイオセンサデバイスであって、バイオセンサデバイスが、粒子が表面に会合している第1の状態と、粒子が表面に会合していない第2の状態とを有し、第1の状態と第2の状態との間の切り替えが、分析物の存在、非存在および/または濃度に依存し、それにより、粒子の運動特性が、分析物の存在、非存在および/または濃度に応じて変化し、粒子および表面の特性が、バイオセンサが表面に対する粒子の空間座標パラメータの変化を測定することができるように、第2の状態において粒子が表面の近傍内にあるように選択され、粒子が表面にコンジュゲートされていない、バイオセンサデバイスに関する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
官能化された表面および粒子を有する、粒子運動を用いてある期間にわたって分析物をセンシングするためのバイオセンサデバイスであって、
前記バイオセンサデバイスが、前記粒子が前記表面に会合している第1の状態と、前記粒子が前記表面に会合していない第2の状態とを有し、
前記第1の状態と前記第2の状態との間の切り替えが、前記分析物の存在、非存在および/または濃度に依存し、
それにより、前記粒子の運動特性が、前記分析物の存在、非存在および/または濃度に応じて変化可能であり、それにより、前記表面に対する前記粒子の空間座標パラメータの変化を測定することによって前記分析物のセンシングを可能にし、
前記粒子および前記表面の前記特性が、前記バイオセンサが前記表面に対する前記粒子の空間座標パラメータの変化を測定することができるように、前記第2の状態において前記粒子が前記表面の近傍内にあるように選択され、好ましくは、前記第2の状態における前記粒子と前記表面との間の距離が、5nm~10μmの範囲内であり、
前記粒子が前記表面にコンジュゲートされていない、
バイオセンサデバイス。
【請求項2】
前記粒子が前記表面と会合している前記第1の状態が、第1の会合状態と第2の会合状態とを含み、
前記第1の会合状態が、粒子と表面との間の単一分子結合を含み、
前記第2の会合状態が、粒子と表面との間の2つ以上の単一分子結合を含む、
請求項1に記載のバイオセンサデバイス。
【請求項3】
少なくとも10個の粒子、より好ましくは少なくとも100個の粒子を含む、
請求項1または2に記載のバイオセンサデバイス。
【請求項4】
415×415μm
2の領域内に数粒子~数千粒子の密度を含む、
請求項1~3のいずれか一項に記載のバイオセンサデバイス。
【請求項5】
回折限界を有する光学システムを備え、前記光学システムの少なくとも前記回折限界によって最も近い粒子から分離された粒子を含む、
請求項1~4のいずれか一項に記載のバイオセンサデバイス。
【請求項6】
結合アッセイ、競合アッセイ、置換アッセイ、サンドイッチアッセイ、酵素アッセイ、標的および/または信号増幅を伴うアッセイ、マルチステップアッセイ、または分子カスケードを伴うアッセイを実施する、
請求項1~5のいずれか一項に記載のバイオセンサデバイス。
【請求項7】
前記粒子が、前記粒子に結合された第1の部分によって官能化されるか、または
前記表面が、前記表面に結合された第2の部分によって官能化され、
前記部分が、前記分析物に対する結合親和性を有する、
請求項1~6のいずれか一項に記載のバイオセンサデバイス。
【請求項8】
前記粒子が、前記粒子に結合された第1の部分によって官能化され、および
前記表面が、前記表面に結合された第2の部分によって官能化され、
前記部分が、前記分析物の存在、非存在または濃度に依存して、互いに結合親和性を有する、
請求項1~6のいずれか一項に記載のバイオセンサデバイス。
【請求項9】
前記分析物および前記第1の部分の解離速度定数が、前記分析物および前記第2の部分に対して、少なくとも3倍だけ異なる、好ましくは少なくとも5倍だけ異なるか、または
前記第1の部分および前記第2の部分の解離速度定数が、前記分析物および前記第1の部分に対して、および/または前記分析物および前記第2の部分に対して、少なくとも3倍だけ異なる、好ましくは少なくとも5倍だけ異なる、
請求項7または8に記載のバイオセンサデバイス。
【請求項10】
10
0~10
8部分/μm
2の範囲の部分の密度を有し、好ましくは、前記粒子または前記表面に結合された前記部分が、10
1~10
7部分/μm
2、10
2~10
6部分/μm
2または10
3~10
5部分/μm
2の範囲の密度を有する、
請求項7~9のいずれか一項に記載のバイオセンサデバイス。
【請求項11】
前記第1の部分または前記第2の部分が、タンパク質、抗体、その断片、組換えタンパク質、ペプチド、炭水化物、糖類、分子インプリントポリマー、小分子、核酸、DNA分子、PNA分子、アプタマー、ナノボディ、多価結合剤、またはそれらの組み合わせであり、好ましくは、前記第1の部分または前記第2の部分が、グルコース、電解質、代謝産物、小分子、脂質、炭水化物、ペプチド、ホルモン、薬物、薬物代謝産物、タンパク質、オリゴヌクレオチド、DNA、RNA、ナノ粒子、細胞外小胞、エキソソーム、ナノソーム、リポソーム、ウイルス粒子、細胞、細胞断片、超分子物体、またはタンパク質凝集体に対する結合分子である、
請求項7~10のいずれか一項に記載のバイオセンサデバイス。
【請求項12】
多重化、好ましくは分析物多重化、空間多重化、分光多重化、プローブ機能多重化を実行する方法における、請求項1~11のいずれか一項に記載のバイオセンサデバイスの使用。
【請求項13】
内視鏡、チューブ、針、ファイバ、カテーテル、パッチ、使い捨てプローブ、フローセル、または使い捨てカートリッジを含む、センシングまたはモニタリングのためのシステムの上、中、または一部としてのセンサとしての、請求項1~11のいずれか一項に記載のバイオセンサデバイスの使用。
【請求項14】
インビトロ診断試験、ポイントオブケア試験、環境試験、食品試験、プロセスモニタリング、プロセス制御、法医学的、生体的、生体医学的および薬学的研究などにおいて、インビボバイオセンシング、エクスビボバイオセンシングもしくはインビトロバイオセンシングで使用するための、または生細胞、組織もしくは器官を用いたアッセイをモニタリングするための、請求項1~11のいずれか一項に記載のバイオセンサデバイス。
【請求項15】
粒子運動を用いて分析物をセンシングするための方法であって、
a)前記分析物を含むマトリックスを請求項1~11のいずれか一項に記載のバイオセンサデバイスと接触させるステップ、および
b)前記分析物の存在、非存在および/または濃度に応じて変化する前記粒子の運動特性を検出するステップを含み、
前記運動特性が、前記表面に対する前記粒子の空間座標パラメータを含む、
方法。
【請求項16】
前記粒子が、
平均有効解離時間で前記第1の状態から前記第2の状態に切り替わるように配置され、
平均有効会合時間で前記第2の状態から前記第1の状態に切り替わるように配置され、
前記粒子の運動特性を検出するステップb)が、前記平均有効解離時間および/または前記平均有効会合時間よりも長い期間にわたって実行される、
請求項15に記載の方法。
【請求項17】
ステップb)において、前記分析物を含む前記マトリックスの流れの方向が連続的または断続的に変更される、
請求項15または16に記載の方法。
【請求項18】
流れの変更が、ランダムな流れ方向の変更、または逆流方向の変更を受ける、
請求項17に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粒子運動を用いて、ある期間にわたって分析物をセンシングするためのバイオセンサデバイスに関する。本発明はさらに、粒子運動を用いて分析物をセンシングするための方法、分析物をセンシングするための方法における、または別のデバイスの上、中、もしくは一部としてのセンサとしての本発明のバイオセンサデバイスの使用に関する。本発明はさらに、インビボバイオセンシング、エクスビボバイオセンシングまたはインビトロバイオセンシングでの使用のための本発明のバイオセンサデバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
化学的または生化学的マーカーのバイオセンサデバイスは、典型的には、試料を採取し(例えば、血液、唾液、尿、粘液、汗または脳脊髄液)、生体外の人工デバイス(例えば、プラスチック使い捨て)に移送するインビトロ診断での使用のために開発されてきた。そのようなバイオセンシングアッセイでは、広範囲の試料前処理ステップ(例えば、分離または希釈ステップ)を適用する場合があり、複数の試薬をアッセイに導入する場合がある(例えば、標的増幅、信号増幅、または洗浄ステップのため)。インビトロバイオセンシングアッセイの例は、イムノアッセイ、核酸試験、電解質および代謝産物の試験、電気化学的アッセイ、酵素活性アッセイ、細胞ベースのアッセイなどである。完全な概要については、Tietz textbook of clinical chemistry and molecular diagnostics(Connell,2012,5th edition)を参照されたい。
【0003】
インビボ生化学的センシングでは、センサシステムの少なくとも一部は、生体、例えば人体、例えば皮膚上、皮膚内、皮膚下、または身体の別の部分の上、中もしくは下に接続されたままであるか、または挿入される。バイオセンサと生体との間の接触のために、インビボ生化学的センシングでは生体適合性に関する高い要件が設定され(例えば、炎症プロセスは最小限に抑えられるべきである)、センサシステムは生体の複雑な環境内で確実に動作すべきである。モニタリング用途では、システムは経時的に2つ以上の測定を実行することができなければならず、システムは堅牢で取り扱いが容易でなければならない。
【0004】
インビボ生化学的センシングの公知の用途は、持続グルコースモニタリング(CGM)である。市販の持続グルコースモニタリングデバイスは、酵素電気化学センシングに基づく(例えば、Heo,Yun Jung,and Shoji Takeuchi;Towards smart tattoos:implantable biosensors for continuous glucose monitoring;Advanced healthcare materials 2(1),2013:pp.43-56を参照されたい)。酵素センシングは、親和性に基づくセンシングよりも一般的ではない。インビボでのグルコースモニタリングのための市販のシステムは、例えば、DexcomおよびMedtronicから入手可能である。
【0005】
センシングおよびモニタリングの分野には多くの用途がある。細胞、多細胞システム、器官、生物などの生体システム、または生体分子に基づくか、または生体分子もしくは細胞を含む他のシステムおよび材料は、例えば小分子、代謝産物、ホルモン、タンパク質、または核酸などの生物有機分子の時間依存性変化によって駆動される最も基本的なレベルの動態を示す。いくつかの用途では、動態を決定的に反映する特定の分子をモニタリングできることが非常に有益であり、その結果、適時の措置をとることができ、変化を管理することができる。生体分子の測定およびモニタリングのためのセンシング技術は、例えば、ヘルスケア、バイオエンジニアリングおよび産業処理の分野において、測定された応答に基づく生体システムの動的変化、およびそのようなシステムの制御の研究を可能にする。センサは、pH、電解質および代謝産物を連続的に測定するために利用可能であるが、低濃度の生体分子を測定するにはまだ利用可能ではない。
【0006】
生体分子および生体分子相互作用を測定するための公知の技術は、テザー粒子運動(TPM)である。TPM技術は、表面につながれた粒子の運動の測定に基づいている。そのようなシステムの例は、Laurensら(Dissecting protein-induced DNA looping dynamics in real time;Nucleic acids research 37(16),2009:pp.5454-5464)によって記載されており、タンパク質がDNA立体配座をどのように変化させるかを明らかにするために、DNAテザーに結合するタンパク質に関するTPM実験が報告されている。そのような研究では、テザーを介する以外の方法で表面に結合された粒子はテザーに関する情報を与えないので、表面への粒子のテザーを介さない結合を回避するための措置がとられる。
【0007】
表面に付着された官能化テザーを有するバイオセンサは、テザーによって付着された粒子の運動が分析物の存在に応じて変化するという原理に基づいて開発されている。運動の変化は、分析物の存在に起因するテザー自体の構造の変化に起因する。分析物の存在に応じた、表面につながれた官能化粒子の運動学的特性を測定することによって分析物を検出する技術もある。これらの技術では、分析物による影響を受けて、立体障害が感度に干渉するので、表面への粒子結合を回避することが重要である。
【0008】
官能化粒子および/または官能化表面を有するTPM技術に基づくさらなるバイオセンサは、例えば、国際公開第2016/096901号の下で公開された国際特許出願に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Tietz textbook of clinical chemistry and molecular diagnostics(Connell,2012,5th edition)
【非特許文献2】Heo,Yun Jung,and Shoji Takeuchi;Towards smart tattoos:implantable biosensors for continuous glucose monitoring;Advanced healthcare materials 2(1),2013:pp.43-56
【非特許文献3】Laurensら(Dissecting protein-induced DNA looping dynamics in real time;Nucleic acids research 37(16),2009:pp.5454-5464)
【発明の概要】
【0011】
当技術分野で記載されているバイオセンサを考慮して、本発明者らは、粒子運動を用いて、ある期間にわたって分析物を連続的、反復的または断続的にセンシングするのに適した新規なバイオセンサデバイスを開発した。本発明は、官能化された表面および粒子を有するバイオセンサデバイスであって、
-上記バイオセンサデバイスが、上記粒子が上記表面に会合している第1の状態と、上記粒子が上記表面に会合していない第2の状態とを有し、
-上記第1の状態と上記第2の状態との間の切り替えが、分析物の存在、非存在および/または濃度に依存し、
それにより、上記粒子の運動特性が、上記分析物の存在、非存在および/または濃度に応じて変化可能であり、それにより、上記表面に対する上記粒子の空間座標パラメータの変化を測定することによって上記分析物のセンシングを可能にする、
バイオセンサデバイスを提供する。これは、粒子および表面の特性が、バイオセンサが表面に対する粒子の空間座標パラメータの変化を測定することができるように、第2の状態において粒子が表面の近傍内にあるように選択される場合に、見出された。「表面の近傍」という語句は、バイオセンサが依然として表面に対する粒子の空間座標パラメータの変化を測定することができる第2の状態における粒子と表面との間の距離を指すことができる。粒子と表面との間のこのような距離はいかなる距離にも限定されず、粒子と表面との間の距離が大きいほど、粒子と表面との間の距離が小さいバイオセンサと比較して、バイオセンサの効率が低下することに留意されたい。好ましくは、第2の状態における粒子と表面との間の距離は、少なくとも5nm、より好ましくは5nm~100μmの範囲内、より好ましくは5nm~10μmの範囲内である。粒子を表面にさらにコンジュゲートさせる必要がないことがわかった。換言すれば、本発明は、分析物の連続的なセンシングのための方法での使用に適した非テザー型バイオセンサデバイスを提供する。
【0012】
粒子が、例えばテザーリンカーを用いて表面に連結されていなくても、本発明のバイオセンサデバイスは、粒子と表面との間の固定テザーなしで連続的な分子バイオセンシングを可能にすることがわかった。すなわち粒子は、例えば重力場に起因する場力に起因して、表面に近接したままである。本発明のバイオセンサデバイスの粒子は、ブラウン運動を示し、粒子が会合状態と非会合状態(「解離状態」とも呼ばれる)との間で切り替わるときに運動が変化する。粒子の運動挙動および会合/解離状態寿命は、溶液中の標的、すなわち分析物の濃度に依存する。
【0013】
本明細書で使用される場合、「コンジュゲート」という用語は、第1の分子の第2の分子への共有結合を指す。また、「コンジュゲート」という用語は、バイオセンサデバイスの一部分とバイオセンサデバイスの別の部分との連結、例えば、リンカーまたはテザーを介したバイオセンサデバイスの粒子とバイオセンサデバイスの表面との架橋を指す。本明細書で使用される場合、「粒子が表面にコンジュゲートされていない」という語句は、非会合状態において、表面に連結されていない自由に移動可能な粒子を指す。
【0014】
本明細書で使用される場合、「バイオセンシング」という用語は、バイオセンサを使用した分析物の同定、試験、特性評価、モニタリング、およびその他の測定を指す。
【0015】
本明細書で使用される場合、「分析物」という用語は、同定、試験、特性評価、モニタリング、または他の方法で測定される物質を指し、分析物は、単一の標的種(例えば、グルコース)の分子、または複数の標的種(例えば、グルコースおよび合成デオキシリボース核酸(DNA))の分子を含むことができる。分析物の例としては、ラテックスビーズ、脂質小胞、全染色体、ナノ粒子、細胞外小胞、リポソーム、ウイルス、細胞、細胞断片、超分子物体、タンパク質凝集体、ならびにタンパク質および核酸を含む生体分子、気体分子(例えば、エチレン)、金属または半導体コロイドおよびクラスタ、数ナノメートル~10nmのサイズ範囲の小分子、代謝産物、ならびに他のそのような化学分子が挙げられる。
【0016】
本明細書で使用される場合、「粒子」という用語は、流体または粘弾性マトリックス中で検出可能な運動を有する物体を指すことができる。流体または粘弾性マトリックスは、しばしば単に流体と呼ばれる。粒子は、例えば、有機材料(例えば、ポリマー、超分子システム、ミセル、ナノソーム)、無機材料(例えば、酸化物、シリカ、金属)、またはそれらの組み合わせからなることができる。これは、異なる内側および外側の形状およびアーキテクチャ(例えば、球形、棒状、中空、星形、気泡、ハイブリッドシステム、マトリックス内部の粒子、凝集体、規則的または不規則的)を有することができる。これは、1nm~15μm、より好ましくは5nm~5μm、より好ましくは10nm~3μmの範囲の短軸を有することができる。
【0017】
本明細書で使用される場合、「表面」という用語は、それに対して粒子の座標パラメータ、例えば位置、距離、並進、変位、角度、向き、回転、並進速度または角速度が測定され得る物体を指すことができる。表面は、例えば、有機材料もしくは無機材料、またはそれらの組み合わせからなることができる。これは、異なる形状(例えば、平坦、湾曲、波形)および異なる内側および外側アーキテクチャ(例えば、固体、多孔性、透過性、層状、可撓性、粘弾性)を有することができる。
【0018】
本発明での使用に適した表面に関して、表面は、平面表面、凹状または凸状構造を有する表面、化学的および/または物理的にパターン化された表面、粒子、ポリマー、多孔質構造、または多孔質マトリックスなどの支持構造であってもよいことに留意されたい。表面は三次元構造であってもよいことが強調される。
【0019】
本明細書で使用される場合、「粒子および表面の特性」という語句は、粒子が第2の状態で粒子と表面との間の距離を例えば5nm~10μmの範囲内で有するようにする粒子、表面および流体のパラメータを指す。例えば、本発明のバイオセンサを提供するのに適切な粒子パラメータは、粒子のサイズおよび粒子の密度を含み得る。例えば、表面パラメータは、音響もしくは磁気もしくは輸送もしくは機械的特性などを有する表面材料または材料もしくは設計の種類の選択を含み得る。また、「粒子および表面の特性」という語句は、粒子、表面、および流体の間の協働、すなわち、例えば重量、音場、流れ、機械的閉じ込めなどによって粒子を表面に閉じ込める方法、ならびに密度、温度、適用された場、機械的設計などの対応する特性を含む。
【0020】
本明細書で使用される場合、「バイオセンサ」という用語は、生化学的試験、生体試験、化学的試験、電気化学的試験などに使用される任意の適切なセンサを指すことができる。
【0021】
本明細書で使用される場合、「表面に会合する」という語句は、非共有結合性の結合または付着を指し、本発明の粒子が、例えば、バイオセンサデバイスの表面に接着、結合、または静電的に付着することを意味する。
【0022】
本発明のバイオセンサデバイスは、様々な量の粒子を含んでもよい。しかしながら、好ましくは、本発明のバイオセンサデバイスは、少なくとも10個の粒子、より好ましくは少なくとも100個の粒子を含み得る。10個を超える粒子、より好ましくは100個を超える粒子を含むバイオセンサデバイスを提供することによって、堅牢で信頼性の高いバイオセンシング方法を実行することができることがわかった。さらに、バイオセンサデバイスは、415×415μm2の領域内に数粒子~数千粒子の密度を含み得ることがわかった。好ましくは、バイオセンサデバイスは、415×415μm2の領域内に100個~100,000個の粒子、より好ましくは500個~20,000個の粒子、さらにより好ましくは415×415μm2の領域内に1,000個~10,000個の粒子の粒子密度を含み得る。粒子が追跡される総面積は、好ましくは100~108μm2、より好ましくは103~107μm2、より好ましくは104~106μm2である。
【0023】
分析物をセンシングするために、バイオセンサデバイスは、回折限界を有する光学システムを備えてもよく、バイオセンサデバイスは、少なくとも光学システムの回折限界によって最も近い粒子から分離された粒子を含む。
【0024】
本発明のバイオセンサデバイスは、結合アッセイ、競合アッセイ、置換アッセイ、サンドイッチアッセイ、酵素アッセイ、標的および/または信号増幅を伴うアッセイ、マルチステップアッセイ、または分子カスケードを伴うアッセイを実施することができる。
【0025】
本明細書で使用される場合、「官能化された」という用語は、不活性粒子および/または不活性表面が特定の活性を有する粒子および/または表面に変換された状態を指す。特に、粒子および/または表面は、抗体、アプタマー、ナノボディ、分子インプリントポリマー、有機分子などの結合部位または結合部分で官能化されてもよい。
【0026】
バイオセンサデバイスの粒子は、粒子に結合された第1の部分によって官能化されてもよい。官能化粒子を有する代わりに、バイオセンサデバイスは、表面に結合された第2の部分によって官能化された官能化表面を含んでもよい。粒子が官能化されたかまたは表面が官能化された第1または第2の部分が使用される場合、使用される部分は分析物に対する結合親和性を有する。そのようなシステムを提供することにより、分析物の存在の立体障害は、粒子を第2の状態(すなわち、粒子-表面非会合状態)に移動させ、分析物の非存在、したがって立体障害の非存在は、粒子を粒子-表面会合状態(すなわち、本発明の第1の状態)に移動させる。
【0027】
本明細書で使用される場合、「結合された」という用語は、例えば化学的カップリングによる共有結合、または例えばイオン相互作用、疎水性相互作用、水素結合などによる非共有結合であり得る結合または付着を指す。共有結合は、例えばエステル、エーテル、ホスホエステル、アミド、ペプチド、イミド、炭素-硫黄結合、炭素-リン結合などであり得る。「結合された(bound)」という用語は、「カップリングされた(coupled)」、「融合された(fused)」、「会合した(associated)」、「連結された(linked)」、および「付着した(attached)」などの用語よりも広く、それらを含む。
【0028】
あるいは、粒子および表面の両方が官能化されてもよく、すなわち、粒子が粒子に結合された第1の部分によって官能化され、表面が表面に結合された第2の部分によって官能化される、本発明のバイオセンサデバイスを提供することができる。本発明のバイオセンサデバイスのこのような構成において、両方の部分が、分析物の存在、非存在または濃度に応じて、互いに結合親和性を有することが好ましい。一方、そのようなバイオセンサデバイスは、分析物の存在下で、官能化粒子がその第1の状態にある、すなわち官能化表面に会合した、分析物バイオセンシング方法を提供することができる。他方、そのようなバイオセンサデバイスは、分析物の非存在下で、官能化粒子がその第1の状態にある、すなわち官能化表面に会合した、分析物バイオセンシング方法を提供することができる。
【0029】
粒子または表面に結合された部分の密度に関して、分析物をバイオセンシングする方法での使用に適したバイオセンサデバイスを提供するために、任意の密度が適し得ると考えられる。そのような表面密度は、好ましくは100~108部分/μm2であり得る。好ましくは、バイオセンサデバイスは、101~107部分/μm2の範囲の部分の密度を有することができ、好ましくは、粒子または表面に結合された部分は、101~107部分/μm2、102~106部分/μm2または103~105部分/μm2の範囲の密度を有する。
【0030】
第1の部分または第2の部分は、タンパク質、抗体、その断片、組換えタンパク質、ペプチド、炭水化物、糖類、分子インプリントポリマー、小分子、核酸、DNA分子、PNA分子、アプタマー、ナノボディ、多価結合剤、またはそれらの組み合わせからなる群から選択され得る。好ましくは、第1の部分または第2の部分は、グルコース、電解質、代謝産物、小分子、生体活性物、毒素、脂質、炭水化物、ペプチド、ホルモン、薬物、薬物代謝産物、タンパク質、オリゴヌクレオチド、DNA、RNA、ナノ粒子、細胞外小胞、エキソソーム、ナノソーム、リポソーム、ウイルス粒子、細胞、細胞断片、超分子物体、またはタンパク質凝集体に対する結合分子からなる群から選択される。
【0031】
本発明のさらなる態様では、本発明は、多重化、好ましくは分析物多重化、空間多重化(例えば、スポット多重化またはチャンバ多重化)、分光多重化、プローブ機能多重化を実行する方法における本発明によるバイオセンサデバイスの使用に関する。さらに、本発明は、例えば、内視鏡、チューブ、針、ファイバ、カテーテル、パッチ、使い捨てプローブ、ウェアラブルデバイス、内部デバイス、フローセル、または使い捨てカートリッジを含み得る、センシングまたはモニタリングのためのシステムの上、中、または一部としてのセンサとしての本発明によるバイオセンサデバイスの使用に関する。
【0032】
本発明の別の態様では、本発明は、インビトロ診断試験、ポイントオブケア試験、環境試験、食品試験、プロセスモニタリング、プロセス制御、法医学的、生体的、生体医学的および薬学的研究などにおいて、インビボバイオセンシング、エクスビボバイオセンシングもしくはインビトロバイオセンシングで使用するための、または生細胞、組織もしくは器官を用いたアッセイをモニタリングするための、本発明によるバイオセンサデバイスに関する。
【0033】
本発明のさらに別の態様では、本発明は、粒子運動を用いて分析物をセンシングするための方法であって、以下のステップ:
a)分析物を含むマトリックスを本発明のバイオセンサデバイスと接触させるステップ、および
b)分析物の存在に応じて変化する粒子の運動特性を検出するステップ
を含み、
運動特性が、表面に対する粒子の空間座標パラメータを含む、
方法に関する。
【0034】
本発明の方法を考慮すると、本発明のバイオセンサデバイスの粒子は、典型的には、第1の状態(すなわち、粒子-表面会合状態)から第2の状態(すなわち、粒子-表面非会合状態)に平均有効解離時間で切り替わるように配置されることに留意されたい。また、本発明のバイオセンサデバイスの粒子は、典型的には、第2の状態から第1の状態に平均有効会合時間で切り替わるように配置される。
【0035】
さらに、分析物を含むマトリックスの流れを制御することにより、バイオセンサ全体にわたって粒子が変位され得る正味の距離が最小限に抑えられることがわかった。したがって、本発明の方法は、ステップb)において、分析物を含むマトリックスの流れの方向が連続的または断続的に変更されるステップをさらに含むことができる。このような流れの変更は、ランダムな流れ方向の変更、または逆流方向の変更を受けてもよい。
【0036】
本明細書で使用される場合、「平均有効解離時間」および「平均有効会合時間」という用語は、粒子が表面から解離し、表面と会合するのにそれぞれ必要な平均時間を指す。換言すれば、それぞれ、完全な粒子-表面非会合状態(すなわち、第2の状態)および粒子-表面会合状態(すなわち、第1の状態)、すなわち任意の種類の会合状態、例えば単一分子結合(一価)または複数分子結合(多価)に達するのに必要な平均時間である。
【0037】
表面との結合状態または非結合状態に達するための粒子の平均有効解離時間および平均有効会合時間を考慮すると、本発明の方法の好ましい実施形態では、粒子の運動特性を検出するステップb)は、平均有効解離時間および/または平均有効会合時間よりも長い期間にわたって実行される。粒子の運動特性の検出が、平均有効解離時間および/または平均有効会合時間よりも長い期間にわたって実行される方法を提供することによって、良好な分析物センシングイベント統計を達成するために、または状態寿命および状態寿命分布の抽出のために、分析物のセンシングに関するイベントを十分に測定することができる堅牢で信頼性の高い方法が提供される。
【0038】
本発明は、単一分子分解能を有するバイオセンサを記載する。単一分子分解能を有するセンサは、レベル、状態、遷移、スイッチまたはイベントとも呼ばれるデジタル特性を有する信号を与える。そのようなデジタル信号は、ポアソン統計の基本法則に従う。これは、例えば、推計学に起因する変動係数が1/平方根(N)でスケーリングできることを意味し、式中、Nは検出されたイベントの平均数である。したがって、検出されたイベントの統計を改善し、変動を低減し、精度を向上させる。
【0039】
最新技術のセンサでは、低濃度は、典型的には、高親和性および/または低解離速度定数(低k_off)を有する結合部分を用いることによって測定される。低い解離速度定数は、遅い非結合特性(分析物の長い結合状態寿命)を意味し、これは、粒子の結合イベントの統計を決定する場合には有益ではない。良好な統計(多数の検出された粒子イベントN)を達成するために、粒子状態寿命は長すぎてはならず、そうでなければ、所与の測定時間幅において不十分なイベントが記録される。
【0040】
本発明の一態様では、(低濃度を測定することができるようにするために)比較的低い解離速度定数を有する結合、および(高いN、すなわち良好な粒子イベント統計の)比較的高い解離速度定数を有する別の結合を有することによって統計を改善することができる。解離速度定数が約3倍異なる場合、最も強い結合剤(最も低い解離速度定数を有する)からの分析物の解離は、最も弱い結合剤(最も高い解離速度定数を有する)からの解離の平均3倍長くかかる。この時間比のために、分析物が最も強い結合剤と会合している時間中にいくつかの粒子結合および非結合イベントが観察され得る(例えば、サンドイッチアッセイにおいて)か、または分析物が最も強い結合剤と会合している時間中にいくつかの粒子結合および非結合イベントが抑制され得る(例えば、競合アッセイにおいて)。例えば、3つの非結合イベントおよび3つの結合イベントを仮定すると、実質的にN=6であり、これにより、変動係数は1/平方根(6)だけ減少する可能性があり、1よりも大幅に低くなる。したがって、解離速度定数間の比率のために、変動は著しく小さく、測定はより正確である。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【
図1】粒子1および表面2の両方が第1の部分3および第2の部分4によって官能化されている本発明のバイオセンサデバイスの概略図を示す。目的の分析物5も、
図1に可視化されている。
図1に示すバイオセンサデバイスは、その第2の解離状態にあり、官能化粒子1は官能化表面2と会合していない。
【
図2】
図2Aは、目的の分析物5のセンシングが、サンドイッチアッセイを使用して測定され、目的の分析物5が、粒子1の第1の部分3と表面2の第2の部分4との間に挟まれ、粒子1を表面2と会合させる(すなわち、本発明の第1の状態)、本発明のバイオセンサデバイスの概略図を示す。
図2Bは、分析物5がバイオセンサによってセンシングされないバイオセンサデバイスの概略図を示す。
【
図3】
図3Aは、競合アッセイを使用して目的の分析物5のセンシングが測定され、粒子1の第1の部分3が表面2の第2の部分4に結合する、本発明のバイオセンサデバイスの概略図を示す。
図3Bは、競合アッセイを使用して目的の分析物5のセンシングが測定され、目的の分析物5が表面2の部分4に結合する、本発明のバイオセンサデバイスの概略図を示す。
【
図4】本発明のバイオセンサデバイスとしての使用に適したフローセルカートリッジの一例を示す。フローセルカートリッジは、入口10と、流路11と、出口12とを備える。
【
図5】125pMのssDNA標的濃度でのオリゴヌクレオチドベースのサンドイッチアッセイにおける、1μmの直径を有する粒子の測定結果を示す。
図5の左側のパネルは、xy軌跡データから再構築された2D運動パターンを示す。
図5の中央のパネルは、経時的な拡散係数を示し、粒子と基質との間の標的誘導性サンドイッチ形成によって引き起こされる自由ブラウン運動および2つの閉じ込められたブラウン運動の事例を示す。非結合状態(粒子が表面に会合していない状態)と結合状態(粒子が表面に会合している状態)とを区別するために、閾値をD=0.1μm
2/sに設定する。
図5の右側のパネルは、非結合状態におけるガウス様分布を示す計算された拡散係数値のヒストグラム、および結合状態の閾値を下回るピークを示す。125pMの標的を有するこの構成(500nMインキュベーション濃度の基質側結合剤および10μMのインキュベーション濃度の粒子側結合剤)では、全粒子の約15%が単一分子結合を示す。これは、250pMの標的濃度で約30%に増加する。測定は、標的(バイオセンサによってセンシングされる分析物)の添加の2分後に開始されたことにさらに留意されたい。
【
図6】1μmの直径の粒子を用いたオリゴヌクレオチドベースのサンドイッチアッセイの様々な拡散係数ヒストグラムを示す。緩衝液(PBS)中、平均Dが約0.25μm
2/sのガウス様曲線が観察される。ssDNA標的分子を添加すると、粒子はサンドイッチ形式で基質に結合することができ、したがって拡散係数は減少する。これは、D<0.15μm
2/sにピークが出現することによってヒストグラムに反映される。ピークの突出は、標的濃度とともに増加する。
【
図7】
図6に示すのと同じ実験データの結合状態寿命生存曲線を示す。グラフは、異なる標的濃度での寿命(x軸、linスケール)およびそれらの生存率(y軸、ログスケール)を示す。すべての結合状態寿命の累積分布関数(CDF)を求め、生存率を1-CDF(グラフ中の点)とする。特徴的な結合状態寿命は、状態寿命生存曲線の二重指数フィッティング(グラフの実線)に基づいて抽出される。第1の指数は、単一分子結合モード(τ
sm)に帰する短い結合状態寿命を表す。この特徴的な寿命は、寿命が親和性結合剤特性のみに依存するので、標的の添加時に比較的一定のままである。第2の指数は、多価結合(τ
mv)に帰する長命の結合状態を表す。この実験で観察された多価結合の画分および特徴的な寿命は、標的濃度の増加とともに増加する。
【
図8】
図6に示すのと同じ実験データの非結合状態寿命生存曲線を示す。グラフは、異なる標的濃度での寿命(x軸、linスケール)およびそれらの生存率(y軸、ログスケール)を示す。結合状態寿命と同様に、特徴的な非結合状態寿命は、状態寿命生存曲線の二重指数フィッティング(グラフの実線)に基づいて抽出される。第1の指数(τ
1)は、非特異的相互作用ならびに測定および分析アーチファクトに帰する短い非結合状態寿命(<10秒)を表し、これらは標的濃度とは無関係である。第2の指数(τ
2)は、分子結合に関連する非結合状態寿命に帰結し、これは、標的濃度に反比例する。標的濃度が増加すると、粒子はより頻繁に基質に結合し、結合イベント間の時間は短くなる。これは、特徴的な非結合状態寿命の減少に反映される。
【
図9】PLL-PEG官能化を用いたssDNAサンドイッチアッセイ実験の略図を示す。ssDNA標的に相補的な11bpを有する粒子側結合剤で粒子を官能化した。DBCOタグ化基質側結合剤を、第2世代クリックケミストリーを使用して、組み込まれたアジド基を介して物理吸着されたPLL-g-PEGポリマーにカップリングした。基質側結合剤とssDNA標的との間の可逆的な9bpハイブリダイゼーションは、粒子の一時的な結合をもたらす。標的の存在下では、粒子は、標的誘導性サンドイッチ結合に起因して表面に結合することができ、非結合状態(左)から単一結合または二重結合状態(右)に切り替わることができる。
【
図10】DNAサンドイッチアッセイを行うためにセンサに順次添加された1pM、10pMおよび100pMの濃度の一本鎖DNA標的の結果を示す。粒子の位置を10分間にわたって60Hzのフレームレートで追跡した。粒子の集合体の拡散係数ヒストグラムを各濃度についてプロットし、標的濃度に依存して非結合状態および結合状態の集団を示した。
【
図11】単一粒子軌跡および対応する拡散係数の発展の例を示す。10pMの濃度の一本鎖DNA標的を添加して、
図9で説明したDNAサンドイッチアッセイを行った。粒子の位置を10分間にわたって追跡し、粒子軌跡(挿入グラフ)を再構築することができる。すべての粒子の拡散係数が時間の関数として計算され、結合/非結合イベントが視野内のすべての粒子について検出される。
【
図12】単一粒子軌跡および対応する拡散係数の発展の例を示す。50pMの濃度の一本鎖DNA標的を
図9に示すシステムに添加し、続いて5分間測定した。これらの例では、粒子は主に単一結合状態と二重結合状態との間で切り替わった。挿入図内の異なるグレースケール色によってマークされた時間幅に対応する、2つの結合状態を有する時間トレースが示されている。粒子は、単一結合状態でパンケーキ様の運動パターンを示し、二重結合状態でストライプ状またはドット状の運動パターンを示す。
【
図13】基質との可逆的分子結合を有する生体官能化粒子の自由長距離拡散運動の測定に基づくモニタリングバイオセンサの基本原理を示す。
図13Aは、粒子側結合剤で官能化された微粒子を示す。粒子は、基質側結合剤で官能化された基質の近傍に拡散する。結合剤は、標的分子に対して特異的親和性を有する。標的誘導性サンドイッチ複合体は可逆的に形成され、粒子を非結合状態と結合状態との間で切り替える。粒子は、非結合状態では自由なブラウン運動を示し、結合状態では閉じ込められたブラウン運動を示す。
図13Aの右側のパネルは、約500μm×500μmの視野内の約500個の粒子の顕微鏡画像を示す。挿入図は、300秒間追跡された粒子のサブセット(n=約25)の再構築された面内軌跡を示す。
図13Bは、オリゴヌクレオチド結合剤および標的を有するサンドイッチシステムの実験データを示す。
図13Bの左列は、溶液中の標的分子の非存在下(上)および存在下(下)における単一粒子の軌跡を示す。下のパネルの黒い点は、標的誘導性サンドイッチ結合によって引き起こされた結合状態を示す。
図13Bの右列は、粒子軌跡から導出された面内変位に基づいて時間の関数として計算された拡散パラメータDを示す。分析物の非存在下(上)では、粒子は、典型的には、自由なブラウン運動を示す。分析物の存在下(下)では、粒子は非結合(灰色)状態から結合(黒色)状態への遷移を示す。帰結した状態遷移は、バイナリステップ関数(上の線)によって示される。
図13Cは、標的濃度に依存して非結合状態(灰色)および結合状態(黒色)の集団を示す約500個の粒子の測定されたDの分布を示す。
【
図14】1μmおよび2.8μmの直径を有する粒子の移動度時間トレースおよび状態寿命を示す。
図14Aは、拡散係数を示す。
図14Dは、非結合状態(灰色)および結合状態(黒色)を示す5分間にわたって測定された値を示す。
図14Bは、パネルAの単一粒子トレースから導出されたDの分布を示し、1μm粒子と2.8μm粒子との差を示す。
図14Cは、数百の粒子のD分布を示す。
図14Dは、同様の生体官能化および標的濃度を有する1μmおよび2.8μmの粒子について、生存曲線としてプロットされた非結合状態寿命の分布を示す。より大きな粒子は、同等の条件のより小さな粒子よりも短い非結合状態寿命を示す。挿入図は、lin-linスケールで同じデータを示す。
図14Eは、ここでは結合状態寿命についてのパネルDにおけるような生存プロットを示す。曲線セグメントは、短命の一価結合および長命の多価結合に帰する。
【
図15】2.8μm粒子を使用したDNAベースのサンドイッチアッセイを示す。
図15Aは、標的濃度に対する依存性を示す特徴的な非結合状態寿命の生存曲線を示す。DNAサンドイッチ標的濃度が増加すると、生存曲線はより急になり(黒矢印)、結合イベント間の時間が短くなることを反映している。
図15Bは、30~500pMの範囲の標的濃度に依存する特徴的な非結合状態寿命(円)を示し、破線は約[T]
-1.6±0.1としてスケーリングする。特徴的な結合状態寿命(三角形)は標的濃度に依存せず、平均13±2秒(破線)である。ブランクおよび15pM標的試料の寿命は報告されていないが、これは、バックグラウンドが低いために、フィッティングされた寿命が測定時間よりもはるかに長いためである。エラーバーは、寿命フィッティングの標準偏差であり、典型的にはシンボルサイズよりも小さい。挿入図は、異なるssDNA結合剤で官能化された2.8μm粒子と組み合わされた、ssDNA結合剤で官能化されたニュートラアビジン基質を示す。ssDNA標的鎖も示されている。
図15Cは、活性をヒルの式でフィッティングして表した用量反応曲線を示し、EC50は65±4pMである。挿入図は、結合画分における応答を示し、EC50は240±40pMである。破線は、ヒルの式にフィッティングしたときの95%の信頼区間を示す。
図15Dは、センサの様々な標的濃度および可逆性の連続的なモニタリングを示す(指数関数的減衰関数でフィッティング、実線)。
図15Dの下のパネルは、経時的に段階的に適用され、続いて緩衝液で洗浄されたサンドイッチ標的濃度を示す。
図15Dの上のパネルは、経時的に測定された切り替え活性が標的濃度の増加とともに増加することを示し、90分以内に可逆性が実証される。センサ機能は、緩衝液による洗浄ステップ後に保持されている。
【
図16】PBSおよび濾過した未希釈血漿におけるssDNA競合アッセイについての、1μm粒子を有するセンサの標的濃度に対する応答を示す。ビオチン-ストレプトアビジン相互作用およびDNAハイブリダイゼーションを介して、1μm粒子を粒子側結合剤で官能化した。DBCOタグ化基質側結合剤を、第2世代クリックケミストリーを使用して、組み込まれたアジド基を介してPLL-g-PEGポリマーにカップリングした。基質側結合剤(ssDNA類似体としても機能する)と粒子結合剤との間の可逆的な9bpハイブリダイゼーションは、粒子の一時的な結合をもたらす。11nt標的の存在下では、粒子側結合剤上の結合領域がブロックされ、結合画分の減少および切り替えイベントの減少を引き起こす。
図16Aは、ヒルの式をフィッティングした、センサ応答曲線、すなわち、結合画分および標的濃度の関数としての切り替え活性を示す。黒色および灰色の曲線は、濃度系列が減少する2つの連続して測定された用量反応曲線を表し、センサの可逆性およびモニタリング用途へのその適合性を実証する。
図16Bは、10~2000nMの範囲の標的濃度に依存する特徴的な非結合状態寿命を示す。
図16Cは、50kDaのスピン濾過したウシ血漿中のssDNA標的について測定した切り替え活性を示す。
図16Dは、濾過したウシ血漿で測定した特徴的な非結合状態寿命および結合状態寿命を示す。
【
図17】抗体サンドイッチイムノアッセイを使用して実証された敗血症バイオマーカーのプロカルシトニン(PCT)を検出するための可逆的センサを示す。データは、2つのセンサデバイスについて示されている。ガラス基質を、物理吸着によって100nM捕捉抗体(c-Ab)で官能化し、続いてPBS中1% BSA(ブロッキング緩衝液)でブロックした。ストレプトアビジン被覆2.8μm Dynabeadsを100nMビオチン化検出抗体(d-Ab)で官能化し、100μMビオチン化PEG(1kDa)でブロッキングし、ブロッキング緩衝液でブロックした。d-Ab官能化微粒子を、0.1% BSAを含むPBS(アッセイ緩衝液)中で66μg/mLに希釈し、c-Ab官能化センサ表面に注入した。分析物PCTをアッセイ緩衝液にスパイクし、30μLの溶液をセンサフローチャンバに注入した。各注入は、センサの活性視野での粒子の損失を最小限に抑えるために、流れ反転、すなわち入口または出口での交互供給で行った。ベースライン結合粒子画分(白抜き記号)に達するように最低3回洗浄するために、PCT測定と同一のアッセイ緩衝液注入によって洗浄を行った。明視野照明下、60Hzで10分間、粒子運動を追跡した。データは、センサのモニタリング機能、すなわちPCT濃度に対するセンサ応答およびセンサの可逆性を明確に示す。
【発明を実施するための形態】
【0042】
粒径の定義
半径Rを有する非結合球形粒子の拡散率は、ストークス-アインシュタインの関係式:
【数1】
によって与えられ、式中、ηは溶液の粘度である。ストークス-アインシュタインの関係式を考慮すると、小さな粒子は大きな粒子よりも高い拡散性を有することに留意されたい。高い拡散性は、粒子と表面との間の衝突または遭遇の速度に有利である。
【0043】
しかしながら、小さな粒子はより速く拡散するので、大きな粒子よりも小さな粒子を正確に追跡することはより困難であることにさらに留意されたい。さらに、大きな粒子はより多くの信号を与え、例えば大きな粒子はより多くの光子を散乱または生成するので、小さな粒子の光学信号は大きな粒子よりも小さい。
【0044】
本発明のバイオセンサにおける粒子と表面との間の距離は、粒子のサイズに依存し得る。
【0045】
粒子は、力Fで表面に向かって引き付けられると仮定する。力は、時間および空間に依存し得るが、ここでは、力は一定であると仮定した(簡単にするため)。ここで、熱エネルギーにより、すべての粒子は異なる粒子位置に分布すると仮定する。熱エネルギーに起因して、粒子は、表面付近領域に、特徴的な減衰長さ(気圧高さに類似して見られ得る):
【数2】
を有する確率分布を有し、式中、k
bはボルツマン定数であり、Tは温度である。力Fは、いくつかの発生源(例えば、重力、音響、磁気、光学、電気、流体機械的)を有することができ、粒子のサイズに依存し得る。
【0046】
重力の場合、粒子の特徴的な減衰長さは浮力によって与えられる。球形粒子を、(簡単にするために)半径Rおよび粒子と溶液との間の有効質量密度差Δρを有すると仮定した。すると:
【数3】
であり、式中、gは重力の加速度である。スケーリング挙動を確認するために、Δρの値を、(簡単にするために)0.8・10
3kg/m
3およびT=293Kと仮定し、次いで、様々な値の粒子半径についてh
bを計算し、以下の値のリストを得た:
-R=0.1μmは、h
b=122μmを与える、
-R=0.5μmは、h
b=0.98μmを与える、および
-R=1.4μmは、h
b=45nmを与える。
【0047】
式3は、小さい粒子の高さの広がりが大きい粒子の高さの広がりよりもはるかに大きいことを示している。高さの広がりが大きいと、粒子と表面との間の平均距離が大きくなり、粒子と表面との間の衝突速度または遭遇速度にとって不利であり、したがって粒子と表面との間の有効な会合速度が妨げられる。
【0048】
質量密度差Δρは、正(すなわち、粒子は溶液よりも重く、粒子はバイオセンシング表面に向かって「沈む」)または負(すなわち、粒子は溶液よりも軽く、粒子はバイオセンシング表面に向かって「浮く」)であり得ることに留意されたい。
【0049】
あるいはまたはさらに、粒子は、機械的手段によって、例えば、粒子が存在し得る高さ空間を制限するか、または粒子と第1の表面との間のアクセス可能な距離範囲を制限する第2の表面によって、表面の近傍に維持され得る。これは、粒子を第1の表面に近接して保ち、粒子が第1の表面から離れすぎるのを妨げる手段として機能することができる。
別の態様では、第2の表面は多孔質であってもよく、その結果、分析物および/または流体は、第2の表面をしみ通るか、または第2の表面を通って粒子を含む領域に浸透および/または粒子を含む領域から浸出することができる。
【0050】
別の態様では、第1の表面は多孔質であってもよく、その結果、分析物および/または流体は、第1の表面をしみ通るか、または第1の表面を通って粒子を含む領域に浸透および/または粒子を含む領域から浸出することができる。
【0051】
大きな粒子は、小さな高さの広がりおよび粒子と表面との間の小さな有効距離を与えることができる(上記参照)。しかし、高さの広がりが小さく、有効距離が小さいと、生体分子相互作用の可逆性も妨げられ、解離速度が低下する可能性がある。大きな粒子は、立体障害を与え、会合および解離プロセス、すなわち本発明のバイオセンサデバイスシステムのその第1の状態からその第2の状態への切り替え、およびその逆の切り替えを遅くする可能性がある。さらに、大きな粒子は、たとえ粒子および表面にブロッキングコーティングおよび防汚コーティングが施されたとしても、不可逆的な膠着を含む粒子と表面との間の非特異的相互作用を与える可能性がある。
【0052】
直径1μmの粒子を用いたバイオセンサデバイス
1μmまたは2.8μmのいずれかの直径を有する粒子を含むバイオセンサデバイスを調製した。ストレプトアビジン被覆1μm粒子(Dynabeads MyOne C1)を用いて2種類のバイオセンサデバイスを調製し、10μM粒子結合剤ビオチン-オリゴ(配列番号1)をストレプトアビジンを介して粒子にカップリングさせた。粒子の残りの部分を、100μMの1kDa PEG-ビオチンおよび1% BSAを使用してブロックした。
【0053】
表面(バイオセンサデバイスA)は、100μg/mLのニュートラアビジン(物理吸着)と、ニュートラアビジンを介して表面にカップリングした500nM表面ビオチン-オリゴ(配列番号4)とを含むガラス基質を使用し、ビオチン-オリゴを介して表面にカップリングした検出オリゴ分子(配列番号3)を使用して調製した。表面の残りの部分を、100μMの1kDa PEG-ビオチンおよび1% BSAを使用してブロックした。
【0054】
あるいは、別の表面(バイオセンサデバイスB)を、PLL-g-PEGおよびクリックカップリングしたビオチン-オリゴをガラス基質上に使用して調製した。
【0055】
測定チャンバを有するフローセルカートリッジを、両面接着層と、流体入口および出口を有するトッププレートとを使用して構築した。フローセル内の流体を交換することによって、すなわち異なる分析物濃度を有する溶液を連続して挿入することによって、データを収集した。流体は、ピペットを使用して手動で挿入した。実験における流速は、典型的には1~300マイクロリットル毎分程度であった。
【0056】
標的として、配列番号2を有する分析物を使用した。
【0057】
【0058】
DNAサンドイッチおよび競合アッセイの結果
バイオセンサデバイスAのデータは、拡散係数ヒストグラムおよび測定された状態寿命が、フローセルに供給された分析物濃度に依存することを示している。会合状態と解離状態との間で可逆的な切り替えが観察されたため、状態寿命を抽出することができた。状態寿命は短命状態および長命状態を示し、これは異なる種類、例えば異なる価数の相互作用に帰する可能性がある。
【0059】
バイオセンサデバイスBの例は、フローセルに供給された分析物濃度の関数としての測定された拡散係数ヒストグラムを示し、10pM濃度の運動トレース(遊離、単一結合および複数結合の状態が見える)および50pM濃度の運動トレース(単一結合および複数結合の状態が見える)である。
【0060】
本発明のバイオセンサによって提供される洞察
実験のデータは、以下を示す:
-粒子追跡は、バイオセンサデバイスの粒子の会合状態および解離状態の明確な検出を用いて、十分に長い期間にわたって十分な精度で可能である
-会合および非会合状態寿命分布の統計分析は、高い感度で標的濃度(ピコモル範囲)への依存性を示す、および
-会合および非会合状態寿命の分布は、異なる状態(例えば、非結合状態、一価結合を有する状態、多価結合を有する状態)間の遷移に対して、複数の特徴的な寿命(多次指数フィッティングを参照されたい)および対応する集団画分を示し、すべてが標的濃度依存性を示す。
【0061】
異なる状態(非結合、一価結合、多価結合など)の観察により、異なる遷移速度および状態寿命を測定することができ、これらは粒子および表面に捕捉された標的の量に依存し、したがって溶液中の標的の濃度に依存する。例えば、粒子が一価結合状態または単一分子結合で観察される場合、さらなる結合が形成され得る。これにより、第1の結合および追加の結合の形成に対応する寿命および遷移速度が得られ、これらは濃度に依存するが、大きさは異なる。これは、バイオセンシング性能を改善するために抽出および使用することができる複数のパラメータをもたらす。
【0062】
バイオセンサの重要なバイオセンシング性能の側面は、例えば、感度、特異性、速度、可逆性、精度、正確性、ダイナミックレンジ、堅牢性、安定性、多重化である。
【0063】
さらに、異なる状態(例えば、単一および複数結合の状態)に対して測定された寿命は、分子の親和性に関する情報、例えば、会合速度、解離速度および平衡結合定数を与え、これを使用して分子の特性を特徴付けることができる。
【0064】
さらに、フローセルを充填して測定を開始した後、粒子の乱れを最小限にしてフローセル内で流体を交換できることが測定で観察された。したがって、固定テザーのない粒子移動度アッセイを、連続的なバイオマーカーモニタリングに使用することができる。可逆的相互作用のために、分析物濃度の増加および減少に従うことができる。
【0065】
さらに、フローセル内の流れの方向を変更することは、変位を補償し、粒子が変位する正味の距離を最小にするのを助けることができ、これは、粒子の損失を最小にし、長時間にわたる長い測定シーケンスおよび測定を可能にする。
【0066】
非結合状態の粒子と表面との間の距離に関して、好ましい距離は5nm~10μmの範囲内である。下限(5nm)は、典型的には数ナノメートルの長さスケールで作用する分子および可逆的生体分子相互作用が使用され、非結合状態を達成することができるように、粒子と表面との間に十分な空間が必要であるという事実によって決定される。上限(10μm)は、非結合状態から結合状態への十分な遷移が観察され得るように、有効な会合速度を達成するために、粒子と表面との間に十分に高い衝突速度が必要であるという事実によって決定される。
【0067】
固定テザーを有しないアッセイの利点(固定テザーを有するアッセイに対して):
-テザリングが不要であるため、化学およびセンサ製造に伴う試薬および処理ステップが少ない、
-固定テザーが存在しないため、センサはテザー安定性に依存せず、テザー劣化の影響も受けない、
-固定テザーが存在しないため、分子構成要素が少なく、したがって物理化学的制約が少なく、物理化学的および(生体)化学的操作の窓がより大きく、例えば、より多様な緩衝液を使用することができる可能性があり、より広い温度範囲を適用することができる可能性があるなどである、
-固定テザーを有しないセンサは、調製がより容易であるため、アッセイの開発、反応および調製条件のスクリーニング、ならびに技術開発をより迅速に進めることができる、その後、得られた技術的知識は、固定テザーを有するセンサの開発にも適用することができる、
-センサの調製に必要な粒子が少ない(テザリングプロセスは通常、効率が低い)、
-粒子が回転拡散の自由度を有するため、粒子のすべての面で相互作用が発生する可能性があり(固定テザーでは、相互作用領域はテザー付着点の周りの領域に制限される)、これにより、動態度および感度を改善することができ、さらに、これにより、粒子あたりの相互作用面積が大きい(粒子上の物理的および化学的不均一性に対する感度が低い)ため、ばらつきを低減し、精度を高めることができる、
-粒子が並進拡散の自由度を有するため、大きな表面領域にわたって会合を検出することができ(固定テザーでは、相互作用領域はテザー付着点の周りの領域に制限される)、これにより、動態度および感度を改善することができ、ばらつきを低減することができる、
-粒子と表面との間の距離を広範囲にわたって調整することができ、そのため、大きな分析物、例えばナノ粒子、細胞外小胞、エキソソーム、ナノソーム、リポソーム、ウイルス粒子、細胞、細胞断片、超分子物体、タンパク質凝集体も測定することができる(固定された短いテザーは、粒子と表面との間の大きな分析物の捕捉を立体的に妨げ得る)、
-粒子の大きな変位に起因して、非会合状態を容易に検出することができる、
-センサは、流体を加えることによってセンサを作動させて直接使用することができるように、乾燥状態の粒子を用いて(例えば、溶解性マトリックス中で)調製することができる(これは固定テザーの場合にはより複雑である)、および
-粒子を含む溶液を供給することによって、新しい粒子をセンシングチャンバに追加することができ、これにより、例えばカートリッジ測定寿命を改善することができる(以下を参照)。
【0068】
本発明の他の態様
本発明のバイオセンサは、複数の構成要素、例えば、目的のシステム(例えば、生体システム、環境システム(例えば、川、池、海、湖、水源)、チャネル、パイプ、プール、ウェル、排気、プロセス、反応器、発酵槽、フロー、生物、リザーバ、患者、動物、オルガノイド)から分析物をサンプリングするための構成要素、試料を前処理(例えば、希釈、濾過、加熱、酵素処理、分離)するための構成要素、試料をセンシング粒子に導くための構成要素、粒子を照明するための構成要素、粒子から放射線を収集するための構成要素、粒子を撮像するための構成要素、異なる時点での粒子の空間座標パラメータを決定するための構成要素、粒子の変位または並進または回転または運動パラメータを決定するための構成要素、粒子の時間トレースにおける状態および結合および非結合イベントを決定するための構成要素、パラメータのヒストグラムおよび分布を処理するための構成要素、処理されたパラメータ(例えば、振幅、状態、拡散率、拡散定数、寿命、速度、分布の母集団、部分占有、切り替え活性、イベント周波数、時間遅延)を分析パラメータ(例えば、濃度、精度、正確性、時間プロファイル)に変換するための構成要素、分析パラメータを制御動作(例えば、警告信号または閉ループ制御パラメータ)に変換するための構成要素、システム(例えば、ソフトウェアを有するコンピュータ)内の異なる構成要素を制御するための構成要素、または外部構成要素(例えば、より大きな制御システム、データベース、インターネットシステム、情報システムまたはクラウドシステム)と通信するための構成要素を含み得るシステムである。
【0069】
本発明のバイオセンサは、リーダシステム(例えば、光学部品、データおよび信号処理のための構成部品、インターフェースおよびデータ通信のための構成部品)、流体システム(例えば、流体または粒子を運動させるための方法、ポンプ、負圧または過圧を加えるための方法、希釈をもたらすための方法、混合をもたらすための方法、ベント、チューブ、バルブ、フィルタ、スイッチ、流量センサ、圧力センサ、ガスセンサ、ガス取り扱い方法、脱気ユニット、流量調整器、圧力調整器)、またはカートリッジもしくは別の容器デバイス(例えば、開口部、コネクタ、入口、出口、ウェル、チャネル、測定面、測定チャンバ、アライメントマーク、識別マーク、IDタグ)を含むことができる。システムは、試薬(例えば、緩衝液、粒子、前処理試薬)または流体の収集のための容器(例えば、廃棄物リザーバ)を有することができる。センサシステムは、湿潤試薬または乾燥試薬(例えば、乾燥または凍結乾燥)を含むことができる。
【0070】
別の態様では、いくつかの流体輸送または粒子輸送または分子輸送または分析物輸送アーキテクチャ、例えば、面内輸送、面外輸送、クロスフロー輸送、対流、移流、拡散を使用することができる。センサデバイスの別の態様では、センサ粒子は、第1の表面の付近に配置されてもよく、流体輸送または分子輸送または分析物輸送は、表面に対して異なる方向、例えば表面に沿った方向および/または表面に垂直な方向にあり、これは、表面を通る輸送を含む。別の態様では、粒子は、第1の表面と第2の表面との間に配置されてもよく、流体、分子または分析物の輸送は、異なる方向、例えば異なる表面に沿って、または異なる表面を通って起こり得る。表面は、粒子と表面との間の結合を達成するために生体官能化され得る。
【0071】
カートリッジおよび他の構成要素は、パターニング技術(例えば、リソグラフィ、接触焼付け、マイクロコンタクト印刷、非接触印刷、自己組織化)、付加製造(例えば、3D印刷)、接合(例えば、糊付け、溶接、接着剤、接着テープ)、組立て、積層、自動配置、成形、オーバーモールド、ドロップキャスティング、硬化(例えば、光学式、熱式)によって製造することができる。他の可能な製造技術は、例えば、バイオパターニング、バイオ堆積、バイオコンジュゲーション、物理吸着、乾燥、凍結乾燥、照射、滅菌、包装、密封である。
【0072】
化学的、生化学的または物理的手段によって試料または試料流を調整することにより、例えば、pH、温度、溶液の質量密度(これは、例えば、式3のΔρに関連する)、溶液の組成(例えば、妨害分子または細胞凝集体の非存在)などを安定化することによって、センサの分析性能を改善することができる。
【0073】
粒子の検出および追跡は、放射線、波、電磁原理、音響、散乱、蛍光、吸光度、干渉、プラズモンセンシング、分光センシング、撮像などを含み得る。検出は、個々の粒子の信頼性の高い追跡を可能にし得る。
【0074】
別の態様では、光学検出方法が使用される場合、カートリッジおよび光学部品は、光学的に透明な材料、例えばガラスまたはポリマーを含んでもよい。
【0075】
別の態様では、座標パラメータ(例えば、いくつかの光学追跡方法の場合の焦点深度)を追跡するための方法の高さ公差は、粒子の高さ変動に適合することが好ましく(例えば、式2を参照)、その結果、信頼性の高い追跡アルゴリズムを開発することができ、したがって、高さ変動に起因して粒子の追跡を失う確率は、他の誤差源に対して許容可能である。
【0076】
例えば、粒子を追跡することができる時間量が、粒子がある状態にあるか別の状態にあるかを決定するのに必要な時間よりも長い場合、粒子の状態は、精度および/または正確性を有して決定することができる。例えば、粒子を追跡することができる時間量が、有効空間座標パラメータまたは運動パラメータを決定するのに必要な時間よりも長い場合、有効空間座標パラメータまたは運動パラメータは、精度および/または正確性を有して決定することができる。例えば、表面と相互作用する粒子の十分に高い画分が追跡される場合、結合画分、非結合画分および/または結合対非結合比は、精度および/または正確性を有して決定することができる。例えば、粒子を追跡することができる時間量が粒子の特徴的な状態寿命よりも長い場合、特徴的な状態寿命は、精度および/または正確性を有して決定することができる。
【0077】
本発明のバイオセンサは、例えば、流体に貯蔵された粒子、または測定チャンバ内の機能をセンシングするために湿潤時に分散され活性化された溶解性マトリックス内に貯蔵された粒子を組み込むことによって、即時使用、迅速使用、またはプラグアンドプレイのために調製され得る。
【0078】
本発明のバイオセンサは、様々な結合剤、例えば分子、分子構築物、および材料、例えば、オリゴヌクレオチド、タンパク質、ペプチド、ポリマー、アプタマー、小分子、糖、分子インプリントポリマーなどと共に使用することができる。
【0079】
システムにおける会合および解離状態寿命は、例えば、結合剤、結合剤密度、ブロッキング法、緩衝液条件などの選択によって調整することができる。
【0080】
個々の粒子の平均追跡時間が粒子の平均会合状態寿命および/または平均解離状態寿命よりも長い場合、粒子ごとに複数の(非)結合イベントを測定することができる。これは、統計および導出されたパラメータの精度にとって有利である。
【0081】
本発明のバイオセンサは、例えば、流体機械的抗力(例えば、流れパルス)、界面張力(例えば、気体/液体界面、気泡)、場力(例えば、磁場、音響力、光学場)、熱励起、または別方向もしくはランダムな力を粒子または流体に加えることによって、センサから粒子を解離または除去するための構成要素および方法を含むことができる。本発明のバイオセンサはまた、例えば分散粒子を含有する流体を測定チャンバ内に流すことによって、または粒子もしくは流体に対する別の力によって、粒子を供給または添加するための構成要素または方法を含むことができる。除去および/または追加は、センサを最適化するため、またはセンサをリセット、再生、再起動もしくはリフレッシュするために役立ち得る。
【0082】
粒子を除去することは、粒子がもはやセンシングに適していない場合、例えば不活性、非応答性、静的または飽和になった場合に役立ち得る。粒子を追加または置換することは、例えば、異なる分析物を連続的に測定するため、または異なる時点で同じ分析物を連続的にセンシングするため(特に緩和時間が長い場合に関連する)、または異なる応答特性(例えば、異なる感度または特異性)を有する粒子で同じ分析物をセンシングするために、良好なセンシング特性または異なるセンシング特性を有する粒子を供給するのに役立ち得る。
【0083】
本発明のバイオセンサは、混合されたセンシング粒子、例えば、固定テザーを有する粒子および固定テザーを有しない粒子、または異なる光学特性および/またはセンシング特性(例えば、多重化)を有する粒子を有し得る。
【0084】
本発明のバイオセンサは、親和性パラメータおよび親和性パラメータの分布、分子の分布および/または粒子-表面の組み合わせの分布を測定するために使用することができる。
【0085】
本発明のバイオセンサは、連続モニタリング、断続試験、ならびにエンドポイント測定、例えば、必要な時点での使用または実験室環境での使用のために使用することができる。
本発明のバイオセンサは、例えば、工業プロセスモニタリング、ライフサイエンス用途、医療用途、発酵、バイオリアクタ、患者ケア、臨床試験、薬学的用途、環境モニタリング、現場での試験、家庭環境でのモニタリング、地球外試験、空気質モニタリング、蒸気試験、呼気液試験、水モニタリング、化学モニタリング、閉ループ制御、リアルタイムモニタリング、早期警告システムなどに使用することができる。
【0086】
さらなる情報
本発明のデバイスまたは方法のさらなる実施形態では、バイオセンサは、目的のシステムと直接接触していなくてもよく、または目的のシステムと直接接触していてもよい。あるいは、バイオセンサは、目的のシステムに埋め込まれてもよく、また組み込まれてもよく、または植え付けられてもよい。バイオセンサは、目的のシステムから離れて配置することができる。しかしながら、バイオセンサは、目的のシステムの近くに、システムの上に、無線で組み込まれるなどして、配置されてもよい。試料を容器に入れ、次いでバイオセンシングシステムに輸送することができ(アットラインまたはオフライン操作と呼ばれることもある)、試料を採取してバイオセンシングシステムに自動的に輸送することができ(オンライン操作と呼ばれることもある)、またはバイオセンシングシステムを目的のシステムに完全に組み込むことができる(インライン操作またはバイパス操作と呼ばれることもある)。
【0087】
本発明のさらなる実施形態では、デバイスまたは方法は、産業システムまたはプロセス、発酵槽、バイオリアクタ、オンボディデバイス、カテーテル、インボディデバイス、ウェアラブルデバイス、または内部デバイスに接続または組み込まれてもよい。
【0088】
モニタリング機能を有するバイオセンシングシステムでは、時間依存性試料を採取することができ、測定データを記録することができ、時間の関数として分析物濃度の時間プロファイルを確立することができる。また、バイオセンサは、一連の試料を(同じまたは異なる供給源から)受け取るように構成されてもよく、一連の試料は、バイオセンサ上で連続的に測定され、バイオセンサに供給された異なる試料に関する時間依存性データをもたらす。
【0089】
本発明のさらなる実施形態では、デバイスまたは方法を、試料前処理または分析物前処理、例えば試薬の添加、希釈、濾過、抽出、濃縮、精製、分離、増幅、緩衝液条件の変更、安定化、(脱)凝集、または化学基もしくは生化学的ドメインもしくは残基もしくは部分の除去、修飾もしくは添加のための方法またはデバイスモジュールと組み合わせることができる。
【0090】
本発明のさらなる実施形態では、デバイスまたは方法は、例えば、温度、湿度、圧力、光条件、振動条件、音条件、無菌性、衛生、侵入保護、洗浄、部品交換、容易なメンテナンス、較正などの動作の最適化または制御のための方法またはデバイスモジュールと組み合わせることができる。
【配列表】
【国際調査報告】