(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-09-14
(54)【発明の名称】抗VEGF-抗PD-L1二重特異性抗体、その医薬組成物およびその使用
(51)【国際特許分類】
C12N 15/62 20060101AFI20230907BHJP
C12N 15/13 20060101ALI20230907BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20230907BHJP
C07K 16/46 20060101ALI20230907BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20230907BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20230907BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20230907BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20230907BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20230907BHJP
A61K 47/68 20170101ALI20230907BHJP
A61P 1/00 20060101ALI20230907BHJP
A61P 1/16 20060101ALI20230907BHJP
A61P 13/12 20060101ALI20230907BHJP
A61P 15/00 20060101ALI20230907BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20230907BHJP
G01N 33/53 20060101ALI20230907BHJP
【FI】
C12N15/62 Z
C12N15/13 ZNA
C12N15/63 Z
C07K16/46
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
A61K39/395 N
A61K47/68
A61P1/00
A61P1/16
A61P13/12
A61P15/00
A61P35/00
G01N33/53 D
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023513787
(86)(22)【出願日】2021-08-30
(85)【翻訳文提出日】2023-04-25
(86)【国際出願番号】 CN2021115308
(87)【国際公開番号】W WO2022042719
(87)【国際公開日】2022-03-03
(31)【優先権主張番号】202010897917.1
(32)【優先日】2020-08-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】521530738
【氏名又は名称】普米斯生物技術(珠海)有限公司
【氏名又は名称原語表記】BIOTHEUS INC.
【住所又は居所原語表記】10B, BUILDING 4, NO 1 KEJI 7TH ROAD, TANGJIAWAN TOWN, XIANGZHOU DISTRICT, ZHUHAI, GUANGDONG 519080, PEOPLE’S REPUBLIC OF CHINA
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】▲ミアオ▼ 小 牛
(72)【発明者】
【氏名】陳 乗
(72)【発明者】
【氏名】袁 志 軍
(72)【発明者】
【氏名】黄 威 峰
(72)【発明者】
【氏名】ツン,アンディ
(72)【発明者】
【氏名】孫 左 宇
【テーマコード(参考)】
4B065
4C076
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4B065AA90X
4B065AA90Y
4B065AB01
4B065BA02
4B065CA25
4B065CA44
4C076AA95
4C076CC27
4C076CC41
4C076EE59
4C085AA13
4C085AA14
4C085AA16
4C085BB11
4C085DD62
4C085EE01
4H045AA10
4H045AA11
4H045AA30
4H045BA41
4H045BA72
4H045DA76
4H045EA20
4H045FA74
4H045GA26
(57)【要約】
本発明は、生物医学の分野に関し、具体的には、抗VEGF-抗PD-L1二重特異性抗体、その医薬組成物、およびその使用に関する。具体的には、本発明は、VEGFを標的とする第1のタンパク質機能性領域およびPD-L1を標的とする第2のタンパク質機能性領域を含み、第1のタンパク質機能性領域が抗VEGF抗体もしくはその抗原結合性断片であるか、または、第1のタンパク質機能性領域がVEGF受容体もしくはVEGF受容体機能を有する断片を含み、第2のタンパク質機能性領域が抗PD-L1モノクローナル抗体である、二重特異性抗体に関する。本発明の二重特異性抗体は、免疫系の活性化および腫瘍の血管新生の遮断を同時に行うことができ、抗腫瘍の大いなる見通しがもたらされる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
VEGFを標的とする第1のタンパク質機能性領域、および
PD-L1を標的とする第2のタンパク質機能性領域
を含む二重特異性抗体であって;
前記第1のタンパク質機能性領域が、抗VEGF抗体もしくはその抗原結合性断片であるか、または、前記第1のタンパク質機能性領域が、VEGF受容体もしくはVEGF受容体機能を有する断片を含み;
前記第2のタンパク質機能性領域が、抗PD-L1シングルドメイン抗体である、二重特異性抗体。
【請求項2】
前記抗VEGF抗体が、配列番号21に記載のアミノ酸配列を有するHCDR1、配列番号22に記載のアミノ酸配列を有するHCDR2、および配列番号23に記載のアミノ酸配列を有するHCDR3を含む重鎖可変領域を有するか;
または、前記抗VEGF抗体が、配列番号27に記載のアミノ酸配列を有するHCDR1、配列番号22に記載のアミノ酸配列を有するHCDR2、および配列番号28に記載のアミノ酸配列を有するHCDR3を含む重鎖可変領域を有し;
前記抗VEGF抗体が、配列番号24に記載のアミノ酸配列を有するLCDR1、配列番号25に記載のアミノ酸配列を有するLCDR2、および配列番号26に記載のアミノ酸配列を有するLCDR3を含む軽鎖可変領域を有する、請求項1に記載の二重特異性抗体。
【請求項3】
前記抗PD-L1シングルドメイン抗体が重鎖可変領域を含み、前記重鎖可変領域が、配列番号29に記載のアミノ酸配列を有するHCDR1、配列番号30に記載のアミノ酸配列を有するHCDR2、および配列番号31に記載のアミノ酸配列を有するHCDR3を含み;
好ましくは、前記抗PD-L1シングルドメイン抗体が、配列番号5に記載のアミノ酸配列を有する、請求項1~2のいずれか1項に記載の二重特異性抗体。
【請求項4】
前記抗VEGF抗体が、配列番号3に記載のアミノ酸配列を有する重鎖可変領域、および配列番号9に記載のアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域を有するか;または
前記抗VEGF抗体が、配列番号13に記載のアミノ酸配列を有する重鎖可変領域、および配列番号15に記載のアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域を有する、請求項1~3のいずれか1項に記載の二重特異性抗体。
【請求項5】
前記抗VEGF抗体、またはその抗原結合性断片が、Fab、Fab’、F(ab’)
2、Fd、Fv、dAb、相補性決定領域断片、一本鎖抗体、ヒト化抗体、キメラ抗体および二重抗体からなる群から選択される、請求項1~4のいずれか1項に記載の二重特異性抗体。
【請求項6】
前記抗VEGF抗体が、ヒト抗体に由来する定常領域を有し;
好ましくは、前記定常領域が、ヒトIgG1、IgG2、IgG3およびIgG4の定常領域からなる群から選択される、請求項1~5のいずれか1項に記載の二重特異性抗体。
【請求項7】
前記抗VEGF抗体が、ヒトIgガンマ-1鎖C領域またはヒトIgガンマ-4鎖C領域である重鎖定常領域を有し、ヒトIgカッパ鎖C領域である軽鎖定常領域を有し;
好ましくは、前記抗VEGF抗体が、配列番号10に記載のアミノ酸配列を有する軽鎖定常領域を有し;
好ましくは、前記抗VEGF抗体が、配列番号8または配列番号14に記載のアミノ酸配列を有する軽鎖を有する、請求項1~6のいずれか1項に記載の二重特異性抗体。
【請求項8】
前記抗VEGF抗体が、EU番号付けシステムに従って、L234A変異およびL235A変異をさらに含み;任意に、G237A変異をさらに含む、重鎖定常領域を有し;
好ましくは、前記抗VEGF抗体が、配列番号4に記載のアミノ酸配列を有する重鎖定常領域を有する、請求項1~7のいずれか1項に記載の二重特異性抗体。
【請求項9】
前記VEGFがVEGF-Aであり;
前記VEGF受容体がVEGFR1および/またはVEGFR2である、請求項1~8のいずれか1項に記載の二重特異性抗体。
【請求項10】
前記シングルドメイン抗体が、前記第1のタンパク質機能性領域のC末端またはN末端にライゲーションされており、例えば、前記シングルドメイン抗体の数が2であり、各シングルドメイン抗体の一端が、前記抗VEGF抗体の2つの重鎖のC末端もしくはN末端にライゲーションされるか、または前記VEGF受容体もしくはVEGF受容体機能を有する前記断片のC末端もしくはN末端にライゲーションされ;
前記シングルドメイン抗体が、直接、または連結断片を介して、前記第1のタンパク質機能性領域にライゲーションされ;
好ましくは、前記連結断片が、配列番号6および配列番号7から独立して選択されるアミノ酸配列を有し;
好ましくは、前記シングルドメイン抗体を前記第1のタンパク質機能性領域に連結することによって得られるペプチド鎖が、配列番号1、配列番号2、配列番号11または配列番号12に記載のアミノ酸配列を有する、請求項1~9のいずれか1項に記載の二重特異性抗体。
【請求項11】
前記第1のタンパク質機能性領域が、VEGF受容体またはVEGF受容体機能を有する断片、およびIgG1のFcセグメントを含み;
好ましくは、VEGF受容体機能を有する前記断片が、配列番号17に記載のアミノ酸配列を有し;
好ましくは、IgG1の前記Fcセグメントが、EU番号付けシステムに従って、L234A変異およびL235A変異を含み;
好ましくは、IgG1の前記Fcセグメントが、配列番号18に記載のアミノ酸配列を有する、請求項1~10のいずれか1項に記載の二重特異性抗体。
【請求項12】
前記第1のタンパク質機能性領域がVEGF受容体またはVEGF受容体機能を有する断片である場合、前記二重特異性抗体が二量体であり;好ましくは、配列番号16または配列番号19に記載のアミノ酸配列を有するポリペプチドの二量体である、請求項1~11のいずれか1項に記載の二重特異性抗体。
【請求項13】
請求項1~12のいずれか1項に記載の二重特異性抗体をコードする、単離された核酸分子。
【請求項14】
請求項13に記載の単離された核酸分子を含むベクター。
【請求項15】
請求項13に記載の単離された核酸分子、または請求項14に記載のベクターを含む宿主細胞。
【請求項16】
請求項1~12のいずれか1項に記載の二重特異性抗体を調製する方法であって、請求項15に記載の宿主細胞を適切な条件下で培養するステップ、および前記細胞培養物から前記二重特異性抗体を回収するステップを含む、方法。
【請求項17】
二重特異性抗体およびカップリング部分を含むコンジュゲートであって、前記二重特異性抗体が、請求項1~12のいずれか1項に記載の二重特異性抗体であり、前記カップリング部分が検出可能な標識であり、好ましくは、前記カップリング部分が放射性同位体、蛍光物質、発光物質、有色物質、または酵素である、コンジュゲート。
【請求項18】
請求項1~12のいずれか1項に記載の二重特異性抗体、または請求項17に記載のコンジュゲートを含む、キットであって;
好ましくは、前記キットが、前記二重特異性抗体に特異的に結合することができる第2の抗体をさらに含み、任意に、前記第2の抗体が、放射性同位体、蛍光物質、発光物質、有色物質または酵素等の検出可能な標識をさらに含む、キット。
【請求項19】
試料中のVEGFおよび/またはPD-L1の存在またはレベルを検出するためのキットの製造における、請求項1~12のいずれか1項に記載の二重特異性抗体の使用。
【請求項20】
請求項1~12のいずれか1項に記載の二重特異性抗体または請求項17に記載のコンジュゲートを含み、任意に、薬学的に許容される賦形剤をさらに含む、医薬組成物。
【請求項21】
悪性腫瘍の予防および/または治療のための医薬の製造における、請求項1~12のいずれか1項に記載の二重特異性抗体または請求項17に記載のコンジュゲートの使用であって;好ましくは、前記悪性腫瘍が、黒色腫、肝臓がん、胃がん、腎細胞癌、卵巣がん、結腸がん、乳がん、食道がんおよび頭頸部がんからなる群から選択される、使用。
【請求項22】
悪性腫瘍を治療および/または予防する方法であって、有効量の請求項1~12のいずれか1項に記載の二重特異性抗体または請求項17に記載のコンジュゲートを、それを必要とする対象に投与するステップを含み;好ましくは、前記悪性腫瘍が、黒色腫、肝臓がん、胃がん、腎細胞癌、卵巣がん、結腸がん、乳がん、食道がんおよび頭頸部がんからなる群から選択される、方法。
【請求項23】
悪性腫瘍の治療および/または予防に使用される、請求項1~12のいずれか1項に記載の二重特異性抗体または請求項17に記載のコンジュゲートであって;好ましくは、前記悪性腫瘍が、黒色腫、肝臓がん、胃がん、腎細胞癌、卵巣がん、結腸がん、乳がん、食道がんおよび頭頸部がんからなる群から選択される、二重特異性抗体またはコンジュゲート。
【請求項24】
(a)抗PD-L1シングルドメイン抗体;および
(b)抗VEGF抗体またはエレメント
を含むことを特徴とする、二重特異性抗体。
【請求項25】
前記二重特異性抗体が、式Iおよび式II
A1-L1-CH-L2-B(式I)
A2-L3-CL(式II)
に示される構造を有するポリペプチドを含むことを特徴とし、
式中、
A1は、前記抗VEGF抗体の重鎖可変領域VHを表し;
A2は、前記抗VEGF抗体の軽鎖可変領域VLを表し;
Bは、前記抗PD-L1シングルドメイン抗体を表し;
L1、L2およびL3は、それぞれ独立して、存在しないか、または連結エレメントであり;
CHは、ヒトIgG重鎖定常領域CH(好ましくはLALA変異体)を表し;
CLは、ヒトκ軽鎖定常領域CLを表し;
「-」は、ペプチド結合を表し;
式Iで表される前記ポリペプチドおよび式IIで表される前記ポリペプチドが、ジスルフィド結合相互作用を介してヘテロ二量体を形成する、請求項24に記載の二重特異性抗体。
【請求項26】
前記二重特異性抗体が、式IIIまたは式IV
A3-L4-Fc-L5-B(式III)
B-L6-Fc-L7-A3(式IV)
に示される構造を有するポリペプチドであることを特徴とし、
式中、
A3は、VEGFと結合し、その活性を遮断することができるドメインを表し;
Bは、前記抗PD-L1シングルドメイン抗体を表し;
L4、L5、L6およびL7は、それぞれ独立して、存在しないか、または連結エレメントであり;
Fcは、ヒトIgGのFc領域(好ましくはLALA変異体)を表し;
「-」は、ペプチド結合を表す、請求項24に記載の二重特異性抗体。
【請求項27】
請求項24に記載の二重特異性抗体をコードすることを特徴とする、単離されたポリヌクレオチド。
【請求項28】
請求項27に記載のポリヌクレオチドを含むことを特徴とする、ベクター。
【請求項29】
請求項28に記載のベクターを含むか、または請求項27に記載のポリヌクレオチドがそのゲノムに組み込まれている;
または、請求項24に記載の二重特異性抗体を発現する
ことを特徴とする、宿主細胞。
【請求項30】
請求項24に記載の二重特異性抗体を産生する方法であって:
(a)請求項29に記載の宿主細胞を適切な条件下で培養し、それにより前記二重特異性抗体を含む培養物を得るステップ;ならびに
(b)ステップ(a)で得られた前記培養物の精製および/または分離を行って、前記二重特異性抗体を得るステップ
を含む、方法。
【請求項31】
(a)請求項24に記載の二重特異性抗体;ならびに
(b)検出可能な標識、薬剤、毒素、サイトカイン、放射性核種、または酵素、金ナノ粒子/ナノロッド、ナノ磁性粒子、ウイルスコートタンパク質またはVLP、およびその組合せからなる群から選択されるカップリング部分
を含むことを特徴とする、免疫コンジュゲート。
【請求項32】
医薬、試薬、検出プレートまたはキットの製造における、請求項24に記載の二重特異性抗体、または請求項31に記載の免疫コンジュゲートの使用であって、前記試薬、検出プレートまたはキットが:試料中のPD-L1および/またはVEGFを検出するために用いられ;前記医薬が、PD-L1を発現する腫瘍(すなわち、PD-L1陽性)またはVEGFを発現する腫瘍を治療または予防するために使用される、使用。
【請求項33】
(i)請求項24に記載の二重特異性抗体、または請求項31に記載の免疫コンジュゲート;および
(ii)薬学的に許容される担体
を含むことを特徴とする、医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
技術分野
本発明は、生物医学の分野に属し、具体的には、抗VEGF-抗PD-L1二重特異性抗体、その医薬組成物およびその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
背景技術
血管内皮増殖因子(VEGF)は、血管透過性因子(VPF)または血管オプソニン(バスキュロトロピン)としても知られ、血管内皮細胞の増殖を促進する高度に特異的なホモ二量体タンパク質である。VEGFファミリータンパク質としては、VEGF-A、VEGF-B、VEGF-C、VEGF-D、VEGF-E、VEGF-Fおよび胎盤増殖因子(PIGF)が挙げられ、中でもVEGF-Aは、血管の早期形成に重要な役割を果たす。1983年に最初にモルモットの肝細胞からSengerらによって単離され、細静脈および小静脈の透過性を増大させる、血管内皮細胞の分裂および増殖を促進する、および血管新生を誘導する等の機能を有する。同時に、VEGFは多くの血管新生依存性疾患、例えばがん、いくつかの炎症性疾患および糖尿病性網膜症の病因および進行に関与している。したがって、VEGFは抗腫瘍薬の研究において重要な標的である。
【0003】
VEGFタンパク質の主要な受容体は、VEGFR1、VEGFR2、VEGFR3、NRP1、NRP2 NRP3である。しかし、VEGF受容体に対するVEGFファミリータンパク質メンバーの結合は選択的であり、この中で、VEGFAはVEGFR1およびVEGFR2に結合して内在性キナーゼの活性化を活性化し、新血管新生を促進し得る。VEGFの受容体への結合を遮断することは、種々のがん、例えば乳がん、結腸がん、肺がん、卵巣がん、子宮内膜がん、中皮腫、子宮頸がん、腎臓がんの治療に適用し得る(Rakesh R. Ramjiawan, Arjan W. Griffioen, and Dan G. Duda, Angiogenesis.2017 20(2): 185-204)。
【0004】
現在、世界的な市場において45の効能をカバーする23の市販または承認されているVEGF薬剤があり、この中ではベバシズマブが最も多くの効能が承認されている。ベバシズマブは、結腸直腸がん、非小細胞肺がん、乳がん、悪性神経膠腫、および腎細胞癌等の疾患の治療について、米国、欧州連合および他の場所で承認されている。ラニビズマブは、ベバシズマブと同じ親マウス抗体から得られた第2世代のヒト化抗VEGF組換えマウスモノクローナル抗体断片Fab部分である。これは加齢黄斑変性症(AMD)を有する患者の治療について、2006年6月30日に米国FDAから承認された。ラニビズマブはベバシズマブと比較して、VEGFAとの高い親和性を維持しており、より血管新生を抑制でき、胃がん、直腸がんおよび他の適応症の治療について開発されている。
【0005】
アフリベルセプトは、VEGFR1およびVEGFR2の細胞外断片から構成されるヒトIgG-Fc組換えタンパク質であり、VEGFR1およびVEGFR2のVEGFAへの結合を同時に遮断することによって、血管上皮細胞からの血管新生を遮断することができる。アフリベルセプトは、主に血管新生型(湿潤)加齢黄斑変性症(AMD)の患者の治療に適応される。同時に、これは臨床において進行した大腸がんの治療にも使用される(Caemen Stancanら、Rom J Morphol Embryol.2018 59 (2): 455 - 467)。アフリベルセプトはVEGFR1およびVEGFR2の機能性断片を有するため、抗体と同様の、VEGFの受容体への結合を遮断する機能を有する。
【0006】
プログラム死1リガンド1(PD-L1)は、CD274としても知られ、B7ファミリーの一員であり、PD-1のリガンドである。PD-L1は、IgV様領域、IgC様領域、膜貫通疎水性領域、および30アミノ酸からなる細胞内領域を含む総アミノ酸数290のI型膜貫通タンパク質である。他のB7ファミリー分子とは異なり、PD-L1は免疫応答を負に制御する。研究により、PD-L1は主に活性化T細胞、B細胞、マクロファージ、および樹状細胞で発現していることが明らかになっている。PD-L1は、リンパ球に加えて胸腺、心臓、胎盤等の多くの組織の他の内皮細胞、および黒色腫、肝臓がん、胃がん、腎細胞癌、卵巣がん、結腸がん、乳がん、食道がん、頭頸部がん等の様々な非リンパ系で発現している(Akintunde Akinleye & Zoaib Rasool, Journal of Hematology & Oncology 12巻、記事番号:92(2019))。PD-L1は、自己応答性T細胞およびB細胞ならびに免疫寛容を制御する一定の汎用性を持ち、末梢組織のT細胞およびB細胞の応答に関与している。腫瘍細胞におけるPD-L1の高発現は、がん患者の予後不良と関連している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
二機能性抗体は、抗体医薬の開発における一つの方向性であるが、前臨床評価モデル、低発現、安定性の低さ、工程の複雑さ、および品質管理の大きな差等、多くの課題に直面している。そのため、二機能性抗体の開発は常に困難とされてきた。
【0008】
そこで、PD-L1およびVEGFの2つの標的に対して、特異性が高く、治癒効果が高く、かつ調製が容易な二重特異性抗体を開発することが必要である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の内容
本発明者らは、綿密な研究および創造的な研究により、抗VEGF-抗PD-L1二重特異性抗体(以下、抗PD-L1/VEGF二重特異性抗体とも称する)を開発した。本発明者らは、驚くべきことに、本発明の抗PD-L1/VEGF二重特異性抗体が、PD-L1およびVEGFの二重標的に対して高い親和性を有し、2つの標的の共通の生物学的活性を有し、かつ分子量が小さいことを見出した。腫瘍領域に柔軟に浸透することができ、安全性も良好である。したがって、以下の発明が提供される:
本発明の一態様は、
VEGFを標的とする第1のタンパク質機能性領域、および
PD-L1を標的とする第2のタンパク質機能性領域
を含む二重特異性抗体であって;
第1のタンパク質機能性領域が、抗VEGF抗体もしくはその抗原結合性断片であるか、または、第1のタンパク質機能性領域は、VEGF受容体もしくはVEGF受容体機能を有する断片を含み;
第2のタンパク質機能性領域が、抗PD-L1シングルドメイン抗体である、二重特異性抗体に関する。
【0010】
本発明のいくつかの実施形態において、二重特異性抗体は、第1のタンパク質機能性領域および第2のタンパク質機能性領域、ならびに任意のリンカーからなる。
【0011】
本発明のいくつかの実施形態において、二重特異性抗体において、
抗VEGF抗体は、配列番号21に記載のアミノ酸配列を有するHCDR1、配列番号22に記載のアミノ酸配列を有するHCDR2、および配列番号23に記載のアミノ酸配列を有するHCDR3を含む重鎖可変領域を有するか;
あるいは、抗VEGF抗体は、配列番号27に記載のアミノ酸配列を有するHCDR1、配列番号22に記載のアミノ酸配列を有するHCDR2、および配列番号28に記載のアミノ酸配列を有するHCDR3を含む重鎖可変領域を有し;
抗VEGF抗体は、配列番号24に記載のアミノ酸配列を有するLCDR1、配列番号25に記載のアミノ酸配列を有するLCDR2、および配列番号26に記載のアミノ酸配列を有するLCDR3を含む軽鎖可変領域を有する。
【0012】
軽鎖および重鎖の可変領域は、抗原への結合を決定し;各鎖の可変領域は、相補性決定領域(CDR)と呼ばれる3つの超可変領域を含み、ここで、重鎖(H)は、HCDR1、HCDR2、HCDR3を含むCDR、軽鎖(L)は、LCDR1、LCDR2、LCDR3を含むCDRを有する。本発明において、CDRはIMGT番号付けシステムによって定義され、Ehrenmann F, Kaas Q, Lefranc M P. IMGT/3Dstructure-DB and IMGT/DomainGapAlign: a database and a tool for immunoglobulins or antibodies, T cell receptors, MHC, IgSF and MhcSF[J]. Nucleic Acids research, 2009; 38(suppl_1): D301-D307を参照されたい。
【0013】
本発明のいくつかの実施形態において、二重特異性抗体において、
抗PD-L1シングルドメイン抗体は重鎖可変領域を有し、重鎖可変領域は、配列番号29に記載のアミノ酸配列を有するHCDR1、配列番号30に記載のアミノ酸配列を有するHCDR2、および配列番号31に記載のアミノ酸配列を有するHCDR3を含み;
好ましくは、抗PD-L1シングルドメイン抗体は、配列番号5に記載されるようなアミノ酸配列を有する。
【0014】
本発明のいくつかの実施形態において、二重特異性抗体において、
抗VEGF抗体は、配列番号3に記載のアミノ酸配列を有する重鎖可変領域、および配列番号9に記載のアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域を有するか;または
抗VEGF抗体は、配列番号13に記載のアミノ酸配列を有する重鎖可変領域、および配列番号15に記載のアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域を有する。
【0015】
本発明のいくつかの実施形態において、二重特異性抗体において、
抗VEGF抗体は、配列番号3に記載のアミノ酸配列を有する重鎖可変領域、および配列番号9に記載のアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域を有するか;または
抗VEGF抗体は、配列番号13に記載のアミノ酸配列を有する重鎖可変領域、および配列番号15に記載のアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域を有し;
抗PD-L1シングルドメイン抗体は、配列番号5に記載のアミノ酸配列を有する。
【0016】
本発明のいくつかの実施形態において、二重特異性抗体において、
抗VEGF抗体またはその抗原結合性断片は、Fab、Fab’、F(ab’)2、Fd、Fv、dAb、相補性決定領域断片、一本鎖抗体、ヒト化抗体、キメラ抗体、および二重抗体からなる群から選択される。
【0017】
本発明のいくつかの実施形態において、二重特異性抗体において、
抗VEGF抗体は、ヒト抗体に由来する定常領域を有し;
好ましくは、定常領域は、ヒトIgG1、IgG2、IgG3およびIgG4の定常領域からなる群から選択される。
【0018】
本発明のいくつかの実施形態において、二重特異性抗体において、
抗VEGF抗体は、ヒトIgガンマ-1鎖C領域またはヒトIgガンマ-4鎖C領域である重鎖定常領域を有し、ヒトIgカッパ鎖C領域である軽鎖定常領域を有し;
好ましくは、抗VEGF抗体は、配列番号10に記載のアミノ酸配列を有する軽鎖定常領域を有し;
好ましくは、抗VEGF抗体は、配列番号8または配列番号14に記載のアミノ酸配列を有する軽鎖を有する。
【0019】
本発明のいくつかの実施形態において、二重特異性抗体において、
抗VEGF抗体は、EU番号付けシステムに従って、L234A変異およびL235A変異をさらに含み;任意に、G237A変異をさらに含む、重鎖定常領域を有し;
好ましくは、抗VEGF抗体は、配列番号4に記載のアミノ酸配列を有する重鎖定常領域を有する。
【0020】
本発明のいくつかの実施形態において、二重特異性抗体において:
VEGFは、VEGF-Aであり;
VEGF受容体は、VEGFR1および/またはVEGFR2である。
【0021】
本発明のいくつかの実施形態において、二重特異性抗体において、
シングルドメイン抗体は、第1のタンパク質機能性領域のC末端またはN末端にライゲーションされ、例えば、2つのシングルドメイン抗体が存在し、各シングルドメイン抗体の一端が、抗VEGF抗体の2つの重鎖のうちの一方のC末端もしくはN末端、またはVEGF受容体のC末端もしくはN末端、またはVEGF受容体機能を有する断片にライゲーションされ;
および、シングルドメイン抗体は、直接、または連結断片を介して、第1のタンパク質機能性領域にライゲーションされ;
好ましくは、連結断片は、配列番号6および配列番号7から独立して選択されるアミノ酸配列を有し;
好ましくは、シングルドメイン抗体を第1のタンパク質機能性領域にライゲーションすることによって得られるペプチド鎖は、配列番号1、配列番号2、配列番号11または配列番号12に記載のアミノ酸配列を有する。
【0022】
本発明は、
VEGFを標的とする第1のタンパク質機能性領域、および
PD-L1を標的とする第2のタンパク質機能性領域
を含む二重特異性抗体であって;
第1のタンパク質機能性領域の数が1であり、第2のタンパク質機能性領域の数が2であり;
第1のタンパク質機能性領域が、抗VEGF抗体またはその抗原結合性断片であり、第2のタンパク質機能性領域が、抗PD-L1シングルドメイン抗体であり;
シングルドメイン抗体が、連結断片を介して抗VEGF抗体の重鎖のC末端にライゲーションされ;ライゲーション後に得られるペプチド鎖が、配列番号1、配列番号2、配列番号11または配列番号12に記載のアミノ酸配列を有し;
抗VEGF抗体が、配列番号8または配列番号14に記載のアミノ酸配列を有する軽鎖を有する、二重特異性抗体に関する。
【0023】
本発明のいくつかの実施形態において、二重特異性抗体において、
第1のタンパク質機能性領域は、VEGF受容体またはVEGF受容体機能を有する断片、およびIgG1のFcセグメントを含み;
好ましくは、VEGF受容体機能を有する断片は、配列番号17に記載のアミノ酸配列を有し;
好ましくは、IgG1のFcセグメントは、EU番号付けシステムに従って、L234A変異およびL235A変異を含み;
好ましくは、IgG1のFcセグメントは、配列番号18に記載のアミノ酸配列を有する。
【0024】
本発明のいくつかの実施形態において、二重特異性抗体において、
第1のタンパク質機能性領域がVEGF受容体またはVEGF受容体機能を有する断片である場合、二重特異性抗体は二量体であり;好ましくは、配列番号16または配列番号19に記載のアミノ酸配列を有するポリペプチドの二量体である。
【0025】
本発明の項目のいずれか1つに記載の二重特異性抗体は、悪性腫瘍の治療および/または予防のために使用され;好ましくは、悪性腫瘍は、黒色腫、肝臓がん、胃がん、腎細胞癌、卵巣がん、結腸がん、乳がん、食道がんおよび頭頸部がんからなる群から選択される。
【0026】
本発明の他の態様は、本発明の項目のいずれか1つに記載の二重特異性抗体をコードする、単離された核酸分子に関する。
【0027】
本発明の他の態様は、本発明の単離された核酸分子を含む、ベクターに関する。
本発明の他の態様は、本発明の単離された核酸分子、または本発明のベクターを含む、宿主細胞に関する。
【0028】
本発明の他の態様は、本発明の宿主細胞を適切な条件下で培養する工程、および細胞培養物から二重特異性抗体を回収する工程を含む、本発明の項目のいずれか1つに記載の二重特異性抗体を調製する方法に関する。
【0029】
本発明の他の態様は、二重特異性抗体およびカップリング部分を含むコンジュゲートに関し、ここで、二重特異性抗体は、本発明の項目のいずれか1つに記載の二重特異性抗体であり、かつカップリング部分は検出可能な標識であり;好ましくは、カップリング部分は、放射性同位体、蛍光物質、発光物質、有色物質、または酵素である。
【0030】
本発明のコンジュゲートによれば、これは悪性腫瘍の治療および/または予防に用いられ;好ましくは、悪性腫瘍は、黒色腫、肝臓がん、胃がん、腎細胞癌、卵巣がん、結腸がん、乳がん、食道がんおよび頭頸部がんからなる群から選択される。
【0031】
本発明の他の態様は、本発明の項目のいずれか1つに記載の二重特異性抗体を含むか、または本発明のコンジュゲートを含むキットに関し;
好ましくは、キットは、二重特異性抗体に特異的に結合することができる第2の抗体をさらに含み;任意に、第2の抗体は、放射性同位体、蛍光物質、発光物質、有色物質、または酵素等の検出可能な標識をさらに含む。
【0032】
本発明の他の態様は、キットの製造における本発明の項目のいずれか1つに記載の二重特異性抗体の使用に関し、ここで、キットは、試料中のVEGFおよび/またはPD-L1の存在またはレベルを検出するために使用される。
【0033】
本発明の他の態様は、医薬組成物に関し、これは、本発明の項目のいずれか1つに記載の二重特異性抗体または本発明のコンジュゲートを含み;任意に、薬学的に許容される賦形剤をさらに含む。
【0034】
本発明の他の態様は、悪性腫瘍の予防および/または治療のための医薬の製造における、本発明の項目のいずれか1つに記載の二重特異性抗体または本発明のコンジュゲートの使用に関し;好ましくは、悪性腫瘍は、黒色腫、肝臓がん、胃がん、腎細胞癌、卵巣がん、結腸がん、乳がん、食道がんおよび頭頸部がんからなる群から選択される。
【0035】
本発明の他の態様は、悪性腫瘍を治療および/または予防するための方法であって、有効量の本発明の項目のいずれか1つに記載の二重特異性抗体または本発明のコンジュゲート抗体を、それを必要とする対象に投与することを含み;好ましくは、悪性腫瘍が、黒色腫、肝臓がん、胃がん、腎細胞癌、卵巣がん、結腸がん、乳がん、食道がんおよび頭頸部がんからなる群から選択される、方法に関する。
【0036】
本発明のいくつかの実施形態において、前記方法において、有効量の本発明の項目のいずれか1つに記載の二重特異性抗体を、それを必要とする対象に投与する工程は、外科的治療の前または後、および/または放射線療法の前または後である。
【0037】
本発明のいくつかの実施形態において、前記方法において、
本発明の二重特異性抗体の単回投与量は、体重1kgあたり0.1~100mg、好ましくは4.8~24mgまたは1~10mgであり;または、本発明の二重特異性抗体の単回投与量は、対象あたり10~1000mg、好ましくは50~500mg、100~400mg、150~300mg、150~250mgまたは200mgであり;
好ましくは、投与は、3日間、4日間、5日間、6日間、10日間、1週間、2週間または3週間毎に1回行われ;
好ましくは、投与は、静脈内滴下または静脈内注射の方法によって実施される。
【0038】
本明細書で使用する場合、EC50という用語は、最大効果の50%のための濃度を指し、最大効果の50%を引き起こし得る濃度を指す。
【0039】
本明細書で使用する場合、「抗体」という用語は、一般的に2対のポリペプチド鎖から構成される免疫グロブリン分子を指し、各対は1つの「軽」(L)鎖と1つの「重」(H)鎖とを有する。抗体軽鎖は、κ軽鎖とλ軽鎖に分類し得る。重鎖はμ、δ、γ、α、またはεに分類されてもよく、抗体のアイソタイプはそれぞれIgM、IgD、IgG、IgA、およびIgEと定義される。軽鎖および重鎖内では、可変領域および定常領域は、約12以上のアミノ酸の「J」領域によって連結され、重鎖はさらに約3以上のアミノ酸の「D」領域を含む。各重鎖は、重鎖可変領域(VH)および重鎖定常領域(CH)で構成される。重鎖定常領域は、3つのドメイン(CH1、CH2、およびCH3)からなる。各軽鎖は、軽鎖可変領域(VL)および軽鎖定常領域(CL)によって構成される。軽鎖定常領域は、1つのドメインであるCLからなる。抗体定常領域は、免疫系の様々な細胞(例えば、エフェクター細胞)および古典補体系の第1の構成要素(Clq)を含む、宿主の組織または因子への免疫グロブリンの結合を媒介する。VHおよびVL領域は、相補性決定領域(CDR)と呼ばれる可変性の高い領域に細分化することができ、その中でフレームワーク領域(FR)と呼ばれるより保存性の高い領域が散在している。VHとVLは、それぞれ3つのCDRと4つのFRからなり、これらは以下の順序:アミノ末端からカルボキシ末端に向かって、FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、およびFR4で配置されている。各重鎖/軽鎖対の可変領域(VHおよびVL)は、それぞれ抗体結合部位を形成している。領域またはドメインへのアミノ酸の割り当ては、Bethesda M.d., Kabat Sequences of Proteins of Immunological Interest (National Institutes of Health, (1987 and 1991))、またはChothia & Lesk J. Mol. Biol. 1987;196:901-917; Chothiaら、Nature 1989;342:878-883の定義、またはIMGT番号付けシステムに従う、Ehrenmann F, Kaas Q, Lefranc M P. IMGT/3Dstructure-DB and IMGT/DomainGapAlign: a database and a tool for immunoglobulins or antibodies, T cell receptors, MHC, IgSF and MhcSF[J]. Nucleic acids research, 2009;38(suppl_1):D301-D307の定義を参照のこと。
【0040】
「抗体」という用語は、特定の抗体産生方法に限定されるものではない。例えば、組換え抗体、モノクローナル抗体、およびポリクローナル抗体が挙げられる。抗体は、異なるアイソタイプの抗体、例えば、IgG(例えば、IgGl、IgG2、IgG3、またはIgG4サブタイプ)、IgAl、IgA2、IgD、IgE、またはIgM抗体であってもよい。
【0041】
本明細書で使用する場合、「mAb」および「モノクローナル抗体」という用語は、高度に相同性の抗体分子群、すなわち、自発的に起こり得る天然の変異を除いて、同一の抗体分子群に由来する抗体または抗体断片を指す。mAbは、抗原上の単一のエピトープに対して高度に特異的である。モノクローナル抗体と比較して、ポリクローナル抗体は通常、少なくとも2つ以上の異なる抗体を含み、これらの異なる抗体は通常、抗原上の異なるエピトープを認識する。モノクローナル抗体は、通常、Kohlerらによって最初に報告されたハイブリドーマ技術(Kohler G, Milstein C. Continuous cultures of fused cells secreting antibody of predefined specificity [J], nature, 1975; 256(5517):495)を用いて得ることができ、組換えDNA技術(例えば、米国特許第4,816,567号を参照)により得ることもできる。
【0042】
本明細書で使用する場合、「ヒト化抗体」という用語は、ヒト免疫グロブリン(レシピエント抗体)のCDR領域の全部または一部を非ヒト抗体(ドナー抗体)のCDR領域で置換することによって得られる抗体または抗体断片を指し、ここで、ドナー抗体は、所望の特異性、親和性および反応性を有する非ヒト(例えばマウス、ラット、またはウサギ)抗体であり得る。さらに、レシピエント抗体のフレームワーク領域(FR)の一部のアミノ酸残基は、抗体の性能をさらに改善または最適化するように、非ヒト抗体の対応するアミノ酸残基、または他の抗体のアミノ酸残基で置換してもよい。ヒト化抗体の詳細については、例えば、Jonesら、Nature 1986; 321:522 525; Reichmannら、Nature, 1988; 332:323329; Presta, Curr. Op. Struct. Biol.1992;2:593-596;およびClark,Immunol. Today 2000; 21: 397-402を参照されたい。場合によっては、抗体の抗原結合性断片はダイアボディであり、この場合、VHおよびVLドメインは単一ポリペプチド鎖上に発現するが、使用されるリンカーは短すぎるために同一鎖の2つのドメイン間の対合が可能にならず、それによりドメインは他の鎖の相補的ドメインと対合することになり、2つの抗原結合部位を形成する(例えば、Holliger P.ら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 1993; 90:6444 6448およびPoljak R. J.ら、Structure 1994; 2:1121-1123を参照のこと)。
【0043】
本明細書に記載の融合タンパク質は、DNA組換えにより2つの遺伝子によって共発現されるタンパク質産物である。抗体および抗原結合性断片を産生および精製する方法は、当技術分野において周知である(例えば、Cold Spring Harbor’s Antibody Laboratory Technique Guide、第5章~第8章および第15章)。
【0044】
本明細書で使用する場合、「単離」または「単離された」という用語は、人工的な手段による天然状態からの取得を意味する。「単離された」物質または構成要素が天然で生じる場合、それは、存在する自然環境が変化しているか、物質が自然環境から単離されているか、またはその両方が起こっている。例えば、生体動物に天然で存在する単離されていないポリヌクレオチドまたはポリペプチドについて、天然状態から単離された高純度の同じポリヌクレオチドまたはポリペプチドは、単離されたと呼ばれる。「単離」または「単離された」という用語は、人工または合成物質の混合、および物質活性に影響を与えない他の不純物の存在を排除するものではない。
【0045】
本明細書で使用する場合、「ベクター」という用語は、ポリヌクレオチドを挿入することができる核酸送達ビヒクルを指す。ベクターが、挿入されたポリヌクレオチドによってコードされるタンパク質の発現を達成することができる場合、ベクターは、発現ベクターと呼ばれる。ベクターは、形質転換、形質導入、またはトランスフェクションによって宿主細胞に導入されてよく、それが有する遺伝物質要素を宿主細胞で発現させることができる。ベクターは当技術分野の当業者に周知であり、プラスミド;ファージミド;コスミド;酵母人工染色体(YAC)、細菌人工染色体(BAC)またはP1由来人工染色体(PAC)等の人工染色体;λファージまたはM13ファージ等のファージ、および動物ウイルスが挙げられるが、これらに限定されない。ベクターとして使用できる動物ウイルスとしては、レトロウイルス(レンチウイルスを含む)、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、ヘルペスウイルス(例えば、単純ヘルペスウイルス)、ポックスウイルス、バキュロウイルス、パピローマウイルス、パポバウイルス(例えば、SV40)等が挙げられるが、これらに限定されない。ベクターは、プロモーター配列、転写開始配列、エンハンサー配列、選択エレメント、およびレポーター遺伝子を含むがこれらに限定されない、発現を制御する種々のエレメントを含むことができる。さらに、ベクターは、複製起点を含むこともできる。
【0046】
本明細書で使用する場合、「宿主細胞」という用語は、ベクターの導入に使用できる細胞を指し、大腸菌(エシェリキア・コリ(Escherichia coli))または枯草菌(バチルス・スブチリス(Bacillus subtilis))等の原核細胞、酵母細胞またはアスペルギルス(Aspergillus)等の真菌細胞、S2ショウジョウバエ(Drosophila)細胞またはSf9等の昆虫細胞、または線維芽細胞、CHO細胞、GS細胞、COS細胞、NSO細胞、HeLa細胞、BHK細胞、HEK293細胞もしくはヒト細胞等の動物細胞等があるがこれに限定されない。
【0047】
本明細書で使用する場合、「薬学的に許容される賦形剤」という用語は、対象および活性成分と薬学的および/または生理学的に適合する担体および/または賦形剤を指し、これらは当技術分野で周知であり(例えば、Remington’s Pharmaceutical Sciences. Gennaro AR編、19版. Pennsylvania.Mack Publishing Company, 1995を参照)、pH調整剤、界面活性剤、アジュバント、イオン強度増強剤を含むがこれらに限定されない。例えば、pH調整剤は、リン酸緩衝剤を含むが、これに限定されず;界面活性剤は、Tween-80等のカチオン性、アニオン性または非イオン性界面活性剤を含むが、これに限定されず;イオン強度増強剤は、塩化ナトリウムを含むが、これに限定されない。
【0048】
本明細書で使用する場合、「有効量」という用語は、所望の効果を達成する、または少なくとも部分的に達成するのに十分な量を指す。例えば、疾患(例えば、腫瘍)を予防するための有効量は、疾患(例えば、腫瘍)の発症を予防、阻止、または遅延するのに十分な量を指し、疾患を治療するための有効量は、疾患を有する患者において疾患およびその合併症を治癒または少なくとも部分的に予防するのに十分な量を指す。このような有効量を決定することは、十分に当技術分野の当業者の能力の範囲内である。例えば、治療的使用のための有効量は、治療すべき疾患の重症度、患者自身の免疫系の一般的状態、年齢、体重、および性別等の患者の一般的状態、薬剤の投与様式、併用して投与される他の治療等に依存するであろう。
【0049】
本発明において、特に記載がない場合、「第1」(例えば、第1のタンパク質機能性領域)および「第2」(例えば、第2のタンパク質機能性領域)は、参照上の区別または表現の明確化の目的で使用され、典型的な順序の意味を有するものではない。
【0050】
また、本発明は、以下の項目1~10のいずれか1つに関する:
1.二重特異性抗体であって:
(a)抗PD-L1シングルドメイン抗体;および
(b)抗VEGF抗体またはエレメント
を含むことを特徴とする、二重特異性抗体。
2.二重特異性抗体が、式Iおよび式II
A1-L1-CH-L2-B(式I)
A2-L3-CL(式II)
に示される構造を有するポリペプチドを含むことを特徴とし、
式中、
A1は、抗VEGF抗体の重鎖可変領域VHであり;
A2は、抗VEGF抗体の軽鎖可変領域VLであり;
Bは、抗PD-L1シングルドメイン抗体であり;
L1、L2およびL3は、それぞれ独立して、存在しないか、または連結エレメントであり;
CHは、ヒトIgG重鎖定常領域CH(好ましくは、LALA変異体)であり;
CLは、ヒトκ軽鎖定常領域CLであり;
「-」は、ペプチド結合であり;
式Iで表されるポリペプチドおよび式IIで表されるポリペプチドが、ジスルフィド結合相互作用を介してヘテロ二量体を形成する、項目1に記載の二重特異性抗体。
3.二重特異性抗体が、式IIIまたは式IV
A3-L4-Fc-L5-B(式III)
B-L6-Fc-L7-A3(式IV)
に示される構造を有するポリペプチドであることを特徴とし、
式中、
A3は、VEGFに結合し、その活性を阻害することができるドメインであり;
Bは、抗PD-L1シングルドメイン抗体であり;
L4、L5、L6およびL7は、それぞれ独立して、存在しないか、または連結エレメントであり;
Fcは、ヒトIgGのFc領域(好ましくは、LALA変異体)であり;
「-」はペプチド結合である、項目1に記載の二重特異性抗体。
4.項目1に記載の二重特異性抗体をコードすることを特徴とする、単離されたポリヌクレオチド。
5.項目4に記載のポリヌクレオチドを含むことを特徴とする、ベクター。
6.項目5に記載のベクターを含むか、または項目4に記載のポリヌクレオチドがそのゲノムに組み込まれている、
あるいは、項目1に記載の二重特異性抗体を発現することを特徴とする、宿主細胞。
7.項目1に記載の二重特異性抗体を産生する方法であって:
(a)項目6に記載の宿主細胞を適切な条件下で培養し、それにより二重特異性抗体を含む培養物を得るステップ;ならびに
(b)ステップ(a)で得られた培養物の精製および/または分離を行って、二重特異性抗体を得るステップ
を含むことを特徴とする、方法。
8.(a)項目1に記載の二重特異性抗体;ならびに
(b)検出可能な標識、薬剤、毒素、サイトカイン、放射性核種、または酵素、金ナノ粒子/ナノロッド、ナノ磁性粒子、ウイルスコートタンパク質またはVLP、およびその組合せからなる群から選択されるカップリング部分を含むことを特徴とする、免疫コンジュゲート。
9.医薬、試薬、検出プレートまたはキットの製造における、項目1に記載の二重特異性抗体、または項目8に記載の免疫コンジュゲートの使用であって;試薬、検出プレートまたはキットが:試料中のPD-L1および/またはVEGFを検出するために用いられ;医薬が、PD-L1を発現する腫瘍(すなわち、PD-L1陽性)またはVEGFを発現する腫瘍を治療または予防するために用いられる、二重特異性抗体、または使用。
10.(i)項目1に記載の二重特異性抗体、または項目8に記載の免疫コンジュゲート;および
(ii)薬学的に許容される担体
を含むことを特徴とする、医薬組成物。
【0051】
本発明はさらに、以下の第1から第14の態様のいずれか1つに関する:
本発明の第1の態様において、二重特異性抗体が提供され、二重特異性抗体は:
(a)抗PD-L1シングルドメイン抗体;および
(b)抗VEGF抗体またはエレメント
を含む。
【0052】
他の好ましい実施形態において、二重特異性抗体は、1つ~3つの抗PD-L1シングルドメイン抗体を含み、好ましくは、1つ、または2つの抗PD-L1シングルドメイン抗体を含む。
【0053】
他の好ましい実施形態において、PD-L1シングルドメイン抗体は、PD-1とPD-L1との間の相互作用を遮断することができる。
【0054】
他の好ましい実施形態において、二重特異性抗体は、Fcセグメントをさらに含む。
他の好ましい実施形態において、二重特異性抗体のFcセグメントは、ヒトIgGドメイン、CH1+CL1ドメイン、およびその組合せからなる群から選択される。
【0055】
他の好ましい実施形態において、ヒトIgGドメインは、改変変異体IgGドメイン、好ましくはLALA変異体IgGドメインである。
【0056】
他の好ましい実施形態において、二重特異性抗体は、式Iおよび式II
A1-L1-CH-L2-B(式I)
A2-L3-CL(式II)
に示される構造を有するポリペプチドを含み、
式中、
A1は、抗VEGF抗体の重鎖可変領域VHであり;
A2は、抗VEGF抗体の軽鎖可変領域VLであり;
Bは、抗PD-L1シングルドメイン抗体であり;
L1、L2およびL3は、それぞれ独立して、存在しないか、または連結エレメントであり;
CHは、ヒトIgG重鎖定常領域CH(好ましくは、LALA変異体)であり;
CLは、ヒトκ軽鎖定常領域CLであり;
「-」は、ペプチド結合であり;
ここで、式Iで表されるポリペプチド、および式IIで表されるポリペプチドは、ジスルフィド結合相互作用を介してヘテロ二量体を形成する。
【0057】
他の好ましい実施形態において、二重特異性抗体は、式IIIまたは式IV
A3-L4-Fc-L5-B(式III)
B-L6-Fc-L7-A3(式IV)
で示される構造を有するポリペプチドであり、
A3は、VEGFに結合し、その活性を遮断することができるドメインであり;
Bは、抗PD-L1シングルドメイン抗体であり;
L4、L5、L6およびL7は、それぞれ独立して、存在しないか、または連結エレメントであり;
Fcは、ヒトIgGのFc領域(好ましくは、LALA変異体)であり;
「-」は、ペプチド結合である。
【0058】
他の好ましい実施形態において、抗VEGF重鎖可変領域VHは、ベバシズマブに由来する重鎖可変領域アミノ酸配列を有し、アミノ酸配列は、配列番号3に記載されるか、または配列番号3に記載の配列と85%(好ましくは90%、より好ましくは95%)以上の配列同一性を有する。
【0059】
他の好ましい実施形態において、抗VEGF軽鎖可変領域VLは、ベバシズマブに由来する軽鎖可変領域アミノ酸配列を有し、アミノ酸配列は、配列番号9に記載されるか、または配列番号9に記載の配列と85%(好ましくは90%、より好ましくは95%)以上の配列同一性を有する。
【0060】
他の好ましい実施形態において、抗VEGF重鎖可変領域VHは、ラニビズマブに由来する重鎖可変領域アミノ酸配列を有し、アミノ酸配列は、配列番号13に記載されるか、または配列番号13に記載の配列と85%(好ましくは90%、より好ましくは95%)以上の配列同一性を有する。
【0061】
他の好ましい実施形態において、抗VEGF軽鎖可変領域VLは、ラニビズマブに由来する軽鎖可変領域アミノ酸配列を有し、アミノ酸配列は、配列番号15に記載されるか、または配列番号15に記載の配列と85%(好ましくは90%、より好ましくは95%)以上の配列同一性を有する。
【0062】
他の好ましい実施形態において、VEGFに結合し、その活性を遮断することができるドメインは、配列番号17に記載のアミノ酸配列を有するか、または配列番号17に記載の配列と85%(好ましくは90%、より好ましくは95%)以上の配列同一性を有する。
【0063】
他の好ましい実施形態において、抗PD-L1シングルドメイン抗体は、配列番号5に記載のアミノ酸配列を有するか、または配列番号5に記載の配列と85%(好ましくは90%、より好ましくは95%)以上の配列同一性を有する。
【0064】
他の好ましい実施形態において、ヒトIgG重鎖定常領域CHは、配列番号4に記載のアミノ酸配列を有するLALA変異を有するか、または配列番号4に記載の配列と85%(好ましくは90%、より好ましくは95%)以上の配列同一性を有する。
【0065】
他の好ましい実施形態において、ヒトκ軽鎖定常領域CLは、配列番号10に記載のアミノ酸配列を有するか、または配列番号10に記載の配列と85%(好ましくは90%、より好ましくは95%)以上の配列同一性を有する。
【0066】
他の好ましい実施形態において、ヒトIgGのFcセグメントは、配列番号18に記載のアミノ酸配列を有するLALA変異を有するか、または配列番号18に記載の配列と85%(好ましくは90%、より好ましくは95%)以上の配列同一性を有する。
【0067】
他の好ましい実施形態において、リンカーエレメントは、(G4S)nの配列を有し、式中、nは正の整数(例えば、1、2、3、4、5または6)であり、好ましくは、nは2または4である。
【0068】
他の好ましい実施形態において、リンカーエレメントは、配列番号6または7に記載のアミノ酸配列を有するか、または配列番号6または7に記載の配列と85%(好ましくは90%、より好ましくは95%)以上の配列同一性を有する。
【0069】
他の好ましい実施形態において、二重特異性抗体は、式Iおよび式IIに示される構造を有するポリペプチドを含み、式Iに示される構造を有するポリペプチドは、配列番号1に記載のアミノ酸配列を有し、式IIに示される構造を有するポリペプチドは、配列番号8に記載のアミノ酸配列、すなわちAva-2GS-NSD)を有する。
【0070】
他の好ましい実施形態において、二重特異性抗体は、式Iおよび式IIに示される構造を有するポリペプチドを含み、式Iに示される構造を有するポリペプチドは配列番号2に記載のアミノ酸配列を有し、式IIに示される構造を有するポリペプチドは配列番号8に記載のアミノ酸配列、すなわちAva-4GS-NSD)を有する。
【0071】
他の好ましい実施形態において、二重特異性抗体は、式Iおよび式IIに示される構造を有するポリペプチドを含み、式Iに示される構造を有するポリペプチドは配列番号11に記載のアミノ酸配列を有し、式IIに示される構造を有するポリペプチドは配列番号14に記載のアミノ酸配列、すなわちLuc-2GS-NSD)を有する。
【0072】
他の好ましい実施形態において、二重特異性抗体は、式Iおよび式IIに示される構造を有するポリペプチドを含み、式Iに示される構造を有するポリペプチドは、配列番号12に記載のアミノ酸配列を有し、式IIに示される構造を有するポリペプチドは、配列番号14に記載のアミノ酸配列、すなわちLuc-4GS-NSD)を有する。
【0073】
他の好ましい実施形態において、二重特異性抗体は、式IIIで示される構造を有するポリペプチドであり、そのアミノ酸配列は、配列番号16に記載されている、すなわちNSD-Elyea)である。
【0074】
他の好ましい実施形態において、二重特異性抗体は、式IIIに示される構造を有するポリペプチドであり、そのアミノ酸配列は、配列番号19に記載されている、すなわちElyea-NSD)である。
【0075】
他の好ましい実施形態において、二重特異性抗体は、式Iおよび式IIに示される構造のポリペプチドを同時に含み、式Iに示されるポリペプチドおよび式IIに示されるポリペプチドは、ジスルフィド結合作用を介してヘテロ二量体iを形成し;
かつ、ヘテロ二量体iは、CHドメイン間のジスルフィド結合相互作用を介してホモ二量体iiを形成する。
【0076】
他の好ましい実施形態において、二重特異性抗体は、式IIIまたは式IVに示される構造を有するポリペプチドであり、式IIIまたは式IVに示される構造を有するポリペプチドは、Fcセグメント間のジスルフィド結合作用を介してホモ二量体を形成する。
【0077】
本発明の第2の態様において、本発明の第1の態様による二重特異性抗体をコードする単離されたポリヌクレオチドが提供される。
【0078】
他の好ましい実施形態において、二重特異性抗体が式Iおよび式IIに示される構造を有するポリペプチドを含む場合、ポリヌクレオチドにおいて、式Iに示される構造のポリペプチドをコードするポリヌクレオチド配列および式IIに示される構造のポリペプチドをコードするポリヌクレオチド配列は1:1の比率である。
【0079】
本発明の第3の態様において、本発明の第2の態様によるポリヌクレオチドを含むベクターが提供される。
【0080】
他の好ましい実施形態において、ベクターは、DNA、RNA、ウイルスベクター、プラスミド、トランスポゾン、他の遺伝子導入系、およびその組合せからなる群から選択され、好ましくは、発現ベクターは、レンチウイルス、アデノウイルス、AAVウイルス、レトロウイルス、またはその組合せ等の、ウイルスベクターを含む。
【0081】
本発明の第4の態様において、宿主細胞が提供され、宿主細胞は、本発明の第3の態様によるベクターを含む、または本発明の第2の態様によるポリヌクレオチドがそのゲノムに組み込まれているか;
あるいは、宿主細胞は、本発明の第1の態様による二重特異性抗体を発現する。
【0082】
他の好ましい実施形態において、宿主細胞は、原核細胞または真核細胞を含む。
他の好ましい実施形態において、宿主細胞は、大腸菌、酵母細胞、および哺乳動物細胞からなる群から選択される。
【0083】
本発明の第5の態様において、本発明の第1の態様による二重特異性抗体を産生する方法であって:
(a)二重特異性抗体を含む培養物を得るように、本発明の第4の態様による宿主細胞を適切な条件下で培養するステップ;ならびに
(b)ステップ(a)で得られた培養物の精製および/または分離を行って、二重特異性抗体を得るステップを含む、方法が提供される。
【0084】
他の好ましい実施形態において、精製は、プロテインAアフィニティーカラム精製および分離によって実施され、標的抗体を得ることができる。
【0085】
他の好ましい実施形態において、精製および分離後の標的抗体は、95%超、96%超、97%超、98%超、99%超、好ましくは100%の純度を有する。
【0086】
本発明の第6の態様において、免疫コンジュゲートが提供され、これは:
(a)本発明の第1の態様による二重特異性抗体;ならびに
(b)検出可能な標識、薬剤、毒素、サイトカイン、放射性核種、または酵素、金ナノ粒子/ナノロッド、ナノ磁性粒子、ウイルスコートタンパク質またはVLP、およびその組合せからなる群から選択されるカップリング部分を含む。
【0087】
他の好ましい実施形態において、放射性核種は:
(i)診断用同位体であって、Tc-99m、Ga-68、F-18、I-123、I-125、I-131、In-111、Ga-67、Cu-64、Zr-89、C-11、Lu-177、Re-188、およびその組合せからなる群から選択される同位体;および/または
(ii)治療用同位体であって、Lu-177、Y-90、Ac-225、As-211、Bi-212、Bi-213、Cs-137、Cr-51、Co-60、Dy-165、Er-169、Fm-255、Au-198、Ho-166、I-125、I-131、Ir-192、Fe-59、Pb-212、Mo-99、Pd-103、P-32、K-42、Re-186、Re-188、Sm-153、Ra223、Ru-106、Na24、Sr89、Tb-149、Th-227、Xe-133 Yb-169、Yb-177、およびその組合せからなる群から選択される同位体を含む。
【0088】
他の好ましい実施形態において、カップリング部分は、薬剤または毒素である。
他の好ましい実施形態において、薬剤は、細胞毒性薬剤である。
【0089】
他の好ましい実施形態において、細胞毒性薬剤は、抗チューブリン薬剤、DNAマイナーグルーブ結合剤、DNA複製阻害剤、アルキル化剤、抗生物質、葉酸アンタゴニスト、代謝拮抗剤、化学療法感作剤、トポイソメラーゼ阻害剤、ビンカアルカロイド、およびその組合せからなる群から選択される。
【0090】
特に有用なクラスの細胞毒性薬剤の例としては、例えば、DNAマイナーグルーブ結合剤、DNAアルキル化剤、およびチューブリン阻害剤が挙げられる。典型的な細胞毒性薬剤としては、例えば、オーリスタチン、カンプトテシン、デュオカルマイシン、エトポシド、メイタンシンおよびメイタンシノイド(例えば、DM1およびDM4)、タキサン、ベンゾジアゼピン、またはベンゾジアゼピン含有薬剤(例えば、ピロロ[1,4]ベンゾジアゼピン(PBD)、インドリノベンゾジアゼピン、およびオキサゾリジノベンゾジアゼピン)、ビンカアルカロイドまたはその組合せが挙げられる。
【0091】
他の好ましい実施形態において、毒素は、以下:
アウリスタチン(例えば、アウリスタチンE、アウリスタチンF、MMAE、およびMMAF)、アウレオマイシン、メイタンシノイド、リシン、リシンA鎖、コンブレタスタチン、デュオカルマイシン、ドラスタチン、ドキソルビシン、ダウノルビシン、パクリタキセル、シスプラチン、cc1065、臭化エチジウム、マイトマイシン、エトポシド、テノポシド、ビンクリスチン、ビンブラスチン、コルチシン、ジヒドロキシアントラシンジオン、アクチノマイシン、ジフテリア毒素、シュードモナス外毒素(PE)A、PE40、アブリン、アブリンA鎖、モデクシンA鎖、α-サーチナ、ゲロニン、ミトジェリン、レトストリクトシン、フェノマイシン、エノマイシン、クリシン、クロチン、カリケアマイシン、サポナリア オフィシナリス(Sapaonaria officinalis)阻害剤、グルココルチコイドおよびその組合せからなる群から選択される。
【0092】
他の好ましい実施形態において、カップリング部分は、検出可能な標識である。
他の好ましい実施形態において、コンジュゲートは、以下:蛍光または発光標識、放射性標識、MRI(磁気共鳴イメージング)またはCT(コンピュータX線断層撮影)造影剤、または検出可能な生成物を生成することができる酵素、放射性核種、生体毒素、サイトカイン(例えば、IL-2)、抗体、抗体Fc断片、抗体scFv断片、金ナノ粒子/ナノロッド、ウイルス粒子、リポソーム、ナノ磁性粒子、プロドラッグ活性化酵素(例えば、DT-ダイアホラーゼ(DTD)またはビフェニルヒドロラーゼ様タンパク質(BPHL))、化学療法剤(例えば、シスプラチン)からなる群から選択される。
【0093】
他の好ましい実施形態において、免疫コンジュゲートは:本発明の第1の態様に記載の多価(例えば、2価)二重特異性抗体を含む。
【0094】
他の好ましい実施形態において、多価とは、本発明の第1の態様による二重特異性抗体が、免疫コンジュゲートのアミノ酸配列の複数の反復を含むことを指す。
【0095】
本発明の第7の態様において、医薬、試薬、検出プレートまたはキットの製造における、本発明の第1の態様による二重特異性抗体、または本発明の第6の態様による免疫コンジュゲートの使用が提供され;ここで、試薬、検出プレートまたはキットは:試料中のPD-L1および/またはVEGFを検出するために用いられ;ここで、医薬は、PD-L1を発現する腫瘍(すなわち、PD-L1陽性)またはVEGFを発現する腫瘍を治療または予防するために使用される。
【0096】
他の好ましい実施形態において、免疫コンジュゲートのカップリング部分は、診断用の同位体である。
【0097】
他の好ましい実施形態において、試薬は、同位体トレーサー、造影剤、フロー検出試薬、細胞免疫蛍光検出試薬、磁性ナノ粒子およびイメージング剤からなる群から選択される1つまたは複数の試薬である。
【0098】
他の好ましい実施形態において、試料中のPD-L1および/またはVEGFを検出するための試薬は、PD-L1および/またはVEGF分子を(in vivo)検出するための造影剤である。
【0099】
他の好ましい実施形態において、検出は、in vivo検出またはin vitro検出である。
【0100】
他の好ましい実施形態において、検出は、フロー検出および細胞免疫蛍光検出を含む。
他の好ましい実施形態において、薬剤は、PD-1とPD-L1との間の相互作用を遮断し、同時にVEGFとVEGFRとの間の相互作用を遮断するために使用される。
【0101】
他の好ましい実施形態において、腫瘍は、以下:急性骨髄性白血病、慢性骨髄性白血病、多発性骨髄症、非ホジキンリンパ腫、結腸直腸がん、乳がん、結腸直腸がん、胃がん、肝臓がん、白血病、腎臓腫瘍、肺がん、小腸がん、骨がん、前立腺がん、前立腺がん、子宮頸がん、リンパ腫、副腎腫瘍、膀胱腫瘍を含むが、これらに限定されない。
【0102】
本発明の第8の態様において、医薬組成物が提供され、これは:
(i)本発明の第1の態様による二重特異性抗体、または本発明の第6の態様による免疫コンジュゲート;および
(ii)薬学的に許容される担体を含む。
【0103】
他の好ましい実施形態において、免疫コンジュゲートのカップリング部分は、薬剤、毒素、および/または治療用同位体である。
【0104】
他の好ましい実施形態において、医薬組成物は、細胞毒性薬剤等の、腫瘍を治療するための追加の薬剤をさらに含む。
【0105】
他の好ましい実施形態において、腫瘍を治療するための追加の薬剤は、パクリタキセル、ドキソルビシン、シクロホスファミド、アキシチニブ、レンバチニブ、およびペムブロリズマブを含む。
【0106】
他の好ましい実施形態において、薬剤は、PD-1とPD-L1との間の相互作用を遮断し、同時に、VEGFとVEGFRとの間の相互作用を遮断するために使用される。
【0107】
他の好ましい実施形態において、医薬組成物は、PD-1/PD-L1および/またはVEGF/VEGFRシグナル伝達経路を遮断するために使用される。
【0108】
他の好ましい実施形態において、医薬組成物は、PD-L1タンパク質を発現する(すなわち、PD-L1陽性)および/またはVEGFタンパク質を発現する(すなわち、VEGF陽性)腫瘍を治療するために使用される。
【0109】
他の好ましい実施形態において、医薬組成物は、注射剤の形態である。
他の好ましい実施形態において、医薬組成物は、腫瘍を予防および治療するための医薬の製造において使用される。
【0110】
本発明の第9の態様において、
(i)ヒトPD-L1分子および/またはVEGF分子を検出するための使用;(ii)フロー検出のための使用;(iii)細胞免疫蛍光検出のための使用;(iv)腫瘍を治療するための使用;(v)腫瘍診断のための使用;(vi)PD-1とPD-L1との間の相互作用を遮断するための使用;および(vii)VEGFとVEGFRとの間の相互作用を遮断するための使用
からなる群から選択される、本発明の第1の態様による二重特異性抗体の1つまたは複数の使用が提供される。
【0111】
他の好ましい実施形態において、腫瘍は、PD-L1タンパク質を発現する(すなわち、PD-L1陽性)および/またはVEGFタンパク質を発現する(すなわち、VEGF陽性)腫瘍である。
【0112】
他の好ましい実施形態において、使用は、非診断用および非治療用の使用である。
本発明の第10の態様において、組換えタンパク質が提供され、この組換えタンパク質は:(i)本発明の第1の態様による二重特異性抗体;ならびに(ii)任意に、発現および/または精製を補助することができるタグ配列を有する。
【0113】
他の好ましい実施形態において、タグ配列は、6Hisタグ、HAタグおよびFcタグを含む。
【0114】
他の好ましい実施形態において、組換えタンパク質は、PD-L1および/またはVEGFに特異的に結合する。
【0115】
本発明の第11の態様において、試料中のPD-L1および/またはVEGFを検出する方法が提供され、この方法は:(1)試料を本発明の第1の態様による二重特異性抗体と接触させるステップ;(2)抗原抗体複合体が形成されるかどうかを検出し、ここで、複合体の形成は、試料中のPD-L1および/またはVEGFの存在を示すステップを含む。
【0116】
本発明の第12の態様において、疾患を治療するための方法が提供され、この方法は:本発明の第1の態様による二重特異性抗体、または本発明の第6の態様による免疫コンジュゲート、または本発明の第8の態様による医薬組成物を、それを必要とする対象に投与することを含む。
【0117】
他の好ましい実施形態において、対象は、哺乳動物、好ましくはヒトを含む。
本発明の第13の態様において、PD-L1および/またはVEGF検出試薬が提供され、検出試薬は、本発明の第6の態様による免疫コンジュゲートおよび検出許容可能な担体を含む。
【0118】
他の好ましい実施形態において、免疫コンジュゲートのカップリング部分は、診断用の同位体である。
【0119】
他の好ましい実施形態において、検出許容可能な担体は、非毒性で不活性な水性担体媒体である。
【0120】
他の好ましい実施形態において、検出試薬は、同位体トレーサー、造影剤、フロー検出試薬、細胞免疫蛍光検出試薬、磁性ナノ粒子およびイメージング剤からなる群から選択される1つまたは複数の試薬である。
【0121】
他の好ましい実施形態において、検出試薬は、in vivo検出のために使用される。
【0122】
他の好ましい実施形態において、検出試薬は、液体または粉末の剤形(例えば、水性液剤、注射、凍結乾燥散剤、錠剤、頬剤、吸入可能エアロゾル)である。
【0123】
本発明の第14の態様において、PD-L1および/またはVEGFを検出するためのキットが提供され、このキットは、本発明の第6の態様による免疫コンジュゲートまたは本発明の第13の態様による検出試薬、ならびに指示書を含む。
【0124】
他の好ましい実施形態において、指示書は、キットが、対象におけるPD-L1および/またはVEGFの発現の非侵襲的検出に有用であることを記載する。
【0125】
他の好ましい実施形態において、キットは、PD-L1タンパク質(すなわち、PD-L1陽性)および/またはVEGFタンパク質(すなわち、VEGF陽性)を発現する腫瘍の検出において有用である。
用語
本開示をより容易に理解できるようにするために、まず、特定の用語を最初に定義する。本出願で使用する場合、本明細書で明示的に別段の記載がない限り、以下の各用語は、以下に示す意味を有するものとする。他の定義は、本出願を通じて記載される。
二重特異性抗体
本明細書において、「本発明の二重特異性抗体」、「本発明の二重抗体」、および「抗PD-L1/VEGF二重特異性抗体」という用語は同じ意味を持ち、これらは全てPD-L1およびVEGFを特異的に認識し結合できる二重特異性抗体を指す。VEGF結合活性を有するタンパク質機能性領域については、VEGF受容体(例えば、VEGFR1および/またはVEGFR2)またはその機能性断片である場合、これは抗体と同様にVEGFの受容体への結合を遮断する機能を有するため、この場合の融合タンパク質も本発明では広く二重特異性抗体と称する。
【0126】
本発明は、抗PD-L1/VEGF二重特異性抗体を提供し、これは、抗PD-L1シングルドメイン抗体および抗VEGF抗体またはエレメントを含む。
【0127】
好ましくは、二重特異性抗体は、式Iおよび式II
A1-L1-CH-L2-B(式I)
A2-L3-CL(式II)
に示される構造を有するポリペプチドを含み、
式中、
A1は、抗VEGF抗体の重鎖可変領域VHであり;
A2は、抗VEGF抗体の軽鎖可変領域VLであり;
Bは、抗PD-L1シングルドメイン抗体であり;
L1、L2およびL3は、それぞれ独立して、存在しないか、または連結エレメントであり;
CHは、ヒトIgG重鎖定常領域CH(好ましくは、LALA変異体)であり;
CLは、ヒトκ軽鎖定常領域CLであり;
「-」は、ペプチド結合であり;
式Iで表されるポリペプチドおよび式IIで表されるポリペプチドは、ジスルフィド結合相互作用を介してヘテロ二量体を形成する。
【0128】
あるいは、二重特異性抗体は、式IIIまたは式IV
A3-L4-Fc-L5-B(式III)
B-L6-Fc-L7-A3(式IV)
で示される構造を有するポリペプチドであり、
式中、
A3は、VEGFに結合し、その活性を遮断することができるドメインであり;
Bは、抗PD-L1シングルドメイン抗体であり;
L4、L5、L6およびL7は、それぞれ独立して、存在しないか、または連結エレメントであり;
Fcは、ヒトIgGのFc領域(好ましくは、LALA変異体)であり;
「-」は、ペプチド結合である。
【0129】
一実施形態において、二重特異性抗体は、式Iおよび式IIで示される構造のポリペプチドを同時に含み、式Iで示されるポリペプチドおよび式IIで示されるポリペプチドは、ヘテロの二量体iを形成し;
さらに、ヘテロ二量体iは、CHドメイン間のジスルフィド結合相互作用を介してホモ二量体iiを形成する。
【0130】
他の実施形態において、二重特異性抗体は、式IIIまたは式IVで示される構造を有するポリペプチドであり、式IIIまたは式IVで示される構造を有するポリペプチドは、Fcセグメント間のジスルフィド結合相互作用を介してホモ二量体を形成する。
【0131】
本明細書で使用する場合、「シングルドメイン抗体」、「ナノボディVHH」、および「ナノボディ」という用語は同じ意味を有し、完全な機能を有する最小の抗原結合性断片である抗体重鎖可変領域をクローニングすることによって構築された、1つの重鎖可変領域(VHH)のみからなるナノボディを指す。通常、軽鎖と重鎖の定常領域1(CH1)を天然に欠く抗体を得た後、抗体重鎖可変領域をクローニングし、1つの重鎖可変領域のみからなるナノボディ(VHH)を構築する。
【0132】
本明細書において、「可変」という用語は、抗体可変領域の特定の部分が配列において異なり、これが各特定の抗体のその特定の抗原に対する結合性および特異性に寄与することを意味する。しかし、可変性は抗体可変ドメイン全体に均一に分布しているわけではない。それは、軽鎖および重鎖の可変領域の相補性決定領域(CDR)または超可変領域と呼ばれる3つのセグメントに集中している。可変ドメインのより保存された部分は、フレームワーク領域(FR)と呼ばれる。ネイティブの重鎖と軽鎖の可変領域はそれぞれ、4つのFR領域を含み、これらは近似的にβフォールド構成であり、結合ループを形成する3つのCDRによって接続されているが、場合によっては部分的にβフォールド構造を形成することもある。各鎖のCDRはFR領域によって近接し、他の鎖のCDRと共に抗体の抗原結合部位を形成する(Kabatら、NIH Publ. No.91-3242, I巻、pp.647-669(1991)を参照)。定常領域は、抗体の抗原への結合には直接関与しないが、例えば抗体の抗体依存性細胞傷害に関与する等の、異なるエフェクター機能を示す。
【0133】
本明細書で使用する場合、「フレームワーク領域」(FR)という用語は、CDR間に挿入されたアミノ酸配列、すなわち、単一種の異なる免疫グロブリン間で比較的保存的である免疫グロブリン軽鎖および重鎖可変領域の一部を指す。免疫グロブリン軽鎖および重鎖の各々は、それぞれFR1-L、FR2-L、FR3-L、FR4-LおよびFR1-H、FR2-H、FR3-H、FR4-Hと称される4つのFRを有する。したがって、軽鎖可変ドメインは、(FR1-L)-(CDR1-L)-(FR2-L)-(CDR2-L)-(FR3-L)-(CDR3-L)-(FR4-L)と称してよく、重鎖可変ドメインは、(FR1-H)-(CDR1-H)-(FR2-H)-(CDR2-H)-(FR3-H)-(CDR3-H)-(FR4-H)と表してもよい。好ましくは、本発明のFRはヒト抗体FRまたはその誘導体であり、ヒト抗体FR誘導体は天然に存在するヒト抗体FRと実質的に同一であり、すなわち、配列同一性は85%、90%、95%、または96%、97%、98%、または99%に達する。
【0134】
CDRのアミノ酸配列を知れば、当技術分野の当業者はフレームワーク領域FR1-L、FR2-L、FR3-L、FR4-Lおよび/またはFR1-H、FR2-H、FR3-H、FR4-Hを容易に決定できる。
【0135】
本明細書で使用する場合、「ヒトフレームワーク領域」という用語は、天然に存在するヒト抗体フレームワーク領域と実質的に(約85%以上、具体的には90%、95%、97%、99%または100%)同一であるフレームワーク領域である。
【0136】
本明細書で使用する場合、「親和性」という用語は、インタクトな抗体と抗原との間の平衡会合によって理論的に定義される。本発明の二重特異性抗体の親和性は、KD値(解離定数)または他の測定方法によって評価または決定、例えば、FortebioRed96装置を用いた生体層干渉法(BLI)によって決定し得る。
【0137】
本明細書で使用する場合、「リンカー」という用語は、軽鎖および重鎖のドメインが交換された二重可変領域を有する免疫グロブリンに折り畳まれるのに十分な移動度を提供するように免疫グロブリンドメインに挿入される1つまたは複数のアミノ酸残基を指す。
【0138】
当技術分野の当業者に知られているように、免疫コンジュゲートおよび融合発現産物は、薬剤、毒素、サイトカイン、放射性核種、酵素および他の診断用または治療用分子を本発明の抗体またはその断片に結合させることによって形成されるコンジュゲートを含む。本発明はまた、PD-L1/VEGF二重特異性抗体、またはその断片に結合する細胞表面マーカーまたは抗原を含む。
【0139】
本明細書で使用する場合、「可変領域」および「相補性決定領域(CDR)」という用語は、互換的に使用される。
【0140】
本発明の好ましい実施形態において、抗体の重鎖可変領域は、3つの相補性決定領域、CDR1、CDR2およびCDR3を含む。
【0141】
本発明の好ましい実施形態において、抗体の重鎖は、上記の重鎖可変領域および重鎖定常領域を含む。
【0142】
本発明において、「本発明の抗体」、「本発明のタンパク質」、または「本発明のポリペプチド」という用語は、互換的に使用され、これらは全て、PD-L1および/またはVEGFタンパク質に特異的に結合するポリペプチド、例えば、重鎖可変領域を有するタンパク質またはポリペプチドを指す。これらは、開始メチオニンを含んでいても含んでいなくてもよい。
【0143】
本発明はさらに、本発明の抗体を有する他のタンパク質または融合発現産物を提供する。具体的には、本発明は、可変領域が本発明の抗体の重鎖可変領域と同一または少なくとも90%相同、好ましくは少なくとも95%相同である限り、可変領域を含む重鎖を有する任意のタンパク質またはタンパク質コンジュゲートおよび融合発現産物(すなわち、免疫コンジュゲートおよび融合発現産物)を含む。
【0144】
一般的に、抗体の抗原結合特性は、重鎖可変領域に位置する3つの特定の領域によって説明することができ、これらはCDRと称され、セグメントを4つのフレームワーク領域(FR)に分離し、4つのFRのアミノ酸配列は比較的保存的であり、結合反応に直接関与していない。これらのCDRは環構造を形成し、その間のFRが形成するβフォールドは空間構造上互いに近接しており、重鎖上のCDRと対応する軽鎖上のCDRは抗体の抗原結合部位を構成する。同種の抗体のアミノ酸配列を比較することによって、どのアミノ酸がFR領域またはCDR領域を構成するかを判断することが可能である。
【0145】
本発明の抗体の重鎖の可変領域は、その少なくとも一部が抗原との結合に関与しているため、特に注目される。したがって、本発明は、CDRが本明細書で同定したCDRと90%超(好ましくは95%超、最も好ましくは98%超)相同である限り、CDRを有する抗体重鎖可変領域を有するこれらの分子を含む。
【0146】
本発明は、インタクトな抗体だけでなく、免疫学的活性を有する抗体断片、または抗体と他の配列とで形成される融合タンパク質をも含む。したがって、本発明は、抗体の断片、誘導体およびアナログをさらに含む。
【0147】
本明細書で使用する場合、「断片」、「誘導体」および「アナログ」という用語は、本発明の抗体の同じ生物学的機能もしくは活性を実質的に保持するポリペプチドを指す。本発明のポリペプチド断片、誘導体またはアナログは、(i)1つまたは複数の置換された保存的または非保存的なアミノ酸残基(好ましくは保存的アミノ酸残基)を有するポリペプチドであってよく、そのような置換アミノ酸残基は遺伝コードによってコードされていてもいなくてもよい、または(ii)1つまたは複数のアミノ酸残基に置換基を有するポリペプチド、または(iii)成熟ポリペプチドを他の化合物(例えば、ポリペプチドの半減期を延長する化合物、例えば、ポリエチレングリコール)、または(iv)追加のアミノ酸配列をポリペプチド配列に融合することによって形成されるポリペプチド(例えば、リーダー配列もしくは分泌配列、またはポリペプチドを精製するための配列もしくはプロタンパク質配列、または6Hisタグによって形成される融合タンパク質)であってもよい。本明細書の教示に照らして、このような断片、誘導体およびアナログは、当技術分野の当業者の範囲内である。
【0148】
本発明の抗体は、PD-L1および/またはVEGFタンパク質に結合する活性を有する二重抗体を指す。本用語は、本発明の抗体と同じCDR領域を含み、同じ機能を有するポリペプチドバリアントも指す。このようなバリアント形態には、(これらに限定されないが):C末端および/またはN末端の1つまたは複数(通常1~50、好ましくは1~30、より好ましくは1~20、最も好ましくは1~10)のアミノ酸の欠失、挿入および/または置換、ならびに1つまたはいくつか(通常20以内、好ましくは10以内、より好ましくは5以内)のアミノ酸の付加が含まれる。例えば、当技術分野では、より近いまたは類似の特性を有するアミノ酸の置換は、一般的に、タンパク質の機能を変化させない。他の例として、C末端および/またはN末端における1つまたはいくつかのアミノ酸の付加は、通常、タンパク質の機能を変化させない。本用語は、本発明の抗体の活性断片および活性誘導体をさらに指す。
【0149】
ポリペプチドのバリアントとしては、相同配列、保存的バリアント、対立遺伝子バリアント、天然変異体、誘導変異体、本発明の抗体のDNAと高度または低度にストリンジェントな条件でハイブリダイズできるDNAがコードするタンパク質、または本発明の抗体に対する抗血清を使用することによって得られるポリペプチドまたはタンパク質が挙げられる。
【0150】
本発明は、さらに他のポリペプチド、例えば、シングルドメイン抗体またはその断片を含む融合タンパク質を提供する。実質的に全長のポリペプチドに加えて、本発明はさらに、本発明のシングルドメイン抗体の断片を含む。典型的には、断片は、本発明の抗体の少なくとも約50の連続したアミノ酸、好ましくは少なくとも約50個の連続したアミノ酸、より好ましくは少なくとも約80の連続したアミノ酸、最も好ましくは少なくとも約100の連続したアミノ酸を有する。
【0151】
本発明において、「本発明の抗体の保存的バリアント」は、本発明の抗体のアミノ酸配列と比較して、類似または近い特性を有するアミノ酸で、多くとも10、好ましくは多くとも8、より好ましくは多くとも5、および最も好ましくは多くとも3のアミノ酸配列を置換することにより形成されるポリペプチドを指す。これらの保存的バリアントポリペプチドは、好ましくは、表Aに記載のアミノ酸置換によって産生される。
【0152】
本発明は、さらに、上記の抗体もしくはその断片またはその融合タンパク質をコードするポリヌクレオチド分子を提供する。本発明のポリヌクレオチドは、DNAまたはRNAの形態であってもよい。DNAの形態は、cDNA、ゲノムDNAまたは合成DNAを含む。DNAは、一本鎖または二本鎖であり得る。DNAは、コード化鎖または非コード化鎖のいずれかであり得る。
【0153】
本発明の成熟ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドは、成熟ポリペプチドのみをコードするコード配列;成熟ポリペプチドのコード配列および種々の追加コード配列;成熟ポリペプチドのコード配列(および任意の追加コード配列)および非コード配列を含む。
【0154】
「ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド」という用語は、ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含んでいても、または追加のコード配列および/もしくは非コード配列を含んでいてもよい。
【0155】
本発明はさらに、上記の配列にハイブリダイズし、2つの配列の間に少なくとも50%、好ましくは少なくとも70%、より好ましくは少なくとも80%の同一性を有するポリヌクレオチドに関する。本発明は特に、本発明のポリヌクレオチドに対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズ可能であるポリヌクレオチドに関する。本発明において、「ストリンジェントな条件」は:(1)例えば、0.2×SSC、0.1%SDS、60℃の低いイオン強度および高温でのハイブリダイゼーションおよび溶出、または(2)例えば、50%(v/v)ホルムアミド、0.1%ウシ血清/0.1%Ficoll、42℃等の変性剤存在下でのハイブリダイゼーション;または(3)2つの配列間の同一性が少なくとも90%、好ましくは95%超となる場合にのみ起こるハイブリダイゼーションを指す。さらに、ハイブリダイズ可能なポリヌクレオチドによってコードされるポリペプチドは、成熟ポリペプチドと同じ生物学的機能および活性を有する。
【0156】
本発明の抗体の全長ヌクレオチド配列またはその断片は、通常、PCR増幅、組換えまたは人工合成により得ることができる。実現可能な方法は、特に断片の長さが短い場合に、人工合成を用いて関連配列を合成することである。通常、非常に長い配列を有する断片は、複数の小さな断片を合成し、それらをライゲーションすることによって得られる。さらに、重鎖のコード配列を発現タグ(例えば、6His)と融合させて融合タンパク質を形成することもできる。
【0157】
関連配列が得られると、組換え法を用いて大量に関連配列を得ることができる。通常、ベクターにクローニングした後、細胞を形質転換し、増殖した宿主細胞から従来法により関連配列を単離する。本発明に関わる生体分子(核酸、タンパク質等)には、単離された形態の生体分子が含まれる。
【0158】
現時点では、本発明のタンパク質をコードするDNA配列(またはその断片、もしくはその誘導体)は、化学合成により完全に得ることができる。その後、このDNA配列は、当技術分野で知られている様々な既存のDNA分子(例えば、ベクター)および細胞に導入することができる。また、化学合成により、本発明のタンパク質配列に変異を導入することもできる。
【0159】
本発明はまた、上記の適切なDNA配列と適切なプロモーターまたは制御配列を含むベクターに関する。これらのベクターは、タンパク質を発現するように適切な宿主細胞を形質転換するために使用することができる。
【0160】
宿主細胞は、細菌細胞等の原核細胞;または酵母細胞等の下等真核細胞;または哺乳動物細胞等の高等真核細胞であってもよい。代表的な例としては大腸菌、ストレプトマイセス(Streptomyces);サルモネラ・チフィリウム(Salmonella typhimurium)等の細菌細胞;酵母等の真菌細胞;ショウジョウバエS2またはSf9等の昆虫細胞;CHO、COS7、293細胞等の動物細胞等が挙げられる。
【0161】
組換えDNAによる宿主細胞の形質転換は、当技術分野の当業者に周知の従来技術により行うことができる。宿主が大腸菌のような原核生物である場合、DNAを取り込むことができるコンピテントセルは、指数関数的成長期後に採取し、当技術分野の当業者に周知の手順を用いてCaCl2で処理することができる。他の方法は、MgCl2を使用することである。また、所望により、エレクトロポレーションにより形質転換を行うことができる。宿主が真核生物である場合、以下のDNAトランスフェクション法:リン酸カルシウム共沈法、マイクロインジェクション、エレクトロポレーション、リポソームパッケージング等の従来の機械的方法等を用いることができる。
【0162】
得られた形質転換体は、従来法により培養し、本発明の遺伝子にコードされるポリペプチドを発現させることができる。培養に用いる培地は、使用する宿主細胞に応じて、従来の種々の培地から選択することができる。培養は、宿主細胞の増殖に適した条件下で行われる。宿主細胞が適当な細胞密度まで増殖した後、選択したプロモーターを適当な方法(例えば、温度シフトまたは化学的誘導)によって誘導し、細胞をさらに一定期間培養する。
【0163】
上記方法において組換えポリペプチドは、細胞内、または細胞膜上で発現させることができ、または細胞外に分泌させることができる。組換えタンパク質は、所望により、その物理的、化学的、およびその他の特性を利用して、種々の分離方法によって単離および精製することができる。これらの方法は、当技術分野の当業者にはよく知られている。これらの方法の例としては、従来の再生処理、タンパク質沈殿剤による処理(塩析法)、遠心分離、浸透圧破壊、上清処理、超遠心分離、分子ふるいクロマトグラフィー(ゲル濾過)、吸着クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)および他の液体クロマトグラフィー技術およびこれらの方法の組合せが挙げられるが、これらに限定されない。
【0164】
本発明の抗体は、単独で、または検出可能な標識(診断目的)、治療剤、PK(プロテインキナーゼ)改変部分、またはこれらの物質いずれかの組合せで結合またはコンジュゲートして用いることができる。
【0165】
診断目的の検出可能な標識としては、蛍光または発光標識、放射性標識、MRI(磁気共鳴イメージング)またはCT(コンピュータ断層撮影)造影剤、または検出可能な生成物を産生することができる酵素が挙げられるが、これらに限定されない。
【0166】
本発明の抗体と組み合わせるまたはコンジュゲートすることができる治療剤としては、以下のものが含まれるが、これらに限定されない:1.放射性核種;2.生物学的毒性;3.IL-2等のサイトカイン;4.金ナノ粒子/ナノロッド;5.ウイルス;6.リポソーム;7.ナノ磁性粒子;8.プロドラッグ活性化酵素(例えば、DT-ダイアホラーゼ(DTD)またはビフェニルヒドロラーゼ様タンパク質(BPHL));10.化学療法剤(例えばシスプラチン)または任意の形式のナノ粒子等。
医薬組成物
本発明は、組成物も提供する。好ましくは、組成物は医薬組成物であり、これは、上記抗体もしくはその活性断片もしくはその融合タンパク質と、薬学的に許容される担体とを含む。一般的に、これらの物質は、非毒性で不活性かつ薬学的に許容される水性担体媒体中で製剤化することができ、そのpHは、通常、約5~8、好ましくは約6~8であるが、製剤化する物質の性質および治療する状態に応じてpH値を変化させてもよい。調製された医薬組成物は、腫瘍内投与、腹腔内投与、静脈内投与、または局所的投与を含む従来の経路で投与することができる(これらに限定されない)。
【0167】
本発明の医薬組成物は、PD-L1および/またはVEGFタンパク質分子の結合に直接使用することができ、したがって、腫瘍を治療するために使用することができる。さらに、追加の治療剤を併用することもできる。
【0168】
本発明の医薬組成物は、安全かつ有効な量(例えば、0.001~99wt%、好ましくは0.01~90wt%、より好ましくは0.1~80wt%)の本発明の上記のシングルドメイン抗体(またはそのコンジュゲート)と薬学的に許容される担体または賦形剤を含む。このような担体としては、生理食塩水、緩衝液、デキストロース、水、グリセロール、エタノール、またはその組合せが挙げられるが、これらに限定されない。医薬製剤は、投与様式に適合させるべきである。本発明の医薬組成物は、例えば、生理的食塩水またはグルコースおよび他のアジュバントを含む水溶液を用いて従来法により、注射剤の形態で調製することができる。注射剤または液剤等の医薬組成物は、好ましくは無菌条件下で製造される。有効成分は、治療上有効量、例えば1日あたり約10μg/kg体重~約50mg/kg体重で投与される。さらに、本発明のポリペプチドは、追加の治療剤と共に使用することもできる。
【0169】
医薬組成物を使用する場合、安全かつ有効な量の免疫コンジュゲートが哺乳動物に投与されるが、その安全かつ有効な量は、通常少なくとも約10μg/kg体重、多くの場合約50mg/kg体重以下であり、好ましくは、投与量は約10μg/kg体重~約10mg/kg体重である。それにもかかわらず、具体的な投与量については、投与経路および患者の健康状態等の要因も考慮する必要があり、これらは当業者の医師の技量の範囲内である。
標識化抗体
本発明の好ましい実施形態において、抗体は検出可能な標識を有する。より好ましくは、標識は、同位体、コロイド状金標識、有色標識および蛍光標識からなる群から選択される。
【0170】
コロイド状金標識は、当技術分野の当業者に公知の方法を用いて実施することができる。本発明の好ましい実施形態において、PD-L1/VEGF二重特異性抗体をコロイド状金で標識し、コロイド状金標識化抗体を得ることができる。
検出方法
本発明はまた、PD-L1および/またはVEGFタンパク質を検出する方法に関する。本方法は、大別すると、以下:細胞および/または組織の試料を得るステップ;試料を媒体に溶解するステップ;溶解した試料中のPD-L1および/またはVEGFタンパク質のレベルを検出するステップを含む。
【0171】
本発明の検出方法において、使用する試料は特に限定されず、代表例は、細胞保存溶液中に存在する細胞含有試料である。
キット
また、本発明は、本発明の抗体(またはその断片)または検出プレートを含むキットを提供する。本発明の好ましい実施態様において、キットは、容器、使用指示書、緩衝剤等をさらに含む。
【0172】
また、本発明は、PD-L1および/またはVEGFのレベルを検出するための検出キットを提供し、このキットは、PD-L1および/またはVEGFタンパク質を認識する抗体、試料を溶解するための溶解媒体、および各種緩衝剤、検出標識、検出基質等の一般的な検出試薬および緩衝剤を含む。なお、検出キットはin vitro診断用デバイス中にあってもよい。
使用
実験の結果、本発明の二重特異性抗体は、高い特異性でヒトPD-L1タンパク質を標的とし、腫瘍微小環境における中和VEGFを標的とすることに基づいてPD-1/PD-L1経路を阻害し、T細胞の活性を回復させて免疫応答を高め、それによって腫瘍発生および発達の阻害効果をより効果的に改善できることがわかった。
【0173】
以上のように、本発明のシングルドメイン抗体は、生物学的および臨床的応用価値が広く、その使用は、PD-L1および/またはVEGFに関連する疾患の診断および治療、基礎医学研究、生物学研究等の多くの分野に関連する。好ましい使用は、臨床診断、または腫瘍治療等のPD-L1および/またはVEGFに対する標的治療のための使用である。
【発明の効果】
【0174】
本発明による有益な効果
本発明は、以下の技術的効果のうち1つまたは複数を達成する:
(1)本発明の二重特異性抗体は、強い親和性を有する。
(2)腫瘍微小環境におけるVEGFを標的として中和することに基づいてPD-1/PD-L1経路を阻害し、T細胞の活性を回復させ、免疫応答を高め、腫瘍の発生および発達の阻害効果をより有効に向上させることができ、抗がん薬剤の調製において優れた可能性を示す。
(3)本発明の二重特異性抗体の産生は、簡単かつ簡便である。
(4)本発明の二重特異性抗体は、第1のタンパク質機能性領域と第2のタンパク質機能性領域との間で相乗効果を示す可能性が高く、例えば、VEGFとの親和性は抗VEGFモノクローナル抗体よりも優れていることが多く、PD-L1との親和性は抗PD-L1モノクローナル抗体よりも優れていることが多く;また、抗VEGFモノクローナル抗体や抗PD-L1モノクローナル抗体よりも、混合リンパ球にIL2またはINFを分泌させることを誘導することにおいて優れており、本発明の二重特異性抗体がT細胞をより活性化できることを示している。
【図面の簡単な説明】
【0175】
【
図1A】
図1Aは、Ava-2GS-NSDまたはAva-4GS-NSDの構造の模式図を示す。
【
図1B】
図1Bは、Luc-2GS-NSDまたはLuc-4GS-NSDの構造模式図を示す。
【
図1C】
図1Cは、NSD-Elyeaの構造の模式図を示す。
【
図1D】
図1Dは、Elyea-NSDの構造の模式図を示す。
【
図2】二重特異性抗体のCHO-PDL1細胞への結合曲線を示す。
【
図3A】
図3Aは、VEGFのVEGFR2への結合を遮断する二重特異性抗体の曲線を示す。
【
図3B】
図3Bは、VEGFのVEGFR2への結合を遮断する二重特異性抗体の曲線を示す。
【
図4A】
図4Aは、混合リンパ球培養物におけるINF-ガンマの分泌を遮断するための二重特異性抗体の濃度を示す。各二重特異性抗体試料について、その濃度は左から右に、100nM、10nM、1nM、0.1nMおよび0.01nMである。
【
図4B】
図4Bは、混合リンパ球培養物におけるIL-2の分泌を遮断するための二重特異性抗体の濃度を示す。各二重特異性抗体試料について、その濃度は左から右に、100nM、10nM、1nM、0.1nMおよび0.01nMである。
【
図5A】
図5Aは、異なる日数保存した二重特異性抗体のCHO-PDL1細胞への結合曲線を示す。
【
図5B】
図5Bは、異なる日数保存した二重特異性抗体のCHO-PDL1細胞への結合曲線を示す。
【
図5C】
図5Cは、異なる日数保存された二重特異性抗体のCHO-PDL1細胞への結合曲線を示す。
【
図5D】
図5Dは、異なる日数保存された二重特異性抗体のCHO-PDL1細胞への結合曲線を示す。
【
図5E】
図5Eは、異なる日数保存された二重特異性抗体のVEGFに対する結合曲線を示す。
【
図5F】
図5Fは、異なる日数保存された二重特異性抗体のVEGFに対する結合曲線を示す。
【
図5G】
図5Gは、異なる日数保存された二重特異性抗体のVEGFに対する結合曲線を示す。
【
図5H】
図5Hは、異なる日数保存された二重特異性抗体のVEGFに対する結合曲線を示す。
【
図6A】
図6Aは、マウスにおける腫瘍体積に対する二重特異性抗体の効果の図を示す。
【
図6B】
図6Bは、マウスの体重に対する二重特異性抗体の効果の図を示す。
【
図7A】
図7Aは、Ava-2GS-NSDまたはAva-4GS-NSDの構造の模式図を示す。
【
図7B】
図7Bは、Luc-2GS-NSDまたはLuc-4GS-NSDの構造の模式図を示す。
【
図7C】
図7Cは、NSD-Elyeaの構造の模式図を示す。
【
図7D】
図7Dは、Elyea-NSDの構造の模式図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0176】
【0177】
【0178】
【0179】
【0180】
【0181】
【0182】
本発明を実施するための具体的なモデル
本発明は、特定の実施例と組み合わせてさらに説明される。これらの実施例は、本発明を説明するために使用されるに過ぎず、本発明の範囲を限定することを意図していないことは理解されるべきである。以下の実施例において具体的な条件を示さない実験方法は、通常、従来の条件に従って、例えば、Sambrookら、Molecular cloning: Laboratory Manual (New York: Cold Spring Harbor Laboratory Press, 1989)に記載されている条件に従って、または製造業者が推奨する条件に従って実施される。パーセンテージおよび部は、特に指示しない限り、重量によるものである。
【0183】
実施例1:抗VEGF/PD-L1二重特異性抗体のクローニングおよび発現
1.1 抗体構造設計
本実施例では、6つの抗VEGF/PD-L1二重特異性抗体を構築した、すなわち:
Ava-2GS-NSD/Ava-4GS-NSD:4本のポリペプチド鎖(C-Ye-18-5にそれぞれライゲーションした2本の重鎖、および2本の軽鎖)から構成され、その模式図は
図1Aおよび
図7Aに示され、両ペプチド鎖#1は配列番号1または配列番号2に記載のアミノ酸配列を有し、抗VEGF抗体ベバシズマブ(特許番号:国際公開第1998045332号)に由来するVHアミノ酸配列(配列番号3)を含み、VHアミノ酸配列のC末端はヒトIgG1に由来するCHアミノ酸配列に直接ライゲーションされ(Fc機能を低下させるためにLALA変異を導入、配列番号4)、抗PD-L1ナノボディ C-Ye-18-5(特許出願番号:第2019108631090号)(配列番号5)のN末端を、11アミノ酸残基(G
4S)
2G(配列番号6)(Ava-2GS-NSD)または21アミノ酸残基(G
4S)
4G(配列番号7)(Ava-4GS-NSD)の可撓性ペプチドを介して重鎖のC末端にライゲーションした。両ペプチド鎖#2は、配列番号8に記載のアミノ酸配列を有し、これは抗VEGF抗体ベバシズマブに由来するVLアミノ酸配列(配列番号9)、およびVLアミノ酸配列のC末端にライゲーションしたヒトκ軽鎖定常領域(CL)アミノ酸配列(配列番号10)を含む。
【0184】
Luc-2GS-NSD/Luc-4GS-NSD:4本のポリペプチド鎖(C-Ye-18-5にそれぞれライゲーションした2本の重鎖、および2本の軽鎖)から構成され、その模式図は
図1Bおよび
図7Bに示され、両ペプチド鎖#1が配列番号11または配列番号12に記載のアミノ酸配列を有し、これは抗VEGF抗体ラニビズマブ(特許番号:国際公開第2018175752号)に由来するVHアミノ酸配列(配列番号13)を含んでおり、VHアミノ酸配列のC末端がヒトIgG1に由来するCHアミノ酸配列に直接ライゲーションし(Fc機能を低下させるためにLALA変異を導入、配列番号4)、N末端を抗PD-L1ナノボディC-Ye-18-5(配列番号5)を、11アミノ酸残基(G
4S)
2G(配列番号6)(Luc-2GS-NSD)または21アミノ酸残基(G
4S)
4G(配列番号7)(Luc-4GS-NSD)の可撓性ペプチドを介して重鎖のC末端にライゲーションした。両ペプチド鎖#2は、配列番号14に記載のアミノ酸配列を有しており、これは抗VEGF抗体ラニビズマブに由来するVLアミノ酸配列(配列番号15)、およびVLアミノ酸配列のC末端にライゲーションしたヒトκ軽鎖定常領域(CL)(配列番号10)を含んでいた。
【0185】
NSD-Elyea:2本の同一のポリペプチド鎖(二量体)から構成され、その模式図は
図1Cおよび
図7Cに示され、ペプチド鎖は配列番号16に記載のアミノ酸配列を有し、これは抗VEGF融合タンパク質アフリベルセプト(特許番号:米国特許第7070959号)に由来するVEGF結合領域(Elyea、配列番号17)を含み、アミノ酸配列のC末端をヒトIgG1に由来するFcアミノ酸配列に直接ライゲーションし(Fc機能を低下させるためにLALA変異が導入された、配列番号18)、抗PD-L1ナノボディC-Ye-18-5のN末端を21アミノ酸残基(G
4S)
4G(配列番号7)の可撓性ペプチドを介して重鎖のC末端にライゲーションした。
【0186】
Elyea-NSD:2つの同一のポリペプチド鎖(二量体)から構成され、その構造模式図は
図1Dおよび
図7Dに示され、ペプチド鎖は配列番号19に記載のアミノ酸配列を有し、これは、抗PD-L1ナノボディC-Ye-18-5(配列番号5)を含み、ナノボディ配列のC末端はヒトIgG1に由来するFcアミノ酸配列に直接ライゲーションされ(Fc機能を低下させるためにLALA変異が導入された、配列番号18)、抗VEGF融合タンパク質アフリベルセプトに由来するVEGF結合領域(Elyea、配列番号17)のN末端を、21アミノ酸残基の可撓性ペプチド(G
4S)
4G(配列番号7)を介して重鎖のC末端にライゲーションした。
1.2 遺伝子クローニングおよびタンパク質の調製
表Bの配列を参照し、対応するアミノ酸配列をコードする遺伝子断片をpCDNA3.1ベクターに構築した。Ava-2GS-NSDのペプチド鎖#1およびペプチド鎖#2については、これら2つの配列は一過性のトランスフェクション中に2つの異なるプラスミドで発現し、細胞発現手順の間にジスルフィドが自動的に形成されるであろう。
【0187】
ExpiCHO(商標)Expression System Kit(Thermoより購入)を用いてプラスミドをExpi-CHO細胞にトランスフェクションし、トランスフェクション方法は製造者の指示に従って実施した。細胞を5日間培養した後、上清を回収し、プロテインA磁気ビーズ(GenScriptより購入)を用いたソーティング法に供し、標的タンパク質を精製した。磁気ビーズを適当な体積の結合緩衝剤(PBS+0.1% Tween 20、pH7.4)で再懸濁し(磁気ビーズの1~4倍の体積)、次いで精製する試料に添加し、室温で穏やかに振とうしながら1時間インキュベートした。試料を磁気スタンド(Beaverより購入)に置き、上清を廃棄し、磁気ビーズを結合緩衝剤で3回洗浄した。溶出緩衝剤(0.1Mクエン酸ナトリウム、pH3.2)を磁気ビーズの3~5倍の体積になるように添加し、室温で5~10分間振とうし、磁気スタンドに置き、溶出緩衝剤を回収し、中和緩衝剤(1M Tris、pH8.54)を加えた回収管に移し、よく混合した。これを次の実験に使用した。
【0188】
実施例2:二重特異性抗体の抗体親和性の決定
ForteBio親和性測定は、既存の方法(Estep, Pら、Solution-based measurement of high-throughput antibody-antigen affinity and epitope fractionation, MAbs, 2013.5(2):p.270-8)に従って実施した。簡単に説明すると、センサーをアッセイ緩衝剤中で30分間オフラインで平衡化し、次にベースラインを確立するために60秒間オンラインで測定し、上記のように得られた精製された抗体をオンラインでAHCセンサーにローディングした。その後、センサーを100nMのPD-L1またはVEGF抗原に5分間静置し、その後センサーをPBSに移し5分間解離させた。動態解析は、1:1結合モデルを用いて行った。
【0189】
【0190】
【0191】
結果から、本発明の二重特異性抗体試料は、全てPD-L1およびVEGFタンパク質に対する結合活性を有することが示された。対照抗体C-Ye-18-5(PD-L1シングルドメイン抗体)と比較して、本発明の二重特異性抗体のPD-L1に対する結合活性は同等またはさらに良好であり;および/または、対照抗体ラニビズマブおよびベバシズマブと比較して、本発明の二重特異性抗体のVEGFに対する結合活性は同等またはさらに良好だった。
【0192】
実施例3:精製された二重特異性抗体のPD-L1に対する結合
ヒトPD-L1を過剰発現するCHO細胞株(CHO-hPD-L1細胞)は、MCSにクローニングしたヒトPD-L1 cDNA(Sino Biologicalより購入)をpCHO1.0ベクター(Invitrogenより購入)にトランスフェクションすることによって作製した。増殖させたCHO-hPD-L1細胞は、細胞密度2×106細胞/mlに調整し、96ウェルフロープレートに100μl/ウェルを添加し、遠心分離して後に使用した。精製されたPD-L1抗体をPBSで400nMから3倍希釈し、合計12点を得た。上記希釈試料を上記の細胞保有96ウェルフロープレートに100μl/ウェルで添加し、4℃で30分間インキュベートした後、PBSで2回洗浄した。PBSで100倍に希釈したヤギF(ab’)2抗ヒトIgG-Fc(PE)(Abcamより購入)を100μl/ウェルで添加し、4℃で30分間インキュベートし、PBSで2回洗浄した。PBSを、100μl/ウェルで添加して細胞を再懸濁し、CytoFlex(Bechman)フローサイトメーターを用いて検出し、対応するMFIを算出した。
【0193】
結果は
図2に示した。本発明の精製された試料は全てCHO-hPD-L1細胞に対する結合活性を有し、精製された試料の結合活性は対照抗体C-Ye-18-5と同等かそれ以上であった。
【0194】
実施例4:ELISAベースのVEGF/VEGFR遮断活性の検出
ヒトVEGFRタンパク質をELISAコーティング溶液で適切な濃度に希釈してELISAプレートに添加し、4℃で一晩コーティングした。ブロッキングは5%BSAで室温で1時間行った。試験する試料を連続希釈し、ビオチン標識化ヒトVEGFタンパク質と共に室温で1時間共インキュベートした。インキュベートした試料を密封したELISAプレートに添加し、室温で2時間反応させた。PBS洗浄液で3回洗浄した後、希釈したストレプトアビジン(HRP)を添加し、室温で1時間反応させ、PBS洗浄液で3回洗浄した後、ELISA発色溶液を添加し、室温で3分放置した後、ELISA停止溶液を添加し、450nmの吸光値を読み取った。
【0195】
結果は
図3Aから
図3Bに示した。
その結果により、Ava-2GS-NSD、Luc-2GS-NSD、Ava-4GS-NSD、Luc-4GS-NSD(
図3A)およびNSD-Elyea、Elyea-NSD(
図3B)によりVEGFとVEGFRタンパク質間の相互作用を完全に遮断し得ることが示された。
【0196】
実施例5:混合リンパ球反応実験
本実施例において、二重特異性抗体試料によるT細胞の活性化を、混合リンパ球反応実験(MLR)により検出した。具体的な実験方法は、以下の通りであった。
【0197】
PBMC細胞(SAILY BIO、SLB-HPBより購入)を蘇生させ、遠心分離し、PBMC細胞を10mlのX-VIVO-15培地(LONZAより購入)で再懸濁し、37℃の細胞培養インキュベーターで2時間培養し、ピペッティングにより非接着細胞を取り除いた。DC培地(10ng/ml GM-CSF(R&Dより購入)、20ng/ml IL-4を含むX-VIVO-15培地に)10mlを添加し、3日間培養した。DC培地5mlを補充し、6日目まで培養を続け、DC成熟培地(1000U/ml TNF-α(R&Dより購入)、10ng/ml IL-6(R&Dより購入)、5ng/ml IL-1β(R&Dより購入)、1μM PGE2(Tocrisより購入)を含むX-VIVO-15培地)を添加し、2日間培養した。成熟DC細胞を採取し、X-VIVO-15培地で細胞密度2×105細胞/mlになるように調整した。
【0198】
他のドナー由来のPBMC細胞(SAILY BIO、SLB-HPBより購入)を蘇生させ、遠心分離した。PBMC細胞を10mlのX-VIVO-15培地で再懸濁した。CD4+ T細胞をCD4+ T細胞ソーティングキット(Stemcellより購入)で濃縮し、X-VIVO-15に再懸濁し、細胞密度を2×106細胞/mlに調整した。CD4+ T細胞と上記で採取した成熟DC細胞を1:1の割合で混合し、96ウェルU底プレートに100μl/ウェルで添加した。
【0199】
精製された二重特異性抗体試料をX-VIVO-15培地で200nMから3倍希釈して合計9点を得、上記混合細胞ウェルに100μl/ウェルで添加し、5日間培養した。上清を回収し、ELISA法(eBioscienceより購入)によりIFN-γ(
図4A)およびIL2(
図4B)の発現レベルを検出した。
【0200】
結果を
図4Aおよび
図4Bに示し、ここで、Ava-2GS-NSD、Luc-2GS-NSD、Ava-4GS-NSD、Luc-4GS-NSD、NSD-Elyea、Elyea-NSDは全てMLR実験において良好な生物学的活性を示し、その活性レベルは対照抗体C-Ye-18-5と同等またはそれ以上だった。例えば、いくつかの濃度では、二重特異性抗体試料は対照抗体よりも高いIL2またはINFの分泌を誘導し、これは本発明の二重特異性抗体がよりよくT細胞を活性化できることを示す。
【0201】
実施例6:加速安定性試験
6.1 加速安定性試験試料の純度決定
本実験では、40℃で30日間静置した後の二重特異性抗体の純度および生物学的活性の変化を検出することによって、二重特異性抗体の長期熱安定性を評価した。40℃で0日、14日、および30日間保存した後の標的抗体の純度は、SECにより決定した。
【0202】
【0203】
この結果により、二重特異性抗体Ava-2GS-NSD、Luc-2GS-NSD、NSD-Elyea、およびElyea-NSDの純度は有意に変化しないことが示された。
6.2 加速安定性試験試料の活性決定
本実験では、CHO-PDL1細胞への加速安定性試験試料の結合をFACS法により検出し、その方法は実施例3と同様であった。また、加速安定性試験試料のVEGFへの結合は、以下のELISA法により検出した:VEGFA組換えタンパク質をELISAコーティング溶液で1μg/mlに希釈し、ELISAプレートに100μl/ウェルで添加し、4℃で一晩コーティングした。コーティング溶液を廃棄し、PBSTを250μl/ウェルで添加して3回洗浄し、5%BSAで室温で1時間ブロッキングを行った。精製された試料を1%BSAで連続希釈した。ブロッキング溶液をELISAプレートから廃棄し、上記の希釈した試料をブロッキングしたELISAプレートに100μl/ウェルで添加し、室温で2時間インキュベートした。PBSTを250μl/ウェルで添加して3回洗浄し、1%BSAで希釈したヤギ抗ヒトFc-HRPを100μl/ウェルで添加し、室温で1時間インキュベートし、PBSTを250μl/ウェルで添加して3回洗浄し、ELISA発色溶液を、100μl/ウェルで添加し、3分間室温で静置した。ELISA停止溶液を50μl/ウェルで添加し、450nmの吸光値を読み取った。
【0204】
実験結果を
図5A~
図5Hに示すが、二重特異性抗体のCHO-PDL1細胞への結合のEC
50値(
図5A~
図5D)およびVEGFタンパク質への結合のEC
50値(
図5E~
図5H)は有意に変化しなかった。この結果から、本発明の二重特異性抗体は熱安定性が良好であることが示された。
【0205】
実施例7:ラットにおける薬物動態評価
この実験では、抗PD-L1/VEGF二重特異性抗体の薬物動態特性をラットにおいて試験し、SDラット(雄と雌が半々、12/12時間明暗調整、温度24±2℃、湿度40-70%、水と食事への自由アクセス)6匹をZhejiang Weitong Lihua Experimental Technology Co., Ltdから購入した。実験当日、Ava-2GS-NSDまたはElyea-NSD分子を10mg/kgの用量でSDラットの尾静脈に1回注射した。
【0206】
採血時点:血液試料を、投与後3分、4時間、10時間、24時間、48時間、72時間、120時間、168時間、240時間、336時間、504時間および672時間の時点でラットの頸静脈から回収した。全血試料を2~8℃で30分間静置した後、12,000rpmで5分間遠心分離し、血清を回収した。得られた血清を2-8℃、12,000rpmで5分間遠心分離し、-80℃で保存し、血清中の遊離Ava-2GS-NSDまたはElyea-NSD分子をELISAにより検出した。
実験結果は、表4に示した。
【0207】
結果によって、SDラットにおける本発明のAva-2GS-NSD分子の半減期は約320.6時間であり、SDラットにおけるElyea-NSD分子の半減期は約38.1時間であることが示された。
【0208】
実施例8:二重特異性抗体の腫瘍抑制活性
本実験では、ヒト結腸がんLOVO細胞/NOGマウスにヒトPBMCを注射したモデルを用いて、二重特異性抗体の抗腫瘍効果を決定した。十分なLOVO細胞(Addexbioより購入)をin vitroで培養および増殖させ、トリプシン処理後に回収し、PBSで3回洗浄した後にカウントし、8週齢の雌NOG重症免疫不全マウス(Beijing Weitong Lihua Experimental Animal Technology Co., Ltdより購入)に2×10
6細胞/マウスの量でマウス右腹部に皮下接種した。皮下腫瘍形成を毎日観察し、接種8日後に6×10
6個のPBMCを各マウスの尾静脈に注射した。PBMC注射3日後に、各動物の右腹部の皮下腫瘍の最大軸幅Wと最大軸長Lをノギスで測定し、各マウスの体重を電子天秤で測定した。各マウスの右腹部の皮下腫瘍体積は、式:腫瘍体積T=1/2×W×W×Lに従って算出した。腫瘍体積が大きすぎるマウス、または小さすぎるマウスを除外し、NOGマウスを平均腫瘍体積に応じて4群に分け、各群6匹ずつとした。分類は下記表5に示す分類レジメンに従って行い、対応する用量のAva-2GS-NSDを注射した。
【0209】
マウスの腫瘍体積および体重を1週間に2回測定した。腫瘍細胞接種後31日目にマウスの体重および腫瘍体積を最後に測定し、マウスを安楽死させた。
【0210】
【0211】
結果より、PBS群と比較して、Ava-2GS-NSDは用量依存的に腫瘍の成長を阻害することができ、1mg/kg、4.8mg/kg、および24mg/kg投与時のTGI値はそれぞれ16.7%、44.9%、55.6%であった。4.8mg/kg群および24mg/kg群の腫瘍体積は、PBS群と有意に異なっていた。平均腫瘍重量、腫瘍成長阻害率および腫瘍体積の結果は、実質的に同様の傾向を示した(
図6Aおよび表6)。
【0212】
各群のマウスの日常観察は異常を示さず、マウスの体重を週2回測定したが、各群のマウスの体重は有意には減少せず、実験終了時、各用量群のマウスの体重は投与および治療開始時の体重と比較して13%を超える変化はなく、PBS群のマウスの体重は6%減少し;このため、実験後期には、マウスにPBMCを再構成したことによるGvHDにより、各群のマウスの体重が減少した可能性が高いと考えられた(
図6B参照)。実験終了時に、各群のマウスを解剖し、肝臓、腎臓、肺および他の主要臓器を検査した。明らかな病変は見られず、これにより、この実験で使用した用量では、各群の薬剤はマウスに対して明らかな毒性を示さないことが示された。
【0213】
実験結果により、Ava-2GS-NSDは用量依存的にLOVO皮下移植腫瘍の増殖を阻害し、有効用量は4.8mg/kgであり、3つの用量(1mg/kg、4.8mg/kg、および24mg/kg)においてマウスに対する明らかな毒性は観察されないことが示された。
【0214】
本出願で言及された全ての文書は、それぞれが個別に参照により組み込まれるかのように、本出願に参照により組み込まれる。さらに、本発明の上記教示内容を読んだ後、当技術分野の当業者は本発明に様々な変更または修正を加えることができ、これらの同等形態も本出願の添付の請求項によって定義される範囲に入ることは理解されるべきである。
【配列表】
【国際調査報告】