IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ アンチュレック ファーマシューティカルズ ゲーエムベーハーの特許一覧

特表2023-539578軟組織肉腫を処置する際に使用されるためのtTF-NGRを含む組成物
<>
  • 特表-軟組織肉腫を処置する際に使用されるためのtTF-NGRを含む組成物 図1
  • 特表-軟組織肉腫を処置する際に使用されるためのtTF-NGRを含む組成物 図2A
  • 特表-軟組織肉腫を処置する際に使用されるためのtTF-NGRを含む組成物 図2B
  • 特表-軟組織肉腫を処置する際に使用されるためのtTF-NGRを含む組成物 図3
  • 特表-軟組織肉腫を処置する際に使用されるためのtTF-NGRを含む組成物 図4A
  • 特表-軟組織肉腫を処置する際に使用されるためのtTF-NGRを含む組成物 図4B
  • 特表-軟組織肉腫を処置する際に使用されるためのtTF-NGRを含む組成物 図4C
  • 特表-軟組織肉腫を処置する際に使用されるためのtTF-NGRを含む組成物 図5A
  • 特表-軟組織肉腫を処置する際に使用されるためのtTF-NGRを含む組成物 図5B
  • 特表-軟組織肉腫を処置する際に使用されるためのtTF-NGRを含む組成物 図6
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-09-15
(54)【発明の名称】軟組織肉腫を処置する際に使用されるためのtTF-NGRを含む組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/4985 20060101AFI20230908BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20230908BHJP
   A61K 38/16 20060101ALI20230908BHJP
   A61P 35/04 20060101ALI20230908BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20230908BHJP
【FI】
A61K31/4985
A61P35/00
A61K38/16
A61P35/04
A61P43/00 121
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023512346
(86)(22)【出願日】2021-08-23
(85)【翻訳文提出日】2023-04-17
(86)【国際出願番号】 EP2021073234
(87)【国際公開番号】W WO2022043245
(87)【国際公開日】2022-03-03
(31)【優先権主張番号】20192984.1
(32)【優先日】2020-08-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523057046
【氏名又は名称】アンチュレック ファーマシューティカルズ ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100124431
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 順也
(74)【代理人】
【識別番号】100174160
【弁理士】
【氏名又は名称】水谷 馨也
(74)【代理人】
【識別番号】100175651
【弁理士】
【氏名又は名称】迫田 恭子
(74)【代理人】
【識別番号】100122448
【弁理士】
【氏名又は名称】福井 賢一
(72)【発明者】
【氏名】バーデル ウォルフガング イー.
【テーマコード(参考)】
4C084
4C086
【Fターム(参考)】
4C084AA02
4C084AA03
4C084BA44
4C084MA17
4C084MA65
4C084MA66
4C084NA05
4C084NA14
4C084ZB26
4C084ZC75
4C086AA01
4C086AA02
4C086CB31
4C086MA02
4C086MA04
4C086MA17
4C086MA65
4C086MA66
4C086NA05
4C086NA14
4C086ZB26
4C086ZC75
(57)【要約】
本発明は、個体におけるガンの処置で使用されるための、トラベクテジンまたはtTF-NGRタンパク質を含む組成物であって、前記処置が、下記の工程:(a)トラベクテジンを含む組成物の効果的な量を前記個体に投与する工程、および(b)続いて、tTF-NGRタンパク質を含む組成物の効果的な量を前記個体に投与する工程を含む、組成物を提供する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
個体におけるガンの処置で使用されるための、トラベクテジンを含む組成物であって、前記処置が、下記の工程:
(a)トラベクテジンを含む組成物の効果的な量を前記個体に投与する工程、および
(b)続いて、tTF-NGRタンパク質を含む組成物の効果的な量を前記個体に投与する工程
を含む、組成物。
【請求項2】
個体におけるガンの処置で使用されるための、tTF-NGRタンパク質を含む組成物であって、前記処置が、下記の工程:
(a)トラベクテジンを含む組成物の効果的な量を前記個体に投与する工程、および
(b)続いて、前記tTF-NGRタンパク質を含む組成物の効果的な量を前記個体に投与する工程
を含む、組成物。
【請求項3】
前記個体の前記ガンが手術不能である、転移性である、または難治性である、請求項1または請求項2に記載の軟部組織肉腫処置で使用されるための組成物。
【請求項4】
前記ガンが軟部組織肉腫であり、好ましくは、脱分化型脂肪肉腫、粘液様脂肪肉腫、多形性脂肪肉腫、成人線維肉腫、粘液線維肉腫、平滑筋肉腫、横紋筋肉腫、血管肉腫、滑膜肉腫および未分化肉腫からなる群から選択される、請求項1~2の一項に記載の軟部組織肉腫処置で使用されるための組成物。
【請求項5】
トラベクテジンを含む前記組成物、およびtTF-NGRを含む前記組成物が静脈内注入により前記個体に投与される、請求項1~4の一項に記載の軟部組織肉腫処置で使用されるための組成物。
【請求項6】
トラベクテジンを含む前記組成物が24時間の静脈内注入により前記個体に投与される、請求項1~5の一項に記載の軟部組織肉腫処置で使用されるための組成物。
【請求項7】
トラベクテジンが1.5mg/m2の用量で投与される、請求項1~6の一項に記載の軟部組織肉腫処置で使用されるための組成物。
【請求項8】
前記tTF-NGRタンパク質が配列番号2を含む、または有する、請求項1~12の一項に記載の軟部組織肉腫処置で使用されるための組成物。
【請求項9】
前記tTF-NGRタンパク質の最初の投与が、トラベクテジンの前記投与の終了後1分~1時間の間で開始される、請求項1~8の一項に記載の軟部組織肉腫処置で使用されるための組成物。
【請求項10】
tTF-NGRタンパク質が1時間の静脈内注入により前記個体に投与される、請求項1~9の一項に記載の軟部組織肉腫処置で使用されるための組成物。
【請求項11】
前記tTF-NGRタンパク質の前記投与が、翌日以降連続した4日間にわたって1日に1回、繰り返される、請求項1~10の一項に記載の軟部組織肉腫処置で使用されるための組成物。
【請求項12】
前記tTF-NGRタンパク質が3mg/m2/日の用量で投与される、請求項1~11の一項に記載の軟部組織肉腫処置で使用されるための組成物。
【請求項13】
前記tTF-NGRタンパク質が100mlの総注入量で0.9%のNaCl溶液において投与される、請求項1~12の一項に記載の軟部組織肉腫処置で使用されるための組成物。
【請求項14】
前記tTF-NGRタンパク質が中心静脈ポートアクセスにより投与される、請求項1~13の一項に記載の軟部組織肉腫処置で使用されるための組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガンの処置における、特に軟部組織肉腫の処置におけるtTF-NGRおよびトラベクテジンの使用に関する。本発明者らは驚くべきことに、tTF-NGRとトラベクテジンとの組み合わせが、好ましくは相乗的である改善された治療活性をもたらすことを見出した。理論に縛られないが、改善がいくつかの効果によって引き起こされ得る。tTF-NGRによる血管腫瘍閉塞により、トラベクテジンの腫瘍内蓄積が長くなり、その結果、より高い抗腫瘍効力が生じている。さらに、tTF-NGRのより高い腫瘍内凝固促進活性が、腫瘍細胞および腫瘍内皮細胞における早期のアポトーシスがトラベクテジンによって誘発されて、その結果、これらの細胞でのより高いホスファチジルセリン(PS)レベルが生じることによって引き起こされ得る。
【背景技術】
【0002】
軟部組織肉腫(STS)は、結合組織に起源を有する稀な一群の不均一な間葉系ガンである。STSは、100を超える異なったサブタイプから構成されており、これらは合計ですべての成人ガンの1%を占め、欧州人の肉腫におけるSTSの発生率が2~5/100,000/年の間の範囲である。それらは生物においてどこにでも発生し、一般的な部位が、四肢、体躯、後腹膜および頭頸部である。経験豊富なリファレンスセンターで最もよく行われる集学的治療が影響されるので、画像化による病期分類と同様に、正確な組織病理学的診断および悪性度分類が重要である。疾患の不均一性および希少性のために、診断が手遅れとなることが多い。
【0003】
手術が、初期段階および限局性のSTSのための第一選択の処置である。しかしながら、遠隔転移が多くの患者において、とりわけ高悪性度腫瘍の患者において生じている。切除不能なSTSの患者については、化学療法が処置の標準であり、この治療アプローチは集学的である。転移性疾患の症例では、治療目的が多くの場合、治癒の代わりに、緩和、および/または無増悪生存期間の延長に限定される。第一選択の全身的治療がドキソルビシン単独に基づいており、またはいくつかの組み合わせにおいて、例えば、ドキソルビシンとイホスファミドとの組み合わせなどにおいてである。ゲムシタビンとドセタキセルとの組み合わせは、ドキソルビシンと同等に効果的であるようであり、しかし、より重篤な血液毒性を誘発しており、第二選択の治療については留保されるときがある。従来の化学療法のほかに、トラベクテジン、パゾパニブおよびエリブリンが、第二選択の治療およびさらなる選択の治療に代わる代替物である(エリブリンは脂肪肉腫においてのみである)。しかしながら、進行STSの患者の全生存は一般に、悪いままである。したがって、この一群の疾患における新しい治療標的および治療剤が、満たされていない医学的要求である。
【0004】
腫瘍の成長および伝播は、栄養および酸素を送達し、代謝廃棄物を除去するための腫瘍内の血管新生に依存している。腫瘍内皮細胞(TEC)が、腫瘍血管を構築するために不可欠であり、他の細胞タイプ(例えば、線維芽細胞ならびにいくつかの骨髄細胞および免疫細胞など)に囲まれて腫瘍支持性間質に属する。TECは、生物の成熟血管系における休止内皮細胞には存在しない様々な新規な標的を発現している。これらのTEC標的のいくつかが、ガンに対する抗血管新生療法について臨床的に関連しており、このことは、ガン処置のために承認される数多くの薬物につながった(例えば、ベバシズマブ(抗VEGF moAB)、アフリベルセプト(VEGF捕捉剤)、ラムシルマブ(抗VEGF-R moAB)、スニチニブ、ソラフェニブ、パゾパニブ(TECチロシンキナーゼ受容体に対するチロシンキナーゼ阻害剤についての例))。これらの薬物の治療活性は、生存を数ヶ月増大させることに限定されており、耐性の出現がこのアプローチを制限している。
【0005】
抗血管新生処置とは概念的に異なるものが、抗血管アプローチである。抗血管薬物は血管形成を妨害するだけでなく、腫瘍に既に存在する新生血管を破壊することを目的とする。Denekampらは、存在する腫瘍血管および腫瘍内皮細胞を抗血管療法のための標的キャリアとして提案した(Denekamp et al.、Br.J.Cancer、1982)。腫瘍血管系は実際、抗血管新生療法、血管破壊、または腫瘍梗塞が続いて起こる血管閉塞および血栓形成のための治療標的をもたらしている。Huangらは、標的化された組織因子(TF)による腫瘍血管閉塞の概念を持ち込んだ(Huang et al.、Science、1997)。Pasqualiniらは、腫瘍血管標的としてのアミノペプチダーゼN(APN、これはまたCD13として知られている)に結合する小さいNGR(アスパラギン-グリシン-アルギニン)含有ペプチドを特徴づけた(Pasqualini et al.、Cancer Res.、2000)。CD13は、血管形成、腫瘍成長および転移を促進させることが示されており(Guzman-Rojas et al.、Proc.Natl.Acad.Sci.、2012)、また、すべてではないが、いくつかの調べられた組織像のガンを有する患者について予後に関連していることも示されている(Tokuhara et al.、Clin.Cancer Res.、2006)。
【0006】
トラベクテジンは、Pharma Mar(マドリッド、スペイン)からYondelis(登録商標)として入手可能なテトラヒドロイソキノリンアルカロイドである。トラベクテジンは、最初はカリブ海産ホヤEcteinascidia turbinataから抽出されたが、今では合成的に製造されており、進行した軟部組織肉腫の成人患者の処置のために欧州および他の国々で登録されている(Germano et al.、Cancer Cell.2013;23(2):249-262)。トラベクテジンはDNA結合剤として作用し、DNA二重らせんに結合することにより、いくつかの転写因子、DNA結合タンパク質およびDNA修復経路の妨害を引き起こし、その結果、G2/M細胞周期停止、そして最終的にはアポトーシスを生じさせる。トラベクテジンはさらに、転移性の脂肪肉腫および平滑筋肉腫のための治療選択肢、同様にまた、滑膜肉腫および高悪性度未分化多形性肉腫の処置のための有望な候補を提供することが見出された(De Santis et al.、Drug Design,Develop.and Therapy、9:5785-5791、2015)。
【0007】
しかしながら、血栓形成性の血管標的化剤は理論的には、重篤な全身性副作用、例えば、肺塞栓症または脳卒中などを引き起こし得るかもしれない。したがって、血管標的化剤の治療的使用のための安全かつ効果的な投薬レジメンを開発することが、前臨床的および臨床的に最も重要である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Denekamp et al.、Br.J.Cancer、1982
【非特許文献2】Huang et al.、Science、1997
【非特許文献3】Pasqualini et al.、Cancer Res.、2000
【非特許文献4】Guzman-Rojas et al.、Proc.Natl.Acad.Sci.、2012
【非特許文献5】Tokuhara et al.、Clin.Cancer Res.、2006
【非特許文献6】Germano et al.、Cancer Cell.2013;23(2):249-262
【非特許文献7】De Santis et al.、Drug Design,Develop.and Therapy、9:5785-5791、2015
【発明の概要】
【0009】
本発明では驚くべきことに、tTF-NGRとトラベクテジンとの組み合わせが、好ましくは相乗的である改善された治療活性をもたらすことが見出された。
【0010】
本発明は、個体におけるガンの処置で使用されるための、トラベクテジンを含む組成物であって、前記処置が、下記の工程:
(a)トラベクテジンを含む組成物の効果的な量を前記個体に投与する工程、および
(b)続いて、tTF-NGRタンパク質を含む組成物の効果的な量を前記個体に投与する工程
を含む、組成物を提供する。
【0011】
本発明はまた、個体におけるガンの処置で使用されるための、tTF-NGRタンパク質を含む組成物であって、前記処置が、下記の工程:
(a)トラベクテジンを含む組成物の効果的な量を前記個体に投与する工程、および
(b)続いて、前記tTF-NGRタンパク質を含む組成物の効果的な量を前記個体に投与する工程
を含む、組成物を提供する。
【0012】
1つの実施形態において、個体のガンは手術不能であり、転移性であり、または難治性である。
【0013】
さらなる実施形態において、ガンは軟部組織肉腫であり、好ましくは、脱分化型脂肪肉腫、粘液様脂肪肉腫、多形性脂肪肉腫、成人線維肉腫、粘液線維肉腫、平滑筋肉腫、横紋筋肉腫、血管肉腫、滑膜肉腫および未分化肉腫からなる群から選択される。
【0014】
別の実施形態において、トラベクテジンを含む組成物、およびtTF-NGRを含む組成物は、静脈内注入により個体に投与される。
【0015】
さらに別の実施形態において、トラベクテジンを含む組成物は、24時間の静脈内注入により個体に投与される。好ましくは、トラベクテジンは1.5mg/m2の用量で投与される。
【0016】
好ましい実施形態において、tTF-NGRタンパク質は配列番号2の配列を含み、または有する。代替となる実施形態において、tTF-NGRタンパク質は配列番号1の配列を有する。配列番号2は、配列番号1と、N末端の46アミノ酸残基を含むN末端Hisタグとを含む。N末端Hisタグが、下記の実施例で使用されるタンパク質では維持されたが、これはタンパク質の活性に必要でないことが理解される。配列番号1および配列番号2はさらに、tTFの配列、すなわち、配列番号2のアミノ酸47~アミノ酸264と、NGR配列、すなわち、配列番号2のアミノ酸265~アミノ酸271とを含む。
【0017】
別の実施形態において、tTF-NGRタンパク質の最初の投与がトラベクテジン投与終了後1分~1時間の間で開始される。好ましくは、tTF-NGRタンパク質は1時間の静脈内注入により個体に投与される。より好ましくは、tTF-NGRタンパク質の投与は、トラベクテジン投与後の翌日以降連続した4日間にわたって1日に1回、繰り返される。
【0018】
さらなる実施形態において、tTF-NGRタンパク質は3mg/m2/日の用量で投与される。好ましくは、tTF-NGRタンパク質は100mlの総注入量で0.9%のNaCl溶液において投与される。より好ましくは、tTF-NGRタンパク質は中心静脈ポートアクセスにより注入される。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】検出および精製のためのN末端Hisタグと、全長tTFと、NGRモチーフをC末端に有する標的化ペプチドとを有するリード化合物tTF-NGRの概略構造の例示。
図2】腫瘍血管系に対するTF活性の標的化および蓄積、ならびに腫瘍細胞の死を引き起こす腫瘍血管の血栓形成および梗塞の誘発の例示。A、治療開始時における腫瘍血管梗塞の成分およびB、腫瘍血管凝固期間中の腫瘍血管梗塞の成分。FXa、活性化型第X因子(明るい青色);FVIIa、活性化型第VII因子(青色)。
図3】異なる画像化技術によるtTF-NGRの治療活性および作用様式の例示。1.血液貯留および血管破壊を肉眼的に視覚化する、tTF-NGR注射後数時間での腫瘍の青みがかった着色(A、左側:tTF-NGR。A、右側:ビヒクル対照)。2.腫瘍の解剖学的構造(A、B)、およびtTF-NGR適用後数時間での血流の高血流(C)から低血流(D)への劇的な低下を示す、腫瘍の血管内コントラスト増強磁気共鳴画像法(MRI)。血管体積分率が、1logを超えて低下するように定量化された。3.肉腫異種移植片組織のH&E染色(A、tTF-NGR後の血栓形成、血液貯留および血管破壊;B、正常な脈管構造を有する生理食塩水対照)。4.血管の解剖学的構造をtTF-NGR後の血管内蛍光フィブリンによって示すインビボ蛍光反射率画像法(B)。A、tTF-NGR前;B、tTF-NGR後1時間;C、tTF-NGR後24時間での血管破壊。
図4】ヒト血管内皮細胞(HUVEC)におけるtTF-NGRとトラベクテジンとの相乗的活性の例示。A、HUVEC細胞膜表面におけるトラベクテジンによるPSアップレギュレーションを示すフローサイトメトリー実験の一例。PSが蛍光性のPS結合アネキシンV-FITCによって検出される。PS陽性細胞が右下象限(LR)に示され、トラベクテジン非添加時の7.21%から、トラベクテジン添加時の29.22%にまで増加する(15nM、8時間のインキュベーション)。B、8時間後および12時間後でのHUVEC表面におけるPSアップレギュレーションをトラベクテジンの増大する用量によって誘発する異なる用量のトラベクテジンによる7つの異なる実験の評価(P値がすべての時点について、非トラベクテジン対照(NTC)と比較したとき、0.0001未満である)。プロピジウムヨージドを内部壊死対照として使用した。C、tTF-NGRが結合したときのHUVECの凝固促進活性のトラベクテジン依存的増大(黒色、トラベクテジン非添加時;灰色、トラベクテジン添加時(10nM、8時間))、およびPSを異なる用量でのアネキシンVにより遮蔽することによるこの効果の完全な抑止。それぞれが少なくとも4連のアッセイによる3つの実験の平均+標準誤差、およびp値。
図5】HT1080ヒト肉腫細胞におけるtTF-NGRとトラベクテジンとの相乗的活性の例示。A、非トラベクテジン対照(黒色)と比較したとき、HT1080肉腫細胞表面における有意なPSアップレギュレーションを示す、10nMのトラベクテジン(灰色)および8時間のインキュベーション時間による6つの異なる実験の評価。平均+標準誤差(p値=0.001)。プロピジウムヨージドを内部壊死対照として使用した。B、tTF-NGRが結合したときのHT1080肉腫の凝固促進活性のトラベクテジン依存的増大(黒色、トラベクテジン非添加時;灰色、トラベクテジン添加時(10nM、8時間))、およびPSを異なる用量でのアネキシンVにより遮蔽することによるこの効果の完全な抑止。4つの実験の平均+標準誤差、およびp値。
図6】HT1080 STS異種移植モデルにおけるインビボでのトラベクテジンのtTF-NGRとの組み合わせの治療結果。対照、PBS iv;tTF-NGR、1mg/kg、0日目;トラベクテジン、0.1mg/kg、0日目;組み合わせ、同一の用量および時間スケジュールによるトラベクテジン+tTF-NGR(トラベクテジンの5時間後)(対照、n=8;tTF-NGR、n=9;トラベクテジン、n=9;組み合わせ、n=11)。
【発明を実施するための形態】
【0020】
TEC表面の特異的な構造を1つの部分により標的化し、抗腫瘍ペイロードを第2の部分として有する二官能性分子の形態での抗血管化合物が、先行技術において知られていた。このクラスの血管標的化化合物は、一般的な腫瘍血管系を介して、ただ1つだけでなく、2つ以上の腫瘍タイプを標的化することを目的とする。1つだけの組織学的実体を含有する腫瘍細胞を標的とする様々な薬物が、特定の腫瘍を処置するために承認されている:例えば、毒素を運搬する腫瘍細胞関連分子に対するmoAB(ブレンツキシマブベドチン(CD30+のホジキン病)、トラスツズマブエムタンシン(HER2+の乳ガン)など)。
【0021】
組織因子(TF)の非特異的な膜アンカーが、CD13と結合するNGRモチーフによって置換される、tTF-NGRと名付けられたさらなるクラスの融合タンパク質が開発されていた。CD13は、TECでのように、刺激された成長中のECの表面に選択的に存在する、他の組織では発現が低いアミノペプチダーゼである(http://www.proteinatlas.org/ENSG00000166825-ANPEP/tissue)。そのうえ、いくつかの正常な組織(例えば、小胆管など)において、CD13の発現があり、しかし、この分子は、凝固適格な場所でのみ、例えば、血管などで活性であり、ほかのところでは活性でないため、その発現はCD13標的化TFの適用を妨げていない。この融合タンパク質(図1)により、TF活性が腫瘍血管系に対して標的化され、蓄積させられ、腫瘍細胞の死を引き起こす腫瘍血管の血栓形成および梗塞が誘発されている(図2)。
【0022】
これらの融合タンパク質は、不可欠な治療特性について、例えば、凝固促進活性、刺激された内皮細胞(EC)または周皮細胞の表面におけるそれらのそれぞれの標的分子に対する特異的結合、インビボ腫瘍内蓄積、凝固のインビボ腫瘍内活性化、腫瘍血管閉塞および血流の阻害、異なる組織学的起源からのヒト腫瘍の異種移植における治療的抗腫瘍活性を含めた薬力学的特性、ならびに最終的にはげっ歯類動物、同様にまた非げっ歯類動物の安全性および毒性学などについてインビトロおよびインビボで試験された。実験結果において明らかにされるように、完全な凝固促進活性を保持する一方で、tTF-NGRは成長中のECの表面のCD13に特異的に結合し、腫瘍血管の閉塞および梗塞を、腫瘍の成長阻害および退縮を生じさせながら引き起こしている(図3)。tTF-NGRの前臨床治療活性が、腫瘍組織像(例えば、黒色腫、肺、乳房、肉腫、神経膠芽細胞腫)とは無関係であった。反復した回数の処置は耐性の発達を全く示さなかった。
【0023】
tTF-NGRの様々な特定の利点とは別に、本発明では驚くべきことに、tTF-NGRとトラベクテジンとの組み合わせが相乗的な治療活性を示し得ることが見出された。トラベクテジンは、Ecteinascidia turbinata(ホヤの一種)から最初に単離された抗新生物薬である。この薬物はその抗新生物活性を、複製期間中のDNAの副溝と結合し、二重らせんにおける二本鎖切断を引き起こすことによって発揮する。そのうえ、トラベクテジンは、炎症性メディエーターを腫瘍の微小環境において調節することにおける多面的な作用機構を有することが見出されている。この効果は恐らくは、炎症促進性のサイトカインおよびケモカイン(例えば、インターロイキン-6(IL-6)など)、ケモカインリガンド2(CCL2)、マトリックスバインダータンパク質のペントラキシン3(PTX3)、ならびに血管内皮増殖因子(VEGF)の産生の選択的阻害によって達成される。加えて、トラベクテジンはマクロファージを腫瘍組織において枯渇させており、マクロファージ標的化は、その抗新生物活性の重要な成分であると思われる。単剤としてのトラベクテジンは、転移性または難治性のSTSの標準的な第二選択の処置として一般に使用されている。本発明において明らかにされるようなtTF-NGRのトラベクテジンとの組み合わせにおいて、両方の薬物が異種移植モデルにおいて、標準的なトラベクチン単独療法またはtTF-NGR単独療法と比較して、増大した抗肉腫活性を示した。腫瘍細胞および異なる細胞ならびに腫瘍間質の分子成分に対するトラベクテジンのこのこの多種多様な作用様式を考えると、tTF-NGRと一緒でのトラベクテジンによるコンビナトリアル治療効力は予測できなかった。tTF-NGRは前臨床活性を腫瘍血管の閉塞および梗塞によってヒトSTS異種移植片において示しており、トラベクテジンの抗腫瘍活性を、トラベクテジンを腫瘍内で補足し、これにより、より強い抗腫瘍活性を、より長い持続期間を伴って引き起こすことによってインビボでのこれらのモデルにおいて改善することができる。逆に、トラベクテジンはtTF-NGRの凝固促進効力を腫瘍血管系において増大させる。tTF-NGRの結合側、すなわち、CD13がヒトSTSの血管系において、および/またはヒトSTSの腫瘍細胞の表面において強く発現される。このことから、組み合わせ処置の活性の予測性についてさらに研究され得る、この組み合わせについての患者選択のためのバイオマーカーが提供される。
【0024】
本発明はさらに、tTF-NGRおよびトラベクテジンを、ガン患者、特に軟部組織肉腫の患者を処置するための併用療法において使用するための臨床用量レジメンを提供する。
【0025】
本発明は、個体におけるガンの処置で使用されるための、トラベクテジンを含む組成物であって、前記処置が、下記の工程:
(a)トラベクテジンを含む組成物の効果的な量を前記個体に投与する工程、および
(b)続いて、tTF-NGRタンパク質(これは好ましくは配列番号2を含む、または有する)を含む組成物の効果的な量を前記個体に投与する工程
を含む、組成物を提供する。
【0026】
本発明はまた、個体におけるガンの処置で使用されるための、tTF-NGRタンパク質を含む組成物であって、前記処置が、下記の工程:
(a)トラベクテジンを含む組成物の効果的な量を前記個体に投与する工程、および
(b)続いて、前記tTF-NGRタンパク質(これは好ましくは配列番号2を含む、または有する)を含む組成物の効果的な量を前記個体に投与する工程
を含む、組成物を提供する。
【0027】
別の実施形態において、トラベクテジンを含む組成物、およびtTF-NGR(これは好ましくは配列番号2を含む、または有する)を含む組成物は、静脈内注入により個体に投与される。
【0028】
1つの実施形態において、トラベクテジンを含む組成物は、24時間の静脈内注入により個体に投与される。好ましくは、トラベクテジンは1.5mg/m2の用量で投与される。
【0029】
1つの実施形態において、tTF-NGRタンパク質は配列番号2の配列を有する。
【0030】
tTF-NGRタンパク質の最初の用量はトラベクテジン投与終了後1分~1時間の間で投与することができる。好ましくは、tTF-NGRタンパク質は1時間の静脈内注入により個体に投与される。より好ましくは、tTF-NGRタンパク質の投与は、トラベクテジン投与後の翌日以降連続した4日間にわたって1日に1回、繰り返される:例えば、トラベクテジンが月曜日の午前8時から火曜日の午前8時までにおいて投与され、その後、tTF-NGRが火曜日に午前9時までに、そして翌日以降において投与される(最後のtTF-NGRが金曜日に投与される)。
【0031】
さらなる実施形態において、tTF-NGRタンパク質は3mg/m2/日の用量で投与される。好ましくは、tTF-NGRタンパク質は100mlの総注入量で0.9%のNaCl溶液において投与される。より好ましくは、tTF-NGRタンパク質は中心静脈ポートアクセスにより注入される。
【0032】
したがって、好ましい実施形態において、本発明は、個体におけるガンの処置で使用されるための、トラベクテジンまたはtTF-NGRタンパク質を含む組成物であって、前記処置が、下記の工程:
(a)トラベクテジンを含む組成物の効果的な量を前記個体に投与する工程、および
(b)続いて、配列番号2を有する前記tTF-NGRタンパク質を含む組成物の効果的な量を前記個体に投与する工程
を含み、
トラベクテジンが24時間の静脈内注入により個体に投与され、かつ
前記tTF-NGRタンパク質の最初の投与がトラベクテジンの前記投与の終了後1分~1時間の間で開始され、かつ
前記tTF-NGRタンパク質が1時間の静脈内注入により個体に投与され、かつ
前記tTF-NGRタンパク質の前記投与が、トラベクテジンの前記投与の後の翌日以降連続した4日間にわたって1日に1回、繰り返される、
組成物を提供する。
【0033】
好ましくは、処置のサイクル長さが3週間である。患者が、明確な疾患憎悪(iRECIST;Seymour L、Lancet Oncol.2017)があるまで、他の休薬基準がない場合において、また、患者または研究者のどちらかが処置の中断を要求しない限り、反復サイクルで処置される。
【0034】
1つの実施形態において、個体のガンは手術不能であり、転移性であり、または難治性である。さらなる実施形態において、ガンは軟部組織肉腫であり、好ましくは、脱分化型脂肪肉腫、粘液様脂肪肉腫、多形性脂肪肉腫、成人線維肉腫、粘液線維肉腫、平滑筋肉腫、横紋筋肉腫、血管肉腫、滑膜肉腫および未分化肉腫からなる群から選択される。
【0035】
別途示される場合を除き、本出願の目的のために、下記の用語は、本明細書および特許請求項において使用されるような下記で示される意味を有することが意図される。
【0036】
「患者」は哺乳動物を示し、好ましくはヒトを示す。いくつかの実施形態において、患者は、標準的な第一選択の処置に失敗している患者、または標準的な処置について不適当である患者である。
【0037】
「治療効果的な量」は、ある疾患状態を処置するために対象に投与されたとき、当該疾患状態のそのような改善をもたらすために十分である化合物の量を意味する。
【0038】
「トラベクテジン」は、文献(例えば、Germano et al.、Cancer Cell.2013;23(2):249-262)に記載され、Pharma Mar(マドリッド、スペイン)からYondelis(登録商標)として入手可能であるテトラヒドロイソキノリンアルカロイド(CAS登録番号(Chemical Abstracts Service)0114899-77-3)を示す。
【0039】
「処置/処置する」は、治療効果的な量の化合物の投与をどのような投与であれ意味し、下記のことを包含する:
●疾患の病理または総体的症状に遭遇している、あるいは疾患の病理または総体的症状を呈している疾患をヒトにおいて阻害すること(すなわち、病理および/または総体的症状のさらなる発達を遅らせること)、あるいは
●疾患の病理または総体的症状に遭遇している、あるいは疾患の病理または総体的症状を呈している疾患をヒトにおいて改善すること(すなわち、病理および/または総体的症状を元に戻すこと)。
【0040】
「iRECIST」は、腫瘍負荷量が減少し始める前に生じることがある見かけの腫瘍成長、すなわち、偽憎悪として知られる現象を説明する、固形癌効果判定基準に対する一連の修正(RECISTバージョン1.1)を示す。これらの応答が、チェックポイント阻害剤および他の免疫調節剤を受ける患者の小さい、しかし必然的な割合で生じる。iRECISTガイドライン(Seymour L、Lancet Oncol.2017)が、Lesley Seymour,MD,PhD(Queen’s University(Kingston、Ontario)に拠点を置くカナダ癌試験グループ(Canadian Cancer Trials Group)の腫瘍学者)が主導するチームによって開発されている。
【0041】
「PFS」は、15週(すなわち、5サイクル後)において、その後、24週、33週、42週および51週(すなわち、9週間毎に、または3週間のサイクル長さに調節される3回のサイクルの後)において、そしてその後は3ヶ月毎においてiRECISTに従う無増悪生存期間を示す。RECISTのiRECIST修正を評価のために使用する理由が、tTF-NGR適用時には血液貯留および血管破壊による腫瘍内腫脹が生じ、偽憎悪を引き起こし得るという、前臨床研究および臨床症例の範囲内での観察結果にある。
【0042】
「OS」は、12ヶ月および18ヶ月での全生存率を示す。
【0043】
「CR」は完全奏効を示し、これは、すべての標的病変部の消失を意味する。病理学的リンパ節はどれも(標的であろうと、または非標的であろうと)、短軸における減少が10mm未満でなければならない。
【0044】
「PR」は部分奏効を示し、これは、ベースライン合計直径を参照として使用して、標的病変部の直径の合計における少なくとも30%の減少を意味する。
【0045】
「PD」は進行性疾患を示し、これは、研究における最小合計(これには、ベースライン合計が、研究において最小であるならば含まれる)を参照として使用して、標的病変部の直径の合計における少なくとも20%の増大を意味する。20%の相対的増大に加えて、合計はまた、少なくとも5mmの絶対的増大を明らかにしなければならない。(注:1つまたは複数の新しい病変部の出現もまた、憎悪と見なされ、第6.1.1章において記載されるような規則が、患者における処置を終了するために憎悪が使用され得る前には遵守されなければならない。
【0046】
「SD」は安定疾患を示し、これは、最小合計直径を研究における参照として使用して、PRについて認定するための十分な収縮がないこと、または十分な増大が、PDについて認定するために認められないことを意味する。
【0047】
「TF」は、組織因子、すなわち、先行技術において、例えば、Huang et al.、Science、1997において記載される知られている組織因子タンパク質を示す。
【0048】
「tTF」は、Huang et al.、Science、1997においてもまた記載される組織因子タンパク質のアミノ酸33~251の知られている短縮された活性形態を示す。tTF配列は、配列番号1および配列番号2の融合タンパク質配列によって包含される(配列番号2のアミノ酸47~264)。
【0049】
実施例1.tTF-NGRおよびトラベクテジンの改善された治療活性
tTF-NGRとトラベクテジンとを組み合わせることの科学的仮説は、ヒト血管内皮細胞(HUVEC)および同様に腫瘍細胞に対するトラベクテジンのアポトーシス促進活性が、細胞膜を構築するリン脂質二重層の外葉におけるホスファチジルセリン(PS)存在を有意に増大させ(一例としてHUVECについては図4Aおよび図4Bを参照のこと)、そして外側細胞膜におけるこの最適化されたリン脂質環境によって、細胞膜表面のtTF-NGR:第VIIa因子:第X因子複合体の内部におけるtTF-NGRの凝固促進効力を強める(図4C)ことにある。この効果は、PSをアネキシンVとのプレインキュベーションにより遮蔽することによって完全に消失させることができるので、PSの存在に特異的に依存している。
【0050】
腫瘍組織では新生血管系の内側血管細胞層の一部が内皮細胞によって形成されず、しかし、「血管模倣」と呼ばれるが、腫瘍細胞によってもまた形成されるので、類似の実験がまた、HT1080ヒト肉腫細胞をHUVECの代わりに用いて行われた(図5を参照のこと)。
【0051】
改善された活性を両方の方向で活用するために、トラベクテジンのtTF-NGRとの組み合わせを、tTF-NGRをトラベクテジン注射後およそ約5時間で適用することによって、薬物動態学的アプローチを使用して詳しく調べた。結果から、治療活性のかなりの改善が、ヒトSTS異種移植モデルHT1080におけるこれら2つの個々の薬物と比較して示される(図6)。
【0052】
実施例2.tTF-NGRの臨床第I相研究
tTF-NGRを、臨床規格の製造プロセスおよび4段階のHPLC精製により大腸菌を使用して製造した。製造プロセスおよびGMP設備は地方政府によって承認され(地方議会(Regierungsprasidium)による製造業者の認可)、かつ連邦政府のポール・エールリッヒ研究所(PEI)によって承認される。マウス、ラット、モルモットおよびイヌにおけるEUガイドラインS6および同S9に従う毒性評価が完了している。最も敏感な種(マウス)における制限毒性が肺塞栓症であり、この種において、tTF-NGRは治療安全域が1:4である(治療用量:LD10用量=1:5)。
【0053】
tTF-NGRに関する臨床第I相研究概要が表1に示される。
【0054】
【表1】
【0055】
臨床第I相試験が実施され(EudraCT番号:2016-003042-85;NCT02902237)、tTF-NGRが後期ガン患者において中心静脈ラインにより、0.9%NaClに溶解されての1時間の注入として適用された。この試験は、腫瘍シグナル病変部における血流低下について評価するための反復されたコントラスト増強超音波(CEUS)およびMRIによって導かれるファースト・イン・クラス試験であった。「5-day q day 22」(5日間毎日、22)スケジュールが研究設計では使用された。
【0056】
4mg/m2/日において、一時的なトロポニンTが臨床的続発症を何ら伴うことなく増大を示しているため、用量制限毒性(DLT)が認められた。この鋭敏な実験室DLTは迅速に可逆的であったし、将来の試験における引き続く用量調節のための早期モニタリングを可能にする。さらに、1件のCTCAE悪性度IIの下肢深部静脈血栓症(1名の患者、完全に消散した)もまた、5mg/m2で認められ、中心静脈カテーテル関連の静脈血栓症が4mg/m2で認められ(CTCAE悪性度IIで、解消した)、また、血管肉腫を心臓の左心房に有する1名の患者における一過性の虚血性発作(CTCAE II、解消した)が3mg/m2で認められ、これらは、tTF-NGRに合理的に関連づけられる事象であり、しかしtTF-NGRだけによって必ずしも引き起こされるわけではない事象である。したがって、試験は、第II相(RPIID)のための推奨用量が3mg/m2/日で5回(qd 22)であることにより完了した。この治験薬(IMP)はPORT中心静脈アクセスにより、100mLの0.9%NaClにおいて、持続期間が1時間である速度制御注入で与えられる。
【0057】
本研究の薬物動態学研究は、tTF-NGRの平均消失半減期が8.99時間であることを示している。処置前のレベルには、次回サイクルが始まる前に常に達したので、反復サイクルによる蓄積が全く認められなかった。
【0058】
腫瘍血流(腫瘍内血液循環)の特異的阻害が、正常な器官における血流低下を伴うことなく、CEUSおよびMRIにより測定可能な患者において認められた。腫瘍血流阻害は、最大で1-log-stepに至るほどであった。さらに、一部の転移では、領域の急速な発達がMRIにより認められ、これは腫瘍内の出血領域および壊死領域として解釈され、異種移植モデルにおける観察結果と類似していた。これまでに処置された患者のいずれにおいても、CRまたはPRを認めることができなかった。しかしながら、2名の患者が安定疾患(SD)を処置後数ヶ月間にわたって有した。ヒト抗融合タンパク質抗体(HAFA)が、MRIまたはCEUSにおいて腫瘍血流阻害との相関があるときには臨床症状(アナフィラキシー反応またはアナフィラキシー様反応)または中和能の証拠を伴うことなく少数の患者で検出された。
【0059】
結論として、tTF-NGRは安全に適用することができ、第I相おける観察結果は、臨床状況および有望な治療範囲における腫瘍血流阻害についての原理証明となっている。さらに、理論的に生じている全身毒性を相殺するための多数の効果的な方法が存在する(ヘパリン、COX阻害剤、アスピリンおよびP2Y12阻害剤による二重血小板阻害、線維素溶解)。
【0060】
実施例3.tTF-NGRのトラベクテジンとの組み合わせの抗肉腫活性を試験するための臨床研究設計。
【0061】
3.1 研究設計
研究設計は、転移性または難治性の軟部組織肉腫を有する対象または有しない対象における第II/III相非盲検ランダム化対照研究からなり、研究は総募集期間が36ヶ月にわたっていた。
【0062】
研究の参加者は、進行した軟部組織肉腫または転移性軟部組織肉腫を、アントラサイクリン含有の第一選択の治療が不首尾であった後で有する、またはこれらの薬物に対する禁忌を有する、年齢が18歳~75歳の間の患者である。患者は、下記の腫瘍タイプを含めて、FNCLCC悪性度分類システムに従う高悪性度の進行した切除不能または転移性の軟部組織肉腫(悪性度:2~3)の組織学的証拠を有しなければならない:脱分化型脂肪肉腫、粘液様脂肪肉腫(高悪性度)、多形性脂肪肉腫、成人線維肉腫、粘液線維肉腫(高悪性度)、平滑筋肉腫、横紋筋肉腫(胞巣状、多形性)、血管肉腫、滑膜肉腫、未分化肉腫。中央組織学におけるCD13陽性(悪性度1+;Kessler T et al.、Translational Oncology、2018)が、研究登録のための前提条件である。参加者は、一次元で測定可能な少なくとも1つの病変部をiRECIST(固形がん効果判定基準;Seymour L、Lancet Oncol.2017)基準1.1によって定義されるようなコンピュータ断層撮影法によって有しなければならない。この病変部は以前の処置の期間中に放射線非照射でなければならない。参加者は、ECOG≦2とともに少なくとも3ヶ月の平均余命を有し、かつトラベクテジンについての反対がないこともまた要求される。120名の評価可能な患者が登録され、そして下記で概説されるように、2つの異なるアームの一方に1:1の様式で並行して割り当てられる。ランダム化が、CD13 3+に対して、CD13 1+/2+の複合スコアに階層化されるであろう。
【0063】
研究は、順に行われるために2つの部分に分けられる:
【0064】
第II相部分:
研究のランダム化第III相部分の前に、アーム2において概説される組み合わせ(下記を参照のこと、1.5mg/m2のトラベクテジン+3mg/m2のtTF-NGR)のそれぞれ少なくとも3回のサイクルが与えられる6名の患者の第II相安全性コホートが、この組み合わせの安全性を確認するために存在する。この第II相コホートにおける用量制限毒性(DLT)の場合に備えて、tTF-NGRについての2mg/m2への用量変更プロトコルが計画され、また、さらなる忍容性問題の場合に備えて、tTF-NGRの0.5mg/m2ずつでのさらなる漸減が計画される。安全な用量がその後、研究のランダム化第III相に移される。この組み合わせにおいて安全であるとして立証されるtTF-NGRの最終用量は、それぞれ3回のサイクルにより6名の患者に適用されなければならない。研究のランダム化(第III相)部分が、第II相コホートにおける安全性がDSMBによって判断された後で開始されるであろう。
【0065】
第III相部分:
この研究の第III相部分では、120名の患者が2つの異なる群に1:1でランダム化される。主目的が、トラベクテジン単独療法(アーム1)に対する組み合わせ処置群(アーム2)におけるメジアン無増悪生存期間として測定される、トラベクテジンとの組み合わせでのtTF-NGRの効力の評価である。
【0066】
アーム1:患者は、1.5mg/m2のトラベクテジンを1日目での24時間の中心静脈内(iv)注入として、疾患憎悪またはさらなる適用(施設のガイドラインに従う前投薬:例えば、20mgのデキサメタゾン)の禁忌まで(qd 22x)受ける。
【0067】
アーム2:患者は、アーム1に従う標準的トラベクテジン、加えて、(トラベクテジン注入終了とtTF-NGRとの間の間隔が1時間以下である)それぞれのトラベクテジンサイクルの後の連続する4日間にわたる1日あたり3mg/m2のtTF-NGR(1時間の速度制御注入、PORT中心静脈アクセス、100mL NaCl)を、疾患憎悪またはさらなる適用に対する禁忌まで(qd 22x)受ける:例えば、トラベクテジンを月曜日の午前8時から火曜日の午前8時までにおいて受け、その後、tTF-NGRを火曜日の午前9時および翌日以降に受ける(最後のtTF-NGRを金曜日に受ける)。
【0068】
研究結果の評価は処置意図に基づくので、ランダム化後のすべての患者が、研究終了後に中央iRECIST評価によって評価されるような効力集団の一部である。
【0069】
両アームにおける治療を外来に基づいて与えることができる。一部の患者は、24時間のトラベクテジン注入のために入院を必要とする場合がある。すべての患者が施設のガイドラインに従って最良の支持ケア(BSC)を受ける。
【0070】
抗ガン活性が9週において臨床的に評価され、15週では臨床的に、また画像化によって評価され、その後、51週までは(3週間のサイクル長さに調節される)9週間毎に、その後は3ヶ月毎に評価される。9週における次回サイクルの適用に関する決定は臨床的である。画像化、および臨床に基づく決定が、15週から始まって後に続く。この手順が下記で詳しく記載される。15、24、33、42、および51(すなわち、9週間毎、または3週間のサイクル長さに調節される3回のサイクルの後)における、そしてその後は3ヶ月間隔でのメジアンPFS、PFS率(iRECIST)およびDCR、12ヶ月および18ヶ月でのmOS、OS率、ならびにORRが計算される。
【0071】
3.2 安全性評価
安全性評価が、標準的な実験室評価を含めて研究参加期間中に継続的に実施される。AEの発生率が、研究薬物摂取が少なくとも1回であるすべての患者において重症度によって要約されるであろう。
【0072】
患者は、(他の休薬基準が何らない場合)、下記の判断基準の1つが満たされるまで反復サイクルで処置される。
1)容認できない毒性により、さらなる治療が不可能になる。
2)疾患憎悪(下記で記載されるような憎悪)。
3)患者または研究者が処置の中断を要求する。
【0073】
研究処置を進行性疾患がない場合に中止する患者は、代替治療法に関して続けるための明確な理由がない場合を除いて、患者の疾患が進行しないうちは、さらなる選択のガン治療法を受けてはならない。
【0074】
次回治療サイクルの適用は下記の理由のために最大で21日間にわたって延期することができる。
1)患者の臨床状態のために、または
2)治験責任研究者のSchliemann教授との議論の後における研究者の決定により。
【0075】
治療開始後の詳細な追跡調査来院が9週および15週において実施され、続いて51週までは(3週間のサイクル長さに調節される)9週間毎に、その後は3ヶ月間隔で実施される。
【0076】
3.3 tTF-NGRとトラベクテジンとの組み合わせの抗ガン活性の評価
本研究では、iRECISTの修正が、チェックポイント阻害剤を用いた研究と類似している憎悪およびPFSの判定のために使用される(Seymour L、Lancet Oncol.2017)。PFSの最終的なiRECIST判断および両方のアームの間での比較が研究終了後、Dept.of Radiology(LMU、Munich)の独立した画像化コア研究室(M.Wildgruber教授)によって盲検様式で行われる。安全なEOTを個々の患者について求めるためのアドホックiRECIST判断が、地元の研究センターにおいて地元の研究者によってなされる。
【0077】
抗ガン活性(iRECIST修正)が、9週および15週において、続いて51週までは(3週間のサイクル長さに調節される)9週間毎に、その後は3ヶ月毎に(臨床的に、また画像化により)評価される。
【0078】
総合的な応答がRECIST基準バージョンvs1.1との類推で評価される。
●完全奏効(CR):すべての標的病変部の消失。病理学的リンパ節はどれも(標的であろうと、または非標的であろうと)、短軸における減少が10mm未満でなければならない。
●部分奏効(PR):ベースライン合計直径を参照として使用して、標的病変部の直径の合計における少なくとも30%の減少。
●進行性疾患(PD):研究における最小合計(これには、ベースライン合計が、研究において最小であるならば含まれる)を参照として使用して、標的病変部の直径の合計における少なくとも20%の増大。20%の相対的増大に加えて、合計はまた、少なくとも5mmの絶対的増大を明らかにしなければならない。
●安定疾患(SD):最小合計直径を研究における参照として使用して、PRについて認定するための十分な収縮も、また、PDについて認定するための十分な増大もないこと。
【0079】
標的病変部として特定されたリンパ節は、たとえ研究において10mm未満に退縮するとしても、実際の記録される短軸測定値(これは、ベースライン検査と同じ解剖学的面で測定される)を常に有しなければならない。このことは、正常なリンパ節が、10mm未満の短軸を有するとして定義されるので、リンパ節が標的病変部として含まれるときには、たとえCR基準が満たされるとしても、病変部の「合計」がゼロとならなくてもよいことを意味する。そのため、CRFまたは他のデータ収集方法が、標的の節病変部が、CRについて認定するために、それぞれの節が10mm未満の短軸を達成しなければならない別個の切片において記録されるように設計される場合がある。PR、SDおよびPDについては、リンパ節の実際の短軸測定値が標的病変部の合計に含まれるであろう。
【0080】
3.4 メジアン無増悪生存期間(mPFS)および無増悪生存率の評価
PFS期間がすべてのランダム化対象について評価される。この持続期間は、ランダム化から始まり、憎悪またはどのような原因からであれ死亡に至るまでと定義される。メジアンPFS(mPFS)が計算される。iRECISTに従うPFS率が、15週(5サイクル後)において、その後、24週、33週、42週および51週(すなわち、9週間毎に、または3週間のサイクル長さに調節される3回のサイクルの後)において、そしてその後は3ヶ月間隔で評価される。
【0081】
3.5 メジアン全生存(mOS)および全生存率の評価
OS期間がすべてのランダム化患者について評価される。この持続期間は、ランダム化から始まり、どのような原因からであれ死亡に至るまでと定義される。12ヶ月および18ヶ月でのメジアンOS期間およびOS率が計算される。その後、患者の生存が3ヶ月の定期的な追跡調査来訪の期間中にモニターされる。
【0082】
参考文献:
DenekampおよびHobson、Endothelial-Cell proliferation in experimental tumours、Br.J.Cancer(1982)46、711
De Santis R、Marrari A、Marchetti S、Mussi C、Balzarini L、Lutman FR、Daolio P、Bastoni S、Bertuzzi AF、Quagliuolo V、Santoro A:Efficacy of trabectedin in advanced soft tissue sarcoma:beyond lipo-and leiomyosarcoma.Drug Design,Develop.and Therapy 9:5785-5791、2015
Kessler T、Baumeier A、Brand C、Grau M、Angenendt L、Harrach S、Stalmann U、Schmidt LH、Gosheger G、Hardes J、Andreou D、Dreischaluck J、Lenz G、Wardelmann E、Mesters RM、Schwoppe C、Berdel WE*、Hartmann W*、Schliemann C*:Aminopeptidase N(CD13):expression,prognostic impact,and use as therapeutic target for tissue factor induced tumor vascular infarction in soft tissue sarcoma.Translational Oncol.11(6):1271-1282、2018
Guzman-Rojas et al.、Cooperative effects of aminopeptidase N(CD13)expressed by nonmalignant and cancer cells within the tumor microenvironment、PNAS、January 31,2012、109(5)1637-1642
Huang et al.、Tumor Infarction in Mice by Antibody-Directed Targeting of Tissue Factor to Tumor Vasculature、Science、24 Jan 1997:Vol.275、Issue 5299、pp.547-550
Pasqualini et al.、Aminopeptidase N is a Receptor for Tumor-homing Peptides and a Target for Inhibiting Angiogenesis、CANCER RESEARCH 60、722-727、February 1,2000
図1
図2A
図2B
図3
図4A
図4B
図4C
図5A
図5B
図6
【国際調査報告】