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特表2023-539596細胞においてポリペプチドを発現させるための核酸構築物
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-09-15
(54)【発明の名称】細胞においてポリペプチドを発現させるための核酸構築物
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/12 20060101AFI20230908BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20230908BHJP
   C12N 15/113 20100101ALI20230908BHJP
   C12N 15/86 20060101ALI20230908BHJP
   C12N 15/867 20060101ALI20230908BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20230908BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20230908BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20230908BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20230908BHJP
   A61K 35/12 20150101ALI20230908BHJP
   A61K 35/17 20150101ALI20230908BHJP
   A61K 35/545 20150101ALI20230908BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20230908BHJP
   A61K 35/76 20150101ALI20230908BHJP
   A61P 31/00 20060101ALI20230908BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20230908BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20230908BHJP
   A61P 37/06 20060101ALI20230908BHJP
   A61P 37/02 20060101ALI20230908BHJP
   A61P 37/08 20060101ALI20230908BHJP
   A61P 17/06 20060101ALI20230908BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20230908BHJP
   A61P 1/04 20060101ALI20230908BHJP
   A61P 17/04 20060101ALI20230908BHJP
   A61P 11/06 20060101ALI20230908BHJP
   A61P 19/02 20060101ALI20230908BHJP
   A61P 13/12 20060101ALI20230908BHJP
   A61P 3/10 20060101ALI20230908BHJP
   A61K 38/16 20060101ALN20230908BHJP
【FI】
C12N15/12 ZNA
C12N15/63 Z
C12N15/113 100Z
C12N15/86 Z
C12N15/867 Z
C12N5/10
C12N1/21
C12N1/19
C12N1/15
A61K35/12
A61K35/17
A61K35/545
A61K48/00
A61K35/76
A61P31/00
A61P25/00
A61P29/00
A61P37/06
A61P37/02
A61P37/08
A61P17/06
A61P17/00
A61P1/04
A61P17/04
A61P11/06
A61P19/02
A61P13/12
A61P3/10
A61K38/16
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023513414
(86)(22)【出願日】2021-08-27
(85)【翻訳文提出日】2023-04-24
(86)【国際出願番号】 EP2021073714
(87)【国際公開番号】W WO2022043483
(87)【国際公開日】2022-03-03
(31)【優先権主張番号】2013477.1
(32)【優先日】2020-08-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522164226
【氏名又は名称】クウェル セラピューティックス リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】弁理士法人池内アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】マクガヴァン、ジェニー
【テーマコード(参考)】
4B065
4C084
4C087
【Fターム(参考)】
4B065AA94X
4B065AA97X
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065CA44
4C084AA02
4C084AA13
4C084BA02
4C084MA02
4C084NA05
4C084NA14
4C084ZA01
4C084ZA02
4C084ZA59
4C084ZA68
4C084ZA81
4C084ZA89
4C084ZA96
4C084ZB07
4C084ZB08
4C084ZB11
4C084ZB13
4C084ZB31
4C084ZC35
4C087AA01
4C087AA02
4C087BA02
4C087BB37
4C087BB65
4C087BC83
4C087CA12
4C087MA02
4C087NA05
4C087NA14
4C087ZA01
4C087ZA02
4C087ZA59
4C087ZA68
4C087ZA81
4C087ZA89
4C087ZA96
4C087ZB07
4C087ZB08
4C087ZB11
4C087ZB13
4C087ZB31
4C087ZC35
(57)【要約】
本明細書において、自殺部分を含む安全スイッチポリペプチドをコードする第1のヌクレオチド配列と、FOXP3をコードする第2のヌクレオチド配列と、キメラ抗原受容体(CAR)をコードする第3のヌクレオチド配列とを5’から3’へ含む核酸分子であって、特に、前記第1、第2および第3のヌクレオチド配列が自己切断配列をコードするヌクレオチド配列によって分離されている、核酸分子が提供される。また、前記核酸分子を含む構築物、ベクターおよび細胞、ならびに、細胞内、特に養子細胞療法(ACT)に有用な免疫細胞内で、前記コードされたポリペプチドを発現させるための方法および使用も提供される。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
5’から3’へ、以下(i)、(ii)、および(iii)を含む核酸分子:
(i)自殺部分を含む安全スイッチポリペプチドをコードする第1のヌクレオチド配列;
(ii)FOXP3をコードする第2のヌクレオチド配列;
(iii)キメラ抗原受容体(CAR)をコードする第3のヌクレオチド配列。
【請求項2】
前記安全スイッチポリペプチド、前記FOXP3および前記CARが、別個のポリペプチド実体として前記核酸分子から発現可能である、請求項1に記載の核酸分子。
【請求項3】
前記第1、第2および第3のヌクレオチド配列が、自己切断配列をコードするヌクレオチド配列によって分離されている、請求項1または請求項2に記載の核酸分子。
【請求項4】
前記核酸分子は、他のいかなるコードヌクレオチド配列も含まない、請求項1から3のいずれか一項に記載の核酸分子。
【請求項5】
前記安全スイッチポリペプチドが、抗体によって認識される自殺部分を含み、
前記安全スイッチポリペプチドが細胞の表面に発現すると、前記抗体が前記安全スイッチポリペプチドに結合することにより前記細胞の消失が起こり、
任意選択的に、前記自殺部分は、抗体リツキシマブによって認識されるCD20エピトープである、請求項1から4のいずれか一項に記載の核酸分子。
【請求項6】
前記安全スイッチポリペプチドが下記式の配列を含む、請求項1から5のいずれか一項に記載の核酸部分:
R1-L-R2-St
式中、R1およびR2は、リツキシマブ結合エピトープであり、
Stは、前記ポリペプチドが細胞の表面に発現すると、前記R1エピトープおよび前記R2エピトープを前記細胞表面から突出させるストーク配列であり、
Lは、リンカー配列である。
【請求項7】
前記安全スイッチポリペプチドが、以下(i)または(ii)である、請求項6に記載の核酸分子:
(i)配列番号1の配列もしくは当該配列に対して少なくとも80%の配列同一性を有する配列を有するポリペプチドRQR8;
(ii)配列番号92もしくは93の配列または配列番号92もしくは93に対して少なくとも80%の配列同一性を有する配列を有するポリペプチド。
【請求項8】
前記各自己切断配列が、2A配列であり、
任意選択的に、前記安全スイッチポリペプチドと前記FOXP3との間の自己切断配列がP2A配列であり、前記FOXP3と前記CARとの間の自己切断配列がT2A配列である、請求項3から7のいずれか一項に記載の核酸分子。
【請求項9】
前記FOXP3が、配列番号2もしくは7に対して少なくとも70%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むポリペプチド、または、配列番号2もしくは7に対してアミノ酸72位~106位もしくはアミノ酸246位~272位の欠失を含むアミノ酸配列を含むポリペプチドであり、好ましくは、前記FOXP3が、配列番号2を含むか、または配列番号2からなる、ポリペプチドである、請求項1から8のいずれか一項に記載の核酸分子。
【請求項10】
前記CARが、HLA分子に対して向けられたものであり、任意選択的に、前記HLA分子がHLA-A2である、請求項1から9のいずれか一項に記載の核酸分子。
【請求項11】
前記CARが、MHCクラスIIに対して向けられたものではない、請求項1から9のいずれか一項に記載の核酸分子。
【請求項12】
(i)前記CARが、配列番号11、12、および13にそれぞれ記載のVH CDR1配列、VH CDR2配列、およびVH CDR3配列と、配列番号14、15、および16にそれぞれ記載のVL CDR1配列、VL CDR2配列、およびVL CDR3配列とを含む抗原結合ドメインを含むか、または、
(ii)前記CARが、配列番号20、21、および22にそれぞれ記載のVH CDR1配列、VH CDR2配列、およびVH CDR3配列と、配列番号23、24、および25にそれぞれ記載のVL CDR1配列、VL CDR2配列、およびVL CDR3配列とを含む抗原結合ドメインを含み、
(i)または(ii)の前記CDR配列の1つ以上が、該CDR配列に対してアミノ酸の改変を1~3個任意選択的に含んでいてもよく、特に、前記CDR配列の1つ以上が、1~3個のアミノ酸の置換、付加、もしくは欠失によって任意選択的に改変されていてもよい、請求項1から11のいずれか一項に記載の核酸分子。
【請求項13】
(i)前記CARの抗原結合ドメインが、配列番号17に記載の配列もしくは当該配列に対して少なくとも70%の配列同一性を有する配列を含むVHドメインと、配列番号18に記載の配列もしくは当該配列に対して少なくとも70%の配列同一性を有する配列を含むVLドメインとを含むか、または、
(ii)前記CARの抗原結合ドメインが、配列番号26に記載の配列もしくは当該配列に対して少なくとも80%の配列同一性を有する配列を含むVHドメインと、配列番号27に記載の配列もしくは当該配列に対して少なくとも70%の配列同一性を有する配列を含むVLドメインとを含む、請求項12に記載の核酸分子。
【請求項14】
前記CARが、scFvの形態の抗原結合ドメインを含む、請求項1から13のいずれか一項に記載の核酸分子。
【請求項15】
前記CARの抗原結合ドメインが、以下(i)または(ii)を含む、請求項10から14のいずれか一項に記載の核酸分子:
(i)配列番号19もしくは88に記載の配列または当該配列に対して少なくとも80%の配列同一性を有する配列;
(ii)配列番号28に記載の配列または当該配列に対して少なくとも80%の配列同一性を有する配列。
【請求項16】
前記CARが、以下(i)、(ii)、(iii)、および(iv)を含む、請求項1から15のいずれか一項に記載の核酸分子:
(i)CD8、CD28、CD4、CD7もしくは免疫グロブリン、またはそれらの一部もしくは変異体のヒンジ領域から選択される、ヒンジドメイン;
(ii)CD8α、CD28、CD4、CD3ζ、CD45、CD9、CD16、CD22、CD33、CD64、CD80、CD86、CD134(OX40)、CD137(4-1BB)もしくはCD154の膜貫通ドメイン、またはそれらの一部もしくはそれらの変異体から選択される、膜貫通ドメイン;
(iii)任意選択的に、CD28、OX40、41BB、ICOSまたはTNFRSF25の細胞内ドメインから選択される、共刺激ドメイン;
(iv)T細胞受容体のζ鎖のエンドドメインもしくはその相同体のいずれか、CD3ポリペプチドエンドドメイン、sykファミリーチロシンキナーゼ、srcファミリーチロシンキナーゼ、CD2、CD5、およびCD28、FcyRIII、FcsRI、Fc受容体の細胞質尾部、免疫受容体チロシン活性化モチーフ(ITAM)をもつ細胞質受容体、またはこれらの組み合わせから選択される、細胞内シグナル伝達ドメイン。
【請求項17】
(i)前記CARが、ヒトCD8ヒンジドメインもしくはその変異体とヒトCD8膜貫通ドメインとを含み、かつ/または、
(ii)前記CARが、ヒトCD28共刺激ドメインとヒトCD3ζシグナル伝達ドメインとを含むエンドドメインを含み、かつ/または、
(iii)前記CARが、STAT5会合モチーフと、JAK1および/もしくはJAK2結合モチーフと、任意選択的にJAK3結合モチーフと、を含むエンドドメインを含み、好ましくは、該CARのエンドドメインが、インターロイキン受容体(IL)受容体のエンドドメイン由来の1つ以上の配列を含む、
請求項1から16のいずれか一項に記載の核酸分子。
【請求項18】
請求項1からのいずれか一項に記載の核酸であって、
前記核酸分子が、5’から3’へ、以下(i)、(ii)、(iii)、(iv)、および(vi)を含み:
(i)配列番号10、94もしくは95の配列または当該配列に対して少なくとも80%の配列同一性を有する配列を含む安全スイッチポリペプチドをコードする第1のヌクレオチド配列;
(ii)P2A切断配列をコードするヌクレオチド配列;
(iii)配列番号2の配列または当該配列に対して少なくとも70%の配列同一性を有する配列を含むFOXP3ポリペプチドをコードする第2のヌクレオチド配列;
(iv)T2A切断配列をコードするヌクレオチド配列;
(vi)HLA-A2に対して作られたCARをコードする第3のヌクレオチド配列、
前記CARは、以下(a)、(b)、(c)、(d)、および(e)を含む:
(a)配列番号66に記載の配列または当該配列に対して少なくとも80%の配列同一性を有する配列を含むか、あるいはこのような配列からなる、リーダー配列;
(b)配列番号19もしくは88に記載の配列または当該配列に対して少なくとも80%の配列同一性を有する配列を含むか、あるいはこのような配列からなる、抗原結合ドメイン;
(c)配列番号68に記載の配列または当該配列に対して少なくとも80%の配列同一性を有する配列を含むか、あるいはこのような配列からなる、CD8αヒンジ・膜貫通ドメイン配列;
(d)配列番号71に記載の配列または当該配列に対して少なくとも80%の配列同一性を有する配列を含むか、あるいはこのような配列からなる、CD28共刺激ドメイン;
(e)配列番号72に記載の配列または当該配列に対して少なくとも80%の配列同一性を有する配列を含むか、あるいはこのような配列からなる、CD3ζシグナル伝達ドメイン。
【請求項19】
請求項1から18のいずれか一項に記載の核酸分子を含む発現構築物であって、前記第1、第2および第3のポリヌクレオチド配列が、プロモーターに作動可能に連結されており、任意選択的に、前記プロモーターが、ウイルスプロモーターであり、任意選択的にLTRプロモーターである、発現構築物。
【請求項20】
前記プロモーターが、プロモーターSFFVである、請求項19に記載の発現構築物。
【請求項21】
請求項1から18のいずれか一項に記載の核酸分子または請求項19もしくは請求項20に記載の発現構築物を含むベクター。
【請求項22】
前記ベクターが、ウイルスベクターであり、任意選択的にレンチウイルスベクターまたはガンマレトロウイルスベクターである、請求項21に記載のベクター。
【請求項23】
請求項1から18のいずれか一項に記載の核酸分子、請求項19もしくは請求項20に記載の発現構築物、または請求項21もしくは請求項22に記載のベクターを含む、細胞であって、任意選択的に生産宿主細胞である、細胞。
【請求項24】
前記細胞が、前記安全スイッチポリペプチドと前記CARとを細胞表面に共発現する、請求項23に記載の細胞。
【請求項25】
前記細胞が、以下(i)または(ii)である、請求項23または請求項24に記載の細胞:
(i)免疫細胞またはその前駆細胞もしくは前駆体、好ましくはT細胞またはその前駆体、より好ましくはTreg細胞もしくはTcon細胞またはその前駆体;
(ii)幹細胞、好ましくはiPSC細胞。
【請求項26】
前記細胞が、Treg細胞である、請求項23から25のいずれか一項に記載の細胞。
【請求項27】
請求項23から26のいずれか一項に記載の細胞を含む細胞集団。
【請求項28】
請求項23から26のいずれか一項に記載の細胞、請求項27に記載の細胞集団、または請求項21もしくは請求項22に記載のベクターを含む、医薬組成物。
【請求項29】
治療に使用するための、請求項23から26のいずれか一項に記載の細胞、請求項27に記載の細胞集団、または請求項28に記載の医薬組成物。
【請求項30】
養子細胞移入療法に使用するための、請求項23から26のいずれか一項に記載の細胞、請求項27に記載の細胞集団、または請求項28に記載の医薬組成物。
【請求項31】
感染症、神経変性疾患、もしくは炎症性疾患を治療するための、または免疫抑制を誘導するための、請求項23から26のいずれか一項に記載の細胞、請求項27に記載の細胞集団、または請求項28に記載の医薬組成物。
【請求項32】
移植片に対する寛容の誘導;移植片対宿主病(GvHD)、自己免疫疾患、もしくはアレルギー疾患の治療および/または予防;組織修復および/または組織再生の促進;あるいは、対象における炎症の寛解、に使用するための、請求項23から26のいずれか一項に記載の細胞、請求項27に記載の細胞集団、または請求項28に記載の医薬組成物であって、
特に、前記細胞がTreg細胞である、請求項23から26のいずれか一項に記載の細胞、請求項27に記載の細胞集団、または請求項28に記載の医薬組成物。
【請求項33】
移植片に対する寛容を誘導する、移植片対宿主病(GvHD)、自己免疫疾患、もしくはアレルギー疾患を治療および/または予防する、組織修復および/または組織再生を促進する、あるいは、炎症を寛解させる方法であって、請求項23から26のいずれか一項に記載の細胞、特にTreg細胞、請求項27に記載の細胞集団、または、請求項28に記載の医薬組成物、特にTreg細胞を含む医薬組成物を、対象に投与する工程を含む、方法。
【請求項34】
以下の工程を含む、請求項33に記載の方法:
(i)Treg富化細胞試料を単離または用意する工程であって、任意選択的に対象から単離または用意する工程;
(ii)前記Treg細胞に、請求項1から18のいずれか一項に記載の核酸分子、請求項19もしくは請求項20に記載の発現構築物、または請求項21もしくは請求項22に記載のベクターを導入する工程;および
(iii)前記工程(ii)で得られた前記Treg細胞を前記対象に投与する工程。
【請求項35】
移植片に対する寛容を誘導するため、細胞性移植拒絶反応および/または液性移植拒絶反応を治療および/または予防するため、移植片対宿主病(GvHD)、自己免疫疾患、もしくはアレルギー疾患を治療および/または予防するため、組織修復および/または組織再生を促進するため、あるいは、対象における炎症を寛解させるための薬剤の製造における、請求項23から26のいずれか一項に記載の細胞または請求項27に記載の細胞集団の使用であって、特に、前記細胞がTreg細胞である、使用。
【請求項36】
前記対象が、免疫抑制療法を受けている移植レシピエントであり、任意選択的に、前記移植が、肝臓移植、腎臓移植、心臓移植、肺移植、膵臓移植、腸管移植、胃移植、骨髄移植、血液柄付複合組織移植、および皮膚移植から選択される移植であり、特に、前記移植が肝臓移植である、請求項32に記載の使用のための細胞、細胞集団もしくは医薬組成物、請求項33もしくは請求項34に記載の方法、または、請求項35に記載の使用。
【請求項37】
(i)前記CARが、下記から選択される抗原に特異的に結合可能な抗原結合ドメインを含み:
移植された肝臓には存在するが前記レシピエントには存在しないHLA抗原、NTCP等の肝臓特異的抗原、または、拒絶反応時もしくは組織炎症時に発現が上昇する抗原であって、CCL19、MMP9、SLC1A3、MMP7、HMMR、TOP2A、GPNMB、PLA2G7、CXCL9、FABP5、GBP2、CD74、CXCL10、UBD、CD27、CD48、CXCL11等の抗原、かつ/あるいは、
(ii)前記CARが、移植片ドナーには存在するが移植片レシピエントには存在しないHLA抗原に特異的に結合可能な抗原結合ドメインを含み、特に、前記抗原はHLA-A2であり、かつ/あるいは、
(iii)前記CARが、配列番号19、88もしくは28に記載の配列または配列番号19、88もしくは28に対して少なくとも80%の同一性を有する配列を含む抗原結合ドメインを含む、請求項36に記載の、使用のための細胞、細胞集団もしくは医薬組成物、方法、または、使用。
【請求項38】
前記自己免疫疾患またはアレルギー疾患が、乾癬および皮膚炎を含む炎症性皮膚疾患;クローン病および潰瘍性大腸炎を含む炎症性腸疾患に関連付けられる応答;皮膚炎;食物アレルギー、湿疹、および喘息を含むアレルギー状態;関節リウマチ;ループス腎炎および皮膚ループスを含む全身性エリテマトーデス(SLE);1型糖尿病またはインスリン依存性糖尿病を含む真性糖尿病;CIPD、多発性硬化症、ALSを含む神経変性疾患;ならびに若年性糖尿病から選択される、請求項32から37のいずれかに記載の、使用のための細胞、細胞集団もしくは医薬組成物、方法、または使用。
【請求項39】
請求項23から26のいずれかに記載の細胞を作製するための方法であって、請求項1から18のいずれか一項に記載の核酸分子、請求項19もしくは請求項20に記載の発現構築物、または、請求項21もしくは請求項22に記載のベクターを、細胞に導入する工程を含む、方法。
【請求項40】
前記細胞がTreg細胞であり、前記方法がTregを含む細胞含有試料を単離または用意することを含み、かつ/あるいは、前記核酸分子、前記発現構築物もしくは前記ベクターを前記細胞に導入する工程の前または後に、Tregを前記細胞含有試料から富化および/または生成する、請求項40に記載の方法。
【請求項41】
細胞において、キメラ抗原受容体(CAR)と安全スイッチとFOXP3とをコードする核酸分子からのFOXP3の発現を増強する方法であって、請求項1から18のいずれか一項に記載の核酸分子を選択すること、および前記核酸分子を前記細胞に導入することを含む、方法。
【請求項42】
前記細胞において、前記核酸分子からの前記CARの発現も増強させる、請求項41に記載の方法。
【請求項43】
細胞内に、自殺部分、FOXP3およびCARを発現させるための、請求項1から18のいずれか一項に記載の核酸分子の使用であって、前記FOXP3の発現を増強させる、使用。
【請求項44】
前記細胞における前記CARの発現も増強させる、請求項43に記載の使用。
【請求項45】
前記第1、第2および第3のヌクレオチド配列を前記指定の順序で含む核酸分子を製造することを含む、請求項41もしくは請求項42に記載の方法、または、請求項43もしくは請求項44に記載の使用。
【請求項46】
リツキシマブによって認識される少なくとも1つのCD20エピトープの自殺部分を含む安全スイッチポリペプチドを発現する細胞のリツキシマブに対する感受性を増加させる方法であって、前記細胞に、前記安全スイッチポリペプチドをコードするヌクレオチド配列であってSFFVプロモーターに作動可能に連結されたヌクレオチド配列を含む核酸分子を導入することを含む、方法。
【請求項47】
リツキシマブに対する細胞の感受性を増加させるための、SFFVプロモーターに作動可能に連結されたヌクレオチド配列を含む核酸分子の使用であって、前記ヌクレオチド配列が、リツキシマブによって認識される少なくとも1つのCD20エピトープの自殺部分を含む安全スイッチポリペプチドをコードする、使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示および本発明は、細胞、特に養子細胞療法(ACT)に有用な免疫細胞においてポリペプチドを発現させるのに有用な、分子および構築物を含む核酸に関する。この核酸は、1つの分子内に3つの構成要素、すなわち、自殺部分(suicide moiety)、転写因子FOXP3およびキメラ抗原受容体(CAR)をコードし、該核酸を細胞内で発現させると、自殺部分、FOXP3およびCARが当該細胞内または当該細胞上に個々のポリペプチドとして別個に発現する。
【背景技術】
【0002】
養子細胞療法(ACT)は、様々な状態(最も注目すべきは、細胞傷害性細胞の投与が行われてきた悪性疾患および感染症を含む)に対する臨床的応用での使用や試験が増加しつつあり、最近では、制御性T細胞(Treg)を、それらの免疫抑制効果に基づき、不要な免疫応答を制御するために使用することが提案されている。
【0003】
CD19を認識するように遺伝子操作されたT細胞が、濾胞性リンパ腫の治療に用いられており、抗腫瘍T細胞受容体を発現するように遺伝子改変された自己リンパ球を用いるACTが、転移性黒色腫の治療に用いられている。黒色腫およびEBV関連悪性腫瘍におけるACTの成功を受け、他の腫瘍の治療のためにエフェクターT細胞を再標的化する取り組みが盛んに行われるようになり、新たな特異性を有するT細胞受容体(TCR)またはキメラ抗原受容体(CAR)を発現させるようなT細胞の操作が行われてきた。
【0004】
B細胞系悪性腫瘍、成人リンパ腫、および播種性黒色腫の免疫療法のためのCAR改変型Tリンパ球が報告されている。
【0005】
別の種類の免疫細胞、例えば、CARを発現するように操作されたNK細胞をはじめとするNK細胞もまた、ACTに使用されているか、使用が提案されている。より最近では、ACTのための制御性T細胞(Treg)が開発されている。Tregは、免疫抑制機能を有する。Tregは、細胞障害性免疫応答を制御するように作用し、免疫寛容の維持に不可欠である。Tregの抑制特性は、例えば、炎症性障害、自己免疫疾患もしくは自己免疫状態またはアレルギー疾患もしくはアレルギー状態、および移植において、免疫介在性の臓器障害の改善および/または予防のため、治療的に利用することができる。エフェクター免疫細胞に関しては、Tregは、細胞上に発現する所定の分子、例えば、CARを介して標的化される抗原を標的とするように、同様に遺伝子操作され得る。実際、抗原特異的Tregは、標的免疫抑制を実現するという利点があり、いくつかのグループが、ポリクローナルTregと比較して抑制能が高いことを報告している。
【0006】
よって、ACTのためには、多くの場合、細胞内に異種受容体またはターゲティング分子、特にキメラ受容体つまりCARを発現させることが望ましい。
【0007】
しかしながら、養子免疫療法の有効性が高くなるほど、重篤な有害事象の報告が伴うことがわかっている。操作したエフェクターT細胞の注入後におけるサイトカインストーム等の急性の有害事象が報告されている。これに加え、慢性の有害事象が発生しており、また、別の事象も動物モデルにより予測されている。例えば、腎癌により発現される抗原である炭酸脱水酵素IX(CAIX)にリダイレクトしたエフェクターT細胞は、数名の患者において、胆道上皮での予期せぬCAIXの発現により、肝毒性を生じた。黒色腫に対するネイティブT細胞受容体移入の研究では、複数の患者において、皮膚および虹彩における標的抗原の発現により、白斑および虹彩炎が起こった。TCRの交差対形成(TCR cross-pairing)に起因する移植片対宿主病(GvHD)様症候群が、ネイティブTCR移入後のマウスで報告されている。共刺激を組み込んだいくつかのCARの養子移入後の動物モデルにおいて、リンパ増殖性障害が報告されている。最後に、ベクター挿入による突然変異誘発のリスクは常に存在する。急性毒性は投薬を慎重に行うことで対処できるが、慢性毒性は、細胞用量非依存性である可能性が高い。
【0008】
操作され投与されたT細胞は、投与後何年にもわたって増殖および存続する可能性があり、さらに、Treg細胞は、ある一定の環境下でサプレッサーを失ってTエフェクター細胞になり得る。このことと、また、どのような免疫療法であっても患者への投与後に有害事象が発生するリスクは常に存在することとを考慮すると、場合によっては、また、特定の疾患状態については、養子注入したT細胞およびその他の免疫細胞を、毒性に直面した場合に、または実際にそれらが治療効果を発揮した後に、選択的に除去することを可能にする安全機構を備えておくことが望ましい場合がある。
【0009】
自殺遺伝子は、形質導入細胞のインビボでの選択的除去を可能にする。典型的には、自殺遺伝子は、安全対策として、細胞を消失させるかまたは消失の標的とすることを可能にする自殺部分をコードし、それによって、当該細胞の安全スイッチとして働く。2種類の自殺遺伝子/部分、HSV-TKおよびiCasp9について、臨床試験が既に行われている。T細胞に単純ヘルペスウイルスチミジンキナーゼ(HSV-TK)を発現させると、ガンシクロビルに対する感受性が付与される。HSV-TKの使用は、このウイルスタンパク質が高い免疫原性を有することから、ハプロタイプ一致骨髄移植等、高度に免疫抑制された臨床状況に限定される。さらに、これにより、サイトメガロウイルス治療へのガンシクロビルの使用が不可能となる。誘導性カスパーゼ9(iCasp9)は、小分子医薬(AP20187)の投与により活性化することができる。iCasp9の使用は、臨床グレードのAP20187の利用可能性に依存する。さらに、遺伝子操作された細胞生成物に加えて実験的な小分子を使用することで、規制上の問題が生じる可能性がある。
他の安全スイッチも開発中であり、特許文献1では、溶解性抗体リツキシマブによって認識される、抗原CD20の最小エピトープに基づくポリペプチド構築物が報告されている。リツキシマブは、主としてB細胞の表面に存在するタンパク質CD20に対する免疫治療用キメラ型モノクローナル抗体である。リツキシマブは、CD20に結合すると細胞死を誘発するものであり、よって、細胞表面にCD20を発現している細胞を標的とし死滅させるために使用し得る。リツキシマブによって認識されるエピトープを模倣したペプチド(いわゆるミモトープ)が開発されており、これらは、特許文献1において、マーカー部位としてCD34最小エピトープをさらに含む自殺-マーカーポリペプチド複合化構築物における自殺部分として使用されていた。具体的には、特許文献1には、配列番号1に記載の配列を有する、RQR8と呼ばれるポリペプチドが開示されている。このポリペプチドは、スペーサー配列とそれらの間に介在するCD34マーカー配列とによって互いに分離された2つのCD20最小エピトープを含み、2つのCD20最小エピトープはさらに、このポリペプチドをそれが発現する細胞の表面から突出させるストーク配列(stalk sequence)に連結されている。
【0010】
よって、ACTのためにCARを発現するように操作した細胞に安全スイッチを備えておくことは、より多くの場合において望ましい。
【0011】
上記のように、Treg細胞は、その抑制機能を考慮すると、ACTに有用な細胞のカテゴリーである。Treg細胞はFOXP3を発現し、従来のT細胞(Tcon細胞)は、それらの細胞内にFOXP3を発現させることによってエクスビボで制御性の表現型へ分化させることができる。FOXP3発現の喪失は、制御性T細胞の抑制機能の低下とエフェクター表現型への復帰の可能性に関連付けられる。よって、FOXP3発現は、Tregの機能およびTreg表現型の維持に重要であると思われ、本明細書では、ACT用の免疫細胞、特にTreg細胞においてFOXP3を発現させることをさらに提案する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】国際公開第2013/15339号パンフレット
【発明の概要】
【0013】
本発明者らは、細胞、特にACT用の免疫細胞、より詳細にはTreg細胞またはその前駆体において、CARと安全スイッチとFOXP3とを共発現させるための核酸分子および構築物を開発した。上記のように、特に、安定したTreg表現型を有するTreg細胞を提供するために、または、細胞にTreg表現型を付与するために、CARおよび安全スイッチと一緒にFOXP3を発現させることを提案する。
【0014】
前記核酸分子および構築物は、1つの核酸分子または構築物内にこれらの3つの構成要素をコードするように設計され、コードされたポリペプチドが細胞内で個々の構成要素、すなわち別々の実体として産生され得るようになっている。よって、核酸分子によってコードされた3つの構成要素は、発現後、別個の異なる、または別々の機能的ポリペプチドとして、細胞内または細胞上に別個に位置し得る。これは、核酸分子内に切断配列、特に自己切断配列を、それぞれの構成要素をコードするヌクレオチド配列の間にコードすることによって達成することができる。
【0015】
本発明者らは、驚くべきことに、前記3つの構成要素が核酸分子内でコードされる順序が重要であることを見出した。特に、CAR、FOXP3および安全スイッチを別個の個々のポリペプチドとして発現させることは、核酸構築物においてそれらを次の順序:安全スイッチポリペプチド-FOXP3ポリペプチド-CARで5’から3’へコードすることによって改善し得ることがわかった。比較核酸構築物において前記構成要素が異なる順序でコードされていると、安全スイッチ-FOXP3-CARの順序と比較して、個々の構成要素のレベルが低下することがわかった。最も注目すべきは、安全スイッチ-FOXP3-CARの構築物では、FOXP3産生のレベルが、予想外にかつ予測できないほどに、非常に高かったことである。下記の実施例に示すように、本明細書中の構築物は、形質導入細胞におけるFOXP3タンパク質のレベルを、比較可能な構築物または対照の構築物よりも著しく増強した。形質導入されたFOXP3がTreg細胞に安定性を付与し、該細胞はそのTreg表現型を維持し、さらに、FOXP3レベルの増加は増殖または細胞生存に悪影響を及ぼさなかった。その上、観察された非常に高いFOXP3産生レベルは、様々なウイルスベクターを用いて実現可能であることが示された。
【0016】
したがって、第1の態様において、本明細書では、5’から3’へ、以下(i)、(ii)、および(iii)を含む核酸分子が提供される:
(i)自殺部分を含む安全スイッチポリペプチドをコードする第1のヌクレオチド配列;
(ii)FOXP3をコードする第2のヌクレオチド配列;
(iii)キメラ抗原受容体(CAR)をコードする第3のヌクレオチド配列。
【0017】
特に、前記安全スイッチポリペプチド、前記FOXP3、および前記CARは、別個のポリペプチド実体として前記核酸分子から発現され得る。
【0018】
この点に関して、本明細書では、5’から3’へ、以下(i)、(ii)、および(iii)を含む核酸分子であって、
(i)自殺部分を含む安全スイッチポリペプチドをコードする第1のヌクレオチド配列;
(ii)FOXP3をコードする第2のヌクレオチド配列;および
(iii)キメラ抗原受容体(CAR)をコードする第3のヌクレオチド配列、
前記第1、第2、および第3のヌクレオチド配列が、自己切断配列をコードするヌクレオチド配列によって分離されている、核酸分子が提供される。
【0019】
前記自己切断配列は、前記安全スイッチポリペプチド、前記FOXP3、および前記CARを別個のポリペプチドとして発現または産生することを可能にする。
【0020】
ある実施形態では、前記自己切断配列(自己切断ペプチドともいう)は、2A切断配列または2A様切断配列(言い換えれば、2Aペプチドまたは2A様ペプチド)である。
【0021】
ある実施形態では、前記安全スイッチは、下記でさらに説明するように、配列番号1に記載のアミノ酸配列を有するポリペプチドRQR8もしくはその変異体、または類似のポリペプチドである。
【0022】
前記CARは、任意の所望の標的分子、特に、標的細胞上に発現した標的分子に対するものであってもよい。好適なCARについては後述する。ある実施形態では、前記CARは、HLA抗原、例えばHLA-A2に対して向けられたものである。さらなる実施形態では、前記CARは、MHC IIに対して向けられたものでなくてもよい。
【0023】
前記核酸分子は、前記第1、第2、および第3のコードヌクレオチド配列を含む核酸構築物とみなしてもよい。特定の実施形態において、前記核酸分子は、他のポリペプチド配列をコードしなくてもよい(すなわち、ある実施形態では、前記項目(i)、(ii)、および(iii)の第1、第2、および第3のコードヌクレオチド配列以外のコードヌクレオチド配列を含まない)。言い換えれば、ある実施形態では、前記核酸分子に存在するコード配列は、前記(i)、(ii)、および(iiii)のヌクレオチド配列のみである。よって、代替的な見方によれば、前記核酸分子は、安全スイッチポリペプチド、FOXP3、およびCARをコードするだけよい。前記核酸分子は、これらのコードされたポリペプチドの発現を可能にするようにプロモーターに作動可能に連結されていてもよい。よって、前記第1、第2、および第3のヌクレオチド配列は、同じプロモーターに作動可能に連結されていてもよい。このようにすることで、3つのコードされたポリペプチド構成要素は、同じプロモーターから、個々の別個の構成要素として発現し得る。特に、前記プロモーターはSFFVプロモーターであってもよい。
【0024】
したがって、さらなる態様において、本明細書では、本明細書中で定義する核酸分子を含む発現構築物であって、前記第1、第2、および第3のポリヌクレオチド配列が同じプロモーターに作動可能に連結された、発現構築物が提供される。
【0025】
代替的な見方によれば、前記発現構築物は、上記で定義した第1、第2、および第3のヌクレオチド配列を含む発現構築物であって、前記第1、第2、および第3のヌクレオチド配列が切断配列をコードするヌクレオチド配列によって分離された発現構築物であって、前記第1、第2、および第3のポリヌクレオチド配列が同じプロモーターに作動可能に連結された発現構築物と定義することができる。前記切断配列は、安全スイッチポリペプチド、FOXP3、およびCARを別個のポリペプチドとして発現させることを可能にする。
【0026】
第3の態様は、本明細書中で定義する核酸分子または発現構築物を含むベクターを提供する。
【0027】
ある実施形態では、前記ベクターはウイルスベクターである。
【0028】
第4の態様において、本明細書では、本明細書中で定義する核酸分子、発現構築物またはベクターを含む細胞が提供される。
【0029】
よって、前記細胞は、操作された細胞であり、代替的な見方によれば、本明細書中で定義する核酸分子、構築物またはベクターを導入するように改変された細胞である。前記細胞は、前記核酸分子を組換え発現する。前記細胞は、ポリペプチドの産生のための細胞であってもよく、または、核酸分子、構築物もしくはベクターの産生のための細胞、例えば、ベクターを産生するための細胞であってもよい。したがって、前記細胞は生産宿主細胞であってもよい。あるいは、前記細胞は、治療、特にACTに使用することを目的とした細胞であってもよい。よって、前記細胞は、免疫細胞、特に、T細胞、より詳細にはCD45RA+ Treg細胞等のTreg細胞、または、例えば誘導性多能性幹細胞(iPSC)等の幹細胞も含む、その前駆細胞もしくは前駆体であってもよい。前記CARは、治療用途を目的とした細胞の表面に発現/局在する。前記安全スイッチポリペプチドは、当該安全スイッチポリペプチドの性質および種類に応じて、細胞内または細胞表面に発現/局在し得る。ある実施形態では、前記安全スイッチポリペプチドは、細胞表面に(前記CARとは別個に)発現/局在する。FOXP3は、細胞内部に発現/局在する。特に、FOXP3は、核および/または細胞質に発現する。
【0030】
本発明は、本明細書中で定義する細胞を含む細胞集団をさらに提供する。
【0031】
第5の態様において、本明細書では、本明細書中で定義する細胞、細胞集団またはベクターを含む医薬組成物が提供される。ある実施形態では、前記細胞は、その細胞表面に前記CARと前記安全スイッチとを発現する。本明細書中で定義する細胞、細胞集団および医薬組成物は、治療、特にACTまたは遺伝子治療(前記組成物がベクターを含む場合)に使用することができる。
【0032】
したがって、第6の態様において、治療に使用するための、本明細書中で定義する細胞、細胞集団または医薬組成物が提供される。
【0033】
第7の態様は、養子細胞移入療法(ACT)または遺伝子治療に使用するための、本明細書中で定義する細胞、細胞集団または医薬組成物を提供する。
【0034】
第8の態様は、感染症、神経変性疾患もしくは炎症性疾患の治療に使用するための、または免疫抑制を誘導するための、本明細書中で定義する細胞、細胞集団または医薬組成物を提供する。前記使用または免疫抑制は、不要なまたは望ましくない免疫応答を抑制するためであってもよい。前記使用は、炎症、または炎症状態、つまり炎症を伴う状態もしくは炎症に関連する状態を治療するためであってもよい。
【0035】
第9の態様は、養子細胞移入療法(ACT)に使用するための薬剤、感染症、神経変性疾患もしくは炎症性疾患の治療に使用するための薬剤、または、免疫抑制を誘導するための薬剤の製造のための、本明細書中で定義する細胞または細胞集団の使用を提供する。
【0036】
第10の態様は、治療の方法、特にACTの方法、より詳細には、感染症、神経変性疾患、もしくは炎症性疾患を治療するための方法または免疫抑制を誘導するための方法であって、対象、特にこのような治療を必要としている対象に、本明細書中で定義する細胞または細胞集団を投与すること、特に、治療上有効量の該細胞または細胞集団を投与することを含む、方法を提供する。
【0037】
ある実施形態では、本明細書では、移植片(transplant)に対する寛容の誘導に使用するための;移植片対宿主病(GvHD)、自己免疫疾患、またはアレルギー疾患を治療および/または予防するための;組織修復および/または組織再生を促進するための;あるいは、炎症を寛解させるための、細胞、細胞集団または医薬組成物が提供される。特に、このような実施形態において、前記細胞はTreg細胞であり得る。
【0038】
同様に、移植片に対する寛容を誘導する、移植片対宿主病(GvHD)、自己免疫疾患、もしくはアレルギー疾患を治療および/または予防する;組織修復および/または組織再生を促進する;あるいは、炎症を寛解させる方法であって、前記対象に、本明細書中で定義する、Treg等の細胞、細胞集団、または、Treg細胞等の細胞を含む医薬組成物を投与する工程を含む、方法も提供される。
【0039】
このような方法は、以下の(i)、(ii)及び(iii)を含み得る:
(i)Treg富化細胞試料を、対象から単離または用意すること;
(ii)前記Treg細胞に、本明細書中で定義する核酸分子、発現構築物またはベクターを導入すること;および
(iii)(ii)で得られたTreg細胞を前記対象に投与すること。
【0040】
さらに、本明細書では、移植片に対する寛容を誘導するための;細胞性移植拒絶反応および/または液性移植拒絶反応を治療および/または予防するため;移植片対宿主病(GvHD)、自己免疫疾患、またはアレルギー疾患を治療および/または予防するため;組織修復および/または組織再生を促進するため;あるいは炎症を寛解させるための薬剤の製造における、本明細書中で定義する、Treg細胞等の細胞、または細胞集団の使用も提供される。
【0041】
このような状態や疾患の治療のために、前記CARは、HLA抗原、例えばHLA-A2に対して向けられたものであってもよい。
【0042】
第11の態様は、本明細書中で定義する細胞を作製する方法であって、本明細書中で定義する核酸分子、発現構築物またはベクターを、細胞、例えば、Treg細胞に導入(例えば、細胞に形質導入またはトランスフェクト)する工程を含む、方法を提供する。
【0043】
このような方法は、当該方法で使用する細胞を、単離、富化、用意または生成する先行工程をさらに含んでもよい。さらに、細胞の単離または富化または生成を、前記核酸分子を導入する工程の後で行ってもよい。例えば、前記核酸分子を前駆体または前駆細胞、例えば幹細胞に導入し、その後、その細胞を、所望の細胞型へと分化もしくは変化するよう誘導してもよく、または分化もしくは変化させてもよい。例えば、iPSC細胞を免疫エフェクター細胞(例えば、Tregまたは他のT細胞)へと分化させてもよく、あるいはTcon細胞をTreg細胞等へと変換させてもよい。
【0044】
第12の態様において、第4の態様に記載の細胞を除去するための方法であって、リツキシマブの結合特異性を有する抗体に細胞を曝露する工程を含む、方法が提供される。一態様において、本方法はインビトロの方法であってもよい。
【0045】
代替的な見方によれば、この態様は、本明細書中で定義する第4の態様の細胞が投与された対象の治療において、当該細胞を除去するために使用する、リツキシマブの結合特異性を有する抗体を含んでもよい。
【0046】
さらにこの態様では、(a)本明細書中で定義する核酸分子、構築物、ベクター、または細胞と、(b)リツキシマブの結合特異性を有する抗体と、を含む、キットまたは組み合わせ製品が提供される。前記キットまたは製品は、ACTまたは遺伝子治療に使用するためのものであってもよい。特に、前記キットまたは製品は、前記細胞を用いたACTによる対象の治療、あるいは、本発明の細胞の使用のための製造、ならびに、その後に行われる対象からの当該細胞の除去に使用するものであってもよい。あるいは、前記キットは、前記コードされたポリペプチドをインビボで対象の細胞内に発現させるために、ベクターを用いる遺伝子治療のためのものであってもよい。抗体は、細胞またはベクターの投与後、例えば一定期間後に、対象に投与してもよいし、あるいは、対象が細胞または遺伝子治療の望ましくないまたは有害な症状または効果を示した場合に、対象に投与してもよい。
【0047】
ある実施形態では、前記抗体はリツキシマブであってもよい。
【0048】
本発明はまた、細胞の安定性および/または抑制機能を増加させるための方法であって、本明細書中で提供する核酸分子、発現構築物またはベクターを細胞に導入する工程を含む、方法も提供する。
【0049】
さらなる態様において、本発明は、キメラ抗原受容体(CAR)、安全スイッチおよびFOXP3をコードする核酸分子からのFOXP3の発現を、細胞において増強する方法であって、5’から3’へ、下記(i)、(ii)および(iii)を含む核酸分子を選択すること、ならびに
(i)自殺部分を含む安全スイッチポリペプチドをコードする第1のヌクレオチド配列;、
(ii)FOXP3をコードする第2のヌクレオチド配列;
(iii)CARをコードする第3のヌクレオチド配列;
前記核酸分子を前記細胞に導入すること、を含む方法を提供する。
【0050】
上述のように、FOXP3、CAR、および安全スイッチをコードする核酸分子からのFOXP3の発現は、核酸分子内で前記各コードヌクレオチド配列を、安全スイッチ、FOXP3およびCARの順に配置することによって増強することができる。特に、前記核酸分子からのFOXP3の発現は、CAR、安全スイッチおよびFOXP3(好ましくは同じCAR、安全スイッチ、およびFOXP3)をコードする核酸分子であって上記で定義した(i)、(ii)および(iii)が異なる順序で配置された核酸分子からの発現と比較して、例えば、5’から3’へ(iii)、(ii)、(i)を含む核酸分子または5’から3’へ(ii)、(iii)、(i)を含む核酸分子と比較して、増強し得る。
【0051】
さらなる態様において、本発明は、キメラ抗原受容体(CAR)、安全スイッチおよびFOXP3をコードする核酸分子からのFOXP3の発現とキメラ抗原受容体の発現とを、細胞において増強する方法であって、5’から3’へ、下記(i)、(ii)および(iii)を含む核酸分子を選択すること、ならびに
(i)自殺部分を含む安全スイッチポリペプチドをコードする第1のヌクレオチド配列;
(ii)FOXP3をコードする第2のヌクレオチド配列;
(iii)CARをコードする第3のヌクレオチド配列;
前記発現構築物を前記細胞に導入すること、を含む方法をさらに提供する。
【0052】
この態様に関連して、前記核酸分子からのFOXP3およびCARの発現は、CAR、安全スイッチおよびFOXP3(好ましくは同じCAR、安全スイッチ、およびFOXP3)をコードする核酸分子であって上記で定義した(i)、(ii)、および(iii)が異なる順序で配置された核酸分子からの発現と比較して、例えば、5’から3’へ(iii)、(ii)、(i)を含む核酸分子または5’から3’へ(ii)、(iii)、(i)を含む核酸分子と比較して、増強される。
【0053】
追加の態様において、本発明は、5’から3’へ、下記(i)、(ii)および(iii)を含む核酸分子の使用であって、
(i)自殺部分を含む安全スイッチポリペプチドをコードする第1のヌクレオチド配列;
(ii)FOXP3をコードする第2のヌクレオチド配列;
(iii)キメラ抗原受容体(CAR)をコードする第3のヌクレオチド配列;
細胞内で自殺部分、FOXP3およびCARを発現させるための、当該核酸分子の使用であり、前記FOXP3の発現を増強させる、使用を提供する。
【0054】
この態様に関連して、本発明は、5’から3’へ、下記(i)、(ii)および(iii)を含む核酸分子の使用であって、
(i)自殺部分を含む安全スイッチポリペプチドをコードする第1のヌクレオチド配列;
(ii)FOXP3をコードする第2のヌクレオチド配列;
(iii)キメラ抗原受容体(CAR)をコードする第3のヌクレオチド配列;
細胞内で自殺部分、FOXP3およびCARを発現させるための、当該核酸分子の使用であり、前記FOXP3および前記CARの発現を増強させる、使用をさらに提供する。
【0055】
代替的な見方によれば、本発明は、5’から3’へ、下記(i)、(ii)および(iii)を含む核酸分子の使用であって、
(i)自殺部分を含む安全スイッチポリペプチドをコードする第1のヌクレオチド配列;
(ii)FOXP3をコードする第2のヌクレオチド配列;
(iii)キメラ抗原受容体(CAR)をコードする第3のヌクレオチド配列;
細胞内での自殺部分およびCARの発現のためのならびにFOXP3の増強された発現のための、当該核酸分子の使用を提供する。
【0056】
特定の実施形態では、前記CARの発現が追加的に増強される。
【図面の簡単な説明】
【0057】
図1図1は、下記の実施例に記載の、作製して試験した核酸構築物の設計を示す図である。構築物I~VIは、実験構築物であり、構築物Iが本発明および本開示に係る構築物であり、構築物II~VIが比較構築物である。構築物VII~Xは、実験(試験)構築物の3つの構成要素のうちの2つのみを含む対照構築物である。R=安全スイッチポリペプチド、F=FOXP3、C=CARである。
図2-1】図2は、T-エフェクター(Teff)における実験構築物と対照構築物の発現を示す。非形質導入細胞(モック)および形質導入細胞を回収し、固定可能な生死判別色素(fixable viability dye)と、CD4、CD3、デキストラマー、RQR8およびFOXP3に対する抗体とでフローサイトメトリー用に染色した。上段のパネルは、Live/CD3+CD4+細胞にゲート設定したものである。各パネルはデキストラマー(x軸)の発現を示す。下段のパネルは、Live/CD3+CD4+デキストラマー+細胞にゲート設定したものであり、RQR8(y軸)とFOXP3(x軸)の発現を示す。下側のパネルは、形質導入細胞のみにおける発現を示す。構築物の名称は遺伝子の順序を示しており、R=RQR8、F=FOXP3、C=CARである。
図2-2】図2の続き
図3A図3Aおよび図3Bは、ガンマレトロウイルスにより形質導入したTregにおける実験構築物の発現を示す。15日間の増殖後、形質導入細胞を回収し、固定可能な生死判別色素と、CD4、CD3、デキストラマー、RQR8およびFOXP3に対する抗体とでフローサイトメトリー用に染色した。図3AのFACSプロットは、代表的な染色プロファイルを示す。上段のパネルは、Live/CD3+CD4+細胞を示す。各パネルは、デキストラマー(x軸)の発現を示す。下段のパネルは、Live/CD3+CD4+デキストラマー+細胞にゲート設定したものであり、RQR8(y軸)とFOXP3(x軸)の発現を示す。
図3B図3Bのグラフは、CAR、FOXP3およびRQR8を発現している細胞、CARおよびFOXP3を発現しているがRQR8を発現していない細胞、CARおよびRQR8を発現しているがFOXP3を発現していない細胞、ならびに、CARを発現しているがFOXP3もRQR8も発現していない細胞の割合を描写するFlowJoソフトウェアを用いて行った各構築物のブール代数分析の結果である。3つの独立したドナーの代表である。
図4図4は、レンチウイルスベクターにより形質導入した細胞におけるモジュール発現を示す。Tregを48時間活性化し、濃縮されていないレンチウイルス上清によって形質導入した。4日後、形質導入細胞と活性化した非形質導入細胞(モック)とを回収し、固定可能な生死判別色素と、CD4、CD3、デキストラマー、RQR8およびFOXP3に対する抗体とでフローサイトメトリー用に染色した。上側のパネルは、Live/CD3+CD4+細胞にゲート設定したものであり、デキストラマー(x軸)の発現を示す。下側のパネルは、Live/CD3+CD4+デキストラマー+細胞にゲート設定したものであり、RQR8(y軸)とFOXP3(x軸)の発現を示す。n=3~4のドナーの代表である。下側のパネルは、形質導入細胞のみにおける発現を示す。構築物の名称は遺伝子の順序を示しており、R=RQR8、F=FOXP3、C=CARである。
図5図5Aおよび図5Bは、構築物I(図5A)および構築物IV(図5B)について、レンチウイルスベクターまたはレトロウイルスベクターによる形質導入の直接比較を示す。同じドナー由来のTregを48時間活性化し、構築物Iをパッケージングしたレンチウイルス上清またはレトロウイルス上清によって形質導入した。4日後、細胞を回収し、固定可能な生死判別色素と、CD4、CD3、デキストラマー、RQR8およびFOXP3に対する抗体とでフローサイトメトリー用に染色した。表は、Live CD4+集団内の導入遺伝子発現細胞の割合と、平均蛍光強度(MFI)とを示す。デキストラマーとFOXP3のMFIは、デキストラマー+細胞から得られたものである。RQR8のMFIは、RQR8+細胞から得られたものである。
図6図6は、FOXP3を含有する実験構築物(構築物IおよびVI)とFOXP3を含有しない対照構築物(CVIII)とについての、CAR陰性細胞(薄灰色-非形質導入)およびCAR+細胞(濃灰色-形質導入)におけるFOXP3の発現を示す。図6Aは、FACSプロットを示し、図6Bは、FOXP3発現を示すヒストグラムを提示する。構築物IおよびVIのヒストグラムについては、薄灰色のピークを左側のピークとして見ることができ、濃灰色のピークを右側のピークとして見ることができる。構築物VIIIについては、ピークが重なっている。
図7図7は、外因性FOXP3の発現によってFOXP3-CAR+Tregの蓄積が防止されることを示している。表示した構築物について、レトロウイルス上清によってTregに形質導入した。Tregを回収し、固定可能な生死判別色素と、CD4、CD3、デキストラマー、RQR8およびFOXP3に対する抗体とでフローサイトメトリー用に染色した。上段のパネルは、形質導入から7日後のデキストラマー+細胞上のFOXP3(x軸)およびRQR8(y軸)の発現を示す。下側のパネルは、抗CD3/28ビーズによる再刺激の後で形質導入を行ってから11日後のデキストラマー+細胞上のFOXP3(x軸)およびRQR8(y軸)の発現を示す。
図8-1】図8は、48時間活性化し、非濃縮レトロウイルス上清によって形質導入したTregを示す。7日後に、形質導入細胞と活性化した非形質導入細胞(モック)とを回収し、固定可能な生死判別色素と、CD4、CD3、デキストラマー、RQR8およびFOXP3に対する抗体とでフローサイトメトリー用に染色した。上側のパネルは、Live/CD3+CD4+細胞にゲート設定したものであり、デキストラマー(x軸)の発現を示す。下側のパネルは、Live/CD3+CD4+デキストラマー+細胞にゲート設定したものである。プロットは、RQR8(y軸)とFOXP3(x軸)の発現を示す。n=7のドナーの代表である。構築物の名称は遺伝子順序を示しており、R=RQR8、F=FOXP3、C=CARである。
図8-2】図8の続き
図9-1】図9は、48時間活性化し、濃縮レンチウイルス上清によって形質導入したTregを示す。7日後に、形質導入(Td)細胞と活性化した非形質導入(ntd)細胞(モック)とを回収し、固定可能な生死判別色素と、CD4、CD3、デキストラマー、RQR8およびFOXP3に対する抗体とでフローサイトメトリー用に染色した。Live/CD3+CD4+細胞にゲート設定した。上段のパネルは、デキストラマー(x軸)の発現を示し、中段のパネルは、表示したように、FOXP3(x軸)とRQR8(x軸)の発現を示す。ヒストグラムは、同じ試料中の非形質導入Treg(薄灰色)およびデキストラマー+Treg(濃灰色)のFOXP3発現を示す。薄灰色のピークのみを有するモック細胞についての最初のヒストグラムを除いて、薄灰色のピークは各ヒストグラムの左側のピークとして見られ、濃灰色のピークは各ヒストグラムの右側のピークとして見られる。
図9-2】図9の続き
図9-3】図9の続き
図10A図10Aおよび図10Bは、CAR+FOXP3またはCAR単独を形質導入した細胞を含有するTreg培養物が、全体的に似たような増殖および生存を有することを示す。CD45RA+ Tregを活性化し、レトロウイルスまたはレンチウイルスにより形質導入し、「材料および方法」に概略を示したプロトコルに従って成長させた。5日目、7日目、9日目、12日目および14日目に、マルチウェル使い捨て血球計を用いて細胞を計数した。図10Aのグラフは、非形質導入Treg細胞培養物(モック)と、FOXP3を含む構築物(CIおよびCVI)を形質導入したTreg細胞培養物と、FOXP3を含まない構築物(CVIIIおよびCX)を形質導入したTreg細胞培養物の、0日目からの増殖倍率を示す。n=3~4である。エラーバーは標準偏差を示す。培養16日目に、RQR8+細胞を、磁気ビーズ分離を用いて富化し、濃度を漸減させたIL-2の存在下でビーズと1:1で7日間培養した。固定可能な生死判別色素とデキストラマーとで細胞を染色した。
図10B図10Bのグラフは、FOXP3を含む構築物(CI)を形質導入したTregと、FOXP3を含まない構築物(CVIII)を形質導入したTregとを示す。左のy軸は、生死判別色素によって決定された生細胞の百分率(円形の印で値を示した青線)を示し、右のY軸は、デキストラマー+細胞の百分率(正方形の印で値を示した黒線)を示す。レトロウイルスによって形質導入したTregからの3つの実験の代表である。
図11-1】図11は、形質導入TregがTreg表現型を維持することを示している。外因性の形質導入を行ったバルクTregとCD45RA+ Tregとについて、フローサイトメトリーにより、表示したマーカー発現のアッセイを行った。各試料において、形質導入(TD)細胞をデキストラマー+と同定し、残りの細胞を非形質導入(NTD)とみなした。マーカーごとの平均蛍光強度(MFI)を、TD細胞およびNTD細胞において測定した。20は、変化なしを表し、21は、発現が倍増したことを表す。グラフのバーは、平均値を表し、エラーバーは、標準偏差を示す(n=3~4)。
図11-2】図11の続き
図12図12は、プロモーターとしてEFSまたはSFFVのいずれかを用いてCIまたはCVIIIを形質導入したときのTregの形質導入効率を示す。Qbend(RQR8)とデキストラマー(CAR)とを調べるために細胞を染色した。EFSおよびSFFVの両方で類似の形質導入効率が得られた。CIというよりもCVIIIを形質導入した細胞において、より高いレベルの形質導入が見られ、形質導入効率は構築物のサイズ(3遺伝子というよりも2遺伝子)により依存していることが示された。
図13図13は、CAR Tregの活性化アッセイを示し、このアッセイでは、HLA A1もしくはHLA A2のいずれかを発現するK562細胞を用いた細胞の活性化、または抗CD3/CD28ビーズを用いた細胞の活性化を調査した。HLA A2を発現する(すなわち、この実験で使用したCARによって認識される抗原を発現する)K562細胞は、EFSプロモーターまたはSFFVプロモーターのいずれかを使用した場合、CIを形質導入した細胞とCVIIIを形質導入した細胞との両方においてCARを活性化することが可能である(CD69によって測定)。しかしながら、活性化のレベルは、SFFVプロモーターを使用した方が高い。陽性対照として機能し、かつ内因性TCRを用いて細胞を活性化するCD3/CD28ビーズを用いて、全ての細胞を活性化することができる。
図14-1】図14は、発現を制御するためにEFSプロモーターまたはSFFVプロモーターのいずれかを用いてCIを形質導入したTregのCAR活性化および増殖を示す。活性化は、K562 A1、K562 A2、または抗CD3/CD28ビーズのいずれかと共に細胞をインキュベートすることによって調査されている。データは、CAR-Tregが抗原特異的な刺激を受けると増殖できることと、SFFVがCAR活性化後の増殖率を高めることとを示している。
図14-2】図14の続き
図15-1】図15は、CIを形質導入したTregのインビボ評価と、リツキシマブの、マウスモデルに投与した場合に肝臓でRQR8安全スイッチを発現する細胞を枯渇させる能力とを示す。15日目、リツキシマブで処理していない場合は、形質導入細胞がマウスの血液、脾臓および肝臓にはっきりと確認できる。しかしながら、リツキシマブで処理したマウスでは、細胞が効率的に枯渇している。
図15-2】図15の続き
図16-1】図16は、形質導入Tregをウサギ血清と用量を漸増させたリツキシマブと共に4時間インキュベートしたリツキシマブ滴定実験を示す。RQR8の発現のために使用したプロモーターは、EFSまたはSFFVのいずれかであった。データは、リツキシマブが用量依存的にCAR Tregの細胞死を誘発できることと、SFFVがリツキシマブ媒介性枯渇に対する感受性を増加させることとを示している。
図16-2】図16の続き
【0058】
<詳細な説明>
本発明は、ACT用の細胞、具体的にはCARを発現するように細胞を改変するという観点において、該細胞での発現に有用であるポリペプチドをコードする核酸分子または構築物であって、かつ、単一の核酸分子によって当該ポリペプチドがコードされることを可能にする核酸分子または構築物を提供し、当該単一の核酸分子は、該ポリペプチドが別個のまたは別々の構成要素として発現および/または産生されることを可能にする自己切断配列をさらにコードしてもよい。これはつまり、前記ポリペプチドは、単一の核酸分子によってコードされているが、前記コードされた切断部位での翻訳中または翻訳後の「切断(cleavage)」により、別個のポリペプチドとして発現または産生することができ、そのため、細胞内のタンパク質産生プロセスの終了時には、別個の実体もしくは別個のポリペプチド鎖として細胞に存在し得ることを意味している。以下に詳細に説明するように、自己切断ペプチド配列としては、特に2Aペプチドおよび2A様ペプチドをはじめとする自己切断ペプチド配列を使用してもよい。「自己切断(self-cleaving)」と表現しているが、このようなペプチドは、2A配列のC末端にペプチド結合が形成されない(スキップされる)ようにリボソームスキッピングを可能にすることによって機能し、2A配列とその下流の次のポリペプチドとの分離を導くと考えられる。よって、本明細書中で使用する「切断(cleavage)」という用語は、ペプチド結合形成をスキップすることを含む。
【0059】
「別々の(discrete)」または「別個の(separate)」ポリペプチドとは、これらのポリペプチドが互いに連結されておらず、物理的に別であることを意味している。言い換えれば、これらのポリペプチドは、細胞において別個の実体として発現または産生される。実際に、これらのポリペプチドは、発現後は、細胞において異なるまたは別個の位置にある。よって、CAR、FOXP3、および安全スイッチポリペプチドは、最終的に、単一の別個の構成要素として発現する。CARは、細胞表面分子として発現する。安全スイッチポリペプチドは、細胞内部に発現してもよく、細胞表面上に発現してもよい。特定の実施形態では、安全スイッチポリペプチドとCARとは、ACTに使用することを目的とした細胞の表面に発現する。FOXP3は、細胞内部に発現し、その場所で、以下に詳細に説明するように、細胞の発達および/または活性を調節する転写因子としての効果を発揮することができる。
【0060】
安全スイッチポリペプチドは、当該安全スイッチポリペプチドが発現している細胞内または該細胞上に自殺部分を提供する。これは、対象に投与された細胞を、万一必要が生じた場合に、実際には、より一般的には希望または必要に応じて、例えば、細胞がその治療効果を発揮または完了したら、除去することを可能にする安全機構として有用である。
【0061】
自殺部分は、細胞死、またはより一般的には細胞の消失もしくは除去、を導く誘導能を有する。自殺部分の一例は、自殺遺伝子によってコードされる自殺タンパク質であり、これは、所望の導入遺伝子、この場合はCAR、と一緒に細胞内または細胞上に発現し得、発現すると、細胞を除去させて導入遺伝子(CAR)の発現をオフにする。本明細書中の自殺部分は、許容条件下、すなわち、誘導またはオンされた条件下で細胞を除去させることができるポリペプチドである自殺ポリペプチドをいう。
【0062】
前記自殺部分は、対象に投与される活性化剤によって細胞除去活性を発揮するように活性化されてもよいポリペプチドもしくはアミノ酸配列であってもよく、または対象に投与され得る基質の存在下で細胞除去活性を発揮するための活性であってもよいポリペプチドもしくはアミノ酸配列であり得る。特定の実施形態では、前記自殺部分は、対象に投与される別個の細胞除去剤の標的となってもよい。細胞除去剤が自殺部分に結合することにより、除去されるべき細胞を標的とすることができる。特に、前記自殺部分は、抗体によって認識され得、安全スイッチポリペプチドが細胞の表面に発現すると、その安全スイッチポリペプチドに抗体が結合することによって、当該細胞が消失する、または除去される。
【0063】
前記自殺部分は、上述のHSV-TKまたはiCasp9であってもよい。しかしながら、前記自殺部分が、細胞除去抗体もしくは細胞の除去を誘発可能な他の結合分子によって認識されるエピトープであるか、またはこのようなエピトープを含むことが好ましい。このような実施形態では、安全スイッチポリペプチドは、細胞の表面に発現する。
【0064】
本明細書中において細胞の除去という文脈で使用する「除去する(delete)」という用語は、「取り除く(remove)」または「切除する(ablate)」または「消失させる(eliminate)」と同義である。この用語は、対象における細胞数を減少させ得るような細胞の死滅または細胞増殖の阻害を包含するために使用される。100%完全に取り除くことが望ましい場合もあるが、必ずしも達成されなくてもよい。対象における細胞数を減少させること、または細胞増殖を阻害することが、有益な効果を得るのに十分な場合もある。
【0065】
特に、前記自殺部分は、抗体リツキシマブによって認識されるCD20エピトープであってもよい。よって、前記安全スイッチポリペプチドにおいて、前記自殺部分は、抗体リツキシマブによって認識されるCD20由来のエピトープに基づく最小エピトープを含み得る。より詳細には、このポリペプチドは、リンカーLによって離隔された2つのCD20エピトープR1およびR2を含み得る。
【0066】
したがって、ある実施形態では、前記安全スイッチポリペプチドは、下記式の配列を含む。
R1-L-R2-St
式中、R1およびR2は、リツキシマブ結合エピトープであり、
Stは、前記ポリペプチドが細胞の表面に発現すると、R1エピトープおよびR2エピトープを前記細胞表面から突出させるストーク配列であり、
Lは、リンカー配列である。
【0067】
この配列を含む安全スイッチポリペプチドを発現する細胞は、抗体リツキシマブ、またはリツキシマブの結合特異性を有する抗体を用いて、選択的に死滅させることができる。安全スイッチポリペプチドが細胞表面に発現し、発現したポリペプチドがリツキシマブまたは同じ結合特異性を有する抗体に曝露されるかまたは接触すると、結果として細胞死が起こる。
【0068】
リツキシマブ結合エピトープとは、抗体リツキシマブ、またはリツキシマブの結合特異性を有する抗体、言い換えれば、リツキシマブが結合するのと同じ天然のエピトープに結合する抗体、に結合するアミノ酸配列である。リツキシマブは、ヒトCD20に結合するキメラ型マウス/ヒトモノクローナルκIgG1抗体である。CD20由来のリツキシマブ結合エピトープ配列は、CEPANPSEKNSPSTQYC(配列番号33)である。リツキシマブは、欧州特許第0669836号明細書に最初に記載され(ハイブリドーマ)、重鎖配列および軽鎖配列が欧州特許第2000149号明細書に示されている(次の文献も参照されたい:Wang et al.,Analyst, 2013, 138, 3058(重鎖配列および軽鎖配列が図1中に示されている)、およびRituximab-CAS 17422-31-7, catolog number: B0084-061043, BOC Sciences)。さらに、米国特許出願第2009/0285795(A1)号明細書、欧州特許出願第1633398(A2)号明細書、および国際公開第2005/000898号パンフレットを参照してもよい。リツキシマブおよびそのバイオシミラーは、世界中の様々な商業的供給源から広く入手可能である。
【0069】
したがって、R1およびR2は、リツキシマブに結合する任意のペプチドであってもよく、または言い換えれば、リツキシマブに結合可能な任意のペプチドであってもよい。CD20に関連して述べた前記天然のエピトープに加え、リツキシマブに結合する、または、より詳細には前記天然のエピトープを模倣する、様々なペプチドが公知であり、報告されている。したがって、R1およびR2は、リツキシマブエピトープのミモトープであってもよい。
【0070】
このようなミモトープは、例えば、Perosaら(2007, J. Immunol 179:7967-7974)に記載されており、当該文献には、システイン拘束7塩基長環状ペプチド(cysteine-constrained 7-mer cyclic peptides)の系統が開示されており、これらはリツキシマブによって認識される抗原モチーフを有するが、モチーフの周囲のアミノ酸が異なっている。Perosaは、下記表1に示すように、配列番号34~44の11個のペプチドを記載している。表中、モチーフを挟むアミノ酸を小文字で示し、モチーフを大文字で示した。最初のアミノ酸「a」はペプチドから除去されていてもよく、機能的エピトープ(またはミモトープ)が保持さていればよいと判断されている。最初の「a」を欠いた配列番号45~55のペプチドも、表1に示されている。
【表1】
【0071】
本発明に係るR1および/またはR2として使用し得るリツキシマブエピトープの円形(または環状)ミモトープは、配列番号56のコンセンサスアミノ酸配列で表すことができ、
X1-C-X2-X3-(A/S)-N-P-S-X4-C
ここで、X1はAもしくは存在せず、X2、X3、およびX4は任意のアミノ酸である。
【0072】
より詳細には、X2は、P、N、S、M、W、またはEから選択されるアミノ酸であってもよく、X3は、Y、F、W、A、またはHから選択されるアミノ酸であってもよく、X4は、L、T、M、またはQから選択されるアミノ酸であってもよい。
【0073】
リツキシマブエピトープの非円形(または非環状)ペプチドミモトープも開発されている。Liら(2006 Cell Immunol 239:136-43)にも、配列QDKLTQWPKWLE(配列番号57)のペプチドを含む、リツキシマブのミモトープが記載されている。
【0074】
前記ポリペプチドは、配列番号34~57からなる群より選択されるアミノ酸配列をそれぞれ独立して含むリツキシマブ結合エピトープR1およびR2を含んでもよく、またはリツキシマブ結合活性を保持するその変異体を含んでもよい。
【0075】
2つのエピトープR1およびR2は、同じであっても異なっていてもよいが、好ましい一実施形態では、これらは同じである。
【0076】
ある実施形態では、R1およびR2は、それぞれ、配列番号33~57からなる群より選択されるアミノ酸配列またはリツキシマブ結合活性を保持するその変異体から本質的になるか、あるいは、それぞれこのようなアミノ酸配列または変異体からなる。
【0077】
代表的な実施形態では、前記ポリペプチドは、配列番号46として示すアミノ酸配列またはリツキシマブ結合活性を保持するその変異体を含むリツキシマブ結合エピトープR1およびR2を含んでいてもよく、本質的にこのようなアミノ酸配列または変異体からなるリツキシマブ結合エピトープR1およびR2を含んでいてもよく、あるいはこのようなアミノ酸配列または変異体からなるリツキシマブ結合エピトープR1およびR2を含んでいてもよい。
【0078】
変異体リツキシマブ結合エピトープは、配列番号33~55または57からなる群より選択される配列に基づくものであってもよいが、当該エピトープがリツキシマブ結合活性を保持することを条件として、前記配列に対し、アミノ酸の挿入、置換、または欠失等のアミノ酸変異を1つ以上含むものである。特に、前記配列は、一方または両方の末端において短くなっていてもよく、例えば、1個または2個のアミノ酸分、短くなっていてもよい。
【0079】
エピトープのリツキシマブ結合活性が保持される限り、意図的なアミノ酸の置換を、残基の極性、電荷、溶解性、疎水性、親水性、および/または両親媒性の類似性に基づいて行ってもよい。例えば、負の電荷を有するアミノ酸としてはアスパラギン酸およびグルタミン酸が挙げられ、正の電荷を有するアミノ酸としてはリシンおよびアルギニンが挙げられ、親水性値が類似する非荷電極性頭部基を有するアミノ酸としてはロイシン、イソロイシン、バリン、グリシン、アラニン、アスパラギン、グルタミン、セリン、スレオニン、フェニルアラニン、およびチロシンが挙げられる。
【0080】
保存的置換を、例えば、下記表2に従って行ってもよい。
【表2】
【0081】
第2カラムの同一ブロックおよび第3カラムの同じ行にあるアミノ酸を、互いに置換してもよい。
【0082】
リツキシマブ結合エピトープは、配列番号33~57からなる群より選択される配列と比較して、例えば、3個以下、2個以下、または1個のアミノ酸変異を含んでもよい。
【0083】
リツキシマブ結合エピトープの変異体は、配列番号33~55または57のいずれか1つに対し、少なくとも75%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むか、またはこのようなアミノ酸配列からなってもよく、より詳細には、少なくとも80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、または99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むか、またはこのようなアミノ酸配列からなってもよい。
【0084】
2つの同一(または類似)のリツキシマブ結合アミノ酸配列を使用する場合、異なるヌクレオチド配列を用いて2つのRエピトープをコードすることが有利となる場合がある。多くの発現系において、相同配列は、望ましくない組換え事象を引き起こす可能性がある。遺伝コードの縮重を用い、代替コドンを使用してタンパク質配列を変更することなくヌクレオチド配列の変異を達成し、これにより相同組換え事象を防いでもよい。
【0085】
リンカー配列Lは、2つの「R」エピトープを、抗体がそれらを認識してそれらに結合するように、連結する、もしくはつなげるように機能する任意のアミノ酸配列であり得る。特に、前記Rエピトープは間隔をあけて配置され、それぞれが別個の抗体分子によって結合される。よって、リンカー配列Lは、2つのRエピトープを同時に同じ抗体分子に結合させない長さであり、または別の言い方をすれば、リンカーLは、前記安全スイッチポリペプチドが1つのリツキシマブ分子の両方の抗原結合部位に同時に結合できないほど長い。リンカーLは、2つのRエピトープがそれぞれ別個のリツキシマブ分子に結合できるような長さである。
【0086】
リンカー配列は、単にRエピトープを離隔しながらつなげる機能を果たすだけでもよい。あるいは、またはさらに、リンカー配列は、さらなる機能的ドメインまたは配列を含んでもよい。例えば、マーカー配列を含有してもよい。マーカー配列は、抗体によって認識されるエピトープであってもよい(この文脈では、これはリツキシマブによって認識されるエピトープとは異なるエピトープであることが理解されるであろう。)。マーカー配列は、それ自体がスペーサー配列として機能し得るため、マーカー配列に加えて別個のスペーサー配列が必要でない場合がある。
【0087】
上記のように、特許文献1の自殺構築物は、CD34マーカー配列を含むリンカーによって間隔をあけて配置され、さらにストーク配列に連結された最小CD20エピトープ(具体的には、上記の配列番号34~44および57に基づく)を含んでいる。詳細には、特許文献1の自殺ポリペプチドは、同文献において、一般式St-R1-S1-Q-S2-R2を有すると定義されている。式中、R1およびR2はリツキシマブ結合エピトープであり、Stはストーク配列であり、S1およびS2はスペーサー配列であり、Qは、配列番号58(ELPTQGTFSNVSTNVS)の配列を有するCD34エピトープまたはその変異体である。
【0088】
配列番号58のエピトープは、モノクローナル抗体QBEnd10によって認識される。このことは、臨床現場で細胞の単離に広く用いられているMiltenyi CliniMACS磁気細胞選択システムにQBEnd10抗体が用いられているため、重要である。したがって、Qエピトープをマーカーとして含めることで、このポリペプチドを発現するように改変された細胞を、一般的に利用可能な選択システムを用いて容易に選択できるようになる。
【0089】
ある実施形態では、前記安全スイッチポリペプチドは、特許文献1に開示されるポリペプチドからなってもよく、またはこのようなポリペプチドを含んでいてもよい。そのような実施形態では、上記式R1-L-R2-Stにおいて、Lを下記のように定義し得る。
S1-Q-S2
式中、Qは、配列番号58の配列を有するCD34エピトープ、またはQBEnd10結合活性を有するその変異体を含み(例えば、このようなCD34エピトープまたは変異体であり)、
S1およびS2は、任意選択のスペーサー配列であり、互いに同じであっても異なっていてもよい。
【0090】
上記のように、リンカーLは、2つのRエピトープを間隔をあけて配置させるように機能するため、2つのRエピトープは、リツキシマブの細胞除去剤としての効果を引き出すことができるような方法でリツキシマブに結合でき、すなわち、2つのRエピトープがそれぞれ別個のリツキシマブ分子に結合できる。よって、S1-Q-S2の長さ、つまりR1とR2との間の距離は、安全スイッチポリペプチドが1つのリツキシマブ分子の両方の抗原結合部位に同時に結合できないような長さまたは距離である。
【0091】
スペーサー配列S1およびS2は、組み合わせた長さが少なくとも約10アミノ酸であってもよい。
【0092】
R1とR2との間の距離は、76.57Åを超えていてもよい。例えば、前記スペーサー配列の長さおよび構成は、R1とR2との間の距離が少なくとも78Å、80Å、または85Åであるような長さおよび構成であってもよい。この計算のために、直鎖状のバックボーン中の別個のアミノ酸間の分子距離をアミノ酸1個当たり約3Åと仮定することができる。前記スペーサー配列(1つまたは複数)は、実質的に直鎖状であってもよい。スペーサー配列は、下記に定義する可動性リンカー配列の配列を有していてもよく、特に、下記で詳細に説明するように、セリン残基およびグリシン残基を含むか、またはこれらの残基からなる配列を有していてもよい。前記スペーサー配列(1つまたは複数)は、一般式S-(G)n-Sを有していてもよく、式中、Sはセリンであり、Gはグリシンであり、nは2から8の間の数である。前記リンカーもしくは各リンカーは、配列SGGGS(配列番号62)を含んでもよく、この配列からなってもよい。しかしながら、他のスペーサー配列を使用してもよい。スペーサーのアミノ酸配列は重要ではない。Qエピトープとスペーサー(1つまたは複数)を組み合わせた長さ(すなわち、S1-Q-S2リンカー配列の長さ)は、少なくとも28アミノ酸であってもよい。
【0093】
QBEnd10結合活性を保持する配列番号58の変異体は、配列番号58に対して、少なくとも80%の配列同一性を有するアミノ酸配列であってもよく、例えば、配列番号58に対して、少なくとも85%、90%、または95%、96%、97%、98%、もしくは99%の配列同一性を有するアミノ酸配列であってもよい。
【0094】
配列番号58のQBEnd10結合変異体は、上述した保存的置換を含む、アミノ酸の置換、付加、欠失、または挿入等のアミノ酸配列改変を1つ以上含んでいてもよい。
【0095】
抗体QBEnd10は、Abcam社、ThermoFisher社、Santa Cruz Biotechnology社、およびBio-Rad社を含む、様々な供給元から入手可能である。この抗体の詳細は、欧州特許出願公開第3243838(A1)号明細書およびChia-Yu Fan et al. Biochem Biophys Rep. 2017 Mar; 9: 51-60に提供されている。QBEnd10への結合活性を測定するための方法は、当該技術分野で周知の技術に従って容易に実施することができる。
【0096】
他の実施形態では、リンカー配列Lは、マーカー配列を含まない。ある実施形態では、リンカー配列Lは、上記に定義し説明したQBEnd10結合エピトープを含まない。
【0097】
そのような実施形態では、リンカー配列は、上記のように、Rエピトープ同士を離隔してRエピトープのそれぞれが別個のリツキシマブ抗体分子に結合することを可能にする機能を果たす任意のアミノ酸配列であり得る。前記配列の性質は、そのアミノ酸組成および/またはアミノ酸の配列という点では、様々であってよく、限定されない。しかしながら、ある実施形態では、リンカーが可動性リンカーであってもよい。よって、リンカーは、(剛性(rigid)リンカーとは対照的に、)リンカーに可動性を付与することが知られているアミノ酸を含んでもよく、またはこのようなアミノ酸からなってもよい。
【0098】
可動性リンカーは、当該技術分野で周知であり、記載されているリンカー配列のカテゴリーに属する。リンカー配列は、タンパク質同士もしくはタンパク質ドメイン同士を連結または結合して、例えば、融合タンパク質もしくはキメラタンパク質、または多機能タンパク質もしくは多機能ポリペプチドを作るために使用し得る配列として一般的に知られている。リンカーは異なる特徴を備えることができ、例えば、可動性、剛性、または切断可能であってもよい。タンパク質リンカーは、例えば、Chen et al., 2013, Advanced Drug Delivery Reviews 65, 1357-1369において考察されており、当該文献では、可動性リンカーのカテゴリーを、剛性リンカーおよび切断可能リンカーのカテゴリーと比較している。可動性リンカーは、Klein et al., 2014, Protein Engineering Design and Selection, 27(10), 325-330、van Rosmalen et al., 2017, Biochemistry, 56,6565-6574、およびChichili et al., 2013, Protein Science, 22, 153-167にも記載されている。
【0099】
可動性リンカーとは、連結されたドメインまたは構成要素(components)間の動きをある程度許容するリンカーを指す。可動性リンカーは、一般的には、小さな非極性アミノ酸残基(例えば、Gly)または小さな極性アミノ酸残基(例えば、SerまたはThr)で構成されている。小さいサイズのアミノ酸は、可動性をもたらし、かつつながれた部分(ドメインまたは構成要素)の移動性(mobility)を付与する。極性アミノ酸を組み込むことで、水分子と水素結合を形成し、これにより、水性環境下でのリンカーの安定性を維持することができる。
【0100】
最も一般的に使用されている可動性リンカーは、主にSer残基およびGly残基から構成される配列(いわゆる「GSリンカー」)を有する。しかしながら、多くの他の可動性リンカーも記載されており(例えば、前述のChen et al,.2013参照)、これらのリンカーは、追加のアミノ酸、例えば、溶解性を改善し得るアミノ酸、Thrおよび/もしくはAla、ならびに/または、Lysおよび/もしくはGlu等を含み得る。当該技術分野で公知の報告されている任意の可動性リンカーを使用し得る。
【0101】
GSリンカー、より詳細には、リンカーにおけるGS(「Gly-Ser」)ドメインの使用により、GSドメインリピートの数を変更することによってリンカーの長さを容易に変更することができ、よって、このようなリンカーは、1つの好適なクラスのリンカーである。しかしながら、可動性リンカーは、「GS」リピートに基づくものに限定されず、リンカー配列全体に分散されたSer残基およびGly残基を含む他のリンカーが、前述のChen et al.をはじめとする文献に報告されている。
【0102】
一実施形態では、リンカー配列は、Ser残基およびGly残基のみからなるGly-Serドメインを少なくとも1つ含む。このような実施形態では、前記リンカーは、他のアミノ酸残基を15以下含んでもよく、好ましくは他のアミノ酸残基を14以下、13以下、12以下、11以下、10以下、9以下、8以下、6以下、7以下、5以下、または4以下含んでもよい。
【0103】
Gly-Serドメインは、下記式を有してもよく、
(S)q-[(G)m-(S)m]n-(G)p
式中、qは0または1であり、mは1~8の整数であり、nは1以上(例えば、1~8、特に1~6)の整数であり、pは0または1~3の整数である。
【0104】
より詳細には、Gly-Serドメインは、下記式を有してもよく、
(i)S-[(G)m-S]n;
(ii)[(G)m-S]n;または
(iii)[(G)m-S]n-(G)p
式中、mは2~8(例えば、3~4)の整数であり、nは1以上(例えば、1~8、特に1~6)の整数であり、pは0または1~3の整数である。
【0105】
代表的な例では、Gly-Serドメインは、下記式を有してもよく、
S-[G-G-G-G-S]n
式中、nは1以上(好ましくは、1~8、または1~6、1~5、1~4、もしくは1~3)の整数である。上記式中、配列GGGGSは、配列番号63である。
【0106】
代表的な例示的リンカー配列を以下に示す。
ETSGGGGSRL(配列番号90)
SGGGGSGGGGSGGGGS(配列番号91)
S(GGGGS)1-5(ここで、GGGGSは配列番号63である。)
【0107】
他の実施形態では、リンカー配列は、可動性リンカー配列ではない。
【0108】
前記安全スイッチポリペプチドにおいて、リンカーLの機能はR1とR2をつなぐことである。前記リンカーは、R1とR2とを直接つないでもよい。すなわち、R1のC末端をR2のN末端へとつないでもよい。よって、前記ポリペプチドは、R1とR2との間に、リンカー配列L以外の他の構成要素または配列を含まなくてもよい。前記ポリペプチドは、細胞表面に発現されるものであり、かつ、R1がR2につなげられてR1とR2との両方が細胞表面に発現されるようになっているため、リンカーLは切断可能リンカーでないことがわかるであろう。
【0109】
リンカーの長さは重要ではないが、いくつかの実施形態では、より短いリンカー配列を有することが望ましい場合がある。例えば、リンカー配列の長さは、25アミノ酸以下、好ましくは24アミノ酸以下、23アミノ酸以下、22アミノ酸以下、または21アミノ酸以下であってもよい。
【0110】
他の実施形態では、より長いリンカー配列が望まれる場合があり、例えば、GSドメインの複数のリピートから構成されるか、またはGSドメインの複数のリピートを含んでもよく、かつ/あるいは、上述のエピトープのようなマーカー配列を含んでもよい。
【0111】
いくつかの実施形態では、リンカーの長さは、2アミノ酸、3アミノ酸、4アミノ酸、5アミノ酸、または6アミノ酸のいずれか1つから、24アミノ酸、23アミノ酸、22アミノ酸、または21アミノ酸のいずれか1つまでの長さであってもよい。他の実施形態では、リンカーの長さは、2アミノ酸、3アミノ酸、4アミノ酸、5アミノ酸、または6アミノ酸のいずれか1つから、21アミノ酸、20アミノ酸、19アミノ酸、18アミノ酸、17アミノ酸、16アミノ酸、または15アミノ酸のいずれか1つまでの長さであってもよい。他の実施形態では、前記長さはこれらの範囲の中間、例えば、6~21、6~20、7~20、8~20、9~20、10~20、8~18、9~18、10~18、9~17、10~17、9~16、10~16等であってもよい。したがって、先に列挙した整数のいずれかからなる範囲内であってもよい。
【0112】
前記安全スイッチポリペプチドはストーク配列(St)を含み、当該ポリペプチドが標的細胞の表面で発現すると、当該ストーク配列は、Rエピトープを標的細胞の表面から遠ざけるように突出させる。
【0113】
前記ストーク配列は、Rエピトープを細胞表面から十分に遠ざけ、例えば、リツキシマブまたは同等の抗体の結合を促進する。前記ストーク配列は、前記エピトープを細胞表面から上昇させる。
【0114】
前記ストーク配列は、実質的に直鎖状のアミノ酸配列であってもよい。ストーク配列は、Rエピトープを標的細胞の表面から遠ざけるのに十分な長さであればよいが、そのコード配列がベクターのパッケージングや形質導入の効率を損なわない程度の長さとすればよい。ストーク配列の長さは、例えば、30アミノ酸から100アミノ酸の間であってもよい。
【0115】
ストーク配列の長さは、およそ40アミノ酸~50アミノ酸であってもよい。前記ストーク配列は、高度にグリコシル化されていてもよい。
【0116】
前記ストーク配列は、当該ストーク配列を上記式中のエピトープR2に連結する、もしくはつなげるリンカー配列を含んでいてもよい。
【0117】
哺乳動物細胞の表面で発現し、かつ、本明細書に記載のストーク配列を提供するために使用できる、またはストーク配列のベースとして使用できる、多種多様なタンパク質が知られている。このような表面発現タンパク質は、ストーク配列として使用可能またはストーク配列を得るために使用可能な天然型配列を含んでいる。例えば、このようなタンパク質の細胞外ドメイン(ECD)をストーク配列として使用してもよいし、あるいは、細胞外および膜貫通(TM)ドメインを使用してもよく、または細胞外ドメインと膜貫通ドメイン(ECDとTMD)に、前記ストークを膜内に保持し、前記ストークが細胞表面から突出することを可能にする細胞内アンカーとして機能する細胞内ドメイン(ICD)を設けたものを使用してもよい。
【0118】
このようなタンパク質としては、CD27、CD28、CD3イプシロン、CD3z、CD45、CD4、CD5、CD8、CD9、CD16、CD18、CD22、CD33、CD37、CD64、CD80、CD86、CD134、CD137、CD152、CD154、CD278、CD279、IgG1、またはIgG2が挙げられる。
【0119】
よって、ストーク配列Stは、当該ストーク配列StをR2につなぐ任意選択のリンカー配列と、細胞外ドメインと、任意選択の膜貫通ドメインと、任意選択の細胞内ドメインとを含んでもよい。
【0120】
ある実施形態では、ストーク配列は、当該ストーク配列StをR2につなぐリンカー配列と、細胞外ドメインと、膜貫通ドメインと、細胞内ドメインとを含んでもよい。
【0121】
ストーク配列、またはその細胞外ドメインは、下記配列を含んでもよく、または下記配列とほぼ同等の長さであってもよく、
PAPRPPTPAPTIASQPLSLRPEACRPAAGGAVHTRGLDFACD(配列番号59)
当該配列は、CD8由来の細胞外配列である。
【0122】
上述のように、ストーク配列はさらに、膜貫通ドメインを、任意選択的に細胞内ドメインと共に含んでもよく、前記細胞内ドメインは細胞内アンカー配列として機能し得るものである。膜貫通ドメインおよび細胞内ドメインは、細胞外ドメインと同じタンパク質由来であってもよいし、あるいは、これらの一方または両方(it/they)が異なるタンパク質由来であってもよい。膜貫通ドメインおよび細胞内ドメインは、CD8から得ることができるものであってもよい。
【0123】
ストーク配列Stは、細胞外ストーク配列と、膜貫通ドメインと、CD8由来細胞内ドメインとを含んでもよい。
【0124】
膜貫通ドメインおよび細胞内アンカーを含むCD8ストーク配列は、以下の配列を有してもよいし、
【化1】
または、その配列に対して、少なくとも75%の配列同一性を有する配列を有してもよく、特に少なくとも80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、もしくは99%の配列同一性を有する配列を有してもよい。
【0125】
この配列内で、下線部分が細胞外CD8a軸(ストーク)に相当し、中央部分が膜貫通ドメインに相当し、太字部分が細胞内ドメインに相当する。
【0126】
ストーク配列中のリンカー配列は、上述したようなリンカーであってもよい。特に、Ser(S)残基および/またはGly(G)残基を含むか、またはこれら残基からなるリンカー配列であってもよい。リンカー配列(1つまたは複数)は、実質的に直鎖状であってもよい。ストークという観点では、リンカー配列は、より短い配列であってもよい。例えば、リンカー配列(1つまたは複数)は、下記の一般式を有していてもよく、
S-(G)n-S
式中、nは2から8の間の数である。
【0127】
リンカーは、配列SGGGGS(配列番号61)を含んでいてもよいし、この配列からなってもよい。
【0128】
安全スイッチポリペプチドの代表的な例示的実施形態としては、配列番号46および/もしくは配列番号35または当該配列に対して少なくとも80%の配列同一性を有する配列のリツキシマブ結合エピトープを含み、該エピトープが、CD8由来の細胞外配列、膜貫通配列および細胞内配列を含むストーク配列にリンカーを介して連結された、ポリペプチドが挙げられる。特に、ストーク配列は、配列番号60の配列または当該配列に対して少なくとも80%の配列同一性を有する配列を有していてもよい。R1とR2との間のリンカーLは、上述のリンカーのいずれかであってもよい。例えば、リンカーLは、上記のように可動性リンカーであってもよく、または上述のようにQBEndエピトープを含むリンカーであってもよい。ある実施形態では、リンカーは、下記の配列、
【化2】
または、この配列に対して少なくとも80%の配列同一性を有する配列を有していてもよい。上記配列において、エピトープQは太字で示され、隣接している配列はスペーサーS1およびS2をそれぞれ表す。ストーク配列は、R2につながっているリンカー配列を含んでもよい。ストークにおけるリンカー配列は、SGGGS(配列番号62)であってもよい。
【0129】
したがって、安全スイッチポリペプチドは、配列番号1として示したアミノ酸配列、またはこの配列に対して少なくとも75%、特に少なくとも80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、もしくは99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含んでもよく、あるいはこのような配列からなってもよい。
【0130】
他の実施形態では、安全スイッチポリペプチドは、配列番号92もしくは配列番号93に記載のアミノ酸配列、またはこれらの配列に対して少なくとも75%、特に少なくとも80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、もしくは99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含んでもよく、あるいはこのような配列からなってもよい。
ACPYSNPSLCETSGGGGSRLCPYSNPSLCSGGGGSPAPRPPTPAPTIASQPLSLRPEACRPAAGGAVHTRGLDFACDIYIWAPLAGTCGVLLLSLVITLYCNHRNRRRVCKCPRPVV(配列番号92)
ACPYSNPSLCSGGGGSGGGGSGGGGSCPYSNPSLCSGGGGSPAPRPPTPAPTIASQPLSLRPEACRPAAGGAVHTRGLDFACDIYIWAPLAGTCGVLLLSLVITLYCNHRNRRRVCKCPRPVV(配列番号93)
配列番号92および93はそれぞれ、配列番号90または91のリンカーをそれぞれ介して配列番号46のリツキシマブ結合エピトープに連結された配列番号35のリツキシマブ結合エピトープを含んでいる。
【0131】
前記ポリペプチドはまた、アミノ末端にシグナルペプチド(リーダー配列としても知られている)を含んでもよく、またはアミノ末端のシグナルペプチドと共に発現されてもよい。多数の異なるシグナル配列が当該技術分野で公知であり、報告されており、シグナルペプチドを選択することは日常的に行われている事項であると思われる。シグナルペプチドは、例えば、配列番号65(MGTSLLCWMALCLLGADHAD)として示した配列を含んでもよいし、または当該配列からなってもよい。
【0132】
このようなシグナルペプチドと配列番号1のアミノ酸配列とを含むポリペプチドは、配列番号10で表される。このようなシグナルペプチドと配列番号92のアミノ酸配列とを含むポリペプチドは、配列番号94で表される。このようなシグナルペプチドと配列番号93のアミノ酸配列とを含むポリペプチドは、配列番号95で表される。
【0133】
前記ポリペプチドが標的細胞(当該ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含む核酸分子が導入された細胞)によって発現されると、前記ポリペプチドは細胞表面へのトランスロケーションのために細胞内で処理され、前記シグナルペプチドが切断され、成熟した安全スイッチポリペプチド産物を生じる。
【0134】
安全スイッチポリペプチドは、配列番号1、92、または93のポリペプチドの機能的活性を保持する限り、配列番号1、92、または93として示した配列に対して少なくとも75%(例えば、少なくとも80%または90%)の同一性を有する、配列番号1、92、または93として示した配列の変異体を含んでもよく、あるいはこのような変異体からなってもよい。例えば、前記変異体の配列は、(i)リツキシマブに結合し、かつ(ii)細胞の表面に発現すると、リツキシマブの存在下で当該細胞の死滅を誘発する、ものとする。さらに、配列番号1の変異体の場合は、前記変異体の配列は、抗体QBEnd10に結合するものとする。
【0135】
配列同一性の比較は、目視で行ってもよいし、または、GCG Wisconsin Bestfitパッケージ等、容易に入手可能な配列比較プログラムを利用して行ってもよい。
【0136】
ある実施形態では、安全スイッチポリペプチドは、先に挙げて説明した要素R1、L、R2、およびStのみからなる。しかしながら、他の実施形態では、当該ポリペプチドは、さらなる配列またはドメインをさらに含んでもよい。例えば、リンカーLがマーカー配列を含有しない場合、または2つ以上のマーカーが望ましい場合は、別のマーカー配列が他の場所に含まれてもよく、例えば、マーカー配列は、ストーク配列に含まれてもよいし、あるいはストークとR2との間に導入されてもよい。
【0137】
安全スイッチポリペプチドは、国際出願PCT/EP2021/064053号明細書に記載されており、その内容を参照により本明細書に組み込む。同文献に記載されている安全スイッチポリペプチドはいずれも本明細書中で使用することができる。
【0138】
前記核酸分子は、FOXP3をコードするヌクレオチド配列(前記第2のヌクレオチド配列)を細胞(例えば、Treg)に導入することによって、当該細胞においてFOXP3発現を増加させるように設計される。「FOXP3」という用語は「FOXP3ポリペプチド」という用語と同義である。よって、前記核酸分子、ならびに前記核酸分子を含む構築物およびベクターは、細胞において、例えば、TregまたはCD4+細胞において、FOXP3を増加させるための手段を提供する。さらに、前述のように、本発明の核酸分子内の安全スイッチ、FOXP3およびCARをコードする各ヌクレオチド配列の順序により、細胞内で当該核酸分子からのFOXP3の発現が増強される。したがって、本発明の核酸分子は、FOXP3の発現(ならびに安全スイッチおよびCARの発現)をもたらし、それにより細胞内でのFOXP3の発現レベルを増加させるものであるが、さらに、前記ヌクレオチド配列の順序は、同じ3つのポリペプチド産物をコードする他の核酸分子と比較して、核酸分子内で異なる順序で存在するヌクレオチド配列からのものよりもFOXP3発現の増強をもたらす。よって、本発明の核酸分子内の安全スイッチ、FOXP3およびCARをコードするヌクレオチド配列の順序は、当該核酸分子が導入された細胞内でのFOXP3の発現レベルを最適に増加させる。
【0139】
「FOXP3」は、フォークヘッドボックスP3タンパク質の略称である。FOXP3は、転写因子のFOXタンパク質ファミリーのメンバーであり、制御性T細胞の発達および機能における調節経路の主要制御因子として機能する。本明細書中で使用する「FOXP3」は、FOXP3の変異体、アイソフォーム、および機能的断片を包含する。
【0140】
「FOXP3発現を増加させる」とは、ある細胞(または細胞の集団)におけるFOXP3 mRNAおよび/またはFOXP3タンパク質のレベルを、前記核酸分子、構築物またはベクターの導入によって改変されていない対応する細胞(または細胞の集団)と比較して増加させることを意味する。例えば、本発明に係る改変を加えた細胞(またはこのような細胞の集団)におけるFOXP3 mRNAおよび/またはFOXP3タンパク質のレベルは、本発明に係る改変を加えていない対応する細胞(またはこのような細胞の集団)におけるレベルの、少なくとも1.5倍、少なくとも2倍、少なくとも5倍、少なくとも10倍、少なくとも50倍、少なくとも100倍、少なくとも150倍に高くなっていてもよい。好ましくは、前記細胞はTregである、または、前記細胞の集団はTregの集団である。好適には、改変細胞(またはこのような細胞の集団)におけるFOXP3 mRNAおよび/またはFOXP3タンパク質のレベルは、そのように改変されていない対応する細胞(またはこのような細胞の集団)におけるレベルの、少なくとも1.5倍、2倍または5倍、高くてもよい。好ましくは、前記細胞はTregである、または、前記細胞の集団はTregの集団である。
【0141】
「核酸分子からのFOXP3発現を増強する(または、代替的な見方によれば、増加させるもしくは改善する)」とは、前記核酸分子(外因性核酸分子)(または、構築物もしくはベクター)(すなわち、本発明に係る核酸分子)を含む細胞(または、細胞の集団)(例えば、TregもしくはCD45RA+ Treg)におけるFOXP3 mRNAおよび/またはFOXP3タンパク質のレベルを、(i)自殺部分を含む安全スイッチポリペプチドをコードするヌクレオチド配列、(ii)FOXP3をコードするヌクレオチド配列および(iii)キメラ抗原受容体(CAR)をコードするヌクレオチド配列を含むが、(i)、(ii)および(iii)が5’から3’へ(i)、(ii)および(iii)の順序で配置されていない核酸分子、構築物、またはベクターの導入によって改変された対応する細胞(または細胞の集団)と比較して、増加させることを意味する。
【0142】
前述のように、核酸分子からのFOXP3の発現の増強、増加、または改善は、核酸分子内の安全スイッチポリペプチド、FOXP3およびCARをコードするヌクレオチド配列の順序付けに関連するため、本発明の核酸分子を含む細胞は、ヌクレオチド配列が核酸分子内で異なる順序で設けられた核酸分子を含む同じ細胞型と比較すると、FOXP3 mRNAおよび/またはFOXP3タンパク質のレベルが増強されている。
【0143】
特に、対応する比較細胞に導入される核酸、構築物、またはベクターは、5’から3’へ以下を含んでもよい。
1)(ii)FOXP3をコードするヌクレオチド配列、(i)自殺部分を含む安全スイッチポリペプチドをコードするヌクレオチド配列、および(iii)CARをコードするヌクレオチド配列
2)(ii)FOXP3をコードするヌクレオチド配列、(iii)CARをコードするヌクレオチド配列、および(i)自殺部分を含む安全スイッチポリペプチドをコードするヌクレオチド配列
3)(i)自殺部分を含む安全スイッチポリペプチドをコードするヌクレオチド配列、(iii)CARをコードするヌクレオチド配列、および(ii)FOXP3をコードするヌクレオチド配列
4)(iii)CARをコードするヌクレオチド配列、(ii)FOXP3をコードするヌクレオチド配列、および(i)自殺部分を含む安全スイッチポリペプチドをコードするヌクレオチド配列
5)(iii)CARをコードするヌクレオチド配列、(i)自殺部分を含む安全スイッチポリペプチドをコードするヌクレオチド配列、および(ii)FOXP3をコードするヌクレオチド配列
【0144】
特に、対応する比較細胞に導入される核酸分子、構築物、またはベクターは、本発明の細胞に導入される核酸分子、構築物、またはベクターと同じ安全スイッチポリペプチド、FOXP3ポリペプチド、およびCARポリペプチドをコードするものであってもよい。
【0145】
例えば、本発明に係る改変を加えた細胞(またはこのような細胞の集団)におけるFOXP3 mRNAおよび/またはFOXP3タンパク質のレベルは、(i)自殺部分を含む安全スイッチポリペプチドをコードするヌクレオチド配列、(ii)FOXP3をコードするヌクレオチド配列および(iii)キメラ抗原受容体(CAR)をコードするヌクレオチド配列を含むが、(i)、(ii)および(iii)が5’から3’へ(i)、(ii)および(iii)の順序で配置されていない核酸分子、構築物、ベクターの導入によって改変された対応する細胞(またはこのような細胞の集団)におけるレベルの、少なくとも1.5倍、少なくとも2倍、少なくとも5倍、少なくとも10倍、少なくとも50倍、少なくとも100倍、少なくとも150倍に高くなっていてもよい。好ましくは、前記細胞はTregである、または、前記細胞の集団はTregの集団である。好適には、改変細胞(またはこのような細胞の集団)におけるFOXP3 mRNAおよび/またはFOXP3タンパク質のレベルは、(i)自殺部分を含む安全スイッチポリペプチドをコードするヌクレオチド配列、(ii)FOXP3をコードするヌクレオチド配列および(iii)キメラ抗原受容体(CAR)をコードするヌクレオチド配列を含むが、(i)、(ii)および(iii)が5’から3’へ(i)、(ii)および(iii)の順序で配置されていない核酸分子、構築物、またはベクターの導入によって改変された対応する細胞(またはこのような細胞の集団)におけるレベルの、少なくとも1.5倍、2倍、または5倍、高くてもよい。好ましくは、前記細胞はTregである、または、前記細胞の集団はTregの集団である。
【0146】
特定のmRNAおよびタンパク質のレベルを測定するための技術は、当該技術分野において周知である。Treg等の細胞の集団におけるmRNAのレベルは、Affymetrix eBioscience PrimeFlow RNAアッセイ、ノーザンブロッティング、遺伝子発現連鎖解析(SAGE)、または定量的ポリメラーゼ連鎖反応法(qPCR)等の技術によって測定してもよい。細胞の集団におけるタンパク質のレベルは、フローサイトメトリー、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、液体クロマトグラフィー/質量分析法(LC/MS)、ウェスタンブロッティング、または酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)等の技術によって測定してもよい。
【0147】
「FOXP3ポリペプチド」は、FOXP3活性を有するポリペプチド、すなわち、FOXP3標的DNAに結合し、かつTregの発達と機能を調節する転写因子として機能することができるポリペプチドである。特に、FOXP3ポリペプチドは、野生型FOXP3(配列番号2)と同じまたは類似の活性を有していてもよく、例えば、野生型FOXP3ポリペプチドの活性の少なくとも40%、50%、60%、70%、80%、90%、95%、100%、110%、120%、130%、140%、または150%を有していてもよい。よって、本明細書に記載の核酸、構築物またはベクター中の第2のヌクレオチド配列によってコードされるFOXP3ポリペプチドは、野生型FOXP3と比較して活性が増加していてもよく、減少していてもよい。転写因子活性を測定するための技術は、当該技術分野において周知である。例えば、転写因子DNA結合活性を、ChIPによって測定してもよい。転写因子の転写調節活性を、それが調節する遺伝子の発現レベルを定量化することによって測定してもよい。遺伝子発現は、ノーザンブロッティング、SAGE、qPCR、HPLC、LC/MS、ウェスタンブロッティング、またはELISA等の技術を使用して、遺伝子から産生されるmRNAおよび/またはタンパク質のレベルを測定することによって定量化してもよい。FOXP3によって調節される遺伝子としては、IL-2、IL-4、およびIFN-γ等のサイトカインが挙げられる(Siegler et al. Annu. Rev. Immunol. 2006, 24: 209-26、参照により本明細書に組み込む)。以下で詳細に述べるように、FOXP3またはFOXP3ポリペプチドは、その機能的断片、変異体およびアイソフォームを含み、例えば配列番号2の、機能的断片、変異体およびアイソフォームを含む。
【0148】
「FOXP3の機能的断片」とは、FOXP3ポリペプチドの一部もしくは領域、またはFOXP3ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド(すなわち、ヌクレオチド配列)の一部もしくは領域であって、全長FOXP3ポリペプチドまたはポリヌクレオチドと同じまたは類似の活性を有するものを指し得る。前記機能的断片は、全長FOXP3ポリペプチドまたはポリヌクレオチドの活性の、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、または100%を有していてもよい。当業者であれば、FOXP3の既知の構造的および機能的特徴に基づいて機能的断片を生成することができるであろう。これらは、例えば、Song, X., et al., 2012. Cell reports, 1(6), pp.665-675;Lopes, J.E., et al., 2006. The Journal of Immunology, 177(5), pp.3133-3142;およびLozano, T., et al, 2013. Frontiers in oncology, 3, p.294に記載されている。さらに、N末端およびC末端が短縮されたFOXP3断片が、国際公開第2019/241549号パンフレット(参照により本明細書に組み込む)に記載されており、例えば後述する配列番号6の配列を有する。
【0149】
「FOXP3変異体」は、FOXP3ポリペプチドまたはFOXP3ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、例えば配列番号2、に対し、少なくとも50%、少なくとも55%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、または少なくとも90%の同一性、好ましくは、少なくとも95%または少なくとも97%または少なくとも99%の同一性を有するアミノ酸配列またはヌクレオチド配列を含んでもよい。FOXP3変異体は、野生型FOXP3ポリペプチドまたはポリヌクレオチドと同じまたは類似の活性を有していてもよく、例えば、野生型FOXP3ポリペプチドまたはポリヌクレオチドの活性の少なくとも40%、50%、60%、70%、80%、90%、95%、100%、110%、120%、130%、140%または150%を有していてもよい。当業者であれば、FOXP3の既知の構造的および機能的特徴に基づいて、かつ/または保存的置換を使用して、FOXP3変異体を生成することができるであろう。FOXP3変異体は、野生型FOXP3と比較して、Treg細胞内の代謝回転時間(もしくは分解速度)が類似または同じであってもよく、例えば、Tregにおける野生型FOXP3の代謝回転時間(もしくは分解速度)の少なくとも40%、50%、60%、70%、80%、90%、95%、99%または100%であってもよい。いくつかのFOXP3変異体は、野生型FOXP3と比較して、代謝回転時間(もしくは分解速度)が減少していてもよく、例えば、配列番号2のアミノ酸418位および/または422位にアミノ酸置換を有するFOXP3変異体、例えば、国際公開第2019/241549号パンフレット(参照により本明細書に組み込む)に記載のS418Eおよび/またはS422Aが挙げられ、配列番号3~5に記載する。これらの配列番号3~5は、aa418変異体、aa422変異体、ならびにaa418およびaa422変異体をそれぞれ表す。
【0150】
好適には、本明細書に記載の核酸分子、構築物またはベクターよってコードされるFOXP3ポリペプチドは、UniProtKBアクセッションQ9BZS1(配列番号2)等のヒトFOXP3のポリペプチド配列、またはその機能的断片もしくは変異体を含んでもよく、あるいは、このようなポリペプチド配列またはその機能的断片もしくは変異体からなってもよい。
【0151】
本発明のいくつかの実施形態では、前記FOXP3ポリペプチドは、配列番号2に対して少なくとも70%の同一性を有するアミノ酸配列またはその機能的断片を含むか、あるいは、このようなアミノ酸配列またはその機能的断片からなる。好適には、前記FOXP3ポリペプチドは、配列番号2に対して少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%または少なくとも99%の同一性を有するアミノ酸配列またはその機能的断片を含むか、あるいは、このようなアミノ酸配列またはその機能的断片からなる。いくつかの実施形態では、前記FOXP3ポリペプチドは、配列番号2またはその機能的断片を含むか、あるいは、配列番号2またはその機能的断片からなる。
【0152】
いくつかの実施形態では、上述のとおり、前記FOXP3ポリペプチドは、配列番号3、配列番号4、または配列番号5に記載のように、配列番号2の残基418および/または残基422にミューテーションを含んでもよい。
【0153】
本発明のいくつかの実施形態では、前記FOXP3ポリペプチドがN末端および/またはC末端で短縮され、それにより機能的断片が得られてもよい。特に、N末端およびC末端が短縮されたFOXP3の機能的断片は、配列番号6のアミノ酸配列または当該アミノ酸配列に対して少なくとも80%、85%、90%、95%もしくは99%の同一性を有するその機能的変異体を含んでもよく、あるいは、このようなアミノ酸またはその機能的変異体からなってもよい。
【0154】
好適には、前記FOXP3ポリペプチドは、配列番号2の変異体、例えば自然変異体であってもよい。好適には、前記FOXP3ポリペプチドは、配列番号2のアイソフォームである。例えば、前記FOXP3ポリペプチドは、配列番号2に対して、アミノ酸72位~106位の欠失を含んでいてもよい。あるいは、前記FOXP3ポリペプチドは、配列番号2に対して、アミノ酸246位~272位の欠失を含んでいてもよい。
【0155】
好適には、前記FOXP3ポリペプチドは、配列番号7またはその機能的断片を含む。配列番号7は、例示的なFOXP3ポリペプチドを表す。
【0156】
好適には、前記FOXP3ポリペプチドは、配列番号7に対して少なくとも70%の同一性を有するアミノ酸配列またはその機能的断片を含むか、あるいは、このようなアミノ酸配列またはその機能的断片からなる。好適には、前記FOXP3ポリペプチドは、配列番号7に対して少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、または少なくとも99%の同一性を有するアミノ酸配列またはその機能的断片を含むか、あるいは、このようなアミノ酸配列またはその機能的断片からなる。いくつかの実施形態では、前記FOXP3ポリペプチドは、配列番号7またはその機能的断片を含むか、あるいは、配列番号7またはその機能的断片からなる。
【0157】
好適には、前記FOXP3ポリペプチドは、配列番号7の変異体、例えば自然変異体であってもよい。好適には、前記FOXP3ポリペプチドは、配列番号7のアイソフォームまたはその機能的断片である。例えば、前記FOXP3ポリペプチドは、配列番号7に対して、アミノ酸72位~106位の欠失を含んでいてもよい。あるいは、前記FOXP3ポリペプチドは、配列番号7に対して、アミノ酸246位~272位の欠失を含んでいてもよい。
【0158】
好適には、FOXP3ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドは、配列番号8に記載のヌクレオチド配列を含むか、または、配列番号8に記載のヌクレオチド配列からなる。配列番号8は、例示的なFOXP3ヌクレオチド配列を表す。
【0159】
本発明のいくつかの実施形態では、前記FOXP3ポリペプチドまたは変異体をコードするポリヌクレオチドは、配列番号8に対して少なくとも70%の同一性を有するヌクレオチド配列、または機能的FOXP3ポリペプチドをコードするその断片を含む。好適には、前記FOXP3ポリペプチドまたは変異体をコードするポリヌクレオチドは、配列番号8に対して少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、もしくは少なくとも99%の同一性を有するポリヌクレオチド配列、または機能的FOXP3ポリペプチドをコードするその断片を含む。本発明のいくつかの実施形態では、前記FOXP3ポリペプチドまたは変異体をコードするポリヌクレオチドは、配列番号8または機能的FOXP3ポリペプチドをコードするその断片を含むか、あるいは、配列番号8または機能的FOXP3ポリペプチドをコードするその断片からなる。
好適には、前記FOXP3ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドは、配列番号9に記載のポリヌクレオチド配列を含むか、または、配列番号9に記載のポリヌクレオチド配列からなる。配列番号9は、別の例示的なFOXP3ヌクレオチドを表す。
【0160】
本発明のいくつかの実施形態では、前記FOXP3ポリペプチドまたは変異体をコードするポリヌクレオチドは、配列番号9に対して少なくとも70%の同一性を有するヌクレオチド配列、または機能的FOXP3ポリペプチドをコードするその断片を含む。好適には、前記FOXP3ポリペプチドまたは変異体をコードするポリヌクレオチドは、配列番号9に対して少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、もしくは少なくとも99%の同一性を有するポリヌクレオチド配列、または機能的FOXP3ポリペプチドをコードするその断片を含む。本発明のいくつかの実施形態では、前記FOXP3ポリペプチドまたは変異体をコードするポリヌクレオチドは、配列番号9または機能的FOXP3ポリペプチドをコードするその断片を含むか、あるいは、配列番号9または機能的FOXP3ポリペプチドをコードするその断片からなる。
【0161】
好適には、前記FOXP3ポリペプチドまたはその機能的断片もしくは変異体をコードするポリヌクレオチドは、コドン最適化されていてもよい。好適には、前記FOXP3ポリペプチドまたはその機能的断片もしくは変異体をコードするポリヌクレオチドは、ヒトの細胞での発現のためにコドン最適化されていてもよい。
【0162】
前記第3のヌクレオチド配列によってコードされる、第3の構成要素は、CARである。本明細書中で使用する「キメラ抗原受容体」または「CAR」という用語は、抗原特異性を細胞(例えばTreg)に付与できる、操作された受容体を指す。CARは、人工T細胞受容体、キメラT細胞受容体、またはキメラ免疫受容体としても知られている。CARは、典型的には、本明細書において抗原結合ドメインと称する抗原特異的ターゲティング領域を含む細胞外ドメインと、膜貫通ドメインと、1つ以上の共刺激ドメインを任意選択的に含むエンドドメインと、細胞内シグナル伝達ドメインとを含む。抗原結合ドメインは、典型的には、ヒンジドメインによって膜貫通ドメインに結合される。CARおよびCARが含み得る種々のドメインの設計は、当該技術分野において周知である。
【0163】
CARがその標的抗原に結合すると、CARが発現している細胞に活性化シグナルが伝達される。これにより、CARは、操作された細胞の特異性を、標的抗原に向けさせ、特に、標的抗原を発現している細胞に向けさせる。
【0164】
CARの抗原結合ドメインは、所望の標的抗原、より一般的には所望の標的分子に結合する(すなわち、親和性を有する)任意のタンパク質もしくはポリペプチドに由来してもよく、またはこのようなタンパク質もしくはポリペプチドから得られてもよい。これは、例えば、リガンドもしくは受容体、または、標的分子に対する生理学的結合タンパク質、もしくはその一部、または、合成タンパク質もしくは誘導タンパク質(derivative protein)であってもよい。標的分子は、一般には、細胞、例えば、標的細胞または標的細胞近傍の細胞(バイスタンダー効果のため)の表面に発現していればよく、必ずしもそうである必要はない。抗原結合ドメインの性質および特異性に応じて、CARは、可溶性分子を認識してもよく、例えば、抗原結合ドメインが細胞受容体に基づくかまたは由来する場合に、可溶性分子を認識してもよい。
【0165】
抗原結合ドメインは、最も一般的には抗体可変鎖に由来する(例えば、一般にscFvの形態をとる)が、T細胞受容体可変ドメイン、または、上記のように、リガンドもしくは他の結合分子のための受容体等の、他の分子から生成されてもよい。
【0166】
CARは、典型的には、シグナル配列(リーダー配列としても知られる)を含む、ポリペプチドとして発現し、特に、CARを細胞の原形質膜に向かわせるシグナル配列を含むポリペプチドとして発現する。これは、一般に、概して抗原結合ドメインの上流で、抗原結合ドメインの隣または近くに配置される。よって、CARの細胞外ドメイン、つまりエクトドメインは、シグナル配列と抗原結合ドメインとを含んでいてもよい。
【0167】
抗原結合ドメインは、CARに、目的の所定の抗原に結合する能力を与える。抗原結合ドメインは、臨床的に目的とする抗原、または疾患部位の抗原を標的とすることが好ましい。
【0168】
上記のように、抗原結合ドメインは、生体分子(例えば、細胞表面受容体またはその構成要素)を特異的に認識して結合する能力を有する任意のタンパク質またはペプチドであってもよい。抗原結合ドメインは、目的の生体分子に対する任意の自然発生の(naturally occurring)結合パートナー、合成結合パートナー、半合成結合パートナー、または組換え産生結合パートナーを含む。例示的な抗原特異的ターゲティングドメインとしては、抗体または抗体断片もしくは誘導体、受容体の細胞外ドメイン、細胞表面分子/細胞表面受容体に対するリガンド、またはその受容体結合ドメイン、および、腫瘍結合タンパク質が挙げられる。後述するように、抗原特異的ターゲティングドメインは、好ましくは抗体または抗体由来であってもよく、他の抗原特異的ターゲティングドメインも包含され、例えば、抗原特異的ペプチドとMHCまたはHLAとの組み合わせであって、移植部位、炎症部位または疾患部位において活性なTcon細胞のTCRに結合することができる組み合わせから形成される抗原特異的ターゲティングドメインが包含される。
【0169】
ある実施形態では、抗原結合ドメインは、抗体であるか、または抗体由来である。抗体由来の結合ドメインとは、抗体の断片、または抗体の1つ以上の断片の遺伝子操作産物であり得、断片は抗原との結合に関与する。例として、可変領域(Fv)、相補性決定領域(CDR)、FabもしくはF(ab’)2、または、単鎖において(例えば、ScFvとして)どちらかの向きで(例えば、VL-VHまたはVH-VL)結合することができる軽鎖可変領域および重鎖可変領域が挙げられる。VLおよび/またはVH配列は改変されていてもよい。特に、フレームワーク領域が改変されていてもよい(例えば、置換されていてもよく、例えば抗原結合ドメインをヒト化するために置換されていてもよい)。他の例としては、重鎖可変領域(VH)、軽鎖可変領域(VL)、ラクダ抗体(VHH)、および単一ドメイン抗体(sAb)が挙げられる。
【0170】
好ましい実施形態において、前記結合ドメインは単鎖抗体(scFv)である。scFvは、マウスscFvであってもよく、ヒトscFvであってもよく、ヒト化scFvであってもよい。
【0171】
抗体またはその抗原結合断片に関して「相補性決定領域」または「CDR」とは、抗体の重鎖または軽鎖の可変領域の中の超可変ループ(highly variable loop)をいう。CDRは、抗原の高次構造(conformation)と相互作用でき、抗原への結合を大きく決定する(ただし、いくつかのフレームワーク領域が結合に関与することが知られている)。重鎖可変領域および軽鎖可変領域はそれぞれ3つのCDRを含有する。「重鎖可変領域」または「VH」とは、フレームワーク領域として知られるフランキングストレッチ(flanking stretches)間に挿入された3つのCDRを含有する抗体の重鎖の断片をいう。フレームワーク領域は、CDRよりもよく保存され、CDRを支持する足場を形成する。「軽鎖可変領域」または「VL」とは、フレームワーク領域間に挿入された3つのCDRを含有する抗体の軽鎖の断片をいう。
「Fv」とは、完全な抗原結合部位をもつ、抗体の最も小さい断片をいう。Fv断片は、単一の重鎖の可変領域に結合した単一の軽鎖の可変領域からなる。「単鎖Fv抗体」または「scFv」とは、直接またはペプチドリンカー配列を介してどちらかの向きで互いにつながった軽鎖可変領域および重鎖可変領域からなる、操作された抗体をいう。
【0172】
所定の抗原に特異的に結合する抗体は、当該技術分野で周知の方法を用いて調製できる。このような方法には、ファージディスプレイ、ヒト抗体もしくはヒト化抗体を生成する方法、またはヒト抗体を産生するように操作されたトランスジェニック動物もしくは植物を使用する方法が含まれる。部分的合成抗体または完全合成抗体のファージディスプレイライブラリーが利用可能であり、標的分子に結合できる抗体またはその断片を求めてスクリーニングすることができる。ヒト抗体のファージディスプレイライブラリーも利用可能である。同定後、前記抗体をコードするアミノ酸配列またはポリヌクレオチド配列を単離および/または決定することができる。
【0173】
CARは、任意の所望の標的抗原または標的分子に向けられてもよい。この抗原または分子は、意図する療法や、治療が望まれる状態に応じて、選択してもよい。例えば、特定の状態に関連付けられる抗原または分子であってもよく、当該状態を治療するために標的としたい細胞に関連付けられる抗原または分子であってもよい。典型的には、前記抗原または分子は、細胞表面抗原または細胞表面分子である。
【0174】
「に対して向けられた(directed against)」という用語は、「に特異的な(specific for)」または「抗(anti)」と同義である。別の言い方をすれば、CARは標的分子を認識する。したがって、指定された抗原または所与の抗原、つまり標的に対してCARが特異的に結合可能であることを意味する。特に、CARの抗原結合ドメインは、標的分子または標的抗原に対して特異的に結合可能である(より詳細には、CARが細胞の表面、特に免疫エフェクター細胞の表面に発現した場合)。特異的結合は、非標的分子または非標的抗原に対する非特異的結合と区別することができる。よって、CARを発現している細胞は、標的分子または標的抗原を発現している標的細胞、特に、標的抗原または標的分子を細胞表面に発現している標的細胞に対して特異的に結合するように向けられる、またはリダイレクトされる。
【0175】
本CARの標的とされ得る抗原としては、移植された臓器、自己免疫疾患、アレルギー疾患および炎症性疾患(例えば、神経変性疾患)に関連付けられる細胞上に発現した抗原が挙げられるが、これらに限定されない。核酸分子を発現するように操作された細胞がTreg細胞またはその前駆体である場合、Treg細胞のバイスタンダー効果により、前記抗原が、移植部位、炎症部位または疾患部位に単に存在および/または発現しているものであってもよいことは当業者に理解されるであろう。
【0176】
神経変性疾患に関連付けられる細胞上に発現する抗原としては、グリア細胞上に提示されるもの、例えば、MOGが挙げられる。
【0177】
臓器移植に関連付けられる抗原および/または移植された臓器に関連付けられる細胞としては、移植された臓器には存在するが患者には存在しないHLA抗原、または、移植拒絶反応時に発現が上昇する抗原、たとえばCCL19、MMP9、SLC1A3、MMP7、HMMR、TOP2A、GPNMB、PLA2G7、CXCL9、FABP5、GBP2、CD74、CXCL10、UBD、CD27、CD48、CXCL11等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0178】
ある実施形態では、CARは、HLA抗原、特にHLA-A2抗原に対して向けられたものである。
【0179】
ある実施形態では、CARは、MHC IIに対して向けられたものではない。
【0180】
このような抗原に対する抗体は当該技術分野において公知であり、好都合なことに、公知のまたは入手可能な抗体に基づいてscFvを取得または生成することができる。この点に関して、VH配列およびVL配列、ならびにCDR配列は、このような抗体結合ドメインの調製を支援するために公開されており、例えば国際公開第2020/044055号パンフレットにおいて、公開されている。この文献の開示を参照により本明細書に組み込む。国際公開第2020/044055号パンフレットに開示されている抗原結合ドメイン、またはCDR配列、VH配列、および/もしくはVL配列のいずれをも使用することができる。
【0181】
例として、CARは、HLA-A2(本明細書中、HLA-A2をHLA-A*02、HLA-A02、およびHLA-A*2ともいう)に結合可能な抗原結合ドメインを含んでいてもよい。HLA-A*02は、HLA-A座にある、1つの特定のクラスI主要組織適合遺伝子複合体(MHC)対立遺伝子群である。
【0182】
抗原認識ドメインは、HLA-A2内の1つ以上の領域またはエピトープに結合してもよく、好適には特異的に結合してもよい。抗原決定基としても知られるエピトープは、抗原認識ドメイン(例えば、抗体)によって認識される抗原の一部である。言い換えれば、エピトープは、抗体が結合する抗原の特定の部分である。好適には、抗原認識ドメインは、HLA-A2内の1つの領域またはエピトープに結合し、好適には特異的に結合する。
【0183】
抗原認識ドメインは、抗原、例えばHLA-A2に結合する抗体から予測できる少なくとも1個のCDR(例えば、CDR3)(または、このような予測されたCDRの変異体(例えば、1個、2個、もしくは3個のアミノ酸置換を有する変異体))を含んでもよい。3個以下のCDR領域(例えば、単一のCDRまたはさらにはその一部)を含有する分子は、CDRの由来元である抗体の抗原結合活性を保持することが可能であり得ることを理解されたい。2個のCDR領域を含有する分子は、当該技術分野において、標的抗原、例えば、ミニボディ(minibody)の形態の標的抗原に結合可能であると記載されている(Vaughan and Sollazzo, 2001, Combinational Chemistry & High Throughput Screening, 4, 417-430)。標的に対する強力な結合活性を示すことができる、単一のCDRを含有する分子が記載されている(Nicaise et al, 2004, Protein Science, 13: 1882-91)。
【0184】
この点において、抗原結合ドメインは、1つ以上の可変重鎖CDR、例えば、1個、2個、または3個の可変重鎖CDRを含んでもよい。あるいは、またはさらに、抗原結合ドメインは、1つ以上の可変軽鎖CDR、例えば、1個、2個、または3個の可変軽鎖CDRを含んでもよい。抗原結合ドメインは、3個の重鎖CDRおよび/または3個の軽鎖CDR(より詳細には、3個のCDRを含む重鎖可変領域および/または3個のCDRを含む軽鎖可変領域)を含んでもよく、ここで、少なくとも1個のCDR、好ましくは全てのCDRが、抗原、例えばHLA-A2に結合する抗体に由来するものであってもよく、国際公開第2020/044055号パンフレットに開示されているCDR配列のうちの1つから選択されたものであってもよい。
【0185】
抗原結合ドメインは、可変重鎖CDRと可変軽鎖CDRとの任意の組み合わせを含んでもよく、例えば、1個の可変重鎖CDRと1個の可変軽鎖CDRとの組み合わせ、2個の可変重鎖CDRと1個の可変軽鎖CDRとの組み合わせ、2個の可変重鎖CDRと2個の可変軽鎖CDRとの組み合わせ、3個の可変重鎖CDRと1個または2個の可変軽鎖CDRとの組み合わせ、1個の可変重鎖CDRと2個または3個の可変軽鎖CDRとの組み合わせ、3個の可変重鎖CDRと3個の可変軽鎖CDRとの組み合わせを含んでもよい。好ましくは、前記抗原結合ドメインは、3個の可変重鎖CDR(CDR1、CDR2、およびCDR3)ならびに/または3個の可変軽鎖CDR(CDR1、CDR2、およびCDR3)の組み合わせを含んでもよい。
【0186】
抗原結合ドメイン内に存在する1個以上のCDRは、前記ドメインが所望の結合活性を有している限り、全てが同じ抗体由来である必要はない。よって、1個のCDRが、抗原、例えばHLA-A2に結合する抗体の重鎖または軽鎖から予測され、その他のCDRが、同じ抗原(例えば、HLA-A2)に結合する異なる抗体から予測されてもよい。この場合、CDR3は、抗原、例えばHLA-A2に結合する抗体から予測されることが好ましいであろう。しかしながら、特に、2個以上のCDRが抗原結合ドメインに存在する場合、それらのCDRは、同じ抗原、例えばHLA-A2に結合する抗体から予測されることが好ましい。CDRの組み合わせとしては、異なる抗体に由来するCDRの組み合わせが使用されてもよく、特に、同じ所望の領域またはエピトープに結合する抗体に由来するCDRの組み合わせが使用されてもよい。
【0187】
特に好ましい実施形態において、抗原結合ドメインは、抗原、例えばHLA-A2に結合する抗体の可変重鎖配列から予測される3個のCDR、および/または、抗原、例えばHLA-A2に結合する抗体(好ましくは同じ抗体)の可変軽鎖配列から予測される3個のCDRを含む。
ある実施形態では、抗原結合ドメインは、配列番号11、12、および13にそれぞれ記載のVH CDR1配列、VH CDR2配列、およびVH CDR3配列と、配列番号14、15、および16にそれぞれ記載のVL CDR1配列、VL CDR2配列、およびVL CDR3配列とを含み、あるいは、前記CDRは、配列番号11、12、13、14、15、または16のいずれか1つ以上に記載のCDR配列に対して1個~3個、特に、1個または2個のアミノ酸配列改変を含んでもよい。
【0188】
より詳細には、そのような実施形態において、CARの抗原結合ドメインは、配列番号17に記載の配列または当該配列に対して少なくとも70%の配列同一性を有する配列を含むVHドメインと、配列番号18に記載の配列または当該配列に対して少なくとも70%の配列同一性を有する配列を含むVLドメインとを含む。
別の実施形態では、抗原結合ドメインは、配列番号20、21、および22にそれぞれ記載のVH CDR1配列、VH CDR2配列、およびVH CDR3配列と、配列番号23、24、および25にそれぞれ記載のVL CDR1配列、VL CDR2配列、およびVL CDR3配列とを含み、あるいは、前記CDRは、配列番号20、21、22、23、24、または25のいずれか1つ以上に記載のCDR配列に対して1個~3個、特に、1個または2個のアミノ酸配列改変を含んでもよい。
【0189】
CDRがアミノ酸配列改変を含む場合、これは、上述の配列番号に記載のCDR配列のアミノ酸残基の欠失、付加、または置換であってもよい。より詳細には、前記改変は、アミノ酸置換、例えば、上記に記載したもの等の保存的アミノ酸置換であってもよい。CDRが長いほど、許容されるアミノ酸残基の改変が多くなる。5アミノ酸残基長または7アミノ酸残基長のCDRの場合、1残基または2残基、例えば1残基が改変対象となり得る。一般に、任意の特定のCDR配列に対して0個、1個、2個、または3個の改変が加えられ得る。さらに、ある実施形態では、CDR1とCDR2とが改変されて、CDR3が改変されなくてもよい。別の実施形態では、3個のCDRの全てが改変されてもよい。別の実施形態では、3個のCDRの全てが改変されない。
【0190】
より詳細には、そのような実施形態において、CARの抗原結合ドメインは、配列番号26に記載の配列または当該配列に対して少なくとも70%の配列同一性を有する配列を含むVHドメインと、配列番号27に記載の配列または当該配列に対して少なくとも70%の配列同一性を有する配列を含むVLドメインとを含む。
【0191】
前記抗原結合ドメインは、上記のVHドメイン配列とVLドメイン配列とをどちらかの順序、例えばVH-VLの順序で含むscFVの形態であってもよい。VH配列とVL配列とはリンカー配列によって連結されてもよい。
【0192】
好適なリンカーは、容易に選択することができ、1アミノ酸(例えば、Gly)から30アミノ酸までなどの任意の好適な長さとすることができる。例えば、2アミノ酸、3アミノ酸、4アミノ酸、5アミノ酸、6アミノ酸、7アミノ酸、8アミノ酸、9アミノ酸、または10アミノ酸のいずれか1つから、12アミノ酸、15アミノ酸、18アミノ酸、20アミノ酸、21アミノ酸、25アミノ酸、または30アミノ酸のいずれか1つまでの長さであってもよく、例えば、5~30、5~25、6~25、10~15、12~25、15~25などであってもよい。
リンカーは、例えば、安全スイッチポリペプチドに関連して上記に述べたようなリンカーであってもよい。例示的な可動性リンカーとしては、上述のように、グリシンポリマー(G)、グリシン-セリンポリマー(nは1以上の整数である)、グリシン-アラニンポリマー、アラニン-セリンポリマー、および当該技術分野において公知の他の可動性リンカーが挙げられる。リンカーは、上述のように1個以上の「GS」ドメインを含んでいてもよい。
【0193】
したがって、一実施形態では、抗原結合ドメインは、配列(X)n(Xは任意のアミノ酸であり、nは15から25の間の整数である)のリンカーを介して互いに連結された配列番号17のVH配列と配列番号18のVL配列とを含む配列番号19に記載の配列を含んでもよく、または配列番号19に記載の配列からなっていてもよい。特定の実施形態において、抗原結合ドメインは、配列番号19の配列に対応する配列番号88に記載の配列を含むか、または、このような配列からなり、前記配列のリンカーは配列番号89(LVTVSSGGGGSGGGGSGGGGST)の配列を有する。抗原結合ドメインは、配列番号19または88に対して少なくとも70%の配列同一性を有する配列番号19または88の変異体である配列を含んでもよく、または、このような配列からなってもよい。
【0194】
別の実施形態において、抗原結合ドメインは、配列番号28に記載の配列または当該配列に対して少なくとも70%の配列同一性を有するその変異体を含んでもよい。
【0195】
変異体VH配列、変異体VL配列、および変異体抗原結合ドメイン配列をはじめとする本明細書中に開示および記載する変異体配列は、指定された配列番号に対して、少なくとも75%、80%、85%、90%、92%、95%、96%、97%、98%、または99%の配列同一性を有し得る。
【0196】
また、好ましくは、CARは、細胞外ドメイン、特に抗原結合ドメインを細胞表面から遠ざけて保持するためのヒンジドメインも含み、かつ、膜貫通ドメインを含む。ヒンジドメインおよび膜貫通ドメインは、I型、II型、またはIII型の膜貫通タンパク質のうちのいずれかをはじめとする、ヒンジドメインおよび/または膜貫通ドメインを有する任意のタンパク質に由来するヒンジ配列および膜貫通配列を含み得る。典型的には、ヒンジは、CD8由来、特にCD8アルファ由来であってもよい。
【0197】
CARの膜貫通ドメインは、人工疎水性配列も含み得る。CARの膜貫通ドメインは、二量体化しないように選択してもよい。さらなる膜貫通ドメインは当業者に明らかであろう。CAR構築物において使用される膜貫通(TM)領域の例としては、以下が挙げられる:1)CD28 TM領域(Pule et al, Mol Ther, 2005, Nov;12(5):933-41; Brentjens et al, CCR, 2007, Sep 15;13(18 Pt 1):5426-35; Casucci et al, Blood, 2013, Nov 14;122(20):3461-72.)、2)OX40 TM領域(Pule et al, Mol Ther, 2005, Nov;12(5):933-41)、3)41BB TM領域(Brentjens et al, CCR, 2007, Sep 15;13(18 Pt 1):5426-35)、4)CD3ゼータTM領域(Pule et al, Mol Ther, 2005, Nov;12(5):933-41; Savoldo B, Blood, 2009, Jun 18;113(25):6392-402.)、5)CD8a TM領域(Maher et al, Nat Biotechnol, 2002, Jan;20(1):70-5.; Imai C, Leukemia, 2004, Apr;18(4):676-84; Brentjens et al, CCR, 2007, Sep 15;13(18 Pt 1):5426-35; Milone et al, Mol Ther, 2009, Aug;17(8):1453-64.)。使用し得るその他の膜貫通ドメインとしては、CD4、CD45、CD9、CD16、CD22、CD33、CD64、CD80、CD86、またはCD154に由来するものが挙げられる。
【0198】
ヒンジドメインは、膜貫通ドメインと同じタンパク質から便利に得ることができるが、これは必須ではない。
【0199】
例として、膜貫通ドメインは、CD28膜貫通ドメイン由来であって、配列番号73として示すアミノ酸配列、または配列番号73に対して少なくとも80%の同一性を有する変異体を含んでいてもよい。前記変異体は、配列番号73に対して少なくとも80%、85%、90%、95%、97%、98%、または99%の同一性を有していてもよい。
【0200】
あるいは、CARは、CD8α膜貫通ドメインに由来するドメインを含んでいてもよい。よって、膜貫通ドメインは、ヒトCD8αのアミノ酸183位~203位を表す配列番号67として示すアミノ酸配列、または配列番号67に対して少なくとも80%の同一性を有する変異体を含んでいてもよい。好適には、前記変異体は、配列番号67に対して少なくとも85%、90%、95%、97%、98%、または99%の同一性を有していてもよい。
【0201】
CD8α膜貫通ドメインをCD8αヒンジドメインと組み合わせてもよい。ある実施形態では、CARは、配列番号68に示すように、組み合わせたCD8αヒンジ・膜貫通ドメイン配列、または、当該配列に対して少なくとも80%の配列同一性を有するその変異体を含む。前記変異体は、配列番号68に対して少なくとも85%、90%、95%、97%、98%、または99%の同一性を有していてもよい。配列番号68は、野生型CD8αヒンジ配列に対してシステイン残基のアミノ酸置換を2個含む、改変されたヒンジドメインを含んでいる。改変されたCD8αヒンジドメイン配列を配列番号69に示す。野生型CD8αヒンジドメイン配列を配列番号70に示す。配列番号69または70に対して少なくとも80%の配列同一性を有するこのようなヒンジ配列の変異体を使用してもよい。
【0202】
使用し得るCD28ヒンジ・膜貫通配列の一例は、配列番号74、または配列番号74に対して少なくとも80%の同一性を有するその変異体である。前記変異体は、配列番号74に対して少なくとも85%、90%、95%、97%、98%、または99%の同一性を有していてもよい。
さらなる例として、CARは、例えば上記の配列に基づいて、ネイティブCD8αヒンジドメインまたは改変されたCD8αヒンジドメインと、CD28膜貫通ドメインとを含んでもよいし、またはCD28ヒンジドメインとCD8α膜貫通ドメインとを含んでもよい。
【0203】
使用し得る他のヒンジドメインとしては、CD4、CD7、または免疫グロブリン、またはその一部もしくは変異体に由来するヒンジドメインが挙げられる。
【0204】
CARは、CARを細胞表面での発現のための小胞体経路へ向かわせるシグナル(またはリーダーとも呼称される)配列をさらに含んでいてもよい。例示的なシグナル/リーダー配列は、配列番号66に示すMALPVTALLLPLALLLHAAAPである。この配列は、配列番号75に示す野生型CD8α配列MALPVTALLLPLALLLHAARPと比較して、単一のアミノ酸置換を含んでいる。どちらかの配列、または当該配列に対して少なくとも70%の配列同一性を有する変異体配列を使用することができる。
【0205】
本明細書に記載のCARのエンドドメインは、抗原結合時に、エフェクター機能シグナルを伝達し、CARを発現している細胞にその特殊な機能を実行するように指示するのに必要なモチーフを含んでいる。特に、エンドドメインは、免疫受容体チロシン活性化モチーフ(ITAM)を1つまたは複数(例えば、2つもしくは3つ)含み得、ITAMは、典型的にはアミノ酸配列YXXL/I(Xは任意のアミノ酸である。)を含む。細胞内シグナル伝達ドメインとしては、例えば、T細胞受容体のζ鎖エンドドメイン、またはその相同体(例えば、η鎖、FcεR1γおよびβ鎖、MB1(Igα)鎖、B29(Igβ)鎖等)のいずれか、CD3ポリペプチドドメイン(Δ、δ、およびε)、sykファミリーチロシンキナーゼ(Syk、ZAP70等)、srcファミリーチロシンキナーゼ(Lck、Fyn、Lyn等)、ならびに、CD2、CD5、およびCD28等のT細胞形質導入に関与する他の分子が挙げられるが、これらに限定されない。細胞内シグナル伝達ドメインは、ヒトCD3ゼータ鎖エンドドメイン、FcyRIII、FcsRI、Fc受容体の細胞質尾部、細胞質受容体をもつ免疫受容体チロシン活性化モチーフ(ITAM)、またはこれらの組み合わせを含んでもよい。
【0206】
一般的に、細胞内シグナル伝達ドメインは、ヒトCD3ゼータ鎖の細胞内シグナル伝達ドメインを含んでいる。ヒトCD3ゼータ鎖の細胞内シグナル伝達ドメインの配列は配列番号76に記載されている。野生型に対してアミノ酸欠失を含む、改変されたヒトCD3ζ細胞内ドメイン配列を配列番号72に示す。CARは、配列番号72もしくは76に記載の配列、または配列番号72もしくは76に対して少なくとも80%、85%、90%、95%、97%、98%、または99%の同一性を有する配列を含むCD3ζシグナル伝達ドメイン、またはこのような配列からなるCD3ζシグナル伝達ドメインを含んでもよい。ある実施形態では、前記シグナル伝達ドメインは、配列番号72を含むか、または配列番号72からなる。
【0207】
使用し得る他のシグナル伝達ドメインとしては、CD28もしくはCD27またはその変異体のシグナル伝達ドメインが挙げられる。さらなる細胞内シグナル伝達ドメインは、当業者には明らかであり、本発明の代替的な実施形態に関連して使用され得る。一実施形態では、本CARは、エンドドメイン内に41BB由来の共刺激ドメインを含まなくてもよい。
【0208】
本CARは、例えばCD3ζの細胞内部分に対してT細胞共刺激分子の細胞内部分が融合したものを含む複合エンドドメイン(compound endodomain)を含んでもよい。このような複合エンドドメインは、抗原認識後に活性化および共刺激シグナルを同時に伝達できる第2世代CARと称してもよい。最も一般的に使用されている共刺激ドメインは、CD28の共刺激ドメインである。これは、T細胞の増殖を誘発する最も強力な共刺激シグナル、すなわち免疫学的シグナル2を供給する。CARエンドドメインはまた、OX40、4-1BB、ICOS、またはTNFRSF25のシグナル伝達ドメイン等のTNF受容体ファミリーシグナル伝達ドメインを1つ以上含んでもよい。但し、好ましくは、CARは、CD28および41BBの両方のシグナル伝達ドメインを含むエンドドメインを含まくてもよない。
【0209】
共刺激ドメインとして使用し得るCD28の細胞内シグナル伝達ドメインを配列番号77に示す。CD28の膜貫通ドメインに由来する、追加の2個のアミノ酸(WV)をN末端に含む変異体CD28共刺激ドメインを配列番号71に示す。OX40、4-1BB、ICOSおよびTNFRSF25シグナル伝達ドメインの例示的な配列を配列番号79~81にそれぞれ示す。CARは、配列番号71、77、79~81のうちのいずれか1つの配列、または当該配列に対して少なくとも80%、85%、90%、95%、97%、98%、もしくは99%の配列同一性を有するその変異体を含むか、あるいはこのような配列または変異体からなる、共刺激ドメインを、1つ以上含んでいてもよい。
【0210】
ある実施形態では、CARは、配列番号71を含むかまたは配列番号71からなる共刺激ドメインを含む。
【0211】
一実施形態では、CARは、ヒトCD8ヒンジドメインまたはその変異体と、ヒトCD8膜貫通ドメインとを含む。あるいは、またはさらに、CARは、ヒトCD28共刺激ドメインとヒトCD3ζシグナル伝達ドメインとを含むエンドドメインを含む。
【0212】
好ましい一実施形態において、CARは、ヒンジドメイン、膜貫通ドメイン、および細胞内ドメイン(またはエンドドメイン)を以下のように含む:
(i)配列番号68に記載の配列もしくは当該配列に対して少なくとも80%の配列同一性を有する配列を含むか、またはこのような配列からなる、CD8αヒンジ・膜貫通ドメイン配列;
(ii)配列番号71に記載の配列もしくは当該配列に対して少なくとも80%の配列同一性を有する配列を含むか、またはこのような配列からなる、CD28共刺激ドメイン;
(iii)配列番号72に記載の配列もしくは当該配列に対して少なくとも80%の配列同一性を有する配列を含むか、またはこのような配列からなる、CD3ζシグナル伝達ドメイン。
【0213】
コードされ、発現されるCARは、配列番号66に記載の配列もしくは当該配列に対して少なくとも80%の配列同一性を有する配列を含むか、またはこのような配列からなる、リーダー配列をさらに含んでいてもよい。
【0214】
CARの抗原結合ドメインは、配列番号19、88、もしくは28に記載の配列、または、HLA-A2に結合することができる、当該配列に対して少なくとも80%の配列同一性を有する配列を含んでいてもよく、あるいはこのような配列からなっていてもよい。
【0215】
よって、1つの好ましい代表的なCARは、全体として、以下を含んでもよい:
(i)配列番号66に記載の配列または当該配列に対して少なくとも80%の配列同一性を有する配列を含むか、あるいはこのような配列からなる、リーダー配列;
(ii)配列番号19もしくは88に記載の配列または当該配列に対して少なくとも80%の配列同一性を有する配列を含むか、あるいはこのような配列からなる、抗原結合ドメイン;
(iv)配列番号68に記載の配列または当該配列に対して少なくとも80%の配列同一性を有する配列を含むか、あるいはこのような配列からなる、CD8αヒンジ・膜貫通ドメイン配列;
(v)配列番号71に記載の配列または当該配列に対して少なくとも80%の配列同一性を有する配列を含むか、あるいはこのような配列からなる、CD28共刺激ドメイン;
(vi)配列番号72に記載の配列または当該配列に対して少なくとも80%の配列同一性を有する配列を含むか、あるいはこのような配列からなる、CD3ζシグナル伝達ドメイン。このCARは、HLA-A2に結合可能となり、CARが発現している細胞内にシグナルを伝達可能となる。
【0216】
本明細書中のCARのエンドドメインは、さらなるドメインを含有していてもよい。例えば、STAT5会合モチーフと、JAK1および/またはJAK2結合モチーフと、任意選択的にJAK3結合モチーフとを含むドメインを含んでいてもよい。このような実施形態では、エンドドメインは、サイトカイン受容体、例えばインターロイキン受容体(IL)受容体のエンドドメイン由来の配列を1つ以上含んでもよい。そのようなCARは、国際公開第2020/044055号(これも参照により本明細書に組み込む)に記載されている。このようなドメインを含むことで、外因性ILの投与を必要とすることなく、CARが抗原特異的に自身が発現する細胞に産生性ILシグナルを提供する能力がCARに付与される。例えば、IL-2はTreg細胞の生存、増殖、および持続に重要であるが、治療が必要な患者ではIL2レベルが低いかまたは損なわれていることがしばしばあり得る。よって、CARは、IL受容体またはIL2受容体等のその変異体のβ鎖エンドドメインの全部または一部に対応する配列を含んでいてもよく、任意選択的にIL受容体またはIL2受容体等のその変異体のγ鎖エンドドメインと組み合わせて含んでいてもよい。
【0217】
例として、CARエンドドメインは、ヒトIL-2受容体β鎖またはその変異体に由来する配列を含むドメインを、以下のように含んでもよい:
【0218】
ヒトIL-2受容体β鎖のアミノ酸番号266~551(NCBI REFSEQ:NP_000869.1)を表す配列番号84に記載の配列、または配列番号84に対して少なくとも80%の配列同一性を有する配列;あるいは、
配列番号84の短縮され配列改変された変異体(置換Y510)を表す配列番号85に記載の配列、または配列番号85に対して少なくとも80%の配列同一性を有する配列;あるいは、
配列番号84の短縮され配列改変された変異体(置換Y510およびY392)を表す配列番号86に記載の配列、または配列番号86に対して少なくとも80%の配列同一性を有する配列。
【0219】
前記核酸分子は、前記3つのコードされたポリペプチドの間に、自己切断配列をコードするヌクレオチド配列を含んでもよい。特に、自己切断配列は自己切断ペプチドである。このような配列は、タンパク質産生中に自動切断する。使用し得る自己切断ペプチドは、2Aペプチドまたは2A様ペプチドであり、これらは、当該技術分野において公知であり、例えば、参照により本明細書に組み込むDonnelly et al, Journal of General Virology, 2001, 82, 1027-1041に記載されている。上記のように、2Aペプチドおよび2A様ペプチドは、リボソームスキッピングを生じさせ、2Aペプチドの末端と下流のアミノ酸配列との間のペプチド結合の形成をスキップする切断形態をもたらすと考えられている。「切断(cleavage)」は、2AペプチドのC末端のグリシン残基とプロリン残基との間で起こる。つまり、上流のシストロンはその末端に付加されたいくつかの残基を有することになり、下流のシストロンはプロリンから始まることになる。
【0220】
好適な自己切断ドメインとしては、配列番号29~32にそれぞれ示すP2A配列、T2A配列、E2A配列およびF2A配列が挙げられる。これらの配列は、2AペプチドのN末端にアミノ酸GSGを含むように改変されていてもよい。よって、配列番号29~32に対応する配列であってN末端にGSGを有する配列も、可能な選択肢に含まれる。このような改変された代替的な2A配列は、当該技術分野において公知であり、報告されている。使用し得る代替的な2A様配列は、Donnelly et al(上記)に示されており、例えばTaV配列である。
前記核酸分子に含まれる各自己切断配列は、同じであっても異なっていてもよい。ある実施形態では、それらは両方とも2A配列、特にP2A配列および/またはT2A配列である。ある実施形態では、安全スイッチポリペプチドとFOXP3との間の自己切断配列がP2A配列であり、FOXP3とCARとの間の自己切断配列がT2A配列である。
【0221】
自己切断配列は、細胞に存在する一般的な酵素によって切断され得る追加の切断部位を含んでいてもよい。これは、翻訳後に2A配列の完全な除去を達成することを支援し得る。このような追加の切断部位は、例えば、フューリン切断部位RXXR(配列番号82)、例えばRRKR(配列番号83)を含んでもよい。
【0222】
代表的な実施形態では、前記核酸分子は5’から3’へ以下を含む:
(i)配列番号10の配列または当該配列に対して少なくとも80%の配列同一性を有する配列を含む安全スイッチポリペプチドをコードする第1のヌクレオチド配列;
(ii)配列番号29の配列を有するP2A切断配列をコードするヌクレオチド配列;
(iii)配列番号2の配列または当該配列に対して少なくとも70%の配列同一性を有する配列を含むFOXP3ポリペプチドをコードする第2のヌクレオチド配列;
(iv)配列番号30の配列を含むT2A切断配列をコードするヌクレオチド配列;および
(vi)HLA-A2に対して向けられたCARをコードする第3のヌクレオチド配列。
【0223】
このような実施形態では、CARは以下を含んでもよい:
(a)配列番号66に記載の配列または当該配列に対して少なくとも80%の配列同一性を有する配列を含むか、あるいはそのような配列からなる、リーダー配列;
(b)配列番号19もしくは88に記載の配列または当該配列に対して少なくとも80%の配列同一性を有する配列を含むか、あるいはそのような配列からなる、抗原結合ドメイン;
(c)配列番号68に記載の配列または当該配列に対して少なくとも80%の配列同一性を有する配列を含むか、あるいはそのような配列からなる、CD8αヒンジ・膜貫通ドメイン配列;
(d)配列番号71に記載の配列または当該配列に対して少なくとも80%の配列同一性を有する配列を含むか、あるいはそのような配列からなる、C28共刺激ドメイン;
(e)配列番号72に記載の配列または当該配列に対して少なくとも80%の配列同一性を有する配列を含むか、あるいはそのような配列からなる、CD3ζシグナル伝達ドメイン。
【0224】
上記の説明から明らかなように、本明細書に記載の特定のポリペプチド配列およびヌクレオチド配列に加えて、それらの変異体、または誘導体および断片の使用も包含される。
【0225】
本発明のタンパク質またはポリペプチドに関連して本明細書中で同義に使用される「誘導体」または「変異体」という用語は、結果として得られるタンパク質またはポリペプチドが所望の機能を保持することを条件として、配列からの、または配列への、1つ(または複数)のアミノ酸残基の任意の置換(substitution)、変異、改変、置換(replacement)、欠失、および/または付加を含む。例えば、誘導体または変異体が抗原結合ドメインである場合は、前記所望の機能は、当該抗原結合ドメインがその標的抗原に結合する能力であってもよく(例えば、HLA-A2に結合する抗原結合ドメインの変異体は、HLA-A2に結合する能力を保持する)、誘導体または変異体がシグナル伝達ドメインである場合は、前記所望の機能は、当該ドメインがシグナル伝達する(例えば、下流の分子を活性化または不活性化する)能力であってもよく、誘導体または変異体が転写因子(例えば、FOXP3)である場合は、前記所望の機能は、当該転写因子が標的DNAに結合する能力および/または転写を誘導する能力であってもよく、誘導体または変異体が安全スイッチポリペプチドである場合は、前記所望の機能は、例えば当該ポリペプチドに対して分子が結合すると、当該ポリペプチドが細胞死を誘導する能力であってもよい。代替的な見方によれば、本明細書中でいうところの変異体または誘導体は、機能的変異体または機能的誘導体である。例えば、変異体または誘導体は、対応する参照配列と比較して、少なくとも少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、または少なくとも90%の機能を有していてもよい。変異体または誘導体は、対応する参照配列と比較して、類似のレベルまたは同じレベルの機能を有していてもよく、高いレベルの機能(例えば、少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、または少なくとも50%高い)を有していてもよい。
【0226】
典型的には、アミノ酸の置換は、改変後の配列が所要の活性または能力を保持することを条件として、例えば、1個、2個、または3個から10個または20個までの置換が行われてもよい。アミノ酸の置換は、非天然の類似体の使用を含み得る。例えば、変異体または誘導体は、対応する参照配列と比較して、少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、または少なくとも90%の活性または能力を有していてもよい。変異体または誘導体は、対応する参照配列と比較して、類似のレベルまたは同じレベルの活性または能力を有していてもよく、高いレベルの活性または能力(例えば、少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、または少なくとも50%高い)を有していてもよい。
【0227】
タンパク質またはペプチドはまた、サイレント変化を生じてその結果として機能的に同等なタンパク質をもたらすアミノ酸残基の欠失、挿入、または置換を有していてもよい。内因性機能が保持される限り、意図的なアミノ酸の置換を、残基の極性、電荷、溶解性、疎水性、親水性、および/または両親媒性の類似性に基づいて行ってもよい。例えば、負の電荷を有するアミノ酸としてはアスパラギン酸およびグルタミン酸が挙げられ、正の電荷を有するアミノ酸としてはリシンおよびアルギニンが挙げられ、親水性値が類似する非荷電極性頭部基を有するアミノ酸としてはアスパラギン、グルタミン、セリン、スレオニン、およびチロシンが挙げられる。
【0228】
保存的置換を、例えば、上記表2に従って行ってもよい。
【0229】
誘導体は相同体であってもよい。本明細書中で使用する「相同体」という用語は、野生型アミノ酸配列および野生型ヌクレオチド配列とある一定の相同性を有する実体を意味する。「相同性」という用語は、「同一性」と同等視することができる。
【0230】
相同配列または変異体配列は、対象の配列に対して、少なくとも70%、75%、85%、または90%の同一性を有し得るアミノ酸配列を含み得、好ましくは、少なくとも95%、96%、97%、98%、または99%の同一性を有し得るアミノ酸配列を含み得る。典型的には、変異体は、対象のアミノ酸配列と同じ活性部位等を含む。相同性は、類似性(すなわち、化学的特性/機能が類似するアミノ酸残基)の観点から考えることもできるが、本明細書の文脈においては、配列同一性の観点で相同性を表現することが好ましい。
【0231】
相同性の比較は、目視で実施することもでき、または、より一般的には、容易に入手可能な配列比較プログラムを利用して実施することもできる。これらの市販のコンピュータプログラムは、2つ以上の配列の相同率(%)または同一率(%)を計算することができる。
【0232】
相同率または配列同一率は、連続する配列にわたって計算してもよい。すなわち、一方の配列を他方の配列と整列させ、一方の配列中の各アミノ酸を他方の配列中の対応するアミノ酸と一残基ずつ直接比較する。これは、「ギャップなし(ungapped)」アラインメントと呼ばれる。典型的には、このようなギャップなしアラインメントは、比較的短い残基数に対してのみ行われる。
これは、非常に単純かつ一貫した方法ではあるが、例えば、他の点では同一である配列のペアにおいて、ヌクレオチド配列中の1個の挿入または欠失により、後続のコドンがそろわなくなる場合があり、よって、大域アラインメント(global alignment)を行ったときに相同率が大幅に低下する可能性があるということを考慮できない。したがって、ほとんどの配列比較方法は、全体的な相同性スコアを過度に不利にすることなく、起こり得る挿入や欠失を考慮した最適なアラインメントを作成するように設計される。これは、配列アラインメントに「ギャップ」を挿入して局所相同性を最大化することによって達成される。
しかしながら、これらのより複雑な方法は、アラインメントに生じる各ギャップに「ギャップペナルティ」を割り当て、それにより、同数の同一のアミノ酸に関して、比較される2つの配列間の関連性がより高いことを反映する、可能な限りギャップの少ない配列アラインメントが、ギャップの多い配列アラインメントよりも高いスコアを達成するようにする。通常、ギャップの存在に対して比較的高いコストを課し、そのギャップ内の後続の各残基に対してはより低いコストを課す「アフィンギャップコスト」が使用される。これは、最も一般的に使用されているギャップスコアリングシステムである。ギャップペナルティが高いと、当然ながら、よりギャップの少ない最適化されたアラインメントが作成される。ほとんどのアラインメントプログラムでは、ギャップペナルティを変更することができる。しかしながら、このようなソフトウェアを配列比較に使用する場合には、デフォルト値を用いることが好ましい。例えば、GCG Wisconsin Bestfitパッケージを使用する場合、アミノ酸配列に対するデフォルトのギャップペナルティは、ギャップについては-12、各伸長部については-4である。
【0233】
したがって、最大相同率/最大配列同一率の計算には、まず、ギャップペナルティを考慮した最適なアラインメントを作成することが必要である。このようなアラインメントを実行するための1つの好適なコンピュータプログラムは、GCG Wisconsin Bestfitパッケージ(University of Wisconsin, U.S.A.; Devereux et al.(1984) Nucleic Acids Res. 12: 387)である。配列比較を行うことができる他のソフトウェアとしては、例えば、BLASTパッケージ(Ausubel et al.(1999)、同書-第18章を参照)、FASTA(Atschul et al.(1990) J. Mol. Biol. 403-410)、およびGENEWORKS社の比較ツール一式が挙げられるが、これらに限定されない。BLASTおよびFASTAは、両方とも、オフライン検索およびオンライン検索に利用可能である(Ausubel et al.(1999)、同書、7-58から7-60頁を参照)。しかしながら、用途によっては、GCG Bestfitプログラムを使用することが好ましい。BLAST 2 Sequencesと呼ばれる別のツールも、タンパク質配列およびヌクレオチド配列を比較するために利用可能である(FEMS Microbiol. Lett.(1999) 174: 247-50; FEMS Microbiol. Lett.(1999) 177: 187-8を参照)。
【0234】
最終的な相同率は同一性の観点から測定することができるが、アラインメントプロセス自体は、典型的には、オール・オア・ナッシングのペア比較に基づくものではない。その代わりに、化学的類似性または進化的距離に基づいてそれぞれの対比較にスコアを割り当てる、調整された(scaled)類似性スコアマトリクスが一般に使用される。一般的に使用されているこのようなマトリクスの一例として、BLOSUM62マトリクスがある。これは、一連のBLASTプログラムのデフォルトマトリクスである。GCG Wisconsinプログラムは、一般に、公開デフォルト値または供給されている場合はカスタムシンボル比較表のいずれかが使用される(詳細はユーザーマニュアルを参照)。用途によっては、GCGパッケージ用の公開デフォルト値を使用することが好ましく、または、他のソフトウェアの場合は、BLOSUM62等のデフォルトマトリクスを使用することが好ましい。好適には、同一率は、参照配列および/または問い合わせ配列の全体にわたって決定される。 ソフトウェアが最適なアラインメントを作成すると、相同率、好ましくは配列同一率を計算することが可能になる。ソフトウェアは、典型的には、これを配列比較の一部として行い、数値結果を生成する。
【0235】
「断片」は、典型的には、機能の点で着目される、例えば、機能的であるかまたは機能的断片をコードする、ポリペプチドまたはポリヌクレオチドの選択された領域を指す。よって、「断片」は、全長ポリペプチドまたは全長ポリヌクレオチドの一部(または部分)であるアミノ酸配列または核酸配列をいう。
【0236】
このような誘導体、変異体、および断片は、部位特異的変異誘発等の標準的な組み換えDNA技術を使用して調製することができる。挿入を行う場合には、インサート(挿入部分)をコードする合成DNAを、挿入位置の両側の天然の配列に対応する5’フランキング領域および3’フランキング領域とともに作製してもよい。各フランキング領域には、前記天然の配列中の部位に対応する便利な制限部位が含まれ、それにより、当該配列が適切な酵素(1つまたは複数)で切断されて前記合成DNAがその切断部にライゲーションされるようになっている。次に、本発明に従ってDNAを発現させ、コードされたタンパク質を作製する。これらの方法は、DNA配列操作のための当該技術分野で公知の多数の標準的技術の例示に過ぎず、他の公知の技術を使用してもよい。
【0237】
本明細書中で定義する核酸分子およびポリヌクレオチド/核酸配列は、DNAまたはRNAを含んでもよい。それらは、一本鎖であってもよく、二本鎖であってもよい。当業者には、遺伝コードの縮重の結果として、多数の異なる核酸分子/ポリヌクレオチドが同じポリペプチドをコードし得ることが理解されるであろう。これに加えて、当業者であれば、本発明のポリペプチドを発現させる任意の特定の宿主生物のコドン使用頻度を反映させるために、常法を用いて、本明細書中で定義する核酸分子/ポリヌクレオチド/ヌクレオチド配列によってコードされるポリペプチド配列に影響を及ぼさないヌクレオチド置換を行い得るということを理解されたい。
【0238】
前記核酸分子/ポリヌクレオチドは、当該技術分野において利用可能な任意の方法を用いて改変することができる。このような改変は、本明細書中で定義する核酸分子/ポリヌクレオチドのインビボ活性または寿命を増強するために実施されてもよい。
【0239】
DNA核酸分子/ポリヌクレオチド/配列等の、核酸分子/ポリヌクレオチド/ヌクレオチド配列は、組換え、合成、または当業者が利用可能な任意の手段により、作製することができる。標準的な技術によってクローニングすることもできる。
より長い核酸分子/ポリヌクレオチド/ヌクレオチド配列は、一般に組換え手段を用いて作製され、例えば、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)クローニング技術を用いて作製される。これは、クローニングしたい標的配列を挟むプライマー対(例えば、約15~30ヌクレオチド)を作成し、当該プライマーを動物細胞またはヒト細胞から得られたmRNAまたはcDNAと接触させ、所望の領域の増幅を起こさせる条件下でポリメラーゼ連鎖反応を行い、増幅断片を単離し(例えば、アガロースゲルで反応混合物を精製することにより)、増幅DNAを回収することを含む。前記プライマーは、増幅DNAを適切なベクターにクローニングできるように、適切な制限酵素認識部位を含有するように設計されてもよい。
【0240】
本核酸分子/ポリヌクレオチドは、選択可能なマーカーをコードする核酸配列をさらに含んでもよい。好適な選択可能なマーカーは、当該技術分野において周知であり、GFP等の蛍光タンパク質が挙げられるが、これらに限定されない。好適には、前記選択可能なマーカーは、蛍光タンパク質、例えば、GFP、YFP、RFP、tdTomato、dsRed、またはそれらの変異体であり得る。いくつかの実施形態において、蛍光タンパク質は、GFPまたはGFP変異体である。選択可能なマーカーをコードする核酸配列は、本明細書中の核酸分子と組み合わせて核酸構築物の形態で提供されてもよい。そのような核酸構築物は、ベクター中で提供され得る。
【0241】
好適には、選択可能なマーカー/レポータードメインは、ルシフェラーゼベースのレポーター、PETレポーター(例えば、ナトリウム・ヨウ素共輸送体(NIS))、または膜タンパク質(例えば、CD34、低親和性神経成長因子受容体(LNGFR))であってもよい。
【0242】
1つ以上の選択可能なマーカーをコードする核酸配列は、各ポリペプチドが別々の実体として発現することを可能にする1つ以上の共発現部位によって、本核酸分子から、かつ/または互いに、分離されていてもよい。好適な共発現部位は、当該技術分野において公知であり、例えば、配列内リボソーム進入部位(IRES)や、本核酸分子に含まれる、上記で定義したものを含む自己切断部位が挙げられる。ある実施形態では、これは、上述のように、2A切断部位であってもよい。
【0243】
選択可能なマーカーを使用すると有利であり、それは、本発明の核酸分子、構築物、またはベクターが首尾よく導入された(コードされた安全スイッチポリペプチド、FOXP3、CARが発現するように)細胞(例えばTreg)を、一般的な方法、例えばフローサイトメトリーを用いて出発細胞集団から選択および単離することが可能になるためである。
【0244】
本発明で使用される核酸分子/ポリヌクレオチドは、コドン最適化されていてもよい。コドン最適化は、これまでに、国際公開第1999/41397号パンフレットおよび国際公開第2001/79518号パンフレットにおいて記載されている。細胞が異なれば、特定のコドンの使用頻度が異なる。このコドンバイアスは、細胞型における特定のtRNAの相対的存在量の偏りに対応する。配列中のコドンを変更して、対応するtRNAの相対的存在量と一致するように適合させるようにすることにより、発現を増加させることができる。同様に、対応するtRNAが当該特定の細胞型では稀であることが知られているコドンを意図的に選択することにより、発現を減少させることができる。よって、さらに高度な翻訳制御が可能である。
【0245】
第1のヌクレオチド配列、第2のヌクレオチド配列、および第3のヌクレオチド配列は、それらが同じプロモーターに作動可能に連結された構築物中で提供されてもよい。「プロモーター」とは、遺伝子の転写の開始を導くDNAの領域である。プロモーターは、DNAの上流側(センス鎖の5’領域寄り)で、遺伝子の転写開始点付近に位置する。任意の好適なプロモーターを使用することができ、その選択は、当業者によって容易になされ得る。プロモーターは、どのような供給源からのものでもよく、ウイルスプロモーター、または、哺乳動物もしくはヒトのプロモーター(すなわち、生理学的プロモーター)を含む真核生物プロモーターであってもよい。ある実施形態では、前記プロモーターはウイルスプロモーターである。具体的なプロモーターとしては、LTRプロモーター、EFS(またはその機能的短縮物(functional truncations))、SFFV、PGK、およびCMVが挙げられる。ある実施形態では、プロモーターは、SFFVまたはウイルスLTRプロモーターである。特に、SFFVプロモーターが、本発明の核酸分子、構築物、またはベクター内で、(i)自殺部分を含む安全スイッチポリペプチドをコードするヌクレオチド配列、(ii)FOXP3をコードするヌクレオチド配列、および(iii)キメラ抗原受容体(CAR)をコードするヌクレオチド配列の転写開始を可能にするために使用されてもよい。よって、代替的な見方によれば、(i)自殺部分を含む安全スイッチポリペプチドをコードするヌクレオチド配列、(ii)FOXP3をコードするヌクレオチド配列、および(iii)キメラ抗原受容体(CAR)をコードするヌクレオチド配列は、SFFVプロモーターに作動可能に連結されていてもよい。前記SFFVプロモーターは、配列番号87に記載のヌクレオチド配列を含んでもよい。「同じプロモーターに作動可能に連結された」とは、前記各ポリヌクレオチド配列の転写が同じプロモーターから開始され得る(例えば、前記第1、第2、および第3のポリヌクレオチド配列の転写が同じプロモーターから開始される)ことと、転写が当該プロモーターから開始されるように前記各ヌクレオチド配列が位置決めおよび方向付けされていることとを意味する。あるプロモーターに作動可能に連結されたポリヌクレオチドは、そのプロモーターの転写調節下にある。
【0246】
ベクターは、ある実体の、1つの環境から別の環境への移入を可能にする、または容易にするツールである。本明細書中で使用するように、また、例として、組換え核酸技術で用いられるいくつかのベクターは、核酸のセグメント(例えば、異種性のcDNAセグメント等の異種性のDNAセグメント)等の実体を標的細胞に移入させることを可能にする。ベクターは、非ウイルスベクターであってもよく、ウイルスベクターであってもよい。組換え核酸技術で用いられるベクターの例としては、プラスミド、mRNA分子(例えば、インビトロ転写mRNA)、染色体、人工染色体、およびウイルスが挙げられるが、これらに限定されない。ベクターは、例えば、裸の核酸(例えば、DNA)であってもよい。最も単純な形態では、ベクター自体が目的のヌクレオチドであってもよい。
【0247】
本明細書中で使用するベクターは、例えば、プラスミド、mRNA、またはウイルスベクターであってもよく、核酸分子/ポリヌクレオチドの発現のためのプロモーター(上記の通り)と、任意選択的に、当該プロモーターの制御因子とを含み得る。
【0248】
ある実施形態では、前記ベクターはウイルスベクターであり、例えば、レトロウイルスベクターであり、また、例えば、レンチウイルスベクターまたはガンマレトロウイルスベクターである。
【0249】
ベクターは、追加のプロモーターをさらに含んでもよく、例えば、一実施形態において、前記プロモーターは、LTR、例えば、レトロウイルスLTRまたはレンチウイルスLTRであってもよい。長末端反復(long terminal repeats)(LTR)とは、レトロウイルスRNAの逆転写によって形成されたレトロトランスポゾンまたはプロウイルスDNAの両端に見られる、数百回または数千回繰り返すDNAの同一配列である。LTRは、ウイルスによって、遺伝物質を宿主ゲノムに挿入するために利用される。LTRには、エンハンサー、プロモーター(転写エンハンサーと調節エレメントとの両方を有し得る)、転写開始(キャッピング等)、転写ターミネーター、およびポリアデニル化シグナル等の、遺伝子発現のシグナルが存在する。
【0250】
好適には、前記ベクターは、5’LTRおよび3’LTRを含み得る。
【0251】
前記ベクターは、転写前または転写後に作用し得る1つ以上の追加の制御配列を含んでもよい。「制御配列」とは、前記ポリペプチドの発現を促進する、例えば、転写物の発現を増加させるかまたはmRNA安定性を増強するように作用する、任意の配列である。好適な制御配列としては、例えば、エンハンサーエレメント、転写後調節エレメント、およびポリアデニル化部位が挙げられる。好適には、前記追加の制御配列は、LTR(1つまたは複数)に存在し得る。
【0252】
好適には、前記ベクターは、例えばプロモーターに作動可能に連結された、ウッドチャック肝炎ウイルス転写後調節エレメント(WPRE)を含んでもよい。
【0253】
本核酸分子/ポリヌクレオチドを含むベクターは、形質転換および形質導入等の当該技術分野で公知の種々の技術を使用して細胞に導入することができる。いくつかの技術が当該技術分野において公知であり、例えば、レトロウイルスベクター、レンチウイルスベクター、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、バキュロウイルスベクター、および単純ヘルペスウイルスベクター等の組換えウイルスベクターへの感染、核酸の直接注入、およびバイオリスティック法による形質転換が挙げられる。
【0254】
非ウイルス送達系にはDNAトランスフェクション法が含まれるが、これらに限定されない。ここで、トランスフェクションは、非ウイルスベクターを使用して遺伝子を標的細胞に送達するプロセスを含む。非ウイルス送達系は、好ましくは核酸分子または構築物と複合体を形成した、リポソームを用いた細胞膜透過性ペプチドまたは両親媒性細胞膜透過性ペプチドを含み得る。
典型的なトランスフェクション法としては、エレクトロポレーション法、DNAバイオリスティック法、脂質媒介トランスフェクション法、圧縮DNA媒介トランスフェクション法、リポソーム法、イムノリポソーム法、リポフェクチン法、カチオン性薬剤媒介トランスフェクション法、カチオン性界面両親媒性物質法(cationic facial amphiphiles)(CFA)(Nat. Biotechnol.(1996) 14: 556)、およびこれらの組み合わせが挙げられる。
【0255】
本核酸分子は単一構築物として使用されるように設計されており、これは単一ベクターに含まれることになると考えられるが、そのような単一構築物が他のベクターと組み合わせて細胞に導入されること、例えば、当該細胞への導入がやはり望まれる他のポリペプチドをコードするベクターと組み合わせて導入されることが排除されるわけではない。
【0256】
操作された細胞は、ウイルスベクターによる形質導入やDNAまたはRNAを用いたトランスフェクションをはじめとする多くの手段のうちの1つによって本明細書中で定義する核酸分子、構築物、またはベクターを導入することによって生成することができる。
【0257】
本細胞は、本明細書中で定義する核酸分子/ポリヌクレオチド、構築物、またはベクターを細胞に導入する(例えば、形質導入またはトランスフェクションによって)ことによって作製してもよい。
【0258】
好適な細胞については以下で詳細を述べるが、前記細胞は、対象から単離された試料に由来するものであってもよい。前記対象は、ドナー対象であってもよく、治療の対象であってもよい(すなわち、前記細胞は、自己由来細胞であってもよく、別のレシピエントに導入するためのドナー細胞、例えば同種細胞であってもよい。)。
【0259】
前記細胞は、以下の工程を含む方法によって生成することができる:
(i)細胞含有試料を対象から単離する工程、または、細胞含有試料を用意する工程;および
(ii)前記細胞含有試料に、本明細書中で定義する核酸分子、構築物、またはベクターを導入し(例えば、形質導入またはトランスフェクションによって)、操作された細胞の集団を得る工程。
【0260】
標的細胞が富化された試料を、本方法の工程(ii)の前および/または後に、前記細胞含有試料から単離、富化、および/または生成することができる。例えば、工程(ii)の前および/または後にTreg(または他の標的細胞)の単離、富化、および/または生成を行い、Treg富化試料を単離、富化、または生成してもよい。工程(ii)の後に細胞含有試料からの単離および/または富化を行い、本明細書に記載のCAR、核酸分子/ポリヌクレオチド、構築物、および/またはベクターを含む細胞および/またはTreg(もしくは他の標的細胞)を富化してもよい。
【0261】
Treg富化試料は、当業者に公知の任意の方法、例えば、FACSおよび/または磁気ビーズソーティングによって単離または富化することができる。Treg富化試料は、当業者に公知の任意の方法によって細胞含有試料から生成されてもよく、例えば、FOXP3をコードするDNAもしくはRNAを導入することによってTcon細胞から、および/または、誘導性前駆細胞もしくは胚性前駆細胞のエクスビボ分化から、生成されてもよい。その他の標的細胞を単離および/または富化する方法は、当該技術分野において公知である。
【0262】
好適には、操作された標的細胞は、以下の工程を含む方法によって生成することができる:
(i)標的細胞が富化された試料を単離する工程、または、標的細胞が富化された試料を用意する工程;および
(ii)前記標的細胞が富化された試料に、本明細書中で定義する核酸、構築物、またはベクターを導入し(例えば、形質導入またはトランスフェクションによって)、操作された標的細胞の集団を得る工程。
【0263】
前記標的細胞は、Treg細胞、またはその前駆体もしくは前駆細胞であってもよい。
【0264】
「操作された細胞」とは、その細胞によって天然にコードされていないポリヌクレオチドを含むかまたは発現するように改変された細胞を意味する。細胞を操作するための方法は、当該技術分野において公知であり、例えば、上記のように、レトロウイルス形質導入またはレンチウイルス形質導入等の形質導入法、リポフェクション法をはじめとするトランスフェクション法(DNAまたはRNAベースの一過性トランスフェクション等)、ポリエチレングリコール法、リン酸カルシウム法、およびエレクトロポレーション法による細胞の遺伝子改変が挙げられるが、これらに限定されない。任意の好適な方法を使用して核酸配列を細胞に導入することができる。両親媒性細胞膜透過性ペプチド等の非ウイルス技術を使用して核酸を導入してもよい。
【0265】
したがって、本明細書に記載の核酸分子は、対応する非改変細胞によって天然に発現されるものではない。実際、前記CARをコードする核酸分子は人工構築物であり、ある実施形態では、前記安全スイッチポリペプチドは人工構築物であり、そのため、それらは天然には発生または発現しない。好適には、操作された細胞は、例えば形質導入またはトランスフェクションによって改変された細胞である。好適には、操作された細胞は、例えば形質導入またはトランスフェクションによって、改変されたか、またはゲノムが改変された細胞である。好適には、操作された細胞は、レトロウイルス形質導入によって、改変されたか、またはゲノムが改変された細胞である。好適には、操作された細胞は、レンチウイルス形質導入によって、改変されたか、またはゲノムが改変された細胞である。
【0266】
本明細書中で使用する「導入された(introduced)」という用語は、外来の核酸、例えばDNAまたはRNAを細胞に挿入するための方法を指す。本明細書中で使用するこの「導入された」という用語は、形質導入法およびトランスフェクション法の両方を含む。トランスフェクションは、核酸を非ウイルス的方法によって細胞に導入するプロセスである。形質導入は、外来のDNAまたはRNAをウイルスベクターを介して細胞に導入するプロセスである。操作された細胞は、ウイルスベクターによる形質導入やDNAまたはRNAを用いたトランスフェクションを含む多くの手段のうちの1つによって、本明細書に記載の核酸を導入することにより、生成され得る。本明細書に記載の核酸の導入前または導入後に、例えば、抗CD3モノクローナル抗体での処理または抗CD3モノクローナル抗体と抗CD28モノクローナル抗体との両方での処理によって、細胞を活性化および/または増殖させてもよい。前記細胞は、また、IL-2と組み合わせた抗CD3モノクローナル抗体および抗CD28モノクローナル抗体の存在下で、増殖させてもよい。好適には、IL-2をIL-15と置き換えてもよい。細胞(例えばTreg)増殖プロトコルで使用し得る他の構成要素としては、ラパマイシン、全トランス型レチノイン酸(ATRA)、およびTGFβが挙げられるが、これらに限定されない。本明細書中で使用する「活性化された(activated)」という用語は、細胞の増殖が起こるように細胞が刺激されたことを意味する。本明細書中で使用する「増殖させた(expanded)」という用語は、細胞または細胞の集団が増殖するように誘導されたことを意味する。細胞の集団の増殖は、例えば、集団内に存在する細胞の数を数えることによって測定することができる。細胞の表現型は、フローサイトメトリー等の当該技術分野において公知の方法によって決定することができる。
【0267】
前記細胞は、免疫細胞、またはその前駆体であってもよい。前駆体細胞は、前駆細胞でもあり得る。よって、代表的な免疫細胞としては、T細胞、特に、細胞傷害性T細胞(CTL;CD8+T細胞)、ヘルパーT細胞(HTL;CD4+T細胞)、および制御性T細胞(Treg)が挙げられる。T細胞の他の集団もまた、ここでは有用であり、例えば、ナイーブT細胞およびメモリーT細胞が挙げられる。その他の免疫細胞としては、NK細胞、NKT細胞、樹状細胞、MDSC、好中球、およびマクロファージが挙げられる。免疫細胞の前駆体としては、多能性幹細胞が挙げられ、例えば、誘導性PSC(iPSC)、または複能性幹細胞を含む、分化の指向性がより高い(more committed)前駆細胞、またはある系統へと分化する細胞が挙げられる。前駆細胞は、インビボまたはインビトロで免疫細胞に分化するよう誘導することができる。一態様において、前駆細胞は、目的の免疫細胞へと分化転換可能な体細胞であってもよい。
【0268】
最も注目すべきは、免疫細胞が、NK細胞、樹状細胞、MDSC、または、細胞傷害性Tリンパ球(CTL)もしくはTreg細胞等のT細胞であってもよいことである。
【0269】
好ましい実施形態では、免疫細胞はTreg細胞である。「制御性T細胞(Treg)またはT制御性細胞」は、細胞障害性免疫応答を制御する免疫抑制機能を有する免疫細胞であり、免疫寛容の維持に不可欠である。本明細書中で使用するTregという用語は、免疫抑制機能を有するT細胞を指す。
【0270】
本明細書中で使用するT細胞とは、αβT細胞(例えば、CD8またはCD4+)、γδT細胞、メモリーT細胞、Treg細胞等の任意のタイプのT細胞を含むリンパ球である。
【0271】
好適には、免疫抑制機能とは、病原体、同種抗原、または自己抗原等の刺激に反応して免疫系によって促進される多数の生理学的効果および細胞効果の1つ以上を低減または阻害するTregの能力を指す場合がある。このような効果の例としては、従来のT細胞(Tconv)の増殖の強化および炎症性サイトカインの分泌が挙げられる。このような効果はいずれも、免疫応答の強さの指標として使用し得る。Tregの存在下でTconvによる免疫応答が相対的に弱くなることは、Tregの免疫応答抑制能を示していると考えられる。例えば、サイトカイン分泌の相対的な減少は、免疫応答が弱まることを示すものと考えられ、よって、Tregの免疫応答抑制能を示していると考えられる。Tregはまた、B細胞、樹状細胞、およびマクロファージ等の抗原提示細胞(APC)上の共刺激分子の発現を調節することによっても免疫応答を抑制することができる。CD80およびCD86の発現レベルを使用し、活性化Tregの共培養後のインビトロでの抑制効力を評価することができる。
【0272】
免疫応答の強さの指標を測定し、これによりTregの抑制能を測定するためのアッセイは、当該技術分野において公知である。具体的には、抗原特異的Tconv細胞をTregと共培養し、対応する抗原のペプチドを共培養物に添加してTconv細胞からの応答を刺激すればよい。Tconv細胞の増殖の程度および/またはペプチドの添加に反応してTconv細胞が分泌するサイトカインIL-2の量を、共培養したTregの抑制能の指標として使用し得る。
本明細書中に記載のようにTregと共培養された抗原特異的Tconv細胞は、Tregの非存在下で培養された同Tconv細胞と比べて、その増殖が5%、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、90%、95%、または99%少ない場合がある。例えば、本Tregと共培養された抗原特異的Tconv細胞は、非操作Tregの存在下で培養された同Tconv細胞と比べて、その増殖が5%、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、90%、95%、または99%少ない場合がある。本明細書中で定義する核酸、発現構築物、またはベクターを含む細胞、例えばTregは、非操作Treg、または、前記3つのポリペプチド(すなわち、安全スイッチポリペプチド、FOXP3、およびCAR)をコードする前記3つのポリヌクレオチド配列の配置が異なる核酸構築物を含むTregと比べて、例えば、FOXP3、安全スイッチポリペプチド、およびCARをコードするポリヌクレオチドを5’から3’へ含む構築物と比べて、その抑制活性が高い(例えば、抑制活性が少なくとも5%、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、または90%高い)場合がある。
【0273】
本明細書においてTregと共培養された抗原特異的Tconv細胞は、Tregの非存在下で(例えば、非操作Treg、つまり、前記3つのポリペプチド(すなわち、安全スイッチポリペプチド、FOXP3、およびCAR)をコードする前記3つのポリヌクレオチド配列の配置が異なる核酸構築物を含むTregの存在下で)培養された対応するTconv細胞と比べて、例えば、FOXP3、安全スイッチポリペプチド、およびCARをコードするポリヌクレオチドを5’から3’へ含む構築物と比べて、エフェクターサイトカインの発現が少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、または少なくとも60%少ない場合がある。エフェクターサイトカインは、IL-2、IL-17、TNFα、GM-CSF、IFN-γ、IL-4、IL-5、IL-9、IL-10、およびIL-13から選択されてもよい。好適には、エフェクターサイトカインは、IL-2、IL-17、TNFα、GM-CSF、およびIFN-γから選択されてもよい。
【0274】
いくつかの異なるTregの亜集団が同定されているが、これらは異なる特定のマーカーまたは異なるレベルの特定のマーカーを発現する場合がある。Tregは、一般的には、CD4、CD25、およびFOXP3というマーカーを発現するT細胞である(CD4+CD25+FOXP3+)。
【0275】
Tregはさらに、CTLA-4(細胞傷害性Tリンパ球関連分子-4)またはGITR(グルココルチコイド誘導性TNF受容体)を発現する場合もある。
【0276】
Treg細胞は、末梢血、リンパ節、および組織に存在し、本明細書中で使用するTregは、胸腺由来の天然Treg(nTreg)細胞、末梢で産生されたTreg、および誘導性Treg(iTreg)細胞を含む。
【0277】
Tregは、細胞表面マーカーCD4およびCD25を、表面タンパク質CD127の非存在下で、または低発現レベルのCD127と組み合わせて(CD4+CD25+CD127-またはCD4+CD25+CD127low)使用することで同定し得る。Tregを同定するためのこのようなマーカーの使用は、当該技術分野では公知であり、例えば、Liuら(JEM; 2006; 203; 7(10); 1701-1711)に記載されている。
【0278】
Tregは、CD4+CD25+FOXP3+T細胞、CD4+CD25+CD127-T細胞、またはCD4+CD25+FOXP3+CD127-/lowT細胞であってもよい。
【0279】
好適には、Tregは、天然Treg(nTreg)であってもよい。本明細書中で使用する「天然Treg」という用語は、胸腺由来Tregを意味する。天然Tregは、CD4+CD25+FOXP3+Helios+ニューロピリン1+である。iTregと比較して、nTregは、PD-1(プログラム細胞死-1、pdcd1)、ニューロピリン1(Nrp1)、Helios(Ikzf2)、およびCD73が高発現である。nTregは、Heliosタンパク質またはニューロピリン1(Nrp1)の個別の発現に基づいて、iTregと区別され得る。
【0280】
Tregは、脱メチル化されたTreg特異的脱メチル化領域(TSDR)を有してもよい。TSDRは、Foxp3の発現を調節する重要なメチル化感受性因子である(Polansky, J.K., et al, 2008.European Journal of immunology, 38(6), pp.1654-1663)。
【0281】
さらに好適なTregとしては、Tr1細胞(Foxp3を発現せず、IL-10産生が高い)、CD8+FOXP3+T細胞、およびγδFOXP3+T細胞が挙げられるが、これらに限定されない。
【0282】
Tregには、ナイーブTreg(CD45RA+FoxP3low)、エフェクター/メモリーTreg(CD45RA-FoxP3high)、およびサイトカイン産生Treg(CD45RA-FoxP3low)を含む、異なる亜集団が存在することが知られている。「メモリーTreg」は、CD45ROを発現するTregであり、CD45RO+であると考えられる。これらの細胞は、ナイーブTregと比較して、CD45ROのレベルを増加させ(例えば、CD45ROが少なくとも10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、または90%多い)、好ましくは、ナイーブTregと比較して、CD45RA(mRNAおよび/またはタンパク質)を発現しないか、あるいはそのレベルが低い(例えば、ナイーブTregと比較して、CD45RAが少なくとも80%、90%、または95%少ない)。「サイトカイン産生Treg」とは、ナイーブTregと比較して、CD45RA(mRNAおよび/またはタンパク質)を発現しないか、あるいはそのレベルが非常に低く(例えば、ナイーブTregと比較して、CD45RAが少なくとも80%、90%、または95%少ない)、かつ、メモリーTregと比較して、FOXP3のレベルが低い、例えば、メモリーTregと比較して、FOXP3が50%、60%、70%、80%、または90%未満であるTregである。サイトカイン産生Tregは、インターフェロンガンマを産生し得るTregであり、かつ、ナイーブTregと比較して、インビトロでの抑制力が低い(例えば、ナイーブTregと比較した抑制力が50%、60%、70%、80%、または90%未満である)Tregでもよい。本明細書中での発現レベルとは、mRNAまたはタンパク質の発現を指す場合がある。特に、CD45RA、CD25、CD4、CD45RO等の細胞表面マーカーに関しては、発現とは、細胞表面発現、すなわち、細胞表面に発現されるマーカータンパク質の量または相対量を指す場合がある。発現レベルは、当該技術分野で公知の方法により決定し得る。例えば、mRNAの発現レベルは、ノーザンブロッティング/アレイ解析によって決定してもよく、また、タンパク質の発現は、ウェスタンブロッティングによって、または好ましくは細胞表面発現用抗体染色を用いたFACSによって決定してもよい。
【0283】
特に、Tregは、ナイーブTregであってもよい。本明細書中で同義に用いられる「ナイーブ制御性T細胞、ナイーブT制御性細胞、またはナイーブTreg」とは、CD45RAを発現する(特に、CD45RAを細胞表面に発現する)Treg細胞を指す。よって、ナイーブTregは、CD45RA+と記載される。ナイーブTregが、一般に、ペプチド/MHCによって内因性TCRを介して活性化されていないTregを表すのに対し、エフェクター/メモリーTregは、刺激により内因性TCRを介して活性化されたTregに関する。典型的には、ナイーブTregは、ナイーブ以外のTreg細胞(例えば、メモリーTreg細胞)よりも、CD45RAを少なくとも10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、または90%多く発現しうる。代替的な見方によれば、ナイーブTreg細胞は、非ナイーブTreg細胞(例えば、メモリーTreg細胞)と比較して、少なくとも2倍、3倍、4倍、5倍、10倍、50倍、または100倍の量のCD45RAを発現しうる。CD45RAの発現のレベルは、当該技術分野の方法、例えば、市販の抗体を用いたフローサイトメトリーによって、容易に決定することができる。典型的には、非ナイーブTreg細胞は、CD45RAを発現しないか、もしくはCD45RAを低レベルで発現する。
特に、ナイーブTregはCD45ROを発現しなくてもよく、CD45RO-と考えられてもよい。よって、ナイーブTregは、メモリーTregと比較して、CD45ROの発現が少なくとも10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、または90%少なくてもよく、あるいは、代替的な見方によれば、メモリーTreg細胞と比較して、CD45ROの発現が少なくとも1/2、1/3、1/4、1/5、1/10、1/50、または1/100であってもよい。
【0284】
ナイーブTregは、上述の通り、CD25を発現するが、ナイーブTregの由来によっては、CD25の発現レベルが、メモリーTregにおける発現レベルと比べて低くなってもよい。例えば、末梢血から単離されたナイーブTregの場合、CD25の発現レベルは、メモリーTregと比べて、少なくとも10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、または90%低くてもよい。このようなナイーブTregは、中レベルから低レベルのCD25を発現すると考えてもよい。しかしながら、当業者であれば、臍帯血から単離されたナイーブTregでは、このような差異が見られない場合があることを理解するであろう。
【0285】
本明細書中で定義するナイーブTregは、典型的には、CD4+、CD25+、FOXP3+、CD127low、CD45RA+であってもよい。
【0286】
本明細書中で使用するCD127の低発現とは、同一の対象またはドナーからのCD4+非制御性細胞またはTcon細胞と比較して、CD127の発現レベルが低いことを指す。詳細には、ナイーブTregは、同一の対象またはドナーからのCD4+非制御性またはTcon細胞と比較して、CD127の発現が90%、80%、70%、60%、50%、40%、30%、20%、または10%未満であってもよい。CD127のレベルは、抗CD127抗体で染色した細胞のフローサイトメトリーを含む、当該技術分野で標準的な方法によって評価することができる。
【0287】
典型的には、ナイーブTregは、CCR4、HLA-DR、CXCR3、および/またはCCR6を発現しないか、または低レベルで発現する。詳細には、ナイーブTregは、メモリーTregと比較して、CCR4、HLA-DR、CXCR3、およびCCR6をより低いレベルで発現してもよく、例えば、少なくとも10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、または90%低いレベルで発現してもよい。
【0288】
ナイーブTregは、さらに、CCR7+およびCD31+を含む、さらに別のマーカーを発現してもよい。
【0289】
単離されたナイーブTregは、当該技術分野で公知の方法によって同定すればよく、そのような方法としては、単離された細胞の細胞表面における、上述のマーカーのいずれか1つ以上の一団の有無を決定することが挙げられる。例えば、CD45RA、CD4、CD25、およびCD127lowを使用して、ある細胞がナイーブTregであるかどうかを決定することができる。単離された細胞がナイーブTregであるか、または所望の表現型を有するか否かを決定する方法は、実施してもよい追加の工程に関連して後述するように実施することができ、また、細胞マーカーの存在および/または発現レベルを決定する方法は、当該技術分野では周知であり、例えば、市販の抗体を用いたフローサイトメトリーが挙げられる。
【0290】
好適には、Treg等の細胞は、対象から得られた末梢血単核細胞(PBMC)から単離される。好適には、前記PBMCを得る対象は、哺乳動物、好ましくはヒトである。好適には、前記細胞は、操作された細胞が投与される対象に対し、一致(例えば、HLA一致)しているか、または、自己由来である。好適には、前記治療される対象は、哺乳動物、好ましくはヒトである。前記細胞は、患者自身の末梢血(第1当事者)、または、造血幹細胞移植の場合、ドナーの末梢血(第2当事者)、もしくは血縁関係のない(unconnected)ドナー(第三者)からの末梢血、のいずれかから、エクスビボで生成されてもよい。好適には、前記細胞は、操作された細胞が投与される対象に対し、自己由来である。
【0291】
好適には、Tregは、細胞の集団の一部である。好適には、前記Tregの集団は、Tregを少なくとも70%含み、例えば、Tregを少なくとも75%、85%、90%、95%、97%、98%、または99%含む。このような集団を「富化Treg集団」とも称する。
【0292】
いくつかの態様では、Tregは、誘導性前駆細胞(例えば、iPSC)または胚性前駆細胞のTregへのエクスビボ分化に由来していてもよい。Tregへの分化前または分化後の前記誘導性前駆細胞または胚性前駆細胞に本明細書に記載の核酸分子またはベクターが導入されてもよい。分化の好適な方法は、当該技術分野で公知であり、Haque et al, J Vis Exp., 2016, 117, 54720(参照により本明細書に組み込む)に開示されている方法が挙げられる。
【0293】
本明細書中で使用する「従来のT細胞」またはTconもしくはTconv(本明細書中で同義に用いられる)という用語は、αβT細胞受容体(TCR)ならびに分化抗原群4(CD4)または分化抗原群8(CD8)であってもよい共受容体を発現し、かつ免疫抑制機能を有さないTリンパ球細胞を意味する。従来のT細胞は、末梢血、リンパ節、および組織に存在する。好適には、前記操作されたTregは、FOXP3をコードする配列を含む核酸を導入することによってTconから生成されてもよい。あるいは、前記操作されたTregは、IL-2およびTGF-βの存在下でのCD4+CD25-FOXP3-細胞のインビトロ培養によってTconから生成されてもよい。
【0294】
本明細書中のTregは、外因性のFOXP3を含まないTreg細胞と比較して、高い持続性を有し得る。本明細書中で使用する「持続性」は、Tregが特定の環境、例えばインビボ(例えば、ヒト患者または動物モデル)において生存できる時間の長さを定義するものである。本明細書中に開示するTregは、本明細書中の核酸分子を含まないTregと比較して、持続性が少なくとも10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、または90%高い場合がある。
【0295】
別の実施形態では、核酸分子、構築物、またはベクターが導入される標的細胞は、治療のための細胞ではない。ある実施形態では、前記細胞は生産宿主細胞である。前記細胞は、核酸の産生、例えばクローニング、またはベクターの産生、またはポリペプチドの産生のための細胞であってもよい。
【0296】
本発明はまた、本明細書中で定義または記載する細胞を含む細胞集団も提供する。ある細胞集団は、本明細書中で定義する核酸分子、発現構築物、またはベクターを含む本発明の細胞と、本発明の核酸分子、発現構築物、またはベクターを含まない細胞、例えば、形質導入されていない細胞もしくはトランスフェクトされていない細胞と、の両方を含む場合があることが理解されるであろう。好ましい実施形態では集団中の全ての細胞が本発明の核酸、発現構築物、またはベクターを含んでいてもよいが、本発明の核酸、発現構築物、またはベクターを含む細胞を少なくとも10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、95%、または99%有する細胞集団が提供される。
【0297】
また、本明細書中で定義または記載する細胞または細胞集団と本明細書中で定義するベクターとを含む医薬組成物も提供される。ベクターは、遺伝子治療に使用されてもよい。よって、細胞を投与するのではなく、代わりにベクターを投与して、対象における内因性細胞を改変し、導入された核酸分子を発現させるようにしてもよい。遺伝子治療に使用するのに適したベクターは、当該技術分野で公知であり、ウイルスベクターが挙げられる。
【0298】
医薬組成物とは、治療上有効量の薬学的に活性な薬剤、すなわち、前記細胞(例えば、Treg)、細胞集団、もしくはベクターを含むか、またはこのような薬剤からなる組成物である。医薬組成物は、製薬上許容可能な担体、希釈剤、または賦形剤(それらの組み合わせを含む)を含むことが好ましい。治療用途のための許容可能な担体または希釈剤は、製薬分野において周知であり、例えば、Remington’s Pharmaceutical Sciences, Mack Publishing Co. (A.R. Gennaro編、1985)に記載されている。薬学的担体、賦形剤、または希釈剤の選択は、意図する投与経路と標準的な薬務とを考慮して選択できる。前記医薬組成物は、担体、賦形剤、もしくは希釈剤として、またはそれらに加えて、任意の適切な結合剤、潤滑剤、懸濁剤、コーティング剤、または可溶化剤を含んでもよい。
【0299】
「製薬上許容可能」には、製剤が無菌かつパイロジェンフリー(発熱物質を含まない)であることが含まれる。担体、希釈剤、および/または賦形剤は、前記細胞またはベクターと適合し、そのレシピエントに対して有害でないという意味で、「許容可能」なものである必要がある。典型的には、前記担体、希釈剤、および賦形剤は、無菌かつパイロジェンフリーである生理食塩水または輸液媒体であるが、他の許容可能な担体、希釈剤、および賦形剤を使用してもよい。
【0300】
製薬上許容可能な担体の例としては、例えば、水、塩類溶液、アルコール、シリコーン、ワックス、ワセリン、植物油、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、リポソーム、糖、ゼラチン、ラクトース、アミロース、ステアリン酸マグネシウム、タルク、界面活性剤、ケイ酸、粘性パラフィン、香油、脂肪酸モノグリセリド、脂肪酸ジグリセリド、ペトロエスラル脂肪酸エステル(petroethral fatty acid esters)、ヒドロキシメチルセルロース、およびポリビニルピロリドン等が挙げられる。
【0301】
前記細胞、細胞集団、または医薬組成物は、所望の疾患または状態を治療および/または予防するのに適した方法で投与することができる。投与量および投与頻度は、対象の状態ならびに対象の疾患または状態の種類および重症度等の各種要因によって決定されるが、適切な用量は臨床試験によって決定されてもよい。医薬組成物はそれに応じて配合され得る。
本明細書に記載の細胞、細胞集団、または医薬組成物は、非経口投与、例えば、静脈内投与することもできるし、輸液技術により投与してもよい。前記細胞、細胞集団、または医薬組成物は、無菌水溶液の形態で投与されてもよく、該無菌水溶液は、他の物質、例えば、該溶液を血液と等張にするのに十分な塩類またはグルコースを含んでもよい。前記水溶液は、適切に緩衝(好ましくは、pH3~9に)されてもよい。医薬組成物はそれに応じて配合され得る。無菌条件下での好適な非経口製剤の調製は、当業者に周知の標準的な製薬技術によって容易に成し遂げられる。
【0302】
前記医薬組成物は、輸液媒体中、例えば無菌等張液中に、細胞を含んでもよい。前記医薬組成物は、ガラス製またはプラスチック製の、アンプル、使い捨て注射器、または複数回投与バイアルに封入してもよい。
【0303】
前記細胞、細胞集団、または医薬組成物は、単回投与で投与してもよく、複数回投与で投与してもよい。特に、前記細胞、細胞集団、または医薬組成物は、単回で、1回限りで投与されてもよい。医薬組成物はそれに応じて配合され得る。
【0304】
前記医薬組成物は、1種以上の活性剤をさらに含んでもよい。医薬組成物はさらに、リンパ球枯渇剤(例えば、サイモグロブリン、キャンパス-1H、抗CD2抗体、抗CD3抗体、抗CD20抗体、シクロホスファミド、フルダラビン)、mTORの阻害剤(例えば、シロリムス、エベロリムス)、共刺激経路を阻害する薬剤(例えば、抗CD40/CD40L、CTAL4Ig)、および/または特異的なサイトカイン(IL-6、IL-17、TNFalpha、IL18)を阻害する薬剤等の、1つ以上の他の治療薬を含んでもよい。
【0305】
治療する疾患/状態および対象、ならびに投与経路に応じて、前記細胞、細胞集団、または医薬組成物を様々な投与量(例えば、細胞数/kgまたは細胞数/対象で測定)で投与し得る。いずれにしても、医師が、任意の個々の対象に最も適した実際の用量を決定し、その用量は、当該特定の対象の年齢、体重および反応によって異なる。しかしながら、典型的には、本明細書中の細胞については、1対象当たり5×107~3×109個の細胞、または108~2×109個の細胞が投与され得る。
【0306】
前記細胞は、医薬組成物において使用するために適宜改変されてもよい。例えば、細胞は、凍結保存されて適切な時に解凍されてから、対象に注入されてもよい。
【0307】
本発明は、本明細書中の細胞、細胞集団、および/または医薬組成物を含むキットの使用をさらに含む。好ましくは、前記キットは、本明細書に記載の方法および使用、例えば、本明細書に記載の治療方法において用いるためのものである。好ましくは、前記キットは、当該キットの構成要素の使用説明書を含む。
【0308】
本明細書中の細胞、細胞集団、組成物、およびベクターは、疾患または状態、とりわけ、CARによって、またはCARを用いて治療され得る疾患または状態の治療または予防に用いるためのものであってもよい。前記細胞およびそれらを含む組成物は、養子細胞療法(ACT)のためのものである。本開示に係るCARを発現する、特にTreg細胞をはじめとする細胞の投与によって、様々な状態を治療し得る。上記のように、これは、免疫抑制、特にTreg細胞の免疫抑制効果に応答する状態であってもよい。よって、本明細書に記載の細胞、細胞集団、組成物、およびベクターは、対象において免疫抑制を誘導または達成するために使用されてもよい。投与されたTreg細胞、またはインビボで改変されたTreg細胞は、CARの発現によって標的化され得る。このような治療に適した状態としては、感染症、神経変性疾患、または炎症性疾患、あるいはより広範には、任意の望ましくないもしくは不必要なもしくは有害な免疫応答に関連付けられる状態が挙げられる。
治療または予防されるべき状態としては、炎症、別の言い方をすれば、炎症に関連付けられる状態または炎症を含む状態が挙げられる。炎症は、慢性であってもよく、急性であってもよい。さらに、炎症は、低レベルの炎症であってもよく、全身性炎症であってもよい。例えば、炎症は、代謝障害、例えばメタボリックシンドロームに関連して起こる炎症であってもよく、インスリン抵抗性またはII型糖尿病もしくは肥満等に関連して起こる炎症であってもよい。
【0309】
特に、前記細胞、細胞集団、ベクター、および医薬組成物は、移植片に対する寛容を誘導する手段、細胞性移植拒絶反応および/または液性移植拒絶反応を治療および/または予防する手段、移植片対宿主病(GvHD)、自己免疫疾患、またはアレルギー疾患を治療および/または予防する手段、組織修復および/または組織再生を促進する手段、あるいは、炎症を寛解させる手段を提供する。前記細胞、細胞集団、ベクター、および医薬組成物は、本明細書に記載の細胞、細胞集団、ベクター、または医薬組成物を対象に投与する工程を含む方法において使用されてもよい。
【0310】
本明細書中、「移植片に対する寛容を誘導する」とは、レシピエントにおいて移植された臓器に対する寛容を誘導することを指す。言い換えれば、移植片に対する寛容を誘導するとは、ドナーの移植臓器に対するレシピエントの免疫応答のレベルを低下させることを意味する。移植された臓器に対する寛容を誘導することによって、移植レシピエントが必要とする免疫抑制薬の量を減少させ得、あるいは、免疫抑制薬の使用を中止することが可能になり得る。
【0311】
例えば、前記操作された細胞、例えばTregは、黄疸、暗色尿、痒み、腹部膨隆、腹部圧痛、疲労、吐き気、嘔吐、および/または食欲不振等の疾患のうちの少なくとも1つの症状を軽減、減少、または改善させるために、疾患を有する対象に投与されてもよい。上記少なくとも1つの症状は、少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、または少なくとも50%軽減、低減、または改善され得、あるいは、上記少なくとも1つの症状は完全に緩和され得る。
【0312】
前記操作された細胞、例えばTregは、疾患の進行を遅延、減少、または阻止するために、疾患を有する対象に投与されてもよい。疾患の進行は、前記操作された細胞が投与されない対象と比較して、少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、または少なくとも50%遅延、減少、または阻止され得、あるいは、疾患の進行は完全に停止され得る。
【0313】
一実施形態では、前記対象は、免疫抑制療法を受けている移植レシピエントである。
【0314】
好適には、前記対象は哺乳動物である。好適には、前記対象はヒトである。
【0315】
移植は、肝臓移植、腎臓移植、心臓移植、肺移植、膵臓移植、腸管移植、胃移植、骨髄移植、血液柄付複合組織移植(vascularized composite tissue graft)、および皮膚移植から選択され得る。
【0316】
好適には、CARは、移植片(graft(transplant))のドナーには存在するが移植片のレシピエントには存在しないHLA抗原に特異的に結合可能な抗原結合ドメインを含んでもよい。
【0317】
好適には、移植は肝臓移植である。移植が肝臓移植である実施形態では、前記抗原は、移植された肝臓には存在するが患者には存在しないHLA抗原、NTCP等の肝臓特異的抗原、または、CCL19、MMP9、SLC1A3、MMP7、HMMR、TOP2A、GPNMB、PLA2G7、CXCL9、FABP5、GBP2、CD74、CXCL10、UBD、CD27、CD48、CXCL11等の拒絶反応時に発現が上昇する抗原であってもよい。
【0318】
上述の通り、代表的な好ましい一実施形態では、前記抗原はHLA-A2である。
【0319】
疾患または状態を治療するためのある方法は、本明細書中の細胞の治療的使用に関する。この点に関して、細胞は、既存の疾患または状態を有する対象に対して、その疾患または状態に関連付けられる少なくとも1つの症状を軽減、減少、または改善させるため、かつ/あるいは、疾患の進行を遅延、減少、または阻止するために、投与されてもよい。
【0320】
好適には、細胞性移植拒絶反応および/または液性移植拒絶反応を治療および/または予防するとは、移植レシピエントに必要な免疫抑制薬の量が減少するように有効量の細胞(例えば、Treg)を投与することを指す場合もあり、免疫抑制薬の使用を中止することを可能にする場合もある。
【0321】
疾患または状態を予防することは、本明細書中の細胞の予防的使用に関する。この点に関して、細胞は、疾患または状態にまだ罹患していないか、または、疾患または状態をまだ発症しておらず、かつ/あるいは、疾患または状態の症状を示していない対象に対して、当該疾患または状態を予防するため、または、当該疾患または状態に関連付けられる少なくとも1つの症状の発症を低減または防止するために、投与されてもよい。前記対象は、疾患または状態の素因を有している場合もあり、疾患または状態を発症するリスクがあると考えられる場合もある。
【0322】
自己免疫疾患またはアレルギー疾患は、乾癬および皮膚炎(例えば、アトピー性皮膚炎)を含む炎症性皮膚疾患;炎症性腸疾患(クローン病および潰瘍性大腸炎等)に関連付けられる応答;皮膚炎;食物アレルギー、湿疹、および喘息等のアレルギー症状;関節リウマチ;全身性エリテマトーデス(SLE)(ループス腎炎および皮膚ループスを含む);真性糖尿病(例えば、1型糖尿病またはインスリン依存性糖尿病);多発性硬化症;神経変性疾患、例えば、筋萎縮性側索硬化症(ALS);慢性炎症性脱髄性多発神経炎(CIPD)、ならびに若年性糖尿病から選択され得る。
【0323】
本明細書中の医療的使用または方法は、以下の工程を含み得る:
(i)細胞含有試料を単離するか、または、細胞含有試料を用意する工程;
(ii)前記細胞に、本明細書中で定義する核酸分子、構築物、またはベクターを導入する工程;
(iii)前記工程(ii)で得られた細胞を対象に投与する工程。
前記細胞は、本明細書中で定義するTregであってもよい。本方法の前記工程(ii)の前および/または後に、前記細胞含有試料から富化Treg集団を単離および/または生成してもよい。例えば、工程(ii)の前および/または後に単離および/または生成を行って、富化Treg試料を単離および/または生成してもよい。工程(ii)の前に富化を行って、本明細書に記載のCAR、ポリヌクレオチド、および/またはベクターを含む細胞および/またはTregを富化してもよい。
【0324】
好適には、前記細胞は、自己由来であってもよい。好適には、前記細胞は、同種異系であってもよい。
【0325】
好適には、前記細胞(例えば、前記操作されたTreg)は、リンパ球枯渇剤(例えば、上述の通り)等の1種以上の他の治療薬と組み合わせて投与されてもよい。前記操作された細胞、例えばTregは、前記1種以上の他の治療薬と同時に投与されてもよく、前記1種以上の他の治療薬と順番に(例えば、その前または後で)投与されてもよい。
【0326】
好適には、前記対象は哺乳動物である。好適には、前記対象はヒトである。
【0327】
細胞、例えばTregは、例えば抗CD3モノクローナル抗体または抗CD3モノクローナル抗体と抗CD28モノクローナル抗体との両方で処理することによって、本明細書に記載の核酸分子の導入前または導入後に、活性化および/または増殖させてもよい。増殖プロトコルは上述の通りである。
【0328】
前記細胞、例えばTregは、本方法の各工程後、特に増殖後に、洗浄されてもよい。
【0329】
前記操作された細胞、例えばTreg細胞の集団は、当業者に公知の任意の方法、例えばFACSまたは磁気ビーズソーティングによって、さらに富化されてもよい。
【0330】
本製造方法の各工程は、閉鎖された無菌細胞培養系で行われてもよい。
【0331】
本発明はさらに、本明細書中で定義する安全スイッチポリペプチドを、例えば細胞表面に、発現している細胞を除去するための方法または手段を提供する。前記細胞は、本明細書中で定義または記載する核酸分子またはベクターまたは組換え構築物を含む細胞、すなわち、当該核酸分子またはベクターまたは構築物が導入された細胞、例えば、本明細書に記載のベクターによって形質導入された細胞であってもよい。
【0332】
一般に、本方法は、標的細胞を、安全スイッチポリペプチドがその効果を引き出すことを可能にする条件または薬剤に曝露することを含む。このような条件は、本明細書中でいうところの許容的条件である。これは、細胞に、前記安全スイッチポリペプチドと共に細胞の除去を起こすように作用する薬剤を接触させること(対象への投与を含む)を含んでもよい。例えば、前記薬剤は、安全スイッチポリペプチドのための活性化分子または活性化基質であってもよい。上記のリツキシマブ-エピトープ含有スイッチの文脈では、本方法は、細胞を、リツキシマブまたはリツキシマブの結合特異性を有する抗体(すなわち、同等の抗体)に曝露する工程を含む。
【0333】
典型的には、リツキシマブは、補体媒介性の細胞死滅を起こすことでその効果を発揮するが、他の機構、例えばADCCが関与してもよい。したがって、一実施形態では、前記細胞は、補体と、リツキシマブ、または同等の抗体とに曝露されてもよい。
【0334】
前記方法には、細胞を除去させるためにインビトロで行われる方法、例えば、培養中に行われる方法が含まれる。ただし、主な用途は、インビボで細胞を除去すること、すなわち、以前に対象に投与された細胞を除去することである。
これは、インビボにおいて、以前に前記細胞が投与された対象、言い換えれば、前記安全スイッチポリペプチドを発現する本明細書中で定義する細胞、または前記安全スイッチポリペプチドを発現させるために内因性細胞を改変するためのベクターを用いたACTを以前に受けた対象に、前記リツキシマブまたは同等の抗体を投与することによって達成し得ることが理解されるであろう。補体は、対象に内因的に存在してもよい。
【0335】
よって、リツキシマブ、またはその結合特異性を有する抗体を、本発明の細胞と組み合わせてACTに使用するために提供してもよい。前記細胞または核酸またはベクターまたは前記細胞の製造のための構築物と、前記リツキシマブまたは同等の抗体とを、キットで提供してもよいし、組み合わせ製品として提供してもよい。
前記安全スイッチポリペプチドが細胞の表面に発現すると、リツキシマブまたは同等の抗体が当該ポリペプチドのRエピトープに結合することにより、細胞の溶解が起こる。
【0336】
リツキシマブの結合特異性を有する抗体とは、リツキシマブと同じ天然のエピトープに結合することが可能な抗体である。詳細には、前記抗体は、エピトープR1およびR2に結合可能である。
リツキシマブの結合特異性を有する抗体は、リツキシマブの抗原結合ドメインまたはリツキシマブ由来の抗原結合ドメインを含んでもよい。より詳細には、リツキシマブ由来のVLおよびVHドメイン、またはリツキシマブのCDRを含んでもよい。さらに、リツキシマブの抗原結合ドメインは、リツキシマブの結合特異性が保持される限り、(例えば、アミノ酸の置換、欠失、または挿入によって)改変されてもよい。
【0337】
上述のように、リツキシマブのバイオシミラーが入手可能であり、これらを使用してもよい。当業者であれば、リツキシマブの結合特異性を有する抗体を、当該抗体のための利用可能なアミノ酸配列を使用して、日常的に使用される方法を用いて容易に調製することができる。
【0338】
ある実施形態では、リツキシマブの結合特異性を有する抗体は、従来の免疫グロブリン形式である。すなわち、前記抗体は、軽鎖と重鎖、および定常領域と可変領域との両方を含み得る。前記抗体は2価であってもよい、すなわち、2つの抗原結合部位を含んでもよい。他の抗体形式を使用してもよく、例えば、単鎖形式または1価形式を使用してもよい。このように、前記抗体は、どのようなクラスもしくはタイプ、または形式であってもよい。
【0339】
細胞表面に発現する安全スイッチポリペプチド1つにつき、リツキシマブまたは同等の抗体の分子2つ以上が結合し得る。ポリペプチドの各Rエピトープは、リツキシマブまたは同等の抗体の別々の分子に結合し得る。
【0340】
移入された細胞を除去するという決定は、対象において検出される、これら移入された細胞が原因と考えられる望ましくない作用を理由になされる場合がある。例えば、許容できないレベルの毒性が検出される場合がある。
【0341】
CD20発現細胞を、抗体リツキシマブを用いた治療により、選択的に除いてもよい。CD20発現は、形質細胞には存在しないため、B細胞区画を除去したとしても、リツキシマブ治療後も液性免疫は保たれる。
【0342】
本発明はまた、細胞の安定性および/または抑制機能を増加させるための方法であって、本明細書中で提供する核酸分子、発現構築物、またはベクターを細胞に導入する工程を含む方法も提供し得る。抑制機能の増加は、上述のようにして、例えば、活性化された抗原特異的Tconv細胞を本発明の細胞と共培養し、例えば前記Tconv細胞によって産生されるサイトカインのレベルを測定することによって、測定することができる。抑制機能の増加は、非操作Treg、または、前記3つのポリペプチド(すなわち、安全スイッチポリペプチド、FOXP3、およびCAR)をコードする3つのポリヌクレオチド配列の配置が異なる核酸構築物、例えば、FOXP3、安全スイッチポリペプチド、およびCARをコードするポリヌクレオチドを5’から3’へ含む構築物を含むTregと比較して、少なくとも10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、または90%の増加であってもよい。
【0343】
本明細書中で定義する細胞、例えばTregの安定性の増加とは、非操作Treg、または、前記3つのポリペプチド(すなわち、安全スイッチポリペプチド、FOXP3、およびCAR)をコードする3つのポリヌクレオチド配列の配置が異なる核酸構築物、例えば、FOXP3、安全スイッチポリペプチド、およびCARをコードするポリヌクレオチドを5’から3’へ含む構築物を含むTregと比較して、それらの細胞の持続性もしくは生存率が高いこと、または、ある期間にわたってTreg表現型を保持する細胞の(例えば、FOXP3およびHelios等のTregマーカーを保持する細胞に対する)割合が高いことを指す。安定性の増加は、少なくとも10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、または90%の安定性の増加であってもよく、当該技術分野で公知の技術、例えば、ある細胞集団内のTreg細胞マーカーの染色とFACSによる分析とによって測定してもよい。
【0344】
本発明はまた、細胞内でキメラ抗原受容体(CAR)、安全スイッチ、およびFOXP3をコードする核酸分子からのFOXP3の発現を増強する方法であって、
(i)自殺部分を含む安全スイッチポリペプチドをコードする第1のヌクレオチド配列と、
(ii)FOXP3をコードする第2のヌクレオチド配列と、
(iii)CARをコードする第3のヌクレオチド配列と、を5’から3’へ含む核酸分子を選択することと、
前記核酸分子を前記細胞に導入することと、を含む方法も提供し得る。
【0345】
本方法は、前記核酸分子を製造する工程(例えば、FOXP3をコードするヌクレオチド配列を、自殺部分を含む安全スイッチポリペプチドをコードするヌクレオチド配列の下流、かつCARをコードするヌクレオチド配列の上流に位置決めする工程)をさらに含んでもよい。よって、前記細胞への核酸分子の導入後にFOXP3の発現の増強をもたらすのは、核酸分子内の上記のように5’から3’への方向に(i)、(ii)、および(iii)の順序である。特に、前述の通り、CARはHLA A2を標的とし得る。さらに、またはあるいは、前記核酸分子がSFFVプロモーターを含み、(i)、(ii)、および(ii)が前記プロモーターに作動可能に連結されていてもよい。
【0346】
さらなる態様において、本発明は、5’から3’へ、
(i)自殺部分を含む安全スイッチポリペプチドをコードする第1のヌクレオチド配列;
(ii)FOXP3をコードする第2のヌクレオチド配列;および
(iii)キメラ抗原受容体(CAR)をコードする第3のヌクレオチド配列、を含む核酸分子の、細胞内で自殺部分、FOXP3、およびCARを発現させるための使用であって、FOXP3の発現が増強される、使用を提供する。
【0347】
本方法または本使用は、安全スイッチとCARとFOXP3とをコードする核酸分子からのFOXP3の発現を「増強」することに関する。この点に関して、「増加する(increasing)」または「改善する(improving)」は、「増強する(enhancing)」と同義に使用される場合があり、前述のように、(i)、(ii)、および(iii)が本発明の核酸分子とは異なる順序で位置する(すなわち、5’から3’への方向に(i)、(ii)、および(iii)の順序ではない)核酸分子を用いて形質導入された細胞において得られるFOXP3mRNAまたはFOXP3タンパク質の発現レベルと比較して、形質導入細胞内のFOXP3mRNAまたはFOXP3タンパク質のレベルが高いことに関する。よって、本発明の核酸分子は、安全スイッチポリペプチド、FOXP3、およびCARをコードする同じヌクレオチド配列を含むがそれらのヌクレオチド配列が異なる遺伝子順序で存在する他の比較核酸分子と比較して、細胞におけるFOXP3の発現を増強するために用いることができる。
【0348】
別の態様において、本発明者らは、前記安全スイッチポリペプチドをコードするヌクレオチド配列がSFFVプロモーターに作動可能に連結されている場合、リツキシマブによって認識される少なくとも1つのCD20エピトープの自殺部分を含む安全スイッチポリペプチドを発現する核酸分子(例えば、本発明の核酸分子)を形質導入した細胞のリツキシマブに対する感受性が増加し得ることをさらに示した。この点に関して、本発明は、リツキシマブによって認識される少なくとも1つのCD20エピトープの自殺部分を含む安全スイッチポリペプチドを発現する細胞のリツキシマブに対する感受性を増加させる方法であって、前記細胞に、前記安全スイッチポリペプチドをコードするヌクレオチド配列であってSFFVプロモーターに作動可能に連結されたヌクレオチド配列を含む核酸分子を導入する工程を含む、方法をさらに提供する。
【0349】
代替的な見方によれば、本発明は、リツキシマブによって認識される少なくとも1つのCD20エピトープの自殺部分を含む安全スイッチポリペプチドを発現する細胞のリツキシマブに対する感受性を増加させる方法であって、SFFVプロモーターに作動可能に連結されたヌクレオチド配列から前記安全スイッチポリペプチドを発現させる工程を含む、方法を提供する。リツキシマブによって認識されるCD20エピトープを含む特定の安全スイッチポリペプチドは、前述した通りである。
【0350】
本発明は、SFFVプロモーターに作動可能に連結されたヌクレオチド配列を含む核酸分子の使用であって、前記ヌクレオチド配列が、リツキシマブに対する細胞の感受性を増加させるために、リツキシマブによって認識される少なくとも1つのCD20エピトープの自殺部分を含む安全スイッチポリペプチドをコードする、使用をさらに提供する。
【0351】
本明細書において「リツキシマブに対する細胞の感受性を増加させる」とは、細胞がリツキシマブによって欠失または枯渇させられる能力を高めることを意味する。よって、リツキシマブに対する感受性を増加させるとは、1つの態様においては、リツキシマブが特定の濃度で細胞を欠失または枯渇させる能力の増加(例えば、より多数の細胞またはより高い割合の細胞を欠失または枯渇させる能力、あるいは、特定の数の細胞または特定の割合の細胞をより短時間で欠失または枯渇させる能力)を指す。代替的な見方によれば、リツキシマブに対する感受性を増加させるとは、リツキシマブがより低い濃度で細胞を欠失または枯渇させる能力を指し得る。典型的には、リツキシマブによる欠失または枯渇に対する細胞の感受性の増加は、リツキシマブによって認識される少なくとも1つのCD20エピトープの自殺部分を含む安全スイッチポリペプチドをコードするヌクレオチド配列(特に、上記核酸と同じヌクレオチド配列)であってSFFVではないプロモーター、例えば、EFSまたはPGSであるプロモーターに作動可能に連結されたヌクレオチド配列を含む核酸分子を形質導入した細胞との比較である。よって、詳細には、感受性の増加とは、特定の濃度のリツキシマブでの処理後にSFFVプロモーターの制御下で安全スイッチポリペプチドを発現する細胞集団において得られる欠失率(%)または枯渇率(%)が、同じ濃度のリツキシマブでの処理後にSFFVではないプロモーター(例えば、EFSまたはPGS)の制御下で安全スイッチポリペプチドを発現する細胞集団において得られる欠失率または枯渇率と比較して、より高いことを指す場合がある。典型的には、この、より高い欠失率または枯渇率とは、少なくとも10%、20%、30%、40%、50%、または60%である場合がある。あるいは、リツキシマブに対する感受性の増加とは、SFFVではないプロモーター(例えば、EFSまたはPGS)の制御下で安全スイッチポリペプチドを発現する細胞集団において細胞を欠失または枯渇させるのに必要なリツキシマブの濃度と比較して、リツキシマブの濃度がより低い(例えば、リツキシマブの濃度が10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、または90%低い)場合でもSFFVプロモーターの制御下で安全スイッチポリペプチドを発現する細胞集団において同レベル(すなわち、同量)の欠失または枯渇を達成する能力を指す場合がある。
【0352】
細胞の欠失または枯渇は、前述したように決定および測定することができる。
本開示は、本明細書中で開示する例示的な方法および材料に限定されず、本明細書に記載の方法および材料と類似または同等の任意の方法および材料を、本開示の実施形態の実施または試験において用いることが可能である。数値範囲は、当該範囲を定義する数を含む。特に断らない限り、いずれの核酸配列も左から右へ5’から3’の方向に、また、アミノ酸配列は左から右へアミノからカルボキシの方向に、それぞれ書かれている。
【0353】
値の範囲が提供される場合、その範囲の上限と下限の間にある、文脈上明らかにそうでない場合を除き下限の単位の10分の1までの、各介在値も具体的に開示されていると理解される。記載された範囲内の任意の記載値または介在値とその記載された範囲内の任意の他の記載値または介在値との間にある、より小さい範囲は、それぞれ、本開示に包含される。これらのより小さい範囲の上限および下限は、独立して、当該範囲に含まれてもよく、当該範囲から除外されてもよく、上限および下限のどちらかがより小さい範囲に含まれる場合、上限および下限がどちらもより小さい範囲に含まれない場合、または上限および下限の両方がより小さい範囲に含まれる場合の各範囲も、記載された範囲における任意の具体的に除外された上限または下限を除いて、本開示に包含される。記載された範囲が上限および下限の一方または両方を含む場合、それらの含まれる上限および下限の一方または両方を除外した範囲も、本開示に含まれる。
【0354】
本明細書および添付の特許請求の範囲で使用する単数形「a」、「an」、および「the」は、文脈上明らかにそうでない場合を除き、複数の指示対象を含むことに留意されたい。
【0355】
本明細書中で使用する「含む(comprising)」、「含む(comprises)」、および「から構成される(comprised of)」という用語は、「含む(including)」、「含む(includes)」、または「含有する(containing)」、「含有する(contains)」と同義であって、包括的またはオープンエンド(open-ended)であり、記載されていない追加の部材、要素、または方法の工程を除外するものではない。「含む(comprising)」、「含む(comprises)」、および「から構成される(comprised of)」という用語には、「からなる(consisting of)」という用語も含まれる。
【0356】
本明細書に記載の刊行物は、単に本願の出願日以前の開示内容を示すものである。本明細書中のいかなる内容も、そのような刊行物が添付の特許請求の範囲に対する先行技術を構成すると認めるものと解釈されるべきではない。
【0357】
ここで、本発明を、実施例によりさらに説明するが、これらの実施例は、当該技術分野の通常の技術者による本発明の実施を助けることを意図したものであり、本発明の範囲を何ら制限するものではない。
【0358】
ここで、本発明を、実施例によりさらに説明するが、これらの実施例は、当該技術分野の通常の技術者による本発明の実施を助けることを意図したものであり、本発明の範囲を何ら制限するものではない。
【実施例
【0359】
<実施例1>
<材料および方法>
[クローニング]
10種の構築物(図1)を社内で設計し、全配列をヒト細胞での発現にコドン最適化し、製造した。構築物をpMP71バックボーンにクローニングし、D5a高効率細菌をプラスミドで形質転換し、選択剤アンピシリンで生育させた。Miniprep Kit(Qiagen)を用いてDNAを抽出した。PCRクローニングによりインサートをレンチウイルスバックボーンに移入した。構築物1は、特許請求の範囲に記載される本開示の構築物を表す。構築物II~VIは比較構築物であり、構築物VII~Xは対照構築物である。
【0360】
[PBMCの回収]
白血球コーン(Leukocyte cones)は、NHS Blood and Transplantによって供給された。密度遠心分離プロトコルを用いてPBMCを単離した。簡単に説明すると、血液を1xPBSで1:1希釈し、Ficoll-Paque(GE Healthcare)上に重ねた。試料を遠心分離し、白血球層を取り除いてPBSで洗浄した。
【0361】
[TregおよびTconvの単離プロトコル]
HLA-A*02陰性ドナー由来の血液コーンを用いてTreg集団およびTeff集団を得た。血液コーンを、RosetteSep(商標)Human CD4+ T Cell Enrichment Cocktailを用いたネガティブセレクションによるCD4富化に供した。その後、密度遠心分離を用いてCD4+細胞を単離した。次いで、CD25 MicroBeads II(Miltenyi)を用いたポジティブセレクションにより、CD4+CD25+T細胞を単離した。細胞のCD4+CD25-画分を保持し、従来のT細胞(Tconv)集団とした。CD4+CD25+画分を、フローサイトメトリー抗体CD4 FITC(OKT4,Biolegend)、CD25 PE-Cy7(BC96,Biolegend)、CD127 BV421(A019D5,Biolegend)、CD45RA BV510(HI100,Biolegend)、およびLIVE/DEAD(商標)Fixable Near-IR Dead Cell Stain(Thermofisher)で染色した後、FACSソーティングを行った。指示のある場合、CD4+CD25+CD127low(バルクTreg)またはCD4+CD25+CD127low CD45RA+(CD45RA+ Treg)を選別し、使用した。
【0362】
[Phoenix細胞]
レトロウイルスパッケージング細胞株Phoenix-GP(Gag Polを安定発現)をATCCから購入し、培養した。
【0363】
[Tconv培地]
10%熱不活性化ウシ胎児血清、ペニシリン、ストレプトマイシン、およびL-グルタミン(Gibco)を添加したRPMI-1640(Gibco)中で、ヒトTconvを生育させた。
【0364】
[Treg培地および増殖]
IL-2を添加したTexmacs培地(Miltenyi)中でヒトの制御性T細胞を培養し、Human T-Activator CD3/CD28 Dynabeads(商標)(Gibco)で活性化した。IL-2添加Treg培地を2~3日ごとに細胞に再供給した。Treg細胞のさらなる増殖を促進するために、Dynabeads(商標)による2回目の刺激を行った。
【0365】
[トランスフェクションおよびウイルス粒子作製]
(レトロウイルス)
Phoenix-GP細胞を播種し、24時間培養した。1日目に培地交換した後、該当するプラスミドDNAとエンベローププラスミドとでトランスフェクトした。トランスフェクション混合物を接着Phoenix細胞の表面全体に滴下し、さらに24時間インキュベートした。2日目に培地交換し、さらに24時間インキュベートした。3日目に、Phoenix細胞からレトロウイルスを含有する上清を取り出し、遠心分離して細胞破片を除去した。
(レンチウイルス)
HEK293T細胞を播種し、DMEM(Dulbecco’s Modified Eagle’s Medium)+10%ウシ胎児血清(FBS)中で24時間培養した。トランスフェクション試薬を室温に戻し、目的のDNA構築物/プラスミド、パッケージングプラスミド(pD8.91)、およびウイルスエンベロープ(pVSV-G)と混合した。希釈したDNAにPEIを加えて混合し、HEK293Tに添加した。トランスフェクションの48時間後に上清を回収し、ろ過し、ウイルスを濃縮した。
【0366】
[T細胞の形質導入]
Tconvを抗CD3および抗CD28 Dynabeads(Gibco)で活性化し、T細胞培地に再懸濁した。非組織培養処理した24ウェルプレートをRetroNectin(タカラバイオ(Takahara-bio)、大津、日本)でコーティングして調製し、細胞懸濁液をレトロウイルス上清/レンチウイルス上清と共に添加した。細胞をインキュベートし、1日おきに培地交換を行った。形質導入の7日後に細胞を実験に使用した。
【0367】
[CARおよびRQR8の発現を測定するためのフローサイトメトリー染色]
培養物からT細胞を取り出し、FACS緩衝液で洗浄し、FACS緩衝液中のHLA-A*02特異的デキストラマー(WB2720-APC,Immudex)を用いてHLA-A*02特異的CARについて染色した。その後、細胞を、まずPBS中のLIVE/DEAD(商標)Fixable Near-IR Dead Cell Stain(Thermofisher)で染色し、次いで、FACS染色緩衝液中で抗CD4 AF700(RPA-T4,BD)、抗CD34 FITC(QBEND/10,Thermofisher)、および抗CD3 PE-Cy7で染色した。FOXP3の細胞内染色のために、細胞を固定し、透過処理し、抗Foxp3 PE(150D/E4,Thermofisher)抗体で染色した。BD LSRIIフローサイトメーターで細胞を解析した。
【0368】
[フローサイトメトリーによる形質導入細胞の表現型決定]
培養物からT細胞を取り出し、上記のデキストラマーとLIVE/DEAD(商標)Fixable Near-IR Dead Cell Stainとを用いて、CARと生細胞について染色した。抗CD4 AF700、抗CD25 PE-Cy7(BC96,Biolegend)、抗CD39 PerCPCy5.5(A1,Biolegend、抗-CD62L PE-CF594(DREG-56,BD)、抗TIM3 BV786(7D3,BD)、抗TIGIT BV605(A15153G,Biolegend)、抗CD45RO BUV395(UCHL1,BD)、抗CD279 BUV737(EH12.1,BD)、および抗CD223 BV711(11C3C65,Biolegend)を用いて、細胞の表面染色を行った。細胞を透過処理し、抗Foxp3 PE(150D/E4,Thermofisher)で染色した。
【0369】
<IL-2飢餓アッセイ>
培養物中で15日目まで増殖させた形質導入Treg細胞を培養物から取り出し、磁気活性化細胞選別(Miltenyi)を用いて富化した。簡単に説明すると、細胞を、まず抗CD34(QBEND/10)-FITCで染色した後、Anti-FITC Microbeads(Miltenyi)で染色した。次に、これらの細胞をoctoMACS magnet(Miltenyi)に沿ってMSカラム(Miltenyi)に通し、RQR8発現細胞を分離した。これらの富化T細胞を、Human T-Activator CD3/CD28 Dynabeads(商標)と様々な濃度のIL-2と共に培養した。試験したIL-2濃度は、300IU/ml、150IU/ml、75IU/ml、30IU/ml、10IU/ml、および1IU/mlであった。インキュベーション後、細胞を取り出し、上記のようにCARおよびRQR8の発現を測定するために染色した。記載通りに死細胞染色剤を用いて死細胞を同定した。
【0370】
<CAR特異的Treg活性化アッセイ>
形質導入Tregを培養物中で14日間増殖させ、24時間休ませた後、抗CD3/28ビーズとHLA-A1(A1)またはHLA-A2(A2)を発現するK562細胞とでさらに18時間培養した。固定可能な生死判別色素と、CD4、RQR8およびCD69とで細胞を染色した。
<CAR特異的活性化および増殖アッセイ>
Tregを単離し、構築物Iを形質導入し、14日間増殖させた。アッセイを行うために、細胞を24時間休ませた後、Cell Trace Violet(CTV)で染色し、抗CD3/28ビーズと、HLA-A1(A1)またはHLA-A2(A2)を発現するK562細胞と共に5日間培養した。固定可能な生死判別色素、CD4、およびRQR8で細胞を染色した。
【0371】
<RQR8機能評価>
CD45.1マウスの脾臓およびリンパ節からCD3+リンパ球を単離し、RQR8を発現する構築物を形質導入した。雄のCD45.2マウスに放射線照射し、24時間後、10×10-6個の形質導入細胞を静脈内注射で移入した。移入後7日目に、該マウスから尾静脈出血により採血した。その後、8日目、11日目、および13日目に、半数のマウスをマウスCD20抗体で処理した(150μg/匹)。15日目に、全てのマウスを安楽死させ、肝臓、脾臓、および血液の組織を採取した。組織を単一細胞懸濁液にし、CD45.1およびRQR8(Qbend)で染色することにより、フローサイトメトリー解析用に準備した。
【0372】
<リツキシマブ媒介CAR-Treg除去>
14日間の増殖後、SFFVまたはEFSによって形質導入したTregを、補体と濃度を漸減させたリツキシマブ抗体と共に4時間インキュベートした。固定可能な生死判別色素(live/dead dye)、CD4、およびRQR8で細胞を染色した。
【0373】
<データ解析>
フローサイトメトリー解析用ソフトウェアFlowJo(Flowjo,LLC)を用いて、フローサイトメトリーデータを解析した。全ての統計解析は、Graphpad Prism v.5(Graphpad,Software)を用いて実施した。
【0374】
<結果>
図2は、T-エフェクター細胞(γ-レトロウイルス(γRV)による形質導入後)における、図1の実験構築物および対照構築物によってコードされた構成要素の発現差異(differential expression)を示し、これは、各構築物のコードされた構成要素の発現によって検出されたものである。デキストラマーの検出(すなわち、存在)によってCARの発現が確認され、FOXP3および安全スイッチポリペプチド(RQR8)の発現が示される。構築物Iは、CAR(デキストラマーの検出)、安全スイッチポリペプチド、およびFOXP3の発現を示す。デキストラマーレベルは、構築物IIおよびIVと比較すると、構築物Iで特に高く、構築物IのFOXP3レベルは著しく増加している。
【0375】
図3Aおよび図3Bは、γRVで低形質導入されたTregにおいて、発現パターンが維持されることを示す。図2に示され、図3で確認されるように、安全スイッチの発現、特にFOXP3の発現は、他の構築物と比較して、構築物Iから増加する。特に、構築物Iは、図3Bに示されるように、C+F+R+の強い発現、つまり3つの所望の構成要素の全ての強い発現を示し、C+F+R-等の望ましくない変異体の発現を伴わない。構築物Iからは所望の発現パターンの発現が増加する。各構成要素を異なる順序でコードするその他の構築物では、前記所望の発現パターンは減少し、望ましくない発現パターンの増加が見られる場合もある。
【0376】
次のステップでは、形質導入効率を調査した。図4は、レンチウイルスベクターでの形質導入後の発現結果を示している。良好な発現レベルが示されており、特に構築物IからのFOXP3発現が良好である。構築物Iでは、その他の実験構築物と比較して、非常に高いデキストラマーを確認できる。図5は、γRVとレンチウイルスの性能との比較を示している(構築物I(図5A)および構築物IV(図5B)の場合のレンチウイルスベクターとγRVベクターとの対照比較を示している)。これは、レンチウイルスベクターが効率的な細胞形質導入と遺伝子発現とを提供することを示している。これらの結果は、さらに、形質導入された構成要素の発現差異が構築物の遺伝子順序に依存し、使用されたウイルスベクターには依存しないことを示している。特に、構築物I内での遺伝子の順序が、構築物IVと比較して3つの構成要素の全てについて高い発現をもたらす。
【0377】
図6は、FOXP3含有構築物が形質導入細胞においてFOXP3タンパク質のレベルを増加させることを示しており、このことは、構築物Iの図6Bにおいて特に見られる。構築物VIおよびVIII(対照構築物VIIIはFOXP3をコードせず)と比較して形質導入ピークの右へのシフトによって示されているように、構築物Iの図6Bは、形質導入細胞(外因性および内因性のFOXP3)におけるFOXP3が、非形質導入細胞(内因性のFOXP3のみを発現)と比較して高いことを示している。
【0378】
図7は、系統不安定性(lineage instability)下の形質導入Treg細胞における外因性FOXP3発現、および形質導入されたFOXP3がTregに安定性を付与することを示している。構築物Iは、特に、内因性FOXP3発現とは無関係に持続的なFOXP3発現を実現する。11日目でもまだ発現を確認できる。
【0379】
図8は、γRV発現構築物(Phoenix GP産生/pMP71バックボーン/RD114aエンベロープ/LTRプロモーター)のさらなる検証研究の結果を提示している。これもやはり、構築物間の各モジュール(コードされた各構成要素)の発現差異を示している。構築物Iは、発現レベルの改善とモジュールの収束が見られることに基づいて選択した。構築物Iで得られたFOXP3発現レベルは、その他の実験構築物について見られるレベルよりも著しく高くなっている。
【0380】
図9は、レンチウイルスベクター(HEK293T産生/pLNTバックボーン/VSVgエンベロープ/SFFVプロモーター)を用いた構築物からの各モジュールの発現パターンを確認したものである。ここでもやはり、発現差異が示され、構築物Iで最良の発現が達成されていることがわかる。
【0381】
構築物Iによってもたらされる高いFOXP3発現レベルがTreg恒常性に及ぼし得る影響を調査した。図10は、FOXP3発現が増殖および細胞生存に影響を及ぼさないようであることを示しており、CARおよびFOXP3を発現する細胞とCARのみを発現する細胞とで、IL-2飢餓時の増殖および生存が全体的に類似していた。したがって、構築物Iによって達成される高いFOXP3発現レベルは、細胞にとって有害なものではない。
【0382】
FOXP3発現がTreg表現型に及ぼす影響を研究するため、種々のマーカー(CD25、CD62L、TIGIT、LAG3、CTLA4、およびCD45RO)の発現を調査した。結果を図11に示す。これは、構築物Iを形質導入したTreg細胞が、FOXP3発現の増強を示しながら、Treg表現型系統を維持することを示している。FOXP3の発現の改善以外に、Treg表現型への影響はない。
【0383】
図12は、異なるプロモーターを構築物Iまたは構築物VIIIと共に使用した場合に見られた形質導入効率を示す。FACSプロットは、CD4+細胞上のRQR8発現(y軸)とデキストラマー発現(x軸)とを示している(構築物Iを左に、構築物VIIIを右に示す)。データは、EFSプロモーターまたはSFFVプロモーターを使用して各構築物を発現させた場合に、類似の形質導入効率が得られたことを示している。構築物Iと構築物VIIIとの間で形質導入レベルを見ると、構築物VIIIの方が高い形質導入を示し、形質導入効率が構築物のサイズ(構築物Iは3つの遺伝子を持つが、構築物VIIIは2つの遺伝子を持つ)にどのように影響されるかを示している。
【0384】
発現がEFSプロモーターまたはSFFVプロモーターによって制御されている場合の、構築物Iまたは構築物VIIIのいずれかからCARを発現するTregの活性化を調査した。図13は、EFSプロモーターまたはSFFVプロモーターのいずれかを使用した場合に、構築物Iまたは構築物VIIIのいずれかを形質導入したTregが、HLA-A2抗原存在下でCARを介して活性化されることを示している。しかしながら、Treg活性化は、SFFVプロモーターを使用した場合の方がはるかに高い。形質導入Treg(構築物I)の増殖評価を実施したところ、図14に見られる結果が得られた。代表的なFACSプロットは、EFS形質導入細胞(上段のパネル)とSFFV形質導入細胞(下段のパネル)とについての、CTVおよびRQR8の共染色を示している。グラフは、5日後のRQR8+細胞の頻度とRQR8細胞の総数を示している。灰色の棒グラフは、EFS形質導入細胞を示し、黒色の棒グラフは、SFFV形質導入細胞を示す。ドットは、個々のドナーを表し、エラーバーは、標準偏差を示す(n=4~5)。データは、CAR-Tregが抗原特異的刺激後に増殖できること、およびSFFVプロモーターの使用によって増殖が増強されることを示している。
【0385】
RQR8は、構築物I内で安全スイッチとして使用される。肝臓におけるその有効性を実証するために、マウスT細胞にRQR8を発現する構築物を形質導入し、CD45.2マウスで追跡した。FACSプロット(図15)は、CD20非存在下(上段のパネル)およびCD20存在下(下段のパネル)の、7日目と15日目の表示した各組織におけるRQR8抗体での染色を示す。グラフは、血液については7日目と15日目、脾臓およびリンパ節については15日目の、CD45.1ゲート内のQbend画分の累積データを示している。ドットは、個々のマウスを示す。よって、リツキシマブの非存在下では15日目に肝臓で細胞が検出されるが、リツキシマブを添加すると、細胞が肝臓から首尾よく除去されることがわかる。
【0386】
さらに、EFSプロモーターまたはSFFVプロモーターのいずれかを用いて構築物Iを形質導入した細胞を使用したインビトロアッセイによると、リツキシマブが細胞を有効に枯渇させることができるが、構築物IがSFFVプロモーターから発現した場合には感受性が増加することが示されている(図16)。FACSプロットは、EFS形質導入細胞(上段のパネル)とSFFV形質導入細胞(下段のパネル)とについて、表示した各リツキシマブ濃度における生RQR8(Qbend+)細胞の百分率を示している。グラフは、補体のみで処理した細胞に対する、各条件における生RQR8+細胞の割合に基づいて算出した死滅率を示している。各グラフは、4回の個別の実験の平均値±標準偏差を示す。
【0387】
<結論>
結論として、図2図16に提示した結果により、前記所望の構成要素CAR(C)、安全スイッチ(R)およびFOXP3(F)の発現は、これらの構成要素をR-F-Cの順序でコードする構築物Iを用いることによって、当該構成要素を異なる順序、例えば構築物IV(F-C-R)または構築物II(F-R-C)等でコードする構築物と比較して改善させることができうるとともに、望ましくない発現パターンの発生頻度が減少すること、例えば、当該構成要素のうちの1つの発現が著しく減少するかまたは見られない等が減少するということが確認された。著しくそして驚くほど高いFOXP3発現レベルが達成され、かつ、これらはTregの増殖および生存にとって有害ではないことが示されている。
【0388】
さらに、データは、構築物の発現にSFFVプロモーターを使用することには、抗原の存在下でのCARの活性化の予想外の改善や、形質導入Tregの増殖の予想外の増加や、リツキシマブ媒介性枯渇に対する形質導入細胞の感受性の予想外の増加をはじめとする、明らかな追加の利点があることを示している。
図1
図2-1】
図2-2】
図3A
図3B
図4
図5
図6
図7
図8-1】
図8-2】
図9-1】
図9-2】
図9-3】
図10A
図10B
図11-1】
図11-2】
図12
図13
図14-1】
図14-2】
図15-1】
図15-2】
図16-1】
図16-2】
【配列表】
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【国際調査報告】