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特表2023-539608ナノセルロースの調製のための効率的なグリーンプロセス、新規な変性ナノセルロース及びその用途
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-09-15
(54)【発明の名称】ナノセルロースの調製のための効率的なグリーンプロセス、新規な変性ナノセルロース及びその用途
(51)【国際特許分類】
   C08B 15/00 20060101AFI20230908BHJP
   C08B 15/06 20060101ALI20230908BHJP
【FI】
C08B15/00
C08B15/06
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023513490
(86)(22)【出願日】2020-08-27
(85)【翻訳文提出日】2023-04-21
(86)【国際出願番号】 EP2020073959
(87)【国際公開番号】W WO2022042842
(87)【国際公開日】2022-03-03
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】301033396
【氏名又は名称】マックス-プランク-ゲゼルシャフト ツール フォーデルング デル ヴィッセンシャフテン エー.ヴェー.
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】マルクス・アントニエッティ
(72)【発明者】
【氏名】スヴィトラナ・フィロネンコ
(72)【発明者】
【氏名】エステル・エリーサベト・イェケル
【テーマコード(参考)】
4C090
【Fターム(参考)】
4C090AA04
4C090AA05
4C090BA24
4C090BB02
4C090BB12
4C090BB33
4C090BB36
4C090BB52
4C090BB53
4C090BB62
4C090BB99
4C090BC01
4C090BC08
4C090BC10
4C090BC27
4C090BD19
4C090BD23
4C090BD35
4C090BD36
4C090CA02
4C090CA04
4C090CA05
4C090CA06
4C090CA32
4C090CA34
4C090DA03
4C090DA08
4C090DA10
4C090DA11
4C090DA22
4C090DA26
4C090DA27
4C090DA28
4C090DA31
4C090DA40
(57)【要約】
本発明は、ギ酸アンモニウム並びに反応物及び溶媒としての少なくとも1つの酸の混合物を使用する、ナノセルロースを調製するための効率的な方法、新規な変性ナノセルロース及びその用途に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナノセルロースを調製するための方法であって、少なくとも以下の工程:
a) i)ギ酸アンモニウム、ii)少なくとも1つの酸及びiii)少なくとも1つのセルロース含有原料を含む混合物を提供する工程、
b) 工程a)で提供された前記混合物を、100℃以上、好ましくは140℃以上、より好ましくは155℃以上の反応温度で加熱する工程、
を含む、方法。
【請求項2】
前記ナノセルロースが、少なくとも1つの寸法が1000nm未満であり、かつ、化学的に誘導体化されている又はされていない、少なくとも50のD-グルコース単位の平均重合度を有するβ(1,4)結合D-グルコース単位を含むポリマー粒子を表す、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記少なくとも1つの酸が、1、2又は3個のカルボン酸基(-COOH)又はスルホン酸基を有する有機化合物等の有機酸、並びに硫酸、ハロゲン化水素酸、過ハロゲン酸及びリン酸等の無機酸を含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記少なくとも1つの酸が、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、グリコール酸、乳酸、シュウ酸、レブリン酸、マロン酸、コハク酸、リンゴ酸、マレイン酸及びアジピン酸等のモノ-及びジカルボン酸から選択され、ギ酸、プロピオン酸、グリコール酸、乳酸、レブリン酸及びコハク酸がよりいっそう好ましい、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記ギ酸アンモニウムと前記酸の合計とのモル比が、たとえば、0.2から1000、好ましくは0.5から10.0、より好ましくは1.0から5.0、及びさらにより好ましくは2.0から2.5である、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記セルロース含有原料が、微結晶セルロース、マイクロバイアルセルロース、海洋又はその他の無脊椎動物、オフィス古紙及び都市古紙等のリサイクル紙又は古紙、漂白されている又はされていない軟材及び硬材パルプ、化学(溶解)パルプ、脱リグニンパルプ、パルプリジェクト等の木材パルプ、植物繊維の形態のネイティブバイオマス、木材チップ、おがくず、わら、葉、茎又は殻に由来するセルロース、タイヤコード等のセルロース系合成繊維、並びにマーセライズドセルロース、バガス、ススキ及び竹等のその他のセルロース源から選択される、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記セルロース含有原料が、たとえば、カルボキシメチル化、カルボキシル化、酸化、硫酸化又はエステル化によって化学的に誘導体化される又はされない、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記セルロース含有原料が、たとえば、切断、剥離、高圧ホモジナイゼーション、ソニケーション又はその他の知られた方法によって機械的に前処理される若しくはされない、又は酵素加水分解によって前処理される若しくはされない、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記セルロース含有原料が、漂白されている軟材パルプ、Avicel PH-101等の微結晶セルロース及びコーティングされていない脱リグニン紙から得られるパルプから選択される、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
乾燥質量について計算される前記セルロース含有原料と前記ギ酸アンモニウム及び前記少なくとも1つの酸の合計との質量比が、たとえば、0.001から1、好ましくは0.01から0.25、より好ましくは0.02から0.20、及びさらにより好ましくは0.03から0.10である、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記ギ酸アンモニウム、前記少なくとも1つの酸、前記セルロース含有原料及び水の合計が、工程a)で供給される前記混合物の総質量に対して、80から100質量%、好ましくは90から100質量%及び別の実施形態では95から100質量%である、請求項1から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
工程b)における、前記反応温度が、100°Cから190°C、好ましくは140°Cから185°C、より好ましくは155°Cから180°Cの範囲であり、特に、160°C、170°C又は180°Cである、請求項1から11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
工程b)における圧力が、500hPaから50MPa、好ましくは1000hPaから1MPaである、請求項1から12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
工程b)における反応時間が、少なくとも30分、好ましくは少なくとも90分、より好ましくは少なくとも2時間である、請求項1から13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
工程b)における反応時間が、60分から48時間、好ましくは90分から12時間、より好ましくは2から4時間である、請求項1から13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記ナノセルロースが、水及び/又はアルコールを用いた洗浄によって、又はたとえば、蒸留、分画若しくは真空中での揮発性物質の除去によって、工程b)において得られる反応混合物から単離される、請求項1から15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
ギ酸及びその他の酸並びに過剰なギ酸アンモニウムが存在する場合に、工程a)中にリサイクルされる、請求項1から15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
請求項1から17のいずれか一項に記載の方法によって得られるナノセルロース。
【請求項19】
少なくともいくつかのセルロースポリマーを含むナノセルロースであって、前記セルロースポリマーが式(I)の繰り返し単位:
【化1】
及び式(II)の末端単位
【化2】
を含む、ナノセルロース。
【請求項20】
既に存在する又は前記セルロースポリマーの部分的な酸化によって生成されるアルデヒド基の還元的アミノ化を介して得られるアミノ基をさらに含む、請求項19に記載のナノセルロース。
【請求項21】
2.0から50.0mV、好ましくは5.0から40.0mV、及びより好ましくは8.0から35.0mVのゼータ電位を有する、請求項18から20のいずれか一項に記載のナノセルロース。
【請求項22】
0.2及び2.0質量%、好ましくは0.3から1.8質量%の窒素含有量を有する、請求項18から21のいずれか一項に記載のナノセルロース。
【請求項23】
X線回折によって測定される、70%から100%、好ましくは75から100%の範囲の結晶化度を有する、請求項18から22のいずれか一項に記載に記載のナノセルロース。
【請求項24】
100から15,000のグルコース単位又は500から5,000のグルコース単位の重合度を有する、請求項18から23のいずれか一項に記載のナノセルロース。
【請求項25】
請求項18から24のいずれか一項に記載のナノセルロースを含む、懸濁液、分散体又はコロイド。
【請求項26】
食品及び飲料における、たとえば、低カロリー添加剤、増粘剤、泡安定剤等の安定剤及びテクスチャ調整剤等の添加剤として、並びに香り及び風味を保護するためのマイクロカプセル又はコーティングとして;燃料電池及びスーパーキャパシタ用の膜として、導電性膜、ラウドスピーカーの振動フィルムとして、パッケージング材料における又はとして、吸水又は浄水における、水性染料を除去するためのヒドロゲルビーズ、水ろ過膜、ナノ複合重金属センサ、エアロゲル、凝集剤及び地下水浄化のためのナノ複合フィラー等として、熱可塑性樹脂及びエラストマー等の合成ポリマーのための強化添加剤として;紙/ボードコーティング及び強化用途のための、塗料、接着剤、ラテックス及びセメントのための添加剤として、刺激、掘削、仕上げ及びスペーサー流体として;化粧品又は医薬組成物における及びバイオ医学用途における、ドラックデリバリー、組織工学、骨修復材料(bone recovery materials)、バイオセンサ、バイオ接着剤及びマイクロカプセル等としての、請求項18から24のいずれか一項に記載のナノセルロース又は請求項25に記載の分散体又はコロイドの使用。
【請求項27】
請求項18から24のいずれか一項に記載のナノセルロース又は請求項25に記載の分散体又はコロイドを含む、食品、飲料、膜、フィルム、パッケージング材料、吸水又は浄化材料、重金属センサ、エアロゲル、凝集剤、強化合成ポリマー、紙、ボード、塗料、接着剤、ラテックス、セメント、刺激流体、掘削流体、仕上げ流体、スペーサー流体、化粧品又は医薬組成物、組織及び骨修復材料、バイオセンサ及びバイオ接着剤。
【請求項28】
セルロース含有原料の処理のための、特に、請求項18から24のいずれか一項に記載のナノセルロース等のナノセルロースの調製(prepration)のためのギ酸アンモニウムの、又は有機酸との組み合わせにおけるギ酸アンモニウムの、使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ギ酸アンモニウムと、反応物及び溶媒としての少なくとも1つの酸との混合物を使用する、ナノセルロースを調製するための効率的な方法、新規な変性ナノセルロース及びその用途に関する。
【背景技術】
【0002】
セルロース、β(1,4)結合D-グルコース単位の直鎖状ポリマーは、地球上で、最も利用可能なポリマーであり、かつ、その生体適合性、無毒性及び並外れた機械的特性により、数多くの用途において使用されている。セルロースの単離、特に植物繊維からの単離は、典型的に、アルカリ抽出及び漂白からなる化学処理を伴う。
【0003】
過去数十年間において、いわゆるナノセルロースの調製及び新しい用途が、大きな関心を集めている。用語「ナノセルロ-ス」は、少なくとも1つの寸法がナノスケールである、セルロース材料について、頻繁に使用される。セルロースの特性とナノ材料の特徴のユニークな組み合わせが、材料科学において新たな領域を開いた。
【0004】
今日、3つ主要なタイプのナノセルロース材料:バクテリアナノセルロース(BNC)、機械的に剥離されたセルロースナノファイバー(CNF)及び加水分解的に抽出されたセルロースナノクリスタル(CNC)が存在する(以下の概要を参照:Klemm et al., Nanocelluloses: A New Family of Nature-Based Materials“, Angew. Chem. Int. Ed. 2011, 50, p. 5438 to 5466; A. Dufresne, Nanocellulose: a new ageless bionanomaterial“, Materials Today, Vol. 16, No. 6, 2013 and Klemm et al., Nanocellulose as a natural source for groundbreaking applications in materials science: Today’s state“, Materials Today, Vol 21, Number 7, 2018)。
【0005】
それらの製造は空時収率が低いため、非常にコストがかかるが、BNCは、典型的に、非常に高純度で得られ、すなわち、面倒な精製工程なしに医薬用途に適用される。最も一般的に用いられるバクテリアは、Gluconacetobacter属の酢酸バクテリアである。生合成の間、セルロース鎖が製造され、かつ、断面寸法が典型的に2から20 nmの範囲であり及び4,000から10,000のグルコース単位の重合度を有するフィブリルに凝集する。これらのフィブリルは、通常、少数の欠陥又はアモルファスドメインを示す。
【0006】
CNFは、最も一般的に及び大規模なスケールで、脱リグニン化され、及び好ましくは漂白されたパルプから製造される。繊維の機械的な剥離が、たとえば、高圧ホモジナイザー、マイクロフルイダイザー、一般的なリファイナー、高速ブレンダー及びエクストルーダー、又はボールミル、蒸気爆砕及びウルトラソニケーション等の技術を使用することによって、実施される。これらの方法は、非常に単純であるが、高エネルギーインプットを必要とし、繊維に損傷を与え、フィブリルの直径及び長さが広く分布したCNFを製造する。一般的に、CNFは、5から60 nmの直径及び100 nmから10 mmの長さを示し、重合度が500以上である。
【0007】
硫酸を使用した酸加水分解を介する、木材パルプ及び綿からのCNCの単離は、1940年代に最初に報告された。酸が、よりアクセスしやすい及び/又は不規則なセルロースドメインを分解して、高結晶性ドメインを損傷なく残すことはよく理解されている。CNCは典型的に、長さ100から250 nm及び直径5から70 nmの寸法を有し、500から15,000の重合度を有する。
【0008】
CNCを単離する新規な方法には、塩酸、臭化水素酸、クエン酸及びリン酸等の酸を用いた、酸化及び加水分解が含まれる。酸の選択は、コロイド安定性及び熱安定性、大きさ並びにCNCの表面電荷に直接影響を与える。たとえば、リン酸及び塩酸の加水分解は、低電荷含有量又は全くない電荷含有量のCNCを生成し、かつ、CNCは典型的に凝集するが、高い熱安定性を有する。したがって、安定かつ予測可能なナノ材料が調製されることを確実にするために、各単離工程の反応条件を最適化することが重要である。CNCの最も一般的な開始材料は、木材パルプ及び綿であり、藻類、バクテリア及び尾索動物並びにココナッツの殻、もみ殻及びバナナ偽茎等の廃材である。
【0009】
しかしながら、様々な用途におけるそれらの非常に大きな可能性にもかかわらず、ナノセルロースの商業的な実施の主要な欠点は、非常に高いエネルギーの消費であり、特にCNF及びCNCにおける、それらの低い長期間安定性及び保存性もまた、重要な問題を提示することがわかった。
【0010】
結果として、これらの問題を解消するために様々な試みが行われた。
【0011】
これらの試みには、機械的切断、酸加水分解、酵素的前処理、及び静電反発によって分解を助けるカルボキシメチル化又は2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシル(TEMPO)酸化を通じた荷電基の導入等の前処理が含まれる。(参照 Klemm et al., Nanocellulose as a natural source for groundbreaking applications in materials science: Today’s state“, Materials Today, Vol 21, Number 7, 2018並びに米国特許出願第2014/0155301号、米国特許出願第2015/0171679号及び中国特許第102180979号において引用される文献)
【0012】
同様のアプローチが、K. Watanabe et al., Cytotechnology 13 (1993) 107-114によって開示され、ここで、セルロースは、トリメチルアンモニウムヒドロキシプロピル基、ジエチルアミノエチル基、アミノエチル基及びカルボキシメチル基等のカチオン性表面電荷を導入することによって化学的に変性された。
【0013】
さらに高度なアプローチは、反応媒体としてイオン性液体又は深共晶溶媒を使用する前処理又は調製方法を含む(H. Tadesse and R. Luque, Advances on biomass pretreatment using ionic liquids“, Energy Environ. Sci., 2011, 4, 3913において、概要が提供される)。
【0014】
Li et al., Recyclable deep eutectic solvent for the production of cationic nanocelluloses“, Carbohydrate Polymers, Vol. 199, 1, 2018, p.219-227において、グアニジウム基を有する、新規な変性ナノセルロースが開示され、アミノグアニジン塩酸塩及びグリセロール、試薬及び反応媒体として作用する深共晶溶媒を用いたジアルデヒドセルロースのカチオン化、その後の機械的な分解を含む2段階の手順によって調製される。開始材料である、ジアルデヒドセルロースは、過ヨウ素酸ナトリウムを用いたセルロース(漂白されたクラフトバーチパルプ)の酸化によって調製される。
【0015】
酸化及び変性手順は、高価な化学物質を用いて実施され、セルロースの機械的強度を弱め、したがって、商用的な用途を妨げる。
【0016】
炭水化物を、価値ある純度の高い(fine)化学物質に変換するために、試薬及び反応媒体の両方としてギ酸アンモニウムを使用することは、S. Filonenko, A.Voelkel and M. Antonietti, Valorization of monosaccharides towards fructopyrazines in a new sustainable and efficient eutectic medium“ Green Chem., 2019, 21, 5256において知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】米国特許出願第2014/0155301号
【特許文献2】米国特許出願第2015/0171679号
【特許文献3】中国特許第102180979号
【非特許文献】
【0018】
【非特許文献1】Klemm et al., Nanocelluloses: A New Family of Nature-Based Materials“, Angew. Chem. Int. Ed. 2011, 50, p. 5438 to 5466
【非特許文献2】A. Dufresne, Nanocellulose: a new ageless bionanomaterial“, Materials Today, Vol. 16, No. 6, 2013
【非特許文献3】Klemm et al., Nanocellulose as a natural source for groundbreaking applications in materials science: Today’s state“, Materials Today, Vol 21, Number 7, 2018
【非特許文献4】K. Watanabe et al., Cytotechnology 13 (1993) 107-114
【非特許文献5】H. Tadesse and R. Luque, Advances on biomass pretreatment using ionic liquids“, Energy Environ. Sci., 2011, 4, 3913
【非特許文献6】Li et al., Recyclable deep eutectic solvent for the production of cationic nanocelluloses“, Carbohydrate Polymers, Vol. 199, 1, 2018, p.219-227
【非特許文献7】S. Filonenko, A.Voelkel and M. Antonietti, Valorization of monosaccharides towards fructopyrazines in a new sustainable and efficient eutectic medium“ Green Chem., 2019, 21, 5256.
【非特許文献8】Segal et al., Textile Research Journal, October 1959, p. 786 to 794
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
上述の進歩にもかかわらず、毒性又は危険性のある試薬を用いる必要がなく、容易に入手することができる化合物から開始される、ナノセルロース材料を調製するための効率的なグリーンプロセスを提供する必要が依然として存在する。
【0020】
本発明のさらなる目的は、安定性が向上した、すなわち、分散体又はコロイドとして適用された場合に、不可逆的に凝集する傾向が低減された、ナノセルロースを提供することであった。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明の一態様では、ナノセルロースを調製するための方法であって、少なくとも以下の工程:
a) i)ギ酸アンモニウム、ii)少なくとも1つの酸及びiii)少なくとも1つのセルロース含有原料を含む混合物を提供する工程、
b) 工程a)で提供された前記混合物を、100℃以上の反応温度で加熱する工程、
を含む、方法が提供される。
【0022】
本発明のさらなる態様には、上述の方法によって得られるナノセルロース及びそれらの用途が包含される。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1図1は、上の実施例1による微結晶セルロースから調製されたナノセルロースのTEM画像を示す。
図2図2は、上の実施例1による微結晶セルロースから調製されたナノセルロースのTEM画像を示す。
図3図3は、上の実施例6による軟材パルプから調製されたナノセルロースのTEM画像を示す。
図4図4は、上の実施例6による軟材パルプから調製されたナノセルロースのTEM画像を示す。
図5図5は、上の実施例11による脱リグニンパルプから調製されたナノセルロースのTEM画像を示す。
図6図6は、上の実施例11による脱リグニンパルプから調製されたナノセルロースのTEM画像を示す。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明には、以下本明細書において開示される、好ましい実施形態、範囲パラメーターと、互いに又は開示される最も広い範囲又はパラメーターとの全ての組み合わせが包含される。
【0025】
用語「含む」、「たとえば(for example)」、「たとえば(e.g.)」、「等(such as)」及び「等(like)」は、本明細書において使用される場合、それぞれ「含むが、限定されるものではない」又は「たとえば、限定されることなく」の意味を意味する。
【0026】
用語「ナノセルロース」は、本明細書において使用される場合、少なくとも1つの寸法が1000nm未満であり、少なくとも50のD-グルコース単位の平均重合度を有するβ(1,4)結合D-グルコース単位を含むポリマー粒子を表す。これらのナノセルロースは、化学的に誘導体化されてもよく又はされなくてもよい。
【0027】
一実施形態では、平均重合度は、100から15,000、好ましくは200から10,000である。
【0028】
明細書の疑義を避けるために、「少なくとも1つの寸法が1000nm未満である」には、3から200nm、好ましくは5から100nmの範囲、より好ましくは5から30nmの範囲、及び最も好ましくは5から20nmの範囲の平均断面、並びに15から5000nm、好ましくは50から1000nmの範囲、より好ましくは70から800nmの平均長さを有する粒子が含まれる。
【0029】
一実施形態では、アスペクト比、すなわち、ナノセルロースの長さ及び断面の間の比は、1より大きく、好ましくは2以上、より好ましくは2から100又は2から50である。
【0030】
本方法の工程a)において、i)ギ酸アンモニウム、ii)少なくとも1つの酸及びiii)少なくとも1つのセルロース含有原料を含む混合物が提供される。
【0031】
適切な酸には、1、2又は3個のカルボン酸基(-COOH)又はスルホン酸基を有する有機化合物等の有機酸、並びに硫酸、ハロゲン化水素酸、過ハロゲン酸及びリン酸等の無機酸が含まれる。
【0032】
好ましい酸は、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、グリコール酸、乳酸、シュウ酸、レブリン酸、マロン酸、コハク酸、リンゴ酸、マレイン酸及びアジピン酸等のモノ-及びジカルボン酸であり、なかでも、ギ酸、プロピオン酸、グリコール酸、乳酸、レブリン酸及びコハク酸がよりいっそう好ましい。
【0033】
ギ酸アンモニウム及び有機酸を混合することにより、単一成分と比較して、混合物の融点が著しく低下するため、さらなる他の溶媒を加えることを必要とせずに、混合物は試薬として及び溶媒として同時に機能し得るということは本発明の重要な発見である。これらの、いわゆる深共晶混合物は、セルロース含有原料の取り扱いを容易にして、かつ、溶解度を増加させる。
【0034】
一実施形態では、ギ酸アンモニウムと酸の合計とのモル比が、たとえば、0.2から1000、好ましくは0.5から10.0、より好ましくは1.0から5.0、及びさらにより好ましくは2.0から2.5である。
【0035】
モル比を高くする及び低くすることは、原理的に可能であるが、利益を提供するものではない。
【0036】
したがって、本発明は、ナノセルロースを調製するための、ギ酸アンモニウム、及び有機酸とのそれらの混合物の使用を包含する。
【0037】
工程a)において提供される混合物は、セルロース含有原料をさらに含む。
【0038】
本明細書において使用される場合、セルロース含有原料には、リグニン及び/又はヘミセルロース及び/又はその他の構造ビルディングブロックと結合しているかどうかに関わらず、セルロースを含有する任意の原料が含まれる。
【0039】
例には、
微結晶セルロース、マイクロバイアルセルロース、海洋又はその他の無脊椎動物、オフィス古紙及び都市古紙等のリサイクル紙又は古紙、漂白されている又はされていない軟材及び硬材パルプ、化学(溶解)パルプ、脱リグニンパルプ、パルプリジェクト等の木材パルプ、植物繊維の形態のネイティブバイオマス、木材チップ、おがくず、わら、葉、茎又は殻に由来するセルロース、タイヤコード等のセルロース系合成繊維、並びにマーセライズドセルロース等のその他のセルロース源が含まれる。さらなる例には、バガス、ススキ及び竹が含まれる。
【0040】
セルロース含有原料は、たとえば、カルボキシメチル化、カルボキシル化、酸化、硫酸化又はエステル化によって化学的に誘導体化されていてもよく又はされていなくてもよい。
【0041】
セルロース含有原料が、たとえば、切断、剥離、高圧ホモジナイゼーション、ソニケーション又はその他の知られた方法によって機械的に前処理されていてもよく若しくはされていなくてもよい、又は酵素加水分解によって前処理されていてもよく若しくはされていなくてもよい。
【0042】
しかしながら、一実施形態では、セルロース含有原料は、化学的に誘導体化されておらず、酵素的に又は機械的に前処理されていない。
【0043】
セルロース含有原料の具体的な例には、漂白されている軟材パルプ、Avicel PH-101等の微結晶セルロース及びコーティングされていない脱リグニン紙から得られるパルプが含まれる。
【0044】
一実施形態では、セルロース含有原料と、ギ酸アンモニウム及び少なくとも1つの酸の合計との質量比は、たとえば、0.001から1、好ましくは0.01から0.25、より好ましくは0.02から0.20、及びさらにより好ましくは0.03から0.10である。
【0045】
特にその他の言及がない限り、セルロース含有原料の量は、それらが典型的に様々な量の(残留)水を含むにも関わらず、それらの乾燥質量に基づいて計算され及び与えられる。
【0046】
反応が、水の存在に対して、あまり敏感ではないことがわかった。結果として、工程a)において提供される反応混合物中の特定の量の水は、許容範囲である。
【0047】
したがって、一実施形態では、ギ酸アンモニウム、少なくとも1つの酸、セルロース含有原料及び水の合計が、工程a)で供給される混合物の総質量に対して、80から100質量%、好ましくは90から100質量%及び別の実施形態では95から100質量%であり、残りは典型的に適用された開始材料からの不純物である。
【0048】
上述の化合物を含む反応混合物を提供することは、上で定義される反応を可能にする、当業者に知られた任意の方法、任意の添加順序、及び当業者に知られた任意の容器で実施され得る。
【0049】
工程b)における、反応温度は、100°C、好ましくは140°C以上、より好ましくは155°C以上である。
【0050】
一実施形態では、反応温度は、100°Cから190°C、好ましくは140°Cから185°C、より好ましくは155°Cから180°Cの範囲であり、特に、160°C、170°C又は180°Cである。
【0051】
ギ酸アンモニウムは、180°C超の温度で分解が始まることが知らており、前述のより高い温度も可能であるが、ホルムアミド等の望ましくない副生成物の形成を増加させ得る。100°C未満の温度では、効率的に所望のナノセルロースを得るには反応が遅くなりすぎる。
【0052】
圧力条件は、特に限定されず、工程b)における圧力は、500hPaから50MPa、好ましくは1000hPaから1MPaであり得る。ギ酸アンモニウムの分解、及び水、ギ酸又はその他の有機酸等の低沸点成分の形成の可能性により、しかしながら、反応は、工程a)において、反応混合物を閉じ込めてビルドアップする、及び所望の温度になるまで加熱する、すなわち、一定容積又は一定容積の条件に近い、圧力下で実施される。
【0053】
本発明の方法は、特にその工程b)は、その目的のために適切であり、かつ、当業者に知られた、任意の容器又は反応器中で実施され得る。
【0054】
好ましくは、反応は、オートクレーブ中、又は一定容積又は一定容積に近い条件下で、方法を実施することができる反応器中で実施される。
【0055】
反応時間は、たとえば、少なくとも30分、好ましくは少なくとも90分、より好ましくは少なくとも2時間である。
【0056】
一実施形態では、反応時間は、60分から48時間、好ましくは90分から12時間、より好ましくは2から4時間である。
【0057】
反応時間を長くすることは可能であるが、実質的になんらの利点を加えるものはなく、反応時間を短くすることは、所望のナノセルロースの収量を減少させる可能性がある。
【0058】
工程b)において、所望のナノセルロースを含む反応混合物が得られる。ナノセルロースを単離するために、水、ギ酸及びその他の酸並びに存在する場合にはホルムアミド等の揮発性副生成物は、水及び/又はアルコールを用いた単純な洗浄によって、又は蒸留、分画によって、若しくは真空中で除去され得る。
【0059】
ナノセルロースは、本発明に包含されるコロイド、分散体又は懸濁液を形成させるために、ボルテックス混合又はソニケーションによって、水中に再分散され得る。
【0060】
所望の場合には、ギ酸及びその他の酸並びに過剰なギ酸アンモニウムは、工程a)にリサイクルされ得る。
【0061】
本発明の方法によって得られるナノセルロースは、機械的に調製されたナノセルロースと比較して、より高いゼータ電位を示し、かつ、ナノセルロース内の少なくともいくつかのセルロース鎖の少なくとも還元末端の化学修飾を示すより高い窒素含有量を示し、したがって、新規であり、本発明に含有される。
【0062】
理論に拘束されることを望まないが、工程b)において、ギ酸アンモニウムは、セルロース鎖の少なくともいくつかの還元末端と反応して、β(1,4)結合D-グルコース単位のポリマーとしてのセルロースに典型的な式(I)の繰り返し単位
【化1】
及び式(II)の末端単位
【化2】
を含むセルロースポリマーを、還元的アミノ化によって、形成することが推定される。
【0063】
それらの起源によってセルロース含有原料が典型的に多かれ少なかれ構造的な欠陥を含むという事実、並びに、処理及び/又は反応工程a及びb)の実施の間に、酸素は典型的に除去されないという事実により、さらなるアミノ基が、既に存在する又は、部分的な酸化によって生成したアルデヒド基の還元的アミノ化を介して、ナノセルロースのセルロース鎖中に、あるいは以下で規定される本発明のナノセルロースについて観察される典型的な窒素含有量を示すセルロース鎖中に、反応工程b)の間に、導入され得る。
【0064】
アミノ化の結果のマクロ効果として、本発明のナノセルロースは、水中に分散された場合又はコロイドとして、通常高い安定性を示す。これらの分散体及びコロイドは、大量のゲルを形成することなく、室温で2週間保存された後も安定である。
【0065】
ナノセルロースは、高い結晶化度をさらに示す。
【0066】
以下の実施例において記載される方法によって測定される、本発明のナノセルロースのゼータ電位は、典型的に2.0から50.0mV、好ましくは5.0から40.0mV、及びより好ましくは8.0から35.0mVの範囲である。
【0067】
以下の実施例において記載される方法による元素分析によって測定される、ナノセルロースの窒素含有量は、典型的に、0.2から2.0質量%、好ましくは0.3から1.8質量%である。
【0068】
以下の実施例において記載される方法によるX線回折によって測定される、ナノセルロースの結晶化度は、典型的に、70%から100%、好ましくは75から100%の範囲である。
【0069】
ナノセルロースの重合度は、セルロース含有原料に強く依存するが、典型的に、100から15,000のグルコース単位、及び別の実施形態では、500から5,000である。
【0070】
本発明のナノセルロース、それを含むコロイド、分散体及び懸濁液は、幅広い用途において有用である。これには、食品及び飲料における、たとえば、低カロリー添加剤、増粘剤、泡安定剤等の安定剤及びテクスチャ調整剤等の添加剤として、並びに香り及び風味を保護するためのマイクロカプセル又はコーティングとしての、これらの使用が含まれる。
【0071】
それらは、技術的な用途において、燃料電池及びスーパーキャパシタ用の膜等として、導電性膜、ラウドスピーカーの振動フィルムとして、パッケージング材料における又はとして、吸水又は浄水における、水性染料を除去するためのヒドロゲルビーズ、水ろ過膜、ナノ複合重金属センサ、エアロゲル、凝集剤及び地下水浄化のためのナノ複合フィラー等として、熱可塑性樹脂及びエラストマー等の合成ポリマーのための強化添加剤として、さらに有用である。
【0072】
さらなる技術的な用途には、紙/ボードコーティング及び強化用途、塗料、接着剤、ラテックス及びセメントのための添加剤、刺激、掘削、仕上げ及びスペーサー流体が含まれ、新規ナノセルロースは、安定剤、増粘剤、せん断減粘剤、プロパント又は強化剤として機能する。
【0073】
その他の用途には、化粧品又は医薬組成物における及びバイオ医学用途における、ドラックデリバリー、組織工学、骨修復材料(bone recovery materials)、バイオセンサ、バイオ接着剤及びマイクロカプセルのため等の、それらの使用が含まれる。
【0074】
本発明は、本発明によるナノセルロース又はそれらのコロイド、懸濁液若しくは分散体を含む、食品、飲料、膜、フィルム、パッケージング材料、吸水又は浄化材料、重金属センサ、エアロゲル、凝集剤、強化合成ポリマー、紙、ボード、塗料、接着剤、ラテックス、セメント、刺激流体、掘削流体、仕上げ流体、スペーサー流体、化粧品又は医薬組成物、組織及び骨修復材料、バイオセンサ及びバイオ接着剤を包含する。
【0075】
本発明の大きな利点は、ナノセルロース及び非常に安定した分散体及びコロイドを形成することができる新規ナノセルロースを調製するための、非常に効率的であるグリーンプロセスを提供することである。
【0076】
以下、本発明を実施例によって説明するが、本発明の範囲を限定することを意図するものではない。
【実施例
【0077】
I 一般的な情報:
材料:
ギ酸アンモニウム(≧98%)をAlfa Aesarから、グリコール酸(≧98%)をAlfa Aesarから、プロピオン酸(99.5%)をFlucaから、レブリン酸(98+%)をAcros Organicsから、コハク酸(99.5%)をRothから、乳酸(90質量%水溶液)をAcros Organicsから購入した。
【0078】
特に指定のない場合、全ての化学物質は、さらなる精製をすることなく、入手した状態のままで使用した。
【0079】
特性評価
元素分析
元素分析(EA)を、vario MICRO cube CHNOS Elemental Analyzer(Elementar Analysensysteme GmbH, Langenselbold)を用いて、実施した。元素を、C、H、N及びOに対して熱伝導度検出器(TCD)、及び硫黄に対して赤外線検出器(IR)を用いて検出した。各サンプルを2回測定して、平均値を計算した。
【0080】
ゼータ電位
電気泳動光散乱法ベースのゼータ電位を、Malvern InstrumentsのZetasizer Nano ZS (Malvern, United Kingdom)を用いて測定した。遠心分離によって洗浄した後の湿式サンプルを、蒸留水で希釈して、約1%の(ナノ-)セルロース懸濁液を得た。懸濁液を、使い捨て折りたたみ式キャピラリーセル(DTS1070)中に設置した。(ナノ-)セルロース懸濁液の電気泳動移動度を測定して、Malvern softwareを使用してSmoluchowskiの式に従ってゼータ電位に変換した。ゼータ電位測定では、3回の測定から、95%の信頼性を有するサンプル平均値を報告した。
【0081】
TEM画像
透過型電子顕微鏡(TEM)画像を、120kVで動作されたZeiss Libra 912 顕微鏡で記録した。画像のコントラストを高めるために、蒸留水中に溶解した1%酢酸ウラニルを用いたネガティブ染色を適用した。
【0082】
結晶化度
ナノセルロースの結晶化度を、XRDデータから、(002)格子回折(22.8°)の最大強度と、同一の単位(18.6°)におけるアモルファス領域の強度の比として、計算した。Segal et al., Textile Research Journal, October 1959, p. 786 to 794を参照。
【0083】
II ナノセルロースの調製
実験方法
A 低融点混合物の調製
溶媒及び反応物として使用する低融点混合物を得るために、乾燥したギ酸アンモニウム(AF)を有機酸と、2:1のモル比で混合した。混合物を、乳鉢で粉砕するか、又はガラスビーカーで十分に混合した。粉砕/混合下で、混合物が徐々に液体化したときに、所望の低融点混合物の視覚的な形成を確認した。その形成を促進させるために、混合物を、一定の撹拌下で、密閉されたガラス瓶中で、少なくとも2時間又は結晶が完全に消失するまで、60℃に保持した。
【0084】
B 反応に用いたセルロース含有原料
SP: 脱イオン水中で、一晩、一定の撹拌下、室温で分解したMercer Pulpから入手した漂白された軟材クラフトパルプ。
DP: Inapa Deutschlandから購入した、5gの非コーティングプレミアム脱リグニン紙を、はさみで約1cm2の四角片に切断して、1Lのガラス瓶中に設置した。1Lの脱イオン水を加えて、内容物を一晩撹拌した。それによって得られたパルプを、ガラス漏斗フィルタでろ過して、フィルタ上で脱イオン水及びエタノールで連続して洗浄した。洗浄したパルプを、24時間60℃で乾燥させた。
MC: 商用的に入手した微結晶セルロース(Avicel PH-101, セルロース含有量100%)
を使用した。
【0085】
C 反応条件
セルロース含有原料を、ガラスビーカー中で、ギ酸アンモニウム及び酸の対応する低融点混合物に加えた。得られた反応混合物を、Teflon(登録商標)ビーカー中に移した。さらなる反応を、オートクレーブ処理された反応器中で、以下に記載する、静的条件(すなわち、撹拌なし)又は撹拌下で、実施した。
静的:反応混合物の入ったTeflon(登録商標)ビーカーを、Teflon(登録商標)キャップで密閉して、ステンレススチールParr反応器(オートクレーブ)中に設置した。オートクレーブを180℃で、4時間、保持した。反応を、オートクレーブを氷浴中で冷却することによって停止させて、得られた生成物混合物をガラスビーカーに移した。
撹拌:反応混合物の入ったTeflon(登録商標)ビーカーを、Teflon(登録商標)ガスケットで密閉した。ビーカーを、内部撹拌システムを有するステンレススチール高圧ベンチトップ反応器中に設置した。反応器を180℃に加熱して、表1)において別に指定しない限り、その温度で4時間保持した。反応混合物を、200rpmで撹拌した。反応を、水冷システムで反応器を冷却することによって停止させた。反応器を室温まで冷却した後、生成物混合物をガラスビーカーに移した。
【0086】
本発明のナノセルロースを調製するための反応条件と同様に、反応混合物の組成、使用したセルロース含有原料を表1にまとめた:
【表1】
【0087】
D 洗浄
セクションc)により得られた生成物混合物を、数mLの蒸留水で希釈して、スパチュラで混合して、30分間、実験室のソニケーターで、ウルトラソニケーションした。続いて、JA-25.50固定角ローターを備えたAvanti J-E centrifuge (Beckman Coulter)で、10,000 RPMで、5分間、遠心分離を行い、コロイドを沈殿させて、上清みを除去した。沈殿を、以下の順序で洗浄した:水への再分散、30秒間のボルテックス、30分間のウルトラソニケーション、10,000 RPM(最後の3回の操作は、20,000 RPM)で5分間の遠心分離、洗浄流体のデカンテーション。この方法を、透明な洗浄液が得られるまで、水で4回、エタノールで2回、繰り返した。エタノールを水に交換して、サンプルを25,000 RPMで遠心分離して、上澄みの液体をデカンテーションして、最終的な生成物を、凍結乾燥させて、白色からベージュ色の粉末として得た。
【0088】
実施例1から26で得られたナノセルロースの特性を、表2にまとめる。
【表2】
【0089】
図1及び図2は、上の実施例1による微結晶セルロースから調製されたナノセルロースのTEM画像を示す。それにより、直径10から20nm及び長さ200nmまでの寸法を有するウィスカーが得られる。
【0090】
図3及び図4は、上の実施例6による軟材パルプから調製されたナノセルロースのTEM画像を示す。
【0091】
図5及び図6は、上の実施例11による脱リグニンパルプから調製されたナノセルロースのTEM画像を示す。
【0092】
本発明によって得られた全てのナノセルロースは、少なくとも2週間、それらの水性コロイドの高い安定性を示し、本発明によるナノセルロース中の窒素レベルの増加を引き起こす、セルロース鎖の還元末端でのアミノ基の形成を通じてのさらなる安定化を明確に示す。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
【国際調査報告】