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特表2023-539684ダウン症候群に関連するアルツハイマー病を治療するためのNBP-14
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-09-15
(54)【発明の名称】ダウン症候群に関連するアルツハイマー病を治療するためのNBP-14
(51)【国際特許分類】
   C07K 7/64 20060101AFI20230908BHJP
   C07K 14/435 20060101ALI20230908BHJP
   A61K 38/46 20060101ALI20230908BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20230908BHJP
   A61P 25/28 20060101ALI20230908BHJP
【FI】
C07K7/64 ZNA
C07K14/435
A61K38/46
A61P43/00 105
A61P25/28
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023514480
(86)(22)【出願日】2021-09-08
(85)【翻訳文提出日】2023-04-25
(86)【国際出願番号】 GB2021052312
(87)【国際公開番号】W WO2022053797
(87)【国際公開日】2022-03-17
(31)【優先権主張番号】2014080.2
(32)【優先日】2020-09-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】516008992
【氏名又は名称】ニューロ-バイオ リミテッド
【氏名又は名称原語表記】NEURO-BIO LTD
【住所又は居所原語表記】Building F5,Culham Science Centre,Abingdon Oxfordshire OX14 3DB,United Kingdom
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】IBC一番町弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】グリーンフィールド,スーザン
【テーマコード(参考)】
4C084
4H045
【Fターム(参考)】
4C084AA02
4C084AA07
4C084BA01
4C084BA24
4C084DC22
4C084NA14
4C084ZA15
4C084ZA16
4C084ZB21
4H045AA10
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA16
4H045BA17
4H045BA18
4H045BA32
4H045CA40
4H045DA89
4H045EA21
4H045FA10
(57)【要約】
本発明は、ダウン症候群の治療、予防または改善における使用のための、アセチルコリンエステラーゼ(AChE)のC末端に由来するアミノ酸配列またはその短縮型を含む環状ポリペプチド、その誘導体または類似体を提供する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ダウン症候群の治療、予防または改善における使用のための、アセチルコリンエステラーゼ(AChE)のC末端に由来するアミノ酸配列またはその短縮型を含む環状ポリペプチド、その誘導体または類似体。
【請求項2】
前記環状ポリペプチド、その誘導体または類似体は、ダウン症候群の人におけるβ-アミロイド斑形成を低減させるおよび/または阻害することが可能である、請求項1に記載の使用のための環状ポリペプチド、その誘導体または類似体。
【請求項3】
前記人の海馬および/または皮質における前記斑形成を阻害する、請求項2に記載の使用のための環状ポリペプチド、その誘導体または類似体。
【請求項4】
前記環状ポリペプチド、その誘導体または類似体は、ダウン症候群の人におけるリン酸化タウ(pTau)形成を低減させるおよび/または阻害することが可能である、請求項1~3のいずれか1項に記載の使用のための環状ポリペプチド、その誘導体または類似体。
【請求項5】
前記人の海馬および/または皮質における前記リン酸化タウ形成を阻害する、請求項4に記載の使用のための環状ポリペプチド、その誘導体または類似体。
【請求項6】
前記環状ポリペプチド、その誘導体または類似体は、ダウン症候群の人における認知機能低下を低減させる、阻害する、および/または逆転させることが可能である、請求項1~5のいずれか1項に記載の使用のための環状ポリペプチド、その誘導体または類似体。
【請求項7】
前記環状ポリペプチド、その誘導体または類似体は、ダウン症候群の人における認知症、好ましくはダウン症候群の人における早期発症型認知症を低減させる、阻害する、および/または逆転させることが可能である、請求項1~6のいずれか1項に記載の使用のための環状ポリペプチド、その誘導体または類似体。
【請求項8】
前記環状ポリペプチド、その誘導体または類似体は、20代、30代、40代、50代、60代または70代のダウン症候群の人における認知機能低下または認知症を低減させる、阻害する、および/または逆転させることが可能である、請求項1~7のいずれか1項に記載の使用のための環状ポリペプチド、その誘導体または類似体。
【請求項9】
前記アセチルコリンエステラーゼが、実質的に配列番号1に記載されたアミノ酸配列またはそのバリアントもしくは断片を含む、請求項1~8のいずれか1項に記載の使用のための環状ポリペプチド、その誘導体または類似体。
【請求項10】
前記環状ポリペプチド、その誘導体または類似体は、4~50アミノ酸残基、または6~40アミノ酸、または8~30アミノ酸残基を含む、請求項1~9のいずれか1項に記載の使用のための環状ポリペプチド、その誘導体または類似体。
【請求項11】
前記環状ポリペプチド、その誘導体または類似体は、6~25アミノ酸残基、または7~20アミノ酸残基、または8~15アミノ酸残基を含む、請求項1~10のいずれか1項に記載の使用のための環状ポリペプチド、その誘導体または類似体。
【請求項12】
前記環状ポリペプチド、その誘導体または類似体は、環状の配列番号2またはその機能的バリアントもしくは断片を含む、請求項1~10のいずれか1項に記載の使用のための環状ポリペプチド、その誘導体または類似体。
【請求項13】
前記環状ポリペプチド、その誘導体または類似体は、環状の配列番号3またはその機能的バリアントもしくは断片を含む、請求項1~11のいずれか1項に記載の使用のための環状ポリペプチド、その誘導体または類似体。
【請求項14】
前記環状ポリペプチド、その誘導体または類似体は、環状の配列番号4またはその機能的バリアントもしくは断片を含む、請求項1~11のいずれか1項に記載の使用のための環状ポリペプチド、その誘導体または類似体。
【請求項15】
治療有効量の請求項1~14のいずれか1項に記載の環状ポリペプチド、その誘導体または類似体、および薬学的に許容されるビヒクルを含む、ダウン症候群治療用医薬組成物。
【請求項16】
請求項15に記載のダウン症候群治療用医薬組成物を製造するためのプロセスであって、治療有効量の請求項1~7のいずれか1項に記載の環状ポリペプチド、その誘導体または類似体を薬学的に許容されるビヒクルと組み合わせることを含む、プロセス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダウン症候群、特に、ダウン症候群を治療する、予防するまたは改善させるための新規の医薬組成物、治療法および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ダウン症候群は、21トリソミーとしても公知であり、21番染色体に第3のコピーが全体または一部として存在することによって引き起こされる遺伝学的状態である。ダウン症候群には、通常、身体成長遅延、軽度~中等度の知的障害、および特徴的な顔の特徴が付随する。ダウン症候群を有する人の平均余命は約50年から60年の間であり、また、教育および適切な介護により生活の質がいくらかの程度まで改善することが示されているが、ダウン症候群は治癒せず、効果的な治療も存在しない。
【0003】
ダウン症候群を有する人の全員ではないが多くが、年を取ると認知症を発症し、これは、アルツハイマー病(AD)に関連するまたはそれによって引き起こされるものであり得る。実際に、現在の推定では、ダウン症候群を有する人の50%以上が、加齢に伴ってアルツハイマー病に起因する認知症を発症し、ダウン症候群を有する人は通常、50代または60代でアルツハイマー病の症状を示し始めることが示唆されている。ダウン症候群を有する成人ではβ-アミロイド斑が発生し、これらは、アルツハイマー病患者において見られる斑と区別できず、認知症および認知機能低下の高リスクに強力に関連付けられる(Annusら、2016、Alzheimer’s and Dementia、538-545)。アミロイドをコードする遺伝子は21番染色体上に位置する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
したがって、ダウン症候群を治療するための新規の治療法、特に、ダウン症候群対象における早期発症型認知症および/または認知機能低下を遅延させるまたは予防するための医薬を提供する必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記を考慮して、本発明者らは、ダウン症候群を有する人におけるβ-アミロイド斑形成を低減させるまたは阻害することができる何らかの化合物により、早期発症型認知症および認知機能低下を予防する手段がもたらされると考える。したがって、本発明者らは、アセチルコリンエステラーゼ(「NBP-14」として公知)のC末端に由来する環状ペプチドの、β-アミロイド斑形成に対する影響を調査し、驚いたことに、これらの環状ペプチドにより、マウスにおけるin vivoでのβ-アミロイド斑形成を低減させることができることを実証した。さらに、環状ペプチド、NBP-14により、驚いたことに、ADのトランスジェニックマウスモデルにおけるin vivo認知機能低下を逆転させることができる。
【0006】
したがって、本発明者らは、これらの環状ペプチドを、β-アミロイド斑形成を低減させることによってダウン症候群を治療する、予防するまたは改善させるための治療剤として利用することができると考える。
【0007】
したがって、本発明の第1の態様では、ダウン症候群の治療、予防または改善における使用のための、アセチルコリンエステラーゼ(AChE)のC末端に由来するアミノ酸配列またはその短縮型を含む環状ポリペプチド、その誘導体または類似体が提供される。
【0008】
第2の態様では、ダウン症候群を治療する、改善させるまたは予防する方法であって、そのような治療を必要とする対象に、アセチルコリンエステラーゼ(AChE)のC末端に由来するアミノ酸配列またはその短縮型を含む環状ポリペプチド、その誘導体または類似体を治療有効量で投与する、またはそれが投与されているステップを含む、方法が提供される。
【0009】
有利に、実施例に記載の通り、本発明者らは、アセチルコリンエステラーゼ(「NBP-14」として公知)のC末端に由来する環状ペプチドを、変異型ヒトアミロイドベータ(A4)前駆体タンパク質695(APP)を過剰発現し、したがって、アミロイド斑が発生しやすくなっているトランスジェニックTg-5XFADマウスの鼻腔内に適用した。驚いたことに、本発明者らは、NBP-14を用いて週2回、6週間にわたって処置したこれらのTg-5XFADマウスの海馬および皮質において、ビヒクルと比較して、細胞内β-アミロイドの強度の有意な低下を観察し、一方、14週間の時点で、皮質、海馬および前脳基底部において、アミロイドが細胞の外側に蓄積して斑を形成し、これは、NBP-14により、ビヒクル処置コホートと比較して有意に低減した。さらに、図5cに示されている通り、驚いたことに、本発明者らは、NBP-14が、そうでなければ認知症を発症しやすいトランスジェニックTg-5XFADマウスにおいて、認知機能低下に対する有意な保護効果を有することを観察した。さらに、驚いたことに、NBP-14により、トランスジェニックマウスにおいて認められた認知機能低下を野生型群と同等のパフォーマンスのレベルまで逆転させることもできた。したがって、本発明者らの研究により、アセチルコリンエステラーゼのC末端に由来する環状ペプチドが、β-アミロイド形成を低減させ、認知機能低下から保護し、機能低下を逆転させることが示され、それにより、アセチルコリンエステラーゼのC末端に由来する環状ペプチドをダウン症候群の治療に使用することができることが示される。
【0010】
ダウン症候群は21トリソミーと称されることもあることが当業者には理解されよう。
【0011】
環状ポリペプチド、その誘導体または類似体は、ダウン症候群の人におけるβ-アミロイド斑形成を低減させるおよび/または阻害することが可能であることが好ましい。人の海馬および/または皮質における斑形成が阻害されることが好ましい。
【0012】
環状ポリペプチド、その誘導体または類似体は、ダウン症候群の人におけるリン酸化タウ(pTau)形成を低減させるおよび/または阻害することが可能であることが好ましい。人の海馬および/または皮質におけるリン酸化タウ形成が阻害されることが好ましい。
【0013】
環状ポリペプチド、その誘導体または類似体は、ダウン症候群の人における認知機能低下を低減させる、阻害する、および/または逆転させることが可能であることが好ましい。
【0014】
環状ポリペプチド、その誘導体または類似体は、ダウン症候群の人における認知症、より好ましくはダウン症候群の人における早期発症型認知症を低減させる、阻害するおよび/または逆転させることが可能であることが好ましい。
【0015】
環状ポリペプチド、その誘導体または類似体は、20代、30代、40代、50代、60代または70代のダウン症候群の人における認知機能低下または認知症を低減させる、阻害する、および/または逆転させることが可能であることが好ましい。症状が現れる前に、または認知機能低下がより急速なものになる前に、または認知症が進行し始める前に、状態を予防することが有利であり、好ましい。
【0016】
環状ポリペプチドは、N末端とC末端自体がペプチド結合で連結してアミノ酸の環状鎖を形成した、ペプチド鎖である。
【0017】
「その誘導体または類似体」という用語は、アミノ酸残基が、同様の側鎖またはペプチド骨格特性を有する残基(天然アミノ酸であるか、非天然アミノ酸であるかまたはアミノ酸模倣体であるかを問わず)で置き換えられた、ポリペプチドを意味し得る。さらに、そのようなペプチドの末端は、アセチル基またはアミド基と同様の特性を有するN末端および/またはC末端保護基によって保護されていてもよい。
【0018】
本発明によるペプチドの誘導体および類似体には、in vivoにおけるペプチドの半減期を増大させるものも含まれ得る。例えば、本発明のペプチドの誘導体または類似体には、ペプチドのペプトイドおよびレトロペプトイド誘導体、ペプチド-ペプトイドハイブリッドならびにペプチドのD-アミノ酸誘導体が含まれ得る。
【0019】
ペプトイド、またはポリ-N置換グリシンは、側鎖が、アミノ酸の場合のようにアルファ炭素に結合しているのではなく、ペプチド骨格の窒素原子に結合している、ペプチド模倣体のクラスである。本発明のペプチドのペプトイド誘導体は、ペプチドの構造に関する知見から容易に設計することができる。レトロペプトイド(全てのアミノ酸が逆の順序でペプトイド残基によって置き換えられている)も本発明による適切な誘導体である。レトロペプトイドは、リガンド結合性溝(ligand-binding groove)に、ペプチドまたはペプトイド残基を1つ含有するペプトイド-ペプチドハイブリッドと比較して逆方向に結合することが予想される。結果として、ペプトイド残基の側鎖は、元のペプチドにおける側鎖と同じ方向を指すことができる。
【0020】
「に由来する」という用語は、アミノ酸配列が、AChEのC末端に存在する、またはそれを形成するアミノ酸配列の誘導体または改変体、およびその一部分であることを意味し得る。
【0021】
「その短縮型(truncation thereof)」という用語は、AChEに由来する環状ポリペプチドのサイズが、アミノ酸の除去によって縮小していることを意味し得る。アミノ酸の縮小は、本発明の環状ポリペプチドへの環化前にペプチドのC末端またはN末端から残基を除去することによって実現することもでき、環化前にペプチドの中心部から1つまたは複数のアミノ酸を欠失させることによって実現することもできる。
【0022】
アセチルコリンエステラーゼは、アセチルコリンを加水分解するセリンプロテアーゼであり、当業者には周知であろう。アセチルコリンエステラーゼの主要な形態は、脳において見いだされ、尾部を有するアセチルコリンエステラーゼ(tailed acetylcholinesterase)(T-AChE)として公知である。ヒト尾部を有するアセチルコリンエステラーゼの一実施形態のタンパク質配列(Gen Bank:AAA68151.1)は、614アミノ酸長であり、本明細書では以下の通り配列番号1として提示される:
【0023】
【化1】
【0024】
配列番号1の最初の31アミノ酸残基はこのタンパク質が放出される間に除去され、それにより、583アミノ酸配列が残されることが理解されよう。したがって、環状ポリペプチド、その誘導体または類似体は、アセチルコリンエステラーゼのC末端に由来するアミノ酸配列またはその短縮型を含む、またはそれからなることが好ましく、ここで、アセチルコリンエステラーゼは、好ましくはN末端の31アミノ酸を除く、実質的に配列番号1に記載されている通りのアミノ酸配列を含む。
【0025】
環状ポリペプチド、その誘導体または類似体は、アセチルコリンエステラーゼのC末端を形成する最後の300、200、100または50アミノ酸に由来するアミノ酸配列またはその短縮型を含む、またはそれからなることが好ましく、アセチルコリンエステラーゼは、実質的に配列番号1に記載されている通りのアミノ酸配列を含む、またはそれからなることが最も好ましい。環状ポリペプチド、その誘導体または類似体は、アセチルコリンエステラーゼのC末端を形成する最後の40アミノ酸に由来するアミノ酸配列またはその短縮型を含む、またはそれからなることが好ましい。環状ポリペプチド、その誘導体または類似体は、アセチルコリンエステラーゼのC末端を形成する最後の30アミノ酸に由来するアミノ酸配列またはその短縮型を含む、またはそれからなることが好ましい。
【0026】
環状ポリペプチド、その誘導体または類似体は、4~50アミノ酸、好ましくは8~40アミノ酸残基、好ましくは10~30アミノ酸、より好ましくは9~20アミノ酸、および最も好ましくは10~16アミノ酸を含み得る、またはそれからなり得る。環状ポリペプチド、その誘導体または類似体は、13~15アミノ酸残基を含み得る、またはそれからなり得ることがより好ましい。
【0027】
環状ポリペプチド、その誘導体または類似体は、4~50アミノ酸残基、4~40アミノ酸残基、4~35アミノ酸残基、4~32アミノ酸残基、4~30アミノ酸残基、4~25アミノ酸残基、4~20アミノ酸残基、または4~15アミノ酸残基を含むことが好ましい。
【0028】
環状ポリペプチド、その誘導体または類似体は、5~50アミノ酸残基、5~40アミノ酸残基、5~35アミノ酸残基、5~32アミノ酸残基、5~30アミノ酸残基、5~25アミノ酸残基、5~20アミノ酸残基、または5~15アミノ酸残基を含むことが好ましい。
【0029】
環状ポリペプチド、その誘導体または類似体は、6~50アミノ酸残基、6~40アミノ酸残基、6~35アミノ酸残基、6~32アミノ酸残基、6~30アミノ酸残基、6~25アミノ酸残基、6~20アミノ酸残基、または6~15アミノ酸残基を含むことが好ましい。
【0030】
環状ポリペプチド、その誘導体または類似体は、7~50アミノ酸残基、7~40アミノ酸残基、7~35アミノ酸残基、7~32アミノ酸残基、7~30アミノ酸残基、7~25アミノ酸残基、7~20アミノ酸残基、または7~15アミノ酸残基を含むことが好ましい。
【0031】
環状ポリペプチド、その誘導体または類似体は、8~40アミノ酸残基、好ましくは10~30アミノ酸、より好ましくは9~20アミノ酸、および最も好ましくは10~16アミノ酸を含み得る、またはそれからなり得る。環状ポリペプチド、その誘導体または類似体は、13~15アミノ酸残基を含み得る、またはそれからなり得ることがより好ましい。
【0032】
環状ポリペプチド、その誘導体または類似体は、8~50アミノ酸残基、8~40アミノ酸残基、8~35アミノ酸残基、8~30アミノ酸残基、8~30アミノ酸残基、8~25アミノ酸残基、8~20アミノ酸残基、または8~15アミノ酸残基を含むことが好ましい。
【0033】
環状ポリペプチド、その誘導体または類似体は、9~50アミノ酸残基、9~40アミノ酸残基、9~35アミノ酸残基、9~30アミノ酸残基、9~25アミノ酸残基、9~20アミノ酸残基、または9~15アミノ酸残基を含むことが好ましい。
【0034】
環状ポリペプチド、その誘導体または類似体は、10~50アミノ酸残基、10~40アミノ酸残基、10~35アミノ酸残基、10~30アミノ酸残基、10~25アミノ酸残基、10~20アミノ酸残基、または10~15アミノ酸残基を含むことが好ましい。
【0035】
環状ポリペプチド、その誘導体または類似体は、11~50アミノ酸残基、11~40アミノ酸残基、11~35アミノ酸残基、11~30アミノ酸残基、11~25アミノ酸残基、11~20アミノ酸残基、または11~15アミノ酸残基を含むことが好ましい。
【0036】
環状ポリペプチド、その誘導体または類似体は、12~50アミノ酸残基、12~40アミノ酸残基、12~35アミノ酸残基、12~30アミノ酸残基、12~25アミノ酸残基、12~20アミノ酸残基、または12~15アミノ酸残基を含むことが好ましい。
【0037】
環状ポリペプチド、その誘導体または類似体は、13~50アミノ酸残基、13~40アミノ酸残基、13~35アミノ酸残基、13~30アミノ酸残基、13~25アミノ酸残基、13~20アミノ酸残基、または13~15アミノ酸残基を含むことが好ましい。
【0038】
環状ポリペプチド、その誘導体または類似体は、14~50アミノ酸残基、14~40アミノ酸残基、14~35アミノ酸残基、14~30アミノ酸残基、14~25アミノ酸残基、14~20アミノ酸残基、または14~15アミノ酸残基を含むことが好ましい。
【0039】
本発明者らは、酵素アセチルコリンエステラーゼ(AChE)のC末端に由来する3種のペプチド配列を調製した。これらを本明細書においてT30、T14およびT15と称し、ここで、数字は、アミノ酸の数に対応する。AChEは、異なる発達の段階において様々な形態で発現され、それらは全てが同一の酵素活性を有するが、分子組成が異なる。「尾部を有する(tailed)」(T-AChE-配列番号1)は、シナプスにおいて発現され、本発明者らは、T-AChEのC末端から切断され得る2種のペプチドを以前に同定した。これらのペプチドのうちの一方は「T14」(配列番号3)と称される14アミノ酸長のペプチドであり、「T30」(配列番号2)として公知の30アミノ酸長のペプチドである他方のペプチド内に存在する。AChE C末端ペプチド「T14」は、AChEの非加水分解作用の範囲に関与するAChE分子の際立った部分として同定された。
【0040】
合成類似体(すなわち、「T14」)、および続いてそれが埋め込まれているより大きくかつより安定なアミノ酸配列(すなわち、「T30」)は、「非コリン作動性」AChEについて報告されているものと同等の作用を示し、一方、T30配列内の不活性な15アミノ酸長のペプチド(すなわち、「T15」-配列番号4)は影響を及ぼさない(Bondら 2009 PLoS one 第4巻第3号 e4846)。
【0041】
T30のアミノ酸配列(配列番号1の最後の30アミノ酸残基に対応する)は本明細書において以下の通り配列番号2として提示される:-
【0042】
【化2】
【0043】
T14のアミノ酸配列(配列番号1の末端に向かって位置し、T30内に見いだされる最後の15アミノ酸を欠く14アミノ酸残基に対応する)は本明細書において以下の通り配列番号3として提示される:-
【0044】
【化3】
【0045】
T15のアミノ酸配列(配列番号1の最後の15アミノ酸残基に対応する)は本明細書において以下の通り配列番号4として提示される:-
【0046】
【化4】
【0047】
配列番号2~4として表される配列はいずれも、容易に環化させて(cyclised(or cyclated))、第1の態様に従って使用される環状ポリペプチド、誘導体または類似体を形成することが理解されよう。例えば、ペプチドの環化は、側鎖-側鎖間、側鎖-骨格間、または頭尾間(C末端-N末端間)の環化技法によって実現することができる。好ましい一実施形態では、環状ポリペプチドを作製する好ましい方法は頭尾間環化である。環状ポリペプチドは、古典的な液相直鎖ペプチド環化または樹脂に基づく環化のいずれかを使用して合成することができる。環化のための好ましい方法は実施例に記載されている。別の好ましい実施形態では、ポリペプチドを、環化切断手法を使用して作製する。環化切断手法では、段階的な直鎖ペプチド合成後に環化によって環状ポリペプチドを合成する。この方法の利点は、側鎖を固定する必要がなく、それにより、手法がより一般的なものになることである。使用前に、得られた環状ペプチドの試料をMALDI-TOF MSによって分析することができることが好ましい。
【0048】
したがって、本発明による好ましいポリペプチド、その誘導体または類似体は、環状配列番号2、3または4またはその機能的バリアントもしくは断片を含む、またはそれからなる。
【0049】
本発明者らは、驚いたことに、環化された配列番号3(すなわち、本明細書では、「環化T14」、「CT14」または「NBP-14」と称される)により、脳におけるβ-アミロイド斑形成が低減することを見いだした。
【0050】
したがって、本明細書に記載の発明において使用される最も好ましい環状ポリペプチド、その誘導体または類似体は、環状配列番号3またはその機能的バリアントもしくは断片を含む、またはそれからなる。
【0051】
本発明による環状ポリペプチド、その誘導体または類似体を医薬に使用することができ、それを、単独療法(すなわち、環状ポリペプチド、その誘導体または類似体の単独での使用)として、ダウン症候群を治療する、改善させる、または予防するため、好ましくは、ダウン症候群の人における認知機能低下および/または認知症を低減させる、阻害する、および/または逆転させるために使用することができることが理解されよう。あるいは、本発明による環状ポリペプチド、その誘導体または類似体を、ダウン症候群を治療する、改善させる、または予防するため公知の治療法の補助剤として、またはそれと組み合わせて使用することができる。
【0052】
本発明による環状ポリペプチドを組成物に組み合わせることができ、組成物は、特に組成物が使用される様式に応じて、多数の異なる形態を有する。したがって、例えば、組成物は、散剤、錠剤、カプセル剤、液剤、軟膏剤、クリーム剤、ゲル、ハイドロゲル、エアロゾル、噴霧剤、ミセル溶液、経皮吸収パッチ、リポソーム懸濁剤の形態、または治療を必要とする人または動物に投与することができる任意の他の適切な形態であり得る。本発明による医薬のビヒクルは、与薬される対象の忍容性が良好であり、好ましくは環状ポリペプチドの血液脳関門を通過する送達を可能にするものであるべきであることが理解されよう。
【0053】
認知機能低下または認知症などの脳障害に対する任意の治療の効率は、候補治療用化合物が血液脳関門(BBB)を通過することができるかどうかに依存することが理解されよう。本発明者は、環状T14(NBP-14)のサイズのペプチドでは経口投与後すぐに利用されない可能性があると考える。
【0054】
環状T14(すなわち、NBP-14)などの大きな分子をBBBを通過させるために、以下を含む2つの主要な戦略を適用することができる:(1)脳を特異的に標的化し、活性化合物を送達するためにナノ粒子を輸送体として使用すること。この方法は、脳にペプチド、タンパク質および抗がん薬を送達するために首尾よく使用されている;(2)カーゴペプチドの使用。BBBを通過して特異的に輸送されるそのようなペプチドを付加することにより、環状ペプチドを促進的に移行させることができる。
【0055】
本発明による環状ポリペプチドを含む医薬を多数の経路で使用することができる。例えば、経口投与が必要になり得、その場合、環状ポリペプチドを、例えば、錠剤、カプセル剤または液剤の形態で経口摂取される組成物中に含有させることができる。環状T14(すなわち、NBP14)の投与の代替選択肢は、経鼻スプレーの使用であり、これは、経鼻スプレーによるペプチド投与では脳への到達が経口または静脈内投与経路よりも速やかかつ効率的であるからである(http://memoryzine.com/2010/07/26/nose-sprays-cross-blood-brain-barrier-faster-and-safer/を参照されたい)。したがって、本発明の環状ポリペプチドを含む組成物を吸入(例えば、鼻腔内)によって投与することができる。表2に示されている通り、本発明の環状ペプチド(NBP-14)は脳において検出され、これにより、NBP-14の鼻腔内送達がNBP-14の脳への送達に効果的であることが示される。20%もの本発明の環状ペプチドが脳に到達し、その内部に入ることができることが示された。
【0056】
組成物を局所使用のために製剤化することもできる。例えば、クリーム剤または軟膏剤を、例えば、脳に隣接する皮膚に塗布することができる。
【0057】
本発明の環状ポリペプチドは、鼻腔内投与されることが好ましい。
【0058】
本発明による環状ポリペプチドを、緩徐放出または遅延放出デバイス内に組み入れることもできる。そのようなデバイスを、例えば、皮膚上または皮下に挿入することができ、医薬を数週間または数カ月にわたって放出させることができる。デバイスを治療部位に少なくとも隣接する位置に位置付けることができる。そのようなデバイスは、本発明に従って使用される環状ポリペプチドを用いた長期間治療が必要であり、通常、頻繁な投与(例えば、少なくとも毎日の注射)が必要になる場合に、特に有利であり得る。
【0059】
好ましい実施形態では、本発明による医薬を対象に、血流中への注射または治療が必要な部位への直接の注射によって投与することができる。例えば、医薬を脳の近くに、また脳に少なくとも隣接して注射することができる。注射は、静脈内(ボーラスもしくは注入)または皮下(ボーラスもしくは注入)、または皮内(ボーラスもしくは注入)とすることができる。
【0060】
必要な環状ポリペプチドの量は、その生物活性および生物学的利用能によって決定され、生物学的利用能は投与形式、環状ポリペプチドの生理化学的特性、および単独療法として使用されるか併用療法として使用されるかに依存することが理解されよう。同様に、投与の頻度も治療を受ける対象の内部または対象上での環状ポリペプチドの半減期の影響を受ける。投与する最適な投薬量は、当業者が決定することができ、特定の使用される環状ポリペプチド、医薬組成物の強度、および投与形式によって変動する。治療される特定の対象に応じた追加的な因子は、対象の年齢、体重、性別、食事、および投与時間を含めた、投薬量を調整する必要をもたらすものである。
【0061】
一般に、ダウン症候群を治療する、改善させる、または予防するために、いずれの環状ポリペプチドを使用するかに応じて、体重1kg当たり0.001μgから体重1kg当たり10mgの間、または体重1kg当たり0.01μgから体重1kg当たり1mgの間の1日用量の本発明による環状ポリペプチドを使用することができる。
【0062】
環状ポリペプチドは、ダウン症候群に付随する症状が発症する前、その間またはその後に投与することができる。1日用量を単回投与(例えば、毎日1回の適用)として与薬することができる。あるいは、環状ポリペプチドを1日に2回以上投与する必要があり得る。例として、環状ポリペプチドを0.07μgから700mgの間(すなわち、体重70kgと仮定して)の1日用量として2回(またはそれよりも多く)投与することができる。治療を受ける患者は、起床時に第1の投薬を行い、次いで、夜に第2の投薬を行うこと(2回投薬レジームの場合)またはその後3時間もしくは4時間ごとの間隔で投薬を行うことができる。あるいは、緩徐放出デバイスを使用して、反復投薬を施行する必要なく、最適な用量の本発明による環状ポリペプチドを患者に提供することができる。
【0063】
医薬品産業で慣習的に使用されているものなどの公知の手順(例えば、in vivo実験、臨床試験など)を使用して、本発明による環状ポリペプチドの特定の製剤および正確な治療レジーム(例えば、薬剤の1日用量および投与の頻度など)を形成することができる。これらは、本発明の環状ポリペプチドの使用に基づいてダウン症候群治療用組成物を最初に提案するものと考えられる。
【0064】
したがって、本発明の第3の態様では、治療有効量のアセチルコリンエステラーゼ(AChE)のC末端に由来するアミノ酸配列またはその短縮型を含む環状ポリペプチド、その誘導体または類似体、および薬学的に許容されるビヒクルを含むダウン症候群治療用医薬組成物が提供される。
【0065】
本発明は、第4の態様において、第3の態様によるダウン症候群治療用組成物を製造するプロセスであって、治療有効量の、アセチルコリンエステラーゼ(AChE)のC末端に由来するアミノ酸配列またはその短縮型を含む環状ポリペプチド、その誘導体または類似体を、薬学的に許容されるビヒクルと組み合わせるステップを含む、プロセスも提供する。
【0066】
環状ポリペプチド、その誘導体または類似体は、本明細書に開示される環状T14(すなわち、NBP-14)、すなわち配列番号3を含む、またはそれからなることが好ましい。
【0067】
「対象(subject)」は、脊椎動物、哺乳動物、または飼育動物であり得る。したがって、本発明による医薬を、任意の哺乳動物、例えば、家畜(例えばウマ)、愛玩動物を治療するために使用することもでき、他の獣医学的適用に使用することもできる。しかし、対象はヒトであることが最も好ましい。
【0068】
環状ポリペプチドの「治療有効量(therapeutically effective amount)」は、対象に投与された場合に、ダウン症候群を治療するため、または所望の効果を生じさせるために必要な活性な薬剤の量である、任意の量である。環状ポリペプチド、その誘導体または類似体を、ダウン症候群を治療するためのアジュバントとして使用することができる。これは、他の治療をより低用量にする必要があることを意味する。
【0069】
例えば、使用される治療的にまたは美容的に有効な量の環状ポリペプチドは、約0.001mgから約800mgまで、好ましくは約0.01mgから約500mgまでであり得る。
【0070】
本明細書で言及される「薬学的に許容されるビヒクル(pharmaceutically acceptable vehicle)」は、医薬組成物の製剤化に有用であることが当業者に公知である、任意の公知の化合物または公知の化合物の組合せである。
【0071】
一実施形態では、薬学的に許容されるビヒクルは、固体であり得、組成物を散剤または錠剤の形態にすることができる。薬学的に許容される固体ビヒクルには、香味剤、滑沢剤、可溶化剤、懸濁化剤、色素、充填剤、滑剤、圧縮助剤、不活性な結合剤、甘味剤、保存剤、コーティング、または錠剤崩壊剤としても作用し得る1つまたは複数の物質が含まれ得る。ビヒクルは封入材料の場合もある。散剤に関しては、ビヒクルは細かく分割された固体であり得、それが、細かく分割された本発明による活性薬剤と混和している。錠剤に関しては、活性薬剤(すなわち、モジュレーター)を、必要な圧縮特性を有するビヒクルと適切な割合で混合し、所望の形状およびサイズに固めることができる。散剤および錠剤は、99%までの活性薬剤を含有することが好ましい。適切な固体ビヒクルとしては、例えば、リン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、タルク、糖、ラクトース、デキストリン、デンプン、ゼラチン、セルロース、ポリビニルピロリジン、低融点ワックスおよびイオン交換樹脂が挙げられる。別の実施形態では、薬学的ビヒクルはゲルであり得、組成物をクリーム剤などの形態にすることができる。
【0072】
しかし、薬学的ビヒクルは、液体の場合もあり、医薬組成物は、溶液の形態である。液体ビヒクルは、溶液、懸濁剤、乳剤、シロップ剤、エリキシル剤および加圧組成物の調製に使用される。本発明による活性薬剤(環状ポリペプチド)を、薬学的に許容される液体ビヒクル、例えば、水、有機溶媒、その両方の混合物または薬学的に許容される油もしくは脂肪に溶解または懸濁させることができる。液体ビヒクルは、可溶化剤、乳化剤、緩衝剤、保存剤、甘味剤、香味剤、懸濁化剤、増粘剤、着色剤、粘度調節剤、安定剤または浸透圧調節剤などの他の適切な薬学的添加剤を含有し得る。経口投与および非経口投与のための液体ビヒクルの適切な例としては、水(上記の添加剤、例えば、セルロース誘導体、好ましくはカルボキシメチルセルロースナトリウム溶液を部分的に含有する)、アルコール(一価アルコールおよび多価アルコール、例えば、グリコールを含む)ならびにそれらの誘導体、および油(例えば、分画されたヤシ油および落花生油)が挙げられる。非経口投与に関しては、ビヒクルは、オレイン酸エチルおよびミリスチン酸イソプロピルなどの油性エステルであってもよい。非経口投与用の滅菌された液体形態の組成物には滅菌された液体ビヒクルが有用である。加圧組成物のための液体ビヒクルはハロゲン化炭化水素または他の薬学的に許容される噴射剤であり得る。
【0073】
滅菌溶液または懸濁液である液体の医薬組成物は、例えば、筋肉内注射、くも膜下腔内注射、硬膜外注射、腹腔内注射、静脈内注射、および特に皮下注射によって利用することができる。環状ポリペプチドを滅菌固体組成物として調製することができ、それを、投与時に滅菌水、生理食塩水、または他の適当な滅菌注射用媒体に溶解または懸濁させることができる。
【0074】
本発明の環状ポリペプチドおよび組成物は、他の溶質または懸濁化剤(例えば、溶液を等張性にするために十分な生理食塩水またはグルコース)、胆汁酸塩、アラビアゴム、ゼラチン、ソルビタンモノオレエート、ポリソルベート80(ソルビトールのオレイン酸エステルおよびエチレンオキシドと共重合したソルビトールの無水物)などを含有する滅菌溶液または懸濁液の形態で経口投与することができる。本発明に従って使用される環状ポリペプチドはまた、液体組成物の形態または固体組成物の形態のいずれかで経口投与することもできる、経口投与に適した組成物としては、ピル、カプセル剤、顆粒剤、錠剤、および散剤などの固体形態、ならびに溶液、シロップ剤、エリキシル剤、および懸濁剤などの液体形態が挙げられる。非経口投与に有用な形態としては、滅菌溶液、乳剤、および懸濁剤が挙げられる。
【0075】
本発明は、機能的バリアントまたは機能性断片を含めた本明細書において参照される配列のいずれかの実質的にアミノ酸配列または核酸配列を含む任意の核酸またはペプチドまたはバリアント、その誘導体または類似体に拡張されることが理解されよう。「実質的にアミノ酸/ヌクレオチド/ペプチド配列」、「機能的バリアント」および「機能性断片」という用語は、本明細書において参照される配列のいずれか1つのアミノ酸/ヌクレオチド/ペプチド配列に対して少なくとも40%の配列同一性を有する、例えば、配列番号1~4として識別される配列に対して40%の同一性を有する配列であり得る、などである。
【0076】
参照される配列のいずれかに対して65%を超える配列同一性、より好ましくは70%を超える、なおより好ましくは75%を超える、さらにより好ましくは80%を超える配列同一性を有するアミノ酸/ポリヌクレオチド/ポリペプチド配列も想定される。アミノ酸/ポリヌクレオチド/ポリペプチド配列は、参照される配列のいずれかに対して少なくとも85%の同一性、より好ましくは、好ましい本明細書において参照される配列のいずれかに対して少なくとも90%の同一性、なおより好ましくは少なくとも92%の同一性、なおより好ましくは少なくとも95%の同一性、なおより好ましくは少なくとも97%の同一性、なおより好ましくは少なくとも98%の同一性、最も好ましく少なくとも99%の同一性を有する。
【0077】
2つのアミノ酸/ポリヌクレオチド/ポリペプチド配列間のパーセンテージ同一性の算出の仕方は当業者には理解されよう。2つのアミノ酸/ポリヌクレオチド/ポリペプチド配列間のパーセンテージ同一性を算出するためには、2つの配列のアラインメントをまず調製し、その後、配列同一性値を算出しなければならない。2つの配列のパーセンテージ同一性は、以下に応じて異なる値をとり得る:-(i)配列をアラインメントするために使用する方法、例えば、ClustalW、BLAST、FASTA、Smith-Waterman(異なるプログラムで実行される)、または3D比較による構造的アラインメント;ならびに(ii)アラインメント法で使用するパラメータ、例えば、ローカルアラインメントであるかグローバルアラインメントであるか、使用するペアスコア行列(例えば、BLOSUM62、PAM250、Gonnetなど)、およびギャップペナルティ、例えば、関数形式および定数。
【0078】
アラインメントを行ったら、2つの配列間のパーセンテージ同一性を算出する多くの異なるやり方が存在する。例えば、同一性の数を:(i)最も短い配列の長さ;(ii)アラインメントの長さ;(iii)配列の長さの平均;(iv)非ギャップ位置の数;または(iv)突出を除外して相当する位置の数で割ることができる。さらに、パーセンテージ同一性はまた、長さに強力に依存することが理解されよう。したがって、配列の対が短いほど、偶然に生じると予想することができる配列同一性が大きくなる。
【0079】
したがって、タンパク質またはDNA配列の厳密なアラインメントは複雑なプロセスであることが理解されよう。一般的な多重アラインメントプログラムであるClustalW(Thompsonら、1994、Nucleic Acids Research、22、4673-4680;Thompsonら、1997、Nucleic Acids Research、24、4876-4882)は、本発明によるタンパク質またはDNAの多重アラインメントを生成するための好ましい手段である。ClustalWの適切なパラメータは以下の通りであり得る:DNAアラインメントに関して:ギャップオープンペナルティ(Gap Open Penalty)=15.0、ギャップ伸長ペナルティ(Gap Extension Penalty)=6.66、および行列(Matrix)=同一性(Identity)。タンパク質アラインメントに関して:ギャップオープンペナルティ(Gap Open Penalty)=10.0、ギャップ伸長ペナルティ(Gap Extension Penalty)=0.2、および(Matrix)行列=Gonnet。DNAおよびタンパク質アラインメントに関して:ENDGAP=-1、およびGAPDIST=4。最適な配列アラインメントのために、これらおよび他のパラメータを変動させることが必要になり得ることが当業者には分かるであろう。
【0080】
次いで、2つのアミノ酸/ポリヌクレオチド/ポリペプチド配列間のパーセンテージ同一性の算出をそのようなアラインメントから(N/T)*100(式中、Nは配列が同一の残基を共有する位置の数であり、Tはギャップを含め、および突出を含めるか除外するかのいずれかで比較した位置の総数である)として算出することができることが好ましい。突出を算出に含めることが好ましい。したがって、2つの配列間のパーセンテージ同一性を算出するための最も好ましい方法は、(i)ClustalWプログラムを使用し、適切なパラメータのセット、例えば、上記のものを使用して配列アラインメントを調製すること;ならびに(ii)NおよびT値を次式:配列同一性=(N/T)*100に挿入するステップを含む。
【0081】
同様の配列を同定するための代替方法は、当業者に公知である。例えば、実質的に類似したヌクレオチド配列は、DNA配列またはそれらの相補物にストリンジェントな条件下でハイブリダイズする配列によってコードされる。ストリンジェントな条件とは、ヌクレオチドが、フィルターに結合させたDNAまたはRNAと、3×塩化ナトリウム/クエン酸ナトリウム(SSC)、およそ45℃、その後、0.2×SSC/0.1%SDS、およそ20~65℃で少なくとも1回の洗浄の下でハイブリダイズすることを意味する。あるいは、実質的に同様のポリペプチドは、配列番号1~4で示される配列と、少なくとも1アミノ酸であるが5アミノ酸未満、10アミノ酸未満、20アミノ酸未満、50アミノ酸未満または100アミノ酸未満が異なる。
【0082】
遺伝暗号の縮重に起因して、本明細書に記載のいずれの核酸配列も、コードされるタンパク質の配列に実質的に影響を及ぼすことなく変動または変化させることができ、それにより、その機能的バリアントがもたらされることが明らかである。適切なヌクレオチドバリアントは、配列内の、同じアミノ酸をコードする異なるコドンの置換によって変更された配列を有し、したがって、サイレント変化を生じさせるものである。他の適切なバリアントは、相同なヌクレオチド配列を有するが、それで置換されるアミノ酸と同様の生物物理学的特性の側鎖を有するアミノ酸をコードする異なるコドンの置換によって変更された配列の全てまたは一部を含んで、保存的変化を生じさせるものである。例えば、小さな非極性、疎水性アミノ酸には、グリシン、アラニン、ロイシン、イソロイシン、バリン、プロリン、およびメチオニンが含まれる。大きな非極性、疎水性アミノ酸には、フェニルアラニン、トリプトファンおよびチロシンが含まれる。極性の中性アミノ酸には、セリン、トレオニン、システイン、アスパラギンおよびグルタミンが含まれる。正に荷電した(塩基性)アミノ酸には、リシン、アルギニンおよびヒスチジンが含まれる。負に荷電した(酸性)アミノ酸には、アスパラギン酸およびグルタミン酸が含まれる。したがって、いずれのアミノ酸を同様の生物物理学的特性を有するアミノ酸で置き換えることができるかは理解され、また、これらのアミノ酸をコードするヌクレオチド配列は当業者には分かるであろう。
【0083】
本明細書に記載の特徴の全て(あらゆる付随する請求項、要約および図を含む)ならびに/または、そのように開示される任意の方法もしくはプロセスのステップの全てを上記の態様のいずれかと、そのような特色および/またはステップの少なくとも一部が相互排他的である組合せ以外は、任意の組合せで組み合わせることができる。
【0084】
本発明のよりよい理解のため、および本発明の実施形態を実施の仕方を示すために、ここで、例として、以下の添付図を参照する。
【図面の簡単な説明】
【0085】
図1A】環状ペプチド、NBP-14を形成するための環化部位を形成する末端アラニン(A)およびリシン(K)残基を有する直鎖ペプチドT14(配列番号3)の配列を示す図である。
図1B】末端アラニンとリシン残基が連結した環状NBP-14ペプチドを示す図である。
図2】マウスに対するNBP-14の効果を試験する有効性試験設計の略図である。
図3】マウスの認知パフォーマンスを測定するために使用した新規物体認識試験(Novel Object Recognition Test)の要約を示す図である。
図4】アルツハイマー病(AD)病理のマーカーを同定するために使用した組織試料採取方法の略図である。
図5a】処置開始前のマウスにおける、マウスが見慣れた物体および新規物体を探索するのにかけた時間のパーセンテージを測定する新規物体認識試験の結果を示すグラフである。全ての群のマウスが新規物体と見慣れた物体とを識別する有意な能力を示したことを示す。見慣れた物体に対して*p<0.05;**p<0.01、n=15、28。
図5b】NBP-14を用いた6週間処置後のマウスにおける新規物体認識試験の結果を示すグラフである。野生型マウスのみが、見慣れた物体と比較して新規物体の探索に有意に多くの時間を費やしたことを示す。見慣れた物体に対して*p<0.05;**p<0.01、n=14、28。
図5c】14週間処置後のマウスにおける新規物体認識試験の結果を示すグラフである。NBP-14により減退を逆転させることができた。見慣れた物体に対して*p<0.05;**p<0.01、n=15、28。
図6】トランスジェニックTg-5XFADマウスの認識指標を示すグラフである。認識指標が50%を超えることは、マウスの、最近提示されていた物体よりも見慣れていない物体(新規)を探索する能力を反映する。NBP-14により、5XFADマウスにおける進行性の認知パフォーマンス低下を逆転させることができた。
図7】行動スコアリングによって測定された、長期NBP-14処置の毛づくろい/座る行動に対する影響を示すグラフである。ビヒクルで処置したTg-5XFADマウスにおいて座る行動が減少する明らかな傾向が観察され、これはNBP-14による処置で逆転した。
図8】ビヒクルまたはNBP-14を用いて急性的に処置した5XFADマウスの海馬における、アルツハイマー病マーカーであるpTauおよびNeuNの免疫染色を示す写真である。スケールバー=50μm。
図9】ビヒクルまたはNBP-14を用いて急性的に処置した5XFADマウスの前頭皮質における、アルツハイマー病マーカーであるpTauおよびNeuNの免疫染色を示す写真である。スケールバー=50μm。
図10】NeuN陽性ニューロンの密度を数量化するための画像解析戦略を示す。NeuN染色のみを数量化する。AT180染色を単にバックグラウンドとみなす。
図11】ビヒクルで処置したマウスおよびNBP-14で処置したマウスの海馬または皮質におけるNeuN陽性ニューロンの密度に差異がないことを示すグラフである。
図12】ビヒクルまたはNBP-14を用いて急性的に処置した5XFADマウスの海馬におけるβ-アミロイドの免疫染色(6E10抗体を使用)を示す写真である。スケールバー=50μm。
図13】ビヒクルまたはNBP-14を用いて急性的に処置した5XFADマウスの皮質におけるβ-アミロイド(6E10抗体を使用)およびIba1(Iba1抗体を使用)の免疫染色を示す写真である。スケールバー=50μm。
図14】それぞれβ-アミロイドおよびIba1を検出するために6E10およびIba1のレベルを数量化するための画像解析戦略を示す写真である。
図15】ビヒクルまたはNBP-14を用いて急性的に処置したマウスにおける、海馬または皮質における6E10およびIba1レベルの差異の定量分析を示すグラフである。有意差は認められなかった。
図16】ビヒクルまたはNBP-14を用いて6週間にわたって処置した5XFADマウスの海馬における、アルツハイマー病マーカーであるpTauおよびNeuNの免疫染色を示す写真である。スケールバー=50μm。
図17】ビヒクルまたはNBP-14を用いて6週間にわたって処置した5XFADマウス皮質における、アルツハイマー病マーカーであるpTauおよびNeuNの免疫染色を示す写真である。スケールバー=50μm。
図18】NeuN陽性ニューロンの密度の定量分析を示すグラフである。ビヒクルで処置したマウスおよびNBP-14で処置したマウスの海馬または皮質におけるNeuN陽性ニューロンの密度に差異がないことが示される。
図19】ビヒクルまたはNBP-14を用いて6週間にわたって処置した5XFADマウスの海馬におけるβ-アミロイドの免疫染色(6E10抗体)を示す写真である。スケールバー=50μm。
図20】ビヒクルまたはNBP-14を用いて6週間にわたって処置した5XFADマウスの皮質におけるβ-アミロイド(6E10抗体)およびIba1の免疫染色を示す写真である。スケールバー=50μm。
図21】ビヒクルまたはNBP-14を用いて6週間にわたって処置したマウスの海馬または皮質における6E10抗体およびIba1抗体レベルの差異の定量分析を示すグラフである。NBP-14を用いて6週間処置した後のマウスの皮質および海馬において、ビヒクルと比較して6E10の平均強度(Aβに結合する)の有意な低下が認められ、NBP-14を用いて6週間処置した後の海馬において、ビヒクルと比較して、Iba1陽性細胞に有意差が認められる。対応のないt検定を使用して統計解析を実施した。P≦0.05=*;P≦0.005=**。
図22】ビヒクルまたはNBP-14を用いて6週間にわたって処置した5XFADマウスの海馬におけるβ-アミロイドの免疫染色(6E10抗体)を示す追加的な個々のマウスデータを示す写真である。スケールバー=50μm。
図23】ビヒクルまたはNBP-14を用いて6週間にわたって処置した5XFADマウスの皮質におけるβ-アミロイドの免疫染色(6E10抗体)を示す追加的な個々のマウスデータを示す写真である。スケールバー=50μm。
図24】5XFADマウスにおけるAD病理の組織学的マーカー(pTau、NeuN)に対する長期NBP-14処置(T14W)の影響を示す写真である。この図は、NBP-14またはビヒクルを用いた長期処置後の5XFAD Tgマウス由来の脳切片の免疫組織化学染色を示す。海馬(A)、皮質(B)、または前脳基底部(C)のいずれにおいてもpTau(金色)を検出することができない。ニューロンはNeuNで検出される(緑色)。核はDAPIで検出される(青色)。白枠はマージした概観画像の右側に拡大画像として示されている。
図25】5XFADマウスにおける長期NBP-14処置(T14W)後のAD病理の組織学的マーカー(6E10、Iba1、NeuN)に対する影響の定量分析を示すグラフである。この図は、NBP-14またはビヒクルを用いた14週間にわたる長期処置後の5XAFDマウスの種々の脳領域におけるAD病理のIHCマーカーの数量化を示すグラフである。細胞外Aβ強度(A)、Iba1陽性細胞の密度(B)およびNeuN陽性細胞の密度(C)。対応のないt検定を使用して統計解析を実施した。ビヒクルに対して、*p<0.05;**p<0.01;n=4、NBP-14、n=8;動物当たり6つの切片。
図26】5XFADマウスにおけるAD病理の組織学的マーカー(pTau、AT8)に対する長期NBP-14処置(T14W)の影響を示す写真である。この図は、NBP-14またはビヒクルを用いて14週間にわたって長期処置した後の5XFAD Tgマウス由来の切片の免疫組織化学染色を示す写真である。ビヒクルで処置した5XFADマウスの皮質および海馬において、非神経細胞(NeuN陰性)においてAT8(pS202/pT205)で検出されるpTau(金色)が非常に低いレベルで認められるが(白色の矢印)、NBP-14を用いて処置したマウスではそれが認められない(A)。ニューロンはNeuNで検出される(緑色)。核はDAPIで検出される(青色)。NeuN陰性細胞集団におけるAT8 IHCシグナルの定量分析(B)。
図27】5XFADマウスにおける長期NBP-14処置(T14W)後のAD病理の組織学的マーカーに対する影響の定量分析を示すグラフである。この図は、NBP-14またはビヒクルを用いた14週間にわたる長期処置後の5XAFDマウスの種々の脳領域における核の総数の数量化を示す。細胞外Aβ強度(A)、Iba1陽性細胞の密度(B)およびNeuN陽性細胞の密度(C)。対応のないt検定を使用して統計解析を実施した。ビヒクルに対して、*p<0.05;**p<0.01;n=4、NBP-14、n=8;動物当たり6つの切片。
図28】5XFADマウスにおける長期NBP-14処置(T14W)後のAD病理の組織学的マーカーに対する影響の定量分析を示す。この図は、NBP-14またはビヒクルを用いた急性または長期処置後の、5XAFDマウスの3つの異なる処置群における細胞内アミロイドおよび細胞外斑沈着のレベルの比較を示す。対応のないt検定を使用して統計解析を実施した。ビヒクルに対して、*p<0.05;**p<0.01。
【実施例
【0086】
理論的根拠
本発明者らは、β-アミロイド斑が発生し、ダウン症候群において観察される早期発症型認知症と同様の認知機能低下に関連する表現型を示すトランスジェニックマウスモデルTG-5XFADを利用した。本発明者らは、アセチルコリンエステラーゼのC末端に由来する環状ペプチドの、マウスモデルにおけるβ-アミロイド斑形成を減少させ、早期発症型認知症に付随する症状を逆転させ、したがって、ダウン症候群に対する新規の治療法をもたらす能力を調査した。
【0087】
材料および方法
ペプチドの環化
本明細書に記載の直鎖ペプチドの環化を実現するために、3つの技法、すなわち、側鎖-側鎖間環化、側鎖-骨格間環化、および頭尾間(C末端-N末端間)環化を使用した。頭尾間環化は広範囲にわたって調査されており、定方向Cys-Cysジスルフィド環化(分子当たり2カ所まで)を伴い得る。反応を慎重にモニタリングすることで100%の環化が確実になる。2つの一般的な手法を合成のために使用する:(1)高希釈度条件下での古典的な液相直鎖ペプチド環化;および(2)樹脂に基づく環化。以下の2つの別個のプロトコールを固相合成(1)に使用した:-
(a)イミダゾール、3つの酸、4つのアミンまたはアルコールなどの側鎖官能基を介して固定したペプチドの樹脂上での環化を行った。ペプチドをC末端においてエステルとして直交性に保護し、次いで、ペプチドを通常のBocまたはFmoc合成によってアセンブルし、その後、鹸化、環化および切断を行った。
(b)使用した別のプロトコールは環化切断手法であった。これは、段階的な直鎖ペプチド合成後に環化することによって環状ペプチドを合成するものである。この方法の1つの利点は、側鎖を固定する必要がなく、それにより、手法が(a)よりも一般的なものになることである。(Christopher J.WhiteおよびAndrei K.Yudin(2011)Nature Chemistry 3;Valeroら(1999)J Peptide Res.53、76-67;Lihu YangおよびGreg Morriello(1999)Tetrahedron Letters 40、8197-8200;Parvesh Wadhwaniら(2006)J.Org.Chem.71、55-61)。
【0088】
前臨床的なトランスレーショナル薬理学試験の試験設計
試験設計が図2に要約されている。
【0089】
動物
Jackson Labsからの雌トランスジェニック5XFADマウス(B6SJL Tg(APPSwFlLon,PSEN1*M146L*L286V)6799Vas/Mmjax)。年齢範囲:5~8週齢。
Jackson Labsからの雌野生型マウス(B6SJL_genetic background C57BL/6xSJL)年齢:4週齢。
【0090】
処置
鼻腔内(IN、鼻から脳へ)、週に2回、14週間(投与体積10μL/。
【0091】
処置群
群1 WTマウス(NOR試験のみ);
群2 TG VEH:製剤のビヒクル(0.9%NaCl)を用いて処置した5xFADマウス;
群3 TG NBP14:NBP14を10mg/kgの用量で用いて処置した5xFADマウス;および
群4 TG NBP14:NBP14を30mg/kgの用量で用いて処置した5xFADマウス(30mg/kgでの関連性のある臨床徴候に起因して、処置の第2週から10mg/kgを開始した)。
【0092】
読み取り
以下の時点での新規物体認識(NOR)試験の評価:
・T0W、実験開始直前の基礎NOR行動。
・T6W、処置開始の6週間後。
・T14W、処置開始の14週間後。
【0093】
試験の持続時間にわたるNOR試験と同時点での免疫組織化学的検査の評価:
・T0W時点およびT6W時点のサテライト群のマウス。
・T14W時点のNOR試験からのマウス。
【0094】
PK/PD相関を可能にするための10mg/kgのNBP14のPKプロファイルの評価
・T0W時点およびT6W時点のサテライト群のマウス。
・T14W時点のNOR試験からのマウス。
【0095】
NBP-14のPK評価の試験設計
対象
群3 TG NBP14:NBP14を10mg/kgの用量で用いて処置した5XFADマウス(各PKについてn=3)。
【0096】
PK評価時点:
サテライト群のマウスにおいて処置開始時(T0W)の1回の単回処置後。
サテライト群のマウスにおいて6週間の処置後(T6W)。PKプロファイリング日にマウスをNBP14で処置した。
NORコホートからの第2群のマウスにおいて14週間の処置後(14W)。
【0097】
PK試験日に、マウスを10mg/kgのNBP14(IN)で処置し、処置の30分後に血液/脳を採取した。
【0098】
試験化合物の最終的な蓄積を評価するために、追加的なマウスの群を、14週間の処置後に、終端時点での同日の処置を行わずにNBP14曝露についての血液/脳採取に供した(表1)。
【0099】
認知に関する読み取り試験設計についてのNOR試験の評価
対象
群1 実験手順中、対照動物として使用したWTマウス(n=15)。処置に供した対象なし。
群2 TG VEH:製剤のビヒクル(生理食塩水)を用いて処置した5XFADマウス(n=14)。
群3 TG NBP14:NBP14を10mg/kgの用量で用いて処置した5XFADマウス(n=28)。
【0100】
NOR行動の評価時点:
-処置開始直前(T0W)
-処置開始の6週間後(T6W)
-処置開始の14週間後(T14W)
追加的なスコアリング
NOR試験に供したマウスについて毛づくろい/座ること/移動運動を測定した[すなわち、14週間処置後に野生型データを含めた]。
【0101】
試験終了時およびNOR手順の後、Tg 5XFADマウスを、PK(n=6のTG NPB14)および組織学的検査(n=9のTG VEH;n=15のTG NPB14)およびApha 7評価(n=5のTG VEH;n=10のTG NPB14)のために使用した。
【0102】
新規物体認識試験
物体認識試験は図3に要約されている。
【0103】
行動評価基準(Observer XT(登録商標))
その後の物体探索のスコアリングのために行動をビデオに記録した。物体調査は、2cm以下の距離で物体に鼻を向けること(すなわち、嗅ぐ動作をすることまたは鼻で触れること)と定義されている。物体の上によじ登ることおよび座ることは物体検査とはみなされない。
【0104】
生まれつき自発性探索のレベルが低い動物を除外するために、物体探索の最低レベルの基準を本試験に使用した:試験訓練中に10秒という最低レベルの物体探索を有するマウスを試験に含める。
【0105】
結果を、動物が物体に向けて費やした総時間(秒)として表した。認識指標(RI)も以下の通り算出した:(新規物体の探索時間)/(新規物体+見慣れた物体の探索時間)×100。
【0106】
組織学
対象
群2 TG-VEH:製剤のビヒクル(生理食塩水)を用いて処置した5xFADマウス。
群3 TG-NBP14:NBP-14を10mg/kgの用量で用いて処置した5xFADマウス。
【0107】
組織学時点:
-サテライト群のマウスにおいて処置開始時の1回の単回処置後(T0W)。
-サテライト群のマウスにおいて6週間の処置後(T6W)。
-NORコホートからのマウスの群において14週間の処置後(14W)(解析進行中)。
【0108】
組織学的分析
全てのTg-5XFADマウスからの脳試料を固定し、凍結切片作製し、アミロイド、リン酸化タウおよびグリオーシスの検出のために表1に列挙されている抗体を使用して免疫染色を行った。
【0109】
【表1】
【0110】
組織試料採取方法
図4に示されている通り、固定し包埋した脳試料の凍結切片作製を、クリオスタットを使用し、正中線から出発して矢状面に沿って実施した。
【0111】
連続切片を採取し、正中線から出発して6つごとの切片をAD病理のマーカーについて免疫染色した。合計で動物当たり6つの切片を定量分析のために使用した。
【0112】
実施例1-環状T14(すなわち、「NBP-14」)
「尾部を有する」アセチルコリンエステラーゼ(T-AChE)は、シナプスにおいて発現され、C末端から切断することができる2つのペプチドを本発明者らが以前に同定した。この2つのペプチドの一方は「T14」(14アミノ酸長)と称され、「T30」(30アミノ酸長)として公知の他方の内部に存在する。直鎖ペプチド、T14のアミノ酸配列はAEFHRWSSYMVHWK[配列番号3]である。直鎖ペプチド、T30のアミノ酸配列はKAEFHRWSSYMVHWKNQFDHYSKQDRCSDL[配列番号2]である。別のペプチドは、「T15」と称され、配列番号1の最後の15アミノ酸残基、すなわち、NQFDHYSKQDRCSDL[配列番号4]に対応する。
【0113】
AChE C末端ペプチド「T14」は、AChEの非加水分解作用の範囲に関与するAChE分子の際立った部分として同定された。合成の14アミノ酸のペプチド類似体(すなわち、「T14」)、および続いてそれが埋め込まれているより大きく、より安定であり、かつより強力なアミノ酸配列(すなわち、「T30」)は、「非コリン作動性」AChEについて報告されているものと同等の作用を示す。
【0114】
まず図1Aを参照すると、14アミノ酸長の環状T14ペプチド(すなわち、「NBP-14」)が示されている。環状ペプチド、NBP-14は、末端アラニン(A)およびリシン(K)残基を介して環化されたものであり、それが図1Bに示されている。環化は、いくつかの異なる手段によって実現することができる。例えば、Genosphere Biotechnologies(France)では、直鎖ペプチドをN末端-C末端間のラクタムに変換することによるT14の環化が実施された。環状NBP-14を創出するためのT14の環化では両端、すなわち、HWK-AEFを接合する。
【0115】
実施例2-NBP-14への血液/脳曝露の評価
本発明者らは、NBP-14を鼻腔内に適用した場合に血液脳関門を通過することが可能であるかどうかを決定するために、マウスの血液中および脳中の、経鼻適用したNBP-14の濃度を測定した。
【0116】
表2に示されている通り、6週間の処置後および14週間の処置後の両方でNBP-14が脳中で検出され、それにより、NBP-14の鼻腔内送達がNBP-14の脳への送達に関して効果的であることが示される。14週間にわたってNBP-14を用いて処置したが血液/脳採取日には処置しなかった群のマウスではNBP-14は検出されず、これにより、この化合物が蓄積しないことが示される。
【0117】
【表2】
【0118】
実施例3-認知に関する読み取りのための新規物体認識試験
物体探索時間に対するNBP-14処置
本発明者らは、「新規物体認識」試験を利用した。この試験は、記憶力を示す場合などに使用することができる、未知(すなわち、新規)物体の探索に費やした時間と、既知のまたは見慣れた物体の探索に費やした時間の差異を測定して新規の対象と見慣れた対象とを識別するマウスの能力を決定するものである。本発明者らは、この試験を使用して、アミロイド前駆体タンパク質(APP)、したがってアミロイド斑が発生しやすく、最終的には認知症を発症しやすいトランスジェニックマウスであるTg 5XFADにおける記憶力の低下を逆転させるNBP-14の能力を決定した。
【0119】
図5aに示されている通り、本発明者らは、まず、Tg 5XFADマウスが、5~8週齢の範囲では認知障害を示さず、したがって、野生型マウス、ビヒクルで処置したTg 5XFADマウスおよびNBP-14で処置したTg 5XFADマウスの間で差異が認められないことを確認した。
【0120】
ここで図5bを参照すると、6週間後(マウスの推定週齢は約12週齢であった)、野生型マウスは、新規物体の探索に見慣れた物体よりも多くの時間を費やした。ビヒクルを用いて処置した5XFADマウス(TG-VEH、n=14)では、6週間の処置後(マウスの推定週齢11~14週齢)、新規物体を探索する時間と見慣れた物体を探索する時間に統計学的差異は示されなかったが、これらのマウスにおいて高い変動性が認められた。図5bに示されている通り、NBP14を用いて処置した5XFADマウス(TG-NBP14、n=28)でも、6週間の処置後(マウスの推定週齢11~14週齢)、新規の物体を探索する時間と見慣れた物体を探索する時間に有意差は示されなかった。
【0121】
しかし、図5cに示されている通り、本発明者らは、野生型マウス(n=15)において、14週間後(マウスの推定週齢は22週齢であった)に新規物体の探索に費やした時間と見慣れた物体の探索に費やした時間に統計的有意差が認められた。ビヒクルを用いて処置した5XFADマウス(TG-VEH、n=14)では、14週間の処置後(マウスの推定週齢19~22週齢)、新規物体の探索に費やした時間と見慣れた物体の探索に費やした時間に統計学的有意差は認められなかった。しかし、非常に驚いたことに、NBP14を用いて処置した5XFADマウス(TG-NBP14群、n=27)では、14週間の処置後(マウスの推定週齢19~22週齢)、新規物体の探索に費やした時間と見慣れた物体の探索に費やした時間の統計的有意差が明白に認められた。
【0122】
したがって、これらのデータから、明白に、驚いたことに、NBP-14が、そうでなければ認知症を発症しやすいトランスジェニックマウスにおける認知機能低下に対する有意な保護効果を有することが示される。
【0123】
Tg 5XFADマウスにおける長期NBP14処置(10mg/kg)の認識指標での効果
次いで、本発明者らは、マウスの認識指標を決定した。認識指標が50%を超えることは、マウスの、最近提示された物体よりも見慣れていない物体(新規)を探索する能力を反映する。
【0124】
図6に示されている通り、この試験により、認識指標によって示されるトランスジェニック5XFADマウスにおける進行性の認知パフォーマンス低下(ベースライン対14週間)が明らかになり、このADのマウスモデルにおける認知障害を明らかにするためのNOR手順の妥当性が確認された。
【0125】
終端時点で、WTマウス(n=15、22週齢)およびNBP14を用いて処置した5xFADマウス、すなわち、TG=NBP14、(n=27、19~22週齢)において、ビヒクルで処置した5xFAD TG-VEHマウス(n=13、19~22週齢)群と比較して、RIの統計学的有意差が認められた。これにより、驚いたことに、NBP-14により、特に14週間の処置後に認知機能低下が保護されることが示される。
【0126】
長期NBP-14処置の毛づくろい/座る行動に対する影響
NOR手順のT1相の間(見慣れた物体)およびT2相の間(新規物体)(各相10分間)の行動スコアリングを評価した。図7に示されている通り、ビヒクルで処置したTg-5XFADマウスにおいて座る行動が減少する明らかな傾向が観察され、これは、驚いたことに、NBP-14による処置で逆転した。
【0127】
結論
全ての群のマウスにおいて得られたベースライン認知パフォーマンスにより、マウスにおけるNORを評価するために選択されたプロトコールの妥当性が確認され、また、6~8週齢の5XFADマウスの認知機能がWTマウスと同様であることが示される。
【0128】
この試験により、認識指標(ベースラインと14週間)によって示される通り、5XFADマウスにおける進行性の認知パフォーマンス低下が明らかになり、このADのマウスモデルにおける認知障害を明らかにするためのNOR手順の妥当性が確認された。
【0129】
これらの所見は、5XFADマウスが4~6カ月齢で認知機能異常を示し始めるという文献報告と一致する(Giannoniら、2013年12月24日、Front. Aging NeuroSci.;Creightonら、Nature、Scientific Reports、2019、9:57)。
【0130】
NOR試験の第6週の時点では、この段階のマウスの週齢(すなわち、12~14週齢)では、ビヒクルで処置した5XFADマウスと比較して、NBP-14で処置した5XFADマウスの認知パフォーマンスに統計的有意差は見られなかった。
【0131】
NOR試験の第14週の時点では、認識指標によって示される通り、ビヒクルを用いて処置した5XFADマウスでは見慣れた物体と新規物体を識別する能力の減退が認められる(この段階でのマウスの週齢は19~22週齢であった)。しかし、NPB-14を用いて処置した5XFADマウスでは、認識指標の減退は示されず、それにより、この実験条件(この段階でのマウスの週齢は19~22週齢であった)でのNBP-14による認知機能低下に対する保護効果が示唆される。
【0132】
NORでの一次的な認知に関する読み取りに加えて、追加的な分析を利用して、試験期間にわたる全般行動の定性的変化を評価した。これらのデータから、ビヒクルで処置したTg-5XFADマウスでは座る行動が減少する明らかな傾向が示され、これは、WTマウスでも5XFAD-NPB-14で処置したマウスでも認められなかった。
【0133】
全体として、第14週時点でのNPB-14で処置した5XFADマウスおよび無処置のWTマウスの認知パフォーマンスおよび全般行動は非常に類似しており、NBP-14により、驚いたことに、Tg-5XFADマウスにおいて認められる認知機能低下を逆転させることができることが示される。
【0134】
実施例4-トランスジェニック5XFADマウスにおけるNBP14処置の病理のマーカーに対する影響
Tg-5XFADマウスにおいて認められる認知機能低下を逆転させるNBP-14の能力が上記の通り示されたので、次いで、本発明者らは、NBP-14を用いて処置したマウスの脳において生じる構造的または生理的変化の決定を試みた。本発明者らは、脳の組織学的染色を利用して、5XFADマウスおよび同様にNBP-14で処置したマウスの両方における認知機能低下に関連付けられる脳に位置する種々のマーカー(すなわち、リン酸化タウ、NeuN、β-アミロイド、およびIba1)の変化を決定した。これらのバイオマーカーを、NBP-14を用いた急性処置後に測定し、6週間の処置後にも測定した。
【0135】
NBP-14を用いた急性処置
図8および9に示されている通り、抗体AT180を用いて特異的な細胞内リン酸化タウ免疫反応性は検出されず、ビヒクルで処置した5XFADマウスおよびNBP-14で処置した5XFADマウスの海馬(図9)においても皮質(図10)においても認められなかった。非特異的バックグラウンド染色のみが認められた。
【0136】
さらに、図10および11に示されている通り、NBP-14を用いて急性的に処置したマウスの皮質においても海馬においてもビヒクルと比較してNeuN陽性ニューロンの総数または密度に差異は認められなかった。
【0137】
図12~15に示されている通り、海馬のCA1および海馬台における錘体ニューロンにおいて細胞内β-アミロイド(Aβ)が認められる。ビヒクルで処置した5XFADマウスおよびNBP14で処置した5XFADマウスのどちらにおいても、海馬台において小さな細胞外Aβ斑沈着がわずかに認められる。NBP-14を用いて急性的に処置したマウスの皮質においても海馬においても、ビヒクルと比較して、Aβに結合する抗体6E10の平均強度の差異は目視検査では認められなかった。また、NBP-14を用いて急性的に処置したマウスの皮質においても海馬においても、ビヒクルと比較して、目視検査によって観察されたIba1陽性細胞の総数にも密度にも差異は見られなかった。これらのデータは、急性処置後に脳においてNBP-14が認められなかったNBP-14の血液/脳測定値と一致する。
【0138】
NBP-14を用いた6週間の処置
図16および17に示されている通り、ビヒクルで処置した5XFADマウスおよびNBP-14で処置した5XFADマウスのいずれにおいても、海馬においても皮質においても、抗体AT180で特異的な細胞内リン酸化タウ免疫反応性は検出されず、認められなかった。さらに、図18に示されている通り、NBP-14を用いて6週間処置した後のマウスの皮質または海馬において観察されたNeuN陽性ニューロンの総数にも密度にも、ビヒクルと比較して差異は見られなかった。
【0139】
しかし、驚いたことに、図19~24に示されている通り、本発明者らは、NBP-14を用いて6週間処置した後のマウスの皮質および海馬では、抗体6E10を使用した場合、ビヒクルと比較してβ-アミロイドの平均強度の有意な低下を認めた。
【0140】
例えば、図19は、ビヒクルまたはNBP-14を用いて6週間にわたって処置した5XFADマウスの海馬における6E10抗体を使用したβ-アミロイドの免疫染色を示し、図20は、ビヒクルまたはNBP-14を用いて6週間にわたって処置した5XFADマウスの皮質におけるβ-アミロイド(6E10抗体)およびIba1の免疫染色を示す。見ることができる通り、どちらの場合でも、ビヒクルで処置した対照と比べて細胞内アミロイドの有意な減少が見られ(それぞれP<0.005およびP<0.05)、海馬においてはグリオーシスの有意な減少(P<0.005)が伴った。
【0141】
図21は、ビヒクルまたはNBP-14を用いて6週間にわたって処置したマウスの海馬または皮質における6E10抗体およびIba1抗体レベルの差異の定量分析を示す。見ることができる通り、NBP-14を用いて6週間処置した後のマウスの皮質および海馬において、ビヒクルと比較して6E10の平均強度(Aβに結合する)の有意な低下が認められ、NBP-14を用いて6週間処置した後の海馬において、ビヒクルと比較して、Iba1陽性細胞に有意差が認められる。
【0142】
図22および23は、ビヒクルまたはNBP-14を用いて6週間にわたって処置した5XFADマウスのそれぞれ海馬および皮質におけるβ-アミロイドの免疫染色(6E10抗体)を示す追加的な個々のマウスデータを示す。見ることができる通り、どちらの場合でも、NBP-14で処置したマウスでは、ビヒクルで処置した対応物と比較してシグナルの顕著な低減が見られる。
【0143】
NBP-14を用いた14週間の処置
図24は、NBP-14またはビヒクルを用いた14週間の長期処置後の5XFAD Tgマウス由来の脳切片の免疫組織化学染色を示す。示されている通り、海馬(A)皮質(B)または前脳基底部(C)のいずれにおいてもpTau(金色)は検出されなかった。
【0144】
同様に、図26は、NBP-14またはビヒクルを用いて14週間にわたって長期処置した後の5XFAD Tgマウス由来の切片の免疫組織化学染色を示す。AT8(pS202/pT205)で検出されるpTau(金色)が、ビヒクルで処置した5XFADマウスの皮質および海馬の非神経細胞(NeuN陰性)において非常に低いレベルで認められるが(白色の矢印)、NBP-14を用いて処置したマウス(A)では認められない。
【0145】
図25は、NBP-14またはビヒクルを用いた14週間にわたる長期処置後の5XAFDマウスの種々の脳領域におけるアミロイド、グリオーシスおよび細胞数の定量分析結果を示す。細胞外Aβ強度(A)、Iba1陽性細胞の密度(B)およびNeuN陽性細胞の密度(C)が示されている。
【0146】
図27は、NBP-14またはビヒクルを用いた14週間にわたる長期処置後の5XAFDマウスの種々の脳領域における核の総数の数量化を示す。細胞外Aβ強度(A)、Iba1陽性細胞の密度(B)およびNeuN陽性細胞の密度(C)が示されている。
【0147】
図28は、NBP-14またはビヒクルを用いた急性または長期処置後の、5XAFDマウスの3つの異なる処置群における細胞内アミロイドおよび細胞外斑沈着のレベルの比較を示す。
【0148】
いかなる特定の理論にも縛られることを望まず、これらのデータから、NBP-14により、β-アミロイド斑の形成を減少させることができ、認知機能低下を逆転させることもできることが示される。脳における構造的変化が6週間の時点で認められ、その後、表現型の変化が14週間の処置後に認められた。本発明者らは、14週間を超える処置後にははるかに大きい構造的変化が認められ、認知機能低下の逆転を確実にする閾値を超えるという仮説を立てた。
【0149】
要約
ダウン症候群は、中年期に、生活の質およびさらには生存を損なう要因になり得る脳アミロイドの蓄積によって特徴付けることができる。アミロイドを減少させる効果的な処置を行うことができれば、認知および/または寿命の両方に対する有益な効果の潜在性があり得る。
【0150】
本明細書に記載の通り、環状ペプチド、NBP-14をトランスジェニックTg-5XFADマウスに鼻腔内適用し、6週間の期間にわたってこれらのNBP-14を用いて処置したTg-5XFADマウスにおいて(ビヒクル対照と比較して)海馬および皮質における細胞内β-アミロイドの強度の有意な低下が認められた。14週間時点で、皮質、海馬および前脳基底部において、アミロイドが細胞の外側に蓄積して斑を形成し、これは、NBP-14により、ビヒクルで処置した対照と比較して有意に減少した。NBP-14が、そうでなければ認知症を発症しやすいトランスジェニックTg-5XFADマウスにおける認知機能低下に対する有意な保護効果を有すること、およびNBP-14が、トランスジェニックマウスにおいて認められた認知機能低下を野生型群と同等のパフォーマンスのレベルまで逆転させることも見いだした。したがって、本研究により、アセチルコリンエステラーゼのC末端に由来する環状ペプチドによりβ-アミロイド形成が減少し、認知機能低下から保護され、認知機能低下が逆転することが示され、それにより、これらの環状ペプチドをダウン症候群に対する効果的な処置に使用することができることが示される。
図1A
図1B
図2
図3
図4
図5a
図5b
図5c
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25
図26
図27
図28
【国際調査報告】