(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-09-15
(54)【発明の名称】改善された加工性を有するUDテープおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
B29B 15/12 20060101AFI20230908BHJP
B29K 105/10 20060101ALN20230908BHJP
【FI】
B29B15/12
B29K105:10
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023537717
(86)(22)【出願日】2021-08-25
(85)【翻訳文提出日】2023-04-14
(86)【国際出願番号】 EP2021073527
(87)【国際公開番号】W WO2022043391
(87)【国際公開日】2022-03-03
(32)【優先日】2020-08-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523072762
【氏名又は名称】トウレ アドバンスト コンポジッツ
【氏名又は名称原語表記】TORAY ADVANCED COMPOSITES
【住所又は居所原語表記】18255 Sutter Blvd.,Morgan Hill,California 95037,U.S.A.
(71)【出願人】
【識別番号】523072773
【氏名又は名称】トウレ アドバンスト コンポジッツ
【氏名又は名称原語表記】TORAY ADVANCED COMPOSITES
【住所又は居所原語表記】G.van der Muelenweg 2,7443 RE Nijverdal,Netherlands
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】アンガー,スコット
(72)【発明者】
【氏名】リーサー,ダン
(72)【発明者】
【氏名】ルインゲ,ハンス
【テーマコード(参考)】
4F072
【Fターム(参考)】
4F072AA02
4F072AA04
4F072AA08
4F072AB09
4F072AB10
4F072AB22
4F072AB27
4F072AB33
4F072AD42
4F072AD45
4F072AD46
4F072AE08
4F072AF01
4F072AG03
4F072AH03
4F072AH24
4F072AH49
4F072AL01
4F072AL02
4F072AL11
(57)【要約】
本発明は、一方向テープを製造する方法に関し、該方法は、a)1次粒子と、2次粒子と、水と、任意で有機担持媒体と、任意で有機化合物と、任意で表面活性化合物と、を含む含浸用スラリーを供給し、平均のフィラメント間距離を有する一方向繊維層を供給するステップであって、1次粒子は第1ポリマーを含み、1次粒子は平均のフィラメント間距離と同じかそれより小さい粒径を有し、2次粒子は第2ポリマーを含み、2次粒子は平均のフィラメント間距離より大きい粒径を有する、ステップと、b)含浸一方向繊維層と表面ポリマー層を含む含浸一方向繊維ウェブを形成するために、含浸用スラリーを一方向繊維層に含浸させるステップであって、含浸一方向繊維層は、一方向繊維と1次粒子とを含み、好ましくは一方向繊維と1次粒子とだけで構成され、表面ポリマー層は、2次粒子を含む、ステップと、c)一方向テープを得るために、含浸一方向繊維ウェブを乾燥させるステップと、を含む。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方向テープを製造する方法であって、
a)1次粒子と、2次粒子と、水と、任意で有機担持媒体と、任意で有機化合物と、任意で表面活性化合物と、を含む含浸用スラリーを供給し、平均のフィラメント間距離を有する一方向繊維層を供給するステップであって、
前記1次粒子は第1ポリマーを含み、前記2次粒子は第2ポリマーを含み、
(i)前記1次粒子は前記平均のフィラメント間距離と同じかそれより小さい粒径を有し、前記2次粒子は前記平均のフィラメント間距離より大きい粒径を有する、または
(ii)前記1次粒子は10乃至50μmの粒径を有し、前記2次粒子は51乃至500μmの粒径を有する、
のいずれかである、ステップと、
b)含浸一方向繊維層と表面ポリマー層とを含む含浸一方向繊維ウェブを形成するために、前記含浸用スラリーを前記一方向繊維層に含浸させるステップであって、
前記含浸一方向繊維層は、一方向繊維と前記1次粒子とを含み、好ましくは一方向繊維と前記1次粒子とだけで構成され、前記表面ポリマー層は、前記2次粒子を含む、ステップと、
c)一方向テープを得るために、前記含浸一方向繊維ウェブを乾燥させるステップと、
を含む方法。
【請求項2】
前記第1ポリマーおよび/または前記第2ポリマーは、熱可塑性ポリマーである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記熱可塑性ポリマーは、複数のクラスのリストから選択される一つのクラスのポリマーであり、前記複数のクラスのリストは、ポリアリールエーテルケトン(polyaryletherketone:PAEK)系高分子材料と、ポリフェニレンスルフィド(polyphenylene sulphide:PPS)と、ポリエーテルイミド(polyetherimide:PEI)と、ポリエーテルスルホン(polyethersulfone:PESU,PES)と、ポリスルホン(polysulfone:PSU)と、で構成される、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記ポリアリールエーテルケトン(PAEK)系高分子材料は、複数のサブクラスのリストから選択される一つのサブクラスのポリマーであり、前記複数のサブクラスのリストは、ポリエーテルケトン(poly-ether-ketone:PEK)と、ポリエーテルエーテルケトン(polyether-ether-ketone:PEEK)と、ポリエーテルエーテルケトンケトン(poly-ether-ether-ketone-ketone:PEEKK)と、ポリエーテルエーテルケトンケトン(poly-ether-ether-ketone-ketone:PEKK)と、ポリエーテルケトンエーテルケトンケトン(poly-ether-ketone-ether-ketone-ketone:PEKEKK)と、ポリエーテルエーテルケトンエーテルケトン(poly-ether-ether-ketone-ether-ketone:PEEKEK)と、ポリエーテルエーテルエーテルケトン(poly-ether-ether-ether-ketone:PEEEK)と、ポリエーテルジフェニルエーテルケトン(poly-ether-diphenyl-ether-ketone:PEDEK)と、メタポリエーテルエーテルケトン(meta-polyether-ether-ketone:PEmEK)と、反応性(末端)基を有するポリアリールエーテルケトン(PAEK)系高分子材料と、これらの共重合体と、これらの混合物と、で構成される、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記第1ポリマーは、前記第2ポリマーと同じクラスもしくは同じサブクラスのポリマーであり、または前記第1ポリマーは、前記第2ポリマー以外のクラスもしくはサブクラスのポリマーである、請求項3または4に記載の方法。
【請求項6】
前記一方向繊維は、炭素繊維および/またはガラス繊維および/または石英である、請求項1乃至5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記ステップb)は、含浸一方向繊維層と2つの表面ポリマー層と含む含浸一方向繊維ウェブを形成するために、前記含浸用スラリーを一方向繊維層に含浸させるステップを含み、
前記2つのポリマー層は、前記一方向繊維層の両側に位置し、
前記一方向繊維層は、一方向繊維と1次粒子とを含み、好ましくは一方向繊維と1次粒子とだけで構成され、
前記2つの表面ポリマー層は、2次粒子を含む、
請求項1乃至6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記2次粒子は、導電性成分、および/または、電気絶縁性成分をさらに含む、請求項1乃至7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記導電性成分は、金属および/または炭素系成分であり、前記金属は、好ましくは銅および/または青銅であり、前記炭素系成分は、炭素繊維と、カーボンブラックと、グラフェンと、それらの混合物と、の群から選択され、および/または前記電気絶縁性成分はセラミック粒子である、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記表面ポリマー層上に3次粒子を静電的に付着させるステップd)をさらに含む、請求項1乃至9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記ステップb)の前記一方向繊維層は、前記一方向繊維層の表面に1本以上の導電性ワイヤーをさらに含むか、または前記ステップb)の後に1本以上の導電性ワイヤーが前記表面ポリマー層に導入される、請求項1乃至10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
請求項1乃至11のいずれか1項に記載の方法によって得られた一方向テープ。
【請求項13】
平均の含浸フィラメント間距離を有する含浸一方向繊維層と、表面ポリマー層と、を含む含浸一方向繊維ウェブであって、
前記含浸一方向繊維層は、一方向繊維と、第1ポリマーを含む1次粒子とを含み、好ましくは一方向繊維と、第1ポリマーを含む1次粒子とだけで構成され、前記表面ポリマー層は、第2ポリマーを含む2次粒子を含む、ことを特徴とし、
i)前記1次粒子は前記平均の含浸フィラメント間距離と同じかそれより小さい粒径を有し、前記2次粒子は前記平均の含浸フィラメント間距離より大きい粒径を有する、または
ii)前記1次粒子は10乃至50μmの粒径を有し、前記2次粒子は51乃至500μmの粒径を有する、
のいずれかである、
含浸一方向繊維ウェブ。
【請求項14】
前記第1ポリマーは前記第2ポリマーと同じであるか、または前記第1ポリマーは前記第2ポリマーと異なる、請求項13に記載の含浸一方向繊維ウェブ。
【請求項15】
前記2次粒子は、導電性成分、および/または、電気絶縁性成分をさらに含み、または、
前記表面ポリマー層は、1本以上の導電性ワイヤーをさらに含む、
請求項13または14に記載の含浸一方向繊維ウェブ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、改善された加工性を有する熱可塑性UDテープおよびその製造方法に関する。
【0002】
一方向テープ(Unidirectional Tape:UDテープ)は、様々な幅の繊維強化テープであり、長年知られている。一方向配列強化繊維に、一般的に、熱可塑性ポリマーが含浸され、強化繊維は通常、炭素繊維またはガラス繊維である。UDテープを使用することで、従来の材料で形成された構造と比較して、軽量であるだけでなく高剛性、高強度などの有利な構造特性を有する構造を形成することができる。その結果、UDテープは自動車、航空宇宙、家電産業など幅広い産業で様々な用途に使用されている。UDテープは、用途に応じて、複雑な形状への加工性および成形性が優れているだけでなく、強度や剛性などの機械的性能、大きさ、重量に関する基準を含む、多くの基準を満たす必要があることもある。
【0003】
UDテープの次の加工は、一般的に、UDテープに存在する熱可塑性ポリマーを溶融して、互いに密着した積層体または複数の層からなる積層体を形成することを含む。これらの工程には、仮付け、テープ配置、テープ敷設、固化、および溶着が含まれる。そのため、ほとんどの工程で、十分に固められた積層体を形成するように、隣接するUDテープの界面に存在する熱可塑性ポリマーを溶融および相互拡散させる必要がある。
【0004】
当技術分野においてUDテープに対して改善された加工性が求められている。このような改善された加工性とは、急速な付着、固化特性、熱成形挙動、および複雑な形状のための横方向の流れを意味する。同時に、UDテープは、靭性や剛性などの機械的性質が優れていなければならない。さらに、航空宇宙分野などの特殊な用途では、UDテープに優れた電気伝導性および/または熱伝導性が追加的に求められる。また、他の特定の用途では、UDテープが電気絶縁性を有するよう求められる。
【0005】
したがって、当技術分野において、改善された加工性と同時に優れた機械的性質を有するUDテープを提供する必要がある。
【0006】
また、当技術分野において、改善された加工性、優れた機械的性質と同時に優れた電気伝導性および/または熱伝導性を有するUDテープを提供する必要もある。
【0007】
また、当技術分野において、改善された加工性、優れた機械的性質と同時に優れた電気絶縁性を有するUDテープを提供する必要もある。
【0008】
したがって、本発明の目的は、改善された加工性と同時に優れた機械的性質を有するUDテープを提供することである。
【0009】
本発明のさらなる目的は、急速な付着、改善された固化特性、改善された熱成形挙動、および複雑な形状のための改善された横方向の流れを有し、同時に靭性および剛性を有するUDテープを提供することである。
【0010】
本発明のさらなる目的は、改善された加工性、優れた機械的性質と同時に優れた電気伝導性および/または熱伝導性を有するUDテープを提供することである。
【0011】
本発明のさらなる目的は、改善された加工性、優れた機械的性質と同時に絶縁性を有するUDテープを提供することである。
【0012】
また、本発明の目的は、これらの特性を有するUDテープの製造方法を提供することである。
【0013】
驚いたことに、一方向繊維層の表面にポリマーの層を有するUDテープを製造する方法により、上記目的を全て解決できることが分かった。すなわち、改善された機械的性質をもたらす一方向繊維層上に、改善された加工性をもたらす表面ポリマー層を有するUDテープが製造される。
【0014】
さらに驚いたことに、この表面ポリマー層を機能化することにより、電気伝導性の観点から、および/または、絶縁性の観点から、UDテープの特性を調整できることが分かった。機能化とは、表面ポリマー層に特定の性質を持たせるために、ポリマー以外の成分を表面ポリマー層に組み込むことを意味する。
【0015】
したがって、本発明は、一方向テープを製造する方法を提供し、該方法は、
a)1次粒子と、2次粒子と、水と、任意で有機担持媒体と、任意で有機化合物と、任意で表面活性化合物と、を含む含浸用スラリーを供給し、平均のフィラメント間距離を有する一方向繊維層を供給するステップであって、
(i)1次粒子は平均のフィラメント間距離と同じかそれより小さい粒径を有し、2次粒子は平均のフィラメント間距離より大きい粒径を有する、および/または
(ii)1次粒子は10乃至50μmの粒径を有し、2次粒子は51乃至500μmの粒径を有する、
のいずれかである、ステップと、
b)含浸一方向繊維層と表面ポリマー層とを含む含浸一方向繊維ウェブを形成するために、含浸用スラリーを一方向繊維層に含浸させるステップであって、
含浸一方向繊維層は、一方向繊維と1次粒子とを含み、好ましくは一方向繊維と1次粒子とだけで構成され、表面ポリマー層は、2次粒子を含む、ステップと、
c)一方向テープを得るために、含浸一方向繊維ウェブを乾燥させるステップと、
を含む。
【0016】
本発明は、さらに、本発明に係る方法によって得られた一方向テープを提供する。
【0017】
本発明は、さらにいくつかの驚くべき利点を有する。
表面ポリマー層のポリマーは、UPテープの機械的性能および/または加工性能をさらに最適化するために、一方向繊維層内のポリマーと同等、同一、または異なることが可能である。これは、表面ポリマー層と一方向繊維層の両方の特性を同時に調整することで実現される。
【0018】
例えば、表面ポリマー層は、例えば増加した横方向の流れを持つように調整することができ、それによってUDテープの改善された加工性を得ることができる。同時に、一方向繊維層のために適切な繊維および/または適切なポリマーを選択することにより、UDテープの機械的性質を調整することができる。
【0019】
さらに、表面ポリマー層の形成により、UDテープの表面に存在するポリマー含有量が増加し、その結果として、層間および成形型と複合積層体との間の摩擦が減少する。摩擦が減少することで成形性が向上し、より高速な成形および/またはより複雑な形状の成形が可能になる。
【0020】
さらに、本発明では、この表面ポリマー層を機能化することで、UDテープの特性を微調整することが可能になる。機能化とは、この表面ポリマー層に特定の性質を持たせるために、ポリマー以外の成分を表面ポリマー層に組み込むことを意味する。これらの特定の性質として、電気伝導性や絶縁性も可能である。この機能化は、本発明の方法によって容易に行うことができる。
【0021】
以下、本発明に係る一方向テープ(UDテープ)の製造方法について、より詳細に説明する。
【0022】
ステップa)において、平均のフィラメント間距離を有する一方向繊維層が供給される。
【0023】
一方向繊維層は、複数の一方向繊維を含む。これらの一方向繊維は、一般的に、一方向に並ぶように配置される。すなわち、複数の繊維は、一般的に、互いに平行に並んでいる。好ましくは、一方向繊維層の複数の繊維の少なくとも75%が一方向に並ぶ、より好ましくは少なくとも80%であり、さらに好ましくは少なくとも90%であり、最も好ましくは少なくとも95%である。一方向繊維は、フィラメントを含み、またはフィラメントだけで構成される。1本の繊維を形成するフィラメントの数は様々であってもよい。一般的に、1本の一方向繊維は、12000本または24000本のフィラメントから形成されてもよい。フィラメントの直径は、一般的に、5~7μmである。
【0024】
一方向繊維層の隣接するフィラメント間の平均のフィラメント間距離は、好ましくは40~60μm、より好ましくは45~55μm、より好ましくは47~52μm、より好ましくは49~51μm、最も好ましくは50μmである。
【0025】
一方向繊維層の平均のフィラメント間距離は、一方向繊維層に含浸させる前に測定される。一方向繊維層の平均のフィラメント間距離は、例えば、引き抜き工程で一般的に使用されている把持装置または引抜装置を用いて、調整することができる。把持装置または引抜装置は、例えば、回転するマンドレル(芯金)とすることができる。把持装置または引抜装置は、本発明の方法を実行している間、一方向繊維を引っ張った状態に保つ。このため、一方向繊維層の平均のフィラメント間距離は、把持装置または引抜装置によって繊維にかかる張力を変えることによって調整することができる。
【0026】
本発明の方法は、引き抜き工程として実施することが好ましい。
【0027】
平均のフィラメント間距離は、例えば、光学顕微鏡により算出することができる。フィラメント間距離は、少なくとも5本の繊維について、繊維の隣接するフィラメント間で少なくとも3回測定され、その算術平均として平均のフィラメント間距離が計算される。
【0028】
一方向繊維層は、第1表面と第2表面という2つの反対面を有する。表面ポリマー層は、第1表面または第2表面のいずれかに形成され、または第1表面と第2表面の両方に表面ポリマー層が形成される。
【0029】
本発明の方法に用いられる含浸用スラリーは、1次粒子と、2次粒子と、水と、任意で界面活性剤と、任意で有機担持媒体と、任意で有機化合物と、任意で表面活性化合物と、を含む。
【0030】
ステップa)の含浸用スラリーは、1次粒子と2次粒子とを含む。2次粒子の粒径は、1次粒子の粒径より大きい。
【0031】
1次粒子は、第1ポリマーを含み、好ましくは第1ポリマーだけで構成される。1次粒子は、(i)平均のフィラメント間距離と同じかそれより小さい粒径を有する、または(ii)10~50μm、より好ましくは15~40μm、さらに好ましくは20~30μmの粒径を有する、のいずれかである。
【0032】
このように、平均のフィラメント間距離を考慮して1次粒子の粒径を適切に選択することで、含浸時に隣接するフィラメント間に1次粒子を付着させる、すなわち接着させることができる。つまり、1次粒子は含浸一方向繊維層内に入り込むことができる。
【0033】
2次粒子は、第2ポリマーを含み、好ましくは第2ポリマーだけで構成される。2次粒子は、(i)平均のフィラメント間距離よりも大きい粒径を有する、または(ii)51~500μm、より好ましくは70~400μm、さらに好ましくは100~300μmの粒径を有する、のいずれかである。
【0034】
平均のフィラメント間距離を考慮して2次粒子の粒径を適切に選択することで、2次粒子が一方向繊維層の隣接するフィラメント間に侵入することを防止する。2次粒子は、一方向繊維層の表面に留まる。すなわち、2次粒子の大部分は、好ましくは、一方向繊維層の表面にのみ付着する、すなわち表面にのみ接着する。
【0035】
粒径は、レーザー回折分析により測定される。粒径の測定には、Microtrac社から市販されているレーザー回折式粒子径分布測定装置S3500を使用した。
【0036】
好ましくは、含浸用スラリーは、平均のフィラメント間距離より大きい粒径を有する1次粒子を含まず、および/または、平均のフィラメント間距離と同じかそれより小さい粒径を有する2次粒子を含まない。
【0037】
好ましくは、含浸用スラリーは、50μmより大きい、55μmより大きい、または60μmより大きい粒径を有する1次粒子を含まず、および/または、51μmより小さい、または45μmより小さい、あるいは40μmより小さい粒径を有する2次粒子を含まない。
【0038】
1次粒子および2次粒子は、好ましくは、第1ポリマーおよび第2ポリマーをそれぞれ粉砕し、所望の粒径を有する1次粒子および2次粒子を得るための篩を用いることによって得ることができる。
【0039】
ステップa)の含浸用スラリー中の1次粒子と2次粒子の重量比は、好ましくは90:10~70:30、より好ましくは85:15~75:25、最も好ましくは80:20である。
【0040】
好ましくは、水は脱イオン水である。
【0041】
好ましくは、有機担持媒体は、アルコールを含む。
【0042】
好ましくは、有機化合物は、消泡剤を含む。
【0043】
好ましくは、表面活性化合物は、界面活性剤を含む。界面活性剤は、好ましくは、非イオン界面活性剤および/または陰イオン界面活性剤である。非イオン界面活性剤は、好ましくは、ポリエチレングリコールを含む。陰イオン界面活性剤は、硫酸基、スルホン酸基、リン酸基、またはカルボキシレート基を含むことが好ましい。
【0044】
ステップb)において、一方向繊維層に含浸用スラリーを含浸させ、含浸一方向繊維ウェブを形成する。
【0045】
好ましくは、ステップb)は含浸槽、すなわち含浸用スラリーが入った容器で行われる。一方向繊維層に、好ましくは含浸槽を通して一方向繊維層を移動させるまたは引き抜くことにより、含浸用スラリーを含浸させる。移動または引き抜きは、好ましくは、把持装置または引抜装置、例えば回転するマンドレルによって行われる。把持装置または引抜装置は、通常、含浸槽または含浸ステップb)の下流に配置される。好ましくは、含浸用スラリーは、ステップb)の間、攪拌される。
【0046】
ステップb)において一方向繊維層に含浸用スラリーを含浸させることで、含浸一方向繊維ウェブが形成される。含浸一方向繊維ウェブは、含浸一方向繊維層と表面ポリマー層とを含み、表面ポリマー層は含浸一方向繊維層に隣接している。
【0047】
含浸一方向繊維層は、一方向繊維と1次粒子とを含む、好ましくは一方向繊維と1次粒子とだけで構成される。上述したように、1次粒子の平均粒径は、一方向繊維層の隣接するフィラメント間の平均のフィラメント間距離と同じかそれより小さい。これにより、含浸ステップb)において、隣接するフィラメント間に1次粒子を付着させる、すなわち接着させることができる。つまり、1次粒子は含浸一方向繊維層内に入り込むことができる。
【0048】
表面ポリマー層は、2次粒子を含む。上述したように、2次粒子の粒径は、一方向繊維層における隣接する一方向繊維間の平均の距離よりも大きいことが好ましい。1次粒子とは異なり、2次粒子は、一方向繊維層内に入り込むことができず、その表面に留まる。つまり、2次粒子は、一方向繊維層の表面にのみ付着する、すなわち表面にのみ接着する。そのため、表面ポリマー層は、2次粒子により形成され、たとえあったとしてもほんの微量の1次粒子により形成される。したがって、表面ポリマー層は、「ポリマーリッチ層」、より正確には、「第2ポリマーリッチ層」とも表示することができる。
【0049】
好ましくは、含浸一方向繊維層と表面ポリマー層との間に位置する他の層は存在しない。
【0050】
本方法は、ステップb)の後に、一方向テープを得るため含浸一方向繊維ウェブを乾燥させるステップをさらに含む。乾燥は、オーブンで行うことができ、赤外線ヒーターを含むオーブンによることが好ましい。乾燥中、水および存在するなら界面活性剤は蒸発し、含浸一方向繊維ウェブの1次粒子および2次粒子が溶融される。
【0051】
好ましくは、表面ポリマー層の厚さは、1~15μmであり、より好ましくは2~10μmであり、最も好ましくは4~6μmである。
【0052】
好ましくは、第1ポリマーおよび/または第2ポリマーは、熱可塑性ポリマーであり、より好ましくは、第1ポリマーおよび第2ポリマーの両方が熱可塑性ポリマーである。
【0053】
好ましくは、熱可塑性ポリマーは、複数のクラスのリストから選択される一つのクラスのポリマーであり、前記複数のクラスのリストは、ポリアリールエーテルケトン(polyaryletherketone:PAEK)系高分子材料と、ポリフェニレンスルフィド(polyphenylene sulphide:PPS)と、ポリエーテルイミド(polyetherimide:PEI)と、ポリエーテルスルホン(polyethersulfone:PESU,PES)と、ポリスルホン(polysulfone:PSU)と、で構成され、より好ましくは、熱可塑性ポリマーは、複数のクラスのリストから選択される一つのクラスのポリマーであり、前記複数のクラスのリストは、ポリアリールエーテルケトン(PAEK)系高分子材料またはポリエーテルイミド(PEI)で構成される。
【0054】
ポリアリールエーテルケトン(PAEK)系高分子材料は、熱可塑性ポリマーの複数のクラスの1つである。好ましくは、ポリアリールエーテルケトン(PAEK)系高分子材料は、複数のサブクラスのリストから選択される一つのサブクラスのポリマーであり、前記複数のサブクラスのリストは、ポリエーテルケトン(poly-ether-ketone:PEK)と、ポリエーテルエーテルケトン(polyether-ether-ketone:PEEK)と、ポリエーテルエーテルケトンケトン(poly-ether-ether-ketone-ketone:PEEKK)と、ポリエーテルエーテルケトンケトン(poly-ether-ether-ketone-ketone:PEKK)と、ポリエーテルケトンエーテルケトンケトン(poly-ether-ketone-ether-ketone-ketone:PEKEKK)と、ポリエーテルエーテルケトンエーテルケトン(poly-ether-ether-ketone-ether-ketone:PEEKEK)と、ポリエーテルエーテルエーテルケトン(poly-ether-ether-ether-ketone:PEEEK)と、ポリエーテルジフェニルエーテルケトン(poly-ether-diphenyl-ether-ketone:PEDEK)と、メタポリエーテルエーテルケトン(meta-polyether-ether-ketone:PEmEK)と、反応性(末端)基を有するポリアリールエーテルケトン(PAEK)系高分子材料と、これらの共重合体と、これらの混合物と、で構成される。より好ましくは、ポリアリールエーテルケトン(PAEK)系高分子材料は、複数のサブクラスのリストから選択される一つのサブクラスのポリマーであり、前記複数のサブクラスのリストは、ポリエーテルエーテルケトンケトン(poly-ether-ether-ketone-ketone:PEKK)とポリエーテルジフェニルエーテルケトン(PEDEK)とその共重合体とで構成される。
【0055】
好ましくは、第1ポリマーは、第2ポリマーと同じクラスもしくは同じサブクラスのポリマーであり、または第1ポリマーは、第2ポリマー以外のクラスもしくはサブクラスのポリマーである。
【0056】
第1ポリマーが第2ポリマーと同じクラスまたは同じサブクラスのポリマーである場合、含浸一方向繊維ウェブすなわち一方向テープには、1つのクラスのポリマーのみが存在する。第1ポリマーが第2ポリマーと同じクラスまたは同じサブクラスのポリマーである場合、第1ポリマーは、重量平均分子量、分岐、任意の置換された末端基および/または共重合体組成において、第2ポリマーと異なることが好ましい。
【0057】
第1ポリマーが第2ポリマー以外のクラスまたはサブクラスのポリマーであることの利点は、表面ポリマー層を形成する第2ポリマーを具体的に選択することができることである。
【0058】
好ましくは、一方向繊維は、炭素繊維および/またはガラス繊維および/または石英であり、より好ましくは炭素繊維である。一方向繊維は、好ましくは連続繊維であり、より好ましくは連続炭素繊維である。
【0059】
好ましくは、ステップb)において、含浸一方向繊維層と、含浸一方向繊維層の両側に位置する2つの表面ポリマー層と、を含む含浸一方向繊維ウェブが形成され、2つの表面ポリマー層は、2次粒子を含む。
【0060】
すなわち、含浸一方向繊維層は、2つの表面ポリマー層に挟まれており、両方の表面ポリマー層は、2次粒子を含む、または2次粒子だけで構成される。これは、UDテープの両表面を、本明細書で説明したように調整および/または機能化できるという利点がある。
【0061】
上述したように、表面ポリマー層を機能化することができる。機能化とは、表面ポリマー層に特定の性質を持たせるために、さらなる成分を表面ポリマー層に組み込むことを意味する。これらの性質は、好ましくは電気伝導性または絶縁性である。このような場合、表面ポリマー層は「機能化表面ポリマー層」とも表示することができる。このような機能化は、2次粒子にさらに成分を加えることで実現される。
【0062】
好ましくは、2次粒子は、導電性成分および/または電気絶縁性成分をさらに含む。
【0063】
好ましくは、導電性成分は、金属または炭素系成分である。好ましくは、金属は、粒子の形態である。この金属粒子の大きさは、2次粒子の粒径より小さくなければならない。好ましくは、金属は、銅および/もしくは青銅であり、ならびに/または、炭素系成分は、炭素繊維と、カーボンブラックと、グラフェンと、それらの混合物と、からなる群から選択される。導電性成分は、好ましくはステップa)の前に、第2ポリマーを含む2次粒子と混合され、より好ましくは溶融混合される。
【0064】
表面ポリマー層の電気伝導性は、電気伝導性が望まれる用途に有利なだけでなく、落雷の可能性を考慮して高い電気伝導性が要求される場合もある。後者の場合、導電性の表面ポリマー層が避雷保護として機能する。
【0065】
好ましくは、電気絶縁性成分は、セラミック粒子である。このセラミック粒子の大きさは、2次粒子の粒径より小さくなければならない。
【0066】
好ましくは、ステップb)の一方向繊維層は、一方向繊維層の表面に1本以上の導電性ワイヤーをさらに含むか、またはステップb)の後に1本以上の導電性ワイヤーが表面ポリマー層に導入される。好ましくは、導電性ワイヤーは銅線である。1本以上の導電性ワイヤーは、一方向繊維層の片面または両面に存在することができ、または敷設することができる。そして、本方法のステップb)から、1本以上の導電性ワイヤーとともに、一方向繊維層の処理が始まる。
【0067】
あるいは、1本以上の導電性ワイヤーは、ステップb)の後に表面ポリマー層に導入することが好ましい。1本以上の導電性ワイヤーは、ステップb)の後でステップc)の前、またはステップc)の後のいずれかで、含浸一方向繊維層の片面または両面に敷設することができる。
【0068】
また、ステップc)の後に、表面ポリマー層を溶融し、溶融した表面ポリマー層に1本以上の導電性ワイヤーを導入し、例えば冷却によって表面ポリマー層を凝固させることにより、1つ以上の導電性ワイヤーを表面ポリマー層に導入することもできる。
【0069】
好ましくは、本発明に係る方法は、表面ポリマー層上に3次粒子を静電的に付着させる、より好ましくは、両方の表面ポリマー層上に3次粒子を静電的に付着させる、ステップd)をさらに含む。これにより、一方向テープの一方または両方の表面ポリマー層上に、3次粒子を含むまたは3次粒子だけで構成される追加の表面ポリマー層を形成することができる。つまり、1つまたは2つの表面ポリマー層を追加した一方向テープを得ることができる。1つまたは2つの追加の表面層は、好ましくは、一方向テープの最も外側の層である。これにより、特に特定の用途向けにUDテープの表面特性を適応させて微調整することができる。
【0070】
好ましくは、静電的付着はエレクトロスプレーにより行われる。エレクトロスプレーは、1つ以上のスプレーガンを用いて行うことが好ましい。
【0071】
ステップd)は、好ましくはステップc)の前に、またはステップc)の後に、より好ましくはステップc)の後に実施される。好ましくは、ステップd)の後に、1つまたは2つの追加の表面ポリマー層を有する一方向テープを乾燥または固化する。
【0072】
3次粒子は、第3ポリマーを含み、好ましくは、第3ポリマーだけで構成される。好ましくは、第3ポリマーは、熱可塑性ポリマーである。熱可塑性ポリマーは、本明細書において、第1ポリマーおよび第2ポリマーについて上述したものと同じである。好ましくは、第3ポリマーは、第1ポリマーおよび/または第2ポリマーと同じクラスまたは同じサブクラスのポリマーであり、あるいは第3ポリマーは、第1ポリマーおよび/または第2ポリマー以外のクラスまたはサブクラスのポリマーである。
【0073】
3次粒子は、好ましくは10μm~500μm、より好ましくは15~250μm、最も好ましくは20~200μmの粒径を有する。3次粒子の大きさは、静電的に付着させることができるもの、より好ましくはエレクトロスプレーによって付着させることができるものでなければならない。粒径は、前述したようにレーザー回折分析により測定される。
【0074】
また、本発明は、本発明に係る方法によって得られた一方向テープにも関する。上述した本発明の方法の全ての実施形態は、本発明に係る方法によって得られた一方向テープの好ましい実施形態でもある。
【0075】
また、本発明は、平均の含浸フィラメント間距離を有する含浸一方向繊維層と、表面ポリマー層と、を含む含浸一方向繊維ウェブにも関しており、
含浸一方向繊維層は、一方向繊維と第1ポリマーを含む1次粒子とを含み、好ましくは一方向繊維と第1ポリマーを含む1次粒子とだけで構成され、表面ポリマー層は、第2ポリマーを含む2次粒子を含む、ことを特徴とし、
i)1次粒子は平均の含浸フィラメント間距離と同じかそれより小さい粒径を有し、2次粒子は平均の含浸フィラメント間距離より大きい粒径を有する、および/または
ii)1次粒子は10~50μmの粒径を有し、2次粒子は51~500μmの粒径を有する、
のいずれかである。
【0076】
上述の本発明の方法の全ての実施形態は、適用される場合、含浸一方向繊維ウェブの好ましい実施形態でもある。
【0077】
含浸一方向繊維層の隣接するフィラメント間の平均の含浸フィラメント間距離は、好ましくは40~60μm、より好ましくは45~55μm、より好ましくは47~52μm、より好ましくは49~51μm、最も好ましくは50μmである。
【0078】
一方向繊維層に含浸させた後、含浸一方向繊維層の平均の含浸フィラメント間距離を測定する。
【0079】
平均のフィラメント間距離は、例えば、光学顕微鏡により算出することができる。含浸フィラメント間距離は、少なくとも5本の繊維について、繊維の隣接するフィラメント間で少なくとも3回測定され、その算術平均として平均の含浸フィラメント間距離が計算される。
【0080】
好ましくは、第1ポリマーは第2ポリマーと同じであるか、または第1ポリマーは第2ポリマーと異なる。第1ポリマーおよび第2ポリマーは、好ましくは、方法について上述したようなものである。
【0081】
好ましくは、2次粒子は、導電性成分、および/または熱伝導性成分、および/または電気絶縁性成分をさらに含む。
【0082】
好ましくは、表面ポリマー層は、1本以上の導電性ワイヤーをさらに含む。より導電性の高いワイヤーは、銅線であることが好ましい。
【国際調査報告】