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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-09-15
(54)【発明の名称】耐食性コーティング
(51)【国際特許分類】
   C23C 28/04 20060101AFI20230908BHJP
   C23C 26/00 20060101ALI20230908BHJP
【FI】
C23C28/04
C23C26/00 C
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023538873
(86)(22)【出願日】2021-08-26
(85)【翻訳文提出日】2023-04-20
(86)【国際出願番号】 US2021047696
(87)【国際公開番号】W WO2022046996
(87)【国際公開日】2022-03-03
(31)【優先権主張番号】63/071,526
(32)【優先日】2020-08-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】63/214,365
(32)【優先日】2021-06-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】63/113,508
(32)【優先日】2020-11-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523072326
【氏名又は名称】コーティングス フォー インダストリー,インコーポレーテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】IBC一番町弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】マクモディー,ブルース,ゴードン
(72)【発明者】
【氏名】クロッツ,ブライアン
【テーマコード(参考)】
4K044
【Fターム(参考)】
4K044AA02
4K044AB02
4K044BA13
4K044BA14
4K044BA15
4K044BA17
4K044BA21
4K044BB04
4K044BB05
4K044BC02
4K044BC04
4K044CA53
4K044CA62
(57)【要約】
腐食性基材上に耐食性マルチプライコーティングを形成する方法であって、(a)アルミニウム含有ケイ酸塩スラリーを基材の表面上に塗布し、付着したスラリーを加熱して、電子導電性でない、硬化されたアルミニウム含有ケイ酸塩複合体のベースコートを形成し、任意選択により前述の工程を繰り返してより厚いマルチプライコーティングを形成することと、(b)三価アルミニウムおよびリン酸イオンの初期溶液(Al+3PO)を前記ベースコートの表面に塗布し、前記溶液を乗せた基材を加熱して、電子導電性でない複合体を含む硬化プライを形成することと、(c)複合体の表面を機械加工して、電子導電性の形態にある修飾複合体を形成することと、(d)修飾複合体の表面に、その組成が前記初期溶液と同じであっても異なっていてもよい二価アルミニウムおよびリン酸イオンの追加の溶液(Al+3PO)を塗布し、前記追加の溶液を乗せた修飾された導電性の塗装面を、それが硬化する条件下で加熱して、電子導電性でない前記マルチプライコーティングを形成することと、を含む、方法、該方法によって調製されるマルチプライコーティング、ならびにマルチプライコーティングで塗装される物品。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
腐食性基材上に耐食性マルチプライコーティングを形成する方法であって、
アルミニウム含有ケイ酸塩スラリーを前記基材の表面上に塗布し、付着した前記スラリーを加熱して、電子導電性でない、硬化されたアルミニウム含有ケイ酸塩複合体のベースコートを形成し、任意選択により前述の工程を繰り返して、より厚いマルチプライコーティングを形成することと、
三価アルミニウムおよびリン酸イオンの初期溶液(Al+3PO)を前記ベースコートの表面に塗布し、前記溶液を乗せた前記基材を加熱して、電子導電性でない複合体を含む硬化プライを形成することと、
前記複合体の表面を機械加工して、電子導電性の形態にある修飾複合体を形成することと、
前記修飾複合体の表面に、その組成が前記初期溶液と同じであっても異なっていてもよい三価アルミニウムおよびリン酸イオンの追加の溶液(Al+3PO)を塗布し、前記追加の溶液を乗せた修飾された導電性の塗装面を、それが硬化する条件下で加熱して、電子導電性でない前記マルチプライコーティングを形成することと
を含む、方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法によって調製されたマルチプライコーティング。
【請求項3】
請求項2に記載のマルチプライコーティングで塗装した物品。
【請求項4】
腐食性基材上に耐食性マルチプライコーティングを形成する方法であって、
(A)電子導電性でなく、以下、ベースコートと呼ばれるアルミニウム-ケイ酸塩表面に、三価アルミニウムおよびリン酸イオン(Al+3PO)の初期溶液を塗布し、電子導電性でない硬化プライ(以下、「複合体」)を形成する条件下で、前記溶液を乗せた前記表面を加熱することと、
(B)複合体の表面を機械加工して、電子導電性の形態にある修飾複合体を形成することと、
(C)前記修飾複合体の表面に、その組成が前記初期溶液と同じであっても異なっていてもよい三価アルミニウムおよびリン酸イオンの追加の溶液(Al+3PO)を塗布することと、
(D)前記追加の溶液を乗せた修飾された導電性塗装面を、それが硬化する条件下で加熱して、電子導電性でない前記コーティングを形成することと
を含む、方法。
【請求項5】
請求項4に記載の方法によって調製されたマルチプライコーティング。
【請求項6】
請求項5に記載のマルチプライコーティングで塗装された物品。
【請求項7】
耐食性コーティング組成物を調製する方法であって、三価クロムおよび硝酸塩を好適な担体に添加することを含む方法。
【請求項8】
請求項7に記載の組成物で塗装した物品。
【請求項9】
前記初期溶液および前記追加の溶液の片方または両方が、三価クロムおよび硝酸塩を含有する、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記初期溶液が、三価クロムおよび硝酸塩を含有する、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記追加の溶液が、三価クロムおよび硝酸塩を含有する、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
前記溶液の両方が、クロムおよび硝酸塩を含有する、請求項9に記載の方法。
【請求項13】
前記ケイ酸塩スラリーが、ケイ酸ナトリウムおよびケイ酸リチウムを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記スラリーがポリケイ酸塩も含む、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
請求項13または請求項14に記載の方法によって調製されたマルチプライコーティング。
【請求項16】
請求項15に記載のマルチプライコーティングで塗装された物品。
【請求項17】
前記初期溶液がMgイオンも含み、1.5超のpHを有する、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
前記pHが2.5超である、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記初期溶液または前記追加の溶液が、ポリマー樹脂を含有する、請求項9に記載の方法。
【請求項20】
前記樹脂が、水中のポリテトラフルオロエチレンまたはシリコーンである、請求項19に記載の方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2021年6月24日に出願された特許出願第63/214,365号、2020年11月13日に出願された特許出願第63/113,508号、および2020年8月28日に出願された特許出願第63/071,526号の利益を主張するものである。本出願およびこれらの特許出願は、耐食性マルチプライコーティングの金属面上での形成を開示する。
【0002】
本発明は、様々な環境条件、例えば脆弱な金属を錆びさせうる水に晒されたときに分解される傾向がある基材上に耐食性コーティングを形成するための環境的に許容される方法に関する。本発明はまた、前述の方法によって調製されるマルチプライコーティングと、それに加えて、該コーティングを含む物品にも関する。
【背景技術】
【0003】
そのような物品の例としては、スチール部品を含み、吸気噴霧または湿式圧縮で動作して出力を増加させる産業ガスタービンがある。吸気噴霧の使用は、タービンに入ると、細かい水滴を空気中に射出する。水滴の蒸発は空気を冷却し、これによってタービンを通る質量流量が増加され、結果として出力が上がる。しかしながら、噴射中、水がタービンのコンプレッサ部分に蓄積することが多い。蓄積が生じると、塗装された部品は水蒸気に晒されるだけでなく、沸点近くの温度の凝縮水中で巻き上げられる。適切に塗装されなければ、タービン部品は、そのような条件に耐えられない。
【0004】
本発明の以下の説明から理解されるように、該物品は、他の塗装用途、例えば、環境的に許容されない六価クロムを含むコーティング組成物の使用に頼る様々な用途、他のタイプの回転機械における様々な用途、ならびに金属またはセラミック材料が様々なタイプの腐食性材料(液体および気体材料の両方を含む)に暴露される用途においても使用することができる。
【発明の概要】
【0005】
本発明は、六価クロムイオンを含まない組成物の使用を取り入れた、耐食性の犠牲マルチプライコーティング系の形成に有効な塗装方法を提供する。本発明の一実施形態は、以下の工程を含む方法を含む。
【0006】
(A)アルミニウム含有ケイ酸塩スラリーを、金属または「他の脆性な」表面上に塗布し、次いで
(B)付着したスラリーを加熱して、電子導電性でない、硬化されたアルミニウム含有ケイ酸塩複合体のベースコートを形成すること(工程(A)および(B)を繰り返して複数の更に厚いマルチプライコーティングを構築してもよい)。
【0007】
(C)三価アルミニウムおよびリン酸イオンの初期溶液(Al+3PO)をベースコートの表面に塗布して、該溶液をベースコートに吸収させ、次いで
(D)工程(C)のリン酸溶液で飽和になったアルミニウム-ケイ酸塩プライを加熱して、電子導電性でない修飾複合体を含む硬化プライを形成すること。
【0008】
(E)修飾複合体の表面を機械加工して、例えば、抵抗を約15オーム未満に低減する電子導電性の形態に変換すること。
【0009】
(F)組成が工程(C)で使用した組成と同じであっても異なっていてもよい三価アルミニウムおよびリン酸イオンの追加の溶液(Al+3PO)を、機械加工した導電性表面に塗布し、次いで
(G)導電性の塗装面を、それが硬化する条件下で加熱して、電子導電性でないコーティングのプライを形成すること。
【0010】
本発明はまた、六価クロムを含まず、前述の工程(A)~(G)で形成される保護マルチプライコーティングで塗装された物品と、さらには物品が使用される用途も提供する。
【0011】
本発明の別の実施形態は、上述の工程(A)および(B)に規定されるタイプのアルミニウム含有ケイ酸塩ベースコートに、(C)および(D)ならびに(F)および(G)の各溶液について規定される三価のリン酸アルミニウムの溶液を塗布することと、(F)および(G)の溶液を塗布する前に(E)の「機械加工」工程を含めることとを含む。
【0012】
本発明の実践に関連する利点が多数ある。毒性クロム系コーティング組成物は、長年、高い耐食性のコーティングを形成する産業上での基準として見なされてきた。本発明は、環境的に有害な成分、例えば六価クロムの使用を必要とせずに、そのような高い耐食性のコーティングを形成することを可能にする。本発明の組成物の別の利点は、ケイ酸塩系組成物が「一液」組成物であり、使用前に全成分を混合して単一の配合物にすることができ、1種以上の成分が組成物の他成分に悪影響を与えることがないことである。従来技術の非クロム系組成物は、典型的には、使用直前に混合する必要がある「二液」組成物である。本発明によるアルミニウムイオン/リン酸増強剤を用いた従来技術のアルミニウム含有ケイ酸塩組成物の処理は、耐熱湯性および耐食性ならびに熱湯および水蒸気中での安定性および/または耐食性に満足いかないと考えられている従来技術のコーティングの他の重要な特性をさらに改善する。以下の説明は、本発明の実践に関連する特定の改善に言及する。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本明細書で用いられる場合:
用語「導電性」および「非導電性」は、それぞれ、電子的に導電性および電子的に非導電性を意味する。
【0014】
用語「導電性」は、プライの表面を貫通しないようにコーティングのプライの表面上に2つのオームメータープローブを1インチ離して軽く置いたとき、これらのプローブ間で測定された電気抵抗が約20オーム以下、好ましくは約15オーム以下、より好ましくは約10オーム未満であることを意味する。
【0015】
六価クロム(Cr+6)という用語は、毒性であり、環境的に許容されないと考えられる材料を指す。Cr+6なしという用語は、100万分の1未満(<1ppm)の六価クロムを含有する組成物を意味する。この用語は、現在では毒性とは見なされない三価クロムを指さない。Crなしという用語は、いかなる種類のクロム化合物も含まない組成物を意味する。
【0016】
別段の指定がない限り、「%」は、関与する組成物の総重量に基づく重量パーセントを意味する。
【0017】
非導電性アルミニウム-ケイ酸塩ベースコートの形成
上記の工程(A)および(B)で言及したアルミニウム含有ケイ酸塩非導電性ベースコートの形成は、固体アルミニウム粒子ならびにアルカリ金属ケイ酸塩、例えばナトリウム、リチウム、およびカリウムが分散されて含まれる水性組成物から作製され(以下、「アルミニウム-ケイ酸塩スラリー」とも呼ばれる)、該スラリーは米国特許第9,739,169号および同第9,017,464号に記載されている。
【0018】
スラリーを塗装される表面に塗布する前に、該表面を清浄し、好ましくはグリットブラストによって粗面化するべきである。また、スラリーの塗布に先立って、すべての残留するグリットおよび塵を除去すべきである。
【0019】
利用可能な技術によって、例えば噴霧式スプレーガンを使用して調製された表面上にスプレーすることによって、アルミニウム-ケイ酸塩スラリーを表面に塗布することができる。あるいは、ディッピング法によって、またはブラシ、ローラーもしくはフォームパッドを用いてスラリーを塗布してもよい。好ましくは、乾燥すると亀裂が生じる厚みがあまりないスラリーの均一なコーティングが塗布される。
【0020】
本発明の工程(B)において、工程(A)で塗布されたアルミニウム-ケイ酸塩スラリーを空気中で乾燥し、次いで加熱または焼き付けして「硬化された」アルミニウム-ケイ酸塩プライにし、ここで、該プライ中、固体ケイ酸塩がアルミニウム粒子同士と基材を結合する。用語「硬化された」とは、水がアルミニウム-ケイ酸塩スラリーから非可逆的に除去され、導電性でない固体アルミニウム-ケイ酸塩プライを形成することを意味する。
【0021】
好ましい形態において、まず、工程(A)にてアルミニウム-ケイ酸塩スラリーで塗装された部品を、すべての湿気が塗装面から見えなくなるまで空気中で乾燥し、次いで部品の中心が少なくとも15分間、約175°F(79℃)になるまで該温度で加熱した後、最後に、部品(およびコーティングのプライ)が少なくとも30分間、650°F(343℃)になるまで該温度で加熱する。アルミニウム-ケイ酸塩スラリーの硬化に用いられる温度および回数が変動しうることは当業者に公知である。
【0022】
工程(A)および(B)の利用に準じて、固体の不溶性アルミニウム-ケイ酸塩層が、マルチプライコーティングのベースまたは下地(以下、便宜上、「ベースコート」と呼ぶ)を形成する。
【0023】
Klotz(米国特許第9,017,464号)およびBelov(米国特許第9,739,169号)によって開示されているように、1000°F(538℃)近くまたはそれを超える温度でのベースコートの長時間加熱は、硬化された非導電層を、電子導電性の層、すなわち、約15オーム未満の電気抵抗を有する層に変換する。本発明の工程(B)に用いられる加熱処理は、水性ケイ酸塩の乾燥層から結合および非結合水を除去するが、硬化コーティングは導電性コーティングに変換されないものである。
【0024】
上で簡単に述べたように、工程(A)および(B)を繰り返して、第1のコートの上に複数の硬化アルミニウム-ケイ酸塩コートを適用することによって、より厚いベースコートを形成することができる。また、工程(A)によるアルミニウム-ケイ酸塩スラリーのウェットコートを塗布し、それを完全に乾燥させ、次いでウェットスラリー(ここでも工程(A))の第2のコートを塗布した後、工程(B)でアルミニウム-ケイ酸塩スラリーを乾燥および硬化することも本発明の範囲内である。
【0025】
特定の好ましい形態において、金属面に塗布されるアルミニウム-ケイ酸塩スラリーは、ケイ酸ナトリウムおよびケイ酸リチウムの水溶液を含み、さらにより好ましい形態における溶液はポリケイ酸塩を含む。アルミニウム粉末は溶液中に分散される。次いで、結果として得られるアルミニウム-ケイ酸塩スラリーを、好ましい形態の金属面に塗布される。
【0026】
初期Al +3 PO 溶液の塗布
ベースコートを形成した後、その表面に、ベースコートに吸収される三価アルミニウムおよびリン酸イオンを含む初期コーティング溶液を塗布する。。
【0027】
以下に記載するように、Al+3PO溶液から形成されるコーティングは、マルチプライコーティングのプライを含み、該マルチプライコーティングはベースコートの表面に結合され、その硬化形態は非導電性である。本発明のマルチプライコーティングのこのプライは、最終的なコーティングの特性を改善し、熱湯および/または水蒸気に暴露されたときにブリスタリングに抵抗するように寄与するように機能する。
【0028】
三価アルミニウムを含有する様々な水溶性化合物、例えば酸化アルミニウムを使用することができる。好ましいアルミニウムイオン源は、三水和アルミニウムである。リン酸塩を含有する様々な水溶性化合物をリン酸イオン源として使用することができる。リン酸は好ましいリン酸イオン源であるが、他の水溶性リン酸化合物も使用できる。Al+3PO溶液は、全成分が可溶化形態である組成物または一部の成分が液体可溶化成分中に分散される固体である分散体を含む組成物または上述の成分および固体成分の固体層のいずれかの組成物を含むことができる。
【0029】
Al+3PO溶液の成分は、それらの機能の実行を可能にするが、マルチプライコーティングのベースコートに悪影響を与えない範囲の量で存在する。以下に、本発明の実践における使用に有効なAl+3PO溶液を記述する:
約15~約40wt%のリン酸、
約0.1~約1.5wt%のアルミニウムイオン、および
約45~約75wt%の水。
Al+3PO溶液は、その特性を調整するための、または該溶液から形成されるプライに所望の特性を付与するための任意選択の成分を含んでもよい。任意選択の成分としては、要望に応じて溶液のpHを調整するための緩衝剤が挙げられる。緩衝剤の例としては、水酸化Mgまたは酸化Mgまたは炭酸Mgから供給されるMgイオンが挙げられる。塩基性有機緩衝剤、例えばジエタノールアミンを使用してもよい。
【0030】
溶液中に含まれる任意選択の成分の量は、成分の性質、すなわち成分が溶液中で実行する機能によって決まる。任意選択の成分の例示的な量は、溶液の約0.1~約2.5wt%の範囲内に含まれる。
【0031】
一実施形態において、Al+3PO溶液は、25.7%のリン酸、1.4%のアルミニウムイオン、および2.1%のマグネシウムイオン(Mg++)を含み、残りは水(72.1%)である。この溶液のpHは2.6超である。
【0032】
従来技術は、Crを含まず、本発明にしたがって使用されうるAl+3PO溶液を開示しており、その例は以下で確認される特許に記載されている。
【0033】
米国特許第5,242,488号は、アルミニウム金属と希リン酸を反応させることによって形成されるAl+3PO溶液を開示している。アルミニウムイオンに対して飽和されたAl+3PO溶液の他の例は、米国特許第5,279,649号および同第5,279,650号および同第5,478,413号に開示されている。米国特許第5,652,064号および同第5,803,990号は、亜鉛イオンおよびホウ酸イオンを含有する該溶液を開示している。加えて、米国特許第5,968,240号は、硝酸塩を含有するAl+3PO溶液を開示している。米国特許第6,074,464号は、過マンガン酸カリウム、炭酸マグネシウム、および硝酸アルミニウムを含有するAl+3PO溶液を開示している。他のAl+3POの例は、米国特許第7,789,953号および同第7,993,438号に開示されている。米国特許第6,224,657号および同第6,368,394号は、現在、環境的に許容されると考えられている三価クロムを含むAl+3PO溶液を開示している。
【0034】
好ましいAl+3PO溶液は、pH1.5以上、好ましくは2超までマグネシウムイオン(Mg+2)を添加することによって緩衝しておいた三価アルミニウムイオン(Al+3)で飽和されたものである。約2.5超のpHまで水酸化マグネシウムで緩衝したものが特に好ましい。
【0035】
本発明によれば、十分なAl+3PO溶液をベースコートに塗布して、その表面を飽和すべきである。Al+3PO溶液は、典型的には、その表面が濡れるまで該表面上にスプレーされる。溶液は、ブラッシングまたはディッピングによって、ならびにスプレーによって塗布されうる。
【0036】
Al+3PO溶液は、典型的には透明かつ無色であり、例えばヒュームド酸化物および着色顔料を含めた金属酸化物顔料を該溶液に添加してベースコートに対するコントラストを高めることは本発明の範囲内である。リン酸塩溶液に色を付けることによって、溶液をベースコートに塗布したときに、ベースコートが適度に処理されたかを容易に確認できるようになる。表面をバニッシングする方法を、ベースコートの表面がホワイトグレーのアルミニウムの色に戻るまで継続することができる。
【0037】
しかしながら、溶液中で顔料を使用する際には注意が必要である。ベースコートの表面中の細孔の平均直径より小さな直径の顔料は該細孔を塞いでベースコートの深部への溶液の流れを遮断する恐れがある。また、溶液に対して過剰量のいかなるサイズの顔料も、ベースコートの表面上に蓄積して流れが妨げられ、液体の吸収に対する物理的なバリアが形成される。
【0038】
好ましい形態において、Al+3POの粘度は、#2 EZ Zahn Cupによって測定した場合、約30秒未満、好ましくは約20秒未満であるべきである。Al+3PO溶液中の顔料粒子の平均サイズは、好ましくは約0.5ミクロン以上、より好ましくは約1ミクロン以上の直径であるべきである。
【0039】
Al+3PO溶液中でヒュームド酸化物およびシリカのコロイド懸濁液を使用する事象において、ベースコートに浸透し、ベースコートの完全な硬化を阻害する溶液の能力を低減する程度まで溶液の粘度が増加することを回避するように注意することが推奨される。
【0040】
本発明の好ましい一実施形態において、黒色および黄色の顔料を、水酸化マグネシウムを添加してpHを2.6に調整したAl+3PO溶液に添加した。顔料の量は、溶液の総重量の約4.0%に調整した。使用した黒色顔料の平均直径は1.4ミクロンだった。黄色顔料は2.2ミクロンの平均直径だった。
【0041】
顔料の使用を要する本発明の特に好ましい実施形態は、実施例1の溶液S1として記載した(Al+3PO)に、以下:2重量%の黄色金属酸化物顔料(平均で直径1.4μm)および約2重量%の黒色金属酸化物顔料(平均で直径2.2μm)を添加することを含む。
【0042】
ベースコートをAl+3PO溶液で飽和した後、その湿潤表面を乾燥し、次いで硬化する。用語「硬化された」とは、導電性でない固体コーティングを形成する条件下で、その結合水および非結合水を除去した湿潤表面を意味する。典型的には、コーティング溶液を加熱して、その蒸発を加速させ、不溶性形態の固体への変換を完了させる。
【0043】
本発明の一実施形態において、Al+3PO溶液を空気中で少なくとも15分間乾燥した後、約175°F(80℃)に予熱したオーブンに入れ、ベースコートを少なくとも約15分間その温度になるまで保持した。次いで、本発明の乾燥および処理したアルミニウム-ケイ酸塩コーティングで被覆した部品を約650°F(343℃)に加熱し、ベースコートが、導電性でない不溶性固体を含むオーバーラッププライを有するまで、その温度で保持した。硬化条件を必要に応じて調整して非導電性プライを形成することができる。
【0044】
「Al +3 PO 」の機械的処理
非導電性プライの形成後、その表面を機械的手段:1)表面上にありうる残留硬化リン酸塩を除去することと、2)プライを導電性形態に変換することとによって処理する。そのような処理は、本明細書では「バニッシング」と呼ぶ。酸化アルミニウムグリットまたはガラスビーズのような研磨媒体で非導電性プライをブラスチングすると、該プライを電子導電性にする。好ましい形態では、180~240グリットの微細酸化アルミニウムでブラスチングする。
【0045】
この電気変換の正確な機構は完全には理解されていない。バニッシングは、プライの表面上の清浄アルミニウムを暴露し、それを若干圧搾してプライ中のアルミニウム粒子を押し込むと考えられている。
【0046】
クロム酸アルミニウム/リン酸塩コーティング系に関連したバニッシングの使用は、電子導電性を実現することが公知である。ブラスチング媒体のサイズおよび性質は広範囲にわたって様々でありうる。物理的ダメージを与えずに、コーティング層を導電性にするために十分な処理が行われることを確実にするために爆風圧、スタンドオフ距離、および滞留時間が変動することは周知である。また、コーティング層の電気抵抗が20オーム未満、好ましくは15オーム未満、理想的には10または5オーム未満を測定する場合、適切なバニッシングを行うことは公知である。
【0047】
本発明の工程(C)で塗布したAl+3PO溶液を顔料で着色したとき、工程(E)の表面をバニッシングする方法を、表面が明るい灰色に戻るまで継続すべきである。
【0048】
本発明の目的のために、バニッシングを施したベースコートの電気抵抗が、表面上に1インチ(25cm)間隔で軽く置かれた2つのオームメータープローブ間で20オーム未満を測定したとき、工程(E)が十分に実施された。
【0049】
追加のAl +3 PO 溶液の塗布
上記の工程(F)で記載したように、Al+3PO溶液を硬化することによって形成された前述の非導電性プライをバニッシングして調製した導電性プライを、成分およびその量が上記の種々のAl+3PO溶液(2種以上の溶液の混合物を含む)と同じであっても異なっていてもよい別のAl+3PO溶液(以下、「添加Al+3PO」と呼ぶ)で処理する。添加Al+3PO溶液は、上記の量の任意選択の成分を含んでもよく、上記の工程(G)によって硬化すると、本発明のマルチプライコーティングのトップコートを形成する。上述の任意選択の成分に加えて、初期および添加Al+3PO溶液は、金属基材を処理するために使用される組成物に耐食性を付与することで公知の三価クロム(Cr+3)も含有してよい。毒性の六価クロムとは異なり、Cr+3は環境的に許容される材料であると考えられている。
【0050】
本発明の好ましい実施形態において、例えば、酸化クロム(CrO)を硝酸、最も好ましくは高温濃硝酸に溶解することによって調製される硝酸クロム溶液を、添加Al+3PO溶液と共に配合する。本発明の別の実施形態では、添加Al+3PO溶液を加熱した後、無水硝酸クロムを添加し、硝酸クロム無水和物を溶解し、結果として得られた組成物を、すべてのアルミニウムが溶解するまで加熱した。
【0051】
まず、添加Al+3PO溶液を乾燥し、次いで硬化する。用語「硬化」は、水湿潤性表面を有する固体コーティングの形成を意味し、加熱によって該水湿潤性表面から化学結合水および非結合水が除去されてコーティングが固体になり、不溶性かつ非導電性になる。これは、例えば、約175°F(80℃)に予熱したオーブンに入れ、その温度で少なくとも15分間維持する前にAl+3POで処理された表面を空気中で乾燥することによって達成することができる。その後、乾燥して加熱したトップコートをさらに65°F(343℃)に加熱し、トップコートが不溶性の固体に硬化されるまで、例えば約30分間、その温度で保持する。冷却すると、マルチプライコーティングの硬化トップコートの表面は非導電性である。時間および温度に関与する前述の条件は、必要に応じて、塗装する部品のニーズに対応するように調整することができる。
【0052】
本発明の追加の好ましい実施形態は、Al+3POおよび三価Crおよび硝酸塩、さらには低減された摩擦係数ならびに/または改善された濡れおよびファウリングに対する耐性をマルチプライコーティングの表面に付与する機能を持つポリマー樹脂を含むマルチプライコーティングを含む。そのような目的に好ましいポリマー樹脂としては、水中のPTFEまたはシリコーンの分散体が挙げられる。
【0053】
本発明のマルチプライコーティングの表面仕上げについて検討すべきである。表面仕上げは、コーティングの耐食性、さらには他の特性、例えば、塗装物品の使用中における有効性に対して効果を有しうる(表面仕上げは、当該技術において、「表面性状」および「表面トポグラフィー」とも呼ばれる)。また、以下で説明するように、本発明のマルチプライコーティングの表面仕上げが特定のタイプの表面仕上げを有することが望ましい用途があるが、まずは「表面仕上げ」の意味を説明する。
【0054】
表面仕上げは、典型的には、3つの特徴、すなわち:(1)表面粗さ(狭い範囲の上り下り)、(2)波形(広い範囲の上り下り)、および(3)レイ(うねりの主な方向)によって定義される。これらの特徴は、理想的に完全に平らの表面、すなわち真の面からの表面偏差を包含する。
【0055】
粗さ、波形、およびレイは、様々な処理、例えば、研削(研磨切削)、研磨、ラップ仕上げ、および研磨ブラストによる表面仕上げを付与することができる。
【0056】
塗装面の粗さ、波形、およびレイは、典型的には、スタイラスプロフィルメーターを使用して測定される。プロフィルメーターは、プローブを表面全体にわたって正確な距離で移動させる機構を含むプローブ中のスタイラス、さらにはプローブの移動に応じたスタイラスの上下のずれを測定して記録する回路を含む。プロフィルメーターは、測定したずれを統計的に解析して、表面特性を特徴付ける公知のパラメータを算出する。これらのパラメータは、いくつかの基準(例えば、参照により本明細書に組み込まれるANSI/ASTM B46.1、Surface Texture(Surface Roughness,Waviness,and Lay))で規定される。
【0057】
タービンエンジン部品に使用されるコーティングの粗さおよび波形は、典型的には、特定の測定値「カットオフ」(インチまたはミリメートル)での、マイクロインチまたはミクロンで表される「粗さ平均」(Ra)によって特徴付けられる。カットオフは、プロフィルメーターが、検出されたスタイラスのずれを合計して等差級数的に処理する前に、プローブの移動距離を規定する。前述のASTM B46.1は、特定のカットオフで、プロフィルメーターのプローブが、各カットオフ距離で収集される変位データを集約するカットオフ距離の3または5倍移動することを説明している。例えば、0.010インチのカットオフで測定した場合、プローブは0.05インチ(5×0.01インチ)移動し、一連の表面長さ0.010インチ全体にわたるスタイラスのずれの五つ(5)の別個の平均の平均を記録する。0.030インチのカットオフで、プローブは0.15インチ移動し、表面の各0.030インチのスタイラスずれの五つ(5)の別個の平均の平均を記録する。カットオフが大きいほど、横移動部が長くなり、より大きな波形(広範囲の粗さ)が、算出された粗さ平均Raに加わる。
【0058】
上述したように、発電に用いられるガスタービンエンジンの製造業者は、表面のRa度に関心がある。該製造業者には、該デバイスの空気力学的効率を確保するために、0.010インチ(<1.0μm@0.25mm)のカットオフで40Ra未満の塗装されたガス経路部品(空気が通過する部品)の表面仕上げが好ましい、またはさらには必要とされる。航空機用タービン部品の表面仕上げの要件はより厳しく、0.010インチ(<0.38μm@0.25mm)カットオフで< 15 Raという滑らかさが要求されることがある。
【0059】
表面偏差を含む粗さおよび波形の上記表面仕上げとは対照的に、「レイ」の表面仕上げは実質的に平らな表面である。
【0060】
上記の情報を考慮して、本発明の好ましい実践は、本発明のマルチプライコーティングが使用される特定の用途を効率的に保護するために適合したプロセスの提供を含むべきである。以下に、これを達成するための方法、例えば、マルチコーティングの特定のプライの形成および/またはプライを形成する硬化条件の調整において用いられる個々の組成物の成分を配合することによって達成する方法について記述する。
【0061】
上述するように、発電に用いられるガスタービンエンジンの製造業者は、典型的には、空気が通過する塗装部品の表面仕上げに、空気力学的効率を確保するための高度な滑らかさ(以下、「空気力学的に滑らかな」と呼ぶ)を必要とする。
【0062】
ガスタービンエンジンおよび航空機用タービン部品含むこのような用途で使用するために、本発明の好ましい実施形態は、三価クロムおよび硝酸塩が添加された工程(F)のAl+3PO溶液であって、リン酸単独の中に取り入れられうるより実質的に多くのAl+3イオンを含有する溶液を利用し、ガラス状固体フィルムに硬化する。このCr+3硝酸塩/Al+3PO溶液を使用したマルチプライコーティングは、空気力学的に滑らかにするだけでなく、熱湯および水蒸気中で安定性であり、さらには耐食性である。工程(F)の硝酸クロムトップコートAl+3PO溶液を使用して作製される本発明のコーティング系の表面仕上げは、典型的なタービン製造業者の必要条件および航空機用タービン部品の塗装面の粗さを満たすか、またはそれらを超える。
【0063】
これに応じて、本発明の別の態様は、硝酸クロムを含む組成物およびその使用を提供する。
【0064】
上述のその使用に加えて、Cr+3硝酸塩組成物は、耐食性であり、他の所望の特性を有するコーティングを形成する能力を持つため、他の用途においても使用できる。これに応じて、本発明の別の実施形態は、三価クロム、および硝酸塩を、例えば水性形態中に含む液体コーティング組成物を含む。
【実施例
【0065】
以下、本発明の例示的な実施形態である3つの実施例を記載する。各実施例において記載する全組成物はCr+6を含まない。
【0066】
[実施例1]
簡単に言うと、本実施例は、炭素鋼クーポンを以下の4つの基礎工程のように逐次的に処理した、マルチプライコーティング系の製造を説明する:
(1)非導電性のアルミニウム含有ケイ酸塩ベースコートの形成、(2)非導電性の初期三価リン酸アルミニウムコーティング(Al+3PO)の、ベースコートの表面上での形成、(3)Al+3POコーティングの表面を機械加工して導電性形態に変換することによるバニッシング、および(4)Al+3POを含む非導電性コーティングの、工程(3)の導電性コーティング上での形成。コーティング組成物の成分の量は、別段の指定がない限り、組成物の総重量に基づいて重量%で記載する。
【0067】
二つのサイズの炭素鋼クーポンが、この実施例のために選択された。小型パネルは2インチ×3.5インチ×0.32インチ(51mm×89mm×0.8mm)が測定され、大型パネルは3インチ×5インチ×0.32インチ(76mm×127mm×0.8mm)を測定した。これらのクーポンは両サイズとも、以下、「パネル1」と呼ぶことにする。
【0068】
パネルを少なくとも15分間、650°F(345℃)で加熱して、すべての油を焼き落とし、次いで吸い込みブラスチング用キャビネット中で、80psi(650kPa)下、120グリットの茶色酸化アルミニウムでブラスチングした。残留ブラスチング媒体を、ブラスチングした表面から、清浄圧縮空気で吹いた。
【0069】
工程(A)アルミニウム-ケイ酸塩ベースコートの塗布
アルミニウム-ケイ酸塩スラリーを、清浄し、ブラスチングされた鋼クーポンに塗布した。スラリーは、米国特許第9,739,169号に記載されたものと同様であった。スラリーは、ケイ酸ナトリウムおよびケイ酸リチウムの水性の液体結合溶液中に分散されている微細アルミニウム粉末を含んでいた。
【0070】
a)ケイ酸ナトリウム[シリカ(SiO2):酸化ナトリウム(Na2O)比=2.5:1] 6.9%
b)ポリケイ酸リチウム[シリカ(SiO2):酸化リチウム(Li2O)比=10:1] 3.5%
c)水 45.3%
d)非晶質二酸化ケイ素 1.6%
e)アルミニウム粉末[4.5~6.5ミクロン(平均直径)、ケイ酸塩とアルミニウムとの重量比=0.23:1] 42.7%
最初に、ケイ酸ナトリウムおよびポリケイ酸リチウムの水溶液を水と合わせた。次いで、アルミニウム粉末を、すべて完全に分散されるまで混合物中にブレンドした。最終的な混合物を325メッシュの網ふるいに通して選別した。
【0071】
E先端および流体ノズル(開口部1.1mm)を備えたDeVilbissTM EGHV-531 HVLP空気噴霧式サイホンスプレーガンを使用して、アルミニウム-ケイ酸塩スラリーをクーポンに塗布した。
【0072】
工程(B)アルミニウム含有ケイ酸塩ベースコートの硬化
工程(A)に記載した液体アルミニウム-ケイ酸塩組成物で塗装したクーポンを空気中で乾燥し、次いで175°F(89℃)で少なくとも15分間加熱乾燥し、その後、650°F(345℃)で少なくとも35分間焼き付けしてケイ酸塩を固体アルミニウム-セラミックフィルムに硬化した。クーポンをオーブンから取り出し、冷却した。
【0073】
パネルが冷えたら、工程(A)および(B)を繰り返して、第2のアルミニウム-セラミック層をクーポン上に付着させた。クーポン上の2つの個別に硬化されたアルミニウム-ケイ酸塩コートは、約2.3~3.0ミル(58~76ミクロン)の厚さだった。この硬化アルミニウム-ケイ酸塩層は非導電性だった。言い換えると、オームメーターのプローブが塗装面上で1インチ(25cm)離れて位置していた場合、電流は流れず、デバイスには何らの読取も記録されなかった。
【0074】
工程(C)非導電性ベースコートへのCr非含有Al +3 PO コーティング溶液の塗布
以下を含む、三価アルミニウムイオン(Al+3)で飽和されたリン酸のクロム非含有の希釈水溶液を調製した:
水 61.5%
75%リン酸 34.25%
水酸化アルミニウム[J.M.Huber Corp.,Onyx Elite(登録商標)431] 4.25%。
リン酸を水に添加し、その水溶液を約150°F(66℃)に加熱した。次いで、溶液の温度が190°F(88℃)を超えないように、水酸化アルミニウムを徐々に添加した。すべての水酸化アルミニウムがリン酸溶液に溶解したら撹拌を停止し、混合物を100°F(38℃)未満まで冷却させた。アルミニウムイオンで飽和されたリン酸溶液は、34.25%の75%リン酸、4.25%のアルミニウム三水和物、および61.50%の水を含有していた。
【0075】
酸化マグネシウムを前述の溶液に添加して、それを緩衝させた。水酸化マグネシウムを若干一度に水溶液に入れて撹拌した。溶液が透明になったら、76~78°F(24.5~25.5℃)で2.6超のpHが測定された。緩衝液を500メッシュの網ふるいに通した。ふるいには何も残らなかった。得られた溶液(S1)は、以下の成分を含んでいた:
Al+3リン酸塩結合溶液A1 89.3%
水酸化マグネシウム 4.7%
水 6.0%
この溶液を硬化アルミニウム-ケイ酸塩ベースコートに塗布する前に、有機溶媒のブレンド(84wt%の酢酸プロピレングリコールモノメチルエーテルおよび16%のトリプロピレングリコールメチルエーテル)を添加して濡れを助けた。一体積部(1体積部)の溶媒を、十部(10部)の溶液に添加した。
【0076】
F先端部(直径0.9mm未満の開口部)および流体用針を備えたDeVilbiss EGA-503空気噴霧式スプレーガンを使用して、S1処理液の極薄ウェットコートを、硬化アルミニウム-ケイ酸塩ベースコートの表面上に塗布した。表面が均一な光沢を持つまで、溶液を複数の経路で表面上にスプレーした。溶液S1が硬化アルミニウム-ケイ酸塩ベースコート中に染み込むとすぐに濡れは消えた。第1のS1ミストコートを数分間で乾燥した後、表面が再び均一な艶を得るまで、第2のコートを塗布した。スプレーした表面が、1分間放置した後でもほとんど溶液S1で濡れているようになるまで、これを繰り返した。
【0077】
工程(D)Cr非含有リン酸アルミニウムコーティング溶液の加熱
工程(C)において溶液S1で処理された硬化アルミニウム-ケイ酸塩ベースコートを、少なくとも5分間、周囲条件下で乾燥し、次いで175°F(89℃)に予熱したオーブンに移した。15分後、オーブンの設定温度を650°F(345℃)に上げ、S1が吸収された硬化アルミニウム-ケイ酸塩ベースコートを乗せたクーポンを該温度に加熱し、35分間保持して、固体の硬化された修飾複合体を形成させた。
【0078】
クーポンが冷却したら、工程(B)に記載したオームメーターのプローブを使用して修飾複合体の導電性を測定した。表面は非導電性だった。
【0079】
工程(E)非導電性修飾複合体の機械的処理
クーポンが冷却したら、工程(A)~(D)で付着させた修飾複合体の表面を、吸い込みブラスチング用キャビネット中で、40psi(380kPa)下、240グリットの酸化アルミニウムで軽くブラスチングした(この方法をバニッシングと呼ぶ)。
【0080】
バニッシングすると、修飾複合体の表面の色は明るくなり、若干反射性になった。バニッシング媒体の衝突により、残留する硬化溶液S1が修飾複合体の表面から除去された。
【0081】
オームメーターの2つのプローブが1インチ(25cm)離れて保持された表面を触ることによって、バニッシングが修飾複合体の表面の電気抵抗を0.5オームだけ低下し、複合体コーティングを導電性にしたことも確認できた。バニッシングはまた、複合体を若干圧搾し、厚さを平均で約0.2ミルまたは5ミクロン減らした。
【0082】
工程(F)導電性複合体コーティングへの追加のコーティングAl +3 PO 溶液の塗布
硝酸イオンを含有するカーキ色のAl+3PO溶液(B1)を以下のように作製した:
水 117.8gm
75%リン酸 65.52gm
水酸化アルミニウム[J.M. Huber Corp.,Onyx Elite(登録商標)431] 16.51gm
硝酸クロム(III)九無水物[98.5%(固体)、Alfa Aesar,CAS7789-02-8] 48.52gm。
ホットプレート/マグネチックスターラー複合機に乗せたガラス製フラスコ中の水にリン酸を添加した。磁気撹拌棒を添加した。硝酸クロム結晶を、溶液を攪拌しながら添加した。リン酸-硝酸塩溶液を覆い、撹拌しながら150~160°F(66~71℃)に加熱した。結晶は、酸に完全に溶解し、透明、無色、暗紫-緑色の液体に変わった。
【0083】
水酸化アルミニウムを撹拌して高温溶液に入れた。これは、その温度が190°F(88℃)を超えないように徐々に増えていくように添加した。(水酸化アルミニウムの酸への溶解は発熱性である。溶液が高温になり過ぎると、不溶性の反応生成物が生成される。)
すべての水酸化アルミニウムを添加した後、高温溶液を覆い、160~170°F(71~77℃)で1時間半撹拌した。その後、溶液は透明に見えたが、冷却し、終夜放置すると、白色の粉状水酸化アルミニウムの微細層がフラスコの底を覆った。
【0084】
混合物を再度撹拌に供し、加熱して160~170°F(71~77℃)に戻した。昇温下で、リン酸、三価クロム硝酸塩および水酸化アルミニウムを5時間撹拌した後、ホットプレートのスイッチを切った。15mLの試料を高温混合物から取り、ガラス瓶に入れた。フラスコを再度覆い、プレート上で冷やしながら撹拌させた。
【0085】
溶液を室温に冷却したとき、ガラス瓶の底に白色の微粒子は見られなかった。フラスコを冷却したら、その内容物を635メッシュの鋼製網ふるいに流し通した。微粒子はほとんどふるいに残らず、すべての水酸化アルミニウムが溶液中に溶解したことを示した。
【0086】
77°Fで測定された溶液の特性:
pH 0.6
密度(lb/gal) 10.9lb/gal
粘度(#2 GE Zahn) 17sec
溶液の175°Fでの30分間の加熱および650°Fでの30分間の加熱によって、溶液が25重量%の固体を含有していたことを決定した。
【0087】
試験は、記載した硝酸クロムで作製した溶液B1が1ppm未満の六価クロムしか含有せず、Cr+6を含まないことを示した。
【0088】
コロイダルシリカと共に、青色、茶色および黄色顔料を追加のAlPO溶液に添加してスラリー(T1)を作り、これを、本発明のこの実施形態の工程(F)で生成したグリットでバニッシングした導電性複合体コーティングにスプレーおよび塗布することができた。
【0089】
溶液B1(Cr3+/Al+++リン酸塩) 83.2%
コロイダルシリカ[Ludox(登録商標)SM 30%溶液、W.R.Grace Co.] 0.85%
アルミン酸コバルト青色顔料[Shepherd#214ブルー、Shepherd Color Co.] 2.4%
チタン酸ニッケルアンチモン黄色顔料[Sheperd#101-C112Eイエロー、Shepherd Color Co.] 9.8%
チタン酸鉄茶色顔料[Shepherd#10P858ブラウン、Shepherd Color Co.] 3.75%
30秒間ブレンドした後、スラリーT1を500メッシュの鋼製網ふるいに通して選別した。(本質的に、ふるいに残留物は残らなかった。)
得られた組成物を、F先端部を備えたDeVilbiss EGA-503サイホンスプレーガンを使用して、導電性複合体のバニッシングした表面上にスプレーした。3つの極薄コートを塗布し、表面の色が均一になるまで各コート間を完全に乾燥し、乾燥後は光沢が残った。塗装クーポンの手触り感が乾燥した後、これを、175°F(89℃)に予熱したオーブンに移した。15分後、オーブンの設定温度を650°F(345℃)まで上げた。クーポンを該設定温度まで加熱し、その温度で35分間保持してトップコーティングを硬化した。
【0090】
本発明のこの実施例の、仕上げを施した多層複合体コーティングの厚さは、平均で2.5~3.3ミル(78~84ミクロン)の範囲だった。トップコート自体は、0.3~0.5ミル(8~13ミクロン)の厚さであり、非導電性だった。
【0091】
[実施例2]
本発明の別の実施形態では、炭素鋼パネルを、以下の違いを除いて、実施例1に記載の多層コーティング系で塗装した。実施例1において、実施例1の工程(C)で利用した初期Al+3POコーティング溶液は、三価Crまたは硝酸塩を含有してなく、「追加の」Al+3PO溶液は、三価Crおよび硝酸塩の両方を含有していた。本明細書の実施例2では、初期AL+3PO溶液および「追加の」AL+3PO溶液は両方とも、三価Crおよび硝酸塩を含有していなかった。
【0092】
これに応じて、この実施例は、本発明が、実施例1および2の両方の実施形態を実践する上で効果的に使用できることを実証した。
【0093】
以下に、実施例2の詳細に関する情報を追加的に説明する。
【0094】
2つのサイズの炭素鋼パネルが、この実施例の対象だった。小型パネルは2インチ×3.5インチ×0.32インチ(51mm×89mm×0.8mm)が測定され、大型パネルは3インチ×5インチ×0.32インチ(76mm×127mm×0.8mm)だった。これらのパネルは両サイズとも、以下、「パネル2」と呼ぶことにする。
【0095】
両方のパネルは、実施例1で調製された炭素鋼クーポンと同じように調製した。この実施例の工程(A)で塗布したアルミニウム-ケイ酸塩スラリーは、実施例1で使用したものと同じだった。前述の工程(B)、(D)および(G)の硬化回数および温度は、実施例1で用いたものと同一であり、処理したベースコートのバニッシングに用いられたグリットサイズおよびブラスチング圧力も同一だった。しかしながら、本明細書における実施例2では、Al+3PO成分に、以下の特定された青色、茶色および黄色顔料、さらにはヒュームドシリカを添加することによって、クロムおよび硝酸イオンを両方とも完全に含まないカーキ色の溶液(「T2」)を調製した。
【0096】
溶液S1 83.2%
ヒュームドシリカ 0.85%
[Aerosil 200、Evonik Corp.]
アルミン酸コバルト青色顔料 2.4%
[Sheperd#214ブルー、Shepherd Color Co.]
チタン酸ニッケルアンチモン黄色顔料 9.8%
[Sheperd#102-C112Eイエロー、Shepherd Color Co.]
チタン酸鉄茶色顔料 3.75%
[Sheperd#10P858ブラウン、Shepherd Color Co.]
この混合物を30秒間ブレンドし、次いで500メッシュの鋼製網ふるいに通して選別した。(微量の残留物がふるいに残った。)
実施例1の工程(C)で用いた有機溶媒のブレンド(84wt%の酢酸プロピレングリコールモノメチルエーテルおよび16%のトリプロピレングリコールメチルエーテル)をこの選別したカーキ色のスラリーに添加した。実施例1にあるように、一体積部(1体積部)の溶媒を、十部(10部)の、溶液S1から作製されたトップコートに添加した。
【0097】
カーキ色の混合物を、F先端部を備えたDeVilbiss EGA-503サイホンスプレーガンを使用して、バニッシングした導電性複合体コーティングの表面上にスプレーした。3つの極薄コートを塗布し、表面の色および光沢が均一になるまで各コート間を完全に乾燥した。触って乾いていたら、T2でトップコーティングしたパネルを175°F(89℃)で15分間焼き付けした。次いで、オーブンの温度を650°F(345℃)に上げ、35分間保持して、完全にクロムを含まないカーキ色のトップコートを硬化した。
【0098】
仕上げを施した多層複合体コーティングの厚さは、平均で約2.6~3.0ミル(66~78ミクロン)だった。トップコート自体は、約0.3~0.5ミル(8~13ミクロン)の厚さだった。トップコーティングされ、硬化した表面は、非導電性だった。
【0099】
[実施例3]
この実施例は、実施例2に記載した炭素鋼パネル上に形成したマルチプライコーティング系が、タービンエンジン部品の製造における使用に特有なステンレス鋼基材に塗布したとき、同様に効果的であることを実証する。
【0100】
この実施例では、実施例2に記載のマルチプライコーティング系を、JetheteTMマルテンサイト系ステンレス鋼から作られた2つのパネルに塗布した。測定された一パネルは38×70×1.5mmであり、測定された他方のパネルは70×150×1.5mmであり、12%のCr合金鋼であるJetheteを含んでいた。これは、ガスタービンエンジン用の圧縮機翼および羽根を作製するために使用される合金に特有である。
【0101】
ステンレス鋼パネルを調製し、実施例2のパネル2で特定された炭素鋼パネルと同じ方法で塗装した。この実施例で塗装される2つのJetheteパネルは、以下、別段の指定がない限り、それらのサイズに関係なく、パネル3と呼ぶ。
【0102】
パネル3のパネルは、1)高温の脱イオン(DI)水および2)5%の中性塩水噴霧中で評価した。
【0103】
パネル3のパネルを、ガラス製ビーカー中の140mLの高温DI水中に部分的に浸漬させた。ビーカーおよびその内容物をプラスチックフィルムで密封し、ビーカーを、80℃に予熱したオーブンに入れ、その温度で100時間静置した。100時間後、高温DI水中で、マルチプライコーティングに概ね影響はなく、ブリスターを示さなかった。マルチプライコーティングの暴露された表面または外面から幾分かの白色の物質が滲出したが、試験全体を通して水は透明なままだった。
【0104】
パネルの状態および熱湯は、500時間(試験を終えた時間)通して変化がなかった。
【0105】
大型パネルの塩水噴霧試験に関して、「X」は、大型パネル3のパネルの一面上のマルチプライコーティングの外面を通してスクライブされた。パネルの端部にワックスを塗った後、それを5%中性塩水噴霧キャビネット中に入れ、スクライブ面上で凝縮された塩水噴霧としてASTM B117にしたがって操作した。
【0106】
ASTM B117に準拠した5%中性塩水噴霧中、3000時間を通して、パネル3のどこにも赤さびは観察されず、本明細書のパネル3を形成するために使用されたマルチプライ系は、パネルの表および裏にしっかり接着されたままだった。
【0107】
本明細書の3つの実施例に関して、実施例1および実施例2は、本発明のマルチプライコーティング系に使用されるAl+3PO溶液が異なることで区別でき、本明細書の実施例3は、実施例3で塗装された基材が、実施例1および2で塗装された基材と異なることで実施例1および2と区別される。
【0108】
本発明のコーティング系を使用して作製された3つのマルチプライの実施形態に対して様々な試験を実施した。該試験には、実施形態の耐食性および他の特性の評価が含まれていた。該試験の結果は、従来技術の開発に対して、本発明の実施形態の特性が、様々なケースにおいて優位に改善された特性を含めた、改善された特性を持つことを明らかにした。また、該特性が、環境的に許容される用途、すなわち、例えば毒性の六価クロムを使用する必要なく本発明を実践する組成および技術を用いて達成されることが非常に有意である。
【0109】
[実施例4]
これは、本発明の実施例であり、工程(A)および(B)、すなわち、アルミニウム-ケイ酸塩ベースコート層の塗布および硬化の順序が、この実施例では異なることを例外として、実施例1と同じである。
【0110】
実施例1は、別々にスプレーされ硬化される2つのアルミニウム-ケイ酸塩ベースコートを利用するマルチプライコーティングである本発明の実施形態を説明する。しかしながら、層を空気中で乾燥させ、次いで第2のスラリーコート上にスプレーして二度目に塗装面を濡らすために、アルミニウムで充填されたクロム酸塩/リン酸塩スラリーの単一コートを、調製した表面上にスプレーすることは、当該技術分野において広く公知である。第2のコートが空気中で再度乾燥した後、コーティングを加熱乾燥し、高温下で硬化することが公知である。ベースコートと加熱硬化した単一コートとの2つのコートの塗布は、当該技術分野において「ウェット・オン・ウェット」塗布として知られることが多い。
【0111】
この実施例は、先の実施例1、2および3で使用した同じアルミニウム-ケイ酸塩ベースコートのウェット・オン・ウェット塗布法を利用し、ウェット・オン・ウェットベースコートを取り入れる本マルチプライコーティング系の熱湯安定性および耐食性は、ベースコートが2つの別々に硬化されたコートで塗布される系のそれらと一致することを示す。
【0112】
実施例1および2の場合のように、2つの異なるサイズの炭素鋼(CS)パネルが、この実施例のために塗装された。小型パネル(以下、「小型CSパネル」と呼ぶ)は2インチ×3.5インチ×0.32インチ(51mm×89mm×0.8mm)であり、大型パネル(「大型CSパネル」)は3インチ×5インチ×0.32インチ(76mm×127mm×0.8mm)が測定された。2つのアルミニウム-ケイ酸塩スラリーコートを、上述のウェット・オン・ウェットで、グリットでブラスチングしたパネルに塗布した。1つの小型CSパネルおよび2つの大型CSパネルは、以下、「パネル4」と呼ぶ。
【0113】
米国特許第9,739,169号に開示されているような単一のアルミニウム-ケイ酸塩スラリーコートを、実施例1の工程(A)のようにパネル4のパネルに塗布した。
【0114】
アルミニウム-ケイ酸塩のウェットコートを乾燥した後、同じスラリーの第2のコートを、均一なウェット仕上げが再度達成されるまでパネル上にスプレーした。空気中で乾燥した後、パネルを175°F(79℃)で少なくとも15分間乾燥し、その後、実施例1の工程(B)のように650°F(343℃)で30分間硬化した。
【0115】
実施例1に記載したAl+3PO結合溶液S1を、実施例1に記載したように、工程(C)にしたがってパネル4のパネル上の硬化されたウェット・オン・ウェット式アルミニウム-ケイ酸塩ベースコートに塗布した。(実施例1で行ったように、硬化されたアルミニウム-ケイ酸塩ベースコート上にスプレーする前に、溶液S1と混合した溶媒はなかった。)
次いで、実施例1の工程(D)におけるように、処理されたウェット・オン・ウェット硬化アルミニウム-ケイ酸塩ベースコートを650°F(343℃)で焼き付けした。
【0116】
硬化アルミニウム-ケイ酸塩複合体を、実施例1の工程(E)におけるように、吸い込みブラスチング用キャビネット中、40psiにて、240グリットのアルミナ研磨グリットで軽くブラスチング(「バニッシング」)した。バニッシング後、塗装面上に少なくとも1インチ(25.4mm)離れて位置する2つのプローブ間の電気抵抗は5オーム未満を測定した。
【0117】
実施例1に記載のAl+3POトップコート(以下、「溶液T1」)を、この実施例の工程(F)の硬化された導電性コーティング上に塗布した。実施例1の工程(G)にあるように、トップコートを650°F(343℃)で硬化し、電子導電性でないトップコート面を生成した。
【0118】
熱湯試験の比較例、パネル4-C1
別の小型CSパネルを清浄し、グリットブラスチングし、パネル4のパネルで用いたものと同じ方法で、同じ材料を用いて塗装したが、例外として工程(C)および(D)は省いた。この比較例は、以下、「パネル4-C1」と呼ぶ。
【0119】
以下の表Ex.4.Aは、パネル1、4、および4-C1の形成において用いた工程を示す。
【0120】
【表1】
【0121】
パネル4および4-C1の特性を、高温脱イオン(DI)水中で評価した。実施例1に記載するように、パネル4およびパネル4-C1を、高温DI水で部分的に満たした別々のビーカーに入れて密封し、80℃(176°F)で100時間オーブンに入れておいた。パネル4-C1上のマルチプライコーティング系は、水線の上下にブリスターを生じた。パネル4上のコーティングは変化しなかった。塗装面から滲出された物質はなかった。パネル上またはビーカー中の水中にチョークのような白色の付着物は観察されなかった。
【0122】
パネル4を、さらなる試験に戻した。試験を1000時間後に終了したとき、パネル4上のコーティングは依然として、パネル上のいずれの箇所でもしっかり接合されていた。パネル4の「試験」性能は、パネル1と同等だった。
【0123】
犠牲腐食試験の比較例、パネル4-C2
2つの大型CSパネルを清浄し、グリットでブラスチングし、パネル1(実施例1)に用いたものと同じ材料および同じ方法で塗装した。これらの2つの比較例を、以下「パネル4-C2」と呼ぶ。
【0124】
パネル4およびパネル4-C2の耐食性評価において用いられたプロセス工程を、以下の表Ex.4.Bに示す。
【0125】
【表2】
【0126】
上記パネルの耐食性は、塩水噴霧を使用して決定した。「X」は、スクラッチ中で基材が暴露されるようにパネル4および4-C2の片面上のコーティング層を通過してスクライブし、ASTM B117にしたがって、2500時間、パネルを5%の塩水噴霧キャビネットに入れた。
【0127】
試験の結果は、塩水噴霧中に1000時間通して、本発明の2つの実施形態の4つの実施例の外観に若干の違いが生じたことを示した。いずれのパネルにも赤さびは形成されなかった。2500時間後、塩水噴霧中で、一パネル4のパネルおよび一パネル4-C2のパネルのスクライブ中に幾分かの赤さびが観察された。ウェット・オン・ウェットベースコートを有するパネル(パネル4)上のやや犠牲的な白色腐食とは別に、本発明の2つの実施形態の間には若干の違いがあった。
【0128】
試験は、本発明のコーティング系では、アルミニウム-ケイ酸塩ベースコートが、単一の硬化コートを有する二層または2つの別々に硬化されたコートのいずれかで塗布されうることを実証した。
【0129】
[実施例5]
これは、実施例1に記載したものと同様の炭素鋼(CS)パネルの塗装を要する本発明の実施例である。パネルの塗装に使用される工程は、導電性アルミニウム-セラミック層を、同じ材料の第2の非導電層に上塗りする工程を含み、これは、クロム酸Al/リン酸塩コーティングで従来技術において公知の工程である。これは、「クラス3」コーティングの配合において言及される工程であり、参照により本明細書に組み込まれる米国軍用規格MIL-C-81751B(現在は非活動状態)に最初に記載された。
【0130】
小型炭素鋼(CS)パネルおよび大型CSパネルを、アルミニウム-ケイ酸塩ベースコートがクラス3条件にあった本発明の実施形態で塗装した。これらの鋼パネルは、以下、サイズに関係なく「パネル5」のパネルと呼ぶ。
【0131】
米国特許第9,739,169号に開示されるようなアルミニウム-ケイ酸塩スラリーの単一コートを、実施例1の工程(A)に記載されるように、パネル5のパネルに塗布し、次いで実施例1の工程(B)にあるように、650°F(343℃)で硬化した。
【0132】
実施例1、2および3に記載されるように、第2のアルミニウム-ケイ酸塩コートを塗布する前に、実施例1、2および3の工程(C)におけるように、Al+3PO結合溶液S1の層をパネル5のパネルに塗布した。次いで、処理したアルミニウム-ケイ酸塩ベースコートの単一コートを650°F(343℃)で焼き付け(実施例1の工程(D))し、層を硬化して不溶性にした。
【0133】
硬化した処理済みのアルミニウム-ケイ酸塩複合体の単層を、吸い込みブラスチング用キャビネット中、40psiにて、240グリットのアルミナ研磨グリットで軽くブラスチング(「バニッシング」)した(実施例1、2および3の工程(E))。バニッシング後、塗装面上に少なくとも1インチ(25.4mm)離して置かれた2つのプローブの間の電気抵抗は、5オーム未満を測定した。
【0134】
工程(A)で塗布した第1のコートと同じアルミニウム-ケイ酸塩スラリーの第2のコートを、この単一の導電層に塗布し、次いで650°F(343℃)で硬化した(工程(B))。得られた表面は電子導電性でなかった。
【0135】
実施例1で使用したAl+3POトップコート(カーキ色)、溶液T1を、本実施例の工程(F)において、この硬化した非導電性コーティングに塗布した。工程(G)において、系を650°F(343℃)で硬化して、電子導電性でないトップコート面を得た。
【0136】
比較例、パネル5-C1
比較例として、両サイズの同じ炭素鋼パネルを清浄し、グリットでブラスチングし、工程(C)および(D)を省いた以外は上述と同じ方法で、同じ材料によって塗装した。これらの比較例は、以下、サイズに関係なく「パネル5-C1」と呼ぶ。
【0137】
以下の表Ex.5は、Ex.1のパネル、パネル5およびP-5-C1の形成において用いた工程を示す。
【0138】
【表3】
【0139】
他の実施例のように、上記パネルを、1)高温脱イオン(DI)水および2)5%の塩水噴霧中で耐食性について比較した。
【0140】
熱湯安定性試験については、本発明のパネル5のコーティングは、熱湯中に100時間、部分的に浸漬させて密封した後、大きな変化がなかった。表面から滲出した物質はなかった。パネル上にチョーク様白色の付着物は観察されなかった。水は透明のままだった。
【0141】
対照的に、比較例のパネル5-C1の多層コーティング系は、水線の下にブリスターおよび剥離が生じた。コーティングからにじみ出た物質が、ビーカー中の水を不透明にした。
【0142】
パネル5は、熱湯試験でさらに評価した。500時間後、シールが破れたため、ビーカー中のほとんどの水は蒸発し、パネルの裏に白色のしみが残った。ビーカーを再充填し、シールを修復し、ビーカーをさらに700時間の試験(700時間は試験が終了した時間)に戻した。水は、残りの試験を通して透明なままであり、パネル5上のコーティングの状態に他の変化はなかった。
【0143】
耐食性の評価に関しては、各大型CSパネルの片面上のコーティング層を通過して「X」がスクライブされ、それによって基材が暴露された。次いで、スクライブした塗装パネルを、ASTM B117にしたがって操作する5%中性塩水噴霧のキャビネット中に置いて、塩水噴霧が、それぞれのスクライブ面に凝縮された。
【0144】
マルチプライコーティングは、塩水噴霧中、3000時間を通して、パネル5およびパネル5-C1の表裏にしっかり接合されたままだった。どちらのパネルにも赤さびは発生しなかった。パネル5上の白色の犠牲的アルミニウム腐食はパネル5-C1より少なかった。試験は3000時間で終了した。
【0145】
[実施例6]
本発明の別の実施形態において、多層コーティング系は、工程(A)で異なるアルミニウム-ケイ酸塩ベースコートスラリー(「BC2」)を使用した以外は実施例1に記載される方法と同じ方法で、炭素鋼(CS)パネル上に形成された。
【0146】
2つの小型CSパネルおよび2つの大型CSパネル(Ex,1)を、実施例1で用いられたケイ酸ナトリウムおよびリチウムで作製されたバインダの代わりに、本実施例では、アルミニウム-ケイ酸塩ベースコートがケイ酸リチウムおよびカリウムのバインダを利用したこと以外は、実施例1で用いられた工程(A)から(G)によるパネルの調製および塗装と全く同じように塗装および調製した。本発明のこの実施形態で塗装されたパネルは、以下、サイズに関係なく「パネル6」のパネルと呼ぶことにする。
【0147】
アルミニウム-ケイ酸塩ベースコートは、以下のようなリチウムで修飾されたケイ酸カリウムバインダ中の微細アルミニウム粉末のスラリーを含む。
【0148】
アルミニウム-ケイ酸塩ベースコートスラリーBC2 Wt%
a)アルミニウム粉末 36.0%
[Eckart 407グレードの空気噴霧アルミニウム粉末]
平均粒径:5ミクロン
b)水性ケイ酸リチウムカリウム 41.2%
[PQ Corp.LITHISIL829-29.7重量%のケイ酸塩]
c)水 22.8%
[ケイ酸塩とアルミニウムの重量比=0.29:1.0]
上記成分を高速でブレンドした。冷却したら、スラリーを325メッシュの網ふるいに通して選別した。スラリーは、米国特許第9,017,464号(Belov‘464)の表1の配合物58Aとして開示されるものと同様である。
【0149】
このアルミニウム-ケイ酸塩スラリーを、実施例1の工程(A)に記載されるものと同じ方法でパネルに塗布した。塗布後、アルミニウムで充填したケイ酸リチウムカリウムベースコートを乾燥し、Ex.1の工程(B)のように650°F(343℃)で硬化した。
【0150】
この実施例の工程(C)において、パネル6上の硬化ベースコートを溶液S1’で処理した。
【0151】
処理液S1’ Wt%
a)Ex.1のAl+3PO結合溶液S1 96.5%
b)Shepherd#10C112E黄色顔料 1.6%
c)Sheperd#1黒色顔料 1.9%
一溶液S1’を硬化ベースコートに塗布し、周囲空気中で乾燥させ、実施例1の工程(D)のように、処理したパネルを硬化した。
【0152】
Ex.1の工程(E)のように5オーム未満の電気抵抗までバニッシングした後、Ex.1の工程(F)のように、パネル6のパネルをAl+3POトップコート溶液T1で上塗りし、その後で該実施例の工程(G)にしたがって硬化した。
【0153】
比較例1、パネル6-C1
1つの小型CSパネルおよび2つの大型CSパネルを清浄し、グリットでブラスチングし、工程(C)および(D)を省いた以外は同じ方法で、パネル6のパネルに塗布した同じ材料で塗装した。これらの比較例は、以下、サイズに関係なく「パネル6-C1」と呼ぶ。比較試験を、以下の表Ex.6に記録する。
【0154】
比較例2、パネル6-C2
小型CSパネルを清浄し、準備し、上記のアルミニウム/ケイ酸リチウムおよびカリウムベースコートで塗装した。硬化後、パネル6に対して工程(E)で用いた方法と同じ方法で、このベースコートを240グリットの研磨剤でバニッシングした。
【0155】
工程(E)後、パネル6-C1上のバニッシングしたアルミニウム-セラミック表面の電気抵抗を、バニッシングした表面上に1インチ(25cm)話して置いたオームメーターの2つのプローブ間で測定して0.5オーム未満(導電性)だった。
【0156】
比較例3、パネル6-C3
別の小型CSパネルを清浄し、準備し、上記のアルミニウム/ケイ酸リチウムおよびカリウムベースコートで塗装し、次いで実施例1の工程(B)のように、650°Fで硬化した。
【0157】
表Ex.6は、パネル6、6-C1、6-C2、および6-C3の形成において用いられた工程を示す。
【0158】
【表4】
【0159】
比較例6-C1、6-C2、および6-C3を熱湯安定性試験に供した。試験結果を以下の表Ex.6.Aに記録し、この暴露の終点時のパネルの状態をまとめる。
【0160】
Al/ケイ酸リチウムカリウムベースコートを取り入れたパネル6上のマルチプライコーティング(本発明の実施形態)は、高温DI水中で100時間通して安定性のままだった。ブリスターまたは変色は生じなかった。パネル6を試験に戻し、高温DI水中で1000時間(試験を終了した時間)を経て不変のままだった。
【0161】
【表5】
【0162】
パネル6、6-C1、6-C2および6-C3は、高温DI水で部分的に充填されたビーカー中で密封されて、80℃(176°F)のオーブン中で100時間近く置かれた。
【0163】
スプレーおよび硬化により、ケイ酸リチウムおよびカリウムベースコート単独(パネル6-C3)は、水線におけるいくらかのさびとは別に、高温DI水中での100時間による影響が少なかった。しかしながら、軽く研磨ブラスチングして電子導電性にしたベースコートは、熱湯中で顕著にブリスターを生じた。バニッシングしたパネル6-C2上のベースコートは、水線の上で顕著にしわができ、浸漬した部分はブリスターを生じた。
【0164】
バニッシングしたBC-2ベースコートと上塗りしたトップコートT1(パネル6-C1)を含むパネル6-C1上のマルチプライコーティングも、しわおよびブリスターを生じた。
【0165】
以下の表Ex.6.Bは、パネルの耐食性の評価結果を記録する。評価は、大型パネル6、6-C1および6-C2をスクライブし、次いでそれらを、先の実施例で行ったように、ASTM B117にしたがって5%の中性塩噴霧中に置くことからなる。
【0166】
【表6】
【0167】
* 2つのパネルのうちの片方は赤さびを示した。コーティングによるブリスターは、両方のパネルで生じた。
【0168】
上記の表Ex.6.Bに関しては、パネル6-C2および6-C1上のコーティングは、塩水噴霧中で、第1週目以内にブリスターを生じた。(赤さびも、6-C2パネルのうちの片方で見られた。)対照的に、本発明のパネル6には、塩水噴霧中で1500時間経て、ブリスターも赤さびも出現しなかった。しかしながら、幾分かの白色の犠牲的腐食がパネル6で観察された。
【0169】
[実施例7]
本発明の別の実施形態において、工程(A)で単一のアルミニウム-ケイ酸塩スラリーのコートを使用したこと以外は実施例6に記載の方法と同じ方法で、多層コーティング系を炭素鋼(CS)パネル上に形成した。
【0170】
本発明の実施形態において、1つの小型CSパネルおよび2つの大型CSパネルを塗装したが、ここでは、実施例6で炭素鋼パネルを調製したとおりにパネルを調製し、ベースコートの一コートのみをこれらのパネルに塗布した以外は該実施例の工程(A)~(G)にしたがって塗装した(これらのパネルは、以下、サイズに関係なく「パネル7」のパネルと呼ぶことにする)。
【0171】
比較例、パネル7-C1
工程(C)および(D)を省いた以外はパネル7のパネルのコーティングで用いた方法と同様に、1つの小型CSパネルおよび2つの大型CSパネルを清浄し、グリットでブラスチングした。この比較例を、以下、「パネル7-C1」と呼ぶ。実施例6のパネル7-C1およびパネル7のパネル、さらにはパネル6のパネル上へのマルチプライコーティングの形成に用いた工程を、以下の表Ex.7に示す。
【0172】
【表7】
【0173】
先の実施例と同様に、パネル7および7-C1上のマルチプライコーティングの安定性を、実施例1に記載の高温脱イオン(DI)水試験において比較した。
【0174】
これに応じて、パネル7および7-C1を80℃(176°F)の高温DI水中に、100時間、部分的に浸漬させた。この暴露の後、パネル7-C1上のマルチプライコーティングはブリスターを生じた。比較したところ、本発明の実施形態であるパネル7上のマルチプライコーティングは、ブリスターが生じなかった。80℃(176°F)の高温DI水中への100時間の部分的浸漬の後のパネル7および7-C1の状態を、以下の表Ex.7にまとめる。
【0175】
【表8】
【0176】
高温DI水中で1000時間(試験を終了した時間)を通してパネル7のパネルが不変のままだったことに留意されたい。
【0177】
加えて、前述のコーティング系の耐食性を、ASTM B117に準拠する5%塩水噴霧試験において比較した。この試験では、各大型パネル7およびパネル7-C1のパネルの片面上のマルチプライコーティングを通過して「X」をスクライブした。スクライブしたパネルを、ASTM B117にしたがって操作する5%塩水噴霧のキャビネット中に1000時間置いた。パネルの状態を、表Ex.7.Bに記録する。
【0178】
【表9】
【0179】
上記の表に関して、パネル7-C1上のマルチプライコーティングは、塩水噴霧中で第1週目以内にブリスターを生じ、一方でパネル7上の本発明のマルチプライコーティングは、暴露中ずっと、該パネルにしっかり接合されたままだった。
【0180】
塩水噴霧中で500時間経過した後、パネル7-C1より、パネル7上の本発明のこの実施形態により多くの白色の犠牲的腐食があった。しかしながら、1000時間後、ブリスターが生じたパネル7-C1上の比較コーティングは、かなりの白色腐食および少量の赤さびを示し、一方で、本発明のパネル7コーティングにはさびもブリスターも観察されなかった。
【0181】
[実施例8]
本発明の別の実施形態において、工程(A)で異なるアルミニウム-ケイ酸塩ベースコートスラリー(「BC3」)を使用した以外は実施例1に記載のものと同じ方法で、多層コーティング系を炭素鋼(CS)パネル上に形成した。実施例1で塗布したベースコートが、ケイ酸ナトリウム/リチウムバインダ中に微粉化アルミニウムを取り入れたのに対し、この実施例で使用するベースコートは、ケイ酸カリウムバインダ中にアルミニウム粉末を含有していた。
【0182】
1つの小型CSパネルおよび2つの大型CSパネルを、本発明の実施形態の調製において塗装した。パネルを、以下、サイズに関係なく「パネル8」と呼び、実施例1の炭素鋼パネルと全く同様に3つのパネルを調製し、実施例1で使用したケイ酸ナトリウムおよびリチウムで作製したものの代わりに、この実施例ではアルミニウム-ケイ酸塩ベースコートがケイ酸カリウムのバインダを利用した以外は実施例1の工程(A)~(G)にしたがって塗装した。この実施例で使用したベースコートは、以下のバインダを含んでいた。
【0183】
ケイ酸AlベースコートスラリーBC3 Wt%
a)アルミニウム粉末 31.1%
[Eckart(商標)407グレード空気噴霧アルミニウム粉末]
平均粒径:5ミクロン
b)水性ケイ酸カリウム(29.1重量%のケイ酸塩) 44.4%
[KO:SiO比-2.50;PQ Corp.KASIL(商標)1]
c)水 24.5%
ケイ酸塩とアルミニウムの重量比=0.203:1.0
Conn(商標)ブレードを使用して、上記成分を高速で混合した。
【0184】
実施例1の工程(A)に記載したスプレーガンを使用して、このアルミニウム-ケイ酸塩スラリーをパネルに塗布した。ケイ酸カリウムベースコートを乾燥し、Ex.1に記載の工程(B)にしたがって硬化した。実施例5の工程(C)のように硬化パネルをAl+3PO4溶液S1’で処理し、次いで実施例5の工程(D)にように650°F(343℃)で硬化した。Ex.1の工程(E)のように5オーム未満の電気抵抗までバニッシングした後、該実施例の工程(F)のとおりに、各パネルをAl+3POトップコート溶液T1で上塗りし、その後、実施例の工程(G)にしたがって硬化した。
【0185】
比較例、パネル8-C1
1つの小型CSパネルおよび2つの大型CSパネルを清浄し、グリットでブラスチングし、工程(C)および(D)を省いた以外は同様の方法で、上記パネル8のパネルに塗布した同じ材料で塗装した。これらの比較例は、以下、サイズに関係なくパネル8-C1と呼ぶ。
【0186】
比較例、パネル8-C2
1つの小型CSパネルを清浄し、準備し、パネル8および8-C1のパネルについて記載したベースコートBC3で塗装した。硬化後、ベースコートを、240グリットの研磨剤を用いて、実施例1の工程(E)で用いたものと同じ方法でバニッシングした。
【0187】
工程(E)の後、パネル8-C2上のバニッシングしたアルミニウム-セラミック表面の電気抵抗は、バニッシングした表面上に1インチ(25cm)離して置いたオームメーターの2つのプローブ間で0.5オーム未満(導電性)を測定した。
【0188】
比較例、パネル8-C3
別の小型のCSパネルを清浄し、準備し、ベースコートBC3で塗装し、次いで実施例1の工程(B)と同様に650°F(343℃)で硬化した。
【0189】
以下の表Ex.8は、前述のパネルを調製する上で用いた工程を特定する。
【0190】
【表10】
【0191】
4つのパネルそれぞれの安定性を、実施例1に記載の高温脱イオン(DI)水試験で評価した。評価の結果を、以下の表Ex.8.Aに記録する。
【0192】
【表11】
【0193】
上記の表にまとめた高温DI水中での100時間の暴露に関して、パネル8-C2および8-C3上のBC3ベースコートのコーティングからケイ酸カリウム結合溶液が滲出した。該パネルを乾燥すると、ベースコートは、緩い粉末状で鋼を簡単に拭き取られた。
【0194】
本発明のパネル8のパネルは、100時間を通して高温DI水中で安定性のままだった。コーティングはブリスターまたは溶解しなかった。100時間の時点で調べた後、パネル8のパネルを熱湯に戻した。試験を1000時間後に終了したとき、パネル8上のコーティングは依然として不変であり、基材にしっかり接合されていた。
【0195】
パネル8、8-C1、および8-C2の耐食性を、該パネルをスクライブし、ASTM B117に準拠する5%中性塩水噴霧に暴露することによって比較した。パネル8、8-C1および8-C2の片面上のコーティングを通過して「X」をスクライブし、スクライブしたパネルを、ASTM B117にしたがって操作する5%中性塩水噴霧キャビネット中に1000時間置いた。パネルの状態を、以下の表Ex.8.Bにまとめる。
【0196】
【表12】
【0197】
上記の表に関して、塩水噴霧中で1週間が過ぎる前からパネル8-C2および8-C1には赤さびが出現した。2つの8-C2パネルの表面にあまりにも多くのさびが覆ったため、1週間(168時間)後には試験キャビネットから除去された。塩水噴霧中、500時間経過した時点では、さびはパネル8-C1上のスクライブ線にとどまっていたが、1000時間経つまでには全箇所に広がった。
【0198】
本発明のパネル8には、塩水噴霧中に500時間後、さらには1000時間を少し経過するまで赤さびはなかった。
【0199】
[実施例9]
この実施例は、シリコーン樹脂を、実施例1のAl+3POトップコート溶液T1に添加して、この実施例の工程(F)で使用するための新規のトップコート溶液を調製した以外は、実施例1と同じである本発明の実施形態を説明する。
【0200】
実施例1で使用したアルミニウム-ケイ酸塩ベースコートスラリーの2つのコートを、実施例4に記載のウェット・オン・ウェット法で、グリットでブラスチングした炭素鋼(CS)パネルに塗布した。この実施例において、本発明の実施形態で塗装した1つの小型CSパネルおよび2つの大型CSパネルを、以下、サイズに関係なく「パネル9」と呼ぶ。
【0201】
硬化アルミニウム-ケイ酸塩ベースコートを、Ex.6の工程(C)および(D)にしたがって、Al+3PO溶液S1’で処理した。処理および硬化されたアルミニウム-ケイ酸塩ベースコートを、その電気抵抗が表面上に少なくとも1インチ(25.4mm)離して置かれた2つのプローブ間で5オーム未満を測定するまで、Ex.1の工程(E)のとおりに軽くブラスチングした。
【0202】
シリコーン樹脂の水溶液(溶液R1)を以下のとおりに混合した。
【0203】
樹脂溶液R1 Wt%
水性シリコーン樹脂[Wacher Silrez MP50E] 91.5%
水 8.5%
次いで、シリコーンで修飾されたカーキ色のトップコート(溶液T3)を以下のように混合した。
【0204】
トップコート溶液T3 Vol%
樹脂溶液R1 50%
Al+3POトップコート溶液T1(実施例1から) 50%
この実施例の工程(F)において、溶液T3を、実施例1の工程(F)で行ったように、パネル9上にスプレーした。次いで、パネル9を175°F(79℃)で少なくとも15分間乾燥した後、650°F(343℃)に加熱し、30分間保持して、工程(G)でトップコートを硬化して、本発明のこの実施形態を完了した。仕上げを施した上塗り面は電子導電性でなかった。水滴が表面上に容易に付着する様子が観察された。
【0205】
熱湯試験の比較例、パネル9-C1
1つの小型CSパネルおよび2つの大型CSパネルを清浄し、グリットでブラスチングし工程(C)および(D)を省いた以外はパネル9に用いた同じ方法で、同じ材料で塗装した。これらの比較例は、以下、サイズに関係なく「パネル9-C1」と呼ぶ。
【0206】
以下の表Ex.9は、本発明の実施形態であるパネル9および比較例のマルチプライのパネル(「パネル9-C1」)を調製する上で用いられるプロセス工程を特定しまとめたものである。
【0207】
【表13】
【0208】
表9に関して、パネル9-C1とパネル9との間の違いは、パネルの調製を完成させる前でも明らかになった。滑らかで光沢のある溶液T3のトップコートであるウェットコートをパネル9-C1に塗布した直後、ウェットトップコート中に泡が形成され始めた。これらの泡の一部が直径1mm超まで「膨らんだ」。加熱硬化中に泡は最終的に破裂し、トップコートフィルム中にへこみが残った。
【0209】
溶液T3は、パネル9上の処理およびバニッシングしたベースコートに塗布したときに発泡しなかった。
【0210】
仕上げを施した表面は、パネル9-C1上で泡が壊れたトップコート中に残ったへこみ中にプローブを置いたときでさえ、電子導電性でなかった。
【0211】
小型CSパネル、パネル9および9-C1を、実施例1に記載の熱湯安定性試験に供した。80℃(176°F)のDI水で部分的に充填したビーカー中に密封して100時間後、広範囲のブリスターが、パネル9-C1上の水線の上下に形成された。コーティングは、該周辺で基材から分離した。以下の表9.Aは、評価の結果をまとめている。
【0212】
【表14】
【0213】
パネル9上のコーティングは、高温DI水中に100時間、部分的に浸漬させて密封した後、変化しなかった。表面から滲出した物質はなかった。白色のチョーク様付着物は、パネル上またはビーカー中の水中に見られなかった。パネル9の片面上のコーティングを切断して鋼の基材を暴露させ、次いで熱湯試験に戻した。さらに100時間に達した時点で、スクライブ中の赤さびとは別に、コーティングの状態に変化はなかった。コーティング系は、スクライブに沿ってしっかり接合されたままだった。
【0214】
各パネルの耐食性も評価した。大型CSパネル、パネル9および9-C1の片面上のコーティング層を通過して「X」をスクライブし、それによって基材をスクラッチ中で暴露した。スクライブしたパネルを、ASTM B117に準拠する5%の中性塩水噴霧のキャビネット中に入れた。評価の結果を、以下の表9.Bに記録する。
【0215】
【表15】
【0216】
パネル9-C1上のコーティング系は、塩水噴霧中で1000時間後にほぼ完全に消耗された。ベースコート中のアルミニウムの犠牲的腐食による大量の白色の腐食が、鋼基材の有意な赤さびと合わさった。
【0217】
対照的に、パネル9では、塩水噴霧中、2000時間を通して赤さびはなく、白色の腐食は若干にとどまった。
【国際調査報告】