(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-09-19
(54)【発明の名称】石灰石焼成粘土セメント(LC3)建設組成物
(51)【国際特許分類】
C04B 28/02 20060101AFI20230911BHJP
C04B 14/10 20060101ALI20230911BHJP
C04B 14/28 20060101ALI20230911BHJP
C04B 20/00 20060101ALI20230911BHJP
C04B 22/08 20060101ALI20230911BHJP
C04B 22/14 20060101ALI20230911BHJP
C04B 22/10 20060101ALI20230911BHJP
C04B 24/04 20060101ALI20230911BHJP
C04B 24/06 20060101ALI20230911BHJP
C04B 24/32 20060101ALI20230911BHJP
【FI】
C04B28/02 ZAB
C04B14/10 A
C04B14/28
C04B20/00 B
C04B22/08 Z
C04B22/14 B
C04B22/10
C04B24/04
C04B24/06
C04B24/32 A
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023513440
(86)(22)【出願日】2021-08-25
(85)【翻訳文提出日】2023-04-10
(86)【国際出願番号】 EP2021073436
(87)【国際公開番号】W WO2022043349
(87)【国際公開日】2022-03-03
(32)【優先日】2020-08-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】503343336
【氏名又は名称】コンストラクション リサーチ アンド テクノロジー ゲーエムベーハー
【氏名又は名称原語表記】Construction Research & Technology GmbH
【住所又は居所原語表記】Dr.-Albert-Frank-Strasse 32, D-83308 Trostberg, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】マッシモ バンディエラ
(72)【発明者】
【氏名】ペーター シュヴェーズィヒ
(72)【発明者】
【氏名】べアンハート ザクセンハウザー
(72)【発明者】
【氏名】ゼバスティアン デアス
【テーマコード(参考)】
4G112
【Fターム(参考)】
4G112MB00
4G112MB06
4G112MB23
4G112PA06
4G112PA10
4G112PB05
4G112PB08
4G112PB11
4G112PB16
4G112PB17
4G112PB36
4G112PC03
4G112PC05
(57)【要約】
石灰石焼成粘土セメント建設組成物は、a)1種以上のケイ酸カルシウム鉱物相および1種以上のアルミン酸カルシウム鉱物相を含み、混合したての建設組成物1m3当たりに180~400kgの量で、少なくとも3800cm2/gのブレーン表面積を有するセメント質バインダーと、b)100重量部のセメント質バインダーa)に対して50~100重量部の総量において、200μm未満のDv90を有し、(b-1)焼成粘土材料および(b-2)炭酸塩岩石粉末を、0.5~2の範囲にある(b-2)に対する(b-1)の重量比で含む補助セメント質材料と、c)場合により、外因アルミン酸塩源と、d)硫酸塩源と、e)セメント質バインダーa)の量に対して0.3~2.5重量%の量でのポリオールとを含む。組成物は、100gのセメント質バインダーa)当たりのアルミン酸カルシウム鉱物相+任意の外因アルミン酸塩源からのAl(OH)4
-として計算される有効アルミン酸塩を、セメント質バインダーa)の量が、混合したての組成物1m3当たりに180~220kg未満の範囲にある場合、少なくとも0.08mol、セメント質バインダーa)の量が、混合したての組成物1m3当たりに220~280kg未満の範囲にある場合、少なくとも0.06mol、およびセメント質バインダーa)の量が、混合したての組成物1m3当たりに280kg以上である場合、少なくとも0.05molの総量で含有し、硫酸塩に対する全有効アルミン酸塩のモル比は、0.4~2.0である。建設組成物は、f)(i)グリオキシル酸、グリオキシル酸塩および/またはグリオキシル酸誘導体と(ii)(ii-a)ホウ酸塩源ならびに(ii-b)0.1g・L-1以上の水溶解度を有する無機炭酸塩、有機炭酸塩およびそれらの混合物から選択される炭酸塩源のうちの少なくとも1つとを含むエトリンジャイト形成制御剤と、g)(g-1)α-ヒドロキシモノカルボン酸およびその塩、(g-2)ホスホン酸およびその塩、(g-3)ポリカルボン酸およびその塩ならびにそれらの混合物から選択される共遅延剤とをさらに含む。石灰石焼成粘土セメント建設組成物は、低減されたカーボンフットプリントの組成物であり、高い初期強度、高い最終強度、十分な風乾時間および高い耐久性を示す。建設組成物の成分は、豊富に入手可能である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
石灰石焼成粘土セメント建設組成物であって、
a)1種以上のケイ酸カルシウム鉱物相および1種以上のアルミン酸カルシウム鉱物相を含み、混合したての前記建設組成物1m
3当たりに180~400kgの量で、少なくとも3800cm
2/gのブレーン表面積を有するセメント質バインダーと、
b)100重量部のセメント質バインダーa)に対して50~100重量部の総量において、200μm未満のDv90を有し、(b-1)焼成粘土材料および(b-2)炭酸塩岩石粉末を、0.5~2の範囲にある(b-2)に対する(b-1)の重量比で含む補助セメント質材料と、
c)場合により、外因アルミン酸塩源と、
d)硫酸塩源と、
e)前記セメント質バインダーa)の量に対して0.3~2.5重量%の量でのポリオールと
を含み、
前記組成物は、100gのセメント質バインダーa)当たりの前記アルミン酸カルシウム鉱物相+任意の前記外因アルミン酸塩源からのAl(OH)
4
-として計算される有効アルミン酸塩を、
- 前記セメント質バインダーa)の量が、前記混合したての組成物1m
3当たりに180~220kg未満の範囲にある場合、少なくとも0.08mol、
- 前記セメント質バインダーa)の量が、前記混合したての組成物1m
3当たりに220~280kg未満の範囲にある場合、少なくとも0.06mol、および
- 前記セメント質バインダーa)の量が、前記混合したての組成物1m
3当たりに280kg以上である場合、少なくとも0.05mol
の総量で含有し、
硫酸塩に対する全有効アルミン酸塩のモル比は、0.4~2.0であり、
前記建設組成物は、
f)(i)グリオキシル酸、グリオキシル酸塩および/またはグリオキシル酸誘導体と(ii)(ii-a)ホウ酸塩源ならびに(ii-b)25℃で0.1g・L
-1以上の水溶解度を有する無機炭酸塩、有機炭酸塩およびそれらの混合物から選択される炭酸塩源のうちの少なくとも1つとを含むエトリンジャイト形成制御剤と、
g)(g-1)α-ヒドロキシモノカルボン酸およびその塩、(g-2)ホスホン酸およびその塩、(g-3)ポリカルボン酸およびその塩ならびにそれらの混合物から選択される共遅延剤と
をさらに含む、組成物。
【請求項2】
前記ケイ酸カルシウム鉱物相およびアルミン酸カルシウム鉱物相が、前記セメント質バインダーa)のうちの少なくとも90重量%を構成し、前記ケイ酸カルシウム鉱物相が、前記セメント質バインダーa)のうちの少なくとも60重量%を構成している、請求項1記載の組成物。
【請求項3】
前記アルミン酸カルシウム鉱物相が、C3A、C4AFおよびC12A7、特に、C3AおよびC4AFから選択される、請求項1または2記載の組成物。
【請求項4】
前記セメント質バインダーa)が、ポルトランドセメント、特に、普通ポルトランドセメント(OPC)である、請求項1から3までのいずれか1項記載の組成物。
【請求項5】
前記焼成粘土材料が、焼成粘土材料1g当たりに少なくとも200mg、好ましくは、1g当たりに少なくとも660mg、より好ましくは、1g当たりに少なくとも1000mgのChapelle試験に従ったCa(OH)
2消費を有する、請求項1から4までのいずれか1項記載の組成物。
【請求項6】
前記炭酸塩岩石粉末が、石灰石、ドロマイトおよびそれらの混合物から選択される、請求項1から5までのいずれか1項記載の組成物。
【請求項7】
好ましくは、酸化鉄、二酸化チタン、コバルト-クロム-アルミニウム-スピネルおよび酸化クロム(III)から選択される無機顔料をさらに含む、請求項1から6までのいずれか1項記載の組成物。
【請求項8】
前記補助セメント質材料b)が、150μm未満のDv90を有する、請求項1から7までのいずれか1項記載の組成物。
【請求項9】
前記外因アルミン酸塩源c)が、非石灰質アルミン酸塩源、例えば、アルミニウム(III)塩、アルミニウム(III)錯体、結晶性水酸化アルミニウム、非晶質水酸化アルミニウム;および石灰質アルミン酸塩源、例えば、高アルミナセメント、スルホアルミン酸塩セメントまたは合成アルミン酸カルシウム鉱物相から選択される、請求項1から8までのいずれか1項記載の組成物。
【請求項10】
前記硫酸塩源d)が、硫酸カルシウム源である、請求項1から9までのいずれか1項記載の組成物。
【請求項11】
前記セメント質バインダーa)が、少なくとも4500cm
2/gのブレーン表面積を有する、請求項1から10までのいずれか1項記載の組成物。
【請求項12】
前記ポリオールの1重量%水溶液400mLに、NaOHの1mol/L水溶液20mLおよびNaAlO
2の25mmol/L水溶液50mLを添加することにより得られた試験液を、20℃において、CaCl
2の0.5mol/L水溶液で滴定するアルミン酸カルシウム沈殿試験において、前記ポリオールが、アルミン酸カルシウムの沈殿を、75ppm、好ましくは、90ppmのカルシウム濃度まで阻害する、請求項1から11までのいずれか1項記載の組成物。
【請求項13】
前記ポリオールが、単糖類、オリゴ糖類、水溶性多糖類、一般式(P-I)の化合物または一般式(P-I):
【化1】
[式中、Xが、
【化2】
[式中、
Rが、-CH
2OH、-NH
2であり、
nが、1~4の整数であり、
mが、1~8の整数である]
である]
の化合物の二量体もしくは三量体から選択される、請求項12記載の凝結制御組成物。
【請求項14】
前記グリオキシル酸誘導体が、グリオキシル酸ポリマー、特に、グリオキシル酸縮合物、好ましくは、アミン-グリオキシル酸縮合物、より好ましくは、メラミン-グリオキシル酸縮合物、尿素-グリオキシル酸縮合物、メラミン-尿素-グリオキシル酸縮合物および/またはポリアクリルアミド-グリオキシル酸縮合物である、請求項1から13までのいずれか1項記載の組成物。
【請求項15】
前記グリオキシル酸、グリオキシル酸塩および/またはグリオキシル酸誘導体(i)が、前記セメント質バインダーa)の量に対して、0.2~2重量%、好ましくは、0.3~1重量%の総量で存在する、請求項1から14までのいずれか1項記載の組成物。
【請求項16】
前記無機炭酸塩が、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、重炭酸ナトリウム、炭酸リチウムおよび炭酸マグネシウムから選択され、前記有機炭酸塩が、炭酸エチレン、炭酸プロピレンおよび炭酸グリセロールから選択される、請求項1から15までのいずれか1項記載の組成物。
【請求項17】
前記炭酸塩源(ii-b)が、前記セメント質バインダーa)の量に対して、0.3~1重量%、好ましくは、0.3~0.5重量%の量で存在する、請求項1から16までのいずれか1項記載の組成物。
【請求項18】
前記α-ヒドロキシモノカルボン酸塩が、グルコン酸ナトリウムである、請求項1から17までのいずれか1項記載の組成物。
【請求項19】
全てのカルボキシル基が中和されていない形態であると仮定して、前記ポリカルボン酸またはその塩(g-3)が、3.0meq/g以上、好ましくは、3.0~17.0meq/gのカルボキシル基のミリ当量数を有する、請求項1から18までのいずれか1項記載の組成物。
【請求項20】
前記ポリカルボン酸が、ホスホノアルキルカルボン酸、アミノカルボン酸およびポリマーカルボン酸から選択される、請求項1から19までのいずれか1項記載の組成物。
【請求項21】
前記組成物が、
h)少なくとも1種の骨材
をさらに含む、請求項1から20までのいずれか1項記載の組成物。
【請求項22】
分散剤をさらに含む、請求項1から21までのいずれか1項記載の組成物。
【請求項23】
前記分散剤が、
- ペンダントセメント定着基およびポリエーテル側鎖が付着した炭素含有骨格を有する櫛型ポリマー、
- 加水分解によりセメント定着基を放出するペンダント加水分解性基およびポリエーテル側鎖が付着した炭素含有骨格を有する非イオン性櫛型ポリマー、
- 多価金属カチオン、例えば、Al
3+、Fe
3+またはFe
2+と、アニオン性基および/またはアニオン生成基ならびにポリエーテル側鎖を含むポリマー分散剤とのコロイド分散性調製物(前記多価金属カチオンが、前記ポリマー分散剤の前記アニオン性基およびアニオン生成基の合計に基づいて、カチオン当量として計算される超化学量論量で存在する)、
- スルホン化メラミン-ホルムアルデヒド縮合物、
- リグノスルホネート、
- スルホン化ケトン-ホルムアルデヒド縮合物、
- スルホン化ナフタレン-ホルムアルデヒド縮合物、
- ホスホネート含有分散剤、
- リン酸塩含有分散剤ならびに
- それらの混合物
の群から選択される、請求項22記載の組成物。
【請求項24】
前記建設組成物が、前記建設組成物の総重量に対して、5重量%未満、より好ましくは、3.5重量%未満、最も好ましくは、2重量%未満のセメント質水和生成物を含む、請求項1から23までのいずれか1項記載の組成物。
【請求項25】
混合したての形態にあり、前記混合したての建設組成物1m
3当たりに120~225L、好ましくは、1m
3当たりに130~180Lの量で水を含む、請求項1から24までのいずれか1項記載の組成物。
【請求項26】
20℃で少なくとも10MPaの3時間圧縮強度を示す、請求項25記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、プレキャストコンクリートとして適用するための、高い初期強度を有する、石灰石焼成粘土セメント(LC3)建設組成物および水性の減水された混合したての建設組成物に関する。
【0002】
コンクリートは、世界で最も広く使用されている工業材料である。コンクリートは、骨材の粒子または断片が埋め込まれた結合媒体の複合材料を指す用語である。現在利用されているほとんどの建設コンクリートでは、結合媒体は、水硬性セメントと水との混合物から形成される。
【0003】
コンクリートの予め製造された要素、例えば、モジュラー建設構造物は、セメント、骨材、水および分散剤を含む材料を混合し、種々の型で成形し、硬化させることにより得られる。型は、生産性の観点から、また、型の回転率を高めるために何度も繰り返し使用されるため、コンクリートが、高い初期強度を示すことが重要である。
【0004】
今日利用されているほとんどの水硬性セメントは、ポルトランドセメントに基づいている。ポルトランドセメントは、主に、特定の粘土鉱物、石灰石および石膏から製造され、高温プロセスにおいて、二酸化炭素を追い出し、主要成分を新たな化合物に化学的に結びつける。二酸化炭素が、セメント製造プロセス自体および製造プロセスを実行するために発電するエネルギープラントの両方により発生するため、現在、セメント製造は、現在の二酸化炭素の大気への排出の主な原因である。
【0005】
地球温暖化および海洋の酸性化が、ますます問題となり、二酸化炭素ガス排出(地球温暖化の主因)の削減が望まれ続けるため、セメント製造業は、ますます厳しくなっていくであろう。さらに、セメントプラントは、他の汚染物質、例えば、NOx、SOx、VOC、微粒子および水銀を発生させる。また、セメントプラントは、セメントキルンダストも発生させる。これは、多くの場合、有害物質の埋め立て地に埋め立てられなければならない場合がある。
【0006】
普通ポルトランドセメント系混合物と比較して、重要な特性、例えば、風乾時間、高い初期強度、高い最終強度、耐久性および低減された収縮を損なうことなく、低減されたカーボンフットプリントを有する建設組成物を提供することが望ましい。
【0007】
米国特許出願公開第2012/0055376号明細書は、ポルトランドセメントクリンカーおよび補助セメント質材料を含むセメントに関する。補助セメント質材料は、熱処理された粘土材料および炭酸塩材料を含む。このセメントは、予測されるであろう強度より高い強度をもたらすと言われている。
【0008】
国際公開第2012/133870号には、グリセロール、セメントおよび水を混合することにより、特定の比率で硫酸イオンを含む水硬性組成物を調製する工程と、この水硬性組成物を熟成させ、硬化させる工程とを含む、水硬性組成物の硬化物品を製造するための方法が開示されている。
【0009】
分散剤は、それらの作業性、すなわち、混練性、展延性、吹付け性、ポンプ輸送性または流動性を改善するために、水硬性バインダーの水性スラリーに添加されることが公知である。このような混合物は、固体凝集体の形成を防止可能であり、既に存在する粒子および水和により新たに形成された粒子を分散させることができ、このようにして、作業性を改善することができる。粉末状バインダーを混合したての加工可能な形態に変換するために、混合水が、後続の水和および硬化プロセスに必要とされるであろう量より実質的に多く必要とされる。その後に蒸発する余分な水によりコンクリート本体内に形成された空隙は、機械的強度および耐性を低下させる。所定の加工コンシステンシーで過剰な水の割合を減少させるためにかつ/または所定の水/バインダー比での作業性を改善するために、一般的に減水剤または可塑剤と呼ばれる混合物が使用される。
【0010】
セメント質系の水和に際して、エトリンジャイトが、迅速な反応で生成される。エトリンジャイトは、式Ca6Al2(SO4)3*32H2Oまたは代替的に3CaO*Al2O3*3CaSO4*32H2Oを有する硫酸カルシウムアルミニウム化合物である。この反応は、とりわけ、セメント質組成物の凝結および初期圧縮強度の発現に関与する。エトリンジャイトは、長い針状の結晶として形成される。しかしながら、新たに形成された小さな針状エトリンジャイト結晶は、セメント質組成物の作業性または流動性を低下させる傾向がある。加えて、エトリンジャイトは、その化学量論式中に32molの水を含有する。これは、エトリンジャイト形成時に、かなりの量の水が固体結晶中に結合することを意味する。新たに発生するエトリンジャイト表面に、更なる量の水が吸着される。その結果、組成物の流動性が低下する。
【0011】
国際公開第2019/077050号には、a)アミン-グリオキシル酸縮合物と、b)(i)ホウ酸塩源および(ii)炭酸塩源のうちの少なくとも1つとを含む、セメント質系のための凝結制御組成物が開示されている。この組成物は、アルミン酸塩相からのエトリンジャイトの形成を抑制し、エトリンジャイトの結晶化を阻害すると言われている。凝結制御組成物の遅延作用を考慮すると、セメント質系の所定の流動性を得るのに必要な分散剤の投入量を減らすことができる。
【0012】
したがって、本発明は、高い初期強度、高い最終強度、十分な風乾時間および高い耐久性を示す、低減されたカーボンフットプリントの建設組成物を提供しようとするものである。建設組成物の成分は、豊富に入手可能であることが求められる。
【0013】
上記課題は、石灰石焼成粘土セメント建設組成物であって、
a)1種以上のケイ酸カルシウム鉱物相および1種以上のアルミン酸カルシウム鉱物相を含み、混合したての建設組成物1m3当たりに180~400kgの量で、少なくとも3800cm2/gのブレーン表面積を有するセメント質バインダーと、
b)100重量部のセメント質バインダーa)に対して50~100重量部の総量において、200μm未満のDv90を有し、(b-1)焼成粘土材料および(b-2)炭酸塩岩石粉末を、0.5~2の範囲にある(b-2)に対する(b-1)の重量比で含む補助セメント質材料と、
c)場合により、外因(extraneous)アルミン酸塩源と、
d)硫酸塩源と、
e)セメント質バインダーa)の量に対して0.3~2.5重量%の量でのポリオールと
を含み、
組成物が、100gのセメント質バインダーa)当たりのアルミン酸カルシウム鉱物相+任意の外因アルミン酸塩源からのAl(OH)4
-として計算される有効アルミン酸塩を、
- セメント質バインダーa)の量が、混合したての組成物1m3当たりに180~220kg未満の範囲にある場合、少なくとも0.08mol、
- セメント質バインダーa)の量が、混合したての組成物1m3当たりに220~280kg未満の範囲にある場合、少なくとも0.06mol、および
- セメント質バインダーa)の量が、混合したての組成物1m3当たりに280kg以上である場合、少なくとも0.05mol
の総量で含有し、
硫酸塩に対する全有効アルミン酸塩のモル比が0.4~2.0であり、
建設組成物が、
f)(i)グリオキシル酸、グリオキシル酸塩および/またはグリオキシル酸誘導体と(ii)(ii-a)ホウ酸塩源ならびに(ii-b)0.1g・L-1以上の水溶解度を有する無機炭酸塩、有機炭酸塩およびそれらの混合物から選択される炭酸塩源のうちの少なくとも1つとを含むエトリンジャイト形成制御剤と、
g)(g-1)α-ヒドロキシモノカルボン酸およびその塩、(g-2)ホスホン酸およびその塩、(g-3)ポリカルボン酸およびその塩ならびにそれらの混合物から選択される共遅延剤と
をさらに含む、組成物により解決される。
【0014】
特定のパラメータが観察された場合、セメント質バインダーの一部を、性能を損なうことなく、選択された補助セメント質材料(SCM)に置き換えることができることが見出された。したがって、本発明により、典型的なコンクリート混合物と比較して、セメント質バインダー、例えば、普通ポルトランドセメントの量が低減された建設組成物の提供が可能となる。セメント質バインダーの低減により、より低いカーボンフットプリントが可能となる。
【0015】
石灰石焼成粘土セメント建設組成物により、伝統的なポルトランドセメント系コンクリート混合物と比較して、低下した水対セメント質バインダー比(w/c)を有する混合したての建設組成物が可能となり、一方で、作業性が保持されまたはさらには改善されることがさらに見出された。低下したw/c比により、セメント質バインダーおよび補助セメント質材料粒子のより速い架橋が可能となる。本発明の組成物は、緻密な微細構造を有すると考えられる。ケイ酸カルシウム水和物の形成に必要な水が少なくなり、初期強度の向上およびより良好な耐久性、例えば、凍結融解耐性、炭酸化耐性、より高い抵抗率および硫酸塩耐性がもたらされる。
【0016】
セメント質バインダーa)は、1種以上のケイ酸カルシウム鉱物相および1種以上の結晶性アルミン酸カルシウム鉱物相を含む。
【0017】
好都合には、鉱物相は、本明細書において、それらのセメント表記により示される。主な化合物は、酸化物の種類によりセメント表記で表される:CはCaO、MはMgO、SはSiO2、AはAl2O3、$はSO3、FはFe2O3、HはH2Oを示す。
【0018】
概して、ケイ酸カルシウム鉱物相およびアルミン酸カルシウム鉱物相は、セメント質バインダーa)のうちの少なくとも90重量%を構成し、さらに、ケイ酸カルシウム鉱物相は、好ましくは、セメント質バインダーa)のうちの少なくとも60重量%、より好ましくは、少なくとも65重量%、最も好ましくは、65~75重量%を構成している。
【0019】
適切には、ケイ酸カルシウム鉱物相は、C3S(エーライト)およびC2S(ビーライト)から選択される。ケイ酸カルシウム鉱物相は、主に最終強度特性を提供する。
【0020】
適切には、アルミン酸カルシウム鉱物相は、C3A、C4AFおよびC12A7、特に、C3AおよびC4AFから選択される。
【0021】
実施形態において、セメント質バインダーa)は、ポルトランドセメント、特に、普通ポルトランドセメント(OPC)である。「ポルトランドセメント」という用語は、ポルトランドクリンカー、特に、規格EN197-1のパラグラフ5.2の意味の範囲内のCEM Iを含有する任意のセメントコンパウンドを意味する。好ましいセメントは、DIN EN197-1に従った普通ポルトランドセメント(OPC)である。ポルトランドセメントを構成する相は、主に、エーライト(C3S)、ビーライト(C2S)、アルミン酸カルシウム(C3A)、フェロアルミン酸カルシウム(C4AF)および他の副相である。市販のOPCは、硫酸カルシウムを含有する(<7重量%)かまたは硫酸カルシウムを本質的に含まない(<1重量%)かのいずれかであってよい。
【0022】
建設組成物のセメント質バインダーは、少なくとも3800cm2/g、好ましくは、少なくとも4500cm2/g、最も好ましくは、少なくとも5000cm2/gのブレーン表面積を有する。ブレーン表面積は、粉砕微細度のためのパラメータとして使用される。より微細な粉砕により、より高い反応性が可能となる。ブレーン表面積を、DIN EN196-6に従って測定することができる。
【0023】
概して、建設組成物中のセメント質バインダーa)の量は、建設組成物の固形分に対して、8~20重量%、好ましくは、10~18重量%の範囲にある。
【0024】
本発明によれば、建設組成物は、100gのセメント質バインダーa)当たりのセメント質バインダーa)に含まれるアルミン酸カルシウム鉱物相+任意の外因アルミン酸塩源からのAl(OH)4
-として計算される有効アルミン酸塩を、
- セメント質バインダーa)の量が、混合したての組成物1m3当たりに180~220kg未満の範囲にある場合、少なくとも0.08mol、
- セメント質バインダーa)の量が、混合したての組成物1m3当たりに220~280kg未満の範囲にある場合、少なくとも0.06mol、および
- セメント質バインダーa)の量が、混合したての組成物1m3当たりに280kg以上である場合、少なくとも0.05molの総量で含有する。
【0025】
本発明者らは、所望の特性を損なうことなくセメント質バインダーa)の割合を減少させることが、有効アルミン酸塩の量を上記境界内に維持することによってのみ可能であることを見出した。このため、セメント質バインダーa)の割合が低いほど、有効アルミン酸塩の必要量は多くなる。
【0026】
概して、建設組成物は、100gのセメント質バインダーa)当たりに、0.2mol以下の全有効アルミン酸塩を含有する。
【0027】
上記最少量で有効アルミン酸塩を含有する建設組成物は、凝結前の風乾時間および初期強度発現に関して最適な性能を示すことが見出された。一方、セメント質バインダーが、100gのセメント質バインダーa)当たりに、0.2mol超の全有効アルミン酸塩を含有すると、風乾時間が短くなる場合があり、このため、初期強度発現が速くなりすぎる場合がある。
【0028】
一般的には、ポルトランドセメント中の主な鉱物のおおよその割合は、Bogue式により計算される。次に、この式は、例えば、蛍光X線(XRF)により決定されるクリンカーの元素組成に基づいている。このような方法により、元素の酸化物組成が提供される。これは、Alの量がAl2O3として報告されることを意味する。明らかに同じAl2O3含量を有するセメントは、初期強度および水和制御による制御性に関して全く異なる特性を示すことが見出された。セメントは、鉱物学的性質および溶解度の非常に異なるAl源を含む。本発明者らは、エトリンジャイトの形成のために、全てのAlが利用可能またはアクセス可能であるわけではないことを見出した。セメントペーストの水性環境において十分な溶解度を有するAl含有鉱物相のみが、エトリンジャイトの形成に関与する。他のAl含有鉱物、例えば、結晶性酸化アルミニウム、例えば、コランダムは、それらの限られた溶解度のために、水性環境においてアルミン酸塩を生成しない。その結果、元素分析のみでは、有効アルミン酸塩についての信頼できる値を提供することができない。
【0029】
したがって、本発明は、Al(OH)4
-として計算される有効アルミン酸塩に依拠している。「有効アルミン酸塩」は、アルカリ性水性環境において、Al(OH)4
-を生成可能な鉱物相およびAl含有化合物を包含することを意味する。アルミン酸カルシウム相、例えば、C3A(Ca3Al2O6)は、アルカリ性水性環境に溶解して、Al(OH)4
-およびCa2+イオンを生じる。本発明の目的で、Al(OH)4
-を生成可能な鉱物相およびAl含有化合物の濃度は、100gのセメント質バインダーa)当たりのAl(OH)4
-のモル数として表現される。
【0030】
一般的なアルミン酸カルシウム鉱物相(結晶性酸化アルミニウムとは対照的に)は、有効アルミン酸塩の供給源であると考えられる。したがって、所定のセメント質バインダー中の有効アルミン酸塩の量を、セメント質バインダーを構成する鉱物相間を区別可能な方法により決定することができる。この目的に有用な方法は、X線回折(XRD)粉末パターンのリートベルト精密化である。このソフトウェア技術は、格子パラメータ、ピーク位置、強度および形状を含む各種のパラメータを精密化するのに使用される。これにより、理論的な回折パターンを計算することが可能となる。計算された回折パターンが、検査されたサンプルのデータとほぼ同一であれば、含まれている鉱物相についての正確な定量的情報を決定することができる。
【0031】
一般的には、アルカリ性水性環境においてAl(OH)4
-を生成可能なアルミン酸カルシウム鉱物相は、アルミン酸三カルシウム(C3A)、アルミン酸一カルシウム(CA)、マイエナイト(C12A7)、グロサイト(CA2)、Q相(C20A13M3S3)またはアルミノフェライト四カルシウム(C4AF)である。実用上、セメント質バインダーa)が、ポルトランドセメントである場合、以下の鉱物相のみを評価すれば、概して十分である:アルミン酸三カルシウム(C3A)、アルミン酸一カルシウム(CA)、マイエナイト(C12A7)およびアルミノフェライト四カルシウム(C4AF)、特に、アルミン酸三カルシウム(C3A)およびアルミノフェライト四カルシウム(C4AF)。
【0032】
代替的には、有効アルミン酸塩の量を、セメント質バインダーa)の元素組成から、例えば、XRFによりAlの総量を決定し、そこから、XRDおよびリートベルト精密化により決定される、有効アルミン酸塩を生成することができない結晶性アルミニウム化合物の量を差し引くことにより得ることができる。また、この方法は、有効アルミン酸塩を生成可能な非晶質の可溶性アルミニウム化合物も考慮に入れる。有効アルミン酸塩を生成することができないこのような結晶性アルミニウム化合物は、メリライト群の化合物、例えば、ゲーレナイト(C2AS)、スピネル群の化合物、例えば、スピネル(MA)、ムライト(Al2Al2+2xSi2-2xO10-x)およびコランダム(Al2O3)を含む。
【0033】
一実施形態では、本発明は、例えば、XRD分析により決定された場合、上記指定された量に合致する、アルミン酸カルシウム鉱物相からの十分な量の有効アルミン酸塩を含有する、選択されたセメント質バインダーを使用する。
【0034】
代替的には、セメント質バインダーa)が、100gのセメント質バインダーa)当たりに不十分な濃度の有効アルミン酸塩を本質的に含有する場合、外因アルミン酸塩源c)を添加することができる。したがって、一部の実施形態では、建設組成物は、外因アルミン酸塩源c)を含有する。
【0035】
外因アルミン酸塩源c)は、上記定義されたような有効アルミン酸塩を提供する。適切には、外因アルミン酸塩源c)は、非石灰質アルミン酸塩源、例えば、アルミニウム(III)塩、アルミニウム(III)錯体、結晶性水酸化アルミニウム、非晶質水酸化アルミニウム;および石灰質アルミン酸塩源、例えば、高アルミナセメント、スルホアルミン酸塩セメントまたは合成アルミン酸カルシウム鉱物相から選択される。
【0036】
有用なアルミニウム(III)塩は、アルカリ性水性環境において、Al(OH)4
-を容易に形成するアルミニウム(III)塩である。適切なアルミニウム(III)塩は、ハロゲン化アルミニウム、例えば、塩化アルミニウム(III)およびそれらの対応する水和物、非晶質酸化アルミニウム、水酸化アルミニウムまたはそれらの混合形態、硫酸アルミニウムまたは硫酸塩含有アルミニウム塩、例えば、カリウムミョウバンおよびそれらの対応する水和物、硝酸アルミニウム、亜硝酸アルミニウムおよびそれらの対応する水和物、アルミニウム錯体、例えば、アルミニウムトリホルメート、アルミニウムトリアセテート、アルミニウムジアセテートおよびアルミニウムモノアセテート、アルミニウム含有金属有機骨格、例えば、アルミニウムフマレート、例えば、Basolite(商標)A520ならびにM(II)-アルミニウム-オキソ-水和物、例えば、ハイドロガーネットを含むが、これらに限定されない。水酸化アルミニウム(III)は、結晶性または非晶質であってよい。好ましくは、非晶質水酸化アルミニウムが使用される。
【0037】
高アルミン酸塩セメントは、高濃度、例えば、少なくとも30重量%のアルミン酸カルシウム相を含有するセメントを意味する。より正確には、アルミン酸塩タイプの前記鉱物相は、アルミン酸三カルシウム(C3A)、アルミン酸一カルシウム(CA)、マイエナイト(C12A7)、アルミノフェライト四カルシウム(C4AF)またはこれらの相のうちの幾つかの組み合わせを含む。
【0038】
スルホアルミン酸塩セメントは、典型的には、15重量%超のイーリマイト(化学式4CaO.3Al2O3.SO3またはセメント表記でC4A3$)の含量を有する。
【0039】
適切な合成アルミン酸カルシウム鉱物相は、非晶質マイエナイト(C12A7)を含む。
【0040】
建設組成物は、200μm未満、好ましくは、150μm未満、より好ましくは、70μm未満または50μm未満のDv90を有する補助セメント質材料b)を含む。
【0041】
Dv90(体積)は、粒径分布の90パーセンタイルに対応する。これは、90%の粒子がDv90以下のサイズを有し、10%がDv90より大きいサイズを有することを意味する。一般的には、Dv90および同じタイプの他の値は、粒子または粒の集合の粒度分布プロファイル(体積分布)の特徴を示す。粒子のうちの少なくとも90体積%が、200μmのメッシュ開口を有するふるいを通過する場合、粒子のうちの90%が200μm以下のサイズを有するという要件の適合性が保証される。代替的には、Dv90を、Malvern Mastersizer 2000を使用する静的レーザー回折により測定された粒径分布から計算することができる。
【0042】
粒径分布は、充填密度に影響を及ぼし、これは、次に、建設組成物の水要求性および機械的特性に影響を及ぼす。建設組成物、特に、補助セメント質材料の充填密度は、作業性を改善し、水需要を低減するために、可能な限り高くなければならない。概して、補助セメント質材料b)の粒径は、50nm~1mmの範囲である。
【0043】
補助セメント質材料は、焼成粘土材料(b-1)および炭酸塩岩石粉末(b-2)を、0.5~2、好ましくは、1.8~2の範囲にある(b-2)に対する(b-1)の重量比で含む。
【0044】
焼成粘土材料は、フィロケイ酸塩、すなわち、層状ケイ酸塩を含有する粘土の熱処理により得られる。フィロケイ酸塩は、1:1および/または2:1の層状(天然)粘土またはそれらの混合物を含み、二八面体および/もしくは三八面体シートまたはそれらの混合物ならびに0の層電荷(例えば、カオリナイト)から1の負の層電荷(例えば、マイカ)またはそれらの混合物を含む。粘土の熱処理は、水の放出を伴う脱ヒドロキシル化により粘土鉱物を変換する。例えば、カオリナイトを熱処理して、メタカオリン(Al2Si2O7)を得ることができる。得られた焼成粘土材料は、天然由来のポゾランである。焼成粘土を調製するための天然堆積物から得られる粘土は、組成および結晶構造を広範囲に変化させることができる。本発明の目的で、焼成粘土は、ポゾラン反応性を提供する粘土の熱処理により調製される任意の材料である。組成、結晶構造、微細度ならびに処理条件、例えば、適用される熱の温度および時間を大きく変化させることができるため、その結果、焼成粘土の反応性も、大きく異ならせることができる。
【0045】
焼成粘土を含む二次セメント質材料のポゾラン反応性を、例えば、「Chapelle試験」(NF P18-513)により測定することができる。この試験は、Ca(OH)2と、ポゾラン中に存在する珪質材料またはアルミノケイ酸塩材料との反応に依拠している。ポゾランおよびCa(OH)2の懸濁液を、90℃で16時間反応させる。消費されたCa(OH)2の量は、添加された石灰と残留する石灰との間の差により計算される。有用な焼成粘土は、焼成粘土材料1g当たりに少なくとも200mg、好ましくは、1g当たりに少なくとも660mg、より好ましくは、1g当たりに少なくとも1000mgのCa(OH)2消費を有する。
【0046】
焼成粘土を含む補助セメント質材料のポゾラン反応性を定量化するための別のアプローチは、ブレンドセメントの熱量分析を含む。Development of a New Rapid, Relevant and Reliable (R3) Testing Method to Evaluate the Pozzolanic Reactivity of Calcined Clays, Rilem Bookseries 2015, DOI:10.1007/978-94-017-9939-3_67を参照のこと。セメントモデルペーストは、11.11gの補助セメント質材料(SCM)、33.33gのポルトランダイト、60gの脱イオン水、0.24gの水酸化カリウム、1.20gの硫酸カリウムおよび5.56gの方解石を混合することにより調製される。熱放出は、7日間にわたって記録される。累積熱(「熱」)は、熱量測定試験の開始後1.2時間から計算される。総熱放出(「Hrescaled」)は、以下
Hrescaled=熱/(mp×0.0997)
[式中、熱は、累積熱(ジュール)であり、mpは、セメントモデルペーストの質量(グラム)である]
のように、J/(g SCM)で報告される。
【0047】
有用な焼成粘土材料は、ポゾラン反応性試験において、100~600J/g、特に、150~400J/gの総熱放出を示す。
【0048】
ポルトランドセメントの部分代替物として焼成粘土材料を使用することにより、従来のポルトランドセメントにより達成されるのと同じコンクリート強度で、CO2排出量を削減することが可能となる。焼成粘土中に存在するメタカオリンおよび他のアルミノケイ酸塩は、アルカリ性水性環境において、限られた溶解度しか有せず、加えて、非常にゆっくりとしか溶解しない。速度論的な代謝回転が非常に遅いため、最大値に達するのに数日あるいは数週間も必要になると予想される。このため、焼成粘土は、長期間の後にのみ、LC3コンクリートの全体的な物理的性能および/または耐久性に寄与するであろう。焼成粘土は、普通ポルトランドセメントとは異なり、混合後の最初の数時間以内の初期強度発現に明らかに寄与しない。したがって、本発明の目的で、焼成粘土材料は、有効アルミン酸塩の供給源とは見なされない。
【0049】
適切な粘土材料は、カオリン群、例えば、カオリナイト、ジッカイト、ナクライトまたはハロイサイトに属することが見出されている。許容できる強度を、二八面体スメクタイト、例えば、モンモリロナイトおよびノントロナイトならびに三八面体スメクタイト、例えば、サポナイトまたはバーミキュライトならびにそれらの混合物を含むスメクタイト群の粘土を使用しても得ることができる。これは、カオリンよりはるかに広く入手可能な粘土を使用する可能性を開く。
【0050】
一実施形態では、焼成粘土材料は、400~900℃、好ましくは、500~900℃、より好ましくは、500~750℃の温度で、粘土を熱処理することにより得られる材料である。焼成粘土材料は、好ましくは、石灰石の本質的な非存在下で、粘土を熱処理することにより得られる材料である。
【0051】
補助セメント質材料b)は、炭酸塩岩石粉末(b-2)をさらに含む。炭酸塩岩石粉末は、微粉砕炭酸塩岩石からなり、豊富に入手可能である。それらの使用は、カーボンフットプリントにあまり寄与しない。有用な例は、石灰石、例えば、粉砕石灰石または沈降石灰石、ドロマイトおよびそれらの混合物を含む。好ましくは、炭酸塩岩石粉末(b-2)は、少なくとも90重量%の石灰石を含む。
【0052】
好ましくは、補助セメント質材料b)は、主に、焼成粘土材料(b-1)および炭酸塩岩石粉末(b-2)、特に、石灰石からなる。例えば、焼成粘土材料(b-1)および炭酸塩岩石粉末(b-2)は合わせて、補助セメント材料b)のうちの少なくとも80重量%、特に、少なくとも90重量%を構成している。他の実施形態では、補助セメント質材料b)は、焼成粘土および/またはケイ酸塩岩石粉末以外の更なる材料、例えば、アルカリ活性化可能なバインダーを含む。
【0053】
「アルカリ活性化可能なバインダー」という用語は、水性アルカリ環境においてセメント様の様式で凝結する材料を指定することを意味する。この用語は、一般に「潜在水硬性バインダー」および「ポゾランバインダー」と呼ばれる材料を包含する。
【0054】
本発明の目的で、「潜在水硬性バインダー」は、好ましくは、モル比(CaO+MgO):SiO2が0.8~2.5、特に、1.0~2.0であるバインダーである。概して、上記言及された潜在水硬性バインダーを、産業スラグおよび/または合成スラグ、特に、高炉スラグ、電熱リンスラグ、鋼スラグならびにそれらの混合物から選択することができる。「ポゾランバインダー」を、概して、非晶質シリカ、好ましくは、沈降シリカ、ヒュームドシリカおよびミクロシリカ、粉砕ガラス、メタカオリン、アルミノシリケート、フライアッシュ、好ましくは、褐炭フライアッシュおよび無煙炭フライアッシュ、天然ポゾラン、例えば、凝灰石、トラスおよび火山灰、焼成粘土、バーントシェール、もみ殻灰、天然および合成ゼオライトならびにそれらの混合物から選択することができる。
【0055】
スラグは、産業スラグ、すなわち、産業プロセスからの廃棄物または他の合成スラグのいずれかである場合がある。後者は、有利である場合がある。なぜならば、産業スラグが常に一定の量および品質で入手可能であるとは限らないためである。
【0056】
高炉スラグ(BFS)は、ガラス炉プロセスの廃棄物である。他の材料は、高炉水砕スラグ(GBFS)および高炉スラグ微粉末(GGBFS)である。GGBFSは、微粉砕された高炉水砕スラグである。高炉スラグ微粉末は、粉砕微細度および粒度分布に関して異なるが、これらは、起源と処理方法とにより決まり、粉砕微細度は、ここでの反応性に影響を及ぼす。
【0057】
ただし、本発明の目的で、「高炉スラグ」という表現は、言及された処理、粉砕および品質のレベルの全てから生じる材料(すなわち、BFS、GBFSおよびGGBFS)を含むことが意図される。高炉スラグは、概して、30~45重量%のCaO、約4~17重量%のMgO、約30~45重量%のSiO2および約5~15重量%のAl2O3、典型的には、約40重量%のCaO、約10重量%のMgO、約35重量%のSiO2および約12重量%のAl2O3を含む。
【0058】
電熱リンスラグは、電熱リン生産の廃棄物である。電熱リンスラグは、高炉スラグより反応性が低く、約45~50重量%のCaO、約0.5~3重量%のMgO、約38~43重量%のSiO2、約2~5重量%のAl2O3および約0.2~3重量%のFe2O3を含み、フッ化物およびリン酸塩も含む。鋼スラグは、様々な鋼製造プロセスの廃棄物であり、組成が大きく変化する。
【0059】
非晶質シリカは、好ましくは、X線非晶質シリカ、すなわち、粉末回折法により結晶化度が示されないシリカである。本発明の非晶質シリカ中のSiO2含量は、有利には、少なくとも80重量%、好ましくは、少なくとも90重量%である。沈降シリカは、水ガラスから出発する沈降プロセスにより工業的規模で得られる。幾つかの製造プロセスからの沈降シリカは、シリカゲルとも呼ばれる。
【0060】
ヒュームドシリカは、クロロシラン、例えば、四塩化ケイ素を水素/酸素火炎中で反応させることにより製造される。ヒュームドシリカは、50~600m2g-1の比表面積を有する5~50nmの粒径の非晶質SiO2粉末である。
【0061】
ミクロシリカは、シリコン製造またはフェロシリコン製造の副生成物であり、同様に、大部分が非晶質SiO2粉末からなる。粒子は、0.1μmのオーダーの大きさの直径を有する。比表面積は、15~30m2g-1のオーダーの大きさのものである。
【0062】
フライアッシュは、とりわけ、発電所における石炭の燃焼中に生成される。クラスCフライアッシュ(褐炭フライアッシュ)は、国際公開第08/012438号によれば、約10重量%のCaOを含み、一方、クラスFフライアッシュ(無煙炭フライアッシュ)は、8重量%未満、好ましくは、4重量%未満、典型的には、約2重量%のCaOを含む。
【0063】
ケイ酸塩岩石粉末は、微粉砕されたケイ酸塩岩石からなり、豊富に入手可能である。ケイ酸塩岩石粉末の使用は、カーボンフットプリントにあまり寄与しない。ケイ酸塩岩石粉末の例は、玄武岩および石英粉末を含む。
【0064】
一実施形態では、補助セメント質材料b)は、無機顔料をさらに含む。適切な無機顔料は、酸化鉄、二酸化チタン、コバルト-クロム-アルミニウム-スピネルおよび酸化クロム(III)、例えば、クロムグリーンを含む。好ましくは、無機顔料は、セメント質バインダーa)および補助セメント質材料b)の総量の5重量%超、好ましくは、3重量%以下を構成していない。
【0065】
建設組成物は、硫酸塩源d)を含む。硫酸塩源は、アルカリ性水性環境において、硫酸イオンを提供可能な化合物である。一般的には、硫酸塩源は、30℃の温度で、少なくとも0.6mmol・L-1の水溶解度を有する。硫酸塩源の水溶解度は、出発pH値7を有する水中で適切に決定される。
【0066】
具体的には、硫酸塩に対する全有効アルミン酸塩のモル比は、0.4~2.0、好ましくは、0.57~0.8の範囲、特に、約0.67である。これは、可能な限り高い割合のエトリンジャイトが有効アルミン酸塩から形成されるように、組成物中の混合比が調整されることを意味する。
【0067】
先に言及されたように、その市販形態のポルトランドセメントは、典型的には、少量の硫酸塩源を含有する。硫酸塩の内在量が未知である場合、それを、当業者によく知られた方法、例えば、XRFによる元素分析により決定することができる。セメント製造において一般的に使用される硫酸塩源として、アルカリ土類金属硫酸塩、アルカリ金属硫酸塩またはそれらの混合形態、例えば、石膏、半水和物、硬石膏、アルカナイト、テナルダイト、シンゲナイト、ラングベイナイトは、典型的には、結晶質であり、それらの量も、XRDにより決定することができる。硫酸塩の内在量および任意の添加された外因硫酸塩源の両方が、硫酸塩に対する全有効アルミン酸塩のモル比の計算において考慮される。
【0068】
一般的には、外因硫酸塩源は、好ましくは、硫酸カルシウム二水和物、硬石膏、α-およびβ-半水和物、すなわち、α-バサナイトおよびβ-バサナイトまたはそれらの混合物から選択される硫酸カルシウム源であってよい。好ましくは、硫酸カルシウム源は、α-バサナイトおよび/またはβ-バサナイトである。他の硫酸塩源は、アルカリ金属硫酸塩、例えば、硫酸カリウムまたは硫酸ナトリウムである。
【0069】
添加剤は、硫酸アルミニウム十六水和物または硫酸アルミニウム十八水和物のようなアルミン酸塩と硫酸塩との両方の供給源として作用することができると想定される。
【0070】
好ましくは、硫酸塩源d)は、硫酸カルシウム源である。硫酸カルシウム源は、概して、セメント質バインダーa)の量に対して、3~20重量%、好ましくは、10~15重量%の量で含まれる。
【0071】
本発明によれば、建設組成物は、エトリンジャイト形成制御剤f)を含有する。エトリンジャイト形成制御剤は、(i)グリオキシル酸、グリオキシル酸塩および/またはグリオキシル酸誘導体;ならびに(ii)(ii-a)ホウ酸塩源および(ii-b)炭酸塩源のうちの少なくとも1つを含む。炭酸塩源は、0.1g・L-1以上の水溶解度を有する無機炭酸塩、有機炭酸塩およびそれらの混合物から選択される。
【0072】
成分(i)、すなわち、グリオキシル酸、グリオキシル酸塩および/またはグリオキシル酸誘導体は、成分(ii)からのホウ酸イオンまたは炭酸イオンと組み合わせて、セメント質バインダーに由来するアルミン酸相からのエトリンジャイトの形成を遅延させると考えられる。
【0073】
好ましくは、(i)グリオキシル酸、グリオキシル酸塩および/またはグリオキシル酸誘導体は、セメント質バインダーa)の量に対して、0.2~2重量%、好ましくは、0.3~1重量%の総量で存在する。
【0074】
有用なグリオキシル酸塩は、アルカリ金属グリオキシレート、例えば、グリオキシル酸ナトリウムおよびグリオキシル酸カリウムを含む。
【0075】
有用なグリオキシル酸誘導体は、グリオキシル酸ポリマーおよびグリオキシル酸付加物を含む。
【0076】
実施形態において、グリオキシル酸ポリマーは、アミン-グリオキシル酸縮合物である。「アミン-グリオキシル酸縮合物」という用語は、グリオキシル酸と、アルデヒドと反応性のアミノ基またはアミド基を含有する化合物との縮合物を意味することを意図する。アルデヒド反応性のアミノ基またはアミド基を含有する化合物の例は、尿素、チオ尿素、メラミン、グアニジン、アセトグアナミン、ベンゾグアナミンおよび他のアシルグアナミンならびにポリアクリルアミドを含む。
【0077】
好ましくは、アミン-グリオキシル酸縮合物は、メラミン-グリオキシル酸縮合物、尿素-グリオキシル酸縮合物、メラミン-尿素-グリオキシル酸縮合物および/またはポリアクリルアミド-グリオキシル酸縮合物である。尿素-グリオキシル酸縮合物が特に好ましい。有用なアミン-グリオキシル酸縮合物およびその製造は、国際公開第2019/077050号に記載されている。同文献は、参照により本明細書に援用される。
【0078】
アミン-グリオキシル酸縮合物は、グリオキシル酸を、アルデヒド反応性のアミノ基またはアミド基を含有する化合物と反応させることにより得ることができる。グリオキシル酸を、水溶液またはグリオキシル酸塩、好ましくは、グリオキシル酸のアルカリ金属塩として使用することができる。同様に、アミン化合物を、塩として、例えば、グアニジニウム塩として使用することができる。一般的には、アミン化合物およびグリオキシル酸は、アルデヒド反応性のアミノ基またはアミド基当たりに、0.5~2当量、好ましくは、1~1.3当量のグリオキシル酸のモル比で反応する。反応は、0~120℃、好ましくは、25~105℃の温度で行われる。pH値は、好ましくは、0~8である。反応で得られた粘性生成物を、そのまま使用し、希釈もしくは濃縮により所望の固形分に調整しまたは例えば、噴霧乾燥、ドラム乾燥もしくはフラッシュ乾燥により蒸発乾固させることができる。
【0079】
一般的には、アミン-グリオキシル酸縮合物は、500~25000g/mol、好ましくは、1000~10000g/mol、特に好ましくは、1000~5000g/molの範囲の分子量を有する。
【0080】
有用なグリオキシル酸付加物は、式
【化1】
[式中、
Xは、それぞれ独立して、Hまたはカチオン等価体Cat
aから選択され、Catは、特に限定されないが、好ましくは、アルカリ金属、アルカリ土類金属、亜鉛、鉄、アンモニウムもしくはホスホニウムカチオンまたはそれらの混合物から選択されるカチオンであり、aは、1/nであり、nは、カチオンの原子価である]
のグリオキシル酸重亜硫酸塩付加物である。グリオキシル酸重亜硫酸塩付加物を、国際公開第2017/212045号に記載されているように調製することができる。
【0081】
グリオキシル酸およびグリオキシル酸塩は、固体であるが、グリオキシル酸縮合物は、一般的には、周囲条件で液体である。これは、組成物内の均質な分布を容易にすることができる。
【0082】
成分(ii)は、(ii-a)ホウ酸塩源および(ii-b)炭酸塩源のうちの少なくとも1つである。
【0083】
ホウ酸塩源は、通常、急速に溶解する安価なホウ酸塩化合物を含む。適切なホウ酸塩源は、ホウ砂、ホウ酸、コレマナイトおよびヘキサヒドロホウ酸塩を含む。
【0084】
ホウ酸塩源が使用される場合、(ii-a)ホウ酸塩源は、セメント質バインダーa)の量に対して、好ましくは、0.3~1重量%、好ましくは、0.3~0.5重量%の量で存在する。
【0085】
炭酸塩源は、25℃で0.1g・L-1以上の水溶解度を有する無機炭酸塩であってよい。無機炭酸塩の水溶解度は、出発pH値7を有する水中で適切に決定される。溶解限界でのpH値は、出発pH値より高いと理解される。
【0086】
好ましい実施形態では、エトリンジャイト形成制御剤は、(ii-b)炭酸塩源を含む。炭酸塩源の存在により、混合水が最初に炭酸イオンに高度に集中することが確実となる。炭酸イオンは、グリオキシル酸、グリオキシル酸塩およびグリオキシル酸誘導体と共に鉱物相表面に吸着すると考えられる。また、後者は、細孔溶液中に部分的に残存し、初期において、エトリンジャイトが形成されるのを防止するであろう。
【0087】
好ましくは、(ii-b)炭酸塩源は、セメント質バインダーa)の量に対して、0.3~1重量%、好ましくは、0.3~0.5重量%の量で存在する。
【0088】
炭酸塩源は、0.1g・L-1以上の水溶解度を有する無機炭酸塩であってよい。「無機炭酸塩」は、炭酸の塩、すなわち、炭酸イオン(CO3
2-)および/または炭酸水素イオン(HCO3
-)の存在を特徴とする塩を意味することが意図される。
【0089】
実施形態において、無機炭酸塩を、アルカリ金属炭酸塩、例えば、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、重炭酸ナトリウムまたは炭酸リチウムおよび必要とされる水溶解度を満たすアルカリ土類金属炭酸塩、例えば、炭酸マグネシウムから適切に選択することができる。更なる適切な無機炭酸塩は、窒素塩基の炭酸塩、例えば、炭酸グアニジニウムおよび炭酸アンモニウムを含む。炭酸ナトリウムおよび重炭酸ナトリウム、特に、重炭酸ナトリウムが特に好ましい。
【0090】
代替的には、炭酸塩源は、有機炭酸塩から選択される。「有機炭酸塩」は、炭酸のエステルを意味する。有機炭酸塩は、セメント質系の存在下で加水分解されて、炭酸イオンを放出する。実施形態において、有機炭酸塩は、炭酸エチレン、炭酸プロピレン、炭酸グリセロール、炭酸ジメチル、炭酸ジ(ヒドロキシエチル)またはそれらの混合物、好ましくは、炭酸エチレン、炭酸プロピレンおよび炭酸グリセロールまたはそれらの混合物、特に、炭酸エチレンおよび/または炭酸プロピレンから選択される。無機炭酸塩と有機炭酸塩との混合物も使用することができる。
【0091】
成分(ii)に対する成分(i)の重量比は、典型的には、約10:1~約1:10、好ましくは、約5:1~約1:5または約1:1~約1:4の範囲にある。
【0092】
本発明によれば、建設組成物は、セメント質バインダーa)の量に対して、0.3~2.5重量%、好ましくは、1.5~2.5重量%の量で、ポリオールe)を含有する。
【0093】
ポリオール、例えば、グリセロールは、例えば、硫酸カルシウムまたはC3Aのカルシウムイオンをキレート化すると考えられる。その結果、カルシウムイオン解離が促進される。カルシウムイオンのキレート化によっても、溶液中のカルシウムが安定化され、アルミン酸カルシウム相の溶解が加速され、それにより、これらのアルミン酸カルシウム相からのアルミン酸塩がよりアクセス可能となる。
【0094】
「ポリオール」は、その分子中に少なくとも2個のアルコール性ヒドロキシル基、例えば、3、4、5または6個のアルコール性ヒドロキシル基を有する化合物を意味することが意図される。隣接ヒドロキシル基を有するポリオールが好ましい。3個の炭素原子に連続して結合した少なくとも3個のヒドロキシル基を有するポリオールが最も好ましい。
【0095】
カルシウムイオンをキレート化し、それにより溶液中のカルシウムを安定化させるポリオールの能力を、アルミン酸カルシウム沈殿試験により評価することができる。実施形態において、ポリオールの1重量%水溶液400mLに、NaOHの1mol/L水溶液20mLおよびNaAlO2の25mmol/L水溶液50mLを添加することにより得られた試験液を、20℃において、CaCl2の0.5mol/L水溶液で滴定するアルミン酸カルシウム沈殿試験において、ポリオールは、アルミン酸カルシウムの沈殿を、75ppm、好ましくは、90ppmのカルシウム濃度まで阻害する。
【0096】
試験では、濁度によりアルミン酸カルシウムの沈殿が検出される。最初は、試験溶液は、透明な溶液である。透明な試験溶液を、CaCl2水溶液で、上記されたように、例えば、2mL/分の一定の投入速度で滴定する。CaCl2の継続的な添加によって、アルミン酸カルシウムの沈殿により、濁度による試験溶液の光学特性の変化がもたらされる。濁り始める前の(Ca2+としての)最大カルシウム濃度として表現される滴定終点を、開始点に対する経過時間から計算することができる。
【0097】
好ましい実施形態では、ポリオールe)は、炭素、水素および酸素のみからなり、その分子中にカルボキシル基(COOH)を含有しない化合物から選択される。
【0098】
実施形態において、ポリオールは、単糖類、オリゴ糖類、水溶性多糖類、一般式(P-I)の化合物または一般式(P-I):
【化2】
[式中、Xは、
【化3】
[式中、
Rは、-CH
2OH、-NH
2であり、
nは、1~4の整数であり、
mは、1~8の整数である]
である]
の化合物の二量体もしくは三量体から選択される。
【0099】
一実施形態では、ポリオールe)は、糖類から選択される。有用な糖類は、単糖類、例えば、グルコースおよびフルクトース;二糖類、例えば、ラクトースおよびスクロース;三糖類、例えば、ラフィノースならびに水溶性多糖類、例えば、アミロースおよびマルトデキストリンを含む。単糖類および二糖類、特に、スクロースが特に好ましい。
【0100】
別の好ましい実施形態では、ポリオールe)は、炭素、水素および酸素のみからなり、その分子中にカルボキシル基(COOH)も、カルボニル基(C=O)も含有しない化合物から選択される。「カルボニル基」という用語は、C=O基の互変異性体、すなわち、ヒドロキシル基に隣接する二重結合炭素原子のペア(-C=C(OH)-)を包含すると理解される。
【0101】
Xが(P-Ia)である式(P-I)の化合物は、一般的には、糖アルコールと呼ばれる。糖アルコールは、典型的には、糖類から誘導され、各炭素原子に付着した1個のヒドロキシル基(-OH)を含有する有機化合物である。有用な糖アルコールは、マンニトール、ソルビトール、キシリトール、アラビトール、エリスリトールおよびグリセロールである。これらの中でも、グリセロールが特に好ましい。多価アルコールの炭酸塩、例えば、炭酸グリセロールは、ポリオール源として作用することができると想定される。
【0102】
Xが(P-Ib)である式(P-I)の化合物は、ペンタエリスリトールおよびトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタンを含む。
【0103】
Xが(P-Ic)である式(P-I)の化合物は、トリエタノールアミンを含む。
【0104】
二量体または三量体は、一般式(P-I)の2つまたは3つの分子がエーテル架橋を介して連結され、形式的には、1つまたは2つの水分子の脱離を伴う縮合反応から誘導される化合物を意味する。式(P-I)の化合物の二量体および三量体の例は、ジペンタエリスリトールおよびトリペンタエリスリトールを含む。
【0105】
本発明によれば、建設組成物は、(g-1)α-ヒドロキシモノカルボン酸およびその塩、(g-2)ホスホン酸およびその塩、(g-3)ポリカルボン酸およびその塩ならびにそれらの混合物から選択される共遅延剤g)を含む。特に好ましい実施形態では、共遅延剤g)は、(g-1)α-ヒドロキシモノカルボン酸および/またはその塩を含む。
【0106】
好ましくは、共遅延剤g)は、セメント質バインダーa)の量に対して、0.05~1重量%、好ましくは、0.05~0.2重量%の総量で存在する。
【0107】
適切なα-ヒドロキシモノカルボン酸またはその塩(g-1)は、グリコール酸、グルコン酸およびそれらの塩ならびにそれらの混合物を含む。グルコン酸ナトリウムが特に好ましい。
【0108】
適切なホスホン酸およびその塩(g-2)は、特に、ポリホスホン酸およびその塩であり、1-ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸(HEDP)、アミノ-トリス(メチレンホスホン酸)(ATMP)または[[(2-ヒドロキシエチル)イミノ]ビス(メチレン)]ビスホスホン酸およびそれらの塩ならびにそれらの混合物を含む。好ましいジ-またはトリホスホネートの各化学式を、以下に示す。
【化4】
【0109】
適切なポリカルボン酸およびその塩(g-3)は、ホスホノアルキルカルボン酸、アミノカルボン酸およびポリマーカルボン酸およびそれらの塩ならびにそれらの混合物を含む。
【0110】
ポリカルボン酸という用語は、本明細書で使用する場合、分子に対して2つ以上のカルボキシル基を有する化合物またはポリマーを意味する。
【0111】
適切なポリカルボン酸は、低分子量ポリカルボン酸(例えば、500以下の分子量を有する)、特に、脂肪族ポリカルボン酸、例えば、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、フマル酸、マレイン酸、イタコン酸、シトラコン酸、メサコン酸、リンゴ酸、酒石酸およびクエン酸を含む。
【0112】
適切なホスホノアルキルカルボン酸は、1-ホスホノブタン-1,2,4-トリカルボン酸、2-ホスホノブタン-1,2,4-トリカルボン酸、3-ホスホノブタン-1,2,4-トリカルボン酸、4-ホスホノブタン-1,2,4-トリカルボン酸、2,4-ジホスホノブタン-1,2,4-トリカルボン酸、2-ホスホノブタン-1,2,3,4-テトラカルボン酸、1-メチル-2-ホスホノペンタン-1,2,4-トリカルボン酸または1,2-ホスホノエタン-2-ジカルボン酸を含む。
【0113】
適切なアミノカルボン酸は、エチレンジアミン四酢酸またはニトリロ三酢酸を含む。
【0114】
適切なポリマーカルボン酸は、アクリル酸のホモポリマー、メタクリル酸のホモポリマー、ポリマレイン酸、コポリマー、例えば、エチレン/アクリル酸コポリマーおよびエチレン/メタクリル酸コポリマー;アクリル酸および/またはメタクリル酸とスルホ基またはスルホネート基含有モノマーとのコポリマーを含む。実施形態において、スルホ基またはスルホネート基含有モノマーは、ビニルスルホン酸、(メタ)アリルスルホン酸、4-ビニルフェニルスルホン酸または2-アクリルアミド-2-メチルプロピルスルホン酸(ATBS)の群から選択される。ATBSが特に好ましい。前述のスルホ基またはスルホネート基含有モノマーのうちの1つ以上がコポリマーに含有されることが可能である。
【0115】
一般的には、ポリマーカルボン酸の分子量は、1000~30000g/mol、好ましくは、1000~10000g/molの範囲にある。分子量は、実験部に詳細に示されているように、ゲル浸透クロマトグラフィー法(GPC)により測定される。
【0116】
適切には、ポリマーカルボン酸またはその塩は、全てのカルボキシル基が中和されていない形態であると仮定して、3.0meq/g以上、好ましくは、3.0~17.0meq/g、より好ましくは、5.0~17.0meq/g、最も好ましくは、5.0~14.0meq/gのミリ当量数のカルボキシル基を有する。
【0117】
好ましくはないが、建設組成物は、例えば、修理モルタルおよび自己レベリング下葺き材において従来使用されている凝結促進剤、例えば、リチウム塩、特に、炭酸リチウムまたは硫酸リチウムを含むことができる。本発明の有利な特徴は、建設組成物の初期強度発現がリチウム凝結促進剤を省くことができるようなものであることである。したがって、好ましい実施形態では、建設組成物は、リチウム凝結促進剤を含有しない。また、これは、建設組成物のコストを低減するのにも役立つ。なぜならば、リチウム凝結促進剤は、非常に高価な成分であるためである。
【0118】
好ましくは、本発明に係る建設組成物は、無機バインダー用の少なくとも1種の分散剤、特に、セメント混合物、例えば、コンクリートまたはモルタル用の分散剤をさらに含む。
【0119】
有用な分散剤の例は、
- ペンダントセメント定着基およびポリエーテル側鎖が付着した炭素含有骨格を有する櫛型ポリマー、
- 加水分解によりセメント定着基を放出するペンダント加水分解性基およびポリエーテル側鎖が付着した炭素含有骨格を有する非イオン性櫛型ポリマー、
- 多価金属カチオン、例えば、Al3+、Fe3+またはFe2+とアニオン性基および/またはアニオン生成基ならびにポリエーテル側鎖を含むポリマー分散剤とのコロイド分散性調製物(多価金属カチオンは、ポリマー分散剤のアニオン性基およびアニオン生成基の合計に基づいて、カチオン当量として計算される超化学量論量で存在する)、
- スルホン化メラミン-ホルムアルデヒド縮合物、
- リグノスルホネート、
- スルホン化ケトン-ホルムアルデヒド縮合物、
- スルホン化ナフタレン-ホルムアルデヒド縮合物、
- ホスホネート含有分散剤、
- リン酸塩含有分散剤ならびに
- それらの混合物
を含む。
【0120】
好ましくは、分散剤は、セメント質バインダーa)の量に対して、0.08~0.4重量%、好ましくは、0.15~0.3重量%の総量で存在する。
【0121】
ペンダントセメント定着基およびポリエーテル側鎖が付着した炭素含有骨格を有する櫛型ポリマーが特に好ましい。セメント定着基は、アニオン性基および/またはアニオン生成基、例えば、カルボキシル基、ホスホン酸基もしくはリン酸基またはそれらのアニオンである。アニオン生成基は、ポリマー分散剤中に存在する酸基であり、アルカリ条件下でそれぞれのアニオン性基に変換することができる。
【0122】
好ましくは、アニオン性基および/またはアニオン生成基を含む構造単位は、一般式(Ia)、(Ib)、(Ic)および/または(Id):
【化5】
[式中、
R
1は、H、C
1~C
4アルキル、CH
2COOHまたはCH
2CO-X-R
3A、好ましくは、Hまたはメチルであり、
Xは、NH-(C
n1H
2n1)もしくはO-(C
n1H
2n1)(式中、n1=1、2、3または4)または化学結合、CO基に結合した窒素原子もしくは酸素原子であり、
R
2は、OM、PO
3M
2またはO-PO
3M
2であり、ただし、R
2が、OMである場合、Xは、化学結合であるという条件であり、
R
3Aは、PO
3M
2またはO-PO
3M
2である]
【化6】
[式中、
R
3は、HまたはC
1~C
4アルキル、好ましくは、Hまたはメチルであり、
nは、0、1、2、3または4であり、
R
4は、PO
3M
2またはO-PO
3M
2である]
【化7】
[式中、
R
5は、HまたはC
1~C
4アルキル、好ましくは、Hであり、
Zは、OまたはNR
7であり、
R
7は、H、(C
n1H
2n1)-OH、(C
n1H
2n1)-PO
3M
2、(C
n1H
2n1)-OPO
3M
2、(C
6H
4)-PO
3M
2または(C
6H
4)-OPO
3M
2であり、
n1は、1、2、3または4である]
【化8】
[式中、
R
6は、HまたはC
1~C
4アルキル、好ましくは、Hであり、
Qは、NR
7またはOであり、
R
7は、H、(C
n1H
2n1)-OH、(C
n1H
2n1)-PO
3M
2、(C
n1H
2n1)-OPO
3M
2、(C
6H
4)-PO
3M
2または(C
6H
4)-OPO
3M
2であり、
n1は、1、2、3または4であり、
各Mは、独立して、Hまたはカチオン等価体である]
のうちの1つである。
【0123】
好ましくは、ポリエーテル側鎖を含む構造単位は、一般式(IIa)、(IIb)、(IIc)および/または(IId):
【化9】
[式中、
R
10、R
11およびR
12は、それぞれ独立して、HまたはC
1~C
4アルキル、好ましくは、Hまたはメチルであり、
Z
2は、OまたはSであり、
Eは、C
2~C
6アルキレン、シクロヘキシレン、CH
2-C
6H
10、1,2-フェニレン、1,3-フェニレンまたは1,4-フェニレンであり、
Gは、O、NHまたはCO-NHでありまたは
EおよびGは合わさって、化学結合であり、
Aは、C
2~C
5アルキレンまたはCH
2CH(C
6H
5)、好ましくは、C
2~C
3アルキレンであり、
n2は、0、1、2、3、4または5であり、
aは、2~350、好ましくは、10~150、より好ましくは、20~100の整数であり、
R
13は、H、非分枝鎖もしくは分枝鎖C
1~C
4アルキル基、CO-NH
2またはCOCH
3である]
【化10】
[式中、
R
16、R
17およびR
18は、それぞれ独立して、HまたはC
1~C
4アルキル、好ましくは、Hであり、
E
2は、C
2~C
6アルキレン、シクロヘキシレン、CH
2-C
6H
10、1,2-フェニレン、1,3-フェニレンもしくは1,4-フェニレンであるかまたは化学結合であり、
Aは、C
2~C
5アルキレンまたはCH
2CH(C
6H
5)、好ましくは、C
2~C
3アルキレンであり、
n2は、0、1、2、3、4または5であり、
Lは、C
2~C
5アルキレンまたはCH
2CH(C
6H
5)、好ましくは、C
2~C
3アルキレンであり、
aは、2~350、好ましくは、10~150、より好ましくは、20~100の整数であり、
dは、1~350、好ましくは、10~150、より好ましくは、20~100の整数であり、
R
19は、HまたはC
1~C
4アルキルであり、
R
20は、HまたはC
1~C
4アルキルである]
【化11】
[式中、
R
21、R
22およびR
23は、独立して、HまたはC
1~C
4アルキル、好ましくは、Hであり、
Wは、O、NR
25またはNであり、
Vは、W=OまたはNR
25の場合、1であり、W=Nの場合、2であり、
Aは、C
2~C
5アルキレンまたはCH
2CH(C
6H
5)、好ましくは、C
2~C
3アルキレンであり、
aは、2~350、好ましくは、10~150、より好ましくは、20~100の整数であり、
R
24は、HまたはC
1~C
4アルキルであり、
R
25は、HまたはC
1~C
4アルキルである]
【化12】
[式中、
R
6は、HまたはC
1~C
4アルキル、好ましくは、Hであり、
Qは、NR
10、NまたはOであり、
Vは、Q=OまたはNR
10の場合、1であり、Q=Nの場合、2であり、
R
10は、HまたはC
1~C
4アルキルであり、
Aは、C
2~C
5アルキレンまたはCH
2CH(C
6H
5)、好ましくは、C
2~C
3アルキレンであり、
aは、2~350、好ましくは、10~150、より好ましくは、20~100の整数であり、
各Mは、独立して、Hまたはカチオン等価体である]
のうちの1つである。
【0124】
構造単位(II)に対する構造単位(I)のモル比は、1:3~約10:1、好ましくは、1:1~10:1、より好ましくは、3:1~6:1で変動する。構造単位(I)および(II)を含むポリマー分散剤を、従来の方法により、例えば、フリーラジカル重合または制御されたラジカル重合により調製することができる。分散剤の調製は、例えば、欧州特許出願公開第0894811号明細書、同第1851256号明細書、同第2463314号明細書および同第0753488号明細書に記載されている。
【0125】
多くの有用な分散剤は、カルボキシル基、その塩または加水分解時にカルボキシル基を放出する加水分解性基を含有する。好ましくは、これらの分散剤に含まれるカルボキシル基(または分散剤に含まれる加水分解性基の加水分解時に放出可能なカルボキシル基)のミリ当量数は、全てのカルボキシル基が中和されていない形態であると仮定して、3.0meq/g未満である。
【0126】
より好ましくは、分散剤は、ポリカルボキシレートエーテル(PCE)の群から選択される。PCEにおいて、アニオン性基は、カルボキシル基および/またはカルボキシレート基である。PCEは、好ましくは、ポリエーテルマクロモノマーと、アニオン性基および/またはアニオン生成基を含むモノマーとのラジカル共重合により得ることができる。好ましくは、コポリマーを構成する全ての構造単位のうちの少なくとも45mol%、好ましくは、少なくとも80mol%が、ポリエーテルマクロモノマーまたはアニオン性基および/もしくはアニオン生成基を含むモノマーの構造単位である。
【0127】
ペンダントセメント定着基およびポリエーテル側鎖が付着した炭素含有骨格を有する適切な櫛型ポリマーの更なるクラスは、構造単位(III)および(IV)を含む。
【化13】
[式中、
Tは、フェニル、ナフチルまたは5~10個の環原子を有し、環原子のうちの1つまたは2つの原子がN、OおよびSから選択されるヘテロ原子であるヘテロアリールであり、
n3は、1または2であり、
Bは、N、NHまたはOであるが、ただし、Bが、Nである場合、n3は、2であり、Bが、NHまたはOである場合、n3は、1であり、
Aは、C
2~C
5アルキレンまたはCH
2CH(C
6H
5)、好ましくは、C
2~C
3アルキレンであり、
a2は、1~300の整数であり、
R
26は、H、C
1~C
10アルキル、C
5~C
8シクロアルキル、アリールまたは5~10個の環原子を有し、環原子のうちの1つまたは2つの原子がN、OおよびSから選択されるヘテロ原子であるヘテロアリールである]
ここで、構造単位(IV)は、構造単位(IVa)および(IVb):
【化14】
[式中、
Dは、フェニル、ナフチルまたは5~10個の環原子を有し、環原子のうちの1つまたは2つの原子がN、OおよびSから選択されるヘテロ原子であるヘテロアリールであり、
E
3は、N、NHまたはOであるが、ただし、E
3が、Nである場合、mは、2であり、E
3が、NHまたはOである場合、mは、1であり、
Aは、C
2~C
5アルキレンまたはCH
2CH(C
6H
5)、好ましくは、C
2~C
3アルキレンであり、
bは、0~300の整数であり、
Mは、独立して、Hまたはカチオン等価体である]
【化15】
[式中、
V
2は、フェニルまたはナフチルであり、R
8、OH、OR
8、(CO)R
8、COOM、COOR
8、SO
3R
8およびNO
2から選択される1つまたは2つの基により場合により置換されており、
R
7Aは、COOM、OCH
2COOM、SO
3MまたはOPO
3M
2であり、
Mは、Hまたはカチオン等価体であり、
R
8は、C
1~C
4アルキル、フェニル、ナフチル、フェニル-C
1~C
4アルキルまたはC
1~C
4アルキルフェニルである]
から選択される。
【0128】
構造単位(III)および(IV)を含むポリマーは、芳香族またはヘテロ芳香族コアに付着したポリオキシアルキレン基を有する芳香族またはヘテロ芳香族化合物と、カルボン酸、スルホン酸またはリン酸部分を有する芳香族化合物と、アルデヒド化合物、例えば、ホルムアルデヒドとの重縮合により得ることができる。
【0129】
実施形態において、分散剤は、加水分解によりセメント定着基を放出するペンダント加水分解性基およびポリエーテル側鎖が付着した炭素含有骨格を有する非イオン性櫛型ポリマーである。好都合には、ポリエーテル側鎖を含む構造単位は、上記検討された一般式(IIa)、(IIb)、(IIc)および/または(IId)のうちの1つである。ペンダント加水分解性基を有する構造単位は、好ましくは、アクリル酸エステルモノマー、より好ましくは、ヒドロキシアルキルアクリルモノエステルおよび/またはヒドロキシアルキルジエステル、最も好ましくは、ヒドロキシプロピルアクリレートおよび/またはヒドロキシエチルアクリレートから誘導される。エステル官能基は、好ましくは、アルカリ性pHで水に曝露されると(脱プロトン化された)酸基に加水分解されるであろう。これは、セメント質バインダーを水と混合することにより提供され、ついで、得られる酸官能基は、セメント成分と複合体を形成するであろう。
【0130】
一実施形態では、分散剤は、多価金属カチオン、例えば、Al3+、Fe3+またはFe2+と、アニオン性基および/またはアニオン生成基ならびにポリエーテル側鎖を含むポリマー分散剤とのコロイド分散性調製物から選択される。多価金属カチオンは、ポリマー分散剤のアニオン性基およびアニオン生成基の合計に基づいて、カチオン当量として計算される超化学量論量で存在する。このような分散剤は、国際公開第2014/013077号にさらに詳細に記載されている。同文献は、参照により本明細書に援用される。
【0131】
適切なスルホン化メラミン-ホルムアルデヒド縮合物は、水硬性バインダーのための可塑剤として頻繁に使用される種類のものである(MFS樹脂とも呼ばれる)。スルホン化メラミン-ホルムアルデヒド縮合物およびその調製は、例えば、カナダ国特許出願公開第2172004号明細書、独国特許出願公開第4411797号明細書、米国特許第4,430,469号明細書、同第6,555,683号明細書およびスイス国特許発明第686186号明細書に記載されており、Ullmann’s Encyclopedia of Industrial Chemistry, 5th Ed., vol. A2, page 131およびConcrete Admixtures Handbook - Properties, Science and Technology, 2. Ed., pages 411, 412にも記載されている。好ましいスルホン化メラミン-ホルムアルデヒド縮合物は、式
【化16】
[式中、n4は、一般的には、10~300を意味する]
の(非常に単純化され、理想化された)単位を包含する。モル重量は、好ましくは、2500~80000の範囲にある。さらに、スルホン化メラミン単位には、他のモノマーを、縮合により組み込むことが可能である。尿素が、特に適している。さらに、更なる芳香族単位、例えば、没食子酸、アミノベンゼンスルホン酸、スルファニル酸、フェノールスルホン酸、アニリン、アンモニオ安息香酸、ジアルコキシベンゼンスルホン酸、ジアルコキシ安息香酸、ピリジン、ピリジンモノスルホン酸、ピリジンジスルホン酸、ピリジンカルボン酸およびピリジンジカルボン酸も、縮合により組み込むことができる。メラミンスルホネート-ホルムアルデヒド縮合物の例は、Master Builders Solutions Deutschland GmbHにより販売されているMelment(登録商標)製品である。
【0132】
適切なリグノスルホネートは、製紙産業において副生成物として得られる生成物である。それらは、Ullmann’s Encyclopedia of Industrial Chemistry, 5th Ed., vol. A8, pages 586, 587に記載されている。それらは、非常に単純化され、理想化された式
【化17】
の単位を含む。
【0133】
リグノスルホネートは、2000~100000g/molのモル重量を有する。一般的には、それらは、それらのナトリウム塩、カルシウム塩および/またはマグネシウム塩の形態で存在する。適切なリグノスルホネートの例は、Borregaard LignoTech, Norwayにより販売されているBorresperse製品である。
【0134】
適切なスルホン化ケトン-ホルムアルデヒド縮合物は、ケトン成分としてモノケトンまたはジケトン、好ましくは、アセトン、ブタノン、ペンタノン、ヘキサノンまたはシクロヘキサノンを組み込んだ生成物である。この種の縮合物は公知であり、例えば、国際公開第2009/103579号に記載されている。スルホン化アセトン-ホルムアルデヒド縮合物が好ましい。それらは、一般的には、(J. Plank et al., J. Appl. Poly. Sci. 2009, 2018-2024によれば)式
【化18】
[式中、m2およびn5は、一般的には、それぞれ10~250であり、M
2は、アルカリ金属イオン、例えば、Na
+であり、m2:n5の比は、一般的には、約3:1~約1:3、とりわけ、約1.2:1~1:1.2の範囲にある]
の単位を含む。さらに、他の芳香族単位、例えば、没食子酸、アミノベンゼンスルホン酸、スルファニル酸、フェノールスルホン酸、アニリン、アンモニオ安息香酸、ジアルコキシベンゼンスルホン酸、ジアルコキシ安息香酸、ピリジン、ピリジンモノスルホン酸、ピリジンジスルホン酸、ピリジンカルボン酸およびピリジンジカルボン酸を縮合により組み込むことも可能である。適切なスルホン化アセトン-ホルムアルデヒド縮合物の例は、Master Builders Solutions Deutschland GmbHにより販売されているMelcret K1L製品である。
【0135】
適切なスルホン化ナフタレン-ホルムアルデヒド縮合物は、ナフタレンのスルホン化および後続のホルムアルデヒドとの重縮合により得られる生成物である。それらは、Concrete Admixtures Handbook - Properties, Science and Technology, 2. Ed., pages 411-413およびUllmann’s Encyclopedia of Industrial Chemistry, 5th Ed., vol. A8, pages 587, 588を含む参考文献に記載されている。これらは、式
【化19】
の単位を含む。
【0136】
典型的には、1000~50000g/molのモル重量(Mw)が得られる。さらに、他の芳香族単位、例えば、没食子酸、アミノベンゼンスルホン酸、スルファニル酸、フェノールスルホン酸、アニリン、アンモニオ安息香酸、ジアルコキシベンゼンスルホン酸、ジアルコキシ安息香酸、ピリジン、ピリジンモノスルホン酸、ピリジンジスルホン酸、ピリジンカルボン酸およびピリジンジカルボン酸を縮合することにより組み込むことも可能である。適切なスルホン化β-ナフタレン-ホルムアルデヒド縮合物の例は、Master Builders Solutions Deutschland GmbHにより販売されているMelcret 500 L製品である。
【0137】
一般的には、ホスホネート含有分散剤は、ホスホネート基およびポリエーテル側鎖基を包含している。
【0138】
適切なホスホネート含有分散剤は、以下の式
R-(OA2)n6-N-[CH2-PO(OM3
2)2]2
[式中、
Rは、Hまたは炭化水素残基、好ましくは、C1~C15アルキル基であり、
A2は、独立して、C2~C18アルキレン、好ましくは、エチレンおよび/またはプロピレン、最も好ましくは、エチレンであり、
n6は、5~500、好ましくは、10~200、最も好ましくは、10~100の整数であり、
M3は、H、アルカリ金属、1/2アルカリ土類金属および/またはアミンである]
に係るものである。
【0139】
実施形態において、建設組成物は、少なくとも1種の骨材h)をさらに含む。「骨材」という用語は、充填材料、すなわち、水和生成物を本質的に形成しない不活性材料に関すると理解される。骨材を、石英、砂、大理石、例えば、破砕大理石、ガラス球、花崗岩、玄武岩、石灰石、砂岩、方解石、大理石、蛇紋岩、石灰華、ドロマイト、長石、片麻岩、沖積砂およびそれらの混合物から選択することができる。骨材の充填密度は、可能な限り高くなければならず、それらの粒径分布は、理想的には、より完全なタイプのふるい曲線を構成する。
【0140】
骨材を、粒径により分類することができる。細骨材、例えば、砂は、一般的には、150μm~5mmの直径分布を有する。粗骨材は、一般的には、5mm超の直径分布を有する。
【0141】
好ましくは、建設組成物は、建設組成物の総重量に対して、5重量%未満、より好ましくは、3.5重量%未満、最も好ましくは、2重量%未満のセメント質水和生成物を含む。一般的には、以下のセメント質水和生成物:エトリンジャイト、ポルトランダイト、シンゲナイトを評価すれば十分である。これらのセメント質水和生成物の存在および濃度を、X線回折(XRD)粉末パターンのリートベルト精密化により決定することができる。これは、建設組成物が高湿度環境での貯蔵の履歴を有しないことを意味する。そうでなければ、他のセメント質水和生成物の中でもエトリンジャイトが、粉末状組成物中に既に形成されていると考えられる。これらのエトリンジャイト結晶は、使用時に建設組成物を水と混合する際に破壊されるが、本発明により提供されるエトリンジャイト形成制御は、それほど顕著ではない。このため、高湿度環境での建設組成物の貯蔵は避けるべきである。
【0142】
また、本発明は、混合したての形態、すなわち、水と混合された建設組成物に関する。水の量は、混合したての建設組成物1m3当たりに120~225L、好ましくは、1m3当たりに130~180Lの範囲にある。
【0143】
混合したての組成物は、例えば、コンクリート、モルタルまたはグラウトであってよい。
【0144】
「モルタル」または「グラウト」という用語は、細骨材、すなわち、直径が150μm~5mmである骨材(例えば、砂)および場合により、非常に細かい骨材が添加されるセメントペーストを意味する。グラウトは、空隙または間隙を充填するのに十分に低い粘度の混合物である。モルタル粘度は、モルタル自体の重量だけでなく、モルタルの上に配置された石造物の重量も支持するのに十分に高い。「コンクリート」という用語は、粗骨材、すなわち、5mm超の直径を有する骨材が添加されるモルタルを意味する。
【0145】
好ましくは、骨材h)は、混合したての建設組成物1m3当たりに500~1900kg、好ましくは、1m3当たりに700~1700kgの量で存在する。
【0146】
建設組成物を、混合したての建設組成物を得るために、現場で水が添加される乾燥混合物として提供することができる。代替的には、建設組成物を、レディーミクスト組成物または混合したての組成物として提供することができる。
【0147】
混合したての水性建設組成物は、セメント質バインダーa)および硫酸塩源d)を含有する粉末状成分Cと、液体水性成分Wとを混合することにより得ることができる。ここで、エトリンジャイト形成制御剤f)は、成分CおよびWの一方または両方に含有される。ポリオールe)および共遅延剤g)は、好ましくは、成分Wに含まれる。任意の外因アルミン酸塩源c)は、好ましくは、成分Cに含まれる。
【0148】
補助セメント質材料b)の添加順序は、主に、成分b)の含水量により決まる。成分b)が、本質的に無水形態で提供される場合、成分b)を、成分Cに都合良く含ませることができる。そうでない場合、より具体的には、成分b)は、成分Wとプレミックスされ、続けて、成分Cがブレンドされる。
【0149】
この混合レジメンにより、セメント質バインダーa)がエトリンジャイト形成制御剤f)の同時存在なしに水に曝された場合に生じるであろうエトリンジャイトの即時形成が防止される。
【0150】
実際の実施形態では、エトリンジャイト形成制御剤f)、ポリオールe)および共遅延剤g)は、混合水の一部に溶解され、補助セメント質材料b)が混合される。続けて、セメント質バインダーa)、硫酸塩源d)および場合により、外因アルミン酸塩源c)のプレブレンドミックスが、混合物に添加される。ついで、コンシステンシーを調整するために、残部の水が添加される。
【0151】
好ましくは、組成物は、20℃で少なくとも10MPaの3時間圧縮強度を示す。例えば、プレキャストコンクリート要素は、キャスト後の短時間で高い圧縮強度を示す。したがって、早期の離型が可能である。これにより、最終強度および耐久性を損なうことなく、速い離型サイクル速度が可能となる。
【0152】
本発明に係る建設組成物は、建築用製品の製造等の用途、特に、コンクリート、例えば、現場コンクリート、仕上げコンクリート部品、製造コンクリート部品(MCP)、プレキャストコンクリート部品、コンクリート商品、キャストコンクリート石、コンクリート瓦礫、現場コンクリート、レディーミクストコンクリート、空気打設コンクリート、吹付けコンクリート/モルタル、コンクリート修復システム、3D印刷コンクリート/モルタル、工業用セメントフローリング、一成分および二成分封止スラリー、地面または岩盤の改良および土壌調整のためのスラリー、スクリード、充填組成物および自己レベリング組成物、例えば、ジョイント充填剤または自己レベリング下葺き材、高性能コンクリート(HPC)および超高性能コンクリート(UHPC)、密封製造コンクリートスラブ、建築用コンクリート、タイル接着剤、下塗り材、セメント質プラスター、接着剤、シーラント、特に、トンネル、排水管、スクリード用のセメント質被覆および塗料系、モルタル、例えば、乾燥モルタル、たるみ抵抗、流動性または自己レベリングモルタル、排水路モルタルおよびコンクリートまたは修復モルタル、グラウト、例えば、ジョイントグラウト、無収縮グラウト、タイルグラウト、注入グラウト、ウインドミルグラウト(風力タービングラウト)、アンカーグラウト、流動性または自己レベリンググラウト、ETICS(外断熱複合システム)、EIFSグラウト(外断熱仕上げシステム)、膨潤爆発物、防水膜またはセメント質フォームに有用である。
【図面の簡単な説明】
【0153】
【
図1】本発明の一実施形態に係るアルミン酸カルシウム沈殿試験におけるCaCl
2の投入時間に対する光電流シグナル(mV)のプロットを示す。
【0154】
本発明は、添付の図面および以下の実施例によりさらに説明される。
【0155】
図1に、本発明の一実施形態に係るアルミン酸カルシウム沈殿試験におけるCaCl
2の投入時間に対する光電流シグナル(mV)のプロットを示す。
【0156】
方法
ポゾラン反応性試験
セメントモデルペーストを、11.11gの補助セメント質材料(SCM)、33.33gのポルトランダイト(研究室グレード、5重量%未満のCaCO3)、60gの脱イオン水、0.24gの水酸化カリウム(研究室グレード)、1.20gの硫酸カリウム(研究室グレード)および5.56gの方解石(研究室グレード、d50 5~15μm)を混合することにより調製した。全ての原料を、40℃で一晩予熱し、その後、混合した。
【0157】
熱量計を、40℃に設定し、続けて、熱流チャネルを較正した。ついで、密封された参照フラスコ(サンプルの熱容量に適合する約9.4gの脱イオン水を含有)を、熱量計に挿入し、システムを安定化させた(約2日間)。各チャネルのベースライン熱流(初期ベースラインおよび最終ベースラインの両方)を、180分間測定した。約15g(mp)の混合したてのセメントモデルペーストを、混合直後に、加熱されたサンプルフラスコに導入した。
【0158】
熱放出を、7日間にわたって記録する。累積熱(「熱」)を、熱量測定試験の開始後1.2時間から計算する。総熱放出(「Hrescaled」)を、以下
Hrescaled=熱/(mp×0.0997)
[式中、熱は、累積熱(ジュール)であり、mpは、セメントモデルペーストの質量(グラム)であり、0.0997は、ペーストサンプル中の補助セメント質材料の重量分率である]
のように、J/(g SCM)で報告する。
【0159】
試験手法-ミニスランプ
使用された手法は、DIN EN12350-2に類似しており、従来のAbramsコーンの代わりに、ミニスランプコーン(高さ:15cm、底部幅:10cm、頂部幅:5cm)を使用するという改良を行った。2Lの混合したての水性建設組成物を、ミニスランプコーンに充填した。混合直後に、コーンに完全に充填した。その後、コーンを、平らな表面に置き、持ち上げ、モルタル混合物のスランプを測定した。全ての混合物のスランプを、比較を可能にするために、超可塑剤の投入量を調整することにより、11cmに調整した。
【0160】
試験手法-初期強度発現
調整されたモルタル混合物をそれぞれ、モルタルスチールプリズム(16/4/4cm)に充填し、温度20℃および相対湿度65%で3時間後、硬化したモルタルプリズムを得た。硬化したモルタルプリズムを離型させ、圧縮強度を、DIN EN196-1に従って測定した。
【0161】
試験手法-凝結時間
凝結時間を、DIN EN480に従って、ビカー針を使用して測定した。
【0162】
アルミン酸カルシウム沈殿試験
アルミン酸カルシウム沈殿試験のために、高性能pH電極(Pt 1000を有するiUnitrode、Metrohmから入手可能)および光センサ(Spectrosense 610nm、Metrohmから入手可能)を備えた自動滴定モジュール(Titrando 905、Metrohmから入手可能)を使用した。まず、調査されるべきポリオールの1重量%水溶液400mLとNaOHの1mol/L水溶液20mLとの溶液を、自動滴定モジュール内で撹拌しながら、2分間平衡化した。ついで、NaAlO2の25mmol/L水溶液50mLを、それに添加し、続けて、さらに2分間平衡化し、本質的に透明な試験溶液を得た。次の工程において、試験溶液を、2mL/分の一定速度で投入するCaCl2の0.5mol/L水溶液で滴定する。実験全体の間、温度を、20℃で一定に保つ。濁度変曲までの経過時間を記録する。この目的で、光電流シグナル(mV)が、CaCl2水溶液の投入時間に対してプロットされる。図から、開始点を、曲線の変曲後の曲線に対する接線とベースライン接線との交点として決定する。
【0163】
実施例
本発明は、以下の表に示される以下の実施例により説明される。
【0164】
参考例:ポリオールのアルミン酸カルシウム沈殿阻害特性
種々のポリオールを、アルミン酸カルシウム沈殿試験において、それらの沈殿特性について評価した。結果を、以下の表に示す。対照のために、ポリオールの1重量%水溶液400mLの代わりに、400mLの再蒸留水を使用した。濁り始める前の(Ca
2+としての)最大カルシウム濃度として表現される滴定終点を、開始点に対する経過時間から計算する。
図1に、CaCl
2の投入時間に対する光電流シグナル(mV)のプロットを示す。
図1の曲線a)は、ポリオールが存在しない場合(「ブランク」)の結果を示す。
図1の曲線b)は、1%のトリエタノールアミンの添加についての結果を示す。曲線b)について、「ベースライン接線」と呼ばれる第1の接線1と、第2の接線2とが示されている。ベースライン接線1および第2の接線2から、開始点(s)を、ベースライン接線1と第2の接線2との交点として決定することができる。
【0165】
【0166】
全ての重量%は、%bwoc、すなわち、セメント質バインダーa)の質量に対するものと理解される。実施例を通して、国際公開第2019/077050号の遅延剤7を、グリオキシル酸尿素重縮合物として使用した。Karlstadt CEM I 52,5R(100g当たりに0.092molの有効アルミン酸塩)およびMergelstetten CEM I 52,5R(100g当たりに0.084molの有効アルミン酸塩)セメントを使用した。セメント質バインダー中の有効アルミン酸塩の量を、X線回折(XRD)粉末パターンのリートベルト精密化により決定した。鉱物相C3AおよびC4AFのみを評価した。表1に係る補助セメント質材料を使用した。
【0167】
モルタル混合物1~8を、表2に従って調製し、同じスランプに調整し、それらの初期強度発現を測定した。
【0168】
混合手法-モルタル混合物
砕石(2~5mm)を、70℃のオーブンで50時間乾燥させた。砂(0~4mm)を、140℃で68時間乾燥させた。その後、砕石および砂を、20℃、相対湿度65%で、少なくとも2日間貯蔵した。グリオキシル酸尿素重縮合物、グルコン酸ナトリウム、NaHCO3およびポリカルボキシレート系超可塑剤(Master Suna SBS 8000、Master Builders Solutions Deutschland GmbHから入手可能)を、混合水の総量に添加して、水溶液成分を得た。続けて、砕石、砂、セメント質バインダー、硬石膏(CAB30、Lanxessから入手可能)および石灰石を、5Lのホバートミキサーに添加した。水溶液成分を、そこに添加し、混合物を、レベル1(107rpm)で2分間、レベル2(198rpm)でさらに2分間撹拌して、混合したての水性建設組成物を得た。
【0169】
【0170】
【0171】
本発明の混合物は、凝結が始まると、急速な強度発現を示す。したがって、風乾時間は、凝結時間にほぼ対応する。
【国際調査報告】