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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-09-19
(54)【発明の名称】神経移植片及びその調製方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 35/30 20150101AFI20230911BHJP
   A61L 27/36 20060101ALI20230911BHJP
   A61K 33/24 20190101ALI20230911BHJP
   A61K 33/32 20060101ALI20230911BHJP
   A61K 33/244 20190101ALI20230911BHJP
   A61K 31/4422 20060101ALI20230911BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20230911BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20230911BHJP
   A61K 31/737 20060101ALI20230911BHJP
   A61K 38/14 20060101ALI20230911BHJP
【FI】
A61K35/30
A61L27/36 100
A61L27/36 410
A61K33/24
A61K33/32
A61K33/244
A61K31/4422
A61P43/00 121
A61P25/00
A61K31/737
A61K38/14
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023513461
(86)(22)【出願日】2021-08-27
(85)【翻訳文提出日】2023-04-20
(86)【国際出願番号】 US2021047838
(87)【国際公開番号】W WO2022047089
(87)【国際公開日】2022-03-03
(31)【優先権主張番号】17/411,718
(32)【優先日】2021-08-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】63/071,635
(32)【優先日】2020-08-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】517415528
【氏名又は名称】アクソジェン コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(74)【代理人】
【識別番号】100142907
【弁理士】
【氏名又は名称】本田 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100152489
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 美樹
(72)【発明者】
【氏名】ファレリス、ジェニファー
(72)【発明者】
【氏名】タジダラン、カスラ
【テーマコード(参考)】
4C081
4C084
4C086
4C087
【Fターム(参考)】
4C081AB18
4C084AA02
4C084AA03
4C084BA44
4C084CA62
4C084DC50
4C084MA02
4C084MA67
4C084NA05
4C084ZA01
4C084ZC75
4C086AA01
4C086AA02
4C086BC26
4C086HA05
4C086HA09
4C086HA10
4C086MA01
4C086MA02
4C086MA04
4C086MA67
4C086NA05
4C086ZA01
4C086ZC75
4C087AA01
4C087AA02
4C087AA03
4C087BB45
4C087MA67
4C087NA05
4C087ZA01
(57)【要約】
再生能が低下した組織移植片、このような移植片を調製する方法、並びに関連するキット及び処理方法が記載されている。本方法は、トリプシン、α-キモトリプシン(ACT)、及び任意選択でエチレンジアミン四酢酸(EDTA)を含む消化溶液で組織を処理することでその組織から1つ以上の感受性タンパク質を実質的に除去することを含んでもよい。本方法はまた、処理後の組織を緩衝液及び/又はセリン含有血清で洗浄することを含んでもよい。開示される方法に従って調製された神経移植片は、移植後の神経腫形成及び/又は軸索伸長を阻害する、又は減少させ得る(例えば、神経腫形成及び/又は軸索伸長の低減をもたらし得る)。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
組織移植片を調製する方法であって、組織を、(a)トリプシン及びα-キモトリプシン(ACT)を含むか、又は(b)トリプシン、ACT及びエチレンジアミン四酢酸(EDTA)を含む消化溶液で処理することで前記組織から1つ以上の感受性タンパク質を実質的に除去することを含む、方法。
【請求項2】
前記消化溶液が、約3.5×10USP units/mL~約4.5×10USP units/mLのトリプシンを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記消化溶液が、約50USP units/mL~約55USP units/mLのACTを含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記消化溶液が、約1.2mM~約1.5mMのEDTAを含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記消化溶液が、約3.5×10USP units/mL~約4.5×10USP units/mLのトリプシン、約50USP units/mL~約55USP units/mLのACT、及び約1.2mM~約1.5mMのEDTAのうちの1つ以上を含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記消化溶液が、少なくとも1つのタンパク質分解酵素を更に含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記1つ以上の感受性タンパク質が、ラミニンα-1、ラミニンα-2、ラミニンα-4、ラミニンα-5、ラミニンβ-1、ラミニンβ-2、ラミニンγ-1、IV型コラーゲンα-1(IV)鎖、IV型コラーゲンα-1/5(IV)鎖、コラーゲンαIV-2鎖、コラーゲンαIV-3鎖、フィブロネクチン1(iii型4,7ドメイン)、パールカン、ニドゲン-1、ニドゲン-2、又はそれらの組み合わせのうちの少なくとも1つを含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記処理後の組織が、ラミニンα-1、ラミニンα-2、ラミニンα-4、ラミニンα-5、ラミニンβ-1、ラミニンβ-2、又はラミニンγ-1のうちの1つ以上を実質的に含まない、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記処理後の組織が、IV型コラーゲンα-1(IV)鎖、IV型コラーゲンα-1/5(IV)鎖、コラーゲンαIV-2鎖、又はコラーゲンαIV-3鎖のうちの1つ以上を実質的に含まない、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記処理後の組織が、フィブロネクチン1(III型4,7ドメイン)、パールカン、ニドゲン-1、又はニドゲン-2のうちの1つ以上を実質的に含まない、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記処理後の組織が、I型コラーゲンα-1鎖、コラーゲンα-2(I)鎖、コラーゲンα-3(VI)鎖、ルミカン、コラーゲンα-1(VI)鎖、コラーゲンα-1(XXVIII)鎖、デルマトポンチン、コラーゲンα-1(III)鎖、コラーゲンα-3(V)鎖、ケラチン、II型細胞骨格1、フィブリリン-1、デコリン、コラーゲンα-1(XVI)鎖、ビトロネクチン、コラーゲンα-1(XXXI)鎖、ミエリンタンパク質P0、コラーゲンα-2(VI)鎖、コラーゲンα-1(VIII)鎖、コラーゲンα-1(V)鎖、アスポリン、プロラギン、ビグリカン、コラーゲンα-1(II)鎖、ミエリンP2タンパク質、ペリオスチン、コラーゲンα-1(XIV)鎖、α-クリスタリンB鎖、又はコラーゲンα-1(XII)鎖のうちの1つ以上を含む、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記組織が、約4℃~約40℃の範囲の温度である前記消化溶液で処理される、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記組織が、約4時間~約24時間の範囲の間、前記消化溶液で処理される、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記処理後の組織を、約6.8~約7.5の範囲のpHを有する緩衝液で洗浄することを更に含む、請求項1~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記緩衝液が、リン酸緩衝生理食塩水、生理食塩水陰極液、トリス緩衝生理食塩水、カコジル酸緩衝液、Sorensenリン酸緩衝液、リン酸-クエン酸緩衝液、又はバルビタール緩衝液を含む、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記処理後の組織が、前記緩衝液で2回以上洗浄される、請求項14又は15に記載の方法。
【請求項17】
前記処理後の組織が、約4℃~約40℃の範囲の温度である前記緩衝液で洗浄される、請求項14~16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記処理後の組織が、約1分~約4時間の範囲の間、前記緩衝液で洗浄される、請求項14~17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記処理後の組織を、α-アンチトリプシン及びα-2-マクログロブリンを含む血清で洗浄することを更に含む、請求項1~18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
前記血清が、ウシ胎児血清、ウサギ血清、ヤギ血清、ウマ血清、ヒツジ血清、ブタ血清、又はニワトリ血清である、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記処理後の組織が、前記血清で2回以上洗浄される、請求項19又は20に記載の方法。
【請求項22】
前記処理後の組織が、約4℃~約40℃の範囲の温度である前記血清で洗浄される、請求項19~21のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
前記処理後の組織が、約30分~約8時間の範囲の間、前記血清で洗浄される、請求項19~22のいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
前記処理後の組織を、カルシウムチャネル遮断薬、細胞外カルシウム、グリコサミノグリカン、及び/又は糖タンパク質と接触させることを更に含み、任意に、前記緩衝液、前記血清、又は前記緩衝液及び前記血清の両方が、前記カルシウムチャネル遮断薬、前記細胞外カルシウム、前記グリコサミノグリカン、及び/又は前記糖タンパク質を含む、請求項1~23のいずれか一項に記載の方法。
【請求項25】
前記組織移植片がカルシウムチャネル遮断薬を含み、前記カルシウムチャネル遮断薬が、コバルトCo2+、マンガンMn2+、ランタンLa3+、又はニトレンジピンのうちの1つ以上を含む、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記組織移植片がグリコサミノグリカンを含み、前記グリコサミノグリカンが、ケラチン硫酸又はコンドロイチン硫酸のうちの1つ以上を含む、請求項24に記載の方法。
【請求項27】
前記組織移植片が糖タンパク質を含み、前記糖タンパク質が1つ以上のミエリン関連糖タンパク質を含む、請求項24に記載の方法。
【請求項28】
前記組織移植片が、患者へ移植後の神経腫形成の低減及び/又は軸索伸長の低減をもたらす神経移植片である、請求項1~27のいずれか一項に記載の方法。
【請求項29】
前記組織移植片が、約3mm~約100mm、例えば、約5mm~約100mm、又は約15mm~約40mmの長さを有する、請求項1~28のいずれか一項に記載の方法。
【請求項30】
前記組織移植片が、直径約1mm~約10mm、例えば直径約1mm~約7mm、又は直径約1mm~約2mmである、請求項1~29のいずれか一項に記載の方法。
【請求項31】
前記組織移植片が、約5mm~約55,000mmの範囲の総体積を画定する、請求項1~30のいずれか一項に記載の方法。
【請求項32】
前記処理後の組織移植片が、凍結乾燥によって更に加工される、請求項1~31のいずれか一項に記載の方法。
【請求項33】
前記処理後の組織移植片が、前記処理後の組織からペーストを形成すること、又は前記処理後の組織からゲルを形成することによって更に加工される、請求項1~32のいずれか一項に記載の方法。
【請求項34】
前記組織が、ヒト組織、非ヒト霊長類組織、げっ歯類組織、ウマ組織、イヌ組織、ウサギ組織、ブタ組織、又はヒツジ組織などの哺乳動物組織である、請求項1~33のいずれか一項に記載の方法。
【請求項35】
前記組織が、魚類組織、両生類組織、昆虫組織又は植物組織などの非哺乳動物組織である、請求項1~33のいずれか一項に記載の方法。
【請求項36】
前記組織が、末梢神経組織又は中枢神経系組織などの神経組織である、請求項1~33のいずれか一項に記載の方法。
【請求項37】
前記組織が、上皮組織、結合組織、又は筋肉組織である、請求項1~33のいずれか一項に記載の方法。
【請求項38】
前記組織が、毛細血管組織、皮膚組織、骨格組織、平滑筋組織、心臓組織、又は脂肪組織である、請求項1~33のいずれか一項に記載の方法。
【請求項39】
前記組織が人工組織である、請求項1~33のいずれか一項に記載の方法。
【請求項40】
請求項1~33のいずれか一項に記載の方法に従って調製された組織移植片。
【請求項41】
前記組織移植片が、ラミニンα-1、ラミニンα-2、ラミニンα-4、ラミニンα-5、ラミニンβ-1、ラミニンβ-2、ラミニンγ-1、IV型コラーゲンα-1(IV)鎖、IV型コラーゲンα-1/5(IV)鎖、コラーゲンαIV-2鎖、コラーゲンαIV-3鎖、フィブロネクチン1(iii型4,7ドメイン)、パールカン、ニドゲン-1、又はニドゲン-2のうちの1つ以上を実質的に含まない、請求項40に記載の組織移植片。
【請求項42】
組織移植片であって、
前記組織移植片が、ラミニンα-1、ラミニンα-2、ラミニンα-4、ラミニンα-5、ラミニンβ-1、ラミニンβ-2、ラミニンγ-1、IV型コラーゲンα-1(IV)鎖、IV型コラーゲンα-1/5(IV)鎖、コラーゲンαIV-2鎖、コラーゲンαIV-3鎖、フィブロネクチン1(iii型4,7ドメイン)、パールカン、ニドゲン-1、又はニドゲン-2のうちの1つ以上を実質的に含まず、
前記組織移植片が、I型コラーゲンα-1鎖、コラーゲンα-2(I)鎖、コラーゲンα-3(VI)鎖、ルミカン、コラーゲンα-1(VI)鎖、コラーゲンα-1(XXVIII)鎖、デルマトポンチン、コラーゲンα-1(III)鎖、コラーゲンα-3(V)鎖、ケラチン、II型細胞骨格1、フィブリリン-1、デコリン、コラーゲンα-1(XVI)鎖、ビトロネクチン、コラーゲンα-1(XXXI)鎖、ミエリンタンパク質P0、コラーゲンα-2(VI)鎖、コラーゲンα-1(VIII)鎖、コラーゲンα-1(V)鎖、アスポリン、プロラギン、ビグリカン、コラーゲンα-1(II)鎖、ミエリンP2タンパク質、ペリオスチン、コラーゲンα-1(XIV)鎖、α-クリスタリンB鎖、又はコラーゲンα-1(XII)鎖のうちの1つ以上を含む、組織移植片。
【請求項43】
神経移植片が、ラミニンα-1、ラミニンα-2、ラミニンα-4、ラミニンα-5、ラミニンβ-1、ラミニンβ-2、又はラミニンγ-1のうちの1つ以上を実質的に含まない、請求項42に記載の組織移植片。
【請求項44】
前記組織移植片が、IV型コラーゲンα-1(IV)鎖、IV型コラーゲンα-1/5(IV)鎖、コラーゲンαIV-2鎖、又はコラーゲンαIV-3鎖のうちの1つ以上を実質的に含まない、請求項42又は43に記載の組織移植片。
【請求項45】
前記組織移植片が、フィブロネクチン1(iii型4,7ドメイン)、パールカン、ニドゲン-1、又はニドゲン-2のうちの1つ以上を実質的に含まない、請求項42~44のいずれか一項に記載の組織移植片。
【請求項46】
前記組織移植片が、I型コラーゲンα-1鎖、コラーゲンα-2(I)鎖、コラーゲンα-3(VI)鎖、ルミカン、コラーゲンα-1(VI)鎖、コラーゲンα-1(XXVIII)鎖、デルマトポンチン、コラーゲンα-1(III)鎖、コラーゲンα-3(V)鎖、ケラチン、II型細胞骨格1、フィブリリン-1、デコリン、コラーゲンα-1(XVI)鎖、ビトロネクチン、コラーゲンα-1(XXXI)鎖、ミエリンタンパク質P0、コラーゲンα-2(VI)鎖、コラーゲンα-1(VIII)鎖、コラーゲンα-1(V)鎖、アスポリン、プロラギン、ビグリカン、コラーゲンα-1(II)鎖、ミエリンP2タンパク質、ペリオスチン、コラーゲンα-1(XIV)鎖、α-クリスタリンB鎖、又はコラーゲンα-1(XII)鎖のうちの1つ以上を、少なくとも0.1nmol/g含む、請求項42~45のいずれか一項に記載の組織移植片。
【請求項47】
前記組織移植片が、1つ以上のカルシウムチャネル遮断薬、細胞外カルシウム、グリコサミノグリカン、又は糖タンパク質を含む、請求項42~46のいずれか一項に記載の組織移植片。
【請求項48】
前記組織移植片が、カルシウムチャネル遮断薬を含み、前記カルシウムチャネル遮断薬が、コバルトCo2+、マンガンMn2+、ランタンLa3+、又はニトレンジピンのうちの1つ以上を含む、請求項47に記載の組織移植片。
【請求項49】
前記組織移植片がグリコサミノグリカンを含み、前記グリコサミノグリカンが、ケラチン硫酸又はコンドロイチン硫酸のうちの1つ以上を含む、請求項47に記載の組織移植片。
【請求項50】
前記組織移植片が糖タンパク質を含み、前記糖タンパク質が1つ以上のミエリン関連糖タンパク質を含む、請求項47に記載の組織移植片。
【請求項51】
前記組織移植片が、約3mm~約100mmの長さを有する、請求項42~50のいずれか一項に記載の組織移植片。
【請求項52】
前記組織移植片が、直径約1mm~約10mm、例えば直径約1mm~約7mm、又は直径約1mm~約2mmである、請求項42~51のいずれか一項に記載の組織移植片。
【請求項53】
前記組織移植片が、約5mm~約55,000mmの範囲の総体積を画定する、請求項42~52のいずれか一項に記載の組織移植片。
【請求項54】
前記組織移植片が、神経移植片である、請求項40~53のいずれか一項に記載の組織移植片。
【請求項55】
請求項40~54のいずれか一項に記載の前記組織移植片を前記患者に移植することを含む、患者を治療する方法。
【請求項56】
前記組織移植片が神経移植片であり、前記神経移植片が神経腫形成を阻害する又は減少させる、請求項55に記載の方法。
【請求項57】
前記組織移植片が神経移植片であり、前記神経移植片が、前記神経移植片を通る軸索の整列を維持する、請求項55に記載の方法。
【請求項58】
前記神経移植片が、前記神経移植片内への神経突起伸長を阻害する又は減少させる、請求項55に記載の方法。
【請求項59】
前記患者が、ヒト又は非ヒト動物である、請求項55~58のいずれか一項に記載の方法。
【請求項60】
組織、トリプシン、及びα-キモトリプシン(ACT)を含む、組織移植片を調製するためのキット。
【請求項61】
エチレンジアミン四酢酸(EDTA)を更に含む、請求項60に記載のキット。
【請求項62】
前記キットが、前記トリプシン及び前記EDTAを含む第1の容器と、前記ACTを含む第2の容器とを含む、請求項60又は61に記載のキット。
【請求項63】
緩衝液を更に含む、請求項60~62のいずれか一項に記載のキット。
【請求項64】
前記緩衝液が、リン酸緩衝生理食塩水、生理食塩水陰極液、トリス緩衝生理食塩水、カコジル酸緩衝液、Sorensenリン酸緩衝液、リン酸-クエン酸緩衝液、又はバルビタール緩衝液を含む、請求項63に記載のキット。
【請求項65】
α-アンチトリプシン及びα-2-マクログロブリンを含む血清を更に含む、請求項60~64のいずれか一項に記載のキット。
【請求項66】
前記血清が、ウシ胎児血清、ウサギ血清、ヤギ血清、ウマ血清、ヒツジ血清、ブタ血清、又はニワトリ血清である、請求項65に記載のキット。
【請求項67】
前記トリプシン及び前記ACTを含む消化溶液、又は前記トリプシン、前記ACT、及びエチレンジアミン四酢酸(EDTA)を含む消化溶液を調製するための説明書を更に含む、請求項60~66のいずれか一項に記載のキット。
【請求項68】
前記消化溶液で前記組織を処理するための説明書を更に含む、請求項67に記載のキット。
【請求項69】
前記組織が、ヒト組織、非ヒト霊長類組織、げっ歯類組織、ウマ組織、イヌ組織、ウサギ組織、ブタ組織、若しくはヒツジ組織などの哺乳動物組織、又は魚類組織、両生類組織、昆虫組織、若しくは植物組織などの非哺乳動物組織、又は人工組織である、請求項60~68のいずれか一項に記載のキット。
【請求項70】
前記組織が、末梢神経組織若しくは中枢神経系組織などの神経組織であるか、又は前記組織が、上皮組織、結合組織、若しくは筋肉組織である、請求項59~68のいずれか一項に記載のキット。
【請求項71】
前記組織が、毛細血管組織、皮膚組織、骨格組織、平滑筋組織、心臓組織、又は脂肪組織である、請求項59~68のいずれか一項に記載のキット。
【請求項72】
組織移植片を調製する方法であって、
トリプシン、α-キモトリプシン(ACT)及びエチレンジアミン四酢酸(EDTA)を含む消化溶液で組織を処理することと、
前記処理後の組織を緩衝液で1回以上洗浄することと、
前記緩衝液で洗浄後、前記処理後の組織をα-アンチトリプシン及びα-2-マクログロブリンを含む血清で1回以上洗浄することとを含み、
その処理後の組織が、ラミニンα-2、ラミニンα-4、ラミニンα-5、ラミニンβ-1、ラミニンβ-2、ラミニンγ-1、IV型コラーゲンα-1(IV)鎖、IV型コラーゲンα-1/5(IV)鎖、コラーゲンαIV-2鎖、コラーゲンαIV-3鎖、フィブロネクチン1(III型4,7ドメイン)、パールカン、ニドゲン-1、又はニドゲン-2のうちの1つ以上を実質的に含まず、
その処理後の組織が、I型コラーゲンα-1鎖、コラーゲンα-2(I)鎖、コラーゲンα-3(VI)鎖、ルミカン、コラーゲンα-1(VI)鎖、コラーゲンα-1(XXVIII)鎖、デルマトポンチン、コラーゲンα-1(III)鎖、コラーゲンα-3(V)鎖、ケラチン、II型細胞骨格1、フィブリリン-1、デコリン、コラーゲンα-1(XVI)鎖、ビトロネクチン、コラーゲンα-1(XXXI)鎖、ミエリンタンパク質P0、コラーゲンα-2(VI)鎖、コラーゲンα-1(VIII)鎖、コラーゲンα-1(V)鎖、アスポリン、プロラギン、ビグリカン、コラーゲンα-1(II)鎖、ミエリンP2タンパク質、ペリオスチン、コラーゲンα-1(XIV)鎖、α-クリスタリンB鎖、又はコラーゲンα-1(XII)鎖のうちの1つ以上を含む、方法。
【請求項73】
前記組織移植片が神経移植片であり、前記組織が神経組織である、請求項72に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、神経移植片及びその調製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
末梢神経損傷は、慢性障害の主な原因である。神経損傷の管理不良は、切断された軸索が遠位神経との連続性を再確立することができないときに、有痛性の神経腫につながることがある。神経は損傷後に再生する能力を持つが、これは再生する神経線維が、切断された神経断片(及びその中のシュワン細胞基底膜)と適切に接触するかどうかにかかっている。重度の組織損傷の場合、再生中の軸索は、遠位神経断端に到達することができないことがあり、代わりに、軸索と結合組織のもつれた塊を形成し、最終的に有痛性の球根状神経腫となることがある。神経が著しく損傷している場合、例えば、損傷又は切断された神経の不連続性が大きすぎて橋渡しできない場合、有痛性の神経腫の形成は依然として課題である。
【0003】
神経断端の末端に神経移植片又は導管を縫合するなど、軸索の伸長を揃えることを可能にする神経腫治療に使用される現在の技術では、成長因子や軸索伸長を促進する他の物質を含む外部環境から神経末端を十分に保護することができない。そのため、軸索は時間と共に移植片や導管を通って成長し、揃った成長を促進する構造がもはや存在しない開放遠位端から出る際に神経腫を形成することがある。現在市販されている神経キャップなどの製品は、軸索を封じ込めることによって神経突起伸長及び神経成長を阻害する物理的バリアを提供するために使用されてきた。しかしながら、これらのデバイスは依然として、ランダムな方向への軸索の伸長をもたらし得る神経キャップの内部構造の欠如により、1つ以上の有痛性の神経腫の生成につながり得る。
【発明の概要】
【0004】
本開示によれば、組織移植片を調製する方法は、組織を、(a)トリプシン及びα-キモトリプシン(ACT)を含むか、又は(b)トリプシン、ACT及びエチレンジアミン四酢酸(EDTA)を含む消化溶液で処理することで前記組織から1つ以上の感受性タンパク質を実質的に除去することを含んでもよい。
【0005】
前記消化溶液は、約3.5×10USP units/mL~約4.5×10USP units/mLのトリプシンを含んでもよい。前記消化溶液は、約50USP units/mL~約55USP units/mLのACTを含んでもよい。前記消化溶液は、約1.2mM~約1.5mMのEDTAを含んでもよい。前記消化溶液は、約3.5×10USP units/mL~約4.5×10USP units/mLのトリプシン、約50USP units/mL~約55USP units/mLのACT、及び約1.2mM~約1.5mMのEDTAを含んでもよい。前記消化溶液は、少なくとも1つのタンパク質分解酵素を更に含んでもよい。前記1つ以上の感受性タンパク質は、ラミニンα-1、ラミニンα-2、ラミニンα-4、ラミニンα-5、ラミニンβ-1、ラミニンβ-2、ラミニンγ-1、IV型コラーゲンα-1(IV)鎖、IV型コラーゲンα-1/5(IV)鎖、コラーゲンαIV-2鎖、コラーゲンαIV-3鎖、フィブロネクチン1(iii型4,7ドメイン)、パールカン、ニドゲン-1、ニドゲン-2、又はそれらの組み合わせを含んでもよい。前記処理後の組織は、ラミニンα-1、ラミニンα-2、ラミニンα-4、ラミニンα-5、ラミニンβ-1、ラミニンβ-2、又はラミニンγ-1のうちの1つ以上を実質的に含まなくてもよい。前記処理後の組織は、IV型コラーゲンα-1(IV)鎖、IV型コラーゲンα-1/5(IV)鎖、コラーゲンαIV-2鎖、又はコラーゲンαIV-3鎖のうちの1つ以上を実質的に含まなくてもよい。前記処理後の組織は、フィブロネクチン1(III型4,7ドメイン)、パールカン、ニドゲン-1、又はニドゲン-2のうちの1つ以上を実質的に含まなくてもよい。前記処理後の組織は、I型コラーゲンα-1鎖、コラーゲンα-2(I)鎖、コラーゲンα-3(VI)鎖、ルミカン、コラーゲンα-1(VI)鎖、コラーゲンα-1(XXVIII)鎖、デルマトポンチン、コラーゲンα-1(III)鎖、コラーゲンα-3(V)鎖、ケラチン、II型細胞骨格1、フィブリリン-1、デコリン、コラーゲンα-1(XVI)鎖、ビトロネクチン、コラーゲンα-1(XXXI)鎖、ミエリンタンパク質P0、コラーゲンα-2(VI)鎖、コラーゲンα-1(VIII)鎖、コラーゲンα-1(V)鎖、アスポリン、プロラギン(prolargin)、ビグリカン、コラーゲンα-1(II)鎖、ミエリンP2タンパク質、ペリオスチン、コラーゲンα-1(XIV)鎖、α-クリスタリンB鎖、又はコラーゲンα-1(XII)鎖のうちの1つ以上を含んでもよい。前記組織は、約4℃~約40℃の範囲の温度である前記消化溶液で処理されてもよい。前記組織は、約4時間~約24時間の範囲の間、前記消化溶液で処理されてもよい。前記方法は、前記処理後の組織を、約6.8~約7.5の範囲のpHを有する緩衝液で洗浄することを更に含んでもよい。前記緩衝液は、リン酸緩衝生理食塩水、生理食塩水陰極液(saline catholyte)、トリス緩衝生理食塩水、カコジル酸緩衝液、Sorensenリン酸緩衝液、リン酸-クエン酸緩衝液、又はバルビタール緩衝液を含んでもよい。前記処理後の組織は、前記緩衝液で2回以上洗浄されてもよい。前記処理後の組織は、約4℃~約40℃の範囲の温度である前記緩衝液で洗浄されてもよい。前記処理後の組織は、約1分~約4時間の範囲の間、緩衝液で洗浄してもよい。前記方法は、前記処理後の組織を、α-アンチトリプシン及びα-2-マクログロブリンを含む血清で洗浄することを更に含んでもよい。前記血清は、ウシ胎児血清、ウサギ血清、ヤギ血清、ウマ血清、ヒツジ血清、ブタ血清、又はニワトリ血清であってもよい。前記処理後の組織は、前記血清で2回以上洗浄されてもよい。前記処理後の組織は、約4℃~約40℃の範囲の温度である前記血清で洗浄されてもよい。前記処理後の組織は、約30分~約8時間の範囲の間、前記血清で洗浄されてもよい。前記方法は、前記処理後の組織を、カルシウムチャネル遮断薬、細胞外カルシウム、グリコサミノグリカン、及び/又は糖タンパク質と接触させることを更に含んでもよく、任意に、前記緩衝液、前記血清、又は前記緩衝液及び前記血清の両方が、前記カルシウムチャネル遮断薬、前記細胞外カルシウム、前記グリコサミノグリカン、及び/又は前記糖タンパク質を含む。前記カルシウムチャネル遮断薬は、コバルトCo2+、マンガンMn2+、ランタンLa3+、又はニトレンジピンのうちの1つ以上を含んでもよい。前記グリコサミノグリカンは、ケラチン硫酸又はコンドロイチン硫酸のうちの1つ以上を含んでもよい。前記糖タンパク質は、1つ以上のミエリン関連糖タンパク質を含んでもよい。本明細書に開示される方法に従って調製される前記組織移植片が神経移植片である場合、そのような移植片は、患者へ移植後の神経腫形成の低減、及び/又は軸索伸長の低減をもたらし得る。前記組織移植片、特に前記神経移植片は、約3mm~約100mmの長さ、例えば約5mm~約100mm、又は約15mm~約40mmの長さを有してもよい。前記組織移植片、特に前記神経移植片は、直径約1mm~約10mm、例えば直径約1mm~約7mm、又は直径約1mm~約2mmであってもよい。前記組織移植片、特に前記神経移植片は、約5mm~約55,000mmの範囲の総体積を画定してもよい。前記方法は、凍結乾燥によって前記組織移植片を加工することを更に含んでもよい。前記方法は、前記組織移植片を加工してペースト又はゲルを形成することを更に含んでもよい。前記組織は、ヒト組織、非ヒト霊長類組織、げっ歯類組織、ウマ組織、イヌ組織、ウサギ組織、ブタ組織、又はヒツジ組織などの哺乳動物組織であってもよい。前記組織は、魚類組織、両生類組織、昆虫組織、又は植物組織などの非哺乳動物組織であってもよい。前記組織は、末梢神経組織又は中枢神経系組織などの神経組織であってもよい。前記組織は、上皮組織、結合組織、又は筋肉組織であってもよい。前記組織は、毛細血管組織、皮膚組織、骨格組織、平滑筋組織、心臓組織、又は脂肪組織であってもよい。前記組織は、実験室培養組織を含むがこれに限定されない、人工組織であってもよい。
【0006】
更に、本開示によれば、組織移植片は、上記の方法に従って調製されてもよい。上記の方法に従って調製された前記組織移植片は、ラミニンα-1、ラミニンα-2、ラミニンα-4、ラミニンα-5、ラミニンβ-1、ラミニンβ-2、ラミニンγ-1、IV型コラーゲンα-1(IV)鎖、IV型コラーゲンα-1/5(IV)鎖、コラーゲンαIV-2鎖、コラーゲンαIV-3鎖、フィブロネクチン1(iii型4,7ドメイン)、パールカン、ニドゲン-1、又はニドゲン-2のうちの1つ以上を実質的に含まなくてもよい。このような移植片は、神経移植片であってもよい。
【0007】
更に、本開示によれば、本明細書に開示される方法に従って調製された組織移植片は、ラミニンα-1、ラミニンα-2、ラミニンα-4、ラミニンα-5、ラミニンβ-1、ラミニンβ-2、ラミニンγ-1、IV型コラーゲンα-1(IV)鎖、IV型コラーゲンα-1/5(IV)鎖、コラーゲンαIV-2鎖、コラーゲンαIV-3鎖、フィブロネクチン1(iii型4,7ドメイン)、パールカン、ニドゲン-1、又はニドゲン-2のうちの1つ以上を実質的に含まなくてもよく、かつ、I型コラーゲンα-1鎖、コラーゲンα-2(I)鎖、コラーゲンα-3(VI)鎖、ルミカン、コラーゲンα-1(VI)鎖、コラーゲンα-1(XXVIII)鎖、デルマトポンチン、コラーゲンα-1(III)鎖、コラーゲンα-3(V)鎖、ケラチン、II型細胞骨格1、フィブリリン-1、デコリン、コラーゲンα-1(XVI)鎖、ビトロネクチン、コラーゲンα-1(XXXI)鎖、ミエリンタンパク質P0、コラーゲンα-2(VI)鎖、コラーゲンα-1(VIII)鎖、コラーゲンα-1(V)鎖、アスポリン、プロラギン、ビグリカン、コラーゲンα-1(II)鎖、ミエリンP2タンパク質、ペリオスチン、コラーゲンα-1(XIV)鎖、α-クリスタリンB鎖、又はコラーゲンα-1(XII)鎖のうちの1つ以上を含んでもよい。このような移植片は、神経移植片であってもよい。
【0008】
前記組織移植片は、ラミニンα-1、ラミニンα-2、ラミニンα-4、ラミニンα-5、ラミニンβ-1、ラミニンβ-2、又はラミニンγ-1のうちの1つ以上を実質的に含まなくてもよい。前記組織移植片は、IV型コラーゲンα-1(IV)鎖、IV型コラーゲンα-1/5(IV)鎖、コラーゲンαIV-2鎖、又はコラーゲンαIV-3鎖のうちの1つ以上を実質的に含まなくてもよい。前記神経移植片は、フィブロネクチン1(iii型4,7ドメイン)、パールカン、ニドゲン-1、又はニドゲン-2のうちの1つ以上を実質的に含まなくてもよい。前記神経移植片は、I型コラーゲンα-1鎖、コラーゲンα-2(I)鎖、コラーゲンα-3(VI)鎖、ルミカン、コラーゲンα-1(VI)鎖、コラーゲンα-1(XXVIII)鎖、デルマトポンチン、コラーゲンα-1(III)鎖、コラーゲンα-3(V)鎖、ケラチン、II型細胞骨格1、フィブリリン-1、デコリン、コラーゲンα-1(XVI)鎖、ビトロネクチン、コラーゲンα-1(XXXI)鎖、ミエリンタンパク質P0、コラーゲンα-2(VI)鎖、コラーゲンα-1(VIII)鎖、コラーゲンα-1(V)鎖、アスポリン、プロラギン、ビグリカン、コラーゲンα-1(II)鎖、ミエリンP2タンパク質、ペリオスチン、コラーゲンα-1(XIV)鎖、α-クリスタリンB鎖、又はコラーゲンα-1(XII)鎖のうちの1つ以上を、少なくとも0.1nmol/g含んでもよい。前記組織移植片は、1つ以上のカルシウムチャネル遮断薬、細胞外カルシウム、グリコサミノグリカン、又は糖タンパク質を含んでもよい。前記カルシウムチャネル遮断薬は、コバルトCo2+、マンガンMn2+、ランタンLa3+、又はニトレンジピンのうちの1つ以上を含んでもよい。前記グリコサミノグリカンは、ケラチン硫酸又はコンドロイチン硫酸のうちの1つ以上を含んでもよい。前記糖タンパク質は、1つ以上のミエリン関連糖タンパク質を含んでもよい。前記組織移植片、特に神経移植片は、約3mm~約100mmの長さを有してもよい。前記組織移植片、特に神経移植片は、直径約1mm~約10mm、例えば直径約1mm~約7mm、又は直径約1mm~約2mmであってもよい。前記組織移植片、特に神経移植片は、約5mm~約55,000mmの範囲の総体積を画定してもよい。
【0009】
更に、本開示によれば、患者を治療する方法は、上記のような前記組織移植片を前記患者に移植することを含んでもよい。
【0010】
前記神経移植片は、神経腫形成を阻害し得る。神経移植片は、前記神経移植片を通る軸索の整列を維持し得る。前記神経移植片は、前記神経移植片内への神経突起伸長を阻害し得る。前記患者は、ヒト又は非ヒト動物であってもよい。
【0011】
更に、本開示によれば、神経移植片を調製するためのキットは、組織、トリプシン及びα-キモトリプシン(ACT)を含んでもよい。
【0012】
前記キットは、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)を更に含んでもよい。前記キットは、前記トリプシン及び前記EDTAを含む第1の容器と、前記ACTを含む第2の容器とを含んでもよい。前記キットは緩衝液を含んでもよい。前記緩衝液は、リン酸緩衝生理食塩水、生理食塩水陰極液、トリス緩衝生理食塩水、カコジル酸緩衝液、Sorensenリン酸緩衝液、リン酸-クエン酸緩衝液、又はバルビタール緩衝液を含んでもよい。前記キットは、α-アンチトリプシン及びα-2-マクログロブリンを含む血清を更に含んでもよい。前記血清は、ウシ胎児血清、ウサギ血清、ヤギ血清、ウマ血清、ヒツジ血清、ブタ血清、又はニワトリ血清であってもよい。前記キットは、前記トリプシン及び前記ACTを含む消化溶液、又は前記トリプシン、前記ACT、及びエチレンジアミン四酢酸(EDTA)を含む消化溶液を調製するための説明書を更に含んでもよい。前記キットは、前記消化溶液で前記組織を処理するための説明書を更に含んでもよい。前記組織は、ヒト組織、非ヒト霊長類組織、げっ歯類組織、ウマ組織、イヌ組織、ウサギ組織、ブタ組織、若しくはヒツジ組織などの哺乳動物組織、又は魚類組織、両生類組織、若しくは昆虫組織などの非哺乳動物組織、又は人工組織、例えばこれに限定されないが実験室培養組織であってもよい。前記組織は植物組織であってもよい。前記組織は、末梢神経組織又は中枢神経系組織などの神経組織であってもよく、上皮組織、結合組織、又は筋肉組織であってもよい。前記組織は、毛細血管組織、皮膚組織、骨格組織、平滑筋組織、心臓組織、又は脂肪組織であってもよい。
【0013】
更に、本開示によれば、神経移植片を調製する方法は、生体軟組織をトリプシン、α-キモトリプシン(ACT)及びエチレンジアミン四酢酸(EDTA)を含む消化溶液で処理すること、前記処理後の組織を緩衝液で1回以上洗浄すること、並びに前記緩衝液で洗浄後、前記処理後の組織をα-アンチトリプシン及びα-2-マクログロブリンを含む血清で1回以上洗浄することを含んでもよく、その処理後の組織は、ラミニンα-2、ラミニンα-4、ラミニンα-5、ラミニンβ-1、ラミニンβ-2、ラミニンγ-1、IV型コラーゲンα-1(IV)鎖、IV型コラーゲンα-1/5(IV)鎖、コラーゲンαIV-2鎖、コラーゲンαIV-3鎖、フィブロネクチン1(III型4,7ドメイン)、パールカン、ニドゲン-1、又はニドゲン-2のうちの1つ以上を実質的に含まず、その処理後の組織は、I型コラーゲンα-1鎖、コラーゲンα-2(I)鎖、コラーゲンα-3(VI)鎖、ルミカン、コラーゲンα-1(VI)鎖、コラーゲンα-1(XXVIII)鎖、デルマトポンチン、コラーゲンα-1(III)鎖、コラーゲンα-3(V)鎖、ケラチン、II型細胞骨格1、フィブリリン-1、デコリン、コラーゲンα-1(XVI)鎖、ビトロネクチン、コラーゲンα-1(XXXI)鎖、ミエリンタンパク質P0、コラーゲンα-2(VI)鎖、コラーゲンα-1(VIII)鎖、コラーゲンα-1(V)鎖、アスポリン、プロラギン、ビグリカン、コラーゲンα-1(II)鎖、ミエリンP2タンパク質、ペリオスチン、コラーゲンα-1(XIV)鎖、α-クリスタリンB鎖、又はコラーゲンα-1(XII)鎖のうちの1つ以上を含む。
【0014】
当業者であれば、本明細書に開示される再生能が減弱された加工済み神経移植片が、ヒト及び他の脊椎動物への外科的介入において、並びに実験室での研究、比較及びアッセイにおいて使用されてもよいことを理解するであろう。
【0015】
当業者であれば、出発材料、生物材料、試薬、合成方法、精製方法、分析方法、アッセイ方法、及びこれらの詳細に例示された方法以外の生物学的方法が、過度の実験に頼ることなく本開示の実施に利用できることを理解するであろう。任意のそのような材料及び方法の、全ての当技術分野で公知の機能的均等物は、本開示に含まれることが意図される。
【0016】
単数形「a」、「an」及び「the」は、文脈がそうでないことを示さない限り、複数の参照を含む。用語「およそ(approximately)」及び「約(about)」は、参照される数又は値とほぼ同じであることを示す。本明細書で使用される場合、用語「およそ」及び「約」は、一般に、指定された量又は値の±5%を包含するものと理解されるべきである。
【0017】
使用された用語及び表現は、限定ではなく説明する用語として使用され、そのような用語及び表現の使用において、示され、説明される特徴又はその一部の任意の均等物を除外する意図はないが、特許請求される開示の範囲内で様々な変更が可能であることが認識される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
以下の図面は、本明細書の一部を形成し、本発明の特定の実施形態又は様々な態様を更に実証するために含まれる。場合によっては、本発明の実施形態は、本明細書に提示される詳細な説明と組み合わせて添付の図面を参照することによって最もよく理解され得る。説明及び添付の図面は、本発明の特定の具体例、又は特定の態様を強調する場合がある。しかしながら、当業者であれば、その実施例又は態様の一部を本発明の他の実施例又は態様と組み合わせて使用してもよいことを理解するであろう。
【0019】
図1】実施例2で論じられる、神経移植片サンプルにおける神経突起伸長測定値の棒グラフである。
図2A】実施例3で論じられる、ラミニンが染色された神経移植片サンプルの顕微鏡写真である。
図2B】実施例3で論じられる、ラミニンが染色された神経移植片サンプルの顕微鏡写真である。
図2C】実施例3で論じられる、ラミニンが染色された神経移植片サンプルの顕微鏡写真である。
図2D】実施例3で論じられる、ラミニンが染色された神経移植片サンプルの顕微鏡写真である。
図3A】実施例3で論じられる、神経移植片サンプルの定量測定値(100,000μmあたりの管の周囲長、100,000μmあたりの管数)の棒グラフである。
図3B】実施例3で論じられる、神経移植片サンプルの定量測定値(100,000μmあたりの管の周囲長、100,000μmあたりの管数)の棒グラフである。
図4A】実施例3で論じられる、神経移植片サンプルの定量測定値(神経内膜管の面積パーセント、総神経束面積(μm))の棒グラフである。
図4B】実施例3で論じられる、神経移植片サンプルの定量測定値(神経内膜管の面積パーセント、総神経束面積(μm))の棒グラフである。
図5A】実施例4で論じられる、処理後の神経組織サンプル及び未処理の神経組織サンプルに存在する基底膜構造タンパク質の定量化を示す棒グラフである。
図5B】実施例4で論じられる、処理後の神経組織サンプル及び未処理の神経組織サンプルに存在する基底膜構造タンパク質の定量化を示す棒グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本開示は、再生能が低下した、例えば、再生能に関連する特定の生化学化合物の含有量がより少ない神経移植片の調製に関する。例えば、本開示は、組織を処理することでその基底膜タンパク質の少なくとも一部を低減、除去、変性、又は不活性化させる方法を含む。神経移植片としてこれらの材料を使用することにより、そのような機能的基底膜タンパク質を含有する移植片とは対照的に、例えば、神経突起伸長の低減、及び/又はより小さく、より少なく、より痛みの少ない神経腫の形成、又は神経腫が存在しないことにより、移植後に、有意に低減された神経再生活性を得ることができる。
【0021】
少なくとも1つの態様において、本明細書の方法は、トリプシン、α-キモトリプシン(ACT)、及び任意選択でエチレンジアミン四酢酸(EDTA)を含む消化溶液で組織を処理することを含む。このような溶液で組織を処理することにより、組織中の他のタンパク質に大きな影響を与えることなく、組織中の基底膜タンパク質の少なくとも一部を選択的に除去、消化、及び/又は不活性化することができる。処理後の組織は、緩衝液及び/又はセリン含有血清による1つ以上の洗浄工程を受けてもよく、任意に、1つ以上の添加剤、例えばカルシウムチャネル遮断薬、細胞外カルシウム、グリコサミノグリカン及び/又は糖タンパク質で更に処理することで神経移植片の再生能を更に低下させることができる。
【0022】
神経組織において、基底膜は、末梢神経軸索及びシュワン細胞を含む神経細胞を取り囲み、下にある結合組織及び細胞外マトリックス(ECM)から神経細胞を分離しているシート状の層である。基底膜は、ラミニン(例えば、ラミニンα-1、ラミニンα-2、ラミニンα-4、ラミニンα-5、ラミニンβ-1、ラミニンβ-2、ラミニンγ-1)、コラーゲン(例えば、IV型コラーゲンα-1(IV)鎖、IV型コラーゲンα-1/5(IV)鎖、コラーゲンαIV-2鎖、コラーゲンαIV-3鎖)、フィブロネクチン(例えば、フィブロネクチン1(III型4,7ドメイン))、パールカン、及びニドゲン(例えば、ニドゲン-1、ニドゲン-2)を含むが、これらに限定されないタンパク質を含む。他の種類の組織も、これらのタンパク質を伴う基底膜を含む。これらのタンパク質は、組織の再生能力に寄与すると考えられている。
【0023】
以下で更に論じられるように、本明細書の方法は、組織の残りの部分を無傷に保ちながら、基底膜タンパク質を実質的に除去するか、又は別の方法で基底膜タンパク質の濃度を低下させ得る。例えば、神経組織に関して、濃度が低下したこのような基底膜タンパク質は、神経突起伸長及び神経再生に関連しており、一方、無傷のままである部分は、再生に関与しない、ECM中に存在するタンパク質を含む。本明細書で使用される場合、用語「感受性タンパク質」は、トリプシン、ACT、又はその両方によって切断、変性、又は別の方法で不活性化される基底膜タンパク質を示す。例えば、本明細書の方法は、以下の基底膜タンパク質のうち1つ以上の少なくとも一部を除去し得る:ラミニンα-1、ラミニンα-2、ラミニンα-4、ラミニンα-5、ラミニンβ-1、ラミニンβ-2、ラミニンγ-1、IV型コラーゲンα-1(IV)鎖、IV型コラーゲンα-1/5(IV)鎖、コラーゲンαIV-2鎖、コラーゲンαIV-3鎖、フィブロネクチン1(III型4,7ドメイン)、パールカン、ニドゲン-1、及び/又はニドゲン-2。このような感受性タンパク質は、細胞外マトリックスタンパク質及び組織の構造が実質的に無傷のまま、組織から部分的又は全体的に除去され得る。本明細書で使用される場合、タンパク質を「実質的に含まない」とは、組織(処理後の組織)又は神経移植片が、各組織(処理後の組織)又は移植片の質量を基準にして、約0.1nmol/g未満のタンパク質を含むことを意味する。
【0024】
本開示の態様によれば、移植片を調製するために使用される組織は、免疫応答を誘導するか、又は別の方法で免疫応答に関連する成分を含む細胞性物質及び非細胞性物質を除去するように加工されてもよい。例えば、ヒト組織又は他の動物、例えば、哺乳動物又は非哺乳動物の組織は、組織の三次元構造(例えば、神経組織の管状構造)を維持しながら、細胞成分及び非細胞成分、例えば、細胞、脂肪、血液、及び/又は軸索破片を除去するように加工されてもよい。いくつかの実施例において、移植片は、無細胞組織、例えば、無細胞神経組織から調製される。
【0025】
本明細書の方法は、神経組織などの、基底膜を伴う任意の組織(例えば、細胞組織、脱細胞化組織及び/又は無細胞組織)を、少なくともトリプシン及びACTを含む消化溶液、例えばトリプシン、ACT、及びEDTAを含む消化溶液で処理することを含む。消化溶液は、トリプシン、ACT、及びEDTAを任意の順序で組み合わせることによって、例えば、トリプシン及びEDTAを組み合わせ、次いでACTを添加することによって、又はトリプシン及びACTを組み合わせ、次いでEDTAを添加することによって調製することができる。任意に、消化溶液は、少なくとも1つの追加のタンパク質分解酵素を含む。
【0026】
本開示のいくつかの実施例によれば、トリプシンの濃度は、約3.5×10USP units/mL~約7.0×10USP units/mL、例えば、約3.5×10USP units/mL~約4.5×10USP units/mL、約4.0×10USP units/mL~約4.5×10USP units/mL、又は約4.5×10USP units/mL~約6.0×10USP units/mLの範囲であってもよい。更に、例えば、ACTの濃度は、約45USP units/mL~約60USP units/mL、例えば、約50units/mL~約50units/mLの範囲であってもよい。EDTAの濃度は、例えば、約1.0mM~約2.5mM、例えば、約1.2mM~約1.5mM、又は約1.5mM~約2.0mMの範囲であってもよい。少なくとも1つの実施例において、消化溶液は、約3.5×10USP units/mL~約4.5×10USP units/mLのトリプシン、約50USP units/mL~約55USP units/mLのACT、及び約1.2mM~約1.5mMのEDTAを含む。
【0027】
トリプシン含有率%で表される消化溶液は、トリプシン約0.01%(例えば、トリプシン0.01%/ACT/EDTA溶液)~トリプシン約0.3%以上(例えば、トリプシン0.3%以上/ACT/EDTA溶液)、例えば、トリプシン約0.05%~約0.25%、約0.1%~約0.20%、約0.15%~約0.18%、約0.2%~約0.25%、約0.10%~約0.20%、約0.5%~約0.12%を含んでもよい。
【0028】
消化溶液中での組織のインキュベーション持続時間は、少なくとも2時間、例えば、約2時間~約4時間、約4時間~約24時間、約6時間~約12時間、又は約10時間~約16時間であってもよい。好適な温度は、約4℃~約40℃、例えば、約4℃~約37℃、約4℃~約25℃、約20℃~約35℃の範囲であってもよく、より低い温度はより長いインキュベーション時間に好適である。少なくとも1つの実施例において、組織は、約2時間~約4時間の間、約37℃~約40℃の温度の消化溶液で処理される。更なる実施例において、組織は、約35℃~約40℃の温度で約4時間~約6時間の間、又は約4℃~約15℃の温度で約18時間~約24時間の間、消化溶液で処理されてもよい。持続時間及び温度の例示的な範囲が本明細書に列挙されているが、一般に、インキュベーション温度の低下に伴ってインキュベーション持続時間が増加してもよい。消化の持続時間及び対応する時間は、当業者によって理解される、当業者が備える技能の範囲内である。消化溶液中での組織のインキュベーションは、撹拌しながら行ってもよい。
【0029】
消化溶液を用いた処理後、処理後の組織は、緩衝液で1回以上洗浄してもよい。例えば、緩衝液は、約6.8~約7.6、例えば約7.2~約7.6、約7.3~約7.5の範囲のpH、例えば、約7.4のpHを有してもよい。(消化溶液での処理後)処理後の組織を洗浄するのに好適な例示的な緩衝液としては、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)、生理食塩水陰極液、トリス緩衝生理食塩水、カコジル酸緩衝液、Sorensenリン酸緩衝液、リン酸-クエン酸緩衝液、バルビタール緩衝液が挙げられるが、これらに限定されない。緩衝液は、pHを中和し、消化溶液の酵素及び/又は他の成分を除去し得る。処理後の組織を緩衝液で洗浄することにより、消化溶液中の酵素へ長時間さらされることによる組織の分解を回避することができる。例えば、緩衝液は、組織中に存在する残留トリプシン、ACT、及びEDTAを中和し得る。処理後の組織は、1回以上(2回、3回、4回、5回、6回、7回、8回、9回又は10回以上を含む)、上記緩衝液(又は異なる緩衝液)で洗浄してもよい。組織のpHを実質的に中和するための、所与の組織に好適な洗浄の回数は、組織(又は処理後の組織から調製される神経移植片)のサイズ、密度、洗浄時の撹拌の使用及び程度、並びに/又は他の因子に依存し得る。
【0030】
処理後の組織は、更に、セリン含有血清、例えば、動物由来血清、例えば、ウシ胎児血清(FBS)、ウサギ血清、ヤギ血清、ウマ血清、ヒツジ血清、ブタ血清、又はニワトリ血清で1回以上洗浄してもよい。セリン含有溶液は、1つ以上のセリン成分、例えばα-アンチトリプシン及び/又はα2マクログロブリン(A2M)を、消化溶液を用いた処理後、組織中の残留トリプシン、ACT、及びEDTAを不活性化するのに十分な量で含んでもよい。例えば、処理後の組織を洗浄する工程(複数)において、動物由来血清としてFBSを使用する場合、FBSの浸透圧は、280mOsm/kg~340mOsm/kgであってもよく、又は300mOsm/kg~320mOsm/kgであってもよい。処理後の組織は、セリン含有血清で1回以上(2回、3回、4回、5回、6回、7回、8回、9回又は10回以上を含む)洗浄してもよい。少なくとも残留トリプシン、ACT、及びEDTAを実質的に不活性化し、組織から除去するための、所与の組織に好適な各洗浄のインキュベーション持続時間及び洗浄回数は、組織のサイズ、密度、洗浄時の撹拌の使用及び程度、並びに/又は他の因子に依存し得る。例えば、サイズが大きい及び/又は密度が大きい組織は、比較的多い洗浄回数及び/又は長い洗浄持続時間を必要とすることがある。
【0031】
緩衝液で組織を洗浄後、組織は、セリン含有血清、例えばFBS中で1回以上洗浄してもよい。少なくとも1つの実施例において、処理後の組織を、上述のように緩衝液で1回以上洗浄し、次いで、FBS又は他のセリン含有血清中に入れ、約30分~約24時間、例えば、約30分~約8時間、約45分~約1時間、約1時間~約24時間、約4時間~約12時間、約8時間~約16時間、又は約12時間~約24時間の間インキュベートする。セリン含有血清中でのインキュベーションに好適な温度は、インキュベーションの長さに応じて、約4℃~約37℃、例えば、約10℃~35℃、約15℃~約30℃、又は約22℃~約28℃の範囲であり得る。例えば、組織は、約4℃~約37℃の範囲の温度で約45分~約24時間の範囲の間処理されてもよく、より低い温度(例えば、約4℃~約22℃)は、より長いインキュベーション持続時間(例えば、12時間~約24時間)に適しており、より高い温度(例えば、約23℃~約37℃)は、より短いインキュベーション期間(例えば、45分~約11時間)に適している。少なくとも1つの非限定的な実施例において、処理後の組織は、45~60分間、約37℃の温度のセリン含有血清で洗浄される。
【0032】
緩衝液及びセリン含有血清による別々の洗浄に加えて、又はそれに代わる手段として、処理後の組織を、緩衝液による洗浄と同時にセリン含有血清で洗浄してもよい。例えば、処理後の組織は、セリン成分、例えば、α-アンチトリプシン及び/又はA2Mを含む緩衝液で洗浄されてもよい。そのような混合溶液は、例えば、PBS及びFBSを含んでもよい。PBS(又は他の緩衝液)及びFBS(又は他のセリン含有血清)の相対量は、上記のように、組織のサイズ、密度、洗浄時の撹拌の使用及び程度などの、1つ以上の因子を基準にして決定してもよい。例えば、PBS(又は他の緩衝液)の量は、組織のサイズ及び/又は密度が増加するのに比例して増加してもよい。いくつかの実施例において、緩衝液及び/又はセリン含有血清による単回の洗浄又は複数回の洗浄の前及び/又は後に、組織を緩衝液/セリン含有混合溶液で洗浄してもよい。
【0033】
任意に、組織移植片、特に神経移植片は、例えば、再生能の低下を更に補助するために、処理及び洗浄後の組織を更に1つ以上の添加剤にさらすことによって生成されてもよい。例示的な添加剤としては、カルシウム透過性遮断薬とも呼ばれるカルシウムチャネル遮断薬(例えば、コバルトCo2+、マンガンMn2+、ランタンLa3+、及びニトレンジピン)、細胞外カルシウム、グリコサミノグリカン(ケラチン硫酸及び/又はコンドロイチン硫酸が挙げられるが、これらに限定されない)、及び糖タンパク質(ミエリン関連糖タンパク質を含むが、これらに限定されない)が挙げられるが、これらに限定されない。添加剤の量は、約0.1mM~約1000M、例えば約1mM~約500M、約0.1M~約250M、約0.5M~約100M、約5M~約50M、約0.1mM~約50mM、約10mM~約100mM、又は約0.5M~約10M、約25M~約250Mの範囲であってもよい。
【0034】
添加剤(複数)を、例えば約6.8~約7.6のpHを有する中性pH溶液などの溶液に添加してもよい。処理の間、及び/又は処理後の組織の洗浄の間に、上記の消化溶液、緩衝液、及び/又はセリン含有血清のいずれかに添加剤(複数)を添加してもよく、並びに/又は最終洗浄の間若しくはその後に、処理及び洗浄後の組織を更に添加剤(複数)にさらすことによって移植片を生成してもよい。加えて、又は代わりに、本明細書の方法による処理後、中性pH溶液(例えば、約6.8~約7.6のpH)、任意で、緩衝液中での保存前及び/又は保存から取り出した後に、移植片に添加剤(複数)を添加してもよい。従って、例えば、組織移植片、例えば神経移植片は、医療処置における該移植片の使用時に添加剤(複数)を含んでもよい。
【0035】
消化溶液で処理し、上述のように洗浄し、任意で、1つ以上の添加剤を含むと、処理後の組織を保存することができる。得られた移植片は、湿潤形態、凍結形態、又は凍結乾燥形態であってもよい。本開示のいくつかの態様によれば、神経移植片は、凍結乾燥によって更に加工される。凍結乾燥の間、神経移植片の所望の内部微細構造を維持するように圧力、含水量、及び/又は温度を制御してもよい。いくつかの態様によれば、神経移植片は、ゲル又はペーストを形成するように更に加工される。例えば、本明細書の方法に従って消化溶液で処理後の組織からゲル又はペーストを調製するために、重合化因子を使用してもよい。ゲル又はペーストは、神経腫の更なる形成につながり得る神経(複数)の機械的圧迫を防止又は最小限にするために、治療する神経(複数)の弾性率と同様の弾性率を有してもよい。
【0036】
本明細書の方法による処理後、移植片(任意で、凍結乾燥によって加工されるか、又はゲル若しくはペーストを形成するように加工される)を、保存容器中に入れ、次いで、約-80℃~室温(約20℃~22℃)の範囲の温度で維持してもよい。保存容器は、急速凍結、及び-80℃以下での数週間、数ヶ月間又は数年間の維持が可能なものであってもよい。保存容器はまた、実質的に気密であり、不活性ガスが充填されていてもよい。いくつかの実施例において、組織は、本明細書に開示されるように(例えば、消化溶液、及び緩衝液を含んでもよいセリン含有血清による1回以上の洗浄、及び、任意で、緩衝液を含む追加の洗浄により)処理され、次いで、医療処置における使用前に保存するため、約7.2~約7.6の範囲のpH、例えば、約7.3~約7.5のpH、例えば、約7.4のpHを有する緩衝液、例えば、緩衝生理食塩水溶液に移される。本明細書の方法に従って調製された移植片を保存するのに好適な例示的な緩衝液としては、PBS、生理食塩水陰極液、トリス緩衝生理食塩水、カコジル酸緩衝液、Sorensenリン酸緩衝液、リン酸-クエン酸緩衝液、及びバルビタール緩衝液が挙げられるが、これらに限定されない。移植片を保存するために使用される緩衝液は、上述のような1つ以上の添加剤(例えば、1つ以上のカルシウムチャネル遮断薬、細胞外カルシウム、グリコサミノグリカン、糖タンパク質、又はそれらの組み合わせ)を含んでもよい。
【0037】
驚くべきことに、本明細書に開示されるような消化溶液を用いた組織のインキュベーションは選択的であり、組織中の基底膜タンパク質量を減少させるが、ECMに存在するタンパク質の量には測定可能な影響を実質的に与えないことが見出された。一例として、組織中の基底膜タンパク質量の60%~100%、又は80%~100%が、消化溶液を用いたインキュベーションの結果として、除去、例えば、不活性化及び/又は変性され得る。基底膜タンパク質の減少によって、加工された組織の基底膜タンパク質は、「不活性化」され得、これは、生体内で、又は加工された組織が対象に移植される場合のいずれかにおいて、加工された組織による神経再生の補助を防止し得る、及び/又は神経再生の補助能力を低下させ得ることを意味する。トリプシン、ACT、及びEDTAによる消化プロセスにより、例えば、以下の感受性基底膜タンパク質のうちの1つ以上を実質的に除去し得る:ラミニンα-1、ラミニンα-2、ラミニンα-4、ラミニンα-5、ラミニンβ-1、ラミニンβ-2、ラミニンγ-1、IV型コラーゲンα-1(IV)鎖、IV型コラーゲンα-1/5(IV)鎖、コラーゲンαIV-2鎖、コラーゲンαIV-3鎖、フィブロネクチン1(iii型4,7ドメイン)、パールカン、ニドゲン-1、及び/又はニドゲン-2。少なくとも1つの実施例において、処理後の組織及び/又は処理後の組織から調製された移植片は、トリプシン及び/又はACTによる切断を受けやすい1つ以上のタンパク質を実質的に含まない。同じ消化プロセスは、例えば、非感受性タンパク質と呼ばれることもある以下のタンパク質のうちの1つ以上に対して測定可能な影響を実質的に与えない:I型コラーゲンα-1鎖、コラーゲンα-2(I)鎖、コラーゲンα-3(VI)鎖、ルミカン、コラーゲンα-1(VI)鎖、コラーゲンα-1(XXVIII)鎖、デルマトポンチン、コラーゲンα-1(III)鎖、コラーゲンα-3(V)鎖、ケラチン、II型細胞骨格1、フィブリリン-1、デコリン、コラーゲンα-1(XVI)鎖、ビトロネクチン、コラーゲンα-1(XXXI)鎖、ミエリンタンパク質P0、コラーゲンα-2(VI)鎖、コラーゲンα-1(VIII)鎖、アスポリン、コラーゲンα-1(V)鎖、プロラギン、ビグリカン、コラーゲンα-1(II)鎖、ミエリンP2タンパク質、ペリオスチン、コラーゲンα-1(XIV)鎖、α-クリスタリンB鎖、及び/又はコラーゲンα-1(XII)鎖。例えば、消化溶液を用いた処理後、処理後の組織及び/又は処理後の組織から調製された移植片は、0.1nmol/g以上の非感受性タンパク質、例えば、0.15nmol/g以上、又は0.2nmol/g以上の非感受性タンパク質を含んでもよい。
【0038】
消化の程度及び消化プロセス後に組織中に残存する感受性タンパク質量は、例えば、トリプシン、ACT、及び/又はEDTAの濃度、消化溶液中でのインキュベーションのために設けられる時間の長さ、更なる再生能減弱剤としての添加剤の包含、並びに/又は組織密度及び/若しくは組織中に存在する基底タンパク質量などの移植片の特性、撹拌の程度及び使用、消化プロセスが行われる温度などの、消化プロセスにおいて利用されるパラメータに依存し得る。例えば、消化酵素の濃度が高くなると、基底膜タンパク質を含む、より感受性の高いタンパク質が、比較的大きな体積の組織から除去され得る。消化時間を長くすると、今度は消化率が上がる。いくつかの態様において、消化が起こる温度を上昇させることにより、感受性タンパク質消化の速度を上げることができる。場合によっては、消化プロセスにより、高速液体クロマトグラフィ(HPLC)を伴う又は伴わないタンデム型質量分析(MS/MS)、液体クロマトグラフィ-選択反応モニタリング(LC-SRM)、酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)、及び高速タンパク質液体クロマトグラフィ(FPLC)などのマルチプレックスタンパク質検出技術などの定量測定技術によってもはや検出不能な点まで、1つ以上の感受性タンパク質量が減少する。場合によっては、処理後の組織及び/又は処理後の組織から調製された移植片において、感受性タンパク質は検出不能である。
【0039】
神経移植片に関して本明細書に記載される組織加工方法は、消化溶液による処理前の組織と比較して、及び/又は参照用未処理組織と比較して、神経再生活性が少なくとも1/2である神経移植片を提供し得る。低下した再生能の程度は、例えば、少なくとも1/3、少なくとも1/4、少なくとも1/5、少なくとも1/6、少なくとも1/7、少なくとも1/8、少なくとも1/9、少なくとも1/10、少なくとも1/12、少なくとも1/13、少なくとも1/14、少なくとも1/15、少なくとも1/16、少なくとも1/17、少なくとも1/18、少なくとも1/20、又は少なくとも1/50であってもよい。低下した再生能の程度は、例えば、HPLCを伴う又は伴わないMS/MS、ELISA、FPLC、又はバイオアッセイ、例えば、これに限定されないが、ニューロン群若しくは神経細胞株から神経移植片若しくは神経移植片の誘導体内への神経突起伸長活性を評価するアッセイなどの好適な分析技術によって、対照と比較して確認することができる。
【0040】
本明細書の方法に従って加工するのに好適な組織は、天然であっても人工のものであってもよい。例えば、組織は、ヒト若しくは非ヒト哺乳動物を含む哺乳動物、又は魚、両生類若しくは昆虫を含む非哺乳動物などの動物から得られた生体軟組織であってもよい。組織は植物組織であってもよい。移植片は、移植片が移植される患者に対して同種異系又は異種であってもよい。組織は、例えば、末梢神経組織又は中枢神経系組織を含む神経組織であってもよい。本開示に好適な他の種類の組織は、上皮組織、結合組織、筋肉組織、毛細血管組織、皮膚組織、骨格組織、平滑筋組織、心臓組織、及び脂肪組織を含むが、これらに限定されない。上述のように、生体軟組織は、ヒト組織及び他の霊長類組織、げっ歯類組織、ウマ組織、イヌ組織、ウサギ組織、ブタ組織、又はヒツジ組織を含む哺乳動物組織であってもよい。更に、組織は、魚類、両生類又は昆虫組織から選択される非哺乳動物組織であってもよい。組織は、人工組織、例えばこれに限定されないが実験室培養組織であってもよい。いくつかの実施例によれば、組織は、ヒト又は非ヒト哺乳動物などの動物から得られた神経組織である。
【0041】
また、本明細書では、患者への移植前及び/又は移植後の免疫抑制技術も想定される。例えば、患者は、移植片の移植と共に、1つ以上の免疫抑制剤を投与されてもよい。例えば、移植片は、移植片を通じて患者に送達される1つ以上の免疫抑制剤を含んでもよい。
【0042】
処理後の組織及び/又は処理後の組織から調製された移植片は、患者の神経損傷を治療するのに好適な寸法を有してもよい。例えば、処理後の組織及び/又は移植片は、約3mm~約100mmの長さ、例えば、約5mm~約100mm、約20mm~約50mm、約45mm~約75mm、又は約15mm~約40mmの長さを有してもよい。更に、例えば、移植片は、約5mm~約55,000mm、例えば、約100mm~約25,000mm、約500mm~約10,000mm、約1,000mm~約5,000mm、約500mm~約2,000mm、約100mm~約5000mm、又は約7,500mm~約15,000mmの範囲の総体積を画定してもよい。
【0043】
本明細書の神経移植片を患者に移植して、特に、軸索再生を最小限に抑え、移植後の部位に形成される神経腫のサイズ又は数を低減し、神経腫形成を遅らせ、及び/又は神経腫形成を完全に防ぐことができる。神経移植片は、神経キャップの代わりに、又は神経キャップと組み合わせて使用してもよい。患者は、ヒト又は非ヒト動物であってもよい。
【0044】
本明細書の方法に従って調製された神経移植片は、神経腫形成の低減及び/又は軸索伸長の低減を示し得る。本明細書の神経移植片は、神経腫形成及び/又は神経突起伸長を阻害し得る。本明細書で使用される場合、阻害とは、神経腫形成及び/又は神経突起伸長を最小限に抑えること、遅らせること、及び防ぐことを含む。
【0045】
本開示による消化溶液は、キットから調製してもよい。例えば、再生能が減弱した神経移植片を調製するためのキットは、1つ以上の組織及び消化溶液の成分、例えば、トリプシン、ACT、及びEDTAを含んでもよい。更なる成分は、例えば、洗浄を行うために使用される試薬、例えば、1つ以上の緩衝液、セリン含有血清、又は緩衝液/セリン含有混合溶液を含んでもよい。任意に、キットは、消化及び1回以上の洗浄後に組織がさらされる1つ以上の添加剤、例えばカルシウムチャネル遮断薬、細胞外カルシウム、グリコサミノグリカン、及び/又は糖タンパク質を含んでもよい。キットの組織及び試薬は、水性媒体中又は凍結乾燥形態でパッケージ化されていてもよい。キットはまた、組織を処理及び/又は保存することができる1つ以上の容器、ベッセル、又はチューブを含んでもよく、時間、温度、消化溶液濃度などの好適なパラメータに従って消化溶液を調製するため、及び/又は組織を処理するための説明書を含んでもよい。
【0046】
本開示のいくつかの態様によれば、キットは、神経移植片(複数)及び試薬を入れる、又は好適に分注することができる少なくとも1つのバイアル、試験管、フラスコ、瓶、シリンジ又は他の好適な容器を含む。本開示のキットは、商業販売のために密閉した試薬容器を提供してもよい。そのような容器は、1つ以上のバイアルが保持される射出成形又はブロー成形されたプラスチック容器を含んでもよい。キットはまた、試薬での処理後、移植片を保存するためのベッセル又は他の好適な容器を含有してもよい。
【0047】
実施例
本開示は、以下の非限定的な実施例によって更に理解され得る。実施例は、上記開示を説明することを意図しており、その範囲を狭めるように解釈されるべきではない。当業者は、実施例が、本開示が実施され得る多くの他の方法を示唆することを容易に認識するであろう。本開示の範囲内に留まりながら、多数の変形及び修正が行われてもよいことを理解されたい。
【0048】
実施例1:軟組織消化
この実験の目的は、組織の物理的及び微細構造的完全性を維持しながら、モデル神経組織に対する消化プロトコル及び基底膜タンパク質の消化を試験することであった。モデル神経組織は、Axogen,Inc.(アラチュア、フロリダ州、アメリカ)製のAvance(登録商標)神経移植片(1~2mm)であった。
【0049】
ストックトリプシン/EDTA(0.25%)(Fisher Scientific、ハンプトン、ニューハンプシャー州、アメリカ)6.6mL及び滅菌二回蒸留水4.4mLを15mLコニカルチューブ中で混合してトリプシン/EDTA(0.15%)のストック溶液を調製した。トリプシン/EDTA(0.25%)市販ストック溶液中のトリプシンは、2700units/mg USPであった。
【0050】
乾燥粉末ACT(Fisher Scientific、ハンプトン、ニューハンプシャー州、アメリカ)16.5mg及び27.5mgを、各トリプシン0.15%及びEDTA0.25%のストック溶液11mLにそれぞれ添加し、15mLコニカルチューブを穏やかに振盪及び反転させて混合することによってトリプシン/ACT/EDTA消化溶液を調製した。ACTは35USP units/mgと説明された。0.15%消化溶液は、トリプシン約4.1×10USP units/mL、ACT約52.5USP units/mL、及びEDTA約1.3mMを含んでいた。表1に化学組成を示す。0.25%消化溶液は、トリプシン約6.8×10USP units/mL、ACT約87.5USP units/mL、及びEDTA約3.6mMを含んでいた。
【表1】
【0051】
Avance(登録商標)神経移植片の各サンプルを解凍し、Zivicカッティングボード(Zivic Instruments、ピッツバーグ、ペンシルベニア州、アメリカ)を使用して約3mmの断片に切断した。次いで、断片を消化溶液100μLと共に1.5mL遠心分離管に入れ、37℃で2時間インキュベートした。次いで、バルブ型トランスファーピペットを使用して消化溶液を吸引し、移植片を滅菌リン酸緩衝生理食塩水(PBS)1mLで3回洗浄した。次いで、500μLの量のウシ胎児血清(FBS)を各チューブに添加し、サンプルを37℃で45~55分間インキュベートした。FBSを吸引し、新鮮なFBSを添加し、次いでチューブを合計2回のFBS処理のために再びインキュベートした。次いで、移植片の保存のため、PBS1mLを各チューブに添加した。
【0052】
実施例2:再生能アッセイ
実施例1の処理後の神経組織サンプルを評価して、基底膜タンパク質の消化を経た組織の再生能を決定した。消化酵素処理されたサンプル及び未処理サンプルと比較するため、別の神経組織サンプル(Avance(登録商標)神経移植片)を化学的に処理することで神経突起成長に関与するタンパク質を架橋及び化学的に不活性化することによって、化学的不活性化(chemically passivated)サンプルも調製した。再生能を、神経突起伸長測定(NOM)アッセイシステムによって決定した。測定を行う前に、断片を十分に洗浄して残留酵素を除去した。
【0053】
全根を洗浄したラット後根神経節(DRG)を、コラーゲンゲルを用いて各試験サンプル断片及び化学的不活性化サンプル上に配置し、神経基礎培地、グルタミン、B27、及び神経成長因子(NGF)を含有する標準培地中で7日間培養して、神経突起を伸長させた。次いで、サンプルを固定し、神経突起伸長の組織学的測定のために各断片を複数のレベルで長手方向に切片化した。神経突起染色は、βIII-チューブリンを使用して行った。神経突起伸長の長さは、DRG末端から神経突起の先端まで(全ての切片で観察されたうちで最長の3つの平均値)により決定した。DRGが存在しない場合、DRGが加工中に外れたとみなし、そのサンプルはカウントされなかった。
【0054】
陽性対照サンプルとして、3mg/mL I型コラーゲン中の30%Engelbreth-Holm-Swarmマウス肉腫細胞外マトリックス由来ゲル(EHSゲル)を、細胞外マトリックスベースチューブ(ECM、ブタ由来中空チューブ導管、AxoGuard(登録商標)Nerve Connector,Axogen,Inc.,アラチュア、フロリダ州、アメリカ)に入れた。ECMを約60分間水和させた。過剰な液体をECMチューブから除去し、次いでEHSゲルを充填し、ゲルを固化させた。次いで、DRGをEHS充填チューブの一端に配置し、断片を他のサンプルについて上記したように処理した。様々なサンプルの処理は表2にまとめられている。表2において、陰性対照は、DRGを受容しなかった神経組織サンプル(Avance(登録商標)神経移植片)に対応する。
【表2】
【0055】
神経突起伸長アッセイ試験の結果を表3に報告する。
【表3】
【0056】
消化溶液による基底膜タンパク質の消化により、処理後の神経組織サンプル内の神経突起伸長の程度は、消化溶液で処理しなかった標準神経組織サンプル(対照)と比較して、有意に低下した。この研究は、神経移植片内の基底膜タンパク質、例えばラミニンが神経移植片の再生能力を補助することを示唆している。
【0057】
表3に示すように、ACTを含まない0.15%又は0.25%濃度のトリプシン/EDTAによる神経組織サンプルの消化では、処理後の神経組織サンプル内の神経突起伸長は有意に低下しなかった(p>0.05)。0.15%又は0.25%濃度のトリプシン/ACT/EDTA溶液によるサンプルの処理は、標準群のサンプルと比較して、これらのサンプルの再生能を有意に低下させた(それぞれp=0.002、p=0.0002)。トリプシン/ACT/EDTAによる処理は、化学的不活性化対照と比較して、処理後サンプルの再生能を低下させる傾向を示したが、両処理における再生能の差は統計的に有意ではなかった(p>0.999)。化学的不活性化サンプルは、平均神経突起伸長の低減を示し、その低減は、標準群と比較して統計的に有意ではなかった(p>0.683)(図1)。
【0058】
実施例3:組織学的アッセイ
実施例1及び実施例2に記載の消化済みサンプル、並びに0.25%ACT溶液で処理した神経組織サンプルの内部微細構造を、組織学的スクリーニング法により評価した。この技術は、神経断片内の神経内膜管の形状を評価するものである。神経内膜管評価(ETA)を実施して、100,000μmあたりの管の周囲長、100,000μmあたりの管数、神経内膜管の面積パーセント、及び総神経束面積(μm)を決定した。処理は、以下の表4に示される消化溶液を用いて、実施例1に概説されるプロトコルに従った。
【0059】
処理後の各断片を固定し、切片化のためにパラフィンに包埋した。陰性対照については、10個の断片を未処理のままにした(対照)。各サンプルから断面を得た。各切片の厚さは8μmであった。表4は、分析された各カテゴリにおける処理レジメンのサンプル数を示す。
【表4】
【0060】
ラミニンに対する抗体を用いて各断面を染色し、結果を図2A図2Dの顕微鏡写真に示す。これらの写真は、ラミニン染色サンプルのホルマリン固定パラフィン包埋(FFPE)断面に対応する。未処理神経移植片の断面において、正常な神経内膜管ラミニン染色を観察した(図2A)。神経移植片組織サンプルをトリプシン/EDTA(図2B)又はトリプシン/ACT/EDTA(図2C)で処理することにより、神経組織神経内膜管内の検出可能な無傷のラミニンタンパク質を除去し、神経内膜管内のラミニン染色の量は、これらのサンプルの処理後に減少した。トリプシン/EDTA処理(図2B)では、神経ECM消化が起きたことが観察されなかった。トリプシン/ACT/EDTAで処理した神経組織断片内では、ECMのごくわずかな消化が観察され、そのようなECM消化において、神経組織束の解離は観察されなかった(図2C)。ACT溶液による処理では、神経内膜管内でごくわずかにラミニンが消化され、かつ移植片束を取り囲むECMの完全性に影響を及ぼした(図2D)。
【0061】
処理後断片の内部微細構造の完全性も同様に分析した。対照断片とトリプシン/EDTA処理サンプル又はトリプシン/ACT/EDTA処理サンプルとの間では、評価したパラメータ間に統計的な差は検出されなかった。結果は以下の表5にまとめられている。
【表5】
【0062】
図3A図3B及び図4A図4Bは、対照サンプル及び処理後サンプルにおける微細構造の定量化の棒グラフを示す。図3Aは、未処理サンプル(対照、左端)、トリプシン/EDTA処理サンプル(中央)、及びトリプシン/ACT/EDTA処理サンプル(右端)について、100,000μmあたりの管の周囲長で表される値(μm)によりサンプル神経組織の周囲長を示す。図3Bは、未処理サンプル(対照、左端)、トリプシン/EDTA処理サンプル(中央)、及びトリプシン/ACT/EDTA処理サンプル(右端)について、100,000μmあたりの管数を示す。図4Aは、未処理サンプル(対照、左端)、トリプシン/EDTA処理サンプル(中央)、及びトリプシン/ACT/EDTA処理サンプル(右端)について、神経内膜管の面積パーセントを示す。図4Bは、未処理サンプル(対照、左端)、トリプシン/EDTA処理サンプル(中央)、及びトリプシン/ACT/EDTA処理サンプル(右端)について、総線維束面積をμmで示す。
【0063】
実施例4:消化済み神経組織のプロテオミクス
実施例1に記載のように処理した消化済みサンプルを、活性ラミニン鎖、IV型コラーゲン鎖、及びニドゲンを含む、末梢神経組織の神経再生活性に関連する基底膜タンパク質の存在について評価した。分析は、対象のECMタンパク質を標的とする安定同位体標識標準物質を含む液体クロマトグラフィ-選択反応モニタリング(LC-SRM)によって行った。
【0064】
プロテオーム解析を行うために、消化済み神経サンプル及び未処理対照サンプルを1mg秤量し、NHOH、KCO、及びグアニジン-HClを含む塩基性溶液に、10mg/mLになるように溶解させた。次いで、サンプルを28時間加熱及び撹拌しながらインキュベートし、ほとんどのサンプルについて清澄溶液を得た。
【0065】
等量の各サンプルを、既知濃度のECM標準と混合し、トリプシン0.25%/ACT/EDTAによるタンパク質分解消化を行った。得られたペプチドをLC-SRM ECMアッセイで分析した。結果を図5A図5Bに示す(処理後サンプル=「消化済みAvance」、未処理対照=「Avance」)。トリプシン/ACT/EDTAによる末梢神経組織の処理は、未処理の神経組織と比較して、基底膜内の活性ラミニン鎖を有意に減少させた。ラミニン鎖は、ラミニンα-2、ラミニンα-4、ラミニンα-5、ラミニンβ-1、ラミニンβ-2、及びラミニンγ-1を含む(図5A)。更に、消化済みサンプルは、未処理の神経組織と比較して、IV型コラーゲン鎖(コラーゲンα-1(IV)、コラーゲンα-1/5(IV)、コラーゲンα-2(IV)、コラーゲンα-3(IV))、フィブロネクチン、パールカン及びニドゲン(ニドゲン-1及びニドゲン-2)が有意に減少していた(図5B)。全体として、未処理の神経組織と比較して、消化済みサンプル内の試験タンパク質は1/10に減少していた。
【0066】
本開示は、好ましい実施形態、例示的な実施形態及び任意選択の特徴によって具体的に開示されてきたが、本明細書で開示される概念の修正及び変形が当業者によって行われてもよく、そのような修正及び変形は、添付の特許請求の範囲によって定義される本開示の範囲内であると考えられることを理解されたい。本明細書で提供される特定の実施形態及び実施例は、非限定的かつ例示的なものに過ぎない。本開示が、本明細書に記載されるデバイス、デバイス構成要素、方法、工程の多数の変形を使用して実行されてもよいことは、当業者には明らかであろう。当業者に認識されるように、本方法に有用な方法及びデバイスは、様々な任意選択の組成物並びに処理要素及び工程を含んでもよい。
図1
図2A
図2B
図2C
図2D
図3A
図3B
図4A
図4B
図5A
図5B
【国際調査報告】