(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-09-20
(54)【発明の名称】免疫チェックポイント阻害剤の増強剤の調製における細菌の使用
(51)【国際特許分類】
A61K 35/741 20150101AFI20230912BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20230912BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20230912BHJP
A61P 37/04 20060101ALI20230912BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20230912BHJP
A61P 13/02 20060101ALI20230912BHJP
A61P 13/10 20060101ALI20230912BHJP
A61P 15/00 20060101ALI20230912BHJP
A61P 1/18 20060101ALI20230912BHJP
A61P 1/16 20060101ALI20230912BHJP
A61P 1/04 20060101ALI20230912BHJP
A61P 35/02 20060101ALI20230912BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20230912BHJP
A61P 1/02 20060101ALI20230912BHJP
A61P 11/02 20060101ALI20230912BHJP
A61P 11/04 20060101ALI20230912BHJP
A61P 13/12 20060101ALI20230912BHJP
A61P 11/00 20060101ALI20230912BHJP
A61P 13/08 20060101ALI20230912BHJP
A61P 21/00 20060101ALI20230912BHJP
A61P 17/00 20060101ALI20230912BHJP
A61P 35/04 20060101ALI20230912BHJP
A61P 27/02 20060101ALI20230912BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20230912BHJP
C12N 1/20 20060101ALI20230912BHJP
C07K 16/28 20060101ALI20230912BHJP
【FI】
A61K35/741
A61K45/00
A61P35/00
A61P37/04
A61P43/00 121
A61P43/00 105
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A61P13/10
A61P15/00
A61P1/18
A61P1/16
A61P1/04
A61P35/02
A61P25/00
A61P1/02
A61P11/02
A61P11/04
A61P13/12
A61P11/00
A61P13/08
A61P21/00
A61P17/00
A61P35/04
A61P27/02
A61K39/395 U
C12N1/20 E ZNA
C07K16/28
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023514909
(86)(22)【出願日】2022-07-12
(85)【翻訳文提出日】2023-03-03
(86)【国際出願番号】 CN2022105302
(87)【国際公開番号】W WO2023284758
(87)【国際公開日】2023-01-19
(31)【優先権主張番号】202110808366.1
(32)【優先日】2021-07-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(31)【優先権主張番号】202110939699.8
(32)【優先日】2021-08-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(31)【優先権主張番号】202210143529.3
(32)【優先日】2022-02-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522160686
【氏名又は名称】中山大学腫瘤防治中心(中山大学附属腫瘤医院、中山大学腫瘤研究所)
(74)【代理人】
【識別番号】100121728
【氏名又は名称】井関 勝守
(74)【代理人】
【識別番号】100165803
【氏名又は名称】金子 修平
(72)【発明者】
【氏名】徐瑞華
(72)【発明者】
【氏名】趙霞
【テーマコード(参考)】
4B065
4C084
4C085
4C087
4H045
【Fターム(参考)】
4B065AA01X
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4H045CA40
4H045DA76
4H045EA22
4H045EA28
4H045FA74
(57)【要約】
本発明は免疫チェックポイント阻害剤の増強剤の調製における細菌の使用を開示する。前記細菌は、細菌生菌又は不活性全細胞腸内細菌であり、本発明は、ヒト内因性腸内細菌であるアリスティペス菌を用いた単菌経口製剤を免疫チェックポイント阻害剤と併用することで、活性ヒト共生腸内細菌又は不活性全細胞ヒト共生腸内細菌の経口投与刺激による抗腫瘍免疫保護反応及び腸内細菌叢の再構築作用を利用して、免疫チェックポイント阻害剤の複数の腫瘍に対する薬効を著しく増強させ、抗腫瘍免疫機能を増強させ、癌免疫療法を受けている人の応答率を向上させるのに役立ち、また、安全性がより優れ、癌患者の総生存期間を延長し、癌免疫治療(免疫治療用チェックポイント阻害剤)が適用できる腫瘍患者の範囲を広げ、免疫チェックポイント阻害剤の難治性腫瘍患者の治療に新たな併用療法プラン及び治療薬を提供し、癌免疫治療が適用できる腫瘍患者の範囲を広げる。
【選択図】
図13
【特許請求の範囲】
【請求項1】
1種又は2種以上の免疫チェックポイント阻害剤と細菌とを含む腫瘍治療用製品であって、
前記免疫チェックポイント阻害剤は、T細胞抑制性共刺激(共阻害)分子及び/又はそれぞれのリガンドに作用するブロッカーの1種又は2種以上の組み合わせであり、
前記細菌は、アリスティペス・ファインゴールディイ(Alistipes finegoldii)であり、
前記細菌は、細菌生菌、不活性全細胞細菌、細菌誘導体又は細菌代謝物の1種又は2種以上である、ことを特徴とする腫瘍治療用製品。
【請求項2】
前記アリスティペス・ファインゴールディイ(Alistipes finegoldii)の16S rDNA配列が、アリスティペス・ファインゴールディイ菌株DSM 17242(Alistipes finegoldii DSM 17242)の16S rDNA配列と少なくとも99.5%の相同性を有する、ことを特徴とする請求項1に記載の製品。
【請求項3】
前記アリスティペス・ファインゴールディイ(Alistipes finegoldii)は、1種又は2種以上のアリスティペス・ファインゴールディイ(Alistipes finegoldii)菌株の組み合わせである、ことを特徴とする請求項1に記載の製品。
【請求項4】
前記アリスティペス・ファインゴールディイ菌株は、以下の菌株の1種又は2種以上の組み合わせである、ことを特徴とする請求項3に記載の製品。
ドイツ微生物菌種寄託センターDSMZに寄託されている、寄託番号DSM 17242のアリスティペス・ファインゴールディイ、
日本JCM種菌寄託センターに寄託されている、寄託番号JCM16770のアリスティペス・ファインゴールディイ、
韓国KCTC種菌寄託センターに寄託されている、寄託番号KCTC 15236のアリスティペス・ファインゴールディイ、
フィンランドヘルシンキ嫌気性菌参考実験室に寄託されている、寄託番号AHN 2437のアリスティペス・ファインゴールディイ、
スウェーデンCCUG菌種寄託センターに寄託されている、寄託番号CCUG46020のアリスティペス・ファインゴールディイ、
フランスCIP種菌寄託センターに寄託されている、寄託番号CIP107999のアリスティペス・ファインゴールディイ、
中国広東省微生物菌種寄託センターに寄託されている、寄託番号GDMCC 1.2324のアリスティペス・ファインゴールディイ
【請求項5】
前記細菌生菌は完全細菌及び/又は完全活性菌であり、前記不活性細菌は、不活性全細胞細菌である、ことを特徴とする請求項1に記載の製品。
【請求項6】
前記不活性全細胞細菌は、細菌を培養して増幅した後、種々の方法で不活性化することにより得られる、ことを特徴とする請求項1に記載の製品。
【請求項7】
前記細菌の不活化手段は、高温及び/又は高圧不活化、紫外線不活化、放射線不活化、及び化学剤不活化から選ばれるいずれか1種又は2種以上であり、前記化学剤は、ホルムアルデヒド、アセトン、及びフェノール類のいずれか1種又は2種以上である、ことを特徴とする請求項6に記載の製品。
【請求項8】
前記細菌誘導体は、細菌構成成分と遺伝物質及び関連成分とを含み、細菌細胞膜、菌毛、鞭毛、LPS、核酸物質などの細菌由来成分の1種又は2種以上を含む、ことを特徴とする請求項1に記載の製品。
【請求項9】
前記細菌代謝物は、前記細菌の調製及び貯蔵の間、ならびに哺乳動物の消化管輸送の間に、細菌の成長、生存、滞留、輸送又は存在の結果として、前記細菌によって生産又は修飾された全ての分子を含む、ことを特徴とする請求項1に記載の製品。
【請求項10】
前記T細胞抑制性共刺激(共阻害)分子及び/又はそれぞれのリガンドは、CTLA-4、PD-1、PD-L1、PD-L2、B7-1、B7-2、B7-H3、B7-H4、B7-H6、A2AR、IDO、TIM-3、BTLA、VISTA、TIGIT、LAG-3、CD40、KIR、CEACAM1、GARP、PS、CSF1R、CD94/NKG2A、TDO、TNFR、DcR3から選ばれる1種又は2種以上の組み合わせである、ことを特徴とする請求項1に記載の製品。
【請求項11】
前記T細胞抑制性共刺激(共阻害)分子のリガンドに作用するブロッカーは、ニボルマブ、イピリムマブ、ペムブロリズマブ、アゼトリズマブ、アテゾリズマブ、カムレリズマブ、チスレリズマブ、デュルバルマブ、トレメリムマブ、スパルタリズマブ、アベルマブ、シンチリマブ、トリパリマブ、セミプリマブ、MGA012、MGD013、MGD019、エノブリツズマブ、MGD009、MGC018、MEDI0680、PDR001、FAZ053、PDR001FAZ053、TSR022、MBG453、レラトリマブ(relatlimab)、LAG525、IMP321、REGN3767、ペキシダルチニブ、LY3022855、FPA008、BLZ945、GDC0919、エパカドスタット、indoximid、BMS986205、CPI-444、MEDI9447、PBF509、リリルマブから選ばれる1種又はこれらの任意の2種以上の組み合わせである、ことを特徴とする請求項10に記載の製品。
【請求項12】
前記免疫チェックポイント阻害剤は、PD-1/PD-L1シグナル経路及び/又はPD-1/PD-L2シグナル経路に作用する阻害剤であり、前記PD-1は、プログラムされた細胞死タンパク質1を意味し、前記PD-L1(B7-H1又はCD274)及び前記PD-L2(B7-DC又はCD273)は、前記PD-1のリガンドである、ことを特徴とする請求項1に記載の製品。
【請求項13】
前記PD-1/PD-L1シグナル経路及び/又はPD-1/PD-L2シグナル経路の阻害剤は、ニボルマブ、ペムブロリズマブ、アゼトリズマブ、アテゾリズマブ、カムレリズマブ、チスレリズマブ、デュルバルマブ、スパルタリズマブ、アベルマブ、シンチリマブ、トリパリマブ、セミプリマブ、MGA012、MGD013、MGD019(PD-1/CTLA-4二重抗体)、MEDI0680、PDR001、FAZ053から選ばれる1種又はこれらの任意の2種以上の組み合わせである、ことを特徴とする請求項12に記載の製品。
【請求項14】
前記免疫チェックポイント阻害剤は、CTLA-4/B7-1シグナル経路及び/又はCTLA-4/B7-2シグナル経路に作用する阻害剤であり、前記CTLA-4は細胞傷害性Tリンパ球タンパク質4を意味し、B7-1(CD80)及びB7-2(CD86)は前記CTLA-4のリガンドである、ことを特徴とする請求項1に記載の製品。
【請求項15】
前記免疫チェックポイント阻害剤は、イピリムマブ、トレメリムマブ、及びMGD019から選ばれる1種又はこれらの任意の2種以上の組み合わせである、ことを特徴とする請求項13に記載の製品。
【請求項16】
請求項1に記載の製品中の免疫チェックポイント阻害剤と細菌とを同時に、別個に、又は順次投与し、
前記免疫チェックポイント阻害剤は、T細胞抑制性共刺激(共阻害)分子及び/又はそれぞれのリガンドに作用するブロッカーの1種又は2種以上の組み合わせであり、
前記細菌は、アリスティペス・ファインゴールディイ(Alistipes finegoldii)である、ことを特徴とする細菌を用いた腫瘍治療方法。
【請求項17】
前記腫瘍治療は、腫瘍の縮小又は安定化、総生存期間の延長、無増悪生存期間の延長、又は生活の質の改善から選ばれる1種又は2種以上の組み合わせとして示される、ことを特徴とする請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記腫瘍は、腺腫、悪性腫瘍及び腺癌であり、腫瘍は、組織由来や細胞名によって分類されると、副腎皮質癌、膀胱尿路上皮癌、乳癌、膵臓癌、子宮頸癌、胆管癌、結腸癌、結腸直腸癌、びまん性大B細胞リンパ腫、多形性膠芽腫、神経膠腫、頭頸部癌、腎嫌色細胞癌、混合腎癌、腎臓癌、白血病、リンパ腫、脳癌、肝臓癌、肺腺癌、肺扁平上皮癌、中皮癌、卵巣癌、膵臓癌、クロム親和性細胞腫、副神経節癌、前立腺癌、直腸腺癌、肉腫、皮膚黒色腫、胃癌、食道癌、精巣癌、甲状腺癌、胸腺癌、子宮内膜癌、子宮肉腫、ぶどう膜黒色腫、及び軟部肉腫の1種又は2種以上である、請求項16に記載の方法。
【請求項19】
前記腫瘍は悪性腫瘍、転移性腫瘍又は非転移性腫瘍である、ことを特徴とする請求項16に記載の方法。
【請求項20】
前記細菌の投与方法は経口投与である、ことを特徴とする請求項16に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、腫瘍治療の技術分野に関し、具体的には、腫瘍治療における細菌の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
悪性腫瘍は、現在世界が直面する最大の問題の1つであり、毎年死亡を引き起こす各種致死要素の中で、悪性腫瘍は首位を占めている。手術治療、放射線治療及び化学治療などの通常の治療法は腫瘍細胞を完全に除去することが難しく、再発率が高く、しかも放射線治療や化学治療などの治療手段は、標的性が低いため、腫瘍細胞を殺すと同時に正常な細胞に対しても殺傷作用があり、患者に大きな傷害をもたらし、患者の生活の質に深刻な影響を与える。
【0003】
通常の治療法に比べて、腫瘍免疫療法の標的は腫瘍細胞や組織ではなく、人体自身の免疫系であり、人体免疫系の調節と活性化を通じて、自己免疫機能により、遠隔部位に転移している腫瘍細胞を含め腫瘍細胞を除去し、正常細胞に対する毒性や副作用が小さく、末期悪性腫瘍患者の予後と生活の質を大幅に改善する。免疫増強剤は新しい薬物分類であり、免疫調節剤とも呼ばれ、かつて免疫促進剤や免疫刺激剤と呼ばれていた。免疫増強剤の多くは腫瘍の非特異的免疫療法を目的として開発されており、生体の免疫機能を向上させ、免疫応答反応を促進誘導することで治療効果を発揮する。臨床では主に免疫不全疾患、悪性腫瘍の補助治療、及び難治性細菌やウイルスの感染に使用されている。臨床でよく使われる免疫増強剤薬物はその由来によって5つの種類に分けられる。
1、BCGワクチンのような細菌由来の免疫増強剤薬物
2、ヒト又は動物の免疫系の産物、例えば、サイモシン、転移因子、インターフェロン、インターロイキンなど
3、化学合成免疫増強剤薬物、例えばレバミゾール、ポリイノシン-シチジンなど
4、真菌多糖類、例えばシイタケ多糖類など
5、漢方薬及びその他、例えばニンジン、オウギなどの漢方薬の有効成分;植物ヘマグルチニン(PHA)、コンカナバリンA及び胎盤多糖など。
【0004】
細菌由来の免疫増強剤の癌治療における使用の歴史は古く、早く1893年に、癌免疫治療分野の先駆者William Coleyは化膿性レンサ球菌から調製した「Coleyの毒素」を末期癌患者に繰り返して接種し、発熱や生体の免疫反応を刺激することで、一部の患者の腫瘍を退縮させた。「Coleyの毒素」は癌免疫治療の投石となり、現代の癌免疫療法の勃興を促進した。過去10年間に、癌免疫療法は今までない発展及び成功を遂げて多種の悪性腫瘍の臨床管理を徹底的に変えた。中でも、免疫チェックポイント阻害剤(ICI:Immune-Checkpoint Inhibitors)は免疫療法の最先端技術の1つである。
【0005】
現在、腫瘍免疫療法は多種多様であり、その中でも、免疫チェックポイント阻害剤(ICI:immune checkpoint inhibitors)療法は腫瘍細胞にハイジャックされた免疫抑制経路(例えばPD-L1/PD-1とCTLA-4/B7-1)を遮断することによって、T細胞を再活性化し、生体の免疫系の腫瘍細胞に対する識別と除去能力を再活性化するものであり、治療効果が良く、反応の持続時間が長いような優位性を持ち、腫瘍治療の新時代を切り開いた。ICI療法は治療の選択が不足している多種のタイプの腫瘍への適用において癌治療の変革を引き起こし、癌治療の新しいマイルストーンとなっている。
【0006】
現在、ICI治療を受けた患者は治療中断後にも長期的に寛解することができ、ある患者にとっては治癒の希望を増加した。特にメラノーマ患者では、完全寛解、すなわち全ての可視腫瘍転移巣が完全に消失することが可能である。しかし、ICI単剤では患者の応答率が低いという問題はその発展や使用の最大のボトルネックになり、単剤ICI治療でも完全寛解を実現する患者は15%~40%しか占めておらず、免疫チェックポイント阻害剤の効能を向上させる併用策略を早急に開発する必要がある。
【0007】
現在主流の併用策略は手術、化学療法、放射線治療、標的治療などの治療手段とICIとの併用療法を含み、相乗作用を発揮させ、ICIの持続性及び治療効果を増強させ、ICIの応答率が低いという問題を解決することができる。これらの併用療法はある程度でICIの治療効果及び応答率を高めることができるが、通常毒性もそれに伴って増加する。
【0008】
研究により、患者のICI治療に対する応答率の特異性や薬剤耐性の関連要素は腫瘍の内部要素、例えば腫瘍の微小環境に加えて、宿主の関連要素、例えば年齢、遺伝の多様性、飲食及び腸内細菌叢などの要素を含むことを発見した。ある特定の腸内細菌が、定植や、自身の全細胞構成成分と腸粘膜免疫系の直接作用、若しくはその代謝機能を通じて小分子代謝物を産生する間接作用を介してICIの治療効果に与える影響が最も注目されている。そのため、多くの併用療法の中で、内因性腸内微生物を操作することでICI治療を補助する多くの研究は腫瘍治療分野におけるマイルストーンイベントとなった。腸は体内最大のリンパ器官で、70%以上のT細胞が存在し、ほとんどのメモリーT細胞の居住地となっている。腸内に宿る腸内細菌叢は、腸内免疫器官との相互作用により人体の免疫系の発達を促進し、人体の免疫力の基礎を築いてそのバランスを確立する。人体の防御系及び免疫系にとって、細菌と腫瘍のいずれも「異種」であるため、人体は細菌と腫瘍に対する免疫反応に同じ防御メカニズムを使用しており、腸内因性細菌で刺激される免疫反応は抗腫瘍の潜在能力も持っている。このような腸内細菌叢の抗腫瘍免疫交差理論及びある腸内細菌自身が分泌した腫瘍溶解酵素に基づいて、細菌による腫瘍治療はすでに数百年の歴史がある。なお、腸管内因性細菌により誘導される抗腫瘍効果は、生体自己の免疫反応に由来し、放射線療法と化学療法との併用療法に比較して、安全性が高く、毒性や副作用が少ない。
【0009】
2021年8月にCancer Discovery雑誌に掲載された概要は、2017年から2020年までに発表された38件の研究をまとめたもので、ICI治療を受けた11,959人の腫瘍患者を分析したところ、免疫療法を受ける前又は治療中に抗生物質を使用することで、患者の生存率が著しく低下し(死亡リスク比率値HR=1.81、p=0.03)、腸内細菌が生体から誘導する免疫応答はICI療法の治療効果に対して重要な効果があることが示された(Derosa, Routy et al. 2021)。中国の国内外の複数の臨床研究では、糞便菌移植、純粋菌株やプレバイオティクスの経口投与など、腸内細菌叢を操作する手段とICI療法とを併用することにより、腫瘍患者のICIに対する薬剤耐性を逆転できることが示されており、これは、腸内細菌叢介入に基づく局所治療が腸内免疫力をサポートし、有効な抗腫瘍免疫監視を刺激し、永続的な遠位抗腫瘍免疫をトリガーすることを示している。最近の2つの臨床研究の報告によると、ICI治療を受けて応答した(一部寛解又は完全寛解)患者への糞便菌移植はICIに対して応答のない難治性転移性黒色腫患者を一部寛解又は完全寛解させることができ、しかも毒性や副作用がなく、内因性腸内微生物のICI療法に対する効果増強作用を証明した(Baruch EN 2020, Zipkin 2021)。しかし、糞便菌移植は、成分が複雑であり、糞便菌移植で効果を発揮するのは腸内微生物全体であり、しかも、腸内細菌叢は環境、食事、生活様式などの影響を大きく受け、持続的で安定したドナー糞便菌が得られないことによって、糞便菌移植・ICI併用免疫療法の臨床応用が制限されている。そのため、標準化定量生産が可能な単一成分の抗腫瘍腸内細菌を同定して調製することはこの問題を解決する鍵となる。最新の研究では、研究者はICI治療を受けた腸癌マウスモデルから、ビフィドバクテリウム・シュードロングム(Bifidobacterium pseudolongum)、ラクトバチルス・ジョンソニー(Lactobacillus johnsonii)、ユーラシア・スペシーズ(Olsenella species)の3種類の細菌を分離した。この3種類の特殊な細菌はそれぞれ免疫チェックポイント阻害剤を併用することで、4種類のマウス癌モデルにおいてICIの治療効果を増強させることができる。さらに研究を進めると、ビフィドバクテリウム・シュードロングムがその代謝産物であるイノシンを介してICI増強効果を発揮することがわかった(Mager LF 2020)。
【0010】
生物と化学から材料科学、工学、コンピュータ科学などの分野への融合に伴い、新しい腸内細菌叢由来の免疫増強剤の研究開発に新たな手段を提供する。腸内細菌由来の免疫増強剤と免疫チェックポイント阻害剤との強力な組み合わせは、次世代腫瘍免疫治療の突破口として期待することができ、難治性腫瘍患者の免疫治療のための代替治療法を提供する。
【0011】
アリスティペス属(Alistipes)はバクテロイデス門(Bacteroidetes)の1つの属であり、グラム陰性、偏性嫌気性であって、腸内共生細菌である。既存の研究によれば、アリスティペスは臨床サンプルから分離された新しい細菌属であり、アリスティペスの種組成は多様かつ複雑であり、異なるアリスティペス種は独自の機能特性を持ち、人体に対して健康促進や病原性を発揮する(Parker, Wearsch et al. 2020)。NCBI分類データベース(The NCBI taxonomy database)によると、これまでに同定・命名されたアリスティペスは、アリスティペス・コミュニス(Alistipes communis)、アリスティペス・ディスパー(Alistipes dispar)、アリスティペス・ファインゴールディイ(Alistipes finegoldii)、アリスティペス・イヒュミー(Alistipes ihumii)、アリスティペス・インディスティンクタス(Alistipes indistinctus)、アリスティペス・イノプス(Alistipes inops)、アリスティペス・マシリエンシス(Alistipes massiliensis)、アリスティペス・メガグティ(Alistipes megaguti)、アリスティペス・オカヤスエンシス(Alistipes okayasuensis)、アリスティペス・オンダードンキ(Alistipes onderdonkii)、アリスティペス・プロヴァンセンシス(Alistipes provencensis)、アリスティペス・ピュトレディニス(Alistipes putredinis)、アリスティペス・プトレディーニ(Alistipes senegalensis)、アリスティペス・シャヒイ(Alistipes shahii)、アリスティペス・ティモネンシス(Alistipes timonensis)の15個の種からなる。このほか、マクロゲノムシーケンシングデータによって命名されていないか予測されている約90種のアリスティペス種も含まれている。典型菌株データベース(Type Strain Genome)によると、寄託番号を持つ培養可能なアリスティペス種の典型菌株は14株である。現在、動物実験で免疫治療増強機能を持つ可能性が示唆されているアリスティペス種は、アリスティペス・シャヒイ(Alistipes shahii)とアリスティペス・インディスティンクタス(Alistipes indistinctus)の2種のみである(Iida N 2013, Routy B 2018)。他のアリスティペス種、又はアリスティペス種の組み合わせが腸内細菌由来の免疫チェックポイント阻害剤の増強剤として利用可能であるか否かを検討する必要がある。
【0012】
生態学的観点から、アリスティペスの各種は主に健常者の腸に存在し、人体の腸内免疫状態の健康維持に重要な役割を果たしている。例えば、アリスティペスの減少は短鎖脂肪酸の減少を促進し、非アルコール性脂肪肝症患者の末期線維化を増悪する恐れがある。しかし、アリスティペスの各種は、人体の他の液体からも分離され、例えば、アリスティペス・オンダードンキ(Alistipes onderdonkii)とアリスティペス・シャヒイ(Alistipes shahii)はそれぞれ人体の腹部膿瘍、虫垂組織や尿から分離され、これは、アリスティペスの個々の種の潜在的な日和見病原性を示している。
【0013】
先行特許出願CN110582291Aに基づく実施例では、補償性抗癌プロバイオティクスとして、アッカーマンシア・ムシニフィラ(Akkermansia municiphila)、エンテロコッカス・ヒラエ(Enterococcus hirae)13144、アリスティペス・インディスティンクタス(Alistipes indistinctus)及びアッカーマンシア・ムシニフィラ(Akkermansia municiphila)+エンテロコッカス・ヒラエ(Enterococcus hirae)13144の組み合わせなど、様々な単菌及び菌種の組み合わせを用いて、マウスMCA205マウス線維肉腫モデルにおける免疫チェックポイント阻害剤耐性を逆転させる腫瘍応答の効果を比較した。その結果、選択された単菌又は菌種の組み合わせはいずれも、FMTを行わず、又はFMT(免疫チェックポイント阻害剤治療で応答しない患者の糞便に由来)による自発的腸内細菌叢再構築を行った抗生物質処理後のマウスの最終的な腫瘍サイズを著しく低下させることができ、そのうち、最適応答群はアッカーマンシア・ムシニフィラ(Akkermansia municiphila)+エンテロコッカス・ヒラエ(Enterococcus hirae)13144強制経口投与であった。効果的な抗癌プロバイオティクスの組み合わせの活性の最適な代替マーカーの1つは循環血液(又は脾臓)CD4+又はCD8+T細胞上でのPD-L1発現のアップレギュレーション、又は循環T細胞上でのCCR9のアップレギュレーションである。単剤PD1群と比較すると、PD1とアッカーマンシア・ムシニフィラ(Akkermansia municiphila)+エンテロコッカス・ヒラエ(Enterococcus hirae)13144との併用では、脾臓組織CD8+PDL1+及びCD4+PDL1+免疫細胞が有意に増加し、一方、PD1とアリスティペス・インディスティンクタス(Alistipes indistinctus)を併用した群では、脾臓組織CD8+PDL1+及びCD4+PDL1+免疫細胞の有意な増加は認められなかった。CN110582291Aでは、異なる補償性抗癌プロバイオティクスの組み合わせをさらに比較し、各組み合わせがマウスMCA205マウス線維肉腫モデルにおける免疫チェックポイント阻害剤耐性を逆転させる腫瘍応答に対する効果を比較し、これらは、2種類のアリスティペス種(アリスティペス・オンダードンキ(Alistipes onderdonkii)+アリスティペス・ファインゴールディイ(Alistipes finegoldii))の組み合わせを含む。その結果、組み合わせが多ければ多いほど治療効果が高いわけではなく、アッカーマンシア・ムシニフィラ(Akkermansia municiphila)+エンテロコッカス・リモサム(Enterococcus limosum)の組み合わせが最適応答であったが、アリスティペス・オンダードンキ(Alistipes onderdonkii)+アリスティペス・ファインゴールディイ(Alistipes finegoldii)の組み合わせは単剤PD1抗体の治療効果を向上させる作用を示さなかった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明に係るアリスティペス・ファインゴールディイ(Alistipes finegoldii)は、優先権に基づく先行出願CN2021108083661及びCN2021109396998ではAfと略され、優先権に基づく先行出願CN2022101435293ではRX-af01と略され、本出願では、Afと略されている。
【0015】
本発明の目的は、免疫チェックポイント阻害剤の増強剤の調製における細菌の使用を提供することである。
【0016】
本発明は、1種又は2種以上の腫瘍に適用できる免疫チェックポイント阻害剤の治療効果を増強させる併用療法を提供する。
【0017】
本発明の前記免疫チェックポイント阻害剤の治療効果を増強させる増強剤は、細菌、好ましくは、アリスティペス・ファインゴールディイ(Af:Alistipes finegoldii)であり、前記Afは、アリスティペス・ファインゴールディイの細菌生菌、不活性全細胞細菌、細菌誘導体又は細菌代謝物から選ばれる1種又は2種以上である。
【0018】
本発明の前記癌免疫療法は免疫チェックポイント阻害剤療法から選ばれ、前記免疫療法の増強は、癌患者の総生存期間の延長、癌免疫療患者の応答率の向上、又は癌免疫療法が適用できる腫瘍患者の範囲拡大を示す。
【0019】
本発明で開示された実験データでは、免疫チェックポイント阻害抗PD1抗体(αPD-1)と化学療法を併用した療法で応答した癌患者及び応答しない癌患者の治療後の腸内細菌叢を比較すると、応答性患者では、アリスティペス属は非応答性患者よりも有意に高く、このような差は化学療法単独群では存在しないことが示されている。αPD-1併用化学療法を受けた結腸直腸癌患者(CRC)の腸管では、アリスティペス属陽性患者の無増悪生存期間(PFS)はアリスティペス陰性患者より有意に長い。αPD-1併用化学療法を受けた食道癌(ESCC)患者の腸管では、アリスティペス属の相対存在量が高い患者の総生存期間(OS)はアリスティペス属の相対存在量の低い患者より有意に長い。検出された5種類のアリスティペス菌種のうち、PFSが6ケ月より大きいESCC患者及びCRC患者では、αPD-1併用化学療法を受けた後、腸内アリスティペス・ファインゴールディイ(Alistipes finegoldii)の相対存在量はPFSが6ケ月より小さい患者より明らかに高い。
【0020】
本発明者らは、複数の腫瘍モデルにおいて、アリスティペス・シャヒイ(Alistipes shahii)単独又はアリスティペス・シャヒイ(Alistipes shahii)+アリスティペス・ファインゴールディイ(Alistipes finegoldii)の組み合わせを投与することで、免疫チェックポイント阻害剤を増強させる効果が得られないことを見出した。一方、活性アリスティペス・ファインゴールディイ(Alistipes finegoldii)単独又は不活化全細胞アリスティペス・ファインゴールディイ(Alistipes finegoldii)と免疫チェックポイント阻害剤を併用したものを投与したところ、アリスティペス・ファインゴールディイ(Alistipes finegoldii)又はその不活性細菌体成分が、癌治療における免疫チェックポイント阻害剤の増強剤として作用し、生体の腫瘍殺傷免疫機能を増強させることが示された。
【0021】
本発明は、毒性や副作用が大きく、転移・再発しやすく、持続時間が短く、生存期間が短く、生活の質が悪いという従来の治療法の欠点に対して、明らかな改善があり、作用する腫瘍の範囲が限られ、薬物に応答する患者が少ないという免疫チェックポイント抑制剤単剤による治療法の欠点に対して、明らかな改善があり、毒性や副作用が大きく、薬物に応答する患者が少ないという免疫チェックポイント抑制剤と放射線化学療法を併用した治療法の欠点に対して、明らかな改善があった治療法を提供する。
【0022】
本発明で提供される治療法は、手術不能であり、使用可能な標的薬剤がなく、放射線療法、化学療法などが無効である患者;免疫チェックポイント阻害剤単剤が無効であるか、薬剤耐性(原発性、適応性及び獲得性薬剤耐性)を有する患者;免疫チェックポイント阻害剤と放射線療法、化学療法、標的療法との併用では、効果がないか、又は薬剤耐性(原発性、適応性及び獲得性薬剤耐性)を有する患者に対して、優れた治療効果を有する。
【課題を解決するための手段】
【0023】
本発明は、以下の態様によって上記の目的を達成する。
腫瘍の治療における細菌の使用。
【0024】
好ましくは、前記細菌は、細菌生菌、不活性細菌、細菌誘導体及び細菌代謝産物の1種又は2種以上である。
【0025】
好ましくは、前記不活性細菌は、不活性全細胞細菌である。
【0026】
好ましくは、前記細菌生菌は、完全細菌及び/又は完全活性菌である。
【0027】
好ましくは、前記使用は、免疫チェックポイント阻害剤の増強剤の調製における有効成分としての細菌の使用である。
【0028】
好ましくは、前記使用は、免疫チェックポイント阻害剤の増加剤としての使用であり、腫瘍の治療における免疫チェックポイント阻害剤の効果を向上させる。
【0029】
好ましくは、前記細菌は、アリスティペス属(Alistipes)に属し、すなわち、前記細菌菌株の16S rDNA配列は、アリスティペス属(Alistipes)の16S rDNA配列と少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、少なくとも99.5%、又は100%の相同性を有する。
【0030】
好ましくは、前記アリスティペス属(Alistipes)に属する細菌は、アリスティペス属(Alistipes)に属する1種又は2種以上の細菌の菌種又は菌株の組み合わせである。
【0031】
より好ましくは、前記アリスティペス属(Alistipes)に属する細菌はアリスティペス・ファインゴールディイ(Alistipes finegoldii)である。
【0032】
さらに好ましくは、前記アリスティペス・ファインゴールディイ(Alistipes finegoldii)に含まれる16S rDNA配列は、アリスティペス・ファインゴールディイ菌種(Alistipes finegoldii)の16S rDNA配列と少なくとも99%の相同性を有する。
【0033】
さらに好ましくは、前記アリスティペス・ファインゴールディイ(Alistipes finegoldii)に含まれる16S rDNA配列は、アリスティペス・ファインゴールディイ菌株DSM 17242(Alistipes finegoldii DSM 17242)の16S rDNA配列と少なくとも99.5%又は100%の相同性を有する。
【0034】
よりさらに好ましくは、前記アリスティペス・ファインゴールディイ(Alistipes finegoldii)の1種又は2種以上のアリスティペス・ファインゴールディイ(Alistipes finegoldii)菌株の組み合わせである。
【0035】
よりさらに好ましくは、前記アリスティペス・ファインゴールディイ(Alistipes finegoldii)の菌株は、米国国立バイオテクノロジーセンター(National Center for Biotechnology Information、略語NCBI)ゲノムデータベース(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/genome/browse/#!/prokaryotes/11196/)における亜種分類の菌株名(Strain name of sub species classification)は、Alistipes finegoldii DSM 17242、Alistipes finegoldii D53t1_180928_D3、Alistipes finegoldii 2789STDY5834947、Alistipes finegoldii 1001713B170207_170306_H2、Alistipes finegoldii DFI.2.31、Alistipes finegoldii BIOML-A1、Alistipes finegoldii DFI.2.16、Alistipes finegoldii DFI.2.10、Alistipes finegoldii aa_0143、Alistipes finegoldii 2789STDY5608890、Alistipes finegoldii MGBC116453、Alistipes finegoldii COPD076、又はAlistipes finegoldii UBG195の1種又は2種以上の組み合わせである。
よりさらに好ましくは、前記アリスティペス・ファインゴールディイ菌株は、以下の菌株の1種又は2種以上の組み合わせである。
【0036】
ドイツ微生物菌種寄託センターDSMZに寄託されている、寄託番号DSM 17242のアリスティペス・ファインゴールディイ(Deutsche Sammlung von Mikroorganismen und Zellkulturen = German collection of microorganisms and cell cultures)(NCBI:txid679935 ,https://www.ncbi.nlm.nih.gov/Taxonomy/Browser/wwwtax.cgi?id=679935)、
日本JCM種菌寄託センター(Japan Collection of Microorganisms)に寄託されている、寄託番号JCM16770のアリスティペス・ファインゴールディイ、
韓国KCTC種菌寄託センター(Korean Collection for Type Cultures)に寄託されている、寄託番号KCTC 15236のアリスティペス・ファインゴールディイ、
フィンランドヘルシンキ嫌気性菌参考実験室(Anaerobe Reference Laboratory,Helsinki Collection,National Public health Institute,Helsinki,Finland)に寄託されている、寄託番号AHN2437のアリスティペス・ファインゴールディイ、
スウェーデンCCUG菌種寄託センター(Culture Collection University of Gothenburg)に寄託されている、寄託番号CCUG46020のアリスティペス・ファインゴールディイ、
フランスCIP種菌寄託センター(Collection de L'Institut Pasteur of Institut Pasteur)に寄託されている、寄託番号CIP107999のアリスティペス・ファインゴールディイ、
中国広東省微生物菌種寄託センターに寄託されている、寄託番号GDMCC 1.2324のアリスティペス・ファインゴールディイ
好ましくは、前記アリスティペス・ファインゴールディイ(Alistipes finegoldii)に含まれる16S rDNA配列は、配列番号1に示されるアリスティペス・ファインゴールディイ菌種(Alistipes finegoldii)の16S rDNA配列と少なくとも99%の相同性を有する。
【0037】
より好ましくは、前記アリスティペス・ファインゴールディイ細菌は、DSMに寄託されている寄託番号17242のアリスティペス・ファインゴールディイ(Alistipes finegoldii)菌株である。
【0038】
より好ましくは、アロステリス属(Alistipes)に属する細菌と免疫チェックポイント阻害剤とを同時に又は別個に投与する。
【0039】
好ましくは、前記細菌代謝物は、細菌の調製及び貯蔵の間、ならびに哺乳動物の消化管輸送の間に、細菌の成長、生存、滞留、輸送又は存在の結果として、前記細菌によって生産又は修飾された全ての分子を含む。
【0040】
より好ましくは、前記細菌代謝物は、全ての有機酸、無機酸、塩基、タンパク質及びペプチド、酵素及び補酵素、アミノ酸及び核酸、炭水化物、脂質、糖タンパク質、リポタンパク質、糖脂質、ビタミン、全ての生物学的に活性な化合物、無機成分を含有する代謝物、例えば窒素含有分子又は亜硫酸含有分子などの小分子を含む。
【0041】
好ましくは、前記細菌誘導体は、細菌構成成分と遺伝物質及び関連成分とを含み、具体例としては、細菌細胞膜、菌毛、鞭毛、LPS、核酸物質などの細菌由来成分を含む。
【0042】
好ましくは、前記不活性全細胞細菌は、細菌を培養して増幅した後、種々の方法で不活性化することにより得られる。
【0043】
より好ましくは、前記細菌の不活化手段は、高温及び/又は高圧不活化、紫外線不活化、放射線不活化、ホルムアルデヒド、アセトン、フェノール類などの化学剤不活化から選ばれるいずれか1種又は2種以上である。
【0044】
さらに好ましくは、前記化学剤はホルムアルデヒド、アセトン、フェノール類のいずれか1種又は2種以上である。
【0045】
より好ましくは、前記不活性全細胞細菌は、細菌全細胞成分、細菌全細胞誘導体、又は細菌全細胞代謝産物の1種又は2種以上を含む。
【0046】
より好ましくは、前記細菌全細胞成分は、細菌構成成分と遺伝物質及び関連成分とを含み、具体的には、細菌細胞壁、細胞膜、菌毛、鞭毛、LPS、核酸物質などの細菌由来成分の1種又は2種以上を含む。
【0047】
より好ましくは、前記細菌全細胞誘導体は、細菌細胞外小胞、細菌関連エクソソーム、プロファージの1種又は2種以上を含む。
【0048】
より好ましくは、前記細菌全細胞代謝産物は、細菌全細胞成分が産生に関与する代謝産物を意味し、全ての有機酸、無機酸、塩基、タンパク質及びペプチド、酵素及び補酵素、アミノ酸及び核酸、炭水化物、脂質、糖タンパク質、リポタンパク質、糖脂質、ビタミン類、全ての生物学的に活性な化合物、無機成分を含有する代謝物、例えば窒素含有分子又は亜硫酸含有分子などの小分子の1種又は2種以上を含む。
【0049】
好ましくは、前記腫瘍の治療は、腫瘍の縮小又は安定化、総生存期間の延長、無増悪生存期間の延長、及び生活の質の改善として示される。
【0050】
好ましくは、前記腫瘍は、腺腫、悪性腫瘍、及び腺癌であり、腫瘍は、組織由来や細胞名によって分類されると、副腎皮質癌、膀胱尿路上皮癌、乳癌、膵臓癌、子宮頸癌、胆管癌、結腸癌、結腸直腸癌、びまん性大B細胞リンパ腫、多形性膠芽腫、神経膠腫、頭頸部癌、腎嫌色細胞癌、混合腎癌、腎臓癌、白血病、リンパ腫、脳癌、肝臓癌、肺腺癌、肺扁平上皮癌、中皮癌、卵巣癌、膵臓癌、クロム親和性細胞腫、副神経節癌、前立腺癌、直腸腺癌、肉腫、皮膚黒色腫、胃癌、食道癌、精巣癌、甲状腺癌、胸腺癌、子宮内膜癌、子宮肉腫、ぶどう膜黒色腫、及び軟部肉腫の1種又は2種以上である。
【0051】
本発明の一特定実施例において、前記細菌(Af)は、DSMに寄託されている寄託番号17242のアリスティペス・ファインゴールディイ(Alistipes finegoldii)菌株の細菌生菌であり、前記腫瘍は結腸癌又は黒色腫であり、前記免疫チェックポイント阻害剤は、クローン番号G4C2のPD-1モノクローナル抗体(αPD-1)、又はクローン番号9D9のCTLA4モノクローナル抗体(αCTLA4)である。
【0052】
本発明の一特定実施例において、前記細菌(Af)は、DSMに寄託されている寄託番号17242のアリスティペス・ファインゴールディイ(Alistipes finegoldii)菌株の不活性細菌であり、前記腫瘍は結腸癌又は肺癌であり、前記免疫チェックポイント阻害剤(αPD-1)は、クローン番号G4C2である。
【0053】
好ましくは、前記腫瘍は、悪性腫瘍、転移性腫瘍又は非転移性腫瘍である。
【0054】
好ましくは、ここでは、前記腫瘍は悪性、転移性及び非転移性のタイプを含み、癌のあらゆる段階(臨床ステージ:I、II、III、又はIV;悪性腫瘍TNM分類:T1-4、N0-4、又はM0-1;組織ステージ:G1、G2、G3、又はG4など)を含む。
【0055】
より好ましくは、前記免疫チェックポイント阻害剤は、T細胞抑制性共刺激(共阻害)分子及び/又はそれぞれのリガンドに作用するブロッカーの1種又は2種以上の組み合わせである。
【0056】
さらに好ましくは、T細胞抑制性共刺激(共阻害)分子及び/又はそれぞれのリガンドは、CTLA-4、PD-1、PD-L1、PD-L2、B7-1、B7-2、B7-H3、B7-H4、B7-H6、A2AR、IDO、TIM-3、BTLA、VISTA、TIGIT、LAG-3、CD40、KIR、CEACAM1、GARP、PS、CSF1R、CD94/NKG2A、TDO、TNFR、及びDcR3から選ばれる1種又はこれらの任意の2種以上の組み合わせである。
【0057】
よりさらに好ましくは、前記T細胞抑制性共刺激(共阻害)分子のリガンドのブロッカーは、ニボルマブ(nivolumab、PD-1モノクローナル抗体)、イピリムマブ(ipilimumab、CTLA-4モノクローナル抗体)、ペムブロリズマブ(pembrolizumab、PD-1モノクローナル抗体)、アゼトリズマブ(azetolizumab、PD-L1モノクローナル抗体)、アテゾリズマブ(atezolizumab、PD-L1モノクローナル抗体)、カムレリズマブ(camrelizumab、PD-L1モノクローナル抗体)、チスレリズマブ(tislelizumab、BGB-A317)、デュバルマブ(durvalumab、PD-L1モノクローナル抗体)、トラメムマブ(tremelimumab、CTLA-4モノクローナル抗体)、スパルタリズマブ(spartalizumab、PD-1モノクローナル抗体)、アベルマブ(avelumab、PD-L1モノクローナル抗体)、シンチリマブ(sintilimab、PD-1モノクローナル抗体)、トリパリマブ(toripalimab、PD-1モノクローナル抗体)、セミプリマブ(cemiplimab、PD-1モノクローナル抗体)、MGA012(retifanlimab、PD-1モノクローナル抗体)、MGD013(tebotelimab、PD-1/LAG-3二重モノクローナル抗体)、MGD019(PD-1/CTLA-4二重モノクローナル抗体)、エノブリツズマブ(enoblituzumab、B7-H3モノクローナル抗体)、MGD009(B7-H3モノクローナル抗体)、MGC018(B7-H3モノクローナル抗体)、MEDI0680 (PD-1モノクローナル抗体)、PDR001(PD-1モノクローナル抗体)、FAZ053(PD-L1モノクローナル抗体)、PDR001FAZ053、TSR022(TIM-3モノクローナル抗体)、MBG453(TIM-3モノクローナル抗体)、relatlimab(BMS986016、LAG-3モノクローナル抗体)、LAG525(LAG-3モノクローナル抗体)、IMP321(LAG-3モノクローナル抗体)、REGN3767(LAG-3モノクローナル抗体)、ペキシダルチニブ(pexidartinib、CSF-1Rモノクローナル抗体)、LY3022855(CSF-1Rモノクローナル抗体)、FPA008(CSF-1Rモノクローナル抗体)、BLZ945(CSF-1Rモノクローナル抗体)、GDC0919(navoximod, IDOモノクローナル抗体)、エパカドスタット(epacadostat,IDOモノクローナル抗体)、indoximid(IDOモノクローナル抗体)、BMS986205(IDOモノクローナル抗体)、CPI-444(A2ARモノクローナル抗体)、MEDI9447(oleclumab、CD73モノクローナル抗体)、PBF509(A2ARモノクローナル抗体)、及びリリルマブ(lirilumab、KIRモノクローナル抗体)から選ばれる1種又はこれらの任意の2種以上の組み合わせであり、好ましくは、前記ブロッカーは、ニボルマブ、ペムブロリズマブ、トリパリマブ、シンディリルマブ、セミプリマブから選ばれる1種又はこれらの任意の2種以上の組み合わせである。
【0058】
よりさらに好ましくは、前記免疫チェックポイント阻害剤は、PD-1/PD-L1シグナル経路及び/又はPD-1/PD-L2シグナル経路に作用する阻害剤であり、PD-1はプログラムされた細胞死タンパク質1を意味し、CD279とも呼ばれ、PD-L1(B7-H1又はCD274)及びPD-L2(B7-DC又はCD273)はPD-1のリガンドである。
【0059】
よりさらに好ましくは、前記PD-1/PD-L1シグナル経路及び/又はPD-1/PD-L2シグナル経路の阻害剤は、ニボルマブ(nivolumab、PD-1モノクローナル抗体)、ペムブロリズマブ(pembrolizumab、PD-1モノクローナル抗体)、アセトリスマフ(azetolizumab、PD-L1モノクローナル抗体)、アテソリスマフ(atezolizumab、PD-L1モノクローナル抗体)、カムレリスマフ(camrelizumab、PD-L1モノクローナル抗体)、チスレリズマブ(tislelizumab、BGB-A317)、デュルバルマブ(durvalumab、PD-L1モノクローナル抗体)、スパルタリズマブ(spartalizumab、PD-1モノクローナル抗体)、アベルマブ(avelumab、PD-L1モノクローナル抗体)、シンチリマブ(sintilimab、PD-1モノクローナル抗体)、トリパリマブ(toripalimab、PD-1モノクローナル抗体)、セミプリマブ(cemiplimab、PD-1モノクローナル抗体)、MGA012 (retifanlimab、PD-1モノクローナル抗体)、MGD013(tebotelimab、PD-1/LAG-3二重モノクローナル抗体)、MGD019(PD-1/CTLA-4二重モノクローナル抗体)、MEDI0680(PD-1モノクローナル抗体)、PDR001(PD-1モノクローナル抗体)、及びFAZ053(PD-L1モノクローナル抗体)の1種又はこれらの任意の2種以上の組み合わせである。
【0060】
よりさらに好ましくは、前記PD-1/PD-L1シグナル経路又はPD-1/PD-L2シグナル経路の阻害剤は、イピリムマブ、トレメリムマブ、又はMGD019から選ばれる1種又はこれらの任意の2種以上の組み合わせである。
【0061】
よりさらに好ましくは、前記免疫チェックポイント阻害剤は、CTLA-4/B7-1シグナル経路及び/又はCTLA-4/B7-2シグナル経路に作用する阻害剤であり、CTLA-4は細胞傷害性Tリンパ球タンパク質4を意味し、CD152とも呼ばれ、B7-1(CD80)及びB7-2(CD86)はCTLA-4のリガンドである。
【0062】
よりさらに好ましくは、イピリムマブ(ipilimumab、CTLA-4モノクローナル抗体)、トレメリムマブ(tremelimumab、CTLA-4モノクローナル抗体)、MGD019(PD-1及びCTLA-4二重モノクローナル抗体)、又はこれらの任意の2種以上の組み合わせであってもよい。
【0063】
本発明の一特定実施例として、前記免疫チェックポイント阻害剤は、PD-1/PD-L1シグナル経路及び/又はPD-1/PD-L2シグナル経路に作用する阻害剤、及び/又はCTLA-4/B7-1シグナル経路及び/又はCTLA-4/B7-2シグナル経路に作用する阻害剤である。
具体的には、前記免疫チェックポイント阻害剤はPD-1モノクローナル抗体又はCTLA-4モノクローナル抗体である。
【0064】
好ましくは、化学療法、免疫療法、放射線療法は、Afの投与と同時に、別個に、又は順次行われる。
【0065】
好ましくは、前記投与対象はヒトであり、前記ヒトは、乳幼児、小児、青少年、成人又は老人である。
【0066】
好ましくは、前記投与対象は非ヒト霊長類であり、前記非ヒト霊長類は、哺乳類(例えば、イヌ、ネコ、フェレット、ウマ、ウサギ、モルモット、スナネズミ、ハムスター、キタリス、ラット、マウス)の非ヒト霊長類;鳥類;爬虫類;魚;両生類;節足動物又は家畜動物(例えば、牛、豚、羊、ヤギ、アルパカ、ロバ、ラクダ、バッファロー又はミンク)である。
【0067】
好ましくは、前記細菌CFU(コロニー形成単位)を105~1012個、又は107~1011、又は108~1011、又は109~1011、又は1010~1011、より好ましくは、109~1011個を含む用量で前記細菌(Af)を投与する。
【0068】
本発明は、以下のものをさらに含む。
【0069】
前記免疫チェックポイント阻害剤の1種又は2種以上と、前記細菌とを含むか、又は、前記免疫チェックポイント阻害剤の1種又は2種以上と、前記細菌とからなる腫瘍治療用キット。
【0070】
好ましくは、前記キットは、容器を含む。
【0071】
アリスティペス(Alistipes)の16S rDNA配列と少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、少なくとも99.5%、又は100%の相同性を有する16S rDNA配列を含む細菌であって、細菌生菌、不活性細菌、細菌誘導体、又は細菌代謝産物の1種又は2種以上である。
【0072】
アリスティペス・ファインゴールディイ(Alistipes finegoldii)の16S rDNA配列と少なくとも99%の相同性を有する16S rDNA配列を含む細菌であって、細菌生菌、非活性細菌、細菌誘導体及び細菌代謝産物の1種又は2種以上である。
【0073】
以下の菌株のいずれか1種の16S rDNA配列と少なくとも99%又は100%の相同性を有する16S rDNA配列を含む細菌であって、細菌生菌、非活性細菌、細菌誘導体及び細菌代謝産物の1種又は2種以上である。
【0074】
ドイツ微生物菌種寄託センターDSMZに寄託されている、寄託番号DSM 17242のアリスティペス・ファインゴールディイ(Deutsche Sammlung von Mikroorganismen und Zellkulturen = German collection of microorganisms and cell cultures)(NCBI:txid679935 ,https://www.ncbi.nlm.nih.gov/Taxonomy/Browser/wwwtax.cgi?id=679935)、
日本JCM種菌寄託センター(Japan Collection of Microorganisms)に寄託されている、寄託番号JCM16770のアリスティペス・ファインゴールディイ、
韓国KCTC種菌寄託センター(Korean Collection for Type Cultures)に寄託されている、寄託番号KCTC 15236のアリスティペス・ファインゴールディイ、
フィンランドヘルシンキ嫌気性菌参考実験室(Anaerobe Reference Laboratory,Helsinki Collection,National Public health Institute,Helsinki,Finland)に寄託されている、寄託番号AHN 2437のアリスティペス・ファインゴールディイ、
スウェーデンCCUG菌種寄託センター(Culture Collection University of Gothenburg)に寄託されている、寄託番号CCUG46020のアリスティペス・ファインゴールディイ、
フランスCIP種菌寄託センター(Collection de L'Institut Pasteur of Institut Pasteur)に寄託されている、寄託番号CIP107999のアリスティペス・ファインゴールディイ、
中国広東省微生物菌種寄託センターに寄託されている、寄託番号GDMCC 1.2324のアリスティペス・ファインゴールディイ。
【0075】
好ましくは、前記不活性細菌は、不活性全細胞細菌である。
【0076】
好ましくは、前記細菌は、生菌完全細菌及び/又は完全活性菌である。
【0077】
その中でも、寄託番号DSM 17242のアリスティペス・ファインゴールディイ(Alistipes finegoldii DSM 17242)の16S rDNA配列は配列番号1に示される。
【0078】
配列番号1:
agagtttgat cctggctcag gatgaacgct agcggcaggc ttaacacatg caagtcgagg
ggcagcgggg agtagcaata ctccgccggc gaccggcgca cgggtgcgta acgcgtatgc
aacctacctt taacaggggc ataacactga gaaattggta ctaattcccc ataacattcg
agaaggcatc ttcttgggtt aaaaactccg gtggttaaag atgggcatgc gttgtattag
ctagttggtg aggtaacggc tcaccaaggc aacgatacat agggggactg agaggttaac
cccccacatt ggtactgaga cacggaccaa actcctacgg gaggcagcag tgaggaatat
tggtcaatgg acgcaagtct gaaccagcca tgccgcgtgc aggaagacgg ctctatgagt
tgtaaactgc ttttgtacta gggtaaacgc ttttacgtgt aggagcctga aagtatagta
cgaataagga tcggctaact ccgtgccagc agccgcggta atacggagga tccaagcgtt
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taccctggta gtccacgcag taaacgatga taactcgttg tcggcgatac acagtcggtg
actaagcgaa agcgataagt tatccacctg gggagtacgt tcgcaagaat gaaactcaaa
ggaattgacg ggggcccgca caagcggagg aacatgtggt ttaattcgat gatacgcgag
gaaccttacc cgggcttgaa agttagtgac gattctggaa acaggatttc ccttcggggc
acgaaactag gtgctgcatg gttgtcgtca gctcgtgccg tgaggtgtcg ggttaagtcc
cataacgagc gcaaccccta ccgttagttg ccatcaggtc aagctgggca ctctggcggg
actgccggtg taagccgaga ggaaggtggg gatgacgtca aatcagcacg gcccttacgt
ccggggctac acacgtgtta caatggtagg tacagagggc cgctaccccg cgaggggatg
ccaatctcga aagcctatct cagttcggat cggaggctga aacccgcctc cgtgaagttg
gattcgctag taatcgcgca tcagccatgg cgcggtgaat acgttcccgg gccttgtaca
caccgcccgt caagccatgg aagctggggg tgcctgaagt tcgtgaccgc aaggagcgac
ctagggcaaa accggtgact ggggctaagt cgtaacaagg taaccaa
【0079】
腫瘍治療用の前記細菌の1種又は2種以上の組成物を有効量で薬学的に許容される担体及び補助材料に加えて、凍結乾燥粉末、錠剤、カプセル剤、顆粒剤又は注射剤として調製する製剤。
【0080】
ここで、「薬学的に許容される担体」とは、生体に対して明らかな刺激性を引き起こさず、かつ、与えられた化合物の生物活性及び性質を妨げない担体をいう。ここで、「補助材料」とは、溶剤、希釈剤又はその他の賦形剤、分散剤、界面活性剤をいう。
【0081】
前記細菌及び薬学的に許容される担体を含む組成物。
【0082】
医薬品として使用するために調製された上記のいずれかに記載の細菌を含む組成物。
【0083】
医療用食品として使用するために調製された上記のいずれかに記載の細菌を含む組成物。
【0084】
上記のいずれかに記載された細菌菌株の2種以上の混合物を含む組成物であって、必要に応じて薬学的に許容される担体をさらに含む組成物。
【0085】
腫瘍治療用の上記のいずれかに記載の細菌の2種以上を有効量で含む組成物であって、必要に応じて薬学的に許容される担体をさらに含む組成物。
【0086】
腫瘍治療用の上記のいずれかに記載の細菌の細菌生菌、不活性細菌、細菌誘導体、又は細菌代謝産物の1種又は2種以上を有効量で組成物であって、必要に応じて薬学的に許容される担体をさらに含む組成物。
【0087】
上記のいずれかに記載の細菌を含み、経腸栄養用として製剤化される飲食品、サプリメント、プロバイオティクス又は健康食品。
【0088】
上記のいずれかに記載の2種以上の細菌の混合物を含み、経腸栄養用として製剤化する飲食品、サプリメント、プロバイオティクス又は健康食品。
【0089】
凍結乾燥粉末、錠剤、カプセル剤、顆粒剤又は注射剤として調製された上記のいずれかに記載の細菌又は組成物。
【0090】
投与対象がヒトであることを特徴とする、上記のいずれかに記載の細菌、製剤、組成物、飲食品、サプリメント、プロバイオティクス又は健康食品。
【0091】
好ましくは、前記ヒトは、乳幼児、小児、青少年、成人又は老人である。
【0092】
非ヒト霊長類に投与され、前記非ヒト霊長類は哺乳類(例えば、イヌ、ネコ、フェレット、ウマ、ウサギ、モルモット、スナネズミ、ハムスター、キタリス、ラット、マウス)の非ヒト霊長類;鳥類;爬虫類;魚;両生類;節足動物又は家畜動物(例えば、牛、豚、羊、ヤギ、アルパカ、ロバ、ラクダ、バッファロー又はミンク)である上記のいずれかに記載の細菌、製剤、組成物、飲食品、サプリメント、プロバイオティクス又は健康食品。
【0093】
上記のいずれかに記載の細菌、製剤、組成物、飲食品、サプリメント、プロバイオティクス又は健康食品の腫瘍治療における使用。
【0094】
上記のいずれかに記載の細菌、前記細菌の有効量を含む、製剤、組成物、飲食品、サプリメント、プロバイオティクス又は健康食品の腫瘍治療における使用。
【0095】
上記のいずれかに記載の細菌、前記細菌の有効量を含む、製剤、組成物、飲食品、サプリメント、プロバイオティクス又は健康食品の腫瘍治療における使用であって、前記腫瘍治療では、上記のいずれかに記載の細菌、製剤、組成物、飲食品、サプリメント、プロバイオティクス又は健康食品を投与する、ことを特徴とする使用。
【0096】
癌治療用の上記のいずれかに記載の細菌又は組成物を有効量で含む組成物であって、必要に応じて薬学的に許容される担体をさらに含む組成物。
【0097】
癌治療用の上記のいずれかに記載の細菌又は組成物の2種以上を有効量で含む組成物であって、必要に応じて薬学的に許容される担体をさらに含む組成物。
【0098】
アリスティペス・ファインゴールディイ(Alistipes finegoldii)生菌と、免疫チェックポイント阻害剤とを含む組成物。
【0099】
好ましくは、前記免疫チェックポイント阻害剤は、PD-1モノクローナル抗体(αPD-1)及び/又はCTLA-4モノクローナル抗体(αCTLA4)である。
【0100】
本発明はまた、腫瘍治療薬の調製における前記組成物の使用を含む。
【0101】
本発明はまた、前記組成物を含む医薬品、具体的には、アリスティペス・ファインゴールディイ(Alistipes finegoldii)と免疫チェックポイント阻害剤とを有効成分とする腫瘍治療用の医薬組成物を含む。
【0102】
腫瘍治療用の免疫チェックポイント阻害剤の増強剤の調製における、アリスティペス属(Alistipes)に属する細菌の細菌生菌、不活性細菌、細菌誘導体、又は細菌代謝産物の1種又は2種以上の使用。
【0103】
好ましくは、免疫チェックポイント阻害剤の増強剤の調製における有効成分としてのアリスティペス・ファインゴールディイの使用であって、前記増強剤は免疫チェックポイント阻害剤の腫瘍治療効果を向上させることができる使用。
【0104】
より好ましくは、アリスティペス・ファインゴールディイ菌株は、以下の菌株の1種又は2種以上の組み合わせである。
【0105】
ドイツ微生物菌種寄託センターDSMZに寄託されている、寄託番号DSM 17242のアリスティペス・ファインゴールディイ(Deutsche Sammlung von Mikroorganismen und Zellkulturen = German collection of microorganisms and cell cultures)(NCBI:txid679935 ,https://www.ncbi.nlm.nih.gov/Taxonomy/Browser/wwwtax.cgi?id=679935)、
日本JCM種菌寄託センター(Japan Collection of Microorganisms)に寄託されている、寄託番号JCM16770のアリスティペス・ファインゴールディイ、
韓国KCTC種菌寄託センター(Korean Collection for Type Cultures)に寄託されている、寄託番号KCTC 15236のアリスティペス・ファインゴールディイ、
フィンランドヘルシンキ嫌気性菌参考実験室(Anaerobe Reference Laboratory,Helsinki Collection,National Public health Institute,Helsinki,Finland)に寄託されている、寄託番号AHN 2437のアリスティペス・ファインゴールディイ、
スウェーデンCCUG菌種寄託センター(Culture Collection University of Gothenburg)に寄託されている、寄託番号CCUG46020のアリスティペス・ファインゴールディイ、
フランスCIP種菌寄託センター(Collection de L'Institut Pasteur of Institut Pasteur)に寄託されている、寄託番号CIP107999のアリスティペス・ファインゴールディイ、
中国広東省微生物菌種寄託センターに寄託されている、寄託番号GDMCC 1.2324のアリスティペス・ファインゴールディイ。
【0106】
本発明は、免疫チェックポイント阻害剤の治療効果を増強させる腫瘍患者の治療に有用なアリスティペス・ファインゴールディイ(Af:Alistipes finegoldii)を提供する。具体的には、本発明は、免疫チェックポイント阻害治療を、活性又は不活性全細胞Af投与と同時に、別個に又は順次行うことにより、免疫チェックポイント阻害の治療効果を増強させる併用療法を提案する。
【0107】
アリスティペス・ファインゴールディイを投与することで腸内固有細菌叢を除去する。
【0108】
抗生物質の組み合わせを使用して腸内細菌叢を除去する。
【0109】
抗生物質の組み合わせを使用して腸内固有菌叢を除去し、7日間処理する。
【0110】
抗生物質の組み合わせ:メトロニダゾール100mg/kg、バンコマイシン50mg/kg、ペニシリンナトリウム100mg/kg、硫酸ネオマイシン100mg/kg。
【0111】
Afの投与は経口投与とする。
【0112】
併用療法の投与順序は、免疫チェックポイント阻害剤治療と同時に、前及び/又は後に前記Afを投与する。
【0113】
前記併用療法では、個々の患者の治療に対する耐性に応じて、必要に応じて、投与遅延及び/又は投与量減少及び時間調整が実施される。
【0114】
本発明の前記Afは、一般に薬学的又は薬理学的に許容される担体に分散された有効量のアリスティペス・ファインゴールディイ(Alistipes finegoldii)を含んでもよい。
【0115】
「薬学的に又は薬理学的に許容される」という用語は、動物(例えば、適切であれば、ヒト)に投与されたときに、副作用、アレルギー反応又は他の不利な反応を生じない分子実体及び組成物を意味する。本明細書に記載の薬理学的に許容される担体の具体例は、ホウ酸塩緩衝液又は無菌塩水溶液である。
【0116】
本発明の前記免疫チェックポイント阻害剤の増強は、免疫チェックポイント阻害剤による治療に対する先天性(原発性)耐性を示し、第1剤から少なくとも約8週間又は12週間に亘って前記チェックポイント阻害剤の治療に対する応答欠如又は応答不足として示される免疫チェックポイント阻害剤の難治性患者に有用である。
【0117】
本発明の前記免疫チェックポイント阻害剤の増強は、前記チェックポイント阻害剤による治療に対する後天性(二次性)耐性を示し、前記チェックポイント阻害剤に対して初期応答を示すが、1種又は2種以上の腫瘍がその後再発し、進行する免疫チェックポイント阻害剤の難治性患者に有用である。
【0118】
本発明の前記併用療法の治療効果の評価は、増加した総総生存期間によって増強された治療効果を測定する。
【0119】
本発明の前記併用療法の治療効果の評価は、増加した無進展生存期間によって増強された治療効果を測定する。
【0120】
本発明の前記併用療法の治療効果の評価は、RECIST1.1に定義されるように、標的腫瘍の疾患安定化(SD)、完全寛解(CR)、又は部分寛解(PR)、及び/又は1種又は2種以上の非標的腫瘍の疾患安定化(SD)又は完全寛解(CR)を含む、1種又は2種以上の腫瘍の腫瘍サイズを減少又は安定化させることによって、前記増強された治療効果を測定する。
【0121】
本発明の前記併用療法の治療効果の評価は、改善された全寛解率及び/又は向上した生活の質によって、増強された治療効果を測定する。
【0122】
本発明の前記併用療法の安全性評価は、下痢又は腸炎を発症しているか否かにより、その安全性を測定する。
【発明の効果】
【0123】
従来技術と比較して、本発明は以下の有益な効果を有する。
【0124】
本発明は、ヒト共生細菌である単菌経口製剤と免疫チェックポイント阻害剤とを併用することで、細菌刺激による抗腫瘍免疫保護反応により、免疫チェックポイント阻害剤の多種類の腫瘍に対する薬効を著しく増強させ、また安全性がより優れ、癌患者の総生存期間を延長し、癌免疫療法を受けている人の応答率を向上させ、癌免疫療法(免疫治療用チェックポイント阻害剤)が適用できる腫瘍患者の範囲を広げる。
【図面の簡単な説明】
【0125】
【
図1】実施例1の臨床コホートを用いた、免疫チェックポイント阻害剤の効果を増強できる腸内細菌のスクリーニングである。
【
図2】実施例1の各アリスティペス菌種と免疫チェックポイント阻害剤の治療効果との関係についての臨床コホート分析である。
【
図3】実施例2における結腸癌及びメラノーマのモデルマウスへの各活性アリスティペス菌種の投与のフローチャートである。
【
図7】実施例2のマウス肛門の写真(21日目)である。
【
図8】実施例2のマウス腸管組織のHE染色図(21日目)である。
【
図9】実施例2の腫瘍組織免疫細胞の免疫組織化学図(21日目)である。
【
図10】実施例2のフローサイトメトリーによる、アリスティペス・ファインゴールディイ投与後の腫瘍殺傷関連免疫保護反応の検出である。
【
図11】実施例3において結腸癌及びメラノーマのモデルマウスに各用量の活性アリスティペス・ファインゴールディイを投与したときの生存曲線図である。
【
図12】実施例4における結腸癌モデルマウスへの活性アリスティペス・ファインゴールディイ及び不活性全細胞アリスティペス・ファインゴールディイの投与のフローチャートである。
【
図13】実施例4の活性アリスティペス・ファインゴールディイ及び不活性全細胞アリスティペス・ファインゴールディイの電子顕微鏡写真の比較図である。
【
図14】実施例4において結腸癌モデルマウスに活性アリスティペス・ファインゴールディイ及び不活性全細胞アリスティペス・ファインゴールディイを投与した場合の腫瘍体積の変化曲線である。
【
図15】実施例4において結腸癌モデルマウスに活性アリスティペス・ファインゴールディイ及び不活性全細胞アリスティペス・ファインゴールディイを投与した場合の腸内細菌叢のβ-多様性PCoA解析である。
【
図16】実施例4において結腸癌モデルマウスに活性アリスティペス・ファインゴールディイ及び不活性全細胞アリスティペス・ファインゴールディイを投与した場合の腸内細菌叢の再構築作用の比較である。
【
図17】実施例4において結腸癌モデルマウスに活性アリスティペス・ファインゴールディイ及び不活性全細胞アリスティペス・ファインゴールディイを投与したマウスの腸内細菌叢の相対存在量上位20細菌属の統計学的差の解析である。
【
図18】実施例5における肺癌モデルマウスへの活性アリスティペス・ファインゴールディイ及び不活性全細胞アリスティペス・ファインゴールディイの投与のフローチャートである。
【
図19】実施例5において肺癌モデルマウスに活性アリスティペス・ファインゴールディイ及び不活性全細胞アリスティペス・ファインゴールディイを投与した場合の腫瘍体積の変化曲線である。
【
図20】実施例5において肺癌モデルマウスに活性アリスティペス・ファインゴールディイ及び不活性全細胞アリスティペス・ファインゴールディイを投与した場合の実験エンドポイントでの腫瘍重量である。
【
図21】実施例5において肺癌モデルマウスに活性アリスティペス・ファインゴールディイ及び不活性全細胞アリスティペス・ファインゴールディイを投与した場合の実験エンドポイントでの腫瘍写真である。
【
図22】実施例6の健常人の腸内及び他の身体部位におけるアリスティペス・ファインゴールディイの相対存在量の分析である。
【
図23】実施例7の健常人及び他の人の腸内における分布及び相対存在量である。
【発明を実施するための形態】
【0126】
以下、明細書の図面及び特定実施例を参照しながら、本発明をさらに詳細に説明するが、前記実施例は本発明を説明するためにのみ使用され、本発明の範囲を限定するものではない。下記実施例に使用される試験方法は、特に断らない限り、いずれも通常の方法であり、使用される材料、試薬などは、特に断らない限り、商業的に入手可能なものである。
【0127】
実施例1 臨床コホートを用いた、免疫チェックポイント阻害剤を増強させることができる腸内細菌のスクリーニング
一、実験方法
1、データセット
(1)腸内細菌叢は108名の結腸直腸癌(CRC)又は食道癌(ESCC)患者の治療後の異なる時点での230個の糞便サンプルから得られた。その中でも、115個のサンプルは免疫チェックポイント阻害剤群(ICI)の患者から得られたものであり、治療方式は、抗PD1抗体治療と化学療法又は標的薬とを併用することであり、115個のサンプルは化学療法群(Chemo)の患者(表1)から得られたものである。治療効果に関する評価は、主に、無進展生存期間(PFS)、生存期間(OS)及び最適治療効果を含む。最適治療効果が完全寛解(CR)と部分寛解(PR)の患者を治療応答性患者(R)と定義し、最適治療効果が疾患安定(SD)と疾患進展(PD)の患者を治療非応答性患者(NR)と定義した。
(2)115個の糞便サンプルからDNAを抽出した後、16S rRNA遺伝子のV3-V4領域増幅とシーケンシングを行った(Illumina HiSeqプラットフォーム)。16S rRNAシーケンシングデータ解析は、品質管理、フィルタリング、種同定のためにUSEARCHソフトウェア(バージョン番号11.0.667)を使用した。1人の患者について複数の治療後の時点での糞便サンプルがある場合、腸内細菌叢の種の存在量は、その後の分析を考慮して、異なる時点の平均値をとる。後の菌株レベルの純粋培養実験で分析結果を検証できるように、LTP(Living Tree Project)データベースを用いて種の同定を行った。LTPデータベースは、観察された形質に基づいて分類された典型的な菌株と分離株の配列を主に収集する。可16S rRNAシーケンシングによる種レベルの細菌鑑定の正確性を能な限り高めるために、同定対象の種に対して信頼性を採点することのできるSINTAXアルゴリズムを用いて種の注釈を行い、種の信頼性が75%を超えると注釈された腸内細菌をスクリーニングして次の分析を行った。
2、統計学的分析
(1)PFSとOSの単因子cox回帰分析:R言語パックsurvival(バージョン番号:3.3-1)を用いて、全ての腸内細菌叢の属レベルの細菌を単因子cox回帰分析にかけた。
(2)群間差の分析:群間差の統計はWilcoxon rank-sum test(ウィルコクソンの順位和検定)統計学的差分析を用いた。
二、実験結果
図1AはChemo群とICI群の治療応答性患者(R)と非応答性患者(NR)の治療後の異なる時点での腸内アリスティペスの平均相対存在量である。ICI群では、R群患者の治療後の腸内アリスティペスの平均相対存在量はNR群患者より有意に高かった(p<0.001)が、Chemo群では、R群患者の治療後の腸内アリスティペスの平均相対存在量はNR群患者との間に有意差がなかった(p=0.99)。治療後に高い存在量のアリスティペスは免疫チェックポイント阻害剤の良い治療効果と相関することを示した。
図1Bは、免疫チェックポイント阻害剤を受けた後のCRCとESCC患者の異なる時点での腸内アリスティペスの平均相対存在量である。
その結果、免疫チェックポイント阻害剤を受けた後、アリスティペスはCRC患者の50%でゼロ値を示したが、ESCC患者の全てでアリスティペスは検出された。そのため、免疫チェックポイント阻害剤の治療を受けた後のアリスティペスの相対存在量の平均値がゼロであるか否かによって、CRC患者を陰性(アリスティペスの相対存在量はゼロ)と陽性(アリスティペスの相対存在量がゼロより大きい)の2群に分けた。免疫チェックポイント阻害剤を受けた後のアリスティペスの相対存在量の平均値により、ESCC患者を高(平均値以上)と低(平均値未満)の2群に分けた。
図1Cは陰性群と陽性群のCRC患者の無進展生存期間(PFS)のKaplan-Meier(KM)曲線の比較である。
図1Dは高群と低群のESCC患者の総生存期間(OS)のKaplan-Meier(KM)曲線の比較である。その結果、陽性群のCRC患者のPFS時間は陰性群の患者より有意に長かった(log-rank p=0.02)。アリスティペスの相対存在量の平均値が高いESCC患者の総総生存期間は、アリスティペスの相対存在量の平均値が低い患者(log-rank p=0.0071)より有意に長かった。
これらのデータは免疫チェックポイント阻害剤を受けた後、腸内の高い存在量のアリスティペスが免疫チェックポイント阻害剤の治療効果発揮に有利であることを示している。
図2は各アリスティペス菌種と免疫チェックポイント阻害剤の治療効果時間との関係の分析である。本データセットでは、信頼度が0.75より大きい11個のアリスティペスに属する操作分類系単位(OTU:Operational Taxonomic Units)を比較し、ここでは、1個のアリスティペス・ファインゴールディイ(Alistipes finegoldii)、4個のアリスティペス・インディスティンクタス(Alistipes indistinctus)、3個のアリスティペス・オンダードンキ(Alistipes onderdonkii)、2個のアリスティペス・シャヒイ(Alistipes shahii)及び1個のアリスティペス・ティモネンシス(Alistipes timonensis)を含む5つのアリスティペス種に関し、その中でも、Otu1557はアリスティペス・ファインゴールディイ(Alistipes finegoldii)と同定され、信頼度は98%であった(表2)。
検出された5種類のアリスティペス菌種のうち、PFSが6ケ月より大きいCRC患者は、αPD-1併用化学療法を受けた後、腸内のアリスティペス・ファインゴールディイ(Alistipes finegoldii)、アリスティペス・ティモネンシス(Alistipes timonensis)及びアリスティペス・シャヒイ(Alistipes shahii)の相対存在量が、PFSが6ケ月より小さい患者より明らかに高かった。一方、PFSが6ケ月より大きいESCC患者及びCRC患者は、αPD-1併用化学療法を受けた後、腸内のアリスティペス・ファインゴールディイ(Alistipes finegoldii)の相対存在量が、PFSが6ケ月より小さい患者より明らかに高かった。その結果、アリスティペス・ファインゴールディイ(Alistipes finegoldii)は免疫チェックポイント阻害剤に対する増強作用が他のアリスティペス菌種よりも広いスペクトルである可能性が示された。
【0128】
実施例2 各活性アリスティペス菌種単独又は活性アリスティペス菌種の組み合わせによる免疫チェックポイント阻害剤に対する増強効果の比較
一、実験方法
1、実験材料
(1)マウス系統:6週齢のC57BL/6J雌マウス
(2)腫瘍細胞株:ラット黒色腫細胞系(B16-OVA、ATCC)、ラット結腸癌細胞系(MC38、ATCC)
(3)アリスティペス菌種(Alistipes.sp)は以下から選ばれる。
アリスティペス・ファインゴールディイ(Alistipes finegoldii、DSM No.:17242、Type strain、その16S rDNA配列は配列番号1に示す)であって、略称はAfであり、ドイツ微生物菌種寄託センターDSMZ(DSMZの公式サイト:http://www.dsmz.de)から購入した。
アリスティペス・シャヒイ(Alistipes shahii、DSM No.:19121、Type strain)であって、略称はAsであり、ドイツ微生物菌種保存センターDSMZから購入した。
(4)細菌培地:処方には主にペプトン、酵母抽出物、牛肉抽出物、及びブドウ糖などが含まれ、ドイツ微生物菌種保存センターDSMZから購入した液体DSMZ104培地。
(5)免疫チェックポイント阻害剤:PD-1モノクローナル抗体(αPD-1)、クローン番号G4C2、試薬は上海君実生物医薬科技股フェン有限公司から贈呈。
(6)抗生物質の組み合わせ:メトロニダゾール100mg/kg、バンコマイシン50mg/kg、ペニシリンナトリウム100mg/kg、ネオマイシン硫酸100mg/kg。
2、実験群分け
実験群を表3に示す。
Aistipes.sp=1)Af:アリスティペス・ファインゴールディイ(Alistipes finegoldii)、2)As:アリスティペス・シャヒイ(Alistipes shahii)、3)Af+As:アリスティペス・ファインゴールディイ(Alistipes finegoldii)+アリスティペス・シャヒイ(Alistipes shahii)
3、実験のステップ(流れは
図3参照)
(1)活性アリスティペス菌種の培養:アリスティペス菌種(Af、As又はAf+As)をDSMZ104液体培地に接種し、37℃の嫌気槽で18時間培養した後、濃度が1×10
10CFU/mlとなるまで遠心分離した。
(2)腫瘍細胞を、MC38細胞系1×10
6/匹、B16-OVA細胞系5×10
5/匹で皮下に接種した。
(3)1~3日目:各群のマウスに抗生物質を胃内投与して腸内固有菌叢を除去した。
(4)それぞれ5、8、11日目にIgG又はαPD-1を200μg/匹で腹腔内投与した。
(5)それぞれ5、7、9、11、13、15日目に、100μl/匹で胃内投与することによって活性アリスティペス菌種治療を行った。単菌Af又はAs用量:1×10
9CFU/匹。Af+As併用用量:Af:0.5×10
9CFU+As:0.5×10
9CFU/匹。
(6)それぞれ5、8、11、14、17、21日目に腫瘍サイズを測定し、腫瘍体積を算出した。
腫瘍体積=腫瘍幅
2×腫瘍長さ/2
(7)21日目にマウスを安楽死させ、腫瘍組織を取り出して写真を撮り、重さを量り、腸管組織についてHE染色を行って、腸炎の状況を明らかにした。
マウス腫瘍体積の測定、エンドポイントでの腫瘍重量の測定、免疫組織化学評価による腫瘍組織の免疫細胞浸潤の効果評価を行った。
マウス肛門と腸管組織の切片のHE染色を用いて、アリスティペス・ファインゴールディイが腸炎を引き起こすか否かを評価し、安全性の評価を行った。
フローサイトメトリーを用いて、マウスの血液中の腫瘍殺傷関連免疫細胞を検出し、系の抗腫瘍免疫反応を評価した。
二、実験結果
図4は21日目の腫瘍である。
図5は腫瘍体積の変化曲線であり、
図6は腫瘍重量の統計図であり、MC38結腸癌及びB16-OVAメラノーマのマウスモデルでは、未治療群(IgG)に対して、単剤療法群(αPD-1)は明らかかつ有意(p<0.01)な腫瘍縮小を示し、一方、単剤療法群(αPD-1)に対して、活性Af併用療法群(αPD-1+Af)のみは明らかかつ有意(p<0.01)な腫瘍縮小を示したが、活性As併用療法群(αPD-1+As)及び活性Af+As併用療法群(αPD-1+Af+As)は、単剤療法群(αPD-1)との間には、統計学的差はなかった。
アリスティペス・ファインゴールディイがαPD-1の抗腫瘍効果を増強させることが確認された。一方、アリスティペス・シャヒイ(As)及びアリスティペス・シャヒイとアリスティペス・ファインゴールディイの組み合わせ(Af+As)はαPD-1の抗腫瘍を増強させる効果がなかった。
これに加えて、アリスティペス・ファインゴールディイ活性菌単独治療群のマウス(IgG+Af)と未治療群(IgG)では、腫瘍には差がなく、アリスティペス・ファインゴールディイの抗腫瘍作用はαPD-1に依存することを示した。
図7のマウスの肛門写真及び
図8の腸管組織切片のHE染色から明らかなように、活性Af単独治療群(IgG+Af)とAf併用療法群(αPD-1+Af)のいずれのマウスでも、腸炎が認められず、アリスティペス・ファインゴールディイの経腸胃投与の安全性が証明された。
図9の実験エンドポイントでのMC38マウスモデルの腫瘍組織免疫組織化学から明らかなように、活性Af併用療法群(IgG+Af)は、腫瘍間質領域CD4
+ヘルパーT細胞浸潤を有意に増加できることが示され、単剤療法群(αPD-1)に比べて、活性Af併用療法群(αPD-1+Af)は腫瘍間質領域CD4
+ヘルパーT細胞浸潤を増加させる傾向を示したが、統計学的差はなかった。未治療群(IgG)に比べて、単剤療法群(αPD-1)のマウスでは、実験エンドポイントでのCD4
+ヘルパーT細胞浸潤も増加する傾向にあったが、統計学的差はなかった。この結果は、単剤療法(αPD-1)と活性Af併用療法(αPD-1+Af)のマウスの腫瘍組織への免疫細胞浸潤への影響が短時間である可能性を示唆しており、実験エンドポイントの腫瘍サンプルでは有意差は検出できなかった。Af併用療法(IgG+Af)はマウス腫瘍組織への免疫細胞浸潤に対する影響の持続時間が長く、治療中止1週間後にもCD4
+ヘルパーT細胞浸潤が有意に上昇し、このことからも、活性アリスティペス・ファインゴールディイ単菌の経口投与による腫瘍免疫微環境の調節作用が証明された。
図10はフローサイトメトリーによる、MC38マウスモデルの腫瘍殺傷関連免疫細胞、すなわちグラニュラーゼ陽性CD8
+T細胞、グラニュラーゼ陽性NK細胞及びIL-6
+好中球の存在量の検出である。その結果、活性Af併用療法群(αPD-1+Af)は、単剤療法群(αPD-1)に比べて、グラニュラーゼ陽性CD8
+T細胞、グラニュラーゼ陽性NK細胞及びIL-6
+好中球の相対存在量を有意に増加させることが示された。活性アリスティペス・ファインゴールディイとαPD-1の併用は免疫系の腫瘍殺傷作用を増強させることを証明した。
【0129】
実施例3 活性アリスティペス・ファインゴールディイと各免疫チェックポイント阻害剤との併用による総生存期間の延長作用
一、実験方法
1、実験材料
(1)マウス系統:6週齢のC57BL/6J雌マウス
(2)腫瘍細胞株:ラット黒色腫細胞系(B16-OVA、ATCC)、ラット結腸癌細胞系(MC38、ATCC)
(3)アリスティペス・ファインゴールディイ(Alistipes finegoldii、DSM No:17242、Type strain、その16S rDNA配列は配列番号1に示す)であって、略称はAfであり、DSMZドイツ国家培養物寄託センターから購入した。
(4)細菌培地:処方には主にペプトン、酵母抽出物、牛肉抽出物及びブドウ糖などが含まれ、DSMZドイツ国家培養物保存センターから購入した液体DSMZ104培地。
(5)免疫チェックポイント阻害剤:PD-1モノクローナル抗体(αPD-1)、クローン番号G4C2、試薬は上海君実生物医薬科技股フェン有限公司から贈呈。CTLA4モノクローナル抗体(αCTLA4)、クローン番号9D9、米国BioXcellから購入した。
(6)抗生物質の組み合わせ:メトロニダゾール100mg/kg、バンコマイシン50mg/kg、ペニシリンナトリウム100mg/kg、ネオマイシン硫酸100mg/kg。
2、実験群分け
実験群を表4に示す。
3、実験のステップ
(1)活性アリスティペス・ファインゴールディイの培養:アリスティペス・ファインゴールディイをDSMZ104液体培地に接種し、37℃の嫌気槽で18時間培養した後、濃度が1×10
10CFU/mlとなるまで遠心分離した。
(2)腫瘍細胞を、MC38細胞系1×10
6/匹、B16-OVA細胞系5×10
5/匹で皮下に接種した。
(3)1~3日目:各群のマウスに抗生物質を胃内投与して腸内固有菌叢を除去した。
(4)5日目から3日ごとにIgG又はαPD-1又はαCTLA4を200μg/匹で腹腔内投与した。
(5)5日目から2日ごとに、低用量群(low)は100μl/匹、1×10
9CFU/匹、中用量群(medium)は200μl/匹、2×10
9CFU/匹、高用量群(high)は400μl/匹、4×10
9CFU/匹のように、各用量のアリスティペス・ファインゴールディイ治療を胃内投与により行った。
(6)5日目から3日ごとに腫瘍サイズを測定し、腫瘍体積を算出した。
腫瘍体積=腫瘍幅
2×腫瘍長さ/2
(7)治療周期としてマウスの腫瘍が体積(2000mm
3)に成長すると、マウスを安楽死させるか、マウスが腫瘍の理倫体積に達しないで自然死した。
(8)各マウスの死亡状態と時間を記録し、生存曲線図を作成した。
二、実験結果
図11はマウスの生存曲線であり、MC38結腸癌及びB16-OVAメラノーマのマウスモデルでは、免疫チェックポイント阻害剤単剤群(αPD-1)に対して、アリスティペス・ファインゴールディイ高用量(high)、中用量(medium)及び低用量(low)併用療法群(αPD-1+Af)はいずれも担癌マウスの総生存期間を有意に増加させることができた。B16-OVAメラノーママウスモデルでは、アリスティペス・ファインゴールディイはαCTLA4免疫チェックポイント阻害剤に対する治療効果促進作用を示し、αCTLA4と高用量(high)、中用量(medium)及び低用量(low)のアリスティペス・ファインゴールディイとの併用は、いずれも担癌マウスの総生存期間を有意に増加させた。一方、MC38結腸癌マウスモデルでは、αCTLA4免疫チェックポイント阻害剤の薬効作用が強すぎるため、アリスティペス・ファインゴールディイのαCTLA4に対する効果増強作用は観察されなかった。
【0130】
実施例4 活性及び不活性全細胞アリスティペス・ファインゴールディイと免疫チェックポイント阻害剤との併用による腸癌の治療
一、実験方法
1、実験材料
(1)マウス系統:6週齢のC57BL/6J雌マウス
(2)腫瘍細胞株:マウス結腸癌細胞系(MC38、ATCC)
(3)菌株情報:アリスティペス・ファインゴールディイ(Alistipes finegoldii、DSM No.:17242、Type strain、その16S rDNA配列は配列番号1に示す)であって、略称はAfであり、ドイツ微生物菌種保存センターDSMZから購入した(DSMZの公式サイト:http://www.dsmz.de)。
(4)培地成分:処方には主にペプトン、酵母抽出物、牛肉抽出物及びブドウ糖などが含まれ、DSMZドイツ国家培養物保存センターから購入した液体DSMZ104培地。
(5)免疫チェックポイント阻害剤:PD-1モノクローナル抗体(αPD-1)、クローン番号G4C2、試薬は上海君実生物医薬科技股フェン有限公司から贈呈。
(6)抗生物質の組み合わせ:メトロニダゾール100mg/kg、バンコマイシン50mg/kg、ペニシリンナトリウム100mg/kg、硫酸ネオマイシン100mg/kg。
2、実験群分け
実験群を表5に示す。
注:Afはアリスティペス・ファインゴールディイ(Alistipes finegoldii)
3、実験のステップ(流れは
図12参照)
(1)活性Af(Af)の調製:アリスティペス・ファインゴールディイをDSMZ104液体培地に接種し、37℃の嫌気槽で18時間培養した後、濃度が1×10
10CFU/mlとなるまで遠心分離した。リン酸緩衝液(PBS)で菌体を3回洗浄して濃縮し、培地の残留物を洗浄した。
(2)不活性全細胞Af(熱不活化、Af_heat killed)の調製:リン酸緩衝液(PBS)を用いて、(1)で調製した菌体を洗浄して濃縮し、95℃の高温で菌体を5分間加熱した。
(3)腫瘍細胞の皮下接種:MC38細胞系1×10
6/匹。
(4)抗生物質処理:各群のマウスに抗生物質を胃内投与して腸内固有菌群を除去し、7日間処理した。
(5)群別の治療:それぞれ6、9、12日目にリン酸緩衝液(PBS)又はαPD-1を200μg/匹で腹腔内注射した。5、7、9、11、13日目に、100μl/匹、1×10
9CFU/匹で胃内投与することにより活性Af治療を行うか、又は経口投与により不活性全細胞Af治療を行った。それぞれ0日目、5日目、7日目、9日目、11日目、13日目、16日目、19日目、22日目、25日目に腫瘍サイズを測定し、腫瘍体積を算出した。
(6)腫瘍体積を測定する計算式
腫瘍体積=腫瘍幅
2×腫瘍長さ/2
(7)エンドポイント(25日目)でマウスの腸内容物を採取し、16S rRNA遺伝子シーケンシングを用いてマウスの腸内細菌叢の組成を解析し、活性Afと不活性全細胞Afを用いた腸癌治療がマウスの腸内細菌叢に与える影響を比較した。
二、実験結果
図13は活性Af及び不活性全細胞Afの電子顕微鏡写真の比較図であり、不活性全細胞処理では、Af細胞の全細胞完全性が保持され、不活性全細胞Afが抗腫瘍効果を発揮する成分は全細胞成分から由来することがわかった。
図14は活性Af及び不活性全細胞Afを用いた結腸癌治療における腫瘍体積の変化曲線であり、腫瘍体積変化の比較から見ると、MC38結腸癌では、未治療群(PBS)に対して、単剤免疫チェックポイント阻害剤群(αPD-1)は有意(p=0.055)な腫瘍縮小を示さなかったことから、本実施例では、結腸癌は単剤αPD-1治療に耐性であり、一方、αPD-1と活性Af又は不活性全細胞Afとを併用して治療すると、いずれも有意(***:p<0.001)に単剤αPD-1群よりも優れた腫瘍縮小を示した。活性Af及び不活性全細胞Afと免疫チェックポイント阻害剤とを併用した2群の治療効果を比較すると、不活性全細胞Af併用αPD-1は有意(*:p<0.05)に活性Af併用αPD-1よりも腫瘍縮小が優れていた。
以上の結果により、活性Af及び不活性全細胞Afはいずれも免疫チェックポイント阻害剤の抗腫瘍効果を増強できることが証明された。単剤αPD-1の治療効果が悪いか薬剤耐性がある場合、αPD-1を活性Af又は不活性全細胞Afのいずれと併用しても、結腸癌の単剤αPD-1治療に対する薬剤耐性を逆転することができ、そのため、活性Af及び不活性全細胞Afはいずれも免疫チェックポイント阻害剤の難治性腫瘍を治療、減少、抑制又は制御する効力があり、しかも、不活性全細胞Afの抗腫瘍効果は活性Afの抗腫瘍効果より優れていた。
図15に活性Af及び不活性全細胞Afを用いた結腸癌治療における腸内細菌叢のβ-多様性PCoA(principal co-ordinates analysis)の主座標解析である。ここで、腸内細菌叢のβ多様性は異なる腸内環境間の腸内環境全体の細菌の組成の差を指し、2群間の統計学的差の測定には、置換検定とランク和検定に基づく非パラメトリック検定法であるAnosim分析法(Analysis of similarities)を用い、群間の差が群内の差よりも有意に大きいか否かを検証し、群分けが有意であるか否かを判断した。このAnosim方法は主に2つの数値結果がある。1つはRであり、その範囲は(-1,1)であり、異なる群間に差があるか否かを判断するために用いられ、R>0は群間の差が群内の差より大きいことを示し、R<0は群間の差が群内の差より小さいことを示し、Rの値が1に近いほど群間の差が大きいことを示し、もう1つは、群間に有意差があるか否かを示すpである。
その結果、活性Af及び不活性全細胞Afを用いた結腸癌治療における腸内細菌叢のβ多様性には有意に大きな差(R=0.6950、p=0.001)が認められた。活性Af及び不活性全細胞Afを用いて結腸癌を治療することにより、腸内細菌叢全体の組成には明らかで大きな差が存在し、さらに腸粘膜免疫状態の大きな差が生じることが証明された。したがって、実施例5では、不活性全細胞Af及び活性Afの抗腫瘍効果の差は、腸内細菌叢構造への再構築作用の差につながる可能性があり、すなわち、不活性全細胞AfとαPD-1を併用して結腸癌を治療した場合、再構築された腸内細菌叢構造は、増強された抗腫瘍免疫機能と関連している。
図16は、活性Af及び不活性全細胞Afを用いた結腸癌治療における腸内細菌叢の属レベルの組成の違いを比較したものである。
図17は、活性Af及び不活性全細胞Afを用いた結腸癌治療における腸内細菌叢の相対存在量上位20細菌属を比較したWilcoxon rank-sum test(ウィルコクソンの順位和検定)の統計学的差分析である。
その結果、活性Af及び不活性全細胞Afを用いた結腸癌治療の間で腸内細菌叢の相対存在量上位20細菌属のうち、8個の菌属に有意な統計学的差が認められた。それらのうち、差が最も大きいのはバクテロイデス属(Bacteroides)であり、活性Afを用いた治療群では、バクテロイデス属の相対存在量は不活性Af治療群より明らかに高く、もう1つの際立った違いはデスルフィ・ビブリオ属(Desulfovibrio)であり、この菌属は不活性全細胞併用療法群(αPD-1+Af_heat killed)にのみ存在する。一方、Afに属するアリスティペス属(Aistipes)は活性併用療法群では相対存在量が不活性全細胞併用療法群より有意に(p=0.0156)高かった。活性Af及び不活性全細胞Afを用いて結腸癌を治療することにより、腸内細菌叢の属レベルの組成に顕著な差が存在し、さらに差のある腸粘膜免疫状態が生じることが証明された。したがって、実施例4では、活性全細胞Afと不活性全細胞Afとの抗腫瘍効果の差は、腸内の特定の細菌属に対する特異的な富化又は成長の弱化と関連しており、さらに、差のある腸粘膜免疫状態を形成し、差のある抗腫瘍免疫監視を刺激した。
【0131】
実施例5 活性及び不活性全細胞アリスティペス・ファインゴールディイと免疫チェックポイント阻害剤との併用投与による肺癌の治療
一、実験方法
1、実験材料
(1)マウス系統:6週齢のC57BL/6J雌マウス
(2)腫瘍細胞株:マウス肺癌細胞系(LLC、ATCC)
(3)Af菌株情報:アリスティペス・ファインゴールディイ(Alistipes finegoldii、DSM No.:17242、Type strain、その16S rDNA配列は配列番号1に示す)、ドイツ微生物菌株寄託センターDSMZ(DSMZの公式サイト:http://www.dsmz.de)から購入した。
(4)培地成分:処方には主にペプトン、酵母抽出物、牛肉抽出物及びブドウ糖などが含まれ、DSMZドイツ国家培養物保存センターから購入した液体DSMZ104培地。
(5)免疫チェックポイント阻害剤:PD-1モノクローナル抗体(αPD-1)、クローン番号G4C2、試薬は上海君実生物医薬科技股フェン有限公司から贈呈。
(6)抗生物質の組み合わせ:メトロニダゾール100mg/kg、バンコマイシン50mg/kg、ペニシリンナトリウム100mg/kg、硫酸ネオマイシン100mg/kg。
2、実験群分け
実験群を表6に示す。
3、実験のステップ(流れは
図18参照)
(1)活性Af(Af)の調製:アリスティペス・ファインゴールディイをDSMZ104液体培地に接種し、37℃の嫌気槽で18時間培養した後、濃度が1×10
10CFU/mlとなるまで遠心分離した。リン酸緩衝液(PBS)で菌体を3回洗浄して濃縮し、培地の残留物を洗浄した。
(2)不活性全細胞Af(熱不活化、Af_heat killed)の調製:リン酸緩衝液(PBS)を用いて、(1)で調製した菌体を洗浄して濃縮し、95℃の高温で菌体を5分間加熱した。
(3)腫瘍細胞の皮下接種:LLC細胞系1×10
6/匹。
(4)抗生物質処理:各群のマウスに抗生物質を胃内投与して腸内固有菌群を除去し、7日間処理した。
(5)群別の治療:それぞれ6、9、12、15日目にリン酸緩衝液(PBS)又はαPD-1を150μg/匹で腹腔内注射した。それぞれ5、7、9、11、13、15、17、19日目に活性Af又は不活性全細胞Afを、100μl/匹、1×10
9CFU/匹で胃内投与した。それぞれ0日目、5日目、7日目、10日目、13日目、16日目、19日目、22日目、25日目、28日目に腫瘍サイズを測定し、腫瘍体積を算出した。
(6)腫瘍体積を測定する計算式
腫瘍体積=腫瘍幅
2×腫瘍長さ/2
(7)エンドポイント(28日目)で腫瘍重量を測定し、群別に統計を行った。
二、実験結果
図19は、活性Af及び不活性全細胞Afを用いたLLCマウス肺癌モデルの治療における腫瘍体積変化である。未治療群(PBS)に対して、単剤免疫チェックポイント阻害剤群(αPD-1)は有意(ns:p>0.05)な腫瘍縮小を示さず、本実施例では、単剤免疫チェックポイント阻害剤群(αPD-1)はLLCマウス肺癌モデルでは治療効果が悪く、単剤αPD-1治療に耐性があることを示しており、αPD-1と活性Af(αPD-1+Af)又はαPD-1と不活性全細胞Af(αPD-1+Af_heat killed)を併用して治療を行うと、いずれも有意(αPD-1+Af:**p<0.01;αPD-1+Af_heat killed:****p<0.0001)に未治療群(PBS)より優れた腫瘍縮小を示しており、単剤免疫チェックポイント阻害剤群(αPD-1)を比較して、αPD-1と活性Af(αPD-1+Af)又はαPD-1と不活性全細胞Af(αPD-1+Af_heat killed)を併用した群は、いずれも有意(αPD-1+Af:*p<0.05;αPD-1+Af_heat killed:****p<0.0001)に単剤αPD-1より優れた腫瘍治療効果を示しており、活性Af併用αPD-1(αPD-1+Af)と不活性全細胞Af併用αPD-1(αPD-1+Af_heat killed)の治療効果を比較すると、不活性全細胞Afは活性Afよりも治療効果が優れる傾向があったが、統計学的差はなかった(ns:p>0.05)。
図20は、活性Af及び不活性全細胞Afを用いたLLCマウスの肺癌の治療における、エンドポイント時点(28日目)での肺癌腫瘍重量の統計図である。実験のエンドポイントでの腫瘍重量から分かるように、未治療群(PBS)に対して、単剤免疫チェックポイント阻害剤群(αPD-1)は有意な(ns:p>0.05)腫瘍縮小を示さなかった。αPD-1薬剤併用活性Afは単剤αPD-1より有意(ns:p>0.05)に優れた治療効果を示さなかったが、不活性全細胞Af併用αPD-1薬剤による治療は有意(**p<0.01)に単剤αPD-1より優れた治療治療効果を示した。活性Af併用αPD-1と不活性全細胞Af併用αPD-1の治療効果を比較すると、不活性全細胞Af群では、平均重量は活性Af群の平均重量より低かった。その結果、活性Af及び不活性全細胞Afは免疫チェックポイント阻害剤の抗腫瘍効果を増強できることを証明した。単剤αPD-1の治療効果が悪い又は薬剤耐性がある場合、αPD-1を活性Af又は不活性全細胞Afと併用すると、肺癌の単剤αPD-1治療に対する薬剤耐性を逆転できるため、活性Af及び不活性全細胞Afは、いずれも、免疫チェックポイント阻害剤の難治性腫瘍を治療、減少、抑制又は制御する効力があり、しかも、不活性全細胞Afの抗腫瘍効果は活性Afの抗腫瘍効果より優れていた。
図21は活性Af及び不活性全細胞Afを用いた肺癌治療の実験エンドポイントでの腫瘍写真であるが、LLCマウス肺癌モデルにおいて、活性併用療法群(αPD-1+Af)及び不活性全細胞併用療法群(αPD-1+Af_heat killed)の2群では、それぞれ腫瘍が完全に消失したマウスが1例出現した。活性Af及び不活性全細胞Afはいずれも免疫チェックポイント阻害剤の抗腫瘍効果を増強させることが証明された。
【0132】
実施例6 健常人の腸内及び他の身体部位におけるアリスティペス・ファインゴールディイの相対存在量の分析
1.実施方法及びステップ
(1)オリジナルなマクロゲノムデータ由来:米国立衛生研究所(NIH:National Institutes of Health)のヒト細菌叢計画プロジェクトのパブリックデータリソースを用いたマクロゲノム解析データ(Human Microbiome Project, HMP,https://www.hmpdacc.org/)。
(2)細菌の分類及び菌株レベルの同定分析ソフト:MetaPhlAn2及びStrainPhlAn (https://github.com/biobakery/metaphlan2,https://github.com/biobakery/metaphlan)。MetaMetaPhlAn2とStrainPhlAnを併用することにより、マクロゲノムデータを菌株レベルで同定・分析することができる。両方のソフトウェアを使用する場合は、デフォルト設定を使用する。
(3)(2)から菌株の相対存在量(全微生物集団に対するある菌株の割合)を得た後、身体の異なる部位におけるAfの存在量を可視化して分析する。
二、実施結果
図22は健常人の腸管及び他の身体部位におけるAfの相対存在量である。健常人の4つの身体部位(そのうち、553個の腸サンプル、1259個の口腔サンプル、309個の皮膚サンプル、234個の膣サンプル)に由来する2335個のサンプルに対して分析を行った結果、Afは主に腸サンプルに存在し、腸では陽性検出率は73.6%(407/553)であった。一方、Afの検出率は、口腔、皮膚、膣の各サンプルでは、それぞれ1.4%(18/1259)、1.9%(6/309)、1.7%(4/234)であった。Af陽性の腸内サンプル407例では、Afの相対存在量の範囲は0.00006%~9.0%であった。最新の腸内細菌数推定データによれば、体重70kgの健常な成人男性の腸内に含まれる全細菌数は約3.8*10
13個であり、HMPデータベースによれば、健常者の腸内のAf数は約10
6~10
13(Sender, Fuchs et al. 2016)であった。従って、Afは人体に固有の共生腸内細菌であり、主に腸内に定植し、人体との相互作用があり、かつ、Afの相対存在量は一部の人群において優勢な菌種(総腸内細菌叢数に占める割合が1%より大きい菌種と定義される)の地位にあり、本発明のAf及び投与量が10
5~10
12である場合は、安全性が確保されることを証明した。
【0133】
実施例7 健常者及び他の疾患罹患者の腸内におけるアリスティペス・ファインゴールディイの相対存在量の分析
一、実験方法
4つのヒト腸マクロゲノムデータセットを分析し、ここでは、計1396個のヒト糞便サンプルが含まれ、9種類の異なるタイプの人々に及んだ。マクロゲノムシーケンシング技術は、ヒトの腸内細菌種レベルの同定の精度に達することができる。
9種類の異なるタイプの集団は、1)健常な成人、2)結腸直腸腺腫患者、3)大腸癌患者、4)大腸癌術後患者、5)アテローム性動脈硬化性疾患患者、6)免疫チェックポイント阻害剤(ICI)を受ける前の非小細胞肺癌患者、7)免疫チェックポイント阻害剤(ICI)を受けた後の非小細胞肺癌患者、8)免疫チェックポイント阻害剤(ICI)を受ける前の腎臓癌患者、9)免疫チェックポイント阻害剤(ICI)を受けた後の腎臓癌患者を含む。
データセットの詳細を表7に示す。
二、実験結果
図23及び表8の結果によると、アリスティペス・ファインゴールディイ(Af)はそれぞれの集団に存在し、その相対存在量は0.001~0.07%であり、Afの相対存在量は集団によって差があり、ここでは、相対存在量とは、腸内細菌の全菌種に占める特定の菌種の割合である。ヒト腸に含まれている全細菌種の数が約10
14CFU/mlであるとすれば、これらの群のヒトの腸内では、Afは約10
9CFU/ml~10
10CFU/mlであった。
【0134】
なお、以上の実施例は、本発明の技術的解決手段を説明するためにのみ使用され、本発明の特許範囲を限定するものではなく、当業者にとっては、上記の説明及び考え方に基づいて、他のさまざまな形態の変化又は変更を行うことも可能であり、本明細書では、全ての実施形態を網羅する必要はなく、また、これらの実施形態を網羅することもできない。本発明の精神及び原則の範囲内で行われた修正、均等置換や改良などは、全て本発明のクレームの特許範囲に含まれるものとする。
【0135】
(参考文献)
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【配列表】
【国際調査報告】