(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-09-20
(54)【発明の名称】脊髄アイデンティティを持つ神経前駆細胞の作製方法
(51)【国際特許分類】
C12N 5/0797 20100101AFI20230912BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20230912BHJP
A61K 35/30 20150101ALI20230912BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20230912BHJP
A61P 25/02 20060101ALI20230912BHJP
A61P 25/08 20060101ALI20230912BHJP
A61P 25/14 20060101ALI20230912BHJP
A61P 25/16 20060101ALI20230912BHJP
A61P 25/28 20060101ALI20230912BHJP
A61P 21/00 20060101ALI20230912BHJP
A61P 25/18 20060101ALI20230912BHJP
C12N 15/12 20060101ALN20230912BHJP
【FI】
C12N5/0797
C12N5/10
A61K35/30
A61P25/00
A61P25/02
A61P25/08
A61P25/14
A61P25/16
A61P25/28
A61P21/00
A61P25/18
C12N15/12
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023515560
(86)(22)【出願日】2021-09-08
(85)【翻訳文提出日】2023-05-02
(86)【国際出願番号】 CA2021051239
(87)【国際公開番号】W WO2022051847
(87)【国際公開日】2022-03-17
(32)【優先日】2020-09-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】507148294
【氏名又は名称】ユニバーシティー ヘルス ネットワーク
(74)【代理人】
【識別番号】100077012
【氏名又は名称】岩谷 龍
(72)【発明者】
【氏名】フェーリングス,マイケル ジー.
(72)【発明者】
【氏名】カザエイ,モハンマド
(72)【発明者】
【氏名】アフジャ,クリストファー エス.
【テーマコード(参考)】
4B065
4C087
【Fターム(参考)】
4B065AA93X
4B065AA93Y
4B065AB01
4B065AC20
4B065BA01
4B065BA21
4B065BB12
4B065BB19
4B065BB20
4B065BB25
4B065BB34
4B065BC03
4B065BC07
4B065BC11
4B065BC41
4B065CA44
4C087AA01
4C087AA02
4C087BB45
4C087CA04
4C087NA14
4C087ZA01
4C087ZA02
4C087ZA06
4C087ZA15
4C087ZA16
4C087ZA18
4C087ZA20
4C087ZA22
(57)【要約】
本明細書において、人工多能性幹細胞(iPSC)または神経前駆細胞(NPC)から脊髄アイデンティティを持つ神経前駆細胞(spNPC)を製造する方法、細胞集団、該細胞集団を含む組成物、本明細書に記載の方法を用いて製造されたspNPCの使用を提供する。前記方法は、a.Pax6およびSox1を含む神経外胚葉マーカーを発現するパターン形成されていない神経前駆細胞(NPC)を得る工程;b.工程aのパターン形成されていないNPCをプライミングする工程;ならびにc.プライミングしたパターン形成されていないNPCのパターン形成を行うことによりspNPCを作製する工程を含んでいてもよい。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
脊髄アイデンティティを持つ神経前駆細胞(spNPC)を製造する方法であって、
a.パターン形成されていない神経前駆細胞(NPC)を個々の細胞に解離させて、FGF2であってもよいFGF2アゴニストと、FGF8であってもよいFGF8アゴニストとを添加した培養培地中でインキュベートすることによって、パターン形成されていないNPCと比べて、HoxA4および/またはHoxA5であってもよい少なくとも1つのHox遺伝子の発現量が上昇し、Gbx2、Otx2、FoxG1などの少なくとも1つの脳マーカーの発現量が低下した後方化したNPCを作製する工程などによって、後方化したNPCを得る工程;
b.レチノイン酸または合成レチノイン酸類似体であってもよく、EC23であってもよいレチノイン酸受容体アゴニストと、任意の培地成分として、Wnt3aまたはBML-284塩酸塩であってもよいWntシグナル伝達アクチベーターとを添加した培養培地に、後方化したNPCを継代してインキュベートすることによって、継代前の後方化したNPCと比べて、Gbx2、Otx2およびFoxG1の少なくとも1つの発現量が低下した尾側化したNPCを作製する工程;
c.レチノイン酸または合成レチノイン酸類似体であってもよく、EC23であってもよいレチノイン酸受容体アゴニストを添加した適切な培養培地に、尾側化したNPCを継代する工程;ならびに
d.FGF2またはSUN11602であってもよいFGF2アゴニストと、EGFまたはNSC228155であってもよいEGF受容体アゴニストと、740Y-Pまたはその合成アゴニストとを添加した適切な培養培地に、工程c)の尾側化したNPCを継代して、該NPCのアイデンティティが、脊髄アイデンティティを持つ神経前駆細胞(spNPC)として安定化するまで継代を継続する工程
を含み、
各回の継代後または少なくとも1回の継代後に、1日目の培養培地にROCK阻害剤を添加してもよい、
方法。
【請求項2】
パターン形成されていない神経前駆細胞(NPC)をプライミングして外胚葉細胞運命に維持する方法であって、
a.Pax6およびSox1を含む神経外胚葉マーカーを発現するパターン形成されていない神経前駆細胞(NPC)を得る工程;ならびに
b.i.工程aのパターン形成されていないNPCを含む培養培地に、EGF-L7アゴニスト、好ましくはEGF-L7を添加し;かつ
ii.任意の培地成分として、DLL4であってもよいNotchシグナル伝達アクチベーターを前記培養培地に添加することによって、
工程aのパターン形成されていないNPCをプライミングして外胚葉運命に維持する工程
を含む方法。
【請求項3】
a.Pax6およびSox1を含む神経外胚葉マーカーを発現するパターン形成されていない神経前駆細胞(NPC)を得る工程;
b.i.工程aのパターン形成されていないNPCを含む培養培地に、EGF-L7アゴニスト、好ましくはEGF-L7を添加し;かつ
ii.任意の培地成分として、Notchシグナル伝達アクチベーター、好ましくはDLL4を前記培養培地に添加することによって、
工程aのパターン形成されていないNPCをプライミングして外胚葉運命に維持する工程;ならびに
c.i.プライミングしたパターン形成されていないNPCを個々の細胞に解離させて、B27と、N2と、FGF2またはSUN11602であってもよいFGF2アゴニストと、FGF8であってもよいFGF8アゴニストとを添加した培養培地中でインキュベートすることによって、パターン形成されていないNPCと比べて、HoxA4および/またはHoxA5であってもよい少なくとも1つのHox遺伝子の発現量が上昇し、Gbx2、Otx2、FoxG1などの少なくとも1つの脳マーカーの発現量が低下した後方化したNPCを作製し;
ii.B27と、N2と、レチノイン酸または合成レチノイン酸類似体であってもよく、EC23であってもよいレチノイン酸受容体アゴニストと、Wnt3a、AZD2858、Wntアゴニスト1、CP21R7(CP21)、WntまたはBML-284塩酸塩であってもよいWntシグナル伝達アクチベーターとを添加した培養培地に、後方化したNPCを継代してインキュベートすることによって、継代前の後方化したNPCと比べて、Gbx2、Otx2、FoxG1などの少なくとも1つの脳マーカーの発現量が低下した尾側化したNPCを作製し;
iii.B27と、N2と、レチノイン酸または合成レチノイン酸類似体であってもよく、EC23であってもよいレチノイン酸受容体アゴニストとを添加した培養培地に、尾側化したNPCを継代してインキュベートし;かつ
iv.FGF2またはSUN11602であってもよいFGF2アゴニストと、EGFまたはNSC228155であってもよいEGF受容体アゴニストと、740Y-Pまたはその合成アゴニストとを添加した適切な培養培地に、工程iii)の尾側化したNPCを継代して、該NPCのアイデンティティが、脊髄アイデンティティを持つ神経前駆細胞(spNPC)として安定化するまで2~3代以上継代を継続することによって、
プライミングしたパターン形成されていないNPCのパターン形成を行って、spNPCを作製する工程
によって、パターン形成されていないNPCからspNPCを製造することを特徴とし、
各回の継代後または少なくとも1回の継代後に、1日目の培養培地にROCK阻害剤を添加してもよい、
請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
a.i.BMP阻害剤、TGFβ阻害剤、FGF2アゴニストおよびWnt阻害剤を含んでいてもよい人工多能性幹細胞(iPSC)培養培地にiPSCを継代し、約2日間、例えば36時間~4日間インキュベートし;
ii.FGF2であってもよいFGF2アゴニストを含まないiPSC培養培地中で前記iPSCを約4日間培養し、約2日目に、例えば、培養開始時から約36時間~約4日経過後に、BMP阻害剤またはSMAD二重阻害剤を前記培養培地に添加し;
iii.FGF2であってもよいFGF2アゴニストを含まない神経誘導培地中で前記iPSCを約2日間培養して、胚様体を作製し;かつ
iv.FGF2またはSUN11602であってもよいFGF2アゴニストを添加した神経誘導培地中で工程iiiの胚様体を約7~11日間培養して神経ロゼットを作製した後、その後の培養の約2日目に、前記BMP阻害剤または前記SMAD二重阻害剤を培地から除去して、パターン形成されていないNPCを作製することによって、
iPSCからパターン形成されていないNPCを製造する工程;
b.i.工程aのパターン形成されていないNPCを含む培養培地に、EGF-L7アゴニスト、好ましくはEGF-L7を添加し;かつ
ii.任意の培地成分として、DLL4であってもよいNotchシグナル伝達アクチベーターを前記培養培地に添加することによって、
工程aのパターン形成されていないNPCをプライミングして外胚葉運命に維持する工程;ならびに
c.i.プライミングしたパターン形成されていないNPCを個々の細胞に解離させて、FGF2アゴニストと、FGF8であってもよいFGF8アゴニストとを添加した適切な培養培地中でインキュベートすることによって、パターン形成されていないNPCと比べて、HoxA4および/またはHoxA5であってもよい少なくとも1つのHox遺伝子の発現量が上昇し、Gbx2、Otx2および/またはFoxG1を含む脳マーカーの発現量が低下した後方化したNPCを作製し;
ii.レチノイン酸または合成レチノイン酸類似体であってもよく、EC23であってもよいレチノイン酸受容体アゴニストと、Wnt3a、AZD2858、Wntアゴニスト1、CP21R7(CP21)、WntまたはBML-284塩酸塩であってもよいWntシグナル伝達アクチベーターとを添加した適切な培養培地に後方化したNPCを継代してインキュベートすることによって、継代前の後方化したNPCと比べて、Gbx2、Otx2、FoxG1などの少なくとも1つの脳マーカーの発現量が低下した尾側化したNPCを作製し;
iii.レチノイン酸または合成レチノイン酸類似体であってもよく、EC23であってもよいレチノイン酸受容体アゴニストを添加した適切な培養培地に、尾側化したNPCを継代してインキュベートし;かつ
iv.FGF2またはSUN11602と、EGFまたはNSC228155と、740Y-Pまたはその合成アゴニストとを添加した適切な培養培地に、工程iii)の尾側化したNPCを継代して、該NPCのアイデンティティが、脊髄アイデンティティを持つ神経前駆細胞(spNPC)として安定化するまで継代を継続することによって、
プライミングしたパターン形成されていないNPCのパターン形成を行ってspNPCを作製する工程
を含み、
各回の継代後または少なくとも1回の継代後に、1日目の培養培地にROCK阻害剤を添加してもよい、
請求項1または2に記載のspNPCの製造方法。
【請求項5】
前記iPSCが、ヒトiPSC(hiPSC)である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記パターン形成されていないNPCを、約3日間インキュベートする、請求項1、3および4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記後方化したNPCを、さらに約3日間インキュベートする、請求項1、3、4および6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記尾側化したNPCを、さらに約2日間インキュベートする、請求項1、3、4、6および7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記後方化したNPCの製造に使用される培養培地中のFGF2の濃度が、約20ng/ml~約400ng/mlであり、約20ng/ml~約150ng/mlであってもよく、約40ng/mLであってもよい、請求項1、3、4および6~8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記FGF8の濃度が、約50ng/ml~約400ng/mlであり、例えば、約200ng/mLである、請求項1、3、4および6~9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記合成レチノイン酸類似体が、約0.1μMのEC23である、請求項1、3、4および6~10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記Wnt3aの濃度が約100μg/mlである、請求項1、3、4および6~11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記NPCのアイデンティティが安定化するまで該NPCを継代するための培養培地中の前記FGF2の濃度が、約10ng/mlである、請求項1、3、4および6~12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
前記EGFの濃度が約10ng/mlである、請求項1、3、4および6~13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
前記740Y-Pの濃度が約1μMである、請求項1、3、4および6~14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
前記FGF8アゴニストがFGF8bである、請求項1、3、4および6~15のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
前記パターン形成されていないNPCが、Sox2、Pax6、ネスチンおよび少なくとも1つの脳マーカーを発現するスターター神経前駆細胞であり、該少なくとも1つの脳マーカーが、Otx2、Foxg1およびGbx2の少なくとも1つであってもよい、請求項1、3、4および6~16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
前記パターン形成されていないNPCが、胎児細胞に由来するものであり、胚または胎児から得られたものであってもよい、請求項1、3、4および6~17のいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
前記EGF-L7アゴニストがEGF-L7であり、該EGF-L7の濃度が約10ng/mLであってもよい、請求項2~18のいずれか1項に記載の方法。
【請求項20】
前記DLL4の濃度が約0.5μMである、請求項2~19のいずれか1項に記載の方法。
【請求項21】
請求項1~20のいずれか1項に記載の方法によって製造されたspNPCを含む単離された細胞集団であって、該spNPCが患者に由来するものであってもよく、該患者が脊髄損傷患者であってもよく、前記単離された細胞集団が移植用であってもよく、自家移植用であってもよい、細胞集団。
【請求項22】
請求項21に記載の単離された細胞集団と薬学的に許容される担体を含む組成物であって、該薬学的に許容される担体が、培養培地、マトリックスまたは凍結培地であってもよく、GMPグレード、ゼノフリー培地および/または滅菌されたものであってもよい、組成物。
【請求項23】
脊髄損傷または神経変性疾患を有する対象の治療に使用するための、請求項21に記載の細胞集団または請求項22に記載の組成物。
【請求項24】
脊髄損傷もしくは神経変性疾患を有する対象を治療する方法、または脊髄損傷もしくは神経変性疾患を有する対象の治療用医薬品の製造における脊髄損傷もしくは神経変性疾患を治療する方法であって、該方法が、請求項21に記載の単離された細胞集団または請求項22に記載の組成物を投与することによって、脊髄損傷もしくは神経変性疾患を有する対象を治療するか、または脊髄損傷もしくは神経変性疾患を有する対象の治療用医薬品の製造における脊髄損傷もしくは神経変性疾患を治療することを含む、方法。
【請求項25】
前記脊髄損傷が、頸髄損傷、胸髄損傷または腰髄損傷であり、急性であってもよく慢性であってもよい、請求項23に記載の細胞集団もしくは組成物または請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記神経変性疾患が、多発性硬化症(MS)、脳性麻痺(CP)、パーキンソン病、アルツハイマー病、ハンチントン病、筋萎縮性側索硬化症、フリードライヒ運動失調症、レビー小体病、脊髄性筋萎縮症、多系統萎縮症、認知症、統合失調症、麻痺、多発性硬化症、脊髄損傷、脳損傷(例えば脳卒中)、脳神経障害、末梢性感覚ニューロパチー、癲癇、プリオン病、クロイツフェルト・ヤコブ病、アルパース病、小脳/脊髄小脳変性症、バッテン病、大脳皮質基底核変性症、ベル麻痺、ギラン・バレー症候群、ピック病および/または自閉症である、請求項23に記載の細胞集団もしくは組成物または請求項24に記載の方法。
【請求項27】
a)TGFβ阻害剤、FGF2アゴニスト、Wnt阻害剤およびBMP阻害剤を含む培養培地に多能性幹細胞を懸濁する工程;
b)工程(a)で得られた細胞を、Wnt阻害剤とBMP阻害剤を含む培養培地中で懸濁培養する工程;
c)得られたヒト多能性細胞を実質的に無血清の培地と接触させることによって胚様体を形成させる工程;
d)前記胚様体を培養することによって、ロゼット、神経管様構造および神経外胚葉細胞を形成させる工程;
e)前記神経外胚葉細胞のプライミングを、好ましくは、EGF-L7またはそのアゴニスト(例えば、(Notchを阻害するための)DLK1またはDAPTとの組み合わせ)と、(EGFRを活性化させるための)NSC228155またはベータセルリンと、(ICAM-1を阻害するための)A-205804と、(NF-κBを阻害するための)ボルテゾミブおよびバルドキソロンメチルとを使用し、かつDLL4またはNotchシグナル伝達活性化分子でNotchシグナル伝達を活性化することによって行うことにより、前記神経外胚葉細胞を外胚葉細胞運命に維持する工程;
f)高濃度のFGF2アゴニスト、好ましくはFGF2と、高濃度のFGF8アゴニスト、好ましくはFGF8とを用いて(例えば、20ng/mlより高く約400ng/mL以下の濃度のFGF2またはFGF8を用いて)、工程e)でプライミングした細胞を後方化させる工程;
g)工程f)で後方化した細胞を、好ましくは、レチノイン酸類似体であってもよいレチノイン酸受容体アゴニストと、AZD2858、Wntアゴニスト1、CP21R7(CP21)、WntなどのWntアゴニストとで処理することによって、尾側化する工程;ならびに
h)PI3キナーゼ-Akt経路とFGF経路の二重活性化を、好ましくは740Y-Pを用いて行うことによって、工程g)で作製した細胞から脊髄神経前駆細胞の増殖能を誘導する工程
によって、脊髄アイデンティティを持つヒト神経幹/前駆細胞または神経前駆細胞(spNPC)を作製することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項28】
インビトロにおいて多能性幹細胞から請求項27に記載の脊髄神経前駆細胞を派生させる一連の工程において使用するための細胞培養用組成物であって、
前記脊髄神経前駆細胞が、Sox2、Pax6、ネスチンまたはビメンチンのうちの1つ以上の検出マーカーを発現し、かつ神経系細胞への分化能を有すること;
前記細胞培養用組成物が、細胞培養用基礎組成物を含み、各工程に使用される細胞培養用基礎組成物が、表1に記載の組成を有していてもよいこと;
前記細胞培養用組成物が、請求項27の工程e)に記載の、神経外胚葉細胞をプライミングして外胚葉細胞運命に維持させるための、EGF-L7であってもよいEGF-L7アゴニスト、請求項27の工程e)に記載の、プライミングした細胞を後方化させるための、FGF2であってもよいFGF2アゴニストおよび/もしくはFGF8であってもよいFGF8アゴニスト、請求項27の工程g)に記載の、後方化した細胞を尾側化させるための、レチノイン酸であってもよいレチノイン酸受容体アゴニストもしくはWnt3a、ならびに/または請求項27の工程h)に記載の、増殖能を誘導するための740Y-Pをさらに含むこと;ならびに
これらの成分の濃度が、本明細書に記載の濃度または濃度範囲であってもよいこと
を特徴とする、細胞培養用組成物。
【請求項29】
ヒト多能性幹細胞の脊髄神経前駆細胞への分化誘導に使用するための、請求項28に記載の細胞培養用組成物であって、各工程に使用される基礎培地が表1に記載の組成を有する、細胞培養用組成物。
【請求項30】
前記BMP阻害剤が、ノギン(Noggin)、ドルソモルフィン、LDN-193189、ML347、LDN-212854、DMH1、SB431542、LDN-193189、PD169316、SB203580、LY364947、A77-01、A-83-01、GW788388、GW6604、SB-505124、lerdelimumab、metelimumab、GC-1008、AP-12009、AP-11014、LY550410、LY580276、LY364947、LY2109761、SB-505124、E-616452(ALK阻害剤であるRepSox)、SD-208、SM16、NPC-30345、Ki26894、SB-203580、SD-093、アクチビン-M108A、P144、可溶性TBR2-Fc、DMH-1、ドルソモルフィン二塩酸塩、これらの誘導体およびこれらの組み合わせからなる群から選択され、好ましくは、ノギン、ドルソモルフィン、LDN-193189、ML347、LDN-212854、DMH1およびこれらの組み合わせから選択される、請求項4~29のいずれか1項に記載の方法、細胞集団、組成物または細胞培養用組成物。
【請求項31】
前記SMAD二重阻害剤が、TGFβ阻害剤とBMP阻害剤を含み;該TGFβ阻害剤が、SB431532、PD169316、ガルニセルチブ(LY2157299)、LY3200882およびこれらの組み合わせからなる群から選択され;前記BMP阻害剤が、ノギン(Noggin)、ドルソモルフィン、LDN-193189、ML347、LDN-212854、DMH1、SB431542、LDN-193189、PD169316、SB203580、LY364947、A77-01、A-83-01、GW788388、GW6604、SB-505124、lerdelimumab、metelimumab、GC-1008、AP-12009、AP-11014、LY550410、LY580276、LY364947、LY2109761、SB-505124、E-616452(ALK阻害剤であるRepSox)、SD-208、SM16、NPC-30345、Ki26894、SB-203580、SD-093、アクチビン-M108A、P144、可溶性TBR2-Fc、DMH-1、ドルソモルフィン二塩酸塩、これらの誘導体およびこれらの組み合わせからなる群から選択され、好ましくは、ノギン、ドルソモルフィン、LDN-193189、ML347、LDN-212854、DMH1およびこれらの組み合わせから選択される、請求項4~29のいずれか1項に記載の方法、細胞集団、組成物または細胞培養用組成物。
【請求項32】
前記Wnt阻害剤が、XAV939、DKK-1、DKK-2、DKK-3、DKK-4、POCN阻害剤、C59、LGK-974、SFRP-1、SFRP-2、SFRP-5、SFRP-3、SFRP-4、WIF-1、Soggy、IWP-2、IWR1、ICG-001、KY0211、Wnt-C59、LGK974、1WP-L6、これらの誘導体およびこれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項4~31のいずれか1項に記載の方法、細胞集団、組成物または細胞培養用組成物。
【請求項33】
前記多能性幹細胞がヒト多能性幹細胞である、請求項27~32のいずれか1項に記載の方法、細胞集団、組成物または細胞培養用組成物。
【請求項34】
前記ヒト多能性幹細胞が、ヒトiPS細胞またはヒトES細胞である、請求項27~33のいずれか1項に記載の方法、細胞集団、組成物または細胞培養用組成物。
【請求項35】
前記TGFβ阻害剤が、SB431542またはA-83-01である、請求項4~34のいずれか1項に記載の方法、細胞集団、組成物または細胞培養用組成物。
【請求項36】
前記Wnt阻害剤がPOCNである、請求項4~35のいずれか1項に記載の方法、細胞集団、組成物または細胞培養用組成物。
【請求項37】
前記Wnt阻害剤が、C59またはLGK-974である、請求項4~35のいずれか1項に記載の方法、細胞集団、組成物または細胞培養用組成物。
【請求項38】
前記BMP阻害剤がLDN193189である、請求項4~37のいずれか1項に記載の方法、細胞集団、組成物または細胞培養用組成物。
【請求項39】
前記培養培地が、血清または血清代替品をさらに含む、請求項27~38のいずれか1項に記載の方法、細胞集団、組成物または細胞培養用組成物。
【請求項40】
前記培養培地がROCK阻害剤を含む、請求項27~39のいずれか1項に記載の方法、細胞集団、組成物または細胞培養用組成物。
【請求項41】
請求項27~40のいずれか1項に記載の方法によって製造されたヒト多能性幹細胞由来脊髄神経幹/前駆細胞(spNPC)の単離された集団であって、前記脊髄神経幹/前駆細胞が、ネスチン、Sox2およびPax6の少なくとも1つを発現し、従来の神経幹細胞(NSC)と類似した表現型を含んでいてもよく、少なくとも1つのHox遺伝子(好ましくはHoxA4またはHoxA5)を発現していてもよい、単離された集団。
【請求項42】
前記培養された細胞の少なくとも1つが、ネスチン、Sox2およびPax6から選択される1つ以上の検出マーカーを発現するとともに、別の検出マーカーとしてHoxA4またはHoxA5を発現し、前記神経幹/前駆細胞におけるHoxA4の発現量が、従来の方法で誘導された前脳神経前駆細胞におけるHoxA4の発現量と比べて少なくとも50%増加している、請求項41に記載のspNPC集団。
【請求項43】
請求項41または42に記載の単離された細胞集団と担体を含む組成物であって、該担体が、薬学的に許容される担体であってもよく、培養培地またはマトリックスであってもよく、GMPグレード、ゼノフリー培地または滅菌されたものであってもよい、組成物。
【請求項44】
前記脊髄神経幹/前駆細胞が、後方化された細胞であり、パターン形成されていない細胞または前脳神経前駆細胞(fbNPC)と比べて、HoxA4および/またはHoxA5などのHox遺伝子の発現量が高く、Gbx2、Otx2、FoxG1などの脳マーカーの発現量が低い、請求項41に記載の単離された細胞集団。
【請求項45】
前記spNPCが、ニューロン、アストロサイトまたはオリゴデンドロサイトに分化する、請求項41、42および44のいずれか1項に記載のspNPC集団。
【請求項46】
神経変性疾患の脊髄損傷の治療用医薬品の製造における、請求項41、42、44および45のいずれか1項に記載のspNPC集団または請求項43に記載の組成物の使用。
【請求項47】
前記spNPCが、患者の脳または脊髄への移植に使用される、請求項23、24および46のいずれか1項に記載の使用。
【請求項48】
前記神経変性疾患が、多発性硬化症、脳性麻痺、パーキンソン病、アルツハイマー病、ハンチントン病、筋萎縮性側索硬化症、フリードライヒ運動失調症、レビー小体病、脊髄性筋萎縮症、多系統萎縮症、認知症、統合失調症、麻痺、多発性硬化症、脊髄損傷、脳損傷(例えば脳卒中)、脳神経障害、末梢性感覚ニューロパチー、癲癇、プリオン病、クロイツフェルト・ヤコブ病、アルパース病、小脳/脊髄小脳変性症、バッテン病、大脳皮質基底核変性症、ベル麻痺、ギラン・バレー症候群、ピック病および/または自閉症である、請求項46または47に記載の使用。
【請求項49】
神経変性疾患の脊髄損傷を治療する方法であって、神経変性疾患の脊髄損傷の治療を必要とする患者に、請求項41、42、44および45のいずれか1項に記載のspNPC集団または請求項43に記載の組成物を投与することを含む、方法。
【請求項50】
前記spNPCが、患者の脳または脊髄への移植に使用される、請求項49に記載の方法。
【請求項51】
前記神経変性疾患が、多発性硬化症、脳性麻痺、パーキンソン病、アルツハイマー病、ハンチントン病、筋萎縮性側索硬化症、フリードライヒ運動失調症、レビー小体病、脊髄性筋萎縮症、多系統萎縮症、認知症、統合失調症、麻痺、多発性硬化症、脊髄損傷、脳損傷(例えば脳卒中)、脳神経障害、末梢性感覚ニューロパチー、癲癇、プリオン病、クロイツフェルト・ヤコブ病、アルパース病、小脳/脊髄小脳変性症、バッテン病、大脳皮質基底核変性症、ベル麻痺、ギラン・バレー症候群、ピック病および/または自閉症である、請求項49または50に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
特許協力条約に基づく本出願は、米国特許法第119条の下、2020年9月8日に出願された米国仮特許出願第63/075,575号の優先権に基づく利益を主張するものであり、この出願の内容は引用によりその全体が本明細書に援用される。
【0002】
本開示は、Sox2、Pax6、ネスチンおよび少なくとも1つの脳マーカー(Otx2、Foxg1、Gbx2など)を発現するスターター神経前駆細胞、人工多能性幹細胞(iPSC)または胚性幹細胞(ESC)から、脊髄アイデンティティを持つ神経前駆細胞を作製する方法、該細胞を含む組成物、前記細胞を作製するための成分、および前記細胞の使用に関する。
【背景技術】
【0003】
脊髄損傷(SCI)は、転落や交通事故によって発生することが多く、その患者や家族に長期に及ぶ身体的、社会的かつ経済的に悲惨な状況をもたらす(Furlanら、2011;SekhonおよびFehlings、2001)。脊髄損傷の発生時に、脊髄の機械的圧迫や伸展が起こると、軸索障害が発生するとともに、壊死やアポトーシスによりニューロンやグリア細胞の減少が起こる(BaptisteおよびFehlings、2006;Rowlandら、2008;Tatorら、1993)。これらの重要な細胞が減少することによって、脳から生体の他の部分への神経シグナルの伝達ができなくなる。神経シグナルが欠損すると、歩行、把持、腸/膀胱の制御機能などの日常生活動作を行うための能力が損なわれる。脊髄の修復および再生を目的とした神経幹/前駆細胞の細胞移植は、脊髄損傷の治療方法として有望視されている(Khazaeiら、2017;Nagoshiら、2018)。治療に有用である可能性を見据えて、発生段階の異なる様々な種類の神経前駆細胞の研究がなされている。これらの研究から、脊髄損傷の回復には、細胞置換や栄養補給などの複数の機構が関与していることが明らかになっている。これらの機構の一部は、移植細胞の由来源やその発生段階により左右されると考えられている。
【0004】
特徴的な神経表現型を発現する幹細胞は、複雑な多段階プロセスを経て発生する。この多段階プロセスは、神経外胚葉層が陥入して初期神経管が発生することから始まる。この神経管から神経上皮幹/前駆細胞(NPC)が形成される。前方アイデンティティを持つ吻側神経管のNPCから最終的に前脳神経前駆細胞(fbNPC)が形成される。一方、時間空間的に変動するモルフォゲンの濃度勾配に暴露されたNPCは、徐々に成熟して尾側化し、中脳および後脳を形成する。このNPCが時間空間的なモルフォゲンの暴露を受けてさらに成熟すると、さらに尾側化が進んで腹側化が起こり、脊髄神経前駆細胞(spNPC)が形成される(Giffordら、2013)。この連続体において、fbNPCとspNPCは時間空間的に異なる領域に位置し(
図1A)、それぞれが固有の分化プロファイルを持つことから、移植後の回復に差が生じると見られる。さらに、移植細胞の運命は、脊髄損傷部位の微小環境の影響を受けるが、この微小環境では、Shh、BMP、TGFβ、Notchなどのいくつかの細胞運命決定因子がアップレギュレートされている(Chamankhahら、2013;Chenら、2005;De Biaseら、2005)。
【0005】
中枢神経系(CNS)障害の多くでは、重要な神経膠細胞集団の喪失が認められる。したがって、細胞を用いた再生医療は、患者の長期転帰を改善する治療方法として有望視されている。初期の研究ではドナー由来の初代細胞が使用されたが、供給に限りがあり、中枢神経系組織の入手も比較的困難であることから、大規模治療は実施不可能であった。その結果、再生医療分野は、あらゆる種類のヒト体細胞細胞に分化可能で、臨床的に意義の高い多能性幹細胞(PSC)の利用へとシフトしている。
【0006】
胚性幹細胞(ESC)は、胚において3種類の一次胚葉を形成することができる多能性幹細胞である。ESCの研究が進んだことから、幹細胞培養や幹細胞の分化経路に関する知識体系全体の基礎が確立された。残念ながら、ESCは限定的にしか利用できず、倫理問題があることから、課題は残されたままである。しかし、人工多能性幹細胞(iPSC)が見出され、その培養プロトコルが確立されたことから、再生医療研究の再興が起こった。iPSCは、あらゆる患者のあらゆる体細胞から発生させることが可能な再プログラムされた細胞であり、三胚葉すべてと初期のオルガノイドを形成することができる。iPSCは、出生後の体細胞から作製可能であることから倫理問題が解決され、自家治療用のiPSCを作製可能であることから、免疫拒絶のリスクも大幅に低減されている。
【0007】
神経前駆細胞
中枢神経系(CNS)の再生に関連して、間葉系幹細胞、嗅神経鞘細胞、シュワン細胞などの様々な種類の細胞の研究が行われているが1、神経幹細胞としても知られている神経前駆細胞(NPC)は、脳および脊髄の大部分を占めるニューロン、オリゴデンドロサイトおよびアストロサイトの三系統の細胞に分化可能であることから、最も有望視されている。現在までに、脊髄損傷(SCI)、パーキンソン病(PD)、アルツハイマー病(AD)、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、多発性硬化症(MS)、脳卒中などの様々な中枢神経系疾患の治療に関連してNPCの研究が行われている2-8。
【0008】
NPCが示す様々な領域アイデンティティ
脳NPCおよび脊髄NPCの領域アイデンティティは、神経発達の初期段階に確立される(
図1および
図2)。神経管は、胚発生過程において初期外胚葉細胞の陥入により形成される。神経管では、神経特異的マーカーであるSox2およびPax6を発現する神経外胚葉細胞が、最も初期の神経幹細胞になる。この細胞は、神経上皮細胞としても知られている。初期の神経管は、まっすぐに伸びた構造をしている。その後、神経管の最も前方の部分が膨らんで3つの主要な領域が形成され、Otx2、Lim1、FoxA2などの転写因子の助けを借りて、これらの3つの領域から前脳、中脳および後脳がそれぞれ形成される。神経管の後方部分は成熟して脊髄を形成する
9。
【0009】
最も前方/吻側の運命が、最初に確立される領域アイデンティティとなる
9。この領域の細胞は、Otx2、FoxG1、Dlx2、Tbr1、Tbr2などの転写因子を発現する
10,11。Foxg1は、出生後から成人期に至るまで海馬歯状回(DG)において持続的に発現されている
12。吻側神経の運命が決定された後、Wnt、FGF、DKK1、FRZBなどのパターン形成因子の空間的な濃度勾配による位置キューによって、尾側アイデンティティが決定される。脊髄に位置するこれらの細胞は、HoxA2、HoxA3、HoxB3などの転写因子を発現する
13(
図2)。
【0010】
PSCから派生した神経前駆細胞は、インビボの場合と同様に、インビトロでもデフォルト状態では最初に吻側アイデンティティを獲得し14、レチノイン酸(RA)、WNT、FGFなどの様々なキューによって、この原始的なアイデンティティから尾側寄りの運命に転換し、インビボでの分化を模倣することができる。
【0011】
NPCの領域アイデンティティを標的とした移植片と宿主の一体化の増強
残念ながら、NPCを用いた研究において脊髄機能を最大限に回復させるためには、移植片と宿主の一体化を最適化させる必要があるという困難な課題がいまだに残っている。NPCを利用した治療において考慮すべき重要な事項として、領域アイデンティティが見出された。いくつかの研究では、細胞のアイデンティティを標的組織と一致させることによって、移植片と宿主の一体化と細胞の生存率が有意に改善することが示されている15,16。これらの研究から、脊髄損傷やALSなどの脊髄が主に障害を受ける疾患では、脊髄固有のNPC株を樹立する必要性が示唆されている。PSCから純粋なNPC集団を分化誘導する標準的なプロトコルでは、脳アイデンティティを持つ細胞が発生する。このような脳アイデンティティを持つNPCを用いた研究では、実際に、脳アイデンティティを持つNPCは、脊髄のV2a介在ニューロンや脊髄運動ニューロンなどの重要な細胞集団にほとんど分化しないことが判明している。さらに、移植片と宿主の一体化は、異物として導入される興奮性錐体ニューロン、皮質視床グルタミン酸作動性ニューロン、コリン作動性ニューロンなどの皮質細胞集団によっても損なわれる。成体型の脊髄NPC(spNPC)の移植後に皮質脊髄路(CST)が再生することも観察されているが、前脳NPC(fbNPC)では、このような再生は認められていない17。
【0012】
ヒト脊髄NPCプロトコルの必要性
領域アイデンティティを一致させることを支持する証拠が数多く報告されているが、これは、現在の脊髄再生研究とは大きな隔たりがある。すなわち、ヒト多能性幹細胞(hPSC)からNPCを作製する既存のプロトコルの大半では、Otx2、FogG1、Six3、Dlx2などの転写因子を含む前脳アイデンティティおよび/または中脳アイデンティティを発現する細胞が得られる18-21。脊髄アイデンティティを持つNPCを作製する方法の開発が望まれており、このような方法を開発できれば、脊髄ニッチにおいて、生体と細胞の一体化および細胞の生存率を改善できると考えられる。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0013】
ヒト末梢血または体細胞からヒト人工多能性幹細胞(hiPSC)を作製する方法は、患者に特異的なiPSCを得るための最も非侵襲的で簡便な方法である。本明細書では、Sox2、Pax6、ネスチンおよび少なくとも1つの脳マーカー(Otx2、Foxg1、Gbx2など)を発現するスターター神経前駆細胞またはヒト多能性幹細胞(hPSC)から、脊髄アイデンティティを持つ神経前駆細胞(spNPC)を作製するための再現可能なプロトコルについて述べる。本発明者らは、例えば、培養系を確立して、無血清培地とレチノイン酸受容体(RAR)アゴニスト(レチノイン酸(RA)など)を用いることによって、iPSCから脊髄アイデンティティを持つ神経前駆細胞(NPC)を分化誘導することに成功した。
【0014】
本明細書に記載の方法を用いて作製したspNPCは、免疫細胞化学染色および/またはRT-qPCR分析によって、その特性を評価することができる。
【0015】
spNPCは、腹側運動ニューロン、脊髄介在ニューロン、レンショウ細胞、傍灰白質(paragriseal)介在ニューロン、間質介在ニューロン、脊髄固有介在ニューロンなどの、脊髄固有の神経細胞種に最終的に分化することができる。このような種類の神経細胞は、脳アイデンティティを持つ(例えば、パターン形成されていない)神経前駆細胞から作製することはできない。一方で、脳神経前駆細胞は、脳内の様々な種類の神経細胞に最終的に分化することができ、例えば、脊髄アイデンティティを持つ神経前駆細胞からは発生不可能な、皮質ニューロン、皮質下ニューロン、深部核ニューロン、興奮性錐体ニューロン、カルビンジン発現ニューロン、CART発現ニューロン、皮質視床グルタミン酸作動性ニューロン、皮質コリン作動性ニューロンに分化することができる。
【0016】
Sox2、Pax6、ネスチンおよび少なくとも1つの脳マーカー(Otx2、Foxg1、Gbx2など)を発現するスターター神経前駆細胞(NPC)、またはhPSC、hiPSC、ESCなどのPSCは、神経前駆細胞(NPC)に分化させてから使用することができる。実施例1および実施例2で使用しているhPSCは、NPCに分化させる前に、多分化能に関連する遺伝子であるOct4、Sox2およびNanogを発現していた。hPSCから分化させたspNPCは、一般的なNPCマーカー(ネスチン、Sox2および低発現Pax6)を発現し、さらに領域アイデンティティマーカー(例えば、Hox遺伝子)を発現していた。さらに、本明細書において、作製したspNPCは、ニューロスフェア懸濁培養系または単層培養系で拡大培養できることが実証された。その他の領域アイデンティティを持つその他のNPCと同様に、spNPCは、ニューロンの細胞マーカー(例えば、Fox3および/またはβIIIチューブリン)を発現する細胞、アストロサイトの細胞マーカー(例えば、GFAPおよび/またはS100b)を発現する細胞、およびオリゴデンドロサイトの細胞マーカー(例えば、O1、O4、Olig2および/またはOlig1)を発現する細胞に分化させることができた。パターン形成されていないNPCなどのスターターNPCは、脊髄アイデンティティを持つNPCと比べて、脳マーカーの発現量が高く、脊髄マーカー(例えば、Hox遺伝子)の発現量が低い。例えば、脊髄NPCにおける脳マーカーの発現量は、(免疫染色の)検出下限以下である。
【0017】
また、本明細書でさらに述べるように、ホールセルパッチクランプ法による記録を行ったところ、fbNPCから分化させたニューロンとspNPCから分化させたニューロンは、ニューロンが持つ電気生理学的性質(活動電位など)を示すことが明らかになった。
【0018】
本発明の第1の態様は、脊髄アイデンティティを持つ神経前駆細胞(spNPC)を製造する方法であって、
a.任意で行う工程として、パターン形成されていない神経前駆細胞(NPC)を個々の細胞に解離させて、FGF2アゴニストと、FGF8であってもよいFGF8アゴニストとを添加した適切な培養培地中でインキュベートすることによって、パターン形成されていないNPCと比べて、HoxA4および/またはHoxA5であってもよい少なくとも1つのHox遺伝子の発現量が上昇し、Gbx2、Otx2およびFoxG1から選択される少なくとも1つの脳マーカーの発現量が低下した後方化したNPCを作製する工程;
b.レチノイン酸(RA)または合成レチノイン酸類似体であってもよく、EC23であってもよいレチノイン酸受容体アゴニストと、Wnt3aまたはBML-284塩酸塩であってもよいWntシグナル伝達アクチベーターとを添加した培養培地(例えば神経増殖培地)に、後方化したNPCを継代してインキュベートすることによって、継代前の後方化したNPCと比べて、Gbx2、Otx2およびFoxG1のうちの1つ以上の発現量が低下した尾側化したNPCを作製する工程;
c.レチノイン酸または合成レチノイン酸類似体であってもよく、EC23であってもよいレチノイン酸受容体アゴニストを添加した適切な培養培地に、尾側化したNPCを継代する工程;ならびに
d.FGF2またはSUN11602であってもよいFGF2アゴニストと、EGFまたはNSC228155であってもよいEGF受容体アゴニストと、740Y-Pまたはその合成アゴニストとを添加した適切な培養培地に、工程c)の尾側化したNPCを継代して、該NPCのアイデンティティが、脊髄アイデンティティを持つ神経前駆細胞(spNPC)として安定化するまで継代を継続する工程を含み、
各回の継代後または少なくとも1回の継代後に、1日目の培養培地にROCK阻害剤を添加してもよい、
方法を含む。
この方法は、パターン形成されていないNPCまたは後方化したNPCから開始することができる。
【0019】
パターン形成されていないNPCから開始する場合、このパターン形成されていないNPCをプライミングすることができる。
【0020】
本発明の第2の態様は、パターン形成されていない神経前駆細胞(NPC)をプライミングして外胚葉細胞運命に維持する方法であって、
a.Pax6およびSox1を含む神経外胚葉マーカーを発現するパターン形成されていない神経前駆細胞(NPC)を得る工程;ならびに
b.i.工程aのパターン形成されていないNPCを含む培養培地に、EGF-L7アゴニスト、好ましくはEGF-L7を添加し;かつ
ii.任意の培地成分として、DLL4であってもよいNotchシグナル伝達アクチベーターを前記培養培地に添加することによって、
工程aのパターン形成されていないNPCをプライミングしてパターン形成されていないNPCを外胚葉運命に維持する工程
を含む方法を含む。
【0021】
本発明の別の一態様は、パターン形成されていない神経前駆細胞(NPC)から脊髄アイデンティティを持つ神経前駆細胞(spNPC)を製造する方法であって、
a.Pax6およびSox1を含む神経外胚葉マーカーを発現するパターン形成されていない神経前駆細胞(NPC)を得る工程;ならびに
b.i.工程aのパターン形成されていないNPCを含む培養培地に、EGF-L7アゴニスト、好ましくはEGF-L7を添加し;かつ
ii.任意の培地成分として、DLL4であってもよいNotchシグナル伝達アクチベーターを前記培養培地に添加することによって、
工程aのパターン形成されていないNPCをプライミングして外胚葉運命に維持する工程;ならびに
c.i.プライミングしたパターン形成されていないNPCを個々の細胞に解離させて、FGF2アゴニストと、FGF8であってもよいFGF8アゴニストとを添加した適切な培養培地中でインキュベートすることによって、パターン形成されていないNPCと比べて、HoxA4および/またはHoxA5であってもよい少なくとも1つのHox遺伝子の発現量が上昇し、Gbx2、Otx2およびFoxG1を含む少なくとも1つの脳マーカーの発現量が低下した後方化したNPCを作製し;
ii.レチノイン酸または合成レチノイン酸類似体であってもよく、EC23であってもよいレチノイン酸受容体アゴニストと、Wnt3aまたはBML-284塩酸塩であってもよいWntシグナル伝達アクチベーターとを添加した適切な培養培地に、後方化したNPCを継代してインキュベートすることによって、継代前の後方化したNPCと比べて、Gbx2、Otx2およびFoxG1の発現量が低下した尾側化したNPCを作製し;
iii.レチノイン酸または合成レチノイン酸類似体であってもよく、EC23であってもよいレチノイン酸受容体アゴニストを添加した適切な培養培地に、尾側化したNPCを継代してインキュベートし;かつ
iv.FGF2またはSUN11602であってもよいFGF2アゴニストと、EGFまたはNSC228155であってもよいEGF受容体アゴニストと、740Y-Pまたはその合成アゴニストとを添加した適切な培養培地に、工程iii)の尾側化したNPCを継代して、該NPCのアイデンティティが、脊髄アイデンティティを持つ神経前駆細胞(spNPC)として安定化するまで2~3代以上継代を継続することによって、
プライミングしたパターン形成されていないNPCのパターン形成を行ってspNPCを作製する工程を含み、
各回の継代後または少なくとも1回の継代後に、1日目の培養培地にROCK阻害剤を添加してもよい、
方法を含む。
【0022】
本発明の別の一態様は、人工多能性幹細胞(iPSC)から脊髄アイデンティティを持つ神経前駆細胞(spNPC)を製造する方法であって、
a.i.TGFβ阻害剤、FGF2アゴニスト、Wnt阻害剤およびBMP阻害剤を含んでいてもよいiPSC培養培地に、人工多能性幹細胞(iPSC)を継代し、約2日間、例えば36時間~4日間インキュベートする工程;
ii.FGF2であってもよいFGF2アゴニストを含まないiPSC培養培地中で前記iPSCを約4日間培養し、約2日目に、例えば、培養開始時から約36時間~約4日経過後に、BMP阻害剤または(TGFβ経路とBMP経路を阻害するための)SMAD二重阻害剤を前記培養培地に添加し;
iii.FGF2であってもよいFGF2アゴニストを含まない神経誘導培地中で前記iPSCを約2日間培養して、胚様体を作製し;かつ
iv.FGF2またはSUN11602であってもよいFGF2アゴニストを添加した神経誘導培地中で工程iiiの胚様体を約7~11日間培養して神経ロゼットを作製した後、その後の培養の約2日目に、前記BMP阻害剤または前記SMAD二重阻害剤を培地から除去して、パターン形成されていないNPCを作製することによって、
iPSCからパターン形成されていないNPCを製造する工程;
b.i.パターン形成されていないNPCを含む培養培地に、EGF-L7アゴニスト、好ましくはEGF-L7を添加し;かつ
ii.任意の培地成分として、DLL4であってもよいNotchシグナル伝達アクチベーターを前記培養培地に添加することによって、
工程aのパターン形成されていないNPCをプライミングして外胚葉運命に維持する工程;ならびに
c.i.プライミングしたパターン形成されていないNPCを個々の細胞に解離させて、FGF2またはSUN11602であってもよいFGF2アゴニストと、FGF8であってもよいFGF8アゴニストとを添加した適切な培養培地中でインキュベートすることによって、パターン形成されていないNPCと比べて、HoxA4および/またはHoxA5であってもよい少なくとも1つのHox遺伝子の発現量が上昇し、Gbx2、Otx2およびFoxG1を含む少なくとも1つの脳マーカーの発現量が低下した後方化したNPCを作製し;
ii.レチノイン酸(RA)または合成レチノイン酸類似体であってもよく、EC23であってもよいレチノイン酸受容体アゴニストと、Wnt3aまたはBML-284塩酸塩であってもよいWntシグナル伝達アクチベーターとを添加した培養培地に、後方化したNPCを継代してインキュベートすることによって、継代前の後方化したNPCと比べて、Gbx2、Otx2およびFoxG1の発現量が低下した尾側化したNPCを作製する工程;
iii.レチノイン酸または合成レチノイン酸類似体であってもよく、EC23であってもよいレチノイン酸受容体アゴニストを添加した適切な培養培地に、尾側化したNPCを継代してインキュベートし;かつ
iv.B27と、N2と、FGF2またはSUN11602と、EGFまたはNSC228155と、740Y-Pまたはその合成アゴニストとを添加した培養培地に、工程iii)の尾側化したNPCを継代して、該NPCのアイデンティティが、脊髄アイデンティティを持つ神経前駆細胞(spNPC)として安定化するまで継代を継続することによって、
プライミングしたパターン形成されていないNPCのパターン形成を行ってspNPCを作製する工程
を含み、
各回の継代後または少なくとも1回の継代後に、1日目の培養培地にROCK阻害剤を添加してもよい、
方法を含む。
【0023】
本開示のその他の特徴および利点は以下の詳細な説明から明らかになるであろう。しかしながら、当業者であれば、以下の詳細な説明から本開示の要旨および範囲内の様々な変更および改良は明らかであることから、本開示の好ましい実施形態を示した詳細な説明および特定の例示は、本発明を説明することのみを目的としたものであると解釈すべきである。
【図面の簡単な説明】
【0024】
以下の図面を参照しながら、本開示の実施形態について説明する。
【0025】
【
図1】異なる領域アイデンティティを持つ神経幹・前駆細胞から発生したニューロンの分化が、特定の神経細胞のサブタイプに限定されることを示した模式図を示す。前脳由来の前駆細胞は、脊髄固有の神経細胞サブタイプに分化することはできない。
【0026】
【
図2】(左側)中枢神経系の前脳領域、中脳領域、後脳領域および脊髄領域で見られる重要な転写因子と、(右側)胚発生過程において様々な中枢神経領域の発生を誘導するために選択されるパターン形成モルフォゲンを示した模式図を示す。
【0027】
【
図3】ヒトPSCから脊髄神経前駆細胞を作製するための経路の概念を示した模式図を示す。(下段)パターン形成を行う重要なモルフォゲンへのインビトロでの一時的な暴露を、発生キューに対してモデル化したものを示す。
【0028】
【
図4】神経ロゼット(矢尻)および神経管様構造(矢印)の形態を示す画像である。
【0029】
【
図5】
図5Aは、EGF-L7でプライミングした神経前駆細胞(NPC)の遺伝子発現プロファイルを示したグラフである(log2倍率変化)。
図5Bは、プライミングしたNPCの形態(下図)と、プライミングしていない/パターン形成されていないNPC(上図)の形態が類似していることを示した2つの一連の画像である。
【0030】
【
図6】
図6Aは、後方化したヒトNPCの遺伝子発現プロファイルをqPCRで測定し、パターン形成されていないNPCと比較した結果を示したグラフである(log2倍率変化)。
図6Bは、後方化したNPCの形態を示した明視野顕微鏡画像である。
【0031】
【
図7】
図7Aは、尾側化したヒトNPCの遺伝子発現プロファイルをqPCRで測定し、後方化したNPCと比較した結果を示したグラフである(log2倍率変化)。
図7Bは、尾側化したNPCの形態を示した明視野顕微鏡画像である。
【0032】
【
図8】
図8Aは、ヒト脊髄NPCの遺伝子発現プロファイルをqPCRで測定し、尾側化したNPCおよび脊髄NPCと比較した結果を示したグラフである(log2倍率変化)。
図8Bは、明視野顕微鏡で観察した脊髄NPCの形態を示した画像であり、伸長過程であることが示されており、通常の前脳NPCと比べて不均一な外観をしている。
【0033】
【
図9】
図9Aは、前脳ニューロスフェア(左)と脊髄ニューロスフェア(右)を示した一連の画像である。
図9Bは、ニューロスフェアアッセイの結果を示したグラフであり、3回継代したところ、前脳神経前駆細胞(fb-NPC)と脊髄神経前駆細胞(sp-NPC)の自己複製能が同程度であることが示された。
【0034】
【
図10】
図10Aは、神経細胞マーカー(βIIIチューブリン)をそれぞれ発現するヒトPSC由来前脳NPC(上図)とヒトPSC由来脊髄NPC(下図)の分化プロファイルの比較を示した一連の画像である。
図10Bは、オリゴデンドロサイトマーカー(O1)をそれぞれ発現するヒトPSC由来前脳NPC(上図)とヒトPSC由来脊髄NPC(下図)の分化プロファイルの比較を示した一連の画像である。
図10Cは、アストロサイトマーカー(GFAP)をそれぞれ発現するヒトPSC由来前脳NPC(上図)とヒトPSC由来脊髄NPC(下図)の分化プロファイルの比較を示した一連の画像である。
図10Dは、神経細胞マーカー(βIIIチューブリン)、オリゴデンドロサイトマーカー(O1)またはアストロサイトマーカー(GFAP)を発現する細胞におけるヒトPSC由来前脳NPC(上図)とヒトPSC由来脊髄NPCの分化率を示したグラフである。
【0035】
【
図11】
図11A~Cは、電圧固定法により記録したfb-NPC由来ニューロンにおける自発的なシナプス後活動を示す。
図11D~Fは、電圧固定法により記録したspNPC由来ニューロンにおける自発的なシナプス後活動を示す。シナプス後事象の頻度と振幅は、fbNPCとspNPCとで記録に有意な差がなかったことから、観察された活動の大部分は、シナプス前活動電位によるシナプス伝達に依存することが示された。
【0036】
【
図12】fbNPCとspNPCの作製とインビトロでの特性評価を示す。
図12Aは、神経系発生過程における神経管に沿ったfbNPCとspNPCの時間空間的な位置を示した模式図を示す。
図12Bは、fbNPCを後方化し、尾側化し、腹側化することによってspNPCを作製する方法を示した模式図を示す。
図12Cは、培養物におけるfbNPCとspNPCの形態(GFP+)を示した画像を示す。
図12D~Eは、fbNPCとspNPCの発現プロファイルをhiPSCと比較した定量リアルタイムPCR分析(D)と、spNPCの発現プロファイルをfbNPCと比較した定量リアルタイムPCR分析(E)を示したグラフである。相対遺伝子発現量は2
-ΔΔ法で測定し、倍率変化値は、ハウスキーピング遺伝子であるGAPDHの平均遺伝子発現量に対して求めた(平均値±SEM;*p<0.05、スチューデントのt検定、n=3)。
図12Fは、fbNPCとspNPCでの差次的遺伝子発現(DEG)を調べるためのRNA-seq解析の全体像を示す。補正したTMP値(transcript per million)をlog10スケールで示したヒートマップを示す。
図12Gは、神経管のパターン指定に関与する遺伝子の有意な濃縮を示した教師なし階層的クラスタリングのヒートマップを示す。
【0037】
【
図13】
図13A~Bは、fbNPCまたはspNPCのニューロスフェア形成アッセイを示したグラフである。fbNPCまたはspNPCを10個/μlのクローン密度で播種した。ナイーブ-h条件では、形成されたニューロスフェアの数は、fbNPCとspNPCとで差は見られなかったが、SCI-h条件では、fbNPCから形成されたニューロスフェアの方が、spNPCから形成されたニューロスフェアよりも数が多く、その大きさも大きかった(平均値±SEM;*p<0.05、スチューデントのt検定、n=5)。
図13Cは、SCI-hに暴露した際に、fbNPCまたはspNPCから発生したニューロスフェアを示した画像である。スケールバー:50μm。
図13Dは、インビトロの異なるニッチ(ナイーブ-hまたはSCI-h)におけるfbNPCまたはspNPCの増殖速度を比較したグラフを示す。各時点において、BrdU増殖アッセイを実施して、細胞数を測定した。ナイーブニッチでは、fbNPCおよびspNPCの全体的な増殖は同程度であった。全体的な増殖速度は2つの群間で有意差はなかったが、SCIニッチでは、fbNPCはspNPCと比べて非常に速い速度で増殖した(平均値±SEM;**p<0.01、spNPCと比較したfbNPCのp値、二元配置分散分析、n=3)。
【0038】
【
図14】各NPC株のインビトロ分化アッセイを示す。無傷のラットから調製した脊髄ホモジネート(ナイーブ-h)または脊髄損傷を誘発したラットから調製した脊髄ホモジネート(SCI-h)に暴露させて各NPC株を培養した。
図14Aは、固定後に、神経前駆細胞マーカー(ネスチン)、オリゴデンドロサイトマーカー(O1)、アストロサイトマーカー(GFAP)、または神経細胞マーカー(βIIIチューブリン)を染色した細胞を示した画像である。スケールバー:20μm。
図14Bは、GFAP陽性細胞、O1陽性細胞、βIIIチューブリン陽性細胞またはネスチン陽性細胞の割合を定量した結果を示したグラフである(平均値±SD;*p<0.05、**p<0.01、細胞の種類ごとに着色、一元配置分散分析、n=3)。
図14Cは、脊髄損傷誘発後の組織ホモジネート(SCI-h)に暴露したところ、様々な時点でDLL1(Notch活性化リガンド)の発現量の増加が示されたグラフと画像を示す。ナイーブ脊髄ホモジネート(ナイーブ-h)とローディングコントロールであるαチューブリンに対する相対的な倍率変化(log2)を計算した(平均値±SEM;**p<0.01、一元配置分散分析、n=3)。
【0039】
【
図15】GFP+fbNPCまたはGFP+spNPCの移植後の脊髄病変中心部の特性評価に関する代表的な画像を示す。
図15Aは、fbNPCが、主に損傷部位へと遊走して、空洞を取り囲み、空洞を部分的に満たしたが、spNPCは、白質に沿って吻側方向と尾部方向に遊走したことが示された画像を示す。
図15Bは、空洞へのfbNPCの遊走を示した高倍率画像を示した画像を示す。fbNPCは、空洞空間の大部分を満たしている(左図)。spNPCは、白質路に沿って、損傷の中心部から吻側方向と尾側方向に遊走している(右図)。
図15Cは、移植細胞の分布の定量分析を示したグラフである(平均値±SEM;*p<0.05、二元配置分散分析、n=3)。
図15Dは、神経管のパターン指定に関与する遺伝子の有意な濃縮を示した教師なし階層的クラスタリングのヒートマップである。
【0040】
【
図16】hiPSC由来のfbNPCおよびspNPCは、慢性的な損傷を受けた脊髄内において固有の分化プロファイルを示す。
図16Aは、spNPC群およびfbNPC群において、移植した細胞が分化して、未分化NPCのマーカー(ネスチン)、成熟オリゴデンドロサイトのマーカー(APC)、未熟オリゴデンドロサイトのマーカー(Olig2)、アストロサイトのマーカー(GFAP)およびニューロンのマーカー(Fox3)を発現することを示した一連の画像である。スケールバー:20μm。
図16Bは、インビボの三系統分化プロファイルの定量分析を示した一連のグラフである(平均値±SEM;*p<0.05、スチューデントのt検定、n=5)。
【0041】
【
図17】移植したspNPCは、脊髄損傷後の再髄鞘化に寄与する。
図17Aは、内在性NF200陽性軸索に近接してGFP+spNPCとMBPが共存していたことから(矢尻)、髄鞘が形成されていることが明確に示された一連の画像である。スケールバー:20μm。
図17Bは、spNPCにおいてKv1.2(矢尻)およびCaspr(矢印)を染色した矢状断面の代表的な画像を示した一連の画像である。ジャクスタパラノード部のKv1.2+電位依存性カリウムチャネルとパラノード部のCaspr+タンパク質から、ランビエ絞輪が同定された。
図17Cは、GFP+spNPCおよびGFP+fbNPCの代表的な免疫電子顕微鏡像を示した一連の画像である。移植細胞は、GFP染色後に黒色のドットを観察することによって検出した(黒色の矢印)。GFP+の黒色ドットは、spNPC群の髄鞘の外側の細胞質に多く観察された。しかし、fbNPC群では、黒色のドットは軸索原形質の内部に見られ、この軸索原形質は、数層の内在性髄鞘で覆われていた。このことから、fbNPC群の移植片由来ニューロンの髄鞘化が起こることが示された。スケールバー:200nm。
【0042】
【
図18】
図18A~Bは、fbNPCとspNPCでサイトカインの発現量が異なることが示された抗体アレイの結果を示す。1回の実験で41種のサイトカインと成長因子を検出することができる抗体アレイを用いて、各細胞株から回収した馴化培地中のサイトカイン発現プロファイルを検出した。バックグラウンド対照として、細胞培養を行っていない新鮮培地を使用した。
図18Cは、ルクソールファストブルー(LFB)染色とH&E染色を用いた組織形態計測分析の結果を示す。溶媒処置群、spNPC処置群およびfbNPC処置群における脊髄病変の中心部と、そこから吻側方向に0.96mmの領域と尾側方向に0.96mmの領域を示した代表的な画像を示す。
図18Dは、様々な移植群において保持されていた白質の面積の空間的定量を示したグラフである(平均値±SEM、*p<0.05、**p<0.01、***p<0.001、n=5)。
図18Eは、様々な移植群における病変組織の面積の空間的定量を示したグラフである(平均値±SEM、*p<0.05、**p<0.01、***p<0.001、n=5)。
図18Fは、空洞化を調べるための超高解像度超音波(VHRUS)分析の代表的な一連の画像であり、
図18Gは、VHRUSで評価した空洞の体積の定量分析を示したグラフを示す(平均値±SEM、n=5、*p<0.01、*p<0.05、一元配置分散分析)。
図18Hは、パワードプラVHRUSを用いて測定した機能性血管の分布を示した一連の画像であり、
図18Iは、パワードプラVHRUSを用いて測定した機能性血管の分布を示したグラフである。移植群間で有意な変化は観察されなかったが、fbNPC移植群において改善傾向が観察された(平均値±SEM;*p<0.05、**p<0.01、一元配置分散分析、n=5)。
【0043】
【
図19】fbNPCおよびspNPCは内在性細胞とシナプス結合を形成することができ、電気伝導に関与する。
図19Aは、移植部位の脊髄切片の一連の透過電子顕微鏡写真であり、抗GFP免疫金標識細胞(黒色のドット、白色の矢尻で示す)と内在性軸索終末との間でシナプスが形成されたことを示している。
図19Bは、シナプシンI(Syn1)の免疫染色を示した一連の画像である。スケールバー=10μm。
図19Cは、移植片に由来するニューロンが電気伝達に寄与できるかどうかを調べるため、損傷部位(C4~T1)を伝搬する電気的に誘発された複合活動電位(CAP)を分析したことを示した模式図である。
図19Dは、複合活動電位の時間経過を示したグラフである。グラフの軌跡は、1群あたり6匹のラットの平均値を示す。
図19Eは、移植の10週間後の複合活動電位の振幅の定量を示したグラフである(平均値±SEM、n=6;*P<0.05、溶媒群と比較した一元配置分散分析)。
図19Fは、偽処置群、溶媒群、fbNPC群およびspNPC群における複合活動電位の潜時を示したグラフである。
図19Gは、偽処置群、溶媒群、fbNPC群およびspNPC群における複合活動電位の速度を示したグラフである。伝導速度は、記録距離(10mm)を潜時(t)で割ることによって計算した(平均値±SEM、n=6;一元配置分散分析、P<0.05、溶媒群と比較した一元配置分散分析)。
【0044】
【
図20】細胞移植後のラットの機能分析を示す。
図20Aは、握力計を用いて前肢の運動機能を評価したことを示したグラフである。頸髄損傷は、前肢の握力に重度の障害を引き起こすが、細胞移植の8週間後に前肢の握力が徐々に改善した。fbNPCまたはspNPCを移植後の握力は、溶媒群と比べて顕著に改善し、その後プラトーに達した(平均値±SEM、*p<0.05、二元配置分散分析、1群あたりn=16)。
図20Bは、摂取したペレットの割合の経時変化を示したグラフであり、Montoya階段試験による前肢を使用する際の器用さと運動機能の評価を示している(平均値±SEM、有意差なし、二元配置分散分析、1群あたりn=10)。
図20Cは、移植の8週間後における様々な前肢歩行パラメータの定量を示した一連のグラフである(平均値±SEM、*p<0.05、**p<0.01、一元配置分散分析、1群あたりn=12)。
【0045】
【
図21】
図21Aは、細胞生存率の定量を示したグラフを示す(平均値±SEM;有意差なし、スチューデントのt検定、n=5)。
図21Bは、GFP+移植細胞とKi67の共存を同定した代表的な画像を示した一連の画像である。スケールバー:20μm。移植したspNPCおよびfbNPCでは、増殖マーカーKi67が共存することはほとんどない。
図21Cは、Ki67を発現する移植細胞の割合を示したグラフである。定量分析から、Ki67を発現する移植細胞の割合が4%未満であることが示された(平均値±SEM;有意差なし、スチューデントのt検定、n=5)。
図21Dは、NOD/SCIDマウスに移植を行った140日後の代表的な一連の画像である。spNPCおよびfbNPC中のGFP陽性細胞が組織内に分散しているが(白色の矢印)、H&E染色において腫瘍形成は認められなかった。
【0046】
【
図22】
図22Aは、傾斜板の傾斜角度の経時変化を示したグラフであり、各ラットを配置した傾斜板の傾斜角度を0°から90°に増加させながら、ラットがその場に留まる能力を測定することによって、全般的な運動機能を試験したことを示す。ラットが耐えられる傾斜角度が大きいほど、運動機能がより良好に回復していることが示される。細胞を移植したラットは、溶媒で処置したラットよりも良い成績を示したが、有意差はなかった(平均値±SEM、有意差なし、二元配置分散分析、1群あたりn=16)。
図22Bは、tail-flick試験における温熱性アロディニアの評価を示したグラフである。時間経過に伴う有意差はなかった。
図22Cは、前肢のvon Frey試験における機械的アロディニアの評価を示したグラフであり、
図22Dは、後肢のvon Frey試験における機械的アロディニアの評価を示したグラフである。tail-flick試験とvon Frey試験において試験群間で有意差はなかった(平均値±SEM、一元配置分散分析、1群あたりn= 8)。
【0047】
【
図23】前方脳NPCと腹側脊髄NPCが神経細胞運命に分化決定される際、後方脳NPCや背側脊髄NPCと比べて、Ptf1aを発現する細胞に分化する傾向が低いことを示した一連の画像である。Ptf1a発現細胞は、GABA作働性の抑制性介在ニューロンに分化する。
【0048】
【
図24】後方脳NPC(後方NPC)、背側脊髄NPC(背側NPC)、前方脳NPC(cNPC)または腹側脊髄NPC(spNPC)を移植した群におけるペレットの摂取量の割合の経時変化を示したグラフである。後方脳NPCまたは背側脊髄NPCを移植したところ、前方脳NPCまたは腹側脊髄NPCを移植した場合よりも、機能回復の改善の程度は低かった。
【0049】
【
図25】ホモジネートを加えずにベースラインとなる分化培地中で各細胞株を培養したところ、オリゴデンドロサイト(O1陽性細胞)への分化に有意差は見られなかったことを示した一連の画像とグラフである。
【0050】
【
図26】
図26Aは、fbNPCとspNPCで最も大きな差異が認められた上位2000個の遺伝子の差次的発現を示したヒートマップである。
図26Bは、fbNPCとspNPCの間での差次的遺伝子発現の遺伝子オントロジーエンリッチメント解析の結果を示す。
図26Cは、fbNPCの各遺伝子のlog2 TPMを横軸に取ったグラフである。
【0051】
【
図27】fbNPC群、spNPC群および溶媒群におけるペレットの摂取量の割合の経時変化を示したグラフである。移植細胞は、移植後に即座に栄養因子を発現し、これを分泌し始めるが、ニューラルネットワークへの分化と一体化および髄鞘化には時間を要する。
【発明を実施するための形態】
【0052】
別段の定めがない限り、本開示に関連して使用される科学用語および技術用語は、当業者によって一般に理解される意味を有する。さらに、文脈中で別段の定めが必要とされない限り、単数形の用語は複数のものを含み、複数形の用語は単数のものを含む。例えば、「細胞」という用語は、単一の細胞を含むとともに、複数の細胞または細胞集団も含む。概して、本明細書に記載の、細胞培養、組織培養、分子生物学、タンパク質化学、オリゴヌクレオチド化学、ポリヌクレオチド化学およびハイブリダイゼーションに関連して使用される名称、ならびにこれらの分野の技術は、当技術分野でよく知られており、当技術分野で広く利用されている(例えば、GreenおよびSambrook、2012を参照されたい)。
【0053】
本明細書および添付の請求項において使用されているように、単数形の「a」、「an」および「the」は、別段の明確な定めがない限り、複数のものを含む。したがって、例えば、「化合物」を含む組成物は、2つ以上の化合物の混合物を含む。また、「または」という用語は、通常、別段の明確な定めがない限り、「および/または」を含むという意味で使用されることにも留意されたい。
【0054】
本願および請求項において使用されているように、「からなる」という用語およびその派生語は、本願および請求項に記載の特徴、構成要素、成分、群、整数および/または工程の存在を特定し、かつ本願および請求項に記載されていないその他の特徴、構成要素、成分、群、整数および/または工程の存在を排除するクローズドエンドな用語であることが意図されている。
【0055】
本明細書において、「約」、「実質的に」および「おおよそ」という用語は、これらの用語で修飾されたものから最終的に得られる結果が有意に変化しないような妥当な逸脱を意味する。程度を表すこれらの用語は、このような逸脱によって、これらの用語で修飾された用語の意味が変わってしまわない限り、これらの用語で修飾されたものの少なくとも±5%の逸脱または少なくとも±10%の逸脱を含むと解釈される。
【0056】
本明細書において、「薬学的に許容される担体」という用語またはその変形は、医薬投与および細胞への使用に適合したあらゆる溶媒、培地、等張化剤、吸収遅延剤などを含むことが意図されている。このような担体や希釈剤として使用してよいものの例として、緩衝食塩水、培養培地、ハンクス平衡塩溶液、リンゲル溶液、5%のヒト血清アルブミンおよびウシ血清アルブミン(BSA)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0057】
本明細書において、「神経前駆細胞」という用語またはその変形は、神経幹細胞(NSC)、神経前駆細胞(NPC)、神経幹・前駆細胞(NSPC)、神経上皮幹/前駆細胞(NPC)または神経外胚葉細胞(NEC)と同じ意味で用いられ、「神経前駆細胞」には、Sox2、Pax6およびネスチンを発現し、かつニューロン、アストロサイト、オリゴデンドロサイトの三系統の細胞に分化することができる神経細胞が含まれる。
【0058】
「脊髄アイデンティティを持つ神経前駆細胞」すなわち「spNPC」は、腹側運動ニューロン、脊髄介在ニューロン、レンショウ細胞、傍灰白質(paragriseal)介在ニューロン細胞、間質介在ニューロン細胞、脊髄固有介在ニューロン細胞などの、脊髄固有の神経細胞種に最終的に分化することができる神経前駆細胞を指し、脳の神経前駆細胞と比べて脊髄遺伝子の発現量が高く、例えば、HoxA、HoxB、HoxC、HoxD、Hox1~10(例えば、HoxA4、HoxA5、HoxB4、HoxC4)などのHox遺伝子の発現量が高く、かつ脳の神経前駆細胞と比べて、例えば、Gbx2、Otx2、FoxG1、Emx2および/またはIrx2ならびにPax6などの脳マーカーの発現量が低い。本明細書では、インビトロにおいてspNPCを作製する方法を提供する。
【0059】
脳の神経前駆細胞(NPC)は、脳内の様々な種類の神経細胞に分化することができ、例えば、脊髄ニューロンからは発生不可能な、皮質ニューロン、皮質下ニューロン、深部核ニューロン、興奮性錐体ニューロン、カルビンジン発現ニューロン、CART発現ニューロン、皮質視床グルタミン酸作動性ニューロンおよび皮質コリン作動性ニューロンに分化することができる。
【0060】
本明細書において、「パターン形成されていない神経前駆細胞(NPC)」という用語またはその変形は、吻側アイデンティティを有し、尾側化および/または腹側化されていないNPCを指す。パターン形成されていないNPCは、レチノイン酸やShh(またはこれらのアゴニスト)などのパターン形成因子で処理されていない原始的な、または運命決定されたNPCである。パターン形成されていないNPCは、Pax6、ネスチンおよびSox2と、脳マーカーであるOTX2、FOXG1およびGBX2のうちの少なくとも1つとを発現する。パターン形成されていないNPCでは、Gbx2、Emx2およびIrx2の発現量が、中脳アイデンティティを持つNPCよりも低く、パターン形成されていないNPCにおけるHox遺伝子(HoxA4、HoxA5、HoxB4、HoxC4など)の発現量は、脊髄アイデンティティを持つNPCよりも低い。パターン形成されていないNPCは、前脳アイデンティティを持つNPC(fbNPC)、前頭脳アイデンティティを持つNPC、または前方脳NPCと呼ぶこともできる。これらの用語はいずれもパターン形成されていないNPCを指す。また、これらの用語は、本開示を通して同じ意味で使用することができる。
【0061】
本明細書において、「後方化した神経前駆細胞(NPC)」という用語またはその変形は、パターン形成されていないNPCと同じ分化プロファイルを有し、三系統の細胞に分化することができる神経前駆細胞を指す。後方化したNPCのニューロスフェア形成能と増殖速度は、パターン形成されていないNPCよりもわずかに高い。本明細書の記載に従って、パターン形成されていないNPCを、所定濃度のFGF8アゴニスト(FGF8であってもよい)で所定時間処理することによって、後方化を誘導することができる。後方化したNPCは、パターン形成されていないNPCと比べて、HoxA4および/またはHoxA5などのHox遺伝子の発現量が増加しており、Dlx2、Six3、LmxA1、Gbx2、Otx2および/またはFoxG1などの脳マーカーのうちの少なくとも1つの発現量が減少している。
【0062】
本明細書において、「EGF-L7アゴニスト」という用語またはその変形は、Notchシグナル伝達の阻害、EGFR(EGF受容体)の活性化、ICAM-1の発現の阻害およびNF-κBの活性化の阻害の増強を同時に、またはこれらの組み合わせを達成可能な、EGF-L7、好ましくはヒトEGF-L7(アクセッション番号Ensembl:ENSG00000172889、MIM:608582)、その活性断片、融合タンパク質および活性型スプライスバリアント、ならびに天然または合成のあらゆる化合物またはその組み合わせを意味する。EGF-L7の代わりに、前述の分子の阻害や活性化に対応する一連の経路を活性化させる分子の組み合わせを用いることもできる。例えば、(Notchを阻害する)DLK1またはDAPTと、(EGFRを活性化させる)NSC228155またはベータセルリンと、(ICAM-1を阻害する)A-205804と、(NF-κBを阻害する)ボルテゾミブおよびバルドキソロンメチルとを組み合わせて使用することができる。本明細書において、「EGF-L7」という用語は、Notchシグナル伝達の阻害、EGFR(EGF受容体)の活性化、ICAM-1の発現の阻害およびNF-κBの活性化の阻害の増強を同時に達成可能な、EGF-L7、好ましくはヒトEGF-L7(アクセッション番号Ensembl:ENSG00000172889、MIM:608582)、ならびにその活性断片、融合タンパク質および活性型スプライスバリアントを意味する。
【0063】
本明細書において、「EGF受容体アゴニスト」は、EGF受容体(EGFR;ErbB-1;HER1としても知られている)に結合し、かつ/またはそのチロシンキナーゼ活性を誘導することが可能な、天然または合成のあらゆる化合物またはその組み合わせを意味する。「EGF受容体アゴニスト」には、EGFおよびその類似体、ならびにヘパリン結合EGF(HB-EGF)、トランスフォーミング増殖因子(TGF)であるアンフィレグリン(AR)およびベータセルリンが含まれるが、これらに限定されない。NSC228155などのEGFRアクチベーターもさらに含まれる。
【0064】
本明細書において、「EGF」という用語またはその変形は上皮成長因子を指す。EGF、例えばヒトEGFには、活性断片、融合タンパク質およびスプライスバリアント(例えば、EGF受容体を活発化させる断片、融合タンパク質およびスプライスバリアント)が含まれ、これらは、Cell SciencesRTM(米国マサチューセッツ州カントン)、インビトロジェン社の製品(米国ニューヨーク州グランド・アイランド)、ProSpec-Tany TechnoGene社(イスラエル、レホボト)、およびシグマ社(米国ミズーリ州セントルイス)などの様々な販売製造業者から入手することができる。
【0065】
本明細書において、「FGF2アゴニスト」という用語またはその変形は、FGF2が結合するFGF受容体(FGFR1、FGFR2、FGFR3、FGFR4など)に結合する天然または合成のあらゆる化合物またはその組み合わせを意味する。「FGF2アゴニスト」には、FGF2、その活性断片、融合タンパク質およびスプライスバリアント、これらと類似の機能を有する分子(例えば、SUN11602)またはこれらの組み合わせが含まれる。
【0066】
本明細書において、「線維芽細胞成長因子2」すなわち「FGF2」という用語またはこれらの変形(bFGF、塩基性FGF、FGFbもしくはFGF-βまたはヘパリン結合成長因子2としても知られている)は、線維芽細胞成長因子ファミリーのメンバーを指す。FGF2、例えばヒトFGF2には、活性断片、融合タンパク質およびスプライスバリアント(例えば、FGF2が結合するFGF受容体を活発化させる断片、融合タンパク質およびスプライスバリアント)が含まれ、これらは、Cell SciencesRTM(米国マサチューセッツ州カントン)、インビトロジェン社の製品(米国ニューヨーク州グランド・アイランド)、ProSpec-Tany TechnoGene社(イスラエル、レホボト)、およびシグマ社(米国ミズーリ州セントルイス)などの様々な販売製造業者から入手することができる。
【0067】
本明細書において、「FGF8アゴニスト」という用語またはその変形は、FGF8が結合するFGF受容体(FGFR1、FGFR2、FGFR3、FGFR4など)に結合する天然または合成のあらゆる化合物またはその組み合わせを意味する。「FGF8アゴニスト」には、FGF8、その活性断片、融合タンパク質およびスプライスバリアント、これらと類似の機能を有する分子(例えば、FGF9やFGF17)、またはその活性断片、融合タンパク質およびスプライスバリアント(例えば、FGF8が結合するFGF受容体を活発化させる断片、融合タンパク質およびスプライスバリアント)ならびにこれらの組み合わせが含まれる。
【0068】
本明細書において、「FGF8」またはその変形は、FGF8のアイソフォームであるFGF8A、FGF8BまたはFGF8Eを意味し、これらは、例えば、FGF8a、FGF8bまたはFGF8eと呼ばれ、あらゆる天然バリアントまたは合成バリアントおよび哺乳動物由来のFGF8を含み、特に、ヒトFGF8、その活性断片、融合タンパク質およびスプライスバリアント、ならびにこれらの組み合わせを含む。FGF8は、アンドロゲン誘導性成長因子(AIGF)とも呼ばれる。
【0069】
「740Y-P」および「740Y-Pの類似体」という用語またはその変形は、PI3Kの細胞透過性リン酸化ペプチドアクチベーター(RQIKIWFQNRRMKWKKSDGGYMDMS(ここで、Tyr-21=pTyr))およびその類似体を指し、PI3Kキナーゼを活性化する天然または合成のあらゆる化合物またはその組み合わせが含まれ、例えば、エルカ酸またはその活性断片、融合タンパク質およびスプライスバリアント、ならびにこれらの組み合わせが含まれる。740Y-Pも、高用量のFGF2またはFGF2アゴニストと置き換えることができ、例えば、20ng/mlより高く400ng/ml以下の濃度のFGF2、例えば、少なくとも200ng/mLのFGF2または約200ng/mLのFGF2と置き換えることができる。740Y-Pは市販されており、例えば、Tocris Bioscience社やフィッシャーサイエンティフィック社から購入することができる。
【0070】
本明細書において、「適切な培養培地」は、特定の種類の培養細胞を支持する培養培地を意味する。例えば、細胞の発生段階に適切な1種以上の添加物を含み、例えば、B27または類似の添加物と、任意の成分としてN2または類似の添加物とを含み、神経前駆細胞またはこれに由来する細胞に適した培養培地、例えば、本明細書に記載されているような、PSC培地、神経増殖培地(NEM)、神経誘導培地(NIM)などが挙げられる。通常、培養培地は、グリシン、L-アラニン、L-アスパラギン、L-アスパラギン酸、L-グルタミン酸、L-プロリン、L-セリンなどの非必須アミノ酸;ブドウ糖またはその等価物;ピルビン酸ナトリウム、カタラーゼ、還元型グルタチオン、インスリン、スーパーオキシドジスムターゼ、ホロトランスフェリン、トリヨードサイロニン(T3)、L-カルニチン、エタノールアミン、D(+)-ガラクトース、プトレスシン、亜セレン酸ナトリウム、コルチコステロン、リノール酸、リノレン酸、プロゲステロン、酢酸レチノール、DL-α-トコフェロール(ビタミンE)、DL-α-酢酸トコフェロール、オレイン酸、ピペコリン酸、ビオチンを含み、任意の成分として、FGF2やSUN11602などのFGF2アゴニスト、EGFやベータセルリンなどのEGFRアゴニストを含み、任意の成分として、ヘパリンを加えてもよい。
【0071】
本明細書において、「NEM」すなわち「神経増殖培地」という用語またはその変形は、ピルビン酸ナトリウム;グルタミンやGlutaMAXTMなどのグルタミン製剤;ペニシリンおよび/またはストレプトマイシンなどの1種以上の抗生物質;ビタミンAまたはその等価物(例えば、レチノイン酸やその類似体)を不含のB27サプリメントなどのサプリメント;およびN2のうちの1種以上を含む、神経前駆細胞の培養に適した基礎培地(DMEM/F12培地や神経基礎培地など)を意味する。細胞の分化段階に応じて、神経増殖培地にアゴニストを添加することができ、例えば、FGF2などの1種以上のFGFRアゴニスト、EGFなどのEGFRアゴニスト、および/またはヘパリンなどを添加することができる。適切な神経増殖培地の一例は、実施例1に示している。その他の適切な培地、サプリメント、抗生物質などは、当技術分野で公知であり、これらの公知の培地、サプリメント、抗生物質などを用いることもできる。
【0072】
本明細書において、「Notchアゴニスト」もしくは「Notchシグナル伝達アクチベーター」という用語またはその変形は、あらゆるNotch受容体に結合し、タンパク質分解を誘導してNotch受容体の細胞内ドメインを切断することによって、これを放出させる天然または合成のあらゆる化合物(低分子または抗体を含む)またはその組み合わせを含む。一例として、ヒトおよびその他の哺乳動物の、DLL1、DLL4、Jagged1およびJagged2が挙げられる。
【0073】
本明細書において、「Wntアゴニスト」もしくは「Wntシグナル伝達アクチベーター」という用語またはその変形は、Wnt受容体に結合してこれを活性化する天然または合成のあらゆる化合物(低分子または抗体を含む)またはその組み合わせを含む。一例として、AZD2858、Wntアゴニスト1、CP21R7(CP21)、WntまたはBML-284塩酸塩が挙げられる。ヒト型およびその他の哺乳動物型の生体分子サブセットも想定される。
【0074】
本明細書において、「Wnt阻害剤」という用語またはその変形は、Wntシグナル伝達経路を阻害する天然または合成のあらゆる化合物(低分子または抗体を含む)またはその組み合わせを含む。一例として、XAV939、DKK1、DKK-2、DKK-3、Dkk-4、POCN、C59、LGK-974、SFRP-1、SFRP-2、SFRP-5、SFRP-3、SFRP-4、WIF-1、Soggy、IWP-2、IWR1、ICG-001、KY0211、Wnt-C59、LGK974、1WP-L6、これらの誘導体およびこれらの組み合わせが挙げられる。
【0075】
本明細書において、「レチノイン酸受容体(RAR)アゴニスト」という用語またはその変形は、レチノイン酸受容体(RAR)に結合してこれを活性化する天然または合成のあらゆる化合物(低分子または抗体を含む)またはその組み合わせを含み、例えば、レチノイン酸またはレチノイン酸類似体が挙げられ、例えば、EC23が挙げられる。
【0076】
本明細書において、「B27」またはその変形は、ニューロンを支持することから、神経細胞の細胞培養に使用されるサプリメントを含む無血清ビタミンを指す。フィーダー細胞層を用いずに細胞を増殖させることができるこのようなサプリメントであれば、どのようなものでも使用することができる。B27サプリメントは、例えば、カタラーゼ、グルタチオン、インスリン、スーパーオキシドジスムターゼ、ヒトホロトランスフェリン、T3、L-カルニチン、エタノールアミン、D(+)-ガラクトース、プトレスシン、亜セレン酸ナトリウム、コルチコステロン、リノール酸、リノレン酸、プロゲステロン、酢酸レチノール、DL-α-トコフェロール(ビタミンE)、DL-α-酢酸トコフェロール、オレイン酸、ピペコリン酸およびビオチンを含む。
【0077】
本明細書において、「ロゼット」という用語またはその変形は、円柱細胞が配列したものを指す。神経ロゼットはSox1を発現する。神経ロゼットは、胚性幹細胞の分化培養において神経前駆細胞の発生を示すシグネチャーである。ロゼットは、神経管の神経上皮細胞において発現されるタンパク質の多くを発現する円柱細胞が放射状に配列したものである。神経ロゼット内の神経前駆細胞は、神経上皮細胞と形態が似ているだけでなく、インビボにおいて神経上皮細胞の主な子孫細胞(ニューロン、オリゴデンドロサイトおよびアストロサイト)に分化することができる。
【0078】
本明細書において、「尾側化した神経前駆細胞(NPC)」という用語またはその変形は、尾側脊髄前駆細胞の運命を有し、Sox2およびPax6を発現し、パターン形成されていないNPCと比べてNkx6.1の発現量が高く、パターン形成されていないNPCと比べてSix3、Dlx2、Otx2およびFoxG1の発現量が低いNPCを指す。例えば、「尾側化した神経前駆細胞(NPC)」は、Sox2、ネスチンおよびPax6の発現量が、パターン形成されていないNPCと同程度であり、パターン形成されていないNPCと比べて、例えば、FoxG1、Otx2およびGbx2の発現量が少なくとも75%低下しており、Nkx6.1の発現量が少なくとも25%上昇しており、HoxA4、HoxB4 HoxC4およびHoxC5の発現量が少なくとも25~50%上昇している。また、Nkx6.1遺伝子の発現量が、例えば、腹側化したNPCと比べて少なくとも25%低下している。
【0079】
本明細書において、「神経誘導培地」すなわち「NIM」という用語またはその変形は、神経前駆細胞の培養に適した基礎培地を意味し、例えば、ピルビン酸ナトリウム;グルタミンやGlutaMAXTMなどのグルタミン製剤;ペニシリンおよび/またはストレプトマイシンなどの1種以上の抗生物質;ビタミンA不含のB27サプリメントなどのサプリメント;グリシン、L-アラニン、L-アスパラギン、L-アスパラギン酸、L-グルタミン酸、L-プロリン、L-セリンなどの非必須アミノ酸;LDN193189やノギン(Noggin)などのBMP阻害剤;TGFβ阻害剤(SB431542など);FGF2などのFGFRアゴニスト;ならびに任意の成分としてのヘパリンおよびEGFRアゴニスト(EGFであってもよい)のうちの1種以上を含むDMEM/F12培地が挙げられる。適切な神経誘導培地の一例は、実施例1の表1に示している。
【0080】
本明細書において、「多能性幹細胞」という用語またはその変形は、様々に異なる条件下で、2種以上の分化細胞に分化することができる細胞、例えば、三胚葉の特徴を持つ細胞種に分化することができる分化細胞を指し、体細胞から再プログラムされた胚性幹細胞および人工多能性幹細胞を含む。多能性細胞は、例えば、ヌードマウスを用いたテラトーマ形成アッセイによって、2種以上の細胞に分化できる能力を特徴とする。多分化能は、胚性幹(ES)細胞マーカーの発現からも証明することができる。ヒトiPSC(hiPSC)などの人工多能性幹細胞(iPSC)は、例えば、皮膚ケラチノサイトや線維芽細胞などのあらゆる体細胞から誘導することができ、対象や細胞株からも誘導することができる。PSCは、例えば、胎児から誘導することができ、胚から誘導することができ、ヒト胚性幹細胞から誘導することができる。
【0081】
本明細書において、「幹細胞」という用語またはその変形は、分化した娘細胞または分化可能な娘細胞を形成可能な多数の母細胞を生じることができる前駆細胞を形成できる能力と、自己複製能と、増殖能とを持つ未分化細胞を指す。娘細胞は、例えば、増殖させて、1種以上の成熟細胞に分化する子孫細胞を形成させることができ、これと同時に、親細胞と同じ発生能を持つ1個以上の細胞を保持させることもできる。
【0082】
本明細書において、「細胞培養培地」という用語またはその変形(本明細書において、「培養培地」または「培地」とも呼ぶ)は、細胞の生存を維持し、その増殖を支持し、場合に応じてその分化を支持するための栄養素を含む細胞培養用培地である。細胞培養培地は、塩類、緩衝液、アミノ酸、ブドウ糖またはその他の糖類、抗生物質、血清または血清代替物、ペプチド性成長因子やビタミン類などのその他の成分から選択される適切な組み合わせを含んでいてもよい。特定の種類の細胞に従来使用される細胞培養培地は、当業者に公知である。
【0083】
本明細書において、「継代する」、「継代した」もしくは「継代」という用語またはその変形は、培養中の増殖培地から培養細胞を新たな増殖培地に移すことを指す。細胞は、例えば、実施例1の記載に従って継代することができる。しかし、適切な継代方法であればどのようなものでも用いることができる。例えば、hiPSCは、過剰な増殖を阻止し、かつ未分化な状態で維持できるように継代する必要がある。さらに、iPSCは、細胞集塊の形態で継代することが好ましい場合がある。
【0084】
当業者であれば理解できるように、細胞剥離用酵素溶液AccutaseTMなどの、酵素や細胞剥離用酵素溶液を用いて、細胞を培養プレートから移動させることができる。ディスパーゼ、ReLeSR、TrypLEなどのその他の酵素も用いることができる。さらに、EDTA溶液のような、酵素を用いない方法も利用することができる。
【0085】
「ホルモンミックス」と呼ばれる「N2」および市販品ではないその調製物は、トランスフェリン、インスリン、プトレスシン、セレンおよびプロゲステロンを含むホルモンミックスを指す。例えば、N2は、10mg/mlのトランスフェリン、2.5mg/mlのインスリン、1mg/mlのプトレスシン、1μl/mlの15セレンおよび1μl/mlプロゲステロンを含んでいてもよい。N2は、Gibco社(インビトロジェン/サーモサイエンティフィック社)やシグマ社などから市販品を購入することができ、自家調製することもできる。
【0086】
特定の節に記載した定義および実施形態は、当業者によって好適であると見なされる本明細書に記載のその他の実施形態にも適用可能であることが意図されている。
【0087】
本明細書において上下限値によって規定される数値範囲は、その数値範囲に含まれるすべての数値および小数値を含む(例えば、1~5という数値範囲は、1、1.5、2、2.75、3、3.90、4および5を含む)。また、すべての数値および小数値は、「約」という用語で修飾されていると見なされる。
【0088】
本発明者らは、パターン形成されていないNPCと、脊髄アイデンティティを持つ神経前駆細胞(spNPC)の発生過程をたどる中間の細胞集団とから、脊髄アイデンティティを持つ神経前駆細胞(spNPC)を製造するための改良された方法を見出した。
【0089】
この方法は、実施例1の工程2および工程3の1つ以上の特徴を備えていてもよい。これらの特徴は、タイミング、順序、組成および/または因子の選択であってもよい。
【0090】
例えば、実施例1では、FGF2とEGFと740Y-Pまたはその合成アゴニストとを添加した適切な培養培地が、尾側化したNPCからの脊髄NPCの発生の促進と、脊髄NPCのアイデンティティの安定化に有用であることが示されている。実施例1では、740Y-Pの有効濃度範囲も指定されている。実施例2に示すように、この方法によって作製した細胞を移植することによって、機能回復を改善させることができる。
【0091】
したがって、本発明の第1の態様は、脊髄アイデンティティを持つ神経前駆細胞(spNPC)を製造する方法であって、
a.任意で行う工程として、プライミングされていてもよいパターン形成されていない神経前駆細胞(NPC)を、任意で細胞剥離溶液を用いて個々の細胞に解離させて、FGF2アゴニストと、FGF8であってもよいFGF8アゴニストとを添加した適切な培養培地中でインキュベートすることによって、パターン形成されていないNPCと比べて、少なくとも1つのHox遺伝子、好ましくはHoxA4および/またはHoxA5の発現量が上昇し、Gbx2、Otx2およびFoxG1の少なくとも1つの脳マーカーの発現量が低下した後方化したNPCを作製する工程;
b.レチノイン酸(RA)または合成レチノイン酸類似体であってもよく、EC23であってもよいレチノイン酸受容体アゴニストと、任意の培地成分として、Wnt3aまたはBML-284塩酸塩であってもよいWntシグナル伝達アクチベーターとを添加した適切な培養培地に、後方化したNPCを継代してインキュベートすることによって、継代前の後方化したNPCと比べて、Gbx2、Otx2および/またはFoxG1の発現量が低下した尾側化したNPCを作製する工程;
c.レチノイン酸または合成レチノイン酸類似体であってもよく、EC23であってもよいレチノイン酸受容体アゴニストを添加した適切な培養培地に、尾側化したNPCを継代する工程;ならびに
d.FGF2またはSUN11602であってもよいFGF2アゴニストと、EGFまたはNSC228155であってもよいEGF受容体アゴニストと、740Y-Pまたはその合成アゴニストとを添加した適切な培養培地に、工程c)の尾側化したNPCを継代して、該NPCのアイデンティティが、脊髄アイデンティティを持つ神経前駆細胞(spNPC)として安定化するまで継代を継続する工程を含み、
各回の継代後または少なくとも1回の継代後に、1日目の培養培地にROCK阻害剤を添加してもよい、
方法を含む。
【0092】
本明細書で述べるように、本発明の方法は、パターン形成されていない前駆細胞またはこれよりも後の発生段階の細胞、例えば、後方化したNPCなどから開始することができる。
【0093】
本発明者らは、Wntシグナル伝達アクチベーターがレチノイン酸の活性を向上させることができることを特定した。本発明者らは、例えば、尾側化工程(例えば、後方化したNPCをレチノイン酸受容体アゴニストで処理する工程)で使用する培地に、例えば、Wnt3aを添加した場合、継代前の後方化した細胞と比べて、尾側化した細胞のHox遺伝子(例えばHoxA4および/またはHoxA5など)の発現量の上昇が増強され、かつGbx2遺伝子、Otx2遺伝子またはFoxG1遺伝子の発現量の低下が増強されることを特定した。
【0094】
安定化した細胞は、アイデンティティが固定されており、さらなる処理を行うことなく、別の発生アイデンティティに自力で移動することはできず、例えば、別の発生アイデンティティに自力で戻ることはできない。安定化した細胞は、増殖培地または維持培地中で、その時点でのアイデンティティに維持される。例えば、細胞が、そのアイデンティティと本明細書に記載されているような遺伝子発現プロファイルを、少なくとも5代、少なくとも6代または少なくとも10代にわたって維持している場合、その細胞は安定化していると見なされる。
【0095】
Rock阻害剤は、各回の継代後または一連の継代後に、例えば、少なくとも1つの工程の後、例えば、1つ以上の工程の後に、継代から1日経過後に培養に添加することができる。Rock阻害剤を1日目に添加した場合、数日経過後に取り除いてもよく、そのまま残しておいてもよい。Rock阻害剤は、例えば、継代後2日目に培地を交換することによって除去することができる。
【0096】
Notchの阻害は、細胞を外胚葉運命に維持させるために必要である。レチノイン酸(RA)とその類似体は、外胚葉運命から細胞を分化させることができる。脊髄アイデンティティを持つ神経前駆細胞(spNPC)の作製には、Notchの阻害と、例えばレチノイン酸などによるレチノイン酸受容体の活性化とが必要とされる。本発明者らは、EGF-L7を用いることによって、必要とされるこれらのシグナル伝達経路のバランスを取ることができることを見出した。EGF-L7は、Notchを阻害すると同時に、レチノイン酸のシグナル伝達に悪影響を及ぼさないという2つの機能を有する。
【0097】
本発明の別の一態様は、パターン形成されていない神経前駆細胞(NPC)をプライミングして外胚葉細胞運命に維持する方法であって、
a.Pax6およびSox1を含む神経外胚葉マーカーを発現するパターン形成されていない神経前駆細胞(NPC)を得る工程;ならびに
b.i.工程aのパターン形成されていないNPCを含む培養培地に、EGF-L7アゴニスト、好ましくはEGF-L7を添加し;かつ
ii.任意の培地成分として、DLL4であってもよいNotchシグナル伝達アクチベーターを前記培養培地に添加することによって、
工程aのパターン形成されていないNPCをプライミングして外胚葉運命に維持する工程
を含む方法を含む。
【0098】
前述の方法は組み合わせることができる。
【0099】
したがって、本発明の別の一態様は、パターン形成されていない神経前駆細胞(NPC)から脊髄アイデンティティを持つ神経前駆細胞(spNPC)を製造する方法であって、
a.Pax6およびSox1を含む神経外胚葉マーカーを発現するパターン形成されていない神経前駆細胞(NPC)を得る工程;ならびに
b.i.工程aのパターン形成されていないNPCを含む培養培地に、EGF-L7アゴニスト、好ましくはEGF-L7を添加し;かつ
ii.任意の培地成分として、DLL4であってもよいNotchシグナル伝達アクチベーターを前記培養培地に添加することによって、
工程aのパターン形成されていないNPCをプライミングして外胚葉運命に維持する工程;ならびに
c.i.プライミングしたパターン形成されていないNPCを、任意で細胞剥離溶液を用いて個々の細胞に解離させて、FGF2アゴニストと、FGF8であってもよいFGF8アゴニストとを添加した適切な培養培地中でインキュベートすることによって、パターン形成されていないNPCと比べて、HoxA4および/またはHoxA5であってもよい少なくとも1つのHox遺伝子の発現量が上昇し、Gbx2、Otx2およびFoxG1を含む少なくとも1つの脳マーカーの発現量が低下した後方化したNPCを作製し;
ii.レチノイン酸または合成レチノイン酸類似体であってもよく、EC23であってもよいレチノイン酸受容体アゴニストと、Wnt3aまたはBML-284塩酸塩であってもよいWntシグナル伝達アクチベーターとを添加した適切な培養培地に、後方化したNPCを継代することによって、継代前の後方化したNPCと比べて、Gbx2、Otx2および/またはFoxG1の発現量が低下した尾側化したNPCを作製し;
iii.レチノイン酸または合成レチノイン酸類似体であってもよく、EC23であってもよいレチノイン酸受容体アゴニストを添加した適切な培養培地に、尾側化したNPCを継代し;かつ
iv.FGF2またはSUN11602と、EGFまたはNSC228155と、740Y-Pまたはその合成アゴニストとを添加した適切な培養培地に、工程iii)の尾側化したNPCを継代して、該NPCのアイデンティティが、脊髄アイデンティティを持つ神経前駆細胞(spNPC)として安定化するまで継代を2~3代以上継続することによって、
プライミングしたパターン形成されていないNPCのパターン形成を行ってspNPCを作製する工程
を含み、
各回の継代後または少なくとも1回の継代後に、1日目の培養培地にROCK阻害剤を添加してもよい、
方法を含む。
【0100】
本発明の別の一態様は、人工多能性幹細胞(iPSC)から脊髄アイデンティティを持つ神経前駆細胞(spNPC)を製造する方法であって、
a.i.TGFβ阻害剤、FGF2アゴニスト、Wnt阻害剤およびBMP阻害剤を含んでいてもよいiPSC培養培地に、人工多能性幹細胞(iPSC)を継代し、約2日間、例えば36時間~4日間培養し;
ii.FGF2であってもよいFGF2アゴニストを含まないiPSC培養培地中で前記iPSCを約4日間培養し、約2日目に、例えば、培養開始時から約36時間~約4日経過後に、BMP阻害剤または(TGFβ経路とBMP経路を阻害するための)SMAD二重阻害剤を前記培養培地に添加し;
iii.FGF2であってもよいFGF2アゴニストを含まない神経誘導培地中で前記iPSCを約2日間培養して、胚様体を作製し;かつ
iv.FGF2またはSUN11602であってもよいFGF2アゴニストを添加した神経誘導培地中で工程iiiの胚様体を約7~11日間培養して神経ロゼットを作製した後、その後の培養の約2日目に、前記BMP阻害剤または前記SMAD二重阻害剤を培地から除去して、パターン形成されていないNPCを作製することによって、
iPSCからパターン形成されていないNPCを製造する工程;
b.i.工程aのパターン形成されていないNPCを含む培養培地に、EGF-L7アゴニスト、好ましくはEGF-L7を添加し;かつ
ii.任意の培地成分として、DLL4であってもよいNotchシグナル伝達アクチベーターを前記培養培地に添加することによって、
工程aのパターン形成されていないNPCをプライミングして外胚葉運命に維持する工程;ならびに
c.i.プライミングしたパターン形成されていないNPCを、任意で細胞剥離溶液を用いて個々の細胞に解離させて、FGF2またはSUN11602などのFGF2アゴニストと、FGF8であってもよいFGF8アゴニストとを添加した適切な培養培地中でインキュベートすることによって、パターン形成されていないNPCと比べて、HoxA4および/またはHoxA5であってもよい少なくとも1つのHox遺伝子の発現量が上昇し、Gbx2、Otx2およびFoxG1を含む少なくとも1つの脳マーカーの発現量が低下した後方化したNPCを作製し;
ii.レチノイン酸または合成レチノイン酸類似体であってもよく、EC23であってもよいレチノイン酸受容体アゴニストと、Wnt3aまたはBML-284塩酸塩であってもよいWntシグナル伝達アクチベーターとを添加した適切な培養培地に、後方化したNPCを継代してインキュベートすることによって、継代前の後方化したNPCと比べて、Gbx2、Otx2および/またはFoxG1の発現量が低下した尾側化したNPCを作製し;
iii.レチノイン酸または合成レチノイン酸類似体であってもよく、EC23であってもよいレチノイン酸受容体アゴニストを添加した適切な培養培地に、尾側化したNPCを継代してインキュベートし;かつ
iv.FGF2またはSUN11602であってもよいFGF2アゴニストと、EGFまたはNSC228155であってもよいEGF受容体アゴニストと、740Y-Pまたはその合成アゴニストとを添加した適切な培養培地に、工程iii)の尾側化したNPCを継代して、該NPCのアイデンティティが、脊髄アイデンティティを持つ神経前駆細胞(spNPC)として安定化するまで継代を継続することによって、
プライミングしたパターン形成されていないNPCのパターン形成を行ってspNPCを作製する工程
を含み、
各回の継代後または少なくとも1回の継代後に、1日目の培養培地にROCK阻害剤を添加してもよい、
方法を含む。
いくつかの実施形態において、パターン形成されていないNPCを製造する方法は、実施例1に記載の別の工程をさらに含む。
【0101】
いくつかの実施形態において、前記FGF2アゴニストはFGF2であり、ヒトFGF2であることが好ましい。
【0102】
いくつかの実施形態において、前記FGF8アゴニストはFGF8であり、ヒトFGF8であることが好ましい。
【0103】
いくつかの実施形態において、前記EGFRアゴニストはEGFである。
【0104】
いくつかの実施形態において、前記レチノイン酸受容体アゴニストはレチノイン酸である。
【0105】
後述の実施例において、前述の工程で使用されるFGF8、EGF-L7および/または740Y-Pは、spNPCの作製に有用であることが示されている。
【0106】
胚様体は、多能性幹細胞からなる三次元細胞凝集塊であり、例えば、Klf4および/またはOct4などの多能性細胞マーカーを発現する。
【0107】
神経外胚葉細胞は、外胚葉に由来する細胞からなる。神経外胚葉細胞のマーカーの1つとしてSox1がよく知られている。
【0108】
FGF8アゴニストは、FGF8であってもよく、FGF8bであることが好ましいが、FGF8aもしくはFGF8eまたはその組み合わせを使用することもできる。
【0109】
本発明者らは、例えば、どのような由来源から得られたパターン形成されていないNPCを出発細胞とした場合でも、様々な因子を組み合わせて特定の順序で使用することによって、spNPCを製造できることを見出した。例えば、パターン形成されていないNPCをEGF-L7に暴露させた後に、高濃度のFGF2および/またはFGF8を添加し、Wntの活性化とレチノイン酸(RA)とによる短期間のパルス刺激を実施し、次にレチノイン酸のみで処理した後、740-YPで処理することによって、spNPCを製造できることを見出した。
【0110】
「SMADの二重阻害」は、BMP経路とTGFβ経路の阻害を指す。SMADの二重阻害は、「SMAD二重阻害剤」を用いて行うことができ、「SMAD二重阻害剤」は、BMP経路とTGFβ経路の両方を阻害する単一の阻害剤、またはBMP経路を阻害する阻害剤とTGFβ経路を阻害する阻害剤の組み合わせ(例えば、BMP阻害剤とTGFβ阻害剤の組み合わせ)を指す。BMP阻害剤の例として、ノギン(Noggin)、ドルソモルフィン、LDN-193189、ML347、LDN-212854およびDMH1が挙げられる。その他のBMP阻害剤およびTGFβ阻害剤としては、例えば、SB431542、LDN-193189、PD169316、SB203580、LY364947、A77-01、A-83-01、GW788388、GW6604、SB-505124、lerdelimumab、metelimumab、GC-1008、AP-12009、AP-11014、LY550410、LY580276、LY364947、LY2109761、SB-505124、E-616452(ALK阻害剤であるRepSox)、SD-208、SM16、NPC-30345、Ki26894、SB-203580、SD-093、アクチビン-M108A、P144、可溶性TBR2-Fc、DMH-1、ドルソモルフィン二塩酸塩、これらの誘導体およびこれらの組み合わせが知られている。
【0111】
TGFβ阻害剤の例として、SB431532、PD169316、ガルニセルチブ(LY2157299)またはLY3200882、およびこれらの組み合わせが挙げられる。その他のものも知られている。
【0112】
別の一実施形態において、前記iPSCは、哺乳動物(例えばヒト)の体細胞から作製されたものである。一実施形態において、前記iPSCはヒトiPSC(hiPSC)である。一実施形態において、前記iPSCは、脊髄損傷を負った対象から作製されたものである。このような細胞から自家spNPCを作製することができ、得られた自家spNPCを、例えば、自家移植に用いることができる。
【0113】
BMP阻害剤およびTGFβ阻害剤の代わりに様々な分子を使用することができ、例えば、BMPの阻害は、LDN-193189、ML347、LDN-212854および/またはDMH1を用いて行うことができ、TGFβの阻害は、PD169316、ガルニセルチブ(LY2157299)および/またはLY3200882を用いて行うことができ、Wntの活性化は、KYA1797K、JW55および/またはPOCNを用いて行うことができる。
【0114】
別の一実施形態において、パターン形成されていないNPCを、約3日間インキュベートする。
【0115】
別の一実施形態において、後方化したNPCを、さらに約3日間インキュベートする。
【0116】
別の一実施形態において、尾側化したNPCを、さらに約2日間インキュベートする。
【0117】
別の一実施形態において、後方化したNPCの製造に使用される培養培地中のFGF2の濃度は、20ng/ml~約150ng/mlであり、例えば、約40ng/mLである。
【0118】
FGF2と類似した作用を発揮できる濃度で、その他のFGF2アゴニストを用いることもできる。
【0119】
別の一実施形態において、FGF8の濃度は、約50ng/ml~約400ng/mlであり、例えば、約200ng/mLである。
【0120】
FGF8と類似した作用を発揮できる濃度で、その他のFGF8アゴニストを用いることもできる。
【0121】
別の一実施形態において、合成レチノイン酸類似体は、約0.1μMの EC23である。
【0122】
別の一実施形態において、Wnt3aの濃度は約100μg/mlである。
【0123】
Wnt3aと類似した作用を発揮できる濃度で、その他のWnt3aアゴニストを用いることもできる。
【0124】
別の一実施形態において、前記NPCのアイデンティティが安定化するまで該NPCを継代するための培養培地中のFGF2アゴニストの濃度は、約10ng/mlであり、該FGF2アゴニストは、FGF2またはSUN11602であってもよい。
【0125】
別の一実施形態において、EGFの濃度は約10ng/mlである。
【0126】
EGFと類似した作用を発揮できる濃度で、その他のEGFRアゴニストを用いることもできる。
【0127】
別の一実施形態において、740Y-Pの濃度は約1μMである。
【0128】
別の一実施形態において、ROCK阻害剤はY-27632である。
【0129】
別の一実施形態において、ROCK阻害剤の濃度は約10μMである。
【0130】
Y-27632と類似した作用を発揮できる濃度で、その他のROCK阻害剤を用いることもできる。
【0131】
別の一実施形態において、spNPCを3~10代継代する。
【0132】
別の一実施形態において、EGF-L7の濃度は約10ng/mLである。
【0133】
別の一実施形態において、DLL4の濃度は約0.5μMである。
【0134】
DLL4と類似した作用を発揮できる濃度で、その他のNotchシグナル伝達アクチベーターを用いることもできる。
【0135】
アゴニスト、アクチベーターまたは阻害剤が、タンパク質などの生体分子である場合、哺乳動物の配列が使用され、ヒト配列を用いることが好ましい。
【0136】
特定の実施形態において、前記方法は、所望の細胞を濃縮および/または単離する工程をさらに含む。
【0137】
本発明の別の一態様は、実施例に記載の1つ以上の工程を含む方法である。
【0138】
spNPCはさらに分化誘導することができ、例えば、神経細胞への分化を誘導するため、EGFおよびFGFの非存在下、かつBDNF、GDNF、アスコルビン酸およびcAMPの存在下でspNPCを培養することができる。実施例1に述べるように、分化誘導した細胞は神経細胞の形態を示し、神経細胞マーカーであるβIIIチューブリンを発現していた(
図10)。spNPCをBMP4とCNTFに暴露することによって、アストロサイトへの分化が誘導され、グリア線維性酸性タンパク質(GFAP)が均一に染色されたアストロサイトの形態の細胞を得ることができる(
図10)。さらに、例えば、Shhアゴニストで処理した後にPDGF-Aによる処理を順次行うことによって、オリゴデンドログリア運命へとspNPCを分化させることができる。3週間分化させた後、細胞染色を行ったところ、特徴的なオリゴデンドロサイトの形態を有するO1陽性細胞が見出された。
【0139】
本発明の別の一態様は、本明細書に記載の方法によって製造されたspNPCまたは該spNPCから分化誘導した細胞を含む細胞集団を含む。この細胞集団は、組成物中に含まれていてもよく、担体と組み合わせて組成物中に含めてもよく、薬学的に許容される担体と組み合わせて組成物中に含めてもよい。いくつかの実施形態において、前記細胞集団は、この細胞集団を必要とするレシピエントへの移植に使用される。薬学的に許容される担体は、培養培地、マトリックスまたは凍結培地であってもよく、GMPグレードまたは滅菌されたものであってもよい。
【0140】
本発明の別の一態様は、プライミングもパターン形成もされていないNPCと比べて、Nest、Pax6およびSox2の発現量が高いプライミングされたパターン形成されていないNPCの単離された細胞集団を含む。本発明の別の一態様は、パターン形成されていないNPCと比べて、HoxA4の発現量が高く、Six3、Dlx2、LmxA1、FoxG1、Gbx2および/またはOtx2の発現量が低い後方化されたNPCの単離された細胞集団を含む。本発明の別の一態様は、後方化されたNPCと比べて、HoxA4の発現量が高く、FoxG1、Gbx2およびOtx2の発現量が低い尾側化されたNPCの単離された細胞集団を含む。本発明の別の一態様は、尾側化されたNPCと比べて、HoxA4およびHoxA5の発現量が高く、Gbx2およびOtx2の発現量が低い脊髄NPCの単離された細胞集団を含む。本明細書に記載のspNPCは、たとえ組織内に存在していたとしても、まとまった量で単離や採取することはできない。本明細書に記載の方法は、例えば、自家spNPCの作製に使用することができ、例えば、脊髄損傷を負った対象などの対象から得られた線維芽細胞またはその他の体細胞を用いて、単離されたspNPCを作製することができる。
【0141】
いくつかの実施形態において、高い発現量もしくは発現の増加は、倍率変化(log2スケール)が少なくとも1倍の上昇/増加であり、かつ/または低い発現量もしくは発現量の減少は、倍率変化(log2スケール)が少なくとも1倍の低下/減少である。
【0142】
本開示の別の一態様は、本明細書に記載の方法によって製造されたspNPCを含む単離された細胞集団であって、該spNPCが患者に由来するものであってもよく、該患者が脊髄損傷患者であってもよく、前記単離された細胞集団が移植用であってもよく、自家移植用であってもよい、細胞集団を含む。
【0143】
本開示の別の一態様は、本明細書に記載の単離された細胞集団と薬学的に許容される担体を含む組成物であって、該薬学的に許容される担体が、培養培地、マトリックスまたは凍結培地であってもよく、GMPグレード、ゼノフリー培地および/または滅菌されたものであってもよい、組成物を含む。
【0144】
いくつかの実施形態において、本明細書に記載の細胞集団または組成物は、脊髄損傷または神経変性疾患を有する対象の治療に使用するためのものである。
【0145】
本開示の別の一態様は、脊髄損傷もしくは神経変性疾患を有する対象を治療する方法、または脊髄損傷もしくは神経変性疾患を有する対象の治療用医薬品の製造における脊髄損傷もしくは神経変性疾患を治療する方法であって、該方法が、本明細書に記載の単離された細胞集団または組成物を投与することによって、脊髄損傷もしくは神経変性疾患を有する対象を治療するか、または脊髄損傷もしくは神経変性疾患を有する対象の治療用医薬品の製造における脊髄損傷もしくは神経変性疾患を治療することを含む、方法である。
【0146】
いくつかの実施形態において、前記脊髄損傷は、頸髄損傷、胸髄損傷または腰髄損傷であり、急性であってもよく慢性であってもよい。
【0147】
いくつかの実施形態において、前記神経変性疾患は、多発性硬化症(MS)、脳性麻痺(CP)、パーキンソン病、アルツハイマー病、ハンチントン病、筋萎縮性側索硬化症、フリードライヒ運動失調症、レビー小体病、脊髄性筋萎縮症、多系統萎縮症、認知症、統合失調症、麻痺、多発性硬化症、脊髄損傷、脳損傷(例えば脳卒中)、脳神経障害、末梢性感覚ニューロパチー、癲癇、プリオン病、クロイツフェルト・ヤコブ病、アルパース病、小脳/脊髄小脳変性症、バッテン病、大脳皮質基底核変性症、ベル麻痺、ギラン・バレー症候群、ピック病および/または自閉症である。
【0148】
本開示の別の一態様は、脊髄アイデンティティを持つヒト神経幹/前駆細胞または神経前駆細胞(spNPC)を作製する方法であって、
a)TGFβ阻害剤、FGF2アゴニスト、Wnt阻害剤およびBMP阻害剤を含む培養培地に多能性幹細胞を懸濁する工程;
b)工程(a)で得られた細胞を、Wnt阻害剤とBMP阻害剤を含む培養培地中で懸濁培養する工程;
c)得られたヒト多能性細胞を実質的に無血清の培地と接触させることによって胚様体を形成させる工程;
d)前記胚様体を培養することによって、ロゼット、神経管様構造および神経外胚葉細胞を形成させる工程;
e)前記神経外胚葉細胞のプライミングを、好ましくは、EGF-L7またはそのアゴニスト(例えば、(Notchを阻害するための)DLK1またはDAPTとの組み合わせ)と、(EGFRを活性化させるための)NSC228155またはベータセルリンと、(ICAM-1を阻害するための)A-205804と、(NF-κBを阻害するための)ボルテゾミブおよびバルドキソロンメチルとを使用し、かつDLL4またはNotchシグナル伝達活性化分子でNotchシグナル伝達を活性化することによって行うことにより、前記神経外胚葉細胞を外胚葉細胞運命に維持する工程;
f)高濃度のFGF2アゴニスト、好ましくはFGF2と、高濃度のFGF8アゴニスト、好ましくはFGF8とを用いて(例えば、20ng/mlより高く約400ng/mL以下の濃度のFGF2またはFGF8を用いて)、工程e)でプライミングした細胞を後方化させる工程;
g)工程f)で後方化した細胞を、好ましくは、レチノイン酸類似体であってもよいレチノイン酸受容体アゴニストと、AZD2858、Wntアゴニスト1、CP21R7(CP21)、WntなどのWntアゴニストとで処理することによって、尾側化する工程;ならびに
h)PI3キナーゼ-Akt経路とFGF経路の二重活性化を、好ましくは740Y-Pを用いて行うことによって、工程g)で作製した細胞から脊髄神経前駆細胞の増殖能を誘導する工程
を含む方法を含む。
【0149】
本開示の別の一態様は、インビトロにおいて多能性幹細胞から脊髄神経前駆細胞を派生させる一連の工程において使用するための細胞培養用組成物であって、
前記脊髄神経前駆細胞が、Sox2、Pax6、ネスチンまたはビメンチンのうちの1つ以上の検出マーカーを発現し、かつ神経系細胞への分化能を有すること;
前記細胞培養用組成物が、細胞培養用基礎組成物を含み、各工程に使用される細胞培養用基礎組成物が、表1に記載の組成を有していてもよいこと;
前記細胞培養用組成物が、請求項27の工程e)に記載の、神経外胚葉細胞をプライミングして外胚葉細胞運命に維持させるための、EGF-L7であってもよいEGF-L7アゴニスト、請求項27の工程e)に記載の、プライミングした細胞を後方化させるための、FGF2であってもよいFGF2アゴニストおよび/もしくはFGF8であってもよいFGF8アゴニスト、請求項27の工程g)に記載の、後方化した細胞を尾側化させるための、レチノイン酸であってもよいレチノイン酸受容体アゴニストもしくはWnt3a、ならびに/または請求項27の工程h)に記載の、増殖能を誘導するための740Y-Pをさらに含むこと;ならびに
これらの成分の濃度が、本明細書に記載の濃度または濃度範囲であってもよいこと
を特徴とする細胞培養用組成物を含む。
いくつかの実施形態において、各工程の基礎培地として、表1に示す培地を使用する。
いくつかの実施形態において、前記BMP阻害剤は、ノギン(Noggin)、ドルソモルフィン、LDN-193189、ML347、LDN-212854、DMH1、SB431542、LDN-193189、PD169316、SB203580、LY364947、A77-01、A-83-01、GW788388、GW6604、SB-505124、lerdelimumab、metelimumab、GC-1008、AP-12009、AP-11014、LY550410、LY580276、LY364947、LY2109761、SB-505124、E-616452(ALK阻害剤であるRepSox)、SD-208、SM16、NPC-30345、Ki26894、SB-203580、SD-093、アクチビン-M108A、P144、可溶性TBR2-Fc、DMH-1、ドルソモルフィン二塩酸塩、これらの誘導体およびこれらの組み合わせからなる群から選択され、好ましくは、ノギン、ドルソモルフィン、LDN-193189、ML347、LDN-212854およびDMH1から選択される。いくつかの実施形態において、前記BMP阻害剤はLDN193189である。
【0150】
いくつかの実施形態において、前記SMAD二重阻害剤は、TGFβ阻害剤とBMP阻害剤を含み;該TGFβ阻害剤は、SB431532、PD169316、ガルニセルチブ(LY2157299)およびLY3200882からなる群から選択され;前記BMP阻害剤は、ノギン(Noggin)、ドルソモルフィン、LDN-193189、ML347、LDN-212854、DMH1、SB431542、LDN-193189、PD169316、SB203580、LY364947、A77-01、A-83-01、GW788388、GW6604、SB-505124、lerdelimumab、metelimumab、GC-1008、AP-12009、AP-11014、LY550410、LY580276、LY364947、LY2109761、SB-505124、E-616452(ALK阻害剤であるRepSox)、SD-208、SM16、NPC-30345、Ki26894、SB-203580、SD-093、アクチビン-M108A、P144、可溶性TBR2-Fc、DMH-1、ドルソモルフィン二塩酸塩、これらの誘導体およびこれらの組み合わせからなる群から選択され、好ましくは、ノギン、ドルソモルフィン、LDN-193189、ML347、LDN-212854およびDMH1から選択される。その他のTGFβ阻害剤およびBMP阻害剤も公知である。いくつかの実施形態において、前記TGFβ阻害剤は、SB431542またはA-83-01である。
【0151】
いくつかの実施形態において、前記Wnt阻害剤は、XAV939、DKK-1、DKK-2、DKK-3、DKK-4、POCN阻害剤、C59、LGK-974、SFRP-1、SFRP-2、SFRP-5、SFRP-3、SFRP-4、WIF-1、Soggy、IWP-2、IWR1、ICG-001、KY0211、Wnt-C59、LGK974、1WP-L6、これらの誘導体およびこれらの組み合わせからなる群から選択される。別の実施形態において、前記Wnt阻害剤はPOCNである。さらに別の実施形態において、前記Wnt阻害剤は、C59またはLGK-974である。
【0152】
いくつかの実施形態において、前記多能性幹細胞はヒト多能性幹細胞である。別の実施形態において、前記ヒト多能性幹細胞は、ヒトiPS細胞またはヒトES細胞である。
【0153】
いくつかの実施形態において、前記培養培地は、血清または血清代替品をさらに含む。別の実施形態において、前記培養培地はROCK阻害剤を含む。
【0154】
本開示の別の一態様は、本明細書に記載の方法によって製造されたヒト多能性幹細胞由来脊髄神経幹/前駆細胞(spNPC)の単離された集団であって、前記脊髄神経幹/前駆細胞が、ネスチン、Sox2、Pax6の少なくとも1つを発現し、従来の神経幹細胞(NSC)と類似した表現型を含んでいてもよく、少なくとも1つのHox遺伝子(好ましくはHoxA4またはHoxA5)を発現してもよいことを特徴とする単離された集団を含む。いくつかの実施形態において、前記培養された細胞の少なくとも1つは、ネスチン、Sox2およびPax6から選択される1つ以上の検出マーカーを発現するとともに、別の検出マーカーとしてHoxA4またはHoxA5を発現し、前記神経幹/前駆細胞におけるHoxA4の発現量は、従来の方法で誘導された前脳神経前駆細胞におけるHoxA4の発現量と比べて少なくとも50%増加している。いくつかの実施形態において、前記脊髄神経幹/前駆細胞は、後方化された細胞であり、パターン形成されていない細胞または前脳神経前駆細胞(fbNPC)と比べて、HoxA4および/またはHoxA5などのHox遺伝子の発現量が高く、Gbx2、Otx2、FoxG1などの脳マーカーの発現量が低い。いくつかの実施形態において、前記spNPCは、ニューロン、アストロサイトまたはオリゴデンドロサイトに分化する。
【0155】
本開示の一態様は、本明細書に記載の単離された細胞集団と担体を含む組成物であって、該担体が、薬学的に許容される担体であってもよく、培養培地またはマトリックスであってもよく、GMPグレード、ゼノフリー培地または滅菌されたものであってもよい、組成物を含む。
【0156】
本開示の一態様は、神経変性疾患の脊髄損傷の治療用医薬品の製造における、本明細書に記載のspNPC集団または本明細書に記載の組成物の使用を含む。
【0157】
いくつかの実施形態において、前記神経変性疾患は、多発性硬化症、脳性麻痺、パーキンソン病、アルツハイマー病、ハンチントン病、筋萎縮性側索硬化症、フリードライヒ運動失調症、レビー小体病、脊髄性筋萎縮症、多系統萎縮症、認知症、統合失調症、麻痺、多発性硬化症、脊髄損傷、脳損傷(例えば脳卒中)、脳神経障害、末梢性感覚ニューロパチー、癲癇、プリオン病、クロイツフェルト・ヤコブ病、アルパース病、小脳/脊髄小脳変性症、バッテン病、大脳皮質基底核変性症、ベル麻痺、ギラン・バレー症候群、ピック病および/または自閉症である。
【0158】
いくつかの実施形態において、前記spNPCは、患者の脳または脊髄への移植に使用される。
【0159】
本開示の一態様は、神経変性疾患の脊髄損傷を治療する方法であって、神経変性疾患の脊髄損傷の治療を必要とする患者に、本明細書に記載のspNPC集団または本明細書に記載の組成物を投与することを含む方法である。いくつかの実施形態において、前記spNPCは、患者の脳または脊髄への移植に使用される。いくつかの実施形態において、前記神経変性疾患は、多発性硬化症、脳性麻痺、パーキンソン病、アルツハイマー病、ハンチントン病、筋萎縮性側索硬化症、フリードライヒ運動失調症、レビー小体病、脊髄性筋萎縮症、多系統萎縮症、認知症、統合失調症、麻痺、多発性硬化症、脊髄損傷、脳損傷(例えば脳卒中)、脳神経障害、末梢性感覚ニューロパチー、癲癇、プリオン病、クロイツフェルト・ヤコブ病、アルパース病、小脳/脊髄小脳変性症、バッテン病、大脳皮質基底核変性症、ベル麻痺、ギラン・バレー症候群、ピック病および/または自閉症である。
【0160】
さらに、本明細書に記載の方法によって作製された1つ以上の細胞を含む組成物であって、担体と組み合わせてもよい組成物を提供する。
後述の実施例に示すように、本発明の別の一態様は、本明細書に記載の細胞集団または組成物を必要とする対象、例えば、脊髄損傷または神経変性疾患を有する対象を治療するための、本明細書に記載の細胞集団または組成物の使用を含む。前記脊髄損傷は、頸髄損傷または胸髄損傷であってもよく、急性であってもよく慢性であってもよい。一実施形態において、前記神経変性疾患は、多発性硬化症(MS)、脳性麻痺(CP)、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、パーキンソン病(PD)、アルツハイマー病(AD)、ハンチントン病(HD)、フリードライヒ運動失調症、レビー小体病、脊髄性筋萎縮症、多系統萎縮症、麻痺、脳損傷(例えば脳卒中)、脳神経障害または末梢性感覚ニューロパチーである。
【0161】
別の態様は、前記細胞もしくは該細胞を含む組成物を必要とする対象に移植を行うため、かつ/または前記細胞もしくは該細胞を含む組成物を必要とする対象を治療するための、前記細胞または該細胞を含む組成物の使用をさらに含み、この使用は、例えば、脊髄損傷もしくは脊髄変性を有する対象に移植を行うため、かつ/または脊髄損傷もしくは脊髄変性を有する対象を治療するための、前記細胞または前記組成物の使用であってもよく、前記脊髄損傷または脊髄変性は、例えば、神経変性疾患によって引き起こされたものであってもよく、多発性硬化症または脳性麻痺によって引き起こされたものであってもよい。
【0162】
前記細胞または前記組成物は、1つ以上の神経保護因子と組み合わせてもよく、かつ/または本明細書に記載の細胞集団が投与される対象に、1つ以上の神経保護因子をさらに投与してもよく、該1つ以上の神経保護因子は、例えば、GDNF、BDNF、NT3、NGFおよび/またはCNTFである。一実施形態において、投与される細胞は、spNPCを含むか、spNPCから分化した細胞を含む。一実施形態において、spNPCは、本明細書に示すように、再髄鞘化を助けるオリゴデンドロサイトの発生を促進する因子の発現量が増加していてもよく、fbNPCまたはその他の種類の細胞とともに投与される。
【0163】
特定の節に記載した定義および実施形態は、当業者によって好適であると見なされる本明細書に記載のその他の実施形態にも適用可能であることが意図されている。例えば、以下の節では、本開示の様々な態様をより詳細に規定している。以下で規定されている各態様は、相反する記載がない限り、その他の1つの態様または複数の態様と組み合わせてもよい。より具体的には、好ましいものまたは有利なものとして示された特徴を、好ましいものまたは有利なものとして示された別の1つの特徴または複数の特徴と組み合わせてもよい。
【0164】
前述の開示は本願を概説するものである。以下の具体的な実施例を参照することによって、より深く理解することができるであろう。これらの実施例は、説明のみを目的としたものであり、本願の範囲を限定するものではない。状況から示唆される場合や、状況的に都合が良い場合、形態の変更および等価物への置換も想定される。本明細書において特定の用語を使用しているが、これらの用語は説明を意図したものであり、本発明を限定するものではない。
【0165】
以下の実施例により本開示を説明するが、本開示はこれらの実施例に限定されない。
【実施例】
【0166】
実施例1
本明細書において、脊髄アイデンティティを持つhPSC由来神経前駆細胞(spNPC)をhPSCから作製するための段階的なプロトコルの一例を提供する。この操作は、主に3つの工程、すなわち、
1)パターン形成されていないNPCの作製または胚様体(EB)の形成と、SMADの二重阻害とを行う工程、
2)NPCをプライミングして外胚葉細胞運命を誘導する工程、および
3)NPCのパターン形成を誘導してspNPCに分化させる工程
により行われる(
図3)。
【0167】
工程1:hPSCからのパターン形成されていないNPCの作製
インビトロにおいてNPCを作製する方法には様々なものがあり、「デフォルト経路」を用いる方法22,23や、SMADシグナル伝達経路を阻害する方法がある。さらに、BMP阻害剤を用いてBMP経路のみを阻害するプロトコルと、SMAD二重阻害剤を用いてTGFβ経路とBMP経路の両方を阻害するプロトコルがある。これらのプロトコルを用いてインビトロで作製されたNPCは、デフォルト状態では最初に吻側アイデンティティを獲得し14、その後、パターン形成されて、別のアイデンティティを獲得する。
【0168】
吻側アイデンティティを持つNPCを作製するには、SMADの二重阻害を利用した胚様体培養法を用いる。この方法で作製した細胞を、本明細書において、「パターン形成されていないNPC」と呼ぶ。
【0169】
線維芽細胞からなるフィーダー細胞層上でhPSCを培養した場合、神経前駆細胞を分化誘導する前に、フィーダーフリー条件でさらに3~4代継代することができる。これによって細胞を順化させて、培養の品質および収率を向上させることができる。
【0170】
胚様体を作製するには、超低接着ディッシュを用いて、(FGF2を含まない)hPSC培養培地と神経誘導培地でhPSCの小塊を7日間培養する。この培養期間中に、hPSCは、胚様体と呼ばれる細胞凝集塊に成長する。
【0171】
神経外胚葉の誘導は、神経誘導培地(NIM)に胚様体を移したときから始まる(約4~5日目)。神経誘導培地中のマトリゲルまたはGeltrexに胚様体を播種すると、神経外胚葉細胞系譜を有するSox1発現ロゼットへの転換が促される。Sox2はhPSCでも発現しているが、Sox1は、細胞が神経外胚葉に分化する運命を獲得した後に発現が開始する。
【0172】
FGF2のシグナル伝達はロゼットの極性化に必要とされる。これを踏まえて、次に、線維芽細胞成長因子2(FGF2)を添加して、神経外胚葉細胞からロゼット構造への転換を誘導する。
【0173】
神経増殖培地(NEM)は、NPCを転換させて、ネスチン、Sox2およびPax6を発現するNPC(例えば、パターン形成されていないNPC)を発生させるために使用する。
【0174】
プロトコル:
1)製造業者の説明書に従って、健康で均質なhPSCの培養物にAccutaseまたはReLeSR(Stem Cell Technologies社)を添加して、hPSCを剥離させ、(20~50個の細胞からなる)細胞塊を得る。得られた細胞塊を1×104個/mLの密度でhPSC培養培地に懸濁し、6ウェルの超低接着ディッシュに2mLずつ入れる。37℃、5%CO2の標準的な培養条件下において、湿潤インキュベーターで2日間インキュベートする。
【0175】
FGFを含まないhPSC培養培地(表1)が推奨される。
【表1】
【0176】
Accutaseを用いた細胞剥離の代わりとなる継代方法として、MgCl2やCaCl2を含まない0.5mM EDTA含有ダルベッコPBSや、ReLeSRがある。ReLeSRは、選択的にiPSC細胞のみを剥離させることから、プレート上に分化した細胞が残る。これによって、通常のiPSC培養でも同様に、迅速かつ容易に選択を行うことが可能となる。
【0177】
2)2日目に、プレートを緩やかに傾けて、ウェルの底の隅に細胞塊を集め、ウェルの上部から培地の半量を取り除いて、BMP阻害剤であるドルソモルフィン(2μM)とTGFβ阻害剤であるSB431542(10μM)を添加した新鮮なhPSC培地と交換する。4日目に、この処理を再度行う。
【0178】
ドルソモルフィンはBMPのシグナル伝達経路を遮断し、SB431532はTGFβのシグナル伝達経路を遮断することから、神経細胞の誘導効率を全細胞の80%以上にまで向上できることが示されている14。
【0179】
3)5日目に、プレートを緩やかに傾けて、FGF2を含まない神経誘導培地(表1)に培地交換する。
【0180】
5日目までには、胚様体の形態の細胞凝集塊が観察される。胚様体は、多能性hPSCから神経外胚葉細胞への転換が起こる内因性条件を模倣する。
【0181】
4)7日目に、マトリゲルまたはGeltrexを用いて37℃で1時間かけて事前にコーティングした6cmの標準的な培養プレートに、FGF2を含む神経誘導培地中の胚様体を移す。24時間経過してから顕微鏡観察を行って、すべての胚様体がプレート上に定着して、プレートに接着したことを確認する。
【0182】
5)8日目に、培地の半量を取り除いて、ドルソモルフィンを添加せずにFGF2を添加した新鮮な神経誘導培地と交換する。13~17日目(PSC細胞株に応じて変動)まで、この処理を毎日繰り返す。13~17日目には、最初の神経ロゼットが形成され、その後、神経管様構造が観察される。神経ロゼットまたは神経管様構造に含まれる細胞は、プレートの周縁部の細胞とは異なり、Pax6やSox1などの初期神経外胚葉マーカーを発現する。
【0183】
6)神経ロゼットまたは神経管様構造が観察されてから2日後に、先端の細いピペットチップを用いてロゼットをプレートから剥離させ、神経増殖培地を入れた15mLのファルコンチューブに移す。細胞が不適切に選択されてNPCの純度が低下しないように、神経細胞以外の細胞がプレートの周縁部に残るように注意する(
図4)。
【0184】
別の方法として、Neural Rosette Selection試薬(Stem Cell Technologies社)を使用するか、ディスパーゼを加えて短時間(3~5分)インキュベートし、タッピングし、PBSで洗浄することによって、神経ロゼットをプレートから剥離させることができる。Neural Rosette Selection試薬は、単層分化培養での神経ロゼットの選択的な剥離に準最適であることが判明していることから、胚様体培養のみでの使用が推奨される。
【0185】
7)選択したロゼットを1×105個/mLの密度で神経増殖培地に再懸濁し、ポリ-L-リシン(PLL)(0.1mg/ml溶液)とラミニンで事前にコーティングしたプレートに、1×105個/cm2の密度で播種する。低密度で再播種すると、望ましくない分化が促進されたり、第二代ロゼットの形成が起こらなくなるため、低密度での再播種は避ける。
【0186】
ラミニン511(ただし、ラミニン332、ラミニン111およびラミニン411は除く)は、分化過程を妨害することがある成長因子を含まないことから、マトリゲルやGeltrexなどのその他のECM代替品よりも好ましい。
【0187】
7~8日後に、第二代神経ロゼットを用手で(またはディスパーゼを用いて)プレートから剥離し、N2B27培地を入れた別のマトリゲルコーティングプレートに移す。次に、第三代ロゼットをばらばらにして、NPCの精製を行う。
【0188】
ばらばらにした第三代ロゼットを再播種すると、ネスチン、Pax6およびSox2を発現するが、Oct4は発現しない単離されたNPCが培養物中に見られるはずである。
【0189】
クローン増殖性ニューロスフェア(初代、第二代、第三代)
8)神経増殖培地を入れた超低接着プレートにおいて、単離した細胞を10個/μLの密度で培養する。2~3日ごとに、プレートを傾けて、培地の半量を新鮮な培地に交換し、これを1週間継続して行う。この段階で、少なくとも50μm~150μmの大きさの滑らかな輪郭を持つ完全な球体状の細胞集塊として初代ニューロスフェアが観察される。ニューロスフェアは、暗色には見えず、ギザギザした輪郭ではなく、空胞や死細胞を含んでいない。さらに、ニューロスフェアは、原始的なNPCのマーカーであるOct4を発現することがある。
【0190】
9)ニューロスフェアが検出されたら、神経増殖培地500μLを入れた15mLのファルコンチューブにニューロスフェアを移す。火炎研磨済みのパスツールピペットを用いて、培地を上下に10~20回ピペッティングするか、単一細胞に分離されるまで培地のピペッティングを行う。神経増殖培地を入れた超低接着プレートに、10個/μLの細胞密度になるように細胞懸濁液を播種する。
【0191】
細胞の拡大培養
10)PLL/ラミニンで事前にコーティングした標準培養プレートに、10μMのROCK阻害剤を含む神経増殖培地を入れ、得られた単一細胞を1×104個/cm2の密度で培養する。翌日、神経増殖培地のみを含む新鮮培地に交換する。
【0192】
11)5~6日後に、PLL/ラミニンで事前にコーティングした新たなプレートに入れた神経増殖培地に、Accutaseを用いて細胞を継代する。継代の翌日に、10μMのROCK阻害剤を添加する。
【0193】
注:この方法で作製されたhPSC由来NPCは、デフォルト状態では、前脳~中脳のアイデンティティを示すマーカーであるFoxG1、Gbx2およびOtx2を発現する。また、このhPSC由来NPCは、NPCの脊髄アイデンティティを示すマーカーであるHoxC4を発現しない。
【0194】
工程2:NPCにおける外胚葉細胞運命の維持
工程1では、骨形成タンパク質4(BMP4)のシグナル伝達を、BMP阻害剤であるドルソモルフィンで阻害し(LDN193189(LDN)やノギン(Noggin)を使用することもできる)、TGFβをSB431542(SB)で阻害することによって、中胚葉および内胚葉への分化を阻止した。次の工程(工程3)では、レチノイン酸(RA)を使用する。レチノイン酸は、中胚葉運命から細胞分化を逸脱させる傾向がある26。
【0195】
細胞の外胚葉運命を維持するには、レチノイン酸(RA)を作用させると同時に、Notchシグナル伝達を阻害する必要がある27。Notchシグナル伝達を阻害することによって、中胚葉運命への分化が阻害され、細胞を外胚葉層に維持できることが示されている28。Notchシグナル伝達を阻害するため、NotchアンタゴニストであるEGF-L7(10ng/mL)を使用する。EGF-L7は、4つのNotch受容体(Notch1~4)すべてと相互作用して、(DLL4ではなく)Jagged1タンパク質またはJagged2とNotch受容体との相互作用と競合することによって、これを阻害する29。EGF-L7をノックダウンすると、Notch経路が刺激され、EGF-L7を過剰発現させると、Notch経路が阻害される。NPCが活発に増殖している状態では、Notchシグナル伝達は未分化状態の維持に寄与する。
【0196】
さらに、この工程では、培養培地中のEGFを10ng/mlのEGF-L7に置き換えることによって、EGFほど強力ではないEGF-L7によりEGF受容体を活性化させ、Notchシグナル伝達を調節することによって、NPCの過剰な増殖を抑制する。さらに、EGF-L7に加えて、任意の成分として、0.5μMのDLL4(DLL4:Delta-Like 4;Notchシグナル伝達アクチベーター)を添加することによって、Notch活性の低下のバランスを取って、ネスチンやPax6などの神経前駆細胞遺伝子の発現量を維持することができる(
図5)。
【0197】
発生過程において、脊髄前駆細胞は、前方神経前駆細胞とは異なり、神経中胚葉前駆細胞(NMP)から発生することがあるという証拠がいくつか報告されている。神経中胚葉前駆細胞は、インビトロにおいて、沿軸中胚葉組織と後方神経組織の両方に分化することができ、運動ニューロンなどの特定のニューロン亜集団にさらに分化することができる30,31。ゼブラフィッシュを用いたインビボ実験では、異なる細胞系譜の様々な神経中胚葉前駆細胞亜集団が混在し、それぞれが空間的に分離されており、自己複製能も神経中胚葉前駆細胞亜集団ごとに大きく異なることが見出されている32。
【0198】
工程3:脊髄固有のアイデンティティを獲得させるためのNPCのパターン形成:
spNPCを作製するため、モルフォゲンを用いて細胞を段階的に処理することによって、細胞のパターン形成を行った33。プライミングを行ったNPCに脊髄アイデンティティを獲得させるためのパターン形成は、胚発生過程において脊髄の形成に関与する発生キューに対してモデル化を行う。
【0199】
すべての神経細胞は、初期分化過程において吻側アイデンティティを持つ。その後、将来的に尾側になる細胞は徐々に後方化して、尾側中脳と脊髄の特徴を獲得する。この脊髄の指定とその後の伸長には、FGF、Wnt、レチノイン酸(RA)およびShhが関与している。レチノイン酸シグナル、WntシグナルおよびFGFシグナルのうち、レチノイン酸は尾側化を最も強力に誘導し、前脳の分化を抑制して、尾側中枢神経系の指定を促進する。
【0200】
脊髄を生じる神経板領域は、FGF依存的に指定を受ける。いくつかのFGF、例えば、FGF3、FGF4、FGF8、FGF13、FGF18などは、脊髄の指定に関与する。インビトロ実験では、段階的に濃度を上昇させたFGFに神経組織を暴露させると、HOXC6、HOXC8、HOXC9またはHOXC10の濃度が徐々に上昇することが示されている34,35。さらに、いくつかのシグナル伝達経路は、FGF8の発現に影響を与える。神経管の尾側領域において活性なWnt経路とShh経路は、それら自体でFGF8濃度を上昇させることができる36,37。
【0201】
1)Accutaseを用いて細胞を単一の細胞に解離させる。PLL/ラミニンで事前にコーティングした標準培養プレートにおいて、B27、N2、FGF2(40ng/ml)およびFGF8(200ng/ml)を添加したDMEM:F12培地に、1×104個/cm2の密度で細胞を播種する。標準的な条件で3日間インキュベートする33。
【0202】
表2に、このプロトコルに用いることができる材料の一覧を示す。
【0203】
この工程では、少なくとも2倍の濃度のFGF2(20ng/ml~150ng/ml)と高濃度のFGF8(50ng/ml~400ng/ml)を使用する。胚の尾側細胞は、吻側尾側軸に沿った脊髄の領域化に関与する特定のFGFの暴露を吻側細胞よりも長時間受ける。脊髄伸長の後期段階では、FGF8がより広範に発現する。FGF8の発現は数日間継続するが、体節形成と軸伸長の停止の最終段階に近づくにつれて徐々に低下する
38,39。このような濃度と期間でFGF8を用いて処理することによって、細胞の後方化が起こる。この段階の最後に得られる後方化したNPCは、パターン形成されていない細胞と比べて、HoxA4などのHox遺伝子の発現量が上昇しており、Gbx2、Otx2、FoxG1などの少なくとも1つの脳マーカーの発現が低下している(
図6)。後方化したNPCは、パターン形成されていないNPCと同じ分化プロファイルを有し、三系統の細胞に分化することができる。後方化したNPCのニューロスフェア形成能と増殖速度は、パターン形成されていないNPCよりもわずかに高い。
【0204】
2)3日目に、PLL/ラミニンで事前にコーティングした新たな標準培養プレートにおいて、B27、N2、0.1μM EC23およびWnt3a(100μg/ml)を添加したDMEM:F12培地に、Accutaseを用いて細胞を継代する。さらに3日間インキュベートする。
【0205】
この工程では、レチノイン酸(RA)または合成レチノイド類似体EC23を用いて、細胞の尾側化を誘導する。EC23は、培養温度においてレチノイン酸よりも光安定性が高いため、EC23を使用することが好ましい。
【0206】
FGFのシグナル伝達とレチノイン酸のシグナル伝達だけでは、(それぞれ単独でも同時に使用した場合でも)インビトロで増殖させた神経細胞において尾側の特徴を誘導するには不十分であり、神経細胞に尾側アイデンティティを指定するには、Wntシグナル伝達(Wnt3a)がさらに必要とされる。
【0207】
3)6日目に、PLL/ラミニンで事前にコーティングした新たな標準培養プレートにおいて、B27、N2および0.1μM EC23を添加したDMEM:F12培地に、Accutaseを用いて細胞を継代する。さらに2日間インキュベートする。
【0208】
この段階ではWnt3aは必要とされない。
【0209】
レチノイン酸(RA)とWntで3日間処理することによって細胞の尾側化が起こる。この尾側化したNPCは、HoxA4などのHox遺伝子を発現する。NPCの尾側アイデンティティを安定化させるために継代した後、EC23でさらに2日間処理する。このようにして、レチノイン酸経路をさらに活性化させることによって、後方化した細胞と比べて、Gbx2、Otx2およびFoxG1の発現量が有意に低下する(ほぼ発現が消失する)(
図7)。尾側化したNPCは、プライミングしたNPCと同じ分化プロファイルを有し、三系統の細胞に分化することができる。しかし、尾側化したNPCのニューロスフェア形成能と増殖速度は、パターン形成されていないNPCと比べて有意に低下する(
図7)。
【0210】
4)B27、N2、FGF2(10ng/ml)、EGF(10ng/ml)および740Y-P(1μM)を添加したDMEM:F12培地中に尾側化したNPCを継代して、この尾側化したNPCのアイデンティティが安定化するまで2~3代継代を継続する。この段階で脊髄NPCが形成される。この培地中で脊髄NPCを3~5代までさらに継代維持することにより最適な結果を得ることができるが、培養条件によっては、P10(およびそれ以上の継代数)まで継代可能な場合がある(
図8)。
【0211】
継代維持期間中に、細胞の増殖速度は低下する。十分な数の細胞を得るには、長期間培養して継代を数代重ねることが必要である。この段階でFGF2の濃度を増加させることはできない。この問題を解決するため、PI3キナーゼ-Akt経路を介してFGF2と同等に効果的に神経細胞の生存と増殖を促進することが可能な740Y-Pを培地に添加する43。740Y-Pの効果は用量依存的である。
【0212】
P3~P10程度の継代数のspNPCの使用が推奨される。ただし、後期継代細胞は、アイデンティティが混在したNPCや、GABA作動性の介在ニューロンを生じる細胞を発生する可能性がある。
【0213】
各回の継代後、培養の1日目に10μMのRock阻害剤(Y-27632)を添加する。
【表2】
【0214】
クローン分析を行ったところ、spNPCの自己複製能はfbNPCと同程度であることが判明した(
図9)。ニューロスフェアを物理的に個々の細胞に解離させて、単一細胞懸濁液を調製し、クローン密度で播種して、ニューロスフェアアッセイを行った(
図9)。3回の継代中に、fbNPCとspNPCの自己複製能に有意な差は認められなかった。
【0215】
3種の主要な神経系列細胞への分化能を分析したところ、これらの細胞を生じる能力はspNPCとfbNPCで同等であることが判明した。神経細胞への分化を誘導するため、EGFおよびFGFの非存在下、かつBDNF、GDNF、アスコルビン酸およびcAMPの存在下でNPCを培養した。分化誘導した細胞は神経細胞の形態を示し、神経細胞マーカーであるβIIIチューブリンを発現していた(
図10)。fbNPCとspNPCをBMP4およびCNTFに暴露させることによって、アストロサイトへの分化が誘導され、グリア線維性酸性タンパク質(GFAP)が均一に染色されたアストロサイトの形態の細胞が得られた(
図10)。また、オリゴデンドログリア運命へと分化する能力をfbNPCとspNPCで比較するため、Shhアゴニストで処理した後にPDGF-Aで順次処理を行うプロトコルを実施した。3週間分化誘導した後、細胞染色を行ったところ、オリゴデンドロサイトに特徴的な形態を有するO1陽性細胞が確認できた。
【0216】
さらに、ホールセルパッチクランプ法による記録を行ったところ、spNPC由来ニューロンとfbNPC由来ニューロンとで同様の内向きナトリウム電流が観察され、spNPC由来ニューロンでもfbNPC由来ニューロンでも活動電位を誘発することができた。このことから、自発的なシナプス活動は、spNPC由来ニューロンとfbNPC由来ニューロンとで同程度であることが示された。さらに、ナトリウム電流の振幅とニューロンの発火特性も、これらの2つの群間で有意な差はなかった(
図11)。
【0217】
外傷や変性疾患による脊髄への多面的な障害は、永続的な感覚運動障害を引き起こし、患者の機能を妨げることがある。このような障害の大部分は組織喪失を原因とすることから、標的細胞の置き換えが治療方法として有望視される44。iPSCからのspNPCの作製に成功を収めることができたことから、現在治療方法が存在しない患者への効果的な細胞療法の開発に向けて、画期的な第一歩を踏み出すことができた。spNPCは、標的組織のニッチに一致させることができるという特有の能力を備えることから、脊髄に移植した場合に、移植細胞と生体の一体化および移植細胞の生存率が改善することが示された15,16。特に興味深いことに、spNPCは、喪失した運動機能の回復に極めて重要な皮質脊髄路およびV2a回路介在ニューロンを再生することができる15,16。これに対して、従来の脳NPCは、このような細胞集団への分化能が低く、有意義なアウトカムを得ることを妨げる望ましくない皮質細胞を生じる。したがって、これらの知見から、再生と回復を最大まで高めるには、細胞のアイデンティティを損傷領域に一致させることが重要であることが明確に示された。
【0218】
前脳NPCからspNPCへの転換は、脊髄変性疾患の細胞療法の最適化に重要な工程である。
【0219】
脊髄損傷患者の機能回復を妨げる主な要因は、神経変性とそれに続く再生の欠如である。このような障害となる要因を幹細胞療法によって取り除くことが可能になりつつあり、細胞プログラミングの近年の進歩によって、幹細胞療法を臨床応用に一歩近づけることができた。より具体的には、iPSC由来のNPCに脊髄アイデンティティを付与することによって、生体との一体化を向上させることができ、脊髄外から異質な細胞を導入することなく、損傷部位において適切な細胞を再増殖させることができる。
【0220】
実施例2
本研究では、移植された神経幹/前駆細胞の分化状態が、脊髄の微小環境によってどのように調節されて、脊髄損傷の回復を促進するのかを解明することを試みた。げっ歯類の頸髄損傷モデルを用いて研究を実施し、異なる発生段階のNPC(fbNPCとspNPCの比較)をげっ歯類の頸髄損傷モデルに移植して、その回復機構を調べた。
【0221】
三系統の細胞に分化可能な神経幹/前駆細胞の移植は、外傷性脊髄損傷(SCI)の治療方法として有望視されているが、移植細胞として時間空間的に最適な発生段階は、いまだ解明されていない。本研究では、前方の前脳アイデンティティを持つ神経上皮幹/前駆細胞(fbNPC)の運命決定と、腹側の脊髄アイデンティティを獲得するようにパターン形成した神経上皮幹/前駆細胞(spNPC)の運命決定とを脊髄損傷の微小環境において比較した。fbNPCとspNPCは、いずれもグルタミン酸作動性介在ニューロンまたはGABA作働性介在ニューロンに分化させることができる。ヒト人工多能性幹細胞(hiPSC)からfbNPCとspNPCを作製し、脊髄損傷に移植した。fbNPCは主にニューロンに分化し、spNPCの大部分は、髄鞘を形成するオリゴデンドロサイトに分化した。この固有の分化プロファイルは、これらの2つの細胞株間でPax6が差次的に発現されていることが主な要因であり、脊髄損傷の微小環境においてNotchシグナル伝達の活性化による影響を受けることが認められた。これらのNPC株を移植することによって、神経行動が回復し、前肢の握力の改善と、Catwalk歩行評価システムで評価した前肢/後肢の歩行運動の測定値の改善が認められた。fbNPCは、ニューロンに分化し、このニューロンが空洞へと遊走して、細胞間橋を形成することによって、機能回復効果を発揮した。一方、spNPCは再髄鞘化によりその効果を発揮した。いずれの細胞株も、栄養を補給して組織の保持および再生を促すことができた。
【0222】
結果
インビトロで作製した細胞の特性評価
piggyBacトランスポゾンを用いた非ウイルス性の再プログラミングによりGFP陽性hiPSCを作製し(Husseinら、2011)、このGFP陽性hiPSCを用いて、重要な形態形成キューをインビトロで模倣し、胚発生における神経管の発生パターン形成を再現することによって、fbNPCとspNPCを樹立した(
図12A~C)。様々な成長因子およびパターン形成因子の組み合わせを添加して、fbNPCとspNPCの発生を誘導した。fbNPCを樹立するため、SMAD二重阻害法を用いた(Vargaら)。fbNPCを発生させた後の最も早い段階において、細胞の前方アイデンティティ(前脳アイデンティティ)を維持させるため、培養培地中でfbNPCを維持した(Payneら、2018;Vargaら)。spNPCは、実施例1に記載の方法を用いて、SMAD二重阻害法を実施し、次に、レチノイン酸(RA)アゴニストとソニック・ヘッジホッグ(Shh)アゴニストとを用いて尾側化と腹側化を誘導することによって作製し、腹側脊髄アイデンティティを維持させるため培養培地中で維持した。
【0223】
遺伝子発現比較解析を行ったところ、親細胞のhiPSCと比べてfbNPCでもspNPCでも、多能性細胞マーカー(Oct4、Nanog)の発現量が減少し、神経細胞マーカー(Sox2、Pax6およびネスチン)の発現量が増加していることが判明した。ネスチンとSox2の発現量は、fbNPCとspNPCで同程度であったが(
図12D)、fbNPCにおけるPax6の発現量は、spNPCの2.2倍であった(
図12D)。fbNPCの遺伝子発現解析から、fbNPCでは、前方アイデンティティを持つ細胞のマーカーである転写因子Otx2およびFoxG1の発現量がspNPCよりも高いことが示された。これに対して、spNPCでは、脊髄アイデンティティを示す転写因子であるNkx2.2、Nkx6.1、HoxA4およびHoxA5の発現量が高かった(
図12E)。fbNPCとspNPCの網羅的トランスクリプトームを比較するため、RNA-seq解析を行った(
図12F)。fbNPCとspNPCの遺伝子発現パターンの類似性が高いにもかかわらず、いくつかの重要な差異が認められた。spNPCでは、fbNPCと比較して、脊髄固有のHox遺伝子の発現量が増加し、脳に関連するパターン形成転写因子の発現量が減少していた(
図12G)。
【0224】
fbNPCとspNPCの増殖および分化に対して異なる効果をもたらす脊髄損傷微小環境
中枢神経系の発生過程において、ニューロン、アストロサイトおよびオリゴデンドロサイトは、環境シグナルの動的な相互作用により誘導されるプロセスを介して、共通の神経上皮前駆細胞から発生する(Silbereisら、2016)。しかし、脊髄損傷が発生した場合、これらの発生キューは存在せず、別の環境因子が発現する。
【0225】
前述したように、損傷を受けた脊髄微小環境と無傷の脊髄微小環境の間での分化因子の組成に違いがあることから、異なる発生段階から生じたNPCの増殖と運命決定に対して分化因子の組成が及ぼす効果も異なっている可能性があると考えられた。この効果を評価するため、インビトロにおいて、fbNPCおよびspNPCを、ナイーブな脊髄のホモジネート(ナイーブ-h)または損傷を受けた脊髄のホモジネート(SCI-h)に暴露させた。これらのホモジネートは、無傷の頸髄組織、または損傷を誘発した2週間後の損傷した頸髄組織から調製した。
【0226】
発生段階の異なるNPCの自己複製能に対するナイーブ-hまたはSCI-hの効果を調べるため、fbNPCとspNPCのクローン分析を行った。ニューロスフェアを物理的に個々の細胞に解離させて単一細胞懸濁液を調製し、ニューロスフェアアッセイにおいてクローン密度で播種した(
図13A~C)。ナイーブ-hで処理しても、fbNPCから発生したニューロスフェアの数と、spNPCから発生したニューロスフェアの数には有意な差は認められなかったことから、fbNPCとspNPCの自己複製能に有意差はなかったことが示された(
図13A~C)。これに対して、SCI-hで処理すると、fbNPCから発生したニューロスフェアの数は、spNPCから発生したニューロスフェアの数よりも有意に多くなり、ニューロスフェアの平均サイズも、fbNPCから発生させたものの方が大きかったことから、SCI-hに暴露させると、ニューロスフェアを形成するfbNPCの増殖速度がspNPCよりも速くなることが示唆された(
図13A~C)。この結果は、BrdUアッセイでも確認された(
図13D)。
【0227】
ナイーブ微小環境または脊髄損傷微小環境に存在する因子が各NPC株の分化に及ぼす効果を調べるため、ナイーブ-hまたはSCI-hの存在下で各細胞株を分化させた。ナイーブ-hの存在下で各NPC株を4週間培養したところ、ニューロン(βIIIチューブリン
+)、アストロサイト(GFAP
+)およびオリゴデンドロサイト(O1
+)への分化が認められたことから、これらのNPC株が、三系統の細胞に分化可能であることが確認できた。ナイーブ-hの存在下では、spNPCから分化したニューロンの割合(20.5±1.9%、p<0.5)と比べて、fbNPCから分化したニューロンの割合(31.7±2.0%)の方が高かったが、O1を発現するオリゴデンドロサイトの割合は、spNPCから分化させた場合の方が多かった(fbNPC;31.7±2.0%に対してspNPC;20.5±1.9%、p<0.5)。しかし、SCI-hの存在下で培養したところ、fbNPCとspNPCとで異なる効果が認められた。fbNPCの大部分は、未分化のままか(ネスチン
+;27.7±3.5%)、ニューロンに分化したが(29.4±2.8%)、spNPCの大部分は、アストログリア細胞系とオリゴデンドログリア細胞系に分化した(O1
+;37.8±5.3%、GFAP
+;34.0±3.1%)。さらに、未分化のままのspNPCの割合は低くなった(ネスチン
+;18.29±3.8%)(
図14)。
【0228】
fbNPCおよびspNPCに対するNotchシグナル伝達の分岐効果
前述の結果から、SCI-hは、初期発生段階のNPC(fbNPC)の増殖を誘導するが、後期発生段階のNPC(spNPC)に対しては、アストログリア細胞系への分化を誘導することが示された。この結果から、NPCの初期発生段階と後期発生段階とで異なる効果を発揮する因子が脊髄損傷ニッチに存在していることが示唆された。
【0229】
Notchシグナル伝達は、二系統への細胞運命決定と、終末分化の誘導および増強とに関与する経路である。中枢神経系の発生の初期段階において、Notchシグナル伝達は、まず細胞の自己複製と細胞増殖の誘導に利用される。しかし、発生の後期段階では、Notchシグナル伝達は、グリア細胞運命への細胞の分化を誘導する(Grandbarbeら、2003;Namihiraら、2009;Tanigakiら、2001)。したがって、Notchシグナル伝達は、SCI-hへの暴露後に観察された分化発生段階の差異を担っている可能性がある。本研究において、ウエスタンブロットを用いて、ナイーブ-hまたはSCI-hの存在下におけるNotch活性化リガンドDLL1の発現を分析したところ、SCI-hへの暴露後に、DLL1の発現が高度にアップレギュレートされていることが見出された(
図14C)。脊髄損傷の発生の2週間後にDLL1の発現が最大となり、脊髄損傷の発生の約2ヶ月後からDLL1の発現が低下し始める。発生段階が異なる神経前駆細胞に対してNotchが異なる効果を発揮することは、神経前駆細胞におけるPax6の発現量と相関性がある(Sansomら、2009)。fbNPCにおけるPax6の発現量はspNPCよりも高い。神経幹細胞においてPax6により調節される活性は、用量依存性が非常に高く、Pax6の発現量が高くなると神経発生が誘導される。Pax6とNotchシグナル伝達の相対量は、神経幹細胞が自己複製するのか、ニューロンに分化するのか、またはグリア前駆細胞を発生させるのかという制御を行う動的バランスに関与する因子である。Notchシグナル伝達の存在下では、Pax6の活性が上昇すると、Neurog2の抑制に部分的に依存して、神経発生が抑制されて自己複製が促進される。これとは逆に、Notchシグナル伝達の存在下において、Pax6の発現量が低下すると、グリア細胞が発生する。
【0230】
損傷を受けた脊髄では、fbNPCおよびspNPCが生存しており、遊走して分化した。
【0231】
移植後のfbNPCおよびspNPCのインビボでの挙動を調べるため、T細胞欠損RNUラットにC6/7頸髄損傷を誘発させ、頸髄損傷誘発の2週間後に細胞移植を行った。移植細胞(GFP
+)は白質と灰白質の両方で認められた。移植したfbNPCは、主に病変の中心部の周囲に見られ(
図15A、B)、頸髄損傷の中心部に向かって遊走し、空洞を満たす傾向が認められた(
図15A、B)。これに対して、spNPCは、頸髄損傷の中心部から吻側方向と尾側方向にそれぞれ7mmも遊走し、主に白質路に沿って遊走していた(
図15A、C)。
【0232】
脊髄損傷部位への神経幹細胞の走化反応は、その分化状態および病変の種類と強い関係性がある(Filippoら、2013;Imitolaら、2004)。脊髄損傷の中心部では、CXCL12などのケモカインが発現しており、CXCR4やCXCR7などのCXCL12受容体を発現する神経前駆細胞を誘引する(Chenら、2015;Imitolaら、2004)。fbNPCは、spNPCと比べて、CXCR4やCXCR7などの化学誘引物質受容体、細胞接着分子(例えばCD44)およびインテグリン(例えばITGA4)の発現量が高いことから、このような走化反応が起こると考えられる(
図15D)(Filippoら、2013;Imitolaら、2004)。
【0233】
GFP+細胞を定量したところ、損傷を受けた脊髄内で、移植細胞が広範に生存していることが明らかになった(
図15E)。細胞生存率は、fbNPC群(6.1±1.1%)よりもspNPC群(11.2±4.6%)の方が高かったが、統計的有意差は認められなかった(
図15E)。
【0234】
分化に関しては、fbNPC株とspNPC株はいずれもインビボにおいて、ニューロン、アストロサイトおよびオリゴデンドロサイトに分化したが、fbNPC株とspNPC株の一部は、未分化のネスチン陽性細胞のままであった。fbNPC株中のネスチン陽性細胞の数は、spNPC株中のネスチン陽性細胞の2倍以上であり(fbNPC:31.2±7.1%およびspNPC:13.21±4.5%)(
図16A、B)、この結果は、SCI-hへの暴露後に観察されたインビトロでの結果と一致していた。APC陽性の成熟オリゴデンドロサイトの割合は、移植したfbNPCにおける割合と比べて(30.4±2.14%;p<0.05)、移植したspNPCにおける割合の方が有意に高かった(54.23±5.24%)。同様に、未熟なOlig2陽性オリゴデンドロサイトの割合も、spNPC群の方が多かった(spNPC:39.9±7.9%およびfbNPC:18.3±3.7%)。GFAP陽性のアストロサイトは、移植したspNPCにおける割合(25.4±5.1%)と移植したfbNPCにおける割合(16.2±4.2%)とで有意差はなかった。これに対して、Fox3陽性ニューロンの割合は、移植したspNPCにおける割合(6.5±0.8%)よりも、移植したfbNPCにおける割合(22.6±1.9%)の方が高かった(
図16A、B)。
【0235】
移植したGFP+細胞におけるKi67の発現を調査することによって、過剰増殖移植細胞または未熟移植細胞を同定した(
図21A、BおよびC)。Ki67陽性率は、spNPCにおいて2.67±0.48%であり、fbNPCにおいて3.56±0.80%であり、有意差は認められなかった(
図21)。この結果から、未分化なネスチン陽性細胞が大量に存在していても、移植片は過剰に増殖せず、いずれの細胞株でも腫瘍が形成されるリスクは低いことが示された。
【0236】
移植細胞の再髄鞘化への寄与
移植細胞から派生したニューロンが完全な機能性を有するためには、髄鞘化される必要がある。移植片に由来するオリゴデンドロサイトは、髄鞘化に寄与するだけではなく、髄鞘が脱落した軸索の再髄鞘化にも寄与できる可能性がある。これを調査するため、ミエリン塩基性タンパク質(MBP)とNF200を利用した免疫組織学的分析を行った。fbNPC群では、GFP
+/MBP
+細胞はほとんど観察されなかったが、spNPC群では、GFP
+/MBP
+二重陽性細胞が多数観察されたことから、移植したspNPCが、髄鞘を形成するオリゴデンドロサイトに分化したことが示唆された(
図17A)。免疫組織学的分析では、これらのGFP
+/MBP
+細胞が、宿主のニューロフィラメント200陽性(NF200
+)軸索を取り囲んでいることが明らかになった(
図17A)。さらに、移植片からの髄鞘化によって、ランビエ絞輪の形成が促進され、パラノード部のCasprとジャクスタパラノード部の電位依存性カリウムチャネルKv1.2の発現が認められた(
図17B)。免疫電子顕微鏡法を用いて髄鞘化をさらに評価した(
図17C)。透過型電子顕微鏡像から、fbNPCに由来するニューロンが、内在性の髄鞘形成細胞によって髄鞘化されていたことが示された。これに対して、spNPC群では、免疫金で標識されたGFP+髄鞘層板が、損傷を免れたラット軸索を髄鞘で覆っていることが確認された(
図17C)。これらの結果から、移植したヒトspNPC由来のオリゴデンドロサイトが、内在性の軸索を髄鞘化することが明確に示された。
【0237】
脊髄損傷発生後のfbNPCおよびspNPCの移植による組織保持の向上
NPC移植の主な有益な効果の1つとして、栄養因子の分泌がある。この栄養因子は、神経形成促進効果、軸索形成促進効果、様々な抗アポトーシス効果および血管新生促進効果を有し、これらの効果によって内在性組織を保持する(Ruffら、2012)。fbNPCおよびspNPCから分泌される栄養因子について検討するため、ヒト成長因子抗体アレイを用いて、fbNPCとspNPCから分泌される成長因子の差異を分析した。いずれの細胞株も、様々な線維芽細胞成長因子(FGF)アイソフォームの発現量が増加していた。FGFアイソフォームは、特定の神経細胞サブタイプの生存率および神経突起伸長と関連することが指摘されている(Patakyら、2000)。さらに、いずれの細胞株でも、NT3、NGF、GDNFなどの神経形成促進性栄養因子の発現量が高かった。興味深いことに、PDGFアイソフォームやTGFアイソフォームなどの、グリア細胞系の分化と増殖を誘導する栄養因子の発現はspNPCにおいて高く、一方、VEGFなどの血管新生促進因子の発現はfbNPCにおいて高かった(
図18A、B)。
【0238】
このような栄養因子の分泌によって、インビボでの内在性組織の保持を向上させることができる。ルクソールファストブルー(LFB)染色とH/E染色によって組織形態計測分析を行ったところ、spNPCで処置したラットでは、溶媒で処置したラットよりも白質の面積が大きいことが示されたが、白質が大きかったのは、病変中心部から尾側方向に240μmの領域と480μmの領域のみであった(
図18C、D)。しかし、いずれの細胞移植群でも、病変の大きさは溶媒処置群よりも小さかった(
図18C、E)。また、spNPC群およびfbNPC群における病変組織の体積も、溶媒群よりも有意に小さかった(溶媒:3.82±0.45mm
3、spNPC:1.74±0.20mm
3、fbNPC:1.89±0.26mm
3、p<0.01)(
図18E)。
【0239】
この組織形態計測分析に加えて、高解像度超音波(VHRUS)イメージングを行って、空洞化と機能性血管の分布をさらに調べた(Soubeyrandら、2014)。VHRUSイメージングは、インサイチューにおいて、平面全層画像の作成と、空洞の体積の三次元再構築を行うことができる。この方法を利用することによって、日常的な組織学的処理で見られる組織収縮に伴う問題を解決することができる(Soubeyrandら、2014)。VHRUSで測定した空洞の大きさは、溶媒で処置したラットと比べて、fbNPCまたはspNPCを移植したラットの方が有意に小さかった(溶媒:2.79±2.55mm
3、spNPC:1.37±0.25 mm
3;p<0.05、fbNPC:0.15±0.05mm
3;p<0.005、n=5、
図18F、G)。fbNPC群の方が空洞の大きさが小さかったが、この要因として、NPCからの栄養因子の分泌のみならず、遊走したfbNPCが空洞を充填したことが考えられる。興味深いことに、血管分布は、溶媒群と比べてfbNPC群において改善が認められた(
図18H、I)。この改善は有意ではなかったが、この結果から、fbNPCから血管新生促進性の成長因子が大量に分泌されることが示された。
【0240】
spNPC由来ニューロンと内在性細胞とのシナプス結合の形成およびspNPC由来ニューロンによる電気伝導の増強
移植細胞から分化したニューロンは、機能回復を促進するために、内在性細胞とシナプス結合を形成して、局所ネットワークと一体化する必要がある。シナプシンI(SYN1)抗体による免疫染色と免疫透過型電子顕微鏡法を用いて、金標識GFP+細胞が非標識内在性細胞とシナプス結合を形成するかどうかを評価した(
図19)。fbNPCでもspNPCでも、シナプス結合を形成することができた。fbNPCまたはspNPCと内在性細胞の間でシナプス結合が形成され、このシナプスが電気的機能を有するシナプスである場合、機能回復に寄与することができる。より具体的には、新たなシナプス結合は、損傷部位を通る電気伝達の増強に寄与する可能性がある。これを試験するため、損傷部位(C5~T1)を伝搬する電気的に誘発された複合活動電位(CAP)を分析した。複合活動電位の振幅は、fbNPC対照群よりもspNPC移植群において有意に高かった(
図19C)。脊髄病変を通る背側皮質脊髄路(dCST)において複合活動電位を測定したところ、脊髄NPCを投与したラットにおける複合活動電位の平均振幅(0.6±0.5mV)は、fbNPCを投与したラット(0.1±0.05mV)や溶媒群(0.1±0.06mV)よりも高かったことが示された。NPCを投与したラットにおける背側皮質脊髄路の平均伝導速度(spNPC投与群:9.6±1.7ミリ秒、fbNPC投与群:10.8±7.9ミリ秒)は、溶媒群(5.8±1.0ミリ秒)よりも速かった(
図19D~G)。
【0241】
fbNPCまたはspNPCの移植による機能回復の向上
次に、fbNPCまたはspNPCの移植が機能回復に関連するかどうかを調査した。握力測定と傾斜板行動タスクを利用して前肢の力と体幹の安定性を評価した(Wilcoxら、2017)。脊髄損傷を誘発したラットはいずれも一貫して評価時間を通して前肢の握力の回復が認められたが、移植から約4週間後の回復の経過にはばらつきが見られた。fbNPC群でもspNPC群でも、溶媒対照群と比べて前肢握力に有意な改善が認められた(p<0.05)(
図20A)。傾斜板テストでは、いずれの群でも良好な回復傾向が見られたが、溶媒対照群と比較して有意差は認められなかった(
図20B)。さらに、移植の8週間後に、CatWalkデジタル歩行分析システム(Noldus社)を用いて、頸髄損傷に関連する歩行運動の静的パラメータおよび動的パラメータを定量した。頸髄損傷群はいずれも異常な歩行パターン、歩行運動速度の低下および異常なフットプリントを示した(
図19C)。前肢の遊脚速度は、fbNPCを移植したラットでもspNPCを移植したラットでも溶媒対照群と比べて有意に改善した(
図20C)。前肢足蹠の面積およびストライド長は、spNPCを移植したラットでは有意には改善していなかったが、fbNPC群では有意な改善が見られた。さらに、四肢の協調性の指標である規則性インデックスは、いずれの細胞株を投与した群でも有意に改善した(
図20C)。
【0242】
細胞療法を行った後に、神経因性疼痛が増悪する可能性があるという懸念がある(Hofstetterら、2005)。これを踏まえて、温熱性アロディニアおよび機械的アロディニアの評価を行った(補足情報の実験手順を参照されたい)。ラットの尾に与えた熱源から逃れようとする反応の潜時は、どの時点においても試験群間で有意な差はなかった(
図22A)。さらに、脊髄損傷発生の8週間後および10週間後において、ラットの前肢と後肢の足蹠の表面にvon Freyフィラメントを押しつけたときの逃避反応にも有意差は認められなかった(
図22B、C)。これらのデータから、本研究モデルでは細胞移植治療による神経因性疼痛の増加は起こらないことが示された。
【0243】
前方脳アイデンティティを持つ細胞と腹側脊髄アイデンティティを持つ細胞は、後方/背側アイデンティティを持つ細胞と比べてPtf1aの発現量が低いことが示されたことから(
図23)、前方脳アイデンティティを持つ細胞と腹側脊髄アイデンティティを持つ細胞を選択してこれらの比較を行った。Ptf1aは、後方脳(小脳)および脊髄後角において、GABA作働性抑制性ニューロンへの分化を誘導する転写因子である。溶媒群と比べて、機能回復への有意な関与は認められなかった(
図24)。この知見が得られた理由の1つとして、GABA作働性ニューロンに分化した細胞が多かったことが考えられた。GABA作働性ニューロンは、ニューラルネットワークのバランスの維持と、神経因性疼痛の調節に重要であることが示されているが、大部分が抑制性ニューロンに分化する細胞を移植しても、シグナルの中継には効果的ではない可能性がある。
【0244】
脊髄損傷発生の2週間後の頸髄損傷RNUラットモデルでは、無傷の(ナイーブ)頸髄と比べて、BMP、TFGβ、Jagged1/2およびNotchタンパク質の発現がアップレギュレートされていることが示された。ベースラインとなる分化培地において各細胞を培養したところ、O1+細胞に分化した細胞の数は、spNPCとfbNPCで有意差は認められなかった(
図25)。
【0245】
一方、fbNPCとspNPCの遺伝子発現プロファイルを全般的に理解するため、これらの2種の細胞株間でRNAseq分析を行った。RNAseq分析の結果、fbNPCは、spNPCと比べて、CXCR4やCXCR7などの化学誘引物質受容体、細胞接着分子(例えばCD44)およびインテグリン(例えばITGA4)の発現量が高いことが示され、これらの遺伝子の発現が高いことから、走化反応が起こると考えられた(
図26)。
【0246】
本研究において達成された機能回復に関与する様々な機構について理解を深めることは重要であり、脊髄損傷の再生治療の設計にも関連する。一般に、栄養補給は機能回復に対して即効性の効果があることから、移植後の最初の2~3週間に認められる機能回復も、恐らくは栄養補給によるものであると考えられる。ヒト細胞が、機能的に活発なニューロンまたは髄鞘形成細胞に分化するには、3週間よりも長い日数が必要となる
7。これを踏まえると、この時点で見られる機能回復の一部は、栄養補給および生体と細胞の一体化による相加効果によるものであると考えられる(
図27)。
【0247】
脊髄損傷の発生後のアウトカムが最も改善されうる細胞移植方法を構築するには、神経幹/前駆細胞の時間空間的に最適な発生段階を知る必要がある。本研究では、頸髄損傷モデルにおいて、2つの特徴的な発生段階のhiPSC由来神経上皮幹・前駆細胞の治療有効性を比較した。fbNPCは、神経前駆細胞の発生の最も初期の段階を示し、前方アイデンティティを持つ。一方、spNPCは、神経前駆細胞の発生の後期段階を示し、尾側腹側アイデンティティを持つ。本研究の結果、いずれの細胞も機能回復に寄与するが、その機構は異なることが示された。
【0248】
脊髄損傷の微小環境と、異なるアイデンティティを持つ細胞との間での双方向の相互作用について理解を深めることができれば、移植片を患者の要望に添ったものにすることができる。脊髄損傷の微小環境は、増殖および分化に関してfbNPCとspNPCとで異なる効果をもたらすことが示された。脊髄損傷ニッチにfbNPCを暴露することによって、fbNPCの自己複製能が増強したが、spNPCを同じ環境に暴露したところ、グリア細胞系に分化する傾向が認められた。この相反する効果は、原始的な神経前駆細胞と運命が決定された神経前駆細胞とで違いが見られるNotchシグナル伝達に典型的な特徴である(Grandbarbeら、2003;Namihiraら、2009;Salewskiら、2013;Tanigakiら、2001)。この効果は、脊髄損傷の微小環境においてNotchシグナル伝達が活性化されることと一致している(
図14C)。また、Pax6の発現量はspNPCよりもfbNPCにおいて高い(
図12D)。Pax6の発現とNotchシグナル伝達の動的なバランスによって、グリア前駆細胞への分化よりも自己複製が優先されるのか、それとも自己複製よりもグリア前駆細胞への分化が優先されるのかが決まる(Sansomら、2009)。
【0249】
本研究では、移植片と宿主組織の間の相互作用に二面性があることが示された。移植したNPCは、細胞自律的な機構(細胞の置換)と非細胞自律的な機構(栄養補給)とを介して、損傷組織に効果を発揮した。いずれのNPCも、ニューロン、オリゴデンドロサイトおよびアストロサイトに分化したが、その割合は異なっていた。分化したfbNPCは主にニューロンで構成されていたが、spNPCは主にオリゴデンドロサイトに分化した。重要な点として、NPCから派生したニューロンは、内在性のニューロンとシナプスを形成して、神経回路の伝導を改善することができ(Luら、2012、2014)、この際に、大脳皮質から脊髄内の標的へと脊髄ニューロンが架橋され、中継される(BonnerおよびSteward、2015)。
【0250】
NPCから派生したオリゴデンドロサイトは、再髄鞘化に寄与する可能性がある。spNPCは、主に、Olig2陽性かつ/またはAPC陽性のオリゴデンドロサイトに分化した。このオリゴデンドロサイトは、髄鞘を形成するMBP陽性オリゴデンドロサイトに分化することができ(
図17B)、電子顕微鏡分析から、移植したspNPCから派生したオリゴデンドロサイトが、髄鞘が脱落した内在性軸索の再髄鞘化に寄与できることが示された(
図17B)。脊髄損傷の発生後、様々な程度で脱髄が起き(Karimi-Abdolrezaeeら、2006;NashmiおよびFehlings、2001)、移植片による再髄鞘化は、機能回復に重要な効果をもたらす(Karimi-Abdolrezaeeら、2006;Salewskiら、2015)。内在性のオリゴデンドロサイト前駆細胞や遊走してきたシュワン細胞によっても、ある程度の自発的な再髄鞘化は起こるが(FranklinおよびHinks、1999;StangelおよびHartung、2002)、髄鞘形成細胞は最低限しか増殖できないため、再髄鞘化の程度は限定的である(Liら、1996)。
【0251】
脊髄損傷の発生後、細胞死と、食細胞による損傷組織の排除とによって嚢胞性空洞が形成される(DusartおよびSchwab、1994;Liuら、1997)。このような空洞が脊髄に発生することによって、機能回復に大きな影響が及ぶ。移植されたNPC(主にfbNPC)は、喪失した細胞に置き換わる以外にも、嚢胞性空洞に細胞架橋を形成するという役割を果たしていた。この細胞架橋は構造の土台となって、損傷を受けた軸索が成長しやすい環境を作り出す。空洞への遊走(向病巣性)は、この細胞架橋の形成に極めて重要である。一方で、損傷部位への神経幹細胞の走化反応は、この神経幹細胞の分化状態と化学誘引物質受容体の発現に関連している(Filippoら、2013;Imitolaら、2004)。CXCL12(SDF1)などの化学誘引物質は、脊髄損傷の発生後の損傷部位に発現しており、CXCR4やCXCR7などのCXCL12受容体を発現する細胞を誘引する(Chenら、2015;Imitolaら、2004)。神経幹/前駆細胞は、発生の初期段階において、CXCL12受容体を高発現して、高い向病巣性を示すことが示されている(Changら、2013;Ferrariら、2012)。この報告は、初期のNPC(fbNPC)が、spNCEよりもCXCR4とCXCR7を高発現し、空洞への遊走性が高い傾向があり、細胞架橋を形成することが示された本研究の結果と一致するものである。
【0252】
移植されたNPCは、損傷部位の細胞に置き換わるだけでなく、損傷組織に栄養を補給する。分泌された栄養因子は、組織損傷を防ぎ、内在性神経細胞の生存を増強することによって組織修復を促進する。さらに、栄養因子は、神経細胞とグリア細胞の間で機能的相互作用を再構築する(Ruffら、2012)。いずれのNPC株も、FGF、NT3、NGF、GDNFなどの栄養因子を大量に分泌し、これらの栄養因子は、損傷組織の生存と再生に関与していた。これらのNPC株において、分泌された成長因子の組成は、わずかに異なっており、spNPCでは、再髄鞘化を助けるオリゴデンドロサイトの発生を促進する因子が高発現されており、fbNPCでは、損傷組織の血管分布の修復を助ける血管新生促進因子が高発現されていた。
【0253】
異なるアイデンティティを持つ神経幹/前駆細胞の作製方法については、引き続き研究が進められているが、脊髄損傷を治療するための移植用細胞に最適な分化状態を知ることは、臨床への移行に必須である。本研究の結果、ヒトfbNPCまたはヒトspNPCを移植することによって、栄養補給と細胞置換を介して有益な効果を得ることができることが示された。fbNPCとspNPCはいずれも極めて多量の栄養因子を分泌する。fbNPCを移植したラットにおいて観察された機能回復の一部は、軸索が成長しやすい細胞架橋が空洞に形成されること、およびfbNPCから派生したニューロンが宿主のニューラルネットワークに一体化されて、宿主のニューラルネットワークと接続することによると考えられる。これに対して、spNPCの効果の大部分は、再髄鞘化が増強されることによるものであると見られる。いずれの機構も機能回復に重要である。fbNPCとspNPCを組み合わせて移植した際の相乗効果を判定するには、さらなる実験が必要である。
【0254】
実験手順
fbNPCおよびspNPCの作製とその特性評価
過去に報告されている方法(Vargaら)を一部変更して、SMADの二重阻害を利用することによって、過去に報告されているヒトiPSC(hiPSC)株PB1-53(Husseinら、2011)を単層培養してNPCに分化誘導した。fbNPCの維持には、N2サプリメント、FGF2(10ng/ml)を添加したビタミンA不含B27培地サプリメント、およびTGFβシグナル伝達を標的とする阻害剤(SB431542)とWNTシグナル伝達を標的とする阻害剤(CHIR99021)の組み合わせを添加したDMEM:F12培地を使用した(Payneら、2018;Vargaら)。spNPCを作製するため、パターン形成因子で細胞を段階的に処理してパターン形成を行った(Lippmann、2015)。まず第1段階において、B27、N2、FGF2(20ng/ml)およびFGF8(200ng/ml)を添加したDMEM:F12培地中で細胞を3日間培養した(Lippmannら、2015)。次に、レチノイン酸アゴニストである0.1μMのEC23を培養に添加してさらに5日間培養して細胞を尾側化した。さらに、ソニック・ヘッジホッグ(Shh)アゴニストである1μMのパルモルファミンで3日間処理して細胞を腹側化した。この段階で、細胞の腹側脊髄アイデンティティが示された。得られたspNPCは、移植前に、B27、N2、FGF2(10ng/ml)、EGF(10ng/ml)および740Y-P(1μM)からなる培地中で3回継代して維持した。各回の継代培養中、1日目に10μMのRock阻害剤(Y-27632)を添加した。さらなる詳細は実施例1に示す。
【0255】
mRNA発現プロファイル解析
定量RT-PCRを用いてfbNPCおよびspNPCの発現プロファイルを調査した。mRNAは、RNeasy Miniキット(Qiagen社、74104)を用いて単離した。Nanodrop分光光度計を用いて、mRNAの濃度と純度を評価した。cDNAは、ランダムヘキサマープライマーを利用したSensiFASTTM cDNA合成キット(Bioline社、65053)を用いて合成した。RT-PCRは、7900HTリアルタイムPCRシステムにおいて、推奨されるサーマルサイクル処理パラメータ下で、TaqMan設計プライマーとSensiFASTプローブHi-ROXマスターミックス(Bioline社、82020)とを用いて行った。試料は三連で測定した。測定値は、GAPDHハウスキーピング遺伝子で補正した。遺伝子発現量の調査では、GAPDHと対照細胞に対して結果を補正した。遺伝子発現量は2-ΔΔCT法を用いて計算した。
【0256】
脊髄ホモジネートの調製
ラットに脊髄損傷を誘発させ、その2週間後に氷冷PBSを灌流し、損傷中心部を中心とした5mmの長さの損傷脊髄分節を採取した。ナイーブラットでは、脊髄損傷ラットと同じ脊髄領域を採取し、脊髄ホモジネートの調製に使用した。各群につき、5匹のラットから採取した脊髄を1mlのDMEM:F12培地に一緒にプールした。脊髄組織を氷冷しながら、小型のコニカル型乳鉢と乳棒を用いて脊髄組織を2分間ホモジネートした。12000×gで15分間遠心分離してホモジネートを清澄化し、清澄化した上清中の総タンパク質濃度をBCA法で測定した。総タンパク質濃度を調整した後、試料を小分けし、使用するまで-80℃で保存した。
【0257】
脊髄ホモジネートを用いたインビトロ処理
脊髄損傷により誘導された因子がインビトロのNPC株の分化能に及ぼす影響を調べるため、成長因子を含まない維持培地中でNPCを培養し(fbNPCの培養ではFGF2を添加せず、spNPCの培養ではFGF2/EGFを添加しなかった)、脊髄損傷ラットの脊髄から調製した清澄化ホモジネート(SCI-h)またはナイーブラットの脊髄から調製した清澄化ホモジネート(ナイーブ-h)をそれぞれ100μg/mlの濃度で用いてNPCを30日間処理した。次に、4%パラホルムアルデヒドと40%スクロースを含むリン酸緩衝生理食塩水(PBS)溶液中で細胞を室温で20分間固定した。固定後、(O1染色以外において)0.1%Triton X-100と0.1%クエン酸ナトリウムを含むPBS溶液中で細胞を5分間透過処理を行い、ブロッキング緩衝液(5%BSA)で1時間処理した。ブロッキング緩衝溶液で一次抗体を希釈し、細胞を一次抗体と4℃で一晩インキュベートした。細胞をよく洗浄した後、蛍光色素標識二次抗体と1時間インキュベートした。
【0258】
ヒト成長因子抗体アレイ
fbNPCにより分泌される栄養因子と、spNPCにより分泌される栄養因子の違いを調べるため、膜を用いた抗体アレイ(Abcam社、#ab134002)を使用して、細胞から調製した馴化培地中の41種の成長因子の発現を比較した。ラミニンでコーティングした10cmのプレートに、fbNPCまたはspNPCをそれぞれ1×106個の密度で播種し、18時間後に馴化培地を回収した。製造業者の説明書に従って、馴化培地を抗体アレイとインキュベートし、ビオチン標識抗体とHRP-ストレプトアビジンで発色させた。
【0259】
ニューロスフェアアッセイ
コーティングしていない24ウェルプレート(Nunc社、ニューヨーク州ロチェスター)において、培地の最終量を500μlとして、ナイーブ-hもしくはSCI-h(各100μg/ml)を添加した維持培地またはナイーブ-hもSCI-hも含まない維持培地に、fbNPCまたはspNPCを10個/μLのクローン密度で播種した。7日間静置培養した後、直径が50μmを超えるニューロスフェアを定量した。画像撮影の直前に、マトリゲルでコーティングしたディッシュに各ウェルの内容物を移し、30分間インキュベートし、4%パラホルムアルデヒドで固定した。
【0260】
細胞増殖アッセイ
ラミニンでコーティングした96ウェル組織培養プレート(取り外し可能なストリッププレート、Corning社)に、1×103個/100μl/ウェルの密度で、fbNPCまたはspNPCを播種し、播種から12時間後、24時間後、48時間後および72時間後に、製造業者の推奨に従ってBrdU細胞増殖アッセイ(Abcam社、#ab126556)を用いて細胞数を測定した。
【0261】
動物のケア
すべての動物実験は、実験動物の使用に関するカナダ動物管理協会の指針に準じて、University Health Network(カナダ、オンタリオ州トロント)の動物実験委員会の承認を受けたものであり、臨床獣医師の監督下で行った。体重180~230gの成体Rowett系ヌード(ATN)ラット(チャールス・リバー・ラボラトリーズ)を用いて細胞移植を行った。
【0262】
外科処置によるラット脊髄損傷の誘発
クリップで頸髄を圧迫した頸髄損傷モデルは、本発明者らの研究室においてその特性が詳しく評価されており、過去に報告されている(Wilcoxら、2014)。簡潔に述べると、4%イソフルランでATNラットに麻酔をかけ、0.05mg/kgのブプレノルフィンおよび10mlの生理食塩水を投与し、以降の外科処置は、2%イソフルランで鎮静して行った。C6およびC7の椎弓切除術をラットに行った。椎骨C6レベルにある脊髄の硬膜の外側を、21.5gの把持力に較正した改良型動脈瘤クリップ(Walsh社、カナダ、オンタリオ州オークビル)で60秒間挟み、その後、動脈瘤クリップを取り外した。偽処置群では、クリップによる圧迫を行わずに椎弓切除術のみを行った。外科処置の最後に、ゲルフォーム(Ferrosan社、デンマーク)を脊髄に載せ、標準的な絹製縫合糸を用いて切開を多層縫合した。ラットをケージに入れてヒートランプ下で回復させた後、12時間の明暗サイクル下において食物と水を自由摂取させて26℃で飼育した。脊髄損傷の誘発前から試験の終了時まで、飲料水に添加したクラバモックスの3日間の投与を含む十分な術後処置をラットに行った。ラットに、ブプレノルフィン(0.1mg/kg)を3日間投与し、メロキシカム(1.0mg/kg)を3日間投与した。脊髄損傷を誘発したラットには体液と栄養を補給し、必要に応じて、用手で1日3回膀胱を空にし、これを14日間継続した。
【0263】
脊髄内移植
脊髄損傷の誘発後14日目に、4×105個のfbNPCもしくはspNPCの移植、または溶媒(対照)の注入を行うため、ラットを無作為に3群に分けた。イソフルラン(1~2%)およびO2/N2Oの1:1混合ガスの存在下で、ラットを定位固定枠に配置し、0.05mg/kgのブプレノルフィンと10mlの生理食塩水を投与して、脊髄損傷を注意深く再露出させた。単層培養したfbNPC株とspNPC株を、Accutase(細胞培養面積1cm2あたり0.05ml)で処理し、37℃で2分間インキュベートして、細胞の移植準備を行った。次に、Accutaseを培地で中和し、細胞を剥離させ、400×gで4分間遠心分離し、培養培地に再懸濁し、生細胞を計数した。50,000個/μlの密度で細胞を脊髄内移植した。1部位につき細胞懸濁液2μlを注入し、ラット1匹あたり4つの部位に注射した(正中線から両側に1.0mmかつ吻側方向と尾側方向にそれぞれ2mmの計4箇所)。注入は、ハミルトンシリンジと定位固定注射システム(Micro4を備えたUMP3システム、World Precision Instruments社、フロリダ州サラソータ)を用いて、0.6μl/分の速度で注射剤を送達し、プランジャーを押し込んだまま2分間固定してから、2分間かけてプランジャーを引き戻した。対照ラットには、培養培地のみを同じ回数だけ脊髄に注入した。
【0264】
組織の処理と病変の形態測定
脊髄損傷を誘発してから10週間後に、イソフルオランでラットに深い麻酔をかけ、氷冷リン酸緩衝生理食塩水(PBS)180mlと4%パラホルムアルデヒドのPBS溶液180mlを経心的に灌流した。脊髄組織を採取し、5時間固定した後、30%スクロースのPBS溶液中で24時間凍結保護した。脊髄分節を包埋した後、凍結して-80℃で保存した。損傷部位の吻側尾側軸が中心になるように、長さ1.5cmの脊髄の長軸に対して垂直に薄切した厚さ30μmのクリオスタット切片を作製した。
【0265】
連続切片をルクソールファストブルー(LFB)とヘマトキシリン・エオシン(H&E)で染色した。LFBはミエリンの選択的染色であり、H&Eは、すべての細胞核および細胞質内タンパク質を染色する(Nguyenら、2012)。スライドを-80℃から取り出し、56℃のオーブンで15分間加熱し、各種溶媒で洗浄してから、LFB染色を56℃で一晩行った。翌日、組織をオーブンから取り出し、各種の洗浄工程で処理してからH&E染色を行った。次に、アルコールの濃度上昇系列で組織を連続的に脱水し、キシレンで透徹し、カバーガラスをかけた。
【0266】
盲検化した評価者により、脊髄損傷の中心部を中心とした±2,440μmの範囲の組織のLFB染色およびH&E染色の分析を行った。Stereo Investigator(MBFバイオサイエンス社、バーモント州ウィリストン)を用いて、カヴァリエリの原理に基づいた体積プローブを利用して公平な測定を行うことにより、保持されていた白質と病変組織の面積と体積を推定した(Wilcoxら、2014)。病変組織は、丸い小型嚢胞、不規則な形状の空胞、白質および灰白質の崩壊、ならびに好酸球性ニューロンという異常な組織学的所見を有する領域として定義した。各組織切片の240μmごとに計算と分析を行った。
【0267】
インビボ超高解像度超音波(VHRUS)イメージング
超高解像度超音波(VHRUS)イメージングおよびパワードプライメージングは、過去の報告に従って行った(Soubeyrandら、2014)。イソフルラン麻酔下のラットを、イメージング用プラットホーム(Vevo imaging station、Visualsonics社、カナダ、トロント)に取り付けた特注の固定枠に配置した。正中線で切開して脊髄損傷を再露出させ、硬膜に超音波ゲル(Scanning Gel、Medi-Inn社、カナダ)を塗布した。VHRUSプローブ(44MHz、Vevo 770、Visualsonics社、カナダ、トロント)で脊髄をスキャンした。Bモード三次元スキャン画像を、ImageJソフトウェアとTrakEM2プラグインで分析して、空洞の体積を再現可能に測定した。パワードプラ分析では、面積を一定にして視野を定め、手動で中央矢状断面を画面中央に描出した。画像の閾値処理を行ってドプラ信号を二値化し、すべての矢状断面に対してバッチ分析を行った。ドプラ信号陽性面積率を実際の画像面積に掛けることによって、矢状断面ごとのドプラ陽性面積を求め、得られたドプラ陽性面積を合計することによって、各脊髄の総ドプラ陽性面積を求めた(「機能性血管分布」と呼ぶ)。理解を容易にするため、得られたすべての値は、偽処置脊髄損傷群のドプラ信号に対して補正した。
【0268】
免疫組織化学分析およびその定量
免疫組織化学分析は、過去の報告に従って行った(Wilcoxら、2014)。まず、クリオスタット切片をPBS中で5分間インキュベートした後、ブロッキングバッファー(1%BSA、5%スキムミルクおよび0.3%Triton-X 100を含むPBS溶液)中において室温で1時間インキュベートした。ブロッキングバッファーを除去した後、一次抗体と4℃で一晩インキュベートし、次にPBSで3回、各10分間洗浄を行った(表S1)。スライドをリンスし、適切な蛍光標識二次抗体(いずれも1:500に希釈、サーモフィッシャーサイエンティフィック社)と室温で2時間インキュベートした。Zeiss社製のLSM510共焦点顕微鏡またはLSM880共焦点顕微鏡を用いて画像を撮影した。
【0269】
免疫電子顕微鏡法
凍結切片を抗GFPマウスモノクローナル抗体とインキュベートし、次に、金ナノ粒子標識抗マウスIgG二次抗体(1:100希釈、インビトロジェン社)とインキュベートした。切片を2.5%グルタルアルデヒドで固定し、0.5%OsO4で後固定し、エポンに包埋した。超薄切片(厚さ70nm)を作製し、酢酸ウラニルとクエン酸鉛で染色し、透過型電子顕微鏡(TEM、JEOL 1400plus)で観察した。対照hiPSC-NPC群の4匹のラットとGDNF-hiPSC-NPC群の4匹のラットの一連の顕微鏡写真を用いて、シナプス密度および対称性シナプスと対称性シナプスの比率を分析した。シナプス数は、膜単位長100μmあたりのシナプスの数で示した。シナプスの推定パラメータ値は、hiPSC-NPC群から得た145本のシナプスと、GDNF-hiPSC-NPC群から得た185本のシナプスから求めた。対称性シナプスと非対称性シナプスの十分に確立された基準に基づいて(Gray、1959)、電子顕微鏡像からそれぞれのシナプスの数を計数した。
【0270】
インビボにおける複合活動電位の記録
電気生理学的記録はイソフルラン麻酔下で行った(吸気濃度:1.0~1.5%)。外径0.2mmのポリイミド絶縁ステンレス鋼線をより合わせた双極刺激電極を作製し、電極の先端同士の間隔を0.1mm空けた(Plastics One社、米国バージニア州ロアノーク)。先端の直径が100~120μmのガラス毛細管電極に脳脊髄液を充填し、記録電極として使用した。背側皮質脊髄路(dCST)を標的として、脊髄分節T1の深さ1.2mmの部位に刺激を与えた。パルス幅0.1ミリ秒および振幅1.5mAの矩形波の陰極刺激を10秒ごとに送達する刺激プロトコルを使用した。刺激パルスは、PSIU6刺激アイソレーションユニットとGrass S88刺激装置(Grass Technologies社、米国)により発生させた。誘発された複合活動電位(CAP)は、ここでも背側皮質脊髄路(dCST)を標的として、脊髄分節C4の深さ1.2mmの部位から記録した(Liら、2016)。刺激電極と記録電極の間隔は10mmとした。複合活動電位は、Axoprobe 1A増幅器(モレキュラーデバイス社、米国カリフォルニア州)を用いてDCモードで記録し、pClamp8ソフトウェアとDigidata 1320A(モレキュラーデバイス社、米国カリフォルニア州)を用いて83.33kHzのサンプリングレートで処理した。この記録では、2kHzの低域通過フィルタと100Hzの高域通過フィルタを使用した。Matlab(Math Works社、米国マサチューセッツ州ネイティック)で記述した自作プログラムを用いてオフラインでデータ解析を行って、各ラットにおいて誘発された複合活動電位反応のピーク振幅とピーク潜時を測定した。複合活動電位の伝導速度は、電極間の間隔(10mm)を測定したピーク潜時で割ることによって計算した。
【0271】
行動評価
各実験群のラットに神経行動学的試験を週1回行って、前肢の力、手先の器用さおよび体幹の安定性と体幹機能を評価した。盲検化された2人の独立した観察者によって各パラメータを測定した。前肢の力は、フォースゲージで握力を測定することによって評価した(Garcia-Aliasら、2009)。体幹および前肢の力は、傾斜板試験(Bresnahanら、1987)でも評価し、この傾斜板試験では、ラットを配置した傾斜板の角度を徐々に増加させながら、ラットがその場に留まる能力を測定した。ラットが5秒間その場に留まることができなかった時点で試験を終了した。ラットが最後に5秒間留まることができた角度を記録した。前肢の歩行分析は、Catwalk歩行評価システム(Noldus Information Technology社、オランダ、ヴァーヘニンゲン)を用いて行った(Daiら、2011)(Miyagiら、2011)。
【0272】
統計分析
結果は、図面の凡例に示すように、平均値±標準誤差(SEM)または標準偏差(SD)として記載している。ニューロスフェアアッセイと免疫組織分析のデータはスチューデントのt検定で分析した。組織形態計測データと行動試験データは、図の凡例に示すように、Tukeyの事後検定を使用した二元配置分散分析(ANOVA)またはTukeyの事後検定を使用した一元配置分散分析により分析した。すべての分析において有意水準はp<0.05に設定した。データ分析はPrism6(GraphPad Software社、カリフォルニア州サンディエゴ)を使用して行った。
実施例3
脊髄NPCを溶媒(生理食塩水もしくはFDAにより承認されている溶媒であってもよい)中で個々の細胞に解離させて、1×104~1×106個/μlの濃度の単一細胞懸濁液を調製するか、または生体材料/足場もしくはマトリックスに封入して、病変の空洞に充填する。定位固定法により細胞を所定の速度で脊髄に注入する。
参考文献
1. Tetzlaff, W. et al. A systematic review of cellular transplantation therapies for spinal cord injury. J. Neurotrauma 28, 1611-1682 (2011).
2. Ryu, J. K., Cho, T., Wang, Y. & McLarnon, J. G. Neural progenitor cells attenuate inflammatory reactivity and neuronal loss in an animal model of inflamed AD brain. J. Neuroinflammation 6, 39 (2009).
3. Ziavra, D. et al. Neural stem cells transplanted in a mouse model of Parkinson’s disease differentiate to neuronal phenotypes and reduce rotational deficit. CNS Neurol. Disord. Drug Targets 11, 829-835 (2012).
4. Cohen, M. E., Fainstein, N., Lavon, I. & Ben-Hur, T. Signaling through three chemokine receptors triggers the migration of transplanted neural precursor cells in a model of multiple sclerosis. Stem Cell Res. 13, 227-239 (2014).
5. Bacigaluppi, M. et al. Neural Stem Cell Transplantation Induces Stroke Recovery by Upregulating Glutamate Transporter GLT-1 in Astrocytes. J. Neurosci. Off. J. Soc. Neurosci. 36, 10529-10544 (2016).
6. Lepore, A. C. & Maragakis, N. J. Targeted stem cell transplantation strategies in ALS. Neurochem. Int. 50, 966-975 (2007).
7. Pluchino, S. & Martino, G. The therapeutic plasticity of neural stem/precursor cells in multiple sclerosis. J. Neurol. Sci. 265, 105-110 (2008).
8. Madrazo, I. et al. Transplantation of Human Neural Progenitor Cells (NPC) into Putamina of Parkinsonian Patients: A Case Series Study, Safety and Efficacy Four Years after Surgery. Cell Transplant. 28, 269-285 (2019).
9. Levine, A. J. & Brivanlou, A. H. Proposal of a model of mammalian neural induction. Dev. Biol. 308, 247-256 (2007).
10. Kim, J. Y. et al. Identification of molecular markers distinguishing adult neural stem cells in the subventricular and subcallosal zones. Anim. Cells Syst. 21, 152-159 (2017).
11. Hodge, R. D. & Hevner, R. F. Expression and actions of transcription factors in adult hippocampal neurogenesis. Dev. Neurobiol. 71, 680-689 (2011).
12. Tian, C. et al. Foxg1 has an essential role in postnatal development of the dentate gyrus. J. Neurosci. Off. J. Soc. Neurosci. 32, 2931-2949 (2012).
13. Ghazale, H. et al. RNA Profiling of the Human and Mouse Spinal Cord Stem Cell Niches Reveals an Embryonic-like Regionalization with MSX1+ Roof-Plate-Derived Cells. Stem Cell Rep. 12, 1159-1177 (2019).
14. Chambers, S. M. et al. Highly efficient neural conversion of human ES and iPS cells by dual inhibition of SMAD signaling. Nat. Biotechnol. 27, 275-280 (2009).
15. Kumamaru, H. et al. Generation and post-injury integration of human spinal cord neural stem cells. Nat Methods 15, 723-731 (2018).
16. Kadoya, K. et al. Spinal cord reconstitution with homologous neural grafts enables robust corticospinal regeneration. Nat. Med. (2016) doi:10.1038/nm.4066.
17. Mothe, A. J., Zahir, T., Santaguida, C., Cook, D. & Tator, C. H. Neural stem/progenitor cells from the adult human spinal cord are multipotent and self-renewing and differentiate after transplantation. PloS One 6, e27079 (2011).
18. Yuan, F. et al. Efficient generation of region-specific forebrain neurons from human pluripotent stem cells under highly defined condition. Sci. Rep. 5, 18550 (2016).
19. Su, Z. et al. Antagonism between the transcription factors NANOG and OTX2 specifies rostral or caudal cell fate during neural patterning transition. J. Biol. Chem. 293, 4445-4455 (2018).
20. Moya, N., Cutts, J., Gaasterland, T., Willert, K. & Brafman, D. A. Endogenous WNT Signaling Regulates hPSC-Derived Neural Progenitor Cell Heterogeneity and Specifies Their Regional Identity. Stem Cell Rep. 3, 1015-1028 (2014).
21. Sareen, D. et al. Human induced pluripotent stem cells are a novel source of neural progenitor cells (iNPCs) that migrate and integrate in the rodent spinal cord: Human neural progenitor cells. J. Comp. Neurol. 522, 2707-2728 (2014).
22. Rowland, J. W. et al. Generation of Neural Stem Cells from Embryonic Stem Cells Using the Default Mechanism: In Vitro and In Vivo Characterization. Stem Cells Dev. 20, 1829-1845 (2011).
23. Smukler, S. R., Runciman, S. B., Xu, S. & van der Kooy, D. Embryonic stem cells assume a primitive neural stem cell fate in the absence of extrinsic influences. J. Cell Biol. 172, 79-90 (2006).
24. Bai, Q. et al. Temporal Analysis of Genome Alterations Induced by Single-Cell Passaging in Human Embryonic Stem Cells. Stem Cells Dev. 24, 653-662 (2015).
25. Garitaonandia, I. et al. Increased Risk of Genetic and Epigenetic Instability in Human Embryonic Stem Cells Associated with Specific Culture Conditions. PLOS ONE 10, e0118307 (2015).
26. Sirbu, I. O. & Duester, G. Retinoic-acid signalling in node ectoderm and posterior neural plate directs left-right patterning of somitic mesoderm. Nat. Cell Biol. 8, 271-277 (2006).
27. Torres, J., Prieto, J., Durupt, F. C., Broad, S. & Watt, F. M. Efficient Differentiation of Embryonic Stem Cells into Mesodermal Precursors by BMP, Retinoic Acid and Notch Signalling. PLoS ONE 7, (2012).
28. Mellott, D. O., Thisdelle, J. & Burke, R. D. Notch signaling patterns neurogenic ectoderm and regulates the asymmetric division of neural progenitors in sea urchin embryos. Development 144, 3602-3611 (2017).
29. Schmidt, M. H. H. et al. Epidermal growth factor-like domain 7 (EGFL7) modulates Notch signalling and affects neural stem cell renewal. Nat. Cell Biol. 11, 873-880 (2009).
30. Verrier, L., Davidson, L., Gierlinski, M., Dady, A. & Storey, K. G. Neural differentiation, selection and transcriptomic profiling of human neuromesodermal progenitor-like cells in vitro. Development 145, dev166215 (2018).
31. Gouti, M. et al. In Vitro Generation of Neuromesodermal Progenitors Reveals Distinct Roles for Wnt Signalling in the Specification of Spinal Cord and Paraxial Mesoderm Identity. PLOS Biol. 12, e1001937 (2014).
32. Attardi, A. et al. Neuromesodermal progenitors are a conserved source of spinal cord with divergent growth dynamics. Development 145, dev166728 (2018).
33. Lippmann, E. S. et al. Deterministic HOX patterning in human pluripotent stem cell-derived neuroectoderm. Stem Cell Rep. 4, 632-644 (2015).
34. Joyner, A. L., Liu, A. & Millet, S. Otx2, Gbx2 and Fgf8 interact to position and maintain a mid-hindbrain organizer. Curr. Opin. Cell Biol. 12, 736-741 (2000).
35. Liu, J.-P., Laufer, E. & Jessell, T. M. Assigning the Positional Identity of Spinal Motor Neurons: Rostrocaudal Patterning of Hox-c Expression by FGFs, Gdf11, and Retinoids. Neuron 32, 997-1012 (2001).
36. Resende, T. P. et al. Sonic hedgehog in temporal control of somite formation. Proc. Natl. Acad. Sci. U. S. A. 107, 12907-12912 (2010).
37. Aulehla, A. et al. Wnt3a plays a major role in the segmentation clock controlling somitogenesis. Dev. Cell 4, 395-406 (2003).
38. Delfino-Machin, M., Lunn, J. S., Breitkreuz, D. N., Akai, J. & Storey, K. G. Specification and maintenance of the spinal cord stem zone. Dev. Camb. Engl. 132, 4273-4283 (2005).
39. Olivera-Martinez, I., Harada, H., Halley, P. A. & Storey, K. G. Loss of FGF-dependent mesoderm identity and rise of endogenous retinoid signalling determine cessation of body axis elongation. PLoS Biol. 10, e1001415 (2012).
40. Okada, Y., Shimazaki, T., Sobue, G. & Okano, H. Retinoic-acid-concentration-dependent acquisition of neural cell identity during in vitro differentiation of mouse embryonic stem cells. Dev. Biol. 275, 124-142 (2004).
41. Irioka, T., Watanabe, K., Mizusawa, H., Mizuseki, K. & Sasai, Y. Distinct effects of caudalizing factors on regional specification of embryonic stem cell-derived neural precursors. Dev. Brain Res. 154, 63-70 (2005).
42. Nordstrom, U., Jessell, T. M. & Edlund, T. Progressive induction of caudal neural character by graded Wnt signaling. Nat. Neurosci. 5, 525-532 (2002).
43. Derossi, D., Williams, E. J., Green, P. J., Dunican, D. J. & Doherty, P. Stimulation of mitogenesis by a cell-permeable PI 3-kinase binding peptide. Biochem. Biophys. Res. Commun. 251, 148-152 (1998).
44. Nagoshi, N. & Okano, H. iPSC-derived neural precursor cells: potential for cell transplantation therapy in spinal cord injury. Cell. Mol. Life Sci. 75, 989-1000 (2018).
45. Ahuja, C. S. et al. Traumatic spinal cord injury. Nat. Rev. Dis. Primer 3, 1-21 (2017).
46. Nagoshi, N. et al. Human Spinal Oligodendrogenic Neural Progenitor Cells Promote Functional Recovery After Spinal Cord Injury by Axonal Remyelination and Tissue Sparing: Oligodendrogenic NPCs for Spinal Cord Injury. STEM CELLS Transl. Med. 7, 806-818 (2018).
47. Khazaei, M., Ahuja, C. S. & Fehlings, M. G. Generation of Oligodendrogenic Spinal Neural Progenitor Cells From Human Induced Pluripotent Stem Cells. Curr. Protoc. Stem Cell Biol. 42, 2D.20.1-2D.20.14 (2017).
Baptiste, D.C., and Fehlings, M.G. (2006). Pharmacological approaches to repair the injured spinal cord. J. Neurotrauma 23, 318-334.
Bonner, J.F., and Steward, O. (2015). Repair of spinal cord injury with neuronal relays: From fetal grafts to neural stem cells. Brain Res. 1619, 115-123.
Bresnahan, J.C., Beattie, M.S., Todd III, F.D., and Noyes, D.H. (1987). A behavioral and anatomical analysis of spinal cord injury produced by a feedback-controlled impaction device. Exp. Neurol. 95, 548-570.
Chamankhah, M., Eftekharpour, E., Karimi-Abdolrezaee, S., Boutros, P.C., San-Marina, S., and Fehlings, M.G. (2013). Genome-wide gene expression profiling of stress response in a spinal cord clip compression injury model. BMC Genomics 14, 583.
Chang, D.-J., Lee, N., Park, I.-H., Choi, C., Jeon, I., Kwon, J., Oh, S.-H., Shin, D.A., Do, J.T., Lee, D.R., et al. (2013). Therapeutic potential of human induced pluripotent stem cells in experimental stroke. Cell Transplant. 22, 1427-1440.
Chen, J., Leong, S.-Y., and Schachner, M. (2005). Differential expression of cell fate determinants in neurons and glial cells of adult mouse spinal cord after compression injury. Eur. J. Neurosci. 22, 1895-1906.
Chen, Q., Zhang, M., Li, Y., Xu, D., Wang, Y., Song, A., Zhu, B., Huang, Y., and Zheng, J.C. (2015). CXCR7 Mediates Neural Progenitor Cells Migration to CXCL12 Independent of CXCR4. Stem Cells Dayt. Ohio 33, 2574-2585.
Dai, H., Macarthur, L., McAtee, M., Hockenbury, N., Das, P., and Bregman, B.S. (2011). Delayed rehabilitation with task-specific therapies improves forelimb function after a cervical spinal cord injury. Restor. Neurol. Neurosci. 29, 91-103.
De Biase, A., Knoblach, S.M., Di Giovanni, S., Fan, C., Molon, A., Hoffman, E.P., and Faden, A.I. (2005). Gene expression profiling of experimental traumatic spinal cord injury as a function of distance from impact site and injury severity. Physiol. Genomics 22, 368-381.
Dusart, I., and Schwab, M.E. (1994). Secondary Cell Death and the Inflammatory Reaction After Dorsal Hemisection of the Rat Spinal Cord. Eur. J. Neurosci. 6, 712-724.
Ferrari, D., Zalfa, C., Nodari, L.R., Gelati, M., Carlessi, L., Delia, D., Vescovi, A.L., and De Filippis, L. (2012). Differential pathotropism of non-immortalized and immortalized human neural stem cell lines in a focal demyelination model. Cell. Mol. Life Sci. CMLS 69, 1193-1210.
Filippo, T.R.M., Galindo, L.T., Barnabe, G.F., Ariza, C.B., Mello, L.E., Juliano, M.A., Juliano, L., and Porcionatto, M.A. (2013). CXCL12 N-terminal end is sufficient to induce chemotaxis and proliferation of neural stem/progenitor cells. Stem Cell Res. 11, 913-925.
Franklin, R.J.M., and Hinks, G.L. (1999). Understanding CNS remyelination: Clues from developmental and regeneration biology. J. Neurosci. Res. 58, 207-213.
Furlan, J.C., Noonan, V., Singh, A., and Fehlings, M.G. (2011). Assessment of impairment in patients with acute traumatic spinal cord injury: a systematic review of the literature. J. Neurotrauma 28, 1445-1477.
Garcia-Alias, G., Barkhuysen, S., Buckle, M., and Fawcett, J.W. (2009). Chondroitinase ABC treatment opens a window of opportunity for task-specific rehabilitation. Nat. Neurosci. 12, 1145-1151.
Gifford, W.D., Hayashi, M., Sternfeld, M., Tsai, J., Alaynick, W.A., and Pfaff, S.L. (2013). Chapter 7 - Spinal Cord Patterning. In Patterning and Cell Type Specification in the Developing CNS and PNS, J.L.R. Rubenstein, and P. Rakic, eds. (Oxford: Academic Press), pp. 131-149.
Grandbarbe, L., Bouissac, J., Rand, M., Angelis, M.H. de, Artavanis-Tsakonas, S., and Mohier, E. (2003). Delta-Notch signaling controls the generation of neurons/glia from neural stem cells in a stepwise process. Development 130, 1391-1402.
Gray, E.G. (1959). Electron microscopy of synaptic contacts on dendrite spines of the cerebral cortex. Nature 183, 1592-1593.
Hofstetter, C.P., Holmstrom, N.A.V., Lilja, J.A., Schweinhardt, P., Hao, J., Spenger, C., Wiesenfeld-Hallin, Z., Kurpad, S.N., Frisen, J., and Olson, L. (2005). Allodynia limits the usefulness of intraspinal neural stem cell grafts; directed differentiation improves outcome. Nat. Neurosci. 8, 346-353.
Hussein, S.M., Batada, N.N., Vuoristo, S., Ching, R.W., Autio, R., Narva, E., Ng, S., Sourour, M., Hamalainen, R., Olsson, C., et al. (2011). Copy number variation and selection during reprogramming to pluripotency. Nature 471, 58-62.
Imitola, J., Raddassi, K., Park, K.I., Mueller, F.-J., Nieto, M., Teng, Y.D., Frenkel, D., Li, J., Sidman, R.L., Walsh, C.A., et al. (2004). Directed migration of neural stem cells to sites of CNS injury by the stromal cell-derived factor 1α/CXC chemokine receptor 4 pathway. Proc. Natl. Acad. Sci. 101, 18117-18122.
Karimi-Abdolrezaee, S., Eftekharpour, E., Wang, J., Morshead, C.M., and Fehlings, M.G. (2006). Delayed transplantation of adult neural precursor cells promotes remyelination and functional neurological recovery after spinal cord injury. J. Neurosci. Off. J. Soc. Neurosci. 26, 3377-3389.
Khazaei, M., Ahuja, C.S., and Fehlings, M.G. (2017). Induced Pluripotent Stem Cells for Traumatic Spinal Cord Injury. Front. Cell Dev. Biol. 4.
Li, L., Velumian, A.A., Samoilova, M., and Fehlings, M.G. (2016). A Novel Approach for Studying the Physiology and Pathophysiology of Myelinated and Non-Myelinated Axons in the CNS White Matter. PLOS ONE 11, e0165637.
Li, Y.Q., Guo, Y.P., Jay, V., Stewart, P.A., and Wong, C.S. (1996). Time course of radiation-induced apoptosis in the adult rat spinal cord. Radiother. Oncol. 39, 35-42.
Lippmann, E.S., Williams, C.E., Ruhl, D.A., Estevez-Silva, M.C., Chapman, E.R., Coon, J.J., and Ashton, R.S. (2015). Deterministic HOX patterning in human pluripotent stem cell-derived neuroectoderm. Stem Cell Rep. 4, 632-644.
Liu, X.Z., Xu, X.M., Hu, R., Du, C., Zhang, S.X., McDonald, J.W., Dong, H.X., Wu, Y.J., Fan, G.S., Jacquin, M.F., et al. (1997). Neuronal and Glial Apoptosis after Traumatic Spinal Cord Injury. J. Neurosci. 17, 5395-5406.
Lu, P., Wang, Y., Graham, L., McHale, K., Gao, M., Wu, D., Brock, J., Blesch, A., Rosenzweig, E.S., Havton, L.A., et al. (2012). Long-distance growth and connectivity of neural stem cells after severe spinal cord injury. Cell 150, 1264-1273.
Lu, P., Woodruff, G., Wang, Y., Graham, L., Hunt, M., Wu, D., Boehle, E., Ahmad, R., Poplawski, G., Brock, J., et al. (2014). Long-Distance Axonal Growth from Human Induced Pluripotent Stem Cells after Spinal Cord Injury. Neuron 83, 789-796.
Miyagi, M., Ishikawa, T., Kamoda, H., Orita, S., Kuniyoshi, K., Ochiai, N., Kishida, S., Nakamura, J., Eguchi, Y., Arai, G., et al. (2011). Assessment of gait in a rat model of myofascial inflammation using the CatWalk system. Spine 36, 1760-1764.
Nagoshi, N., Khazaei, M., Ahlfors, J.-E., Ahuja, C.S., Nori, S., Wang, J., Shibata, S., and Fehlings, M.G. (2018). Human Spinal Oligodendrogenic Neural Progenitor Cells Promote Functional Recovery After Spinal Cord Injury by Axonal Remyelination and Tissue Sparing. Stem Cells Transl. Med.
Namihira, M., Kohyama, J., Semi, K., Sanosaka, T., Deneen, B., Taga, T., and Nakashima, K. (2009). Committed neuronal precursors confer astrocytic potential on residual neural precursor cells. Dev. Cell 16, 245-255.
Nashmi, R., and Fehlings, M.G. (2001). Changes in axonal physiology and morphology after chronic compressive injury of the rat thoracic spinal cord. Neuroscience 104, 235-251.
Nguyen, D.H., Cho, N., Satkunendrarajah, K., Austin, J.W., Wang, J., and Fehlings, M.G. (2012). Immunoglobulin G (IgG) attenuates neuroinflammation and improves neurobehavioral recovery after cervical spinal cord injury. J. Neuroinflammation 9.
Pataky, D.M., Borisoff, J.F., Fernandes, K.J., Tetzlaff, W., and Steeves, J.D. (2000). Fibroblast growth factor treatment produces differential effects on survival and neurite outgrowth from identified bulbospinal neurons in vitro. Exp. Neurol. 163, 357-372.
Payne, S.L., Anandakumaran, P.N., Varga, B.V., Morshead, C.M., Nagy, A., and Shoichet, M.S. (2018). In Vitro Maturation of Human iPSC-Derived Neuroepithelial Cells Influences Transplant Survival in the Stroke-Injured Rat Brain. Tissue Eng. Part A 24, 351-360.
Rowland, J.W., Hawryluk, G.W.J., Kwon, B., and Fehlings, M.G. (2008). Current status of acute spinal cord injury pathophysiology and emerging therapies: promise on the horizon. Neurosurg. Focus 25, E2.
Ruff, C.A., Wilcox, J.T., and Fehlings, M.G. (2012). Cell-based transplantation strategies to promote plasticity following spinal cord injury. Exp. Neurol. 235, 78-90.
Salewski, R.P., Buttigieg, J., Mitchell, R.A., van der Kooy, D., Nagy, A., and Fehlings, M.G. (2013). The generation of definitive neural stem cells from PiggyBac transposon-induced pluripotent stem cells can be enhanced by induction of the NOTCH signaling pathway. Stem Cells Dev. 22, 383-396.
Salewski, R.P., Mitchell, R.A., Li, L., Shen, C., Milekovskaia, M., Nagy, A., and Fehlings, M.G. (2015). Transplantation of Induced Pluripotent Stem Cell-Derived Neural Stem Cells Mediate Functional Recovery Following Thoracic Spinal Cord Injury Through Remyelination of Axons. Stem Cells Transl. Med. 4, 743-754.
Sansom, S.N., Griffiths, D.S., Faedo, A., Kleinjan, D.-J., Ruan, Y., Smith, J., Heyningen, V. van, Rubenstein, J.L., and Livesey, F.J. (2009). The Level of the Transcription Factor Pax6 Is Essential for Controlling the Balance between Neural Stem Cell Self-Renewal and Neurogenesis. PLOS Genet 5, e1000511.
Sekhon, L.H., and Fehlings, M.G. (2001). Epidemiology, demographics, and pathophysiology of acute spinal cord injury. Spine 26, S2-12.
Silbereis, J.C., Pochareddy, S., Zhu, Y., Li, M., and Sestan, N. (2016). The Cellular and Molecular Landscapes of the Developing Human Central Nervous System. Neuron 89, 248-268.
Soubeyrand, M., Badner, A., Vawda, R., Chung, Y.S., and Fehlings, M.G. (2014). Very high resolution ultrasound imaging for real-time quantitative visualization of vascular disruption after spinal cord injury. J. Neurotrauma 31, 1767-1775.
Stangel, M., and Hartung, H.-P. (2002). Remyelinating strategies for the treatment of multiple sclerosis. Prog. Neurobiol. 68, 361-376.
Tanigaki, K., Nogaki, F., Takahashi, J., Tashiro, K., Kurooka, H., and Honjo, T. (2001). Notch1 and Notch3 instructively restrict bFGF-responsive multipotent neural progenitor cells to an astroglial fate. Neuron 29, 45-55.
Tator, C.H., Duncan, E.G., Edmonds, V.E., Lapczak, L.I., and Andrews, D.F. (1993). Changes in epidemiology of acute spinal cord injury from 1947 to 1981. Surg. Neurol. 40, 207-215.
Varga, B.V., Faiz, M., Yang, H., Gao, S., Linderoth, E., Zhen, M., Hussein, S.M., and Nagy, A. Signal requirement for forebrain potential of transplantable human neuroepithelial stem cells. Cell Stem Cell In revision, Submitted.
Wilcox, J.T., Satkunendrarajah, K., Zuccato, J.A., Nassiri, F., and Fehlings, M.G. (2014). Neural precursor cell transplantation enhances functional recovery and reduces astrogliosis in bilateral compressive/contusive cervical spinal cord injury. Stem Cells Transl. Med. 3, 1148-1159.
Wilcox, J.T., Satkunendrarajah, K., Nasirzadeh, Y., Laliberte, A.M., Lip, A., Cadotte, D.W., Foltz, W.D., and Fehlings, M.G. (2017). Generating level-dependent models of cervical and thoracic spinal cord injury: Exploring the interplay of neuroanatomy, physiology, and function. Neurobiol. Dis. 105, 194-212.
【国際調査報告】