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  • 特表-原子炉用の溶融塩冷却剤 図1
  • 特表-原子炉用の溶融塩冷却剤 図2
  • 特表-原子炉用の溶融塩冷却剤 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-09-20
(54)【発明の名称】原子炉用の溶融塩冷却剤
(51)【国際特許分類】
   G21C 1/22 20060101AFI20230912BHJP
   G21C 3/54 20060101ALI20230912BHJP
【FI】
G21C1/22
G21C3/54
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023515586
(86)(22)【出願日】2021-09-02
(85)【翻訳文提出日】2023-03-23
(86)【国際出願番号】 EP2021074301
(87)【国際公開番号】W WO2022053396
(87)【国際公開日】2022-03-17
(31)【優先権主張番号】2014181.8
(32)【優先日】2020-09-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(31)【優先権主張番号】2020536.5
(32)【優先日】2020-12-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】515230165
【氏名又は名称】スコット,イアン リチャード
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100135079
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 修
(72)【発明者】
【氏名】スコット,イアン リチャード
(57)【要約】
核分裂炉の一次冷却剤としての三フッ化アルミニウムおよびフッ化ナトリウムを含む溶融塩の使用であって、前記溶融塩は、前記核分裂炉の作動中にグラファイトおよびアルミニウム金属と接触する、使用。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
核分裂炉の一次冷却剤としての三フッ化アルミニウムおよびフッ化ナトリウムを含む溶融塩の使用であって、
前記溶融塩は、前記核分裂炉の作動中にグラファイトおよびアルミニウム金属と接触する、使用。
【請求項2】
前記溶融塩は、さらに、核分裂性同位体を有し、前記核分裂炉の一次冷却剤および燃料塩の両方として、前記溶融塩を使用することを含む、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
前記溶融塩は、45から65mol%のフッ化ナトリウムと、35から55mol%の三フッ化アルミニウムとを含む、請求項1に記載の使用。
【請求項4】
前記混合物は、前記塩混合物の共晶点にある、請求項1に記載の使用。
【請求項5】
前記アルミニウム金属は、in-situで形成される、請求項1に記載の使用。
【請求項6】
前記アルミニウム金属は、
前記溶融塩への還元剤の添加、
前記溶融塩への金属ナトリウムの添加、
前記溶融塩の電解
のいずれか一つによって形成される、請求項5に記載の使用。
【請求項7】
核分裂反応器であって、
炉心であって、核分裂性燃料を含む1つ以上の格納ユニットを有する、炉心と、
一次冷却剤を有する一次冷却剤システムであって、前記一次冷却剤が前記格納ユニットと接触し、前記炉心から熱を除去するように構成される、一次冷却剤システムと、
を有し、
前記一次冷却剤は、三フッ化アルミニウムおよびフッ化ナトリウムを含む溶融塩であり、
当該核分裂反応器は、グラファイトを有し、該グラファイトは、当該反応器の作動中に前記一次冷却剤と接触するように配置され、
当該核分裂反応器は、前記反応器の作動中にアルミニウム金属と前記溶融塩との間の接触を提供するシステムを有する、核分裂反応器。
【請求項8】
核分裂反応器であって、
熱交換器と、
炉心および燃料塩を有する燃料塩系であって、前記燃料塩が前記炉心と前記熱交換器との間を流れるように構成された、燃料塩系と、
を有し、
前記燃料塩は、三フッ化アルミニウム、フッ化ナトリウム、および核分裂性同位体を有する元素の塩化物またはフッ化物を含む溶融塩であり、
当該核分裂反応器は、グラファイトを有し、該グラファイトは、当該核分裂反応器の作動中に前記グラファイトが前記一次冷却剤と接触するように配置され、
当該核分裂反応器は、当該核分裂反応器の作動中にアルミニウム金属と前記溶融塩との間の接触を提供するシステムを有する、核分裂反応器。
【請求項9】
前記溶融塩は、50から60mol%の三フッ化アルミニウムと、40から50mol%のフッ化ナトリウムとを含む、請求項7に記載の核分裂反応器。
【請求項10】
前記混合物は、前記塩混合物の共晶点にある、請求項7に記載の核分裂反応器。
【請求項11】
アルミニウム金属と前記溶融塩との間の接触を提供する前記システムは、
前記溶融塩と接触するアルミニウム金属部材、
前記溶融塩に還元剤またはナトリウム金属を供給するように構成された、還元剤供給ユニット、
前記溶融塩を電気分解するように構成された電解ユニット、
の1つ以上を含む、請求項7に記載の核分裂反応器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原子炉用の冷却システムに関する。特に、本発明は、原子炉で使用される溶融塩冷却剤に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料または反応器冷却剤として溶融塩を用いる原子炉は、長い間知られている。そのような塩にはいくつかの重要な特性があり、これらは、他の多くの著者らと同様、LiF、BeF2、NaF、ZrF4、RbFおよびKFを含む塩混合物を検討する必要があることを推奨するWilliamsら(ORNL/TM-2006/12)により、深く概説されている(上記参考文献における表AおよびBを参照)。
【0003】
減速材としてグラファイトを利用する溶融塩反応器は、溶融塩とグラファイトとの相互作用の課題に直面することが知られている。それらは、鋼からクロムが抽出されないよう、溶融塩の酸化還元状態が十分に強く還元側に維持される際、特別な問題に悩まされる。そのような条件下では、多くの好適な溶融塩は、グラファイトと反応する。例えば、ZrF4は、Scott(PCT/GB2016/053861)に記載されているような還元条件下において、特に容易に維持され、広く提案されているFLIBE塩とBeF2のように、グラファイトと容易に反応して、安定な炭化物を形成する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従って、原子炉においてグラファイトと接触して使用される溶融塩に関し、グラファイトの劣化を引き起こすことなく、強い還元条件に容易に維持されることに対してニーズがある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の第1の態様では、核分裂炉の一次冷却剤としての三フッ化アルミニウムおよびフッ化ナトリウムを含む溶融塩の使用であって、前記溶融塩は、前記核分裂炉の作動中にグラファイトおよびアルミニウム金属と接触する、使用が提供される。
【0006】
本発明の第2の態様では、核分裂反応器が提供される。当該核分裂反応器は、炉心および一次冷却剤システムを有する。前記炉心は、核分裂性燃料を含む1つ以上の格納ユニットを有する。前記一次冷却剤システムは、一次冷却剤を有し、一次冷却剤が格納ユニットと接触し、前記炉心から熱を除去するように構成される。前記一次冷却剤は、三フッ化アルミニウムおよびフッ化ナトリウムを含む溶融塩である。当該核分裂反応器は、アルミニウム金属およびグラファイトを有し、該グラファイトは、当該反応器の作動中に前記一次冷却剤と接触するように配置される。
【0007】
本発明の第3の態様では、核分裂反応器が提供される。当該核分裂反応器は、熱交換器と、燃料塩系とを有する。前記燃料塩系は、炉心および燃料塩を有し、前記燃料塩が前記炉心と前記熱交換器との間を流れるように構成される。前記燃料塩は、三フッ化アルミニウム、フッ化ナトリウム、および核分裂性同位体を有する元素の塩化物またはフッ化物を含む溶融塩である。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】AlF3とNaFの混合物の状態図である。
図2】例示的な反応器の概略図である。
図3】別の例示的な反応器の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
溶融塩冷却剤がグラファイトと接触している原子炉は、三フッ化アルミニウム(AlF3)およびフッ化ナトリウム(NaF)を含む溶融塩により冷却される。前記冷却剤は、さらに、バルクの溶融状態または分散状態において、金属アルミニウムと接触する。溶融塩は、不動の核燃料構造体から冷却剤塩が熱を搬送する場合、そのまま使用されてもよく、または冷却剤も反応器の核分裂性燃料である場合、核分裂性同位体を有する元素のフッ化物、例えばアクチニドフッ化物、と混合されてもよい。
【0010】
金属アルミニウムは、ナトリウム金属のような還元剤の添加により、電解プロセスにより、または他の既知のプロセスにより、そのまま添加されても、in-situで形成されてもよい。
【0011】
AlF3およびNaFの共晶混合物(約55mol%のNaFと約45mol%のAlF3)は、図1に示すように、特に望ましい特性の組み合わせを有する。融点は、約700℃であり、750℃超の温度範囲で使用される実用的な冷却剤となる。作動温度範囲を上げる代わりに、AlF3の割合の変更も可能であり、これは、AlF3の割合を僅かに減らすことでも塩の蒸気圧を下げることができるため、好ましい。また、溶融塩中に少量(例えば、最大10mol%)の他の化合物が存在してもよい。例えば、NaFの割合は、45から65mol%であってもよく、AlF3の割合は、35から55mol%であってもよい(合計100%が上限であり、AlF3+NaFの割合が100%未満の場合、残りは、他の塩から形成される)。これらの濃度では、AlF3/NaF混合物の融点は、900℃未満に維持され、ナトリウムの沸点を超える強還元性混合物中での金属ナトリウムの生成による、ナトリウム蒸気の構築の可能性が排除される。蒸気圧は、900℃で管理可能(0.05mbar)であるが、その温度を超えると急速に上昇し、排気またはその他のガス制御手段が必要となり得る。
【0012】
共晶AlF3/NaF塩は、低い粘度を有し、750℃での1.2cPから830℃での1cPまで低下し、液体水と同様の流動特性を有する理想的な冷却剤に近い。
【0013】
その中性子吸収率は、Na、F、およびAlが、それぞれ、531mb、9.6mb、および230mbの熱中性子断面積を有するため、特に低い。
【0014】
これらの塩システムの特に重要な性質は、これらが粘性を顕著に増加させることなく、アルミニウム酸化物の1%超を溶解できることである。原子炉冷却剤との関係では、生成されるフッ素が中和される場合、塩は、その特性を大きく変化させることなく、相当量の酸素を吸収することができる。従って、系内にかなりの量のアルミニウム金属が存在することにより、系内に水または酸素が実質的な漏洩しても、溶融塩は、金属に対して非腐食性を維持することができる。従って、低酸化還元状態を維持する活性プロセスは、生成したフッ素を効果的に中和するアルミニウム金属の単純な受動的な存在で置換できる。アルミニウムは、AlF3/NaF共晶よりも低い温度で溶融するため、アルミニウムは、通常、液体状態にある。これは、アルミニウム酸化物の不動態化層が金属の表面に形成されることが防止されるため、望ましい。
【0015】
しかしながら、文献における提案とは対照的に、系内でのアルミニウム金属のこの使用では、グラファイトも同時に存在する場合、NaFは、他のアルカリ金属塩と相互交換できないことが認められている。リチウム、カリウム、またはルビジウムのフッ化物で置換した場合、金属形態におけるアルカリ金属が生成され、これがグラファイトにインターカレート挿入され、その構造が急速に劣化する。理論に拘束されることは望まないが、このシナリオにおけるNaF塩に対するグラファイトの特殊な抵抗性は、グラファイトにおけるナトリウムのインターカレーションに対する熱力学的障壁が溶融塩中のナトリウムの損傷濃度の形成を妨げる結果であると考えられる。一方、他のアルカリ金属のインターカレーションの正の熱力学的駆動力では、アルミニウムとそれらの金属の間の平衡が金属の生成の方向にシフトし、その結果、高いレベルのインターカレーションが生じる。
【0016】
LiF、KFまたはRbFは、それらが主成分ではない(すなわち、それらがNaFよりも少ない量で存在する)場合、塩中に許容され得る。そのような低い濃度では、グラファイト表面に対するこれらのコンタミネーション塩の比率では、グラファイトに大きな損傷が生じる前に、これらが枯渇してしまう。
【0017】
還元性の溶融塩におけるグラファイトの安定性には、第2の要因がある。これは、炭化物の形成である。フッ化ジルコニウムの場合、還元性ジルコニウム種とグラファイトとの反応により、グラファイト構造が崩壊する。フッ化アルミニウムは、アルミニウム金属と接触すると炭化物を形成するが、アルミニウム製錬所での経験上、この炭化物は、グラファイトを劣化させない安定な表面コーティングを形成することが示されている。
【0018】
従って、AlF3とNaFの組合せは、AlとNaの両元素がグラファイトと良好に相互作用するため、原子炉を含むグラファイトにおける用途に特に好適である。一方、どちらかを類似のフッ化物と置換した場合、グラファイトに損傷が生じる。
【0019】
図2は、例示的な反応器の概略図である。反応器は、炉心201を有し、これは、核分裂性燃料を含む1つ以上の格納ユニット202を含む。格納ユニットは、固体核分裂性燃料または溶融塩核分裂性燃料を含む燃料棒であってもよく、あるいは冷却剤が核分裂性燃料から分離された反応器で使用される、任意の他の好適な核分裂性燃料格納容器であってもよい。反応器は、さらに、核分裂性燃料を冷却する冷却システムを有し、冷却システムは、一次冷却剤を有し、これは上記のように、AlF3およびNaFからなる溶融塩である。この例では、冷却システムは、熱交換器203を有し、矢印は、熱交換器と炉心との間の冷却剤の流れを示す。反応器は、さらに、一次冷却剤と接触するグラファイト部材-この例では制御ロッド204-と、一次冷却剤をアルミニウム金属と接触させるシステム205とを有する。このシステムは、アルミニウム金属が存在する冷却剤チャネルの単なる領域であってもよく、および/またはナトリウムのような還元剤の添加のためのユニット、および/または電解システムを含んでもよい。
【0020】
図3は、別の例示的な反応器の概略図である。反応器は、炉心301と、反応器を冷却する冷却システムとを有する。また冷却システムの一次冷却剤は、反応器の燃料塩であり、AlF3、NaF、および核分裂性同位体を有する元素のフッ化物を含む溶融塩である。冷却システムは、熱交換器303を有する。反応器は、さらに、一次冷却剤と接触するグラファイト部材-この例では制御ロッド304-と、溶融塩をアルミニウム金属と接触させるシステム305とを有する。このシステムは、アルミニウム金属が存在する冷却剤チャネルの単なる領域であってもよく、および/またはナトリウムのような還元剤の添加のためのユニット、および/または電解システムを含んでもよい。
【0021】
AlF3は、既存の文書において冷却剤塩の潜在的な成分として言及されているが、これらの以前の議論では、グラファイト構造の汚染を防ぐとともに、適切な酸素吸収を確保するという上記の問題を取り扱ってこなかった。
【0022】
AlF3のいくつかの特性は、前述のWilliamsら(ORNL/TM-2006/12)の論文に記載されているが、これは特性の表のみであり、それらが核使用に適した塩であることを示唆するものではない。具体的には、NaF/AlF3系は、75%のNaF/25%のAlF3の組成で、1000℃の融点を有するものとして、本論文の表8で言及されているが、ナトリウムガスの生成を緩和する必要性については議論されていない。また、冷却剤とグラファイトおよびアルミニウムとの間の接触についての開示はない。
【0023】
原子炉用溶融塩(Thoma、ORNL-2548)に関する信頼できる報告書には、多くの潜在的な塩システムが記載されているが、AlF3塩は含まれていない。
【0024】
Holcombら(ORNL/TM-2010/156)は、アルミニウム製錬(p3)において、AlF3の使用が広く普及していることを述べているが、彼らの論文(表9、p42)では、Williamsにおいて言及されている同じ75mol%のNaF/25mol%のAlF3の塩の熱伝導率を記録するだけで、一度しか述べられていない。原子炉冷却剤としての適合性、またはその使用(例えば、グラファイトとの相互作用)から生じる他の特殊な問題については言及されていない。
【0025】
AlF3ベースの塩は、使用済み核燃料の再処理での使用用に提案されており、例えば、ウラン回収のフッ化物揮発性プロセスにおいて、Carrら(ORNL 4574)およびThoma(ORNL-3594)により提案されている。原子炉冷却におけるAlF3の使用については、いずれの論文にも言及されていない。
【0026】
世界原子力学会(https://www.world-nuclear.org/information-library/current-and-future-generation/molten-salt-reactors.aspx)は、二次冷却剤としてのAlF3塩について、「工業用途では、溶融フッ化物塩(おそらく単なる氷晶石-Na-Alフッ化物)は、核熱源と任意の化学プラントとの間の二次回路における好ましい界面流体である。アルミニウム精錬産業では、それらを安全に管理するための十分な経験が提供される。」と言及している。しかしながら、原子炉冷却剤としてのこれらに関する言及はない。
【0027】
Laurenty(LM-LS実験:液体アルカリ金属による液体フッ化物塩の腐食制御の研究、Report UCBTH-06-002、2006)は、改良型高温反応器における溶融塩冷却剤の腐食制御システムの一部としてのAlおよびAlF3について言及しているが、これらは不適切である(p30)として否定されており、これらの使用については、明らかに否定している。
【0028】
Bensonら(WO2019/231971、WO2020/123509、2020/123513)は、溶融塩原子炉に組み込むことができる多数の塩の1つとしてAlF3を挙げているが、その塩の使用の特別な利点については価値を認めていない。Bensonは、アルミニウム金属を使用して塩の還元状態を維持することについて検討しておらず、従って、塩とグラファイトの反応に関する上記の問題は考慮していない。
図1
図2
図3
【国際調査報告】