(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-09-20
(54)【発明の名称】改善された加工性および粗面を有するUDテープならびにその製造方法
(51)【国際特許分類】
B29B 15/12 20060101AFI20230912BHJP
B29K 105/10 20060101ALN20230912BHJP
【FI】
B29B15/12
B29K105:10
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023537716
(86)(22)【出願日】2021-08-25
(85)【翻訳文提出日】2023-04-17
(86)【国際出願番号】 EP2021073523
(87)【国際公開番号】W WO2022043387
(87)【国際公開日】2022-03-03
(32)【優先日】2020-08-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523072773
【氏名又は名称】トウレ アドバンスト コンポジッツ
【氏名又は名称原語表記】TORAY ADVANCED COMPOSITES
【住所又は居所原語表記】G.van der Muelenweg 2,7443 RE Nijverdal,Netherlands
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ルインゲ,ハンス
(72)【発明者】
【氏名】マルケンステイン,ヨーリス
【テーマコード(参考)】
4F072
【Fターム(参考)】
4F072AA08
4F072AB08
4F072AB09
4F072AB22
4F072AD42
4F072AD45
4F072AD46
4F072AG03
4F072AH03
4F072AH24
4F072AH49
4F072AJ02
4F072AL01
4F072AL02
4F072AL11
(57)【要約】
本発明は、表面ポリマー層を有する一方向テープを製造する方法に関し、該方法は、a)ポリマーの粒子と、水と、任意で界面活性剤と、任意で有機担持媒体と、任意で有機化合物と、任意で表面活性化合物と、を含む含浸用スラリーを供給し、表面形状構造を有するプレス成形型を供給するステップであって、表面形状構造は、1~20μm、好ましくは2~10μm、より好ましくは3~7μmの表面粗さRaを有する、ステップと、b)ポリマーの粒子を含む含浸一方向繊維層を得るために、一方向繊維を含む一方向繊維層に含浸用スラリーを含浸させるステップと、c)一方向繊維層上に表面ポリマー層を形成するために、含浸一方向繊維層内のポリマーの粒子の少なくとも一部を含浸一方向繊維層の表面上に移動させるように、前記含浸一方向繊維層の当該表面に対して表面形状構造を用いて押圧するステップと、d)表面ポリマー層を有する一方向テープを取得するステップと、を含む。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面ポリマー層を有する一方向テープを製造する方法であって、
a)ポリマーの粒子と、水と、任意で界面活性剤と、任意で有機担持媒体と、任意で有機化合物と、任意で表面活性化合物と、を含む含浸用スラリーを供給し、表面形状構造を有するプレス成形型を供給するステップであって、前記表面形状構造は、1乃至20μmの表面粗さRaを有する、ステップと、
b)前記ポリマーの粒子を含む含浸一方向繊維層を得るために、一方向繊維を含む一方向繊維層に前記含浸用スラリーを含浸させるステップと、
c)前記一方向繊維層上に表面ポリマー層を形成するために、前記含浸一方向繊維層内の前記ポリマーの粒子の少なくとも一部を前記含浸一方向繊維層の表面上に移動させるように、前記含浸一方向繊維層の前記表面に対して表面形状構造を用いて押圧するステップと、
d)表面ポリマー層を有する一方向テープを取得するステップと、
を含む方法。
【請求項2】
前記ポリマーは、熱可塑性ポリマーである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記熱可塑性ポリマーは、ポリアリールエーテルケトン(polyaryletherketone:PAEK)系高分子材料、ポリフェニレンスルフィド(polyphenylene sulphide:PPS)、ポリエーテルイミド(polyetherimide:PEI)、ポリエーテルスルホン(polyethersulfone:PESU,PES)、またはポリスルホン(polysulfone:PSU)を含む、またはこれらのいずれかだけで構成される、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記ポリアリールエーテルケトン(PAEK)系高分子材料は、ポリエーテルケトン(poly-ether-ketone:PEK)と、ポリエーテルエーテルケトン(polyether-ether-ketone:PEEK)と、ポリエーテルエーテルケトンケトン(poly-ether-ether-ketone-ketone:PEEKK)と、ポリエーテルエーテルケトンケトン(poly-ether-ether-ketone-ketone:PEKK)と、ポリエーテルケトンエーテルケトンケトン(poly-ether-ketone-ether-ketone-ketone:PEKEKK)と、ポリエーテルエーテルケトンエーテルケトン(poly-ether-ether-ketone-ether-ketone:PEEKEK)と、ポリエーテルエーテルエーテルケトン(poly-ether-ether-ether-ketone:PEEEK)と、ポリエーテルジフェニルエーテルケトン(poly-ether-diphenyl-ether-ketone:PEDEK)と、メタポリエーテルエーテルケトン(meta-polyether-ether-ketone:PEmEK)と、これらの共重合体と、これらの混合物と、からなる群から選択される、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記一方向繊維は、炭素繊維および/またはガラス繊維および/または石英である、請求項1乃至4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記表面ポリマー層は、1乃至20μmの表面粗さRaを有する、請求項1乃至5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
e)前記一方向繊維層を乾燥させるステップをさらに含み、前記ステップe)は前記含浸ステップb)と前記押圧ステップc)との間に行われる、請求項1乃至6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記押圧ステップc)を行う前または行う間に、f)前記一方向繊維層を冷却するステップをさらに含む、請求項1乃至7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記押圧ステップc)は、前記一方向繊維層の温度Tが(Tc-150℃)≦T≦(Tc+150℃)の範囲である間に行われ、Tcは前記ポリマーの結晶化温度である、請求項1乃至8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記表面形状構造は、前記含浸一方向繊維層を押圧するための凸部と、前記含浸一方向繊維層から押し出された前記ポリマーを受けるための凹部と、を含む、請求項1乃至9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記表面ポリマー層上に2次粒子を静電的に付着させるステップg)をさらに含む、請求項1乃至10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
請求項1乃至11のいずれか1項に記載の方法により得られた表面ポリマー層を有する一方向テープ。
【請求項13】
一方向繊維層と、表面ポリマー層好ましくは2つの表面ポリマー層と、を含む一方向テープであって、前記一方向繊維層は一方向繊維とポリマーの粒子とを含み、前記表面ポリマー層は前記ポリマーの粒子を含み、前記表面ポリマー層は、1乃至20μmの表面粗さRaを有し、15μm未満の厚さを有することを特徴とする、一方向テープ。
【請求項14】
遷移領域をさらに含み、前記遷移領域は前記一方向繊維層と前記表面ポリマー層との間に位置し、前記遷移領域の厚さは2乃至15μmであり、および/または前記表面ポリマー層の厚さの変化は、平均の表面ポリマー層厚さの0乃至75%であり、および/または前記表面ポリマー層はボイドを含み、前記表面ポリマー層中のボイドの量は、前記表面ポリマー層の総体積を基準にして1乃至10vol%である、請求項13に記載の一方向テープ。
【請求項15】
前記ポリマーは熱可塑性ポリマーであり、前記一方向繊維は炭素繊維である、請求項13または14に記載の一方向テープ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、改善された加工性および粗面を有するUDテープ、ならびにその製造方法に関する。
【0002】
一方向テープ(Unidirectional Tape:UDテープ)は、様々な幅の繊維強化テープであり、長年知られている。一方向配列強化繊維に、一般的に、熱可塑性ポリマーが含浸され、強化繊維は通常、炭素繊維またはガラス繊維である。UDテープを使用することで、従来のその他の材料で形成された構造と比較して、軽量であるだけでなく高剛性、高強度などの有利な構造特性を有する構造を形成することができる。その結果、UDテープは自動車、航空宇宙、家電産業など幅広い産業で様々な用途に使用されている。UDテープは、用途に応じて、複雑な形状への加工性および成形性が優れているだけでなく、強度や剛性などの機械的性能、大きさ、重量に関する基準を含む、多くの基準を満たす必要があることもある。
【0003】
UDテープの次の加工は、一般的に、UDテープに存在する熱可塑性ポリマーを溶融して、互いに密着した積層体または複数の層からなる積層体を形成することを含む。これらの工程には、仮付け、テープ配置、テープ敷設、固化、および溶着が含まれる。そのため、ほとんどの工程で、十分に固められた積層体を形成するように、隣接するUDテープの界面に存在する熱可塑性ポリマーを溶融および相互拡散させる必要がある。
【0004】
当技術分野においてUDテープに対して改善された加工性が求められている。このような改善された加工性とは、急速な付着、固化特性、熱成形挙動、および複雑な形状のための横方向の流れ、さらには改善された加工のための粗面を意味する。
【0005】
したがって、当技術分野において、改善された横方向の流れを有すると共に、改善された加工のための粗面を有するUDテープを提供する必要がある。
【0006】
また、当技術分野において、改善された横方向の流れを有すると共に、改善された加工のための粗面を有するUDテープの製造方法を提供する必要もある。
【0007】
したがって、本発明の目的は、改善された横方向の流れを有すると共に、改善された加工のための粗面を有するUDテープを提供することである。
【0008】
また、本発明の目的は、改善された横方向の流れを有すると共に、改善された加工のための粗面を有するUDテープの製造方法を提供することである。
【0009】
一方向繊維層の表面にポリマーの層を有するUDテープを製造する方法により、上記目的を全て解決できることが分かった。すなわち、UDテープは、一方向繊維層の表面を押圧して、一方向繊維層上に、改善された横方向の流れをもたらす粗面ポリマー層を形成することによって製造される。
【0010】
したがって、本発明は、表面ポリマー層を有する一方向テープを製造する方法を提供し、該方法は、
a)ポリマーの粒子と、水と、任意で界面活性剤と、任意で有機担持媒体と、任意で有機化合物と、任意で表面活性化合物と、を含む含浸用スラリーを供給し、表面形状構造を有するプレス成形型を供給するステップであって、表面形状構造は、1乃至20μm、好ましくは2乃至10μm、より好ましくは3乃至7μmの表面粗さRaを有する、ステップと、b)ポリマーの粒子を含む含浸一方向繊維層を得るために、一方向繊維を含む一方向繊維層に含浸用スラリーを含浸させるステップと、c)一方向繊維層上に表面ポリマー層を形成するために、一方向繊維層内のポリマーの粒子の少なくとも一部を含浸一方向繊維層の表面上に移動させるように、前記含浸一方向繊維層の当該表面に対して表面形状構造を用いて押圧するステップと、d)表面ポリマー層を有する一方向テープを取得するステップと、を含む。
【0011】
本発明はさらに、本発明に係る方法によって得られた改善された加工性および粗面を有する一方向テープを提供する。
【0012】
本発明は、さらにいくつかの驚くべき利点を有する。
表面ポリマー層の形成により、UDテープの表面に存在するポリマー含有量が増加し、その結果として、横方向の流れが改善され、層間および成形型と複合積層体との間の摩擦が減少する。横方向の流れが改善され、摩擦が減少することで、テープの成形性が向上し、より高速な成形および/またはより複雑な形状の成形が可能になる。
【0013】
表面形状構造を用いて押圧することにより表面ポリマー層を調整することで、UDテープに所定の表面粗さを与えると同時に、ボイドが少なく均質なUDテープ材料を維持することがさらに可能になる。
【0014】
以下、本発明に係る一方向テープ(UDテープ)の製造方法について、より詳細に説明する。
【0015】
本発明の方法に用いられる含浸用スラリーは、ポリマーの粒子と、水と、任意で界面活性剤と、任意で有機担持媒体と、任意で有機化合物と、任意で表面活性化合物と、を含む。
【0016】
好ましくは、水は脱イオン水である。
【0017】
好ましくは、有機担持媒体は、アルコールを含む。
【0018】
好ましくは、有機化合物は、消泡剤を含む。
【0019】
好ましくは、表面活性化合物は、界面活性剤を含む。
【0020】
さらに、表面形状構造を有するプレス成形型が提供される。表面形状構造は、表面粗さRaが1~20μm、好ましくは2~10μm、より好ましくは3~7μmである。プレス成形型は、一方向繊維層の少なくとも1つの表面を押圧し、好ましくはプレス成形型は、一方向繊維層の2つの表面、すなわち、一方向繊維層の第1表面および第1表面の反対側の第2表面を押圧する。
【0021】
一方向繊維層の2つの表面をプレス成形型で押圧する場合、プレス成形型は、第1プレス成形型と第2プレス成形型とを含む。第1プレス成形型は一方向層の第1表面を押圧し、第2プレス成形型は一方向繊維層の第1表面の反対側の第2表面を押圧する。
【0022】
好ましくは、第1プレス成形型は、第2プレス成形型と同一である。
【0023】
ステップb)において、一方向繊維層に含浸用スラリーを含浸させ、ポリマーの粒子を含む含浸一方向繊維層を得る。一方向繊維層は、複数の一方向繊維を含む。これらの一方向繊維は、概して、一方向に並ぶように配置される。すなわち、複数の繊維は、概して、互いに平行に並んでいる。好ましくは、一方向繊維層の複数の繊維の少なくとも75%が一方向に並び、より好ましくは少なくとも80%であり、さらに好ましくは少なくとも90%であり、最も好ましくは少なくとも95%である。一方向繊維は、フィラメントを含み、またはフィラメントだけで構成される。1本の繊維を形成するフィラメントの数は様々であってよい。一般的に、1本の一方向繊維は、12000本または24000本のフィラメントから形成されてもよい。フィラメントの直径は、一般的に、5~7μmである。
【0024】
一方向繊維層は、第1表面と第2表面という2つの反対面を有する。
【0025】
ポリマーの粒子は、含浸ステップb)において、隣接する一方向繊維間および/または一方向繊維の隣接するフィラメント間に付着または接着し、さらに一方向繊維層の表面、好ましくは一方向繊維層の2つの表面に付着または接着する。すなわち、ポリマーの粒子は、一方向繊維層内に入り込み、一方向繊維層の表面、好ましくは一方向繊維層の2つの表面上に接着することができる。
【0026】
ポリマーの粒子は、一般的には10μm~500μm、好ましくは15~100μm、より好ましくは20~25μmの範囲の粒径を有してもよい。粒径は、例えば、Microtrac社から市販されているレーザー回折式粒子径分布測定装置S3500を用いて、レーザー回折分析により測定することができる。
【0027】
好ましくは、ステップb)は含浸槽、すなわち含浸用スラリーが入った容器で行われる。一方向繊維層に、好ましくは含浸槽を通して一方向繊維層を移動させることにより、含浸用スラリーを含浸させる。好ましくは、含浸用スラリーは、ステップb)の間、攪拌される。
【0028】
本発明の方法は、さらに、一方向繊維層上に表面ポリマー層を形成するために、一方向繊維層内のポリマーの粒子の少なくとも一部を表面上に移動させるように、一方向繊維層の表面に対して表面形状構造を用いて押圧するステップc)を含む。プレス成形型の表面形状構造は、ポリマーの粒子を含む含浸一方向繊維層に対して押圧する。押圧によって、含浸一方向繊維層内の繊維の一方向配列が変わることはないが、含浸一方向繊維層内に位置するポリマーの粒子の少なくとも一部が、含浸一方向繊維層の一方の表面または好ましくは両方の表面上に強制的に移動させられる。したがって、含浸一方向繊維層の一方または両方の表面上に移動させられたこれらのポリマーの粒子は、含浸一方向繊維層の表面に表面ポリマー層を形成し、好ましくは含浸一方向繊維層の両面に表面ポリマー層を形成する。好ましくは、表面ポリマー層は、ポリマーを含み、好ましくはポリマーだけで構成される。
【0029】
好ましくは、ステップc)は、含浸一方向繊維層の両面上に表面ポリマー層を形成するために、含浸一方向繊維層内のポリマーの粒子の少なくとも一部を両表面に移動させるように、含浸一方向繊維層の両表面に対して、好ましくは同時に、表面形状構造を用いて押圧することを含む。
【0030】
好ましくは、押圧ステップc)は、含浸一方向繊維層の温度Tが(Tc-150℃)≦T≦(Tc+150℃)(Tcはポリマーの結晶化温度)の範囲にある間に実施される。より好ましくは、温度は、(Tc-50℃)≦T≦(Tc+50℃)、より好ましくは(Tc-25℃)≦T≦(Tc+25℃)、最も好ましくは(Tc-10℃)≦T≦(Tc+10℃)の範囲にある。含浸一方向繊維層の温度Tおよびポリマーの結晶化温度Tcは、℃単位で表される。押圧の後、ステップd)において、表面ポリマー層を有する一方向テープが得られる。
【0031】
好ましくは、表面ポリマー層の厚さは、1~15μmであり、より好ましくは2~10μmであり、最も好ましくは4~6μmである。
【0032】
好ましくは、ポリマーは、熱可塑性ポリマーである。
【0033】
好ましくは、熱可塑性ポリマーは、ポリアリールエーテルケトン(polyaryletherketone:PAEK)系高分子材料、ポリフェニレンスルフィド(polyphenylene sulphide:PPS)、ポリエーテルイミド(polyetherimide:PEI)、ポリエーテルスルホン(polyethersulfone:PESU,PES)、またはポリスルホン(polysulfone:PSU)を含む、またはこれらのいずれかだけで構成される。より好ましくは、熱可塑性ポリマーは、ポリアリールエーテルケトン(PAEK)系高分子材料またはポリフェニレンスルフィド(PPS)を含む、またはこれらのいずれかだけで構成される。
【0034】
好ましくは、ポリアリールエーテルケトン(PAEK)系高分子材料は、ポリエーテルケトン(poly-ether-ketone:PEK)と、ポリエーテルエーテルケトン(polyether-ether-ketone:PEEK)と、ポリエーテルエーテルケトンケトン(poly-ether-ether-ketone-ketone:PEEKK)と、ポリエーテルエーテルケトンケトン(poly-ether-ether-ketone-ketone:PEKK)と、ポリエーテルケトンエーテルケトンケトン(poly-ether-ketone-ether-ketone-ketone:PEKEKK)と、ポリエーテルエーテルケトンエーテルケトン(poly-ether-ether-ketone-ether-ketone:PEEKEK)と、ポリエーテルエーテルエーテルケトン(poly-ether-ether-ether-ketone:PEEEK)と、ポリエーテルジフェニルエーテルケトン(poly-ether-diphenyl-ether-ketone:PEDEK)と、メタポリエーテルエーテルケトン(meta-polyether-ether-ketone:PEmEK)と、反応性(末端)基を有するポリアリールエーテルケトン(PAEK)系高分子材料と、これらの共重合体と、これらの混合物と、からなる群から選択される。より好ましくは、ポリアリールエーテルケトン(PAEK)系高分子材料は、ポリエーテルジフェニルエーテルケトン(PEDEK)と、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)と、これらの共重合体と、最も好ましくはポリエーテルジフェニルエーテルケトン(PEDEK)とポリエーテルエーテルケトン(PEEK)の共重合体と、からなる群から選択される。
【0035】
好ましくは、一方向繊維は、炭素繊維および/またはガラス繊維および/または石英であり、より好ましくは炭素繊維である。好適な炭素繊維は、例えば、トレカT700GおよびトレカT800Gであり、どちらも東レから市販されている。一方向繊維は、好ましくは連続繊維であり、より好ましくは連続炭素繊維である。
【0036】
好ましくは、プレス成形型および/またはプレス成形型の表面形状構造は、鉄や鋼などの金属または金属合金で作られる。
【0037】
好ましくは、プレス成形型は押圧ローラーである。好ましくは、ポリマーの粒子を含む含浸一方向繊維層は、押圧ロールと平らな支持基板とを通じて一方向繊維層を通過させることによって、より好ましくは連続的に通過させることによって押圧される。
【0038】
一方向繊維層の2つの表面をプレス成形型で押圧する場合、押圧ローラーは、第1押圧ローラーと第2押圧ローラーとを含む。好ましくは、ポリマーの粒子を含む含浸一方向繊維層は、第1押圧ローラーと第2押圧ローラーとを通過することにより、より好ましくは連続的に通過することにより押圧される。好ましくは、第1押圧ローラーは、第2押圧ローラーと同一である。好ましくは、第1押圧ローラーの表面形状構造は、第2押圧ローラーの表面形状構造と同一である。
【0039】
プレス成形型は、表面形状構造を有する。表面形状構造とは、含浸一方向繊維層の押圧に用いられるプレス成形型の表面が完全には平らではないことを意味する。
【0040】
好ましくは、表面形状構造は、含浸一方向繊維層を押圧するための凸部と、含浸一方向繊維層から押し出されたポリマーを受けるための凹部と、を含む。プレス成形型の表面形状構造の凸部は、ポリマーの粒子からなる含浸一方向繊維層に対して押圧する。押圧によって、含浸一方向繊維層内の繊維の一方向配列が変わることはないが、含浸一方向繊維層内に位置するポリマーの粒子が、含浸一方向繊維層の一方の表面または好ましくは両方の表面に強制的に移動させられる。したがって、含浸一方向繊維層の一方または両方の表面に移動させられたこれらの粒子は、含浸一方向繊維層の表面に表面ポリマー層を形成する。
【0041】
好ましくは、凸部および凹部は所定のパターンで配列され、パターンは、好ましくは規則的またはランダムなパターンであり、より好ましくは規則的なパターンである。規則的なパターンとは、例えば、隣り合う凸部の間隔が等しい複数の凸部の列である。ランダムなパターンとは、例えば、凸部がランダムに配列されている場合、すなわち、隣接する凸部間の距離が等しくない、または少なくともいつも等しいとは限らない場合である。
【0042】
ステップc)のプレス成形型の粗面形状構造により、形成された表面ポリマー層は表面粗さを持つようになる。好ましくは、表面ポリマー層は、ISO4287に従って測定された、1~20μm、好ましくは2~10μm、より好ましくは3~7μmの表面粗さRaを有する。
【0043】
好ましくは、取得ステップd)は、一方向繊維層を乾燥させることを含む。
【0044】
好ましくは、本方法は、含浸ステップb)と押圧ステップc)との間に、e)一方向繊維層を乾燥させるステップをさらに含む。
【0045】
好ましくは、本方法は、押圧ステップc)を行う前または行う間に、f)一方向繊維層を冷却するステップをさらに含む。好ましくは、ステップf)の冷却は、プレス成形型を介して、より好ましくは押圧ローラーによって行われる。
【0046】
好ましくは、本発明に係る方法は、表面ポリマー層上に2次粒子を静電的に付着させる、または好ましくは両方の表面ポリマー層上に2次粒子を静電的に付着させるステップg)をさらに含む。これにより、一方向テープの一方または両方の表面ポリマー層上に、2次粒子を含むまたは2次粒子だけで構成される追加の表面ポリマー層を形成することができる。つまり、1つまたは2つの表面ポリマー層を追加した一方向テープを得ることができる。1つまたは2つの追加の表面層は、好ましくは、一方向テープの最も外側の層である。これにより、特に特定の用途向けにUDテープの表面特性を適応させて微調整することができる。
【0047】
好ましくは、静電的付着はエレクトロスプレーにより行われる。エレクトロスプレーは、1つ以上のスプレーガンを用いて行うことが好ましい。
【0048】
ステップg)は、好ましくはステップc)の後かつステップd)の前、またはステップd)の後、より好ましくはステップd)の後に実施される。好ましくは、ステップd)の後に、1つまたは2つの追加の表面ポリマー層を有する一方向テープを乾燥または固化する。
【0049】
2次粒子は、第2ポリマーからなり、好ましくは第2ポリマーだけで構成される。好ましくは、第2ポリマーは、熱可塑性ポリマーである。熱可塑性ポリマーは、ステップa)で使用されるポリマーについて本明細書で上述したものと同じである。好ましくは、第2ポリマーは、ステップa)のポリマーと同じクラスまたは同じサブクラスのポリマーであり、あるいは第2ポリマーは、ステップa)のポリマー以外のクラスまたはサブクラスのポリマーである。
【0050】
2次粒子は、好ましくは10μm~500μm、より好ましくは15μm~250μm、最も好ましくは20μm~200μmの粒径を有する。2次粒子の大きさは、静電的に付着させることができるもの、より好ましくはエレクトロスプレーによって付着させることができるものでなければならない。粒径は、前述したようにレーザー回折分析により測定することができる。
【0051】
また、本発明は、本発明に係る方法によって得られた一方向テープにも関する。上述した本発明の方法の全ての実施形態は、本発明に係る方法によって得られた一方向テープの好ましい実施形態でもある。
【0052】
したがって、本発明は、一方向繊維層と、表面ポリマー層、好ましくは2つの表面ポリマー層と、を含む一方向テープを提供し、一方向繊維層は一方向繊維とポリマーの粒子とを含み、表面ポリマー層はポリマーの粒子を含み、表面ポリマー層は、ISO4287に従って測定された1~20μmの表面粗さRaを有し、15μm未満、好ましくは10μm未満の厚さを有することを特徴とする。
【0053】
好ましくは、一方向テープは、遷移領域をさらに含み、遷移領域は、一方向繊維層と表面ポリマー層との間に位置し、遷移領域の厚さは、2~15μmである。遷移領域とは、純粋なポリマーを含む表面ポリマー層から、一方向繊維およびポリマーの両方を含む一方向層への遷移が起こる領域である。
【0054】
表面ポリマー層は、厚さを有する。この厚さは、表面ポリマー層の全域にわたって一定でなくてもよく、ある程度変化してもよい。好ましくは、表面ポリマー層の厚さの変化は、平均の表面ポリマー層厚さの0~75%であり、好ましくは30%未満、より好ましくは10%未満である。
【0055】
遷移領域および厚さの変化を以下のように測定した。得られた一方向テープを数枚にスライスした。これらのテープ片の断面を、光学顕微鏡を用いて分析した。表面ポリマー層の厚さは、少なくとも5枚の異なるスライスについて、少なくとも2回測定した。平均の表面ポリマー厚さは、その算術平均として計算される。表面ポリマー層厚さおよび平均の表面ポリマー厚さから、厚さの変化が計算される。
【0056】
遷移領域の厚さも、上述したようにテープのこれらのスライスの断面を光学顕微鏡で分析することにより、算出される。
【0057】
好ましくは、表面ポリマー層はボイドを含み、表面ポリマー層中のボイドの量は、表面ポリマー層の総体積を基準にして、1~10vol%、好ましくは5vol%未満、より好ましくは2vol%未満である。
【0058】
また、ボイドの量も、上述したようにテープのこれらのスライスの断面を光学顕微鏡で分析することにより、算出される。表面ポリマー層の厚さ、ボイド体積およびテープのスライス幅から、vol%で表されたボイドの量だけでなく、表面ポリマー層の体積を算出した。
【0059】
好ましくは、ポリマーは熱可塑性ポリマーであり、一方向繊維は炭素繊維である。
図面は以下を示す。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【
図1】
図1aは摩擦試験の模式図、
図1bは摩擦試験片の模式図である。
【0061】
本発明は、さらに、以下の非限定的な実施例により説明される。
【実施例】
【0062】
材料と試料の準備
テストした材料は、炭素繊維強化されたPAEK系ポリマーの145gsmのUDテープであった。基準となるUDテープに加え、さらに2本のテープを用意した。比較例のテープは、通常の滑らかな表面同士で押圧することにより作製したのに対し、本発明のテープは、本発明に従って粗面同士で押圧して作製した。
【0063】
層間摩擦試験の準備
図1aに模式的に示すベンチマーク摩擦試験機で層間摩擦試験を行った。
図1bに示すように、試験片は2枚の外層と1枚の中層からなり、全ての繊維が長手方向に配列されている。
図1bは、試験片を模式的に示し、寸法はミリメートルで示されている。この試験片を万能試験機に取り付けた。上側のクランプの速度Vを制御することで、中間層と外層を相対的に移動させることができる。結果として生じる引張力Fpを1kNのロードセルで測定し、これを用いて以下のせん断応力を計算した。
【0064】
【0065】
Aは、加熱された圧力板の面積(50×50mm
2)である。板には法線力Fnを加えることができ、これを3つのロードセルを用いて測定した。
図1aに示すように、15mmの追加の重なり部分を使用することにより、加圧面積は一定に保たれた。
【0066】
図2から分かるように、本発明の実施例(粗い表面)では、グラフの平坦域だけでなく、ピーク値においても明確なせん断応力の低下が観察される。
【0067】
せん断応力が低いほど、加工挙動は良好となる。
【0068】
顕微鏡写真
滑らかな表面を有する比較例(
図3)および粗い表面を有する本発明の実施例(
図4)の両方の断面の顕微鏡写真を、倍率20倍の顕微鏡で撮影した。
図3および
図4は、それぞれ炭素繊維方向に垂直な研磨面を示す。
【国際調査報告】