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特表2023-539983改変されたテルペンシンターゼならびにプソイドプテロシン中間体および/またはプソイドプテロシンの産生のためのそれらの使用
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-09-21
(54)【発明の名称】改変されたテルペンシンターゼならびにプソイドプテロシン中間体および/またはプソイドプテロシンの産生のためのそれらの使用
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/60 20060101AFI20230913BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20230913BHJP
   C12N 9/88 20060101ALI20230913BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20230913BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20230913BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20230913BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20230913BHJP
   C12P 5/00 20060101ALI20230913BHJP
【FI】
C12N15/60 ZNA
C12N15/63 Z
C12N9/88
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C12P5/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022580813
(86)(22)【出願日】2021-07-02
(85)【翻訳文提出日】2023-02-24
(86)【国際出願番号】 EP2021068363
(87)【国際公開番号】W WO2022003167
(87)【国際公開日】2022-01-06
(31)【優先権主張番号】20183732.5
(32)【優先日】2020-07-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】510334686
【氏名又は名称】テクニッシュ ウニヴェルジテート ミュンヘン
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【弁護士】
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】リンゲル, マリオン
(72)【発明者】
【氏名】ブリュック, トーマス
(72)【発明者】
【氏名】ラインボルト, マルクス
(72)【発明者】
【氏名】ガルベ, ダニエル
【テーマコード(参考)】
4B064
4B065
【Fターム(参考)】
4B064AB05
4B064CA02
4B064CA19
4B064CC24
4B064DA01
4B064DA02
4B065AA26X
4B065AA50Y
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065CA27
4B065CA44
(57)【要約】
本発明は、新規な改変されたテルペンシンターゼならびにプソイドプテロシン中間体および/またはプソイドプテロシンのための調製方法のためのそれらの使用に関する。本方法は、少なくとも1つの改変されたアミノ酸残基を含む改変されたテルペンシンターゼの使用に基づいており、これは、テルペンシンターゼによって触媒される、出発物質としてゲラニルゲラニルピロリン酸からのプソイドプテロシン中間体および/またはプソイドプテロシンの産生の増加を可能にする。本発明の新規な改変されたテルペンシンターゼは、コスト効率が高く、経済的で持続可能な方法で、イソエリサベタトリエンA、イソエリサベタトリエンB、エロゴルジアエンもしくはSeco-プソイドプテロシンなどのプソイドプテロシン中間体の産生、および/またはプソイドプテロシンAなどのプソイドプテロシンの産生を可能にする。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1~5のいずれか1つに記載の非改変野生型テルペンシンターゼに対応するアミノ酸配列と比較して少なくとも1つの改変されたアミノ酸残基を含む改変されたテルペンシンターゼであって、前記少なくとも1つの改変されたアミノ酸残基は、前記テルペンシンターゼの活性部位ポケットの一部であるかまたは該活性部位ポケット付近のαヘリックス構造に位置し、前記少なくとも1つの改変されたアミノ酸残基は、疎水性側鎖を有するアミノ酸、例えばアラニン、バリン、イソロイシン、ロイシン、メチオニン、フェニルアラニン、チロシンもしくはトリプトファン、および/または極性非荷電側鎖を有するアミノ酸、例えばトレオニン、システイン、アスパラギン、グルタミンもしくはセリンである、改変されたテルペンシンターゼ。
【請求項2】
前記改変されたテルペンシンターゼが、配列番号1~5のいずれか1つに記載の前記非改変野生型テルペンシンターゼと少なくとも75%の配列同一性を有し、好ましくは、前記改変されたテルペンシンターゼが、配列番号1~5のいずれか1つに記載の前記非改変野生型テルペンシンターゼと少なくとも76%、77%、78%、79%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%または99%の配列同一性を有する、請求項1に記載の改変されたテルペンシンターゼ。
【請求項3】
前記改変されたテルペンシンターゼが、宿主細胞中で、ゲラニルゲラニルピロリン酸(GGPP)から、少なくとも1つのプソイドプテロシン中間体、例えばエリサベタトリエン、イソエリサベタトリエンA、イソエリサベタトリエンB、エロゴルジアエン、もしくはSeco-プソイドプテロシンの産生、および/または少なくとも1つのプソイドプテロシン、例えばプソイドプテロシンAの産生を、同じ宿主細胞中および同じ条件下で、配列番号1~5のいずれか1つに記載のアミノ酸配列を有する前記非改変野生型テルペンシンターゼによってGGPPから産生される前記プソイドプテロシン中間体および/または前記プソイドプテロシンの量よりも多い量で触媒し、および/または前記改変されたテルペンシンターゼが、宿主細胞中で、GGPPから、少なくとも1つの副産物、例えばヒドロピレン(HP)またはヒドロピレノール(HP-ol)の産生を、同じ宿主細胞中および同じ条件下で、配列番号1~5のいずれか1つに記載のアミノ酸配列を有する前記非改変野生型テルペンシンターゼによってGGPPから産生される前記副産物、例えばHPもしくはHP-olの量よりも少ない量で触媒する、請求項1または2に記載の改変されたテルペンシンターゼ。
【請求項4】
前記テルペンシンターゼが、配列番号1に記載のアミノ酸配列を含むヒドロピレンシンターゼ(HpS)、クラスIテルペンシンターゼ、例えば配列番号2に記載のアミノ酸配列を含むStreptomyces melanosporofaciens由来のCotB2、配列番号3に記載のアミノ酸配列を含むジテルペンシンターゼ、配列番号4に記載のアミノ酸配列を含むトリコジエンシンターゼ、または配列番号5に記載のアミノ酸配列を含むクラブラトリエンシンターゼである、先行する請求項のいずれか1項に記載の改変されたテルペンシンターゼ。
【請求項5】
前記少なくとも1つの改変されたアミノ酸残基が、配列番号1に記載の前記非改変野生型HpSのアミノ酸配列中の
(i)71位のメチオニン、
(ii)75位のメチオニン、
(iii)182位のグリシン、
(iv)184位のヒスチジン、
(v)300位のメチオニン、および
(vi)304位のメチオニン
から選択される野生型アミノ酸残基の置換であるか、または前記少なくとも1つの改変されたアミノ酸残基が、配列番号2~5のいずれか1つに記載の非改変野生型テルペンシンターゼのアミノ酸配列中の(i)~(vi)のいずれかの等価な位置に位置する野生型アミノ酸残基の置換である、先行する請求項のいずれか1項に記載の改変されたテルペンシンターゼ。
【請求項6】
前記改変されたテルペンシンターゼが、配列番号1に記載の前記非改変野生型HpSのアミノ酸配列中の
(i)71位でのチロシンのメチオニンへの置換
(ii)75位でのフェニルアラニンのメチオニンへの置換
(iii)75位でのロイシンのメチオニンへの置換、
(iv)182位でのアラニンのグリシンへの置換、
(v)182位でのフェニルアラニンのグリシンへの置換、
(vi)184位でのアラニンのヒスチジンへの置換、
(vii)184位でのフェニルアラニンのヒスチジンへの置換、
(viii)300位でのイソロイシンのメチオニンへの置換、
(ix)304位でのイソロイシンのメチオニンへの置換、
(x)304位でのトレオニンのメチオニンへの置換、
(xi)304位でのシステインのメチオニンへの置換
からなる群から選択される少なくとも1つの置換を含むか、または前記改変されたテルペンシンターゼが、配列番号2~5のいずれか1つに記載の非改変野生型テルペンシンターゼのアミノ酸配列中の(i)~(xi)のいずれかの等価な位置に位置するアミノ酸残基において少なくとも1つの置換を含む、先行する請求項のいずれか1項に記載の改変されたテルペンシンターゼ。
【請求項7】
前記改変されたテルペンシンターゼのアミノ酸配列がさらに、配列番号1に記載の前記非改変野生型テルペンシンターゼのアミノ酸配列に記載の71、75、182、184、300および/もしくは304位以外の位置、または配列番号2~5のいずれか1つに記載の非改変野生型テルペンシンターゼの前記等価位置における前記少なくとも1つの置換以外の位置に、1つもしくはそれを超えるアミノ酸の欠失、置換および/または付加を含む、先行する請求項のいずれか1項に記載の改変されたテルペンシンターゼ。
【請求項8】
前記改変されたテルペンシンターゼが、配列番号8~18のいずれか1つに記載のアミノ酸配列を含むか、または前記改変されたテルペンシンターゼが、配列番号8~18のいずれか1つに記載のアミノ酸配列と少なくとも75%の配列同一性、好ましくは配列番号8~18のいずれか1つに記載のアミノ酸配列と少なくとも76%、77%、78%、79%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、もしくは99%の配列同一性を有するか、または前記改変されたテルペンシンターゼが、配列番号8~18のいずれか1つに記載のアミノ酸配列からなる、先行する請求項のいずれか1項に記載の改変されたテルペンシンターゼ。
【請求項9】
請求項1から8までのいずれか1項に記載の改変されたテルペンシンターゼをコードする核酸、または前記核酸を発現することができる発現ベクター。
【請求項10】
請求項1から8までのいずれか1項に記載の改変されたテルペンシンターゼ、または請求項9に記載の核酸もしくは発現ベクターを含む組換え宿主細胞。
【請求項11】
請求項1から8までのいずれか1項に記載の改変されたテルペンシンターゼを産生するための方法であって、該方法が、請求項1から8までのいずれか1項に記載の改変されたテルペンシンターゼを含むか、または請求項9に記載の核酸を発現するか、または請求項9に記載の発現ベクターを含む請求項10に記載の宿主細胞を培養するステップと、前記宿主細胞またはその培養培地から前記改変されたテルペンシンターゼを単離するステップとを含む、方法。
【請求項12】
少なくとも1つのプソイドプテロシン中間体、例えば、エリサベタトリエン、イソエリサベタトリエンA、イソエリサベタトリエンB、エロゴルジアエン、もしくはseco-プソイドプテロシンの産生のための、および/または少なくとも1つのプソイドプテロシン、例えばプソイドプテロシンAの産生のための、請求項1から8までのいずれか1項に記載の改変されたテルペンシンターゼ、請求項9に記載の核酸もしくは発現ベクター、または請求項10に記載の宿主細胞の使用であって、前記使用がインビトロまたはインビボ使用であり、好ましくは前記使用がインビトロ使用である、使用。
【請求項13】
少なくとも1つのプソイドプテロシン中間体、例えば、エリサベタトリエン、イソエリサベタトリエンA、イソエリサベタトリエンB、エロゴルジアエン、もしくはSeco-プソイドプテロシンを産生するための方法、および/または少なくとも1つのプソイドプテロシン、例えばプソイドプテロシンAを産生するための方法であって、該方法は、
a)ゲラニルゲラニルピロリン酸(GGPP)から生成される中間体を提供するステップと、
b)配列番号1~5のいずれか1つに記載の非改変野生型テルペンシンターゼに対応するアミノ酸配列と比較して、少なくとも1つの改変されたアミノ酸残基を含む改変されたテルペンシンターゼを提供するステップであって、ここで、前記少なくとも1つの改変されたアミノ酸残基が、前記テルペンシンターゼの活性部位ポケットの一部であるかもしくは該活性部位ポケット付近のαヘリックス構造に位置し、前記少なくとも1つの改変されたアミノ酸残基が、疎水性側鎖を有するアミノ酸、例えばアラニン、バリン、イソロイシン、ロイシン、メチオニン、フェニルアラニン、チロシンもしくはトリプトファン、および/または極性非荷電側鎖を有するアミノ酸、例えばトレオニン、システイン、アスパラギン、グルタミンもしくはセリンであるステップと、
c)前記改変されたテルペンシンターゼの前記少なくとも1つの改変されたアミノ酸残基によって、ステップa)の前記中間体を不安定化するステップと
を含み、それによって、少なくとも1つのプソイドプテロシン中間体、例えば、エリサベタトリエン、イソエリサベタトリエンA、イソエリサベタトリエンB、エロゴルジアエン、もしくはSeco-プソイドプテロシンを産生する、および/または少なくとも1つのプソイドプテロシン、例えばプソイドプテロシンAを産生するための方法。
【請求項14】
前記方法がさらに、前記少なくとも1つのプソイドプテロシン中間体、例えばエリサベタトリエン、イソエリサベタトリエンA、イソエリサベタトリエンB、エロゴルジアエン、もしくはSeco-プソイドプテロシン、および/または前記少なくとも1つのプソイドプテロシン、例えばプソイドプテロシンAを改変するステップを含み、ここで、前記改変するステップは、好ましくは、官能化、酸化、ヒドロキシル化、メチル化、グリコシル化、脂質コンジュゲーション、またはそれらの組み合わせから選択される改変を含む、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
請求項13または14に記載の方法によって産生された、エリサベタトリエン、イソエリサベタトリエンA、イソエリサベタトリエンB、エロゴルジアエン、もしくはSeco-プソイドプテロシン、および/またはプソイドプテロシン、例えばプソイドプテロシンAなどのプソイドプテロシン中間体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、新規な改変されたテルペンシンターゼならびにプソイドプテロシン中間体および/またはプソイドプテロシンの調製方法のためのそれらの使用に関する。本方法は、少なくとも1つの改変されたアミノ酸残基を含む改変されたテルペンシンターゼの使用に基づいており、これは、テルペンシンターゼによって触媒される、出発物質としてゲラニルゲラニルピロリン酸からのプソイドプテロシン中間体および/またはプソイドプテロシンの産生の増加を可能にする。本発明の新規な改変されたテルペンシンターゼは、コスト効率が高く、経済的で持続可能な方法で、イソエリサベタトリエンA、イソエリサベタトリエンB、エロゴルジアエン(Erogorgiaene)もしくはSeco-プソイドプテロシンなどのプソイドプテロシン中間体の産生、および/またはプソイドプテロシンAなどのプソイドプテロシンの産生を可能にする。本発明の改変されたテルペンシンターゼをコードする核酸、ならびに前記の核酸を発現することができる発現ベクターおよびそれを含む宿主細胞も提供される。
【背景技術】
【0002】
説明
持続不可能な生活様式と結びついた世界人口の増加は、気候変動および新たな収縮性疾患(contractible disease)の発生を引き起こす。後者については、新しい抗感染薬および抗炎症薬を第一選択の処置応答として開発する必要がある。天然産物は、新しい薬物リードの宝庫であり、50,000を超える特徴的な化合物があり、テルペンが構造的に最も多様な天然産物ファミリーを表す。ジテルペノイドサブファミリーは、抗酸化剤、抗炎症剤、抗ウイルス剤、抗マラリア剤、抗生物質および抗腫瘍剤、例えば臨床的に重要なタキソールを含む多様な生物活性を包含する。植物、真菌および原核生物に見られるジテルペンは、固有の高度に官能化された構造的に複雑な大環状コアを特徴とする。この大環状骨格は、ジテルペンシンターゼの明らかでないファミリーによって触媒される反応である、普遍的な脂肪族ジテルペン前駆体ゲラニルゲラニル二リン酸(GGPP)の環化によって形成される。
【0003】
ジテルペン型天然産物は主に二次代謝産物を表すので、それらのそれぞれの天然源から日常的に少量しか得ることができず、しばしば精巧な精製戦略が求められる。さらに、それらの構造的な複雑さは、非経済的な多段階全合成アプローチを必要とする。したがって、ジテルペノイド薬物リードの商業化は、持続可能および/または費用効率の高い供給経路の欠如によって妨げられる。
【0004】
薬学的に非常に有望なジテルペン誘導体の1つは、プソイドプテロシンのクラスである。プソイドプテロシンは、カリブ海のgorgonian coral Antillogorgia elisabethaeから最初に単離された、最新の31個のメンバーを有するアンフィレクタン型ジテルペングリコシドである。プソイドプテロシンは、強力な抗炎症、創傷治癒および鎮痛活性を特徴とし、これらの非ステロイド系の合成対応物であるインドメタシンの活性を有意に凌駕している。優れた抗炎症作用および減少した副作用は、新しい薬理学的作用様式によるものである。注目すべきことに、高度な生合成プソイドプテロシン前駆体であるエロゴルジアエンは、特に薬物耐性結核の原因物質である結核菌(Mycobacterium tuberculosis)に対して有意な抗生物質活性を示す。
【0005】
プソイドプテロシンに加えて、関連する第2のクラスのジテルペングリコシド、いわゆるseco-プソイドプテロシンがA.elisabethaeから同定されている。seco-プソイドプテロシンは、セルラタン(serrulatane)型ジテルペングリコシドのクラスに属し、抗炎症活性および鎮痛活性も示す。
【0006】
商業的には、プソイドプテロシンは、数十億ユーロの市場価値を持つ多様なスキンケア製品の天然の海洋性抗刺激薬として適用される。しかしながら、絶えず拡大しているプソイドプテロシンの需要は、現在、その天然源を収穫し抽出することによってのみ満たされている。こうしたやり方は、気候変動の影響から圧力が高まっている繊細なサンゴ礁の生態系を広範囲にわたって破壊することにつながるため、規模を拡大することも持続可能でもない。効率的な全化学合成は利用できないため、この固有の供給問題はまた、このファミリーの天然産物からの臨床的に有用な化合物の開発を妨げている。プソイドプテロシンは、局所抗炎症剤として第II相臨床試験に進んでいるが、供給不足のため、更なる臨床開発は中止されている。したがって、例えば、操作された微生物シャーシ(例えば、大腸菌)を使用して、プソイドプテロシンおよび/またはプソイドプテロシン中間体の代替的で持続可能かつサンゴに依存しない産生経路を提供することが急務となっている。
【0007】
以前の研究では、プソイドプテロシンの単離および/または合成のための方法が報告された。国際公開第03030820A2号には、Symbiodinium属に属する生物からプソイドプテロシン化合物を得る、単離する、精製する、または調製することによって、少なくとも1つのプソイドプテロシン化合物を得る方法が記載されている。
【0008】
Newtonら(2015)は、一連の環化付加によるキラルな交差共役炭化水素からのプソイドプテロシン合成のための方法を開示している
【0009】
Daviesら(2005)は、ジロジウムテトラプロリネートによって触媒される複合C-H活性化/Cope転位を使用して、速度論的エナンチオ識別ステップを介してプソイドプテロシン前駆体(+)-エロゴルジアエンの直接合成を可能にする方法を記載している
【0010】
しかしながら、様々なプソイドプテロシンおよび/またはそれらの生物活性中間体を得ることおよび/または合成することを目的とした以前の試みのいずれも、プソイドプテロシンおよび/またはそれらの中間体の費用効率が高く、経済的で、持続可能で、スケーラブルな供給を可能にしなかった。
【0011】
プソイドプテロシンおよびそれらの中間体の生物工学的産生方法の継続的な必要性のために、本発明は、費用効率が高く、経済的で、スケーラブルな、持続可能なプソイドプテロシンおよびそれらの中間体の新規な生物工学的産生方法を提供しようとするものである。
本発明者らは、テルペンシンターゼの特定のアミノ酸残基を変異させることによって上記の問題を克服することができた。この解決策に基づいて、本発明は、プソイドプテロシン型生物活性化合物の統合された、スケーラブルな、持続可能な産生に向かう途中での生合成プソイドプテロシン前駆体の産生のための持続可能な生物工学的およびサンゴに依存しない経路を提供する。本発明によって可能になるメカニズムは、サンゴ礁の保護に大きく貢献し、新しい抗生物質および抗炎症薬への臨床的アクセスを提供する。これらの化合物は、感染症流行の間(すなわち、COVID-19)の過剰な炎症反応に関連する感染因子および疾患を制御するための一次処置に適用することができる。さらに、これらのプソイドプテロシン型化合物は、慢性炎症性疾患に適用することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】国際公開第03030820号
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0013】
発明の簡単な説明
一般に、簡単な説明のために、本発明の主な態様は以下のように記載することができる。
【0014】
第1の態様では、本発明は、プソイドプテロシンおよびそれらの中間体を産生することができる酵素を提供する。
【0015】
第2の態様では、本発明は、本発明の酵素を使用してプソイドプテロシンおよびそれらの中間体を調製する方法に関する。
【0016】
第3の態様では、本発明は、プソイドプテロシンおよびそれらの中間体の持続可能でスケーラブルな生物工学的産生方法に関する。
【0017】
第4の態様では、本発明は、本発明の酵素をコードする核酸、ならびに前記の核酸を発現することができる発現ベクターおよび該発現ベクターを含む宿主細胞に関する。
【発明を実施するための形態】
【0018】
発明の詳細な説明
以下、本発明の要素を記載する。これらの要素は特定の実施形態と共に列挙されているが、追加の実施形態を作り出すために任意の方法および任意の数で組み合わせることができることを理解されたい。様々に記載された例および好ましい実施形態は、本発明を明示的に記載された実施形態のみに限定すると解釈されるべきではない。この説明は、明示的に記載された実施形態のうちの2つもしくはそれを超えるものを組み合わせる実施形態、または明示的に記載された実施形態のうちの1つもしくはそれを超えるものを任意の数の開示されたおよび/または好ましい要素と組み合わせる実施形態を支持し、包含すると理解されるべきである。さらに、本出願に記載されているすべての要素の任意の並び替えおよび組み合わせは、文脈上別段の指示がない限り、本出願の記載によって開示されていると見なされるべきである。
【0019】
第1の態様では、本発明は、配列番号1~5のいずれか1つに記載の非改変野生型テルペンシンターゼに対応するアミノ酸配列と比較して少なくとも1つの改変されたアミノ酸残基を含む改変されたテルペンシンターゼに関し、ここで、前記の少なくとも1つの改変されたアミノ酸残基は、テルペンシンターゼの活性部位ポケットの一部であるかまたは該活性部位ポケット付近のαヘリックス構造に位置し、前記の少なくとも1つの改変されたアミノ酸残基は、疎水性側鎖を有するアミノ酸、例えばアラニン、バリン、イソロイシン、ロイシン、メチオニン、フェニルアラニン、チロシンもしくはトリプトファン、および/または極性非荷電側鎖を有するアミノ酸、例えばトレオニン、システイン、アスパラギン、グルタミンもしくはセリンである。
【0020】
好ましい一実施形態では、本発明は、非改変野生型テルペンシンターゼのアミノ酸配列と比較して少なくとも1つの改変されたアミノ酸残基を含む改変されたテルペンシンターゼに関し、ここで、前記の少なくとも1つの改変されたアミノ酸残基は、アラニン、バリン、イソロイシン、ロイシン、メチオニン、フェニルアラニン、チロシンもしくはトリプトファンなどの疎水性側鎖を有するアミノ酸残基(もしくはいくつかのアミノ酸残基、各々)に対する、および/またはトレオニン、システイン、アスパラギン、グルタミンもしくはセリンなどの極性非荷電側鎖を有するアミノ酸残基(もしくはいくつかのアミノ酸残基、各々)に対する野生型アミノ酸残基(もしくはいくつかの野生型アミノ酸残基)の置換である。
【0021】
本明細書で使用される「改変されたテルペンシンターゼ」という用語は、好ましくは、そのような改変されたテルペンシンターゼが、宿主細胞中でゲラニルゲラニルピロリン酸(GGPP)から少なくとも1つのプソイドプテロシン中間体、例えばエリサベタトリエン、イソエリサベタトリエンA、イソエリサベタトリエンB、エロゴルジアエン、もしくはSeco-プソイドプテロシンの産生、および/または少なくとも1つのプソイドプテロシン、例えばプソイドプテロシAの産生を、同じ宿主細胞中および同じ条件下で、非改変野生型テルペンシンターゼによってGGPPから産生される前記のプソイドプテロシン中間体および/または同じプソイドプテロシンの量よりも多い量で触媒し、および/または改変されたテルペンシンターゼが、宿主細胞中で、GGPPから、少なくとも1つの副産物、例えばヒドロピレン(HP)またはヒドロピレノール(HP-ol)の産生を、同じ宿主細胞中および同じ条件下で、非改変野生型テルペンシンターゼによってGGPPから産生される前記の副産物、例えばHPもしくはHP-olの量よりも少ない量で触媒する、テルペンシンターゼのことを指す。
【0022】
本発明の文脈で使用される場合、テルペンシンターゼという用語は、任意の種類のテルペンシンターゼ、例えばヒドロピレンシンターゼ(HpS)、Streptomyces melanosporofaciens由来のクラスIテルペンシンターゼCotB2、Amycolatopsis benzoatilytica(ABS)由来のジテルペンシンターゼ、トリコジエンシンターゼ、クラブラトリエン(Clavulatriene)シンターゼ、Hyoscyamus muticus ベスチピラジエン(Vestipiradiene)シンターゼ由来のテルペンシンターゼ、シトラスバレンセン(citrus valencene)シンターゼ(CVS)、(+)-ボルニル二リン酸シンターゼ(BDS)、Vitis viniferaバレンセンシンターゼ(Vv CVS)、ベルガモテンシンターゼ(BS)、Nicotiana tabacum5-epi-アリストロケンシンターゼ(TEAS)、ゲラマクレンA、アモルファ-4,11-ジエンシンターゼ(ADS)、Hyoscyamus muticusプレムナスピロジエン(premnaspirodiene)シンターゼ、および、好ましくはHpS、CotB2、ABS、トリコジエンシンターゼおよびクラブラトリエンシンターゼから選択されるジテルペンシンターゼのことを指す。
【0023】
上記の課題を克服するために、本発明者らは、プソイドプテロシン前駆体を産生する細菌テルペンシンターゼ、例えばStreptomyces clavuligerus由来のヒドロピレンシンターゼ(HpS)を同定した。自然界では、細菌テルペンシンターゼHpSは、その主要なゲラニルゲラニル二リン酸(GGPP)環化産物としてヒドロピレン(HP)(約52%)およびヒドロピレノール(HPol)(約26%)を、2つの少量の産物、すなわち、それぞれ、エリサベタトリエン異性体であるイソエリサベタトリエン(IE)A(約12%)およびイソエリサベタトリエン(IE)B(約9%)と共に生成する。IE AおよびIE Bの産物を高めようとする試みにおいて、本発明者らは、少なくとも1つの改変アミノ酸残基を導入することによって前記のテルペンシンターゼを改変することにより、エリサベタトリエン、イソエリサベタトリエンA、イソエリサベタトリエンB、エロゴルジアエンおよび/もしくはSeco-プソイドプテロシンなどのプソイドプテロシン中間体の産物、ならびに/または出発物質としてのゲラニルゲラニルピロリン酸(GGPP)からのプソイドプテロシンAなどのプソイドプテロシンの産物、および同時に減少したヒドロピレンもしくはヒドロピレノールの産物が増加することを見出した。興味深いことに、IE AおよびIE Bは、確認されたプソイドプテロシン前駆体であるエリサベタトリエンに関して、それらの二環式炭素骨格内の不飽和の位置のみが異なる(図1)。したがって、これらの化合物は、設計された生物工学的なプソイドプテロシン合成カスケードにおいて、エリサベタトリエンに置き換わることができる(図2)。
【0024】
本発明者らは、産物としてのヒドロピレン誘導体の生成を促進する反応経路において、GGPPからの中間体の安定化に関与するテルペンシンターゼのアミノ酸残基を変異させることによって上記の問題を克服することができた。ヒドロピレン誘導体への反応経路を追求するために、重要なカルボカチオン中間体C1を安定化する必要がある。したがって、HpSなどのテルペンシンターゼによって触媒されるGGPPからの反応における前記のカルボカチオン中間体C1の安定化を妨げることにより、産物としてのヒドロピレン誘導体の生成が妨げられる。本発明者らは、本発明の変異が重要なC1中間体を不安定化し、ひいては主要なGGPP環化産物としてのIE AおよびBなどのプソイドプテロシン中間体への産物シフトを示すことを見出した。
【0025】
テルペンシンターゼは、前記のテルペンシンターゼの活性部位ポケットの一部であるかまたは該活性部位ポケット付近のαヘリックスおよび/またはαバレル構造を含む。前記のテルペンシンターゼの活性部位ポケットの一部であるかまたは該活性部位ポケット付近のαヘリックス構造に位置する少なくとも1つのアミノ酸残基を変異させることにより、HPおよび/またはHPolの代わりに大量のプソイドプテロシン中間体、例えばIE AまたはIE Bの生成が可能になる。本発明では、産物スペクトルを、テルペンシンターゼ活性部位内で潜在的にカルボカチオン形成、疎水性または立体化学的要求があるプソイドプテロシン中間体に向けてシフトさせる部位特異的変異誘発アプローチのために残基を選択した。
【0026】
好ましい実施形態では、改変されたテルペンシンターゼは、配列番号1~5のいずれか1つに記載の非改変野生型テルペンシンターゼと少なくとも75%の配列同一性を有し、好ましくは、改変されたテルペンシンターゼは、配列番号1~5のいずれか1つに記載の非改変野生型テルペンシンターゼと少なくとも76%、77%、78%、79%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%または99%の配列同一性を有する。
【0027】
特に好ましい実施形態は、改変されたテルペンシンターゼに関し、ここで、改変されたテルペンシンターゼは、宿主細胞中で、ゲラニルゲラニルピロリン酸(GGPP)から、少なくとも1つのプソイドプテロシン中間体、例えばエリサベタトリエン、イソエリサベタトリエンA、イソエリサベタトリエンB、エロゴルジアエン、もしくはSeco-プソイドプテロシンの産生、および/または少なくとも1つのプソイドプテロシン、例えばプソイドプテロシンAの産生を、同じ宿主細胞中および同じ条件下で、配列番号1~5のいずれか1つに記載のアミノ酸配列を有する非改変野生型テルペンシンターゼによってGGPPから産生される前記のプソイドプテロシン中間体および/または同じプソイドプテロシンの量よりも多い量で触媒し、および/または改変されたテルペンシンターゼが、宿主細胞中で、GGPPから、少なくとも1つの副産物、例えばヒドロピレン(HP)またはヒドロピレノール(HP-ol)の産生を、同じ宿主細胞中および同じ条件下で、配列番号1~5のいずれか1つに記載のアミノ酸配列を有する非改変野生型テルペンシンターゼによってGGPPから産生される前記の副産物、例えばHPもしくはHP-olの量よりも少ない量で触媒する。
【0028】
本明細書で使用される「触媒する」という用語は、反応の直接の産物(immediate product)の産生を高めることを指すものとし、前記の直接の産物の後続産物および生体触媒カスケードの最終産物の産生を高めることも指すものとする。したがって、触媒するという用語は、テルペンシンターゼによって触媒される任意の直接の産物の産生を指すが、この直接の産物から生成される任意の産物も指す。例えば、触媒するという用語は、エリサベタトリエン、イソエリサベタトリエンA、イソエリサベタトリエンB、エロゴルジアエン、またはSeco-プソイドプテロシンなどのプソイドプテロシン中間体の産生を指すものとし、エリサベタトリエン、イソエリサベタトリエンA、イソエリサベタトリエンB、エロゴルジアエン、またはSeco-プソイドプテロシンなどの前記のプソイドプテロシン中間体からさらに誘導される、プソイドプテロシンAなどの少なくとも1つのプソイドプテロシンの産生も指すものとする。本発明の文脈では、宿主細胞は、好ましくは細菌細胞または酵母細胞である。しかしながら、本発明はこれに限定されない。
【0029】
さらに好ましいのは、改変されたテルペンシンターゼであり、ここで、改変されたテルペンシンターゼによってGGPPから産生される少なくとも1つのプソイドプテロシン中間体および/または少なくとも1つのプソイドプテロシンの量は、配列番号1~5のいずれか1つに記載のアミノ酸配列を有する非改変野生型テルペンシンターゼによってGGPPから産生される少なくとも1つのプソイドプテロシン中間体および/または少なくとも1つのプソイドプテロシンの量と比較して、0~100パーセンテージポイント、好ましくは10~80パーセンテージポイント、より好ましくは20~60パーセンテージポイント、さらにより好ましくは30~40パーセンテージポイント、最も好ましくは約32パーセンテージポイント増加し、および/または改変されたテルペンシンターゼによってGGPPから産生されるHPもしくはHP-olなどの前記の少なくとも1つの副産物の量は、配列番号1~5のいずれか1つに記載のアミノ酸配列を有する非改変野生型テルペンシンターゼによってGGPPから産生される少なくとも1つの副産物、例えばHPもしくはHP-olの量と比較して、0~100パーセンテージポイント、好ましくは5~80パーセンテージポイント、より好ましくは10~40パーセンテージポイント、例えば約10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39もしくは40パーセンテージポイント、さらにより好ましくは20~30パーセンテージポイント、最も好ましくは約26、21もしくは20パーセンテージポイント減少する。
【0030】
本発明の文脈で使用される場合、「よりも多い量で」とは、少なくとも1パーセンテージポイント、好ましくは少なくとも10パーセンテージポイント、より好ましくは少なくとも20パーセンテージポイント、さらにより好ましくは少なくとも30パーセンテージポイント、最も好ましくは約32パーセンテージポイントの向上を指すものとする。「よりも少ない量で」という用語は、少なくとも1パーセンテージポイント、好ましくは少なくとも5パーセンテージポイント、より好ましくは少なくとも10パーセンテージポイント、最も好ましくは少なくとも20パーセンテージポイントの減少を指すものとする。
【0031】
興味深いことに、本発明者らは、HpSにおける変異M75Fを同定し、これは20%のIE A(1.6倍の増加)、41%のIE B(4.5倍の増加)、34%のヒドロピレン(1.5倍の減少)および5%のヒドロピレノール(5.2倍の減少)の産物範囲を示した。HpS変異体M71Yは、25%のIE A(2.1倍の増加)、16%のIE B(1.8倍の増加)、35%のヒドロピレン(1.5倍の減少)および24%のヒドロピレノール(1.1倍の減少)を示した。変異体M75Lは、44%のIE A(3.7倍の増加)、24%のIE B(2.7倍の増加)、26%のヒドロピレン(2.0倍の減少)および6%のヒドロピレノール(4.3倍の減少)の産物スペクトルを示した。
【0032】
したがって、本発明の例示的な実施形態では、改変されたテルペンシンターゼが特に好ましく、ここで、改変されたテルペンシンターゼは、例えば、配列番号1に記載の非改変野生型HpSのアミノ酸配列中の改変されたアミノ酸残基M75Fを含むか、または前記の少なくとも1つの改変されたアミノ酸残基が、配列番号2~5のいずれか1つに記載の非改変野生型テルペンシンターゼの等価な位置に位置する野生型アミノ酸残基の置換である。本発明のこの例示的な実施形態では、改変されたテルペンシンターゼが提供され、ここで、改変されたテルペンシンターゼによってGGPPから産生される少なくとも1つのプソイドプテロシン中間体IE Aの量は、非改変野生型テルペンシンターゼと比較して1.6倍の増加を特徴とする。この例示的な実施形態はまた、改変されたテルペンシンターゼに関し、ここで、改変されたテルペンシンターゼによってGGPPから産生される少なくとも1つのプソイドプテロシン中間体IE Bの量は、非改変野生型テルペンシンターゼと比較して4.5倍の増加を特徴とする。改変されたテルペンシンターゼによってGGPPから産生される前記の少なくとも1つの副産物HPの量が、非改変野生型テルペンシンターゼと比較して1.5倍の減少を特徴とする、例示的な改変されたテルペンシンターゼがさらに好ましい。改変されたテルペンシンターゼによってGGPPから産生されるHP-olなどの前記の少なくとも1つの副産物の量が、非改変野生型テルペンシンターゼと比較して5.2倍の減少を特徴とする、この改変されたテルペンシンターゼも好ましい。
【0033】
本発明の別の例示的な実施形態では、改変されたテルペンシンターゼが特に好ましく、ここで、改変されたテルペンシンターゼは、例えば、配列番号1に記載の非改変野生型HpSのアミノ酸配列中の改変されたアミノ酸残基M71Yを含むか、または前記の少なくとも1つの改変されたアミノ酸残基が、配列番号2~5のいずれか1つに記載の非改変野生型テルペンシンターゼの等価な位置に位置する野生型アミノ酸残基の置換である。本発明のこの例示的な実施形態では、改変されたテルペンシンターゼが提供され、ここで、改変されたテルペンシンターゼによってGGPPから産生される少なくとも1つのプソイドプテロシン中間体IE Aの量は、非改変野生型テルペンシンターゼと比較して2.1倍の増加を特徴とする。この例示的な実施形態はまた、改変されたテルペンシンターゼに関し、ここで、改変されたテルペンシンターゼによってGGPPから産生される少なくとも1つのプソイドプテロシン中間体IE Bの量は、非改変野生型テルペンシンターゼと比較して1.8倍の増加を特徴とする。改変されたテルペンシンターゼによってGGPPから産生される前記の少なくとも1つの副産物HPの量が、非改変野生型テルペンシンターゼと比較して1.5倍の減少を特徴とする、この改変されたテルペンシンターゼがさらに好ましい。改変されたテルペンシンターゼによってGGPPから産生されるHP-olなどの前記の少なくとも1つの副産物の量が、非改変野生型テルペンシンターゼと比較して1.1倍の減少を特徴とする、この改変されたテルペンシンターゼも好ましい。
【0034】
本発明のさらに別の例示的な実施形態は、改変されたテルペンシンターゼに関し、ここで、改変されたテルペンシンターゼは、例えば、配列番号1に記載の非改変野生型HpSのアミノ酸配列中の改変されたアミノ酸残基M75Lを含むか、または前記の少なくとも1つの改変されたアミノ酸残基が、配列番号2~5のいずれか1つに記載の非改変野生型テルペンシンターゼの等価な位置に位置する野生型アミノ酸残基の置換である。本発明のこの例示的な実施形態では、改変されたテルペンシンターゼが提供され、ここで、改変されたテルペンシンターゼによってGGPPから産生される少なくとも1つのプソイドプテロシン中間体IE Aの量は、非改変野生型テルペンシンターゼと比較して3.7倍の増加を特徴とする。この例示的な実施形態はまた、改変されたテルペンシンターゼに関し、ここで、改変されたテルペンシンターゼによってGGPPから産生される少なくとも1つのプソイドプテロシン中間体IE Bの量は、非改変野生型テルペンシンターゼと比較して2.7倍の増加を特徴とする。改変されたテルペンシンターゼによってGGPPから産生される前記の少なくとも1つの副産物HPの量が、非改変野生型テルペンシンターゼと比較して2.0倍の減少を特徴とする、この改変されたテルペンシンターゼがさらに好ましい。改変されたテルペンシンターゼによってGGPPから産生されるHP-olなどの前記の少なくとも1つの副産物の量が、非改変野生型テルペンシンターゼと比較して4.3倍の減少を特徴とする、この改変されたテルペンシンターゼも好ましい。
【0035】
さらに別の特に好ましい実施形態は、配列番号1~5のいずれか1つに記載の非改変テルペンシンターゼと比較した改変されたテルペンシンターゼ中の前記の少なくとも1つの改変されたアミノ酸残基の数が、少なくとも1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、または29個のアミノ酸残基である、改変されたテルペンシンターゼに関する。
【0036】
本発明のすべての態様および実施形態において、テルペンシンターゼが、ヒドロピレンシンターゼ(HpS)、例えば配列番号1に記載のアミノ酸配列を含むStreptomyces clavuligerus由来の細菌ジテルペンシンターゼ、クラスIテルペンシンターゼ、例えば配列番号2に記載のアミノ酸配列を含むStreptomyces melanosporofaciens由来のCotB2、ジテルペンシンターゼ、例えば配列番号3に記載のアミノ酸配列を含むAmycolatopsis benzoatilytica(ABS)由来のジテルペンシンターゼ、トリコジエンシンターゼ、例えば配列番号4に記載のアミノ酸配列を含むFusarium sporotrichioides由来のトリコジエンシンターゼ、またはクラブラトリエンシンターゼ、例えば配列番号5に記載のアミノ酸配列を含むStreptomyces clavuligerus由来のクラブラトリエンシンターゼであることが好ましい場合がある。
【0037】
参考として、本発明の野生型非改変テルペンシンターゼの名称は、UniProtデータベース(「www.uniprot.org/」)および/またはNCBI GenBank(「https://www.ncbi.nlm.nih.gov/」)の2020年6月3日のそのバージョンにおけるそれぞれのエントリーを参照している。開示されるテルペンシンターゼのUniProtおよび/またはNCBI GenBank識別番号は、本明細書中の表1に提供される。参照により、本発明のテルペンシンターゼのこのようなタンパク質エントリーのアミノ酸配列は、参照により本明細書に組み込まれる。本発明の文脈で使用される「非改変野生型テルペンシンターゼ」という用語は、表1に列挙されたタンパク質のいずれかを指すものとする。
【0038】
【表1】
表1:
【0039】
改変されたテルペンシンターゼが好ましく、ここで、前記の少なくとも1つの改変されたアミノ酸残基は、テルペンシンターゼの活性部位ポケットの一部であるかまたは該活性部位ポケット付近のαヘリックス構造に位置し、前記の少なくとも1つの改変されたアミノ酸残基は、疎水性側鎖を有するアミノ酸、例えばアラニン、バリン、イソロイシン、ロイシン、メチオニン、フェニルアラニン、チロシンもしくはトリプトファン、および/または極性非荷電側鎖を有するアミノ酸、例えばトレオニン、システイン、アスパラギン、グルタミンもしくはセリンである。好ましい一実施形態では、本発明は、非改変野生型テルペンシンターゼのアミノ酸配列と比較して少なくとも1つの改変されたアミノ酸残基を含む改変されたテルペンシンターゼに関し、ここで、前記の少なくとも1つの改変されたアミノ酸残基は、アラニン、バリン、イソロイシン、ロイシン、メチオニン、フェニルアラニン、チロシンもしくはトリプトファンなどの疎水性側鎖を有するアミノ酸残基(もしくはいくつかのアミノ酸残基、各々)に対する、および/またはトレオニン、システイン、アスパラギン、グルタミンもしくはセリンなどの極性非荷電側鎖を有するアミノ酸残基(もしくはいくつかのアミノ酸残基、各々)に対する野生型アミノ酸残基(もしくはいくつかの野生型アミノ酸残基)の置換である。特に好ましい実施形態では、本発明は、改変されたテルペンシンターゼに関し、前記の少なくとも1つの改変されたアミノ酸残基は、配列番号1に記載の非改変野生型HpSのアミノ酸配列中の
(i)71位のメチオニン、
(ii)75位のメチオニン、
(iii)182位のグリシン、
(iv)184位のヒスチジン、
(v)300位のメチオニン、および
(vi)304位のメチオニン
から選択される野生型アミノ酸残基の置換であるか、または前記の少なくとも1つの改変されたアミノ酸残基は、配列番号2~5のいずれか1つに記載の非改変野生型テルペンシンターゼのアミノ酸配列中の(i)~(vi)のいずれかの等価な位置に位置する野生型アミノ酸残基の置換である。特に好ましい実施形態では、前記の少なくとも1つの改変されたアミノ酸残基は、配列番号1に記載の非改変野生型HpSのアミノ酸配列中の(i)M71、(ii)M75、(v)M300および(vi)M304から選択される野生型アミノ酸残基の置換であるか、または前記の少なくとも1つの改変されたアミノ酸残基は、配列番号2~5のいずれか1つに記載の非改変野生型テルペンシンターゼのアミノ酸配列中の(i)、(ii)、(v)および(vi)のいずれかの等価位置に位置する野生型アミノ酸残基の置換である。
【0040】
したがって、HpS活性部位、または配列番号2~5のいずれか1つに記載のテルペンシンターゼのいずれかに記載のテルペンシンターゼの活性部位における残基(i)~(vi)のいずれかから選択される少なくとも1つの改変アミノ酸残基であって、産物形成をHPからIEに経路変更するのに必須である少なくとも1つの改変アミノ酸残基が特に好ましい。これらの残基は、大腸菌宿主における生合成プソイドプテロシン前駆体IE AおよびIE Bの選択的形成を可能にする。Fusarium sporotrichioides由来のトリコジエンシンターゼの触媒活性メチオニンが、Dixitら、2017に開示されている。
【0041】
さらに別の特に好ましい実施形態は、改変されたテルペンシンターゼに関し、ここで、改変されたテルペンシンターゼは、配列番号1に記載の非改変野生型HpSのアミノ酸配列中の
(i)71位でのチロシンのメチオニンへの置換
(ii)75位でのフェニルアラニンのメチオニンへの置換
(iii)75位でのロイシンのメチオニンへの置換、
(iv)182位でのアラニンのグリシンへの置換、
(v)182位でのフェニルアラニンのグリシンへの置換、
(vi)184位でのアラニンのヒスチジンへの置換、
(vii)184位でのフェニルアラニンのヒスチジンへの置換、
(viii)300位でのイソロイシンのメチオニンへの置換、
(ix)304位でのイソロイシンのメチオニンへの置換、
(x)304位でのトレオニンのメチオニンへの置換、
(xi)304位でのシステインのメチオニンへの置換
からなる群から選択される少なくとも1つの置換を含むか、または前記の改変されたテルペンシンターゼは、配列番号2~5のいずれか1つに記載の非改変野生型テルペンシンターゼのアミノ酸配列中の(i)~(xi)のいずれかの等価な位置に位置するアミノ酸残基において少なくとも1つの置換を含む。
【0042】
本発明による特に好ましい改変されたテルペンシンターゼを表2に列挙する。
【表2】
【0043】
本発明のすべての態様および実施形態において、改変されたテルペンシンターゼは、配列番号8~18のいずれか1つに記載のアミノ酸配列を含むことが好ましい場合がある。配列番号8~18のいずれか1つに記載のアミノ酸配列と少なくとも75%の配列同一性、好ましくは配列番号8~18のいずれか1つに記載のアミノ酸配列と少なくとも76%、77%、78%、79%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、または99%の配列同一性を有する改変されたテルペンシンターゼがさらに好ましい。本発明の任意の態様および/または特定の実施形態と組み合わせることができる別の好ましい実施形態は、配列番号8~18のいずれか1つに記載のアミノ酸配列を含む改変されたテルペンシンターゼに関する。好ましい実施形態では、配列番号8~18のいずれか1つに記載のアミノ酸配列と少なくとも75%の配列同一性またはそれを超える配列同一性を有する改変されたテルペンシンターゼは、そのような少なくとも75%の配列同一性を有する改変されたテルペンシンターゼも本明細書で定義される「改変されたテルペンシンターゼ」であるという意味で、配列番号8~18のいずれか1つに記載の改変されたテルペンシンターゼと同じまたは類似の活性を有する。
【0044】
さらに好ましいのは、改変されたテルペンシンターゼであり、ここで、前記の改変されたテルペンシンターゼのアミノ酸配列はさらに、配列番号1に記載の非改変野生型テルペンシンターゼのアミノ酸配列に記載の71、75、182、184、300および/もしくは304位以外の位置、または配列番号2~5のいずれか1つに記載の非改変野生型テルペンシンターゼの前記の等価位置における少なくとも1つの置換以外の位置に、1つもしくはそれを超えるアミノ酸の欠失、置換および/または付加を含む。好ましい実施形態では、71位、75位など以外の位置に1つもしくは複数のアミノ酸の欠失、置換および/または付加をさらに含むそのような改変されたテルペンシンターゼは、機能的には依然として本明細書で定義される「改変されたテルペンシンターゼ」である。
【0045】
次いで、本発明の任意の数の開示されたおよび/または好ましい実施形態および/または態様と組み合わせることができる本発明のさらに別の態様は、本発明による改変されたテルペンシンターゼをコードする核酸に関する。
【0046】
本発明の更なる態様は、本発明の開示されたおよび/または好ましい実施形態および/または態様のいずれかと組み合わせることができ、本発明の核酸を発現することができる発現ベクターに関する。
【0047】
本明細書で使用される場合、「ベクター」という用語は、宿主細胞内でDNAを発現することができる好適な制御配列に動作可能に連結されるDNA配列を含むDNAコンストラクトのことを指す。ベクターは、プラスミド、ファージ粒子、または潜伏性のゲノムインサートであり得る。ベクターが好適な宿主に形質転換されると、宿主ゲノムに関係なく複製または機能化され得るか、場合によってはゲノム自体に組み込まれ得る。プラスミドはベクターとして最も一般的に使用されるので、本発明ではプラスミドとベクターとが交換可能に使用されることがある。しかしながら、本発明は、当該技術分野で知られているかまたは知られているべきである機能と同じ機能を有する他のタイプのベクターも含む。
【0048】
核酸は、他の核酸配列と機能的な関係で配置されている場合、作動可能に連結される。それは、適切な分子が制御配列(複数可)に連結されると遺伝子発現を可能にするプロセスで連結される遺伝子および制御配列(複数可)であり得る。一例として、プロモーターまたはエンハンサーは、配列の転写に影響を及ぼすときにコード配列に作動可能に連結され、リボソーム結合ドメインは、配列の転写に影響を及ぼすときにコード配列に作動可能に連結され、またはリボソーム結合ドメインは、それが容易に翻訳されるように配置されるときにコード配列に作動可能に連結される。一般に、「作動可能に連結される」という用語は、連結されたDNA配列の接触、または分泌リーダーが接触してリーディングフレームに提示されることを指す。しかしながら、エンハンサーは接触する必要はない。
【0049】
本発明で使用される「発現ベクター」という用語は、一般に、組換えDNA断片が挿入された一般的な組換え担体としての二重鎖DNA断片のことを指す。組換えDNAは、宿主細胞において天然には発見されていないDNAである異種DNAを指すものとする。発現ベクターは宿主細胞の内部にあり、宿主染色体DNAにかかわらず複製することができ、ベクターおよびそれに挿入された(組換え)DNAのいくつかのコピーを産生し得る。
【0050】
本発明において、組換えベクターは、プラスミドベクター、バクテリオファージベクター、コスミドベクター、酵母人工染色体(YAC)ベクターを含む各種ベクターであってもよい。本発明の目的に使用できる典型的なプラスミドベクターは、(a)宿主細胞あたり数百個のプラスミドベクターを含むように効果的に複製を行うことができる複製起点と、(b)プラスミドベクターで形質転換された宿主細胞を選択することができる抗生物質耐性遺伝子と、(c)外来DNA断片を挿入することができる制限酵素の制限部位とを含む構造を有する。制限酵素の好適な制限部位が存在しなくても、一般的な方法に従ってリンカーおよび合成オリゴヌクレオチドアダプターを用いると、ベクターと外来DNAとを容易にライゲーションすることができる。
【0051】
本発明の任意の数の本発明の開示されたおよび/または好ましい実施形態および/または態様と組み合わせることができる本発明の別の態様は、本発明による改変されたテルペンシンターゼ、核酸または発現ベクターを含む組換え宿主細胞に関する。本発明のすべての態様において、宿主細胞は、好ましくは細菌細胞または酵母細胞である。しかしながら、本発明はこれに限定されない。
【0052】
本発明の任意の数の開示されたおよび/または好ましい実施形態および/または態様と組み合わせることができる本発明のさらに別の態様は、本発明による改変されたテルペンシンターゼを産生するための方法であって、該方法は、改変されたテルペンシンターゼを含むか、または核酸を発現するか、または本発明による発現ベクターを含む宿主細胞を培養するステップと、宿主細胞またはその培養培地から改変されたテルペンシンターゼを単離するステップとを含む方法に関する。
【0053】
本発明の任意の数の開示されたおよび/または好ましい実施形態および/または態様と組み合わせることができる本発明の別の態様は、改変されたテルペンシンターゼ、核酸、発現ベクター、または宿主細胞の使用であって、少なくとも1つのプソイドプテロシン中間体、例えば、エリサベタトリエン、イソエリサベタトリエンA、イソエリサベタトリエンB、エロゴルジアエン、もしくはSeco-プソイドプテロシンの産生のための、および/または少なくとも1つのプソイドプテロシン、例えばプソイドプテロシンAの産生のための使用に関する。前記の使用は、好ましくはインビトロまたはインビボ使用であり、より好ましくはインビトロ使用である。
【0054】
本発明の開示されたおよび/または好ましい実施形態および/または態様のいずれかと組み合わせることができる本発明のさらに別の態様は、少なくとも1つのプソイドプテロシン中間体、例えば、エリサベタトリエン、イソエリサベタトリエンA、イソエリサベタトリエンB、エロゴルジアエン、もしくはSeco-プソイドプテロシンを産生するための方法、および/または少なくとも1つのプソイドプテロシン、例えばプソイドプテロシンAを産生するための方法であって、該方法は、
a)ゲラニルゲラニルピロリン酸(GGPP)から生成される中間体を提供するステップと、
b)配列番号1~5のいずれか1つに記載の非改変野生型テルペンシンターゼに対応するアミノ酸配列と比較して、少なくとも1つの改変されたアミノ酸残基を含む改変されたテルペンシンターゼを提供するステップであって、ここで、前記の少なくとも1つの改変されたアミノ酸残基が、テルペンシンターゼの活性部位ポケットの一部であるかもしくはそれに近いαヘリックス構造に位置し、前記の少なくとも1つの改変されたアミノ酸残基が、疎水性側鎖を有するアミノ酸、例えばアラニン、バリン、イソロイシン、ロイシン、メチオニン、フェニルアラニン、チロシンもしくはトリプトファン、および/または極性非荷電側鎖を有するアミノ酸、例えばトレオニン、システイン、アスパラギン、グルタミンもしくはセリンであるステップと、
c)改変されたテルペンシンターゼの前記の少なくとも1つの改変されたアミノ酸残基によって、ステップa)の中間体を不安定化するステップと
を含み、それによって、少なくとも1つのプソイドプテロシン中間体、例えば、エリサベタトリエン、イソエリサベタトリエンA、イソエリサベタトリエンB、エロゴルジアエン、もしくはSeco-プソイドプテロシンを産生する、および/または少なくとも1つのプソイドプテロシン、例えばプソイドプテロシンAを産生するための方法に関する。
【0055】
第1のステップとして、ゲラニルゲラニルピロリン酸(GGPP)から生成される中間体を提供する。最も好ましくは、この中間体は、GGPP分子の1,10-閉環によって生成されており、ここで、前記の1,10-閉環は、前記のGGPPのカルボカチオンをC11位にシフトさせる。したがって、本方法のステップa)で提供される「ゲラニルゲラニルピロリン酸(GGPP)から生成される中間体」という用語は、好ましくは、ゲラニルゲラニルピロリン酸(GGPP)から生成される1,10-環閉鎖中間体を指すものとする。
【0056】
さらに、好ましいのは、
d)ステップc)で生成される中間体を1,3-ヒドリド移動させるステップであって、ここで、前記の1,3-ヒドリド移動させるステップは、前記の中間体のカルボカチオンをC7位にシフトさせるステップをさらに含む方法である。
本方法の追加のステップd)は、好ましくは、産物の範囲をイソエリサベタトリエンに向かってシフトさせる。
【0057】
更なる好ましい実施形態は、本発明の方法に関し、ここで、前記の方法はさらに、
e)ステップd)で生成される中間体の1,2-ヒドリドシフトを実施するステップと、
f)ステップe)で生成される中間体を脱プロトン化するステップと
を含み、それよってイソエリサベタトリエンAを産生する。
【0058】
本発明の別の好ましい実施形態は、本発明の方法に関し、ここで、前記の方法はさらに、
e)ステップd)で生成される中間体を脱プロトン化するステップ
を含み、それによってイソエリサベタトリエンBを産生する。
【0059】
特に好ましい実施形態は、本発明の方法に関し、ここで、前記の方法はさらに、イソエリサベタトリエンAをエロゴルジアエンに変換するステップ、および/またはイソエリサベタトリエンBを1R-エポキシ-エリサベタ-5,14ジエンに変換するステップをさらに含む。
【0060】
さらに別のさらに好ましい実施形態は、本発明の方法に関し、ここで、前記の方法はさらに、前記の少なくとも1つのプソイドプテロシン中間体、例えばエリサベタトリエン、イソエリサベタトリエンA、イソエリサベタトリエンB、エロゴルジアエン、もしくはSeco-プソイドプテロシン、および/または前記の少なくとも1つのプソイドプテロシン、例えばプソイドプテロシンAを改変するステップを含み、ここで、前記の改変するステップは、好ましくは、官能化、酸化、ヒドロキシル化、メチル化、グリコシル化、脂質コンジュゲーション、もしくは任意の他の天然もしくは合成の改変、またはそれらの組み合わせから選択される改変を含む。
【0061】
本発明はさらに、イソエリサベタトリエンAおよびBをそれぞれ高度なプソイドプテロシン前駆体であるエロゴルジアエンおよび新規化合物である1R-エポキシ-エリサベタ-5,14-ジエン(EED)に選択的に変換する化学-酵素酸化に関する。高度なプソイドプテロシン前駆体を生成するために、IE AおよびIE Bをリパーゼ媒介化学-酵素酸化に供した。同一の条件下で、IE AおよびIE Bは差次的な反応性を示し、確立されたプソイドプテロシン前駆体エロゴルジアエンおよび新しい天然産物1R-エポキシ-5,14-エリサベタジエンのそれぞれの形成をもたらした。一般に、ジテルペノイド骨格の酸素官能化は、多様な官能化アプローチを可能にする広い化学空間へのアクセスを提供し、これは様々な生物活性化合物の効率的な化学-酵素産生の基礎である。官能化セルラタンジテルペンの多様性を考慮すると、この開発は、このような生物活性化合物の効率的な化学-酵素産生の基礎である。1R-エポキシ-5,14-エリサベタジエン官能化への異なる生物工学的および化学的官能化戦略の協調的な適用は、設計された生物活性天然産物の開発経路を提供する。
【0062】
特に、エロゴルジアエンの化学合成は、石油ベースの構成要素を利用して少なくとも8つのステップを必要とし、生物工学的アプローチは、再生可能な供給原料のみに基づく立体選択的な2ステップ生合成手順を提供する。さらに、化学合成とは対照的に、この方法は金属有機触媒を必要とせず、いかなる有毒なサイドストリームももたらさず、穏やかな反応条件下で行われ、それによって優れた生態学的プロファイルを特徴とする。この統合された持続可能な産生経路は、エロゴルジアエンのファスト・トラック医薬品開発パイプラインを可能にする。過去数十年の間に臨床的に成熟するまでに開発された抗生物質のリード化合物はほとんどないので、スケーラブルなエロゴルジアエン供給経路は、医薬品産業における急務に対処し、新しい薬物開発の基礎となっている。このような開発は、急速に出現する伝染病の流行(例えば、結核)から、増え続ける世界人口を保護するために不可欠である。
【0063】
本発明のすべての態様および実施形態において、上記方法のステップb)で使用されるテルペンシンターゼは、改変されたヒドロピレンシンターゼ(HpS)、配列番号1に記載のアミノ酸配列を含むStreptomyces clavuligerus由来の細菌ジテルペンシンターゼ、クラスIテルペンシンターゼ、例えば配列番号2に記載のアミノ酸配列を含むStreptomyces melanosporofaciens由来のCotB2、ジテルペンシンターゼ、例えば配列番号3に記載のアミノ酸配列を含むAmycolatopsis benzoatilytica(ABS)由来のジテルペンシンターゼ、配列番号4に記載のアミノ酸配列を含むFusarium sporotrichioides由来のトリコジエンシンターゼ、またはクラブラトリエンシンターゼ、例えば配列番号5に記載のアミノ酸配列を含むStreptomyces clavuligerus由来のクラブラトリエンシンターゼであることが好ましい場合がある。
【0064】
本発明の別の好ましい態様は、上記の方法によって産生される、プソイドプテロシン中間体、例えばエリサベタトリエン、イソエリサベタトリエンA、イソエリサベタトリエンB、エロゴルジアエン、もしくはSeco-プソイドプテロシン、および/またはプソイドプテロシン、例えばプソイドプテロシンAに関する。
【0065】
興味深いことに、本発明の方法のいずれかによって産生される、プソイドプテロシン中間体、例えばエリサベタトリエン、イソエリサベタトリエンA、イソエリサベタトリエンB、エロゴルジアエン、もしくはSeco-プソイドプテロシン、および/またはプソイドプテロシン、例えばプソイドプテロシンAは、それらのキラル位置について、天然に存在するプソイドプテロシン中間体および/またはプソイドプテロシン、例えばその天然源、すなわちgorgonian coral A.elisabethaeから採取および抽出されたものと比較して異なる立体配座を示す。サンゴ由来のプソイドプテロシン中間体および/またはプソイドプテロシンは(+)-配座を特徴とし、一方、本発明の方法のいずれかによって生成されるプソイドプテロシン中間体、例えばエリサベタトリエン、イソエリサベタトリエンA、イソエリサベタトリエンB、エロゴルジアエン、もしくはSeco-プソイドプテロシン、および/またはプソイドプテロシン、例えばプソイドプテロシンAは(-)-配座を特徴とする。したがって、天然に存在するプソイドプテロシン中間体および/またはプソイドプテロシンは、本発明の方法によって産生されるプソイドプテロシン中間体および/またはプソイドプテロシンのC11位のエピマーである。重要なことに、本発明の方法のいずれかによって産生されるプソイドプテロシン中間体および/またはプソイドプテロシンは、生物学的に活性であり、例えば、抗炎症、抗生物、抗ウイルスおよび/または鎮痛活性を有する。
【0066】
本発明のさらに別の好ましい態様は、
(i)本発明による改変されたテルペンシンターゼ、核酸、発現ベクター、宿主細胞、またはプソイドプテロシン中間体および/またはプソイドプテロシンと、
(ii)前記の改変されたテルペンシンターゼ、核酸、発現ベクター、宿主細胞、プソイドプテロシン中間体および/またはプソイドプテロシンを適用するための書面の指示と、
(iii)必要に応じて、前記の改変されたテルペンシンターゼ、核酸、発現ベクター、宿主細胞、プソイドプテロシン中間体および/またはプソイドプテロシン、ならびに前記の書面の指示を保持する容器と
を含むキットに関する。
【0067】
また、少なくとも1つのプソイドプテロシン中間体、例えばイソエリサベタトリエンA、イソエリサベタトリエンB、エロゴルジアエン、もしくはSeco-プソイドプテロシンを産生するための、および/または少なくとも1つのプソイドプテロシン、例えばプソイドプテロシンAを産生するためのキットであって、
i)宿主細胞であって、必要に応じてゲラニルゲラニルピロリン酸(GGPP)を含む宿主細胞と、
ii)必要に応じてGGPPと、
iii)本発明による改変されたテルペンシンターゼと
を含み、
ここで、前記の改変されたテルペンシンターゼは、同じ宿主細胞中および同じ条件下で、配列番号1~5のいずれか1つに記載のアミノ酸配列を有する非改変野生型テルペンシンターゼによってGGPPから産生される同じプソイドプテロシン中間体および/または同じプソイドプテロシンの量よりも多い量で、前記の宿主細胞中のGGPPからの前記の少なくとも1つのプソイドプテロシン中間体および/または前記の少なくとも1つのプソイドプテロシンの産生を触媒する、キットも好ましい。
【0068】
次いで、本発明の別の態様は、医薬に使用するためのプソイドプテロシン中間体またはプソイドプテロシンに関する。本発明によるプソイドプテロシン中間体またはプソイドプテロシンは、多数の疾患を処置および/または予防するために使用することができる。
【0069】
本発明のさらに別の態様は、炎症性疾患、細菌性疾患、ウイルス性疾患、リウマチ性疾患、皮膚疾患および/もしくは疼痛の処置および/もしくは予防における、または炎症性疾患、細菌性疾患、ウイルス性疾患、リウマチ性疾患、皮膚疾患および/もしくは疼痛に対する医薬品の製造における、本発明によるプソイドプテロシン中間体および/またはプソイドプテロシンの使用に関する。本発明によるプソイドプテロシン中間体および/またはプソイドプテロシンは、抗炎症活性および鎮痛活性を有し、例えば、非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)および抗生物質として用いることができる。本発明によるプソイドプテロシン中間体またはプソイドプテロシンはさらに、感染症流行の間(すなわち、COVID-19)の過剰な炎症反応に関連する感染因子および疾患を制御するための一次処置に適用することができる。さらに、これらのプソイドプテロシン型化合物は、慢性炎症性疾患に適用することができる。IE A酸化産物エロゴルジアエンは、抗生物質感受性および多剤耐性結核菌株(MIC:それぞれ32.25μg/mlおよび125.00μg/ml)に対して強力な抗菌活性を有する。したがって、エロゴルジアエンを抗生物質として使用することができる。
【0070】
新しい抗生物質エンティティーの生成にとどまらず、エロゴルジアエンは、統合(生物)化学合成を可能にしてプソイドプテロシン型抗炎症薬をもたらす。その目的のために、プソイドプテロシンは、新たに進展しているウイルス流行(例えば、COVID-19)における過剰な炎症症状を制御すること、ならびに高齢化した産業人口における慢性炎症を処置することにおける新しい第一の処置選択肢として役立ち得る。最終的に、持続可能なプソイドプテロシン産生プラットフォームはまた、スケーラブルな化粧品用途においてサンゴ抽出物に取って代わり、それによって海洋の生物多様性を保護しながら、脆弱な岩礁生態系の開発を防止する。要約すると、本発明で提示される技術は、17のうちの4つのUN持続可能性目標(健康と福祉(目標3)、気候行動(13)、水生生物 (15) および陸生生物 (15) の保全(Protecting aquatic(15)およびterrestrial(15)life))に同時に対処し、それによって気候変動および発生している感染症などの世界的課題に対するレジリエンスを高めるための道筋を示す。
【0071】
本発明の更なる態様では、プソイドプテロシン中間体および/またはプソイドプテロシンと、薬学的に活性な担体および/または賦形剤とを含む医薬組成物が提供される。
【0072】
本発明の更なる態様は、炎症性疾患、細菌性疾患、ウイルス性疾患、リウマチ性疾患、皮膚疾患および/または疼痛の処置および/または予防に使用するための化合物であって、ここで、前記の化合物は、プソイドプテロシン中間体および/もしくはプソイドプテロシン、または本発明による医薬組成物を含む、化合物に関する。
【0073】
好ましい実施形態では、使用のための前記の化合物は、ゲル剤、軟膏剤、膏薬、クリーム剤、錠剤、丸剤、カプセル剤、トローチ剤、糖衣錠、粉剤・散剤(powder)、エアロゾルスプレー剤、鼻スプレー剤、坐剤および/または液剤の形態で提供される。
【0074】
別の態様は、対象の炎症性疾患、細菌性疾患、ウイルス性疾患、リウマチ性疾患、皮膚疾患および/または疼痛を処置および/または予防する方法であって、該方法は、治療有効量のプソイドプテロシン中間体および/またはプソイドプテロシン、医薬組成物、または本発明により使用するための化合物を対象に投与するステップを含む、方法に関する。
【0075】
本発明のすべての態様および実施形態において、前記の対象が哺乳動物、例えばヒト、マウス、ラット、モルモット、ウサギ、ネコ、イヌ、サル、または好ましくはヒト、例えばヒト患者、より好ましくは炎症性疾患、細菌性疾患、ウイルス性疾患、リウマチ性疾患、皮膚疾患および/または疼痛に罹患しているヒト患者であることが好ましい場合がある。
【0076】
使用のための前記の治療有効量の前記のプソイドプテロシン中間体、プソイドプテロシン、医薬組成物および/または化合物が、経口、経皮(局所)、静脈内、膣、鼻腔内、髄腔内、動脈内、皮内、皮下、脳室内、実質内、腫瘍内、経粘膜、直腸、気管支および/もしくは非経口投与によって、または任意の臨床的/医学的に許容される方法によって前記の対象に投与される、上記処置方法がさらに好ましい。
【0077】
別の好ましい実施形態では、使用のための前記の治療有効量の前記のプソイドプテロシン中間体、プソイドプテロシン、医薬組成物、および/または化合物は、ゲル剤、軟膏剤、膏薬、クリーム剤、錠剤、丸剤、カプセル剤、トローチ剤、糖衣錠、粉剤・散剤、エアロゾルスプレー剤、鼻スプレー剤、坐剤、および/または液剤の形態で提供される。
【0078】
本発明の開示されたおよび/または好ましい実施形態および/または態様のいずれかと組み合わせることができる本発明のさらに別の態様は、抗老化化粧品目的などの化粧品目的のための、本発明によるプソイドプテロシン中間体および/またはプソイドプテロシンの使用に関する。化粧品目的のための、例えば抗老化化粧品目的のための、本発明による方法のいずれかから得られるプソイドプテロシン中間体および/またはプソイドプテロシンの使用が特に好ましい。
【0079】
本明細書で使用される「[本]発明の」、「本発明に従った」、「本発明による」などの用語は、本明細書に記載および/または特許請求される本発明のすべての態様および実施形態を指すことを意図している。
【0080】
本明細書で使用される場合、「含む(comprising)」という用語は、「含む(including)」および「からなる(consisting of)」の両方を包含すると解釈されるべきであり、両方の意味は具体的に意図されており、したがって本発明に従って個別に開示された実施形態である。本明細書で使用される場合、「および/または(もしくは)」は、2つの指定された特徴または構成要素の各々について、他方の有無にかかわらず、具体的な開示として解釈されるべきである。例えば、「Aおよび/またはB」は、(i)A、(ii)Bならびに(iii)AおよびBの各々の具体的な開示として、あたかも各々が本明細書に個別に記載されているかのように解釈されるべきである。本発明の文脈において、「約(about)」および「およそ(approximately)」という用語は、対象となる特徴の技術的効果を依然として保証するために当業者が理解する精度の区間を示す。この用語は、典型的には、示された数値から±20%、±15%、±10%、および例えば±5%の偏差を示す。当業者には理解されるように、所与の技術的効果の数値に対するそのような具体的な偏差は、その技術的効果の性質に依存する。例えば、自然または生物学的な技術的効果は、一般に、人工または工学的な技術的効果よりも大きなそのような偏差を有し得る。当業者には理解されるように、所与の技術的効果の数値に対するそのような具体的な偏差は、その技術的効果の性質に依存する。例えば、自然または生物学的な技術的効果は、一般に、人工または工学的な技術的効果よりも大きなそのような偏差を有し得る。単数名詞を指すときに不定冠詞または定冠詞、例えば「a」、「a」または「the」が使用される場合、何か別のものが特に記載されていない限り、これはその名詞の複数形を含む。
【0081】
特定の問題または環境への本発明の教示の適用、および本発明の変形またはそれに対する追加の特徴(更なる態様および実施形態など)の包含は、本明細書に含まれる教示に照らして当業者の能力の範囲内であることを理解されたい。
【0082】
文脈上別段の指示がない限り、上記の特徴の説明および定義は、本発明の特定の態様または実施形態に限定されず、記載されているすべての態様および実施形態に等しく適用される。
【0083】
本明細書で引用されるすべての参考文献、特許および刊行物は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【図面の簡単な説明】
【0084】
図1図1は、エリサベタトリエン(A)、IE A(B)、IE B(C)、HP(D)およびHPol(E)の構造を示す;B(12%)、C(9%)、D(52%)およびE(26%)は、ヒドロピレンシンターゼ(HpS)の産物である(括弧内の野生型HpSの産物スペクトルのパーセンテージ;Kohlおよび共同研究者によって以前に記載されたような炭素番号付け)。
【0085】
図2図2は、プソイドプテロシンをもたらす初期生合成中間体を示す;(A)エリサベタトリエンから出発し、エロゴルジアエンおよびseco-プソイドプテロシンを経由するプソイドプテロシン産生の内因性サンゴ経路;(B)イソエリサベタトリエンAを包含するS.clavuligerus由来のHpSを使用する提案された経路;R1,2=糖部分。
【0086】
図3図3は、それぞれの触媒機能を有するクラスIテルペンシンターゼの保存されたモチーフ(太字のMg2+配位残基)ならびにCotB2およびHpSの対応するアミノ酸配列を示す。
【0087】
図4-1】図4は、(A)それぞれの変異部位に連結されたバリアント(白色:野生型様の産物スペクトルを有するバリアント;暗灰色:不活性バリアント;薄灰色:産物スペクトルが変化したバリアント);(B)変異部位を強調したHpSの二次構造;(C)Bの構造と比較して90°傾斜した変異部位を強調したHpSの二次構造;(D)HpSの一次構造および二次構造要素(円柱および線はそれぞれアルファヘリックスおよびベータシートを示す;点は変異部位を示し、ここで、コードは(C)および(D)のアミノ酸コードに対応する;一次構造の強調部分は保存されたモチーフ(DDXXD、NSE;WXXXXXRY)を示す)を示す。
図4-2】同上。
図4-3】同上。
図4-4】同上。
【0088】
図5-1】図5は、HpSおよびそのバリアントによって触媒される反応の主産物の相対的な割合を示す(それぞれのGC-FID産物ピークの面積のパーセント比として表示される);HpSバリアントをIE A含有量が多い順に表示した。
図5-2】同上。
【0089】
図6図6は、HpS中の触媒活性残基の構造モデルを示す。触媒的に重要なカルボカチオンC1(5.0Å)、C11(4.7Å)およびC7(7.6Å)ならびに71M(6.5Å;供与結合として活性と考えられる)と75Mの距離。中間体中の炭素原子の番号付けは、GGPPの番号付けに基づく。
【0090】
図7図7は、重要な環化中間体;(A)GGPP;(B)C10カルボカチオン中間体;(C)C1カルボカチオン中間体(D);C7カルボカチオン中間体(GGPPの数に基づく炭素原子の番号付け)を示す。
【0091】
図8図8は、(A)IE Bの新しい天然産物1R-エポキシ-5,14-エリサベタジエンへのリパーゼ媒介エポキシ化;(B)IE Aの(-)-エロゴルジアエンへのリパーゼ媒介IE A特異的変換を示す。
【0092】
図9図9は、ゲラニルゲラニル二リン酸からエリサベタトリエノールおよびエロゴルジアエン(R=-Hまたは-糖)を介してプソイドプテロシンに至る、プソイドプテロシン生合成の想定される生合成経路を示す。
【0093】
図10図10は、CotB2およびHpSの配列アラインメントを示す。ボックスは、同一および/または類似のアミノ酸、ならびに対応する一致がないアミノ酸のコードとして使用される。以下のコードが使用される:同一のアミノ酸は以下の
【化1】
によって強調される。非常に類似したアミノ酸は、以下の
【化2】
によって強調される。類似のアミノ酸は、以下の
【化3】
によって強調される。対応する一致がないアミノ酸は、以下の
【化4】
によって強調される。
【0094】
図11図11は、HpSおよびABSの配列アラインメントを示す。保存された残基は、整列した配列の上の四角のボックスによって強調される。
【実施例
【0095】
ここで、本発明の特定の態様および実施形態を、例として、本明細書に記載の説明、図および表を参照して説明する。本発明の方法、使用および他の態様のそのような例は、代表的なものにすぎず、本発明の範囲をそのような代表的な例のみに限定するものと解釈されるべきではない。
実施例は以下を示す:
実施例1:HpSモデルベースの変異誘発戦略
【0096】
以前の研究では、野生型(wt)HpSによる初期プソイドプテロシン前駆体IE AおよびIE Bの形成が報告されたが、収率は低かった。HpSを用いた最初のインビトロ研究は、産物IE A、IE B、HPおよびHP-olへのGGPP変換について妥当な環化機構を明らかにした(図1)。これらの以前の研究はいずれも、プソイドプテロシン前駆体IE AおよびIE Bの選択的産生を特に目的としていなかった。
【0097】
知識ベースのHpS構造-機能研究は、統合的な変異誘発戦略を説明するモデルを必要とする。したがって、ウェブツールI-Tasser(https://zhanglab.ccmb.med.umich.edu/I-TASSER/)を適用することによって、HpSシンターゼの閉鎖型複合体の相同性モデルを生成した。予測された構造を、比較モデリング用のModellerソフトウェアパッケージ(http://www.cgl.ucsf.edu/chimera/)を含むUCSF Chimeraソフトウェアパッケージの環境内でさらに分析および修正した。Hirteらによって以前に記載されたように、すべての基質ドッキング研究がAutoDock Vinaによって予測された5,6。テルペンシンターゼの二次構造の比較アライメントのために、HMM/HMM比較を適用するHHPredと、PSIPREDおよびMEMSATソフトウェアパッケージを含むAli2Dとを使用した
【0098】
HpSなどのクラスIテルペンシンターゼは、低い一次配列類似性を共有するが、これらの酵素は、二次および三次構造的な特徴において有意な相同性を示し、共通のαバレルタンパク質骨格を形成する。クラスIテルペンシンターゼ触媒作用は、カノニカル(DDXX(X)D)モチーフを特徴とし、αバレルの中心に位置する活性部位の保存されたMg2+三つ組(triade)に対するその二リン酸(PP)部分を介したGGPPの初期結合および配向によってプライミングされる。基質結合は、誘導適合機構およびその後のMg2+媒介PP加水分解によって活性部位の閉鎖を開始し、高反応性のプライミングカルボカチオンを生成する。溶媒水は、活性部位の閉鎖中に排出され、カルボカチオンに対する制御されない求核攻撃を防ぐ疎水性微小環境を作り出す。さらに、活性部位を覆う特定のアミノ酸残基もプライミングカルボカチオンを事前に形作り、それによって末端テルペン産物プロファイルに有意に影響を及ぼす。本発明者らは、その後の部位特異的変異誘発において、ドッキングした基質に近接する(3~8Å)残基を、より極性が高くまたはより広い非極性の残基で置き換えることにより、カルボカチオン中間体のクエンチを可能にし、HP骨格の自由な折り畳みを制限するはずであると推論した。
【0099】
その後の分子内カルボカチオン転位カスケードおよび末端環化は、プライミングカルボカチオンの相対二重結合反応性によってモジュレートされるC1~C6-、C1~C7-、C1~C10-、C1~C11-、C1~C14-またはC1~C15-結合形成反応によって開始することができる。固有のカルボカチオン反応性に加えて、基質由来のPP部分によって作り出される局所的な静電環境、ならびに活性部位のアミノ酸との一時的な電子的およびイオン的相互作用は、酵素特異的末端産物プロファイルに向かう反応軌道に沿った連続的なカルボカチオン転位を駆動および制御する。具体的には、末端環化は、アミノ酸媒介脱プロトン化または最終カルボカチオンへの水分子の付加によって誘導される。これらの協調的な酵素-基質相互作用は、立体化学的に複雑なジテルペン大員環の極めて高い多様性を促進し、すべて普遍的な前駆体GGPPに由来する。
【0100】
HpS結晶構造が利用できないので、Streptomyces melanosporofaciens由来の分類学的および二次構造関連図10)クラスIテルペンシンターゼCotB2(PDB-ID 6GGI)の高分解能結晶構造をテンプレートとして用いて、相同性モデルを構築した。GGPPをシクロオクタト-9-エン-7-オールを介して抗炎症剤シクロオクタチンに変換するStreptomyces由来ジテルペンシンターゼCotB2は、今日までに最もよく特徴付けられたジテルペンシンターゼに属する。GGPPの三環式シクロオクタト-9-エン-7-オールへの環化を触媒するCotB2は、広範な変異誘発研究に供されている。今日まで、CotB2は唯一のクラスI(ジ)テルペンシンターゼであり、それについては、捕捉されたジテルペン反応中間体を含有する閉じた触媒的に関連する構造が利用可能である。広範なQM/MDシミュレーションとの相乗効果におけるこの固有の構造の計算調査により、動的CotB2反応機構への詳細な洞察が提供され、その活性部位を覆う触媒的に必須のアミノ酸の協調的なネットワークが浮き彫りになった。したがって、CotB2は、包括的なHpS構造-機能分析のための理想的なテンプレートを表す。
【0101】
最初のCotB2/HpS構造比較は、触媒的に関連するすべてのクラスI構造モチーフが保存されていることを示した(図3)。しかしながら、活性部位における基質の(GGPP)二リン酸(PP)部分の初期結合および配向を担うカノニカルクラスI DDXXDモチーフは、CotB2およびHpSの両方において、それぞれDDXD(110DDMD)およびDDXXXD(82DDRAID)に変化する。興味深いことに、高度に保存されたDDXXDモチーフのこのような広範な改変は、クラスIテルペンシンターゼ(TPS)では稀である。しかしながら、単一アミノ酸(X)の付加は、他のTPS、例えばセリナ(selina)-3,7(11)-ジエンシンターゼ(82DDGYCE)および(+)-T-ムウロロール(muurolol)シンターゼ(83DDEYCD)においても報告されている。NSE三つ組およびクラスI TPS特異的WXXXXXRYモチーフを含む他の活性部位モチーフもHpSおよびCotB2において保存されている(図3および図10)。各触媒に関連するモチーフについてのCotB2およびHpS特異的アミノ酸配列を図3に列挙する。
【0102】
興味深いことに、より広範なHpS構造調査により、推定されているHpS活性部位の内側またはすぐ近くに5つの固有のメチオニン残基(71M、75M、188M、300M、および304M)が明確に存在することが明らかになった。いかなるTPSについても報告または実験的に評価されていない特徴。これらの残基の触媒的関連性はほとんど知られていないが、Fusarium sporotrichioidesトリコジエンシンターゼ(TdS)の計算(QM)研究は、メチオニン残基がTdS特異的カルボカチオン反応中間体との相互作用に関係している。したがって、これらのメチオニン残基を変異戦略に含めてHpS構造-機能関係を解明し、生合成プソイドプテロシン前駆体IE AおよびIE Bを主要なGGPP環化産物として選択的に確立した。
【0103】
変異誘発のために選択された関連する活性部位残基を表3に列挙する。
表3:HpS変異誘発戦略を説明するために使用されたHpSおよびCotB2活性部位残基の比較。アミノ酸残基は、潜在的に産物範囲を変更するかまたはカルボカチオン中間体を安定化するため、選択した。太字の残基は、HpSおよびCotB2における同一のアミノ酸を示す。
【表3】
【0104】
表3に列挙された変異誘発のために選択された関連活性部位残基としては、保存された307WXXXXXRYモチーフの307Wおよび313R残基が挙げられる。CotB2におけるこれらの残基の保存的置換は、産物スペクトルをモジュレートすることが以前に示されている。
実施例2:HpS由来ジテルペン産生のための大腸菌の調整
【0105】
代謝的にバランスのとれた2プラスミドテルペン産生系を有する操作された大腸菌宿主をHpS発現のために使用し、これにより野生型クラスI HpSの迅速な変異誘発およびその後の変更した産物プロファイルのスクリーニングが可能になる。テルペン抽出のために、工業グレードのエタノール、酢酸エチルおよびヘキサンを、Westfalen AG社(ドイツ国ミュンスター)から購入した。他のすべての目的のために、最高純度グレードの化学物質を使用した。アセトニトリル、酢酸エチル、ヘキサン、メタノール、プロピオン酸および培地成分を、Roth chemicals社(ドイツ国カールスルーエ)から得た。C.antarctica(CalB)由来の固定化リパーゼB、CDCl、ベンゼン-dおよび尿素過酸化水素を、Sigma-Aldrich社(米国セントルイス)から購入した。
【0106】
大腸菌DH5α株をプラスミド作製およびクローニングに使用した。これをルリア-ベルターニ培地中37℃で培養した。テルペンは、大腸菌ER2566株を用いて産生した。振盪フラスコ実験中、30g/Lのグルコースおよび5g/Lの酵母エキスを補充したルリア-ベルターニまたはR培地のいずれかで、大腸菌ER2566を23℃で成長させた。発酵実験の場合、30g/Lのグリセロールおよび5g/Lの酵母エキスを補充したR培地中で大腸菌ER2566を培養した。クロラムフェニコール(30μg mL)およびカナマイシン(50μg mL-1)を要求に応じて添加した。
【0107】
S.clavuligerus由来のジテルペンシンターゼ(Uniprot:SCLAV_p0765)をコードするすべての遺伝子(ATCC 27064)をpACYCベースの発現ベクター系にクローニングした。すべての遺伝子およびプライマーは、Eurofins Genomics GmbH社(ドイツ国エーバースベルク郡)によって合成した。GeneOptimizer(商標)ソフトウェアを使用して、大腸菌について遺伝子をコドン最適化した。
【0108】
一晩の前培養を使用して、DASGIP(登録商標)1.3L並列リアクタシステムEppendorf AG社、ドイツ国)(OD600=0.1)の発酵槽に接種した。培養温度は23℃で一定に保った。撹拌速度、気流、酸素含有量および供給プロトコルは上記のように設定した。供給溶液は、上記のように600g/Lのグリセロール、5g/Lの酵母エキス、35g/Lのコラーゲン、20g/LのMgSO、0.3g/Lのチアミン-HCl、5ml/Lの1Mクエン酸アンモニウム鉄(III)、20ml/Lの100x微量元素溶液(pH=7.0)からなっていた。テルペン産生を監視するために、異なる時点で試料を採取した。
【0109】
コドン最適化HpS遺伝子を有するプラスミドの共形質転換は、大腸菌テルペン生合成のボトルネック酵素を有する別個のプラスミドと共に、機能的HpSの効率的な産生をもたらした。調整された大腸菌宿主におけるバランスのとれた炭素フラックスおよびテルペン前駆体の供給により、天然のHpSがGGPPをHP、HP-ol、IE AおよびIE Bに効率的に変換することが可能になった(総テルペン収率55.56±2.01mg/l、図2)。HpSを有する大腸菌産生系は、迅速かつ単純化された培養を高い産物収率でもたらした。
実施例3:HpSバリアントのジテルペン指向性産物スクリーニング
【0110】
本発明者らは、その後の部位特異的変異誘発において、ドッキングした基質に近接する(3~8Å)残基を、より極性が高くまたはより広い非極性の残基に置き換えることにより、カルボカチオン中間体のクエンチを可能にし、HP骨格の自由な折り畳みを制限するはずであると推論した。酵素の活性部位の調整された設計は、親水性環境の生成を可能にし、それによって水分子が活性部位にアクセスすることを可能にする。その結果、活性部位の水分子がカルボカチオンをクエンチすることができ、それにより、活性部位のヒドロキシ基が生成する。HpS変異体のライブラリー(図4)を大腸菌で発現させ、培養ブロスからジテルペン産物を抽出した。産物および他の化合物を振盪フラスコ実験および発酵ユニットから採取した試料から抽出するために、等体積の溶媒(エタノール:酢酸エチル:ヘキサン=1:1:1)を培養ブロスに添加し、室温で2時間混合した。溶液を8000rpmで5分間遠心分離して、GC-FIDおよびGC-MSによって分析する上部有機相を分離した。
【0111】
全発酵ブロスを同じ体積のエタノールの添加によって抽出した。最初のプロセスステップは、ロータリーシェーカー(80rpm)上で20℃にて12時間実施した。その後、抽出混合物を7000rpmで20分間遠心分離して、細胞残屑から上清を分離した。酢酸エチル(上清体積の50%)を添加することによって、ロータリーシェーカー(80rpm)での第2の抽出ステップを開始した(20℃、5時間)。5時間後、同量のヘキサンを添加し、抽出プロセスをさらに2時間続けた。最後に、相を分液漏斗によって分離し、有機相をエバポレートした。
【0112】
フラッシュクロマトグラフィシステムPLC 2250(ギルソン社、米国)は、脂肪酸残基とテルペン画分との間の分離を可能にした。この目的のために、溶媒ヘキサン(A)および酢酸エチル(B)を、Luna 10μmシリカ(2)100Aカラムで室温にて10mL/分の流量でポンプ輸送した。以下の勾配を適用した:A100%を15分間、一段階でBを100%まで増加させ、B100%を15分間保持し、次いでA100%を30分間適用した。溶出した化合物を、40℃で窒素ガスを流したダイオードアレイおよびELSD検出器によって分析した。目的の画分を窒素流によって約2mlに減少させた。テルペン濃度をGC-FIDを用いて測定した。IEを含有する画分をアセトニトリル(ACN)と混合した。その後、アセトニトリルのみが残るまでヘキサンおよび酢酸エチルを慎重にエバポレートした。
【0113】
ACNに溶解したIEをさらに精製するために、サンプルを、バイナリポンプ、ダイオードアレイ検出器、自動化フラクションコレクタ、およびJetstream b1.18カラムオーブンを含むUltimate 3000 UHPLCシステム(Thermo Scientific社、米国)に注入した。ヒドロピレノール、ヒドロピレンおよび他のテルペン誘導体(最大テルペン含有量25mg)からのイソエリサベタトリエンの分離は、ガードカラムNUCLEODUR(登録商標)C18 HTeC 10/8mmおよびガードカラムホルダ8mm(Macherey-Nagel GmbH&Co.KG社、ドイツ国)を有するNUCLEODUR(登録商標)C18 HTec 250/10mm 5μmカラムにおいて、流速2.2mL/分で溶媒としてHO(A)およびACN(B)を使用して30℃のオーブン温度で行った。分離勾配は30%Bで5分間開始し、次いで55分以内に100%Bに増加させた。100%Bをさらに60分間維持した。
【0114】
IE AをBから分離するために、同じHPLCシステムに、ガードカラムNUCLEODUR(登録商標)C18 Isis 10/8mmおよびガードカラムホルダ8mm(Macherey-Nagel GmbH&Co.KG社、ドイツ国)を有するNUCLEODUR(登録商標)C18 Isis 250/10mm 5μmカラムを備え付けた。移動相は、HO(A)およびMeOH(B)からなった。以下のプログラムを適用した:30%Bを5分間、次いで55分以内に100%Bまで増加させ、さらに35分間そのままにした。オーブン温度を30℃に設定した。ヘキサンによる液-液抽出後、精製化合物を-20℃で保存した。
【0115】
DSQIIを備えたTrace GC-MS Ultraシステム(Thermo Scientific社、米国)を使用して、テルペンの分析および定量を行った。試料1マイクロリットル(1/10分割)をTriPlusオートサンプラによって280℃のインジェクタ温度を有するSGE BPX5カラム(30m、内径0.25mm、フィルム0.25μm)に注入した。ヘリウムを流速0.8ml/分でキャリアガスとして使用した。初期オーブン温度を50℃に2分間設定した。温度を10℃/分の速度で320℃まで上昇させ、次いで3分間保持した。MSデータを70eV(EI)で記録した。50~650の範囲のポジティブモードで質量を記録した。GC-FID分析も同じ方法で行った。
【0116】
NMR研究のための化合物をCDClまたはベンゼン-dのいずれかに溶解した。13C NMRスペクトルを、クライオプローブヘッド(5mm CPQNP、1H/13C/31P/19F/29Si;Z勾配)を備えたBruker Avance-III 500MHzスペクトロメーターで測定した。H NMRスペクトルならびに2D実験(HSQC、HMBC、COSY、ノイズ)を、逆プローブヘッド(5mm SEI、H/13C;Z勾配)を備えたAvance-I 500MHzシステムで得た。温度は300Kに設定した。得られたデータを処理し、TOPSPIN3.0またはMestreNovaによって分析した。化学シフトは、CDClHスペクトルではδ=7.26ppm、13Cスペクトルではδ=77.16ppm)またはベンゼン-d-Hスペクトルではδ=7.16ppm、13Cスペクトルではδ=128.06ppm)に対するppm単位で与えた。触媒的に実用的なHpS変異体の総テルペン収率は、野生型酵素の収率に匹敵した。その後、すべての酵素変異体を、wtHpSに対するそれらの産物スペクトルの変動について評価した。IE Aおよび/またはB生成の向上に特に焦点を当てた。
【0117】
変異Y153A、Y153F、G182KおよびW307Fは、産物スペクトルに影響を及ぼさなかった。対照的に、変異L54A、Y58A、M71R、M71P、M71G、Y78A、A79F、Y153R、R179A、M188G、M188A、M188K、M188Y、M300G、M304D、W307A、W307GおよびR313AはHpSを不活性化し、変異したアミノ酸が触媒作用に必須であることを示している。最も注目すべきことに、バリアントM71Y、M75F、M75L、G182A、G182F、H184A、H184F、M300I、M304IおよびM304Cは、野生型HpSに関して変化した産物スペクトルを示した(図4)。変異179R、307Wおよび313Rは、非活性バリアントをもたらすか、または天然HpS産物スペクトルを示した。したがって、179R、307Wおよび313Rは触媒作用に必須である可能性があり、これはCotB2に関する以前の報告と一致する。
【0118】
興味深いことに、HpS特異的メチオニン残基を標的とする変異体M71Y、M75F、M75L、M300I、およびM304Cは、野生型HpSと比較した場合、ジテルペン産物プロファイルにおいて最も顕著なシフトを示した(図5)。変異M300IおよびM304Cは、IE A産生の減少およびそれに伴うIE Bの増加をもたらす。変異M71Y、M75FおよびM75Lについて、より有意な効果が観察される。各バリアントは、IE AおよびIE Bの収率の有意な向上を示し、同時にHPおよびHPolの産生が減少する。最も顕著な効果は、M75の変異について観察される。特に、M75Fが最も高いIE B収率を示したのに対して、M75Lは最も高いIE A収率を示した。
【0119】
IE Aは生合成プソイドプテロシン中間体であるので24、M71Y、M75FおよびM75Lバリアントにおけるその収率の増加は、持続可能なプソイドプテロシン産生プラットフォームを生成するための継続的な努力にとって非常に有望である。変異体M75FおよびM75Lは、それらの主要産物としてIE異性体に向かって産物スペクトルをシフトさせた。M75Lは、その特に高いIE A収率のために、プソイドプテロシン産生のための最も有望な変異である。したがって、このHpSバリアントはイソエリサベタトリエンシンターゼ(IES)と呼ばれ、高度なプソイドプテロシン中間体を生成するためのすべての下流での取り組みに使用された。
実施例4:IE生成変異体についてのインシリコ駆動機構的考察
【0120】
71Mおよび75Mの変異がIE産生に向けてHpS産物スペクトルを有意にモジュレートしたので、これらの効果を誘導する化学的機構を評価することが不可欠であった。興味深いことに、約8Åの距離内のメチオニン-カルボカチオン相互作用は、CotB2の触媒機構において重要であることが示唆されていない。特に、HpS中75Mと同等の残基は、CotB2中103Nである。後者は、CotB2環化カスケードを終結させるか、または環化反応中に双極子-電荷相互作用を形成する水分子を調整することが提案された。興味深いことに、N103AバリアントCotB2は、主要な環化産物として3,7,12-ドラベラトリエンを特徴としていた。CotB2は、その活性部位に並ぶ1つのメチオニン(189M)を有するが、そのシステインによる置き換えは触媒作用を直接妨害しない。テルペンシンターゼ触媒作用に対するメチオニンの効果を記載する唯一の報告は、トリコジエンシンターゼの計算研究であり、そこでは、73Mが、選択されたカルボカチオン立体配座を、硫黄-カルボカチオン供与結合を介して安定化する。したがって、基質のタンブリングおよび早期の脱プロトン化が防止される。そのため、HpS中のメチオニン残基(特に75M)も、カルボカチオン中間体の安定化を助け、明確な反応経路(例えば、HP誘導体への途中;図6)を開くために重要な経路を提供することは妥当である。したがって、HpS中の71Mおよび75Mの変異誘発は、GGPP環化をHP誘導体またはIE誘導体のいずれかに経路変更することができる。
【0121】
HP、HP-ol、IE AおよびIE BへのGGPP環化のためのHps特異的機構の初期環化ステップは、C11にカルボカチオンを生成する1,10-環閉鎖を含む。その後、カルボカチオン(図7)を2つの異なる反応経路に向けることができる。一次経路は、安定なMarkovnikov C11カルボカチオンを介して進行し、続いて1,3-ヒドリドシフトして、最終的にそれぞれHPまたはHPolを提供する安定性の低い抗Markovnikov C1カルボカチオンを形成する。対照的に、IE誘導体の形成は、1,3-ヒドリド移動を必要とし、C7位にカルボカチオンを形成し、これは1,2-ヒドリドシフトおよび脱プロトン化を介してIE Aまたは単純な脱プロトン化を介してIE Bのいずれかをもたらす。効果的な生物工学的プソイドプテロシン前駆体供給のためには、HpSの産物スペクトルをIE異性体の特異的産生に向けて発生させることが重要である。C11カルボカチオンは、好ましい経路を所望のIE Aに変化させるための必須中間体であるので、1,3-ヒドリドがあまり安定でない抗Markovnikov C1カルボカチオンにシフトするのを防ぐことが重要である。
【0122】
HP誘導体形成に向かう経路は、抗Markovnikov C1カルボカチオンが活性部位内で安定化されることを必要とする。野生型HpSでは、75MはC1炭素およびC11炭素の両方に非常に近接しており(約5.0Å)、C1:C11カルボカチオン転移では、近位71Mが付加的なMet-Met相互作用を介して安定化の役割を果たすと考えられる(図6)。したがって、71Metおよび75Metの実施された変異誘発は、重要なC1中間体を不安定化する可能性があり、したがって、イソエリサベタトリエンAおよびBへの有意な産物シフトを示す。
実施例5:ヒドロキシル化IE誘導体の同定
【0123】
IE AおよびIE Bは一次生合成プソイドプテロシン前駆体であるが、特に酸化されたIE Aは高度なプソイドプテロシン前駆体を表す。IESを発現する大腸菌の培養ブロス抽出物を、GC-MSベースのスクリーニング方法を使用して酸化IE誘導体の存在について評価した。GC-MSスペクトルの検査により、IEとMSスペクトルが類似しているが、保持時間(保持時間(Rt)(IE A):20.46分;Rt(IE B):20.87分;Rt(未知の化合物):22.28分)が延長され、親イオン質量(m/z)が290の化合物が同定され、ヒドロキシル部分の存在が示された(データは示さず)。推定されるヒドロキシル化IE誘導体は、HpS活性部位内の制御された水捕捉によって潜在的に生じ得、これは反応軌道に沿ったカルボカチオンクエンチを促進する。クラスIゲルマクラジエン-4-オールセスキテルペンシンターゼについて類似のデータが報告されている。
【0124】
さらに、サンゴベースのプソイドプテロシン生合成における重要な中間体である芳香族化IE誘導体であるエロゴルジアエンの存在は、A.elisabethaeサンゴ組織から単離された真正GC-MS標準との比較によって確認された。しかしながら、エロゴルジアエンを検出することができなかったので、抽出プロセスの直後に大腸菌抽出物を分析した場合、分析された抽出物の酸素曝露が、エロゴルジアエンへのIE AまたはIE Bの酸化的形質転換を開始したのは妥当である。エロゴルジアエンはプソイドプテロシン生合成の高度な中間体であるため、現在のデータは、ヒドロキシル化エリサベタトリエン誘導体がプソイドプテロシン生合成経路における直接のエロゴルジアエン前駆体であることを示す以前の報告と一致している。
実施例6:化学-酵素IE AおよびB酸化-高度プソイドプテロシン前駆体への経路
【0125】
エロゴルジアエン形成はプソイドプテロシン生合成における重要なステップであるので、その決定的な生合成起源は、基質としてIE AおよびBを用いた選択的インビトロ化学酵素酸化アプローチの開発によって調べられた。最近、リパーゼ媒介酸化反応を介した大環状ジテルペン炭化水素ドラベラトリエンおよびタキサジエンの選択的官能化が報告されている。その結果、リパーゼ媒介および化学-酵素アッセイでは、IE AおよびBを酸化して、酸素官能化、したがってIEの炭化水素骨格の活性化がプソイドプテロシン生合成経路の一部であるかどうかを確立した。
【0126】
250μg/mLのIE AまたはBを、5mLの酢酸エチル中で、1μlの濃縮プロピオン酸、2mg/mLの固定化されたCalBおよび2mg/mLの尿素-過酸化水素と混合した。サーモシェーカー(Eppendorf AG社;ドイツ国)中、22℃、1000rpmで反応を行った。異なる時点で、GC-MS分析によって反応の進行を監視するために試料を採取した。
【0127】
固定化されたCalBを濾過によって反応混合物から分離することによって、適切な時点でCalB反応を停止した。残りの溶液をヘキサンで希釈し(1:4)、濾紙で濾過した。最終産物の精製は2つのステップで行われた:
【0128】
IE Aの場合、反応混合物を最初にフラッシュクロマトグラフィによって精製した。したがって、溶媒ヘキサン(A)および酢酸エチル(B)を10mL/分でLuna10μmシリカ(2)100Aカラムにアプライした。10分後、100%A、溶媒Bを5分以内に100%まで増加させた。最後に、さらに30分間、システムを100%Aで運転した。その後、画分を、ガードカラムNUCLEODUR(登録商標)C18HTeC10/8mmおよびガードカラムホルダ8mm(Macherey-Nagel GmbH&Co.KG社、ドイツ国)を有するNUCLEODUR(登録商標)C18 HTec 250/10mm5μmカラムを備えた分取HPLCシステムによってさらに精製した。この方法は、30℃のオーブン温度ならびに2.2mL/分の流量で溶媒HO(A)およびACN(B)を使用した。勾配は30%Bで5分間開始し、その後55分以内に100%Bに増加させた。この溶媒レベルを60分間維持した。
【0129】
IE Bを使用して反応に由来する産物を精製する場合、プロセスはフラッシュクロマトグラフィでも開始する。このとき、勾配を10分間1%Bに変更し、41分以内にBを40%に増加させ、1分間40%Bのままにし、次の3分以内に100%Bにさらに増加させ、最終的にこのレベルを10分間維持した。その後、カラムを100%Aで30分間洗浄した。ここでも、第2のステップは分取HPLC精製からなる。溶媒はHO(A)およびACN(B)のままであるが、以下の勾配を使用した:5分間の40%B、30分間で100%へのBの増加および60分間の100%Bの状態のまま。
【0130】
経済的境界条件下での将来のプロセスのスケーラビリティを保証するために、本発明者らは、工業的に十分に確立されたリパーゼCal Bを使用した。穏やかなリパーゼ媒介IE酸化は、反応性オキシダントを生成するプロピオン酸を含む尿素-過酸化水素の存在下で酢酸エチル中で行った。反応は、反応性オキシダントとしてペルオキソカルボン酸をその場で生成することによって開始され、これは、re-faceまたはsi-faceのいずれかの立体配座でオレフィン性IE結合を標的とし、酸化産物のラセミ混合物を産出する。反応の進行をGC-FID分析によって監視し、一方、GC-MSを適用してIE AおよびB特異的酸化産物を同定した(図8)。
実施例7:IE B特異的な酸化産物の同定およびIE A特異的なエロゴルジアエンへの変換
【0131】
GC-FIDは速度論的反応プロファイリングを可能にしたが、並列GC-MS分析は、リパーゼ媒介性のIE B酸化が、それぞれIE Bモノ-(m/z 288)およびIE Bジエポキシド(m/z 304)の時間依存性形成をもたらしたことを示した。IE Bモノエポキシドの形成に向けての産物選択性を高めるために、120分後に反応を停止させた(収率41%)。その後、2D-HPLCプロトコルにより、推定されるIE B由来モノエポキシドの1Dおよび2D NMR分光法に基づく構造解明が可能になった。13CNMR分析により、C1およびC9の特徴的なエポキシド型化学シフトがそれぞれ62.66および64.21ppmで得られた。包括的なNMRシグナルの帰属により、IE Bモノエポキシドが新しい天然物1R-エポキシ-5,14-エリサベタジエン(EED、図8)であることが確認された。
【0132】
IE Bジテルペン炭素骨格のエポキシ化は、多様な化学空間にアクセスするための様々な下流の生物工学的および化学的官能化戦略を可能にする。ほとんどの生物活性テルペノイドは少なくとも1つの官能基を含有するので、EEDおよび他のIEのその後の改変は、新しい医薬品の持続可能な生成に向けた基本的なステップである。 二環式プソイドプテロシン炭素骨格でのヒドロキシル基官能化のための様々なアプローチが、プソイドプテロシン誘導体およびプソイドプテロキサゾール(pseudopteroxazole)を生成するために適用されており、これらは両方とも結核菌および他の病原体に対して活性であった。
【0133】
リパーゼ媒介酸化は、IE Aを単一の新しい化合物(収率:69%)に迅速に(90分)変換した。同期GC-MS分析により、この化合物が芳香族プソイドプテロシン前駆体のエロゴルジアエンであることが示された(データは示さず)。構造を確認するために、最適化された2D-HPLC法を介して推定されるエロゴルジアエンを精製し、続いて1Dおよび2D NMR分光法に供した。精製された化合物の得られたNMRシグナルは、(+)-エロゴルジアエンについて報告されたデータと一致していた。NOESY実験は、相対的なエロゴルジアエンの立体化学を解明したが、絶対配置ははっきりしないままであった。しかしながら、一次HpS環化産物の絶対立体化学は、同位体標識基質およびCD分光測光環化産物検出を使用して以前に解明された。分析は、HpSがGGPPを((-)-IE Aエナンチオマーに変換する一方で、A.elisabethaeサンゴ由来対応物は(+)-IE Aを構成することを示した。同様に、HpS由来の(-)-IEAのリパーゼに基づく酸化は、(-)-エロゴルジアエンの形成をもたらし、一方、サンゴ由来化合物は(+)-エロゴルジアエンエナンチオマーを構成すると推定された。
【0134】
迅速な(-)-エロゴルジアエン形成は、GC-MSによる任意のエポキシ化IE A中間体の観察を妨げた。しかしながら、機構的考察は、(-)-IEAの酸化が、C9-C10二重結合の最初のエポキシ化、続いて得られたエポキシドのプロトン化、およびその後の脱水を介して進行し、これが自発的な環系芳香族化を誘導して(-)-エロゴルジアエンを与えることを意味する。
【0135】
この機構的順序は、粗A.elisabethaeサンゴ抽出物中のエリサベタトリエンならびに一過性ヒドロキシル化エリサベタトリエン誘導体の検出によって支持される。ヒドロキシル化中間体のエロゴルジアエンへの自発的脱水は、プソイドプテロシン生合成における必須のステップとして提案されている(図9)。同様に、IE Aの(-)-エロゴルジアエンへの観察された化学-酵素変換は、同じ機構を使用する。エロゴルジアエンは結核菌に対して強力な活性を有するので(32.25μg/mlという低いMICが報告されている)、現在の技術プラットフォームは、この興味深い天然物へのスケーラブルで持続可能なアクセスを提供することができる。感染症の進展の加速および高度な抗生物質治療のための新しい分子リード化合物の欠如に照らして、このプラットフォームは、感染症の流行に対抗するための備えの本質的な必要性に対処するものである。
【化5】

【化6】
図1
図2
図3
図4-1】
図4-2】
図4-3】
図4-4】
図5-1】
図5-2】
図6
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図8
図9
図10
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【配列表】
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【国際調査報告】