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特表2023-539998高分子系電解質及びそれを得るための方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-09-21
(54)【発明の名称】高分子系電解質及びそれを得るための方法
(51)【国際特許分類】
   C08G 59/50 20060101AFI20230913BHJP
   H01M 10/0565 20100101ALI20230913BHJP
   H01B 1/06 20060101ALI20230913BHJP
   H01G 11/56 20130101ALI20230913BHJP
【FI】
C08G59/50
H01M10/0565
H01B1/06 A
H01G11/56
【審査請求】有
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2023504355
(86)(22)【出願日】2020-07-27
(85)【翻訳文提出日】2023-03-15
(86)【国際出願番号】 TR2020050662
(87)【国際公開番号】W WO2022025832
(87)【国際公開日】2022-02-03
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】515273450
【氏名又は名称】サバンチ ユニバーシテシ
【氏名又は名称原語表記】SABANCI UNIVERSITESI
(74)【代理人】
【識別番号】100107456
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 成人
(74)【代理人】
【識別番号】100162352
【弁理士】
【氏名又は名称】酒巻 順一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100123995
【弁理士】
【氏名又は名称】野田 雅一
(72)【発明者】
【氏名】プーデ, レイラ ハギギ
(72)【発明者】
【氏名】ユルディズ, メフメット
(72)【発明者】
【氏名】メンセログル, ユスフ ジヤ
(72)【発明者】
【氏名】ディズマン, ベキル
(72)【発明者】
【氏名】ウナル, セルカン
【テーマコード(参考)】
4J036
5E078
5G301
5H029
【Fターム(参考)】
4J036AB01
4J036AC01
4J036AC05
4J036AD08
4J036FB14
4J036JA15
5E078AB02
5E078DA12
5G301CA30
5G301CD01
5G301CE01
5H029AJ02
5H029AM16
5H029HJ02
(57)【要約】
本発明は、ポリオキサゾリン系電解質及びポリオキサゾリン系電解質の第二級アミン基を介したエポキシ樹脂とのポリオキサゾリン系電解質の架橋によって形成されたネットワークに関する。ネットワークは、ネットワークの構造中に存在する通路を通って移動性リチウムカチオンを移動することが可能な多機能エネルギー貯蔵システムとして設計されている。本発明はまた、このようなネットワーク及び電解質を得るために使用される方法に関する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオキサゾリン系電解質の第二級アミン基を介してエポキシ樹脂と架橋したポリオキサゾリン系電解質を含むネットワーク。
【請求項2】
第四級アンモニウム基を含むポリオキサゾリン系電解質であって、エポキシ樹脂との反応時に、前記ポリオキサゾリン系電解質の第二級アミン基を介して前記エポキシ樹脂と架橋した前記ポリオキサゾリン系電解質を含むネットワークを形成するための架橋部位として第二級アミン基をさらに含む、ポリオキサゾリン系電解質。
【請求項3】
ネットワークを得る方法であって、以下の後続のステップ:
i.一般式2-R-2-オキサゾリンのモノマーのカチオン開環重合によってアミド基を有するポリオキサゾリンポリマーを得るステップと、
ii.ステップ(i)で得られた前記ポリオキサゾリンポリマーを加水分解し、それによってステップ(i)で述べた前記アミド基に加えて第二級アミン基を含むPOZ鎖を得るステップと、
iii.その第二級アミン基を介して前記POZ鎖をエポキシ樹脂と架橋させ、それによって前記ネットワークを得るステップと
を含む、方法。
【請求項4】
前記ステップ(ii)とステップ(iii)の間に以下のステップ(x1):
(x1)前記第二級アミン基を第三級アミン基に部分的変換し、それによって第三級アミン基を有するPOZ鎖を得るステップ
を含む、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記ステップ(x1)の後にステップ(x2)が続き、前記ステップ(x2)が、1種又は複数のイオン成分(XY)による前記第三級アミン基のプロトン化を行って、対応するアニオン(Y)を有する第四級アンモニウム基を導入して、第四級アンモニウム基及び前記ネットワークを形成するための架橋部位として第二級アミン基を含むポリオキサゾリン系電解質を構成することを含む、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記ステップ(x2)に続いて、1種若しくは複数のイオン液体(IL)及び/又は1種若しくは複数のリチウム塩が溶解した1種若しくは複数の有機溶媒が導入される、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記モノマー中の前記Rが、直鎖状、分枝状、及び環状脂肪族基及び芳香族基からなるリストから選択される、請求項3~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記Rが、メチル、エチル又はプロピルから選択され、それによって前記モノマーには2-メチル-2-オキサゾリン、2-エチル-2-オキサゾリン、又は2-プロピル-2-オキサゾリン、又はその混合物が含まれる、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記モノマーが2-エチル-2-オキサゾリンである、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
ステップ(iii)における前記架橋には、架橋剤としてのジグリシジルエーテルの使用が含まれる、請求項3~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記架橋剤が、エチレングリコールジグリシジルエーテル、レゾルシノールジグリシジルエーテル、ビスフェノールAジグリシジルエーテル、又はその混合物からなるリストから選択される、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
ステップ(i)において、前記鎖が前記ポリマーの繰返し単位の数(x)を含むまで前記開環重合を進行させ、前記数(x)が2~1000、好ましくは10~100、より好ましくは10~50の範囲内である、請求項3~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
ステップ(ii)において、加水分解度が、アミド基の数(n)と第二級アミンの数(k)との比が、100:1~1:100、より好ましくは9:1~1:9の範囲内になるようにアレンジされる、請求項3~12のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
[発明の技術分野]
本発明は、高分子系電解質及び高分子系電解質のアミン基を介した高分子系電解質の架橋によって形成されたネットワークに関する。ネットワークは、ネットワークの構造中に存在する通路を通って移動性カチオンを移動することが可能な多機能エネルギー貯蔵システムとして設計されている。本発明はまた、このようなネットワーク及び電解質を得るための方法に関する。
【0002】
[発明の背景]
新しいエネルギー貯蔵材料の発明は、航空、携帯用電子製品及び電気自動車などの用途に使用される技術の進歩に著しく貢献してきた。エネルギー貯蔵システムの性能改善は、長年にわたって構造部材の重量増加を犠牲にして行われてきた。多機能エネルギー貯蔵材料の出現は、軽量で高性能な構造物を製造するための大規模で重要な機会をもたらした。「多機能エネルギー貯蔵材料」は、エネルギー貯蔵特性及び耐力特性を同時に与え、それによって重量に影響されやすいエネルギー貯蔵用途において軽量化が達成される材料を意味する。多機能エネルギー貯蔵デバイスの商品化の成功は、主にエネルギー貯蔵能力と、耐力及び構造完全性などの機械的性質との間のトレードオフ関係によりまだ達成されていない。多機能エネルギー貯蔵デバイスの技術成熟度レベル(TRL)は、TRL4~TRL5である。関連する技術分野のほとんどの研究グループは、このトレードオフの問題を克服するために、異なる種類の電極材料の開発と比容量値及び比表面積値の改善に重点を置いてきた。この点に関して改善が見られるが、デバイスの性能が低いことは、電解質、セパレータ及びそれらの境界面などの他の構成要素の性能を改善する緊急の必要性を強調している。エネルギー貯蔵材料に関する用途で早急に求められているのは出力密度の向上であり、それは使用する電解質のイオン伝導性の向上に直接関係している。ほとんどの場合エポキシ系が使用されている構造用途では、電解質及び高性能マトリックスの両方として機能する多機能樹脂の設計は、機械的性能とイオン伝導率の間のトレードオフにより難しい。前者は、ポリマー鎖セグメントの許容可能な程度の機械的剛性及び無傷の微細構造を必要とし、一方後者は、エポキシネットワーク全体で軟質鎖セグメント及び相互接続された通路を必要とする。多機能電解質の生産に最も一般に使用される2つのエポキシ樹脂は、ポリ(エチレングリコール)ジグリシジルエーテル(PEGDGE)及びビスフェノール-A(DGEBA)のジグリシジルエーテルである。無溶媒ポリマー電解質では、長距離イオン伝導は、局所的なポリマー運動によって可能になる。剛性(堅牢性)の程度が低いポリマーマトリックスは、通常より高い伝導性をもたらす。マトリックスへのイオン液体(IL)の取り込みといくらかの量のリチウム塩の添加は、イオン輸送を促進するのに効果的な手段であることがわかっている(Shirshovaら、J.Mater.Chem.A.1(2013)15300~15309、DOI:10.1039/c3ta13163g;Jangら、Macromol.Chem.Phys.219(2018)、DOI:10.1002/macp.201700514;Baskoro及びYen、ACS Appl.Energy Mater.2(2019)3937~3971、DOI:10.1021/acsaem.9b00295)。ILは、優れた熱的及び化学的安定性、低蒸気圧、不燃性、低融点並びに高イオン伝導率などのIL特有の特性により、高分子系電解質で広く使用されている。
【0003】
Shirshovaら(J.Mater.Chem.A.1(2013)15300~15309、DOI:10.1039/c3ta13163g)によって記述されているように、エポキシネットワーク内の溶融塩としてのILの存在は、共連続相を形成し、共連続相はイオン移動を促進する。しかしながら、マトリックスは、ILの量の増加の結果として軟らかくなり、十分な構造特性(すなわち機械的性能)が得られない。この点に関しては、IL及びエポキシは、相互接続されたネットワークの欠如によりイオン輸送が不十分な、不均一な微細構造を形成する(Shirshovaら J.Phys.Chem.C.118(2014)28377~28387.doi:10.1021/jp507952b)。
【0004】
イオン伝導率及び耐力を同時に与えるための別の手法は、特定の種類の非構造モノマーと構造モノマーの共重合である(Fengら、Mater.Sci.Eng.B Solid-State Mater.Adv.Technol.219(2017)37~44.doi:10.1016/j.mseb.2017.03.001;DOI:10.1016/j.mseb.2017.03.001)。種々の非構造ポリマー電解質のうち、ポリエチレンオキシド(PEO)は、エーテル性酸素基間の距離が適切であるため、最も有望な高分子電解質と考えられてきた(Westoverら、J.Mater.Chem.A.3(2015)20097~20102.DOI:10.1039/c5ta05922d)。ポリマーの非晶質領域ではイオンの移動がより容易であるため、いくつかの調査研究は、架橋、共重合、及び無機充填剤の添加により、PEO系電解質の結晶化度を低下させることに重点を置いている(Kwonら、ACS Appl.Mater.Interfaces.10(2018)35108~35117、DOI:10.1021/acsami.8b11016;Jiら、Electrochim.Acta.55(2010)9075~9082、DOI:10.1016/j.electacta.2010.08.036)。しかしながら、架橋によりPEO鎖の両端が結合し、それによってPEOの移動性が大幅に低下することに留意する必要がある(Snyderら、Polymer.50(20)、4906~4916)。多機能性プロットは、構造電解質のイオン伝導率とヤング率の間のトレードオフを解釈するのに効果的である。目標は、それぞれ、閾値と考えられる0.1mS/cm及び200MPaより高いイオン伝導率及びヤング率の値を達成することである。構造電解質の妥当な目標は、機械的剛性とイオン伝導率の両方を、従来の材料の値の1桁以内で達成することである。図1は、いくつかの刊行物で達成された多機能性の程度を示す。(Shirshovaら、J.Mater.Chem.A.1(2013)15300~15309、DOI:10.1039/c3ta13163g;Shirshovaら、J.Phys.Chem.C.118(2014)28377~28387、DOI:10.1021/jp507952b;Jiら、Electrochim.Acta.55(2010)9075~9082、DOI:10.1016/j.electacta.2010.08.036;Matsumoto及びEndo、Macromolecules.42(2009)4580~4584、DOI:10.1021/ma900508q;Matsumoto及びEndo、Macromolecules.41(2008)6981~6986、DOI:10.1021/ma801293j;Matsumoto及びEndo、J.Polym.Sci.Part A Polym.Chem.49(2011)1874~1880、DOI:10.1002/pola.24614;Yu,Y.、Zhang,B.、Wang,Y.、Qi,G.、Tian,F.、Yang,J.、Wang,S.2016.「Co-continuous structural electrolytes based on ionic liquid,epoxy resin and organoclay:Effects of organoclay content」、Materials and Design、104、126~133、DOI:10.1016/j.matdes.2016.05.004)。図1に示すようなこの分野における多くの試みにもかかわらず、構造電解質は依然として所望の多機能性に達するには程遠い。したがって、新しい材料及びアーキテクチャの開発は、構造電解質の多機能性を改善する鍵となる。
【0005】
[発明の目的]
本発明の主要な目的は、先行技術における欠点を克服することである。
【0006】
本発明の別の目的は、多機能性の程度が増加した高分子系電解質を提供することである。
【0007】
本発明のさらなる目的は、この高分子系電解質を使用したネットワークを得ることである。
【0008】
本発明のさらに別の目的は、このようなネットワーク及び高分子系電解質の生成又は構成を可能にする低コストの方法を提案することである。
【0009】
[本発明の概要]
本発明は、そのアミン基を介して架橋したポリオキサゾリン(POZ)主鎖を含むネットワークを提案する。本発明による高分子系電解質を使用することによって形成されたネットワークは高度な多機能性を可能にする。本発明は、このようなネットワーク及び高分子系電解質を得るための方法をさらに提案する。
【0010】
ここで簡単に説明する図は、本発明のより良い理解を提供することのみを意図しており、保護の範囲又は記載のない場合に前記範囲が解釈される文脈を定義することを意図するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】以前の刊行物で調査された種々の系の多機能性の程度を示す図である(Yu,Y.、Zhang,B.、Wang,Y.、Qi,G.、Tian,F.、Yang,J.、Wang,S.2016.「Co-continuous structural electrolytes based on ionic liquid,epoxy resin and organoclay:Effects of organoclay content」、Materials and Design、104、126~133、DOI:10.1016/j.matdes.2016.05.004)。図中で使用されている記号は、以下の系を表す:「白菱形」:PEO 100;「黒菱形」:PEO:PEO-b-PE 50:50のコポリマー;「黒左向三角」:エポキシ-PEO/IL 60:40;「黒丸」:PEGDGE/IL 60:40;「黒逆三角」:BADGE/四官能エポキシ/IL/硬化剤;「黒星形」:市販のエポキシ-1/IL/塩;「白四角」:市販のエポキシ-2/IL/塩;「白丸」:市販のエポキシ-3/IL/塩;「黒四角」:BADGE/IL/可塑剤/塩/硬化剤/有機粘土。
図2】高分子系電解質の架橋によって形成されたネットワーク及びこのネットワーク構造中のカチオンの通路を示す図である。
図3】架橋点間のネットワーク構造の部分を示す図である。
図4】架橋点間のネットワーク構造の例示的部分を示す図である。
図5】例示的なポリオキサゾリンポリマー、例示的なポリオキサゾリン系電解質及び前記電解質から形成された例示的なネットワーク構造の合成を示す図である(架橋点間のネットワーク構造の部分のみを詳細に示す)。
【0012】
[発明の詳細な説明]
本発明は、上記のそれぞれの図を参照して、以下に詳細に記載する。
【0013】
本発明は、ポリオキサゾリン(POZ)系電解質の架橋によって形成されるネットワークに関する。ポリマー主鎖上に存在する第二級アミン基は、エポキシ樹脂と反応させて、ネットワーク構造を得る。前記第二級アミン基により、ネットワーク構造の構成に別の硬化剤を使用する必要がなくなる。
【0014】
エポキシ樹脂は、少なくとも2つのエポキシド基を有するクラスから選択でき、それにより架橋ネットワーク構造の形成が可能になる。種々のエポキシ樹脂は、このために利用することができる。例として、異なる構造をもつジグリシジルエーテルは、隣接する2つのPOZポリマーの第二級アミン基と反応させて、ネットワーク構造を形成し得る。選択されたエポキシ樹脂の大きさ及び構造により、2つのPOZポリマー間の距離及びネットワーク構造の柔軟性が決定される。これにより、カチオンが移動するための通路を形成する、異なるPOZポリマー上に存在するイオン性基間の距離と、したがってイオン伝導率の両方が決定されることになる。ネットワーク全体の通路を例示するネットワークの一般的な構造を図2に示す。各POZポリマー主鎖に沿った2つの架橋点と、隣接する2つのPOZポリマーの2つの接続点の間のネットワークの断面を図3に示す。2つの架橋点間の距離は、ポリマー主鎖に沿って存在する第二級アミン基の数によって決定され、その数はポリマーの組成によって決定される。ポリマーの組成は、改変が正確に制御され得る加水分解及びメチル化ステップで決定される。隣接する2つのPOZポリマーの2つの接続点間の距離は、エポキシ樹脂の大きさによって決まり、その大きさは、図3に示す2つの遠位オキシラン基間のR基の大きさによって決定される。隣接するPOZポリマー間の距離は、エチレングリコールなどの「短い」R基に対して、ビスフェノールaなどの「長い」R基を選択することによって増加させることができる。
【0015】
本発明は、先に定義したネットワーク内にアニオン(Y)及びカチオン(X)を封入するのに役立つ高分子系電解質をさらに提案する。前記アニオン(Y)及びカチオン(X)は、イオン成分(例えば1種又は複数のイオン性溶媒)を用いて導入される。このようなイオン成分の存在は、ネットワーク内の通路を通るLiイオンの移動に役立つはずである。POZ系ポリマーは、プロトン化又は非プロトン化形態で使用できる第二級及び第三級アミン基を有している。これらの基は、好ましくはある程度プロトン化されて、ポリマー主鎖に沿った第四級アンモニウム及び第二級アミン基を得、それによってカチオン性基を有し、反応して架橋ネットワーク構造を形成し得る高分子系電解質が得られる。高分子系電解質をエポキシ樹脂で架橋した後、通路の主要構造を形成する第四級アンモニウム基が分散されたネットワークが得られる。Liイオンの移動は、ネットワーク内のポリマーの第四級アンモニウム基間の通路の形成と、前記カチオン及び第四級アンモニウム基の間の斥力の両方によって加速される。
【0016】
アニオン及びカチオンは、好ましくは前記電解質中で1種又は複数のイオン性溶媒(XYと略記される)を使用して提供することができる。第四級アンモニウムカチオン中の正電荷が第二級又は第三級アミンよりも高いので、リチウムイオン(Li)の移動は、ネットワーク全体にわたって第四級アンモニウム基の存在下で加速される。図3は、第四級アンモニウム基を有するポリオキサゾリンポリマーの第二級アミン基がエポキシ樹脂で架橋された結果として形成されるネットワーク構造の2つの架橋点間の部分を示す。図4は、同じネットワークのより具体的な例を示す。リチウム塩は、架橋プロセス中に単独で又は必要に応じてイオン液体(IL)と併せてネットワークに取り込まれる。イオン液体の利用により移動性;したがって、ネットワークのイオン伝導率が増加する。本明細書で使用されるILは、Yと同じアニオン又は異なるアニオンを得る手段で選択され、ポリマー主鎖上に存在するイオン性基の解離能力;したがって、リチウム塩の溶解度に影響を与えることになる。
【0017】
本発明は、上記で議論したネットワークを得るための方法をさらに提案する。本発明には、以下の逐次ステップ:
i.一般式2-R’-2-オキサゾリンのモノマーのカチオン開環重合によってアミド基を有するポリマーを得るステップと、
ii.ステップ(i)で得られたポリマー(ポリマー鎖)を加水分解し、それによってステップ(i)で述べたアミド基に加えて第二級アミンを含有するPOZ鎖を得るステップと、
iii.第二級アミン基を介してPOZ鎖を架橋させ、それによってPOZ主鎖のネットワークを得るステップと
が含まれる。
【0018】
ステップ(ii)において、加水分解は、当技術分野で既知の任意の方法、例えば強酸又は強塩基の使用を伴う方法を用いて行うことができる。
【0019】
好ましくは、この方法には、ステップ(ii)とステップ(iii)の間に以下のステップ(x1)が含まれる:
(x1)ステップ(ii)で得られたポリマーの第二級アミン基を、アルキル化(例えばメチル化)及びその後のプロトン化によって第四級アンモニウム基に部分的変換し、それによってカチオン性基を有するポリオキサゾリン(POZ)鎖を得るステップ。
好ましくは、ステップ(iii)の前に、ステップ(x1)の後には以下に定義するステップ(x2)が続く:
(x2)カチオン(X)及びアニオン(Y)をステップ(x1)で得られたPOZ鎖に加え、それによってその混合物を得るステップ。これらのイオンの導入は、イオン性溶媒(例えばHPF)を使用することによって達成することができる。これにより、カチオン(X)及びアニオン(Y)を得られたネットワークに早期に取り込むことができ、それによってネットワークの形成後にこれらのイオンを導入するプロセスを開発する必要がなくなる。ネットワーク内に存在する高分子イオン液体基に加えて、種々の溶解しているリチウム塩を含む多くのIL又は溶媒(例えば炭酸エチレン、炭酸プロピレン)は、移動性及びイオン伝導率を高めるために架橋プロセス中にネットワークに含めることができる。
【0020】
オキサゾリンモノマーの「R」基は、直鎖状、分枝状又は環状脂肪族基又は芳香族基を表す。Rの種類は、モノマーの溶解度及び形成されたネットワークの機械的性質に影響を与える。芳香族R基(2-フェニル-2-オキサゾリンなど)を含むモノマーは、脂肪族R基(2-エチル-2-オキサゾリンなど)を含むモノマーを使用して作成されたネットワークと比較して、剛性及びT(ガラス転移温度)がより高く、イオン伝導性がより低いネットワークをもたらす。他方では、多種多様な架橋剤との適合性が高い、短いアルキル鎖をもつオキサゾリンモノマーの使用は、機械的強度が十分でイオン伝導性が高い、柔軟なネットワーク構造をもたらす。
【0021】
モノマーのR基を考慮すると、脂肪族基は、商業的入手可能性と合成の容易さ及び実現可能性により、上に挙げた全ての基の中でより好ましい。直鎖状脂肪族基は、メチル-、エチル-、及びプロピル-基である、炭素数が1~22、より好ましくは1~8、さらにより好ましくは1~3のアルキル鎖から選択することができる。したがって、2-R-2-オキサゾリンは、2-メチル-2-オキサゾリン、2-エチル-2-オキサゾリン、2-プロピル-2-オキサゾリン、又はその混合物から選択可能な2-アルキル-2-オキサゾリンに相当する。これらのモノマーは、合成が容易で、低価格で商業的入手可能性が高いため、非常に好ましい。モノマーの疎水性の程度は、アルキル鎖の長さが長くなるにつれて増加する。2-エチル-2-オキサゾリンの適合性は、極性溶媒(例えば水)及び非極性溶媒の両方と非常に良い。したがって、2-エチル-2-オキサゾリンは、本発明において特に最も好ましいモノマーである。
【0022】
図5は、本発明による方法の例示的な変形例を示し、ステップ(i)、(ii)、(x1)、(x2)及び続いて(iii)が含まれる。図5に示したステップ(i)の例では、トリフル酸は開始剤として使用され、2-エチル-2-オキサゾリンは2-アルキル-2-オキサゾリンモノマーとして使用される。他の既知の開始剤は、トリフル酸の代わりに、又は一緒に使用することもできる。ステップ(i)において、カチオン開環重合は、好ましくは、繰返し単位の数(x)が2~1000、より好ましくは10~100、さらにより好ましくは10~50の範囲に達するまで進行させる。
【0023】
ステップ(ii)において、加水分解度は、好ましくは、アミド基の数(n)と第二級アミンの数(k)との比が、100:1~1:100、より好ましくは9:1~1:9の範囲内になるようにアレンジすることができる。この基準は、ポリマー合成における当業者によって過度の負担なく適用することができる。(n)/(k)比を増加すると、対応して:
POZ主鎖に沿った架橋性第二級アミンの数は減少し、その結果ネットワークの剛性が低下し、
POZ主鎖に沿った架橋点間の距離が増加し、それは架橋時にネットワークの柔軟性を促進し、したがって、形成されたネットワーク全体にわたる通路を通るカチオンの移動の可能性及びネットワークの伝導率が高まり、
ステップ(x1)で得られたような第二級又は第三級アミン基の発生が減少し、それにより架橋部位の数、並びにポリオキサゾリン系電解質に存在するカチオン性基の数、及び得られるネットワークに影響を受ける。
【0024】
ステップ(ii)において、ポリマー鎖上の一部のアミド基を加水分解して、第二級アミン基を形成する。アミド基と第二級アミンのモル比(すなわち上記で議論したn/k比)は、過度の負担なしに有機化学における当業者により、加水分解度を制御することによってアレンジすることができる。得られたポリマー中の所定の部分の第二級アミンをメチル化してもよい。これに続いて、ステップ(x1)でイオン性溶媒(XY)を用いて第四級化を行って、ポリマー結合イオン成分として作用するPOZ主鎖上に第四級アンモニウム基を得ることができる。これらのイオン成分は、リチウム塩が溶解するための媒体をもたらすことになる。ポリマー上にイオン成分が存在することにより、追加のイオン液体及び/又は他の溶媒をネットワークに含まないこと、或いはそれらが含まれる場合にそれらをより少ない量で含むことも可能になる。このような分子(イオン液体及び/又は他の溶媒)をネットワークに包含させることによる機械的性質への悪影響は、したがってこの手段によって制限されることになる。これらのイオン成分は、リチウムイオンがネットワーク全体を移動するためのイオン通路も作成することになり、それを図2に示す。
【0025】
電解質のイオン伝導率は、イオン成分(XY)の適切な選択によって改善することができる。高度に非局在化した負電荷をもつアニオン(Y)は、ネットワークに沿った通路を通るLiイオンの移動を促進することによって、ネットワーク内のLiイオンの溶媒和を促進し、それによってそれぞれの高分子系電解質の伝導率を高めることになる。
【0026】
リチウム塩の選択は、それぞれのアニオンの解離定数(Kd)及び/又は体積かさ高度を考慮して行うことができる。Yアニオンはネットワークと共有結合していないので、Yアニオンもまたネットワーク内で移動することになる。しかしながら、比較的大きいアニオンを選択することによって、アニオンの移動はかなり制限されるはずである。比較的大きいアニオンもイオン伝導率に寄与するが、このようなアニオンの移動も分極をもたらすことになり、それによって電解質の寿命が短くなる。Liカチオンがイオン伝導に寄与する唯一の成分である場合、単一イオン伝導性固体電解質と考えることができる。
【0027】
Kd値の増加(十分に非局在化した電荷並びに低塩基度)は、本質的に、それぞれのリチウム塩構造におけるそれぞれのアニオン(Y)及びLiカチオンの体積かさ高度の間の差の増加に対応し、したがって好ましい。種々のリチウム塩(すなわちLiPF、LiClO、LiBF、LiTFSI、LiTf、LiFSI)を比較する場合、アニオンのかさ高性が大きいと、Liイオンの解離が促進され、ネットワークに沿った通路を通るその移動が促進され、それによってそれぞれの高分子系電解質の伝導率が増加する。
【0028】
上記の(n)/(k)比の主要効果を考慮すると、前記比が9:1~1:9の範囲内であることにより、十分な程度のイオン伝導性とともに高度の剛性が保証される。より好ましくは、前記(n)/(k)の比は、3:1~1:3の範囲内である。この範囲は、許容可能な程度の剛性及び伝導性を同時に可能にするスイートスポットに対応する。
【0029】
ステップ(iii)において、POZ鎖の架橋がポリマーの第二級アミン基とエポキシ樹脂の反応を介して行われて、機械的及びイオン伝導的に高性能の相互接続されたポリマーネットワークを形成する。POZ主鎖上に第二級アミンが存在することにより、任意の追加の硬化剤を使用する必要がなくなる。R及びR基の化学構造により、最終的な機械的性質、粘度、結晶化度及びカチオン移動性が決定される。
【0030】
主鎖としてのポリオキサゾリン(POZ)は、機械的に強いイオン伝導性ポリマーを達成する。POZは、ポリ(エチレンオキシド)(PEO/PEG)ポリマーの適当、さらに有利な代替物と考えられており、エネルギー貯蔵デバイスの固体電解質として広く使用されている。POZの多機能ネットワークは、いくつかの化学基を単一のポリマー主鎖に結合させることを可能にし、それによって構造の多機能性が改善する。文献で初めて、イオン伝導性POZ系ポリマーが、イオン成分(複数可)をPOZポリマーの主鎖に組み込むことにより、「多機能電解質」として利用されることになる。イオン成分(複数可)をPOZ主鎖に閉じ込めると、1)分子スケールでイオンの経路を制御し、リチウムイオン輸率を向上させ、2)構造電解質における2相の問題が解決できるようになる。高分子系電解質の形成に使用される他の特徴とともにPOZの多機能性は、十分な機械的性能をもつ高度にイオン伝導性のネットワークをもたらし、すなわち伝導率とヤング率の両方の値が、図1に示す目標の多機能性領域の範囲内に含まれる。剛性をもたらすために、種々のジグリシジルエーテルなどの種々の架橋剤をPOZの主鎖に結合させることができる。ここに記載されている製法と方法論を使用して種々の多機能ポリマーをPOZと置換することも可能である。
【0031】
無機ナノ充填剤、例えばシリカ(SiO)、二酸化チタン(TiO)、又はハロイサイトナノチューブ(HNT)は、ネットワークの非晶質性の程度を高めて、高分子系電解質内のイオン輸送能力をさらに向上させるために使用することができる。
【0032】
ネットワークの幾何学形状/輪郭を決定する手段として、架橋前に、POZは、堅牢な(例えば自己支持)ポリマーフィルム及びベールで作製された薄いセパレータを使用して注型して、イオン伝導性プリプレグを調製することができる。この例示的な手段は、本出願によるネットワークを用いて、ウェアラブル/フレキシブルスーパーキャパシタ、構造スーパーキャパシタ及びリチウムイオン電池などの種々の種類の多機能エネルギー貯蔵デバイスの調製に適用可能である。
【0033】
したがって、本発明により、少なくとも以下の利点を利用可能になる:
背景の項目で言及したように、イオン伝導性と機械的性能の間にトレードオフがあるため、現在使用されている電解質系は最終複合製品の機械的性能を低下させる。本発明は、合成したポリマーの官能基、分子量、及び形態の精密な設計によるポリマーネットワークを提案し、これにより、純樹脂系と比較して最終複合製品の機械的性能を激減させることなく、電解質特性が向上する。
【0034】
ポリオキサゾリン(POZ)は、既知の高分子電解質の有利な代替物として使用されている。POZの多機能ネットワークは、所望の特徴をもつ高分子系電解質の設計及び配合を容易にする。多種多様な架橋剤(例えばエチレングリコールジグリシジルエーテル、レゾルシノールジグリシジルエーテル、ビスフェノールAジグリシジルエーテルなどの種々のジグリシジルエーテル)を結合できるため、剛性及びイオン伝導性を容易に調整できる。
【0035】
POZ中の第二級アミン基は、硬化剤として作用し、ネットワークの形成中に追加の硬化剤を含む必要がなくなる。
【0036】
背景技術において、ILとPEGの組合せは、ポリマーの硬化時間を加速するため、加工性の低下をもたらす。PEGとは対照的に、POZは粘度が低く、それによって加工性が促進されるが、ネットワーク形成プロセス中にIL及び溶媒の使用を欠くか、又は最小限にすると、硬化の加速などの加工性に関連する任意の問題が生じる可能性が低下する。
【0037】
POZの多機能ネットワークにより、分子量、鎖長、連続する官能基間の距離、及び架橋密度などの種々のパラメーターに対する制御が向上し、その結果イオン輸送及び機械的性能が向上した、均一で相互接続されたネットワークが形成される。
【0038】
提案されたPOZ系電解質は、構造スーパーキャパシタ、構造リチウムイオン電池、フレキシブルエレクトロニクス、ウェアラブルエレクトロニクスなどの種々の構造エネルギー貯蔵システムに組み込むことができる。
【0039】
本発明は、特に多機能ポリマー複合材料の分野で新しい機会を開くことが期待されており、構造エネルギー貯蔵デバイスの技術成熟度レベル(TRL)の拡大を可能にする。
【0040】
以下の実施例は、本出願の文脈において概念実証実験に基づいている。記述又は言及された鎖長及び官能基などの特定の特徴は、独立請求項の範囲内で、それらの可能な変形形態の単なる例と考えるべきである。
【0041】
(実施例)
提案された技術が従来の多機能電解質系の代替物を確立することを証明するために実験研究を行う。高分子系電解質を得る際の例示的な経路を図5に示す。図5は、例示的なPOZ系ポリマー、例示的な高分子系電解質、及び例示的なネットワークの合成を示す。図5に示すステップは:(i)異なる分子量(Mw)1kDa、2kDa、及び5kDaの開始剤としてのトリフル酸の存在下での2-エチル-2-オキサゾリンの開環重合を試み、これらの各選択肢が完全に機能することが証明されており、(ii)第二級アミン基を形成するための合成ポリマーの加水分解、(x1)メチル化及び(x2)イオン成分の導入、(iii)POZポリマーの第二級アミン基と異なるエポキシ樹脂を反応させてネットワーク構造を形成する、ステップの例を表す。
【0042】
本実験例では、POZは、モノマーとしての2-エチル-2-オキサゾリンと開始剤としてのトリフル酸の開環重合によって合成する(図5、ステップ(i))。2-メチル-2-オキサゾリン及び2-プロピル-2-オキサゾリンなどの異なる種類のモノマーもPOZポリマーの合成に使用することができる。ポリ(2-オキサゾリン)の開環重合のための典型的な手順を使用し、この手順はViegasら(Bioconjugate Chem.2011、22、5、976~986、DOI:10.1021/bc200049d)によって記載されている。
【0043】
開環重合(ステップ(i))の場合、最初に、モノマー及び開始剤を含む混合物を調製する。得られたポリマー鎖の分子量(MW)は、開始混合物中のモノマー(M)と開始剤(I)のモル量の比を調節することによって予め容易に決定することができる。有機合成における当業者が推測できる通り、先行技術の知識を使用して、プロセスパラメーターを変えることによって広範囲の分子量を合成することができる。混合物を、所望のMWに応じて、例えば60℃~90℃の範囲内の温度まで反応器で加熱する。重合を停止するために、反応器の内容物を冷却し、末端、例えばヒドロキシル又はカルボン酸を含有する停止剤と混合する。
【0044】
第四級アンモニウム基は、イオン液体の特徴を本発明による電解質にもたらすための部位として考えることができる。
【0045】
(参照符号)
R1 オキサゾリンモノマー中、オキサゾリン環と結合した側基
R2 POZ鎖中、水素原子、メチル又は別のアルキル基
R3 水素原子
R4 2つの遠位端(ジグリシジルエーテル)を結合しているエポキシ樹脂の部分
POZ主鎖上に存在するイオン成分のカチオン
POZ主鎖上に存在するイオン成分のアニオン
k lとmの合計(加水分解ステップ後の第二級アミン基を有する繰返し単位の数)
l 第二級アミン基を有するPOZの繰返し単位の数
m 第四級アンモニウム基を有するPOZの繰返し単位の数
x POZポリマーの繰返し単位の数
図1
図2
図3
図4
図5
【手続補正書】
【提出日】2022-05-25
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第四級アンモニウム基を含むポリオキサゾリン系電解質であって、エポキシ樹脂との反応時に、前記ポリオキサゾリン系電解質の第二級アミン基を介して前記エポキシ樹脂と架橋した前記ポリオキサゾリン系電解質を含むネットワークを形成するための架橋部位として第二級アミン基をさらに含む、ポリオキサゾリン系電解質。
【請求項2】
請求項1に記載のポリオキサゾリン系電解質の架橋によって形成されたネットワークであって、ポリオキサゾリン系電解質が、ポリオキサゾリン系電解質の第四級アンモニウム基がネットワークに分散するように、ポリオキサゾリン系電解質の第二級アミン基を介してエポキシ樹脂と架橋されている、ネットワーク。
【請求項3】
分散した第四級アンモニウム基を有するネットワークを得る方法であって、以下の後続のステップ:
i.一般式2-R-2-オキサゾリンのモノマーのカチオン開環重合によってアミド基を有するポリオキサゾリンポリマーを得るステップと、
ii.ステップ(i)で得られた前記ポリオキサゾリンポリマーを加水分解し、それによってステップ(i)で述べた前記アミド基に加えて第二級アミン基を含むPOZ鎖を得るステップと、
(x1)前記第二級アミン基を第三級アミン基に部分的変換し、それによって第三級アミン基を有するPOZ鎖を得るステップと、
(x2)1種又は複数のイオン成分(XY)による前記第三級アミン基のプロトン化を行って、対応するアニオン(Y )を有する第四級アンモニウム基を導入して、第四級アンモニウム基及び前記ネットワークを形成するための架橋部位として第二級アミン基を含むポリオキサゾリン系電解質を構成するステップと、
iii.その第二級アミン基を介して前記POZ鎖をエポキシ樹脂と架橋させ、それによって前記ネットワークを得るステップと
を含む、方法。
【請求項4】
前記ステップ(x2)に続いて、1種若しくは複数のイオン液体(IL)及び/又は1種若しくは複数のリチウム塩が溶解した1種若しくは複数の有機溶媒が導入される、請求項に記載の方法。
【請求項5】
前記モノマー中の前記Rが、直鎖状、分枝状、及び環状脂肪族基及び芳香族基からなるリストから選択される、請求項3又は4に記載の方法。
【請求項6】
前記Rが、メチル、エチル又はプロピルから選択され、それによって前記モノマーには2-メチル-2-オキサゾリン、2-エチル-2-オキサゾリン、又は2-プロピル-2-オキサゾリン、又はその混合物が含まれる、請求項に記載の方法。
【請求項7】
前記モノマーが2-エチル-2-オキサゾリンである、請求項に記載の方法。
【請求項8】
ステップ(iii)における前記架橋には、架橋剤としてのジグリシジルエーテルの使用が含まれる、請求項3~のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記架橋剤が、エチレングリコールジグリシジルエーテル、レゾルシノールジグリシジルエーテル、ビスフェノールAジグリシジルエーテル、又はその混合物からなるリストから選択される、請求項に記載の方法。
【請求項10】
ステップ(i)において、前記鎖が前記ポリマーの繰返し単位の数(x)を含むまで前記開環重合を進行させ、前記数(x)が2~1000、好ましくは10~100、より好ましくは10~50の範囲内である、請求項3~のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
ステップ(ii)において、加水分解度が、アミド基の数(n)と第二級アミンの数(k)との比が、100:1~1:100、より好ましくは9:1~1:9の範囲内になるようにアレンジされる、請求項3~10のいずれか一項に記載の方法。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
[発明の技術分野]
本発明は、高分子系電解質及び高分子系電解質のアミン基を介した高分子系電解質の架橋によって形成されたネットワークに関する。ネットワークは、ネットワークの構造中に存在する通路を通って移動性カチオンを移動することが可能な多機能エネルギー貯蔵システムとして設計されている。本発明はまた、このようなネットワーク及び電解質を得るための方法に関する。
【0002】
[発明の背景]
新しいエネルギー貯蔵材料の発明は、航空、携帯用電子製品及び電気自動車などの用途に使用される技術の進歩に著しく貢献してきた。エネルギー貯蔵システムの性能改善は、長年にわたって構造部材の重量増加を犠牲にして行われてきた。多機能エネルギー貯蔵材料の出現は、軽量で高性能な構造物を製造するための大規模で重要な機会をもたらした。「多機能エネルギー貯蔵材料」は、エネルギー貯蔵特性及び耐力特性を同時に与え、それによって重量に影響されやすいエネルギー貯蔵用途において軽量化が達成される材料を意味する。多機能エネルギー貯蔵デバイスの商品化の成功は、主にエネルギー貯蔵能力と、耐力及び構造完全性などの機械的性質との間のトレードオフ関係によりまだ達成されていない。多機能エネルギー貯蔵デバイスの技術成熟度レベル(TRL)は、TRL4~TRL5である。関連する技術分野のほとんどの研究グループは、このトレードオフの問題を克服するために、異なる種類の電極材料の開発と比容量値及び比表面積値の改善に重点を置いてきた。この点に関して改善が見られるが、デバイスの性能が低いことは、電解質、セパレータ及びそれらの境界面などの他の構成要素の性能を改善する緊急の必要性を強調している。エネルギー貯蔵材料に関する用途で早急に求められているのは出力密度の向上であり、それは使用する電解質のイオン伝導性の向上に直接関係している。ほとんどの場合エポキシ系が使用されている構造用途では、電解質及び高性能マトリックスの両方として機能する多機能樹脂の設計は、機械的性能とイオン伝導率の間のトレードオフにより難しい。前者は、ポリマー鎖セグメントの許容可能な程度の機械的剛性及び無傷の微細構造を必要とし、一方後者は、エポキシネットワーク全体で軟質鎖セグメント及び相互接続された通路を必要とする。多機能電解質の生産に最も一般に使用される2つのエポキシ樹脂は、ポリ(エチレングリコール)ジグリシジルエーテル(PEGDGE)及びビスフェノール-A(DGEBA)のジグリシジルエーテルである。無溶媒ポリマー電解質では、長距離イオン伝導は、局所的なポリマー運動によって可能になる。剛性(堅牢性)の程度が低いポリマーマトリックスは、通常より高い伝導性をもたらす。マトリックスへのイオン液体(IL)の取り込みといくらかの量のリチウム塩の添加は、イオン輸送を促進するのに効果的な手段であることがわかっている(Shirshovaら、J.Mater.Chem.A.1(2013)15300~15309、DOI:10.1039/c3ta13163g;Jangら、Macromol.Chem.Phys.219(2018)、DOI:10.1002/macp.201700514;Baskoro及びYen、ACS Appl.Energy Mater.2(2019)3937~3971、DOI:10.1021/acsaem.9b00295)。ILは、優れた熱的及び化学的安定性、低蒸気圧、不燃性、低融点並びに高イオン伝導率などのIL特有の特性により、高分子系電解質で広く使用されている。
【0003】
Shirshovaら(J.Mater.Chem.A.1(2013)15300~15309、DOI:10.1039/c3ta13163g)によって記述されているように、エポキシネットワーク内の溶融塩としてのILの存在は、共連続相を形成し、共連続相はイオン移動を促進する。しかしながら、マトリックスは、ILの量の増加の結果として軟らかくなり、十分な構造特性(すなわち機械的性能)が得られない。この点に関しては、IL及びエポキシは、相互接続されたネットワークの欠如によりイオン輸送が不十分な、不均一な微細構造を形成する(Shirshovaら J.Phys.Chem.C.118(2014)28377~28387.doi:10.1021/jp507952b)。
【0004】
イオン伝導率及び耐力を同時に与えるための別の手法は、特定の種類の非構造モノマーと構造モノマーの共重合である(Fengら、Mater.Sci.Eng.B Solid-State Mater.Adv.Technol.219(2017)37~44.doi:10.1016/j.mseb.2017.03.001;DOI:10.1016/j.mseb.2017.03.001)。種々の非構造ポリマー電解質のうち、ポリエチレンオキシド(PEO)は、エーテル性酸素基間の距離が適切であるため、最も有望な高分子電解質と考えられてきた(Westoverら、J.Mater.Chem.A.3(2015)20097~20102.DOI:10.1039/c5ta05922d)。ポリマーの非晶質領域ではイオンの移動がより容易であるため、いくつかの調査研究は、架橋、共重合、及び無機充填剤の添加により、PEO系電解質の結晶化度を低下させることに重点を置いている(Kwonら、ACS Appl.Mater.Interfaces.10(2018)35108~35117、DOI:10.1021/acsami.8b11016;Jiら、Electrochim.Acta.55(2010)9075~9082、DOI:10.1016/j.electacta.2010.08.036)。しかしながら、架橋によりPEO鎖の両端が結合し、それによってPEOの移動性が大幅に低下することに留意する必要がある(Snyderら、Polymer.50(20)、4906~4916)。多機能性プロットは、構造電解質のイオン伝導率とヤング率の間のトレードオフを解釈するのに効果的である。目標は、それぞれ、閾値と考えられる0.1mS/cm及び200MPaより高いイオン伝導率及びヤング率の値を達成することである。構造電解質の妥当な目標は、機械的剛性とイオン伝導率の両方を、従来の材料の値の1桁以内で達成することである。図1は、いくつかの刊行物で達成された多機能性の程度を示す。(Shirshovaら、J.Mater.Chem.A.1(2013)15300~15309、DOI:10.1039/c3ta13163g;Shirshovaら、J.Phys.Chem.C.118(2014)28377~28387、DOI:10.1021/jp507952b;Jiら、Electrochim.Acta.55(2010)9075~9082、DOI:10.1016/j.electacta.2010.08.036;Matsumoto及びEndo、Macromolecules.42(2009)4580~4584、DOI:10.1021/ma900508q;Matsumoto及びEndo、Macromolecules.41(2008)6981~6986、DOI:10.1021/ma801293j;Matsumoto及びEndo、J.Polym.Sci.Part A Polym.Chem.49(2011)1874~1880、DOI:10.1002/pola.24614;Yu,Y.、Zhang,B.、Wang,Y.、Qi,G.、Tian,F.、Yang,J.、Wang,S.2016.「Co-continuous structural electrolytes based on ionic liquid,epoxy resin and organoclay:Effects of organoclay content」、Materials and Design、104、126~133、DOI:10.1016/j.matdes.2016.05.004)。図1に示すようなこの分野における多くの試みにもかかわらず、構造電解質は依然として所望の多機能性に達するには程遠い。したがって、新しい材料及びアーキテクチャの開発は、構造電解質の多機能性を改善する鍵となる。
【0005】
[発明の目的]
本発明の主要な目的は、先行技術における欠点を克服することである。
【0006】
本発明の別の目的は、多機能性の程度が増加した高分子系電解質を提供することである。
【0007】
本発明のさらなる目的は、この高分子系電解質を使用したネットワークを得ることである。
【0008】
本発明のさらに別の目的は、このようなネットワーク及び高分子系電解質の生成又は構成を可能にする低コストの方法を提案することである。
【0009】
[本発明の概要]
本発明は、そのアミン基を介して架橋したポリオキサゾリン(POZ)主鎖を含むネットワークを提案する。本発明による高分子系電解質を使用することによって形成されたネットワークは高度な多機能性を可能にする。本発明は、このようなネットワーク及び高分子系電解質を得るための方法をさらに提案する。
【0010】
ここで簡単に説明する図は、本発明のより良い理解を提供することのみを意図しており、保護の範囲又は記載のない場合に前記範囲が解釈される文脈を定義することを意図するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】以前の刊行物で調査された種々の系の多機能性の程度を示す図である(Yu,Y.、Zhang,B.、Wang,Y.、Qi,G.、Tian,F.、Yang,J.、Wang,S.2016.「Co-continuous structural electrolytes based on ionic liquid,epoxy resin and organoclay:Effects of organoclay content」、Materials and Design、104、126~133、DOI:10.1016/j.matdes.2016.05.004)。図中で使用されている記号は、以下の系を表す:「白菱形」:PEO 100;「黒菱形」:PEO:PEO-b-PE 50:50のコポリマー;「黒左向三角」:エポキシ-PEO/IL 60:40;「黒丸」:PEGDGE/IL 60:40;「黒逆三角」:BADGE/四官能エポキシ/IL/硬化剤;「黒星形」:市販のエポキシ-1/IL/塩;「白四角」:市販のエポキシ-2/IL/塩;「白丸」:市販のエポキシ-3/IL/塩;「黒四角」:BADGE/IL/可塑剤/塩/硬化剤/有機粘土。
図2】高分子系電解質の架橋によって形成されたネットワーク及びこのネットワーク構造中のカチオンの通路を示す図である。
図3】架橋点間のネットワーク構造の部分を示す図である。
図4】架橋点間のネットワーク構造の例示的部分を示す図である。
図5】例示的なポリオキサゾリンポリマー、例示的なポリオキサゾリン系電解質及び前記電解質から形成された例示的なネットワーク構造の合成を示す図である(架橋点間のネットワーク構造の部分のみを詳細に示す)。
【0012】
[発明の詳細な説明]
本発明は、上記のそれぞれの図を参照して、以下に詳細に記載する。
【0013】
本発明は、ポリオキサゾリン(POZ)系電解質の架橋によって形成されるネットワークに関する。ポリマー主鎖上に存在する第二級アミン基は、エポキシ樹脂と反応させて、ネットワーク構造を得る。前記第二級アミン基により、ネットワーク構造の構成に別の硬化剤を使用する必要がなくなる。
【0014】
エポキシ樹脂は、少なくとも2つのエポキシド基を有するクラスから選択でき、それにより架橋ネットワーク構造の形成が可能になる。種々のエポキシ樹脂は、このために利用することができる。例として、異なる構造をもつジグリシジルエーテルは、隣接する2つのPOZポリマーの第二級アミン基と反応させて、ネットワーク構造を形成し得る。選択されたエポキシ樹脂の大きさ及び構造により、2つのPOZポリマー間の距離及びネットワーク構造の柔軟性が決定される。これにより、カチオンが移動するための通路を形成する、異なるPOZポリマー上に存在するイオン性基間の距離と、したがってイオン伝導率の両方が決定されることになる。ネットワーク全体の通路を例示するネットワークの一般的な構造を図2に示す。各POZポリマー主鎖に沿った2つの架橋点と、隣接する2つのPOZポリマーの2つの接続点の間のネットワークの断面を図3に示す。2つの架橋点間の距離は、ポリマー主鎖に沿って存在する第二級アミン基の数によって決定され、その数はポリマーの組成によって決定される。ポリマーの組成は、改変が正確に制御され得る加水分解及びメチル化ステップで決定される。隣接する2つのPOZポリマーの2つの接続点間の距離は、エポキシ樹脂の大きさによって決まり、その大きさは、図3に示す2つの遠位オキシラン基間のR基の大きさによって決定される。隣接するPOZポリマー間の距離は、エチレングリコールなどの「短い」R基に対して、ビスフェノールaなどの「長い」R基を選択することによって増加させることができる。
【0015】
本発明は、先に定義したネットワーク内にアニオン(Y)及びカチオン(X)を封入するのに役立つ高分子系電解質をさらに提案する。前記アニオン(Y)及びカチオン(X)は、イオン成分(例えば1種又は複数のイオン性溶媒)を用いて導入される。このようなイオン成分の存在は、ネットワーク内の通路を通るLiイオンの移動に役立つはずである。POZ系ポリマーは、プロトン化又は非プロトン化形態で使用できる第二級及び第三級アミン基を有している。これらの基は、好ましくはある程度プロトン化されて、ポリマー主鎖に沿った第四級アンモニウム及び第二級アミン基を得、それによってカチオン性基を有し、反応して架橋ネットワーク構造を形成し得る高分子系電解質が得られる。高分子系電解質をエポキシ樹脂で架橋した後、通路の主要構造を形成する第四級アンモニウム基が分散されたネットワークが得られる。Liイオンの移動は、ネットワーク内のポリマーの第四級アンモニウム基間の通路の形成と、前記カチオン及び第四級アンモニウム基の間の斥力の両方によって加速される。
【0016】
アニオン及びカチオンは、好ましくは前記電解質中で1種又は複数のイオン性溶媒(XYと略記される)を使用して提供することができる。第四級アンモニウムカチオン中の正電荷が第二級又は第三級アミンよりも高いので、リチウムイオン(Li)の移動は、ネットワーク全体にわたって第四級アンモニウム基の存在下で加速される。図3は、第四級アンモニウム基を有するポリオキサゾリンポリマーの第二級アミン基がエポキシ樹脂で架橋された結果として形成されるネットワーク構造の2つの架橋点間の部分を示す。図4は、同じネットワークのより具体的な例を示す。リチウム塩は、架橋プロセス中に単独で又は必要に応じてイオン液体(IL)と併せてネットワークに取り込まれる。イオン液体の利用により移動性;したがって、ネットワークのイオン伝導率が増加する。本明細書で使用されるILは、Yと同じアニオン又は異なるアニオンを得る手段で選択され、ポリマー主鎖上に存在するイオン性基の解離能力;したがって、リチウム塩の溶解度に影響を与えることになる。
【0017】
本発明は、上記で議論したネットワークを得るための方法をさらに提案する。本発明には、以下の逐次ステップ:
i.一般式2-R’-2-オキサゾリンのモノマーのカチオン開環重合によってアミド基を有するポリマーを得るステップと、
ii.ステップ(i)で得られたポリマー(ポリマー鎖)を加水分解し、それによってステップ(i)で述べたアミド基に加えて第二級アミンを含有するPOZ鎖を得るステップと、
iii.第二級アミン基を介してPOZ鎖を架橋させ、それによってPOZ主鎖のネットワークを得るステップと
が含まれる。
【0018】
ステップ(ii)において、加水分解は、当技術分野で既知の任意の方法、例えば強酸又は強塩基の使用を伴う方法を用いて行うことができる。
【0019】
好ましくは、この方法には、ステップ(ii)とステップ(iii)の間に以下のステップ(x1)が含まれる:
(x1)ステップ(ii)で得られたポリマーの第二級アミン基を、アルキル化(例えばメチル化)及びその後のプロトン化によって第四級アンモニウム基に部分的変換し、それによってカチオン性基を有するポリオキサゾリン(POZ)鎖を得るステップ。
好ましくは、ステップ(iii)の前に、ステップ(x1)の後には以下に定義するステップ(x2)が続く:
(x2)カチオン(X)及びアニオン(Y)をステップ(x1)で得られたPOZ鎖に加え、それによってその混合物を得るステップ。これらのイオンの導入は、イオン性溶媒(例えばHPF)を使用することによって達成することができる。これにより、カチオン(X)及びアニオン(Y)を得られたネットワークに早期に取り込むことができ、それによってネットワークの形成後にこれらのイオンを導入するプロセスを開発する必要がなくなる。ネットワーク内に存在する高分子イオン液体基に加えて、種々の溶解しているリチウム塩を含む多くのIL又は溶媒(例えば炭酸エチレン、炭酸プロピレン)は、移動性及びイオン伝導率を高めるために架橋プロセス中にネットワークに含めることができる。
【0020】
オキサゾリンモノマーの「R」基は、直鎖状、分枝状又は環状脂肪族基又は芳香族基を表す。Rの種類は、モノマーの溶解度及び形成されたネットワークの機械的性質に影響を与える。芳香族R基(2-フェニル-2-オキサゾリンなど)を含むモノマーは、脂肪族R基(2-エチル-2-オキサゾリンなど)を含むモノマーを使用して作成されたネットワークと比較して、剛性及びT(ガラス転移温度)がより高く、イオン伝導性がより低いネットワークをもたらす。他方では、多種多様な架橋剤との適合性が高い、短いアルキル鎖をもつオキサゾリンモノマーの使用は、機械的強度が十分でイオン伝導性が高い、柔軟なネットワーク構造をもたらす。
【0021】
モノマーのR基を考慮すると、脂肪族基は、商業的入手可能性と合成の容易さ及び実現可能性により、上に挙げた全ての基の中でより好ましい。直鎖状脂肪族基は、メチル-、エチル-、及びプロピル-基である、炭素数が1~22、より好ましくは1~8、さらにより好ましくは1~3のアルキル鎖から選択することができる。したがって、2-R-2-オキサゾリンは、2-メチル-2-オキサゾリン、2-エチル-2-オキサゾリン、2-プロピル-2-オキサゾリン、又はその混合物から選択可能な2-アルキル-2-オキサゾリンに相当する。これらのモノマーは、合成が容易で、低価格で商業的入手可能性が高いため、非常に好ましい。モノマーの疎水性の程度は、アルキル鎖の長さが長くなるにつれて増加する。2-エチル-2-オキサゾリンの適合性は、極性溶媒(例えば水)及び非極性溶媒の両方と非常に良い。したがって、2-エチル-2-オキサゾリンは、本発明において特に最も好ましいモノマーである。
【0022】
図5は、本発明による方法の例示的な変形例を示し、ステップ(i)、(ii)、(x1)、(x2)及び続いて(iii)が含まれる。図5に示したステップ(i)の例では、トリフル酸は開始剤として使用され、2-エチル-2-オキサゾリンは2-アルキル-2-オキサゾリンモノマーとして使用される。他の既知の開始剤は、トリフル酸の代わりに、又は一緒に使用することもできる。ステップ(i)において、カチオン開環重合は、好ましくは、繰返し単位の数(x)が2~1000、より好ましくは10~100、さらにより好ましくは10~50の範囲に達するまで進行させる。
【0023】
ステップ(ii)において、加水分解度は、好ましくは、アミド基の数(n)と第二級アミンの数(k)との比が、100:1~1:100、より好ましくは9:1~1:9の範囲内になるようにアレンジすることができる。この基準は、ポリマー合成における当業者によって過度の負担なく適用することができる。(n)/(k)比を増加すると、対応して:
POZ主鎖に沿った架橋性第二級アミンの数は減少し、その結果ネットワークの剛性が低下し、
POZ主鎖に沿った架橋点間の距離が増加し、それは架橋時にネットワークの柔軟性を促進し、したがって、形成されたネットワーク全体にわたる通路を通るカチオンの移動の可能性及びネットワークの伝導率が高まり、
ステップ(x1)で得られたような第二級又は第三級アミン基の発生が減少し、それにより架橋部位の数、並びにポリオキサゾリン系電解質に存在するカチオン性基の数、及び得られるネットワークに影響を受ける。
【0024】
ステップ(ii)において、ポリマー鎖上の一部のアミド基を加水分解して、第二級アミン基を形成する。アミド基と第二級アミンのモル比(すなわち上記で議論したn/k比)は、過度の負担なしに有機化学における当業者により、加水分解度を制御することによってアレンジすることができる。得られたポリマー中の所定の部分の第二級アミンをメチル化してもよい。これに続いて、ステップ(x1)でイオン性溶媒(XY)を用いて第四級化を行って、ポリマー結合イオン成分として作用するPOZ主鎖上に第四級アンモニウム基を得ることができる。これらのイオン成分は、リチウム塩が溶解するための媒体をもたらすことになる。ポリマー上にイオン成分が存在することにより、追加のイオン液体及び/又は他の溶媒をネットワークに含まないこと、或いはそれらが含まれる場合にそれらをより少ない量で含むことも可能になる。このような分子(イオン液体及び/又は他の溶媒)をネットワークに包含させることによる機械的性質への悪影響は、したがってこの手段によって制限されることになる。これらのイオン成分は、リチウムイオンがネットワーク全体を移動するためのイオン通路も作成することになり、それを図2に示す。
【0025】
電解質のイオン伝導率は、イオン成分(XY)の適切な選択によって改善することができる。高度に非局在化した負電荷をもつアニオン(Y)は、ネットワークに沿った通路を通るLiイオンの移動を促進することによって、ネットワーク内のLiイオンの溶媒和を促進し、それによってそれぞれの高分子系電解質の伝導率を高めることになる。
【0026】
リチウム塩の選択は、それぞれのアニオンの解離定数(Kd)及び/又は体積かさ高度を考慮して行うことができる。 アニオンはネットワークと共有結合していないので、 アニオンもまたネットワーク内で移動することになる。しかしながら、比較的大きいアニオンを選択することによって、アニオンの移動はかなり制限されるはずである。比較的大きいアニオンもイオン伝導率に寄与するが、このようなアニオンの移動も分極をもたらすことになり、それによって電解質の寿命が短くなる。Liカチオンがイオン伝導に寄与する唯一の成分である場合、単一イオン伝導性固体電解質と考えることができる。
【0027】
Kd値の増加(十分に非局在化した電荷並びに低塩基度)は、本質的に、それぞれのリチウム塩構造におけるそれぞれのアニオン(Y)及びLiカチオンの体積かさ高度の間の差の増加に対応し、したがって好ましい。種々のリチウム塩(すなわちLiPF、LiClO、LiBF、LiTFSI、LiTf、LiFSI)を比較する場合、アニオンのかさ高性が大きいと、Liイオンの解離が促進され、ネットワークに沿った通路を通るその移動が促進され、それによってそれぞれの高分子系電解質の伝導率が増加する。
【0028】
上記の(n)/(k)比の主要効果を考慮すると、前記比が9:1~1:9の範囲内であることにより、十分な程度のイオン伝導性とともに高度の剛性が保証される。より好ましくは、前記(n)/(k)の比は、3:1~1:3の範囲内である。この範囲は、許容可能な程度の剛性及び伝導性を同時に可能にするスイートスポットに対応する。
【0029】
ステップ(iii)において、POZ鎖の架橋がポリマーの第二級アミン基とエポキシ樹脂の反応を介して行われて、機械的及びイオン伝導的に高性能の相互接続されたポリマーネットワークを形成する。POZ主鎖上に第二級アミンが存在することにより、任意の追加の硬化剤を使用する必要がなくなる。R及びR基の化学構造により、最終的な機械的性質、粘度、結晶化度及びカチオン移動性が決定される。
【0030】
主鎖としてのポリオキサゾリン(POZ)は、機械的に強いイオン伝導性ポリマーを達成する。POZは、ポリ(エチレンオキシド)(PEO/PEG)ポリマーの適当、さらに有利な代替物と考えられており、エネルギー貯蔵デバイスの固体電解質として広く使用されている。POZの多機能ネットワークは、いくつかの化学基を単一のポリマー主鎖に結合させることを可能にし、それによって構造の多機能性が改善する。文献で初めて、イオン伝導性POZ系ポリマーが、イオン成分(複数可)をPOZポリマーの主鎖に組み込むことにより、「多機能電解質」として利用されることになる。イオン成分(複数可)をPOZ主鎖に閉じ込めると、1)分子スケールでイオンの経路を制御し、リチウムイオン輸率を向上させ、2)構造電解質における2相の問題が解決できるようになる。高分子系電解質の形成に使用される他の特徴とともにPOZの多機能性は、十分な機械的性能をもつ高度にイオン伝導性のネットワークをもたらし、すなわち伝導率とヤング率の両方の値が、図1に示す目標の多機能性領域の範囲内に含まれる。剛性をもたらすために、種々のジグリシジルエーテルなどの種々の架橋剤をPOZの主鎖に結合させることができる。ここに記載されている製法と方法論を使用して種々の多機能ポリマーをPOZと置換することも可能である。
【0031】
無機ナノ充填剤、例えばシリカ(SiO)、二酸化チタン(TiO)、又はハロイサイトナノチューブ(HNT)は、ネットワークの非晶質性の程度を高めて、高分子系電解質内のイオン輸送能力をさらに向上させるために使用することができる。
【0032】
ネットワークの幾何学形状/輪郭を決定する手段として、架橋前に、POZは、堅牢な(例えば自己支持)ポリマーフィルム及びベールで作製された薄いセパレータを使用して注型して、イオン伝導性プリプレグを調製することができる。この例示的な手段は、本出願によるネットワークを用いて、ウェアラブル/フレキシブルスーパーキャパシタ、構造スーパーキャパシタ及びリチウムイオン電池などの種々の種類の多機能エネルギー貯蔵デバイスの調製に適用可能である。
【0033】
したがって、本発明により、少なくとも以下の利点を利用可能になる:
背景の項目で言及したように、イオン伝導性と機械的性能の間にトレードオフがあるため、現在使用されている電解質系は最終複合製品の機械的性能を低下させる。本発明は、合成したポリマーの官能基、分子量、及び形態の精密な設計によるポリマーネットワークを提案し、これにより、純樹脂系と比較して最終複合製品の機械的性能を激減させることなく、電解質特性が向上する。
【0034】
ポリオキサゾリン(POZ)は、既知の高分子電解質の有利な代替物として使用されている。POZの多機能ネットワークは、所望の特徴をもつ高分子系電解質の設計及び配合を容易にする。多種多様な架橋剤(例えばエチレングリコールジグリシジルエーテル、レゾルシノールジグリシジルエーテル、ビスフェノールAジグリシジルエーテルなどの種々のジグリシジルエーテル)を結合できるため、剛性及びイオン伝導性を容易に調整できる。
【0035】
POZ中の第二級アミン基は、硬化剤として作用し、ネットワークの形成中に追加の硬化剤を含む必要がなくなる。
【0036】
背景技術において、ILとPEGの組合せは、ポリマーの硬化時間を加速するため、加工性の低下をもたらす。PEGとは対照的に、POZは粘度が低く、それによって加工性が促進されるが、ネットワーク形成プロセス中にIL及び溶媒の使用を欠くか、又は最小限にすると、硬化の加速などの加工性に関連する任意の問題が生じる可能性が低下する。
【0037】
POZの多機能ネットワークにより、分子量、鎖長、連続する官能基間の距離、及び架橋密度などの種々のパラメーターに対する制御が向上し、その結果イオン輸送及び機械的性能が向上した、均一で相互接続されたネットワークが形成される。
【0038】
提案されたPOZ系電解質は、構造スーパーキャパシタ、構造リチウムイオン電池、フレキシブルエレクトロニクス、ウェアラブルエレクトロニクスなどの種々の構造エネルギー貯蔵システムに組み込むことができる。
【0039】
本発明は、特に多機能ポリマー複合材料の分野で新しい機会を開くことが期待されており、構造エネルギー貯蔵デバイスの技術成熟度レベル(TRL)の拡大を可能にする。
【0040】
以下の実施例は、本出願の文脈において概念実証実験に基づいている。記述又は言及された鎖長及び官能基などの特定の特徴は、独立請求項の範囲内で、それらの可能な変形形態の単なる例と考えるべきである。
【0041】
(実施例)
提案された技術が従来の多機能電解質系の代替物を確立することを証明するために実験研究を行う。高分子系電解質を得る際の例示的な経路を図5に示す。図5は、例示的なPOZ系ポリマー、例示的な高分子系電解質、及び例示的なネットワークの合成を示す。図5に示すステップは:(i)異なる分子量(Mw)1kDa、2kDa、及び5kDaの開始剤としてのトリフル酸の存在下での2-エチル-2-オキサゾリンの開環重合を試み、これらの各選択肢が完全に機能することが証明されており、(ii)第二級アミン基を形成するための合成ポリマーの加水分解、(x1)メチル化及び(x2)イオン成分の導入、(iii)POZポリマーの第二級アミン基と異なるエポキシ樹脂を反応させてネットワーク構造を形成する、ステップの例を表す。
【0042】
本実験例では、POZは、モノマーとしての2-エチル-2-オキサゾリンと開始剤としてのトリフル酸の開環重合によって合成する(図5、ステップ(i))。2-メチル-2-オキサゾリン及び2-プロピル-2-オキサゾリンなどの異なる種類のモノマーもPOZポリマーの合成に使用することができる。ポリ(2-オキサゾリン)の開環重合のための典型的な手順を使用し、この手順はViegasら(Bioconjugate Chem.2011、22、5、976~986、DOI:10.1021/bc200049d)によって記載されている。
【0043】
開環重合(ステップ(i))の場合、最初に、モノマー及び開始剤を含む混合物を調製する。得られたポリマー鎖の分子量(MW)は、開始混合物中のモノマー(M)と開始剤(I)のモル量の比を調節することによって予め容易に決定することができる。有機合成における当業者が推測できる通り、先行技術の知識を使用して、プロセスパラメーターを変えることによって広範囲の分子量を合成することができる。混合物を、所望のMWに応じて、例えば60℃~90℃の範囲内の温度まで反応器で加熱する。重合を停止するために、反応器の内容物を冷却し、末端、例えばヒドロキシル又はカルボン酸を含有する停止剤と混合する。
【0044】
第四級アンモニウム基は、イオン液体の特徴を本発明による電解質にもたらすための部位として考えることができる。
【0045】
(参照符号)
R1 オキサゾリンモノマー中、オキサゾリン環と結合した側基
R2 POZ鎖中、水素原子、メチル又は別のアルキル基
R3 水素原子
R4 2つの遠位端(ジグリシジルエーテル)を結合しているエポキシ樹脂の部分
POZ主鎖上に存在するイオン成分のカチオン
POZ主鎖上に存在するイオン成分のアニオン
k lとmの合計(加水分解ステップ後の第二級アミン基を有する繰返し単位の数)
l 第二級アミン基を有するPOZの繰返し単位の数
m 第四級アンモニウム基を有するPOZの繰返し単位の数
x POZポリマーの繰返し単位の数
【国際調査報告】